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ドラゴンレポート「西方白龍録」

1パイロン:2022/02/27(日) 00:38:41 ID:DXs3p4Po0
始祖である西を守護する龍、西方白龍の血を9割以上受け継ぐ男、パイロンの語られなかったストーリー。

2パイロン:2022/02/27(日) 02:12:40 ID:DXs3p4Po0
ある日の夜の話。


「ええ、それでは。また来ますね、おやすみなさい。」

「…ふぅ、あの人に改めてこの想い、頑張って伝えなきゃな。この想いは誰にも負けないんだ。今は叶わなくても、いつか、必ず……」


想いを寄せるキャストである金髪のサキュバスと別れ、サロンの外へと出て帰路へとついたパイロン。

外はすっかり夜の帳が降りていた。

急いで、寝泊まりしている場所へと走って帰る。

パイロンは冒険者のギルドに所属しているため、そこにある冒険者用に貸し出されている宿泊施設に部屋を借り、生活していた。


「…来来、我一直想念你、来来、我一直在想著你…」


その道中、思わず呟く、愛しい人への気持ちを綴った歌詞の歌。

それもそのはず。最近、愛する人の隣に自身よりも先にいた霊鳥の男の存在を知ったからだ。

この男には今の自分では勝てないだろう。もしかしたら、ずっと……なのかもしれない。

しかし、改めて自身の本当の気持ちに気づけた夜でもある。胸を締め付けられるような気持ちを抱えながら歩みを進めた。


「っ、通り雨か。参ったな。とりあえず雨宿りしよう。……そういえば、思い出すな。あの時を。」


その途中、突然雨が降ってきた。傘を持っていなかったため、慌てて近くのお店の軒先に避難し、雨宿りをする。

そして、それがきっかけで思い出す過去の記憶があった。まだパイロンが小学生くらいの時の記憶である。


「……あ、雨……。」

放課後、学校が終わって帰ろうとした矢先、突然の雨が降ってきた。

朝から晴れていたので、傘なんか持ってきているわけはなく、パイロンはただ呆然と学校の玄関で立ち尽くしていた。

思わず両方の目から一筋の涙。傘がないから、ではない。

また別の理由があったからだ。


「僕……僕……これからどうしたらいい……の……?」


パイロンには前からずっとずっと好きだった女の子がいた。

だが、この想いを伝えるかどうか悩むうち、その女の子にはすでに付き合っている男子がいることを、クラスの他の女子の会話から知ることになったのだった。

これでは自身の想いは届かない。

パイロンはその想いをこのまま伝えることなく胸にしまい込むことにしたが、やはり踏ん切りがつかない所があった。そんな中の出来事である。

重なる辛い出来事に、幼い心は押し潰されそうだった。


「…パイロン?…パイロン!」


そんな中、突如聞こえた呼び声。

そちらに慌てて視線を向けると、いつの間にか、パイロンに似た女性が傘を二本持ってパイロンの前に立っていた。


「あっ…ロンファ、様…。」

「よかった、間に合ったのね。

急な雨だったから、パイロンが傘持ってないだろうって思って心配で。だから私、居ても立っても居られなくて飛び出して来たのよ。」

「…そんな、ロンファ様…すみません。」

「いいのよ、パイロン。私が自ら進んで持ってきたんだから。

…ほら、パイロンの傘。さあ、私と一緒に帰りましょう。」

「…はい。ありがとうございます、ロンファ様。」

パイロンは傘をロンファから受け取ると、二人は並んで雨の中、家に向けて歩き始めたのだった。

3パイロン:2022/02/27(日) 02:17:51 ID:DXs3p4Po0
ロンファと呼ばれた、端正な顔立ちの若い女性。その姿はパイロンと良く似ていた。

…実は初代パイロンにして、皇帝であるパイロンの家系、柳(リュウ)家の始祖である純血の白い龍であり、西の方角を守護する白龍、西方白龍である。

柳家の人間で、夫である人間の男性とは、柳家の敷地の中でロンファが何処からかやってきて力尽き、傷ついて倒れている所を彼に保護された。

そして、傷を治療するために共に過ごしていく中でお互いに徐々に距離を縮めていき、想いを伝え合って後に結婚したという。

そして、すでに夫が遠くへと行ってしまった今も、変わらず柳家を支えてくれている現役の始祖である。


そしてパイロンが産まれた時に、左の胸に現れた、白い龍を象った紋章を見つけた。

これはロンファにもあり、純血の龍の証でもあった。

これにより自身と同じ龍の力がパイロンに宿っていることに気づき、自身が最初に名乗っていたパイロンの名前をくれたのも彼女だった。

パイロンがロンファによく似ているのも、純血の龍であるロンファの龍の血を9割以上パイロンが受け継いでいるため、パイロンもほぼ龍だからだそうだ。




そして、二人並んで歩く最中、ふとロンファは口を開いた。


「…パイロン、何か今日学校であったでしょう。辛い事が。」

「…えっ、ロンファ様、どうして。」


パイロンは驚いた。今日起きた辛い出来事はまさしくそうだったから。そして思わずビックリしてロンファのほうを見つめた。


「フフッ、ビックリした?パイロン?実はわかっちゃうんだなぁ、これが。可愛い私の子孫君だもんね。

…そうね、でもデリケートな事だろうから、はっきりとは言わないでおくわ。でもね…。

たとえ、叶わないとわかっていても、好きな相手に自分の気持ちを伝えることが大切なのよ。

相手は魔術師や占い師なんかじゃないんだから、伝えないとわかりっこないわ。

そして伝えたとしても、未来は何も変わらないかもしれない。でも、伝えずに後悔するよりは断然いいのよ。」

「……そう、なんですかね。」

「…そう、そうよパイロン。

いずれパイロンにも私の言ったことがわかる日がくるわ。自分の本当の気持ちが。

パイロンはきっとわかってくれる、私はそう信じているから。

パイロンが本当に愛する人。私はパイロンがその人と一緒に帰ってきてくれること、楽しみにしているわ。」


「…………………………。」

「ロンファ様、わかりましたよ。ロンファ様が言いたかったことの意味が。」


雨宿りの最中、思い出に浸っているうちに雨は止んだ。

また通り雨が降ると困る。慌てて早く家に帰ることにした。


そして再び、前へと歩き出すパイロン。

その瞳は真っ直ぐ前を向いていた。

未来はどうなるかはわからない。自身が願う結末にはならないのかもしれない。

だけど、ずっと一緒に歩いていきたい。そう思うくらい大好きな人へ、自分の素直な気持ちと想いを伝えて、そして想い人との想いが通じ合うこと。

それを強く願い、自分の気持ちを心に閉まって諦めるようなことは、もう二度としない。

そう心に決めたからだった。

4パイロン:2022/03/07(月) 19:12:07 ID:xwfFvBVs0
零:「恋音と雨空」

5パイロン:2022/03/07(月) 19:13:10 ID:xwfFvBVs0
一:「SCREAM」






「……パイ……君、パイ、君……」

「……あ、アイ……し……」


突如、耳元で聴こえた想い人の声。

思わず、俺は声のしたほうを向きながらその愛する女性の名前を呼ぼうとしたが…そこには誰も居なかった。


「フッ……空耳、か……」


思わず苦笑いをした。これで本当に隣に彼女が居てくれたら、どれだけよかっただろう。

霊鳥の男でもなく、盾の男でもなく、俺の隣に。

本当にそうなるなら、俺は命と力以外の全てを捧げるのに。

だけどそれは叶わぬ願いだった。どれだけ想っても、ここにはいない。いるわけもない。届くわけもない。


「……来来(来て)、我一直想念你(あなたが居なくて寂しいです)、来来、我一直想念你……」

「ダメだな、俺……。愛する人がこんな所にいるわけないだろう。むしろ、俺はこんな危険な所にあの人を連れてなんか来ない。あの人を護りたいんだから……」

「パイ君……パイ君……」

「まだ聴こえるのか……ここにいるわけじゃないのに……」

「……見て、パイ君。こっちを……私のほうを。私の声の聴こえるほうを……」

「声が聴こえるほう?……後ろ、か……?」














……ある日、とあるかつて鉱山だった山の山奥。


「アハハハハッ、他愛ない。」

「人間なんて所詮は雑魚だな。」

「弱いし脆いしすぐしぬし、つまんなーい。」

「単純でチョロいねえ。」

「ハハッ、そうだな。どうしてこんなヤツらに兄者が負けたのか、理解に苦しむよ。」


助けなんか来ない、僻地の山の山奥に、恐ろしい会話が響いていた。

それと同時に、何か硬いものを噛み砕くような、鈍い嫌な音も続けて聞こえてきている。

そして、そこには複数の人影があった。

短刀のような刃物を持つ女。

その女に押さえ付けられ、喉に刃物を突きつけられている男。

影に隠れて見えないが、声だけ聴こえる男と女らしき人物の声…


「ひ、ひいぃっ…、やめてくれっ…助けてくれぇ…嫌だ、喰われたくない……喰われたくない……っ」

「あーコイツ、マジ五月蝿い。」

「黙らせるためにさっきの人間に続いてぶっころしてもいい?」

「別にいいさ。どうせコイツもさっきの人間に続いて、遅かれ早かれ俺たちで喰ってやる所だからなぁ。」

「標的はお前だ、覚悟しておけ。」

「じゃあ、決ーまり。……必ず息の根を止めてやる。」

「い、嫌だああぁあぁああ!!」


次の瞬間、刃物がヒュッと風を切る音と共に、水のような何かが、勢いよく吹き出す音が聴こえたのを最後に…もう、何も聴こえなくなった……

6パイロン:2022/03/07(月) 20:18:08 ID:xwfFvBVs0
ニ:「MONSTER DANCE」






……とある日のとある冒険者ギルド。


「…ええ、というわけで。ええ、これで…この内容での報告をお願いします。」

「かしこまりました。それではこれで任務完了ですね。また早急に報酬をお送りさせていただきます。」

「ええ、お願いします。それではまたよろしくおねがいしますね。」

「ええ。パイロンさん、お疲れ様です。またお待ちしてますね。」


ギルドの受付で任務の完了報告をしている異国の男。パイロンの姿がそこにあった。

今日もいくつかの任務を並行して進め、丁度先程帰ってきた所だった。

そして無事、任務の報告は完了して、あとは報酬が来るのを待つのみだった。


「……さて、今日の任務は終了したし、愛しい人に会いに行くかな。……あの鵙の人にも簡単には負けられないし。」


そう言うとパイロンは一度ギルドを離れ、パイロンが住処にしている近くにある冒険者用の宿泊施設の一室に戻り、服を着替えてからまた出てきた。

普段は祖国である東の大国、華国(かこく)の中華服を着ているが、最近はこの世界によくあるタイプの服装にしている。

今日はシャツ、細めの長いパンツ、靴など、全てを黒で纏め、白いジャケットと銀のプレートタイプのネックレスをアクセントにした服装だった。

さて、想い人の居るサロンに向かおうか、と考えながら宿泊施設の外に出た所、冒険者ギルドに黒山の人だかりが出来ているのに気づいた。


「なんなんだ、あれ……?」


ギルドに集結した野次馬達の声がこちらまで響いてくるほどの騒ぎだった。


「…まただ、また、やられてしまった…」

「あれだけの腕自慢の傭兵の兄弟が二人とも…」

「これでもう12人目だろう?どうなってる…」

「オイ、この案件、マジでヤバいんじゃないのか?」

「もう、無理だよ。この案件に向かった奴ら、みんな生きて帰ってこないじゃないか…」

「もう、俺たちオシマイだよ、こんなのがこの国にいるなんてっ…」


この日の冒険者ギルドは悪い意味で騒々しくなっていた。

話を聞く限り、ここで請け負えるとある任務へと向かった者は、皆二度と生きて帰ってくることはなく、ついに犠牲者は2桁を越えてしまったようだ。

皆は口々にもうこの依頼を取り下げて、この依頼の目的地のエリアを封鎖して立入禁止にしたほうがいいのではないか?と、口々に騒ぎ立てた。

ギルド側は、この任務は直接ここへと持ち込まれた依頼であり、このターゲットの怪物の存在にいち早く気づき、どうにかしてほしい、と直接ここに直談判しにきた女性がいた、という経緯があるため、無下に取り下げられないと反論している。

だとしても、これは本当にヤバい。このままだと本当に取り返しのつかないことになる。

ギルドの関係者や責任者を取り囲んでまくし立てている野次馬が遠目からでもかなり目立っていた。

7パイロン:2022/03/07(月) 20:57:11 ID:xwfFvBVs0
あることないことをまくし立てる野次馬、対応が追いつかずに少しずつ押され気味になる関係者と責任者。

そんな状況を一変させたのは、一人の異国の男性が間に割って入り、その任務を新たに請け負うと言ったためだった。


「……その任務、俺が新たに請け負います。なので、該当エリアの封鎖はもう少し待ってください。」
 
「ん…?誰だ、アンタ…」

「その声は…、ぱ、パイロン…さん?」

「あれ?いつもと服装が違う…」

「パイロン?」

「東の人か?」

「あんたが…請け負うのか?こんな危険な任務を?」


名乗りを上げた男。それはこの騒ぎを聞きつけてやってきたパイロンだった。

服装はいつもとは違っていたため、パイロンを知っているギルドの人物も、すぐにはパイロンだとはわからなかった人もいた。


「で?どんな依頼内容なんです?」

「ええ、それはこちらに…」

「なになに、辺境都市ルブルのある聖王国パルナの外れにある旧鉱山跡……」


関係者から依頼書を受け取り、目を通したパイロン。

そこに書かれていたターゲットを確認した途端に、思わず目つきが険しくなった。


「これ……、巨大な赤い節足動物みたいな見た目の怪物?」

「ええ、そうなんですよ、パイロンさん。この国には居ない異国の怪物に思えました。なので前例がなくて…」

「…なあ、パイロンさんよ、この依頼、やっぱりキャンセルしたほうがいいんじゃないのか?」

「ああ、アンタまで危険とわかってる任務に赴くことはないと思うよ…」

「…いえ、決意は変わりません。やはり受けることにします。この敵、俺の知っている敵かもしれません。少なからず、俺の家系にも遠縁ながら、因縁があるかもしれませんから…」

「家系…?アンタの家系、どんな家系なんだ?」

「まあ、色々とね、ありまして。純粋な人間ではない、とだけ言っておきましょうか。」

「聞きたいなら話しますが、眉唾ものと思われるでしょうね。」


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