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( ^ω^)Secret Gardenのようです
105
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:49:18 ID:uUhGkg420
_____
___
__
21:30
( ^ω^)「ご馳走様でしたお。とても美味しかったですお。」
(,,^Д^)「改めて、本日はお越し頂きありがとうございます。」
僕はデミグラスソース仕立てのポークカツレツを堪能し、タカラさんにお礼を言った。
タカラさんは、西洋料理店のオーナーシェフだ。
ここは居抜きの建物で、今までは昼のみの営業をしていた。
それをお子さんが大きくなった事を期にディナータイムの営業へと切り替え、その際に夜の印象に合わせるカーテンをオーダーしてくれたのだ。
(,,^Д^)「お伝えした通り、明るさが気になるのです。吹き抜け天井のライトからの光は程良いはずなのに、なんだか料理が美味しそうに見えなくて…。」
(,,^Д^)「今より少しでも明るければ違うのか。もとの白いカーテンに戻すべきなのかと…。」
( ^ω^)「そうでしたかお…。配慮が行き届かず、申し訳ありませんでした。」
僕は席を立ち、タカラさんに頭を下げた。
(,,^Д^)「いえ!カーテンは気に入っているので、出来れば替えたくないのですが、何か知恵をお貸し頂けたらと…。お願いします。」
( ^ω^)「分かりましたお。」
106
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:50:54 ID:uUhGkg420
( ^ω^)(…。)
僕は店をゆっくりと見渡してから、天井を見上げた。
( ^ω^)(明るさや色温度がそこまで悪いという訳ではなさそうだけど…。夜に料理を美味しそうに見せるには、もう少し工夫が必要なのかもしれないお。)
タカラさんがオーナーになる以前のこの店は、昼間のみの営業をしていたそうだ。
( ^ω^)(…ん?)
卓上に点々と置かれている蝋燭。
( ^ω^)(あれなら…。)
( ^ω^)「…天井よりも、お料理に近い場所をもう少し明るくするのはどうでしょうか。」
( ^ω^)「例えば…こちらの蝋燭の器を、もっと光を拡散させるような硝子の器に変えるのはいかがでしょうか?」
( ^ω^)「僕が以前担当したお店で、良さそうな品を取り扱っていますお。一つ借りて試せないか、明日聞いてみますお。」
(*,,^Д^)「本当ですか!よろしくお願いします。」
____________________________
107
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:53:12 ID:uUhGkg420
_____
___
__
16:40
((( ^ω^)
世の就業時間は、僕が働き始めた頃よりも1時間短くなった。
それは大人を早く家に帰して子どもの睡眠や生活のリズムを整えるための政策であるけれど、この街の場合は寄り道による各々の店の収入アップの効果もあるのだそうだ。
僕も例に倣い、今日は大通りで買い物をしてからドクオさんの屋敷へと向かう事にした。
いつもお茶やお菓子を頂いてばかりなので、お返しの気持ちとして土産を用意するためだ。
( ^ω^)(えーと…営業時間がC形態なら、あの店にするかお。)
飲食店の場合、営業時間がモーニングからブランチまで、ランチとティータイム、遅いティータイムからディナーまで等と区分がある。
観光寄りの店や、一般客向けの店もそれに近い営業形態を取っているため、知らない店に行く時などは一度営業時間を調べてから行かなくてはいけない。
_____
___
__
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。」
( ^ω^)「こんにちは。今日も少しだけ、寄らせて頂きますお。」
ζ(^ー^*ζ「はい。」
108
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:55:09 ID:uUhGkg420
僕は最初に、ドクオさんがいつも居る大広間を訪ねた。
( ^ω^)「こんにちは。」
( ^ω^)「いつも美味しいお茶とお菓子をありがとうございますお。ドクオさんは甲殻類がお好きだとデレさんから聞きましたので、よろしければこちらをどうぞ。」
そう言って、僕はいくつかのパウチが入った紙袋を部屋の入口にあるテーブルに置いた。
海に隣接していない県で畜産の食材を扱う店の方が多いため、土産に魚介類を選ぶという選択肢がこの街にはあるのだ。
( ^ω^)「蟹のクリームスープですお。」
( ^ω^)「以前食べて美味しかったので、ドクオさんにもぜひと思いましたお。」
('A`)「…」
ドクオさんが、テーブルの紙袋をチラッと見た。
('A`)「大した事は、してない。」
( ^ω^)「そんな事はありませんお。こんなに素敵なお庭でお茶を頂けて、もっとお礼をした方が良いくらいですお。」
('A`)「…」
____________________________
109
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:58:03 ID:uUhGkg420
_____
___
__
ζ(゚ー゚*ζ「カーテンの進行は、どうでしょうか?」
デレさんがプリンを掬った手を止めて、僕に聞いた。
( ^ω^)「あとちょっとですお。メインの花をどれにしようかと悩んでいるところですお。」
ζ(゚ー゚*ζ「でしたら、薔薇はいかがでしょうか?」
( ^ω^)「薔薇、ですかお…?」
僕は、辺りを見回した。
( ^ω^)「薔薇の木は、無いようですが…。」
ζ(^ー^*ζ「5月になったらすぐ咲きますよ。ぜひいらしてくださいね。ご案内しますから。」
(;^ω^)「…分かりましたお。」
どういう事なのか分からないけれど、デレさんが言うのだからきっと正しいのだろう。
110
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:59:52 ID:uUhGkg420
(*^ω^))「今日のおやつも、とても美味しいですお。」
器に溢れそうなほど盛られた、たまごの風味も感じられる硬めかつしっとりなプリン。
頭には帽子のようにホイップクリームが乗っていて、器の底にもクリームとベリーが数種類敷かれている。
紅茶はウバ・ハイランズで、爽やかなサロメチール香がプリンの甘味を邪魔しない。
ζ(゚ー゚*ζ「生地にも、生クリームが入っているんです。」
(*^ω^))「それは豪華ですお。全部の層をすくって食べると、ケーキみたいですお。」
ζ(^ー^*ζ「幸せな気分になれますよね。」
(*^ω^))「はいですおー。」モグモグ
https://imgur.com/a/OlHmjnJ
.
111
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:03:38 ID:uUhGkg420
話を聞きながら、僕は庭に生えている昼咲月見草に目をやった。
ζ(゚ー゚*ζ「昼咲月見草は、桃色月見草とも呼ばれています。」
ζ(^ー^*ζ「この花を見ていると、なんだかしぃちゃんを思い出しますよね。」
( ^ω^)「確かにピンク色で丸くふわっとしていて、しぃちゃんの髪型みたいですお。」
しぃちゃんはチョコレートのような髪色だけど、日が当たる部分はピンク色に見えるような髪色だった。
ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんはたまにここに来てくれるのですけれど、習い事が内藤さんの来る曜日と被っていて、やきもきしてるみたいです。」
(;^ω^)「え…?あの、しぃちゃんの時計は直って、もうここに用事はないのでは…?」
ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよね。言われてみれば…何故でしょう?」
ζ(^ー^*ζ「ここの門は、可愛い子に弱いのかもしれませんね。」クスクス
112
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:04:38 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「しぃちゃんはここに来て、何をしているんですかお?」
ζ(^ー^*ζb「私と押し花を作ったり…。あっ、この間はお庭の花でブーケを作りました!」
ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、何かと競争にしたがるんですよね。何故でしょう?」
(;^ω^)q「うーん…何故でしょうね…?」
113
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:08:56 ID:uUhGkg420
_____
___
__
19:30
( ^ω^)「ふぅ…。」
庭がずっと昼間なせいか、時間も忘れてついデレさんと話し込んでしまった。
玄関を開けて、家の中に入る。
鞄を置いた僕は、下駄箱の上に置かれた白くて丸い花瓶の埃を取るために雑巾を探した。
もうずっと使っていない花瓶なので洗った方が良いと思い、途中で台所へと向かった。
( ^ω^)つ ススッ
( ^ω^)「よし、だお。」
デレさんから貰ったブーケを、花瓶に挿した。
(*^ω^)「丁度いい花瓶があって良かったお。」
それから僕は部屋着に着替えて、パソコンの前に座った。
二間続きの和室で、ダイニングキッチンからすぐの方の部屋にパソコンと本棚を置いている。
( ^ω^)「えっと…取り込んでない絵はまだあったかお?」
スケッチブックを捲った。
デレさんからもらった栞が挟んであるので、どこまで済んでいるのかが、すぐに分かる。
( ^ω^)「…。」
『しぃちゃんの兎は、ここを出たらもとの姿に戻ります。』
( ^ω^)(…お客さんが修理に持ってくる物達は、ドクオさんと話が出来ると言っていたお。)
( ^ω^)(人の姿でなくとも、デレさんが物の状態で外の様子を見る事は出来ないのだろうか…?)
だけどきっとあれは、断りの言葉だ。
僕は、デレさんから貰った栞をしばらく眺めていた。
114
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:09:54 ID:uUhGkg420
【 第三話 ルピナスの街 】
終わり
.
115
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:14:04 ID:uUhGkg420
【プリン】
(150mlカップ約2個分)
※プリン液がなみなみなので、カップは3個用意しても良いです。
カップはフッ素樹脂加工の物、またはガラスのカップを使用。
[カラメル]
てんさい糖 20g
水 大さじ1
バター 少量
①砂糖と水を鍋に入れて混ぜ、中火で加熱、動かさない。
③キッチンペーパーを使いプリンカップにバターを塗っておく。
②茶色っぽくなったらなべを揺すり、好みの色になったらヘラで鍋端に集めつつプリンカップへ。カラメルはカップ底に綺麗に伸ばさなくても良い。
116
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:18:23 ID:uUhGkg420
[プリン液]
全卵2個
卵黄1個
てんさい糖37g
牛乳190g
生クリーム40g
バニラオイル10滴(またはエッセンス。あれば。)
①ボウルに卵を全て入れほぐし混ぜる。
②小鍋に牛乳と生クリーム、てんさい糖を入れフツフツとし始めるまで温め混ぜ、バニラオイルと共に卵液へ少しずつ加える。
③出来た液を網で濾す。濾した液をカップに入れていく。
④キッチンペーパーで表面の泡を取り除き、カップにアルミホイルを被せる。
⑤鍋に並べたカップの半分くらいの高さになるまで水を入れ、カップを取り出し水だけを沸騰させる。(水の量を調節する工程)
⑥沸騰した鍋底に布巾を敷き、カップを並べる。蓋をして中火で加熱。グラグラしだしたら弱火4分からのとろ火4分。(計8分。IH使用時の時間です。)
⑦予熱で5分くらい放置。取り出して表面が固まっていたら全て引き上げ、粗熱が取れるまでキッチンに放置。
表面が緩かったらまたグラグラ+弱火で少し加熱する。
⑧粗熱が取れたらよく冷えるまで冷蔵庫に入れる。完成!
*ポイント
鍋で作る場合、水からではなくお湯からカップを置く事で、すが出来にくい。
鍋だと硬めに出来るので、牛乳はお好みで10〜20g増やしても良い。
117
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 08:19:27 ID:uUhGkg420
市販のラズベリージャムなら、明治屋がおすすめです。
是非一度スコーンとお試しください。
118
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 11:46:53 ID:JqNjJpSI0
おつ
素晴らしい空気感
続きをどんどん読みたくなる!
119
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 19:43:15 ID:6uKV1jww0
乙です
120
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 22:55:27 ID:TOOVocQo0
待ってたぜ
乙
121
:
名無しさん
:2024/07/16(火) 00:45:33 ID:eIMBzCgs0
乙 めっちゃ雰囲気好きだ
花は無理そうだから曲当てに賭けるぜ!!
122
:
名無しさん
:2024/07/19(金) 17:22:18 ID:yM7nOYYA0
乙
このスレほんと良い香りする
ウサギゴケ初めて知った。すごくかわいい!
イラストのお菓子たちがとても美味しそう
美味しそうな絵を描けるのってすごい尊敬する
123
:
◆vgPkwiFs66
:2024/07/20(土) 01:29:13 ID:Af9zJ.yQ0
乙!!
124
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:13:20 ID:eT9BLvak0
>>118
ありがとうございます!どんどん投下します!
>>119
ありがとうございます!
>>120
待っててくれてありがとう!
>>121
好きと言ってくれてありがとう!
ぜひ当ててくれー!
>>122
香りまで想像出来るの凄いです!お花屋さんみたいな匂いしますか?
同じようなのでクリオネもあるそうです。そっちも似てます。
ありがとうございます!焼き色を意識して描いてます〜
>>123
ありがとう!!
もう色々と天候が不安定で恐怖なので、絵は後で投下するという感じでガンガン進めて行こうと思います!
125
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:17:55 ID:eT9BLvak0
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
前回の仕留め役になったであろうウサギゴケは、ミニチュアのように小さな植物です。
私もいつか、実物を見てみたいです。
【曲ヒント2】
その曲の発売日は2010年ですが、2014年に一度だけドラマのEDとして使われました。その歌手のその頃は、色々な曲をカヴァーしている事の方が有名だったかもしれません。
126
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:18:48 ID:eT9BLvak0
从 ゚∀从「いらっしゃいませー。待ってたよ。」
( ^ω^)「よろしくお願いしますお。」
【 第四話 モッコウバラの祝福 】
.
127
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:22:16 ID:eT9BLvak0
从 ^∀从「本当に掛け持ちで来てくれるなんて、嬉しいよ。」
( ^ω^)「これもご縁ですし、内装がお客さん側からどう見えるのかも体験してみたかったんですお。」
僕が選んだのは、薔薇のカーテンの半個室だ。
全体が白く、背景となる鳥籠状のカーテンの中に縫い付けられた立体の薔薇にだけ色がある。
三畳より少し広い程度のスペースだが、実際よりも広く感じる上に静かな空間で、僕は雑誌を手に取らずに瞑想や空想にでも浸ろうかと考えた。
从 ゚∀从「それで今日は、どんな風に切る?」
( ^ω^)「えっと…僕に似合うような髪型はありますかお?」
从 ゚∀从「シーンは仕事?デート?」
(;^ω^)「えっ…?」
僕は一瞬、デレさんの姿を思い出した。
从 ゚∀从「おっ?」
(;^ω^)「…ビジネスベースで、ちょっと今風にも挑戦してみたい…ですお。」
从*゚∀从「…へぇ…?ビジネスねぇ…?」
(;^ω^)「そうですお…。」
从*゚v从 ニムニム
ハインさんは僕の僅かな動揺を逃さず、かといって失礼になるからと不自然に上がる口角を隠そうと戦っているようだった。
从*゚v从「内藤さんの天パは、後ろに流すようにコンパクトにすると良さそうなんだよな。」
从*^∀从d「よしっ!パーマもかけてみよーぜ!」
Σ(;^ω^)「ええっ!?」
128
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:23:05 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
爪;'ー`)y‐「急に滞在時間を増やしちゃってすみませんね、ウチのが…。」
(;^ω^)「いいえ…。」
爪'ー`)y‐「初パーマは、疲れたでしょう?」
爪'ー`)y‐「今度仕事の帰りにでもお立ち寄りください。2、3通りワックスの付け方を教えますから。」
(;^ω^)「お願いしますお。」
129
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:25:15 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
13:30
昼食をとった僕は、再び街へと繰り出した。
( ^ω^) スッキリ
いつもより纏まりのある髪を見ると、今度は服が買いたくなってきた。
( ^ω^)(休日用の服を買うなんて、何年ぶりだお?)
( ^ω^)∂ ヒーフーミー…
(;^ω^)(5年ぶりだお…。)
以前モナーさんが担当したカジュアル紳士服の店に着いた僕は、店内をグルっと見て回った。
そこで僕は、店に入ってすぐのマネキンが着ていた物とは色違いの、紺色無地のポロシャツを試着する事にした。
(;^ω^)(男性物ってバリエーションが少ないおね…。質はともかく、学生の頃に着ていたような型とそんなに変わらないお。)
(;^ω^)(今はその頃より1サイズ違うけど…。)
行くたびに髪型が違うデレさんとは、大違いだ。
____________________________
130
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:28:23 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
10:00
翌日、僕は屋敷へと向かった。
カーテンのメインを埋める最後のスケッチをするためだ。
((( ^ω^)(もう庭に薔薇が咲いているのだと言うけれど…。僕がまだ見ていない場所に案内されるのかお?)
今まで僕が見てきた場所は、庭の半分ほどだろうか?
屋敷とは別方向の道にも、まだまだ庭は続いていそうだ。
僕の家から屋敷までは5分もかからず着くため、門はすぐに見える。
( ^ω^)(あれ?門の前に車が…?)
入って右手の石畳のスペースに、茶色のバンが停まっている。
その車体には、ベージュ色の文字がプリントされている。
( ^ω^)(ショ…ボーンヌ…?)
Σ(;^ω^)「って、…えぇっ!?」
門の先には、溢れんばかりの薔薇が奥まで続いていた。
131
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:30:54 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんっ!」
僕がポカンと口を開けて立ち止まっていると、デレさんが駆け寄るようにやって来た。
かと思うと、いつもの距離より3歩前の位置で立ち止まった。
ζ(゚、゚*ζ「…。」
(;^ω^)「こんにちは。」
デレさんは数秒間僕を眺め、満面の笑みになった。
ζ(^ー^*ζ「素敵ですっ!」
(*^ω^)「ありがとうございますお。」
(*^ω^)ゞ テレテレ
髪型か…、それとも新調した服装まで気付いてくれたのだろうか?
気恥ずかしいけれど、久しぶりにお洒落をして良かった。
( ^ω^)「デレさんも、今日は凄いですお。髪にお花が編み込まれていますお。」
今日のデレさんの髪型は、低めのサイドポニーだ。
耳上の大きなコーラルピンクの薔薇を始めとして、毛先まで小さな生花が編み込まれている。
ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。庭の花が綺麗だからと、ドクオさんが編み込んでくれました。」
(;^ω^)「ドクオさん、何でも出来て凄いですお…。」
132
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:35:30 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんが言った通り、本当に薔薇が咲いていますお…。」
僕はいつもより更に遅い足取りで庭を歩いた。
ここに来ると見る場所が多くて、ついそうなってしまうのだ。
迷路のように辺りを隠す薔薇は白く、それでいて中央から淡いピンクがグラデーションに広がっている。
カップ状に咲いているものが多く、その可愛らしさに僕は見惚れた。
ζ(゚ー゚*ζ「この薔薇は、『フランシス バーネット』という品種です。海外の小説家の名前が由来ですよ。」
( ^ω^)「秘密の花園の作者ですかお?僕は社会人になってから読みましたお。」
ζ(゚、゚*ζ「大人になってから、ですか?」
児童書ではないのかと、デレさんは小首を傾げた。
( ^ω^)「僕が営業の仕事からデザイナーも兼任するようになった時に、上司が『Secret Garden』と名付けてくれて、それがきっかけでしたお。」
( ^ω^)「うちの会社は、デザイナーそれぞれにシリーズ名が付くんですお。僕は会社の通販用に自由に作って良いという時は、草花ばかりなので。」
ζ(^ー^*ζ「そうでしたか。」
僕の話を聞き終えたデレさんは、再び薔薇に目線を戻した。
ζ(゚ー゚*ζ「フランシス バーネットは、ロサ・オリエンティスという国内のブランドで、日本の気候でも育てやすい品種なのだそうです。」
133
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:36:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんの髪に飾られている薔薇は、何という品種なのでしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「『イーハトーブの香』です。こちらも日本で作出された品種ですよ。」
( ^ω^)「そうでしたかお。鮮やかながら可愛らしさもあるお花ですお。」
その薔薇は、デレさんのラテ色の髪に似合っている。
( ^ω^)(って、あれ…?)
道の先から、誰かがやって来る。
134
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:42:17 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ん?ドクオのお客さんか?」
筋肉質で若い男性だ。
ドクオさんやデレさんよりも、少し年上のように見える。
男性はポケットの沢山付いたエプロンを身に着けていて、専用の台車で何かの苗を運んでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん。こちらは、図書室のカーテンを作ってくれている内藤さんです。」
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、こちらは庭師のショボンさんです。お庭の花は全てショボンさんが手入れしてくれているんですよ。」
ζ(^ー^*ζ「そして以前話した図書室の本は、ショボンさんの奥さんに頂いているんです。」
( ^ω^)「そうでしたかお。初めまして。」
(´^ω^`)「よろしくな。」
ショボンさんは、溌剌とした笑顔で挨拶してくれた。
( ^ω^)「とても素晴らしいお庭ですお。でも、ついこの間までは別の花が咲いていたのに、今日来てみたら薔薇がこんなに咲いていて…驚きましたお。」
(´・ω・`)「ここは特別な庭だからな。薔薇なら赤子みたいな苗でも植えれば3日くらいで見頃になるんだ。」
(;^ω^)「3日…!?」
135
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:46:02 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「大体の花もそうさ。流石に樹木なんかは1ヶ月くらいかかるけどな。」
(;^ω^)「とんでもなくハイペースですお…。」
(;^ω^)「…あの、そういう話は僕なんかにしても良いのですかお?」
(´・ω・`)「ああ。デレの茶飲み友達なんだろ?最近ドクオが練習した茶菓子を子どもの土産にってくれるようになったから、知ってるんだ。」
(´・ω・`)「デレが屋敷に現れてから三年くらい経つけど、ここまでお客さんに懐いてるのは初めてだ。きっとあんたは良い人なんだろ?」
(;^ω^)ゞ「え?うーん…。どうでしょう。」
(´・ω・`)「ここへはドクオの客もたまにしか来ないし、特別な場所だからあまり外の人には話せないんだ。一人で作業してると、合間に無性に気分転換したくなる。」
(´^ω^`)「だから俺とも友達になってほしいってワケだ!あっはっは!」
(*^ω^)「そうでしたか。ぜひ。」
僕が続けてお客さんと遭遇したのは、珍しい事だったようだ。
( ^ω^)「あの…。デレさんが現れて三年くらいとは?それ以前はここに居なかったのですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「…。」
二人に聞くように顔を向けたが、デレさんから話そうとする素振りはなかった。
(´・ω・`)「そうだ。俺が丁度この庭を再生し終えた頃に、いきなり現れたんだ。」
136
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:47:59 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「いきなり…ですか。」
ζ(^ー^*ζ
デレさんは普段と同じ表情で、ふんわりと微笑んだ。
(´・ω・`)「ドクオからは何も聞いてないけど、この屋敷の古くからの調度品なのかもしれないな。祖父の手入れした庭を真似たから、きっと懐かしくて出てきたんだろう。」
(´・ω・`)「間は空いてるけど、ドクオとは長い付き合いなんだ。」
ショボンさんは、近くにあった木製のベンチに寛ぐように腰掛けた。
ζ(゚ー゚*ζ「お茶をお持ちしますね。」
それを休憩と判断したデレさんは、屋敷へと向かっていった。
僕もショボンさんの隣に座って、話の続きを聞くことにした。
137
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:54:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺は子供の頃から、庭師の祖父に連れられてここへ遊びに来ていたんだ。と言っても、ドクオはドクオのじいちゃんに引っ付いててちょっかいかけても反応悪くてさ。」
(´^ω^`)「今でも仕事と頼まれ物以外は、こっちが喋りどおしだけどな。ガハハ!」
( ^ω^)「…」
確かにドクオさんは、僕に対してもそんな感じだ。
かといって無愛想な訳ではなく、こちらから話す挨拶の延長のような短い雑談に、いつも一言は返事をくれる。
(´・ω・`)「俺が中学生の頃に祖父が亡くなった。本家の方で跡を継ぐ人もいなかったから、庭師は廃業したんだ。」
(´・ω・`)「その頃はそんな気全くなかったんだけど、俺の進路と就職先は祖父の仕事に近い花屋になった。ジワジワと良さがわかってきたんだな。」
(´・ω・`)「隣の県の花屋で働いてた時に客だったカミさんが同郷だったのが縁で知り合って、結婚した。それからすぐにコウノドリが来てな。」
(´・ω・`)「三つ子だって分かった時は、嬉しい気持ち以上に途方に暮れたよ。核家族だし金銭的にも育てられない。何より多胎児はカミさんが死んじまう確率がうんと上がるんだ。」
( ^ω^)「…」
(´・ω・`)「幸い全員無事に産まれてくれたし、カミさんのご両親の協力が得られる事になった。俺だけが職場のある街で暮らすことになったけれど、その頃この街は花屋があまりなかったし、職を変えるか俺だけ都会に出て出稼ぎするかなんて、買い物の帰り道で悩んでいた時さ。」
(´・ω・`)「懐かしいこの庭を見付けたんだ。」
138
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:59:09 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「といっても、記憶にある庭とは別物だった。庭の中に入ってすぐのド真ん中に、立派な松が植えてあったからな。」
(;^ω^)「松…ですかお…?」
(´・ω・`)「ああ。ドクオのじいちゃんが屋敷の隅で育てていた盆栽を、全部庭に植えちまったらしい。横には昔と変わらない位置に洋風のアンティークファニチャーが置かれてた。」
(´・ω・`)「俺はドン引きしたね。祖父の造った庭とは、かけ離れてたから。屋敷に入ってみるとドクオだけ居たから、せめて入口だけでも整えさせてくれって頼んだ。」
(´・ω・`)「実家から水やりがあまりいらないような植物を持ってきて、職場の余りを貰って。こっちに来るついでにちまちまと植えていった。」
(´・ω・`)「そしたら、そこでようやくこの庭が変な事に気付いた。いつ来ても昼間だし、花の時期が終わりきっても、植えた花がまだ見頃なんだ。」
139
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:02:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「思えば土が豊かといえど、夏場に週一しか来ない場所で水やりの事も気にせず植え続けた俺も変だった。特に俺がいじってた入口には乾きやすい小さめな花壇も多かったし、焼け石に水だ。」
(´・ω・`)「庭の奥にあるキッチンガーデンだけ使ってるドクオに聞いてみたら、ここは植物の成長速度も尋常じゃなかった。」
(´・ω・`)「葉物は翌日に収穫出来るし、ニンジンなんか3日で穫れるときたもんだ。連日来れる日に観察したら、花も大体そのくらいのペースで咲くようだった。」
(´・ω・`)「俺はショックだったね。今までやってきた事や、学んできた事は何だったんだと。」
( ^ω^)「そうですおね…。」
いつ自分の仕事がAIに取って代わられるのかと、ヒヤヒヤしている僕だ。
自分が無力だと感じる恐ろしさは分かる。
140
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:04:39 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ムカついたから3日で育った薔薇を101本、カミさんにプレゼントしたんだ。そしたら食べられる品種だったから、ジャムやらクッキーにしてくれた。」
(´・ω・`)「忙しいのに無理すんなって言いたいのを我慢して食べたらさ、すっげぇ美味かった。」
(´・ω・`)「じいちゃんに付いて回ってた頃にかいだ香りだ。ちっこくて、時間がたっぷりあった頃の。」
(´・ω・`)「久しぶりに茶を飲んで、ゆっくり甘い物を食べた。そうしたらカミさんが隈作った顔で笑って、『お疲れ様』って言ってくれた。」
(´・ω・`)「離れたままじゃ駄目だって、思ったんだ。」
141
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:09:08 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺はまず、街中の菓子屋に庭で育てた薔薇を売り込んだ。同級生のツテで一軒だけ受け入れてくれて、ロールケーキやゼリーなんかに取り入れてくれた。」
(´・ω・`)「それから、街の観光業や写真屋に署名を募って公共施設を花の名所にしたいと希望を出した。」
(´・ω・`)「市長がドクオと俺の祖父を知っていたからなのか、通してもらえた。予算は全く出なかったけどな。」
( ^ω^)「…凄いですお…。」
(´・ω・`)「景観を整えつつ、街の店に土産の材料として薔薇を売り込んで手広くしていったら、今の観光地が出来たってワケさ。」
(;^ω^)「…。」
(;^ω^)「…あの、出荷はショボンさんがお一人で全てなさっているんですかお?それに凄く野暮なんですけれど、この規模だと税金とか…。」
庭の規模は少なくとも、昔行った事のある30ヘクタールの植物園ほどはある。
それらを全てショボンさんだけで賄っているのだろうか?
(´・ω・`)「その辺りは大丈夫だ。確かにここの管理は俺だけだが、土地については、普段はここが小さな平屋と畑に見えるからな。その分しか取り立てられないのさ。」
( ^ω^)「そうでしたか…。」
( ^ω^)(…つまり、用事が無い場合はずっと前に見たこの土地の風景が見えている、という事だおね…。)
142
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:14:34 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「それに、ここで育てた苗は外に植えても花付きが良いしかなり長持ちするんだ。肥料や水やりはそこそこ必要だけどな。」
(´・ω・`)「だから外にも畑を借りて、人を雇って育ててもらってる。街の土産品や施設に使われる分の花はそこで作っているんだ。」
(´・ω・`)「ここでは育てるのが難しい花や、通販用の苗なんかを庭の奥の畑で育てている。」
(´^ω^`)「街の店からの花の依頼は、食用や香料以外は案外少ないんだ。何せ街中が花で飾られてるから、自分の店まで飾ったら、埋もれて見えなくなっちまうからな!ガハハ!」
(´・ω・`)「そんで、この広い庭では花の組み合わせを試しつつ、子どもの頃に見た記憶を頼りに庭を戻していった。祖父の庭にそっくりになった頃に、デレが現れたワケだ。」
( ^ω^)「そうでしたか…。」
143
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:19:47 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしました。」
デレさんが戻ってきて、僕達にプラスチック製のボトルを手渡してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「レモンタイムです。」
(´・ω・`)「ありがとうな。」
そう言って、ショボンさんがボトルの半分の量まで一気にお茶を飲んだ。
ζ(^ー^*ζ「レモンタイムはコモンタイムとラージタイムの交配種です。爽やかで飲みやすいですよ。」
( ^ω^)「頂きますお。」
( ^ω^)) ゴクッ
温度はショボンさんが飲みやすいようにするためか、ややぬるめだ。
Σ( ^ω^)「本当に、レモンのような香りがしますお。」
ζ(^ー^*ζ「良い香りですよね。レモンタイムには、抗菌作用やリラックス効果もあるそうですよ。」
( ^ω^)「そうですかお。結構好きな味ですお。」
(´・ω・`)「苗いるか?鉢植えで雑に育てても勝手に増えるぞ。」
(´・ω・`)「喉にも良いんだ。俺も風邪引きそうな時は予防で飲んでる。」
( ^ω^)「ありがとうございますお。お願いしますお。」
144
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:25:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「…僕はてっきり、花での町興しは市の方で始めたものだと思っていましたお。」
( ^ω^)「仕事柄街の事はまあまあ知っているつもりでしたが、何も知らずに…お恥ずかしいですお。」
デレさんが現れたのが三年くらい前だという事は、ショボンさんはそれらを二十代でやってのけたのだ。
僕が想像も出来ないような苦労だったのだろう。
(´・ω・`)「いいや、ワザと表にウチの名前が出にくいようにしてるから、それはしょうがないんだ。」
(´・ω・`)「外の畑や通販も、市の名前を使わせてもらってる。やっぱり少人数でこの量を売り出すのはあり得ないから、人手のカモフラージュにな。」
(´・ω・`)「その代わり、有事の際にはここを全部畑にしたり、避難場所にするって約束を市と結んでるんだ。」
(´・ω・`)「まぁそれは、ドクオのじいちゃんの頃から生きてる約束らしいけどな。」
(;^ω^)「そのような取り決めがあったので…えっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「『用事のある人には見える』、という事なのでしょうね。」
(;^ω^)「…。そうなる事がないと良いですお。」
それからショボンさんは、このような場所は全国的にいくつかあって、それぞれに同じような協定を結んでいるのだと市長から聞かされたと教えてくれた。
そして、本当にごく少数の人だけが知っている事なのだと。
145
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:27:21 ID:eT9BLvak0
続きは夜に投下します
146
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:33:48 ID:eT9BLvak0
投下します
147
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:37:09 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「あの…。どうして僕なんかに、ここまで話をしてくれるのでしょうか…?」
( ^ω^)「僕は言ってしまえば、ドクオさんに一時的にご縁があるだけの業者ですお。」
納期内に収めるつもりとはいえ、頼まれてもいないのに庭をモデルにすると決めて、ここまで頻繁にお邪魔している事すら図々しくて申し訳ないと思っているのだ。
(´・ω・`)「…デレもだけど、ドクオがここまで人を持て成す事が今までなかったからだ。」
pζ(゚、゚*ζq「そうですよ!内藤さんが来てから、お菓子への気合いが全然違います!」
Σ(;^ω^)「えっ?僕はてっきり、寡黙で親切な方なのかと思っていましたお…。」
( ^ω^)、「もっと、お礼が出来ればいいのですが…。」
†+pζ(゚ワ゚*ζq「そうしたらきっとドクオさん、もっと張り切りますよ。いよいよアフタヌーンティーが登場してしまいますね…っ!」ワックワック!
(;^ω^)ノシ「いえ!お手間をこれ以上増やすわけにはいきませんし、僕もトシだから食べきれませんお。」
ζ(゚、゚*ζ「そうでした…。」 シュン…
148
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:40:42 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんにいくつか教えてもらいましたが…。ショボンさんは、ドクオさんが何がお好きかを知りませんか?」
(´・ω・`)=3「俺もあんま分かんねーな。仕事と料理する以外は質素な生活してるからな。」
ショボンさんは、腕を組んでそう言った。
(´・ω・`)「ドクオに渡してる土地の賃料から庭師代を引いてもまとまった金はあるはずなんだが、ドクオはじいちゃんが使ってた物で済ませてるからな。服とか。」
(´・ω・`)「超じいちゃん子なんだよ、あいつ。」
( ^ω^)「なるほど…。」
僕はドクオさんの服がレトロな理由に、納得した。
( ^ω^)q「そうですかお。うーん、僕が出張に行った時に食べて美味しかった物でも取り寄せてみますお…。」
†+ζ(゚ワ゚*ζ パアァ
(;^ω^)(…。デレさんの分も、多めに用意するお。)
149
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:53:23 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「話は戻るけど、ドクオがこんなに人に構うのは本当に珍しいんだ。デレは別としてな。」
(´・ω・`)「あいつには交友関係がほぼ無い。親とも子供の頃からそりが合ってないみたいだ。」
(´・ω・`)「ドクオには兄貴がいて、俺とも知り合いだ。だけど地主の跡取りとして、親に期待され過ぎてる。」
(´・ω・`)「…兄貴の方は、殆どかまってやれないまま大人になってしまったと、ずっとドクオの事を心配してる。」
そう言いながら、ショボンさんは向かいに咲くフランネルフラワーを眺めた。
(´・ω・`)「だから…もしあいつが何かに悩むような事があった時に、話だけでも聞いてくれる人が居たらと思ったんだ。俺は気質が違うから、役に立たねーだろうし。」
( ^ω^)「…。初対面の僕にそんな事を頼むのは、かえってドクオさんを危険に晒すのではないでしょうか?」
( ^ω^)「経済環境は?宗教は?」
( ^ω^)「他にも調べておく事は、沢山有るのではないでしょうか。」
僕がそう返すと、ショボンさんは真っ直ぐな目でこちらを見た。
(´・ω・`)「内藤さんは、そそのかしてここを悪用しようなんて気は起こさないだろう?」
( ^ω^)「…」
(;^ω^)「……負けましたお。僕がこの場所に来られる間で良ければ。たったの一ヶ月くらいですが…。」
(´^ω^`)「よろしくな。」
フラックスとスノーフレークが見守る中で、僕達は握手をした。
150
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:57:20 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「さて、俺はそろそろ行くぜ。ごちそうさま。」
ショボンさんが、デレさんに空になったボトルを手渡した。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん、朝採れたお野菜をまとめてありますので、帰りに屋敷に寄ってくださいね。」
(´・ω・`)ノ「おー、いつもありがとな。」
ショボンさんはこちらに手を振り、またすぐに歩いていった。
見送ると、デレさんが僕の方に向き直った。
ζ(゚ー゚*ζ「それでは内藤さん、ご案内します。」
151
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:59:29 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
僕は最初に、庭に入ってすぐの場所をスケッチする事にした。
先程見て感動したこの薔薇をメインに、カーテンを作ろうと決めたからだ。
( ^ω^)φ「時間がかかりますから、デレさんは日陰かお屋敷で待っていてくださいお。」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。ドクオさんが軽食を用意しているので、途中で受け取りに行きますね。それまでは、後ろで見ていても良いでしょうか?」
( ^ω^)φ「良いですお。ありがとうございますお。」
僕は帽子を被り、持ってきたスケッチブックと水彩色鉛筆で下描きを始めた。
152
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:05:29 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんは、どんなお花が好きですか?」
少しして、デレさんが後ろから尋ねた。
( ^ω^)φ「そうですね…。どちらかと言えば、薔薇なら淡い色合いの方が好きですお。」
( ^ω^)「僕は花には詳しい方だと思いますが、薔薇は種類が多過ぎて…あまり詳しくはないですお。なので、今日は色々と教えてくださいお。」
僕は花の影を描きながら、そう答える。
ζ(^ー^*ζ「分かりました。午後は淡い薔薇が咲いているところも案内しますね。」
( ^ω^)φ「お願いしますお。」
( ^ω^)?「ちなみに…この奥に咲いている薔薇は何でしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ハンスゲーネバインとジュード・ジ・オブスキュアですね。」
(*^ω^)「そうですか。そちらも柔らかい色合いで、可愛いですお。」
ζ(^ー^*ζ「奥に行くにつれて、濃い色も増えていく構成ですよ。」
(*^ω^)「それは楽しみですお。」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと早いですけど、そろそろ昼食の準備をしに行きますね。キリが良くなったらいつものテーブルまで来てください。」
(;^ω^)φ「何から何まで、すみませんお…。」
屋敷まで向かうデレさんを見送ると、僕は筆洗器で筆に水を含ませて、色を塗った。
153
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:06:24 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
( ^ω^)つ キュッ
( ^ω^)フキフキ
テーブルのある小道の近くには、小さめな手洗い場がある。
僕は手を洗い、いつものハーブが茂る小道へと向かった。
( ^ω^)(おっ。今日は矢車菊が咲いているお。)
154
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:08:27 ID:eT9BLvak0
(*^ω^)「ありがとうございますお。」
円状のいつもの場所に咲く花は、意外にも薔薇ではなかった。
普段は何種類かの花で構成されているが、今日はヒメウツギ一色だ。
デレさんは既に、軽食をテーブルに並べてくれていた。
クラッカーにチーズやミニトマトが乗ったカナッペに、ハムやキュウリのサンドイッチ。それからポットとカップ。
ζ(^ー^*ζ「どれでも、お好きな物からどうぞ。」
そう言われたので、僕は「頂きます」と言い、カナッペに手を伸ばした。
(*^ω^))「…!このトマト、凄く美味しいですお!」
噛みしめると酸味も旨味も濃くて、まるでトマトソースだ。
下に添えられたクリームチーズとバジルが、より風味を豊かにしている。
ζ(^ー^*ζ「ドワーフトマトのプリティーベルです。草丈がとても低いのに実付きが良くて、見ているだけでも楽しいトマトですよ。」
( ^ω^))「フルーツトマトとはまた違った魅力ですお。」
(*^ω^)「このカナッペに乗っている青い花も、可愛いですお。」
ζ(^ー^*ζ「ルリジサですね。お茶としても使えるハーブです。」
155
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:11:27 ID:eT9BLvak0
出されたメニューの一巡が、そろそろ終わりそうだ。
( ^ω^)「おや?こちらは…?」
ζ(゚ー゚*ζ「そちらは、薔薇ジャムのサンドイッチです。奥の畑で育てている食用薔薇で作ったものですよ。」
( ^ω^)つ□「頂きますお。」
( ^ω^)) モグ…
(*^ω^))「意外と癖がないですお。美味しいですお。」
ほんのりフルーティーで、食べやすい味だ。
(*^ω^))「ジャムの色が桜色で可愛いですお。花びらは、美味しいぶどうの皮のようですおー。」
ζ(゚ワ゚*ζ「美味しいぶどうの皮…本当にそんな食感ですね!」
ζ(^ー^*ζ「紅茶のおかわりもどうぞ。こちらにも薔薇ジャムを入れて飲んでみてください。」
( ^ω^)Φ「では…。」クルクル
( ^ω^)) コクッ
(*^ω^)「うーん、これも良い…。」
紅茶の温度によって、今度は香りが広がった。
( ^ω^)) コクコク
(*^ω^)(おお…。)
カップを置いても、まだどこからか香りがする。
喉を通り越し、温かくなった胃やお腹の全てが、薔薇の香りになってしまった気さえする。
156
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:13:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんがお好きな薔薇は、どれですかお?」
カーテンをかける図書室はデレさんの部屋でもあるので、要望を聞いておきたいと思ったのだ。
ζ(゚、゚*ζ「そうですね、今お庭で咲いているものですと…」
( ^ω^)(デレさんの事だから、きっと可愛らしい…)
ζ(゚ワ゚*ζ「ジェーン・オースチンとノスタルジーでしょうか。初めて見た時に、ゆで卵と…りんごの皮で作った薔薇みたいだとビックリしたんです!」
(;^ω^)?「ゆで卵にりんご…?すみません、ちょっと想像出来ないですお…。」
ζ(゚ー゚*ζ「では早速、見に行きましょうか。行けば内藤さんにも分かるはずですよ!」
(;^ω^)「はい。ご馳走様でしたお…。」
157
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:15:34 ID:eT9BLvak0
目的の薔薇を見に行く間にも、デレさんは説明をしてくれる。
⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらのオベリスクに誘引されている薔薇は、プシュケです。」
( ^ω^)「アプリコット色でふわっとしてますお。空の色に映えますおー。」
今日は今まであまり通った事のない、広めの通路だ。
庭は木に囲まれている場所もあるが、ここからは空がよく見える。
⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらはザ フェアリーにドリスリッカーで…」
Σ(*^ω^)「これは…かっ…可愛いですおっ!!」
ζ(^ー^*ζ「花が小さい、ポリアンサ系です。」
(*^ω^)「ミニチュア感にキュンと来ると言いますか…。蕾の丸っこさがアクセントになっていて、とにかく可愛らしいですお!」
ζ(^ー^*ζ「内藤さんのお気に入りですね。」
(*^ω^)「はいですお!」
158
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:21:41 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ワ゚*ζつ「そしてこちらが、ジェーン・オースチンとノスタルジーですっ!」
Σ(;^ω^)「おっ…!?確かに咲き始めの丸いのは、ゆで卵みたいですおっ!?」
ζ(^ー^*ζ「ですよね!」
ジェーン・オースチンは、中〜大輪で外側が白く、内側が黄色の薔薇だ。
咲き始めの丸い状態の物は内側の黄色が濃く、まるで半分に割ったゆで卵のようだ。
https://imgur.com/a/jEV4X35
159
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:23:35 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「ノスタルジーは、僕は林檎を上から中央だけくり抜いた物のように見えましたお。」
ノスタルジーは外側が赤く、内側が白い。
物によっては飾り切りで薔薇の形を模した林檎に似たような色付き方をしている。
https://imgur.com/a/7iHgkdi
(;^ω^)「…実際に見ると、いい得て妙ですお。ただ、僕達が食いしん坊なだけかもしれませんが。」
ζ(^ー^*ζb「食べ物に見えるお花シリーズ、内藤さんも見付けたら教えてくださいねっ。」
( ^ω^))「分かりましたお。」
160
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:27:39 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)φ「ではまた、ここで描くことにしますお。」
僕は近くにあったベンチに座った。
ζ(゚ー゚*ζ 「では私も…」
デレさんが、僕の隣に座ろうとした。
(;*^ω^)φ「あ、あのデレさん、本当に時間がかかりますから…。」
ζ(゚、゚*ζ?「大丈夫ですよ?あまり話しかけないように気を付けます。」
σ(;*>ω<)「ほらっ!僕は帽子を被っていますお。帽子や日傘などがなければ、お屋敷で待っていてくださいお。」
ζ(^ー^*ζ「分かりました。」
(;^ω^) ホッ
デレさんは、素直に屋敷の方へと向かっていった。
161
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:29:22 ID:eT9BLvak0
(;^ω^)「…。」
ζ(゚ー゚*ζ「傘立てにあった物を、借りてきました。」
隣に座るデレさんは、深緑の傘をさしている。
傘は雨傘だが、70cmを越えるほど大きくて、僕の方にまで影を作ってくれている。
(;^ω^)「すみませんお…。」
ζ(^ー^*ζ「いえいえ。」
僕は気恥ずかしさを感じながらも、絵に集中する事にした。
( ^ω^)φ(カーテンに描く花は、これで埋まりそうだお。)
そういえば妻も、出会った頃は暗い色の傘をさしていた。
.
162
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:30:37 ID:eT9BLvak0
_________________________
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163
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:34:32 ID:eT9BLvak0
細い黒縁の窓の先の新緑が、輝く季節。
大学二年生になった僕は、教室の端の席に座り講義が始まるのを待っていた。
从'ー'从「今日は午後から学校閉まるじゃん〜?どこか食べに行かない〜?」
川 ゚ -゚)b「最近出来たアルゼンチン料理の店はどうだ?」
ξ゚⊿゚)ξ、「あ、ごめん。今日は親が迎えに来るから私はまた今度で。」
从'ー'从「じゃ〜行くのも今度にしよっか〜。クー、実家からもらった蕎麦余りまくってるから食べに来ない?」
川 ゚ -゚)「薬味を買いにスーパーへ寄ろうか。」
斜め前の方の席から、楽しそうな声が聞こえる。
友人の誰一人としてこの授業が被らなかった僕とは違い、いつも三人でかたまっている人達だ。
( ^ω^)(今日は13時までは学校が開いてるはずだから、少しだけスケッチをしてから帰るお。)
164
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:37:22 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
講義が終わりノートを取るのに少し手間取った僕は、人がまばらになった教室で片付けをしていた。
( ^ω^)(…お?)
先程の三人組のうちの一人が、窓から何かを眺めている。
( ^ω^)(あっちは…)
((( ^ω^)
( ^ω^)「…あの、何を見ているんだお?」
Σξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」
(;^ω^)「話したこともない奴が、急にごめんお…。何か気になっちゃって。」
ξ゚⊿゚)ξρ「あ…。あのね、木が沢山あって分かりにくいけど、この下に…森の方に向かって延びる細い道があるじゃない?そこに、扉みたいな物が見えるなって。」
ξ゚⊿゚)ξσ「その先に…ほら、花みたいな物も…見えない…?」
( ^ω^)「ああ。そこには、小さな庭があるんだお。」
ξ゚⊿゚)ξ「庭…?全然気付かなかった。」
少し驚いた表情をした彼女が小首を傾げると、ふわふわの髪が揺れた。
( ^ω^)「棟はここが一番奥だし、その先に何も無いって思うおね。僕もたまたま…」
( ^ω^)「…。」
( ^ω^)「あっ…!」
165
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:38:43 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)つ「見に行こうお!」
そう言って、僕は彼女の手を取った。
教室を抜けて、階段を降りて、早く早く。
棟の外へ出る手前に来て、彼女が僕に声をかけた。
ξ;−⊿−)ξつ「ごめん、ちょっと、待って。」ゼェ…ハァ…
(;^ω^)「あ…」
息を切らした彼女は、トートバッグから黒い折り畳み傘を取り出した。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。もっとゆっくりで良い?」
(;^ω^)σ「こちらこそごめんお…。こっちだお。」
166
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:39:49 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)テクテク
ξ゚⊿゚)ξ テクテク
( ^ω^)「…。」
(;|||^ω^)(僕は、なんて事を…。)
初めて声をかけた女の子の同意も得ずに、手を引いて連れ出した。
小さくて柔らかい手の温かさを思い出して、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
横並びに歩く、日傘をさした彼女の表情を見るのが怖い。
だけどそれを見たらきっと、『本当だ。』と。
そう、彼女も驚くはずだ。
167
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:41:49 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)つ| キィ…
打掛錠を外して、小さな木の扉を開けると、人一人通るのがやっとなハーブの茂る道。
それを数歩で抜ければ、背丈の低い草花が僕達を出迎えてくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「…すごい。」
地植えのフラックスとスノーフレークから始まり、桃色タンポポやカラフルなキンギョソウが奥へと広がっている。
彼女は立ち止まってそれらを見ているけれど、僕が案内したいのは、もっと先だ。
( ^ω^)「こっちだお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「え…?」
僕は、どんどん進んでいった。
168
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:42:57 ID:eT9BLvak0
(*^ω^)つ「ほらっ、君の花だお!」
(*^ω^)つ「モッコウバラだお!」
庭の中央にある、アイアン製の仕切り壁。
それを覆い尽くしきる勢いでモッコウバラは溢れ、下へと流れるように咲いている。
(*^ω^)「きっと今が一番見頃だおー。」
ξ;゚⊿゚)ξ「…?」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうして、私の花なの…?」
Σ(;^ω^)「えっ!??」
169
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:44:17 ID:eT9BLvak0
(;^ω^)「…黄色いモッコウバラは、花びら1枚で見るとクリーム色なんだお。」
(;*^ω^)「今見比べてみてもほら、君の髪の色と似てるというよりはおんなじで…」
ξ;゚⊿゚)ξ
(;*^ω^)「だから…?えっと…。」
物凄い発見をした気になっていた僕は、だんだん恥ずかしくなってきた。
僕にとっては驚きでも、誰もが花や色味に興味があるわけではない。
それに、モッコウバラは民家でもよく見かける花だ。
見慣れたもので例えられて、彼女はがっかりしたのかもしれない。
(;* ω )「あ…う……。」
170
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:46:15 ID:eT9BLvak0
気不味い沈黙を破ったのは、彼女だった。
ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君、だよね。」
(;^ω^))「そうだお。」
ツリ目がちな瞼に、ビー玉のような丸い瞳がこちらを見つめている。
モッコウバラの奥で咲いている、藤と同じ色の瞳だ。
ξ゚⊿゚)ξ「席が近い時にノートの名前を見て、なんとなく覚えていたの。」
ξ゚⊿゚)ξ「たまに、外でしゃがんで何かしてるよね…?」
(;^ω^)「あ…校内の花のスケッチをしているんだお。猫でもかまっているのかと、たまに声をかけられる事があるお…。」
芸術学部の無いこの大学では、そんな習慣があるのは僕くらいだ。
(;^ω^)「趣味なんだお。」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。」
171
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:48:09 ID:eT9BLvak0
ξ゚⊿゚)ξ「ここって、何なんだろう?」
( ^ω^)「理事長とか偉い人のお散歩コースらしいお。ここで描いてる時に、造園のおっちゃんが教えてくれたお。」
ξ;゚⊿゚)ξ「…勝手に入ってもいいの…?」
( ^ω^)「確認したらパンフレットにも載ってたお。だけどほら、みんな興味があるのは…」
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ…。」
学生はみな、大学の外の世界に夢中だ。
毎月のように新しいお店が出来るので、友達と連れ立って行くのが流行っている。
( ^ω^)「流石に不審者だと思われたくないから、最近はいつもここで描いてるんだお。」
ξ゚⊿゚)ξ「そっか…。」
彼女は、モッコウバラを眺めながら呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、内藤君…。」
ξ゚⊿゚)ξ「…また来ても、良い?」
172
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:50:31 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
それから彼女とは、講義の前に軽く話すようになった。
大抵が今日はスケッチをしに行くのかなどの、短いものだ。
僕が行くと言えば、都合が良ければ彼女もやって来る。
ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君も、帽子は被った方が良いよ。熱持って頭痛くなっちゃうから。」
(;^ω^)φ「えぇ…?ちょっとおっさんぽくて嫌だけど…。分かったお。」
津出さんは陽当りの邪魔にならないようにと、僕の斜め後ろに立っている。
( ^ω^)φ「津出さんはいつも日傘だお。やっぱり女の子はお肌に気を使うおね。」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。私の場合は、あまり直射日光に当たらないようにしないといけないの。」
( ^ω^)φ「え?」
173
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:53:40 ID:eT9BLvak0
松葉菊をスケッチしていた僕は、見上げるように津出さんを見た。
( ^ω^)「…。海外の人が外でサングラスをかけるのは、色素の薄い目が光に弱いからだって聞いたことがあるお。」
( ^ω^)「津出さんは、ハーフだったのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。両親は日本人よ。家系もね。」
( ^ω^)「…じゃあ、津出さんは…アルビノなのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そう。髪や肌に色味もあるし、その中では軽度と言われているけど…。」
ξ゚ー゚)ξ、「私は、加えて皮膚が少し薄いの。だから目が開きやすくて眩しいからよけいに、ね…。」
そう言って津出さんは、日傘を少し揺らした。
ξ゚⊿゚)ξ「…日陰になってない?」
( ^ω^)φ「大丈夫だお。」
174
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:55:05 ID:eT9BLvak0
σ( ^ω^)「日差しには強いけど、実は僕もこれ、地毛だお。」
僕の髪はほんのり茶色寄りで、そこからごく僅かな色差で細かくメッシュが入っているような色だ。
( ^ω^)「僕は三人兄弟の末っ子だから、色素が上二人に取られすぎたとか、家族から冗談を言われるんだお。」
( ^ω^)「僕達、頭髪検査が面倒臭かった仲間だお。」
ξ゚⊿゚)ξ「…そうね。」
ξ゚ー゚)ξ「お花を見るのが好きなのも、一緒。」
( ^ω^)「ホントだおw」
175
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:56:37 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
やけに長く咲き続けたモッコウバラが散る頃にはもう、僕達は友人になっていた。
( ^ω^)φ「津出さんは、地元の人なのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。内藤君は?」
( ^ω^)「僕は遠くから引っ越してきて、アパートから通ってるお。」
( ^ω^)「みんなここの学生だから、仲良くしてもらってるお。」
ξ゚ー゚)ξ「楽しそうね。」
176
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:58:18 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)φ「あーあ、来年からは就活かお…。」
(;^ω^)φ「僕、口が回らなくて『だよ』が『だお』になるし、語尾におって付けるのが癖付いちゃったから、ちゃんと採用してもらえるか不安でいっぱいだお…。」
ξ゚⊿゚)ξ「…親しみやすいと思うけど。」
(;^ω^)「ありがとだお。」
( ^ω^)「津出さんは、どんな分野の仕事を目指すんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「…家業を手伝う予定よ。」
( ^ω^)「そうなのかお。就職先がもう決まっていて、羨ましいおー。」
ξ゚⊿゚)ξ「…。」
177
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:00:56 ID:GGnScXIU0
津出さんは、ぽつりぽつりと話し始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「…私の家の近くにね、幼稚園があるの。いつも楽しそうな声が聞こえてくるわ。」
ξ゚⊿゚)ξ「小学生の頃は別の病気もあって、病院や家で過ごす事が多かったの。退屈だったけれど…、その声を聞くのは楽しかった。」
ξ゚⊿゚)ξ「目を閉じながら想像するの…。その子達と同じ年になって、日傘もささずに半袖で駆け回る自分を。」
178
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:03:13 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「病気が良くなって中学に通うようになった頃に、その幼稚園から帰ってくる子供とすれ違ったの。」
ξ゚ー゚)ξ「落ち葉をニコニコしながら見せてくれたわ。紅葉した葉が、面白かったのでしょうね。」
ξ゚⊿゚)ξ「掃除の時間に友達とうんざりしながら掃いていた葉っぱと同じはずなのに、その葉はとても鮮やかで濃くて、綺麗だったの。」
ξ゚⊿゚)ξ「私…心の中ではつい、卑屈な事を考えてしまいがちで。だけどその時は、とても素敵な言葉ですぐ返事が出来たわ。」
ξ*゚⊿゚)ξ「まるで、その子の魔法にかかったみたいね。」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうしたらね、その子もとっても喜んでくれた!」
ξ゚ー゚)ξ「…思えば、そこの幼稚園の子にはいつも励まされていたわ。だから将来、その幼稚園の先生になれたらなって、憧れるようになった。」
179
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:04:52 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「…だけど、言えなかった。向いてる身体ではないし、主治医にも私達家族への励ましで、『実家で働けるなら安心だ』と言われていたから。」
ξ゚⊿゚)ξ「これ以上迷惑をかけたくないし、高校を出たら働くつもりだった。だけど両親は、『もう少し学生でいたら?』って。」
ξ゚−゚)ξ「…大学なんて来ちゃって、良かったのかな…。」
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「何も知らずに言って、ごめんお。」
Σξ;゚⊿゚)ξ「…あ、愚痴っぽくなっちゃってごめんなさい。」
( ^ω^)「その幼稚園は、今もあるのかお?」
ξ゚ー゚)ξ「ええ。」
180
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:06:47 ID:GGnScXIU0
_____
___
__
( ^ω^)「……」テクテク
津出さんと別れてアパートに帰る中、僕は考える。
彼女は幼い頃から、どれだけの制限があったのだろう。
黒い傘に加えて、彼女はいつも黒い服を着ている。
話を聞いてしまった後では、まるで彼女の夢への喪服だ。
( ^ω^)「…」
通りかかった小さな店のショーウインドーに映る僕は、僕が思っている以上に猫背で格好悪い。
( ^ω^)「…お?」
店の奥から店主らしき人が出てきて、ショーウインドーのディスプレイを変えていた。
( ^ω^)「…。」
181
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:08:33 ID:GGnScXIU0
カララン
( ^ω^)つ|「あの、その傘を見せて頂けますかお?」
気付けば僕はその店の中に入って、声をかけていた。
(;゚∋゚)「え?ああ…。」
50代くらいのその人は困ったような顔のまま、傘をこちらに手渡してくれた。
( ^ω^)「…。」
不思議な形の日傘だった。
緩いS字のような、積分記号のような。上は丸っこいけれど端がほんの少しはねている骨組みだ。
( ^ω^)「外に出て、試してみても良いでしょうか?」
(;゚∋゚)「えっ!?」
182
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:10:28 ID:GGnScXIU0
从´ヮ`从トつ「どうぞ。一緒に行きましょう。」トコトコ
店の奥から、男性と同じような年の女性が穏やかにやって来た。
僕は促されて、店の外へと出て傘をさす。
( ^ω^)つ
( ^ω^)つ「凄い…。びっくりするほど涼しいですお。」
アイボリー色の表面に対して、内側は黒っぽい色だ。
無地ながら特徴的なカーブがどことなくフェミニンで、深さがある。
そのため涼しいのだろう。
从´ヮ`从ト「しっかりしているでしょう?生地自体がUV素材なの。だから、長く使えるわ。」
从´ヮ`从ト「取引先の人が余った生地をくれたのよ。うちは鞄屋だけど、主人が色々作るのが得意でね。」
183
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:12:24 ID:GGnScXIU0
カララン
( ^ω^)「あの、こちらの品を売っては頂けないでしょうか?」
店内に戻った僕は、二人にそう申し出た。
(;゚∋゚)ヾ「えっ…?うぅーん…。」
(;゚∋゚)ヾ「銀婚式の記念のつもりだったんだけどなぁ…。」
(;゚∋゚)) チラッ
从´ヮ`从ト「良いじゃないですか。ずっと展示するつもりだったんだから、私も使えないですし。」
店頭ディスプレイはボストンバッグやトランクなど、旅行を意識したような品揃えで、日傘はそこに飾りとして加えるつもりだったのだろう。
(;−∋−)「まぁ…いいか。」
(*^ω^)「!ありがとうございますおっ!!」
184
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:13:52 ID:GGnScXIU0
_____
___
__
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、今日は…」
( ^ω^)「あ、ごめんお。今日からバイトがあるんだお。夏くらいまでスケッチには行かないんだお。」
ξ゚⊿゚)ξ、「そう…。」
僕は店に日傘を取り置きしてもらい、短期のバイトをする事にした。
この街では新店舗の内装の手伝いなどで、期間限定の求人が割と出ているのだ。
( ^ω^)(バイトは初めてだけど、頑張るお!)
( ^ω^)〜♪
185
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:14:47 ID:GGnScXIU0
_____
___
__
(ヽ‘ω`) ゲソ…
ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫…?」
(ヽ‘ω`)「だいじょぶだお…」
ξ;゚⊿゚)ξ「…。」
壁紙を貼ったり、無垢床に色付きのオイルを塗ったり。
慣れない体勢や緊張からか、労働時間の割に僕はやつれた。
186
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:15:47 ID:GGnScXIU0
____________________________
_____
___
__
( ^ω^)「津出さん。今日の授業が終わったら、庭に来てくれるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」
しばらくその場所に行っていなかった僕からの誘いに、津出さんは少し驚いていた。
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、行くわ。」
187
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:17:08 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「あれ…?今日は、スケッチブックを持っていないのね。」
( ^ω^)「今日は、スケッチをしに来たんじゃないんだお。」
( ^ω^)「津出さんにこれを渡したくて…」
そう言って僕は、細長い包みを渡した。
ξ゚⊿゚)ξ「え…?」
( ^ω^)「開けてみてお。」
ξ゚⊿゚)ξ「…?」
津出さんは、紙の包みをぺりぺりと丁寧に剥がしていく。
ξ゚⊿゚)ξ「…日傘…?」
( ^ω^)「兼用傘だお。さしてみてお。」
188
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:18:45 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξつ「…」
ξ゚⊿゚)ξつ「…これ、とても良いわ。」
ξ゚⊿゚)ξつ「持ち運びやすいからいつも折り畳みを使っていたけれど、涼しさが全然違う。」
ξ゚⊿゚)ξ「だけど…どうして…?」
( ^ω^)「えっ?」
(;^ω^)
僕はここでようやく、前回と同じ失敗をしている事に気付いた。
この日傘をさしてモッコウバラの前で笑う津出さんの姿が浮かんで、それだけで行動していたのだから。
(;^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「…私が使っちゃっても良いの?」
(;^ω^))「うん。津出さんのだお。」
ξ゚⊿゚)ξ「…ありがとう。」
189
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:20:46 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「私、重い話しちゃったから…避けられてるのかと思った。」
(;^ω^))「それはないお!」
( ^ω^)「…何も言えなくて、ごめんお。」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、…ありがとう。」
ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君って、不思議な人だよね。」
津出さんは馬鹿にする訳でもなく、本当に不思議だという表情で僕を見た。
(;^ω^)「いつもはこんな感じじゃないんだお。だけどなんとなく、僕が面白いと思ったものを津出さんなら同じように思ってくれるんじゃないかって…本当になんとなくだお。」
窓の下を眺めていたその姿を見た日から、僕は津出さんに親近感を覚えていたのだろう。
それまで一度も学生がこの庭に来た事は、なかったから。
190
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:22:23 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「僕は学校に来て花を描いて帰るだけの、ただの陰キャ学生だお。友達と出かけたりはするけど、サークルにも入ってないし…」
( ^ω^)「自分から女の子に声をかけたのだって、津出さんくらいで…」
(;*^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「…サークル?」
(;^ω^)「…お?」
ξ゚⊿゚)ξ「…そっか…!」
ξ゚⊿゚)ξ「今まで授業だけで精一杯だったけど、大学って色々な活動をしている人がいるものね。」
ξ゚ー゚)ξ「お仕事じゃなくて短時間やたまになら…私にも何か出来るかも。読み聞かせのボランティアとか…。」
(*^ω^)「おっ!それが良いお!人手が必要なら、僕も手伝うお。」
ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。」
191
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:23:25 ID:GGnScXIU0
ポツ…ポツ…
( ^ω^)「ん…?」
僕が上を見た途端、サァッと横殴りの細い雨が降ってきた。
(;^ω^)「わっ!隣の棟に行くお!」
ξ゚⊿゚)ξつ「内藤君、これに入って。」
(;^ω^)「ありがとうだお。」
192
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:25:46 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい、早速雨に濡らしてしまったわ。」
自分の傘もあったのにと、津出さんは畳まれた黒い傘を見るように俯いた。
( ^ω^)「頑丈だから、大丈夫だお。沢山使ってお。」
棟の入口には広い屋根があるので、僕達は雨が止むまでここに留まる事にした。
( ^ω^)「天気雨だから、すぐ止むお。」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。」
用事のない人は帰っている時間だし、外でサークル活動をしていた人達は他の棟に避難したようだ。
雨の音しか聴こえない。
まるで、僕達以外は世界に誰もいないみたいで、心細くなった。
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ
僕達は、どちらからともなく手を繋いだ。
.
193
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:26:21 ID:GGnScXIU0
_________________________
____________________
_______________
_________
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_____
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_________________________
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_____
194
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:27:27 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様でした。」
( ^ω^)
気付けば僕は、いつもの白いテーブルセットに座っていた。
目の前にはブルーベリーとラズベリーが乗ったクリームケーキが1ホールと、紅茶が置かれている。
(;^ω^)「凄いですお…。お昼も頂いてしまったのに、申し訳ないですお。」
ζ(^ー^*ζ「クリームには、水切りヨーグルトが少し入っているそうですよ。」
そう言いながら、デレさんがケーキを切り分けてくれた。
(;^ω^)「では、頂きますお。」
195
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:30:02 ID:GGnScXIU0
( ^ω^))「…!」モグッ
(*^ω^))「生クリームが使われているケーキなのに、後味が軽いですお。」モグモグ
水切りヨーグルトが、クリームのコクを穏やかにしているのかもしれない。
(*^ω^))「スポンジの間に挟まれているのがバナナなのも、良いですお。」
ζ(^ー^*ζ「甘さ控え目な分、バナナが際立ちますよね。」
それに加えて、ブルーベリーやラズベリーの瑞々しさ。
お店の物とはまた違う、素朴で優しい味わいのケーキだ。
ζ(゚ー゚*ζ「バナナはスーパーでショボンさんが買ってきてくれた物ですが、ベリーは朝採れたものです。」
なんでもドクオさんは、庭で手に入らない物はショボンさんに買ってきてもらうのだとか。
( ^ω^)「そうですかお。知り合いにブルーベリー農家の人がいますが、そこよりも実がなるのがだいぶ早いですお。」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですよね。プリンの時に使っていたのも今期の物ですし…。いっぱい採れるので、終わり頃には冷凍したりもしますよ。」
ζ(゚、゚*;ζ「ただ、ブルーベリーは冬の終り頃にストックがなくなってしまうので、今の時期を心待ちにして過ごします。」
(*^ω^)「とっても美味しいから、そうなってしまうのも分かりますお。」
196
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:31:59 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「本日の紅茶は、ただにしきです。国産の紅茶で、明治時代に外国から持ち帰って改良された品種なのだそうです。」
( ^ω^)「お?キラキラしてますおー。」
ζ(゚ワ゚*ζ「新芽の産毛ですね。美味しい証拠なのだとか。」
( ^ω^))「では。」コクッ
(*^ω^)「おお…。」
(*^ω^)「和紅茶は遠出の土産などでたまに買ったりもしますが、それよりも味がしっかりしているような気がしますお。」
飲み進めるとなんだか目も冴える気がしたので、カフェインも他の物より多いのかもしれない。
ζ(^ー^*ζ「そうですね。なので、ミルクも合います。」
(*^ω^))「おっ、そうなんですかおー。」コクッ
197
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:34:19 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。酸味のあるハーブティーなのですが、マロウブルーもいかがでしょうか?」
( ^ω^)「マロウブルー…、ですか?飲んだ事はないですが、頂きますお。」
ζ(゚ー゚*ζ「ウスベニアオイと言った方が分かりやすいでしょうか?喉や胃の不調にも効くそうですよ。」
( ^ω^)「ほぅ…。」
ζ(゚ー゚*ζ ))
デレさんが僕の近くまでやって来て、乾燥した青紫色の花が入ったガラスのティーポットを、テーブルの上に置いた。
そこに湯を注ぐと、たちまち青い色へと変わっていく。
それからガラスのカップにそれを注ぎ、こちらに差し出した。
(*^ω^)「綺麗ですお。ちょっと緑っぽいブルーですおー。」
ζ(゚ー゚*ζ「…良いですか?カップの中をよく見ていてくださいね。」
( ^ω^)「?はい。」
198
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:36:07 ID:GGnScXIU0
僕がそう言うと、デレさんは小さなボトルから、レモン汁を数滴垂らした。
Σ(;^ω^)「わ!ピンク色に変わりましたおっ!」
ζ(゚ワ゚*ζ「マロウブルーに含まれるアントシアニンは、アルカリ性は青、酸性になると赤になる性質があります。」
(;^ω^)「なるほど。…頂いても良いですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ!」
(;^ω^)) コクッ
(;^ω^)「ちょっと酸っぱいですお。」
ζ(^ー^*ζ「ふふっ。」
ζ(゚ー゚*ζ「…」
ζ(゚、゚*ζ「あのぅ…、面白いのでもう一度やっても良いですか?」
( ^ω^)「良いですおw」
199
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:38:21 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「マロウブルーは、草木染めにも使えるんです。重曹でアルカリ性の液にして布を染めると、ブルーグレーのような色に布が染まりますよ。」
デレさんの目は、不思議な色をしている。
まるで鏡のように、デレさんが見た色がそのまま目に映るような。
普段は庭の緑や空の青、それから花の色が混じる色だ。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ…。」
今度は、マロウブルーの入ったティーポット自体にレモン汁を入れるようだ。
ζ(^ー^*ζ「魔法使いの気分になれますよね。」
( ^ω^)「…。」
ブルーからピンクに変わるその瞳を、僕は眺めていた。
200
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:40:24 ID:GGnScXIU0
_____
___
__
( ^ω^)「あれ、これは…?」
帰る途中、車輪梅の小道を抜けた先の一人用の椅子に、リースが立て掛けられていた。
今朝は見なかった物だ。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんの奥さんが作られた物です。帰り際にショボンさんが飾っていってくれました。」
ζ(^ー^*ζ「花径が小さくて、沢山集まっていて可愛いですよね。これは…」
( ^ω^)「…知っていますお。」
ドライフラワーで作られたリースの花は、乾燥の影響か濃い黄色だ。
だけど、葉の形で僕には分かる。
( ^ω^)「モッコウバラですお。」
201
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:42:32 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「今日はありがとうございました。おかげで、良いものが出来そうですお。」
僕は庭から出ていつものように振り返り、挨拶をした。
ζ(^ー^*ζ「良かったです。よろしくお願いします。」
( ^ω^)「それでは、失礼しますお。」
((( ^ω^)
°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」
∑(;^ω^) ビクッ!!
(;^ω^)「大丈夫ですかおっ?」タタッ
ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ
(;^ω^)「いえ…。」
デレさんは、僕の帰り際によくくしゃみをする。
(;^ω^)「…あの、もしかして外の空気が合わないとか…?見送りはギリギリじゃなくて、もう少し内側でも良いですお。」
ζ(゚ー゚*;ζ「あ…違います。大丈夫です。」
( ^ω^)、「でも…」
202
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:44:47 ID:GGnScXIU0
ζ(゚、゚*ζ「…あの。次はいつ、いらっしゃいますか?」
( ^ω^)「次ですかお?納品の日になりますお。」
ζ(゚、゚*ζ「そうですか…。」
ζ(゚、゚*ζ「…ショボンさんが、今日はクレマチス・テッセンを植えてくれたんです。とても綺麗に咲くと思うので、またスケッチに来ませんか…?」
(;^ω^)「え…?あの…?」
『製作に入るので』と返そうと思ったけれど、なんだか悲しそうな顔のデレさんを見ると、そうは返せなかった。
デレさんの奥で、ニコチアナが手招きをするように揺れている。
(;^ω^)「…分かりましたお。お邪魔しますお。」
((ζ(゚ー゚*ζ パッ
ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。お待ちしております。」
203
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:47:11 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「…」テクテク
デレさんは、別れ際はいつもあんな感じだ。
だから僕は、後ろ髪を引かれるような気分で家に帰らなくてはいけない。
以前言っていたように、外に出て街を見てみたいのだろうか?
あんな悲しそうな表情を見せられるくらいなら、本当に僕が街を案内してあげたい。
デレさんは、どんな場所へ連れて行ったら喜ぶだろうか?
ドクオさんの庭とは違う種類の花が沢山咲いている、図書館?
それともお菓子が好きだから、ケーキ屋はどうだろう。
僕が担当した店のカーテンを見せたら、笑ってくれるだろうか?
けれど、
僕が手を引いて連れ出した妻は、幸せだったのだろうか。
.
204
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:47:45 ID:GGnScXIU0
【 第四話 モッコウバラの祝福 】
終わり
205
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:48:34 ID:GGnScXIU0
【登場人物】
(´・ω・`)
植苗勝盆(うえなえしょうはち)
3児の父
造園業
マッチョ
ξ゚⊿゚)ξ
津出つかさ
大学2年生
内藤より小さい
206
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:50:27 ID:GGnScXIU0
【ヨーグルトクリームケーキの作り方】
・スポンジケーキ(市販可)
◯生クリーム35% 200ml
◯ホイップクリーム用の砂糖 20gくらい
◯水切りプレーンヨーグルト 大さじ1〜2
【飾り付け】
☆バナナ
☆ミックス冷凍ベリー(解凍して水分を切っておく)
[作り方]
①生クリームに砂糖を少しずつ入れ、ホイップする。
②クリームにプレーンヨーグルトを入れて混ぜる。
③スポンジにクリーム、バナナ、クリーム、スポンジの順で重ねる。
④外側をクリームで白く整え、ミックスベリーを中央にスプーンでラフに乗せる。
⑤絞り袋で上部外側、ミックスベリーを囲うような飾りホイップを施す。
207
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 00:53:41 ID:GGnScXIU0
ドリスリッカーではないのですが、これも多分ポリアンサローズっぽい品種です。
激マブじゃないですか??
https://imgur.com/a/zYnYEdI
208
:
名無しさん
:2024/08/21(水) 00:06:48 ID:SrcWG/F20
余談ですがドクオの収入は、そこそこいい立地の中〜大型店舗に駐車場を貸してる相当の金額です。
リアルで畑として貸してたら到底そんな額にはならないはずですが、避難所として指定されてるとか金持ちに囲われてる的ななんか区分とか控除がチート状態です。
固定資産税やらも用事のない人に見える土地の分しか取られません。
209
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:04:53 ID:7NHBmZaI0
乙!バラから食べ物を彷彿とするセンス、可愛いし独特だし分かるしでめちゃ好きだ〜!!
大型店舗の駐車場経営くらい設けてるってことは、立地にもよるだろうけど大体月に500万くらい…?しかも税金はチートで控除受けまくり!?ズルだ…!!
210
:
名無しさん
:2024/08/24(土) 07:52:25 ID:ffdEZsjQ0
ありがとうございます!オースチンのゆで卵感はガチです。
詳しい人だ…。すみません、モデルケースがもっと田舎な上に土地の一部でしか計算してなかったという鈍ミスを犯してたので、実際はそれよりもっと少ないです。
家庭も持てるレベルではあるけど、入場料を取らない文化財(屋敷と庭)の修繕費込みとして考えると、丁寧な暮らし以上の贅沢は厳しい感じです。
ローズウッドとか育てまくって成金になっちゃえよと悪魔の案が浮かびますね。
211
:
名無しさん
:2024/08/24(土) 07:55:23 ID:ffdEZsjQ0
すみません。
>>210
は
>>209
への返信です。
212
:
名無しさん
:2024/10/30(水) 19:01:48 ID:uL3HVFXw0
クイズ中だというのに、中々投下が進まずごめんなさい。夏の暑さと秋の行事の多さを侮っていました。
11月中に更新予定です…
213
:
名無しさん
:2025/02/02(日) 17:40:26 ID:CvaJxDUc0
【こぼれ種1】
Σ(;^ω^)「おっ…!?タコさんウインナーが宙に浮いてますお!??」
ζ(^ー^*ζ「クレマチスですね。ヴィオルナ系、テキセンシス系、インテグフォリア系の咲き始めは、よくタコさんウインナーのようだと表されます。」
(;^ω^)σ「色によって、見え方の差が激し過ぎますお。ヴィオルナ系のティンクルピンクは空想の植物のようにファンシーだし、インテグフォリア系のロウグチは妖艶なドレスのように美しいですお…。」
ζ(^ー^*ζ「見かけるとびっくりする花なのは変わりませんね!」
ζ(゚ワ゚*ζ「花がタコさんウインナーにそっくりなのは、クレマチスだけではありませんよ。ザクロの花や、ペンデンス、オヒルギなどもそっくりです。」
(;^ω^)σ∏「本当だ!オヒルギはオクラみたいなのまでくっついてますお!」
214
:
名無しさん
:2025/02/15(土) 19:07:55 ID:XtawK0JU0
【こぼれ種2】
ζ(^ー^*ζ「白玉星草という、白玉のように丸くて可愛らしい花があるんです。」
( ^ω^)「針金みたいに、ピーンとした茎径ですお。」
ζ(゚ワ゚*ζ「これが沢山集まると…」
(*^ω^)「茹で上がりゆく大量の白玉…。幻想的だお…。」
215
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:52:07 ID:eoQ6IK9s0
乙!こぼれ話全然気づかなかった。
タコさんウインナーに例えるセンスめちゃ好き、もうそうにしか見えない。白玉星草も調べたら超可愛かった……!
続きずっと楽しみにしてる!
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