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( ^ω^)Secret Gardenのようです

1名無しさん:2024/06/19(水) 22:31:20 ID:15xn.t.w0
7:40

(;^ω^)「ハァッ…ハァッ!」

僕は、珍しく寝坊をした。
いつもならば大通りで朝食をとり終えて、会社に着いている頃だ。

(;^ω^)(…仕方ない。近道するお。)

流れる汗を袖で拭い、足の向きを左斜めにクルッと変えて、また走る。
この道は小学校の通学路でもあるため、速度を緩めて小走りだ。

(;^ω^)(あれ…。あんなの、あったかおっ?) ハァッハァッ

小学校の左斜め向かいに、洋風の生垣が続いている。

2名無しさん:2024/06/19(水) 22:32:23 ID:15xn.t.w0
(;^ω^)(もう随分とこの道を通っていないけれど…。ここには平屋と、あまり大きくない畑なんかがあったはずだお。そこから、奥の住宅街が見えるような…。)

(;^ω^)(レストラン…?いや、こんなに立派な生垣だから、ホテルかお?でも駅からは離れているし…。)

そんな事を考えていたら、煉瓦と黒のアイアン造りの門が見えてきた。

( ^ω^)(…ちょっとだけ…。)

答え合わせがしたくて、目線はそのままにした。

( ^ω^)(門の中も、これまた緑…だけど…)


ζ(゚ー゚*ζ


中にいた女性と、目が合ってしまった。


(;^ω^)「あっ…。すみませっ…!」

3名無しさん:2024/06/19(水) 22:33:13 ID:15xn.t.w0



その女性は、こう言った。








ζ(^ー^*ζ「夕方、お会いしましょう。」






.

4名無しさん:2024/06/19(水) 22:33:56 ID:15xn.t.w0






https://imgur.com/a/DWbCEoc








( ^ω^)Secret Gardenのようです








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5名無しさん:2024/06/19(水) 22:35:08 ID:15xn.t.w0
( ´∀`)「今日は随分とお寝坊さんだモナ。」

(;^ω^)「おはようございますお。」

なんとか遅刻せずに済んだ僕は、ロッカーに置いていた替えのシャツに着替えて、急いでタイムカードを押した。
からかう上司に挨拶をして、朝礼が終わってから外回りの準備をする。
今日は一ヶ月点検が一件と、納品が二件だ。

( ^ω^)「行ってきますお。」

行ってらっしゃい、と事務所に残る人達から返事をもらった。

6名無しさん:2024/06/19(水) 22:35:34 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)ガラガラ

(;^ω^)つ□「よいしょっと!」

一時保管室から品物を探し出しては台車で運び、社用車に乗せる。
台車を戻して車に乗り込みエンジンをかけると、聴き覚えのある軽快なイントロがラジオから流れ出した。


( ^ω^)「随分と懐かしい曲だお。」

7名無しさん:2024/06/19(水) 22:38:07 ID:15xn.t.w0
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从*゚∀从「いやー、内藤さんに頼んで良かったよ!」

( ^ω^)「ありがとうございますお。空調との相性は、いかがですかお?」

从 ゚∀从b「そっちもバッチリ!」

( ^ω^)「それは良かったですお。ではこれから、点検に入らせて頂きますお。」

从 ゚∀从「ああ、よろしく頼むよ。」


『onnellisuus』は、美容師のハインさんとヘアケア品を取り扱うフォックスさん夫妻が経営する美容室だ。

色とりどりの商品がずらりと並ぶ受付の奥には、木枠で仕切られた半個室が3つある。
それぞれの入口の天井には半円状の枠が取り付けられていて、そこからオーガンジー素材のカーテンを垂らす事で、カット台の鏡から見るとまるで鳥かごの中にいるように見えるのだ。

ハインさんが子どもの頃に描いた夢を叶えるため、オーダーカーテンを取り扱う我が社に依頼を出したのは、1年近く前の事だ。
「今の私の雰囲気とは違うから」と悩んでいたハインさんのために、内装業者と案を出し合いながら調和を図った。

二重で袋状のカーテンの中には花火や鱗、薔薇の立体素材を縫い付けており、それぞれの部屋で違う様相が楽しめる。


( ^ω^)「異常無しでしたお。数値としては閉めていても問題なかったのですが、ヘアカラーやパーマの時はカーテンを片方にまとめておいた方が安心ですお。」

从 ゚∀从「ああ、そうするよ。」

从 ^∀从「内藤さんも、良かったら切りに来てくれよ。
旦那のヘアセットレクチャー付きだぜ。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。掛け持ちで通わせてもらいますおw」

从 ^∀从「ああ。よろしく!」

( ^ω^)「それでは失礼しますおー。」

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8名無しさん:2024/06/19(水) 22:39:44 ID:15xn.t.w0
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( ^ω^))(うーん…。)モグモグ

一件の納品を残して、かなり早めの昼食をとる。
空腹のまま取り付け作業をしたので食事に集中したいところだけど、考えるのは今朝の事ばかりだ。

( ^ω^)?(あの人は、誰だったんだお…?知り合いや、お客様ではないお…。)

この仕事に就いてからおよそ25年の記憶を掘り起こしても、思い当たる人はいなかった。

( ^ω^))(もしかして、お客様のお子さんやお孫さん…?うーん…違う気がするお。)モグモグ

(;^ω^)(二十代半ば…いや、後半くらいの女性。しかも、ドレスを着ていたお。…もしかしてあの場所は結婚式場か何かで、PRイベントでもしていたのかお?)

(;^ω^)(…あんな朝早くに…?しかも呼び込むのが、アラフィフの僕かお…?)

もしかして、仕事関係で呼ばれていたけれど僕が忘れていただけなのだろうか。
さわらの塩焼きをほぐしながら考えても、何も思い出せなかった。

( ^ω^))(…とにかく、行ってみれば分かるお。もしも後ろの人に声をかけていたとか、そんな人違いだったのであれば謝れば良いだけだお。)モグモグ

( ^ω^)ゴクン

( ^ω^)「さて、午後の仕事だお。」


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9名無しさん:2024/06/19(水) 22:41:24 ID:15xn.t.w0
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残り一件の納品を済ませ、会社に戻り後処理を終えた僕は、パソコンで専用のソフトを立ち上げた。

( ^ω^)(今日の報告と次回の打ち合わせがしたいし、今週中に工場の方に顔を出すお。手土産のお菓子、何が良いかおー。)

僕が主に担当している個人店向けのデザインカーテンは、雰囲気や技法がその都度変わる。それを毎度形にしてもらっているので、工場の方々には頭が上がらないのだ。

(;^ω^)(その後に来てる依頼は、若い女性向けのポップな雑貨屋さんかお。僕に務まるのかお…?)

(;^ω^)) チラッ

後輩の芹沢さんが代わってくれないかと、机を見る。

ミセ;゚Д゚)リ 「うぉりゃぁぁ!!」カチカチカチ

(;^ω^)(修羅場中っぽいから話しかけられる雰囲気じゃないお…。)

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10名無しさん:2024/06/19(水) 22:42:54 ID:15xn.t.w0
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16:20

ほぼ定時に仕事を終えた僕は、寄り道せずに今朝の通りまでやって来た。

( ^ω^)「…。」テクテク

小学校から出てきた高学年の子供達が、ワイワイと下校している。
誰もこの立派な生垣には、興味がないようだ。

( ^ω^)(ここを見て物珍しく思うのは、僕だけなのかもしれないお。)

( ^ω^)(…もう着くお。)テクテク

11名無しさん:2024/06/19(水) 22:43:52 ID:15xn.t.w0
門まで来ると、花かごを持った今朝の女性がこちらに気付いて駆け寄ってきた。

ζ(゚ー゚*ζ「お待ちしておりました。」

(;^ω^)「…こんにちは。」

ζ(^ー^*ζ「こんにちは。どうぞお入りください。」

そう言われても、足を動かすわけにはいかない。

(;^ω^)「えっと…」

(;^ω^)「あの…。僕はあなたの事を知りませんお。人違いではありませんかお…?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、間違いありません。」

ζ(゚ー゚*ζ「ここにいらっしゃる方は、ドクオさんに用がある方か、ドクオさんが用がある方ですから。」

( ^ω^)「ドクオさん…?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。屋敷に案内しますので、ついてきてください。」

(;^ω^)「はぁ…。」

12名無しさん:2024/06/19(水) 22:44:52 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ  (^ω^;)) テクテク

僕は、女性の後ろを歩いた。

彼女は背が高い。
しかし生成りがかったドレスの丈はそれよりも長く、彼女が石畳の道を歩く度に、ドレスの裾がするすると滑っている。

( ^ω^)(…60、70年代風のアンティークドレス…。やっぱり、ここは式場か何かなのかお?)

ジロジロと見たつもりはなかったが、職業柄少しは知識があるのだ。


( ^ω^)(…!)

13名無しさん:2024/06/19(水) 22:47:08 ID:15xn.t.w0
進んだ先で、溢れんばかりのネモフィラが僕を囲んだ。
そこには少しスノーポールが混じり、奥には数色のチューリップがランダムに咲いている。

(*^ω^)(綺麗だおー…)

視線を前に戻すと、道の先にはボーダーガーデンが延々と広がっている。

(*^ω^)(こっちは、すずらんにクリスマスローズとオダマキに…ネメシアかお。)

( ^ω^)(奥の木は…クラブアップルかお?桃色の花が咲いているお。)

(*^ω^)(こんな場所があったなんて…知らなかったお。)


僕の住む街は、近年花の名所として紹介されるようになった。
ちょっとした公園や図書館などの公共施設が、ガイドブックに載るほどだ。

それでも、これほどまでに豊かな場所は今まで一度も見たことがなかった。


(*^ω^)(…って…)


∑(;゜ω゜)「えぇっ!??」

ζ(゚、゚*ζ「…?どうしましたか?」


女性が、石造りの装飾鉢に植えられたイベリスの前で立ち止まった。

14名無しさん:2024/06/19(水) 22:49:03 ID:15xn.t.w0
(;^ω^)「あの…僕が知っている以前のこの土地は、すぐ隣に住宅街があって…こんなに広いはずは…ないんですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんですか?」

ゆっくりとはいえ、もう2分近く歩いている。
それなのに、まだ目的地には着かない。

もしかして、住宅街ごと買い取られてここが出来たのだろうか?
だけどこの場所が何らかの施設だとすると、公共か商業かを問わずとも、もっと人がいても良いはずだ。

それに壁や所々に置かれた庭椅子も、なんだか昔からあったように、年季が入っているように見える。


(;゜ω゜)


不思議な事は、他にもある。

庭を飛ぶ蜂や蝶。
よく目を凝らして見ると、それらが金属で出来ているように見えるのだ。


(;^ω^)(僕は、夢でも見ているのかお…?)

15名無しさん:2024/06/19(水) 22:51:14 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)(あ…。)

更に少し進んだところで、やっと二階建ての屋敷が見えてきた。
茶鼠色で、石造りの屋敷だ。

そのアプローチには、一人で立ち止まっている老人が見えた。


ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。修理は無事に終わりましたか?」

女性が歩み寄り、そう聞いた。

( ´W`)「ああ。よぅーく、見てもらったよ。」

( ´W`)「悪いけれど、少し庭を歩いても良いだろうか?ここに来た時の楽しみでね。」

そう言いながら老人は、曲げた指を見せた。
翅がほんのりと青い蜻蛉がとまっている。
それは、どこか眼鏡を思わせるようなべっ甲と硝子の蜻蛉で、老人の指先に留まっては飛びを繰り返している。

ζ(゚ー゚*ζ「それでは私が、ご案内いたします。」

僕達が歩いてきたのは、所々でカーブのあるメインらしき通り道だったが、その間には横に逸れる道がいくつもあった。
少し隙間のある石畳もあり、足の動きにもたつきのあるその人を一人で散策させるのは心配なのだろう。

だけど彼女の案内がなくなったら、僕はどうすれば良いのだろうか。

(;^ω^)「あの…」

ζ(゚、゚*ζ「申し訳ありませんが、ここからはお一人で。ドクオさんは人が多いのが苦手ですし、丁度良いです。」

ζ(゚ー゚*ζ「玄関からホールに入り、正面から右に2つ目の部屋です。大きな扉なのですぐ分かりますよ。」

(;^ω^)「はぁ…。」

16名無しさん:2024/06/19(水) 22:52:37 ID:15xn.t.w0
二人の後ろ姿を見送った僕は、玄関扉の前に数段ある石段を登った。

(;^ω^))(インターホンが見当たらないお…。)キョロキョロ

(;^ω^)「……失礼しますおー…。」


(;^ω^)つ| カチャ…

硝子が嵌め込まれたアーチ型の木製扉をゆっくりと開けると、下駄箱とスリッパが置かれた玄関がある。
僕は靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。

17名無しさん:2024/06/19(水) 22:54:21 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)つ|「…。」

先程と似たような扉を開ければ、ここが玄関ホールか。
床一面には煉瓦色の絨毯が敷かれており、白塗りの壁に焦茶の柱、美しい木製階段。
それらが、木が豊かであった時代に造られた建物である事を示している。

( ^ω^))「…。」

見回しただけでも、8つは部屋があるようだ。

(;^ω^)(2階もあるんだおね…。もしかして、街一番の豪邸じゃないかお…?)

(;^ω^)σ(えぇっと…右に2つ目は…。あそこだお。)

他の部屋よりも大きい両開きの木製扉には、薔薇の花や蔦が彫られている。

( ^ω^)(見事だお…。)

( ^ω^)q コンコン

シーン

(;^ω^)

何度か扉をノックしたが、返事はない。

( ^ω^)(…扉が厚いから、聞こえないのかもしれないお。)

( ^ω^)つ| カチャ…

( ^ω^)「あの…失礼しますお…。」

18名無しさん:2024/06/19(水) 22:56:03 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「…」


20帖ほどの、広い部屋だ。


( ^ω^)(……?)

( ^ω^)(…何だろう…この音…?)


どこか遠くで、クリスタルボウルやガムランがゆっくりと鳴っているような…不思議な音がする。


( ^ω^)(それに…この壁と床は、一体どんな素材で出来ているんだお…?)


壁と床には金や銀、銅色の柄が広がっている。

その中央に、胡座で座り込む男性の後ろ姿があった。

19名無しさん:2024/06/19(水) 22:57:32 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「あの…。」


そう声をかけても聞こえないのか、男性はぴくりともしない。

男性が何か工具を持って手を動かし始めた、その時。


∑(;゜ω゜)「わっ…!!」ヨタタ…


アラベスクか何かだと思っていた壁や床の柄が歯車のように回りだし、僕はよろけた。

目がぐるぐると回り、乗り物酔いのような感覚になったため、僕はたまらず大声を出した。


(;^ω^)「あのっ!!すみませんおっ!!!」

20名無しさん:2024/06/19(水) 22:58:18 ID:15xn.t.w0
男性の動きと、部屋の歯車が止まる。

僕がホッとして瞬きをした瞬間。


(;^ω^)「……えっ?」


部屋の内装が、深紅の壁に純白の天井、木製の床へと様変わりしていた。

('A`)「…」

気付けば男性が手をつき身体をひねって、こちらを見ている。

21名無しさん:2024/06/19(水) 22:59:26 ID:15xn.t.w0
(;^ω^)「あの…お庭にいる方に案内されて、ここまで来たんですお。」

そう言い切ったと同時に、男性が早足に近付いてきた。

('A`) サッサッ

(;^ω^)「…?」

男性は僕の横を通り過ぎ、どこかへ行ってしまった。
すると三十秒もしないうちに何かを持って戻ってきて、部屋の奥の硝子のキャビネットを開き、小瓶を取り出した。

('A`) コポコポ

( ^ω^)(水の入ったコップに何かを入れているお…。常備薬か何かかお…?)

それをグイッと飲み、袖で口を拭うと、男性はまたこちらにゆっくりと近付いてきた。

22名無しさん:2024/06/19(水) 23:00:32 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「…」

年齢は、先程の女性と同じくらいだろうか。
女性以上に背が高く、僕を見下ろしている。
縁が金色の華奢な丸メガネをかけていて、年季の入っていそうな柔らかいシャツとウールのズボンを身に着けている。
ズボンはサスペンダーで吊るしており、今時というよりはセピアの写真から出てきたような出で立ちだ。

黒髪で目が隠れ、表情は分からない。


( ^ω^)(え…この匂い…)

(;^ω^)(酒…!?)

一瞬、甘いリキュールのような匂いがした。

23名無しさん:2024/06/19(水) 23:01:46 ID:15xn.t.w0
('A`)「…」

(;^ω^)「…。」

男性は、何も喋らない。

(;^ω^)「…貴方がドクオさん…ですおね?」

(;^ω^)「お庭にいた方が、言っていたんですお。ここに来る人は、ドクオさんに用があるか、ドクオさんが用があると…。」

( ^ω^)「僕は貴方とは初対面ですお。僕からの用事はないので、もしかしたら僕の仕事と関係があるのかもしれませんお。」

( ^ω^)「僕はカーテンを作る会社に勤めているんですお。今、名刺を…」


('A`)「ああ」


男性は、思い出したように言った。




('A`)「図書室のカーテンを作ってくれ。内藤さん。」

24名無しさん:2024/06/19(水) 23:03:11 ID:15xn.t.w0
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__

ζ(゚ー゚*ζ「いかがでしたか?」

玄関を出ると、女性が僕を待っていた。

( ^ω^)「仕事のご依頼でしたお。図書室にカーテンを作ってほしいとのことですお。」

( ^ω^)「明日またプラン決めと、計測に伺いますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでしたか。では、入口までご案内いたします。」

( ^ω^)「よろしくお願いしますお。」


来た時と同じく、僕は女性の後ろを歩く。

途中、すずらんの葉にとまる銅色の天道虫を見かけた。
やはりこの場所は変だ。

けれど、不思議と嫌な感じはしない。

家で勉強をしていただけなのに、窓から吹く風が心地良くて不思議と心が躍った学生時代の春休みのような。
そんな感覚に似ている。

それはきっとこの庭から、春の匂いがするからだろう。

25名無しさん:2024/06/19(水) 23:04:22 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「…」

( ^ω^)「あの…その裾…、傷んでしまいませんかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

( ^ω^)「ドレスですお。土で汚れたり、石畳で擦れたり…」

ドレスの裾は、既にほつれや擦れが所々に見られる。

ζ(^ー^*ζ「お気遣いありがとうございます。ですが、そうなった事はありませんので、大丈夫です。」

( ^ω^)「え…?」

26名無しさん:2024/06/19(水) 23:06:00 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「私は先程の蜻蛉や、庭の蜂や蝶と同じようなものです。この庭と屋敷の中では、生き物の形をしているのです。」

ζ(゚ー゚*ζ「元は別のかたちをしていて、この姿は比喩のようなものです。ですから、大丈夫なんです。」

(;^ω^)「はぁ…。」

話からすれば、『この女性も人ではない』という事になる。
にわかには信じがたいが、僕の心配については問題がないそうなので、ひとまず安心だ。


(;^ω^)「あの…ここは一体どんな場所なんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ここは、ドクオさんのお家。小さめな金属製品の修理屋さんです。」

ζ(゚ー゚*ζ「庭をお花屋さんに貸していて、そちらの方が主な収入源なので、地主さんと言った方が正しいかもしれませんが…。」

(;^ω^)「そうなのですかお…。」

27名無しさん:2024/06/19(水) 23:06:55 ID:15xn.t.w0
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ζ(゚ー゚*ζ「それではまた明日、お待ちしております。」

( ^ω^)「はい。本日は案内して頂きありがとうございましたお。それでは失礼しますお。」

ζ(^ー^*ζ「さようなら。」

( ^ω^)「さようならですお。」


門から一歩外に出ると、外はもう真っ暗だった。


( ^ω^)(四月といえど、まだまだ日は短いおねー…)

( ^ω^)(あれ…?でもたった今までいた庭は明るかったはず…)




(;^ω^)??

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28名無しさん:2024/06/19(水) 23:08:44 ID:15xn.t.w0
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翌日も僕は、仕事帰りに屋敷へ寄った。

ドクオさんと一緒に図書室まで行って、今使っているカーテンを見せてもらうと、経年の傷みがだいぶ見られた。
( ^ω^)(確かに…そろそろ取り替えた方が良さそうだお。)

計測も済ませ、僕はドクオさんにどのプランにするかを聞くことにした。

('A`)「丈夫な物の中から、なるべく早いプランで。」

( ^ω^)「では、こちらのベーシックベルベットと、レースカーテンはいかがでしょう。今の雰囲気に近いと思いますお。」

('A`)「…」

('A`)「…これは?」

ドクオさんが、右下のプランを指差した。

( ^ω^)「あ、そちらはカーテンのオーダーですお。僕が個別でデザインをするので、お渡し予定日は先程の提案よりもふた月近く先になりますが…。」

('A`)「…じゃあこれで。」

( ^ω^)「よろしいのですかお?」

( ^ω^)「…。あの、それではレースカーテンのみオーダーされるのはいかがでしょうか?」

( ^ω^)「『なるべく早く』とのご希望は、今お使いのカーテンの傷みが気になるからですおね?」

( ^ω^)「遮光用のカーテンは在庫の有る物なら明日明後日にはご用意できますので、先にそちらだけ設置する事も出来ますお。」

('A`)「それで構わない。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

29名無しさん:2024/06/19(水) 23:09:50 ID:15xn.t.w0
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ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様でした。」

玄関から出ると、女性に声をかけられた。
今日も屋敷まで案内してくれたのだ。

( ^ω^)「ありがとうございますお。すぐ決めて頂けたので、とっても助かりましたお。」

( ^ω^)「デザインカーテンをオーダー頂きましたお。」

ζ(^ー^*ζ「そうでしたか。よろしくお願いします。」

ζ(゚ー゚*ζ「よろしければ、少し休んでいかれませんか?ドクオさんがお茶の用意をしておりますので。」

( ^ω^)「では…。せっかくなので、ありがたく頂きますお。」

ζ(^ー^*ζつ「こちらを進むとテーブルがあるので、座ってお待ちください。」

女性が、横の小道へと目を向けるよう促した。

( ^ω^)「わかりましたお。」

30名無しさん:2024/06/19(水) 23:10:52 ID:15xn.t.w0
言われたままに、道を歩く。

( ^ω^)(この道は、ハーブがメインのようだお。使い切れないくらい取れそうだおー。)テクテク

( ^ω^)「…」テクテク



( ^ω^)「…!」


円状に開けた場所だ。
中央には2人用の、真っ白なテーブルセットが置かれている。
白いクロスがかけられた円卓と、背もたれが装飾されている椅子。
ネモフィラにウィンターコスモス、ウィンティーや色とりどりのデルフィニウムが、それらを囲むように咲いている。

(*^ω^)「…」

僕は見惚れながら、椅子を引いて腰掛けた。

31名無しさん:2024/06/19(水) 23:12:03 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせいたしました。」

少しして、女性がティーセットをトレーに乗せて戻ってきた。

( ^ω^)「ありがとうございますお。えっと…なんとお呼びすれば…」

ζ(^ー^*ζ「デレです。」

デレさんはそう言いながら、僕のティーカップにお茶を注いでくれた。

( ^ω^)「デレさん。ありがとうございますお。」

ζ(^ー^*ζ「いえいえ。」

そう言いながらデレさんは、向かいの椅子に腰掛けた。

( ^ω^)「あの…ドクオさんは?」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんは来ません。どうぞ、お召し上がりください。」

(;^ω^)「そうなんですか…。頂きますお。」

もしかしてドクオさんは忙しい中お茶の用意をしてくれたのではないかと、申し訳ない気持ちになった。

32名無しさん:2024/06/19(水) 23:12:44 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ。ディンブラです。」

( ^ω^)「ありがとうございます。頂きますお。」

( ^ω^)) コク

(*^ω^)「美味しいですお。」

ζ(^ー^*ζ「ディンブラは、渋みや甘み、香りなどのバランスが良い茶葉だと言われています。」

(*^ω^)「確かに紅茶と言われて想像する味はこんな感じですお。」

33名無しさん:2024/06/19(水) 23:13:36 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「こちらのカップケーキは、とても可愛らしいですお。」

お茶請けに、小さめなカップケーキが2つ。
ケーキに乗ったクリームの上には、ケーキと同じ生地で作られたリボンのような飾りが乗せられている。

ζ(゚ー゚*ζ「バタフライカップケーキです。こちらもドクオさんが作りました。」

( ^ω^)「それはそれは…。次に伺った時に、お礼を言いますお。」

ζ(^ー^*ζ「きっと喜ぶと思います。」


https://imgur.com/a/iHO6lwD

34名無しさん:2024/06/19(水) 23:14:31 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)(…そうか、これは蝶を模した飾りだったのかお。)

僕はカップケーキの紙を少し広げて、一口食べた。

( ^ω^)) モグ…

(*^ω^))「これは、とてもクリーミーですお。クリームもなのですが、生地自体も。」

市販のカップケーキよりも、やや重めで素朴な味だ。
ほんのりとバニラの香りもする。

ζ(゚、゚*ζ「きっとスキムミルクですね。ドクオさん、何にでも入れるんですよ。もう充分大きいのに。」

( ^ω^)「ふふ。今から伸びるならどんどん入れてほしいですお。」

35名無しさん:2024/06/19(水) 23:15:29 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「あの…。失礼ですが、デレさんは食べ物を食べても大丈夫なのでしょうか?」

頬に手をあて、うっとりしながらカップケーキを食べるデレさんに聞く。

ζ(゚ー゚*ζ「私が、人ではないからでしょうか?」

(;^ω^)「昨日、そう聞いていましたから…。」

ζ(゚ー゚*ζ「意外と平気なんですよ。なんならこのケーキも、10個はいけそうです。」

(;^ω^)「凄いですお…。」

ζ(゚、゚*ζ「だけどドクオさん、あまり数は作ってくれないんですよね…。」

(;^ω^)「きっと修理屋さんとケーキ屋さんは、兼業不可なんですお。」

36名無しさん:2024/06/19(水) 23:17:01 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、お茶のおかわりはいかがでしょうか?」

( ^ω^)「お願いしますお。」

ζ(^ー^*ζ「では、少々お待ちください。」

(;^ω^)つ「あ…」

てっきりティーポットの中にお茶が残っているのかと思ったが、新たに用意をしてくれるようでデレさんは屋敷に戻っていってしまった。

(;^ω^)、(悪いことをしてしまったお…。)


また少しするとデレさんが戻ってきて、先程とは色が違うお茶を注いでくれた。
ティーポットは陶器製から、丸く透明な物へと変わっている。

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「ペパーミントティーです。苦手ではありませんか?」

( ^ω^))「いいえ。ミントティーはたまに飲みますお。」ゴク

(*^ω^)「爽やかですおー。」

ζ(^ー^*ζ「良かったです。」

37名無しさん:2024/06/19(水) 23:18:25 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「ミントティーには抗炎症作用や、胃の不調を助ける効果があるのだそうです。」

( ^ω^)「そうなのですかお。ガッツリ食べ過ぎた時なんかに、意識して飲みたいですお。」

ζ(゚、゚*ζ「ガッツリした物、よく召し上がるのですか?」

( ^ω^)「ああ、繁忙期などは気が抜けて、割とそうかもしれませ」

°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」

∑(;^ω^) ビクッ!!

(;^ω^)「大丈夫ですかお…?」

ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ

(;^ω^)「いえ…。」


(;^ω^)(びっくりしたお…。)

__物も、風邪や花粉症になるのだろうか?

38名無しさん:2024/06/19(水) 23:19:31 ID:15xn.t.w0
ミントティーに明るい庭。
あまりにも爽やかで、僕は思わず時計を確認した。

( ^ω^)(もう、17時半近いお…。)

( ^ω^)「デレさん。このお庭は、ずっと昼間のままなのでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。庭に誰も居なくなれば、季節の日没通りに暗くなりますよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「私がお客様を見送り終えて、屋敷の扉を閉める時。扉の向こうがだんだんと暗くなっていくのが見えます。」

( ^ω^)「そうでしたかお。花にも夜は必要ですし、あまり長居してはいけませんね。」


( ^ω^)「…」

ミントティーで頭がすっきりしたからか、僕はドクオさんのオーダーカーテンの案を思い付き、カップを置いた。

39名無しさん:2024/06/19(水) 23:20:42 ID:15xn.t.w0
( ^ω^)「ご馳走様でしたお。一度戻ってドクオさんにお願いしたい事が出来たので、今日はこの辺で…」

ζ(゚ー゚*ζ「よろしければお伝えしますよ。」

( ^ω^)「えっと、ドクオさんからのご注文のカーテンは、この庭をイメージしたものにしようと思うんですお。」

( ^ω^)「それで一度、この庭をスケッチする機会を頂けたらなと…」

ζ(゚ー゚*ζ「それならきっと、許可を取らなくても大丈夫ですよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんから内藤さんに伝言があるんです。『いつでも来てください』と。」

(;^ω^)「…。それは、社交辞令では…?」

ζ(゚、゚*ζ「いいえ。『何なら毎日でも』と言っていましたし…。」

∑(;^ω^)「毎日、ですかおっ!?」

ドクオさんの雰囲気からは想像も出来ないような、フレンドリーな言葉だ。

ζ(^ー^*ζ「はい。」

(;^ω^)「…ではお言葉に甘えて、しばらく週に一度ほどお邪魔しますお。」

ζ(^ー^*ζ「分かりました。伝えておきます。」

40名無しさん:2024/06/19(水) 23:21:25 ID:15xn.t.w0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、よろしかったらこれを。」

門の手前で、デレさんに呼び止められた。

( ^ω^)「…?何でしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「栞です。今年のネモフィラで作りました。」

(*^ω^)「…とても綺麗ですお。ありがとうございますお。」

花だけではなく、かへいや葉も含まれるその栞は、植物標本のようで美しかった。


ζ(゚ー゚*ζ「さようなら。またお待ちしております。」

( ^ω^)「さようなら。」

41名無しさん:2024/06/19(水) 23:23:53 ID:15xn.t.w0
17:50

暗くなった道を歩きながら、僕は考える。

( ^ω^)(図書室のカーテンはかなり傷んでいたから、早く新しいものにしてあげたいお。)

( ^ω^)(レースカーテンの方は、スケッチをしたら、家のパソコンでパーツを作っておくお。作り終えたら会社でまとめて発注するお。)

会社でもう長くベテランの枠に入っている僕が、このように仕事を家で進め過ぎるのはあまり良くない事だ。
仕事量に差が出て、新人や家庭を持つ社員へのプレッシャーになる。

けれど家に帰っても、家事以外他にする事がないのだ。
平日の食事は外でとるか、街の飲食店の弁当を取り扱う無人コンビニで済ませているし、洗濯は休日にまとめて出来るように替えの服には余裕がある。
家の床がバリアフリー仕様のため、ロボット掃除機もほぼ全ての部屋を走る。
特別大変な事は、秋に庭に落ちる葉の掃除くらいだろうか。

何より花のスケッチは、僕の学生の頃からの唯一の趣味だ。
だからあの庭を見たら、何かに留めておきたい。そう思うのは当然だ。

( ^ω^)(家で作業した分は、会社でマニュアル作りの時間にでも充てれば良いお。)

( ^ω^)(……。)


不思議な庭と屋敷に、不思議な人達。


( ^ω^)(…いや、デレさんは人じゃないそうだけれど…。)


僕は、その人達が喜ぶようなカーテンを作れるのだろうか?





【 第一話 ネモフィラの咲く庭 】

終わり

42名無しさん:2024/06/19(水) 23:24:56 ID:15xn.t.w0
【登場人物】

( ^ω^)
内藤文高
カーテンメーカーの営業兼デザイナー
アラフィフ
平均よりも背が低い

ζ(゚ー゚*ζ
デレ
人ではないらしい
アンティークドレスを着ている
見た目は20代半ば〜後半
背が高い

('A`)
ドクオ
小さな金属製品の修理屋
年齢はデレと同じくらいの見た目
背がとても高い

43名無しさん:2024/06/19(水) 23:26:15 ID:bsQbGWnk0
続きが楽しみだー!!


44名無しさん:2024/06/19(水) 23:27:01 ID:15xn.t.w0
【バタフライカップケーキ】

・バター 70g
・てんさい糖70g
・卵SMまたはMサイズ2個(Lは1.5)

★薄力粉120(うち20gは分離防止用に分けておく)
★ベーキングパウダー小さじ1
★スキムミルク5g
★牛乳大さじ2
★バニラオイル10滴

□生クリーム100ml
□てんさい糖大さじ1/2くらい

【作り方】
1.バターと卵を常温にしておく。作り始める頃にオーブンを180度に温めはじめる。

2.常温にしたバターとてんさい糖をフードプロセッサーに入れて混ぜる。

3.そこに溶いた卵を4回くらいに分けて入れる。2回入れたら小麦粉を20gほど入れると分離防止になる。

4.小麦粉(残100g)、ベーキングパウダー、スキムミルク、牛乳、バニラオイルを入れてフープロ混ぜ。

5.かなり膨らむので、液はカップの半分まで。180度のオーブンで約20分焼く。

【飾り付け】
1.ケーキの粗熱をしっかり取る。
2.生クリームは、砂糖を入れながら固めに立てて冷蔵庫で冷やしておく。
3.ケーキの上部を包丁で丸くくり抜き、半分にカット(半円状になる)。
4.ケーキの穴にスプーンか絞り袋でクリームを埋める。
5.半円の生地を蝶に見立てて置き、好みで粉砂糖を振る。(生地の置き方を内カーブにするか外カーブにするかで雰囲気が変わります。作中は外カーブ。)

45名無しさん:2024/06/19(水) 23:28:48 ID:15xn.t.w0
最後の連載なので、ゲームをしましょう。
・全話の作中に登場した花を、品種まで全て知っていたら
・もしくは内藤が車のラジオで聴いた曲が当てられたら

お好きな花とキャラクターで短編を書いてプレゼントフォーユーします。
よろしくお願いします。

絵やレシピは各話有ったり無かったりです。
絵は撮った写真から線画を起こし、描き足した物が多いです。塗り絵だけしてたいです。

46名無しさん:2024/06/19(水) 23:31:16 ID:15xn.t.w0
あ、あと準備中にずっとしくれがと呼んでいたので、そう呼んで頂けたらとても喜びます。

47名無しさん:2024/06/20(木) 07:18:32 ID:hj1yl5Rs0
乙!!優しい世界観ですね。あと、イラストが上手い。

48名無しさん:2024/06/20(木) 21:52:11 ID:D2vuZELQ0
最後!?

49名無しさん:2024/06/20(木) 21:56:24 ID:AvX.tj9U0
乙乙
雰囲気いいねぇ
バタフライカップケーキおいしそう!絵もめちゃ好き
花も曲も詳しくないくやしい
そして最後の連載寂しい…

50名無しさん:2024/06/20(木) 22:08:40 ID:ap0DLUYk0
おつ
素敵な雰囲気

51名無しさん:2024/06/25(火) 00:28:50 ID:yPo9iWtM0
乙!綺麗なイラストと雰囲気めちゃ好き!

52名無しさん:2024/07/13(土) 01:05:43 ID:uUhGkg420
>>43
ありがとうございます!
ゆっくり進行ですが、よろしくお願いします!

>>47
ありがとうございます!
水彩でスプレーワークという技法に挑戦しました〜

>>48
はい!早く支援側に回りたくて全力で書いてます!

>>49 
ありがとうございます!
バタフライカップケーキはちょっとした工夫の飾り付けなのに、食べるとなんだか倍幸せな気持ちになるのでぜひお試しください。
曲は最後のタイトルヒントから別のヒントを逆算するといけるかも!
居座ります

>>50
ありがとうございます!
行ってみたいブーン系観光地上位目指します!

>>51
ありがとうございます!
そう言って頂けると、絵も用意して良かった!
今もある場所と、もう無い場所がモデルになってます。
コロナのせいです。

53名無しさん:2024/07/13(土) 01:09:57 ID:uUhGkg420
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
知っている花ゲームは、(プリムラ)ウィンティーで何割かは仕留められたのではないでしょうか。
ノーマルなプリムラもゲームの世界から飛び出してきたような可愛らしさがありますが、ウィンティーはふんわりと儚げなところが素敵なお花ですよね。

【曲ヒント1】
その曲は、軽やかなアコースティックギターで始まります。(楽器に詳しくないのでおそらくですが)


曲ヒントは投下した日に1つ追加されます。
ヒントでその歌手にピン!ときたら、発表曲のリストを遡れば確実に当てられるようなヒントを最後に出す予定です。

予想は投下後の乙と同じタイミングで書き込んで頂けるとチェックしやすくて助かります!
その際は「◯◯の〜」、と歌手の短縮名や苗字を軽く添えてください。

予想タイム中は反応せず、曲名は最終話まで明かしませんが、最初に的中させた方のみ、完結後にご希望のお花とキャラクターを伺いに参ります。

仕上がり次第このスレか、ご希望であれば総合に短編として投下する予定です。
月一の投下を目指し、全9話くらいで7回の投下になる予定です。
よろしくお願いします。

54名無しさん:2024/07/13(土) 01:13:07 ID:uUhGkg420
(∩^ω^)∩ パシャパシャ

( ∩ω∩) フキフキ

( ^ω^)「ふぅ…。」


( −ω−)人 ナムナム

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「ツン。僕は顔を洗ったそばからテカテカになっていくおっさんになってしまったお。」

( ^ω^)「…。」

( ^ω^)「君はいつまでも、綺麗なままだおね。」


僕は、白いドレスを着て微笑む妻の写真に向かって、そう言った。


( ^ω^)「行ってきます。」

55名無しさん:2024/07/13(土) 01:15:37 ID:uUhGkg420



【 第二話 かすみ草の時 】

https://imgur.com/a/H2ygCI8



.

56名無しさん:2024/07/13(土) 01:17:00 ID:uUhGkg420
(*゚ー゚)「えへへ…。」

『今度の水曜日は、腕時計などの小さな時計を持ってきてください。』

先生がそう言っていたのを、お母さんに言うのをわすれたわたしは、こっそりとお母さんの小さな"かい中時計"をポケットの中に入れてきた。

金色で、とってもキレイ。

手をポケットに入れると、シャランとすてきな音がする。

(*゚ー゚)(家に帰ってから、すぐにもどせばいいよね…?)


三(,,゚Д゚) 三(-@∀@)


三(-@∀@)「やーいやーい!のっろまっのし〜ぃは!」

三(,,゚Д゚)つ「ちっこくっする〜!!」

(;>ー<)「きゃっ!!」バンッ!

うしろから、いつもの二人にランドセルをたたかれた。

57名無しさん:2024/07/13(土) 01:17:58 ID:uUhGkg420
(*゚ぺ)q「のろまじゃないもん!!」

走るのがクラスで一番おそいから、二人にはそんな悪口を言われる。

(*゚ぺ)(あーぁ、朝からイヤな気分。男子ってどうしてこんなにコドモなの?)

だけど、いいもん。
きっと私の時計は、クラスで一番キレイなんだから。


( ^ω^) テクテク

( ^ω^)「おや、お嬢さん。ハンカチを落としましたお。」

( ^ω^)つ□「はい。可愛いひまわりの柄ですお。」

∑(*゚ー゚)「あ!ありがとうございます!」

いつの間にか、かい中時計の反対がわに入れていたポケットから落ちちゃったみたい。

( ^ω^)ノシ「いえいえ。お勉強、頑張ってくださいお。」


(*゚ー゚) 「…」

(*゚ー゚)「…ステキな人…。」

58名無しさん:2024/07/13(土) 01:19:04 ID:uUhGkg420
( ^ω^) テクテク

4月も後半に入る頃。
民家の花々が彩りを見せ、僕の前を歩く子ども達は今日の休み時間は何で遊ぼうかと相談をしている。


ζ(^ー^*ζ「おはようございます。」

( ^ω^)「おはようございます。」

ドクオさんからのオーダーを受けて以来、僕は家で朝食をとり、小学校の通学路でもあるこの道から通勤するようになった。

それは毎朝ここを通れば、デレさんが門の近くまでやって来て挨拶をしてくれるからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「行ってらっしゃい。」

(*^ω^)「行ってきますお。」

朝の光を浴びながら誰かに『行ってらっしゃい』と言ってもらえると、清々しい気持ちになる。

59名無しさん:2024/07/13(土) 01:20:11 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「おはようございますお。」

( ´∀`)「おはようモナ。内藤、今日は僕と一緒にシュールさんのお家に挨拶に行く日だモナ。」

( ^ω^)「はいですお。」

_____
___
__

( ´∀`)「おはようございます。」

( ^ω^)「おはようございます。」

車を少し走らせて着いたのは、立派な和風の家だ。
モナーさんが門のインターホンを鳴らすと、70代くらいの和服を着た女性がゆっくりとやって来た。

lw´‐ _‐ノv「おはよう。さぁさ、上がって。」

( ´∀`)「お邪魔します。」

60名無しさん:2024/07/13(土) 01:21:58 ID:uUhGkg420
lw´‐ _‐ノv旦「ほら、玄米茶。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

( ´∀`)「シュールさんの玄米茶は香り高いモナ。」

lw´‐ _‐ノv△「おだてても、おにぎりしか出ないよ。」

( ´∀`)「頂きます。」

お茶請けとして、梅干しのおにぎりが出された。

( ^ω^))「塩気が絶妙で、仕事を忘れてしまいそうなほど美味しいですお。」モグモグ

lw´‐ _‐ノv「私も、遊びに来たのかと思ったよ。」

lw´‐ _‐ノv「それで、今日は何?」

61名無しさん:2024/07/13(土) 01:23:46 ID:uUhGkg420
( ´∀`)「今日は、挨拶とお伝えする事があり伺いました。」

( ´∀`)「僕はいよいよ社長になります。それで、今後のシュールさんの担当は、内藤がさせていただくこととなりました。」

モナーさんは公共の施設や、昔からの縁がある邸宅への営業、デザインを担当している。
現社長の息子で、僕よりも少し歳上だ。
入社当初は緊張したけれど、この人がこののほほんとした態度を崩したところを、僕は一度も見たことがない。

lw´‐ _‐ノv「私のお迎えなんてもう少しだし、うちだけ最後まで付き合ってくれてもいいじゃないか。」

( ´∀`)「そうはいきません。急ぎ仕事で済ませないのが、御社のモットーですモナ。」

( ^ω^)「よろしくお願いします。」

lw´‐ _‐ノv「しょうがないね。よろしく。」


廊下の房掛けにタッセルで纏められている朱色のカーテンは、広げると雲や鶴、富士の柄が現れる。
モナーさんが前回制作したものだ。

62名無しさん:2024/07/13(土) 01:25:46 ID:uUhGkg420
( ´∀`)「今年もここの梔子は、随分と早く咲きますモナ。」

モナーさんが、お茶を啜りながら庭を眺めた。

lw´‐ _‐ノv「ああ。植えてもらった時からそうなんだよ。だからといって早く散る訳でもない、庭孝行な花さ。」

シュールさんが庭がよく見えるようにと、窓を開けてくれた。
僕達は廊下まで行ってそれを眺めると、甘い桃のような香りが鼻まで届いた。

( ´∀`)「梔子の香りは、待ち合わせをしている恋人が僕に気付いて駆け寄ってきてくれた時の香りと、そっくりだと思いますモナ。」

モナーさんが、背中に手を組みながら言う。

lw´‐ _‐ノv「それはモナーと奥さんで想像しろという事かい?いきなり大昔の惚気話を始めるんじゃないよ。」

( ´∀`)「それ以外に例えが思い付きませんでしたモナ。」

( ´∀`)「…この屋敷と庭に、僕は育てて頂きました。本当に、ありがとうございました。」

lw´‐ _‐ノv「そんなこと言って、たまにはここへ来るんだろう?」

( ´∀`)「はい。お茶を飲みに来ますモナ。」

63名無しさん:2024/07/13(土) 01:26:54 ID:uUhGkg420
_____
___
__

( ^ω^)「モナーさんは、キザですお。」

車内は、モナーさんがシュールさんからもらった梔子の盆栽の香りで満ちている。
僕は運転をしながら、モナーさんを少しからかった。

( ´∀`)「思った事は、悪い事じゃなければ言うモナ。そうしないと誰にも見付けてもらえないモナ。」

( ^ω^)「…」

聞いた人がどう噛み砕けば良いか分からないような事を、モナーさんは時々言うのだ。


( ´∀`)「さあ、戻って仕事するモナ。」

( ^ω^)「そうですね。」

64名無しさん:2024/07/13(土) 01:28:20 ID:uUhGkg420
____________________________

_____
___
__

(*゚ー゚) テコテコ

わたしが持ってきた時計を、となりのせきのヒートちゃんが『カッコいい!』って、すごくほめてくれた。

今日はとってもいい日だったな!

(*゚ー゚)(早く帰って、バレないようにもどさなくちゃ。)テコテコ


三(,,゚Д゚) 三(-@∀@)


三(-@∀@)「おっせ〜!おっせ〜!のっろまっのし〜ぃは!」

三(,,゚Д゚)つ「かっえれっない〜!!」

(;>ー<)「きゃっ!!」バンッ!


カシャンッ


(;*゚ー゚)「あっ…!!」

(;,,゚Д゚)「えっ…」

三(;-@∀@)「いこーぜ!」

65名無しさん:2024/07/13(土) 01:29:37 ID:uUhGkg420
(;*゚ー゚)「どうしよう…こわれちゃった…!」

かい中時計が道路に落ちて、中の部品がちらばってる。
全部集めたけど、どうやってくっつければいいのか分からない。

(*;ー;)「元通りにならない…どうしよう…。」


お母さんが、おじいちゃんからもらった時計なのに。


(*;へ;) グスッ…ヒック…


(*;ー;)「……あれ…?」

(*;ー;)(朝まで、畑だったところが葉っぱでいっぱいだ…。)


もう家に帰らなくちゃいけないのに、どうしてもそのお庭が気になる。


(*;ー;)(どうせおこられちゃうもん。ちょっとより道しちゃお…。)

_____
___
__

____________________________

66名無しさん:2024/07/13(土) 01:31:03 ID:uUhGkg420
16:15

((ヽ‘ω`)ゲソ…

僕は未だに慣れないファンシーな案件に苦戦し、精神を削って退社した。

後輩の芹沢さんにはよく、『乙女男子』と評される僕だ。
確かに先進的な機械のデザインよりも淡い色の花を見た時の方が心躍るし、工場に駆り出されてミシンを踏んだ事もある。

だけど流石に十代の女の子がメイン層の、キラキラとしたイメージに沿うのには骨が折れる。
その子達の気持ちになって、尚且つ三歩は先を行かなければいけない。

いくつか案を作って送ったので、そこから反応の良い部分をまとめて仕上げるしかない。

((ヽ^ω^)(こういう時は、自信失くすおね…。今日はちょっとだけ、ドクオさんのお庭に寄らせてもらうお。)

67名無しさん:2024/07/13(土) 01:32:27 ID:uUhGkg420
_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん!」

門に入ろうとしたところ、デレさんが僕を見付けて駆け寄ってきた。
デレさんが走る度に、ドレスが左右へと少し揺れる。

その時、フワッと梔子の香りが、僕を包んだ気がした。


(;^ω^)

____________________________

( ´∀`)「梔子の香りは、待ち合わせをしている恋人が僕に気付いて駆け寄ってきてくれた時の香りと、そっくりだと思いますモナ。」

____________________________


僕は、今朝のモナーさんの言葉を思い出して戸惑った。


(;^ω^)(僕の服に、香りが付いていたのかお…?)

68名無しさん:2024/07/13(土) 01:33:44 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*;ζ「こんにちは!」

今日はシニヨンをふわっとさせたような髪型をしているデレさんが、息を切らし気味で僕に挨拶をした。

( ^ω^)「こんにちはですお。今日もスケッチにお邪魔してもよろしいでしょうか?」

ζ(゚ー゚*;ζ「大丈夫ですが、ちょっと困った事がありまして…。」

( ^ω^)「?どうかされましたか?」

ζ(゚ー゚*;ζ「先ほどお客様が一人いらっしゃったようなのですが、見付からないんです。」

そう言いながら、デレさんは辺りをキョロキョロと見回している。

( ^ω^)「そうなんですかお?よろしければ、一緒に探しますお。」

ζ(゚ー゚*;ζ「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

69名無しさん:2024/07/13(土) 01:35:31 ID:uUhGkg420
僕はデレさんと二手に分かれて探し始めた。
メインの道から逸れた場所を、一つずつ見ていく。

木製のベンチと、トレニアの鉢。
こぼれるように咲くポリゴナムと、まっすぐに育った虹色のルピナスを横目に進む。

(;^ω^)ゞ(カラフル過ぎて、僕まで迷子になりそうだお…。)

そう思い、立ち止まった時。
何かが僕の横を通り過ぎた。

(;^ω^)(…!ミヤマカラスアゲハかお…!?)

昔図鑑で見た、高地に棲息する珍しい蝶に似ている。
黒と、光るような青緑の色。
けれど翅にはいくつか穴が空いており、どこか蝶番を思わせた。

その蝶が、桃色のラナンキュラスの辺りで留まろうとしていた。
だけど僕が気になったのは、その先のベンチだ。

茶色い鞄が置かれている。

70名無しさん:2024/07/13(土) 01:36:34 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「お…?」

(;*゚ー゚)

近付いてみると、かすみ草に囲まれて、しゃがんで困ったような顔をした女の子。

その目線の先には、モシャモシャと何かの葉を食べている子兎。
だけどその耳は、金属で出来ているようだった。

( ^ω^)(そしてこの子は…今朝の子だお。)

( ^ω^)「お嬢さん、どうされましたかお?」

∑(;*゚ー゚)「あ…朝の…!」

(;*゚ー゚)「あの…時計がこわれてしまって…」

(*;ー;)「学校の近くに知らないお庭があったから入ってみたら…時計がウサギになっちゃって…」

(*;Д;)「どんどん遠くまで走っていくから、まいごになっちゃった…!」

∑(;^ω^)「だ、大丈夫!僕が来た道を戻れば帰れるお。」

71名無しさん:2024/07/13(土) 01:37:30 ID:uUhGkg420
(;^ω^)つ ソーッ…

(;^ω^)「捕まえたお…ベンチの鞄を持ってくださいお。道を戻りますお。」

(;*゚ー゚)「は…はい…。」

兎が驚いて飛び跳ねないように、僕が小声でそう言うと、女の子は素直にそれに従った。

(;^ω^)(…我慢だお。)

ラグラスのような尻尾が、手首に当たってくすぐったい。

72名無しさん:2024/07/13(土) 01:38:57 ID:uUhGkg420
本筋の道に繋がったところで、デレさんが合流した。

ζ(゚ー゚*;ζ「良かった…!」

(;^ω^)「デレさん、この子の時計が壊れてしまったそうなんですお。」

そう言いながらそっと、胸に抱いた兎を見せた。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんのお客様ですね。ご案内いたします。」

デレさんはしゃがんで、女の子に目線を合わせた。

ζ(゚ー゚*ζ「お名前を聞いても良い?」

(;*゚ー゚)「しぃ…です。」

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん。ここは修理屋さんだから大丈夫よ。時計、直してもらおうね。」

(;*゚ー゚)「は、はい…。」

73名無しさん:2024/07/13(土) 01:39:54 ID:uUhGkg420
屋敷の中に入ると、ドクオさんがどこかの部屋から出てきたところだった。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん。こちらの方の時計を修理してほしいんです。」

デレさんがそう言うと、僕の胸にいた兎はドクオさんの肩へとピョンと飛び移った。

(;*゚ー゚)「あの…お金は…」

( ^ω^)「僕が立て替えておくお。」

おそらく修理代は、小学生の小さなお財布では払えないような額だろう。

(;*゚ー゚)「でも…。」

('A`)「……」

僕達のやり取りを聞いていたドクオさんが、口を開いた。

('A`)「…図書室の掃除を。」


____________________________

74名無しさん:2024/07/13(土) 01:41:32 ID:uUhGkg420
_____
___
__

( ^ω^)「しぃちゃんはこれを持っていってお。」

僕は案内された事務室の掃除用具入れの中から羽根ばたきを取り出して、しぃちゃんに手渡した。
それから掃除機と雑巾を持って、図書室に向かう。

ζ(゚ー゚*ζ ))「こちらを、真っ直ぐです。」

('A`)つ「…デレは、こっち」

そう言ってドクオさんが、デレさんの腕を軽く引いた。

ζ(゚、゚*ζ「えー…」

ζ(゚ー゚*ζ「お二人とも、後から行きますね。真っ直ぐ突き当りにある部屋です。」

( ^ω^)「分かりましたお。」

75名無しさん:2024/07/13(土) 01:43:29 ID:uUhGkg420
図書室の中に入ると奥は窓で、少しクリームがかった壁に木の床と暖炉がある。
先程開けた扉の両サイドには、大きな本棚が1台ずつと、その近くには1人分の椅子とテーブル。

僕は遮光用のカーテンを取り付けるため、つい最近もこの部屋に入った。

( ^ω^)(本棚も窓も、高さがあるお。しぃちゃんには低い場所と…掃除機を頼むことにするお。)

電気を点け、窓を開けて換気をした。
窓の外からは草花の瑞々しい香りがして、まるで僕を庭へと誘っているようだった。

( ^ω^)「僕は脚立を持って来るお。しぃちゃんは手の届く高さまでで良いから、壁の木枠に付いている埃をはたきで取っておいてほしいお。」

そう言い残して、僕は先程の事務所に向かった。

( ^ω^)「…」

その途中で、僕がドクオさんと初めて会った時の部屋を通る。
ドクオさんとデレさんが、少し前に入っていった部屋だ。

((( ^ω^)(…とても仲が良さそうだったお。)

76名無しさん:2024/07/13(土) 01:44:11 ID:uUhGkg420


('A`)「……………ダメか」

ζ(゚ー゚*ζ「…。」


.

77名無しさん:2024/07/13(土) 01:46:44 ID:uUhGkg420
僕が図書室に戻るとしぃちゃんは頼んだ通りに、一生懸命羽根ばたきを振るっていた。

( ^ω^)「ありがとうだお。今度は僕が窓の埃を落とすから、それが終わったら窓側から本棚に向かう感じで掃除機をかけていってほしいお。」

(*゚ー゚)「はい。」

やる事が出来たからなのか、しぃちゃんは少し元気を取り戻したようだ。
僕は窓の埃を落とし終わり、脚立を持ってシャンデリア、それから本棚へと移動した。

(;^ω^)(掃除機に追いつかれないように、急がないといけないお。)パタパタ

本棚の中にはブックブラシが備えられていたため、それを使う。
まじまじと見ないようにはしているが、タイトルが自然と頭の中に入ってくる。

( ^ω^)(…花やお菓子の本以外は、僕でも知っているような有名な小説ばかりだお…。)

国内で発表された、わりと最近の本が多い。
この屋敷の本棚の中身としては、少しアンバランスな印象だ。

( ^ω^)(右下の棚に…小箱があるお。この部屋自体そこまで掃除が必要でもない状態だけど、この辺りは特に埃がないお…。)

埃取りが終わると、僕はバケツと水が必要な事に気付いて事務室へと向かった。

( ^ω^)「デレさん。」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ。」

その途中には、図書室とは反対方向に向かうデレさんがいた。

ζ(゚、゚*ζ「すみません。ドクオさんに用事を頼まれたので、まだそちらに向かうには時間がかかります。」

( ^ω^)ノシ「あとは全体を拭けば終わりなので、大丈夫ですお。お気になさらず。」

78名無しさん:2024/07/13(土) 01:50:24 ID:uUhGkg420
僕が必要な物を持って図書室に戻ると、掃除機をかけ終えたしぃちゃんが待っていた。

( ^ω^)「これから僕は、窓拭きをするお。しぃちゃんはまず机に椅子と、部屋の中の木枠を拭いてほしいお。終わったら僕も手伝って、最後は一緒に床を拭くお。」

(*゚ー゚)「分かりました。」

( ^ω^)つ□ キュッキュッ

タッセルでまとめられた緑色のカーテンの横の、窓を拭く。
そこから見えた庭は、少しだけ日が傾いていた。

( ^ω^)(庭もだけど、屋敷も英国風だお。)キュッキュッ

( ^ω^)「…そういえば、しぃちゃんの時計は、もとはどんな見た目なんだお?」

少しでも緊張が解れるようにと、話しかけてみる。

(*゚ー゚)「金色の、かい中時計です。丸くてつるんとした…」

( ^ω^)「それは素敵だお。懐中時計なんて、僕よりずっと前の人が持っていたような物だけど、最近の物かお?」

(;*゚ー゚)「いえ、お母さんの時計で…学校で使うのに今日だけ…ないしょで持ってきてたんです…。」

( ^ω^)「そうだったのかお…。」

してはいけない事ではあるが、今日が初対面の僕がどうこう言う話ではない。
大人の持ち物を羨ましがる年頃なのだろうと、僕は自身の子供時代の失敗と照らし合わせてしみじみとした。

(;*゚ー゚)「だけど、同じクラスの男子にせなかをはたかれて落としちゃって…」

Σ(;^ω^)「えぇっ!?それは酷いお!」

79名無しさん:2024/07/13(土) 01:51:51 ID:uUhGkg420
(*゚、゚)「…。あーぁ、クラスの男子もおじさまみたいにやさしければいいのに…。」

(;^ω^)「…?おじさまって?」

(*゚ー゚)σ「おじさまですっ!朝もステキでした!」

そう言って、しぃちゃんは僕をうっとりするように見つめた。
ドクオさんのような、若い人相手ならまだ分かる。
しかし、アラフィフの僕に向けるような目ではないのだ。

(;^ω^)「気が付いたら、みんなする事だお。」

(*゚、゚)「そんな事無いです。知らない子だったら、私…勇気出ないかも…。」

(;^ω^)ノシ「いやいやそんな。」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「…そういえば。僕もその男の子達みたいな頃があったお。」

(;*゚、゚)「えー!?」

(;*゚、゚)「ほんとにっ?」

しぃちゃんが目を丸くして、僕を見た。

( ^ω^)「そうだお。女の子の手を強く引っ張って、困らせてしまった事があるお。」

(;*゚、゚)「えぇー、ちょっとイヤかも…。」

(;^ω^)「ウッ…」グサッ

80名無しさん:2024/07/13(土) 01:53:42 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*;ζ「お待たせしました。」パタパタ

デレさんが、早歩きで図書室にやって来た。

( ^ω^)「もう、終わるところですお。」

しぃちゃんと一緒に雑巾がけ競争をしていたら、あっという間に床は綺麗になった。

( ^ω^)「広くてダンスが踊れそうなお部屋ですお。」

2台の本棚と机セット以外は、ほぼ何もない部屋だ。

ζ(゚ー゚*ζ「持て余してしまいますよね。ここ、今は私の部屋なんです。」

(;^ω^)「そうなんですかお?知らずにお掃除してしまいましたが…」

ζ(^ー^*ζ「お気になさらず。ありがとうございます。」

(*゚、゚) ムム…

しぃちゃんがパタパタと近付き、僕達の間に立った。

(;^ω^)「あっ、暇だったおね。ごめんお。」

ζ(゚ー゚*ζ「修理も終わったそうなので、行きましょうか。」

そう言われても、しぃちゃんは何故だか不機嫌そうな表情を変えず、今度は僕の横に立った。

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら…。うーん…?」

ζ(^ー^*ζ「…恋敵ですかね?私。」

デレさんがそう言って悪戯っぽく首を傾げた。
僕は苦笑いして、『流石に違うと思いますお』という視線をデレさんに送った。

ζ(゚ー゚*ζ「だけど、日が暮れきる前に帰りましょうね。」

(*゚ー゚)「はい…。」

デレさんが先頭に立って、僕達は図書室を後にした。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

ζ(^ー^*ζ「…ふふっ!」


デレさんは自分で言った言葉がツボだったのか、時間差で笑っていた。

81名無しさん:2024/07/13(土) 01:56:58 ID:uUhGkg420
('A`)「…」

僕達が事務所の水道で手を洗い廊下に出ると、ドクオさんが待っていて兎をしぃちゃんに手渡した。

(*゚ー゚)「わ…」

時計の針のような形の金属の耳が、カチカチと小刻みに一定の音で動いている。

( ^ω^)(さっき僕が連れてきた時は耳は動いてなかった。…ということは、直ったみたいだお。)

ζ(^ー^*ζ「一番最初に来た門から出れば、もとの懐中時計に戻るよ。」

(;*゚ー゚)「えっ…?あ、ありがとうございます…?」

しぃちゃんがドクオさんに、よく分からないままお辞儀をしてお礼を言った。
未だに身体はふわふわとした兎の形で、本当に本来の物として直っているのか、確認の仕様がないのだろう。

それからデレさんが僕達を玄関へと向かうように促し、僕とデレさんでしぃちゃんを門まで送る事にした。

( ^ω^)「ウサギさん、大人しいお。」

(*゚ー゚)「はい。それに、あったかいです。」

しぃちゃんは胸に兎を抱いている。

(*゚、゚)「だけど、なんで時計がウサギになっちゃったんだろう…?」

( ^ω^)「不思議だおねー。」

ζ(^ー^*ζ ニコニコ

82名無しさん:2024/07/13(土) 01:59:29 ID:uUhGkg420
(*゚、゚)σ「…あれっ?あの花、ウサギに似てる!」

(;^ω^)「おっ!?本当だお!」

しぃちゃんが指差した小さな植木鉢には、本当に兎の形をした花が咲いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「名前もウサギゴケと言いますよ。とても小さくて、可愛いですよね。」

ζ(^ー^*ζ「ちなみに、食虫植物です。」

(;^ω^)「お…」

どう返せば良いのか分からなかった僕は、気不味さを隠すために自分の腕時計を見た。

( ^ω^)(もう、17時半だお。)

( ^ω^)「しぃちゃん。ここは明るいけれど、門を出ると図書室で見た時のお庭みたいに、少し暗くなっていると思うお。良かったらお家の近くまで送っていくお。」

(*゚ー゚)「あ!大丈夫です!すごく近くだし、GPSもあるし…」

(;^ω^)「でも…」

ζ(゚ー゚*ζ「ウサギさん。しぃちゃんがお家に着いたら、ドクオさんに教えてくれますか?」

デレさんがしぃちゃんの抱く兎に顔を近付けて、そう話しかけた。
すると兎は、耳を忙しなく動かして『まかせて!』と返事をするような仕草をした。

ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。これなら大丈夫ですね。」

83名無しさん:2024/07/13(土) 02:00:43 ID:uUhGkg420
( ^ω^)?「どうして大丈夫なんですかお?」

僕は気になって、デレさんに聞いてみた。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんはお客様の持ち物とお話が出来るんですよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「来る時なんかも、遠くにいる時点から『行くよ』と物が教えてくれたり、会話したりするそうなんです。」

Σ(;^ω^)「ええっ!?」

(;^ω^)「そうなのですかお…。それは凄いですお。」

もはや、嘘だなどと疑う事もない。
ここはとても不思議な場所なのだから。

(*゚、゚) ムム…

気付けばしぃちゃんがまた、不機嫌そうな顔をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あ。しぃちゃん、これ良かったらお家で食べてね。」

そう言ってデレさんが透明な袋に入った焼き菓子をしぃちゃんに手渡した。
中の小さな瓶には、ジャムも入っているようだ。

(*゚、゚)「…ありがとうございます。」

嬉しいのにそれを隠すような複雑な顔をして、しぃちゃんはそれを受け取っていた。

84名無しさん:2024/07/13(土) 02:02:23 ID:uUhGkg420
(*゚ー゚)「かい中時計を直してくれてありがとうございました。さようなら。」

ぺこりとお辞儀をして、しぃちゃんは門から家へと帰っていった。

( ^ω^)ノシ ζ(゚ー゚*ζノシ


ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。ちょっと遅いですが、よろしければお茶を飲んでいきませんか?」

( ^ω^)「では、ありがたく。」

こういう時は予め用意しておいてくれて誘うものなのだ。
少しお腹も空いていたし、お言葉に甘えてしまおう。


_____
___
__

(*゚ー゚)(…。フシギなところだったなぁ…。)

お花がいっぱいのお庭に、大きなお家。
それから、ステキな朝のおじさま。

(*゚ー゚)「…あれっ?」

私はだっこしていたウサギが急にいなくなったのにびっくりして、下を見た。


(*゚ー゚)「時計に戻ってる…。」


____________________________

85名無しさん:2024/07/13(土) 02:04:56 ID:uUhGkg420
(*^ω^)「…今日も、凄いですお。」

前回と同じく、庭のテーブルセットのある場所に通された僕は、周りのその美しさに感嘆の声をあげた。

ζ(^ー^*ζ「アルメリア バレリーナホワイトに、ラナンキュラス ラックスです。ウラノスなど、絶妙な色合いが素敵ですよね。」

(*^ω^))「大人が好きな色ですお。」

86名無しさん:2024/07/13(土) 02:08:00 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「それでは本日は、メレンアッサムとスコーンです。」コトッ

デレさんが屋敷に戻り、ワゴンを持ってきてお茶を僕の前のテーブルに置いてくれた。

( ^ω^)「ありがとうございますお。頂きますお。」

( ^ω^)) コクリ

( ^ω^)「…アッサムはミルクティーのイメージがあったけれど、ストレートもとても美味しいですお。」

(*^ω^)「このメレンアッサムというお茶は、半音上がって華やかになった感じの味がする気がしますお。飲みやすいですおー。」

ζ(^ー^*ζ「それは良かったです。」

ζ(゚ー゚*ζ「インドにあるメレン茶園は、アッサムの中でも特に歴史のある茶園なのだそうです。」

( ^ω^)「そうなのですかお。風味に古めかしさを全く感じないので、驚きましたお。」

ζ(^ー^*ζ「そうですよね。私、アッサムの中ではこれが一番好きです。」

https://imgur.com/a/YAMntb5

.

87名無しさん:2024/07/13(土) 02:11:08 ID:uUhGkg420
お茶の温度がもう少し下がるまで、僕達は話をする事にした。

ζ(゚ー゚*ζ「お茶のセットを取りに行った時に、しぃちゃんは無事お家に着いたとドクオさんが教えてくれました。」

( ^ω^)「それは安心しましたお。」

( ^ω^)「…デレさんも、遠くからドクオさんと会話をする事が出来るのでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。私は人の姿ですし普段ドクオさんの近くに居るからなのか、普通に会話をしに行かないと話せません。」

ζ(^ー^*ζb「もしかしたらドクオさんとの会話の手段は、一種類しか持てないのかもしれませんね。」

デレさんは今思い付いたのか、楽しそうにそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「私は他の物達との会話も、ちゃんと出来ている訳ではないんです。だけど言いたい事などは、なんとなく分かります。」

( ^ω^)「そうなんですかお。程度はあっても、デレさんは人や物とお話が出来るなんて羨ましいですお。」

ζ(^ー^*ζ「ふふ。ありがとうございます。」

僕は、『自分が作ったカーテンなら一体どんな話をしてくれるのだろうか?』と、少し気になった。

88名無しさん:2024/07/13(土) 02:14:24 ID:uUhGkg420
ζ(゚、゚*ζ「…だけど、お話相手は少ないです。門から外を眺めていても、ここにやって来るお客様しか私は見たことがありません。」

( ^ω^)「ここを出た場所は、通学路で人通りが多いはずなのに…。不思議ですお。」

ζ(゚、゚*ζ「はい…。すぐ近くに学校があるのは、門から見えるのですが…。」

( ^ω^)(外の景色は、僕やしぃちゃんが見ているものと同じ…。)

( ^ω^)∂「…ではデレさんは、僕の事がなぜ毎朝見えるのでしょうか?」

この場所に来ない日でも、僕達は朝に顔を合わせて挨拶をしている。

ζ(^ー^*ζ「おそらく、ご縁がある間は継続してお会い出来るのでしょう。」

( ^ω^))「なるほど。ドクオさんから依頼されたお仕事の間、という事ですかお。」

そう話しているうちに、お茶を一杯飲みきってしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、よろしければミルクティーでもアッサムを試してみてください。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

89名無しさん:2024/07/13(土) 02:15:30 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「失礼します。」

そう言いながら、デレさんは空になった僕のカップにミルク、紅茶の順で注いだ。
その動きは自然だが、じっとよく見ると機械的で、彼女も何かしらの「物」である証のようであった。

ζ(゚ー゚*ζ「ミルクを先に入れるのは、熱によるタンパク質の変質を防ぐためなのだそうですよ。」

( ^ω^)「そうなのですかお。僕はコーヒーにもミルクを入れるので、家でも試してみますお。」

ζ(^ー^*ζ「ぜひ。」

( ^ω^)「では、まだ頂いていなかったスコーンから。」

僕はデレさんに倣いスコーンを手で半分に割り、クロテッドクリームとジャムを塗った。

90名無しさん:2024/07/13(土) 02:17:37 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「こちらのジャムは、ラズベリーです。やっぱりイチゴやブルーベリーが主流かもしれませんが、個人的に延々と食べられるのはラズベリーですね。」

( ^ω^)「僕はスコーンをラズベリーで食べるのが初めてなので、楽しみですお。」

そう言ってスコーンに目を落とすと、暗い赤紫のジャムがピカピカとしていて綺麗だ。
僕は一口でジャムに辿り着くように、大口で食べることにした。

( ^ω^)) モグッ

(*^ω^))「サクほくですお。」ホクホク

素朴で、ボリュームがある。
ラズベリージャムは少し酸味があるけれど、甘みと共に主張が控えめで、そこが小麦の風味を引き立てている。クロテッドクリームがお菓子を食べている満足感を後押しして、僕はもう一口と頬張った。

口いっぱいに味わいが広がると、そろそろ飲み物が欲しくなってくる。

( ^ω^)) コクリ

(*^ω^)フゥ…

ティーコゼーで保温され、よく抽出されたメレンアッサムはミルクティーにしてもなお芳香で、僕は思わず目を閉じた。

https://imgur.com/a/YAMntb5

.

91名無しさん:2024/07/13(土) 02:19:59 ID:uUhGkg420
_再び開けた目が、デレさんの目と合った。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、内藤さん。ドクオさんが今度は3段のお皿でお菓子を用意してくれるそうですよ。」

pζ(゚ワ゚*ζq「アフタヌーンティー形式です!」

Σ(;^ω^)「!?」

(;^ω^)ノシ「いえいえ!僕はこのくらいで、お腹がいっぱいですお!手間もかかりそうなので悪いですし!!」

ドクオさんは、どうして僕をここまでもてなしてくれるのだろう?
もしかしてお菓子作りが得意なことを、誰かに披露したかったのだろうか?

ζ(゚、゚*ζ「……そうですか…。」

期待を裏切られたのか、デレさんは残念そうな顔をしている。

ζ(゚、゚*ζ「内藤さんは、クリームティー派でしたか…。」

( ^ω^)「クリームティー…?」

ζ(゚ー゚*ζ「こんな風に、スコーンと紅茶がセットのおやつの事です。」

(;^ω^)「そうですお。クリームティー派ですお!」

92名無しさん:2024/07/13(土) 02:20:55 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ…内藤さん。よろしければここにいらっしゃる間、私の話し相手になってくれませんか?」

( ^ω^)「僕が…ですかお?」

(;^ω^)∂「若い女性が好まれるような話を、こんなオジさんが出来るか不安ですお…。」ポリポリ

ζ(゚、゚*ζ「そんな事ないです。…実は私、外の事がとても気になるんです。」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんはめったに家から出ないですし、修理のお客様も頻繁には来ませんし…。」

人ζ(>、<*ζ「お願いします!一生のお願いですっ!」

デレさんが子供のようなお願いの仕方をするので、僕は思わず笑ってしまった。

(*^ω^)「良いですお。」

93名無しさん:2024/07/13(土) 02:21:21 ID:uUhGkg420
【 第二話 かすみ草の時 】

終わり

94名無しさん:2024/07/13(土) 02:22:05 ID:uUhGkg420
【登場人物】
lw´‐ _‐ノv
素直珠瑠
立派な日本家屋に住んでいる
米料理が絶品

(*゚ー゚)
詩衣(しぃ)
小学校中学年
内藤を格好良いおじさまだと思っている
小柄

95名無しさん:2024/07/13(土) 02:28:10 ID:uUhGkg420
途中で画像載せる場所ミスっちゃった
紅茶ってもし仮に、最初にミルクで飲んで次にストレートで飲みたくなった時、カップは変えてくれるものなんですかね?
いくつか紅茶の本を読んでも謎のままです…

96名無しさん:2024/07/13(土) 02:30:13 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「外の事というと、この街の事でよろしいでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。内藤さんやしぃちゃん、ここにいらっしゃるお客様がどんな場所に住んでいるのか。それが知りたいです。」

( ^ω^))「分かりましたお。」

97名無しさん:2024/07/13(土) 02:30:45 ID:uUhGkg420



【 第三話 ルピナスの街 】



.

98名無しさん:2024/07/13(土) 02:32:35 ID:uUhGkg420
僕はスコーンにジャムを塗りながら、何から話そうかと考える。
デレさんもスコーンにたっぷりのクロテッドクリームを塗っては、美味しそうに頬張っていた。

( ^ω^)「…僕が住んでいる街は、農地と、他と比べれば大規模とまではいかない工業地域の間にある土地なんですお。」

( ^ω^)「ここは、その両方の地域を支えるような業種の人達のベッドタウンだったそうなのですが、元々の住宅街からずれた場所に大学と駅が建ち、再開発によってだんだんと賑わいが出て、近年は観光地としての知名度も上がってきていますお。」

( ^ω^)「僕は、大学が設立されて間もない頃に進学でこの街へ来て、そのまま定住しました。」

ζ(^ー^*ζ

デレさんは、時々頷きながら聞いてくれる。

( ^ω^)「僕が学生だった頃はまだ、大学の近くは広い道路に歩道、学生寮とお店が少しあるくらいで…。新たな店が開店する度に、学生達がこぞって行くほどでしたお。」

( ^ω^)「それが今では、お店ばかりの街になったんですお。主に小規模で、各々にコンセプトがあるような。」

99名無しさん:2024/07/13(土) 02:34:57 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「小さなお店、ですか?」

( ^ω^)「はい。飲食店が主ですが、美容室、服屋に雑貨屋、専門店など。街の人が始めたものが殆どなので、小さなお店が多いんですお。」

( ^ω^)「古い住宅街方面にはスーパーやチェーン店もありますが、駅周辺の大通りは車を使わずに見て回る事が出来るようなお店が多いですお。」

( ^ω^)「駅前には古い建物を再利用して、小さなお土産屋がひしめき合う場所もありますお。そこでは街の特産の薔薇を使ったお菓子が人気ですお。」

ζ(゚、゚*ζ「古い建物…。それは、『北野工房のまち』のようなものでしょうか?」

Σ( ^ω^)「ご存知なのですかお!?」

だいぶ離れた土地の例を挙げられたので、僕は驚いた。

ζ(^ー^*ζ「庭師さんの奥さんが、読み終えた本を私にくださるんです。実際にお会いした事はありませんが…。」

ζ(゚ー゚*ζ「その頂いた本の一つで、登場していました。」

( ^ω^)「そうでしたかお。あそこまで立派ではないですが、そんな感じですお。」

100名無しさん:2024/07/13(土) 02:37:35 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「他の特徴といえば、高さ制限がある事ですお。消防技術は近隣の工業地域に重点を置いているため、この街は省エネで救助活動が出来るようにとシンプルな街の造りになっていますお。」

( ^ω^)「高さ制限の都合で、丘の上にある白くて大きな図書館が目立つので、学生の間ではふざけて『神殿』などと呼んでいましたお。」

ζ(^ー^*ζ「ふふっ。」

( ^ω^)「そして図書館や公園などには見事な花が咲いていますお。最近始まった街おこしらしくて流石にこの庭ほどの規模ではありませんが、それこそがこの街が観光地となった一番の理由なので、とても綺麗ですお。」

( ^ω^)「まとめると、ロケーションとショッピングを楽しめる、日帰り旅行にぴったりな街ですお!」

(*^ω^)∂「そして僕は、この街のお店のカーテンをデザインするような仕事をしていますお。」

僕は照れ隠しで、戯けるようにそう締め括った。

101名無しさん:2024/07/13(土) 02:38:54 ID:uUhGkg420
ζ(^ー^*ζ「それはとても素敵ですね!」

Σζ(゚ー゚*ζ ハッ

人ζ(゚ワ゚*ζ†+「もしや、街中のカーテンが内藤さんのデザインだったり…!?」

( ^ω^)「いいえ。でも、遠からずですお!街のカーテンの殆どは、僕の働く会社で手掛けているんですお。僕の他にも数名のデザイナーがおりますお。」

ζ(^ー^*;ζゞ「あら、そうでしたか。えへへ。」

ζ(゚ー゚*ζ「…子供っぽくてダメですね。そうだったら楽しいのにという想像を、すぐしてしまう癖があるんです。」

( ^ω^)「構いませんお。僕の話をよく聞いてくださって、嬉しいですお。」

102名無しさん:2024/07/13(土) 02:40:26 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「あっ。」

ζ(゚、゚*ζ「どうされましたか?」

(;^ω^)「危なかった…。予定を忘れるところでしたお。今夜は仕事で、夜に飲食店に伺う予定があるんですお。」

ζ(゚、゚*;ζ「そうでしたか!引き止めてしまって、すみませんでした…!」

( ^ω^)「いいえ、時間に余裕はあるので大丈夫ですお。閉店直前に行く約束ですので。」

ζ(゚、゚*ζ「…遅くまでお仕事、大変ですね。」

( ^ω^)「こういう事はたまになので、大丈夫ですお。」

( ^ω^)「最近は就業時間も短くなったし、こうやってお邪魔させてもらう余裕もありますおw」

ζ(^ー^*ζ「そうだったのですね。来てくださって、嬉しいです。」

( ^ω^)) コクッ

僕は、ミルクティーの最後の一口を飲み干した。

( ^ω^)「ご馳走様でしたお。そろそろ帰りますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「お見送りいたします。」

103名無しさん:2024/07/13(土) 02:43:17 ID:uUhGkg420
_____
___
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僕達は、青紫の花が咲くローズマリーとオルレアが並ぶクネクネとした道を抜け、ハナビシソウとかすみ草の広場を横目に進み、門の前までやって来た。

( ^ω^)「ありがとうございましたお。ドクオさんにもご馳走様でしたと、よろしくお伝えください。」

( ^ω^)「それでは、また。」

ζ(゚ー゚*ζ「さようなら。」

((( ^ω^)

僕は日が暮れて暗くなった帰り道へと、歩きだした。


°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」

∑(;^ω^) ビクッ!!

(;^ω^)「大丈夫ですかおっ?」

駆け寄って、デレさんに声をかけた。

ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ

(;^ω^)「いえ…。」

104名無しさん:2024/07/13(土) 02:44:13 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「…」

( ^ω^)「…デレさん?」

ζ(^ー^*ζ「お話を聞いたら…。私も街に行って、内藤さんの作ったカーテンを見てみたくなってしまいました。」

昼間のような明るさの庭を背に、そうデレさんは微笑んだ。

( ^ω^)「…。」

( ^ω^)「…僕の休日でよろしければ、お連れしますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「…」


ζ(゚ー゚*ζ「…しぃちゃんの兎は、ここを出たらもとの姿に戻ります。」


___________________________

105名無しさん:2024/07/13(土) 02:49:18 ID:uUhGkg420
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21:30

( ^ω^)「ご馳走様でしたお。とても美味しかったですお。」

(,,^Д^)「改めて、本日はお越し頂きありがとうございます。」

僕はデミグラスソース仕立てのポークカツレツを堪能し、タカラさんにお礼を言った。
タカラさんは、西洋料理店のオーナーシェフだ。

ここは居抜きの建物で、今までは昼のみの営業をしていた。
それをお子さんが大きくなった事を期にディナータイムの営業へと切り替え、その際に夜の印象に合わせるカーテンをオーダーしてくれたのだ。

(,,^Д^)「お伝えした通り、明るさが気になるのです。吹き抜け天井のライトからの光は程良いはずなのに、なんだか料理が美味しそうに見えなくて…。」

(,,^Д^)「今より少しでも明るければ違うのか。もとの白いカーテンに戻すべきなのかと…。」

( ^ω^)「そうでしたかお…。配慮が行き届かず、申し訳ありませんでした。」

僕は席を立ち、タカラさんに頭を下げた。

(,,^Д^)「いえ!カーテンは気に入っているので、出来れば替えたくないのですが、何か知恵をお貸し頂けたらと…。お願いします。」

( ^ω^)「分かりましたお。」

106名無しさん:2024/07/13(土) 02:50:54 ID:uUhGkg420
( ^ω^)(…。)

僕は店をゆっくりと見渡してから、天井を見上げた。

( ^ω^)(明るさや色温度がそこまで悪いという訳ではなさそうだけど…。夜に料理を美味しそうに見せるには、もう少し工夫が必要なのかもしれないお。)

タカラさんがオーナーになる以前のこの店は、昼間のみの営業をしていたそうだ。

( ^ω^)(…ん?)

卓上に点々と置かれている蝋燭。

( ^ω^)(あれなら…。)

( ^ω^)「…天井よりも、お料理に近い場所をもう少し明るくするのはどうでしょうか。」

( ^ω^)「例えば…こちらの蝋燭の器を、もっと光を拡散させるような硝子の器に変えるのはいかがでしょうか?」

( ^ω^)「僕が以前担当したお店で、良さそうな品を取り扱っていますお。一つ借りて試せないか、明日聞いてみますお。」

(*,,^Д^)「本当ですか!よろしくお願いします。」


____________________________

107名無しさん:2024/07/13(土) 02:53:12 ID:uUhGkg420
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16:40

((( ^ω^)

世の就業時間は、僕が働き始めた頃よりも1時間短くなった。
それは大人を早く家に帰して子どもの睡眠や生活のリズムを整えるための政策であるけれど、この街の場合は寄り道による各々の店の収入アップの効果もあるのだそうだ。

僕も例に倣い、今日は大通りで買い物をしてからドクオさんの屋敷へと向かう事にした。
いつもお茶やお菓子を頂いてばかりなので、お返しの気持ちとして土産を用意するためだ。

( ^ω^)(えーと…営業時間がC形態なら、あの店にするかお。)

飲食店の場合、営業時間がモーニングからブランチまで、ランチとティータイム、遅いティータイムからディナーまで等と区分がある。
観光寄りの店や、一般客向けの店もそれに近い営業形態を取っているため、知らない店に行く時などは一度営業時間を調べてから行かなくてはいけない。

_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。」

( ^ω^)「こんにちは。今日も少しだけ、寄らせて頂きますお。」

ζ(^ー^*ζ「はい。」

108名無しさん:2024/07/13(土) 02:55:09 ID:uUhGkg420
僕は最初に、ドクオさんがいつも居る大広間を訪ねた。

( ^ω^)「こんにちは。」

( ^ω^)「いつも美味しいお茶とお菓子をありがとうございますお。ドクオさんは甲殻類がお好きだとデレさんから聞きましたので、よろしければこちらをどうぞ。」

そう言って、僕はいくつかのパウチが入った紙袋を部屋の入口にあるテーブルに置いた。
海に隣接していない県で畜産の食材を扱う店の方が多いため、土産に魚介類を選ぶという選択肢がこの街にはあるのだ。

( ^ω^)「蟹のクリームスープですお。」

( ^ω^)「以前食べて美味しかったので、ドクオさんにもぜひと思いましたお。」

('A`)「…」

ドクオさんが、テーブルの紙袋をチラッと見た。

('A`)「大した事は、してない。」

( ^ω^)「そんな事はありませんお。こんなに素敵なお庭でお茶を頂けて、もっとお礼をした方が良いくらいですお。」

('A`)「…」

____________________________

109名無しさん:2024/07/13(土) 02:58:03 ID:uUhGkg420
_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「カーテンの進行は、どうでしょうか?」

デレさんがプリンを掬った手を止めて、僕に聞いた。

( ^ω^)「あとちょっとですお。メインの花をどれにしようかと悩んでいるところですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「でしたら、薔薇はいかがでしょうか?」

( ^ω^)「薔薇、ですかお…?」

僕は、辺りを見回した。

( ^ω^)「薔薇の木は、無いようですが…。」

ζ(^ー^*ζ「5月になったらすぐ咲きますよ。ぜひいらしてくださいね。ご案内しますから。」

(;^ω^)「…分かりましたお。」

どういう事なのか分からないけれど、デレさんが言うのだからきっと正しいのだろう。

110名無しさん:2024/07/13(土) 02:59:52 ID:uUhGkg420
(*^ω^))「今日のおやつも、とても美味しいですお。」

器に溢れそうなほど盛られた、たまごの風味も感じられる硬めかつしっとりなプリン。
頭には帽子のようにホイップクリームが乗っていて、器の底にもクリームとベリーが数種類敷かれている。

紅茶はウバ・ハイランズで、爽やかなサロメチール香がプリンの甘味を邪魔しない。

ζ(゚ー゚*ζ「生地にも、生クリームが入っているんです。」

(*^ω^))「それは豪華ですお。全部の層をすくって食べると、ケーキみたいですお。」

ζ(^ー^*ζ「幸せな気分になれますよね。」

(*^ω^))「はいですおー。」モグモグ

https://imgur.com/a/OlHmjnJ

.

111名無しさん:2024/07/13(土) 03:03:38 ID:uUhGkg420
話を聞きながら、僕は庭に生えている昼咲月見草に目をやった。

ζ(゚ー゚*ζ「昼咲月見草は、桃色月見草とも呼ばれています。」

ζ(^ー^*ζ「この花を見ていると、なんだかしぃちゃんを思い出しますよね。」

( ^ω^)「確かにピンク色で丸くふわっとしていて、しぃちゃんの髪型みたいですお。」

しぃちゃんはチョコレートのような髪色だけど、日が当たる部分はピンク色に見えるような髪色だった。

ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんはたまにここに来てくれるのですけれど、習い事が内藤さんの来る曜日と被っていて、やきもきしてるみたいです。」

(;^ω^)「え…?あの、しぃちゃんの時計は直って、もうここに用事はないのでは…?」

ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよね。言われてみれば…何故でしょう?」

ζ(^ー^*ζ「ここの門は、可愛い子に弱いのかもしれませんね。」クスクス

112名無しさん:2024/07/13(土) 03:04:38 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「しぃちゃんはここに来て、何をしているんですかお?」

ζ(^ー^*ζb「私と押し花を作ったり…。あっ、この間はお庭の花でブーケを作りました!」

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、何かと競争にしたがるんですよね。何故でしょう?」

(;^ω^)q「うーん…何故でしょうね…?」

113名無しさん:2024/07/13(土) 03:08:56 ID:uUhGkg420
_____
___
__

19:30

( ^ω^)「ふぅ…。」

庭がずっと昼間なせいか、時間も忘れてついデレさんと話し込んでしまった。
玄関を開けて、家の中に入る。

鞄を置いた僕は、下駄箱の上に置かれた白くて丸い花瓶の埃を取るために雑巾を探した。
もうずっと使っていない花瓶なので洗った方が良いと思い、途中で台所へと向かった。

( ^ω^)つ ススッ

( ^ω^)「よし、だお。」

デレさんから貰ったブーケを、花瓶に挿した。

(*^ω^)「丁度いい花瓶があって良かったお。」

それから僕は部屋着に着替えて、パソコンの前に座った。
二間続きの和室で、ダイニングキッチンからすぐの方の部屋にパソコンと本棚を置いている。

( ^ω^)「えっと…取り込んでない絵はまだあったかお?」

スケッチブックを捲った。
デレさんからもらった栞が挟んであるので、どこまで済んでいるのかが、すぐに分かる。

( ^ω^)「…。」


『しぃちゃんの兎は、ここを出たらもとの姿に戻ります。』


( ^ω^)(…お客さんが修理に持ってくる物達は、ドクオさんと話が出来ると言っていたお。)

( ^ω^)(人の姿でなくとも、デレさんが物の状態で外の様子を見る事は出来ないのだろうか…?)


だけどきっとあれは、断りの言葉だ。



僕は、デレさんから貰った栞をしばらく眺めていた。

114名無しさん:2024/07/13(土) 03:09:54 ID:uUhGkg420


【 第三話 ルピナスの街 】

終わり

.

115名無しさん:2024/07/13(土) 03:14:04 ID:uUhGkg420
【プリン】
(150mlカップ約2個分)
※プリン液がなみなみなので、カップは3個用意しても良いです。
カップはフッ素樹脂加工の物、またはガラスのカップを使用。

[カラメル]
てんさい糖 20g
水 大さじ1
バター 少量

①砂糖と水を鍋に入れて混ぜ、中火で加熱、動かさない。
③キッチンペーパーを使いプリンカップにバターを塗っておく。
②茶色っぽくなったらなべを揺すり、好みの色になったらヘラで鍋端に集めつつプリンカップへ。カラメルはカップ底に綺麗に伸ばさなくても良い。

116名無しさん:2024/07/13(土) 03:18:23 ID:uUhGkg420
[プリン液]
全卵2個
卵黄1個
てんさい糖37g
牛乳190g
生クリーム40g
バニラオイル10滴(またはエッセンス。あれば。)

①ボウルに卵を全て入れほぐし混ぜる。
②小鍋に牛乳と生クリーム、てんさい糖を入れフツフツとし始めるまで温め混ぜ、バニラオイルと共に卵液へ少しずつ加える。
③出来た液を網で濾す。濾した液をカップに入れていく。
④キッチンペーパーで表面の泡を取り除き、カップにアルミホイルを被せる。

⑤鍋に並べたカップの半分くらいの高さになるまで水を入れ、カップを取り出し水だけを沸騰させる。(水の量を調節する工程)

⑥沸騰した鍋底に布巾を敷き、カップを並べる。蓋をして中火で加熱。グラグラしだしたら弱火4分からのとろ火4分。(計8分。IH使用時の時間です。)

⑦予熱で5分くらい放置。取り出して表面が固まっていたら全て引き上げ、粗熱が取れるまでキッチンに放置。
表面が緩かったらまたグラグラ+弱火で少し加熱する。

⑧粗熱が取れたらよく冷えるまで冷蔵庫に入れる。完成!

*ポイント
鍋で作る場合、水からではなくお湯からカップを置く事で、すが出来にくい。
鍋だと硬めに出来るので、牛乳はお好みで10〜20g増やしても良い。

117名無しさん:2024/07/13(土) 08:19:27 ID:uUhGkg420
市販のラズベリージャムなら、明治屋がおすすめです。
是非一度スコーンとお試しください。

118名無しさん:2024/07/13(土) 11:46:53 ID:JqNjJpSI0
おつ
素晴らしい空気感
続きをどんどん読みたくなる!

119名無しさん:2024/07/13(土) 19:43:15 ID:6uKV1jww0
乙です

120名無しさん:2024/07/13(土) 22:55:27 ID:TOOVocQo0
待ってたぜ


121名無しさん:2024/07/16(火) 00:45:33 ID:eIMBzCgs0
乙 めっちゃ雰囲気好きだ
花は無理そうだから曲当てに賭けるぜ!!

122名無しさん:2024/07/19(金) 17:22:18 ID:yM7nOYYA0

このスレほんと良い香りする
ウサギゴケ初めて知った。すごくかわいい!
イラストのお菓子たちがとても美味しそう
美味しそうな絵を描けるのってすごい尊敬する

123 ◆vgPkwiFs66:2024/07/20(土) 01:29:13 ID:Af9zJ.yQ0
乙!!

124名無しさん:2024/08/19(月) 05:13:20 ID:eT9BLvak0
>>118
ありがとうございます!どんどん投下します!

>>119
ありがとうございます!

>>120
待っててくれてありがとう!

>>121
好きと言ってくれてありがとう!
ぜひ当ててくれー!

>>122
香りまで想像出来るの凄いです!お花屋さんみたいな匂いしますか?
同じようなのでクリオネもあるそうです。そっちも似てます。
ありがとうございます!焼き色を意識して描いてます〜


>>123
ありがとう!!



もう色々と天候が不安定で恐怖なので、絵は後で投下するという感じでガンガン進めて行こうと思います!

125名無しさん:2024/08/19(月) 05:17:55 ID:eT9BLvak0
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
前回の仕留め役になったであろうウサギゴケは、ミニチュアのように小さな植物です。
私もいつか、実物を見てみたいです。


【曲ヒント2】
その曲の発売日は2010年ですが、2014年に一度だけドラマのEDとして使われました。その歌手のその頃は、色々な曲をカヴァーしている事の方が有名だったかもしれません。

126名無しさん:2024/08/19(月) 05:18:48 ID:eT9BLvak0
从 ゚∀从「いらっしゃいませー。待ってたよ。」

( ^ω^)「よろしくお願いしますお。」







【 第四話 モッコウバラの祝福 】





.

127名無しさん:2024/08/19(月) 05:22:16 ID:eT9BLvak0
从 ^∀从「本当に掛け持ちで来てくれるなんて、嬉しいよ。」

( ^ω^)「これもご縁ですし、内装がお客さん側からどう見えるのかも体験してみたかったんですお。」

僕が選んだのは、薔薇のカーテンの半個室だ。

全体が白く、背景となる鳥籠状のカーテンの中に縫い付けられた立体の薔薇にだけ色がある。
三畳より少し広い程度のスペースだが、実際よりも広く感じる上に静かな空間で、僕は雑誌を手に取らずに瞑想や空想にでも浸ろうかと考えた。


从 ゚∀从「それで今日は、どんな風に切る?」

( ^ω^)「えっと…僕に似合うような髪型はありますかお?」

从 ゚∀从「シーンは仕事?デート?」

(;^ω^)「えっ…?」

僕は一瞬、デレさんの姿を思い出した。

从 ゚∀从「おっ?」

(;^ω^)「…ビジネスベースで、ちょっと今風にも挑戦してみたい…ですお。」

从*゚∀从「…へぇ…?ビジネスねぇ…?」

(;^ω^)「そうですお…。」

从*゚v从 ニムニム

ハインさんは僕の僅かな動揺を逃さず、かといって失礼になるからと不自然に上がる口角を隠そうと戦っているようだった。

从*゚v从「内藤さんの天パは、後ろに流すようにコンパクトにすると良さそうなんだよな。」

从*^∀从d「よしっ!パーマもかけてみよーぜ!」

Σ(;^ω^)「ええっ!?」

128名無しさん:2024/08/19(月) 05:23:05 ID:eT9BLvak0
_____
___
__

爪;'ー`)y‐「急に滞在時間を増やしちゃってすみませんね、ウチのが…。」

(;^ω^)「いいえ…。」

爪'ー`)y‐「初パーマは、疲れたでしょう?」

爪'ー`)y‐「今度仕事の帰りにでもお立ち寄りください。2、3通りワックスの付け方を教えますから。」

(;^ω^)「お願いしますお。」

129名無しさん:2024/08/19(月) 05:25:15 ID:eT9BLvak0
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13:30

昼食をとった僕は、再び街へと繰り出した。

( ^ω^) スッキリ

いつもより纏まりのある髪を見ると、今度は服が買いたくなってきた。

( ^ω^)(休日用の服を買うなんて、何年ぶりだお?)

( ^ω^)∂ ヒーフーミー…

(;^ω^)(5年ぶりだお…。)


以前モナーさんが担当したカジュアル紳士服の店に着いた僕は、店内をグルっと見て回った。
そこで僕は、店に入ってすぐのマネキンが着ていた物とは色違いの、紺色無地のポロシャツを試着する事にした。

(;^ω^)(男性物ってバリエーションが少ないおね…。質はともかく、学生の頃に着ていたような型とそんなに変わらないお。)

(;^ω^)(今はその頃より1サイズ違うけど…。)

行くたびに髪型が違うデレさんとは、大違いだ。

____________________________

130名無しさん:2024/08/19(月) 05:28:23 ID:eT9BLvak0
_____
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__

10:00

翌日、僕は屋敷へと向かった。
カーテンのメインを埋める最後のスケッチをするためだ。

((( ^ω^)(もう庭に薔薇が咲いているのだと言うけれど…。僕がまだ見ていない場所に案内されるのかお?)

今まで僕が見てきた場所は、庭の半分ほどだろうか?
屋敷とは別方向の道にも、まだまだ庭は続いていそうだ。

僕の家から屋敷までは5分もかからず着くため、門はすぐに見える。

( ^ω^)(あれ?門の前に車が…?)

入って右手の石畳のスペースに、茶色のバンが停まっている。
その車体には、ベージュ色の文字がプリントされている。

( ^ω^)(ショ…ボーンヌ…?)

Σ(;^ω^)「って、…えぇっ!?」


門の先には、溢れんばかりの薔薇が奥まで続いていた。

131名無しさん:2024/08/19(月) 05:30:54 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんっ!」

僕がポカンと口を開けて立ち止まっていると、デレさんが駆け寄るようにやって来た。
かと思うと、いつもの距離より3歩前の位置で立ち止まった。

ζ(゚、゚*ζ「…。」

(;^ω^)「こんにちは。」

デレさんは数秒間僕を眺め、満面の笑みになった。

ζ(^ー^*ζ「素敵ですっ!」

(*^ω^)「ありがとうございますお。」

(*^ω^)ゞ テレテレ

髪型か…、それとも新調した服装まで気付いてくれたのだろうか?
気恥ずかしいけれど、久しぶりにお洒落をして良かった。

( ^ω^)「デレさんも、今日は凄いですお。髪にお花が編み込まれていますお。」

今日のデレさんの髪型は、低めのサイドポニーだ。
耳上の大きなコーラルピンクの薔薇を始めとして、毛先まで小さな生花が編み込まれている。

ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。庭の花が綺麗だからと、ドクオさんが編み込んでくれました。」

(;^ω^)「ドクオさん、何でも出来て凄いですお…。」

132名無しさん:2024/08/19(月) 05:35:30 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんが言った通り、本当に薔薇が咲いていますお…。」

僕はいつもより更に遅い足取りで庭を歩いた。
ここに来ると見る場所が多くて、ついそうなってしまうのだ。

迷路のように辺りを隠す薔薇は白く、それでいて中央から淡いピンクがグラデーションに広がっている。
カップ状に咲いているものが多く、その可愛らしさに僕は見惚れた。

ζ(゚ー゚*ζ「この薔薇は、『フランシス バーネット』という品種です。海外の小説家の名前が由来ですよ。」

( ^ω^)「秘密の花園の作者ですかお?僕は社会人になってから読みましたお。」

ζ(゚、゚*ζ「大人になってから、ですか?」

児童書ではないのかと、デレさんは小首を傾げた。

( ^ω^)「僕が営業の仕事からデザイナーも兼任するようになった時に、上司が『Secret Garden』と名付けてくれて、それがきっかけでしたお。」

( ^ω^)「うちの会社は、デザイナーそれぞれにシリーズ名が付くんですお。僕は会社の通販用に自由に作って良いという時は、草花ばかりなので。」

ζ(^ー^*ζ「そうでしたか。」

僕の話を聞き終えたデレさんは、再び薔薇に目線を戻した。

ζ(゚ー゚*ζ「フランシス バーネットは、ロサ・オリエンティスという国内のブランドで、日本の気候でも育てやすい品種なのだそうです。」

133名無しさん:2024/08/19(月) 05:36:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんの髪に飾られている薔薇は、何という品種なのでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「『イーハトーブの香』です。こちらも日本で作出された品種ですよ。」

( ^ω^)「そうでしたかお。鮮やかながら可愛らしさもあるお花ですお。」

その薔薇は、デレさんのラテ色の髪に似合っている。

( ^ω^)(って、あれ…?)

道の先から、誰かがやって来る。

134名無しさん:2024/08/19(月) 05:42:17 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ん?ドクオのお客さんか?」

筋肉質で若い男性だ。
ドクオさんやデレさんよりも、少し年上のように見える。
男性はポケットの沢山付いたエプロンを身に着けていて、専用の台車で何かの苗を運んでいる。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん。こちらは、図書室のカーテンを作ってくれている内藤さんです。」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、こちらは庭師のショボンさんです。お庭の花は全てショボンさんが手入れしてくれているんですよ。」

ζ(^ー^*ζ「そして以前話した図書室の本は、ショボンさんの奥さんに頂いているんです。」

( ^ω^)「そうでしたかお。初めまして。」

(´^ω^`)「よろしくな。」

ショボンさんは、溌剌とした笑顔で挨拶してくれた。


( ^ω^)「とても素晴らしいお庭ですお。でも、ついこの間までは別の花が咲いていたのに、今日来てみたら薔薇がこんなに咲いていて…驚きましたお。」

(´・ω・`)「ここは特別な庭だからな。薔薇なら赤子みたいな苗でも植えれば3日くらいで見頃になるんだ。」

(;^ω^)「3日…!?」

135名無しさん:2024/08/19(月) 05:46:02 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「大体の花もそうさ。流石に樹木なんかは1ヶ月くらいかかるけどな。」

(;^ω^)「とんでもなくハイペースですお…。」

(;^ω^)「…あの、そういう話は僕なんかにしても良いのですかお?」

(´・ω・`)「ああ。デレの茶飲み友達なんだろ?最近ドクオが練習した茶菓子を子どもの土産にってくれるようになったから、知ってるんだ。」

(´・ω・`)「デレが屋敷に現れてから三年くらい経つけど、ここまでお客さんに懐いてるのは初めてだ。きっとあんたは良い人なんだろ?」

(;^ω^)ゞ「え?うーん…。どうでしょう。」

(´・ω・`)「ここへはドクオの客もたまにしか来ないし、特別な場所だからあまり外の人には話せないんだ。一人で作業してると、合間に無性に気分転換したくなる。」

(´^ω^`)「だから俺とも友達になってほしいってワケだ!あっはっは!」

(*^ω^)「そうでしたか。ぜひ。」

僕が続けてお客さんと遭遇したのは、珍しい事だったようだ。


( ^ω^)「あの…。デレさんが現れて三年くらいとは?それ以前はここに居なかったのですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「…。」

二人に聞くように顔を向けたが、デレさんから話そうとする素振りはなかった。

(´・ω・`)「そうだ。俺が丁度この庭を再生し終えた頃に、いきなり現れたんだ。」

136名無しさん:2024/08/19(月) 05:47:59 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「いきなり…ですか。」

ζ(^ー^*ζ

デレさんは普段と同じ表情で、ふんわりと微笑んだ。

(´・ω・`)「ドクオからは何も聞いてないけど、この屋敷の古くからの調度品なのかもしれないな。祖父の手入れした庭を真似たから、きっと懐かしくて出てきたんだろう。」

(´・ω・`)「間は空いてるけど、ドクオとは長い付き合いなんだ。」

ショボンさんは、近くにあった木製のベンチに寛ぐように腰掛けた。

ζ(゚ー゚*ζ「お茶をお持ちしますね。」

それを休憩と判断したデレさんは、屋敷へと向かっていった。
僕もショボンさんの隣に座って、話の続きを聞くことにした。

137名無しさん:2024/08/19(月) 05:54:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺は子供の頃から、庭師の祖父に連れられてここへ遊びに来ていたんだ。と言っても、ドクオはドクオのじいちゃんに引っ付いててちょっかいかけても反応悪くてさ。」

(´^ω^`)「今でも仕事と頼まれ物以外は、こっちが喋りどおしだけどな。ガハハ!」

( ^ω^)「…」

確かにドクオさんは、僕に対してもそんな感じだ。
かといって無愛想な訳ではなく、こちらから話す挨拶の延長のような短い雑談に、いつも一言は返事をくれる。


(´・ω・`)「俺が中学生の頃に祖父が亡くなった。本家の方で跡を継ぐ人もいなかったから、庭師は廃業したんだ。」

(´・ω・`)「その頃はそんな気全くなかったんだけど、俺の進路と就職先は祖父の仕事に近い花屋になった。ジワジワと良さがわかってきたんだな。」

(´・ω・`)「隣の県の花屋で働いてた時に客だったカミさんが同郷だったのが縁で知り合って、結婚した。それからすぐにコウノドリが来てな。」

(´・ω・`)「三つ子だって分かった時は、嬉しい気持ち以上に途方に暮れたよ。核家族だし金銭的にも育てられない。何より多胎児はカミさんが死んじまう確率がうんと上がるんだ。」

( ^ω^)「…」

(´・ω・`)「幸い全員無事に産まれてくれたし、カミさんのご両親の協力が得られる事になった。俺だけが職場のある街で暮らすことになったけれど、その頃この街は花屋があまりなかったし、職を変えるか俺だけ都会に出て出稼ぎするかなんて、買い物の帰り道で悩んでいた時さ。」

(´・ω・`)「懐かしいこの庭を見付けたんだ。」

138名無しさん:2024/08/19(月) 05:59:09 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「といっても、記憶にある庭とは別物だった。庭の中に入ってすぐのド真ん中に、立派な松が植えてあったからな。」

(;^ω^)「松…ですかお…?」

(´・ω・`)「ああ。ドクオのじいちゃんが屋敷の隅で育てていた盆栽を、全部庭に植えちまったらしい。横には昔と変わらない位置に洋風のアンティークファニチャーが置かれてた。」

(´・ω・`)「俺はドン引きしたね。祖父の造った庭とは、かけ離れてたから。屋敷に入ってみるとドクオだけ居たから、せめて入口だけでも整えさせてくれって頼んだ。」

(´・ω・`)「実家から水やりがあまりいらないような植物を持ってきて、職場の余りを貰って。こっちに来るついでにちまちまと植えていった。」

(´・ω・`)「そしたら、そこでようやくこの庭が変な事に気付いた。いつ来ても昼間だし、花の時期が終わりきっても、植えた花がまだ見頃なんだ。」

139名無しさん:2024/08/19(月) 06:02:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「思えば土が豊かといえど、夏場に週一しか来ない場所で水やりの事も気にせず植え続けた俺も変だった。特に俺がいじってた入口には乾きやすい小さめな花壇も多かったし、焼け石に水だ。」

(´・ω・`)「庭の奥にあるキッチンガーデンだけ使ってるドクオに聞いてみたら、ここは植物の成長速度も尋常じゃなかった。」

(´・ω・`)「葉物は翌日に収穫出来るし、ニンジンなんか3日で穫れるときたもんだ。連日来れる日に観察したら、花も大体そのくらいのペースで咲くようだった。」

(´・ω・`)「俺はショックだったね。今までやってきた事や、学んできた事は何だったんだと。」

( ^ω^)「そうですおね…。」

いつ自分の仕事がAIに取って代わられるのかと、ヒヤヒヤしている僕だ。
自分が無力だと感じる恐ろしさは分かる。

140名無しさん:2024/08/19(月) 06:04:39 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ムカついたから3日で育った薔薇を101本、カミさんにプレゼントしたんだ。そしたら食べられる品種だったから、ジャムやらクッキーにしてくれた。」

(´・ω・`)「忙しいのに無理すんなって言いたいのを我慢して食べたらさ、すっげぇ美味かった。」

(´・ω・`)「じいちゃんに付いて回ってた頃にかいだ香りだ。ちっこくて、時間がたっぷりあった頃の。」

(´・ω・`)「久しぶりに茶を飲んで、ゆっくり甘い物を食べた。そうしたらカミさんが隈作った顔で笑って、『お疲れ様』って言ってくれた。」


(´・ω・`)「離れたままじゃ駄目だって、思ったんだ。」

141名無しさん:2024/08/19(月) 06:09:08 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺はまず、街中の菓子屋に庭で育てた薔薇を売り込んだ。同級生のツテで一軒だけ受け入れてくれて、ロールケーキやゼリーなんかに取り入れてくれた。」

(´・ω・`)「それから、街の観光業や写真屋に署名を募って公共施設を花の名所にしたいと希望を出した。」


(´・ω・`)「市長がドクオと俺の祖父を知っていたからなのか、通してもらえた。予算は全く出なかったけどな。」

( ^ω^)「…凄いですお…。」

(´・ω・`)「景観を整えつつ、街の店に土産の材料として薔薇を売り込んで手広くしていったら、今の観光地が出来たってワケさ。」

(;^ω^)「…。」

(;^ω^)「…あの、出荷はショボンさんがお一人で全てなさっているんですかお?それに凄く野暮なんですけれど、この規模だと税金とか…。」

庭の規模は少なくとも、昔行った事のある30ヘクタールの植物園ほどはある。
それらを全てショボンさんだけで賄っているのだろうか?

(´・ω・`)「その辺りは大丈夫だ。確かにここの管理は俺だけだが、土地については、普段はここが小さな平屋と畑に見えるからな。その分しか取り立てられないのさ。」

( ^ω^)「そうでしたか…。」

( ^ω^)(…つまり、用事が無い場合はずっと前に見たこの土地の風景が見えている、という事だおね…。)

142名無しさん:2024/08/19(月) 06:14:34 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「それに、ここで育てた苗は外に植えても花付きが良いしかなり長持ちするんだ。肥料や水やりはそこそこ必要だけどな。」

(´・ω・`)「だから外にも畑を借りて、人を雇って育ててもらってる。街の土産品や施設に使われる分の花はそこで作っているんだ。」

(´・ω・`)「ここでは育てるのが難しい花や、通販用の苗なんかを庭の奥の畑で育てている。」

(´^ω^`)「街の店からの花の依頼は、食用や香料以外は案外少ないんだ。何せ街中が花で飾られてるから、自分の店まで飾ったら、埋もれて見えなくなっちまうからな!ガハハ!」

(´・ω・`)「そんで、この広い庭では花の組み合わせを試しつつ、子どもの頃に見た記憶を頼りに庭を戻していった。祖父の庭にそっくりになった頃に、デレが現れたワケだ。」

( ^ω^)「そうでしたか…。」

143名無しさん:2024/08/19(月) 06:19:47 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしました。」

デレさんが戻ってきて、僕達にプラスチック製のボトルを手渡してくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「レモンタイムです。」

(´・ω・`)「ありがとうな。」

そう言って、ショボンさんがボトルの半分の量まで一気にお茶を飲んだ。

ζ(^ー^*ζ「レモンタイムはコモンタイムとラージタイムの交配種です。爽やかで飲みやすいですよ。」

( ^ω^)「頂きますお。」

( ^ω^)) ゴクッ

温度はショボンさんが飲みやすいようにするためか、ややぬるめだ。

Σ( ^ω^)「本当に、レモンのような香りがしますお。」

ζ(^ー^*ζ「良い香りですよね。レモンタイムには、抗菌作用やリラックス効果もあるそうですよ。」

( ^ω^)「そうですかお。結構好きな味ですお。」

(´・ω・`)「苗いるか?鉢植えで雑に育てても勝手に増えるぞ。」

(´・ω・`)「喉にも良いんだ。俺も風邪引きそうな時は予防で飲んでる。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。お願いしますお。」

144名無しさん:2024/08/19(月) 06:25:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「…僕はてっきり、花での町興しは市の方で始めたものだと思っていましたお。」

( ^ω^)「仕事柄街の事はまあまあ知っているつもりでしたが、何も知らずに…お恥ずかしいですお。」

デレさんが現れたのが三年くらい前だという事は、ショボンさんはそれらを二十代でやってのけたのだ。
僕が想像も出来ないような苦労だったのだろう。

(´・ω・`)「いいや、ワザと表にウチの名前が出にくいようにしてるから、それはしょうがないんだ。」

(´・ω・`)「外の畑や通販も、市の名前を使わせてもらってる。やっぱり少人数でこの量を売り出すのはあり得ないから、人手のカモフラージュにな。」

(´・ω・`)「その代わり、有事の際にはここを全部畑にしたり、避難場所にするって約束を市と結んでるんだ。」

(´・ω・`)「まぁそれは、ドクオのじいちゃんの頃から生きてる約束らしいけどな。」

(;^ω^)「そのような取り決めがあったので…えっ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「『用事のある人には見える』、という事なのでしょうね。」

(;^ω^)「…。そうなる事がないと良いですお。」


それからショボンさんは、このような場所は全国的にいくつかあって、それぞれに同じような協定を結んでいるのだと市長から聞かされたと教えてくれた。
そして、本当にごく少数の人だけが知っている事なのだと。

145名無しさん:2024/08/19(月) 06:27:21 ID:eT9BLvak0
続きは夜に投下します

146名無しさん:2024/08/19(月) 22:33:48 ID:eT9BLvak0
投下します

147名無しさん:2024/08/19(月) 22:37:09 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「あの…。どうして僕なんかに、ここまで話をしてくれるのでしょうか…?」

( ^ω^)「僕は言ってしまえば、ドクオさんに一時的にご縁があるだけの業者ですお。」

納期内に収めるつもりとはいえ、頼まれてもいないのに庭をモデルにすると決めて、ここまで頻繁にお邪魔している事すら図々しくて申し訳ないと思っているのだ。

(´・ω・`)「…デレもだけど、ドクオがここまで人を持て成す事が今までなかったからだ。」

pζ(゚、゚*ζq「そうですよ!内藤さんが来てから、お菓子への気合いが全然違います!」

Σ(;^ω^)「えっ?僕はてっきり、寡黙で親切な方なのかと思っていましたお…。」

( ^ω^)、「もっと、お礼が出来ればいいのですが…。」

†+pζ(゚ワ゚*ζq「そうしたらきっとドクオさん、もっと張り切りますよ。いよいよアフタヌーンティーが登場してしまいますね…っ!」ワックワック!

(;^ω^)ノシ「いえ!お手間をこれ以上増やすわけにはいきませんし、僕もトシだから食べきれませんお。」

ζ(゚、゚*ζ「そうでした…。」 シュン…

148名無しさん:2024/08/19(月) 22:40:42 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんにいくつか教えてもらいましたが…。ショボンさんは、ドクオさんが何がお好きかを知りませんか?」

(´・ω・`)=3「俺もあんま分かんねーな。仕事と料理する以外は質素な生活してるからな。」

ショボンさんは、腕を組んでそう言った。

(´・ω・`)「ドクオに渡してる土地の賃料から庭師代を引いてもまとまった金はあるはずなんだが、ドクオはじいちゃんが使ってた物で済ませてるからな。服とか。」

(´・ω・`)「超じいちゃん子なんだよ、あいつ。」

( ^ω^)「なるほど…。」

僕はドクオさんの服がレトロな理由に、納得した。

( ^ω^)q「そうですかお。うーん、僕が出張に行った時に食べて美味しかった物でも取り寄せてみますお…。」

†+ζ(゚ワ゚*ζ パアァ

(;^ω^)(…。デレさんの分も、多めに用意するお。)

149名無しさん:2024/08/19(月) 22:53:23 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「話は戻るけど、ドクオがこんなに人に構うのは本当に珍しいんだ。デレは別としてな。」

(´・ω・`)「あいつには交友関係がほぼ無い。親とも子供の頃からそりが合ってないみたいだ。」

(´・ω・`)「ドクオには兄貴がいて、俺とも知り合いだ。だけど地主の跡取りとして、親に期待され過ぎてる。」

(´・ω・`)「…兄貴の方は、殆どかまってやれないまま大人になってしまったと、ずっとドクオの事を心配してる。」

そう言いながら、ショボンさんは向かいに咲くフランネルフラワーを眺めた。

(´・ω・`)「だから…もしあいつが何かに悩むような事があった時に、話だけでも聞いてくれる人が居たらと思ったんだ。俺は気質が違うから、役に立たねーだろうし。」

( ^ω^)「…。初対面の僕にそんな事を頼むのは、かえってドクオさんを危険に晒すのではないでしょうか?」

( ^ω^)「経済環境は?宗教は?」

( ^ω^)「他にも調べておく事は、沢山有るのではないでしょうか。」

僕がそう返すと、ショボンさんは真っ直ぐな目でこちらを見た。

(´・ω・`)「内藤さんは、そそのかしてここを悪用しようなんて気は起こさないだろう?」

( ^ω^)「…」

(;^ω^)「……負けましたお。僕がこの場所に来られる間で良ければ。たったの一ヶ月くらいですが…。」

(´^ω^`)「よろしくな。」

フラックスとスノーフレークが見守る中で、僕達は握手をした。

150名無しさん:2024/08/19(月) 22:57:20 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「さて、俺はそろそろ行くぜ。ごちそうさま。」

ショボンさんが、デレさんに空になったボトルを手渡した。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん、朝採れたお野菜をまとめてありますので、帰りに屋敷に寄ってくださいね。」

(´・ω・`)ノ「おー、いつもありがとな。」

ショボンさんはこちらに手を振り、またすぐに歩いていった。
見送ると、デレさんが僕の方に向き直った。


ζ(゚ー゚*ζ「それでは内藤さん、ご案内します。」

151名無しさん:2024/08/19(月) 22:59:29 ID:eT9BLvak0
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僕は最初に、庭に入ってすぐの場所をスケッチする事にした。
先程見て感動したこの薔薇をメインに、カーテンを作ろうと決めたからだ。

( ^ω^)φ「時間がかかりますから、デレさんは日陰かお屋敷で待っていてくださいお。」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。ドクオさんが軽食を用意しているので、途中で受け取りに行きますね。それまでは、後ろで見ていても良いでしょうか?」

( ^ω^)φ「良いですお。ありがとうございますお。」


僕は帽子を被り、持ってきたスケッチブックと水彩色鉛筆で下描きを始めた。

152名無しさん:2024/08/19(月) 23:05:29 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんは、どんなお花が好きですか?」

少しして、デレさんが後ろから尋ねた。

( ^ω^)φ「そうですね…。どちらかと言えば、薔薇なら淡い色合いの方が好きですお。」

( ^ω^)「僕は花には詳しい方だと思いますが、薔薇は種類が多過ぎて…あまり詳しくはないですお。なので、今日は色々と教えてくださいお。」

僕は花の影を描きながら、そう答える。

ζ(^ー^*ζ「分かりました。午後は淡い薔薇が咲いているところも案内しますね。」

( ^ω^)φ「お願いしますお。」

( ^ω^)?「ちなみに…この奥に咲いている薔薇は何でしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ハンスゲーネバインとジュード・ジ・オブスキュアですね。」

(*^ω^)「そうですか。そちらも柔らかい色合いで、可愛いですお。」

ζ(^ー^*ζ「奥に行くにつれて、濃い色も増えていく構成ですよ。」

(*^ω^)「それは楽しみですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと早いですけど、そろそろ昼食の準備をしに行きますね。キリが良くなったらいつものテーブルまで来てください。」

(;^ω^)φ「何から何まで、すみませんお…。」

屋敷まで向かうデレさんを見送ると、僕は筆洗器で筆に水を含ませて、色を塗った。

153名無しさん:2024/08/19(月) 23:06:24 ID:eT9BLvak0
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( ^ω^)つ キュッ

( ^ω^)フキフキ

テーブルのある小道の近くには、小さめな手洗い場がある。
僕は手を洗い、いつものハーブが茂る小道へと向かった。

( ^ω^)(おっ。今日は矢車菊が咲いているお。)

154名無しさん:2024/08/19(月) 23:08:27 ID:eT9BLvak0
(*^ω^)「ありがとうございますお。」

円状のいつもの場所に咲く花は、意外にも薔薇ではなかった。
普段は何種類かの花で構成されているが、今日はヒメウツギ一色だ。

デレさんは既に、軽食をテーブルに並べてくれていた。
クラッカーにチーズやミニトマトが乗ったカナッペに、ハムやキュウリのサンドイッチ。それからポットとカップ。

ζ(^ー^*ζ「どれでも、お好きな物からどうぞ。」

そう言われたので、僕は「頂きます」と言い、カナッペに手を伸ばした。

(*^ω^))「…!このトマト、凄く美味しいですお!」

噛みしめると酸味も旨味も濃くて、まるでトマトソースだ。
下に添えられたクリームチーズとバジルが、より風味を豊かにしている。

ζ(^ー^*ζ「ドワーフトマトのプリティーベルです。草丈がとても低いのに実付きが良くて、見ているだけでも楽しいトマトですよ。」

( ^ω^))「フルーツトマトとはまた違った魅力ですお。」

(*^ω^)「このカナッペに乗っている青い花も、可愛いですお。」

ζ(^ー^*ζ「ルリジサですね。お茶としても使えるハーブです。」

155名無しさん:2024/08/19(月) 23:11:27 ID:eT9BLvak0
出されたメニューの一巡が、そろそろ終わりそうだ。

( ^ω^)「おや?こちらは…?」

ζ(゚ー゚*ζ「そちらは、薔薇ジャムのサンドイッチです。奥の畑で育てている食用薔薇で作ったものですよ。」

( ^ω^)つ□「頂きますお。」

( ^ω^)) モグ…

(*^ω^))「意外と癖がないですお。美味しいですお。」

ほんのりフルーティーで、食べやすい味だ。

(*^ω^))「ジャムの色が桜色で可愛いですお。花びらは、美味しいぶどうの皮のようですおー。」

ζ(゚ワ゚*ζ「美味しいぶどうの皮…本当にそんな食感ですね!」

ζ(^ー^*ζ「紅茶のおかわりもどうぞ。こちらにも薔薇ジャムを入れて飲んでみてください。」

( ^ω^)Φ「では…。」クルクル

( ^ω^)) コクッ

(*^ω^)「うーん、これも良い…。」

紅茶の温度によって、今度は香りが広がった。

( ^ω^)) コクコク

(*^ω^)(おお…。)

カップを置いても、まだどこからか香りがする。
喉を通り越し、温かくなった胃やお腹の全てが、薔薇の香りになってしまった気さえする。

156名無しさん:2024/08/19(月) 23:13:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんがお好きな薔薇は、どれですかお?」

カーテンをかける図書室はデレさんの部屋でもあるので、要望を聞いておきたいと思ったのだ。

ζ(゚、゚*ζ「そうですね、今お庭で咲いているものですと…」

( ^ω^)(デレさんの事だから、きっと可愛らしい…)

ζ(゚ワ゚*ζ「ジェーン・オースチンとノスタルジーでしょうか。初めて見た時に、ゆで卵と…りんごの皮で作った薔薇みたいだとビックリしたんです!」

(;^ω^)?「ゆで卵にりんご…?すみません、ちょっと想像出来ないですお…。」

ζ(゚ー゚*ζ「では早速、見に行きましょうか。行けば内藤さんにも分かるはずですよ!」

(;^ω^)「はい。ご馳走様でしたお…。」

157名無しさん:2024/08/19(月) 23:15:34 ID:eT9BLvak0
目的の薔薇を見に行く間にも、デレさんは説明をしてくれる。

⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらのオベリスクに誘引されている薔薇は、プシュケです。」

( ^ω^)「アプリコット色でふわっとしてますお。空の色に映えますおー。」

今日は今まであまり通った事のない、広めの通路だ。
庭は木に囲まれている場所もあるが、ここからは空がよく見える。


⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらはザ フェアリーにドリスリッカーで…」

Σ(*^ω^)「これは…かっ…可愛いですおっ!!」

ζ(^ー^*ζ「花が小さい、ポリアンサ系です。」

(*^ω^)「ミニチュア感にキュンと来ると言いますか…。蕾の丸っこさがアクセントになっていて、とにかく可愛らしいですお!」

ζ(^ー^*ζ「内藤さんのお気に入りですね。」

(*^ω^)「はいですお!」

158名無しさん:2024/08/19(月) 23:21:41 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ワ゚*ζつ「そしてこちらが、ジェーン・オースチンとノスタルジーですっ!」

Σ(;^ω^)「おっ…!?確かに咲き始めの丸いのは、ゆで卵みたいですおっ!?」

ζ(^ー^*ζ「ですよね!」

ジェーン・オースチンは、中〜大輪で外側が白く、内側が黄色の薔薇だ。
咲き始めの丸い状態の物は内側の黄色が濃く、まるで半分に割ったゆで卵のようだ。

https://imgur.com/a/jEV4X35

159名無しさん:2024/08/19(月) 23:23:35 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「ノスタルジーは、僕は林檎を上から中央だけくり抜いた物のように見えましたお。」

ノスタルジーは外側が赤く、内側が白い。
物によっては飾り切りで薔薇の形を模した林檎に似たような色付き方をしている。

https://imgur.com/a/7iHgkdi


(;^ω^)「…実際に見ると、いい得て妙ですお。ただ、僕達が食いしん坊なだけかもしれませんが。」

ζ(^ー^*ζb「食べ物に見えるお花シリーズ、内藤さんも見付けたら教えてくださいねっ。」

( ^ω^))「分かりましたお。」

160名無しさん:2024/08/19(月) 23:27:39 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)φ「ではまた、ここで描くことにしますお。」

僕は近くにあったベンチに座った。

ζ(゚ー゚*ζ 「では私も…」

デレさんが、僕の隣に座ろうとした。

(;*^ω^)φ「あ、あのデレさん、本当に時間がかかりますから…。」

ζ(゚、゚*ζ?「大丈夫ですよ?あまり話しかけないように気を付けます。」

σ(;*>ω<)「ほらっ!僕は帽子を被っていますお。帽子や日傘などがなければ、お屋敷で待っていてくださいお。」

ζ(^ー^*ζ「分かりました。」

(;^ω^) ホッ


デレさんは、素直に屋敷の方へと向かっていった。

161名無しさん:2024/08/19(月) 23:29:22 ID:eT9BLvak0
(;^ω^)「…。」

ζ(゚ー゚*ζ「傘立てにあった物を、借りてきました。」

隣に座るデレさんは、深緑の傘をさしている。
傘は雨傘だが、70cmを越えるほど大きくて、僕の方にまで影を作ってくれている。

(;^ω^)「すみませんお…。」

ζ(^ー^*ζ「いえいえ。」

僕は気恥ずかしさを感じながらも、絵に集中する事にした。

( ^ω^)φ(カーテンに描く花は、これで埋まりそうだお。)





そういえば妻も、出会った頃は暗い色の傘をさしていた。


.

162名無しさん:2024/08/19(月) 23:30:37 ID:eT9BLvak0
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163名無しさん:2024/08/19(月) 23:34:32 ID:eT9BLvak0
細い黒縁の窓の先の新緑が、輝く季節。
大学二年生になった僕は、教室の端の席に座り講義が始まるのを待っていた。


从'ー'从「今日は午後から学校閉まるじゃん〜?どこか食べに行かない〜?」

川 ゚ -゚)b「最近出来たアルゼンチン料理の店はどうだ?」

ξ゚⊿゚)ξ、「あ、ごめん。今日は親が迎えに来るから私はまた今度で。」

从'ー'从「じゃ〜行くのも今度にしよっか〜。クー、実家からもらった蕎麦余りまくってるから食べに来ない?」

川 ゚ -゚)「薬味を買いにスーパーへ寄ろうか。」

斜め前の方の席から、楽しそうな声が聞こえる。

友人の誰一人としてこの授業が被らなかった僕とは違い、いつも三人でかたまっている人達だ。

( ^ω^)(今日は13時までは学校が開いてるはずだから、少しだけスケッチをしてから帰るお。)

164名無しさん:2024/08/19(月) 23:37:22 ID:eT9BLvak0
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講義が終わりノートを取るのに少し手間取った僕は、人がまばらになった教室で片付けをしていた。

( ^ω^)(…お?)

先程の三人組のうちの一人が、窓から何かを眺めている。

( ^ω^)(あっちは…)


((( ^ω^)


( ^ω^)「…あの、何を見ているんだお?」

Σξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」

(;^ω^)「話したこともない奴が、急にごめんお…。何か気になっちゃって。」

ξ゚⊿゚)ξρ「あ…。あのね、木が沢山あって分かりにくいけど、この下に…森の方に向かって延びる細い道があるじゃない?そこに、扉みたいな物が見えるなって。」

ξ゚⊿゚)ξσ「その先に…ほら、花みたいな物も…見えない…?」

( ^ω^)「ああ。そこには、小さな庭があるんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「庭…?全然気付かなかった。」

少し驚いた表情をした彼女が小首を傾げると、ふわふわの髪が揺れた。

( ^ω^)「棟はここが一番奥だし、その先に何も無いって思うおね。僕もたまたま…」

( ^ω^)「…。」

( ^ω^)「あっ…!」

165名無しさん:2024/08/19(月) 23:38:43 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)つ「見に行こうお!」

そう言って、僕は彼女の手を取った。
教室を抜けて、階段を降りて、早く早く。

棟の外へ出る手前に来て、彼女が僕に声をかけた。

ξ;−⊿−)ξつ「ごめん、ちょっと、待って。」ゼェ…ハァ…

(;^ω^)「あ…」

息を切らした彼女は、トートバッグから黒い折り畳み傘を取り出した。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。もっとゆっくりで良い?」

(;^ω^)σ「こちらこそごめんお…。こっちだお。」

166名無しさん:2024/08/19(月) 23:39:49 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)テクテク

ξ゚⊿゚)ξ テクテク

( ^ω^)「…。」

(;|||^ω^)(僕は、なんて事を…。)

初めて声をかけた女の子の同意も得ずに、手を引いて連れ出した。
小さくて柔らかい手の温かさを思い出して、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

横並びに歩く、日傘をさした彼女の表情を見るのが怖い。

だけどそれを見たらきっと、『本当だ。』と。

そう、彼女も驚くはずだ。

167名無しさん:2024/08/19(月) 23:41:49 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)つ| キィ…

打掛錠を外して、小さな木の扉を開けると、人一人通るのがやっとなハーブの茂る道。
それを数歩で抜ければ、背丈の低い草花が僕達を出迎えてくれた。

ξ゚⊿゚)ξ「…すごい。」

地植えのフラックスとスノーフレークから始まり、桃色タンポポやカラフルなキンギョソウが奥へと広がっている。
彼女は立ち止まってそれらを見ているけれど、僕が案内したいのは、もっと先だ。

( ^ω^)「こっちだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「え…?」

僕は、どんどん進んでいった。

168名無しさん:2024/08/19(月) 23:42:57 ID:eT9BLvak0
(*^ω^)つ「ほらっ、君の花だお!」

(*^ω^)つ「モッコウバラだお!」

庭の中央にある、アイアン製の仕切り壁。
それを覆い尽くしきる勢いでモッコウバラは溢れ、下へと流れるように咲いている。

(*^ω^)「きっと今が一番見頃だおー。」

ξ;゚⊿゚)ξ「…?」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうして、私の花なの…?」

Σ(;^ω^)「えっ!??」

169名無しさん:2024/08/19(月) 23:44:17 ID:eT9BLvak0
(;^ω^)「…黄色いモッコウバラは、花びら1枚で見るとクリーム色なんだお。」

(;*^ω^)「今見比べてみてもほら、君の髪の色と似てるというよりはおんなじで…」

ξ;゚⊿゚)ξ

(;*^ω^)「だから…?えっと…。」

物凄い発見をした気になっていた僕は、だんだん恥ずかしくなってきた。
僕にとっては驚きでも、誰もが花や色味に興味があるわけではない。

それに、モッコウバラは民家でもよく見かける花だ。
見慣れたもので例えられて、彼女はがっかりしたのかもしれない。

(;* ω )「あ…う……。」

170名無しさん:2024/08/19(月) 23:46:15 ID:eT9BLvak0
気不味い沈黙を破ったのは、彼女だった。

ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君、だよね。」

(;^ω^))「そうだお。」

ツリ目がちな瞼に、ビー玉のような丸い瞳がこちらを見つめている。
モッコウバラの奥で咲いている、藤と同じ色の瞳だ。


ξ゚⊿゚)ξ「席が近い時にノートの名前を見て、なんとなく覚えていたの。」

ξ゚⊿゚)ξ「たまに、外でしゃがんで何かしてるよね…?」

(;^ω^)「あ…校内の花のスケッチをしているんだお。猫でもかまっているのかと、たまに声をかけられる事があるお…。」

芸術学部の無いこの大学では、そんな習慣があるのは僕くらいだ。

(;^ω^)「趣味なんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。」

171名無しさん:2024/08/19(月) 23:48:09 ID:eT9BLvak0
ξ゚⊿゚)ξ「ここって、何なんだろう?」

( ^ω^)「理事長とか偉い人のお散歩コースらしいお。ここで描いてる時に、造園のおっちゃんが教えてくれたお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「…勝手に入ってもいいの…?」

( ^ω^)「確認したらパンフレットにも載ってたお。だけどほら、みんな興味があるのは…」

ξ゚⊿゚)ξ「あぁ…。」

学生はみな、大学の外の世界に夢中だ。
毎月のように新しいお店が出来るので、友達と連れ立って行くのが流行っている。

( ^ω^)「流石に不審者だと思われたくないから、最近はいつもここで描いてるんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか…。」


彼女は、モッコウバラを眺めながら呟いた。


ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、内藤君…。」

ξ゚⊿゚)ξ「…また来ても、良い?」

172名無しさん:2024/08/19(月) 23:50:31 ID:eT9BLvak0
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それから彼女とは、講義の前に軽く話すようになった。
大抵が今日はスケッチをしに行くのかなどの、短いものだ。
僕が行くと言えば、都合が良ければ彼女もやって来る。

ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君も、帽子は被った方が良いよ。熱持って頭痛くなっちゃうから。」

(;^ω^)φ「えぇ…?ちょっとおっさんぽくて嫌だけど…。分かったお。」

津出さんは陽当りの邪魔にならないようにと、僕の斜め後ろに立っている。

( ^ω^)φ「津出さんはいつも日傘だお。やっぱり女の子はお肌に気を使うおね。」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん。私の場合は、あまり直射日光に当たらないようにしないといけないの。」

( ^ω^)φ「え?」

173名無しさん:2024/08/19(月) 23:53:40 ID:eT9BLvak0
松葉菊をスケッチしていた僕は、見上げるように津出さんを見た。

( ^ω^)「…。海外の人が外でサングラスをかけるのは、色素の薄い目が光に弱いからだって聞いたことがあるお。」

( ^ω^)「津出さんは、ハーフだったのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。両親は日本人よ。家系もね。」

( ^ω^)「…じゃあ、津出さんは…アルビノなのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。髪や肌に色味もあるし、その中では軽度と言われているけど…。」

ξ゚ー゚)ξ、「私は、加えて皮膚が少し薄いの。だから目が開きやすくて眩しいからよけいに、ね…。」

そう言って津出さんは、日傘を少し揺らした。

ξ゚⊿゚)ξ「…日陰になってない?」

( ^ω^)φ「大丈夫だお。」

174名無しさん:2024/08/19(月) 23:55:05 ID:eT9BLvak0
σ( ^ω^)「日差しには強いけど、実は僕もこれ、地毛だお。」

僕の髪はほんのり茶色寄りで、そこからごく僅かな色差で細かくメッシュが入っているような色だ。

( ^ω^)「僕は三人兄弟の末っ子だから、色素が上二人に取られすぎたとか、家族から冗談を言われるんだお。」

( ^ω^)「僕達、頭髪検査が面倒臭かった仲間だお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…そうね。」

ξ゚ー゚)ξ「お花を見るのが好きなのも、一緒。」

( ^ω^)「ホントだおw」

175名無しさん:2024/08/19(月) 23:56:37 ID:eT9BLvak0
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やけに長く咲き続けたモッコウバラが散る頃にはもう、僕達は友人になっていた。

( ^ω^)φ「津出さんは、地元の人なのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。内藤君は?」

( ^ω^)「僕は遠くから引っ越してきて、アパートから通ってるお。」

( ^ω^)「みんなここの学生だから、仲良くしてもらってるお。」

ξ゚ー゚)ξ「楽しそうね。」

176名無しさん:2024/08/19(月) 23:58:18 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)φ「あーあ、来年からは就活かお…。」

(;^ω^)φ「僕、口が回らなくて『だよ』が『だお』になるし、語尾におって付けるのが癖付いちゃったから、ちゃんと採用してもらえるか不安でいっぱいだお…。」

ξ゚⊿゚)ξ「…親しみやすいと思うけど。」

(;^ω^)「ありがとだお。」

( ^ω^)「津出さんは、どんな分野の仕事を目指すんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「…家業を手伝う予定よ。」

( ^ω^)「そうなのかお。就職先がもう決まっていて、羨ましいおー。」

ξ゚⊿゚)ξ「…。」

177名無しさん:2024/08/20(火) 00:00:56 ID:GGnScXIU0
津出さんは、ぽつりぽつりと話し始めた。


ξ゚⊿゚)ξ「…私の家の近くにね、幼稚園があるの。いつも楽しそうな声が聞こえてくるわ。」

ξ゚⊿゚)ξ「小学生の頃は別の病気もあって、病院や家で過ごす事が多かったの。退屈だったけれど…、その声を聞くのは楽しかった。」

ξ゚⊿゚)ξ「目を閉じながら想像するの…。その子達と同じ年になって、日傘もささずに半袖で駆け回る自分を。」

178名無しさん:2024/08/20(火) 00:03:13 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「病気が良くなって中学に通うようになった頃に、その幼稚園から帰ってくる子供とすれ違ったの。」

ξ゚ー゚)ξ「落ち葉をニコニコしながら見せてくれたわ。紅葉した葉が、面白かったのでしょうね。」

ξ゚⊿゚)ξ「掃除の時間に友達とうんざりしながら掃いていた葉っぱと同じはずなのに、その葉はとても鮮やかで濃くて、綺麗だったの。」

ξ゚⊿゚)ξ「私…心の中ではつい、卑屈な事を考えてしまいがちで。だけどその時は、とても素敵な言葉ですぐ返事が出来たわ。」

ξ*゚⊿゚)ξ「まるで、その子の魔法にかかったみたいね。」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうしたらね、その子もとっても喜んでくれた!」

ξ゚ー゚)ξ「…思えば、そこの幼稚園の子にはいつも励まされていたわ。だから将来、その幼稚園の先生になれたらなって、憧れるようになった。」

179名無しさん:2024/08/20(火) 00:04:52 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「…だけど、言えなかった。向いてる身体ではないし、主治医にも私達家族への励ましで、『実家で働けるなら安心だ』と言われていたから。」

ξ゚⊿゚)ξ「これ以上迷惑をかけたくないし、高校を出たら働くつもりだった。だけど両親は、『もう少し学生でいたら?』って。」

ξ゚−゚)ξ「…大学なんて来ちゃって、良かったのかな…。」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「何も知らずに言って、ごめんお。」

Σξ;゚⊿゚)ξ「…あ、愚痴っぽくなっちゃってごめんなさい。」

( ^ω^)「その幼稚園は、今もあるのかお?」

ξ゚ー゚)ξ「ええ。」

180名無しさん:2024/08/20(火) 00:06:47 ID:GGnScXIU0
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__

( ^ω^)「……」テクテク


津出さんと別れてアパートに帰る中、僕は考える。
彼女は幼い頃から、どれだけの制限があったのだろう。

黒い傘に加えて、彼女はいつも黒い服を着ている。
話を聞いてしまった後では、まるで彼女の夢への喪服だ。

( ^ω^)「…」

通りかかった小さな店のショーウインドーに映る僕は、僕が思っている以上に猫背で格好悪い。

( ^ω^)「…お?」

店の奥から店主らしき人が出てきて、ショーウインドーのディスプレイを変えていた。

( ^ω^)「…。」

181名無しさん:2024/08/20(火) 00:08:33 ID:GGnScXIU0
カララン

( ^ω^)つ|「あの、その傘を見せて頂けますかお?」

気付けば僕はその店の中に入って、声をかけていた。

(;゚∋゚)「え?ああ…。」

50代くらいのその人は困ったような顔のまま、傘をこちらに手渡してくれた。

( ^ω^)「…。」

不思議な形の日傘だった。
緩いS字のような、積分記号のような。上は丸っこいけれど端がほんの少しはねている骨組みだ。

( ^ω^)「外に出て、試してみても良いでしょうか?」

(;゚∋゚)「えっ!?」

182名無しさん:2024/08/20(火) 00:10:28 ID:GGnScXIU0
从´ヮ`从トつ「どうぞ。一緒に行きましょう。」トコトコ

店の奥から、男性と同じような年の女性が穏やかにやって来た。
僕は促されて、店の外へと出て傘をさす。

( ^ω^)つ

( ^ω^)つ「凄い…。びっくりするほど涼しいですお。」

アイボリー色の表面に対して、内側は黒っぽい色だ。
無地ながら特徴的なカーブがどことなくフェミニンで、深さがある。
そのため涼しいのだろう。

从´ヮ`从ト「しっかりしているでしょう?生地自体がUV素材なの。だから、長く使えるわ。」

从´ヮ`从ト「取引先の人が余った生地をくれたのよ。うちは鞄屋だけど、主人が色々作るのが得意でね。」

183名無しさん:2024/08/20(火) 00:12:24 ID:GGnScXIU0
カララン

( ^ω^)「あの、こちらの品を売っては頂けないでしょうか?」

店内に戻った僕は、二人にそう申し出た。

(;゚∋゚)ヾ「えっ…?うぅーん…。」

(;゚∋゚)ヾ「銀婚式の記念のつもりだったんだけどなぁ…。」

(;゚∋゚)) チラッ

从´ヮ`从ト「良いじゃないですか。ずっと展示するつもりだったんだから、私も使えないですし。」

店頭ディスプレイはボストンバッグやトランクなど、旅行を意識したような品揃えで、日傘はそこに飾りとして加えるつもりだったのだろう。

(;−∋−)「まぁ…いいか。」

(*^ω^)「!ありがとうございますおっ!!」

184名無しさん:2024/08/20(火) 00:13:52 ID:GGnScXIU0
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ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、今日は…」

( ^ω^)「あ、ごめんお。今日からバイトがあるんだお。夏くらいまでスケッチには行かないんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ、「そう…。」

僕は店に日傘を取り置きしてもらい、短期のバイトをする事にした。
この街では新店舗の内装の手伝いなどで、期間限定の求人が割と出ているのだ。

( ^ω^)(バイトは初めてだけど、頑張るお!)

( ^ω^)〜♪

185名無しさん:2024/08/20(火) 00:14:47 ID:GGnScXIU0
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(ヽ‘ω`) ゲソ…

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫…?」

(ヽ‘ω`)「だいじょぶだお…」

ξ;゚⊿゚)ξ「…。」

壁紙を貼ったり、無垢床に色付きのオイルを塗ったり。
慣れない体勢や緊張からか、労働時間の割に僕はやつれた。

186名無しさん:2024/08/20(火) 00:15:47 ID:GGnScXIU0
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( ^ω^)「津出さん。今日の授業が終わったら、庭に来てくれるかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」

しばらくその場所に行っていなかった僕からの誘いに、津出さんは少し驚いていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、行くわ。」

187名無しさん:2024/08/20(火) 00:17:08 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「あれ…?今日は、スケッチブックを持っていないのね。」

( ^ω^)「今日は、スケッチをしに来たんじゃないんだお。」

( ^ω^)「津出さんにこれを渡したくて…」

そう言って僕は、細長い包みを渡した。

ξ゚⊿゚)ξ「え…?」

( ^ω^)「開けてみてお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…?」

津出さんは、紙の包みをぺりぺりと丁寧に剥がしていく。

ξ゚⊿゚)ξ「…日傘…?」

( ^ω^)「兼用傘だお。さしてみてお。」

188名無しさん:2024/08/20(火) 00:18:45 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξつ「…」

ξ゚⊿゚)ξつ「…これ、とても良いわ。」

ξ゚⊿゚)ξつ「持ち運びやすいからいつも折り畳みを使っていたけれど、涼しさが全然違う。」

ξ゚⊿゚)ξ「だけど…どうして…?」

( ^ω^)「えっ?」

(;^ω^)


僕はここでようやく、前回と同じ失敗をしている事に気付いた。
この日傘をさしてモッコウバラの前で笑う津出さんの姿が浮かんで、それだけで行動していたのだから。


(;^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「…私が使っちゃっても良いの?」

(;^ω^))「うん。津出さんのだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…ありがとう。」

189名無しさん:2024/08/20(火) 00:20:46 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「私、重い話しちゃったから…避けられてるのかと思った。」

(;^ω^))「それはないお!」

( ^ω^)「…何も言えなくて、ごめんお。」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん、…ありがとう。」

ξ゚⊿゚)ξ「…内藤君って、不思議な人だよね。」

津出さんは馬鹿にする訳でもなく、本当に不思議だという表情で僕を見た。

(;^ω^)「いつもはこんな感じじゃないんだお。だけどなんとなく、僕が面白いと思ったものを津出さんなら同じように思ってくれるんじゃないかって…本当になんとなくだお。」


窓の下を眺めていたその姿を見た日から、僕は津出さんに親近感を覚えていたのだろう。
それまで一度も学生がこの庭に来た事は、なかったから。

190名無しさん:2024/08/20(火) 00:22:23 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「僕は学校に来て花を描いて帰るだけの、ただの陰キャ学生だお。友達と出かけたりはするけど、サークルにも入ってないし…」

( ^ω^)「自分から女の子に声をかけたのだって、津出さんくらいで…」

(;*^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「…サークル?」

(;^ω^)「…お?」

ξ゚⊿゚)ξ「…そっか…!」

ξ゚⊿゚)ξ「今まで授業だけで精一杯だったけど、大学って色々な活動をしている人がいるものね。」

ξ゚ー゚)ξ「お仕事じゃなくて短時間やたまになら…私にも何か出来るかも。読み聞かせのボランティアとか…。」

(*^ω^)「おっ!それが良いお!人手が必要なら、僕も手伝うお。」

ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。」

191名無しさん:2024/08/20(火) 00:23:25 ID:GGnScXIU0
ポツ…ポツ…

( ^ω^)「ん…?」

僕が上を見た途端、サァッと横殴りの細い雨が降ってきた。

(;^ω^)「わっ!隣の棟に行くお!」

ξ゚⊿゚)ξつ「内藤君、これに入って。」

(;^ω^)「ありがとうだお。」

192名無しさん:2024/08/20(火) 00:25:46 ID:GGnScXIU0
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい、早速雨に濡らしてしまったわ。」

自分の傘もあったのにと、津出さんは畳まれた黒い傘を見るように俯いた。

( ^ω^)「頑丈だから、大丈夫だお。沢山使ってお。」

棟の入口には広い屋根があるので、僕達は雨が止むまでここに留まる事にした。

( ^ω^)「天気雨だから、すぐ止むお。」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。」

用事のない人は帰っている時間だし、外でサークル活動をしていた人達は他の棟に避難したようだ。


雨の音しか聴こえない。


まるで、僕達以外は世界に誰もいないみたいで、心細くなった。


( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ










僕達は、どちらからともなく手を繋いだ。



.

193名無しさん:2024/08/20(火) 00:26:21 ID:GGnScXIU0
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194名無しさん:2024/08/20(火) 00:27:27 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様でした。」

( ^ω^)

気付けば僕は、いつもの白いテーブルセットに座っていた。
目の前にはブルーベリーとラズベリーが乗ったクリームケーキが1ホールと、紅茶が置かれている。

(;^ω^)「凄いですお…。お昼も頂いてしまったのに、申し訳ないですお。」

ζ(^ー^*ζ「クリームには、水切りヨーグルトが少し入っているそうですよ。」

そう言いながら、デレさんがケーキを切り分けてくれた。

(;^ω^)「では、頂きますお。」

195名無しさん:2024/08/20(火) 00:30:02 ID:GGnScXIU0
( ^ω^))「…!」モグッ

(*^ω^))「生クリームが使われているケーキなのに、後味が軽いですお。」モグモグ

水切りヨーグルトが、クリームのコクを穏やかにしているのかもしれない。

(*^ω^))「スポンジの間に挟まれているのがバナナなのも、良いですお。」

ζ(^ー^*ζ「甘さ控え目な分、バナナが際立ちますよね。」

それに加えて、ブルーベリーやラズベリーの瑞々しさ。
お店の物とはまた違う、素朴で優しい味わいのケーキだ。

ζ(゚ー゚*ζ「バナナはスーパーでショボンさんが買ってきてくれた物ですが、ベリーは朝採れたものです。」

なんでもドクオさんは、庭で手に入らない物はショボンさんに買ってきてもらうのだとか。

( ^ω^)「そうですかお。知り合いにブルーベリー農家の人がいますが、そこよりも実がなるのがだいぶ早いですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですよね。プリンの時に使っていたのも今期の物ですし…。いっぱい採れるので、終わり頃には冷凍したりもしますよ。」

ζ(゚、゚*;ζ「ただ、ブルーベリーは冬の終り頃にストックがなくなってしまうので、今の時期を心待ちにして過ごします。」

(*^ω^)「とっても美味しいから、そうなってしまうのも分かりますお。」

196名無しさん:2024/08/20(火) 00:31:59 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「本日の紅茶は、ただにしきです。国産の紅茶で、明治時代に外国から持ち帰って改良された品種なのだそうです。」

( ^ω^)「お?キラキラしてますおー。」

ζ(゚ワ゚*ζ「新芽の産毛ですね。美味しい証拠なのだとか。」

( ^ω^))「では。」コクッ

(*^ω^)「おお…。」

(*^ω^)「和紅茶は遠出の土産などでたまに買ったりもしますが、それよりも味がしっかりしているような気がしますお。」

飲み進めるとなんだか目も冴える気がしたので、カフェインも他の物より多いのかもしれない。

ζ(^ー^*ζ「そうですね。なので、ミルクも合います。」

(*^ω^))「おっ、そうなんですかおー。」コクッ

197名無しさん:2024/08/20(火) 00:34:19 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。酸味のあるハーブティーなのですが、マロウブルーもいかがでしょうか?」

( ^ω^)「マロウブルー…、ですか?飲んだ事はないですが、頂きますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「ウスベニアオイと言った方が分かりやすいでしょうか?喉や胃の不調にも効くそうですよ。」

( ^ω^)「ほぅ…。」

ζ(゚ー゚*ζ ))

デレさんが僕の近くまでやって来て、乾燥した青紫色の花が入ったガラスのティーポットを、テーブルの上に置いた。

そこに湯を注ぐと、たちまち青い色へと変わっていく。
それからガラスのカップにそれを注ぎ、こちらに差し出した。

(*^ω^)「綺麗ですお。ちょっと緑っぽいブルーですおー。」

ζ(゚ー゚*ζ「…良いですか?カップの中をよく見ていてくださいね。」

( ^ω^)「?はい。」

198名無しさん:2024/08/20(火) 00:36:07 ID:GGnScXIU0
僕がそう言うと、デレさんは小さなボトルから、レモン汁を数滴垂らした。

Σ(;^ω^)「わ!ピンク色に変わりましたおっ!」

ζ(゚ワ゚*ζ「マロウブルーに含まれるアントシアニンは、アルカリ性は青、酸性になると赤になる性質があります。」

(;^ω^)「なるほど。…頂いても良いですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ!」

(;^ω^)) コクッ

(;^ω^)「ちょっと酸っぱいですお。」

ζ(^ー^*ζ「ふふっ。」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

ζ(゚、゚*ζ「あのぅ…、面白いのでもう一度やっても良いですか?」

( ^ω^)「良いですおw」

199名無しさん:2024/08/20(火) 00:38:21 ID:GGnScXIU0
ζ(゚ー゚*ζ「マロウブルーは、草木染めにも使えるんです。重曹でアルカリ性の液にして布を染めると、ブルーグレーのような色に布が染まりますよ。」


デレさんの目は、不思議な色をしている。

まるで鏡のように、デレさんが見た色がそのまま目に映るような。
普段は庭の緑や空の青、それから花の色が混じる色だ。


ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ…。」

今度は、マロウブルーの入ったティーポット自体にレモン汁を入れるようだ。

ζ(^ー^*ζ「魔法使いの気分になれますよね。」

( ^ω^)「…。」


ブルーからピンクに変わるその瞳を、僕は眺めていた。

200名無しさん:2024/08/20(火) 00:40:24 ID:GGnScXIU0
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( ^ω^)「あれ、これは…?」

帰る途中、車輪梅の小道を抜けた先の一人用の椅子に、リースが立て掛けられていた。
今朝は見なかった物だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんの奥さんが作られた物です。帰り際にショボンさんが飾っていってくれました。」

ζ(^ー^*ζ「花径が小さくて、沢山集まっていて可愛いですよね。これは…」

( ^ω^)「…知っていますお。」

ドライフラワーで作られたリースの花は、乾燥の影響か濃い黄色だ。

だけど、葉の形で僕には分かる。


( ^ω^)「モッコウバラですお。」

201名無しさん:2024/08/20(火) 00:42:32 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「今日はありがとうございました。おかげで、良いものが出来そうですお。」

僕は庭から出ていつものように振り返り、挨拶をした。

ζ(^ー^*ζ「良かったです。よろしくお願いします。」

( ^ω^)「それでは、失礼しますお。」

((( ^ω^)


°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」

∑(;^ω^) ビクッ!!

(;^ω^)「大丈夫ですかおっ?」タタッ

ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ

(;^ω^)「いえ…。」

デレさんは、僕の帰り際によくくしゃみをする。

(;^ω^)「…あの、もしかして外の空気が合わないとか…?見送りはギリギリじゃなくて、もう少し内側でも良いですお。」

ζ(゚ー゚*;ζ「あ…違います。大丈夫です。」

( ^ω^)、「でも…」

202名無しさん:2024/08/20(火) 00:44:47 ID:GGnScXIU0
ζ(゚、゚*ζ「…あの。次はいつ、いらっしゃいますか?」

( ^ω^)「次ですかお?納品の日になりますお。」

ζ(゚、゚*ζ「そうですか…。」

ζ(゚、゚*ζ「…ショボンさんが、今日はクレマチス・テッセンを植えてくれたんです。とても綺麗に咲くと思うので、またスケッチに来ませんか…?」

(;^ω^)「え…?あの…?」

『製作に入るので』と返そうと思ったけれど、なんだか悲しそうな顔のデレさんを見ると、そうは返せなかった。
デレさんの奥で、ニコチアナが手招きをするように揺れている。

(;^ω^)「…分かりましたお。お邪魔しますお。」

((ζ(゚ー゚*ζ パッ

ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。お待ちしております。」

203名無しさん:2024/08/20(火) 00:47:11 ID:GGnScXIU0
( ^ω^)「…」テクテク

デレさんは、別れ際はいつもあんな感じだ。
だから僕は、後ろ髪を引かれるような気分で家に帰らなくてはいけない。

以前言っていたように、外に出て街を見てみたいのだろうか?
あんな悲しそうな表情を見せられるくらいなら、本当に僕が街を案内してあげたい。

デレさんは、どんな場所へ連れて行ったら喜ぶだろうか?

ドクオさんの庭とは違う種類の花が沢山咲いている、図書館?
それともお菓子が好きだから、ケーキ屋はどうだろう。
僕が担当した店のカーテンを見せたら、笑ってくれるだろうか?






けれど、







僕が手を引いて連れ出した妻は、幸せだったのだろうか。



.

204名無しさん:2024/08/20(火) 00:47:45 ID:GGnScXIU0
【 第四話 モッコウバラの祝福 】

終わり

205名無しさん:2024/08/20(火) 00:48:34 ID:GGnScXIU0
【登場人物】
(´・ω・`)
植苗勝盆(うえなえしょうはち)
3児の父
造園業
マッチョ

ξ゚⊿゚)ξ
津出つかさ
大学2年生
内藤より小さい

206名無しさん:2024/08/20(火) 00:50:27 ID:GGnScXIU0
【ヨーグルトクリームケーキの作り方】
・スポンジケーキ(市販可)
◯生クリーム35% 200ml
◯ホイップクリーム用の砂糖 20gくらい
◯水切りプレーンヨーグルト 大さじ1〜2

【飾り付け】
☆バナナ
☆ミックス冷凍ベリー(解凍して水分を切っておく)


[作り方]
①生クリームに砂糖を少しずつ入れ、ホイップする。
②クリームにプレーンヨーグルトを入れて混ぜる。
③スポンジにクリーム、バナナ、クリーム、スポンジの順で重ねる。
④外側をクリームで白く整え、ミックスベリーを中央にスプーンでラフに乗せる。
⑤絞り袋で上部外側、ミックスベリーを囲うような飾りホイップを施す。

207名無しさん:2024/08/20(火) 00:53:41 ID:GGnScXIU0
ドリスリッカーではないのですが、これも多分ポリアンサローズっぽい品種です。
激マブじゃないですか??

https://imgur.com/a/zYnYEdI

208名無しさん:2024/08/21(水) 00:06:48 ID:SrcWG/F20
余談ですがドクオの収入は、そこそこいい立地の中〜大型店舗に駐車場を貸してる相当の金額です。
リアルで畑として貸してたら到底そんな額にはならないはずですが、避難所として指定されてるとか金持ちに囲われてる的ななんか区分とか控除がチート状態です。
固定資産税やらも用事のない人に見える土地の分しか取られません。

209名無しさん:2024/08/22(木) 22:04:53 ID:7NHBmZaI0
乙!バラから食べ物を彷彿とするセンス、可愛いし独特だし分かるしでめちゃ好きだ〜!!
大型店舗の駐車場経営くらい設けてるってことは、立地にもよるだろうけど大体月に500万くらい…?しかも税金はチートで控除受けまくり!?ズルだ…!!

210名無しさん:2024/08/24(土) 07:52:25 ID:ffdEZsjQ0
ありがとうございます!オースチンのゆで卵感はガチです。
詳しい人だ…。すみません、モデルケースがもっと田舎な上に土地の一部でしか計算してなかったという鈍ミスを犯してたので、実際はそれよりもっと少ないです。
家庭も持てるレベルではあるけど、入場料を取らない文化財(屋敷と庭)の修繕費込みとして考えると、丁寧な暮らし以上の贅沢は厳しい感じです。
ローズウッドとか育てまくって成金になっちゃえよと悪魔の案が浮かびますね。

211名無しさん:2024/08/24(土) 07:55:23 ID:ffdEZsjQ0
すみません。>>210>>209への返信です。

212名無しさん:2024/10/30(水) 19:01:48 ID:uL3HVFXw0
クイズ中だというのに、中々投下が進まずごめんなさい。夏の暑さと秋の行事の多さを侮っていました。
11月中に更新予定です…

213名無しさん:2025/02/02(日) 17:40:26 ID:CvaJxDUc0
【こぼれ種1】

Σ(;^ω^)「おっ…!?タコさんウインナーが宙に浮いてますお!??」

ζ(^ー^*ζ「クレマチスですね。ヴィオルナ系、テキセンシス系、インテグフォリア系の咲き始めは、よくタコさんウインナーのようだと表されます。」

(;^ω^)σ「色によって、見え方の差が激し過ぎますお。ヴィオルナ系のティンクルピンクは空想の植物のようにファンシーだし、インテグフォリア系のロウグチは妖艶なドレスのように美しいですお…。」

ζ(^ー^*ζ「見かけるとびっくりする花なのは変わりませんね!」

ζ(゚ワ゚*ζ「花がタコさんウインナーにそっくりなのは、クレマチスだけではありませんよ。ザクロの花や、ペンデンス、オヒルギなどもそっくりです。」

(;^ω^)σ∏「本当だ!オヒルギはオクラみたいなのまでくっついてますお!」

214名無しさん:2025/02/15(土) 19:07:55 ID:XtawK0JU0
【こぼれ種2】

ζ(^ー^*ζ「白玉星草という、白玉のように丸くて可愛らしい花があるんです。」

( ^ω^)「針金みたいに、ピーンとした茎径ですお。」

ζ(゚ワ゚*ζ「これが沢山集まると…」

(*^ω^)「茹で上がりゆく大量の白玉…。幻想的だお…。」

215名無しさん:2025/05/08(木) 01:52:07 ID:eoQ6IK9s0
乙!こぼれ話全然気づかなかった。
タコさんウインナーに例えるセンスめちゃ好き、もうそうにしか見えない。白玉星草も調べたら超可愛かった……!
続きずっと楽しみにしてる!

216名無しさん:2025/09/10(水) 01:13:23 ID:ouxHWuAs0
大変遅くなりました…
4話の表紙です
https://imgur.com/a/KyrVKwx

5話は来月の半ば頃には…

217名無しさん:2025/09/10(水) 01:15:52 ID:ouxHWuAs0
【こぼれ種3】

( ^ω^)「イラストチックな見た目の花ってありますおね。」

( ^ω^)「今日見たお花だと透百合のシュガーラブや、ディモルフォセカ パステリーナとか…。」

( ^ω^)(0年代のフリー素材イラストを思い出すお。)

ζ(゚ワ゚*ζ「可愛らしくて、しぃちゃんに似合いそうですよね。」

ζ(゚ー゚*ζb「ガガブタなども、どうでしょうか?」

(*^ω^)「おお…。モケモケのブラシでさっと描いたような…。」

ζ(゚ワ゚*ζ「ペチュニアのフラメンコ ブルースカイも、面白い柄ですよ。」

Σ(;^ω^)「宇宙みたいな模様ですお!」

218名無しさん:2025/09/10(水) 01:16:55 ID:ouxHWuAs0
【こぼれ種4】

( ^ω^)「この木壁のゾーンは、とってもゆめカワですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「クレマチスのベルオブウォーキングと、デルフィニウムのハイランダー ムーンライト、プデルシェルピンク。」

ζ(゚ー゚*ζ「パンジーのシエルブリエに…。あとは、ふわふわ金魚ちゃんですね。」

( ^ω^)「ふわふわ…えっ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ビオラです。ふわふわ金魚ちゃん。」

(;^ω^)∏…

Σ(;^ω^)∏「あっ!本当にありますお!」

(;^ω^)「ピンクが頭で、水色のところが尾ビレみたいですおね。水中で揺れ動く金魚みたいですお。」

219名無しさん:2025/09/10(水) 01:18:25 ID:ouxHWuAs0
【こぼれ種6】

ζ(^ー^*ζ「髪飾りみたいなお花を見付けたので、思わず戦隊魔法少女アニメを想像したんです。」

ζ(゚ワ゚*ζ「ロングツインテのユキノシタ・七変化ちゃん!」

ζ(゚ワ゚*ζ「あどけなさの残るボブヘアークーデレ!オステオスペルマム・シルバーナイトちゃん!」

ζ(゚ー゚*ζ「ふんわりロングヘアーのしっとりお姉さん、ディケロステンマ・コンゲスタムちゃん!」

ζ(゚ー゚*ζ「謎多きポニテ!クリスマスローズ・美黒姫ちゃん!」

( ^ω^)(カラーと髪型の指定あると、やたらと想像しやすいおね)

( ^ω^)「何と戦うんですかお?」

ζ(゚ワ゚*ζ「ナメクジから、エディブルフラワー達を守るんです。」

( ^ω^)(苦情来るお)

ζ(゚、゚*ζb「ちなみにユキノシタも、葉っぱを天ぷらにすると美味しいそうです。」

( ^ω^)(守られる側だったお)

220名無しさん:2025/09/10(水) 01:19:38 ID:ouxHWuAs0
【こぼれ種7】

ζ(^ー^*ζ 「ニオイバンマツリ、見ると嬉しくなる色合いですよね。」

( ^ω^)「白と、渋くない紫がもりっと咲いてるのがときめきますおね。」


( ^ω^) …

( ^ω^)(……パンまつり〜♪)

221名無しさん:2025/09/10(水) 01:23:21 ID:ouxHWuAs0
【こぼれ種8】

ζ(゚ワ゚*ζ「ホヤの花は、お星様が重なっているような見た目で可愛いです。」

Σ(;^ω^)!?

(;^ω^)(ホヤと聞くと、つい超有名グルメ作品を想像しちゃうお…)

( ^ω^)(食べた事ないお…)

ζ(゚ー゚*ζ「?」

(*^ω^)「お…?練り切りや給食のゼリーの上に乗ってる飾りみたいで可愛いですお!」

ζ(゚、゚*ζ「そしてデシプラエという品種を見てください。」

( ^ω^)(…。ミニチュアの泡立て器って、こうやって作られてたんだぁ…)

222名無しさん:2025/09/10(水) 01:47:07 ID:ouxHWuAs0
>>215
ありがとうございます。
落ちた柘榴の花などはまさに肉厚感までそっくりです。
更新が遅れに遅れてしまってごめんなさい。
根気強く…お待ち頂ければ…

223名無しさん:2025/09/10(水) 06:26:41 ID:a8NlCi2k0
やったー!待ってた!
来てくれただけで嬉しい

224名無しさん:2025/09/11(木) 22:19:29 ID:ovr/D/PU0
乙!
まってました!

225名無しさん:2025/09/13(土) 23:50:56 ID:saj9hqhU0
ずっとずっと待ってた乙!
ふわふわ金魚ちゃんって呼ぶセンス本当に最高すぎる。次の話も根気強く待ってるからね。

226名無しさん:2025/10/01(水) 22:50:03 ID:p.Pxe1zI0
>>223
待っていてくださりありがとうございます!
今年入ってから何だか忙しいですよね…。風邪など引かれませんよう。

>>224
待っていてくださりありがとうございます!
(今年の新作陣も読み応えありますね!)

>>225
名付け親の方鬼才ですよね!
同じ見元園芸さんのエンジェルダックも衝撃のアヒル具合で必見です。
ありがとうございます。絶対完走したいので頑張ります!

227名無しさん:2025/10/01(水) 23:29:26 ID:p.Pxe1zI0
思うように投下出来ず、申し訳ありません。
どうしても挿絵も入れたいので、本編の後に時間を置いて一枚絵をsage投下という形式でいきます。


【曲ヒント3】
その曲は、奥さんが作詞し旦那さんが演奏して歌います。3人…?
前回のヒントだったドラマだけでなく、同年のショートフィルムの主題歌としても使われていたようです。(結構調べていたはずなのに、このヒントを書く時に新たに知りました)


※予想は投下後の乙と同じタイミングで書き込んで頂けるとチェックしやすくて助かります!
その際は「◯◯の〜」、と歌手の短縮名や苗字を軽く添えてください。

予想タイム中はこちらからは反応せず、曲名は最終話まで明かしませんが、最初に的中させた方のみ、完結後にご希望のお花とキャラクターを伺いに参ります。
ぜひピンときたら、次の投下待ち中に書き込んでみてくださいね。
歌手を知らずとも既に特定出来るだけのヒントが出揃いました。でもこれだけで当てられたら名探偵です!

それでは、お楽しみください。

228名無しさん:2025/10/01(水) 23:30:46 ID:p.Pxe1zI0


僕が妻と結婚したのは、大学を出てから二年目の事だった。

ボランティアの帰りに二人で寄り道をしたりと、気付けばデートのような日々を過ごしていた僕達は、大学を卒業しても二人でいる事が当たり前だと思っていた。


J( 'ー`)し「つかさは…子供の頃に、大きな病気をしていた事があるの。」

結婚の挨拶でお義母さんと二人だけになった時に、そう聞いた。
身体が弱いから子供は望めないかもしれない、と言いたかったのだろう。


( ^ω^)「大丈夫ですお。」


例えそうであったとしても、僕は二人で穏やかに暮らしていければそれで充分だと思っていた。







【 第五話 アリウムの雨 】


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229名無しさん:2025/10/01(水) 23:35:01 ID:p.Pxe1zI0
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( "ゞ)「ここは父の家なのですが、怪我で入院中でして。退院してからしばらくは介護施設のお世話になる予定で、帰ってくるまでの間に賃貸として使って頂けたらなと。」

不動産屋経由で紹介された平屋の小さな一軒家は、古くなりきる前に手厚いリフォームを施しているようだった。

( "ゞ)「ヒートショック対策で、断熱にも手を加えたのですが…。いかがでしょうか?」

( ^ω^)「新しい家のように温かいですお。ツンは、どうだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。とても良いお家だと思います。」

断熱材だけではなく、窓も性能の良い物に取り替えているようだ。
水回りもバリアフリー化しているし、キッチンもいくつか内見した他の賃貸よりも広い。
温かい木の色に漆喰風の壁紙で、外観に合わせた和風の内装だ。

ξ゚⊿゚)ξ「…。」

洋風な実家で育った妻は、くれ縁を珍しそうに見ていた。

( "ゞ)、「…ただ、隣が林なので、落ち葉の掃除をする手間がかかります。」

( ^ω^)「その辺は、僕が頑張りますお。」

加えてこの辺りは、高い木を植えている昔ながらの家が集まっているのも好都合だ。

( ^ω^)(家には庇があるし、縁側を挟めば部屋への日の当たりも、穏やかだお。)

気に入った僕達は、この家を借りて住む事にした。

230名無しさん:2025/10/01(水) 23:36:08 ID:p.Pxe1zI0
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結婚式当日は、初めて手を繋いだ日と同じ天気雨だった。

親族だけで集まるような軽い式で、妻はブルーウイングの耳飾りと、お義母さんが昔着たというウエディングドレスを着て、僕の隣に立った。


僕は緊張して汗をかいた手で、妻の肩を支えた。


ξ゚ー゚)ξ


それに気付いた妻が笑い、その瞬間をカメラマンが捉え、フラッシュが焚かれた。

231名無しさん:2025/10/01(水) 23:37:55 ID:p.Pxe1zI0
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何の強みも無い僕だったけれど、趣味のスケッチが採用担当だったモナーさんの目に止まり、カーテンの製造販売会社の営業に就いてから早数年。
妻は実家で兄家族と共に、家具販売の仕事をしていた。


( ^ω^)「今日は、返す本があるのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。もう準備してあるわ。」

休日にはバスに乗って、図書館へ行った。
坂の上の図書館は白く、ギリシアの建造物に似た形をしているので、僕達は大学時代に『神殿』と呼んでいた癖がしばらく直らなかった。

ξ゚ー゚)ξ「実は私、症状のある中では目が良い方なの。」

( ^ω^)Φ「そうなのかお。良かったお〜。」

そう言って妻は、拡大読書器を使い本を読む。それに疲れると、今度は別の本をオーディオブックで聴いていた。
僕は縁側でスケッチブックを開き、庭の花の絵を描いた。


知り合ってから、7年。

もう何年も一緒にいるからか、それともお互い慣れると口数が減るタイプなのか。
一度だけ喧嘩をした事はあったけれど、二人で過ごす日々は穏やかだった。


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232名無しさん:2025/10/01(水) 23:39:24 ID:p.Pxe1zI0
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( ^ω^)「行ってくるお。本当に、大丈夫かお?」

ξ−⊿−)ξ「ええ。昼前には母も来るし。」

夏の暑さのせいか、妻は体調を崩して数日寝込んでいた。

( ^ω^)、「そうかお…。何かあったら電話してお。」

本当は看病したかったけれど、展示会で二県跨いで移動する上に、デザインカーテンの一部を僕も初めて担当した。
代役を頼むわけにもいかない。


ξ−⊿−)ξ「うん…。」

ξ゚⊿゚)ξ「…ねぇブーン。子供が欲しいわ。」

( ^ω^)「…分かったお。これが終われば連休になるから、帰ってからよく話そうお。」

( ^ω^)「行ってきます。」

233名無しさん:2025/10/01(水) 23:41:43 ID:p.Pxe1zI0
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ガタタン  ガタタン

(;^ω^)(セーフ!)

なんとか予定の電車に間に合った。
これから数駅で降りて、特急に乗り換えなければいけない。

( ^ω^)(…。)

( ^ω^)(忙しいからって、ちゃんと考える事を先延ばしにしていたお。)

( ^ω^)(ここ数日のツンは、寝ながらずっと僕の事を見ていたお。…きっと、言い出しにくかったんだお。聞いてあげれば良かったのに、可哀想な事をしたお。)

しばらく忙しくしていたから、寂しい思いをさせていたのだろう。
もしかしたら妻は、体調が良くなり次第、と考えているのかもしれない。

( ^ω^)(ツンは体調を崩す事も多いし、あまり無理はさせたくないお。)

( ^ω^)(里子について、もっと詳しく調べておくべきだったお。)

図書館に掲示されていたポスターを見てなんとなく知ってはいたが、僕たちにとって、求めるべき制度なのかもしれない。

( ^ω^)(…さてと、今から行くのは果物で有名な県だお。ご飯より食べやすいだろうから、お土産に買って帰るお。)

234名無しさん:2025/10/01(水) 23:42:31 ID:p.Pxe1zI0



ξ; ⊿ )ξ

プルルルル

ξ; ⊿ )ξ∏「もしもし…お母さん?」

ξ; ⊿ )ξ∏「そう…少し遅くなるのね。うん。大丈夫。」

ξ; ⊿ )ξ

ξ; ⊿ )ξ「…あれ、寝てた?」

ξ; ⊿ )ξ「…ペットボトルのお水、空っぽ。」

ξ; ⊿ )ξ「汲みに行かなきゃ…。」


(( ξ; ⊿ )ξ




ξ ⊿ )ξ グラッ…




.

235名無しさん:2025/10/01(水) 23:44:01 ID:p.Pxe1zI0
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( ^ω^)「お疲れ様でしたお。」

展示会も無事終わり、荷物を積んだトラックを見送った僕は、これから家まで帰る。

( ´∀`)ノシ「また会社でだモナ。」

( ^ω^)、「打ち上げに参加出来ずにすみませんお。連休後に、また会社で。」

そう言って僕は、他の社員より先に駅へと駆け出した。

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(*^ω^)(おっ!電車の時間までに余裕があるお!)

( ^ω^)(えーっと、お土産は…)

( ^ω^)(ツンが好きな白桃があるお!これにするお。)


プルルルル


( ^ω^)(お義母さんからだお。)

僕は、白桃の入った袋をガサガサと言わせながら、スマホを手に持った。


( ^ω^)∏「もしもし。」

( ^ω^)∏「はい。はい…」




( ^ω^)∏「………ぇ?」

.

236名無しさん:2025/10/01(水) 23:45:19 ID:p.Pxe1zI0
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(;゜ω゜)「ハァッ…ハァッ!」

朝と同じ路線の電車に乗り、駅からはタクシーで、電話で指定された場所まで急いだ。
彼女が子供の頃から通っていたという、街で一番大きな病院だ。


案内された霊安室まで行くと、布にくるまった何かがあった。



J( ;ー;)し




僕はなぜ、とお義母さんに尋ねた。

.

237名無しさん:2025/10/01(水) 23:46:29 ID:p.Pxe1zI0

(;゜ω゜)(…?)


ちゃんと息を吐き、口を動かして尋ねたはずなのに、自分の耳では聞こえない。

だからもっと大きい声になるように意識しながら、僕は何度も尋ねた。


それでも聞こえない。


だから僕は、お義父さんやお義兄さん、その奥さんにも尋ねた。


僕の声も聞こえないし、泣きながら口を動かすみんなの声も聞こえなかった。

.

238名無しさん:2025/10/01(水) 23:47:37 ID:p.Pxe1zI0



( ゚ω゚)



後から来た医師の声だけが、頭に響いた。


妻は、子供の頃にかかったものと同じ病が再発していた。
だけど今度は、うんと質が悪かった。

それが僕に伝わらなかったのは、妻の希望だったらしい。

ここ数ヶ月の妻は、仕事に通っているフリをして実家で病と戦っていたのだ。
気力を失わせないように、医者や妻の家族はそれに付き合っていたのだという。

.

239名無しさん:2025/10/01(水) 23:49:25 ID:p.Pxe1zI0

白い塊は、どこかの施設へと向かった。
これから、エンバーミングを施すのだそうだ。

それも、妻が予め決めていた事なのだと。



( ^ω^)


僕は、こんな場所に留まっている暇はない。



用事があるからだ。




僕は、早く家に帰らなくては。






風邪を引いて寝込んでいる妻に、桃を剥いてあげなくてはいけないのだから。



.

240名無しさん:2025/10/01(水) 23:50:54 ID:p.Pxe1zI0
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スーツを着て会社に行こうとした僕は、通夜の時から泊まりに来ていた両親に止められ、その足で葬儀場へと連れて行かれた。


( −ω−)


ガヤガヤと煩い会場の中、誰かが僕に話しかけている。

よく聞いてみれば、僕と妻の友人達だ。
結婚式の二次会に来てくれた時や、たまに会う時とは違う、元気の無い声だ。


( −ω−)


開始のアナウンスで、その足音達が去っていった。

241名無しさん:2025/10/01(水) 23:52:49 ID:p.Pxe1zI0
お経が聞こえてお焼香の番が回ってきても、僕は折畳み椅子に触れている面積を減らすまいと、椅子の縁を両手で掴んでいた。

母が僕の肩に手を置き、お焼香を促そうとしたけれど、僕は強く目を閉じてそれに応じなかった。




やがて、花入れのアナウンスが聞こえた。


お義母さんが僕に顔を合わせるような位置から、話しかけてきた。

J( 'ー`)し「文高さん、お願いします。つかさを見てやってください。」

( −ω−)「…嫌ですお。」

J( 'ー`)し「お願いですから…」


( −ω−)「…いいえ。」


僕は首をふった。







すると床の方で、小さく二つ音が聞こえた。





.

242名無しさん:2025/10/01(水) 23:54:21 ID:p.Pxe1zI0



J( ;ー;)し「見てやって、ください!!!!!!!!!」



涙混じりの絶叫が、会場中に響いた。


小さなどよめきが起きたものの、それまでの僕の態度を見ていた人達は何も言わず、見て見ぬふりをしているようだ。

お義母さん以外の妻の家族も、僕に同じように頼んだ。

両親や兄弟は、目を開けろと僕を怒鳴った。


( −ω−)「…嫌ですお。絶対に。」

.

243名無しさん:2025/10/01(水) 23:55:36 ID:p.Pxe1zI0

「あの…お時間が…。」

司会の申し訳無さそうな声がして少しすると、参列客から先に花入れが始まったようだ。

お義母さんが土下座の体勢を崩さない気配がするその先で、誰かの会話が聞こえた。





「天使みたいね。」

「本当に。」






慰めのつもりだろうか?




全く嬉しくなどなかった。





僕は、天使なんて知らない。








僕が知っているのは、ただの人間の妻だ。


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244名無しさん:2025/10/01(水) 23:57:17 ID:p.Pxe1zI0
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あっという間に四十九日が過ぎた。
火葬場で焼かれたという妻の骨は、街の納骨堂に入れられた。




(( ^ω^)

ある日、職場から帰る途中にふと。
僕の頭に疑問が浮かんだ。


妻は、どこにいるのだろうか?



( ^ω^)(…。)

( ^ω^)(あっ、図書館かお!)

僕は手を打って、丁度近くで停まっていたバスに乗り込んだ。

245名無しさん:2025/10/02(木) 00:00:25 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)) キョロ…

( ^ω^)(あれ?居ないお…。)

図書館中を探した僕が窓の近くまで来て外を見ると、チョコレート色のコスモスが咲いていた。

Σ( ^ω^)(そうか。帰る途中に花畑でも見付けて、お昼寝しちゃったのかもしれないお!)

( ^ω^)(えーっと、場所は…。)

僕は図書館から出て、スマホで調べてみる事にした。

( ^ω^)∏ ))

(;^ω^)∏(…隣の町に近いお。畑ばかりだし、バスを乗り間違えちゃったのかお…?)

(;^ω^)「早く行かなくちゃ。涼しくなってきたけれど、日に当たりっぱなしは良くないお。」


ブロロロロ…


( ^ω^)「…いないお。」

246名無しさん:2025/10/02(木) 00:02:03 ID:NMaIwULE0
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( ^ω^)「今日も帰ってこないお。遅いお。」

( ^ω^))「…ツンとお義母さんは仲良しだから、つい話し込んでるんだお。夜も遅いし、今日はきっと泊まってくるんだお。」

僕は二の腕を組んで、頷いた。

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ひと月も過ぎると僕の頭には、妻が僕ではない男と、壁の縁さえ見えないような白い部屋で暮らしている姿が思い浮かんだ。

僕は愉快で、幸せな気持ちになった。

ある日その男と並んで歩く妻に会ったら、こう言ってやるのだ。



(*^ω^)「酷いお!僕というものがありながら!!」



もちろん僕の妻は、そんな不誠実な人じゃない。
妻が亡くなった事も、諸々の手続きで嫌という程突き付けられた。

だけどそれが、一番しっくりくるのだ。

.

247名無しさん:2025/10/02(木) 00:02:37 ID:NMaIwULE0
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248名無しさん:2025/10/02(木) 00:05:31 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)φ

ζ(^ー^*ζ「星みたいですよね。白い花は儚げなイメージですが、紫の花芯のテッセンには格好良さがあって…。」

( ^ω^)φ「確かに、咲き方にも力強さがありますお。」

僕はデレさんと先日約束した通り、スケッチに来ている。
トレリス伝いに咲くテッセンは、空を見るように咲いている。

ζ(^ー^*ζ「内藤さん、こちらをどうぞ。この間しぃちゃんと作ったんです。」

小さな赤い蕾状の薔薇を使った、押し花の栞だった。

( ^ω^)「ありがとうございますお。参考書を並行で読む事が多いので、栞はいくつあっても助かりますお。」

ζ(^ー^*ζ「良かったです。しぃちゃんにも伝えておきますね。」

( ^ω^)「お願いしますお。」

ζ(゚、゚*ζ「本当は、モリンガ茶も作って一緒にお渡ししたかったのですが…。気候が合わな過ぎたのか、ショボンさんに庭で育ててもらっても、上手く育ちませんでした。」

ζ(゚、゚*ζ シュン…

(;^ω^)「えっ?もり…んが…?」

ζ(゚、゚*ζ「内藤さん、以前食生活が乱れると言っていたじゃないですか。」

ζ(゚、゚*ζ「ワサビノキ科のモリンガには90種以上の栄養素が含まれていて、生活習慣病の予防にもなるそうなんです。だけど、温かい気候の植物らしくて…。」

(;^ω^)「そこまでお気遣い頂きありがとうございますお。すみません…食生活は自分でちゃんと見直しますお…。」

249名無しさん:2025/10/02(木) 00:06:34 ID:NMaIwULE0
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( ^ω^)「それでは今日はこの辺で。ありがとうございましたお。」

ピンクと水色のポレモニウムが咲く入り口で、僕はいつものように挨拶をした。

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。ショボンさんがまた新しい花の苗を植えてくれたんです。良かったらまた…」

(;^ω^)、「…ごめんなさい。制作に集中したいので、しばらくは来られませんお。」

ζ(゚、゚*ζ、「そうですか…。」

( ^ω^)

( ^ω^)「…どうしてですかお?」

((ζ(゚、゚*ζ「え…?」

250名無しさん:2025/10/02(木) 00:08:08 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)「ショボンさんも言っていましたお。デレさんが僕に懐いていると。」

( ^ω^)「僕はただ、短い間ここに出入りするだけの業者ですお。それなのになぜ…」

ζ(゚ー゚*ζ「…内藤さんは、素敵な人ですから。」

ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんやドクオさんにだって、モテモテじゃないですか。」

( ^ω^)、「僕は…そんな…。」

ζ(゚ー゚*ζ「次はいつ…いらっしゃいますか?」

( ^ω^)「店舗用の仕事が少し立て込んで来たので、納品の時ですお。梅雨の頃でしょうか。」

ζ(゚ー゚*ζ「分かりました。よろしくお願いします。」

( ^ω^)「…よろしくお願いしますお。」

251名無しさん:2025/10/02(木) 00:09:55 ID:NMaIwULE0


(;゜ω゜)「ハァッ…ハァッ!」


僕は家まで、全速力で走った。


(;゜ω゜)つ三|

夕焼けの明るさを頼りに、庭の物置きを開いて中を確認する。

(;゜ω゜)(お願いだお!見付かってお!!)


玄関、台所、入り口から収納のある場所を順に、全て探し回った。


(;゜ω゜)ハァハァ…

(;゜ω゜)「……無いお…」



最後の押し入れの前で、僕は座り込んだ。

252名無しさん:2025/10/02(木) 00:11:54 ID:NMaIwULE0

僕が探していた物は、昔、妻に贈った日傘だ。
だけど本当は、もうずっと家に無い事は分かっていた。


妻と一度だけ喧嘩した日。
それは、妻の手元から日傘が離れた日の夜だ。

妻は、日中家の近くにいた体調が悪そうな子供に日傘を貸し与えたのだと言う。
僕は心配のあまり、『何も君が世話する必要は無いじゃないか。自分を優先しろ』と、気持ちのままに怒った。

ξ゚⊿゚)ξ「すぐ近くだったから大丈夫よ。良い子そうだったし、家も教えたからきっとそのうち返しに来るわ。」

そう呑気に返事をする妻に苛立って、僕は三日ほど妻とは口を聞かなかった。

それから今日まで、傘が返ってくる事はなかった。
だから、僕が今している事に全く意味が無いのは分かっていた。

253名無しさん:2025/10/02(木) 00:13:24 ID:NMaIwULE0

日傘さえあれば。

僕は妻を強く鮮明に思い出し、気持ちをずっとこの家に留めておけるはずだ。

ドクオさんの庭の鮮やかさに浮き立ち、鼓動を早める事も無い。


僕は、別れ際にデレさんが淋しそうで悲しそうな不思議な顔をする度に、嬉しく思ってしまう気持ちに気付いてしまった。




嫌だ。




( ^ω^)「…そういえば、結婚式のドレスも無いお。」

元々お義母さんの物だったから、いつの間にか返していたのだろうか?




どちらにせよ、僕の目的は傘だった。
僕が渡したあの日からずっと妻が使っていた、日傘だった。


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254名無しさん:2025/10/02(木) 00:15:54 ID:NMaIwULE0
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( ^ω^)「それではこれで、失礼しますお。」


( ^ω^)(ふぅ…。)

車の中で水筒を取り出し、ひと息つく。
隣の県への納品と、それとは別の店から依頼された見積もりの仕事を終えた僕は、これから街へと戻る。

僕が入社した頃の会社は、大手インテリア通販サイトの一角など、下受けのような仕事がメインだった。
それから年々街の個人店からの依頼の比率が増え、そこから一般客ラインにデザインを調整した物も自社サイトで販売する形へと変わっていった。
評判を聞き付けて、最近は街の外の店からの依頼も増えている。

僕は出張の際、市を越えると不安な気持ちになり、戻ると少しだけホッとする癖が未だに治らなかった。


( ^ω^)(そろそろ、速度を落とすお。)ブロロ…

小規模の工業地帯を抜け、川を越えると住宅街になる。
ふと、歩道を歩く老夫婦に目がいった。

手を繋ぐ理由は、足腰の悪いどちらかを支えるためなのだろうか?

それとも、心のままにそうするのだろうか。




( ^ω^)(…僕は…。)


妻が隣を歩いて、段々と増えていく皺にありがたみを感じる事も出来ずに、生きている。


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255名無しさん:2025/10/02(木) 00:19:04 ID:NMaIwULE0
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バタンッ

(;^ω^)つ□「よいしょっ…」ボフッ

僕はドクオさんの屋敷の入口に車を停め、台車に荷物を載せた。
そのままガラガラと、石畳を進む。


ζ(゚ー゚*ζ「本日はよろしくお願いします。」

( ^ω^)「よろしくお願いしますお。」

図書室のカーテンが、ようやく仕上がったのだ。
デレさんが屋敷のアプローチに立っていて、僕を案内してくれた。

ζ(゚、゚*ζ「…最近、朝に庭の前でお見かけしないので、心配していました。」

( ^ω^)、「…すみませんお。仕事が立て込んでいて、しばらく朝食を喫茶店でとっていたので…。」

ζ(゚ー゚*ζ、「そうですか。お疲れ様です。」

それは本当の事だ。
だけど僕の心の何処かに、デレさんと顔を合わせたくない気持ちがあった。

256名無しさん:2025/10/02(木) 00:20:57 ID:NMaIwULE0
屋敷の中にいるドクオさんに挨拶をして、まずは図書室にカーテンを置かせてもらう事にした。

( ^ω^)「では車に専用の脚立を積んできたので、一度取りに戻りますお。」

ζ(^ワ^*ζ「よろしくお願いします。」

部屋の主のデレさんは、待ち切れないといった表情だ。

(;^ω^)(そこまで期待してもらえると、気に入ってもらえるか緊張するお…。)

( ^ω^)「…デレさんの今日の髪飾りの薔薇は、まさに真紅ですお。」

先程までデレさんの後ろを歩いていたので、気になっていたのだ。
デレさんは今日は髪を下ろしていて、前側から後ろに編み込まれた髪に、バレッタのようにいくつかの薔薇が並んで留められている。

ζ(^ー^*ζ「ドクオさんが、小さめに咲いたレッド・レオナルド・ダ・ヴィンチでハーフアップにしてくれました。」

( ^ω^)「その髪型、ハーフアップというんですかおー。」

( ^ω^)「では、脚立を持ってきますお。」

ζ(^ー^*ζ「よろしくお願いします。」

257名無しさん:2025/10/02(木) 00:22:39 ID:NMaIwULE0
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(;^ω^)∞ )) ガラガラ

石畳の道は小刻みな段差があり、台車で脚立を運ぶのには中々時間がかかる。

( ^ω^)∞「おっ?」

(*^ω^)∞「わー…。なんだか凄く、お洒落な花があるお。」

ζ(゚ー゚*ζ「アメイジンググレイ。最近人気のあるポピーだそうですよ。」

∑(;^ω^)「わあぁっ!?…びっくりしましたお…。」

デレさんが気配も無く後ろに居たので、僕は年甲斐もなく悲鳴を上げた。

258名無しさん:2025/10/02(木) 00:24:35 ID:NMaIwULE0
ζ(^ー^*ζ「庭の色合いが、一気に青や紫に変わって驚きましたか?」

( ^ω^)σ「本当ですお。…あれ?奥の方に不思議な花がありますお。」

太い茎の先には、ボールのような真ん丸な紫色。
直立しているような、奇妙な見た目だ。

ζ(゚ー゚*ζ「アリウム・ギガンチウムです。花葱とも呼ばれているように、近くまで行くとネギのような香りがしますよ。」

(*^ω^)「なんだか、まち針みたいですお!」

ζ(^ー^*ζ「私には、小さいアドバルーンのように見えますね。」

( ^ω^)「おー、そういえば最近見ないですお。アドバルーン。」

259名無しさん:2025/10/02(木) 00:27:05 ID:NMaIwULE0
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( ^ω^)「さてと。取り付けの際は危ないので、申し訳ありませんが部屋の外で待っていてくださいお。」

( ^ω^)「出来れば、一気に見せたい気持ちもありますので…。」

ζ(^ー^*ζ「分かりました。では、後でドクオさんと一緒に見せて頂きますね。」

その言葉を聞いた途端、喉が傷んだ時のチリ、とするような痛みが僕の胸で起きた気がした。

( ^ω^)(…。)

僕は落ち着いて脚立に登り、レースカーテンを取り付けていった。

260名無しさん:2025/10/02(木) 00:29:40 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)つ|カチャ

( ^ω^)「もう入っても良いですお。」

僕はドアをゆっくり開けて、二人に声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ))「では…。」

('A`)))



ζ(゚A゚*ζ

('A`)


( ^ω^)…

(*^ω^)ゞ テレテレ

カーテンを見た二人が、姉弟のようにまったく同じ顔をして眺めているので、僕は思わず笑ってしまいそうになった。

261名無しさん:2025/10/02(木) 00:35:41 ID:NMaIwULE0

これまでこの庭でスケッチした絵をもとに、機械で刺繍したレースカーテン。

フランシス バーネットに、デレさんが好きなジェーン・オースチンとノスタルジー。
ネモフィラにかすみ草、ルピナス。他にもいくつかの花で構成した。

注文を受けた後、遮光用にと先に取り付けておいた緑のベルベットカーテンは、まるで庭を囲う木々のようだ。


( ^ω^)「随分と時間がかかってしまい、申し訳ありませんでしたお。」

ζ(゚ワ゚*ζ「とても素敵です。ありがとうございますっ!」

デレさんは隅々までカーテンを観察しては、「わぁ」と声を上げている。

('A`))

ドクオさんは何も言わず、僕に向かって振り返り、小さなお辞儀をした。

(*^ω^)(気に入ってくれて良かったお。)

262名無しさん:2025/10/02(木) 00:37:46 ID:NMaIwULE0
('A`)「…支払いを。」

ζ(゚ー゚*ζ「私はお茶の準備をしてきますね。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

あらかじめ来る日が決まっているといつもこうだから、今日の一番最後の仕事をここに当てたのだ。
会社には定時扱いで、後で社用車だけ戻しに行くと伝えてある。

( ^ω^)「そうだ。お土産を持ってきましたお。」

そう言って、椅子に置かせてもらっていた紙袋をドクオさんに手渡した。

( ^ω^)「海苔ですお。」

( ^ω^)「僕は仕事で邸宅に行く事もあるのですが、そこの奥様が出してくれるおにぎりが美味しくて、海苔も凄くパリパリなので購入先を教えてもらったんですお。」

( ^ω^)「ドクオさんは和食もお好きとデレさんから聞きましたので、良かったら使ってくださいお。」

('A`)「…どうも。」

263名無しさん:2025/10/02(木) 00:40:37 ID:NMaIwULE0
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( ^ω^)、「…あの、ドクオさんは良いんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。仕事があるから二人でと。」

僕達は、いつものテーブルセットにやって来た。
周りには珍しい形の紫陽花が咲いていて、目の前には三角形のサンドケーキとティーセットが置かれている。

( ^ω^)「残念ですお…。」

( ^ω^)、「仕事も終わりましたし、最後くらいは一緒にお茶をしてお礼が言えたらと思っていたのですが…。」

店舗用の特殊な品とは違い、一般家庭のカーテンは依頼がない限り後日点検が無い。
屋敷に来る度に、ドクオさんとも短くではあるが会話をしていた。
何だか最近は僕にも慣れてきてくれた気がしていたので、名残惜しい気持ちがある。

( ^ω^)(…そうか。デレさんと会うのも今日でさい…)

ζ(^ー^*ζ「あ!ドクオさんが、またいつでもスケッチに来てくださいと言っていましたよ。何なら毎日でも、と。」

Σ(;^ω^)「えぇっ!?はっ、はいですお。」

(;^ω^)?

(;^ω^)???


やっぱり、ドクオさんは不思議な人だ。

264名無しさん:2025/10/02(木) 00:43:54 ID:NMaIwULE0
ζ(゚ー゚*ζ「さて、そろそろお茶にしましょうか。」

そう言ってデレさんは、僕のティーカップにお茶を注いでくれた。

( ^ω^)「いつも申し訳ないですお。頂きますお。」

お茶が熱そうだったので、僕は先にケーキをフォークで小さく切り、口に運んだ。

(*^ω^))「…ちょっとショートケーキみたいですお。」モグモグ

上に粉糖のかかった生地の間には、ホイップクリームとラズベリージャムが挟まれている。
ここでスコーンにラズベリージャムを合わせて以来、このジャムを使ったお菓子を出してもらえると、僕は嬉しくなる。

https://imgur.com/a/Zjr6agn

ζ(^ー^*ζ「ヴィクトリアサンドイッチケーキです。パウンド生地なので、ショートケーキよりもだいぶ重めですね。」

ζ(゚ー゚*ζ「本当は浅くて丸いケーキ型を二枚用意して生地を焼くらしいのですが、流石に一般家庭のオーブンでは難しいので、小さめのクスエア型を使ったそうです。」

生地をスライスしてから何かを挟むのではなく、同じ厚さの生地を二枚焼いて重ねた、という事か。

(*^ω^))「そうでしたか。それでも一人前にはボリュームのあるサイズですお。」モグモグ

265名無しさん:2025/10/02(木) 00:46:03 ID:NMaIwULE0
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ…気付きませんか?内藤さん。」

( ^ω^)「え?」

ζ(゚ワ゚*ζつ「なんと、この場所に食べ物に見えるお花シリーズが隠れているんですよっ!」

Σ(;^ω^)「え!探してみても良いですかお?」

ζ(^ー^*ζ「どうぞ。」

行儀が悪いけれど、せっかくならその話題でお茶を楽しもうと思った僕は、席を立ち花に近付いた。

( ^ω^)σ「…これですかお?まるでスライスした苺を、星形に並べたように見えますお!」

ζ(゚ワ゚*ζ「当たりです!ひなまつりという品種の紫陽花ですよ。」

( ^ω^)「苺の季節は春だから…という繋がりでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうでしょう?でも、そうかもしれませんね。」

( ^ω^)「同じ品種の青いものは、とても個性的ですお。外側の赤が、輪郭線みたいですおー。」

266名無しさん:2025/10/02(木) 00:47:16 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)「そういえば、ここに来る途中にあった、水の張られたボウルに浮かんでいた紫陽花は何という品種ですかお?」

ζ(^ー^*ζ「『てまりてまり』ですね。」

(*^ω^)「確かに丸くて鞠っぽいですお。小さな花が集まって、おしくら饅頭してるみたいで可愛いですお〜。」

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり内藤さんは、小さめなお花が好きですね。」

(;^ω^)「そうですお。きっと、昔家族で植物園に出かけた時に、とんでもなく大きな薔薇を見たのが原因ですお。」

(;^ω^)「僕の顔ほどの赤い薔薇で茎も太くて、ゲームに出てきた人食い花みたいで怖かったんですお…。」

ζ(゚、゚*;ζ「庭の薔薇は中輪までなので、想像が付きませんね…。」

267名無しさん:2025/10/02(木) 00:49:26 ID:NMaIwULE0
席に戻った僕達は、温度が程良くなった紅茶を飲むことにした。

( ^ω^)「ポットの中の茶葉がカラフルでしたが、何が入っているんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「茶葉の他にはローズやマリーゴールド、コーンフラワーですね。フルーツの香り付けもしています。」

ζ(^ー^*ζ「ウェディングベルという、結婚式のフラワーシャワーをイメージしたフレーバーティーです。お庭の花を使ってブレンドしてみました。」

( ^ω^)「デレさんがブレンドを?凄いですお。」

( ^ω^))「頂きますお…。」コク


その紅茶からは、ほのかに桃の香りがした。

268名無しさん:2025/10/02(木) 00:51:14 ID:NMaIwULE0
_____
___
__

( ^ω^)「…お借りしてしまって、すみませんお。」

ζ(゚ー゚*ζ「お気になさらないでください。来客用に用意してある物ですので。」

そろそろ帰ろうかという時に、ポツポツと雨が降り出してしまった。
僕の傘は車の中だったので、屋敷の傘をありがたく借りる事にした。
以前薔薇のスケッチをした時に、デレさんがさしていた大きな深緑色の雨傘だ。

( ^ω^)「ここに来る時はいつも晴れていたので、てっきり雨も降らないのかと思っていましたお。」

ζ(^ー^*ζ「ふふ。雨は降りますよ。…言われてみれば、内藤さんがいらっしゃる日は晴ればかりです。」

ζ(゚ー゚*ζ「入り口までお見送りしますね。」

(;^ω^)ノシ「いえ、ドレスが雨に濡れてしまいそうなので、大丈夫ですお。」

ζ(゚、゚*ζ「それは、全く影響しませんのに…。」

(;^ω^)「明日の朝に、すぐお返ししますお。」

ζ(゚、゚*ζ「そうですか…。」

269名無しさん:2025/10/02(木) 00:52:56 ID:NMaIwULE0
ζ(゚ー゚*ζ「では内藤さん。こちらをどうぞ。」

( ^ω^)つ「…?ありがとうございますお。」

デレさんから手渡されたのは、小さな茶色の紙袋だった。

ζ(^ー^*ζ「中にはジャーマンカモミールのティーバッグが入っています。」

ζ(゚ー゚*ζ「りんごのような香りがするハーブティーです。リラックスや安眠効果があるので、就寝前にぜひ。ミルクティーで飲んでも美味しいですよ。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。今夜早速試してみますお。」

ζ(^ー^*ζ「本日は、本当にお疲れ様でした。」

___________________________

270名無しさん:2025/10/02(木) 00:54:19 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)テクテク

深緑の傘を、眺めながら歩く。

( ^ω^)「…」

薔薇をスケッチする僕の横で、この傘を持って隣に座り、楽しそうにしているデレさん

僕は、それだけを思い出していた。


( ^ω^)「…。」


(#^ω^)

271名無しさん:2025/10/02(木) 00:56:18 ID:NMaIwULE0

僕は、一回りや二回りも年の離れた相手と結婚したりそれを称賛するような人達を、心の中で嫌厭する癖があった。

平均寿命に男女差はあれど、順調に年を重ねたとしたら、年の差分はどちらかが一人になる。
それは年上側が、その間の事は知りませんと言っているのと同じようなものではないのだろうか?


…でもそれは、性格が悪く欲張りな僕のただの偏見で、当事者の間にはそれを物ともしない清い愛があるのかもしれない。
人が平均寿命ぴったりに死ぬわけではない事だって、嫌というほど分かっている。



だけどなんだか、僕が妻を亡くして一人で生きてきたこの二十年間を『そんなもの』と嘲笑われているようで、凄く、すごく嫌な気持ちになるのだ。


.

272名無しさん:2025/10/02(木) 00:58:10 ID:NMaIwULE0


ζ(^ー^*ζ


僕は、デレさんが何者なのかを知らない。


だけど若い異性の姿をした彼女に特別な気持ちで惹かれる僕を、
醜く思いつつも、止められない僕がいる。




それは妻への裏切りであると、分かりながら。


.

273名無しさん:2025/10/02(木) 01:00:07 ID:NMaIwULE0
( ^ω^)「…不思議な雨だお。」

雨は花には当たらず、葉や枝、土にだけ落ちている。
傘を閉じて思わず空を見上げたけれど、普段の雨と同じく空から降っている。

( ^ω^)「…君は雨に濡れちゃっても、平気なのかお?」

カプチーノ色のペチュニアの近くの葉に留まる、銅色の蛙に質問した。


( ^ω^)テクテク

(;^ω^))「お…。」

気付けばいつもの道から、逸れてしまっていたようだ。

目の前には立派なパーゴラがあり、その下にはアリウムがいくつも咲いている。
鋭い葉のエリンジウムと黒のビオラが、それに寄り添う。

( ^ω^)「…。」

僕はその中央で、足を止めた。

( ^ω^)(…静かだお。)

274名無しさん:2025/10/02(木) 01:01:47 ID:NMaIwULE0

デレさんの笑顔は不思議だ。


その笑顔を思い出すと、迷子で不安な中、知っている道にやっと辿り着いた時のような。

そんなホッとした気持ちになる。


( ^ω^)「…。」


パーゴラを這うレイニーブルーが、僕を見下ろしている。

呆れているのだろうか。
それとも、睨んでいるのだろうか。




( ^ω^)「ツン、僕は…どうすれば良いんだお…。」


.

275名無しさん:2025/10/02(木) 01:02:27 ID:NMaIwULE0
【 第五話 アリウムの雨 】

おわり

276名無しさん:2025/10/02(木) 01:02:56 ID:NMaIwULE0
【登場人物】

J( 'ー`)し
つかさの母

277名無しさん:2025/10/02(木) 01:04:00 ID:NMaIwULE0
アリウム・ギガンチウムは花に詳しい人にはメジャーな花だと思いますが、初めて見た時の衝撃を共有したくて今回構成しました。
私の感想は「マップのピンが現実に刺さってる!」でしたが、実際に見た事がある方は、初見時どんな風に見えましたでしょうか。

モリンガ茶は、国産のパックを買ってホットで飲んだら美味しかったです。無印の冷蔵コーナーの缶のやつは不味かったです。

278名無しさん:2025/10/03(金) 07:05:58 ID:tDc6AWmg0
キテルー乙!

279名無しさん:2025/10/03(金) 18:13:10 ID:4tnQqTc.0
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
今回の話もイイね、今後の展開が更に気になる
モリンガ茶探してみようかな

280名無しさん:2025/10/24(金) 21:35:52 ID:.mYv105s0
更新ずっと待ってた嬉しい!乙!
ツンとデレ、日傘をあげたのと雨傘を借りたので対比になってそうな描写が凄く好き。ケーキのイラストも暖かみがありながらボリューミーでお腹空く……。
クイズまだ分からないけど絶対正解してみせる。次の話もめちゃくちゃ楽しみ!

281名無しさん:2026/03/23(月) 22:52:04 ID:HUbZILvM0
内藤が車のラジオで聴いていた曲は、大橋トリオの『HONEY』だと思います。
これで外れていたら大変恥ずかしいのですが……。

希望する花はデンドロビウム・ファレノプシス。
キャラクターの希望なのですが、特に指定はありません。

作品、とても楽しみに読ませていただいておりました。
これからも応援しています。

282名無しさん:2026/06/11(木) 12:34:23 ID:E0PowxL60
>>278
キタヨー!オツアリガトー!

>>279
キタヨ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
前回とペアのような意識で書きました。
モリンガ茶見つけましたか?美味しいものだと緑茶っぽさもうっすらあるような草味ですよね!

>>280
待っていてくれてありがとうございます!!
雨の季節だから自然に降っているというつもりで書きましたが、日傘と雨傘の対比!気付きませんでした…!
作者の知らないところで読者様の記憶力の良さがバフをかけていく…!
映画ポスターっぽい画像が浮かびました。ありがとうございます。

>>281
気付くことが出来ず、申し訳ありません。
曲の初回答ありがとうございます。
デンドロビウム・ファレノプシスは気候の影響か近年花屋でよく見かけるお花ですね。
昨年実家で見たのもデンファレだと思うのですが、華やかでした。
頑張ります。

283名無しさん:2026/06/11(木) 22:14:36 ID:E0PowxL60
大変申し訳ありません。完全にボトルネックです。
イラストを併せて載せたかったものの、どうしても時間が取れず今ある物以外は完結後に少しずつ描いてアップする事にします。

ロケハン時の写真を発掘したので、花期全盛期の写真ではありませんが、そちらでも雰囲気をお楽しみ頂けましたら幸いです。
高頻度で更新予定です。

https://imgur.com/a/eT5EvHj
https://imgur.com/a/1ReRhoJ

284名無しさん:2026/06/11(木) 22:17:45 ID:E0PowxL60
まさかアップ画像の文字がNGワードに引っかかるとは…続きです

https://imgur.com/a/i5y0HJA
https://imgur.com/a/NZS3qWV
https://imgur.com/a/QlzU4DW

285名無しさん:2026/06/11(木) 22:40:59 ID:E0PowxL60
【曲ヒント4】
その曲を歌う彼は、長身のイメージがあり、帽子と長髪と髭が似合います。
彼の主なファン層をイメージするなら、30〜40代で骨格ナチュラルの落ち着いた女性、でしょうか。
彼は、最終話前に添えられるBGMの歌手とも縁があります。
また近年、花の名前の美しい女性と美術館の展覧会のテーマソングを担当しました。
黙れ小僧!

次回が最終ヒントです。

286名無しさん:2026/06/11(木) 22:41:35 ID:E0PowxL60
( ^ω^)σ ピンポーン

( ^ω^)「こんにちは。」

lw´‐ _‐ノv「やぁ、いらっしゃい。」






【 第六話 昼咲き月見草の戯れ 】




.

287名無しさん:2026/06/11(木) 22:42:21 ID:E0PowxL60
今日は、シュールさんの家にやって来た。

僕に余裕があると判断すると、モナーさんが勝手に訪問の予定をスケジュールに追加するのだ。
どうやら僕は、一人暮らしをしているシュールさんの見守り役にも任命されたらしい。


lw´‐ _‐ノvつ旦「それで、今度は坊やが新しいカーテンを作ってくれるのかい?」

( ^ω^)旦「…。」

(;^ω^)ノシ「とんでもない!僕には無理ですお!!」

lw;´‐ _‐ノv「…えぇ?後任じゃなかったのかい?」

(;^ω^)「そうですお。ですが、僕の技量ではこんなの作れませんお。」

288名無しさん:2026/06/11(木) 22:43:13 ID:E0PowxL60
モナーさんが作ったカーテンは、日本画然としたデザインだ。
大胆な構図でありながら落ち着きのある色加減で、年季の入ったシュールさんの家との調和が図られている。

モナーさんが時間をかけてこのカーテンを大切に作っていたのを、僕は覚えている。

( ^ω^)「なので僕は、出来るだけ修復で対応させて頂けたらと思っておりますお。流石に生地全体が傷んで遮光に問題が出てきたら、新調をご提案しますが…。」

lw´‐ _‐ノv「…そうかい。」

lw´‐ _‐ノv「お煎餅食べるかい?」

(*^ω^)「頂きますお。」

289名無しさん:2026/06/11(木) 22:44:09 ID:E0PowxL60
( ^ω^)) パリパリ

( ^ω^)「桔梗が綺麗ですお。」

僕は、庭を眺めながら言った。
シュールさんの庭の一角は枯山水調で、白砂の中に浮き島のような苔があり、そこに直立するように桔梗が佇んでいる。


( ^ω^)「…」

僕はふと、初めてここに来た時にシューさんが言っていた言葉を思い出した。


『ああ。植えてもらった時からそうなんだよ。だからといって早く散る訳でもない、庭孝行な花さ。』


( ^ω^)) パリパリ


シュールさんの家の梔子の花は、早く咲き始めたというのに、今も見頃だ。

290名無しさん:2026/06/11(木) 22:45:06 ID:E0PowxL60
_____
___
__

( ^ω^)「ただいま戻りましたお。」

( ´∀`)「シュールさんは元気にしてたかモナ?」

( ^ω^)つ□「はい、お変わりなかったですお。それから、モナーさんの分もお煎餅を頂きましたお。」

( ´∀`)つ□「でかしたモナ。この雑にかけられた醤油味が美味しいモナ。」

モナーさんは家で食べるつもりなのか、封は開けずにそのままデスクの上に置いた。

( ´∀`)「そういえば最近、内藤は僕に抜け駆けしてお洒落になってるモナ。」

( ^ω^)「ああ。以前担当した美容室の旦那さんに、今どきなワックスの付け方を教えてもらったんですお。」

( ´∀`)「じゃあ、僕も次の散髪はそこへ行ってみるモナ。」

( ^ω^)「…。」


(;*^ω^)

ハインさんが、何か余計な事を言わないと良いけれど。

291名無しさん:2026/06/11(木) 22:45:48 ID:E0PowxL60
_____
___
__

16:20

( ^ω^)「ふぅ…。」テクテク

僕は早めに仕事を切り上げ、ドクオさんの屋敷へと向かった。
今朝デレさんから、『今日はドクオさんがクッキーを焼くので、ぜひお立ち寄りください。』と言われていたからだ。

(;^ω^)(…もしかして、ここはお菓子の家なんじゃないかお…?だけど僕はもう、充分に肥えているお。)

僕は、自分の冴えない造形の手を眺めながらそう思った。

292名無しさん:2026/06/11(木) 22:46:49 ID:E0PowxL60
ζ(^ー^*ζ「お待ちしておりました。」

( ^ω^)「こんにちは。」

デレさんは今日は、左右の髪を緩く三つ編みにしている。

ζ(゚ー゚*ζ「今日は、しぃちゃんが来ていますよ。」

( ^ω^)「おっ、そういえば今まで木曜日はここに来た事がなかったですお。」

( ^ω^)「最近なんだか早起きが得意になって、登校の時間とはあまり被らないんですお。しぃちゃんに会うのは、お掃除の時以来ですお。」

pζ(^ー^*ζ「じゃあ、しぃちゃんこれからとっても喜びますね。」クスッ

ζ(゚ワ゚*ζ「今は内藤さんに花冠を渡したくて、作っているところなんです。」

デレさんは小声で、そう僕に微笑んだ。

293名無しさん:2026/06/11(木) 22:47:36 ID:E0PowxL60
バーバスカムの豊かな道を抜けると、しぃちゃんが僕達がいつもお茶をしているテーブルに座って、真剣な顔をしながら花冠を作っていた。

(*゚ぺ) ムム…

(*゚ワ゚)つ◎「出来た〜!」

∑(*゚ワ゚)「わっ!おじさま!こんにちはっ!」

(*^ω^)σ「こんにちは。それは何だお?」

僕は何も知らないフリをして、しぃちゃんに聞いた。

(*゚ー゚)◎「花かんむりです。」

(*゚、゚)つ◎「あの…どうぞ!」

(*^ω^)「わぁ!ありがとうだお!」

僕はピンクのスターチスが編み込まれた冠を受け取り、頭に乗せた。

 ****
( ^ω^)

 ****
(;*^ω^)(…全然似合わなくて恥ずかしいお…。)

294名無しさん:2026/06/11(木) 22:48:50 ID:E0PowxL60
ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、クッキー食べる?」

いつの間にかデレさんは屋敷まで行き、ティーワゴンを持ってきたようだ。

(;*゚、゚)つ「えーっと…。」

僕と手を洗ってきたしぃちゃんは悩んで、トレーに乗った3種類のクッキーから、一番手前の細かい緑色の葉が練り込まれた物を選んだ。

(*゚、゚)) モグモグ

(;*>、<)「うっ…へんな味…。」

( ^ω^)つ「そうなのかお?じゃあ僕も、頂きますお。」

僕は手を伸ばして、しぃちゃんが食べた物と同じクッキーを選んだ。

(*^ω^))「あっ!僕これ好きですお。」モグモグ

プレーンの生地に、僅かにスーッとする芳香が加わっている。

(*゚、゚)つ●

(*゚ー゚)) ポリポリ

しぃちゃんはその間に、細かいアーモンドダイスの混ざったココアクッキーで口直しをしていた。
僕は気に入ったので、また同じ物に手を伸ばした。

(*^ω^)) ポリポリ

https://imgur.com/a/fPYbIb0

295名無しさん:2026/06/11(木) 22:50:01 ID:E0PowxL60
( ^ω^))「これは何ですかお?ジンジャークッキーみたいに、食べているとなんだか身体がポカポカしますお。」

ζ(^ー^*ζ「ローズマリーのクッキーです。生姜と同じく、血行促進の効果があるからかもしれませんね。」

( ^ω^)「おお、こんなに早く効果があるなんて凄いですお。」

そう言いながら、僕はデレさんが淹れてくれた紅茶を飲んだ。

( ^ω^)「お、これは分かりますお。ダージリンですお。」

ζ(^ー^*ζ「当たりです。」

296名無しさん:2026/06/11(木) 22:51:31 ID:E0PowxL60
( ^ω^)「ダージリンは紅茶の王様という話を聞いた事がありますが…。日本人が想像するいかにも紅茶らしい味とは違いますおね。」

( ^ω^)「なんだか、飲み慣れている味に近くて驚きますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「お茶の発祥は中国で、元々は緑茶の状態だった物がイギリスに輸出される際に、水質に合う味になるよう更に発酵させて紅茶になっていったという話があります。」

ζ(゚ー゚*ζ「緑茶も紅茶も烏龍茶も、種は違えどチャノキの新芽が原料です。ダージリンは烏龍茶と同じ半発酵茶だそうなので、味が似ているのでしょうね。」

( ^ω^)「なるほど、確かに烏龍茶っぽいですお。」

ζ(^ー^*ζ「中国の紅茶にはキームンという種類もあります。こちらもアジア風の味ですよ。」

( ^ω^)「そうですか。ちょっと飲んでみたいですお。」

(*゚ぺ) ムム…

(;^ω^)「あっ、ごめんお!苦いからしぃちゃんはミルクなんだおね。」

297名無しさん:2026/06/11(木) 22:52:35 ID:E0PowxL60
(*゚、゚))! モクモグ

(*゚ー゚)σ「おじ様!これも美味しいです。」

( ^ω^)「おっ?何だお?」

しぃちゃんが指差したのは、細かく黒い粒が所々に見えるクッキーだ。

( ^ω^)つ◯「では…」

( ^ω^))「…!」モグモグ

(;^ω^)「お店のクッキーのような風味ですお!」

バニラとはまた違う、大人っぽい香りだ。

ζ(^ー^*ζ「そちらはカルダモンです。」

ζ(゚ー゚*ζ「カルダモンはカレーに使われるイメージがありますが、成分にリモネンが含まれているので、柑橘っぽい香りでお菓子とも相性が良いんです。」

(*^ω^))「お、確かに風味付けに少しレモンが使われているようなお菓子に似た雰囲気がありますお。」ポリポリ

298名無しさん:2026/06/11(木) 22:54:05 ID:E0PowxL60
みんなでクッキーを空にした後で、デレさんが言った。

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、しぃちゃん。お土産にブーケを作ろうか。」

ζ(^ー^*ζ「テーブルを片付けて包み紙とリボンを持ってくるから、好きなお花を摘んで持ってきてね。」

(*゚ワ゚)「うん!」

しぃちゃんは元気に周りの花へと走っていった。
それを見送った僕は、デレさんの片付けを手伝う事にした。

(*^ω^)「甘い系統のハーブクッキー、凄く気に入りましたお。」

ζ(^ー^*ζ「良かったです。」

( ^ω^)「しぃちゃんは、だいぶデレさんに慣れてきましたお。」

ζ(^ー^*ζ「嬉しいですね。でも今日は内藤さんがいるから、これから競争になると思いますよ。」クスクス

299名無しさん:2026/06/11(木) 22:55:23 ID:E0PowxL60
ζ(゚ー゚*ζ「…しぃちゃんって、可愛いですよね。」

片付けの手を止めたデレさんが、遠くで真剣に花を選ぶしぃちゃんの後ろ姿を眺めながら、穏やかにそう言った。

奥で咲く昼咲き月見草やペンステモンは軽い風でも揺れ、僕の目にはっきりと見えるのは、デレさんだけだ。

( ^ω^)「…。」

デレさんは人の姿をしているけれど、ショボンさん曰く屋敷の調度品で、付喪神のような存在なのだろう。

人が幼子を慈しむのはきっと、同族の繁栄への希望だとか、そのようなものだろう。
だけど、付喪神はどんな気持ちでそう思うのだろうか?


(*゚ー゚)つ「デレー!これはいいっ!?」

ζ(^ー^*ζ「いいよー!内藤さんと私の分、3人分摘んでおいてね!」

(;^ω^)∂「おっ、僕もですかお!?」

300名無しさん:2026/06/11(木) 22:56:20 ID:E0PowxL60
ティーワゴンを置きに行ったデレさんが梱包材を持ってきてくれて、ブーケ作りが始まった。

(*゚ー゚)q「ぜったいデレよりも上手に作るんだからっ!」

ζ(゚ー゚*ζ「今日も張り切ってるね。」

ζ(^ー^*ζb「それじゃあ、勝った方が内藤さんとブーケを交換出来るって事にしようか。」

(;^ω^)「初めて作る僕のと交換しても、損した気分になりませんかお?」

(*゚ー゚)q「負けない!」

ζ(^ー^*ζq「私も今日は本気出しちゃうよ〜!」

(;^ω^)「聞いてくださいおー…。」

301名無しさん:2026/06/11(木) 22:57:19 ID:E0PowxL60
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私が茎を整えている間に、しぃちゃんが一番最初に教わった事を内藤さんにも教えてあげてね。」

(*゚ワ゚)「うん!」

しぃちゃんはデレさんが整えた花から、何本かを抜き取って実演してくれた。

(*゚ー゚)「せのじゅんにならべて、小さいお花はまわりにパラパラってするとかわいいです。」

( ^ω^)「背の順…」

(*゚ー゚)つ「お花をわゴムでとめて、キッチンペーパーでつつんで、水の入ったふくろに入れて、アルミホイルを巻いて、かみでつつみます。リボンをつけたら…完成!」

(;^ω^)「ラッピングの時、もう一度教えてほしいお。」

(*゚ワ゚)「分かりました!」

302名無しさん:2026/06/11(木) 22:58:01 ID:E0PowxL60
僕は、教わった通りにブーケを作り始めた。

(;^ω^)「おっ…?」ポロッ

(;^ω^)「わわっ…!」ポロポロッ

(;^ω^)つ)) マトメマトメ

花を組んで輪ゴムで留めようとすると、途中で手が外れてバラバラになってしまう。

(;^ω^)ウーム…

小さな手のしぃちゃんでも出来ているのに、中々上手くいかないものだ。

303名無しさん:2026/06/11(木) 22:59:02 ID:E0PowxL60
_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃ、準備は良い?せーのっ」

デレさんの掛け声で、僕達は作ったブーケをテーブルの上に置いた。

(*^ω^)「おっ、しぃちゃんは小さなお花と色違いのお花で可愛いお。」

ζ(゚ワ゚*ζ「夏白菊とスカビオサのブルーホライズンに、イエロームーンですね。」

ζ(^ー^*ζ「淡い色でまとまっていて、とっても綺麗だね!」

<(*゚ー゚)> エッヘン

ζ(゚ー゚*ζ「私のはどうかな?」

<(*゚ー゚)> …

∑(;*゚д゚)「何これー!?こんなの教えてもらってないっ!ずるいっ!!」

デレさんが作ったブーケは、白のスカシユリをボール状に敷き詰めたものだった。

(;^ω^)「お祝いの席とかで見る感じのやつですお。」


正直、大人気ないと思った。

304名無しさん:2026/06/11(木) 23:00:10 ID:E0PowxL60
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんは、どのお花を使いましたか?」

そう言って二人が僕の方を見た。

(;^ω^)「カンパニュラ・ブルーワンダーの一種類だけですお。」

なんとかまとめて、クラフト紙にチョコレート色のリボンを結んだだけで精一杯だった。

(*゚ワ゚)「かわいい!」

ζ(゚ー゚*ζ「一種類でも蕾で色やアクセントが出ているので、淋しくないですね。」

ζ(^ー^*ζ「可愛くて少しシックで、素敵です。」

(;^ω^)「そうですかお?なら良かった…。」


<(*゚、゚)>「それで、どっちが勝ちなの?」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんに決めてもらいましょうか。欲しい方を教えてください。」

( ^ω^)「えっ?えーっと…」

(*^ω^)σ「それじゃあ、しぃちゃんのブーケが良いお。色合いがとっても可愛いお!」

(*^ワ^)「やったぁ!!」

∑ζ(゚、゚;ζ「しまった…!内藤さんは可愛い雰囲気のものに弱いんでした…!」

305名無しさん:2026/06/11(木) 23:01:13 ID:E0PowxL60
( ^ω^)「そういえば、そろそろ小学生は帰る時間じゃないかお?」

腕時計を見ても、もう17時を過ぎている。

(;*゚、゚)「あっ…ほんとだ!」

ζ(゚、゚*;ζ「気が付かなくてごめんね!お土産のクッキーと内藤さんのブーケ、持っていってね。」

(;*゚、゚)「うん。」

(;^ω^)「やっぱり道中が心配だから、今日は僕が送っていきますお。すみませんが、後片付けをお願いしても良いでしょうか?」

ζ(゚、゚*;ζ「大丈夫です!お願いします。」

門まで距離があるので、僕としぃちゃんは小走りをした。

(;*゚ー゚)) クルッ

(;^ω^)「しぃちゃん?」

(*゚ο゚) スゥ…

(*゚ο゚)∩「デレーっ!!」

(*゚ο゚)∩「さっき作ったの、今度教えてねーっ!!」

ζ(゚ー゚*ζ!

ζ(^ー^*ζノシ「分かったよーっ!」


クロサンドラの道の途中で、2人はそう約束した。

____________________________

306名無しさん:2026/06/11(木) 23:02:13 ID:E0PowxL60
_____
___
__

( ^ω^)「…。」テクテク

(;^ω^)!!

送るとは言ったものの、僕は重大な問題に気付いてしまった。

しぃちゃんを安全に家まで送り届けるには、しぃちゃんの家まで付いて行かなければならない。
見ず知らずのおっさんに住所を知られるなんて、しぃちゃんのご両親には不快極まりない事だ。

(*^ー^)「おじ様、こっちです。」

(;^ω^)「あの…し」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ?しぃ?」

僕達の目の前に、スーパーの袋を片手に持った芹沢さんが現れた。

307名無しさん:2026/06/11(木) 23:05:42 ID:E0PowxL60
(*゚ー゚)「お母さん!」

しぃちゃんが、芹沢さんに駆け寄った。

ミセ*゚、゚)リ「どうしたの?こんな所で。」

(*^ー^)「おじ様とブーケ作ったの!」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの!凄いねぇ。」

(;^ω^)「あの…しぃちゃんが作ったのはこっちですお。交換してくれて…。」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、そうなんですね。そっちも可愛い!」

(;^ω^)「しぃちゃんのお母さんは芹沢さんだったんですね。あの、荷物もありますしお話は明日会社で…」

ミセ*゚ー゚)リ「聞いてますよ。素敵なおじ様がいて、言葉の最後におって付けてて、カーテンの会社に勤めてるなんて、ここら辺では内藤さんしかいないじゃないですか。」

(;^ω^)「おっ…」

308名無しさん:2026/06/11(木) 23:07:54 ID:E0PowxL60
ミセ*゚ー゚)リ「それでお花の事を教えてくれて、お菓子のお土産をくれるお姉さんがライバルなんだっけ?」

(#゚ー゚)q「そう!」

(;*^ω^)「ライバル…。最近はそういう漫画が流行ってるのかお?」

僕は、はぐらかしたい一心で言った。

ミセ*゚ー゚)リ「いやー、内藤さんに良い人がいたとは。」

(;^ω^)ノシ「違いますお!」

ミセ*^ー^)リ「大丈夫!会社の人には言いませんよ。」

ミセ*゚∀゚)リ「私はしぃから一部始終を聞けるのd…」

ミセ*゚ー゚)リ「いえ、ほぼ指名とはいえ内藤さんには相談役もお任せしてばかりなので。」

(*゚、゚)「お母さん、何話してるのぉ?」

(;^ω^)「えっと…。お仕事の話だお。」

____________________________

309名無しさん:2026/06/11(木) 23:09:31 ID:E0PowxL60
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__

ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんのお母さんが内藤さんと同じ会社の方だったとは、びっくりですね。」

( ^ω^)φ))「はい。言われてみれば芹沢さんに面影がありますお。」

今日は、ギリアとダリアのスケッチに来ている。
真心という名のダリアは、花弁が黄色からピンクへと柔らかいグラデーションになっている。

( ^ω^)□)) パタン

( ^ω^)「ではそろそろドクオさんにご挨拶して、帰りますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。今度のお休みに、睡蓮を見に来ませんか?」

( ^ω^)「睡蓮…、ですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。お昼頃までしか咲いていないので、休日はどうかと思いまして。」

( ^ω^)「…。」

僕は納品以降もデレさんの頻繁な誘いに、ズルズルと乗ってしまっている。

『ここは不思議な場所だから、もしかすると断った途端に二人が鬼やお化けに豹変するのではないだろうか?』

デレさんもドクオさんもそんな気配など微塵も無いのに、僕は自分を誤魔化す理由をいくつか作っては通うのだ。

( ^ω^)「…分かりました。では、次の日曜日はどうでしょうか?ドクオさんにも伝えておきますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「お願いします。」

310名無しさん:2026/06/11(木) 23:10:26 ID:E0PowxL60
_____
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( ^ω^)「今日もありがとうございましたお。随分と暑くなってきたので、お互い仕事に集中し過ぎないように気をつけましょう。」

( ^ω^)「それと、最近お菓子を取り寄せたので、ドクオさん達にもぜひと思いまして。どうぞ。」

('A`)「…」

( ^ω^)「なんばん往来です。パイ生地と、アーモンドのスポンジ生地にベリージャムが入っているお菓子で、とても美味しいですお。」

('A`)「…ベイクウェルスライスみたいだ。」

( ^ω^)「…?」

ドクオさんはぽつりと、やけに幼い声で呟いた。

311名無しさん:2026/06/11(木) 23:11:07 ID:E0PowxL60
( ^ω^)「あの…。ショボンさんから、デレさんはここの調度品だろうと聞いているのですが、元々はどんな姿なのでしょうか…?」

('A`)「…」

暫く待ったけれど、返事は無かった。


( ^ω^)「…」


僕はふと、ドクオさんがあの大広間にデレさんを招き入れる姿を思い出した。




随分と、仲が良さそうだった。

312名無しさん:2026/06/11(木) 23:12:06 ID:E0PowxL60
(;^ω^)



こんな事を聞いてはいけない。


デレさんはドクオさんのお家に古くからある何かで、物で。



ドクオさんの持ち物で。




ζ(^ー^*ζ「お話を聞いたら…。私も街に行って、内藤さんの作ったカーテンを見てみたくなってしまいました。」




そんな言葉が嬉しくて、

それを叶えようとしたって、

何の意味も無い。



お世辞に決まっている。




.

313名無しさん:2026/06/11(木) 23:12:52 ID:E0PowxL60

ああ、僕はあの日、どうして。


遅刻をして、屋敷の前の道を通ってしまったのだろう?


子供が欲しいと言っていた妻の最後の言葉を思い出すと苦しくて、小学校の通学路のあの道を、ずっと避けていたのに。



.

314名無しさん:2026/06/11(木) 23:13:33 ID:E0PowxL60






( ^ω^)「ドクオさんは、デレさんの事が好きなんですかお?」





.

315名無しさん:2026/06/11(木) 23:14:26 ID:E0PowxL60







ドクオさんから、

ああ。という言葉だけが返ってきた。






.

316名無しさん:2026/06/11(木) 23:15:05 ID:E0PowxL60
____________________________

_____
___
__

コンコン

「はい。」

('A`)

ζ(゚ー゚*ζ


('A`)「…ずっと見ているの?」

ζ(^ー^*ζ「はい。」


('A`)

('A`)「…裾、前よりほつれてる」

317名無しさん:2026/06/11(木) 23:16:05 ID:E0PowxL60
('A`)「裁縫セット持ってくるから…座ってて。」

ζ(゚、゚*ζ「えー、いいですよ。私が縫ってもドクオさんが縫っても、翌日には解けちゃうじゃないですか。」

('A`)「…。」

('A`)「…デレ。外に出て、長く日に当たるのはもうやめて。」

ζ(゚、゚*ζ「…?外の環境で傷んでいるわけではなさそうですけれど。」

ζ(゚、゚*ζ「歩道との摩擦も感じないですし、今までずっと外に出ていても、ショボンさんのように日焼けする事だって無いじゃないですか。」

('A`)「そうだけど…」

('A`)「用事がある時は良いよ。だけど、それ以外は家の中に居て。」

ζ(゚、゚*ζ「えー。」

('A`)「…お願いだから。」

ζ(゚ー゚*ζ

ζ(^ー^*ζ「…はい。」

318名無しさん:2026/06/11(木) 23:16:32 ID:E0PowxL60
【 第六話 昼咲き月見草の戯れ 】

終わり

319名無しさん:2026/06/11(木) 23:16:59 ID:E0PowxL60
【登場人物】

ミセ*゚ー゚)リ
芹沢ミセリ
内藤の後輩でしぃの母親

320名無しさん:2026/06/11(木) 23:17:40 ID:E0PowxL60
【ローズマリークッキー】約15枚
バター 50g
てんさい糖 38g
卵黄 1個
薄力粉 95g
アーモンドパウダー 15g
スキムミルク 1g
生のローズマリー 20cm(葉だけ取って大さじ1くらいの量)

【カルダモンクッキー】
バター 50g
てんさい糖 38g
卵黄 1個
薄力粉 95g
アーモンドパウダー 15g
スキムミルク 1g
カルダモンパウダー 小さじ2/3

【ココアクッキー】
バター 50g
てんさい糖 45g
卵黄 1個
薄力粉 70g
ココア 10g
アーモンドパウダー 20g
スキムミルク 2g
アーモンドダイス 〜20gくらい
バニラオイル 3滴(お好みで)

※大人だけで食べる場合は、ローズマリー、カルダモンのスキムミルクは省いても良いです。
また、ココアクッキーには少量のシナモン等のスパイスを混ぜても。

321名無しさん:2026/06/11(木) 23:18:27 ID:E0PowxL60
【作り方】
1.バターと卵を常温にしておく。(フープロなら冷たいままでも全然OK)

2.バターとてんさい糖をフープロに入れて混ぜる。溶いた卵黄をフープロに入れ、更に混ぜる。(代用:泡だて器)

3.各粉類とハーブをフープロに加え混ぜる。ココアはアーモンドダイスの形を残すため、生地が出来たらヘラでダイスを加え混ぜる。(代用:ヘラ、ローズマリーは包丁で粗くみじん切り)

4.ラップやクッキングシートで生地を包み、3.5cm程度の丸い棒状に伸ばす。4時間以上または一晩冷蔵し、金太郎飴のように7mm幅でカット。
型抜きするより表面が割れやすいですが、食感が良いです。

5.170度に温めたオーブンで、様子を見ながら13分ほど焼く。終盤に菜箸で裏面を確認し、薄い茶色になったら引き上げる。
(ココア味は裏面が茶色のうちに引き上げてください。黒っぽくなったら焦げ過ぎです)

6.ケーキクーラーかお皿+キッチンペーパーの上で粗熱を取りきってから食べる。

322名無しさん:2026/06/11(木) 23:21:03 ID:q7Q8jiJ.0
投下嬉しいー!!待ってた!おかえりなさい!
乙乙!

323名無しさん:2026/06/11(木) 23:36:53 ID:E0PowxL60
>>322
ありがとうございます!ただいまです!!

324名無しさん:2026/06/11(木) 23:37:15 ID:E0PowxL60
【画像】
https://imgur.com/a/etqBE2z
https://imgur.com/a/sHoa4Ds

325名無しさん:2026/06/11(木) 23:38:19 ID:E0PowxL60
【最終曲ヒント】
天然甘味料

326名無しさん:2026/06/11(木) 23:39:25 ID:E0PowxL60
( ^ω^)「こんにちは。」

ζ(^ー^*ζ「お待ちしておりました。」

ζ(゚ー゚*ζ「少しぬかるんでいる所も残っていますので、気を付けてくださいね。」

( ^ω^)「昨日は大雨でしたおね。分かりましたお。」

327名無しさん:2026/06/11(木) 23:40:10 ID:E0PowxL60


【 第七話 睡蓮と糸 】


.

328名無しさん:2026/06/11(木) 23:42:23 ID:E0PowxL60
デレさんに誘われて、今日は朝から睡蓮を見にやって来た。

( ^ω^)「こっちの道は、初めて行きますお。」

いつもは門から中央の道を通るが、今日は左手に進み、しばらく歩いている。

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。屋敷まで繋がらない道ですし、日陰が多くて寒いので。」

( ^ω^)「今の時期なら涼しくて丁度良いですお。」

( ^ω^)…

(;^ω^)「…そういえば。ここは蚊も金属で出来ているんですかお?」

今から行く場所は水辺だ。
物凄く嫌な想像をしてしまった僕は、不安になった。

ζ(゚、゚*ζ「蚊はいませんよ。」

ζ(^ー^*ζ「ドクオさんが、用が無いからかもしれませんね。」クスクス

(;^ω^)=3 ホッ

(;^ω^)「羨ましいですお…。うちにもそんなバリアーがあれば良いのに。」

ζ(^ー^*ζ「ふふ。」

329名無しさん:2026/06/11(木) 23:45:51 ID:E0PowxL60
( ^ω^)テクテク…

高い木々に囲まれた道を進むと、個人宅とは思えないほどの規模の人工池があった。

(*^ω^)「おお…これは凄い…。」

目当ての睡蓮は見頃で、丸い葉と共に所々に白やピンクの花を咲かせ、端にはミズアオイも。
それが無い水面には、周りの木々が映し出される。
辺りには金糸梅が咲き、奥には年季の入った木製の小さなアーチ状の橋と、同じく木製のガゼボがあった。

ζ(゚ー゚*ζ「橋からだと、よく見えますよ。」

( ^ω^))「分かりましたお。ではそこで描かせて頂きますお。」

330名無しさん:2026/06/11(木) 23:47:51 ID:E0PowxL60
( ^ω^)φ))

僕は、スケッチブックを取り出して睡蓮を描き始めた。
デレさんも案内だけではなく、当たり前のように横に立っている。

( ^ω^)φ「そういえば、最近は食生活を見直していますお。といっても、野菜を増やして炭水化物を気持ち減らしているだけですが…。」

人ζ(゚ワ゚*ζ†+「それは良かったです!」

(;^ω^)φ「流石に木を育ててくれる程までは、反省しますお…。」

ζ(゚、゚*ζ、「上手く育たなかったのは、本当に残念でした。お庭は、夏でも程々にしか暑くなりませんからね…。」シュン…

(;^ω^)φ「暑過ぎると今度は他の花が育ちませんから、それで良いんですお。ショボンさんも大変ですし…。」

331名無しさん:2026/06/11(木) 23:49:40 ID:E0PowxL60
( ^ω^)φ))「…」

(;^ω^)(靴がドロドロだお。ドクオさんにお礼を言いに行く前に、乾いた道で上手く落ちてくれると良いけど…)

屋敷の玄関の靴箱は木製なので、この状態のまま仕舞うとなると、気が引ける。

(;^ω^)(あっ、そういえば…)

僕は、デレさんのドレスの裾も泥だらけになっているのではないかと心配になった。
ちらりとデレさんの足元を見ると、同じ道を通ってきたとは思えないほど、汚れ一つ無い。

( ^ω^)(デレさんの姿は比喩のようなものだから影響しないって、本当だったのかお…。)

( ^ω^)(ん?あれ……?)

∑(;^ω^)

(;^ω^)σ「あの…、デレさん。ドレスが前よりもだいぶ解れてはいませんかお?」

ζ(゚、゚*ζ「これですか?…そうですね。去年まではこんな風じゃなかったのに、最近はあちこち解れてます。」

ζ(゚ー゚*ζ、「でも私が縫ってもドクオさんが縫っても、翌日には戻ってしまうので、どうしようもないんです。」

ζ(゚、゚*ζ「一張羅なので、ちょっと困ってはいますが…。」

332名無しさん:2026/06/11(木) 23:50:41 ID:E0PowxL60
(;^ω^)「そんな…。」

(;^ω^)q ウーン…

(;^ω^)q「…あの、もしかしたら糸が古いのかもしれませんお。」

ドクオさんは、お祖父さんの服を着ている。
だから古くから家にある物で、他の事も済ませているのかもしれない。
例えば長年放置されたままで、日に当たり続けていた糸を使ってしまったとか。

( ^ω^)「…もし良ければ、補修させて頂いても良いでしょうか?」

ζ(゚、゚*ζ「えっ…?」

333名無しさん:2026/06/11(木) 23:51:33 ID:E0PowxL60
デレさんは驚いて、困惑の表情で首を横に振った。

ζ(゚、゚*;ζ「悪いですよ。本当に翌日には戻ってしまうんです。」

ζ(゚、゚*;ζ「それに、内藤さんは絵を描く用事がありますし…。」

( ^ω^)「では、描き終わったら一番大きな解れだけでも縫わせてくださいお。」

ζ(゚、゚*;ζ「…分かりました。」

334名無しさん:2026/06/11(木) 23:53:35 ID:E0PowxL60
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___
__

( ^ω^)「失礼しますお。」

絵を書き終えた僕達は、近くにあるガゼボに移動して長椅子に腰掛けた。
屋根で更に日陰になり、涼しく感じられる。

僕は横に座るデレさんのドレスの裾を持ち、バッグに携帯している簡易のソーイングセットの針と糸で、解れた部分を縫っていく。

ドレスは短めのトレーンだけれど、デレさんの足元は隠れたままなので、僕は幾分かホッとした。


僕の強引な行動に、デレさんは軽蔑しているかもしれない。

( ^ω^)(…僕はドクオさんに、対抗心を持ってしまっているのかもしれないお…。)


動かす手は緩めず、そんな事を考えた。

335名無しさん:2026/06/11(木) 23:56:14 ID:E0PowxL60
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、随分と手慣れていますね。」

( ^ω^)「ああ。上司の引き継ぎで立派な刺繍のあるお宅を担当しているので、最近は修繕のための練習をしているんですお。」

( ^ω^)「刺繍は機械が主なのですが、小さな部分なら僕がすぐ縫った方がお預かりする事もなく、お客様も喜ばれるかと…。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでしたか。」

それから二人の目線は自然と、近くに咲いているヘリオトロープへと向いた。

ζ(゚ー゚*ζ「…ソーイングセットは、いつも持ち歩かれているのですか?」

( ^ω^)「そうですお。会社でも持ち歩いているので、もしもの時にと。」

(;^ω^)(…お腹の出過ぎで、もしもズボンのホックやボタンが飛んだ時の対策だなんて言えないお…。)

336名無しさん:2026/06/11(木) 23:58:17 ID:E0PowxL60
ζ(゚、゚*ζ「あの…奥さんが縫ってくれたりは…?」

( ^ω^)「え…?」

ζ(゚、゚*;ζ「あ…すみません。ショボンさんは奥さんに繕ってもらっていると聞きましたので。」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「…妻には先立たれていますので。でも僕は仕事柄得意なので、自分で出来ま」

°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」

∑(;^ω^) ビクッ!!

(;^ω^)「大丈夫ですかお…?」

ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ

(;^ω^)「いえ…。」

337名無しさん:2026/06/11(木) 23:59:47 ID:E0PowxL60
(;^ω^)「…あの、大丈夫ですかお?」

ζ(゚、゚;ζ「…?」

(;^ω^)「凄く…寒そうに見えますお。」

デレさんはよくクシャミをするけれど、こんな風に手で腕を抱えて、震えを抑えるようなポーズを取っていた事は無い。

ζ(゚ー゚*;ζ「大丈夫…です…。」

(;^ω^)「あの、もし良かったら…」

僕は自分のバッグから、カーディガンを取り出した。

(;^ω^)つ□「洗ってからまだ使っていないので、寒いよりは良いかと…。」

ζ(゚、゚*ζ「…。」

デレさんは、僕が渡した灰色のカーディガンをじっと見つめている。

(;^ω^)「…いくら何でも僕の服を着るのは嫌ですおね。」

(;^ω^)「すみません、もうすぐ縫い終わるので、屋敷までお送りしま」


ζ(゚ー゚*ζ「いえ、ありがとうございます。」


そう言ってデレさんは、カーディガンの袖に腕を通した。


____________________________

338名無しさん:2026/06/12(金) 00:04:25 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

( ^ω^)「本当に屋敷まで戻らなくて、大丈夫ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ。ちょっと寒かっただけですから。」

ζ(^ー^*ζ「ご心配をおかけしました。」

( ^ω^)、「なら…良いのですが…。」

デレさんはまだ寒いのか、僕のカーディガンを羽織ったままだ。

暖色でカラフルに咲くノコギリソウの道を抜け、いつものテーブルセットまで歩いて行くと、ドクオさんが用意してくれたのか、既に軽食が並んでいた。
ワゴンにはデザートも控えており、コードレスの保温ポットまであった。

辺りを囲んでいる、花弁の先が少し青いピンクの花を珍しそうに見ていた僕に気付いたデレさんが、あれは夏水仙だと教えてくれた。

339名無しさん:2026/06/12(金) 00:05:33 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「お茶は僕が用意しますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。」

ζ(^ー^*ζ「本日のお茶は、アールグレイです。」

( ^ω^)「楽しみですお。」

それから僕達は、用意されていたサンドイッチを食べる事にした。
サンドイッチは小さめで、ローストビーフとクレソンと、トマトとチーズが挟まれた物がある。


ζ(^ー^*ζ「きっと私が、内藤さんがドワーフトマトを気に入っていたとドクオさんに話したからですね。」

( ^ω^)、「そうですかお…。」

デレさんと一緒に暮らすドクオさんに少なからず嫉妬をしている僕は、申し訳なさが混ざり、複雑な気持ちになった。

( ^ω^))(ローストビーフは、作るのに時間がかかると聞いたことがあるお…。)モグモグ

クレソンの辛味と苦みが、まるで僕を窘めるようだ。

340名無しさん:2026/06/12(金) 00:08:15 ID:oQVOL7y.0
_____
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__

昼食を食べ終えた僕達は、そのままゆっくりとお茶をする事にした。

(;^ω^)(おー…凄いお。)

食事の間にデレさんは、スライスオレンジの張り付いた蒸しケーキとカスタードソースのポットを保温器に乗せて温めてくれていた。

ζ(゚ー゚*ζ「オレンジプディングです。」

ζ(^ー^*ζ「ソースをプディングの周りにかけて、浮き島みたいにしてくださいね。」

(;^ω^)つ∏「こうですかお?」タラー

僕はプディングにかからないように気を付けながら、少し深さのある皿にソースを流した。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。では、頂きましょうか。」

( ^ω^)人「はい。頂きますお。」

341名無しさん:2026/06/12(金) 00:09:54 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^))ψ モグッ

(;^ω^))「…これはっ、まるで萩の月ですお…!」モグモグ

ふわふわでしっとりの蒸しケーキにカスタードソースを絡めて食べると、僕は宮城県の黄色い銘菓を思い出した。
だけどそれよりも後味は軽く、素朴な味だ。

(*^ω^))「…特にこのオレンジが良いですお。沢山入っていればいるほど嬉しい気持ちになるような…」モグモグ

ζ(^ー^*ζ「よく合いますよね。」

(;^ω^)「このお庭でオレンジを育てたら、凄く沢山採れそうですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。食べきれない時はドライフルーツにするのですけれど、それを煮て柔らかくした物もこのプディングに使えるんです。」

(*^ω^)「それは、楽しめる期間が長くて良いですお。」

342名無しさん:2026/06/12(金) 00:12:44 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)) コクッ

僕は紅茶を飲み、喉を潤した。

(*^ω^)「凄く良い香りですお。」

ζ(^ー^*ζ「アールグレイに使われているベルガモットもオレンジと同じミカン科なので、今日は柑橘類合わせですね。」

(*^ω^)「あまり似たものという感じはしませんが、どちらも良い香りで、楽しい気分になりますお。」

(*^ω^)「ここに来てから、色々な種類の紅茶を飲みましたお。僕はアッサムとアールグレイが好きですお。」

343名無しさん:2026/06/12(金) 00:14:32 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚ー゚*ζ「すみません。そういえば、改めてお礼を言うのを忘れていました。」

デレさんがフォークを動かす手を止め、姿勢を正してからそう言った。

ζ(^ー^*ζ「内藤さん、本当に素敵なカーテンをありがとうございました。」

(*^ω^)「どういたしまして。デレさんが、お庭を沢山案内してくれたおかげですお。」

ζ(^ー^*ζ「毎日眺めています。夜中に本を読みきってしまった時とか。ドクオさんも二階で寝てしまっているので、一人でも、寂しさが紛れます。」

(;^ω^)「…あまり夜更かしはしない方が良いのではないですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「私は眠らないので、夜中は暇つぶしに本を読んだり、押し花を作ったりしているんです。」

∑(;^ω^)「…えっ…?デレさんは…、眠る事が出来ないのですかお!?」

(;^ω^)「全く…ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ。嘘だと思うなら、本当に眠らないかを確かめに来て頂いても良いですよ。」

∑(;^ω^)ノシ「いえ!!信じますお。」

ζ(゚、゚*ζ、「…お話し相手が出来ると思ったのに、残念です。」

デレさんは本気だったようで、つまらなそうな顔をした。

344名無しさん:2026/06/12(金) 00:15:37 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)、「だけど本当に驚いてしまって…。あの、それで退屈にはならないのですかお?」

いくら大きな本棚があるといっても、3年も眠らなかったら読み飽きてしまうかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね、読み返したりもするのでそこまでは…ですが、新しい本は好きですね。」

( ^ω^)「僕の家にある本で良ければ、今度持ってきますお。」

人ζ(^ワ^*ζ「本当ですか!?ありがとうございます!」

345名無しさん:2026/06/12(金) 00:16:39 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「ありがとうございました。では、今日はこれで失礼しますお。」

お茶を終えた僕は屋敷までデレさんを送り、玄関でそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「すみません、カーディガンは洗ってお返ししますね。」

( ^ω^)「分かりましたお。予備があるので、急ぎじゃなくて大丈夫ですお。」

( ^ω^)「…あの、明日も少しだけ訪ねてもよろしいでしょうか?ドクオさんに、お礼をしたいんですお。」

ζ(゚ワ゚*ζ「分かりました。伝えておきますね。」

( ^ω^)「お願いしますお。それでは、さようなら。」

____________________________

346名無しさん:2026/06/12(金) 00:17:39 ID:oQVOL7y.0
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コンコン

「はい。」

('A`)「…デレ、その服は…?」

ζ(^ー^*ζ「内藤さんにお借りしたんです。」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだ。明日、内藤さんが今日のお礼を持ってきてくれるそうですよ」

('A`)つ「…分かった。…洗濯しておくから、貸して。」

ζ(゚ぺ*ζ「えー?」

('A`)「明日は良い天気で、返せそうだから。」

ζ(゚、゚*ζ「洗うのは明日の朝ですよね?その時持っていきますよ。」

('A`)「…分かった。」

('A`)「お茶…溢さないでね。」

ζ(゚、゚*;ζ「子供じゃないから、大丈夫ですよっ。」

____________________________

347名無しさん:2026/06/12(金) 00:19:14 ID:oQVOL7y.0
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7:00

( "ゞ)「あれ!?久しぶりだね。」

( ^ω^)「ご無沙汰してますお。最近はまた家で朝食を取るようにしているんですお。」

( ^ω^)「今日は久々の朝食と、手土産用の買い物をしに来ました。」

大通り沿いにあるデルタさんのお店は、モーニングからランチの時間まで開いている喫茶店だ。
僕は常連で、出勤のルートを変えるまで朝食はここで取っていた。

( "ゞ)「そうなんだ。じゃあ注文は、いつも通り季節のサンドセットで良いかな?」

( ^ω^)「お願いしますお。」

ひと月来ていなかったからか、木壁の内装と大きな窓を✕状に支える柱、それから天井から下がるランプがやけに懐かしく感じる。

僕はカウンター席に座り、虹色の肥前びーどろのグラスから水を一口飲んだ。
それから、レジ前の土産用の品が並ぶ棚を眺めた。

____________________________

348名無しさん:2026/06/12(金) 00:20:21 ID:oQVOL7y.0
_____
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__

16:30

(( ^ω^)テクテク

今日の仕事が終わった僕は、紙袋を片手にドクオさんの屋敷へと向かう。

ζ(^ー^*ζ「こんにちは。」

( ^ω^)「こんにちは。」

門の先でデレさんが、いつものように僕を待っていてくれた。

ζ(^ー^*ζ「それでは、行きましょうか。」

( ^ω^)「はい。」

デレさんの動きに合わせて、ドレスが揺れた。

( ^ω^)「あれっ……」

349名無しさん:2026/06/12(金) 00:21:42 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)

デレさんが昨日言っていた通り、ドレスは1日で解れてしまっていた。
それどころか、新たに大きな解れをいくつか見付けた。

(;^ω^)、「デレさん…すみません。糸に強度が有り過ぎたのか、ドレスがまた解れてしまっていますお。」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ…。お気になさらないでください。多分、誰が縫ってもこうなので。」

(;^ω^)「だけど…。…あの、明日また伺っても良いでしょうか?別の糸と針を持ってきますので。」

ζ(゚、゚*ζ「かまいませんが…。だけど、本当に翌日には戻ってしまうんですよ?」

(;^ω^)「もっと細い物を使いますお。2、3割くらいは細いはずなので、だいぶ違うと思いますお。」

ζ(゚、゚*ζ「そうでしょうか…。いえ、分かりました。」

350名無しさん:2026/06/12(金) 00:25:51 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「今の時期のお庭は、ラベンダーですか。」テクテク

ふわっと広がり、メインの通りに並び咲くラベンダーは、まるで僕達を道案内してくれているようだ。

ζ(^ー^*ζ「はい。ドライフラワーやポプリが沢山作れます。」

(*^ω^)「おー、良い香りがしそうですお。」

ζ(^ー^*ζ「そうですね。実はドライフラワーを使って、夏休みにしぃちゃんとワックスバーを作る約束もしているんです。」

(*^ω^)「しぃちゃんはブーケを作るのも上手だから、きっと上手に出来ますお。」

ζ(^ー^*ζ「ですね!」


( ^ω^)σ「ん…?こっちのお花は何ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ヒメトリトマです。南アフリカが原産国で、変わった見た目ですよね。」

( ^ω^)「はい。」

( ^ω^)(洗車機のモップを小さくしたみたいだお…。)

351名無しさん:2026/06/12(金) 00:27:15 ID:oQVOL7y.0
それから僕は、ドクオさんが居るいつもの広間にやって来た。

コンコン

( ^ω^)つ| カチャ…


( ^ω^)「昨日は睡蓮を見せて頂き、ありがとうございました。」

( ^ω^)「いつもお食事やデザートまで用意して頂いてしまって…すみません。ありがとうございますお。」

そう言って僕は、瓶の入った紙袋を部屋の入口にあるテーブルに置いた。

( ^ω^)「日向夏とハーブのソースですお。」

( ^ω^)「僕が朝食によく利用する喫茶店のバケットサンドのソースなのですが、さっぱりとしつつも、さわやかなコクがありますお。」

( ^ω^)「お肉やお魚料理にかけるだけでも合いますお。よろしければ、ぜひ。」

('A`)「…どうも」

(;^ω^)「あの、ドクオさん…。」


僕は、デレさんの変化に気付いているのかを尋ねようとした。
だけど以前に、ドクオさんがドレスの補修をしたという話をデレさんから聞いているので、その問いかけに意味は無さそうだ。

('A`)「……?」

(;^ω^)「いえ…。何でもありませんお。」

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352名無しさん:2026/06/12(金) 00:30:26 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚ー゚*ζ「今日も、縫って頂くのは睡蓮の近くのガゼボにしましょうか。夕方なので、もう花は閉じていますが…」

( ^ω^)「かまいませんお。」

(( ^ω^)テクテク


翌日僕は、細い針と80番のカタン糸を持って庭へとやって来た。


( ^ω^)「細い綿糸なら、以前よりも強度が和らいで生地に馴染むはずですお。」

ζ(゚ー゚*ζ、「あの…、お仕事の後でお疲れでしょうし、無理はしないでください。」

( ^ω^)「大丈夫ですお。こう見えても、まだ視力は良いんですお。今日は仕事も立て込まなかったので、目が霞む程ではありませんお。」

ζ(゚、゚*;ζ「えっと…。仕上がりを気にしているのではなく、明日も平日でお仕事でしょうからと、言いたかったのですが…。」

(;^ω^)「…すみません。やっぱりご迷惑ですおね。」

やはり、気持ち悪がられているのだろう。

(;^ω^)「この糸で上手くいったら、道具をお渡ししますので…」

ζ(゚ー゚*ζ「…いいえ。違うんです。こうして内藤さんと頻繁にお話が出来るのは嬉しいのですが、どうしても解れは直らないので…。」

( ^ω^)「そんな事はありませんお。今日はきつく縫わないようにもしていますし、きっと上手くいきますお。」

ζ(゚ー゚*ζ、「…」

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353名無しさん:2026/06/12(金) 00:32:44 ID:oQVOL7y.0
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翌朝、僕はデレさんの様子を確認するためにも、近道を歩いた。

( ^ω^)「おはようございますお。」

ζ(^ー^*ζ「おはようございます。」



( ^ω^)「ドレスはどうですか…」

(;^ω^)「え…!?」


デレさんのドレスの解れは、更に酷くなっていた。
その上、今度は裾にある表層のレースまで外れ始めている。

(;^ω^)

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんのせいではありません。気にせず会社に…」

(;^ω^)「あの、今日の夕方もお伺いします。」

Σζ(゚ー゚*;ζ「え?はっ、はい!お待ちしております…」

354名無しさん:2026/06/12(金) 00:33:20 ID:oQVOL7y.0

デレさんの言葉を聞き終わるや否や、僕は走り出した。


(;^ω^)


胸が苦しい。


こんなに急いで会社に向かうのは、春の寝坊以来だ。


.

355名無しさん:2026/06/12(金) 00:34:44 ID:oQVOL7y.0
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(;^ω^)「おはようございます。あの、今日は工場へ行ってきますお。」

( ´∀`)「随分急だモナ。なにかトラブルかモナ?」

(;^ω^)「えっと…次回の案が思い付かず、素材を見に行ってきますお。」

( ´∀`)「次回…?今の案件を進めた方が良いモナ。」

モナーさんが、不思議そうな顔で僕を見た。

(;^ω^)「…申し訳ありません。縫製の事で、私的な調べ物がありまして…。」

( ´∀`)「…内藤がそんな不真面目な事を言うなんて珍しいモナ。」

( ´∀`)「みんなにおやつを持って帰ってきたら、許してやるモナ。」

(*^ω^)「!ありがとうございますお!」


僕は準備をして社用車に乗り込むと、スマートフォンでモナーさんの注文に合う店を探した。
それからエンジンをかけ、ラジオも付けずに走り出した。

356名無しさん:2026/06/12(金) 00:35:54 ID:oQVOL7y.0
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(゜д゜@「あらやだ!内藤さんじゃないのぉ!」

白い二階建ての建物の入口のチャイムを押すと、工場長の奥さんが扉を開けた。

(;^ω^)つ「お世話になっておりますお。これ、皆さんで召し上がってくださいお。」

そう言って僕は、大きめな紙箱を渡した。

(゜∀゜@「アイスじゃないの!ちょっとみんなー!!休憩ー!!」

(;^ω^)「…それで、あの、素材に詳しい方に少しお尋ねしたい事があるんですお。どなたか…」

(゜д゜@「なら、食べながらで良ければ私が聞くわよぉ。こっちに座ってちょうだい。」

そう言って奥さんが、僕に丸いパイプ椅子に座るよう促した。

357名無しさん:2026/06/12(金) 00:37:38 ID:oQVOL7y.0
(゜∀゜@「いただきます。…あらやだ!美味しいわね!」

ミルクベースにフレッシュブルーベリーが混ぜ込まれたアイスを一口食べた奥さんが、笑顔になった。

(゜д゜@「それで、聞きたい事は何なのぉ?」

( ^ω^)「その…仕事ではなく、私的な事なんですお。」

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_


( ^ω^)「素材はコットンか…コットンライクポリエステルに近いと思いますお。経年物でも生地は丈夫そうに見えるのですが、縫っても翌日にはすぐ解けてしまうんですお。」

(゜д゜@「……うーん…、すぐ解けてしまう…ねぇ。」

(゜д゜@「生地が頻繁に引っ張られているような状態なのかしらぁ?それなら、伸縮糸で縫ってみるとか。」

(゜д゜@「あとは掛け接ぎか補修シート、ほつれ止め液をかけるとか、思い付くのはそのくらいだねぇ…。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。…あの、工場に生成りか白の伸縮糸の余りはありませんかお?」

(゜д゜@「いっぱいあるわよぉ!食べ終わったら探してみるから、他の事して待っていてちょうだい。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。よろしくお願いしますお。」

358名無しさん:2026/06/12(金) 00:39:04 ID:oQVOL7y.0
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( ´∀`)「おやつはちゃんと買ってきたかモナ?」

(;^ω^)つ□「はい。ここに。」サッ

僕は朝行った洋菓子店にもう一度立ち寄り、事務所に居る人数分のアイスを買ってから会社に戻った。

( ´∀`))「夏はやっぱりアイスだモナ。」モグモグ

( ´∀`))「それで、次回用の案は思い付いたモナ?」モグモグ

( ^ω^)「はい。それに、工場の皆さんもお元気でしたお。」

( ^ω^)「では僕は、仕事に戻りますお。」

自分の席に座った僕は、次回用の案を纏めた後、先に片付けるべき案件へと集中する事にした。

(;^ω^)カチカチ



早く仕事を終えて、デレさんに会いに行くために。

.

359名無しさん:2026/06/12(金) 00:39:57 ID:oQVOL7y.0
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17:00

(;^ω^)「ハァッ…ハァッ!」

こんなに急いで、汗だくで行っても嫌がられるだけだ。
そう思っても、先に先にと進む足を止める事は出来なかった。


ζ(゚、゚;ζ「内藤さん!?何かあったんですか…!?」

デレさんは驚きながら、門の中に入った僕のもとまでやって来た。

(;^ω^)「あの…今日は違う道具を用意して来たので…それで補修させてくださいお。」

ζ(゚、゚;ζ「!…そのために、走ってきてくれたのですか?」

(;^ω^)「はい。」

ζ(゚、゚;ζ

ζ(゚、゚;ζ「……分かりました。」

360名無しさん:2026/06/12(金) 00:41:40 ID:oQVOL7y.0
デレさんに門の近くのベンチに座るよう促した僕は、まず、ほつれ止めを塗っていった。
そして乾いた場所から、伸縮糸で縫い上げる。

(;^ω^)「この糸なら、多少引っ張られても大丈夫なはずですお。」

そう言いながらも、僕は不安な気持ちでいっぱいだった。
昨日までに縫った場所にあるはずの針穴が、一つも見当たらないからだ。

(;^ω^)(どうしてだお…)


ζ(゚ー゚*ζσ「内藤さん。目の前で咲いているお花、内藤さんが好きそうな小さくて可愛いお花ですよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「アストランティアと言うんです。花びらに見える所は総苞で、中央にとても小さな花が点のように沢山集まっていて、なんだか花火みたいですよね。」

ζ(゚ワ゚*ζ「入口すぐの、スーパーベナのピーチメルバは見ましたか?まるで小さなリースが集まったみたいなんです。」

人ζ(^ー^*ζ「そうそう!この後は、奥のサルビアを見に行きませんか?」

ζ(^ー^*ζ「フェアリークイーンやコーラルニンフ、スノーニンフなど、とてもロマンチックな名前のサルビアで…」


(;^ω^)つ ヌイヌイ

ζ(゚、゚*ζ、「……。」

361名無しさん:2026/06/12(金) 00:42:32 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。これで結構です。」

(;^ω^)「でもまだ半分ほどしか…」

ζ(゚ー゚*ζ「だいぶ時間が過ぎました。お庭を出たら、もう真っ暗ですよ。」

そう言われて、腕時計を見る。

(;^ω^)「…本当ですお。」

ζ(゚ー゚*ζ「気を付けてお帰りください。よく休んでくださいね。」

(;^ω^)「…あの、明日もまた伺いますお。」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ、あの…!?」


僕はデレさんの返事を聞かぬよう、足早に門をくぐり抜けた。

____________________________

362名無しさん:2026/06/12(金) 00:44:41 ID:oQVOL7y.0
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(;^ω^)カチカチ

(;^ω^)(そろそろ寝るお…。)

僕はパソコンの電源を落として、隣の部屋の布団に潜った。

(;^ω^)(どうしてだお…手が…腕が震えるお…)

(;^ω^)(縫ってばかりいたから、身体が痙ってしまったのかお?)


疲れて眠りに就こうにも、腕全体の不快感が邪魔をする。


(;^ω^)(明日こそは全部縫い上げて…デレさんに安心してもらいたいお。)

(;^ω^)(…そうだ、掛け接ぎのやり方も調べておくお。それから裏から補修シートで補強すれば、きっと大丈夫だお。)

(;^ω^)(きっと……。)

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363名無しさん:2026/06/12(金) 00:45:27 ID:oQVOL7y.0
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9:00

(;^ω^)「おはようございますお。」

ζ(゚、゚;ζ「おはようございます。あの、ちゃんと休めましたか…?」

(;^ω^)「大丈夫ですお!」

ζ(゚、゚;ζ「でも…。目が、充血しています…。」

(;^ω^)「そうですかお?…あ!せっかく朝に来たので、睡蓮を見たいですお。」

ζ(゚、゚;ζ「…では、行きましょうか。」

(;^ω^)「……」

僕は目を細めて、デレさんの姿がはっきり見えないようにして歩いた。

364名無しさん:2026/06/12(金) 00:47:19 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「今日も、綺麗に咲いています。」

(;^ω^)「本当ですお。まるで、モネの睡蓮のようですお。」

ζ(^ー^*ζ「ふふ。池を作った人が、本当にモデルにしたのかもしれませんね。」

(;^ω^)「そうですね…。」

ガゼボの長椅子に座った僕は、恐る恐る足元を見た。

(;^ω^)


ζ(゚ー゚*ζ


デレさんのドレスはボロボロで、袖口まで取れていた。

ギャザーが解けて、バタフライスリーブのように広がってしまった袖にも、沢山亀裂が入っていた。

365名無しさん:2026/06/12(金) 00:48:45 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)「…あの……今日は、掛け接ぎをしますお。」

(;^ω^)「本来は裾やポケットの内側など、目立たない場所から生地を取って直すのですが、取れそうな場所が無いので…。…似たような生地を貰ってきたので、それで…」

そう言って僕がデレさんのドレスの裾を持った。
そこからまずは一番小さく開いた穴へと当て布を乗せた瞬間、

僕の手に乗った生地を残して、デレさんのドレスは更にパラパラと解けだした。

(;゜ω゜)「っ!!」

もう一度ドレスに手を添える。
少し引き上げて縫おうとすると、また一気に解れが広がった。

(;゜ω゜)「……」

366名無しさん:2026/06/12(金) 00:49:38 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「…もう、本当に大丈夫ですから。」

ζ(^ー^*ζ「それよりも今日はドクオさんがイートンメスを用意してくれたんです。これから一緒にお茶を…」

(;゜ω゜)「……何が、大丈夫なんですかお?」

ζ(゚、゚*ζ「…え?」

(;゜ω゜)「デレさんは以前、言っていましたお!」

(;゜ω゜)「この姿は比喩のようなものだと。それって、服自体もデレさんであるという事ではないのですかお!?」

ζ(゚ー゚*ζ、「確かに…。そうですね。」

(;゜ω゜)「!!」

(;゜ω゜)「なら!大怪我しているようなものではありませんかお!早く直さなくては…!!」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、痛くはありませんから。」

(;゜ω゜)「そんな問題じゃありませんお!!」

(;゜ω゜)ハァ…ハァ…

⊂ζ(゚、゚;ζ「内藤さん…具合が…」


(;゜ω゜)「…少し、屋敷の中で休ませてもらいますお…。」

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367名無しさん:2026/06/12(金) 00:51:37 ID:oQVOL7y.0
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コンコン

コンコン


カチャ



(;゜ω゜)「…ドクオさん。気付いていますおね?」

(;゜ω゜)「デレさんの事…」


僕に背を向けて何かを修理していたドクオさんの手が、ピタリと止まった。


(;゜ω゜)「何か、手立ては無いんですかお?ここは、修理屋さんですお。」

(;゜ω゜)「デレさんはこの屋敷の何か大事な物で、しぃちゃんの懐中時計の兎のように生き物の姿をしていて、だから、治せるはずですお。」

368名無しさん:2026/06/12(金) 00:52:29 ID:oQVOL7y.0
(;゜ω゜)) グッ

(;゜ω゜)「…ドクオさんは、デレさんの事が好きなんですおね?」

(;゜ω゜)「お菓子を用意して髪を結ってあげたり、押し花の紙を用意してあげたり…。」

(;゜ω゜)「どうして、今の状況で平気なんですかお…!?」

(;゜ω゜)「必要な物があったら、僕が用意しますお!何でも言ってくださいお!!」

(;゜ω゜)「お願いしますお!!!」

369名無しさん:2026/06/12(金) 00:53:20 ID:oQVOL7y.0
僕は頭を下げる隙も惜しく凝視して、ドクオさんがこちらを振り向いてくれるのを待った。



だけど、



ドクオさんはゆっくりと、首を横に振った。


.

370名無しさん:2026/06/12(金) 00:55:34 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「…。」

玄関の先の日陰に、ムラサキツユクサが咲いている。

( ^ω^)(本当に、ドクオさんにも…治せないのかお…?)

脚に力が入らず、僕は階段の途中で座り込んだ。

( ^ω^)(…確かに、初めてここに来た時に会ったお爺さんの蜻蛉やしぃちゃんの兎には、金属のように見える部分があったお。)

デレさんの姿にある金属は、カフスのボタンや背中の包みボタンの足くらいだろうか。
だけど傷んでいるのは、布の部分なのだ。


( ^ω^)(…僕が、ドレスを直す方法を見付けるしかないお。)

371名無しさん:2026/06/12(金) 00:56:41 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)テクテク…

( ^ω^)(…デレさんが昨日言っていた、サルビアだお。)

近付いて立ち止まる。

白やコーラルに、青と白のバイカラー。
花は、どことなく蝶やクリオネを思わせるような華奢な形だ。
十字路として四つ造られた三角形の花壇に咲くサルビアを、デレさんと一緒に眺めたら、どんなに癒やされることだろう。

372名無しさん:2026/06/12(金) 00:59:12 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*ζ

( ^ω^)「…。」

ζ(゚、゚*ζ「内藤さん…。体調はいかがですか?」

壁の一角を這うマゼンタのブーゲンビリアを眺めていたデレさんが、僕に気付いて戸惑うように近付いた。
屋敷までの同行を断ってしまったから、外で待つしかなかったのだろう。

( ^ω^)「…すみませんお。置いてきぼりにしてしまって。」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です。外に籠があるので、花を選んでいました。」

ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんと、ワックスバーを作るための練習をするんです。」

( ^ω^)「…それまでに、僕がドレスを直しますお。そのままではしぃちゃんも、びっくりしてしまうと思いますから。」

ζ(゚ー゚*ζ「…。」


デレさんは、何も言わなかった。


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373名無しさん:2026/06/12(金) 01:01:33 ID:oQVOL7y.0
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12:30

翌日、僕は図書館へとやって来た。

(;^ω^)フゥ…

( ^ω^)、(…やっぱり、図書館に新しい情報は無いおね。)

このままでは、図書館の花壇に咲くトルコキキョウを見に来ただけになってしまう。
僕は本を閉じて窓際の椅子に座り、今後の予定を立てる事にした。

( ^ω^)(…ネットでしらみ潰しに調べていくしかないお。)

( ^ω^)「……。」

窓の外には、チョコレートコスモスが咲いていた。
そこはずっと、その花の定位置だ。


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374名無しさん:2026/06/12(金) 01:02:37 ID:oQVOL7y.0
週明けの出勤直後、僕はモナーさんのデスクの前に立った。

( ^ω^)「社長」

( ^ω^)「突然で申し訳ありませんが、明日からしばらく有給を頂きたいです。」

( ´∀`)「…」

( ´∀`)「検査入院でもするのかモナ?」

モナーさんが、僕の顔を眺めてそう言った。

( ^ω^)「いいえ。時間をかけて調べたい事がありますお。」

( ´∀`)「今の大きな案件を放り出してかモナ?」

( ^ω^)「はい。」


僕がそう返事をすると、事務所がシンと静まり返った。

375名無しさん:2026/06/12(金) 01:05:01 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「今の案件は残業をすれば、修正後のデータを提出する準備が本日中に終わる予定です。」

( ^ω^)「その後の対応は、どなたかに引き継いで頂きたいですお。」

( ^ω^)「それから申し訳ありませんが、就業時間以降の相談役もどなたかに…」

ミセ;*゚ー゚)リノ「私が引き継ぎます。」

芹沢さんが、サッと手を挙げた。

ミセ;*゚ー゚)リ「内藤さんにはお世話になりっぱなしですし、相談役も指名が多いとはいえ、任せっきりでしたし!」

( ´∀`)「じゃあ芹沢さんは、今の案件の提出後に返事が来たら工場への発注と、それ以降の対応をお願いするモナ。相談役は僕が受けるモナ。」

( ´∀`)♪「相談はたま〜にだし、どーせ来ないモナ。」

ミセ;゚д゚)リ「もー!そういう事言った時ほど来るんですからね!?」

376名無しさん:2026/06/12(金) 01:06:17 ID:oQVOL7y.0
( ´∀`)「芹沢さんの熱血に乗せられちゃったけど、いったい何を調べるんだモナ?」

( ´∀`)「急がば回れで、近くの人に聞いた方が早い事だってあるかもしれないモナ。」

( ^ω^)、「それもそうですね。実は…」

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( ´∀`)「縫えるのに、何をしても直せない布?」

ミセ;*゚ー゚)q「うぅーん…?」

( ´∀`)「…何だか、なぞなぞみたいだモナ。そんな話は聞いた事が無いモナ。」

( ´∀`)「ひとまず明日から3日休みをやるモナ。携帯はいつでも取れるようにしておけモナ。」

( ´∀`)「それからどこかの会社に問い合わせする時は、必要であれば社名を使っても良いモナ。僕も繊維関係の取引先と話す機会があったら聞いてみるモナ。」

ミセ;*゚ー゚)リ「休憩も入れてくださいね…。」

( ^ω^)「…すみません。ありがとうございます。」


僕は、二人に深く頭を下げた。


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377名無しさん:2026/06/12(金) 01:07:34 ID:oQVOL7y.0
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ピンポーン

( ^ω^)σ「…」

カラカラ…

( ^ω^)「おはようございますお。」

lw´‐ _‐ノv「おはよう。来ることは昨日モナーから聞いているよ。」

lw´‐ _‐ノv「さ、上がって。」

僕が休みを貰う条件の一つとして、初日にシュールさんの家を訪ねるよう、モナーさんから言い付けられている。
靴を脱いで廊下を歩き、居間の座布団に座ると、シュールさんが麦茶を持ってきてくれた。

378名無しさん:2026/06/12(金) 01:08:39 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)つ「こちらをどうぞ。」

僕はシュールさんに、持参した白い手堤箱を渡した。

lw´‐ _‐ノv「ありがとう。どれ…」

lw´‐ _‐ノv「…おや、ゼリーかい。良いねえ。外で本物の入道雲なんてじっくり見ていたら、くたばっちまうからね。」

そう言ってシュールさんは、自身の目線までゼリーを持ち上げた。
長いプラカップの中で光る透明な青のゼリー。
その中には、雲を模した硬めのマシュマロが入っている。
以前僕がデザインカーテンを担当した店で買ってきた物だ。

lw´‐ _‐ノv「じゃあそのまま頂こうかね。ほら、坊やも。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

379名無しさん:2026/06/12(金) 01:09:57 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「ご馳走様でしたお。それでは、点検に…」

lw´‐ _‐ノv「点検はいいよ。今日はモナーから坊やの相談に乗ってほしいと頼まれているから。」

(;^ω^)「えっ…?」

(;^ω^)、「モナーさんがそんな事を…。すみませんお…。」

シュールさんは名家の出身だと、以前モナーさんから聞いている。
だから顔が広いとか、もしくは洋裁が盛んであった世代だから相談してみろ。という事なのだろうか?

お客様に相談をするのは気が引けるけれど、背に腹は代えられない。

(;^ω^)、「実は…。」

380名無しさん:2026/06/12(金) 01:10:49 ID:oQVOL7y.0
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lw´‐ _‐ノv「…悪いけど、私には分からないねぇ…。」

( ^ω^)「聞いて頂けただけで充分ですお。ありがとうございますお。」

lw´‐ _‐ノv「だけど。」

( ^ω^))?

話が続くので、僕は不思議に思って顔を上げた。

lw´‐ _‐ノv「モナーが私に相談させたかったのは、それじゃあないね。何十年も繊維を扱う仕事をしているのだから、坊や達の方がよっぽど詳しいじゃないか。」

(;^ω^)「それは…確かに…。」

lw´‐ _‐ノv「坊やは一体何に悩んでいるんだい。そんなに目にクマを作って。」

(;^ω^)「……」

381名無しさん:2026/06/12(金) 01:11:37 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「……好きな人がいるんです。」

( ^ω^)「その人の大切なドレスがどんどん傷んでいってしまうのが見ていられなくて、どうにか直してあげたいんですお。」

lw´‐ _‐ノv「どんな人なんだい?」

( ^ω^)「…お客様で、納品後も庭のスケッチやお茶に、お誘い頂く事がありますお。」

lw´‐ _‐ノv「茶飲み友達かい。」

(;^ω^)

シュールさんが合いの手のように言うので、僕は少し戸惑った。

(;^ω^)「そうなりますお…。」

382名無しさん:2026/06/12(金) 01:12:36 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「…だけど僕には、亡くなった妻がいるんですお。僕が妻の病に気付いていれば、もっと長く生きられたかもしれないのに。」

( ^ω^)「最善で愛せなかったまま他の人を好きになるなんて…妻への裏切りですお。だけどどうしても、デレさんのドレスだけは…なんとかしてあげたいんですお。」

lw´‐ _‐ノv「…」モグモグ

シュールさんはゼリーをまた一口含み、外を眺めていた。

lw´‐ _‐ノv「…長年連れ添った旦那に先立たれた妻が、一人になったら生き生きし始めるなんて話は、聞いた事があるかい?」

(;^ω^)「えっ?…はぁ…。昔ラジオか何かで、耳にした事はありますお。」

383名無しさん:2026/06/12(金) 01:13:53 ID:oQVOL7y.0
lw´‐ _‐ノv「私はこんな家だからほら、自由にしていたけれど。昔は男女の役割がはっきりしていたり、同居なんかがあったからね。窮屈だったんだろうねぇ。」

そう言ってシュールさんは、ゼリーを座卓に置いた。

lw´‐ _‐ノv「だけど例え自分が先に死んだとしても、夫の自由を咎める事は無いよ。同じように好きに楽しく生きてほしい。」

lw´‐ _‐ノv「残されても死ぬまで自分だけを想っていろだなんて、女はそこまで我が儘じゃあないよ。」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)、「だけど、…歳の離れた相手ですお。」

僕は、デレさんの年齢を知らない。
目隠しをしたまま会話をして、声色と性格だけでデレさんを好きになった訳ではない。
僕はきっと無意識に、見た目から推測される年齢、その姿を含めてデレさんに接している。

僕にとってこの見た目の年齢差は、好都合だった。
強力な印籠のように掲げ、その奥で平静を保つことが出来たからだ。

384名無しさん:2026/06/12(金) 01:15:13 ID:oQVOL7y.0
lw´‐ _‐ノv「潔癖だねぇ。好きでいたって良いじゃないか。」

lw´‐ _‐ノv「男女だからと言って、恋愛の型に嵌まる必要は無いよ。お互い掛け替えのない茶飲み友達だった、なんて事もある。だから楽に考えな。」

lw´‐ _‐ノv「それでも燃える何かがあるのなら、誠実に見極めな。」

lw´‐ _‐ノv「相手に何も求めず、自分がどう愛したいのか。それを見極めたら伝えたい言葉や、自分のすべき事が分かるんじゃあないかい。」

( ^ω^)「…」

lw´‐ _‐ノv「さて、そろそろ昼食の準備をしないと。夏休みだから孫が遊びに来るんだ。」

lw´‐ _‐ノv「坊やもお腹を満たしてよく寝てから色々と考えるんだね。」

( ^ω^)「…はい。お邪魔しましたお…。」

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シュールさんの家を訪問した帰りに無人コンビニで食事を買い込んだ僕は、そのまま車で自宅へと戻った。

( ^ω^)(少し、寝るかお。)

昨日も遅くまで起きていた事もあり、流石にこの暑さで一休みせずに行動するのは辛かった。

____________________________

385名無しさん:2026/06/12(金) 01:16:02 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)カチカチ

( ^ω^)(補修方法を探しても…今まで試した事ばかりしかヒットしないお。)

( ^ω^))「…ん?」

適当に流していたテレビから、「繊維」という言葉が聞こえた。
どうやらファストファッションの廃棄問題の解決に奮闘する若社長を追う特集のようだ。

( ^ω^)(再生繊維…うちではあまり意識しては使わない品だけど、売れ残った服達を薬剤でまた一枚の布にするのかお。興味深いお。)

( ^ω^)(あ…。これを、部分的に使うのは…?)

386名無しさん:2026/06/12(金) 01:17:48 ID:oQVOL7y.0
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15:48

( ^ω^)∏「はい…大型の機械を使って…。やはり、部分補修には向かないですか…。

( ^ω^)∏「では、後日サンプルのみ弊社へ…はい…。」

( ^ω^)∏

( ^ω^)ハァ…

再生繊維に絞って調べた僕は、会社でも利用出来そうな品を取扱う業者を中心に問い合わせをした。
個人的な都合で情報だけよこせと電話をかけるのは、流石に失礼だからだ。
しかし結果は、どれも新しく糸や生地を生み出すような技術ばかりで、僕の望むようなものではなかった。

夏の日没は遅く、外はまだまだ明るいけれど、そろそろ業者側の就業時間が終わってしまう。
今日はもう有給の三日目で、明日にはまた出勤しなければならない。

( ^ω^)(…)

そもそも、薬剤や熱を使ってデレさんのドレスを修復したところで、直る可能性は低い。
僕が最後にデレさんのドレスを補修をしようとした時に、まるで糸が勝手に動いているような、自然の法則とは思えないような解け方をしたのを目にしている。

387名無しさん:2026/06/12(金) 01:19:46 ID:oQVOL7y.0
( −ω−)(僕がこうしている間にも、きっと悪化してしまっているお。諦めたくはないお…。)

僕は座卓に突っ伏して、かすんだ目でダイニングにあるテーブルを眺めた。

以前は賃貸だったこの家を、家主が施設から戻らない事を息子さんから知らされた際に、僕がローンを組んで買い取った。
内装も家具の配置も、20年以上前からずっと変わっていない。

( −ω−)(…本当に、何をしているんだろう?)

( −ω−)(僕は、一体デレさんと…どうなりたいんだお…?)

客観的に見たらもはや友人と呼べる関係の、その人を救いたい。
だけどデレさんは、ドクオさんの大事な『物』だ。
人様の大事なものにお節介を焼き、救ったところで何を求めるのだろうか?

( −ω−)「…」

二脚が向かい合わせに置かれた、小さなダイニングテーブル。
そこにデレさんが座って、楽しそうにこちらを見ている。

僕が仕事から帰り玄関を開ければ、いつもデレさんが庭で見せるような嬉しそうな笑顔で、『おかえりなさい。』と出迎えてくれる。


これが、僕の望みなのだろうか?

388名無しさん:2026/06/12(金) 01:20:32 ID:oQVOL7y.0
( −ω−)(…違うお。シュールさんは、相手に何も求めないと言っていたお。)

( −ω−)(僕が、どう愛したいのか…)





愛。





その言葉が、心の奥底にあった僕の本当の願いを引き出した。





僕の




僕の、本当の願いは_____



.

389名無しさん:2026/06/12(金) 01:21:26 ID:oQVOL7y.0















たとえ運命が変わらなかったとしても、あの日僕は、妻の傍にいてあげたかった。













.

390名無しさん:2026/06/12(金) 01:22:12 ID:oQVOL7y.0
____________________________


( −ω−)

( ^ω^)「…お?」

気付けば僕は、真っ暗な闇の中にいた。

( ^ω^)) キョロキョロ

床の感触が、畳ではない。
どこか広い空間のように感じた。

( ^ω^)(…?)

遠くに、いくつかの花が咲いている。

391名無しさん:2026/06/12(金) 01:23:05 ID:oQVOL7y.0
………ン

ブ……

( ^ω^)「おっ?」

誰かの、声が聞こえる。
その声が近付く度に、僕の周りに生える芽が成長してゼフィランサスの花がいくつも咲く。

( ^ω^)(…何と言っているんだろう…?)

……ーン

…ブーン!

( ^ω^)(なんだか、聞いたことのある声だお…)

392名無しさん:2026/06/12(金) 01:23:40 ID:oQVOL7y.0
ブーン!

Σ(;^ω^)

(;^ω^)「ツンかおっ!??」


ブーン!


(;^ω^)(やっぱり…!)

僕は大急ぎで辺りを見渡し、妻の姿を探した。

393名無しさん:2026/06/12(金) 01:24:14 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)「何処に居るんだおー!?」

庭よ、庭にいるわ!

(;^ω^)「庭に、庭に居るのかおー!?」

ええ!


いつの間にか辺り一面は、ゼフィランサスでいっぱいになっていた。

394名無しさん:2026/06/12(金) 01:24:59 ID:oQVOL7y.0
お願い、庭に来て!

(*^ω^)「分かったお!」

妻の元気な声にすごくホッとして、僕は嬉しい気持ちでいっぱいになった。

(*^ω^)「すぐに行くから、待っていてお!」


すると暗闇の中、僕の目の前に小さな手だけが現れた。


約束ね。


(*^ω^)つ



僕は戸惑わず、その差し出された小指に小指を絡ませた。

395名無しさん:2026/06/12(金) 01:25:33 ID:oQVOL7y.0
【 第七話 睡蓮と糸 】

終わり

396名無しさん:2026/06/12(金) 01:26:55 ID:oQVOL7y.0
【画像】
https://imgur.com/a/Ur5FQnQ
https://imgur.com/a/PZbNCRy

397名無しさん:2026/06/12(金) 01:29:27 ID:oQVOL7y.0
投下します

398名無しさん:2026/06/12(金) 01:30:21 ID:oQVOL7y.0

13:10

(;^ω^)「ハァッ…ハァッ!」

目を覚ますと時刻はもう昼過ぎで、僕は大急ぎで駆け出した。

(;^ω^)(急がなきゃ!ツンが待ってるお!!)タッタッ

流れる汗の事など、気にしていられない。
僕は立ち止まる事無く、目的の場所まで走った。

(;^ω^)フゥフゥ…


( ^ω^)「……」





辿り着いたのは、僕と妻が通っていた大学の庭ではなく、ドクオさんの屋敷の門の前だった。


.

399名無しさん:2026/06/12(金) 01:31:11 ID:oQVOL7y.0

( ^ω^)

門は、開かれている。
僕は何も言わずに、庭へと足を踏み入れた。

( ^ω^)(僕は、デレさんに会いに来たのかお…?だけどツンは、ここに居るんだお。)

( ^ω^)(咲いている花は違うお…。だけど同じなんだお。)

( ^ω^)(優しい陽の色と吹く風の温度や匂いが、僕とツンが二人で過ごしたあの庭と。)

( ^ω^)「…こっちかお。」

足元の鉢に植えられた紫のエキザカムが、まるで道標をしているように感じられた。

400名無しさん:2026/06/12(金) 01:31:49 ID:oQVOL7y.0
地植えのエボルブルスとカラミンサを眺めながら、僕は思う。

( ^ω^)(ここに初めて来た時は、ネモフィラだったお。)

____________________________

ζ(゚ー゚*ζ「後ろで見ていても良いでしょうか?」

ξ゚⊿゚)ξ「…また来ても、良い?」

____________________________

401名無しさん:2026/06/12(金) 01:32:48 ID:oQVOL7y.0

道の花は薄黄色のコレオプシスへと変わり、白と青のアガパンサスへと続く。

( ^ω^)(あの日傘はもう無いけれど、代わりの日傘を持ってくれば良かったお。)

( ^ω^)(ツンはちゃんと日陰に居るかお?急がなくちゃ…。)

____________________________

ζ(゚、゚*ζ「…あの。次はいつ、いらっしゃいますか?」
ζ(゚、゚*ζ「そうですか…。」

ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、今日は…」
ξ゚⊿゚)ξ、「そう…。」

____________________________

402名無しさん:2026/06/12(金) 01:34:02 ID:oQVOL7y.0

レッドライム色のジニアが、僕に手招きをした。

(*^ω^)(ブローチみたいで可愛い花だお。これで花束を作ってツンにあげたらきっと喜ぶお!)

____________________________

ζ(゚ー゚*ζ「…しぃちゃんって、可愛いですよね。」

ξ゚⊿゚)ξ「すぐ近くだったから大丈夫よ。良い子そうだったし、家も教えたからきっとそのうち返しに来るわ。」

____________________________

403名無しさん:2026/06/12(金) 01:34:55 ID:oQVOL7y.0
ヘメロカリスとグラジオラスが賑やかに咲く先には、アーチ状の通り道のある煉瓦の壁があった。

( ^ω^)(いつの間にか、来たことのない場所を通っていたお。)

( ^ω^)(奥に高い木が見えるお…。そろそろ突き当りだお。)

404名無しさん:2026/06/12(金) 01:35:38 ID:oQVOL7y.0

____________________________

ζ(^ー^*ζ「魔法使いの気分になれますよね。」

ξ*゚⊿゚)ξ「まるで、その子の魔法にかかったみたいね。」

____________________________






愛しさが、一つになっていく。





.

405名無しさん:2026/06/12(金) 01:36:31 ID:oQVOL7y.0
僕がアーチを抜けて庭の突き当りを見ると、そこには迷路を思わせるほど沢山の立葵が咲いていた。

( ^ω^)「…凄いお。」

鮮やかでどこに焦点を合わせるべきか迷っていると、花の間に白い人影を見付けた。

(;^ω^)「デレさん…!」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。」

デレさんのドレスは、日に当たり長期間放置されたカーテンを思わせるほどに、傷みきっていた。
袖刳りから袖が今にも落ちそうなのに、デレさんはそれを気にも留めない様子で、立葵の迷路を抜け出した。

406名無しさん:2026/06/12(金) 01:37:10 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんにお願いして、植えてもらいました。」

ζ(^ー^*ζ「立葵の、ハッとするような鮮やかさが好きなんです。」

(;^ω^)「……」

僕は、デレさんに近付く事が出来なかった。
一歩でも足を進めれば、その袖すら落ちてしまいそうな気がしたからだ。

407名無しさん:2026/06/12(金) 01:38:05 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。今までありがとうございました。」

(;^ω^)「え…?」

ζ(^ー^*ζ「私の我儘に付き合ってくれて。とても楽しかったです。スケッチに来て、一緒にお花を見て、お茶を飲んで…。」

ζ(゚ー゚*ζ「街のことも教えてくれました。内藤さんやしぃちゃん、ショボンさんや他のお客様がとても素敵な街に住んでいるのだと、分かりました。」

ζ(^ー^*ζ「カーテンもありがとうございました。とても素敵で、今日まで毎日眺めていました。」

ζ(^ー^*ζ「持っていけたら良いのにと…、思うほどです。」

(;^ω^)「…?何処へですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「…。」

ζ(゚ー゚*ζ「お空、でしょうか。」

408名無しさん:2026/06/12(金) 01:39:00 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「なんとなく、今日だと分かるんです。」

そう言ってデレさんは、自身のドレスに目を遣った。
僕にもドクオさんにも、直せなかったドレスだ。

形ある物はいつか壊れる。
それは、この不思議な場所でも通用してしまうのか。

(;^ω^)「…しぃちゃんとの約束は、どうするんですかお?」

ζ( 、 *ζ「…。ごめんなさい。どうしても、駄目みたいです。」

デレさんは悲しそうに、俯いた。
つい先日、しぃちゃんと作るワックスバーの練習をすると、摘んだ花を楽しそうに見せてくれたのに。

409名無しさん:2026/06/12(金) 01:40:00 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「いつも…帰り際に引き止めてしまって、すみませんでした。」

ζ(゚ー゚*ζ「そのままあなたと、私達の家に帰りたい気持ちでいっぱいになっていたんです。」

( ^ω^)「…え…?」

ζ(゚ー゚*ζ「休日には二人で街を歩いてお店に入って、あなたが作ったカーテンを沢山見てみたかった。」

ζ(゚ー゚*ζ「…本当はずっと、あなたを別の名前で呼びたかったんです。」

ζ(゚ー゚*ζ「それを聞いたら、あなたはがっかりしたり、とても嫌な気持ちになるかもしれない。」

ζ(゚ー゚*ζ「だけど…。今だけは、こう呼ばせてください。」



ζ(゚ー゚*ζ「ブーン。」

410名無しさん:2026/06/12(金) 01:40:59 ID:oQVOL7y.0


___どうして、その名前を。

驚いて、瞬きをした。

( ゜ω゜)「……ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ

目の前にはデレさんではなく、僕の妻が居た。

ブルーウイングの耳飾りと、お義母さんが昔着たというウエディングドレス。
だけど僕が毎日手を合わせている写真よりも、少し大人びている。

あの日の朝に、見た時の顔だ。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン。」

夏風が吹く。

彼女のドレスの裾に纒うミモザのように小さくて黄色い光が、それになびいて少しだけ散った。

( ゜ω゜)「…本当に…ツン…なのかお…?」


喉がカラカラになって、小さな声しか出せなかった。

411名無しさん:2026/06/12(金) 01:41:40 ID:oQVOL7y.0





【 第八話 立葵のカーテン 】




.

412名無しさん:2026/06/12(金) 01:42:05 ID:oQVOL7y.0
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413名無しさん:2026/06/12(金) 01:43:07 ID:oQVOL7y.0
ξ;゚⊿゚)ξq ゴホッゴホゴホッ

ξ;−⊿−)ξ「うっ」クラッ

((ξ;−⊿−)ξ(ダメだ…寝よう。)フラフラ…

ξ;−⊿−)ξ「……。」

病院を退院してやっと勉強が出来るようになってきたというのに、20分も座っていられない。
同級生達はもっと、ずっと先の事を勉強しているのに。
不安な気持ちでいっぱいになって、私の頭と胃は余計に気持ち悪くなった。

ξ゚⊿゚)ξ(…あんまり日に当たっちゃいけないだけでも面倒臭いのに…。何で私の身体は悪いとこばっかりなんだろう?)

ξ−⊿−)ξ(…。気分変えよう。こんな時は…。)

私は目を閉じて、外の声に集中する。
すぐ近所の幼稚園から聞こえてくる声だ。

今日のはしゃぎ声は、男の子。
私は手を広げて、その子を追いかける。
暑くない半袖と、半ズボン姿で。

そうすると、少しだけ爽やかな気持ちになれる。


____________________________

414名無しさん:2026/06/12(金) 01:44:20 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

('(゚∀゚∩「ねぇー!これみてぇ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ?」

('(゚∀゚∩「これぇ!はっぱ!!」

('(゚∀゚∩「ようちえんでひろったのぉ!」

('、`*;川「あぁっ、いきなり話しかけるから、お姉さん困っているでしょう?」

(('、`*;川「すみません。驚かせてしまって…。」ペコペコ

ξ;゚⊿゚)ξ「いえ…。」

ξ;゚⊿゚)ξ(小さな子って、誰にでも話しかけるんだなぁ…。)

学校からの帰り道で、いきなり小さな子に声を掛けられた私は戸惑ったけれど、その葉っぱを観察してみる事にした。

415名無しさん:2026/06/12(金) 01:45:28 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ(多分…うちの中学にも植えられているのと、同じ種類の木の葉よね。だけど…)

その子が大事そうに持っているその葉はより紅く艶がある気がして、とても良い物のように見えた。

ξ゚ー゚)ξ「ツヤツヤしていて、とっても綺麗。まるで美味しそうな林檎みたいね。」

+†('(゚∀゚*∩ パアァァ

+†('(゚∀゚*∩「りんごー!!」

Σξ;゚⊿゚)ξ ビクッ

+†('(゚∀゚*∩「こんどあげるね!でもたべちゃだめだよ。じゃーね!」

(('、`*;川「ああーっ!すみません!ありがとうございました!!」ペコペコ

ξ゚ー゚)ξノシ

ξ;゚⊿゚)ξ(今度か…。今日は早退したからこの時間だけど、紅葉の時期のうちにまた会えるかしら。)

ξ*゚⊿゚)ξ(…ふふっ。)

あんなに素敵な言葉を思い付くだなんて。
まるで、あの子の魔法にかかったみたい。

416名無しさん:2026/06/12(金) 01:46:56 ID:oQVOL7y.0
___________
_______
____


高校を卒業したら働くつもりでいた私だったけれど、家族に勧められて家から近い大学の特別枠を利用して大学生になった。

将来市内で働く意思がある地元の学生への優遇措置として、学力が少々足りずとも入学できるという制度だ。
きっと、大学が開校したばかりで人が集まらなかったのだろう。
私が入学した数年後には知名度が上がったのか、その制度は無くなっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま。」

J(;'ー`)し「あ、おかえり。」

ξ゚⊿゚)ξ「今日は早く終わったし、大変そうだから手伝いに来たよ。」

J(;'ー`)し「ありがとう。でも大丈夫だから、家に帰って勉強してなさい。」

ξ゚⊿゚)ξ、「でも…」

J(;'ー`)し「配達に行ってるお兄ちゃんも、もうすぐ帰ってくるから。」

ξ゚⊿゚)ξ「…うん…。ご飯とお風呂の準備をしておくね。」

J(;'ー`)し「ありがとう。」

家具の設計を担っている父は、職人さんとの打ち合わせに出掛けている。
設計の仕事が終わっても今度は配達に加わるので、店に出ている事は少ない。
母と共にお店を回していたお義姉さんに赤ちゃんが産まれてからは、母が一人で店にいる日が続いていた。

417名無しさん:2026/06/12(金) 01:47:48 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

ξ゚⊿゚)ξ トントン

家に着いた私は、大きめのタンブラーにお茶を入れて階段を登り、二階の自室に入る。

ξ゚⊿゚)ξつ「本は…」

拡大読書器を使いながら区切りの良いところまで読んだら、音声教材を再生する。
あまり目が良くないため、小学生の頃からこうしている。
大学に入ってからは教科書を読むのに疲れて趣味の読書を暫くしていない程だったけれど、周りに追い付くには足りないほどだった。

ξ¶゚⊿゚)ξ(…。お母さん、忙しそうだったな…)

ξ¶゚⊿゚)ξ(私…これで本当に良いのかな…。)

418名無しさん:2026/06/12(金) 01:48:50 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

从'ー'从「今日は午後から学校閉まるじゃん〜?どこか食べに行かない〜?」

川 ゚ -゚)b「最近出来たアルゼンチン料理の店はどうだ?」

ξ゚⊿゚)ξ、「あ、ごめん。今日は親が迎えに来るから私はまた今度で。」

大学に入ってから出来た二人の友達。
私の特性にもさほど驚かずに、気さくに話しかけてくれるのが嬉しかった。

ξ゚⊿゚)ξ∏(「20分くらい遅れます」か…。)

ξ゚⊿゚)ξ(待っている間、下の自販機でジュースでも買おうかな。)

だけど窓の外の新緑があまりにも綺麗で、思わず入口とは反対方向の窓まで近付いた。

ξ;゚⊿゚)ξ(遠くで見るのは良かったけど、近くはちょっと眩しかったわね…。)

ξ゚⊿゚)ξ(あれ…?)

不思議に思って、目を凝らす。

419名無しさん:2026/06/12(金) 01:50:08 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「…あの、何を見ているんだお?」

Σξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」

同じ講義を受けていた、別学部の男の子だ。

(;^ω^)「話したこともない奴が、急にごめんお…。何か気になっちゃって。」

ξ;゚⊿゚)ξ(どうしよう…みんな知ってるような事だったら、恥ずかしいな…。)

ξ;゚⊿゚)ξρ「あ…。あのね、木が沢山あって分かりにくいけど、この下に…森の方に向かって延びる細い道があるじゃない?そこに、扉みたいな物が見えるなって。」

ξ;゚⊿゚)ξσ「その先に…ほら、花みたいな物も…見えない…?」

大まかな色味だけでの判断で、はっきりと見えている訳ではなく、不安だった。
だけど私がそう聞くと、男の子はすぐに答えを教えてくれた。

( ^ω^)「ああ。そこには、小さな庭があるんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「庭…?全然気付かなかった。」

( ^ω^)「棟はここが一番奥だし、その先に何も無いって思うおね。僕もたまたま…」

( ^ω^)「…。」

( ^ω^)「あっ…!」

420名無しさん:2026/06/12(金) 01:51:00 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)つ「見に行こうお!」

ξ;゚⊿゚)ξつ「えっ?」

そう言って、内藤君が私の手を取った。
まるで近所の園の子供達が、男女関係無く仲の良い子と当たり前のように繋いでいる手のように。

教室を抜けて、階段を物凄い速さで降りていく。

棟の外へ出る手前で、私はやっと声をかける事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξつ「ごめん、ちょっと、待って。」ゼェ…ハァ…

(;^ω^)「あ…」

いきなり走ったからか、男の子に手を掴まれた動悸なのか、分からなかった。
私は待たせるのを申し訳なく思いながら、トートバッグから黒い折り畳み傘を取り出した。

ξ;゚⊿゚)ξ「ごめんね。もっとゆっくりで良い?」

(;^ω^)σ「こちらこそごめんお…。こっちだお。」

421名無しさん:2026/06/12(金) 01:52:03 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ テクテク

ξ゚⊿゚)ξ(行き止まりだと思っていたけど、本当に人が通れるくらいの道がある…。)

ξ゚⊿゚)ξ(さっき見えていたのは、本当に扉だったんだ。)

( ^ω^)つ| キィ…

内藤君が打掛錠を外して、古い小さな木の扉を開けた。人一人通るのがやっとな、ハーブの茂る道。
それを抜けると、背丈の低い草花が広がっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「…すごい。」

カラフルだけど、春そのものであるような、柔らかい色合い。
私は思わず立ち止まって、辺りを見渡そうとした。

( ^ω^)「こっちだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「え…?」

内藤君は、どんどん進んでいった。

422名無しさん:2026/06/12(金) 01:52:56 ID:oQVOL7y.0
(*^ω^)つ「ほらっ、君の花だお!」

(*^ω^)つ「モッコウバラだお!」

庭の中央にある、アイアン製の仕切り壁。
それを覆い尽くしきる勢いでモッコウバラは溢れ、下へと流れるように咲いている。

(*^ω^)「きっと今が一番見頃だおー。」

ξ;゚⊿゚)ξ「…?」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうして、私の花なの…?」

Σ(;^ω^)「えっ!??」


ξ;゚⊿゚)ξ、(…だって、ここは初めて来た場所だし、私にはそのお花と何の接点も無いはずだもの…。)

423名無しさん:2026/06/12(金) 01:53:39 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)「…黄色いモッコウバラは、花びら1枚で見るとクリーム色なんだお。」

(;*^ω^)「今見比べてみてもほら、君の髪の色と似てるというよりはおんなじで…」

ξ;゚⊿゚)ξ

(;*^ω^)「だから…?えっと…。」

そこまで言って我に返ったのか、内藤君の顔はみるみると赤くなっていった。

(;* ω )「あ…う……。」


ξ;゚⊿゚)ξ(…何か、こっちから話題を振らないと…。)

424名無しさん:2026/06/12(金) 01:54:35 ID:oQVOL7y.0
ξ;゚⊿゚)ξ「…内藤君、だよね。」

(;^ω^))「そうだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「席が近い時にノートの名前を見て、なんとなく覚えていたの。」

ξ゚⊿゚)ξ「たまに、外でしゃがんで何かしてるよね…?」


ξ;゚⊿゚)ξ(待って…今の、キモかったかもしれない…。)

だけど今日はその謎の答えが分かるかもしれないと思うと、少しだけワクワクした。


(;^ω^)「あ…校内の花のスケッチをしているんだお。猫でもかまっているのかと、たまに声をかけられる事があるお…。」

(;^ω^)「趣味なんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。」

ξ゚⊿゚)ξ(内藤君は、お花の絵を描いていたのね…。)

425名無しさん:2026/06/12(金) 01:55:50 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ「ここって、何なんだろう?」

避難場所ならグラウンドがあるし、ここには一人用の椅子が2つ3つぽつぽつと置かれているだけで、生徒向けの憩いの場所という雰囲気でもない。

( ^ω^)「理事長とか偉い人のお散歩コースらしいお。ここで描いてる時に、造園のおっちゃんが教えてくれたお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「…勝手に入ってもいいの…?」

( ^ω^)「確認したらパンフレットにも載ってたお。だけどほら、みんな興味があるのは…」

ξ゚⊿゚)ξ「あぁ…。」

ξ゚⊿゚)ξ(アヤちゃんもクーちゃんも、よく街の新しいお店の話をしてるしなぁ…。)

( ^ω^)「流石に不審者だと思われたくないから、最近はいつもここで描いてるんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか…。」

私はモッコウバラをもう少しだけ眺める事にした。

ξ゚⊿゚)ξ(綺麗…。)


壁いっぱいに咲く様が本当に見事で、私に例えられるのが、恐れ多くて恥ずかしくなるほど。



ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、内藤君…。」

ξ゚⊿゚)ξ「…また来ても、良い?」

426名無しさん:2026/06/12(金) 01:57:01 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、今日は…」

( ^ω^)「あ、ごめんお。今日からバイトがあるんだお。夏くらいまでスケッチには行かないんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ、「そう…。」

ξ゚-゚)ξ(引かれちゃったのかも…。身の上話なんて…しなければ良かったな。)

_____
___
__

(ヽ‘ω`) ゲソ…

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫…?」

(ヽ‘ω`)「だいじょぶだお…」

ξ;゚⊿゚)ξ「…。」

バイト、凄く大変そう…。

427名無しさん:2026/06/12(金) 01:58:05 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξつ| キィ…

ξ゚⊿゚)ξ「…」

バイトを始めたという話を聞いてからも、私はたまに内藤君が来てはいないかと、庭に訪れる事があった。

瑞々しい香りの漂う庭は、紫陽花がメインへと移り変わっている。

ξ゚⊿゚)ξ(この紫陽花、白っぽくて綿あめみたい…)

ξ゚⊿゚)ξ(こっちの花は、初めて見るかも。)

私はカップルーペを取り出して、その花を観察した。

ξ*゚⊿゚)ξ(可愛い…。葉っぱは違う感じだけど、小さな百合が沢山咲いているみたい。)

ξ゚⊿゚)ξ(内藤君なら、名前を知っているかな…。)

428名無しさん:2026/06/12(金) 01:58:40 ID:oQVOL7y.0
モッコウバラの開花時期が終わりきった、アイアンの仕切り壁を眺める。

ξ゚⊿゚)ξ(君の花だ、なんて…。)


ただ髪の色とそっくりだと、花の前で子供のように目を輝かせて。

それはまるで、とてもキザな台詞。

それから思い出すのは、柔らかい声と、絵を描くために丸めた背中。



私は内藤君に、いつの間にか恋をしていた。


.

429名無しさん:2026/06/12(金) 01:59:39 ID:oQVOL7y.0
____________________________

_____
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__

( ^ω^)「津出さん。今日の授業が終わったら、庭に来てくれるかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」

梅雨も終わる頃、内藤くんが私に声をかけた。

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、行くわ。」


ξ゚⊿゚)ξ(どうしたんだろう…。)

430名無しさん:2026/06/12(金) 02:00:22 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ「あれ…?今日は、スケッチブックを持っていないのね。」

( ^ω^)「今日は、スケッチをしに来たんじゃないんだお。」

( ^ω^)「津出さんに、これを渡したくて…」

そう言って内藤君は、細長い包みを私に差し出した。

ξ゚⊿゚)ξ「え…?」

( ^ω^)「開けてみてお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…?」

私は、訳が分からないままぺりぺりと包装紙を開き、入っていた物を観察した。

ξ゚⊿゚)ξ「…日傘…?」

ちょっと不思議な形の傘だ。

( ^ω^)「兼用傘だお。さしてみてお。」

431名無しさん:2026/06/12(金) 02:01:25 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξつ「…」

ξ゚⊿゚)ξつ「…これ、とても良いわ。」

ξ゚⊿゚)ξつ「持ち運びやすいからいつも折り畳みを使っていたけれど、涼しさが…全然違う。」

ξ;゚⊿゚)ξ「だけど…どうして…?」

手彫りのような木製ハンドル。
市販品ではないような女物の傘を、どうして内藤君が私に…?

( ^ω^)「えっ?」

(;^ω^)


(;^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「…私が使っちゃっても良いの?」

(;^ω^))「うん。津出さんのだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…ありがとう。」

内藤君の気持ちは分からなかったけれど、握ったハンドルからほんのりと温かな幸せのエネルギーが、流れ込んでくるようだった。

432名無しさん:2026/06/12(金) 02:02:07 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ、「私、重い話しちゃったから…。避けられてるのかと思った。」

(;^ω^))「それはないお!」

( ^ω^)「…何も言えなくて、ごめんお。」

ξ*゚⊿゚)ξ「ううん、…ありがとう。」

ξ*゚⊿゚)ξ(…嫌われていたんじゃなくて、良かった。)


ξ゚⊿゚)ξ「内藤君って、不思議な人だよね。」

私はずっと思っていた事を、つい口に出してしまった。
だってこんな事をするのは、絵本に出てくる妖精くらいしか思い付かないから。

(;^ω^)「いつもはこんな感じじゃないんだお。だけどなんとなく、僕が面白いと思ったものを津出さんなら同じように思ってくれるんじゃないかって…本当になんとなくだお。」

433名無しさん:2026/06/12(金) 02:02:56 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「僕は学校に来て花を描いて帰るだけの、ただの陰キャ学生だお。友達と出かけたりはするけど、サークルにも入ってないし…」

( ^ω^)「自分から女の子に声をかけたのだって、津出さんくらいで…」

(;*^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「…サークル?」

(;^ω^)「…お?」

絵本…

ξ゚⊿゚)ξ「…そっか…!」

ξ゚⊿゚)ξ「今まで授業だけで精一杯だったけど、大学って色々な活動をしている人がいるものね。」

ξ*゚ー゚)ξ「お仕事じゃなくて短時間やたまになら…私にも何か出来るかも。読み聞かせのボランティアとか…。」

(*^ω^)「おっ!それが良いお!人手が必要なら、僕も手伝うお。」

ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。」

私は、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

434名無しさん:2026/06/12(金) 02:05:54 ID:oQVOL7y.0
ポツ…ポツ…

( ^ω^)「ん…?」

内藤君が上を見た途端、サァッと横殴りの細い雨が降ってきた。

(;^ω^)「わっ!隣の棟に行くお!」

ξ;゚⊿゚)ξつ「内藤君、これに入って。」

(;^ω^)「ありがとうだお。」

ξ;゚⊿゚)ξ(風が吹いているからか、何だかふんわりした雨だわ。)タッタッ

435名無しさん:2026/06/12(金) 02:06:46 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい、早速雨に濡らしてしまったわ。」

ξ゚⊿゚)ξ、(自分の傘もあったのに…。)

( ^ω^)「頑丈だから、大丈夫だお。沢山使ってお。」

兼用傘だからと、内藤君は付け足した。

( ^ω^)「天気雨だから、すぐ止むお。」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。」

そう言われて私は、空を見上げた。


雨の音しか聴こえない。


まるで、私達以外は世界に誰もいないみたいで、心細くなった。


( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ








私達は、どちらからともなく手を繋いだ。



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436名無しさん:2026/06/12(金) 02:10:00 ID:oQVOL7y.0

内藤君は、本当に私の読み聞かせの活動を手伝ってくれた。

帰りに遅めの昼食を一緒にとって、雑貨店などを眺めながら分かれ道までのんびりと歩くのが、習慣になっていた。

( ^ω^)ノシ「また学校でだお。」

ξ゚⊿゚)ξノシ「うん。ありがとう。」

ξ゚⊿゚)ξ テクテク

ξ*゚⊿゚)ξ(デートみたいだなんて思っているのは、私だけかしら…。)

ξ゚⊿゚)ξ(…)

私はふと、ショーウィンドウに映った己を見て、立ち止まる。
内藤君がくれた日傘に、黒い服と使い古されて白になりつつある生成りのトートバッグ。
視力はあまり良くないけれど、立派な日傘に不釣り合いな気がして少し不安な気持ちになった。

ξ;゚⊿゚)ξ(アヤちゃんもクーちゃんもお洒落なのに、今まで全然気にしてなかったな…。)

ξ゚⊿゚)ξ(ちょっと…入って見てみよう。)

ξ゚⊿゚)ξつ| カラン…

437名無しさん:2026/06/12(金) 02:12:42 ID:oQVOL7y.0
ξ;゚⊿゚)ξq(…うーん…。)

お店の中をゆっくりと見て回ったけれど、これだ!という服は無かった。
私の家は職人さんに作ってもらった家具を販売しているので、そもそも『使える物は使い切りたい』という気持ちが強いのだ。

だけどお洒落をしたいという気持ちを埋めるために、1つくらいは何かを買って帰りたい。

ξ゚⊿゚)ξ(…あら?)

雑貨のコーナーで、綺麗な瓶を見付けた。
レリーフが施された金古美の色合いの蓋に、プリーツ入りの丸っこい透明な硝子。
私はテスターをいくつか試して、特に気に入った香りの瓶を眺める。

ξ*゚⊿゚)ξつ(これが一番好きかも…。)

私は、暗い黄緑色のパッケージを手に取った。
ガーデニアとスミレを基調としたその香りは、どことなく瑞々しい桃のような香りがした。

438名無しさん:2026/06/12(金) 02:14:01 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「なんだか今日は、たまにいい匂いがするお。多分津出さんの方から…」テクテク

Σ( ^ω^)「あ、今もしたお!」ピタ

内藤君が、ハンカチで汗を拭う私の方を見た。

ξ゚⊿゚)ξ「これかな…?」

ξ*゚ー゚)ξ、「香水を買って、試しにハンカチに香り付けをしてみたの。あまり強くないしフルーツみたいな香りだから、バッグの中に入れておけば読み聞かせの間も目立たないかなって。」

(*^ω^))「お!確かに桃みたいな香りだお。」

ξ*^ー^)ξ「ふふ。」

ξ゚⊿゚)ξ「内藤君。前回は一人にさせてしまって…ごめんね。」

( ^ω^)「だいぶ慣れたし、大丈夫だお!体調は戻ったかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。ただの風邪だから、もうすっかり治ったよ。」

( ^ω^)「それは良かったお!」

ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。」

439名無しさん:2026/06/12(金) 02:14:39 ID:oQVOL7y.0
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440名無しさん:2026/06/12(金) 02:15:32 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ(久々の検診ね。熱風邪をぶり返していたから、かかるのが遅くなっちゃった。)

病院に行くまでの道のりの、最後の信号待ち。
私は鞄から保険証と診察券を取り出して、上着のポケットへと入れ直した。

ξ;゚⊿゚)ξ(節々が痛いなぁ…。鼻と喉が荒れたからか、ここ数日ご飯の味もしないし…)

ξ;゚⊿゚)ξ(最近すぐ風邪を引くけど、年かな?…そんなの困るわ。)

ξ゚⊿゚)ξ(…もっと急げばよかった。さっさと検査して、先生に聞いてみよう。)

441名無しさん:2026/06/12(金) 02:16:33 ID:oQVOL7y.0
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ξ゚⊿゚)ξ「………えっ…?」

(-_-)「…つまり、再発です。ただ、今回は…。以前より難しい状態です。」

(-_-)「詳しく検査して治療方針を決めるために入院が必要になるので、すぐに荷物を用意して病棟まで来てください。」

(-_-)「ご家族の方にも説明したいので、一緒に来てもらってください。」

ξ゚⊿゚)ξ「…」

442名無しさん:2026/06/12(金) 02:17:35 ID:oQVOL7y.0


夫と結婚して、数年。
年に一度と頻度の減っていた検診で、主治医からそう告げられた。


ブーンと過ごしていた数年の間が、あまりにも穏やかだったから。


やるせなくてもどかしい日々が私の通常運転だった事を、すっかり忘れていたのだ。






私は式の日の、肩に置かれた夫の汗ばむ手の温度を思い出していた。



.

443名無しさん:2026/06/12(金) 02:18:33 ID:oQVOL7y.0

難しい。
先生が気を遣いぼかして話してくれる時の口癖だと、私は知っている。

ξ゚⊿゚)ξ(今日は…先生に相談してみようと思っていたのに…。)

ξ゚⊿゚)ξ(もし子どもを得たら…。私の体質は、遺伝しないのか。夏に長袖を着ずに済む子供として、過ごせるのか。)

ξ ⊿)ξ(…そんな心配すら、必要無かったんだ。)


ξ ⊿)ξ (…)



歩幅が揃わないまま私が向かった先は、自宅ではなく実家だった。

444名無しさん:2026/06/12(金) 02:19:32 ID:oQVOL7y.0
店舗に足を踏み入れると、母がこれから父か兄に配達してもらうであろう椅子を包んでいた。
シルエットだけで私だと判断したのか、母は身体の向きを戻して作業を続けた。

J( ー` )し))「あら?また携帯でも忘れた?」

J( ー` )し))「もー。毎月のように忘れるんだから。」

J( ー` )し))「もう結婚したのだから、いつまでも末っ子の気分じゃだめよ?しっかりしなくちゃ。」

J( ー` )し

J( 'ー`)し「つかさ?」





ξ;⊿;)ξ「お母さん…」


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.

445名無しさん:2026/06/12(金) 02:20:16 ID:oQVOL7y.0
私は母に頼んで、病院まで付き添ってもらう事にした。
母は移動中や説明を受け終わるまでの間に何度も、夫は良いのかと尋ねてきた。

ξ゚⊿゚)ξ「仕事で大事な時なの。色々と決まるまでは、伝えられないわ。」

私は同じだけ、そう突っぱねた。

ξ゚⊿゚)ξ∏「ちょっと電話してくるね。」

J( 'ー`)し「…」

446名無しさん:2026/06/12(金) 02:21:35 ID:oQVOL7y.0
ξ゚⊿゚)ξ∏「…もしもし、ブーン…?最近うちも忙しくなってしまって、何日か泊りがけにしたいのだけど…。」

その頃夫は展示会での発表のため、毎日のように残業が続いていた。
こんな嘘を付いてしまうのは心苦しく、だけど好都合だった。
優しい夫の事だから、良いと返事をしてくれるに決まっている。

( ^ω^)∏「分かったお。ご飯は最近出来た無人コンビニで買えるし、何も気にしないでだお。」

( ^ω^)∏「お互い大変だおね。身体には気を付けて。」

ξ゚⊿゚)ξ∏「…ごめんね。」

447名無しさん:2026/06/12(金) 02:22:31 ID:oQVOL7y.0
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(-_-)「このまま入院を続けてください。」

ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、決めた方針のようにさせて頂きます。」

検査入院を終えた私は、母に迎えに来てもらい自宅へ帰ることにした。

(-_-)「…いつでも入院出来るよう、準備はしておいてください。何かあったら、すぐ病院まで連絡してください。」

ξ゚⊿゚)ξ「分かりました。」

先生は私の特性との関係も調べたいようだったけれど、同じ病名の患者の何割かはそうしているのだからと言い、私は通院治療を選んだ。


____________________________

448名無しさん:2026/06/12(金) 02:24:10 ID:oQVOL7y.0
J( 'ー`)し「…」

ξ゚⊿゚)ξ「…」

車の中で、私と母はしばらく無言だった。
病院で見た検査結果の写真には、雨に当たり色の落ちた花のように、無数の斑が広がっていた。

子供の頃に治療した物と、同じ病とは思えない程の異様さだった。

その気味の悪さは、まるで今まで助かる側に腰を据えていた私が、ラインを超えて隣の陣地に移動するのだと告げているようで。
だけど、以前の治療の時点で症例を調べ尽くしていた母の方が、状況を認識しているのかもしれない。
手の震えが収まらず、車を出発させる事が出来ないでいるからだ。


ξ゚⊿゚)ξ「……最後まで、迷惑かけるね…。」

J( 'ー`)し「…………」

J( 'ー`)し「『丈夫に産んであげられなくてごめん』だなんて言うのは、後にするわ。」


J( 'ー`)し「好きにしなさい。何でも手伝うから。」


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449名無しさん:2026/06/12(金) 02:26:08 ID:oQVOL7y.0
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ξ; ⊿ )ξ(病院になんて、行くんじゃなかった…。)

投薬が始まった。

私は朝に夫を見送ると、母に車で迎えに来てもらい、実家の二階でただひたすら横になって過ごす生活をしていた。
薬を飲むと不副作用で、以前よりかえって体調が悪くなっていった。

ξ; ⊿ )ξ(気持ち悪い……)

ξ; ⊿ )ξ(行った日が1日、1秒でもずれていたら。検査が違う結果だったかもしれない…。)

ξ; ⊿ )ξ(だって、おかしいじゃない。ほんの1ヶ月前は、一人で歩いて病院に行けていたのよ…。)

まるでいきなり運命を書き換えられたような気分だった。
胃の辺りがずっと痛くて、やっと眠れても15分しか経っていない。そんな事ばかりが続く。


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450名無しさん:2026/06/12(金) 02:27:56 ID:oQVOL7y.0
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家に帰ってからは、母に手伝ってもらい、水回りの掃除をする。

J( 'ー`)し「また明日。何かあったら連絡するのよ。」

ξ;゚⊿゚)ξ「……うん。」


ξ゚⊿゚)ξ(ブーンが帰ってくる前に、ご飯食べよ…)

ξ゚⊿゚)ξ… ペリペリ

ξ゚-゚)ξ モグ…

ξ゚-゚)ξ (…お母さん、ごめん…。)

母が用意してくれた食事には手を付けず、我慢出来ずにレトルトカレーばかり食べている。
味覚や嗅覚が鈍くなり、味が濃く香辛料の効いた物でないと食べ物だと感じられないのだ。

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( ^ω^))「最近、ご飯の味が変わったお。」モグモグ

ξ;゚ー゚)ξ「母に料理を教わっているの。ほら、大きなお鍋で作った方が美味しい食べ物ってあるじゃない…?」

( ^ω^)「二人は本当に仲良しだお!友達親子だおー。」

ξ;^ー^)ξ「そうね…。」

ξ;^ー^)ξ「ごめんなさい。今日も先に休むね。」

( ^ω^))「分かったお。食べたら食洗機回しとくお。」モグモグ

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451名無しさん:2026/06/12(金) 02:29:30 ID:oQVOL7y.0
ξ-⊿-)ξ スゥ…スゥ…

薬のタイミングが良いのか、幸いな事に夜の体調は穏やかだった。
喉が渇いて夜中に数度起きてしまうから、『忙しい時期の夫が集中して眠れるように』と理由を付けて、私がキッチン側の部屋になるように、寝室を分けた。

ξ;-⊿-)ξ(…また起きちゃった…。お水汲みに行かなきゃ…)ノソ…

( ^ω^)つ| 「…ツン、大丈夫かお?」

Σξ;゚⊿゚)ξ「えっ…?」

(;^ω^)「最近、毎晩夜中に起きてるみたいだから…」

ξ;゚ー゚)ξ、「…最近暑いから、喉が渇いちゃって。起こしてしまって、ごめんなさい。」

(;^ω^)「エアコンもっと下げるかお?」

ξ;ー)ξ「大丈夫…。下げたくなったら、自分で下げるから。おやすみ。」

(;^ω^)「おやすみだおー。」

____________________________

452名無しさん:2026/06/12(金) 02:30:14 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「行ってくるお。本当に、大丈夫かお?」

ξ; ⊿ )ξ「ええ。昼前には母も来るし。」

( ^ω^)、「そうかお…。何かあったら電話してお。」

ξ; ⊿ )ξ「うん…。」

ξ; ⊿ )ξ

ξ; ⊿ )ξ「…ねぇブーン。子供が欲しいわ。」

( ^ω^)「…分かったお。これが終われば連休になるから、帰ってからよく話そうお。」

( ^ω^)「行ってきます。」

ξ; ⊿ )ξ「うん…」

453名無しさん:2026/06/12(金) 02:31:35 ID:oQVOL7y.0
夫が玄関から出ていったのを確認して、私は荒く息を吐いた。

ξ; ⊿ )ξ(………もう無理…)

ξ; ⊿ )ξ(ブーンが帰ってきたら、病気の事を伝えてしまおう…。)

そう思っている間もずっと、吐き気が収まらない。
治る見込みが無いと身に沁みた私は、やっと終末に向けての準備をする決意をした。

ξ; ⊿ )ξ(先生には、悪い事したな…。本気で心配してくれてるの、最初から分かってたのに。)

病は私の特性と合わせると、どこかで発表出来るようなケースになりそうだ。
だけど先生は、私を研究材料として扱うような人ではない。
私の意地のせいで、周りの人を振り回している。

ξ; ⊿ )ξ(だけど…。だって…。)

454名無しさん:2026/06/12(金) 02:32:18 ID:oQVOL7y.0
プルルルル

ξ; ⊿ )ξ∏「もしもし…お母さん?」

ξ; ⊿ )ξ∏「そう…少し遅くなるのね。うん。大丈夫。」

ξ; ⊿ )ξ

ξ; ⊿ )ξ「…あれ、寝てた?」

ξ; ⊿ )ξ「…ペットボトルのお水、空っぽ。」

ξ; ⊿ )ξ「汲みに行かなきゃ…。」

私は500mlのペットボトルを両手に1つずつ持って、台所へと向かった。


(( ξ; ⊿ )ξ




ξ ⊿ )ξ グラッ…

455名無しさん:2026/06/12(金) 02:33:16 ID:oQVOL7y.0

カララ…

ξ ⊿ )ξ「ぁ…」

床に膝を付いた。
そのまま頭の位置が分からなくなって、気付けば床に頬が張り付いていた。


ξ ⊿ )ξ


目を開けているはずなのに、真っ暗で何も見えない。

腕で起き上がろうとして、その腕の感覚がない。

痛いのか苦しいのかも分からず、だけど急速に全てが閉じていく気配だけを悟る。

456名無しさん:2026/06/12(金) 02:34:30 ID:oQVOL7y.0
あるというはずの、走馬灯は見えない。

私は闘病中に父が設計してくれた実家のベッドで過ごし、家族もよく見舞ってくれた。
友人達に別れの挨拶が出来なかったのは、残念だけれど。


ξ ⊿ )ξ


ダイニングにある、向かい合って食事をするための二人用のテーブル。
秋になると、夫が落ち葉を箒で掃いてくれる庭。
私が本を読むのによく使っていた座卓。
全てが温かくて切なかった。


ここ数日の私は起きて過ごす事が出来ず、風邪だと偽って布団から夫を眺め、夫との今までの事と、これからの事を想っていた。

充分時間を費やした。

だから見えなくて、当然だ。

.

457名無しさん:2026/06/12(金) 02:35:06 ID:oQVOL7y.0

ξ ⊿ )ξ(……でも…)

苦しい人生だったのなら。

可哀想だと思われるような人生だったのなら。


一つくらい、何か我が儘が叶ってよ。


.

458名無しさん:2026/06/12(金) 02:35:53 ID:oQVOL7y.0

ξ ⊿ )ξ(…目が良くなりたい。)



良くなった目で、一目だけで良いから映したい。




あの日私を連れ出して、モッコウバラを背に振り返ったあなただけを





どうか、鮮明に______





.

459名無しさん:2026/06/12(金) 02:36:22 ID:oQVOL7y.0





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460名無しさん:2026/06/12(金) 02:37:54 ID:oQVOL7y.0
蝉の鳴き声。
野球ボールが打たれた音と歓声が、遠くで聞こえる。

何も見えないけれど、やけに遅い登りのエレベーターに乗っているような感覚に、私は子供の頃に大好きだった、男の子と犬の絵本を思い出した。

(私も今は丸い光みたいな形をしていて、これから天国に行くのかな…。)

(…ブーンは、私の事を見てくれたかな。)

(あなたと一緒に居られて楽しかったよ。大好きだよ。って、伝わったかな…。)

(…さようなら。)

(…)

(……?)


なんだか、良い匂いがする。

461名無しさん:2026/06/12(金) 02:38:41 ID:oQVOL7y.0
匂いのもとが気になると、今度は横移動が始まった。
それから少しすると、花の香りがした。

(薔薇…かしら。死んだら鼻が良くなるなんて、変ね。身体なんて、無いでしょうに。)

花の香りが続くと、今度は何か温かい物に近付いた。

(とても良い気持ち。落ち着くわ。)

(……眠くなっちゃった…)

____________________________

462名無しさん:2026/06/12(金) 02:39:49 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ「あれ…?」

((ζ(゚、゚*ζ キョロ…

気付けば、カーテンの閉まった暗い部屋の中に居た。

ζ(゚、゚*ζ(ここ、どこだろう…?)

部屋には三箇所ドアがあり、私は本棚が左右に並ぶ扉を開けてみる事にした。

|⊂ζ(゚、゚*ζ カチャ…

((ζ(゚、゚*ζ(…広そうな…お屋敷…)

奥にドアがいくつか見えて、階段もある。

ζ(゚、゚*ζ))(…あれは玄関かしら?外に出てみよう。)

床の材質が石に変わり、私の足先がコツンという音を出した事に驚いた。

ζ(゚、゚*;ζ?(えっ…?靴履いてる?さっきまで部屋の中にいたのに…。)

ζ(゚、゚*;ζ(それに、ドレスを着てる…。でも、母のじゃないわ。)

白とは違い、生成りがかったドレスだ。

ζ(゚、゚*;ζ(とにかく、ここが何処だかが知りたい。)

463名無しさん:2026/06/12(金) 02:40:40 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*ζ))(やっぱり、凄く大きなお屋敷…。)テクテク

振り返って見た灰色の屋敷は、街でも見た事がない程大きかった。
私はドレスを少し掴んで、足捌きを楽にしながら外を目指す事にした。

ζ(゚、゚*ζ)) (道路まで出れば、標識や自販機で住所が分かるはず…。)テクテク…

屋敷は静かで、人の気配がなかった。
探索するのも失礼な気がしたので、自力で出来る事をしよう。

ζ(゚、゚*ζ)) テクテク…


ζ(゚、゚*ζ !

464名無しさん:2026/06/12(金) 02:42:00 ID:oQVOL7y.0

ζ(゚ワ゚*ζ「わぁ…!」

洋風の生垣を抜けた先には、何種類もの満開の薔薇が咲いていた。

それだけじゃない。
道の横には、低い丈から高い丈へと、階段状にハーブや花が植えられている。
英国様式風の庭を見て私は、いたく感動した。

ζ(゚ワ゚*ζ(素敵素敵!)

ζ(゚ワ゚*ζ(観光地とか…なのかしら?こんな所がオープンしていたなんて、全然知らなかったっ!)

ζ(^ー^*ζ(ブーンに知らせて、休日にまた来なきゃ…)

ζ(^ー^*ζ(…)

ζ(゚、゚*ζ「……あれ?」


私はふと、違和感を覚えた。


Σζ(゚、゚*;ζ

ζ(゚、゚*;ζ「…………目がっ…!??」



ハッキリと、見える。

世界はこんなにも色濃くて凹凸があって、繊細だったんだ。
それに、太陽の光に当たっても眩しくなくて、肌を隠そうと焦る気持ちも湧かない。


ζ(゚、゚*;ζ(…)


私は呆然として、暫く立ち尽くしていた。

465名無しさん:2026/06/12(金) 02:42:43 ID:oQVOL7y.0
(´・ω・`)「ん?誰だ?」

ζ(゚、゚*ζ「…?」

ポケットの沢山付いたエプロンを身に着けた誰かがやって来て、私にそう尋ねた。

ζ(゚、゚*ζ「分からない…です…。」

手の甲を見ると、肌の色が違う。
目線だって、随分と高い。

ζ(゚、゚*ζ(私って、誰なんだろう…?)

(´・ω・`)「…ドクオに聞いてみるか。」

ζ(゚、゚*ζ(…この人も、その人も、誰だろう…?)

466名無しさん:2026/06/12(金) 02:43:46 ID:oQVOL7y.0
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(´・ω・`)つ|カチャ…

(´・ω・`)「ドクオ、迷い人がいるみたいなんだが。知り合いか?」

('A`)「…」

ζ(゚、゚*;ζ

金縁の眼鏡をかけた、私よりも何才か年下ぐらいの男性に、ぼんやりとした顔で見つめられる。

('A`)「……知らない。」

(´・ω・`)「屋敷の外から来たのか?」

⊂ζ(゚、゚*ζ「いいえ、あっちの…本棚のある部屋からです。」

ζ(゚、゚*;ζ(ここ…人、居たんだ…。)

('A`) …

男性が私の伝えた部屋へと向かったので、私達もその後を付いていった。

467名無しさん:2026/06/12(金) 02:45:19 ID:oQVOL7y.0
('A`)σ「……ここにあった日傘は?」

男性は、部屋に一つだけ置いてある椅子を指差した。
おそらく立て掛けるか、椅子の上に置くかなどしていたのだろう。

ζ(゚、゚*;ζ「え…?暗かったですが、何も無かったはずです。」

ζ(゚、゚*;ζ「気が付いたらその椅子に座っていて、ここが何処なのかを知るために、外に出ようと…。」

('A`) …

(´・ω・`)「客が持ち込む修理品と、一緒なんじゃねーのか?」

('A`)「…祖父の頃から人型は、見た事が無い。」

(´・ω・`)「前例無しの可能性も有り…、か。だけどいきなり部屋に現れたって事は、その部屋の中にあった何かなんだろうし、どこか治して欲しいとこがあるんじゃねーのか?」

('A`) …

(´・ω・`)「俺はそろそろ庭に戻るぞ。じゃあな。」

(´^ω^`)ノシ「それにしても、今日のドクオはよく喋るな。アッハッハ!」

ζ(゚、゚*;ζ …

('A`) …

('A`)σ「…さっきの部屋に。」

ζ(゚、゚*;ζ「あ、はい…。」

468名無しさん:2026/06/12(金) 02:46:14 ID:oQVOL7y.0

('A`)「直してほしいところは?」

そう言われて私は、全身を目でチェックしてみた。

ζ(゚、゚*;ζ「いえ、特には…?怪我も無さそうです。」

('A`)「…。」

男の人は少し考え込んでから、こう言った。

('A`)「……ここに住んで、さっきの部屋を使って。」

('A`)「…寝室は二階の左手に並ぶ部屋ならどこを使っても良い。」

('A`)「白い日傘を見付けたら知らせて。」

ζ(゚、゚*;ζ「は、はい…。」

ζ(゚、゚*;ζ「あの…。お庭には出ても…?」

('A`)「かまわない。」

ζ(゚、゚*;ζ「分かりました。」

ζ(゚、゚*;ζ「…よろしくお願いします。」

('A`) …

469名無しさん:2026/06/12(金) 02:48:39 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

最初の部屋に戻った私は、念の為カーテンを開けて、日傘が無いかを確認した。
部屋の中がよく見えるようになったけれど、本棚に机、椅子があるくらいで、それらしき物は見当たらなかった。

窓の外を見ると、遠くに柔らかくカラフルな花が咲いている。
…ストックだろうか。

ζ(゚、゚*ζ(本当に、素敵…)

ζ(゚、゚*ζ(庭には出て良いと言われたから、そっちで色々考えてみようかな。)

私は再び、庭に出てみる事にした。

470名無しさん:2026/06/12(金) 02:51:50 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ))(凄く綺麗なお庭…。)テクテク

民家の庭とはまず言えないほどの、広い庭。
ピントの合った世界にひたすら感動しながら芍薬の道を抜けると、ヒメシャガの群生が現れた。

ζ(゚ワ゚*ζ「天国みたい…。」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

pζ(゚、゚*ζ(……本当に、天国なのかもしれない…?)

ζ(゚、゚*ζ(私の記憶は、内藤つかさの記憶。でも今の私は違う見た目のようだし…、声だって違うわ。)

ζ(゚、゚*ζ?(だけど、知り合いでもない人間がいきなり家の中に現れてもあまり驚かれないなんて、とても変だわ。)

ζ(゚、゚*ζ))(とにかく、庭の先を探してみよう。)

471名無しさん:2026/06/12(金) 02:52:37 ID:oQVOL7y.0
_____
___
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ζ(゚、゚*;ζ「……え…、ここって…?」

アイアン製の門の先に見えたのは、近所の小学校がある通りだ。

ζ(゚、゚*;ζ(ブーンが通勤で、いつも通る道…。)

家から5分もかからない場所だ。

ζ(゚、゚*;ζ(だけど、誰も歩いていない…。自転車も通らないわ。)

そう思っていると一人、私の母ぐらいの年齢の女性がやって来た。

472名無しさん:2026/06/12(金) 02:53:51 ID:oQVOL7y.0
∬´_ゝ`)「あら?素敵なドレスのお嬢さんがいるわ。今日は結婚式か何かなのかしら?」

ζ(゚、゚*ζ、「いえ…。今日からここでお世話になる事になって…。」

自分でそう言って、戸惑った。
見慣れた道であるのならば、そのまま自宅に帰ってしまえば…

∬´_ゝ`)「そうなのね。今日は修理に出した物を受け取りに来たのだけど、もしよければ案内してくれないかしら?」

∬´_ゝ`)「預けに来た時に、広過ぎて迷子になっちゃったのよ。」

ζ(゚ー゚*;ζ「あ、はい…。」

473名無しさん:2026/06/12(金) 02:54:59 ID:oQVOL7y.0
ヒメシャガの群生に差し掛かった所で、女性が足を止めた。

∬*´_ゝ`)「素敵ね。写真を撮る時間をもらっても、良いかしら?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。」

∬*´_ゝ`)∏「ここの庭は、本当に凄いわね。」カシャッ

∬´_ゝ`)q「うーん…。見返した時にこのスケールを思い出せるようにしたいけど、私の腕では難しいわね…。」

ζ(゚ー゚*ζ「あの…よろしければ私がお撮りします。お花の前に立って頂ければ、規模が分かりやすいかと…。」

∬*´_ゝ`)つ∏「ありがとう。お願いするわ。」

そう言って女性は、撮影の画面を開くために操作を始めた。

ζ(゚、゚*;ζ「え…?」

∬´_ゝ`)「あら?どうかしたの?」

∏ζ(゚ー゚*;ζ「あ…いえ!お借りしますね。」

∏ζ(゚ー゚*;ζ「撮りますよー…。」

474名無しさん:2026/06/12(金) 02:56:37 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

∬´_ゝ`)「お見送りまで、ありがとうね。」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ。このお庭、本当に広いですから…。」

私と門まで歩く女性の肩には今、爪先と嘴が金属で出来たインコがとまっている。

∬´_ゝ`)「母の家の片付けを手伝っていたら出てきた物で、お礼にくれたのよ。」

∬´_ゝ`)「母が『インコだ』と言っていたんだけど、本当にそうだったのね。」

ζ(゚、゚*ζ「え…?」

∬´_ゝ`)「これ、元はアクセサリーなの。だけど修理に持ち込むと、この庭と屋敷の中だけ、生き物に変身するらしいのよ。」

ζ(゚、゚*;ζ「冗談…でしょうか?」

そう言いつつも、今の時点で既に不思議なインコだ。

∬´_ゝ`)「もうすぐ答え合わせが出来るわ。」

475名無しさん:2026/06/12(金) 03:00:05 ID:oQVOL7y.0
門の前まで来ると、女性は私に振り返った。

∬´_ゝ`)「よく直してもらったのだろうから、暫く会う事は無いだろうけど…またいつか。さようなら。」

ζ(゚ー゚*ζ「さようなら…。」

∬´_ゝ`)「じゃあ、インコをよーく見ててね。」

そう言いながら女性は少しだけ悪戯そうな顔をして、門の外へと後ずさった。

∬´_ゝ`)「ほら。」

Σζ(゚、゚*;ζ「…本当ですね…。」

私が瞬きをしているうちにインコは居なくなり、先程まで女性の首元にはなかったはずの、連なった羽を模したペンダントが現れた。

ζ(゚ー゚*ζ「素敵なペンダントですね。」

∬*´_ゝ`)「ありがとう。大事にするわ。」

ζ(゚、゚*ζ「……あの、少し変な事を…お伺いしてもよろしいでしょうか?」

∬´_ゝ`)「?何かしら?」

ζ(゚、゚*;ζ「…今年の西暦は、何年でしたっけ?」

∬´_ゝ`)「…?2026年よ。それがどうかした?」

ζ(゚ー゚*;ζ「…いえ、すみません。ありがとうございます。」

476名無しさん:2026/06/12(金) 03:01:45 ID:oQVOL7y.0
私は暫く、女性が去った後も外を眺めていた。

ζ( ー *;ζ(2026年…。さっきのスマートフォンの画面で見たのと、同じ年…。)

私の最後の記憶から、17年経っている。

ζ( ー *;ζ(どうして…?)

ζ( ー *;ζ(何で私、こんな所にいるの…?苦しくなくて、姿まで変わっていて…。)


怖い。


ζ( Д *;ζ(ブーンのところへ…!)

恐怖のあまり駆け出して、門を抜けようとした。

____________________________

(´・ω・`)「客が持ち込む修理品と、一緒なんじゃねーのか?」
____________________________

____________________________

('A`)「直してほしいところは?」

____________________________


ζ( Д *;ζ「っ…!」



もし私が、人間ではなかったら。


____________________________

477名無しさん:2026/06/12(金) 03:03:21 ID:oQVOL7y.0
_____
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結局私は、外へは行かずに屋敷へと戻ってきてしまった。

ζ(゚、゚*ζ「…」

ドクオさんと呼ばれていた人は、多分まだ作業部屋に居るみたい。

ζ(゚、゚*;ζ(色々聞いてみたいけれど、邪魔はしたくないし…。)

本棚のある部屋に戻るしかなく、扉を閉じた私は椅子まで辿り着く前に、床に膝をついた。

ζ(  *;ζ(…17年……)

夫に、家族に会いたい。
だけどその月日は、再会出来た喜びだけを感じられるものではないのだろう。

夫が再婚している可能性はあるし、していてほしいと願っている。
傍らに誰かが居て、笑顔の絶えない人生を送っていてほしい。

それが叶っていると信じるのならば、会いに行く事なんて出来ない。

478名無しさん:2026/06/12(金) 03:05:26 ID:oQVOL7y.0
ζ(  *;ζ(それに…私がインコと同じく、何かを直す事が目的でここに居るのなら…。)

ζ(  *;ζ(門を越えた途端、喋りも動けもしない何かに…なってしまうかもしれない。)

悪手を踏むくらいならここの庭に、ずっと居たいと思った。
何故だか愛おしく感じる、花の匂いで満たされたこの庭に。

ζ(  *;ζ(不思議ね…。本当に天国なのかもしれないわ。)

(ζ(゚、゚*ζ …

顔を上げると、ふと本棚の中の本が目に入った。

ζ(゚、゚*ζ(植物の…本……?)

古い図鑑と最近の写真の多い図鑑が、混在している。
私は扉を開けて、年代の一番新しい図鑑を手に取った。

ζ(゚、゚*ζ「綺麗…。」

水色とピンクの淡いグラデーションの、見たこともないパンジー。
好奇心を持った瞳が、「もっとページを捲って」と私を急かした。

ζ(゚、゚*ζ))


私は窓際にあった椅子を机に近付けて、図鑑を読む事にした。

____________________________

479名無しさん:2026/06/12(金) 03:07:22 ID:oQVOL7y.0
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ふと壁にかけられた時計を見ると、針は7時過ぎを指していた。

ζ(゚、゚*ζ(いつの間にか、朝になったのね。)

カーテンを開けて窓の外を見ると、近くの木の枝で金の翼を持つコマドリが囀っていた。

ζ(゚、゚*ζ「…」


ζ(゚、゚*;ζ パタパタ

ζ(゚、゚*;ζ ハァ…ハァ…

ζ(゚、゚*ζ …

目の前をひたすら眺める。

ζ(゚、゚*ζ …

ζ(゚、゚*ζ …

ζ(゚、゚*ζ (…来ない。)


門の前。斜め向かいに小学校がある通学路。
平日は毎朝夫がここを通るであろう時間でも、誰一人として庭の前の道路を通り過ぎる人は現れなかった。

480名無しさん:2026/06/12(金) 03:08:25 ID:oQVOL7y.0
私は庭を少し散策して、それからまた屋敷に戻って本棚の図鑑を読む事にした。
同じ名前でも品種によって形状や色が随分と違う花があって、興味深い。
薔薇に至っては、星の数のようだと思えるほど、名前がある。

pζ(゚、゚*;ζ(そっくりなのもあって、隣同士にあったら簡単には見分けられなさそう…。)

ζ(゚ー゚*ζ(…深めのカップ咲きも可愛いけど、『恋こがれ』。この品種も可愛いなぁ…。)

_____
___
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ζ(゚、゚*;ζ(あれ!?また朝になってる!!)

ζ(゚、゚*ζ(…)

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__

ζ(゚、゚*;ζ パタパタ

ζ(゚、゚*;ζ ハァ…ハァ…

ζ(゚、゚*ζ …

ζ(゚、゚*ζ (…来ない。)

481名無しさん:2026/06/12(金) 03:09:54 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*ζ(そういえば、全然寝てないしお腹も空かない…。)

何も気にしないでいると、本を読んでまた明日になってしまいそうだ。

ζ(゚、゚*ζ(二晩も寝ないで平気だなんて…。やっぱり私は、幽霊にでもなったのかしら…?だけど本には触れるし、人と会話は出来るし…。)

Σζ(゚、゚*;ζ(そうだっ!お部屋を借りているのだから、何かお手伝いくらいはしないと…!)

私はドアを開けて、廊下へと進んだ。
丁度ドクオさんが移動している所だったので、私は勇気を出して声をかけた。

ζ(゚ー゚*;ζ「あの!お世話になっているので、何かお手伝いをしたいのですがっ…!」

ζ(゚ー゚*;ζ「掃除とか、お料理とか、何かありませんか…!?」

('A`) …

ドクオさんは私の服装を見て、断りの表情で口を開こうとして、また少し悩んでいるようだ。

('A`)「…昼食だけ作ってほしい。」

ζ(゚ー゚*ζ「分かりました!他にも出来る事があったら、教えてください。」

('A`) …

____________________________

482名無しさん:2026/06/12(金) 03:11:00 ID:oQVOL7y.0
グツグツ

ζ(゚ー゚*ζ(野菜が沢山あったからラタトゥイユにしてみたけど、上手く出来たかしら…。)

鍋で煮る間に、カップボード端のホームベーカリーで予め焼かれていたパンをスライスする。

ζ(゚、゚*;ζ(料理を作り慣れていそうな人に作るのは、緊張するなぁ…。)

ζ(゚ー゚*ζ(このパン、凄くいい匂い…。さて、そろそろ火を止めようかな。)

そう思い、最後のひと混ぜをする。
だけど強火で煮詰まったせいか、ソースが勢いよく私の方まで飛び跳ねた。

Σζ(>、<*;ζ「熱っ!?」

ζ(゚ー゚*;ζ?「…くない?」

ヘラを持つ袖の方に跳ねたはずなのに、どこも汚れていない。

ζ(゚、゚*ζ?(床に落ちた訳でも無さそうだし…。)

483名無しさん:2026/06/12(金) 03:11:43 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*;ζ「味は、どうですか?しょっぱかったり、薄かったり…。」

('A`)「…丁度良い。」

ζ(゚ー゚*ζ「良かった。食べたい物があったら、作るので教えてくださいね。」

('A`)「…ああ。」

(;'A`)「…?」

ζ(゚、゚*ζ?

(;'A`)「…………」

ドクオさんはご馳走様と言い、お仕事に戻ったようだった。

484名無しさん:2026/06/12(金) 03:12:59 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ(…掃除もしてみようかな。まずはこの部屋から。)

私は手始めにブックブラシで、本棚の中を綺麗にする事にした。

ζ(゚、゚*ζ(次はどの本を読もうかしら…?)

そう思いながら一通り終わらせて扉を閉じ、今度は床を掃除し____

Σζ(>、<*;ζ「わっ!??」グンッ

Σζ(゚ー゚*;ζ「あ、挟まってる!」

閉めた本棚の扉に、ドレスの裾が挟まっていた。

ζ(゚、゚*;ζ(こんなに裾が長いのだから、気を付けなくちゃ…。)

ζ(゚ー゚*;ζ(マグネットの所が噛んでて、絶対破けたと思ったけど…。見た目に反して意外と頑丈なのかしら?この服。)


私は昼食の準備中にも起きた不思議な出来事を思い出しながら、そう思った。

____________________________

485名無しさん:2026/06/12(金) 03:14:41 ID:oQVOL7y.0
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私は寝る事のない体質を活かして、朝食の準備も申し出る事にした。
ついでに掃除も交渉してみよう。

|⊂ζ(゚、゚*ζ(それでも居候としては、足りないくらいだけど…。)カチャ…

ζ(゚ー゚*ζ「おはようございます。あの、良ければ朝食も私が…」

Σζ(゚、゚*ζ「!?」

厨房に入ると、ドクオさんはもう既に朝食を用意しているところだった。
だけど私の目を奪ったのは、4人用のテーブルに並べられた皿達。
朝日が差し込み、並べられたサラダや目玉焼き、スープとパンが自身で発光しているかのように輝いている。

ζ(゚ー゚*ζ ジーッ…

†+ζ(゚ワ゚*ζ ジーッ…

(;'A`) …

(;'A`)ρ

Σζ(゚、゚*;ζ「えっ!?」

ドクオさんが辿々しく、「これ、欲しいの?」といった意味合いで指を差すので、私は断ろうとした。

\ζ(゚ー゚*;ζノシ「お腹は空いていないので、大丈夫ですっ!ただ、あまりにも彩りが綺麗で…!まるでお料理の本に載っているような…。」

そう伝えて、一つ気になった。
私は、食事が出来るのだろうか?

ζ(゚、゚*ζ「…あの、もし作り過ぎてしまった物があったら、少しだけ…分けて頂けませんか…?一口だけで良いです。」

486名無しさん:2026/06/12(金) 03:15:14 ID:oQVOL7y.0
ドクオさんは一口分のパンを小皿に乗せて、座った私の前に置いてくれた。

ζ(゚、゚*ζ「ありがとうございます。あの、他の物達は、食事をするのでしょうか?」

ζ(゚、゚*ζ「以前お会いした方の、インコ…さんとか…。」

('A`)「渡すまでに…与えてない、から…。」

('A`)「庭のものは食べ、るって…」

('A`)「聞いたけど…、見たこと、ない。」

ζ(゚、゚*;ζ「そうでしたか…。すみません、私もどうか、確かめてみたくて…。」

487名無しさん:2026/06/12(金) 03:16:40 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*ζ「では、頂きます…。」

†+ζ(゚ー゚*ζ「!」モグッ

口の中に、ハード系のガリっとした食感の後、モチモチとしたパンの甘みが広がった。

((ζ(゚、゚*;ζ「ドクオさん、凄く美味しいです!」

(;'A`)

ドクオさんもかなり驚いたようで、パンの追加と、少し余っていた野菜で小盛りのサラダを作ってくれた。

ζ(゚ワ゚*ζ「わぁ…!」

ζ(゚〜゚*ζ「これも美味しいです!」モシュモシュ

人参のドレッシングがかけられたトマトとサニーレタスは、どこでも食べた事がないような新鮮さだった。


人ζ( ー *;ζ「……ご馳走様でした…。」

(;'A`)

屋敷の主を差し置き、いきなり食事を提供させて先に食べ終えるという醜態を晒してしまった私は、急いで食器をシンクで洗う事で恥ずかしさを誤魔化した。

('A`) …

ドクオさんは私が用件を話すのを待っているようで、食事には手を付けていなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「あの、もう少しお役に立ちたいのですが…。掃除などもさせて頂けたらなと。」

('A`)「…」

____________________________

488名無しさん:2026/06/12(金) 03:17:54 ID:oQVOL7y.0
ドクオさんは、私の申し出を受け入れてくれた。
ただし頼まれたのは、部屋を毎日一つずつ回って手の届く範囲の調度品を拭けば良いという、ひどく簡単なもの。

ζ(゚、゚*;ζ))(せめて部屋全体の掃除とかも出来たら達成感があるんだけど…。)

やっぱり、服装への配慮だろうか?

ζ(゚、゚*ζ(…だけど、毎朝庭を行き来していても、ちっとも汚れないわ。)

ζ(゚、゚*ζ(それに布が胴に張り付いているみたいで、着替えようもないし…。)

私はクロスとバケツを持って、二階に上がった。

ζ(゚、゚*ζ))(掃除中に日傘も探してほしいと言っていたけれど、ご家族の物なのかしら?)

ζ(゚ー゚*ζ))(そっちを頼まれたようなものだし、見付けてあげたいわね。)


____________________________

489名無しさん:2026/06/12(金) 03:19:01 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ …

一ヶ月近く毎朝こうしているけれど、夫は今日もこの道を通らない。

ζ(゚、゚*ζ(17年も経っているんだもの。もしかすると、転職したのかも…。)

ζ( 、 *ζ(家族ぐるみで隠し事をされたのに嫌気が差して、実家の方に引っ越した可能性だって充分あるわ…。)

ζ( 、 *ζ(もしブーンに、病気の再発を打ち明けていたら…。今もこの道を通っていたかもしれない。)

だけどこんな考えが浮かぶのは、今、特別な状況にあるからだ。
もしも死者が姿を変えて生者と関わる事が当たり前の世であったのならば、私だってあれほど意地を張る事はなかった。


ζ(゚、゚*ζ「あ…。」

(´・ω・`)「おはようさん。」

もう戻ろうと考えた時に、庭師のショボンさんがやって来て、朝の挨拶をしてくれた。

490名無しさん:2026/06/12(金) 03:20:38 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「おはようございます。」

(´・ω・`)「毎朝のようにここに居るけど、何かあるのか?」

ζ(゚、゚*;ζ「え…?えっと…。」

ありのまま話すのもどうかと思った私は、探りを入れるような嘘を付いた。

ζ(゚ー゚*;ζb「あの…。修理のお店にしては、お客さんが少ないなと思いまして。看板でも作ってみようかなと…?」

(´・ω・`)「ああ。その必要は無いんだ。ここはドクオに用があるか、ドクオが用のある人にしか見えない場所だから。」

ζ(゚、゚*;ζ「見えない…?」

(´・ω・`)「用の無い人には、前の道を通っても平屋の家と小さな畑に見える。」

ζ(゚、゚*ζ「…。」

その建物を、私は生きているうちに見た事がある。

(´・ω・`)σ「用のある人にだけ、この門が見えるんだ。そしてこの庭からは、そのお客さんしか見えない。」

ζ(゚、゚*ζ「不思議ですね…。」

<(´^ω^`)>「秘密基地みたいだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「…はい。」

(´・ω・`)「さて、今日も張り切って仕事だ。」

ζ(゚ー゚*ζ「水筒の準備をしてきますね。」

(´^ω^`)ノシ「おう。頼んだぞ、デレ!」


私の呼び方について決める時、ショボンさんが『レディ』からもじってデレと名付けてくれたのだ。

____________________________

491名無しさん:2026/06/12(金) 03:21:52 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ(今日で拭き掃除も終わり。全部の部屋を回ったけど、日傘は無かったわね…。)トントン

ζ(゚、゚*ζ(あ…。)トン…

私が階段を降りると、玄関ホールにお客さんが来ていた。
どうやら修理を頼んで品物を預けた後みたい。

[ Д`]「それじゃあ、よろしく頼むよ。」

[ Д`]「外の庭も見事じゃ。せっかくだからお兄さん、庭を案内をしてくれないかのう?」

そうご老人が朗らかに言うと、ドクオさんは固まっているようだった。

(;'A`) …

ζ(゚ー゚*ζ、「あの…よろしければ私がご案内します。丁度庭に出ようと思っていたので…。」

[ Д`]「それじゃあ、お嬢さんにお願いしようかの。」

ζ(^ー^*ζ「持っている荷物を片付けてくるので、少しだけお待ちくださいね。」

492名無しさん:2026/06/12(金) 03:23:01 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚ー゚*ζ「ただいま戻りました。」

('A`) …

間を置いて、『ありがとう』と、小さな声が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ(良かった。お節介じゃなかったみたいで。)

ζ(゚、゚*ζ?(…あれ?こんな風に、『ありがとう』を誰かに言われた事があったような…)

ζ(゚、゚*ζ「それで、あの…。全ての部屋を回り終えたのですが、日傘は見付かりませんでした。」

('A`)「…どこにも…?」

ζ(゚、゚*ζ、「はい…。お役に立てず、申し訳ないです。」

ドクオさんは暫く考え込んでいるようだった。
そして不安そうな顔で、私に問いかけた。

('A`)「……デレは、傘なの…?」

ζ(゚、゚*ζ

.

493名無しさん:2026/06/12(金) 03:24:29 ID:oQVOL7y.0


そういえば昔、体調の悪そうな小さな子供に私の日傘を貸し与えた事がある。

ドクオさんのように、真っ黒な髪の男の子だ。




.

494名無しさん:2026/06/12(金) 03:26:24 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚ー゚*;ζ「あの…?これは…?」

ドクオさんが、マフィンと紅茶を私の部屋に持ってきてくれた。

('A`)「…あげる」

ζ(゚、゚*ζ「ありがとうございます…。」

ドクオさんは机の上にトレーを置き、部屋を出ていった。

ζ(゚、゚*ζ(どうしたんだろう?こんな事初めてだわ…。)

朝食で試した以来、食事は取っていない。
必要なく過ごせているし、要求するほど役に立ってはいないからだ。
何よりドクオさんと一緒に、もしくは時間をずらして食事するとしても、お互いに気不味いと思う。

目の前には紅茶と、白い帽子を被ったようなマフィンが一つ、花の絵が描かれたお皿の上に乗っている。

人ζ(゚、゚*ζ「いただきます…。」

495名無しさん:2026/06/12(金) 03:27:28 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「!」モグッ

ふんわりとスパイスが香り、しっとりとした生地にレーズンとクルミの食感が程良く主張している。

ζ(゚ー゚*ζ(このオレンジ色は…人参かしら?キャロットケーキ、初めて食べたわ。パウンドケーキより少し軽めね…。)モグモグ

ζ(’ワ`*ζ(上に乗ってるクリームチーズも美味しい…。) ウットリ…

おそらく読書の合間に、と出された物なのだろう。
だけど私は、良い香りのする紅茶と共に夢中で食べてしまった。

人ζ(゚ー゚*ζ「ご馳走様でした。」

ζ(゚ー゚*ζ(結構大きかったのに、まだまだ食べられそう。生きていた頃より胃が強くなったのかしら…?)

ζ(゚、゚*ζ(それにしてもこのお菓子、ドクオさんが作った…のよね?)

ζ(゚、゚*ζ(オーブンの音が聞こえたし…。)

ζ(’ワ`*ζ(また作ってくれないかしら…。)ウットリ…

____________________________

496名無しさん:2026/06/12(金) 03:29:36 ID:oQVOL7y.0
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(´・ω・`)「熱心だな、デレ。」

庭で気になった薔薇を図鑑で調べていると、ショボンさんに声をかけられた。

ζ(゚ー゚*ζ「はい。この花を調べているのですが、名前が見付からなくて…。」

(´・ω・`)「ああそれは、ストロベリー ミストだ。近年出回り出したものだからその本には載ってないかもな。同じ名前のカクテルが由来だそうだ。」

ζ(゚ワ゚*ζ「ストロベリー ミスト…素敵な響きですね。確かに、霧のような白混じりの赤です。」

(´・ω・`)「悪いな。扱ってる花が多過ぎて、札までは手が回らないんだ。」

ショボンさんは仕事で敷地の奥の土地を使わせてもらう代わりに、庭の植栽を担当している。
組み合わせの研究でもあり、撮った写真に名前を書き込んで記録を残す形のため、植物園のようなプレートは今のところ用意しないのだそう。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です。薔薇以外のお花は結構覚えたので。知らない見た目でも、葉の形などから探してみたりも出来ますし。」

(´・ω・`)「凄いな。」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。予定が無い時は、一日中図鑑を読んでいますから。」

(´・ω・`)「一日中…俺には休みがあっても無理だな。ドクオの家は図鑑ばかりだろ?飽きないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「製菓の本も少しありますし、全部読み終えてはいないので…。」

(´・ω・`)「…」

497名無しさん:2026/06/12(金) 03:31:20 ID:oQVOL7y.0
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本の話をしてから数日後。
作業前のショボンさんがやって来て、数冊の本を私に差し出した。

(´・ω・`)つ□「俺の妻からだ。」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ?」

(´・ω・`)「読み終えた本だから、好きにしてくれって。」

ζ(゚、゚*;ζ「良いんですか?読み返すためにお家の本棚に置いたりは…?」

(´・ω・`)「三つ子の世話でしばらく手一杯なんだ。ドクオにも話は通してあるし、気になるならデレの本棚に仮置きさせてもらう形でも良い。」

(´^ω^`)「家に置いておくより綺麗に保管出来るだろうしな!アッハッハ!」

(´・ω・`)「もし気に入った本があったら、感想をくれると嬉しいな。カミさんに伝えたいんだ。」

ζ(^ー^*ζ「それでしたら。保管庫として、ありがたくお預かりしますね。」

これはおそらく、ご夫婦で気遣ってくれたのだろう。
私は早速自室に戻り、本を本棚に仕舞う事にした。

ζ(゚ー゚*ζ(この本は発行年が、5年前…。私が読めるはずがなかった本…。)

†+ζ(゚ワ゚*ζ(それを、このはっきりと見える目で読めるなんて!!ドキドキして、本を開くのに勇気がいるわ…!)

____________________________

498名無しさん:2026/06/12(金) 03:32:45 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ(『AR』って…何かしら?)

ショボンさんの奥さんから借りた本は、分からない言葉が度々登場する。
今読んでいる本は現代物のようだけれど、私にとってはSFのような技術が出てきて、説明が少ないといまいち想像がつかない。

ζ(゚、゚*;ζ(迷惑かもしれないけれど、せっかく借りたのだから理解して読みたいし、ドクオさんに教えてもらおう…。)

ζ(゚ー゚*ζ、「あの、ショボンさんの奥さんから頂いた本で分からない事があって…。『AR』とは何でしょうか?」

('A`) …?

ζ(゚、゚*ζ(ドクオさんでも知らない事なんだ…。)

ζ(゚、゚*;ζ(というより、ショボンさんの話では、ドクオさんは殆ど外に出ないって…。浮き世離れした人なのかも…。)

499名無しさん:2026/06/12(金) 03:33:57 ID:oQVOL7y.0
ドクオさんはスマートフォンを取り出して調べているようだ。
少ししてから何かゲームのような画面を開き、スマートフォンを私に見せるように近付けた。

('A`)∏ζ(゚、゚*ζ …

ζ(゚ワ゚*ζ!「部屋の奥に猫が!あっ、近寄ってきます!」

ζ(゚ー゚*ζ「まるで現実に居るように見せてくれるペットゲームなんですね。」

それからドクオさんは、別のサイトも見せてくれた。

('A`)「観光地での情報サービスにも…使われてるみたい。」

ζ(゚、゚*ζ「画面に写る場所が何なのかが分かるんですね…。」

ζ(゚、゚*;ζ(私が機械に疎いから知らなかっただけかもだけれど…。こんな物が今の時代には…沢山ありそう。)

500名無しさん:2026/06/12(金) 03:34:48 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ「調べてくださり、ありがとうございました。本を読み返せば、なんとなく想像出来そうです。」

ζ(゚ー゚*ζ「それから…あの…。」

ζ(゚ー゚*ζ「この前のお菓子、本当に美味しかったです。ご馳走様でした。」

('A`)「……。」

ζ(゚ワ゚*ζ「出来れば、また食べたいです!」

ζ(゚ー゚*;ζ!?

ζ(>、<*;ζ三「あのっ!聞かなかった事にしてください!」ダッ

('A`) …

パタン

ζ(゚、゚*;ζ(つい本音が出ちゃった…。恥ずかしいわ。)

____________________________

501名無しさん:2026/06/12(金) 03:36:08 ID:oQVOL7y.0
_____
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__

カチャ

('A`)つ|

('A`)「デレ、明日は…兄が来るよ。」

ζ(゚ー゚*;ζ「えっ!ドクオさんのお兄さんですか?」

('A`)「…うん。」

ζ(゚ー゚*ζ「私がこの姿の時に、ご家族がいらっしゃるのは初めてですよね。」

('A`)「土地の事で…忙しいから。」

ζ(゚、゚*ζ「土地…?」

聞けばドクオさんのご実家の土地は、再開発でメインストリートに大きく被り、ドクオさんが小さな頃は主に地主として、今では集合店舗の運営なども展開しているのだそう。

('A`)∏「兄は最近こういうの…担当したんだって。」

ζ(゚ワ゚*ζ))「わぁ、見たいですっ。」

502名無しさん:2026/06/12(金) 03:37:31 ID:oQVOL7y.0
スマートフォンでドクオさんが見せてくれたのは、街の広報のページだった。

ζ(゚ー゚*ζ(この地名は…メインストリートの中間くらいね。確かに奥に進むと砂利すら引かれていないだだっ広い駐車場もあったし、そこかしら?)

ζ(゚ー゚*ζ(『スタートアップや期間限定の出店にも最適な、小さなお店の集合施設』『学生に人気の貸し出し式展示スペースも』か…。ふむふむ、元の駐車場の半分を、車で来た人のエントランスショップのような施設に変えたのね。)

ζ(゚ー゚*ζ(外のスペースにゆとりがあるのは、公園としての機能も持っているのね。緑で日陰も作られているし、席も多くて過ごしやすそう…。)

ζ(゚、゚*;ζ(えーっ!今はこんなにお洒落になっているの!?)

ζ(゚、゚*;ζ(私が街で過ごしていた頃も充分楽しかったけれど…。今大学に通ってる子達は、たまらないわね。)

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんのお兄さん、凄いですねぇ。」

('A`) …

503名無しさん:2026/06/12(金) 03:39:14 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*;ζ「それでご挨拶…は、私の姿だとなんだか怪しいですよね…。むしろ隠れていた方が良いでしょうか?」

ζ(゚、゚*;ζ「ドクオさんは以前、人の姿になった物は前例が無いと言っていましたよね?」

('A`)「うん。」

ご家族の目には、正体不明の女がドクオさんを騙して転がり込んでいるように、見えるかもしれない。
招かれた人しか来る事の出来ない場所だとはいえ、後ろめたい事がある者が雲隠れするには最適だと言えてしまう場所なのだ。

ζ(゚、゚*ζ(私の事を傘だと思っているドクオさんを騙しているといえば、そうかもしれない…。だって私の記憶は、人間のものだもの。)

('A`)「少し寄ってくれるだけだから…。今回は、隠れてて…。」

ζ(゚ー゚*ζ「お話が長くなってしまったら悪いですものね。分かりました。」

人ζ(゚ワ゚*ζ「あっでも。短い時間でも、来客にはお茶とお菓子が必要ですよね?」

ζ(゚ー゚*ζb「多めに用意しておけば、急に人数が増えても安心ですし、余れば私達のおやつにしましょう。」

('A`)「…鉄板に入る分だけね。」

†+ζ(゚ワ゚*ζ「ありがとうございます!」

504名無しさん:2026/06/12(金) 03:40:20 ID:oQVOL7y.0
ζ(^ー^*ζ

快適な身体になった開放感からか、気付けば私の性格は随分と変わっていった。

もう少し慎重に考えてから喋ろうとは思うものの、まるでジャンプ傘が開く時の勢いのように、願望が口に出てしまうのだ。

そんな小煩い私にドクオさんは辿々しさがありつつも、会話をしてくれるようになった。
その口振りは子供のようでもあり、子供っぽい私を諭すようでもあり。

だけどそれを、私はずっと以前から聞いていたような気もして。

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505名無しさん:2026/06/12(金) 03:41:28 ID:oQVOL7y.0
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|ζ(゚、゚*ζ コソッ

|ζ(゚、゚*;ζ(あれっ。ドクオさんのお兄さん、まだ居たみたい…。)

ドクオさんがいつも居る部屋のドアが開いていて、少し声が聞こえる。
もう帰ったかと思い二階から降りてしまったので、私は客人が一番用事の無さそうな部屋に隠れる事にした。

(  ー )「悪いな。ここを任せてしまって。」

( A )「そんなこと…。兄さんの方が、…大変なのに。」

(  ー )「僕は物の声が聞こえないから、ここの仕事は出来ない。だから、ドクオに頼っているところもあるんだよ。」

( A )「…俺だって、兄さんの代わりには…」


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506名無しさん:2026/06/12(金) 03:43:02 ID:oQVOL7y.0

( A )

ζ(゚、゚*ζ「ドクオさん…。」

ドクオさんは去っていくお兄さんの後ろ姿を、窓越しに見続けている。

ζ(゚、゚*ζ(…)

長い前髪の隙間から、淋しそうな瞳が見える。
きっと毎朝私も、門の前で同じような目をしているのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ、「…何日か出掛けられても大丈夫ですよ。お客様がいらっしゃったら、私が注文を受けておきますので。」

( A )「いかな、い…。俺は、めめいわく、だか、ら…」

ζ(゚、゚*;ζ「迷惑…?」

ζ(゚、゚*;ζ 「……」

ζ(゚、゚*ζ「…この屋敷から出ない事が、ドクオさんにとっての幸せなのですか?」

咎めるつもりもなく、ただ知りたくて聞いた。
ドクオさんは言葉に反射するように、首を小さく横に振った。

ζ(゚、゚*ζ「…そうですか。」

ζ(゚ー゚*ζ「いつか…お兄さんが担当した場所を、見に行けると良いですね。」

( A )「……うん…。」


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507名無しさん:2026/06/12(金) 03:43:50 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ (今日も…来ない。)

ζ(゚、゚*ζ(…あ、撫子。ショボンさんが植えたのね。)

私は鉢植えのラズベリーローズ色の撫子を眺めながら、小さな罪悪感を覚えた。

ζ(゚ー゚*ζ、(ごめんなさいね。ここに居るのが私じゃなくてブーンなら、絵を描いてその見事な愛らしさを留めておけるのに…。)

ζ(゚、゚*ζ「…。」

508名無しさん:2026/06/12(金) 03:44:57 ID:oQVOL7y.0
夫がもしもまだ、この街に居たのなら。

ζ(゚、゚*ζ(きっと私が想像しているブーンの姿じゃなくて…。)

もう、40代後半のはずだ。

ζ(゚、゚*ζ(それなら、門の前を通る時の姿は…。)


きっと変わらず紺色か濃いグレーのスーツを好んで着ていて、

茶色っぽいふわふわの髪は、少し薄くなっているでしょう。

行き付けのお店の、チーズの入ったハンバーグが大好きだから、ちょっと小太りね。


ζ(゚ー゚*ζ

ζ(゚、゚*ζ


目の前の鮮明な景色に反して、夫の姿は少しぼやけていた。

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509名無しさん:2026/06/12(金) 03:46:19 ID:oQVOL7y.0

(;'A`)σ「…デレ。それ…、どうしたの?」

ζ(゚、゚*ζ「えっ?」

ある日お昼の準備をしていると、ドクオさんにそう指摘された。
下を見るとドレスの裾に、2か所ほど解れを見付けた。

ζ(゚、゚*ζ「あら…。今まで毎日石畳を歩き回っても丈夫だったのに…。」

ζ(゚、゚*ζ「だけど、変ですね。生地は綺麗で擦れた様子も、つれた様子も無いのに…。」

ζ(゚ー゚*ζ、「すみません。後で裁縫セットをお借りしてもよろしいでしょうか?」

('A`)「うん。図書室に置いておくね…。」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。」

510名無しさん:2026/06/12(金) 03:47:18 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*;ζ「あれ…?」

数日後、ふと下を向いた時にドレスの裾が目に入ると、縫った部分が解けており、それどころか解れは更に数か所増えていた。

ζ(゚、゚*;ζ「あの…ドクオさん。また裁縫セットをお借りしても良いですか?」

(;'A`)「また、解れてる…。」

('A`)「…こっちの部屋に来て。」

二人で修理部屋に入って、ドクオさんは暫く何か、様子を見ているようだった。

('A`)「…」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

('A`)「俺が…縫ってみる。」

511名無しさん:2026/06/12(金) 03:48:05 ID:oQVOL7y.0
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('A`)「…」

ζ(゚、゚*;ζ「また解けてちゃってますね…。」

('A`)「…なにか、変わった事はあった…?」

ζ(゚、゚*;ζ「うーん…いつも同じような生活をしていますし、特には…。」


それからもたまに縫ってもらう事があったけれど、
修理屋のドクオさんでさえ、直せないものみたい。

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512名無しさん:2026/06/12(金) 03:49:42 ID:oQVOL7y.0
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7:40

屋敷に来てから、もう3年ほどだろうか。
私は夕方に来訪予定のお客様にお土産としてブーケを渡すため、庭で花を吟味していた。
ドクオさんの許可を取り、始めた習慣だ。

ζ(゚、゚*ζ(ここのクリスマスローズは名前の通りの時期に咲いて、更に開花時期の平均より長く咲くのよね…。)

((ζ(゚ー゚*ζ(初恋草に合わせるには、どの色が良いかしら?ちょっと遠くから見て、色合いをチェックしてみよう。)

そう思って後ろへ下がると、慌ただしい足音が遠くから聞こえた。

ζ(゚、゚*ζ(…随分と急いでいるのかしら?)

この場所にやって来る人はいつもゆったりとした足取りだから、私は思わず振り返った。


(;^ω^)「あっ…。すみませっ…!」

ζ(゚、゚*ζ

513名無しさん:2026/06/12(金) 03:50:37 ID:oQVOL7y.0
その人は、ずっと想像していた夫の姿とそっくりだった。

( ^ω^)

紺色のスーツと茶色くてふわふわの髪、そしてちょっと小太りの中年男性。
おまけに、あまり高くない身長も一緒。

ζ(゚、゚*ζ(だけど、どうしてそんなに急いで…?)

Σζ(゚、゚*;ζ(!出勤時間…!遅刻しそうな時間だわ!)

私がいつも諦めて、屋敷に帰る頃合いだもの。

ζ(゚、゚*;ζ(どうしよう、行ってしまう…!)



せめて、笑顔で『行ってらっしゃい!』と言わなきゃ。


.

514名無しさん:2026/06/12(金) 03:51:09 ID:oQVOL7y.0



ζ(^ー^*ζ「夕方、お会いしましょう。」



.

515名無しさん:2026/06/12(金) 03:51:57 ID:oQVOL7y.0
ζ(^ー^*ζ

ζ(^ー^*ζ …

Σζ(゚、゚*;ζ「はっ!」

思わず、そう言ってしまった。

ζ(゚、゚*;ζ(他人の空似かもしれないのに、早とちりしちゃったかも…。)

ζ(゚、゚*ζ(だけど、この庭が見えるということは、『用事のあるお客さん』、よね…?)

門の外を見続けながら、私は先程の男性の姿を思い返す。

ζ(゚、゚*ζ(…ドクオさんに聞いてみよう。)

516名無しさん:2026/06/12(金) 03:53:19 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*ζつ| カチャ…

ζ(゚、゚*ζ「あの…ドクオさん。今日は引き取り1件の他に、来客の予定はありますか?」

屋敷に戻った私は、朝食を取っているドクオさんに聞いてみる事にした。

('A`)「…?無かったはずだけど…。」

ζ(゚、゚*ζ「そうですか。あの…先程、門の前の道を通り過ぎていった方がいたんです。なので、ドクオさんのお客様なのかと。」

(;'A`)「え…?誰も呼んでない…よ…?」

ドクオさんはたまに、お祖父さんの頃からも付き合いのあるマテリアル関係の業者さんを呼ぶ事があるけれど、それとも違うみたい。

ζ(゚ー゚*ζ、「そうですか…。じゃあ、修理のお客様なのかもしれませんね。」

('A`)「声、聞こえてこないけど…。」

(;'A`)q ウーン…?

ζ(゚、゚*;ζ「あ!悩ませてしまってすみません!お食事中に失礼しましたっ。」


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517名無しさん:2026/06/12(金) 03:54:37 ID:oQVOL7y.0
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16:15

ζ(゚、゚*;ζ ソワソワ

綺麗に咲いた花をミニ花瓶に飾りたくて、摘んだネモフィラを花かごに入れる。
その間も今朝の男性の事を何度も思い返しては、夫なのかそうでないのかを、頭の中で押し問答していた。

( ^ω^) テクテク

ζ(゚ー゚*;ζ!

ζ(゚ー゚*;ζ タタッ

ζ(゚ー゚*ζ「お待ちしておりました。」

(;^ω^)「…こんにちは。」

ζ(^ー^*ζ「こんにちは。どうぞお入りください。」

ζ(゚ー゚*ζ (…。)

話しかけながら、ジッと見る。
知らない人から声をかけられたからか、戸惑っているみたい。

(;^ω^)「えっと…」

(;^ω^)「あの…。僕はあなたの事を知りませんお。人違いではありませんかお…?」

518名無しさん:2026/06/12(金) 03:55:36 ID:oQVOL7y.0


あるかも分からない心臓が、びょんと跳ねた。


喋る速度にイントネーションと語尾。
他人の空似かもしれないし、夫と同郷の人なのかもしれない。




だけどその、温かい声の温度は____




.

519名無しさん:2026/06/12(金) 03:56:55 ID:oQVOL7y.0







ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、間違いありません。」






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520名無しさん:2026/06/12(金) 03:59:15 ID:oQVOL7y.0
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翌日も夫は、この屋敷にやって来た。
カーテンを新調するための依頼で、どうやら『ドクオさんが用事のある方』だったみたい。

ζ(゚、゚*ζ「…どうして、私同席で内藤さんにお菓子を振る舞われたのですか?」

ζ(゚、゚*;ζ「それに、『毎日来ても良い』だなんて伝言を…。」

普段、業者が来た時にドクオさんは、ショボンさんに買ってきてもらった日持ちする茶菓子を出している。

(;'A`)「あ…そそ、それははは…オ、くく…」

ヽζ(゚、゚*;ζノシ「あっ!喋り難い事なら良いんです!」

ζ(゚ワ゚*;ζ「内藤さんが毎日来てくれたら、毎日お菓子が食べられて良いなって!」

ζ(゚ワ゚*;ζb「ほら、私に焼いてくれるのは週一じゃないですか〜。」

たまたま気が向いただけの事を、意図せず冷やかす形になってしまったかもしれない。
もしくは外との交流の、ドクオさんなりの秘密の第一歩だったかもしれないのに。

('A`)「…それはデレが、一週間分焼いても…すぐ食べ切っちゃうから…。」

Σζ(>、<*;ζ「うっ…。」

('A`)、「…冷凍も出来るのに…。」

人ζ(>、<*;ζ「すみません…。」

521名無しさん:2026/06/12(金) 04:00:30 ID:oQVOL7y.0
('A`)「…内藤さんの話を、デレがすごく聞いてくるから。」

ζ(゚ー゚*;ζ「そうですね…。」

私は夫が帰ってから、ドクオさんに何度も『内藤さん』とはどんな話をしたのかを、聞き出している。

ζ(゚ー゚*ζ「話しやすい方なので、興味があって…。」

('A`)「…そう…。」

ζ(゚、゚*;ζ「それにしても…。確かに図書室のカーテンが一番傷んでいますが、他の部屋だってどんぐりの背比べじゃないですか。」

ζ(゚、゚*ζ、「屋敷の主の部屋や、応接室が先の方が見栄えが良いと思いますが…。」

(;'A`)「そこが浮かんだから…。…嫌だった…?」

ζ(゚ワ゚*ζ「嬉しいです!凄く!」

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんの奥様からお預かりしている本もありますしね。それではお先ですみませんが、ありがたく…。」ソワソワ

522名無しさん:2026/06/12(金) 04:02:09 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ワ゚*ζ「レースカーテンは、お庭をイメージした物を作ってくださるそうなんです。いったいどんなカーテンに仕上がるんでしょうか…?」

私はこの部屋にどんな新しい色味が加わるのかと、待ちきれなくなった。
それもなんと、夫のデザインしたカーテンだ。
私の生きている間には、見る事の出来なかったもの。

ζ(^ー^*ζ


('A`)「……」

('A`)「…ねえ、デレ。」

('A`)「君は、傘…なんだよね…?」

ζ(^ー^*ζ

ζ(゚ー゚*ζ「…。」




ζ(゚ー゚*ζ「なんと答えれば良いのか、私には分かりません。」


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523名無しさん:2026/06/12(金) 04:03:48 ID:oQVOL7y.0
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___
__

('A`)「…デレ、今から修理の依頼があるみたい。」

ζ(゚、゚*ζ「随分突然ですね。」

('A`)「今壊れたから…行くって。」

ζ(゚ー゚*ζ「それでは、お迎えに行ってきますね。」

_____
___
__

((ζ(゚ー゚*;ζ(あれー…?見当たらない…。)

ζ(゚、゚*;ζ(結構探したのに、こんな事は初めてね。何処に居るのかしら…。)

そう悩んでいると、見覚えのあるシルエットが現れた。

524名無しさん:2026/06/12(金) 04:05:01 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*ζ!

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん!」タッ

( ^ω^)「こんにちはですお。」

スケッチにやって来た夫に頼み、二手に分かれて捜索をすると、小さなお客様が見付かった。

ζ(゚ー゚*ζ「お名前を聞いても良い?」

(;*゚ー゚)「しぃ…です。」

ζ(゚ワ゚*ζ(とっても可愛いお客様ね…。)

しぃちゃんが連れてきた耳が金属で出来た兎を、ドクオさんは図書室の掃除を条件に修理してくれた。
しぃちゃんは夫を気に入ったみたいで、親しげに話す私が気に入らないようだった。

ζ(^ー^*ζ(ふふ。可愛い。)

____________________________

525名無しさん:2026/06/12(金) 04:06:19 ID:oQVOL7y.0
夫とのお茶会は、毎度夢のようだった。
こんなに花に囲まれた場所で二人だけのお茶会だなんて、生きていた時でも中々出来ない経験だ。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、内藤さん。ドクオさんが今度は3段のお皿でお菓子を用意してくれるそうですよ。」

pζ(゚ワ゚*ζq「アフタヌーンティー形式です!」

どういう訳か、夫がやって来てからドクオさんはお菓子作りを張り切っていて、おまけに私の髪のアレンジまでしてくれる。

ζ(゚、゚*ζ(夫がお菓子が好きだとでも言ったのかしら?だけど、初対面の人に言うほどではなかったような…。)

526名無しさん:2026/06/12(金) 04:08:01 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「…内藤さん。よろしければここにいらっしゃる間、私の話し相手になってくれませんか?」

私は夫に頼み込んで、外の話をしてもらえる事になった。
夫は見た事がなくても分かるように丁寧に話していたけれど、私は初めて聞く振りをして、懐かしいなと思い返していた。

話のうちの、半分は。

ζ(゚、゚*;ζ(ショボンさんやドクオさんのお兄さんのお話で聞いてはいたけれど…。夫の会社も街での仕事がメインになるほど、昔よりも栄えているのね。)

ζ(゚、゚*ζ(…夫とよく行ったあの洋食屋は、まだあるのかしら?)

ζ(゚、゚*ζ(私が好きな雑貨屋に、夫がスケッチブックを買っていた本屋も…。)

527名無しさん:2026/06/12(金) 04:09:13 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

( ^ω^)「それでは、また。」

ζ(゚ー゚*ζ「さようなら。」

これから仕事があるという夫を見送った。
私はティーセットを取りに戻り、屋敷へと向かう。

ζ(゚、゚*ζ ))


夫の描いた色が、誰かの夢に寄り添い、街のあちこちに広がっている。


ζ(゚、゚*ζ ))

('A`)「デレ…?」

ζ(゚、゚*ζつ| パタン…

ζ(゚、゚*ζ「…見てみたいなぁ…。」ションボリ


____________________________

528名無しさん:2026/06/12(金) 04:10:22 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

ζ(゚ー゚*ζ「この間は、とっても可愛らしいお客様でしたね。」

ζ(^ー^*ζb「しぃちゃん、内藤さんが気に入ったみたいで私の事をライバルだと思ったみたいです!」

(;'A`)つ「あ…動かないで…。」

ドクオさんはスマートフォンでヘアアレンジのHowtoを見ながら、私の髪と格闘している。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんのスコーンを渡した時も、キラキラした目で見ていましたよ。」

ζ(^ワ^*ζ「しぃちゃん、また会いたいですね〜。」

('A`)「…」

529名無しさん:2026/06/12(金) 04:11:37 ID:oQVOL7y.0
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|(*゚、゚) ヒョコ

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん…?」

ζ(゚、゚*ζ「どうしたの?また時計壊れちゃった?」

私は門の近くまで行き、キョロキョロと周りを見渡しているしぃちゃんに声をかけた。

(*゚、゚)「ううん、今まで見えなかったのに、またお庭が見えたから。…何してるの?」

ζ(゚ワ゚*ζ「アネモネの花をブーケと押し花にしようと思って摘んでいるの。しぃちゃんもやってみる?」

(*゚ー゚)!「うんっ!」

ζ(^ー^*ζ(嬉しい!こんな事もあるのね。人に教えるのは初めてだけど、頑張るわ。)

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530名無しさん:2026/06/12(金) 04:13:08 ID:oQVOL7y.0
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今日は、夫が薔薇のスケッチをしにやって来る日だ。

ζ(゚ー゚*ζ(良かった。丁度見頃ね。)

ζ(^ー^*ζ(本当に素敵な色の花ね…。)

ζ(゚ー゚*ζ!「内藤さんっ!」

門の前で立ち止まる夫を見付けて駆け寄ると、いつもと雰囲気が違った。

ζ(゚、゚*ζ「…。」

(;^ω^)「こんにちは。」

ふわふわと広がってしまいがちだった髪が、今日はしっかりとまとまっている。
それに大学の頃とあまり変わらない服装だけれど、暗めの紺でも色味がはっきりとした、上品なポロシャツを着ている。

ζ(^ー^*ζ「素敵ですっ!」

(*^ω^)「ありがとうございますお。」

ζ(゚、゚*;ζ(最近の美容師さん、恐るべしだわ…!)

531名無しさん:2026/06/12(金) 04:14:11 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「デレさんも、今日は凄いですお。髪にお花が編み込まれていますお。」

ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。庭の花が綺麗だからと、ドクオさんが編み込んでくれました。」

ドクオさんが今朝、野菜を収穫した帰りに見付けた薔薇だ。

(;^ω^)「ドクオさん、何でも出来て凄いですお…。」

ζ(^ー^*ζ「ふふ。」


そんな話をしながら、夫と薔薇の道をゆっくりと歩く。

私が見る事は出来ないはずの年に生まれた薔薇を、二人で見ている。

.

532名無しさん:2026/06/12(金) 04:15:40 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「あれ、これは…?」

スケッチが終わった帰り道、夫がモッコウバラのリースの前で立ち止まった。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんの奥さんが作られた物です。帰り際にショボンさんが飾っていってくれました。」

ζ(゚、゚*ζ(…そういえば)


再び会った日から私は浮かれていていて、今までずっと思い付かなかった。

夫が今日お洒落をしているのも、ここに来るためではなくて、他の誰かのためなのかもしれないという事。


((ζ(゚、゚*;ζ チラリ

ζ(゚、゚*ζ(指輪は…、していないみたい…。)


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533名無しさん:2026/06/12(金) 04:16:31 ID:oQVOL7y.0
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( ^ω^)「随分と時間がかかってしまい、申し訳ありませんでしたお。」

ζ(゚ワ゚*ζ「とても素敵です。ありがとうございますっ!」

梅雨の季節に、図書室のレースカーテンが完成した。
夫がデザインしたカーテンは、沢山の機械刺繍が施されている。

ζ(゚ワ゚*ζ(どれも庭で咲いていたお花…。夜でも庭に居られるみたいで、凄く嬉しいわ。)

('A`)「…」

ζ(^ー^*ζ(ドクオさんも、ずっと眺めているわね。)

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534名無しさん:2026/06/12(金) 04:17:58 ID:oQVOL7y.0
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ブーケ対決から少しして、しぃちゃんが遊びにやって来た。

<(*゚ー゚)>「この前は私の勝ちね!」エッヘン

ζ(゚、゚*;ζ「うぅ…。教え子に負けちゃった。」

(*゚ー゚)つ「じゃあ今日は、デレが作ったのやる!」

ζ(゚ワ゚*ζ「じゃあ、使うお花を用意するね。しぃちゃんの手なら、もう少し小さめなお花にしようかな。」

<(*゚ー゚)>「おじさまが好きそうな色にして!」

ζ(^ー^*ζ「いいよー。淡めの色合いで作ってみようね。」

(*゚ワ゚)「うん!」


(;*゚、゚)つ「うーん…」ポロポロッ

(;*>、<)「何度やってもくずれちゃうよー…。」

ζ(゚ー゚*ζ「沢山花を持つから難しいよね。ちょっと休憩しようか。」

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ〜。」コトッ

(*゚ワ゚)「わっ!これケーキ!?タルト!?」

ζ(゚ー゚*ζ「バノフィーパイだよ。しぃちゃん向けに、クリームのコーヒーは入れなかったの。」

(*゚〜゚)Ψ「コーヒー??知らないお菓子だけど、バナナが入ってて美味しい〜!」

ζ(^ー^*ζ「良かった!」

535名無しさん:2026/06/12(金) 04:18:51 ID:oQVOL7y.0
(*゚、゚)「あっ。ねぇ、デレ。」

(*゚、゚)「夏休みの宿題で工作が出るみたいなんだけど、何を作ったら良いと思う?」

pζ(゚ー゚*;ζ「えっ!?うーん…。」

ζ(゚ー゚*ζ(今時の子がどんな工作を提出するのか、想像が出来ないわね…。)

ζ(゚、゚*;ζ「ちょっと待っててね〜。」

焦りながら、私はパラパラと参考本をめくった。
ブーケの他にも、雑貨の作り方が載っている本だ。

536名無しさん:2026/06/12(金) 04:19:52 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚ー゚*;ζb「あっ!ワックスバーとかどうかな?」

(*゚ワ゚)「何これ!キレイ!これにする!」

ζ(゚ワ゚*ζ=3 ホッ

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ夏休みになったら、一緒に作ってみようか。」

(*^ー^)「約束だからねっ!」

ζ(^ー^*ζ「うん!」

ζ(^ー^*ζ(…なんて可愛いのかしら!)


(;*゚、゚)つセッセッ

お茶が終わると引き続きしぃちゃんは一生懸命、小さな手でブーケをまとめていた。
そんなしぃちゃんを見ていると少し切なくなるのは、何故だろう。

____________________________

537名無しさん:2026/06/12(金) 04:21:37 ID:oQVOL7y.0
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ζ(゚、゚*ζ(結局仕事以外では、ブーンが今どんな人付き合いをして暮らしているのか、ずっと聞けないでいるわ。)

ζ(゚、゚*ζ(もしも再婚をしていて、奥さんがいるのなら…本当に申し訳ないけれど…。)

真相を知らないのを良い事に、私は花の見頃になる度に夫をスケッチに誘っているのだ。

ζ(゚、゚*ζ(私が死んだ後…実家の家族には、嫌な役を押し付けてしまったでしょうね。)

ζ(゚、゚*ζ(夫は…私の実家との付き合いは、今でもあるのかしら…?)

そんな事を考えながら、夫の横で睡蓮を眺める。

ζ(゚、゚*ζ(実家の仏壇で使っていた、蝋燭みたい。)

お盆やお彼岸の時期になると見かける蝋燭。
だけどそのモチーフは正しくは蓮で、睡蓮とは科の時点で違うけれど、睡蓮の方が蝋燭と大きさが似ている。

ζ(゚、゚*ζ ボー…

538名無しさん:2026/06/12(金) 04:22:37 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)σ「あの…、デレさん。ドレスが前よりもだいぶ解れてはいませんかお?」

氵ζ(゚、゚*ζ「これですか?…そうですね。去年まではこんな風じゃなかったのに、最近はあちこち解れています。」

ζ(゚ー゚*ζ、「でも私が縫ってもドクオさんが縫っても、翌日には戻ってしまうので、どうしようもないんです。」

解れの酷い箇所が出来ると未だに縫ってみてはいるものの、治る気配はない。

( ^ω^)「…もし良ければ、補修させて頂いても良いでしょうか?」

ζ(゚、゚*ζ「えっ…?」

539名無しさん:2026/06/12(金) 04:23:54 ID:oQVOL7y.0
( ^ω^)「失礼しますお。」

断ったものの、夫はスケッチが終わると私のドレスの裾を持ち、針と糸で大きな解れをチクチクと縫い上げていった。

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、随分と手慣れていますね。」

私がそう言うと、仕事で修繕のために手縫いの練習をしているのだと教えてくれた。
そのソーイングセットも、いつも持ち歩いているのだという。

ζ(゚、゚*ζ「…」

ζ(゚、゚*ζ「あの…奥さんが縫ってくれたりは…?」

( ^ω^)「え…?」

ζ(゚、゚*;ζ「あ…すみません。ショボンさんは奥さんに繕ってもらっていると聞きましたので。」

( ^ω^)「…妻には先立たれていますので。でも僕は仕事柄得意なので、自分で出来ま」

°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」

∑(;^ω^) ビクッ!!

(;^ω^)「大丈夫ですかお…?」

ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ

(;^ω^)「いえ…。」

540名無しさん:2026/06/12(金) 04:25:11 ID:oQVOL7y.0
(;^ω^)「…あの、大丈夫ですかお?」

ζ(゚、゚;ζ「…?」

(;^ω^)「凄く…寒そうに見えますお。」

私が両腕を抱えているからか、夫が心配した。

ζ(゚ー゚*;ζ「大丈夫…です…。」

(;^ω^)「あの、もし良かったら…」

夫は椅子に置いていたバッグから、カーディガンを取り出した。

(;^ω^)つ□「洗ってからまだ使っていないので、寒いよりは良いかと…。」

ζ(゚、゚*ζ「…。」

(;^ω^)「…いくら何でも僕の服を着るのは嫌ですおね。」

(;^ω^)「すみません、もうすぐ縫い終わるので、屋敷までお送りしま」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ、ありがとうございます。」

____________________________

541名無しさん:2026/06/12(金) 04:26:26 ID:oQVOL7y.0
_____
___
__

('A`)「…起きたら、すぐ洗うから。」

ζ(゚ー゚*ζ「分かりました。おやすみなさい。」

ζ(゚ー゚*ζ(…温かい。)

ドクオさんに持っていかれそうになったカーディガンを羽織り続けながら、私はカーテンを眺めた。

ζ(゚、゚*ζ(…)

夫は、再婚していなかった。

ζ(゚、゚*ζ(なら…、今もあの家に一人で…?)

時折話に上がる夫の住まいは、私が暮らしていた頃の家の間取りと一致する。

542名無しさん:2026/06/12(金) 04:27:58 ID:oQVOL7y.0
ζ(゚、゚*;ζ(いい人がいたら、あんな言い方はしないだろうし…。)

この街は穏やかな人が多いから、月日が経てば夫はまた誰かと出逢い、日々を過ごしていくのだろうと私は思っていた。

楽観的で、浅はかだった。


ζ( 、 *ζ(私なんかと結婚したから…。こんなに長く、一人にさせてしまった…。)









繋がれた手を、振り解けばよかった。




黄色い花なんて、見なければよかった。





.

543名無しさん:2026/06/12(金) 04:29:35 ID:oQVOL7y.0
今の夫の姿を見るのは、嬉しくて、苦しかった。


再び逢うまで、私は好きの一言も言ってあげられなかったから。


悩む日に、話を聞いてあげられなかった。


風邪を引いても、看病してあげられなかった。


庭の落ち葉を掃くあなたを、毎年眺めたかった。


休みの日には、手を繋いで散歩をしたかった。





夫が沢山の人達と作ったカーテンが、街に飾られる度に、一緒に喜びたかった。




一緒に、年を取りたかった。








歳月を感じ取ってしまった私の代わりに、
ポロポロ、ポロポロと糸が涙をこぼした。



.

544名無しさん:2026/06/12(金) 04:30:52 ID:oQVOL7y.0


だけど。


困った顔も、驚いた顔も、笑った顔も。


20年経っても、変わらずあなたは優しかった。


髪型を、褒めてくれた。


素敵なカーテンを、作ってくれた。


『行ってらっしゃい』を言える日々が、嬉しかった。


いつものニックネームを呼びたくなって、くしゃみで誤魔化して。


あなたと一緒に花を見て、お茶をした。


その記憶を愛するのならば、時は過ぎていくだけ。











過去に戻る事など、ないのだ。


____________________________

545名無しさん:2026/06/12(金) 04:31:57 ID:oQVOL7y.0



.

546名無しさん:2026/06/12(金) 04:32:41 ID:oQVOL7y.0


僕は、一歩近付いた。


( ^ω^)「あの時どうして…病気だと言ってくれなかったんだお…?」

( ^ω^)「僕は、頼りなかったのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「……違うわ。」

ξ ⊿ )ξ「あなたの悲しい顔を見ながら、病室で死ぬなんて…嫌だったの。」

ξ ⊿ )ξ「どうせ治らないのならばと、意地を張っていた。…夢があったから。」

ξ ⊿ )ξ「…。」

ξ ⊿ )ξ「だけどそれは、間違っていたわ。こんなに長い間…。あなたを一人にしてしまった。」

ξ ⊿ )ξ「黙っていて、ごめんなさい。」

(  ω )「……」



(  ω )「良いんだお。君の方が…、苦しかったはずだから。」


.

547名無しさん:2026/06/12(金) 04:34:02 ID:oQVOL7y.0
妻は懐かしむように、ゆっくりと続けた。

ξ゚⊿゚)ξ「…私、死んでしまったのに、沢山の人と知り合えたわ。」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオさんにショボンさん、ショボンさんの奥さんとお客様に…」

ξ^⊿^)ξ「しぃちゃんも…遊びに来てくれて、嬉しかったなぁ…。」

ξ^ー^)ξ「会えば張り合うように、あなたを取り合って。」

ξ゚⊿゚)ξ「…あなたと一緒にこの庭で、しぃちゃんを見ていると…」

ξ;⊿;)ξ「まるで…。私が求めていた人生のその先を、見ているみたいで…。」

ξ∩ー;)ξ「…そんな事言ったら、しぃちゃんとお家の人に悪いけれど…。」

(  ω )「ツン…」



それはきっと、僕の夢でもあった。


.

548名無しさん:2026/06/12(金) 04:34:57 ID:oQVOL7y.0
ξ∩ー゚)ξ「…この姿になって、景色がはっきりと見えるようにもなったの。」

ξ゚ー゚)ξ「あなたが昔教えてくれた花達も見たわ。」

ξ^ー^)ξ「図鑑も沢山読んで…。ショボンさん仕込みだから、最近の花なら私の方が詳しかったわね。」

ξ゚ー゚)ξ「…だけど、あなたの顔がはっきりと見えたのが、一番嬉しかった。」

(  ω )「…」

549名無しさん:2026/06/12(金) 04:35:36 ID:oQVOL7y.0
(  ω )「…僕は、名前を呼んでほしかったお。」

(  ω )「そうじゃないと、君だと分からないじゃないかお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…ごめんなさい。」

ξ゚⊿゚)ξ「怒っていたら、他人のふりをしないと来てくれないんじゃないかと、思っていたから…。」

(  ω )「…そんな事、絶対に無いお。」

ξ゚⊿゚)ξ「…。」

550名無しさん:2026/06/12(金) 04:36:22 ID:oQVOL7y.0
ξ゚ー゚)ξ「ブーン。」

妻が、表情を和らげた。

ξ゚ー゚)ξ「日傘をくれて、ありがとう。」

ξ゚⊿゚)ξ「温かい場所を見付けて、長いこと眠っていたの。」

ξ゚ー゚)ξ「そうしたら。20年後のあなたに逢えた。」



ξ゚ー゚)ξ「…今度こそちゃんと、お別れを言うわ。」


(  ω )「…っ」

551名無しさん:2026/06/12(金) 04:38:16 ID:oQVOL7y.0
( ;ω;)「嫌だお!!」

( ;ω;)「ずっとずっと…っ!!寂しかったんだお!!!」

僕は拳を握って、いつもより大きな声を出す事しか出来なかった。

どうして僕の涙は、滲むばかりで落ちないのだろう。
涙さえ落ちれば、優しい妻のことだ。
憐れんで、『もう一日だけ』と言ってくれるかもしれないのに。



20年間もの間、どんなに素敵なものを見付けても。君との会話には出来ない寂しさを、知ってほしかった。


道行く老夫婦が手を繋ぐ様が、どれほど羨ましかったか、分かってほしかった。


日傘を持った君が側にいないのが、どれほど悲しいかを___




ξ゚⊿゚)ξ「ブーン…。」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとう。」

552名無しさん:2026/06/12(金) 04:39:03 ID:oQVOL7y.0
ξ*^ー^)ξ「私…。あなたに手を引かれた日から、あなたの事がずっと好きだったの。」

ξ*゚ー゚)ξ「綺麗なモッコウバラを見せてくれて、私のようだと言ってくれて、嬉しかった。」

ξ゚ー゚)ξ「この場所は…なんだかあの庭に、似ているわ。だからあなたが来るのを、待っていた。」

ξ*゚ー゚)ξ「あなたは変わらず、素敵な人だった。だからまた、あなたに恋をした。」

ξ ⊿ )ξ「…」

ξ*^ー^)ξ「ありがとう。幸せでした。」

( ;ω;)

553名無しさん:2026/06/12(金) 04:40:16 ID:oQVOL7y.0
僕が返事を出来ないでいると、妻は申し訳無さそうな顔をした。

ξ゚⊿゚)ξ「…2つ、お願いをしたいのだけど…。」

ξ゚ー゚)ξ「ドクオさんに、今まで本当にお世話になったから、私の代わりにお礼を言っておいてほしいの。」

ξ゚⊿゚)ξ「何も返せなくて…心苦しいけれど…。」

ξ゚⊿゚)ξつ□「それからこれは、しぃちゃんに…。」

そう言って妻は、僕にメッセージカードを手渡そうとした。

( ;ω;)「…。」

( ;ω;)「嫌だお。」

( ;ω;)「頷いて受け取ったら、君は安心してしまうじゃないかお。」

554名無しさん:2026/06/12(金) 04:42:21 ID:oQVOL7y.0

ξ゚ー゚)ξ「ブーン。」

泣く僕を慰めるように、優しい声がした。

そして妻は僕のすぐそばにやって来て、僕の右手にメッセージカードを握らせた。


ξ゚ー゚)ξ「さようなら。」

ξ*^ー^)ξ「愛しているわ。文高君。」

( ;ω;)「…っ!」



妻は今でも、僕を愛してくれていた。



それなのに僕は、妻の名前すら呼んであげないのか?



( ;ω;)「…」

.

555名無しさん:2026/06/12(金) 04:43:32 ID:oQVOL7y.0

( ;ω;)「つかさ。大好きだお…。」



震える手で、妻の両肩に僕の手を置いた。


温かい。


体温が低くて、触れてからゆっくりと伝わる、つかさの体温だ。



手の震えが、止まった。



僕はゆっくりと、つかさを抱き寄せた。


懐かしい、ガーデニアの匂いがする。









( −ω−)「……愛しているお。」






.

556名無しさん:2026/06/12(金) 04:45:24 ID:oQVOL7y.0




黄色い光が溢れた。



それはまるで、あの日僕達が見た風景だ。



藤色の瞳を、もう見つめる事は出来ない。



目を閉じて、散らないようにと必死につかさを抱きしめた。








立葵と木々の緑が僕達を隠して、この時を永遠にしてほしかった。



.

557名無しさん:2026/06/12(金) 04:47:59 ID:oQVOL7y.0




( −ω−)




どれほどの間、こうしているのだろう。




強く閉じた僕の目を抉じ開けようと、夏の風が吹き続けている。




その隙間から見えた八重咲きの立葵の薄紅色は、君の頬で。



純白は、あの日君が着たドレスであってほしかった。




瞼越しに感じていた柔らかい光は、もう随分と前から感じ取れなくなっていた。







それでも、目を閉じ続けた。


.

558名無しさん:2026/06/12(金) 04:48:55 ID:oQVOL7y.0



.

559名無しさん:2026/06/12(金) 04:49:59 ID:oQVOL7y.0
__________
______
____

( ´ω`)

( ´ω`)「…スマホは…」

いつの間にか、座り込んでいた。
観念した僕が目を開けて時刻を確認するためにスマートフォンの電源を入れると、既に20時を過ぎていた。
もうそんなに経っていたのかと画面を眺めていると、モナーさんから着信が入った。

(;^ω^)∏(そうか、今日は出勤日だったお…)ブーッブーッ

(;^ω^)∏「はい…。」

560名無しさん:2026/06/12(金) 04:52:54 ID:oQVOL7y.0
( ´∀`)∏「やっと出たモナ。家に行っても居なかったから、街中の電柱に迷子のポスターを貼る準備をしてたとこだモナ。」

(;^ω^)∏「無断欠勤で…ご迷惑をおかけして申し訳ございません。近所には居るのですが、これから用事があってまだ家には戻れません。」

( ´∀`)∏「元気なら良いモナ。月曜日はサンタの袋に美味しいおやつを詰めまくって出勤するモナ。」

(;^ω^)∏「はい…。一ヶ月はサンタになりますお。」


モナーさんとの電話が終わり、重い身体を起こして屋敷へと向かう。
妻の最後の願いを叶えるためだ。


((( ^ω^)(…こんな時間なのに、やっぱり昼間と同じ明るさだお…)テクテク


僕は階段を登って建物の中に入り、玄関の扉を閉めた。

( ^ω^)「…」

(;^ω^)(…本当に、外が暗くなっていったお。)

561名無しさん:2026/06/12(金) 04:54:30 ID:oQVOL7y.0


コンコン

カチャ


( ^ω^)「…ドクオさん。」

('A`)「…。」

( ^ω^)、「…あの…」

('A`)「…」


僕がどこから話すべきか悩んでいると、ドクオさんがゆっくりと口を開いた。

562名無しさん:2026/06/12(金) 04:55:13 ID:oQVOL7y.0

【 第八話 立葵のカーテン 】

終わり

.

563名無しさん:2026/06/12(金) 04:55:59 ID:oQVOL7y.0
BGM
ただいま/手嶌葵

564名無しさん:2026/06/12(金) 04:56:34 ID:oQVOL7y.0
最終話は近日中に

565名無しさん:2026/06/12(金) 05:47:44 ID:t6kMnPDM0
夜通し乙

566名無しさん:2026/06/12(金) 07:46:25 ID:LRx/yYgA0
250くらい新着レスついてて何事かと思ったら来てる!
めちゃくちゃ乙!
仕事しながらゆっくり読むわ

567名無しさん:2026/06/17(水) 00:35:54 ID:msB4ezo60
>>565
乙ありがとうございます。船漕ぎながら投下しました。

>>566
ありがとうございます。お仕事お疲れ様です。
お菓子オンパレードでチェック中に胃もたれしたので、ちびちび読んで頂けましたら幸いです。

568名無しさん:2026/06/17(水) 00:37:48 ID:msB4ezo60
それからごめんなさい!記載しているレシピのバターは全て無塩バターです!
製作の際はお気をつけください(((´;ω;`)))ショッパイヨー


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