したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

( ゚д゚ )絵描きとヴィオラのようですミセ*゚ー゚)リ

297名無しさん:2024/12/20(金) 05:16:10 ID:GwUyoSTg0

ミセ#゚―゚)リ「…こんなの買う余裕はあったんだ?」

( ゚д゚ ;)「い、いや!ちがっ…!」

弁解の旨を叫ぼうとした途端、隣の部屋で眠る二人の子どもたちを思い出し慌てて口を閉じた。
前に玄関を開ける音で下の子を起こしてしまった前科があるのだ。再び寝るまで必死に寝かしつけながら妻に睨まれたあの夜は、出来ればもう体験したくない。

( ゚д゚ ;)「…一度、17時には出られたんだ。それで、駅で色々買ってから帰ろうと思って」

( ゚д゚ ;)「でも、トラブルが起きて、電車に乗る前にまた戻らなきゃいけなくなって…」

( -д- ;)「……本当に、ごめん」

何を口にしたところで言い訳だ。仕事を理由にしたところで、家のことを全て彼女に任せっきりにしたことには変わりない。
何より、呼び戻された時点ですぐに連絡の一つでも送るべきだったのだ。細かな連絡を疎かにし、どれくらいの帰宅になるのかも正確に伝えなかった。
どう見たって弁論の余地はない。完全に非は僕にある。

298名無しさん:2024/12/20(金) 05:17:02 ID:GwUyoSTg0

ミセ*゚―゚)リ「……」

ミセ*- -)リ「………座りなさい」

しばらく無言で話を聞いてくれていた彼女は、炬燵に入ったまま机をトントンと指で叩いた。
許してくれたのだろうか。少し怯えながらも、妻の対面にあたる位置にそっと足を入れようとした。
その瞬間。

ミセ# ー )リ「…馬鹿。こっち」

不満そうな表情には一切変化がないまま、妻はすぐ隣の机をトントンと改めて叩く。
子育てをしながらも現役でプロの演奏家を務めている彼女の指は、昔から変わらずしなやかだった。

299名無しさん:2024/12/20(金) 05:18:27 ID:GwUyoSTg0

( ゚д゚ ;)「…え?」

ミセ# ー )リ「はやく」

動揺しつつ、ゆっくりと炬燵から足を出して彼女の隣に移動する。
将来、子どもたちが大きくなることを想定して買ったテーブルだ。大の大人が二人並んで入っていても、少々狭くは感じるが然程不便にはならない。
これで正しいのだろうか。そう不安になりながらも、妻の横に体を入れた。

ミセ*-o-)リ「…あー」

並んで炬燵に入ると、妻は何も文句を言わず、その小さな口をぱかっと開いた。
何をご所望なのかさっぱり分からないまま、じっと妻の顔を見る。
既に時刻は夜だ。お風呂だって済ませているだろうし、後は寝るだけといった状況の筈。
化粧だって落としきった後だろうに、昔とほとんど変わらないように見える容貌に思わず見惚れてしまう。

ミセ# ー )リ「………んっ!」

「本当に年をとっているのか」なんて呆けたことを考えていたのも刹那、妻は苛立ちを隠そうともしないまま前にあったプリンを手に取り、テーブルに音をたてて置き直した。
部屋に響く音にびくついた次の瞬間、プリンに付属していたプラスチックのスプーンもまた軽く机に叩きつけられる。

わざとらしい程に存在を強調されたプリンとスプーン。
わざわざすぐ隣まで移動させられた意味。

ミセ*-o-)リ

そして、再び口を開けて待機しているだけの妻。

300名無しさん:2024/12/20(金) 05:19:02 ID:GwUyoSTg0

( ゚д゚ ;)「………」

「まさか」なんて言葉が思い浮かぶも、口にはせずに仕舞い込んだ。
出会った頃に比べれば彼女はずっと素直になったし、僕だって人としてある程度は成長した自負がある。今の彼女が自分に求めている行動について、確信に限りなく近いレベルで予想はついている。

だが、この年でまさか、こんなことを要求されるとは。

プリンの蓋を開け、スプーンで掬う。
零れないよう慎重に持ち上げ、妻の口へとゆっくり運ぶ。
すると、彼女はどこか満足そうに口を閉じ、嬉しそうにもぐもぐと咀嚼した。
しばらく味を楽しんだ後、再び彼女は目を閉じたまま口を開く。

どうやら、自分の予想はちゃんと合っていたらしい。

( ゚д゚ ;)「……あの…?」

ミセ*-〜-)リ「せっせと手だけ動かしなさい」

付き合いたてのカップルくらいしかしなさそうな行為に些か恥ずかしくなり、思わず声を発してしまう。
結婚する前だって、こんなテンプレート染みたことは碌にしなかった。
誰にも見られてないとはいえ、もう二児の父親となった身だ。流石に羞恥心というものがある。

301名無しさん:2024/12/20(金) 05:20:09 ID:GwUyoSTg0

ミセ*-o-)リ「…寂しがってたわよ。二人とも」

プリンを掬おうした途端、背筋が伸びるような声が発された。
生まれてまだ一年にも満たない赤子と、もう二歳になり舌足らずながら言葉を話すようになるまで成長した上の子。
夜は家に帰るのが遅く朝は家を出るのが早い最近は、寝顔しか真面に見られていない。

ミセ*- -)リ「今日だって"おとしゃんが来るまで寝ない"、なんて言って」

( ゚д゚ )「……」

ミセ*-o-)リ「ほら、手は止めない。あーん」

( ゚д゚ ;)「え、あ、ごめん。あーん……」

妻の口へと懸命にプリンを運びながら、脳裏に浮かぶのは二人の子。
いや、今に限った話じゃない。仕事をしている時も、出勤中も帰宅中も、考えているのは家族三人のことばかりだ。

302名無しさん:2024/12/20(金) 05:21:40 ID:GwUyoSTg0

恵まれている自覚はある。
興味のあった仕事は出来るし、少ないが絵の仕事も貰えている。何より自分の心臓なんかよりもずっと愛しい存在が三人も家で待ってくれている。
幸福だ。ゆったりと死を待ちながら筆を動かしていたあの日々とは比較にならないくらいに恵まれている。自惚れかもしれないが、そう思う。

なのに自分は今、それを毎日蔑ろにしている。
過去に一度は諦めたはずの幸福を手にできたのに、それを護る努力を怠っている。
仕事などという一単語が理由になり得るはずもないのに。

( -д- )「……ごめん」

ミセ*- -)リ「謝るなら私じゃなくて子どもたち。勘違いしてるなら言うけど、二人とも寂しがってるんだからね」

ミセ*゚ー゚)リ「昔から変に自虐的な考えするでしょアンタ。父親として、するべき自惚れはしなさいよ」

心を見透かされたのかと思い、一瞬スプーンを落としそうになる。
慌てて両手で持ち直し妻の方を見るも、口をむぐむぐと動かす彼女の目は閉じたまま。
まぁ、目を開いているかどうかなんて本当に関係がないのだろう。僕のことについてなら、僕自身より彼女の方がずっと詳らかに見てくれているのだから。

303名無しさん:2024/12/20(金) 05:24:11 ID:GwUyoSTg0

ミセ*゚ー゚)リ「昔、もう嘘つかないって約束したでしょ。そのつもりがなかったとしても、結果的に嘘になることだって許さないんだから」

ミセ*゚ー゚)リ「今後は遅くなりそうならもっと、こまめに連絡するように!」

( ゚д゚ )「…気を付けます」

悪戯っぽく笑う妻の表情を見て、ふと、昔のことを思い出した。
付き合うよりも更に昔。一介の絵描きと、病弱なヴィオラ弾きのお嬢様の話。
夏の終わり頃、車椅子に乗っていた彼女と交わした約束の一つ。
結婚した今でも、あの時の約束は全て有効なままであった。

ミセ*-o-)リ「よろしい。じゃ、あーん」

( ゚д゚ ;)「あ、これは続けるんだ…」

てっきり腰を据えて話をするきっかけ作りだと思ったのだが、甘い物は別らしい。
チビチビと少しずつあげていた筈なのだが、プリンの体積は既に5分の1もなくなっていた。
まぁ結構良さげな店で買ったし、そもそもそんなに大きなプリンでもなかったから当然といえば当然か。

304名無しさん:2024/12/20(金) 05:25:32 ID:GwUyoSTg0

ミセ* ー )リ「……もういっこ、念のために言うんだけど」

( ゚д゚ )「ん?」

ミセ* ー )リ「…分かってるとは思ってるけど、一応、その……」

口のすぐ前までプリンを運んだが、妻は食べようとせずに俯いたまま。
何だろうかと手を少し引っ込め、彼女の言葉に耳を傾ける。
最近はこんな風に二人でゆっくり話すこともなかった。今回は良い機会だろう。そう思い、黙ったまま二の句を待つ。すると、少し躊躇いがちに妻はゆっくりと口を開いた。



ミセ* ー )リ「――寂しがってるのは子どもたちだけだなんて、思わないで、よね」

305名無しさん:2024/12/20(金) 05:27:17 ID:GwUyoSTg0

コトンと、小さな音が鳴った。

テーブルに力なくスプーンと、一口サイズのプリンが転がる。
すぐに拭くための手も動かないまま、僕はじっと妻の顔を見つめていた。

ミセ;*゚ー゚)リ「ちょ、ちょっと、零さないでよ」

( ゚д゚ ;)「ご、ごめん…今日、一番、ビックリしたから」

端にあったウェットティッシュを手に取り、慌ててテーブルの上を拭く。
既にプリンの容器の中は、僅かに残されたカラメルが揺れるだけであった。

ミセ*゚ー゚)リ「カラメル…勿体ないし、捨てるのもアレだし、飲んじゃうわ」

( ゚д゚ ;)「えっ、これも?」

ミセ*-o-)リ「炬燵から手出すと寒いのよ。ほら、はーやーく」

一瞬だけ見せてくれた恥じらう様子から一転、妻の顔がすっかり見慣れた平常のものへと変わる。
手を炬燵から出さないまま口だけを開き、ねだる様は子猫や雛の類だ。

306名無しさん:2024/12/20(金) 05:28:41 ID:GwUyoSTg0

……ふと、小さな悪戯心が芽生えた。

思い返せば、二人目が生まれてからは特にそういうこともしていない。
それについさっき、やたらと可愛らしい言動で心を惑わされたばかりだ。
父としてはいくらでも情けなくなる覚悟はあるが、妻と一対一の夫としてはこのままというのも少し悔しい。

( д )「…もうちょっと口閉じてて、零れちゃうから」

妻の口が更に小さくなったことを確認して、プリンの容器を手に取った。
そして彼女の口に近付けることなく、音を立てずにかつ迅速に、中に入っているカラメルを自分の口へと流し込む。
容器を置き、絹のような手触りの髪と頬をさらりと撫でつつ首の後ろに手を回す。
何か違和感を覚えたのだろう。妻の目がうっすらと開かれそうになった、その瞬間。

被せるように、唇を重ねた。

307名無しさん:2024/12/20(金) 05:29:49 ID:GwUyoSTg0

ミセ;* - )リ「――っ!?」

途端に慌てふためく妻。だがお構いなしに、彼女の口内へと甘ったるいカラメルをゆっくりと流し込む。
溢れないように舌を絡めながら、自分から逃げられないようにしっかりと彼女の華奢な体を抱きしめたまま。飲み込みやすいよう、少しだけ自分の方が上になるように傾けつつ。

最初の方だけ聞こえた小さな呻き声も、瞬く間にささやかな水遊びみたいな音に変わる。
妻の後頭部に回していた右手を移動させ、喉の部分にそっと押し当てる。カラメルが彼女の喉を通るたび、握ればたちまち折れてしまいそうな細く白い首がびくびくと跳ねるのが分かる。
繋がっていたのは果たして数秒か、数十秒か。互いの口内に何もなくなったことを舌で確認した後、ゆっくりと妻の唇から口を離した。

ミセ;* Д )リ「――っ、は、はぁっ…」

水面から浮き上がったかのように呼吸が荒くなっている。
お風呂上りみたいな紅潮した頬と、少しの潤いを携えたとろんとしている瞳。
ちょっとした仕返し程度のつもりだったのだが、どうやら効果は十二分にあったようだ。

308名無しさん:2024/12/20(金) 05:31:24 ID:GwUyoSTg0

( ゚д゚ )「……僕も一応、念のために言うんだけど」

彼女の背中に回した左腕から力は抜かないまま、しっかりと目を見て口を開く。
ずっと昔、とある女性をメインに描いた絵に、作家コメントとして書いた言葉。
その後、付き合う時も、プロポーズした時も、決まって必ず口にした言葉。

( ゚д゚ )「――大好きです、ミセリさん」

口にしたことは人生でもほんの数回。にもかかわらず、不思議と口馴染みのあるフレーズ。
そう簡単に口にすべきではないと分かっていても、何度だって伝えたくなる、心臓が痛くなる言葉。

ミセ;*゚ー゚)リ「……!」

妻の目が一瞬だけ大きく見開かれる。
その後、どこか泣きそうな顔をしたかと思えば、ぽすんと僕の胸に彼女の額が乗せられる。

ミセ;* ー )リ「……私も」

ミセ;* ー )リ「ちゃんと、大好きだからね。ミルナの、こと」

顔は上げられないまま、心臓に直接言葉が届けられるみたいな声が響く。
下を向く。初心な少女みたいにゆっくりと顔を上げた妻と視線が重なり、どちらからともなく笑い合う。

309名無しさん:2024/12/20(金) 05:32:06 ID:GwUyoSTg0

明日は別に休日じゃない。
次の朝だってきっと我が子たちの寝顔に後ろ髪を引かれながら家を出て、仕事に追われて、子どもたちが寝静まった夜中にやっと帰ってくるに違いない。
絵の仕事だってあるから、次に家族との時間をちゃんと取れるのはもっと先になるだろう。

それでも。
家に帰ってくれば、妻がいるなら。子たちがいるなら。
どれだけ仕事が辛くても。忙しくても。休みがなくても。

明日も頑張れそうだと、そう思った。


〜おしまい〜

310名無しさん:2024/12/21(土) 21:37:03 ID:Ut5tbChI0
イチャつく二人が見れて嬉しい反面なぜ本編の二人にこの幸せを与えなかったのかという作者への憎悪が募る

311名無しさん:2024/12/26(木) 12:32:01 ID:kZgPeFIA0
やっときてて嬉しい乙乙
クリスマスに読んでたら即死してた 甘すぎる

312名無しさん:2024/12/27(金) 23:55:50 ID:rlhj7NDc0
乙乙
こたつある家良いな
>ミセ#゚―゚)リ「連絡の一つくらいも送れないくらいに?」
ここリアルだ…

313名無しさん:2024/12/28(土) 11:46:17 ID:85gQAMmU0
子どもが寝静まってからイチャつく夫婦かわいい
短くない?もっと書いてくれてもいいのよ

314名無しさん:2024/12/28(土) 23:58:01 ID:VXjBPzuA0
乙乙!連絡よこさない夫にキレる妻の描写リアルで好き
ところでこのいちゃラブ夫婦になるまでの経緯を描いた番外編はいつ?

315名無しさん:2025/05/01(木) 23:51:06 ID:IUAn214Q0
1周年おめ
誰がなんといおうとあなたの作品好きだよ

316名無しさん:2025/06/11(水) 09:32:49 ID:HHjpCKR20
乙乙


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板