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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
291
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:02 ID:e2rDsERI0
( ´ー`)「ハイン......」
血にまみれた友の名を呼び、彼女を抱き寄せる。
微かに聞こえる呼吸音。
絶望し、歩みを止めそうになる彼であっだが、その音に最後の決心を固める。
( ´ー`)「......せめて」
せめてもの、罪滅ぼしをしなくては。
彼は、死んでも死にきれない。
死んだ仲間達の血を、手で掬う。
そうして、赤に染まった手で顔を、身体を汚し、模様を描く。
禍々しいそれは、怪しく輝くと彼の周りに黒い靄が生まれる。
(# ´ー`)「おおおおおっ!!」
彼は叫んだ。
自分はここにいるぞと。
まだ生きていると証明するかのように。
(# ´ー`)「俺を殺せぇ!!さぁ!!逃げも隠れもせんぞぉぉおおお!!」
その魔法は、死の呪い。
自らが持つ魔法の才を代償に発動するそれは、自分を殺したものを呪う、禁断の魔術の一つである。
292
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:31 ID:e2rDsERI0
どうあがいても勝てない。
ならば、これほどの攻撃を生む、大魔術師の一人でも良いから道連れにする。
この魔法を使えばもう二度と、魔法を使うことができなくなるがどうせ死ぬのならば変わらない。
それが、彼に出来る最期のことであった。
(# ´ー`)「さぁ来い!化物共!!」
辺りに散らばる死体の山の中、彼は吠え、駆け出す。
たった一人の突撃。
これがムーにおける、ルナイファ最期の攻撃となった。
293
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:12:00 ID:e2rDsERI0
続く
294
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:25:09 ID:gdcH8vsU0
乙
295
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:59:50 ID:oh2rS/dQ0
乙
296
:
名無しさん
:2023/06/18(日) 19:13:40 ID:GW7g0PUQ0
乙
ああ…二人とも…
297
:
名無しさん
:2023/06/19(月) 13:17:53 ID:7EjT/o6s0
おつおつ
前線の兵はかわいそうだけど正直人間側応援してしまう
298
:
名無しさん
:2023/06/20(火) 01:46:25 ID:jlOMxIag0
シラネーヨ、熱い漢だ
299
:
名無しさん
:2023/06/23(金) 13:31:32 ID:6CLW389s0
乙乙
ルナイファでも現場は応援したいんだが、上がね……
300
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:03:44 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 会議室
1463 年11月29日
(;´・_ゝ・`)「それでは、現時点で判明していることを説明いたします」
重苦しい空気の中、デミタスはそう切り出した。
会議に参加しているのは軍務省や軍人のトップクラス、また有力な魔術師ばかりである。
錚々たる顔ぶれであり普段であればその力の大きさから誰もが自信に満ちた顔をしていたものだが、現在その顔のほとんどが青を通り越して死人のように真っ白である。
(;´・_ゝ・`)「なお、本会議に関する情報は外部に決して漏らさぬよう、お願い致します。また、お配りした記録魔石に関しても会議終了と共に全て記録が破棄されます」
震える手でデミタスはこれまでに集められた情報の詰まっている記録用魔石を弄る。
すると空中に文字と地図が浮かび上がった。
301
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:04:47 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「では説明を始めさせていただきます。まず去る11月19日、この日に我が国はムーを占拠する敵勢力に対し、正式な宣戦布告をし、同日近海まで近づいていた部隊にムー奪還を指示しました」
デミタスは浮かび上がった地図を指差し、艦隊の動きを説明する。
ここまでに関しては現在、この会議室に誰もが知っていることである。
そう、ここまでは問題ではないのだ。
(;´・_ゝ・`)「そして、20日。ムー間近まで近づいた艦隊に対し、敵の攻撃が放たれます」
( ФωФ)「......攻撃の規模は?」
(;´・_ゝ・`)「密度は薄いものの......威力、速力ともに凄まじいものであり......属国軍程度の魔壁では一撃すら耐えられないものとのことです」
(*゚ー゚)「あの、すみません。魔壁で耐えられない攻撃となるとそれは雷槍、ということですか?」
(;´・_ゝ・`)「いえ......異なるもののようです。操作魔法がかかったかのように追尾してくるのに雷槍のごとく早い光、による攻撃であったとのことです」
その言葉に、会議室が一気に騒がしくなる。
魔壁を突破するとなると、通常は命中率を高めて複数の攻撃により魔力を地道に削るか、雷槍のように命中率を捨てて一点特化した兵器を用いて貫通するかの二択である。
302
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:05:47 ID:BT2yeVcI0
だが敵は、それとは違う第三の選択肢を取ってきたのだ。
そしてそれは、攻撃力、そして命中率共に高いという反則レベルの代物。
聞いた情報が正しければ自分達の知るどの攻撃魔法よりも優れている。
それも、遥かにである。
自国を最強と信じるもの達にとって、これほどの力の差があるということを受け入れるのは、非常に難しいことであった。
(;´・_ゝ・`)「報告を続けさせていただきます。敵の攻撃の前にこちらは成す術がなかったとのこと......そもそも敵を見つけることが出来なかった、との報告があり、常識を超えた射程を持っている可能性が高いです」
(; ФωФ)「......うーむ。報告を読むと本隊の魔壁でも防げない攻撃があったとあるがこれは?」
(;´・_ゝ・`)「はい......多くの攻撃は爆発前に光が見えた、と証言があったのですが、その光すら見えない攻撃であり、予測すらも出来ない、との、ことです......」
(; ФωФ)「なんという......」
303
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:06:43 ID:BT2yeVcI0
さらには常識を遥かに超える超兵器まで、敵は実用化している。
重苦しい空気であった会議室内の空気はさらに、重く冷たいものとなる。
もしこれが本当なのだとしたら。
防ぐ手段がないどころか、攻撃方法も不明のため、対策を考えることすら出来ないのだ。
すなわち、今後海で行動するにあたってとてつもないリスクと恐怖を負わなくてはならなくなる。
安全な航路をどうやっても確保できず、実質的に制海権を確保することが不可能ということになる。
広大な土地を持ち、それに伴い広範囲に広がる領海を支配する、また海を挟んでの植民地を持つルナイファにとってそれは、致命的と言えた。
304
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:07:39 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「そして......最終的には派遣した艦隊はとてつもない被害が出ており、現時点で無事が確認できているものは撤退した38隻のみ、となっております」
(; ´_ゝ`)「失礼。その......その他は?」
一人の軍人、アニジャが手を挙げ質問した。
その質問にデミタスはさらに汗を流し、答える。
(;´・_ゝ・`)「敵の攻撃の前に沈むか......もしくは航行不能となったと見られます。また撤退してきた艦も完全に無事というわけでなく、多くがもう戦線に戻すことはできないような状態です」
(; ´_ゝ`)「......」
(;*゚ー゚)「......」
(; ФωФ)「......」
唖然。
あまりの被害の大きさに声を出すことが出来ない。
そんな中、アニジャの弟であるオトジャが続けて質問をする。
(´<_` ;)「......それで、敵の損害は?」
(;´・_ゝ・`)「まず海戦については、正確な数は不明です。情報が混乱しており現在精査中ですので......ただ、報告では全く被害を与えていない、というものから数隻に被害を与えた、というものまでありますが......」
(; ФωФ)「?」
305
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:08:33 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「......多くの情報を纏めると恐らく全く被害を与えられていない、と思われます。多くても数隻、最悪一隻も沈めることが出来なかった、と......大敗したと見て、間違いないでしょう」
(;*゚ー゚)「そんな......」
(;´・_ゝ・`)「ただし、陸ではある程度の損害を与えたと思われます。ですがこちらも、敵の捨て身覚悟の攻撃により、上陸部隊は全滅。ムーの奪還どころか、上陸地点の維持も出来なかったことから、戦略的に敗北と言えるでしょう」
既にルナイファは国家の1/3以上の艦を動かしている。
それが、敵を撃滅するどころかこの世から消え去ったというのだ。
さらに送り込んだ陸上部隊も叩き潰され、反撃の糸口も失われた。
そして何より、個人の才が重要な魔法において多くの人材を失うことの被害の大きさは計り知れない。
お伽噺に出てくる、悪魔が可愛く見えるほどの大惨事である。
これほどの被害を一度に受けるなど、国家の危機と言い換えても良いほどの被害であった。
306
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:09:43 ID:BT2yeVcI0
( ^Д^)「......それで?」
(;´・_ゝ・`)「は?」
だが、そんな現実を理解できない者も、少なからず存在していた。
信じられないことに、という注釈が付くが。
(# ^Д^)「は、ではない!それで、どうするというのだ!!奴ら、人間にやられ、雁首揃えて項垂れて......それでも貴様ら、ルナイファのエルフか!!敵は人間!!すぐにでも再攻撃を行い、敵を叩き潰す!ただそれだけであろう!!簡単なことではないか!!」
(;´・_ゝ・`)「それは......」
開いた口が塞がらないとはまさにことことか。
あまりの現実の見えて無さに、デミタスは頭痛を覚えるほどである。
そしてなにより、こんなバカげた発言に同調し、頷くものが何人もいるのだ。
人間に負ける、それが信じられずまた受け入れることが簡単に出来ないことはデミタスも理解は出来る。
だが、だからといってここまでバカげた妄想を続けることが出来るとは―
307
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:10:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「プギャー閣下。はっきりと、申し上げます」
( ^Д^)「......なんだ?」
(´・_ゝ・`)「我が国は、既にムーを奪い返す力はありません。もうその段階にはないのです。今出来るのは、いかに被害を抑え、負けないか、ということです」
(# ^Д^)「なっ......そ、そんなことあり得るわけないだろう!!まだ、艦隊は多数残っているではないか!!それを使えば良いだろう!!」
(´・_ゝ・`)「確かに......残ってはいます。しかし、我が国の本土の防衛を考えるとそう多くは出せません。敵は強大であり、かなりの数の艦がなければ妨害にすらならないと思われます。さらに東方海域については、今回の件に関わっている可能性があり、またそうでなくても敵対関係にあるソーサクが存在しています。こちらからの戦力抽出はほぼ不可能です」
(# ^Д^)「......」
308
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:11:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「そしてその他、西からの戦力を抽出したとしても......今回派遣した戦力以下のものしか用意できません。今回ですら被害を与えられなかったというのにそれ以下の戦力では、同じ結末になる可能性が高く、敵の資源を消費させることしかできません」
( ´_ゝ`)「そもそも再度大規模攻撃を行うには部隊の再編のため最低でも数ヶ月、準備が必要でしょうから......そうなると敵も準備をするでしょうし、敵が資源が豊富なムーで補給が可能となった今、資源の枯渇も望めないかもしれません」
(´<_` )「付け加えるなら、魔術師についても問題ですね。艦を動かせる優秀な魔術師が多く失われた今、簡単に補充出来ません。どう足掻いても戦力は低下してしまいます。そんな状況ではどうやっても勝てますまい」
(# ^Д^)「......ぐ」
ここぞとばかりにアニジャ達が追撃をする。
彼等、軍人にとって今後戦うかもしれない敵は、強大すぎるのだ。
そんなものに誤った知識のまま無駄に突撃させられては堪らないと言葉をぶつける。
そんな突然の口撃に、流石のプギャーも言葉を詰まらせる。
309
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:12:37 ID:BT2yeVcI0
その様子をデミタスは見て、内心助かったと感じながら話を続ける。
(´・_ゝ・`)「さらに言うなら、今回の派遣で属国軍が持つ戦力を削られたのが痛すぎました。既に南方の属国で派遣できる戦力は残っておらず......また敗戦により他の国でも我が国への不信感が高まっており、今後の要請に影響が出る恐れがあります。未確認ですが既に離反するような動きが見られる国家もある、と」
( ФωФ)「そうか......周辺国から数を揃えて敵にぶつけ、時間を稼ぐことも難しい、というわけか」
あまりに厳しい現状にロマネスクは顔を歪める。
元々、力により多くの国を支配してきたルナイファにとって、敗北の影響はあまりに大きい。
力が大きすぎたが故の適当な外交、という名の暴力に頼ってきたツケが回ってきてしまったのだ。
(´・_ゝ・`)「そうなります。とはいえ、なにもしない訳にはいかないでしょう」
( ´_ゝ`)「......策があるということですか?」
310
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:13:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「はい。まず、前提として敵はムーを占拠し、食料などの物資を運び出し、また逆に武器と思われるものなどが運び込まれているとの情報があります」
( ФωФ)「ふむ......」
(´・_ゝ・`)「この際、大型の船舶が用いられているとのこと。技術体系が異なるため確定ではありませんが、やはり海を挟んでの土地のため物資の輸送が必要なようです。そこでこれを狙います」
( ФωФ)「通商破壊を仕掛けるのか」
(´・_ゝ・`)「はい、敵の輸送を止めることができればまだ巻き返すことが可能かと」
(;*゚ー゚)「......本当に、可能なのでしょうか?あの、海戦で勝てるとは......その」
恐る恐る、といった雰囲気でシイは質問をする。
先ほどの話で、ルナイファが敵に対して海にて優位性は全くといっていいほどないのだ。
海上で戦いを仕掛け、勝てる見込みがあるとは思えなかったのである。
311
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:14:06 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ、私も同感です。まず、勝てないでしょう」
そして、それをあっさりとデミタスも同意した。
その言葉に皆、ぽかんとした顔となる。
(; ФωФ)「......ど、どういうことであるか?」
(´・_ゝ・`)「あくまでも、敵船舶に攻撃が出来れば御の字、ということです」
(´<_` )「......撃沈が目的ではない、ということでしょうか?」
(´・_ゝ・`)「その通りです」
デミタスは大きく頷き、話を続ける。
(´・_ゝ・`)「こちらから攻撃を仕掛ければ、敵は輸送船舶の安全ために護送船団......つまり、護衛をつけるようになるはずです」
( ФωФ)「それは分かるが......それが?」
312
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:15:03 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「つまり、輸送コストが増える、ということです。召喚という災害を受けた今、資源問題は奴らにとって痛い問題であるはず。敵の保有艦数によっては輸送量に制限が掛けられるかもしれません」
( ФωФ)「なるほど、な......だが、つまり......敵の資源の消費を増やすために、艦と命をかける、と」
(´・_ゝ・`)「......はい。ただし少数でも定期的に仕掛ければ、再度の攻撃を警戒をするはずです。そうなれば、攻撃を仕掛けなくても輸送に護衛を付けざるをえなくなります」
(; ФωФ)「......やらないよりかは、マシ、と言ったところか」
( ´_ゝ`)「ですが、敵をフリーハンドにするわけにもいかないと考えると......」
(´<_` )「やらないといけない、といった方がいいかもしれませんね」
命を賭けてもその程度しか得ることが出来ない。
コストに対してリターンが少なすぎる。
だが、現在この案以上にリターンが得られる画期的な作戦も思い付かない。
313
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:01 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ。幸い、こちらには艦はまだあります。それも、旧式の退役予定のもが。これを使い、少しでも時間を稼ぎつつ、守りを固め、敵の情報を集める......この方針で進めるのが良いかと」
(# ^Д^)「......ふざけるな!!やり返すどころか、守りを固める!?さらにはそのような屈辱的な作戦を......」
(´・_ゝ・`)「お気持ちは分かります。ですが、他にすぐ出来ることもないのです」
(# ^Д^)「......」
(´・_ゝ・`)「攻めるよりは守る方が、簡単です。数さえ揃えれば、本土を守りきれるはずです」
(; ФωФ)「......本土が、危ないというのか」
(´・_ゝ・`)「宣戦布告をし、こちらから攻撃をした以上......反撃がない方がおかしいかと思われます。可能性としては非常に高いかと。とはいえ少なからず、敵にもダメージは与えられています。若干の猶予はあるのではないか、と思いますが」
本土という言葉に、また会議室が騒がしくなる。
これまで敵に侵略を受けることのなかった自国の土地に、危機が迫っている。
それも人間の土足により、踏み荒らされそうとなっているというのだ。
現実が見れていない者たちも、その言葉にようやく顔を青くし始める。
314
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:39 ID:BT2yeVcI0
(# ^Д^)「......ふん」
ただ、それでも納得をしていなかった男もいた。
デミタスを睨み付けてもなにも変わらないというのに、怒りのままに視線を向ける。
そんな視線をまるで気づかないかのように、無視しデミタスは話を続ける。
(´・_ゝ・`)「また、この守りを固めるに当たってですがトウキュにいる学徒を本土まで引き上げさせる予定です。彼らへ被害が出た場合、国全体の士気に関わります」
( ФωФ)「確かに学徒は引き上げた方が良いとは思うが......人員を減らして大丈夫なのであるか?トウキュの防衛はどうなる?」
(´・_ゝ・`)「防衛に関して言えば学徒がいなくなっても影響はないでしょう。またトウキュ防衛は援軍を送ろうにも、国を守りきれるほどの大部隊は間に合いませんし、そもそもそんなものを送り込む余裕はありません。そして、今いる部隊では守りきることは不可能と思われます。敵の攻撃はムーに行われたものから考えて、広範囲を吹き飛ばすことが可能なようです。ムーと同じくトウキュの基地は1箇所に集中した大規模基地のみですから、ここに同様の攻撃が加わるだけで防衛は崩壊します」
( ФωФ)「とはいえ、今から配置を変えることは......」
(´・_ゝ・`)「えぇ、時間が足りません。基地は動かせませんから。出来ることとしたら、人員を各地に散らしてのゲリラ戦くらいでしょうか」
時間稼ぎにしかならないでしょうが、とデミタスは続ける。
打つ手がないと同じ意味の言葉を話す彼に、多くの者がうつむき、頭を抱える。
だがそれでも、何とか現状が打破できないかと考える。
315
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:17:34 ID:BT2yeVcI0
(*゚ー゚)「......あの、基地の防衛なのですが魔壁でどうにか、ならないでしょうか。その、基地を覆うようにできる、はずですよね?」
(´・_ゝ・`)「確かに対ワイバーン用にその様な魔法陣は存在します。ですが、ワイバーンを想定しているため、あの規模の攻撃はかなり厳しいです。発動できれば多少は耐えることが可能でしょうが、不意打ちで初撃を加えられた場合はどうしようもないですね。常に魔壁を使用することも資源の都合上、できませんから」
(*゚ー゚)「なるほど......確かに、そうですね。失礼しました」
(´・_ゝ・`)「いえ、このような状況です。これまでの戦い方では勝てません。様々な意見を検討する必要があります。このため、他の方も何か思い付いた場合はご意見をお願いいたします」
( ФωФ)「では、我輩から。先日より行っていることであるが、敵に対抗すべく新魔法の開発を......」
( ^Д^)「......」
その後も、夜遅くまで会議は続いたが現状を打破できるような案は出てこない。
ただただ会議は躍り、無為に時間だけが進んでいく。
そうして結局、何人かの不満を残したままデミタスの案が採用されることとなったのだった。
316
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:18:57 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 帝城 寝室
会議室で多くのものが話し合う中、アラマキは一人寝室でベッドに腰掛け、頭を抱えていた。
普段であれば最強の国に相応しい堂々たる雰囲気を纏わせている彼であるが、今はどこにでもいるような老人のような弱々しさであった。
/ ,' 3「......」
なぜ、こんなことに。
そんな思いに体を震わせる。
全て上手くいくはずであった。
異界から国を呼び出し、それを制圧することでより強固な国を作り上げる。
そうしてこの世界の覇者として、これまで通り進んでいく。
そう、なるはずであった。
当然、成功するはずだったのだ。
317
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:19:38 ID:BT2yeVcI0
だが、蓋を開けてみれば敗北に次ぐ敗北。
何もかもが上手くいっていない。
間違いなく最強であった自国がこのようなことになるなど、いったい誰が想像できようか。
そしてもし、そんなことが分かっていたら異界から国など呼び出さなかったというのに―
そんな今更どうしようもないような後悔が、拭っても拭っても沸き上がる。
/ ,' 3「......いや」
だがしかしと、冷静に考えてみればそもそも初めに軍が負けたとき、あのときにしっかりと考えていればこんなことにならなかったのではないか、とこれまた今更な考えが浮かぶ。
考えてみれば当たり前のことのように感じられるが、あの当時のアラマキに言ったところで聞くことはなかったであろう。
318
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:20:12 ID:BT2yeVcI0
アラマキは自国に油断も隙もあったことは知っていた。
王として国を纏めあげるため、多くのもの達を見てきている。
だからこそ、この国に腐りつつある者達がいることも分かっていた。
しかし、その者達は貴族などの有力なコネであったりなにかしらの影響力があるため、無闇に突っぱねることもできなかった。
いい例がプギャーである。
彼自身は無能ではあるものの、非常に多くのコネクションを持っており、そしてそれを動かせる影響力を持っている。
ゆえに、彼が離反などすればそれこそ悪影響なためにどうすることもできなくなっていた。
とはいえ、そんな無能がいても国は回るほどに力があったため、そこまで問題視はしていなかった。
慢心。
まさにその通りであろう。
319
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:08 ID:BT2yeVcI0
だからこそ、初めの敗北はその慢心をつかれたものと考えていた。
そのしっぺ返しが遂に来てしまったのだと自分の愚かさに嘆きながらも、まだこちらは本気ではなかったために、何とかなるだろうと確信していた。
何故ならルナイファはこの世界で最強なのだから、最強の国が負けるはずなどないのだから、人間相手に本気になれば絶対に勝てるのだから、と。
考えなくてはいけないことから、逃げる理由が見つかってしまったがゆえに、可能性を見落とした。
とんでもない、見落としである。
敵が自分達よりも強いかもしれないという、至極単純な可能性を、見落としてしまったのだから。
/ ,' 3「とはいえ、どうすればよいのだ......」
単純に考えるならば、講和が望ましいだろう。
力で負けている以上、このまま戦えば多くの被害が出てしまう。
更に軍人という、ある程度若くそして魔法の才あるものが多く失われれば、近い将来に暗いものを残すことになる。
320
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:51 ID:BT2yeVcI0
とはいえ、こちらは一度敵の提案を断るどころか、宣戦布告までしてしまっている。
更に敵から見ればこちらは国家を召喚した憎むべき相手。
そして圧倒的ともいえるこの戦況から考えるならば、講和しようにもとんでもない条件をつけられるか、そもそも鼻で笑い飛ばされ、国を滅ぼしにくるかのどちらかだろう。
そんな話を纏められるほどの人材が、果たして自国にいるのだろうか。
外交を蔑ろにしてきたことによる圧倒的な外交官のスキル不足。
それが、ここで大きくのしかかってくる。
またもし、講和が出来たとしても召喚された人間達をよく知らない周辺国からすれば、人間に頭を下げる国として心証を悪くすることは目に見えている。
あれほど強くても、未だ当事者であるルナイファの中にも現実を見れていないものが多くいるのだ。
遠くの無関係の他国であれば、尚更であろう。
321
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:22:56 ID:BT2yeVcI0
ただでさえ敵を作りすぎているのに、そのようなことになれば疲弊した国へ新たな敵が雪崩れ込んできてもおかしくない。
そんなことになっても負けはしないだろうが、多くのものを失いすぎた今だと国家として崩壊しかねない。
/ ,' 3「......」
そうなると、やはり考えるのは勝利。
とはいえ、高望みはしない。
局地戦だけでもいいのだ。
どこかで敵を退け、戦線が膠着したところで話し合いになれば、まだ良い条件を引き出すことが出来る可能性が高い。
―退けられる可能性が高いかは、また別の話なのだが。
そんなことはアラマキにも分かっているし、だからこそ頭を抱えることしか出来ない。
/ ,' 3「......どうすれば」
もうどうすれば良いか分からないと、頭を掻きむしり、ベッドにうずくまる。
こんな姿、決して誰かに見せることはできない。
そしてこの悩みも、打ち明けることなどできない。
弱々しい姿を見せるわけにはいかないのだ。
彼はこの国、最強の国ルナイファの、帝王なのだから。
322
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:23:50 ID:BT2yeVcI0
トウキュ王国
1463年12月1日
ξ゚⊿゚)ξ「......」
この日、トウキュから離れるいくつかの船があった。
その船には多くの子供が載せられていた。
ξ゚⊿゚)ξ「......はぁ」
そのうちの一人であるツンは、小さくため息をつく。
思い出すのはつい先ほどのこと。
学徒動員にて集められた子供達が、広場に集められたかと思うと、一人の兵がこう述べたのだ。
『君たちは本国の部隊に配置転換となった。急だがこれより、移動を開始してもらう』
いきなりの発表に、集められた皆がざわついていた。
それもそのはずである。
元々本国に人が足りるからとこちらに来ていたはずなのだ。
これから制圧する地域の安全が確保できたら向かう、それが当初の予定であったはずなのだ。
323
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:24:37 ID:BT2yeVcI0
それが、急に国へ帰る?
突然の方向転換に皆、戸惑いを隠せない。
そもそも最近の軍の動きがおかしいと、何人かの学徒は感じていた。
通常ではあり得ない規模の艦隊が動き、またそれに伴い、多くの兵が走り回っていた。
何かがあったのではないか、とまことしやかに囁かれ、若干の不安が生まれ初めていたところに、今回のこの発表。
多くの学徒は本国に帰れると喜んでいたが、ツンはそうではなかった。
何かおかしい。
それが何かは、彼女にはわからなかったが決して消せない小さな不安が生まれていたのだ。
324
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:09 ID:BT2yeVcI0
ξ゚⊿゚)ξ「......まあ、いいか」
とはいえ、自分が何を悩んでも変わらない。
だから気分を入れ替え、帰れることを喜ぼう。
そう彼女は考え、離れていくトウキュを眺める。
小さくぼやけていくその島国は、いい場所であった。
港の活気もただそこにいるだけで楽しかったし、海も綺麗であり、夕日の沈む景色はまさに絶景。
次に訪れるとしたら、このような仕事ではなく、皆との旅行で来たい―
本国にいる、友人達の顔を思い浮かべ、小さく笑う。
折角帰れるのだから時間を見つけて、皆と会いたい、そして今の話をしようか。
そんな小さな楽しみで胸を膨らませ、気がつけば不安は消えていたのだった。
325
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:32 ID:BT2yeVcI0
続く
326
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 16:07:34 ID:pLAY8uzA0
乙
327
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 17:12:13 ID:.pjEkWbM0
乙乙
いつまでも戦争してないで落とし所を探したいってのはわかる
328
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:03:16 ID:0AQH8Zu20
ルナイファ帝国 軍務省
1463 年12月12日
この日もプギャーは一人、苛立ちを隠せずにいた。
思い出すのは数日前に行われた会議。
この国の行く末を決めるそれは、終始無能な輩の弱気どころか売国とも言える行為で幕を閉じた―
少なくとも彼の中ではそうなっている。
(# ^Д^)「奴らめ......人間ごときに!!エルフの、ルナイファの誇りは何処へ行ったんだ!!」
世界を征服し、一つにまとめ、全てを統率するためにルナイファは存在しているのだ。
それが、どういうことか。
奴らは弱小とも言える人間に怯え、不遜にも我々に反逆をしたと言うのにやり返すどころか、亀のように引きこもると言い始めたのだ!!
もうこの国にまともなのは、自分だけなのではないか。
そんな不安が、プギャーの脳裏によぎる。
329
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:04:21 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「......しかし、まだ良かった方か」
そう呟き、机の上に置かれた魔信を手に取る。
会議の前日、この魔信に一つの連絡が入った。
その送り元は、ムー。
以前にもあった、講和に関する連絡が再度届けられたのだ。
そして、何たる幸運か。
それを聞いたのは自分だけだった。
もし奴らが、あの無能で臆病で態度だけがでかく、ろくな作戦も建てられない奴らがこれを聞いていたら。
考えただけでもプギャーは恐ろしくなる。
下手をすれば、我が国は世界の頂点に立つどころか、人間に頭を垂れ平伏することになっていたかもしれないのだ。
それを防いだ自分は、この国の救世主と言えるだろう。
330
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:20 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「とりあえずこれは握り潰すとして......こちらでも動かなくてはな」
この連絡については、国のために握り潰す。
誰にも聞かせてはならないと心に決め、彼は行動を開始する。
周りの無能には任せられない。
自分が国を救うのだと。
愛するこの国、ルナイファのために。
幸い、彼は優秀な人脈を持っている。
その人脈のお陰でこの立場にあるといっても過言ではない。
だから、動くことすら出来ない無能とは彼は違う。
彼は、動くことが出来るのだ。
( ^Д^)「まずは......こいつらか」
そうして彼は連絡をする。
彼の信頼する、国を愛する仲間達に。
彼は彼の考える、彼の愛する国のために、動き始めたのだった。
331
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:49 ID:0AQH8Zu20
アリベシ法書国 旧国境付近
1463 年12月16日
どうして、こんなことに。
一人の男がそんな思いを抱きつつ、森の中を走る。
自分が何処にいるかも分かっていない。
だが、今止まれば死んでしまうのではないか―
そんな強迫観念にかられ、もう息があがり、足がボロボロになっても止まることができなかった。
少し前まで、無敵であったはずの我が軍。
それが敵国ヴィップへ侵攻し、順調に領土を広げていたはずであった。
それが、何時からか。
敗北に次ぐ敗北。
まるで、ルナイファの支援が始まる前の自国に戻ったかのようであった。
332
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:06:10 ID:0AQH8Zu20
いや、実際はそれよりも酷いだろう。
あれだけあった大量の物資や兵器は気がつけば送られてこなくなり、広範囲に進軍していたアリベシの軍勢は補給が追い付かなくなっていた。
そうして、ただそこにいるだけの案山子と化したモララー達は当然のことのように敵軍にやられ、逃げることしかできなくなったのだ。
快進撃の仕返しと言わんばかりの敵の攻撃に、進軍したとき以上の速度で領土が奪い返されていく。
気付けばまた、モララーの故郷であったこの土地まで押し返されている。
そしてここにももう、敵と戦う力は残されていない。
(; ・∀・)「なんで......なんで......」
その疑問に答える者は誰もいない。
否、正確にはモララーの周りにもう誰もいないのだ。
皆、死ぬかはぐれてしまい、軍としての体面すら保てていない状態である。
(; ・∀・)「......助けて......」
そう、ポツリと彼は祈るように呟いた。
それが神に対してか、もしくはルナイファに対してかは彼にも分からなかった。
333
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:06:47 ID:0AQH8Zu20
ルナイファ帝国 南方港
1464年1月18日
爪'ー`)「またずいぶん増えてきたなぁ」
彼、フォックスは港の艦を眺めつつそう呟く。
ほんの少し前も、出撃のためにと多くの艦がひしめきあっていた。
それがいなくなりしばらく寂しくなるかと思いきやこの様子である。
前回の出撃も合わせるとこの国の大半の艦がここ、南方に集まってるのでは?
そんな風に感じられるほどの量である。
爪'ー`)「しかし、なんでだ?」
確かに、南方に召喚地が現れたのは知っている。
だが、その他に敵となるような国はない。
だというのに、ここまでの軍を用意する理由は何なのか。
334
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:07:36 ID:0AQH8Zu20
特に最近の軍の動きについての情報は少ない。
召喚地についてもどんな土地か、どのくらいの広さなのかなどもわからずじまいである。
出元の怪しい噂ならいくつもあるが、『神の国が現れた』だの『悪魔が現れたらしい』だの最早検討する価値もないようなものまで出回っている。
(゚、゚トソン「暇なの?フォックス」
そんなことをぼんやり考えていると、急に背後から声をかけられる。
気さくに話しかけてくる彼女に、彼は見覚えがあった。
爪'ー`)「ん?あぁ、トソンさん。そうか、こっちに来てたんですね」
(゚、゚トソン「えぇ、急に南方の警備にあたることになってね。それでボーッとなにしてるの?暇なの?」
爪'ー`)「あー暇、ちゃあ暇かな?」
(゚、゚トソン「なにそれ?」
335
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:08:07 ID:0AQH8Zu20
爪'ー`)「いやほら、今度は何のため艦隊が来たんだろうなぁ、って考え事しててさ。ある意味では忙しい、考え続けたせいで頭がボーッとしてあくひが止まらない」
(゚、゚トソン「暇なんじゃない」
爪'ー`)「まぁ......でも、さ。普通じゃないだろ、これ」
(゚、゚トソン「それは確かにね」
爪'ー`)「なにか聞いたりは?」
(゚、゚トソン「全くね。上に聞いても、なにも答えてくれない......というより、知らないようだし。今回の任務も防衛のためとしか聞いてない、期限も不明だもの」
爪;'ー`)「マジか......そりゃ、俺の耳に入らないわけだ。うーむ」
(゚、゚トソン「それで?眺めてて何か分かったの?」
爪'ー`)「なにも分からないことは分かったぞ」
(゚、゚;トソン「あほくさ......」
爪'ー`)「あ、でも......あれだ。今回の任務がめちゃくちゃ大切なことなのは分かるぞ」
(゚、゚トソン「ん?なんでよ」
爪'ー`)「そりゃ......あー」
336
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:08:53 ID:0AQH8Zu20
ふと思い出した、ロマネスクとのやりとりを口にしようとし、止める。
あの大魔術師が来るほど、今回の事象は大切なことであり、また口止めもされているのだ。
そのためフォックスは口に出そうになった言葉を飲み込み、適当にはぐらかす。
爪'ー`)「勘、かなぁ」
(゚、゚トソン「期待して損したわ」
爪;'ー`)「ひ、ひどいなぁ」
(゚、゚トソン「でも、まぁ......大切だってことは間違えなさそうよ」
爪'ー`)「ん?」
(゚、゚トソン「私達の他に、サスガ兄弟とか有名どころが動くみたいよ。デミタス様も動いているって噂もあるし」
爪;'ー`)「マジか?全部マジならそりゃ......ヤバいな」
(゚、゚トソン「そうよねぇ」
337
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:09:28 ID:0AQH8Zu20
有名な魔術師に加え軍のトップまで動いている。
敵などいないはずであった南方にここまでするなど本来あり得ない。
これまでも多くの艦や魔術師がここに集まり出撃していったのに、まだ足りないということなのか。
そんな敵が、いるというのか。
爪;'ー`)「......この国の主力ほとんどが集まってくるんじゃないか?」
(゚、゚トソン「それだけヤバいなにか、がいるってことじゃない?」
爪;'ー`)「......トソン」
(゚、゚トソン「なに?」
爪;'ー`)「死ぬなよ」
(゚、゚トソン「......」
急に膨れ上がった不安に、フォックスは思わずその様な言葉がもれる。
それに対し、トソンは何も答えなかった。
ただただ黙り、フォックスを見つめる。
沈黙が、続いていく。
338
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:09:58 ID:0AQH8Zu20
爪'ー`)「......トソン?」
(゚、゚トソン「......フォックス」
爪'ー`)「え?」
(゚、゚トソン「煙草」
爪'ー`)「は?」
(゚、゚トソン「持ってるでしょ?一本頂戴」
爪;'ー`)「え、あ、あぁ......ほら」
-y(゚、゚トソン「ありがと。あんたも吸いなさい。禁煙してるわけじゃないんでしょ?」
爪;'ー`)y‐「あ、あぁ......」
慌てて、煙草を口に加えて炎を灯す。
二つの煙草からゆらゆらと煙が上がり、それを加えた口は再び沈黙する。
何度か、煙をまるで深呼吸をする火のように吸い込み、吐き出す。
339
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:10:34 ID:0AQH8Zu20
それを何度かフォックスが繰り返していると、気がつけばトソンが小さく笑っていることに気がついた。
爪;'ー`)y‐「な、なんだよ」
-y(゚、゚トソン「ちょっとは落ち着いた?」
爪;'ー`)y‐「......」
-y(゚、゚トソン「ま、心配しなくても死ぬ気は無いわよ。それに、あんたに心配されるほど、ヤワなつもりもないわ」
爪'ー`)y‐「......そう、だな」
-y(゚、゚トソン「はい、というわけでこの話は終了ね。ほら、お金」
爪'ー`)y‐「え?あ、煙草代か?払ってくれるのか?」
-y(゚、゚トソン「んなわけないでしょ。相談料」
爪;'ー`)y‐「えぇー......煙草あげたじゃん。というか、これ単にタバコで落ち着いただけなような......」
-y(゚、゚トソン「ちっ。まあ、いいけどね」
舌打ちをしながらも楽しげに笑うトソン。
そんな様子にフォックスは苦笑いしながらも先ほどまでの不安が嘘のようになくなり、また煙を大きく吸い込んだ。
340
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:11:58 ID:0AQH8Zu20
ソーサク連邦 情報戦略室
('A`)「......以上が、現時点までに分かっているムーでの戦いの情報です」
ルナイファがムーでの衝撃で大きく混乱している中、ソーサクでも大きな混乱が生まれていた。
ムーでの衝突前に行われた度重なる情報の精査の結果では、今回の大規模派遣でムーの勢力は叩き潰されるとの予測がされていた。
ドクオを始めとして、何人かが敵の情報から痛みわけや拮抗、もしくはルナイファが撃退されるのではないかという予測をしていたが、人間にルナイファが負けるはずがないと笑って流された。
だが現実はドクオの予想の通り、いや予想以上に一方的にルナイファが敗北したのだ。
たとえ自国、ソーサクが全力で立ち向かっても大損害は免れないその戦力を相手にたったの一度の衝突で全滅に近い被害を与えたのだ。
信じがたく、また理解しがたい。
そんな現象が起きたこともそうだが、それ以上に人間が、人間ごときがその様なことを起こせるということを、信じたくなかった。
341
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:13:42 ID:0AQH8Zu20
ルナイファの敗北は、エルフの根幹とも言える魔法が敗北したと言い換えてもいいかもしれない。
種としてのプライドが、それを許せるはずがない。
(# ´∀`)「......」
特に、ソーサクでは魔法を研究を最も力を入れてきていたのだ。
その魔法技術力の高さがこの国の誇りであるのだ。
魔法に対するプライドの高さはルナイファを越えている。
前の敗北はまだ油断があったから、と無理やり納得できた。
だが今回は言い訳のしようがない。
真っ正面から、いや宣戦布告を引き延ばし、艦隊をムー近くまで寄せてるといつ不意討ちに近いことまでしたのに、負けたのだ。
342
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:14:33 ID:0AQH8Zu20
(# ´∀`)「あり得ない......あり得るわけがない!!」
声を荒げ、怒りに震える。
この国でも上位に位置する魔術師であるモナー。
彼がこれまでの人生で魔法に注ぎ込んできた時間は計り知れないほど。
魔法がこの世の全て、この世の中心であると信じてきたからできたことである。
だからこそ、彼は簡単には現実を受け入れることが出来なかった。
(;'A`)「モナーさん......」
(# ´∀`)「人間が......魔法が使えないものが、これほどっ!こんな、あり得るわけないだろう!!」
(;'A`)「ですが......事実です」
(# ´∀`)「く......まぁ......いい。奴らの情報について何か分かっているのか?」
(;'A`)「はい。どうやら今回の戦い、一方的に見えて人間側もかなり追い込まれていたようです。ムーにおける兵器関連の物資がかなり、枯渇しかけていたとの情報があります」
( ´∀`)「......なに?」
343
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:15:32 ID:0AQH8Zu20
クーからの情報により、ルナイファもかなりの善戦をしていたことが伝えられていた。
確かに冷静になって考えればあのような攻撃が可能な軍勢が、物資が潤沢であるならば敵の上陸など許すはずがない。
さらに言うなら射程外から全て叩き潰せるのだから被害など有りはしないはずであった。
だが、被害が出たという事実。
その事実は非常に大きいものである。
モナーもそれに気が付いたのか、先ほどまでの様子から打って変わり、静かに落ち着いた様子で報告を聞き、先を促す。
('A`)「事実、自陣に誘い込んでの自爆覚悟の攻撃までしていますから。ムーは召喚地にとって資源の供給源であり、一時的にも奪われるわけにはいかなかったため仕方なく、ということと思われます。このような方法をとらざる負えなくなるほどには追い詰められていたようです。ただ、実際どの程度まで追いつめられていたのかは......根本的に技術が異なるため正確に測る方法がなく不明です」
( ´∀`)「ふむ......なるほど」
(;'A`)「また人間達の兵器がどのくらいの時間でどのくらいの量を作ることができ、また輸送できる量も不明なため、今後の予測についても出来ません。概念が異なりすぎて想像すらできません」
344
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:16:54 ID:0AQH8Zu20
魔法であれば、艦などの製造には時間がかかるが、魔法を使うだけならば最悪魔石さえあれば使用者の技量によっては問題なく使用できるため、加工の手間暇など存在しない。
だが、聞けば人間の攻撃には資源があっても何かしらの手を加えなければいけないという情報がこれまたクーより入ってきている。
魔法が常識の彼らにすると何とも不思議な感覚になるが、そういうものなのだろうと納得するしかない。
( ´∀`)「そうか......良い情報だ。物資の件は奴らと戦う際に役に立つな」
(;'A`)「......は?」
信じられない言葉が聞こえ、ドクオは思わず聞き返してしまう。
聞き間違いであることを願いつつ、ドクオは質問を続ける。
(;'A`)「敵、とは?まさか、奴らと、召喚地の人間と戦うと?」
( ´∀`)「当たり前だろう。奴らは、我らエルフ、そして神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
(;'A`)「......」
345
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:17:44 ID:0AQH8Zu20
あり得ない。
自国より強い、ルナイファですら勝つことの出来ない国に、なぜ戦いを挑もうと言うのか。
プライドのために、国を滅ぼすというのか―
そんな考えが、ドクオの頭の中をぐるぐると巡る。
そして思い出されるのは、クーからの提案。
人間たちとの同盟。
前まではあり得ないと思っていたが、ルナイファとの戦いを聞き、今ではドクオもその選択が正しいのではないかとも考え始めていた。
だが、目の前の現実に改めて不可能なことなのかもしれないと感じてしまう。
( ´∀`)「......ドクオ、お前の考えていることもわかる」
(;'A`)「え?」
( ´∀`)「確かに、奴ら、異界の人間どもの力は強大だ。悔しいが、現時点で奴らと戦ったところで勝ち目は無いだろう」
('A`)「っ!」
346
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:18:17 ID:0AQH8Zu20
何故それがわかっているのに、敵対しようというのか―
思わずそう叫びたくなる気持ちを抑え、話の続きを促す。
( ´∀`)「だが、奴らは世界の敵なのだ。我々、エルフと相容れるものではない。いつかは、戦う運命にあるのだよ。奴らと......人間とエルフが分かり合うことなど、不可能だ」
('A`)「それは......」
人間と分かり合うことは出来ない。
確かに、それもまた事実なのではないかとドクオも感じる。
そもそも根底にしている技術や住む世界が違い過ぎるがため、常識も全く異なるはずである。
さらにそれらはこちらの命を一方的に奪うことが可能な力を持つのだ。
そんなもの達と、それも国同士で信頼し合うことが出来るのか。
そう聞かれてしまうと、ドクオも簡単に頷くことは出来なかった。
だからと言って、敵対することに納得できるかと言えば、別問題である。
347
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:18:41 ID:0AQH8Zu20
('A`)「......いつかとは、何時になるのでしょうか」
( ´∀`)「少なくともまだまだ先だろうな。それに、戦うと言っても真っ正面から戦うわけではない。工作や情報戦......やりようはある」
('A`)「......」
だが、結局はそんなことをしていてはいつかは正面から敵対することに変わりはない。
確かにいつかは追い付ける日が来るかもしれない。
だが、そこまでして得られるものは何なのか。
ドクオには分からなかった。
( ´∀`)「さらに、ルナイファの雷槍で奴らを倒せることも分かっているんだ。ルナイファを超える、我らの技術でこの魔法の研究を進めていけば、奴らなど......」
モナーの話は続く。
如何に奴らを倒すか、夢物語を。
だが、ただでさえ敵との差がある現状。
その差が簡単には埋められるはずがない。
348
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:19:01 ID:0AQH8Zu20
確かに、簡単に信用できる相手ではない事は理解できる。
ドクオ達、エルフがやってきた事をいつやり返されてもおかしくないのだから不安も大きいだろう。
だからこそ同盟等以ての外で、強力な力を持つ人間達を抑え込むことが自国の平和に繋がるというのは考えとして分からなくもない。
ドクオもそうだが、根底にある不安をそうでもしなければ拭いきれないのだ。
だがルナイファですら勝てない相手に、自国のみではまず間違いなく滅びの道を辿るのみ。
そんな悪夢なようなことが始まろうとしているのではないか。
その事実にドクオはただ、絶望することしか出来なかった。
349
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:19:25 ID:0AQH8Zu20
続く
350
:
訂正
:2023/07/01(土) 14:22:23 ID:0AQH8Zu20
>>344
訂正前
( ´∀`)「当たり前だろう。奴らは、我らエルフ、そして神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
訂正後
( ´∀`)「当たり前だろう。我らはエルフであり、奴らは人間、神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
351
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 16:11:58 ID:PVvgyI6U0
乙
352
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 17:15:00 ID:BeLF1mRU0
乙
本当に自分勝手な種族だねえ
自分達がしょうかんして
353
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 17:16:53 ID:BeLF1mRU0
ごめん途中で送信しちゃった
召還して奴隷化しようとしなきゃこんなことも起こんなかっただろうに
354
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:32:26 ID:mNrFmToc0
ニータ王国 王城
1464年1月23日
シラヒーゲはこの頃、慢性的に続く頭痛と腹痛に悩まされていた。
原因は分かっている。
ルナイファである。
いずれ来るであろう、彼の国との争い。
それを乗り越えるか、回避するかの方法を模索していたが一向にいい案が見つからない。
ただただ無為に時間だけが過ぎていく。
ルナイファが召喚地に取り組んでいる間にどうにか出来なければこの国の未来はない。
そもそもやろうと思えばあの国であれば、人間との戦争程度は朝飯前みたいなもの。
人間達を征服しつつ、片手間にニータと戦争することも問題なく出来る筈である。
つまり、もういつ攻めいられてもおかしくないはずなのだ。
355
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:33:05 ID:mNrFmToc0
だというのに、全くの無策。
ソーサクとの同盟は予想通り進んでおらず、アリベシとヴィップは互いの争いで手一杯。
周辺の小国家などを巻き込むことは出来そうではあるが、それらが加わったところで焼け石に水であろう。
ルナイファの攻撃性から考えるに集められた同盟国連合も緩衝地帯としての働きも期待できそうもない。
そんなこんなで頭をいくら働かせても全く明るくならない未来に遂にはシラヒーゲの身体が限界を迎えていたのだ。
すっかり弱々しくなった顔に、配下たちも国の行く末を感じ、さらに王城は暗い雰囲気に包まれていた。
そんな王城にて、一つの足音が響きわたる。
ドタドタと慌てるようなその音。
その音が近づいてきたかと思えば、バタンと大きな音と共に扉が開き、一人の男が部屋に入ってくる。
(;‘_L’)「し、失礼します!!陛下!!」
( ´W`)「フィレンクト?どうしたそんなに慌てて、お前らしくない」
356
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:33:48 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「え、あ!も、申し訳ございません。とんだ失礼を!!」
( ´W`)「いや、構わんよ。それほど慌てているのだろう?気にせず続けてくれ」
(‘_L’)「は、はい......」
荒れる息を整えるように小さく深呼吸し、フィレンクトは話出す。
(‘_L’)「陛下、以前報告していたルナイファの大規模な軍事行動について、その後が判明しました」
( ´W`)「......その件か」
ついに来たか、とシラヒーゲは襟元を正す。
いずれ来るであろうと覚悟はしていたが、まだルナイファへの対策は影も形もない。
いや、まだというのは正しくないかもしれない。
そんな方法は、存在しないかもしれないのだから。
357
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:34:11 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「遂に、奴らの侵攻が完了したということかな?それで?奴らはいつ、こちらに」
(;‘_L’)「ち、違うのです、陛下」
( ´W`)「ん?何がだ?」
(;‘_L’)「負けたのです」
( ´W`)「負けた?何がだ?」
(;‘_L’)「ルナイファが、です」
( ´W`)「ん?んん?」
いまいち、フィレンクトが何を言っているかが分からないシラヒーゲはついおかしな声を出してしまう。
どういうことかと、そのまま頭で整理をしようとする。
だが、言葉の意味を理解してもどういうことなのかが余計に理解できない。
358
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:35:18 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「どういうことだ?負けたとは」
(;‘_L’)「そのままの意味です。あの大規模な艦隊が......負けたのです」
(; ´W`)「......いや、馬鹿な。そんなことがあり得るわけが......」
(;‘_L’)「私も信じられません。ですが、事実のようです」
(; ´W`)「あ、あの規模の軍勢だぞ?あの、ソーサクが相手でも痛みわけならまだしも敗北などあり得ないだろう?」
(;‘_L’)「繰り返しになりますが、確実に敗北した、とのことです」
(; ´W`)「......なぜ、そう言い切れるのだ」
(;‘_L’)「はい、それは南方海域の国々に潜んでいる諜報員からの情報を精査した結果......あの大規模艦隊がほぼ、全滅したと思われるからです」
(; ´W`)「全滅だと!?」
凄まじい驚愕が、シラヒーゲを襲う。
確かに、情報では属国から集めた艦など寄せ集めの艦もあった。
それらが全滅した、という一部分の部隊が、というのならば理解できる。
だが、ルナイファの圧倒的な力を集約した主力を含む艦隊が全滅など、どうすれば出来るというのか。
想像の世界でもシラヒーゲにはそれを作り出すことが出来ないというのにそれが現実で引き起こされたというのだ。
359
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:36:02 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「生き残りも確認されていますが、出撃した艦数から考えればごく一分であったとのことです」
(; ´W`)「本当、なのか?」
(‘_L’)「はい。複数の情報筋から同様の内容が来ており、確実かと」
(; ´W`)「なんという......」
(‘_L’)「また、この大規模艦隊についてなのですが」
( ´W`)「まだ何かあるのか?」
(‘_L’)「はい、どうやら攻撃目標は、ムーであったとのこと」
( ´W`)「......ん?ムーは奴らの属国だろう?なぜそこを......」
(‘_L’)「どうやらムーを制圧した謎の勢力があり......奪還のため、攻撃しようとしたとのことです」
(; ´W`)「......待て待て、ムーが制圧されただと?一体いつ......」
(‘_L’)「少なくとも7月の末には制圧されたとのことです」
(; ´W`)「その情報、なぜ今まで入って来てないのだ?」
(;‘_L’)「それなのですが......入ってきてはいたようなのです」
( ´W`)「それならばなぜ報告がない?」
(;‘_L’)「その情報が荒唐無稽であり、『一日と掛からずムーが制圧された』、とのことであり得ないと切り捨てられていたようです」
(; ´W`)「それは......う、うーむ......確かに信じられんが、せめて一言共有してほしいものだな」
360
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:36:37 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「ええ、今回の情報からこれも事実であった可能性が非常に高いと考えられます。そもそも、今回の大規模派遣についても理由が不明でしたが、ムーを一日で制圧するほど強力な勢力を潰すため、と考えれば納得がいきます」
( ´W`)「なるほど、な」
確かに、フィレンクトの言う通りに考えれば納得が出来る。
そしてムーを一日で制圧するほどの力を持つ勢力ならば、あの艦隊を叩き潰すことも可能なのかもしれない。
そして、シラヒーゲはある一つの可能性を思い付く。
ルナイファを圧倒する力を持ち、かつルナイファと敵対する国家。
それはまさに、自国が求めていたものではないだろうか?
( ´W`)「......フィレンクト」
(‘_L’)「は、なんでしょうか」
( ´W`)「して、その勢力、ムーを占領した国家はどこなのだ?」
(‘_L’)「それなのですが......現時点では不明です」
フィレンクトの言う通り現在、ニータの諜報員から上がってくる情報のなかには謎の勢力を特定できるようなものはなかった。
とはいえ、いくつか『あり得ない』情報はあるのだが、精査が完了しておらず、そんな状態ではとてもではないが陛下に言えるはずもなかった。
361
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:37:07 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「そうか......ならば全諜報員に通達せよ。この謎の勢力を調べ、接触せよ、と」
(‘_L’)「はっ、畏まりました」
( ´W`)「いいか?決して無礼のないようにとも付け加えてくれ。彼らは我が国の救世主になるやもしれんのだ」
(‘_L’)「......なるほど。間違いなくお伝えします」
( ´W`)「頼んだぞ」
そう言い、シラヒーゲはフッと息をつく。
気がつけば久しぶりに頭痛と腹痛が無くなっている。
思いもしないところから生まれた希望。
自国の救いの道が現れたのだ。
この道を踏み外せば、どうなるかは分かりきっている。
謎の勢力がどんな国か、まだ分からない。
だが、既に覚悟は決まっている。
例え悪魔の国でも構わない。
ルナイファを圧倒できる相手なのだ。
最悪の場合、服従を迫られるかもしれないが、それでもルナイファに滅ぼされるか支配されるよりは断然に良い結果になるはずである。
自国の民もルナイファを倒すためだと言えば、ある程度の納得をするであろう。
それほどにこの国のルナイファへの印象は最悪なのだ。
全てはこの国の存続のため。
シラヒーゲは王として、この国を守ることを決意した。
362
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:37:49 ID:mNrFmToc0
ルナイファ帝国 海軍本部
1464 年2月8日
デミタスも、どこかの国の王と同じく頭痛と腹痛に悩まされていた。
さらには元から薄くなり始めていた頭部も、抜け毛が増えており、ストレスが加速している。
そんな彼の耳に入る情報はどれも良いものとは言いがたい。
また本土の防衛を行うとは言ってたものの、射程が大きく異なると思われる相手にどう戦えば良いかが全く思い浮かばない。
魔壁に頼った捨て身の特効による接近か、数に任せたごり押し。
あと出来ることとすれば大規模な魔方陣により、偽装魔法を使って艦を隠しての不意討ちくらいなものか。
どれも多少のダメージは与えられたとしても戦況を決めるようなものになるとは考えづらい。
363
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:38:27 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「はぁ......」
もう何度目か分からないため息をつきつつも、必死に頭を働かせる。
認めたくはないが、デミタスははっきりと敵の強さを理解している。
自国を上回り、単純な戦いでは勝ち目がないということも。
そんな相手に勝つためには、敵の戦意を挫くか、敵の慢心を誘うこと。
もしくは敵の物資枯渇を狙い、広大な土地を利用した焦土作戦か。
(´・_ゝ・`)「敵は一国なのだから我が国の領海、領土を制圧しきることは実質的に不可能なはず......敵を誘いこんで......だがそのためにはやはり、南部を捨てる必要があるか」
なんにせよ、敵の息切れを待つことが最も得策のように感じられる。
そのためにこれからどれだけの犠牲を払えば良いか。
そもそもこちらがそんなに体力が持つのか。
耐えきれたとして、国として立ち直れる余力を残すことが出来るのか。
考えるだけで頭痛が増してくる。
とはいえ、なにもしないわけにもいかない。
364
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:38:53 ID:mNrFmToc0
どうしたものか―
そんな答えのでない考えを巡らせていると、不意に扉のノックする音が聞こえた。
(´・_ゝ・`)「ん?どうぞ」
( ФωФ)「すまんな、忙しいところ」
(´・_ゝ・`)「ロマネスク殿、どうかしましたか」
( ФωФ)「いやなに。ちょっとした報告と様子を見に......大丈夫であるか?」
(´・_ゝ・`)「え?」
( ФωФ)「顔色が優れんようだが」
(´・_ゝ・`)「良くは、ありませんな。朝から、いえ、もうずっとですね。嫌な情報ばかりで」
( ФωФ)「......そんなに悪いのか、戦況は」
(´・_ゝ・`)「......えぇ」
その言葉に、ロマネスクの表情も暗いものとなる。
ある程度、予測してはいたのだろうが一向に改善する気配のない現状に彼もまた、危機感を覚えているのだ。
365
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:39:26 ID:mNrFmToc0
( ФωФ)「詳しく聞いても?」
(´・_ゝ・`)「......そうですね。口外しないということであれば」
( ФωФ)「約束しよう」
(´・_ゝ・`)「そうですか......では。まず、先月よりトウキュからの連絡が途絶えました」
(; ФωФ)「なっ!?」
(´・_ゝ・`)「恐らくですが、召喚地からの攻撃を受けたものと思われます」
(; ФωФ)「......全滅した、ということか?」
(´・_ゝ・`)「えぇ、念写にて確認したところ、全滅と言ってもいい状態でした。状況を見るに、敵への損害は与えられていないでしょう」
(; ФωФ)「それは、不味すぎるな。トウキュが攻撃を受けたというなら次は確実に我が国だ」
(´・_ゝ・`)「私もそう思います。南方の海域を全て掌握されたと言っても過言ではありませんから......あぁ、さらに南方についてですが」
(; ФωФ)「なんであるか」
366
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:40:33 ID:mNrFmToc0
(´・_ゝ・`)「ムー南西にある我が国の支配下にあった国家群ですが、全て事実上の降伏をしております」
(; ФωФ)「......」
(´・_ゝ・`)「先の出撃で属国軍と共に参戦していましたが、全滅。さらにトウキュへの攻撃を見て、人間側に交渉を持ち掛けたようです」
(; ФωФ)「受け入れられたのか?」
(´・_ゝ・`)「そのようですね」
敵は理性的です、とデミタスは呟くように言う。
その心中では、自国ももしかすると交渉次第でなんとかなるのではないかと言う淡い期待があった。
もし交渉ができたとしても、それを受け入れられる自国の民はどれだけいるかが問題なのだが。
( ФωФ)「......降伏するにしても、一撃を与えんとどうにもならんだろう」
そんな心を見透かしたように、ロマネスクは言った。
彼自身もこのままいけば国がどうなるか、案じている。
だが、このまま降伏するとなればどんなことを要求されるか分かったものではない。
そんな状況で降伏するのは誰も納得などしないだろう。
367
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:41:21 ID:mNrFmToc0
そもそも先の戦いに入る前に敵側からの要請を一方的に突っぱねるどころか不意打ち紛いのことまでしてしまったのだ。
敵が交渉のテーブルについてくれるかすら不明である。
そうなるとせめてなにか、敵を交渉の席に向かわせる、譲歩させるような材料がいるのだ。
―なお彼らが知らないだけで、プギャーの元には講和に向けた要請が届けられているのだが。
(´・_ゝ・`)「一撃なら......もう与えたでしょう。ムーにて、ダメージは与えています」
( ФωФ)「分かっている。が、その程度では厳しいであろう。せめて、局地的にでも勝利を納めなければ」
(´・_ゝ・`)「確かにそうですが......現実的に、何ができますかね?」
(; ФωФ)「......その事で、報告があったのだ」
(´・_ゝ・`)「え?あぁ、そういえば報告があると言ってましたね。それで、報告とは?」
( ФωФ)「あぁ。敵に対抗するための新魔法の開発を進めていた件である。まだ試作段階ではあるが使用できる形にはまとまった」
(´・_ゝ・`)「っ!し、新魔法、ですか!完成したのですか!?」
その言葉に、デミタスの顔は若干明るいものとなる。
戦争と技術革新は関係が深い。
敵に対して技術的優位を保つ必要があり、そのためには技術の発展が不可避だからである。
368
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:42:32 ID:mNrFmToc0
そして特に今回に関しては、全くの思想も技術も違う相手、それもこれまでの戦いから察するに格上の相手である。
そんな相手を想定した場合、これまでとは全く異なる魔法が必要となることから急ピッチで開発が進められていたのだ。
それが出来上がったと言うならばもしかすればこの状況を覆すことも可能かもしれないのである。
(´・_ゝ・`)「そ、それでその新魔法というのは!?一体どのような......」
(; ФωФ)「......ここに纏めてある」
そう渡された書類にデミタスはすぐに目を通す。
だが、この局面である。
勘違いはしてはならないと、一言一句しっかりと脳内に叩き込んでいく。
そうして読み進めるうちに一変、段々と顔が暗いものとなっていた。
(;´・_ゝ・`)「......これは」
(; ФωФ)「すまぬ......それが、限界であった」
(;´・_ゝ・`)「そう、ですか」
互いにため息をつく。
確かに、この新魔法であれば敵に遠方から一方的にやられることなくこちらからも一撃、与えられるかもしれないものではある。
だが、それだけであった。
369
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:43:01 ID:mNrFmToc0
戦況を覆しうる、彼の期待したものとは、かけ離れたものであったのだ。
つまり、もう手詰まりということか―
そんな考えにデミタスは思わずうつむきそうになったその時、ロマネスクの手にまだ書類が残されていたことに気がつく。
(´・_ゝ・`)「......それは?」
( ФωФ)「む?あぁ......これか」
デミタスの言葉にロマネスクは何か困ったように眉を寄せる。
その様子にデミタスは首をかしげつつ、言葉を続けた。
(´・_ゝ・`)「あぁ、いえ。別に無理に見せてほしいというわけではないんです。ただそれも、新魔法に関わるものかと思ったので」
(; ФωФ)「いや......うーむ、その、であるな、一応は......新魔法の、書類なのであるが......」
(´・_ゝ・`)「?」
370
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:44:05 ID:mNrFmToc0
その答えにますますデミタスは頭に疑問符を浮かべる。
この局面、新魔法に関わることはどんなことでも共有するべきであろう。
それなのに見せようとしないロマネスクの態度は実に不可思議であった。
(´・_ゝ・`)「えっと、なにか、見せられない理由でも?」
(; ФωФ)「......いや、うむ。すまない。貴殿なら、問題ないであろう。これを」
(´・_ゝ・`)「はぁ......ん?召喚魔法の、応用?はて......」
一体何なのかと、デミタスは再び資料に目を落とす。
そうして読み進めていくうちに、資料を握る手が震え出す。
(;´・_ゝ・`)「こ、れは......」
―狂ってる。
それが、最初に浮かんできた感想であった。
ここに書かれていることが全て本当なのだとしたら、その効力は他のどんな魔法よりも恐ろしいことになる。
371
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:44:56 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「これは、本当、なのですか?」
(; ФωФ)「うむ......また開発者から即時の使用を促されている」
(;´・_ゝ・`)「馬鹿なっ!こ、こんな、こんな魔法を使ったら......」
(; ФωФ)「......敵だけでなく、我が国......いや、世界が崩壊しかねん。この魔法の開発者も、それは理解していた」
(;´・_ゝ・`)「そこまでわかっていてなぜこんな魔法を......」
( ФωФ)「我が国には......それだけ......世界が滅びようとも敵を滅ぼすことを選ぶものたちがいる、ということらしい」
(;´・_ゝ・`)「......」
絶句。
その事実は何と恐ろしいことか。
ただのプライドにより国だけでなく、世界までも滅ぼすことを厭わない。
それが国の上層部にいるとなれば、簡単に国の歯車は狂い、暴走する。
その暴走の先に待つものは破滅のみ。
それも、張本人だけでなく周りのもの全てが巻き添えとなるのだ。
372
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:45:43 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「こんな魔法を......使わないよう、どうにかしなくてはいけませんね」
(; ФωФ)「そう言ってもらえ安心したである。もし使用すると言われたら......」
(´・_ゝ・`)「あぁ......そういうことでしたか」
なるほどとデミタスは納得する。
この国の軍で海においてはトップである彼がこの魔法を使うなど言い出せば簡単に国は動いてしまう。
だからこそ、信頼する相手でもどうしてもこの魔法を伝えるのに躊躇ってしまっていたのだ。
(´・_ゝ・`)「......まぁ確かに、こんな魔法に頼らなくては最早戦況は覆せないとは思いますがね」
(; ФωФ)「っ!」
(´・_ゝ・`)「......すみません、冗談になりませんね。聞かなかったことにしてください」
( ФωФ)「......うむ」
(´・_ゝ・`)「ですが、少なくとも海では本当に手がないというのは冗談ではないんですよね......敵の数が少ないことを祈ることくらいしか出来ることがない」
( ФωФ)「あの、前に話していた通商破壊は?」
(;´・_ゝ・`)「むしろこっちがやられています。件の見えない攻撃によりどんな船も紙屑のごとく沈められます......ただ敵の輸送船舶に護衛を付けさせ、行動を制限することは成功しているようですが」
(; ФωФ)「......持久戦でも、不味いことになりそうだな」
373
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:46:22 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「ええ。ただでさえ冬で厳しいところに南方の属国を失ったわけですから物資がとてつもなく厳しい状況です。一方、敵はムーだけでなく南方国家からの補給ルートを確保したわけですから、もしかすると資源の余裕がないのは我が国だけになった可能性もあります」
(; ФωФ)「......」
(´・_ゝ・`)「そもそも......この戦いが長引けば、国内の不穏な連中が一体何をしでかすやら分かったものじゃありません」
(; ФωФ)「......確かにな」
(´・_ゝ・`)「私は海軍の人間なので海のことしか分かりませんが......我々の未来は明るくないでしょうな」
静かに首を横に振るデミタス。
窓の外をみると、夕日が沈もうとしている。
どんどんと暗くなるその景色はまるで、今の我々のようではないか―
遠くではまた艦が沈んでいるのであろう。
それらの艦は、ルナイファのものか、それに属するもの。
敵のものは恐らくない。
今はまだ、遠くで済んでいる。
だからこそ、まだルナイファの多くのものはその脅威に気付いていない。
だが奴らは一歩一歩、着実に近づいてきている。
南方の海域はもう、敵の手に落ちた。
となれば次の目標はここ、ルナイファ本土しかないだろう。
国に迫る影は、もうすぐそこまで、来ていた。
374
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:46:46 ID:mNrFmToc0
続く
375
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 12:09:46 ID:8baPWU0k0
乙
同盟が来る気配
世界が壊れる新魔法はやっぱ核かな?
376
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 14:04:26 ID:rgCxujVA0
おつです
377
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:44:52 ID:O.NHrrJk0
ルナイファ帝国 帝都
1464年2月12日
世界で最も栄えた場所であり、世界の全てが揃うとまで言われた帝都。
そんなこの地に異変が現れだしてから数ヶ月。
この異変は収まるどころか拡大を続けている。
流石の帝国の民も、何かがおかしいと感じるものが増えつつあった。
とはいえ、何があったかを知るものはいない。
若干の混乱はありつつも、なんとか普段と変わらない生活を送ろうとしていた。
378
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:45:37 ID:O.NHrrJk0
( ^ω^)「おー......」
そんな人々の中を、ブーンは歩いていた。
友が皆、学徒動員でこの帝都を離れ、その寂しさを紛らわせようと人通りの多く賑やかなこの街を散歩することが日課となっていたのだ。
( ^ω^)「......」
だからこそ、彼は気づく。
街から段々と物がなくなっていることに。
初めは色とりどりのものに目移りし、様々な匂いに腹を空かせた物だ。
あれはツンに似合いそうだとか、この味ならショボンも好きだろうなとかそんなことを考えながら過ごす日々は寂しいながらも楽しいものであった。
だが、それが日を追う毎に少なくなっている。
多くの人は変わらずに生活をしているが、だからこそ違和感が出てくる。
沢山あったはずの屋台も気付けば何店も閉じている。
379
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:47:04 ID:O.NHrrJk0
ブーンは商売のことが分からなかった。
だから、なぜこのようなことが起きているのか、皆目検討もついていない。
だが、妙な胸騒ぎがしてくるのだ。
楽しく胸が躍る散歩はいつしか、不安に胸が締め付けられるものに変わりつつあった。
( ^ω^)「......皆、どうしてるんだろう」
今どこで、何をしているか分からない友の姿を思い浮かべ、ポツリと呟く。
不安そうな彼の声は、辺りの楽しげな喧騒が掻き消す。
だが普段と比べれば小さくどこか寂しいそれは、彼の胸のうちの不安を消すには至らなかった。
380
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:47:52 ID:O.NHrrJk0
ムー国 旧統治局
1464年2月24日
川 ゚ -゚)「......ふぅ」
かつてはこの国の人間を統治するために作られた統治局。
今では召喚地の人間達が、この国、また周囲の国とやり取りを行うための場となっていた。
その一室でクーは疲れたように息を吐く。
つい先ほどまで、召喚地とムー周辺国の会談のため、翻訳魔法を使用し、また人間達のフォローをしていたためだ。
彼女自身、政治に精通しているわけでもないためかなりの心労であったが、人間たちに恩を売りたい、という気持ち―
というよりも最早人間達の一員として彼女は仕事をし始めていた。
381
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:48:36 ID:O.NHrrJk0
本国に帰る目処は立っておらず、さらには自分の報告も聞いてくれてはいるが、方針として友好的に関わろうとしていないことをドクオから聞いている。
確かに人間に対する不信感やあまりに違いすぎる技術ゆえに近づくことへの危険性がないわけではない。
だがそれでも自身の考えと違う国の立場を受け入れられるかと言えば別問題である。
それならばと、帰らずここで自分の知りたいことを知るために動いた方がいいのではないかと考え始めていたのだ。
川 ゚ -゚)「いっそのこと、亡命をしてもいいかもしれないな」
なんとなく呟いた独り言であったがいざ言葉にするとどうだろう。
物凄く素晴らしく、また正しい選択とすら思えてきていた。
382
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:49:27 ID:O.NHrrJk0
少なくともソーサクは、よほどのことがない限り人間達との友好関係を築くことはないだろう。
なぜ、と思うと同時にやはりとも感じてしまう。
下手なプライドは身を滅ぼすだけと思いつつも、彼女もソーサクの民である。
その思いは理解できるものでもあった。
彼女もあの戦場にいなければ、こうも簡単に考えは変わらなかったであろう。
だからこそ、ほんの少し残念な気持ちもあるがこれはもうしょうがないのだという諦めの感情も生まれ始めていた。
川 ゚ -゚)「しかし......まさか、弱小国の方が正しい判断をするとはな」
ムー南西に位置する国家群。
ルナイファの属国や友好国であったが、一方的な敗北と制海権を失ったことにより、人間たちへの侮りの態度から一転し、許しを乞うように平伏した。
条件は色々と付けられたものの、全て受け入れられ、講和が成立することとなった。
手痛いダメージは負ってはいるものの、なんとも羨ましい限りであるとクーは考える。
383
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:51:27 ID:O.NHrrJk0
仲間のいない、彼の国と初めてこの世界で国としての繋がりを持つことができたのだ。
出会いは最悪だが、そのアドバンテージは大きい。
属国になるにしろ、植民地になるにしろあれほどの力を持つ国が行うとなれば今とは比べ物にならないほど発展することだろう。
事実、既に資源の運び出しが始まっており、それに伴う港の改造など、発展に向けた動きが見られている。
その先に待つ未来、そこでも我が国は果たして列強と呼ばれているのか。
召喚地と敵対しなくても、彼らの持つ技術を受け入れるか受け入れないかで未来は大きく変わってくる。
そして、ソーサクがそれを受け入れられるかと言えば微妙なところである。
魔法を捨てることとなれば国の柱を失うようなものであり、簡単に捨てられるはずがないということはクーもよくわかっている。
もし捨てることになれば旧来の技術を元に仕事をしてきた者達は職を失い、国内の産業に混乱が訪れることは避けようがないだろう。
まさか強みであったはずの魔法のせいで、技術を受け入れづらい状況になるとは考えたこともなかった事態である。
384
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:52:22 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「......うーむ」
あまり政治に詳しくない自分でも冷静になって考えてみると事がそう簡単ではないということがなんとなく分かり始めていた。
そうなると本気で亡命もありなのではないかと考えつつ窓の外を眺める。
遂に始まる本格的なルナイファへの反撃の準備が進められている眼前の基地には多くの人間が慌ただしく動いていた。
これまでに見たことのないほどの『ひこうき』が並ぶ姿に、彼等の本気度合いが伺える。
川 ゚ -゚)「......回答期限まで、あと少しか」
そんな破壊の化身が向かう先、ルナイファへは何度も講和に向けた話し合いの提案が行われていた。
だが、一切の回答はなくこちらが設定した期日に迫っている。
385
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:52:59 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「ふむ、大国ゆえに動けず、か」
降伏した国々と相反するように、強気な姿勢を見せるルナイファにクーは若干呆れてしまう。
彼等はソーサクと違い、現に追い詰められているというのに動くことをしないのだ。
それがプライドのためなのか何なのかは分からないが、その先にあるものが分からないほどあの国は愚かなのか―
プルルル......
そんなとき、部屋の中に聞きなれない音が響きわたる。
川 ゚ -゚)「おっ、と......」
部屋に備え付けられ、なり響くそれは人間が作った魔力を使わない魔信、『でんわ』であった。
魔力を用いず、遠くのものと話せるというなんとも不思議な道具であり、初めて見たときは何度もいじくり回したものだが、如何せん話す相手もおらず実際に使われることはほとんどなかった。
それが、急に鳴り始めたのだ。
386
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:53:28 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「はて?」
何事だろうと、受話器を手に取り、なれない手つきで耳に当てる。
川 ゚ -゚)「......うん?はい、えぇ......んん?見たことのない国章のエルフが、接触してきた、ですか?」
新たな国が接触してきたという報告と翻訳のために同席してほしいという依頼の連絡であった。
恐らく、また賢い国が一つ増えたのだろう。
はてさて、どんな国なのか。
だが近くにまだ、接触していない国はあっただろうか―
彼女はそんなことをぼんやり考えつつ、席から立ち上がり、仕事に向かった。
387
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:54:22 ID:O.NHrrJk0
ルナイファ帝国 海軍本部
戦いに向けた準備が着々と進められる中、デミタスはあらんかぎりの知恵を絞り対策を練ろうとしていた。
そんな彼を助けようと、再び部屋を訪れていたロマネスクと共に寝る間も惜しんで話し合いが続けられていた。
( ФωФ)「やはり、南方から侵攻してくるとなるとこの港付近だろうな。敵からすれば真っ先に潰したい場所でもある。周辺から上陸することはほぼ不可能なはず」
(´・_ゝ・`)「えぇ。ですのでここに戦力を集中し......海岸線を氷魔法で凍結させることで艦を近づかせず、接岸を防ぐ。この方針でいこうかと」
( ФωФ)「港を凍らせるとなると......かなりの魔石が必要となるな」
(´・_ゝ・`)「はい。ですが温存して勝てる相手ではありません。この一戦に全てをぶつける必要があります」
( ФωФ)「この一戦で敵を叩き返し、陛下に講和を進言する......ということか」
(´・_ゝ・`)「そういうことです。敵も上陸が困難と分かれば交渉の席に呼び出すことができるはずです」
( ФωФ)「上手くいくだろうか......」
388
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:55:46 ID:O.NHrrJk0
(´・_ゝ・`)「一戦だけであれば何とかなる、と思いたいですね。それだけの準備はしております。そもそも上手くいかなければ国が滅びかねません。どうにかするしかないでしょう」
( ФωФ)「......そうだな」
もしルナイファの者が彼らを見れば、弱気であり、また国に負けを認めろという敗北主義者と思われたであろう。
下手をすれば反逆罪として裁かれる可能性すらある。
だが、それでも彼らは今自分たちがしていることが正しく、真に国を守ることに繋がるのだと信じ、行動する。
( ФωФ)「仮にこの守りが突破されたらどうする?」
(´・_ゝ・`)「それについては......こちらの艦隊を使います」
そういい、デミタスは地図の一点を指差す。
その場所に最初ロマネスクは不思議そうな顔をしたが、以前に自分が赴き、何をし、そして今、そこに何があるかを思いだしなるほどと頷く。
389
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:56:29 ID:O.NHrrJk0
( ФωФ)「そうか、特殊艦隊か!偽装魔法により隠された艦隊なら敵も流石に見つけられないはず......上手くすれば不意打ちの形になるやもしれんな」
(´・_ゝ・`)「えぇ。ただし偽装魔法を使用する関係上、こちらからは動けませんので敵が近づいてきてくれることが前提となりますが」
( ФωФ)「ふむ、射程の差が厳しい、というわけか。新魔法があるとはいえやはり、射程の差が最大の脅威であるな」
(´・_ゝ・`)「いえ、それは若干違いますね」
( ФωФ)「む?違うとは?」
(´・_ゝ・`)「敵で最も恐ろしいのは攻撃の射程ではない、ということです。仮に我々が敵と射程の魔法があったとしても勝てないでしょう」
( ФωФ)「なに?」
(´・_ゝ・`)「敵で最も恐ろしいのは、その射程を活かすことのできる能力です」
( ФωФ)「......うん?」
390
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:57:32 ID:O.NHrrJk0
今一ピンと来ないロマネスクは小さく首をかしげる。
その様子にデミタスは小さく笑いながら話を続けた。
(´・_ゝ・`)「えぇとですね、敵の攻撃の射程は確かに長い。ですが、その長さが異常なのです」
( ФωФ)「ああ、目視の範囲外からと聞いているな」
(´・_ゝ・`)「そう、そこです」
( ФωФ)「む?」
(´・_ゝ・`)「つまりは、敵は目視出来ない範囲の対象を何かしらの方法で見つけだし、攻撃を加えている、というわけです」
(; ФωФ)「っ!それは」
(´・_ゝ・`)「はい、すなわち我々が敵が近くにいるか分からない間にも敵はこちらを発見しているのです」
(; ФωФ)「そうか......異様なのは射程だけでなく策敵範囲も、というわけだな」
(´・_ゝ・`)「えぇ、そういうことです。敵の位置情報という作戦を実施する上でこの上ないアドバンテージが敵にあるわけですから......勝てないのも道理でしょう」
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