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それじゃあ、バイバイのようです

1 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:42:02 ID:N7zK4HMk0
『あの頃から、ずっと好きでした』

電子化が進んで早幾数年、今じゃ小学生だってスマートフォンを使っている時代だ。
そんな時代にわざわざ住所を調べて手書きの手紙を送りつけてくる奴なんて、
古風を極め過ぎたか、ちょっとズレてるか。
兎にも角にも変人の類であることは間違いない。それが危険かどうかはともかくとして。
先ほど注文したアイスコーヒーの氷は既に溶け始めている。まだ口はつけていない。
何故ならその味を楽しむほど僕には余裕が無かった。目の前に置かれた手紙の名前を必死に見つめては考えを巡らせていたからだ。

( ・∀・)「……怖いなぁ」

大学生になって2年目のある日、一通の手紙が送り付けられてきた。

(,,゚Д゚)「このお名前に見覚えは?」

僕が困っていると言って相談したにも関わらず、先ほどからやけにニヤニヤしている友人が、手紙に書かれた彼女の名前を指さしながら言った。

( ・∀・)「知らねー」

先程から僕達二人はカフェの片隅で慎ましく騒いでいた。
ここはこじんまりとした北欧風のカフェで、白を基調とした店内に、北欧の家具や雑貨があふれている。
どう考えても男2人で来るような場所ではないが、コーヒーが美味しいし、何より大学から近い事もあってちょくちょく通う場所だ。
あと、店員さんが可愛いので来ているというのは否めない。

(,,゚Д゚)「知らねえって事は無いだろ、だって向こうはお前の事知ってるんだぜ」

( ・∀・)「……あっ」

(,,゚Д゚)「あっ?」

( ・∀・)「思い出した、かもしれない」

2 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:43:31 ID:N7zK4HMk0
(,,゚Д゚)「おっ! ヤリ捨てた女か! はたまた酷くフった女か!」

友人の擬古はその言葉を聞いた瞬間立ち上がり、身を乗り出してこちらを見つめた。
興味津々、目が爛々。一体どんな相手なのかとウキウキで聞いているのが手に取るように分かる。
僕はそんな彼の様子を少し引き気味に眺めて、ようやくアイスコーヒーを一口飲んだ。

( ・∀・)「ちげーよ」

( ・∀・)「昔隣に住んでた……まぁいわゆる幼馴染だな……」

( ・∀・)「そいつの名前がそんなんだったなって……」

僕はその手紙の主の顔をおぼろげに思い出していた。
小学校6年生の夏まで、地方の一軒家で暮らしていた僕。
いわゆる借家だったが、まるで自分の持ち物のように好き放題していた思い出がある。
そんな我が家の隣には同級生の女の子が住んでいた。
異性という事もあり、本当に隣だったというだけで、そこまで親しくなかった。
けれども本当のところは、何も惹かれるものが無かったのだ。
非常に悲しく、残酷な事を言っているように聞こえるが、当時、色々なものがキラキラと見えていた小学生にとって取るに足らない存在。
それが隣人の女の子だったというわけだ。
別れる時もそれはもう淡白なもので、「それじゃあ、バイバイ」としか言わなかった事を記憶している。

(,,゚Д゚)「ほーん、で、会うの?」

アイスカフェラテをゆっくりとストローでかき混ぜながら、擬古は言った。
手紙の出し主が、意外性の無い相手で落ち着いたことにガッカリしているようだった。

( ・∀・)「そりゃ一応会うよ、昔の話とは言っても知り合いだった訳だし」

(,,゚Д゚)「結構なクレイジーさだと思うぜ」

( ・∀・)「そうか?」

3 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:45:14 ID:N7zK4HMk0
(,,゚Д゚)「昔の幼馴染を語った怪文章を送り付けて、ホイホイ出てきたお前をグサッ!」

(,,゚Д゚)「……そういう可能性が無い訳でもないと思うが」

どうしても彼はそういう方向へ話をもっていきたいらしい。
そちらの方が楽しい事には変わりないだろうが、僕の風評を下げるような事をいうのは止めて欲しい。

( ・∀・)「あのなー、僕はそういう恨みの買いかたはしてないの」

( ・∀・)「……でもまぁ、ちょっと不安だよな」

(,,゚Д゚)「とか言いつつお前、実はちょっと期待してるだろ?」

( ・∀・)「まさかぁ、そんな可愛い子じゃなかったぜ」

(,,゚Д゚)「そう言ってガッカリしないための予防線を張るのは期待してる証拠だぞ〜?」

( -∀-)「だからぁ〜違うってぇ〜」

僕が『彼女』に会おうと思ったのは、
別に下心とかそういうモノがあったわけでは無くてただ単純な興味心からだった。
こんな事、普通起こらないじゃないか。
非日常を体験してみてもいいじゃないか。
自分をずっと覚えていてくれた女性がこの世にいるなんて、とても素敵なお話じゃないか。
付き合うだとか、可愛くなってるかもしれないとか、そういう事はどうでもいいのだ。
……と、いうのは自分の中での建前。正直言って僕は少しの期待と希望に胸膨らませていた。

4 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:46:06 ID:N7zK4HMk0
(,,゚Д゚)「『7月最後の金曜日、杯成通りのShe'sカフェの前で待ってます』……今日が待ち合わせ当日か……」

手紙を広げ、再び文面を読み上げる擬古。
薄い水色の便箋は、何度も読み返されてしまったからか、少しへたれ始めていた。

(,,゚Д゚)「最後はこう締められている……『ずっと、待っています』と……」

( ・∀・)「ホラーみたいに言うのやめろ」

(,,゚Д゚)「だって実際ホラーじゃん、映画の導入とかでありそう」

そう言って手紙を元の三つ折りに戻す。
しっかりと折り目をつけて折りたたまれていたので、戻すのは容易だっただろう。

( ・∀・)「……ま、どちらにしてもアレだ……」

( ・∀・)「良い意味でも悪い意味でもドラマチック……」

(,,゚Д゚)「バッドエンドじゃない事を祈っているよ」

僕は置きっぱなしだったアイスコーヒーを差し込まれたストローで啜る。
既にガラスのコップは結露していて、テーブルの上には軽い水たまりが出来ていた。

5 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:48:19 ID:N7zK4HMk0
※※※
※※


酷く暑い夕方だった。

夏特有の湿り気が街を満たし、身体を包んでいる。
加えて差す日差しはジリジリと照り付け、最早じんわりと痛めつけられている気分だ。

僕は擬古と別れた帰り道、指定された場所へと向かっていた。

『She'sカフェ』はそんなにお洒落な場所じゃない。

むしろ『カフェ』なんて言葉より『喫茶店』の方が似合う。
今どきの人に媚びるような小洒落た装飾も何も無く、古き良き佇まいを保っているのは珍しいのではないだろうか。

この『She'sカフェ』がある杯成通りは僕の通学路にもなっていて、よく通る道でもある。
だからここには迷うことなくたどり着くことが出来た。

……まさかそこまで調べ上げていたのだろうか?

そう考えると背筋がぞっとする話になってしまうので、止めておこう。
擬古が言っていたみたいに、ホラーになってしまう。

そんな事を考えている間に、僕は待ち合わせ場所へとたどり着いた。
そこには店の前で立っているいる女性が一人。

川 ゚ -゚)

もしやあれが彼女なのだろうか? もし仮にそうだとしたら、大変身もいい所である。
僕の記憶の中とは似ても似つかない、美人だ。

6 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:49:13 ID:N7zK4HMk0
川 ゚ -゚)「……君?」

川 ゚ -゚)「ダメじゃないか、女の子を待たせるなんて」

( ・∀・)「あぁ、ゴメンナサイ……?」

川 ゚ -゚)「まったく……」

川 ゚ -゚)「店の前でずっと立ってる女の子がいるから何事かと思ったんだぞ」

( ・∀・)「へ?」

川 ゚ -゚)「良かったな、彼が来てくれたぞ」

現実はそんなに甘くない。
呼び出され、彼女の陰からヌッと出てきた『彼女』は

('、`*川「も、モララー君……」

昔の『彼女』そのままだった。悲しいくらいに。
細い目、小さい口、少し潰れた鼻。
人並みに化粧をして顔を整えている事を除けば、彼女は過去の記憶そのままだった。

( ・∀・)「あー……伊藤さんだっけ」

('、`*川「そうです、伊藤です」

僕が名字を言った瞬間、彼女の顔がパアッと明るくなった。
僕が来るまで不安で堪らなかったのだろうな、というのがひと目でわかる程度には、表情に変化があった。

川 ゚ -゚)「じゃあ私は戻るから。あんまり女の子待たせるような事しちゃダメだぞ」

7 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:50:35 ID:N7zK4HMk0
『She'sカフェ』の店内へ去っていく女性に、ありがとうございましたと一礼をして見送る伊藤さん。
僕はなんて言葉をかけたらいいか、そればかり考えていた。
いざ会ってみると懐かしさだとか恐怖だとかより先に、「本当にいた!」という驚きの感情が勝ってしまって、何も言えなくなってしまっていたからだ。
「久しぶり」とでも普通に言えばいいのか、はたまた「あんた誰?」とでもとぼけるか。
僕は色々と考えながら逡巡していた。

('、`*川「あの、モララー君、来てくれてありがとうございます」

そうしていると、彼女の方から話しかけてきた。引きつった笑みで、かなりぎこちなく。
モララーという、大分昔のあだ名を言ってきたことから考えても、やはり彼女は幼馴染の伊藤さんだ。
彼女はおそらくだが、何かを言わなきゃと必死になっているのだろう。誘った張本人であることもあって、僕の数倍緊張しているはずだ。
そんな彼女が無理矢理とはいえ笑顔を作って話しかけてくる。
こんなに健気な事をしてくれる相手を無下にすることは、許される事なのだろうか。

( ・∀・)「いや、ね、幼馴染からの手紙だったから」

('、`*川「ごめんなさい、いきなり手紙なんてビックリしましたよね」

( ・∀・)「そりゃあそれなりに驚きましたよ」

( ・∀・)「なんせ今時手書きの手紙をしたためる物好きがいるなんて思いもしなかったし」

その言葉を聞くと、彼女は硬かった表情を少し崩して、笑った。
まだ硬さが残る笑みだったが、それでも先程までよりは大分マシだった。

('、`*川「連絡先、聞いたんです、モララー君の」

('、`*川「そうしたら下宿先の住所と、モララー君の電話番号を教えてもらえて」

('、`*川「とてもじゃないけど電話する勇気は無かったので……お手紙を書かせてもらいました」

8 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:52:09 ID:N7zK4HMk0
なるほどねと、僕は一人納得していた。
一軒家時代の隣人との付き合いはある程度良好だったと小学生でも認識していた。
それこそ伊藤さんはうちの両親からも可愛がられていたので、電話なんてされたら喜んで僕の住所を教えるだろう。
彼らにとって僕らは幼馴染の友人なのだから。
何にせよ、どういう状況でそうなったかは早くも大体理解できた。
あとはこの場をどうするかだ。

( ・∀・)「あー、この後どうする? そこのカフェ入る?」

('、`*川「私はどこでも大丈夫です。モララー君が行く場所ならどこでも」

( ・∀・)「どこでもかー……」

こういう返事が一番困る。
気の置けない友人と行く場所、間違いなく落としたい女の子を誘う場所。
そういう時と場合によって行く場所の選択肢がそれぞれあるのだから、おまかせは本当に勘弁してほしい。
今日久々に会ったばかりの、そこまで親しくない関係の異性と、僕は一体どこに行けというのだ。

( -∀-)「どこでもかー……」

でも、よく考えたら行く場所をお任せにしてしまうのも当たり前のことかもしれない。
来るか来ないか、半ば賭けのように今回僕に手紙を出した訳で。
もしかしたら来ない可能性も存分にあった、そんな状態で、店を予約したり周辺をリサーチしろというのは酷な話かもしれない。
むしろ僕がその立場ならその状況にいるだけで落ち着かないはずだ。
そんな悠長な事はやっていられないと思う。

( ・∀・)「じゃあ……僕の行きつけの店がちょっと歩くとあるけど、行く?」

('、`*川「うん、行きます……」

彼女と会う事は別に良い事だと思う。懐かしい友人と出会うのと変わらない。
けれども少し、ほんの少し。
今日彼女が見せた初めての自然な笑顔を見て、僕は後悔したのだった。
とても分かりやすい理由で。

9 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:53:37 ID:N7zK4HMk0
※※※
※※


( ´∀`)「いらっしゃい」

『Cafe&Bar CURIOUS』の店内に入るとマスターが細い目を見開いてこちらを見てきた。
それもそうだろう、普段一人か男の友人しか連れてこない僕が女を連れてきたのだから。
マスターの驚きに溢れた表情は席に着くまで崩れることは無かった。

( ´∀`)「驚いたなあ、女の子連れてくるとは」

( ・∀・)「この子は……あー……幼馴染なんだ」

僕がそう言うと隣で彼女が軽く頭を下げた。それにつられるようにマスターも会釈する。
そしてシゲシゲと彼女の事を眺めながら、カウンターの席に座るように促した。

( ´∀`)「いつもの人と来るのかと思ってたよ」

( ・∀・)「まあまあ、たまにはって事で」

( ´∀`)「何飲む?」

( -∀・)「まだお酒の時間じゃ無いでしょ」

( ´∀`)「いいよいいよ、どうせ客もいない事だし。それに30分くらいは誤差だよ」

このバーは昼間はカフェ、夜はバーとして営業している。
今は夕方を過ぎて夜になろうかという今の時間はまだカフェの時間帯だ。
なので着いたらコーヒーでも飲もうかと思っていたのだが。

( ・∀・)「じゃあジントニックを」

( ´∀`)「あいよ、お姉さんは何飲む?」

('、`*川「あの、私……」

10 ◆Jf73tb1kAI:2021/10/17(日) 21:54:49 ID:N7zK4HMk0
彼女は明らかに戸惑っていた。
もっと軽い雰囲気の居酒屋とかカフェとかに行くものだと思っていただろう。
それがこんなバーに連れてこられたのだから当然とも言える。

( -∀-)「あー、彼女慣れてないから甘いの適当に出しちゃって」

( ´∀`)「了解。お姉さん、苦手なものとかある?」

('、`*川「特に無いです……」

( ・∀・)「あと適当に軽食も出してよ」

( ´∀`)「はいはい、分かりました!」

そう言うと準備に取り掛かるマスター。
僕はその姿を眺めながら、先ほどから延々と鳴っていたスマートフォンを取り出す。
画面を見るとサークルなどのメッセージが山ほど来ていたが、見て見ぬふりをする事にした。画面をそっと消してポケットへと仕舞いこむ。
そして隣に座る彼女を見ると、俯き加減でジッとカウンターテーブルの上を見つめていた。
まだ緊張しているのだろう。そんな彼女の姿を見ていたら、何となく僕まで緊張してきてしまった。

( ・∀・)「メニュー、渡しておくから好きなもの注文しちゃって」

('、`*川「う、うん」

この店は基本的にバーの時間はマスターにお任せで大丈夫な店だ。
よってメニューも必要なかったりするのだが、こういう初めて来た人向けに置いてあるらしい。
ズラッと並んだカクテルの種類は壮観で、最初に見た時はワクワクしたものだった。
ただし、彼女が今この状況で楽しめるかは分からないが。


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