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Desperado Chariots
454
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:20:53 ID:0tGXVO1.0
朝食を終えた後、訪れたのはミーティングで使われる空き教室。久方ぶりに着いた学習机に、徳雄は懐かしさを。文彦は居心地の悪さを覚えた
教材の電子化が進んでからは、今や殆ど見られない年季の入った黒板に、朝の一仕事を終えたばかりの小練が二人の名前を書き込んでいく
(´・_・`)「何事も闇雲にやっても上手くいかねえよなぁ。と言うわけで、まずは理想を言語化してみようか」
('A`)「理想ですか」
( ^ω^)「楽に痩せたいですお」
(´・_・`)「そりゃいいな。短期間で楽して効果的に痩せられるダイエット方法があるなら今すぐ教えてくれや」
豚は鳴き止んだ
('A`)「理想……」
(´・_・`)「あーあー難しく考えんじゃねえ。とりあえず何でも言ってけ。計画ってのはまずザッと意見を上げてから精査してまとめていくもんだ」
( ^ω^)「勝ちまくってモテまくりたいですお」
('A`)「そんないい加減な……」
(´・_・`)「それでいい」
黒板に刻まれた『文彦』の名前の下に、雑誌の胡散臭い広告の売り文句が新たに書き込まれる
(´・_・`)「文彦がリードだ。ジョッキーのパイセンは?」
('A`)「あー……」
徳雄はチャリオッツを初めてまだ半年と経っていない。先々月に文彦と共に蟒蛇の下っ端を撃破したが、本来の
勝利条件である『ゴール』への到達は未達成のままだ
('A`)「ゴールする」
(´・_・`)「はいゴール。続けてドンドン言ってけ。どんなしょうもないことでも構わねえ」
言葉通り、小練は二人の理想を一言一句漏らさずに黒板へと書き込んでいく
455
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:21:30 ID:0tGXVO1.0
徳雄
・ゴールする
・押し負けない
・回避出来るようになる
・感情のコントロール
・キャプテン、ガンナーからの指示の理解を早める
・照準合わせ
・ステージ構成の把握
・各路面への適応力
・自分に合った車体カスタマイズ
・ラストスパート
文彦
・勝ちまくりモテまくり
・活躍による配信チャンネルの登録者数激増
・彼女が欲しい
・お金が欲しい
・彼女が五人くらい欲しい
・蟒蛇の下位メンバー程度のザコをイキらせないようにしたい
・バジリスクの撃破
・クズに靴舐めさせたい
456
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:22:06 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「こんなとこか」
ある程度出揃った所で、今度は『課題』と書き込んだ
(´・_・`)「では次に、これらの理想を達成するにはどうすれば良いかを考えよう」
( ^ω^)「僕のありのままの魅力にみんなが気づく」
(´・_・`)「そうか。例えば文彦、太っててだらしなく、化粧もスキンケアもせず肌や髪が荒れまくった女性が無条件でモテると思うか?」
( ^ω^)「そんなのモテるワケないおwwwwwwwww」
(´・_・`)「なんだ、自分のことをよくわかってるじゃねーか」
豚は鳴き止んだ
('A`)「これも直感で答えて良いんすか?」
(´・_・`)「勿論。具体案はその後だな」
('A`)「っつーと……」
457
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:22:34 ID:0tGXVO1.0
徳雄
・ゴールする→最後まで走り切る体力作り
・押し負けない→相手のチャージを耐える筋力作り
・回避出来るようになる→砲撃への対処法を学ぶ
・感情のコントロール→冷静さの維持と熱くなるタイミングの見極め
・キャプテン、ガンナーからの指示の理解を早める→作戦と各要望への理解
・照準合わせ→操縦能力向上
・ステージ構成の把握→ゲームへの理解
・各路面への適応力→同上
・自分に合った車体カスタマイズ→キャプテン、ガンナーに要相談
・ラストスパート→体力及び根性の向上
文彦
・勝ちまくりモテまくり→ガンナーとしての華々しい活躍による知名度の向上
・活躍による配信チャンネルの登録者数激増→同上
・彼女が欲しい→個人配信者とのオフに参加
・お金が欲しい→各大会の賞金と配信の収入
・彼女が五人くらい欲しい→とにかく欲しい
・蟒蛇の下位メンバー程度のザコをイキらせないようにしたい→格の違いを理解らせる
・バジリスクの撃破→キャプテンとガンナーの能力は把握済みなので、相対した場合の優位条件を如何に揃えるかが鍵となる。ゲーム中に遭遇した場合、相手が此方を無視するのはあり得ないので、蟒蛇の方針を逆手に取った作戦と立ち回りを考案する
・クズに靴舐めさせたい→ジャパンカップで優勝したらやらせる
(´・_・`)「いい感じじゃね?」
(;'A`)「そっすかね……?」
458
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:24:13 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ここまで書き出せば、合宿期間中にどんな訓練をすれば効果が発揮出来るかも見えてくる。徳雄は体力と肉体作りと並行してチャリオッツというゲームへの『慣れ』が必要だよな」
('A`)「そうっすね……やっぱ、妨害があるレースってのは思い通りにいかないもんですし」
(´・_・`)「妨害の回避は何もジョッキーだけの仕事じゃねえが、脚がしっかりしてりゃ『頭脳』も『武器』も能力を活かせる幅が広がる。これはジョッキーに乗っかるガンナーにも言えることだ」
文彦がギクリと肩を弾ませた
(´・_・`)「ジョッキーへの負担軽減。特に固定砲を使ってるガンナーは、ジョッキーの操縦能力に多く依存している。才能だけでどうにかなる舞台じゃねえのは、ちゃんとわかってるよな?」
(;^ω^)「う……」
(´・_・`)「お前が痩せれば徳雄の継続走行距離は伸び、その分お前の活躍の場は広がる。そして勝ちまくれてモテて彼女が五人できて配信での広告収入もガッポガッポ入る。え?????痩せるだけで人生バラ色に??????生きるのって恐ろしくチョロいなオイ」
(;^ω^)「で、でも……」
(´・_・`)「文彦よ、誰も彼もがチャンスを与えられるワケじゃねえ。テメーで重い腰上げられる奴なんて一握りだ。恵まれてんだぜお前?人様の金で自分を変える機会を与えられたんだからな」
小練はチョークを放り投げ、教卓を静かに、だが力強く拳で叩いた
(´・_・`)「勝ちまくってモテまくる人生、送ってみたくはねえか?」
(;^ω^)「……送りたい、ですお」
(#´・_・`)「声が小さぁい!!!!!!!」
(#^ω^)「勝ちまくりモテまくり金稼ぎまくりで週七で女を取っ替え引っ替えしてミセリの中の人とゆくゆくは配信でコラボしてそれがきっかけでお付き合いに発展して他のミンミン民にバレないような交際をしたいですお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(#´・_・`)「誰がそこまで望めっつった欲深デブ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(;^ω^)そ「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!???????」
流石に見過ごせないレベルの欲望があった
459
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:26:47 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「と言うわけで、それぞれの指針が見えたな」
徳雄は最近不本意ながら身近に存在する情緒不安定なクズと小練を重ね合わせてしまい内心申し訳なくなった
(´・_・`)「後はジャパンカップまでの具体的な目標を一定の期間ごとに設定し、その間に行うべきトレーニングスケジュールを立てる。最後に実行だ」
('A`)「以外と細かく組み立てるんすね」
(´・_・`)「最悪なのは明確な目標も立てずに無茶なトレーニングして身体をぶっ壊すことだからな」
今度は徳雄が気まずそうに頬を掻いた
(´・_・`)「そして目標を立てることで、達成の喜びを知れる。成長に努力が必要なのは当然だが、脳内麻薬というご褒美は継続への促進剤となる」
( ^ω^)「でもそれじゃあ、達成出来なかった場合にやる気を失くすんじゃ無いんですかお?」
(´・_・`)「ある偉大なレスラーはこう言った。『やる前に負けること考えるバカがいるかよ』と」
燃える闘魂、『アントニオ猪木』の言葉である。オッサン版ダージリンの格言紹介コーナーに、文彦は思わず豚尻の穴を引き締めた
(´・_・`)「出来る出来ねえもテメーの匙加減だ。今しがた掲げた理想も、結局その程度だったってこったろ。世間は負け豚を慰めてくれるほど優しくはねえぞ文彦」
(;^ω^)「は、はいお!!」
('A`)「……」
『上手いものだ』と徳雄は感心した。自らの口でなりたい理想を語らせ、やらない理由を無くして腹を決めさせた
外部の指導者というのも、あの文彦が素直に従う要因の一つではあろうが、金と暴力に物を言わせて従わせるどっかのクズとは大違いだった
460
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:27:24 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「何せ目標は、国内の最強格が集うジャパンカップだ。優勝しちまえばお前らの人生に一生モノの箔が付く。気合い入れて励めよ」
(;^ω^)「はいお!!!!!」
('A`)「っす」
(´・_・`)「そんじゃあ早速、トレーニングに移るか。文彦、水着は持って来たな?」
(;^ω^)「持って来てませんお!!!!!!!」
(´・_・`)「ええ……」
('A`)「いやすいません。俺も聞いてないっすそれ」
(´・_・`)「マァ〜……?」
どうにも締まらないミーティングであった
461
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:28:09 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(;´・_・`)「あーもーやだ!!!!!!!!!なんでそんなブクブクブクブク太ってんだお前!!!!!!!!」
(;^ω^)「ご、ご飯が美味しいから……」
レンタル水着を着用した文彦を見た第一声であった。XLサイズトランクスタイプ水着のゴム紐の上には、汚い皮袋に詰まった臭っせえ脂肪がだらしなく乗っかっている
およそ隆起という単語が似つかわしくない上半身。赤子に母乳もやれないクソオタク雄の分際で、おっぱいだけは豊満であった
人間、一晩で急に165センチの細マッチョになって角界入りの夢を奪われたりはしないのだ。食って寝て動かなければ醜く太っていく一方なのだ
(´・_・`)「お前に必要なのは、運動する習慣だ」
(;^ω^)「やだー……」
(´・_・`)「やだじゃない。毎日適度に運動してりゃ多少間食しても体型は維持できるんだ。そして毎日過剰に運動すれば俺みたいなワガママボディになる」
愛のままに我儘に僕は君だけを傷つけないって感じのマッスルボディだった。太陽が凍りついても僕と君だけは消えない可能性があった
(;^ω^)「今から何するんですかお?」
(´・_・`)「何っておめえ水着でプールっつったらやる事は一つだろ」
(;^ω^)「僕、泳げないですお」
(´・_・`)「そこまで求めてねえよ。今からやるのは水中ウォーキングだ」
462
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:29:04 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(;´・_・`)「あーもーやだ!!!!!!!!!なんでそんなブクブクブクブク太ってんだお前!!!!!!!!」
(;^ω^)「ご、ご飯が美味しいから……」
レンタル水着を着用した文彦を見た第一声であった。XLサイズトランクスタイプ水着のゴム紐の上には、汚い皮袋に詰まった臭っせえ脂肪がだらしなく乗っかっている
およそ隆起という単語が似つかわしくない上半身。赤子に母乳もやれないクソオタク雄の分際で、おっぱいだけは豊満であった
人間、一晩で急に165センチの細マッチョになって角界入りの夢を奪われたりはしないのだ。食って寝て動かなければ醜く太っていく一方なのだ
(´・_・`)「お前に必要なのは、運動する習慣だ」
(;^ω^)「やだー……」
(´・_・`)「やだじゃない。毎日適度に運動してりゃ多少間食しても体型は維持できるんだ。そして毎日過剰に運動すれば俺みたいなワガママボディになる」
愛のままに我儘に僕は君だけを傷つけないって感じのマッスルボディだった。太陽が凍りついても僕と君だけは消えない可能性があった
(;^ω^)「今から何するんですかお?」
(´・_・`)「何っておめえ水着でプールっつったらやる事は一つだろ」
(;^ω^)「僕、泳げないですお」
(´・_・`)「そこまで求めてねえよ。今からやるのは水中ウォーキングだ」
463
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:31:38 ID:0tGXVO1.0
『水中ウォーキング』。読んで字の如く、プール内で行うウォーキングである
水中でのトレーニングは浮力による足腰への負担軽減と、水の抵抗力による効果的な筋肉への負荷が期待出来る
陸上で行うウォーキングと比べて、消費カロリーは1.5倍とその差は歴然だ
その上、今は真夏である。直射日光こそ防ぐ手立てはないが、外気温より低いプール内では熱中症のリスクもある程度は抑えられる
(´・_・`)「とは言え、プールの中でも汗はかく。定期的に水分は補給しろ」
( ^ω^)「コーラでも構いませんかお?」
(´・_・`)「それはマジのアスリートが炭酸抜いて飲むもんだデブ」
構うわけ無かった
準備運動の後、デブはしずしずと入水
( ^ω^)「気持ち良いお!!!!!!!!!!!!」
真夏、照りつける太陽の下。キラキラと輝く水面に汚いデブ
大金を積まれてもグラビアにしたくない絵面がそこにはあった
(´・_・`)「よーし、先ずは向こう岸まで腕を大きく振りながら一往復だ」
( ^ω^)「はいお!!」
ザバ、ザバと水を掻き分け、文彦はゆっくりと25メートルプールを歩き出す
(;^ω^)「おっ……?」
言うまでも無いが、液体には質量が存在する。運動を行えば、当然ながら身体に抵抗力の負荷が掛かる
それは水に触れる面積が大きければ大きいほど作用する。競泳アスリートはその負荷を無くすため、体毛、産毛に到るまで徹底的に剃り落とすらしい
恰幅の広い文彦であるなら尚のこと。運動による負荷は、一般的な体格の者よりも高い
464
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:32:30 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「ハァッ、ハァッ……」
(´・_・`)「どうだよ?」
(;^ω^)「まぁまぁしんどいですお……」
言われた通り一往復しただけ。それもたった50メートルを歩いただけである
しかし文彦の息は既に上がり、足腰には確かな乳酸の溜まりを感じていた
(´・_・`)「続けられそうか?」
(;^ω^)「もう上がりたいですお」
(´・_・`)「ピラニアぶち込むか?」
(;^ω^)「ええいチクショウ歩けば良いんだろ歩けば!!!!!!!!」
( ^ω^)豚は歩くようです
(´・_・`)「ゆっくりでもいい。だが、速度は落とすな。五十分歩いて十五分休憩。今日は朝から運動したし、2セットでいい。終わったらちょうど昼飯時だろ」
(;^ω^)そ「二時間も運動!!!!????死んじまうお!!!!!!!」
(´・_・`)「死なねーよ人間って割と頑丈に出来てんだよ。ああ、休憩の時はめんどくさくても身体は拭けよ。寒かったら更衣室にファンヒーターもある。絶対に身体を冷やすなよ」
(;^ω^)「クソ!!!!!!思いやりと優しさでサボる気をどんどん奪っていきやがるお!!!!!!クズとハゲなら速攻逃げ出したのに!!!!!!」
こいつ普段どんな環境にいるんだろうかと小練は疑問に思った
465
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:35:09 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「じゃあ俺、仕事と徳雄の面倒あるから頑張れよ」
これでも宿泊施設の管理人。多忙の身である。文彦を一人プールに残し、徳雄の様子を見に戻る
文彦はしばらく息が整うのを待ち、再び向こう岸を見据えて歩き始めた
(;^ω^)「勝ちまくり、モテまくり……!!」
決して褒められた動機ではない。文彦の頭には、ジョッキーの負担を減らす為だのと言った、他者への配慮など盛岡の毛程も存在しない
『己の為』。勝利も恋人も手にして、学生ヒエラルキーの頂点に立ちたいという幼稚で浅ましい欲望だけが動力源だった
「彼女!!彼女!!でっけえおっぱいで可愛い彼女!!」
(´・_・`)「……」
姿を消したフリをしてコッソリと様子を伺っていた小練は、気合いの入った掛け声を聞いて、今度こそプールを後にする
やる気が入る動機に、貴賤など無い。あの野郎はきっとこの夏で、人生を変えるだろうと確信しながら―――――
(´・_・`)「……」
モテるかどうかはまた別の話である―――――
466
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:36:15 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(;'A`)「ハァッ、ハァッ、ゼハァ!!」
チャリオッツは、基本的にアーケード主体の展開をしている。筐体の価格が高額であり、一般家庭では設置に要するスペースが確保出来ないからである
しかし、それぞれのポジションの操縦席を別個にする事で、価格と必要スペースを抑える家庭用筐体も販売されている
それでも他の家庭用ゲーム機とは比べ物にならないほど手が出しにくい代物であり、よほど金と自宅の広さに余裕がある一般人しか購入しない
では何故、採算が取れなさそうな家庭用筐体を供給しているのか。需要は個人ではなく、『法人』にあるからだ
プロチームやチャリオッツスクールなど、限りあるスペースで多人数の訓練、指導を行う営利団体が主なターゲット層となる
(´・_・`)「調子は?」
(;'A`)「見ての通りっすよ……」
宿舎の地下、ジョッキー用のバイク筐体が三つ並んだ、『チャリオッツ専用トレーニングルーム』で、徳雄は滝のような汗を流しながらVRゴーグルを外した
観賞用モニターにはゲームオーバー画面に『10th』と順位が映し出されている
(´・_・`)「おー、上等上等。ガンナー、ジョッキー抜き、負荷マシマシでこれなら見込みあるぜ」
(;'A`)「CPU相手のトレーニングモードでも?」
(´・_・`)「そう卑下するな。特訓は始まったばっかじゃねーか」
467
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:41:40 ID:0tGXVO1.0
『習うより慣れよ』。遊びであれ仕事であれ、上達への一番の近道は徹底的な反復作業に尽きる
初心者である徳雄が、プロチームひしめくジャパンカップを勝ち抜くには、少しでも多くの経験が必要であった
当面の課題は、『順位問わず1ゲームをゴールしてクリア』。ペース配分と路面状況、妨害による車体の挙動を身体に染み込ませる訓練である
(;'A`)「ハァッ、フゥー……よし」
(´・_・`)「よしじゃねえキッチリ休めや」
(;'A`)「感覚が抜けねえ内に続けてえんすよ」
(´・_・`)「んなもんちょっとくらい時間空けたって抜けやしねえよ。初日からぶっ倒れるまで飛ばす気か?」
小練はi-ringのリモコンアプリで先程の試合のリプレイを再生する
(´・_・`)「闇雲にやったって意味ねえっつっただろ。休んでる間に反省点を洗い出して次に活かせ。見てもわかんなかったら第三者のアドバイスも聞き入れろ。最初はここだ」
一時停止。第一ステージの先行争いに加わるシーンだ
(´・_・`)「最軽量級NPC『ラビット』のスタートダッシュに釣られちまってる。短距離レースならまだしも、本番と同じ五構成のステージでハナから飛ばしてどうする。ちゃんと相手の脚質とカスタム構成を見極めろ」
チャリオッツのタンククラスは、主に『動物』の名前で分類分けされる
最軽重量で火力、耐久共に最低クラスだがスピードに長ける『ラビット』
最重量で鈍足だが、高火力高耐久を誇る『タートル』
際立った特色は無いが、短、中、長と適正距離を問わないオールラウンダー『ホース』
力強いチャージングによる攻撃、競り合いを得意とする『バッファロー』など
特徴が変われば当然、レース展開や対峙した際の対応も変わってくる
映像で真っ先に飛び出した『ラビット』であるならば、真っ先にリードを広げるのを得意とするが、その分大きく体力を使う上、ステージ毎のトラップや敵対NPCとの遭遇率も上がる
攻撃手段があるならば、追いついて撃破も可能であるだろうが、スタート直後から競り合って先頭争いをするメリットは低い
468
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:44:53 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「初心者が引っ掛かりがちなミスリードだ。上手いラビット乗りなら緩急を駆使したペース配分で後続の体力を奪ってくる。『最初の一ステージなんざくれてやる』くらいの心持でいろ」
(;'A`)「ハァッ……っす……」
(´・_・`)「続けるぞ。次は……」
試合の振り返りをしながら、小練は徳雄が今しがた出した『十位』という順位に舌を巻いていた
徳雄含む『18組』の、本番を想定したレース。しかも対戦相手に選んだのは、ただのNPCではない
『ゴールデンラビット』『キャッスルタートル』『ダークホース』『レイジングバッファロー』と言った、最高レベルで周りを固めていたのだ
当然、名だたるプロチームには足下にも及ばないが、チャリオッツを初めて数ヶ月の、それも『二枚落ち』のジョッキーが易々とゴール出来る難易度では無い
NPC同士の潰し合いや、運が絡むのも確かだが、この試合で『ゴール』が出来た時点で、アマチュアではトップクラスの実力はある
(´・_・`)「……」
初心者である徳雄が、十位の快挙を成し遂げた理由。リザルト画面にヒントが残されていた
徳雄が今試合で撃破した車体の数は『3』。およそ六分の一を、チャージングだけで破壊している
二枚落ちの重量軽減を補う為の重装甲。『タートル』レベルにまで重くしているにせよ、砲撃不可能の車体にしては破格のキルレートであった
469
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:46:26 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「お前、勝ち方の理想は?」
(;'A`)「え……そりゃ、一位獲ることっすかね……」
(´・_・`)「そうか……」
正直な所、徳雄の脚質は明らかに撃破主体の『バッファロー』向きだ。そこに文彦の砲撃術とキャプテンのアシストが加われば、蟒蛇に匹敵するレベルの超攻撃型チームが完成する
映像を見ても、明らかに不要な体当たりを行い、余計な時間と体力のロスを生み出している場面が多く目につく
ただし、ヒットさせた攻撃はほとんどがクリティカルだった。しばしばチャリオッツは格闘ゲームと例えられるが、この辺りは生来の膂力とセンスが関わっているのだろう
伸ばすべきは、ゴールまで走り切るレース技術ではなく、全員を倒し切る攻撃技術の方だ。勝利条件をラスト・ワンに限定したトレーニングを行えば、更に伸びる可能性がある
(´・_・`)「どうしても、ゴールで勝ちたいか?」
(;'A`)「『ゴールで勝たなきゃやる意味がねえんすよ』」
その一言で、小練は余計な進言を慎んだ。彼がそうしたいのであれば、勝ちたい方法で勝たせるのが指導者の務めであるからだ
(´・_・`)「なら次からは、相手との接触を避けてゴールしろ。恐らくそれで順位は落ちるが、体力の消耗は今より抑えられるはずだ」
(;'A`)「了解っす。続けても?」
(´・_・`)「あと二十分は休め。それと、ゲーム設定を少し弄る。一試合終わったら必ずリプレイを見返すように」
ステージ数を三に減らし、対戦相手をラビットとホースに限定する。高火力の砲撃やチャージングの頻度を減らし『競争』に重点を置く
過重量というハンデを背負いつつ、決着が早いレース展開について行くこと。これでペース配分を身につけさせるのだ
(´・_・`)「慣れない内は順位に拘るな。最終ステージで『一番近くにいる奴』には勝てるよう意識しろ。そいつが前にいるなら追いつけるように。後ろにいるなら逃げ切れるようにな。それでスパートのタイミングを掴めるようになる」
(;'A`)「負けるの前提で試合しろってのも、もどかしくて酷なオーダーっすね……」
(´・_・`)「今はトライアンドエラーを重ねる時期だ。本番で勝つ為と割り切れ。安定して上位に入れるようになれば難易度を上げてやる」
我ながら無茶な要望だと、小練は自らに呆れた。『これまで面倒見てきた連中』にも同じトレーニングを課した事こそあるが、フルメンバーかつカスタムも最適化された車体で、ここまで過酷にはしなかった
徳雄の持つストイックさと、チャリオッツへの『無知』につけ込んだトレーニング。文彦までとは言わないが、文句の一つは二つ溢すものかと予想したが
(;'A`)「……」
小練の目に映る徳雄は、より深い『地獄』を追い求めているように見えた
470
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:48:20 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「……」
ジャパンカップを勝つ事で得られるリターンを口にした欲深デブとは違い、徳雄の目標は『勝利』や、『勝利に繋がる数多の要素』だった
明言こそ避けてはいるが、徳雄が長きに渡ってコンプレックスを抱き続けていた親友の話は既に『依頼主』の口から聞いている
青春の置き土産か、深く刻まれた心傷か。はたまた、それすらも超越した感情か
(´・_・`)(面白えなぁ……)
今や誰もが熱狂するアイドルグループの、センターの座に着く美男子『獏良 良樹』
彼の持つ魔性に最も魅了されているのは、往年のファンでもガチ恋勢でも崇拝者でも狂信者でも無い
(;'A`)「ふぅーっ……」
『スター』に唯一土をつけた、醜く小さい無名の男なのだろう
(´・_・`)「……」
『見届けたい』。狂おしいほどの執着に囚われたこの男が、ジャパンカップで真の目的を果たす瞬間を
その為にも、絶対に怪我など起こさせてはならない。慎重に、大事に。かつ『壊れないギリギリのライン』の地獄を与え続けねばならない
(´・_・`)「……」
小練はコッソリと、ステージ毎に配置される敵対NPCのレベルを最大まで上げた
己の無力を知って、奮起する者など一握りだ。その中でも稀に、ごく稀に存在するのが、打ちのめされた数の倍以上に伸びる者だ
大衆はそれを『天才』などと呼ばない。人の枠組を超えた者を、嫉妬と羨望を混えてこう呼ぶのだ
471
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:48:56 ID:0tGXVO1.0
(;'A`) 『鬼才』と
.
472
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:51:00 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
午前の鍛錬が終わり、昼食時。締切ギリギリの時間に食堂を訪れた徳雄は、トレーを手に文彦のいる席へと向かった
(; ω )「」死ゾ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ゲンナリの絶傑だった。恐らくシャドバに実装されてもコモン以下のゴミカードであろう。買取??????出すべきはショップじゃなくて廃紙業者では???????だって臭うもんそのブタカード
('A`)「生きてっか?」
(; ω )「」
返事がないただの腐肉のようだ。え!!!!!????ただでさえ臭いのに更に臭くなるんですか!!!!!!?????
開始一日でグロッキーなのも如何なものかと徳雄は考えたが、既に食べ終えた昼食の食器が残っているのを見て、まぁ大丈夫かと結論付けた
('A`)「昼からは?」
(; ω )「」
グダッと机に突っ伏して何も話そうとしない。徳雄も口数が少ない男だが、会話に対して無視を決め込むほど失礼では無い
少しばかりの苛立ちを、嫌味に変えて返してやろうかと企んだが、ヒスを起こされるのも面倒だと思い止まり、煮魚に箸を入れた
473
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:52:59 ID:0tGXVO1.0
('A`)「……」
『勝てない』。考えないようにしていても、どうしても頭を過ぎる
ただし、先程まで競い合っていたCPU相手ではなく、最終目標である『獏良』に対してだ
('A`)(違うんだよなぁ……)
操縦技術が乏しいのは重々承知してるし、小練の指導も理に適っている。『上達』は間違いなくするだろう
だが、徳雄には大きなブランクと、獏良とは比べるまでもないほどに経験が足りない
元より才能の塊で、努力を惜しまぬ彼だ。宣戦布告をしたあの日から、向こうも此方を倒す為に鍛錬を積んでいるに違いない
鍛え上げても鍛え上げても、埋め難い『差』。焦燥は収まるばかりか、日に日に増していく
('A`)(武器が欲しい)
目の前で死んでるデブですら、『早撃ち』という天賦の技がある。相対した敵を瞬く間に撃ち抜く、正に必殺技だ
漫画やアニメに興味は無く、影響されたことなどないが、これさえ出せれば絶対に勝てる都合の良い『必殺技』を欲してしまうのは、男に産まれた宿命なのかも知れない
「美味しくなぁい?」
('A`)「っ……」
徳雄を思考の沼から引き上げたのは、耳触りの良いほんわかとした女性の声だった
ハッと顔を上げると、割烹着姿の女性が、不満気な表情で窺っていた
474
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:55:22 ID:0tGXVO1.0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あらぁ、ごめんなさい。お箸、進んでないようだったから」
(;'A`)「あ、ああ……そn( ^ω^)「ええ!!!!!!!!!とても美味しかったですお!!!!!!!こんな美女が作ってくださった食事を前に箸を止めるなんて失礼極まりない非モテ行為に他なりません!!!!!!!僕がこのブサイクの分も責任を持って食べて差し上げm」
急に元気になった色ボケクソオタク童貞汚ブタ悪臭デブに強めのデコピンを放つ
:(; ω ):「あっ……がぁ……!!」
真芯に響く痛みに、首根っこ掴まれた悟飯みたいに呻いた
(;'A`)「失礼、考えごとしてたもんで」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「本当に?食欲無いとかじゃなぁい?」
(;'A`)「ええ」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それなら、良いんだけどぉ」
ニコと微笑みを浮かべた調理員の女性は、渦巻模様の三角頭巾を外して、丁寧に折り畳んでポケットに納めた
解き放たれた薄桃色の髪が、ウェーブにそって波紋のようなグラデーションを広げている。それはまるで貝殻のカーテンが靡いているようで、徳雄は山中にも関わらず海を連想してしまった
女性は文彦の隣の椅子を引き、断り無しに着席する。文彦はビクリと身体を弾ませたが、童貞特有のの緊張からか、いつもの如くウザ絡みしなかった。何なんこのブタオタク
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ」
(;'A`)「あ、はい……」
徳雄が食堂に訪れた時には、十三時前というギリギリの時間だったのもあり、既に利用客は疎らだった
昼の仕事は済んだと見ていいのか。まさか話しかけてくるのはまだしも、食べる様を観察されるとは思いもしなかった
徳雄は自身の醜さを自覚しているし、異性との縁など幼少期で既に諦めている。文彦のように美女を前にはしゃぐなどみっともない真似もしないが
(;'A`)「……」
頬杖ついてご機嫌な表情でジッと見つめられると、不快とまで言わないが、どうにも落ち着かない
頼みの綱であるデブも突っ伏したまま荒く呼吸するだけで役立たずだ。そもそもチャリオッツ以外で人の役に立ったことある???????
475
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:58:19 ID:0tGXVO1.0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……私、邪魔?」
(;'A`)「うわぁ〜……」
うわぁ〜だった。徳雄は異性に興味も関心も無いので普通の男性なら慌てて取り繕うであろう試すような声色に素直なうわぁ〜を放った。そう、バチクソめんどくさいのである
ヽiリ,うヮ゚ノi「酷い!!酷いわ!!私はただ、キミが美味しく食べてくれる所を間近で見たいだけなのに!!」
(;'A`)「知ら〜ん……」
(#^ω^)「謝れお!!!!!!!顔もブサければ性格もブサイクで救いようがねえお!!!!!!!お姉さん!!!!!!こんなクソ野朗放っておいて僕が昼食の感想をこと細やかにお話して差し上げますお!!!!!!!」
徳雄はもう一度同じ箇所に、今度は本気のデコピンを放った
(; ω )「エンッ!!!!!!!」
文彦は大きく仰け反り、背もたれにぐだんと身を預け動かなくなった。黙っていればただの臭いデブなので意識があるより遥かにマシだった
('A`)「申し訳ないんですが、そうまじまじと見られると食うのに集中出来ないんで……」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「じゃあ食べさせてあげる!!」
(;'A`)「そう言うサービスも結構なんで……」
ヽiリ,,゚q゚ノi「ハァハァ食べるとこハァハァ見せてぇ〜!!生き甲斐なんだからぁ〜!!ハァハァ!!!!!」
(;'A`)「う、うわぁ〜……」
『変態とはいえ殴ったら流石にマズイかな……』。合宿二日目で暴力沙汰、それも女性従業員を殴るワケにもいかず
徳雄に出来るのは『勘弁して欲しい』とブサイクな顔を顰めるだけだった。顰めた方がまだマシな顔面だった
476
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:59:06 ID:0tGXVO1.0
めんどくささに耐えきれず、トレーを手に自室に逃げようとした矢先
(´・_・`)「邪魔すんな」
ヽiリ;, q ノiそ「ごあっは!?」
女性の脳天へ、瓦五億枚くらい割れそうな遠慮の無い手刀が振り落とされた。瓦一枚の厚みを1cmとして五億枚だと5000kmある。地球の半分くらい割れる。弱体化したアラレちゃんの可能性があった
額がテーブルを強く打ち、食堂中に響く鈍い音。疎らに残っていた利用客の誰かが、『えっぐ……』と絶句した
(´・_・`)「悪ぃな。料理の腕と引き換えに客が食ってるところを見ると興奮する性癖持ちになった変態なんだ」
(;'A`)「ああ……大変すね……」
徳雄は普段一緒に働いてる上司や同僚やアルバイトが相当まともな部類に入るのだと思い知った
(´・_・`)「食ったら暫く休めよ。こいつどうした?」
(; ω )「」
('A`)「さぁ?疲れたんじゃないっすか?」
(´・_・`)「ほーん。そんじゃ、ごゆっくり」
小練が突っ伏した女性の襟首を雑に掴んで引き摺っていく様を見送り、徳雄はようやく昼食にありつけたのだった
477
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:09:12 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
築二百年の日本家屋。団子一本で財を築いた参羽鴉創立者『大潮 凡吉』の遺産の一つである
およそ600坪の敷地内には、趣を感じる茶室や離れが設けてあり、中庭には美しい箒目の枯山水と、季節毎に色を変えるサクラやモミジ、イチョウの木が立ち並ぶ
重厚な石蔵には、諸方より取り揃えた玉石混交の骨董品が、日の目を避けて眠っている
余談だが、大潮家で最も価値があったとされる日本刀が、初代の逝去の同日に紛失し、今現在も見つかっていない
と、ここまでは歴代の大潮一族が作り替えず遺した区画であり、増改築を繰り返していく内に新たな建築物が新築されては取り潰されて行った
二代目頭首『大潮 百太郎』(ももたろう)は自身の功績を称えた等身大の純金の像を
三代目『大潮 波穂』(なみほ)その像を鋳潰して売却し、ボウリング場とプライベートシネマを
四代目にして本八の父『大潮 左今』(さこん)は、老朽化した施設を合意の下で解体し、高級車のカーガレージと酒蔵を
そして五代目である本八は、父の海外移住と共に移送され、がらんどうとなったガレージを、今まさにチャリオッツ専用トレーニングルームに作り替えている最中であった
(´・ω・`)「結構良い値段したな……」
購入したのは、家庭用ではなく『業務用筐体』。およそ四メートルにも及ぶ巨大な球体だ
運転席はカスタムに合わせたホログラムビジョンで表現され、没入的なゲーム体験を味わえる
極め付けは磁力を用いたリアルアクションシステム。右左折時の方向転換は勿論、重力加速度、飛翔時の浮遊感やサスペンションの軋み
路面に応じた運転席の振動に加え砲撃及び被弾時の衝撃や車体の横転に到るまで、ゲーム内で生じるありとあらゆる現象が、運転席の挙動としてリアルタイムで反映されるのだ
希望小売価格は二億円と、大潮家ほどの大富豪でもおいそれとは支払えない金額だが、型落ちの中古筐体であるならば一億、安ければ一千万ほどで手に入れられる
当然、メンテナンス費用は別途で掛かるものの、業務用筐体の個人入手は中古での購入が望ましいのである
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「500万かぁ……」
結構良い値段どころの話では無かった。中古の高級車買えるくらいだった。中古の高級車が買えない可能性すらある
京都にある骨董品店『大桜堂』で購入した物だが、余りに安すぎてジャンク品どころか等身大のプラモデルでは無いかと疑った程だ
店主の背と髪が長く、和装の似合う京美人に『これマジで動くんか?それと今晩暇?湯豆腐食べに行かない?』と二、三度詰め寄ったが
ケタケタと笑いながら『ちょっと曰く付きやっただけで中身はなぁんも問題あらへんよ』と返されただけだった。食事には付き合ってくれなかった
478
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:10:29 ID:0tGXVO1.0
(´・ω・`)「安かろう悪かろうとはよく言うが……」
破格なだけあって、動作確認無しの現金一括購入しか認められず、金をドブに捨てる気持ちで購入したが
外観に目立った傷は無く、起動もスムーズに行われ、リアルアクションシステムのテストプレイも問題無い
ウイルスが混入してる可能性も考慮し、管理業者に再三チェックしてもらったが、『綺麗なもんです』の一言で片付いた
管理番号から流通履歴を遡ってもみたが、店頭で使われたテスター品であり、新型の発売と共に廃棄が決定された事がわかっただけで、その後どう言う経緯で大桜堂の軒先に並んだのかは定かでは無かった
念には念を入れてメーカーにも問い合わせしたが、当時の担当者は既に退職しており、詳しい経緯は答えられないとの事
ただ、大桜堂は先んじて中古販売の許可を貰っていたらしく、問題なく動くのならば使用して良いらしい
ただし、メーカー保証は効かず、故障や事故が起こっても自己責任でお願いしますと釘を刺された
(´^ω^`)「まぁええわい!!動くんやったらなんでも!!」
『曰く付き』という物騒な単語を都合良く忘れ去り、本八は意気揚々と私物となった筐体に乗り込んだ
(´・ω・`)「さーてと……」
とは言え、購入したのは中古の型落ち品。バージョンの更新もしておらず、出来る事と言えば試運転とトレーニング含めたソロプレイモードのみ
実際にオンライン対戦をするには、最新のバージョンが搭載されている筐体があるゲームセンターやコロッセオに足を運ばねばならない
しかし、本八からすれば『それだけ出来れば上等』だった。目的はゲームプレイでは無く、カスタマイズの噛み合いと、それに伴う運転席の挙動のテストなのだから
(´・ω・`)「とりあえず、デブに合わせたカスタマイズから色々試してみっか……」
本八のポジションは『キャプテン』。求められる仕事は戦略及び戦況把握に加えて、各ポジションのサポートである
車体のカスタマイズを始め、アビリティセットやアイテム購入、それらを使うタイミング
『脚』と『腕』を活かすも殺すも、『頭脳』次第。高ランクになればなるほど、大将の重要度は増す
(´・ω・`)「『クイックリロード』に『オートエイム』……」
試しに、装填速度を50%向上させるアビリティと、自動エイムを搭載してテストを行う
白タイルで構成された無機質なトレーニング用ステージに、半透明のタンク型ターゲットを、前方左右に一台ずつ配置
479
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:11:41 ID:0tGXVO1.0
(´・ω・`)「プレイ」
合図と共に、車体は真っ直ぐ走り出す。身体に感じるGと振動。リアルアクションシステムにやはり問題は無い
(´・ω・`)「おっと」
主砲、『6shooter』の射程に入った瞬間、ハンドルを急に切ったかのように右のターゲットへ向けて方向転換。そのまま『タン、タン、タン』とリズムよく三発発射し、撃ち抜いた
(´・ω・`)「タイム!!」
逆方向へと首を振る前に、本八はサッサとテストプレイを切り上げる。やはり固定砲塔とオートエイムの相性は最悪な上
(´・ω・`)「っかー……遅すぎ」
体型と性格はクソクソクソのクソのくっせえデブオタクだが、抜群の反射神経と精密射撃を誇る文彦にとって、オートエイムの速度は遅過ぎる
(´・ω・`)「これならむしろ多少無茶しても……」
『試行錯誤』。ジョッキーとガンナーの合宿期間中、キャプテンである本八の課題がこれだ
莫大なアビリティとアイテムの中で、最適化したカスタムを見つける事。気が遠くなりそうな根気のいる作業をひたすら孤独に繰り返す
(´^ω^`)「楽しい時間の始まりだァ!!!!!!!ガーーーーーーーーッハッハッハ!!!!!!!!」
『なんて事は無かった』。チームメイトが見つからなかった三十と余年に比べれば、余りにも短く、贅沢な時間であった
480
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:14:29 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
合宿三日目
( ^ω^)「ふんふんふーん♪」
昨日は語尾が『だお』から『帰りたい』に変わるほど消耗していた文彦が、どういうワケか朝からゴキのゲンだった
('A`)「調子良さそうだな」
( ^ω^)「とっくん!!おはようだお!!」
元気に挨拶まで返す程だ。昨日の朝なんて推しを殺されたかのような憎しみの籠った目で睨まれただけだと言うのに
『毎日こんなんだったらまだ可愛げの一欠片くらいあるだろうになぁ』。儘ならない人の心に、徳雄は小さく溜息を吐いた
( ^ω^)「聞いてくれお!!実は今日、シンクロナイズドスイミング部の団体客が来るんだお!!」
('A`)「へぇ」
( ^ω^)「今までずっと一人で歩いて限界だったけど、今日から華やかになるお!!ひたむきに努力する僕を見てワ、ワンチャンあるかもしれんおグフフフフフ」
徳雄はグフフフフフと笑い鳴く豚を初めて見た。サーカスの前座くらいにはなりそうだなぁと思った
('A`)「なぁそれ」
( ^ω^)「なんだお?羨ましいのかお?っかー!!ごめん!!とっくんは今日も一人で寂しくチャリ漕いでてくれお!!」
('A`)「……」
『女子シンクロ部なのか?』と訊こうとしたが、調子乗った文彦の言う通り徳雄には関わりない場所での団体客であるのは確かなので
大いに期待を裏切られるのを願いつつ、『なんでもねえよ』と会話を打ち切った
そして話は
>>432
レス目に戻るのである
481
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:14:55 ID:0tGXVO1.0
(; ω )「ブヒー!!ブヒー!!」
「ナイスガッツ!!」
「偉いぞデブちん!!」
「お前ら!!彼を見習ってもう一丁舞うぞ!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!」」」」」
逞しき漢(オトコ)人魚達が、一切の脂肪を感じさせないしなやかな肉体を、輝く水面へと投じる
文彦にとっては徳雄の顔面くらい見たくない光景であった。朝は元気いっぱいだった小さな小さな、そりゃあもう小さなムスコも今や見る陰もない。陰茎だけに
(´・_・`)「ほれ、水分補給しろ」
(; ω )「くたばれ」
(´・_・`)「最近のガキは口が悪ぃな。彼らを見習って爽やかに生きたらどうだ」
(; ω )「イケメンリア充くたばれ」
嫉妬に塗れた人間ってここまで卑屈になるのかと、小練はなんだか文彦が肥った哀しい生き物に見えてきた
482
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:17:17 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)(しかし……)
『よくやってる方』ではある。数日経ってもモチベーションが失くなる様子も無いし、消費カロリーも緩やかではあるが右肩上がりで増えている
褒めてやりたい所だが、文彦は恐らく一ミリも喜ばないのだろう。『同居人』に代弁して貰ってもいいが、気遣いの出来ない二人と変態が一匹だ。下手に拗れてしまう危険がある
その上、文彦にとっては酷な話も一つ。このまま続けていても、どこかで『頭打ち』が来るのだ
(´・_・`)「もう一時間、追い込んでいくぞ」
( ^ω^)「は?無理。動けない。競走馬だって一レース終えたらゆっくり休ませるお。そんな事もわからないのに指導者やってんの?ハァー、やめたらこの仕事?」
(´・_・`)「そうだな。明日は終日休みにしようかと思ったんだが、お前がそう言うなら今日は切り上げて続きは明日に回すか」
( ^ω^)「とまぁ、凡人ならこう言うでしょうね。ま、僕は元気と才能に満ち溢れた天才なんであと一時間くらい余裕ですけど」
毎日こんな可愛げの無いクソガキを相手してる徳雄が不憫でならなかった
( ^ω^)「っしゃあ!!休みって聞いた途端、やる気と希望がムンムン湧いて来たお!!」
(´・_・`)「あー、待て待て」
マジでサッサと終わらせたいんだろうなと感じる程に嫌そうな顔を向けた文彦に、小練は一枚のTシャツを投げ渡した
(´・_・`)「それ着ろ」
(;^ω^)「え?どうしてだお?もしかして、僕の透け乳首が見たいってコト!?幻滅しました実家に帰らせて頂きます」
(´・_・`)「乳首千切るぞ」
文彦は汚ねえ乳首を手ブラで隠した。お見苦しい物を見せてしまい大変申し訳ございません
(´・_・`)「いいからそれ着て歩いてみろ」
(;^ω^)「何だお注文の多い……偉そうに……美女と美少女侍らせやがって……クソがよ……」
(´・_・`)「……」
小練は『一発くらい全力で殴っても許されるんじゃないか』と思えてきた
483
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:18:20 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「おっほ、新感覚……」
『服を着て水に入る』。ウェットスーツやラッシュガードはともかく、普段着のまま泳ぐというのは、余程切羽詰まった状況下か青春映画に脳を焼かれた学生しか行わないだろう
そもそも、何故泳ぐのには『裸』が適しているか。それは前述の通り『水の抵抗力』が関係する
(;^ω^)「っ、ふっ……」
肌の表面積よりも広く、ウエットスーツのように身体に密着しない布製品は、より多くの抵抗力を受けやすい
その上、水を吸った分重さが生じ、クロールやバタフライのフォームの妨げとなる
水難事故に遭った際、もがけばもがく程に体力を大きく消耗し、溺れてしまう要因の一つである
尚、有事の際は慌てずに『背面で静かに浮く』事で、衣服内の空気が抜けずに浮き輪の役割を果たす為、一概に悪条件とは言い切れない
(;^ω^)「んぐぐ……キチィお……!!」
(´・_・`)「せやろがい」
(;^ω^)「僕に何の恨みがあってこんな仕打ちを……?」
(´・_・`)「さっき吐いた暴言思い返してみ??????」
思わず本音が出た
484
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:21:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「同じ事を続けてても何処かしらで効力は横ばいになる。これから三日ごとに一枚ずつ、着るもんを増やしていくぞ」
(;^ω^)「お、溺れ死んじまうお!!!!!!!!」
(´・_・`)「面倒見てくれる優しいお兄様方が側にいるだろうが」
「お任せください!!我々、海上保安官志望も多いので!!」
「速攻で助けてやるぜ!!」
「人工呼吸も任せろ!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!」」」」」
逞しい上に心優しく頼もしい漢人魚達。輝く笑顔は真夏の太陽に匹敵するほどだ
(#^ω^)「チッ……脳筋低知能のクソ共がよ……」
文彦は意地でも世話になってやんねぇと心に誓った。同じ人間なのにこの差はなんだと言うのだろうか
かたやイケメン海上保安官候補のシンクロナイズドスイミング選手。そしてかたや性格ゴミクズの豚オタクだ。神は残酷ではなかろうか?文彦作った時なんか嫌なことあった?話聞こか?つかLINEやってる?
(;´・_・`)「……」
イケメンを妬んで憎んだところで別にお前がモテるワケじゃないと正論で聡そうかと考えたが、『豚の耳に念仏か』とすぐさま諦めたのだった
485
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:23:33 ID:0tGXVO1.0
(,,゚-゚)「せんせー」
( ^ω^)「!!」
豚は正論に聞く耳を持たないが、女の子の声にはいち早く反応する。背筋は瞬く間にピンと伸び、歩幅は広がった
( ^ω^)+「ほっ、はっ!!ヌルいですお!!まだまだやれますよ僕ぁ!!」
(´・_・`)「じゃあもう二時間追加するか。どうした?」
(,,゚-゚)「なんかねぇ、昨日来たサッカー部団体いるじゃん。そいつらとブサイクが揉めてる」
(;´・_・`)「ハァ〜?」
( ^ω^)+「ハッハッハ!!そんなもん放っといて大丈夫ですおしずくさん!!ブサイクなら三秒以内にボコボコにしてグラウンドに埋めてますお!!全くこれだから暴力に抵抗のない野蛮人は困る!!男は優しさ!!!!!そう!!!!!僕のように一度も拳を振るった事のない男こそ、真に愛されるべき者とは思いませんかお!!!!!?????」
儀社は人間なので豚語がわからなかった
(;´・_・`)「どこで?」
(,,゚-゚)「地下階段の踊り場。なんか絡まれてた」
(;´・_・`)「あー……悪さするなら人気のねえそこだろうなぁ……わかった。すぐ向かう。その間コレの面倒見てくれるか?」
(,,゚-゚)「……?」
(;´・_・`)「ああもういい。戻っていい」
『マジで何言ってんのかわかんない』という表情に、小練は早々に監視役を置くのを諦めた
486
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:24:36 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ちょいと外すが、しっかりやれよ」
( ^ω^)+「この僕がしっかりしていない時がありました?バッチリ仕上げときますよハッハッハ!!」
露骨な態度の豹変に、苦笑いも浮かばなかった
(;´・_・`)「オイ」
(,,゚-゚)「えー……」
(;´・_・`)「いいから」
『サービスしとけ』と暗に伝え、儀杜はしぶしぶと、嫌々ながら、最悪なまでに本意では無く、駅前に吐き捨てられ悪臭を放つゲロを見るような目と、何一つ感情の入っていない機械的な声で
(,,゚-゚)「ガンバッテー」
と、無感情の応援を放った
(#^ω^)+「ウオオオオオオオオ!!!!!!気合いが入りまくりましたお!!!!!!!見ててくださいしずくさん!!!!!!!貴女の為にきっと!!!!!!僕は生まれ変わりますおーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
それでも童貞オタクデブには絶大な効力だったようで、通常の二倍速で水中を歩き進めた
(,,゚-゚)「もう二度としないから」
(;´・_・`)「ああ……」
何もしてないのにここまで異性に嫌がられるのも、ある種の才能なのかもしれない
文彦に若干の同情をしながら、小練は急ぎ足で件の現場へと向かった
487
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:28:57 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(;´・_・`)「徳雄!!」
小練たちが駆けつけた頃には、既にサッカー部の姿は無く
('A`)「ああ、小練さん。どうしたんです?」
頬に青痣を作り、壁にもたれ掛かる徳雄だけが残されていた
(;´・_・`)「誰にやられた!?」
('A`)「言えません」
(;´・_・`)そ「ハァ!?」
('A`)「大ごとにもしないでください。それより今、時間あります?ちょっと見てもらいたくて」
ダメージを一切感じさせない足取りで立ち上がり、トレーニングルームへと向かっていく
複数人から暴行を受けた後にはとても見えない。小練と儀社は顔を見合わせた
(;´・_・`)「しずく、『人間の仕業』か?」
(,,゚-゚)「間違いないよ。ほら、ここに悪さの跡が残ってる」
床にはリキッドタバコの空カプセルが捨てられている。真面目かつ成人済みの徳雄なら、隠れてコソコソと吸いはしないだろう
その上、不良の二、三人程度で遅れを取るようなタマでは無い。文彦や依頼主から聞いた話では、むしろ喜々として相手を痛めつけるタイプの人間だ
(;´・_・`)「大ごとにすんなっつってもな……」
管理人という立場上、ルールを破った利用客を野放しにするわけにも行かない
しかし今の徳雄は、『何かを掴んだ』と言いたげな態度だった。沙汰を下すのは、それを目の当たりにしてからでも遅くはないだろう
(´・_・`)「後でシメればいいか……」
(,,゚-゚)「悪いとこ出てるよ先生」
488
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:30:28 ID:0tGXVO1.0
二人がトレーニングルームに入室すると、既に徳雄はセッティングを済ませていた
('A`)「この三日間の成績っす。どう思いますか?」
モニターに夥しい数の戦績が表示される。順位は多少上がったものの、トップスリーにランクインしている試合は無い
(´・_・`)「頑張ってるなって感じ」
('∀`)「ハハ、努力賞もいいとこっすよね」
たかが三日だ。『男子三日会わざれば』とは良く言うが、短時間で劇的に成長する者などフィクションの中だけの出来事である
例え徳雄が今の騒動で『何か』を掴んだとしても、目を剥くほどの変化は無いのだろう
('A`)「この一レース、ちょっと見といてください」
(´・_・`)「ああ……構わねえが……」
小練は別に、初心者である徳雄を甘く見ているワケではない。期待をしていないのは、これまでの『統計』から基づく認識なだけだ
素質があり、根性があり、向上心がある。この場合で鍛錬を行った者は、皆等しく培った努力の数だけ、地道に上達していった
その積み重ねあってこそ、数多の尊敬と栄冠を勝ち取るチャリオッツプレイヤーとして成り立つものなのだ
しかし小練は知らなかった
(;'∀`)「ハァーッ、ハァーッ……」
『暴力』を行使する時のみ発揮される、徳雄のポテンシャルを知らなかった
489
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:32:08 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「……」
『1st 6kill』
それは、小練が見た中で最も信じがたいスコアだった
これまでのセオリーも指示も、何もかもを無視した、無茶苦茶な走り
前を走るラビットを撥ね飛ばし、側面のホースを殴り飛ばし、砲火に曝されようと、眼前の敵を踏み荒らした
破壊に次ぐ破壊を、これでもかと堪能した後、当初の目標である『ゴールでの勝利』を達成した
ステージに残ったのは、へしゃげて横たわる屍と、怯えているかのように後を追う僅かな対戦相手だけだった
(;'∀`)「ハァーッ、なんっ、か、ずっと、ゲホッ、ここに、来る前から……」
息絶え絶えに。だが、これまでにない満足感を見せながら、徳雄はハンドルに両肘をついてもたれ掛かった
(;'∀`)「なんか足んねえって……ハァ、思ってたんす……申し訳ねえけど……小練、さんの、メニューも……『こんなもんか』って、思ってました……」
(´・_・`)「……これまで手ぇ抜いて走ってたってわけじゃねえよな?」
(;'∀`)「勿論すよ……」
(´・_・`)「ふむ……」
小練は、徳雄が掴んだ何かの見当は付いていた。『スイッチ』である
『ルーティン』とも呼ばれるそれは、特定の動作を繰り出すことで集中力を呼び起こし、パフォーマンスの向上へと繋げるのだ
某メジャーリーガーがバッターボックスに立った際、袖を捲るように、人それぞれに『スイッチ』の作法がある
それは音楽であったり、ミントガムであったり、アロマであったり
気合いを入れ直す為に頬を叩いてみたり、仕事の前に缶コーヒーを飲んだり
チャリオッツのプロプレイヤーの中には、仮面を被って別人になりきる事で、緊張とプレッシャーから解き放たれる者もいる
徳雄の場合は、『被虐』であった
490
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:34:05 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「蟒蛇と揉めた時……一回殴られてんすよね……そん時、めちゃくちゃ力入って……今みてーに、思いっきりやれたんすよ……結果として、文彦に、華を持たせたんすけど……多分、俺一人で全部やれました……」
(´・_・`)「……そんで?」
(;'∀`)「『この感覚』さえモノに出来れば、俺は今度こそあいつを殺せる。これが俺の必殺技なんす。だから小練さん、お目溢し願えませんか?」
これまで徳雄が歩んだであろう、『虐げられ、虐げ返した人生』に、小練は憐れまずにはいられなかった
学校で大人がしたり顔で説く道徳など、目の前にいる『虐めやすい者』に何の救済も与えない
攻撃に対する最高の抵抗は、防御では無い。受けた痛みを上回る『反撃』なのだ
小さく醜い男は、幼き頃からそれを頭では無く身体で理解し、実践した。その生き方が、歪んだスイッチを作り出したのだろう
小練は無責任かつ頭ごなしに、徳雄の生き方を間違っているなど説くつもりは無かった。右の頬を殴られたのなら、前歯の一、二本へし折って然るべきなのだ
むしろ、よくぞ今まで腐らず、突っ張って生きてこれたなと褒めてやりたいくらいだった
その上で、彼はこう返した
(´・_・`)「アホかオメー」
.
491
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:35:17 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「ハハ……やっぱ、ダメっすよね……」
(´・_・`)「ちょっと考えたらわかるだろ。お前、一試合毎に一発ぶん殴られるつもりか?」
これまで通用したやり方が、これからも通じるとは思えない。リング上で行う格闘技ならいざ知らず、チャリオッツはあくまで『eスポーツ』なのだ
(´・_・`)「確かにお前のポテンシャルは凄まじいよ。だが、本番は長丁場になる。最初に一回スイッチ入れて、それがゴールまで続く保証はねえだろ。必殺技ならもっとシャープに、そして頻繁に使えるように『入れ方』を更新すべきだ」
(´・_・`)「それに俺はお前らの先生でもあるが、ここの『管理人』でもある。そりゃ、どっか他所でやってくれんなら口出しなんてしねーが、他にも利用客がいるんだ。キッチリ取り締まらねーと示しがつかねーだろうが」
(;'∀`)「返す言葉もねえ……」
(´・_・`)「しずく、クソガキの顔覚えてるか?」
(,,゚-゚)「え?」
儀社は爪見てたんで話を全然聞いてなかった。微塵も興味が無かった
(,,゚-゚)「あ、サッカー部?知らないよ別に興味ないし」
(´・_・`)「オーケーお前に期待した俺がバカだった。徳雄」
('A`)「俺にチクりみてーな真似しろっつーんですか?」
(;´・_・`)「もぉ〜……プライド高い〜……」
管理職はツラいよだった
492
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:37:01 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「あーもー……とりあえず、今回は注意喚起だけで済ます。次はちゃんと逃げるかシメるかしろよ……」
('A`)「シメて良いんすか?」
(;´・_・`)「暴力抜きでな……」
('A`)「了解っす」
儀社は「なんか可笑しいこと言ってない?」と思ったが、ブサイクが何しようが興味がないので爪を見るのに戻った
ネイルをやってみたはいい物の、やっぱベタベタのベタになって気になるのだ。今夜あたり同居人の姉代わりに直して貰おうと思った
(´・_・`)「さて……」
『物足りない』。不満があるならすぐに解消するに尽きる。レース感覚を掴む為のNPCとの模擬戦だったが、徳雄の『感覚』を刺激するには少々役不足だったらしい
(´・_・`)「トレーニングのレベルを前倒しにする」
本当ならば合宿の終盤、総仕上げの『試練』として経験させようとしていた強豪との練習試合
ある程度の練度を貯めて挑んで貰おうと考えていたが、もはや徳雄は『初心者』で片付けられるレベルを当に越えている
時間は有限なのだ。程度が知れたなら、より効果的な訓練を積ませるべきだ
493
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:38:51 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「言っとくが、これまでのクソザコ共とはワケが違うぞ」
チャリオッツのトレーニングモードには、AI学習による『プレイヤー再現機能』が搭載されている
挙動、エイム、攻撃、ペース配分、アビリティの発動タイミングやスパートの入れどころまで
メモリー内に保存された選手データをNPCとして反映し、より高いレベルの練習相手として利用出来る
引退した元プロプレイヤーの中には、後輩の育成の為、あるいは最後の一稼ぎ目的で自身のデータを配布する者もいる
(´・_・`)「これからお前が相手にするのは、かつてのレジェンドだ」
('A`)「……」
『一進不退』、『スリップ・バナナ』、『ドルバッキー』、『ff(フォルティッシモ)』、『4分33秒』
('A`)(何これ……)
こんなんバァー挙げられても徳雄には何のこっちゃヨイヨイセブンだった
そう、皆さんご存知、歴代のチャリオッツタイトル獲得チーム名なのである。2122年のナウなヤングの間では常識なのである。もしかして2122年の人間じゃ無いんですか?百年も時代遅れで恥ずかしくないの?
('A`)「ん……?」
その中に一つ、見覚えのある名前があった
『アンラ・マンユ』
('A`)「オッサンの推しチームも入ってんすか」
(´・_・`)「そうだ。お前らをここへ推薦した三浦さんが所属していたチームだな」
チームデータはまだまだアップロードされていく。カウンターが丁度100を表示した辺りで、エントリータブを押した
(´・_・`)「総勢100チームのデータだ。これを一試合毎に17チーム、ランダムに選出する」
('A`)「ランダム?」
(´・_・`)「同じ相手とばっかやって変なクセつけたくねーだろ。AIは『基本に忠実』がウリだが、『応用』は効かねえ。細かいフェイントや余計な遊びも入れたりしねえから、本番で引っ掛かる可能性も出てくる。せめて組み合わせで変化はつけとかねえとな」
('A`)「良いっすね。より楽しめそうだ」
(´・_・`)「だと良いがな……」
494
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:39:44 ID:0tGXVO1.0
難易度が上がっても目標は依然変わらない。レースの勘を掴み、順位に関わらずゴールを目指す
また新たに、被虐以外でのスイッチの取得も追加された
(´・_・`)「一騒動あったが、自分の武器を明確に自覚できたのは大きな進歩だ。その調子で励めよ」
('A`)「はい。ありがとうございます」
感情が込められていない形式的な感謝に、小練は苦笑いを浮かべる他なかった
誰しも認められるのは嬉しく喜ばしいものだが、徳雄はその辺の感受性が著しく低く見える
(´・_・`)(まぁ……ええか……)
徳雄は勝利への渇望と、暴力と破壊の快感を知っている。他人から与えられるモノではなく、自ら勝ち取るモノへの執着心がある
自己完結で済むモチベーションは、孤独で過酷な訓練への耐久力だ
('A`)「っし……そんじゃ、やってみます」
徳雄は殴打によって出来た青痣に触れ、サドルに跨った
痛みと屈辱が全身に行き渡り、疲労した身体に新たな活力が漲る
('∀`)「へへ……」
今の自分が、自分の武器が、かつてのレジェンドにどれほど通用するのか
仮に全く歯が立たなくても構わない。まだまだ『伸び代』があるという事だからだ
高鳴る鼓動に共振するかのように、スタートのシグナルが鳴った―――――
495
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:42:31 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(#^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!うっぜえうっぜえうっぜえお!!!!!!!」
マジで三時間歩かされて文彦は疲労と怒りでAdoになっっていた。ねぇアンタわかっちゃいない可能性がある
『叫ぶだけの元気ある分際で何キレてんのこの豚?死ねよ』と思われそうではあるが、こう見えて産まれたての汚豚のように脚ガクガクなのである
(#^ω^)「ったく、みんな僕を蔑ろにし過ぎじゃないかお?こんなに頑張ってんだから、労いのご褒美があって然るべきだと思うお」
デカい独り言であった。そもそも、労いの言葉はシンクロナイズドイケメン軍団に発狂するほど浴びせられたし、小練からもガッツを褒められているにも関わらず
しかし豚が欲しいのは黄色い声援。女性からの甘やかし。そして関係&ラッキースケベなのである。野郎の言葉なんてただの不愉快なノイズでしか無く、それが更に苛立ちを助長させていた
(#^ω^)「っかーーーーーーー!!!!!!とっととミセリのサマーフェスの日になってくんねーーーーーーかなーーーーーーーー!!!!!!二度と帰ってこねえおこんなクソ合宿!!!!!!!!」
声はデカいが這う這うの体である。せめてもの気休めは、明日はオフだと言うことだ
気分を切り替えようと、休みの予定を脳内で組み立てる。食堂で一日中調理員さんを眺めるのも良いし、しずくさんや事務員さんにミセリの魅力を説くのも良い
ブヒヒと気持ち悪くて臭い笑いをしながら、ボロボロの身体を引き摺って食堂へと向かう
496
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:43:28 ID:0tGXVO1.0
その道中である
( ^ω^)「お……?」
廊下の先に、小汚い誰かが倒れているではないか
(;^ω^)そ「うわ、めんっ……」
本音が出た。国産の豚らしい事なかれ主義であった
しかしこのまま見過ごすのも文彦の心に後味の悪いものを残す。クッソ嫌々ながら、様子を見に近づいた
(;^ω^)「あ、あのー……大丈……」
( A )「」死ゾ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(;^ω^)そ「うわブッッッッッッッッッッッサ!!!!!!?????とっくん?」
見覚えのあるブサイクが、醜い顔面に痣を作って倒れているではないか
『ほな放っといて大丈夫か』と一瞬思ったが、まぁまぁ事件の香りがせんでもないので一応揺すって反応を確かめた
( ^ω^)「おーい、ブサ」
お茶みたいに呼びかけた
497
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:45:14 ID:0tGXVO1.0
('A`)「ん……おお、文彦か」
ブサイクの自覚があるのか、徳雄は何事も無かったかのように上半身を起こす
( ^ω^)「寝てたのかお?」
('A`)「そうらしい。ちょっと手ぇ貸してくれるか?」
自力で立ち上がるのも困難なのか、徳雄にしては珍しく助けを求めた
文彦はそれに応え、両手で腕を掴み立ち上がらせる。放した後に汚いモノでも触ったかのようにしつこく手を服で拭ったのは無意識の行動であった
( ^ω^)「喧嘩したんだって?」
('A`)「してねえよ一方的に殴られただけだ」
( ^ω^)「ほぉーん。遂にとっくんも非暴力に目覚めたのかお」
('A`)「世話になってる身だしな。TPOくらい弁えらぁ」
口より手が出る野蛮人が珍しいと思ったが、顔に見合わずクレバーな面もあるのを知っている
今回も例に漏れずキッチリ報復するのだろう。つくづく、恐れ多くブサイクな男である
( ^ω^)「僕に迷惑だけはかけないで欲しいお」
('A`)「あー、善処するよ」
気の抜けた返事に苦言の一つでも返そうとした時、背後から『ダン、ダン』と大きな足音が反響し
(;'A`)そ「ウッ!?」
背中に飛び蹴りを喰らった徳雄がつんのめり、顔面で廊下を滑った。ブサイクを擦り付けられた廊下が不憫である
498
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:47:35 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)そ「ブスーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
(;TДT)「哀しい……」
(;^ω^)そ「えっ誰!!!!!!??????」
徳雄の二回りは大きいであろう人物が、文彦の首に腕を回し、締まらない程度にロックした
(;TДT)「『密告』はこの世で最も卑屈で卑怯な『罪』(ギルティ)……そうは思わぬか?贅を尽くした肉体の持ち主よ」
『なんか濃いの来たな』。恐らくこの男が徳雄と揉めた人物なのだろうが、いい歳してキャラがアレなんで思ったより冷静だった
(;^ω^)「はぁ……そっすね」
彡 l v lミ「なんだぁ!?!!!????望火(のぞか)さんの言うことが間違ってるってかぁ〜!!!!!?????」
( l v l) 「オイオイ僕ちゃんよぉ!!!!!!!誰を前にしてんのかわかってんのかぁ〜!!!!!?????」
その後ろから、太鼓持ちであろうザコチンピラ感丸出しの双子がひょっこりと顔を出す。宮下 聡の可能性があった
(;^ω^)「そ、そう言われましても……」
(;TДT)「やめぬか……贅肉よ、彼奴は我らの『罪深き深煙の休息』を覗き見ただけに飽き足らず、その行いを『管理者』に密告した罪人なのだ……然るべき罰を与えてやるのが『救済』に繋がるとは思わぬか?」
「もう何言ってるのかわっかんねーよこの悲鳴嶼さんのなり損ない」とお考えの読者諸兄の為に翻訳すると
『隠れてタバコ吸ってたのをチクっただろテメーブサイクが殺すぞ』
である。言うわけないだろうそんなこと!!!!!!!!!!!!みんなの岩柱が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
499
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:50:46 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「その……今からあのブサイクをボコボコにするって事ですかお?」
(#TДT)「『救済』だッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(;^ω^)「はぁ……そっすか……」
余りに不憫でそんなに怯えなかった。彼が蹴飛ばしたのは、疲れてようがブサイクの形をした『鬼』である
('A )「ってぇ……」
むしろ、鬼がTPOを弁えなくなる方が恐ろしかった
(;^ω^)「あ、あのぉ……不躾ながら申し上げますお」
(;TДT)「殊勝な豚よ、申すが良い」
(;^ω^)「早く謝った方が宜しいかと……あのバケモノみたいなザコ顔面でも一応!!一応話が通じる方の人間ですので、誠心誠意の謝罪をすれば骨の一本程度で済ませるはずですお……」
(#TДT)「我があのブサイク如きに遅れを取ると申すか!!!!!!!!!!!!??????????」
(;^ω^)「え?はい」
正直は美徳だ。だが口は災いの元ともいう。文彦は頭愉快な偽岩柱に突き飛ばされ、双子に両脇を羽交い締めにされた
500
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:53:02 ID:0tGXVO1.0
(#TДT)「そこで見ておくと良い!!愚かな惰豚よ!!あの醜き小さな罪人に然るべき報いを受けさせた後は貴様の番だ!!!!!!」
彡 l v lミ「へへっ、死んだぜお前ら〜!!何てったってサッカーの名門、樹恵努学園(中高一貫)の守護神、『山の望火』さんを本気で怒らせちまったんだからなぁ〜!!」
( l v l) 「無事に家に帰れると思うんじゃあねえぞ〜!!合宿が終わるまで俺らの憂さ晴らしに付き合って貰うんだからなぁ〜!!」
(;^ω^)「はぁ………………そうなんすか………………」
この塩対応である。文彦自身、こんなに危機感を覚えないのは初めてでびっくらこいていた。くら寿司の可能性がある
徳雄はと言うと、うつ伏せに倒れたまま動こうとはしない。山のなんとかさんはフンと鼻を鳴らして近づいていく
(;TДT)「身の程を知るが良い!!!!!!!」
高く右足を上げ、先ほどの飛び蹴りで背中についた足跡に、重ねるようにストンピングを放つ
(;^ω^)「あーあ……」
目を背けるまでも無かった。きっと大した驚きも無いのだろう
『身の程』を思い知らされるのは、恐らく尊大不遜な大男の方であろうと、確信までしていた
501
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:54:19 ID:0tGXVO1.0
〜見つめる割愛〜
https://www.youtube.com/watch?v=gwQ3tu7pfGo
.
502
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:56:24 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すいませんでした!!すいませんでした!!」
彡; l v lミ「勘弁してください大会があるんです!!」
(;l v l) 「スポーツ推薦も懸かってるんです!!」
一分も経たぬ内に、立場は逆転していた。某動画サイトなら赤文字でなんかいっぱいコメントがつく光景だった
( ^ω^)「ナイスTPO」
('A`)「どうもありがとう。スッキリしねえよ」
ストンピングを背中の押し上げで跳ね返した後、尻餅をついた山の望火さん(笑)の側頭部に向けて後ろ回し蹴りを放ち、小指の先ほどの近さで寸止めした徳雄は、欲求不満とでも言いたげに鼻を鳴らした
無様を晒すアホの三人組だが、蟒蛇とは違って『格の違い』を理解してからの土下座は早かった。三下のムーブではあるが、防衛反応の観点から見れば利口であった
('A`)「小練さんに、暴力はやめとけって言われてたからな」
( ^ω^)「そう……ん???????」
『確かに怪我はさせてないが、命に関わるレベルの蹴りは寸止めであっても立派な暴力では??????』
思わず理性と道徳がツッコミそうになったが、別に自分に危害が及んだわけでは無いのですぐさま頭から掻き消えた
503
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:56:54 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すんません……しゅ、周囲の期待が、プレッシャーになっ、なってて……イライラしてタバコに手ぇ出しちまって……」
('A`)「訊いてもいねえのに俺らに関係ねえことベラベラ喋んな」
真っ先に保身に走る変わり身の早さに、唾を吐き捨てるかの如く制止する。自分が不利な立場になると言い訳を重ねる頭の悪い連中は不愉快極まりなく
いつもなら口が利けなくなるまで痛めつけるのだが、今回ばかりは辛うじてTPOと師への義理が勝った
('A`)「俺は何もチクってねえし、小練さんも誰がヤニ吸ったかなんて把握してねえ。テメーの人生設計が大切なら、ザコらしく身の丈に合った生き方したらどうだよ」
彡;l v lミ「仰る通りです!!サーセン!!」
(;l v l) 「頭に乗ってました!!態度を改めます!!」
('A`)「わかったらさっさと消えろ。今度小練さんに迷惑掛けたら、二度と球蹴り出来ねえ身体にしてやる」
( ^ω^)「僕は????????」
三馬鹿は弾けるように立ち上がると、元来た道を一目散に逃げて行く。徳雄は名残惜しそうに見送った
504
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:58:04 ID:0tGXVO1.0
('A`)「割と便利な連中だったんだけどなぁ……」
(;^ω^)「とっくん、いくらクズでも人間サンドバッグはマズいお。そんなんやるのデッカード・ショウくらいだお」
('A`)「誰?」
ワイルド・スピード ジェットブレイクは未履修だった
( ^ω^)「先生に報告しなくて良いのかお?追い出した方が(僕の)身の為だお」
('A`)「いいよ別に……タバコくらい可愛いもんだろ……」
(;^ω^)「このヤンキーホンマ……」
('A`)「オメーも悪さする時は、他人の目に付かないとこでやるこったな」
(;^ω^)「しねーお人聞きの悪い!!」
あっけらかんと食堂へ向かう徳雄だったが、文彦は不安気に三人が去った方を振り返った
『これで終われば良いけど』。虐げられる立場だった文彦は、ああいう人種のしつこさもよく知っていた
('A`)「食堂閉まんぞー」
(;^ω^)「おっ、そりゃいかんお!!」
無力な文彦は、早く彼らがここから出ていってくれることを祈る他なかった
505
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 21:59:03 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
一日休みを挟み、鍛錬が再開される
(;'A`)「フッ、フッ……」
(´・_・`)「うんうん」
日が増すごとに、負荷も増やし
(;^ω^)「マジですかお!?僕もミンミン民ですお!!」
「おっ、同志だったか!!どうだい、今夜の配信を一緒に見ようじゃないか!!なぁ、みんな!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」
(´・_・`)「うんうん」
合宿の成果は、着々と身についていった
そんな矢先である
506
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:01:33 ID:0tGXVO1.0
( ^ω^)「いやぁ、話せばわかるんだおね!!人って見かけによらないお!!」
(;'A`)「そりゃ、良かったな……」
暫くの間、共にプールで鍛錬したイケメン人魚達とすっかり仲良くなった文彦を余所に、徳雄の顔はいつも以上に酷かった
( ^ω^)「とっくん?ウンコでも我慢してるのかお?」
(;'A`)「ああ……いや……ちょっと今朝から……」
言い終わらぬ内に、徳雄は倒れるように食堂机に突っ伏した
(;^ω^)「ちょ、とっくん!?」
(;´・_・`)「どうしたァ!!」
(;^ω^)そ「うわ速ァ!?せ、先生!!とっくんがブサイク拗らせてぶっ倒れたお!!」
(;´・_・`)「ブサイクは健康状態に影響しねえよ!!医務室に運ぶ!!着いてこいデブ!!」
(;^ω^)「はいですお!!とっくん、顔が酷い!!でも大丈夫!!ブサイクは命に関わらないらしいお!!」
文彦もだいぶ混乱していた
507
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:04:34 ID:0tGXVO1.0
イ从゚ -゚ノi、「疲労と軽い脱水症状ね」
保健医の資格も持っているのか、小練に呼び出され自動診察機を扱って診断した事務員は、落ち着いた様子で診断結果を告げた
イ从゚ -゚ノi、「熱も無いし虫刺されの跡も見当たらないから、感染症じゃない。腸の動きも穏やかだから食あたりでも無さそうだし、脈も呼吸も正常値」
(´・_・`)「『アレ』は?」
イ从゚ -゚ノi、「『アレ』でもない」
(;^ω^)「そ、想像妊娠ですかお?」
(´・_・`)「落ち着け」
(;'A`)「終わったんなら練習に戻っていいすか……?」
診察を終えた徳雄は、寝かされたベッドから立ちあがろうと上半身を起こす
(´・_・`)「今日は休め」
(;'A`)「休みなら二日前に取りましたよ……」
(´・_・`)「二度も言わすな」
有無をも言わせぬ静かな迫力に、文彦は思わず小さな悲鳴を上げた。漏らす寸前だった
尚も食い下がろうと徳雄は口を開き掛けたが、観念して再びベッドに身を預けた
508
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:05:19 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「よし。銀、少しの間頼めるか?」
イ从゚ -゚ノi、「はいはい。仕事に戻んなさい」
( ^ω^)「あの!!ボボボボ僕も今日はとっくんに付きっきりで看病しますお!!ほら、大親友の僕がいないと心細いと思うので!!」
(´・_・`)「オメーは元気いっぱい高校鉄拳伝タフやろがい。行くぞオラ」
(;^ω^)そ「ああ!!下心とか無いのに!!医務室で事務員さんに悩み相談とかしてもらいたいとか一切考えてないのに!!友情なのに!!」
イ从゚ -゚ノi、「早く出てって」
('A`)「早よ行け」
四面楚歌だった
509
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:05:46 ID:0tGXVO1.0
小練はうるさい豚を片腕で担ぎ上げ、医務室を後にする
引き戸が閉まり、室内には豚の鳴き声と利用客の喧騒が静かに響いた
('A`)「……みっともねえ」
イ从゚ -゚ノi、「そう思うんなら、明日から身の程に合った鍛錬をする事ね」
冷たく言い放たれた言葉は、つい先日に徳雄が三人組に吐き捨てた啖呵に良く似ており
('A`)「反省しますよ……」
イ从゚ -゚ノi、「そう。素直で結構」
図らずも、自分を見つめ直す良い機会となった
510
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:09:16 ID:0tGXVO1.0
一方で
( ^ω^)「やれやれ、ブスも倒れる事あるんだおね。鍛え方が足りんと思わんですか奥さん」
自分を一向に顧みない性格デブは昼からの運動を再開する為プールへと向かっていた
徳雄の過労は一日の回復量を上回る運動量が原因なのだが、他人を下げる事に余念がない豚は当然そこまで頭が回らない。脳の代わりに脂肪が詰まっていた
( ^ω^)「おっと、忘れ物したお」
防水仕様のワイヤレスイヤホンを取りに回れ右をして部屋に戻る。辛い運動もミセリの配信アーカイブを聴きながらだと割と耐えられると気づいたのは四日目からであった
文彦がここまでの合宿で、着々と『運動する習慣』が身に付いていた。スポーツとは一重に勝負を通じた交流やプレイ中のストレス解消だけが楽しみでは無く、疲労を癒す行程へのスパイスとなる
水分が喉を通る快感。舌に染み入る食事の旨み。泥のように溶けて味わう睡眠の心地良さ
これを一度でも経験してしまえば、怠惰な豚も自主的に動くのである
( ^ω^)「♪〜」
加えて、過酷な鍛錬に『あの徳雄』よりも耐えきっているという優越感。文彦は自分が一回りも二回りも強い存在になっているという陶酔に浸っていた
それ故に
(;TДT)「豚よ……」
(;^ω^)そ「うわ出た!!!!!!!!!!!!」
『あの徳雄が過労で休んでいる』という、危機的状況に気づくのが遅れてしまった
511
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:10:54 ID:0tGXVO1.0
彡 l v lミ「ヘイヘイ豚ちゃ〜ん!!ゴキゲンじゃないのぉ〜!!」
( l v l) 「豚ケツ振ってどこ行くんでちゅかぁ〜?」
徳雄に理解らせられて以降、姿を見る度にそそくさと逃げていた三人組が、ここぞとばかりに文彦を取り囲んだ
(;^ω^)「なっ、なな、何の用だお!!僕に手ぇ出したら大親友のとっくんが黙っちゃいないお!!」
ブスの威を借る豚。しかし三人組はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた
(;TДT)「フン、あの醜き小鬼が消耗していることは承知済みよ。弱った化け物など恐るるに足りぬわ」
(;^ω^)「ち……ちっせえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!名門校ってこんな小物が仕切ってんのかお!?お里が知れるお!!」
臆病な文彦ですら馬鹿に出来るレベルの三下ムーブである
彡 l v lミ「おうおう、言ってくれるじゃあないの豚ちゃんが……よっ!!」
(;^ω^)そ「危なっ!!」
顔目掛けて放たれた軽いパンチを、身を引いて避ける
彡 l v lミ「ほぉん?身軽じゃないの」
(;^ω^)「僕も今ビックリしてるお」
運動の成果か。それとも修羅場を目の当たりにし続け手に入れた胆力か
反撃こそ気が引けるものの、悪意ある暴力を回避できる程度の身軽さを手に入れていた
そう、これが俗に言う『身体が軽い……こんな気持ち初めて……もう何も怖くない!!』である。目覚めた心は走り出したのである(未来を描くため)
512
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:12:13 ID:0tGXVO1.0
しかし、多勢に無勢であった
(;TДT)「破ッ!!」
(;^ω^)そ「うわ何をするモガガ!!!!!」
背後から羽交い締めにされ、助けを呼べないように口を塞がれる。豚の汚い汁が手に着くのもお構い無しだった
(;^ω^)「モガガモガモガガモガモガッガ!!!!!!!!!!!!エロ同人モガガガ!!!!!!!」
不思議なことに何て言っているのか理解出来る筈である。どのエロ同人作者かにも寄るが、少なくともイチャラブでは無いことは確かだった
(;TДT)「恨みは無いが、やられっぱなしは性に合わないのでな……連れて行くぞ」
彡 l v lミ「ヘイ、アニキ!!ヘヘッ、良い場所に連れてってやるよ豚ちゃあ〜ん!!」
( l v l) 「誰にも見つからずに忘れ去られちゃうかもなぁ〜!!」
(;^ω^)「モガガ!!!!!?????」
ズルズルと引き摺られながら、文彦は『良い場所』とやらへ連れて行かれる
昼間にも関わらず、『誰ともすれ違わず、誰にも目撃されない』事態と、こんな時に限ってダウンしているブサイクを怨みながら
513
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:13:10 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「モガー!!モガー!!!!」
拉致という未曾有の危機でパニックに陥り、文彦は二つの異変に気づかなかった
一つは、三人組の瞳孔が、日が高いにも関わらず収縮していた事
もう一つは、二階建ての校舎には絶対に無いであろう
『三階へ向かう階段を昇っている事』だった
.
514
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:15:17 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』
.
515
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:20:33 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』
https://www.youtube.com/watch?v=H4dGpz6cnHo
.
516
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:21:58 ID:0tGXVO1.0
イ从゚ -゚ノi、「あっ、ヤバ」
('A`)「?」
イ从゚ -゚ノi、「席を外すわ。そこを動かないで」
事務員は微睡みの最中にあった徳雄に釘を刺し、i-ringで小練に連絡を取りながら慌しく退室する
徳雄は掛け布団を退けベッドから立ち上がる。まだフラつくものの、体調は多少回復した
('A`)「ボヤでもあったのかね……」
冷蔵庫を失敬して、スポーツドリンクを口にする。少し外の空気を吸いたくなり、窓辺へと移動しカーテンを開けた
('A`)「よっ……?」
クレセントを解除しようとした手は、偶然目に入った『有り得ない光景』によって止まる
(;'A`)「え???????」
ちょうど宿舎の辺りであろうか。外壁にポッカリと黒い大穴が開き、そこから見覚えのある少年と、先日灸を据えたばかりの問題児たちが
(;'A`)そ「えええええええええ!!!!!??????」
『階段を昇るかのように』、空中浮遊を行っていた
517
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:22:51 ID:0tGXVO1.0
(;うA`)「うん!!!!???あれ!!!!!????」
目を擦ろうとも、その異常な光景は消えて無くならず
(;'A`)「痛でででででで!!!!!!」
頬を抓ると、しっかり痛い
(;'A`)「なん……?????」
当の本人達は、確かな足取りで宙を歩む。三人組が強引に文彦を連れているのを見るに、恐らくは自分が倒れたのを察して報復に出たと見ていい
そこまでは理解出来る。しかし彼らに超能力が備わっているなど想像も出来ない
三人組も文彦も、自身が置かれている異変など気にも留めず、そこに『階段があって当たり前』のように、歩く速度で空へと昇っていく
(;'A`)そ「なんっ……!?」
目の乾きに耐え切れず、無意識に行った瞬き。その僅かな視線の隙を突き、四人は消え去っていた
518
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:23:28 ID:0tGXVO1.0
(;'A`)「夢か……?」
外壁の穴も、最初から無かったかのように塞がっている。グラウンドでは、少年野球チームが活発に声を出しながらノック練習を受けていた
複数人が通り抜けられるほどの穴だ。外からでも、外の方が、AI生成された画像のようにトンチキな光景に気づく筈
(;'A`)「そうだ、連絡……!!」
i-ringで文彦との通話を試みる。無機質なコール音が二度、三度と繰り返される中、徳雄は壁のL字フックに紐を通して掛けられている『施設案内図』が目についた
(;'A`)「……」
初日に流し見した後、一度も手に取らなかったそれに、答えは載っていた
裏面の『注意事項』。朝昼晩の食事時間から始まり、飲酒、喫煙に関する注意喚起。BBQや花火を行う場合、事前予約が必要等―――――
(;'A`)「『三階』」
『三階への立ち入り禁止』
.
519
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:24:04 ID:0tGXVO1.0
徳雄は再び盛岡の言葉を思い出していた
「泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」
虚しく響くコール音は十回目に到達すると、呼びかけを諦め、プツリと途切れたのであった
520
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:25:28 ID:0tGXVO1.0
次回、『The Demon Village.』
『狭間 “In The Backrooms.”』
.
521
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 22:27:03 ID:0tGXVO1.0
終わりですお疲れさまでした
次の話は鬼ヶ村スレにて投下します
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1634993171/1-100
522
:
名無しさん
:2023/05/05(金) 23:47:43 ID:UbyMOIpU0
乙!読み応えがありすぎる
文彦がちょっと成長したの感動した
523
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 15:55:30 ID:nhTmZYLM0
乙です
524
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 19:36:53 ID:21L3yE8s0
乙!豚に対する当たり強くない?豚だから仕方ねえかガハハハ
525
:
名無しさん
:2023/05/07(日) 13:48:28 ID:S01Oemjw0
>>305
526
:
名無しさん
:2023/05/11(木) 23:48:47 ID:5cFmQsUM0
おもしれぇ
突然怪奇現象始まってドクオたちがどう巻き込まれるのか全く予想つかん
527
:
名無しさん
:2023/05/28(日) 08:47:44 ID:XzCV3zas0
小練さん有能すぎんか?さぞ名のあるトレーナーと見受けられるが山奥に隠れるような暮らし、今回の怪現象と関係ありそう
あと久々に銀のAA見れて懐かしさが押し寄せてきた。正◯ヒーローの作者今何やってんだろ
528
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 12:51:13 ID:xsbgfEYE0
できた
529
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 15:44:15 ID:4d2Sqhos0
待ってる
530
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:42:51 ID:xsbgfEYE0
前回までのあらすじ
なんか色々あって『ねぐら』からクソヤバい場所に連れてかれちゃったけど帰って来れた。その間一年半くらい経った(体感)
文彦はアホにアホを重ねてるオタクデブなんで何も覚えてなかった。良かったね。何も良くねえよバックルームくらい一人でどうにかしろデブ臭ぇんだよ
(ゝ^ω^)
('A`)「お前……」
(ゝ^ω^)「あんだお」
('A`)「痩せ……いや、やつれたな……」
(ゝ^ω^)「うるせえ」
('A`)「やさぐれてもいるな……」
(ゝ´・_・`)
('A`)「あの……」
(ゝ´・_・`)「あんだお」
('A`)「小練さんもド疲れてません?」
(ゝ´・_・`)「うるせえ」
('A`)「……」
徳雄はめんどくさくなって訊くのをやめた
531
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:44:03 ID:xsbgfEYE0
第八話
『男子、一月会わざれば』
.
532
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:46:17 ID:xsbgfEYE0
徳雄が倒れてから五日が経過した。計画にない休息というタイムロスは、図らずも『オーバーワーク』という問題点を自覚する良いきっかけとなった
しかしここに来て文彦のモチベーションが著しく減少する出来事があった
(ゝ^ω^)「もう嫌」
ミセリのサマーフェス当日、文彦は『ねぐら』に残っていた。案の定というか想定の範囲内と言うべきか、彼の望みは叶えられなかったのだ
当然、運動が身に入るわけもなく、合宿を終えて帰宅した男子アーティスティックスイミング部員がいないガランとしたプールで、水面に沈んだ豚面を向けながらダラダラと歩いていた
('A`)「……小練さん」
(ゝ´・_・`)「あんだお」
('A`)「いつまでやつれてんすか……本当に大潮のクズから何の連絡も?」
(ゝ´・_・`)「少なくとも、フェスの為に一旦帰せとは聞いてな……お前の上司だよな?????」
('A`)「にしたってこれは……」
運動をより効果的に行うにあたって必要なのは、鍛える部位への『意識』だ。筋トレに球技のフォーム。有酸素運動も例外ではない
今の文彦が行なっているのは、服を着てプールに浸かってるだけの、運動とは呼べない時間の無駄な浪費である
本八も文彦の不貞腐れ易い性格は理解している筈だ。用意周到な彼が何の手も打っていないとは考えづらいが、それにしてはアクションが遅いように感じた
(ゝ´・_・`)「感情の起伏が激しめのガキは、別のきっかけでガツンと再燃することもあるからな。オメーらの大将もそれはちゃんと理解してるだろう」
('A`)「だといいんすがね……」
533
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:47:11 ID:xsbgfEYE0
『別のきっかけ』。文彦にとっては言うまでもなく『推し』に関する事だろう。フェスに行けなかった代わりにまたもやグッズやら何やらを用意するのだろうか
しかし、同じ手が何度も続くとは思えない。文彦ほど面の皮が厚いV豚なら、それを受け取った上で更なる無茶な要求をするのは目に見えている
そもそも、悪いのは個人の予定を無視してスケジュールを組んだ本八なのだ。身銭を切ろうが腹を切ろうが、応えて然るべきではあるのだが、それはあくまでも『賠償』として受け取られる
『ガツン』とやる気が上がるかと問えば、文彦はきっとこう答えるだろう。「え??????約束を破ったのは向こうなのになんで僕がこれ以上頑張らないといけないんですか??????」と。心底憎たらしいオタクデブである
(ゝ´・_・`)「俺ァそろそろ行くから、サボらねえよう見ててくれ」
('A`)「あんな状態なら見てても見てなくても一緒でしょうよ」
(ゝ´・_・`)「それもそうだな。水泳を楽しめ」
軽く手を振ってプールサイドから去った小練からは深刻さは微塵も感じられなかった
('A`)(何考えてんだかね、あのオッサンも)
かく言う徳雄自身、文彦のモチベーションを回復させる手段も策も持ち合わせてはいない。慰めの言葉など掛けたところで、汚豚の耳に念仏なのは明白だ
それに、今し方小練が迎えに行った『客人』が、文彦の再起を促す何かを持ってきてくれるかもしれない
どのみち、合宿も後半に差し掛かりつつある今、他人の面倒を見ている暇は無いのだ。徳雄は水中ゴーグル装着すると、頭からプールへと飛び込んだ
534
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:47:44 ID:xsbgfEYE0
午前の運動を終え、食堂に向かう道すがら、事務室から聞き覚えのある独特のオタク早口が聞こえてきた
ノックしてから顔を覗かせると、先程到着したばかりであろう二人が、旅行鞄を足下に置いてアイスコーヒーを頂いている所であった
(;@з@)「おお、宇都宮氏ではござらんか!!」
⌒*リ´・-・リ 「ご無沙汰してます。宇都宮さん」
『木本 王太郎』と『高梨 莉花』。二人がねぐら訪れると小練から知らされたのは、徳雄が倒れた当日の夜のことだ
木本は夏休みが始まって早々に、アプリ開発会社のインターンに参加しており、高梨は先日まで徳雄が抜けた穴を埋める為に労働に勤しんでいた
インターン終了と高梨の休暇が重なったタイミングで、二人は応援を兼ねて遊びに訪れたのだ
⌒*リ´・-・リ 「倒れたと聞きましたが、大丈夫なんですか?」
('A`)「問題ねぇっすよ。職場はどうです?」
⌒*リ;´・-・リ 「あ、あはは〜……社長さんが毎日ヘルプに入ってて、店長が死にそうになってる以外は順調ですよ」
('A`)「あのパワハラクズはホンマ………」
パワハラを自分から受け続けてきた男は面構えが違った
535
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:49:04 ID:xsbgfEYE0
イ从゚ -゚ノi、「……」
('A`)「おっと……」
イ从゚ -゚ノi、「何が?」
('A`)「いえ、なんでも」
いつも通りの仏頂面で、コーヒーに意味わからん量のガムシロを注ぎ込む氷の事務員の姿に姿勢を正す
見た目の通り、騒がしいのは好まなさそうな彼女が、来客を自身の仕事場へ招き入れているのが少々意外だった
('A`)「そのー、木本?盛り上がってたようだが……」
見た目はともかく、あの性格ゴミカスの文彦を親友と呼ぶほど人の出来た木本だが、彼は残念ながらオタクである
もしかして、銀が微塵も興味のない『皆鳴ミセリ』の話題を一方的にワッと浴びせているのではないかと、徳雄は内心気が気でなかった
(;@з@)「いやー、銀女史が読まれていたSF小説が拙者の愛読書でしてな。つい熱く語ってしまったでござる」
銀の事務机の上には、今時珍しいハードカバーの紙書籍が置いてある
無重力空間に浮く宇宙飛行士の絵に、表紙の三分の一を埋め尽くす大きさで『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とタイトルが記されていた
神が書いたSF小説である。これを一度でも読んでしまうと、普通の本では満足できない身体になってしまう
イ从゚ -゚ノi、「柄にもなく盛り上がっちゃったわ」
(;'A`)「アッエッ、そうなんすか……」
イ从゚ -゚ノi、「何?」
(;'A`)「あっなんでもないっす」
共通の話題があったとはいえ、彼女から『盛り上がった』という言葉を引き出した木本に対して、動揺が抑えきれなかった
536
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:49:58 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「それはそうとお前……?」
文彦の処遇について、本八から言伝がないか訊こうとしたその時、背後から妙な気配を感じて振り返る。そこには
扉だ|^ω^)
(;'A`)そ「うおっ」
今にも人を刺しそうな目で親友を睨め付ける話題の引き出しがミセリしかない非モテキモオタクデブの姿があった
扉だ|^ω^)「なんであいつだけ……いつもいつも……僕の方が……チクショウ……」
(;@з@)「ふ、文彦氏?どうなされたのでござるか?」
扉だ|#;ω;)「うっせーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!オタクが!!!!!!!!バーカバーカ!!!!!!!!!リア充爆発しろ!!!!!!!!」
在らん限りのクソしょうもない捨て台詞を吐いて、負け豚オタクデブは去っていった。リア充爆発しろは令和の世でも既に死語である
537
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:50:52 ID:xsbgfEYE0
(;@з@)そ「り、リア充!?文彦氏、待ってくだされ!!」
人が良すぎる木本も、普通なら縁切って然るべきゴミカスを追って事務室を飛び出した
退室する際、一度室内へと向き直り、『失礼しました』と一礼して静かに扉を閉めていく所作に育ちの良さを感じた。一人っ子の甘やかされオタクデブも見習えばいいのに
(;'A`)「チームメイトがすみません……」
イ从゚ -゚ノi、「構わないわよ。どうせ今月だけの付き合いだし、我慢してあげる」
⌒*リ;´・-・リ 「銀さん」
あまりの間の悪さに、徳雄は内心ため息を吐いた。素っ気なく接され続けている事務員が、今日訪れたばかりの親友とは会話を弾ませているのを目の当たりにしたのだ
不貞腐れ易い上に嫉妬深い救いようのないキショ豚の事だ。楽しみにしていたイベントには行けない上にこの仕打ちとでも捉えているに違いない。徳雄はこの時点で、文彦の夏合宿はこれ以上続けられないのではないかと諦めに入っていた
(;'A`)「ハァ……高梨さん。クズはどうしてます?」
⌒*リ;´・-・リ 「しゃ、社長ですよ宇都宮さん。特に普段と変わりない……そう言えば、チャリオッツの古い業務用筐体を購入したそうです」
(;'A`)「あんなデカいもん置く場所……あるんだろうな……」
環境こそ着々と整えているようだが、文彦との口約束を放棄しているのが腑に落ちない
本八は良くも悪くも手加減をしない男だ。自身や文彦の獲得に、犯罪スレスレの行為をしてまで臨んだのだ
そこまでして手に入れたガンナーを裏切るような真似をするだろうか?ましてや、長年メンバーに恵まれなかった男が
538
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:52:19 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」
徳雄は今朝の小練との会話を思い出した。『別のきっかけで再燃することもある』
もしや、狙っているのは『それ』では無いだろうか。だとすると、一向に連絡がつかないのにも納得がいく
('A`)「ほっとくか……」
⌒*リ´・-・リ 「え、いいんですか?」
('A`)「木本に任せた方が楽なんで。それじゃ、失礼しました」
それならば、気を揉むだけ損だと割り切り、徳雄は事務所を後にした
/ ゚、。 /「あ、こんにちわ」
('A`)「こんちわ」
入れ違いで高身長和装美女が入っていったが、ここ最近毎日見かけるので特に気にならなかった
539
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:53:14 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】
⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」
/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」
⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」
/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」
イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」
540
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:54:09 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】
⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」
/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」
⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」
/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」
イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」
541
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:54:42 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
('A`)「……」
(,,゚-゚)「あれ?最近ずっと一人だね」
('A`)「ん?ああ……文彦なら視聴覚室だ」
(,,゚-゚)「いや、会いたいわけなくない?」
(;'A`)「何がそんな嫌なんだよ……」
木本らが訪れて三日が経ち、ミセリサマーフェスも最終日となった
文彦と木本は、この三日間午後から夜に掛けて開催される推しの祭典に集中するため、半日を視聴覚室で過ごしている
その間、全くと言っていいほど二人の顔を見ていない。別に特段仲が良いわけではないので、徳雄としても落ち着いて過ごせて快適であった
彼もこの日は休養日であり、静けさと涼を求めて図書室で模擬戦の振り返りを行っていた所
暇を持て余した儀杜が、向かいの席に着き話しかけてきた。身長にそう差が無いからか、同年代と思われているらしい
(,,゚-゚)「休みの日までチャリオッツ漬け?他に趣味ないの?」
('A`)「躾のなってねえガキが来たら知らせてくれ」
(,,゚-゚)「終わってんね、性格」
('A`)「よく言われる」
飄々と軽口を返しながら、徳雄は映像と共にプロチーム相手の鍛錬を振り返る
最初の二日は試合にもならなかった。元々、『二枚落ち』の不利な条件でのゲームである。捕捉されてしまえば逃げる間も無く砲撃を喰らって終了した
そこで思い切って、『ラビット』の戦法を取ることにした。スタートダッシュで砲撃の射程圏外まで逃げ切る先行策である
結果として、『対戦相手』からダウンを取られる回数は減ったが、今度はステージギミックやエネミーに足を取られた
敵対CPUとの遭遇はランダムではあるが、先頭ともなると、見つかる確率は大きく上がる。だからこそ愚鈍な『タートル』戦法にも一定の勝率がある
次はその『亀』を見習って、後方から一気に捲る戦法を取ってみたが、これが致命的に性に合わない
542
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:55:40 ID:xsbgfEYE0
何故タートルは重装甲であるか。スピードと引き換えに破壊のリスクを負ったラビットとは正反対で、安定感に重きを置いているからだ
車輌破壊によるリタイアのリスクを減らし、最後まで生き延びてゴールする。生存力を高める為の『甲羅』なのだ
つまり、殴られようが蹴られようが多少の『辛抱』を求められる。生来、攻撃的な性格である徳雄にとって、『反撃しない』という選択は耐え難いものであった
その上、妨害は何も前を行く車輌だけに向けられる物では無い。後続に追い抜かれない為の装備も当然用意しているものだ
ステージギミックに足を取られる代わりに、今度は相手チームの『尻』から放たれるトラップに走行の邪魔をされた
此方はランダムなんてものじゃなく、後ろにつけば確定で放たれるものだ。当然、タートルは前からの妨害も見越した装備で備えておく必要がある
結論として、人員と装備に乏しい身一つの今、敵チームと競り合いながら、エネミーの遭遇率を分散する方法が一番マシであると到った
事実、上記二つの戦法よりも、オーソドックスな『ホース』、攻撃主体の『バッファロー』の使用率は飛び抜けて高い。レースとバトルの二つの要素を有するチャリオッツにとっての基礎であるからだ
徳雄としても、バチバチの鍔迫り合いは大歓迎であるし、素人が下手に奇を衒うよりも、基本を忠実に遂行する方が勝算があると踏んでいた
と、ここで問題は回帰する。『車輌破壊によるゲームオーバー』。結局、この敗因の解決には到らないのである
『人が居ない』『反撃出来ない』と理由を並べるのは簡単だが、それでは辺境くんだりまで出向いた意味が無くなる。そこで徳雄は思い切って考えを切り替えた
これまでのゲームログを洗いざらい振り返り、破壊に到るまでの敵車輌の挙動の理解に時間を費やしたのである
総勢100のプロチームデータ。一見気が遠くなるような作業であるが、攻撃には一定のパターンが存在する筈である
例えるなら、野球選手の挙動は人によってフォームが異なるが、『振りかぶって投げる』『バットを振って打つ』といった挙動自体は共通している
つまり、『攻撃に到るまでの予備動作』を見極めさえすれば、被弾率を抑えられるのでは無いかと考えたのだ
('A`)「……」
この事を小練に相談した所、彼は疲弊した様子で「どうとも言えない」と難色を示した
ログの振り返りは経験値として糧になる。ただ、相手はあくまでAIである。以前にも小練が言ったように、AIは基本に忠実だが『遊び』がない
射程内に車輌が収まればAIは自動的に発砲するが、生のプレイヤーには常に『撃つ』『撃たない』の二択があり、行動タイミングに制限はない
頭と身体に『相手は必ず撃ってくる』という認識を刷り込ませるのは、『フェイント』という戦術への致命的な弱点となる危険がある
更に前提として、敵チームの挙動把握は『ジョッキー』よりも視野の広い『キャプテン』の仕事であるとも指摘を受けた
一人プレイの為に運転席の視野を広げている現在はともかく、本番では第二、第三の目を積んでいる。この場合、ジョッキーの視界確保よりも、装甲を厚くさせた方が生存率が高まる
ご尤もである。勝負に固執して負担を増やしてしまえば、合宿で得られる成果も減ってしまう。徳雄の目的は『チャリオッツへの慣れ』なのだ
そこで小練が提案したのは、攻撃パターンの把握では無く、『撃たれる前』と『撃たれた後』の対処法の会得だった
攻撃手段こそ千差万別あれども、被弾する側の対応はある程度に限定される。撃たれる前なら『躱す』か『逸らす』か。撃たれた後は『逃げる』か『耐える』か
この場合ジョッキーに必要なのは、司令塔であるキャプテンの指示を介さない『瞬間的な判断力』だ。それには、『車輌感覚』を養う必要がある
車を運転する際、フロントの位置はどこか。サイドミラーの死角はどれほどか。ブレーキを踏んでから停車するまでの距離はどれほどか
運転手が皆、愛車のスペックを正確に把握しているわけではない。だがこれらは全て『感覚』として身に付いている。そうでなければ、街を行く車体には痛ましい擦り傷で溢れている
徳雄の大きな課題である『運転に慣れる』。訓練のレベルを上げた事で、次の目標が浮き彫りになった
敵の撃破を目的とした『攻めの走り』から、自らの生存時間を伸ばす『守りの走り』の体得に、ここ数日を費やしていた。首尾はと言うと―――――
543
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 16:58:21 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」
('A`)=3「ふーっ……」
(,,゚-゚)「行き詰まってんの?」
('A`)「いいや、順調だ」
拍子抜けするほど着実に、生存時間は伸びていた。単純にチャリオッツというゲームに慣れ始めたのもあるが
合宿が開始してから二日置きに行なっている『山降り』による反射的なルート判断能力が身に付いているのが大きな理由だ
無造作に点在する『障害物』は、何も走行の妨げの為だけに置かれているものではない。言い換えれば、砲弾から身を守る『遮蔽物』だ
出来るだけ射線上に身を晒さぬよう、岩場や建築物へ『ハイド』する。FPSシューターさながらの走法が、最も生存時間を稼げた
順調だ。しかし、こうも思う。「これで勝てるのか?」と
八月も半ばで、予選までは三ヶ月を切ったにも関わらず、自分は今だに『基本のき』で足踏みしている
面にこそ出さないが、じくじくと湧き出す焦りに悩まされている。その影には、いつも自分の前を行く親友の背中があった
('A`)「フゥ……」
(,,゚-゚)「あれ?もういいの?」
('A`)「ああ……」
見返したところでさっぱり頭に入らない映像を打ち切り、凝り固まった眉間を指で揉みほぐす
時間は惜しいが、オーバーワークを反省したばかりだ。休息に努めようとするものの、気持ちばかりが逸って落ち着けない
気分転換をしようにも、CGの女にお熱のオタクデブとは違って無趣味であった。何が楽しくて生きとんねんこの生き方ブス
('A`)「なんか……」
(,,゚-゚)「なんか?」
('A`)「……仕事ねえか?」
(,,;゚-゚)「ええ……この期に及んで働く気……?」
生来のストイック。ワーカーホリック化するのは自明の理である
儀杜は、何かとイキリ散らかす身の程知らずのオタクデブとは別種の薄気味悪さを感じた
544
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:00:05 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「あのさぁ、ずっと思ってたんだけど生きるの下手すぎない?」
('A`)「む……」
儀杜の歳は確か14か15。片手以上の歳の差がある小娘に生き方を問われるとは情けのない話である
事実、指摘されれば言い返せないくらいには不器用であるという自覚はある。手本を探そうにも、身近には悪例しかいないのだ
(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????」
うわ出てくんな生き様クズ
(,,゚-゚)「何の為にここに来たのさ?一ヶ月もウジウジ悩む為?」
('A`)「そんなわけねえだろ……」
(,,゚-゚)「だったらもっと先生を頼ったら?」
('A`)「何言ってやがる。これ以上頼れるかよ」
小練の激務は目に見えている。施設運営に加えて、『別の業務』もこなしているのも薄々勘付いてはいた
そんな彼にこれ以上の負担を強いるわけにはいかない。それは徳雄よりも身近にいる儀杜の方がずっと理解している筈だ
(,,゚-゚)「使い潰したらいいよ」
(;'A`)「ええ…………」
ただこの少女、身内にすんごい厳しかったのである
545
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:01:10 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「たっけー金払ってやってんのにこの程度かよって言ってやればいいじゃん」
(;'A`)「充分だよ。これ以上望めるか」
(,,゚-゚)「それだよ。生き方が下手ってのはさ」
徳雄の鼻先に、ビシリと人差し指が向けられる
(,,゚-゚)「『望んで然るべき』だよ。じゃなきゃ、欲しい物は手に入らない。サンタさんだって手紙を貰わないとプレゼントの用意のしようがないんだから」
(;'A`)「ううむ……」
(,,゚-゚)「アプローチを変えようか?宇都宮くんの欲しい物って何?」
(;'A`)「欲しい物……」
暫く頭を捻って考えてみる。合宿二日目に立てた目標で、まだ達成されていないのは何か
まず思い浮かんだのは、目下特訓中の『守る走り』。回避と受け身の会得だ
(;'A`)「技術……いや、違うな」
それは手段であって『目的』ではない。では『ジャパンカップ制覇』か?それもあくまで『舞台』であって、徳雄の目指す所ではない
('A`)「……」
『親友に勝つ』。それも、大舞台で凄惨に、心に深く苦痛を刻み込むような勝ち方で
自らの『得意』ではなく、彼方の『得意』で上から捻じ伏せるような、『鬼』に相応しい勝ち方で
546
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:02:02 ID:xsbgfEYE0
('A`)「なるほど」
『初志貫徹』。驚くほどストンと腑に落ちた徳雄は、ゆっくりと席を立った
('A`)「仰る通りだ。そもそも、遠慮なんて性に合わねえ。ちょっくら文句言ってくる」
(,,゚-゚)「ボロクソにしてやんなよ」
『生き方上手』は悪戯っぽくニヤリと笑った。釣られて口角を上げた徳雄は、一つのセリフを返した
('∀`)「終わってんな、性格」
(,,゚-゚)「よく言われる」
儀杜は気を悪くする様子もなく、肩をすくめたのであった
547
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:03:08 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――
―
(´・_・`)「……」
《どうだい先生?これが必要最低限の構築だ》
小練は厨房にて、僅かな休憩時間を使って『宿題』を見ていた
それを課したのは、この場にいない残り一人のメンバー。徳雄と文彦を合宿へ送り出した依頼主である本八だ
(´・_・`)「率直に申し上げますと」
《おお!!言ってくれ言ってくれ!!》
(´・_・`)「『死ぬ気か?』ってのが第一印象ですね」
i-ringのスピーカーから下品な笑い声が響き、小練は思わず眉間に皺を寄せた。苦手なタイプであった
躾のなっていないデブガキはまだ可愛げがあるものだが、大人となると笑って見過ごせない。金払いが良くとも、人の好き嫌いまで割り切れはしなかった
(´・_・`)「ですが、現状では特に口出すような箇所は無い。言うまでもなく無いですが、先ずは試運転ですね」
《先生は聞き分けが良いなぁ!!三浦の大将は頭抱えてたぜ!!》
チャリオッツの操縦は、主にジョッキーが担うものだが、その他のポジションも関与が出来る
ガンナーは言わずもがな砲塔の回転だ。だが文彦の愛砲『6shooter』は固定砲であり、操縦に影響を及ぼさない
キャプテンは『アビリティ』の種類によって、任意のタイミングで操縦に手出し出来る。これは『アイテム』や『トレジャー』とは違い、クールタイムありのスキルで、ゲームが始まれば切り替えは出来ない
チャリオッツの個性は、『アビリティ』で決まると言っても過言ではない。かつて三浦 紘一が所属していた『アンラ・マンユ』では、一発限りの超強力アビリティ『ショットパージ』を使用した
アビリティを操縦の一環として組み込むか、アンラ・マンユのように一発逆転の切り札として温存するか。こういった『構築』も、チャリオッツの醍醐味の一つだ
では、一体何が問題なのか?
ゲームの歴史の上、プレイアブル・キャラや装備品、魔法やスキルにカード。『プレイヤー』に関わる全てに『アタリ』と『ハズレ』が在った
チャリオッツも例外ではなく、特に『主砲』と『アビリティ』は顕著に表れる
現在の6shooterの立ち位置を見ればわかりやすい。固定砲かつ射程は短く、唯一の取り柄である連射力もガンナーの技量次第。余程のこだわりがなければ、クセが無い強力な主砲を選ぶ者が多くを占める
だが、これでも操縦、延いては『車輌の動きと連動するコクピット内の挙動』に影響を及ぼすアビリティと比べれば、マシな部類である
問題は、本八が選んだ『アビリティ』にあったのだ
548
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:04:14 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「よく三浦さんが許しましたね」
《デブのスペックを最大限に活かすなら『これ』しかねえってのは共通認識だったんでな。アンタもそうだろ?先生?》
(´・_・`)「異論はありませんよ。それに、最終的に決めるのは皆さんだ」
このチームで最も価値のあるメンバーは、間違いなく文彦だ。本八が提出したのは『ガンナー優先』の構築だった
小練も実際に文彦のプレイログを確認したが、ガンナーの腕だけは国内屈指の実力と言い切れる
その実力を如何なく発揮する為には、三位一体となって『6shooterという固定砲と向き合わねばならない』
即ち、他の主砲ならば発生しない負担が、キャプテンとジョッキーにのし掛かるのだ
僅かな期間だが、所属していたプロチーム『蟒蛇』で、他のチームメンバーとそりが合わなかったのも頷ける。蟒蛇でなくとも、持て余すチームは多いことだろう
それを承知で、本八は思い切った選択をした
文彦の武器は、6shooterの性能を最大にまで発揮した『連射力』と
どのような状況下であっても、『照準』が合った瞬間に撃ち抜く『速射力』
優先されるのは当然、速射の方である。だが、これを発揮するには車体の方向転換が必要不可欠だ
徳雄もチャリオッツの経験を着実に積んではいるが、来るXデーまでに完璧なサポートまで修得するのは難しいだろう
ならばいっそ、照準合わせを『キャプテン』だけが担えばいいと、本八は結論づけたのである
(´・_・`)(にしても、マジで使う気かね。コレを)
『エイム合わせ』のアビリティは数多く存在する。最も代表的なのは、初心者向けアビリティの『オートエイム』だ
敵がいる方向へ自動で砲身を向け、仰角の調整まで行ってくれる。これは回転砲塔だけでなく、6shooterのような固定砲でも適応される
しかしこの場合、オートエイム発動時に『ジョッキーがハンドルを向けている方角』より、『敵がいる方角』が優先され、勝手に方向転換を行う。バグと見紛うレベルで相性が悪い
これはオートエイムだけに限らず、エイム合わせアビリティほぼ全般に言えることだ。もっとインチキくさいアビリティもあるにはあるが、強力になればなるほどクールタイムを要する
本八の要求は、多少無茶な挙動でも、手早く手軽に、ジョッキーの邪魔をしないアビリティだった
数えきれないほどの試行錯誤の末、本八の眼鏡にかなうアビリティが、『たった一つだけ』あった
膨大なアビリティ・カタログの片隅にひっそりと眠っていたそれには、幾つかの蔑称が付けられている
曰く、『開発者の悪ふざけ』。曰く、『プレイヤー殺しアビリティ』。曰く、『世界最悪のコーヒーカップ』。曰く、『チャリオッツの悪意』
強力過ぎるが故に忌避された『ショットパージ』とは、全く別の理由で使われない『ハズレ中のハズレ』アビリティ
その名も、『スピンミキサー』
.
549
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:05:19 ID:xsbgfEYE0
効果は、『車体を高速回転させる』だけ。搭載コストもクールタイムも軽く、何度でも使いまわせるシンプルなアビリティだ
これがテレビゲームであったなら、何人かの使い手もいただろう。だが、ゲーム内の車体の挙動と、プレイヤーが乗り込むコクピットの動きが連動するチャリオッツに置いては、実際に『予備動作無しで操縦席が回転する』のだ
この連動が、アビリティ発動時に様々な弊害を生み出した。言わずもがな、回転による酔いだ。スピンミキサー発表当初は、怖いもの見たさで使ってみたプレイヤーは総じて吐き気に襲われた
また、ジョッキーとキャプテンの意思疎通が不十分だと、発動後に進行方向を見失い、タイムロスやコースアウトへと繋がった
そもそも、スピンミキサーは接近した敵車両を回転で弾き飛ばす『変則チャージ』を想定して開発されたアビリティだが
通常のチャージとは異なり、砲身や車輪といった比較的デリケートな部分への衝突も充分にあり得る
また、装甲も軽量だと、一回の使用で容易く破損してしまう。本来の用途で運用する場合、それ相応の重装甲をカスタムしなければならない
装甲を重くすれば、当然速度も落ちる。チャリオッツレースに置いて、『足の遅い亀にわざわざ当たりにいく』メリットは皆無に等しい
バトルロワイヤルでは、チャージ主体の近距離車両で使用するチームも僅かに見受けられたが、どれもパッとした成績を残した記録はない
そんな誰もが見向きもしないハズレアビリティに、本八は目をつけた
ご察しの通り、スピンミキサーの挙動を回転砲塔の代わりとして利用するのである
実装当初、この無謀を試みた者も少なからず存在した。しかしそもそもの話、砲撃とは精密さを要する
『戦車』の撃ち合いなら尚更だ。目押しの当てずっぽうか、装甲の薄い箇所へ狙いすまして撃ち込む一撃か。どちらが有効かなど問うまでもない
だがこれが、『内藤 文彦』と『6shooter』であるならば、話は変わってくる
極めて優れた動体視力と、最速の主砲を組み合わせることで、スピンミキサーは『二つ』の持ち味を発揮する
『車両の回転を利用した最速エイム』と、『複数同時砲撃』である
前者は言わずもがなである。文彦は『吹き飛んだ車両から相手チームを撃破』した実績がある。それに比べたら、アビリティの挙動など止まって見えるようなものだろう
もう一つは、6shooterが六発まで連続発射出来る性能に因るものだ。射程圏内で複数のチームと競り合っていた場合、自車両を中心に『全方位』へ即座に砲撃を与えられる
連射力に回転を加えることで、『一対多』のシチュエーションにも対応が可能になるのである。当然、敵対CPUであるエネミー相手にも通用する
スピンミキサーは固定砲のデメリットを打ち消し、文彦の才能をフルに発揮できるアビリティだ。小練も三浦も、そこに異論は無い
しかしながら、『シナジー』が生まれた所で、『乗り心地の悪さ』という致命的なデメリットまで相殺されるわけではない。三浦が頭を抱えたのはそれが理由だった
550
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:06:22 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「もしも徳雄か文彦が異論を唱えた場合、再考はされますか?」
《あたぼうよ。候補は他にもあるからな。だが、色々試して『これ』が一番だったってのは覆らねえ》
(´・_・`)「ふむ……」
だとすると、二人はこの編成を高い確率で引き受ける。文彦は6shooterの使い手として、確固たる自信とプライドがある
それを存分に振るえる機会。文彦流に言い換えるなら、『国内最高峰ガンナーである自分が華々しく活躍するチャンス』を、乗り心地の悪さ程度でみすみす逃しはしない
徳雄は元より、文句を垂れはしないだろう。『それ』が最も勝利に貢献するのであれば、淡々と受け入れる。そういう人種だ
(´・_・`)(いや……)
『淡々』ではなく、『喜々として』が正しい。勝利もそうだが、何より『破壊と暴力』に飢えた男だ
そんな『騎手』には、従順な優駿よりも凶暴なじゃじゃ馬がお似合いではないだろうか
(´・_・`)(シナジーねぇ……)
深く読み解いていけば、スピンミキサーはこのチームに『しっくりくる』感じがする。なんとなく、上手く機能しそうな気がする
ただ、やはり懸念は本番まで時間がないと言うことだ。急ぎ対策と訓練を行わねばならない
合宿後半の為に出した本八への宿題だったが、課題はより大きくなって小練へと帰ってきた。思わず、天井を仰いで大きく唸る
思いがけず舞い込んできた『本業』との兼ね合いもあってか、ここ数日まともに眠れていない。体力なら世界中の誰よりも自信があるが、強靭な金属だって疲労で折れるものだ
おかげで大好きな『メタル・スマッシュ』の試合中継が見られない日々が続いている。推し選手であるドラム・ドクの復帰試合は、アーカイブで楽しむことになりそうだ
551
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:07:48 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「わかりました。頂いた構築は、合宿後半の訓練に活用させて頂きます。他に慣れさせておきたいアビリティがあれば、都度ご連絡ください」
《おう、よろしく頼まぁ。ガキ共の様子はどうよ?》
(´・_・`)「ご想像通りですよ。徳雄は真面目で鍛え甲斐のある奴で、文彦は……まぁ、『素直な』子どもですので」
小練は、徳雄と文彦に嘘を吐いていた。文彦がミセリのサマーフェスの為に一時帰宅したいという旨は聞いていたのだ
当然、本八は一日どころか一分一秒たりとも、文彦を帰す気はなかった。となると、甘やかされて育った一人っ子のクソガキの機嫌を損ねない別の『ご褒美』が必要だった。手間のかかるオタクデブだった
本八はいっぺん女を味わせたらCGの女なんて見向きもせんようになるんちゃうかと、本気でねぐらに送り込むつもりだった。プロは金さえ受け取ればどんな汚いブタ男も満足させるのだ。文彦だろうとギリ許容範囲だろう
当たり前だが、盛岡と小練はこれを断固として却下。文彦は高校生である上、ねぐらは休憩可能ホテルではない。他の利用者もいる中で、『デリバリー』なんて到底許可出来なかった。赤ちゃんを極めた男、権田原組長ならワンチャン呼んでもかまへんかもしれへん
『アンダーマイニング効果』もある。そもそも、文彦はサマーフェスという『特別な体験』を求めている。それを越えるとなると、生半可な代物では却って不満を煽る
ここに来て、ようやくチャリオッツの女神が本八に微笑んだ
二つの僥倖に恵まれた。一つは、小練が皆鳴ミセリと交友関係にあった事。これは厄介オタクデブの文彦に伝えると確実に面倒になる為、徹底して伏せられた。クリスマス数日前に体調不良で配信を休む理由などしつこく訊かれるハメになる
幸いな事に、一番口を滑らせそうな儀杜も、肥えた臭いイキった非モテオタクデブとは極力関わろうとしなかったので、話題にすらならなかった
二つ目は、ミセリが『ある重大な情報』を半年ほど前にうっかりポロリしていた事だ。これにより、本八サイドは莫大な調査費用を節約出来た
それが今日、ミセリサマーフェスで発表される。これを聞いた本八は、文彦のダイエット意欲が加速度的に上昇するのを確信した
その事を今まで報告しなかったのにも理由はある。合宿前に知らせるのと、実際にミセリ本人の口から発表するのでは、本人、いや本豚への突き刺さり具合が全く異なる
よしんば本八の口から直接伝えたとしても、やる気の持続力は長くは保たない。サマーフェスの参加も諦めたりはしないだろう
では、会場で直接知るのが、文彦にとってベストな選択ではないか?これも必ずしもそうとは言い切れない
552
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:08:40 ID:xsbgfEYE0
<ブヒィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
厨房にまで響き渡る豚の鳴き声。小練は、搬入業者が間違えて豚肉を生きたまま届けたのかなと思った
それ以外だと、ねぐらで豚に該当する生き物は一匹しかいない。豚は興奮を抑えきれないのか、汚い鳴き声を上げながら廊下をドタバタと豚足で走る
<ふ、文彦殿ーーーーーーーーー!!!!!!!まだサマーフェスは終わってませんぞーーーーーーーーーー!!!!!!
<ブヒィッ、ブヒヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
《あいつか?》
(´・_・`)「そのようで」
小練は監視カメラアプリ立ち上げ、廊下の映像を映し出す。案の定、興奮した豚が二郎ラーメンの具みたいな腕を振り回しながら廊下を駆け巡っていた
すれ違った女性利用者は、その余りの見苦しさと喧しさに心底迷惑そうな目を向ける。そんな彼女達に、後を追う木本が申し訳なさそうに頭を下げた
途中、何もない空間にも頭を下げていたが、ねぐらでは日常茶飯事なんで特に異常はなかった
(´・_・`)「プールに向かってますね。狙い通りに奮起してますよ」
《良いねえオタクってのは情熱的で。やる気も出した所だし、更にビシバシ絞ってくれや》
(´・_・`)「承りました」
553
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/01/05(日) 17:09:42 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると
('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」
徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した
('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」
(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」
('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」
(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」
文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ
('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」
(´・_・`)「偶然偶然」
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