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Desperado Chariots
354
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:46:38 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「どうしましょうか。何なら、一度猫山さんに相談するのもアリかと」
(´・ω・`)「奴は身内に甘ぇよ。よしんば言って聞かせても、サラッと流されて終わるだろうよ」
(´・_ゝ・`)「ではいっぺんシメますか?」
(´・ω・`)「お前も相当キてんな……」
幸いな事に、文彦は豚カスとは言えまだ子どもである。ここからの軌道修正は、頭が凝り固まった大人より容易いだろう
しかし考え方が染まりやすいのも子どもの特徴だ。下手に諭せば、更に捻じ曲がった方向へと進む可能性もある
最良なのは、文彦が目指すべき対象を用意してやることだ。チャリオッツに精通し、実績を収めた指導者であるならば、オタクデブも聴く耳を持つだろう
(´・ω・`)「それに、不安なのは文彦だけじゃねえ。あのブサイクもだ」
(´・_ゝ・`)「そうですね……」
怠惰な文彦とは正反対の、ストイックが服を着たブサイクである徳雄。彼の問題点は、その『ストイックさ』にあった
(´・ω・`)「よぉニイちゃん。そこでチャリ漕いでるブサイク、いつからトレーニングしてる?」
呼び止められた職員は、的確ではあるが随分な物言いに眉を顰めたものの、経営者相手に苦言を呈するほどの度胸は無かったようで
「ええと……エアロバイクの彼ですか?そう言えば、朝からずっといますね」
と、素直に答えて足早に去っていった
(´・ω・`)「あいっつはホントによぉ……」
現時刻は夕方の五時。本八が文彦らを連れてやって来たのが一時間ほど前
ジムはフルタイムで営業しているが、甘めに見積もっても凡そ八時間はトレーニングしている事となる
355
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:48:12 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「相変わらずのオーバーワークですね」
(´・ω・`)「とことん追い込む気だろうよ。本番までまだ半年もあるってのに」
以前にもオーバーワークを指摘し、トレーニング量を減らせと命じたが、徳雄はこう返した
('A`)「俺のことは俺が一番わかってる。それに、文彦の体重を言い訳に負けるなんて無様は晒したくねえ」
('A`)「あのデブだって本番はちゃんと仕事はするだろうよ。食うなり寝るなり好きにさせたらいいじゃねえか。その分、俺が引っ張れば問題はねえよ」
と
(´・ω・`)「頼りになって何よりだが、それまでに潰れちまっちゃクソの役にも立たねえってのによ……」
(´・_ゝ・`)「彼も彼で人の忠告を聞きませんからね」
徳雄は確かに頼りになる男だ。しかしそれは彼が歩んできた孤独な人生から成り立つものであり
逆を返せば『他人を頼ることに慣れていない』『他人に期待しない』表れとも言える
自らの負担が増える事に苦言を呈さないのは美徳の一つだろう。だが、心身の耐久力にも限りがあるが故に、決して利点であるとは言い切れない
許容値を超え続ければ、いずれどこかにガタが来る。強靭が自慢の徳雄であっても例外ではない
何より、ジョッキーはチャリオッツに置いて最も過酷なポジションだ。キャプテンとガンナーはその負担を軽くする義務がある
もっと我を、『要望』を出して然るべきなのだ。課題を挙げ、計画、実行、評価、改善のサイクルを経て、より強いチームへと成長する為に
(´・ω・`)「どうしたもんかね……」
本八は天を仰いだ。怠慢と勤勉。相対する問題点の解決は、仲間集めほど単純には済まない
金に物を言わせるにしても、徳雄には加虐以外の欲は無く、文彦は要求がエスカレートしていくのが目に見えている
人の意識を根本から変えるには、教え導き、自らの気づきを誘発させなければならない。それは年長者の役割であったが困った事に―――――
(´・ω・`)「俺らじゃ無理だ」
彼らは『経営者』だった
356
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:50:41 ID:9tcidWTk0
『仕事』に携わる社員らの教育であるならば、幾らでも指導のしようがある。会社の存続、社員の生活に直結する、生きるに置いて必要不可欠な『労働』であるからだ
だが、ジャパンカップへの挑戦は、『別に挑まなくとも生きていける』二次的なものであり、多大な賞金も栄誉も、『それが無いと生きていけない』ものではない
『生きる為に必要不可欠な行為』では無いからこそ、更に深い情熱と勝利への執念が求められるのだ
そして二人には、それらを奮起させるほどの『専門的指導力』と『経験値』が足りていない
本八は契約こそ結んだ雇用主であるが、チームメイトとしては同じ立ち位置で、まだ何も成し遂げていない挑戦者だ。徳雄と文彦を説得しようにも、馬耳東風で終わるだろう
餅は餅屋。やはりチャリオッツに置いて実績を挙げた人物こそ、彼らの指導者に相応しいと到ったのだ
(´・ω・`)「コーチが必要だ」
(´・_ゝ・`)「……では」
盛岡はi-ringからリストを立ち上げ、本八へと送信する
(´・_ゝ・`)「幾つか見繕っておきました」
(´^ω^`)「仕事が早いねえ」
ホログラムを立ち上げ、スワイプして流し見する。新進気鋭の育成所から、幾度もビックタイトルを獲得するチームを生み出した歴戦の老コーチまで。目移りするようなラインナップが揃っている
本八はリストを上から下まで全て確認し、もう一往復目を通して結論を出した
(´^ω^`)「無理」
(´・_ゝ・`)「でしょうね」
新進気鋭とは言え、育成所が短期間でジャパンカップを制覇できるチームを育て上げられるワケがなく
老コーチのスパルタを履き違えた指導には文彦は耐えられない上、カビ臭い頑固な気質は攻撃的な徳雄とは絶対的に合わない
その他もパッとしない実績や、当たり障りの無い指導法など、本八の眼鏡に適う指導者は見つからなかった
(´・_ゝ・`)「また人材探しですか……」
(´^ω^`)「なんでこんな苦労しなきゃなんねえんだオラ腹立ってきたゾ」
一難去って何とやら。本八は地球育ちのサイヤ人の一面を見せつけながら、空になった紙コップをクズ入れへとスラムダンクした
そう、99年前の12月3日に公開したアニメ映画である。当時、劇場に足を運んだファンは口を揃えてこう言ったという
「もう無理、限界」と
357
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:52:20 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「……」
『それにしちゃ余裕があるな』。本八の態度には焦燥を感じられず、『想定通り』と言いたげだった
チャリオッツのコーチとしての能力こそないが、他人の能力を計ることに関しては一流の経営者
自分が手を回さずとも、最初からアテはあったのだろう。余計な仕事させやがって殺すぞと思った
(´・_ゝ・`)「殺すぞ……」
(;´・ω・`)「え……?」
(´・_ゝ・`)「ああいや、死n……失礼しました」
(;´・ω・`)「お前今死ねって言い掛けた?」
(´・_ゝ・`)「耳腐ってんのか死ね」
謂れのない暴言が本八を襲った
(´・ω・`)「言いたいことはわかるぜ。『アテがあんなら最初から言えや』だろ?」
本八の看破に、盛岡は素直にこう返した
(´・_ゝ・`)「気持ち悪……」
(´・ω・`)「なんだハゲコラテメェオイ」
通りすがりの攻めの反対は受けと答えるタイプの女性職員は二人のやり取りを見て
「てぇてぇ……」
思わず死語を呟いた。正気か?クズとハゲだぞ?
358
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:53:55 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「とにかく、この件は俺に任せろ。お前は出来るだけガキどものサポートをしてくれ」
(´・_ゝ・`)「体良く面倒を押し付けやがってよぉ」
「あの……」
声を掛けて来たのは、先ほどの男性職員だった
「彼、上がるみたいですけど……」
(´・ω・`)「おん?」
シャワーと着替えを終えた徳雄が更衣室から覚束ない足取りで現れる
ハードなトレーニングで表情は焦燥し切っていたが、目の奥のギラつきだけはより一層激しさを増していた
(;'A )「……」
二人の存在にすら気づかないのか、挨拶どころか会釈すら交わさず、出口へと向かっていく
「やれやれ」と、早速の『面倒』を引き止めようとした盛岡を、本八が手で制した
(´・_ゝ・`)「どうしました?」
(´・ω・`)「シッ」
動かぬ唇の僅かに開いた隙間から、小さな呟きが漏れている
359
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:54:57 ID:9tcidWTk0
(;'A )「足りねえ……もっと……出し切らねえと……」
(;´・ω・`)「……」
(;´・_ゝ・`)「……」
二人は戦慄を覚えた。徳雄の自罰的なストイックさもそうだが、何より『獏良 良樹』に対する固執に
徳雄が再戦を誓った時に、彼に対して『ぶっ殺してやる』と言った。それは不良が脅し文句に使うような軽々しさではなく
『競技』という凶器で殺害するという、本気の宣言だったのだ
(;´・_ゝ・`)「……アレを矯正出来るんですか?」
友情と呼ぶには重過ぎる、恋慕すら凌駕する執着。本八の『アテ』が相手する狂気を前に、盛岡の不安は増した
(;´・ω・`)「まぁ……どうにかするしかあるめえよ」
徳雄は自動ドアを抜け、更なる肉体の酷使の為にランニングを始めた
遠ざかっていく後ろ姿を、二人はただ眺めることしか出来なかった―――――
360
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:56:21 ID:9tcidWTk0
―――――
―――
―
宇都宮 徳雄に甘酸っぱい青春の記憶は無いが、『出待ち』の経験は数多くある。その殆どが、報復の為に人員をかき集めた不良の類だった
荒んでいた中学時代は喜んで相手をしてやったが、スポーツに打ち込んだ高校時代にはなるべく避けて通っていた
('A`)「……」
それ故、今回のケースは初となる
( ^Д^)「やっ」
喧嘩も恨みも売った覚えのない宝木が、自宅のアパート前で待機していたのは
('A`)「はぁ……こんちわ」
『獏良には足下にも及ばないが、絵になる男だな』。なんてぼんやりと思いながら、高級ミニバンの車窓から顔を覗かせる宝木に気の抜けた返事を返す
やや訝しげな徳雄に対し、宝木は朗らかに笑いかけ、『乗ってくれ』と言いたげに首を傾けた
( ^Д^)「食事でもどうかな?」
('A`)「……口説く相手、間違えてんじゃねーすか?」
軟派な誘い文句に嫌味を返したが、宝木の瞳は真っ直ぐに徳雄を捉え、「お前で間違いない」と伝えてくる
チャリオッツでは高名なヒールチームと聞いていたが、憧れのスーパーヒーローを前にした子どものような無邪気な視線に、徳雄の毒気は抜かれた
('A`)「ちょっと待ってて貰っても?」
( ^Д^)「構わないよ」
足早に自宅へと戻り、スポーツウェアを選択カゴへ投げ捨てて汗を拭き、干しっぱなしの服を取って着替える
冷蔵庫から飲料水のボトルを取り出して半分ほど飲み干し、必要最低限の荷物だけ纏めて出ようとした辺りで
('A`)「……」
念の為、盛岡にメッセージを送っておいた
361
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:58:03 ID:9tcidWTk0
('A`)「お待たせしました」
( ^Д^)「早いね。それじゃあ乗ってくれ」
助手席のドアを開け、先に後部座席を確認する
('A`)「……あの子は?」
車内にはもう一人、連れ合いが乗っていた。蹲るように座席の上に足を乗せ、此方には一瞥もくれず携帯ゲーム機に熱中する
(-_-)「……」
中学生くらいの子どもの姿
( ^Д^)「ああ、ウチのガンナーだ。守(まもる)、挨拶を」
(-_-)「……っす」
微塵の興味も無いのだろう。一瞬だけ徳雄に目をやり、消え入りそうな声で挨拶らしきものを放った
362
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:58:38 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「悪いね。人見知りなもので」
('A`)「別に構わねっすけど……」
無礼な態度よりも、守というチームメンバーの性格が気に掛かった
徳雄と文彦が相手した二軍連中は、総じて殴り甲斐のある粗暴な不良だったが、守には微塵もそのような気配を感じられない
文彦のようなクソカスオタクデブであろうとも、活躍し続けられる環境ではあったのだろう
('A`)「そんで……」
文彦を追い出したのに深い意味はあるのか?その答えを聴けるだけでも、損はないだろう
助手席に乗り込んだ徳雄は、座り心地の良いシートに身を深く沈めて腕を組んだ
('A`)「何を食わせてくれるんすかね?」
宝木は悪戯っぽく笑い掛けると
( ^Д^)「『精のつくもの』さ」
意味深なヒントを返した
363
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:09:12 ID:9tcidWTk0
三十分ほど車を走らせた先に辿り着いた繁華街。その裏通りに、宝木行きつけの店がひっそりと佇んでいた
「喰いねぇ……」
コンクリート張りの、お世辞にもオシャレとは言えない無骨な飲食店
北極熊は無理でも、月の輪熊くらいならくらいならこの拳で十分よと言いそうな店主が持ってきた大皿には―――――
(;'A`)「ええ……」
ぶつ切りにした長細いホースのような『肉』の揚げ物がたんまりと盛られている
その頂点には、大口を開いてこんがりきつね色に揚がった『蛇』の頭が鎮座している
( ^Д^)「戴こうか。ここの蛇料理は絶品なんだ。ああ、頭は食べるんじゃないぞ。それは飾りだから」
宝木は躊躇いなく一つ手掴みで取り、筋肉質な身に齧り付く。守もそれに続き、小動物のようにチビチビと食べ始めた
複数人相手でも一切怯まない徳雄も、流石に口に蛇を入れるのは初めてで、中々手が伸びずにいた
(;'A`)「アンタら、蟒蛇って名前のチームなのに蛇食うんすね……」
( ^Д^)「ハハ、ウチはメンバー同士で地位を喰い合うチームだぜ?仲間の肉は大好物さ。さ、キミも遠慮せず」
スタメン争いのようなものだろうか。恐らく彼も、仲間を喰って喰って喰いまくって頂点捕食者になったのだろう
少しばかり羨ましくなる環境だ。宝木を倣って、徳雄も意を決して蛇の肉に齧り付いた
364
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:10:44 ID:9tcidWTk0
(;'A`)「喰いづら……」
脂を感じられない、鶏に似た肉質は、引っ張ると繊維に沿って縦に避けていく
臭みは無く、唐揚げと同じく食欲をそそる生姜とニンニクの香りが口内から鼻へと抜けていった
抵抗はあったものの、一度口にすれば案外あっさりと解消され、小骨の多さに四苦八苦しながらも一本目を完食した
( ^Д^)「イケルだろ?」
('A`)「まぁ……悪くはねえす」
不味くはないが、普通に鶏の唐揚げの方が美味いし食べ易い。物珍しさこそ満たせたが、頻繁に食べたいかと訊かれれば、首を傾げざるを得ない
それでも徳雄の答えに気を良くしたのか、宝木は店主に追加のオーダーを頼んだ
( ^Д^)「酒はイケるクチかな?」
('A`)「いや、あんまり……」
( ^Д^)「すみませーん!!生き血のワイン割り二つ!!」
('A`)「話聞いてる???????」
365
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:12:19 ID:9tcidWTk0
「呑みねぇ……」
水と空気が違うのでデカくなったっぽい店主は、ショットグラスになみなみと注がれた赤い液体を二つ運んできた
「マムシの血だ……キくぜこいつぁ……」
('A`)「困るわぁ……」
正直な感想だった
( ^Д^)「蛇の血の栄養価は高い。滋養強壮や食欲不振、胃の不調なんかに効くそうだ。ま、天然のアミノバイタルってとこかな」
『それって別に生き血じゃなくてて養命酒でも良くね?』とは、流石に店主の前では言えず
ウキウキとした様子で手渡された生き血を丁重に断る機会も逃してしまった
( ^Д^)「乾杯」
(;'A`)「か、乾杯……」
なんでこんな罰ゲームみたいなことさせられてんだろう。徳雄は溢れそうになった文句を、血と共に一息で飲み込んだ
('A`)「ん……?」
ワインで割っているからだろうか。血特有の鉄臭さやクセは無く、スルリと喉を通っていく
キョトンと醜く目を丸くさせる徳雄に、店主はガハハと豪快に笑った
「ニイちゃんよ!!今夜の息子は暴れん坊だぜぇ!!チン棒だけにつってな!!ガハハ!!」
('A`)「……」
いい歳したオッサンってみんなアレになんのかなって思った
366
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:14:58 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「フフ、泣く子も黙る『鬼迫』も、案外普通の男なんだな」
('A`)「……」
ゲームセンターで初めて出会った時、宝木は自分の素性を知っている素振りを見せた
別に隠し立てているわけではないが、武勇伝として大層に語っているわけでもない
彼は自分の事を、『お前と同類』と言った。徳雄自身、宝木の性格や過去を知っているわけではないので、否定も肯定も出来ない
一つだけ確かにあるのは、出会って間もない他人に内情を見透かされている不快感だけだ
('A`)「……『お友達になってくれ』だなんて、サムい話をしにわざわざ席を設けたんじゃねえんだろ」
唐突な誘いも、ゲテモノ料理も、見ようによっては主導権を握る為の手段として捉えられる
徳雄は蛇の唐揚げを一つ摘み上げ、今度は骨ごとバリバリ噛み砕いた
('A`)「サッサと本題に入っちゃくれねえか?ニヤケ面のニイちゃんと無愛想なガキに囲まれちゃ、こっちも居心地が悪いんでな」
臨戦態勢に入った徳雄を見て、宝木は恐れと喜びが入り混じった身震いをした
守はそんな先輩の姿に、聴こえるか聴こえないかの声量で「キモ……」と正直な感想を述べた
( ^Д^)「文彦は良いチームに拾って貰ったようだ。これこそ、俺が望んでいた展開だよ」
('A`)「……あいつとヤりてえってだけか?」
( ^Д^)「それもある」
宝木はリキッドタイプのニコチンレスタバコを取り出すと、深く水蒸気を吸って吐き出した
唐揚げの油とスパイスの香りに混じって、ミント特有の清涼感ある白い靄が鼻に付き、徳雄は眉間に皺を寄せる
367
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:16:06 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「文彦は扱い難いだろう?」
('A`)「……さぁな。アレを欲しがってたオッサン連中は、苦労してそうだが」
( ^Д^)「手厚く面倒を見てもらってるようで何よりだ」
文彦が痩せようが痩せまいが徳雄にとって大した問題ではない。自分の仕事はどんなハンデを背負おうが獏良に勝つの一点だけであり
その為に過剰なまでの鍛錬を積んでいるに過ぎない。文彦に期待しているのは、『その他』のつゆ払いだけで、仕事さえこなしてくれれば後は好きにして構わなかった
( ^Д^)「文彦に限った話じゃないが、プロに入った時点で満足するプレイヤーも数多い。先日、キミらが相手した馬鹿どもが最たる例だ。あの程度の連中なら、幾らでも腐ってしまって構わないが……」
( ^Д^)「文彦は別だ。キミもその目で見ただろう?世界規模で見ても、6shooterのポテンシャルをあそこまで引き出せるガンナーは数少ない。大袈裟に言ってしまえば、『神童』とも呼べる才能の持ち主だ」
(-_-)「あんなの……大したこと、無い……」
対抗意識からか、守は今日一番のハッキリした声量で文彦を否定した
368
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:19:12 ID:9tcidWTk0
('A`)「だったらセンパイがキッチリ指導してやりゃあよかったんじゃねえのか?」
( ^Д^)「……俺はね、才能を持つ者が更に強くなる条件は二つに分類されてると考えてる」
一つ、と親指を立て、そのまま守を差した
( ^Д^)「向上心を持つ才能を、恵まれた環境下で手厚く育て上げるか」
二つ、と人差し指を立てた
( ^Д^)「怠慢な者を谷底へと突き落とし、死に物狂いで這い上がるのを待つか。文彦はこっちに属していると思ったんだ」
('A`)「ほぉ〜?」
まるで思いやりから文彦を突き放したかの物言いに、徳雄は戯けた様子で感嘆を返した
随分と無責任な話ではないか。憧れと夢を抱いてプロ入りした新参を、『そっちの方が良いから』という個人的主観だけで追い出したのだから
('A`)「他力本願も良いとこだぜ?文彦がそのまま腐っちまう可能性だってあったろうによ」
( ^Д^)「『そうはならなかった』だろう?」
結果論を、さも当然かのように言い放った宝木に、徳男の神経が僅かに逆立った
ご都合良く文彦を拾って貰って、目論見通りに事が進んでいるのはさぞかし気分が良いのだろう。運命に愛されてると言わんばかりの態度が癪に触った
('A`)「何様のつもりだ?」
宝木は噴き出し、盛大に声を上げて笑った
( ^Д^)「キミの口からそのような言葉が出るとは驚きだ!!とっくの昔に理解しているものだと思ってたのだがね!!」
('A`)「……何をだ?」
( ^Д^)「『俺たち』をさ」
369
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:21:11 ID:9tcidWTk0
ピタリと笑いを止めた宝木は、身を乗り出して向かいの席に座る徳雄へと迫る
爛々と輝く瞳が、興奮の余り小刻みに動いている。対して徳雄は、挑み返すように眼光を強めた
( ^Д^)「俺はこれでもプロチーム『蟒蛇』の玉座に座る国内屈指のキャプテンだ強いんだよ!!強ければ多少の粗相も我儘も許されるのが『スポーツ業界』なんだ。納得いかないかい?だが歴史が証明してるだろう?かわいがりの過ぎる横暴な横綱が角界から追い出されないように!!女遊びが過ぎた野球選手がスキャンダルの翌日でもホームランを打ったように!!卑下た挑発を繰り返すボクサーがベルトを巻いたように!!『強さ』と『人気』があれば大衆は寛容になる!!ああ勿論!!度が過ぎれば干されもするだろうだが『そうはなっていない』!!誰が杞憂している?文彦というポッと出の選手が、短期間で問題を起こし脱退したのを!!誰も騒ぎ立てやしなかったし、時間が経てば忘れられていただろう『そうはなっていない』!!大衆はヒーローを愛し、運命に愛されているからヒーローと成る!!強さってのはそういう、我儘を通すだけの力を持っているんだキミにも覚えはあるだろう宇都宮 徳雄!!!!」
息を吐かずに捲し立てられた持論。冗談の類ではないのは、狂気を渦巻く目の色が証明している
いつか見た、本八のそれと良く似ている狂気の色だった。なんでも自分の思い通りに人生が進むと本気で思い込んでいる、全能感に染まった色だった
('A`)「一緒にしないで貰いたいね。俺ぁアンタと違ってなんてこたぁないタダの小市民で、そこまでおめでたく自惚れたオツムはしてねえよ」
( ^Д^)「いいや身に覚えがある筈だ惚けようったってそうはいかない。キミには『補導歴』が無い。そうだろう?」
('A`)「……」
確かに、暴力を糧に生きていた小中学時代、徳雄は一度も警察の世話になった事はない
それどころか、『大人は誰も徳雄が加害者である』とは見抜けなかった
小さく醜い容姿が、いじめられっ子を彷彿とさせるからだろうか。誰一人として徳雄を咎めず、それどころか憐憫の目すら向けられた事すらある
('A`)「それが何か?」
おくびには出さなかったが、徳雄の背に僅かな冷や汗が流れた。それは『同類の指摘』から出たものではなく
徳雄の『経歴』を事細やかに知る宝木の不気味さによるものだった
370
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:22:09 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「その時のキミにはあった筈だいいや確かにあった!!神が描いた極上のシナリオを賜った優越感全能感が!!それが今のキミを作り出したんだそう!!誰にも靡かず誰にも愛されず、そして誰もが恐れる『鬼』、宇都宮徳雄を!!自覚のある無しに関わらず、俺たちみたいな人種はいるんだ確かに今!!ここにいるんだよ!!『運命に背中を押されている者』が!!」
('A`)「……」
『付き合ってられない』。徳雄は視線を切ると、油で汚れた指と口元をおしぼりで拭った
('A`)「くっだらねえ与太話を、くっせえ芝居でくっちゃべりたいが為に、わざわざ不味い飯に連れて来たのか?」
( ^Д^)「いいや?本題はこっちだ」
宝木は徳雄の顎を掴み、力づくで再び視線を合わせた
( ^Д^)「どうか文彦をよろしく頼むよ。今よりもっと大きく肥えた才能に、大舞台で平らげるに相応しい『ご馳走』にしてやってくれ」
徳雄の目に映ったのは、鎌首擡げて獲物を待つ、舌なめずりした『蛇』の姿
目指すはゴールという到達点では無く、殲滅を目的とした超攻撃型プロ集団。そのトップに君臨する男の、底なしの『食欲』を見た
371
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:22:40 ID:9tcidWTk0
('A`)「……」
徳雄は、鼻から深く長い溜息を吐くと
(;^Д^)そ「ムゴッ!?」
その『蛇』の口を塞ぐように顎を鷲掴みにした
372
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:23:36 ID:9tcidWTk0
('A`)「知ったこっちゃねえよてめえの性癖なんざ」
宝木の手は徳雄の顎から放れ、口元に食い込む右手を引き剥がそうと掴む
骨が軋みそうなほどの強い圧迫感。自己陶酔に浸った目の色は一瞬にして焦りと恐怖へと変化する
身体のバランスが崩れ、咄嗟に手をテーブルへと突いて支える。料理の乗った皿が跳ね、クロスを汚した
('A`)「おまんまを他人に用意させるボクちゃんの言う事なんざ誰が聴く耳持つかよ。運命だのなんだのとお綺麗な言葉で飾ろうが、結局テメーはオタクデブにすら正面切って喧嘩を売れねえタダの腰抜けだ。ガッカリさせてくれるじゃねえか?なぁ、蟒蛇のオウサマよ」
チャリオッツが上手かろうと強かろうと、結局はその界隈に限られた人気と支持でしかない。宝木はそこを見誤った
宇都宮 徳雄にチャリオッツへの思い入れなど、ましてやプロ選手への尊敬や憧れなど微塵も存在せず
ただ『親友』が関わっていたから、親友と雌雄を決する場であったから、本八の誘いに乗ったに過ぎない
本人がその口で言った通り、チャリオッツに限っては知名度も実績も宝木の足下にも及ばないタダの小市民。だからこそ―――――
('A`)「タマナシ野郎が思い上がってんじゃあねえぞ」
親友以外の『その他』など、ハナから眼中に無かった
373
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:25:05 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「ゴッ……ガッ……」
('A`)「俺の貴重な時間を無駄にさせてくれたな?この落とし前どう着けるんだ?ん?」
徳雄の手首に爪が食い込むほど強く抵抗するが、万力で固定されたかのように、顎を掴む手は解けない
顔は血が昇って赤く染まり、血走った目が天井に剥く。脚はパニックからか力が上手く入らず、膝が崩れ落ちた
いよいよ骨身が軋みを上げ、焦りは最高潮に達する。テーブルを支えていた手は、バランスよりも脱出を優先し、『ある物』を急いで探り始めた
(#^Д^)「ッ!!」
銀に光る、四つ股のフォーク。鋭利に尖る矛先を、徳雄の顔面目掛けて振り上げられた瞬間―――――
('A`)「!?」
テーブル上の料理が、徳雄の右肩の方角から飛来した『ボール』によって弾け飛んだ
意識外からのアクションによって、徳雄は咄嗟に顎から手を放す。少し遅れて振り下ろされたフォークが、カツンと力なくテーブルに突き立てられた
(-_-)「そこまで」
これまで静観を保っていた守が、制止を告げた。特に慌てた様子も無く、手持ち無沙汰を解消するかのように、三センチ大の『スーパーボール』を、テーブル上で跳ねさせている
奇しくも、料理に突っ込んだボールと同じ種類の物だった
(-_-)「あんまり白熱すると、取り返しのつかない事態になるよ……」
(;^Д^)「ハァ……ハァ……」
('A`)「……」
守は向かって左前の席に座っている。彼女はその位置から、恐らくボールを『反射』させて料理皿へと投げ込んだのだろう
理屈を説くのは簡単だが、素人が狙って出来るほど簡単な技では無い。文彦とは違う、『向上心のある才能』。チャリオッツトップクラスガンナーの実力の片鱗を見た
374
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:25:41 ID:9tcidWTk0
('A`)「……気は済んだな?俺は帰るぜ。相棒の嬢ちゃんに礼はしとくんだな」
何はともあれ、今の一発で完全にシラけてしまった徳雄は、i-ringのクレジット機能を使って店に適当な額の支払いを済まし、席を立った
('A`)「送り出しも結構だ。楽しい時間をどうもありがとう。文彦には宜しく言っとくよ。それじゃあ、これで」
(;^Д^)「……」
饒舌だった口から別れの挨拶は無く、宝木はフォークを突き立てたまま、ただ項垂れていた
彼が今、抱いているであろう敗北感や嫌悪感。その全てが徳雄にとってどうでもよく
('A`)「口直しにカレーでも食いに行くか……」
店を出た頃には既に、好物の事しか頭に無かった
375
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:26:46 ID:9tcidWTk0
('A`)「ん?」
i-ringの振動が着信を告げる。これまでほとんど通話をしたことがない徳雄にとって、あまり慣れない機能だった
相手は盛岡で、そう言えば家を出る時にメッセージだけ送っていたっけなと思い出す
('A`)「もしもしデミさん?」
《ああ、徳雄くん。連絡が遅れて済まないね。クソガk文彦くん達を送ってたもんで》
('A`)「いや、構いませんよ。此方もちょうど終わったとこなんで」
《……まさかとは思うが、派手に喧嘩などしてないだろうね?》
自分では無く、『相手』に対しての心配を孕んだ声色に、徳雄は思わず噴き出した
('A`)「美味しいディナーを頂いただけっす」
《何かの隠語かい?》
('A`)「俺ぁどんだけ信用が無いんですかね?」
売られた喧嘩は漏れなく買うが、喧嘩の安売りなどしない。徳雄は少々心外であった
《まぁ、大事なければいいさ。それより、何故キミをご指名だったのかな?》
('A`)「……」
記憶を探っても、とんと心当たりが無い。しかし、宝木は最初に会った時から何故か自分に対してシンパシーを感じている口振りだった
かつて呼ばれていた『鬼』という忌み名にしても、喧嘩に明け暮れた過去にしても、彼は徳雄の事を良く知り過ぎている
ストーカーに狙われた気持ちとは、恐らくこのようなものなのだろう。徳雄は改めて、宝木に得体の知れない気持ち悪さを覚えた
('A`)「『文彦をよろしく頼む』だそうですよ」
だが、それを盛岡に伝えるまでも無かった。危害を与えられたのなら話は別だが、不愉快なだけなら忘れてしまっても問題無いと判断した
盛岡も、徳雄の言葉に疑問を抱かず、「そうかい」とだけ応え、それ以上の言及は無かった
376
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:27:46 ID:9tcidWTk0
《もう帰宅したのかい?》
('A`)「これから飯食って帰るとこっす」
《足りなかったのかい?何にせよ、気をつけて帰りなさい。それと、しっかり休むようにね》
('A`)「わかってますよ。そんじゃ、失礼します」
通話を切った後、徳雄は自分の顔が綻んでいるのに気づいた
気遣いの言葉を掛けられるなど、長らく無かったからだ
('A`)「……疲れてんな」
中年ハゲの言葉が、不覚にも染み入ってしまうとは。相当参っているに違いない
徳雄は盛岡の言う通り、今日はゆっくりと休むことにしたのであった
377
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:28:17 ID:9tcidWTk0
.
378
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:28:59 ID:9tcidWTk0
(-_-)「早く帰りたい」
樋木 守(ひのき まもる)は帰りたかった。のめり込んでるネットゲームのレイドバトルイベントに忙しかったからだ
本来ならば今日も一日中、上位10位以内のプレイヤーが貰える限定アイテム目指して周回している筈だった
そんな中、気持ち悪いリーダーにアポも無しに突然自宅から連れ出され、よく知らない男と美味しくない蛇料理を食べさせられたのだから堪ったものではなかった
(;^Д^)「フ、フフ……見たかあの迫力あの威圧感……宇都宮 徳雄は耄碌したどころか、ますます磨きが掛かってる……」
(-_-)「帰りたい」
クソどうでも良かったし、なんなら宇都宮さんもかなり迷惑だっただろうなと同情するレベルで気持ち悪かった
(;^Д^)「アレが、アレが俺が憧れた最も恐ろしい『ヒール』だ!!わ、わかるか守!?蟒蛇のトップである俺など歯牙にも掛けず、ゴミでも見るような目で見下す、『無頼漢』の体現者!!ああ……まさか、まさか文彦が彼と組んでくれるだなんて……!!」
恍惚とした表情を両手で覆い、天井を仰ぐ。守はとにかく気持ち悪いし早く帰りたかったが、なんか付き合ってやらないと満足しなさそうなので渋々
(-_-)「ハァ……昔の知り合い?」
と、軽く踏み入れてやった
( ^Д^)「俺がまだチンケなゴロツキのパシリだった頃、彼一人に十三人が病院送りにされたんだ。俺は直接対峙したワケじゃないが、物陰で見ていたよ。彼の、情けも容赦もない嵐のような暴力を!!」
(-_-)「へぇそうなんだ」
男ってホントバカって感じだった
( ^Д^)「恐ろしかった。だが同時に強烈な憧れも抱いたよ。あれほど身勝手に振る舞えたなら、男の頂点に君臨したも同然だとね」
(-_-)「……」
男ってホント子どもよねって感じだった
( ^Д^)「歳を重ねるにつれ、彼の武勇は鳴りを潜めた。高校生になってスポーツに打ち込んでると耳に挟んだ時は心底失望したよ。しかも、しかもだ!!彼はヒルクライムの大会で、『他人を案じて失格』となった!!あり得ない光景だったよ!!俺が知ってる宇都宮 徳雄ならば、轢き殺してでも勝ちに行っただろうね!!」
(-_-)「へぇー」
厄介オタク丸出しの言動に、ますます宝木の株が下がった
379
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:30:57 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「だが今日で確信したよ。彼は変わったんじゃない『変われない』んだ!!どれだけ歳を重ねようと、結局は孤独で凶暴な一匹狼……いや、孤高の『鬼』なのだと!!ああ、神様……感謝するッ!!俺に、彼へ挑む機会を!!チャリオッツの舞台で叩き潰すチャンスを与えてくれたのを!!」
(-_-)「店長さんタクシー呼んでください」
まだ掛かりそうだなって思った
( ^Д^)「ああ……今日は最高の一日だ……」
絶頂の余韻を味わうようにしばし恍惚とし、その後、『ああ』と思い出して後方へと顔を向けた
( ^Д^)「おい帰ったぞ!!そろそろ顔を見せたらどうなんだ!?」
宝木が店の奥へと乱暴に呼びかけると、顔中が青や紫のアザで染まる高城がゆっくり現れる
『負け犬』が良く似合う見窄らしい姿に、宝木は『愉悦』を喉奥で鳴らした
(=゚д゚) 「……」
( ^Д^)「懐かしい光景だったでしょう『高城先輩』。あの日の喧嘩は、俺が心酔していた対象が貴方から彼に変わった記念日だ!!貴方が彼と再会し、しかも名前を覚えられていたと聞いた日は嫉妬で眠れやしませんでしたよ!!」
(=゚д゚) 「っ……」
かつての『先輩』は、奥歯を痛むほど噛み締めた。学生時代に顎で使っていたパシリは今やプロチームの頂点で、ルーキーである自分には口答えも出来ない存在だ
屈辱と悔しさが滲み出る高城に、宝木は歌でも歌い出しそうなほど上機嫌に話しかける。それが余計に癪に障った
380
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:32:11 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「さて、此処に赴いた理由をお聞かせ願おうか?」
(=゚д゚) 「……『バジリスク』のジョッキーの座、貰い受けようかと」
宝木は鼻で笑うと、食べ終えた蛇の残骸を高城の顔に投げつけた
( ^Д^)「お願いに来たのか?宇都宮徳雄の情報提供と、先日のプレーに免じて『降格処分』は免じてやっただろう?これ以上を俺に望むのは、幾ら何でもツラの皮が厚過ぎるぜ先輩?」
(#=゚д゚) 「……誰がお前なんかに……!!」
( ^Д^)「あ!?なんだって!?」
喉の奥から搾り出すような声を、仰々しい大声と態度で掻き消した
守は最悪な空気をこれ以上吸いたく無くて、タクシーまだ来ないのかなぁって思った
(=゚д゚) 「『決意表明』です」
( ^Д^)「へぇ?具体的には?」
(=゚д゚) 「年度末の『ジャパンカップ』。その予選までに、貴方のご期待を越えるほどの実力で、バジリスクの『心臓』の座に着きます」
高城が抱く徳雄への感情は、宝木とは全く別の性質だ。強く深い『怨恨』。一度ならず二度、三度と、辛酸を舐めさせられた怨みが、性根の底にまで染まっている
それもまた、行動への強い『原動力』となる。宝木は感心したように腕を組み、頷いて見せた
( ^Д^)「良いだろう『三ヶ月』だ。今から三ヶ月後の登用テストで、お前の実力を示して見せろ」
(=゚д゚) 「必ず」
( ^Д^)「但し、合格しなければ今度は除籍処分だ。昔馴染みと言えど、今度は情状酌量の余地は与えない」
(=゚д゚) 「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
( ^Д^)「ハハ、期待せずに待っていますよ。高城『先輩』」
嫌味ったらしく強調された『先輩』に、高城は無言で頭を下げた
しかし視線は宝木に向けられたまま、射殺そうとせんばかりに怒りと憎しみを送りつけていた
381
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:33:02 ID:9tcidWTk0
(#=゚д゚) 「では、失礼します」
高城は足早にその場を去り、乱暴に扉を開けて出て行った
「守ちゃん、タクシー来たぜぇ……」
夜叉猿に指喰われたり腸出されたりしてそうな店長が、待ち侘びた迎えの到着を告げると
(-_-)「じゃあ僕も帰る……」
めっちゃテキパキと帰り支度を済ませて出て行った
( ^Д^)「ツレないな。せっかくライバルになるだろう偉大なお方と会わせてやったってのに」
「オメエそんなんだから彼女出来ねえんだぜぇ……」
呆れた店長が放った軽口が、その日一番宝木に刺さったのであった
382
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:34:16 ID:9tcidWTk0
―――――
―――
―
大潮 本八は大企業の社長らしく肥えた舌を持つグルメ家だ。創業以来変わらぬ味の一串80円のみたらし団子がこの世で一番美味い食べ物なのは変わりないが
有り余る財力を使い、この世のありとあらゆる美食美酒を堪能してきた。唯一無理だったのが女体盛りという文化だった。だってチンポクズでも無理なもんは無理やもん衛生的にカスだろアレって感じだった
(´^ω^`)「今日は、此処だ!!」
チートデイが強さの秘訣。今日も祝勝をかねてとびきり美味いものを食べに行くでお馴染みのボディビルダー。筋肉の化身(マッスルリバース)こと天王寺美貴久の一面を見せながら、クズの食指が選んだ店は
隠れ家的名店、江戸前寿司『くおうち』である
(´^ω^`)「いらっしゃっせー!!」
( ゚д゚ )そ「いらっ……え!?」
引き戸を開けると同時に先制アイサツ。店員の出鼻を挫くのはクズの流儀であり、特に何の意味もない
383
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:35:26 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「ど、どうぞ」
(´・ω・`)「はい」
店内はカウンター六席のみ。無駄に目力の強く掘りの深い皺顔の大将が一人で切り盛りしているのが見てとれた。オオカミ城の可能性がある
閉店に近い時間だからか、客は本八一人だった。勧められるがままに奥の席へと座り、熱々のおしぼりを受け取る
(´^ω^`)「っかー!!」
オッサンなんで顔拭くのは予定調和だった
( ゚д゚ )「何にしましょう?」
(´・ω・`)「とりあえずビールと……そうだな、ここは大将のお任せで」
( ゚д゚ )「はいよっ!!」
お通しと共に提供されたキンキンに冷えた瓶ビールと、凍ったグラス。高い酒なんて浴びるほど呑んだがやっぱり―――――
(´^ω^`)「くぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!うんめえーーーーーーーーー!!!!!!!」
一杯目のビールに敵うものは無かった
384
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:36:20 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「お仕事終わりですか?」
手際良く魚に包丁を入れながら、大将は気さくに話しかけてくる
閉店間際の一人客など、本来煩わしい存在だろうに、一片たりともそれを匂わせない辺り、仕事人としてのプライドと自信、そして客への感謝と歓迎を表している
飲食店を経営する者として、尊敬に値する職人だった
(´・ω・`)「ええ。少々難儀な仲間に手を焼かれまして」
( ゚д゚ )「心労をご察しします。はい、こちら旬のイサキの握りです」
カウンター越しから二つ並んで寿司下駄に置かれた光り物の握り。一つ手に取って醤油をチョンと付け、口へと運ぶと
(´・ω・`)「う〜ん……」
思わず唸りが出るほどの新鮮さと味が口から鼻へと抜けていく
(´・ω・`)「旨いですね」
( ゚д゚ )「ハハ。イサキも冥利に尽きるお言葉ですよ」
385
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:38:13 ID:9tcidWTk0
本心からの味の感想に気を良くしたのか、大将は次々と寿司を握っていく
同じく旬の車海老に、酢締めのキスの握り。芽ねぎの握りで口内をさっぱりとさせたところで、箸休めの茶碗蒸し
本八も酒が進むにつれよく口が回るようになってくると、自身も同じく飲食店経営者である身の上を吐露。同業者としての悩みや喜びを共有し、会話に華が咲いた
( ゚д゚ )「やはり寄る年波には勝てなくて、仕入れを業者に依頼するようにしたんですがこれがまぁー良い仕事してくれましてね。私がやってた時より良いネタを選んでくれるんですよ。こんな事ならもっと早いうちに頼んでおくべきでしたね」
(´・ω・`)「確かに、ここまで上等なネタはよっぽどの店じゃないとお目に掛かれないですね。しかし、葛藤もあったのではないですか?これは偏見かもしれませんが、職人はこだわりが強いと思っていましたが」
( ゚д゚ )「いやぁ、お師匠がその手の人間でね。激務が祟って早くに亡くなったんです。ですが、昔と比べて寿司職人の伝統や気質は随分と柔軟になりました。ネタどころか握ったシャリすら外注する店も少なく無いんです」
(´・ω・`)「時代ですね。俺達が常識と捉えていた考え方や仕組みは、若ぇモンがドンドン効率的に作り変えて行く。かつての俺らがそうだったように」
( ゚д゚ )「何を仰る。お客さんはまだまだ『作り変えて行く側』でしょう。はい、テキサス・ブロンコロールお待ち!!」
(´・ω・`)「なんかテリーマン宿してそうな寿司来た」
ネタには魚ではなく牛ひき肉、みじん切りにした玉ねぎとピクルスを酢飯で巻き、海苔の代わりとしてスライスチーズが使われている
早い話がチーズバーガーの具を巻き寿司にした一品だった。これまで普通の寿司だけ出て来たのにいきなりイロモノが出てきて本八は眉毛ハゲそうだった
(´・ω・`)「でも美味いんだよなぁ」
( ゚д゚ )「五割の確率で怒られますがね」
(´・ω・`)「出すのやめな???????????」
386
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:39:07 ID:9tcidWTk0
冗談のような寿司を挟みながら、定番のネタが次々と握られていく。本八も二本目のビールを注文し、顔に赤みが差し始めた
(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!大将も一杯どうでぇ!!!!奢らせてくれや!!!!!」
( ゚д゚ )「宜しいんで?」
(´^ω^`)「アンタが構わねえんなら幾らでも飲んでくれ!!」
大将はチラリと時間を確かめ、今日はこれ以上の客は来ないと判断したのか、そそくさと暖簾を下ろしに向かった
(´^ω^`)「……」
(´^ω^`)(よし)
『乗った』。釣り針にバシッと魚が掛かったような手ごたえを感じた。個人経営の飲食店、多少の『緩さ』がある
元より、この店の大将は閉店後に常連と飲むことがあるのは事前調査で確認済み
短時間の話術で『取り入れば』、このように人払いと交渉の場の用意を同時に行える
387
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:40:28 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「そんじゃ、失礼して」
(´^ω^`)「ほれほれぇ!!」
隣に座った大将のグラスに酌をする。白くきめ細かな泡が立つ黄金色の酒を、その日の労を洗い流すように豪快に喉を鳴らして飲み込んだ
(*゚д゚ )「っかぁー!!この為に生きてんだよなぁ!!」
(´^ω^`)「マジそれー!!そらもう一杯!!」
一杯目は景気づけ。二杯目は語らいの燃料として。本八の狙い通り、今度は味わうようにビールを飲む
(´^ω^`)「いやしかし、良い店を見つけられたぜ!!大将はいつから握ってんでぇ!?」
( ゚д゚ )「店を構えたのは二十年前だ。娘が産まれた年に一年発起してな」
互いに砕けた口調となり、本八は更に踏み込んでいく
(´・ω・`)「それまでは師匠の店で握ってたのかい?」
( ゚д゚ )「いや、色んな店を点々と渡り歩いていた。俺は他の職人と比べて、修行開始が遅くてな。とにかく早く一人前になる為に必死だったよ」
(´・ω・`)「するってぇと……歳にして二十後半辺りかい?」
( ゚д゚ )「鋭いな。二十六の頃に、さっき言ったお師匠の店に弟子入りしたんだ」
(´・ω・`)「脱サラ?」
( ゚д゚ )「……そんなとこだな」
388
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:41:39 ID:9tcidWTk0
大将は言葉を濁し、グラスに半分残ったビールを更にもう半分減らす
( ゚д゚ )「お師匠……叔父は厳しい人でな。何度も頭を下げに行ったよ。その度にこう言うんだ。『今まで遊んでいたようなガキに、寿司を握れるか!!』とな。根負けして俺を迎え入れてくれた後も、毎日のように怒鳴り散らされていた」
(´・ω・`)「脱サラなら、遊んじゃいねえのでは?それとも、叔父さんは寿司職人以外は仕事じゃねえと考えてるタイプだったのか?」
( ゚д゚ )「あー……何と言うか……人によっては、遊んでるようにしか見えない仕事だったもんで」
(´^ω^`)「おぉ!!納得したぜ!!大将もしかして、配信者かプロゲーマーだったりしたのか!?」
(;゚д゚ )「お客さん、探偵も兼業しているのか?さっきから的確に言い当ててくるな」
(´^ω^`)「俺そういうのすっきやねん!!結構有名だったんじゃねえの!?」
(;゚д゚ )「いやいやとんでもない!!少しの間頑張ってみたが、鳴かず飛ばずで終わったよ」
389
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:42:51 ID:9tcidWTk0
(´^ω^`)「そんなワケねえよな?」
.
390
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:43:33 ID:9tcidWTk0
突然の否定に、大将の身体はピキリと強張る。リセットされた思考が、疑心と共に本八の『仕込み』を読み解き始めた
酒を飲まされてから、過去を掘り下げるように会話を誘導されている。その節々で、歳や過去の職種を大まかながら言い当てている
そこから導き出される『答え』に気付いた時には、既に手遅れだった
(´^ω^`)「2089年。第十二回チャリオッツジャパンカップ。初の連覇が懸かった『トップ・ギア』は、無名のチームによって夢を断たれた」
(;゚д゚ )「……」
(´^ω^`)「トップ・ギアに『悪夢』を見せるほどの実力を持ちながら、たった一度の参戦でチャリオッツ界から姿を消した『幻のヒール』」
(´・ω・`)「鳴かず飛ばずとは言わせねえぞ?『アンラ・マンユ』のキャプテン『ヤクシャ』こと、三浦 紘一(みうら こういち)さんよ」
彼は、気前が良く親しみ易いこの客は、消したいほどの過去を辿ってやって来た者なのだと―――――
391
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:44:47 ID:9tcidWTk0
(;゚д゚ )「な……」
『何の話だ?』と、惚けようとして、無駄な足掻きになるだろうと頭を振った。下手な芝居で追い返せるような相手ではないと悟ったのだ
勢いづける為に、グラスに残ったビールを一口で飲み干す。仕事終わりの美酒だった筈だが、瞬く間に『苦汁』となって胃に落ちた
( ゚д゚ )「……どうやって探り当てた?『アンラ・マンユ』は全員がマスク・プレイヤーだった。これまで正体を暴かれたことは無かった」
『マスク・プレイヤー』。覆面プロレスラーのように、覆面を被ってチャリオッツをプレイするチームの総称だ
キャラクターを立たせる要素としては勿論、プライベートに干渉させない為の措置として正体を隠す者も少なくない
(´・ω・`)「これでも金持ってる方でね。割と早い段階で正体は掴めてたよ」
そう言って差し出されたビール瓶に、三浦は首を振って拒絶をする。今は気持ちよく酔える気分ではなかった
( ゚д゚ )「何が目的だ?」
(´・ω・`)「俺らのコーチをお願いしたい」
互いに老練。無駄なやり取りなどせず単刀直入に言葉を交わす。三浦は疲れと頭痛を誤魔化すように目尻を摘み揉んだ
( ゚д゚ )「ここは寿司屋だ他を当たれ」
(´・ω・`)「他じゃ無理だ。今年のジャパンカップに間に合わない」
( ゚д゚ )「何故だ?」
説明が無くとも、三浦の『何故』には複数の意味を孕んでいるのが分かった。本八は順に訳を話す
(´・ω・`)「時間が無い、ジャパンカップ優勝経験の持つ指導者が欲しい、俺がアンラ・マンユのファンだから。以上の理由からアンタしか該当者がいない」
( ゚д゚ )「……最後に関しては、光栄と言っておこう」
(´・ω・`)「後でサインください」
マジなのかふざけてるのか分からなかった
392
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:48:01 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「しかし最初のは解せないな。ジャパンカップは一年に一度、大晦日に開催される人気行事だ。何も今年じゃ無くても良いだろうに」
(´・ω・`)「いいや、今年でないといけない。トップ・ギアの三連覇が懸かった今年でないといけないんだ」
ジャパンカップ過去四十三回の歴史の中で、『三連覇』は前人未到の偉業とされている
そこに王手を掛けたのが、トップ・ギア所属のマスク・プレイヤーチーム『クワイエット』である
『今年でないといけない』と言った男の狙いは、ファンならば誰もが夢にまで見る歴史的快挙の阻止
もう一度トップ・ギアに『悪夢』を見せるのが目的なのだ
( ゚д゚ )「……」
『寝言をほざくな』。そう切って捨てられなかったのは、客商売で磨いた慧眼が、目の前の男が『ガチ』なのだと見抜いてしまったからだ
不幸なことに、三浦は真面目であった。相手が気に食わなければ、深く慮ずに罵り喧嘩腰になる『江戸っ子』に似つかわしくない寿司職人だった
( ゚д゚ )「何故だ?」
今度は、たった一つの意味しか持たない『何故』。どうしても阻止しなければいけない理由があるのかと問うた
(´・ω・`)「アンタが見た景色が見たい。それだけよ」
(;-д- )「っ……」
『単純』が故に、拒絶が効かない。この身勝手を押し通す客には、やると言ったらやる『スゴ味』があった。徐倫の可能性がある
ギュウと瞑った瞼の裏では、本八が望む『かつて見た景色』が鮮明に映し出される。当時、禁じ手と呼ばれたアビリティを使ってまで掴んだ勝利だった
その先に待っていたのは、数万を超える観客からの失望と罵声。偉業を阻んだ代償は、若き日の彼らには耐え難い苦痛であり、チャリオッツの表舞台から姿を消すには、十二分の理由であった
393
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:49:45 ID:9tcidWTk0
(;゚д゚ )「……そんな良いものでは無いさ」
(´・ω・`)「そうか?俺の目には最高の景色に映った」
忌々しい記憶も、見る者によって価値を変える。本八もまた、幼心に味わったあの瞬間を、昨日のように思い出せた
(´・ω・`)「ファイナル・ステージ、『スローン・オブ・バレー』。2000メートルの直線コース。アンタは接触したトップ・ギアの車体を、当時調整ミスのアビリティと呼ばれた『ショット・パージ』で攻撃した」
チャリオッツの装甲は、ダメージ蓄積量やジョッキーの負担軽減を鑑みて、キャプテンの裁量で外すことが出来る
外した装甲は当然ステージに残り、後続の妨害としても活用可能である
『ショット・パージ』は、文字通り装甲の一斉解除に『散弾』のような威力を付加したアビリティであり、実装当時は軽車両を軽く吹き飛ばせる威力を誇っていた
当然、装甲を全て解除するのだから防御力は格段に落ちる。しかしそのデメリットすら、『ラストスパート』における妨害と速度の向上という大き過ぎるメリットに比肩出来るものではなかった
ともすれば『チート』とも呼ばれかねない壊れアビリティ。強すぎる力は、万人にとって忌み嫌われる存在となった
その暗黙の共通認識は、プロプレイヤー間にも浸透しており、ファンからの批判を恐れて使用するチームはほとんどいなかった
(´・ω・`)「あの一撃は車体の破壊にまで到らなかったが、ジョッキーへ揺さぶりを掛けるには十分だった。トップ・ギアはラストスパートの速度が伸びず、寸での所でアンタらに玉座を譲った」
(;゚д゚ )「……」
(´・ω・`)「『禁忌』と呼ばれたアビリティ。だが公式がその口で禁止を告げたわけじゃない。ガキの俺にだってわかるぜ。あれは堂々たる勝利だった」
(;゚д゚ )「……世間はそう認めたワケじゃない」
(´・ω・`)「……アンタら、名前の割に繊細だったんだな」
394
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:51:04 ID:9tcidWTk0
(#゚д゚ )「何がわかるッ!!!!!」
ドンとカウンターに拳が振り下ろされ、ビール瓶が怯えるように震えた。万人から悪意を向けられた者にしか理解出来ない心傷は、三十二年の月日をもってしても癒されはしなかった
(#゚д゚ )「俺たちは正々堂々戦って、祝福されるべき勝利を手にした!!手にした筈だった!!ああ、馬鹿馬鹿しいと今でも思うさ!!『強いアビリティを最高のタイミングで使用しただけ』で、何故あれほど責められねばならないんだとな!!」
(#゚д゚ )「程なくして理解したよ『それがチャリオッツの世界』なのだと!!結局は人の数が物を言うんだ!!例え白でも奴らが黒と言えば、そう染まってしまうんだと!!」
(´・ω・`)「でも『勝っただろう』」
(#゚д゚ )「あの勝利に誰が価値を見出したと言うんだ!!」
(´・ω・`)「なんだ、アンタ目が悪いのか?」
(´・ω・`)「ここに一人いるだろうが」
(;゚д゚ )そ「ッ!?」
三浦は、心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥る。過去の闇に囚われて、目の前のファンを名乗る男の姿が見えていなかった
395
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:52:01 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「非難だけじゃなかった筈だぜ。当時のトップ・ギアは、アンタの判断に賞賛を贈り、誹謗中傷を行うファンに苦言を呈した。俺のように心動かされた人間だって少なく無い」
(´・ω・`)「正真正銘、『強い』プレイヤーだったからこそ、俺はアンタに指導を頼みたいんだ」
あの日、称号よりも賞金よりも欲しかったものが、三十二年の時を越えて今、名も知らぬファンから与えられた
間違いではないと、お前の強さは本物であったと、ただ『認めて欲しかった』
( ゚д゚ )「……」
カウンターに振り下ろした拳は、知らぬ間に解けていた。あの日のトラウマが癒えたワケではないが少なからず
( ゚д゚ )(参ったなぁ……)
気持ちが軽くなったのは事実だった
396
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:58:43 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……幾つか問いたい。お前さんは日本中の嫌われ者になる覚悟はあるのか?」
(´・ω・`)「それが目的だ。最強のチームの三連覇を阻み、日本中に吠え面かかせてぇんだよ」
『ロクでもない動機だ』。呆れつつも、自分が蒔いた種を前に苦笑いをする他なかった
( ゚д゚ )「チームメイトは承知の上か?」
(´・ω・`)「無論。ガンナーのデブガキは華々しい復帰を目指して。ジョッキーのイカレ野郎はそもそもトップ・ギアなんて眼中にねえ」
( ゚д゚ )「強いのか?」
(´・ω・`)「どっちも才能の塊だ。だが両者とも問題がある。デブは『そいつ』に胡座を掻いてるし、イカレはその逆で『足りない』とオーバーワークを繰り返している」
( ゚д゚ )「お前さんは?キャプテンとして彼らを御せるほどの実力はあるのか?」
(´・ω・`)「俺ァほとんど未経験よ。あるのは金と、三十年以上待ち望んでいた夢への渇望だけだ」
クセのある二人と、降り積もった夢への狂気を抱く男。三浦は白髪混じりの顎髭を摩りながら、不覚にもこう思ってしまった
( ゚д゚ )「『面白い』」
397
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:00:01 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「そろそろ良い返事を聞かせて貰いたいね」
自分にしては珍しく、『真摯』だけで挑んだ交渉。陥落は目前だ。だが三浦が放った次の言葉に、その確信はいとも簡単に瓦解する
( ゚д゚ )「残念だが、私は面倒を見れない」
(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」
それは、それは
(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」
大きく、大きく、店の外まで響き渡る悲痛な叫びだった
(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」
しつこかった
398
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:00:51 ID:9tcidWTk0
川;゚ -゚)そ「お父さん!?」
クソうるせえクズの叫び声を聞いたのか、引き戸を勢いよく開けて黒髪の若い美女が店内に飛び込んでくる。父親譲りの目力の強さが、近寄り難い魅力を強調していた
(´・ω・`)「あ、お邪魔してます」
川;゚ -゚)「え、あ、はい……」
何事も無かったかのように挨拶するクズに拍子抜けしたのか、ポカンと口を開けて会釈を返す
( ゚д゚ )「娘の空流(くうる)だ。おかえり」
川;゚ -゚)「た、ただいま……何かあったの?」
( ゚д゚ )「いや、何でもないよ。済まないが、帰りはもう少し遅くなる。夕食は裏に用意してあるから、食べて待ってなさい」
川;゚ -゚)「わ、わかった……」
空流と呼ばれた娘は、本八に訝しげな視線を送りながら再び会釈をして厨房裏へと向かっていく
彼女が姿を消して少し待ってから、本八は会話を再開した
(;´゚ω゚`)「可笑しいじゃん今の絶対『オッケーグーグル』って流れだったじゃん!!!!!!!!」
<ご用件を、お伺いします
i-ringが反応した
( ゚д゚ )「話は最後まで聞け。私よりも適任がいるんだ。彼に任せた方がきっと上手くいく」
<話は最後まで聞け の 検索結果を表示します
I-ringがブラウザホログラムを映し出した
(;´゚ω゚`)「いやでもだってさぁ!!!!!!」
本八は鬱陶しそうにそれを消しながら尚も食い下がった
399
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:02:32 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「聞くが、二人は学生か?」
(;´゚ω゚`)「デブガキは引きこもりの高校生だがイカレブサイクはウチの社員だよ!!!!!それよりなんでやってくれないの!!!!?!!!やってやってやってよぉ!!!!!!!」
本八は駄々を捏ねながらビール瓶を手に取り、残りを一気にラッパ飲みした
(´・ω・`)「それがどうした?」スン
(;゚д゚ )そ「うおお急に落ち着くな気持ち悪い!!」
緩急つけた情緒の狂い方にビビり散らかしながら、三浦は話を続けた
( ゚д゚ )「いいか、ジャパンカップまで時間が無い。お前さんの目的は、トレーニングの見直しと、更なる実力の向上だろう?だったら短期集中で臨んだ方が良い。一カ月ほどまとまった時間を用意できるのがベストだ」
( ゚д゚ )「私は見ての通り働いている身だ。つきっきりで面倒は見きれない。だったらいっそのこと、『専門家』に任せるべきだ」
(;´・ω・`)「オイ俺ァその『専門家』とやらにゃ荷が重ぇと思ったからわざわざアンタを訪ねたんだ……」
( ゚д゚ )「私の推薦でもか?」
自信に溢れた物言いに、本八は珍しく言葉に詰まる
憧れの人物が認める『指導者』。興味がないと言えば嘘になる
(´^ω^`)「その言い方はズルいぜ」
結局、本八は折れた
400
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:04:05 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「二人のデータはあるか?」
(´・ω・`)「録画を送る。必要ならスリーサイズも用意するが」
( ゚д゚ )「それはいらん」
マジで世界で一番無駄なクソゴミ情報だった。本八から送られたのは、先日の蟒蛇とのプレイ映像
( ゚д゚ )「なるほど、彼らか」
(´・ω・`)「ご存知で」
( ゚д゚ )「ニュースサイトでチラリと目にしただけだ。詳細は知らん。ライターの過大評価の可能性だってある」
(´・ω・`)「それは得と御覧じろとしか言えねえなぁ」
自信に溢れた本八に微笑を溢しつつ、三浦は手癖で鼻髭を摩りながら、見極めるように映像を眺めた
試合開始直後、徳雄の力ある体当たりが、蟒蛇六番隊の車体を横転させる
( ゚д゚ )「……突発力は十分、だが粗が目立つ」
(´・ω・`)「ジョッキーの宇都宮はチャリオッツ未経験者だ。だが身体は仕上がってる。攻撃主体の走りなら見ての通り蟒蛇にも劣らねえ」
( ゚д゚ )「ビギナーズラックで勝ち上がれるほど、ジャパンカップは甘くない。その認識は今のうちに改めろ」
本八は肩をすくめ、再び映像へと戻る。六番隊が仲間割れで撃破され、一騎討ちに持ち込まれる
401
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:07:18 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……」
(´・ω・`)「……」
追い込まれるブスとデブ。七番隊の砲撃で宙を舞う
(;゚д゚ )そ「ッ!!」
瞬きほどのワンチャンス。6shooterが四連撃の火を噴いた
七番隊の車両はど真ん中を撃ち抜かれ大破。程なくして試合終了のコールが鳴り、映像は途切れた
(;゚д゚ )「……凄いな」
ジャパンカップの頂に立った男ですら、認めざるを得ない『神業』。ボソリと呟いた感嘆に、本八は満足気に鼻息を吐いた
(´^ω^`)「ガンナーの内藤はね、痩せる気無いんすわ」
(;゚д゚ )「ああ……それは……『大問題』だな……」
戦略の都合上、装甲やアイテムには妥協が出来ない点も出て来る
だがプレイヤー自身の体重であるならば、ゲームシステムに影響を及ぼさず負担軽減が可能となる
事実、ジョッキー以外の搭乗者をウエイトの軽い女性で占めるプロチームも存在する。それ程に、『重い』というのはネックになり得るのだ
( ゚д゚ )「……素質は、間違いなくあるな」
(´・ω・`)「当然だよ」
( ゚д゚ )「……」
三浦はコツコツと指でカウンターを叩き、頭の中で鍛錬ひ必要な勘定を弾き出す
一人は未経験、一人は早急なダイエットが必要。『彼』に任せると言った自分の判断には間違いない
『一カ月』。この期間を乗り越えられるのならば、彼らは間違いなく今年のダーク・ホースと成るだろう
それには一つ、本八に確かめねばならない点があった
402
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:08:44 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「彼らは」
(´・ω・`)「うん」
『彼』の訓練は本来、有望な若者を更に『ふるい』に掛ける為の試練だ
海兵隊の志願者のように、途中でリタイアする者も数多い。だからこそ、ここで確認せねばならない
( ゚д゚ )「地獄を乗り越えられる精神力があるか?」
何が無くとも、心は強くあらねばならない。それは訓練に耐え得る力でもあり、勝利への意志であり
事を成し遂げた後に訪れるであろう『悪意』を跳ね除けられる強さでもあった
(´・ω・`)「宇都宮は問題ねえ。自分から喜んで地獄に足を踏み入れる奴だ。だが……」
懸念はやはり、あまえんぼうデブである。軽い運動ですら音を上げるようなカスオタクにとっては、地獄の業火はさぞかし熱いだろう
それでも乗り越えてくれねばならない。文彦はまだ子どもだが、既に『大人』への準備期間に入っている
例えどんな責苦に遭おうとも、乗り越えられる強さを身に付けて貰わねばならない。それが人生を生き抜く力にも繋がるのだから
(´・ω・`)「……確かに内藤は未熟モンだ。その分、伸び代があるとも言える。俺はあいつの成長を信じるしかねえ」
不安材料は残るが、結局はやるしか無い。やらねば、彼らは偉業阻止へのスタートラインにすら立てやしない
403
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:10:15 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……あい分かった」
大化けの可能性が少しでもあるのなら、地獄への挑戦に損は無い。三浦は二人を束ねるキャプテンの『信頼』に賭けると決めた
( ゚д゚ )「手配しておこう。其方は……そうだな、最低でも八月は丸々抑えておけ」
(´・ω・`)「恩に着ます」
深々と下げられた頭に、三浦は『やめてくれ』と制止する
( ゚д゚ )「礼など必要ない。私はただ仲介するだけで、キミ達の面倒を直接見るわけじゃないからな。それに……」
(´・ω・`)「それに?」
( ゚д゚ )「私には、『クワイエット』が負ける姿を想像できない。だから、激励と『仕返し』を込めてこう言ってやろう」
三浦は空のグラスを本八へと掲げ、不敵に口角を上げた
( ゚д゚ )「精々頑張れ、チャレンジャー」
:(;´・ω・`):「ッ!!」
本八は思わず身震いをした。子どもの頃からの憧れの存在が認める、日本最強のチーム。それに挑むという実感が、全身を駆け巡った
(´^ω^`)「上等だよ」
残り半年という僅かな期間がもどかしくなるほどに、楽しい時間へとなる。そんな確信も引き連れて
404
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:11:17 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「本戦でキミらの姿を目にするのを、愉しみにしているよ。ところで……」
話はまとまったが、二人にとって肝心な情報が共有されていなかった
( ゚д゚ )「今更だが、名前と連絡先を教えて貰ってもいいか?」
気が急いて、うっかり自己紹介もまだだったと思い出す。本八は額をペシンと叩くと
(´^ω^`)「アッチャー!!イッケネ!!俺としたことが!!」
(´・ω・`)「申し遅れました。私、参羽鴉グループ代表取締の『大潮 本八』と申します」
ビッグネームと共に、背筋をピンと伸ばして名刺を差し出したのであった
(;゚д゚ )「は……?」
これまで話してた相手の社会的地位の高さに、一介の寿司職人が暫く呆然としたのは、言うまでもなかった
405
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:13:19 ID:9tcidWTk0
―――――
―――
―
数日後、徳雄が勤務するOHANAMIにて
(´^ω^`)「合宿をすんぞ!!!!!!!!!!!!」
夏合宿の実施を関係者に伝えた
('A`)「はぁ……合宿」
( ^ω^)「団子美味しいお!!!!!団子美味しいお!!!!!!」
店長の榊原は思った。『いつもいつもここでミーティングすんのやめてくんねえかな』と
(;@з@)「随分性急な話でありますな。しかし合宿!!スポ根には欠かせないビッグイベントであります!!」
店長の榊原は思った。『ブスばっか増えてるな』と
406
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:15:03 ID:9tcidWTk0
('A`)「いつから始めんのか知らねえけど、夏は稼ぎ時じゃねーか。長い期間店を空けてらんねーぞ店長アレなんだから」
;;;;|;,'っノVi ,ココつ「宇都宮???????」
('A`)「あ、すいません店長。店長がコレだぞ?」
榊原は泣いた。お前目ぇどこ?????????
(´・ω・`)「オメー何の為にここの人手増やしたと思ってんだ。なぁ!!莉花ちゃん!!」
<はいはーい
⌒*リ´・-・リ 「お呼びですか?」
名前を呼ばれて飛び出てパタパタと可愛らしい急足で現れたのは、つい先日配属となった『高梨 莉花』(たかなし りか)であり、徳雄が教育係として指導している新人だった
(´^ω^`)「どうでぇこいつの指導はよ!!セクハラされたらすぐ俺に言うんだぞ!!ぶっ殺してやるから!!」
⌒*リ;´^-^リ 「アハハ……良くして貰ってますよ」
(´・ω・`)「そんなワケなくない?????なんか弱みでも握られた?????話聞くよ今晩食事でもどう?????」
ハゲの拳がクズおじさんの顔面にめり込んだ
(´・_ゝ・`)「申し訳ない。良く教育しておくから」
(´メ)ω(メ`)「今のは俺が悪かったけど暴力はもっと悪いだろハゲ死ね」
⌒*リ;´・-・リ 「その人本当に社長ですか?????」
累計で千回くらい聞かれた質問だが、残念ながら社長であった
407
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:17:40 ID:9tcidWTk0
('A`)「その合宿期間ってどれくらいだよ」
茶番に付き合ってられないと、テーブルに肘を突いてぶっきらぼうに言い放つ
その間デブはずっと団子を豚のように醜く貪ってた。千尋もほっといて帰るレベルだった
(´・ω・`)「八月」
('A`)「お盆期間か?」
(´・ω・`)「いや一カ月全部」
(;'A`)「ちょっと待てふざけんなオイ」
実に長すぎた、余りにも長すぎたってなるレベルの長期合宿期間だった。裏切りクソ眉毛の可能性がある
(;'A`)「一カ月も無給で居ろってか!?」
(´・_ゝ・`)「いや僕も流石に長いと進言したんだけどね。チャリオッツ優勝経験者お墨付きの指導者が居るって聞かないもんだからさ」
(;'A`)「だからって社会人を一カ月丸々スポーツ合宿に費やす経営者がいるかよ!!!!!!!学生の夏休みじゃねーんだぞ!!!!!!」
ご尤もである
(´^ω^`)「大丈夫だよな榊原!?」
;;;;|;,'っノVi ,ココつ「え?い、いや、困……」
(´・ω・`)「大 丈 夫 だ よ な ?」
;;;;|;,'っノVi ,ココつ「店は俺に任せて頑張って来い宇都宮!!!!!!」
(#'A`)「屈してんじゃねえプライドねえのか!!!!!!!」
社長から脅されクソ恐い部下に怒られ榊原はもう嗚咽出る寸前だった。お前口どこ????????
408
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:18:46 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「一応、今回の合宿は社長命令だからね。給料は発生するし出張手当も出す。この店も余所からヘルプを送るから人手の心配もしなくていいよ」
至れり尽くせりだった。そこまで言われちゃ真面目なブサイクも溜飲を下げる他なく
(;'A`)「ああもう……わーったよ……」
納得いかない点もあったが、一先ず了承した
(´・_ゝ・`)「文彦くんも良いね?」
( ^ω^)「お??????何が??????」
(´・_ゝ・`)「だから、八月中は合宿に参加するって事」
( ^ω^)「一泊二日?」
(´・_ゝ・`)「耳に脂肪つまってんのかデブ。一カ月っつっただろ」
409
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:19:14 ID:9tcidWTk0
( ^ω^)
.
410
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:20:14 ID:9tcidWTk0
(# ゚ω゚ )「良いわけねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだろハゲ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大絶叫だった
411
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:22:07 ID:9tcidWTk0
(# ゚ω゚ )「は!!!!!!??????八月!!!!!!!!???????全部!!!!!!!!!!?????????」
(;'A`)「おいどうした文彦?なんでそんな狼狽えてんだ?」
(;@з@)「宇都宮氏。これには海溝より深いワケがあるのでござる」
(;'A`)「なんだ?試験か何かか?」
(# ゚ω゚ )「ミセリのサマーフェスに行けねーーーーーーーーーーーーーーーーーだろが!!!!!!!!!!!!なんでそんなクソ合宿に参加しねーといけねーーーーーーーーーんだお!!!!!!!!!!!」
('A`)「ええ……」
干上がりかけの水たまりくらい浅い理由だった
(´・ω・`)「先月行ったじゃねーか……」
(# ゚ω゚ )「こっちはマジガチのビッグイベントなんだお!!ライブ、ゲーム実況、他社Vアイドルとのバラエティ企画!!三日かけて行われるミセリの祭典!!折角チケット抽選戦争に勝ち抜いたってのに余計なことすんなお!!!!!!!!!」
幾らなんでもキレすぎだろと、顔に似合わずオタク文化に疎い徳雄は思ったが
各々の予定も確認せず急に『来月丸々合宿期間なwwwwwwwwwwwwww』とかほざくクズが十割悪いんで特に止めはしなかった
('A`)「お茶うま……」
そもそも文彦のミセリ狂いに関わるのが面倒だった
412
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:23:57 ID:9tcidWTk0
(;@з@)「大潮殿、この沙汰は余りにも酷でござる。なんとかその三日間だけでもご都合つけてやっては戴けませぬか?」
(´・ω・`)「まぁ……出来るっちゃ出来るんだけどよ……場所が場所だから行き帰り合わせて四日か五日みねえといけねえ」
( ^ω^)「なぁんだ!!初めからそう言ってくれお!!」
(´・ω・`)「……」
(;^ω^)「え?何その無言?まさか面倒だから嫌とは言わないおね?こっちは頼まれてチームに参加してやってる身なんだから、当然だおね?」
;;;;|,'っノVi ,ココつ「宇都宮、このデブと組んで本当に大丈夫か?」
('A`)「え?あ、はい。本人がこう言ってんだから大丈夫なんじゃないですか?自分でダイエットもするでしょうし、合宿に参加しなかった分もキッチリ埋め合わせするでしょう」
( ^ω^)「いやー!!とっくんはわかってるお!!そうそう!!ボクはやれば出来る子だって昔から評判なんだから!!」
今までやってねえクズの言い分だった。榊原は『ダメじゃん』と思った
(´・ω・`)「そう、だな……」
本八はしばし考える『フリ』をした。元よりデブの都合の為に合宿を中断させる気は無い
一分一秒でも長く地獄の業火で心身共にまとわりつく脂肪を焼き尽くさねばならないのだ
だが合宿開始までもうしばらく時間がある。文彦の要求を使わない手は無い
(´・ω・`)「合宿開始までに、俺らが要求するメニューを真面目にこなせば、考えてやらんでもない」
( ^ω^)「考えてやらんでもない?ハァー、無礼られたもんだお。その口でハッキリ、『ミセリのフェスに行っても良い』と言ってくれないと飲めねえお」
ヤクザなら今すぐ撃ち殺してる所だった
(´・ω・`)「わーったよミセリでもセセリでも好きにすりゃあいいじゃねーか」
( ^ω^)「初めからそう言えお全く……これだからクズは……」
ぶつくさ言いながらも、文彦も合宿参加の意向を固めた。そしてこのデブがいるだけで場の空気は最悪になるのだった
413
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:25:45 ID:9tcidWTk0
('A`)「そんで……俺らは一カ月間、どこに閉じ込められるんですかね?」
顔面が最悪の男は、空気など気にせず詳細を訊く。本八は一斉送信で合宿場及び二人の指導者に当たる人物のデータを送った
(´・ω・`)「結構評判の良いトレーニングセンターでな。夏から秋にかけての予約は速攻で埋まっちまうらしい。なんでも、ここで出る飯は絶品らしいぞ」
⌒*リ´・-・リ「……ん?」
( ^ω^)「ほほう、絶品……」
('A`)「しかし物騒な名前の場所にあるんだな……」
⌒*リ´・-・リ「んん?」
(´・_ゝ・`)「廃校を改築した宿泊施設らしくてね。泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」
⌒*リ´・-・リ「んー?」
(´・ω・`)「さっきからどうした莉花ちゃん?」
高梨は、まるで『聞き覚えがある』と言わんばかりに首を傾げる。評判が良いのだから、ある程度の知名度はあって然るべきだろう
しかしそれにしては、妙に『引っかかる』感じがした。ただの宿泊施設に、ここまで妙な反応を示すものだろうかと
414
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:27:03 ID:9tcidWTk0
⌒*リ´・-・リ「それってもしかして……鬼……?」
('A`)「え?」
(´・ω・`)「お前じゃねえ座ってろ。ああ、『鬼ヶ村トレーニングセンター ねぐら』だけど?」
⌒*リ;´・Д・リそ「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」
(;´゚ω゚`)「俺なんか気に障ることしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!????????????」
思わず土下座一歩手前の姿勢になるほどの大絶叫があった。この店うるせえなさっきから
415
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:28:19 ID:9tcidWTk0
(;´・_ゝ・`)「ど、どうしたんだい?ここに何かあるのかい?」
⌒*リ;´・-・リ「え、いや、ごめんなさい!!そうじゃないんです!!ただ……」
わたわたと両手を振って釈明のボディランゲージをした後、照れくさそうに笑いながら頬を掻いた
⌒*リ´^-^リ「私、そこの方々に助けられたんです」
.
416
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:29:02 ID:9tcidWTk0
一カ月くらい後―――――
.
417
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:30:36 ID:9tcidWTk0
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
ド山奥のくたびれたバス停に、ブサイクとデブは置き去りにされていた
かれこれ一時間は待っているが、一向に迎えは来ない。これってレベル500くらいのパワハラじゃね?徳雄は店長のパワハラが生温く感じるほどの理不尽さに襲われていた
( ^ω^)「……お菓子、食べるかお?」
('A`)「おお……」
文彦は運動の甲斐あってか、この一カ月人生で最も頑張ってクズとハゲのトレーニングメニューをこなした
何度も挫けそうになったが、その度に崇拝するミセリという偉大な存在と、ついでに親友の励ましもあってか、なんと二キロの減量に成功した。カスなりに頑張ってた
( ^ω^)「……」
('A`)「……」
都会の喧騒から解き放たれた大自然。風に揺られる木々の音と蝉の声。時折鳥や獣の鳴き声が聞こえる中
文彦が持ってきたスナック菓子の咀嚼音が、やけに虚しく響いた
( ^ω^)「……とっくんはさぁ」
('A`)「とっくんやめろ」
( ^ω^)「好きな娘って、おる?」
('A`)「修学旅行……行ったことねぇけど、夜中のノリやめろ」
なんか合宿開始ってのもあってテンションバグってた
418
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:34:28 ID:9tcidWTk0
<ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
地獄みたいな待ち時間の終わりを告げる、SNSの政治アカウントのように主張の強いエンジン音が道の奥から聞こえてくる
二人は『やっとか』と顔を見合わせ、腰かけていたベンチから尻を上げた
(#^ω^)「全く、客を待たせるなんてなってないお!!一言文句言ってやるお!!」
('A`)「やめとけって……」
現れたのは、今時珍しいガソリン車のオンボロマイクロバス。今にも自壊しそうな有様に、二人の不安は増した
本当に評判の良い宿泊施設なのだろうか?基本的にクズを信用してない二人は訝しんだ
バスは譲り車線で大きくUターンすると、来た方向へと頭を向けてバス停へと停車する。澄んだ空気はあっという間に排気ガスに犯された
乗り降り口のドアが、『ガガ』と嫌な音を立てたが、僅かに痙攣しただけで歓迎の口を開こうとはしない。物持ちが良いのも考え物だった
間も無くして、内側から『ガン!!』と強い衝撃が響き、思い出したかのようにドアは開く。早速文彦が文句を言おうと勇み足で乗り込もうとしたが―――――
(#^ω^)「ちょっと待た……」
(,,゚-゚)「股……?」
中から現れた中学生ほどのショートボブの可愛い女の子に、出鼻を挫かれた
( ^ω^)+「待ってなんていませんお。こんにちわ麗しいお嬢さん。僕は内藤 文彦と申しますお。これからお世話になりますお」キリッキリキリッキリキリィキリト
(;'A`)「……」
わかりやすい色ボケのクソオタクデブだった
(,,゚-゚)「そうなんだ。僕は『儀社(よしもり) しずく』。よろしく」
デブの滑稽でキザったらしい挨拶を素っ気なく返し、視線を徳雄へと向けた
(,,゚-゚)「そっちは?」
(;'A`)「あ、ああ……宇都宮 徳雄だ」
不意を突かれたのは徳雄も同じだった。誰だって汚い箱の中から急に美少女が出てきたら驚くのだから無理はない。舌切り雀のつづらの可能性があった
419
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:35:23 ID:9tcidWTk0
(,,゚-゚)「うん、間違いないね。鬼ヶ村へようこそ。『ねぐら』に案内するよ。さぁ乗って」
( ^ω^)+「お邪魔しますお。いやぁ、素敵なお乗り物ですね!!貫禄があって惚れ惚れしますお!!」
なんかゴチャゴチャ言いながら、文彦はスキップせんばかりの足取りで乗車する。幸先は明るそうだなと、徳雄は内心皮肉った
(;'A`)「っとぉ、なんだ?止まってんじゃねえ早く奥に行けよ」
だが、軽い足取りは急にピタリと止まった。続いて乗車した徳雄は、デブの汚い汁が染み込んだ背中に顔面を突っ込むところだった。臭い
(;^ω^)「こ、こ……こんにちわ」
ダイエット中とはいえ、文彦の骨身にまとわりつく脂肪が徳雄の視界を阻む。埒が明かないと判断し、嫌々文彦の肉を奥へ押し込んだ。手が臭くなった
(;'A`)「ったく、何をしてんだ……」
420
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:36:02 ID:9tcidWTk0
「よう、会いたかったぜ」
.
421
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:40:13 ID:9tcidWTk0
(;'A゚)「ッ!!」
運転席に座る、これから指導を賜る人物を目の当たりにし、徳雄は文彦の様変わりに納得した
太い鋼線を何重にも束ねたような腕に、刃すら弾いてしまいそうな太い首。広い肩幅と広背筋は、座席の背もたれに収まっていない
『筋肉』。人が持つ最もシンプルな力の象徴であり、誰もが鍛えれば身につけられる、神が与えし平等の代物
ただ彼に到っては、その神が贔屓をしたのではないかと疑うほどの、圧倒的な筋肉量を誇っていた
『デカい』
生意気な文彦が、初見で怯えるのも無理は無かった。『鬼』と呼ばれる徳雄ですら、尻込みをせざるを得ない『迫力』があった
例え自分が十人いても、彼には手も足も出ないだろう。徳雄の胸中では、畏れと共に『期待』が膨れ上がった
(;'∀`)「俺もっすよ……」
彼ならば、自分が幾ら鍛えても到達できない『未知の領域』へと、導いてくれるだろうと
422
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:42:01 ID:9tcidWTk0
(´・_・`)「お前らの指導を受け持つ、『小練 詩音』だ。これから一カ月、みっちりと面倒を見てやる」
『鬼ヶ村トレーニングセンター ねぐら』代表の『小練 詩音』(こねり しおん)は、声高々に
(´・_・`)「ここは現世の地獄谷。魑魅魍魎たる浮世の住処。人ならざる『鬼』へと到る修練場――――』
(´・_・`)「『ようこそ鬼ヶ村へ』」
夏合宿開始を宣言したのであった
423
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:45:20 ID:9tcidWTk0
次回予告
(´・ω・`)「あいつらちゃんとやれっかなぁ」
(´・_ゝ・`)「徳雄くんはともかく、文彦くんは不安ですね。一皮剥けて帰ってくるのを期待しましょう」
(´・ω・`)「まぁあいつ分かり易いからな……都合よく可愛い女の子がいたら張り切ると思うが」
(´・_ゝ・`)「そんなラノベみたいな話があるワケないでしょう」
<いますよ?
(´゚ω゚`)そ「え!!!!!!!!!!!????????????いるの莉花ちゃん!!!!!!!!!?????????」
<しずくちゃんって子と銀さんって女性がいます。銀さんなんてビックリするほど美人さんでした
(´^ω^`)「おっほぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!そいつぁグヘヘご挨拶してえなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
<雪女と妖狐のハーフなんですって
(´^ω^`)「ん??????????????????????????????????????」
(´・_ゝ・`)「ラノベみたいな話だなぁ」
<ホントなんですって
(´^ω^`)「その……なんだ……大丈夫か本当に……?」
(´・_ゝ・`)「ハハ。でも、夢のある話じゃないですか。ファンタジーは意外とすぐ傍にあるってのは」
<ホントなんです!!!!!!!
(´・ω・`)「はいはいホントホント。サンタさんもいるし妖怪乳首相撲もいるよな」
(´・_ゝ・`)「サンタはともかくなんだ妖怪乳首相撲って」
<もぉー!!
(´・ω・`)「次回、『Desperado Chariots』第七話。『Welcome To The Demon Village.』。知らない?古い文献にあったんだぜ?周囲を強制的な催眠状態にして乳首相撲を強要するハレンチ妖怪」
(´・_ゝ・`)「知るワケねーだろ……」
424
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 22:50:26 ID:9tcidWTk0
合宿編始まります。シュート二万本です。よろしくお願いします
425
:
名無しさん
:2023/01/04(水) 23:43:23 ID:w4D8UsCU0
おつおつ
426
:
名無しさん
:2023/01/05(木) 00:42:05 ID:p9AMkUlk0
オツ
427
:
名無しさん
:2023/01/05(木) 19:17:31 ID:e8kIS4Bo0
乙!
ここでようやくDVの(´・_・`)が合流か熱いな!!
リリちゃん元気そうで良かった!!
428
:
名無しさん
:2023/01/06(金) 19:08:46 ID:kr8MbjTI0
おつ
タカラさんキモすぎてわろた
429
:
名無しさん
:2023/01/24(火) 17:46:24 ID:GUA.83n60
乙です
430
:
名無しさん
:2023/02/10(金) 07:57:08 ID:5DpRFud.0
更新乙です
スターシステムいいゾ〜
431
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:22:50 ID:0tGXVO1.0
『地獄』。信仰が異なる宗教に置いても、基本的に内容が類似する死後の世界
悪き魂を持つ者は、生前に犯した罪を贖う為に責苦を受ける
命の果てに辿り着く恐れ大き場所。しかし恐ろしさに反して、現世に置いては様々な比喩として軽々しく使われている
それは学校、職場などの社会環境であったり
それは家族、友人、恋人、同僚などの人間関係であったり
それは台風や地震、水害などの災害に遭った地域であったり
それは会話が続かなかったりジョークが滑ったりした場の空気であったり
それは受験や就職が上手くいかなかったなどの人生の岐路であったり
自ら命を絶つほどの苦しみから、取るに足らない些事に至るまで。人の営みには百人百様の身近な『地獄』がある
では、内藤 文彦にとっての地獄は何か?
それはミセリのイベントチケット争奪戦に負けた時であり
それは蟒蛇にいた頃に押し付けられた自身と相棒の否定の日々であり
それは自分と同類だと思っていた親友が女の子と遊びに行っていたのを目の当たりにした瞬間であり
それはプロ脱退後に学校内で浴びせられた嘲笑と罵声であり
多分に漏れず、彼には彼なりの『地獄』があった
そして新たに
432
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:24:15 ID:0tGXVO1.0
「腕上げろ水飛沫足りてねえぞ!!!!!!どんなにキツくても笑顔忘れんじゃねえ!!!!!!!」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」」」」」
(; ω )「ヒィー……ヒィー……」
『鬼ヶ村スポーツセンター ねぐら』のプールにて、『男子』シンクロナイズドスイミング部の練習を横目に、延々と水中ウォーキングを続けている今の状況が新たな『地獄』として追加された
(; ω )「話とっ……違うお……」
嫉妬で歯軋りしてしまいそうなほどのイケメンシンクロ部の活気ある掛け声に混ざった怨嗟の呟きは、忌々しい『コーチ』の地獄耳にしっかり届いており
(´・_・`)「勝手に勘違いしたのはオメーだバカタレ」
プールサイドの監視台の上から、メガホン越しに呆れた一言を喝がわりに放たれたのであった
433
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:25:19 ID:0tGXVO1.0
第七話
『Welcome To The Demon Village.』
.
434
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:26:19 ID:0tGXVO1.0
三日前
( ^ω^)+「初めまして。内藤 文彦と申しますお。これから一カ月、よろしくお願いしますお」キリッキリキリキッッッッッッッリィーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
ビックリするほど作られた声色と今まで見た事ないレベルの90角度最敬礼。色ボケデブの渾身の挨拶は
イ从゚ -゚ノi、「あらそう。よろしく」
職員らしき銀髪美女に一瞥もされずにサラッと受け流された
( ^ω^)「いやぁ、素晴らしい施設ですねここは!!この校舎も趣があって、職員さんも華やかですお!!一層、合宿に気合が入るってもんですお!!」
イ从゚ -゚ノi、「早く連れてってくんない?私、忙しいんだけど」
邪険にも程があった
(´・_・`)「ワリ。ほれ行くぞ」
(;^ω^)そ「ああ!!せめてお名前だけでも!!」
乳首が敏感で身長195センチの筋肉男は、往生際の悪いデブの襟を掴んで事務室から引き剥がす
掌にジワと染み渡る豚の汚い汁。乳首は大いに顔を顰めた
435
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:27:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「しずく、拭くもんあるか?」
(,,゚-゚)「無い」
渋々、ズボンで拭いた
(;'A`)「このバカ。着いて早々に仕事の邪魔してんじゃねえよ」
( ^ω^)「ハァー、とっくんはわかってないお。女を落とすコツは押して押して押しまくる事だって父ちゃん言ってたんだお。それに、こうも言うおね?嫌よ嫌よも好きの内って」
派手にやらかす前にシメといた方が良いのかもしれない。徳雄は早い目に内藤(父)に許可を得ようと決意した
(´・_・`)「面白えガキだな。そんで?これまでの成果は?」
( ^ω^)「」
文彦は黙った
436
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:28:57 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「本当に面白いなお前……」
(;'A`)「申し訳ないっす」
(´・_・`)「いやいや、楽しくなりそうで結構だよ」
威圧感のある見た目に反し、柔らかな物腰の男だった。思いつく比較対象の中ではグネグネ物腰だった。ラバーメン(ゴム人間)の可能性がある
ここ最近はクズやらデブやらストーカー気質の気持ち悪い男やらとの関わりが多かった徳雄の胸中に、謎の安心感が湧き上がる
(´・_・`)「ゆっくり案内してやりてえのは山々なんだがな、この後も結構立て込んでんだ。とりあえず今日は長旅で疲れてるだろうし、休んでくれや」
('A`)「わかりました」
徳雄としては、すぐにでも鍛錬を始めたい所だったが
これから一月もの間を過ごす場所だ。施設を見て回るのも悪くないと割り切り、素直に従った
(´・_・`)「ほれ、お前らの部屋の鍵。施設案内図と注意事項は部屋に置いてあるから確認しとけ。夕飯は19時だ。質問はあるか?」
( ^ω^)「事務員さんとはどういうご関係ですかお?」
(´・_・`)「同僚。他には?」
( ^ω^)「事務員さんの好きなタイp('A`)「ありませんありがとうございます」
(´・_・`)「五時間くらい息しなくても生きていられる奴」
('A`)「答えんでいいです」
( ^ω^)「」
文彦は息を止めた
437
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:29:47 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ハハッ、おもろ。じゃあ俺は仕事に戻る。後でな」
割と悪質な冗談を抜かし、乳首は軽く手を振って立ち去った
(,,゚-゚)「……」
『しずく』と名乗った少女は、その場に残された男二人を、小汚いものでも見るような目で一瞥した後、雛鳥のように彼の後を追う
曲がり角で姿が見えなくなった辺りで、文彦は『ぶはぁ』と臭い息を吐き出した
(;^ω^)「ふぅーい……しずくちゃん今、僕の方見てたおね?」
('A`)「ああ……」
( ^ω^)「っかーーーーーーーーー!!!!!参ったお!!!!!これはもしかして嫉妬ですかァ〜〜〜〜〜??????しずくちゃんと事務員さん、
どっちも甲乙付け難いお〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
('A`)「そうだな……」
『部屋を別々にしてもらってよかった』。徳雄は一人で盛り上がる文彦を適当にあしらい、宛がわれた部屋の鍵を開けた
438
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:31:17 ID:0tGXVO1.0
('A`)「フゥー……」
荷物を下ろし、ようやく一息つけるとベッドに腰掛けようとしたものの
汗で汚れた身体を綺麗に敷かれたシーツの上に乗せるのは忍びなく思えてしまい、一先ず着替えを行った
身体をボディシートで拭き、新しいTシャツに袖を通し、外気を入れるために窓を開けた
山風がぶわっと室内に吹き込み、澄んだ空気が肺を満たす。これから始まるこの場所での一ヶ月に、高揚感を禁じ得なかった
('A`)「さて、と……」
ヌルい水が残ったボトルを手に、徳雄は一人掛けのテーブルに置かれた施設案内図を確認した
('A`)「ランドリーはっと……」
食堂、浴場、医務室、洗面所にお目当てのランドリー。レクレーションルームやシアタールーム。自動販売機に授乳室
体育館と隣接してプールやジムまで完備されている。辺鄙な場所にある宿泊施設にしては、設備が充実していた
評判通りのトレーニングセンターではあるらしい。しかし、規模の割に職員が極端に少ないのが気になった
439
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:34:05 ID:0tGXVO1.0
('A`)「で……」
裏面には『ねぐら』での注意事項。朝昼晩の食事時間から始まり、飲酒、喫煙に関する注意喚起。BBQや花火を行う場合、事前予約が必要等
水を飲みつつ、順に読み進めていく。『浴室の覗きをした場合、直ちに警察へと通報する』という警告文は、しっかり文彦に叩き込まねばならないと思った
('A`)「職員居住区は緊急時を除いて立ち入り禁止……肝試しを行う場合は規定のルートを通る事……三階への立ち入り禁止……ん?」
普段なら読み飛ばすような、些細な表記間違いだった。徳雄は窓辺から首を出し、階上を見上げてみる
('A`)「……」
この客室は『二階』であり、それ以上の階は無かった筈だ。疲れからくる記憶違いの類ではない事を、容赦なく肌に突き刺さる太陽光が証明している
『間違い』。果たして、本当にそうだろうか。二階と表記したかったのであれば、この階に客室を置きはしない
ありもしない階への、立ち入り禁止をわざわざ明記する必要はあるのか?徳雄は先月耳にした盛岡の言葉を思い出した
「泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」
('A`)「はぁ〜……」
『まさかな』。古めかしい外観に、ありもしない想像を掻き立てられているだけだろう
そう結論付けて、徳雄は注意書きをテーブルへと投げ置いた
440
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:35:28 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
それはさて置き
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ。沢山食べてねぇ」
( ^ω^)+「勿論ですお。お姉さんが作ったご飯なら、一俵でも二俵でも平らげてしまいますお」
銀髪の事務員とはまた正反対の、フワフワした雰囲気の可愛らしい調理員が作った夕食を頂き
('A`)「クッソ美味かったな……」
( ^ω^)「豚になっちまうお……」
('A`)「……」
( ^ω^)「今『既に豚だろ』って思った?」
('A`)「え?いや別に。お前が思ってるほど俺はお前に興味無いし」
( ^ω^)「は???????誰も興味持ってくれなんて頼んでないですけど??????」
誰も得しない入浴シーンを差し込み
( ^ω^)「一緒にミセリの配信見ない?」
('A`)「見ない。寝る」
初日は、特に大きな出来事も無く床に就いた
441
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:36:13 ID:0tGXVO1.0
(-A-)「……」
日付が更新されるまでを『初日』とするならば、特に大きな出来事は無かった
.
442
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:37:27 ID:0tGXVO1.0
(-A-)「……」
午前2時。草木も眠るウシミツ・アワー。徳雄も例外では無かった
日中は茹だるような暑さだったが、山中の夜は打って変わって肌寒い程に冷え込む
真夏にしてはやや厚めの掛け布団が、熟睡を保つ温かな繭として機能していた
(-A`)「……ん」
長旅の疲れと、布団の温もり。朝までぐっすりと眠れる条件が揃っているにも関わらず、目覚めてしまったのは
決して尿意や悪夢からでは無かった。ただ何となく、外気に触れる顔の産毛が、僅かに揺れるのを感じ取ったからだ
瞼の帳を開き、違和感の正体を確かめるべく焦点を徐々に合わせていく。そこには
(´・_・`)「……」
(;'A`)そ「うっ、お」
傍らに立つ身長二メートル近い乳首が敏感な大男の姿があった
(;'A`)「なん……な、ん……何してんすか……?」
徳雄はこの時、男女問わず夜這いの危機が訪れると無意識に布団を胸元に引き寄せるのだと知った
443
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:38:34 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「完璧に気配消してたのに気づくとはやるなお前」
(;'A`)「いや……なん……文彦がなんかしました?」
(´・_・`)「いいや?豚みたいに寝てる」
(;'A`)「じゃあ何なんすか……?」
(´・_・`)「日が回ったら明日は今日だ。地獄の合宿スタートだぜ」
なんかピンキー&ブレインみたいな事言い出した
(´・_・`)「一分で着替えな。出掛けるぜ」
(;'A`)「はぁ……どこ行くんすか?」
(´・_・`)「山」
端的にそう言い残すと、小練は足音一つ立てずに部屋を出た
狐につままれたような寝起きだったが、徳雄は訓練兵のようにすぐさま着替えに取り掛かった
444
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 18:40:49 ID:0tGXVO1.0
( ‐ω‐)「フゴーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!フゴーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「起きろ。起きろコラ豚」
ゴンゴンと遠慮なく頭を小突かれ、豚が目を覚ます
( うω‐)「何だおクソ……」
(´・_・`)「クソとはご挨拶だな?ええ?」
(;^ω^)そ「うわぁ!?」
眼前にニュッと突き出された知り合って間もない男の顔に、豚は遠慮なく悲鳴を上げて飛び起きる
そして、間も無くして自身が置かれている状況を察した
(;^ω^)「え!?外!?薄暗!!さっむ!?何!?」
(´・_・`)「見てみぃ文彦。夜が明ける」
小練が指差す先には、山間から盛岡の頭頂部のように輝かしい太陽が覗く
思わずおてての皺と皺を合わせて幸せしそうな光景だったが、一つだけ見過ごせない点があった
(;^ω^)そ「いや高ッ!!!!????え!!!!????山の上かおここ!!!!!????」
(´・_・`)「お前担いで登っといた」
(;^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー!!!!!??????」
445
:
名無しさん
:2023/05/05(金) 20:07:06 ID:UbyMOIpU0
wktk
446
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:12:03 ID:0tGXVO1.0
理不尽と不可解でその場に蹲って頭を抱える傍らで、文彦を担いで山登りをしていた小練に着いてきた徳雄が
(;'A`)「……」
登頂の疲れを少しでも癒しながら、『超人』との格差に愕然としていた
道のりは決して険しいものでは無かった。標高は700メートルと低く、歩行距離も8キロ程度。通ってきたのは整備されたハイキングコースだ
しかし読んで字の如く『登山』である。登るという行為には、必ず『重力』という枷がのし掛かる
それを小練は、丸々と醜く肥え太った豚を背に担ぎながら、ランニングの速度で登って行ったのだ
何の負荷も背負ってない徳雄ですら、食らいつくのに精一杯だった
(´・_・`)「サッサと準備運動しろ。それとバナナを食え」
(;^ω^)「え?バナナは当然貰いますけど、何されるんですかお?」
(´・_・`)「登ったら降りるに決まってんだろ」
(;^ω^)「え……も、勿論、ゴンドラですおね?」
(´・_・`)「寝ぼけてんのか豚?いいか、ハッキリ言っとくぞ」
447
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:12:48 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「三浦さんから請け負った以上、俺は全力を持ってお前らを一人前の戦士に鍛え上げる。手心なんて期待すんじゃねえぞ。そして覚悟しろ」
(;'A`)「……」
(;^ω^)「……」
(´・_・`)「お前らは、人生で一番過酷な一カ月を過ごすってことを」
差し込む朝日によって作り出された『鬼』の陰が二人を覆う
徳雄はその姿に己が目指すべき到達点を見た。文彦は『今すぐ帰らなきゃ』と絶望した
448
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:13:42 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「あの……」
(´・_・`)「おめえの家族親族友人、まとめて全員元気だ。俺がバスを出さねえ限り帰れねえ。徒歩で逃げ出そうなんて思うな。昼なら熱中症、夜なら遭難でおっ死ぬぞ」
テレパシストかと疑うほど完膚なきまでに逃げ出す口実を潰され、文彦は真夏の太陽が逃げ出すほどの寒気に襲われる
美女を目の当たりにして浮かれた昨日は何処へやらといった様相に、徳雄は慰めるかのようの肩に手を置いた
(;^ω^)「とっくん……」
('A`)「とっととバナナ食って準備運動しろ」
(;^ω^)「アッハイ」
当然、ブサイクがそんな気の使い方を、ましてや空気読めない甘やかされクソオタクデブ如きにする筈も無かった
(´・_・`)「さて……」
文彦がダラダラと準備をする間、小練はi-ringのタイマー機能を操作する
現在時刻が朝の四時五十分。そこから二時間と十分後の七時にアラームをセットした
449
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:14:45 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「五時にスタートだ。で、二時間以内に宿舎を目指す。間に合わなかったら朝飯が……」
(;^ω^)「朝ごはん抜き!!!!!!?????し、死んじまうお!!!!!!!!」
(´・_・`)「お前ネズミか何か?????心配しなくても飯は三食出すよ。ただ、間に合わなかったらクッッッッッッッッッッッッッッッソ味気のない完全食になるだけだ」
そう、皆さんご存知22世紀のバランス栄養食『一本だいぶ満足バー』なのである。開発にアサヒグループ食品は関わっていない
一日に必要な栄養素のキッカリ三分の一を摂取できるが、なんかもう渇いた粘土食ってんじゃねえのかってくらいクッッッッッッッッッッソ味気ない夢のディストピア飯なのだ
余談だが、これを口にした食品グループ経営者のクズは側近のハゲにこう問いたという
「これ作った奴、美味え飯に親でも殺されたんか???????」
と
450
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:17:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ちなみに今日はグリコが握った鶏そぼろ卵黄おにぎりが出ます」
( ^ω^)+「グズグズしてる時間も惜しい。早く出発しましょう」
(;'A`)「……」
出会って一日も経ってないのに、既に豚の扱い方をマスターしていた。恐らく以前は養豚場で働いていたのだろう
(´・_・`)「張り切るのは大いに結構だが怪我だけは十分に……」
(#^ω^)「うおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!ご飯お姉さんご飯お姉さんーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
食欲と性欲に支配された豚は、珍しく勢いよく登山路を駆け降り始めた
(´・_・`)「気をつけろよー……」
<ドゥワァセンナナヒャクゥ!!!!!!!!!!!!
(´・_・`)「なんて言ってっかわっかんねーわ。徳雄、いけるか?」
('A`)「いつでも」
(´・_・`)「文彦は……」
豚は二十メートル降ったあたりで膝に手をついて息切れを起こしていた
(´・_・`)「とにかく、お前には二日に一回のペースでこの朝練をやって貰う。メインとなるのはむしろ今から行うトレーニングだ」
('A`)「その心は?」
(´・_・`)「『目』を養う。頑張って着いてこい」
言うが早いか、小練は巨体に見合わぬ身軽さで登山路を駆け降り始める
後に続き降り始めた徳雄は、程なくして『目』の真意を理解した
451
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:18:09 ID:0tGXVO1.0
(;'A`)「っ……」
土、砂利、泥、石、あるいは石段や丸太階段。自然な環境を極力壊さずに構成された登山路は、徒歩はまだしも『駆ける』のには向いていない
その上、登りとは違い今度は『降りる』のだ。重力は勢いと速度を加速させ、危険度も増す
危険度が増すと、自ずと人は『ブレーキ』を踏むものだ。しかしそれでは前を行く師の背中には到底追いつけない
では、小練はどのようにして危険な速度で登山路を駆け降りているのか?
(;'A`)(踏ん張りが効く箇所を連続して見極めて降りて行ってんだ)
かの源義経が一ノ谷で見せた奇策、『鵯越の逆落とし」が如く、連続して踏み込みが可能な最適解のルートを瞬時に判断して降っている
『チャリオッツ』に関しても、多くは悪路を走行する。どこを走れば体力の消耗を抑えられるか、敵を迂回できるか。その判断力を養うトレーニングなのだ
(;'∀`)「ハハッ!!」
豚は既に置き去りに、師はどんどんと遠ざかる。その狭間で、徳雄の期待は膨れ上がるばかりだ
『人生で最も過酷な一ヶ月』。始まりとしては、上々の滑り出しを感じ取っていた
452
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:18:46 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――
―
(; ω )「ブヒー!!ブヒー!!」
(´・_・`)「ナイス根性。アスファルトに咲く花かと思った」
後でわかった事だが、二時間という制限時間はかなり甘く見積ってくれていたらしく
最近ちょこっと運動するようになった程度の豚であろうとも、朝食開始ギリッッッッッッギリにはなんとか滑り込みで間に合った
(; ω )「もっ……動けっ……」
(´・_・`)「今の苦痛をよく覚えとけ文彦。そんで、最終日に同じ事を、今度は登りからやって貰う」
(; ω )「はっ、ハァア!?」
(´^_^`)「出来る出来る!!だって男の子だもん!!よく頑張った!!メシにしようぜ!!」
453
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/05/05(金) 20:19:18 ID:0tGXVO1.0
『ねぐら』の朝は、その名前とは裏腹に早い。全国から集まったスポーツ強豪校の部員達は、今朝の徳雄と文彦程では無いが、朝食前に一汗流す
一般的に、傷ついた筋肉を修復及び増幅させるには運動の45分以内に食事を取るのが良いとされている。言わば朝練は肉体作りのゴールデンタイムへの下準備だ
『食無くして筋肉無し』。ボディビルダー『天王寺 美貴久』の言葉である
(;^ω^)「ハムッ!!!!!!!ハフハフ!!!!!!!!!!!!ハフ!!!!!!!!!!!!」
決して豚がこれ以上肥える為の食事では無いのだ
('A`)「……」
文彦より先にゴールし、既に食事を済ませた徳雄は豚の餌やりには目もくれず、厨房で忙しなく働く小練を眺めていた
(´・_・`)「忙し過ぎてイソギンチャクになったわね」
何言ってんだこいつ。ド深夜から二人に付き合い、かなりの運動量をこなしていた筈だが、その働きぶりに一切の気怠さを感じない
ダラダラと洗い物をしている『しずく』という小娘は大きな欠伸で寝不足をアピールしているにも関わらずだ
('A`)「……食ったら九時からトレーニングだってよ」
( ^ω^)「は????????今日はもう一歩も動けませんけど?????????」
('A`)「そうかい」
豚がサボろうが何しようが徳雄には関係無く、グラスに残った麦茶を一気に飲み干して先に席を立った
今は一分一秒でも惜しい。仕事を肩代わりして貰ってまで得たこの期間を無駄には出来なかった
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