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(´・_ゝ・`)ペアリングのようです(゚、゚トソン

317名無しさん:2018/10/14(日) 20:33:45 ID:.3.61/Ls0
おつ!
続き気になる

318名無しさん:2018/10/14(日) 21:01:40 ID:dMC0Z1q.0
乙です!ニュッ君と少し打ち解けられてよかった!
次回もすごく気になる!

319名無しさん:2018/10/26(金) 06:12:18 ID:g0su1mhU0
乙!やっと追いついた
いい飯テロ作品で呑みたくなる

http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2540.jpg

320名無しさん:2018/10/26(金) 22:34:05 ID:5wCzyPnE0
支援絵おつ
二人ともかわいいw

321名無しさん:2018/12/14(金) 21:27:34 ID:.rlTyEkw0
つづきが読みたいでふ・・

322名無しさん:2018/12/16(日) 16:38:08 ID:OSDLjeuQ0












( 私の家はいつも、良い匂いがした。 )







.

323名無しさん:2018/12/16(日) 16:38:39 ID:OSDLjeuQ0




10.

324名無しさん:2018/12/16(日) 16:39:10 ID:OSDLjeuQ0


母親は料理上手な人で、毎日手作りのお菓子を作ってくれた。
私は母親が作るものが大好きだった。
きっと年の離れた妹と弟もそうだったはずだ。


(゚ー゚*トソン「お母さん、今日のおやつ何?」

|゚ノ ^∀^)「今日はみたらし団子作るわよ〜」

(・∀ ・)「ハロウィンなのに?西洋文化だよ、和菓子作るの?」

|゚ノ ^∀^)「細かいこと気にしなーい」

(゚ー゚*トソン「私も作りたい!お母さん、お腹に赤ちゃんいるんだから無理しちゃダメだよ!」

|゚ノ ^∀^)「作り方教えてあげるわね、棚の上から白玉粉取ってくれる?」

(゚ー゚*トソン「はーい!」

(・∀ ・)「トソンはお母さんが大好きだなぁ」

(゚ー゚*トソン「うん!」

|゚ノ ^∀^)「あ、トソン!脚立乗るときは気をつけなさい!」

325名無しさん:2018/12/16(日) 16:39:54 ID:OSDLjeuQ0




ごく普通の、普通だけど幸せな家族。
それが我が家だった。



けれどそれは突然壊れてしまった。

326名無しさん:2018/12/16(日) 16:40:39 ID:OSDLjeuQ0


(゚ー゚トソン「…」

私が14の時だった。
高校受験のテスト中呼び出された。

母親は死んだ。妹と弟も。事故だった。

滅多に乗らない車を、何故母親は運転していたのか。
いつも使っている自転車がなかったからだ。
私が受験に遅れそうだったため、了承も得ず勝手に借りた。
家から少し離れた保育園に妹と弟を送りに行くには、車を出すしかなかったのだろう。

飛び出して来た猫を避けようとして、電信柱に突っ込んでしまった。

327名無しさん:2018/12/16(日) 16:41:10 ID:OSDLjeuQ0


(゚、゚トソン

私の受験は当たり前のように落ちた。

例え受かっていても通えなかったと思う。
妻と子を失った父親が、やけになって作った借金が多大だったから。

(・∀ ・)「お前は母親が好きだったもんな」

(゚、゚トソン「……」

(・∀ ・)「だから、良いよな」

父親はある日ことんと消えた。
借金だけを置いて。

それから私は働いた。
色々な所を転々と、色々な仕事を転々と。

328名無しさん:2018/12/16(日) 16:43:14 ID:OSDLjeuQ0



(゚、゚トソン「大丈夫ですか?」

ζ(-、- ;ζ「ん、だ、大丈夫…です、ごめんなさい…」

(゚、゚トソン「同室のよしみですよ。それに、最初のうちはキツイの、私も知ってますから」

ζ(゚ー゚*ζ「…えへへ。トゥインクルちゃん、優しいね」

働き出して数年が経ち、いくつ目かの働き先。
キャバクラだった。
彼女は同じ店で働いてる、可愛らしい女の子だ。私とそんなに年が変わらない筈。
そして私と同じく、店の寮に住んでいる。ルームメイトというものだ。
彼女もそれなりの理由があってここにいるのだろう。

329名無しさん:2018/12/16(日) 16:43:45 ID:OSDLjeuQ0


(゚、゚トソン「これ、食べます?」

ζ(゚ー゚*ζ「わぁ、美味しそう!トゥインクルちゃんが作ったの?」

(゚、゚トソン「はい…シンプルなクッキーですけど…」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう!いただきます!」

(゚、゚トソン「…」

ζ(^ヮ^*ζ「美味しい!」

(゚、゚トソン「…」

330名無しさん:2018/12/16(日) 16:44:15 ID:OSDLjeuQ0


ζ(゚ー゚*ζ「私、お酒は好きなんだぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「お酒は良いときにも悪いときにも飲めるでしょ。喜びを受け止めてくれて、悪い事を受け流してくれる。だから好きなの」

ζ(゚ー゚*ζ「でも得意じゃないからあんまり飲めなくて…」

(゚、゚トソン「そういうことも、ありますよね」

ζ(゚ー゚*ζ「トソンちゃんはお酒好き?」

(゚、゚トソン「私は酒、嫌いですよ。
…ただ前に、家族に会いたくなってたくさんたくさん飲んだことがあって、いくらでも飲めるようになりました」

ζ(゚ー゚*ζ「?そうなんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、トゥインクルちゃんがお酒大好きになったら最強だね!」

(゚、゚トソン「…最強…」

ζ(゚ー゚*ζ「私と一緒に特訓しようよ!」


ζ(゚ー゚*ζ「じゃあまずは泡盛ね!」

(゚、゚トソン「初心者向けからいきましょうよ…」

331名無しさん:2018/12/16(日) 16:44:47 ID:OSDLjeuQ0



彼女は明るくて優しい子だった。

彼女の源氏名はシンデレラといった。
どういう意味でつけたのか聞いたら

ζ(゚ー゚*ζ「私もいつかシンデレラみたいに、素敵な王子様に見つけてもらいたいから!あと本名が名前の中に入ってるからね!」

とのことだった。ちなみに私の源氏名は店に適当につけられた。

332名無しさん:2018/12/16(日) 16:45:28 ID:OSDLjeuQ0



ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、私もマドレーヌ作ったの!一緒に食べよ!」

(゚、゚トソン「シンデレラちゃん、それ何入れました?」

ζ(゚ー゚*ζ「こないだお客さんから貰ったイカの塩辛!」

(゚、゚トソン「……シンデレラちゃん、今度一緒にお料理しましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「本当?楽しそう!」

ζ(゚ー゚*ζ「私、トゥインクルちゃん大好き!おねーちゃんみたい」

(゚、゚トソン「…」

私も彼女の素直さやあたたかさが好きだった。烏滸がましいと分かりながらも、妹のように思っていた。
けれど彼女のように『好き』と口にするのは怖かった。

私のせいで家族がなくなった事を知ったら
嫌われるんじゃないか、離れてしまうのではないか。

怖くて、今一歩踏み出せなかった。

333名無しさん:2018/12/16(日) 16:46:30 ID:OSDLjeuQ0



それにしても
私は多分、運があまりなかったらしい。

(・∀ ・)「は、はは」

(゚、゚トソン

(・∀ ・)「はははははは!本当に働いてやがる、はは!看板の写真見てまさかとは思ったけどな!」

久しぶりに会った父親の顔は、酒と興奮で赤くなっていた。どこか面影はあるものの、人相がだいぶ変わったように思える。
こんな顔だっただろうか。

驚きからか、声は出ず足も動かない。
それどころか手が小さく震えている。
目の前にいるのは実の父親なのに、私を指差して高笑いをする男が怖くて仕方なかった。

334名無しさん:2018/12/16(日) 16:47:11 ID:OSDLjeuQ0

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん?このお客様、知り合い…?」

立ち竦んでいた私を不審に思ったシンデレラが、私と男の間に割って入ってきた。
彼女の優しい声に一緒安堵し、そしてすぐ不安に包まれた。

彼女に、『あの事』をバラされる──

帰って、と言おうとした。口の中がカラカラで声が出ない。
そんな私を見てか、男は高笑いする。

(・∀ ・)「知り合いも何も、父親だよ!父親!なぁオイ、借金全部返したか?今俺金に困ってんだよ、貸してくれよ」

(゚、゚;トソン「……帰ってください」

裏返っていたがやっと声が出た。
手も足も震えていた。目の前の男はニヤニヤしている。

(・∀ ・)「は?何だよ。良いんだぜ、この店と客にお前がした事バラしたって」

全身が冷たくなる感覚
目の前が真っ白になりそうだった。
待って、言わないで、やめて、この子にそんなこと
頭の中で叫ぶ。

335名無しさん:2018/12/16(日) 16:47:46 ID:OSDLjeuQ0


シンデレラを見る余裕もなかった。男を、父親を張り倒す力もなかった。
ただ掠れた声で縋った。

(゚、゚;トソン「やめ」

(・∀ ・)「なぁアンタ!アンタ知ってるか?こいつのせいで母親とキョーダイはしんだんだ!こいつがころしたんだよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

(゚、゚;トソン「あ、あ」

終わった。
知られた。
もうだめだ、もう無理だ。
指先から力が抜けていくのがわかった。

336名無しさん:2018/12/16(日) 16:48:22 ID:OSDLjeuQ0

シンデレラの方を見ることができない。
いつも優しく笑いかけてくれた彼女に、軽蔑されるのが怖かった。
罵られる。嫌われる。

ζ(゚、゚*ζ「…あの」

(゚、゚;トソン「っ…」

ζ(゚、゚*ζ「この人は私のおねーちゃんですけど」

(・∀ ・)「は?」

(゚、゚;トソン「…」

彼女の口から出たのは、私への罵倒ではなかった。

思いもよらない内容に、手の震えが、止まった。

ζ(゚ー゚*ζ「この人は、私の姉です」

ζ(゚ー゚*ζ「どなたかとお間違えじゃないですか?」

(・∀ ・)「んなわけないだろ!」

彼女は凛とした声で言い上げた。さも当たり前のことのように。

(゚、゚;トソン「……」

ζ(゚ー゚*ζ「黒服さ〜ん!お客様お帰りになるみたいでーす!」

(#・∀ ・)「ちょ、おい待てコラ!」

337名無しさん:2018/12/16(日) 16:49:05 ID:OSDLjeuQ0



店内は騒然としていた。
店長に裏に下がってるように言われ、控え室に篭る。
部屋の隅に丸まってじっとしていた。

(゚、゚トソン「…」

ぼんやり、今起きたことを思い返す。

( 、; トソン

(;、;トソン

鬱陶しいくらい涙が出て止まらなかった。
怖かったのか、悲しいのか、悔しいのか、はたまた全てか。
自分でもわからなかった。

338名無しさん:2018/12/16(日) 16:49:33 ID:OSDLjeuQ0


バタン!

ビクッ (;、;トソン

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん!」

激しい音と共に開いたドアからシンデレラが駆け寄ってきた。

(;、;トソン「…」

ζ(゚ー゚;ζ「なんで泣いてるの!?あのおじさん怖かった?大丈夫だよ、大丈夫。あ!それとも勝手にお姉ちゃんって呼んだの嫌だった!?」

(;、;トソン「なん…何であんなこと…」

ζ(゚ー゚;ζ「トゥインクルちゃん、いつもデレのこと守ってくれたから…だからね、いつか絶対トゥインクルちゃんを守るって決めてたの…」

(゚、゚トソン「わた…わたしは、ほんとに…」

339名無しさん:2018/12/16(日) 16:50:03 ID:OSDLjeuQ0


優しく私の涙を拭う彼女と目が合う。
その目はいつもと同じく、優しくて温かかった。

話し出そうとして、けれど言葉にならない私の背中をそっと撫でてくれた。


ζ(゚ー゚*ζ「…トソンちゃんて言うんだね、可愛い名前!」

ζ(゚ー゚*ζ「でもデレはトゥインクルって名前も好きだよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルって、輝くお星様なんだって!」

(゚、゚トソン「……」

父親が名前を呼んでいたことを思い出す。
本名を呼ばれるのは、本当に久しぶりだった。
夢から現実に引き戻されたような嫌な気持ちになったのだが、彼女が自分の名前を呼ぶのはあまり嫌悪はなかった。

340名無しさん:2018/12/16(日) 16:50:36 ID:OSDLjeuQ0


ζ(゚ー゚*ζ「あ、デレはね!…私はね、デレっていうんだ!」

(゚、゚トソン「…」

ζ(゚ー゚*ζ「本名で呼ぶの、なんか照れちゃうね」

(゚、゚トソン「…そう、ですね」

やっと普通の言葉を返した私を見て、彼女は小さく笑って自分のロッカーに何かを取りに行った。

ζ(゚ー゚*ζ「これ、私の好きなファンタジー小説」

夜空のイラストが表紙の、少し小さな本だ。

ζ(゚ー゚*ζ「嫌なことがあったらね、お星様に願い事をするの」

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃんは、お星様に何をお願いする?」

(゚、゚トソン「お願い…」

(゚、゚トソン「わた、私は…」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

(゚、゚トソン「ゆ」

ζ(゚ー゚*ζ「ゆ?」

341名無しさん:2018/12/16(日) 16:51:11 ID:OSDLjeuQ0


(;、;トソン「………ゆ、許されたい……」

(;、;トソン「許されないのはわかってる、だからずっとずっと、たくさんのものを諦めて、色んなものを捨てて、お金を作るために働いて、返してきた…」

(;、;トソン「で、でも…私は…。私は…」

(;、;トソン「ゆ、許して…ごめんなさい…ごめんなさい、勝手に自転車を借りて、ごめんなさい…おかあ、さん…妹も、弟も……」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

ζ(゚ー゚*ζ「許すよ」

(;、;トソン「っ」

ζ(゚ー゚*ζ「……トゥインクルちゃんのお母さんだもん。
優しくて温かい人だと思うから、トゥインクルちゃんがたくさん頑張ってきたことも、いっぱい後悔してることも、きっとわかってるよ」

(;、;トソン「う…」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をティッシュで拭われる。
そして先程取り出した本を私に差し出した。

ζ(゚ー゚*ζ「これ、トゥインクルちゃんに貸すね。いつか返しにきて」


ζ(゚ー゚*ζ「私はね。私は、お星様に、トゥインクルちゃんが楽しく幸せになれますようにって、お願いするよ」

342名無しさん:2018/12/16(日) 16:51:52 ID:OSDLjeuQ0






ζ(^ー^*ζ「楽しく、幸せに生きて!約束!」

343名無しさん:2018/12/16(日) 16:52:31 ID:OSDLjeuQ0


私は店を辞めた。彼女も早い段階で察していたのだろう。

借金はすでに完済していた。私はもう、どこにでも行くことが出来た。

(゚、゚トソン「…楽しく幸せに生きる約束しちゃったからなぁ…」

(゚、゚トソン「楽しそうな働き口を見つけなきゃ」

楽しそうな働き口。自分で言った言葉に首をかしげる。
私にとって楽しい事って、果たして何だろう。




(゚、゚トソン「ん?なんだこのでっかい門…金持ち屋敷だ…貼り紙が…」

(゚、゚トソン「『住み込みの使用人募集。おやつを作れる人大歓迎』…」

(゚、゚トソン「…おやつ作り…」


ζ(^ヮ^*ζ『美味しい!』


(゚、゚トソン「……働いてみますか」

この屋敷で働き出したのはたまたま通った道でたまたま見つけたからだ。
楽しく働ければそれで構わない。
ただただ、そんなことを思ってあの日チャイムを押した。

344名無しさん:2018/12/16(日) 16:53:04 ID:OSDLjeuQ0

八の字に下がった眉毛の主人に、毎日おやつを作る。

私は働いて得た美味しいお酒を楽しむ。

そう、楽しかった。平穏な日々が。

私は今 楽しい

でもわからない

奥様はどこに?
写真もないのはなぜ?
使用人がいないのは?
何故いくつもの『仕事』をしているのか

知らない事が、分からないことがたくさんありすぎる
私は今、幸せなのだろうか

あの頃は『好き』だと言うのが怖かった。
今は。
今は違う。
好きなものを好きだと言える。

知りたい。
知って、スッキリしたい。
こんなモヤモヤを抱えたままでは、楽しく働けない。
私は、約束をした。

楽しく幸せに生きる、と。

345名無しさん:2018/12/16(日) 16:53:40 ID:OSDLjeuQ0






(-、-トソン

(゚、-トソン

(゚、゚トソン「……」

目を開くと、ものすごく眉が下がった主人の顔があった。
何だ何だ近い近い怖い怖い。

(´・_ゝ・`)「良かった…もう少しでお酒かけるところだった」

(゚、゚トソン「…それはそれで良かったかもしれません……あれ、私どうしたんでしたっけ」

(´・_ゝ・`)「脚立から落ちて、頭を打ったみたい。もうびっくりしたよ…すぐにお医者さんを呼んだらとりあえず大事無いって言われたけど…丸一日寝てたし」

(゚、゚トソン「ああ…じゃあ今の走馬灯なのか…」

(;´・_ゝ・`)「縁起でもないこと言わないでよ」

君を運ぶの大変だったんだよ、と言いながら主人が何かを取りに行った。

346名無しさん:2018/12/16(日) 16:54:13 ID:OSDLjeuQ0



(´・_ゝ・`)「荷物がさ、届いてね。チャイムが鳴ってるのに何も反応がなかったからどうしたのかと探したら、ひっくり返った君がいて驚いたんだ」

(´・_ゝ・`)「でぃさんから食べ物とか届いたよ。手作りの甘酒入ってたから今温めるね。あ、アルコールは入ってないからね」

(゚、゚トソン「主人」

(´・_ゝ・`)「んー?」

(゚、゚トソン「クリスマスプレゼント、まだ間に合いますか」

(´・_ゝ・`)「え?ああ、うん…お酒はしばらく控えた方が良いと思うけど…」

(゚、゚トソン「確かに酒も魅力的ですけども、今回は違います」

347名無しさん:2018/12/16(日) 16:54:56 ID:OSDLjeuQ0


(゚、゚トソン「私、この屋敷のことも主人のことも何も知りません」

(゚、゚トソン「ただ働くだけだから、知らなくて良いと思ってました。でも」

(゚、゚トソン「知りたいです、幸せに、楽しく働くために」


(゚、゚トソン「教えて下さい。何故この屋敷には私以外働いてる人間がいないのか。主人の奥様はどこにいるのか」

348名無しさん:2018/12/16(日) 16:55:27 ID:OSDLjeuQ0


後ろを向いていたので、主人の表情は見えなかった。
どんな顔をしているのだろう。

沈黙。
私も主人も黙ったまま数分くらいが経った。

(´・_ゝ・`)「………」

主人は黙っていた。
黙って黙って、黙ったままで。

(´・_ゝ・`)「………」

パタン


部屋を、出て行った。

(゚、゚トソン「………」

(゚、゚トソン「……はぁ?」



そうして、主人は完全に自室から出てこなくなった。


(゚、゚トソン「…はぁぁぁ???」

349名無しさん:2018/12/16(日) 16:57:03 ID:OSDLjeuQ0


本日の投下は以上になります
ペアリングしてないです


>>319
可愛らしい2人をありがとうございますー!!!

350名無しさん:2018/12/16(日) 17:59:06 ID:FzbOUgeI0
乙!続き待ってたよー!
トソンに幸あれ

351名無しさん:2018/12/17(月) 15:04:06 ID:necKVxbo0


久しぶりの投下で急展開ぶっこんできたな

352名無しさん:2018/12/17(月) 16:10:36 ID:ENNYUun60
乙!

353名無しさん:2018/12/17(月) 19:08:31 ID:9Nd8Flc60
やっぱりこの作品好きだわ

354名無しさん:2018/12/18(火) 15:07:42 ID:7HMMgovY0
otudesu

355名無しさん:2018/12/20(木) 21:11:19 ID:VdyFhTzY0
おつ!思わず涙ぐんでしまったよ…
デレ天使…
デミタスもトソンも幸せになって

356名無しさん:2018/12/22(土) 20:14:43 ID:6XX4amWY0
来てたのか、乙!
デレ良い子だなあ、トソンには幸せになってほしい

357名無しさん:2018/12/24(月) 11:25:24 ID:MciMOk1I0
乙!話が進んできたなー

358名無しさん:2018/12/24(月) 14:20:37 ID:rOnlgUJk0
やはり天使(デレ)が出てきたか
乙!

359名無しさん:2019/01/01(火) 22:46:41 ID:SSN3SK2c0
おつです
読んでてすごく楽しいです

360名無しさん:2019/01/12(土) 16:51:52 ID:RpNdODkQ0
まってる

361名無しさん:2019/02/14(木) 10:45:35 ID:zgb/ah/k0


番外編投下します

362名無しさん:2019/02/14(木) 10:46:08 ID:zgb/ah/k0








あの頃の小さな幸せを、ふとした瞬間に思い出す。









.

363名無しさん:2019/02/14(木) 10:46:38 ID:zgb/ah/k0







番外編: チョコレートの数だけ強くなれる








.

364名無しさん:2019/02/14(木) 10:47:23 ID:zgb/ah/k0







(゚、゚トソン トソン。トゥインクル。ツマミになるチョコがけ柿の種とかが好き。

ζ(゚ー゚*ζ シンデレラ。カカオ99%のチョコを食べて絶望したことがある。








.

365名無しさん:2019/02/14(木) 10:48:10 ID:zgb/ah/k0


ガヤガヤと賑やかなスーパーの一角。
季節より少しだけ早めに品物が並んでいるのを見て、ため息をつきそうになる。

(゚、゚トソン「お正月が終わったと思えば豆とチョコのターン」

(゚、゚トソン「小売業界も大変ですね」

(゚、゚トソン「イベント事はなぁ…稼ぎ時な判明、色々面倒だったんですよねぇ…」

前職のことを思い出す。

日本人はイベント事が好きである。
そのイベントに便乗して色々な企画を立てて、金を稼ぎ出す。
企画に合わせたコスチュームを纏い、ゲームをして高い高い酒を頼ませる。
誕生日を始めハロウィン、クリスマス、もちろん2月の大イベントであるバレンタインも例外ではなかった。

「チョコあげるから会いに来てね」と女の子たちは店に誘い出す。
その『釣り餌』であるチョコレートは自分達で用意をしていた。

甘いもののイベントなのに、苦いものを食べたような気持ちになる。
あまり良い思い出ではない。

(゚、゚トソン「ああでも一度だけ……楽しかった時がありましたっけ…」

366名無しさん:2019/02/14(木) 10:49:06 ID:zgb/ah/k0
〜〜〜〜〜〜



ζ(゚ー゚*ζ「トゥーイーンー」

ζ(゚ー゚*ζ「クルちゃん!!」

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん!!チョコ作ろう!」

彼女はいつでも元気だ。
たとえ連勤が続いた朝でも。
私はあまり元気ではなかったが、彼女の笑顔に少しだけ力を貰っていた。

(゚、゚トソン「…お猪口ですか?じゃあ陶芸教室探しましょうか」

ζ(゚ー゚*ζ「違うよー!バレンタイン!のチョコレートのお菓子!」

(゚、゚トソン「バレン……タイン…」

(゚、゚トソン「忌まわしきカタカナイベント第3位ですね…ああもうそんな時期ですか…お客に用意するの大変だから嫌いなんですよねぇ…」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?私はねぇ、イベント事ってワクワクするから大好き!」

(゚、゚トソン「シンデレラちゃんは良い子ですね…」

ζ(^ー^*ζ「本当?えへへ!」

この笑顔を客どもに見せたら指名ナンバーワンに登りつめるだろうな、と思う。
可愛らしい。何なら私が貢ぎそうになる。危ない。

367名無しさん:2019/02/14(木) 10:49:51 ID:zgb/ah/k0


ζ(゚ー゚*ζ「あのね、たくさんは難しいけど、常連さんとかいっぱい指名してくれる人には手作りのをあげたいなぁって思って」

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、いつも手作りのお菓子くれるでしょう?あれすっごく嬉しくて、胸がポカポカになるんだぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「だから私も、お客様にポカポカになってもらいたくて…」

(゚、゚トソン「うっ…」

ζ(゚、゚*ζ「ど、どうしたのトゥインクルちゃん!大丈夫?」

(゚、゚トソン「眩しすぎて目が…大丈夫です大丈夫です…」

(゚、゚トソン「シンデレラちゃんに頼まれて断れる人間はいません、是非一緒に作りましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「本当?ありがとう!」

368名無しさん:2019/02/14(木) 10:50:30 ID:zgb/ah/k0



(゚、゚トソン「じゃあ簡単なやつ作りましょうね。シンデレラちゃんが怪我とかしないようなやつを…」

ζ(゚ー゚*ζ「頑張るよー!」

(゚、゚トソン「まずはこれ、板チョコを用意します」

ζ(゚ー゚*ζ「しました!」

(゚、゚トソン「湯煎します」

ζ(゚、゚*ζ「ゆせん…」

(゚、゚トソン「チョコをお湯の熱で溶かすことです」

ζ(゚ー゚*ζ「お風呂に入れてあげるんだね!」

(゚、゚トソン「あ、お湯に直接入れちゃダメですダメですそれダメです、五右衛門風呂的な感じで…」

369名無しさん:2019/02/14(木) 10:51:11 ID:zgb/ah/k0


ζ(゚ー゚*ζ「良い匂い〜」

(゚、゚トソン「この溶けたチョコレートの中にクリームチーズを入れます」

ζ(゚ー゚*ζ「チーズだぁ!」

(゚、゚トソン「一緒に溶かして混ぜます」

ζ(゚ー゚*ζ「混ぜるの楽しいね!」

(゚、゚トソン「それは良かった。その中に砕いたナッツ類と洋酒に漬け込んだドライフルーツを入れます」

ζ(゚ー゚*ζ「わぁ!ドライフルーツ大好き!」

(゚、゚トソン「…」

☆゚・*:.。.:ζ(゚ー゚*ζ☆゚・*:.。

@ヾ(゚、゚トソン「……」

ζ(^〜^*ζ"もぐもぐ

ζ(^ヮ^*ζ「美味しい!」

(゚、゚トソン「それは良かった」

370名無しさん:2019/02/14(木) 10:51:48 ID:zgb/ah/k0



(゚、゚トソン「ラップで巻いて筒状にして、冷蔵庫でしばらく固めます」

ζ(゚ー゚*ζ「形が恵方巻きみたいだね!」

(゚、゚トソン「ついでに節分気分にもなれますね」

@ヾζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、あーん!」

(゚〜゚トソン「んむ」

(゚、゚トソン「…美味しいです」

ζ(゚ー゚*ζ「ね!年の数だけ食べると良いんだよね!」

(゚、゚トソン「豆をですね」

ζ(゚ー゚*ζ「何でお豆さん撒いたりするんだろね?」

(゚、゚トソン「何でですかね?」

371名無しさん:2019/02/14(木) 10:52:33 ID:zgb/ah/k0


(゚、゚トソン「固まりました。これにココアパウダーをまぶして切って、チョコレートサラミの完成です」

ζ(゚ー゚*ζ「わぁい!作れたよトゥインクルちゃん!」

(゚、゚トソン「お菓子名を伝えたら、サラミにチョコレート掛けようとしたのには驚きましたが無事出来て良かったです」

"ヽζ(゚ー゚*ζノ"「よいせ、ほいせ」

(゚、゚トソン「?」

◾️⊂ζ(゚ー゚⊂ζ「はい!簡単なラッピングでごめんね」

(゚、゚トソン「え、っと、あの…これ…は、お客にあげるものでは?」

ζ(゚ー゚*ζ「残りはね!でも、一番にトゥインクルちゃんに渡したかったの」

ζ(^ー^*ζ「友チョコというやつです!」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「ありがとう…ございます…」

ζ(゚ー゚*ζ「こちらこそ、いつも仲良くしてくれてありがとうだよ!」

372名無しさん:2019/02/14(木) 10:53:41 ID:zgb/ah/k0


(゚、゚トソン「お返しを…何が欲しいですか?現金?ブランド物?何でも言ってください」

ζ(゚ー゚*ζ「良いの?じゃあねじゃあね、ホットチョコレートが飲みたいな!」

(゚、゚トソン「そんなもので良いんですか…?」

ζ(゚ー゚*ζ「私、トゥインクルちゃんが作ってくれるあれ大好き!」

(゚、゚トソン「すぐに作りますね」

ζ(゚ー゚*ζ「わーい!チョコレートパーティだね!用意するよ!」

(゚、゚トソン「ありがとうございます」

(゚、゚トソン「小鍋に牛乳を入れて、紅茶のティーパックを煮ます」

(゚、゚トソン「チョコをみじん切りしたものを入れて溶かして」

(゚、゚トソン「コップに移して、ほんの少しブランデーを入れて」

(゚、゚トソン「出来ました」

ζ(゚ー゚*ζ「良い匂いだね〜!」

373名無しさん:2019/02/14(木) 10:54:34 ID:zgb/ah/k0


ζ(゚ー゚*ζ「いただきます!」

(゚、゚トソン「いただきます…」

ζ(゚ー゚*ζ「?食べないの?」

(゚、゚トソン「すぐに無くなってしまうのがなんか…勿体ない気がして」

ζ(゚ー゚*ζ「そしたらね、また一緒に作ろ!それでまたおやつパーティしよ!」

ζ(^ー^*ζ「ね!」

(゚、゚トソン「…」

(゚ー゚トソン「…はい」

ζ(゚ー゚*ζ「ほら食べて食べて」

(゚、゚トソン「むぐぐ…ん…」

(゚、゚トソン「美味しいです」

ζ(゚ー゚*ζ「ホットチョコレートも美味しいよ〜」

(゚、゚トソン「チョコチョコしてますね」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、本当だねチョコチョコしてる」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、幸せ!」

(゚、゚トソン「あっシンデレラちゃん、全部食べるとお客の分なくなりますよ」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、そっかぁ」

374名無しさん:2019/02/14(木) 10:56:37 ID:zgb/ah/k0
〜〜〜〜〜〜〜〜


ココアパウダーのほろ苦さと、クリームチーズと混ざったチョコレートの爽やかな甘さを思い出す。
あの時のあの味は、きっとずっと忘れないだろう。


(゚、゚トソン「……懐かしい…」

(゚、゚トソン「今日の主人のおやつ、チョコレートだらけにしましょうかね」

板チョコを手にして、現職の雇用主のことを考える。
下がり眉の主人は、甘いものなら何でも喜ぶ。
チョコレートだらけのおやつタイムもきっと喜びそうだな、と思う。

(゚、゚トソン「そして私はお高めのシャンパンと一緒にペアリングを楽しみましょうかね」

主人の金で買った秘蔵のものがあるのだ。俄然楽しみになってきた。
少しだけ余ったら、あの雑魚の弟分のような奴にくれてやっても良い。


イベント事は嫌いだが、ほんの少し楽しくなってきたのは久しぶりだった。


ついでに節分ではなぜ豆を撒くのか聞いてみようかと考えながら、おやつの材料を買い物カゴに入れた。




特別編:終

375名無しさん:2019/02/14(木) 10:59:00 ID:zgb/ah/k0

以上、特別編でした

ちなみに雑魚はインフルにかかって来店していないのでシンデレラの手作りチョコはもらってません

皆様もハッピーバレンタイン

ありがとうございました

376名無しさん:2019/02/14(木) 12:26:27 ID:LxFfe0e20
乙です

雑魚……。

377名無しさん:2019/02/14(木) 12:50:11 ID:qe3v8GRM0
シンデレラ可愛い

378名無しさん:2019/02/14(木) 17:02:47 ID:6OcaCpGc0
乙ー

379名無しさん:2019/02/14(木) 22:44:37 ID:6bt6M.zc0
乙です!
今日バレンタインだから来てたら嬉しいなと思ったら本当に来てて感動です!
シンデレラが眩しい…

雑魚…本当に雑魚…

380名無しさん:2019/02/15(金) 08:26:46 ID:HYtOvJ.U0
雑魚に幸あれ

381名無しさん:2019/02/17(日) 21:41:01 ID:VBZECl2Y0
投下来てたのか!乙!
雑魚はやはり雑魚…

382名無しさん:2019/03/12(火) 19:31:25 ID:hMsmf6U60
次は四月かな?


383名無しさん:2019/03/21(木) 03:21:48 ID:nGslScPk0
乙ュッ

384名無しさん:2019/07/04(木) 00:45:15 ID:UKch99wE0
まだかな

385名無しさん:2019/07/04(木) 02:45:29 ID:TrXRz87w0
作者様、お疲れ様です。
続きを楽しみに待っています!

386名無しさん:2019/08/07(水) 19:27:41 ID:2Kp9M8WI0
待ってる

387名無しさん:2019/09/27(金) 12:56:56 ID:oPPekz4Q0
続き待ってます!

388名無しさん:2019/11/29(金) 00:42:13 ID:vZU/m9Z.0
待ってるよ〜

389名無しさん:2020/08/06(木) 06:54:03 ID:uXY0qjnQ0
デミタスの長い自粛……

続き待ってます!

390名無しさん:2020/09/26(土) 02:36:08 ID:0X68ED960
甘いものお供えしたらデミも出てくるかな
続き待ってます!

391名無しさん:2020/09/26(土) 04:41:16 ID:VfqeLqo20
飯描写が本当にウマそう

392名無しさん:2020/12/02(水) 17:09:37 ID:T0GOC9/A0



11 甘酒を点滴に繋ぎたい




.

393名無しさん:2020/12/02(水) 17:10:19 ID:T0GOC9/A0


(´・_ゝ・`) デミタス。屋敷の主人。誰かの主人。絶賛引きこもり中。

(゚、゚トソン トソン。屋敷の使用人。絶賛頭抱え中。

394名無しさん:2020/12/02(水) 17:11:05 ID:T0GOC9/A0


主人が部屋に篭ってから丸一日が経った。

その1日の間、私は何も出来ていない。
そもそも脚立から落ちて目が覚めて、疑問に思っていたことを聞いてみたら主人が引きこもってしまった、という怒涛すぎる展開に、頭も体も心もついていけなかった。


(゚、゚トソン「はー、本当意味わからん…」

キッチンで温めなおした甘酒を飲みながら溜息をつく。
私の貴重な幸せが一つ逃げてしまった。

幸せ
そう、幸せだ。

私は幸せになるために、この館のこと、主人のことを聞いた。
どうやらそれが地雷だったらしい。


.

395名無しさん:2020/12/02(水) 17:11:38 ID:T0GOC9/A0

おやつ抜きと言ったら泣き喚くような、おやつの時間をずらしたら死にそうになっていたあの主人が、1日(私が倒れていたのも合わせると2日だ)甘いものを口にしていない。
まさかまさか中でしん…と思いドアを蹴り飛ばしたら『やめてください』と書かれた紙が隙間から出てきたので、大変なことにはなっていないようだった。

主人の部屋はアホみたいに広く、中にトイレもついているので引き籠るにはうってつけではあるが、食べ物は常備していない。
おやつだけではなく食事も口にしていないのだ。
このまま引き篭もり?立てこもり?を続けられるのは困る。

(゚、゚トソン「どうしたものですかね…雑魚でも連れてくる?いやいやあの雑魚に何かできるとは思えん…というかシンデレラちゃんに告れたかな…」

(゚、゚トソン「んん〜どうしたものか…というかこの甘酒本当に美味しいな…」

この甘酒は蛯沢様から頂いたものらしい。
私が倒れている間に宅配物が届いたそうだ。
今度ぜひ作り方を聞きたい。

396名無しさん:2020/12/02(水) 17:12:12 ID:T0GOC9/A0


(゚、゚トソン「……蛯沢様」

蛯沢様。
蛯沢でぃ様は昔、この屋敷で働いていた。そればかりか主人が小さい頃からお世話になっていたと言っていた。
一度だけ会ったことがある。
色んなものを作っているらしく、そういえばあの時いただいた果物は大変素晴らしかった…
思い出しただけでも涎が…

(゚、゚トソン「ん」



───果物と一緒に頂いたものがあった。



.

397名無しさん:2020/12/02(水) 17:12:39 ID:T0GOC9/A0



ドタドタドタドタ
走って自室に向かった。
私以外の使用人がいなくて良かった。
ガサツな動作にお叱りが入っていただろう。

あまり物を持っていない私の、スカスカの箪笥の2段目を開く。

(゚、゚トソン「これだ…!」

でぃ様から頂いた、『何かありましたら』という一言と住所などが書かれた紙。
一度お礼に主人が撮った写真を送ったことがある。
恐らく、出鱈目な住所ではなくちゃんと住んでいる。

(゚、゚トソン「主人のことをよく知っている人物…」

今の私には大事な大事なアイテムとして、輝いて見えた。

.

398名無しさん:2020/12/02(水) 17:13:15 ID:YGjApy2c0


(゚、゚トソン「お料理するの、久々な感じがしますね」

(゚、゚トソン「そんなことは全くもってないはずなのに2年くらい経った気がします」

(゚、゚トソン「これが少年漫画なら重要なパワーアップイベントでしたね」

(゚、゚トソン「さて、珈琲を淹れます」

(゚、゚トソン「私はそんなに得意なわけではないですが、匂いが好きです。ずっと嗅いでいられる」

(゚、゚トソン「この屋敷には喫茶店とかで見るようなサイフォン式の物もありますが、ぶっちゃけ壊しそうで怖いから触りたくありません」

(゚、゚トソン「普通にハンドドリップで淹れます」

(゚、゚トソン「この珈琲を、でぃ様から頂いた甘酒に入れて混ぜます」

(゚、゚トソン「『き、きみは初めて出逢うね…なんて名前だい?(裏声)』」

(゚、゚トソン「『ワタクシ、甘酒と言います…宜しくお願いしますわ…(高音)』」

(゚、゚トソン「さらにマシュマロをどーん!」

(゚、゚トソン「『あわわ!なんて柔らかくて可愛らしいんだ…(裏声)』
『ちょっと!珈琲さんは私のものよ!(高音)』『ふぇぇん、怖いよぉ〜(ダミ声)』」

(゚、゚トソン「…うーん、何か久々感が拭えないのでトソン料理劇場もうまく出来ませんね」

(゚、゚トソン「しかし品は完成です」

(゚、゚トソン「あともう一品…」

399名無しさん:2020/12/02(水) 17:13:49 ID:T0GOC9/A0



フライパンからジュワジュワという音と、焼けるいい匂いがする。
ぼんやり周りを見る。白を基調とした清潔感のある、広くて大きなキッチン。物も揃っている。
小さなノート。
見つけてしまった、主人に関する大事なもの。

(゚、゚トソン「…貴女に話を聞けたら、1番良いんですけどね」

顔も名前も知らない、ノートの持ち主に想いを馳せた。


.

400名無しさん:2020/12/02(水) 17:14:20 ID:T0GOC9/A0



(゚、゚トソン「しゅーじーんーくーん!!あっそびーまーしょー!!!」

主人の部屋のドアを渾身の力でノックする。
こんな言葉で出てくるとは思っていないし、これで出てこられても嫌だ。

中で物音がしたのを確認して、また大声を出す。

(゚、゚トソン「わたくしトソン、ちょっとお暇をいただきますので!有給使いますので!お給料はください!」

(゚、゚トソン「あっ、ここに一応軽食置いておきますから。罠ではないです。お腹空いたら召し上がってくださいね、罠ではないですので」

(゚、゚トソン「では、いってきまーす!」

「………」


.

401名無しさん:2020/12/02(水) 17:14:49 ID:T0GOC9/A0


返事はなかった。
けれどドアの前に気配を感じたので、良しとする。
何か口にしてくれれば良いなと思い、甘くないパンケーキとベーコン、そして先程淹れたコーヒー甘酒を小さなメモと一緒に置いてきた。
我ながら怪しさ満点だなと思いつつ、屋敷から飛び出す。

(゚、゚トソン「あれ食べる時は部屋から出てくるけど…それ捕まえても根本的な解決には、ならないですよね…」

紙に書かれていたでぃ様の住所は、恐らく遠い。
今から行って話をして、日帰りで戻れるか不安な所だ。

しかし今は行かなければ。
主人と話が出来るヒントを、もらう為に。

(゚、゚トソン「よし、出陣じゃ!」

402名無しさん:2020/12/02(水) 17:15:20 ID:T0GOC9/A0




ガチャリ


(´・_ゝ・`)「……」

(;´・_ゝ・`)「…本当に出かけたのか…」

(´・_ゝ・`)「トソンくんのことだから罠かと思ったけど…」

(´・_ゝ・`)「…いい匂い、コーヒー…?カフェオレかな」

(´・_ゝ・`)「……メモだ」

(´・_ゝ・`)「……」

(´・_ゝ・`)「こっわ…」


『毒は入ってないです by f(@u<トソン 引きこもり菓子無し主人→(´%+_j+`)』


(´・_ゝ・`)「…ブッ、ククク………怖…これはすごいな…絵は苦手みたいなこと言ってたもんな…」

(´・_ゝ・`)「……」

(´・_ゝ・`)「はぁ…」

(´・_ゝ・`)「……トソンくん、帰ってくるかな…」

403名無しさん:2020/12/02(水) 17:16:01 ID:T0GOC9/A0


(゚、゚トソン「帰れるかなこれ…」

蛯沢様の家までの経路を調べた。
私はスマホはおろか携帯も携帯していない(必要がない)のでコンビニで簡単なロードマップを買ったのだ。
聞き慣れない土地だとは思ったが、やはり遠かった。
バスに乗って電車に乗って、乗り換え乗り換え、2.3時間。
小旅行並の距離。

こういうことは切り替えが大事だと、かのシンデレラちゃんも言っていた気がする。

(゚、゚トソン「油物にはビールしか勝たん」

電車に揺られながら缶ビールを呷る。
乗ってる人は他にいなかったので、失礼を承知でぐびりと飲んだ。
コンビニで缶ビールとホットスナック、ワンカップと月餅を買って大正解だった。

404名無しさん:2020/12/02(水) 17:16:26 ID:T0GOC9/A0
ガタンガタン
小さく揺れる車体、窓から見える長閑な景色。
お酒の力もあってかぼんやりしてしまう。

あの屋敷は大きい。
多分、沢山の人間が働いていたはず。
何故誰もいないのか。
何故主人は言いたくないのか。

本当に聞いても良いことなのだろうか。
私にだって聞かれたくないことはある。
拒絶されるのが怖かったからだ。
あまり良い過去を持っていなかった。

──もしかしたら、主人も同じなのではないだろうか。

自惚れかもしれない。
けれど、もしかしたら、主人も人に拒絶されたくないのではないか。

私と主人は数ヶ月しか過ごしていない。
それでも、主人がどんな人間かは少しだけだがわかっているつもりだ。

甘党で、何でもできて、サプライズが好きで、イベント事も好きで、謎があって、いい歳こいてわりと頑固で、何かを抱えているくせに重たいことをサラッと言ってきて、

どこか温かくて、優しい。

そんな人だ。
だから私は、もういいと思った。
主人が聞きたかったら私のことを答えようと思った。

私はずるいのだ。
ずるくて良い、知りたかった。
主人のことを、知りたかった。
主人と、話がしたいのだ。

405名無しさん:2020/12/02(水) 17:16:57 ID:T0GOC9/A0




それすらも拒絶されるなら──、


(゚、゚トソン(その時は……)



その時だ。




.

406名無しさん:2020/12/02(水) 17:17:39 ID:T0GOC9/A0



(゚、゚トソン「はあ、なんと立派な門構え」

メモに書かれた住所はここのはずだ。
なるほど、送られてきた野菜や果物はここで作られたのだとわかる。
お家の隣に広い畑があり、庭にも沢山の植物が…

( ・∀・)「おや?」

( ・∀・)「珍しい、覗きの方ですか?」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「あ、ちが…」

違わない事はないけれど違う。
と言おうとして口籠る。
確かに覗いてはいたけれど…

407名無しさん:2020/12/02(水) 17:18:03 ID:T0GOC9/A0



(゚、゚トソン「決してやましい人間ではありません!」

( ・∀・)「皆そういうんだよね…」

( ・∀・)「僕の奥さん美人で素敵だから覗きたくなる気持ちわからなくはないけどね?まぁ冗談は置いておいて、お嬢さん何か御用?」

(゚、゚トソン「あ、あの蛯沢さまいらっしゃいますか」

( ・∀・)「ん?僕、蛯沢さんだよ」

(゚、゚トソン「いえ、蛯沢でぃ様…」

(#゚;;-゚)「アナタ、お家の前で何を騒いでいるんです…」

(゚、゚トソン「あ」

(#゚;;-゚)「あら」

( ・∀・)「ああ、この人、君に用がある覗きの方だよ」


少し想像していた再会とは違った。

408名無しさん:2020/12/02(水) 17:18:40 ID:T0GOC9/A0


(゚、゚トソン「今思えばアポ取っておけばよかったですね…人を訪ねるのは初めてで、すみません」

(#゚;;-゚)「良いの、良いの。こちらこそ人が訪ねてくるのが久しぶりで、うちの人が浮かれちゃってごめんなさいね」

(゚、゚トソン「いえ…」

主人の屋敷も広いが、こちらのお家も広い方だと思う。
私自身、狭いところにしか身を置いてこなかったので少し落ち着かない。

(#゚;;-゚)「それで、どうしたのかしら」

初めて会った時も思った事だが、この人の背筋がピンとなるような空気と、温かい感じが何か懐かしい。
何でも話してしまいそうになる。

(#゚;;-゚)「あら、あらあら」

(;、;トソン「…あれ、何で泣いてるんだろう私」

(#゚;;-゚)「……長旅で疲れたのもあるんでしょう。大丈夫、ゆっくりでいいですよ」

(;、;トソン「ずみばぜん、ありがどうございばす…」

409名無しさん:2020/12/02(水) 17:19:07 ID:T0GOC9/A0



気付かないうちにずっと気が張っていたようで、第三者を前にして緩んでしまったようだ。
ポロポロと溢れる嗚咽とともに、拙いながらもこれまでの経緯を話した。
でぃ様は静かに聞いてくれた。

ああそうか、『お母さん』みたいな安心感があるんだこの人──


.

410名無しさん:2020/12/02(水) 17:19:37 ID:T0GOC9/A0



(#゚;;-゚)「結論から言うと、坊ちゃんが話さないことを、私から言うことは出来ないです」


でぃ様の言葉に、少しだけ呆けてしまった。
変な顔をしてしまったのか、でぃ様は申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。


(#゚;;-゚)「そうよね、ここまで来てくれたのに。話をしないなんて酷よね」

(#゚;;-゚)「ごめんなさい」

(゚、゚トソン「あっ、いえ!ちが」

(゚、゚トソン「……違くて、ちょっとほっとしたんです」

(#゚;;-゚)「…?」

.

411名無しさん:2020/12/02(水) 17:20:10 ID:T0GOC9/A0

(゚、゚トソン「飛び出してきたは良いけれど、きちんと考えてなかったんです。」

(゚、゚トソン「しゅじ…デミタス様がお部屋から出てくるような、何かヒントを得られれば良いなと思ってましたが、確かにでぃ様の口から聞くのは、違う気がします」

(゚、゚トソン「私は、主人の口を割らせる最終兵器のようなものをご存知かどうか、それが聞きたかっただけですので、でぃ様がそういったことで申し訳なく思う必要はないんです!」

(#゚;;-゚)「ふっ」

(#゚;;-゚)「ふふふ…」

(゚、゚トソン「?あの…」

(#゚;;-゚)「良かったわ。坊っちゃんはいい人がそばに居てくださったのね」

(゚、゚トソン(果たしてどうだろう)

でぃ様はころころとそれは楽しそうに笑っていた。
ひとしきり笑い終わって、ちょっとごめんなさいと席を立った。
帰って来たでぃ様の手に、小さなノートとメモがあった。

(#゚;;-゚)「私が教えられるのは、二つだけ」


.

412名無しさん:2020/12/02(水) 17:20:50 ID:T0GOC9/A0



++++++++


(#゚;;-゚)「本当に泊まらなくて良いんですか?」

(゚、゚トソン「すみません、本当めちゃくちゃ超絶泊まりたいです。ご相伴にもおあずかりしたいし、なんなら今すぐにでも寝たいのですが」

(゚、゚トソン「主人があの屋敷に、ひとりぼっちなもので」

(#゚;;-゚)「…また是非来て、その時はお泊まりしていってね」

(゚、゚トソン「はい、絶対」

これほど後ろ髪引かれるのは、お高いお酒買うのをやめた時以来だ。
でぃ様の温かい人柄に、つい甘えてしまいそうになる。
人の作ってくれたご飯も久々すぎるので味わいたかった。
でもダメなのだ。
私はその誘惑を振り切ってでも、帰らないといけない場所がある。
話さないといけない人がいる。

.

413名無しさん:2020/12/02(水) 17:21:23 ID:T0GOC9/A0



( ・∀・)「駅まで送るよ」

(゚、゚トソン「ありがとうございます」

( ・∀・)「僕の奥さん、素敵でしょう」

(゚、゚トソン「はい、とっても」

( ・∀・)「盛岡くんはもう一人のうちの子だと思ってるんだ」

( ・∀・)「今度来るときは、引っ張ってでも一緒に来たら良いよ」

(゚、゚トソン「……はい」


そのためにはまずは部屋から、引っ張りだせねば。

.

414名無しさん:2020/12/02(水) 17:21:57 ID:T0GOC9/A0


++++++++

屋敷だ。
大きい。
立派だ。
帰ってきた。

この門に貼り紙がされていた。
それを見て働こうと思った。
ただそれだけの、単純な繋がりだ。

蛯沢夫妻のように、深い愛情があるわけでも
雑魚のように、強く慕っているわけでもない

ただこの先も、あの人にお菓子を作って美味しいと言われて
楽しく働きたいと思うくらいには、情はある。

充分だろう。

(゚、゚トソン「よっし!やるか!」

屋敷に入ってすぐキッチンへ向かった。

もう夜だ。
何時間もの電車の旅を1日でやるものではない。
なんならもう明日でも良いのでは?と脳内の悪い自分が言ったけど、無視した。



++++++++

415名無しさん:2020/12/02(水) 17:22:42 ID:T0GOC9/A0

(゚、゚トソン「しゅーじーんくーーん!」

(゚、゚トソン「あっそびーまーしょーーーー!!!」

主人の部屋のドアの、右下を蹴り上げる。
フッカフカのスリッパを入ってなかったらヤバかったであろう音と共に、ドアが勢い良く開いた。

(;´・_ゝ・`)「!??」

(゚、゚トソン「とりあえず面倒なんで、色んなあれこれ置いておいて」

(゚、゚トソン「リビング来てください。ケリをつけましょう」


ドアに蹴りを入れただけに、と上手いことを思ったけれど、足の痛みとドキドキとうるさい鼓動のせいで言えなかった。






つづく

416名無しさん:2020/12/02(水) 17:25:29 ID:hd9.FFSw0


本日の投下は以上です
お休み中もコメントくださった方ありがとうございます
デミタスは長い自粛をし、トソンは甘酒のレシピを聞き忘れました

長い間投下できなかったお詫びにトソンのメモを貼っておきます
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2640.png

ありがとうございました

417名無しさん:2020/12/02(水) 17:37:24 ID:mCK7rCOM0
おお、ゆっくり頑張って下さい

418名無しさん:2020/12/02(水) 17:46:39 ID:ZFpzPRp.0
おおお乙

419名無しさん:2020/12/02(水) 21:56:47 ID:xc2dbHsw0
更新嬉しい、乙

420名無しさん:2020/12/03(木) 03:50:52 ID:56ysnCtQ0
復活ありがとうー!

421名無しさん:2020/12/03(木) 12:53:27 ID:YxAhIiCc0
生きてたのか!

422名無しさん:2020/12/03(木) 13:41:29 ID:8toF8V6g0
一気に読んでしまった……トソンのメモ微笑ましいな

423名無しさん:2020/12/03(木) 17:44:11 ID:RVQ/aa7s0
ふと思い出して10か月ぶりぐらいで覗きに来たら…まさかの昨日更新とは!
ずっと待ってました、無理せずゆっくり続きをお願いします!

424名無しさん:2020/12/04(金) 02:38:56 ID:oN6MBkgg0
こういうことがあるからブーン系はやめらんねぇんだ!

425名無しさん:2020/12/08(火) 11:17:21 ID:h1EImkwg0
まってたよー!
更新嬉しい!
トソンちゃんがんばれ〜
デミもがんばれ〜

426名無しさん:2020/12/12(土) 11:28:25 ID:z9St..oc0
続き楽しみ
待ってて良かった

427名無しさん:2020/12/24(木) 22:43:09 ID:4683Z4Wc0



番外編: ザコにもクリスマスはやってくる



.

428名無しさん:2020/12/24(木) 22:43:53 ID:4683Z4Wc0

【クラブAA】


ζ(゚ー゚*ζ「こんばんはー♪久しぶりに会えて嬉しいよ〜!」

(*^ν^)(天使……)

(;*^ν^)つ@「あ、お、俺も……。あの…これ、プ、プレゼント…!」

@ζ(゚ー゚*ζ「え?クリスマスプレゼント?わー!ありがとう!」

@ζ(゚ー゚*ζ「お菓子?かな?嬉しいー!!」

(*^ν^)(女神……)

(;^ν^)「シュトーレン?って言ってた…て、手作り、らしい…」

〆ζ(゚ー゚*ζ シュルシュル「そうなの?美味しそう!さっそくいただくね!」

(;^ν^)「え」


爪'ー`)y- 「失礼しますシンデレラさん、お電話が入ってます」

ζ(゚ー゚*ζ「え?誰だろ…ごめんなさいっ、ちょっと待っててね!」

( ^ν^)「うん」

429名無しさん:2020/12/24(木) 22:44:43 ID:4683Z4Wc0


ζ(゚ー゚*ζ「あれ?フォッさんお電話は?」

爪;'ー`)y- 「お馬鹿、電話なんて嘘!シンデレラちゃんダメよ!持ち込みも金品以外は禁止だし、何より客の手作りなんて絶対口にしちゃダメよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「韮塚さんは変なことするようなお客様じゃないよ」

爪;'ー`)y- 「何かあってからじゃ遅いんだから!」

ζ(゚ー゚*ζ「むー…」

ζ(゚ー゚*ζ「…フォッさんっ!お願い!韮塚さんがああいう風にプレゼントくれるの初めてなのっ」

ζ(゚ー゚*ζ「嬉しい気持ちをせいいーっぱい伝えたいから、お願い!」

爪;'ー`)y- 「んんんんもぉ〜!その顔に弱いの知っててずるいっ!」

爪;'ー`)y- 「何か変な臭いがしたり味がしたらすぐぺっするのよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「うんっ!ありがとうフォッさん!大好き!」

爪*'ー`)y- 「そういうのはお客に言いなさい」

430名無しさん:2020/12/24(木) 22:45:08 ID:4683Z4Wc0

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしてごめんね!」

(;^ν^)「い、いや、忙しい時期だろうし…し、仕方ないっていうか…今指名できただけで嬉しい…し…です…」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

(;^ν^)「……?」

(;*^ν^)つ⊂ζ(゚ー゚*ζぎゅー

(;*^ν^)「!???ありがとうございます!?」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ、なんかぎゅーってしたくなっちゃった♪あ、お菓子いただくね!」

ζ(゚ー゚*ζもぐ

爪'ー`)y- (大丈夫かしら……)

431名無しさん:2020/12/24(木) 22:45:45 ID:4683Z4Wc0


ζ(゚ー゚*ζ「あ…」

ζ(゚、゚*ζ

ζ(;、;*ζ

(;^ν^)「えっえっえっごごごごめ、ごめんなさい!?どど、どうし…!」

爪#'ー`)y- 「だから言っ…!!」

ζ(;、;*ζ「ち、ちがうの、ごめん…ごめんねびっくりしたよね」

ζ(;、;*ζ「お、美味しいの…それで、何でかすっごく懐かしくて…」

ζ(∩、⊂*ζごしごし

ζ(゚、゚*ζ「…」

ζ(゚ー゚*ζ「…韮塚さん、美味しいお菓子をありがとう」

ζ(゚ー゚*ζ「作ってくれた人にも、お礼言っておいてもらえるかな」

(;^ν^)「……う、うん…」

432名無しさん:2020/12/24(木) 22:46:14 ID:4683Z4Wc0

××××××


爪'ー`)y- 「もー今日は焦ったわよ…本当に何でもなかったのよね?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、ごめんねフォッさん」

爪'ー`)y- 「次からは絶対ダメだからね!あとさっきの一口ちょうだい、今更だけど毒味するわ」

ζ(゚ー゚*ζ「だーめ!これは私のだから!」

爪'ー`)y- 「…わかったわよ…」

爪'ー`)y- 「そういえばシンデレラちゃん、明日お休みよね?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、プレゼント買いに行こうかなぁって」

爪'ー`)y- 「なぁにぃ?お客?それとも王子様見つけた?」

ζ(^ー^*ζ「ひみつ♪」


ζ(゚ー゚*ζ「……懐かしい味だったなぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「元気かなぁ…トゥインクルちゃん」

ζ(゚ー゚*ζ「さて!早く寝て明日は韮塚さんへのお返し買いに行くぞー!」

433名無しさん:2020/12/24(木) 22:47:54 ID:4683Z4Wc0


以上です。短いけどありがとうございました。
ザコはクリスマスデート誘いそびれてるし連日通うお金と度胸はないのでクリぼっちです。

皆様は良いクリスマスを!

434名無しさん:2020/12/24(木) 22:49:42 ID:Dw9GiWIY0
乙乙乙!!!
心温まるクリスマスプレゼントをありがとう

435名無しさん:2020/12/24(木) 22:54:05 ID:.eQGqZ8c0
おつくり

436名無しさん:2020/12/25(金) 03:33:45 ID:z3uX09d20
シンデレラちゃん〜

437名無しさん:2020/12/25(金) 03:34:09 ID:z3uX09d20
シンデレラちゃん〜

438名無しさん:2020/12/25(金) 17:04:31 ID:Tc5hoQOc0
デレトソ尊い

439名無しさん:2020/12/25(金) 18:17:40 ID:wx/qAWdM0
更新来てた!おつ!!

440名無しさん:2020/12/26(土) 01:16:15 ID:fSqkE3Ik0
うおおお聖夜にいいものを見た……

441名無しさん:2021/02/02(火) 14:00:50 ID:r/5NL4oE0
更新乙!

442名無しさん:2021/03/02(火) 22:22:46 ID:c74JLiP.0






12.朴念仁な隣人は話が長い






.

443名無しさん:2021/03/02(火) 22:23:09 ID:c74JLiP.0





(´・_ゝ・`)デミタス。雇用主のはずだがドアを使用人に蹴られた。


(゚、゚トソン トソン。ドアを蹴りとばした足先が痛い使用人。



.

444名無しさん:2021/03/02(火) 22:23:42 ID:c74JLiP.0


(゚、゚トソン「小麦粉とベーキングパウダー、あと重曹をふるい合わせます」

(゚、゚トソン「こんな粉粉したものが素晴らしいお菓子になるんだから、凄いですよね」

(゚、゚トソン「シナモンも混ぜて置いておきます」

(゚、゚トソン「卵ときび砂糖を混ぜて、オリーブオイルを加えてさらに混ぜます」

(゚、゚トソン「きび砂糖を見ると何故かうっすら桃太郎を思い出しますね、わかるかなこれ」

∬⊂(゚、゚トソン「でぃさまから頂いたコレをひたすら擦り下ろして入れます」

(゚、゚トソン「先程の粉と混ぜ混ぜします」

(゚、゚トソン「180度のオーブンでブンします」

(゚、゚トソン「これが、でぃ様から教わった最終兵器です」

小さなメモを見る。
でぃ様が書いてくれたレシピ。

445名無しさん:2021/03/02(火) 22:24:32 ID:c74JLiP.0



(#゚;;-゚)『私が教えられることはこのレシピと、あとは』

(#゚;;-゚)『坊っちゃんの部屋のドアは、右下を蹴り上げると開く、という事だけですね』

(#゚;;-゚)『何も出来なくて申し訳ないけれど、坊っちゃんをよろしくお願いします』



(゚、゚トソン(ありがとうございます、でぃ様。)

オーブンからいい匂いがしてきて、何故だか無性に泣きそうになった。


.

446名無しさん:2021/03/02(火) 22:25:10 ID:c74JLiP.0

コトン。

焼いたばかりのキャロットケーキをテーブルの上に置く。
熱々の紅茶も。

部屋から引っ張り出した主人を無理矢理リビングへ連れてきて、椅子に座らせた。
あまりの強引さに圧倒されたのか諦めたのか、大人しくしていた主人が、キャロットケーキに気付いて少しだけ口元を緩ませている。


(´・_ゝ・`)「美味しそう…懐かしい匂いだ」

(゚、゚トソン「でぃ様がレシピを教えてくださったんです。にんじんも頂きました」

(´・_ゝ・`)「……そう、でぃさんのとこに行ってたんだ……」

(;´・_ゝ・`)「…えっ、でぃさんのとこに日帰りで行けたの??わりと遠いよねフットワーク軽いね?」

(゚、゚トソン「自分でもそう思います、せっかくでぃ様が泊まっていい、食事も出すからと言ってくださったのを泣く泣く、本気で泣きながら断ったんですよ、主人のために」

(´・_ゝ・`)「それは…申し訳ないことをしたね」

(´・_ゝ・`)「本当に……部屋に閉じこもったりして申し訳ない」

(゚、゚トソン「本当です。…と言いたいとこですが主人にもいろいろあるのでしょうから、まぁ、今日のところは許しますよ」

(´・_ゝ・`)「…はは、本当に君は…」


主人の笑顔を久々に見た気がした。

447名無しさん:2021/03/02(火) 22:25:49 ID:c74JLiP.0



(´・_ゝ・`)「……この屋敷に何があったか知りたい、だっけ」

(´・_ゝ・`)「トソン君が気にするとは思わなかった。お酒しか興味ないんだと」

(゚、゚トソン「あながち間違いではないですね」

(´・_ゝ・`)「はは。…うん、いいよ。そんなに楽しい話ではないけど、聞いてくれるかな」

(゚、゚トソン「……はい」

(´・_ゝ・`)「…あのさ、話、長くなりそうだから、トソン君も座って一緒に食べない?」

主人は観念したようだった。
最終兵器は最強だった。

448名無しさん:2021/03/02(火) 22:26:16 ID:c74JLiP.0

(゚、゚トソン「…でしたら、ペアリングも用意しましょう。丁度主人用に紅茶を淹れましたのでそちらを使います」

カチャリ、カップの上にスプーンを置いて角砂糖を乗っける。
ブランデーを上から少しだけ注いだ。

(´・_ゝ・`)「ねぇ今ポケットからお酒出てこなかった?」

(゚、゚トソン「ここからが素敵なので黙って見ててください」

(´・_ゝ・`)「はい」

ライターで火をつける。アルコールが燃えて、静かに青い火が灯った。

(´・_ゝ・`)「わぁ、綺麗だね」

(゚、゚ドヤン「でしょう。ティー・ロワイヤルと言います」

火が消えるのを見届けて、溶けた砂糖をカップに入れて混ぜる。
スプーンのカチカチいう音だけが、リビングに響いた。

(゚、゚トソン「どうぞ、キャロットケーキも温かいうちに」

(´・_ゝ・`)「やぁ、いい匂いだ。いただきます」

449名無しさん:2021/03/02(火) 22:26:55 ID:c74JLiP.0



でぃ様にもらったメモに書かれていたのは、素朴なキャロットケーキのレシピだった。

グローブやカルダモンなどのスパイスは入っておらず、チーズフロスティングも乗っていない。
それでも人参とシナモンの良い香りが鼻を擽る。

フォークで一口分切り分けると、ゴロリと胡桃が顔を覗かせる。
口に入れるとまだほのかに温かく、ふんわりとした中にある胡桃の食感が楽しい。
人参の優しい甘さに笑みが溢れる。
何日か寝かせてしっとりとさせても美味しそうだ。

ティー・ロワイヤルも続けて一口。
ブランデーの香りが大人な気持ちにさせてくれる。温かい紅茶が喉を通り、ひと息つく。
なんて贅沢な時間だろう。

450名無しさん:2021/03/02(火) 22:27:36 ID:c74JLiP.0

(゚、゚トソン「美味しいですね、流石でぃ様のレシピです」

(´・_ゝ・`)「…でぃさんは、何も話さなかったんだね」

(゚、゚トソン「ええ、主人が話さないことを、自分が話すわけにはいかないと」

(´・_ゝ・`)「でぃさんらしい。……このレシピはね、でぃさんが作ったわけじゃないんだ」

(´・_ゝ・`)「僕、にんじんが嫌いだったんだよね」

主人はぽつりぽつりと、静かに話し出した。

(´・_ゝ・`)「…僕は生意気な子どもだったんだけど」

(゚、゚トソン(なんとなくわかります)


私は、主人の話を邪魔せず聞く事にした。


.

451名無しさん:2021/03/02(火) 22:29:00 ID:c74JLiP.0

++++



母は身体が弱い人で、僕を産んだ時に亡くなった。
母を溺愛していた祖父は身体を壊してずっと寝たきり
僕の小学校入学の前日についに亡くなり、
入婿だった父は祖父の会社を引き継いで多忙の日々。
家に帰ることは少なかった。

昔から働いていた使用人達はよく言っていたよ、僕に近寄ると良くないことが起きるって。

だから僕の面倒を見たがる使用人はいなかったんだ。
でぃさん以外はね。

452名無しさん:2021/03/02(火) 22:29:21 ID:c74JLiP.0

(´・_ゝ・`)「ねぇ、何でおかずににんじん入ってるの?入れないでって言った!」

(#゚;;-゚)「にんじんは美味しいですよ坊っちゃん、召し上がってみてください」

(´・_ゝ・`)「嫌だ!だいたい僕、でぃ以外が作ったもの食べたくないって言ってるじゃん!」

でぃさんは厳しいところもあるけど、温かくて優しい人だった。
家族より遥かに長い時間を過ごしたし、僕に沢山のことを教えてくれた。
だから変な甘えが出始めた小学校低学年の辺りは、本当に大変だったと思う。でぃさんにとって僕はただの他人だったし。

何よりでぃさんにも家庭があった。
ずっと僕の面倒を見ているわけにもいかなかったんだ。

453名無しさん:2021/03/02(火) 22:29:53 ID:c74JLiP.0



(#゚;;-゚)「そうは言っても、私はもうすぐ産休に入りますから、他の方に引き継ぎしないといけません」

(´・_ゝ・`)「何で勝手にお休みするの?でぃ以外の人なんて嫌いだ、絶対嫌だ!」

(#゚;;-゚)「あまりわがままを…」


そんな時だった。


('、`*川「こんにちは!」

(;´・_ゝ・`)「……は?」


彼女に初めて会ったのは。

454名無しさん:2021/03/02(火) 22:30:16 ID:c74JLiP.0

(#゚;;-゚)「あら伊藤さん」

('ー`*川「お疲れ様です、でぃさん」

(;´・_ゝ・`)「なに、だれ」

('、`*川「初めまして。今日からデミタス様に仕えます、伊藤ペニサス17才です!」

(;´・_ゝ・`)「聞いてない、やだ!でぃが良い!何でこんな人…」

('、`*川「でぃさんが良いですよね、わかりますよ。優しいし、温かいし、とっても良い人、素敵な人。私もでぃさん大好きです」

(´・_ゝ・`)「なに…」

('ー`*川「でぃさんのように完璧に出来るかはわからないけど、頑張ります」

(;´・_ゝ・`)「う…」

(#゚;;-゚)(あの坊っちゃんが圧倒されている…)

455名無しさん:2021/03/02(火) 22:30:46 ID:c74JLiP.0

('、`*川「それで、何を騒いでいたんです?」

(#゚;;-゚)「坊っちゃんは好き嫌いが多くてちょっと……手がかかりますがよろしくお願いします」

('ー`*川「はい!」

(´・_ゝ・`)「勝手に話進めないで!」

('、`*川「にんじんがお嫌いなら、ケーキにしましょうか」

(´・_ゝ・`)「にんじんのケーキ…?何それ変なの…だいたい甘いものも僕は嫌い」

('、`*川「そうなんですね、じゃあちょっと模索してみます。ちなみに、お好きなものはなんですか?」

(´・_ゝ・`)「…ないよ」

('、`*川「…じゃあ、私がお探ししますね」

(´・_ゝ・`)「は?」


('ー`*川「一緒に、デミタス様のお好きなもの、お探ししますよ」

(;*’・_ゝ・`)「何それ。変な人」

456名無しさん:2021/03/02(火) 22:31:26 ID:c74JLiP.0


伊藤ペニサスという人は不思議な人だった。

生まれつき身体が弱く、働き口がなかなか見つからないところ、でぃさんに会ってうちの仕事を紹介されたらしい。
うちはそれまで若い使用人がいなかったから、とても目立っていた。


(#゚;;-゚)「伊藤さんに無茶言ってはいけませんよ、坊っちゃん。身体が弱いそうなので、無理をさせないようにしてくださいね」

(´・_ゝ・`)「無茶なんて言わないし…」

(´・_ゝ・`)(身体弱いの、お母様と一緒だな…)

('ー`*川「デミタス様、一緒にお屋敷探検しませんか!」

(;´・_ゝ・`)「!?」

身体が弱い、
全然そんな風には見えたことはなかった。
いつも楽しそうに働いていて、せっせと仕事をこなしていた。

彼女は何かを作るのが好きで、僕の食事だけではなく他の使用人達の食事も作ったりしていた。
昔は料理人も何人かいたんだけど、僕がでぃさんが作ったものしか食べなかったから辞めちゃってて、キッチンは彼女の城みたいになってたよ。

457名無しさん:2021/03/02(火) 22:32:11 ID:c74JLiP.0

('、`*川「デミタス様、かき氷召し上がりますか?」

(´・_ゝ・`)「何それ」

('、`*川「……お祭りとかでよく売ってる、氷を砕いてシロップをかけたものです」

(´・_ゝ・`)「…お祭り行ったことないからわかんない」

('ー`*川「あ、じゃあ行きますか?来週近くでありますよ」

(´・_ゝ・`)「…行かない」

本当は行ってみたかった。
クラスの子たちも行くと言っていた。
騒がしくて、楽しそうなお祭りの音を毎年耳にしては羨ましかった。
でも僕は行く資格も何も無いと思っていたんだよ。

('、`*川「……」

('ー`*川「じゃあかき氷作りますね!それで毎年一緒に食べるんです、良いでしょう?」

(´・_ゝ・`)「毎年…」

(´・_ゝ・`)(この人、来年もいるつもりなんだ)

(*´・_ゝ・`)「……やぶさかではない」

('ー`*川「どこで覚えたんですかそれ」

458名無しさん:2021/03/02(火) 22:32:44 ID:c74JLiP.0


ある時、彼女が声を荒げて部屋に入って来たことがあった。

('、`;川「デミタス様!何でこれ…っ、捨てられてましたけどどうしたんですか!」

手には僕が捨てたトロフィーや賞状の束。誰かに捨てられたと思ったのか、大事そうに抱えていた。

(´・_ゝ・`)「どうしたって…いっぱいあると邪魔になるから…どうせまたすぐいっぱいになるし…」

珍しく目をパチクリさせる彼女。

('、`;川「すぐ?でもこれ絵画だけのとかじゃなくて、色んな表彰で…」

(´・_ゝ・`)「僕はお祖父様に似てるから、何でも人並み以上に出来ちゃうんだって
だから何かで1位を取ったり、そういうのを貰ってくるのは珍しくないよ」

('、`;川「…えええ…すごいじゃないですかそんなの…」

(´・_ゝ・`)「うん、お祖父様はすごかったみたいだね」

祖父と直接話したことはなかった。
僕の顔は母に似ていたらしくて、僕を見ると祖父は悲しんで具合を悪くするからと会わせてもらえなかった。

才能は祖父、顔は母、屋敷も、金も、物も全部人のもの。僕のものは何もない。

459名無しさん:2021/03/02(火) 22:33:16 ID:c74JLiP.0

('、`川「いえ、デミタス様がですよ?」

(´・_ゝ・`)「え?」

('、`川「似てるからってなんだって言うんです。私は母に似てるとよく言われますが、母は母、私は私です。母が成し遂げたことは母の功績。私の身体が弱いのは誰のせいでもない」

('、`川「デミタス様が絵が上手だったり、工作が得意だったり、文章を書けるのはデミタス様の力です。
─デミタス様の特技も、デミタス様のものですよ」

(´・_ゝ・`)「……」

('、`*川「うーん……2日ください」

(´・_ゝ・`)「え?」

何か考え込みながら彼女は部屋を出て行った。

460名無しさん:2021/03/02(火) 22:34:13 ID:c74JLiP.0


('、`*川「デミタス様、お庭に来てください」

(´・_ゝ・`)「なに?」

宣言通り2日が経って、彼女は僕を庭に連れ出した。
そんなに狭く無い庭は、庭師によって綺麗に整備されている。
はずなのだけど、一角だけ不自然に土が盛り返した場所があった。
そしていくつかの苗。

('ー`*川「これはですね、デミタス様の身のお世話をして初めて頂いたお給料で買った、薔薇の苗です」

('ー`*川「そしてこのスペースは自由にしていいと庭師の方に許可をもらいました!」

(´・_ゝ・`)「…育てるの?」

('ー`*川「はい、ゆくゆくは素晴らしい薔薇のアーチにする予定です!」

('、`*川「宜しいですか、デミタス様のお世話をして得た報酬で買ったもの……つまり私とデミタス様の共同で手に入れたものと言えます」

(;´・_ゝ・`)(言えるかな…)

('ー`*川「これで一つ、この屋敷にデミタス様のものが増えました」

(´・_ゝ・`)「!」

('ー`*川「無いことはないですが、デミタス様が無いと思うのなら作ってしまえばいいんです。あの賞状やトロフィーも飾りましょう。それで、デミタス様のをたくさん増やすんです」

(´・_ゝ・`)「…僕のものをつくる…」

(*´・_ゝ・`)「そっか」

('ー`*川「はい」


僕は彼女に惹かれていった。
憧れに近いものもあったのかもしれない。

461名無しさん:2021/03/02(火) 22:35:08 ID:c74JLiP.0



彼女が働き始めてしばらくして、でぃさんが無事に出産したと連絡があった。

('ー`*川「デミタス様!聞きましたか?今度のお休みの日にでぃさんのお見舞いに行こうと思うのですが、ご一緒にどうですか?」

(´・_ゝ・`)「僕はいいよ」

('、`;川「えー!」

(´・_ゝ・`)「だって僕が近寄ると良くないこと起きるし…」

('、`;川「デミタス様…」

('、`;川「厨二…?」

(;´・_ゝ・`)「違うよ!」

462名無しさん:2021/03/02(火) 22:35:30 ID:c74JLiP.0

彼女は使用人達の噂話を聞いたことが無かったようだった。
自分の口から言うのも変だと思ったけど、説明すると眉をこれでもかと顰めた。

('、`#川「誰です、そんなこと言うのは!」

(;´・_ゝ・`)「誰っていうか…でぃ以外の人はだいたい言ってる」

('、`#川「本当に、本当にくだらない!デミタス様、絶対にそんなことはありませんからね、気にしなくていいです!」

あんなに僕のことで怒る人をでぃさん以外に見たことなくて、少し気圧された。

(´・_ゝ・`)「……ありがと…でも、でもいいや。僕とでぃは所詮家族じゃないし、でぃも自分の子ども見るので手一杯で、僕のことなんて構ってられないよ」

('、`*川「……そう、ですか」

463名無しさん:2021/03/02(火) 22:36:04 ID:c74JLiP.0

('、`*川「…どうですかデミタス様、そちらのキャロットケーキは」

(´・_ゝ・`)「……美味しい」

('ー`*川「…そうでしょう」

(*´・_ゝ・`)「にんじん美味しいね」

(*´・_ゝ・`)「僕これ好き」

('ー`*川「ようやく一つ見つけたました、デミタス様の好きなもの」

試作50品目で、ようやく僕がにんじんを美味しいと思えるキャロットケーキができた。
食べているのは僕なのに、彼女は本当に嬉しそうな顔で僕を見ていた。僕は何か気恥ずかしくて下を向きながら食べた。

(´・_ゝ・`)「…美味しかった…ごちそうさまでした」

('ー`*川「良かったです」

464名無しさん:2021/03/02(火) 22:36:34 ID:c74JLiP.0

('、`*川「ところで来週また、でぃさんのお見舞いに行こうと思うのですが」

(´・_ゝ・`)「…いってらっしゃい」

('、`*川「デミタス様は先日勘違いされてました。でぃさんはもうデミタス様に構ってられないと」

(´・_ゝ・`)「勘違いじゃないよ」

('ー`*川「いいえ、勘違い。だってでぃさんは今もデミタス様のこと気にされています」

('ー`*川「今召し上がったキャロットケーキのにんじんは、でぃさんが作ったものなんですよ」

(´・_ゝ・`)「え?」

('ー`*川「でぃさんのおうちに行ってびっくりしました、お庭が畑なんですよ。聞いたら『坊っちゃんの野菜嫌いを無くすために、美味しい野菜を作りたくて』って、産休に入られる前から計画していたんですって」

(´・_ゝ・`)「でぃ…」

('ー`*川「来週、一緒に行きましょう。にんじん食べられるようになったご報告も兼ねて」

(´・_ゝ・`)「……うん」

姉のように、母のように、時には友達のようで先輩のように彼女は優しく温かく見守ってくれた。

465名無しさん:2021/03/02(火) 22:37:04 ID:c74JLiP.0

彼女が働き始めて10年近く経った。

毎年かき氷を作って一緒に食べてくれた。
色んな行事を教えてくれ、共に楽しんでくれた。
その頃父の会社も軌道に乗っていて、忙しさもピークを越していたと思う。それでもほとんど家に帰って来なかったけど。

('、`*川「失礼します、デミタス様。お紅茶お持ちしました」

(´・_ゝ・`)「ありがと」

僕は高校生だった。
彼女、ペニサスは10年経ったのにあまり変わらなかった。
いつもハキハキ働いていて、僕はもうその頃は彼女のことを意識してた。
…この辺りのこと、詳しく言わなくてもいいかな?
駄目?そう…恥ずかしいんだけどな…。

466名無しさん:2021/03/02(火) 22:37:33 ID:c74JLiP.0


相変わらず他の使用人は僕に近寄りはしなかった。
ペニサスだけが僕の世話をしてくれていた。
だから仕方ないんだけど、意識してる人間と部屋に2人になるってだいぶ心臓が痛かったよ。

なんだか胸が熱くて、誤魔化すように気になったことを口にしてみた。

(´・_ゝ・`)「…ペニサスは何かやりたいこととかある?」

キョトンとした顔の彼女。
唐突すぎたかな、と思った。

('、`*川「やりたいことですか」

(´・_ゝ・`)「学校で進路希望の紙もらったんだ。でも書くことがなくて」

467名無しさん:2021/03/02(火) 22:38:07 ID:c74JLiP.0

('、`*川「…私は…いっぱいありましたよ、翻訳家、作家、絵本作家、画家、陶芸家…」

(´・_ゝ・`)「本当にいっぱいだね」

('、`*川「お家の中で、自分が作ったものが誰かを幸せにできるんです。素晴らしいですよね」

(´・_ゝ・`)「…やればいいのに」

('、`*川「…保険適用外の薬って、1ヶ月分が数万だったりして。お金が必要なんです。」

('、`*川「私には時間も余裕も、才能もないので」

(´・_ゝ・`)「……」

そんなことない、と否定するのも違う気がして口籠ってしまった。

('ー`*川「……なーんて、今はデミタス様のお世話をするのが楽しいのでそれで満足なんですよ!」

(´・_ゝ・`)「……あのさ」

(´・_ゝ・`)「また作って。キャロットケーキ…」

('、`*川「……」

('ー`*川「はい」

『満足』というのは痩せ我慢だったと思う。
彼女の家は母子家庭で余裕がなかったと、他の使用人たちが噂しているのを聞いたことがあった。
うん、あまり良い人達ばかりじゃなかったんだよ昔は。
噂話ばかりしてて、子どもの僕の耳にまで届いてたぐらいだからね。

468名無しさん:2021/03/02(火) 22:38:44 ID:c74JLiP.0



大学4回生の年、彼女の誕生日にプロポーズをしたんだ。
それはもう、驚かれたけど。

('、`*川「今なんておっしゃいました?」

(´・_ゝ・`)「君を幸せにします。僕と結婚してください」

('、`*川「聞き間違いじゃなかった…」

(´・_ゝ・`)「嫌?」

('、`*川「嫌とかの前に…急では?」

(´・_ゝ・`)「サプライズ…」

('、`*川「……」

('、`*川「わたしにとってデミタス様は弟のような、子どものような、友達や良い後輩のようなそんな存在なんですよ、それに10歳も年が離れているし…」

(´・_ゝ・`)「でも、僕のこと嫌いでは無いでしょ」

('、`*川「……」

('ー`*川「…やぶさかではない」

(*´・_ゝ・`)「ふふ」

469名無しさん:2021/03/02(火) 22:39:41 ID:c74JLiP.0



返事はいつまでも待つよと、そう話して。
その次の日に、父が過労死した。


またか、と思った。
きっと僕だけじゃなかったはずだ。
使用人達はヒソヒソと口を忙しそうに動かしていた。
久しぶりに見た父の顔が別人のようで、涙もすぐには出なかったよ。
葬儀もバタバタと終わり、僕は大学を辞めて父の穴埋めとして会社の手伝いをすることになった。
ひと月経つのがあっという間で、今自分がどこに居るのかわからなくなるくらい忙しい、いや急がされてたのかも。

470名無しさん:2021/03/02(火) 22:40:13 ID:c74JLiP.0


( _ゝ )「疲れた」

('、`*川「デミタス様」

( _ゝ )「父が過労死したのがわかるよ、はは
祖父の会社だからさ、なんていうかアウェイなんだ。祖父は父をあまりよく思ってないって使用人さん達言ってた。もちろん僕のことも」

( _ゝ )「押し付けられるんだ、馬鹿みたいな量の仕事。そりゃ1人でやってたら家なんて帰れないよ。僕はうまく逃げてるけどさ」

('、`*川「デミタス様、今言う話では無いかもしれませんが」

('、`*川「先日のプロポーズ、お受けします」

471名無しさん:2021/03/02(火) 22:40:45 ID:c74JLiP.0



彼女の同情だったのかもしれない。
誰も周りにいない僕を可哀想に思ったのかも。
彼女の気持ちはわからないままだけど、僕とペニサスは籍を入れた。
ペニサスはそのまま働きたい気持ちがあったようだけど、他の使用人達も混乱するからと仕事を辞めた。


.

472名無しさん:2021/03/02(火) 22:41:18 ID:c74JLiP.0

(´・_ゝ・`)「ただいま」

('、`*川「おかえりなさい、デミタス様」

(´・_ゝ・`)「ふふ、もう使用人じゃないんだから」

('、`*川「ああ、癖になってしまってるんですよね…ケホッ」

(´・_ゝ・`)「大丈夫?風邪?」

('、`*川「…そうですね、今日は少し冷えましたから」

(´・_ゝ・`)「暖かくして、薬は飲んだ?」

('、`*川「うん…ねぇデミタスさん。私一日中何もすることがないの、申し訳ないわ。やっぱり自分のことは自分でやりますよ」

(´・_ゝ・`)「うーん、すること…あ、君がやりたいって言ってたことをしてみるのはどう?物を書いてみたりさ」

('、`*川「…そうね、何か書いてみようかな」

473名無しさん:2021/03/02(火) 22:42:01 ID:c74JLiP.0


ずっと働いてきたペニサスは、いきなり何もしなくても良いと言う状況にどうして良いかわからないような様子だった。
よく風邪をひいたり身体を壊すようになったから、あまり体を動かして欲しくなくて、身の回りのことは僕から使用人達にお願いした。

たまにでぃさんから連絡は来ていたんだけど、でぃさんも2人目が産まれててんやわんやみたいで、あまり会えてはいなかった。


.

474名無しさん:2021/03/02(火) 22:42:39 ID:c74JLiP.0

('、`*川「デミタスさんは子ども欲しくないの?」

(´・_ゝ・`)「ええ?うーん、いたら楽しいかもしれないけれど。ペニサスがいれば満足だよ僕は。ペニサスは欲しい?」

でぃさんと電話で話した後、ペニサスはよくこの質問をした。
僕は正直言うと怖かった。母のことがあったから、身体の弱いペニサスとつい重なってしまう。

('、`*川「こんなお屋敷に住ませてもらって、こんな私をもらってくれたのに子を残さないのは…」

(;´・_ゝ・`)「ちょっと待って、それ本当にペニサスが思ってるの?誰かに言われた?」

('、`*川「……皆さん仰ってますよ、「使用人がうまくやったな」って」

(#´・_ゝ・`)「誰…いや、何となくわかった。君は気にしなくて良い、そんなことはない、本当にないから」

('ー`*川「ふ、ふふ。昔と反対ですねぇ」

(;´・_ゝ・`)「え…」

('ー`*川「大きくなりましたね…」

反対に、ペニサスは小さく見えた。小さい肩。まだまだ若いのに、か細くて折れてしまいそうだ。
力をあまり入れないように気をつけて、彼女の肩を抱きしめた。

475名無しさん:2021/03/02(火) 22:43:12 ID:c74JLiP.0

昔からいる使用人達を全員首にした。
ペニサスはそんなことしなくて良かったと悲しんだが僕が嫌だった。

数人ほどの使用人を新しく雇った。
前に比べてだいぶ人数を減らしたから、無駄話をするような環境でもなくなって少し安心した。
けれど、ペニサスは良くならなかった。

.

476名無しさん:2021/03/02(火) 22:44:48 ID:c74JLiP.0


(;´・_ゝ・`)「ペニサス、大丈夫?」

('ー`*川「大丈夫です、ただの風邪ですから」

(;´・_ゝ・`)「僕会社休むよ」

('、`*川「駄目ですよ、やっと仕事に慣れて来たって言ってたじゃ無いですか」

(;´・_ゝ・`)「うう…」

('ー`*川「いってらっしゃい」

(´・_ゝ・`)「行ってきます…何かあったら連絡してね」

('ー`*川「はい、あ、デミタス様」

(´・_ゝ・`)「ん?」

('ー`*川「帰ったらまたキャロットケーキ、焼きますね」

(*´・_ゝ・`)「ありがとう、楽しみだ」

477名無しさん:2021/03/02(火) 22:45:31 ID:c74JLiP.0



























.

478名無しさん:2021/03/02(火) 22:46:46 ID:c74JLiP.0


その日、ペニサスは亡くなった。
風邪だと言っていたけど、もうかなり前から病状が悪くなっていたそうだ。
何も知らなかった。
何も聞けなかった。
何も見てなかった。

前の使用人達ならもっと早く気づけたのだろうか。
人を減らさなければ
人がもっといれば気付いてくれたのか?

何で誰も気付いてくれなかった?
いや、まず何で自分は気付かなかった?
彼女を愛していたくせに
何で?
何で
何で

結局やっぱり僕のそばに居ると良くないことが起きるんだ
僕は誰も幸せに出来ない
僕は幸せにはなれない

479名無しさん:2021/03/02(火) 22:47:32 ID:c74JLiP.0



全て庭で燃やした。
彼女の写真、彼女が僕のために飾ってくれてたもの。
唯一、薔薇のアーチは壊せなかったけど。

葬儀に来てくれたでぃさんに止められて、いくつかのものは預かるって持っていってくれたけど、色々捨てた。

会社は他の人に任せて辞め、家に篭った。
会社も何もどうでもよかった。
そもそも祖父や父の遺産でお金には困らなかった。
何もすることが無いと彼女の後を追いそうになるから何かしようと思った。
僕は彼女を追いかける資格もない。

480名無しさん:2021/03/02(火) 22:48:11 ID:c74JLiP.0

ふと彼女の言葉を思い出す。


('、`*川『お家の中で、自分が作ったものが誰かを幸せにできるんです。素晴らしいですよね』

(´・_ゝ・`)「…僕でも誰かを幸せに出来るかな」

(´・_ゝ・`)「なんて、無理だよなぁ」

僕は彼女がやりたいと挙げていた職業で作品を残すことにした。
まだ、誰かの幸せに縋り付きたかったんだ。自分や自分の大事な人たちは駄目だったから。

481名無しさん:2021/03/02(火) 22:48:47 ID:c74JLiP.0


何年か死んだように生きてた。
でぃさんはよく来てくれたけど、誰にも会いたくなくてインターホン越しに会話をするだけだ。
作品を作ってはお金に変え、しばらくしたらまた違う作品を作る。
これが誰かを幸せにしてるとはとても思えなかった。
でもそうすることしかできなかった。

ペニサスの誕生日の日につい我慢出来なくなって、会いに行こうと思った。

482名無しさん:2021/03/02(火) 22:50:19 ID:c74JLiP.0


('、`*川『デミタス様、まだ来ちゃ駄目ですよ。びっくりしました』

(´・_ゝ・`)『ペニサス、ペニサスだ。何してるの、一緒に帰ろうよ」』

('、`*川『デミタス様、ちゃんとした使用人の方を雇ってください。適当なものしか食べてなくて心配になります』

(´・_ゝ・`)『嫌だ、また人が僕から離れていくのを見たくない。僕はペニサスだけで良い』

('ー`*川『大丈夫、きっと貴方が見た事も無いような、そんな人が来てくれますから』

('ー`*川『幸せになってください、デミタス様』

(´・_ゝ・`)『ペニサス、ペニサス。ごめん、僕は君を幸せに出来なくて』

('ー`*川『 私は 』



.

483名無しさん:2021/03/02(火) 22:51:08 ID:c74JLiP.0


(´・_ゝ・`)「ペニサス?ペニサス!」

夢を見た。
久しぶりに彼女の顔を見た。
まだ駄目だと怒っていて、最後はなんて言ったのかわからなかった。

(´・_ゝ・`)「…まだ駄目、か」

プッツリ切れてしまった紐を見つめながら、ただただ泣いた。
ペニサスが亡くなって初めて泣いた。
『まだ』駄目なら、彼女がもういいと言ってくれるまで生きるしかない。


.

484名無しさん:2021/03/02(火) 22:51:58 ID:c74JLiP.0
++++




(´・_ゝ・`)「どうせ来るはず無いと思って張り紙をした、その次の日に君が尋ねて来て驚いたよ」

(゚、゚トソン「……」

(´・_ゝ・`)「なんていうか……トソン君は殺しても死ななそうな、返り討ちにしそうな感じに見えたから、もしかしたら大丈夫かなって雇ったんだ。…ごめん」

(´・_ゝ・`)「君が見つけたのは、ペニサスが最後に書いてたものかな。僕も探したけど見つけられなかった」

(゚、゚トソン「キッチンの棚にありましたよ」

(´・_ゝ・`)「はは、彼女らしいところにしまってたんだね」

小さく息を吐く。真っ直ぐ目を見た。

(´・_ゝ・`)「…結局僕は誰も幸せに出来なかったし、幸せになっちゃいけない人間なんだ」

(´・_ゝ・`)「君が羨ましかった。幸せになりたいと素直に言える君が」

(゚、゚トソン

485名無しさん:2021/03/02(火) 22:52:30 ID:c74JLiP.0


(´・_ゝ・`)「さっきも言ったけど、トソン君は自分とお酒以外に興味がないように思ってた。
でも君、実は人やものに興味もあるし、変だし、欲深そうに見えるのに物をあげたら素直に喜ぶし、行動力もあるし、態度も大きくて使用人としてはどうなんだって思うこともあるけど」

(゚、゚トソン「喧嘩をお売りで?」

(´・_ゝ・`)「このまま働いて欲しいって思うようになってたんだ、いつのまにか」

(´・_ゝ・`)「だから、話をしたら辞めていっちゃうんじゃないかって思って怖くなった」

(゚、゚トソン「……」

(´・_ゝ・`)「辞めちゃうなら、一度部屋にこもって1ヶ月くらい心の準備しようかと…」

(゚、゚トソン「そんなに引きこもるつもりだったんです?良かった早めにケリ入れて」

(´・_ゝ・`)「…話はこれでおしまい。1ヶ月の心の準備は出来なかったけど、またこのキャロットケーキも食べられたし僕はもう満足だよ。トソン君が嫌なら辞めても良い。好きにして良いよ」

(゚、゚トソン「……」

486名無しさん:2021/03/02(火) 22:53:26 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン(長かった ほんとに話 長かった)

季語無しの一句を読んでしまうくらいに、主人の話は長かった。
当たり前だ、この人の半生なのだから。

長い話でもつまらないとか、途中で嫌になったりしなかったのは、この人の話だからだ。
その話を聞いて嫌だと思わなかったのは、つまりそれが答えなんじゃなかろうか。

カラカラになった口を開く。
自分がどう生きてきたか話して、人が離れてしまうかもと不安に思う気持ちはこれでもかというくらいわかる。
今の長い話を、小さく震えながら話してくれた主人に私が言える事。
言いたいこと。

487名無しさん:2021/03/02(火) 22:54:01 ID:c74JLiP.0


(゚、゚トソン「私も自慢じゃないですが周りの人を不幸にする人間でした。だから、人が離れていく怖さもなんとなくわかります」

(゚、゚トソン「でも、1人。たった1人の人が私を許してくれて、私を好きだと言ってくれた。私に幸せになってと言ってくれた」

(゚、゚トソン「…私は」

(゚、゚トソン「私は、人に何かを頂いた時、嬉しくて幸せだと思います」

(゚、゚トソン「美味しいお酒と、美味しい食べ物でペアリングしてる時はすごく幸せです」

(゚、゚トソン「私が作ったものを、誰かが美味しいと言って食べてくれたら幸せで……だから、主人が美味しいと言うたびに嬉しかった」

488名無しさん:2021/03/02(火) 22:54:40 ID:c74JLiP.0

主人が誰も幸せに出来ない?
じゃあ私はなんなのだ。


(゚、゚トソン「誰も幸せに出来ないなんてそんなはずがないんです、」

(゚、゚トソン「わたしは」

(゚、゚トソン「私はここで働いて、幸せです。幸せをたくさんもらってるんです、主人から。幸せになってたんです」


主人が幸せになっちゃいけない?
そんなはずがない。だってあんなにも色んな人が心配しているんだから。

私は幸せになれた。だから、次は


(゚、゚トソン「いいですか、主人が一人で幸せになれないーなんて弱気なら、」

(゚、゚トソン「私が!主人を幸せにしてみせます!!」

489名無しさん:2021/03/02(火) 22:55:12 ID:c74JLiP.0

(´・_ゝ・`)

(゚、゚トソン「だからワイン開けていいですか!」

(´・_ゝ・`)「えっあっ、はい」

(゚、゚トソン「キャロットケーキもう一切れいりますか?」

(´・_ゝ・`)「はい」

(゚、゚トソン「美味しいですか?」

(´・_ゝ・`)「うん」

(゚、゚トソン「はい、私幸せです。主人は?」

(´・_ゝ・`)「…ふふ、ははは。」

(´・_ゝ・`)「幸せだね」

(゚、゚トソン「はい!!」

490名無しさん:2021/03/02(火) 22:55:46 ID:c74JLiP.0


無理矢理だと思う。
無理矢理だけれど、この甘ちゃんのくせにどこか意固地頑固で変に偏屈な主人には
私のような雑で大胆で無理矢理な人間を合わせてもいいと思った。
色んなお菓子とお酒でペアリングを楽しむように。


.

491名無しさん:2021/03/02(火) 22:56:17 ID:c74JLiP.0


(゚、゚トソン「私、明日からもここで働きますんで」

ワインを注ぐ心地の良い音に負けないように宣言した。
震えそうになる手をぎゅっと握る。
目があった主人がいつにも増して眉を優しく垂れ下げていた。

(´・_ゝ・`)「……うん、お願いしたいな」

(゚、゚トソン「よろしくお願いします」

(´・_ゝ・`)「うん、よろしく」

492名無しさん:2021/03/02(火) 22:56:56 ID:c74JLiP.0



冷めたキャロットケーキも、赤白混ぜ込んだような綺麗なロゼワインも美味しかった。


隣で主人が笑う。
さっきの、プロポーズみたいだったね、と。
では素敵なペアリングを用意しないとですね、と言って2人で笑った。


.

493名無しさん:2021/03/02(火) 22:58:46 ID:c74JLiP.0


本日の投下は以上になります。
デミタスの話が長すぎてエラーが出て驚きました、こんなことは初めてです。
ありがとうございました。

次回最終話になります。
よろしくお願いします。



.

494名無しさん:2021/03/02(火) 23:07:16 ID:pBjrTKuI0
乙乙乙

495名無しさん:2021/03/02(火) 23:21:49 ID:Ic9IoLi60
最高!

496名無しさん:2021/03/03(水) 13:29:35 ID:YX0na0Qw0
おつ!
最終話か〜早いな
ニュッくんのいた頃の話は出てくるのかな

497名無しさん:2021/03/03(水) 18:12:08 ID:kdt3e/7c0
ああああああああ!!!!!!
としか言えない
悶える

498名無しさん:2021/03/08(月) 21:45:32 ID:lNGBrG6Q0
おつおつ
終わってしまうのか…!!

499名無しさん:2021/03/11(木) 02:52:31 ID:265pEJ8U0
うあああああ乙!!とうとうペアリング(輪っか)が回収されてグッときた
終わるのは辛いがそれ以上に楽しみ!!

500名無しさん:2021/03/21(日) 04:02:18 ID:eHpqgSm60
ふと見たら初投下3年前なのか…
完結まで持ってきてくれて本当にありがとう

501名無しさん:2021/05/26(水) 23:58:32 ID:QGYuqPd.0
ほとんど一気読みした、今まで読んでなかったのが不思議なぐらい引き込まれた
寂しいのにあたたかくて大好き、最終回待ってる

502名無しさん:2022/01/02(日) 04:15:30 ID:cSRVm2D60

主人と和解(?)して何日か経った。

「良いことがあった次の日は大体怖い」等と意味不明なことを言うため、クリスマスは私も主人も外に出ないようにした。
元々イベント事が得意ではない私は良かったが、イベント大好きおじさんは「はしゃぎ足りないね」と若ぶったことを言うのだった。


(゚、゚トソン(ふむ)


そこで私はある提案をした。


(゚、゚トソン「……というのはいかがでしょうか?」

(´・_ゝ・`)「良いと思う…というのも向こうが良ければだけど」


かくして今日、クリスマスのリベンジが行われようとしているのだ。


.

503名無しさん:2022/01/02(日) 04:16:36 ID:cSRVm2D60





最終話:アーモンドクリームに幸あれ




.

504名無しさん:2022/01/02(日) 04:17:12 ID:cSRVm2D60





(´・_ゝ・`)デミタス。おかしな菓子好き。主人。

(゚、゚トソン トソン。ふざけた酒好き。使用人。





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505名無しさん:2022/01/02(日) 04:18:04 ID:cSRVm2D60


(;´・_ゝ・`)「ああ〜なんかソワソワしてきちゃった、僕大丈夫?変じゃない?何してれば良いかな」

主人は朝からずっとソワソワしていた。
私も少し浮ついた気持ちがあったけど、いい歳した人間の落ち着かない様子を見て冷静になっていた。

(゚、゚トソン「大丈夫です、主人はいつも変ですよ。好きなことしていてください」

(;´・_ゝ・`)「じゃあ掃除でもしてようかな…」

(゚、゚トソン「いつものツッコミがないくらい調子悪い人に掃除してもらいたくないですよ…大人しく座っててくださいね」

(;´・_ゝ・`)「ええ…」


仕事も手につかないんだよ、とごちゃごちゃうるさい主人を無理矢理自室に押し込む。
私は私でやらなきゃいけないことがあるのでキッチンに向かった。

(゚、゚トソン「先日はあんなに部屋から出そうとしてたというのに…可笑しなものですね」

.

506名無しさん:2022/01/02(日) 04:18:36 ID:cSRVm2D60

さてと。
気合いを入れるために腕まくりをして、わりかし寒いなと戻す。
代わりに両方の頬をパチンと叩いた。

(゚、゚トソン「今日作るものは過去一やることが多いです。なので真面目に作ってみましょうかね」

ゞ(゚、゚トソン カチャカチャ

”∩(゚、゚トソン グワシグワシ

(-、-;トソン「…イヤ……っ!!沈黙に耐えられない…っ!」

(゚、゚トソン「誰が聞いているわけでもないので張り切ってふざけながら真面目に作りましょう」

.

507名無しさん:2022/01/02(日) 04:19:15 ID:cSRVm2D60

〆(゚、゚トソン「まずは毎度お馴染み、まぜまぜ☆トソンちゃん〜混ぜ☆トソします」

"⊂(゚、゚トソン「バターをざっと混ぜて、卵を様子見ながら少しずーつシャッシャッ、グラニュー糖さんも少しずーつ入れます」

廿(゚、゚トソン「あらかじめ淹れておいたアールグレイの紅茶です」

廿≠(゚、゚トソン「これとグランマニエを混ぜて入れます。これラム酒にしても良いです。あー良い匂いだなぁ〜」

…(゚、゚トソン「そして!アーモンドプードル氏の登場!です!」

…(゚、゚トソン「アーモンドプードルって名前が可愛いですよね、わかるかな。アーモンドサイズのプードル絶対可愛いですよ、ポケットで飼いたい」

(゚、゚トソン「要のクリームダマンドが出来ました」

(゚、゚トソン「クレームダマンド?クリーム?クレーム?おダマンなさい!」

508名無しさん:2022/01/02(日) 04:19:57 ID:cSRVm2D60



(゚、゚トソン「ここでパイ生地が必要になります。料理番組なら出来上がった生地が出てくるところですが…これは現実なのでそんなに甘く…甘くな…」

[]⊂(゚、゚ドン「甘いんです、今日は特別に」

(゚、゚トソン「昨夜作っておいたパイ生地です。料理番組のようなことしてみたかったんですよね」

(゚、゚トソン「このパイ生地にクレーーームダマンドを搾ります、ギュッギュッギュ…」

(゚、゚トソン「そして秘密兵器をぐりぐりして…」

(゚、゚トソン「ぐりぐりとぐらぐりぐりぐり」

(゚、゚トソン「もう一枚のパイ生地を重ねて、卵を塗って一度冷やします」

冷蔵庫に物を閉まって一息つく。

(゚、゚;トソン「……私としたことが、やる事の多さにあまりふざけられませんでしたね…」

509名無しさん:2022/01/02(日) 04:20:36 ID:cSRVm2D60

広い広いキッチンを見渡す。
このキッチンで料理をするようになってから、この屋敷で働くようになってから、半年以上が経っていた。
ここに来たばかりの頃はこんな気持ちで働くことになるとは思いもしなかった。
あんな主人におやつを作って、働いたお金でお酒を楽しんで、ただ幸せだと思うような──そんな生活を送れるようになるとは。

棚の奥から小さなノートを取り出す。
あれ以来中を読むことはなかった。主人も読みたいとは言わなかった。

主人のためにお菓子を作っていた、彼女のことを想像する。

(-、-トソン「………」

(゚、゚トソン「私をここで働かせてくれてありがとうございます」

誰でもない、彼女が私をここに連れてきてくれたのだと、先日の主人の話を聞いて思った。
私に幸せをくれた1人だ。

小さなノートを撫でる。
ありがとうございます。もう一度呟いて、作業を再開した。

510名無しさん:2022/01/02(日) 04:21:24 ID:cSRVm2D60

冷やしたパイ生地を冷蔵庫から取り出して、専用のナイフで模様をつけていく。
これを失敗すると悲しいので頑張るけれど、美術センスというものがない自分には酷な仕事ではなかろうか。

(゚、゚トソン「…主人にやって貰えばよかったかな…いやでもそうすると驚きがなくなるし…」

パイ生地は常温で溶けてきてしまうので、フルスピードで模様をつける。

←⊂(゚、゚トソン「ぅ唸れ私の右手ぇぇ!!」

←⊂(゚、゚トソン『くぅん!』

(゚、゚トソン「ヨシ!なんとなくそれっぽくできた!」

(゚、゚トソン「オーブンでブンしますよ!!」

511名無しさん:2022/01/02(日) 04:22:06 ID:cSRVm2D60

鉄板の上にそうっと乗せてオーブンに入れる。

パイ生地がオーブンの中で膨らんでいく様が好きだった。
オーブンからの熱が感じられる近さで、魔法のように膨らむ様子を見てすごいね膨らんできたねとはしゃいで、今美味しくなっているのよと母が笑う。
その時間が好きだった。

(゚、゚トソン「懐かしい匂い…」

母が毎年焼いてくれていたこれを、自分一人で作る日が来るとは思わなかった。
何を思いながら作ってくれていたのか、今なら何となくわかる気がする。


(゚、゚トソン(一人で作れたよ、お母さん)

(゚、゚トソン「……おっといけない、センチメンタルじゃーねー。味がしょっぱくなってしまいますね」

.

512名無しさん:2022/01/02(日) 04:22:47 ID:cSRVm2D60


リンゴーーーン

チャイムの音が聞こえ、胸が高鳴る。
この屋敷はチャイムの音すら厳かなので、普段その用途がほぼ宅配便なのが申し訳なかった。
けれど今日は違う。
れっきとした『お客様』が来るのだ。

(゚、゚トソン「はぁーい!!今行きまーす!!」

過去一大きな声で返事をしたが、この広さと壁の厚さのせいで聞こえてなかったら困る。
風の如く走るためにスカートを持ち上げ、そしてふと気付く。

(゚、゚トソン「あ。あなたにも来ていただきたいのです」

小さなノートを、忘れないように大事にポケットに入れてダッシュした。

.

513名無しさん:2022/01/02(日) 04:23:32 ID:cSRVm2D60


(゚、゚トソン「いらっしゃ──……なんだ…」

ドアを開けてそこにいたのは、期待していたどの顔とも違ったので思わず声が低くなった。

(;^ν^)「何だってなんだよ!?よ、呼んだよな?呼ばれたよな、俺」

種も仕掛けもありはしない、雑魚師弟がそこにいた。

(゚、゚トソン「えーえー呼びました呼びました、主人がどうしてもって言うので仕方なーく」

(;^ν^)「し、しかたなくなのか?えっ帰ったほうがいい?えっ?」

(;´・_ゝ・`)「いじめないでよトソンくん」

チャイムの音が聞こえたからと主人も玄関まで来たようだった。
急いできたのか、少し息が切れている。

( ^ν^)

( ;ν;)ブワ

(゚、゚トソン「あー泣ーかせた泣ーかせた!主人くんが雑魚くん泣ーかせたー!」

(;´・_ゝ・`)「え?僕なの?トソンくんじゃなくて?」

514名無しさん:2022/01/02(日) 04:24:17 ID:cSRVm2D60


( ;ν;)「デッデミダズざま…!おっ、おびざじぶりでず…!!おげんぎでじだが…」

(´・_ゝ・`)「あ。ああ…うん」

(´・_ゝ・`)「そう、そうだね。そうだったね。久しぶり、韮塚くんも元気かな。…ごめんね、色々」

( ;ν;)「デミダズざまがげんぎならいいんでず…」

(゚、゚トソン「…」

突然泣き出した雑魚の背中を、主人がトントンと優しく叩いている。
子どもをあやす様な大人の仕草だけれど、主人も泣きそうな子どものような顔をしていた。

(´・_ゝ・`)「あの時、何も話さず解雇通知とお金だけ送ってごめんね」

( ;ν;)「…良い、です…今こうして話せることが嬉しいから…」

(´・_ゝ・`)「…ありがとう」

515名無しさん:2022/01/02(日) 04:24:55 ID:cSRVm2D60


( ;ν;)ズビー

ζ(゚、゚*ζ「大丈夫?ハンカチどうぞ」

( ;ν;)「あ、ありがとう……」

( ;ν;)

(;ν; )

(^ν^ )

( ^ν^)

( ^ν^)「!???」

(゚、゚*トソン「おっわっう、い、いらっしゃいませシンデレラちゃん!!!」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、おじゃましますトゥインクルちゃん!」

.

516名無しさん:2022/01/02(日) 04:26:35 ID:cSRVm2D60


++++++


数日前のこと。
主人にある提案をした日の夜のこと。
こっそり屋敷を抜け出した。行きたい場所が、会いたい人がいた。

(゚、゚トソン「寒すぎる」

吐き出す息が白い。鼻も指も冷たくなっている。
クリスマスも終わって、街の景色が正月モードに変わっている最中だった。
目的地までの道を足が覚えていた。店は終わりの時間。大体の人間はそのまま家に帰ったりなんだりしているが、彼女は店の裏を掃除している。そういう子だった。

"∬ζ(゚ー゚*ζ"

(゚、゚トソン(やっぱりいた)

(゚、゚トソン「…シンデレラちゃん」

ζ(゚、゚*ζ「!」

ζ(゚、゚*ζ「トゥインクルちゃん」

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃんだ!!」

顔を見た瞬間、冷たくなった鼻が熱くなった気がした。
目が合った彼女が一瞬呆けた顔をして、満面の笑みに変わったのを見て鼻だけじゃなく目も熱くなった。
話したいことはたくさんある。言わなきゃいけないことも。
けれど言葉が口から出てこない。シンデレラちゃんはそれを責めたりせず静かに私が話すのを待ってくれた。

517名無しさん:2022/01/02(日) 04:27:21 ID:cSRVm2D60

(゚、゚トソン「本を」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

"(⊃、⊂トソン「……本を返しに、きました」

(゚、;⊂トソン「幸せになったら返しにきてと、言ってもらった本です」

ζ(゚ー゚*ζ「うん…うん」

(゚、゚トソン「ずっと借りたままで、待たせてしまってすみません」

ζ(゚ー゚*ζ「好きな人との約束は、待つ事も楽しいの。だから全然大丈夫」

シンデレラちゃんが私の手を握った。
彼女の手も冷たかった。

ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、今、幸せ?」

(゚、゚トソン「…」

(;-;トソン「はい、すごく」

ζ(^ー^*ζ「良かった!」

そのあと少しだけお互いのことを話した。
そして今日のことを伝えた。
私が今働いている所に来て欲しいと。
彼女はもちろん!とそれはそれはいい笑顔で返事をしてくれたのだった。


+++++

518名無しさん:2022/01/02(日) 04:28:03 ID:cSRVm2D60


(;^ν^)「いいいい言っておいてよそういうさぁぁぁぁあでもありがとうございますありがとう!!」

(゚、゚トソン「言ったら言ったで緊張するかなと…」

(;^ν^)「それはそう!!!」

ζ(゚ー゚*ζ「韮塚さんこんにちは!韮塚さんもトゥインクルちゃんと仲良しだったんだね」

(゚、゚トソン「……」

(;^ν^)「……」

(´・_ゝ・`)「…」

仲良しか仲良しじゃないか聞かれたら仲良しなんかではないと即答するものだが、相手はシンデレラちゃんなので迂闊なことを言えず2人して黙ってしまった。
主人はそんな私たちを見て何か言いたげな目をしていた。

.

519名無しさん:2022/01/02(日) 04:28:48 ID:cSRVm2D60


°+.ζ(゚ー゚*ζ.°+.。「それにしてもトゥインクルちゃんすごいね!お城で働いてるんだね!」

シンデレラちゃんがキラキラした瞳をさらに煌めかせてこちらを見てくる。
私の鼻はニョキニョキと伸びに伸びた。私が豚だったらスカイツリーも登る勢いだっただろう。

(゚、゚トソン「いえいえそんなそんなお城だなんて…」

ζ(゚ー゚*ζ「玄関から凄いね」

(゚、゚トソン「あ、シンデレラちゃんそこ段差になってるから気をつけて…」

ζ(゚、゚;ζ「えっ、きゃ…」

(´・_ゝ・`)「おっと」

ζ(゚、゚;ζ「わ」

(゚、゚トソン「!」

520名無しさん:2022/01/02(日) 04:29:39 ID:cSRVm2D60


段差で足を滑らせたシンデレラちゃんを主人の腕がキャッチした。
待ってください、それ私がやりたかった!

(´・_ゝ・`)「大丈夫?ここ危ないよね」

ζ(゚、゚;ζ「あ、ありがとうございます…」

(´・_ゝ・`)「そろそろ中に入ろうかみんな」

主人がどうぞどうぞとドアを開ける。
呆気にとられた顔をしているシンデレラちゃんのもとに駆け寄った。

(゚、゚トソン「大丈夫ですか?シンデレラちゃん」

ζ(゚、゚;ζ「あ…」

(゚、゚トソン「あ?」

ζ(゚、゚;ζ「あの人はもしかして…お城に住んでる王子様……?」

(゚、゚;トソン「いえあれは面白スンドゥブおじ様ですよ!?」

(;^ν^)「スンドゥブ関係なくね!?」

(;´・_ゝ・`)「なんかよくわからない悪口言われてる!?」

521名無しさん:2022/01/02(日) 04:30:09 ID:cSRVm2D60

( ・∀・)「やあ随分賑やかだね」

(゚、゚トソン「あ」

(#゚;;-゚)ペコ

声がする方を見ると蛯沢夫妻がいた。
でぃ様が会釈をしたのを見て、赤べこのように何度もお辞儀をした。

(´・_ゝ・`)「でぃさん」

(#゚;;-゚)「坊ちゃん……」

主人から連絡しますかと最初提案してみたけど、電話をかけるまでに1日唸りながら電話を持っては置いてを繰り返していた。
かけるかけると言いながら、びびりの主人じゃ埒があかないと私が連絡をした。

(#゚;;-゚)「少し、太りました?甘いものだけじゃなくてお野菜もちゃんと食べてますか?」

(´・_ゝ・`)「…食べてるよ、ちゃんとね」

(#゚;;-゚)「ふふ、良かった」

522名無しさん:2022/01/02(日) 04:30:46 ID:cSRVm2D60


(゚、゚トソン「でぃ様いらっしゃいませ、先日は本当にありがとうございました…」

(#゚;;-゚)「こちらこそ、今日も…」

( ・∀・)「やー、積もる話もあるだろうみんな!さ、中に入ろう。外は寒いからね!」

(#゚;;-゚)「貴方のお家じゃないでしょう…」

(゚、゚トソン「あ、案内しますのでどうぞこちらへ!」


本日のお客様が全員揃った。
不恰好ながら屋敷の主人と使用人が客人を部屋へと案内する。
席についてもらっている間にキッチンへ行き、オーブンを見る。
ちょうど焼き上がっていた。

(゚、゚トソン「良い匂いです」

そのまま部屋へ慎重に運ぶ。落としたりなんだりしたらもう反省会どころではないので、それはもう慎重に。

523名無しさん:2022/01/02(日) 04:31:20 ID:cSRVm2D60


(゚、゚トソン「おお…テーブルがテーブルしている…」

いつもは主人しか使っていない馬鹿長いテーブルだが、人数がいればちょうど良い長さだった。
こんなに人数がいるこの屋敷を初めて見る。

私を含めて6人、とあと1人。
主人の隣にあのノートを置く。

(´・_ゝ・`)「これ…」

(゚、゚トソン「一緒にいてほしいと思いまして」

(´・_ゝ・`)「……うん」

ノートの上に主人が静かに手を置いた。手を繋いでいるように、見えた。
これで全員。

.

524名無しさん:2022/01/02(日) 04:31:54 ID:cSRVm2D60

(;^ν^)「えっと、ちなみに、今日のこの集まりってなんの会、ですか…お正月の集まり?」

雑魚が端っこの席で小さくなっている。
シンデレラちゃんの隣に座ればいいのに、なぜか一つ席を空けていた。

(´・_ゝ・`)「えっと、今日は……なんて言えばいいのトソンくんこれ」

(゚、゚トソン「そ、そうですね…何かちゃんとした集まりという訳ではなく…私の好きな人と主人の好きな人を呼んで美味しい物を食べませんか?っていう…計画でして…」

( ・∀・)「それは呼ばれて光栄だね!ありがとう」

(゚、゚トソン「こちらこそ、遠いのに来てくださってありがとうございます。本当は主人引きずってでもそちらに連れて行かなきゃでしたのに…」

(#゚;;-゚)「それはまた今度いらっしゃいね」

(´・_ゝ・`)「僕引きずられるの?」

.

525名無しさん:2022/01/02(日) 04:33:19 ID:cSRVm2D60

(゚、゚トソン「というわけで、本日のおやつはガレット・デ・ロワです」

パイ生地を下手に割らないように切り分ける。
頑張って付けた『太陽』の模様も、切り分けたらあまり分からないんだなと少しだけ悲しみながらナイフを入れた。

(゚、゚トソン「詳しい説明はググググって頂くとして、簡単に説明しますと中に小さなフェーブという陶器が入ってます。フェーブ入りのパイを食べた方は1年幸せに過ごせると言われているんだそうです」

ζ(゚ー゚*ζ「美味しそう〜!」

(゚、゚トソン「フェーブは先日まで陶芸家のお仕事をされていた主人に作ってもらいました」

(´・_ゝ・`)「え?あれってそういうのだったの?でも…」

(゚、゚トソン「はい!切り分けたのでどうぞ皆様温かいうちにお召し上がりください!」

( ^ν^)「?」

( ・∀・)「ワクワクするね」

(#゚;;-゚)「美味しそう、いただきます」

(゚、゚トソン「ほら、主人も」

(´・_ゝ・`)「…いただきます」

526名無しさん:2022/01/02(日) 04:33:53 ID:cSRVm2D60



みんながフォークで切り分けている所をじっと見てしまう。
主人1人に食べてもらうのとはまた違って、大勢の人に食べてもらうというのは初めての事だったのでドキドキしていた。
カチャリカチャリと食器の音がたくさんする。

( ・∀・)「美味しいね」

(#゚;;-゚)「ええ、本当」

ζ(゚ー゚*ζ「美味しい!」

(*^ν^)"モグモグモグモグ

(*´・_ゝ・`)「美味しい…」

(゚、゚トソン「…良かった」

心の底から安堵する。そこでやっと私も椅子に座った。

527名無しさん:2022/01/02(日) 04:34:36 ID:cSRVm2D60

( ・∀・)「あ、これがフェーブかな?」

( ^ν^)「え?俺のにも入ってる…」

ζ(゚ー゚*ζ「可愛いー!」

(#゚;;-゚)「あら、もしかして…?」

何回目か、フォークをパイに刺したところでフェーブが顔を出す。
幸せの象徴。
私の小さな悪戯。
皆さんが嬉しそうな顔をしているのを見て大満足だった。
私も昔、母に同じことをしてもらった。

(゚、゚トソン「幸せになるのが1人だけ、じゃなくてもいいでしょう」

(´・_ゝ・`)「なんかたくさん作るの頼まれたと思ったんだ…君も結構サプライズが好きだね」

本来フェーブはひとつだが、今回は人数分主人に作ってもらっていた。
その時点で主人にバレてしまわないかとドキドキした。

(゚ー゚トソン「びっくり〜、しました?」

(´・_ゝ・`)「びっくり〜したよ」

.

528名無しさん:2022/01/02(日) 04:35:14 ID:cSRVm2D60


私も一緒にガレット・デ・ロワを楽しむ。
本当なら今日は正月休みなので、休日出勤扱いなのだ。
おやつを作って、客人を招いたので本日の業務は終了。

(゚、゚トソン「いただきます」

フォークをパイに刺すと、サクリ、軽い音がした。
アーモンドクリームの柔らかい生地を切り分けて口へ運ぶ。
香ばしい匂いの中にふわっと紅茶の香りが混じっている。
パイのサクサク感と中のしっとりした食感が楽しい。

(゚、゚トソン「うん、美味しい」

(*´・_ゝ・`)「紅茶風味だよね、本当に美味しいよ」

(゚、゚トソン「それは良かった」

私の独り言に主人が反応する。

(´・_ゝ・`)「紅茶味といえばトソンくんが夏に作ってくれたかき氷も紅茶だったね、あれも美味しかったなぁ」

(゚、゚トソン「そう言えばそうでしたね。今年も夏になったら作りましょうか。次はかき氷器買って」

もはや懐かしい。あの頃はかき氷なんて面倒なものを作らせるなと思っていたが、今はもっと面倒なものばかり作らされている。
困ったことに、それが楽しいのだ。

529名無しさん:2022/01/02(日) 04:35:51 ID:cSRVm2D60



(´・_ゝ・`)「ありがとう」

ふいに主人が礼を言った。

(´・_ゝ・`)「…君が来なかったら…こんな…みんなで食事するなんて出来なかったよ。なんてお礼をしたらいいか…」

真面目な顔でそう言うものだから面を食らってしまう。

(゚、゚トソン「そんな主人、お礼だなんて……」

礼を言うのはこちらの方だった。

♩⊂(゚、゚トソン「主人のお金でたっかいシャンパン買ったから良いんですよ」

(´・_ゝ・`)「君本当大物だね」

( ^ν^)「あっお買い上げありがとうございます!」

.

530名無しさん:2022/01/02(日) 04:36:43 ID:cSRVm2D60



私としたことが、最高のおやつを出したくせに最高のお酒を出し忘れてしまっていた。
思い出させてくれてありがとう主人。
コルクを飛ばさないように気をつけてシャンパンの栓を開ける。

(゚、゚トソン「さー!皆さんシャンパン注ぎますね!これが良いペアリングになるんですよ」

(#゚;;-゚)「ペアリング?」

(゚、゚トソン「ペアリングっていうのはですね…」

.

531名無しさん:2022/01/02(日) 04:37:51 ID:cSRVm2D60



たくさん話して、たくさん笑って。


美味しいものを好きな人たちと食べて飲んだ。
それだけで幸せだ。


換気のために開けた窓から風が入ってきて、ノートがパラパラと捲れた。
ありがとうと聞こえた気がした。もしかしたら私が言ったのかもしれない。
お酒が美味しくて、おやつが美味しくて。

誰が誰に言ったかわからないけど、別に良いかと思うくらい、今日もまた、良いペアリングでした。







fin

532名無しさん:2022/01/02(日) 04:44:18 ID:cSRVm2D60



以上でペアリング終了になります。
沢山の感想を頂けたこと、
長い期間投下できなかった際温かいお言葉を頂けたこと、
イラストや再現動画を作って頂けたこと、
全てが活力となりました。皆様のおかげです、本当にありがとうございました。

本編は終了ですが、そのうちフラッと番外編を投下するかもしれません。気長に待って頂けたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。


.

533名無しさん:2022/01/02(日) 06:47:18 ID:u5pWH5Wg0
乙!
ほんわか暖かくて良いハッピーエンドだった
どのお菓子も美味しそうで読んでて楽しかったよ

534名無しさん:2022/01/02(日) 13:32:26 ID:UW2o1DnY0
乙乙!
この作品本当に好きで最終話まで読めて嬉しい。
毎回出てくるおやつがおいしそうで、あとトソンのひとり言が面白かった!

535名無しさん:2022/01/02(日) 14:53:14 ID:jvGYfR/E0
乙!オーブンでブンって言うの癖になっちゃった
ほんわか甘くてあたたかい話で良かった

536名無しさん:2022/01/02(日) 15:16:29 ID:/UPuiLno0
乙です!

537名無しさん:2022/01/02(日) 21:41:18 ID:a2njU6NI0
otsu

538名無しさん:2022/01/03(月) 00:29:25 ID:MTb2733U0
完結ありがとうありがとう
雑魚のそれからとか期待します

539名無しさん:2022/01/03(月) 14:15:37 ID:lj5KFwe20
乙 めっちゃ素晴らしい

540名無しさん:2022/01/05(水) 12:58:32 ID:ZczN8P160
本で手元に残したい位好きな物語だった!乙!

541名無しさん:2022/01/06(木) 11:05:13 ID:Q.h0QwJs0
おつおつ!
お菓子も美味しそうだしストーリーも笑えてほっこりできて最高だったよ!完結ありがとう!

542名無しさん:2022/01/06(木) 19:39:35 ID:TbU/K8hU0


543名無しさん:2022/01/08(土) 23:07:07 ID:cM2szJtA0
この作品に出会えてよかった


544名無しさん:2022/01/10(月) 13:17:39 ID:SqnGGyZI0
更新の度に楽しく読ませてもらいました
完結乙です

545名無しさん:2022/05/14(土) 22:07:12 ID:ih9wDYqM0







例えるならそう、オムライスのような人だった。









.

546名無しさん:2022/05/14(土) 22:09:47 ID:ih9wDYqM0




番外編




(´・_ゝ・`)デミタス。主人。デミグラスソースみたいな名前だけどケチャップ派

(゚、゚トソン トソン。使用人。二度と食べられない母親の作ったデミグラスソース派



.

547名無しさん:2022/05/14(土) 22:10:19 ID:ih9wDYqM0

カレンダーに目をやる。
ため息をつく。
カレンダーを見る。
深いため息をつく。


(´・_ゝ・`)「……」

(´-_ゝ-`)「………」


もう何度目かわからなくなってしまった無駄なため息に、ため息をつきたくなる。


(´・_ゝ・`)(こうしてたって何もならないのにな)

548名無しさん:2022/05/14(土) 22:11:03 ID:ih9wDYqM0



<ドンドドドン


(´・_ゝ・`)「…はあい」


雑なノック音が聞こえ返事をする。
ゆっくり開いたドアから女性の顔がニョッと入ってきて少し面を食らった。


(゚、゚||「主人、本日のランチはオムライスで良いです?」

(´・_ゝ・`)「オムライス、良いね。食べたいな」

彼女はこの家の使用人であるトソンくん。
普通のちゃんとした使用人なら、顔だけじゃなくきちんと部屋に入ってくるだろうけど、彼女は『普通』や『ちゃんとする』、ましてや『きちんと』なんて言葉は全くもって似合わない。
トソンくんがこの屋敷に勤め始めてもうすぐ一年になる。最近は僕も慣れてきたので、何か言うことはなかった。

.

549名無しさん:2022/05/14(土) 22:11:36 ID:ih9wDYqM0



(゚、゚トソン「じゃ、すぐに作りますね」

ドアが閉められる寸前で椅子から腰を上げる。
なんぞや、とトソンくんが小さく呟いた。

(´・_ゝ・`)「作ってるとこ見てても良い?」

(゚、゚トソン「普通に嫌ですけど、雇用主には逆らえません。どうぞ」

気にせず歩き出したトソンくんについて部屋を出た。
こういったことを包み隠さず言ってのけるのは果たして美点なのだろうか。
雇用主とは、使用人とは。そういったことを深々考えそうになり頭を振った。

(;´・_ゝ・`)「嫌なんだ」

(゚、゚トソン「気が散るというか嫌じゃないです?鶴の恩返しの鶴だって見られるの嫌がってたじゃないですか」

(´・_ゝ・`)「あれは正体がバレるのが嫌だったんじゃなかった?……ハッもしやトソンくんも料理中はアルコール星人に戻るから見られるのを嫌がって…?」

て(゚、゚トソン「バレたなら仕方ない、アルコール星人、指からアルコール消毒液出す 主人、消す」

(´・_ゝ・`)「怖すぎる」

550名無しさん:2022/05/14(土) 22:12:17 ID:ih9wDYqM0



軽口を叩きながらキッチンへと向かう。

僕は産まれた時からこの家に住んでいるけど、キッチンの中に入ったのはほんの数回しかない。
子どもの頃は近寄らないよう言われていたし、大人になってからも進んで入ろうとは思わなかった。一度進んで入った時、特大の実態を犯したのも理由の一つかもしれない。

ここは僕が好きだった人が好きだった場所だけれど、彼女がいなくなった後は物を捨てた時と、トソンくんが倒れていた時に入ったきりだ。


.

551名無しさん:2022/05/14(土) 22:13:06 ID:ih9wDYqM0


(´・_ゝ・`)「……」

(゚、゚トソン「入らないんですか?」

入口の前で立ち止まった僕を、変なものでも見るような目でトソンくんが見ていた。

(´・_ゝ・`)「入って良いのかな」

(゚、゚トソン「入口に立ってる人に見られながら料理するの、怖いんですけど」

(´・_ゝ・`)「トソンくんにも怖いものがあるんだ。……僕も入るのがちょっと怖い」

(゚、゚トソン「結界が張ってあって怖いとか?」

(´・_ゝ・`)「そうかも」

.

552名無しさん:2022/05/14(土) 22:14:03 ID:ih9wDYqM0

戯けてそう言ってみた。
トソンくんは少し考えるような素振りをした後、変な動きをしだした。

(゚、゚トソン「仕方ない…」

て(゚、゚トソン「ヤー!」

(゚、゚トソン「アルコール消毒ビームで結界を破りました、もう大丈夫ですよ」


トソンくんは変な人だ。
でもその変具合に助かってきたことはたくさんある。
今だって、こんな子供騙しみたいなことで助かってしまった。

ひょいと軽くなった気がする足を上げてキッチンに入る。

(´・_ゝ・`)「頼もしい」

.

553名無しさん:2022/05/14(土) 22:14:54 ID:ih9wDYqM0

(゚、゚トソン「その椅子に座って待っててください、すぐ出来ますから」

彼女が指を差した先にはキッチンに似つかわしくない椅子があった。
というかバーみたいなスペースがあるんだけど、キッチンだよねここ。
前に入った時、こんなのなかった気がするんだけど、どういう事なの。

(´・_ゝ・`)「僕この椅子とカウンター知らない」

(゚、゚トソン「エーワタシガクルマエカラコウナッテマシタヨ〜」

アルコール星人の侵略が進んでいるようだった。別に好きにしてくれて構わないけど、それにしたってクオリティーが高くて驚いてしまう。
わざとらしい口笛を吹きながら、トソンくんは料理の準備をしだした。

.

554名無しさん:2022/05/14(土) 22:15:38 ID:ih9wDYqM0


(゚、゚トソン「見てて楽しいです?」

(´・_ゝ・`)「出来ない人間からすると、料理してるところって魔法みたいで楽しいよ」

(゚、゚トソン「…それはなんとなくわかります…私も小さい頃母の料理姿を見るのが好きでした」

可愛かった頃もあるんだねと言おうとしてやめた。
野菜を切る音が心地良かったから。

トントントントントトトトト

(´・_ゝ・`)(包丁さばきすごいなあ)

僕はわりかし何でも作ることが出来たけど、料理の腕は無かった。


(´・_ゝ・`)(……そういえばあの時作ったのもオムライスだったな)

.

555名無しさん:2022/05/14(土) 22:16:14 ID:ih9wDYqM0

+++


好きな人と結婚してしばらく経った頃、使用人を全員解雇したことがあった。
新しい人を雇う前に、妻のペニサスと2人で生活した期間がある。


(´・_ゝ・`)「今日のランチ、僕が作ってみても良い?」

('、`*川「せっかく取れたお休みの日なのに、ゆっくりしなくて良いんですか?」

(´・_ゝ・`)+「作ってみたいんだ」

('ー`*川「…じゃあお願いします」

今まで家のことを何一つやったことがなかった僕は、掃除洗濯などの家事が一通り出来て調子に乗っていた。
料理も簡単に出来るだろうと高を括っていたのだ。

結果を話すと、散々だった。

.

556名無しさん:2022/05/14(土) 22:16:45 ID:ih9wDYqM0


('ー`*川「すごい!イカ墨のお料理ですか?」

(´・_ゝ・`)「…ううん、オムライス」

卵できれいに包んであるオムライスを作ろうとして惨敗した。
ご飯はべちょべちょで、野菜は半生の状態。
チキンライスと呼ぶのは烏滸がましい物体に。
卵は破れてしまい奮闘しているうちに炭になった。

('ー`*川「……坊ちゃんは食べる専門でお願いしますね」

(´∩_ゝ⊂`)「料理って難しいんだね…味付けの仕方もわからないし卵も破けて難しかったよ…」

何かを失敗するのは初めてだった。
へこんでいる僕の横でペニサスは手際良く料理を始めた。

('、`*川「味付けはだんだん慣れてきますよ…誰かのために作ると、余計に」

(´・_ゝ・`)「……」

557名無しさん:2022/05/14(土) 22:17:22 ID:ih9wDYqM0


トントン、ジャッジャッ、コン、カカカカ、
目まぐるしい速さでペニサスの手が動く。
あっという間にチキンライスが出来ていた。

(´・_ゝ・`)(魔法みたいだ)

('、`*川「卵もね、破けちゃったらいっそシャシャシャーってすれば」

身を乗り出してフライパンの中を見てみる。
菜箸でかき混ぜられた卵がいい具合に固まって、皿の上のチキンライスに優しく乗った。

('ー`*川「はい、ふわとろオムライスの出来上がりです」

(*´・_ゝ・`)「すっごい、天才、僕の奥さんすごい」

('ー`*川「今褒めてもオムライスしか出せません。さ、いただきましょう」



オムライスのような人だった。
いつだって優しく包み込んでくれるような、そんな人だった。



+++

558名無しさん:2022/05/14(土) 22:17:54 ID:ih9wDYqM0


(゚、゚トソン「主人」

完全にぼうっとしていた僕の目の前にトソンくんの顔があって思わず仰反る。

(´・_ゝ・`)「わあ」

(゚、゚トソン「びっくりするくらい見てませんでしたね」

作り終わりましたよ、と置かれたお皿には黄色が綺麗なオムライスが乗っていた。

(*´・_ゝ・`)「わー本当だ、美味しそうなオムライスができてる」

スプーンを取り出したトソンくんがウロウロしている。
リビングに運ぶかここで食べるか悩んでいるようだった。

559名無しさん:2022/05/14(土) 22:18:54 ID:ih9wDYqM0


(゚、゚トソン「主人の好みを聞かずにふわふわ卵にしてしまいましたが大丈夫でした?」

(´・_ゝ・`)「僕ふわふわ卵のが好きだよ」

(゚、゚トソン「私もです、失敗しても誤魔化せますから」

(´・_ゝ・`)「、ははっ」

頭の中を覗かれたのかというくらいピンポイントなことを言われて思わず笑ってしまう。

(´・_ゝ・`)(……失敗したとしても)

(´・_ゝ・`)(誤魔化してくれる人がまたいるんだよなあ)

せっかくだからここで食べようと提案してみた。
温かいうちに早く食べたかったのもあるけど、このバーカウンターが気になっていたのもある。

(´・_ゝ・`)「…君も失敗したらしゃーってしてくれる人だったね」

(゚、゚トソン「何です?威嚇?」

560名無しさん:2022/05/14(土) 22:19:48 ID:ih9wDYqM0



(´・_ゝ・`)「トソンくんにお願いがあるんだけど」

ケチャップを取ってきてくれたトソンくんに、持ちかけてみた。

(゚、゚トソン「何です?お金は貸しませんよ」

(´・_ゝ・`)「いらないよ……妻の、ペニサスのお墓参りに行くの、付き合ってくれないかな」

(´・_ゝ・`)「もうすぐ命日なんだ…一回も行けてなくて」

ずっと悩んでいたことだった。
葬儀の後、でぃさんが手配をしてくれたのに僕は一度も足を運ばなかったのだ。

561名無しさん:2022/05/14(土) 22:21:36 ID:ih9wDYqM0


(゚、゚トソン「お墓も怖いですか?」

(´・_ゝ・`)「そうかも」

今度は戯けたわけではなく、本心だった。
行くのも見るのも、怖い。
ペニサスには逢いたいのに、それと向き合うのは怖かったのだ。

トソンくんはスッと人差し指を出して言った。

て(゚、゚トソン「結界などはアルコール消毒ビームで壊してやりましょう」

(´・_ゝ・`)「……それは頼もしい」

お墓にビームを撃つのは些か心配だったが、力強い返事だった。

1人じゃないからきっと大丈夫。
そう、思えるくらいにはなったらしい。


(´・_ゝ・`)「…安心したら急にお腹が空いてきた」

(゚、゚トソン「どうぞ、召し上がれ」

(*´・_ゝ・`)「いただきます」



ケチャップで描いてもらった絵は怖すぎて、笑いながら食べたオムライスはとても美味しかった。



fin.

562名無しさん:2022/05/14(土) 22:23:54 ID:ih9wDYqM0




以上です。
ペアリングしてない番外編でした。
次は雑魚が主役の番外編を書けたら良いなと思っています。思うのはただです。
ありがとうございました。

.

563名無しさん:2022/05/14(土) 22:35:38 ID:PmDIslOQ0

雑魚編もたのしみ!

564名無しさん:2022/05/15(日) 06:33:49 ID:6jzH2UKI0
乙!
トソンのこういうとこ良いよね

565名無しさん:2022/05/15(日) 08:13:24 ID:IkFvCV7.0
オツ

566名無しさん:2022/05/16(月) 21:33:52 ID:Exwr1sk60
乙!
どうしてこんなにも美味しそうなんだろう!オムライス食べたくなってきた

567名無しさん:2022/05/16(月) 22:14:04 ID:XAICc3oY0
乙!番外編助かる

568名無しさん:2022/05/17(火) 22:37:03 ID:P4zxVJv20
アルコール消毒液は飲んじゃダメだからなトソン

569名無しさん:2022/07/10(日) 19:53:50 ID:3ZBj0nsI0
たのしみー

570名無しさん:2023/06/23(金) 12:54:06 ID:C1D/6W2s0
あーあーあー!完結してるぅぅ!
気が付かず申し訳ないです、、!
先程拝読しました!
とってもとっても面白かったです!
みんな幸せで嬉しいです!
作者様に届きますように!

571名無しさん:2023/07/19(水) 21:49:45 ID:mZA/AUjk0




幸せを高く高く積み上げたら、もっと幸せになれそうな気が、しませんか







.

572名無しさん:2023/07/19(水) 21:51:35 ID:mZA/AUjk0







(´・_ゝ・`)デミタス。金持ち。甘いものが好き。

(゚、゚トソン トソン。使用人。お酒が大好き。




.

573名無しさん:2023/07/19(水) 21:52:23 ID:MwdLQxj60
しえん

574名無しさん:2023/07/19(水) 21:52:29 ID:mZA/AUjk0


「おかあさん、これ膨らまなかったあ」
「あら、じゃあもう一度やってみる?」




(-、-トソン

(゚、-トソン

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「…夢」

夢というのは往々にしてその人間の深層心理を映すものだと言うが、私の夢は何を映しているのだろう。

(゚、゚トソン「…ふう」

数年前までは考えられなかった、ふかふかなベッドから身を起こして溜息をつく。
また今日も嫌な夢を見た。
最近続く、夢見の悪さは度数の高いお酒では消すことができなかった。
眠れてはいるので仕事にも支障はないが、あまりに続くようなら眠れなくなってもおかしくはない。

(゚、゚トソン「そうなったらモーニングコール専門の副業でもしましょうか...」

(゚、゚トソン「…いや電話持ってないから無理か」

575名無しさん:2023/07/19(水) 21:53:05 ID:mZA/AUjk0

く、とこぶしに力を入れ、突き上げる。 えいえいおーの体勢から伸びをした。
起きて準備をしなくては。
私の、仕事の。
顔を洗って着替えを済ませ、キッチンへと足を運ぶ。
私が働くでかいでかい屋敷の中の、一番気に入っている場所だ。

(゚、゚トソン「おはようございます」

誰もいないがつい挨拶をしてしまう。
この屋敷には訳あって使用人の私と、もう一人の人間しかいない。
住み込みで私がやるべきなのは掃除と家事、それから──

ボタンを押すだけでコーヒーが出来る機械は偉大である。私でも美味しいコーヒーを淹れることが出来るのだから。
最初の一杯を自分の朝ごはんにする。

576名無しさん:2023/07/19(水) 21:53:30 ID:f7im.dXQ0
久しぶり!
支援

577名無しさん:2023/07/19(水) 21:53:39 ID:OKcoQH/s0
初リアタイ嬉しい!支援!

578名無しさん:2023/07/19(水) 21:53:43 ID:mZA/AUjk0

(゚、゚トソン「……今日の朝ご飯、 昨日から仕込んでいたフレンチトーストの予定ですがこれ今日のおやつにしてもよかったのでは?」

今更気づいても遅い。
それにあの菓子狂いがそんな誤魔化しで満足するわけがないのだ。

(゚、゚トソン「作りますか」

フライパンにバターを落とし、じゅうじゅういい音がし始めたところでミルクと卵液にたっぷり漬け込んだトーストを入れる。

(゚、゚トソン「いい匂いです」

ほんのり焦げ目がついたそれをお皿に移して、 冷蔵庫から切っておいたフルーツを取り出した。飲み物やカトラリーとまとめて台に乗せて運ぶ。
ダイニングへ向かいながら、幾分か慣れて来たはずの廊下に対して、ぼんやり長いなと思った。

579名無しさん:2023/07/19(水) 21:54:20 ID:mZA/AUjk0

(゚、゚トソン「広い家の何が不便って、キッチンとダイニングがかけ離れているところですかねえ。運ぶ間に料理が冷めそうです」

(´・_ゝ・`)「近かったらトソンくん、大々的にキッチンで酒盛りできないでしょ」

背後からひょっこり現れた人間の言葉はほんの少しだけ、聞き捨てならなかった。
私はどこであっても酒盛り出来るぞと、言いかけてやめた。

(゚、゚トソン「本日はお早いですね主人」

(´・_ゝ・`)「うん、いい匂いがしてきたから自然と足が動いたよ、おはよう」

(゚、゚トソン「おはようございます、流石は菓子狂い」

(´・_ゝ・`)「菓子狂い……酒狂いには言われたくないなあ」

このたれ眉のしょんもり顔が、この屋敷のもう一人の住人であり私の雇用主であり、 お金持ちの主人、 盛岡デミタスだ。
私の仕事は、掃除と家事とそれから、この主人に菓子を作ること。

580名無しさん:2023/07/19(水) 21:55:04 ID:mZA/AUjk0


(゚、゚トソン「一応答えはわかっていますが聞きますね、主人今日のおやつこのフレンチトーストでもいいです(´・_ゝ・`)「だめ」だと思いました!即答畜生!」

ニッコリ笑って否定される。おやつはおやつの時間に食べるからこそおやつなのであって朝食はおやつとはまた別問題なのだと、おやつのゲシュタルト崩壊を起こす文句を言われた。

(゚、゚トソン「とはいえ主人も30代半ばでしょう、もう少し健康に気を遣って甘味減らしたら如何です?」

(´・_ゝ・`)「トソンくんも20代半ばでしょう、もう少し健康に気を遣ってお酒減らしたらどう?」

(゚、゚トソン「ドロー!!ほら早く温かいうちに召し上がってくださいよ」

(´・_ゝ・`)「はーい、いただきます」

581名無しさん:2023/07/19(水) 21:55:41 ID:mZA/AUjk0

私と主人は似ているところなどほとんど無いが、欲に忠実なところは似ていた。
健康のために我慢が出来ないタイプの人間なので、お互い年齢を引き出されると痛いのだ。
引き分けという事にしてその話題を無理矢理終わらせる。

席についた主人の前に、出来立てのフレンチトーストとメープルシロップが入ったディスペンサーを置く。コーヒーにミルクを入れる間に、主人がたぷたぷとメープルシロップをかけていた。
カチャリ、ナイフで切り込みを入れている。粉砂糖をかけ忘れたが、あれだけメープルシロップをかけるのなら丁度良かったかもしれないと、たっぷり染み込んだ生地を口に入れるのを見て思った。

(*´・_ゝ・`)「うん、美味しい。カリカリしてるとことふわふわなとこがあるね、僕これ好きだなあ」

(゚、゚トソン「良かったです」

垂れ眉を更に下げて満足そうな顔をする主人を見て、ふふんと鼻を鳴らした。

582名無しさん:2023/07/19(水) 21:56:20 ID:mZA/AUjk0

(´・_ゝ・`)「ところでさトソンくん、何か悩みでもあるの?」

この後は洗濯をして庭の手入れでもしようかと、考えていた時だった。
何口目かのフレンチトーストを咀嚼し終えた主人が、こともなげにそんな事を言うので思わずじっとり目を合わせてしまう。

(゚、゚トソン「デミタスのデはデリカシー無男のデですか?」

(´・_ゝ・`)「ひどい悪口を言う・・じゃあトソンくんのトは何?」

(゚、゚トソン「とにかく美しいトソンのト」

(´・_ゝ・`)「ずるい」

(゚、゚トソン「言ったもん勝ちですよ」

(´・_ゝ・`)「……何もないなら良いんだけど、目の下の隈が凄いことになってるから」

(゚、゚トソン「申し訳ないです、私、隈まで美しいから目立ってしまうのですね…」

(´・_ゝ・`)「それ何に謝ってるの?美意識?」

583名無しさん:2023/07/19(水) 21:57:00 ID:mZA/AUjk0


主人は優しい人だった。
そうでなくても奥様を病気で亡くされているから、人の体調には敏感なのかもしれない。
確かに最近は隈が出来ていた。昼寝もしてる筈だけれど、睡眠が浅いようだ。
心配そうにこちらを見る主人に、これ以上悪態をつくのも仕方ないので観念する。

(゚、゚トソン「いや、本当に大丈夫です。ちょっと最近夢見が悪いだけで」

(´・_ゝ・`)「それ結構な原因だと思うよ」

(゚、゚トソン「うーん…………まあお気遣いだけありがたく貰っておきます」

何かあったら教えてねと、主人が言う。
口の端をキュッと上げるだけに留めて、お茶を濁した。


(゚、゚トソン(……本当に、主人にできることはないんですよね)


何故なら悩みの原因は判明していて、それが主人本人なのだから。

584名無しさん:2023/07/19(水) 21:57:39 ID:mZA/AUjk0





──事の発端は、以前屋敷に勤めていて今は実家が営む酒屋のバイトをしており生意気にもキャバ通いをしている雑魚、通称雑魚が発した言葉だった。


……


585名無しさん:2023/07/19(水) 21:58:18 ID:mZA/AUjk0


( ^ν^)「そういやもうすぐデミタス様の誕生日だよな。誕生日会とかやるならハブんないでください」

買い物帰りにこの酒屋に寄るのがルーチン化していた。品揃えが良い。ただ一つ文句があるとしたら、たまにバイトが絡んでくるぐらいだ。
本日の酒は何にしようかとルンルン気分で選んでいた私に、雑魚は雷を落とした。

(゚、゚トソン「は?」

(;^ν^)「すみませんナマ言いました、俺も参加したいです祝いたいです!」

思わず低い声を出してしまった私に何を勘違いしたのか、慌てた様子で言い直している。違う、そういう意味で聞き返したわけじゃない。

(゚、゚トソン「いや、いやいやいやいや、待て待って……主人って誕生日あるんですか?」

(;^ν^)「アンタ雇用主をなんだと思ってんだ」

(゚、゚トソン「いや私勤めて3年目に突入しましたが一度もそういう話題出なかったので…てっきり金持ちって誕生日無いんだとばかり」

586名無しさん:2023/07/19(水) 21:58:57 ID:mZA/AUjk0



真剣な話、本当に話題に出なかったのだ。
歳だって正確なものは知らない。恐らく30代位だろうという、それだけの薄らとした情報しか知らない。別に知らなくても困らなかったから。
そう告げれば雑魚はしばし考えた様子になり、そして口を開いた。

(;^ν^)「あー……もしかしたら乗り越えられてないのかもしれない」

(゚、゚トソン「乗り越える?」


( ^ν^)「デミタス様の誕生日って…」



……

587名無しさん:2023/07/19(水) 21:59:36 ID:mZA/AUjk0


(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン(聞くんじゃ無かったよなあ…)

食べ終えた主人の食器を台に乗せてまたキッチンへと戻りながら数日前のやり取りを思い返して、ため息をついた。
私の自然遺産ばりの息が惜しげもなく吐き出されるこの数日、悩んで悩んで悩み疲れている。
どうにかしてほしいとは思うが、その理由の原因の元凶に話してしまったら何もかもが台無しになるとわかっているので、主人に話せるわけがないのだった。

雑魚の話を聞いて一番に思ったのが、先程も言った通り『聞かなきゃ良かった』だ。

まず誕生日というものは厄介だ。
聞いてしまったら、耳にしてしまったら、何かしら祝わないとソワソワしてしまうのだ。
知ってるのに何もしなかったら、その日一日中「あー誕生日だと知っていたのに何もしなかった…」と謎の罪悪感に苛まれるのだ。

588名無しさん:2023/07/19(水) 22:00:12 ID:mZA/AUjk0


(゚、゚トソン(私の傲慢さを舐めないでほしい)


相手が何も気にしないかもしれなくても、私が嫌だという理由でおめでとうを言いたいだけ。ありがとうのかつあげ、いやこれは強盗レベルの野蛮さだ。
但しこれは諸刃の剣でもある。
大体のおめでとうは返される。私はそれが嫌だった。
誕生日を祝わないのは心苦しいくせに、祝われるのは嫌いだった。傲慢極まりない。

(-〜-トソン(そもそも、主人が誕生日の話を持ち出さないのがおかしいんですよ)

誕生日なんて甘いものを合法的に摂取できる日だというのに、あのイベント大好き甘いもの中毒おじさんが自己申告を3年もしてこなかったというのは、やはり、つまり、雑魚が言っていた説が正しいのかもしれない。

589名無しさん:2023/07/19(水) 22:00:51 ID:mZA/AUjk0






( ^ν^)『──結婚記念日なんだって。同じ日にしたら喜びが2倍で良いだろうって奥様が言って、そうしたんだって、聞いたんだ』




.

590名無しさん:2023/07/19(水) 22:02:03 ID:mZA/AUjk0

主人はなんでも出来る器用な人間だけれど、奥様のこととなると屋敷のものを燃やしたり引き篭ったりする不器用な人間でもあった。
お墓参りにすらようやく最近行けるようになって来たのだから、結婚記念日と同じ日の誕生日が辛い思い出である可能性は無くはない。

私がそうであるように、主人もそうなのではないだろうかと思うと、迂闊にお祝いなんて出来るわけがなかった。


(゚、゚トソン「……」

∩(゚、゚#トソン「んむぁむむむなががが」

考えれば考えるほど、頭から火が出そうになる。
祝うのかい、祝わないのかい、どーっちだい!

(゚、゚トソン「パワー!!」

(゚、゚トソン「むしゃくしゃしたときはお酒を飲むに限ります、今日はお高いお酒開けちゃおうかな!?とっておきのお酒……」

591名無しさん:2023/07/19(水) 22:02:48 ID:mZA/AUjk0



(──じゃあさ、じゃあさ!)



(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「……そう言えば、そうでした」

はしゃぐ可愛らしい声を、思い出した。そうだ、あの時も一緒にお酒を…。
私はいつも、何かしらの優しさに助けられていた。

592名無しさん:2023/07/19(水) 22:04:02 ID:mZA/AUjk0


(゚、゚トソン「……うん、やりますか。ありがとうの強盗」

私は傲慢で、強欲だった。これは主人のためではなく、私がやりたい事をしたいだけ。

(゚、゚トソン「パンが無ければケーキを食べれば、隈がひどいなら原因をごっそり消して仕舞えば良いのです。それがトソン流、美の秘訣です」


いざ、良質な睡眠を得る為に。


"\(゚、゚トソン「ヤー!」

593名無しさん:2023/07/19(水) 22:04:44 ID:mZA/AUjk0

業務終了時間間際、手を挙げて主人を呼び止めた。


\(゚、゚トソン「有休ください。明日」

(´・_ゝ・`)「珍しいね、どこか行くの?」

(゚、゚トソン「キッチンに篭ります」

(;´・_ゝ・`)「えー……いや、まぁ良いけど、あんまり…どんちゃんしないでね」

(゚、゚トソン「決して覗かないでくださいね」

(´・_ゝ・`)「僕、最近鶴助けたっけ…」


これで準備は万全である。

594名無しさん:2023/07/19(水) 22:06:16 ID:mZA/AUjk0

∩(゚、゚∩トソン「作ります、よーっ」

朝イチのこと。
久しぶりに掃除も洗濯も何もしなくて良い。ご飯だけは軽食を用意して主人に渡してあるので何も気にする必要はない。
桃より繊細な両頬をパァンと叩いて気合を入れてみる。これから作るものはそれだけ神経を使うのだ。

(゚、゚トソン「オーブンを200℃に予熱しておきます。これ、とても大事です」

(゚、゚トソン「小鍋に水とバターを…投入っ!とうっ!カリッとしてる方が都合が良いから牛乳と砂糖も入れますよ」

ヾ(゚、゚トソン「悩むけど薄力粉かなぁ…多分薄力粉で良いはず…木べらで混ぜます!マゼマゼトソン!」

ヾ(゚、゚トソン「生地がまとまってきました…こう、筋トレしてるような気持ちになってきますよね」

c- (゚、゚トソン「ふう」

カッカッカ≠(゚、゚トソン「溶き卵を少しずつ加えて……なんかこの瞬間が好きなんですけど、わかるかな…ある程度の硬さになるまで混ぜ合わせマッスル」

595名無しさん:2023/07/19(水) 22:07:29 ID:mZA/AUjk0

▽(゚、゚トソン「絞り袋に入れて、にゅってします。こういう形を作る瞬間は苦手なんですけど、わかるかな…丸く絞って出して形を整えて…」

(゚、゚トソン「霧吹き!それが〜一番大事〜」

(゚、゚トソン「オーブンに!ブン!します!!はぁ…体力勝負やでぇ…」

(゚、゚トソン「オーブンの扉は絶対開けてはなりません、なりません…物語でそういうふうに言われると開けたくなりますよね、わかります。でも駄目です。温度を180℃に下げてまた焼きます」

素早く動く。いつもの三倍速。
やることが多すぎてふざけられない。

∀⊂(゚、゚トソン「クリームを作りますよ!小鍋に牛乳とバニラエッセンスを入れます」

バニラエッセンス→∀⊂(゚、゚トソン「…」

∀\(、゚トソン ペロッ

"(゚言゚トソン"「エンッ」

:(公トソン:「ゥオ…ゥベベ…」

(゚、;トソン「スンッ……バニラエッセンス、わかっていても絶対一度は舐めますよね、舐めますよね?」

(゚、゚トソン「はあ、恐ろしい罠…」

596名無しさん:2023/07/19(水) 22:08:11 ID:mZA/AUjk0

(゚、゚トソン「ボウルに卵黄を入れて〜砂糖を入れて〜
本当はお酒もちょっと入れたいけど…今日はシンプルに行きますか……お酒はあとで私が全部いただきます」

(゚、゚トソン「めっちゃ混ぜます。黄金の右腕を見せてやる!」

(゚、゚トソン「うおおおお」

(゚、゚トソン「粉を入れてさらに混ぜます。あー腕が、腕が辛い…樽酒より重い物は持てない細腕ですからね…お酒以外のものを持つと駄目なんですよね」

"(゚、゚トソン「お鍋に入れてからまた混ぜ混ぜタイム!」

(゚、゚トソン「お料理全般そうですけど、初めてお菓子を作り出した人は何を考えてずっと混ぜてたんでしょうかね…私は今何が出来るかわかってるからめげませんけど、確実に出来るもの知らずにずっと混ぜるのすごいと思います」

(゚、゚トソン「お、ぽこぽこしてきましたね……火を止めて、冷蔵庫に冷やしておきます」

(゚、゚トソン「そうこうしてる間にオーブンがまたブンしましたね、取り出して熱を冷ましておきましょう」

597名無しさん:2023/07/19(水) 22:09:18 ID:mZA/AUjk0

ジャジャン$(゚、゚トソン「ここで真打登場!実は買いました、主人の金で!泡立て器くんですジャジーン!」

デュガガガガ$(゚、゚トソン「角を!立てるように立てるように!泡立て器くんって暴れ馬にみたいになって楽しいですね」

(゚、゚トソン「生クリームを混ぜて先程冷やしていたクリームと一緒にしてからまた混ぜます。明日私の腕マッスルマッスルしてたらどうしましょう、ノースリーブ着なきゃかな」

(゚、゚トソン「よし、あらかた出来ました」

(゚、゚トソン「……昔お母さんと作った時は全然出来なくて、何回も作り直したな…」

,(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「…いや、しんみりしてる場合ではナッスルです、まだまだやることはたくさんです!皮の中にクリームを詰めていきます」

⚪︎(゚、゚トソン「丸いものって可愛いですね、このままペットにしたいな」

(゚、゚トソン「よし、出来ました」

598名無しさん:2023/07/19(水) 22:10:01 ID:mZA/AUjk0

(゚、゚トソン「また小鍋に水とグラニュー糖、そして水あめを入れます」

(゚、゚トソン「小鍋が沢山ある屋敷で良かった。…いや洗い物のことを考えたらそうでもないのか?」

(゚、゚トソン「水あめって食べにくいけどワクワクするのはダイレクトに甘いからでしょうかね?辛口の酒のつまみに…はしにくいですね、やはり塩と砂糖がシンプルで一番素晴らしいおつまみです」

(゚、゚トソン「焦げないように…焦げないように…」

(゚、゚トソン「炊き込みご飯のおこげはあんなにありがたいのにどうして料理の焦げって厄介なんでしょうか…一度焦げたチョコを食べたことありますがあれはもうカカオ99%より絶望の味でしたね…」

(゚、゚トソン「キャラメル色になりました、OKです」

599名無しさん:2023/07/19(水) 22:11:02 ID:mZA/AUjk0
一つ一つを大事に、丁寧に積み重ねていく。


(゚、゚トソン「……ほんとに、良いのかな」

(゚、゚トソン「……いやこれ見たら主人絶対喜ぶと思いますし…大丈夫と思わなくない…」

(゚、゚;トソン「…」

(゚、゚トソン(嫌だと言われたら素直に謝ろう)

.

600名無しさん:2023/07/19(水) 22:11:29 ID:mZA/AUjk0





コンコン、主人の部屋のドアを軽くノックして開ける。
奇しくも15時。おやつの時間だった。

(´・_ゝ・`)「あれ、織物おれた?」

(゚、゚ツルン「誰が美しい鶴ですか。キッチンに来てもらっても?」

仕事がひと段落ついたところだと言う主人が、ひょこひょこ後を着いてくるのを見て、すこし胸とお腹が痛かった。

601名無しさん:2023/07/19(水) 22:12:26 ID:mZA/AUjk0


(;*´・_ゝ・`)「うわーーあー!!!なあにこれすごシュークリーム??あっカメラ…!はっ!食事の写真撮りたがる若者の気持ちが今初めてわかったよ!」

(;*´・_ゝ・`)「これ倒れない?っていうか食べれるやつ?どちらにせよすごいね!?」

キッチンに入るや否や、年甲斐もなくはしゃぐ主人にバレないようガッツポーズをした。
予想以上の喜び具合に、頑張った甲斐があったなと早くも筋肉痛がきている腕を摩る。

主人の前には、沢山のシュークリームがタワーのように積み重ねられている。
重ねすぎてキッチンから出られなくなってしまったのはご愛嬌だ。

+(゚、゚トソン「ふっふっふ、なんとこれ全て食べられます」

(;*´・_ゝ・`)「す、凄すぎる…!!何かのお祝いみたいだね」

(゚、゚トソン「お祝いです」

(´・_ゝ・`)「えっ何の日?建国記念日だっけ?」

(゚、゚トソン「今日…主人のお誕生日と、それから奥様との結婚記念日のお祝い、です」

(´・_ゝ・`)「え」

私の言葉に、主人が固まる。
やはり、地雷だったのだろうか。目を見れなくて床を見ながら早口で話を続けた。

602名無しさん:2023/07/19(水) 22:12:59 ID:mZA/AUjk0


(゚、゚トソン「偶々ですが日にちを知ってしまったので、祝わないという選択肢がなかったんです。すみません、ありがとうの強盗です。いつも一応世話になっていますから、誕生日くらいはお祝いを…したかったんです」

(゚、゚トソン「でも主人がお誕生日を祝われるのが嫌ならその、もう一つの結婚記念日をお祝いすれば良いんじゃ無いかと思って、クロカンブッシュを、これクロカンブッシュという結婚式とかでもよく出るお菓子です」

(´・_ゝ・`)「そっか……なるほどね、それでずっと悩んでたんだねトソンくん」

主人がいつもの優しい声で喋り出した。
私はちらっと主人の顔を見て、相変わらずの下がり眉に今は少しだけホッとしたのだ。

603名無しさん:2023/07/19(水) 22:13:37 ID:mZA/AUjk0

(゚、゚トソン「…」

(゚、゚トソン「私、私も誕生日、祝われるの好きではないんです。私も、大好きなおか…母と誕生日が同じで、昔は一緒にお祝いするのが大好きでした でも今はもう自分だけ歳をとって、お祝いなんてって」

昔働いていた所ではバースデーイベントがあった。
それは本当の誕生日ではない、店側に付けられた適当な日にちだったがそれでもやはり自分だけが祝われる事が哀しくて嫌だった。
稼ぐチャンスだと、自分に言い聞かせてもそれでもしんどい気持ちがあった時、一緒に働いていた天使シンデレラちゃんが朗らかな声で言ってくれたのだ。


ζ(゚ー゚*ζ『──じゃあさ、じゃあさ!トゥインクルちゃんのお母さんのお誕生日をお祝いしよ!』

ζ(^ヮ^*ζ『誕生日が同じ日なんてすっごく素敵だよ!そんな日にトゥインクルちゃんが悲しむより、楽しい気持ちの方が良いよ!』

目から鱗がぼろぼろ落ちた気分だった。
お母さんが亡くなった年から一度もお母さんを祝う事なんかしなかったから。


(゚、゚トソン「私それがすごく嬉しくて、祝ってくれる人がいることも悪いことではないんだって思えたから」

(゚、゚トソン「お祝いはしたかったのです」

604名無しさん:2023/07/19(水) 22:14:17 ID:mZA/AUjk0


スカートの端を掴みながらぐだぐだと話すのを、主人は静かに聞いてくれた。
目が合い、ニコッと小さく笑われる。

(´・_ゝ・`)「ありがとう……沢山考えてくれて。……そしてごめんね、言いにくいんだけど…」

(゚、゚トソン「やはりお祝い嫌でしたか」

(´・_ゝ・`)「違う違う、あのね、僕の誕生日と結婚記念日は今日じゃないんだよ」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「え?」

605名無しさん:2023/07/19(水) 22:14:55 ID:mZA/AUjk0


(´・_ゝ・`)「10日後の17日なんだ」

(゚、゚トソン「あ の く そ ざ こ」


今鏡を見たら流石の私も般若のようになっているだろう。
なんたる赤っ恥。ここまで悩んで、日にちが違うだなんて。

(´・_ゝ・`)「韮塚くんに聞いたんだ」

(゚、゚トソン「彼奴はもう雑魚と呼ぶことすら勿体ない…ザって呼びます、ザ」

(´・_ゝ・`)「6月ってことまでは覚えててくれたんだね。いやあ2人には気を遣ってもらって申し訳ない」

ニコニコ笑いながら主人がクロカンブッシュを彼方此方から眺めている。先程までの緊張が嘘のようにどうでも良くなってしまった。酒を、酒を飲んでしまいたい。

606名無しさん:2023/07/19(水) 22:15:25 ID:mZA/AUjk0


(´・_ゝ・`)「祝われるのがいやと言うわけではなかったんだけど、やはりどうしても…30越した人間がわざわざ自分の誕生日祝ってくれ!って言えないじゃないか。ハッピーバースデーハラスメント…つまりハピハラになりそうだし」

(゚、゚トソン「カピバラみたく言わないでください。ていうかハロウィンとクリスマスはあんなにイベントさせてるくせに?!」

(´・_ゝ・`)「ああでもそうだね、うん。嬉しい。誕生日と結婚記念日祝うのも祝われるのも久しぶりだ。ありがとう」

(゚、゚トソン「……」

最近で一番でかい溜息を吐いた。
甘ったれ下がり眉毛の主人は本当に嬉しそうな顔をしていて、毒気を抜かれる。

607名無しさん:2023/07/19(水) 22:16:16 ID:mZA/AUjk0


(´・_ゝ・`)「トソンくんの誕生日はいつ?」

(゚、゚トソン「私の誕生日は6月15日です」

(´・_ゝ・`)「近いね。……あのさ、僕もお祝いして良いかな。君と、君のお母様のお誕生日を」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「高いですよ」

(´・_ゝ・`)「祝い代が?」

(゚、゚トソン「酒代が」

(´・_ゝ・`)「どんと来いだね!」

ドヤ顔で返してくる主人に、絶対無茶苦茶お高い酒を買って貰おうと誓った。

608名無しさん:2023/07/19(水) 22:18:40 ID:mZA/AUjk0

そんな事を考えて、隣にある高く積み上げられた幸せの象徴を思い出す。
日にちが早かったとしてもお祝いとして作った気持ちは変わらない。これだけ高くて、艶やかなシュークリームが惨めになる必要はこれっぽっちもないのだ。
主人に食器を手渡す。乱雑になってしまったのは照れ隠しなんかではない。

(゚、゚トソン「とりあえず、召し上がってください。私はまだ有休中なのでお酒飲みますからね」

(*´・_ゝ・`)「わーい!……どうやって食べるの?これ」

609名無しさん:2023/07/19(水) 22:19:38 ID:mZA/AUjk0

キャラメルで固められたクロカンブッシュに四苦八苦する主人は、とても良いつまみになりそうだなと思いながら笑ってミード酒を注ぐ。
一番上のシュークリームをもぎ取って齧る。カスタードが優しい甘さで、ミード酒のふんわりとした蜂蜜の香りが丁度良いペアリングになった。

(*´・_ゝ・`)「美味しい」

(゚、゚トソン「それは良かった」

(´・_ゝ・`)「ふふ、これだけ高く積み上げられてると、すっごい良い日って気持ちになるね。ありがとう、トソンくん」

(゚、゚トソン「…どういたしまして」


(゚、゚トソン(主人と奥様と、お母さんと、それから…私もおめでとうございます)

(゚、゚トソン「……」

(゚ー゚トソン


久しぶりに、今夜は良く眠れそうだ。






fin

610名無しさん:2023/07/19(水) 22:23:28 ID:mZA/AUjk0


番外編の投下は以上になります。
お久しぶりの方もはじめましての方もお読みいただきありがとうございます。
>>570さん、届きました。ありがとうございます、嬉しかったです。
6月中に仕上げて投下する予定でしたが大幅にズレました。でも投下できて良かったです。


前回雑魚の番外編を書くと言ったな、あれは嘘じゃ
また次回書けたらいいなと思います、気長に気長にお待ちください。
ありがとうございました。

.

611名無しさん:2023/07/19(水) 22:24:44 ID:mZA/AUjk0
しえんついてるの今気付きました!
ありがとうございました!

612名無しさん:2023/07/19(水) 22:41:43 ID:CD6vNwzs0
おつおつお

613名無しさん:2023/07/19(水) 22:41:51 ID:cbV2EK4A0
サクサク読めたわ、乙!
ブーン系、シュークリームブーム…?

614名無しさん:2023/07/19(水) 23:46:04 ID:r0rgkgr.0
たまたま久しぶりに見に来たら投下きてたー奇跡!
ほっこりしたおつ!!

615名無しさん:2023/07/20(木) 00:09:14 ID:rCqE.rk20
おつ!
番外編うれしい

616名無しさん:2023/07/20(木) 15:14:32 ID:vgOhG/LE0


617名無しさん:2025/01/04(土) 12:17:55 ID:B52hw1NY0
シュトレンやガレットデロワを見かけるたび
この作品を思い出します

618名無しさん:2025/03/06(木) 23:47:48 ID:dlNntido0
久々に読み返した
酒と甘いもんが欲しい

619名無しさん:2025/06/11(水) 02:02:15 ID:nXDJe9dM0
自分もたまに読み返す


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