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少女「私を忘れないで」
661
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/01(月) 23:42:10 ID:ilEmohKw
〜リビング〜
男「……うぅ、母さん、風邪を引いたかも」
母親「熱はあるの?」
男「今から測ってみる」
俺は救急箱から体温計を取り出し、熱を測ることにした。
ぼんやりする頭で待つこと3分。
男「……37度9分」
少女「やっぱり、双妹さんからもらってしまったみたいですね」
母親「かなり高いわねえ。とりあえず、部屋で暖かくして寝てなさい。朝ご飯を食べたら病院に連れて行ってあげるから」
男「……分かった」
662
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/01(月) 23:48:55 ID:gnr0Nuk2
〜部屋〜
俺は気怠い足取りで部屋に戻り、ベッドの中に潜り込んだ。
それからしばらくして、スマホに電話が掛かってきた。
俺は仕方なく身体を起こし、棚の上に手を伸ばしてスマホを取る。
どうやら、友が心配して掛けてきてくれたようだ。
男「もしもし、友?」
友『もしもし。そろそろ電車が来るんだけど、どうかしたのか?』
男「実は風邪を引いてしまったみたいで、これから病院に行くんだ」
友『マジかよっ!』
男「悪いけど、今週は休むことになりそうだ」
友『大丈夫だとは思うけど、一応気を付けろよ。何かあったら、すぐに連絡してくれ』
男「ああ、そうする。じゃあな」
663
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/01(月) 23:59:18 ID:gnr0Nuk2
電話を切ると、ノックの音がして双妹が部屋に入ってきた。
どうやら、俺の様子を見に来てくれたようだ。
双妹「男、おはよう。私の風邪をうつしちゃったね」
男「おはよう。結構、気を付けていたんだけどな――」
双妹「熱はあるの?」
男「さっき測ったら、37度9分だった。双妹はもう大丈夫なのか?」
双妹「私は36.98だったよ。後で普通の体温計でも測り直すつもりだけど、熱も下がってきたし体力が出てきたかも……くしゅん」
少女「まだ大人しく寝ていたほうがいいですよ」
双妹「はいはい。じゃあ、部屋に戻るわね」
男「そうだな。来てくれてありがとう。双妹もゆっくり寝てろよ」
双妹「……うん//」
664
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/02(火) 20:13:34 ID:bMV6LAuM
〜かかりつけの病院〜
朝ご飯を食べた後、俺は母さんに連れられてかかりつけの病院に行くことになった。
俺と双妹は異性一卵性双生児として研究協力をするために、大学病院で精密検査を受けている他に既病歴やカルテなども管理されている。
だから新しい病院に掛かる時は大学病院に連絡をしないといけないし、風邪などを引いたときは協力関係にあるかかりつけの病院に行かなければならない。
看護師「男くん、どうぞ〜」
かかりつけの病院に着き、待合室で待つこと30分。
ようやく、俺の名前が呼ばれた。
そして診察室に入ると、医師は問診表を片手に俺を見た。
医師「熱が高いみたいですね。インフルエンザの検査をしてみましょう」
男「……はい」
検査の結果、インフルエンザウイルスに感染していることが判明した。
やはり、双妹からもらってしまったようだ。
665
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/02(火) 20:23:21 ID:5ly4mtX2
〜自宅・部屋〜
薬局で吸入粉末剤を2本吸入し、家に帰ってきた。
治療はこれで終わりで、他には解熱剤を少し処方されただけだった。
たくさん薬を渡されると思っていたので、ちょっと拍子抜けだ。
少女「私がばっちり看病して見せますから、今日はもうゆっくり寝てくださいね」
男「……はあ、そうするか」
俺は意気込む少女さんを見遣り、パジャマに着替えてベッドに潜った。
すると少女さんの手が毛布をすり抜けて来て、俺の手に触れた。
こうして近くにいてくれるだけで、すごく安心する。
男「少女さん。風邪が治ったら、また一緒に遊びに行こうか」
少女「そうですね。楽しみにしています♪」
666
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/02(火) 20:25:50 ID:5ly4mtX2
母親「男、ちゃんと寝てる?」
しばらくして、母さんが様子を見に来てくれた。
今からどこかに出掛けるらしく、冬物のコートを着ている。
男「うん、寝てる」
母親「それなら良いんだけど……ひとつ聞いていい?」
男「聞くって何を」
母親「少女さんのことで、何か隠してない?」
少女「……!」
男「隠すって何をだよ」
母親「先週の金曜日、学校で集団パニックがあったでしょ。その後から、家に何かがいるような気配を感じるのよね。気のせいかと思っていたんだけど、男なら知ってるんじゃないかと思って」
母さんは若い頃に友の家の神社で働いていた。
少女さんの姿は見えないようだけど、低級霊の気配は感じることが出来るのだろう。
だけど、低級霊に俺たちが気付いていることを気付かれる訳にはいかない。
667
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/02(火) 20:27:58 ID:QTev1Qv2
男「今は風邪を引いてだるいから、治ってからにしてくれるかな」
少女「本当のことを言わないんですか?! お母さん、きっと私のことも知ってますよ」
母親「そう……まあいいわ」
男「……」
母親「それじゃあ、買い物に行ってくるから大人しく寝てるのよ」
男「分かった」
母親「あと……何かあったら、すぐに連絡しなさい。急いで帰るから」
母さんは言い含めるように言うと、部屋を出て行った。
きっと、これで良かったのだ。
明日になれば、低級霊たちをすべて除霊出来るのだから――。
668
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/02(火) 20:31:55 ID:.tt/dfC.
少女「ねえ、どうして本当のことを言わなかったんですか」
男「言える訳ないだろ。少女さんが死んでいる人だなんて」
俺はそう言いつつ、少女さんに目配せをした。
この会話も低級霊たちに聞かれているかもしれない。
少女「あ……ああ、そうですよね」
男「ごめん」
少女「それじゃあ私、双妹さんの様子を見てきます。そっちも気になるので――」
少女さんは取り繕うようにして言うと、壁をすり抜けて双妹の部屋に入っていった。
そしてそれと同時、少女さんの悲鳴が聞こえた。
669
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/06(土) 05:20:11 ID:/ZWkaV6E
何があった
670
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:17:32 ID:qAA63VlY
少女『きゃあああぁぁぁっ!!』
男「な……なんだ?!」
俺は何事かと思い、壁を見る。
すると、少女さんが青ざめた表情で俺のベッドに飛び込んできた。
そして声を震わせる。
少女「見える……見えるのっ!」
男「見えるって、何のことだよ」
少女「低級霊が双妹さんの部屋にいるの。あ……あああ、こっちに入ってきた」
男「低級霊が見えるって、どういうことだよ。少女さんには見えないんじゃないのか?!」
違うっ!
友が言っていたはずだ。
少女さんは俺の守護霊が守っている範囲の中にいるから、他の浮遊霊の姿が見えないのだ――と。
つまり、俺が風邪を引いて守護霊の力が弱くなってきたから、低級霊の姿が見えるようになったのだ。
671
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:21:13 ID:rD8RnIkY
少女「どうしよう。友くんに電話をしたほうがいいんじゃないの?!」
男「そ……そうだな!」
俺はそう言いつつ、重たい身体を起こす。
そしてベッドに腰をかけ、棚の上のスマホに手を伸ばした。
なぜ、急に低級霊の姿が見えるようになったのか。
それは見えるようになっていたけど、俺の近くに低級霊がいなかったからだ。
なぜ、俺の近くにいなかったのか。
それは、俺が母さんと一緒にいたからかもしれない。
巫女をしていた母さんならば、低級霊を追い払うことが出来るのだ。
そうだ。
電話をするなら、今は学校にいる友ではなくて母さんだ。
男「うぐっ?!」
少女「うそ……いやっ…………中に入ってくる。だめっ、だめえっ!!」
672
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:26:21 ID:ku1ArhBA
男「少女さん、俺にも見えるようにしてくれ!」
少女「えっ?!」
男「前に友が言ってただろ。少女さんが見ているものを、俺にも見せてくれ!」
少女「い……いいの?!」
男「早くっ!」
まるで金縛りにあったかのように動かない身体。
この状況を打開するためには、まずは見えるようにならないといけない。
そう思った次の瞬間、どす黒くただれた不定形の化け物が何体も俺にまとわり付いているのが見えるようになった。
男「うあああぁぁっ!!」
少女「男くんっ!」
男「だらくそっ! こんなやつらが俺たちに――!!」
673
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:29:31 ID:gFr08i/o
双妹「ねえ、何を騒いでるの?」
ふと声が聞こえた場所を見ると、いつの間にか双妹が俺の部屋に入っていた。
俺たちの声に驚いて、様子を見に来てくれたのだろう。
だけど、最悪のタイミングだ。
いや……。
すでに双妹は若い男の低級霊に憑依されていた。
男「双妹っ!」
少女「あっ……あああ…………少年くん……」
男「何だって?! こいつが少女さんを!」
674
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:34:45 ID:gFr08i/o
少年「少女さん、やっと会えたね!!」
少女「そんな……どうして、こんなことを――」
少女さんは及び腰ながら、声を振り絞った。
図書館に本を返しに行ったときのように、顔を上げて向き合おうとしている。
少年「僕がどんな気持ちだったのか、人殺しのキミには分からないんだね。少女さんのことが好きで好きで好きで好きで、好きで好きで好きだからずうっと探していたんじゃないか!!」
少女「私は……人殺しなんかじゃありません。自分の弱さを、わた……私のせいにしないでくださいっ!!」
少年「でも、周りの人はどう思っているだろうね」
675
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:39:36 ID:qAA63VlY
男「俺は少女さんが人殺しだなんて思ってない!」
俺は少年と向かい合い、声を張り上げた。
失恋したショックで自殺をしておいて、それが人殺しだなんて一方的な逆恨みじゃないか。
男「少女さんのことが好きなら、どうして自殺したんだ。そのせいで少女さんがどれほど苦しんできたのか、お前には分からないのかよっ!」
少年「お前は僕のことが見えるのか。良いだろう、冥土の土産に教えてやる」
少年「そう! 僕は少女さんの永遠になったんだ!! 少女さんの心の中に僕を刻み込んで、世界中の人間に僕と少女さんの絆を刻み込んで、僕は自殺をして呪い続けることで永遠の存在になったんだ!!」
少年「でもさあ……死んでも世界が続いていくことを知ったんだよお。死んでも生きていくことが出来るんだ。だから殺した」
少年「少女さんが自殺をしてくれれば、僕と少女さんの絆をもっと深く刻み込むことが出来るじゃないか。そして、こっちの世界で一緒にいられるじゃないか!」
676
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:43:17 ID:ku1ArhBA
男「そんなことのために、少女さんを殺したのか?! ふざけんなっ!」
少年「そんなことだとっ! 好きな人と一緒にいたいと思って何が悪い!! 好きな人をお前から取り戻そうとして何が悪いっ!!」
少女「少年くんっ! あなたの気持ちはよく分かりました」
少年「じゃあ、僕と付き合ってくれるんだね!」
少女「いいえ。私は……死んでもあなたとは付き合いませんっ!」
少女さんは、その言葉をきっぱりと言い切った。
そして、鋭い視線を少年に向ける。
少年「どうして、どうして僕の気持ちに応えてくれないだよおっ! こんなに少女さんのことが好きなのに!!」
少女「少年くんは自分の気持ちを押し付けようとしているだけです。私のことを苦しめることしか考えていないし、だから嫌なんですっ!」
677
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 19:50:31 ID:rD8RnIkY
少年「僕は少女さんのことが好きなのにっ! う゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁっっ!!」
少女「きゃああぁぁっ!」
男「少女さんっ!!」
少年の雄たけびと同時、浮遊していた低級霊たちが少女さんを取り囲んで羽交い絞めにした。
そして、俺の中に次々と闇が入ってくる。
息が苦しくなり、意識が朦朧としてきて俺はベッドに倒れ込んだ。
少年「全部お前のせいだ! お前がいなくなれば、少女さんは僕だけを見でぐれるんだあぁっ!!」
男「うっうううぅっ――」
少女「いやっ……いやあっ…………男くんの中に入ってこないで!」
少年「僕から少女さんを奪ったお前は絶対に許さない!!」
少女「……渡さない! 男くんは渡さない、絶対に死なせたりなんてしないんだからあっ!!」
男「……はあはあ…………」
少年「なんで! なんで、少女さんがこいつを守るんだよ!!」
少女「だって、好きな人だから!」
678
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 20:05:12 ID:ku1ArhBA
双妹「……はくちゅん…………」
双妹「もう話は終わった? 早くしないとお母さんが帰ってくるんだけど」
緊迫した状況の中、双妹は場違いなテンションで俺たちを見た。
そして畳んでいたミニテーブルを広げて、部屋の中ほどに設置する。
双妹「この辺かなあ//」
少年「ぶはっ! ぶははははっ!! まあいいや、お前の弱点が妹だってことはもう分かってるんだ」
男「……! 双妹に何をさせるつもりだ!!」
少年「言っただろう、お前は絶対に許さないって」
679
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 20:13:49 ID:gFr08i/o
少年は禍々しい笑みを浮かべると、双妹の中に入り込んだ。
くそっ!
すぐ近くに除霊が出来る手袋があるというのに、まったく身体の自由が利いてくれない。
このままだと除霊をするどころか、双妹に殺されてしまう。
――殺される?
双妹が俺を殺したいほど憎んでいなければ、少年が憑依しても俺を殺すことは出来ないはずだ。
それじゃあ、一体どうやって俺を殺すつもりなんだ。
そう考えていると、双妹はポケットからスマホを取り出して床に座った。
そしてミニテーブルの上にスマホを置いて、真剣な表情で画面を覗き込む。
やがて納得したのかピロリ〜ン♪という電子音が鳴り、用意していたスタンドにスマホを立てかけた。
680
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/09(火) 20:54:19 ID:wQSEOu2.
少女「双妹さん、まさか――」
双妹「ふふっ♪」
双妹が俺とスマホの間に回りこんで、スマホの背面に顔を向ける。
そして、可愛い声を作って話し始めた。
双妹「私は、奇跡のミックスツインと呼ばれている異性一卵性双生児の双妹です。今から大好きなもう一人の私、双子のお兄ちゃんと一緒にラブラブセックスを始めます」
双妹「もちろん、それが許されないことだということは分かっているつもりです。だけど、私のことを分かってくれる人は男しかいないんです。そのことは、もう嫌になるほど思い知らされました」
双妹「だから、認めてください。これを見ているあなたに……くしゅん…………うぅ、私たちの関係を認めてもらいたいです//」
681
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/09(火) 21:01:48 ID:Wejf5glM
双妹「えへへ、大切なところでくしゃみをしちゃった//」
双妹は苦笑いをすると、羽織っていたガウンを脱いで床に置いた。
そしてネグリジェのボタンを外し、誘うような視線を向けてきた。
淡いベージュのぬくぬくインナーがあらわになり、肩先からネグリジェがするりと脱げ落ちる。
やっぱりこれが双妹の攻撃衝動、俺に対する気持ちなのか――。
男「双妹……本気なのか?! 今のお前は操られているだけなんだ!」
少女「双妹さんは双子の妹なんだよ! こんなの間違ってる!!」
双妹「そんなの、もう関係ない! 私は今まで、双子の兄妹だから好きになってはいけない人だと自分に言い聞かせてきた。でもね、少女さんに出会って気付いたの」
双妹「生きている人と死んでいる人の恋愛を認めれば、私の気持ちを認めてもいいんじゃないかって――」
少女「えっ?!」
少女「じゃあ、双妹さんは自分の気持ちを否定するために……」
双妹「私を認めないなら、私も少女さんを認めない。そう、私と少女さんは同じなんだよ。でも、私には少女さんには出来ないことが出来る。男とひとつになることが出来る!」
682
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/10(水) 00:38:08 ID:Ri1bK6EM
男「双妹の気持ちはうれしいけど、俺は今、少女さんと付き合っているんだ。だから、そういうことが出来るわけないだろ」
双妹「そうかもしれないけど、お願いしたら受け入れてくれるんでしょ♪ 最近はオナニーをしていないみたいだし、もう我慢なんて出来るわけがないもん」
双妹はそう言って微笑むと、ぬくぬくインナーに手を掛けた。
そしてゆっくりと裾をめくり上げ、豊満な乳房が見えそうになったところで手を止めた。
すると伸縮素材のインナーが乳房に張り付き、乳首の形がくっきりと浮かび上がった。
双妹「ほらね、私から目を離せない//」
双妹は挑発的な声で言い、誘うような視線を向けてきた。
その性的な雰囲気に心がざわつき、苦しくなってきた股間を楽に整える。
そんな俺に気を良くしたのか、双妹はインナーを脱ぎ捨て、さらに3分丈のぬくぬくボトムを下ろし始めた。
すると足の付け根くらいで生地が裏返り、陰毛があらわになって割れ目から透明な粘液がつうっと糸を引いた。
そして双妹は色っぽい仕草で前屈し、谷間を見せつけながらボトムから足を抜いた。
683
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/10(水) 00:44:05 ID:by.zDGbY
少女「……どうして!」
少女「どうして、双妹さんは男くんのことを異性として好きになってしまったの?!」
双妹「少女さんには話さなかったっけ」
双妹「男子はみんな、私が男と100%同じ遺伝子だから気持ち悪いと言ってくるの。男はいつも、そんな悪口を言ってくる男子から守ってくれた。すごくうれしかった。そして、集団パニックで襲われたときに思い知らされたの」
双妹「ああ、やっぱり私には男しかいないんだ。男が一番好きなんだ――って」
中学2年生のとき、双妹が失恋して少し様子がおかしい時期があった。
そのときにいろいろと話し合い、双妹は気持ちの整理をすることが出来た。
しかし、先日の集団パニックで再認識させられてしまったのだろう。
少女「男くんは兄妹なんだから、双妹さんに何かあれば守るのは自然なことでしょ。それに対して恋愛感情を募らせるのはおかしいと思う!」
双妹「人が人を好きになるっていうのは理屈じゃないんだよ。双子の兄妹だとしても、私は男が好き。それだけで十分なの!」
684
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/10(水) 00:46:30 ID:4PYpDRcg
男「悪霊なんかに取り憑かれてこんなことをしたら、俺は双妹が傷付くだけだと思う! 今ならまだ引き返せるから、正気に戻ってくれ!!」
双妹「……」
双妹は口をつぐみ、わずかに眉を寄せた。
そして、スマホの背面を見詰めた。
双妹「……もう引き返せないよ。だって、SNSで生配信してるもん」
男「はっ?」
少女「生配信って、どういうこと?!」
双妹「もうみんなに見られてる。だから、何をしても同じなんだよ//」
685
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/10(水) 00:51:07 ID:4PYpDRcg
これは間違いなく、ただの動画撮影だ。
それに双妹はSNSによるデートDVに対して、とても嫌悪感をあらわにしていた。
だから、撮影した動画をSNSに投稿するようなこともしないはずだ。
そう思っていると、双妹が俺のパジャマを脱がせてきた。
低級霊に身体の自由を奪われ、なすすべなく裸にされていく。
双妹「男のおちんちん、すごく大きくなってるよ♪」
少女「……!」
双妹「ヌルヌルも出てるし、いやらしいことを期待しているのかなあ//」
双妹は指先で我慢汁に触って糸を引き、鈴口の周辺をぬるぬると弄ぶ。
そして、カリ首に被っている包皮をゆっくりと剥き始めた。
亀頭が完全に露出し、双妹はそれでも包皮を引き下げていく。
やがてピンと伸ばされてキノコのようになり、双妹はそれを見ると満足そうに口元を緩めた。
686
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/10(水) 01:12:40 ID:YHISsWKY
男「SNSに生配信をしているなんて、ウソなんだろ! こんなやり方で俺とセックスをして、双妹は本当に満足できるのか?!」
双妹「もういいよ、そういう話は。男が口で何と言っても、身体は反応してる。私とやりたくて興奮してる」
双妹「ねえ、私たちはどうして性別が分かれちゃったんだろうね//」
双妹はにんまりと笑い、俺のスマホをミニテーブルの上に持っていった。
そして笑顔で戻ってくると、唇を重ねてきた。
そのぷるんとした柔らかさに心を奪われ、俺は双妹と舌を絡ませる。
男「んんっ……」
双妹「えへへ、キスしちゃった//」
男「……なんだ、これ…………」
ぼんやりとした頭に、何かが入り込んでくる。
そして、心の奥底に押し込んでいた感情が何かに引きずり出されていく。
少女「だめっ……少年くんが入ってくる…………。男くん、双妹さん。負けないで、少年くんなんかに負けないでよおっ!!」
687
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/13(土) 07:56:03 ID:96EUWPNw
エロくていい
688
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 21:29:56 ID:9TUleZmU
(12月13日)thu
〜大学病院・男13歳〜
教授「――という訳で、今回から採精検査を実施します」
母親「ちょっと待ってください。その検査は本当に必要なんですか?!」
教授「同じ遺伝子を持つお二人の成長を詳細に記録することは、小児内科医療や遺伝子学などの進歩に必ず貢献します。それによって、成長障害をともなう子どもたちを救うことが出来るようになるんです。それは性発達も例外ではありません」
母親「そのことは承知していますけど、母親として戸惑いがあるというか……。男と双妹はもう中学生ですし、本当は恥ずかしくてしたくない検査もあると思うんです」
男「お母さん、俺は別に平気だから。俺たちにしか出来ないことだし、これからも頑張っていきたいと思う」
双妹「そうそう、私も男と一緒だよ。病気で苦しんでいる小さい子どもたちの力になれるのがうれしいし、もっといろんな検査に挑戦したい。それに女医さんが悩みを聞いてくれるから、専門の先生に相談できて助かるねってお母さんも言ってたでしょ」
689
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 21:35:11 ID:9TUleZmU
教授「お母さん。お二人は本当に頑張ってくれていますし、我々スタッフもお二人の成長が楽しみでいつも元気を分けてもらっているんです。お子さまの健康管理のためにも、ぜひご協力お願いします!」
母親「……」
母親「ずっと継続していくのですよね」
教授「はい、それは変更ありません。18歳までは2ヶ月毎の調査研究で、その後は段階的に調査回数を逓減し、23歳から年1回の定期調査に移行する予定です。ただし成人後にお二人の合意を得られれば、何らかの双子研究にご協力をお願いすることがあると思います」
母親「……分かりました。でも、わたしは男と双妹の気持ちを尊重する姿勢を変えるつもりはありませんから」
教授「ありがとうございます」
690
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 21:49:02 ID:PaJp4j8A
教授の面談と問診表の記入が終わり、12月の双子調査が始まった。
まず最初は基本的な身体検査で、身長や体重などを測定しタナー分類に関する写真撮影をして性成熟度の判定を受けることになっている。
その次に体力測定を行い、外来患者の隙間を縫うようにして精密検査を受けていく。
検査項目は調査する月によって違っていて、血液検査や尿検査のように毎回するものもあれば、頭部と骨盤のX線撮影やMRI検査など調査する月が決まっているものもある。
そして、最後に経腹・陰嚢超音波検査を受けて男性器の診察が終われば、俺の双子調査はすべて終了だ。
しかし今回から生殖機能の検査項目に追加があるので、診察が終わった後にトイレを済ませるように言われ、検査室の中待合の通路を歩いて別室に移動することになった。
691
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 22:02:48 ID:38RTeEbU
看護師「この部屋を使うときは、必ず最初に手を洗って消毒してくださいね」
検査室に入ると看護師さんに手を洗うように言われ、まず手指消毒を行った。
そして、新しい検査をするための場所を見渡す。
そこはカラオケBOXくらいの広さで、椅子やマットに座ってテレビを見たり漫画を読めるようになっていた。
どちらかと言うと、検査室ではなくて休憩室といった雰囲気だ。
そのことに少し戸惑っていると好きな場所に座るように言われ、俺はマットの上に座ることにした。
看護師「説明を始める前に聞きたいことがあるんだけど、前回実施した双子調査で保護者の問診表に『9月28日に夢精で精通した』と書いてあったのね。それなのに今回、男くんの性行動についての調査でマスターベーションの頻度を『したことがない』と回答しているでしょ」
男「はい」
看護師「もしかして、男くんがマスターベーションをしたことがないのは、自分の手で刺激をして射精する方法が分からないからなのかなあ」
男「えっと……はい、よく分からないです」
看護師「そっか。じゃあ、まずはこの部屋の使い方から教えてあげるわね」
692
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 22:28:04 ID:PaJp4j8A
俺は看護師さんに小冊子を渡され、それを読みながら説明を聞いた。
この検査室は採精室と言って、男性特有の病気を検査するときや赤ちゃんを作りたい夫婦のお手伝いをするときに使う部屋らしい。
本棚にはお母さんに買って欲しいとは言えない漫画や写真集が並んでいて、エッチなシーンがある深夜アニメもいくつか見られるようだった。
看護師「――それで勃起したペニスをしこしこしていたら気持ちよくなってくるから、失敗しないようにこの容器を被せて射精して欲しいの。そのときに必ず精液を全部入れて、採精した時刻を記入してください。もしこぼれてしまったら、そのときは必ず教えてくださいね。そして、培養室の窓口まで持って来てくれたら採精検査は終了です。あと、お風呂で洗うときと同じで、包皮を剥いたら元に戻すのを忘れないでね」
看護師「どう? 初めてだけど、一人で出来そうかなあ」
男「看護師さんは手伝ってくれないんですか」
看護師「ごめんね。お姉さんが手伝ってあげられると良いんだけど、そういうことが出来ない決まりになっているの」
男「……分かりました」
看護師「それじゃあ、1時間が過ぎても終わっていなかったら様子を見に来るから、それまでにリラックスをして採るようにしてくださいね♪」
693
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 23:38:42 ID:9TUleZmU
看護師さんが採精室を出て行き、俺は適当に漫画を手に取ってペラペラと読んでみた。
するとどのページを開いても下着姿の女の子やおっぱいがいっぱいで、恋人同士でキスをしたり裸で抱き合っているシーンもたくさん描いてあった。
これって、たぶんアレをしているんだよな――。
俺はすごくドキドキしてきて、夢中になってページをめくり続ける。
そして2冊目をじっくり読んでいると、ふいにドアをノックする音が聞こえてきた。
俺は何となく双妹が来たのではないかと感じ、漫画を片付けてドアを開けた。
双妹「やっぱり、ここにいたんだ。男は今、何をしてるの?」
男「今日から始まった新しい検査をしてるんだ。双妹はもう終わったのか?」
双妹「うん。それで男が検査室に入ったまま出てこないから、どこにいるのか心配になって探しに来たの。そうしたら通路の奥にも部屋があったから、そこにいるような気がして……」
男「ああ、そっか」
双妹「私も一緒にいていい?」
男「良いけど、ここに入るときは必ず手を洗って消毒しないといけないんだ」
双妹「うん、分かった」
694
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/15(月) 23:49:51 ID:38RTeEbU
双妹「それで、新しい検査ってどんなことをしているの?」
男「男性だけの検査で、詳しいことはその小冊子に書いてあるよ」
双妹「どれどれ? 私も読んでみたい!」
双妹は小冊子を手に取ると、俺の隣に座ってじっくりと読み始めた。
そして読み進むに連れて赤面し、興味津々な様子で俺を見詰めてきた。
双妹「今から、男もこれに書いてあることをするんだよねえ//」
男「それはまあ、そういう検査だし。でも、初めてでよく分からなくて……」
双妹「じゃあ、一緒に頑張ろうよ! 男はもう一人の私だし、私もちゃんと知りたいから!」
男「ああ。俺も一人で不安だったし、双妹がいてくれたらうれしいよ」
双妹「やったあ〜。ここの漫画、私も読んで良いんだよね♪」
双妹はそう言うと、本棚を物色し始めた。
俺も本棚を漁って写真集を取り出し、双妹と二人でマットに腰を下ろす。
そして、俺たちは一緒に本を読むことにした。
695
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/16(火) 00:40:58 ID:xPFwf616
双妹「ねえっ! この漫画、セックスをしてるんだけど//」
男「こっちはほらっ、あの巨乳アイドルの下着姿とか裸の写真ばっかりだぞ」
双妹「ほんとだ。もしかして私たち、ものすごくえっちな部屋に入ってるの?!」
男「間違いなく、ものすごくえっちな部屋に入ってる」
双妹「そ、そうだよね。私たち、これからえっちな事をするんだもんね//」
双妹は恥ずかしそうに言うと、もじもじと太ももを擦り合わせた。
そして、うっとりとした表情で吐息を漏らす。
俺はそんな双妹から目を逸らすことが出来なくなり、心の奥底から期待感が込み上げてきた。
双妹とえっちな事をしてみたい――。
それが伝わったのか、双妹と視線が交わる。
しかも、その瞳はまるで何かを求めて待っているかのように潤んでいて……。
俺たちは気持ちが舞い上がり、完全にその場の雰囲気に飲まれていた。
696
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/16(火) 06:51:01 ID:.XXWDOC6
エロいの頼む
697
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/16(火) 23:43:30 ID:xPFwf616
双妹「男、どうしよう。検査もしないといけないんでしょ。やっぱり、そっちのほうが大切だよねえ」
男「あ、ああ、そうだよな。分かってる」
双妹「それで思ったんだけど、私が……してもいい?」
その言葉を受けて、俺たちはお互いに見詰め合う。
そして数秒後、双妹がいやらしい笑みを浮かべて、俺の股間に目を向けた。
双妹「うふふ、もう大きくなってるよ//」
双妹「早く脱いで。脱いでくれないと検査が出来ないし♪」
どうやら、双妹は俄然やる気になっているようだ。
俺はその期待に応えてパンツを脱ぎ、元の場所に座り直す。
そして双妹が俺の後ろに座ると、勃起した陰茎に手を伸ばしてきた。
698
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 00:24:10 ID:6eea0UUY
双妹「そういえば、消毒をしないといけないんだっけ。確か、おちんちんの皮を剥いて中身を出してから拭くんだよねえ」
男「そうそう。それで看護師さんが、亀頭だけじゃなくて包皮も根元まで剥いてしっかり消毒するようにって言ってた」
双妹「うん、分かった。それじゃあ、痛かったら教えてね」
双妹は陰茎を指で挟み、包皮をゆっくりと引き下げた。
ピンク色の亀頭が露出し、裏返った包皮がさらに引き伸ばされていく。
そして、双妹は俺の背中に柔らかい膨らみを押し付けながらウエットティッシュを手に取ると、弛んで戻った包皮を左手で下ろし直して亀頭を拭き始めた。
男「ぬおっ?!」
双妹「ご、ごめん。痛かった?!」
男「まあ、ちょっとだけ痛かったかも。そういうので擦られると、本当に痛くて絶対に無理な感じだから――。でも、剥くときに触られたときはすごく気持ち良かった」
双妹「そっか。おちんちんの中身って、すごく敏感なんだ。じゃあ、しこしこするときは元に戻したほうが良いのかなあ」
男「そうしてくれたほうが痛くないし、剥いたら戻すように言われているから」
双妹「ふうん、そうなんだ。もう少し成長したら、お父さんみたいに中身が出たままになって平気になるんだろうけど、それまではちょっと痛くても我慢しないとだね」
男「んなっ?! ちょっ! だから、そこはマジで無理、むりぃっ!」
699
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 00:35:29 ID:6eea0UUY
双妹「はい、終わったよ♪」
男「はあはあ、やっと終わった……」
双妹「ふふふ、よく頑張りました♪ それじゃあさあ、今度は男が私のおっぱい、触ってみない?」
男「えっ、双妹のおっぱいを?」
双妹「うん。男にも私のことを知ってもらいたいから//」
双妹はウエットティッシュを捨てると、セーターとブラウスを脱いでソフトブラを外した。
着替えのときやお風呂に入ったときにいくらでも見られる、膨らみが目立ち始めた双妹のおっぱい。
それがとても魅惑的なものに見えて、俺は立ち上がると双妹と向かい合い、そっとおっぱいに触ってみた。
すると想像していたよりも弾力があり、何かこりこりとした硬いものがあることに気が付いた。
双妹「……どんな感じ?」
男「おっぱいの中に硬いものがあるんだけど」
双妹「その硬いものは乳腺で、おっぱいが膨らむサインなんだよ。これから少しずつ丸く膨らんできて、柔らかくなるのはその後なんだって。あまり触ると痛いから、強く揉んだりしないでね//」
男「へえ、とにかく揉めばいいって訳じゃないんだ」
700
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 00:53:36 ID:gw368WfI
双妹「そう、そんな感じで触ってくれたら気持ちいい……//」
男「じゃあ、これはどうかな」
さっきまで読んでいた漫画のようにおっぱいを包み込み、優しく円を描く。
すると、双妹があまい声を漏らして身体を震わせた。
双妹「……はうんっ……んんっ…………//」
男「……双妹?」
双妹「変な声、出ちゃった//」
男「あははっ、何だよそれ」
双妹「だって、すごく気持ち良くなって急にびくんってなったんだもん//」
男「そうなんだ。でも今の声、初めて聞いたけど、俺は可愛いと思ったよ」
双妹「ええっ、そうなの? 私はちょっと恥ずかしかったんだけど……」
男「そんな事ないって。だから、もう一回やってみようか」
双妹「だ、だめだめ! 検査のほうが大切だし、おちんちんをしこしこしないといけないでしょ//」
701
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 01:51:20 ID:gw368WfI
双妹はマットの上に置いていた容器を拾うと、上目遣いで俺を見詰めながら手をしこしこと動かし始めた。
すると、その動きに合わせて半分くらい剥けては戻りを繰り返し、今まで経験したことのない心地よさに包まれてきた。
男「……双妹、気持ちいい…………」
双妹「これって、そんなに気持ちいいんだ」
男「もう、ずっと双妹にしこしこされていたいくらい気持ちいい」
双妹「ふうん、そうなんだ。いいよ、私がいっぱい気持ち良くしてあげるわね//」
双妹はお姉さんっぽい口調で言うと、手の動きを早くした。
そのおかげなのか急激に気持ち良くなってきて、俺は夢中になって双妹のおっぱいを触り続けた。
そしてキスをして、おっぱいを触って、割れ目がある大切なところを撫でてみて。
もう双妹のことを考えただけで気持ち良くて、心の奥底から愛しさが込み上げてくる。
兄妹でしてはいけないことをしているけれど、そんな事はどうでもいい。
今までお互いに知らなかった一面が次々と見えてくることが楽しくて、もう感情が溢れ出してしまいそうだ。
そんな中、抑えることが出来ない何かが押し寄せてきた。
702
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 02:10:48 ID:fryOy3pA
男「双妹……何だか、ヤバイかも…………」
双妹「ヤバイって、何が?」
男「きゅぅって締まってる感じがする」
双妹「おちんちんがすごく硬くなってるからかなあ//」
男「ううぅっ、双妹…………もう我慢できないっ!」
双妹「もしかして、精液が出そうってことなの?! わわっ! いいよ、ちゃんと受け取ってあげる、いっぱい出してっ//」
双妹は亀頭の先端をを容器の中に入れ、陰茎を扱きながら好奇の眼差しを集中させた。
もう我慢できない。
双妹のおっぱいと募っていく快感、それ以外のことはもう考えられない。
そして限界まできゅぅっと引き締まると、一気に絶頂感が駆け抜けてきた。
男「ぅくっ……!!」
どぴゅっ
どぴゅどぴゅっ・・・
703
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 02:22:37 ID:fryOy3pA
双妹「きゃあっ// 白いのがぴゅっぴゅって出て来たよ!」
男「はあっはあ……」
射精と同時、今まで感じたことのない高揚感に全身が満たされた。
頭がぼんやりとして、言い知れない幸福感に包まれている。
それは双妹も同じなのか、瞳をキラキラと輝かせながら容器の中の白っぽい液体を見詰めていた。
そしてお互いに目が合い、初めて見る双妹の表情が愛おしくて、俺たちは求めるようにして唇を重ね合った。
双妹「男って、こんな顔も見せてくれるんだ……//」
男「双妹、ありがとう。びっくりするくらい気持ちよかった//」
双妹「ふふっ、気持ちよくなれる検査もあるんだね。私たち、えっちな事をしちゃったのかなあ//」
男「一緒にえっちな事をしちゃったな//」
双妹「だけど、検査なんだから悪くないよね!」
男「そうだよな。検査だから悪いことじゃないと思う」
704
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 02:32:03 ID:6eea0UUY
双妹「それじゃあ、容器を渡しに行ってくるわね。これで終わりなんでしょ」
男「そうなんだけど、その前に採精した時刻を書かないといけないんだ」
俺はそう言って、時計に目を向ける。
すると、いつの間にか1時間が過ぎていた。
男「あっ! もう約束の時間を過ぎてる!!」
双妹「じゃあ、急がないといけないんだ」
双妹は採精した容器に時刻を書き、俺たちはダッシュで脱いだ服を着た。
そして採精室を出ると、ちょうど様子を見に来た看護師さんが立っていた。
705
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/17(水) 04:16:47 ID:n.U5TMMY
いいぞ
706
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/18(木) 00:27:50 ID:wDQCGUN2
男「あの……今、終わりました」
看護師「終わったんだ、お疲れさま。ところで、双妹ちゃんも一緒に出て来たということは、もしかして二人でえっちな事をしちゃったの?」
男・双妹「は、はい……」
俺たちは怒られるのではないかと思い、恐る恐る返事を返す。
しかし、看護師さんは俺たちに変わらない笑顔を向けてくれた。
看護師「そっか、そういうことに興味が出てくる年頃だもんね。正直に答えてくれてありがとう。ただね、ここは男性の患者さんが多く出入りする場所だから、双妹ちゃんは外来患者さんのご迷惑にならないように気を付けてね」
双妹「は、はいっ。分かりました」
看護師「それで、初めての検査だったけど、精液は正しく採れたのかなあ。まさか、双妹ちゃんがお口を使ったりしてないよねえ」
男・双妹「おくち……ですか?!」
看護師「うん。採精検査をするときにお口を使ったりするとね、滅菌されている容器の中にお口の雑菌が入って検査が出来なくなってしまうの。だから、必ず清潔な手で採精しなければならないのよ」
男「ちゃんと綺麗な手でしたし、それは大丈夫です」
看護師「それなら良いんだけど、これからも気を付けてね」
707
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/18(木) 01:24:58 ID:wDQCGUN2
双妹「看護師さん。清潔な手ですることは分かったんですけど、お口を使ったりする人が本当にいるんですか?」
看護師「んー、まあ、それも性行為のひとつだからね。オーラルセックスとかフェラチオって言うんだけど、興味があるなら女医さんに相談してみたら? 私たちも双妹ちゃんの性行動や性意識について悩みがあれば素直な気持ちを聞かせてほしいし、産婦人科の先生だから詳しく教えてくれると思うよ」
双妹「そうですね。今度、女医さんに相談してみます」
看護師「それじゃあ、培養室まで案内してあげるわね」
俺たちは看護師さんに連れられて、培養室の窓口に容器を提出した。
そのときに優しい声で「大人になったね」と言われ、気恥ずかしいと思いつつとてもうれしい気持ちになった。
双妹「男ももう大人だね♪ さっきの精液には精子がいっぱいいて、セックスをしたら赤ちゃんが出来るのかなあ」
男「たぶん出来ると思う。双妹も生理が始まってるし、セックスをしたら妊娠するんだろ」
双妹「そっか。じゃあ私たち、赤ちゃんを作れるんだ。何だか信じられないけど、こうして大人の身体になっていくんだね」
男「そうだな。俺も双妹も、大人の身体になろうとしているんだよな」
708
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/18(木) 01:33:31 ID:ZBpkJKMg
今日は13歳の誕生日。
俺は射精が出来るようになったし、双妹はおっぱいが膨らんできてすでに生理が始まっている。
そして、これからも大学病院の双子調査を通じて実感していくのだと思う。
身体が成長していくことを、双妹と二人で一緒に――。
双妹「これからも私たちは二人一緒だよ♪」
男「ああ、これからも二人一緒だな」
俺たちは手をつなぎ、お母さんがいつも待っている喫茶店に向かうことにした。
そして検査結果を聞いた後、研究スタッフの人たちが誕生日のお祝いをしてくれて楽しい時間が過ぎていった。
709
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/18(木) 19:31:54 ID:VsbMl0ZM
いいぞ
710
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/22(月) 22:57:31 ID:LuamWNcg
・・・
・・・・・・
〜自宅・部屋〜
俺と双妹にとって、お互いの性欲を満たしあうことは普通のことだった。
一緒に性的な経験をしてしまい、それが気持ちいいと知ってしまった俺たちを止めるものは何もなかった。
毎日のようにお風呂で洗いっこをしたり、ベッドの中でいちゃいちゃしたり。
双妹と過ごすそんな時間はとても心地良くて、今まで知らなかった一面を発見出来たときはとてもうれしかった。
俺たちは異性一卵性双生児だから、双妹は性別が違うもう一人の自分自身。
きっと、性別が分かれてしまったのは双妹と愛し合うためなのだ。
だから今は赤ちゃんが出来るようなことさえしなければ、それ以外のことは何をしてもいい。
二人で一緒にえっちな事をしてもいい。
そして、もっともっとお互いのことを大切に想い合いたい。
少年(そうだ。これがお前たち兄妹の本当の姿なんだ!)
男「双妹……」
双妹「あんっ……ああっ、男……やっとその気になってくれたんだ//」
少女「男くん、どうして?! こんなのいやだよ、いやだよぉっ!!」
711
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/23(火) 03:13:38 ID:VyR3PDuA
おつ
712
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 01:27:54 ID:sAL38Hs6
俺は双妹とベッドの上で向かい合い、唇を重ね合った。
そして、舌を絡めながらおっぱいに手を伸ばす。
そのFカップもある膨らみは手に余るほどのボリュームで、程よい弾力と張りがあって形がいい。
しかも、円を描くようにして愛撫すれば手のひらに吸い付き、おっぱいを揉んでいる充実感とともに興奮が湧き起こってくる。
俺はそんな半球型の膨らみに魅了され、その感触を楽しみながら双妹の性感を高めていく。
そして指先で乳輪をなぞると、双妹があまい吐息を漏らした。
双妹「……んんっ、んっ…………」
双妹は乳首を触ってほしいらしく、焦れったいような表情を浮かべている。
俺はその表情を見ながら、おっぱいを弄んで焦らし続けた。
そして、ツンと勃起した乳首を軽く弾いてあげると、双妹は可愛い声を出して身体をびくんと震わせた。
双妹「あんっ……ああ、いぃ…………//」
双妹「私たち、兄妹なのにえっちな事をしていて、すごくドキドキするよね」
男「そうだな。双妹は可愛いし、俺もすごくドキドキする」
双妹「えへへ♪ 男……好きだよ//」
713
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 02:29:06 ID:ds1CJqMc
双妹は顔を赤らめながら言うと、上目遣いで見詰めてきた。
俺はそれで察して、仰向けになり脚を広げる。
すると双妹はその間に移動して座り込み、上体を倒してフェラチオを始めた。
まずは唇と舌を使って陰茎を横から舐めまわし、口の中に亀頭を入れてカリ首をくわえ込む。
そして頭を動かして亀頭を出し入れし、再び陰茎を横から舐めまわす。
しかも歯が当たることがないので、気持ちいい快感だけが脳髄へと駆け抜けていく。
男「双妹……それ、ヤバすぎる…………」
双妹「もっと、きもひよくひてあげふね//」
双妹が陰茎をくわえたまま声を出したので、それがくすぐったくて笑みがこぼれてしまった。
すると双妹はそんな俺を見て、機嫌よく竿をしごきながら頭を動かし始めた。
そしてその瞬間、急激に射精感が込み上げてきた。
舌が這うようにして裏スジを舐めまわし、ぷるんとした唇がカリ首に引っ掛かる。
さらに頬の内側まで亀頭が吸い付いて、温かい粘膜でねっとりと包み込まれているかのようだ。
じゅるじゅる、じゅぽじゅぽ――。
いやらしい音を響かせながら、よだれが溢れ出るほどくわえ込んでいる双妹。
俺はそんな双妹の姿が愛おしく感じ、右手を伸ばして頭を撫でる。
714
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 02:57:51 ID:ds1CJqMc
双妹「男のおちんちん、はむはむ美味ひい//」
双妹はふいに動きを止めて扇情的な表情で見詰めてくると、舌先でチロチロと裏スジを舐めてきた。
そのおかげで射精感が治まり、程よい刺激をゆっくりと楽しむ。
しかし、そのタイミングを見計らっていたのか、双妹は頬をすぼめて根元近くまでしゃぶり付いてきた。
髪の毛を乱しながら激しく頭を振り、唾液で滑りが良くなった竿も手でしごく。
しかも上下だけではなくて頭を左右に回転させているので、敏感な場所のすべてが絶頂に向けて追い込まれていく。
男「うあぁっ、ちょっ!」
男「双妹……それヤバい!!」
男「いくっ! もう、いきそうっ!!」
どうすることも出来ない快感が全身を駆け巡り、ギンギンに勃起した陰茎に射精感が押し寄せてきた。
もう我慢出来ない!
そう感じたと同時、双妹は上体を起こして小悪魔っぽく微笑んだ。
715
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 03:13:45 ID:IblpxyV2
男「はあはあ……」
双妹「ふふふっ、まだ射精したら駄目なんだからね//」
双妹はお姉さんぽい口調で言うと、俺に起き上がるように目で合図を送ってきた。
そして俺が身体を起こすと、双妹はヌルヌルになっている陰茎を優しく握って、俺たちは求め合うようにしてフレンチキスをした。
それは何となく甘酸っぱい味がして、官能的な刺激が蓄積して意識がとろけてしまいそうで。
俺はそんな快感を双妹にも味わわせてあげたくて、少しだけ腰を引いて双妹の乳首に吸い付いた。
双妹「あふん……//」
双妹「んんっ、あうぅん……」
双妹はもう一人の自分だから、俺の気持ちいいところを察して的確に責めてくる。
どこが気持ちよくて何をされたら嫌なのか、お互いの身体のことをよく分かっている。
だから、俺も双妹の気持ちいい場所を的確に愛撫してあげることが出来る。
716
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 03:24:52 ID:sAL38Hs6
双妹「ひゃうんっ! んんっ……あぁっ…………//」
乳首を舌で転がし、右手は太ももを撫でながら陰裂へと向かわせる。
やがてふっくらとした大陰唇にたどり着き、割れ目に中にそっと指を滑り込ませた。
内側はすでにぬるぬるになって、小陰唇がぬるりと絡みつき、指の腹で膣前庭を優しく弄ぶ。
そして、濡れた指先でクリトリスの滑りを良くして、包皮の上からふわっと撫でてあげた。
双妹「あううぅっ!」
双妹「あふっ、あああんっ!! あぁっ…………それ、いぃっ//」
双妹が喘ぎ声を部屋中に響かせ、快感に身を捩らせる。
俺はそんな双妹の姿に興奮し、少しずつ刺激を強めながら執拗に責め立てる。
すると愛液が次々と溢れ出してきて、熱ささえ感じる膣口に指を入れるとくちゅくちゅと卑猥な水音が鳴り響いた。
717
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/26(金) 03:32:21 ID:sAL38Hs6
男「双妹、いやらしい音が聞こえる」
双妹「そんなこと……言わないでよぉ…………//」
双妹は恥ずかしそうに顔を逸らし、陰茎への刺激を止めて手を離した。
そして身体を仰け反らせ、両脚をやや閉じる。
男「いっぱい感じて、気持ち良くなっていいんだぞ」
双妹「あうぅっ……だめだめっ、それはだめえぇ…………//」
双妹「ぁん……あぅっ、ああぁぁっ…………いっちゃう、いっちゃうぅっ!!」
双妹「んんっっ//」
双妹は嬌声と吐息を漏らし、身体をびくびくっと震わせる。
そして恍惚の表情を浮かべて、押し寄せる快感の波に飲み込まれていった。
718
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/27(土) 08:42:10 ID:mHQ6HNCI
おつ
719
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/29(月) 21:45:01 ID:uF1rdSfs
・・・
・・・・・・
〜男くんの部屋・少女さん〜
双妹「はあはあ……」
双妹「すごく久しぶりで気持ちよすぎて……すぐいっちゃった…………//」
双妹さんが男くんとセックスをして、快感に身を委ねている。
なまめかしい声を出して、淫らに喘ぐオンナの顔になっている。
それは兄妹でしてはならないことのはずなのに――。
いくら叫んでも二人には声が届かない。
低級霊たちに取り押さえられ、それをただ見ていることしか出来ない。
少女「少年くん、こんなことはもう止めてよっ! これ以上、二人を傷付けないで!」
少年「うひゃっ! うひゃひゃひゃひゃっ!!」
必死に声を振り絞ると、少年くんが姿を現して高笑いをした。
そして蔑むような視線を向けてきて、にたりと笑った。
720
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/29(月) 22:03:06 ID:etenrXfA
少年「少女さんは憑依しているんだから、直に感じているはずだろ。こいつの欲望を――」
少女「それは……少年くんがそう思わせているだけでしょっ!」
少年「違う、これがこいつの本性なんだっ! 毎日のように妹とセックスをしていた変態野郎なんだっ!!」
少年くんが男くんから引き出した、双妹さんとの馴れ初めの記憶。
その日を境に、男くんと双妹さんはお互いに対して性的な関心を向けるようになってしまった。
しかし、今の双妹さんは男くんの恋愛を積極的に応援していたし、性的な関係を持つことよりも共感して分かりあうことを大切にしているように感じる。
だから、男くんと双妹さんがツインセストをしていたのは思春期の一時的な過ちで、すでに終わっていることなのだろうと思う。
それに、セックスをしたいという欲求は誰でも持っているものだ。
私が自殺をさせられたときと同じように、歪んだ感情を引きずり出されただけなのだと思う。
憑依されても無い袖を振ることは出来ないので、その気がなければ、男くんと双妹さんは最後の一線を越える前に思いとどまることが出来るはずだ。
そう信じたい――。
721
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/29(月) 22:08:21 ID:uF1rdSfs
少年「さあ、ここからが本番だ」
少年「一卵性双生児の兄妹がセックスをしているなんて、いろんなサイトで拡散されること間違いなしだぜっ!」
少女「――!!」
男くんと双妹さんの痴態は、すでにネット上に配信されている。
思いとどまってくれたとしても、もう取り返しが付かない状態になってしまっているんだ。
少女「私のせいだ」
少女「私が、男くんと双妹さんの人生を狂わせてしまったんだ――」
私がいなければ、双妹さんが少年くんに憑依されることはなかった。
集団パニックで男くんへの気持ちを再認識することもなかっただろうし、それを認めてもいいんじゃないかと考えることもしなかっただろう。
つまり、私さえいなければ男くんと双妹さんは普通よりも少し仲が良い兄妹でいられて、普通の高校生活を送っていけたはずなのだ。
少年「その顔だよ、少女さん。僕が見たいのはっ!」
少年「ああ、僕の想いがキミの魂に刻まれていく。僕だけが少女さんを永遠に愛することが出来るんだ!!」
722
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/30(火) 22:47:12 ID:27/mocLQ
・・・
・・・・・・
〜自宅・部屋〜
双妹「ねえ、男。ひとつに……なりたい//」
双妹はあまい声でささやくと、仰向けで寝転がった。
そして脚をやや開き、熱っぽい表情で微笑んだ。
俺と双妹は世界中でたった一組しか存在しない異性一卵性双生児。
誰よりも分かり合うことが出来て、誰よりも一緒にいたいと思える大切な女性。
その双妹が俺のすべてを受け入れ、『ひとつ』になろうとしてくれている。
だから、俺は双妹のすべてを感じたい。
それなのに、
心の奥底で何かが引っ掛かる――。
723
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/30(火) 23:11:08 ID:CPbYqU2o
双妹「どうしたの?」
男「そういえば、今は低温期だろ。今日は危険日じゃないのか?」
双妹「うん、そうだよ。風邪を引いて遅れているかもしれないけど、今日か明日が排卵日なの。膣内で射精したら、私たちの赤ちゃんが出来ちゃうかもしれないわね//」
男「それなら、ちゃんと避妊をしないと不味いよな」
双妹「それじゃあ、少し待ってて。部屋からコンドームを持ってくるから♪」
双妹はそう言うと、おもむろに上体を起こした。
そして、はっとした表情で俺を見詰めてきた。
双妹「……」
男「……」
コンドーム。
その言葉を受けて、俺と双妹は無言で見詰め合う。
それから数瞬後、心の隙間に何かが入り込んできた。
724
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/30(火) 23:32:30 ID:LB4E3nY2
男「……双妹」
双妹「もしかして、また少女さんを選ぶつもりなの」
男「あ、ああ……ごめん。俺は今は……そう、少女さんと付き合っているんだ」
双妹「少女さんはもう死んでいる人なんだし、私は別れたほうが良いと思う」
男「それでも約束があるし、勢いに任せて抱いてしまうと双妹を傷付けることになってしまうと思うんだ。だから、俺は今の双妹とは……しないんだ!」
そう気持ちが固まった瞬間、身体の中から大量の闇が噴き出してきた。
俺に憑依していた低級霊たちが強制的に弾き出されたのだ。
それと同時、全身の力が抜けて意識がすうっと落ちそうになった。
少女「男くん!」
身体の中に少女さんの気配を感じ、必死に意識を繋ぎとめる。
まだ落ちる訳にはいかない。
双妹と少女さんのために落ちる訳にはいかないんだ!
俺は気力を振り絞り、おぼろげな頭で少女さんの姿を探した。
すると混乱状態に陥っている低級霊たちの中から、少女さんが飛び出してきた。
725
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/30(火) 23:38:15 ID:MsP.tDV2
少女「良かった……。思いとどまってくれたんだっ!!」
男「少女さん、その……ごめん。俺は双妹のことが――」
少女「その話は後でいいから、今はまず双妹さんを助けないと!」
そうだ、双妹はまだ憑依されているのだ。
少年を除霊するまで安心することは出来ない。
少女「双妹さん、もうやめてっ! これ以上、自分を傷付けないでっ!!」
双妹「あなたが男と出会ってさえいなければ、あの日、私は男とひとつになれたはずなのに――」
少女「あの日?」
双妹「……負けたくない。もう死んでいる人なんかに負けたくないっ!」
726
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/30(火) 23:46:12 ID:MsP.tDV2
双妹は強く言い放つと、俺を押し倒した。
そして、そのまま覆い被さってきた。
双妹「私が気持ちよくしてあげる。少女さんには出来ないことを、私がいっぱいしてあげる//」
少女「双妹さんは本気なんだ。少年くんを除霊しないと、双妹さんは絶対に止まらないんだ――」
少女さんは苦々しい表情で言うと、少年を睨み付けた。
そして、棚の上に置いている除霊が出来る手袋に手を伸ばした。
男「少女さん、何をっ?!」
くそっ。
全身が脱力しているせいで上手く力が入らない。
そんなもどかしさを感じると同時、双妹の手が陰茎に触れた。
727
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/31(水) 00:38:56 ID:Jonf0YqE
双妹「男……挿入れるよ//」
少女「うぐうぅっ! ううっ……うううぅぅっ!!」
双妹がゆっくりと腰を下ろし、困惑した表情で俺を見る。
そしてその一方で、少女さんの呻き声が部屋中に響き渡った。
少年「ついに、ついにヤリやがった!!」
双妹「……」
双妹「ねえ、さっきまで硬かったのに小さくなってるんだけど」
騎乗位での挿入に失敗し、双妹はぬるぬるになっている割れ目をむにむにと押し付けてきた。
お互いの粘膜が擦れ合い、亀頭がぬるりと包まれる。
その感覚はとても温かくて、やっぱりどうしようもなく気持ちがいい。
しかし、陰茎が勃起しないので双妹は不満そうに頬を膨らませた。
双妹「……はくちゅん…………むうぅっ、元気がなくなっちゃった」
男「これで分かっただろ。俺はしないんだ」
双妹「こうなったら、本気ではむはむしちゃうもん。男がすぐにイっちゃう敏感な場所、私はぜ〜んぶ知ってるんだからね//」
728
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/31(水) 00:56:56 ID:awOX6XCA
少女「だめっ……だめえぇっ!!」
少女さんが声を張り上げると、双妹は不快そうな顔で少女さんを見据えた。
俺も少女さんに視線を向けると、彼女は手袋を嵌めて苦悶の表情を浮かべていた。
双妹「うざいから、私たちの邪魔をしないで欲しいんだけど」
少女「私に出来ることは、もうこれくらいしか残っていないと思うから……」
少女「だからっ、少年くんだけは絶対に許さない!!」
少女さんが怒声を飛ばすと、どす黒い低級霊たちが一斉に飛び掛かってきた。
少女さんは必死の形相で身構え、それを思いっきり払いのける。
すると低級霊たちが手袋に触れた瞬間、弾けるようにして身体が砕け散った。
少年「なにっ?!」
少女「ぜったい、絶対に除霊してやるんだからっ!!」
低級霊が少女さんに襲いかかり、次々と砕け散っていく。
まるで波紋が広がっていくかのように、闇が弾けて消えていく。
そして、ついに少女さんが少年を捕らえた。
729
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/31(水) 00:59:06 ID:Jonf0YqE
少年「く゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁっっ……!!」
人の体をなしていた闇が不定形になり、どろりと崩れ落ちた。
少女さんはその様子を険しい表情で見届けると、力なく微笑んだ。
少女「やった……これで双妹さんは――」
少女「……!?」
双妹がゆらりとベッドから降り、少女さんに歩み寄る。
そして正気とは思えない言語を発しながら、少女さんの右手袋を掴んだ。
まさか、双妹はまだ憑依されているのか?!
そういえば、友が『少女さんクラスの力を持っている怨霊が相手の場合は、動きを抑えるだけで精一杯だ』と言っていたはず。
つまり、少年を除霊するにはその手袋では力不足だったのだ。
730
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/31(水) 01:02:30 ID:awOX6XCA
少女「うぐぅっ、ううぅぅっ……!」
双妹『&J%FVSB`_DQ`z!!』
男「くそっ! 少女さん、双妹っ!」
俺は何をやってるんだ。
少女さんが苦しんでいるときに、双妹が苦しんでいるときに――。
動いてくれ、俺の身体っ!
少女「……こっちも…………除霊しなく、ちゃ……」
少女「出来るっ! 私にも少年くんと同じことが出来るっ!!」
少女さんは力強く言い放つと、自分の身体を双妹と重なり合わせた。
すると、少女さんの身体が双妹の中に溶け込んでいった。
731
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/01(木) 10:11:05 ID:4SkcN7M6
おつ
732
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/05(月) 19:07:48 ID:DrzIvfzY
(2月17日)sun
〜兄妹の部屋・双妹13歳〜
とてもよく晴れた日曜日の夜。
お風呂から上がって部屋に戻ってくると、男がベッドの上でニヤニヤと妄想を膨らませていた。
買い物に行って帰って来たときから、ずっとそんな調子だ。
双妹「ねえ、今日は何か良いことでもあったの?」
男「本屋さんに行ったら、偶然、少女さんに出会ったんだ」
少女さんって、誰なんだろう。
そんな名前の人は、今まで聞いたことがない。
双妹「へえ、そうなんだあ。それで、少女さんって誰なの?」
男「隣のクラスの女子なんだけど、すごく可愛くて。今日、ついに一言だけ話すことが出来たんだ!」
双妹「ふ、ふうん……」
733
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/05(月) 19:58:06 ID:EO838fY6
男「そう言う双妹こそ、今日は何か良いことがあったんじゃないのか。ずっと落ち着かない感じだし」
双妹「やっぱり、そう見える? 実はね、凄いモノを買ってきたの!」
男「凄いモノ?」
双妹「ふふん// お父さんとお母さんには、絶対にナイショだからねっ」
私は念を押して、バッグから紙袋を取り出した。
そして、二段ベッドの上段に上がる。
男「それ、ドラッグストアで買ってきたのか。ということは、生理用品?」
双妹「いいから、開けてみて//」
私は男に紙袋を手渡し、開けるように促した。
すると、男は紙袋を開けて中身を取り出し、それを見て不思議そうに首を傾げた。
734
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/05(月) 20:49:18 ID:DrzIvfzY
男「これがそんなに凄いの?」
双妹「そうだよ。それがあれば私たち、セックスが出来るんだから!」
男「ええっ?! どういうことだよ!」
双妹「しーっ、声が大きいわよ」
想像以上に驚いてくれた男をたしなめて、得意げな顔で箱を受け取る。
そして、震える手で開封して中身を覗き込んだ。
箱の中には、連袋が2つと紙切れ1枚が入っているようだ。
私は3連袋を取り出し、1袋だけ切り離す。
それにはピンクいゴムが入っていて、触ってみるとぷにぷにしていた。
男「ごめん。それで、どういうこと?」
双妹「13日に大学病院に行ったとき、女医さんにセックスをして妊娠したらどうすればいいのか相談してみたの。そうしたらね、『自分の身体を大切にして新しい命に責任を持ちなさい』って注意されたんだけど、避妊法とか性感染症のことをいろいろと教えてくれたの」
男「あっ、ああ! あの話、本当に聞いたんだ」
双妹「うん。だって、したいんだもん。それでね、この『こんどーむ』を使えば妊娠する心配がほとんどないんだよ。ねっ、凄いでしょ!」
735
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 02:39:51 ID:jsKJP1M2
男「へえ、そんなものが売ってるんだ」
双妹「すっごく緊張して、死ぬほど恥ずかしかったんだからね//」
男「でも、どうやって使うんだろ」
双妹「おちんちんに被せるらしいんだけど、どこかに使い方を書いていないのかなあ」
男「それに説明書は入ってないのか?」
双妹「ああ、そっか」
紙切れを取り出すと、ちゃんとそれに図解されていた。
どうやら、勃起しているおちんちんの皮を根元まで剥いて被せるらしい。
そして、こんどーむを巻き下ろしたら被せた部分を亀頭方向に引き寄せて、根元で余っていた皮がぴんと張ったら再びこんどーむを巻き下ろして被せれば良いようだ。
何だか、すごくドキドキしてきた。
これがあれば、6回もセックスが出来る。
6回も男とひとつになれるんだ。
そのとき、私はどうなっちゃうんだろう――。
私は好奇心を満たすために、あまい表情で期待の眼差しを向ける。
すると、男は一人の世界に入り込んでいた。
736
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 21:58:41 ID:MZzSa1AQ
男は今、何を考えているの?
こんどーむを使えば、洗いっこよりも凄いことが出来るんだよ。
一人でオナニーをしなくても、私と一緒にセックスが出来るようになるんだよ。
あそこが大きくなっているし、男もひとつになりたいと思っているはずだよね。
双妹「ねえ、男……」
声を掛けると、男が無言で顔を上げた。
お互いの視線が交わり、私はいやらしく微笑む。
そして、こんどーむの袋を開けた。
双妹「今から一緒にセックスしようよ//」
男「……そうだな。俺もセックス、してみたい」
737
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:01:08 ID:MZzSa1AQ
双妹「……」
男の言葉を聞いて、私は直感的に温度差を感じた。
なんとなく、私を見てくれていないような気がする。
双妹「その言い方、少し冷たいね」
男「どうしたんだよ、急に」
双妹「男がセックスをしてみたい人は、私じゃなくて少女さんなんじゃないの?」
男「それは……」
双妹「やっぱり、少女さんとしたいんだ。男はその人のことが好きなの?」
男「そ……そんな訳ないだろっ」
男は慌てた様子で否定し、耳まで真っ赤にしながら俯いた。
なんて分かりやすいんだろう。
男は今、少女さんのことが好きなんだ――。
738
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:04:42 ID:jsKJP1M2
双妹「ねえ、男。私たちって、一卵性の双子でしょ」
双妹「だから私たちの間に隠し事をせずに、本当の気持ちを私に教えてほしい」
男「……分かったよ。誰にも言うなよ」
男はぶっきらぼうに言うと、恥ずかしそうに少女さんのことを話してくれた。
男が少女さんのことを知ったのは、先々週の土曜日に授業の一環で行った日帰りのスキー実習。
そのときに、ひと際目を引く女子がいることに気が付いたそうだ。
彼女は笑った顔がとても可愛くて、ゲレンデを滑る姿が妖精のように可憐だったらしい。
しかし隣のクラスということもあり、話をする機会がないまま今日の日曜日。
本屋さんで偶然、少女さんと同じ小説を取ろうとしてしまい、「すみません」と一言だけ話しかけてもらうことが出来たそうだ。
そのときにもっと話をすれば良かったのにと思ったけれど、少女さんが家族の人と一緒にいて、話しかけることが出来なかったみたいだ。
739
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:06:59 ID:MZzSa1AQ
双妹「少女さん……か」
双妹「そういうのって、ゲレンデマジックって言うんじゃないの?」
男「そうかもしれないけど、とにかくスキー実習のときに少女さんと仲良くなりたいって思ったんだ」
双妹「ふうん、そうなんだ……」
双妹「もし……もしもね、少女さんが毎日のように家でお兄ちゃんや弟とセックスをしていたら、男はどう思う?」
男「少女さんがそんなことをしている訳がないだろ」
双妹「私はどう思うのか聞いてるの」
男「……それは…………嫌だな」
双妹「私たちは今、少女さんがしていたら嫌だなと思うようなことをしようとしているんだよ。もし少女さんにそのことを知られたら、私たちはどう思われるんだろうね」
男「……!!」
740
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:08:10 ID:kn/BqMFY
双妹「私はそれでも男とひとつになりたい。だから、選んでほしい」
双妹「今から私とセックスをするか、それとも少女さんに告白をするか」
男「俺は少女さんに告白しようと思う」
双妹「そっか……そう答えると思ったよ…………」
男が乗り気ではないのならば、それは仕方がない。
だけど、このままだと昂ぶった私の気持ちが治まらない。
私は興奮した面持ちで、こんどーむを弄ぶ。
左手の人差し指と中指を寄せて、陰茎に見立てて被せていく。
そして新たに袋を開けて、上目遣いで男を見詰めた。
双妹「ねえ、私たちはどうして性別が分かれちゃったんだろうね」
男「……」
双妹「私は男とセックスをしてみたい。私たち二人だけの秘密にして、えっちなことを楽しもうよ//」
男「……ごめん。少女さんに告白するって決めたから」
741
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:09:58 ID:jsKJP1M2
双妹「別に我慢なんてしなくていいのに。高かったんだからね、これっ!」
昨日のうちに勇気を出して買っていたら、男とひとつになれたのにな。
だけど、これで良かったのかもしれない。
セックスがどんな感じなのか興味はあるけど、今はまだ中学生だし不安もあったから――。
男「それじゃあ、来週の日曜日、お詫びにあまい物を食べに行こうか」
双妹「やったあ〜。もちろん、男の奢りだからね♪」
男「分かってるって」
双妹「じゃあ、私はもう下りるわね」
私は満面の笑みを浮かべてみせて、二段ベッドの上段から下りた。
そして開封したこんどーむをゴミ箱に捨てて、未開封のものは引き出しの奥に隠すことにした。
742
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/06(火) 22:11:32 ID:wWxBJFM2
双妹「ところでさあ、いつ少女さんに告白するの?」
男「今日会うことが出来た流れで、明日の放課後、体育館裏に呼び出して告白しようと思ってる」
双妹「え〜っ、それはやめたほうが良いんじゃないの? 少女さんは隣のクラスなんでしょ。ほとんど話をしたことがない人に突然告白をされたら、びっくりして困るだけなんじゃないかなあ」
男「言われてみれば、そうかも」
双妹「話す機会を増やすのが一番確実だと思うけど、クラスが違うから難しいし、2年生になったときに同じクラスになれるとは限らないよね」
男「そうだよな」
双妹「そうだっ、3月14日なら告白できると思わない?」
男「いいんじゃないか、それっ!」
双妹「でしょっ! びっくりされるかもしれないけど、ホワイトデーなら告白される理由がないこともないし。少女さんもそのほうが気持ちが楽なはずだから、気負わずに返事をすることが出来ると思う」
男「双妹、ありがとう。ホワイトデーに告白してみるよ」
双妹「うん。私も応援しているから、告白が成功するように頑張ろうね♪」
743
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/07(水) 09:54:38 ID:h61dnR66
おつ
744
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 21:52:13 ID:f2Gv9jLc
・・・
・・・・・・
〜自宅・部屋〜
少女さんが双妹の中に入り込んですぐ、双妹が苦しみ始めた。
少女さんは戦っているのだ、双妹の中で少年と――。
俺は気力を振り絞って、身体を起こす。
全身に虚脱感が残っているけれど、そんなことは言っていられない。
少女さんは除霊が出来る手袋をはめ続けているので、想像を絶する苦しみを感じているはずなんだ。
双妹「コレいジョウ……」
双妹「これ以上、私の気持ちに入って来ないでよおっ!」
双妹が悲痛な声を上げた瞬間、少女さんが双妹の中から弾き出された。
そしてそれに続いて、禍々しい闇が噴き出してきた。
745
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 21:59:54 ID:NlOyea7M
もしかして、少年が強制的に離脱させられたのか?!
そう思うと同時、双妹がずしりと倒れ込んできた。
全身が脱力していてぴくりとも動かない。
少年が離脱したので、双妹は意識を失ったのだ。
少女「うぐっ、うぅっ…………」
男「少女さん!」
少女さんの姿を探すと、彼女はミニテーブルの下に倒れていた。
苦悶の表情で丸くなってうずくまり、両腕を不自然に直立させている。
俺は急いで双妹をベッドに寝かせ、少女さんの介抱に向かった。
746
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 22:05:14 ID:kJi0RCSg
少女「……少年くんを…………」
男「分かってる。でも、その前に少女さんを!」
手袋を嵌めている限り、少女さんは霊的なダメージを受け続けることになる。
俺は目に付いた双妹のスマホを伏せて、ミニテーブルの上にある手袋を手に取った。
すると、女の子らしい細い指と華奢な手のひらの感触を感じた。
少女「あ゛あ゛あ゛ああぁぁっっ……!!」
男「ご、ごめん! すぐに外すからっ!」
俺は引き抜くようにして手袋を脱がせてあげて、少女さんの様子を窺った。
彼女は力なく崩れ、虚ろな表情でぐったりとしている。
少年――。
お前だけは許さない!
俺は手袋をはめて、少年を見据えた。
747
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 22:06:12 ID:NlOyea7M
お前さえいなければ、少女さんと双妹が苦しむようなことはなかった。
お前さえいなければ、少女さんは看護師になる夢を叶えることが出来ていたんだ!
男「うおりゃああっ!」
俺は力強く踏み込んで、拳を繰り出した。
確かな手ごたえを感じて、脇腹をえぐる。
それと同時、蠢いていた闇が弾け飛んで土手っ腹に風穴が開いた。
少年「グオオオォォォッ……!」
少年にダメージが通った?!
もしかしたら、これはいけるかもしれない。
748
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 22:07:37 ID:AJeh2fm6
少年「……ミンナ……ミンナ、コワシテヤルッッ!!」
男「これ以上、俺たちに関わるな! 一人で死んでろっ!!」
俺は声を張り上げて、少年を睨み付けた。
今まで友が霊的な力を使うときには、相手の鳩尾に触っていることが多かった。
おそらく、そこに霊的な何かがあるのだろう。
ならば、次は鳩尾に叩き込む!
少年「オマエサエイナケレバ、ボクハッ!」
少年が吼えると、右腕が触手のように伸びてきた。
それを左手で受け止めて砕き、懐に入り込む。
そして、鳩尾に拳を抉り込んだ。
少年「ク゛ア゛ア゛ア゛アアァァッ!!」
少年「・・・ボク゛ハシ゛ナ゛ナインタ゛アァッ!!」
全身が総毛立つような怨恨に満ちた断末魔。
少年はどす黒い闇を撒き散らし、音もなく砕け散った。
749
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/12(月) 22:11:39 ID:kJi0RCSg
男「終わった……のか?」
気配を探ってみたが、特に何も感じない。
低級霊たちも少年が除霊されたからか、まったく姿が見えなくなっていた。
これでもう少女さんが狙われることはないだろう。
俺は覚束ない足取りでミニテーブルに歩み寄り、双妹のスマホを手に取った。
それは背面が異様に熱くなっていて、液晶画面に『温度上昇を検知したためカメラを終了します』と警告が表示されていた。
どうやら、思った通りSNSには配信されていなかったようだ。
俺は手袋を外して動画を削除し、スマホをミニテーブルの上に置いた。
これで全部終わりだ……。
男「少女さん。これでもう――」
男「……?!」
男「少女さんっ! 少女さんっ!!」
呼びかけても返事はない。
ミニテーブルの下で倒れていたはずの少女さんは、いつの間にかその姿が見えなくなっていた。
750
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 22:28:51 ID:2Lnkh.ds
男「急にいなくなるなんて、どういうことだよ……」
少年を除霊したから、思い残すことがなくなって成仏をした?
それとも、霊的なダメージが大きすぎて除霊されてしまったのか?!
俺は少女さんのぐったりとした姿を思い出す。
虚ろな眼差しと苦渋に満ちた声。
きっと今は危険な状態にあるはずだし、少しでも早く友に相談するべきかもしれない。
――ガチャッ!
そう考えていると、突然ドアが勢いよく開け放たれた。
俺は驚いて顔を上げると、そこにはなぜか巫女服姿の女性が立っていた。
女性は唖然とした表情になり、その視線が俺の下半身と裸の双妹に向かう。
そして後ずさり、勢いよくドアが閉められた。
751
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 22:33:35 ID:d0pJtdi.
巫女『きゃあああぁぁっっ!』
巫女『どうしよう、どうしようぅっ!!』
ドアの向こう側で女性が取り乱す。
どうしようって言いたいのは、俺も同じだし。
今の女性は、たしか友の家の神社の巫女さんだよな。
どうして俺の家に――。
そう思っていると、ノックの音がしてゆっくりとドアが開いた。
その隙間から巫女さんが顔を覗かせて、恥ずかしそうに部屋の様子を窺っている。
そしてミニテーブルの下に目を向けると、真剣な表情に変わって部屋の中に入ってきた。
巫女「えっと、あなたは少女さんだよね!」
巫女「……私が分かる? そう、そうなのね」
姿が見えなくなった少女さんは、どうやらそこに倒れているらしい。
俺はなりふり構わずに、巫女さんに声を掛けることにした。
752
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 22:42:05 ID:d0pJtdi.
男「あのっ、少女さんは無事なんですか!」
巫女「えっと、それはその……詳しく霊視してみないと分かりません」
母親「巫女ちゃん、さっきの悲鳴は何なの?!」
母親「……!」
母さんが部屋に入ってきて、俺の姿を見ると目を見開いた。
そして裸で横たわっている双妹に目を向け、うずくまっている巫女さんに目を向ける。
男「か……母さん…………」
男「これはその――」
俺はその先の言葉を飲み込んだ。
こんなの、どうやって説明すれば良いんだよ。
753
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 22:46:19 ID:2Lnkh.ds
母親「……まあ、いいわ。話をするのは今度にしましょう」
母さんは溜め息混じりで言うとベッドに歩み寄り、双妹に毛布を被せた。
そして、巫女さんに真剣な眼差しを向けた。
母親「巫女ちゃん、悪霊の姿は?」
巫女「どうやら、男くんがその霊具ですべて除霊してくれたみたいです」
母親「男が……?」
巫女「はい。集団失神の件に関連して、友くんが護身用に渡されていたみたいですね。低級霊の気配がこの一帯から消えています」
ああ、そうか。
母さんは買い物に行く振りをして、神社に行っていたのか。
家に寄り付いている低級霊を祓ってもらうために――。
巫女「ただし男くんと双妹さんには強力な霊障が残っているみたいなので、それは祓ったほうが良いと思います」
母親「そうね。それじゃあ、申し訳ないけど今からお願いします」
754
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 23:05:19 ID:SHRyY4gw
巫女「今からって、私はただの巫女ですよ?!」
母親「本当は宮司さんにお願いするべきなんだろうけど、今日は地鎮祭でお忙しいでしょうし。霊具を使えば、巫女ちゃんでも祓うことが出来るはずでしょ」
巫女「そうですね……分かりました。でも、その前にお召し物を着ていただけたらなあと//」
母親「ほら、男。若い女性がいるんだから、早く服を着なさい」
母親「巫女ちゃん、ごめんなさいね。うちの子たち、人前で裸になっても平気だから」
男「その言い方、微妙に誤解をされそうなんだけど……」
巫女「そ、そんなことはないです。その……ご立派だと思いますよ//」
巫女さんはよく分からないフォローを入れて赤面し、恥ずかしそうに顔を俯けた。
俺はそれを見て何だか申し訳ない気持ちになり、急いでパジャマを着ることにした。
男「すみません。服を着ました」
巫女「それではお祓いをするので、楽な姿勢になってください」
俺はそう言われ、ベッドに腰を下ろした。
そして、巫女さんが俺と双妹に残っていた霊的な痕跡を祓ってくれた。
755
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 23:11:40 ID:SHRyY4gw
双妹「ん……んんっ……」
しばらくして、双妹が意識を取り戻した。
ぱちくりと瞬きをして、身体を起こす。
双妹「あっ、ああ……そっか…………」
母親「双妹、身体は大丈夫?」
双妹「……うん」
双妹は力なく答えると、ミニテーブルの下に目を向けた。
そして、少し不安そうな顔で巫女さんの様子を窺う。
どうやら、双妹には少女さんの姿が見えているようだ。
母親「巫女ちゃん。宮司さんには私が説明しておくから、ここで見たことは他言無用でお願いします」
巫女「そうですね、分かりました。では、私は帰らせていただきます」
756
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 23:16:05 ID:SHRyY4gw
男「あのっ、少女さんは大丈夫ですよね!」
巫女「彼女はまだ四十九日を迎えていない幽霊ですし、しばらく休めば霊的な力が回復すると思います。それまで依り代への憑依を解いて、うちの神社で預からせていただきますね」
男「お願いします」
母親「それじゃあ、神社まで送って行きましょうか」
巫女「ありがとうございます」
母親「男、双妹。二人ともインフルエンザなんだから、ちゃんと温かくして寝てなさいよ」
母さんは言い含めるように言うと、巫女さんと一緒に部屋を出ていった。
そして裸の双妹と部屋で二人きりになり、気まずい空気が広がった。
外は相変わらず、ザーザーと強い雨が降っている。
やがて双妹は何か言いたそうな顔で俺を一瞥すると、ベッドから下りて脱ぎ散らかした下着とネグリジェを着始めた。
757
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/13(火) 23:19:40 ID:2Lnkh.ds
男「なあ、双妹……」
双妹「なに?」
男「中学2年生のときのことなんだけど、あの夜のことを覚えてるか?」
双妹「……覚えて…………いるよ」
男「俺は双妹のことを、もう一人の自分だと思ってる。どんなことがあっても俺たちは一緒だし、楽しいことも苦しいことも二人で分かち合いたいと思ってる」
男「今は双妹の気持ちに応えられないけど、それだけは絶対に変わらないから」
双妹「……」
双妹「私も男のことは、もう一人の私だと思ってる。かけがえのない存在だと思ってる。私もどんなことがあっても、その大切な気持ちだけは失いたくない」
男「ああ、俺もだ」
双妹「うん……男、好きだよ…………」
双妹は不安そうな様子で言い、俺の隣に座ってきた。
俺はそんな双妹の腰に腕を回し、気持ちが落ち着くまで優しく抱き寄せてあげた。
758
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/14(水) 23:26:47 ID:i9hQ0UrA
おつ
759
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/19(月) 23:10:08 ID:ZGeR4cxg
(3月13日)sun
〜神社・少女さん〜
男くんが少年くんを除霊してくれて、今日で4日。
無我夢中ではめた手袋の影響で苦しい日々が続いていたけれど、ようやく全身の虚脱感が和らいできた。
それなのに今日の空模様と同じで、私の心は晴れてくれない。
あの日、私は双妹さんを止めるために支配しようとして、いろんなことを知った。
双妹さんが大学病院の検査で男くんを射精させて、性に目覚めたこと。
セックスをしたいと思うようになったけれど、最後の一線を越えたことだけは一度もないらしいこと。
そして、男くんと双妹さんの暗黙のルールも知った。
『少女さん、つまり私がしていたら嫌だなと思うようなことをしないこと』
その割には今でも一緒にお風呂に入っているし、洗いっこのついでに性行為をすることさえあるようだ。
しかも、双妹さんはそれを兄妹のスキンシップだと考えているらしい。
もはや性に対する意識が違いすぎて、私には訳が分からない。
それでも既成事実を作ろうとは考えていないらしくて、SNSに生配信をしているという話はブラフだった。
そのことは、単純にほっとした。
760
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/19(月) 23:49:27 ID:ZGeR4cxg
双妹さんが男くんに対して抱いていた背徳的な気持ち。
それを恋愛感情だと自覚してしまったのは、どう考えても私のせいだ。
私がすぐに成仏していれば、双妹さんが集団パニックで襲われたり、少年くんに取り憑かれたりするようなことにはならなかった。
そうなれば抑えていた気持ちを自覚するようなことにはならなかっただろうし、男くんに好きな人が出来れば性的なスキンシップもしなくなっていただろうと思う。
きっと、普通の高校生活を送ることが出来ていたはずだ。
それなのに、双妹さんは告白をして引き返すことが出来なくなってしまった。
そんな双妹さんに対して、私は何をしてあげることが出来るのだろう。
友香「少女、いる〜?」
音がない世界で一人考え事をしていると、友香ちゃんの声が聞こえてきた。
日曜日だし、お見舞いに来てくれたのかもしれない。
私はそう思い、障子をすり抜けて外に出た。
すると、制服姿の友くんと友香ちゃんが立っていた。
761
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/19(月) 23:51:19 ID:qVog.H3g
少女「友香ちゃん、お見舞いにきてくれたんだ」
友香「うん、身体は大丈夫?」
少女「まだ本調子ではないけど、外に出られるくらい元気が出てきたよ」
友香「そうなんだ〜。元気そうで良かったよ」
少女「ところで、二人ともどうして制服を着ているの?」
友香「ああ、これね。今から友くんと学校に行こうと思っているの」
少女「友くんと学校に?」
友香「うん。男くんがあの悪霊を除霊してくれたから、少女はもう学校に行けるはずでしょ。だから、危険な低級霊がいないか調べてもらおうと思っているの」
762
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/19(月) 23:56:50 ID:qVog.H3g
少女「低級霊がいないか調べるって、どうしてそんな事を?」
友香「そんなの、決まってるじゃない。この1年間頑張ってきたことを最後までやり遂げようよ」
友「以前、俺の親父が『生きた証が見付かったとき、少女さんの救いがそこにあるはずだ』と言っていただろ。それを見付けるためにも、学校に行ってみたらどうかな」
私はこの1年間、看護師になるために勉強を頑張ってきた。
もうそれが叶うことはないけれど、こんな形で諦めるのは絶対にいやだ。
少女「私……最後までやり遂げたい。みんなと一緒に頑張りたいっ!」
友香「うん、頑張ろう♪」
友香ちゃんのうれしそうな顔を見て、私ははっとした。
そういえば、双妹さんだったっけ。
生きた証を考えているときに、学校に行ってみたら良いんじゃないのと提案してくれたのは――。
763
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/20(火) 21:25:51 ID:IwxCc8lA
(3月14日)mon
〜自宅・部屋〜
今日も相変わらずの雨模様。
俺はインフルエンザの出席停止期間中で部屋に引きこもり、ただぼんやりと風雨の音に聞き入っている。
すでに解熱していて体力が有り余っているせいで、じっとしていると気が滅入ってしまいそうだ。
今頃、少女さんは何をしているのかな――。
俺はスマホを起動し、昼過ぎに来た友のメールを読む。
それによれば、少女さんは霊的な力が順調に回復し、今日から友香さんと一緒に学校に行っているそうだ。
もしかすると、今日はお見舞いに来てくれるかもしれない。
だけど、何を話せば良いのだろうか。
少し気まずい。
とりあえず、友にお礼のメールを返す。
そして横になっていると、軽快なリズムで階段を上る足音が聞こえてきた。
どうやら、双妹が学校から帰ってきたようだ。
764
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/20(火) 21:31:20 ID:DfttHY9c
双妹「ただいま〜。身体は大丈夫?」
男「もう熱はないし、退屈してたところ」
双妹「そうだろうと思ったよ」
双妹はくすくすと笑うと、ミニテーブルの上にカップを並べて紅茶を淹れた。
俺はあまい香りに誘われてベッドから下り、お菓子の箱を手に取る。
それにはプレゼント包装がされていて、淡い水色のリボンが施されていた。
男「これ、誰かに貰ったのか?」
双妹「今日、ホワイトデーだったでしょ。それで、友くんが私と男に半分ずつお返しだって」
男「俺の分もあるのかよ。ネタに走ってるんじゃないだろうなあ」
双妹「あー、ありそうだね。クッキーだと言っていたから、変なお菓子ではないと思うんだけど……」
765
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/20(火) 21:37:56 ID:DfttHY9c
俺は双妹に包みを返し、何が出てくるのか様子を見守った。
友がくれたものなら油断は出来ない。
双妹「鈴塩のハーブソルトクッキーか。何だかおしゃれだね」
男「そうだな。というか、友にこんなセンスがあったのが驚きなんだけど」
双妹「うん。私もびっくりした」
もしかして、友は本気で双妹のことが好きなのか?
そう思いつつ、1枚食べてみた。
とてもサクサクしていて、ハーブの香りがほのかに広がっていく。
しかも塩気がくどいことはなく、紅茶の甘みを適度に引き出している。
男「これ、ガチで美味しいんだけど!」
双妹「本当にすごく美味しい。あとでお礼を言わないと」
766
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/20(火) 21:40:42 ID:iZ/3.48.
男「なあ、双妹」
双妹「それはないよ。友くんは幼馴染みたいなものだし、恋愛対象じゃないから」
男「でも、友が本気なら考えてみても良いんじゃないかな」
双妹「そんなの絶対にあり得ない。そもそも、友くんを好きになるとか想像できないし、考えることすら嫌だもん。まあ、いいお友達ってところかな」
男「そっか。それなら仕方ないな」
双妹「そうそう。私が好きなのは男だけなんだから//」
友には悪いけど、双妹は完全に脈なしだ。
俺も友と双妹が付き合うなんて想像できないし、もし好きならば諦めてもらうしかないだろう。
767
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/20(火) 21:46:07 ID:IwxCc8lA
双妹「それはそうと、男はどうするの?」
男「どうするって、何がだよ」
双妹「バレンタインデーのお返しに決まってるじゃない。理由はどうあれ、私たちは少女さんの前でセックスをしようとしたのよ。どんな顔をして会うつもりなの?」
男「そうだよな……」
双妹「とりあえず、私が先に会っておいたほうがいいよね。今は私が無害だってことを分かってもらわないといけないし」
男「いや、そういうことは俺が話すべきだろ」
双妹「でも、少女さんにとって私は油断が出来ない恋敵なんだよ。そんな相手が一緒に住んでいたら、男がいくら大丈夫だと言っても安心することが出来ないと思う」
男「そうなるのか」
双妹「そういうことだから、明日、学校の帰りに少女さんと話をしてみようと思う。それでダメだったら、潔く諦めてね」
768
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/21(水) 19:03:03 ID:EikZDiRA
おつ
769
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/28(水) 21:48:08 ID:FeU5lzV6
(3月15日)tue
〜学校・少女さん〜
火曜日になり、新しい1日が始まった。
学校に着いて慣れ親しんだ教室に入ると、今日も私の席に花瓶が置いてあった。
友香ちゃんによると、クラスのみんなが交代で水を替えてくれているそうだ。
学校の授業は私が死んで一ヶ月が経ち、今は平常通りに行われている。
看護関係の授業は楽しいし、実習の授業は参加できないことがとても悔しい。
そして、休み時間になったら友達のおしゃべりに耳を傾ける。
私はここにいるよ――。
その声が届くのは友香ちゃんだけだ。
だけどみんなを見ていると、それでも構わないと思えるようになってきた。
みんなの心の中で今も私が生きているから。
私の夢と目標がクラスのみんなに繋がっていると実感することが出来たから。
去年の4月にみんなと出会って、もうすぐ1年。
今となっては、最初の課題で書いた小論文が懐かしい。
そういえば、そのときに貰ったアレはどうなったのだろう。
770
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/28(水) 21:50:27 ID:FeU5lzV6
〜神社・少女さん〜
今日の授業が終わり、私は友香ちゃんと別れて神社に帰ることにした。
男くんの家の近くを通り過ぎ、ふわふわと住宅街を抜けていく。
ふと街路樹に目を向けると、今朝まであった雪吊りが取り外されていた。
季節はもう春になろうとしている。
私も役目を果たした雪吊りのように、もうすぐこの世からいなくなるんだろうな。
望む望まないにかかわらず、そのときが確実に迫ってきている。
その前に、男くんと双妹さんを交えて話し合わなければならない。
家に帰ることにも挑戦したいし、お姉ちゃんやお祖母ちゃんにも会っておきたい。
力が完全に戻ったらやりたいことが、まだいっぱい残っている。
少女「ただいま」
巫女「お帰りなさい。ついさっき双妹さんが来られて、社務所でお待ちになっていますよ」
少女「双妹さんが?」
巫女「ええ、あの日のことで話をしたいと」
少女「……分かりました。ありがとうございます」
771
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/28(水) 21:52:37 ID:wQVfAmzs
社務所に入ると、借り住まいをしている私の部屋で双妹さんが待っていた。
どうやら学校帰りに直接来たらしく、まだ制服を着ている。
私は双妹さんに声を掛け、ちゃぶ台を挟んで正座した。
少女「双妹さん、こんにちは」
双妹「こんにちは」
少女「……」
双妹「……」
双妹「あの日のこと、誰かに話しましたか?」
少女「あんなこと、誰にも言えないです」
双妹「……そう」
772
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/28(水) 21:54:38 ID:wQVfAmzs
双妹「ところで、もう察していると思うけど、私……振られたから」
双妹「兄妹なのに恋愛が出来ると思っていた私が、どうかしていたんだよね。そういうことだから、安心して。私はもう少女さんの邪魔をしない」
双妹「自分の気持ちだけを正当化して少女さんの恋愛を認めないのは、私自身、納得が出来ないし。まあ、少女さんが笑顔で成仏してくれたらそれが一番良いのかなって」
双妹さんは淡々と言い終えると、苦笑した。
その姿を見て、私は何だか申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
少女「双妹さん、ごめんなさい……」
双妹「ごめんなさいって、何が?」
少女「あの日のことが原因で、男くんと双妹さんの関係が壊れてしまったんじゃないかと思って……。私さえいなければ、少年くんに憑依されてあんなことにはならなかったはずだから」
773
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/28(水) 21:59:08 ID:0AlqJkrE
双妹「あのさあ、何わけの分かんないこと言ってるのよ!」
少女「えっ……」
双妹「はっきり言わせてもらうけど、私と男は世界中にたった一つしかない特別な絆で固く結ばれているんだからね。あの程度のことで関係が壊れるとか、絶対にありえないし!」
双妹「そもそも少女さんさえいなければ、私は今頃、男と愛し合う関係になっていたはずなの。むしろ、出会って欲しくなかったくらいだわ!」
少女「……!」
少女「そっか、逆だったんだ」
私がいたから、男くんと双妹さんは最後の一線を越えなかった。
私が二人にとって、心理的なブレーキになっていたのだ。
少女「双妹さん。私は男くんを諦めないけど、だからと言って、双妹さんの恋愛観を受け入れるつもりはまったくないから!」
双妹「ふうん、私を否定するつもりなんだ。それじゃあ、私は男と少女さんの交際を認めたりはしない! それでも男と交際するつもりなら、少しでも早く成仏させていなくなってもらうから」
少女「双妹さんのほうこそ、本当に振られたのならば、私が成仏した後もずうっとただの妹でいてくださいね」
774
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 21:24:11 ID:9Sj3pFhQ
双妹「……はあっ、なんだかなあ…………」
双妹「私たちの恋愛は性的マイノリティーかもしれないけど、好きな人を想う気持ちは普通の人と同じはずでしょ。だから少女さんが幽霊だとしても、それを受け入れて応援してあげようと思っていたんだけどな」
少女「確かに好きな人を想う気持ちは同じかもしれないけど、私と双妹さんでは関係性が違いますよね。私は兄妹で愛し合うなんておかしいと思います」
双妹「ひとつ聞きたいんだけど、LGBTの人たちは社会的に認知され始めているのに、どうして兄妹で愛し合うのはおかしいの? 人が人を好きになるのは理屈じゃないんだよ」
少女「男くんと双妹さんは兄妹だし、血が繋がっているから駄目なんです。好きだからって、何をしても許されると思っているんですか」
双妹「血が繋がっていたら、何だって言うの? そもそも少女さんは男にデートDVをしていたくせに、よくそんなことが言えるよねえ」
少女「それとこれとは関係ないじゃないですか」
双妹「はあ? 憑依霊なんて、ただのストーカーでしょ。好きだからって理由でそれが許されるのなら、私の気持ちも許されるんじゃないかなあ」
775
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 22:15:59 ID:9Sj3pFhQ
双妹「結局のところ、同性愛者は好きな人が同じ性別だっただけ。私は好きな人が双子のお兄ちゃんだっただけ。同性愛者を性的指向で差別しないというのなら、近親性愛者も偏見をなくして受け入れるべきなんです」
双妹「まあ、結婚の話になると税金とかいろんな問題が関係してくるし、子どもを作れない同性愛者が普通の夫婦とまったく同じ権利で優遇されるのは、個人的にどうなのかなって思うんだけどね」
少女「同性婚に賛否両論があるのは分かるけど、その理屈だと不妊症のカップルや高齢者同士の結婚も駄目だってことになりますよねえ」
双妹「少女さんは法の下の平等を知らないの?」
少女「それくらい知ってるし! もしかして、双妹さんは兄妹で結婚が出来ないのは差別だとか言うつもりなんですか?」
双妹「正直に言うと、結婚したいなとは思うよ。だけど、家族だから色んな権利が認められているし、赤ちゃんも認知してくれれば大丈夫だと思うから――」
少女「えっ、赤ちゃんが欲しいと考えているの?!」
双妹「そうだけど、悪い?」
少女「悪いも何も、兄妹なんだよ! 劣性遺伝子病を発症するリスクがかなり高いと思います」
776
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 22:33:55 ID:wlzHT1Ms
男くんと双妹さんは、常染色体と母親由来のX染色体が完全に一致している。
あまり想像したくはないけれど、そんな二人が赤ちゃんを作ってしまうと対立遺伝子がホモ接合になりやすく、もし双妹さんが劣性遺伝子病の保因者ならば4分の1の確率で発症することになる。
劣性遺伝子病の遺伝子は健康な人でも平均10個持っているといわれているので、双妹さんはなおのこと慎重になるべきだと思う。
双妹「えっとさあ、それを言うと高齢出産も染色体異常のリスクが高くなるし、先天的な障がい者に不妊手術を強制しろだとか、障がい児は産まれてくる前に中絶しろって話になりますよね」
少女「近親相姦がそれらと同じだって言うんですか」
双妹「そうだよ。もし障がい者にそんな事をしたら、絶対に社会問題になりますよねえ。それなのに近親相姦をすると障がい児が生まれやすいから駄目だとか言うのは、どう考えても矛盾していると思います」
双妹「それに私と男はもともと性染色体が3本あるトリソミーだったから、生まれてくる赤ちゃんの命を選別するような考え方は好きじゃないんです。普通の夫婦でも同じようなリスクがある以上、優生学上の理由で近親相姦を否定することは出来ません」
777
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 22:53:11 ID:wlzHT1Ms
少女「確かに双妹さんの言う通りかもしれないし、優良な劣性遺伝子だけが発現して健康な赤ちゃんが生まれてくる可能性もあるだろうとは思います。だけど、子どもの気持ちを何ひとつ考えていないですよね」
双妹「どういうこと?」
少女「もし自分の両親が実の兄妹だと知ったら、心が深く傷付けられることになるはずです。学校でいじめられるかもしれないし、それ以上に恋愛観や家族観が大きく歪んでしまって健全に成長することが出来なくなってしまうと思います。もしそんなことになったら、子どもが可哀想だとか思わないんですか」
双妹「だからそういう偏見や差別をなくそうって、私は言ってるんです。そもそも、兄妹でセックスをして子どもを作ることは犯罪じゃないんだから、頑なに否定ばかりしている人は多様化している価値観に取り残されているだけだと思います」
少女「犯罪ではなかったとしても、兄妹でセックスをして子どもを作るだなんて倫理的におかしいです。だから、私は双妹さんの恋愛観を受け入れません」
そう言うと、双妹さんは小さくため息をついた。
そしてまだ言い足りないことがあるのか、目線を上に向けて何かを考え始めた。
778
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 23:04:35 ID:aIvMxZbQ
双妹「これは実際にあることなんだけど、生まれてすぐ生き別れになった兄妹がそうとは知らずに出逢ったら、お互いに親近感が湧いて恋に落ちてしまうことがあるらしいんです」
少女「えっと……ジェネティック・セクシュアル・アトラクションのことですよね。それなら、テレビで見たことがあります」
それによると、両親の離婚や養子縁組などの理由で生後間もなく離れ離れになっていた近親者に対して、外見や性格などの類似点の多さから相手を魅力的に感じてしまう現象があるらしい。
しかもDNAの構造が近ければ近いほど好意的に感じて、お互いに強く求め合うようになるという説もあるそうだ。
それに対して、幼少期から一緒に暮らしてきた相手には性的な感情を持ちにくくなるという、ウェスターマーク効果も広く知られている。
そこまで思い出して、私ははっとした。
もしかすると、男くんと双妹さんはDNAの構造がほぼ完全に一致しているせいで、ウェスターマーク効果よりもジェネティック・セクシュアル・アトラクションのほうが優位に働いてしまっているのかもしれない。
健康な異性一卵性双生児は今まで前例がない訳だし、もしその可能性があるとしたら、私は男くんの彼女としてどのように向き合えば良いのだろうか。
779
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/29(木) 23:23:57 ID:9Sj3pFhQ
双妹「それを知っているのなら、話は早いですね」
双妹「結論だけ言うと、近親相姦は本能なんです。それなのに、兄妹で愛し合うことは倫理的におかしいんですか?」
少女「近親相姦が本能だとか、訳が分からないです。もしかして、双妹さんがお父さんとお風呂に入るのもそういうことなんですか」
双妹「はあっ?! 変なことを言わないでよ! そんなこと、絶対にあり得ないし!」
少女「ですよねえ! 家族なんだし、それが普通なんです」
双妹「つまり、少女さんは兄妹だから結婚が出来ないと苦しんでいる人がいたら、家族なのに気持ちが悪いと非難するつもりなんですね」
少女「そうは言ってないです。男くんと双妹さんの場合は生き別れになっていた訳ではないし、それとは状況が違うじゃないですか!」
双妹「それじゃあ、ちゃんとした理由さえあれば、私が男とセックスをしても受け入れてくれるってことですか?」
少女「それは、そう……かもしれないですね」
あまりにもしつこいので、私は仕方なく部分的に肯定することにした。
男くんと双妹さんが本能的に惹かれあっているのならば、今は関係を悪化させるよりも話を合わせておくほうが良いかもしれない。
780
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/30(金) 01:49:48 ID:yMi.6T6E
双妹「少女さんも結局はただの感情論なんです。この際だからはっきり言わせて貰うけど、少女さんはもう死んでいるんだから、生きていたときの常識で恋愛するのはやめた方がいいと思いますよ」
少女「私だってあんなことで死にたくなかったし、男くんと普通の恋愛をしたかった」
私の人生は本当になんだったんだろう。
少年くんに告白をされて断ったら呪い殺されて、幽霊になってなお粘着されて――。
双妹「この前ね、みんなで水族館に行ったでしょ。そのときに思ったの。少女さんの気持ちは誰に繋がっているんだろうって。それはきっと、私だったのかもしれないですね」
双妹さんがふいに優しい表情になった。
それに少し戸惑い、私は聞き返す。
少女「どういうことですか?」
双妹「ほらっ、私たちは同じ人を好きになったわけだし、何となくだけど」
男くんと双妹さんは一卵性双生児だ。
だから双妹さんのために生まれてきたということは、男くんのために生まれてきたと言い換えることが出来る。
そう考えると、私は何となくうれしく思えた。
781
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/30(金) 02:30:07 ID:PajYMzZ2
少女「そっか、私の気持ちは男くんと双妹さんにつながっていたんだ」
双妹「ええっ! そんな言い方をしてくるの?!」
少女「私、何か変なことを言いましたか」
双妹「そういう訳じゃないけど、男のことが本当に好きなんだなと思って」
少女「ああ……はい、好きです」
双妹「えっとさあ、自分でこういうことを言うのは気が引けるんだけど、私と男に性的な関係があることを知ったのに、どうしてまだ男のことを好きでいられるの?」
少女「男くんは双妹さんといろいろあったのかもしれないけど、それは私との交際が始まる前のことですよね。私と付き合い始めてからは一度もしていないし、私が見てきた男くんの頑張る姿を嘘だと思わないからです」
双妹「……ふうん」
少女「それに今の私の恋愛はマイノリティーだから、双妹さんの恋愛と同じで立ち止まるわけにはいかないんです。双妹さんのことは絶対に認めないけど、さっきの忠告は受け入れたいと思います」
782
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/30(金) 02:34:19 ID:cZ5PjTiQ
双妹「そっか、立ち止まるわけにはいかない……か」
双妹「そういうことなら、少女さんには1秒でも早く成仏してもらうしかないですね」
少女「……!」
少女「まさか、私がいなくなったら男くんに関係を迫るつもりですか」
双妹「言わなかったっけ。男と交際するつもりなら、少しでも早く成仏させていなくなってもらうって」
少女「あっ、ああ……それなら良いんだけど」
双妹「ふふっ、それではごきげんよう」
双妹さんは今日一番の笑顔でにこりと笑い、通学かばんを手に取って部屋を出た。
私も部屋を出て、社務所の入り口から双妹さんの後ろ姿を見送る。
もしかすると、私は本気で諦めるつもりだった双妹さんをその気にさせてしまったのかもしれない。
それが思い過ごしならばいいのだけど、それと同時に男くんと双妹さんの消えることがない絆をうらやましく感じた。
783
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/03(月) 12:30:28 ID:DGlYaMBU
おつ
784
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/04(火) 21:55:10 ID:GMmrwBHs
・・・
・・・・・・
〜自宅・午後〜
辺りが暗くなってきた頃、ようやく双妹が帰ってきた。
今日の帰りに少女さんと話し合ってみると言っていたけれど、上手くまとまってくれたのだろうか。
少し気になるけれど、双妹は晩ご飯の手伝いでキッチンに行ってしまった。
帰ってくるのが遅かったのだから、それは仕方がない。
さすがに今は聞くことが出来ないし、話してくれるのを待つしかないだろう。
やがて晩ご飯の時間になり、俺はリビングに行くことにした。
男「今日の晩ご飯はとり野菜鍋か」
双妹「もう下りてきたんだ。最後のシメは素麺だよ」
男「素麺? ああ、だいぶ前に少女さんが普及しようとしていたやつか」
双妹「お母さんが思い出したみたいに素麺を買ってきて、それで――。とりあえず、おこたに新聞を敷いといてくれる?」
男「分かった」
785
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/04(火) 21:56:21 ID:SfAJxSCE
コタツの上に新聞を敷くと、母さんがお鍋を運んできた。
そしてふたを取ると湯気が上がり、リビングにみその香りが広がった。
ここしばらくお粥がメインだったので、この匂いだけでご飯を何杯でも食べられそうだ。
俺はもう早く食べたくて、双妹が持ってきた茶碗に急いでご飯をよそい、コタツに並べた。
男「いただきます」
スープをすくって器に取り分け、七味を振って食べる。
野菜のうまみがみそと七味の相乗効果で引き出され、トリオを奏でているかのようだ。
相変わらず美味すぎるぞっ!
母親「ねえ。男、双妹。ちょっといい?」
男・双妹「いいけど、何?」
母親「今日ね、書斎のお掃除をしていて、久しぶりに昔のDVDを観てみたの」
男・双妹「昔のDVD?」
786
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/04(火) 21:57:37 ID:SfAJxSCE
母親「おつかい番組と2分の1成人式の番組に出演したでしょ」
男「懐かしいなあ」
双妹「……」
母親「今だから言うけど、男と双妹が小学生だった頃、苦しい思いをしていたことを覚えてる?」
双妹「……うん」
双妹の表情が陰り、食べる手が止まった。
あまり思い出したくないのだろう。
小学生の頃、双妹は性別に関する悪口を言われることが多かった。
保護者や教師に知識が足りず、『一卵性双生児は同じ性別しか生まれない』とか『女の子は性別を決める遺伝子に病気を持っている』などと教えていたからだ。
しかし小学校の2分の1成人式がテレビで放送されて、いじめがなくなった。
母親「一番ひどかったのが、小学校4年生のときだった。そのことを担任の先生から聞かされて、わたしとお父さんはテレビ放送をすることを思い付いたの」
双妹「えっ?」
母親「正しい情報を知ってもらうためには、異性一卵性双生児についてテレビ放送をするのが一番手っ取り早いでしょ。半分は賭けだったんだけど、成功してよかったわ」
787
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/04(火) 22:04:08 ID:GMmrwBHs
男「あれって、テレビ局の企画じゃなかったんだ」
母親「そうよ。おつかい番組の放送をしてくれた知り合いのプロデューサーさんに相談して、2分の1成人式の企画が決まったの。それから学校の先生方や双子研究のスタッフの方と打ち合わせを繰り返して、みんなで番組を作ったのよ」
双妹「そんなことがあったんだ……」
母親「人はみんなでみんなを支えている。男と双妹は気が付いていないかもしれないけど、多くの人に支えられて今があるのよ。そのことを忘れないようにしなさいね」
男「それは分かってる。でも、どうして急にそんな話を?」
母親「少し前に少女さんと付き合っているって言っていたけど、彼女はもう亡くなっているんでしょ」
男「どうしてそれを?! ……って、巫女さんから聞いたのか」
母親「黙っていただけで、もっと前から知ってたわよ。お母さんの情報ネットワークをあまく見ないことね」ドヤァ
男「ええっ?!」
いつから知っていたのだろう。
もしかして、少女さんと初めてデートに行った日か?!
あのとき、母さんが同じようなことを言っていたような気がするし。
788
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/04(火) 22:06:07 ID:SfAJxSCE
母親「とりあえず、今は少女さんを成仏させてあげることを考えなさい」
男「ああ、それは分かってる」
母親「そして、その後は高校生らしい普通の恋愛も経験してみなさいね」
母親「男も、そして双妹、あなたもね――」
男「……」
双妹「……」
高校生らしい普通の恋愛。
それは誰が聞いても、母さんが正しいと答えるかもしれない。
だけど俺は少女さんの未練を叶えてあげたいし、双妹の気持ちも大切にしたい。
母親「……」
母親「ほらほら、二人とも箸が止まってるわよ。冷める前に食べましょ」
母さんはにこやかに言うと、盛大に白菜と鶏肉をすくい取った。
ちょっと待て、これはマジで全部食べられるぞ!
俺と双妹は気を取り直し、晩ご飯の確保に尽力することにした。
789
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:13:02 ID:I7DqvvXw
〜部屋〜
晩ご飯を食べた後、俺は部屋で一人、悶々と考え事をしていた。
母さんが今日に限ってとり野菜鍋のシメに素麺を入れたのは、少女さんのことを連想させるためだろう。
そう考えると、さっきの話は少女さんを成仏させるためのヒントでもあるのだと思う。
みんなでみんなを支えている。
少女さんは生前、誰を支えていて誰に支えられていたのだろうか。
普通に考えると、少女さんは友達や家族に支えられていたことになる。
だけどそのことについては、友香さんがすでに考えてくれている。
ならば、俺はそれ以外の方向性で考えるべきだ。
しかし、考えがまとまらない。
男「はあっ……今日はもう寝るか」
明日は学校に行かないといけないし、病み上がりだから早く寝るに越したことはない。
そういえば双妹から少女さんの話を聞くことが出来なかったけど、差し障りのないことなら明日の朝にでも聞けるだろう。
俺はそう思い、着替えを用意してお風呂に入ることにした。
790
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:14:02 ID:3wK.qV6I
〜お風呂場〜
少女さんに憑依されたのが、バレンタインデーの次の日。
それから1ヶ月もの間、俺はずっと少女さんと一緒にお風呂に入っていた。
そして双妹と3人で入るようになり、今は一人で入っている。
浴槽がとても広くて、とても静かだ。
あの頃は少女さんと双妹がいい意味で賑やかだった。
男「何だかなあ……」
一人で入るお風呂は何だか物足りない。
いつの間にか、あれが当たり前になっていた。
791
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:17:43 ID:8s0i8yO6
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は顔を向けた。
すると、そこには髪を束ねた双妹が全裸で立っていた。
双妹「良いよね? 風邪が治ったんだから」
双妹は相変わらず無防備にさらけ出し、恥らう様子もなく入ってきた。
しかし以前とは違って、俺の視線をわずかに意識しているようだ。
それでもいつもの調子で湯舟に浸かり、向かい合って足を伸ばす。
双妹「はああ〜♪ やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くかも//」
男「母さんにあんなことを言われた後なのに、よく入ってこれたなあ」
双妹「あの話とこれは関係ないもん。今は双子の妹として、純粋に男のことが好きなだけだから//」
男「今は妹として純粋に――か」
792
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:25:43 ID:8s0i8yO6
双妹「もしかして、男は私のこと……異性として意識してくれるの?」
双妹はあまい声で言うと、上目遣いで見詰めてきた。
その視線であの日のことを思い出し、胸がドキリと締め付けられる。
男「そう言う双妹こそ、俺のことを意識してるんだろ」
双妹「ふふっ♪ やっぱり、私たちは同じ気持ちなんだね//」
双妹は頬を緩めてはにかみ、胸を寄せて谷間を強調した。
俺は興奮してきたことを悟られないように、平静を装って視線を逸らす。
もうずっと抜いていないし、このままだとしたくなってしまいそうだ。
双妹「ねえ、男。私とセックスをしたいって思ってるでしょ〜//」
男「何言ってるんだよ。そんな訳ないだろ」
双妹「あそこが大きくなっていること、もうバレバレだよ。この前、少女さんがどうとか言ってたのにね。病み上がりでいっぱい溜まっているなら、私が抜いてあげても良いんだよ//」
793
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:26:54 ID:8s0i8yO6
双妹はにんまりと笑い、右足を浮かせる。
そして何かをしようとしてバランスを崩し、湯舟の中に滑り込んでしまった。
ゴボッ!
バシャアアンッ・・・
双妹は浴槽の底に沈んでしまい、咄嗟に脚を蹴り上げる。
しかし状況は変わらず、俺の肩に両脚を預けて挟み込んできた。
しかもそのせいで身体を起こすことが出来なくなり、完全にパニック状態に陥っている。
もしかして、これはヤバいんじゃないのか?!
俺は慌てて双妹の脚を左右に開き、両腕を掴んで引っ張り上げた。
すると双妹は無我夢中で俺にしがみついてきて、大きく息を吸うと激しくむせ返った。
俺はそんな双妹をとっさに抱きかかえて、背中をさする。
794
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:28:50 ID:I7DqvvXw
双妹「げほっげほっげふぉっ……」
双妹「……ん゛っ、んんっ…………オエエェッ…………」
男「大丈夫か?!」
双妹「ぜえぜえ……」
双妹「らい……じょうぶ。ありがと、死ぬかと思った――」
男「ったく、気を付けろよ。マジで死ぬんじゃないかと思って、本気で心配したんだからな! お風呂のお湯、飲んだんじゃないのか?」
双妹「……うん。ちょっと気分が悪い……かも」
双妹は力なく言うと、不安そうに身体を預けてきた。
俺はそんな双妹を優しく抱き締める。
すると双妹が安心したのか、気持ちが和らいでいくのを感じた。
そして、双妹は俺にとってかけがえのない存在だということを改めて実感した。
795
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:38:15 ID:3wK.qV6I
やがて双妹は俺から離れ、しょんぼりと肩を落とした。
きっとあのとき、双妹は性的に興奮して気持ちが先走り、足を滑らせてしまったのだろう。
しかしそんな感情はお互いに消し飛んでいて、俺は落ち込んでいる双妹に寄り添い肩を並べた。
双妹「冗談のつもりだったんだけど、ごめんなさい」
男「いいって、俺も悪いし」
双妹「それは気にしないで。あれで何もなかったら、逆に心配しちゃうから。私は男が元気になってくれるとうれしいよ//」
男「そういう所が普通の兄妹とは違うんだろうな」
双妹「そうかもしれないけど、私はね、兄妹の在り方にもいろんな形があっても良いと思うの」
男「ああ、それは俺も分かってる。だけど、それが望まれない形だということも分かっているんだろ」
双妹「……うん」
男「まあ、俺たちが一緒にいることに、そんな理屈は関係無いんだけどな」
796
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:41:21 ID:8s0i8yO6
双妹「あのね、私たちってさあ、もし双子の兄妹じゃなかったらどうなっていたんだろうね」
男「その場合は受精卵がクラインフェルター症候群のままだから、染色体異常で妊娠せずに化学流産になる可能性が高いんじゃないかなあ」
双妹「……」
双妹「うん、そうだよね。私たちが生まれてきたのは奇跡だもんね」
男「そう考えると、俺たちは奇跡的な確率で出会った人たちに支えられているってことになるんだよな」
その人たちの中には、俺と双妹が二卵性双生児だと判定されたままならば出会っていなかった人や違う人生を歩むことになっていた人がいるのだろう。
例えば、大学病院の看護師さんや友香さんのように。
そう考えると、出会いは大切にしないといけないなと実感させられる。
797
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:42:32 ID:3wK.qV6I
双妹「ねえ、男。少女さんにも生前、支えあっていた人がいるはずだよねえ」
男「俺もそのことは考えてた」
双妹「私、ふと気になったんだけど、男は少女さんと同じクラスだったのに、未だに少女さんが死んだことを知らせる電話が掛かって来ていないでしょ。それって、おかしいと思わない?」
男「俺たちはお線香をあげに行ったんだから、電話が掛かって来ないのは当たり前だろ」
双妹「そうかもしれないけど、もしかしたら誰にも連絡してないんじゃないかなあ。私はクラスのみんなに教えてあげたほうが良いと思うんだけど」
言われてみれば、少女さんの友達は中学校の同級生の中にもいるはずだ。
学校が変わって会えなくなったとしても卒業するまで同じ教室で勉強してきた仲間なんだから、みんなに少女さんが死んだことを知らせることは生きた証を探すことにつながるかもしれない。
798
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 21:45:08 ID:I7DqvvXw
男「いいな、それっ! だけど、少女さんのお葬式は家族だけでしたんだろ。俺たちがそんな事をしたら迷惑になるんじゃないのか」
双妹「それはそうなんだけど、少女さんの意向に沿うことが一番大切だと思うの。私たちは、あくまでも友達と情報を共有するだけ……だよ」
男「そういうことなら、まずは明日、少女さんに話してみるよ」
双妹「うん、それが良いと思う」
男「ところで、双妹は少女さんと上手くいったのか? 話しぶりを見ていたら、そう悪くないような気がするんだけど」
双妹「まあ良くも悪くも、それなりの形で収まったんじゃないかなあ」
男「そっか、ありがとう」
双妹「それでね、少女さんが言ってたの」
男「言ってたって、何を?」
双妹「私たちの恋愛はマイノリティーだから立ち止まるわけにはいかないんです、って」
男「立ち止まるわけにはいかない――か」
双妹「うん。だからね、私も私の気持ちを誤魔化さない。絶対に好きを諦めないから!」
男「そうだな。俺も双妹の気持ちを大切にしたいと思う」
799
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 22:04:45 ID:8s0i8yO6
双妹「それじゃあさあ、久しぶりに洗いっこをしようよ。泡あわでいっぱい気持ちよくしてあげるから//」
男「いいけど、立ち上がるときに滑るなよ」
双妹「もう滑らないもん!」
俺は双妹と洗い場に移動し、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。
ふわふわの泡に包まれ、双妹と過ごす心地いい時間が流れていく。
双妹「ねえ、男。これからもずっと二人で一緒にいようね」
男「そんなの、当たり前だろ」
双妹「うん、そうだよね//」
800
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/06(木) 23:26:18 ID:jSYgWU/.
おつ
801
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 20:51:29 ID:MiqjNRBE
(3月16日)wed
〜最寄り駅〜
インフルエンザの出席停止期間が終わり、ようやく学校に行けるようになった。
朝ご飯を食べて、双妹と二人で家を出る。
そして最寄り駅に着き、ホームで電車を待つ。
この1週間で多くのことが変わった。
少女さんは友香さんと学校に行くようになり、俺たちと一緒に通学していた友は自転車通学に戻っている。
街路樹の雪吊りも取り外されて、街並みが春らしくなっていた。
男「何だかすごく緊張してきた」
双妹「少女さんに会うのは放課後でしょ。まだ朝なんだけど……」
男「それは分かっているけど、大丈夫なんだよな?」
双妹「男を諦めるつもりはないって言ってたから、大丈夫だと思う。それに彼女はもともと憑依霊だし、何があっても男と別れるなんて決断をすることは出来ないんじゃないかなあ」
男「大丈夫なら良いんだけど、それは少し言いすぎじゃないか?」
双妹「……ごめん」
男「とりあえず、正直な気持ちを伝えてくるよ」
802
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 20:52:42 ID:2YpJTCAA
双妹「それはそうと、ブレスレットは持ってきた?」
男「ああ、持ってきた」
俺はそう言って、ポケットに双妹のブレスレットが入っていることを確かめた。
これは双妹の魂の力を利用して作った霊具なので、一卵性双生児の俺ならば少女さんの姿を見ることが出来るようになるはずだ。
確証はないけど、そんな気がする。
双妹「昨日も言ったけど、効果が持続するのは3週間だから、少女さんが成仏するまで大丈夫だと思う」
男「成仏するまで大丈夫……か」
双妹「……うん」
男「まあ、今は出来ることをするしかないな」
803
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 20:53:43 ID:2YpJTCAA
〜神社・放課後〜
放課後になり、俺は友の家の神社に向かった。
双妹のブレスレットを着けて準備し、鳥居をくぐる。
そして境内に入ると、授与所にいた巫女さんに声を掛けられた。
巫女「こんにちは」
男「こんにちは。少女さんはいますか」
巫女「まだ学校から帰って来ていないです。中で待たれますか?」
男「はい」
巫女「それではこちらにどうぞ」
巫女さんはそう言うと、授与所から出てきて歩き始めた。
俺もそれに並んで境内を歩く。
804
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 20:56:22 ID:2YpJTCAA
巫女「そういえば、風邪はもう大丈夫なんですか?」
男「はい、もう治りました」
巫女「ふふっ、良かったです。霊障の影響もほとんど残っていないみたいだし、かなり安心しました」
男「霊障って、そんなに怖いんですか?」
巫女「んー、怖いですよ。厳密に言うと少女さんも憑依霊だから同じなんだけど、霊障は精神に作用して心と体を蝕んで行きますから」
男「そうなんですね……。祓ってくれて、ありがとうございました」
巫女「いえいえ、今後も気をつけてくださいね」
巫女さんはにこりと笑い、社務所の中に入っていった。
そして奥の部屋に案内され、緊張した面持ちで少女さんの部屋に入る。
巫女「それでは、こちらでお待ちください。後ほど、お茶をお持ちします」
巫女さんはそう言って部屋を出ると、しばらくして棒茶と和菓子を持ってきてくれた。
棒茶の香ばしい香りが湯気に乗って部屋に広がり、何だかほっとさせられる。
俺は礼を言い、和菓子を食べることにした。
805
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 20:58:27 ID:fgEfpxqI
それからどれほど時間が過ぎたのか、障子の向こう側から人の気配を感じた。
その瞬間、障子をすうっとすり抜けて少女さんが入ってきた。
彼女は北倉高校指定の冬コートを着ていて、その姿が霊感のない俺でもはっきりと見ることが出来ている。
やはり、双妹のブレスレットは俺にも効果があったようだ。
少女「……」
少女「…………」
男「少女さん、おかえり」
少女「……えっ? た、ただいま……」
少女「もしかして、私のことが見えているんですか!?」
男「……うん」
俺は小さく頷き、右手の袖をまくった。
少女「ああ、そっか……」
少女「双妹さんのブレスレットを借りたんですね」
806
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 21:01:31 ID:MiqjNRBE
少女「それで、今日はどうしてここに来たんですか?」
男「この前のことなんだけど、少女さんと付き合っているのに双妹に手を出してしまって、本当にごめんなさいっ!」
俺は床に両手を付き、頭を深く下げた。
集団パニックで憑依霊に取り憑かれたクラスのみんなは、悪霊のせいにせずに謝罪してくれた。
だから、俺も真摯な態度で少女さんと向き合いたい。
少女「男くん、頭を上げてください」
そう言われ、俺はゆっくりと頭を上げた。
そして少女さんの顔を見ると、冷たい視線が向けられた。
少女「あのとき、男くんと双妹さんは少年くんに憑依されていました。だけど、したくないことは出来ないはずですよね。男くんは避妊さえすれば、兄妹でセックスをしても構わないと考えているんですか」
男「それはまあ……そう思っているけど、俺たちはまだセックスをしたことはないから。それだけは信じて欲しい」
807
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 21:03:51 ID:fgEfpxqI
少女「信じて欲しいって簡単に言うけど、男くんと双妹さんは一緒にお風呂に入るくらい仲が良いんですよ。お互いにセックスをしてみたいという気持ちがあったのなら、好奇心で最後までしたことがあるんじゃないんですか」
男「最後まで……」
少女「はい、最後までです」
男「セックスはしていないけど、ときどきその……双妹に抜いてもらったりしています」
少女「ときどきって、兄妹なのに?」
俺はただ無言で小さく頷いた。
すると、少女さんは重いため息を漏らした。
少女「大学病院での1回だけだったのならともかく、何度もえっちな事をしていたのなら、それはたとえ挿入していなかったとしても近親相姦になると思います。嘘でもいいから、『そんなことをする訳ないだろ』って否定して欲しかったな」
男「少女さん、ごめん……。俺は少女さんに嘘を吐いて誤魔化したくなかったんだ!」
808
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 21:06:30 ID:2YpJTCAA
少女「その気持ちはうれしいです。だけど、双妹さんは双子の妹なんだよ。ときには嘘を吐いて隠し通すことも必要だと思います。兄妹で日常的にセックスをしていると知られてしまうと、きっと大切な人を失うことになりますよ」
少女「まあ普通は彼氏の妹を疑ったりしないので、こんな話をすることになった時点でお仕舞いでしょうけどね」
男「そうだよな。赦してもらえるはずがない……よな」
少女「当たり前じゃないですか!」
少女「男くんは以前、『異性一卵性双生児は世界中に俺と双妹しかいないから、この感覚は誰にも分からない』って言ってましたよねえ。はっきり言って、兄妹でセックスをすることが普通の感覚だなんて、私は分かりたくもありません」
少女「そもそも、私と双妹さん。どっちが好きなんですか?!」
男「それは――」
少女さんのことはともかく、双妹のことはかけがえのない存在だと思っている。
どっちが好きだとか、比べるようなことは出来ない。
809
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 21:16:37 ID:G2DYKtto
少女「……はあっ。すぐに答えることが出来ないんですね」
男「ごめん。でも、そんな質問に答えられるわけがないだろ」
少女「それは私も分かっています。だけど、男くんと双妹さんには性的な関係があるんだよ。兄妹なのに、どうして思いとどまることが出来なかったの?!」
男「それこそ、この感覚は誰にも分からないと思う」
男「俺にとって双妹はかけがえのない存在で、あのとき初めて見た双妹の表情がとても大切なものに思えたんだ。それは双妹も同じで、俺たちはお互いのことをもっと知りたくて、もっと大切に想いたくて――」
男「でも中学生だったし、そういうことは責任を持てるようになってからじゃないと駄目だっていう気持ちはあったんだけど、お互いに触れ合うと言い知れない感情が込み上げてきて、双妹と『ひとつ』になっている心地よさがあったんだ」
男「だから、俺と双妹は――」
少女「もういいです! 双妹さんのことが誰よりも大切だってことは、よく分かりました。そんなときに私をスキー実習で見かけて、双妹さんよりも好きになったりするものなんですか?!」
少女さんは厳しい口調で言うと、試すような視線を向けてきた。
あのとき、俺は本当に少女さんのことを可憐に感じて話をしたいと思っていた。
その気持ちに嘘はない。
810
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/12(水) 21:40:41 ID:2YpJTCAA
男「信じてもらえないかもしれないけど、あのとき少女さんのことを本気で好きだった。だから、双妹も告白に協力してくれたんだ」
少女「……」
少女「私はそれが腑に落ちないんです。お互いに大好きで性欲を満たしあっていた男くんと双妹さんが、どうして私や同級生の男子に興味を持つことになったんですか? 普通はそれが正常なのに、どうしても違和感があるんです」
男「やっぱり、俺たちはもうだめ……なのかなあ」
少女「そうですね。男くんと双妹さんの関係は普通ではないと思うし、実の妹が浮気相手になりうると分かった今、交際を続けることなんて出来ないです。だけど、別れるかどうかは保留にしたいと思います」
男「どうして……」
少女「本来なら今すぐ別れるべきなんだけど、それとは別にちょっと気になっていることがあるからです」
少女「だから、この前のことは特別に赦してあげようかと思います」
男「少女さん……ありがとう…………」
少女「何と言うか、男くんと双妹さんは異性一卵性双生児で学術的な研究に協力していたり、普通の兄妹とは違って、あまりにも育ってきた環境が特殊すぎたのかもしれないですね」
811
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 21:54:55 ID:ITmjCbWc
少女「それはそうと、男くんの看病に一度も行けなくてごめんなさい。すっかり元気になったみたいで、本当に良かったです」
少女さんは話題を変えて、努めて明るい笑顔を見せてくれた。
完全に赦してくれた訳ではないだろうけど、俺もそれに合わせていつも通りに振る舞うことにした。
男「えっと……その、少女さんも学校に行けるようになって、本当に良かったよ。久し振りに行ってみて、どうだった?」
少女「そうですねえ、学校はすごく楽しいです」
少女「看護関係の授業は大変だけど好きだし、友達のおしゃべりを聞きながら過ごすのも楽しいし、みんなと同じ時間を共有していることがすごく幸せです」
男「それじゃあ、生きた証はもう見付かった感じ?」
少女「そう言われるとピンと来ないけど、学校が私にとって大切な場所だということは実感することが出来ました。私は死んでしまったけど、みんなの心の中で私の夢と目標が繋がっているんです」
812
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:20:04 ID:kt7grWkk
男「そっか。でも、学校に行っても生きた証は見付からなかったんだ」
少女「それはそうだけど、私は本当に学校が好きですから」
男「いや、好きとか嫌いじゃなくて、ほらっ、生きた証は少女さんの人生観そのものだろ。だから、少女さんの想いがみんなに繋がっていると実感することが大切だと思うんだ。もしかすると、まだ何かが足りないのかもしれない」
少女「それは……そうかもしれないですね」
男「それで双妹と話をしていて、中学校の同級生に少女さんが亡くなったことを知らせてあげれば良いんじゃないかってことになったんだけど、どう思う?」
少女「そうですねえ。中学校の友達も弔問に来てくれたらうれしいです」
その言葉を聞いて、俺は通学鞄から卒業アルバムを取り出した。
そして少女さんの隣に移動し、卒業生全員の連絡先のページを開いた。
813
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:21:18 ID:Kjc9xIr.
少女「わわっ、用意がいいですね」
男「まあ、そのつもりだったから。とりあえず3年生のときに同じクラスだった33人に連絡するのは当然として、1年生のときと2年生のときに同じクラスだった人にも連絡をしたいから教えてくれないかな」
少女「分かりました」
少女さんが中学生の頃を思い出しながら、同級生の名前を読み上げる。
俺はそんな少女さんの思い出に触れ、彼女が出逢って来た人々に印を付けていく。
男子26人、女子44人、計70人
男子の内訳は俺と友を除く3年生の同級生が16人で、他はクラス委員をしていたり目立っていた人、班行動が一緒だったり席が近くて親しかった人などが10人。
それに対して、女子は同じクラスになった人の名前をほとんど覚えていて、卒業生の女子90人のほぼ半数に出会っていたことが分かった。
814
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:22:52 ID:xNBv4ySk
少女「70人って、多くないですか?!」
男「もしかしたら、卒業生の半数と同じクラスになっていたのかも」
少女「そうかもしれないですね。こんなにたくさんの人と、同じクラスになっていたんだ――」
男「それじゃあ、今度の3連休を使ってみんなに連絡するから」
少女「いえ、ちょっと待ってください。さすがにお母さんが対応できないし、連絡をするのは友達だけでお願いします」
という訳で、改めて卒業アルバムに目を通す。
そして、同級生や部活動で親しくしていた女子23人に連絡をすることになった。
815
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:24:06 ID:Kjc9xIr.
少女「ところで、今度の3連休なんですけど、お姉ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行こうと思っているんです」
男「いいんじゃないかな。最期に会って話をしてきなよ」
少女「うん、ありがとう。だけど、さすがに話をするのは無理だと思います。びっくりされるじゃないですか」
男「ああ、そうか。友香さんの一件もあるし、姿を見せるのは控えた方が良さそうだな」
少女「……はい。でも夢に出るくらいなら大丈夫だと思うし、姪ならまだ小さいから遊んであげることが出来るかも」
男「少女さんって、姪がいるんだ」
少女「私のことを『ねえね』って呼んでくれて、すごく可愛いんですよ//」
男「へえ、そうなんだ」
少女「考えても仕方がないことだけど、私も結婚が出来る年齢なんですよね……」
結婚――か。
以前、少女さんとそんな話をしたことがあるけれど、こうして言葉に出るのはやっぱり憧れの裏返しなのだと思う。
俺は少しでも気持ちをほぐしてあげたくて、少女さんにそっとにじり寄る。
すると、少女さんは近付いた分だけ離れて頬を膨らませた。
816
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:26:11 ID:Kjc9xIr.
少女「あのことを赦したとはいっても、そういうことは絶対に許しません。まずは友達に連絡をして、私に誠意を示してください」
男「……ごめん」
少女「ちなみに、それを考えたのは双妹さんですよねえ」
男「そうだけど…………」
少女「やっぱり、そうなんだ。もしかして、そのブレスレットも双妹さんのアイディアなんですか」
男「これは俺だよ。少女さんに余計な負担を掛けさせたくなくて考えたんだ」
少女「それは男くんが考えてくれたんだ」
男「そうだよ」
少女「双妹さん、やっぱり男くんのことを諦めていないんですね。それに、男くんと双妹さんは本当にツイコンだよね」
男「もしかして怒ってる?」
少女「そんなことはないですよ。兄妹で一緒にお風呂に入ったりするくらい仲が良いのはもう承知の上だし、どうぞ私のことは気にしないでご自由になさってください」
少女さんはそう言うと、にこりと微笑んだ。
怒ってはいないとか言いつつ、その笑顔が逆に怖い。
俺はそんな少女さんのご機嫌を取ろうと、とり野菜鍋のシメをみそ素麺にしたことを話すことにした。
817
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/13(木) 23:27:49 ID:xNBv4ySk
少女さんがみそ素麺の何たるかを熱く語り始めて数十分。
気が付くと辺りが暗くなり始めていた。
男「それじゃあ、そろそろ帰るよ」
少女「えっ? もうこんな時間なんだ」
男「じゃあ、またね。今日は赦してくれて本当にありがとう」
少女「……」
俺は少女さんに手を振り、社務所を後にした。
とりあえず、少女さんが中学生時代に親しくしていた23人。
少女さんの生きた証を探すため、そして誠意を伝えるために今夜から連絡していこう。
俺はそう思いながら、授与所の戸締りをしていた巫女さんに挨拶をして、足早に家に帰ることにした。
818
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/17(月) 22:33:26 ID:yoUqlWdI
おつ
819
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/19(水) 23:40:51 ID:IQo0QtaA
(3月17日)thu
〜学校・お昼休み〜
友「おいっす! 一緒に食べようぜ」
お昼休みになり一人でお弁当を食べていると、友が惣菜パンを持ってやってきた。
少女さんはいないし、双妹は妹友さんと食べている。
ちょうど、話し相手が欲しいと思っていたところだ。
友「今日の放課後なんだけどさあ、予定とか空いてるか?」
男「特に何もないけど」
友「そっか。それなら、帰りに駅前の喫茶店に行かないか。友香さんたちと待ち合わせをしてるんだ」
男「待ち合わせ?」
友「例の幽霊探知機なんだけど、全国各地に少女さんの幽体があるっていう探知結果が正しかったことが分かっただろ」
男「そういえば、そんなことも言ってたっけ」
友「それで今日の放課後、もう一度試してみようかと思っているんだ。少女さんの霊力が回復したし、あれが誤作動ではないことを確かめておきたいからな。男も来るだろ?」
男「もちろん、俺も行くに決まってるだろ」
820
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 00:10:26 ID:fZpANjyE
友「そう言ってくれると思ったよ。それでひとつ検証してみたいことがあるから、放課後になるまでこれを貼っておいてほしいんだ」
友はそう言うと、ポケットから絆創膏のようなものを取り出した。
そして、言葉を続ける。
友「これは霊波動に反応して吸収する性質がある特殊繊維で、霊障の原因になっている悪霊を探知するときに使う霊具なんだ」
男「そんなものを貼ってどうするんだよ」
友「少女さんの探知結果には疑問点が多いし、男の霊波動を調べて動作確認をしておきたいんだ」
男「動作確認をするだけなら、別に俺でなくても良いんじゃないのか?」
友「いや、男じゃないと駄目なんだ。詳しいことは放課後になってから話す」
男「まあ、そういうことなら仕方ないな」
これで一体何を調べるつもりなのだろうか。
俺は疑問に思いつつ、友に言われるがまま左手の甲に貼り付けた。
821
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:05:53 ID:fZpANjyE
〜学校前の駅・放課後〜
放課後になり、俺と友は学校前の駅に向かった。
そこで少女さんと友香さんを待ち、合流することになっているそうだ。
当然俺たちが先に着き、しばらく待って二人が現れた。
友香「お待たせ〜」
少女「お待たせしました」
友香「もしかして、待った?」
友「大丈夫。俺たち、さっき授業が終わったところだから」
男「そうそう」
友香「そうなんだ。ごめんね」
友「それじゃあ、移動しよっか」
友香「うん」
822
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:31:30 ID:9rAD5zmo
〜喫茶店〜
喫茶店に入って4人掛けのテーブルを囲み、友が幽霊探知機のアンテナを組み立て始めた。
その間にそれぞれスイーツとドリンクを注文し、雑談を交わす。
やがて注文した商品が運ばれてきて、友もようやくアンテナが完成した。
友「よしっ、準備完了」
友香「それを使えば、少女の幽体を調べることが出来るんだよねえ」
友「そうだよ。昔は式神を使役して霊的存在を探していたんだけど、広域探索の現場ではアプリで探す時代になったんだ」
友香「幽霊って、そんなに当たり前な存在なんだね」
友「そうだよ。ただ、あの悪霊みたいに低級霊を従えているケースは本当に稀だと思う」
友香「ふうん、そうなんだ」
友「ちなみに、このアプリは失踪した人の探索にも利用されることがあるんだ。男、そういう訳だから、まずは昼休みに貼ってもらったやつを探知してみようか」
男「んっ? お……おう」
俺は絆創膏を剥がし、友に渡した。
この霊具は今、俺の霊波動に反応して探知することが出来るということなのだろう。
823
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:33:20 ID:9rAD5zmo
友「じゃあ、アプリを起動するぞ」
友は絆創膏をアンテナのパーツに貼り付け、スマホを操作した。
すると、パラボラアンテナが上下に首を振りながら時計回りに動き始めた。
そのゆったりした動きに、みんなの視線が注がれる。
友「……大丈夫そうだな。これが男の探知結果だ」
友香「見せて見せて!」
少女「私も見たいですっ」
友は二人にせがまれ、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺たちは身を乗り出して、友のスマホを覗き込む。
角度的に少し見にくいけれど、俺たちが今いる場所と少し離れた場所に赤い点が表示されていた。
友香「すごーい! これが探知結果なの?!」
男「赤い点が2つあるんだけど、これって誤作動じゃないのか」
友「もう1つは双妹ちゃんだ。地図のこの辺りは男の家がある場所だろ」
男「ああ、なるほど。そういうことか」
824
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:51:16 ID:9rAD5zmo
友香「男くんと双妹さんは一卵性双生児だもんね。やっぱり、遺伝子だけじゃなくて魂も同じなんだ」
少女「魂も同じ、か。双妹さんのブレスレットで私の姿が見えるようになったのも、そういうことだったんですね」
友「そうだよ。それじゃあ、友香さん。昨日頼んでいたやつ、お願いできるかな」
友香さんはそう言われ、指先に巻いていた絆創膏を剥がした。
友はそれを受け取り、俺が渡した絆創膏と貼りかえる。
そして、友は改めてスマホを操作した。
友香「やっぱり、私の場合は1つだけしか表示されないんだ」
男「そういえば、友香さんには双子のお兄さんがいるんだっけ?」
友香「はい、そうです」
少女「ええっ! 友香ちゃんって、双子だったの?!」
友香「そうだよ。知らなかった?」
少女「知らなかったし!」
825
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:53:11 ID:9rAD5zmo
友「とりあえず、異常はないみたいだ。二人とも協力してくれてありがとう。これは個人情報だから二人に返すよ」
友香「うん」
男「そうだな」
俺は絆創膏を受け取り、ポケットに突っ込んだ。
それは良いとして、これで何が分かったのだろうか。
友「それじゃあ、壊れていないことが確認できたし、少女さんの幽体を探知してみようか。この前みたいに霊力を登録してくれるかな」
少女「はい」
その言葉と同時、パラボラアンテナが動き始めた。
少女さんの幽体の謎が解明されるときが近付いている。
少女「何だか緊張してきた……」
友「んんっ? どうなってるんだ、これ――」
826
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 21:54:45 ID:3SxyahSk
男「どうかしたのか?」
友「この前と少し違う結果が出たんだ。ちょっと見てくれ」
友はそう言うと、スマホをテーブルの中央に置いた。
俺は身を乗り出して、スマホを覗き込む。
すると、少女さんの幽体を示す赤い点が、北は北海道から南は九州に至るまで全国各地に表示されていた。
やっぱり、今回も同じ結果だ。
友「なっ、おかしいだろ」
男「おかしいだろって言われても、俺には同じに見えるんだけど」
友香「男くんの霊波動?を調べたとき、男くんだけではなくて双妹さんの居場所も表示されていたでしょ。これってつまり、日本中に少女がいるってことになるんじゃないの」
友「友香さん、ちょっと待って。前回のスクリーンショットを用意するから」
827
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 22:07:44 ID:3SxyahSk
友がスマホを操作し、前回の探知結果を表示した。
そして、今回の探知結果にタグを作って画面を切り替える。
男「やっぱり、前と同じ結果みたいだな」
友「いや、重複表示されていた幽体が消えているみたいだ」
少女「それって、どういうことですか」
友「あのときは壊れていると思っていたから黙っていたんだけど、実は少女さんを含めて16個の幽体を探知していたんだ」
少女「ええっ、16個?!」
友香「もしそれが本当だとしたら、少女と同じ幽体を持っている人が全国各地に15人もいることになるよねえ。そんなことがあり得るの?」
友「幽体や霊魂は遺伝子と同じで、人それぞれ違うものを持っているんだ。だから、同じ幽体を持っているのは一卵性双生児の場合だけで、赤の他人が同じ幽体を持っているなんて絶対にあり得ないんだ」
828
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 22:09:34 ID:fZpANjyE
男「だったら、体細胞クローンとかメイキングチャイルドとか、少女さんは特殊な生い立ちを持っていることになるのかもしれない」
友香「確かにクローン技術は家畜やクローンペット復元ビジネスなどの世界でニーズがあるみたいですけど、それを人間に応用しているだなんて倫理的に考えられないです」
少女「漫画じゃないんですから、お父さんとお母さんがそんなことをしている訳がないじゃないですか。私を何だと思っているんですか」プンスカ
男「そんなつもりで言った訳じゃないんだけど」
友「いや、念のために霊魂の所在を調べてみよう。体細胞クローンは一卵性双生児みたいなものだし、それとは別に何かが分かるかもしれない」
少女「そうですね。友くんがそう言うなら、お願いします」
829
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 23:23:01 ID:7pS4cOxk
友「それじゃあ、少女さんの霊波動を探知してみる」
友がそう言うと、再びパラボラアンテナが動き始めた。
そして表示された赤い点は、目の前にいる少女さんの霊波動、1つだけだった。
男「1つだけ……だな」
友「これで体細胞クローンの可能性は否定されたな」
少女「ほら、やっぱり。それで何か分かりそうですか」
友「いや、今は予想通りってことが確認できた段階だから――」
友香「ねえねえ。もういっその事、実際に行ってみない? 一箇所だけ、すぐに行けそうな場所があったでしょ」
友「それなんだけど、一度行ってみたことがあるんだ」
友香「そうなの?」
友「でも、受付の人が『少女という名前の患者は入院していないし答えることは出来ない』の一点張りで話にならなかったんだ。何度行っても同じだと思う」
830
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 23:24:26 ID:fZpANjyE
友香「もしかして……病院だったの?」
友「そうだよ。彩川医科大学附属病院って名前なんだけど、受付で止められて入ることが出来なくて――」
友香「他の場所も病院なのかな。詳細表示は出来ない?」
友「遠方になると誤差が大きくなるから詳細表示は出来ないんだ」
友香「……」
友香「決めたっ! 今度の土曜日、行ってみる!!」
友「無駄だと思うけど」
友香「あれから1ヶ月が経っているし、今度は何か分かるかもしれないでしょ。もちろん、友くんも一緒に来てくれるよね」
友「まあ、そこまで言うなら行ってみようか」
友香「うんっ! ありがとう」
831
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 23:25:32 ID:7pS4cOxk
友「男はどうする?」
男「悪いけど、俺は用事があって行けそうにない」
友「用事?」
男「今、少女さんが亡くなったことを同級生のみんなに電話しているんだけど、あと20人残ってて少しでも早く知らせてあげたいんだ」
友「そういうことなら俺も手伝うから、男も来いよ。なるべく情報を共有しておきたいし、そのほうが良いだろ」
男「情報を共有するだけなら後で話してくれれば良いだけだし、大勢で行っても意味がないんじゃないかな」
少女「私もお姉ちゃんやお祖母ちゃんに会いに行きたいので――」
友香「えっ、そうなの?」
少女「うん」
友香「仕方ないわね。友くん、待ち合わせ場所はどうする?」
友「北倉駅で乗換えだから、10時頃にそこのホームで待ち合わせってことで」
友香「そうだね、そうしよっか」
832
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 23:28:00 ID:9rAD5zmo
幽霊探知機の話が一息つき、ケーキを食べながら雑談を続けた。
少女さんの話やバラエティー番組で笑えた話。
やがて日が傾き始め、俺たちは喫茶店を後にした。
友「じゃあ、俺たちはこっちだから」
友香「またね〜」
二人はそう言うと、バス停のある方向に歩き始めた。
俺と少女さんはそんな二人を見送って、学校前の駅に向かう。
少女「友香ちゃんと友くん、いつの間にか良い雰囲気になっていると思いませんか」
男「言われてみれば、そうだな。最初は避けているような感じだったのに」
少女「もしかしたら、本当に付き合い始めることになるかも。最近、一緒にいることが多いみたいだし」
男「へえ、そうなんだ。みんなで水族館に行ったのが良かったのかな」
少女「それもあると思うけど、私が神社で静養しているときに連絡を取り合っていたみたいだよ」
833
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/20(木) 23:40:47 ID:9rAD5zmo
少女「ところで、男くんは私の友達に電話をしていて良い感じの女子はいましたか?」
男「どうして急に俺の話になるんだよ」
少女「だって、20人の女子に電話をするんだから、その内の1人くらいは懐かしくて盛り上がる人がいるかもしれないじゃないですか」
男「訃報の電話で盛り上がるなんて、普通に考えてあり得ないだろ」
少女「それもそっか。でも――」
駅舎に入ると、少女さんは人目を気にして言葉を飲み込んだ。
俺はスマホを耳元に当て、電話をしている振りをしながら続きを促す。
少女「笑顔で成仏させてくれるって約束したんだから、浮気をしたら許しませんからね」
男「分かってるよ、そんなこと」
俺が電話をしているのは懐かしい女子と久しぶりに出逢うためではない。
少女さんを成仏させるために連絡しているのだ。
俺はそう思いつつ少女さんに目で訴えかけ、有人改札を抜けてホームに向かった。
そして、10分ほど揺られて自宅の最寄り駅。
少女さんは家に帰れるほど霊力が回復したらしく、俺たちは駅舎で別れることにした。
834
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/22(土) 06:16:06 ID:LNoCl/lk
おつ
835
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 20:44:47 ID:L8NNwfrw
(3月19日)sat
〜自宅・部屋〜
3連休のスタートとなる土曜日の朝。
今日は昨日の夜から降り始めた雨が強まり、絶好の電話日和になってくれた。
明日からは天気が回復するので、今日中に残る15人に連絡をしてしまおう。
PiPoPa...
女子『もしもし』
男「もしもし、男です」
女子『ああ、男くん。もしかして、少女ちゃんのことで電話をしてきたの?』
男「そうだけど、じゃあ、少女さんが亡くなったことをもう聞いているんですか」
女子『昨日、友達から電話があって……。私、びっくりして電話をしたんだけど、本当……なんだね』
男「ああ、先月……亡くなったんだ」
836
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 20:46:04 ID:ytsenjyo
女子『今でも信じられない――』
女子『少女ちゃん、看護師になるんだって真面目に頑張っていたのに、どうしてこんなことになったの?』
女子『ううっ、うああぁぁん…………』
受話器から泣き崩れる声が届き、やるせない思いが込み上げてきた。
中学校を卒業して1年。
積極的に交流していた友人や少し疎遠になっていた同級生、みんなの心に少女さんの思い出が刻み込まれている。
看護師になる夢を応援していたこと。
部活動を一緒に頑張ったこと。
休日にショッピングをしたり、恋愛の相談に乗ったこと。
そして事件の一部始終を知る人は、その悲しみが怒りとなって自殺した少年に向かう。
しかし、遣る方ない思いだけが募っていく。
もう二度と会うことが出来ない喪失感。
中学校で一緒に過ごした日々に思いを馳せて、少女さんの死を悼んでいる。
その気持ちこそが、少女さんの生きた証なのかもしれない。
837
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 20:47:54 ID:ytsenjyo
男「それじゃあ、少女さんのことだけど……、気持ちが落ち着いたらお線香をあげに行ってあげてね」
女子『うぅっ……ひっく…………うん。男くんもその、思い詰めないようにね』
男「ありがとう。バイバイ、また」
俺は電話を切り、次の相手に電話を掛ける。
やがてお昼過ぎになり、俺はご飯を食べることにした。
すると、狙ったかのようなタイミングで電話が掛かってきた。
誰からだろう。
そう思い着信を見ると、友からだった。
男「もしもし、男です」
友『もしもし、男? 今、友香さんと大学病院に来ているんだけど、大変なことが分かったんだ!』
男「大変なことって何だよ」
友『ここに女さんって人が入院しているんだけど、その人が少女さんと同じ幽体を持っているんだ!』
838
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 20:49:01 ID:zYwSKzDo
男「女さん?」
友『ああ! 本人に聞いたし、ネームプレートにもそう書いてあった』
友はそう言うと、興奮した口調で話し始めた。
彼女は18歳の女性で、血液型はA型。
一般病棟に入院していて、循環器内科で治療を受けているらしい。
友『それで少しだけ話をすることが出来たんだけど、どうやら少女さんのことは知らないそうだ。どうして入院しているのかとか詳しいことも聞きたかったんだけど、さすがにプライベートなことまでは聞くことが出来なくて』
男「だろうな」
友『ただ、そんな人が実在していることを確認できたのは大きな成果だと思う。詳細が分かれば、また連絡する』
男「おう、分かった」
839
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:02:16 ID:pLnHJtpo
〜リビング〜
カップ麺にお湯を注いでリビングに行くと、双妹がこたつにもぐってテレビを見ていた。
俺もこたつに入り、テレビに目を向ける。
すると、双妹が起き上がって話しかけてきた。
双妹「ねえ、男。もうみんなに連絡したの?」
男「いや、あと5人残ってる」
双妹「ふうん、そうなんだ。もうすぐだね」
男「ああ、今日中に終わりそうだ」
双妹「それで、誰か一人くらい『お線香を一緒にあげに行こう』とか、そういう話にはならなかったの?」
男「いや、普通に考えて、そんな話になる訳がないだろ。双妹も少女さんと同じようなことを言うんだな」
双妹「だって、少女さんは幽霊なんだよ。ライバルが増えるのは嫌だけど、この機会に何人かキープしておいたほうが良いんじゃないかな。少女さんも内心はそうして欲しいと思っているはずだよ」
男「ないない。釘を刺してきたくらいなんだから」
双妹「えっ、そうなの?! 一体どういうつもりなんだろう」
840
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:03:23 ID:ytsenjyo
男「それはそうと、この前、少女さんの幽体のことで話をしただろ」
双妹「えっと、日本中に幽体があるんだっけ」
男「そうそう。そのことで、さっき友から電話があったんだ」
俺はそう言いつつ、カップ麺のふたを開けた。
調味油を入れてかき混ぜ、麺をすする。
男「大学病院の入院患者に女さんって人がいて、その人が少女さんの幽体を持っているらしい」
双妹「入院患者?」
男「ああ、循環器内科だったかな。どうして入院しているのかは分からないんだけど」
双妹「幽体とか霊魂が同じ人は、一卵性双生児以外にあり得ないんだよねえ」
男「そうそう。それでその人に少女さんのことを聞いてみたら、知らないって答えたんだって」
841
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:04:27 ID:ytsenjyo
双妹「双子でも親戚でもないなら、どういうことになるんだろ」
男「もしかしたら、人体実験をしていたのかもしれない。他人の身体から少女さんの幽体反応があるなんて、どう考えても異常だろ」
双妹「そうだよね。人体実験……か。本当にしていたのかもしれないわね」
男「やっぱり、そうとしか考えられないよな!」
双妹「うん。考えてみれば、少女さんの死んだ日がお見舞いに行った日よりも前なのもおかしいし、絶対に何か裏があると思う」
男「そういえば、あの日、記者さんに出会ったよなあ」
少女さんが亡くなったと知った日、少女さんは死を受け入れるために家に帰ろうとした。
そのとき、偶然記者さんに出会ったのだ。
842
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:05:27 ID:zYwSKzDo
双妹「まさか、記者さんは少女さんの死の裏側を取材していた?」
男「だろうな」
記者さんは健康や医療系の記事を書いている。
そして記者さんが勤めている出版社は、一時的に少女さんの家族と係争問題を抱えていた。
その関係で、少女さんの死について何かを掴んでいたとしてもおかしくはない。
男「調べてみようか」
双妹「そうだね。記者さんが取材していたなら記事になっているはずだし、少女さんを成仏させる糸口になるかもしれない!」
男「それじゃあ、親父の書斎に行くとするか」
双妹「うん」
843
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:07:41 ID:ytsenjyo
〜親父の書斎〜
俺と双妹は書斎に入り、未開封の郵便物をすべて開封した。
親父は海外出張中でいないけれど、週刊誌を定期購読しているので最新号まですべて届いている。
それらの中に、必ず記者さんが取材していた記事が載っているはずだ。
双妹「それじゃあ、私はこの2冊を調べるから」
双妹はそう言って週刊誌を手に取り、目次を開いた。
俺も週刊誌を手に取り、目次を開く。
糖質制限ダイエットは危険なのか――。
最新版、手術をするならこの名医に頼め――。
とりあえず、この号には載っていなさそうだ。
そう思い、次の週刊誌を手に取る。
すると、双妹が声を上げた。
844
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/26(水) 21:10:20 ID:pLnHJtpo
双妹「男、これじゃないかな!」
男「どれどれ?」
俺は双妹に肩を寄せ、週刊誌を覗き込んだ。
そして、記事に目を通す。
双妹「ねっ! これ以外に考えられないでしょ」
何と言うことだ。
もしこれが少女さんのことだとするならば、人体実験だなんてとんでもない。
俺は心の底から、少女さんらしい最期だと思った。
845
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:41:18 ID:xSdi3n8Y
〜部屋〜
ようやく全員の電話連絡が終わり、午後4時を過ぎた頃。
少女さんの幽体について考えていると、来客のチャイムが鳴った。
俺は部屋を出て、玄関に向かう。
双妹「男、二人が来たわよ」
友香「お邪魔します」ペコリ
友「俺たちに見せたいものって、何なんだよ」
男「ここじゃあなんだし、まずは上がってくれ」
友「ああ、お邪魔します」
俺は二人を招き入れ、自分の部屋に戻った。
そして、ミニテーブルを囲んだ。
846
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:43:20 ID:F2urCRGs
友「それで、俺たちに何を見せたいんだよ。わざわざ電話を掛けてきたってことは、重要なことなんだろ。めちゃくちゃ気になるんだけど」
男「その前に聞きたいことがあるんだけど、もし少女さんの身体の一部を他人に移植したとしたら、少女さんの幽体はどうなるんだ?」
友「だいぶ前に話したことがあると思うけど、幽体は肉体と霊魂を繋ぎとめる役割があるんだ。だから移植をするために身体の一部を切り離すと、その肉体から幽体が引き剥がされることになるんだ。まあ、イメージ的にはゴムパッチンを想像してくれたら分かりやすいんじゃないかな」
男「だけど、少女さんは自分で霊子線を切ってしまっただろ」
友「ああ、分かってる。その場合は、少女さんの幽体が霊魂と繋がっていないから、引き剥がされずに残るか離脱して消失することになると思う」
やっぱり、あの記事は少女さんのことで間違いない。
少女さんが霊子線を切ってしまったから、幽体が16個も探知されたのだろう。
友香「もしかして、少女は臓器提供をしていたってことですか」
男「そう。少女さんは臓器提供をしていたんだ!」
友香「でも、臓器提供で一人が救うことができる最大の人数は11人なんです。私は違うと思います」
847
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:44:35 ID:3wyx7S.g
男「それは知らないけど、これを読んでみてくれないかな」
俺はそう言って、本棚に用意しておいた週刊誌を手に取った。
それと同時、双妹がハーブティーを淹れて部屋に入ってきた。
双妹「お茶でも飲みながら話しませんか」
友香「ありがとうございます」
友「ありがとう」
男「で、これなんだけど……」
俺は記事が書かれているページを開き、友に週刊誌を手渡した。
友香さんはティーカップを片手に、友ににじり寄って覗き見る。
848
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:45:46 ID:3wyx7S.g
友「臓器移植の課題。親族への優先提供と自殺企図ドナーを考える――か」
男「その記事の冒頭で触れられている10代の女性が、少女さんのことだと思うんだ」
友香「確かに少女のことかもしれないですね」
友香さんはそう言うと、スマホを取り出した。
そして何かを調べ始めて、眉を寄せた。
友香「友くん、少女の探知結果を保存してたよねえ。最初の探知結果を見せてくれない?」
友「分かった。ちょっと待って」
友香さんは友からスマホを受け取り、真剣な眼差しで画面を見比べる。
その表情は次第に強張っていき、もう一度、週刊誌の記事に目を向けた。
849
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:46:55 ID:F2urCRGs
友香「間違いない。これは少女のことだ!」
双妹「友香さん、私たちにも説明してくれませんか」
友香「あっああ……そうですね」
友香「私が調べていたのは臓器移植の橋渡しをしている組織のホームページなんですけど、臓器移植の透明性を図るためにレシピエントや移植施設の情報を閲覧することが出来るんです」
男「へえ、そんなサイトがあるんだ」
双妹「知らなかった」
友香「それでそのページで移植施設と少女の幽体を照合してみたら、都道府県がすべて一致したんです」
友香さんは声を震わせながら言うと、スマホ2台を差し出してきた。
俺と双妹は1台ずつ受け取り、臓器移植のホームページと少女さんの幽体を見比べる。
850
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:50:12 ID:KWN7QG3Y
・・・
・・・・・・
20××年2月22日、東海北陸地方の病院に入院中の15歳以上18歳未満の女性(原疾患は低酸素性脳症)から、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球のご提供がありました。
脳死判定日 2月20日
心臓:彩川医科大学附属病院 (10歳代女性)
右肺:北関東中央医療センター (50歳代男性)
左肺:岡山マスカット総合病院 (20歳代女性)
肝臓
分割肝:さくらんぼ保健衛生病院 (10歳未満女児)
分割肝:日本国立先端医療研究所 (20歳代男性)
腎臓:京阪女子医科大学附属病院 (10歳代男性)
腎臓:医療法人筑前総合医療病院 (40歳代女性)
膵臓:北海道道央時計台総合病院 (30歳代男性)
小腸:坊ちゃん高度医療センター (20歳代女性)
851
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:51:23 ID:KWN7QG3Y
男「やっぱり、これが少女さんの生きた証だったんだ!」
臓器移植を行った病院を検索すると、病院の住所と少女さんの幽体の所在地がすべて一致していた。
しかも少女さんの幽体を持っている女さんという女性のプロフィールは、心臓移植をされた女性の情報と矛盾していない。
どんな人かは知らないけれど、女さんの中で少女さんは生き続けているのだ。
友香「少女が臓器提供をしたのは疑いようのない事実だから、幽体の数が合わないのは組織提供もしているという事なんでしょうね」
男「組織提供?」
友香「臓器以外に鼓膜や耳小骨、皮膚なども提供することが出来るんです」
男「へえ、そういうことも出来るのか」
双妹「ひとつ聞きたいんだけど、消えた幽体は移植に失敗したってことなの?」
友香「角膜や皮膚といった組織は臓器と比べて小さいから、幽体が消えてしまったのだと思います」
友「その可能性が高いだろうな。恐らく、俺の探知機では探知できないレベルにまで弱くなってしまったのだと思う」
双妹「そっか……。でも、これで少女さんを成仏させられるわね」
友香「……」
852
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:52:25 ID:F2urCRGs
男「それじゃあ、春休みになったら少女さんと一緒に女さんに会いに行ってみるよ」
双妹「そうだね。早く会わせてあげましょ!」
友香「私は少女を女さんに会わせるのは反対です。男くんも女さんには会わないほうがいいと思います」
男「……どうして?」
友香「ドナーの関係者とレシピエントが直接対面することは、好ましくないと思うからです。女さんは心臓移植が必要なほど重い病気で、少女が死んだから生きていくことが出来るようになったんですよ。今も女さんの中で、少女の心臓が生き続けているんですよ」
友香「男くんはそんな女性に会って、平静でいられるんですか。女さんが今、どんな気持ちになっているのか想像できますか?」
男「それは――」
友香「正直、私は本当のことを知って少しつらいです。友達が悪霊に呪い殺されて、だけどそのおかげで生きていられる人がいるなんて……」
853
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:53:26 ID:xSdi3n8Y
双妹「友香さん。ハーブティー、もう一杯どうですか? カモミールは気持ちが落ち着きますよ」
友香「……ありがとう」
友香さんは弱々しい声で言うと、ティーカップを差し出した。
双妹はその様子を見てにこりと微笑み、ティーポットからハーブティーを淹れた。
優しい香りが湯気に乗って、部屋に広がっていく。
男「友香さんの言いたいことも分かるし、俺もどんな顔で女さんに会えばいいのか分からない。少女さんに臓器移植のことを話すかどうか、もう少し慎重になったほうが良いのかもしれないな」
双妹「でもこんなに提供しているってことは、少女さんは臓器提供や組織提供の意思表示をしていたってことでしょ。自分が望んだ結果になったんだから、知りたいと思うものなんじゃないかなあ」
男「それも一理ある……か。少女さんは遺族じゃなくて、本人だもんな」
854
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:54:36 ID:3wyx7S.g
一体、どちらの意見が正しいのだろう。
少女さんに女さんのことを話すべきか、それとも話さないでいるべきか。
そう思っていると、友香さんが口を開いた。
友香「友くんはどう思う?」
友「そうだなあ。少女さんのメンタリティが生前と同じ状態だとは限らないし、慎重になるべきだろうな。それで少し様子を見て、話したほうが良さそうなら話すべきだと思う」
友香「やっぱり、こういう問題は難しいよね」
男「それじゃあ、そのときは俺が話すことにするよ」
双妹「……そうだね。それが一番良いのかもしれないわね」
855
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 19:55:36 ID:3wyx7S.g
友「ところで、男は今日、クラスのみんなに電話をしていたんだろ。あと何人残ってるんだ?」
男「もう終わったけど」
友「そうなのか。なんなら手伝ってやろうかと思っていたけど、無事に終わったのか」
男「ああ、ついさっきな」
双妹「もしかして友くん、誰か狙ってたとか?」
友香「ええっ、そうなの?」
友「そんなんじゃないし」アセアセ
友香「あやしい」
友「いやいやいや、そんなつもりで聞いたんじゃないから」
友がわざとらしくおどけて見せて、場の雰囲気が緩み始めた。
少女さんが成仏しないといけない日まで、あと2週間。
俺たちも少女さんの死と向き合わなければならない日が迫っている――。
856
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/15(火) 22:11:55 ID:hqWsiFYI
おつ
857
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 21:33:22 ID:jy5dV8AA
(3月22日)tue
〜自宅・放課後〜
3連休が明けて、火曜日の放課後。
双妹と一緒に家に帰ると、玄関の前に少女さんが一人で立っていた。
少女「男くん、やっと帰ってきたし」
男「少女さん、ただいま。今日はどうしたの?」
少女「男くんと話がしたくて待っていました」
男「そうなんだ。それじゃあ、中にどうぞ」
そう言って玄関を開けると、双妹がさりげなく脇腹を突っついてきた。
臓器移植のことはまだ話すときではない。
俺は視線を送り、目で訴える。
すると、双妹は納得して視線をはずした。
858
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 21:34:34 ID:Tsy5Y7wA
少女「二人とも、何だか分かりあってる感じがする」
双妹「当然でしょ。私たちは魂レベルで心が通じ合っているんだから」
少女「そっか。双妹さんは双子の妹なんだし、当然だよね」
相変わらず牽制しあっている二人を気にしながら、俺は少女さんを家の中に招き入れた。
そして自分の部屋のドアノブを掴んだ瞬間、あの日のことを思い出した。
気まずく感じて、少女さんの様子を窺う。
少女「どうかしたんですか?」
男「いや、少女さんが来るとは思っていなかったから掃除をしてなくて」
少女「それじゃあ、外で待っています」
男「うん、そうしてくれるかな。ぱぱっと片付けるから」
859
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 21:37:40 ID:jy5dV8AA
部屋の掃除をして外に出ると、少女さんがいなくなっていた。
恐らく、双妹の部屋に行っているのだろう。
あの二人は仲がいいのか悪いのか、どっちなんだよ。
俺は小さくため息をつき、とりあえず双妹の部屋に行くことにした。
双妹「部屋の片付け、終わったの?」
男「ああ、それで少女さんを呼びに来たんだけど」
双妹「少女さん、どうする? ここで良いよねえ」
少女「そうですね」
男「それで、今は何の話をしてるの?」
少女「3連休のことを話していました」
男「3連休か。そういえば、少女さんはお祖母ちゃんやお姉さんに会ってきたんだっけ。どうだった?」
少女「夢枕に立って少しだけ話をして、すごく楽しかったですよ」
男「へえ、そうなんだ」
少女「それでね、お姉ちゃんのお腹の中に赤ちゃんがいたんです。びっくりしました!」
860
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:08:54 ID:LAAM.8cA
双妹「少女さんのお姉さんって結婚していたんだね」
男「双妹は会ったことがあるのか?」
双妹「うん、友香さんとお見舞いに行ったときに――」
少女「へえ、そうなんだ。まだ妊娠6週目に入ったばかりで少し気が早いかもしれないけど、元気な赤ちゃんが生まれるようにお祈りしてきたよ♪」
確かに安産祈願は早いような気がするけど、何だか少女さんらしいと思った。
この様子だと、3連休はとても楽しめたようだ。
双妹「妊娠6週目……。それってつまりそういうことだから、何だか少女さんが生まれ変わったみたいだね」
少女「あっああ、気が付かなかった。タイミング的にそうなるんだ……」
男「どういうこと?」
双妹「妊娠週数は最後の月経が始まった日を妊娠0週0日として数えるの。それで妊娠2週目が受精の成立時期だから、少女さんが亡くなったときにまあそういうことがあったって事だよ」
861
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:09:55 ID:btsnWA9k
少女「それはともかく、お姉ちゃんが妊娠したことで、お父さんやお母さんの気持ちが和らいでくれたらいいなって思うんです」
少女さんはそう言うと、穏やかな表情を浮かべた。
そして、言葉を続ける。
少女「お父さんたちにとって、自殺をしようとして一命を取り止めた私を殺すことは、つらい決断だったと思うから――」
男・双妹「少女さんを殺す決断?!」
言っていることの意味が分からない。
少女さんは悪霊になった少年に呪い殺されたのだ。
どうして少女さんの両親が関係あるんだ。
少女「私、何のために生まれてきたのか、ようやく見つけることが出来たんです。お父さんとお母さんは、私の夢を最後まで支えてくれたんです」
男「生きた証、見付かったんだ……」
少女「はい。私は臓器と組織を提供しました」
少女「それが……私の生きた証です!」
862
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:11:28 ID:btsnWA9k
臓器提供――。
どうして、少女さんがそのことを知っているんだ。
もしかして、友香さんが話してしまった?
双妹「どうして、それを知ってるの?」
少女「どうしてって、家に帰ったらお仏壇に意思表示カードと感謝状が置いてあったからです。それを見て、すぐに分かりました」
男「でも、俺たちがお線香をあげに行ったときには感謝状なんて――」
そうか。
俺たちに見られないように片付けていたということか。
少女「……あれ?」
少女「もしかして、男くんと双妹さんはこのことを知っているんですか」
男「えっと……ああ、うん」
双妹「少女さんがとっくに知ってるなら、黙っている意味がなかったわね」
863
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:22:03 ID:LAAM.8cA
少女さんがすでに知っていたので、俺は簡単に事の経緯を説明した。
例の週刊誌に少女さんのことが記事で触れられていたことや、臓器移植を受けた人の情報が開示されているホームページがあること。
そして、友と友香さんが心臓移植を受けた女性に会ってきたこと。
少女さんはそれらの話を真剣な表情で聞いてくれた。
少女「そっか、男くんがみんなと一緒に私の生きた証を見つけてくれたんだ。ありがとう!」
男「俺、このことを知ったとき、すごく少女さんらしいと思った。看護師になる夢は叶わなかったかもしれないけど、こうして多くの人の命を救って、少女さんはとても立派だと思う」
双妹「そうだよね。死んだ後のことだとはいっても、私は臓器提供なんて怖くて出来ないもん。少女さんは夢を諦めずに最後までやり遂げたと思う」
少女「そう……かなあ//」
少女「殺されてよかった――なんて思わないけど、私の命が多くの人に繋がって、それを後押ししてくれたお父さんやお母さんたちに私は感謝してる」
少女「生まれてきて、本当によかった……」
少女さんは慈愛に満ちた表情を浮かべ、天使のように微笑んだ。
これが彼女の生きた証。
最後の最後で少女さんの気持ちが形となって、不治の病で苦しんでいる人たちに想いが届いたのだ――。
864
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:34:33 ID:jy5dV8AA
双妹「……」
双妹「……水を差すようで悪いけど、まだ成仏しないの?」
双妹「こう、感動的な場面でキラキラキラって光になって消えるとか、そのほうが良いと思うんだけど」
言われてみれば、そうだよな。
少女さんとの別れは寂しいけど、今なら笑顔で送ってあげることが出来ると思う。
少女「そんなことを言われても、私はまだ成仏をしたくないです」
双妹「でもほら、感動するタイミングってあるじゃない」
少女「私は双妹さんを感動させるつもりなんて、まったくありませんから」
双妹「はあっ、何だかなあ」
865
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:36:26 ID:Tsy5Y7wA
男「それはそうと、成仏をしたくないってことは、まだやり残したことがあるってこと?」
少女「やり残したこととは少し違うんですけど、私の臓器や組織を移植されたレシピエントの方々は、本当に病気の苦しみから解放されたと思いますか」
少女さんは一転して、真剣な表情で臓器移植の話に戻した。
そんなの考えるまでもなく、苦しみから解放されたに決まっている。
男「移植したら病気が治るんだから、苦しみから解放されるんじゃないの? そうじゃないと意味がないし」
双妹「そうだよね」
少女「確かに臓器移植を受けると病気の苦しみからは解放されるけど、移植された臓器は他人のものだから異物として攻撃されることになるんです。そして、中には拒絶反応や重篤な合併症で亡くなってしまう方もいます」
少女「だから、必ずしも健康を取り戻すことが出来るとは限らないんです」
866
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:38:00 ID:btsnWA9k
男「拒絶反応は聞いたことがあるな」
双妹「でも、薬を飲めば大丈夫なんでしょ。テレビで見たことがあるし」
少女「免疫抑制剤でコントロール出来ないケースがあるから、亡くなってしまう人がいるんですよ。それに薬の影響で免疫力が弱くなっているから、危険な感染症に罹りやすくなってしまうんです。特に小腸は拒絶反応が起こりやすくて、それもまた臓器移植の現実だと思います」
双妹「そう……なんだ」
少女「だけどそんな不安があるとはいっても、私の臓器を受け取ってくれたレシピエントさんたちは、今たくさんの希望を抱いていると思うんです。そしてそれと同時に、ドナーである私が死んで自分だけが生きているという罪悪感に苛まれているかもしれません」
少女「私はそんな心の拒絶反応を和らげてあげたい。みんなに笑顔を届けたいんです!」
男「何だか、少女さんらしいね」
双妹「もしかして、移植された人に会いに行くの?」
少女「会うことが出来るなら、一度お話ししてみたいです」
867
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:39:07 ID:Tsy5Y7wA
男「じゃあ、春休みに一緒に行ってみる?」
心臓移植を受けた女さんの病室はすでに分かっている。
退院する可能性を考えると、少しでも早く会いに行ったほうがいいだろう。
そう思うと同時、少女さんは顔を顰めた。
少女「出来ればそうしたいんですけど、その女性に会うことは出来ません」
男「でも、話をしてみたいんだろ」
少女「そうだけど、私が会ってしまうと、結果的に女さんやお父さんたちを苦しめることになってしまうかもしれないから」
男「そんな事はないんじゃないかな」
少女「友香ちゃんと友くんが女さんに会ったときは臓器移植のことが分かっていなかったから、お互いに自己紹介をしているはずですよね。そして、私の名前を知っているか聞いたはずです」
男「ああ、友がそう言ってた」
少女「それが問題なんです」
868
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:41:54 ID:btsnWA9k
男「名前を言ったことが問題って言うけど、その名前の人がドナーかどうかは分からないだろ」
少女「それはそうだけど、ドナーの情報はある程度公開されていますよね。だから、もし女さんが私の名前を検索したら、ほぼ確信することが出来てしまうんです」
双妹「……!」
双妹「あいつが自殺したときの遺書がヒットするんだ!」
男「それは、あくまでも少年が自殺したことが分かるだけだろ」
双妹「そうじゃないの。あいつは少女さんを実名で中傷しただけじゃなくて、少女さんの個人情報もSNSに投稿していたの」
男「マジかよっ!」
少女「私が女さんに憑依して話をすれば、友香ちゃんから聞いた名前がドナーの名前ではないかと気が付くかもしれません。それはあまり好ましいことではないと思います」
男「それじゃあ、どうするつもり?」
少女「それを言われると困るんですけど、そもそも身元が分かっているのは女さんだけだし、他の方法を考えるしかないですよね」
男「んー、そうだな」
869
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:43:07 ID:LAAM.8cA
双妹「とりあえず、それが少女さんが最後にしたいことでいいの?」
少女「そうです。それともうひとつあります」
双妹「もうひとつ?」
少女「私、双妹さんに負けるつもりはありませんから」
双妹「ふうん、私がそれを黙って見過ごすとでも?」
男「えっとさあ、そういうのは勝つとか負けるとかじゃなくて――」
双妹「悪いんだけど、男は晩ご飯のお手伝いに行ってくれない?」
少女「そうですね。双妹さんと二人きりで話をしたいです」
男「えっ、ああ……分かった」
どうやら、女の戦いが始まったらしい。
俺は双妹の部屋から退散して、久しぶりに母さんの手伝いをすることにした。
870
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:50:07 ID:LAAM.8cA
〜市街地〜
夕食後、俺は少女さんを最寄り駅まで送ってあげることにした。
少女さん的には俺と双妹を二人きりにしたくないみたいだけど、家に泊まるのは俺を信用していないみたいで嫌なのだそうだ。
男「さっきのことなんだけど、双妹に何か言われたりしなかった?」
少女「いえ、別に何も言われてないですよ。私が成仏する方法を一緒に考えていただけですし」
男「そうなんだ。それなら良いんだけど――」
少女「それでですね、あの手袋を嵌めた手を触ったときに人肌の感触があったらしくて、それと私がイルカさんに触れたことは、何か関係があるのかもしれないんです」
男「そういえば、なぜかイルカに触れるんだよな」
少女「そうなんです。幽霊同士も触ることが出来るし、私たちも触れ合う方法があるのかもしれません」
男「触れ合う方法って……あの雰囲気でそういう話をしていたのか?!」
双妹と少女さんは仲がいいのか悪いのか、本当にどっちなんだよ。
こればっかりは、もう訳が分からないぞ。
871
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:54:23 ID:Tsy5Y7wA
少女「えっとほら、私と双妹さんってライバル同士だし、男くんがいると出来ない話もあるから」
男「それなら良いんだけど……」
少女「それでね、以前、友くんが『私の霊波動がイルカさんの超音波と干渉したのかもしれない』って言っていたでしょ」
男「うん、それで?」
少女「双妹さんと考えてみたんだけど、それは違うと思うんです。超音波は空気や水の振動だから、私に当たらないもん。だけどあのとき、イルカさんは私に気が付いて目の前まで泳いで来てくれました」
男「ああ、そうだね」
少女「つまり超音波ではなくて、もっと別な何かを感じ取っていたのだと思うんです」
男「それこそ幽体ってことになるんじゃないの?」
少女「それなんだけど、電磁波なのかもしれません。調べてみたんだけど、イルカさんには磁気感覚があるらしいんです」
磁気感覚――。
そういえば、渡り鳥は地磁気を感じ取れるから方角を間違えないと聞いたことがある。
たしか、クジラが浅瀬に座礁してしまう原因も磁場の乱れだと言われている。
872
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 22:58:27 ID:Tsy5Y7wA
少女「恐らく、霊波動は電磁波に近い性質があるのだと思います。ネットによれば、幽霊の正体は電磁波エネルギーだっていう仮説もあるそうですよ」
男「それが関係あるの?」
少女「私が男くんに憑依していたときに会話が出来ていたのは、大脳の視覚や聴覚を操作していたからなんですよ。神経細胞の伝達は電気信号だし、電流が発生すると磁気も発生するじゃないですか」
男「右ねじの法則だっけ」
少女「それは今は良いんですけど、要するに生物の刺激と反応は微弱な電流によって引き起こされているんです」
男「なるほど。でも、その理屈だとイルカが少女さんの姿を見ることが出来た理由は説明できるけど、イルカに触ることが出来た説明にはならないんじゃないかなあ」
少女「イルカさんと人間では、活動電流や電位差の大きさが微妙に違うのかもしれません。そうなると発生する電磁波の強さも違うことになるから、それで私も触ることが出来たのだと思います」
男「電磁波の強さが違うだけで触れるなら、スマホみたいな精密機器にも触れるはずだろ。でも、スマホは落としていたじゃないか」
少女「私は電磁波に近い性質があると言っただけで、電磁波そのものだとは言っていません」
男「それじゃあ、どうして少女さんはあの手袋をはめる事が出来たんだろ」
873
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 23:02:26 ID:Tsy5Y7wA
少女「……」
少女「それは分からないけど、実は今、考えていることがあって――」
男「考えていること?」
少女「男くんにとって一番大切な人は双妹さんなのかもしれないけど、それでも私は男くんのことが好きだから――。だから、最後の一歩を踏み出す勇気があれば、私の未練はすべて叶うはずなんです」
そう言った少女さんの声色は、どことなく不安げに感じられた。
双妹のこととは別に、何か言いづらいことでもあるのだろうか。
男「最後の一歩?」
少女「あっ、最寄り駅に着きましたね。送ってもらうのは、ここまでで大丈夫です♪」
少女さんは明るい声で言うと、ふわりと立ち止まった。
そして、にこりと微笑む。
ここから先は、まだ言いたくないということなのだろう。
874
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/29(火) 23:03:29 ID:btsnWA9k
男「それじゃあ、気をつけて」
少女「はい//」
男「そうそう、明後日なんだけど、終業式が終わった後に少女さんの家に行こうと思っているから」
少女「私の家に?」
男「まあそういう訳だから、家にいてくれたらうれしいかな」
少女「じゃあ、お持ちしています」
男「うん、おやすみ」
少女「おやすみなさい」
少女さんは軽く手を振って、駅舎の中へと浮遊して行った。
俺はその後ろ姿を見送り、明後日のことを考えながら夜空を見上げた。
875
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/03(日) 18:07:33 ID:sA6gPbHw
おつ
876
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/15(金) 00:12:08 ID:E8XeL972
1年で終わらんかったね
877
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:45:07 ID:xJEh8Rbw
(3月23日)wed
〜学校・お昼休み〜
お弁当を食べてすぐ、俺は友の席に向かった。
少女さんがあの手袋をはめることが出来た理由を知りたいからだ。
友「――なるほど。少女さんの霊的ダメージが大きかったのは、そういうことだったのか」
男「それで、どうして少女さんがあの手袋を触れるのか気になって……」
友「その説明をしようとしたら専門的な話になるんだけど、それでもいいか?」
男「いや。出来れば、分かりやすく話してくれたら助かるんだけど」
友「そうだなあ。例えば磁石と磁石を近づけると、引き合ったり反発したりするだろ。それと同じで、手袋の霊的な力が幽霊の霊体に直接作用するから除霊したり触ることが出来るんだ」
男「それじゃあ、あの手袋を使えば俺でも少女さんに触れるってことだよな」
友「そういうことになるけど――」
友「ちょっと待てっ! まさか、神になるつもりなのか?!」
878
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:45:44 ID:xJEh8Rbw
男「神になるって、どういうことだよ」
俺は友の言葉に驚いて、声を上げた。
単純に少女さんに触れるんじゃないかと思っただけなのに、何だかとんでもない話になってきたぞ。
友「男は手袋に触れる。少女さんも手袋に触れる。あとは分かるな」
男「ただの下ネタかよっ! 何事かと思って、びっくりしたじゃないか」
友「あらかじめ言っておくけど、霊具は穢れを祓うためのものだからな。少女さんが苦しむだけだぞ」
男「そうだよな。でも、イルカには触ることが出来ていただろ。だから、絶対に何か方法があるはずなんだ」
879
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:46:15 ID:xJEh8Rbw
友「あのさあ、男はどうして幽霊に触ることが出来ないと思う?」
男「それは身体がないからだろ」
友「それもあるけど、幽霊はひとつ上の次元に存在しているからなんだ」
男「ひとつ上の次元?!」
友「俺たちの業界でも『超ひも理論』を研究していて、心霊現象を最新の物理学で説明しようとしているんだ。とりあえず、今回はあの世とか幽世、彼岸の世界だと考えてくれればいいと思う」
男「お……おうっ」
友「それでだ、少女さんはあの世にいるわけだから、俺たちとは異なる空間座標の場所にいることになるだろ。そうなると、いくつか疑問が湧いてくるんだ。例えば、少女さんがどうやって俺たちと会話しているのか――とかな」
友「以前も少し話したけど、生身の体を持たない少女さんが俺たちと会話が出来るのは、幽体を介して一部の電磁波や生きている人間の魂が発している霊波動を意味のある情報として感じ取っているからなんだ。つまり、霊波動は次元を越えて干渉していることになる」
男「霊波動は次元を越えている?!」
880
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:48:24 ID:xJEh8Rbw
友「それを踏まえて霊波動が何なのかだけど、生物の授業で他精拒否のしくみを習っただろ」
他精拒否とは、1つの卵に2つ以上の精子が進入しないようにする仕組みのことだ。
ほ乳類の場合は、最初の精子が卵に進入すると受精電位が発生して最初の他精拒否が行われ、続いて透明帯が変化することで他精拒否が行われ受精が完了する。
友「このときに発生する電流には微弱な電磁波が含まれていて、この波源が魂であり霊体になるんだ。つまり幽霊は電気的な存在で、霊波動は次元を越えて放出されている電磁波のことだと言えるんだ」
男「そういえば、少女さんも霊波動は電磁波に近い性質があると言ってたな」
友「少女さんはそのことに気が付いていたのか。さすがだな」
男「イルカには磁気感覚があって、そのおかげで分かったみたい」
友「なるほど、そういうことだったのか。それで、あのイルカには少女さんの姿が見えていたんだな」
男「イルカに触ることが出来たのも電磁波が関係しているんじゃないかと言っていたけど、それはどう思う?」
友「それを今から説明するんだけど、間違いなく関係あるだろうな」
男「やっぱり、そうなのか!」
881
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:49:11 ID:xJEh8Rbw
友「少女さんは男に憑依をして、自分の姿を見せたり金縛り状態にしたりしていただろ。あれなんだけど、実は電磁誘導と同じような現象として理解することが出来るんだ」
男「電磁誘導?」
友「余剰次元の膜、つまり幽体には肉体と霊魂を繋ぐ役割があるんだけど、少女さんは男の幽体を利用して肉体に繋がっていたんだ。そうすると、自分の霊波動を依り代の身体に直接干渉させることが出来るようになる」
男「えっと……霊波動は電磁波だから、人体に作用すると誘導電流が流れるってことか」
友「ああ、そうだ。普通の憑依霊は催眠状態にする程度の力しか持っていないんだけど、少女さんは身体中の電気信号を意図的に操ることが出来るというわけだ」
男「そう考えると、少女さんってとんでもない事をしていたんだな」
友「……ああ。はっきり言って、少女さんクラスの悪霊は人を突然死させることが出来るからな。原因不明の心不全がその際たるものだけど、中には誘導電流で発生する熱を使って熱中症で殺してしまう怨霊もいたりするんだ」
男「マジか……」
友「別に少女さんを悪く言うつもりはないけど、四十九日まで10日を切っていることも事実だからな。ここまでの話で気に障ったなら、スマン」
男「いいよ、分かってる」
882
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:49:51 ID:xJEh8Rbw
友「それで結局、少女さんに触ることが出来るのかどうかだけど、ポルターガイスト現象を起こすことが出来れば可能性があるかもしれない」
男「ポルターガイスト現象って、物を動かしたりするアレだよな」
友「幽霊はひとつ上の次元にいるから物体に触ることは出来ないけど、電磁力を発生させれば間接的に触ることが出来るはずだ」
男「フレミングの左手だっけ」
友「そう、それなんだけど、実は電気や磁石の力は重力よりもはるかに強いんだ。例えば静電気を溜めた下敷きを頭に近づけると髪の毛が逆立つし、小さな棒磁石でも重たい鉄くぎを持ち上げることが出来るだろ」
男「言われてみれば確かに……」
友「そんな訳で、少女さんが物理干渉をするなら電磁力以外に考えられない。ただ、ローレンツ力の向きは電磁波の進行方向と一致しているから、霊波動で発生している力が余剰次元に向かって作用していることが問題になるけどな」
男「余剰次元ってことは、あの世に向かって力が作用しているってことか。それって大丈夫なのか?」
友「はっきりとは言えないけど、それに関しては恐らく大丈夫だと思う。重力がとても弱いのは『ひも』が閉じていて余剰次元に移動しやすいからなんだけど、そのことで俺たちに悪影響なんてまったくないだろ」
男「そんな事を言われても、まったく意味が分からないんだけど」
883
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:50:22 ID:xJEh8Rbw
眉を寄せると、友はノートに円と波線を書き込んだ。
それを見てもよく分からないが、友によれば分子や原子を小さくしていくと最終的に『ひも』になるらしい。
重力はその『ひも』が輪になっていて、俺たちが住んでいる次元に結びつけることが出来ない。
そのせいで、重力は海に浮かべた浮き輪のように、ゆらゆらと余剰次元に流されて行ってしまうそうだ。
俺たちはその余剰次元に流されていく重力の影響を受けているが、日常生活で異常が発生したという話を聞いたことはない。
それに対して、電磁気力は『ひも』が輪になっていないので、俺たちが住んでいる次元に先端が結び付けられていて固定されている。
そのおかげで静電気や磁石の力は重力よりも強いのだが、理論によっては結び目が解けて余剰次元に移動してしまうことがあると考えられている。
それを何かに例えるならば、水族館の不動の人気者・チンアナゴが気まぐれで泳ぎ始めてどこかに行ってしまうようなものだ。
すると電界や磁界の大きさが急激に変化するので、電磁誘導が生じることになる。
この電磁誘導が人体に作用すると霊的に危険だが、余剰次元に流されていく『ひも』の本数は圧倒的に重力のほうが多いので、ローレンツ力は無視をすることが出来るそうだ。
884
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:51:48 ID:xJEh8Rbw
友「まあそんな訳で、霊波動で発生する力よりも悪霊に憑依されることのほうが危険なんだ」
男「それじゃあ、ポルターガイスト現象の何が問題なんだよ」
友「ローレンツ力が余剰次元を越えて作用する場合、俺たちが生活している3次元方向に継続した力を加えることが出来ないだろ。そうなると、ポルターガイスト現象が発生しないことになるじゃないか」
男「ああ、そっか!」
友「だから、少女さんが物理干渉をするためには、どうにかして3次元方向に作用させることが出来る電磁力を発生させる必要があるんだ」
男「でも水族館に行ったとき、少女さんはイルカにだけ触ることが出来ていたよなあ。さっきも言ったけど、どうやって説明するつもりなんだ?」
友「イルカには磁気感覚があるから、少女さんがどこにいるのか分かっていたんだ。そして、その方向に霊波動を飛ばして干渉していたんだろうな」
男「……まじか」
友「まじだ。今は仮説の段階だけど、そうとしか考えられない」
男「そんなことが出来るとか、イルカって頭が良いのレベルを超えてるだろ!」
885
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:52:28 ID:xJEh8Rbw
友「とりあえず、これで分かってくれたよな。普通の人間が幽霊に触ろうだなんて、どう考えても無理なんだ」
男「何か他に良い方法はないのか? 少女さんを保健室に運んでくれたときくらいの弱い霊具なら、悪い影響はまったくないんだろ」
友「俺の手袋でアレして、ナニするとか勘弁してくれ」
男「あ、ああ……まあ、そうだよな」
さすがにそういう事をされたら、俺も友だち付き合いを考えるレベルで嫌だ。
こんな話を真剣に聞いていろいろと考えてくれた訳だし、十二分に感謝するべきだろう。
友「とりあえず、今回ばかりは俺に出来ることはない。もしあるとしたら、それは成仏に失敗したときに除霊をする、その段取りだけだ」
男「分かった。すごく参考になったよ、ありがとう」
友「まあ、こればっかりは男と少女さんの問題なんだ。二人で解決してくれ」
男「ああ、そうするよ」
886
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:52:59 ID:xJEh8Rbw
男「ところで、少女さんはあのことを知っていたみたいだ」
友「そうらしいな」
男「そうらしいなって、どうして友が知ってるんだよ」
友「どうしてって、今朝、友香さんからメッセージが来たからだけど。昨日の放課後、少女さんが男の家に行って話したんだろ」
男「そうだけど、友香さんとラインもしていたのか!」
友「学校が違うから、ちょっとした話をするときに便利なんだ」
男「もしかして、もう付き合ってるとか?」
友「まだそんなんじゃねえよ」テレテレ
男「まだってことは、これから付き合う予定があるということだな」ニヤニヤ
友「それはまあ、今はいいじゃないか。俺は少女さんのこととか、友香さんの力になってあげたいだけなんだよ」
男「相談に乗ってもらっているうちに好きになるっていうのはよくある話だし、その調子で頑張れよ」
友「それは分かっているけど、男のほうこそ頑張れよ。少女さんがちゃんと成仏できるように」
男「そうだよな」
887
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:53:33 ID:xJEh8Rbw
友「ところでさあ、友香さんがみんなでお花見をしたいって言ってるんだけど、31日の予定は大丈夫かな」
男「金曜日に雪マークが付いていたけど、もうさくらが咲くのか」
友「彩川市の予想開花日が3月31日だから、ここもたぶん2分咲きくらいにはなっていると思う。もちろん行くだろ」
そういえば、水族館に行ったときにお花見をしたいと言っていたし、友香さんにとって少女さんと遊ぶことの出来る最後の機会だ。
俺が断る理由は何もない。
男「もちろん、行くに決まってるだろ」
友「そう言ってくれると思ったよ。それじゃあ、双妹ちゃんにも聞いてみるか」
888
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:54:59 ID:xJEh8Rbw
双妹の席に行くと、双妹は妹友さんと映画の情報誌を読んでいた。
明後日から春休みなので、遊びに行く予定を立てているのだろう。
今朝、登校中に俺もその話をしたら不機嫌そうに「生理が来るから週末は遠出を避けたい」と言っていたけど、今は少し機嫌が良さそうだ。
友「双妹ちゃん、ちょっと良いかな」
双妹「いいけど?」
友「友香さんがみんなでお花見をしたいって言ってるんだけど、31日の予定は大丈夫かな」
双妹「金曜日に雪マークが付いていたけど、もうさくらが咲くの?」
友「彩川市の予想開花日が3月31日だから、ここもたぶん2分咲きくらいにはなっていると思う」
双妹「あー、そっか……」
双妹「31日だね。私からも言うつもりだけど、友香さんに楽しみにしてるって言っておいてね」
友「分かった。ありがとう」
889
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:55:36 ID:xJEh8Rbw
妹友「お花見、いいな〜。でもさあ、2分咲きって寂しくない?」
双妹「そうだけど、いろいろ事情があって」
妹友「そういえば少女さんのこと、あれからどうなったの?」
俺たちに友香さんを紹介してくれたのは、妹友さんだ。
もともと話を振ったのは俺だし、少女さんのことを気にするのは当然のことだ。
しかし、すでに亡くなっているとは言いづらい。
男・双妹「……」
妹友「……そっか。まだ私たちと同い年なのにね」
妹友さんは俺たちの沈黙で察したらしく、表情に影を落とした。
俺は肩を落とし、詳細を伏せつつ事情を話すことにした。
男「それは悲しいことだけど、少女さんの想いは多くの人に繋がっているはずだから……」
妹友「そうだよね。私もそうだと思うよ」
890
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:56:37 ID:xJEh8Rbw
友「ところで、妹友さん! 春休みに友だちを遊びに誘いたいんだけど、何かお勧めの映画ってあるかな」
妹友「あのさあ、ちょっとは空気を読めないの?」
友「こんなの、わざとやってるに決まってるだろ」
双妹「もしかして、友香さんをデートに誘うつもりなの?!」
妹友「えっ、うそっ……友くんに彼女がいるの?! ええっ、信じられない!」
友「まだ彼女ってわけじゃないんだけど」アセアセ
双妹「まだってことは、これから彼女にする予定があるってことなんだ」
妹友「だったら、この映画なんてどうかな。4月29日に後編も上映されるから、次のデートにも誘いやすくなると思うよ」
双妹「そうだね。ちなみに、このループものの映画は避けるべきだと思う。人気はあるみたいだけど、今の友香さんにはお勧めできないから」
男「俺としては、このラブコメはあまりお勧めできないな。ストーリーは面白いんだけど、女性客ばかりで居心地が悪かったから」
友「みんな、ありがとう。参考にしてみるよ」
双妹「相談に乗ってもらっているうちに好きになるっていうのはよくある話だし、その調子で頑張ってね」
妹友「新学期になったら、報告よろしくね〜」
891
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:57:45 ID:xJEh8Rbw
〜自宅・部屋〜
三学期最後の授業が終わり、家に帰ってごろごろしていると、双妹が部屋に入ってきた。
何やら緊張した面持ちをしていて、ただならぬ雰囲気をかもし出している。
男「何かあったのか」
俺は身体を起こし、ベッドに腰をかけた。
すると、双妹はおもむろに俺の隣に座った。
双妹「少女さんのことでちょっと……」
男「少女さんのこと?」
双妹「本当は昨日、話しておくべきだったのかもしれないけど、何となく言い出しにくくて」
男「成仏をする方法のこと――か」
双妹「……うん」
892
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:58:22 ID:xJEh8Rbw
双妹「少女さんは幽霊だから、私は男と少女さんの恋愛を認めない。だけど、少女さんの気持ちには応えたいと思っているの。同い年なのに臓器提供の意思表示をしていて、そんな少女さんのことは尊敬しているから」
男「そのことは本当に凄いと思う」
双妹「そうだよね。私は死んだ後のことだとしても、臓器提供なんて絶対に出来ないもん」
男「俺もだ。臓器を摘出するっていうのが怖いよな」
双妹「そうそう」
双妹「だからね、私は『心の拒絶反応を和らげてあげたい』っていう少女さんのことを応援することにしたの」
なるほど。
少女さんと双妹は、臓器移植をした人に会うことなく気持ちを伝える方法を考えていたのか。
893
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:58:52 ID:xJEh8Rbw
男「もしかして、臓器移植をした人には少女さんの幽体があるから霊波動が影響するとか、そういうことを考えているのか?」
双妹「少し違うかな。レシピエントの人が持っている少女さんの幽体は少女さんの霊魂と繋がっていないんでしょ。だから、霊波動が影響するとは思えない」
男「言われてみれば、そうだな。それじゃあ、どうやって気持ちを伝えるつもりなんだ」
双妹「それは少女さんが話すべきだと思うし、だから私はその……男にこれを渡しておきたいの」
双妹はそう言うと、部屋着のポケットから小さな箱を取り出した。
俺はそれを受け取り、やや緊張している双妹の顔を見る。
これが何なのか、今さら聞くまでもない。
コンドームだ。
894
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:59:22 ID:xJEh8Rbw
双妹「分かっていると思うけど、あと3個残ってる。それは私と男が一緒に買ったようなものだし、残りは男が自由に使ってくれて良いから」
男「ちょっと待てよ。双妹は俺と少女さんの交際を認めていないんだろ。だったら、どうして」
双妹「どうしてって、私が二人の交際を認めていなくても、少女さんとセックスをするのなら必要になるでしょ。もしかして、少女さんが妊娠しないからって、コンドームを着けずにするつもりだったの?」
男「そのときは……着けるに決まってるだろ」
双妹「そのつもりだったのなら良いんだけど、少女さんが幽霊だとしても、着けるのが最低限のマナーなんだからね」
男「ああ、分かってるよ」
双妹「それで、男は本当に少女さんとそういうことが出来ると思ってる?」
男「少女さんにポルターガイストを起こすほどの力があれば可能性はあるみたいなんだけど、どうやら難しそうだ」
双妹「ふうん、そうなんだ」
895
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 21:59:54 ID:xJEh8Rbw
双妹「私ね、考えたんだけど、挿入することだけがセックスではないと思うの」
男「どういうことだよ」
双妹「中学2年生のとき、あの夜、私は寂しくて男に甘えたの」
中学2年生のときの『あの夜』といえば、ひとつしかない。
失恋して様子がおかしかった双妹が、抑えていた気持ちを俺に打ち明けた日だ。
双妹「最初はセックスをしてみたかっただけなんだけど、男がいっぱい話を聞いてくれて、私の気持ちを受け止めてくれて――。あのとき、私はすごく心が満たされた」
双妹「男にとってセックスは挿入して射精することかもしれないけど、それはスキンシップの方法のひとつでしかなくて、一番大切なことは愛されていると感じ合うことなんだと思う」
双妹「私はね、心が大好きでいっぱいに満たされて、男が私で射精してくれたときにすごく幸せを感じるんだよ// それは……少女さんも同じなんじゃないかなあ」
896
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:00:24 ID:xJEh8Rbw
男「愛されていると感じ合う――か」
双妹「そうだよ。ちなみに、私はお兄ちゃんのことが大好きないけない妹だから、そのことは忘れないでね//」
双妹は頬を上気させて、上目遣いで俺を見詰めてきた。
少女さんの未練を叶えてあげたいという気持ちはあるけれど、最近は気持ちが離れているような感じがする。
やっぱり、俺が一番大切にしたいと思える女性は双妹だけなのかもしれない。
男「分かってるよ。双妹の気持ちは俺と同じだから」
双妹「えへへ// それじゃあ、私は晩ご飯の手伝いをしてくるわね♪」
双妹は勢いよく立ち上がると、軽快な足取りで部屋を出て行った。
そういえば結局、どうやって臓器移植をした人に会うことなく気持ちを伝えるのか分からなかった。
双妹は少女さんが話すべきだと言っていたし、明日聞いてみることにしよう。
俺はそう考えつつ、コンドームを洋服ダンスの引き出しに片付けた。
897
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:01:31 ID:xJEh8Rbw
(3月24日)thu
〜学校・少女さん〜
校長先生「おはようございます。いよいよ、平成××年度修了式の日を迎えました。皆さんの先輩方は先日卒業し、普通科と福祉科は3年間、看護科は看護専攻科を経て5年間、雨の日も雪の日も負けることなく勤勉に頑張り続け、それぞれの夢に向かって羽ばたいて行きました。卒業式でも話しましたが――」
看護科1年生、三学期の修了式。
私は校長先生の言葉に耳を傾け、この1年間の出来事を思い返す。
合格した嬉しさと緊張に包まれていた入学式。
友香ちゃんに出会って仲良くなり、クラスのみんなと打ち解けた初夏の日。
そして夏になり、秋になり、楽しかった文化祭。
その一方でレポートの提出に追われ、実習の授業では難しい課題も増えてきて、苦しい日が何度もあった。
だけど、私の望む姿はその先にある。
そう信じていたから、頑張り続けることが出来た。
それなのに――。
看護師になる夢は絶たれてしまった。
898
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:02:10 ID:xJEh8Rbw
校長先生「しかしながら、この冬、大変悲しい出来事が起こってしまいました。我々、北倉高校の仲間である普通科1年生の少年くんと看護科1年生の少女さんが他界し、永い眠りに就くことになってしまいました。連日の報道やインターネット上の書き込みなどにより、心を痛めている人も少なくはないでしょう」
校長先生「我が校は看護教育5年一貫校として伝統があり、生命の尊厳と向き合い確かな技術を磨くことで、医療に携わる者として必要な看護の心を育んでいます。皆さんに今一度考えてほしいことは、たった一つしかない命とどのように向き合うべきなのかということです」
2月13日に私は自殺をした。
校長先生の話で思い出したのか、クラスのみんながすすり泣きを始めた。
普通科の方からもすすり泣く声が聞こえてくる。
私のために涙を流してくれている。
少年くんのために泣いている人がいる。
「全校生徒、1分間黙祷――」
みんなの気持ち、ちゃんと届いたよ。
この1年間、一緒に頑張ることが出来て楽しかったです。
私は今日で終わりだけど、みんなはこれからも頑張ってね!
本当に……本当に、ありがとう。
899
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:02:50 ID:xJEh8Rbw
〜通学路・少女さん〜
三学期の修了式が終わり、友香ちゃんと一緒に北倉駅に向かう。
校門をくぐり、少し歩いたところで立ち止まる。
そして、私は校舎を見上げた。
この1年間、私が頑張ったことの証。
今学年の成績表はお母さんが受け取りに来ているようだ。
駐車場に車が止められていたし、どんなことが書かれているのか楽しみだ。
友香「今日で学校も終わりだね」
少女「……うん」
友香「何だか、まだ信じられないよ……」
友香ちゃんが話しかけてきたので、私は振り返り再び歩き始める。
今日まで毎日のように歩いていた通学路は、明日から歩くことはない。
こうして友香ちゃんと一緒に帰るのも、今日で最後だ。
900
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:03:25 ID:xJEh8Rbw
友香「今日この後なんだけど、何か予定ある? なければ、ちょっと相談に乗って欲しいことがあって……」
少女「今日は男くんが家に来てくれることになっているの。だから、その後でもいいかなあ」
友香「……そうなんだ。それじゃあ、別にいいよ。大したことじゃないし」
少女「ごめんね。明日なら大丈夫だから、10時に友香ちゃんの家に行くってことで良いかな」
友香「じゃあ、近所のバス停で待ってるから」
少女「うん。それにしても、友香ちゃんが私に相談したいことって何なの?」
友香「それは……まあ、ちょっと…………」
少女「もしかして、恋の悩みだったりして〜♪」
友香「んなっ!?」
少女「えっ?! ああ、そうなんだ。ふうん、へえぇっ〜」ニヤニヤ
901
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:04:29 ID:xJEh8Rbw
友香「友くんとはまだそういうのじゃないし。少女のことで助けてもらっているだけだし!」アセアセ
少女「やっぱり、友くんのことなんだ」
友香「〜〜//」
少女「紹介した私が言うのもアレだけど、ちょっと意外かも。最初はあんなに嫌がっていたのに」
友香「私だって、びっくりしてるもん。でも、ホワイトデーのお返しを一緒に買いに行ってから、気持ちがもやもやするようになって――」
少女「それで?」
友香「双妹さんとはただの幼馴染らしいし、誰かを助けるために頑張ることが出来る人って素敵だな〜と思うんだよね」
少女「友くんって、すごく親身になってくれるもんね」
友香「そうそう。それに波長が合うっていうか、この前も友くんが――」
気持ちが昂ぶってきたらしく、友香ちゃんが饒舌に話し始めた。
友香ちゃんは小学生のときにお母さんを亡くしたらしいので、陽気な性格の裏側に感傷的な一面が隠されている。
だけど、この様子だと安心して別れることが出来そうだ。
902
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:05:19 ID:xJEh8Rbw
少女「友香ちゃん。私はもうすぐいなくなるけど、その……友くんと上手く行くといいよね」
友香「う……うん…………//」
少女「それじゃあ、明日は友香ちゃんの家で作戦会議だね!」
友香「……」
少女「あれっ、どうかした?」
友香「私は少女が悪霊になるなんて思えない。本当に成仏しないといけないのかな」
少女「……」
少女「友くんによれば、私は四十九日を過ぎてしまうと魂が壊れてしまうんだって。ドナーになったことは関係ないんだけど、私は普通の幽霊よりも幽体が少ないから、生きている人の霊波動の影響で霊魂が傷付きやすいらしいの」
友香「どうにも……ならないんだ」
少女「私も出来ることなら、ずっと一緒にいたい。だけど、私はもう死んでいるんだよ。それにね、私はやりたい事を見つけたの」
友香「やりたい事?」
903
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:05:53 ID:xJEh8Rbw
少女「臓器移植を受けたレシピエントさんの中には、ドナーである私が死んで自分だけが生きていることに罪悪感を感じている人がいるかもしれないでしょ。それに、私のことを悲しみに沈んで自殺を選んでしまった不幸な女子高生だと考えている人がいるかもしれない」
少女「だからね、本当の私は不幸なんかじゃなくて、多くの人にこんなにも愛されていたんだよってことを知ってもらいたいの。そして、臓器提供と組織提供をした私の気持ちを伝えたい」
少女「そのためには成仏しなければならないの。私のこと、応援してくれるよね?」
友香「……」
友香「そんなことを言われたら、断るなんて出来るわけがないじゃないっ」
少女「ありがとう」
友香「私のお母さんもそんな気持ちだったのかな……」
少女「そうだと思うよ」
友香「そう、だよね」
北倉駅の駅舎に入り、友香ちゃんは寂しげに微笑んだ。
私は立ち止まり、ふわりと通学路を振り返る。
そして、決意を胸に有人改札を通り抜けた。
904
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:06:25 ID:xJEh8Rbw
〜自宅・少女さん〜
友香ちゃんと別れて家に帰ると、お姉ちゃんとメイちゃんが遊びに来ていた。
お姉ちゃんは大事なときなんだから大人しくしていればいいのに、家でじっとしているということは出来ないのだろうか。
だけど、こうしてまた会えたことがうれしかった。
姪っ子「ねえね!」
少女「うん、ねえねだよ。何して遊ぶ?」
姪っ子「え〜っとね、おにごっこ♪」
私が憑依して姿を見せると、メイちゃんは子どもらしく跳んだりはねたり元気に走り始めた。
どうやら、追いかけっこをしたいらしい。
ねえねは憑依霊だから、いくら逃げても追いかけちゃうぞ〜♪
姪っ子「ふえぇ……」オロオロ
姪っ子「きゃっはあ〜〜!」タタタッ
少女「待てまてーっ」
905
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:06:57 ID:xJEh8Rbw
ピンポ〜ン♪
メイちゃんの相手をしてあげていると、来客のチャイムが鳴った。
私はメイちゃんから離れられる距離を広げて玄関に行き、後から来たお姉ちゃんがドアを開ける。
少女「男くん、いらっしゃい♪」
少女姉「どちら様ですか?」
男「こんにちは、男です。今日は先日のお礼をしたくて伺いました」
少女姉「あー、あなたが少女の彼氏さんね。こんにちは、どうぞ上がってください」
男「お邪魔します」
少女「メイちゃん、ご挨拶は?」
姪っ子「……こんにちわ!」ペコッ
男「こんにちは」
少女姉「ふふっ。めいちゃん、自分から挨拶できたね」ナデナデ
姪っ子「うにゅぅ……」
906
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:07:56 ID:xJEh8Rbw
少女姉「それじゃあ、どうぞこちらです」
お姉ちゃんの先導で、私たちは仏間に向かう。
そして一緒に仏間に入ると、男くんはお仏壇の前に座ってお焼香をしてくれた。
お香の薫りが広がり、私も静かに手を合わせる。
自分に哀悼の意を表するのは何だか不思議な気分だ。
少女姉「男くん、今日はありがとうございました。少女も喜んでいると思います」
男「はい」
少女姉「それで先日のお礼とは、どういったご用件でしょうか。母もいればよかったのですけど、あいにく今は妹の学校に行ってまして――」
男「そうなんですね。実は、少女さんにバレンタインデーのチョコをいただいて、今日はそのお礼に――」
少女姉「……ちょっと、ごめんなさい」
お姉ちゃんは男くんの言葉を遮ると、口元を押さえながら気だるそうに仏間を出て行った。
もしかしたら、お線香の匂いで気分が悪くなってしまったのかもしれない。
907
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:08:26 ID:xJEh8Rbw
姪っ子「ねえね。ママはどうしたの?」
少女「ママはね、メイちゃんがお姉ちゃんになれるように頑張っているんだよ。だからメイちゃんもお部屋のお片づけをしたり、ママのお手伝いを頑張ろうね」
姪っ子「……うんっ!」
メイちゃんは可愛い笑顔で、とてとてと仏間を出て行った。
きっと、お姉ちゃんが心配で様子を見に行ったのだろう。
男「少女さんのお姉さん、俺には少し気分が悪いように見えたんだけど……」
少女「今はつわりが始まる時期だから、多分お線香の匂いが駄目だったんだと思う。少し寒いけど、換気をしてあげてください」
男「……ああ、そういうことか」
少女「それはそうと、バレンタインデーのお礼って何なんですか」
908
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:09:23 ID:xJEh8Rbw
男「この前の3連休、少女さんに何をプレゼントすればいいのか考えて、これを買ってきたんだ」
男くんはそう言いながら、通学鞄からラッピング包装をされたヘアピンを取り出した。
さくらの花のモチーフがとても印象的で、淡いピンク色が暖かくて可愛らしい。
男「みんなでお花見に行くことになるとは思っていなかったから被ってしまったけど、少女さんに春を感じてもらいたくて」
少女「男くん、ありがとう」
男「喜んでもらえてよかったよ。開けたほうがいいかな」
少女「お供えしてくれたら、そのままでも大丈夫だよ。着けてみるね!」
前髪をヘアピンで留めて、ちょっとしたヘアアレンジ。
私はそんなイメージを思い浮かべると、幽体の見た目を変化させた。
これで、ちょっと春らしくおしゃれな感じを演出できたと思う。
909
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:09:57 ID:xJEh8Rbw
少女「どうかなあ。似合ってる?」
男「すごく似合ってるよ」
少女「えへへ//」
私は満面の笑みを浮かべ、男くんににじり寄った。
すると、男くんが戸惑った様子で手を重ねてきた。
今はメイちゃんに憑依しているので、男くんに感覚を伝えることは出来ない。
だけど、私の気持ちは伝わっている。
そして、男くんの気持ちが伝わってくる。
そう思ったところで、ふと疑問が湧いてきた。
男くんは双妹さんからバレンタインチョコを貰っているので、双妹さんにもお返しをしているはずだ。
だとしたら、男くんは双妹さんと一緒に買い物をしていた可能性が高い。
バレンタインデーのときがそうだったし、今回も絶対に同じだと思う。
……はあっ。
男くんが私の未練を叶えようとしてくれているのは、すごくうれしい。
それなのに、どうして双妹さんの事で悩まないといけないのだろう。
910
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:10:32 ID:xJEh8Rbw
姪っ子「わわっ、ねえねがキスをしようとしてる!」
メイちゃんの驚く声が聞こえて、私は慌てて男くんから離れた。
いつの間に戻ってきたの?!
というか、キスなんてしないしっ!!
姪っ子「ねえねもママといっしょだね。だいすきだからキスをするの?」
少女「……ええっ?! そ、そうだね」アセアセ
姪っ子「えへへ〜。めいのパパとママもね、だいすきだからいつもチューってしてるんだよ! すごくラブラブなのっ♪」
少女姉「ちょっ?! めいちゃん! その……娘がとんでもないことを言ってしまって、本当にすみません」
男「い、いえ……大丈夫です…………」
お姉ちゃんは慌てて戻ってくると、メイちゃんをたしなめて、私の遺影に悲しげな視線を向けた。
私は今もここにいる。
だけどお姉ちゃんの主観では、男くんは好きな人と死に別れてしまった男性なのだ。
911
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:11:08 ID:xJEh8Rbw
少女姉「あの……もしよろしければ、お菓子でもいかがですか」
お姉ちゃんは持っていたお盆を座卓に置き、あんころ餅とコーヒーを並べた。
男くんが「いただきます」と言って手を伸ばし、メイちゃんが物欲しげにそれを見る。
少女姉「ところで、そのヘアピンが先ほど言われていた少女へのお礼ですか」
男「……はい。遅くなってしまったけど、バレンタインデーのお礼をしたくて」
少女姉「少女のためにありがとうございます」
男「いえ、少女さんのことがその……好きだから」
少女姉「そっか、好きなんだ」
912
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:12:07 ID:xJEh8Rbw
少女姉「めいちゃん。冷蔵庫にお菓子とジュースが入っているから、1つだけ食べていいわよ」
姪っ子「わ〜い♪」トテトテ
男くんをうらやましそうに見ていたメイちゃんは、すぐに仏間を出て行った。
こんな時間にお菓子を食べて、お昼ご飯は食べられるのだろうか。
ちょっと心配かも。
少女姉「男くん。もしかしたら不思議に思っているかもしれないけど、少女の姉にしてはおばさんっぽく見えるでしょ」
男「そ、そんなことないです! 少女さんのあどけない雰囲気が消えた感じで、すごく美人だと思います」
少女姉「ふふっ、お上手ねえ」
少女姉「もうむかしの話なんだけど、私はお母さんが妹を妊娠したとき、すごく嫌だと思ったの。それでお母さんと何度も口論をして、妹なんて生まれてこなければいいって思ってた」
唐突にお姉ちゃんがしんみりと語り始めた。
私のことが嫌だったって、どういうことなんだろう。
913
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:12:40 ID:xJEh8Rbw
男「あの……それって、どうしてですか」
少女姉「高校生の男の子に話すようなことじゃないかもしれないけど、ちょうどそういうことに興味が出てくる年頃だったの。クラスのみんなに噂されるし、私はそんなことをしていた両親が気持ち悪くてすごく恥ずかしかった」
少女姉「少女が生まれてからはそんな気持ちも落ち着いて、それなりに可愛がってあげていたんだけど、大学生になって東京で一人暮らしを始めてからは実家に帰らないようにしていたんです」
少女姉「それから5年前に結婚して主人とこっちで暮らすことになって、娘を妊娠したときに少女は何を言ったと思う?」
少女姉「お姉ちゃんおめでとうって、心から祝福してくれたのよ。その言葉を聞いたとき、同じ年頃のときに気持ち悪いと思っていた自分が、ものすごく恥ずかしかった」
少女姉「だから、娘には夫婦で愛し合うことはとても素敵なことだと教えてあげたいんです。そして、尊い生命を慈しむことが出来るような、そんな優しい女性に育って欲しいと思っています」
914
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:13:10 ID:xJEh8Rbw
男「めいちゃん……は、少女さんが亡くなったことを分かっているんですか」
少女姉「悲しいことが起きたことは理解しているみたいだけど、娘にはまだ難しいんじゃないかしら。だから、大きくなったら少女の優しさを伝えてあげたいです」
少女姉「男くんも少女のことは本当に不幸で悲しいことだけど、お姉さんは新しい恋を探してほしいと思っています。そして、いつか心から愛した女性と幸せな家庭を築いて欲しいです。少女のために、いつまでも立ち止まっていることがないようにお願いします――」
男「そう……ですよね。先日、母にも同じようなことを言われました。でも、今は少女さんのことを想っていたいんです」
少女姉「お姉さんも今はそれで良いと思うよ」
少女「……」
915
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:13:42 ID:xJEh8Rbw
姪っ子「ママー! じゅーすがこぼれたあ」
少女姉「それじゃあ、ごゆっくりしてください」
お姉ちゃんはそう言い残し、仏間を出て行った。
新しい恋を探してほしい――か。
私はもう死んでいるから、男くんの未来を奪ってしまう訳にはいかない。
そのことは私も分かっているつもりだし、温かい家庭を築いているお姉ちゃんの言葉は心に重く圧し掛かってくる。
少女「男くん、あとで話したいことがあります」
私はそう言って、お供えされたヘアピンを見詰めた。
さくらの花のモチーフがとても印象的で、それは私に別れが来ることを予感させた。
916
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:14:13 ID:xJEh8Rbw
〜住宅街・少女さん〜
男くんと一緒にメイちゃんの遊び相手をしてあげて、お昼前に男くんは家に帰ることになった。
私はメイちゃんへの憑依を解いて、男くんと住宅街を歩く。
男「少女さん。よければ、俺の家に来ない?」
少女「外は寒いし、そうさせてもらいます」
そう答えると、男くんが手をつなごうとしてきた。
何度か手がすり抜けて、私は男くんの気持ちを察して憑依し、運動神経を操作して触覚を伝える。
こうすれば、擬似的に手をつないで歩くことが出来る。
しかし、私には触れているという感覚はまったくない。
きっと今の私では霊的な力が弱いということなのだろう。
917
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:14:52 ID:xJEh8Rbw
男「そういえばさあ、友がポルターガイスト現象を起こせば触ることが出来るかもしれないって言ってたんだけど、どう思う?」
少女「ポルターガイスト現象?」
男「漫画とか小説でよくあるだろ。幽霊が物に触ったり、家具を浮かせて吹き飛ばしたりする場面」
少女「ありますねえ」
男「この前、少女さんが霊波動は電磁波に性質が似ていると言っていたけど、友によれば、フレミングの左手の法則と同じ原理でポルターガイスト現象を起こせる可能性があるらしいんだ」
少女「そんなことが出来るんですか」
男「あくまでも可能性なんだけどね。ちなみに、少女さんはイルカに触ることが出来ただろ。実はあれ、イルカが少女さんに向けて霊波動を飛ばして触れるようにしていたかららしい」
少女「ええぇっ?!」
男「イルカって、すごいだろ」
少女「そうですね」
918
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:15:36 ID:xJEh8Rbw
男「それで早速だけど、少女さんもポルターガイスト現象を起こすことが出来るかどうか試してみない?」
少女「フレミングの左手の法則って、中学校の理科で勉強したアレですよねえ」
私はそう言って、左手を電磁力の覚え方の形に合わせてみた。
そして、首を傾げる。
これって、この指と同じ方向に電流を流したり磁界の向きを調整したりしないといけないんでしょ。
男「やっぱり難しい?」
少女「ごめんなさい。ポルターガイストは出来る気がしないです」
男「そっか」
少女「でも、イルカさんの話には興味があります。人通りが増えてきたのであとで話しますけど、私が触れるようになるかもしれない方法があるんです」
919
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:16:10 ID:xJEh8Rbw
〜男くんの部屋・少女さん〜
少女「お邪魔します♪」
男「……」
男くんの家に着き、私は男くんに案内されて部屋に入った。
すると、ドア付近でなぜか男くんが私の様子を窺っていることに気がついた。
少女「どうかしましたか?」
男「いや、その……何でもないよ」
少女「それならいいんですけど、あの日のことなら気にしていませんから」
男「……あ、ああ…………ごめん」
少女「それじゃあ、お話の続きをしませんか」
男「そうだな」
920
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:17:01 ID:xJEh8Rbw
少女「実は昨日の放課後、友くんの家の神社に行って、双妹さんと話し合った方法で未練を叶えることができるのか、巫女さんに相談に乗ってもらったんです」
男「巫女さんに?」
少女「はい、友くんにはちょっと相談しづらいことだから――。それで、男くんは私が英語の授業中に倒れてしまったことがあるのを覚えていますか?」
男「もちろん、覚えてるよ」
少女「良かった〜。男くんも覚えていてくれたんだね//」
男「当たり前だろ」
少女「あのとき私が激痛で倒れてしまったのは、私の肉体から臓器を摘出する手術をしていたからなんです。そのときに私の肉体に残っていた幽体が人為的に切り離されて、その情報が私の幽体に激痛として伝わってきたんです」
男「えっ?」
少女「つまり、私の幽体とレシピエントさんが持っている私の幽体は、今もつながっているんです」
921
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:17:56 ID:xJEh8Rbw
男「ちょっと待てよ! それって、少女さんがまだ生きていたから痛みを感じて苦しんだってこと?!」
少女「そうかもしれませんね」
男「そんなの人殺しと同じじゃないか!」
少女「私の意志を汲んで家族みんなが納得してくれたのだから、殺人にはなりません。脳死は人の死と認められていますし、幽体が残っているなんて普通は知りようがないから、そのことは男くんにも受け入れてもらいたいです」
男「でも、あのときの少女さんは本当に苦しそうだったから――」
少女「新しい生命を育んで出産するとき、女性は痛みを伴うものなんです。臓器の提供もそれと同じなのかもしれません。だから、あのときの苦しみは今の私にとって願いそのものなんです」
男「……ごめん」
少女「それでですね、もし私が自分の幽体を切り離したとしたら、あのときとは逆に、私の幽体の情報がレシピエントさんに伝わると思いませんか」
男「確かにその可能性はあると思う。心臓移植をした人にドナーの記憶が転移する話はすごく有名だし」
少女「そうですよね! それで巫女さんに聞いてみたら、私の幽体の情報がレシピエントさんに伝わることが分かったんです」
922
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:18:26 ID:xJEh8Rbw
男「そうなんだ。でも、どうしてそんなことが――」
少女「私もよく分からないんですけど、私の幽体とレシピエントさんが持っている私の幽体は最初は同じひとつの幽体だったので、量子テレポーテーションに近い現象が起きるのだそうです」
男「量子テレポーテーション?!」
少女「うまく説明できるか分からないけど……」
少女「私は幽体の状態を変えることが出来るので、私の幽体は量子的に重ね合わせの状態にあると言うことが出来るそうです。そして私の幽体の一部を切り離してそれを観測すると、その瞬間に私の幽体がどんな状態だったのか確定します」
男「う……うん」
少女「すると、レシピエントさんが持っている私の幽体は私と同じものなので、その瞬間、私が切り離した幽体と同じ状態になるのだそうです」
少女「こんな感じで私の幽体の情報が伝わると、必ずレシピエントさんの精神に何らかの影響を与えます。これを繰り返すことで、私はたくさんの気持ちをレシピエントさんに伝えることが出来るんです」
923
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:19:10 ID:xJEh8Rbw
男「量子的とか状態が確定するとか、難しすぎてピンと来ないんだけど」
少女「たぶん、双子のテレパシーみたいなものなのだと思います。男くんと双妹さんは魂レベルで同じだから、離れていても心が通じ合っているんですよねえ」
男「ああ、そう言われると分かりやすいかも」
少女「とりあえず、そういうことみたいです」
男「でも未練を叶えるためとはいえ、幽体を切り離して大丈夫?」
少女「切り離すという言い方をしたので少し怖い感じだけど、実際は着ている服を脱いでいくイメージなので大丈夫です。私が苦しい思いをしてそれがレシピエントさんに伝わってしまうと、意味がありませんから」
男「まあ、そっか。そう……だよな…………」
924
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:19:42 ID:xJEh8Rbw
少女「それでですね、私が幽体を脱いでいくと、私を包んでいる幽体が減っていくので霊的な力が強くなっていきます。そうなると、男くんが私に触ることが出来るようになるんです」
男「ええっ?!」
触ることが出来るようになると言うと、男くんが今日一番の驚きを見せた。
きっと、男くんはそういうことが出来ると期待してくれているんだよね。
だけどそのためには、最後の一歩を踏み出す勇気がなければならない。
少女「男くんは今、双妹さんのブレスレットで私の霊波動と共振しやすい状態になっています。それはつまり、私自身も男くんの霊波動の影響を受けやすくなっているということなんです」
少女「そしてすべての幽体を脱ぎ捨てたとき、私は成仏をします」
男「成仏をする……か」
男「ひとつ聞きたいんだけど、幽体を脱ぎ捨てたら霊的な力が強くなるだけじゃなくて、霊波動の影響も受けやすくなるんだよな。それって、魂が傷付いて壊れてしまう可能性があるってことじゃないの?」
925
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:20:17 ID:xJEh8Rbw
少女「……」
少女「それは四十九日を越えてしまった場合の話ですよ」
男「いや、少女さんが除霊が出来る手袋でダメージを受けたってことは、魂が壊れてしまうことに四十九日は関係ないってことだろ。一昨日の夜に送ってあげたとき、最後の一歩を踏み出す勇気があれば未練が叶うと言っていたけど、あれはこのことだったんだな」
少女「……うん、男くんが考えている通りだよ。でもっ! 私は魂が壊れてしまうとしても、レシピエントさんに気持ちを伝えたい。そして、最後に男くんと触れ合いたい!」
男「だからって、魂が壊れてしまったら意味がないんじゃないかな」
少女「私は4月1日を越えてしまうと悪霊になってしまうし、魂も壊れて消えてしまうんだよ。そうなったら私の想いを届けることが出来ないし、男くんと触れ合うことも出来なくなる」
少女「そんなの絶対に嫌だ!」
926
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:20:50 ID:xJEh8Rbw
きっと、私は双妹さんに試されているのだ。
今は気持ちに迷いがあるけれど、だからこそ立ち止まるわけにはいかない。
たとえ魂が壊れてしまう可能性があるのだとしても、私は前に進み続けるんだ。
男「ああ、そうか。双妹は少女さんのことも心配していたのか」
少女「それって、どういうことですか」
男「昨日、いろいろとアドバイスをされたんだ」
少女「へえ、そうなんだ。双妹さんが私のことでアドバイスをするだなんて、珍しいですよね。どんなことを言われたんですか?」
男「それはまあ、教えるようなことじゃないし」
少女「……」
少女「そっか、秘密なんだ……」
927
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:21:28 ID:xJEh8Rbw
アドバイスの内容は分からない。
だけど、これでいくつかはっきりした。
双妹さんは背徳感によるドキドキを愛情だと錯覚しているのではなくて、本気で男くんのことが好きなのだ。
そして、男くんはそんな双妹さんを異性として受け入れている。
さっきお姉ちゃんに「私のことを好きだ」と言ってくれたけど、明らかに言い淀んでいる感じだった。
それは、私への気持ちが離れ始めている証拠なのかもしれない。
ジェネティック・セクシュアル・アトラクション。
状況は少し違うけれど、男くんと双妹さんは異性一卵性双生児として生まれてきたせいでその心理的作用が優位に働き、兄妹でありながらお互いに性的な魅力を感じて惹かれ合っている。
そんな二人に対して私が生きた証を残すためには、最期に何をすれば良いのだろう。
あの日からずっと考えているけど、本当に男くんのことが好きだという気持ちを貫くだけで良いのだろうか――。
928
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:22:00 ID:xJEh8Rbw
(3月28日)mon
〜市街地〜
少女さんが普通の浮遊霊として現世に留まっていられる、最後の1週間。
俺はようやく部活動停止処分から復帰し、久しぶりに部活動に参加することが出来た。
その帰り道、少女さんが真剣な表情で話しかけてきた。
少女「ねえ、男くん。ふと思ったんだけど、春休みが終わったら2年生になるんですよねえ」
男「そうだけど、それがどうかした?」
少女「男くんは将来の夢とか目標は考えているんですか?」
男「……将来の夢?」
少女「はい。双妹さんは保育士になるために勉強をしているんですよねえ」
929
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:22:37 ID:xJEh8Rbw
男「これって言うのはまだないんだけど、双妹や少女さんを見ていて、今は俺も誰かを助ける仕事をしたいなって思ってる」
双妹は双子研究に協力している関係で、小さい子どもたちの力になりたいと考えている。
少女さんは看護師になる夢を叶えることは出来なかったけれど、ドナーとして多くの人の命を救う仕事をやり遂げた。
だから、俺も誰かの命を助ける仕事をしたいと思う。
少女「もしかして、福祉系の仕事をしたいってことですか」
男「いや、福祉系じゃなくて医療分野で設計の仕事をしてみたいんだ。双子研究に協力している関係で医療系の仕事に興味があるし、親父の書斎に行けば専門書がたくさんあるから――」
少女「その仕事、すごく良いと思います! 目標が決まったのなら、今度はそれに向かって頑張らないといけないですね」
男「そうだな。俺も頑張るよ!」
少女「うん♪ 私も応援してるから頑張ってね」
930
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:23:10 ID:xJEh8Rbw
少女「それにしても、みんな、こうして未来に向かって生きていくんだよね――」
男「未来に向かって、か」
少女「この土日なんだけど、中学生のときの友達が弔問に来てくれたの。それから夜に夢枕に立って話をしたんだけど、みんな充実した高校生活を送っているようですごく楽しかった」
男「ふうん、そうなんだ」
少女「私が自殺をしたことを知ってつらい想いをさせたかもしれないけど、私の気持ちはみんなに届いたと思う。男くんと……双妹さんのおかげだよ」
少女「――本当にありがとう」
少女さんは俺に振り向き、満面の笑みを浮かべた。
そして手をつなぎ、春らしい青空を見上げて想いを馳せる。
931
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:23:45 ID:xJEh8Rbw
少女「レシピエントさんにも私の気持ちは届くかなあ」
男「きっと大丈夫だ」
少女さんの生きた証――。
その最後の願いは、俺が頑張らなければ叶える事は出来ない。
少女さんが望むのなら、オトコの俺がリードしてあげなければならないのだと思う。
男「木曜日なんだけど、お花見が終わったら俺の家に来てほしいんだ。最後の夜だし、少女さんと一緒に話をしたいから」
少女「う……うん…………」
男「そ……それじゃあ、今週は春休みを満喫しよう!」
俺は学校前の駅で北倉駅までの切符を買い、二人で繁華街に遊びに行くことにした。
最後の1週間、いろんなことをして楽しもう。
少女さんが成仏をするそのときに後悔だけはさせないように。
932
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:24:45 ID:xJEh8Rbw
(3月31日)thu
〜最寄り駅〜
楽しい時間はあっという間に過ぎて、ついにみんなでお花見に行く日になった。
空には雲が広がっているけれど、雨の予報ではないので晴れていると言って差し支えないだろう。
彩川市では桜が開花したらしいし、今日は絶好のお花見日和だ。
そう思いつつ最寄り駅に行くと、南側の出入り口で待ってくれていた少女さんが爽やかな笑顔で飛んで来た。
男「少女さん、おはよう」
少女「おはよう♪」
双妹「おはよう、今日は晴れて良かったわね」
少女「そうだね。お昼には暖かくなるらしいし、コートを脱がないと暑くなりそうかも」
双妹「幽霊なのに?」
少女「そこは話を合わせてくださいよ」
双妹「まあ、確かに今の季節は着て行く物に困るよね」
少女「そうそう。昼間は暖かいけど夜は冷え込むし――」
少女さんと双妹はおしゃべりをしつつ、有人改札に向かう。
ところどころ棘があるけれど、ちょっとは仲良くなってくれたようだ。
933
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:25:18 ID:xJEh8Rbw
〜北倉駅・バス停〜
北倉駅に着いて待ち合わせ場所に向かうと、すでに友と友香さんが待っていた。
どうやら、俺たちよりも早い時間の電車に乗ってきたらしい。
そして二人が俺たちに気付き、お互いに挨拶を交わした。
友「今さあ、さくらの開花情報を調べていたんだけど、今は2分咲きになっているらしい」
男・双妹「へえ、ちゃんと咲いてるんだ」
少女「良かった〜。お天気にも恵まれたし、お花見日和だね」
友香「そうだね。今日が最後だし、思いっきり遊びましょ!」
少女「お〜っ!!」
男「何だか、少女さん。いつにも増して、テンション高いな」
少女「ふふん♪ さくらが私を呼んでいるのです!」
少女さんは得意げに言うと、身体を揺らしながら満面の笑みを浮かべた。
そんな少女さんに釣られて、みんなの会話が弾む。
それからしばらくして、願いの丘公園行きのバスがやってきた。
934
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:25:57 ID:xJEh8Rbw
〜願いの丘公園〜
バスに揺られること、約15分。
北倉市のさくらの名所のひとつである、願いの丘公園に到着した。
市内で随一の名所といえば城址公園だけど、きっと友香さんなりの想いがあるのだろう。
願いの丘という言葉が示すとおり、今の俺たちには相応しい場所かもしれない。
そう思いつつ、さくらの広場に向かって歩いていると、少女さんが歓喜の声を上げた。
少女「見てみて! さくら、咲いてるよ!」
男「おおっ、ほんとだ!」
幹や枝ばかりが目立って寂しいけれど、ちゃんとさくらの花が咲いている。
二分咲きだとはいっても、これはこれで趣があるかもしれない。
935
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:26:49 ID:xJEh8Rbw
友「それじゃあ、場所を決めようぜ」
友香「友くん、あそこなんて良いんじゃない?」
少女「そうだね。さくらもいっぱい咲いてるし、あそこが良いかも」
友「少女さんもそう言ってるし、そうしようか」
俺たちは芝生の上に移動し、レジャーシートを広げる。
そして、みんなで持ち寄ったお菓子とジュースを開けた。
男「俺たちの……宴がはじまる――!」
双妹「それは良いんだけど、少女さんは何も食べられないでしょ。最初に何するの?」
友香「みんなでカラオケなんてどうかな」
双妹「カラオケ?」
友香「少女は電車やバスの車内放送が聞こえているから、カラオケアプリを使えば一緒に歌うことが出来ると思うの」
男「なるほどな。それは思い付かなかった」
936
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:28:21 ID:xJEh8Rbw
友香「それで一番最初に誰が歌う?」
友「一番手は俺に任せろ!」
友香「さすが友くん、やる気満々だね。このアプリで曲名を検索したら、すぐに始まるから」
友はスマホを受け取り、曲名を入力した。
すると、海賊アニメのインストが流れ始めた。
いかにも少年漫画といった曲調で、友の歌声にも熱が入っている。
場を盛り上げるには、最高の一曲だ。
男「最近の神曲じゃなくて、初期のオープニングで攻めてきたか」
友「ああ、もはや殿堂入りだろ」
男「そうだな」
友香「ねえ、少女。これなら歌えそうかな」
少女「うん、大丈夫。次は誰が歌う?」
双妹「私でもいい? 宴といえば、海賊じゃなくて妹でしょ!」
937
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:28:54 ID:xJEh8Rbw
双妹「〜♪」
外では猫をかぶり、家では兄に甘えてぐーたらライフを満喫している妹の歌。
ノリが良くて楽しいんだけど、歌詞に少女さんを牽制するワードがいくつか含まれている。
まさか、カラオケで少女さんを挑発してくるとは思わなかったぞ。
少女「双妹さん、そういう選曲をしてくるんだ」
双妹「ふふん♪ 私って男のことが好きだし!」
少女「そのこと、こういう雰囲気だと隠さないんだ――」
友香「ねえねえ! そのアニメ、お兄ちゃんが漫画を集めてて私も好きなんだよね〜」
双妹「そうなんだあ。私たちってお兄ちゃんがいる同士だし、少し共感しちゃうところがあるよね」
友香「そうそう! 友香に似てるとか言われて、そんな訳ないじゃんって思いつつ、何となく自分に重ねて読んじゃうんだよね」
双妹「それ、分かる〜」
938
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:29:33 ID:xJEh8Rbw
少女「ねえ、友香ちゃん。今度は私が歌いたいんだけど、入力してくれるかなあ」
友香「うん」
少女「えっと、アルファベットで――」
友香さんは曲名を入力すると、お菓子の箱にスマホを立て掛けた。
そしてイントロが流れ出し、少女さんは胸に手を当てて歌い始めた。
かなり歌い慣れているらしく、優しい歌声が心に沁みこんで来る。
透明感のある音楽と繊細な歌詞。
想いを束ねて未来へと踏み出していく。
それは、とても少女さんらしい選曲だった。
少女「マイクを持たずに歌うって、何だか恥ずかしいね//」
友香「そうかもしれないけど、楽しければ何でもありだよ! ちなみに、1週目はアニソン縛りなの?」
少女「そうだね、そうしよう!」
友香「了解♪」
939
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:30:06 ID:xJEh8Rbw
・・・
・・・・・・
歌って踊って、食べて騒いで。
そしてときどき、トンビにお昼ご飯を襲撃されて。
気がつくと、いつの間にか午後1時を過ぎていた。
男「それじゃあ、そろそろ身体を動かそうか」
友香「身体を動かすって、何をするの?」
男「この公園に行くって聞いて、実はテニスコートの予約をしてあるんだ」
友香「へえ、そうなんだ。でも、少女はテニスを出来ないですよ」
男「少女さんは憑依をすれば身体を操ることが出来るから、擬似的にテニスをすることが出来るんだ」
友香「なるほど。金縛りの応用ってわけですね」
少女「そうそう。それで男くんとダンスゲームで特訓して、最高ランクを獲得したんだから」ドヤァ
友「幽霊なのに、やり込みすぎだろ!」
940
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:30:38 ID:xJEh8Rbw
友香「とりあえず、少女もテニスが出来るのなら早く行きましょうよ」
友「そうだな」
俺たちは公園の管理棟に行き、テニスコートの受付を済ませた。
そして、4人分のラケットとボールを借りてコートに入る。
少女「それでは、突然だけどチーム分けを発表します!」
友香「チーム分け?」
少女「ほら、ダブルスで試合をするでしょ」
少女さんは不敵な笑みを浮かべ、友香さんを見た。
するとそれだけで少女さんの思惑を察したらしく、友香さんは友に視線を向けた。
友香「普通に考えて、私と友くんだよね//」
友「だろうな。男女で分かれると、フェアじゃないし――」
少女「そうなんだけど、私に発表させてほしかったな」ショボン
友香「あ……ああ、ごめんごめん」
941
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:31:09 ID:xJEh8Rbw
少女「それじゃあ、気を取り直して、今こそ特訓の成果を見せるときだ!」
少女さんは威勢よく言うと、春コートを脱いでベンチに置いた。
そして、双妹に歩み寄る。
双妹「少女さんって、意外と躊躇いがないよね」
少女「ときどき言われます」
双妹「念のために言うけど、身体を貸すのは最初の試合だけだからね」
男「もしかして、俺じゃなくて双妹に憑依するの?」
少女「そうですよ。そのほうが、いろいろと都合が良いんです」
男「都合?」
少女「それはすぐに分かると思います。双妹さん、お願いします」
それを聞いて双妹が頷くと、少女さんは双妹の中に入り込み憑依した。
するとその瞬間、双妹の姿が少女さんに変身した。
942
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:31:40 ID:xJEh8Rbw
男「……ええっ?!」
友香「これって、どうなってるの?!」
少女「ふふん♪ 驚いたでしょ〜」
予想外の出来事に呆然としていると、少女さんが得意げに言った。
本当にどうなっているんだ、これは。
というか、双妹はどうなってしまったんだ?!
少女「実は今、双妹さんに憑依した状態で男くんと友香ちゃんの視覚や聴覚を操作しているんです。だから、双妹さんが私の姿に見えるはずです」
友香「少女って、そんなことまで出来ちゃうの?!」
少女「まあね! 以前、男くんに憑依した状態で双妹さんの中に入ったことがあるんだけど、その応用って感じかな」
男「そういうことだったのか」
友香「でも身体を貸す必要はないはずだし、双妹さんには感謝しないといけないですね。ありがとう」
943
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:32:10 ID:xJEh8Rbw
友「話し合うのはそれくらいにして、そろそろ始めようぜ。男と少女さんが本気でやるなら、俺たちも本気を出して勝つだけだ」
友香「――そうだね」
少女「男くん! 絶対に私たちが勝とうね!」
男「おう、そうだな!」
少女「それじゃあ、11ポイント先に取ったほうが勝ちってことで」
双妹というか少女さんはそう言うと、相手コートにボールを打ち放った。
それを友香さんが打ち返し、さらに俺が打ち返す。
テニスのルールは知らないけれど、こうしてラリーが続いているだけでとても楽しい気分になってくる。
少女「わわっ……!」
友「まずは俺たちが1ポイント先取だな」ドヤァ
少女「まだ始まったばかりだし、これからだよ!」
男「そうそう、俺たちのコンビネーションを見せ付けてやる!」
944
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:32:41 ID:xJEh8Rbw
試合を再開し、友香さんがサーブを放った。
俺はそれを打ち返し、お互いに点を取り合う。
そして、俺たちの勝利まであと1ポイント。
少女さんは力強くラケットを振り、飛んできたボールを叩き返した。
少女「えいっ!」
それは友香さんの足元を抜け、友が守備をしている後方に飛んでいく。
しかし、友がいるのはコートの端っこだ。
全力で走ってもラケットは届かない。
友「……!」
友香「はあっ、私たちの負けだね……」
少女「やったあ!!」
男「おっしゃあ!」
945
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:33:11 ID:xJEh8Rbw
俺はラケットを左手に持ち替え、勝利の余韻とともに少女さんとハイタッチをした。
すると、手の平が当たりぱしんと音が鳴った。
そういえば、今は双妹が少女さんの姿に見えているんだっけ。
つまり、この勝利は俺たち3人のチームワークで掴み取ったものなのだ。
少女「……双妹さん、ありがとう」
少女さんの姿が双妹に戻り、双妹の中から少女さんが透けるようにして現れた。
どうやら、憑依を解いたらしい。
男「双妹、ありがとう。こういうことをするなら、事前に教えてくれれば良かったのに」
双妹「そうなんだけど思い付いたのはついさっきだし、友香さんにサプライズをしたかったから――」
友香「そうだったんだ! ありがとう」
双妹「私も何か思い出作りをしたかったし、それだけだよ」
946
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:33:41 ID:xJEh8Rbw
男「それはそうと、喉が渇いてないか?」
双妹「何だか身体が熱くて火照ってるし、冷たいものを飲みたい気分」
男「だろうな。あそこに自販機があるから、何か買いに行こうか」
双妹「うん♪」
少女「あのっ、私も一緒に行きます」
男「俺たちのことは大丈夫だから、友香さんと一緒にいてあげたほうがいいと思うよ」
少女「……」
男「それじゃあ、行ってくる」
俺は3人に声を掛け、双妹とジュースを買いに行った。
そしてしばらく雑談してから戻ってくると、友が一人でベンチに座っていた。
947
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:34:12 ID:xJEh8Rbw
男「少女さんと友香さんは?」
友「二人なら展望台に行ったけど」
男「展望台に?」
友「今日が最後だし、落ち着いて話したいこともあるだろうしな」
男「そうだな」
展望台はこの公園で一番高い場所にあり、市街地を一望することが出来る。
あそこなら開放感もあるし、誰に気兼ねすることなく話をすることが出来るだろう。
友「それじゃあ、男。今から勝負しようぜ。負けた借りを返してやる」
男「おう、望むところだ!」
俺はコートに入り、ラケットを構える。
そして友がサーブを放つと、激しい打ち合いが始まった。
948
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:34:50 ID:xJEh8Rbw
・・・
・・・・・・
テニスコートを借りて、約2時間。
展望台に行っていた少女さんと友香さんが戻ってきて、俺たちはそろそろ帰ることにした。
受付にラケットなどを返却し、遊歩道を散策しながらバス停に向かう。
そんな中、俺はふと少女さんが春コートを着ていないことに気が付いた。
幽体の見た目を変えているだけだろうけど、ここに来たときに着ていた物を持っていないのは、何だか忘れ物をしてしまったみたいで気にせずにはいられない。
男「少女さん、春コートを脱いだまま忘れているんじゃない?」
少女「えっ?」
友香「そういえば、ベンチの上に置きっ放しだよね。でも、帰るときには無かったような……」
少女「それなら大丈夫だよ。あれは忘れ物じゃなくて、私の願いそのものだから」
949
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:35:30 ID:xJEh8Rbw
友香「願いそのもの?」
男「あっ、ああ……あれは幽体を切り離していたのか」
少女「そうだよ。みんなでお花見に来て、歌って騒いでテニスをして、私には大切な友だちがこんなにいるんだよってことを知ってもらいたかったの」
友香「そういうことだったんだ。少女の願い、私はレシピエントさんたちに届いていると思うよ」
少女「うん、私もそう思う!」
男「少女さん。幽体を切り離すときに痛いとか、そういうことは大丈夫だった?」
少女「そういうのは全然なかったです」
男「そうなんだ。それがちょっと心配だったから――」
友「それにしても、少女さんが自分で霊子線を切ったことは知っていたけど、まさか本当に幽体を切り離すことが出来るとはな」
少女「あれを切るのは大変だったけど、幽体を切り離すのは簡単でしたよ」
友「やっぱり、肉体に繋がっていないから切りやすいのか」
少女「多分そうだと思います」
950
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:36:01 ID:xJEh8Rbw
友香「ねえねえ、バスが来てるよ!」
男「ほんとだ。もうそんな時間なのか?」
双妹「出発時間はまだ大丈夫だから、そんなに慌てる必要はないと思うけど」
友「みんな、走れ〜っ」
友香「ちょっ……ええっ?! 友くん、待ってよお!」
出発時刻にはまだ間に合うのに、友が唐突に走り出した。
そんな友をなぜか友香さんが追いかける。
男「乗り遅れたら1時間待ちなのは分かるけど、あの二人は何がしたいんだ」
双妹「まあ、良いんじゃない? 二人とも楽しそうだし」
少女「そうだね。あっ、友くん、もう捕まったよ」クスクス
双妹「私たちも行こうか」
男「ああ、そうだな」
951
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:36:34 ID:xJEh8Rbw
俺たちは先に行った二人と合流し、バスに乗って願いの丘公園を出発した。
楽しかった時間が終わり、窓から見える街並みが俺たちを現実に引き戻していく。
友香「もうすぐ、お別れだね」
少女「そうだけど、もう少し一緒にいられるよ」
友香「……」
友香「どうして、こんなことになっちゃったんだろ――」
友香さんの表情が陰り、口を閉ざした。
車内が重い空気に包まれ、時間だけが過ぎていく。
やがてバスが北倉駅に到着し、俺たちは電車のホームに向かった。
952
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:37:04 ID:xJEh8Rbw
少女「友香ちゃん、電車が来るよ」
友香「……うん」
友香さんは力なく答え、重い足取りで電車に乗った。
そして、ドア付近に立ち尽くす。
友香さんと少女さんに残されている時間は、あとわずかだ。
展望台でたくさん話をしたのかもしれないけれど、このままだと何も言えずに別れることになってしまう。
友香さんはそれで良いのだろうか。
そんな心配をしていると、最寄り駅が近付いてきた頃、友香さんが顔を上げた。
その瞳には決意が込められていて、涙を堪えながら気丈な様子で言葉を紡ぎ始めた。
953
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:37:35 ID:xJEh8Rbw
友香「私、少女のことを尊敬してる」
少女「えっ?! それって、どうして?」
友香「だって、まだ学生なのにたくさんの患者さんを救ったから――」
少女「それを言うなら、私は友香ちゃんに感謝してる」
少女「私がドナーになれたのは、友香ちゃんがすぐに救命処置をしてくれたからなんだよ。私一人だけの力じゃなくて、多くの人が私を支えてくれたから想いを届けることが出来たの」
少女「だからね、人はみんなでみんなを支えて生きている。そのことだけは、絶対に忘れてはいけないと思ってるの」
友香「人はみんなでみんなを支えて生きている――か」
少女「友香ちゃん……」
少女「私の友達になってくれて、本当にありがとう!」
友香「……!」
友香「私こそ、少女は自慢の親友なんだからね!」
少女「うんっ!」
954
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:38:05 ID:xJEh8Rbw
電車が最寄り駅に到着し、ドアが開いた。
友香さんはこの先の駅で降りるので、俺たちとはここでお別れだ。
友香「もう、着いちゃった…………」
双妹「友香さん、一人で大丈夫かなあ」
友「それなら、俺が友香さんを送っていくから。ちょっと心配だし」
少女「そうだね。友くん、友香ちゃんのことをよろしくね」
友「ああ、任せてくれ」
男「それじゃあ、また何かあったら電話するから」
俺はそう言って、双妹と少女さんの3人で電車を降りた。
そして、白線の内側で振り返る。
すると、友香さんが声を張り上げた。
955
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:38:35 ID:xJEh8Rbw
友香「少女っ! 私、絶対に看護師になるから!」
友香「少女に負けないくらい、たくさんの人を笑顔にしてみせるからっ!」
少女「うんっ、頑張ってね! ずっと応援してるよ!」
友香「ありがとう」
友香「――さよなら」
その言葉と同時、電車のドアが閉められた。
友香さんが最後に見せた笑顔は涙で濡れていて、それでいて力強く輝いていて……。
そんな友香さんに、少女さんは電車が見えなくなるまで手を振り続けた。
956
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:39:05 ID:xJEh8Rbw
男「そろそろ帰ろうか」
双妹「そうだね」
少女「……」
友香さんとの別れがあり、俺たちは言葉も少なめに有人改札を通り抜ける。
そして、ふいに少女さんが立ち止まった。
男「どうかした?」
少女「いえ……その…………」
それだけを言い、少女さんは視線を俯けた。
きっと、友香さんのことで感傷的な気持ちになっているのだろう。
たとえ数日前から心の準備をしていたとしても、いざその時が来るとつらくて苦しいものなのだと思う。
957
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:39:36 ID:xJEh8Rbw
男「少女さん、行こう」
俺は優しく言って、少女さんの手を取った。
実際には手がすり抜けてしまったけど、少女さんは顔を上げて微笑んでくれた。
そして、ふわふわと歩き始める。
双妹「ねえ、成仏をする場所は自分の家でなくてもいいの?」
少女「よく分からないけど、別に自分の家でなくても大丈夫だと思います」
双妹「それなら、最後に少女さんと話したいことがあるし、今夜はうちに泊まって行かない?」
少女「ええっ?!」
男「俺も誘おうと思っていたんだけど、駄目かな」
少女「駄目って訳ではないけど、考えておきます」
双妹「もし家族と過ごしたいならそのほうが良いと思うし、無理はしなくていいからね」
男「まあ、そうだよな」
少女「……」
958
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:40:07 ID:xJEh8Rbw
〜自宅〜
俺たちは最寄り駅を出て、どことなく重たい足取りで市街地を歩く。
そして家に着いて中に入ると、少女さんは玄関で靴を脱いできれいに並べた。
いつもは見た目を変えていただけなので、その仕草がとても新鮮に感じられた。
男「少女さんが靴を脱いで並べるところ、初めて見たかも。もしかして、また幽体を脱いだってこと?」
少女「そうですよ。こうしてブーツを脱ぐと、男くんの家に来たんだなって実感するんです。今までは見た目を変えていただけだから」
男「実感する、か。言われてみれば、そうかもしれないな」
双妹「少女さんの靴が玄関に並んでいたら、やっぱり気持ちが違ってくるよね」
少女「生きていたら当たり前のことなのかもしれないけど、それはきっと素敵なことだと思うんです。だから、それが伝われば良いなって――」
男「そっか」
少女「それでは、お邪魔します」
959
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:40:37 ID:xJEh8Rbw
〜部屋〜
部屋に入ると、俺と双妹は並んで座り、ミニテーブルを挟んで少女さんと向かい合った。
沈黙が続いて少女さんは思い詰めたような表情をしているし、双妹はそんな少女さんの様子を窺っている。
俺はこれから少女さんの未練を叶えてあげることになるのかと思うと、何だか緊張してきた。
でも、まずはこの雰囲気をどうにかしなければならない。
男・双妹「今日のお花見、楽しかったね」
俺と双妹の声が重なり、お互いに顔を見合わせた。
そして、少女さんに苦笑する。
少女「はあっ、本当に二人とも息がぴったりだよね」
男「それはまあ、双子の兄妹だし」
双妹「そうそう」
少女「双子の兄妹……か」
960
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:41:08 ID:xJEh8Rbw
少女「あの日から、ずっと考えていたんです」
男「考えていたって何を」
少女「男くんと双妹さんが性行為をしていることは明らかなのに、どうして誰も本気で止めようとしないんだろうって」
男「その話はもう終わったはずだろ」
少女「終わってなんかない。私が赦したのは、少年くんに憑依されたときのことだけだもん」
双妹「それで、少女さんは何を言いたいの?」
少女「男くんと双妹さんは大学病院の双子研究に協力していますよね。その研究で男くんと双妹さんが一緒に採精室に入ることが許されているのは、それ自体が研究対象だからなんです」
男「それが研究対象って、どういうことだよ」
少女「近親者に対して性的な魅力を感じてしまうという心理的な現象があるんですけど、DNAの構造が近ければ近いほど好意的に感じて、お互いに強く求め合うようになると言われているんです。健康な異性一卵性双生児は前例がないし、それを調査しているのだと思います」
少女「男くんと双妹さんは利用されているんです!」
961
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:41:38 ID:xJEh8Rbw
男「利用されているって言われても、俺たちは普通に協力しているだけだし」
双妹「そうそう」
少女「そっか、男くんは『普通に協力しているだけ』って言っちゃうんだ」
少女さんは呆れたように言うと、表情を曇らせた。
今さらこんな事を言ってきて、どういうつもりなのだろうか。
せっかく雰囲気をどうにかしようと考えていたのに、険悪になってしまうだけじゃないか。
少女「ずっと、腑に落ちなかった。でも、やっと分かった」
男「分かったって、何がだよ」
少女「男くんが私に告白してくれたのは、私が憑依していたからなんだね」
男「そんなことは――」
少女「そんな事あるよ! 私は少年くんと同じことが出来る憑依霊なんだから」
962
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:42:08 ID:xJEh8Rbw
男「少女さんはあいつと同じじゃないだろ」
少女「あの日、巫女さんが男くんの霊障を祓ってから、私への気持ちがどんどん離れてる。だから、私が憑依していたことが関係無いはずがないの」
少女さんはそう言うと、おもむろにブラウスのボタンを外し始めた。
その突飛もない行動に俺と双妹は驚いたが、それを気にすることなく少女さんはブラウスを脱ぎ捨てる。
そして、ふわりと浮かんでパンツを下ろした。
男「んなっ?!」
双妹「少女さん、何をするつもりなの?!」
少女「何って、男くんはこの下着、覚えてる?」
男「えっ……いや、はじめて見るんだけど――」
フリフリが可愛いピンク色のベビードールと扇情的なショーツ。
双妹が着てくれたらセクシーで似合いそうだけど、少女さんは小柄で胸もないので子どもっぽさが際立ってしまっているような感じがする。
これなら、普通のブラジャーや水着を着ているほうが可愛いと思う。
963
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:42:39 ID:xJEh8Rbw
少女「そっか、覚えてないんだ。これはね、初めてのデートで男くんが選んでくれたランジェリーなんだよ」
男「そうだっけ」
少女「そうだよ。あのときは私が着たところを見たいって言ってくれたのに、今は双妹さんに着てもらいたいと思っているんだね」
男「そんな訳ないだろ」
双妹「それはさすがに被害妄想なんじゃないの?」
少女「そうでもないよ。私には、男くんと双妹さんの考えていることが何となく分かるんだから」
男・双妹「考えていることが分かる?!」
少女「男くんと双妹さんはブレスレットの力で私の霊波動と共振しやすい状態になっているから、私たちはお互いに影響を受けやすくなっているんです」
964
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:43:09 ID:xJEh8Rbw
双妹「何、それ……」
双妹は不快感をあらわにして、少女さんを見据えた。
やっぱり、考えていることが分かるというのは気持ちが良いものではない。
幽体が少なくなると霊的に触れ合うことが出来るようになるとは聞いていたけれど、こんなことが出来るようになるとは思いも寄らなかった。
少女「双妹さんはあの日、私に言ったよねえ。生きていたときの常識で恋愛するのはやめた方がいいって」
双妹「言ったけど、こんなのって――」
少女「おかしいですか?」
双妹「おかしいに決まってるじゃない! 男の気持ちと身体を操って、考えていることも分かるだなんて!」
少女「だって、私はもう死んでいるし、憑依霊だから普通の人の恋愛観なんて関係無いんです。それは双妹さんも同じはずですよね?」
双妹「それは――」
965
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:43:40 ID:xJEh8Rbw
少女「男くん、答えて」
少女「私と双妹さん、どっちのことが好きなんですか!」
少女さんは真剣な表情を見せ、声を振り絞るようにして問いただしてきた。
俺はその言葉を受けて、双妹と視線を交わす。
そして、少女さんの目を見詰めた。
今は付き合っていることになっているんだし、最後に少女さんの望む言葉をかけてあげるべきなのかもしれない。
だけど、冗談でもそれを言うことは出来ない。
男「俺は少女さんの未練を叶えてあげたい。だから、少女さんの気持ちを大切にしたいと思ってる」
少女「そっか、ありがとう」
少女さんはそう言うと緊張の糸が切れたのか、全身を脱力させた。
そして、口元を緩めた。
少女「それならば、私と別れてください」
966
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:44:10 ID:xJEh8Rbw
男「別れるって、どういうことだよ」
少女「このランジェリーを着てみて、私は男くんとはじめてデートに行ったときのことを思い出したんです」
男「思い出した?」
少女「あのとき、私は自分の気持ちに囚われていて、あまり男くんの気持ちを考えていませんでした。だから、今は男くんの気持ちを大切にしてあげたいと思うんです」
男「……」
少女「残念だけど、男くんは双妹さんのことが好きなんだよね? 私のことを好きだと言いたくないから、『私の気持ちを大切にしたい』とか言って誤魔化したんだよね?」
男「でも、少女さんと別れたら未練を叶えることが出来なくなってしまうじゃないか!」
俺は笑顔で成仏させてあげると約束したんだ。
それなのに、どうすれば未練を叶えてあげることが出来るのか分からない。
このままだと、少女さんは――。
967
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:44:40 ID:xJEh8Rbw
少女「男くんは友香ちゃんと友くんを見て、何も感じないんですか?!」
男「二人は仲が良くなってきたなとは思うけど、それがどうしたんだよ」
少女「やっぱり、何も感じていないんですね」
男「だから、どういうことだよ」
少女「恋愛って、いつの間にかその人のことが好きになっていて、告白して二人で一緒に育んでいくものだと思うんです。その過程で触れ合いたいと思うようになって、愛し合うようになるんです」
少女「だけど、今の男くんは双妹さんのことばかり見ていて、それがない。だから、男くんが未練を叶える必要はもうないんです」
男「……っ」
何かを言わなければならないのに、何も言い返すことが出来ない。
少女さんは、もう俺を必要としていないのだ。
968
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:47:03 ID:xJEh8Rbw
双妹「少女さんは成仏が出来なかったら、魂が壊れてしまうんでしょ。それでも良いの?!」
少女「私は魂が壊れてしまうとしても、自分の気持ちを大切にしたい。とっくに終わっている恋愛に執着するのではなくて、新しい出会いを探したい。マイノリティーだから難しいかもしれないけど、それが『立ち止まらない』ということだと気付いたんです」
双妹「そっか。次に進むことも、立ち止まらないということだもんね」
少女「うん」
双妹「でも、少女さんには次なんて無いでしょ」
少女「確かに私には次が無いけど、私の気持ちを受け取ってくれる大切な人たちには未来があるから――。だから、私は想いを託すことにしたんです」
双妹「想いを託す?」
少女「そうだよ」
969
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:47:34 ID:xJEh8Rbw
少女「私は恋愛が成就したとしても、それで未練がすべて叶うとは思わない。お姉ちゃんみたいに結婚したいし、子どもも欲しい。看護師にもなりたいし、好きな本もいっぱい読みたい」
少女「したいことは、まだまだたくさんあるんです!」
少女「だけど、私の大切な人たちが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私にとっての幸せだなって感じるんです」
少女さんは慈愛に満ちた表情で想いを馳せる。
そんな彼女の優しい想いが、俺にも伝わってきたような気がした。
男「少女さんの気持ち、分かったよ」
少女「そうですか。良かったです」
男「俺たち、もう終わりにしよう」
少女「はい。私を好きになってくれてありがとうございました――」
970
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:48:04 ID:xJEh8Rbw
少女さんとの交際が終わった。
感じるものは、少女さんの優しさと無力感。
結局、俺は未練を叶えてあげることが出来なかった。
少女「……」
少女「ところでですね、私は本当に男くんと双妹さんに出会えて良かったと思っているんですよ。二人がいなかったら、きっと自分を見失っていたと思うから」
男「いや、俺は何も出来なかったし」
双妹「男はともかく、どうして私も?」
少女「小説の読みすぎだと思われるかもしれないけど、少年くんに呪い殺されて絶望するはずだった私の運命を価値のあるものに変えてくれたのが、男くんと双妹さんだからなんです」
双妹「それは言いすぎじゃないかなあ」
少女「そんな事はないよ。二人が異性一卵性双生児だったことも近親相姦をしていたことも、私には必要なことだったんです」
971
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:49:28 ID:xJEh8Rbw
男「それって、どういう事?」
少女「最初に疑問に思ったのが、近親相姦をしていた男くんと双妹さんがどうして私や同級生の男子を好きになったのか、ということです。二人には背徳感のようなものがあったのかもしれないけど、それとは別の意味があったことに気が付いたんです」
男「気が付いたって、何に」
双妹「ちょっと待ってよ。あれは好きだったんじゃなくて、気になっていただけだから!」
少女「それはどっちでもいいんだけど、中学2年生のとき、男くんは双妹さんが気になっていた人と乱闘騒ぎを起こしましたよね」
男「あったな、そんなことも……」
少女「それでみんなが双子の話題をしなくなったから、私は双妹さんのことを兄妹だと知りませんでした。もし知っていたら、バレンタインチョコを買いに行った日、男くんに出会っても悩むことはなかったと思うんです」
少女「つまり、男くんと双妹さんが他の人に目移りをしたのは、私が恋愛で悩んで呪い殺されるために必要な出来事だったからなんです」
972
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:49:59 ID:xJEh8Rbw
双妹「それってさあ、少女さんが死んだのは私たちのせいだって、遠まわしに言ってる?」
少女「そうは言ってないです」
少女「あのときはマスコミの記事や少年くんの自殺のことで悩んでいたから呪い殺される理由はたくさんあるし、その……ぬいぐるみに相談するタイミングとか内容が変わっただけだと思うんです。ただ、私が男くんに告白する決意をしていて双妹さんのことを兄妹だと知っていたなら、私は絶対に死んでなんかいないと言い切れます」
双妹「やっぱり、嫌味に聞こえるし」
少女「まあ、それはともかく、男くんと双妹さんが異性一卵性双生児だってことも、私には必要なことだったんですよ」
男「それはどうして?」
少女「この前、友香ちゃんが看護師を目指している理由を話してくれたんだけど、男くんと双妹さんのことをテレビで見たかららしいんです」
男「ああ、そうらしいな」
少女「友香ちゃんと出逢っていなければ、少年くんに呪われて自殺をしてしまったとき、発見が遅れてそのまま死んでいたと思う。私がドナーになることが出来たのは、男くんと双妹さんが一卵性双生児だったからなんです」
973
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:50:29 ID:xJEh8Rbw
男「そっか。俺と双妹がいたから、少女さんの命がみんなにつながったのか」
少女「そうです。男くんと双妹さんのおかげで、私は生きた証を残すことが出来たんです。そして、男くんと双妹さんの関係を知ってしまったおかげで、最後まで学校に通うことが出来ました。不愉快な思いもしたけれど、それは感謝しています」
双妹「少女さん、もしかして――」
双妹がはっとした声で言うと、少女さんは苦笑した。
少女「男くんと双妹さんが愛し合うことで救われた人が大勢いる。そう考えると、気に入らないけど認めたほうが良いのかなって」
双妹「ありがとう! ねえ、男!!」
男「えっ、ああ……そうだな」
双妹「言っておくけど、前言撤回なんてさせないんだからね!」
少女「しないし」
双妹「それなら良いんだけど、ちょっと意外だったかも」
少女「まあ、そのほうが良いと思うから――」
974
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:50:59 ID:xJEh8Rbw
少女「ところで、今日みんなでお花見に行ったでしょ。実はさくらの木、ソメイヨシノがすべてクローン植物だということは知ってますか」
双妹「それくらいは常識だと思うんだけど、唐突に何の話?」
少女「えっとですね、男くんと双妹さんは一卵性双生児だから、ソメイヨシノに似ているなと思うんです」
男・双妹「言われてみれば、確かに!」
まさしく、目から鱗。
一卵性双生児は体細胞クローンと同じようなものだ。
言われてみれば、俺たちはソメイヨシノと同じなのかもしれない。
少女「ふふっ、ですよねえ」
少女「ちなみに、ソメイヨシノには自家不和合性という性質があって、同一個体の花粉では受粉しないんです。しかも、ソメイヨシノはすべてクローンだから違う木も同じ個体なんです」
975
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:51:29 ID:xJEh8Rbw
双妹「それって、もしかして皮肉のつもり?」
少女「双妹さんにはそう聞こえるんですか。さくらの花には自家受粉を防ぐシステムが備わっているのに、どうして、人は双子の兄妹で性行為をするんでしょうね」
双妹「好きなんだから普通のことでしょ」
少女「でも、子どもを作るのはやめたほうが良いと思うんです」
少女さんはそう言うと、ちらりと俺を見た。
そのことについては、双妹と何度か話をしたことがある。
お互い特に考え方が違うなんてことはないけれど、今は責任を取れないので早いと思う。
少女「ああ、それとですね、ソメイヨシノは全国各地に人の手で植樹されているから自生していた野生のさくらと交雑してしまって、ソメイヨシノによる遺伝子汚染が問題になっているそうなんです。それについて、どう思いますか?」
少女さんが不敵に笑う。
きっと、俺と双妹に『他の人と恋愛をするな』と釘を刺しているつもりなのだろう。
976
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:51:59 ID:xJEh8Rbw
男「どう思うかって、さくらの木に例えなくても直接言えばいいだろ。他の人と恋愛するなって」
少女「それだけだと、私の気持ちが男くんと双妹さんに届かないじゃないですか」
男・双妹「届かない?」
少女「そう! さくらの花と関連付けることで、男くんと双妹さんはさくらの花が咲くたびに私のことを思い出すんです」
男「そんなことをしなくても、俺は少女さんのことを忘れたりしないのに」
双妹「そうだよね。私も少女さんのことは忘れないよ」
少女「分かってないですねえ。私は憑依霊……なんだよ」
少女さんがミニテーブルの上に身を乗り出し、俺たちを見据えた。
その冷たい表情とピンク色のベビードールが妖艶な美しさをかもし出す。
それはとても官能的で儚さも感じさせ、俺は射竦められたかのように視線を外すことが出来なくなった。
977
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:52:30 ID:xJEh8Rbw
双妹「な、何をするつもり?!」
少女「ふふふっ」
少女「男くんと双妹さんは、世界中でたった一組しかいない奇跡の異性一卵性双生児。その奇跡は兄妹で愛し合い、ずっと一緒にいることで輝き続けることが出来るんです。さくらの花が咲いて舞い散っていく、その美しさでみんなの心を魅了するように――」
少女さんは妖しく笑うと、ふわりと浮かび上がった。
ベビードールが揺れて艶かしい素足が目に入り、誘うようにして俺のベッドに移動する。
そして腰を下ろすと、嗜虐的な視線を向けてきた。
少女「男くんに双妹さんを愛する覚悟があるというのなら、私のヘアピンを外してください」
男「ヘアピンを?」
俺がバレンタインデーのお返しで渡した、さくらの花のモチーフが付いたヘアピン。
それを外すということは想いを断ち切るということだ。
しかし、憑依霊であることを強調した少女さんがそんな事をするのは、何となく違和感がある。
978
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:53:07 ID:xJEh8Rbw
少女「その顔、私のことを恐れているんですか」
男「そういう訳じゃないけど――」
少女「さくらの木の下には死体が埋まっているって話、聞いたことがありますよね? 男くんが双妹さんを選ぶというのなら、それくらいの覚悟を持つべきだと思うんです」
男・双妹「……!」
それは強烈な自嘲だった。
さくらのヘアピンを外すことは想いを断ち切ることではなくて、少女さんの意思を受け止めるということ。
少女さんの容姿や雰囲気に惑わされず、己の意志を貫くということ。
男「分かったよ。少女さんの言う通りだ」
少女「では、お願いします」
979
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:53:48 ID:xJEh8Rbw
双妹「男、待って! そのヘアピンを外したら、少女さんの気持ちがみんなに伝わるんじゃないの?!」
男「だろうな」
双妹「だろうなって、少女さんの臓器を移植された人の中には小学生の女の子がいるんだよ。中学生くらいの男子もいたはずだし、それっていいのかな」
男「これはあくまでも俺と双妹の問題だろ。少女さんの気持ちがどんな形で伝わるのかは分からないけど、それを受ける止めることも俺たちにとって必要なことだと思う」
双妹「そ……そうかもね。男がそう言ってくれるなら、私も覚悟を決めようと思う。これからは本気で男と向き合っていくから!」
その決意の言葉を聞いて、俺は立ち上がった。
そして少女さんに歩み寄り、側頭部のヘアピンに手を伸ばす。
――バチッ!
ヘアピンに触れた瞬間、静電気のような衝撃に驚いてとっさに手を引いた。
もしかして、少女さんの霊的な力が強くなったから触ることが出来るようになったのか?!
もしそうだとするならば、ヘアピンを外した振りではなくて、本当に触って外すことが出来る。
980
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:54:19 ID:xJEh8Rbw
少女「本当に残念ですね」
少女「ようやく触れ合えるようになったのに、こんな形で触れ合うことになるだなんて」
俺は何も答えることが出来ず、ただ手を伸ばす。
すると、確かに少女さんはそこにいた。
側頭部から感じる温もりと、指先に絡むさらさらとした髪の毛。
そして霊波動が干渉したのか、少女さんの想いが流れ込んできた。
Ne m'oubliez pas
この別れはあなたが未来へと進んでいくためのもの。
死はつらくて悲しいものだけど、それはあなたと私をつなぐ大切な絆でもあるんだよ。
だから、私はあなたの中で支え続けていけることをうれしく思っています。
楽しいときも悲しいときも、私は絶対に立ち止まったりしない。
あなたが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私の幸せです。
981
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:54:51 ID:xJEh8Rbw
少女「っ!」
ヘアピンを外すと、少女さんが息を呑んだ。
そして、そのまま力なくベッドの上に倒れ込む。
少女「私を……忘れないで」
その声は少し弱々しくて、儚げな表情で口元に笑みを浮かべていた。
何か異常な事態が起こっている。
そう理解した瞬間、少女さんの身体が光の粒子に変わって弾け飛んだ。
それは花火のようにキラキラと輝き、音もなく消えていく。
男・双妹「少女さんっ!?」
もう、そこに少女さんの姿はない。
ベッドの上にはベビードールとショーツだけが残され、それもすぐに溶けるようにして消えていった。
982
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:55:21 ID:xJEh8Rbw
双妹「もしかして、成仏したのかな」
男「たぶん魂が壊れたんだと思う。幽体がほとんど残っていなかっただろうし」
双妹「……そっか」
俺の手には、さくらのヘアピンがまだ消えずに残っている。
つまり、この幽体には少女さんの強い思いが込められていたということなのだろう。
最期に可能な限りありったけの想いを伝えるために――。
双妹「これで良かったんだよね。魂が壊れてしまうとしても、自分の気持ちを大切にしたいって言ってたから」
男「確かにそう言っていたけど、それはどうなんだろうな。少女さんの魂が壊れてしまったのは俺のせいだろうし、俺は少女さんの気持ちに応えないといけないと思うんだ」
双妹「少女さんの気持ちに応えないといけない……か」
双妹はやるせない表情で口にすると、俺に歩み寄った。
そして、さくらのヘアピンを手に取る。
983
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:55:53 ID:xJEh8Rbw
双妹「それで、どうするの?」
男「それは双妹も分かっているんだろ」
俺はそう言うと、双妹を力強く抱き締めた。
すると、双妹は少しためらって俺を抱き締めてきた。
俺と双妹は世界中でたった一組しか存在しない異性一卵性双生児。
誰よりも分かり合うことが出来て、誰よりも一緒にいたいと思える大切な女性。
その双妹と『ひとつ』になることが、少女さんの気持ちに応えることになる。
いや、それは口実で俺自身がそうしたいのだ。
双妹と一緒にセックスをしたい。
コンドームもあるし、それが双妹に伝えたい俺の本心だ。
男「双妹、好きだよ。今夜、ここでゆっくりと話をしたい」
双妹「いいよ。私も……男が好き//」
男「ありがとう。それじゃあ、10時頃に迎えに行くから」
双妹「うん、待ってる。今夜は私たちにとって大切な日にしようね//」
984
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:56:24 ID:xJEh8Rbw
(4月1日)fri
〜男の部屋・双妹〜
目が覚めると、いつも使っている抱き枕が男になっていた。
しっかりとした抱き心地の筋肉質な身体と、太ももに感じる何か硬いもの。
あっ、ああ……思い出した。
私はあのあと、そのまま男と一緒に寝たんだった。
何だか不思議。
毎日のように見ていた男の寝顔が今はとても愛おしくて、お腹に感じる鈍い違和感も幸せな気持ちで心を満たしてくれる。
私たち、本当にセックスをしちゃったんだね。
挿入されたときは少し痛かったけど、同じ双子だからなのかなあ。
すぐに私のことを分かってくれて、気が付くと男を受け止めたい衝動に突き動かされていた。
あのときは心と身体がつながって、本当に『ひとつ』なっていたと思う。
ふふっ♪
好きな人とのセックスって、こんなに幸せな気持ちになれるんだ。
985
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:56:54 ID:xJEh8Rbw
私は男を起こさないように少し離れて、棚に目を向けた。
そして、こうなることを見越して用意しておいた婦人体温計を手に取り、口にくわえる。
今は生理周期の把握と体調管理に利用しているだけだけど、いつか妊活に利用する日が来たりするのかな。
そんなことを考えつつ、ぼんやりと天井を眺める。
すると、部屋が少女さんの幽体の気配で満たされていることに気がついた。
そういえば、いつの間にかヘアピンが消えている。
恐らくそれが溶けて広がっただけなんだろうけど、ふとした疑問から不安が込み上げてきた。
少女さんは最後に、『私は憑依霊なんだよ』と言っていたよね。
もしかして、少女さんは私たちに魂が壊れたと思い込ませているだけなんじゃないの?
実際、公園でテニスをしたとき、少女さんは私の姿が自分の姿に見えるように視覚を操作していた。
しかもそれだけではなくて、少女さんは身体や感覚器官を操ることが出来るし、頭で考えていることも読み取ることが出来る。
そんな少女さんと霊波動が共振して影響を受けやすくなっていたのなら、記憶や感情を操作することも簡単に出来てしまうかもしれない。
私たちの気持ちは、本当に私たちの心からの気持ちなのかな――。
986
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:57:25 ID:xJEh8Rbw
男「双妹、その……おはよう」
しばらくして、男が目を覚ました。
ちょっと気まずそうな表情で、何だかいつもよりよそよそしい。
私はそのことに不安を感じつつ、婦人体温計をくわえたまま「おはよう」と返す。
男「何て言えば良いんだろ。初めて一緒にああいうことをして、こうして顔を合わせるのって少し恥ずかしいって言うか、ちょっと照れくさいな//」
双妹「ぅん」
男「でも、双妹との距離がすごく近付いたと思う」
男は優しい声で言って、私の身体に触れた。
それがとても心地よくて、すごくほっとする。
やっぱり、私は男のことが好きなんだ。
だけど、それが少女さんに作られた感情だとしたら私は自分を信じることが出来なくなってしまう。
987
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:57:56 ID:xJEh8Rbw
男「それはそうと、何か悩んでる?」
双妹「……んっ」
男「兄妹でセックスをしたことで悩んでいるなら、俺はどんなことでも双妹と分かち合って支えていきたいと思ってるし、何の覚悟もせずに妹とセックスをしたりなんてしないから」
早く聞いて欲しい。
その言葉が作られたものではないことを信じたい。
私は検温が終わると同時、基礎体温を確認するよりも先に気持ちを吐き出した。
男と『ひとつ』になることが出来て、とても幸せなこと。
だけど、それが少女さんに作られた偽りの感情なのかもしれないこと。
双妹「ねえ、どっちなんだろ」
男「どっちって?」
双妹「少女さんは私たちの恋愛を応援してくれているのか、それとも、悪意を持って縛りつけようとしているのか」
988
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:59:03 ID:xJEh8Rbw
男「きっと、両方だろうな」
双妹「両方?」
男「自分の気持ちを大切にしたいと言っていた少女さんが、俺たちの感情を作り変えたりする訳がないだろ。でも、快く思っていないのも事実だと思う。だから、ソメイヨシノの話をしてきたんじゃないかな」
双妹「ああ、あの話――」
男「それに今日はエイプリル・フールなんだから、自分の気持ちに嘘を吐けばいいじゃないか」
双妹「ちょっと待ってよ。それって関係ある?!」
男「あるに決まってるだろ。不安だと思う気持ちは少女さんが作った嘘で、幸せな気持ちが双妹の本当の気持ちなんだよ」
双妹「その言葉が嘘だったりしない?」
男「どうなんだろ。今日はエイプリル・フールだからな」
……はあっ。
何だか、悩んでいた私が馬鹿みたいだ。
989
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 22:59:34 ID:xJEh8Rbw
男「でもさあ、少女さんも言っていたけど、兄妹でセックスをしたことは大変なことだと思う。きっと理解されないだろうし、これからつらいことがたくさんあると思う」
双妹「そうだよね」
男「それでも俺は双妹を大切にしたいし、双妹と一緒なら乗り越えていけると信じてる」
双妹「私も男を信じてる。好きだよ!」
私は心からの笑顔を向けて、男と唇を重ねた。
そして、棚の上に用意しておいた基礎体温表を手に取る。
これからどんなことが起きても、絶対に負けたりしない。
少女さんの幽体の気配が薄くなっていく中、私は改めて覚悟を決めた。
だから、本当のことを記入した。
日付が変わって深夜にしたこと。
基礎体温表の4月1日、私たちの記念日にハートのマークを――。
990
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:00:13 ID:xJEh8Rbw
(エピローグ)
〜自宅・女さん〜
9月1日、木曜日。
わたしは久しぶりに緊張する朝を迎えていた。
心臓移植が無事に終わって、今日から学校に通うことが出来るからだ。
不安がないといえば嘘になる。
同級生の友達はみんな卒業してしまったし、新しいクラスの人に受け入れてもらえるとは限らない。
わたしは年上だし、身体のこともあるし、たくさん迷惑を掛けるかもしれない。
それでも、この日が来ることをずっと楽しみにしていた。
ドナーさんのおかげで、わたしは新しい可能性を掴み取ることが出来る。
4月から復学して課題をちゃんと提出しているし、2年間のブランクなんてすぐに取り戻してみせるんだから!
女「わたしは絶対に立ち止まったりしない」
不思議と勇気が出てくる言葉。
それを声に出して、久しぶりに制服に着替えた。
991
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:00:44 ID:xJEh8Rbw
〜学校・女さん〜
外は日差しが強く、残暑がとても厳しい。
わたしはマスクをして、水分補給にも気をつけて、移植心に負担が掛かっていないか気をつけながら通学路を歩く。
そして、学校に着いたときには疲れてへとへとになっていた。
わたしは校舎に入って少し休み、予鈴が鳴ったので職員室に向かう。
そして、担任の先生に挨拶をした。
先生は頻繁に家庭訪問をしてくれたし、休学を決めたときの担任でもあるのですごく安心できる。
女「おはようございます!」
先生「女さん、おはよう。身体のほうは、もう大丈夫なのかな」
女「いろいろと気を付けなければならないことがあって大変ですけど、通学が出来るくらいまで良くなりました。きっとご迷惑をお掛けすると思いますが、またよろしくお願いします」
先生「ああ、簡単に言って良いことじゃないのかもしれないけど、こうして戻って来てくれて本当にうれしいよ。また、みんなと頑張ろう」
女「はいっ!」
992
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:01:14 ID:xJEh8Rbw
先生と話していると、HRのチャイムが鳴った。
この時間は先生と体育館に移動して、教員の列に並んで始業式に参加することになっている。
それが終われば、今度はクラスメイトに自己紹介をしなければならない。
ちゃんと受け入れてもらえるかな。
緊張と不安で胸がいっぱいで、校長先生の言葉が頭に入ってこない。
気がつくと始業式が終わっていて、声を掛けられた。
先生「もう戻る時間だけど、疲れたなら保健室に行こうか?」
女「いえ、自己紹介をどうするか考えていただけなので」
先生「ははは、そういうことか」
先生は軽く笑い、職員室へと歩き始めた。
わたしもそれについて歩く。
そして職員室で説明を受け、教室に移動するときが来た。
993
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:01:44 ID:xJEh8Rbw
廊下を歩き、わたしの教室に向かう。
そこは休学をする前に使っていた教室だった。
きっと、わたしの不安が軽くなるように校長先生が配慮してくれたのだと思う。
そう考えると、とても幸せだなと感じた。
もう大丈夫。
わたしは立ち止まったりしない。
その表情に気付いたのか、先生がわたしに目配せをして教室のドアを開けた。
まずは先生だけが入り、今日から戻ってくる生徒がいることを話す。
そして教室に入ってくるように促され、わたしは新しい世界に一歩を踏み出した。
女「ええっ!」
教室に入ってすぐ、知っている人がいたので思わず声が出てしまった。
彼もわたしの顔を見て、驚いた表情をしている。
まさか友くんが同じクラスだったなんて、これってもしかして運命の出会いだったりするの?!
994
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:02:15 ID:xJEh8Rbw
友くんは今年の3月に病室に現れた不審人物のひとり。
それから4月に退院して、夏休みに夏を感じたくて水着売り場に行ったときに偶然出会った人だ。
そのときに驚いたのは、わたしが心臓移植をしたことを知っていたことだ。
彼は霊感が強いらしくて、そういったものを感じることが出来るらしい。
そして彼には友香さんという看護師志望の彼女がいて、二人が水着を買ったあとにしばらく3人で話をすることになった。
その日は聞かなかったけど、いや、これからも聞くつもりはないんだけど……。
友香さんの雰囲気から察して、少女さんという人がわたしのドナーさんなのかもしれない。
そう考えると少し気まずいけれど、この二人との出会いはきっと偶然ではない何かがあるのだと思う。
先生「女さん、こっちに」
女「あっ、はい」
わたしは友くんに軽く手を振って、先生の隣に移動した。
みんなからの視線を感じる。
だけど、知っている人がいるのは心強い。
995
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:02:46 ID:xJEh8Rbw
先生「それじゃあ、自己紹介をしてくれるかな」
女「はい」
女「……あの、初めまして。わたしは女と言います」
女「わたしは心臓の病気でずっと休学をしていたのですが、難しい手術が成功して学校に通うことが出来るようになりました。だけど、今も薬を飲み続けなければならなくて、生活面でも気を付けなければならないことがたくさんあります」
女「そのことで迷惑を掛けてしまうことがあるかもしれませんけど、わたしはみんなと一緒に卒業できるように頑張りたいと思っています。2歳年上だけど先輩ではなくて同級生なので、気軽に話しかけてもらえたらうれしいです」
女「そんなわたしですが、これからよろしくお願いします」
自己紹介が終わり、教室を見渡した。
少し戸惑っている表情の人が多いけれど、伝えたいことは言ったので、わたしから歩み寄る努力をすれば大丈夫だ。
先生「女さん、ありがとう。あそこの空いている席に座ってください」
女「分かりました」
996
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:03:17 ID:xJEh8Rbw
わたしはこっそりとスマホを操作している友くんの脇を抜け、一番後ろにある自分の席に向かう。
もしかして、友香さんにメッセージを送っているのかなあ。
そんな事を考えつつ含み笑いをしていると、わたしの席のひとつ前に座っている女子生徒と目が合った。
しかも、その隣に座っている男子生徒も同じようにわたしを見ているようだ。
まだどんな人か知らないけれど、通りすがりに軽く会釈をして席に着く。
そして、教室の外に目を向けた。
どこまでも広がっている、夏の青空と住宅街から感じる人々の営み。
2年前と変わらない光景がそこにはあり、帰ってきたんだという実感が込み上げてきた。
わたしは今、たくさんの希望を感じて心が弾んでいる。
わたしの人生が今、ここから未来に向かって動き始めるんだ!
女「ふふっ、ただいま♪」
この気持ちを大切にしたくて、わたしはそっと声に出す。
するとそれを聞かれてしまったらしく、さっきの二人が困惑した表情を向けてきた。
そんな二人に、わたしは笑って誤魔化した。
997
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:03:54 ID:xJEh8Rbw
少女「私を忘れないで」
―おわり―
998
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/20(水) 23:13:05 ID:xJEh8Rbw
ここまで読んでくださってありがとうございました!
機会があれば、またよろしくお願いします
こちらは過去に書いたSSです
http://binchan03.blog.fc2.com/
999
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/21(木) 08:17:01 ID:pfchqdnA
おつです
エッチなアプリの人だったんですね
過去作もほとんど読んでました
次回作楽しみにしてます
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