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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI :2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

950 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:36:01 ID:xJEh8Rbw
友香「ねえねえ、バスが来てるよ!」

男「ほんとだ。もうそんな時間なのか?」

双妹「出発時間はまだ大丈夫だから、そんなに慌てる必要はないと思うけど」

友「みんな、走れ〜っ」

友香「ちょっ……ええっ?! 友くん、待ってよお!」


出発時刻にはまだ間に合うのに、友が唐突に走り出した。
そんな友をなぜか友香さんが追いかける。


男「乗り遅れたら1時間待ちなのは分かるけど、あの二人は何がしたいんだ」

双妹「まあ、良いんじゃない? 二人とも楽しそうだし」

少女「そうだね。あっ、友くん、もう捕まったよ」クスクス

双妹「私たちも行こうか」

男「ああ、そうだな」

951 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:36:34 ID:xJEh8Rbw
俺たちは先に行った二人と合流し、バスに乗って願いの丘公園を出発した。
楽しかった時間が終わり、窓から見える街並みが俺たちを現実に引き戻していく。


友香「もうすぐ、お別れだね」

少女「そうだけど、もう少し一緒にいられるよ」

友香「……」

友香「どうして、こんなことになっちゃったんだろ――」


友香さんの表情が陰り、口を閉ざした。
車内が重い空気に包まれ、時間だけが過ぎていく。
やがてバスが北倉駅に到着し、俺たちは電車のホームに向かった。

952 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:37:04 ID:xJEh8Rbw
少女「友香ちゃん、電車が来るよ」

友香「……うん」


友香さんは力なく答え、重い足取りで電車に乗った。
そして、ドア付近に立ち尽くす。

友香さんと少女さんに残されている時間は、あとわずかだ。
展望台でたくさん話をしたのかもしれないけれど、このままだと何も言えずに別れることになってしまう。
友香さんはそれで良いのだろうか。

そんな心配をしていると、最寄り駅が近付いてきた頃、友香さんが顔を上げた。
その瞳には決意が込められていて、涙を堪えながら気丈な様子で言葉を紡ぎ始めた。

953 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:37:35 ID:xJEh8Rbw
友香「私、少女のことを尊敬してる」

少女「えっ?! それって、どうして?」

友香「だって、まだ学生なのにたくさんの患者さんを救ったから――」

少女「それを言うなら、私は友香ちゃんに感謝してる」

少女「私がドナーになれたのは、友香ちゃんがすぐに救命処置をしてくれたからなんだよ。私一人だけの力じゃなくて、多くの人が私を支えてくれたから想いを届けることが出来たの」

少女「だからね、人はみんなでみんなを支えて生きている。そのことだけは、絶対に忘れてはいけないと思ってるの」

友香「人はみんなでみんなを支えて生きている――か」

少女「友香ちゃん……」

少女「私の友達になってくれて、本当にありがとう!」

友香「……!」

友香「私こそ、少女は自慢の親友なんだからね!」

少女「うんっ!」

954 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:38:05 ID:xJEh8Rbw
電車が最寄り駅に到着し、ドアが開いた。
友香さんはこの先の駅で降りるので、俺たちとはここでお別れだ。


友香「もう、着いちゃった…………」

双妹「友香さん、一人で大丈夫かなあ」

友「それなら、俺が友香さんを送っていくから。ちょっと心配だし」

少女「そうだね。友くん、友香ちゃんのことをよろしくね」

友「ああ、任せてくれ」

男「それじゃあ、また何かあったら電話するから」


俺はそう言って、双妹と少女さんの3人で電車を降りた。
そして、白線の内側で振り返る。
すると、友香さんが声を張り上げた。

955 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:38:35 ID:xJEh8Rbw
友香「少女っ! 私、絶対に看護師になるから!」

友香「少女に負けないくらい、たくさんの人を笑顔にしてみせるからっ!」

少女「うんっ、頑張ってね! ずっと応援してるよ!」

友香「ありがとう」


友香「――さよなら」


その言葉と同時、電車のドアが閉められた。
友香さんが最後に見せた笑顔は涙で濡れていて、それでいて力強く輝いていて……。
そんな友香さんに、少女さんは電車が見えなくなるまで手を振り続けた。

956 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:39:05 ID:xJEh8Rbw
男「そろそろ帰ろうか」

双妹「そうだね」

少女「……」


友香さんとの別れがあり、俺たちは言葉も少なめに有人改札を通り抜ける。
そして、ふいに少女さんが立ち止まった。


男「どうかした?」

少女「いえ……その…………」


それだけを言い、少女さんは視線を俯けた。
きっと、友香さんのことで感傷的な気持ちになっているのだろう。
たとえ数日前から心の準備をしていたとしても、いざその時が来るとつらくて苦しいものなのだと思う。

957 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:39:36 ID:xJEh8Rbw
男「少女さん、行こう」


俺は優しく言って、少女さんの手を取った。
実際には手がすり抜けてしまったけど、少女さんは顔を上げて微笑んでくれた。
そして、ふわふわと歩き始める。


双妹「ねえ、成仏をする場所は自分の家でなくてもいいの?」

少女「よく分からないけど、別に自分の家でなくても大丈夫だと思います」

双妹「それなら、最後に少女さんと話したいことがあるし、今夜はうちに泊まって行かない?」

少女「ええっ?!」

男「俺も誘おうと思っていたんだけど、駄目かな」

少女「駄目って訳ではないけど、考えておきます」

双妹「もし家族と過ごしたいならそのほうが良いと思うし、無理はしなくていいからね」

男「まあ、そうだよな」

少女「……」

958 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:40:07 ID:xJEh8Rbw
〜自宅〜
俺たちは最寄り駅を出て、どことなく重たい足取りで市街地を歩く。
そして家に着いて中に入ると、少女さんは玄関で靴を脱いできれいに並べた。
いつもは見た目を変えていただけなので、その仕草がとても新鮮に感じられた。


男「少女さんが靴を脱いで並べるところ、初めて見たかも。もしかして、また幽体を脱いだってこと?」

少女「そうですよ。こうしてブーツを脱ぐと、男くんの家に来たんだなって実感するんです。今までは見た目を変えていただけだから」

男「実感する、か。言われてみれば、そうかもしれないな」

双妹「少女さんの靴が玄関に並んでいたら、やっぱり気持ちが違ってくるよね」

少女「生きていたら当たり前のことなのかもしれないけど、それはきっと素敵なことだと思うんです。だから、それが伝われば良いなって――」

男「そっか」

少女「それでは、お邪魔します」

959 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:40:37 ID:xJEh8Rbw
〜部屋〜
部屋に入ると、俺と双妹は並んで座り、ミニテーブルを挟んで少女さんと向かい合った。
沈黙が続いて少女さんは思い詰めたような表情をしているし、双妹はそんな少女さんの様子を窺っている。
俺はこれから少女さんの未練を叶えてあげることになるのかと思うと、何だか緊張してきた。
でも、まずはこの雰囲気をどうにかしなければならない。


男・双妹「今日のお花見、楽しかったね」


俺と双妹の声が重なり、お互いに顔を見合わせた。
そして、少女さんに苦笑する。


少女「はあっ、本当に二人とも息がぴったりだよね」

男「それはまあ、双子の兄妹だし」

双妹「そうそう」

少女「双子の兄妹……か」

960 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:41:08 ID:xJEh8Rbw
少女「あの日から、ずっと考えていたんです」

男「考えていたって何を」

少女「男くんと双妹さんが性行為をしていることは明らかなのに、どうして誰も本気で止めようとしないんだろうって」

男「その話はもう終わったはずだろ」

少女「終わってなんかない。私が赦したのは、少年くんに憑依されたときのことだけだもん」

双妹「それで、少女さんは何を言いたいの?」

少女「男くんと双妹さんは大学病院の双子研究に協力していますよね。その研究で男くんと双妹さんが一緒に採精室に入ることが許されているのは、それ自体が研究対象だからなんです」

男「それが研究対象って、どういうことだよ」

少女「近親者に対して性的な魅力を感じてしまうという心理的な現象があるんですけど、DNAの構造が近ければ近いほど好意的に感じて、お互いに強く求め合うようになると言われているんです。健康な異性一卵性双生児は前例がないし、それを調査しているのだと思います」

少女「男くんと双妹さんは利用されているんです!」

961 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:41:38 ID:xJEh8Rbw
男「利用されているって言われても、俺たちは普通に協力しているだけだし」

双妹「そうそう」

少女「そっか、男くんは『普通に協力しているだけ』って言っちゃうんだ」


少女さんは呆れたように言うと、表情を曇らせた。
今さらこんな事を言ってきて、どういうつもりなのだろうか。
せっかく雰囲気をどうにかしようと考えていたのに、険悪になってしまうだけじゃないか。


少女「ずっと、腑に落ちなかった。でも、やっと分かった」

男「分かったって、何がだよ」

少女「男くんが私に告白してくれたのは、私が憑依していたからなんだね」

男「そんなことは――」

少女「そんな事あるよ! 私は少年くんと同じことが出来る憑依霊なんだから」

962 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:42:08 ID:xJEh8Rbw
男「少女さんはあいつと同じじゃないだろ」

少女「あの日、巫女さんが男くんの霊障を祓ってから、私への気持ちがどんどん離れてる。だから、私が憑依していたことが関係無いはずがないの」


少女さんはそう言うと、おもむろにブラウスのボタンを外し始めた。
その突飛もない行動に俺と双妹は驚いたが、それを気にすることなく少女さんはブラウスを脱ぎ捨てる。
そして、ふわりと浮かんでパンツを下ろした。


男「んなっ?!」

双妹「少女さん、何をするつもりなの?!」

少女「何って、男くんはこの下着、覚えてる?」

男「えっ……いや、はじめて見るんだけど――」


フリフリが可愛いピンク色のベビードールと扇情的なショーツ。
双妹が着てくれたらセクシーで似合いそうだけど、少女さんは小柄で胸もないので子どもっぽさが際立ってしまっているような感じがする。
これなら、普通のブラジャーや水着を着ているほうが可愛いと思う。

963 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:42:39 ID:xJEh8Rbw
少女「そっか、覚えてないんだ。これはね、初めてのデートで男くんが選んでくれたランジェリーなんだよ」

男「そうだっけ」

少女「そうだよ。あのときは私が着たところを見たいって言ってくれたのに、今は双妹さんに着てもらいたいと思っているんだね」

男「そんな訳ないだろ」

双妹「それはさすがに被害妄想なんじゃないの?」

少女「そうでもないよ。私には、男くんと双妹さんの考えていることが何となく分かるんだから」

男・双妹「考えていることが分かる?!」

少女「男くんと双妹さんはブレスレットの力で私の霊波動と共振しやすい状態になっているから、私たちはお互いに影響を受けやすくなっているんです」

964 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:43:09 ID:xJEh8Rbw
双妹「何、それ……」


双妹は不快感をあらわにして、少女さんを見据えた。
やっぱり、考えていることが分かるというのは気持ちが良いものではない。
幽体が少なくなると霊的に触れ合うことが出来るようになるとは聞いていたけれど、こんなことが出来るようになるとは思いも寄らなかった。


少女「双妹さんはあの日、私に言ったよねえ。生きていたときの常識で恋愛するのはやめた方がいいって」

双妹「言ったけど、こんなのって――」

少女「おかしいですか?」

双妹「おかしいに決まってるじゃない! 男の気持ちと身体を操って、考えていることも分かるだなんて!」

少女「だって、私はもう死んでいるし、憑依霊だから普通の人の恋愛観なんて関係無いんです。それは双妹さんも同じはずですよね?」

双妹「それは――」

965 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:43:40 ID:xJEh8Rbw
少女「男くん、答えて」

少女「私と双妹さん、どっちのことが好きなんですか!」


少女さんは真剣な表情を見せ、声を振り絞るようにして問いただしてきた。
俺はその言葉を受けて、双妹と視線を交わす。
そして、少女さんの目を見詰めた。

今は付き合っていることになっているんだし、最後に少女さんの望む言葉をかけてあげるべきなのかもしれない。
だけど、冗談でもそれを言うことは出来ない。


男「俺は少女さんの未練を叶えてあげたい。だから、少女さんの気持ちを大切にしたいと思ってる」

少女「そっか、ありがとう」


少女さんはそう言うと緊張の糸が切れたのか、全身を脱力させた。
そして、口元を緩めた。


少女「それならば、私と別れてください」

966 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:44:10 ID:xJEh8Rbw
男「別れるって、どういうことだよ」

少女「このランジェリーを着てみて、私は男くんとはじめてデートに行ったときのことを思い出したんです」

男「思い出した?」

少女「あのとき、私は自分の気持ちに囚われていて、あまり男くんの気持ちを考えていませんでした。だから、今は男くんの気持ちを大切にしてあげたいと思うんです」

男「……」

少女「残念だけど、男くんは双妹さんのことが好きなんだよね? 私のことを好きだと言いたくないから、『私の気持ちを大切にしたい』とか言って誤魔化したんだよね?」

男「でも、少女さんと別れたら未練を叶えることが出来なくなってしまうじゃないか!」


俺は笑顔で成仏させてあげると約束したんだ。
それなのに、どうすれば未練を叶えてあげることが出来るのか分からない。
このままだと、少女さんは――。

967 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:44:40 ID:xJEh8Rbw
少女「男くんは友香ちゃんと友くんを見て、何も感じないんですか?!」

男「二人は仲が良くなってきたなとは思うけど、それがどうしたんだよ」

少女「やっぱり、何も感じていないんですね」

男「だから、どういうことだよ」

少女「恋愛って、いつの間にかその人のことが好きになっていて、告白して二人で一緒に育んでいくものだと思うんです。その過程で触れ合いたいと思うようになって、愛し合うようになるんです」

少女「だけど、今の男くんは双妹さんのことばかり見ていて、それがない。だから、男くんが未練を叶える必要はもうないんです」

男「……っ」


何かを言わなければならないのに、何も言い返すことが出来ない。
少女さんは、もう俺を必要としていないのだ。

968 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:47:03 ID:xJEh8Rbw
双妹「少女さんは成仏が出来なかったら、魂が壊れてしまうんでしょ。それでも良いの?!」

少女「私は魂が壊れてしまうとしても、自分の気持ちを大切にしたい。とっくに終わっている恋愛に執着するのではなくて、新しい出会いを探したい。マイノリティーだから難しいかもしれないけど、それが『立ち止まらない』ということだと気付いたんです」

双妹「そっか。次に進むことも、立ち止まらないということだもんね」

少女「うん」

双妹「でも、少女さんには次なんて無いでしょ」

少女「確かに私には次が無いけど、私の気持ちを受け取ってくれる大切な人たちには未来があるから――。だから、私は想いを託すことにしたんです」

双妹「想いを託す?」

少女「そうだよ」

969 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:47:34 ID:xJEh8Rbw
少女「私は恋愛が成就したとしても、それで未練がすべて叶うとは思わない。お姉ちゃんみたいに結婚したいし、子どもも欲しい。看護師にもなりたいし、好きな本もいっぱい読みたい」

少女「したいことは、まだまだたくさんあるんです!」

少女「だけど、私の大切な人たちが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私にとっての幸せだなって感じるんです」


少女さんは慈愛に満ちた表情で想いを馳せる。
そんな彼女の優しい想いが、俺にも伝わってきたような気がした。


男「少女さんの気持ち、分かったよ」

少女「そうですか。良かったです」

男「俺たち、もう終わりにしよう」

少女「はい。私を好きになってくれてありがとうございました――」

970 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:48:04 ID:xJEh8Rbw
少女さんとの交際が終わった。
感じるものは、少女さんの優しさと無力感。
結局、俺は未練を叶えてあげることが出来なかった。


少女「……」

少女「ところでですね、私は本当に男くんと双妹さんに出会えて良かったと思っているんですよ。二人がいなかったら、きっと自分を見失っていたと思うから」

男「いや、俺は何も出来なかったし」

双妹「男はともかく、どうして私も?」

少女「小説の読みすぎだと思われるかもしれないけど、少年くんに呪い殺されて絶望するはずだった私の運命を価値のあるものに変えてくれたのが、男くんと双妹さんだからなんです」

双妹「それは言いすぎじゃないかなあ」

少女「そんな事はないよ。二人が異性一卵性双生児だったことも近親相姦をしていたことも、私には必要なことだったんです」

971 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:49:28 ID:xJEh8Rbw
男「それって、どういう事?」

少女「最初に疑問に思ったのが、近親相姦をしていた男くんと双妹さんがどうして私や同級生の男子を好きになったのか、ということです。二人には背徳感のようなものがあったのかもしれないけど、それとは別の意味があったことに気が付いたんです」

男「気が付いたって、何に」

双妹「ちょっと待ってよ。あれは好きだったんじゃなくて、気になっていただけだから!」

少女「それはどっちでもいいんだけど、中学2年生のとき、男くんは双妹さんが気になっていた人と乱闘騒ぎを起こしましたよね」

男「あったな、そんなことも……」

少女「それでみんなが双子の話題をしなくなったから、私は双妹さんのことを兄妹だと知りませんでした。もし知っていたら、バレンタインチョコを買いに行った日、男くんに出会っても悩むことはなかったと思うんです」

少女「つまり、男くんと双妹さんが他の人に目移りをしたのは、私が恋愛で悩んで呪い殺されるために必要な出来事だったからなんです」

972 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:49:59 ID:xJEh8Rbw
双妹「それってさあ、少女さんが死んだのは私たちのせいだって、遠まわしに言ってる?」

少女「そうは言ってないです」

少女「あのときはマスコミの記事や少年くんの自殺のことで悩んでいたから呪い殺される理由はたくさんあるし、その……ぬいぐるみに相談するタイミングとか内容が変わっただけだと思うんです。ただ、私が男くんに告白する決意をしていて双妹さんのことを兄妹だと知っていたなら、私は絶対に死んでなんかいないと言い切れます」

双妹「やっぱり、嫌味に聞こえるし」

少女「まあ、それはともかく、男くんと双妹さんが異性一卵性双生児だってことも、私には必要なことだったんですよ」

男「それはどうして?」

少女「この前、友香ちゃんが看護師を目指している理由を話してくれたんだけど、男くんと双妹さんのことをテレビで見たかららしいんです」

男「ああ、そうらしいな」

少女「友香ちゃんと出逢っていなければ、少年くんに呪われて自殺をしてしまったとき、発見が遅れてそのまま死んでいたと思う。私がドナーになることが出来たのは、男くんと双妹さんが一卵性双生児だったからなんです」

973 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:50:29 ID:xJEh8Rbw
男「そっか。俺と双妹がいたから、少女さんの命がみんなにつながったのか」

少女「そうです。男くんと双妹さんのおかげで、私は生きた証を残すことが出来たんです。そして、男くんと双妹さんの関係を知ってしまったおかげで、最後まで学校に通うことが出来ました。不愉快な思いもしたけれど、それは感謝しています」

双妹「少女さん、もしかして――」


双妹がはっとした声で言うと、少女さんは苦笑した。


少女「男くんと双妹さんが愛し合うことで救われた人が大勢いる。そう考えると、気に入らないけど認めたほうが良いのかなって」

双妹「ありがとう! ねえ、男!!」

男「えっ、ああ……そうだな」

双妹「言っておくけど、前言撤回なんてさせないんだからね!」

少女「しないし」

双妹「それなら良いんだけど、ちょっと意外だったかも」

少女「まあ、そのほうが良いと思うから――」

974 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:50:59 ID:xJEh8Rbw
少女「ところで、今日みんなでお花見に行ったでしょ。実はさくらの木、ソメイヨシノがすべてクローン植物だということは知ってますか」

双妹「それくらいは常識だと思うんだけど、唐突に何の話?」

少女「えっとですね、男くんと双妹さんは一卵性双生児だから、ソメイヨシノに似ているなと思うんです」

男・双妹「言われてみれば、確かに!」


まさしく、目から鱗。
一卵性双生児は体細胞クローンと同じようなものだ。
言われてみれば、俺たちはソメイヨシノと同じなのかもしれない。


少女「ふふっ、ですよねえ」

少女「ちなみに、ソメイヨシノには自家不和合性という性質があって、同一個体の花粉では受粉しないんです。しかも、ソメイヨシノはすべてクローンだから違う木も同じ個体なんです」

975 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:51:29 ID:xJEh8Rbw
双妹「それって、もしかして皮肉のつもり?」

少女「双妹さんにはそう聞こえるんですか。さくらの花には自家受粉を防ぐシステムが備わっているのに、どうして、人は双子の兄妹で性行為をするんでしょうね」

双妹「好きなんだから普通のことでしょ」

少女「でも、子どもを作るのはやめたほうが良いと思うんです」


少女さんはそう言うと、ちらりと俺を見た。
そのことについては、双妹と何度か話をしたことがある。
お互い特に考え方が違うなんてことはないけれど、今は責任を取れないので早いと思う。


少女「ああ、それとですね、ソメイヨシノは全国各地に人の手で植樹されているから自生していた野生のさくらと交雑してしまって、ソメイヨシノによる遺伝子汚染が問題になっているそうなんです。それについて、どう思いますか?」


少女さんが不敵に笑う。
きっと、俺と双妹に『他の人と恋愛をするな』と釘を刺しているつもりなのだろう。

976 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:51:59 ID:xJEh8Rbw
男「どう思うかって、さくらの木に例えなくても直接言えばいいだろ。他の人と恋愛するなって」

少女「それだけだと、私の気持ちが男くんと双妹さんに届かないじゃないですか」

男・双妹「届かない?」

少女「そう! さくらの花と関連付けることで、男くんと双妹さんはさくらの花が咲くたびに私のことを思い出すんです」

男「そんなことをしなくても、俺は少女さんのことを忘れたりしないのに」

双妹「そうだよね。私も少女さんのことは忘れないよ」

少女「分かってないですねえ。私は憑依霊……なんだよ」


少女さんがミニテーブルの上に身を乗り出し、俺たちを見据えた。
その冷たい表情とピンク色のベビードールが妖艶な美しさをかもし出す。
それはとても官能的で儚さも感じさせ、俺は射竦められたかのように視線を外すことが出来なくなった。

977 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:52:30 ID:xJEh8Rbw
双妹「な、何をするつもり?!」

少女「ふふふっ」

少女「男くんと双妹さんは、世界中でたった一組しかいない奇跡の異性一卵性双生児。その奇跡は兄妹で愛し合い、ずっと一緒にいることで輝き続けることが出来るんです。さくらの花が咲いて舞い散っていく、その美しさでみんなの心を魅了するように――」


少女さんは妖しく笑うと、ふわりと浮かび上がった。
ベビードールが揺れて艶かしい素足が目に入り、誘うようにして俺のベッドに移動する。
そして腰を下ろすと、嗜虐的な視線を向けてきた。


少女「男くんに双妹さんを愛する覚悟があるというのなら、私のヘアピンを外してください」

男「ヘアピンを?」


俺がバレンタインデーのお返しで渡した、さくらの花のモチーフが付いたヘアピン。
それを外すということは想いを断ち切るということだ。
しかし、憑依霊であることを強調した少女さんがそんな事をするのは、何となく違和感がある。

978 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:53:07 ID:xJEh8Rbw
少女「その顔、私のことを恐れているんですか」

男「そういう訳じゃないけど――」

少女「さくらの木の下には死体が埋まっているって話、聞いたことがありますよね? 男くんが双妹さんを選ぶというのなら、それくらいの覚悟を持つべきだと思うんです」

男・双妹「……!」


それは強烈な自嘲だった。
さくらのヘアピンを外すことは想いを断ち切ることではなくて、少女さんの意思を受け止めるということ。
少女さんの容姿や雰囲気に惑わされず、己の意志を貫くということ。


男「分かったよ。少女さんの言う通りだ」

少女「では、お願いします」

979 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:53:48 ID:xJEh8Rbw
双妹「男、待って! そのヘアピンを外したら、少女さんの気持ちがみんなに伝わるんじゃないの?!」

男「だろうな」

双妹「だろうなって、少女さんの臓器を移植された人の中には小学生の女の子がいるんだよ。中学生くらいの男子もいたはずだし、それっていいのかな」

男「これはあくまでも俺と双妹の問題だろ。少女さんの気持ちがどんな形で伝わるのかは分からないけど、それを受ける止めることも俺たちにとって必要なことだと思う」

双妹「そ……そうかもね。男がそう言ってくれるなら、私も覚悟を決めようと思う。これからは本気で男と向き合っていくから!」


その決意の言葉を聞いて、俺は立ち上がった。
そして少女さんに歩み寄り、側頭部のヘアピンに手を伸ばす。

――バチッ!

ヘアピンに触れた瞬間、静電気のような衝撃に驚いてとっさに手を引いた。
もしかして、少女さんの霊的な力が強くなったから触ることが出来るようになったのか?!
もしそうだとするならば、ヘアピンを外した振りではなくて、本当に触って外すことが出来る。

980 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:54:19 ID:xJEh8Rbw
少女「本当に残念ですね」

少女「ようやく触れ合えるようになったのに、こんな形で触れ合うことになるだなんて」


俺は何も答えることが出来ず、ただ手を伸ばす。
すると、確かに少女さんはそこにいた。
側頭部から感じる温もりと、指先に絡むさらさらとした髪の毛。
そして霊波動が干渉したのか、少女さんの想いが流れ込んできた。

Ne m'oubliez pas

この別れはあなたが未来へと進んでいくためのもの。
死はつらくて悲しいものだけど、それはあなたと私をつなぐ大切な絆でもあるんだよ。
だから、私はあなたの中で支え続けていけることをうれしく思っています。

楽しいときも悲しいときも、私は絶対に立ち止まったりしない。
あなたが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私の幸せです。

981 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:54:51 ID:xJEh8Rbw
少女「っ!」


ヘアピンを外すと、少女さんが息を呑んだ。
そして、そのまま力なくベッドの上に倒れ込む。


少女「私を……忘れないで」


その声は少し弱々しくて、儚げな表情で口元に笑みを浮かべていた。
何か異常な事態が起こっている。
そう理解した瞬間、少女さんの身体が光の粒子に変わって弾け飛んだ。
それは花火のようにキラキラと輝き、音もなく消えていく。


男・双妹「少女さんっ!?」


もう、そこに少女さんの姿はない。
ベッドの上にはベビードールとショーツだけが残され、それもすぐに溶けるようにして消えていった。

982 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:55:21 ID:xJEh8Rbw
双妹「もしかして、成仏したのかな」

男「たぶん魂が壊れたんだと思う。幽体がほとんど残っていなかっただろうし」

双妹「……そっか」


俺の手には、さくらのヘアピンがまだ消えずに残っている。
つまり、この幽体には少女さんの強い思いが込められていたということなのだろう。
最期に可能な限りありったけの想いを伝えるために――。


双妹「これで良かったんだよね。魂が壊れてしまうとしても、自分の気持ちを大切にしたいって言ってたから」

男「確かにそう言っていたけど、それはどうなんだろうな。少女さんの魂が壊れてしまったのは俺のせいだろうし、俺は少女さんの気持ちに応えないといけないと思うんだ」

双妹「少女さんの気持ちに応えないといけない……か」


双妹はやるせない表情で口にすると、俺に歩み寄った。
そして、さくらのヘアピンを手に取る。

983 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:55:53 ID:xJEh8Rbw
双妹「それで、どうするの?」

男「それは双妹も分かっているんだろ」


俺はそう言うと、双妹を力強く抱き締めた。
すると、双妹は少しためらって俺を抱き締めてきた。

俺と双妹は世界中でたった一組しか存在しない異性一卵性双生児。
誰よりも分かり合うことが出来て、誰よりも一緒にいたいと思える大切な女性。
その双妹と『ひとつ』になることが、少女さんの気持ちに応えることになる。

いや、それは口実で俺自身がそうしたいのだ。

双妹と一緒にセックスをしたい。
コンドームもあるし、それが双妹に伝えたい俺の本心だ。


男「双妹、好きだよ。今夜、ここでゆっくりと話をしたい」

双妹「いいよ。私も……男が好き//」

男「ありがとう。それじゃあ、10時頃に迎えに行くから」

双妹「うん、待ってる。今夜は私たちにとって大切な日にしようね//」

984 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:56:24 ID:xJEh8Rbw
(4月1日)fri
〜男の部屋・双妹〜
目が覚めると、いつも使っている抱き枕が男になっていた。
しっかりとした抱き心地の筋肉質な身体と、太ももに感じる何か硬いもの。

あっ、ああ……思い出した。
私はあのあと、そのまま男と一緒に寝たんだった。

何だか不思議。
毎日のように見ていた男の寝顔が今はとても愛おしくて、お腹に感じる鈍い違和感も幸せな気持ちで心を満たしてくれる。
私たち、本当にセックスをしちゃったんだね。

挿入されたときは少し痛かったけど、同じ双子だからなのかなあ。
すぐに私のことを分かってくれて、気が付くと男を受け止めたい衝動に突き動かされていた。
あのときは心と身体がつながって、本当に『ひとつ』なっていたと思う。

ふふっ♪
好きな人とのセックスって、こんなに幸せな気持ちになれるんだ。

985 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:56:54 ID:xJEh8Rbw
私は男を起こさないように少し離れて、棚に目を向けた。
そして、こうなることを見越して用意しておいた婦人体温計を手に取り、口にくわえる。
今は生理周期の把握と体調管理に利用しているだけだけど、いつか妊活に利用する日が来たりするのかな。

そんなことを考えつつ、ぼんやりと天井を眺める。
すると、部屋が少女さんの幽体の気配で満たされていることに気がついた。
そういえば、いつの間にかヘアピンが消えている。
恐らくそれが溶けて広がっただけなんだろうけど、ふとした疑問から不安が込み上げてきた。

少女さんは最後に、『私は憑依霊なんだよ』と言っていたよね。
もしかして、少女さんは私たちに魂が壊れたと思い込ませているだけなんじゃないの?

実際、公園でテニスをしたとき、少女さんは私の姿が自分の姿に見えるように視覚を操作していた。
しかもそれだけではなくて、少女さんは身体や感覚器官を操ることが出来るし、頭で考えていることも読み取ることが出来る。
そんな少女さんと霊波動が共振して影響を受けやすくなっていたのなら、記憶や感情を操作することも簡単に出来てしまうかもしれない。

私たちの気持ちは、本当に私たちの心からの気持ちなのかな――。

986 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:57:25 ID:xJEh8Rbw
男「双妹、その……おはよう」


しばらくして、男が目を覚ました。
ちょっと気まずそうな表情で、何だかいつもよりよそよそしい。
私はそのことに不安を感じつつ、婦人体温計をくわえたまま「おはよう」と返す。


男「何て言えば良いんだろ。初めて一緒にああいうことをして、こうして顔を合わせるのって少し恥ずかしいって言うか、ちょっと照れくさいな//」

双妹「ぅん」

男「でも、双妹との距離がすごく近付いたと思う」


男は優しい声で言って、私の身体に触れた。
それがとても心地よくて、すごくほっとする。
やっぱり、私は男のことが好きなんだ。
だけど、それが少女さんに作られた感情だとしたら私は自分を信じることが出来なくなってしまう。

987 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:57:56 ID:xJEh8Rbw
男「それはそうと、何か悩んでる?」

双妹「……んっ」

男「兄妹でセックスをしたことで悩んでいるなら、俺はどんなことでも双妹と分かち合って支えていきたいと思ってるし、何の覚悟もせずに妹とセックスをしたりなんてしないから」


早く聞いて欲しい。
その言葉が作られたものではないことを信じたい。
私は検温が終わると同時、基礎体温を確認するよりも先に気持ちを吐き出した。

男と『ひとつ』になることが出来て、とても幸せなこと。
だけど、それが少女さんに作られた偽りの感情なのかもしれないこと。


双妹「ねえ、どっちなんだろ」

男「どっちって?」

双妹「少女さんは私たちの恋愛を応援してくれているのか、それとも、悪意を持って縛りつけようとしているのか」

988 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:59:03 ID:xJEh8Rbw
男「きっと、両方だろうな」

双妹「両方?」

男「自分の気持ちを大切にしたいと言っていた少女さんが、俺たちの感情を作り変えたりする訳がないだろ。でも、快く思っていないのも事実だと思う。だから、ソメイヨシノの話をしてきたんじゃないかな」

双妹「ああ、あの話――」

男「それに今日はエイプリル・フールなんだから、自分の気持ちに嘘を吐けばいいじゃないか」

双妹「ちょっと待ってよ。それって関係ある?!」

男「あるに決まってるだろ。不安だと思う気持ちは少女さんが作った嘘で、幸せな気持ちが双妹の本当の気持ちなんだよ」

双妹「その言葉が嘘だったりしない?」

男「どうなんだろ。今日はエイプリル・フールだからな」


……はあっ。
何だか、悩んでいた私が馬鹿みたいだ。

989 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 22:59:34 ID:xJEh8Rbw
男「でもさあ、少女さんも言っていたけど、兄妹でセックスをしたことは大変なことだと思う。きっと理解されないだろうし、これからつらいことがたくさんあると思う」

双妹「そうだよね」

男「それでも俺は双妹を大切にしたいし、双妹と一緒なら乗り越えていけると信じてる」

双妹「私も男を信じてる。好きだよ!」


私は心からの笑顔を向けて、男と唇を重ねた。
そして、棚の上に用意しておいた基礎体温表を手に取る。

これからどんなことが起きても、絶対に負けたりしない。
少女さんの幽体の気配が薄くなっていく中、私は改めて覚悟を決めた。

だから、本当のことを記入した。
日付が変わって深夜にしたこと。
基礎体温表の4月1日、私たちの記念日にハートのマークを――。

990 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:00:13 ID:xJEh8Rbw
(エピローグ)
〜自宅・女さん〜
9月1日、木曜日。
わたしは久しぶりに緊張する朝を迎えていた。
心臓移植が無事に終わって、今日から学校に通うことが出来るからだ。

不安がないといえば嘘になる。
同級生の友達はみんな卒業してしまったし、新しいクラスの人に受け入れてもらえるとは限らない。
わたしは年上だし、身体のこともあるし、たくさん迷惑を掛けるかもしれない。

それでも、この日が来ることをずっと楽しみにしていた。
ドナーさんのおかげで、わたしは新しい可能性を掴み取ることが出来る。
4月から復学して課題をちゃんと提出しているし、2年間のブランクなんてすぐに取り戻してみせるんだから!


女「わたしは絶対に立ち止まったりしない」


不思議と勇気が出てくる言葉。
それを声に出して、久しぶりに制服に着替えた。

991 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:00:44 ID:xJEh8Rbw
〜学校・女さん〜
外は日差しが強く、残暑がとても厳しい。
わたしはマスクをして、水分補給にも気をつけて、移植心に負担が掛かっていないか気をつけながら通学路を歩く。
そして、学校に着いたときには疲れてへとへとになっていた。

わたしは校舎に入って少し休み、予鈴が鳴ったので職員室に向かう。
そして、担任の先生に挨拶をした。
先生は頻繁に家庭訪問をしてくれたし、休学を決めたときの担任でもあるのですごく安心できる。


女「おはようございます!」

先生「女さん、おはよう。身体のほうは、もう大丈夫なのかな」

女「いろいろと気を付けなければならないことがあって大変ですけど、通学が出来るくらいまで良くなりました。きっとご迷惑をお掛けすると思いますが、またよろしくお願いします」

先生「ああ、簡単に言って良いことじゃないのかもしれないけど、こうして戻って来てくれて本当にうれしいよ。また、みんなと頑張ろう」

女「はいっ!」

992 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:01:14 ID:xJEh8Rbw
先生と話していると、HRのチャイムが鳴った。
この時間は先生と体育館に移動して、教員の列に並んで始業式に参加することになっている。
それが終われば、今度はクラスメイトに自己紹介をしなければならない。

ちゃんと受け入れてもらえるかな。
緊張と不安で胸がいっぱいで、校長先生の言葉が頭に入ってこない。
気がつくと始業式が終わっていて、声を掛けられた。


先生「もう戻る時間だけど、疲れたなら保健室に行こうか?」

女「いえ、自己紹介をどうするか考えていただけなので」

先生「ははは、そういうことか」


先生は軽く笑い、職員室へと歩き始めた。
わたしもそれについて歩く。
そして職員室で説明を受け、教室に移動するときが来た。

993 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:01:44 ID:xJEh8Rbw
廊下を歩き、わたしの教室に向かう。
そこは休学をする前に使っていた教室だった。
きっと、わたしの不安が軽くなるように校長先生が配慮してくれたのだと思う。

そう考えると、とても幸せだなと感じた。

もう大丈夫。
わたしは立ち止まったりしない。

その表情に気付いたのか、先生がわたしに目配せをして教室のドアを開けた。
まずは先生だけが入り、今日から戻ってくる生徒がいることを話す。
そして教室に入ってくるように促され、わたしは新しい世界に一歩を踏み出した。


女「ええっ!」


教室に入ってすぐ、知っている人がいたので思わず声が出てしまった。
彼もわたしの顔を見て、驚いた表情をしている。
まさか友くんが同じクラスだったなんて、これってもしかして運命の出会いだったりするの?!

994 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:02:15 ID:xJEh8Rbw
友くんは今年の3月に病室に現れた不審人物のひとり。
それから4月に退院して、夏休みに夏を感じたくて水着売り場に行ったときに偶然出会った人だ。

そのときに驚いたのは、わたしが心臓移植をしたことを知っていたことだ。
彼は霊感が強いらしくて、そういったものを感じることが出来るらしい。
そして彼には友香さんという看護師志望の彼女がいて、二人が水着を買ったあとにしばらく3人で話をすることになった。

その日は聞かなかったけど、いや、これからも聞くつもりはないんだけど……。
友香さんの雰囲気から察して、少女さんという人がわたしのドナーさんなのかもしれない。
そう考えると少し気まずいけれど、この二人との出会いはきっと偶然ではない何かがあるのだと思う。


先生「女さん、こっちに」

女「あっ、はい」


わたしは友くんに軽く手を振って、先生の隣に移動した。
みんなからの視線を感じる。
だけど、知っている人がいるのは心強い。

995 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:02:46 ID:xJEh8Rbw
先生「それじゃあ、自己紹介をしてくれるかな」

女「はい」

女「……あの、初めまして。わたしは女と言います」

女「わたしは心臓の病気でずっと休学をしていたのですが、難しい手術が成功して学校に通うことが出来るようになりました。だけど、今も薬を飲み続けなければならなくて、生活面でも気を付けなければならないことがたくさんあります」

女「そのことで迷惑を掛けてしまうことがあるかもしれませんけど、わたしはみんなと一緒に卒業できるように頑張りたいと思っています。2歳年上だけど先輩ではなくて同級生なので、気軽に話しかけてもらえたらうれしいです」

女「そんなわたしですが、これからよろしくお願いします」


自己紹介が終わり、教室を見渡した。
少し戸惑っている表情の人が多いけれど、伝えたいことは言ったので、わたしから歩み寄る努力をすれば大丈夫だ。


先生「女さん、ありがとう。あそこの空いている席に座ってください」

女「分かりました」

996 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:03:17 ID:xJEh8Rbw
わたしはこっそりとスマホを操作している友くんの脇を抜け、一番後ろにある自分の席に向かう。
もしかして、友香さんにメッセージを送っているのかなあ。
そんな事を考えつつ含み笑いをしていると、わたしの席のひとつ前に座っている女子生徒と目が合った。
しかも、その隣に座っている男子生徒も同じようにわたしを見ているようだ。

まだどんな人か知らないけれど、通りすがりに軽く会釈をして席に着く。
そして、教室の外に目を向けた。
どこまでも広がっている、夏の青空と住宅街から感じる人々の営み。
2年前と変わらない光景がそこにはあり、帰ってきたんだという実感が込み上げてきた。

わたしは今、たくさんの希望を感じて心が弾んでいる。
わたしの人生が今、ここから未来に向かって動き始めるんだ!


女「ふふっ、ただいま♪」


この気持ちを大切にしたくて、わたしはそっと声に出す。
するとそれを聞かれてしまったらしく、さっきの二人が困惑した表情を向けてきた。
そんな二人に、わたしは笑って誤魔化した。

997 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:03:54 ID:xJEh8Rbw
少女「私を忘れないで」
―おわり―

998 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/20(水) 23:13:05 ID:xJEh8Rbw
ここまで読んでくださってありがとうございました!
機会があれば、またよろしくお願いします

こちらは過去に書いたSSです
http://binchan03.blog.fc2.com/

999 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/02/21(木) 08:17:01 ID:pfchqdnA
おつです
エッチなアプリの人だったんですね
過去作もほとんど読んでました
次回作楽しみにしてます


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