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賢者「勇者様の遺志を継ぎ、私が魔王を倒します」
488
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:50:25 ID:WyefLReY
宿屋 部屋前――
魔法使い「(あの森に魔物が迷い込むのはよくある事か。やはり魔物が現れた程度じゃここの人達は驚かないようね)」
魔法使い「(でもそれでよかったのかもしれない。私の推理が正しければ、この不可解な事件に魔族が関わっている)」
魔法使い「(そうであるならこの事件に関わる人間は少ない方がいい。相手に敵意があるにしろないにしろ、面倒になるのは目に見えている)」
魔法使い「(ここの人達が魔族に寛容になれるはずもなければ、魔族と戦える力を持っているはずもない)」
魔法使い「(いや、力がないのは私も同じか。剣士のように魔族と戦えるわけじゃない)」
魔法使い「(四天王クラスともなれば確実に命を落とす……)」
魔法使い「くっ!」ギリッ
魔法使い「(わかってる。個人的な感情を挟んでいいときじゃない。武闘家の言う通り、アイツを頼るべき)」
魔法使い「(そうよ。それに昨日の事を謝るいい機会じゃない)」
489
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:51:55 ID:WyefLReY
魔法使い「ふぅー…… よし!」
コンコンッ
魔法使い「私よ。話があるんだけどいい?」
シーン
魔法使い「いないの?」
ガチャ
魔法使い「鍵あいてる。入っていいのかな。んー、いいや入っちゃえ!」タッ
剣士「」zzz
魔法使い「寝てるの?」
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「みたいね。――にしてもだらしない。もしかして昨日の宴会で酔いつぶれた?」
魔法使い「部屋の鍵をかけ忘れてた事といい間違いなさそうね」ハァ
490
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:53:52 ID:WyefLReY
魔法使い「真面目なこいつがこんなになるまで飲むなんて一体何があったのかしら?」
魔法使い「もしかして私のこと少しは気にしてくれたのかな?」
魔法使い「でもそれはそれで酷い話よ。お酒に逃げるなんて。……突っついちゃえ」エイッ
剣士「う、うーん……」ゴロンッ
魔法使い「久しぶりに貴方の間抜け面を見た気がする。最近ずっと険しい顔ばかりで……」
魔法使い「そりゃそうか。ずっと一人で戦ってきたんだもの。気が休まる時なんかなかったよね」ソッ
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「馬鹿だな、私。自分の事ばかりで、貴方の事を何一つ考えてなかった。貴方が不器用な人だって誰よりも知っていたのにね」
魔法使い「ごめんなさい。調査には私一人で行ってくるわ」
魔法使い「いいよね? 貴方だって前にそうしたんだもの。今度は私に確かめさせてよ」
魔法使い「貴方の傍にいられるだけの力が私にあるかどうかを……」
魔法使い「じゃ行ってくるね。心配だろうけど信じて待ってて」
魔法使い「必ず帰ってくるから。その時、また話しましょう」
バタンッ
491
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:55:03 ID:WyefLReY
昼 宿屋付近――
占い師「うわーん、疲れたよぉー!」バタンッ
武闘家「んじゃ、そろそろ飯にすっか。きっと賢者がなんか作ってくれてるはずだぜ」
宿屋「あら残念。賢者ちゃんならまだ帰ってきてないわよ。海賊さん達のところにお料理教えに行ったきりね」
武闘家「マジかよ!?」
宿屋「おばちゃんが作ったご飯ならあるんだけど、よかったら食べない?」
武闘家「え!? いいんですか?」
宿屋「もちろん。賢者ちゃんに比べたら味は落ちるかもしれないけどね」フフッ
武闘家「やったぜ。ありがとうございます」
占い師「え゙!?」
宿屋「占い師ちゃんも食べてくでしょう?」ニコッ
占い師「あ、はい……」
武闘家「ん??」
492
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:56:43 ID:WyefLReY
宿屋――
武闘家「(んだこれ、クッソ不味いな。どれも味付けが甘ったるいっていうか……)」ベチャ
占い師「だから嫌だったんだよ。知らないだろうけど、ここじゃ有名なんだ。おばちゃんのメシマズは!」ボソッ
武闘家「そういう事はもっと早く言えよっ!」コソッ
占い師「言えっこないじゃん。本人は自分が料理上手だと思ってるんだから!」ボソッ
武闘家「ババアあるあるじゃねぇーか!」コソッ
宿屋「料理はたくさんあるから遠慮しなくって大丈夫よー」ニコッ
武闘家「うわっ、うわーいッ!!」アハッ
占い師「言ったんだからちゃんと食べてよ。僕の分も」スッ
武闘家「おい。ババアに隠れてこっちの皿に入れてんじゃねぇーよ!」
宿屋「ん? どうしたの?」クルッ
武闘家「なんでもないですよ。んー、食べ応えあるぅー」モグモグッ
宿屋「若い子はよく食べるわねぇ」フフッ
武闘家「お、おぉ……」プルプル
493
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:59:16 ID:WyefLReY
占い師「てかさ、これで本当に強くなれるの? なれる気がしないんだけどぉー」ブーブー
武闘家「やらないよりいいだろ。つーか食えよ……」
占い師「だけどさぁー」
武闘家「諦めんなよ。てか、まだ一日もやってねぇじゃん」
占い師「何日やってもおんなじ気がする。才能ないんだよ、僕」
武闘家「才能ねぇー」ハンッ
占い師「事実そうでしょ。剣士も勇者も天賦の才があるから……」
武闘家「どうだろ。剣士殿はちょっと違うんじゃねぇかな?」
占い師「どう違うのさ?」
武闘家「確かに才能もあるんだろうぜ。だけどそれだけで戦えるほどやわな相手でもねぇよ、魔族もおそらく勇者も……」
占い師「え?」
武闘家「俺が思うに、剣士殿の強さの真髄は強靭な精神力だ。あの人はどんな絶望的な状況だろうと決して諦めない――」
武闘家「生きている限り挑み続ける。そんな狂気とも呼べる覚悟を持ってるから強いんだ」
494
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:02:53 ID:p1JNQnJg
占い師「なにそれ、怖い……」
武闘家「えっ?!」
占い師「要するに死ぬまで戦い続けるって事でしょ。そんなの狂ってるよ」
占い師「それに精神論なんか持ち出されてもなぁ。信じられないっていうか……」
武闘家「魔法を使う奴の言うセリフかよっ!?」
占い師「僕はもっと簡単で楽に強くなりたいよ!」
武闘家「んな気持ちでいるから駄目なんだって。どうして頑張れない。頑張ろうとしないのよ!?」
宿屋「まあまあ、そこまでにしてあげて。捻くれたこと言ってるけど、貴方の言いたい事はちゃんとわかってるわ」
武闘家「ほんとかー?」
宿屋「ただ愚痴りたかっただけなのよね。ほんと素直じゃないんだから」
占い師「べつにぃー」
武闘家「んだよ、そういう事ならそう言えよ。ウンコ真面目に答えちまったじゃねぇか」
495
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:08:14 ID:p1JNQnJg
宿屋「あ、そうだ。二人はこんな話を聞いた事ない?」
宿屋「人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する――っていうお話なんだけど」
占い師「唐突にどうしたの?」
宿屋「武闘家くんの話を聞いて思い出したのよ。昔、似たような詩を謳っていた旅人がいたなーって」
武闘家「どういう意味なんです?」
宿屋「意味? んー、そうね。人の想いが、人に力を与えるって事じゃないかしら?」
武闘家「そういう意味なの? 俺は覚醒だから、人の中に秘められた力が、人の祈りによって開花するとかかなーって思ったんだけど……」
宿屋「んじゃ、そっちかも」フフッ
占い師「いい加減だなぁー」
宿屋「どっちでもいいじゃない。どちらにしろ精神の話なんだし」
武闘家「まあ、そうっすね」
496
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:09:27 ID:p1JNQnJg
剣士「おはよう。てか、もう昼か……」タッ
武闘家「お、珍しいな。今起きたのか?」
剣士「ああ。どうやら昨日、飲み過ぎたみたいで……」フラッ
武闘家「ん? あれ? 剣士殿がここにいるって事は魔法使いさん一人か?」
剣士「一人? なんの話だ?」
占い師「森の調査だよ」
剣士「調査?」
武闘家「近隣の森に魔物が現れたらしくて魔法使いさんがその調査に。俺は剣士殿も一緒に行ったもんだと……」
剣士「出かけたのはいつだ」
武闘家「えっと俺が朝、薪割りをしてた時だから……」
剣士「朝? もう昼だろ。気になるな。――行ってくる」タッ
武闘家「ちょっと待った!」ガシッ
497
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:13:16 ID:p1JNQnJg
剣士「なんだよ!」イラッ
武闘家「まだ行ってないかも。出かけたのを見たいわけじゃないし、それに軽率な行動を取るような人じゃないだろ。一人で行くかな?」
剣士「行けばわかる」
武闘家「そりゃそうだけど……」
剣士「俺だって彼女を信じてる。だが、今の彼女は……」
宿屋「そうね。心配なら行ってあげるべきよ。何かあってからじゃ遅いんだし」
武闘家「あ、そうだよな。ごめんなさい、俺達行きます。飯の途中だけど……」
宿屋「そんなの気にしなくていいから。早く行ってあげな」
武闘家「はい。――って、剣士殿は!?」キョロキョロ
占い師「もう行っちゃったよ!」
武闘家「はやッ!?」
占い師「もたもたしてるから!」
武闘家「嘘だろ。待ってくれー」ガタッ
498
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/05/24(金) 21:48:30 ID:.RbfreIo
乙
499
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:19:19 ID:.p.l7n2A
海辺の森 崖――
魔法使い「(勇んで出てきたはいいけど、戦いになるような事はなさそうなのよね)」
魔法使い「(相手はおそらく呪術師のような何か複雑な事情を抱えた魔族だろうし)」
魔法使い「(けど、だからと言って野放しにしておけるものでもない。厄介なものね)」
魔法使い「(いや、厄介なのは私のこの面倒な性格の方か……)」フフッ
魔法使い「あ、やっとついた。ここだったかな、魔物と遭遇した場所は」
魔法使い「うん、あってる。で、海からではなく森の方から魔物が飛んできて――」
魔法使い「という事はこの先か……」ジッ
500
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:20:39 ID:.p.l7n2A
森の奥地――
魔法使い「随分ひらけた場所に出たけど、ここも反応なしか」キョロキョロ
魔法使い「そろそろ何かあってもいいと思うんだけど――」
魔法使い「ん? なに、この地面に描かれた模様は――って、これは魔法陣?」
魔法使い「ここで何かの儀式が行われていたってこと?」
魔法使い「にしてもかなり複雑。これだけの魔法陣を扱える相手となると、やはり……」
ガサガサ
魔法使い「!?」バッ
召喚士「あーあ、やっぱり来ちゃったかー。ガックシよ」
魔法使い「頭に角、そしてエルフのように長い耳。やはり潜んでいた……」ジッ
召喚士「ハロー、また会ったわね。魔導師のお嬢ちゃん」
魔法使い「という事は、やはり貴方が子供達を?」
召喚士「ええ、そうよ。アタシが魔物ちゃんに命じて子供を助けさせたの」
魔法使い「どうして魔族である貴方が?」
召喚士「不思議? まあ、不思議よね。理解できないのもわかるわ」ウンウン
501
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:22:42 ID:.p.l7n2A
召喚士「ねえ、人の悲鳴って興奮しない? それが自分で与えたものならより一層と」
魔法使い「何を、言っているの?」
召喚士「とくに子供の悲鳴なんて最高。ゾクゾクしちゃう」
魔法使い「まさか、貴方……」
召喚士「そうよ、だから助けたの。アタシ自身の手で再び殺す為に……」
召喚士「わかる? ここにいる人間どもの絶望は全部アタシものなの」
召喚士「困るのよね、勝手に死なれたりしたら。最高の死をプレゼントできなくなるじゃない!」
魔法使い「とんだ精神異常者ね」
魔法使い「もしかしたら呪術師のお爺さんみたいに…… なんて期待した私が馬鹿だった」
召喚士「え? 貴女、今なんて……?」
魔法使い「べつに。貴方には関係ないことよ」チャッ
召喚士「まあ、そうね。アタシは魔族で貴女は人間――敵同士だもんね!
502
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:23:39 ID:.p.l7n2A
召喚士「でもそれはお勧めしないわ。貴女じゃ絶対に勝てっこないし」
魔法使い「じゃ、やはり貴方も名を冠した特別な……」
召喚士「貴女、アタシが三魔将の一人、黒の召喚士だってわかってて……」
魔法使い「召喚士? なるほど。どうして澄んだ森に魔物がって不思議だったけど、そういう……」
召喚士「ええ、そういうこと。魔法陣を使ってこっちに呼び出してたってわけ」
魔法使い「――!」スッ
召喚士「無駄無駄。陣を乱そうったって遅いわ。もう呼んじゃってるから――」
召喚士「さあ出ておいで、アタシの最高の召喚獣ヒュドラーちゃん!!」
ヒュドラ「シャーッ!!」ズーン
魔法使い「九つの頭を持つ大蛇……!?」ジリッ
召喚士「この子はね、四天王にも勝るとも劣らない力を持ってるのよ。凄いでしょ?」
503
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:25:59 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(ふざけた見た目と言動の癖に情け容赦ないわね)」
魔法使い「(あれだけの魔物を召喚しただけでも恐るべき事実だというのに、それを自在に操る事も出来るのか……)」
召喚士「ンフッ、どうやら言わなくても伝わっていたみたいね。――で、どうする?」
魔法使い「どうって…… まあ、こうするよね!」タッ
召喚士「向かってくる、アタシにーっ!?」ビクッ
魔法使い「術者を直接叩く――貫け、氷槍ッ!!」バシュ
召喚士「ヒ、ヒュドラちゃん守って!!」
ヒュドラ「ウシャー!」シュババッ
魔法使い「くっ、防がれたか……」
召喚士「いい子ね、偉いわー!」ヨシヨシ
魔法使い「(やはり大蛇を支配下に置いていた。しかも意思伝達は素早く隙がない……)」
召喚士「よっと、これで護身完成。ヒュドラちゃんの背に乗ればもう安心ね!」スタッ
魔法使い「知性を備えた魔物か、どうする……?」ジリッ
504
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:27:21 ID:.p.l7n2A
召喚士「さてさて、どうしたものかしら?」チラッ
魔法使い「(背に乗られてはもう直接叩けない。長い九つの頭が邪魔すぎる。人の指先のように器用に動くし。あれでは例え背後に回れたとしても……)」ジッ
召喚士「おかしな子、戦う気満々なのね。どうして逃げないの?」
魔法使い「逃げる?」
召喚士「あの村には勇者気取りの剣士様がいるんでしょ。てか、そもそもどうして貴女一人でここに来ちゃったわけ?」
魔法使い「べつに……」
召喚士「可愛くないの。もっと自分の命は大切に扱った方がいいわよ?」
魔法使い「フッ、馬鹿ね。自分の命より大切なものがあるから人は戦うのよ」
召喚士「――っ!?」
魔法使い「私は逃げないわ。ここで貴方を倒し証明して見せる。アイツの仲間だって事を!」
召喚士「あらやだ、カッコイイじゃない……」
召喚士「じゃ、こっちももう遠慮なんかしないわ。覚悟なさい!!」
505
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:29:18 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(頭の数が減れば直接術者を叩ける、のなら――)」スッ
魔法使い「これでッ!!」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!!!??」スパーンッ
召喚士「あーん、ヒュドラちゃんの頭がーっ!?」
魔法使い「(よし、風の刃で首を刎ね飛ばせた。これを繰り返していけば、いずれ……)」
召喚士「流石ね。アタシの大鳥ちゃんを切り裂いただけのことはあるわ。でも――!」
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「頭が、再生した!?」
召喚士「あら知らなかった? ヒュドラちゃんは脅威の生命力を持つ魔物なのよ。頭を落とされたってすぐ再生しちゃうんだからん!」
魔法使い「伝説は本当だったってわけ。なら傷口を焼けばいい……」バッ
召喚士「そう簡単にいくかしら? 今度はこっちの番よ。毒の息吹を食らいなさーい!」ビシッ
ヒュドラ「シャウア!」ブワーッ
魔法使い「そんなもの!!」ボウッ
召喚士「嘘!? 炎で蒸発させた、毒の息吹を……っ!?」
506
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:30:44 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(火力は足りた。ならあれは怖くない。問題なのは……)」バッ
召喚士「だったら数で勝負。一斉に頭突きを浴びせちゃいなさいな!」ビシッ
魔法使い「(リーチを生かした四方からの連続攻撃か。上手く掻い潜れば術者に接近できるけど――)」チラッ
魔法使い「(やはり数本は自身の防衛用に残すか。今はまだ無理かな?)」タンッ
ヒュドラ「シャー!」ドドドドッ
魔法使い「(同士討ちを避けるように、こちらを狙ってくるのだから……!)」ヒラリッ
召喚士「躱してる、あれだけの攻撃を……? なんて身軽な。貴女、魔導師じゃないの!?」
魔法使い「王宮にいた頃は、ほぼ毎日馬鹿王子の無茶に付き合ってたからね。これくらい動けないと務まらないのよ。それに――」
魔法使い「攻撃を命じているのは知性を持つ人魔の貴方。本能で敵を察知し攻撃を仕掛ける魔物より遥かに躱しやすい」
召喚士「なっ!?」
魔法使い「それはいいんだけど、問題は――」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「やった。でも、すぐに焼かないと……!」スッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「くっ、やはり間に合わない。再生速度がこちらの詠唱速度を上回ってる……」
507
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:32:31 ID:.p.l7n2A
魔法使い「ならば最初から炎で――ッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」キーン
魔法使い「まあ、そうよね。あの鱗に炎が通じるわけないか。やはり傷口でないと……」
召喚士「ヒュドラちゃん、なにしてるの。休まず攻撃して!」
ヒュドラ「ウシャー」ドドドドッ
魔法使い「くっ、なんとかしないといつかは……!」ヒラリッ
召喚士「(なんて恐ろしい子。側近様の秘術でヒュドラちゃんの再生能力を強化してなかったら確実に倒されてた……)」ゾッ
魔法使い「それ以外は通用するのに!」バシュ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「間に合えッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「これじゃ本当にいつかはやられる……!?」
508
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:34:20 ID:.p.l7n2A
召喚士「無駄よ。もう諦めなさい。わかったでしょ?」
召喚士「見ての通りヒュドラちゃんの頭は一瞬で元に戻るわ。焼き殺すには、それこそ斬撃と同時に燃やさないと駄目――」
召喚士「この意味がわかる? 貴女一人じゃ絶対にヒュドラは倒せないって事よ!」
魔法使い「……!」ギリッ
召喚士「悔しそうね。でもこれがアタシと貴女の差。もう諦めて降参なさい」
魔法使い「(わかってた、そんなの最初から。魔術は才能がすべて。これが私の限界……)」
魔法使い「(どう足掻いても私じゃ大蛇の再生速度は上回れない。炎を唱える前に再生されてしまう)」
魔法使い「(だけど、それがなんだっていうのよ!)」
魔法使い「(アイツはいつだってこんな絶望的な状況でも勝ちを拾ってきた。誰かを守りたいという想いだけを武器に……)」
魔法使い「(負けたくない。アイツにも、自分自身にもッ!)」
魔法使い「くっ!!」
509
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:36:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「動きが止まった? やっと悟ったようね」
魔法使い「ええ、本当にね」ポイ カランカラン
召喚士「そう、それでいいのよ。抵抗するだけ無駄無駄。勝てっこないんだから」
魔法使い「何を勘違いしているの? 杖を捨てたのは貴方に勝つ為よ」
召喚士「はあ?」
魔法使い「教えてあげる。杖は二重詠唱に向かないの。性質上、杖先一点にしか魔力が集中しないから」
召喚士「二重って、貴女まさか……っ!?」
魔法使い「簡単な事だった。詠唱が間に合わないなら、同時に唱えればいいだけ――ッ!」
召喚士「左手に風、右手に炎ですってぇーッ!?」
魔法使い「(魔力が乱れる。でも出来ないわけじゃない。今までずっとやってきた基本を左右同時にやるだけ……)」
魔法使い「(集中しろ。詠唱速度は落ちたっていい。同時に放つことさえ出来れば――)」
魔法使い「勝てるのだからッ!!」シュバ ボウッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!?」ズバーン!
510
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:39:13 ID:.p.l7n2A
召喚士「頭が再生しない。燃やされた。嘘でしょ……っ!?」
魔法使い「ありがとう。貴方の言葉がヒントになった」
召喚士「こ、この子……」
魔法使い「あと八つ、それで貴方に辿り着ける……!」ジッ
召喚士「まだよ。行きなさい。二重詠唱しながらじゃ流石に回避は無理でしょー!?」
魔法使い「舐めないで!」ヒラリッ バシュ ボウ
ヒュドラ「グシャー!??」ズバーン
召喚士「回避と同時に頭を……!?」
魔法使い「向かってくるならむしろ好都合。このまま残り全部潰してあげる」バッ
召喚士「なんなの? 貴女、一体なんなのよっ!?」オドッ
魔法使い「はああ!!」タッ ズバーン
召喚士「燃やされていく、アタシのヒュドラちゃんが……っ!?」
魔法使い「これで頭はあと六つ――、勝てるッ!」バッ
511
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:40:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「(駄目、勝てない。こちらの動きは完全に読まれているし、どうすれば……)」
魔法使い「ぐぅっ!!」ハァハァ
召喚士「?!」
召喚士「(そりゃ疲れるわよ。動きまりながら正確に魔法を撃ち込んでいくんだもの。それも慣れていないであろう二重詠唱を使って……)」
召喚士「(この勝負、やっぱりアタシの勝ちね。最後まで持つわけがない。持ってもヒュドラを倒すまでが限界――)」
召喚士「(そしてその瞬間こそがアタシにとって最大のチャンスとなる……!)」
魔法使い「あと一つ!!」バッ
召喚士「(ヒュドラちゃん今までありがとう……っ!)」
ヒュドラ「グシュアアア!!」ズバーン ズゥゥン!
魔法使い「よし……!」フラッ
召喚士「今なら隙だらけ、ここでアタシ自ら勝負に出れば――!!」ダンッ
魔法使い「しまった……?!」ビクッ
召喚士「無駄よ、無駄ッ! 貴女の詠唱速度はもう十二分に理解した。間に合わないわ!」
512
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:42:48 ID:.p.l7n2A
魔法使い「なーんちゃって」ニヤッ
召喚士「えっ、嘘? 足先に魔力が集まってる――、三重詠唱だったっていうのッ!?」
魔法使い「ぶっ飛んじゃえーっ!!」バシーン
召喚士「ぐああああーっ!!」ズテーン
魔法使い「もう駄目。流石に身体が……」ガクッ
召喚士「ぐはっ、ほんと可愛くない。今の真空魔法は効いたわ。けど、それが最後みたいね」
魔法使い「くぅ、あれでは足りなかったか……!」ギリッ
召喚士「アタシも随分痛めつけられちゃったけど、今の貴女に止めを刺すくらいはできるわ。やっぱりこの勝負アタシの――」
魔法使い「ふふっ、そろそろ口を閉じたら。恥かくわよ?」
召喚士「強がり言っちゃって。どう見たってもう……」
魔法使い「来るならもっと早く来なさいよ。バァーカっ!!」
召喚士「誰に言って……」クル
剣士「――!」ザカッ
召喚士「紅い髪は、紅蓮の……っ!!??」ビクンッ
剣士「ただで済むと思うなよ」チャキッ
513
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/02(火) 09:54:24 ID:kihaXQ.s
乙
514
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:03:49 ID:SGyVAJO6
召喚士「こ、殺されるっ!?」ガタガタ
魔法使い「待って。このオカマに聞きたい事があるの!」
剣士「大丈夫なのか?」
魔法使い「うん、なんとか……」ヨロリ
召喚士「なによ、アタシに聞きたい事って?」ジリッ
魔法使い「どうして人間の子供を助けたの?」
召喚士「はあ!? 答えたでしょ、それは……」
魔法使い「それはおかしいのよ。自身の手で殺したいだけならあの場で殺してもよかったはず――」
魔法使い「仮にそのヒュドラで村共々滅ぼしたかったって言うなら、それもおかしい」
魔法使い「私がここを見つけた時にはもう既にヒュドラは召喚されていた。それはつまり村を襲う準備は出来ていたという事」
魔法使い「機会を待っていたっていうのもなしよ。襲うなら宴会を開いていた昨晩が絶好のチャンスだった」
515
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:05:33 ID:SGyVAJO6
召喚士「勘違いしないでくれるかしら。ヒュドラはね、今朝ようやく召喚できたの。間に合わなかっただけよ」
詩人「見苦しいな。いい加減認めたらどう?」フフッ
剣士「アンタは?!」
詩人「やはり人魔は戦いに向かないな。エルフから教わった秘術の力をもってしても、その軟弱な精神までは克服できなかったか……」
召喚士「何を言ってるの。貴方だってアタシと同じ三魔将でしょうに…… ま、まさか!?」
詩人「そう、僕は彼の味方だ。ああ、裏切ったなどとは思うなよ。もとから僕はこっちだ」
召喚士「この件、魔王様に報告させてもらうわよ!!」
詩人「好意で人間の子供を助けるような君にだけは言われたくないな」
魔法使い「好意で??」
詩人「ああ、彼は子供好きで有名でね。将になる前はよく子供達を喜ばせる為に様々な事を無償でしてあげていたみたいだよ」
詩人「人間の子供を助けたのも、その子供好きが災いしてじゃないかな。おそらく人間の子供に人魔の子供の姿を重ねたんだろうね」
詩人「そしてその精神の脆さこそが人魔がもっとも戦いに向かないと言われている所以だ」
召喚士「あ、貴方ーっ!!」ガタッ
516
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:07:18 ID:SGyVAJO6
詩人「気に障ったのなら謝るよ。でも言い返せないだろう?」
召喚士「馬鹿にしないで。アタシだってやれるわ。同胞や魔王様の為ならアタシだって!!」
詩人「出来なかった癖によく言う」
召喚士「あ、あれは身体が勝手に動いちゃっただけ。今もう覚悟完了したわ!」
詩人「そうかい。だったら急いで本国に帰る事だね。君の大好きな魔王様が今とても危ない」
召喚士「ど、どういう意味!? だって脅威はそこに……」ジッ
詩人「端的に言えば四天王の一人、灼熱のドラゴンが謀反を起こし魔王を裏切った」
召喚士「う、嘘よ!」
詩人「嘘じゃないよ。あの噂くらい君も聞いた事があるだろう」
召喚士「じゃあ、噂は本当だったって事!? なるほど。なら納得せざるを得ない。この子達の強さも……」
詩人「やめてよね。彼をあんなのと一緒にしないでくれるかな。剣士は人間だ」
召喚士「え……!?」
詩人「これでわかっただろう。さあ、主のもとへ帰れ」
517
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:15:22 ID:SGyVAJO6
召喚士「け、けど……」チラッ
詩人「あ、そっか。――どうする?」クルッ
魔法使い「行かせてあげて、お願い」
召喚士「馬鹿な。ア、アタシは――」
魔法使い「貴方は子供を助けてくれた。それが一時の気の迷いだったとしても。だから……」
剣士「ああ、そうだな」
召喚士「剣士、貴方までっ!?」
剣士「受けた恩は返したい。それにもう戦う理由がない」パチン
召喚士「あるでしょ!」
剣士「俺は、俺達は大切な人を守る為に戦っているだけだ。誰かを殺す為じゃない」
召喚士「カッコつけてんじゃないわよ。殺す以外にないでしょ、守るには。それにね、魔王を殺せば魔族はみんな死んじゃうの。わかる?」
剣士「決めつけるな。まだわからない。それ以外の道だってあるはずだ」
召喚士「本気? だとしたら、とんだ甘ちゃん坊やね」ハンッ
剣士「だったら俺の決意を鈍らせるような事をするなよ……」グッ
召喚士「……そうね、ごめんなさい」
518
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:17:43 ID:SGyVAJO6
召喚士「わかった気がするわ。確かに彼は勇者じゃない」
剣士「勇者を、知っているのか?」
召喚士「先代の方だけどね」
剣士「百年前の勇者か。という事は貴方もこの時代まで生きながらえた――」
召喚士「レディの年齢を詮索するんじゃないわよ!」
詩人「男でしょ?」
召喚士「失礼しちゃう。心は女子よ。ぷんぷんっ!」ムスッ
召喚士「――んじゃ、お言葉に甘えて城に変えるわね」スッ
剣士「待て。これを」ポイッ
召喚士「なにこれ?」パシッ
剣士「傷薬だ。不要なら捨ててくれ」
召喚士「ほんといい性格してる。ここまでくるといっそ清々しいわね」
召喚士「それじゃ生きてたらまた会いましょう、またね!」タッ
519
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:20:29 ID:SGyVAJO6
剣士「行ってしまったな。だが、本当に帰れるのか彼――あ、いや彼女は?」
詩人「三魔将には帰還の翼と呼ばれる魔王城直通の転移道具が持たされている。間違いなく帰れるよ」
剣士「そんなものがあるのか!?」
詩人「高級品で数も少なく魔王が認めた相手しか使えないけどね」
剣士「なるほど」
詩人「今乗り込めたら面白いんだけどねー」アハハ
剣士「その事だが――四天王が魔王を裏切ったというのは本当なのか?」
詩人「ああ、本当だよ」
剣士「にわかには信じがたい」
詩人「色々な事が起こったのさ。起こるべくしてね」
520
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:21:58 ID:SGyVAJO6
剣士「起こるべくして?」
詩人「話せば長い。おいおい話すよ」
剣士「おいおい?」
詩人「喜んで。これからは僕も一緒だ」
詩人「ほら、水先案内人は必要でしょ。魔王の大陸に殴り込みに行くのにさ」
魔法使い「ちょっと待って。なに勝手に決めて――うっ!?」ガクッ
剣士「無理するな」ガシッ
詩人「この子を休ませるのが先だね。村に帰ろう」
剣士「ああ、そうだな」
521
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:23:19 ID:SGyVAJO6
武闘家「やっと追いついた。――って、一体なんだ。こいつは蛇の死骸か??」ジッ
武闘家「やっぱすげぇや。こんな魔物をたった二人で倒しちまうなん――いや、違う!?」
武闘家「剣士殿には血しぶき一つ飛んじゃいない。つまりそれって……」ゾクッ
武闘家「う、嘘だろ。こんなの勇者だって一人じゃ無理だぜ」
武闘家「そうだよ。勇者がたった一人で四天王を倒したっていう伝説は聞いた事がない」
武闘家「なのにどうしてだ? 二人のどこにそんな力が!?」
武闘家「進化の秘術だって勇者を越えられなかったっていうじゃねぇか!」
『人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する』
武闘家「本当に人の想いが力に? けど、それが本当だとしたら勇者って何なんだ?」
武闘家「神に選ばれた唯一無二の存在だから特別で凄いんだろ。それを選ばれてもいない人間が越えちまったら……」
剣士「あ、来てたのか」
武闘家「え!?」ビクッ
522
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:25:23 ID:SGyVAJO6
剣士「もう終わったよ」
武闘家「そう、見たいだな」
魔法使い「ごめんなさい。貴方にも迷惑かけちゃって」
武闘家「いいんだよ。俺は二人が無事ならそれで……」
詩人「優しいんだね」フフッ
武闘家「だ、誰? あー、あれか。剣士殿が言っていた例のエルフさん??」
詩人「へぇー、エルフと思われてたのかー」
剣士「含んだ言い方だな」
詩人「ただの思わせぶりかもよ。君達の気を引きたいだけの」フフッ
剣士「素性を明かせない理由でもあるのか?」
詩人「困ったな。そう、ストレートに聞かれちゃうと……」
剣士「だったら、そんな言い方するなよ」イラッ
523
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:26:16 ID:SGyVAJO6
詩人「あははっ、それよりもほら早く帰ろうよ。ね!」
剣士「魔法使い、嫌かもしれないが我慢してくれ」ヒョイ
魔法使い「ちょ、ちょっと!?////」ビク
詩人「お姫様だっこか、いいなぁー」
魔法使い「あ、あのー、恥ずかしいのだけれど?////」
剣士「なら目を閉じたらどうだ?」
魔法使い「そういう話じゃないでしょ?」
剣士「そういう話だよ」
魔法使い「も、もう……////」パチ
武闘家「(あ、マジで閉じるんだ)」ジッ
524
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:22:06 ID:xp1vmAwY
魔法使い「――ごめん、このこと黙ってて」
剣士「喋って平気なのか?」
魔法使い「へとへとなだけだから。それより、その……」
剣士「謝るのは俺だ。君にこんな無茶をさせてしまった」
魔法使い「べつに貴方とのことがあったからってわけじゃないわ」
剣士「どうだろう。俺がちゃんと君と向き合っていたら違ったんじゃないか?」
魔法使い「……。そうね。確かに一人であんな化け物とやりあうことなかったかも」
魔法使い「貴方がいてくれたらもっと早くあのオカマの違和感にも気づけただろし――」
魔法使い「けどそれじゃ私は変われなかった。大切なことにも気づけないままだったと思う」
剣士「大切なこと?」
魔法使い「誰かを守りたいという想い、とでも言えばいいのかな?」
魔法使い「貴方と離れてやっと気づけたの。こんな私にもそんな想いがあったということに」
525
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:24:33 ID:xp1vmAwY
魔法使い「私ね、世界なんか――他人なんかどうでもよかったの」
魔法使い「貴方に求められたい、愛されたいと。ただ、それだけの為に戦っていた」
魔法使い「だからこの戦いが死出の旅でも構わなかった。世界なんて救えなくてもいい。貴方が私を求めてくれるなら、それでよかったから」
剣士「……」
魔法使い「けど貴方は違った。世界を救えると信じ、ただ直向きに戦っていた。腐り切っていた私とは真逆で――」
魔法使い「そう、私が違ったの」
剣士「違う?」
魔法使い「いつだったか貴方は言ったね。想いが同じなら仲間だって」
魔法使い「私には世界を救いたいという想いもなければ力もない。あるのは人一倍強い承認欲求だけ――」
魔法使い「だから駄々をこねた。子供のように喚き散らし、自分の我儘を通そうとした」
魔法使い「酷いよね、最低だよね。みんな誰かの為にと自分を捨ててまで戦っていたというのに、私だけが自分の救いを求めて逃げ回ってた」
魔法使い「真の仲間――、想いを同じくする者なら共に戦わなきゃいけなかったのに」
剣士「だから君はこんな無茶を――、俺と同じことをしたんだな?」
魔法使い「……ごめんなさい」
526
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:26:31 ID:xp1vmAwY
剣士「責めちゃいないよ。ただ――」
剣士「君がそこまで思い悩んでいたのに、俺はそのことに気づけなかった。力になれなかった。それが悔しい」
魔法使い「馬鹿ね。これは私の問題。貴方が気にすることじゃないわ。――でも、ありがと」
剣士「いや……」
魔法使い「ねぇ、また前みたいに一緒に戦ってもいい?」
剣士「いいも何も、本当にいいのか?」
魔法使い「その為に無茶したのよ。許してもらえるならそうしたい。やっぱり都合よすぎ? 駄目?」
剣士「あ、いや、そんなことはないよ。ただ――」
魔法使い「ただ?」
剣士「俺は、俺の戦いは勇者のそれとは違う。それでもいいんだな?」
魔法使い「ん? どういうこと?」
剣士「既に気づいていると思うが、俺はこの戦いに美意識を持ち込んでいる。おそらくそれは騎士道精神に近い何かで、だから平気で敵さえも許してしまう」
剣士「そんな美徳や義理ばかり重んじる俺の戦いは受け入れがたいものだ。所詮は理想。命懸けの戦場で謳う馬鹿はいない」
527
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:27:51 ID:xp1vmAwY
魔法使い「だからずっと遠慮してたの。貴方の言う美意識に付き合わせては悪いと思って」
剣士「わからない。それもあったとは思う」
魔法使い「そっか」
剣士「すまない。俺はそれを捨てられないどころか信念にしている。馬鹿だよな」
魔法使い「貴方らしくていいじゃない」
剣士「らしい?」
魔法使い「ていうか美意識なんて大袈裟に言ってるけど――」
魔法使い「それって、ただ単に命を何よりも大事にしているってだけの話でしょう?」
魔法使い「どの命も等しく尊いものだから、だから貴方は戦う。それらを守る為に」
剣士「……」
魔法使い「私は好きよ、そんな貴方が。みんなだってきっとそう――」
魔法使い「勇者の遺志に惹かれたんじゃない。貴方の意思に惹かれたから仲間になった」
剣士「そうだろうか?」
魔法使い「ええ。だから胸を張りなさい。貴方に惚れた私達の為にも」
528
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:29:32 ID:xp1vmAwY
剣士「みんな馬鹿だな」
魔法使い「気高いだけよ」
剣士「そうとも言えるか」
魔法使い「何事も前向きに捉えましょ?」
剣士「(彼女は変わろうとしている。この戦いで何が吹っ切れたんだろうな)」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「いや、べつに」
魔法使い「暗い顔しないでよ。大丈夫、今度はちゃんと貴方の力になるから」
剣士「あ、すまな――いや、違うな。ありがとう、だな」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(彼女の想いが胸刺さる。いつだって献身的に俺を支えてくれて。なのに、俺は――)」
剣士「(何やってんだろな。もらってばかりで。これじゃ対等関係とは、仲間とは言えない)」
剣士「(俺は彼女に何がしてあげられる? 愛情に対してはどう応えたらいい?)」
剣士「(わからない。どうしたら――いや、本当にわからないのか?)」
剣士「(本当はわかってる。わからないふりをして、俺は逃げているだけだ。そう、二人の想いから……)」
529
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:30:33 ID:xp1vmAwY
武闘家「よかった。二人がまた笑いあえる関係に戻れて……」ホッ
詩人「ねぇ、だっこして」
武闘家「え!?」
詩人「二人を見てたら羨ましくなっちゃった。ねぇ、僕をお姫様にして」
武闘家「な、なんで?」
詩人「あれれー? 無理なお願いしちゃったかなー?」
武闘家「無理っていうか、だって歩けるでしょう?」
詩人「歩けなければしてくれるのかい!? だったらこの足を、この足をだなああ!!」
武闘家「やめ、やめろーッ!!」バッ
詩人「冗談だってば。まさか本気にしたのかい? かあいいなー」ンヒヒ
武闘家「う、うぜぇ……」
詩人「だろうね!」
530
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:31:35 ID:xp1vmAwY
武闘家「あー、あのさ、聞いてもいいかな。やっぱあの大蛇って魔法使いさん一人で?」
詩人「えっ? うん、そうだよ」
武闘家「すげぇな。――でもさっぱわかんねぇよ、どうしてそんな力が二人に?」
詩人「経験を積んだからじゃないの?」
武闘家「それだけじゃねぇーだろ!?」
詩人「え!? 逆にそれ以外になにがある? 戦いって経験がものを言うじゃない?」
武闘家「そりゃそうだろうけど。他になんかあるだろ。例えば、その――」
武闘家「人間には未知の力が秘められているとか、その手の話だよ。知ってそうじゃんか?」
詩人「僕がエルフだからってそういう期待しないでよ。――あー、んー、そうだなぁ」
詩人「生物は環境の影響を受けて能力を開花するなんて話は聞くけど、この手の話は君達の間でも広く語られているんじゃないの?」
武闘家「ん、まあ……」
武闘家「(環境が人を開花させるか。環境って周囲の人も含むよな。じゃあ、やっぱそういうことなのか?)」ウーン
詩人「(気から察するにこの男、角こそ生えてないが魔族なのか。あのエルフの混血姉妹といい歪みの象徴とも呼べる者がこうも集まるものかね)」ジーッ
531
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:33:32 ID:xp1vmAwY
武闘家「え、なに? 俺の顔になんかついてる?」
詩人「どうしてそんなこと気にするのさ?」
武闘家「だって勇者ですら不可能なことを二人はやってのけてんだぜ?」
詩人「だから?」
武闘家「普通、気になるだろ!?」
詩人「へー、やっぱそういうもなんだ。――でもさ、気にしたって仕方なくない?」
武闘家「んなことはわかってるよ。でも、もし秘密があるならって考えちまうんだよ」
武闘家「そしたら俺だって、もっと強く。このままじゃ俺……っ!」
詩人「あー、そういうことか」
武闘家「死を恐れぬ覚悟なら俺だってある。なのになんで、どうしてここまで……!」
武闘家「やっぱアイツの言う通り、俺達にはアレしかねぇのかな」ボソッ
詩人「(かなり焦ってるな。まあ、無理もないか。魔族の血を引くこの男なら力になってあげられないこともないけど、どうするかなー)」
532
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:34:53 ID:xp1vmAwY
翌日 朝――
宿屋 一階、食堂
剣士「……」
詩人「君はいつも眉間にしわを寄せているね」
剣士「驚いた。まだいたのか?」
詩人「酷いな。疑ってたのかい?」
剣士「まあな。俺はアンタの正体も知らなければ目的もわかっていない。姿を見せないと思いきや、急にまた現れたり……」
詩人「それについてはごめん。裏切られたと思ったから」
剣士「裏切った? 俺が?」
詩人「僕の忠告を無視してケンタウロスと戦ったじゃないか、単騎で!」
剣士「?」
詩人「誰が勝つって思うよ!?」
剣士「はあ??」
533
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:36:35 ID:xp1vmAwY
詩人「僕は君が負けると思った。だから決着がつく前に帰ったんだよ、魔王城に」
詩人「つまり、見たくなかったの。君が死ぬところを、僕はねッ!!」
剣士「あー、そういうこと」
詩人「勝てたからいいものの。負けたらどうなっていたことか……!」
剣士「どうもなにも。あの街は助かったよ、おそらく」
剣士「ケンタウロスは俺に敬意を払い見逃したはずだ。その一時だけかもしれないが――」
剣士「少なくとも時間は稼げた。その時間で戦うなり逃げるなり相応の準備をすればいい」
詩人「一応、負けた後のことも考えてたんだ」
剣士「べつに。戦っているときにふと思っただけで、最初から頭にあったわけじゃない」
剣士「アンタこそどうして俺にしか伝えなかった?」
詩人「矛盾してると言われそうだけど、僕は君に戦ってもらいたかったんだ。四天王のケンタウロスとね」
詩人「街を人質に取れば、君は戦うしかない。逃げるという選択肢はなくなり、絶対に勝たなければなくなる」
詩人「その条件であればグリフォンのとき以上に堅実な戦いをしてくれるだろうと期待して……」
534
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:38:27 ID:xp1vmAwY
剣士「やはりあの爺さんはアンタだったのか」
詩人「え、ああ。あれは変化の魔法で姿を変えた僕だ。ごめん、警戒されたくなくて」
剣士「あの姿もどうかと思うぞ」
詩人「それより、どうしてあんな無茶を? やるにしたってもっと力をつけてからだろ!」
剣士「何を怒ってる? アンタの言う通りすればよかったのか?」
詩人「ああ、そうだよ。そうやって順当に経験を積んでいって欲しかった!」
剣士「それを望む意味がわからない。まさか、俺を鍛えることがアンタの目的とでも?」
詩人「今思えば最初からそう伝えればよかったね。そう、僕達の目的は君を魔王と戦えるまで鍛え導くこと――」
詩人「けど上手くはいかないね。グリフォンのときも僕は君の力を過信し、君を殺しかけた」
剣士「で、あの助言か。念を押したわけだ」
詩人「願い虚しく無視されちゃったけどねっ!」
535
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:40:35 ID:xp1vmAwY
剣士「しかし、わからないな」
剣士「アンタほど魔族の内部事情に通じ、人を操る術を持っていながら俺に拘る?」
詩人「なに?」
剣士「至極当然の疑問だよ。アンタがその気になれば魔王に対抗しうる軍隊を立ち上げるくらい容易なはず、なのに何故それをやらない?」
剣士「少なくとも俺個人に全てを託すより賢く現実的な話だ」
詩人「僕にそうしろって言いたいの?」
剣士「違う。アンタの目的が知りたいだけだ」
詩人「じゃ逆に聞くよ。君が――ただの人間が魔王を倒したら、世界はどうなると思う?」
詩人「それも勇者とまったく同じやり方で」
剣士「は?」
536
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:42:16 ID:xp1vmAwY
詩人「あ、ごめん。余計なこと言った。今は目の前のことだけに集中したいだろうに」
剣士「なら誤魔化さずに話せ!」イラッ
詩人「だからごめんって!」
剣士「謝るくらいなら――」
ガチャ
海賊「おっはよう!! お邪魔するねー!」バーン
剣士「!?」
詩人「いいときに。助かっちゃったな」ホッ
海賊「あ、いたいた!」ビシッ
537
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:43:47 ID:xp1vmAwY
剣士「こんな朝から一体どうした。何かあったのか?」
海賊「それはこっち。昨日のこと占い師から聞いたよ、それで――」
剣士「ああ、心配してきてくれたのか。魔法使いなら無事だよ。ただの疲労だそうで、賢者も少し休めば回復すると言っていた」
海賊「そうなんだぁ、よかった。――あ、これ一応お見舞いと感謝のフルーツね」スッ
剣士「ありがとう。伝えておく」
海賊「大丈夫、まだ帰らないから」ンフフ
剣士「……そうか」
海賊「んー、なんか不味い?」
剣士「あ、いや……」
海賊「――ところで、そっちの綺麗なお兄さんは? 初めてみる顔よね?」ジー
詩人「おい雌豚。いやらしい眼で僕を見るな。僕はホモだ」
海賊「え!?」ビクッ
538
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:44:57 ID:xp1vmAwY
詩人「あっ、つい本音が」テヘペロ
海賊「いやや、待って待って。やらしい眼でなんて見てないってば!」アセッ
詩人「ほんとぉ? 僕セクスィーだからなぁー///」クネクネ
海賊「ていうか、その、ホ、ホォって。まさか、二人はそういう関係なのッ!?」
詩人「だったら嬉しかったんだけど。彼はスーパークソノンケ様だからね!」アハハッ
海賊「そっか、そうだよねぇー」ホッ
ドタドタ
武闘家「お、朝から騒がしいと思ったら海賊姉さん来てたのか」
海賊「おはよー!」
武闘家「あ、はい。おはようございます!」
海賊「これからみんなご飯、かな?」
剣士「え、ああ」
海賊「やっぱりそうなんだ。じゃあ、私もここで食べてっちゃおうかなー」
539
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:47:05 ID:xp1vmAwY
武闘家「それ目的か……」
海賊「いや、心配できたのよ。昨日のこと聞いてさ。あと近状報告もしたかったし」
剣士「出航の事とかか?」
海賊「そそ。一応、目途が立ったから。んま、詳しいことは食べながら話すよ」
剣士「んー、じゃあやるか」ガタッ
海賊「あれ? 賢者ちゃんは?」
剣士「いや、まだ起きてないみたいだから……」
武闘家「珍しいな。俺と同じくらい朝強いのに」
剣士「そんな日もあるだろう。――さて、朝食だが俺が作っていいのか?」
武闘家「えっ、作れんのかい?!」
剣士「簡単なものなら出来るだろう。朝なんてパンと目玉焼きあれば十分じゃないか?」
武闘家「スープも欲しいな。あと卵は半熟が好き。ベーコンはカリカリ!」
剣士「よし、わかった」タッ
540
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:48:14 ID:xp1vmAwY
ドタドタ
賢者「すみませーんっ! ちょっと寝坊しちゃって……!!」ガタタッ
海賊「おはよ、お邪魔してますよー!」
賢者「ど、どうも。おはようございます。皆さんお揃いのようで……」アセアセッ
賢者「それで、あのぉ、朝食の方はどうされました?」
賢者「明日は私が作るから大丈夫ですと宿屋のおばさんに断り入れちゃったので、まだ食べてないですよね?」
武闘家「それなら心配しなくていいぜ。今、剣士殿が代わりに用意してくれてる」
賢者「剣士さんが? 大丈夫なのかな。剣士さんに限って駄目ってことなさそうだけど……」
武闘家「自信ありげだったぜ?」
賢者「んー、それでも手伝いに行った方がいいですよね。ちょっと行ってきます!」タッ
海賊「手伝う。あちゃー、そういう展開もあったのか……」ガクッ
武闘家「えぇ……?」
541
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:49:24 ID:xp1vmAwY
厨房――
賢者「(ふふっ、剣士さんの手料理か。ちょっと楽しみだな)」
賢者「おはようございます。あの、手伝おうことありま――ってッ!?」ビクッ
剣士「あ、おはよう。すまない。今、手が離せなく……」フラフラ
賢者「火がッ、火が強いですよ!!」アセッ
剣士「え、これくらいじゃない?」
賢者「あー、卵の黄身潰れてるぅーっ!!」
剣士「えっ!? あー……」ジー
賢者「てか、このパンなんでこんな形に切ったんですか!?」
剣士「あ、それか。それはサンドイッチ作ろうと思っ――」
賢者「中身を挟んでから切ってくださいよっ!!」
剣士「待て。それには理由があるんだ。上手く切れずに崩れたら嫌だなと。ならば最初から全部同じ形に切ってしまおうという逆転の発想で……」アセッ
賢者「よ、余計なことをぉ…… どいてください。あとは私がやります!!」
542
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:50:47 ID:xp1vmAwY
食堂――
剣士「本当にいいのか。俺が作ったんだ。それは俺が食べるべきだろう」
賢者「いいえ、これは私が食べます」モグモグ
剣士「いや、だが……」
賢者「もう口つけちゃいましたから、剣士さんは私が作ったのを食べて下さい」
剣士「あ、はい……」シュン
武闘家「――なんで、作ろうと思った?」
剣士「一度やってみたくて。簡単そうに見えたし……」
武闘家「それで、あれか」ジーッ
剣士「自分の力を過信した。過ぎた野望と過信は身を滅ぼすということだな」フッ
武闘家「カッコつけれてもなぁー……」
海賊「でもほら、率先して作ろうとしたのは偉いよ!」
海賊「それに、あれでもおばちゃんのご飯よりは食べられそうだしさ! ねっ!」
武闘家「そ、そうね。ただの失敗料理だもんな」
543
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:52:33 ID:xp1vmAwY
剣士「そんなに不味かったのか?」
武闘家「大声じゃ言えねぇけどな」ハハッ
剣士「そんなに」
武闘家「昨日はある意味ラッキーだったぜ。魔法使いさんを理由に逃げ出せたからなー」
海賊「ラッキーかどうかはまだわからないよー?」
武闘家「え?」
海賊「残された者がいたことをお忘れ?」フフッ
武闘家「あ、ああーッ!?」
海賊「すっごく怒ってたよ」
武闘家「マジかぁ。でも、だよあな……」
海賊「あとで謝っておきなね!」
武闘家「はーい……」
544
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:54:13 ID:xp1vmAwY
海賊「あ、そういや昨日のその敵ってどんな相手だったの?」
剣士「どんな、か。なんて言えばいいんだ。敵とも言い難い……」
武闘家「四天王じゃなかったのか?」
剣士「あの大蛇は三魔将が召喚した魔物だったそうだ」
海賊「ん? 三魔将ってなあに? 四天王なら聞いたことあるけど」
剣士「四天王と同じ名を冠した魔族の将だよ」
海賊「同じって、ヤバいんじゃ……」
剣士「どうだろう。同じと言ってもやはり四天王の方が比べるまでもなく強いよ」
武闘家「そう、なのか……?」
剣士「俺達と形が同じというだけあって断然戦いやすからな。培った経験が生かせるってのはやはり大きい」
武闘家「へ、へぇー」
剣士「そして何より奴らの戦いに対する姿勢、心構えがな……」
賢者「姿勢、ですか?」
545
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:57:45 ID:xp1vmAwY
剣士「一つ聞いていいか?」
詩人「えっ、僕!?」ビクッ
剣士「どうして三魔将と呼ばれる彼等は皆ああなんだ?」
詩人「ああって?」
剣士「戦いに積極的じゃないというか。恐る恐る戦っているような、そういう印象を受ける」
詩人「あー、彼等が弱腰なのは仕方ないよ。なんせ元小間使い――いや、この場合包み隠さずドレイとハッキリ言った方がわかりやすいかな」
武闘家「……!?」
詩人「虐げられてきただけの存在が、他の魔族のように戦えと言う方が無理だって」
詩人「人魔族はずっと戦いを避けて生きてきた。それが最も魔族の中で生きるには賢いとされてきたからだ」
剣士「それが理由だと?」
詩人「ないんだよ、非力だった人魔族には。闘争本能なんてものは」
剣士「納得できなくもないが……」
546
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:06:50 ID:gebK0AvA
詩人「加えて言えば、今手にした権利だって先代の魔王の慈悲によって与えられたもの。自らが行動し勝ち取ったものじゃない」
詩人「その程度の連中だよ。力を身に着けたって使いこなせるのはごく一部。その一部だっているかどうか……」
賢者「そんな言い方しなくても……」
詩人「あー、ごめん。気に障ったのなら謝るよ」
海賊「と・に・か・く! 戦いづらい相手なんだねぇ。大変だぁー!!」アハハ!
剣士「あ、ああ。そうだな」
海賊「まっ、船のことは任せてよ。そろそろ出航できるようになるからさ」
剣士「わかった。こっちも準備しておくよ」
詩人「案内は僕に任せて。安全なルートを教えるよ!」
武闘家「信じて平気なのか?」
詩人「酷いな、ほんと」プンプン
剣士「(今まで嘘らしい嘘はついてない。さっきの怒りだって俺を本気で心配してのことだ)」
剣士「(確かに信用できる。ここで裏切るとは思えない、が……)」
剣士「(くそ、面倒くさいな。最近、考えなきゃいけないことが多すぎないか!?)」イラッ
547
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:09:06 ID:gebK0AvA
食後――
武闘家「んじゃま、ぼちぼち謝りに行くかー……」ガタッ
海賊「取り持ってあげよっか」ンフフ
詩人「面白そー、見に行こう!」
武闘家「見せもんじゃねぇよ!!」
賢者「あ、行ってらっしゃーい」
バタバタ
剣士「(逃げられたな。まあ、今聞いてもはぐらかされるだけか)」
賢者「……」ジーッ
剣士「(アイツの言葉が本当なら時間はたっぷりある。焦る必要はない。それよりも――)」チラッ
賢者「……」ジー!
剣士「どうした?」
賢者「あっ、すみません」ペコ
剣士「いや、べつに」
548
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:12:58 ID:gebK0AvA
賢者「……」チラ チラ
剣士「何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
賢者「わかっちゃいました? 実はですね、えっと、そのぉ……」グッ
剣士「?」
賢者「また私に剣士さんの時間をくれませんか!?」
剣士「えっ?!」
賢者「い、忙しいならいいんです。昨日も色々とあったみたいですし、すみません……」
剣士「そんなことはないよ。少し驚いただけで――」
剣士「あ、そうだ。今朝のこともあるし、なんでも言ってくれ。なんでもするよ」
賢者「あれはもう気にしなくも…… でもまぁそう言っていただけるのでしたらお言葉に甘えようかな?」
剣士「ああ、それで?」
賢者「では遠慮なく――」コホン
賢者「私と、模擬戦――それも実戦形式で戦ってくれませんか!!」クワッ
剣士「え゙……?」
549
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/20(水) 08:15:40 ID:7tLGNMjE
乙
550
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/01/07(火) 07:11:46 ID:3zC3wvcI
乙
551
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:55:45 ID:Prhtzo/w
海岸 昼頃――
ザザーン
賢者「ここなら他に何もありませんし、思う存分やれそうですね!」フンス
剣士「本当にやるつもりなのか?」
賢者「……駄目ですか?」
剣士「どうして急に? それも俺と模擬戦だなんて、おかしいっていうより変じゃないか?」
賢者「強くなりたいからじゃ理由になりませんか?」
剣士「なら何も模擬戦に拘らなくてもいいだろう?」
賢者「私は圧倒的に実戦経験が足りません。ですから……」
剣士「俺達の相手は魔族だ。人間相手の経験がどれほど役に立つかわからない。それでも?」
賢者「それはそうかもしれませんけど、人魔族だっていますし……」
剣士「彼等の種族性は聞いたろう?」
賢者「戦いを忌避する文化が根付いてしまっているって話ですよね。確かに、それが本当なら彼等との戦いは回避できるかもしれない。けど――」
賢者「けど、それでお二人は強くなられたじゃないですか!?」
剣士「え?」
552
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:57:09 ID:Prhtzo/w
賢者「剣士さん、言いましたよね。王宮にいた頃はお姉様と毎日特訓していたって」
剣士「あ、ああ。あのときの話か。だが、流石に毎日は……」
賢者「それで剣士さんは剣士でありながら魔法を見切れるようになって、お姉様もお姉様で魔導師でありながら剣士のような鋭い動きを身につけて――」
賢者「なら私もって思っちゃいけませんか!?」
剣士「それで?」
賢者「……はい」コクン
剣士「(もしかして昨日の魔法使いの活躍を聞いて焦燥感に駆られたのか?)」
剣士「(そう言えば前にもあったな。前は大丈夫だ、心配するなと言ったが……)」
賢者「情けないって自分でもわかっています。貴方を支えるとあれだけ豪語しておきながら」
剣士「あ、いや……」
賢者「戦って見込みなしなら今度こそ諦めます。だからお願いします。私と戦って下さい!」
剣士「ハァ!?」
553
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:58:36 ID:Prhtzo/w
剣士「待てよ。諦めるって、こんな馬鹿みたいな理由で旅を諦めるって言うのか!?」
剣士「俺達は君がいなければ立ち行かない。治癒魔法、いや食事一つとってもそうだ」
剣士「君がいるから俺達はこうして無事に旅を続けられている。少しは自分のこと誇れよ!」
賢者「あっまーいッ! お砂糖よりも甘いですよ、スウィートちゃんです!!」クワッ
剣士「どこが? 事実じゃないか!?」
賢者「確かに今まではそれでよかったかもしれません。けど、これからは攻め入る側になるんですよ?」
賢者「私のような足手まといを傍に置いておく余裕なんて今以上にあるわけないんです!」
剣士「何を自棄になってる。足手まといだなんて、いつ誰が言った!?」
賢者「剣士さんこそ、どうしちゃったんです? 昔はあんなに厳しかったのに!」
賢者「まさか、この連戦連勝で調子に乗っちゃっているんですかッ!?」
剣士「なっ!?」タジッ
賢者「否定してくださいよ!」
剣士「くっ……」ギリッ
554
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:00:19 ID:5Dt9ncyE
賢者「剣士さんっ!!」クワッ
剣士「わかったよ。やれば、やればいいんだろ?」
賢者「本当ですね?」
剣士「まあ、約束だしな」
賢者「よおし、では早速やりましょう。えーっと、どれくらい離れればいいんだろ?」タタッ
剣士「(調子に乗っているか。痛い所を突く。確かに今の俺は誰が見たって――)」ジーッ
剣士「ちょっと待った。どこまで行く気だよ?」
賢者「え!?」ピタッ クルリ
剣士「五歩分もあれば――あいや、賢者は魔導師だから離れていた方がいいのか?」
賢者「ん? どうします??」
剣士「あー、もう十歩分先に行っていいよ。てか、賢者がやりやすい位置でいいや」
賢者「わかりました」タタッ
555
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:02:04 ID:5Dt9ncyE
賢者「ここで十歩目。こんなとこでいいのかな?」チラッ
剣士「よければ賢者の好きなタイミングで始めてくれ。誰に見せるものでもないしな」
賢者「はい。わかりました!」チャッ
剣士「(俺が賢者と戦うか。やりたくないな。模擬戦とはいえ賢者に剣を向けるなんて……)」
賢者「手加減はいりませんよ。全力で行きますから、剣士さんも全力でお願いします!」
剣士「ああ、わかってる。真面目にやるさ」
賢者「それを聞いて安心しました。では――」スッ キラリ
剣士「(初手が爆発魔法ってやたら多いな。敵を捉えやすいからか?)」ヒョイ
ズドカーン!
剣士「な、何ッ!?」ズササ
賢者「何を驚いているんですか? 全力で行くと言いましたよ!」
剣士「待て! だからって今の火力はおかしい!?」
賢者「ん? 余裕で躱せていたじゃないですか?」
剣士「そう言う話じゃない!!」
556
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:04:07 ID:5Dt9ncyE
賢者「私ごときが剣士さんに敵うはずありません。実力差を考えればこれくらいどうってことないはず……」
剣士「買いかぶりすぎた。仮にそうだとしても、万が一ってこともある」
賢者「ふふっ、安心してください。その時は手厚く私が介抱します!」
剣士「う、嘘だろ……」
賢者「このまま続けますよ。構えてください!」
剣士「このままって、次もこの火力で放つ気か!?」バッ
賢者「(剣士さん、すみません。でも本気の私を見てくれなきゃ意味がないから!)」スッ
バシュン
剣士「(真空魔法、使えるようになったのか。それに、これは――ッ!?)」ヒラリッ
賢者「まだまだ行きますよー!」スッ バシュ バシュ
剣士「氷槍――、それも二連撃!?」ヒラリ ガキンッ
賢者「いとも簡単に防いじゃう!? わかっていたけれど、やっぱり剣士さんは凄い!!」
剣士「(なるほど。やっとわかったよ。魔法使い、君が言っていた意味が……)」ヨロッ
剣士「(彼女の才能は異常だ。もしかしたら俺ここで死ぬかもな)」
557
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:07:40 ID:5Dt9ncyE
宿屋――
魔法使い「ふわぁー、よく寝た……」タンタン
海賊「あっ、おはよー!」
魔法使い「……お、おはよう、ございます」ビク
海賊「そろそろ起きてくるんじゃないかなーって待ってたんだ、貴女のこと」
魔法使い「待ってた? 私を?」
海賊「いやー、お礼をね。話は聞かせてもらったよ、この村を救ってくれたんだって?」
魔法使い「あー……」
海賊「ありがとね。村を代表してお礼を言うわ。なんて、村長でも何でもないんだけどねぇ」フフッ
魔法使い「彼等は私達が招いたようなものです。礼を言う必要ないと思いますけど?」
海賊「何言ってるの。貴女達を船に乗せると決め、ここに連れてきたのは私よ?」
魔法使い「じゃあ、どういたしまして。これでいいですか?」
海賊「んふふっ、見た目通りクールだねぇ」ニヤニヤ
魔法使い「(面倒なのに絡まれたな……)」ハァ
558
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:12:56 ID:5Dt9ncyE
海賊「んー」ジーッ
魔法使い「な、なに?」サッ
海賊「いやー、全体的に細いよね。よくこんな身体で倒せたものだなーっと」
魔法使い「どんな敵だったかも知らないでしょうに……」
海賊「確かに戦ってたところは見てないよ。けど戦いの形跡を見ればある程度予想つくわ。どんな規模のものだったのか、素人の私でもね」
魔法使い「見に行ったんですか?」
海賊「一応、船長さんだからね。朝一番に見に行ったよ」
魔法使い「まあ、それはそうか」
海賊「剣士の言う通り、貴女は本当に強かったんだね。べつに疑ってたわけじゃないけど!」
魔法使い「アイツが?」
海賊「うん。魔法使いさんは強いって。もしかしたら自分よりもって言ってもんだから」
魔法使い「流石にそれはないかなぁ……」
海賊「そうなの? 剣士が言うには貴女に勝てたことないって話だったけど」
559
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:16:37 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「それは私に有利すぎる特殊なルールでの模擬戦だったからで、実際は――」
海賊「有利?」
魔法使い「ハンデをもらっていたと言えばいいのかしら?」
魔法使い「アイツとの模擬戦はいつも私が得意な間合いからやらせてもらっていて――」
魔法使い「もし普通に一足一刀の間合いから始めていたら私は一度もアイツに勝てなかったと思う」
海賊「そうなんだ。今も変わらずそんな感じなの?」
魔法使い「今? 今はどうだろう? ハンデありなら、戦えないこともないかな。たぶん」
海賊「やってみたら?」
魔法使い「やめておくわ。それよりも面倒見なきゃいけない子がいるから、そんな暇は……」
海賊「やればいいのにー。今、賢者ちゃんとやってるみたいだしさ。その後にでも!」
魔法使い「ハァッ!?」
560
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:20:47 ID:5Dt9ncyE
海岸――
賢者「(近づいてこない。どうしてだろう? 一瞬で決着がついちゃうから?)」
剣士「……!」ジリッ
賢者「(そうですよね。お爺さんの詠唱速度すら凌駕した剣士さんが、私なんかに苦戦するはずがない)」
賢者「(――って事は剣士さん、ああ言っていたけど私の事ちゃんと見てくれているんだ)」
賢者「(じゃあ、心置きなく……!)」エイ!
ボシュ
剣士「くっ!?」キンッ
賢者「小さい火球は速度があるけど、簡単に弾かれちゃうか。むぅー……」フムッ
剣士「(近づけない――ッ!)」ギリッ
剣士「(こうも砂に足を取られては躱すのですらキツイ。加えて緩急のついた波状攻撃だ。甘えた読みは死に直結する)」
剣士「(状況は最悪だな。身を隠す遮蔽物もないときた。となると残す手は――)」チャッ
剣士「(いや、駄目だ。投げナイフは使えない。彼女を傷つける。じゃあ、どうする?)」
賢者「どうしたんです? もう仕掛けてきてもいいですよ!」
剣士「(言ってくれるな。こんな事になるならニ十歩分もやるんじゃなかった)」イラッ
561
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:24:32 ID:5Dt9ncyE
剣士「(隙の大きい魔法に狙いを絞って近づくしかない。切り払えるものなら払いつつ距離を詰め、好機を広げる)」ジリ
賢者「まだまだ見極め足りないんですね。それなら、とっておきで――」キラッ
剣士「(氷の槍がくる。これは剣で切り払って……)」バッ
賢者「えいや!」バシュ バリバリ
剣士「氷槍じゃない!? 地を這う氷の衝撃波だと!?」ダン ヒラリ!
賢者「どうですか? お姉様の魔法を私なりにアレンジしてみました!」ドヤッ
剣士「(そうくるか……)」ヨロッ
剣士「(応用技は読めないな。だが、所詮はアレンジ。こちらも応用で対応できるはずだ)」
賢者「よし、次はこれです!」スッ
剣士「(火球? いや、爆発魔法にも近い。つまり複合技ってことかッ!)」ダン
ボシュ ドーン
剣士「(やはり着弾と同時に爆発する火球だった。こちらの切り払いを潰すつもりだったんだろうが!)」ヒラリッ
賢者「おおーっ!?」
剣士「(くっ、足場さえしっかりしていればな。だが、もうそれも関係ない。ここまで近づければ――!)」グッ
562
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:29:17 ID:5Dt9ncyE
剣士「(しかし、どうやって黙らせる? 鞘で頭をはたくわけにもいかない――)」ジリッ
剣士「(あ、そうか。押し倒せばいいのか。下は砂場だし、そこまで痛くないだろう)」
賢者「んー、次は……」スッ
剣士「――ッ!」ダンッ
ドンッ!
賢者「ぎゃ!?」バタッ
剣士「捕まえた。まったく何やってんだよ、本当にッ!!」
賢者「はぅー////」カァー
剣士「ど、どうした? どこか痛めたか??」オロオロ
賢者「いやぁ、近いなって……////」ポッ
剣士「あっ!」
賢者「いい、ですよ? べつに……////」テレッ
剣士「な、何が?」アセッ
賢者「か、勘違いしないで下さい! あ、いやぁ、勘違いでもいいですけども……////」
剣士「そんなつもりで押し倒したわけじゃ……」アセッ
563
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:31:30 ID:5Dt9ncyE
ゲシッ!!
剣士「イタ!」グシャァ
魔法使い「なに盛ってるの?」ジーッ
賢者「お、お姉様!?」ビクゥ!
剣士「脇が、脇腹がっ!!」モダモダ
魔法使い「特訓してるって聞いてきてみれば浜辺でキャッキャウフフとは。聞いて呆れるわ」
剣士「待て。不可抗力だ!」ヨロリッ
魔法使い「ふーん」
剣士「怪我させるわけにもいかないだろ!」
魔法使い「殺されかけてたっていうのに、随分とお優しいことね」
賢者「え? コロ……?」
魔法使い「気づいてなかったの? まあ、気づいてたらできないか」
剣士「(なんだよ、見てたんじゃないか。だったら止めろよな)」イラッ
564
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:37:27 ID:5Dt9ncyE
賢者「それ、本当なんですか?!」ガタッ
剣士「大げさだな。確かに追い詰められていたのは事実だが殺されはしなかったよ」
賢者「で、でも……」
剣士「だが、これでわかったろう。君は強い。足手まといなんかじゃ――」
魔法使い「ハァ!?」
剣士「え゙?!」
魔法使い「どこが? すべての状況がこの子に有利に働いていただけでしょ?」
賢者「そう、なんですか?」
魔法使い「ほら! この子はそれすら理解できていないのよ!?」
剣士「いや、だが……」
魔法使い「甘やかしてどうするの? 貴方はこの子を強くする為に戦ってたんじゃないの?」
魔法使い「ハッキリ言わなきゃこの子は一生強くなれない。それどころか命を落とすことにだって――」
剣士「わかってるよ! だが、君だって見てたんだろ!?」
魔法使い「ええ、途中から見させてもらったわ。じっくりと。だけど、それが何だって言うの!?」
565
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:41:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「凄まじいものじゃないか、賢者の魔法は!?」
魔法使い「それは認めるわ。私以上に魔法を扱えていたことも含めて」
魔法使い「だけど、それだけで――才能だけで戦える相手でもない。違う?」
剣士「それはそうだが…… 何もそこまで強く言わなくてもいいじゃないか?」ボソッ
魔法使い「ハァ!?」
剣士「だって、そうだろ? 賢者は出会った頃のよりも強くなっていた。俺達の知らない間に、こんなにも強くだ」
剣士「少しは認めてあげたっていいじゃないか?」
魔法使い「だから認めてるって言ってるじゃない。私は甘やかすのが駄目って言ってるの!」
魔法使い「この子はすぐ付けあがる。キツイくらいが丁度いいのよ」ビシッ
賢者「あぅ……」シュン
魔法使い「何があぅーよ。間抜けな声出さないで!」
賢者「だ、だってぇ!」
魔法使い「言い訳なんて聞きたくないわ。ていうか、今後一切聞かないから」
魔法使い「明日から覚悟なさいよ。剣士に代わって私がビシバシ鍛えてあげる!」
剣士&賢者「「え゙!?」」
566
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:43:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「い、今なんて……」
魔法使い「こいつを一から鍛えるって言ったの。貴方が鍛えるよりずっといいでしょ?」
剣士「そりゃまあ、同じ魔導師なわけだからな。だが――」
魔法使い「だが何? 何が不満なわけ?」
剣士「いや、不満はないよ。ないんだが――」
賢者「いいんですか!?」
魔法使い「嫌なの?」ギロッ
賢者「と、とんでもない!」ブンブン
魔法使い「じゃあ、決まりね」
賢者「よ、よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「でも明日からよ。まだ昨日の疲れぬけてないから」
賢者「あ、はいっ!!」
567
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:49:53 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「じゃあ、そういうことだからダッシュ。ご飯の支度にゴーゴー!!」
賢者「え!?」
魔法使い「昨日から何も食べてないの。作って」
賢者「えっ、あー、わかりました。作ってきます!!」シュバ!
タタタタ!
魔法使い「よし、これで邪魔者は消えた」
剣士「邪魔者って……」
魔法使い「それよりどういう風の吹き回し? 貴方があの子を鍛えようなんて」
剣士「それはこっちのセリフだよ」
魔法使い「べつに。あの子の才能を腐らせたままにしておくのは惜しいと思っただけよ」
魔法使い「これから戦いは厳しさを増す一方なんだし、役に立って貰わないと困るじゃない」
剣士「勝つ為に、か……」
剣士「(それが言えるって事は、本当に強くなったんだな。賢者の才能と向き合えるまでに)」
568
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:51:32 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「貴方こそどうして?」
剣士「どうしてって強くなりたいと言っていたから、それで――」
魔法使い「断れなかった?」
剣士「あ、ああ」
魔法使い「まあ、そんなところだと思った」
剣士「そんなにおかしいか?」
魔法使い「だって貴方はあの子に戦って欲しくないと思ってる。なのに、どうして自信をつけさせるようなことするのよ。変じゃない?」
剣士「あ……」
魔法使い「やっぱり否定しないんだ、そこは」
剣士「そうだな。俺は賢者に戦って欲しくないと。いや、彼女を守りながら戦えると心のどこかで思ってた……」
魔法使い「それは押し付けよ。あの子もそんな関係望んじゃいないわ」
剣士「わかってる。わかってるつもりだったんだが……」
魔法使い「いい顔したかった?」
569
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:54:13 ID:5Dt9ncyE
剣士「ち、違う!」
魔法使い「まあ、気持ちはわからなくもないけどね。好きな子になんでもしてあげたいっていう気持ちは」
剣士「だから違うって言ってるだろ!」バッ
魔法使い「じゃあ、何?」ジッ
剣士「何って、それは……」タジッ
魔法使い「貴方はあの子のヒーローであろうとし過ぎる。それが悪いとは言わないけど、少なくとも仲間に対する態度じゃないよね?」
剣士「うっ!?」
剣士「(だが、もっともだ。賢者の身を一番に案じていながら、仲間と言い張るのは無理がある)」
魔法使い「まあ、いいけど」
剣士「よくは、ないだろう?」
魔法使い「私が気を付ければいいことだし。それに――」
剣士「それに?」
魔法使い「ううん、やっぱ何でもない」
魔法使い「(想いは力に変わる。剣士は賢者と出会って強くなった。賢者の想いに応える為に。悔しいけど、それは認めなければならない)」
570
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/02/21(金) 15:45:21 ID:imhqHob6
乙
571
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:14:48 ID:.oerQfSI
魔法使い「――そんなことよりよ。アイツと何か話した?」
剣士「アイツ? ああ、エルフの詩人か。話したよ、少しだけ」
魔法使い「なんだって?」
剣士「何って、なんだろう。なんて言えばいいんだ?」
魔法使い「?」
剣士「なあ、俺が――ただの人が、魔王を倒したら世界はどうなると思う?」
魔法使い「どうしたの、急に?」
剣士「アイツが俺達に協力する理由はそこにあるらしいんだ」
魔法使い「へぇー」
剣士「本当にへぇーだよな。わけがわからない。それが一体何だって言うんだ?」
魔法使い「うーん、それはちょっと想像力足らなすぎじゃない?」
剣士「そうか? 担ぎあげられる神輿が代わるだけの話だろ?」
魔法使い「だから、それが問題なんでしょ!?」
572
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:16:36 ID:.oerQfSI
魔法使い「つまりそれって人々が勇者を必要としなくなるってことよ?」
剣士「なるか?」
魔法使い「なるわよ!」
剣士「この程度で失われるような権威でもあるまい」
魔法使い「だからってまったく影響されないってこともないわ」
剣士「それはそうだろうが……」
魔法使い「これを機に女神信仰から人々が離れることだって十分にあり得る」
剣士「流石に飛躍しすぎだろう?」
魔法使い「本当に、そう思う?」
剣士「確かに女神は勇者を地上に遣わし、人々を魔王の恐怖から救うと言われている――が、それだけで人々が離れるか?」
魔法使い「貴方は勇者の影響力を甘く見過ぎている。女神信仰がここまで爆発的に広まり浸透したのは勇者の存在があったからこそ――」
魔法使い「それに貴方は、神の言葉を越えようとしている。だけってことはないんじゃない」
剣士「神の言葉?」
魔法使い「信仰と教え、勇者にまつわる伝説の数々、それらをひっくるめたものかな?」
573
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:18:30 ID:.oerQfSI
魔法使い「その言葉が正しいと信じられてきたから、人々は神を絶対視してきた。だけど、もしそれが間違いであったとしたら?」
剣士「間違いとは少し違うんじゃないか?」
魔法使い「そう? 思い出してみて。嫌って言うほど見てこなかった?」
魔法使い「女神に選ばれた勇者だけが世界を救える。そんな伝説と、それを信じる人たち」
剣士「だからって……」
魔法使い「言葉を守っていた人は善であり、外れた人は悪であるとされてきた」
魔法使い「勇者にまつわる伝説だって例外じゃない。これも信じられてきた教えの一つよ」
剣士「つまり君は女神信仰を支えていた根底がひっくり返る、そう言いたいわけか?」
魔法使い「それに知ってる? 今、勇者がなんて言われてるか?」
剣士「なんて?」
魔法使い「敗北者、負け犬よ」
剣士「う、嘘だろ?!」
魔法使い「嘘じゃないわ。ここの子供たちが言っていた」
574
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:21:07 ID:.oerQfSI
剣士「それだけで、それが勇者の世評だと決めつけるのは……」
魔法使い「そうね。今はまだ子供の戯言に過ぎないわ。けど、貴方が魔王を倒せば誰も勇者を必要としなくなる」
魔法使い「そうなれば、そんな俗称で呼ばれる日がくるかもしれない。何せ、この時代の勇者は何もできずに、何の伝説も残せずに死んだのよ?」
剣士「それは、そうなのかもしれない。だが、だからって……」
魔法使い「勇者の名誉を守る為にも否定したい気持ちはわかるわ。だけど――」
魔法使い「貴方だってもう気づいていたはず、自分の戦いがどういう結果をもたらすのか」
剣士「!?」
魔法使い「貴方の戦いは勇者とは違う。そう言ったのは誰?」
剣士「そうだな。確かに俺は望んでいる。勇者が見せる未来とは違う未来を。だが、それが彼女を裏切り、貶めることになるなんて……」
魔法使い「同情するわ。勇者の為に始めた戦いが、今や勇者を否定することになるなんて」
剣士「いや、俺は始めから自分の為に戦っていた。勇者はただの言い訳に過ぎなかったよ」
魔法使い「そっか」
剣士「最低だな、俺は」
魔法使い「今更でしょ。開き直っちゃえば?」
剣士「そうだな。今更、なんだよな……」
575
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:23:17 ID:.oerQfSI
剣士「――ってことはアイツもそんな世界を望んで? だから俺に賭けた?」
魔法使い「んー、どうだろう?」
剣士「そうだよな。そんなことをしてアイツに何の得がある?」
魔法使い「それもどうだろう。アイツが勇者の存在を恨んでいるのだとしたら――」
剣士「恨む?」
魔法使い「そんな感じしなかった?」
剣士「言われてみれば……」
魔法使い「それにアイツも三魔将の一人だったのよね?」
剣士「ああ、言ってたなそんなことも」
魔法使い「じゃあ知ってたのよね。当然、勇者暗殺のことも最初から全部」
剣士「どうだろう?」
魔法使い「仮に知らされていなくても、アイツの立場なら調べられたんじゃない?」
剣士「いやアイツが三魔将になったのは最近かもしれない。勇者が死んだ後ってことも……」
魔法使い「それはないわよ。新参が付けるような地位とはとても思えないわ」
576
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:25:49 ID:.oerQfSI
魔法使い「他の三魔将を覚えてる?」
剣士「爺さんに、変なオカマだろ? 確か二人は、人魔族で進化の秘術を――ああ!?」
魔法使い「そう、二人とも秘術によってこの時代まで生きながらえた古参の魔族だった」
剣士「でも待てよ。三魔将は四天王と同等の力を持つと恐れられ、魔族の中でも一目置かれている存在なんだよな?」
剣士「だとしたら古参とか新参とか、そんなの関係なしに実力だけで選ばれている気がしないでもない。むしろ、その方が魔族らしい」
魔法使い「おそらく三魔将は人魔族の為に作られた地位よ。元々ドレイだった人魔族が他の魔族と変わらない、同等に見せる為の」
剣士「政治的な意味合いで?」
魔法使い「でもなきゃ四天王っていう同じような地位が既に存在してるのに新しく作る?」
剣士「まあ、確かに。だとしても古参を優遇する理由にはならないんじゃないか?」
魔法使い「秘術がなければ人魔族は弱いとされてきたのよ。その秘術を知っているものは誰だった?」
剣士「あ!?」
魔法使い「秘術を知る者がそいつだけなら、三魔将を選んだ者そいつだけということになる」
剣士「つまりアイツは側近の信頼を得るだけの時間を奴らと一緒に過ごしていた?」
魔法使い「そう考えるのが普通じゃない?」
577
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:31:25 ID:.oerQfSI
剣士「しかし、わからないな。勇者を恨んでいたとして。なら何故、人は恨まない?」
剣士「例の男――、側近と同じように人間もろとも滅ぼせばよかっただろうに」
魔法使い「滅ぼす気がないわけでもないんじゃない?」
魔法使い「貴方が魔王を倒せる保証なんて今もないし、それに貴方が現れないことだって十分に考えられた。あのまま勇者と共に滅ぶ未来だってあったってことよ?」
剣士「じゃあ、なんだ?」
剣士「アイツからしてみたら、女神を信仰し続ける人間なんてものは死にも等しいと?」
魔法使い「さあ? でも、いいところついたんじゃない?」
剣士「わからないな」
魔法使い「そうね。もっと単純だと思ってたわ。魔王を倒して、それで終わると」
剣士「少し立ち止まって考えてみるか?」
魔法使い「随分と弱気じゃない? どうしたの?」クスッ
剣士「どうってべつに」
魔法使い「逆に私はもっと先に進んでみたくなったわ。先に進めば答えが見つかる気がして」
剣士「立ち止まっていても答えは出ないか。実際、その通りなんだろうが……」
578
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:33:45 ID:.oerQfSI
魔法使い「怖くなった? それとも勇者を殺したと思われる奴とは一緒にいられない?」
剣士「まだ俺達の中での話だろ。決めつけるなよ」
魔法使い「じゃ聞いてみる?」
剣士「聞いてもいいが、それで警戒されてもな。どうせ、はぐらかされる」
魔法使い「まだまだ利用価値あるものね。――じゃ、なあに? やっぱり怖いの?」
剣士「怖い? そうだな。たぶん、そうなんだと思う」
剣士「事態は思った以上に複雑で、どんどん変化していっている。頭が追いついていないのにこのまま進んで大丈夫なんだろうかと」
魔法使い「戦いの中で見定めればいいじゃない?」
剣士「無茶言うなよ」
魔法使い「無駄に考えすぎなのよ。それに貴方の場合、考えて動くよりも直感で動いた方がいい方に転がること多いし」
剣士「そうかな?」
魔法使い「そうだったでしょ?」
剣士「……」
579
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:36:30 ID:.oerQfSI
剣士「君は変に思い切りがいいよな、昔から」
魔法使い「決断するまでが長いけどね。貴方と違って」
剣士「どっちがいいんだろう?」
魔法使い「私じゃない?」
剣士「ははっ、そうだな。決まった後にぐだぐだと考える方が質悪いか」
魔法使い「――じゃ、そろそろ帰ろうよ。潮風が冷たくなってきたし」
剣士「あ、そうだ!」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「色々とありがとう。話せてよかった」
魔法使い「改まって言うこと?」
剣士「え? ああ、そうか。そうだよな……」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(あー、そうか。わかってしまったな。俺はどっちも大切なんだ。同じくらい……)」
580
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:32:56 ID:E1OrZHt.
剣士「(二人と向き合おうとした途端これか。気づかされる。二人がいるから今の自分があり、戦えているという事実に)」
剣士「(依存しているんだろうな。俺の脆い信念は賢者を支えられ、魔法使いの助けを借りることで現実のものにしようとしている)」
魔法使い「そんなとこで立ち止まって、まだ帰りたくないとか?」フフッ
剣士「あ、いや……」
魔法使い「まだ考えてたの? いくら考えたって無駄よ。答えを出すには判断材料が少なすぎるわ」
剣士「それは、そうだが……」
魔法使い「さっきも言ったけど貴方は無駄に考えすぎ」
剣士「そう言われてもこればかりは難しいよ」
魔法使い「終わった後のことよ? 終わった後ゆっくり考えればいいじゃない?」フフッ
剣士「君に対する想いも、それでいいのか? いいわけないよな」ボソッ
魔法使い「何か言った?」
剣士「いや、なんでもないよ」
581
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:34:18 ID:E1OrZHt.
夕方 宿屋近く――
詩人「よかったね。簡単に許してもらえてさ」
武闘家「ああ。海賊姉さんがあんなこと言うから色々覚悟しちまったぜ」ハァ
詩人「僕的にはつまらなかったけどねぇ。ほとんど質問攻め。襲撃してきた魔族のことばかりで凄く退屈だったよ」
武闘家「そりゃないだろ。この村が狙われてたわけだぜ?」
詩人「気持ちはわかるけど、もっと君をいじり倒して欲しかったなーって」
武闘家「ひでぇ」
詩人「ふふっ、ごめんよ」
武闘家「なんか、お前ってどっか変だよな。エルフだからってわけじゃなさそうだし――」
武闘家「てか、ほんとにエルフ??」
詩人「しつこいな君も。このキュートな長いお耳が見えないのかい?」
武闘家「魔法で姿形変えられるんだろ。聞いたぜ、剣士殿から」
詩人「今の姿が本当の僕だよ」
武闘家「怪しんもんだぜ。真実の水晶がありゃな。姫様からもらっときゃよかった」
582
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:35:39 ID:E1OrZHt.
詩人「そんなぁ。信じてよぉー」
武闘家「胡散臭いんだよな、何もかも。剣士殿も味方かどうかわからないって言うしよ」
詩人「僕は君達の味方だよ。これだけは本当に本当。賭けてもいい」
武闘家「ふぅーん」ハナホジ
詩人「あ、そうだ! 君、強くなりたいんだよね? だったら僕が君を強くしてあげるよ」
武闘家「は?」
詩人「強くなりたいんだろう、今よりも?」
武闘家「何言ってんだよ。稽古でもつけようってか。エルフのアンタが、俺にぃ??」
詩人「進化の秘術って聞いたことない?」
武闘家「え……?」
詩人「ごめん。聞いたことないよね。なんて言えばいいんだろう。簡単に言うと――」
武闘家「おい! なんでアンタがそれを知ってるんだよ!?」ガタッ
詩人「ほう、この反応は意外だな。知っているのか。いや、それはそうか」
詩人「君達は三魔将の強さに疑問を持っていなかった。それは既に強さの秘密を知っていたからで……」フム
583
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:37:26 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなことはどうでもいい。答えろ。なんでアンタがッ!?」
詩人「なんでって、元々進化の秘術は僕達エルフ一族のものだったからだよ」
武闘家「けど、魔法使いさんのお婆さんは知らなかったって……」
詩人「秘術はエルフの中でもごく僅か一部の者にしか知らない。それこそ王族クラスの者でなければ耳にすらしないだろう」
武闘家「エルフの王族なのか!?」
詩人「僕? いや、違うけど」
武闘家「じゃなんで!?」
詩人「それがそんなに大事? それよりも僕が秘術を使えることのほうが大事じゃない?」
武闘家「使えるって、嘘だろ!?」
詩人「完全に、とは言わないけどね。だけど君を今より強くすることくらいはできるよ」
武闘家「ちょ、ちょっと待てよ。まさか、魔族に秘術を教えたのはアンタじゃないよな!?」
詩人「あ、それは僕じゃない。エルフのお姫様が先代の魔王恋しさに側近に教えたのであって――」
武闘家「エルフのお姫様だァー??」
詩人「今から百年ほど前、先代の話さ。そこから魔族は狂い始めた。――知りたいかい?」
584
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:39:09 ID:E1OrZHt.
武闘家「えーっと、つまりなんだ。アンタの話を要約するに――」
武闘家「里を飛び出したエルフのお姫様は先代の魔王に恋しちゃって、それで勇者から魔王を守る為に進化の秘術を側近に授けたって言うんだな?」
詩人「愛は恐ろしいね。人の倫理観を狂わせ、時として破滅を呼んでしまう」
詩人「かく言うこの僕も愛ゆえに、禁忌を破ろうとしているわけだけど」
武闘家「き、気持ち悪いこと言うなよ」
詩人「――で、どうする?」
武闘家「どうするって言われても……」
詩人「元々君はこの力を求めて旅をしていたんだろう。何を迷うことがある?」
武闘家「だっておかしいじゃねぇか。なんで剣士殿に使わない。人間には効果ないからか?」
詩人「あるよ」
武闘家「じゃなんでだよ。俺より先に使うべき人がいるじゃねぇーか!!」
詩人「そうしないのは僕の目的が、この歪んだ世界を元の正しい世界に戻すことだからさ」
武闘家「歪んだ世界?」
詩人「この世界は進化の秘術のせいで歪んでしまった。その歪みを正すのに、どうして元凶たる秘術の力に頼らなければならない?」
585
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:41:05 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなこと言っていられる状況か?!」
詩人「わかってないね。この力で魔王を倒しても世界の歪みは正されない。むしろ事態はさらに悪化するだけだ」
詩人「君がそうだったように、多くの人達も剣士の力の秘密に迫るだろう。そして辿り着く。そうなれば秘術を求め、今度はエルフ族との戦いが始まる」
武闘家「でも敵はいなくなるんだぜ? 追い求めるか、そこまでして力を?」
詩人「追い求めるさ。人とは、そういう生き物だ。だからこそ人は繁栄を極めた」
武闘家「じゃあ、なんで? なんで俺はいいんだよ?」
詩人「それは君が元々歪んだ存在――、人魔族の血が混じっているからだよ」
武闘家「俺が歪んだ存在? 人魔族だから??」
詩人「それに言っただろう。完全には扱えないって。内なる力に身体が耐えきれず、死に至る危険性が極めて高い」
武闘家「なるほど。俺なら失敗してもいいってわけか……」
詩人「最後まで聞いてくれ。君の身体の半分は魔族だ。失敗してもその血が――、邪神の加護が守ってくれる。肉体の崩壊を」
586
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◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:44:34 ID:E1OrZHt.
詩人「まあ、その場合は人魔族以外の魔族同様に、魔王が死に邪神の加護が失われたとき君も死ぬことになるんだけど――」
詩人「覚悟はできているんだろう?」
武闘家「そう言ったけど。言ったけどさ……」
詩人「覚悟ができていたって、そうすぐに決められるものじゃないか……」
武闘家「……」
詩人「こんなこと言いたくはないけど、君の身体には臆病者の人魔族の血が流れている」
詩人「克服するには秘術の力に頼る他ないと思うよ」
武闘家「っ!?」
詩人「ごめん。でも君の為を想って言ったつまりだ。考えておいて。僕は待ってる」タッ
武闘家「くそ、くそぉおお! どうすりゃいいんだよ……」
詩人「(それにしても意外だったな。彼等が進化の秘術を知っていたなんて。四天王ですら知らない機密だぞ。誰が彼等に教えた?)」
詩人「(姉は絶対にあり得ない。召喚士のオカマがお漏らししたとも思えないし――)」
詩人「(となると残るは呪術師だけ。なるほど、彼が教えたのか。困った爺さんだな)」フフッ
587
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/03/26(木) 17:26:50 ID:xtidNnwA
乙
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