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賢者「勇者様の遺志を継ぎ、私が魔王を倒します」
388
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/07(金) 19:39:44 ID:QqNxW/y6
乙
389
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/15(土) 15:35:45 ID:qzu5qn1A
乙
390
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:06:37 ID:8EiFUDXQ
呪術師「何故殺さん。決着はついたはずじゃ」
剣士「聞きたい事がある。アンタの目的はなんだ。どうして国王なんかに……?」
呪術師「何かと思えばそんな事か……」
呪術師「戦略的な意味はない。人手が欲しかっただけじゃ。儂一人では探しきれなくてな」
剣士「探していた? 一体何を?」
呪術師「初恋の女性と言ったら信じてもらえるかの?」
剣士「は?」
呪術師「知っておるか? 勇者に敗れた魔族の末路を……」
剣士「あ、いや」
呪術師「じゃろうな。知る由もない」
剣士「どうしてそんな話を急に……」
呪術師「儂はな、前大戦の生き残りなのじゃよ」
391
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:07:35 ID:8EiFUDXQ
剣士「生き残り? 魔族は魔王と共に滅ぶんじゃないのか?」
呪術師「お主がよく知る魔族――、邪神の加護なしには身体を維持できん種はそうじゃな」
呪術師「じゃが、儂等のような加護を必要とせずとも生きられるものはそうではない」
剣士「人魔がそうだと? その違いはなんだ?」
呪術師「さあ、そこまではわかっておらん。単に人魔が人間に近い形だからなのか、それともその役目からそう作られておるのか――」
呪術師「理由はどうあれ人魔は魔族の中では異端。ゆえに虐げられていた時代もあったが――おっと、関係のない話じゃったな」
剣士「その姿では、やはり……」
呪術師「とにかく儂等は魔王亡き後も生きなければならなかったのじゃ。次代の魔王を迎える為にも死ぬ事は許されなかった」
剣士「迎える?」
呪術師「おかしいとは思わなかったのか? 魔王が復活したからと組織がいきなり機能するわけがない」
392
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:09:43 ID:8EiFUDXQ
剣士「人魔は次代の魔王が復活するまでの間ずっと陰で生きていたっていうのか?」
呪術師「そうじゃよ。それがどんなに過酷な事か、お主にはわからんじゃろうな……」
呪術師「加護なくして資源の乏しいあの荒れ果てた大陸では、生き残ったもの全てを養う事は出来ず――」
剣士「(邪神の加護には生理的欲求を補う力もあるのか。いや、死してなお蘇る勇者の再生力も突き詰めれば同じようなものか)」
呪術師「儂等に残された選択は一つだけじゃった」
剣士「人口の抑制、切り捨てか……」
呪術師「儂もその切り捨てられた一人でな。じゃが、運よくこの大陸に流れ着き、あるものに救われた」
剣士「あるもの?」
呪術師「エルフじゃよ。儂はとあるエルフに救われたのじゃ」
剣士「つまり爺さんは前の戦いで助けてもらったエルフの女性を探していただけだと?」
呪術師「ああ、そうじゃ」
393
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:11:30 ID:8EiFUDXQ
剣士「わからないな。仲間の力を借りればよかっただろう。変化の魔道具を盗み出してまで、人間に探させる必要はなかったはずだ」
呪術師「こんな色惚けた爺の酔狂に仲間を巻き込む事など出来んよ。それにそのエルフは人間と結ばれておってな……」
剣士「人間と結ばれていた? そのエルフというのは――」
呪術師「俗に言うはぐれエルフじゃ。里を離れ人界近くに住むな」
呪術師「だから今度は儂が助けよう、そう決めておった。今回ばかりは人間が敗れると確信しておったからの」
剣士「――で、見つかったのか?」
呪術師「いいや。あれから百年ちょっと。エルフの寿命であれば生きておると思うが……」
賢者「もしかしてそのはぐれエルフさんってお婆様の事でしょうか?」
魔法使い「そういえば昔はこの辺に住んでたって言ってたわね」
魔法使い「里を離れた、それも人間と結ばれていたエルフなんてそういないでしょうし」
394
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:12:43 ID:8EiFUDXQ
呪術師「ん? 言われて見れば面影があるような……」ジッ
賢者「本当ですか!?」
呪術師「二人の婆さんは本当にエルフなのか?」
賢者「ええ、そうですよ」
呪術師「どうりで強いわけじゃ……」
呪術師「それで今は、今はどこに? 元気にしておられるのか?」
賢者「始まりの国の国境近くの森の外れに住んでいます。おそらく今も元気に魔法の研究に勤しんでいると思いますよ」
呪術師「そうか。変わらず元気で、よかった……」
呪術師「しかし何という因果じゃ。その孫が剣士と共に魔王討伐とはな」
395
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:14:32 ID:8EiFUDXQ
呪術師「思い残す事はない。剣士よ、妬くなり煮るなり好きにするがよい」
剣士「なら早くここから立ち去るんだな」パチン
呪術師「鞘に納めると? 見逃すと言うのか!?」
剣士「ああ」
呪術師「何故じゃ。儂は三魔将という地位を与えられた立派な敵じゃぞ!」
剣士「その立場を利用し、愛に生きた貴方を俺は殺せそうにない。それに貴方の事だ。本物の国王は殺していないんだろう?」
呪術師「確かに本物の国王は鳥に変えただけで命までは奪っておらん。しかし、だからと言って納得できるものではないじゃろう!?」
剣士「どうだろう。エルフのお婆さんを探す為だったとはいえ、貴方はこの国の騎士を改心させた。お陰で以前より住みやすくなったと……」
呪術師「甘いぞ、剣士。そうであったとしても儂が人間の敵である事に違いない!」
剣士「本当にそうか?」
呪術師「お主が魔王に逆らう限り儂等は敵じゃよ。またあのような悲劇が繰り返されるというのなら儂は、儂は……」
剣士「(爺さんはエルフを通じて人間の優しさを知ったんだろうな。だから苦しんでいる。魔王の意志に従いきれずに……)」
396
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:18:26 ID:8EiFUDXQ
剣士「(それは俺も同じか)」
呪術師「どうした、剣士。怖気づいたわけではあるまい!」
剣士「なあ、爺さん。一つ提案なんだが……」
呪術師「提案?」
剣士「もし俺が魔王に敗れたら爺さんの出来る限りでいい。人間達を助けてくれないか?」
剣士「逆に俺が魔王に勝ったら出来る限りの魔族を助けると約束するよ。だから――」
呪術師「本気で言っておるのか?!」
剣士「ああ。これで済む話じゃないのはわかってる。だが、もし爺さんに人間を想う心があるのなら……」
呪術師「お主はどうなのじゃ。魔族を恨んではおらんのか!?」
剣士「恨むも何も、俺は魔族をよく知らない。大切な人を守る為に戦っているだけで――」
剣士「そうだ。爺さんが敵であろうと殺す理由にはならない。少なくとも今は……」
呪術師「剣士、お主は女神ではなく、人間の為に戦っているというのか……」
397
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:22:48 ID:8EiFUDXQ
呪術師「――わかった。儂は去るとしよう」
剣士「ありがとう」
姫騎士「行かせるものか。剣士が刺せないと言うのなら私が!」ダッ
剣士「よせ!」ガシッ
姫騎士「止めるな。こいつはお父様を、我が国を愚弄した!!」
剣士「気持ちはわかる。だがここはこらえてくれ」
姫騎士「ふざけるな!」
剣士「殺して何になる?」
姫騎士「誇りを奪われた。取り戻さなければ生きてはいけない!」
剣士「それで戻るものでもないだろう!」
姫騎士「血迷ったか。アイツは魔族だ。我等人間の敵ゾ!」
剣士「爺さんは俺達を本気で殺そうとしていなかった。それに俺との約束だって……」
姫騎士「うるさい! お前に私の何がわかる!」
398
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:20:43 ID:GOsYA0yo
武闘家「剣士殿、流石に信用しすぎじゃねぇか?」
姫騎士「ほら見ろ。武闘家もお前の愚行に呆れているぞ!」
武闘家「そ、そこまで言うつもりねぇけどよ。資源不足を解決する為にそういう事が過去にあったのは本当だろうし――」
武闘家「ただ、なんでそれを爺さんが身をもって知ってるんだよ? 人魔族の寿命も人間と変わらないはずだぜ」
剣士「人魔は長寿じゃないのか?」
武闘家「ああ。そうだよな、爺さん?」
呪術師「詳しいな。人魔族の寿命は人間とそう変わらん。じゃから儂は秘術を使い寿命を永らえさせた」
剣士「秘術?」
呪術師「進化の秘術、聞いた事はないか?」
剣士「いや、初めて聞いた。魔法使いはどうだ?」
魔法使い「私も聞いた事ないわ」
呪術師「そうか、やはり……」
399
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:22:46 ID:GOsYA0yo
剣士「どういうものなんだ?」
呪術師「そうじゃな。平たく言えば生物の能力を著しく成長させる術といったところかの」
剣士「成長? 強化魔法とは違うのか?」
呪術師「似て非なるものじゃろうな。強化魔法は肉体の限界を引き出す術じゃが、進化の秘術は言葉通り使用者を進化させる。成長の過程を無視してな」
剣士「どういう事だ? 特別な力を授ける術という事か?」
呪術師「間違ってはおらんよ。事実、儂は秘術の力でエルフ並みの寿命を得た」
剣士「だけか? 何か他に得た力は?」
呪術師「お主が考えている事はわかる。しかし残念ながら、勇者を越えるほどの力を得た者はいなかった。儂を含め誰一人も……」
呪術師「いや、ある意味では越えたのかもしれんな。この時代まで生きながらえたのだから」
剣士「前大戦で得た知識か。確かに脅威ではあるが……」
呪術師「フッ、少しおしゃべりが過ぎたかの」
剣士「最後にもう一つだけ教えてくれ。その秘術は魔族に伝わるものなのか?」
400
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:25:06 ID:GOsYA0yo
呪術師「答えてやりたいが、儂はそれを知らん。じゃが、その術を知る者――側近はこう言っておったよ。勇者を討つ為に蘇らせたと」
剣士「蘇らせた? その側近というのは何者なんだ?」
呪術師「哀れな復讐者じゃよ。奴の憎悪怨恨の念は計り知れん。勇者を、いや人間を滅ぼす為ならどんな手段をも厭わない」
呪術師「儂が滅ぶ確信を得たのも奴を知ったからじゃ。あの男なら必ずや成し遂げるだろうと。現に側近は勇者を倒してしまった」
剣士「そいつが?」
呪術師「もちろん止めを刺したのは魔王じゃよ。じゃが、前代の勇者から魔剣を取り戻し、この時代の勇者を早期に突き止めたのは奴」
剣士「秘術で得た力を存分に使い、勇者を追い詰めたって事か……」
呪術師「――さて、知る限りの事は話したつもりじゃ。信じてもらえるかの?」
剣士「俺は信じるが、どうだろう?」
武闘家「ああ、俺も信じるよ。嘘をついてるようには思えねぇや」
呪術師「よかった。これで駄目ならエルフのお婆さんに会わせてもらう以外にないからの」
401
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:26:09 ID:GOsYA0yo
姫騎士「私は、私は……!!」
武闘家「悔しいのはわかるよ。だけど爺さんに戦う意思はなかったんだ。ここは剣士殿に従おうぜ」
姫騎士「私の国だぞ。いいように弄ばれたんだぞ」
武闘家「なら剣士殿をブッ倒してやるんだな。そうすりゃ誰も文句言わねぇよ」
姫騎士「な!? くぅ……!」ギリッ
武闘家「――爺さん、話は終わったぜ。早く行きな」
呪術師「すまん。国王は寝室の鳥かごの中じゃ、真実の水晶を使えば元の姿に戻ろう」
剣士「わかったが、傷は大丈夫なのか?」
呪術師「心配無用じゃ。そこまでの傷は負っておらんよ。――ではさらばじゃ!」バッ
武闘家「窓から文字通り飛びやがった。相変わらず身軽な爺さんだぜ」
姫騎士「なんなんだよ。剣士、お前はどうして……」
剣士「……俺はもう行くよ」
姫騎士「ああ。早くどっか行ってしまえ!!」
402
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:27:35 ID:GOsYA0yo
執事「お待ちください。この度の礼を……」
剣士「必要ない。俺は姫様の要望に応えられなかった」
剣士「それより姫様と国王の事を頼むよ。あの様子じゃ心配だ。ついてあげて欲しい」
執事「言われるまでもなくそうするともりです。ですが……」
剣士「?」
執事「剣士、貴方は勇者の遺志を継いだのではなかったのですか?」
剣士「そのつもりだったんだがな」
執事「失望しましたよ、紅蓮の剣士。貴方は姫様とは違う。覚悟がある人だと……!」
剣士「すまない」ペコッ
執事「私が言えるような立場ではないのは重々承知。ですがあえて言わせてもらいます」
執事「貴方は甘い。半端な覚悟では自身も仲間も殺す事になるでしょう。それ程の力があったとしても!」
剣士「肝に銘じておくよ」
403
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:29:34 ID:GOsYA0yo
城 門近く 帰り道――
剣士「(本当に無様だな。仲間を危険にさらせまいと動いたつもりが、逆に危険にさらす事になるとは)」
剣士「(武闘家の言う通り、考え過ぎず素直に取りに行った方がよかったんだろうな)」
剣士「(それだけじゃない。爺さんの事もそうだ。どう言いつくろったところで俺が殺す事を恐れたのは事実。罪悪感から逃れようとしただけ……)」
賢者「剣士さん、あの……」
剣士「あ、大丈夫だったか? 怪我とかは、魔法使いに治してもらったんだよな?」
賢者「それは大丈夫というか、そもそも私は何一つ傷を負っていませんから……」シュン
剣士「本当に?」
賢者「はい……」コクン
剣士「よかった」ソッ ギュッ
賢者「え、あ////!?」カーッ
404
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:31:38 ID:GOsYA0yo
賢者「すみません、ご心配をおかけして。でも、あの、これは……////」
剣士「痛かったか? 強く抱きしめたつもりは……」
賢者「大丈夫です。びっくりしちゃっただけで」
剣士「そうか」ニコッ
賢者「うん」ギュッ
武闘家「あれ、毎回やってんの? 見てるこっちが恥ずかしくなるんだけど」
魔法使い「なんで私に聞くの? 知るわけないでしょ!」ブチッ
武闘家「ヒェ!?」
魔法使い「(どうして、あの子にはああいう態度なのよ。あの子だって私と同じで何もしてないのに!)」
魔法使い「(一体私と何が違うの? どうしてあの子ばかり求められてるのよ!)」ギリッ
405
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:35:11 ID:GOsYA0yo
武闘家「剣士殿、ごめん。いい感じ所ちょっといいかな?」アセッ
剣士「あ、いや、これは別に……////」
賢者「どうしたんですか?」
武闘家「ほら、内緒で水晶を取りに行っちゃっただろう? だから謝りたくて……」
剣士「それについては慎重になりすぎていた俺も悪い。謝る必要ないよ」
武闘家「そんな事はねぇよ。結果的にそうだっただけで」
剣士「どうだろう? 俺が……」
魔法使い「もうみんな悪かった、それでいいんじゃない。煽った私が一番悪いと思うし」
武闘家「行っちゃった俺が一番でしょ、そこは。取りに行ったならまだしも、それを城に持っていっちゃったんだぜ?」
賢者「うふふっ」クスクス
魔法使い「何笑ってるのよ。貴女だって悪いのよ!」
賢者「わかっていますよ。でも謝りあっているのがおかしくて」フフッ
剣士「そうだな。みんな悪かったって事でこの件については終わりにしよう」
賢者「そうですね」ニコッ
魔法使い「だから最初からそう言ってるじゃない」ムッ
406
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:38:59 ID:GOsYA0yo
剣士「そうだ。武闘家、俺も君に話があるんだ」
武闘家「なんだよ、改まって……」
剣士「爺さんが教えてくれた進化の秘術。あれは君達が探していた力なんじゃないか?」
武闘家「でもあれって勇者を越える力は得られなかったって話だろう?」
剣士「だとしても力を得られる事に違いはない」
武闘家「んー、じゃ逆に聞くけどさ。剣士殿はそれを手に入れようとは思わないのか?」
剣士「手掛かりがあれだけだからな。それに人間に効果があるかどうかも怪しい……」
武闘家「それを言っちゃ俺だってそうよ!」
剣士「だが狩人は知りたいんじゃないか?」
武闘家「アイツはアイツで探し出すんじゃねぇかな?」
剣士「そうか……」
武闘家「俺はこのまま剣士殿と一緒に戦いてぇよ。駄目かな?」
剣士「本当にいいのか? 俺は魔族を見逃すような男だぞ?」
407
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:41:59 ID:GOsYA0yo
武闘家「だからだよ。俺はその優しさに惚れ直したんだ」
剣士「優しさ? 甘さの間違いじゃないか?」
武闘家「それの何が悪いんだ?」
剣士「死ぬ事になるかもしれない」
武闘家「いいよ。俺達の為に甘さを捨てるくらいならそれがいい」
剣士「馬鹿な事を言うなよ」
武闘家「本当だな」ハハッ
剣士「――じゃ、帰ろうか。流石に俺も眠い」
武闘家「ありがとうな。助けに来てくれて――って、そういやどうして城にいるってわかったんだ?」
剣士「武道着の怪しい男が祠から出てきたと騎士達が騒いでいたから、もしかしたらと思って。間に合ってよかったよ」
武闘家「そっか。じゃ今度は俺が――あいや、なんでもねぇや」
剣士「?」
武闘家「(今度は俺が助けるぜ、なんて言えるほどの力はまだない。そう言えるように強くならなきゃな)」
408
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/04(木) 22:31:40 ID:j2dw1Skw
乙
409
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:48:40 ID:fAB8ljNI
翌日 宿屋 昼過ぎ――
武闘家「ふわぁーっ、よく寝た。――って、寝すぎたな。もう日が沈みそうじゃんか」
魔法使い「おはよう。昨日の疲れは取れた?」
武闘家「んー、まだ節々が痛いかなー」イテテ
魔法使い「しばらくは養生につとめる事ね」
武闘家「そういうわけにもいかねぇよ。もっともっと修行して強くならねぇと!」
魔法使い「その事だけど、ほんとによかったの?」
武闘家「え?」
魔法使い「進化の秘術だっけ? それを探す旅に戻った方がよかったんじゃない?」
武闘家「魔法使いさんも知らなかったんだろ、秘術の事は?」
魔法使い「お婆様が知らなかっただけで他のエルフは知ってるかもしれないわ」
武闘家「そうかもしれねぇけど。やっぱ俺はこのまま剣士殿と一緒に……」
魔法使い「それがわからないのよ」
410
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:50:10 ID:fAB8ljNI
魔法使い「剣士は人魔の呪術師に情けをかけた。魔族を恨んでいるだろう貴方がどうしてそれを許せたの?」
武闘家「そ、それは……」
魔法使い「何かあるの?」
武闘家「わかった。ちゃんと話すよ。いつかは話さなきゃいけないって思ってたし」
武闘家「俺は、人間と魔族の混血児なんだ……」
魔法使い「嘘でしょ!?」
武闘家「呪術師の爺さんの話を聞いたろう? いたんだよ。切り捨てられた魔族の中には人間に助けられたものが」
魔法使い「じゃあ魔族に滅ぼされた貴方の里っていうのは……」
武闘家「ああ。魔族と人間が暮らす小さな里だった」
魔法使い「……貴方も邪神の加護を受けているの?」
武闘家「でなきゃここまで戦えてねぇよ。薄まってる分、純血には劣ってると思うけど」
411
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:52:08 ID:fAB8ljNI
武闘家「だから滅ぼされた――いや、違うな。単純に存在そのものが邪魔だったんだろうな」
武闘家「人間の情けで生きながらえた惨めな魔族を魔王が許すわけがない。ましてや人間と魔族の間に子が生まれるなんてなりゃ……」
魔法使い「もういいわ。話してくれて、ありがとう」
武闘家「しっかし、ふざけた話だよな。魔王に逆らう気なんてありゃしない。ただ静かに暮らしていたかっただけなのに……」
魔法使い「そうね……」
武闘家「だから嬉しかった。剣士殿が生き残った魔族を助けてくれるって言ってくれたのが。あの人には人間も魔族も関係ないんだなって」
魔法使い「ええ。アイツは生まれを気にするような人じゃないわ。もちろん私も」
武闘家「俺と同じ混血だからか?」
魔法使い「まあ、そういう事になるのかしらね」
武闘家「剣士殿も?」
魔法使い「アイツは普通の人間よ。混ざりっ気のない」
武闘家「そうなんだ。――って、んん?」
412
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:53:49 ID:fAB8ljNI
酒場 同時刻――
カランカラン
マスター「やあ、剣士殿。待ってたよ。ささ、こっちこっち」
剣士「ああ、どうも。待っていたという事は……」
海賊「はあーい。貴方が噂の剣士さん?」
剣士「(三角帽子にジュストコート、それに眼帯。古典的というか、あからさまな……)」
海賊「なあに? あまりの美貌に見惚れちゃったぁ? ――って、そんな顔じゃないね」
海賊「ふふん。何を隠そう、私は海賊。と言っても商船や沿岸なんかは狙わない、お宝探し専門の海賊だけど」
剣士「海賊と呼べるんですか、それで?」
海賊「海の無法者はみーんな海賊よ。それに商船を襲わないだけで同業者からは遠慮なく頂戴するし。お姉さん、こう見えて怖いんだから!」ムフッ
剣士「戦わないわけじゃないんですね」
海賊「そりゃ海賊だもん。――で、話を戻すけど貴方が私達を必要としているっていう剣士さんよね?」
剣士「ええ。私達は向こうの大陸へ渡る船を探しています。無理な願いとは存じますが、乗せて行ってはもらえないでしょうか?」
413
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:56:00 ID:fAB8ljNI
海賊「それなんだけど、どうしよっかなぁー?」ウフフッ
剣士「え?」
海賊「まず貴方が本物の剣士だっていう証拠を私に示して欲しいんだけどいい?」
剣士「証拠と言われても……」
海賊「難しく考えなくたって大丈夫。とーっても簡単な事よ」
マスター「おい。まさか、何かやらかすつもりじゃ……」
海賊「飲んだくれのごく潰し共、耳の穴かっぽじってよく聞きなッ!!」
ガヤガヤ ナンダナンダ
海賊「見えるかい? このパンパンに詰まった金袋が!」ドンッ
海賊「何も見せびらかす為に声を荒げたんじゃないわ。今からお前らにこれを手にする機会をくれてやろうって言ってんだ」
海賊「安心しな。難しい条件を突きつけるつもりはない――」
海賊「あたしの隣に座っている優男がいるだろ。この優男を地面に叩き伏せるだけでいい。つまりコイツと喧嘩やって勝つ。単純だろ?」
414
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:58:36 ID:fAB8ljNI
海賊「昼間っからこんな所で安い酒をチビチビ飲むしかないお前らには勿体ないくらいの話だろう。やらない手はないよなァ!」
ガヤガヤ マジカヨ イカレテンナ
剣士「有無を言わさない、これが海賊流か?」
海賊「うふふっ、手っ取り早いでしょう?」
剣士「気に入らないな」
海賊「あっちにとってもそう悪い話じゃないと思うけど? 私だってリスク背負ってるし」
マスター「おいおい、勘弁してくれ。うちはそういうのお断りなんだよっ!?」
海賊「そう言われても、もう言っちゃった後だしなぁー」エヘッ
マスター「備品もただじゃないんだぜ!?」
海賊「でも、すっごい盛り上がると思うよ?」
マスター「嬉しくないって。あー、頼む。なるべく俺の店は壊さないでやってくれー!」
415
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:00:37 ID:0U.8JA.Y
客A「なかなか面白い事言うねぇ、海賊風の姉ちゃんよ」
客B「ああ。んな条件じゃただでくれてやるって言ってるのと同じだぜ?」
客C「なんたってこっちにゃ紅蓮の剣士様がいらっしゃるからなー!」ドヤッ
海賊「え? どういう事? だって剣士様は――」チラッ
剣士「偽者、まだいたのか……」ハァ
偽剣士「待ってくれよ。こんなくだらない事に私が付き合うわけがないだろう」
客A「いいじゃねぇですかい。どうせ、あの金は善良な我々民から奪い取ったもんですよ」
客B「違ない。そうだ。此処は一つ剣士様のお力で取り戻しちゃもらえませんかね?」
偽剣士「そう言うけどね……」
店員「あたしも見てみたいな。剣士様のカッコイイところ。いいでしょう?」
偽剣士「ふぅ、皆がそこまでいうのなら仕方がない。少し懲らしめてやるか……」スクッ
オーオー イイゾ ヤレヤレー ワーワー
偽剣士「(まあ、偽者を名乗るだけの力はあるつもりだ。こんな酒場にくる賊もどきに負ける事もないだろう)」
416
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:02:28 ID:0U.8JA.Y
偽剣士「さあ、かかってきたまえ!」バッ
剣士「(中途半端な事では認めてはくれないんだろうな。気が進まないが、やるか……)」
客A「なあ、お前どっちに賭ける?」
客B「馬鹿言ってんなよ。賭けが成立するとでも思ってん……」
ガシャーン!
偽剣士「ガハッ!!??」ドテンッ
客一同「「へ?」」
剣士「叩き伏せたぞ。これで満足か?」
海賊「え、あ…… うん」ポカーン
剣士「すまないが、彼の介抱を頼むよ」
店員「えっ?」
剣士「目覚めたら伝えておいてくれ。こんな事に巻き込んですまなかった、と」
店員「は、はい……」コクン
417
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:03:48 ID:0U.8JA.Y
マスター「こいつはすげえ。瞬きする間もなく終わらせちまいやがった……」
海賊「ごめん。盛り上がるどころか凍り付いちゃったね」
マスター「あ、いや、俺としちゃ店がブッ壊れずに済んでよかったよ」
海賊「そう? ならいいんだけど……」
剣士「不味かったか?」
海賊「ううん。問題ないって」
剣士「そうか。――で、どうだった?」
海賊「もちろん。信じるわ」
剣士「じゃあ、連れて行ってくれるんだな?」
海賊「んー、それはまたべつのお話かなー……」
剣士「はあ!?」
418
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:06:40 ID:0U.8JA.Y
海賊「私の一存で決められる事じゃないし、うん……」
剣士「アンタが船長なんじゃないのか?」
海賊「そうなんだけど、船長の独断で決めちゃうわけにもいかないのよ。こればっかりは」
剣士「まあ、仲間の同意は必要か……」
海賊「剣士を信用してない仲間もいて。少し説得に時間がかかるかも――って、そうだ!」
海賊「ねえ、私と一緒に説得してくれない。そうすれば仲間もすぐわかってくれると思うんだけど、どお?」
剣士「俺が海賊の仲間をか?」
海賊「うんうん!」
剣士「アンタ自身はどうなんだ? いいのか?」
海賊「もっちろん。今から楽しみにしてるくらいだもん。貴方との船旅!」ウフフッ
419
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:09:34 ID:0U.8JA.Y
剣士「わかった」
海賊「ありがと。じゃ申し訳ないんだけど私達のアジトまで来てもらっていい?」
剣士「ここを拠点にしているわけじゃないのか?」
海賊「ここはちょっとね。色々と監視が厳しくって海賊船なんてあった日には……」
剣士「なるほど。――で、そのアジトここから遠いのか?」
海賊「そこそこってところかなー」
剣士「じゃあ、仲間にも伝えないと」
海賊「え、仲間?」
剣士「ここを離れる事になるんだろう?」
海賊「う、うん。そうだけど……」
剣士「伝えてくるよ。待っていてくれ」ガタッ
海賊「剣士に仲間なんていたんだ……」
420
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:12:01 ID:0U.8JA.Y
マスター「仲間は三人だ。魔導師が二人に、武闘家っぽいのが一人」
海賊「知らなかった」
マスター「だろうな」
海賊「噂ほど当てにならないものもないね。紅蓮の剣士は孤高でもなければ、熊みたいな大男でもなかったし」
マスター「アハハアッ! 今はそんな事になってるのか。凄い尾ひれがついたもんだ」
海賊「今後はもっと凄い尾ひれがつくんじゃない?」チラッ
客A「出てったぞ、さっきの男」
客B「一体何もんだったんだ。剣士様をブッ飛ばしちまうなんて……」
客C「髪をみなかったのか? あっちが本物だったんだよ。きっと偽者が気に食わないもんだからやっちまったんだろ」
客B「にしたって、やばかったな。人間の動きしてなかったろう?」
客C「ああ、ありゃバケモンだ。魔族を食っちまうのも納得だ……」
マスター「ひでぇ言われようだな」
海賊「だけど実際その通りなわけで。化け物でなければ本物の化け物は倒せないんだろうね……」
421
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/13(土) 22:29:49 ID:2ohDdzRs
乙
422
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:09:16 ID:AbFZhZkU
漁村――
武闘家「ここが海賊のアジトなのか? どう見たって――」
魔法使い「ただの漁村じゃない。それも寂れた」
海賊「ひっどぉーい!? とってもいい村よ、ここ!」
魔法使い「海賊をかくまう村をいい村とは言わないんじゃない?」
海賊「べつにかくまってもらってるわけじゃないもん。お世話になってるだけだもーんっ!」
賢者「私は好きですよ。都会よりこっちの方が!」
海賊「ありがと。賢者ちゃんはいい子ねぇー」ヨシヨシ
賢者「わーい」エヘヘ
魔法使い「そんな事よりどうするの? 日も暮れちゃったし、宿とかあるわけ?」
海賊「あるよ。とびっきりの宿がね。案内するからついてきてちょーだい!」
魔法使い「ハァ……」
剣士「(ため息ばかりついているな。まあ、当然と言えば当然か。この旅自体まだ納得できていないんだろうし……)」
423
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:10:26 ID:AbFZhZkU
魔法使い「何?」チラッ
剣士「苦手か、あの手のタイプは?」
魔法使い「貴方は?」
剣士「俺か? どうだろう。嫌いじゃないが……」
魔法使い「ふーん」
剣士「――なあ、宿についたら二人で話さないか?」
魔法使い「やだ」プイッ
剣士「え?」
賢者「何しているんですか。置いていっちゃいますよー!」
魔法使い「行きましょうか」タッ
剣士「(冗談、だよな……?)」
424
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:11:59 ID:AbFZhZkU
宿――
海賊「こんばんはー。おばさん、客連れてきてやったわよー!」バーン
宿屋「誰かと思えば海賊ちゃんじゃないの。お客さんって――ああ、いらっしゃいな」ニコッ
剣士「どうも。こんばんは」
海賊「部屋、借りられるよね?」
宿屋「わかりきった事を聞くんじゃないよ。好きな部屋を好きなだけ使うといいわ」
武闘家「へー、好きなだけか。んじゃ、せっかくだし二部屋借りちゃう?」
剣士「そうしようか」
海賊「男同士、同室、夜間。何も起きないわけもなくぅー……」
武闘家「起きるわけないんだよなあッ!」
賢者「……本当ですか?」
武闘家「疑ってんじゃねぇよ!!」
425
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:14:27 ID:AbFZhZkU
海賊「二部屋なんてケチ臭い事言わず一人一部屋借りちゃえばいいじゃない」
宿屋「うちは問題ないわよ。むしろそうしてくれる方がありがたいくらい。なーんて」フフッ
魔法使い「じゃ、それで。貴方もそれでいいでしょ?」
剣士「あ、ああ」
ガチャ ドアバーン
操舵手「姉御、やっぱもうこっちに戻ってきてたんですね!」
海賊「な、なんで操舵手がここに……」ビクッ
操舵手「うちの占い師が当てたんですよ、珍しく」
占い師「残念、村の入り口で船長を見かけたって話を聞いただけなのでした」ウププ
操舵手「はあ、そうじゃないかと思ってたけど。いつになったら当たるんだよ……」ヤレヤレ
剣士「この人達は?」
占い師「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれた。僕達は泣く子も笑ちゃう――」バッ
操舵手「愛と正義の女海賊団よッ!」キメッ
426
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:15:56 ID:AbFZhZkU
剣士「え、ああ。これは、ご丁寧にどうも……」
占い師「ノリ悪ぅーい。ポーズまで決めたっていうのにねー」ムッ
操舵手「当然の反応だよ、これが。やっぱこの名乗り方は引かれるって……」
海賊「うん、そだね」ハハ
操舵手「ほら姉御も引いてるじゃないか!」
占い師「えー!?」
海賊「あーでも面白かったよ? 採用は絶対しないけど……」
占い師「一生懸命考えたのになぁ。不採用かぁー」
魔法使い「この海賊団大丈夫なの? 不安になってきたんだけど……」
剣士「結束力があっていいんじゃないか? たぶん……」
海賊「誤解しないで。腕はいいのよ、こんなんだけど!」アセッ
427
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:17:07 ID:AbFZhZkU
占い師「じゃ次はそっちが名乗る番。誰さん達なの?」
武闘家「やべぇ、ポーズなんか思いつかねぇよ……」
賢者「私はもう自分のポーズ決まりましたよ」キリッ
剣士「なんで対抗心を燃やしてるんだよ。普通でよくないか、普通で」
海賊「ああ、待って。私が紹介するわ。――彼等は紅蓮の剣士とその仲間」
海賊「前に紅蓮の剣士が船を探してるって話がうちにきたでしょ? 覚えてる?」
操舵手「そいつがそうなんですか!?」
占い師「く、熊じゃない……」ジッ
剣士「熊?」
操舵手「よ、弱そ。まだ村にいる男どもの方が……」
海賊「もう! 失礼にも程があるでしょー!」
428
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:18:44 ID:AbFZhZkU
剣士「なんだ? また力を示せばいいのか?」
操舵手「おっ、言ったな。そうこなくっちゃ!」
海賊「煽らないでよ!」
占い師「でも道理じゃない? 力を示し権利を奪い取る。海賊らしいじゃん!」
海賊「じゃ聞くけど誰が剣士の相手するの? ルールに従うってそういう事でしょ!」
操舵手「そりゃうちらの頭である姉御が……」
海賊「私は剣士の力を認めたからここに連れてきたの。それに見なさいよ、剣士の面を!」
海賊「どう見たって世界を救おうと決意した男の面でしょ。力になってあげたいじゃない!」
操舵手「そこまで言うならやっぱり姉御が戦ってみんなに示すべきじゃありません?」
占い師「そーだ、そーだ!」
操舵手「姉御を打ち負かすような男なら、あたし等だって納得しますよ」
海賊「ちょっと待ってよぉー!!?」
429
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:20:49 ID:AbFZhZkU
剣士「つまり貴女達の前で船長と戦い勝てば乗せてくれるって事か?」
操舵手「あたしはそれでいいよ。きっと他の連中も同じ事を言うだろうさ」
占い師「魔族を何とかしたいって思ってるのは同じだしねー」
剣士「どう戦えばいい? 酒場の時と同じでいいのか?」
操舵手「酒場の喧嘩なんかと一緒にしないでくれる。全力でやってもらわなきゃ」
剣士「真剣での斬り合うって事か、危なくないか?」
海賊「命のやり取りまではしないよ。そう、しないの。しないで下さい……」
占い師「がんばれー!」
海賊「何が頑張れよ。うちで一番強いのはアンタでしょうに。私の代わりに戦ってよ!」
占い師「やってもいいけど…… 剣士、燃えちゃうよ?」
武闘家「ぷっ、あはは。燃えるわけねぇんだよな」
占い師「……もしかして馬鹿にされてる?」ムッ
430
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:22:54 ID:AbFZhZkU
武闘家「されるも何も、少しは考えろって。剣士殿は魔族の将を倒してるんだぜ?」
武闘家「それも一度や二度じゃない。レベルが違いすぎて戦いにもなりゃねぇよ」
武闘家「船長さんはそれを理解してるからやめようって言ってんだ。わかってやれよ」
占い師「こいつぅー!」イラッ
操舵手「待ちなって。あたしは違うよ。それを見越して姉御に頼んだんだ!」ドヤッ
海賊「こやつぅー!」イラッ
剣士「――で、俺はどっちと戦えばいいんだ?」
占い師「じゃ、三人で!」
剣士「三人? この三人を同時に?」
操舵手「巻き込んだなあッ!!」
海賊「よし、それでいこう。この三人を倒したとなりゃ全員否応なしに納得するでしょ!」
操舵手「姉御ォオオ!!!」イラッ
431
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:25:02 ID:AbFZhZkU
賢者「私達は戦わなくていいんですか?」
剣士「この戦いは俺が本物かどうかを確かめるものだし、必要ないんじゃないか?」
海賊「うん。そもそも戦い自体必要ないっていう……」
剣士「こういう説得は楽でいいけどな」
海賊「そお? ならよかった。私がもっと仲間に信用されていれば済んだ話だからさ……」シュン
剣士「それを言うなら俺だってそうだよ。熊みたいに強そうな見た目だったらな」
海賊「ふふっ、そだね。ありがと。――じゃ、また明日。迎えに行くからここにいてよ!」
剣士「いつ頃?」
海賊「んー、昼までにはかなぁ? 他の子達にも説明しないとだし」
剣士「わかった」
占い師「といわけだから明日覚悟しなよ!」ビシッ
武闘家「そっちこそ!」ビシッ
432
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:27:34 ID:AbFZhZkU
剣士「ようやく落ち着いたか。――って、魔法使いは?」キョロキョロ
宿屋「とんがり帽子のお嬢ちゃんなら部屋に行ったよ」
剣士「え?」
宿屋「はい、どうぞ。これが貴方の鍵ね。支払いは後でいいから」スッ
剣士「ありがとうございます。お世話になります」
宿屋「ゆっくりしていってちょうだいね」
剣士「(それにしたって魔法使いの奴。あれ、本気だったのか? いや、まさか……)」
武闘家「なんか用あったのか? あるなら訪ねたらどうよ」
剣士「あーいや、疲れていたのだとしたら悪いし明日にするよ」
賢者「お姉様、ですか……」
剣士「何か知っているのか?」
賢者「う、うーん。すみません、なんと言ったらいいのか……」
剣士「(二人の間に何かあったのか? そう言えば最近は特にぎこちないような。それも明日聞いてみるか……)」
433
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:29:40 ID:AbFZhZkU
翌日
海賊船 甲板――
ガヤガヤ ワイワイ
剣士「(くそっ、魔法使いと話せないまま対決の時がきてしまった。やはり昨日、部屋を訪ねておくべきだったか……)」
武闘家「んー、やっぱ変な感じだな。牧歌的な漁村に海賊船が浮かんでるってのは」
賢者「村の人達は気にしていないようでしたね」
武闘家「馴染んじまったんだろうな。良好な関係を築けてる証拠でもあるんだろうけどよ」
武闘家「それはそうとこの海賊団、女の人多くねぇか? 男を見ないっていうか」キョロキョロ
賢者「女海賊団って言っていましたよ」
武闘家「うっそ!?」
賢者「全船員が集まっているわけじゃないでしょうけど、見た限り嘘ではなさそうですね」
賢者「嬉しくないんですか?」
武闘家「なくはないけど、男同士の方が楽だからなぁ。気使わないし」
賢者「ほほー、男の方が嬉しいと」
武闘家「そうは言ってねぇだろ!!」
434
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:32:52 ID:AbFZhZkU
海賊「ようこそ、紅蓮の剣士。この海賊団を頼ってきてくれた事を嬉しく思う」
海賊「改めて自己紹介する必要もないだろうが、あたしがこの海賊団の頭をやらせてもらってる二代目女海賊船長だ」
海賊「それでアンタの魔王討伐の為に船を出して欲しいという頼みなんだが、昨晩仲間達と話し合って決めさてもらったよ」
海賊「魔王を倒せる力――、すなわち勇者に代わる力があるというなら船を出してやってもいい。というのがあたし等の答えだ」
海賊「そういうわけだから証明してもらうよ。あたし等三人を相手に、その力をね。アンタが噂通りの剣士だっていうなら簡単なはずだろ?」
剣士「決着はどうつける?」
海賊「相手に負けを認めさせればいい。もちろん命のやり取りはなしだ」
剣士「了解した」
武闘家「どうしたんだ、海賊の姉ちゃん? 昨日とは様子が違うけど……」
賢者「あれが船長としての姿なんじゃないですか?」
武闘家「確かにあの方が海賊らしいか。賊が舐められたら終わりだもんなー」
435
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:35:36 ID:AbFZhZkU
剣士「(海賊と操舵手の武器はサーベルか。如何にもではあるが、確かにあれなら小回りが利く分、船上でも扱いやすい)」
剣士「(占い師の武器はなんだ、あれは水晶? 水晶なんかで詠唱できるのか?)」
賢者「珍しいですよね。補助具が水晶って」
剣士「補助具?」
賢者「魔導師が持っている杖等は武器じゃないんですよ。これ等は集中力を高める為の補助具であって、極端な話なくても魔法は唱えられるんです」
剣士「へー」
賢者「それともう気づいていると思いますけど、占い師ちゃん詠唱を始めちゃってます。開始と同時に高威力の魔法を撃つ気なのかもしれません」
剣士「やはりか。撃たせないで終わらせるつもりだったんだがな」
賢者「あの時のように痺れ毒の投げナイフを使えば……」
剣士「怪我をさせたくない。君がいるとはいえな」
賢者「あっ、そうですよね。ふふっ、すみません」
魔法使い「……」ムスッ
武闘家「(あ、拗ねてる。解説役を賢者にとられたのが悔しいんかな、やっぱ)」
436
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:38:39 ID:AbFZhZkU
海賊「そろそろ始めようか。準備の方は?」バッ
剣士「いつでも」シャキッ
占い師「それじゃ先手必勝! 魔法をくらえー、ちょわーっ!!」キラッ
ドカーン
海賊「何やってんのさ!? 少しは船の事を考えてーっ!」アセッ
占い師「だって操舵手が全力でやっていいって!」
操舵手「言ってなーいッ!!」
海賊「で、剣士はどこに……」キョロキョロ
操舵手「姉御、上ーっ!!」
剣士「――ッ!」ガキン
クルクル カランカラン
海賊「きゃう!?」ペタン
操舵手「ジャンプで躱したっての、占い師の爆発魔法を!?」
剣士「(あれだけ時間をかけてこの威力か。呪術師の半分にも満たない。弱いな……)」タンッ
437
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:40:50 ID:AbFZhZkU
操舵手「こっちくんな!」ブンブンッ
剣士「(武器を取り上げてしまえば傷つけず勝てる、が……)」サッ
占い師「射線入ってる。邪魔、撃てないっ!」
操舵手「んな事言ったって…… ぎゃわああーっ!」ガキン
カランカラン
剣士「(残すはアイツだけ。流石に水晶は飛ばしたら割れるか。面倒だな……)」ジリッ
占い師「やっと撃てる!」パァ
剣士「(くるのは火球か。躱し喉元に剣を突きつけ――いや、躱すまでもない)」タッ
占い師「はや、どこへ……」
剣士「ここだ」スッ ピタッ
占い師「っ!?」
剣士「俺の勝ちだな」パチン
438
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:43:17 ID:AbFZhZkU
操舵手「本当にやりやがった。あたし等三人を相手に、たった一人で……」ゾッ
海賊「それだけじゃない。剣士は最初の一撃を除き一度も魔法を使わせなかった。武闘家の条件さえもクリアしてみせたんだよ。私達に怪我を負わせずにね」
操舵手「弾かれた手、痛いんですけど……」イテテ
海賊「んもー、そんなの怪我のうちに入んないでしょー!」
剣士「まだやるか? 次は海賊団全員が相手だって構わない」
操舵手「ば、馬鹿言ってんじゃない!!」
剣士「じゃあ認めてくれるんだな?」
海賊「ああ、もう十分だ。そうだろう、みんなァ!?」
ウンウン ナットク シタヨー
海賊「だってさ」
剣士「しばらく世話になるな。よろしく」
海賊「こちらこそ」ニコッ
439
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:45:51 ID:AbFZhZkU
操舵手「よぉし、今夜はパーティーだ。歓迎会やらなくっちゃな!」
海賊「だねー!」
操舵手「姉御の許可が出たぞ、みんな。今日はとことんやるからなー!」
ワーワー ヤッタァー!
海賊「その前に、どっかの馬鹿が甲板に穴空けやがったからその修理!」
剣士「手伝おうか?」
海賊「あ、大丈夫よ。人手は足りてるから!」
剣士「そうか。まあ、素人だしな。船に関しては……」
操舵手「そそ、船はあたし等に任せりゃいいの」
海賊「よーし、そうと決まれば早いとこ終わらせちゃおう。宴の支度だってしなきゃだし」
賢者「それって食べる物とか用意しますよね。手伝わせて下さい。お料理得意なんです!」
海賊「ほんと? うち料理できる子少ないから助かるわ。船の厨房にあるものならなんでも使って!」
賢者「お借りしますね!」
440
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:48:07 ID:AbFZhZkU
占い師「はあ……」シュン
武闘家「反省はしてんだ、一応。偉いじゃん」
占い師「あ……」
武闘家「俺の言った通りだっただろ? 剣士殿には通用しないって」
占い師「だけど、ここまでとは思わなかったなぁ。魔法の腕だけは自信あったのに……」
武闘家「そっちで凹んでんのかよ!?」
占い師「穴空くとかいつもの事だし、べつにぃ……」
武闘家「反省しとけよ、そこは。――てか、そんなに悔しかったのか?」
占い師「僕、戦う以外みんなの役に立てる事ないから。占いまったく当たんないし……」
武闘家「んじゃ、修行するしかないな」
占い師「め、面倒くさぁ……」
武闘家「なら俺と一緒に修行するか? 二人なら飽きる事もねぇだろ」
占い師「え、えぇー?!」
441
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:49:47 ID:AbFZhZkU
剣士「さて、時間もできた事だしいい加減魔法使いと話さないとな。――って、どこ行った?」キョロキョロ
操舵手「何かお探し?」
剣士「魔法使いを――あー、とんがり帽子をかぶった俺の仲間を見なかった?」
操舵手「船内に入っていったのを見たよ。だけど船内は散らかってるからあんまり……」
剣士「船の中か。ありがとう」タッ
操舵手「話聞けや!!」
海賊「どしたの?」
操舵手「剣士とその仲間が船内に入っちゃって!」
海賊「いいじゃない。盗られて不味いものもないし、そもそも盗んだりしないでしょ」
操舵手「恥ずかしいじゃないですか。散らかってるの男性に見られんのは////」
海賊「意外、乙女な部分まだ残ってたんだー……」
操舵手「姉御、あたしを何だと思ってるんですかァ!!」
442
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:51:41 ID:AbFZhZkU
船内 倉庫――
剣士「ここにいたのか。探したよ」
魔法使い「わざわざ私を?」
剣士「話したいって言っただろう?」
魔法使い「やだ」
剣士「なんでだよ!」
魔法使い「冗談よ。で、なあに? 他に人もいないし聞いてあげる」
剣士「賢者の事なんだが……」
魔法使い「やっぱりやだ。あの子の話はしたくない」プイッ
剣士「どうしてそこまで嫌う。最近は輪をかけてないか?」
魔法使い「べつに。昔からよ。最近ってわけでもないわ」
剣士「昔から?」
443
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:52:58 ID:AbFZhZkU
魔法使い「……ねえ、才能の話を覚えてる?」
剣士「魔法の?」
魔法使い「あの子、私より優れてるでしょ。だから嫌いなの。生まれた時から……」
剣士「そんな事はないんじゃないか?」
魔法使い「少し考えればわかるわ。あの子は私と違って癒しの魔法も使える」
剣士「それが全てじゃないだろう?」
魔法使い「全てでしょ? 私はどんなに努力しても攻撃魔法だけしか会得できなかった。それだって、いずれ私を追い抜いて……」
剣士「考えすぎだよ。それに戦いにおいて最も大事なのは立ち回りと技術だ。才能が努力を上回る事はない」
魔法使い「じゃあ、どうしてお婆様は私を見限ったのよ!?」
剣士「お婆さん、エルフの?」
444
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:54:19 ID:AbFZhZkU
魔法使い「お婆様はあの子の才能を見抜いてからは私に構わなくなったわ」
魔法使い「それに気づいたお母様は今まで以上に私に優しく接してくれた。でもそれが堪らなく嫌だった」
魔法使い「だって、それはお母様もあの子より私が劣ってるって認めたって事でしょ?」
魔法使い「だから十五の時に家を出たの。世間じゃ十五歳で成人だって聞いたから……」
剣士「いや、正しくは十六歳からだ」
魔法使い「どーでもいいでしょ。一、二歳なんて!!」
剣士「あ、ああ。すまない。――それで?」
魔法使い「それからは知っているはずよ」
魔法使い「あの森で貴方に出会って、何も聞かずに私を城に雇ってくれた……」
剣士「あれはそういう事だったのか……」
445
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:57:35 ID:AbFZhZkU
魔法使い「あの頃は本当に幸せだったわ」
魔法使い「よくわからない修行に付き合ったり、時には城を抜け出して冒険者の代わりに賊や魔物を討伐したり――」
魔法使い「自分の居場所が確かに感じられた。この人には私が必要なんだって……」
剣士「それは今も変わらない」
魔法使い「嘘よ」
剣士「嘘じゃない。君に黙って旅立ったのは俺に覚悟が足らなかっただけで、本当は一緒に……」
魔法使い「そんな昔の事を言ってるんじゃないの。私が言いたいのは、またあの子が私の居場所を奪おうとしてるって事」
剣士「また、奪う?」
魔法使い「ここまで言ってもわからない?」
魔法使い「貴方、あの子に出会ってからずーっとずーっとあの子に夢中じゃない!」
剣士「夢中、俺がッ?!」
446
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:59:03 ID:AbFZhZkU
魔法使い「知ってるんだから。貴方が私よりもあの子の事が好きだって!!」
剣士「妬いているのか……?」
魔法使い「笑いたければ笑えば。私は妹に嫉妬し続けているの。滑稽でしょ?」
剣士「思っちゃいない!」
魔法使い「じゃ哀れんでる? それで勇者の時のように今度は私を選ぶ?」
魔法使い「私は嫌よ。もう大好きな人にそんな風に見られたくない!」
剣士「落ち着け。それに俺は哀れんで婚約を受け入れたわけじゃない」
魔法使い「本気で愛してたって言うの!?」
剣士「魔王討伐の旅を終えて、それでも勇者が変わらず俺の事を好きでいてくれたなら受け入れられる。そう思えたから……」
魔法使い「もっともらしい事言って。でもあの子は違うでしょ?」
魔法使い「惰性から生まれる愛情なんかじゃない。心から惹かれるような深い愛情――」
魔法使い「わかるのよ、貴方が好きだから……」
447
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/07(水) 00:00:51 ID:Zwnb7mWE
剣士「確かに俺は彼女に惹かれている。だが、それが愛かどうかは――」
魔法使い「まだわからないって?」
剣士「あ、いや、考えた事がなかった。考える必要もなかったからな……」
魔法使い「へぇー、それで? だから何?」
剣士「だ、だから……」
魔法使い「ちゃんと答えてよ。どうして貴方はいつも、いつも……」グスン
剣士「す、すまない」
魔法使い「何に謝ってるの?」
剣士「それは、俺が君の気持ちを考えもせずに、その……」
ガチャ!
賢者「あー、ここにいたんですね。探しちゃいましたよー!」
剣士「け、賢者!?」ビクッ
賢者「焼き菓子を作ったんですけど食べませんか?」ニコッ
448
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/07(水) 21:26:34 ID:mMYihzfs
乙
449
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/25(金) 19:01:23 ID:UNRWHERw
続きを!
450
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:37:21 ID:hLKs.Q/6
賢者「二人して難しい顔していますね。今後の予定でも話していたんですか?」
剣士「あ、いや……」
賢者「甘いものは脳にいいですよ。どーぞ」スッ
魔法使い「いらない」
賢者「そんなこと言わずに。バターたっぷりで美味しいですよ。お姉様、好きでしたよね?」
魔法使い「じゃ、一つだけ。後は二人で仲良く食べたら」タッ ガチャ バタン
賢者「え!? 何も出ていかなくても……」
剣士「……」
賢者「すみません。私のせい、ですよね……?」
剣士「いや、君のせいじゃないよ。俺が悪いんだ」
賢者「何かあったんですか?」
剣士「まあ、色々と」
451
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:41:21 ID:hLKs.Q/6
賢者「えっと、あの…… そうだ。よかったら剣士さんもどうですか?」スッ
剣士「あ、ああ」ヒョイッ
賢者「甘いもの嫌いでした?」
剣士「好きだよ。食べすぎて怒られた事もある」
賢者「よかった」ホッ
剣士「おいしい。思わず頬が緩むな」モグモグ
賢者「でしょう。だからどうしても最初に食べてもらいたかったんです、剣士さんに」
剣士「それでわざわざ届けに?」
賢者「はい」ニコッ
剣士「あ……////」
賢者「顔赤いですよ? も、もしかして……!?」
452
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:43:13 ID:hLKs.Q/6
剣士「いや、違う。これは……」バッ
賢者「じっとしててください。あとちょっとしゃがんでもらっていいですか?」
剣士「え? こ、こう?」
賢者「うーん、とどくかな……」コツン
剣士「おい!?」ピタッ
賢者「熱測ろうかなーって」エヘヘ
剣士「手で測った方がわかるだろう、おでこより」
賢者「嫌でした?」
剣士「その聞き方は卑怯だな」
賢者「うふふ」
453
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:45:14 ID:hLKs.Q/6
賢者「でー、熱はないんですよね?」
剣士「測れてないじゃないか!」
賢者「もう一回やります?」フフッ
剣士「ないよ、熱は」
賢者「んー、光の加減でそう見えたのかな?」
剣士「(魔法使いに愛だの何だのと言われて動揺しているのか、俺は……?)」
賢者「それじゃ、そろそろ戻りますね。作りたいものまだまだあって」
剣士「それは楽しみだな」
賢者「期待していてください。また後で!」タタッ
剣士「……」
454
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:47:14 ID:hLKs.Q/6
村 砂浜――
魔法使い「(あー、ばかばかばか。私のばか。どうしてあんなこと言っちゃったんだろう)」
魔法使い「(言えばどうなるかなんてわかっていたのに……)」
男の子「うおお! これで最後だ、魔王。超必殺奥義、バーニングブレードォ!!」ブンッ
男の子の弟(以下、弟)「ぐわあああ、やーらーれーたー!?」バタン
男の子「ワッハハッ!! 参ったかー!!」
魔法使い「(村の子供? はぁ、のんきなものね……)」
男の子「じゃあ、もっかい最初からいくぞー!」
弟「えーっ! また僕が魔王役なのー!? かわってよ、兄ちゃん!」
男の子「これが終わったらな!」
弟「そう言ってもう三回連続でやってるじゃん!!」
男の子「まだそんなにやってないだろ!!」
魔法使い「(喧嘩になりそうな雰囲気。止めなきゃ駄目なのかな。大人として)」ヤダナァ
455
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:49:19 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「ねえ、かわってあげたら。私が言うのもあれだけど、お兄ちゃんなんでしょ?」
男の子「だ、誰? 旅の人?」
魔法使い「まあ、そんなところ。――で、どうなの? 勇者役かわってあげるの? あげないの?」
男の子「ゆうしゃー? 違うよ。これはね、紅蓮の剣士だよ!」
魔法使い「剣士って、あれアイツの真似だったんだ。似てなさ過ぎじゃない……?」
弟「え!? お姉さん、本物知ってるの?」
魔法使い「知ってるっていうか、んまぁ……」
弟「あー、わかった。剣士の仲間なんでしょ!」
男の子「嘘言うなよ。剣士に仲間なんかいなかっただろ!」
弟「嘘じゃないし。海賊姉ちゃんが昨日言ってたもん。剣士とその仲間を連れてきたって!」
男の子&弟「「どうなの!?」」ジッ
456
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:51:13 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「どうって…… 仲間、だったのかな?」
弟「ほらー!」
男の子「えーっ!? じゃあさ、どうだった俺の剣士? 仲間から見てどうだった?!」
魔法使い「だから似てないって言ったでしょ。アイツ魔法剣なんて使えないもの」
男の子「えーっ!? ならマジの必殺技教えてよ。カッコイイのあんでしょー!?」
魔法使い「さっきのバーニングーみたいな? ないわよ」
男の子「えーっ!? 嘘だぁー!!」
魔法使い「ほんとだって。嘘言ってどうするのよ」
男の子「そんなのやだー。剣士になれないじゃーん!!」
魔法使い「なれないって――ああ、ごっこ遊びが出来ないって事ね……」
457
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:53:37 ID:hLKs.Q/6
男の子「必殺技ないんじゃつまんないよ。たあ!とりゃあ! で、魔王倒してもなー」
魔法使い「じゃ普通に勇者ごっこやりなさいよ。魔法とか神雷剣とか派手なのあるわよ」
男の子「勇者やだよ。魔王にやられた敗北者じゃん。ダサいよ!」
魔法使い「ダサいって……」
弟「うん、ダサい。今のトレンドは剣士だよ。勇者と違って強くてカッコイイもん!」
魔法使い「見た事ない癖に。本人にあったら幻滅するわ、絶対」
男の子「嘘だ。絶対にカッコイイよっ!!」
魔法使い「カッコ悪いわよ。頑固で負けず嫌いだし。それに馬鹿なのよ。賢そうに見えるけど、とんでもない馬鹿!」
男の子「え、えぇー……」
魔法使い「ほんとなんだから。そう、ほんと嫌になっちゃう……」
458
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:57:28 ID:hLKs.Q/6
男の子の姉(以下、姉)「あー、アンタ達こんなところで油売ってー!?」グワッ
弟「お、姉ちゃんだ!」コソッ
男の子「やっべ忘れてた!?」コソッ
魔法使い「え!? ちょっと私の後ろに隠れないでくれる!?」アセッ
姉「もー、人様に迷惑かけてんじゃないの。ていうか、山菜はどうしたのよ。その様子じゃまだなんでしょ!」
魔法使い「貴方達、お使い頼まれてたの?」
男の子「そ、そうだったかも……」
姉「本当にすみません。弟達がご迷惑を」ペコペコ
魔法使い「それより大丈夫なの? この子達だけに行かせるなんて」
姉「え?」
魔法使い「危なくない? 魔物とか……」
姉「ええ、全然。あの森には魔物がいないんで」
魔法使い「そう。珍しいわね、魔物がいない森なんて……」
459
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:00:35 ID:hLKs.Q/6
男の子「あーあ、もうちょっと遊んでたかったなぁー」
弟「また剣士やれなかったじゃん。酷いよ、兄ちゃん!」
姉「無駄口叩いてないで行くよ。ほら、かご持って!」
男の子「姉ちゃんもついてくるのーっ!?」
姉「当然でしょう。遅れた分を取り戻さないと!」
弟「兄ちゃんのせいだかんね!」
男の子「お前だって忘れてた癖にー!!」
姉「――それじゃ、私達行きますね。弟達の面倒を見て下さってありがとうございます!」
魔法使い「ま、待って。私もついて行っていいかしら?」
姉「え? 構いませんけど……」
魔法使い「あ、えと、実は私も山菜欲しくって」
姉「そうだったんですか。わかりました。では案内しますね。ついてきてください!」
460
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:03:47 ID:hLKs.Q/6
短いですが今日はここまで。次はもっと早くあげられると思います。
待ってくれた方がいただなんて、嬉しいですね。ありがとうございます
461
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/31(木) 22:14:13 ID:elQ1uY.s
乙
462
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:29:51 ID:x8iBVuc.
海辺の森――
魔法使い「(ここが魔物のいない森か。確かにとても澄んでいる。まるで私が住んでいた森のよう……)」
魔法使い「(あ、もしかしてここがそうなのかしら? 以前お婆様が住んでいたっていう)」
魔法使い「(心配で付いてきちゃったけど、これならその必要もなかったな)」
姉「綺麗なところでしょう?」
魔法使い「ええ。本当に魔物もいないみたいだし、よかったわ」
姉「さあ、どんどん採っちゃいましょう。日が暮れたら流石に危ないですからね!」
男の子「トカゲだ、待てー!」ダダッ
姉「もー、また遊んで。何しに来たかわかってる!?」
男の子「少しくらいいいじゃん。ケチー!」チェッ
魔法使い「ふふっ、お姉さんというよりお母さんね」
姉「あはは、そうかも知れませんね。祖父も祖母もあの子達に甘くって」
463
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:30:48 ID:x8iBVuc.
魔法使い「ご両親は?」
姉「父と母は私が幼いころ事故で亡くなってしまって」
魔法使い「そうだったの。ごめんなさい」
姉「大丈夫です。気にしないで下さい。今は祖父母がいるこの村で楽しくやってます」
姉「村の人達も海賊さん達も暖かくって寂しさなんて感じた事がありません!」ニコッ
魔法使い「そう。ならよかったわ」
男の子「みてみてー、キノコ見つけた。これ食えるかなー?」タタッ
姉「え? んー、どうなんだろう? お婆ちゃんに聞いてみないと……」
魔法使い「あ、それ食べられるわよ。確か汁物に合うんじゃなかったかしら?」
姉「おおーっ!! 詳しいんですね!」
魔法使い「ま、まあね。一応、森育ちだし////」テレッ
464
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:31:41 ID:x8iBVuc.
男の子「じゃ、もっと採ってくる。あっちにいっぱいあった」タッ
弟「待ってよ。僕もいくー!」タッ
姉「あー、もう! あんまり遠くまで行かないでよ!!」
男の子「わかってるよー!」
姉「ハァ、もうちょっとしっかりしてくれたらなぁ……」
魔法使い「あれくらいの男の子はあんなものじゃない? もう少ししたら落ち着くわよ」
姉「だといいんですけど……」アハハ
魔法使い「(この子、とってもお姉ちゃんしてるな。それに比べて私は……)」
魔法使い「(あの子に姉らしいことしてあげたこと一度でもあったかな?)」
465
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:32:45 ID:x8iBVuc.
数時間後――
姉「チビども遅いな。ほんと、どこまで行っちゃったんだろう?」キョロキョロ
魔法使い「探してくるわ。行き違いなっても困るし、貴女はここで待っていて」
姉「それなら私が……」
魔法使い「こう見えて人探しは得意なの。任せて大丈夫よ」
姉「本当にいいんですか?」
魔法使い「ええ、もちろん」
姉「それじゃお言葉に甘えて。よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「すぐ戻るわ」タッ
姉「本当に身軽。冒険者ってみんなああなのかな?」
466
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:34:02 ID:x8iBVuc.
海崖――
男の子「うおお、すげぇー! お前もこっち来て見てみろよ」
弟「そんなとこに立って危ないよ。落ちたらどうするのさ!」
男の子「ヘーキだって。兄ちゃんが掴んでてやるから」
弟「ほんと? じゃ、じゃあ……」トコトコ
男の子「どうだ、凄いだろ。これ、波で削れて崖になったんだってさ」
弟「へ、へぇー」ビクビク
男の子「……わっ!!」トンッ
弟「うわあああ!!??」ビクンッ
男の子「アハハ、玉がヒュンってなったろー!」ゲラゲラ
弟「兄ちゃんの馬鹿ー!!」
男の子「怒んなよ。ちゃんと掴んでてやったじゃん」
467
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:35:49 ID:x8iBVuc.
魔法使い「やっと見つけた。こんな遠くまで。駄目って言われてたのに――って!?」
魔法使い「なにしてるの。落ちないでよ!?」
男の子「大丈夫、ヘーキヘーキ!」
魔法使い「ほんとに?」
弟「ねえ、そろそろもう戻ろうよ。怒られちゃうよ」ガクガクッ
男の子「んもー、しょうがないな」
弟「うん。そうしよ――って、うあ!?」ツルッ
男の子「おい、馬鹿!!」ガシッ
弟「あ、あぁ……!」ブラーン
男の子「手、絶対に離すんじゃないぞ!」ガッ
魔法使い「だから言ったのに…… お願い間に合って!」タンッ
男の子「うぐっ……」ズルズル
468
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:36:47 ID:x8iBVuc.
魔法使い「意外と遠い!? というより足場が悪いのか、走りにくい……」ダッ
バッサバッサ!
魔法使い「(後方から羽音!? 音からしてかなりの大きさ。それも聞き覚えのある……)」
鳥の魔物「ピーッ!」バサッ
魔法使い「あれは魔物!? どうしてここに。それもこのタイミングで!?」
魔法使い「(くっ、速い。あっという間に追い越された。このままじゃあの子達が……!)」
男の子「だ、駄目だぁ……」パッ
魔法使い「もう離しちゃったの、嘘でしょ!?」
弟「うわああああ!!??」ヒューッ
鳥の魔物「ピーッ!!」パクッ
弟「え?!」
魔法使い「なっ!? 落ちた子供を助けたっていうの、魔物が!?」
469
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:38:32 ID:x8iBVuc.
弟「と、飛んでる!?」
男の子「え? えっ!? なんで厳つい鳥に食われてんの?」
魔法使い「(降りてくる気配はない。助けたわけじゃなく、単に襲っただけ?)」
弟「お、おろしてぇー!!」
魔法使い「考えるのはあと。こっちにきた。なら撃ち落としても!」キラン バシュッ
鳥の魔物「ピギャー!!」ズシュー
弟「うああああ?!」ヒュー
魔法使い「捕まえた!」ガシッ
弟「た、助かったの?」
魔法使い「ええ。怪我はない?」ニコッ
弟「うわあああん」
470
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:40:13 ID:x8iBVuc.
男の子「ありがとー、弟を助けてくれて!」タッタッ
魔法使い「どういたしまして。どこも怪我していないみたいだし、本当によかったわ」
男の子「ねえ、さっきのなに? バシューって!」
魔法使い「なにって風の魔法で魔物の翼を切り裂いただけよ」
魔法使い「それより気をつけなさいよ。今回は運よく助かったからいいものの」
男の子「あ、ごめんなさい。もう近寄らないよ……」
魔法使い「べつに二度と近寄るなとは言ってないわ。ただ、今度見に行くときは――」
魔法使い「そうね。弟君をしっかり支えられるくらい強くなったときにしなさいってだけ」
男の子「え!? 強くなったらいいの?」
魔法使い「強い人は落ちないし、落ちそうな人を助かれるからね。それまで我慢しなさいよ。約束できる?」
男の子「うん、わかった。約束する!」
魔法使い「じゃこれからはお姉さんの言う事もよく聞くのよ。強い子は他人に迷惑をかけないもの」
男「えー!? うー、わかった。約束だもんね」
魔法使い「戻りましょうか。お姉さんが首を長くして待っているわ」
471
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:41:27 ID:x8iBVuc.
夕方 海辺の森――
姉「おっそーい! どこまで行ってたの!?」オコッ
男の子「ご、ごめんなさい」ペコッ
姉「あれ? やけに素直。何かあったの?」
魔法使い「ちょっと怖い思いをしただけよ。ちゃんと反省してるし、今日のところは許してあげて」
姉「え? わかりました。そういう事でしたら、まぁ……」
男の子「あのこと姉ちゃんに言わないの?」コソッ
魔法使い「言ったところで余計心配させるだけだもの。それに強くなるまで近寄らないって約束もしたんだし必要ないでしょ?」
魔法使い「それともお姉ちゃんに怒られたかった?」フフッ
男の子「そ、そんな事ないし!」ブンブン
472
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:42:43 ID:x8iBVuc.
漁村――
姉「今日は本当にありがとうございました」
魔法使い「こちらこそ。こんなに山の幸もらっちゃって、本当にいいの?」
姉「是非もらっちゃってください。弟達の面倒を見てくれたお礼です!」
魔法使い「そう、ありがとう」ニコッ
弟「魔法使いのお姉さん、今日は本当にありがとう!」
男の子「俺、絶対約束守るよ!」
魔法使い「うん。じゃ、またね。楽しかったわ」ノシ
バイバーイ
魔法使い「……」
473
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:44:50 ID:x8iBVuc.
魔法使い「(これは一体どういう事?)」
魔法使い「(偶然あの森に迷い込んだ魔物が、何かの気まぐれで遠くて狙いにくい落下寸前の子供を襲ったと?)」
魔法使い「(まさか、あり得えない。どこか故意的なものを感じる)」
魔法使い「(あの魔物が人間の子供を助ける為に動いていたのは明らか。けど、それは魔物の意志では絶対にあり得ない事――)」
魔法使い「(そうなると何者かの指示でそう動いていたと考えるのが自然。では誰が?)」
魔法使い「(私が知る限り魔物を意のままに操る事が出来るのは魔族だけ――)」
魔法使い「(魔族が人間を助けたっていうの? それはそれで不自然よ。助ける理由がない)」
魔法使い「(……考えても無駄ね)」
魔法使い「(今あの森に異変が起こっている。それがわかっただけでも十分――)」
魔法使い「(本当に魔族がいるのだとしたら、そいつを捕まえて吐かせればいいだけの話)」
魔法使い「(とりあえず、この事を剣士に知らせ……)」
魔法使い「!?」
474
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:46:37 ID:x8iBVuc.
甲板 夜――
ガヤガヤ ワイワイ
武闘家「おう、やってる?」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりって。もっと楽しもうぜ。俺達の歓迎会なんだしよ」
剣士「わかってはいるんだが、どうもな」
武闘家「なんかあったんか?」
剣士「あ、いや、口下手なものでね。苦手なだけだ」
武闘家「そんな事ないだろ」ハハッ
剣士「どうだろう?」
武闘家「あ、そうだ。一つ聞いてもいいかな? 気になってた事があってさ」
剣士「?」
475
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:48:54 ID:x8iBVuc.
武闘家「剣士殿って勇者と契約してるのか?」
剣士「え? どうしてそう思う?」
武闘家「だって超強いじゃんか。他種族の血が流れてるってわけでもないんだろう?」
剣士「ああ。勇者との契約だって――」
武闘家「してんのか、やっぱ?」
剣士「いや、しなかったよ。そんな話もあったにはあったんだが……」
武闘家「してないのかよッ!?」
剣士「してたとしても勇者が死んだら契約も何もないだろう?」
武闘家「あー、そっか! ――ん? さっき契約の話があったって言ったよな」
武闘家「なんでしなかったんだ。もしかして勇者に負けた事が関係すんのか?」
剣士「どうしてそれを? って、魔法使いしかいないか……」
476
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:50:58 ID:x8iBVuc.
武闘家「山賊と間違われて襲われたんだろ、勇者に」
剣士「懐かしいな。あれからもう三年も経つのか……」
武闘家「ていうと、いくつよ?」
剣士「俺が十七で、勇者が十三歳だったかな」
剣士「そう、俺はまだ勇者として目覚めていない覚醒前の彼女に負けたんだ。凄く悔しかったよ」
剣士「これが選ばれた者と選ばれなかった者の差なんだって思い知らされた」
武闘家「だったら尚更なんで。契約すりゃそんな勇者と同じ力を得られたわけだろ?」
武闘家「確かに女神には選ばれなかったかもしれない。けど、勇者には選ばれたわけで……」
剣士「だな。今はとても後悔しているよ。契約しなかった事を」
剣士「変な意地など張らずに仲間になっていたら、勇者を守れたのかもしれない。そう思うと、どうしてもな」
武闘家「あ……っ!」
剣士「こんなのはただの言い訳に過ぎないが、あの頃は思いもしなかったんだ。あの勇者が負けるなんて、夢にも」
477
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:59:57 ID:x8iBVuc.
剣士「俺が勇者を殺したなんて自惚れを言うつもりはないが、勇者になにもしてあげられなかった事に違いはなくて……」
武闘家「そんなことはねぇだろ。今はこうして立派に勇者の遺志を継いでるわけだしよ!」
剣士「それも怪しいもんさ。俺は呪術師の爺さんを殺せなかった。それどころか人魔の運命に同情すらしていた」
剣士「勇者なら迷うことなく爺さんを殺しただろう。人魔だって次代の為にと殲滅も誓ったはずだ」
武闘家「!?」
剣士「だが、俺には出来なかった。それが最良の選択だっただろうに……」
武闘家「爺さんを見逃しちまった事、後悔してんのか?」
剣士「いや。だが、これは俺の独善だ」
武闘家「そんな事ねぇだろ。どちらかが滅ばなければ終われないなんて悲しすぎるぜ……」
剣士「君も随分な理想家だな」
武闘家「いけないのか?」
剣士「さあ、どうなんだろうな?」
478
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/10(日) 00:55:20 ID:HqYvz/bw
乙
今後に期待
479
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:09:24 ID:MjQ0gRsI
海賊「なあに、どーしたの? 男二人で湿っぽいじゃない」
武闘家「いやいや、楽しくやってるよ。なあ剣士殿」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりかよ!?」
海賊「ふふっ、今度はお姉さんと飲まない? サービスしちゃうよ」ムフフッ
剣士「え? ああ、それは構わないが……」
海賊「やった!」
武闘家「それじゃ俺はこの辺で失礼しようかな。お邪魔だろうしさ。まったなー!」タッ
剣士「おい?!」
海賊「気を使わせちゃったかな?」ウフフッ
剣士「……どうだろう?」
480
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:10:32 ID:MjQ0gRsI
海賊「ねぇ、何話してたの。武闘家君と?」
剣士「べつに。大したこと話してないよ」
海賊「むぅー、教えてくれてもいいのに。ちょっと冷たいんじゃなあい?」ムスッ
剣士「そんなつもりじゃ……」
海賊「あ、男子会って奴だ。ごめん、お姉さん気づかなくって。スケベトークは知られたくないよねぇ」ムフッ
剣士「ハァ……」
海賊「もう冗談だってば。怒らないでよ?」
剣士「いや、べつに。むしろそういう話をすべきだったんだなって勉強になったよ」
海賊「なるほど。そうきますか。んじゃ、お姉さんとスケベトークしちゃう?」
剣士「それはどうなんだ?」
海賊「んー、どうなんでしょ」ウフフッ
剣士「ハァ……」
481
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:12:22 ID:MjQ0gRsI
海賊「――にしても驚いたな。貴方に仲間がいたなんてさ。最近できたの?」
剣士「いや、随分長いよ。二人目の四天王を倒した頃にはもうみんなとは出会っていたし、魔法使いは旅を始める前からの付き合いだしな」
海賊「へー、そんなに。他のみんなも貴方と同じくらい強いの?」
剣士「どうだろう?」
海賊「まー、そうだよね。貴方と同じなんてそうそういないよね」ハハッ
剣士「あ、いや、魔法使いは凄く強いよ。今でこそ彼女と互角以上に戦えるようになったと思うが、出会った頃はまるで歯が立たなかった」
海賊「え!? 嘘だー!?」
剣士「本当だよ。彼女の扱う魔術は多彩でどれも強力で、それでいて身のこなしがとても軽やかなんだ」
剣士「初めて戦ったときこんな魔導師いるのかよって涙目になったっけな」
海賊「貴方が?」
剣士「ああ。笑っちゃうだろう?」
海賊「でもなんか安心しちゃった。貴方にも頼れる仲間がいたんだなーって」
剣士「頼れる仲間、か……」
482
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:16:03 ID:MjQ0gRsI
海賊「仲間の噂聞いた事なかったからさ。それにね、昼間に貴方と戦って感じたの」
海賊「この人は単独での戦いに慣れ過ぎている。もしかして仲間を頼ってないのかなって」
剣士「よく見ているな。いや、船長やってるんだから当然か……」
海賊「え?」
剣士「実際その通りなんだろうな。俺は仲間を頼ってない」
海賊「でも魔法使いさんは強いって……」
剣士「ああ、強いよ。でも俺は頼らなかった」
海賊「どうして?」
剣士「どうしてだろうな? 状況がそれを許さなかったのか、それとも無意識のうちに庇っていたのか……」
海賊「庇っていた?」
剣士「俺のエゴさ。仲間を危険な目にあわせたくないという……」
海賊「それで、か」
剣士「最低だよな、本当に。何が仲間だよ。魔法使いが怒るのも無理ないな……」
483
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:18:42 ID:MjQ0gRsI
海賊「まあまあ。わかったんだからいいじゃない。これからでしょ? ね?」
剣士「……」
海賊「よし、そういう事ならお姉さんが慰めてあげる」オイデー
剣士「俺は子供じゃない。――それよりそっちはどうなんだ?」
海賊「ん? 私達は大丈夫よ。ちょっと船長さんが舐められすぎてるくらいなもんで」ハハッ
剣士「あれは単に君に甘えているだけだと思うが?」
海賊「そお?」
剣士「もう少し厳しく接してもいいかもしれないな」
海賊「んー、厳しくか。してるつもりなんだけどねぇー」
剣士「あれで?」
海賊「あうっ、人に強く言えない性格なもので……」タハハッ
484
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:21:13 ID:MjQ0gRsI
剣士「なるほど。その隙を付け込まれているというわけか。船長に向いているんだか、向いていないんだか」
海賊「お耳が痛い話だぁー……」
剣士「すまない。まあ、俺も人の事を言える立場じゃないんだけどな」
海賊「ふふっ、お互い頑張ろうか。継ぐもの同士さ」
剣士「ああ、そう言えば二代目なんだっけ?」
海賊「そおだよ。この団は無責任な姉から引き継いだの」
剣士「無責任?」
海賊「うん。うまいことやって海賊団を立ち上げたのはいいものの。姉は理想と現実の違いに凹んじゃって逃げちゃったのよ。私達を置いてね」
剣士「それに責任を感じて、貴女が船長に?」
海賊「それもあるけど、私は好きだったから。海賊団のみんなが。解散するのが寂しかったんだと思う」
海賊「ねえ、貴方はどうして勇者の遺志を継ごうと思ったの?」
剣士「それは……」
485
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:25:25 ID:MjQ0gRsI
翌日 宿屋前――
武闘家「もっと腰に力を入れるんだよ、腰に!」
占い師「いや、無理だって!!」
魔法使い「何してるの、こんな早朝から」
武闘家「見ての通り修行だよ!!」
魔法使い「丸太を引っ張る事が??」
占い師「貴女からもこいつに言ってよ。魔導師がこんなことやっても意味ないって!」
武闘家「何言ってんだ。基礎体力つくりは魔導師だろうとやらなきゃ駄目だろ!」
占い師「最初から飛ばしすぎなんだよ!!」
武闘家「んな事わかってるよ。でも宿屋の薪が足りないって話聞いたからついでにいいかなーって」
魔法使い「森からここまで運んできたの!?」
占い師「そうだよ。もー、最悪ぅー!」
486
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:28:16 ID:MjQ0gRsI
宿屋「あらー、本当に持ってきてくれたの? 言ってみるものだねぇ。ありがと」フフッ
武闘家「いえいえ。これも修行ですから!」
占い師「もう無理。ちょっと休ませて……」バタッ
武闘家「おう。ここまでよく頑張ったな。俺が薪割りしてる間休んでていいぜ」
魔法使い「貴方達、あの森に行ったのよね?」
武闘家「そうだけど?」
魔法使い「どうだった?」
武闘家「どうって言われても――どうだった?」チラッ
占い師「え?! とくに変わったところはなかったと思うけどぉ?」
魔法使い「そう……」
武闘家「何かあったのか?」
魔法使い「昨日、魔物が現れたのよ。あの森に一羽だけね」
487
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◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:30:45 ID:MjQ0gRsI
占い師「あー、たまにいるよ。迷い込んでくるのが」
占い師「でも魔物たちにとってあの森は居心地悪いみたいで住みつかないんだよね。だからすぐ出ていくと思うよ」
魔法使い「らしいわね。昨日、操舵手さんにも同じことを言われたわ」
武闘家「て、事はまだ何かあるって魔法使いさんは思ってんのか?」
魔法使い「警戒するに越した事はなくない?」
武闘家「だな。昨日って事は俺達がここに訪れてからっぽいし、あるかもしれねぇな」
魔法使い「だからこれから調査に行こうと思ってるんだけど……」
武闘家「なら俺達も一緒に行くぜ」
魔法使い「あ、待って。こういうのは一人で動いた方が目立たなくていいと思うの。任せてもらってもいい?」
武闘家「危ないだろ、流石に一人は。――あ、そうだ。剣士殿と一緒に行ったらどうよ?」
占い師「うん。それがいいよ。あの人強いし、こいつと違って目立つような馬鹿な真似しないだろうし」
武闘家「ひでぇ。否定はしねぇけど」
魔法使い「そ、そうね。誘ってみるわ」
武闘家「じゃ頼んだぜ。俺達はここで修行してるからよ。何かあったら呼んでくれ!」
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