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( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
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立ったら投下がある。
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おいおい釣れた釣れたっていわれちゃうぜ
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きになったんだけど
>>126
( ´ー`)「あの時みんなが来てくれなきゃ、死んでただーよ」
プギャーのけだるい、けれど決意の籠った声を。
| ^o^ |「あの時のクエストボス戦が今回のボス戦とは別パターンで良かっただーよ」
ブームの真面目な、けれど出来るだけ軽々しくした声を。
この「プギャーのけだるい、けれど〜」って「シラネーヨのけだるい、けれど〜」が正しいんじゃないかな?
あとブームの語尾がだーよなのはしらねーよの真似してふざけてるだけ?
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>>269
ジョークの真意を理解出来ないって・・・東洋人ってやあね
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>>271
単なる書き間違いでミスリードを誘ったりではないと思う
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>>270
煽りスキル高いわけでもないのにしゃしゃり出て来た上に画面がPCしか想像つかない時点でお察し
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どーも作者です。
九月中に投下をと思っていたら、
うわわああああわわわあああああ!!
>>271 様
ご指摘ありがとうございます。
>>273 様
のおっしゃる通り、ただのミスです。
恥ずかしいです。
下が正しいですね。
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その明るい声は、次の声を呼ぶ。
( ´ー`)「あの時みんなが来てくれなきゃ、死んでただーよ」
シラネーヨのけだるい、けれど決意の籠った声を。
| ^o^ |「あの時のクエストボス戦が今回のボス戦とは別パターンで良かったです」
ブームの真面目な、けれど出来るだけ軽々しくした声を。
( ^Д^)「ほんとにそうだな」
そして、元気な、心の底から楽しそうに、けれど真剣な声。
( ´ー`)「だから、おれ達を甘く見るのはやめるだーよ」
('A`)「お前ら」
| ^o^ |「皆さんとラフコフとの因縁だとか、窮地に立つとか、我々には詳しいことはわかりません。
ですが、今までに受けた色々なことは、返したいのです」
( ´ー`)「貰いっぱなしは性に合わないだーよ」
( ^Д^)「そういうこった」
('A`)「お、おい」
( ^Д^)「きっと、おれ達よりもつらい道を選んだあいつも、同じ気持ちだろうよ」
| ^o^ |「どれだけ力になれるかは分かりませんが、やれることはやらせてもらいます」
( ´ー`)「もちろん死にたくないだーよ。
だから死なないギリギリまでやってやるだーよ」
| ^o^ |「だからこちらは、私達に任せてください」
( ^Д^)「こいつらが殺されそうになったら、ちゃんとおれらが逃がすからよ」
( ^ω^)「プギャー…」
( ^Д^)「ま、適材適所ってことだ」
('A`)「シラネーヨ」
( ´ー`)「だてにショボンのプログラムで鍛えてきたわけじゃないだーよ」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
| ^o^ |
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ご指摘ありがとうございます。
そして、感想や乙も、本当にありがとうございます。
それでは、十九話の投下を始めたいと思います。
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第十九話
はじまりの日 VRMMORPG 〜SWORD ART ONLINE〜
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0.リンク・スタート
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0-1
彼が『はじまりの街』の広場に降り立った時、
一番最初にしたのは頬をつねる行為だった。
「……痛くない。
やっぱりこれは夢、仮想現実なんだおね。
すごいおー」
その癖のある語尾から幼いと思われがちだが、
こういう時に取る行動は本当に子どもだった。
まず、棒立ちのまま周囲をきょろきょろと見回す。
目に入るのは、イメージの中の中世ヨーロッパの石畳の街。
目の前には画像で見たパルテノン神殿の様な大きな建物がある。
そして次に意識を向けるのは、人々。
同じように初めてこの場所に、この世界に降り立った者達が、盛んに声を上げ、
身体を振り、地べたを触り、建物を触り、自分の体を触り、その『世界』を楽しんでいた。
中には踊っている者もいる。
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「これが、仮想現実。
ナーヴギアで入ってきた世界。
『ソードアートオンライン』の世界。
ゲームの中の世界。
なんだおね」
彼も手を握り、足を上げ、歩き始める。
「本当に自分の身体みたいだお……」
ゆっくりと、一歩一歩でその世界を楽しむように歩く。
そして広場を一周してから、西の空を見る。
「えっと、西地区の教会で待ち合わせだったおね。
みんなもう移動してるのかお」
周りの建物と、楽しげに、というより、道行くすべての人、
おそらくプレイヤーと思える人達が全て笑顔なのを見て同じように笑顔を見せながら、
内藤武士、いや、『ブーン』は、西に向かって歩いていった。
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0-2
(ブーン)「こ、これがぼく!?」
少女漫画の中で、
メガネを外して化粧をしてもらった少女が、
初めて鏡を見た瞬間に言うようなセリフを呟いたブーン。
教会に向かう道すがらの屋台に立てかけてあった姿見を見て、
一度通り過ぎ、
戻ってきて鏡の前で一回転し、
鏡の中の美青年が自分だと分かり、
顔を近付けて鏡の中の自分に呟いた。
路地裏であったため誰も近くにプレイヤーがいなかったのは幸いだっただろう。
鏡の中の自分とにらめっこをし、
精一杯の変顔すら色男であるその顔に、
スタート時に自分で選んだとは言え気恥ずかしくなる。
(ブーン)「な、慣れるお。
自分では見えないんだし」
無理やり納得し、鏡から離れる。
そしてそのスリムで均整のとれた身体を見て、
4回鏡に向かってポーズを決めてから、
再び歩き始める。
(ブーン)「みんなはどんな姿か楽しみだお」
自分の事を棚に上げることに成功したブーンは西に向かった。
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0-3
西地区 教会前
(ブーン)「着いたお―」
ルーベンスの絵でも飾られていそうな大きな教会の前。
中央広場からは離れているためプレイヤーはほとんどいなかった。
扉を背にして視界に入るのは3人。
先ずは女性。
ストレートの黒髪が肩にかからないくらいで切り揃えられたショートカット。
女性らしいメリハリのあるプロポーションを、初期設定の簡単な革と布の装備を包んでいた。
もちろん美人で、黒髪の似合う清楚な女性だった。
次も女性。
金髪のウエーブのかかった髪が、肩甲骨くらいまで伸びている。
先程の女性と同じようなプロポーションだが、
彼女よりは少し身長が高い為髪の色と相まって外国の女優の様に見える。
もちろんセレブな美人女優だ。
最後の一人は男。
自分と同じような身長で、同じような体つき。
黒い髪と、目にかかるくらいの長さも自分と同じだった。
おそらくは同じ『型』なのだと思うが、髪型が微妙に違っているので雰囲気は違った。
いや、顔が違うのでそう思えたのかもしれない。
彼も美青年なのだが、自分の方が美青年だった。
しいて言うならば、彼は街に居たら女の子が振り返りそうなくらいの美青年。
自分はハリウッドで主役をはっていそうな美青年。
(ブーン)「……あれくらいで、いいんだおね」
少しだけ自分のセンスを恥ずかしく思いながら、
ブーンは3人と同じように教会の扉が見える位置に移動した。
他にも数人のプレイヤーと思しき人が教会を訪れて中を覗いたりしているが、
ここに留まっているのは自分を入れて4人だった。
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(ブーン)「(ドクオは寄るとこがあるから少し遅くなるって言ってたし、
来たらすぐ合図をするだろうから、
多分この3人がツンとショボンとクーさんなんだおね。
声をかけたいけど、女の人に声かけて違ったら恥ずかしいし、
こっちの男の人は…)」
3人を観察しているブーン。
なんとなく女性二人は互いを意識しているように見えるので、
あの二人がツンとクーならその後こちらに声をかけてくれるだろうと思い、
もう一人の青年に視線を向けた。
一心不乱に右手を振っている青年。
おそらくはウインドウを見ているのだろう。
かなり真剣な表情だが、なにをそんなに真剣に見ているのか不思議だった。
(ブーン)「(お知らせがさっき一回来てたけど、
その後は来てなかったおね)」
暇つぶしに何度かウインドウは開いて見たが、新しいメッセージなどは来ていない。
ウインドウを出すことによって現れるメニューは重要と言えばすべて重要なんだとは思うが、
これから落ち合う頼れる男友達二人に教えてもらえばいいやと思っていた彼は、
すぐに画面を閉じた。
(ブーン)「(すごく真剣だから、話しかけられないお……)」
どうしようかと腕を組み、教会を見るブーン。
すると、教会の前の一本道の真ん中を歩いてくる人影が見えた。
(ブーン)「お?」
ドクオが来てくれたのかと思い、じっと見つめる。
身長は190近いだろう。
胸板も厚く、足も長い。
ガッチリといった表現が似合うが、太いと言ったイメージは持たない。
服装は自分達と同じ初期装備に見えるが、腰付けた剣が彼を更に引き立てていた。
顔も凛々しく、美青年と言うよりは美丈夫。
精悍で、爽やかな好青年と言った感じだった。
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(ブーン)「(……ドクオじゃないか)」
彼を見ていたブーンは、現実世界でドクオが言っていたことを思い出しつつ、
友人ではなかったことに落胆しつつもう一度ウインドウを真剣に見ていた青年に視線を移す。
そして、意を決して彼に声をかけようと一歩踏み出したブーン。
しかしそれとほぼ同時に、再程の美丈夫が、教会の扉の前に立ち、
剣を鞘から抜いて掲げた。
思わずその姿を見る4人。
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「ドクオ騎士団の諸君!我がもとへ!」
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張りのある、よく響くバリトンの美声。
それと台詞のギャップに思わず唖然とする四人。
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「ド、ドクオ騎士団の諸君!は、早く来るんだ!」
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美丈夫が、四人に目配せしながらもう一度声を張る。
しかし思考の停止した四人は動かず、
ただただ彼をじっと見つめた。
「あ、あれ?ブーンとショボンとツンとクーさんだよね?」
剣を下ろし、不安げに四人に視線を配りながら呟いた美丈夫。
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「「「「ドクオ!!!!????」」」」
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四人の叫び声が、教会前に響き渡った。
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支援
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1.はじまりの街
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教会の中に入った五人は、ドクオに案内させて奥の部屋に入った。
長机が七つほどあり、それぞれに椅子が四つずつついているその部屋は、
中規模なグループが会合をするにはちょうど良いくらいの広さだったが、
今は五人しかいない。
(ツン)「あんたねー。何考えてるのよ!
人には何度も何度も身長体型を変えるなとか言っておいて!」
黒髪の美女が、座って肩を竦めている美丈夫に詰め寄る。
絵になる光景だ。
(ドクオ)「お、おれはテストの時からこの姿で、
こっちではこの姿の方がなれてるからいいんだよ」
最初は声を張っていた美丈夫……ドクオだったが、
美女に睨まれるという現実では経験したことのないシチュエーションと、
中身がよく知っている『ツン』であるという現実に、
いつもよりおどおどとしていた。
(ショボン)「そういえば、最初の頃のレポートではよく転んだって書いてたよね。
そういう事だったのか」
(ドクオ)「そうなんだよ!
最初は歩くこともままならくってさ。
腕のリーチも違うから剣を振るタイミングとか距離感とか慣れるまで大変でさ!」
少し離れた場所に座った美青年……ショボンが、
相変わらず右手を振りながら会話に参加した。
分かってはいるが、ウインドウを自分しか見えない不可視モードにしているため、
その右手を振る動作が少しおかしい。
(ツン)「他のゲームでもそうだっていうんだから、
普段の身体サイズでやればいいでしょうが!」
(ドクオ)「そ、そそ、それは……さ……」
(ツン)「なによ」
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(クー)「もしかして、理想、憧れなのか?
そういう体型が」
(ドクオ)「…… …… ああ。そうなんだ」
二人のすぐそばで見守っていた金髪美人……クーが口を開く。
彼女の頭の中では、祖母に見せてもらった昔の道場の写真が思い出されていた。
その写真には、ドクオの父が写っていた。
(ドクオ)「おれ、ちっさいし、飯一杯食べられないし、
多分あんまり大きくなれないだろうからさ。
太りたくはないけど、あんま筋肉とかつかない体質だし。
だからせめてここでは、理想の体型になりたかったんだ」
(ツン)「あんた……」
ドクオの悲しげな言葉に、思わず言葉を詰まらせるツン。
この世界では声も現実世界とは違っているが、
何故か今のドクオの言葉は、全員がドクオの声で聞こえた気がした。
(クー)「仮想現実は、
現実では叶えられないことを現実化させることの出来る世界。
と、何かに書いてあったのを読んだ。
そして、そうだなと納得した。
だから君の姿を非難したりはしないが、
せめて言っておいてほしかったな」
クーの言葉は現実世界と同じく感情を感じない無機質な響きを持っていた。
それゆえ誤解され、友人と呼べる者が少なかった。
だが何故か、この世界では、その言葉に込められた優しさが伝わっていた。
(ドクオ)「ありがとう……」
(ブーン)「おっおっお。
じゃあ早く外に行くお!」
不安げに会話を聞いていたブーンだったが、
なんとなくまとまったのを感じて笑顔で声をかける」
.
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(ツン)「そうね。せっかくだから楽しまないと」
(クー)「うむ。今日は7時までには帰ると言ってあるから、
五時半ごろには出ないといけないしな」
(ドクオ)「あ、ああ!
そうだな!
この街だけでも時間は潰せるけど、どうせなら戦闘もしようぜ!」
(ブーン)「だおだお。
そういえばショボンはさっきから何をしているんだお?」
それぞれに笑顔を見せながら扉に向かう。
しかしショボンが出遅れたため、
ブーンが振り返って声をかけた。
(ショボン)「あ、うん。
一応メニューバーが説明書にあったのと違いが無いか、
フルチェックをしていたんだ」
(ツン)「あんた、あの電話帳みたいなの全部読んだの?」
(ショボン)「読んだよ」
呆れ半分、感心半分と言った顔をしたツン。
それに対してショボンは当たり前のように普通に返した。
(ブーン)「おー。すごいお。
僕はスタートアップと簡易マニュアルの方しか読んでないお」
(ツン)「私も。
まあ所詮ゲームだし」
(ドクオ)「おまえら、ちゃんと読んどけよ」
(ツン)「何の為にあんたとショボンと一緒にゲーム始めたと思ってるのよ」
(ブーン)「頼りにしてるおー」
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(ドクオ)「おまえら……。
クーさんは?」
(クー)「ちゃんと読んだのはブーンと同じ簡易マニュアルとスタートアップマニュアルだけだ。
正式マニュアルは流し読み程度だな」
(ツン)「とか言いながら、ちゃんと読んだんでしょ?」
(クー)「まぁ読みはしたが、ちゃんと覚えているかどうかと言うと、自身は無い。
だから『流し読み程度』だ。ショボンは全部覚えているのか?」
(ショボン)「多分ね。大丈夫だと思いよ」
(ツン)「どういう脳味噌してるのよ」
(ブーン)「昔から教科書とか一回読めば覚えてたおね」
(ツン)「そうなの!?」
(ショボン)「教科書程度ならね。
でも流石に今回のは2回全部読んで、気になるところは何回か確認したよ」
(クー)「それで覚えられるのか」
(ショボン)「うん。でも、覚えるだけならその本を持っていればいいだけだし、
今ならパソコンでもタブレットでもどうにかできる。
結局はその知識をちゃんと使うことが出来るかどうかなんだよ」
(ドクオ)「テストに持ち込みできません」
(ショボン)「そこに関しては何とも言えません。
頑張って覚えてください」
ぼそっと呟いたドクオに、
笑顔でショボンが返す。
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(ブーン)「おー。暗記物苦手だから羨ましいお」
(ツン)「で、記憶も活用も出来る新生徒会長さんは、
チェック終了したの?特に問題は無かったわけ?」
(ショボン)「……まあ、うん」
(クー)「?歯切れが悪いな」
(ショボン)「いや…うん。
細かい変更と言うか、順番が違っているところとか説明文の誤字とかがあったから」
(ブーン)「それくらいは許してあげてほしいお」
(ショボン)「うん。でも気になったから、GMにメールしておいた」
(ツン)「ジーエム?」
(ドクオ)「GM、GameMasterの略で、
こういったオンラインゲームでは管理者とか運営者とかを言うんだ。
つーか、それは簡易マニュアルにも載ってたはずだぞ」
(ツン)「しらなーい」
(ドクオ)「まったく」
(ツン)「でも、正式運営はじまった初日の、
まだ2時間も経って無い状態で説明文の誤字を指摘されるのは色々厳しいのは分かる」
(ブーン)「ツンもお手柔らかにしてあげて」
(クー)「そのGMへのメッセージだが、
それは誰でも連絡できるものなのか?」
(ドクオ)「ああ。メッセージ機能で送ることが出来る。
プレイヤー同士で送りあうことが出来るメッセージ機能だけど、
初期設定でGMにだけは送れる様に登録してあるんだ。
多分消去も出来ないはずだから、間違って消したりすることも無い」
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(ツン)「ふーん」
(ドクオ)「ホントに興味ないんだな」
(ツン)「先ずは二人に聞くし、
そこで分からなかったらどちらかが連絡するでしょ?
私が使うことは無いと思うし」
(ドクオ)「……あてにしてもらえて嬉しいよ」
(ツン)「私がドクオを当てにすることなんて滅多にないんだから、
頑張る様に」
(ドクオ)「へいへい」
(クー)「しかし、何か聞きたいことがあって一万人がそれぞれメッセージを送ったら、
運営とはいえ混乱するんじゃないか?」
(ドクオ)「んー。スタッフ一杯用意してると思うし、大丈夫だと思うけど……。
それにスタッフが街に点在してるから、細かい質問はスタッフ捕まえて聞けばいいし」
(ツン)「それって連絡来てなかった?」
(ドクオ)「へ?」
(ツン)「なんか、最初は自分達の力だけで世界を楽しんでくださいとかなんとかで、
街にはNPCだけでスタッフはいないですよ的なメッセージ」
(ドクオ)「は?!」
慌ててウインドウを出すドクオ。
(ブーン)「向かってる時に突然チャイムと視界の端に何か出て、
ビックリしたお」
(クー)「ああ、どこを見ても視界の隅にチカチカ光る何かがあって、
何事かと思った」
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(ドクオ)「げっ!ホントに来てる!
なんでおれには通知が……。
なんで通知機能がオフになってるんだよ!
デフォルトはオンだろ!?
あー。こっちもオフだ。良かった。街の外出てなくてほんとによかった」
ウインドウを開いて独り言を言いながら操作しているドクオ。
(ツン)「ちゃんとマニュアル読まなきゃだめよー」
(ドクオ)「……マニュアル関係ないし」
ツンの言葉に、少しバツが悪そうに答えたドクオだった。
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1-2
教会を出た五人は、ドクオを先頭に路地裏を歩き、ある民家の軒先にやってきた。
(ドクオ)「到着―。
みんな、武器は何にするかちゃんと決めたか?」
(ブーン)「ここがお店なのかお?」
(ドクオ)「ああ。隠しショップだ。
他の店に比べると格段に安い。
ただ一日の販売量が決まってるみたいだから、
この店を知ってるβテスターが押し寄せてたら、買えないかもしれない」
(ツン)「なにそれ」
(ショボン)「無限に安価で売ってたら、他の店が売れなくなるし、
バランスが崩れちゃうってことなのかな」
(クー)「そういうものなのか?」
(ショボン)「いや、僕もオンラインゲームは初めてだから想像だけど」
(ブーン)「でも、オンラインゲームは、
普通の家庭用ゲームと色々違うっていうからそういうのもあるのかもだお」
(ツン)「RPGはほとんどやったことないのよね」
(ブーン)「ツンは格ゲーはうまかったおね」
(ツン)「隙をついたり、コマンドで技を出したり、
壁際に追いつめたりするのは好きだったわね」
(クー)「私はテレビゲーム自体やったことが無いからな」
(ブーン)「そうなのかお?」
(クー)「あまり興味も無かったからねだらなかったし、
両親や祖母もやらないから家にないんだ」
.
-
(ブーン)「おっおっ。ならやらないおね。
うちは家にあったから、小さいころからやってたんだお」
(ツン)「……父さんがゲーム機揃えてた」
(ブーン)「おじさん……」
(クー)「おじさん……」
(ドクオ)「何やってんだよ。
ほら、中入って」
家の前で三人が話していると、先に中に入っていたドクオが顔を出し、中に入るように促す。
そして三人も民家に入ると、壁に数種類の武器が並べられていた。
(ブーン)「おお!」
(ショボン)「ドクオが会話をはじめたら、段々と出してきたんだよ。
話す順番とか、聞く順番とかあるんだよね?これ」
(ドクオ)「そうそう。
決まった順番で、キーワードを入れた会話をしないと出てこないんだ。
まだ全種類あるけど、どうする?
一応片手剣、曲剣、槍なら、基本的な動きを教えられるけど」
(ブーン)「僕は片手剣で良いお」
(クー)「私は槍だな」
(ショボン)「弓は無いんだよね。じゃあ僕も槍にしようかな」
(ドクオ)「おれはさっき買った片手剣があるから良いとして、ツンはどうする?」
(ツン)「私は……この細いのも片手剣?」
(ドクオ)「これは細剣だな。やってないからちゃんとは教えてやれないけど、
基礎基礎くらいなら……」
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-
(ツン)「じゃあ、私はこれ」
(ドクオ)「了解。さっき預かった金でまとめて買っちゃうけど良いよな」
(ブーン)「よろしくだおー」
(美少女)「私には短剣を買って」
突然現れた美少女が、ドクオの服を掴んで彼を見上げながら小首をかしげていた。
(ブーン)「おっ!?」
(ツン)「えっ!?」
(クー)「いつの間に」
(ショボン)「知り合い?」
(ドクオ)「しらない!」
(美少女)「えー。酷いなー。あんなことやあんなことを、いっぱいしたのに」
(ツン)「あんた……」
(クー)「そういうやつだったのか?」
(ブーン)「え?お?え?ええっ?」
(ショボン)「βテスト時代の友達?」
(美少女)「……なんか一人冷静な人がいるとのれないよね」
ツンと同じくらいの身長だが、屈んでドクオの上着を摘まんでいたためかなり小さく見えた。
しかしつまらなそうに立ち上がると、狭い店の中で器用にお辞儀をした。
(美少女)「お久しぶり。
この店を知っていてその体格でその受け答えってことは、
アルルッカバー君だよね?」
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(ドクオ)「その名前を知ってるってことは……そうか!
その姿!お前『ミカゲ』か!?」
(美少女)「ピンポーン。お久しぶり。
あんなに仲良くしたのに忘れてたなんて、悲しいな」
ドクオに向かって可愛らしく微笑む美少女。
少し慌てながらも、βテスター仲間に会えたことを喜ぶドクオ。
二人が話す姿はかなり絵になる光景なのだが、
片方の中身を知っている四人には微妙な空気が流れている。
(美少女)「短剣二本と、片手剣一本も追加宜しくね」
(ドクオ)「なんでそんなに……もしかして!あいつらも!?」
(美少女)「大当たり!『ハクヒョウ』と『コクエン』も外にいるよ。
この店開放するのめんどうくさいから、助かっちゃった。
一人でいくつも買えるけど、一回買うと元に戻っちゃうなんてめんどくさいよね」
(ドクオ)「まったく……横着なのは相変わらずだな。
そんなことでちゃんとした忍者になれるのかよ。
ほら、先にコルよこせ」
(美少女)「はいはい。分かってますよ。
そして大丈夫!今度こそエクストラスキルの体術をとって、忍者になります!」
(ドクオ)「はいはい。頑張ってくれ」
(美少女)「はーい!」
二人の会話をただ聞くだけだった四人。
しかしドクオが隠し武器屋のNPCに声をかけると、美少女は四人に向かってお辞儀をした。
(美少女)「こんにちは。
アルルッカバー君のβテスト自体の友達です。
ここでは『くノ一』目指して頑張る予定です!」
.
-
四人にむかって可愛らしく挨拶をする美少女。
まだこの世界で表現することに慣れていない四人と違い、
それは自分の見た目を意識したうえで、
その可憐な容姿の魅力を最大限に引き出す仕草だった。
しかし女二人は勿論男二人にも感銘を与えることは出来ていないのが分かり、
眉間に皺を寄せた。
(美少女)「アルルッカバー君の友達ですよね?
宜しくお願いします」
可愛らしく手を差し出す美少女。
その手はブーンに向けられていたが、
手を握ったのはショボンだった。
(ショボン)「こんにちは。『ミカゲ』さん?
僕は彼の友達でショボンと言います」
(美少女)「『ショボン』さんですね。
宜しくお願いします」
ニッコリと微笑んだ美少女。
それに対し、儀礼的な笑顔で返すショボン。
(ブーン)「おーー」
それを見て小さく呟いたブーン。
ツンが耳元でささやく。
(ツン)「どうしたの?」
(ブーン)「ショボンが敵対モードに入ってるお」
(ツン)「敵対モード?
別に普通と変わらない様に見えるけど」
.
-
(ブーン)「初対面の相手とか、
自分や僕達に敵意を向けたり難癖をつける相手には、
いつでも反撃できるように構えることがあるんだお」
(ツン)「今がそんな感じなの?」
(クー)「特に普段と変わらない様に見えるが」
こそこそと話す二人にクーが顔を寄せた。
(ブーン)「うう……。かなり警戒してる感じだお」
(ツン)「ふーん」
(クー)「ない……ブーンがそう言うのならば、おそらくはそうなんだろうが、
ショボンは彼女のどこにそこまで警戒しているんだろうな」
(ツン)「私達に難癖付けようっていうのかしら」
握手をしたまま笑顔で会話をする二人を見つめる三人。
すると買い物を済ませたドクオがやってきた。
(ドクオ)「悪いショボン、こいつはお前と一緒で悪知恵は働くけど悪いやつじゃないと思う。
ミカゲ、とりあえず外で渡すから出るぞ。
あ、あとおれ名前を変えたんだ。これからは『ドクオ』って呼んでくれ。
ブーン、ツン、クーさん、外に出よう」
(美少女)「悪知恵働くとか酷―い」
(ショボン)「お前と一緒って」
(ドクオ)「良いから良いから。ほらほら外に出て。
ここは買い物終わった後長居すると怒られるんだよ」
(美少女)「しょうがないなー。
分かったよ。ドクオ君。
因みに私も名前変えたんだよ」
(ドクオ)「それも外でな。
ほら、三人も早く」
.
-
1-3
ドクオに促されて店の外に出る五人。
最後にドクオが出ると、民家の扉が静かに閉まった。
(ドクオ)「しかしショボンのアンテナはこちらでも健在だな。
こいつに関わると面倒くさいのに気が付くとは」
(美少女)「ドクオ君ひどーい。
もう遊んであげないぞ」
(ドクオ)「βテスト時代に敵に落とされた剣を盗みやがったのに、
よくそんなこと言えるな。
まだ返してもらってないぞ」
(美少女)「テスト時代の事は終わったことだよ」
(ドクオ)「まったく」
通りの真ん中に出た後、道のはじに寄るドクオと美少女。
ドクオの後ろに四人がいる。
(ドクオ)「で?ふたりはどこだ?」
(美少女)「二人とも、出てきていいよ!」
美少女が声をかけると、少し離れた路地から二人の青年が現れた。
二人は完全に同じ設定にしたらしく、
顔・背格好・髪型が全く同じだった。
違うのは肌の色で、片方は透き通るような白い肌をし、
もう一人は浅黒く焼けたような肌の色をしている。
そして髪型は二人とも短く刈り込んだ坊主に近いような髪型だが、
白い肌の青年は黒髪で、浅黒い肌の青年は白い髪だった。
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(ドクオ)「ハクヒョウ、コクエン、久しぶりだな。
アルルッカバーだ」
(白い肌の青年)「アルルッカバーか。久しぶりだな」
(浅黒い肌の青年)「おまえも始めたんだな」
どうやらドクオのβテスター時代の知り合いのようだが、
久し振りの再会にも笑顔は見せない。
(ドクオ)「当然だろ。
で、おれ名前変えたんだ。
これからは『ドクオ』って呼んでくれ」
(白い肌の青年)「そうか。おれもハクヒョウから『ビコーズ』に変えた。
これからはそう呼んでくれ」
(浅黒い肌の青年)「おれは『ゼアフォー』だ。間違えるなよ」
(ドクオ)「『ビコーズ』と『ゼアフォー』だな。
了解了解」
ドクオがウインドウを操作すると、二人の目の前にウインドウが現れた。
そしてそれぞれに短剣と片手剣が渡された。
(ビコーズ)「覚えていてくれたんだな」
(ゼアフォー)「今度は負けんぞ」
渡された武器を装備する二人。
βテスト時代からの所作であり、まったく迷いがない。
(ドクオ)「おれだってそう簡単には負けるつもりはない。
というか、そんな事よりもお前らにはお前らの目標があるだろ?」
(ビコーズ)「ああ!今度こそ『体術』を!」
(ゼアフォー)「まずはあの『鼠』を捕まえないことには」
.
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(美少女)「ねえねえ、私の武器は?」
ドクオと二人の青年が話している間に割り込む美少女。
その途端に二人の青年の表情がだらしなく緩む。
それに気付いてすぐ引き締めたが、
その表情の変化はそこにいた全員が確認していた。
(ドクオ)「相変わらずだな、お前ら。
ベータの時からこいつの事を姫とか呼んでちやほやしてたけど」
ドクオが指摘しつつ美少女に対してウインドウを開く。
(ビコーズ)「当り前だ!
我らは姫を守る忍び!」
(ゼアフォー)「姫に仕える忍者!
白と黒の影!」
(美少女)「もう二人ともったら」
(ドクオ)「あーはいはい。
ほれ、短剣」
(美少女)「ありがとう。ドクオ君」
ウインドウを閉じ、渡された短剣を装備する美少女。
(ビコーズ)「貴様こそ!」
(ゼアフォー)「我らが姫に恋心など抱いておらんだろうな!」
(ドクオ)「抱くか!
なんでおれがこんな奴を!」
(ビコーズ)「なにを!」
(ゼアフォー)「姫を愚弄するな!」
(ビコーズ)「可憐で美しくて可愛らしくて華やかな姫を好きでないわけがない!」
.
-
(ゼアフォー)「そうだ!姫の事を好きでないわけがない!」
(ドクオ)「なんなんだよお前らは!?」
詰め寄ろうとする二人におびえるように後ずさるドクオ。
その後ろの四人は少し引きながらその状況を見守っている。
(美少女)「もう、だめだよ。二人とも。
私はみんなの姫なんだからね」
(ビコーズ)「姫!」
(ゼアフォー)「姫!」
人差し指を立て、二人に可愛らしく分かりやすい怒った表情をする美少女。
二人は片膝をついてしゃがみ、彼女を見上げた。
(美少女)「二人は代わりの無い永遠の私の忍びなんだから、
あんまり変なことしないでね」
(ビコーズ)「姫!ありがたき幸せ!」
(ゼアフォー)「姫!ありがたき幸せ!」
首を垂れる二人を見て笑顔をみせた美少女。
呆れた顔でそれを見るドクオ。
その後ろで四人が完全に引いていた。
(美少女)「ごめんね。ドクオ君」
(ドクオ)「本当に相変わらずだな」
(美少女)「こういうのも、ゲームの楽しみ方だよ」
可愛らしく片目をつぶろうとして両目をつぶってしまう美少女。
ドクオの目には、それすらも計算のようにみえる。
.
-
(ドクオ)「はいはい」
(美少女)「ドクオ君は昔からそんな感じだよね。
こっちの世界でそういったことを求めないのは、
後ろの友達のおかげなのかな」
(ドクオ)「おれはこのゲームで色恋を求めたりしてないから。
お前のそういった計算に惑わされないでいられたのは、
あいつらのおかげかもしれないけどよ」
(美少女)「そうなんだ。素敵な人達だね」
(ドクオ)「……何を企んでる?」
(美少女)「酷いなー。
言葉通りの意味だよ。
私だって、嘘ばっかりついてるわけじゃないもん」
(ドクオ)「はいはい」
(美少女)「そうだ!フレンド登録しておこうよ。
機会が合えばダンジョンも行きたいしさ」
(ドクオ)「あー。そうだな。
一緒にダンジョンはともかく、登録はしておくか。
おまえら『鼠』を探すんだろ?見付けたら教えてくれよ」
(美少女)「体術スキルの情報が欲しいから探すけど、
ドクオ君も何か欲しい情報があるの?」
(ドクオ)「あいつとは知り合いになっておいた方が得だろうからさ。
情報は重要だ」
(美少女)「ドクオ君だって情報溜めこんでるでしょ?
知ってるよ。結構上まで行ってたの」
.
-
(ドクオ)「βテスターの中で、ちゃんとレベル上げが出来たり、
ゲームを楽しめていたのは2割もいなかったんじゃないか?
おれ程度の腕でボス戦に参加出来たぐらいだし。
終りの頃にはやってない奴も多かっただろ?」
(美少女)「……話反らすのが下手だよ。ドクオ君
でもまあそういう事にしておいてあげるね」
(ドクオ)「……ありがとうって言っておいてやるよ」
美少女とドクオの前にウインドウが開く。
(美少女)「これからも宜しくね」
(ドクオ)「んー。ああ、そういや名前変えたって言ってたな。
……これは普通に読めばいいのか?」
(美少女)「うん。可愛いでしょ?」
フレンド登録を済ませてウインドウを消した二人。
(ドクオ)「はいはい」
(美少女)「ねえねえ、名前呼んでよ」
(ドクオ)「はあ?」
(美少女)「だって二人は姫としか呼んでくれないんだもん。
折角名前変えたから、ちゃんと呼ばれたいなって思って。
最初に呼んでくれるのが、ドクオ君だったら嬉しいな」
(ドクオ)「……そうやって何人の男プレイヤーをお前は……」
(美少女)「こんなことは、アルルッカバー君だけにしか言いませんー」
(ドクオ)「おれの名前は『ドクオ』だ」
(美少女)「そう呼んで欲しかったら、私の名前も読んでよ」
(ドクオ)「……めんどくさ」
.
-
(美少女)「ひどーい」
ドクオの熱い胸板をポカポカと叩く美少女。
(ドクオ)「ああ、分かった分かった。だから離れろ」
(美少女)「はーい」
半歩だけ後ろに下がり、ドクオを見上げる美少女。
(ドクオ)「もっと離れろこら」
(美少女)「はやくー」
(ドクオ)「まったく…」
小首をかしげながら微笑む美少女。
大きく一回ため息をつくドクオ。
そして名を呼ぼうと口を開いた瞬間、
跪いていた二人が立ち上がって美少女を挟むように並んだ。
(ビコーズ)「姫!」
(ゼアフォー)「姫!」
(美少女)「何よもう!」
(ビコーズ)「いまそこに!」
(ゼアフォー)「『鼠』のような人影が!」
(美少女)「なんですって!」
三人にとって後方を指さす二人。
美少女は振り返り、今までとは比べ物にならないような鋭い声を出した。
(美少女)「本当に鼠だったの!?」
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-
その声色の変化にドクオの後ろにいる四人は驚いたが、
ドクオと白黒の二人は全く気にしていない。
(ビコーズ)「背格好はβテストと同じでした!」
(ゼアフォー)「チラッとですが、頬に三本の線が!」
(美少女)「追うよ二人とも!」
(ビコーズ)
「はい!」
(ゼアフォー)
(美少女)「ドクオ君またね!」
美少女は最後にもう一度ドクオに向かって可愛らし声で声をかけると、
二人を従えて風のように走り去っていった。
それを普通に見送ったドクオだったが、
慌てて後ろを振り向く。
(ドクオ)「わ、悪い、皆、時間を取らせちゃって……」
ドクオと四人の距離は一区画分ほど。
それが今の彼らの心の距離だった。
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-
2.剣の世界
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2-1
(ドクオ)「だから、何にもないって!」
(ブーン)「おっおっお。ドクオにもああいう女の子の友達が出来て良かったお」
(ドクオ)「だから違うって!」
(ツン)「まったく……。
テストプレイの間、その身体で何をしていたんやら」
(ドクオ)「おれは無実だ!」
はじまりの街のそばの戦闘エリア。
それぞれにイノシシ型のモンスターを一匹ずつ倒すことが出来たため、
丘の上にのぼり休憩をしている五人。
移動の最中も似たような会話をしていたのだが、
やはり話題は先ほどのドクオと美少女達のやりとりに関してだった。
(クー)「不潔だな」
(ドクオ)「クーさんまで!」
(ツン)「不潔よねー」
(ドクオ)「お前は分かって言ってるよな!」
(ブーン)「不潔だお―」
(ドクオ)「ブーンまでか!」
(ショボン)「ねえねえ、『鼠』って何?
『エクストラスキル』は調べたときにあったから覚えてるけど、
『鼠』はMMORPGの公用用語じゃないよね?
あと『体術』スキルとか」
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丘の上、座ったドクオを囲む様に四人は座っていた。
街で、同じく通常売りより安価で買える道具屋で買ったHP回復ポーションを飲みつつ会話する。
(ツン)「あんたはもう少し空気読みなさい」
(ショボン)「いやだってさっきから同じ話をしてるだけだからさ。
もう良いかなって思って」
(クー)「そうだな。そろそろ飽きてきた」
(ツン)「それもそうね」
(ドクオ)「酷い!お前らやっぱり酷い!」
(ブーン)「ドクオがそんなことできない奴だってことは分かってるお」
(ツン)「中身がドクオじゃ、そんな度胸ないわよね。
それに、仮想空間のこの身体じゃ、そんなことできないでしょ」
(ショボン)「出来るよ」
(ツン)「え?」
(クー)「いや、確か『倫理コード』があって、
一般的に抵触されるような行動、
15禁レベルの動作は禁止されているはずではなかったか?」
(ドクオ)「あ、ああ。
そういった行動をすると、された方にメニューが出て、
はじまりの街にある牢獄に送ることが出来る。
それに確か目に余る行動はシステムが判断して牢獄に送られるはずだ」
(ショボン)「基本的にはね。
でもメニューの中の『倫理コード』を解除すれば、
当人達の合意の行動だってことでシステムが認識するみたいだよ。
流石に人目に触れる所でそういったことをしてたらシステムに弾かれると思うけど」
(ドクオ)「べ、βの時はそんなの確かなかったぞ!」
.
-
(ショボン)「正式サービスに移行するにあたって追加されたんじゃないかな。
何考えて付け足したのかは分からないけど。
……あれ?みんなどうしたの?」
ショボンの言葉を聞いて、四人とも別々の方向を向いて黙ってしまう。
(ショボン)「どうしたの?」
その空気を無視して声をかけるショボン。
(ドクオ)「さ、さてもう一匹ずつ倒してみるか!
まだ時間もあるし!HPも全快したし!」
立ち上がるドクオ。
(ツン)「そ、そうね!倒しましょうか!
それにしてもこのポーションってやつ、不味かったわね!」
(ブーン)「おっおっ!頑張って倒すお!
でもこっちの世界でも味を感じることが出来るのってやっぱり不思議だお!」
それに続いてツンとブーンが立ち上がる。
そしてクーが立つ。
(クー)「そうだな。時間まで楽しもう。
しかし、飲んだらすぐ回復しないんだな。
じわじわとHPバーのランプが戻るのはもどかしかった」
(ツン)「そうそう。
のんだらパッと戻ればいいのに」
(ドクオ)「ま、そういうところも考えながら戦うってことだな」
(クー)「すぐに増やせるアイテムは無いのか?」
(ドクオ)「あるけど一・二層では出てこない。
それに高いから、あんまり使えない」
(クー)「この世界も金が全てと言う事か」
.
-
丘を下りていくブーンとツンを追おうとするクーとドクオ。
(ドクオ)「そんな身もふたもない。
クーさんもなかなか辛辣だね」
(クー)「『クー』だ。『さん』はいらないぞ」
(ドクオ)「え?あ。それはその……」
(クー)「向こうの世界で苗字に『さん』を付けるのは仕方ないが、
こちらでは『クー』でよい。
いや、ブーンにもドクオにもクーと呼んでもらいたい」
(ドクオ)「が、頑張ります」
(クー)「うむ。そうだな。ちゃんと呼べるようになったら、プレゼントをやろう」
(ドクオ)「プレゼント?」
(クー)「お父さんは、そこまで背は高くなかったぞ。
そのアバター、顔は少し似ているが流石にそこまでの大男ではなかったようだ。
ドクオは小さい時に見上げたイメージでそれくらいの身長にしたのではないか?」
(ドクオ)「な、なんで父さんの事を!?」
(クー)「君の父親は私の家の道場の門下生だったそうだ。
君も来たことがあるようだ。その時に撮った集合写真が我が家のアルバムに残っていた。
それを渡す暇なく、お父上は事故にあわれてしまったようだが」
(ドクオ)「父さんが通ってた剣術の道場!
行った思い出は確かにあるんだ。
でも、どこかは分からなくって。
なんか、母さんにも聞けなくて……。
クーさんの家だったなんて……」
.
-
(クー)「世間は狭い物だな。
私の祖母も驚いていたよ。
祖母はずいぶんお父上をかっていたようだ。
君の名字を聞いただけですぐさまお父上の事を思い出していた」
(ドクオ)「父さんの……死ぬ前に撮っていた写真……」
(クー)「今度、持っていくよ。
良ければ我が家に来てくれても良い。
祖母が君に会いたがっていてな」
(ドクオ)「…… …… …… 父さん」
(クー)「ドクオ?」
(ドクオ)「あ、う、うん。分かったよ。ありがとう、クーさん」
(クー)「クーだ」
(ドクオ)「あ……」
口を押えるドクオをみて、笑うクー。
(クー)「頑張って呼んでくれ」
クーは笑顔を見せると、ツン達を追って丘を下りていった。
呆然と立ち尽くすドクオ。
今聞いたことが信じられないといった雰囲気であった。
.
-
2-2
(ショボン)「良かったね。ドクオ」
歩いていくクーの後ろ姿をぼんやりと見ていると、
後ろからショボンに声をかけられた。
(ドクオ)「おっ!」
(ショボン)「ごめんね。聞こえちゃったんだ」
振り返ると、柔和な微笑みを自分に向ける親友。
(ドクオ)「い、いや、それは良いけど」
(ショボン)「良かったね。お父さんの写真」
(ドクオ)「あ、ああ……。うん」
(ショボン)「頑張ってクーの事を呼び捨てにしないと」
(ドクオ)「……ハードル高い……。
っていうかショボン、なにいきなりあんな話してるんだよ!」
(ショボン)「あんな話?ああ、倫理コードの件?でも事実だし」
(ドクオ)「事実だとしても今言わなくても」
(ショボン)「ちょっとドクオに話があったんだよ」
(ドクオ)「え?」
ショボンの表情が引き締まり、真剣な瞳で自分を見ることに気付く。
顔の造形は普段と違っても、親友がどんな気持ちでいるかは分かった。
(ドクオ)「どうした?」
.
-
そして自分も気分を引き締めてショボンを見た。
(ショボン)「これを見て」
ショボンの右手が数度動く。
メニューウインドウは、通常自分以外には見られない仕様である。
そこでショボンはドクオにも見てもらえるように可視化したウインドウを出した。
(ドクオ)「もうおれよりうまいんじゃないか?」
(ショボン)「これ……ここ」
ドクオの軽口を流し、ショボンがメニューの一つを指さす。
そこは、空欄だった。
(ドクオ)「空欄?この位置は……え?」
(ショボン)「自分のメニューも見てもらえるかな」
ショボンに言われる前にドクオの右手が閃く。
そして現れたウインドウをほぼ確認なしで動かして、
ショボンが指示したメニューを呼び出す。
(ドクオ)「……おれもだ。こっちも無い」
(ショボン)「全メニューを探したけど、そこにあるはずのメニューはどこにもなかった」
(ドクオ)「おい……ってことは……」
腕を組み、じっとドクオの顔を見ているショボン。
(ショボン)「ログアウトボタンが無いってことは、
この世界から出られない。元の世界に戻れない……ってことだよね」
(ドクオ)「まあ、そうだな」
(ショボン)「入った後すぐに一回全部見た時は、ちゃんとあったんだ。
でも、そのあと記憶とのダブルチェックをしている時には消えていた」
.
-
(ドクオ)「マジかよ」
(ショボン)「その時点でGMには連絡を入れてる。
でも、返事が無い。
そろそろ3時間経つんだけどね。
いくらなんでもおかしいと思わない?
それに、1万人のプレイヤーがいるとして、
気付いたのがぼくだけとは考えにくい」
(ドクオ)「初期不良…だろ?
もうすぐアナウンスも流れるさ」
(ショボン)「それなら良いんだけど」
笑うドクオ。
しかし少し無理をしているように見える。
(ショボン)「ドクオ、マニュアルには無かったんだけど、
ログアウトボタン以外にログアウトする方法あるの?」
(ドクオ)「……いや。無い。
あとは現実世界で電源を落とされるか、ヘルメットを外されるか……。
一回予定時間を2時間オーバーした時にかーちゃんに電源落とされた時はびっくりした」
(ショボン)「そう……。
一応父さんに6時になっても誰も戻ってこなければ電源を切ってもらうようにお願いはしてあるけど」
(ドクオ)「なら、問題ないだろ」
(ショボン)「うん。だよね。
ところでドクオ、この世界で死んだことはある?」
(ドクオ)「また唐突だな。
何回か死んだけど、それがどうかしたか?」
(ショボン)「死んだら、どうなるの?」
(ドクオ)「んー。死んだら自分の体はポリゴンに変わって、消滅。
で、精神の方と一緒にいつの間にか黒鉄宮に戻ってる感じだな」
.
-
(ショボン)「復活までの時間は?」
(ドクオ)「一分はかからなかったと思う。
20秒から30秒くらいかな。多分。
なんだよ一体。そんなことを聞いて」
(ショボン)「マニュアルにも、死亡した際の事は
『システムによって自動的に復活する』
程度の事しか書いていなかった。
ゲームなんだし、戦うわけだから、死ぬと思うんだけど、そんなものなの?
MMORPGって」
(ドクオ)「んー。ゲームによって違うかな」
(ショボン)「再生は?
教会とかの場合じゃなくて、復活の薬とか」
(ドクオ)「βテストのときは無かった。
もっと上の階に行けばあるかもしれないけど。
なんか、どうした?」
(ショボン)「いや、死んでもログアウト出来ないんだなって思って。
もしこのままログアウトボタンが出てこないとしても、
わざと死ねばログアウトできるのかなって考えたから」
(ドクオ)「そういうことか。
ああ。出来ない。自動的に復活させられてから、ログアウトボタンでログアウトだな」
(ショボン)「そっか……」
組んでいた手を片方だけ外し、ショボンは顎に手を当てた。
(ドクオ)「おい、ショボ」
(ツン)「ねえ!モンスターは!?」
(ブーン)「二人ともなにしてるんだお!早く来るおー!」
(クー)「これでもう打ち止めなのか?」
.
-
ドクオの言葉をかき消すように、下から三人が声をかける。
どうやら下りてはみたものの、モンスターが現れない為焦れていたようだ。
(ドクオ)「ここは時間湧きのはずだから、もうちょっと待て!」
三人に向かって声をかけた後、ドクオはいまだ何かを考えているショボンにも声をかけた。
(ドクオ)「ゲームの中じゃ、何もできない。
とりあえず運営からの連絡かアナウンスを待つことにして、
今はゲームを楽しもう」
(ショボン)「……そうだね。
打てる手は全部したし。
楽しもっか」
(ドクオ)「よし!いくぞ!」
駆け降りるドクオ。
その後ろにショボンが続いた。
.
-
2-3
(ツン)「もうちょっと頻繁に出てきてもいいのに」
細剣を構えたツンが、軽やかなステップで剣を振った。
(ドクオ)「はじまりの街の周辺は初心者用、
練習用だから一度に出てくる数はそれほど多くないんだよ。
一人で来て練習できるように、一度に何匹も徒党を組んで出てきたりはしない。
レベル的にも弱いから普通に切っても倒せるし、
剣技を使えばほぼ一発か二発で倒せるくらいになってる」
それを見て、呆れつつも感心した面持ちでドクオがゲームについて講釈をたれていると、
ブーンが横に並んで立った。
(ブーン)「戦ってる時に後ろから襲われたら大変だおね」
(ドクオ)「そういうこと」
(ブーン)「でもこの剣技(ソードスキル)って、なかなか難しいおね」
ブーンが片手剣を両手で持って剣道のように構えると、
横でドクオは片手で構えを見せた。
(ドクオ)「慣れだなー。
武器それぞれに設定されてるから、その種類の武器を使えば使うほど技は増える。
で、技を使えば使うほど、技のレベルも上がる」
(ツン)「技のレベルが上がるとどうなるの?」
(ドクオ)「技の後起きる硬直時間が減ったり、
技の能力が上がって敵に与えるダメージが増えたり」
(クー)「なるほどね」
(ブーン)「おー。難しいお」
.
-
(ツン)「あら、私は結構好き」
(ドクオ)「細剣の最初の技はフェンシングの突きをかなり勢いよく放つみたいなやつだよな。
構えも分かりやすいし、モンスターに対する恐怖心さえ無ければ使いやすいんじゃないかな。
でもその分細剣の弱みでもある。
一回の攻撃力が同レベルの他の武器に比べると少しだけ弱い」
(ショボン)「なるほど。そういう違いがあるんだね」
(ブーン)「おかえりだおー」
(ショボン)「ただいま」
(ドクオ)「見てたけど、慣れてきたみたいだな」
(ショボン)「うん。だいぶね。
ソードスキルは決まると爽快だね」
(ドクオ)「だよな!だよな!
それが良いんだよ!これは!」
(ツン)「はいはい」
既に全員が二体ずつ倒し、
更に一体ずつ倒したドクオ、ツン、ブーンが喋っていると、
少し距離を置いた場所で戦っていたショボンが戻ってきた。
(ドクオ)「そして、一番意外だったのが」
(ブーン)「クーさんだおね」
四人の視線の先では、クーが猪型モンスターと戦っている。
(クー)「……」
怯むことなく、怯えることなく、腰を引くことも無く、ただ淡々と槍を構え、
向かってくる猪に攻撃を加え距離を置くクー。
(ドクオ)「……槍はすでにおれよりうまいな」
.
-
(ブーン)「さっきは剣技一発で倒してたおね」
(ツン)「楽しんでるわね」
(ドクオ)「え?」
(ブーン)「お?」
(ツン)「ん?なによ」
(ドクオ)「いや、無表情に淡々とこなしてるから、
青イノシシが弱すぎてつまらないのかと」
(ツン)「いやいや、楽しんでる楽しんでる。
あれだけ槍を使うのがうまいのは想定外だけど、
楽しんでるのはよく分かる。
顔姿は違っても、仕草や雰囲気は同じなのね」
(ドクオ)「そう」
(ブーン)「なんだ」
断言するツンに、言葉を繋げて納得する二人。
(ツン)「あんたはどう見てる?」
(ショボン)「ん?僕?
槍がうまいのは、家の人に薙刀とか習ってたりするのかな」
(ブーン)「薙刀?クーさんならってるのかお?」
(ツン)「いや、聞いたことないけど」
(ショボン)「僕も習ってるって聞いたわけじゃないけど、
確か来島家の道場では剣術と薙刀を教えていたはずだから、
もしかしたら少しは手ほどきを受けてるのかもしれないって話」
.
-
(ドクオ)「おれもよく分からないけど、
構えはそう言われるとそうなのかもって感じだな。
おれは槍も薙刀もゲームに出てくる武器として知ってるくらいだから、
全く見当違いかもしれないけど」
(ブーン)「クーさんはすごいおねー」
(ツン)「ホント、家じゃちゃんとお嬢様してるのね。
……って、そういう事じゃない!」
感心したようにクーを見ていた四人だったが、
ツンの叫びに身体を震わせて驚いた。
(ショボン)「どうしたの?
いきなり大声で」
(ツン)「そういう事じゃなくて、
ツンが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
(ショボン)「ああ、そういうこと。
そうだね。楽しんでいるように見えるよ。
顔はアバターで変わっているから分かり辛いけど、
肩の上下とか足のステップとかは楽しそうだよね」
(ツン)「……私から聞いておいてなんだけど、ひく答えね」
(ドクオ)「ひでえなおい」
(ツン)「いやだって、肩の上下とかステップとかってふつう見るところ?」
(ショボン)「視ないかな?」
(ツン)「見ない」
(ドクオ)「まあ、そこに関しては見ないかもしれない」
(ショボン)「そうかなあ」
.
-
(ブーン)「見る所のことは別にしても、
クーさんのそんなところから楽しいか分かるなんて、
ショボンはクーさんの事をよく分かってるおね」
(ツン)「(ブーンえらい!)」
(ドクオ)「(人の事には敏感なんだよな)」
(ショボン)「それなりに付き合い長いしね。
表情はあまり変えないけど、結構正直だよ。彼女は」
(ツン)「へー。そうなんだ」
棒読みで相槌を打ちつつも、にやにやと笑顔を見せるツン。
(ショボン)「言っとくけど、ブーンやドクオはもちろん、
ツンの事だってそれくらい見分けられる自信あるけど?」
(ツン)「あ、……そう」
ショボンの言葉に心底つまらなそうに答えたツン。
不思議そうにその姿を見るショボン。
そんな二人を見て、ブーンとドクオは苦笑いを浮かべるしかなかった。
.
-
2-4
(クー)「うむ。楽しいな」
通常攻撃だけで≪フレイジーボア≫通称『青イノシシ』を倒したクーが四人の下に歩いてきた。
(ドクオ)「お疲れ様」
(ブーン)「お疲れだお」
(クー)「二人ともありがとう。
だが、まだまだいけるぞ」
表情が出ていないが、アバターでもわかるほど目はキラキラと輝いていた。
(ツン)「私も負けてないからね」
(ショボン)「あ、あそことあそこ、出るよ」
唐突にショボンが呟き、槍の先で正面と少し右側を指す。
全員がその槍の先を交互に見ると、空間が歪み二匹の青イノシシが現れた。
(ツン)「いっちばーん!」
(ブーン)「ツン!一人じゃだめだお!」
丘を駆け下りていくツン。
それを追うブーン。
スタートの違いで少し差がついていたが、
すぐにブーンは追いついていた。
ブーンの走る姿を後ろで見守る三人。
ショボンとドクオは本当に安心したような顔をしている。
.
-
(クー)「ショボン、さっきから思っていたんだが、
モンスターのポップに敏感すぎないか?」
(ショボン)「え?そう?」
(ドクオ)「あ、それおれもさっき思ったんだ。
おれ達が気付くより先に気付いてるよ」
(ショボン)「いや、モンスターが現れる前って空間が歪むからさ。
だからそこを」
(クー)「空間が歪む?」
(ドクオ)「いや、おれ達にはそんなのは見えないぞ?」
(ショボン)「え?そうなの?
皆見えているんだと思った」
(クー)「いやいや」
(ドクオ)「それはない」
心の底から驚いているショボンを見て、
ドクオとクーが互いの顔を一回見てからツッコミを入れた。
(ショボン)「そうなんだ。みんなは見えてないんだ」
二人が少し打ち解けたのを見て心の中で笑顔を見せたショボンであったが、
その心の半分と表面では、指摘されたことを考えていた。
(ショボン)「……もしかすると……」
(ドクオ)「なにか心当たりがるのか?」
(ショボン)「今日僕はテストタイプを使ってるけど、
テストタイプって、ちょっとオーダーメイドに近いんだよ」
(クー)「ナーヴギアのオーダーメイドってことか?」
(ショボン)「うん。それに近い」
.
-
(ドクオ)「どういう事だ?」
(ショボン)「そうだね。説明すると……。
通常のナーブギアは、既製服なんだ。
かなり優秀で、SSサイズからLLサイズまでカバーできてる。
でも、SSサイズよりも更に小さい人や、LLサイズよりも大きい人には合わない。
洋服だと大きすぎてぶかぶかだったり、小さくて着られなかったりする。
ナーブギアだと、ゲームを始められなかったり、
ゲームの世界に来ることは出来ても遠近感が無かったり、片目が見えなかったり、
身体の反応が遅かったりといった症状が出て、
ゲームが出来なかったりするんだ。
これはナーブギアが『大多数をカバーする一般的なレベル』をフォローしてるからで、
一人一人に合わせた細かい調整をするにはかなりの時間とお金がかかるから、
しょうがないと言える。
ナーブギアの説明書にもその旨は書いてあるしね。
で、僕のやっていたテストは、
『脳の出した指令でゲームの中の身体をちゃんと動かす事が出来るか』
がメインで、その為に僕の脳に合わせたカスタマイズが多少されているんだよね。
言うならば、自分より少しだけ大き目の既製服を買ってきて、
裾を詰めたりウエストを直したり肩幅を調整したりして、
多少は自分の体に合わせている感じ。
あと、実は汎用型よりも少し脳に与えられる信号の強さも強いんだ。
だから皆よりは多少この世界との親和性が高いのかもしれないし、
そんな理由で、空間上の異常に敏感なのかもしれない」
(クー)「なるほどな」
(ドクオ)「ゲームをやるうえで結構なアドバンテージだよな。それ」
(ショボン)「そう?」
(ドクオ)「そりゃそうだろ。出てくる敵の位置が分かるなら対処の準備をすることが出来るんだから」
(ショボン)「でも、多分一秒くらいだよ」
.
-
(ドクオ)「おれ達が注意深く見ていた状態でな。
出るって言われたからじっくり見ていたけど、
普通はそこまで見ていないから気付かないさ」
(クー)「つまり、ショボンの観察眼と合わさることで、
大きな武器になっているということか?」
(ドクオ)「そういうこと」
(ショボン)「ふーん。そうなんだ」
(ドクオ)「感動薄いなおい」
(ショボン)「いやだって、テストタイプを使ってゲームするの今日が最後かもだし」
(ドクオ)「え?そうなの?」
(ショボン)「うん。ブーンのプロトタイプは別としても、
テストタイプは無駄も多いし機密部分もすぐ見られるようになっていたりするからね。
だから、いつまでこっちに置いておくか、使うことが出来るか分からないよ。
それに、基本的には僕も汎用型でゲームするし」
(ドクオ)「そうなのかー」
(クー)「今日はなぜテストタイプを使っているんだ?
もう一台ある様な事を言っていたと思うが」
(ショボン)「ああ。今日はね……。
親戚に
『(`;ω;´)本体の入荷が遅れて開始日に間に合わない!一台貸してくれ!』
って泣かれたから貸しているんだ。隣の部屋でやってるはずだよ。SAOを」
疲れたように呟くショボンを見て不思議に思うクー。
そして隣で同じように疲れた表情で微妙な笑顔を見せているドクオを見て、
更に不思議な思いをした。
しかしそれ以上の事を聞くのも何故か憚れたため、
すぐに話題を変えた。
.
-
(ドクオ)「おれ達が注意深く見ていた状態でな。
出るって言われたからじっくり見ていたけど、
普通はそこまで見ていないから気付かないさ」
(クー)「つまり、ショボンの観察眼と合わさることで、
大きな武器になっているということか?」
(ドクオ)「そういうこと」
(ショボン)「ふーん。そうなんだ」
(ドクオ)「感動薄いなおい」
(ショボン)「いやだって、テストタイプを使ってゲームするの今日が最後かもだし」
(ドクオ)「え?そうなの?」
(ショボン)「うん。ブーンのプロトタイプは別としても、
テストタイプは無駄も多いし機密部分もすぐ見られるようになっていたりするからね。
だから、いつまでこっちに置いておくか、使うことが出来るか分からないよ。
それに、基本的には僕も汎用型でゲームするし」
(ドクオ)「そうなのかー」
(クー)「今日はなぜテストタイプを使っているんだ?
もう一台ある様な事を言っていたと思うが」
(ショボン)「ああ。今日はね……。
親戚に
『(`;ω;´)本体の入荷が遅れて開始日に間に合わない!一台貸してくれ!』
って泣かれたから貸しているんだ。隣の部屋でやってるはずだよ。SAOを」
疲れたように呟くショボンを見て不思議に思うクー。
そして隣で同じように疲れた表情で微妙な笑顔を見せているドクオを見て、
更に不思議な思いをした。
しかしそれ以上の事を聞くのも何故か憚れたため、
すぐに話題を変えた。
.
-
(ショボン)「ブーンと、ドクオと、クーと、ツン。そして僕。
ほら三人じゃない、五人だ。ね、ドクオ。仲良しな友達五人組」
(ドクオ)「ん?ああ、そうだな、ブーンと、ショボンと、クーと、ツン。
あとおれで、五人だな」
(クー)「ショボン、ドクオ」
二人を見るクー。
ニッコリと微笑んでいるショボンと、
照れ臭そうに、それでも笑顔を見せているドクオ。
クーも、照れ臭そうに微笑んだ。
.
-
2-5
夕日が、空を赤く染めている。
現実世界の日本の標準時刻とリンクしたこの世界には、
同じように朝があり、昼があり、夜がある。
視界の端に浮かぶデジタルの文字は、
『5:20』を示していた。
(ツン)「んー!戦った戦った!」
大きく伸びをしたツン。
その横でブーンとクーも伸びをしたり腰を回したりといったストレッチをしていた。
(クー)「しかし、本当に自分の体のようだな」
(ブーン)「だおねー。不思議な感じだお」
(ツン)「帰ったら父さんに自慢しなきゃ」
(ブーン)「おじさん羨ましくて発狂しちゃうお」
(ツン)「かも」
三人の笑い声が、小高い丘を響いた。
(ツン)「それにしても、他に人来なかったわね。
もっといっぱい人が来るのかと思った」
(クー)「そういえばそうだな」
(ブーン)「おー。五人でいっぱいイノシシ倒せたけど、
他の人と話したりするのもMMORPGの楽しさっていうおね」
(ツン)「ふーん。そういうもんなんだ」
.
-
(クー)「そういう意味では、その楽しみはまた次の機会に持ち越しだな」
(ツン)「お。やる気ね、クー」
(クー)「思ったよりも楽しかったからな。
定期的にこの世界に来ることはやぶさかではない」
(ブーン)「素直じゃないお―」
(ツン)「楽しかったからまたやりたいって言えば良いだけなのに」
(クー)「うむ。私が素直じゃないのは認めてもいいが、
なんとなく二人に言われるのは納得がいかないな」
(ブーン)「お?」
(ツン)「な、なによそれ。どういう意味?」
(クー)「自分の胸に手を当てて考えて見ると良いと思うぞ」
(ツン)「クー?」
(クー)「ん?なんだ?」
(ブーン)「おっおっおー。最後まで楽しくだお!」
(ツン)「まったく」
(クー)「ブーンは真理を言ったな」
(ツン)「調子良いんだから。
で、それは良いとして……」
三人で楽しげに話していたが、
ツンは離れたところで話し込んでいる二人を指さした。
(ツン)「そこの二人!さっきからこそこそ何してるのよ!」
.
-
(ドクオ)「話なら聞こえてるぞ!
人は何人か来てたけど、おれ達を見たら別の場所に移動してた。
13時のサービス開始から始めたとして、
この時間に『戦闘』をやろうと思うのはβテスターくらいだろうから、
他の狩場に心当たりもあるだろ。
初めてこの世界に来たやつは『はじまりの街』でVRの世界を楽しんで終わりだろうからさ」
(クー)「ふむ。なるほど。一理あるな」
(ブーン)「確かにドクオと一緒じゃなかったらこんなふうに戦闘してなかったと思うお」
(ツン)「そうね。あの街を散策して終わってたかも。
少なくともこんなふうにイノシシ退治はしてなかったでしょうね」
(ブーン)「あ、そういえば一人来たのを見た覚えがあるお。
でもすぐにいなくなったから見間違えかと思ったんだお」
(クー)「そういえばいたな。
確かツンが戦っているのを見ていた時に居たな」
(ドクオ)「それおれも見た。
本当に【消えた】から、多分親か猫に電源切られたか、
ギアを外されたんじゃねーかな」
(ツン)「へー。そんなやつがいたんだ」
納得し、談笑する三人。
(ツン)「って、違う!
そんな意見を聞いてるんじゃなくって、
さっきから何二人で話してるんだって事よ!」
しかしすぐに話を元に戻したツンが再びドクオに向かって指をさす。
(ドクオ)「ああ……うん、それなんだけどさ……」
そして、言いよどんだドクオの代わりに、隣のショボンが事も無げに答える。
.
-
(ショボン)「実は、メニューの中にログアウトボタン、
つまり終了ボタンが見当たらないんだ」
.
-
軽く告げられたその言葉に、一瞬その重要性に気付かなかった三人。
しかしすぐにその意味に気付き、二人に駆け寄った。
(ツン)「ど、どういうこと!?」
(クー)「終われない、つまり戻れないという事か?」
(ブーン)「ド、ドッキリかお?」
そして慌ててショボンの手元を覗き込む。
(ツン)「ど、どこよ!」
(ショボン)「いや、だから無いんだけどね」
ショボンの右手が、可視モードに変えてあるメニューの一つを指さす。
そこには何も書かれておらず、ただ空欄だった。
(ツン)「どういうことよ」
(ドクオ)「ショボンが気付いてから何度かGMにメッセージを送っているんだけど、
返答がないんだ。
でかいミスだから、対応に追われていて個別に連絡は出来ないのかもしれない」
(クー)「それでも、普通なら何かしらの返答は来るべきだろう。
私の方も消えている」
既に自分のウインドウを開いていたクーが呟く。
(ブーン)「僕の方も無いお。
ドクオ、他にログアウトの方法は無いのかお?
例えば死ぬとログアウトするとか」
(ドクオ)「いや、HPが無くなると『死亡』状態になって、
身体はさっきの青イノシシが死ぬ時みたいにポリゴンになるけど、
精神は自動的に復活してはじまりの街に戻されるんだ。
ログアウトするには、そのあとメニューでログアウトを選ぶしかなかった」
.
-
(ツン)「……わたしのも空欄。
テストのときはそうでも、正式になったら変わってるとか」
ブーンも自分のメニューを確認しているのを見て、
慌てて自分のメニューを確認したツンも苛立ちを隠そうともせずに呟き、
そしてドクオとショボンに詰め寄った。
(ツン)「ショボン、マニュアルに載ってなかったの?」
(ショボン)「載ってなかった。
自発的にこの世界から出るには、ログアウトボタンを押すしかない。
それ以外だと、現実世界で電源が切られるか、ギアを強制的に外されるかするしかない。
停電はともかくギアを外されるのは、
脳に衝撃が与えられる可能性があるから出来る限り止めてくれって書いてあったよ」
(ブーン)「お!そうだお!ヘルメットを取ればいいんだお!」
ブーンが笑顔で自分の頭から、被っているヘルメットを外すようなジェスチャーをした。
(ドクオ)「ヘルメットじゃなくて、『ギア』な。
それで、おれ達は今それをすることは出来ない。
脳が体に送り出す命令、『信号』はナーヴギアによって身体じゃなくてこっちの世界に送られている。
向こうの身体を意識的に動かすことは出来なくなっているんだ」
(ツン)「じゃあ、どうするのよ」
(クー)「向こうに連絡できないのか?
ショボンのお父上に電源を落としてもらうようにメールを送るとか」
(ドクオ)「通常のメールは使えない。
メッセージ機能はこのゲームの中だけのものだから。
ただ……」
ショボンを見るドクオ。
その視線を受けて、ショボンが口を開く。
(ショボン)「一応6時を過ぎても戻ってこない場合は、
電源を切る様に父さんには頼んである。
だから、後30分もしたら切られると思うんだけど……」
.
-
(ツン)「なんだ、じゃあ大丈夫じゃない。
ビックリした。脅かさないでよ。
もうこの世界から出られないのかと思っちゃった」
(ブーン)「おっおっおー。
ショボンもドクオも人が悪いお―」
ホッとしたように顔を見合わせて笑う二人。
(クー)「6時か。
少々ギリギリだが、何とかなるか」
(ショボン)「7時って言ってたよね。
父さんに車出してもらって送っていくよ。
で、父さんから説明してもらえば怒られないでしょ?」
(クー)「怒られないとは思うが、
一回家の中に入ったらおもてなしが始まって1時間は出られないぞ?
大丈夫か?」
(ショボン)「……無事に帰ることが出来たなら、それくらい我慢してもらうよ」
(クー)「どういうことだ?」
(ツン)「ちょっと、電源切ってもらえれば帰られるんでしょ?」
(ショボン)「だと思う。
でも、なんかとてつもなく嫌な感じがするんだ」
(クー)「いやな感じ?」
(ドクオ)「おれもさっきから気にしすぎだって言っているんだけどよ」
(ブーン)「どういうことだお?」
.
-
(ショボン)「さっきから、何故かよく思い出すんだ。
これを作った人のインタビューとか手記を。
それで、なんか引っかかるっていうか……。
杞憂だとは思うんだけどさ」
(ツン)「そうそう、気にし過ぎよ。
んー。でもあと30分足らずか。
何してる?」
(ドクオ)「のんきだなーおい」
(ツン)「だって何もできないなら、
気をもんでいても何かしてもしなくても、結局は一緒でしょ。
そのGMって人から連絡が来るか、
先に電源が切られるか、その違いだけよ。
なら、待つしかないじゃない」
サバサバと持論を言うと、細剣を構えて剣技を放つツン。
(ブーン)「ツン!?」
(ツン)「これ、別に敵がいなくても出来るのよね。
風のように身体が動くのが気持ちいい」
(ドクオ)「まったく……」
(クー)「ツンらしいな」
(ブーン)「おっおっお。さすがツンだお」
(ツン)「なによそれ。
私の事をどう思っているのか、あとでゆっくり聞かせてもらうからね。
それとショボン!
この世界に連れてきたって気にしてるんでしょうけど、
あんたのせいじゃないんだから、そこまで気にしてもしょうがないでしょ!
残り時間はあんたも楽しみなさい!」
.
-
(ドクオ)「!」
(ブーン)「!」
(クー)「!」
(ショボン)「……ありがと。
そうだね。この世界を楽しまないとだね」
自分の言葉に三人が驚いたのを感じ、
ほんの少しだけ照れくさそうに笑った後、
それを隠すように再び細剣を構えるツン。
それを見たショボンが、今日一番の笑顔を見せた。
.
-
少し休憩します。
8時ごろ再開します。
-
おつー
-
乙乙
-
乙!
>>329 の
>(ツン)「そういう事じゃなくて、
ツンが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
このツンの台詞のツンのところはツンじゃなくてクー?
-
やっぱ面白いな!!
-
戻りましたー。
続きの投下を開始します。
と、言おうと思いましたが……。
>>349 様
その通り、ツンではなくクーでございます。
読み返しながらコピペしていたつもりだったんですが……。
ご指摘ありがとうございます。
まずは修正版を下につけます。
.
-
(ドクオ)「おれもよく分からないけど、
構えはそう言われるとそうなのかもって感じだな。
おれは槍も薙刀もゲームに出てくる武器として知ってるくらいだから、
全く見当違いかもしれないけど」
(ブーン)「クーさんはすごいおねー」
(ツン)「ホント、家じゃちゃんとお嬢様してるのね。
……って、そういう事じゃない!」
感心したようにクーを見ていた四人だったが、
ツンの叫びに身体を震わせて驚いた。
(ショボン)「どうしたの?
いきなり大声で」
(ツン)「そういう事じゃなくて、
クーが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
(ショボン)「ああ、そういうこと。
そうだね。楽しんでいるように見えるよ。
顔はアバターで変わっているから分かり辛いけど、
肩の上下とか足のステップとかは楽しそうだよね」
(ツン)「……私から聞いておいてなんだけど、ひく答えね」
(ドクオ)「ひでえなおい」
(ツン)「いやだって、肩の上下とかステップとかってふつう見るところ?」
(ショボン)「視ないかな?」
(ツン)「見ない」
(ドクオ)「まあ、そこに関しては見ないかもしれない」
(ショボン)「そうかなあ」
.
-
修正失礼しました。
それでは、続きの投下を始めます。
乙としえんと感想、ありがとうございます。
それでは、よろしくお願いします。
.
-
3.創造主
.
-
その鐘の音が鳴り始めたのは、
皮肉なことにショボンが笑顔を見せたのとほぼ同時だった。
大晦日の鐘と言うよりも、西洋の、教会の鐘の音。
言葉にすると『リンゴーン、リンゴーン』とでも表せばいいだろうか。
大音量の、ともすれば警報の様にも聞こえるその音は、
この世界すべてに鳴り響いているようだ。
(ドクオ)「なんだよ一体?」
四人が自分を見ているのを感じ、
言葉に出して知らないということをアピールするドクオ。
空を仰ぎ見て、
両手のジェスチャーでも『知らない』ということをアピールした後に、
四人に視線を向ける。
すると自分達が、青い光に包まれた。
(ツン)「なにこれ!?」
(ショボン)「ドクオ!?これは!?」
(ドクオ)「これはテレポート!?なんで!?」
自分達の姿が透けていくの見て叫ぶ五人。
(クー)「ど、どうすればいいんだ?」
(ブーン)「ツン!」
ブーンがツンを呼ぶ声と同時に彼らの身体は強い光に包まれた。
.
-
あまりの強い光に思わず目を閉じる五人。
そして恐る恐る目を開けると、そこは丘の上でも草原でもなかった。
(ブーン)「……ここは?」
(ショボン)「みんな!いる!?」
ブーンが周囲の変化に戸惑っていると、後方で声が聞こえた。
振り向くと、周囲の視線を集めることを気にせずに叫んでいる美青年。
親友であると確信し、名前を呼びながら近寄ろうとすると、
仲間達も同じように集まってきた。
(ドクオ)「みんな、大丈夫か?」
(ツン)「びっくりした。なにこれ」
(クー)「ここは、最初に来たところか?」
(ブーン)「よかったおー。みんないて」
(ショボン)「良かった。みんないるね」
それほど離れてはいなかったが、ショボンに駆け寄る四人。
(ショボン)「ここは、最初に降り立った場所だよね?」
隣に立つ者と肌が振れるような距離まで集まった後、
自然に輪になって互いの顔を見る五人。
全く別の顔のはずなのに、なぜか心の中では『本当の顔』を思い浮かべ重ねていた。
(ドクオ)「ああ。『はじまりの街』の中央広場だな」
(クー)「今のは一体?」
.
-
(ドクオ)「魔法が存在しないこの世界だけど、
魔法っぽいモノを使えるアイテムは存在するんだ。
一発でHPを全回復するようなアイテムなんかが。
その中の一つに、好きな街に飛ぶことの出来る『転移結晶』ってのがある。
今のは強制的に転移させられたんだろう」
(クー)「そんなこと、出来るのか?」
(ドクオ)「もちろん普通のプレイヤーには無理だと思う。
だから、おそらくGMがやったんだと思う」
キョロキョロと周囲を見るドクオ。
それにつられて、四人も周囲を見回す。
(ドクオ)「おそらく、いまログインしている全プレイヤーが、集められている。
これから何かしらのアナウンスが行われるんじゃないかな」
(ツン)「謝罪でもするつもりかしら」
(クー)「人騒がせだな。
何時ごろに直るかメッセージでも送ればいいのに。
強制的にこんなことをするなんて」
(ブーン)「でも、これで戻れるならいいお」
(ドクオ)「……だな」
(ツン)「どうしたのよ。浮かない顔して」
(ドクオ)「いや、この『SWORD ART ONLINE』を作った会社、
『アーガス』ってのは普通のMMORPGも手掛けているんだけど、
ユーザーに対してかなり優しいというか、
サポートがしっかりしているので有名な会社なんだよ。
だからGMから返信メッセージが無いのが少し不安だったんだけど、
更にこんな事をされるなんて、ちょっと幻滅と言うか……」
(ショボン)「不信感を生んでしまうね」
(ドクオ)「……ああ」
.
-
(ツン)「でも、自発的にログアウトできないなんてミス、
かなり大きなミスなんでしょ?
そんなことも考えられないほど慌てているんじゃない?」
(クー)「そうだな。
今までユーザー重視といった姿勢でいたとするなら、
これで今までの評価をすべてダメにしてしまう可能性もある。
慌てもするだろう」
(ブーン)「おー。そうだおね」
(ドクオ)「ああ……。そうだよな……。うん」
周囲では、次々に人が現れる現象が続いている。
人々はそれにも慣れ、自分の体に異変が無いことを感じると、
アナウンスを待ちつつも会話を始めたり、
誰に言うまでも無いような愚痴を口々に発していた。
_
(美青年)「さっさとログアウトさせろ」
(美青年)「か、かえりたいから……」
(美青年)「やっぱりキャラ付には語尾を工夫するのが一番だと思うもな」
(美少女)「ど、どうすれば……」
(美少年)「さっさとしろゴルァ」
(美青年)「兄者、これはいったい?」
(美少女)「えー。兄者って誰ですかー?」
(美青年)「そっか。戻る……のか……そうだよな……」
(美丈夫)「早く帰らないとバイトに間に合わなくなるんだが」
.
-
誰もが、ここに移動させられたのはGMからの説明があるのだと、
ログアウトについて謝罪があり説明があるのだと、
思っていた。
そしてそれは、『説明』についてのみ正解だった。
(ツン)「なに、これ……」
どこからか聞こえた『上を見ろ』という叫びに誘われ、
五人が上を見上げた。
そして、目の前が赤く染まった。
正確には、真紅と漆黒の市松模様。
まるで血の様な赤と、深い闇のような黒。
目には赤のみがまず飛び込んでくる。
更によく見れば、それは二つの英文が交互にパターン表示されたものだった。
【Warning】と【System Announcement】
『警告』と『システムからの告知』
それに気付いた者達は喋るのを止め、
運営側からのアナウンスを聞き漏らすまいと、
上を見ながら耳をそばだたせているようだ。
(ブーン)「なんか……怖いお……」
ブーンの呟きは、四人も感じていたことだった。
そしてその恐怖は、さらに増大した。
(クー)「なん……だ……」
.
-
五人が、広場にいるほとんどの者が空を見上げている。
真紅のパターンが覆い尽くした空を。
そして、その中心が、ドロリと溶け、垂れ、滴って、落ちようとする。
それはまるで血の様で、見ている者の心に不安の種を植え付ける。
(ドクオ)「もしかして、これがオープニングなのか……?」
ドクオの言葉に、四人と周りにいた数人が彼を見た。
(ツン)「これが?」
(クー)「な、なるほど」
(ブーン)「そ、そうだおね。それなら……」
小さなざわめきが起き、ほんの少しだけ人の呟きが復活した。
(ショボン)「見て、何か来た……」
ショボンの声で再び空を見た三人。
ずっと空を見上げていたドクオは、
眉間に皺を寄せて何かを考えているように見えた。
(ブーン)「人……だおね」
目の前に浮かぶのは、全長二十メートルはあろうかという人の姿。
『それ』は、真紅のフード付きローブを被っていた。
(ツン)「なんなの……いったい……」
ツンの呟きは、そこにいる全ての者の思いだったであろう。
空に浮かぶフードの中に『顔』はなく、ただただ黒い、虚ろな闇が見えるだけであり、
ローブの裾やあわせ、袖口といった場所からも、中の『人』を目で見て感じることは出来ない。
.
-
けれど何故かそこにいるのは『人』であると、
自分達と同じ『人』がそこにいると、
広場に集められたプレイヤーのほとんどが感じていた。
すると袖口から白い手袋が浮かび上がり、両手を広げた。
そして、上空から声が降り注いだ。
.
-
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
.
-
低く落ち着いた、よく通る男の声。
(ショボン)「この声……どこかで……」
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
ドクオがショボンの顔を見る。
ショボンがそれに気付き、ドクオの顔を見て頷いた。
(ショボン)「茅場晶彦……。
テストの説明で研究室に行ったとき、お会いした。
その時の声と、同じだよ。
もちろん音声を複合してる可能性もあるから、
本人だとは限らないけど、でも……」
【茅場晶彦】
若き天才ゲームデザイナーにして、量子物理学者。
そして、【SWORD ART ONLINE】の開発ディレクターであり、
【NerveGear】そのものの基礎設計者。
(ショボン)「喋り方まで一緒な気がするんだ……だから……」
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューから
ログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う』
それぞれの思惑をよそに、声は降り注ぐ。
『しかしゲームの不具合ではない』
(ドクオ)「なんだって?」
『繰り返す。これは不具合ではなく、
≪ソードアート・オンライン≫本来の仕様である』
.
-
(ショボン)「仕様って……」
(ツン)「どういう…こと」
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、
ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない』
(クー)「城?どこかに城があるのか?」
(ドクオ)「いや、無かったと思う……。
正式サービスで実装されたのかも」
『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。
もしそれが試みられた場合、
…………
ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、
諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
その言葉は、そこにいる誰をも呆然とさせるに充分だった。
そしてその後に失笑が所々で生まれる。
それはそうだろう。
そんなことを言われても、誰も信じやしない。
しかし中には【ナーヴギア】の機能をちゃんと理解している者がおり、
その呟きを聞いた者は、再び呆然とした。
そしてここにも、その機能をしっかりと理解している者がいた。
(ショボン)「……可能だ」
.
-
(ドクオ)「え?」
(ブーン)「ど、どういうことだお?」
(ショボン)「ナーヴギアは、
ヘルメット内部に埋め込まれている信号素子から電磁波を発生させて、
僕達の脳に疑似的な感覚信号を与えるんだ。
その信号が、この仮想空間での【感覚】を生んでいる。
これは最先端のテクノロジーだけど、基本原理はあれと一緒なんだ」
(ツン)「……あれって……なに」
(クー)「電磁波……だと……あれ、か?」
(ショボン)「そう、電子レンジ。
あれはマイクロ波で水分子を振動させて熱を持たせる。
ナーブギアと、基本思想はほぼ同じ。
電磁波の出力を上げれば、僕達の脳を煮沸……破裂させられる」
ショボンの言葉に息を飲む四人。
周囲の者達も何人かは言葉を無くしていた。
空からの声は続く。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、
二時間のネットワーク回線切断、
ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み、
以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される』
(ツン)「電源切って、なんで電磁波出るのよ……」
(クー)「ナーヴギアには、内臓電源が付いている。
でも、所詮はゲームの内臓バッテリーのはずだが……」
.
-
(ショボン)「不思議だったんだ。なんであんなに必要なのか。
マイナーチェンジで小さくされるって聞いて、
ああやっぱりって思った。
……汎用機の内臓バッテリーは、高出力を起こせる力を持ってる」
『この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。
ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視して
ナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果
……残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、
アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
(ドクオ)「!……あの、プレイヤー」
(ブーン)「!」
(クー)「!」
ドクオの言葉に思い出す二人。
三人の脳裏には、先ほどまでいた草原で見た一人のプレイヤーが浮かんだ。
(クー)「――――!!」
声にならない短い悲鳴を上げるクー。
ツンがその肩を抱いた。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体を心配する必要はない』
(ツン)「クー!」
(クー)「す、すまん……」
『現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、
多数の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している。
諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。
今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま
二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、
厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。
諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい』
.
-
(ドクオ)「何言ってやがる……こいつ……」
(ツン)「嘘……よね……」
(ブーン)「ドッキリ……だおね……」
(クー)「本当なのか……」
『しかし、充分に留意してもらいたい。
諸君にとって、≪ソードアート・オンライン≫は、
すでにただのゲームではない。
もう一つの現実と言うべき存在だ』
(ドクオ)「……」
(ブーン)「……」
『今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。
ヒットポイントがゼロになった瞬間、
諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
(ツン)「……」
(クー)「……」
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
(ツン)「!」
(クー)「!」
(ブーン)「!」
(ドクオ)「!」
ほとんどの者が、息を飲んだ。
どこかでばかばかしいと思いつつも、どこかで言葉を受け入れ、
そして、恐怖した。
.
-
声は続く。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。
先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、
そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。
その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
抑揚のない、ただ事実を告げるだけの淡々とした語り口調。
呆然とした彼らの耳に、どこからかいくつもの叫び声が聞こえた。
その中にはβテストでの攻略数を嘆く声もあり、
それを聞いてドクオが頷く。
(ドクオ)「……二ヶ月で、六層。
七層の途中までしか、行けてない」
(クー)「二ヶ月で六層。
単純計算なら百層にかかるのは三十四カ月くらいか?」
(ツン)「約三年ってこと!?」
(ドクオ)「六層だって、何度もチャレンジして、
何度も何人も死んで、やっとだったんだ……」
(ブーン)「そんなこと……死ぬなんて……」
(ドクオ)「復活できるから、死なないから、
ゲームだからそんなことが出来る。
何度もチャレンジして、攻略方法を学んで、
……何度も死んで、敵を倒す。
RPGなんて、ゲームなんて、そうやって楽しむもんだろうが!」
ドクオの声は、ここにいる誰もが思ったことだろう。
けれどその思いが、言葉が受け取られることは無く、
声はさらに続いた。
.
-
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。
諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。
確認してくれ給え』
(ドクオ)「プレゼント?」
ドクオがメインメニューを開く。
三人は勿論周囲の者達も同じ動作をしたため、
中央広場に電子的な鈴の音のサウンドエフェクトが響いた。
(ツン)「手鏡?」
(ブーン)「鏡?」
(クー)「なんでこんな?」
四人の中では一番操作が遅いツンがアイテム欄を開いた時には、
三人は既にその名前をタップしていた。
そして現れたメニュー内のオブジェクト化を選択すると、
効果音と共に小さな手鏡が出現した。
それを手に取る四人。
恐る恐る鏡を覗き込むと、自分が設定したアバターの顔が映った
(ツン)「ただの鏡じゃない」
(クー)「これからこの顔で、ここで生きろってことを確認しろってことか?」
(ブーン)「おーーー」
(ドクオ)「これが、なんだって言うんだよ」
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