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これを魔女の九九というようです

503名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:00:05 ID:wfKNAKAs0
(´・ω・`)「気付くのがあまりにも遅すぎた」

ζ(゚ー゚*ζ「二人ともね」

多忙にかこつけ、監視を怠ったツケだ。
沈黙と同時に、次の料理がやってくる。

ζ(゚ー゚*ζ「……よくやるわね」

よく磨かれたスプーンを、ためらいなくスープへと突き落とす。
飾りとして浮いていた菜の花は、あっと言う間に底へ沈んでいった。

(´・ω・`)「蔵書の中には、たしかに使い魔の記述もあるけどね……」

頭が痛いのか、彼はトニックウォーターを口にする。
スープは、未だに手付かずだ。
わたしも、    も。

(´・ω・`)「あれほどの資質があると見抜けなかった、僕が悪い」

せせら笑いを浮かべて、彼は言葉を繋げる。

(´・ω・`)「どうしても魔女になりたいんだってさ」

ζ(゚ー゚*ζ「やだぁ、わたしの真似っこ?」

笑みを誂えず、スープを口にする。
柔く舌に伸びる苦味は、今の胸中にぴったりだった。

504名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:01:38 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ー゚*ζ「……魔女にさせたらダメなの?」

ふとした思い付きで、言葉を放つ。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたの救済が彼女に届いて、
     変化をもたらしたってことでしょう?」

はたして悪いことなのか、という言葉は出なかった。

(´-ω-`)「…………」

スプーンを手にしたまま、    は動かない。
目をつむり、思案しているように見える状態が何を訴えているのか。
長年の付き合いによって培われた経験は、一つの答えを弾き出す。

ζ(゚ヮ゚*ζ「……ごめんなさい」

へら、と笑いを纏う。
声は極力、情を掻き立てるものに。
手が、震えそうになる。
物音を立てないよう、わたしはスプーンを見放した。
ミルフィーユじみたシフォンのドレスに、握りしめた手を埋める。

ζ(゚ヮ゚*ζ「ペニサスちゃんは、そのままでいいんだものね」

(´・ω・`)「……うん、そのままでいいんだよ」

505名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:03:31 ID:wfKNAKAs0
たった数秒の沈黙が、わたしには永遠のように感じられた。
それなのに、    は何事もなかったかのように振る舞う。

(´・ω・`)「おいしいスープだね。君も食べてみなよ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「ええ、頂くわ」

(´・ω・`)「次にはきっと、鯛のポアレがくるよ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「まぁ、素敵ね」

(´・ω・`)「とても美味しいから、君にも食べてもらいたかったんだ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「ありがとう、嬉しいわ」

ディナーは、静々と進む。
当たり障りのない会話を繰り返し、
豪勢かつ美味と感じられる食事に舌鼓を打つ。
酒も健全な範囲で嗜んだし、デザートには薔薇を閉じ込めたジュレを楽しんだ。
どこにも不備はない。
楽しかった。
美味しかった。
お祝いをしてくれて嬉しかった。
何もかもがきっと完璧だった。

506名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:04:14 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚、゚*ζ(でも、話のセンスはイマイチだったわね)

エントランスで見送る彼は、深夜になったら日本へ行くと言っていた。
それに先駆けて、わたしは死体女を確保することにした。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ」

小さく呼べば、闇を鋳型に男が現れた。

('A`)「カ、かぇル?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうもいかなくなったの」

手を差し出せば、それに習ってドクオも手を取った。
そのまま言葉にすることもなく、わたし達は踊った。
音楽は要らない。
この踊りが、なんて呼ばれているものなのかもわからない。
ただ体を揺らし、足を踏まないように気をつけて。
相手に、体を捧げるように。

507名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:06:14 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ー゚*ζ「死体に会いに行くの」

('A`)「……エさ?」

一瞬ぽかんとして、その後に小さく笑いが漏れた。
ついでに踵を打ち鳴らし、泡を呼び出した。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、海の掃除屋さんには馴染み深いものよね」

間違いではなかった。
わたしにとってペニサスは、必要性を感じない。
ただのゴミクズだ。
ゴミは、しかるべき場所に投棄すべきである。
紙は燃えるゴミに。
ペットボトルはリサイクルに。
死体は、墓場に。

ζ(゚ヮ゚*ζ(それが出来たら、どんなに素敵でしょう)

そう思ったのが、運の尽きだったのだろうか。
……少し考えてみれば分かる事だった。
ドクオは自己表現に乏しいけれど、思慮深く、わたしの意をよく汲む。
あの時も例外ではない。
露骨なわたしの言葉に、尋常ならざる害意を汲み取ってしまった。

ζ( 、 *ζ(思い出したくないわ)

直接わたしが手を下したわけではない。
しかし    が大事にしているものを壊した事実は、覆せない。

508名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:07:00 ID:wfKNAKAs0
(´-ω・`)「――君には荷が重すぎたのかな」

夜明けも間近に迫った頃、    はそう言った。
カウチソファーに身を預ける彼。
その頭上では、月を模した光が照っている。
柔らかな偽灯は、深い緋色をしたベルベット地の艶を引き出している。せっかくの暖色を、青銅色の鋲が寒々しい印象を制す。
対照的な色の組み合わせは、まるで混沌そのものだった。

ζ( Д ;ζ「ごめんなさい」

何度目になるかわからない謝罪に、    は片手を挙げる。
彼は、酷く疲れていた。
無理もないだろう。
デミタスには悟られないように平静を装っていたが、
『元に戻す』魔法は繊細で、易々と行える芸当ではないのだ。

ζ( ー ;ζ「本当にごめんなさい」

頭を下げるわたしに、今度は彼の首が揺らめく。

(´-ω-`)「もう、いいよ」

もう、要らないよ。
もう、何も言わなくていいよ。
もう、鬱陶しいよ。
もう、許すよ。
似たり寄ったりの推測が脳裏に浮かぶ。
わたしは、途方に暮れていた。

509名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:08:41 ID:wfKNAKAs0
(´-ω・`)「そろそろ朝食を作ってあげないと」

独白のような言葉に頷き、視線で密かに問いかける。

ζ( ー *ζ(あなたは、どうするの?)

幽けき問いが、ふうわりと彼にしがみつく。

(´-ω-`)「僕は、少し休むよ」

ヒュ、と細く喉が鳴る。
わたしの献身を反故にするなんて、今までにないことだった。
取り繕ってはいるものの、ひどく怒っているんだ。
理解してしまい、一瞬歩みが止まる。

ζ( 、 *ζ(わたしの一撃には、何にも反応してくれなかったのにね)

それだけ、    は彼女に入れ込んでいるのだ。

(´-ω-`)「頼むよ」

ζ( ー *ζ「――何を?」

そこで初めて、わたしは陳謝以外の言葉を口にした。
背中の向こうで、口籠る気配がする。
怖い。沈黙が。彼が。
何を頼もうとしてるかなんて、聞きたくなかった。
止めていた歩みを、一歩、二歩。
三歩進めたところで、彼が言う。

(´-ω-`)「――朝食の後、デミタスをここに連れてきてくれ」

510名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:09:46 ID:wfKNAKAs0
瞬間、わたしは理解する。
彼に、魔法をかけるのだ。
使い魔を、ペニサスから取り上げようとしている。
あるいはわたしに、永遠を与えようとしている。
ペニサスの監視という大役を。

ζ( ー *ζ(そんなに、)

そんなに、あの子のことが、大事なのね。

゚ 。 。o゚ 。 ..゜.  。°゚ o .゚.。.  . 。°。゚、.。. ゚o 
。°。,"嘆息とともに、泡がいくつか出でた。.。. 。゚  .
  ゚o 。.゚ 。 。o゚ 。  .  。° 。゚ °o,  ゚
     .        °。   ゚
   °。o 。° .もうすぐ、終着点だ。  。° ..゜o
 。.゚ 。 ゚o 。.゚  。 。o゚ 。  .  。°。o 、
。o 。.゚。 。o゚ 。  .  。°。  .  。 。° °

511名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:10:31 ID:wfKNAKAs0
透明な風が吹き荒ぶ中、わたしは手を伸ばす。

ζ( ー ;ζ「だめ、だめ、だめ……」

初めてだった。
こんな風に、彼に触れたのは。
いつだってわたしに触れて来るのは、彼からだ。
あからさまに求めたことはなかった。
彼に向かって欲をぶつけた人は、皆立ち去っていった。
だからわたしは彼を求めなかった。
それが永遠に近付ける方法だと信じていた。

ζ( ー ;ζ「わたし、あなたがいないとだめなの」

抵抗もなく、包まれるようにして彼は静かに抱かれた。
実感さえもが既にあやふやと化している。
決して離すまい、と力を込めた。

ζ( Д ;ζ「行かないで」

わたしが遠くへ行ってしまっても、迎えに来てくれると約束したのに。

ζ( Д ;ζ「ひとりにしないでよ」

あなたが遠くに行ってしまったら、わたしは永遠に追い付くことが出来ない。
だって王子様は助ける為の存在で、助けられる側ではない。
わたしは魔女。
王子様にはなれない。
誰も、王子様を救うことは出来ない。

512名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:12:26 ID:wfKNAKAs0
ζ( Д ;ζ「行っちゃやだ!」

答えはない。
本当に今対面している人物は、    なのだろうか。
分からない。
しかし手放すわけにはいかなかった。

ζ( Д ;ζ「くっ……」

ことさら強く風が吹いた。
瞬間、彼はわたしの頭を撫でた。

ζ( Д ;ζ(違う)

わたしが欲しかったのは、これじゃない。
こんな子供みたいな扱い、いつまでも喜んでいられなかった。

ζ( Д ;ζ「わたし、」

だけど、言えない。
この期に及んで、彼の機嫌を伺っていた。

ζ( Д ;ζ「あっ……」

抱きとめていた腕の中から、質量が抜ける。
前のめりになっていたわたしは、ゆっくりと倒れ伏す。

513名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:14:33 ID:wfKNAKAs0
ζ( Д ;ζ(足、)

付け根からふわりと失われていく感覚。
それなのに、つま先は折れそうなくらいに力を込めていた。
駆ける。
わたしは駆けようとする。
駆け抜けて透明な澱から彼を取り戻そうと、太ももを痙攣らせて、

ζ( ー ;ζ「まって、」

遠ざかる。
一瞬にして追い付けないと脳が判断する。
諦めてしまう。
諦めたくない。
失いたくない。
失う。
二度と戻らない。
戻って欲しい。
嫌だ。
無理。

ζ(゚ー゚*ζ「…………………………………………ぁ?」

目の前にあるのは床で、見渡すとそこは物置部屋だった。
小さな、小さな、ありふれた雑品の山。
居た堪れないような表情の男に、やっぱり間抜けなツラをした死体女。
いない。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ぁ……。あぁ……!!」

あの人は、いない。
認識した瞬間に、涙が溢れた。

514名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:16:38 ID:wfKNAKAs0
ζ( ー *ζ(つらい瞬間だった)

彼のいない人生に、わたしは価値を見出すことが出来なかった。
全部夢で、今に目が覚めて。

ζ( ー *ζ(――思い込んでいられるのも、最初だけだった)

現実は、変わらない。
彼の不在は、永遠に続いた。
悲嘆は枯れ、わたしは何もしなくなった。
呼吸さえも諦めて、彼に迎えてほしかった。

ζ(゚ー゚*ζ(でも)

絶対に諦めたくなかった。
だからわたしは、再会できた。
    は、いる。
目の前にいる。
たしかに彼は、存在している。

515名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:17:28 ID:wfKNAKAs0
(´・ω・`)「食べないのかい?」

彼は、食事をしている。
レストランで、わたしとディナーを楽しんでいる。

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、頂くわ」

(´・ω・`)「食べないと、鯛のポアレが冷めてしまうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんなさい」

(´・ω・`)「だって今日は、君のために一日を使っているんだからね」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、素敵ね」

言いながらも、思い出す。
今日はわたしの誕生日。
だから    は、わたしのためにお祝いをしてくれる。
忙しいのに、わたしのために来てくれた。
数多ある不幸を押し退けて、わたしの幸福のために来てくれた。

(´・ω・`)「とても美味しいから、君にも食べてもらいたかったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、嬉しいわ」

今日は、難しい話をしない。
あの女の話もなし。
不愉快なお願いもしてこない。

ζ(゚ー゚*ζ(幸せ)

516名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:18:16 ID:wfKNAKAs0
でもどうしてか、窓の外に広がるのは無機質なビルの群れだ。
わたしの見たい景色に、捻じ曲げることができない。
わたしは、海を見たかった。
夕日に暮れる美しい海を眺めて、好きな人と幸せな時間を送って、
わたしのためだけに一日を消費させて、手を取り合って愛を囁く。

ζ(゚ー゚*ζ(海がいい)

祈るわたしは、彼に微笑んだ。
    がナイフとフォークを持っている。
なめらかにナイフを動かし、ポアレを切る。
背景は、糸杉の森。気に入らない。
表情を綻ばせた彼が、再びポアレへと向かう。
切られたばかりの魚は、失せた身を補完している。
同じように、フォークを動かす彼。
背景は、古びた図書館。辛気くさくて嫌。
口へと運ばれるポアレ。
溢れる笑み。
復元するポアレ。
優雅に揺れるナイフ。
上昇するフォーク。
背景は街の雑踏。二人きりがいい。
控えめに咀嚼。
元に戻るポアレ。
背景は、満天の星空。寒々しい。
それを捉えるナイフ。
切片をのせたフォーク。
背景は大理石の神殿。だから違うの。

517名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:19:16 ID:wfKNAKAs0
身を収めた彼の口。
蘇るポアレ。
きらめくナイフ。
背景は摩天楼。ふりだしに戻る。
身を穿つフォーク。
薄く開いた唇。
背景は青空。墜落事故のよう。
伸長するポアレ。
添えられたナイフ。
典雅なフォーク。
背景は、黒い海。少し惜しい。
品の良い歯並び。
始まりへと至るポアレ。
延々と繰り返される食事。
背景は。背景は。背景は。

ζ(゚ヮ゚*ζ(何度だってやり直す)

    と海に行けるまで。
わたしは、諦めない。

518名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:20:00 ID:wfKNAKAs0



かくてめでたく悪より逃れて 了
  .。. 。 。   ゚o 。.゚
  。 。o゚ 
。  .  。°
。゚ ゚ o .
     .゚.。.
  。。゚ ゚
..゜
  °
。 。°゜° .。. .o            。° .o
゜° .。.  .oくてめで ゚°く"悪より逃れて。'゜° .。. 。 
, .o° .。. 。 。.゚ 。  .   ゚ . 、。°。。。゚ ゚゚ 。 
            ° .  。° .. ゚
                ° 。.o
         .。. 。 。   ゚o 。.゚
  。 。o゚ 
。  .  。° 。゚ ゚ o .
 ゆめと     .゚.。.
      。。゚ ゚
    ..゜うつつの
あ .。. 。
。 わ
  ゚o 。.゚
い 。 。o゚ 
。  . へ。°
。゚ ゚ o .
     .゚.。.
  。。゚ ゚
..゜

519名も無きAAのようです:2021/12/25(土) 19:21:01 ID:wfKNAKAs0
 
.

520作者より:2021/12/25(土) 19:22:23 ID:wfKNAKAs0
今回の投下は以上となります
なかなか投下できずすみませんでした

最終回まで多分もうちょっとかかります
では皆さんよいクリスマスを

521名も無きAAのようです:2021/12/26(日) 08:08:55 ID:S9gN3szk0
まだ、まだ終わらないのか
胸熱

522名も無きAAのようです:2021/12/26(日) 18:57:44 ID:aoslLyv60
乙!!

523名も無きAAのようです:2021/12/26(日) 21:20:16 ID:mJDbJHPE0
相変わらず最高だな…
最高のクリスマスプレゼントをありがとう
続きも期待

524名も無きAAのようです:2021/12/27(月) 03:17:38 ID:Kj78yNS.0

全員好きだけど、デレとドクオの関係、すごく好きだなぁ
続きも期待
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/222/%E9%AD%94%E5%A5%B3%E4%B9%9D%E4%B9%9D.png


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