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('A`)は撃鉄のようです
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__ ,、
く_;:::ハ /::ヘ
(_厂 ヒコ
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(;,,゚Д゚)「まずいッ!」
――書き込んだ直後、話数を間違えていたことに気付いた補足王ギコ。
(;,,゚Д゚)「今回は30話だ! 急いで訂正しろ!」
行動は速やかに、違和感なく――
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第三十話 「悪性萌芽 その4」
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≪4≫
……以下、素直クールの日記より。
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11月3日(木) 天気:晴れ→雪
武神の屋敷に来てから半年。ジィ様の言いつけで日記をつける事になった。
あまりこういうものは得意ではないが、少しずつ慣れていこうと思う。
11月4日(金) 天気:雪
せめて三行書けと怒られた。
今日の修行は、よく分からなかった。
弱くなる修行という時点でよく分からなかったが、今でもそれは変わらない。
11月5日(土) 天気:雪
寝て、起きて、顔を洗って歯を磨き、朝食を食べる。
その後は特に何もしない。ドクオの特訓を眺めたり、家事の手伝いをしている。
こんな生活でいいのだろうか。なんというか、今までの生活と違いすぎて、現実味に欠けている。
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11月6日(日) 天気:雪
ドクオは今日も早朝からじぃ様達と修行に励んでいる。
人工片鱗の副作用で体調も優れない筈なのだが、彼は存外元気にやっている。
爪#゚ー゚)「――全力を出せと言うておろうが!
なぜ加減する、殺されたいのか!」
(;'A`)「いや、あの、俺の全力が微塵も通用してないだけだ……」
爪゚ー゚)「……え? あ、そうか。悪い悪い」
N| "゚'` {"゚`lリ「じぃ様、やっぱり相手がアンタじゃ修行になってないぜ。
せめて母者か俺にやらせてくれ。上手くやる自信はある」
爪;゚ー゚)「そうだのお……こやつ思った以上に弱いし、そっちの方がいいか……?」
(;'A`)「……」
ドクオの視線が私に向く。先日も少し彼と話したが、もう既にプライドがズタボロだと彼は言っていた。
彼は内藤が作った物の中では最強クラスなのだが、いかんせん武神の面々が化け物染みている。
ここ数日で私も彼らの強さを目の当たりにしたが、正直これはダメなやつだと思った。
彼らに頼ればtanasinnも倒せるのではないだろうか? ありうる。
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11月7日(月) 天気:ちょっと雪→晴れ
11月8日(火) 天気:雪
昨日は日記を書かなくていいと言われたので書かなかった。
自分に起きた事を受け止め、言葉に出来るようになったら日記を書けと言われた。
まだちゃんと落ち着いてはいないが、せめて事実だけ羅列しておこうと思う。
内藤の研究所を脱出する際、私は内藤に人工片鱗を投与された。
それは不意打ちの、もはや裏切りとすら言える行為。私は内藤を許せない。
人工片鱗を体内に宿した私は半ば暴走し、内藤を含むあの場の全員を退けたらしい。ここはドクオからも話を聞いたので事実だ。
あのままだと私が自滅しかねないと予感したドクオが私と戦い、なんとか武神の所まで私を誘き寄せたようだ。
ジィ様に倒された私は暴走状態から解放されたが、人工片鱗の後遺症が今も残っていると聞かされた。
それは「希望以外の拒絶」。望まないものが目の前にあると、それから逃避してしまう。
覚えていないが、私が目覚める時にもそれに関する悶着があったそうだ。
人工片鱗は人の弱点を増幅する。
ジィ様が私に弱くなる為の修行をつけるのは、私自身が持つ根本的な弱さと向き合うためらしい。
確かに、私は今まで自分の弱さを見ようとはしなかった。それはタナシンに出会う前から、ミルナとシーンに出会う前から同じだ。
弱い人間に価値などない。だから私は強く、ただひたすら強く・・・
その脅迫観念が今この状況を作っているとしたら、私は今更どうしたらいいのだろうか。
手遅れだ。私の元居た世界は既にタナシンが食い尽くして跡形もない。
取り戻せるものなど何もない。手にあるものは失い尽くした。でもそれでも死にたくはない。
死にたくない・・・この言葉はこの世でもっとも醜い言葉だと、私は思っている。
死ぬべき人間は死ぬべきだ。望まれない者は殺されるべきだ。無意味な物は排除されてしかるべきだ。
その筈なのに、その最たる存在のタナシンが今の私を生かしている。
タナシンと関わってからどれぐらい生きてきただろう・・・自分の年齢なんてとっくに忘れてしまった。
怖いのは、こんなにも生きているのに、私が昔の私のままで、大差ないということだ。
私はなぜ変われなかったのだろう 救いの手は確かにあった筈なのに どこで
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11月9日(水) 天気:晴れ
爪゚ー゚)「なあ、素直クールよ。寝るのは好きか」
縁側にじぃ様と並んで座り、おやつの羊羹を食べる。
平和だ、と思う。平和という言葉は、機械的な感想だと思う。
川 ゚ -゚)「……そんなに好きではないな。寝てる間より、起きた瞬間のが好きだ」
爪゚ー゚)「……ふふ、オレもだ。これは誰にも秘密だがな、オレは寝るのが今でも怖い。
ガキンチョの頃に読んだ絵本が原因でな、参ったものだ……」
川 ゚ -゚)「……」
爪゚ー゚)「……オレは強い。が、それは弱さを隠す為のものではない。
強さとは生きる為の力。人間の弱さは、決して強さでは覆い隠せんよ」
爪゚ー゚)「弱さと強さは別々のものだ。ゆえに、受け止め方も別々でなければならん。
どちらか片方だけに特化した人間は、いずれ確実に破綻するからのう」
・・・そんな事は私だって知っている。けれど、生きる為の強さが私には人一倍必要だった。
弱さを隠すとか、そういうのではなく、だから 強くなるしかなかった。私は弱くないと、思うしかなかった。
私が悪いのだろうか。多分、きっとそうなのだ。昔の私なら、こんな疑問すら抱かなかったのだから。
爪゚ー゚)「大丈夫だ。貴様は強い。貴様には腐るほど時間がある。
強さの次は弱さと向き合えばよい」
爪゚ー゚)「……助言だ。弱さというものは自分の中には無い。
常に外の世界、現実にこそ姿を現す。目を閉じるなよ、素直クール」
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11月10日(木) 天気:みぞれ
今日はドクオの修行は休み。久し振りに多くの事を話した。
この日記の事や内藤の話はしなかった。いわゆる雑談をした。
彼とそんな風に会話するのは初めてだったが、ドクオは意外と愉快な男だった。
体の調子は良好。彼の命に別状がないのは幸いだ。
11月11日(金)
ドクオの修行相手が母者さんに変わった。強さはドクオが100歩くらい負けている感じだ。
夕飯は芋。死ぬほどの芋を食べた。
11月12日(土) 天気:快晴
昨日の天気を書き忘れた。昨日は晴れだった。
今日は、すこし体調が悪かった。昼食の後、二度吐いてしまった。
なにか変な物を食べたかもしれない。ここの人は生肉を平然と貪る為、ありうる。
11月13日(日) 天気:〃
じぃ様の提案でデルタと手合わせをした。接戦の末に負けた。
・・・彼らはどういう理屈で私の能力をガン無視しているのだろう?分からない。
明日から阿部さんを相手に私の修行が始まる。私の能力の劣化形態を作るのが目的だそうだ。
とりあえず明確な目標ができてほっとしている。何もする事がないのは、けっこう辛い。
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11月14日(月) 天気:雪
阿部さんは同性愛の人だった。それにビックリして何も覚えていない。
ただドクオの貞操が危機的なのはなんとなく予感した。
それを母者さんにぼやいてみたら「手を出すな」と言われた。何がなんだか分からない。
↑
└腐っておるのだ。あまり詮索するな(ジィより)
↑
└ジィ様いつか殺す(母者より)
11月15日(火) 天気:豪雪
今日はとてもよく眠ってしまった。昼まで寝たのはいつ以来だろうか。
いや、以前はそもそも寝ること自体できていなかった。逃亡生活にそんな暇は無かった。
11月16日(水) 天気:〃
三行書けと怒られた。しかし、特に特筆することがない。
私の修行は順調。着実に能力のコントロールを覚えている。
ドクオの方は・・・どうなのだろうか。彼とは数日前から顔を合わせていない。
山篭りでじぃ様とどこかに行ったらしいが、安否がすこぶる不安だ。
11月17日(木)
11月18日(金) 天気:雪
昨日、ドクオが半生半死で帰ってきた。意識はなく、辛うじて生きている危険な状態だった。
ジィ様を問い詰めて事情を聞くと、ドクオの肉体は既に限界だと分かった。
tanasinnの副作用に対抗するだけの修行は終えているが、この先どれだけもつかは分からないそうだ。
山篭りはドクオが提案して行われた。ジィ様いわく、ドクオもまた私のように暴走を起こしたらしい。
しかもその破壊規模は私以上で、正直私よりてこずったとジィ様は言っていた。
ドクオは明らかに衰弱している。もうすぐドクオが死ぬかもしれない。
今日は一日中彼を見つめていた。私に出来る事はいくつかあるが、彼はそれを望むだろうか・・・
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11月18日(金) 天気:雪
ドクオが死んだ。目が覚めて、ドクオの様子を見に行ったら死んでいた。
昔、元々居た世界で、小さい頃に金魚を飼っていたことを思い出した。
金魚は水面に浮かんで死んでいた。綺麗な水槽だなと思った。
11月18日(金) 天気:雪
今日はドクオに起こされた。朝食があると言って、私の手を引いてくれた。
食卓には屋敷の人達が揃っていて、戦争のような朝食を繰り広げていた。
ドクオの体調は忍者さんの秘薬でなんとか持ち直したらしい。
ジィ様の修行と秘薬さえあれば、tanasinnに耐え得る心身を作るまでの時間は稼げそうだ。
よかった、と心から思う。
11月18日(金) 天気:雪
ドクオは今日も起きなかった。
か細い呼吸と、指先で机をつつくような呆気ない心音が彼の命を繋いでいる。
しばらく私の修行は中断してくれるらしい。これでドクオの傍にずっと居られる。
11月18日(金) 天気:雪
今日は私もドクオも修行が休み。久し振りの休日だ。
下の港町におりて、普通の休日を過ごした。買い物をしたり、ご飯を食べたり・・・
そういう生活をしたのはいつ以来だろう・・・。平和で、安心した時間が流れていった。
だが、元の世界のことを思うとこういう生活に罪悪感が湧いてくる。
もっと他にやる事があるんじゃないか、もっと他に見るべきものが、と思ってしまう。
11月18日(金) 天気:雪
水槽と、金魚を作った。tanasinnの力は、こういうどうでもいい事をするにはとても都合がいい。
久し振りになにか生き物の面倒を見てみようと思ったので、ちょっと魔が差した。
これも力のコントロール修行という事で、できればお許しいただきたい・・・
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11月18日(金) 天気:晴れ
やがて自殺する祖父母が拾ってきた子猫が死んでいた。
子供だった私は子猫の扱いなんて知らず、手探りに面倒を見ていたが、駄目だった。
家族は誰もこの子の面倒を見たり、助言をくれたりはしなかった。
子猫が死んだ時も家族は特に何も言わなかった。私は子猫を庭の隅に埋め、みかんの種を撒いた。
この子を殺したのは私だ。なのに罰はないのだろうか。家族は私を叱らないのだろうか。
命の価値が分からない。家族は私に何も教えてくれなかった。私は私一人で育っていった。
私はこの猫と同じだ。罪も罰もない命は無意味だ。この猫は無意味に生きて死んだ。
11月18日(金) 天気:晴れ
今日はひとりぼっちの入学式。友達とは違う学校に行ったので、周りは知らない人だらけ。
集合写真の時、ふざけて膝の上でチョキを作った。特に叱られなかった。
11月18日(金) 天気:晴れ
ドクオが死んでから一週間くらいが経つ。私にとって彼は何だったのか、と眠る前に考える。
別に大して好きではない。たかが友人という程度。だが今の私はtanasinnと人工片鱗のせいで情緒がおかしい。
依存心や我慢というものが弱くなっているし、理性が上手く働かない。
ドクオは私がそんな風になった時に一番近くに居たというだけだが、きっと理由はそれだけなのだ。
私はドクオにtanasinnの片鱗を分けてやろうと思う。そうすれば彼は助かる。喜んでくれるかな、なんて。少し笑ってみたりする。
11月18日(金) 天気:晴れ
書くことがない。
夕飯は魚。
ドクオが死ぬ夢を見た。彼はまだ生きている。縁起が悪い。二度寝した。
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11月18日(金) 天気:晴れ
嘘を書くな、とジィ様に言われた。
絵本を燃やし、小指のワイヤを締め上げる。
悲鳴は上がらない。聞かせる相手が居ない悲鳴に意味はあるのだろうか。
今日は昨日の夢を見た。明日はもっと前の夢を
11月18日(金) 天気:晴れ
私はもう正常ではないのかもしれない。
ドクオが本当に死ぬと分かった瞬間、私の中の何かが壊れてしまったのだ。
それは何だろうか。今までだって人が死ぬところは見てきたのに・・・
(追記)
書いた後に分かった。壊れた物は、冷酷さだ。他人の命を見捨てる冷たさ。
今までは誰が死んでもその命を諦め、背負う事ができた。だが、今の私はそれが出来ない。
私はもう人の死を背負って歩く事が出来ない。だから死なないでほしいと、そう思うようになったのだ。
そして内藤の人工片鱗はその弱さを膨張させる。私は多分、もう手遅れだ。
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11月19日(土) 天気:晴れ
とりあえず、天気だけ。
11月20日(日) 天気:雪
11月21日(月) 天気:雪
11月22日(火) 天気:雪
11月23日(水) 天気:雪
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11月24日(木) 天気:雪
ジィ様、私は大丈夫だ。ドクオの様子は私が見ておく。
11月25日(金) 天気:雪
11月26日(土) 天気:曇り
11月27日(日) 天気:快晴
11月28日(月) 天気:快晴
11月29日(火) 天気:快晴
11月30日(水) 天気:快晴
引越しは無事に完了した。ここで彼との新しい生活が始まる。
12月1日(木) 天気:快晴
日記はもうやめようと思う。これからはもう大丈夫だ。
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≪5≫
「ジィ様、素直クールはもう駄目だ」
口火を切ったのは流石母者の一言だった。
今日は11月21日。既に、誰もが素直クールの異変に気付いていた。
「やはりあの女にドクオの状態を教えるのは不味かった。
案の定、もう理性もなにも滅茶苦茶だ。
さっき話しかけて少しだけ言葉を交わしたが、あれは……」
母者は言葉に迷い、それ以上を語れなかった。
X
∠ ̄\∩
|/゚U゚|丿 「激しく忍者」
爪゚ー゚)「ハゲ忍は黙っておれ。真面目な話じゃ、場を弁えよ」
∠ ̄\
|/゚U゚| 「――ならばあえて言おう。あの女、とうの昔に破綻している。
このままではドクオの方にも悪影響を及ぼすぞ」
.
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N| "゚'` {"゚`lリ 「……俺としては出来る限りの事をしてやりたいね。
心が衰弱した彼女には支えになるものが必要なんだ。ドクオ以外にも」
( "ゞ)「かったるい話すんじゃねえよ。俺はハゲ忍に同意だ」
∠ ̄\
|/゚U゚| 「激しく同意?」
( "ゞ)「うるせえハゲ」
+ 激しく忍者 +
X
∠ ̄\∩
|/゚U゚|丿 (激しく無駄なスペース)
〜(`二⊃
( ヽ/
ノ>ノ
UU
( "ゞ)「けどよ阿部、てめえホモの癖に女の肩を持つのか?」
N| "゚'` {"゚`lリ 「俺にとって女は恋敵と書いてライバルと読む存在だ。
基本、俺は博愛主義者なんだぜ」
( "ゞ)「それが痴情縺れきったメンヘラでもか? 手間の多い主義だこった……」
N| "゚'` {"゚`lリ 「どうせ殴れば一瞬で済む話。時間を掛けてもいいだろうって話だ。
それとも俺達はそこまで切羽詰った集団だったか? らしくないぜ」
( "ゞ)「……素直クールは、殴れば済む相手じゃねえな」
デルタは、阿部の軽口に渋々そう受け答えた。
N|;"゚'` {"゚`lリ 「……なんだって? それを、お前が言うのか?」
.
-
爪゚ー゚)「素直クールがここに来た時、オレと母者、そしてデルタが彼女を迎えた。
しかし実際に戦ったのはオレ一人。その意味、察してやれ」
( "ゞ)「……」
デルタ関ヶ原は元々好戦的な人間である。
そんな男がわざわざジィに出番を譲り、あまつさえイノシシ狩りで時間稼ぎをしていた事実。
もしもジィがデルタを呼びに行かなければ、彼は絶対に屋敷には近付かなかっただろう。
なぜなら、デルタには屋敷に落ちてきた素直クールが人間だとは思えなかったのだ。
殺気や悪意……彼が屋敷の方から感じたものは、最早そういった類の気配ではなかった。
デルタがあの女に感じ取ったものは、人生最大規模の生理的嫌悪感だった。
そんなものにわざわざ近付こうなどとは、彼は決して一瞬たりとも思えなかった。
もちろん素直クールが強い事は肌で感じてはいた。
あれと戦えば生涯ベスト5に入る死闘になるのも直感出来ていた。
しかし、あれが放つ気配はそれ以上に『気持ち悪かった』。
触りたくない、関わりたくない。そういう感覚が、デルタの戦意を丸ごと腐らせてしまったのだ。
( "ゞ)「あれを始末したけりゃお前らでやれ。
俺は神も悪魔も人間サマもぶん殴れるが、クソまみれのドブ底にアタマ突っ込むような真似だけはしねえぞ」
「……ジィ様、私は数日は様子見でいいと思うが、いざとなれば手を下すべきだと思う。
それが彼女を半年匿った私達の責任だ。彼女はよくもったと思う」
爪゚ー゚)「……みな準備をしておけ。
オレは少し、彼女と話してくる」
結論は暗黙の内に。
屋敷に住まうこの場の全員は、それぞれ戦いの準備に取り掛かった。
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寝室のふすまを静かに開ける。
部屋に入ると、布団に横たわるドクオと、彼の傍らに正座する素直クールが目に留まった。
爪゚ー゚)「……様子はどうだ」
ふすまを静かに閉じ、ジィは素直クールに問い掛けた。
川 ゚ -゚)「よく眠っている。大丈夫だ」
爪゚ー゚)「……では、貴様はどうだ? 素直クールよ」
川 ゚ -゚)「……私もだ。大丈夫だよ」
その返答の直後、ジィは懐から日記帳を取り出して畳に投げ捨てた。
バサ、と音を立てて落ちたそれに、素直クールは嫌悪の一瞥を送る。
爪゚ー゚)「日記、読んだぞ。やけに18日が多かったな」
川 ゚ -゚)「……だな。自分でも、見直した時に寒気がした」
爪゚ー゚)「……まったく。男が一人倒れただけでこの有様とは、難儀だな」
川 ゚ -゚)「……だな。人工片鱗は、思っていた以上に私の虚勢を粉々にしていた」
.
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爪゚ー゚)「……ドクオを離してやれ。本当に死ぬぞ」
川 ゚ -゚)「いいや、彼は死なせない。手段はある、それをする……」
爪゚ー゚)「ちゃんと見ろ。ドクオは生きているぞ」
川 ゚ -゚)「……嘘を言うなよ。呼吸も、心音もないぞ。
彼はもうとっくに死んでいる。私が助けてやらないと……」
爪゚ー゚)「それは貴様がドクオの時を止めておるからだ。
自覚が無いとは言わせんぞ。貴様、もう既に手遅れだ」
川 ゚ -゚)「……大丈夫だ。彼は死なせない。私が守る。
その為の力は十分にある。大丈夫だ」
素直クールの能力を一言で表すなら、それは『隔絶』という他にない。
ドクオを正常な時間の流れから排し、生も死も根本的に存在しない所に置いておけば、確かにドクオは現状を維持できる。
だがそれは、ドクオは永遠に生き続けると同時に死に続けるいう意味でもあり、最早、それは――
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爪゚ー゚)「――安心を得る為の道具でしかないな。
貴様の中では、ドクオはもう人間扱いされておらんという訳だ」
川 ゚ -゚)「……それの何がいけないんだ? 彼は死なず、私も安心していられる。
誰も不幸にならない。むしろ、私達は今より幸せでいられるのに……」
爪゚-゚)「……命の在り方として間違っておる。
生きる者はみな死ぬ。それを捻じ曲げて我欲に走るなど――」
川 ゚ -゚)「在り方が間違っていたら、その命には生きる為の足掻きすら許されないのか?
私はもう弱りきってしまった。ドクオがいなければ、もう生きていけないんだ……」
爪#゚ー゚)「……大いに足掻け。生きる為なら死をも覚悟しろ。
だがな、オレは今ドクオの話をしている。貴様の命など知らん!」
爪#゚ー゚)「いいか素直クール、貴様がそいつの足掻きを阻んでおるのだ!
ドクオは確かに死ぬかもしれんが、万が一にも生き残るかもしれん!
その分水嶺にいざ挑もうという男を、貴様は己の為に私物化しておるのだ!」
川 ゚ -゚)「……そんな下らない天秤に、ドクオの生死を乗せろというのか?
私には出来ない。生きてなくていいから、せめて彼には死なないでほしいんだ」
爪#゚ー゚)「…………」
川 ゚ -゚)「……? 死なないで欲しいと願うことが、そんなにもおかしいか?」
.
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爪゚ー゚)「……おかしくはない。そこではないのだ、素直クール」
爪゚ー゚)「……残念だ。貴様は理外の力に溺れてしまった。
今の貴様はドクオにとって、自由を縛る害悪でしかない」
爪゚ー゚)「知っているか? そういうものを一言でなんと呼ぶか」
爪゚ー゚)「――愛憎だ。好意と悪意で他人を縛る、独善の成れの果てよ」
川 ゚ -゚)「……分かった、分かった」
素直クールは、ジィの言葉をさらっと受け流して二つ返事。
川 ゚ -゚)「つまり、もう出て行けという事だろう。分かったよ。
そういう事を言われた事は沢山ある。私は元々、人に好かれる人間ではないからな」
川 ゚ -゚)「もちろん自覚はある。私はもう人工片鱗のせいでおかしくなってる。
ドクオが居ないと心苦しくて死んでしまいそうだ。これが元々の私に無い考えなのも分かる」
川 ゚ -゚)「じゃあどうしろと? 愛憎でもいいじゃないか。
私は確かに人間離れしているが、それでも私の一部はまだ人間だ」
川 ゚ -゚)「それが寂しさあまりに他人を求めたらそれは罪なのか?
罰せられる程のことなのか? 人が人を求めたら、それは悪いことなのか?」
爪゚ー゚)「求めて、相手を箱の中に閉じ込めて、それでも同じ事が言えるのか?」
川 ゚ -゚)「そうしなければドクオは死んでしまう。ジィ様だってそれは嫌だろう」
.
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素直クールは、単に羅列する。
川 ゚ -゚)「大事な人が死にそうで、死なせない方法があって、それを実行する事もできて」
川 ゚ -゚)「リスクも失うものもなくて、結果的に誰も悲しまないなら、それは良い事に違いない」
川 ゚ -゚)「確かにジィ様は今、私に対してとても憤慨している。
ドクオの命を私物化し、独占している事について」
川 ゚ -゚)「だが、それはドクオを失った時の悲しみに比べれば軽いものだろう?
私の行いは、結果的に皆の悲しみを解消しているじゃないか」
川 ゚ -゚)「ドクオは死なず、皆は悲しむ代わりに怒り、私は悲しみを回避した」
川 ゚ -゚)「よく考えてみてくれ。この状況、誰も、なにも損をしていないんだ」
爪゚ー゚)「……度し難いな、貴様は……」
しかし決して、間違いではないと、ジィは思った。
間違いではないが、これが絶対に正しいとも言い切れない。
彼女の言い分を正しいと肯定する者、間違っていると否定する者は、きっとどちらもこの世に存在する。
しかし、素直クールはそのどちらにも属さない。
なぜなら彼女は、本人の意思を一切、まったく汲み取っていないからだ。
彼女がしたことを言い換えるなら、『本人に無断で行われた目的のないコールドスリープ』。
それはシュレディンガーより性質が悪い、人間で行うドライフラワーのようなものだ。
しかし、それを愛でるか否定するかは人それぞれ。
それを人と呼ぶか物とするかもまた、それぞれの価値観に――
.
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爪゚ー゚)「――そうだな、人それぞれで片付く話だったな」
爪゚ー゚)「間違いか、正しいか、それも分からない。
いやまったくもってそうだった。まったく、貴様に論破されてしまったな」
川 ゚ -゚)「……そうか。それならよかった」
朗らかに笑いつつ、ジィは立ち上がって素直クールの胸倉を片手で掴みあげた。
その唐突な行動に虚を突かれたのか、彼女はその手を払う事もできなかった。
爪゚ー゚)「で! だ。それはそれとしてだ。置いといて、だ
オレは個人的に、曖昧な結論というのが大嫌いでな」
爪゚ー゚)「もちろん世のなか曖昧にしておくべき事はある。
オレとて人間、処世術くらいは知っておるさ」
爪゚ー゚)「だがな、それでも生と死だけは絶対だ。
オレはそれだけを確信し、ここまで至った」
爪゚ー゚)「ところがどっこい貴様は『それ』を曖昧にした。
正面バッチリ目の前で、オレの神である『死』を誤魔化した」
爪゚ー゚)「正しいも間違っとるも知らん。この世の条理など知ったことか。
貴様はオレの敵だ。もっとも、それは出会った時から確信しておったが」
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爪゚ー゚)「素直クール、オレは貴様の曖昧さが気に入らん。
だから今から殺す。そのついでにドクオも助ける」
川;゚ -゚)「り、……理屈になってないぞ」
爪゚ー゚)「だからなんだ、それがどうした?
だから言ったであろう、オレは曖昧なのが嫌いだと」
爪゚ー゚)「……知っているか?
タナシンなどに頼らずとも、人は人間という枠組みを壊せる」
胸倉を掴む手に、より一層強大な力が送られる。
爪゚ー゚)「頭の中、二文字」
爪゚ー゚)「殺す」
爪゚ー゚)「するともう止まらん。言葉は殺意に塗り潰される」
爪゚ー゚)「……言っておく。本気を出せよ」
途端、ジィの体に電撃が迸る。
爪# ー )「tanasinnがどれ程のものか、今一度、見定めさせろ」
川;゚ -゚)「――ッ!!」
言葉の後、一瞬の閃光。
それは火蓋を切って落とすに余りある、天災にも等しい一撃だった。
.
-
16〜24話 >>439
プロローグ Another Heaven >>454-467
第二十五話 老兵集う >>473-495
第二十六話 面汚しの夜 その3 >>504-596
第二十七話 悪性萌芽 その1 >>609-673
第二十八話 悪性萌芽 その2 >>704-726
第二十九話 悪性萌芽 その3 >>733-771
第三十話 悪性萌芽 その4 >>783-860
(^ω^)ミスはなかったNE('A`)
この話はあと二話くらいで終わるよ(^ω^)
また来月投下できたらいいな(^ω^)
なにかミスがあったらみんなの天才的頭脳で補完してNE(^ω^)
-
乙
デミタスの能力スタンドだったのかよ
-
乙
カッコよかった果ての無い〜がギャグシーンになっててワロタ
-
乙
ジョーカーキャラが欠片も自重しないという新鮮さよ
-
おつ
補足王の貫禄の補足にワロタ
-
上がってなくて気づかなかったわ
次回も待ってるおつ
-
乙(^ω^)
-
なんとなく読み始めてたけど投下来てたのか
-
おつおつ
ミルナの扱いでワロタ
-
31話の書き溜めは3レスです 非常に順調であると言えます
そしてこれは一体?・・・ http://gekitetunchan.blog.fc2.com/
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なんというか…うん…
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もう五月っすよ!
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29日の午後7時から投下します 長さは60レスくらいです(^ω^)
さらっと最初から読み返しておくと良いことがあるかもしれないです(^ω^)
悪性萌芽は次回で終わりです(^ω^) 長かったNE(^ω^)
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楽しみにしてるNE!
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わあい
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っしゃあ!公務員試験終わった直後の楽しみじゃ!
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書き終えました! 予告通り投下します!
(^ω^)今回は三曲も作中BGMがあります('A`)
(^ω^)イイカンジに再生するもよし! ガン無視もよし!('A`)
(^ω^)今回90レスくらいです! よろしくお願いします!('A`)
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素晴らしいな
お風呂に入って待っていよう
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もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
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≪1≫
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-
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始まったのは、もうだいぶ前の事なんだろう。
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-
私は――素直クールという存在は、きっととても昔に始まっている。
しかし今の私はそれを思い出せない。私は私自身の始まりを思い出せない。
( д )
( ー )
――誰かが居たような、そんな気がする。
感覚は朧気だ。覚めてしまった夢を思い出そうとするように、彼らの存在は私の中からどんどん薄らいでいく。
それは孤独となって私の心を蝕んだ。今の私はどうしようもなく独りなのだと突きつけられる。
しかし苦痛はない。喪失感もない。ただ欠けてしまったのだと確信するばかりで、私は何も感じない。
失った事を悲しめなくなった事に、ああ、私はとっくに誰かになっていて、彼らはもう想い出でしかないのだと、そう思ってしまう。
綺麗な想い出はある。まだ残っている。
私にはまだドクオが居る。私を定義するものは、もうこの世に彼しか居ない。
想い出になどさせない。見る夢はいつも同じだ。雪が降っている。今日も、明日も、明後日も、ずっと……
.
-
tanasinn
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-
≪2≫
レムナントにある名前も無い小さな町。
ある日の晩。その町に住んでいた女の前に、彼女の旧友が突然現れた。
爪 ー )
悪いがこいつらを預かってくれ、と旧友は言った。
女は戸惑いながらも旧友の頼みを受け入れ、こう尋ねた。
( д @
この二人はなんだ。傷だらけで寝ているじゃないか……。
旧友は苦笑いを浮かべて答える。
ここで自由にさせてやってほしい。見張りはさせているから安心しろ……。
( д ;@
女が言葉の意味を理解する前に、旧友はあっという間に姿を消してしまった。
仕方がない……。女はそう呟いて二人を家にあげ、目を覚ますまで二人を看病した。
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-
川 - )「……う……」
川; -゚)「…………」
川;゚ -゚)「……ここ、は……」
(゜д゜@「……おや、起きたのかい」
翌朝、先に目を覚ました方は自分を素直クールだと名乗った。
どうやら記憶を失っているらしく、具体的な話は聞き出せなかったが、
川 ゚ -゚)
( A )
……目を覚まさないもう一人の男を、彼女は安心したような穏やかな顔で見つめていた。
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-
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第三十一話 「悪性萌芽/After,in the Dark」
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-
この町の朝はおばちゃんの一声で始まると言っても過言ではなかった。
(゜д゜@ 「へいらっしゃい! いつもの朝市だよーーッ!」
すげえ! 行ってみようぜ! 今日は白菜があるぞ!
などの声援が飛び交う彼女の店は、当時これだけの繁盛ぶりを見せていた。
( 'A`)ノ 「ちぃーす。元気そうだな」
(゜д゜@ 「ああドクオ、おかげさまだよ! 今日は何の用だい?」
おばちゃんは店先の人混みにドクオを見つけ、彼に話しかけた。
手際よく他の客の会計を済ませながら、おばちゃんはドクオの言葉に耳を貸す。
('A`)「いつもどおりだ。適当に頼む」
ドクオはそう言い、片手に持っていた袋をおばちゃんに差し出した。
(゜д゜@ 「あいよ。ちょっと待ってな、片付けるからさ」
(A` )b グッ
ドクオは無言で踵を返し、人混みから消えた。
.
-
それから十分ほど経って客足が落ち着き始めると、彼女はドクオが持ってきた袋に適当な野菜・果物を突っ込んでいった。
その大半は売れ残り。形が悪かったり欠けていたり、痛み始めていたりする物だった。
余り物で適当に――それが、ドクオのいつもの注文なのだ。
('A`)「おー。今日は当たりの日か」
おばちゃんが余り物の品定めをしている最中、ひょっこりとドクオが帰ってきた。
彼は袋の中を覗き込み、にんまりと笑みを浮かべる。
(゜д゜@ 「そうしてやったんだよ。上等なのを残してやったのさ」
('A`)「そうなのか? わりぃな、おばちゃん」
(゜д゜@ 「助け合いこそ人の道ってね。仕事は上手くいってんのかい?」
('A`)「まぁまぁ。余所者扱いが目につく感じだ」
僅かばかりの金銭と、野菜の入った袋を交換する二人。
手渡された袋はずっしりと重たい。それは明らかに等価交換ではなかった。
('A`)「わり、それじゃ足りなかったな」
ドクオはすぐに手持ちの金を出そうとした。
しかしおばちゃんはそれを無視して喋り出し、ドクオの手を止めさせた。
.
-
(゜д゜@ 「いいかい、仕事場じゃ愛想よくするんだよ?
あんたは目つきが悪いから絶対に誤解されちまうんだ」
(゜д゜@ 「しかもわざわざあたしが紹介してやったんだからね。
この顔に泥を塗るようなマネは」
彼女は、野菜を入れた袋を一瞥して言った。
(゜д゜@ 「するんじゃあないよ。分かったね」
('A`)「……あいよ。いつか大当たりにして返すからな」
(゜д゜@ 「今すぐ返せないモンの話なんかしないでおくれ。
ほれ、仕事の邪魔だよ。帰った帰った」
おばちゃんはドクオを手で払いのけ、店の奥に戻っていった。
ドクオはそれを見送ってから店を離れた。
帰り道、袋からミカンを一つ取り出して食べる。
('A`)「うーん。うまいっ」
ドクオが住んでいる小屋は町から少し離れた場所に立っていた。
朝食の支度をしているのか、小屋の煙突からはモワモワと煙が立ち上っている……
.
-
('A`)「買ってきたぞお」
その小屋に到着したドクオは、戸を開けながら気の抜けた声色で呼びかけた。
玄関がリビングに直結しているので、台所に立っていた彼女の姿はすぐ目に入った。
川 ゚ -゚)「ああ、適当に置いといてくれ」
素直クールはさっと振り向いてドクオに指示を出し、さっと視線を戻した。
絶賛加熱中のフライパンには程よく焼けたベーコンと目玉焼きが乗っている。
ちょうど出来上がるところなのだろう。テーブルにも二人分の食器が用意されていた。
('A`)「おーう」
踵を使って靴を脱ぎ捨て、言われたとおり適当に、食卓の足元に袋を置く。
それからドクオは素直クールの隣に行き、シンクの方で手を洗い始めた。
川 ゚ -゚)「おばちゃんに何か言われたか?」
('A`)「……愛想よくしろって」 ジャー
川 ゚ -゚)「……難題を出されてしまったな」
('A`)「まったくだ」 キュッ
川 ゚ -゚)「あ、手を洗うついでに布巾を頼む」
('A`)「おう」 キュッ ジャー
.
-
食卓のお皿にベーコンと卵焼きが移される。
素直クールは空いたフライパンをシンクに突っ込んで水をぶっかけた。
ジュッ、という音を立てて熱が即死する。
川 ゚ -゚)「ドクオ、こないだのパンがまだ余ってるんだ。
そろそろ食べきりたいから出してくれ」
('A`)「パンなー」
ドクオがチェック柄の布が被せてあるカゴを持って席につく。
素直クールもさっと手を洗って椅子に腰掛けた。
そして最後にカゴの布を取っ払い、二人は手を合わせて呟く。
('A`)「たーきゃす」
川 ゚ -゚)「いただきます」
〜十分後〜
('A`)「ごっそさん」
川 ゚ -゚)「ごちそうさまでした」
.
-
朝食が終われば次は仕事だ。
ドクオは手早く食器を片付け、口をゆすいで顔を洗って身支度を済ませていく。
('A`)「今日も遅くなる。町の見回りもあるし、夕飯はおにぎりとかにしてくれ」
川 ゚ -゚)「ん、今日の弁当。それで夕飯はおにぎりだな。作っておく」
('A`)「わりぃな」
差し出された弁当を受け取る。
ドクオは散らばった靴を器用に履き直して戸を開けた。
('A`)「行ってくる」
川 ゚ -゚)「……ああ。いってらっしゃい」
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ドクオの仕事は午後十時を過ぎる頃には区切りがついた。
メシウマとレムナントを隔てる壁、今度その近くに新しい町ができるらしい。
町の名前はイッテヨシ。彼の仕事はその諸々の手伝い、というわけである。
('A`)「おつぁえーす」
\うーい/
適当な挨拶で職場を出て、ドクオはあの町への帰路につく。
二つの町は大きく離れていた。歩いて帰れば朝が来てしまう程だが、しかし帰宅に大した手間はかからない。
ドクオが内藤によって与えられた“性能”はほぼ万能。それを使えば瞬間移動など思いのままだ。
一瞬念じて目を閉じ、目を開ける。
すると、彼の目の前には自宅の戸があった。
('A`)(もう寝てっかな……)
町はすっかり眠りに落ちていた。どこの小屋も明かりを消し、明日の為に今日を終えている。
唯一、ドクオの帰りを待っているこの小屋だけが窓から光を漏らしていた。
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-
('A`)「……あ、ただいま」
川 ゚ -゚)「……ああ、おかえり」
素直クールは椅子に座ったままドクオを出迎えた。
彼女はかなりの早寝なのだが、どうやら本を読んでドクオを待っていたらしい。
家に上がったドクオはまず、空になった弁当箱を自分の手で洗い始めた。
家事全般を任せている手前、彼はこういう部分で彼女の手伝いをしていた。
('A`)「今日どーだった」
ドクオは弁当箱を洗いながら素直クールに話しかけた。
彼女もまた、本を読みながら彼の問いに答える。
川 ゚ -゚)「いつもどおりだ。おばちゃんの手伝いで畑をいじっていた」
('A`)「ふーん。ま、こっちも普段と大差ないな。
似たような建物を作るばかりだ。変化がない」
川 ゚ -゚)「お疲れさま。風呂はどうする」
('A`)「見回りの後だな」
この町では住民が交代で町の見回りをしている。
そして今日がその当番の日。今からざっと三時間ほど、ドクオは特に当てもなく町をブラつかねばならない。
洗い物を済ませると、ドクオは服の裾で大雑把に手を拭った。
川 ゚ -゚)「風呂、用意しておこうか?」
('A`)「いい。先に寝てろ」
そうか、と言って彼女は本を畳む。
川 ゚ -゚)「今日は一緒に寝たかったんだがな」
('A`)「……行ってくる」
ドクオはふたたび、外に出ていった。
.
-
彼らがこの町に来て、一ヶ月が経とうとしていた。
素直クールにも特に変わった様子はなく、平穏な生活が続いている。
( 'A`)「……」テクテク
見回りのため、町の中を歩く。
しかし十分も歩くと町の端っこに着いてしまった。
これをあと何十回も繰り返すんだと思うと、ドクオは少し気が滅入った。
だが今日は町外れの岩場に男が立っていた。
ドクオはその岩場に近付き、男の背中に話しかける。
('A`)「……特に何もないぞ」
( "ゞ)「まあ、そう言うなよ」
デルタ関ヶ原は振り返り、酒瓶をちらつかせて言った。
.
-
≪3≫
二人で適当な岩に腰を下ろす。
デルタはポケットから透明なグラスを取り出し、そこになみなみと酒を注いだ。
グラスには明らかにポケット内の糸くずが浮いていたが、ドクオは気にせずそれを受け取った。
( "ゞ)「こいつはイイ酒だ。ここらじゃあ飲めん」
ドクオは口元で一旦グラスを止め、その香りを軽く吸い込んだ。
( "ゞ)「どうだ」
('A`)「……まったく分からん。お前がイイって言うなら、まぁイイんだろう」
ドクオがひとくち酒を煽る。デルタも酒瓶に口をつけた。ラッパ飲みである。
アルコールの塊が、デルタの喉をごくんごくんと直下していく。
デルタはその感覚に至極満足気で、彼は息が続く限りたっぷり飲んでから酒瓶を口から離した。
('A`)「そっちの様子はどうだ」
( "ゞ)「変わらずだ。じぃ様達からの連絡は無い。
あの連中から一ヶ月も逃げるなんざ、内藤って奴はやり手だな……」
.
-
一ヶ月前。じぃは素直クールとの激闘(全略)に勝利し、彼女を再び最初に状態に戻していた。
そして全員一致のもと、彼女とドクオをこのレムナントの地に預けたのだ。
その後、じぃは阿部高和と忍者を連れて人工片鱗の生みの親・内藤を探す旅に出ていった。
それが具体的な解決に繋がるとは誰も思ってはいなかったが、とりあえず事の発端を潰しておくことにしたのだ。
ついでに案外ワクチンのようなものが見つかるかもしれないという目論見もあり、とにかくじぃ達は武神屋敷から姿を消していた。
最初の状態の素直クールならドクオを一緒にしておけば大事にはならない。
しかしいつまた彼女が破綻するかも分からないので、デルタが気まぐれに彼らの様子を確かめていた。
それも今日で四回目。ドクオいわく、彼らの生活は慎ましく穏やかであった。
('A`)「……今のところ、普通に暮らせてる。呆気ないほど何も起こっていない」
( "ゞ)「毎度のセリフだな。ま、それに越したことはねえけどよ……」
( 'A`)「……」
ドクオはグラスを覗き込んで口を閉ざした。
彼女との一ヶ月の生活で、内心に溜まった言葉は山ほどある。
しかし、それを口にするのはどうしても憚られた。
それらの言葉は、ドクオにとっては余りにも無責任なものだったからだ。
( "ゞ)「……」
( "ゞ)「……牙を抜かれたって感じだな」
ごくん、と塊で酒を飲み下す。デルタは多くを語らなかった。
.
-
( 'A`)「……彼女は今、落ち着いている」
( "ゞ)「ああ」
( 'A`)「……俺は正直、今でもあの女が暴走したという話が信じられない。
俺を、その……独占したがってたとか……」
レムナントの荒野。
夜は肌寒く、乾いた風がゆるやか壁の内側を巡っている。
循環し続ける空気の流れが、ドクオとデルタの体を静かに撫でていた。
('A`)「……この状況は、たぶん一時凌ぎだ。
いずれ確実に終わる。だが、今の彼女はこのままを望んでいる気がする……」
( "ゞ)「……ま、良いモンだよな、普通の生活はよ……」
酒瓶を置き、デルタは遠くの夜空を見つめて語った。
( "ゞ)「俺は戦うしかなかった。でなけりゃ心臓の病でお陀仏、死んでた。
遊びのひとつも知らねえし、静かな生活ってのがどういうものかも、よく分からねえ……」
( "ゞ)「……居心地が悪くねえんだったら、もうちょい続けてやれ」
( "ゞ)「始末はこっちでつけてやる。それまで気にせず、楽に隠居してりゃあいい……」
.
-
('A`)「……」
('A`)「……もう、終わったんだろうか……」
ぽつん、とドクオの言葉が孤立する。
('A`)「こんな生き方を、俺が選んでもいいんだろうか……」
('A`)「……俺は、彼女との生活を、幸福であると感じている……。
だけど、今の彼女は本当の彼女じゃあない」
('A`)「彼女は今でも自分自身から目を逸らしたまま、何も解決できていないんだ……」
('A`)「……それをどうにかしないまま、上手く利用して、俺は、幸せを得てもいいのか……?」
('A`)「……こんな道半ばで、俺は……」
('A`)「足を止めても、いいのだろうか……」
彼の言葉に答える者は居ない。
残されたのは酒瓶ひとつ。そこに余った酒を飲みきってから、ドクオは見回りに戻った。
.
-
.
-
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('A`)「……まだ起きてたのか」
川 ゚ -゚)「手が止まらなくてな。小説は、タナシンの力では作れない」
小屋の電気は消され、室内を照らすものは小さなオイルランプだけになっていた。
素直クールはドクオを見送った時と同じく、椅子に掛けて本を読んでいる。
_,
川 ゚ -゚)「……酒臭いぞ」
('A`)「町の爺さんが飲んでてな、ちっと飲んできた」
テーブルにはサランラップに包んだおにぎりが四つ置いてあった。
ドクオは椅子に座り、その中からひとつを掴み取る。
川 ゚ -゚)「あとで水も飲んでおけ。明日に響く」
('A`)「明日は休み。これ中身なんだ?」
ドクオはサランラップを剥きながら言い、答えが返ってくる前にかじりついた。
('A`)「シャケか。うまい」
川 ゚ -゚)「風呂は用意しておいた。入ってくるといい」
('A`)
('A`)「……だったらありがたく入らせてもらうが、やらなくていいと言っただろう」
川 ゚ -゚)「気が向いたからやっただけだ。文句あるまい」
.
-
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「……どうした」
ふと動きを止めたドクオを一瞥し、彼女は小説のページを捲った。
('A`)「……また、デルタに嘘をついてしまった……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……あと二ヶ月か」
('A`)「きっと、すぐに過ぎていくんだろうな……」
ドクオはおにぎりを食べきり、テーブルにうなだれた。
川 ゚ -゚)「……私の嘘に付き合う必要はないんだぞ。
次に彼が来たら言えばいい。それで済む」
('A`)「……俺は、作り物だ」
胸に手を当て、ドクオは呟く。
.
-
('A`)「内藤によって作られた人間の模造品。
俺は本来、とっくに死んでいる筈の出来損ないだ……」
('A`)「それをここまで保持出来たことすら奇跡だし、俺はもう十分に生きたと思う……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……あと二ヶ月だ、素直クール。
俺はあと二ヶ月だけ、お前の望みのままに生きる」
( 'A`)「今の生活は多分……未練、というものなんだろう。
未練がましいとも言っていい。お前だけじゃなく、俺も」
ドクオは俯き、嘲笑する。
('A`)「良かったよ。俺の人生に、俺以外の誰かが居てくれて。
それだけで救われた。幸せだった……」
川 ゚ -゚)「……今日はよく喋る」
本を閉じ、素直クールは席を立った。
川 ゚ -゚)「私も疲れた。先に寝る。風呂にはちゃんと入っておけよ」
('A`)「……今夜は冷える。俺の部屋で、寝ててもいい」
川 ゚ -゚)「……分かった」
.
-
――ドクオは、彼女を庇ってデルタに嘘をついていた。
「何も起こっていない」とドクオは語った。しかし、事はとうに起きていた。
ドクオと素直クールがこの町に来て数日後、それは実に呆気なく起こり、彼らの手によって隠蔽されていた。
しかし起こった事というのも単純で、人工片鱗の副作用に耐えきれず死んだドクオを、素直クールがtanasinnの片鱗で存命させたというだけの話。
これだけなら別に大した事ではない。むしろ武神屋敷でのコールドスリープを考えれば幾分上等とすら言える。
だが、ドクオはこれを秘密にした。
素直クールはデルタ達に打ち明けてしまうつもりだったが、ドクオ本人がそれを止めたのだ。
( 'A`)
ドクオが素直クールの顛末を知ったのは、この町に初めてデルタがやって来た三週間前の晩のことだった。
その時点で彼は自分が片鱗によって生かされていると素直クールから聞かされており、その事もデルタに話すつもりでいた。
.
-
ところがドクオは、彼女の身に起きたことを聞いているうちに、デルタに事実を語るのを躊躇した。
素直クールという人格は既に破綻し、もはや手を付けられないほどに擦り切れている。
それが事実なのは容易に理解できたし、自分の身に起こったような激しい副作用が彼女にだけ無いのはありえないと覚悟も出来ていた。
依存と独占欲。心の綻び、指向性を欠いた肉体。
永遠の走馬灯。素直クールが望んだものは、ただの停滞だけ。
本来なら叶うはずもないが、かといってtanasinnの力を利用してまで願うようなものではない矮小な願望。
何でもない日が毎日続けばいい。今の幸せな瞬間がずっと続けばいい。
穏やかに、静かに平和に生きていければいい……。
確かに彼女は間違っている。人工片鱗によって精神の箍を外された今、彼女はもはや独善の塊でしかない。
だが、それでも彼女の願いは純粋で正しかった。
途方もない戦いに巻き込まれながら、しかし自身の為にその力を振るわなかった人間。
その行く末が矛盾と破綻でしかなかったとしても、彼女の願いは人間として正しいとドクオは思ったのだ。
( 'A`)(結局、じぃ様の言った通りだった。
あのとき俺が妥協していれば、彼女の弱さを受け入れていれば……)
ついでに言えば、ドクオは理屈ではなく思ってしまったのだ。
彼女が望む永遠の停滞のなかに自分の居場所が用意されていることに、ほんの少し喜んでしまった。
一度は彼女の在り方を否定した自分を、それでもなお求めてくれることに安心してしまった。
人間ではない筈の自分に人間としての意味を与えようとする彼女を、ドクオはもう、強く拒めなくなっていた。
.
-
――それでも、素直クールは間違っている。
一時の迷いは、しかしドクオの考えを変えなかった。
ドクオは同情を同情だと切り捨て、間違いを間違いだと見限った。
彼女と共に永遠の停滞に縋るのは容易だ。しかし、それでは駄目だとドクオは思い切った。
作り物だからこそ、偽物の存在だからこそ、彼女の間違いを誰よりも真っ直ぐ正すことができる。
正しさの奴隷でなければ彼女を救う事はできない。
ドクオは彼女に用意された人間としての居場所を、彼女の為に捨てることを決意した。
三週間前の晩、デルタとの話を終えたドクオは小屋に帰って素直クールに本心を告げた。
お前は間違っている。だが、今の生活は正しいものだ。正しさの奴隷として、ドクオは淡々と語っていった。
だから俺は決めた。俺は三ヶ月だけ今の生活を続ける。
三ヶ月後、もし二人の願いが同じでなかったら、その時は、俺達の手で決着をつけよう。
ドクオと素直クールは間違いながら、しかし正しくあろうと三ヶ月の猶予を設けた。
ぶっちゃけ問題を先送りにしただけだし、二人もそれを自覚していた。
だが、二人にはもうこれしかなかった。
どちらも自分を曲げる事は出来ないと分かっていたし、例えどれだけ時が経とうと何も変わらないのは分かっていた。
それでも今の生活は正しく平和で何事もなく、二人とも今の生活が続けばいいとは思っている。
しかしドクオは彼女の間違いを正したかった。素直クールは彼とずっと一緒に居たかった。
そういうどうあっても噛み合わない在り方を共存させるには、もうこういう誤魔化し方をするしかなかった。
結論の先延ばしだけが彼らを繋ぎ止めていた。それを妥協と呼ぶのなら、彼らはきっと妥協を受け入れたのだ。
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――時系列は現在に戻る。
デルタ関ヶ原は語りを中断し、どでかい溜め息をブッ放した。
( "ゞ)「……まあなんつーか、奴らは俺に黙ってそういう事をしていた。
俺が気付いた時にはとっくに三ヶ月が経って、手遅れだった」
デルタは目を背け、嘘をついていた。
( "ゞ)「最後は言うまでもねえだろう。殺し合って、男の方が負けた。
だが女は男を失った悲しみに耐え切れなかった。自業自得だがな。
しばらくは例の町に一人で暮らしてたらしいが、それも長続きしなかったらしい」
( "ゞ)「……となれば代わりが欲しくなる。で、あいつにはそれを実現する手段があった。
あいつは当然のようにtanasinnの片鱗に頼り、そして――」
デルタはドクオを指差し、続きを言った。
( "ゞ)「――ドクオの顔と偽の記憶を植え付けた、お前という代替品を作った」
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第一話 「永遠の夜の最中で」
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≪1≫
('A`)「……」
とてつもなくブサイクな顔をした少年が一人。
名をドクオといい、彼はどうしようもない根暗クソ野郎だった。
ドクオは、 『レムナント』 という場所に住んでいた。
高く、分厚い壁に囲まれた荒野。省かれ者の集う場所。
行き場を失った者達が最後に辿りつく場所、それがレムナントだ。
そんなレムナントの片隅にある、小さな町。
ドクオの家はそこにあり、彼の居場所もまた、そこにあった。
.
-
11月18日(金)
ドクオが拠り所としていた素直クールとの生活は全て素直クールが捏造した偽物の記憶だった。
どれもこれも彼女が理想とした設定と空想に過ぎず、実際はただひたすらドクオという名前の肉人形を彼女が監禁しているだけのつまらない話だった。
ようやく念願叶って私だけのドクオを手にした素直クールはひたすら我欲を満たし続ける。
設定年齢は九歳。tanasinnで捏造した存在ではあったが、子供というのは実に取り扱いやすかった。
そこに物語性は無い。素直クールはあの小屋に一人閉じこもり、おばちゃんや町の人々からの呼び掛けにも答えず際限のない情欲を満たし続けた。
その生活は十年以上続いた。既にデルタは素直クールを見限っていたし、じぃ様達が彼女の前に現れる事も無かった。
彼女は永遠の停滞を手に入れていた。
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-
朝方、八百屋のおばちゃんが野菜を表に並べていた。
ドクオは小屋の陰に身を隠しながら、おばちゃんの様子を遠くから窺っている。
ドクオの作戦はこうだ。
おばちゃんが店の奥に引いた瞬間、野菜とお金を交換し、逃げる。
結果、誰とも遭遇せず野菜を獲得できるという寸法だった。
完璧な作戦だった。
(゜д゜@ 「あら、いらっしゃい」
(;'A`)「エッ・・・」
普通に見つかったので、ドクオは俯きながらおばちゃんの前へ行った。
.
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(゜д゜@ 「いやぁ、あいかわらず湿ったハンペンみたいな顔だねぇ」
(;'A`)「オ・・・オハ、オス・・・」
湿ったハンペン顔の根暗クソ野郎は吃った声で挨拶を済ませると、急いで欲しい物を手に取った。
キャベツ、たまねぎ、オヤツに食べるリンゴなど、今日一日分の食材を次々と選ぶ。
(;'A`)(あれ・・・トマトが無い。無いぞ・・・)
(゜д゜@ 「ん? どうかしたかい?」
(;'A`)「ウェス! アノ・・・トマッ・・・」
(゜д゜;@ 「……?」
(;'A`)「トマ・・・トマッ・・・」
('A`)
('A`)「トメェイトゥ」
(゜д゜@ 「yeah」
素晴らしい英会話だった。
かくしてドクオは食材を手に入れ、自分の家へと帰っていった。
.
-
11月18日(金)
しかし彼女の停滞は長くは続かなかった。永遠というには短すぎる、たった三十年の停滞にも終わりが来た。
素直クールは直ってしまったのだ。ドクオという存在を思う存分に使い潰した結果、彼女は本来の自分を取り戻してしまった。
その日の朝は絶望的だった。自分がした事を何もかも覚えている。何を願い、何を裏切り、何を成したのか全て。
ドクオと過ごした最後の三ヶ月。その思い出の場所だった小屋は心身を劈くような臭いに満ちていた。そういうものが染み付いていた。
それを嫌だとも思わない正気の自分が、彼女はもう気持ち悪くて仕方がなかった。
.
-
この町は、とてもとても小さな町である。
レムナントにある他の地域と比べても、この町の生活水準はかなり低い部類に入る。
電子機器の類も十分には無く、立派な家など一つも建っていない。
だが、これらの不自由を意にも介さないほど、この町には“情”というものが溢れていた。
事実、湿ったハンペン顔であり、さらには日常会話もロクに出来ない根暗クソ野郎が、今日もこうして雑草のように生きている。
町は平和だった。争いの種も無く、ましてやその芽が出る兆しも無い。
情があり、明日がある。この町は確かに貧しかったが、そういうものに満ちていた。
しかし、ドクオにはこの平和が堪らなく もどかしかった。
平和とは“間”である。そして“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望んでいるのだった。
.
-
この町に建っている建物は、どれも一朝一夕で建てたような掘っ立て小屋ばかりだった。
町には似た風貌の小屋が十列ほど並んでおり、それぞれ店にしたり自宅にしたり、自由に活用している。
ただしレムナントの土地は全体的に荒地なので、ぶっちゃけ住み心地は悪かった。
ドクオの家もそんな掘っ立て小屋の一つで、彼の家は、町から少し離れたところにポツンと建っていた。
彼には素直クールしか居ない。いつからそうだったか誰も知らないが、少なくとも、ドクオはずっと彼女と二人で生きている。
気がつけばこの町に来ており、気がつけば町外れの小屋に閉じ込められていた。ドクオはそんな一生を自分の末路として疑いなく受け入れていた。
('A`)(トメェイトゥ……)
('A`)(……恥ずかしい……死にたい……)
小屋に着いたドクオは野菜を片付けると、悶々としたままベッドに転がった。
見上げると、雨の日には全力で雨水を迎え入れるガバガバの天井が、青空を覗かせていた。
('A`)(ただでさえ死にたいのにトメェイトゥって……もう死のう……)
( 'A`)(首吊り用のロープは……)
そのロープは今、外で洗濯物を吊るしていた。
('A`)(練炭は……)
ご飯を炊いていた。
('A`)(詰んだ……死のう……)
( 'A`)(あ、でも死ぬ為の道具が……)
('A`)
('A`)(やっぱ詰んだ……)
.
-
ガバガバの天井を見上げながら、ドクオは当てもなく言う。
('A`)「うわぁ〜〜〜死にてぇ〜〜〜〜〜」
「死ぬぅぅぅぅ〜〜〜」
('A`)「いいな〜〜〜」
('A`)
(;'A`)「――ん!?」
ドクオは咄嗟に体を起こし、天井から青空を見上げた。
,_
('A`)「……あれは……」
.
-
川;゚ -゚)「――――ああぁぁぁああああぁぁああぁぁあぁぁぁ!!」
空から女が落ちてくる。
ドクオはそれを避ける間もなく、マヌケな断末魔を残して死んだ。
('A`)「うわっ」
次の瞬間、ドクオの小屋は粉々に砕け散った。
.
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11月18日(金)
もう終わろう。彼女は思った。ドクオとの出会いをやり直し、せめて彼を人間としてこの世に送り出そう。
その為に余りの命を使おう。無理をしよう。彼の為の犠牲になろう。私はもう十分に生かされた。
彼女は彼との出会いを捏造し、以降ドクオが九歳から十四歳になるまでの五年間を平凡に過ごした。
そうしたある日、ふたたび精神の破綻を予期した彼女は荒巻スカルチノフに自身を売り渡した。
そうしなければ同じ事が起こると分かっていた。素直クールは、やはりもう手遅れだった。
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平和とは“間”である。そして、“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望み、素直クールに出会った。
今のドクオには、胸にぽっかり開いた穴がなにかに塞がれたような感覚があった。
これまで抱えていた濁った感情が、胸の内で青く澄みきったような――
――ドクオは、これ以上のことを考えなかった。
なぜなら、それが偽物の記憶であると分かってしまうから。
“あの日の出来事を理解したくない”
“いつまでもあの日を忘れたくない”
この二つの願いが、ドクオの思考を緩やかに停滞させていた。
理解とは忘却の入り口である。
ドクオはそれを知っていた。
だからこそ、彼は理解しないことで忘却を拒んだのだ。
もちろんこの世界に永遠は無い。だが、あの日を理解しないことで永遠の思い出にすることはできる。
それはまるで箱に閉じ込めたネコのように、誰にも理解されず、触られず、孤独と引き換えに小さな永遠を手に入れるような――
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( 'A`)(“間”は終わった……じゃあ今は、何だ?)
トラックの助手席で、ドクオは思考を巡らせた。
荒野を走るトラックは揺れが大きかったが、彼はそんな事は気にせず考え続けた。
( 'A`)(……)
('A`)「……わっかんねー」
<_フ"ー゚)フ「なにが」
('A`)「バッカお前、ただの独り言だよ」
<_フ"ー゚)フ「あっそ。じゃあしりとりやろうぜ」
<_フ"ー゚)フ「まずは俺からな。トンボ!」
('A`)「……なぁ」
<_フ"ー゚)フ「あ? お前しりとりも出来ねーのかよ」
('A`)「永遠に続くしりとりって、あると思うか」
<_;フ"ー゚)フ「永遠に……? いきなり何言ってんだお前」
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エクストは苦笑いでドクオの顔を覗き見た。
('A`)「……」
憂いを帯びたその顔は、五年前の頃のドクオを想起させた。
あの頃、ドクオは人間らしさというものを一切持ち合わせていなかった。
それをエクストとおばちゃんで一から育て上げ、ようやくここまで持ち直したのだ。
エクストは、真剣に言葉を考える。
<_フ"ー゚)フ「あー……まぁ、あんじゃね?
つーか永遠って、そんなにしりとりやったら飽きるぜ?」
<_フ"ー゚)フ「それによ、自分の永遠なんてのに付き合ってくれる奴はそう居ないと思うぜ、俺はな」
正しさの後には間違いが続く。
人間は終わらないしりとりを延々と繰り返している。
( 'A`)「……そうかよ、ボンクラ」
<_フ"ー゚)フ「はっはっは――」
<_#フ"д゚)フ「――ってなんだとオラァ! マジで答えてやったのに、ボンクラはねーだろ!」
(#'A`)「アァ!? うっせーしりとりだよバーカ! さっさと次言えよ、ラだぞ!」
<_#フ"ー゚)フ「ああそうかい、じゃあ言ってやるよ! ラーメン!」
('A`)「……ラーメ」
(*'∀`)「ン!?」
('A`)「ラーメン!」ドンッ!
(#'∀`)「バァァァァァァァカ!!」
<_#フ"Д゚)フ「ンだこらジョートーだテメー! 表出ろやァ!!」
(#'A`)「ああ出てやるよ!! 今度こそ白黒つけてやる!!」
こうして二人は今日の仕事に大遅刻し、しかも喧嘩で怪我をするというバカを仕出かしたのだった。
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Fight with Their Solitude
https://www.youtube.com/watch?v=Qltn08sWB0k
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≪4≫
( "ゞ)「……お前という存在は、そもそも根本的に間違っている。
そもそもお前は実在しない。お前は誰でもない」
( "ゞ)「お前はあれが望んだ着せ替え人形でしかない。
秘密にしてて悪かったな。これで全部だ」
('A`)
<_プ-゚)フ「……」
('A`)
('A`)「……なんつーか、あれだな……」
川 - )
ドクオは、胸に抱き抱えている素直クールの顔を見下ろした。
穏やかな寝顔に陰はない。
このまま、このまま二人で昔に戻れれば、俺達はどれだけ幸せなのだろう……。
('A`)「……まあ、長ったらしく聞いたけど……」
('A`)「結局、答えは変わらねえか……」
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('A`)「…………どこから嘘で、どこまで嘘か。
多分、前の俺ならその辺を気にしたんだろうな」
('A`)「……どっちでもいい。俺は確かにあの夜、あの瞬間に救われた」
('A`)「救われちまったんだよ。嘘でもなんでも。
俺は今でもどうしても、あの夜を信じきったままでいる……」
('A`)「……俺もこいつを否定できねえよ。
だってよ、俺が出した答えは “正しさを踏み躙ってでもこいつを自分の物にする” なんだ」
('A`)「正しさで救えないと分かった時から、もう……間違える覚悟はできていた。
俺はその道を歩き始めた。取り返しはつかないし、取り戻すつもりもない」
ドクオは失った右腕を一瞥した。
( "ゞ)「……素直クールがしたように、今度はお前がそいつを求めるってか……」
デルタはいよいよ痺れを切らし、もう好きにしろとでも言いたげに大地に寝転がった。
('A`)「……やっぱ駄目ですかね」
( "ゞ)「……いんや、別に。前のドクオは正しさで救おうとした。
それを今度は間違いでって事だろ。それもありなんじゃねえの……しらね……」
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( `ハ´)「……」
('A`)「……なぁアンタ。あの娘とエクストを頼んでもいいか」
ミセ;゚ー゚)リ チラチラ
少し離れたところからこちらの様子を見ているミセリ。
ドクオは彼女の方を向き、軽く手を振って見せた。
( `ハ´)「……それは構わんが、その前に」
もはや完全に空気だったシナーは、同じく完全に空気だったミルナ(気絶中)を指差した。
( `ハ´)「あれの始末はどうする。貴様の許可、まだ貰っておらん」
(;'A`)「……あー……」
( "ゞ)「もういいよ、シラけたよ。そいつもう放っとけよ」
地面に大の字で寝転ぶデルタ関ヶ原。やばいくらいやる気を失っていた。
( `ハ´)「そうはいかん。貴様ら身内の云々はともかく、こいつの始末は後回しにはできん」
( "ゞ)「だったら戦力に加えようぜ。雑魚だけど。
なんかいま顔付きって連中が来てんだよ。
こいつ、そいつらと顔見知りだから良い餌になると思うぜ」
( `ハ´)「……」
( "ゞ)「しらねえけどさァ、俺らが居てもいいとこ互角って敵らしいんだわ。
マジならこんなの殺してるより断然スリリングだぜ、どうよ……」
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(;'A`)「……あの」
(;'A`)「……出来れば、生かしてほしい。
こいつと決着をつけたいのは俺も同じなんだ。
出来れば、俺を先にしてほしい……」
( `ハ´)「……だが、この男が我らの弟子を殺した事実は消えん。
貴様が決着をつけるのなら、その戦い、必ず私に見届けさせろ」
(;'A`)「……ありがとうございます。約束します」
ドクオは深々と頭を下げた。
その後、素直クールを抱えたまま立ち上がり、ドクオは次にミルナの元に向かった。
(; д )「……」
('A`)「……」
('A`)「……気絶したフリか? 俺より上手いな……」
(; д )「……全部バレてると思うと恥ずかしくてな。
それに、本当に動けん。武神連中は化け物だぞ……」
(;'A`)「……ちゃんとtanasinnで治しておけよな」
(; д゚ )「……そこまで上手く扱えん。
お前のが、tanasinnに好かれているらしい」
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('A`)「……なんか顔付きって奴らが来てるんだってさ。
お前はそっちが本命なんだろ?」
( 'A`)「……だったら全力、出せねぇとな……」
ドクオはそう言い、しゃがんでミルナの手を握り締めた。
途端その手に淡い光がともる。光は徐々にミルナの方に移っていった。
それは、ミルナがドクオに能力を分け与えた時と同じ現象だった。
(; д゚ )「……能力無しでどうするつもりだ。
そいつと決着つけたいんだろ」
('A`)「……もういいんだ。なんか、腹ァ括ったよ。
俺はどうやったって無能なんだ。今更だけどさ」
('A`)「……それに薄々感じてたんだ。
どれだけ強くても、この先どれだけ俺が強くなっても、それじゃ多分、こいつを救えない……」
('A`)「……俺はさ、強くなれば助けられると思ってたんだ。でも違った。
俺が求めていたような強さは無意味だった。本当に粗大ゴミだった……」
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(; д- )「……人のチカラを使っておいて、よくもぬけぬけと……」
('A`)「……俺は俺で終わらせてくる。
だから、お前もお前で頑張れよな」
ミルナは痛みに耐えながら、ドクオの目を見て小言を呟いた。
(; д゚ )「結局てめえ、最後の最後まで腹立たしいほど他人事だな……」
('A`)「……俺らの決着は最後だ。右腕の借りも返す。それまで絶対に死ぬな」
(; д゚ )
(; д- )「……もう行け。俺も回復に集中する」
('A`)「……」
('A`)「……またな、撃鉄の」
(; д- )「お前もな、撃鉄のドクオ……」
ドクオは、ミルナのもとを去っていった。
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('A`)「――エクスト、俺はこいつと一緒に人気のないとこに行く。
そこで決着をつけてくる。多分、大きな戦いになるからな……」
<_プ-゚)フ「……」
('A`)「俺はもう、全力でtanasinnに頼ってこいつをどうにかする。
とにかくなんとかしてくる。多分、顔付きとの戦闘に加わった方がいいんだけどな……」
<_プ-゚)フ「……そりゃあそうだな。
お前、最大の敵を前にして自分一人の戦いをしに行くんだぞ」
(;'A`)「……我ながら、とんでもない馬鹿だな」
<_プー゚)フ「言えてるぜ……」
<_プー゚)フ「……なあ、結論を負う覚悟はできたのか?」
('A`)「……ああ。大丈夫だ」
<_プー゚)フ「……ならもう言うことなんかねえ。
これ以上カッコ悪い思いさせんな、行けよ……」
('A`)「……」
('A`)「……あれだ、お前が居なけりゃ、俺は俺じゃなかった。
言いたかねえけどよ、お前は良い兄貴分だったと思うぜ」
<_プー゚)フ
<_フー )フ「……ったく、おっせえよなあ……」
エクストは一瞬顔をそむけてから、ドクオの足に掴みかかって言った。
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<_;プー゚)フ「……だったら片鱗、一個よこせ」
('A`)
(;'A`)「……ハ? いきなり、どうしてそうなった?」
<_;プД゚)フ「両脚ねえんだよ! お前に消し飛ばされて!
片鱗がありゃどうにかできんだろ!? だからよこせ!」
(;'A`)「え、えぇ〜……」
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はてやみ
('A`)「できる?」
.λ__λ
(∮∀∮)「もう好きにしてくれ」
━
コロン
<_;プー゚)フ「――おっこれか? tanasinnの片鱗ってのは!」
いきなり地面を転がってきた黒い石ころを拾って、エクストは眉を上げた。
(;'A`)「あんま変なこと願うなよ」
<_;プー゚)フ「……顔付き全滅とか?」
(;'A`)「……それが出来たら楽なんだろうなぁ」
<_;プー゚)フ「……だよな。まあ俺もなんとか戦ってくるわ。
完全アウトの悪いパワーに頼ってな」
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ミセ;゚ー゚)リ「――あ、あの」
呼び掛けられて振り返る。
いつの間にか、ドクオの後ろにはミセリがやって来ていた。
('A`)「おお、わりぃけど向こうの爺さん達についてってくれ。
俺はちょっと別の用事が出来てな、しばらく戻れない」
ミセ;゚ー゚)リ「……その人が、素直クールさんですか?」
('A`)「おう、そうだ」
ミセ;゚ー゚)リ「……あの、いきなりこんな事を言うのも、ほんと失礼だと思うんですけど。
でも、その……怒らないで聞いてください……」
ミセ;゚ー゚)リ「……その人より、私のが良い女だと思います……!」
('A`)
( "ゞ)「おっ修羅場か?」 ガバッ
颯爽とデルタが飛び起きた。
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