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('A`)は撃鉄のようです
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__ ,、
く_;:::ハ /::ヘ
(_厂 ヒコ
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('A`)「……一日くれ。考える時間が欲しい。
それに、先に済ませたい事もある」
/ ,' 3 「……分かった。一日だけ待とう。
一日だけ、我々は行動を自粛する。二人もそれでいいな?」
マニーと佐藤にそれぞれ同意を求めると、彼らは軽く頷いて答えた。
('A`)「あと誰でもいいけど車貸してくんねえかな。
遠くに用があるんだ。徒歩じゃ時間が掛かる」
「送迎なら私が手配する。監視の意味も含んでしまうが」
('A`)「いいよ。逃げ隠れしても意味ねえし」
ミセ*;゚ー゚)リ「あ、あの」
方針が決まってさっさと話が進む中、ミセリは弱々しく挙手して言った。
ミセ*;゚ー゚)リ「わ、私はどうすれば……」
('A`)「……一緒に来る?」
ミセ*;゚ー゚)リ「……そうします。邪魔でしょうけど……」
その後、ドクオとミセリは佐藤に用意された車に乗り込み、クソワロタの街をあとにした。
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≪2≫
<_プー゚)フ「……暇だ」
エクストは、暇を持て余していた。
おばちゃんから引き継いだ八百屋を営んではいるが、客は完全に絶滅している。
町の人間がエクストの他に誰も居ない以上、それは当然の事でもあった。
町に人が居ない理由は単純だった。
住民達のメシウマ側への移住――それを交換条件にして、かつてエクストはこの町を出たのだから。
<_プー゚)フ「散歩でもするかぁ……?」
しかし町の中は既に何十週もして飽きてしまった。
町を出てもひたすら荒野。エクストは溜め息をこぼし、快晴の空を見上げる。
<_プー゚)フ「……暇にも程がある……」
一人になって、独り言が増えた。
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('A`)「……なんだよ、平気そうだな」
<_プー゚)フ「まあなー」
呑気な声を聞き、エクストは空に向けていた視線をゆっくりと下ろした。
<_プー゚)フ「……いらっしゃい。悪いがなんもねえぞ」
('A`)「八百屋の体裁くらい保っとけ。おばちゃんに怒られんぞ」
<_プー゚)フ「俺の店だ。勝手にしていいって言われてる」
('A`)「……じゃあまあ、いいけどさ」
思ってもいない軽口を飛ばしあい、二人は薄っぺらい笑みを作った。
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('A`)「……足はそのまんまか」
<_プー゚)フ「……お前こそ、右腕はどうした?」
('A`)「……ツケを払った」
<_プー゚)フ「……俺と一緒か。まあ、中に入れよ。
暇すぎて気が狂いそうだったんだ」
エクストは車椅子を反転させ、ドクオとミセリを手招いた。
<_プー゚)フ「そっちのヤツも遠慮しなくていいからな。
お前、ドクオの女だろ?」
ミセ*;゚ー゚)リ「違います。付き添いです」
('A`)「エクスト、あとで説明するから適当に喋んな」
<_プー゚)フ「……お前って訳有りが好きなのか?」
('A`)「……」
<_プー゚)フ「……何でもねえ。とにかく入れ、暑いだろ」
ぬるいぎこちなさを残したまま、エクストは早々に奥に引っ込んでいった。
逃げるというより、なにかを急いでいるような様子だった。
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ミセ*;゚ー゚)リ「……お友達ですか?」
ふと、ミセリがドクオの顔を覗き込んで言う。
気まずい雰囲気を少しでも和らげようと、精一杯の笑みを作りながら。
('A`)「……昔のな。エクストって名前。ここで一緒に育ったんだ。
まあ、そんで最近、色々あってな」
色々、という言葉は誤魔化しだった。
ミセリはそれを察し、曖昧な相槌をして押し黙った。
('A`)「……悪い奴じゃないから安心してくれ。
ただまあ、お前は居心地が悪いかもな」
ミセ*;゚ー゚)リ「そんな、別に」
('A`)「車で待ってろよ。あっちのが快適だぜ」
ミセ*゚ー゚)リ「……嫌です。一番近くに居ます」
( 'A`)「……分かった」
ドクオは不意に歩き出し、ミセリを置いていくような早足で屋内に入った。
ミセ*;゚ー゚)リ「あ、ちょっと待って!」
ミセリは、せわしない足取りで彼の後を追いかけた。
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見覚えのある畳の部屋に入り、ドクオは座布団に腰を下ろした。
ミセリも座布団を用意し、彼の背中に隠れるように座り込んだ。
<_プー゚)フ「言っとくけどマジでなんもねえぞ。
用があんならさっさと済ませようぜ」
エクストは車椅子から自力で降りると、ほふくして座椅子の上に移動した。
その座椅子は、両脚を失った彼の為にデミタスが送りつけたものだった。
車椅子も同様の理由でデミタスが用意した。
組織として最低限の補償をする義務がある、というデミタスの言い分から、エクストは渋々これらを受け取っていた。
座椅子の肘掛で体を支え、エクストはドクオに向き合った。
<_プー゚)フ「水道がイカレ始めてな、水もちょっと濁ってる」
('A`)「……風呂とかどうしてんだ」
<_プー゚)フ「ちゃんと入ってるよ。清潔な水で毎日な。
多少やりにくいが、日常生活は以前よろしく送れてる」
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<_プー゚)フ「……なあ、なんで来た」
エクストはうつむき、脚の付け根を力強く撫でつけた。
彼の脚は太ももすら残っていない。その現実を重々認識しながら、幻肢の感覚を抑え込む。
<_プー゚)フ「……いや、なんでじゃねえか。
理由なんざいくらでもあるわな。まあ、理由はいい」
<_プー゚)フ「……そっちの子、名前は?」
エクストは顔を上げてミセリに言った。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ミセリって言います。言うらしいです」
<_プー゚)フ「らしい、ってのは?」
ミセ*゚ー゚)リ「なんでも記憶喪失らしくて。あんまり自分を分かってないんです」
<_;プー゚)フ「……それがなんでコイツと?」
ミセ*゚ー゚)リ「助けられたんです。私、殺されかけてて、そこにドクオさんが」
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<_;プー゚)フ「……それでお前も右腕やられたのか」
('A`)「……すげー強いヤツだったんだ。
これだけで済んでよかったと思ってるレベル」
薄弱な笑みを見せ、ドクオは自身の右腕に目を向けた。
今はただ空っぽの袖がはためくだけで、そこに血肉は無い。
('A`)「……なんかさ。夢を見たんだよ」
<_プー゚)フ「……悪い夢か?」
('A`)「素直クールが出てきた。そういう夢」
ミセ*゚ー゚)リ「……えっと、誰ですか? その人」
ミセリが二人の顔をキョロキョロ見回しながら尋ねる。
<_プー゚)フ「こいつの恋人。年上で綺麗な人だったぞ」
('A`)「恋人じゃない。適当に言うな」
<_プー゚)フ「曖昧よりはマシだろ?」
('A`)「……まあ、そうだけど」
ミセ*;゚ー゚)リ(……お、女絡みでなんかあった感じがする!)
女の感が冴え渡る。
ミセ*;゚ー゚)リ(これ絶対ついてきちゃ駄目なやつだった!)
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ミセ*;゚ー゚)リ(ど、どうしたものか……。
居るって言った手前、とても帰りにくい……)
ミセリの葛藤をよそに、ドクオが話の続きを切り出した。
('A`)「夢の中で言われたんだ。お前に会え、本当のことを聞けって」
('A`)「……何のことだか分からないし、ただの夢だけど、心当たりはあるか?」
<_プー゚)フ「……それを聞く為に、来たんだな?」
('A`)「……ああ」
<_プー゚)フ「……なら、分かった」
とたん、エクストは薄弱な溜め息を漏らした。
肘掛を不安そうに握り締め、しばらくの間、単調な呼吸を繰り返す。
それを終え、エクストは口を開いた。
<_プー゚)フ「……分かった。多分、あの事だ」
<_プー゚)フ「その夢、きっと本当だぜ。
お前が俺達の嘘に気付くなんて、絶対にありえないからな」
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('A`)「……話があるなら聞かせてくれ」
<_プー゚)フ「分かってる。当然そのつもりだ」
淡々と、作られた笑顔の口で言う。
本心を追いやって人と話すことは、デミタスから重々教え込まれた。
<_プー゚)フ「……お前さ、自分の生まれとか、知らないだろ」
<_プー゚)フ「どういう所で生まれて、育って、ここに来たか」
('A`)「……それは……」
今まで、そんなこと興味すら湧かなかった。
ドクオは呆気にとられてしまい、エクストの問いに答えられなかった。
<_プー゚)フ「……俺がそれを聞いたのは、デミタスさんがここに来たその日だ。
クールさんが、俺と町の人達にそれを話した」
<_プー゚)フ「……俺はこの話を聞かせたくない。
でも、それは俺の身勝手だ。だから、そのままをお前に伝える――」
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第二十七話 「悪性萌芽 その1」
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≪3≫
何十年も前の話だ。
素直クールは追手から逃げていた。
荒巻スカルチノフ、そして『顔付き』という集団。
絶え間なく、それこそ寝る間も削ってひたすら逃げ続ける毎日。
利用価値があるが故に、彼女はそんな日常を強制されていた。
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ある日、彼女はとある第三者に出会った。
素直クールは、その第三者を仮に 『内藤』 と呼んでいた。
内藤はとびきり強い能力者、ではなかった。
かわりに彼の超能力は逃避、隠蔽、偽装に長けており、なにより彼の頭脳は世界随一と言えるほど優秀であった。
藁にもすがる思いで内藤の力に頼ると、内藤はすぐさま行動に移った。
そして実に呆気なく、彼女は荒巻スカルチノフと 『顔付き』 の追跡から解放されたのだ。
その後、素直クールは彼に匿われる対価として、内藤の研究に手を貸すことになった。
この話は、素直クールが彼の実験を初めて見たところから始まるのだった。
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( ^ω^)「――僕もね、タナシンとやらには興味があったんだ」
内藤の研究施設。
三層で出来たこの施設は、観光客で賑わうホテル街の地下深くに位置していた。
多くの雑踏が彼らの頭上を闊歩している。
彼の研究室は小奇麗だった。
資料はちゃんとファイリングされており、無数にある電子機器の配線も事細かに整列している。
机や椅子の脚、花柄の壁紙、フローリングの溝すら清潔を極めていた。
( ^ω^)「存在そのものは知っていたが、とてもじゃないが関わりにいけなかった。
僕みたいな弱い人間が不用意に関わったら、殺されちゃうからね」
( ^ω^)「しかし、キミが来てくれた。これは利害の一致だよ」
( ^ω^)「キミは彼らから逃げて安全に暮らしたい。それは僕が提供する」
( ^ω^)「僕はタナシンについて深く知りたい。それは、キミが提供する」
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川 ゚ -゚)「……それは構わないが、具体的に何をすればいい」
川 ゚ -゚)「片鱗ならばいくらでも作れるが、それでいいか?」
( ^ω^)「いくらでも、か。それはいい。
研究材料には事欠かない。存外、費用は安く済むかな」
我ながら凄いことを言った、という素直クールの自負は、内藤の素っ気無い反応で水に流された。
tanasinnの片鱗を無数に作れる事の重大さを知っているだろうに、内藤は表情を大きく変えなかった。
川 ゚ -゚)「……それで、片鱗を研究するのか? 自分で使わずにか?」
( ^ω^)「そうだよ。僕はね、分からないものを使いたくないんだ」
( ^ω^)「分からないって、怖いだろう? だから理解したいんだ。
制御できない力なんて、本当に怖いよ」
( ^ω^)「僕の研究スタンスはひとつ。
分からないものを、分かるまで研究する」
( ^ω^)「そうだ! キミにも研究のひとつを見せよう」
( ^ω^)「僕にとって一番大事な研究だよ。
十歳の時、家族で実験して以来、続けている研究なんだ」
内藤は素直クールを引きつれ、足早に研究室を出た。
細長い廊下を進み、階段を下って階下に移る。
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( ^ω^)「さてと」
階段の先には広い空間があった。
ここは研究施設の三層目、主に実験施設として機能している。
内藤は壁一面を埋めている多数のモニターを一斉に起動させ、モニター前の椅子を引いた。
( ^ω^)「キミはここで座って見ていてくれ。
僕は中で実験作業をしてくるから」
内藤はそう言ってドアを指差し、そこに向かって歩き出した。
( ^ω^)「好きに操作してね。感覚的に分かるようにできてる」
言い残し、内藤はドアの向こうに消えた。
川 ゚ -゚)「……」
素直クールは椅子に座り、モニターを一望した。
その内の一つに内藤の姿が映ったので、彼女はとりあえず、彼の姿を目で追っていくことにした。
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( ^ω^)「簡単に言うと僕は人間を研究してるんだ。
ぶっちゃけこの世の何よりも人間が分からないからね」
内藤はモニターされているカメラに向けて声を放った。
( ^ω^)v「まあ見てて。この実験、人に見せるのも初めてなんだ。
だから後で感想が聞きたいんだ。よろしくね」
ブイサインの後、内藤はいよいよ実験室に足を踏み入れた。
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――実験室の構造はシンプルだった。
長い通路に、横一列の五十個ほどのドア。
ドアの数だけ部屋があるとすればかなり大掛かりな構造だが、言ってしまえば部屋が多いだけの空間。
( ^ω^)「今、この部屋には女の子が入ってる。子供だ」
内藤はしばらく歩き、まず最初に、左端のドアの前に立った。
( ^ω^)「作業は簡単だよ。部屋から彼女を出して、一個隣の部屋に移す」
( ^ω^)「そして隣の部屋の掃除を彼女にしてもらう。それだけさ」
( ^ω^)「これを部屋の数だけ繰り返す。それじゃあ始めるね」
ドアを軽くノックすると、程なくして部屋から女の子が顔を出した。
少女は晴れ晴れしい笑顔を内藤に見せ、ぴょんと跳ねて内藤に抱きついた。
从'ー'从「おじさん、元気だった!?」
( ^ω^)「ははは。元気だよ。キミほどじゃないけどね」
内藤は彼女の頭を撫で、同じように笑顔を作った。
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从'ー'从「今日はどうしたの? ご飯はまだだよね?」
( ^ω^)「渡辺ちゃん。ここのルールは、覚えてるかな」
从'ー'从「……あ、部屋替えだっけ? するの?」
( ^ω^)「新しく来た子をこの部屋に住まわせたいんだ。
ここは一番住み心地がいいからね、心を休ませるにはこの部屋が一番なんだ」
内藤が言うと、渡辺と呼ばれた少女は苦い表情になった。
从'ー'从「わたし、ここから出たくない〜……」
( ^ω^)「はは、あんまりワガママを言ってはいけないよ。
僕は確かにキミを助けたけど、キミ以外の子も助けなきゃいけないんだ」
( ^ω^)「大丈夫さ。ちょっと狭くなるけど、隣の部屋もここと大差ないからね」
从'ー'从「……分かったぁ」
渡辺は渋々承知し、内藤に手を引かれて通路に出た。
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( ^ω^)「ありがとう」
( ^ω^)「それじゃあ、隣の子にも部屋を移ってもらわなきゃね」
从'ー'从「え、そうなの?」
( ^ω^)「みんなに一部屋ずつ、隣に移ってもらうんだ。
大丈夫。新入りの子のためだから、みんな分かってくれるんだ」
从'ー'从「へぇ〜」
内藤は隣の部屋をノックした。
出てきた少女に部屋替えすることを伝え、渡辺を室内に押し入れる。
从'ー'从「それじゃあまたね! ないとーさん!」
( ^ω^)「ははは。元気でね」
( ^ω^)「……それじゃあ、隣の部屋に行こうか」
( ^ω^)「大丈夫だよ。ちょっと狭くなるけど、この部屋と大差ないからね」
内藤は次の少女を引き連れ、また隣の部屋に。
そして次の子を連れ、隣に。
内藤は、それをひたすら繰り返した。
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⌒*リ´・-・リ「……あ、あの」
不安そうに声を出したのは、30番目の少女だった。
31番目の部屋の前で、彼女は内藤の手を握りしめて内藤を見上げた。
( ^ω^)「どうしたんだい、リリちゃん」
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⌒*リ´・-・リ「わたし、この部屋いやです……」
( ^ω^)
( ^ω^)「おやおや、それは、それは……」
内藤はたっぷり頬を弛ませ、床に片膝をついてリリに向き合った。
( ^ω^)「どうしてだい? お願いには、理由が無いと」
⌒*リ´・-・リ「この部屋、いつも変な音が聞こえてきてて……」
⌒*リ´・-・リ「……それに、またちょっと狭くなるんでしょ?」
( ^ω^)
( ^ω^)「大丈夫だよ。さっきの部屋と大差ないからね」
⌒*リ´・-・リ「……内藤さん、わたし、前の部屋がいい」
( ^ω^)「……どうしてだい?」
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⌒*リ´・-・リ「……」
( ^ω^)「……理由がないなら、それは聞けないなぁ」
内藤はリリの制止を払ってドアをノックし、中の子供を呼び出した。
そうして出てきた少女は、手に赤の色鉛筆を持っていた。
(*゚∀゚)「……なあに」
( ^ω^)「さあ、部屋替えの時間だよ」
( ^ω^)「つーちゃん。隣の部屋に行ってくれるかな」
( ^ω^)「安心してね。ちょっと狭くなるけど――」
内藤の言葉を無視し、つーちゃんが颯爽と部屋を飛び出した。
⌒*リ;´・-・リ「キャッ」
つーちゃんはリリを押し倒して馬乗りになり、手にある色鉛筆を高々と振り上げる。
( ^ω^)「こらこら」
内藤が笑って止めに入った瞬間、つーちゃんの色鉛筆がリリの右目に突き刺さった。
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⌒*リ;´ - リ「やめッ……いた、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!」
(*゚∀゚)「へへへバーカ! テメーまだ分かってねえのかよ!」ゲシゲシ
つーちゃんは立ち上がってリリを数回蹴りつけ、そのまま逃げるように室内に戻っていった。
残されたのは、血交じりの嗚咽と聞き苦しい泣き声だ。
( ^ω^)「……立てる?」
しかし、内藤は平然と彼女に尋ねる。
ただ転んだだけだろう、とでも言いたげな冷たさを含んで。
⌒*リ´ - リ「エ゙ホッ、ないとう、さん……」
( ^ω^)「さあ、どうしようねえ」
内藤は床に座りこみ、這いずるリリに語りかける。
( ^ω^)「キミの部屋はここなんだけど、説得は失敗したみたい。
となると、キミの部屋がないんだけど、どうしようか」
( ^ω^)「もう一回、彼女を説得するかい?」
彼がドアをノックする素振りを見せると、リリは恐怖心だけで彼の手を止めた。
⌒*リ;´ - リ「やっぱりこの部屋おかしい! ぜったいいやです!」
( ^ω^)「うんうん。じゃあ、奥にまだひとつ空き部屋があるけど、どうする?」
⌒*リ;´ - リ「そ、そこにします! ここより絶対いい!」
( ^ω^)「分かったよ。それじゃあ行こうね」
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内藤は満身創痍のリリを抱きかかえて通路を歩いていった。
そして、右端から2番目の部屋の前で立ち止まる。
( ^ω^)「ここだよ」
⌒*リ;´ - リ「……あの」
リリは、気付いたようだった。
( ^ω^)「部屋の掃除は後から入った人がやるルールなの、覚えてるよね?」
( ^ω^)「よいしょっと」
内藤はリリをそっと降ろし、ドアの前に立たせた。
そこで、数分の沈黙が始まった。
( ^ω^)「……」
⌒*リ;´ - リ「……」
( ^ω^)「……どうしたのかな」
⌒*リ;´ - リ「……」
( ^ω^)「大丈夫だよ。ちょっと狭くなるだけさ」
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( ^ω^)「……分かった分かった。
それじゃあ、分かりやすく聞いてあげる」
痺れを切らせた内藤は、その部屋のドアを開けた。
しかしドアの向こうは壁で、部屋と言えるような空間は無かった。
かわりに、足元には人が入れる程度の、四角いくぼみがあった。
――そう、部屋とされていた場所は、ただのくぼみでしかなかった。
内藤は足元のくぼみを指差し、リリに告げる。
( ^ω^)「ここか、あっちかだよ」
決して選択を急いでいるのではなかった。
選択肢を明確にすることで、彼女の理性を無理に機能させているのだ。
( ^ω^)「あっちなら、彼女をどうにかしなくちゃね。
でも彼女は絶対に部屋を空けてくれないだろうね。じゃあ、どうしよう?」
( ^ω^)「でもこっちなら、中身を掃除してから入ってね」
『中身』という言い方に、リリはぞっとする悪寒を覚えた。
ふと、彼女は意図せずして『中身』を見てしまった。
こんな閉鎖空間に詰め込まれて死んだ、その『中身』と目を合わせてしまった。
⌒*リ;´ - リ「……い、いやです」
( ^ω^)「あの子をどうにか出来ないなら、ここに入るしかないんだよ」
( ^ω^)「大丈夫だよ。絶対に死なない設計になってるし、僕が必ず生存させるから」
( ^ω^)「よく見て。これは自殺だよ。だからキミが自分で死なない限り、大丈夫なんだ」
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( ^ω^)「――と、いう感じ」
内藤はそう言いながらモニター室に帰ってきた。
( ^ω^)「まあつまり、どんどん部屋を小さくすると人はどう反応するかなって実験だよ」
( ^ω^)「今回の場合、つーちゃんは実験を察していたからリリちゃんを襲ったんだね。
で、リリちゃんは勘付いてはいたけど確信していなかった。だから簡単に襲われた」
川 ゚ -゚)「……」
( ^ω^)「でも意外だったよ。リリちゃん、あの部屋に入ったんだもん。
普通なら殺してでも良い部屋を取るよね。キミはどう?」
川 ゚ -゚)「……彼女達は、なんだ?」
( ^ω^)「……人だよ? 子供の」
素直クールは既に理解していた。
自分を助けた男が、一体どういう人間なのか。
川 ゚ -゚)「……悪趣味、いや『悪』そのものだ。今すぐ彼女達を解放しろ」
( ^ω^)「……逆じゃない? ただの『趣味』だよ」
クールの敵意を、彼は簡単に言い返す。
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( ^ω^)「ま、なんとでも言っておくれよ」
( ^ω^)「僕はただこれを見せたかっただけだし、
キミが嫌ならもう二度と、こういうものは見せないよ」
( ^ω^)「見てて単調でつまらなかっただろう? 普段は劇的にやるけど。
今回はそういう風にしたのさ。現象そのものを冷静に把握してもらうためにね」
( ^ω^)「どれだけ表現が稚拙だとしてもね、人間はとりあえずその様子を想像する。
刺されてるなぁ、痛そうだなぁ、とか」
( ^ω^)「僕が欲しかったのはそういう他人事としての感想なのね。
主観が強いと人は善性を保とうとしてしまうから」
( ^ω^)「……で、その結果キミがそう思ったなら、それはキミの本心だ。
僕はそれを尊重する。嫌なものを見せてごめん、反省したよ」
一通りを語ったブーンは口を閉じ、素直クールに発言権をパスした。
川 ゚ -゚)「……助けてもらった手前、力尽くは最終手段に据えておく。
だが、早々に中止しなければ本当に――」
( ^ω^)「よし、それじゃあこの実験は終わりだ」
クールが脅し文句を言い終わる前に、内藤はポンと手を叩いて決定した。
彼にとって、この実験は本当に趣味でしかなかった。
一番大事と言っても、それは趣味という範疇での話だ。
ならば今後実益をもたらす素直クールの反感を買うより、
今は趣味をひとつ我慢した方が利口なのは道理だ。
それに、と言って内藤は顎をさする。
( ^ω^)「もうこの実験は終わろうと思っていたんだ。大体のパターンも出尽くしたし。
あと興味があるとすれば、右端の一個体だけだったしね……」
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川 ゚ -゚)「……右端だと?」
先程、内藤ですら回避した右端の部屋。
実験が彼の言う通りなら、あの部屋は一番狭くなっているはずだ。
子供だとしても、とても人間が入っていられる空間ではない。
( ^ω^)「そうなんだ。あの部屋、もうずっと同じ子が占領してるんだよ。
名前は、……えっと、なんだったかな」
( ^ω^)「まあいいとして、彼以来、男の子を連れてくるのは止めたんだ。
男の子って中々死ななくて、回転が悪いから」
川 ゚ -゚)「……その子は生きているのか?」
( ^ω^)b「もちろん! でないと実験にならないよ!」
自信満々に言い、内藤はもう一度ドアに走った。
その途中、彼は素直クールを振り返って機敏に片手を差し出した。
( ^ω^)「いいことを思いついた!
キミもおいで、一緒に彼を出してあげよう!」
川 ゚ -゚)「……悪いが遠慮する。先に戻るぞ」
内藤はそう言って踵を返した彼女を、じっとりと観察した。
( ^ω^)「ははは、釣れないなあ」
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素直クールが第一層に上がると、彼女の前に一人の男が立ちはだかった。
彼はクールを見るなり先を歩き出し、彼女をどこかへ誘導し始めた。
川 ゚ -゚)「……お前は誰だ」
男は立ち止まって少し振り返り、小さな声で名乗った。
('A`)「……ドクオ。あれのモルモットとして飼われてる」
川 ゚ -゚)「……なら、お前がこの層を持ってきたのか」
地下の第一層は居住空間。内藤の研究室もこの第一層にある。
内装はホテルのようで、というかホテル一階分の空間が丸々ここにあった。
実験の過程で発生した 『転移能力』 を友人に使わせたと内藤は言っていたが、その友人とは彼のことらしい。
その能力をもって、地上のホテル最上階を丸ごと頂いたそうだ。内装が立派なのはそのせいだろう。
('A`)「そろそろ夕飯にする。壁をぶち抜いて作った大部屋があるから、そこに案内しに来た」
川 ゚ -゚)「……そうか」
('A`)「……寡黙だな。女はもっと喋るものだと思っていたが」
期待外れと言わんばかりに溜め息をつき、ドクオはさっさと前に進んだ。
やや距離を置いて、クールも彼の後を追って歩き出す。
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('A`)「……見てきたんだろう、あれの実験を」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……絶句、という感じではないな。
ああいうものは既に見慣れていたか。それはそれで、同情を誘うが」
('A`)「お前の事情は聞いている。しかし運が悪かったな。
あれに頼るのは愚策の極みだ。経験者が言うんだ、間違いないぞ」
川 ゚ -゚)「……経験者、とは」
クールが言葉を繰り返す。
すると、ドクオは鼻で笑ってからそれに答えた。
('A`)「そこでちゃんと聞き返す辺り、まんざら無口でもないらしい。
ここにはまともな話し相手が居ないんだ。返事があって嬉しいよ」
('A`)「ああ、察しのとおり俺もあれと訳アリだ。そして今は後悔している。
今でこそ従順に生活しているが、あれの寝首をかく準備は整っている」
川 ゚ -゚)「……ならなぜ、すぐに実行しない?」
('A`)「……単純。あれの底が知れんからだ」
ドクオは眉間をすぼめ、握り拳を作って言った。
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('A`)「あれの能力は知っているだろう。超能力含め、あれの持つ技術も」
('A`)「あれはとにかく逃げ隠れに特化している。
それを狙い仕留めることがどれだけ困難か、俺はまだ想定しきれていない」
('A`)「さっき準備は整っていると言ったが、それは現状の俺が出せる最善の策に過ぎん。
自信ありと唱えたいところだが、きっと容易く看破されてしまうはずだ」
川 ゚ -゚)「……なんにせよ、こんなところで平然とする話ではなかったな。
今ので全部バレただろ、監視カメラとかで」
('A`)「いや問題ない。後であれに聞いて確かめるといい。
この三層からなる遊び場には、ほとんど監視システムが無いんだ」
('A`)「動画、音声の記録も一切ない。メモリの無駄だとさ」
('A`)「……ま、当然と言えば当然だがな。あれは誰とも戦う気が無い。
誰がか逃げても代えを用意するだけ。誰かが敵対すれば即座に身を隠すだけだ」
川 ゚ -゚)「……なら、お前も何も考えず逃げればよくないか?」
('A`)「……あいにく特別でね。逃がすと代えがない。俺も、あんたも」
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('A`)「――自己紹介をやりなおす」
とたん、ドクオが足を止めて体ごと振り返った。
('A`)「俺は四番目にして最後の成功例、ドクオ。
あれの実験で生み出された人工生命だ」
('A`)「一応、顔付きのリーダー格を模倣して作られたらしい。
おかげで人間離れしたことが沢山できる」
素直クールはじっくりとドクオの肉体を観察し、結論を出した。
川 ゚ -゚)「……遠く及ばんな、あれには」
('A`)「……だろうな。だからあれはお前を連れてきた。
まあ人口生命の研究は俺で終わりになった。
努力の甲斐あって、想定どおりの結果は出たらしいが」
('A`)「ちなみにタナシンの実験には俺が付き合う。
碌な目に会わんだろうが、証拠隠滅の為にバラバラにされるよりはマシだ」
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川 ゚ -゚)「……色々と思うことはあるが、とりあえず聞いておきたい。
アイツの目的はなんだ?」
('A`)「……素直クール。あれに対して、そういう真っ直ぐな疑問を持つな」
ドクオは彼女を戒め、冷ややかな表情で言葉を足した。
('A`)「あれはただ、やりたい事をやるために生きている。
目的はその時々で変わる」
('A`)「自分とこの世界に対してひたすら純粋なんだ、あれは。
それ以上の表現をするなら、純粋悪とでも言っておけ」
川 ゚ -゚)「……純粋悪か。似たものを知っている」
('A`)「……なら、しばらく話題には困らないな。口下手だから助かった」
ドクオは再び歩き出し、それっきり口を閉ざした。
しきりに咳払いをしている様子を見るに、どうやら単に喋りすぎただけのようだった。
川 ゚ -゚)(……追々、ここの状況を探っていこう)
素直クールはそのままドクオの誘導についていき、彼の手作りの夕飯をご馳走になった。
こんな環境下では料理くらいしか刺激がないらしく、ドクオは随分と張り切って鍋を振るっていた。
.
-
≪4≫
素直クールが内藤の研究施設に匿われて半年ほどが経過した。
その間、第三層で行われていた内藤の実験はスパッと打ち切られていた。
中に居た少女達は解放こそされなかったが、素直クールが日々面倒を見ることで殺処分だけは免れた。
あとは時折タナシンの研究に付き合うくらいで、素直クールは大体の時間を自由に過ごしていた。
子供たちに囲まれた環境は多少うるさくはあったものの、そんな呆気ない日常は確実に彼女の精神を和らげていた。
いくつかの不安要素残したまま、ではあったが。
.
-
――内藤の研究室。
そこに呼び出されたクールは、部屋に入ったとたん内藤に質問された。
( ^ω^)「知らせが四つ。善し、普通、悪し、悪し」
( ^ω^)「キミはどれから聞きたい?」
川 ゚ -゚)「……その順番でいい」
( ^ω^)「オッケー。じゃあ座って」
促されるまま椅子にかけ、クールは内藤と向き合う。
( ^ω^)「タナシンの研究、とりあえず結果を出せたよ。
キミの協力の賜物だね。ありがとう」
川;゚ -゚)「……たった半年でか? どう考えても無理なんだが……」
( ^ω^)「ああもちろん満足のいく結果じゃないよ。
でもまあ形になって何かができたんだ。喜ぶべきさ」
( ^ω^)「過程における第一歩を踏んだ、という事だよ。
何もできないより、何かができた方がいいだろう? たとえそれが失敗でもさ」
.
-
( ^ω^)「じゃあ次ね。実験でできたコレをテストしたいんだ」
内藤はポケットをまさぐり、中から小さな石ころを取り出した。
それには見覚えが――いや、似ているが違う。
クールは即座に認識を改め、内藤の顔を見直した。
( ^ω^)「これは人工的に作ったタナシンの片鱗。
命名はそのまんま。人口片鱗」
( ^ω^)「やっと形状を保持できてね。これをさっそく試したい」
川 ゚ -゚)「……試すのはいいが、失敗作だぞ。
それはお前自身も分かっているだろう」
( ^ω^)「うん。でも失敗結果も立派な結果さ。
それに多分、使っても死んだりしないよ」
( ^ω^)「これは確かに失敗作だ。使っても荒巻や顔付きの彼みたいにはなれない。
でもね、代わりにこれは人の一線を超えることができるんだ」
( ^ω^)「この人口片鱗はね、人の悪意を増大させるんだ。
分かりやすく言うかい? 怒りや恨みのブレーキをね、取っ払うんだ」
川 ゚ -゚)「……それだけなら、なおさら失敗だな」
( ^ω^)「あはは、そこまで無能じゃないってw」
.
-
( ^ω^)「――本家の『tanasinnの片鱗』は、人の願望そのものをエサにする」
( ^ω^)「荒巻はひたすら万能である事を望んだ。
キミは永遠の非現実を望んだ」
( ^ω^)「ミルナは、まあ知らないけど」
( ^ω^)「とにかくね、タナシンの好物は人の感情や願望だと思うんだ」
( ^ω^)「そこで今度の実験さ」
( ^ω^)「ブレーキの無い感情、歯止めの無い願望をもった人間が、もし本家片鱗を使ったら」
( ^ω^)「いったいどうなるんだろう? という実験がしたいんだよね」
.
-
川 ゚ -゚)「……つまりその失敗作を利用して、より正確なデータを得るのが目的か」
(* ^ω^)σ「そーそー! 限界値を知りたいんだ、本家のさ!」
クールが内藤のセリフを言い当てると、彼はさらに饒舌になった。
(* ^ω^)「やっぱりあれは僕の想像以上のものだと思うんだよね!
だから数年はデータの蒐集に特化することにしたんだ!
でないと本物に近しいものなんて作れない! 物事は順序だよ!」
ヽ(* ^ω^)ノ「データをとり、失敗作を作り、またデータをとる!
ざっと十年はこれの繰り返しかな! ははは、飽きない話だ!」
とたん、内藤は笑みを消して次の話に移った。
( ^ω^)「で、ここからが悪い話ね」
( ^ω^)「まずひとつ。『顔付き』にここがバレた」
( ^ω^)「ふたつ。ドクオがもう限界。死ぬかもしれない」
川 ゚ -゚)「……そうか」
( ^ω^)「冷静?」
川 ゚ -゚)「いいや、どちらも前々から想像できていた。
特にドクオの方は目に見えていたからな」
( ^ω^)「まーあれだけ失敗作投与したらこーなるよなって感じ。
顔付きの方について、ちょっと相談していいかい?」
.
-
( ^ω^)「とりあえず僕はここに残るよ。
キミが面倒見てる子供たちと一緒にね」
( ^ω^)「ついでに実験もする。
顔付きを相手に、僕が本家と人口の片鱗を使う」
川 ゚ -゚)「……私は勝手に動いていいのか?」
( ^ω^)「うん。でも助言しとく。キミは八極武神のところに行くといい。
あそこは世界一安全な場所だ。あとで場所を教えるよ」
川 ゚ -゚)「……ところで、顔付きの場所がバレてるなら」
( ^ω^)「うん。あと数分で来るよ」
川;゚ -゚)「――それを早く言えッ!!」
クールは叫んで椅子を立ち、地上空間に探知能力の網を広げた。
その瞬間、数人分の反応が急に探知網から消滅した。
恐らくこれが顔付き連中の反応だ。素直クールは確信し、すぐさま逃走の準備に取り掛かろうとした。
( ^ω^)「ははは、さすがに焦ったかい。
キミの部屋でドクオが待ってる。はやく彼と一緒に逃げるんだ」
川;゚ -゚)「……ッ!」
クールは一瞬戸惑ったが、今は内藤の口車に乗ってでも逃げ出すべきだと決断した。
弾けるように研究室を飛び出し、彼女は自分の部屋に駆け込んだ。
.
-
そして武神のところに行ったクール達は色々あってレムナントに来た。
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<_プー゚)フ「……」
('A`)「……」
エクストが急に話を端折って口を閉ざすと、二人はしばらく沈黙した。
ミセリは適当に喋って場をつなごうとしたが、そうするまでもなく、ドクオが確信を突いた。
('A`)「……お前、まさか」
('A`)「忘れたのか?」
<_プー゚)フ
エクストはニッコリしたまま、小さく頷いた。
('A`)「続き……嘘だろ……」
<_;プー゚)フ「自分の話じゃねえし、だいたい何年前に聞いた話だと思ってんだよ。
むしろこんだけ鮮明に喋っただけでも上等だろ?」
('A`)「でもダメじゃん」
<_;プー゚)フ「……ダメだけどさ」
('A`)「どうすんだよ……」
.
-
<_プー゚)フ「……ぶっちゃけ言うけどな」
とたん、エクストは開き直って呟いた。
<_プー゚)フ「この話をしたところで、多分お前は何も思わねえよ。
要は、お前がクールさんと昔なじみだったってことだ」
<_プー゚)フ「そりゃ紆余曲折はあるだろうよ。
俺には分かんねえけどさ、タナシンがどうこうは」
('A`)「……続きを話す気はない、か」
ドクオは一息ついてから立ち上がった。
確かにエクストの言ったとおり、今更自分の出生に興味はなかった。
なぜ研究所での記憶がないのか。
話に出てきたドクオと今の自分は別人なのではないか。
クール達が武神のもとへ行ったあとの生活――気になる事は多いが、ドクオはそれらの疑問を脳内から一掃した。
('A`)(……そういえば、昔なんか聞いたような)
その瞬間、掃き捨てかけた疑問が、とある記憶に紐付けされた。
ドクオは咄嗟に想起した。
数年前、シベリアで流石母者に聞かされた 『素直クールと先代武神』 の話を。
.
-
('A`)(あの話はたしか、三十年前にクーが先代様を殺して逃げ出したっていう話だ)
('A`)(でも、あの話に俺の名前は出てきてない……)
エクストの話が本当なら、ドクオはクールと一緒に武神の屋敷に行っている。
しかし流石母者の話では、ドクオの存在はすっかり抹消されていた。
どちらかが嘘を――本当のことを隠している。
直感ではあるが、ドクオは母者の話にこそ裏があると思った。
<_プー゚)フ「もう行くのか? って、なんもねぇのに残る理由も無いか」
('A`)「……エクスト。『ドクオ』は、武神のとこで何をした」
一度は誤魔化しかけた話を掘り返し、ドクオはエクストの目をじっと見つめた。
するとエクストは最初から続けていた笑みを消し、冷たく真剣な口調で聞き返した。
<_プ-゚)フ「……どうしても聞くのか」
('A`)「俺はまだあいつと内藤の話しか聞いてない。
肝心の、俺自身の話が聞けてないんだよ」
('A`)「……」
<_プ-゚)フ「……」
.
-
<_プ-゚)フ「……そこ、戸棚を開けてみろ」
しばし黙った後、エクストは壁際の戸棚を指して言った。
ミセ;*゚ー゚)リ「あ、わたし行きます」
('A`)「ああ」
手持ち無沙汰に耐えかねたミセリがここぞと腰を上げ、戸棚を調べに行く。
<_プ-゚)フ「お前がクールさんに貰ったペンダント、あるだろ。
大事なもんなのにおばちゃんに預けやがって……」
('A`)「……」
<_プ-゚)フ「……あれにはお前の記憶が入ってる。ロクでもない記憶だ。
俺には開け方は分からねえけど、本当の事を知りたいならお前が持ってろ」
<_プ-゚)フ「……クソが」
エクストは黒い感情を一まとめにしてそう呟き、もう一度、物語の語り部として開口した。
.
-
≪5≫
/ ,' 3 「……やれやれだ……」
マニーと佐藤と別れた荒巻は、メシウマ側に瞬間移動で帰ると同時に溜め息を吐いた。
ここはステーション・タワー内部の一室。荒巻が来客用に設けた部屋だった。
/ ,' 3 「……待たせてすまなかったな」
( "ゞ)「……構わん。しかし寝心地いいなコレ」
一人用の高級ソファに深々と座ったまま、デルタ関ヶ原は眠たそうに答えた。
/ ,' 3 「急な呼び出しにも関わらず――と、決まり文句はさておきだ」
/ ,' 3 「あと一週間で顔付き連中が来る。戦力になってもらうぞ、武神デルタ」
.
-
( "ゞ)「当然そのつもりだ。お前の土下座に見合う働きはしてやる」
そう言い、デルタは胸の内ポケットから一枚の写真を取り出した。
それは荒巻スカルチノフの土下座写真だった。
( "ゞ)「ひっさびさに腹の底から笑わせてもらった。なあお前ら」
デルタは首だけ振り返り、後ろの数人掛けのソファに向かって話しかけた。
(・(エ)・)「エフッw」
再登場して早々、クマーは思い出し笑いでむせた。
.
-
(*´W`)「あ〜れは傑作だった! もう一度見たいくらいにな!」
無精ヒゲをたくわえた侍めいた格好の男・シラヒーゲが同調して笑い出す。
彼は1さんや八頭身と同じく刀の使い手で、デルタ率いる八極武神の一人でもある。
从;'ー'从「不謹慎ですよ〜!
老人虐待とかになっちゃうんですからね!」
笑い声を仲裁したのは武神の弟子である渡辺。
光を利用した超能力が台頭する中、彼女は絶滅寸前の技術体系 『魔術』 を嗜んでいる。
要は魔法少女だった。よくあるやつだった。
/ ,' 3 「……他の連中はどうしている?」
彼らの煽りを冷ややかにスルーし、荒巻は言った。
( "ゞ)「流石夫婦は家族で団欒中。くるうはトランポリン。
あと八仙のクソジジイも来てるぞ。弟子が消されたとか何とか言ってたが」
/ ,' 3 「……その件は分からんが、人が多いに越したことはない。
シナーには私から挨拶しておく」
.
-
( "ゞ)「……んで、とりあえずミルナを潰せって依頼だったよな」
デルタは体を起こし、前屈みになって荒巻を見据えた。
瞬間、ここから先は殺しの話だということを、この場の全員が察知した。
静寂が場を包み、空気が一変する。
( "ゞ)「それは今すぐでいいのか?
早めに済ませて観光するつもりなんだが」
/ ,' 3 「ああ、それだが少々話が変わった。
決行は明日以降。今日は休日にしてくれ」
( "ゞ)「時間が無いんだろ。そんな悠長でいいのか?」
/ ,' 3 「そんなの今更だ。気にするな」
( "ゞ)「……バカか、荒巻」
悠然とした荒巻の受け答えを、デルタはハッキリと否定した。
( "ゞ)「決着はさっさとつけるべきだ。
俺は今すぐやりにいく。それでいいな?」
.
-
/ ,' 3 「……勝手は許さん。こちらにも事情と考えがある」
( "ゞ)「おい、勘違いするなよ」
( "ゞ)「この確認はお前の顔を立ててやったに過ぎん。
俺達はな、最初からお前の許可なんざ求めてねえんだ」
デルタは強い口調で言い、荒巻に明確な反抗心を向ける。
荒巻スカルチノフ相手にこんな態度が取れる人間は、この世に十人と居ない。
( "ゞ)「俺が今日中にミルナを殺す。そして顔付きとやらも一週間で潰す。
俺はその為に来た。お前が止めてどうする」
/ ,' 3 「……それもそうだった。分かった分かった」
もうどうにでもなれ、という諦めから出た言葉。
荒巻は疲れたように溜め息をつき、デルタの向かい側のソファにどすっと腰を下ろした。
/ ,' 3 「ミルナは今、レムナントのクソワロタにおる。
行けば貴様の千里眼で分かるだろう」
/ ,' 3 「しかし一つ頼みがある。途中でドクオという奴に会ってきてくれ。
そいつが一日の猶予を欲しがっている。本当にやるなら彼に断りを入れておけ」
.
-
( "ゞ)
( "ゞ)「…………あー、今、ドクオって言ったか?」
/ ,' 3 「ああ、その通りだが」
( "ゞ)「……ドクオだってよ」
もう一度振り返り、デルタは間の抜けた調子で言った。
武神一同はポカンとした表情で互いを見合い、その名前に目を丸くした。
(・(エ)・)「……ここで彼ですか?」
( ´W`)「そういやこっちに居るんだったな。忘れてたわ」
从'ー'从(顔が思い出せない……)
( "ゞ)「……そうか。ま、久し振りに会ってやるとしよう」
デルタは居を正し、望郷を含んだ微笑みを浮かべた。
ドクオとは長いこと会っていない。
気が向けば千里眼で生存確認くらいはしていたが、奴がどれほどの男になったかは会ってみなければ計り知れない。
男子三日会わざれば、と言う。その考えでいけば、ちょっとくらいは期待してもいいという気持ちにもなる。
.
-
( "ゞ)「誰か、ついて来たい奴はいるか?」
( ´W`)「俺ぁパス。別件がある」
从'ー'从「クマーさんが行ったらどうです? 兄弟子でしょ?」
(・(エ)・)「押し付けられなくても行きますよ。
ついでに、フォックス君の話もある」
後ろで面倒事の押し付け合いが収まると、デルタは改めて荒巻に言った。
( "ゞ)「……という訳だ。俺とクマーが出向く。
そんでドクオに会った後で、俺らでミルナを殺す」
/ ,' 3 「……いや、二人でか?」
荒巻は思わず素で聞き返した。
ミルナ討伐にはてっきり全戦力を叩き込むものだと思っていたが、デルタの考えは大きく違っていた。
しかもそれは油断や侮りではない。デルタは、本気で二人で事を成すつもりだった。
( "ゞ)「ああ。問題あるか?」
/ ,' 3 「ない。が、少し時間が掛かると思うぞ」
――そして荒巻のセリフの通り、それは不可能な事ではなかった。
.
-
/ ,' 3 「なるべく時間を掛けずにやってもらいたいんだが、そこもお前の勝手か?」
( "ゞ)「無理に皮肉を言うなよ。時間は掛からん、その杞憂は無駄だ」
デルタが颯爽と立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
振り返らず、これ以上の話は無意味だと行動で示した。
(・(エ)・)「では、私の方もこれで」
( ´W`)「おお。まあ死なねぇようにな」
軽く見送られた後、クマーもデルタを追って部屋を出た。
廊下に出てデルタの背中を探すと、彼はすでに階段を下ろうとしていた。
(;・(エ)・)「待ってくださいッ」
早足で追いつき、やれやれと鼻息を漏らす。
こういう時、デルタ関ヶ原という人間は一切立ち止まらない。
今回クマーが付き合うのも戦力としてではなかった。単に、彼のブレーキとしての役割を果たす為だった。
.
-
クマー自身、この先の戦いには多少の不安を覚えていた。
聞いた話によれば相手は理外の怪物。
それに生身の無能が太刀打ちできるかと問えば、誰もが不可能だと断言するだろう。
しかし彼の師は――八極武神と銘打たれた男はきっとそれを可能にする。
クマーもそれは疑っていない。デルタ関ヶ原は100%勝利するに違いない。
だが、当然無傷では成しえない勝利だ。
『tanasinn』という概念がどれほどかは不明だが、デルタ関ヶ原はあくまで人間なのだ。
血肉に代えは無く、傷の治りも人並みで、超能力も無い。
だからこそ――とクマーは決意する。
もしデルタ関ヶ原が命懸けで戦おうとした場合、その役目は自分が負う。
彼が命を懸けるべき時は今ではない。次の戦いを考えれば、生き残るべきはデルタの方だ。
( "ゞ)「……心配するな」
ふと、クマーの心中を見抜いたようにデルタが呟く。
(・(エ)・)「心配はしてません。ただ、順序を決めただけです」
( "ゞ)「お前は少し、物事を考えすぎる。
今度の戦いは――特に今日のは、お前が思うよりもふざけてる」
.
-
ふざけている。
その言葉の意味を咀嚼する前に、デルタは小さく笑った。
何のことかと思って首をかしげると、彼は大層楽しげに説明し始めた。
( "ゞ)「シナーの奴が盗み聞きしてやがった。
もうミルナのところに向かってやがる。あーあ」
( "ゞ)「こりゃあ仕方ねぇな、先にミルナを片付けるぞ。
半殺しでドクオの前に突き出して、事後承諾を得るしかねぇわ」
(・(エ)・)「……急ごしらえの口実にしては十分です。あなたも人が悪い」
わざとらしく困った素振りを見せるデルタと、彼の意図を理解したクマー。
デルタは拳を握り締めて骨を鳴らし、これから起こる戦いに思いを馳せた。
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
レムナント、クソワロタの街。
露店が立ち並ぶ大通り。
朝から晩まで人混みが絶えないこの通りに、今日ばかりは点々と空白ができていた。
昨日の惨劇が一帯の人気を払ってしまったのか、露店を構える人々にも活気は見られない。
( ゚д゚ )「……」
そんな大通りを物静かに歩く男。
ミルナは落ち着いた様子で歩きながら、今度の獲物を丁寧に選別していた。
瞬間、風が吹く。
地表の砂がふわりと舞い上がり、それが大通りを一気に吹き抜けていく。
ミルナは、そよ風につられて視線を前に泳がせた。
( `ハ´)「――――」
男は、そよ風の先に居た。
.
-
両者に開いた距離は30メートルはある。
それでも、二人の視線はピタリと合致していた。
( `ハ´)
この瞬間まで、ミルナは男の気配をまったく感じ取れなかった。
風が吹き、ふと目を向けなければ、たとえ隣を歩いてもミルナは彼を認識できなかっただろう。
男の気配はそれほど巧妙に消され――風に溶けていた。
しっかり目を合わせた今なら分かる。
気配は確かにあるが、それは色んな気配と混ざり合っているのだ。
大通りをゆく人々、物言わぬ建物、風や土、空や太陽。
生命の有無に関わらず、男の気配はあらゆるものと調和していた。
この景色は1ピースも余らず完璧に収まったパズルと同じだ。
完璧に出来上がった完成品に対して、それが未完成であると疑問を持つほうが難しい。
.
-
( ゚д゚ )「……荒巻の差し金か」
独り言を呟き、一歩踏み込む。
( `ハ´)「――――弟子の、弔いに」
踏み込んだ瞬間、声と一緒に風が耳元を吹き抜けた。
ミルナは咄嗟に身を引き、とつぜん隣に現れたカンフー服を目で追った。
( ゚д゚ )
( `ハ´)「場所を選ぶがいい。それは許そう」
黒ずんだ灰色のカンフー服。胸元まで伸びた口髭。
一まとめにされ、後頭部からするりと垂れる白髪交じりの頭髪。
自然体で、まるで風に乗って現れたかのような男――彼こそが、八仙郷の武人・シナーであった。
.
-
( `ハ´)「……弟子との戦いは純粋であったと見る。しかし、力の差がありすぎた」
枯れた声が静寂を逆撫でる。
今まで台風の目であったこの大通りに、ごう、と強い風が奔った。
( ゚д゚ )「……覚えがある。お前、あの中国人の師匠だな」
( `ハ´)「……」
( ゚д゚ )「……ここは人目につく。街の外にいこう」
( `ハ´)「……では、先に行っている」
シナーの姿は、その言葉をかき消す風と共に消え去った。
( ゚д゚ )
( -д- )「……ふう」
ふたたび、一人の道を歩き出す。
ミルナはようやく得た目的地へ向かって、静かに歩を早めた。
.
-
16〜24話 >>439
プロローグ Another Heaven >>454-467
第二十五話 老兵集う >>473-495
第二十六話 面汚しの夜 その3 >>504-596
第二十七話 悪性萌芽 その1 >>609-673
書き溜めのストックは完全になくなりました('A`)
次回は来月末くらい('A`)
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来月…?年末…?
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乙
-
乙乙
ブーンはどうなったのか…
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おつ!
いつも楽しみにしてます!
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バッドラックなあれから出世したなブーン……
おつー
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>>679
ホントだよな
改訂前のだとヘタレだったのに
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乙!
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乙!オワタかっこいいw
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乙
おもしろい
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そういえばオワタの能力って光を必要としてないのかな?
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今月末の投下は無理です(^ω^)
ツンちゃん夜を往くをよろしくNE(^ω^)
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お前だったのかよ読むわ
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人は死ぬ前に走馬“灯”をみるらしい、という解釈
続き楽しみ!
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実はエアマスターも待ってるんだよ
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こっちはどうなっちまったんだ!!
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書き溜めは28話25レスくらいです('A`)
あんまり捗ってないのはツンちゃんのせいです('A`)
次の投下は本当に年末年始になると思います('A`)
ごめんNE('A`)
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オーライ
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悲しいなぁ
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ぐぎぎ…
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おいもう1月だぞ
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投下予告日を読めない奴がいるとは…たまげたなぁ…
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そう無闇に煽ってやるなよ
期待の裏返しなんだろーから
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いや多分前と同じネタやってんじゃねーの
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奴も学習してるだろうからもう一ひねりしないと驚かないぞ
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ツンちゃんが早く終わってくれれば再開するんだそう信じてる
-
ツンちゃんも面白いから辛い
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読み直してたら気付いた、4月末に6月が来てたんですね
驚きの表現に4月末に6月〜が初見時は意味が分からなかった
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ネタをわからない奴がいるとは…たまげたなぁ…
-
投下来たかと思ったらくだらない煽りか、期待して損した
-
≪1≫
――ざっと三十年前。
.
-
世界は黒白に分かれていた。
空は黒、大地は薄雪の白に。
風にたゆたいながら降り注ぐ雪はわずかな月光を乱反射し、夜を照らすに十分な光を蓄えている。
( "ゞ)「――――よっ」
はっきりと明暗を分けた雪原に少年の肢体が翻る。
その様子に力強さはなかったものの、しかし確かな存在感があった。
ふわふわと舞い降りる雪、その中の一粒を狙って打ち出された軽い拳。
その一撃は、狙った雪を微動すらさせなかった。
拳の先に、狙っていた雪がぴたりと触れる。
それを機に、少年は次の拳を撃ち出した。
以上の動作は一瞬。
少年は、これと同じ一瞬を数時間と続けていた。
今はまだ秒間1回だが、この少年はいずれ秒間100回を可能とする逸材だった。
.
-
――少年、デルタ関ヶ原には天賦の才があった。
努力による補強は当然あったが、彼の強さはあらゆる歯車が寸分狂わず噛み合ったように完璧だった。
有象無象の超能力など真っ向勝負で粉砕できる強さは既にある。
実際、当時13歳のデルタ関ヶ原でも能力者相手には負け知らずだった。
むしろ、無能力者の方にしか勝てない相手が居なかった。
爪゚ー゚)「よくもまあ、飽きんなあ」
デルタが勝てない相手代表・じぃは気配なくデルタの背後に立ち、呆れたように呟いた。
彼女の赤みがかったしなやかな金髪は薄雪と同様に光を含み、ほのかに輝いている。
老齢に差し掛かるというのに、彼女の風貌は年相応の衰えをほとんど見せていなかった。
美しさを保ったまま年老いるという理想の生き方を、彼女はその通りに実現していたのだ。
しかし、保たれているのはその若々しさだけではない。
強さの概念において、彼女はこの世の誰よりも頂点に近い存在であった。
.
-
( "ゞ)「……ンだよ、じぃ様」
爪゚ー゚)「メシの時間だ。さっさと戻らんか」
彼女こそ先代八極武神その人。
たった一人で武神を旗揚げし、この世に“武の領域”を確立した張本人。
元々“八極武神”とは集団ではなく、彼女個人を表す言葉だったのだ。
ドクオが母者に聞かされた話では、先代武神は看板通りにきっかり八人。
しかし実際はじぃ一人。この時点で、母者の話はデタラメだった事が確定する。
( "ゞ)「……メシって、」
デルタは構えをとき、遠くの空を一瞥した。
視線の先には、暗闇に立ち上る細い白煙があった。
( "ゞ)「あれは無視か」
爪゚ー゚)「何を言う、貴様とて無視して鍛錬を続けておっただろう。
まさか先程の轟音が聞こえなかったとは言うまい?」
じぃの言う通り、このやり取りのたった一分前に事は起きていた。
彼らが住まう屋敷に何かが墜落し、それが爆発を伴う激しい大炎上を巻き起こしたのだ。
デルタは完全にシカトしていたが、事は一刻を争うものであった。
.
-
爪゚ー゚)「まぁオレもよく分からん。だからオレはメシを食うと決めた」
( "ゞ)「いやメシも火の中だろ。まさか燃えカスを食うのか」
爪゚ー゚)「森で適当にイノシシでも獲ってくるつもりだ。
あの火力なら丸焼きもバーベキューも思いのままだろう?」
( "ゞ)「……乗った。今夜は肉でいこう」
爪゚ー゚)「応とも。ノルマは十匹だからな、心して掛かれ」
二人は火災現場を背に颯爽と歩き出した。
この時、火中の屋敷には流石母者が取り残されていた――
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「……なんだコレ、どうして誰も手伝いに来ない」
燃え盛る屋敷の中、流石母者は静かに怒っていた。
それは火事の原因にではなく、この一大事に一人として駆けつけない他の住民達に向けられていた。
('(゚∀゚∩「補足のなおるよ!」
ここで補足のなおるよのコーナーが入った。
もう二度とないであろう奇跡のコーナーが幕を開ける。
('(゚∀゚∩「母者だけど、三十年前の母者に使えるAAが無いのでAAは無いよ!」
('(゚∀゚∩「おわり!」
.
-
(今夜はあまり雪が降らん。自然鎮火に頼ってたら全焼するぞ……)
まず最初に、母者は手早く自分の荷物をまとめて庭先に飛び出した。
その途中で屋敷中の蛇口を開けてはきたが、それが火を止めることは一切期待していなかった。
むしろそんな事をする自分をアホか?と思うほどだった。
(……出来ることと言えば雪を集めてブッかけるくらいだが、到底一人ではやってられん)
(よって、これ以上火の手が広がる前に屋敷ごと吹き飛ばす)
荷物を放り投げ、流石母者は片腕を振り解いた。
瞬間、空を舞う雪を撥ね退け、鋭いの閃光が彼女の周囲に迸る。
閃光の正体は拳戟。
常人の目には、それが人の技であったことすら認識できない。
その速度と威力をもって今度は屋敷に立ち向かう。
火炎を帯びて紅蓮に染まった屋敷を見上げ、彼女はすとん、と腰を落とした。
そして再び、閃光を纏った拳が空を切り裂く――
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爪゚ー゚)「――よせ、火傷では済まん」
とたん、その言葉と同時にじぃの掌が母者の拳を受け止めた。
勢い余って炸裂した衝撃が大地を抉り、地表の雪を一掃する。
「……イノシシ狩りは終わったのか?」
爪゚ー゚)「オレはな。あっちはまだやっておる」
じぃが庭の片隅を一瞥する。そこには十頭のイノシシが山積みになっていた。
爪゚ー゚)「それより端に下がっておけ。巻き込むぞ」
「……火事を始末するなら」
手伝う、と言いかけたところで、母者はぐいと後ろから肩を引かれた。
振り返るまでも無く、母者は不満気にその手を払いのけた。
爪゚ー゚)「遅かったな、デルタ」
( "ゞ)「ああ、少ねえと思って二十頭やってた」
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「……じぃ様、訳を言ってくれ。これは敵の殴り込みか?」
じぃは微笑んで頭を振り、彼女の問いを否定する。
爪゚ー゚)「あれはただの迷い犬よ。
しかし厄介にも暴れておる、まず鎮めねば話にならん」
爪゚ー゚)「オレがさっさと済ませてくるから、貴様らはその間にメシの準備を頼むぞ」
じぃは飄々と火炎に向かって歩き出す。
あの中に居るものの正体は、結局母者には分からないままだった。
母者はじぃの背中を見送った後、振り返ってデルタを見た。
( "ゞ)「今夜は鍋だ。頑張ろうな」
「……血抜きってどうやるんだ?」
( "ゞ)「……モツごと絞り出すか?」
それだ、と両者納得すると、二人は早速イノシシの処理に取り掛かった。
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爪゚ー゚)「……さて」
じぃは火中の奥深くに踏み込み、一息ついた。
熱を帯びた空気が喉を通り、肺の中で渦をまく。
爪゚ー゚)「オレの声が聞こえるか?」
('A`)「……聞こえている。悪かった、家を壊して」
火炎の中に、満身創痍の男が座り込んでいた。
既に死闘を終えてきた後なのか、全身は血と傷跡にまみれている。
傍には倒れ伏した女が一人。
外傷は少ないが、彼女はもっと別の部分に致命傷を受けているようだった。
彼女に意識は無く、死んだように動かなかった。
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爪゚ー゚)「……その女、始末するべきだが」
('A`)「……できれば生かしてほしい。
これは一時的な暴走だ。あと七割の相手をすれば、じき治まる」
爪゚ー゚)「であれば、三割は貴様が担ったか。
木偶にしては上等。さぞ勇猛な戦い振りであっただろう」
('A`)「褒め言葉はいい……それより、もうすぐ目を覚ま――――」
そこまで言って、男の挙動が停止した。
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