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この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
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(‘_L’)は命令が欲しいようです
102
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:50:05 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……あいつの事、少しでも愛してたか?」
( ^ν^)「…………」
( ^ν^)「……いいや」
( ^ν^)「好きだっただけだ」
_
( ゚∀゚)「……まあいいさ。おまえが誰で、双子でも三つ子でも、整形だってかまわん」
_
( ゚∀゚)「これから特攻に行くんだ。土産に何か持たせてくれよ」
103
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:50:47 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「…一つ聞きたいんだが」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
( ^ν^)「フィレンクト」
「おまえ、チップは入ってないのか?」
(‘_L’)「…………」
_
( ゚∀゚)「答えてやれ」
(‘_L’)「はい」
( ^ν^)「そうか」
( ^ν^)「俺は入ってる」
104
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:51:43 ID:y9lJb8uA0
口径の大きな銃の引き金を、男が言い終わるまえにフィレンクトは引いた。
轟音がして頭から男が吹っ飛ぶ。弾は頭蓋を貫通して、脳漿を飛び散らし、壁にめり込んだ。
血をまともに浴びて、一瞬のできごとにジョルジュがたじろぐ。
_
( :** ゚∀゚)「おい」
(‘_L’)「逃げます」
その一言だけを言ってジョルジュの腕をつかむと、想定していたルート、裏口の窓から飛び降りる。
ジョルジュは怪訝そうだったがフィレンクトの勢いに多くは尋ねなかった。
日頃からちくいちジョルジュを伺う彼の行動だ。緊急性が感じられた。
入り組んだ背の低い建物は逃げやすかった。崩れやすい建物を住民が直していくたびに等号のない壁が作られ、足場が多くなる。
迷路のような入り組んだ通路は常に道を変えている。
105
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:52:32 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「チップってなんだ」
建物をいくつも通り抜け、階段を上下してようやく一息つく。一定時間の休憩を入れてフィレンクトは常に移動する。
ジョルジュには影も形も感じられなかったが、フィレンクトは追ってを確信していた。
逃亡するなら同じ場所に止まってはならない。意識して周回するのが望ましい。
追跡者たちの気配を振り切って、ようやくフィレンクトが足を止める。
それでも壁に耳をはりつけて、振動を感じようとしていた。
「生体認証コード、ナンバーとGPSのついた米粒台のマイクロチップです」
_
( ゚∀゚)「ってことは」
106
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:53:15 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「盗聴の恐れもあります。あの男があなたの側にいて、一度も本社に帰っていないのならその機能は停止しているかもしれません。しかしGPSは生体が死ぬまで機動し続けます」
_
( ゚∀゚)「もうあの隠れ家使えないな……」
_
( ゚∀゚)「……おまえには入ってないのか?」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「なんでだ?、おまえ回収されないって事だろ」
(‘_L’)「分かりません」
_
( ゚∀゚)「……フォックスは何か言ってたか?」
107
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:53:57 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「注文通りだと」
_
( ゚∀゚)「注文……?」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「……」
_
( ゚∀゚)「つまり奴も、奴と組んでいた奴も、何かしらの理由でおまえを必要としてたのか。管理されない、人形を」
(‘_L’)「…………」
_
( ゚∀゚)「企業も一枚岩とはいかない、おまえがここに居るのは偶然なのか……?」
(‘_L’)「…………」
ジョルジュが睨みつける。だが無機質の目で見つめ返された。相変わらず、何も映すことのない目。
ジョルジュは考えようとしてやめた。
推論は無意味だ。偶然なら幸運。陰謀だとしてもフィレンクトを使うことでしか、一矢報いることはできない。
108
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:54:46 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「奴とのやりとりは覚えてるのか」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「どのくらいだ?」
(‘_L’)「すべて」
まだ、削除命令は出されていない。
109
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:56:18 ID:y9lJb8uA0
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー
ー.ーー.ー.ー.ー.ー.ー
110
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:57:17 ID:y9lJb8uA0
伸びてくる腕がある。
追いかけられている。死に直結するものではない。むしろ必死に、こちらへ追いつこうとするものがあった。
だが自分は歩みを止めない。変わらない速度でそれをふりほどいて進んでいく。
首のうしろ。所有者のあかし。
わめき声は耳に入らない。次の命令は受けた。主人の登録もすんでいる。
こめかみにチップが埋め込まれる。これでなにもかも把握される事になっている。
「フィレンクト!」
その名前は記号だ。自分はコードで整理されている数字のひとつにすぎない。
伸びてくる腕がある。強い、確かな力で腕を掴まれた。ふりほどけない。
「撃て」
正面からの声。名を呼ぶ声のうえからかぶさり、その命令は頭に浸透した。
まっすぐに腕を伸ばす。
頭に照準を定めて、引き金をひいた。
慣れた感触なのにずいぶんと重く感じる。
「フィレンクト」
声が遠くなり、視界から姿が消えた。
首のうしろ。
「やっかいな痕をつけられたな。焼くぞ」
「はい」
111
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:57:58 ID:y9lJb8uA0
.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
112
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:59:04 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「妹の結婚相手だったんだ」
拠点に帰らず、近くのバーガーショップで食事をとる。冷めたバンズを食べながら、無感動にジョルジュが言った。
_
( ゚∀゚)「なにもかも終わったら所帯を持たせるつもりだった」
_
( ゚∀゚)「妊娠してたからな」
フィレンクトは思い返す。死んだ者は数えない。数えられないほど手にかけてきた。
_
( ゚∀゚)「なんであいつが狙いをつけられたんだ?」
(‘_L’)「わかりません」
_
( ゚∀゚)「奴は何と言っていた?」
(‘_L’)「命じられました。写真の人間を処分するようにと」
113
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:59:47 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「それだけです」
_
( ゚∀゚)「そうか」
死者は数えてはいけない。依然それで痛い目にあった。
それでも記憶を半数しようと試みる。
ジョルジュがそれを望んでいるからだ。
みどりの黒髪。幼い顔立ち。
スパイの男が妊娠の失態を犯してしまった女。
ジョルジュの、妹。
(‘_L’)「あなたのせいではありません」
114
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:00:47 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……俺以外に理由があるかよ」
めずらしくフィレンクトの意見に眉を寄せる。
だがフィレンクトは根拠なく言ったわけではない。少し考えれば分かることだ。
そしてそれは初めてのことだった。
(‘_L’)「妊娠です」
_
( ゚∀゚)「……どういう意味だ」
あの男が整形ならば妹は対象にならなかった。ひとつの家族で戸籍のある場合でも同じだ。
だが彼らは遺伝子から製造されたオリジナルに仕える兄弟。
その遺伝子をむやみに振りまくことが許されるはずがない。
あの男はミスを犯した。それゆえジョルジュの妹が処分されることになった。
遺伝子情報に鍵をかけられていない彼は、どの道使い捨てられる。
フィレンクトの説明を聞いて、ジョルジュが穏やかに笑った。
表情とは裏腹に心内では激高しているのがフィレンクトにはわかった。
115
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:01:31 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……あいつを信じてそばに置いていたのは俺だ。結局、原因は俺だったってわけか」
(‘_L’)「……」
_
( ゚∀゚)「……何人いる?」
_
( ゚∀゚)「あいつは後、何人いる?」
(‘_L’)「把握していません。少なくとも本社には数人、世界では1000人ほどだと思われます」
_
( ゚∀゚)「何のために、あんなのを作ったんだ」
(‘_L’)「……分かりません」
影武者、裏切るリスクの少ない身内。
役割は多々ある。彼らもコードで管理されている。立場はフィレンクトと変わらない。
違うのはフィレンクトが主人を代えること。彼らが生涯オリジナルに仕えること。
ジョルジュの怒りが高まる。思考すればするほど苛立ちを増していった。
116
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:02:30 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「妊娠したから、やつの子供を受精したから、あいつはお前に殺されたのか?」
答えればさらに怒りを煽るだろうと思ったが、フィレンクトは素直に答えた。
「はい」
興奮したジョルジュが殴りつける。それでも理性は残っていたようで、顔でなく肩を思い切り殴打した。
フィレンクトは立ち続けるか、流れに身をまかせるか一瞬迷う。
だがジョルジュの拳が望んだようにしようとそのまま力に押され、壁に身体をぶつけた。
続けて拳が降ってくると思ったが、ジョルジュは忍耐強く耐えている。
_
( ゚∀゚)「……抵抗しろとは言わないから、身を守れ、でないと俺が困る」
(‘_L’)「了解しました」
ジョルジュをなだめるに必要な行為なのだ
う。受け流すようにして彼の拳を受けた。
ときどきまともに身体に入れてやる。
フィレンクトは息を乱すこともなかったが、ジョルジュは大きく深呼吸した。
それからひとつ、ふたつの涙を流した。
117
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:03:34 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「やだ、アンタこれなあに?」
そう言われたが自分で背中は見れない。
ペニサスはフィレンクトのうなじを軽くさすった。
('、`*川「火傷のうえから、移植されてる。何か埋め込まれたの?でも反応はなかったけど」
最初の日にフィレンクトの身体はセンサーでチェック済みだ。不審なものは何もない。だがペニサスはフィレンクトの肌の一部を気にした。
('、`*川「……歴史のある人形なんてめずらしい。普通は傷なんて消されるのに」
('、`*川「あんたの主人がやったの?」
(‘_L’)「覚えていません」
事実だ。
118
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:04:19 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「必要なもの、ほかにあるか?」
マシンガン、ハンドガン、いくつかの手榴弾、それから補充の弾薬。トラップ用の地
雷。グレネードといったものも少ないがあった。
ジョルジュがどこからかかき集めてきたものだ。フィレンクトは一瞥する。
どれも役にたちそうもない。火力による襲撃にはシェルターとマニュアルで対応される。陽動でしか使えないだろう。
唯一の救いはペニサスの補助。彼女が用意したPCがあれば数分のハッキングが可能になる。
(‘_L’) 「目標は何でしょう」
119
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:05:03 ID:y9lJb8uA0
これだけの銃器を使用すれば少なからず打撃を与えることができる。
だが相手の心臓には届かないうえに末端で相手されることは間違いない。
命をかけるには小さな抵抗だ。対象の確認さえあればそれも違ってくる。鉛筆ひとつでも、人は殺せた。
_
( ゚∀゚)「多くは狙わん。爆弾巻いてつっこんでもどうせまた補充されるだけだ。お前みたいのが」
_
( ゚∀゚)「だから代わりのないものを狙う」
ジョルジュの命をかけた、最大の嫌がらせ。
_
( ゚∀゚)「…メインコンピュータ吹き飛ばしてやる」
都市付近になるほど機械は進出している。
人体に埋め込んだICカードで買い物から契約まで事足りた。
町を管理しているのは大企業でありジョルジュたちの敵の七つの企業。
密集したビルの上層部に機械は納められており、そこからすべてを管理していた。住民情報も、都市の信号カメラも、さまざまに。
120
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:05:50 ID:y9lJb8uA0
七つのビルは国のなにより高くそびえている。侵入するのは困難だった。認証がなければまず入れない。
むやみに突破し、住民登録されていない者はレーザーで首をはねられる。
非人道的だと非難されたシステムだったが、その後起こったテロリストの襲撃でその声もやんだ。
_
( ゚∀゚)「お前と俺くらいしかこんな事するバカがいない。できるか?」
警戒線をくぐり抜け、フィレンクトと同じように警備に付く者たちに見つからず、
重要レッドの最上階へとたどり着かなくてはジョルジュの目的は達成できない。
_
( ゚∀゚)「……できるか?」
フィレンクトは常に命令を享受してきた。
だが彼にも限界はある。
強力な後ろ盾がない。最新の武器がない。先手をとれる情報も、バックアップの仲間もいない。
121
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:07:14 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「命じてください」
能力を越えた働きはできない。
主人に虚偽はつけない。たやすくYESと言えるような内容ではなかった。
だがフィレンクトは焦れる。
ジョルジュからの初めての、具体的な仕事の案。命令を、命令を!それさえ貰えばなんでもできる。身体ひとつで死に行けと、できるだけを殺してこい。
だが主人を目的の場所まで運ばないとならない。
内容はハード。しかしジョルジュは今までの主人たちとは違う。規約に縛られない。
ルールを破ることには当たらない。
何でもできる。ジョルジュが命じればなんでも!
(‘_L’)「どうか、命じてください」
ほとんど懇願だった。高揚する気分と、計算する冷静が混同している。
ジョルジュは可能かと聞いている。
フィレンクトは「はい」と答えるべきだったのに、ねだるような口調になってしまった。
122
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:08:03 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……俺を、タワー最上階のメインビル、motherの元へ連れていけ。お前が死んでもだ」
ジョルジュには何の表情も伺えなかった。反対にフィレンクトは目を輝かせる。
微表情がめずらしく仕事をした。
(‘_L’)「はい」
感情がこもった声。
自分がこの声を出したのだと少し驚いた。
123
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:09:47 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「作戦って呼べるほどのものじゃないのね」
実行役は二人。補助が一人。
陽動で動けるものがジョルジュの傘下数十人
。彼らには状況が混乱したさいの、強奪という飴がある。
幾人かが銃火器で押し寄せ、マニュアル通りならそれに対応する企業の用兵が出てくるので、その隙に開かれたゲートから侵入する
('、`*川「パスはどうするの?アタシじゃ無理よ」
(‘_L’)「わたしの登録を使います」
('、`*川「……使えるの、それ」
(‘_L’)「私たちのコードは変更されません」
まだ廃棄されたことはないが、番号は受け継ぐものだった。中身だけ入れ替えられる。
('、`*川「セキュリティが甘いんだか強いんだか……まあ裏切る心配がないからこそなのかも」
('、`*川「第二のゲートはそれで入れるとして、警備はどうすんの?犬に爆弾でも巻く?」
階が高くなるほど警備は厳重になる。
最上階はこのビルの頭脳が置かれている場所だ。
フィレンクトと同じ者たちが、守りを固めている。
(‘_L’)「それには及びません。」
('、`*川「……なによ?どんな考えなわけ」
(‘_L’)「最重要機密です」
('、`*川「…アタシには話せないの?ならジョルジュに聞くわ」
124
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:10:30 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「で、どういう事だ」
フィレンクトのたてた計画に目を向く。
時間がかかりすぎない事が成功率が高いというのは常識だが、それにしても。
_
( ゚∀゚)「おまえみたいな奴らの居る階を、五分で通るってのは無茶じゃないのか?」
フィレンクトはバランス型だ。もっとも優秀なタイプで特技に偏りがない。
それだけに万能として重宝された。
だが警備に置かれている者たちはパワーとスピードに特化している。
侵入者に対しての制圧と迎撃に対応させ、機械のように冷静で効率のいい判断ができる教育を受けている。
そんな者たちが数十人固まっているというのは、ジョルジュに鉄壁を連想させた。
125
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:11:12 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「……あの階がもっとも早く通り抜けられます。五分は最低で、もう少し早まるかもしれません」
_
( ゚∀゚)「どうやって」
(‘_L’)「……」
どのように説明したものか、フィレンクトは迷う。
ジョルジュひとりにだけ話しても、彼はこの情報をペニサスに流す恐れがあった。
計画は絶対に成功させないといけない。ジョルジュの命がかけられている。
そう思うと失敗させるわけにはいかなかった。フィレンクトはもう、足下が崩れる不安定なあの瞬間を経験したくない。
_
( ゚∀゚)「……なんで言えない?」
沈黙するフィレンクトをいぶかしむ。
126
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:12:03 ID:y9lJb8uA0
ペニサスは彼にとって仲間だ。だが得体のしれなさをフィレンクトは警戒している。
彼女がジョルジュに抱く感情と、この情報の扱いは別物だ。
どのように使われてもいいが、実行するそのときまで内密にしておきたい。
_
( ゚∀゚)「もういちど聞く。……できるのか?」
(‘_L’)「はい」
説明ができない。
フィレンクトの警戒はペニサスへの嫌疑だ。ジョルジュにここまで尽くす彼女をないがしろにすることは、彼の怒りを誘発する。
計画にリスクを招けない。本来ならすらすらと喋れたのに、彼の命と天秤にかけた結果フィレンクトの口は重くなった。
フィレンクトはジョルジュから信用を貰わなければならなかったのに、不審を抱かれている。
成り行きの主人への錯覚、彼はフィレンクトを信用したわけではない。
127
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:13:18 ID:y9lJb8uA0
遂行する計画と、従うべき主人への忠誠。
矛盾した行動にフィレンクトは気持ちが悪くなった。
_
( ゚∀゚)「……お前が困ってるのは分かる」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「初めて会ったときもそんな顔してたな。どうしたらいいかわからないって」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「俺は成功できればそれでいい。おまえは陰謀に向かない奴だし。
言えない理由がよくわからんが、おまえなりに何か考えがあるんならそれでいい」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「銃よりも叱られるほうが怖いのか?」
そう言ってジョルジュが笑った。
128
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:14:12 ID:y9lJb8uA0
フィレンクトには脅しも痛みも効かない。
恐怖も。
それを最初にジョルジュは知った。あとから彼の献身そのものが生きる糧だと気が付いた。
盲目のフィレンクトは主人を裏切れない。
失うことこそが最大の不安なのだとジョルジュはよく理解している。
129
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:15:10 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「……いっちょまえに内緒にするなんて生意気よ」
結局、ジョルジュにも打ち明けなかった。
それを意外そうにペニサスは眺める。もっと怒られるかと思ったが、ペニサスは問いつめたりしなかった。
('、`*川「……あんた何になるのかしら」
('、`*川「生きたい?」
(‘_L’)「わかりません」
('、`*川「死にたい?」
(‘_L’)「わかりません」
('、`*川「どっちでもいい?」
(‘_L’)「…………」
('、`*川「アタシあんた嫌いよ」
(‘_L’)「それもわかりません」
('、`*川「あら、嘘も覚えたの?」
(‘_L’)「…………」
130
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:15:58 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「ジョルジュの奴、情操教育のつもりかしら?」
('、`*川「……なんでもいいや。あんた、ジョルジュ死なせたら許さないからね。絶対生きて返しなさいよ」
それは難しい。主人の意志を違えることはできない。フィレンクトがどれほど動けても、自分はジョルジュの意志に忠実でなければならない。
彼を生かしたいのはフィレンクトも同じだ。だがジョルジュはーーー
……行動するのが一緒ならフィレンクトはひとりにならない。目的を達成すればジョルジュも満足するだろう。
計画の予想はできても想像は許されていなかった。もし、彼が死んだら。想像は困難だった。
思考するのに負荷がかかる。
重くて苦しいその何かは、フィレンクトの胸に混乱と戸惑いを落としていった。
131
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 18:58:07 ID:Gj7qhEwg0
支援
今まで見てなかったけど
メチャクチャかっこいい オサレ
132
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 20:31:48 ID:yhmKQF0k0
うおお、きてた!これからどうなるか楽しみ!
133
:
名も無きAAのようです
:2014/10/20(月) 23:06:35 ID:dKZGx9EQ0
ワクワクすっぞ
134
:
名も無きAAのようです
:2014/10/23(木) 16:36:40 ID:808waeSkO
おもしろいそして楽しみ
135
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:31:39 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「あれをください」
そう示されたのは店の中央、メインに大きく展示されているブラック・ローズの花束で店員は一瞬たじろいだ。
売り物としては非常に大きな買い物だ。
切り花でなく、きちんと根を残して肥料を与えている。
一度購入し、維持するのにも手間がかかる高級品で、赤い色が栄えるようにわずかな黒みのあるバラ。
.
136
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:32:21 ID:ONPZ5VOE0
男の服装に目をやる。タイトスーツ。
グレーの落ち着いた生地。
しっとりとした色で安物ではない。
袖襟もきちんと腕に合わせて詰められている。計ったようなオーダーメイト。
ζ(゚ー゚*ζ「かしこまりました」
客の値踏みをして注文が本気だと知る。
男はすましたような顔で店員が台座から花鉢を移す行動を眺めていた。
.
137
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:33:21 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「そのままで」
包装しようとした手を止める。
ζ(゚ー゚*ζ「……ラッピングはお辞めになりますか?」
(‘_L’)「はい」
ますますおかしな客だった。
この花の価値を知らないのだろうか、と不審に思う。
見かけだけを整えたおのぼりさんが、ガラスケースの中の目についたものを何も知らずに買おうとしているのでは。
けれど渡されたカードはプラチナ・ナンバーで、息を飲んだ。
ζ(゚ー゚;ζ「少々お待ちくださいませ」
.
138
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:34:03 ID:ONPZ5VOE0
レジに通すが問題はなく代金が引き下ろされた。しばらく待ったがエラーはない。
本物のゴールデン地区の住民らしい。
笑顔を作り直してカードを返却した。
こんな客が再び訪れるのはめったにないだろう。
他の花も勧めてみたが、よい返事はもらえなかった。
店の高級感を出すためと、品揃えを誇るために取り寄せたバラはここ何年も売れることはなかった。
おそらく手近で買うしかなかったのだろう。もう少しいけばもっとランク上の店だあるのに。
139
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:34:58 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「片手で持てるように仕上げてください」
そう聞いてぎょっとした。
これだけで贈り物としては十分すぎる価値のある花を、直接腕に抱いて帰るらしい。
通常なら花弁が痛まないように業者が揺れない電子車で配達する扱いなのだ。
金持ちの考えはわからない。
けれどもしかしたら、上流階級の女性たちは高価なモノをおざなりにプレゼントされるのが好きなのかもしれない。
世界が違うな、とバカらしくなって考えるのをやめた。
.
140
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:35:46 ID:ONPZ5VOE0
包装を拒否されても刻印されたリボンは巻かなければいけない。
本来ならこの花には金を練り込んだリボンを使うのだが、再び客によって止められた。
「あれを」
選んだのはブラック。地味すぎるかと思ったが、ブラックの赤にそれなりに似合った。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
受け取ると男はゆっくりとした、けれど無駄のない早さで出て行った。
.
141
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:36:30 ID:ONPZ5VOE0
後から思い返せば実に趣味が悪い、高級な花束だと思う。別れか敵対か。
何にしろ意味のある贈り物に違いない。
欲しいとも思わなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……黒みのあるバラに、黒いリボンなんて、」
まるで血みたいーーー
.
142
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:37:12 ID:ONPZ5VOE0
.
143
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:38:07 ID:ONPZ5VOE0
管制塔、タワーのセキュリティを分割する一つの分室で、誰かの悲鳴を聞いた。
ソファに横になって眠気に誘われていたのに、無理矢理覚醒する。
聞こえた声の方向から内部の地図を思いだし、現在地からのシュミレートを目を開けるまえに済ませた。
起き抜けにコーヒーを淹れるのが楽しみだったのに。
うんざりした気分で監視システムを作動させた。
.
144
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:38:50 ID:ONPZ5VOE0
カメラに侵入者の姿は映っていない。
だがわずかな小さい悲鳴は確かに聞こえた。
断末魔。
驚きと、命が消される恐怖に満ちた声。
数年前にすいぶんと聞いたもので、まだ忘れていない。
いくつかの部屋と、通路の映像を出すが侵入者どころか他の職員の姿もなかった。
この部屋はダストシューターのある隣で監査コントロールシステムのある部屋の後ろ。
つまり襲撃を受けた場合一番最後に押し入られる場所で、避難につながるエレベータが部屋に備わっている。
.
145
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:40:27 ID:ONPZ5VOE0
進むべきか後退するべきか。
少し悩んで、それも無駄と理解した。
敵は自分が脳を休ませているあいだに手際よく征服している。
ドアの自動制御はすでにジャミングされ鍵の意味を無くしていた。
電源の制圧も完了。
空調管理のスイッチは切れている。
じかに電源を本社につないでいるコンピュータは無事だが、SOSを発信しても助けが来るまえに殺されるだろう。
舌打ちした。
だから警備員でなくSPを配置するべきだったのに。
銃も持っていない。
厳重な設定のプライドから携帯は許されていなかった。
.
146
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:41:33 ID:ONPZ5VOE0
いくらセキュリティに自信があるからといっても、網の隙間を通る者は必ずある。
襲撃者はひっそりとしている。
ーーーひとりだ。
この狭い通路と部屋を多人数で制圧していたら、自分はとっくに息をしていない。
二人だとここまでたどり着くのがもっと早い。
武器は少ないはず、小銃で音がでないレーザー。もしくはナイフ。
一般のものなら悲鳴にかぶさった銃声が聞こえる。
それか素手による絞殺、かなりの技術を持っている。
これほどまでに、静かな襲撃のメリットは二つ。
事態の発覚を先延ばしにすることと、この部屋にある何か、何を奪われたのかさえ分からないように偽装すること。
.
147
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:42:26 ID:ONPZ5VOE0
ここは襲撃の足がかりにする場所じゃない。
独立した建物で、重要な情報が分散された部屋のひとつ。
どこまで考えがあるのか知らないが、予想通りなら職員の誰かが横領で殺し合ったように見せかけるかもしれない。
その場合、目撃者は残してはならない。
そうだとしたら交渉は望み薄だな
ひそやかな足音でドアが開かれるのを見つめた。
.
148
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:43:26 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「取引しないか?」
出会い頭の一言。
普通の人間なら驚きと戸惑いで銃を向けてくるのだが、相手は普通ではなかった。
それも予測通り。
顔をみれば相手が同種か分かる。
彼は命令を受ける者。
そしてその命令に全滅は含まれていない。
彼は言葉の意味を考えようとした。
それだけで生きる可能性がある。
( ´_ゝ`)「欲しいパスコードを教えてくればすぐに割り出す。そしてそのまま帰ってくれたら後始末はこちらで済ませるぜ?」
追跡はかからない。ここで起きた出来事をなかったことにするつもりでそう言った。
.
149
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:44:20 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「あなたに権限が?」
( ´_ゝ`)「できる」
フィレンクトは表情、身体の動揺から嘘を見破ろうとした。
しかしわずかな変化や微表情も現れていない。
(‘_L’)「あなたに利点は?」
( ´_ゝ`)「明日以降も俺が呼吸をできること。このうえないメリットだと思うね」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「……」
.
150
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:45:21 ID:ONPZ5VOE0
計画通りであればここに居る者すべてを片づけないといけない。
だがジョルジュから明確な命令は受けてこなかった。これまでとは何もかも違うやり方、臨機応変。
その場の対応が変わるのを隣で見ている。
リスクを思えば考えていた通りに事を勧めたほうがいい。
しかし誰にも知られずにパスを入手するというのは釣り合いの取れたメリットだった。
フィレンクトは男を見た。
背ばかりが高い、ひょろりとした体型。
しかし作業服の下は芯のある重心の乗った立ちすがた。
力の抜けた、いつでも動作可能の状態。
喉を狙う、すぐに手のひらでふさがれる。
注意を向け、足を掬おうと軸足を絡める。
その間、こちらの急所に拳が打たれる。
人体の最も柔らかく危険な場所。みぞおちとアキレス同時に肘と膝が入れられる。
回避するには退くしかなく、そうすればこちらの攻撃も当たらない。
.
151
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:46:29 ID:ONPZ5VOE0
数秒間のイメージ。戦いになれば膠着状態に陥ることが伺えた。銃は持ってきていない。鉄の反応を感知されないために仕方ないことだった。
(‘_L’)「S9076854988のIDとコードを」
( ´_ゝ`)「はいよっと」
画面に向かって男が手をかざす。
指紋認識、生体登録。死体では使えない。
瀕死の状態にするのは難しいだろう。
どちらかの即死でなければ。
フィレンクトは取引を飲んだ。
( ´_ゝ`)「ほらよ」
待機する時間もなく、簡単に数字は現れる。
それからバーコードの圧縮されたファイル。
モバイルに読み込ませて入手した。
.
152
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:47:22 ID:ONPZ5VOE0
背を向けて、ドアに向かおうとすると怪訝そうな、陽気な声をかけられた。
( ´_ゝ`)「え、もう帰んの?」
用事はすんだ。男は殺されなかった。
フィレンクトにはここに居る意味がない。
それでも振り返ったのは彼と似た意識を持っていたからだ。
同士は分かる。
彼はすこし、規格外の気もするがプレーンな個体が量産されるなか、変則したものを欲しがる人間は少なくなかった。
( ´_ゝ`)「なあ、無線のコードなんて何に使うの?俺に何かしてほしいことある?」
(‘_L’)「明日以降も息ができるように心がけてください」
よけいな喋りには死を。本来なら忠告する意味もない。
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153
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:48:19 ID:ONPZ5VOE0
よけいな喋りには死を。本来なら忠告する意味もない。
だが彼は人のような感覚で話しかけた。
おそらく現在フリー。
誰かに仕えていない。
直属でなく、ある程度の思考が許されていて、フィレンクトを見逃すことに優越と面白さを感じている。
理解できない個体だ。
生存することに忠実。いつかはフィレンクトの情報を人に流すだろうそれが明日であれば問題ない。
その頃には何もかも終わっている。
( ´_ゝ`)「アンタどこのシリーズ?違反者には見えないし、かといってメンバーにも見えないな。こんな事しでかせば誰の登録かすぐわかるぜ?」
(‘_L’)「連絡するのですか」
( ´_ゝ`)「いんや。しないけど」
(‘_L’)「では、なぜ」
.
154
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:49:35 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「俺はしないけどさ。
いいじゃん教えてよ。知られちゃまずいってんなら大丈夫。
ここでの騒ぎがバレたら俺も廃棄されるから全力で隠蔽するし。
てか、どうやって入ったの?通行許可持ってないだろ?」
(‘_L’)「……」
考える。ここで戦闘になるタイミング。
だが目の前の男は時間を稼ぐでも、たくらみがあるわけでもなさそうだった。
(‘_L’)「あなたに、何の関係が?」
( ´_ゝ`)「俺はただの傍観。
ぞくに言えば好奇心。
わかるか?興味本位だ。
どうみてもパターンに当てはまらない物事の対象を知ろうとする行為。
人間の探求心のひとつ」
(‘_L’)「理解できません」
( ´_ゝ`)「俺も。お前がどこに属していて、どうしてここを離れたのか
分からない。」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「探求心だ。俺はまだ外を知らない。おまえはどうやってここへ来てどこに行くんだ?」
(‘_L’)
.
155
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:50:34 ID:ONPZ5VOE0
「ここに居るのに何の感知もされないってことは登録されてないんだろ?
未登録なんてありえない。だれかの所有でしかないのに。」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「なあ、教えてくれよ。お前はどうやって“そう”なったんだ?俺はまだできないんだ」
(‘_L’)「……故意ではありません」
そう呟いて、逃げるように部屋を去った。
必要もないのに止まるべきでなかったのに、耳を傾けてしまったのは男があまりにも必死に思えたからだ。
表情に変化はないのに、フィレンクトは内情がよくわかった。
彼がなぜここに居るのか分からない。
自分たちのような者には最も向かない仕事。配属されたからには何らかの理由があるはずだ。彼はそれを探している。
役割を振られ、それを全うすることは喜びで、呼吸するように当然の物事だった。
胸がざわざわする。
自ら頭を吹き飛ばしたときの感覚に似ている。
それは不安で、フィレンクトが男に共感したことの事実だった。
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156
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:51:26 ID:ONPZ5VOE0
彼は部品の一つに成りきれていない。歯車として齟齬を起こしている。
それがあの奇妙な人格の形成へと成長したのかもしれない。
フィレンクトは直線で居られる。まだ、柔らかく崩れることはない。
命令をくれる人、ジョルジュが居るかぎり。
.
157
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:52:24 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「……下手くそ」
首の折れた死体。
手際はいいが、殺すまでに時間があるマニュアルすぎるやり方。
もう少し自己流を考えた方がいい。殺しの仕方ひとつで簡単に癖は見抜かれる。
制御システムを復旧させて、カメラの映像を見た。
笑ってしまった。
侵入者は、所属するチームの顔をしてチェックをクグり抜けている。まるで解雇された社員が、当然のように社内を歩き回る様と変わらない。
.
158
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:53:04 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「ねえ、実験するなら教えてくれよ。それともアレ想定外?」
そう呟いてカフスを握る。すると耳元の通信機から返事が入った。
「……しばらく回線が切れていたな。何があった?」
( ´_ゝ`)「とぼけんなって。俺だって経過中なのに。面白そうなことしてるみたいじゃん」
「フリーのシリーズでも見たか?経緯を教えろ」
( ´_ゝ`)「やだ。応援するもん。何すんのか分からないけど。」
「……どのみち何も変わらん。お前はまだ正規じゃない。その言動が許されるのは結果次第だと言うことを忘れるな」
.
159
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:53:53 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「そういわれても俺は俺以外の何者にもなれないさ。そう望んだくせに、いきなり路線変更はむずい。」
( ´_ゝ`)「でも言わないって反抗した分成長してるだろ?」
「……口がうまくなったな。その調子で会話を続けろ。まともには見られるように」
( ^ν^)「いざという時の切り替えが重要なんだ。それさえできればいつでもお前を使える」
.
160
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:54:47 ID:ONPZ5VOE0
.
161
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:56:01 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「あれ、どこ行ったの?」
_
( ゚∀゚)「書庫を漁ってる」
('、`*川「何してんの?」
_
( ゚∀゚)「建築関連の本、読んでる。俺としちゃ上階爆発させりゃいいと思ってたんだが、それだけじゃビルって崩れないもんらしい。
どうせなら派手にいきたいって言ったら
どこが最短でうまく崩れるかを調べてる」
('、`*川「ふうん。じゃあそこが最後の場所になるのね。盛大な花火だこと」
_
( ゚∀゚)「…………」
('、`*川「……なによ、今更おじけづいたの?」
_
( ゚∀゚)「いや、」
.
162
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:57:15 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「絆されることないわよ。本当ならさっさと処分できたのに。誰かさんがうまい言い訳作っちゃってさ」
_
( ゚∀゚)「……言い訳?」
('、`*川「なによ無意識?気づいてないフリは許さないわよ。あいつがいなきゃこんな特攻みたいな真似、しなかったのに」
_
( ゚∀゚)「……」
('、`*川「今世紀最大のテロ事件になるわね。マスメディアも報道しないわけにはいかないわ。
どうせ操作された記事にしかならないけど、外国人が死ねばそれなりに他国は関心を持つ」
('、`*川「ジャーナリストが入国してこればこっちのもんよ。
企業独占なんて腐るほどある話だけどあいつらはやりすぎた。」
('、`*川「って、言い訳。」
_
( ゚∀゚)「誰かがやるべきだ」
('、`*川「ええそうね。今までは仕掛けるにも手が届かなかった。
それが突然、おかしいと思わない?
あんな異常な、あきらかに洗脳された企業兵士が懐いてくるなんて。」
_
( ゚∀゚)「……演技には見えないな。もう少し弾が大きかったら、死んでた」
.
163
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:59:06 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「でも躊躇しなかったでしょ?
そういう事がふつうにできる生き物なのよ。
生存本能を理性で管理してるわけじゃない。無くしてるの。
生物として圧倒的に低級なのよ。
あたしはあいつよりアンタが怖い。言ってやればいいじゃない。“要らない”って」
_
( ゚∀゚)「……」
('、`*川「簡単に発狂するわ。そもそも一人で行かせればいいのよ。できるだけ殺してこい、って。実行するわ。アンタの命令だったら何でも」
_
( ゚∀゚)「……せっかく手に入れたんだぞ。そんな事すりゃ回収されちまうだろ」
('、`*川「どうだか。そもそも主人を無くして生きてることがおかしいのよ。
個人登録している武器を他人が勝手に扱えるなんて欠陥もいいトコじゃない」
_
( ゚∀゚)「……前も聞いたがずいぶん詳しいな。おまえ、何を知ってるんだ?」
('、`*川「教えない。あいつが死んだら教えたげる」
_
( ゚∀゚)「なんでお前のほうがそこまで嫌う?そのくせ構ってるじゃないか」
('、`*川「……」
ペニサスは伺うようにジョルジュを見た。
勝ち気な彼女の表情が、そのときは暗く、さざめきのない水面のように思えた。
('、`*川「怖いの」
言葉とは裏腹に、硬いこえ。
.
164
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:59:49 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「お願いだから絆されないで。
心を許したりしてはだめ。
あれはあんたが思うような奴じゃない。
懐いてるんじゃない、それが正しいと思うから行動してるだけなの。
あんたは勝手に身代わりにされてるだけ。ちゃんと使い切ったら殺しなさい。約束して」
_
( ゚∀゚)「買いかぶりだ。俺はそこまで大事に思ってない」
('、`*川「じゃあ誓えるでしょ?あの子を殺したのよ。
忘れられるほど大人じゃないし、許せるほど子供じゃない」
_
( ゚∀゚)
「わかってる」
.
165
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:00:33 ID:WubQ7zgo0
('、`*川「違う、知ってるだけ。理解はしてないのよ。
それが怖いの……怖いのよ……」
_
( ゚∀゚)「……俺は言われるほど同情なんてしてないぞ。あいつがどれだけおかしくて危険かなんて十分承知してる」
('、`*川「…………あんたの欠点はね、全部飲み込んじゃうとこなの。
だからあの男も殺せなかったんだと思う」
_
( ゚∀゚)「……奴の事は言うな。俺の汚点だ」
('、`*川「怒るのは当然よ。ただあんた自身、納得してないし許せないけど、いつか時間が立てば、きっと絆されてた。
だってあの男がそうなんだもん。命令に背けなくて、ただ遂行することもできなくて。」
('、`*川「……だからきっと」
_
( ゚∀゚)「やめろ、聞きたくない」
.
166
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:06:18 ID:WubQ7zgo0
('、`*川「ここじゃない別の国だったら、きっと家族を作れてた。ナンバーズは研究対象として許可が降りていたはずよ。いくつかの例があるもの。みんながみんな、簡単に捨てられるわけじゃ、」
_
( ゚∀゚)「ペニサス」
_
( ゚∀゚)「もしも、は無い」
_
( ゚∀゚)「俺が殺した」
.
167
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:07:43 ID:WubQ7zgo0
「ありがとう」も
「おはよう」も「ごめんなさい」
も
ぜんぶ
懐かしい言葉になるひが来るの
『ありふれたせかいせいふく』より
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168
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:08:26 ID:WubQ7zgo0
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169
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:09:17 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)
バラを抱えて正面玄関から入った。
顔認識のカメラに映るが各国の列席の場ですぐに黒服が飛んでくることはない。
贈り物ですとガードマンに手渡す。
係りの一人が恐る恐るそれに触れて、本物の生花だと確認するとすぐに返却された。
ブラック・ローズは一代かぎりの変種。作り出すにノーブル・ブランドの制約と権利に縛られているので取り扱いには特に注意された。
鉱石や稀少金属よりも価値があると認識されている。
つまり、ひたすら高価な花。フィレンクトの所持していたカードの残高は、これ一つで底をついた。
.
170
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:10:07 ID:k9jAZhUQ0
しえん
171
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:10:17 ID:WubQ7zgo0
招待状もなしにパーティに潜り込むには誰もが疑わないプレゼントが必要だった。
宛名を著名な誰かにして、自分は配達のボーイを装う。
身体にぴったりとしたタキシード。シックなカラーで涼しげな顔立ち。
怪しまれることなく別室に案内される。
このような配達は直接本人に渡すことを前提にしているため、センサーの門を通ることなく控え室に入ることができた。
花の特性、過剰な光は花弁を痛ませるのだという説明はすんなり通る。
( ^ω^)「こちらで簡単な身体検査を行います」
花束を持ったままうなずく。
.
172
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:11:09 ID:WubQ7zgo0
左手に持ち替えて、花束の隙間に隠していた小型の銃を掴んだ。
( ^ω^)「うぐッ」
火力のない銃なので、発射音はもちろん貫通さえしない。
返り血を浴びないように気をつけながら、額を撃った。弾丸は骨を砕き、脳かき混ぜて頭の内部に残る。
最低限の出血と、思考を奪うための殺し方。
( ^ω^)「あ、」
頭を撃っても即死しない。男は何が起きたのか理解できないでいる。
抵抗と叫びを無くして、今度は心臓にもう一度撃った。
びくんと痙攣して、身体がひきつる。
完全に膠着するまえに、引きずってクローゼットに押し入れた。少量の血痕を拭いて、ダストボックスに捨てる。
.
173
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:12:17 ID:WubQ7zgo0
完全に絶命するまで約五分。
控え室の映像をチェックされるまではおそらく10分。
それまでに二階の通路へ急ぐこと。
再び花束に銃を込めて、フィレンクトは廊下にでた。
目的の方向へゆっくり歩き出す。
毎秒、不審に思われない程度の早さ。
招待客以外通れない入り口、係りは数分のあいだ姿を消している。
咎められないことは了解されたことだと受け取られる。
違和感なく、金を塗られた門を通り抜けた。
パーティドレスに身を包んだ人々がフィレンクトのバラに目を向ける。
その花が誰に届けられるかを予想して、
甲高い声を出した。
ブラック・ローズに注意を惹かれて、配達人の印象は誰にも残らなかった。
.
174
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:13:31 ID:WubQ7zgo0
レッドカーペットの敷かれた階段をあがると、大広間にたどり着く。
下の階よりもランクがうえのハイ・ノーブルの人々。
使用される家具や食器などはすべて年数のあるアンティーク。
グラスを運ぶ使用人や、演奏する音楽団のさえ富裕層の立場にあった。
人を探しているそぶりで歩き回り、内部の作りを隅まで記憶する。
部屋の形で、隣り合う部屋数まで予測できた。出席者は社交することを目的としている立場の招待客ばかり。
さらに上の階に行かないと、ビルの内部には入れない。フィレンクトはしばらく眺めてひとりの女客に目をつけた。
壁際のファーコートに座っていて誰とも交流していない。
しかし周囲の客たちが皆彼女を気にしていた。はぐれたわけでなく、孤高を楽しんでいる。
カーストの上位に居ると検討をつけた。
花束のカードを抜いて、彼女の目の前に立つ。
.
175
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:14:14 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「お届けものです」
「……」
(‘_L’)「……お受け取りください」
「……」
フィレンクトは横に直り、静かに控えた。
女はバラを見て、フィレンクトを見て、
(*゚ー゚)「……どなたからかしら?」
そう聞いた。
(‘_L’)「お心あたりのあるお方からです」
(*゚ー゚)「……ありすぎてわからないわ。
こんな気の惹きかたするような可愛らしい方、居たかしら?」
(‘_L’)「どうぞ、思い出してくださいませ」
(*゚ー゚)「……こまったわねぇ。いまここでお名前をだして、違っていてたらどうしましょう」
(‘_L’)「お受けとりになられるだけでかまいません」
(*゚ー゚)「お返事はいらないの?」
(‘_L’)「お渡しするだけと伺っております」
.
176
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:16:44 ID:WubQ7zgo0
女はフィレンクトを品定めをした。
シンプルな、それでいて野暮さのないスーツは長く整った手足によく似合っている。
取り繕うような無表情が少し気にくわない。その余裕を、崩したくなった。
(*゚ー゚)「……あなたお店の方?それとも」
(‘_L’)「使いです」
(*゚ー゚)「……ふふ。そうなの。ねえ、わたし人に酔ったのよ。だからさっきからここで休んでるの。お使いならカドも立たないし。どうか静かなところへ連れていってくださらない?」
そう言って、女は花を差し出したフィレンクトの腕を掴んだ。
(‘_L’)「……エスコートには慣れていませんし、私はただの配達です。どうか他の方と」
(*゚ー゚)「わたしはあなたがいいの。あなたはわたしの隣ではいや?」
(‘_L’)「いいえ。ただ身分不相応ですので」
(*゚ー゚)「いやだ、使用人の手を借りることに何の問題があって?いったい何を想像したのかしら」
フィレンクトは顔をそむけた。
初々しい反応に女は少しだけ気がはれる。
それでもフィレンクトの硬質な表情をもっとつつきたくなった。
(*゚ー゚)「お前の主人に叱られるというのなら大丈夫よ、さあ、手を引いて」
しなだれかかるようにフィレンクトの腕を組んで引き寄せる。
それからバラに顔を寄せた。
(*゚ー゚)「贈り主がいったい誰なのか、
時間をかけて聞きたいわ」
.
177
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:17:57 ID:WubQ7zgo0
彼女に連れられた先はカーテンの深い長い廊下だった。
進むごとに人の気配が消える。
緊張するような強ばりを隣の腕から感じて、あやすように女がほほえむ。
通る人々は皆知らないふりをする。
なかには同性の連れ合いもあった
(*゚ー゚)「さあ、ここよ」
女がドアを示す。
あけて、引き入れると外からは想像できない優美な内装の部屋だった。彼女はソファに腰を落とす。
(*゚ー゚)「シャトー・ゴルーニュが飲みたいの。ついでちょうだい」
ラベルを選んでグラスに注いだ。
赤い液体の芳醇な香り。
酸味と木イチゴのような甘みと濃厚な熟成。味わうこともなく水のように流し込んだ。
(‘_L’)「……」
(*゚ー゚)「さ、誰があなたを寄越したのか、いっぱい聞かせてちょうだいね」
.
178
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:18:41 ID:WubQ7zgo0
フィレンクトの喉元に手をかける。
女は襟カラーを引き抜き、ネクタイをほどきにかかった。
フィレンクトはこの部屋の階を計算した。
窓のない小部屋。
入り組んだ部屋の通路は角の右、隣の部屋には人がいない。
悲鳴をあげても、それが許される場所。
赤い唇がフィレンクトの口元に重なる。
袖口に仕込んだ針を引き抜いて、女の頸椎に突き刺した。
.
179
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:22:30 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……パスを使うんじゃなかったのか?」
(‘_L’)「リスクを犯せなくなりました」
侵入するのにフィレンクトのコードを使うつもりだったのだが、管制塔で出会った男のことを考えてやめにした。
すぐに特定される。
(‘_L’)「映像に映ることなく、エレベータに乗れるのはここしかありません」
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュは俯いて女の死体を眺めている。きれいな、眠っているような死体だった。
やすらかな苦痛さえない表情は、同じような過去の死体を連想させる。
_
( ゚∀゚)「女をやるときはいつもこうなのか?」
(‘_L’)「状況次第です」
抱き寄せて、少ない動作で殺すのは小柄な、そんな場面でも違和感のない女が多かった。
男に比べて柔らかい肉なので、針は簡単に刺さり、短時間で騒ぐことなく死に至る。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:24:14 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……あいつも同じように殺したのか?」
彼の妹のことだろう。
そう予想して、はいと答えた。
_
( ゚∀゚)「……」
(‘_L’)「……」
_
( ゚∀゚)「……どのみちビルを吹き飛ばすんだ。ここに居るやつらも、みんな死ぬ」
(‘_L’)「……」
ジョルジュが激昂すると思ったが、そうでなかった。
彼は息を吐いて、大理石のテーブルに座った。
それから並べられた酒類をみて、顔をゆがませる。
_
( ゚∀゚)「これひとつで、俺らは数年食っていける……
それを一度で飲み干すんだな、そう思えば同情も湧かねえ」
_
( ゚∀゚)「ニトロは設置したか?」
フィレンクトはうなずいた。旧式の古すぎる形式だが、手に入る有効な爆破物はこれしかなかった。
原始的ではあるが、その分破壊力がすさまじい。
広大なビルの一室、側面に取り付けた、これが暴動開始の合図になる。
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181
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:24:56 ID:WubQ7zgo0
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( ゚∀゚)「エレベーターを降りたら軌道させる。そっから、時間との勝負だな」
階を上がればごまかしは効かない。
迅速に全力で進まなくていけなかった。
_
( ゚∀゚)「going to crush……」
ぜんぶ ぜんぶ、ぶっ壊してやる
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182
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:31:00 ID:WubQ7zgo0
花びらがだいぶ散って寂しい花束になってしまった。
最後の仕上げにフィレンクトはそれを放り投げる。
黒いリボンを選んだのは光に反射されないため。遠くのカメラが映像を拾わないようささやかな気づかい。
投げられた警備員は一瞬それに注意を引かれ、受け取ろうと手を伸ばし、愚かさに気づいてすぐに身を守る銃に手をやったが遅すぎた。
開いた腹の隙間に三発。
今度はハンドガン、射程距離が短いがその分威力が大きい。
腹と胸に穴を開けて、血をまき散らしならが警備員は絶命した。
彼女も女だった。
少し離れた場所にジョルジュがいて、壁と障害物を交互にして進む。
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183
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:31:52 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「クリア」
オールクリア。
エレベータの回線を切り、動力を壊した。これで下から上がってくることはまずない。降りてすぐの通路に女性警備員。
この階の主の好みだろう。
彼女たちは部屋と直線の道にひとりの割合で待機していた。
だから手早く、殺しにかかった。
通信はすべて繋がっていた。約二分。
ペニサスから連絡が入る。位置情報を把握され、その階の空間をハッキング。
妨害電波の混戦、二分だけ暴れることが許された。
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184
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:32:46 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「何も、話さないでください」
エレベーターを降りるさいに、フィレンクトはジョルジュにそう言った。
階数が上の先は、空気の振動で会話が盗聴される。
物音には反応しないが、発生した声を録音し、不穏を感じれば即座に通報がいくシステム。
たとえば単語ーー計画、死ぬ、殺した、
などの直接した表現は対象に入っている。
フィレンクトは禁止ワードを覚えているが、ジョルジュがそれを選び、より分けるのを覚える時間はない。
指さしで、進み方を決めた。
とはいっても単純に、先方をフィレンクト、後方をジョルジュにしただけだ。
二分の間に銃撃戦を済ませる。
片手にハンドガン、もう片手にライフルを持って、近場と少し遠い距離にいる者を狙撃した。
まず胸を撃つ、それから頭を。即座に通報されても、二分だけ回線は繋がっていない。
助けは来ない。何が起きているかも伝わらない。
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185
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:33:31 ID:WubQ7zgo0
ジョルジュは腐敗した都市の片隅で生まれて育った。
先進国らしく義務教育はあった。
けれどそれは最低限の知識、算数や理科といった生きていくうえで役に立つものだけで、社会や政治といったものにはほとんど触れたことがない。
酸性雨のふった痩せた土地を地主たちから買い取った代わりに、企業は楽園を与えた。
選ばれた市民たち、優勢遺伝子の彼らは支配階級。
それ以外の現地住民は決められた土地で暮らすことを余儀なくされた。
巨大な三角。
砂の遺跡を見て感じたものは、この国の仕組みそのものだ。上は限りなく狭く、それでいて富が集中している。
わずかな少数があふれんばかりを独占し、下へ行くほど貧しくなる。
ピラミッドの底辺は、もはや管理された家畜でしかなかった。
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186
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:34:14 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……きれいなものは、血を吸ってここまで成長したんだな」
上階へ行くのに使う、中央エレベーターから見えるガラスの外は、宝石をちりばめた絶景だった。
色とりどり、闇のなかに光がまぶしい。
一日中エネルギーを消費できる豊かさ。
スラムは排水処理さえ整っていない。
_
( ゚∀゚)「……民族浄化って知ってるか?」
フィレンクトは首を振る。
_
( ゚∀゚)「勉強したんだ……必死で」
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187
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:35:18 ID:WubQ7zgo0
人権保護団体はこの国でも仕事をしている。
彼らは土地を整備し、食料を運んで、病疫のためにワクチンを配給した。
ただでさえ貧しい状況のなか、それは住民たちに喜ばれ、感謝しーーーそして怠惰になった。
_
( ゚∀゚)「働かなくても最低限生きていけるなら、誰も必死にならないさ。
必要以上に与えすぎないように上手に操った。もはやこの国で、俺たちに参政権なんてない」
合法的に、きわめて優しく、外国からやってきた企業は侵略をはじめた。
最初にビルを建て、指導者を支援して裕福にさせた。
それからゆっくりと、国の政権を奪っていった。
ジョルジュが幸運だったのは、当時の軍が企業と政府の癒着に危機感を抱いて、
反対勢力を作るために兵士を募集したためだ。
そこでジョルジュは現実を知った。
規制されていた貴重な情報は、ジョルジュに怒りと反発を覚えさせた。
この国しか知らない。他国の情報は制限されていて、ジョルジュは自分たちが太らされるまえの豚だということに気がついた。
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188
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:37:35 ID:WubQ7zgo0
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( ゚∀゚)「大陸だって見つけられたから征服された。ここもいずれそうなる。
そうなる前に、なんとかしたかった。
知らないまま、今を当然だって過ごしていたくなかった。この国の人間でもないのに、でかい顔してるなんて許せない」
_
( ゚∀゚)「そうーー思ってたんだがなぁ」
敵は強すぎた。
金と法律はすべてにおいて味方している。
レジスタンス、聞こえはいいが、ただの犯罪者組織でしかない。
なんでもやった。
資金調達のために強奪、誘拐。
一線は越えていないつもりだ。
荒れた世間でもまだ倫理は残っていた。
少年兵は作らなかったし、娼婦を薬づけにもしなかった。
国のためという大儀だけで、組織をまとめて戦ってきた。
そんな戒めも、妹の死と殺されていく仲間の死体で簡単にくずれた。
敵がルールを守らないのに、こちらが守る理由があるか。
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189
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:38:57 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「それが当たりまえの世界じゃ、疑えないか。俺だって何も知らなかった」
何も知らなかった。
優秀な人間に、人間性を取り除いて、道具のように作り替える技術があったことも。
これは人じゃない。モノだ。
そばの男を眺める。
微動だにしない。
エレベーターは長い。
200階までは30分以上かかる。
_
( ゚∀゚)「ここから飛び降りたら怖いな。
撃たれるのも痛いし。
人間の本能には、眉間を怖がるようにできてるんだって知ってたか?」
(‘_L’)「いいえ」
_
( ゚∀゚)「反射的に脳を守るんだと。
ふつう、目をつぶるのは当然だよな」
唐突に腕を振り上げてフィレンクトの顔を殴ろうとした。拳が数センチ残して止まる。
まつげの先が、指に触れた。
フィレンクトはまばたきひとつしなかった。
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190
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:39:54 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「無関心が一番腹がたつんだ。
女だってそうだ、反応があるから可愛くみえるもんだ」
(‘_L’)
ジョルジュはいつになく饒舌だった。
フィレンクトはジョルジュの変化に不穏なものが無いか探そうとした。
精神状態ーー安定。
しかし良好とはいえない。
常と違う態度。緊張とはまた違う様子。
フィレンクトはそれにふさわしい診断をつけられないでいる。
_
( ゚∀゚)「愛を知らないものは、絶望に興味がない」
誰かの言葉をつぶやく。
もしかしたら自然にこぼれたものかもしれない。
ランプが点灯し、エレベーターが目的の階にたどり着いた。
扉が、開かれる。
**
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191
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 01:23:19 ID:k9jAZhUQ0
おつ
192
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 07:14:29 ID:iNccznn60
乙
193
:
名も無きAAのようです
:2014/11/01(土) 00:09:18 ID:DjqWRy/Q0
きてた!乙
194
:
名も無きAAのようです
:2014/11/01(土) 00:12:24 ID:tuZJbMaM0
乙
195
:
名も無きAAのようです
:2014/11/28(金) 20:24:22 ID:qvEjEbVw0
はじめから読んだけど面白いね!乙乙
196
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:07:30 ID:3gBm1G8g0
人殺しの人殺しによる人殺しのためのメソッド
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197
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:08:36 ID:3gBm1G8g0
思考の停止ーー回復。
周囲状況の把握。床に伸びる出血確認。
命令待機状態。
命令待機状態。
命令待機状態。
対象主人の消失。伏した身体。
青冷レーダーが心臓を焼いた瞬間を目撃。
内蔵に重大な損傷箇所。
即死の可能性が大。
枝分かれしたもしもの指令は無し。
命令待機状態。
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198
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:10:21 ID:3gBm1G8g0
「撃ちなさい」
命令優先認識。主従確認。
倒れた血だまりの男。
ーーー死。
確認のための狙撃。
「撃ちなさい」
静かな声。
聞き覚えのある声帯。
命令ーー狙撃。
焼かれた男。
胸を貫かれて。
のけぞるように横倒れた。
人相照合。記憶のなかの人物。
デ・ジャブ。記憶のなかの出来事と重なる状況。
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199
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:11:16 ID:3gBm1G8g0
命令優先。
照準を身体に合わせる。
フィレンクトは、ふるえるジョルジュの指先をみた。
それから引き金をひく。
二発の銃弾。
ジョルジュの身体が衝撃に跳ねた。
.
200
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:12:00 ID:3gBm1G8g0
(´・_ゝ・`)「本当にうまくいくのか?」
('、`*川「さあ?」
ペニサスは振り返らずに答える。
設置したいくつかのジャミング装置を順番に作動させるのに忙しかった。
混線した状態であれば機動隊の動きもかき回せられる。
事態の収拾をできるだけ引き延ばしたかった。
その分送り出したジョルジュたちに余裕が生まれる。
(´・_ゝ・`)「脳天気な返事だな。……帰ってこなかったらどうする。そっちの方が確率高いだろうに」
行うことを順番に数えながら、優秀な脳は男の言葉にカチンとくる。
リーダーという名の責任者がいなければなにもできない癖に。
.
201
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:12:57 ID:3gBm1G8g0
('、`*川「50:50よ。0か100か。
死んでるか、やり遂げたか」
こちらから仕掛けた爆撃しか報告されていない。送り出して、連絡が取れなくなって10分。
そろそろ撤退する連絡をもらっても良さそうなのだが、通信は向こうから切れたままだ。
(´・_ゝ・`)「そもそも、本当に爆破なんて、できるのか?」
見上げる。
双眼レンズが無くても確認できる巨大な柱のようなビルディング。
遠距離からでも階層が分かる。
('、`*川「理論的で言うなら可能よ。
ひとつの建物しか壊せないけど、的確に重箇所に設置できれば吹っ飛ばせるわ」
.
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