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( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
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どーも作者です。
新しく作らせてもらいました。
設定だけ作っておいて最初の二話で終わる予定だったこの話がこれだけ続くことになろうとは。
半分くらいは終わっている予定なので、もう少しお付き合いいただければ幸いです。
話の投下の前に、各人の見た目データと大まかな設定を載せておきます。
この話は
川原礫著
『ソードアート・オンライン』シリーズのアインクラッド編を基に書かせていただいています。
基本的に設定を順守しているつもりですが、拡大解釈とまだ書かれていない設定に関しては想像で書いているので、その旨ご容赦の上、お楽しみいただけますようお願い申し上げます。
まとめ
ブーン芸VIP様
http://boonsoldier.web.fc2.com/
大変お世話になっております。
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キリト達がクリアすれば終わりだからいくら広げても時系列合わせれば速攻で回収出来るんやで
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ショボンをよく知りつつ赤の他人である人って誰の事だろうか?
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舞台は同じでもアナザーストーリーって手もあるからキリトクリアルートとは限らないかもよー?
何にせよ作者の思うように書いてほしい本当楽しい、楽しみにしてるよ
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ずっと待ってた!相変わらず面白い
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攻略組でギルメンを誰一人死なせてないのはクラインか
作戦の立案も出来るしショボンはあんな感じになりたいのな
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それでは、今年最後の投下を始めます。
よろしくお願いします。
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第十六話 思いと決意
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0.見えたものと見えないモノ
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きた!大晦日に来てくれるとは支援!
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西暦2024年6月下旬。
第52層 フィールドダンジョン 【ミクミエル草原】
【ミクミエル】と言う名の街を中心に置いたその草原は、
ミクミエルへはもちろん、周囲三つの街に行くにも必ず通らなければならない。
通常そういった『通行』を主な目的としたフィールドにはそれほど敵(質・量共に)は出ないのだが、
この草原は『フィールドダンジョン』扱いとなり、相応の数のモンスターがポップする。
しかし草原エリアということで視界が開けているのと、
一つ一つのエリアが広い為戦いやすいこともあり、
プレイヤーは特に気にかけてはいなかった。
だが戦いやすいと言ってもここは既に52層であり、
モンスターのレベルは相応である。
(*゚ー゚)「ギコ君!」
(,,゚Д゚)「ゴルァ!」
狼男Aの顔面を踏んで空へ飛んだしぃがギコの名を呼ぶ。
呼ばれたギコは左手に持った盾で狼男Bが振り下ろした曲刀を受け流す。
二人の距離は5メートルほど。
ギコはしぃを見ることなく叫びながら狼男Bの脇腹に片手剣を一閃させ、そのHPを黄色に変えた。
(*゚ー゚)「ロク!」
狼男Aの真上で短刀を水色に輝かせるしぃ。
そしてそのまま落下のスピードに剣技の加速を乗せ、
顔を踏まれたことによりバランスを崩していた狼男Aを縦に一閃、切り裂いた。
既にHPを赤くしていた狼男AのHPは光を無くす。
しぃは地面にぶつかる寸前に短刀を持たない左手で大地を叩き、
まるでトランポリンの上にいるかのように跳ねる。
そして体重を感じさせない身のこなしで着地してすぐさま駆け出す。
その間にギコは狼男Bに追撃を二発与えて距離を取っていた。
自分の後方にしぃが駆け寄ってくるのを感じる。
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雄叫びをあげ、曲刀を振り上げた狼男B。
曲刀が、赤く光る。
(,,゚Д゚)「しぃ!」
(*゚ー゚)「ギコ君!」
振り下ろされた曲刀を受け止めるギコの盾。
剣技であるその一撃は相当の威力があったが、
ギコは難無く受け止めた。
そしてそのまま盾を水色に輝かせて曲刀を押し返す。
(,,゚Д゚)
「スイッチ!」
(*゚ー゚)
しぃが叫んでからきっかり六秒後、二人の声が重なった。
二匹の狼男を難無く倒した後に、二つのエリアで戦闘を重ねた二人は安全エリアに辿り着いた。
(*゚ー゚)「この次の次のエリアで採取できたら、依頼された内容は終了だよ」
(,,゚Д゚)「分かったぞゴルァ」
そしてそのまま進もうとするギコの上着をしぃが掴む。
(,,゚Д゚)「どうした?」
(*゚ー゚)「休憩も大事。
思ったよりハイペースで来れたから、休憩しよ」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
ニッコリと微笑んだしぃ。
ギコの服を掴んでいる逆の手には、既に地面に広げるための絨毯が持たれていた。
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初遭遇だ支援
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畳二つ分の大きさを持ったその絨毯は、かなり座り心地が良い。
ゴザでもシートでもなく、『絨毯』と呼んでいるのはそのためである。
しかもその機能の割にかなり容量も軽いため、
持ち運ぶことによってストレージを圧迫することがほとんど無いという代物だった。
ツンとモララーが共同で作り上げたというそれの座り心地を噛み締めながら、
ギコは目の前に座っているしぃをみる。
もともと可愛かったが、最近更に可愛くなったと思う。
この世界には今のところ身体において【成長】も【老化】もない。
この世界に閉じ込めた男の拘りからか、
見た目の変化は髪型や瞳の色と言ったような、
ごく一部への自身の選択による変更のみだった。
けれど、可愛くなったと思う。
それはきっと、今の生活を楽しむことが出来ているから。
はにかんだ様な、どこか寂しげだったり泣くのをこらえるような笑顔じゃなく、
心の底からの笑顔をいつも見せてくれるようになったから。
それが自分の力だけで導けたのではないのが少しだけ悔しいけれど、
そんなことよりも、今の彼女の笑顔が嬉しい。
あの日、たまたま真横にいた彼女。
ゲームの世界に閉じ込められたことを知って泣き叫んだ彼女。
呆然としていて、実感がわかなくて、
なんとなく介抱して以来ずっと一緒にいる。
実感がうまれた時、もしそばに彼女が居なかったら、自分は今頃どうしていただろう。
考えたくない『もし』。
きっと自分は、彼女がいたから生きてこられた。
そんな彼女を、今が一番かわいく、心からいとおしいと思う。
そしてそんな思いは今よりも一秒後。
今日よりも明日。
明日よりも明後日。
少しずつ増えていくと感じていた。
(*゚ー゚)「どうしたの?じっと見て」
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少しだけ頬を染めたしぃが、ギコの前にカップを差し出した。
このティーセットもモララー製で、
外に出る時はパーティーの誰かが必ず持っていると言っても過言ではない。
飲むとHPが少しだけ回復するお茶はクーとクックルの共同制作。
食べるとたまに幸運度判定ボーナスが付加されるクッキーやカップケーキは、
ショボンだったりふさだったり。
(,,゚Д゚)「ありがとうだゴルァ」
心を休ませつつ、POTを飲むには躊躇する程度のHPを回復させ、
ついでにうまくすれば自身にプラスとなる効果を付ける休憩。
初めてVIPの一員としてダンジョン探索に出た時はこの『休憩』に驚いたが、
今はその重要性を何度も実感していた。
回復のお茶やお菓子を作れるようになる前から『休憩』はしているらしいけれど。
(*゚ー゚)「それで、どうしたの?ボーっとして」
(,,゚Д゚)「何でもないぞゴルァ」
まさか今まで考えていたことなど言えるわけがなく、
笑顔で流そうとするギコ。
いつものしぃならばもう一回は踏み込んできそうだが、
今日は違った。
(*゚ー゚)「そっか…。
わたしはね。ちょっとあるんだ」
(,,゚Д゚)?
口ごもるしぃ。
そのまま周囲を伺ってから、ギコを見た。
(*゚ー゚)「部屋で話そうかと思ってたんだけど、ここなら良いかな。
隠れるところないから近くにはいないだろうし」
隠蔽スキルを持つ者は、自らの身体を周囲に隠すことが出来る。
しかしそれは隠すことが出来るオブジェクトがあるからできる行為であり、
草原エリアなどで木や背の高い植物などのオブジェクトが無い場所では、
隠れて忍び寄ることは不可能だった。
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もちろん相応のアイテムを付ければ地面に隠れることも可能であろうが、
隠れたままエリア移動し来るのは不可能であろう。
(*゚ー゚)「……50層以上を二人で探索するの、初めてでしょ」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
(*゚ー゚)「確かに許されてるのは草原エリアだけだし、
内容も採取だけだし、
クエストとかはまだやらせてもらえないけどさ」
(,,゚Д゚)「ゴラァ」
(*゚ー゚)「うん。そうだよね。
それでもショボンさん達に認めてもらえたってことだし、
戦力に成れて嬉しい」
(,,゚Д゚)「ゴラァ」
(*゚ー゚)「本当、そうだよね。
やっと、一人前になれたのかなって、思うんだ」
(,,゚Д゚)「ゴラァ」
(*゚ー゚)「本当に、嬉しかった。
それで、昨日ツンさんの部屋に行って、
クーさんも来て、三人で喋ってたんだけど……」
喋るのを止めるしぃ。
口を開くのをためらっているように見える。
視線はギコから外され、手に持ったカップをじっと見ていた。
(,,゚Д゚)「……ゴルァ」
(*゚ー゚)「うん…」
ギコに促され、ふせていた視線を再びギコに向ける。
(*゚ー゚)「手袋がね、あったの。
濃い灰色の、男物くらいのサイズ」
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(,,゚Д゚)「ゴラァ」
(*゚ー゚)「ブーンさんのか、他の誰かのか、
でも普段から手袋をつけてる人いないから、誰のかなって思ってちょっとじっと見てたら……」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
(*゚ー゚)「ギコ君、ラフィンコフィンって知ってるよね」
(,,゚Д゚)「ゴルァ!」
(*゚ー゚)「このギルドに入った時に、座学で教えてもらった。
ラフィンコフィンのマーク。
全員が付けてる、棺桶の図……」
(,,゚Д゚)「ゴ……ゴルァ…」
(*゚ー゚)「手袋に、その図が……描いてあったの」
(,,゚Д゚)!!!!「ゴルァ!!」
(*゚ー゚)「もちろん、VIPの皆が殺人ギルドだなんて、思わない。
でも、ツンさんがそれを持ってた…。
ツンさんが作ったのか、
誰かが置き忘れたのか、
何かのサンプルなのか……。
私、わかんなくなっちゃって」
(,,゚Д゚)「……ゴルァ……」
(*゚ー゚)「ギコ君……」
見詰め合う二人。
(*゚ー゚)「ギコ君、」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
(*゚ー゚)「いくら私相手でもゴルァとゴラァだけで会話するのは止めよう」
(;,,゚Д゚)「す、すまなかったゴルァ…」
はっとしてお茶をすすったギコを見て、
しぃの表情にも笑みが戻った。
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(,,゚Д゚)「実はおれも、ブーンの店の倉庫で見たんだ」
(*゚ー゚)「!手袋を!?」
(,,゚Д゚)「ああ。数十個のPOTと一緒に保管してあった」
(*゚ー゚)「そんな……」
(,,゚Д゚)(けれど、なんとなく違和感を感じた。
わざと見せられたような…)
(*゚ー゚)「……やっぱり、そうなのかな…。
でも、みんなに限ってそんなこと。
でも、関係者で無ければそんなものが…」
(,,゚Д゚)「まずは採取だぞ、ゴルァ」
(*゚ー゚)「え?」
(,,゚Д゚)「そんなことよりも、まずはやるべきことをやるんだゴルァ」
立ち上がったギコ。
そして武器と装備を再確認し始める。
視線の先はしぃではなく、エリアの向こう。
(*゚ー゚)「ギコ君……」
そんなギコを見上げていたしぃだったが、ニッコリと微笑んで立ち上がった。
(*゚ー゚)「うん、そうだね!行こう!」
出していた休憩道具を片付けるしぃ。
そして装備を確認し、ギコにうなずく。
(,,゚Д゚)「行くぞゴルァ!」
歩き始めるギコ。
その背中はしぃが見続けていた彼との生活の中で、一番頼もしく感じた。
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(*゚ー゚)「ギコ君!」
(,,゚Д゚)「それで、終わったら聞きに行くぞゴルァ!」
(*゚ー゚)「ギコ君!」
(,,゚Д゚)「まずは採取だゴルァ!」
(*゚ー゚)「ギコ君!」
(,,゚Д゚)「どうしたしぃ!行くぞゴルァ!」
(*゚ー゚)「次のエリア、そっちじゃなくてこっちだよ」
ギコが進もうとした出口とは別の方向を向いているしぃ。
(,,゚Д゚)「……ゴルァ」
振り向いて正しい道に向かって歩き始めたギコの背中は、
少しだけ昔に戻っていた。
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1.突きつけられた現実
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流石武具店
質の良い武器と防具をそろえ、
オーダーにも十分に対応できる武器・防具店として人気の店である。
この『武器と防具』と言うのが人気店の秘密でもある。
武器を作るスキルと防具を作るスキルは別であるため、
通常プレイヤーの営業する一つの店ですべてをそろえることは難しい。
しかしこの店では一度にすべてを揃えることが出来る。
低層のプレイヤーはそこまで意識することは出来ないが、
上層になると武器防具の能力は勿論その見た目にこだわる者も少なくないため、
全てを同時に試着できるこの店は、
能力値だけでなく見た目にこだわるプレイヤーにも好まれていた。
また武器や防具への装飾もすることが出来るため、
一部では「コルがいくらあっても足りない武具屋」などとも言われている。
しかし攻略組の和風装備や装飾した剣なども手掛けている事実からも、
その実力は折り紙つきであった。
難があるとすれば店を営む兄弟の片方が変人だということくらいだった。
( ´_ゝ`)「………めんどくさいなー」
思わず呟いてしまった兄者の首元に突きつけられる細剣の先。
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
( ´_ゝ`)「……いえ、なんでもございません」
(´<_` )「あきらめろ兄者」
( ´_ゝ`)「むーーーー」
武具店の奥。
所謂『工房』と呼ばれる部屋には兄者とツンがおり、
弟者が部屋のドアを開けたところだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あら弟者。店は大丈夫なの?」
突きつけた細剣を外しながら、
部屋に入ってきた弟者に声をかける。
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(´<_` )「ひと段落したから『マリアンナ』に任せてきた。
折角だから、それを見たいからな」
弟者の視線の先は、兄者の目の前の作業台の上。
ξ゚⊿゚)ξ「これ、そんなに珍しいの?」
(´<_` )「いや、何度か使ってオーダーの盾を作ったことがあるし、
兄者がブーンの剣を作っているのは何度も見てる」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
(´<_` )「でも、そんなにいっぱい並んでいるのは見たことない。
良く手に入れたな」
台の上には十数個の原石素材が無造作に置かれている。
ξ゚⊿゚)ξ「ふさの作ったフォーチュンクッキー食べまくったわよ」
ツンの呟きに噴き出した弟者。
特にそれをとがめることも無く、ツンが疲れた様に首を振る。
腰に手を当ててしたその姿は非常に絵になった。
(´<_` )「こんど素材の発掘に行くときにはおれも持っていくかな」
ξ゚⊿゚)ξ「そうしたほうが良いわよ。
あの効果、結構効くから。
もんだいは大きさよね…。味も私にはちょっと甘すぎるし」
(´<_` )「でかいんだよな。あれ」
苦笑いの浮かべて会話する二人。
そのてもと、作業台の上では横にある炉から洩れる明かりを反射させて鉱石が輝いている。
基本的には赤や青に光っているが、中には紫やピンク色の物もあった。
(´<_` )「色だけ見れば、質もよさそうだな」
ξ゚⊿゚)ξ「だと良いんだけどね」
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鉱石の名は『コランダムオール』
色は違うが、すべて同じ種類である。
当初はその大きさと美しさとアイテムの説明文から装飾用と思われていたが、
高いスキルレベルを持った酔狂な武器鍛冶屋が武器への添加素材に使用してみたところ、
ランダムではあるがさまざまな効果を武器に追加することが出来た。
そして攻略が45層を超えた頃、各層の採取ポイントから大きな鉱石も発見されるようになった。
アイテムをクリックしたときに現れる説明文は同じであるため大きく注目はされなかったが、
再び前述の酔狂な武器鍛冶屋が試してみたところ、
一定のサイズ以上のコランダムオール単体からの武器精製が可能なことを発見した。
( ´_ゝ`)「めんどくさいんだよな」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンの方はもう全部終わらせてるから」
( ´_ゝ`)「はぁ…」
通常武器に精製できる鉱石は、スピードタイプやパワータイプ、
あるいは標準タイプといったように種類ごとにタイプが分かれている。
そしてスピードタイプの鉱石から出来上がる剣は軽く切れ味が鋭いが脆かったり、
パワータイプの鉱石から出来上がる剣は威力があり耐久値も高いが重すぎたり、
といったように出来上がる武器の特性に絡んでくる。
しかしこのコランダムオールは出来上がるまでどんな武器が出来るのか分からないため、
自分に必要な武器をよく理解しているプレイヤーは、
コランダムオールから武器を作ることはほとんどしない。
鉱石を自分で持ち込んだとしても作るのが鍛冶屋である以上、
それなりの金額を取られるのだから当然と言えば当然だろう。
( ´_ゝ`)「……やるか」
ため息を吐きつつ、一番近い鉱石を手に取る兄者。
そしてクリックをして鉱石のウインドウを出し、説明文を確認する。
いつの間にか出したのか、空いた片方にはボードが持たれていた。
( ´_ゝ`)「これは……多分スピードAタイプだな…。使えるっと…」
アイテムの説明文とボードに書かれた文章を交互に見ながら呟く。
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そして鉱石の説明文をコピーし、台の上に山積みにした紙束の一番上の紙に写す。
その紙を鉱石に貼ると、鉱石を台の隅に置いた。
( ´_ゝ`)「めんどくさいーーーーー。いや、うん、ちゃんとやるぞ」
首に刺さった細剣の感触を感じつつ、次の鉱石を手に取る兄者。
( ´_ゝ`)「なんで圏内なのに刺さるんだよ……。HPは減らないとはいえ」
ぼやきながらも作業をすすめる。
切っ掛けは偶然だった。
アイテム鑑定スキルレベルの高い道具屋が試しにコランダムオールを鑑定したところ、
通常とは違う説明文を読むことが出来た。
今までスキルレベルに伴いアイテム鑑定の是非や、
知ることの出来る情報量の違いは確認できていたので特に驚きは無かったが、
問題はその後だった。
道具屋が鑑定した後の鉱石を鍛冶屋が鑑定したところ、
最初に鍛冶屋が見た文章と微妙に異なる部分があったのである。
ただそれは改行の位置や句読点の位置などであったため、
鍛冶屋が気付いたのは見事だが、ただそれだけだと思われた。
しかし鍛冶屋と道具屋が所属するギルドのギルマスが、
そこに注目した。
『現実世界ならいざ知らず、ここデジタルの世界では、
基本的に偶然ってのはあり得ないと思うんだよね。
出現はランダムでも、何かしらの法則はあると思うんだ。
その文章の違いは、もしかするとその法則の尻尾なのかもしれない』
そんな思いつきですべての鉱石をまず道具屋が鑑定し、
その後鍛冶屋が鑑定した後武器を精製し、
そしてどんな武器が出来たのかをギルマスが整理をした。
その数は200を超える。
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初リアルタイム遭遇だ!!!
支援
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『多分こんな感じだと思うよ。
これを基に基本鉱石にするか添加材に使うか装飾品に回すか決めてみて。
あ、もちろん装飾品にする場合はそっちでもまずは鑑定して説明文をコピーしてね。
あと、精度を上げていくためにもサンプルはもっと必要だから、
これからコランダムオールを使って武器を造る時は毎回作業宜しく』
データを整理して作成した細かいチェックリスト。
それでも分かりやすくチャート図にして判別できるようにしたそのリストを鍛冶屋に渡しながら、
ギルマスが笑顔で言った。
それを聞いた鍛冶屋は今までの作業を思い出して心の底から疲れを感じたという。
それでもそのリストを作るのが、
自分の行う作業よりもよっぽど大変であることは鍛冶屋にも分かっていたため、
言いつけ通りコランダムオールを使って武器を造る際は先の様な作業をこなしていた。
そしてギルマスは言う。
『まだもれとかありそうだよね。これ。
アルゴさんに情報を流すのは更にサンプルをいっぱい使って精度を上げてからかな。
……それまで必要な量の武器やコランダムオールを集めるのはしょうがないってことで。
今はほら、何が出来るか分からないから市場でも安いし。
装飾品を作る細工工房があるうちのギルドが集めていても不思議がられないし。
うん。そういう事で、みんなよろしく』
鍛冶屋と道具屋とギルマスが誰かと言うのは、
…まあ、そういう事である。
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( ´_ゝ`)「…これはパワーのBか」
ξ゚⊿゚)ξ「基本的にはブーンの剣に、使えないのはあげるから好きに使っちゃって」
( ´_ゝ`)「んー」
黙々と作業を続ける兄者。
文句は言うが、作業を始めると速くて正確なのは弟者もツンもよく知っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「弟者には、これをあげる」
作業する兄者を邪魔しない様に弟者の横に移動するツン。
そして封筒を一通、弟者に差し出した。
(´<_` )「ん?なんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「クーから。例の件よ」
(´<_` )「ああ、ギコとしぃに…か……」
ξ゚⊿゚)ξ「そ。全てはサブマスターであるクーの独断であるっていう証拠。
なにかあった場合はそれを出して責任の所在を明らかにしろだって。
まったく……」
(´<_` )「心配することは無いと思うがな」
ξ゚⊿゚)ξ「私もそう思う。
でも、クーの気持ちも分かるから。
……あいつは一人で背負い過ぎるから、周りは大変よね。ほんと」
(´<_` )「んー。それはおれも同感だ。
あいつのそんなところに救われたおれが言うのもなんだが。
ま、これはとりあえず受け取っておくよ」
ξ゚⊿゚)ξ「よろしく」
小声で二人が会話していると、弟者が視線を左上に向けた。
(´<_` )「あ、悪い。呼んでるから店の方に行ってくる」
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ξ゚⊿゚)ξ「頑張って稼いでね。
私はあれが終わるまではここにいるから」
(´<_`;)「見張らなくてもちゃんとやると思うぞ?」
ξ#゚⊿゚)ξ「めんどくさいこと頼んでるから、終わるまで付き合ってあげるだけよ」
(´<_` )「おお、そうだったか。すまんすまん」
ξ゚⊿゚)ξ「まったく私の事をどう思ってるのかしら」
( ´_ゝ`)「(そういう風に)」(´<_` )
ツンの言葉に聞き耳を立てていた兄者と部屋を出ようとする弟者が全く同じ言葉を心で呟いたのを、
三人とも知らない。
弟者が店に戻ると、一人の客がカウンターにいた。
(´<_` )「お待たせしました。
武器の研磨でしたよね。
こちらへどうぞ」
長い黄色の髪をアップにしたメイド服の女性にカウンターを任せたまま、
弟者は店の隅に設置された小さな炉の前に客を誘導した。
(マリアンヌ)「お願いします。弟者さん」
笑顔で客と弟者に会釈をする女性。
NPC、ノンプレイヤーキャラクターである彼女【マリアンヌ】を、
店番として兄者と弟者は雇っていた。
/ ゚、。 /「…頼む」
すらっとした長身の男。
現実世界ならば全く力の無い、強い風が吹けば吹き飛ばされそうな細さだが、
この世界ではパラメーターが全てであるためその強さは未知数だ。
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(´<_` )「それでは、お預かりします」
片手で差し出された長柄の鎌を両手で受け取る弟者。
受け取った瞬間、両手にかかる重さを確認し、目の前の男のパラメーターを少しだけ推察する。
(´<_` )「基本設定を確認します」
武器をクリックし、ウインドウを出す。
基本の鑑定だけならば、武器であっても弟者は兄者と同レベルで行うことが出来る。
そこで情報を読み、
少しだけ武器作製スキルを上げてある弟者がメンテナンス出来る武器ならば、
そのまま横の炉でメンテナンスを行う。
武器にはそれぞれ耐久値が設定されている。
使用すれば、帯刀したり、モンスターを切ったり、プレイヤーを切れば耐久値が減り、
ゼロになると武器は壊れ、ポリゴンとなって消える。
それは防具や各種装備アイテムも同じで、
プレイヤーは自分の身に着けている武器や防具の耐久値を常に気にしていなければならない。
そして武器や防具の耐久値を最大値まで戻すことが出来るのは、
それぞれの武器と防具の作製スキルを持っている者だけである。
その耐久値を基に戻す作業をメンテナンス、あるいは研磨などと呼んでいた。
(´<_` )「あ、これは…」
メンテナンスは、基本的には失敗はしない。
この失敗というのは武器破壊や能力のレベルダウンを指す。
しかし高レベルの武器や防具をメンテナンスするのは、
やはり高レベルのスキル保持者の方が良いという流れがあった。
因みに武器のレベル、レア度の確認だけではなく、
武器によってメンテナンスの仕方も変わるためまずは基本情報を確認するのが通例である。
(´<_` )「これ、プレイヤーメイドですよね。
すみません、うちの店、原則メンテナンスはモンスタードロップ品かNPC店売り品、
そしてうちの店で売った物にしかやらないことにしてるんですよ」
情報ウインドウを見ながら残念そうに断りを告げる弟者。
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これは全ての鍛冶屋が行っているわけではないが、
弟者と兄者、そして鍛冶屋としての横のつながりで親しくしている何件かの店は導入していた。
勿論至急の場合や例外はあるが、今回は知り合いが作った品であったため、
弟者もすぐに対応する。
(´<_` )「買われたならご存知だと思いますが、グレンさんの店なら45層の」
/ ゚、。 /「…ない」
(´<_` )「え?」
/ ゚、。 /「さっき行ったら、空き家になってた」
(´<_`;)「え?無かったですか?移転したとか聞いてない…」
メッセージを送るため、慌てて自分のフレンドリストを呼び出す弟者。
そして目当ての名前が変色しているのを見付ける。
(´<_`;)「そんな……」
/ ゚、。 /「だからこっちに来たんだが、ダメか?」
(´<_` )「あ、いや、…こういうことであれば、やらせていただきます。
ただ自分ではレベルが低いため担当が変わるのと、
この炉のレベルもそれほど高くないので奥の工房でさせていただきますがよろしいですか」
/ ゚、。 /「構わない。どれくらいかかる?」
(´<_` )「…十分ほどで。よろしければ店内をご覧になっていてください。
マリアンヌ、こちらの方にお飲み物を」
(マリアンヌ)「かしこまりました」
/ ゚、。 /「分かった。待ってるからよろしく」
(マリアンヌ)「こちらからお好きなものをお選びください」
飲み物のメニューが四つほど書かれたプレートを指さすマリアンヌ。
客が店内の商談用応接セットに腰掛けるのを見届けてから、
弟者は工房へのドアを開けた。
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ξ゚⊿゚)ξ「あら弟者。店は大丈夫なの?」
( ´_ゝ`)「つーかーれーたー」
作業台の上の鉱石の鑑定は粗方終わったようで、
説明文をコピーした紙が貼っていないのは二つだけになっていた。
(´<_` )「兄者、研磨を頼む。
ツン、すまん、ちょっと中断させてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ「もちろん良いわよ。っていうか弟者、顔色悪いけど…大丈夫?」
( ´_ゝ`)「この鎌がどうかしたのか」
両手で差し出された鎌を両手で受け取る兄者。
( ´_ゝ`)「ふむ。見た目より少し重いな。
基本重い方がレベルが高い風潮だが、どんなもんか。
まぁ重けりゃいいってわけでもないが」
さっと片付けた作業台の上に鎌を置く兄者。
そして鎌をクリックし、情報ウインドウを出す。
( ´_ゝ`)「おい弟者、これグレンさんの作った奴じゃないか」
(´<_` )「店が、空き家になっていたらしい」
( ´_ゝ`)「え?」
(´<_` )「メッセージを送ろうと思ったら、送れなかった」
青白い顔で無表情に話す弟者。
それを聞いた兄者とツンは顔を強張らせる。
そして兄者は自分のフレンドリストを開いた。
( ´_ゝ`)「……」
色の変わった名前を触るが、何も反応が無い。
( ´_ゝ`)「……弟者…」
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(´<_` )「兄者、すまん、店の方も頼む。店の方と…黒鉄宮を見てくる」
( ´_ゝ`)「ああ、わかった。ツン、すまんが付いていって」
(´<_` )「いや、一人で大丈夫だ。フィールドに出る訳でもないし。
ツン、悪いが店の方を頼む。
兄者の研磨と鑑定が終わるまでちょっと見ていてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ「え、あ、うん。それは構わないけど、大丈夫なの?」
(´<_` )「悪いな、ツン。
じゃあ少し出てくる。
兄者、リズやアルたちへの連絡は、黒鉄宮を見た後におれがやるから。
もし先に聞かれたら、おれに回してくれ。
悪い………店の方は頼んだ」
青白い顔で入ってきたドアとは違うドアから出ていく弟者。
ξ゚⊿゚)ξ「……最近無かったから、この感じ、忘れてた……」
呟いたツンを意識せず、兄者はメッセージウインドウを開いた。
( ´_ゝ`)「ツン、今日プギャー達三人空いてるか知ってるか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え?今日はギコしぃのサポートっていうか、
もしもの時用に後ろを付いていってるはずだけど」
( ´_ゝ`)「ってことは無理か…」
ξ゚⊿゚)ξ「弟者、見張っておいたほうが良いの?」
( ´_ゝ`)「…グレンさんってのは、鍛冶屋仲間では一番古い付き合いなんだ。
それこそ、お前達と合流する前の一ヵ月の間、鍛冶屋について色々教えてくれた。
気の良い親父で……。
お前たちと別れて少し不安定になっていた弟者を、おれと一緒に支えてくれた」
視線を伏せ、少しだけ肩を震わせながら話す兄者。
そんな兄者から視線を外し、ツンは既にいくつかのメッセージを飛ばしていた。
ξ゚⊿゚)ξ「フィールドに出ないなら、ぃょぅ君でも良いわね」
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( ´_ゝ`)「あ、ああ。いよう君って、ふさがメインで面倒見てる…」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。隠蔽スキル系だけなら既にドクオ以上よ。
あのマントを使えばプギャーたち同様に、
草原ですら溶け込めるらしいしそのまま移動も出来るっていうから、
今の弟者なら見破れないはず。
影から見守るだけなら彼でも…」
( ´_ゝ`)「頼む」
ξ゚⊿゚)ξ「弟者はそのグレンさんって人の店に向かったのよね。
位置情報送って」
( ´_ゝ`)「………。今送った」
ξ゚⊿゚)ξ「……ん。きた。ここね。
とりあえず見張るのと、圏外に向かいそうになったら連絡入れてもらうようにする」
( ´_ゝ`)「ああ、それで良い。」
一息つき、作業台に向き合う兄者。
そして目の前の鎌に優しく触れる。
( ´_ゝ`)「グレンさんの作った武器。
あの人らしい、実直で、芯の強い武器だな」
ξ゚⊿゚)ξ「その人、ギルドには?」
( ´_ゝ`)「入ってない。
おれらは合流して以降、自分達は勿論みんなが集めてきてくれた
高レベルの鉱石を使ってたから順調にスキルレベルを上げられたけど、
一人だったグレンさんは地道にやっていた。
……実は一回、ショボンにも相談して、ギルドに誘ったんだ。
でも断られた。
ゲームの中でくらい、自由気ままにやりたいって笑っていたな。
それからもよくしてもらって、鍛冶屋をやっている知り合いでグレンさんにお世話になってない奴は
いないんじゃないかってくらい、顔も広くて」
ξ゚⊿゚)ξ「さっき弟者が言ってた人は?」
.
-
( ´_ゝ`)「リズベット、アルカン、ズモー、ずぎぞう…。
おれ達の知ってる一線級の鍛冶屋達みんな、グレンさんに世話になっているはずだ」
喋りながら、兄者の手が動く。
取り出したアイテムで、鎌の刃を撫で、炉の炎を操る。
( ´_ゝ`)「最近は、自分で採取も行けないくらい店が忙しいって言ってたんだけどな」
炎が揺れ、赤い光りの奔流に、ツンは顔をそむけた。
( ´_ゝ`)「……ゆっくり眠ってくれ」
澄んだ金属音が工房の中を響き渡る。
兄者の呟きと共に零れ落ちた白い輝きが、炎に巻き込まれて消えた。
.
-
3.からむ糸とほどく針
.
-
40層『バーボンハウス』
カウンターには二人の美女がいた。
だが外から見るとカップルに見えるため、やってきた客はどちらにも声をかけない。
そして悲しそうにカウンターの中の女性に会釈をしながら、店を出る男性一人客が数多くいた。
从 ゚∀从「……なあクー」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
从 ゚∀从「もしかして私は男避けに呼ばれたのか?」
川 ゚ -゚)「もしかしなくてもそうだ」
从 ゚∀从「………」
カウンターの中に立つのは黒髪の清楚な美女。
カウンターの外で座っているのは男装の麗人。
VIPのクーと、NSのハインリッヒである。
从 ゚∀从「呼ばれたからなんだと思えば」
川 ゚ -゚)「ショボンに急に店番変わってくれって言われてな、
私が作れるのは簡単なものだけだから居ても居なくても別に良いかと思ったんだが、
今日はアレが来る日だったから」
从 ゚∀从「ああ、さっきのアレ?」
川 ゚ -゚)「そう。アレだ」
从 ゚∀从「少し話には聞いていたが、凄かったな」
川 ゚ -゚)「だろ?」
从 ゚∀从「テンション高かった」
川 ゚ -゚)「疲れるんだ。相手すると」
.
-
从 ゚∀从「魚置きに来ただけなのに、三十分くらい居座ってたな」
川 ゚ -゚)「うざいんだ」
从 ゚∀从「断れよ」
川 ゚ -゚)「そんなことをしたら、毎日のように押しかけてくる」
从 ゚∀从「…マジで?」
川 ゚ -゚)「マジで」
从 ゚∀从「それはきついな」
川 ゚ -゚)「ああ、きついんだ」
从 ゚∀从「で、私もそれにつき合わされたわけだが…」
川 ゚ -゚)「好きな物食べて良いぞ」
从 ゚∀从「好きな物って言ってもな」
川 ゚ -゚)「あと、ショボンはドクオと上の層の街に行ったから、多分二人ともここに戻ってくる」
从*゚∀从「好きなモノ…」
川 ゚ -゚)「それは本人同士の合意の上で好きな様にしてくれ」
从*゚∀从「さっき好きなモノを食べ良いって言ったのにー」
川 ゚ -゚)「私が言ったのは『物』であって『者』じゃない」
从 ゚∀从「ちぇー」
つまらなそうに目の前のグラスの中身をストローで飲み干す。
するとすぐに新しいグラスが差し出され、古いグラスが片付けられた。
从 ゚∀从「ありがと」
川 ゚ -゚)「どういたしまして」
从 ゚∀从「……いいなー」
川 ゚ -゚)「ん?」
.
-
从 ゚∀从「あれ」
もともと小さな声で会話をしていた二人だが、
更に小さく、囁くような声でハインが呟き、
店の奥に視線を走らせた。
川 ゚ -゚)「…………え?」
从 ゚∀从「いいよな、ああいうの」
川 ゚ -゚)「…ああ、…うん」
視線の先には一組の男女。
ミセ*゚ー゚)リ「はい、フィレフィレ」
(‘_L’)「……ん……」
ミセ*゚ー゚)リ「はい、あーん」
(‘_L’)「あ、あーん」
ミセ*゚ー゚)リ「もっと大きな口開けてくれないと、入らないぞ」
(‘_L’)「ああーーーーん」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。よくできました」
女はフォークの先に肉の塊を刺して男に差し出す。
男は口を極限まで開けてその肉を口に入れる。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ次はねー」
(‘_L’)「も、もう許して…」
ミセ*゚ー゚)リ「ダメだよー。
目の前にこんなにかわいい子がいるのに他の女をチラチラ見たりしたんだから。
これはそのバツでーす」
.
-
(‘_L’)「ご、ごかいだー」
ミセ*゚ー゚)リ「まあカウンターにいる人達もきれいだけどね。
でもでも、フィレフィレは私だけ見てなきゃだめなの」
(‘_L’)「ミセミセ…」
ミセ*゚ー゚)リ「フィレフィレだーいすきだよ」
(‘_L’)「私もですよ」
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ次はこのハンバーグを丸ごとー」
(;‘_L’)「誤解です!
あれはあの時カウンターで話をしていた男の人達がうるさいなと思って見ただけで、
カウンターの女性を見たわけでは!」
ミセ*゚ー゚)リ「え?!そうなの!?」
(‘_L’)「そうです!
分かってくれましたか」
ミセ*゚ー゚)リ「フィレフィレが、男の人にも興味があるなんて…」
(;‘_L’)「そ、そうではなくて!」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫、私がこっちの世界に戻してあげるから!」
(;‘_L’)「で、ですから!」
ミセ*゚ー゚)リ「これはその第一歩!はい、あーんして!」
(;‘_L’)「許して下さい―」
ミセ*゚ー゚)リ「はい、あーんしてね。フィレフィレ」
川 ゚ -゚)「……」
从*゚∀从「……」
.
-
どうやら男性の方は、
先ほどカウンターに魚を置きに来た二名をうるさいなと思って様子をうかがっていたらしい。
それを女性はクーとハインを見ていいたと誤解し、色々と責めているようだ。
川 ゚ -゚)「ハインは、アレが良いのか?」
从 ゚∀从「良いよな。カップルって感じで」
川 ゚ -゚)「……ドクオと、ああいう事をしたいのか?」
从*゚∀从「えー。そんなはっきり言わなくてもー。クーったらもう」
川 ゚ -゚)「……前から一度真剣に聞きたかったんだが良いか?」
从 ゚∀从「え?なにを?」
川 ゚ -゚)「ドクオのどこが良いんだ?」
从*゚∀从「え!?」
川 ゚ -゚)「いや、ドクオは確かによいやつだ。
アホだしコミュ障だし変態だが、基本的には真面目で誠実で、その行動には好感が持てる。
だが、恋愛と言うと…その……。なぁ。
それにハインはほら、いままでレベルの高い人に囲まれてきたわけだし。
もちろんハインが本気なのは分かるんだが、その……」
从 ゚∀从「カッコいいところ」
川 ゚ -゚)「…………え?」
从*゚∀从「一目ぼれだったんだ。
今でもあの姿は忘れない。
キラキラしてて、かっこよかった」
川 ゚ -゚)「ドクオが……キラキラだと?」
.
-
从*゚∀从「そのあと話したら真面目で優しくて、
私のことを真剣に考えてくれて」
川 ゚ -゚)「ドクオが、……キラキラ?」
从*゚∀从「武器の扱いとか優しく教えてくれて。
躓いたら助けてくれて」
川 ゚ -゚)「キラキラ…。え?キラキラ?え?だれが?え?ドクオが?キラキラ?」
从*゚∀从「私が好きって言うと照れて何も言えなくなっちゃって。
そんな可愛いところも大好きだ」
川 ゚ -゚)「キラキラ…。キラキラ…。キラキラ…」
从 ゚∀从「クー?聞いてるのか?」
川 ゚ -゚)「え?あ?いや、聞いてるぞ。うん。聞いてる」
从 ゚∀从「なら良いけど、恥ずかしいから二回は言わないぞ」
川 ゚ -゚)「質問なんだが……」
从 ゚∀从「なんだ?」
川 ゚ -゚)「モララーとかジョルジュはイケメンだと思うか?」
从 ゚∀从「ああ、思うぞ。顔は整ってるな。ドクオには負けるけど」
川 ゚ -゚)「……さっぱりもってわからん」
从 ゚∀从?
川 ゚ -゚)「一般的な審美眼とは別の感情的な審美眼。
やはり日常的にきれいなものを見る生活をしていると、
色々と我々とは違う感覚を身につけるのだろうか…。
いや、しかし……。
まあ中身は勿論見た目も好きになったのであれば私が心配することも無いのだが、
いやしかしそうだな…うむ………」
.
-
キラキラだと?
-
少し悩んだクーが少しして考えることを放棄するのとほぼ同時に、店のドアが開いた。
('A`)「腹減った―」
从*゚∀从「どっくん!」
川 ゚ -゚)「噂をすればなんとやらだな」
('A`)「ハイン来てたんだ」
从*゚∀从「どっくんに会いに来た!」
('A`)「はいはい」
カウンター、ハインの横に座るドクオ。
ハインの前に置かれている物と同じグラスがドクオの前にも差し出される。
('A`)「サンキュー。で、今日のランチ残ってる?」
川 ゚ -゚)「ああ、大丈夫だ」
カウンターのパネルで準備を始めるクー。
从*゚∀从「どっくん、今日はどこ行ってたの?」
('A`)「ショボンと一緒に一番上の層の迷宮区」
川 ゚ -゚)「は?迷宮区?」
出来上がったワンプレートランチをドクオの前に出す。
川 ゚ -゚)「聞いてないぞ?……って、おい…」
('A`)「最初は手前のフィールドダンジョンでの採取と街での買い物で良い予定だったんだよ。
サンキュー。いただきます」
川 ゚ -゚)「あ、ああ。そう聞いてる」
プレートの上のサイコロステーキにフォークを突き立てるドクオ。
.
-
('A`)「で、行ってみたら前線だけあって情報がこんがらがってたらしくてさ、
迷宮区って言ってもフロア三つ分くらい先のエリアで採取できるらしかったから、
行ってきた」
川 ゚ -゚)「行ってきたって…二人で?」
ステーキを口に運び、美味しそうに口を動かす。
そして隣のサラダに視線を移す。
('A`)「まさか。ジョルジュとブーンも呼び出したよ。
あ、ラドスの実だ。おれこれ苦手なんだよな」
緑入りの野菜の陰に隠れた、ミニトマトの様な野菜を見付けて眉間に皺を寄せた。
从*゚∀从「どっくん苦手だよなそれ。
おいしいのに」
川 ゚ -゚)「そうか…まあその四人なら、なんとかなるか」
('A`)「まあなー。ショボンが敵の情報は仕入れていたし。
初見のダンジョンでもショボンが居ればってやつだな。
ハインはこれすきだったよな。ほれ」
赤い実をフォークで刺し、ハインに向けて差し出す。
从*゚∀从「あーん」
口を大きく開いて実を食べるハイン。
満面の笑みだ。
川 ゚ -゚)「そうか…。で、ショボンはどうしたんだ?」
('A`)「ショボンとジョルジュは兄者のところに。
ブーンは店の前で別れたから、店にいるはず。
もう少ししたら腹減ったメッセージが来るんじゃねーかな」
川 ゚ -゚)「そうか…」
ミセ*゚ー゚)リ「ごちそうさまでしたー!」
(‘_L’)「いつもごちそうさまです」
ミセ*゚ー゚)リ「またきますねー!今度はマラガスのケーキも食べます!!」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます」
.
-
いつの間にか奥のカップルがカウンターの横まで来ており、そのまま外に出て行った。
('A`)「元気だなー」
川 ゚ -゚)「……ドクオ…」
('A`)「ああ、分かってる。大丈夫だ」
川 ゚ -゚)「そうか。ならばいい」
从 ゚∀从?
川 ゚ -゚)「ところで二人とも」
('A`)「ん?」
从 ゚∀从「なんだ?クー」
川 ゚ -゚)「実はもう付き合っているんだろ?」
('A`;)「な、な、な、な、んなわけねーだろ!!!!」
从*゚∀从「私はいつでもオッケーだぞ、どっくん」
('A`;)「おまえもバカなことを言ってるな!!」
从*゚∀从「こんなに好きなのにー。
さっきも間接キスしたし」
('A`;)「間接キス!!??」
从*゚∀从「さっきのフォーク」
('A`;)「あれは前にそうしないと飯を食べないって駄々をこねるから仕方なくやってやったのを!」
从*゚∀从「わたしそんなにこどもじゃないよー」
('A`;)「おいこら!」
カウンターでガタガタと音を立て小声のつもりだが騒いでいる二人。
店の客が何事かとチラチラとこちらを見ている。
川 ゚ -゚)「……もう勝手にしてくれ」
疲れた様に呟いたクーだった。
.
-
4.振り上げた拳の先に
.
-
モララー細工工房
カウンターの中、簡易作業台の前にはモララーがいた。
作業台の前ではあるが、作業はしていない。
目の前に座る人物に対し、接客をしていた。
ζ(゚ー゚*ζ「えー。モララーさんってそうなんですか?
ほんとにー?」
( ・∀・)「いやいやほんとほんと。
結構身持ち硬いんだよ。おれ」
この会話を接客と呼ぶのであれば、だが。
( ・∀・)「奥手だから、声とかかけられなくってさ。
彼女ない歴=年齢なんだよ」
ζ(゚―゚*ζ「絶対嘘ですよー。
あ、いままで付き合った人全員にそう言っているんじゃないですか。
君が初めての彼女だって」
( ・∀・)「そんなことないって。
えー。おれそんな風に見えるのか、ショックだー」
ζ(゚―゚*ζ「だってモララーさんカッコいいですもん。
彼女とか途切れたことなさそー」
( ・∀・)「すごいイメージだな、それ。
でもデレさんにカッコいいとか言われると照れちゃうな」
ζ(゚―゚*ζ「またまた。そんな事ばっかり。
だめですよー。彼女さんに怒られますよ」
( ・∀・)「だからいないって言ってるのになー」
ζ(゚―゚*ζ「はいはい。そういう事にしておきましょうか。
でも私は騙されませんよー」
( ・∀・)「嘘じゃないのにー」
二人の間にある台の上には二つ鉱石が乗っていた。
.
-
一つは黄色、一つは水色。
共に武器や防具の強化に使える素材アイテムだが、
単独でアクセサリーにすることも出来た。
ζ(゚―゚*ζ「さ、モララーさん、お仕事の話に戻しましょ」
( ・∀・)「もっとデレさんのこと知りたいのにな」
ζ(゚―゚*ζ「はいはい。また今度」
( ・∀・)「ブー」
すねた様に唇を尖らせるモララー。
ドクオがやったら一大事だが、モララーがやるとそれすらもさまになっている。
そんな顔をしながらも手元のアイテム、黄色い鉱石をタップするモララー。
ウインドウを出し、内容を確認する。
見ただけで見当は付けていた名前がそこにあった。
( ・∀・)「サシトリン。パワー系の強化アイテムだね。こっちは…」
今度は水色の鉱石を叩く。
( ・∀・)「アルパタイト。スピード系の強化アイテムだね。
でも…たしか、情報が追加されてたような。
他の鉱石と同時に使うことで、パワー系の強化アイテムにかわるとかなんとか…」
ζ(゚―゚*ζ「そうなんですか?知らなかった!」
( ・∀・)「両方ともレアってわけじゃないけど、結構人気だから売れば高額で買ってもらえるはず」
ζ(゚―゚*ζ「へー」
( ・∀・)「もしくは自分の武器の強化に使った方が良くないかな?」
ζ(゚―゚*ζ「上の階の狩りも行かないから、あんまり興味ないんですよ。
きれいな石だからブローチとかネックレスにできたら素敵だなって思って」
( ・∀・)「あーそうなんだ」
ζ(゚―゚*ζ「はい」
.
-
( ・∀・)「でも、武器を強化しておくのは良いことだともうけど」
ζ(゚―゚*ζ「んー。私パワー系の武器じゃないからなー」
横に立てかけた両手棍を見るデレ。
細長く、ピンクに塗られたそれは一見武器とは思えないほど装飾されていた。
( ・∀・)「みたいだねー」
ζ(゚―゚*ζ「二つとも、この前ツンさんに作ってもらった服と帽子に合いそうだなって思って」
( ・∀・)「そうなんだ!じゃあこれで何を作るにしても、服を着ているところを見てみないと。
良ければ奥の部屋で」
ζ(゚―゚*ζ「はい!今度着てきますね!」
( ・∀・)「着替えて……う、あ、うん、そうだね…」
ζ(゚―゚*ζ「じゃあこれ、モララーさんのところでも加工できるんですね」
( ・∀・)「うん、出来るよ。じゃあその打ち合わせもかねて食」
音を立てて開かれるドア。
(*゚ー゚)「こんにちはー」
(,,゚Д゚)「こんにちはだゴルァ」
ζ(゚―゚*ζ「お客さん来たみたいなので、またデザイン考えたら来ますね」
( ・∀・)「事でも……。うん。そうだね。あ、いやこいつらは客じゃ」
(*゚ー゚)「突然すみません。お忙しいならまた後できます」
( ・∀・)「!わるいなしぃ!それじゃあ」
ζ(゚―゚*ζ「私はもう帰るから大丈夫ですよ!
それではモララーさん、また宜しくお願いしますね」
流れるような所作で台の上の鉱石を自分のストレージに戻すデレ。
そして可愛らしくお辞儀をする。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ失礼します」
( ・∀・)「で、デレさん!」
ζ(゚―゚*ζ「はい?」
可愛らしい両手棍を片手に持って店を出ようとするデレに声をかけるモララー。
振り向いたデレの顔をじっと見る。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさん?」
見惚れているかのようなモララーの視線に、
デレは小首をかしげながら不思議そうに彼の名を呼ぶ。
( ・∀・)「あ、いやその、そ、そう!その鉱石、どこで手に入れたのかなって。
確か採取できるのは結構上の階層だからさ。
デレさんの行ってる階じゃなさそうだから」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、これですか。
公園で店を出してたプレイヤーさんから買ったんです。
ちょっとお話したらお安くしてくれて、すごく良い方だったんですよ。
だからそんなアイテムだったなんて知らなくって、びっくりしちゃいました」
( ・∀・)「あ、そ、そうなんだ。
良かったね」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!ではまた来ますね」
モララーには笑顔で手を振り、
軽く会釈をしながらしぃとギコの横を通り過ぎて店を出て行った。
(*゚ー゚)「ギコ君、可愛い人にお辞儀されてニヤニヤしないの」
(;,,゚Д゚)「し、してないぞゴルァ」
(*゚ー゚)「すみませんモララーさん、お邪魔しちゃって」
( ・∀・)「お、おう。ほんとだぞおい。今日こそは落とせそうだったのに」
.
-
真剣な瞳でデレの後ろ姿を見送っていたモララーだったが、
しぃに声をかけられると普段の砕けた調子に戻った。
(*゚ー゚)「……それは申し訳ありませんでした」
(,,゚Д゚)「とてもうそういう風な相手には見えなかったぞゴルァ」
(;*゚ー゚)「ちょ!ギコ君!ホントの事でも言っちゃダメ!」
( ・∀・)「………お前ら二人とも出てけ」
(*゚ー゚)「あ!ご、!ごめんなさい!ほら、ギコ君も!」
(;,,゚Д゚)「す、すまなかった!」
( ・∀・)「なんだろう。謝られると更にムカつくこの感じ」
その後モララーの機嫌を直すのに、三十分の時が過ぎた。
( ・∀・)「で、なんだよ」
その三十分の間に二組の客もあり、
それなりに売り上げもあったためモララーの機嫌はある程度まで回復していた。
だが少し冷たさを残しているのは、
慌てたしぃとギコを見るのが面白いと思ったモララーの人の悪さである。
そしてそれはゆったりと来客用のソファーに腰かけているモララーと、
その横で直立不動で立っているしぃとギコという状況も作り上げていた。
(;*゚ー゚)「はい…」
(;,,゚Д゚)「ゴルァ…」
( ・∀・)「なんだ、言い辛いことなのか?
とりあえず言ってみろよ」
口を濁す二人を見て少し遊び過ぎたかと反省したモララーは笑顔で声をかけるが、
二人は互いの顔を見ながら言い出せないでいた。
.
-
( ・∀・)「どうした?
……なんかミスでもしたのか?」
(*゚ー゚)「一つ、知っていたら教えてほしいことがあります」
意を決したように口を開くしぃ。
その真剣なまなざしに、モララーも座ったままだが背筋を伸ばした。
( ・∀・)「…なんだ?」
(*゚ー゚)「…VIPとラフィンコフィンは、どういった協力関係なんですか?」
それは、しぃにとって一世一代の賭けだった。
今しぃが持っている情報から質問をするのならば、
『VIPとラフィンコフィンは繋がりがあるんですか?』
と聞くのが正しいのであろう。
だがしぃはあえて既に繋がりがあるという前提をもち、
更に自分がそれを知っているというミスリードを出来るような質問を必死に考えたのだ。
(,,゚Д゚)「ゴルァ!」
知識は、武器になる。
知らないという事実を隠し、
知っているという嘘を武器にしたしぃ。
それは全て会話の主導権を握り、自分の知りたい情報を、真実を手にするため。
そしてギコはそれに追随し、
自分らしくモララーに詰め寄った。
( ・∀・)「ラフィンコフィン…ね……」
しかしモララーはその言葉に慌てることは無かった。
落ち着いて素早く入り口のドアを見る。
続いてその横の飾り窓も観察。
こちらを伺う人影が無いのを自動発動したスキルを使って確認し、
一息ついた。
( ・∀・)「少なくとも、こんな外から覗かれまくり盗聴し放題の場所で聞くことじゃないな」
(*゚ー゚)!
(,,゚Д゚)!
.
-
腰に携えた武器を触れながら先ほどモララーが気にした方に身体を向ける二人。
( ・∀・)「大丈夫だ。ドアは閉まっているし、
ショボンの趣味でこの店の盗聴防止レベルは高めだからな。
お前らが話があるって時点で、レベルも上げてある。
今確認した限りじゃ、外で聞き耳を立てていたやつも覗いていたやつもいない」
モララーの言葉に緊張を緩める二人。
( ・∀・)「だが自分の言葉には責任を持て。
たった一言で、ギルドのメンバー全員が周りから非難され、
殺される可能性だってある」
声も無く、身体を強張らせる二人。
そんな二人を横目に店のドアを開け、閉店の表示を出すモララー。
そしてドアを閉めると鍵をかけ、操作パネルを出す。
外から中が伺える飾り窓が、不可視モードに変わった。
(*゚ー゚)「…すみません」
( ・∀・)「謝られても仕方ない。
今回はそんなことにはならなかった。
事実はそれだけだ」
改めてソファーに座るモララー。
背凭れに身体を預けてゆったりと腰かける。
足を組み、端正な顔を歪め、汚物を見るような視線を二人に向ける。
非難もフォローもしない。
事実をただ淡々と告げるだけ。
(*゚ー゚)「……」
(,,゚Д゚)「……」
そして何も言えないでいる二人をゆっくりと見る。
( ・∀・)「(………)」
.
-
モララーは、会話の主導権を握ることに成功した。
実のところ、しぃとギコがこの件に関して聞きに来る可能性があることを、
クーからの連絡で予想していた。
そこで幾つかの質問内容と状況のシミュレーションをしておいたのだ。
( ・∀・)「(……だが)」
この状況下でしぃが発した質問は、そのシミュレーションの中でも最低レベル。
モララーにとっては胸ぐらを掴んで殴りたいレベルであった。
( ・∀・)「(最悪のケースだな)」
自分の容姿が整っていることを認識しているモララーは、欠点もよく分かっていた。
それは、威圧感が無いこと。
整ってはいるがどこか中性的な自分の顔が、
凄みや迫力には欠けることをよく知っていた。
だから激情に任せて怒っても、怒鳴っても、
どこかただのヒステリーの様にみられてしまうことがあることを理解していた。
そしてそれはいつも人の顔色を伺っていた今までの生活の影響だということも。
( ・∀・)「(予想してなかったら、危なかったな)」
だからシミュレーションし、
人から敵意を向けられない様にいつも見せている笑顔を封印し、
怒っているように見える姿を工夫した。
だが、今回はその必要は無かった。
彼は、本気で怒っていた。
憤怒と言ってもよい。
.
-
ショボンが、仲間が、自分が、必死で守っているこのギルドを、仲間を、
ほんの少しでも脅かす可能性のあることをしたこの二人に対し、
憎しみと言っても良い憤怒の気持ちを全く隠すことなく、
二人に向けて放出しているのだ。
失敗は誰にでもある。
仲間の事を、ギルドの事を思っていても、
空回りしてしまうことはある。
それは仕方ない。
だけどこの女は違う。
ギルドの事なんて、仲間の事なんて考えていない。
考えていたら、こんな場所で、こんなふうに、あんな質問を出来る訳がない。
自分の事と、隣にいる男の事しか考えていない。
そんなやつを、仲間だなんて認めることは出来ない。
そんな思いが、モララーの頭の中をぐるぐるとまわった。
( ・∀・)「お前を仲間だと認めない」
おもわず口にした言葉。
はっとした顔でモララーを見る二人。
モララー自身、その言葉に驚いていた。
だが一度口にしてしまった以上、その責任は取らなければならない。
( ・∀・)「このギルドとラフィンコフィンの関係…ねぇ。
関係があることは、もう確定なんだな、お前の中で」
(*゚ー゚)「そ、それは」
( ・∀・)「推測だけで、殺人ギルドとこのギルドが協力関係にあるだなんて、確定したのか?」
(*゚ー゚)「………」
( ・∀・)「自分の好奇心だけで、あんな質問をしたのか?」
(*゚ー゚)「違います!私はただ事実を知りたくて!」
.
-
( ・∀・)「知って、どうするつもりだった?」
(*゚ー゚)「え?」
( ・∀・)「おれ達が、ラフコフと繋がっている。
万が一それが事実だった時、お前はどうするつもりだった?」
(*゚ー゚)「そ、それは…その…」
( ・∀・)「色々考えられるよな。
ギルドを辞めて、告発して、ヒーロー・ヒロインにでもなる気だったか?
それともおれ達を倒すつもりだったのか?
もしくは仲間になってPKしまくるつもりだったのか?」
(*゚ー゚)「そんなこと!」
( ・∀・)「じゃあ何をするつもりだったんだ!」
モララーの言葉が、鋭利な刃物となってしぃを切り刻む。
( ・∀・)「さっきお前の不用意な一言がこのギルドを壊滅させる可能性があった様に、
お前の行動がギルドを窮地に追い込んでしまうかもしれない。
そんなことを微塵も考えずに言った言葉だ。
余程高尚で意義も意味のある質問だったんだろう。
悪いが俺には想像もつかないから、教えてもらえるかな」
口にすることによる怒りの増長。
そこまで思っていなくとも、口にした一言一言に怒りが増していくの感じた。
(* )「わたし…そんな……」
硬直し、顔を真っ青にして震えているしぃ。
その横で、ギコがしゃがんだ。
(,,゚Д゚)「すみませんでした!」
土下座するギコ。
しぃが何も言えずにその姿を見る。
.
-
(,,゚Д゚)「おれが止められなかった!
傍にいたのに、注意できなかった!
二人の責任です!
許してください!」
(* )「ぎ、ギコ君…」
同じように座ろうとするしぃ。
( ・∀・)「土下座っていうのは、」
そこに響くモララーの声。
二人が硬直し、恐る恐る次の言葉を待つ。
( ・∀・)「価値のある奴がするから意味があるんだ。
お前達は、自分にそれだけの価値があると思っているんだな」
(* )「……モララーさん…」
(,, Д )「………」
モララーの冷たい言葉に何もできなくなる二人。
それを見たモララーが小さくため息を吐いた。
( ・∀・)「目障りだから、とりあえずそこに座れ」
(* )「………」
(,, Д )「………」
( ・∀・)「座れ。そんな事も出来ないのか」
慌ててモララーが指定した目の前のソファーに座る。
だがもちろん背凭れに寄りかかることなどできず、
二人並んで姿勢正しく浅く腰掛ける。
( ・∀・)「おまえらにはちゃんと話したことなかったな。
おれがこのギルドに入った経緯を。
……教えてやるよ、おれがどれだけこのギルドが大事なのかを」
一瞬遠い目をして壁の棚、その一番上に置いてある数個のクリスタルを見てから、
モララーは口を開いた。
.
-
5.見守る者
,
-
『雑貨屋BOOOON』
色々な用事を駈足で済ませたブーンが倉庫から出てくると、
店にはジョルジュがいた。
_
( ゚∀゚)「よっ」
( ^ω^)「おっお。さっきはお疲れ様だお」
_
( ゚∀゚)「ほんとだよな。急に呼び出されて最前線の迷宮区とか」
( ^ω^)「ジョルジュは楽しそうだったおね」
_
( ゚∀゚)「否定はしないけどよ、それはブーンもだろ?」
( ^ω^)「おっおっお。
ユキカゼさん、お茶をお願いするお」
カウンターをNPCの【ユキカゼ】に任せたまま、商談用のソファーに座るブーン。
同時にウインドウを出し、いくつか操作をした。
そしてジョルジュがローテーブルを挟んだ前に座る。
( ^ω^)「ショボンはどうしたんだお?」
ウインドウを消したブーンが尋ねる。
_
( ゚∀゚)「ああ、あのあと兄者の所に行ったら弟者がいなくってよ。
なんでも鍛冶屋の知り合いがいなくなったみたいで、
それの情報集めでどこかに行った」
( ^ω^)「鍛冶屋の知り合い…」
_
( ゚∀゚)「たしか、グレンとか…」
(;^ω^)「グレンさんかお!」
_
( ゚∀゚)「なんだ、ブーンも知り合いなのか」
(;^ω^)「直接会ったのは下の店で武器と防具を置いてた時に数回だけだお。
でも、兄者と弟者がすごくお世話になったってのは聞いてるから二人が…」
_
( ゚∀゚)「兄者は普通にしてたけどな。
そっちはツンがサポートしてた。
で、弟者の方にショボンが向かった」
.
-
( ^ω^)「そうかお。
二人がそれぞれついていてくれるなら、安心だおね」
_
( ゚∀゚)「そうだな」
白シャツに黒ベスト、黒パンツというウエイターの様な姿の【ユキカゼ】が二人の前にカップを置いた。
( ^ω^)「ありがとうだお」
_
( ゚∀゚)「さんきゅー」
ニッコリと微笑んだ後お辞儀をし、カウンターに戻る【ユキカゼ】
_
( ゚∀゚)「……ツンの趣味か?」
( ^ω^)「女の子はダメ!って……」
_
( ゚∀゚)「なるほど」
( ^ω^)「別に良いと思うんだけど」
_
( ゚∀゚)「最近はあいつも外に出ることが多いみたいだから、
ブーンが店で女の子と二人っきりとか嫌なんじゃないか?」
( ^ω^)「NPCなのに?」
_
( ゚∀゚)「NPCでも、だろうな。
と言うかブーン、おれより鈍感とかやばいだろ」
( ^ω^)「おっお。気を付けるお」
_
( ゚∀゚)「まったく。ツンも大変だな」
( ^ω^)「ツンが言ってたお」
_
( ゚∀゚)「なにを?」
ξ ゚ω゚)ξ「『うちの男共は自分の事には鈍感すぎる!』って」
_
( ゚∀゚)「顔が酷い」
.
-
( ^ω^)「おー。けっこうよくできた真似だと思ったんだけど、だめかお?」
_
( ゚∀゚)「殴られたくなければツンの前ではやらない方が良いと思う」
(;^ω^)「肝にめいじるお」
顔を強張らせながらカップのお茶をすするブーン。
ジョルジュも同じように啜る。
お茶の種類はよくショボンやクーが淹れる物と同じはずなのに、
どこか味が違う気がした。
_
( ゚∀゚)「なあ、ブーン…」
( ^ω^)「お?」
_
( ゚∀゚)「あー、いや、その…な…」
( ^ω^)「盗聴防止レベルは最大。
ドアの開閉は、ドアに誰かが触った時点で中にベルが鳴る様にしてあるお。
窓は可視レベルを調整して中にいる人を見えないようにしてあるお。
あと、ユキカゼさんは中の事を誰かに話したりすることは無いお」
_
( ゚∀゚)「自分の事には鈍感…。仲間のことはよく見てるってか」
( ^ω^)「おっおっお」
_
( ゚∀゚)「……ギコとしぃ、どうなると思う?」
(;^ω^)「おーーー。あの二人なら大丈夫…だと思いたいおね」
_
( ゚∀゚)「そうだよな…」
( ^ω^)「それよりも」
_
( ゚∀゚)「ん?」
( ^ω^)「みんながあのことを知っていたことを知った時に、ショボンがどう動くかが心配だお」
_
(;゚∀゚)「あー。そっちな」
.
-
( ^ω^)「完全に予想外だと」
_
( ゚∀゚)「そっか?」
( ^ω^)「『もしかしたら知っているかも』『何かに気付いているかも』くらいは思っていると思うけど、
丸々全部知っているとは思ってないと思うんだおね」
_
( ゚∀゚)「あいつが?」
( ^ω^)「ショボンだって万能じゃないお」
_
( ゚∀゚)「そりゃあそうだけどよ」
( ^ω^)「だから、僕達がそばにいるんだお」
ニッコリと微笑むブーン。
それをみてジョルジュは『やっぱりこいつらの仲は凄いな』などと思いながら、
もう一度カップに口を付けた。
( ^ω^)「だからそのあとショボンが何かしてしまわないかが心配だお」
_
( ゚∀゚)「んーー」
腕を組んで悩むポーズをするジョルジュ。
しかしすぐに腕を解く。
_
( ゚∀゚)「あいつが何を考えてるかなんて、おれが分かる訳ないか」
( ^ω^)「おっおっおっ」
お互いに相手の顔を見ながら、同じように笑う二人。
_
( ゚∀゚)「…でもやっぱりおれはあの二人の方が心配だ」
( ^ω^)「ぎこしぃかお?」
_
( ゚∀゚)「こういったらなんだが、
あいつらはおれ達ほどこのギルドに執着していないだろうからな。
口外したりはしないだろうけど、辞めちまうかもなギルドを。
それは、寂しいよな」
( ^ω^)「そうかお?」
.
-
_
( ゚∀゚)「…びっくりだ」
( ^ω^)「お?」
_
( ゚∀゚)「お前の方がさみしがるかと思った」
( ^ω^)「同じギルドじゃなくても会えるし話せるし」
_
( ゚∀゚)「あーまあそりゃそうなんだけどよ」
( ^ω^)「それに…」
_
( ゚∀゚)「それに?」
( ^ω^)「たとえギルドは違っても、もうギコとしぃはずっと仲間だお」
_
( ゚∀゚)「…そうだな。そうだった。それこそが、この【VIP】。
おれ達なんだよな」
( ^ω^)「だおだお」
にんまりと笑ったジョルジュがカップに残ったお茶を飲み干し、
勢いよく立ち上がる。
( ^ω^)「お?」
_
( ゚∀゚)「誰か誘って、ひと狩り行ってくる!」
( ^ω^)「気を付けて行ってらっしゃいだお!」
笑顔で店を出るジョルジュ。
ブーンはそれを見送り、店のモードを通常に切り替える。
外からの明かりが入って、店の中が明るくなったように感じた。
( ^ω^)「………ギルド……か」
そして一言つぶやいて、カウンターの中に戻った。
.
-
6.共に戦うということ
.
-
VIP牧場。
中心部の開けた場所に、三人の男が立っている。
一人は長身の身体にポンチョの様な防具を纏い、
その背よりも長い棍棒を携えている。
一人は和服。
濃い青灰色の袴をひらめかせ、刀を携えている。
十メートルほど離れた二人。
互いを真剣な表情で見つめる二人を見守る一人の男。
柔和な顔をしているが、その視線は鋭く二人を見守っている。
その足元にいる小狼型モンスターも、大人しく寄り添っていた。
そして二人の間に浮かんでいたカウンターが10の文字に変わったと同時に、
二人が武器を互いに向けて構えた。
袴の男の刀が青白く光る。
横で見るとその光と刀の角度が分かるが、
前に立つ長身の男からは、袴に隠れて見えていないことだろう。
そして長身の男の持つ棍棒は輝きを放ってはいない。
つまりは剣技を発動するつもりがないことを示している。
二人の間に浮かぶ数字が、一つずつ減っていく。
緊張と言う名の空気が三人を包む。
そして、数字がゼロになった。
何も言わずただ駆け出す刀の男。
刀を出来る限り後ろに回した奇妙な走り方なのだが、
そのスピードは瞬きをすることすら許さない。
そして長柄物である武器を手にした相手の懐に即座に踏み込むために、
自身の走り以上のスピードを生む突進の剣技を発動した瞬間、
目の前に棍棒が現れた。
ミ,,゚Д゚彡「か!?」
.
-
勿論相手から目を逸らしてなどいない。
相手はその場に立ったま棍棒を斜め上から振り下ろす様に構えを変えようとしていたはず。
しかし現実に棍棒はすぐ目の前にまで迫ってきている。
そして止まっても避けることは叶わないと判断した。
更に避けるために体勢が変われば剣技のキャンセルがおこり、
その後の硬直が起きてしまう。
ミ,,゚Д゚彡「はっ!」
光り輝く刀を斜め上に振りぬく。
上空に回転しながら飛ぶ棍棒。
そのまま連続技につなげるイメージを持とうとするが、
思っていたよりも当てた衝撃が少なかったために力が余り、体勢がぶれた。
ミ,,゚Д゚彡「えっ?」
何とか次の技に繋げられる構えを取りつつ相手を見ると、
余裕でこちらに棍棒で突きを放とうとしていた。
ミ,,゚Д゚彡「早いから!」
相手がクイックチェンジをここまで極めていたことに驚きつつも、
更にその棍棒を上からたたき落とすかのように刀を振る。
澄んだ金属音が響く。
ミ,,゚Д゚彡「くっ」
繋げられる連続技は無い。
そのまま剣技後の硬直を起こす。
しかし刀により相手の武器も封じているから追撃は無いはず。
( ゚∋゚)「終わりだ」
武器を放したクックルが、
落ちてくる棍棒をジャンプして掴み、
そのままフサギコの左肩に一撃を与えた。
.
-
( ´∀`)「クックルの勝ちもな!」
▼・ェ・▼「きゃんきゃん!」
決闘モードが終了し、
頭に勝利のアイコンを出したクックルの足元にビーグルが駆け寄り絡みつく。
( ゚∋゚)「大丈夫か?ふさ」
ミ,,゚Д゚彡「……まけたから…」
片膝をついて項垂れているフサギコ。
ビーグルを抱き上げたクックルが片手を差し出すと、
素直にその手を掴んで立ち上がった。
ミ,,゚Д゚彡「今のは…剣技?」
( ゚∋゚)「いや、剣技は使っていない。
全部通常技だ」
ミ,,゚Д゚彡「……」
呆然としたフサギコの肩に、近寄ってきたモナーが手を乗せた。
( ´∀`)「説明が必要もなね。
ふさは何が起こったのかよく分かってないもな」
ミ;,,゚Д゚彡「おしえてほしいから!」
( ゚∋゚)「もちろんだ」
( ´∀`)「じゃあ部屋に戻って、お茶でも飲みながら話すもなよ」
( ゚∋゚)「そうだな」
ミ,,゚Д゚彡「あ、で、でも」
建物に向かう二人と、それを見て躊躇するフサギコ。
.
-
( ゚∋゚)「今回の敗因に対しての対処策は、
身体を動かすよりもまず考えることが必要だと思う。
だからまずは一息入れよう」
ミ,,゚Д゚彡「分かったから!」
クックルの言葉に素直にうなずいて後を追うフサギコだった。
部屋に入り、モナーが用意したお茶を飲む三人。
フサギコとクックルは装備も解除しており、ラフな姿だ。
そしてクックルが口を開いた。
( ゚∋゚)「棍棒を投げたんだ」
ミ,,゚Д゚彡「武器投擲スキル!」
( ゚∋゚)「いや、本当にただ投げただけだ」
ミ,,゚Д゚彡?
( ´∀`)「最初に投げたのは攻撃としての投擲ではなく、
ただの目くらまし、ふさの動きを止める為だったってこともな」
ミ,,゚Д゚彡!
テーブルを挟んで多人数掛けのソファーに一人ずつ座るクックルとフサギコ。
そしてテーブルの側面に置かれた一人用のソファーにモナーが座っている。
三人が三人とも、真剣な顔をしている。
▼-ェ-▼「きゅーん」
そんな空気の中、モナーの膝の上ではビーグルが気持ちよさそうに撫でられていた。
( ゚∋゚)「そういう事だ。
フサギコは剣を隠すために相手に対してほぼ直線の動きしかしないから、
前後のタイミングをずらすことはあっても左右に揺れることはやらない」
ミ,,゚Д゚彡「で、でも」
.
-
( ゚∋゚)「ああ。ショボンの使う投擲武器は細めや小さめが多いし、
でかくても細剣や片手剣だろう。
大きい物でも槍や棍棒を投擲スキルを使って投げれば刺さるように飛ぶわけだから、
避けながら進むことが出来る。
回転して飛ばす斧やハンマータイプでも、
軌道は読めるからお前の実力なら避けられるだろうな」
ミ,,゚Д゚彡「……から…」
( ゚∋゚)「だが、投擲スキルを使わないでただ投げた時、
システムのアシストを受けない分その動きはランダムだ。
現実世界よりは動きは規則性が出来ていると思うがな。
さらに決まった投げ方しかできない剣技と違い、どんな投げ方もできる」
ミ,,゚Д゚彡!
( ゚∋゚)「そう。今回は武器を構える動きを利用して、武器を投げた。
投げたというよりわざと手を緩めて、すっぽ抜けるように飛ばした。
方向は決められるが、どんな風に飛ぶかはこちらにも制御できない」
( ´∀`)「今回はうまくふさの視界と動きを誘導できたもなね」
( ゚∋゚)「ああ。剣技を使わせてその場に止まらせる。
それが出来ればあれは成功だった。
その間におれは落ち着いてクイックチェンジを使って新しい棍棒を手にし、
攻撃をおこなった」
ミ,,゚Д゚彡「……」
( ゚∋゚)「そしてその一撃を防御することで剣技後の硬直を起こさせる。
今回はおれの棍棒も封じられたが、それも見越していたから、すぐに次の手に移行できた」
ミ,,゚Д゚彡「最初に飛ばした」
( ゚∋゚)「そう。最初に上空に飛ばされた棍棒の動きにも意識していた。
だから落ちてくる動きに合わせることが出来た」
ミ,,゚Д゚彡「………すごいから……」
呆然とクックルを見るフサギコ。
その視線を感じ、苦笑しながらモナーを見るクックル。
モナーは笑顔でそれに頷くと、何かに気付いたかのようにウインドウを開いた。
.
-
クックルはフサギコに視線を戻す。
( ゚∋゚)「こんなふうにふさの弱点、弱い部分を指摘する為に、おれも必死に頑張ったんだがな」
引き締めていた表情を崩し、楽しそうな笑顔をフサギコに向けた。
ミ,,゚Д゚彡「え?」
( ゚∋゚)「ギルド内大会でもここの所負け無しだし、
戦い方に幅が無くなってきているようだったからな」
ミ,,゚Д゚彡!
( ゚∋゚)「得意な技を極めるのも大事だけど、
弱点をフォローする想像力も必要。
必勝パターンが破られることも想像しないといけない。
慣れた相手にも思考を固定してはいけない。
相手が思いもよらない手を繰り出すこともあるかもしれないから。
『もしかして』に囚われることなく、
『もしも』の動きに対応できる柔軟さを意識することが大事」
ミ,,゚Д゚彡「………あれ?」
( ゚∋゚)「気付いたか。
これはおれじゃなくて、ショボンから言われたんだ。
指揮の練習の時にな。
ついでに言うと、今回のこれもショボンに頼まれたんだ」
ミ,,゚Д゚彡!
( ´∀`)「でもやり方はクックルが考えたもなよ。
ショボンが教えてくれたのは、フサギコの付け入る隙だけもな。
クックルが一杯考えて、練習も一杯したもなね」
( ゚∋゚)「モナーも一緒に考えてくれたし、練習に付き合ってくれただろ」
( ´∀`)「もなもな。
メインで考えたのはクックルだし、練習もモナーはちょっと手伝っただけもな」
ミ,,゚Д゚彡「みんな……」
.
-
瞳に涙を浮かべて二人を見るフサギコ。
( ゚∋゚)「おれ達はお前に勝つために色々工夫しているが、
お前はそこまで色々な手を試さなくてもおれ達に勝てるからな。
たまにはこういうのも良いだろ?」
ニヤッと笑ったクックルに、フサギコも笑顔を返す。
ミ,,゚Д゚彡「ふ、ふさも色々練習するから!
次は負けないから!」
( ゚∋゚)「練習したのはこれだけじゃないからな」
ミ,,゚Д゚彡「!が、頑張るから!」
( ´∀`)「あと、兄者には内緒にしないともなね」
( ゚∋゚)?
ミ,,゚Д゚彡?
( ´∀`)「ふさに勝てる手があるのに、
大会以外でそれをやるなんて!!!!
って、絶対に怒るもな」
モナーの言葉に顔を引きつらせる二人。
(;゚∋゚)「そ、そうだな」
ミ;,,゚Д゚彡「内緒にするから」
顔を見合わせて頷きあう二人を見て笑うモナー。
すると視界の隅にメッセージが届いたことを知らせるアイコンが点いた。
( ´∀`)「失礼するもな」
ウインドウを出すモナー。
.
-
うおおお!まさかの大晦日投下 支援しえん
-
年内に来てくれるとは思ってなかった
支援支援
-
( ゚∋゚)「今日は店はどうしてるんだ?
しぃはギコと狩りだろ?」
ミ,,゚Д゚彡「今日はNPCの【マーガレット】さんと【ダリア】さんに任せてきたから」
( ゚∋゚)「珍しいな」
ミ,,゚Д゚彡「ショボンから、たまにはNPCの人に任せてみて、
自分やしぃが居る時との客の違いを見たほうが良いって言われたから」
( ゚∋゚)「あー。中にはプレイヤーのやってる店が嫌いってやつもいるみたいだしな」
ミ,,゚Д゚彡「…かなしいから」
( ゚∋゚)「色々なやつがいるって事さ。
飲食関係は攻略に直接関係ない分、ただのコル集めだって言ってるやつもいるみたいだし」
ミ#,,゚Д゚彡「……」
( ゚∋゚)「美味しい物を食べれば心が休まるし、
活力も湧くと思うけどな」
ミ*,,゚Д゚彡「!」
( ´∀`)「二人ともいいもな?」
( ゚∋゚)「どうした?」
ミ,,゚Д゚彡?
( ´∀`)「モララーから連絡が来たもな。
ラフコフの件で、ギコとしぃはモララーの所に行ったもな。
それでこれから、こちらに来るように言ったってこともな」
クックルとフサギコの顔に緊張が走る。
( ゚∋゚)「……クーが言っていた通りになったな」
ミ,,゚Д゚彡「だから……」
( ´∀`)「二人がどうするかは、二人の気持ち次第もな。
ただ、モララーがやっちまったようもな」
ミ,,゚Д゚彡「?」
(;゚∋゚)「やっちまった?」
.
-
( ´∀`)「クックルには今から説明するもなけど、
ふさはモララーのところに行ってあげてほしいもな。
モララーからのメッセージを転送するけど、詳しい話はモララーから聞いてほしいもな。
あと、クーからあの二人が今日の採取業務でやらかしたことも来ていたもなから、
それも転送するから読んで欲しいもな」
ミ;,,゚Д゚彡「わ、わかったから」
立ち上がるフサギコ。
モナーから放たれているオーラを感じて慌ててはいるが、
しっかりとクックルとモナーとビーグルに挨拶をしてから部屋を出て行った。
(;゚∋゚)「モナー、『やっちまった』っていうのは?」
( ´∀`)「二人がアホなことをしたのでぶちぎれたみたいもな」
(;゚∋゚)「……モナー?もしかして…」
(#´∀`)「今から説明するけど、モララーがぶちぎれても仕方ない様もな」
(;゚∋゚)「(………なにしでかしたんだ、あの二人)」
(#´∀`)「しかも採取中もやらかしていたもな」
モナーの膝の上。
いつの間にか目を覚ましていたビーグルが、
恐る恐る一声鳴いた。
.
-
7.事実と思惑
.
-
( ´∀`)「正直に言うもな。
モナーは、二人の加入は心配だったもな」
にこやかなモナーの言葉が、目の前のソファーに座ったギコとしぃに突き刺さる。
( ´∀`)「あ、反対はしなかったもなよ。
ギルマスの、ショボンの決めたことだったもなからね。
このギルドに置いては、メンバーの加入はショボンに一任されているもなから、
モナー達がとやかくいう事ではないもな」
モナーの持つ人柄からか、
VIP牧場にあるこのリビングはいつも暖かく、安らぐことが出来た。
だが、今日は違った。
( ´∀`)「だから、加入が決まった時は特に何も思わなかったもな。
紹介されたときも、心から歓迎したもな。
けれど、加入の経緯を聞いた時に、心配になったもな」
どこか寒々しく、心の芯が冷たさを感じていた。
ビーグルも、部屋の隅で丸まっている。
(,,゚Д゚)「ど、どういう事だゴルァ」
モナーの斜め後方に立っているクックルが、じっとギコを見つめた。
(,,゚Д゚)「どう、どういうことですか」
(*゚―゚)「何故…ですか」
( ´∀`)「モナー達とは、加入の経緯が違うからもな」
(,,゚Д゚)「加入の」
(*゚―゚)「経緯?」
.
-
( ´∀`)「そうもな。
モナ達は…。
そう、
モナだけじゃないもな。
ジョルジュも、
弟者も、
兄者も、
フサギコも、
クックルも、
モララーも、
みんな、形は違えど苦しみや心の傷を癒してくれた、
何も言わず隣に立って支えてくれたVIPの皆に惹かれて、
このギルドに入ったもな」
(*゚―゚)「みんな…」
( ´∀`)「二人は、違うもなよね」
(,,゚Д゚)「で、でも最初の五人は」
( ´∀`)「VIPの中心は、あの五人もな。
あの五人の繋がりは、詳しくは聞いていないもなけど、
五人が五人を支えあっているのはよく分かるもな。
最近は色々なつながりが出来て、五人でいることも少なくなったもなけど。
でも、このギルドがあたたかいのは、あの五人が中心にいるからもなよ」
( ゚∋゚)「二人には、おれの入った経緯は話したことがあったな。
他には誰のを知っている?」
(*゚―゚)「さっきモララーさんにお聞きしました。
詳しくお聞きしたのはお二人だけです」
(,,゚Д゚)「お、おれもだぞゴルァ」
( ゚∋゚)「……そうか…」
( ´∀`)「別に、苦しみや傷から立ち直ったから偉いとか言うつもりはないもなよ。
けれど、モナ達の行動は、きっとそこから来ているもな」
(,,゚Д゚)?
.
-
(*゚―゚)「行動?」
( ´∀`)「自分とギルドを同等に扱い、同等に大事にすること」
(*゚―゚)「それはわたしも」
( ´∀`)「一緒じゃないもな」
(*゚―゚)!
(,,゚Д゚)「そんなことないぞゴルァ!しぃはいつもみんなの事を気にして」
( ´∀`)「そう、気にしてはいるもなね。
つまり、『意識して気にしなければ表に出てこない』もなよ」
(*゚―゚)!
(,,゚Д゚)!
( ´∀`)「二人は、まずお互いや自分が出て、その後にVIPの皆が出てくるもな」
(,,゚Д゚)「あ…う…」
(*゚―゚)「そ、そんな……」
モナーの言葉を受け止めきれない二人。
なんとか反論をしようとするが、次の言葉が続かない。
( ´∀`)「責めてはいないもな。
ギコとしぃはずっと二人で支えあっていたもなから、当然のこともな。
でも、それが二人と他のメンバーとの違いもな。
そして、今回の事で大きなずれとなったもな」
(,,゚Д゚)「ずれ…」
( ´∀`)「『このギルドがラフコフと繋がっているかもしれない』
その可能性を感じた時、きっと二人はまず相手の事を思ったんじゃないかもな?
ギコはしぃを、しぃはギコを、互いに互いを守ることを」
.
-
(,,゚Д゚)「!……ごるぁ」
(*゚ー゚)「そう、かも…しれません……」
( ´∀`)「モナーがそれを知った時、まず考えたのは、
ショボンがそれによってギルドの何を守ろうとしているのかだったもな。
クックルはどうもな?」
( ゚∋゚)「おれは、またおれ達のために何をしようとしているんだ…だった。
ま、一緒だな」
(,,゚Д゚)!
(*゚―゚)!
( ´∀`)「ショボンの行動は、いつもギルドの為もな。
クーはギルドの事を第一に考えてしまうショボン個人をフォローしつつ、
副団長としてギルドを守ろう、支えようとしているもな。
ツンだって、ブーンの事だけを考えているように見えて、実は周りをいつも見ているもな。
ドクオがハインの思いに答えないのは、
ギルドの事を第一に考えている自分では、
彼女の思いにちゃんと答えることが出来ないと思っているからだと思うもな。
ブーンはそんな四人をいつも支え、皆の心の拠所になっているもな」
(*゚―゚)!
(,,゚Д゚)!
( ´∀`)「モナーは、そんな五人に出会えたことを、嬉しく思っているもな。
そして、その仲間でいられる自分を誇りに思っているもな。
それはきっと、クックルも、モララーも、皆が一緒もな。
……今の話で、モララーがなぜ怒ったのかは、分かってくれたもな?」
(,,゚Д゚)!
(*゚―゚)!
( ´∀`)「分かってくれたもな?」
(,,゚Д゚)「……ゴルァ」
(*゚―゚)「はい…」
.
-
( ´∀`)「そして、モナーもクックルも、怒っていることも」
(,,゚Д゚)!
(*゚―゚)「!……は、はい…」
( ゚∋゚)「少し、行動が迂闊すぎたな。
自分のキャパ以上の事をしようとはしないことだ」
(,,゚Д゚)「…はい」
(*゚―゚)「ギコ君は悪くないんです!全部私が」
(,,゚Д゚)「おれも止めなかったから同罪だゴルァ」
( ´∀`)「反省するのはこの後でもな。
今から、大事な話をするもなよ」
(,,゚Д゚)?
(*゚―゚)「大事な話、ですか?」
( ´∀`)「二人が知りたいのなら、
モナーとクックルが知る限りの、
ラフコフとの関係を教えてあげるもな。
そして、ショボンが何を考えているのかを」
(,,゚Д゚)!
(*゚―゚)!
( ゚∋゚)「聞きたくなければ、すぐ帰れ。
そして、自分達の事を考えて、これからの事を決めればいい」
(,,゚Д゚)「教えてください」
(*゚―゚)!
( ´∀`)!
( ゚∋゚)!
.
-
(,,゚Д゚)「おれ達は、知らなかった。
知らなかったことも、知らなかった。
気付いていなかった。
気付こうともしなかった。
だから、それを許してもらえるのならば、
教えてもらえることは、教えてください。
お願いします」
立ち上がり、頭を下げるギコ。
その姿を呆然と見ていたしぃも慌てて立ち上がり、
同じように頭を下げる。
( ゚∋゚)「……」
少し驚いた顔をしたクックルがモナーに視線を移すと、
自分を見ている瞳とぶつかった。
心からの優しい笑顔を見せたモナーにそっと頷くクックル。
モナーも頷き、視線をギコとしぃに戻す。
( ´∀`)「少し長くなるから、ちゃんと座るもな」
ビーグルが部屋の隅から駆け寄り、モナーの膝の上に飛び乗った。
フサギコが裏口からモララーの店に入ると、
店の応接セットで一人モララーが頭を抱えていた。
ミ,,゚Д゚彡「も、モララー?」
(;・∀・)「フサギコ!!」
.
-
フサギコが声をかけると、目に見えて驚いて顔を上げた。
室内の照明は落ちているが、その顔が青ざめているのは分かる。
( ・∀・)「ど、どうした」
しかしすぐに平静を装う。
彼なりのプライドなのだろう。
ミ,,゚Д゚彡「モナーに言われてきたから」
( ・∀・)「モナーに?
あー、いや、大丈夫だ。
ふさもギコしぃの方にいってやってくれ」
ミ,,゚Д゚彡「ダメだから」
( ・∀・)「え?」
ミ,,゚Д゚彡「ばれてるから、仲間の前で無理しちゃだめだから」
( ・∀・)「……ああ、そう、だな」
自分を見るフサギコの視線を感じながら、
再び頭を抱え込むモララー。
( ・∀・)「…どうしよう、フサギコ。
おれ、あの二人に酷いこと言っちまった」
ミ,,゚Д゚彡「……」
( ・∀・)「あの二人は、大事な仲間だ。
一緒に生き抜きたい、大事な仲間だ。
友達なんだ。
でも、さっき、おれは……。
嫌われちまったかな……」
ミ,,゚Д゚彡「仕方ないから」
( ・∀・)!
.
-
目の前のソファー。
さっきまでギコが座っていた場所に腰掛けたフサギコを、
驚きをもって見るモララー。
( ・∀・)「フサギコ?」
ミ,,゚Д゚彡「モララーが怒るのは、仕方ないから。
あの二人とモララーとは、VIPに対する思いが違って当然だから」
( ・∀・)「ふさ……」
ミ,,゚Д゚彡「でも、あの二人がVIPを大事に思っていないわけじゃないから」
( ・∀・)!
ミ,,゚Д゚彡「二人は二人なりに、このギルドが好きで、大事に思っているはずだから」
( ・∀・)「……そうだよ…な」
ミ;,,゚Д゚彡「…たぶん」
( ・∀・)「あ、多分なんだ」
ミ;,,゚Д゚彡「きっと…」
( ・∀・)「いや、そこは断言してやれよ」
ミ;,,゚Д゚彡「おそらく…」
(;・∀・)「え?フサギコ実はあのふたりを信用してないとか?」
ミ;,,゚Д゚彡「そ、そんなことはないから!」
モララーの一言に慌てて否定するフサギコ。
そして少しの沈黙の後、二人とも噴き出した。
( ・∀・)「ありがとうな、ふさ」
.
-
笑いながら感謝の言葉を口にするモララー。
それにフサギコは笑顔で答える。
( ・∀・)「うん。あの二人なら大丈夫だ。
次にあったら謝ってくるだろうから、おれも謝ってやろう。
いや、ギコには頭を一発殴るくらいしてやらないとかな」
ひとしきり笑った後に、にやりと笑いながらモララーが呟いた。
.
-
(* − )「私達は…ラフコフには殺されない」
( ´∀`)「そうもな。
ショボンはそれと引き換えに、
食事やPOT、装備などを提供しているもな」
(,,゚Д゚)「そんな…」
( ゚∋゚)「信じたくない気持ちは分かる。
だが事実だ。
活動している殺人ギルドはラフコフだけではないだろうが、
最悪最強の殺人ギルドに命が狙われないというのは、
警戒を他に向けることが出来る。
良くも悪くも、VIPはそれなりに知られたギルドだしな」
(* −)「そんな…」
モララーからモララーの入った経緯を、
そして他のメンバーの事を少しだけ教えてもらった後に、
話は本題へと入っていた。
殺人ギルド『ラフィンコフィン』のギルドマスター【Poh】と交わされた密約。
ショボンが交わされた、Pohとの協定。
そんな方向からも、自分達が守られていたという現実。
(* −)「ショボンさん…」
(,,゚Д゚)「ショボン…」
.
-
緊張感がスゲえな 支援
-
( ´∀`)「そしてショボンは、その関係が白日の下に晒された時、
その全ての責任は自分だけにあるという流れを作るつもりもな」
(* −)!
(,,゚Д゚)!
( ゚∋゚)「おれ達に話さないのもそのためだ。
その件に関して、おれ達は関わっていないことになっている。
知らないことになっている。
ショボンは、VIPのギルマスとしてではなく、ショボン個人として勝手に行っている。
おれ達がアイテムの提供によって命を守られていることを、隠そうとしている」
(* −)「でも…誰かに知られたらショボンさんがギルマスである以上…」
( ´∀`)「わざとリークしてあるもなよ。
【ショボンがラフコフと関わっている】
【ショボンに近い一部ギルメンもショボンを疑っている】
この二つの情報を流すことによって、
ショボンが独断で行っているってことになるようにしているもな。
きっとショボンの事だから、
ツンや兄者達に無理やり武器や装備を作らせたことになるようにしてあるはずもな」
(,,゚Д゚)「な!そんなことどうやって!」
(*゚―゚)「!そんな都合の良い情報!」
( ´∀`)「一人だけいるもな。
その人の流す情報には信頼のある人が。
その人がそう信じていてくれるなら、何かがあった時にさっき言った情報が回るもな。
そしてその人は、不用意に、迂闊に、そんな情報を流す人ではない人もな」
(*゚ー゚)「情報屋の…」
(,,゚Д゚)「アルゴ」
.
-
( ´∀`)「そうもな。
あの人なら、その情報を真実として流すことが出来るもな」
( ゚∋゚)「騙すのは、リークするのはあの人だけで良い。
もちろん彼女を騙すのは他の誰を騙すより、百人を騙すより大変かもしれないが、
ショボンなら……やりとげるだろう」
沈黙。
ギコとしぃは何もしゃべることが出来ず、
モナーとクックルはそんな二人をやさしく見つめている。
モナーの膝の上ではビーグルが不安げに身体を丸めていた。
そして数分経ったのちに、一人が口を開いた。
(,,゚Д゚)「なんでおれ達に話したんだゴルァ」
(*゚―゚)「え?ギコ君?」
(,,゚Д゚)「おれがブーンのところで手袋を見たのも、
しぃがツンのところで手袋を見たのも、
全部わざと…じゃないのかゴルァ」
( ´∀`)「そうもな」
(*゚―゚)「え!?」
( ´∀`)「実のところ、モナーもそこら辺の事はよく分かっていないもな。
何故二人に話したのか。
何故このタイミングで話したのか。
何故こんなやり方で教えたのか。
その本当の目的は分からないもな。
でも……」
ウインドウを開くモナー。
そして一つの封筒を取り出す。
.
-
(*゚―゚)「それは」
( ´∀`)「クーからの手紙、いや、指令書もなね」
(,,゚Д゚)「指令書?」
( ゚∋゚)「クーから…。
サブマスターからの指令書だ。
おれ達が、命令されていたという物的証拠だ」
(*゚―゚)「ど、どういう!」
( ´∀`)「もし、周囲にばれて、ショボンが糾弾されて、
その余波がショボン個人だけでなくギルドとしてみんなにも押し寄せようとした時、
ギルドの皆も命を盾に脅されていた、
全ては、ギルドマスターのショボンと、
サブマスターのクーがやったことである。
それを証明する為の指令書もな。
ショボンとクー、そしてギコとしぃ以外の全員に渡されたもな」
(* −)「クーさん…」
( ゚∋゚)「もちろんショボンはこのことを知らない。
と言うよりも、おれ達がここまで詳しく知っていることも知らないはずだ」
(,,゚Д゚)「な!」
( ´∀`)「クーが話してくれたもなよ。
モナ達がちゃんと知らないのはまずいって言っていたもな。
そして、知ったうえでどうするか決めてほしいって言っていたもな。
そしてモナ達は、今までと変わらないギルドの運営を選んだもな」
( ゚∋゚)「きっと、お前達に気付かせたのも、その為だろうな」
(*゚―゚)「でも、それならこんな回りくどい方法じゃなくても…」
( ´∀`)「推測もなけど、クーは、二人にいろいろ考えてほしかったんじゃないかと思うもな」
(,,゚Д゚)「考える?」
.
-
( ´∀`)「モナは二人が入るきっかけになった事件を直接知らないもなから、
想像にすぎないもな」
( ゚∋゚)「おれもだ。
だから、後は直接聞くと良い」
(*゚―゚)「ちょくせつ?」
( ´∀`)「そうもなね。
直接聞くのがいちばんもな。
今回二人にばらすことを、
二人にいろいろ考える時間を作ることを計画した、
クーに」
外は既に、夜の帳が落ちていた。
.
-
8.彼女の思い
.
-
ギルドVIPホーム。
ギコとしぃがショボンのいる執務室のある二階に行く為に階段を下りていると、
踊り場に、クーが立っていた。
川 ゚ -゚)「やあ二人とも。
私をこんなところに呼び出すとは、偉くなったものだな」
(;,,゚Д゚)「え?」
(;*゚ー゚)「え、そ、そんな」
川 ゚ -゚)「冗談だ」
(,,゚Д゚)「ゴルァ…」
(*゚ー゚)「クーさん…」
二人からメッセージが来た時に、
ここを指定したのはクーなのだからまったくの言い掛かりなのだが、
何故か二人は動揺した。
そんな二人を見て、
優しく微笑んだクー。
川 ゚ -゚)「さて、本題に入ろう」
(*゚ー゚)「ここでですか!?」
川 ゚ -゚)「どうせこの後ショボンの所にも行くつもりだろう?
ならば簡単に済ませよう」
(;,,゚Д゚)「ゴルァ…」
踊り場には大きなガラス窓がある。
採光用で開かないその窓に、クーはもたれかかった。
外から差し込む柔らかい夜の光が、クーの表情を陰で隠す。
川 ゚ -゚)「おめでとう。今日の鉱物採取で、借金は完済だ」
.
-
(,,゚Д゚)「ゴルァ?」
(*゚ー゚)「え?」
川 ゚ -゚)「なんだ二人とも、嬉しくないのか?」
(,,゚Д゚)「借金?」
(*゚ー゚)「!あ!ギコ君を助けた時の経費!」
川 ゚ -゚)「…自分達がした借金を忘れていたとはなかなか豪胆だな」
(;*゚ー゚)「あははは」
(,,゚Д゚)「(すっかり忘れてたぞゴルァ)」
川 ゚ -゚)「こちらから指示の有ったクエストや店・牧場・農場の手伝いの給金から、
金額に応じて10から35パーセント徴収していたんだが…」
(*゚ー゚)「あー。そういえばそうでしたね」
(,,゚Д゚)「(そうだったのか…)」
川;゚ -゚)「毎月明細渡していたと思うんだが」
(*゚ー゚)「もちろん見てました。
でもあんまりそこの金額は意識していなかったというか…」
(,,゚Д゚)「(まったく見てなかった…)」
川 ゚ -゚)「ま、いいか。
で、今回指示した鉱物採取の給金で、完済となった。
おめでとう」
(*゚ー゚)「あ、はい。ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
.
-
川 ゚ -゚)「今までは、借金を返すためにこのギルドに入って、
働いていたという名目を表に出すことが出来た。
だが、これからは違う。
全ての面から自分の意思でこのギルドにいることとなる」
(*゚ー゚)!
(,,゚Д゚)「も、もとからおれ達は」
川 ゚ -゚)「もちろん二人がこのギルドを好きでいてくれること。
望んで一緒に頑張ってきてくれたと私は信じている。
だが、これは周囲から見た時のことだ。
今までは『借金返済の為』ということを言えたが、
これからは言えなくなる。
このギルドが何かをした時、その責が二人にも圧し掛かってくるだろう」
(,,゚Д゚)!
(*゚ー゚)「!クーさん…」
川 ゚ -゚)「二人には、このギルドがどんなギルドなのか。
何を知らせていなかったのか。
メンバーが何を考えてこのギルドで過ごしているか。
それを今までの間、そう今日一日かけて知ってもらえたと思う」
(*゚ー゚)「そのために、こんな回りくどいやり方を…」
川 ゚ -゚)「話すのは簡単だ。
でも、自分で、知ってほしかった。
考えながら、気付いてほしかった。
そして、考えてほしかった。
自分達が何を選ぶのか」
(,,゚Д゚)「クー」
.
-
川 ゚ -゚)「恩を感じる必要はない。
今は、この瞬間は、自分達の事を考えろ。
ギルドの事じゃなく、自分達の事を考えるんだ。
そして、これからの事を決めてほしい」
(*゚ー゚)「…それは、今すぐじゃなきゃいけないんですか」
川 ゚ -゚)「状況は流転している気がする。
この先、何かが起こるような気がしている。
その時に、覚悟が無いままこのギルドに居て、
渦にのみこまれることが無いようにしてもらいたい」
(,,゚Д゚)「……ゴルァ」
川 ゚ -゚)「もちろん今決めたことをずっと続ける必要はない。
何かが変われば、その時にもう一度考えても良い。
何かが無くても、明日考えを変えても良い。
明後日その考えを覆しても良い。
けれど、まず一回目の選択は、今日、今、この瞬間にしてほしい。
明日何かが起きた時に、覚悟する為に」
差し込まれた光が動き、クーの顔に明かりが射す。
その瞳は真摯で、二人の心に深く重く入り込んだ。
(*゚―゚)「一つ、聞いても良いですか?」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
(*゚―゚)「なぜ、ラフコフの事を皆さんに話したんですか?
話さなければ、本当に知らないで済んだはずです。
それが、ショボンさんの願いだったはずです」
(,,゚Д゚)「しぃ!」
(*゚ー゚)「ショボンさんの思惑を、クーさんは」
川 ゚ -゚)「ああ。破壊した」
しぃの問い掛けにすんなりと肯定するクー。
.
-
川 ゚ -゚)「言い訳をするならば、まずはジョルジュとモナーが気付いた。
ショボンが隠していることを。苦しんでいることを。
その影に、あのギルドが関わっていることを。
ジョルジュは偶然だが、モナーは流石だったな。
だから、二人には話した。
二人に話して、他の皆に話さないのは公平ではないと思い、
ツンやドクオ、モナーと相談して、他の皆にも話した。
そして、選んで欲しいとも言った。
このギルドに居続けるか、辞めるか」
(*゚―゚)「そしてみなさん…」
川 ゚ -゚)「ああ。残ることを選んだ。
二人が入る、少し前の事だ」
(,,゚Д゚)「ゴラァ…」
(*゚―゚)「そうだったんですか…」
川 ゚ -゚)「だが、それは本当に言い訳だ。
私はもともとみんなに話すつもりでいたからな」
(,,゚Д゚)!
(*゚―゚)「何故ですか?」
川 ゚ -゚)「ショボンが思っている以上に、私達はショボンの事を好きだと思ったからだよ」
(,,゚Д゚)?
(*゚―゚)?
.
-
川 ゚ -゚)「何かが起きて、糾弾されて、ショボンがそれを一人で背負って…。
それを皆が知った時、絶対に苦しむと思ったんだ。
そして悲しむと思った。
ショボンが自分達を守るためにした事とは言え、
そんなことをしていたことに気付かなかったことに。
そして、ショボン一人で背負っていたことに。
私達は、ただ守られるだけの子供じゃない。
そして、仲間だ。
だから、話した」
(,,゚Д゚)「クー」
(*゚―゚)「クーさん」
川 ゚ -゚)「でも、これも言い訳だな。
私はきっと、頑張ってるショボンを知ってやってほしかったんだ。
そして何かが起きた時、このギルドの仲間だけでも、
すべてを知ったうえで味方でいてやってほしかった」
じっと二人を見ていたクーが、そっと俯く。
長い髪が、顔を隠した。
.
-
川 )「きっと、ただ、それだけだったんだ」
.
-
(,,゚Д゚)「……」
(*゚―゚)「………」
自分を見つめる二人の視線を感じ、
ゆっくりと顔を上げるクー。
そこにはいつも通りの、冷静な彼女がいた。
川 ゚ -゚)「これですべてだ。
後は、二人で決めてくれ」
(,,゚Д゚)「……ゴルァ」
(*゚ー゚)「……はい」
互いの顔を見るギコとしぃ。
そして、小さく頷く。
(,,゚Д゚)「もう、決めてるぞゴルァ」
(*゚ー゚)「これから、ショボンさんの所に行きます」
川 ゚ -゚)「ああ」
(*゚ー゚)「クーさんも、来てくれますか?」
川 ゚ -゚)「私もか?
構わないが…」
(,,゚Д゚)「じゃあ行くぞゴルァ!」
階段を下りはじめるギコ。
その後にしぃが続き、クーがその後ろを歩く。
そして執務室のドアの前に二人が並んで立った。
(*゚ー゚)「ギコ君」
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
川 ゚ -゚)「……」
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