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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

666名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 18:53:19 ID:HcapCJ4s0
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In that Island, the peal of Great Bell has the job that cautions everything's beginning and ending.
その島において、グレート・ベルの鐘の音は全ての始まりと終わりを告げる役割を担っている。

                         ロウテック出版 【初めての“鐘の音街”観光ガイド】
                                           二ページ目より抜粋

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667名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 18:56:21 ID:HcapCJ4s0
自然の生み出す音だけが聞こえる、静かな夜だった。
鬱蒼と生える木々が風に揺らされ、潮騒の様な音を鳴らし、虫々と鳥の鳴き声がそれに合の手を入れる。
僅かに欠けた巨大な月は柔らかく白い輝きを放ち、夜空に浮かぶ雲の輪郭と女性の脚を思わせる見事な山の尾根を照らしていた。
乾いた潮風は涼しく、夏のうだるような暑さを海の彼方へ押しやる。

四方を透明度の高い海に囲まれ、自然豊かな複数の島で構成された街。
ジェイル島は、そんな街の最南端に位置する小さな島だった。
海岸には長い年月を経て風雨と潮が削った鋭利な岩が転がり、剥き出しの自然がそこかしこに溢れている。
だが未開拓の島と云う訳ではなかった。

島の森全体は夜の心地よい静寂その物に包まれ、そこに生きる生物たちは静かな夜を過ごしていた。
巣で眠りにつく鳥もいれば、悲しげな声で鳴く鳥もいた。
虫は次の世代を残すために異性を呼び寄せる音を鳴らし、雑木林の間から多様な音の混声合唱が聞こえる。
僅かな光を吸収して光る獣の眼は、跫音を忍ばせ獲物となる動物の姿を探してゆっくりと上下する。

獣たちは地面に鼻を寄せて匂いを追いながらも、小さな体で賢明に音色を奏でる虫を極力踏まないようにと足を進める。
月光が森に落とす影は濃く、木々の間から木漏れ日のように降り注ぐ青白い光は日光よりも柔らかく儚い。
僅かな蒸気がゆらりと天に上る様子が、月明かりによって幻想的な光景として目視できる。
水辺の近くではカエル達が不思議と統制の取れた音楽を演奏し、川のせせらぎが森のざわめきと合わさって胎内を思わせる音を奏でている。

静かな夜を過ごそうとする点で言えば、急な坂道を登り切った崖の上にある“セカンドロック刑務所”の囚人たちも同様だった。
収監された死刑囚たちは死刑執行までの間、最期の時間を牢獄の中に鎖で繋がれて過ごしていた。
殺人鬼、強姦魔、詐欺師、泥棒など彼らの犯罪歴はばらばらだが、誰一人として、そこでの生活に満足はしていなかった。
自由を失い、誇りを失い、そして命を奪われるだけの余生に満足する人間は、そこにはいない。

他者に対して与えた苦痛や屈辱を考えれば、然るべき処遇なのだと自覚する者もいるが、それでも、望むのはやはり自由。
再び自由を手にして、再び己の心の赴くままに行動したいというのが、受刑者全員の望みだった。
同時に、罪を犯した人間が自由を望むことを許す被害者もいない。
被害者が望むのは、徹底的な苦痛の伴った贖罪だ。

668名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:03:34 ID:HcapCJ4s0
苦痛と汚辱に塗れた余生を過ごし、後悔に満ちた死を遂げさせる。
それこそが、被害者が最初に抱く自然な感情。
その感情を実現させる場所が、ここ、セカンドロック刑務所だ。
セカンドロックはジェイル島自体が刑務所としての役割を持つように設計された、監獄島だ。

その名前は世界で最も有名だった刑務所にあやかって付けられのだが、その性能は決して名前に負けることはなかった。
厳重な警備、設備、全てが一流揃いの施設だ。
当然、刑務所である以上は避けられない脱獄者は何人もいた。
しかし、誰一人として脱獄に成功した者はいない。

厳重極まる監獄からの外に出たのは、セカンドロック設立から現在に足るまでに一度だけ。
八十七年前に起こった三人の脱獄未遂事件。
それに関わった三人の犯罪者たちは、週に一度だけある運動の時間の際に打ち合わせを行い、一年で計画を実行に移した。
脱獄の方法は極秘とされ、分かっているのは三人が嵐の夜を選んだということだけだった。

しかし全員が島の土を踏む前に、計画に勘付いた看守たちによって捕らえられ、監獄の中央で嬲り殺しにされた。
非人道的な殺害の光景は全ての囚人に見せつけられ、殺人鬼でさえ、目を背ける程だった。
死体は見せしめとしてしばらくの間そこに放置され、やがて、死体が放つ悪臭に囚人たちは三日間食事が出来なかった程だという。
今でも床にその痕跡が残っていると、当時からいる人間は語っている。

刑務所を上空から見ると綺麗な正五角形をしており、それぞれの頂点には監視塔が立てられている。
そこから周囲を監視するのはサーチライトと人の眼、そして温度を識別する機械の眼だった。
強力な熱感知カメラの情報は逐一監視室でチェックされ、六時間ずつのシフトで二十四時間交代の監視がされている。
脱獄を補助しようとする人間など、万が一不審な物があれば、監視室から遠隔操作で機関銃を撃つことも出来た。

施設は外壁を強固な鉄筋コンクリートで固め、外壁と内壁の間には分厚い鋼鉄の板が埋め込まれ、隙間はない。
コンクリートは劣化を防ぐための薬品が混ぜて練られた物で、数世紀の時が流れたとしても強度はほとんど変わらず、戦車砲の直撃にも耐えられる。
内側の壁や床は同一柔軟性のある素材で保護され、自殺と脱獄の両方を防いでいる。
受刑者全員に与えられた独房に窓もライトもなく、常に薄暗がりの中での生活が強いられている。

669名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:09:56 ID:HcapCJ4s0
ベッドはおろか、毛布すらなく、あるのは排泄用の携帯便座が一つ。
鉄格子の代わりに設けられた五十口径の銃弾も防ぐ強化アクリルには、空気穴と食事受け渡し口の穴だけが空けられていた。
嘗て脱獄王として名を馳せた東洋人が行ったように、食事に出されたスープを使って金属を錆びさせての脱獄もまた、不可能だ。
偶然金属片を手に入れたとしても、房を開けるためにはカードキーが必要になる。

両手足の親指同士が結束バンドで巻き付けられ、更には手錠、足錠が嵌められた上に、それが鎖で壁に繋がっていた。
手先が器用な人間でさえも、指と手足の付け根を押さえられてはどうにも出来ない。
また、大きな吹き抜けを囲むようにして独房が設置されているため、誰かの目を盗むことは不可能だった。
これが、施設が五角形の理由の一つだ。

創設から長い時代が経過した今も尚、脱獄不可能と言わしめる堅牢な警備の維持には、“正義の街”ジュスティアの協力があった。
正義を貫くことを誇りとするジュスティアの街から出た犯罪者の中でも、特に極悪とされる人間はここに運ばれる。
汚点を街に残さず、別の場所で罪を償って死んでもらいたいという、街の方針だった。
勿論、ジュスティアはそれを強要することはしていない。

島の警備に軍人や装備を惜しげもなく提供し、相互扶助の関係を保っているのだ。
ここはジェイル島。
またの名を、監獄島。
罪人が死をもって罪を償うために辿り着く、最果ての島。

――八月八日、午後九時三十七分にそこを訪れた人物によって、ジェイル島が持つ長い記録が終わりを告げた。

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                  ,,,.ii..,               The Ammo→Re!!
                ,,。..,ll::;;liii|,,..,,,         原作【Ammo→Re!!のようです】
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670名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:13:05 ID:HcapCJ4s0
サーチライトが空と海、そして地上に広がる闇に向けられ、影の中にある翳を照らし出す。
小動物が強烈な光に怯えて逃げ、森の奥深くに走り去る。
そして、それを狙っていた肉食獣が狩りを始める。
白と黒で熱源を示す映像を見る監視室の男達は、何も異変がないことを確認してから、別の方向にカメラを向けた。

藪に潜んで脱獄補助のチャンスを窺う愚か者は、今日もいない。
監視員たちはそれでも気を抜かずに、注意深く闇に浮かぶ熱源を見ていた。
濃く淹れたコーヒーを飲んで眠気を覚ましつつ、BGM代わりに流しているラジオの声に耳を傾けるのが、彼らの日課だった。
厳戒態勢の敷かれた警備網を突破するためには、唯一の入り口から来るしかない。

刑務所唯一の入り口は崖を背にした施設の正面にあり、そこに続く道は未舗装の状態だ。
装輪装甲車で攻め入られたとしても、その悪路が機動力を削ぎ、迎撃を容易にする。
また、道の脇には対戦車地雷も設置されており、一定の重量を超える乗り物がそこを通ると爆発する仕組みになっていた。
近々指向性対人地雷も設置する案が出ており、来月中には実現する予定だった。

入り口から監獄に行くまでには、二重の警備態勢が敷かれていた。
外部の重役であろうと面会希望者であろうと、その対処は同一とされており、変装や裏切り行為による事故の発生を封じている。
第一段階は、施設に続く分厚く背の高い鋼鉄の扉の前で、身分と所持品の確認を行う。
あえて屋外で検査をすることにより、危険物を施設内に持ち込まれる危険性を無くしたのだ。

第二段階では施設に入り、最新の機器を用いて改めて所持品の検査を行う。
体内に隠し持った微細な金属片、更には毒物でさえ見逃さない。
全ての検査が終わり次第、特殊繊維の枷を両手に嵌め、一人に対して三人の警備員が監視に付く。
不審な行動が見られ次第、彼らには射殺許可が下りていた。

夜も深まった九時三十七分、左右を深い森に挟まれた荒れた道に現れたのは一人の禿頭の男だった。
特徴的な垂れた眉毛は一見して温厚そうな印象を与えるが、眼光の鋭さは彼が只者では無い事を雄弁に語っている。
その日、第一ゲート前で警備に当たっていたのはビオ・ブランドーとダノン・プレーンの二人だった。
ジュスティア出身の二人はその男を見た時、コルト・カービンライフルの安全装置を無意識の内に解除していた。

671名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:20:45 ID:HcapCJ4s0
今晩この刑務所を訪問する予定の人間と言えば、ジュスティアから来る査察のヘリコプター以外はいないはずだ。
招かれざる客と考えた方がいいと、ビオは判断した。

(::゚,J,゚::)「止まれ」

ビオは銃口を向けた。
彼の背後の建物から溢れる光が、男の顔を照らし出す。
光に照らされた青白い顔は無表情だったが、気だるげに垂れ下がった眼には狂犬と同じ類の光が宿っていた。
黒いポロシャツにジーンズ姿とラフな格好で、武器は手にしていない。

禿頭の男は指示通りに歩みを止め、淀んだ目でこちらを睨む。
場数を踏んだ人間の眼だ。
服をしたから持ち上げる過度に発達した筋肉は、ボディビルダーの比ではない。
肌に刻まれた細かな傷は、これまでに通り過ぎた道の険しさを物語る。

アポイントなしでも受刑者に面会することは出来るが、身分と持ち物を検査する必要がある。
今この段階で、この男を門前払いにすることは出来ない。

(::゚,J,゚::)「ここは刑務所だ。 観光客の来る場所じゃない」

「分かっているさ。 僕は面会に来たんだ。
僕は記者だ」

カメラも持たない記者など、妙な話だ。
だがこの施設内ではカメラは禁止されている。
それを知った上で持ち込んできていない可能性もあり、怪しむ要素にはなり得ない。

(::゚,J,゚::)「記者? 誰に取材するつもりだ?」

「デミタス・エドワードグリーンと、シュール・ディンケラッカーだ」

672名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:26:47 ID:HcapCJ4s0
今世紀最悪の泥棒、デミタス“ザ・サード”。
そして今世紀最悪の誘拐魔、シュール“バンダースナッチ”。
どちらも一年以内の処刑が決定している人間のカスだ。
逮捕されてから少なくとも三年――生き地獄を味あわせるため最低限与えられる期間――は経過しており、記事にするには旬な人物とは言い難い。

三世を意味する“ザ・サード”と云う渾名は、彼が盗みの前に送り付けた予告状の中で、自らが伝説の怪盗の孫だと主張していたからである。
デミタスは歴史的、芸術的に価値の高い物を盗み、高値で売り払った。
その被害総額は天文学的な物で、盗まれた品の多くは闇市場に流れ、未だに手がかりが掴めていない。
彼が捕まったのは、ジュスティア軍が保管する貴重な棺桶を盗もうとして失敗したからだ。

事前の情報もあったが、過去五回も被害を出したジュスティアの意地もあった。
ジュスティアは世界中にある警察の本部ある街で、正義の代行者としての自負と責任があった。
軍に向けて予告状を出したデミタスを捕らえるために“円卓十二騎士”が投入され、デミタスは捕らえられた。
その場で殺すことも出来たが、ジュスティアとしては愚か者には長い苦しみを味あわせたかったこともあり、セカンドロックに投獄された。

世界各地を転々としながら誘拐と人身売買を行ってきたシュールもまた、一時期は話題になった犯罪者だが今では風化しつつある。
主に十三歳未満の子供を対象として誘拐、監禁、凌辱の限りを尽くしてから売り払う悪質な手段。
悲鳴を残すことなく子供たちを誘拐する手際の良さと、抵抗と逃走を防ぐために両手足の腱を切断することから、“バンダースナッチ”の名で知られた。
高額な現金取引が主な人身売買界の大物として、その業界に巨大なコネを持っていた彼女は、居場所すら簡単には捕まらなかった。

分かっているだけでも二十の隠れ家があり、その地下からは子供たちの様子が記録されたデータが見つかっている。
そのデータは高額で取引され、世界各地の変態の欲望を満たすために使われたらしい。
売られた子供たちは、まだそのほとんどが見つかっていないという噂だ。
奴隷として売られているのならばまだ探しようがあったが、高額で取引される臓器移植目当てとなると、最早救助は絶望的だった。

そんなシュールを捕らえたのは、人質解放を専門とする会社の人間だった。
その人物はシュールの隠れ家を突き止め、単身で突入し、見事に子供たちを救出した。
救助された子供の中には両足を切断され、傷口を焼いて塞がれた子供もいたという。
彼がいなければと思うと、ぞっとする。

673名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:34:05 ID:HcapCJ4s0
ビオは目の前にいる自称記者の男に、嫌悪感を覚えた。
あの人でなし共に今更何を訊く必要があるのか。
今すぐにでも縊り殺してやりたいと思って止まない犯罪者に、何を訊くというのか。
それでも、仕事とは切り離して考えなければならないのが辛いところだ。

(::゚,J,゚::)「……ボディチェックを」

「あぁ、分かった。 ところで、この後すぐに連れが来るんだ。
どうにも膀胱が弱くてね。
だから面会者は二人になる」

そう言って、男は親指で背後の森を指した。
どこかで用を足してくるというと、男だ。
感心できることではない。
監視塔からその姿は見えているだろうし、何よりその格好のまま死んでも大変だからだ。

(,,゚,_ア゚)「ここは野生動物や毒を持った虫が多い。
     藪に行くのはあまり感心しないな」

「一刻を争うって言っていたからね。
さ、始めてくれ」

ダノンがビオに目配せし、ビオは頷いた。
ライフルを背中側に回し、ダノンは金属探知機を使って男の体を念入りに検査する。
金属反応は出なかった。
続いて、衣服の中のチェック。

674名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:38:20 ID:HcapCJ4s0
例えば、プラスチックで作られたペーパーナイフでさえも、使い方一つで凶器になる。
ここでは、どんな小さな物も見逃すわけにはいかなかった。
靴を脱がせ、中敷、靴底、靴紐に至るまで念入りにチェックする。
ベルトも外して素材や隠された物がないかも確認した。

結局、男の体から出てきたのはボールペンと新品のメモ帳だった。
メモ帳のリング部分は厚い紙で作られていたために、持ち込みが可能な品だった。

(,,゚,_ア゚)「悪いが、ボールペンは禁止だ。
     中にある羽ペンを使ってもらう」

「構わないよ。 書ければいいんだ」

メモ帳だけを返された男はそれをジーンズのポケットにしまった。
ほどなくして、もう一人の男が藪から現れた。
十字教のキャソックに身を包んだ程よい肉付きをした、長身の神父だった。
茶色の髪の毛は短く刈られ、円らな碧眼は凪いだ海のように穏やかだった。

禿頭の男に比べると怪しげではない。

「こんばんは、皆さん。
すみません、お待たせしてしまって」

温和そうな表情をした神父は、首から金色の輝きを放つシンボルを下げていた。
奇妙なシンボルだった。
十字教のそれではない。
木が枝を伸ばした、変わったシンボルだった。

「所持品検査ですか。 では、私もお願いします」

675名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:42:02 ID:HcapCJ4s0
再びダノンが金属探知機を手に神父を調べた。
服の中も調べたところ、神父が持ち合わせていたのは首から下げた金色のネックレスだけだった。

(,,゚,_ア゚)「それをお預かりしても?」

「出来る限りご配慮いただきたいのですが、無理は言いませんよ」

ダノンが意見を求めてきたので、ビオは頷いた。

(,,゚,_ア゚)「いえ、お持ちになっていて結構です」

肩の無線機を取り、ビオは第二ゲートに連絡を入れた。

(::゚,J,゚::)「こちら第一ゲート。 男性二名がそちらに向かう。
     一人は記者で、もう一人は神父だ」

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676名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:47:32 ID:HcapCJ4s0
第二ゲートは施設に通じる最後の検問所だ。
十平方メートルほどの空間は薄暗く、空気は乾いている。
一切の装飾品の無い白い部屋には、ジュスティアから派遣された腕利きの軍人が四人いた。
その晩、そこを守る四人の軍人は現れた二人の男を見て、警戒心を露わにした。

神父は笑顔だし、禿頭の記者は無表情だ。
危険を感じる要素は特に見当たらないが、それでも、彼らの直感が告げるのだ。
この二人に気を許してはいけないと。
それもそうだ。

ここは極悪非道な罪人を収容する場所。
そこを訪れる人間が、普通であるはずがない。
第二ゲート警備担当者、ビブリア・ガガーリンは己の勘に従ってライフルだけでなく、拳銃の安全装置も解除した。

(+゚べ゚+)「目的は?」

「取材だよ」

禿頭の男が答えた後に、神父が続く。
胸元に右手を添えて、若干腰を屈めての礼のおまけつきだ。

「そのお手伝いに」

(+゚べ゚+)「どこの社の取材だ?」

ビブリアはあくまでも慎重に、男達の本質を見極めようと決めた。
こうして尋問している間にも、床、天井、壁に仕掛けられた高性能な探知機が男達の体に危険な武器や脱獄用の道具がないかを調べている。
部屋全体が赤くなれば何か発見したことを知らせ、何も変化がなければ危険性は低い事を示す。

「僕たちは会社には属していないよ」

677名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:51:28 ID:HcapCJ4s0
飄々とした禿頭の男の発言に、ビブリアは眉を顰めた。

(+゚べ゚+)「社でなければ、自費出版の類か?」

新聞社やラジオ会社が今更あの二人の事件を特集するとは考えにくい。
ならば、誰かの偏執的な執念で行われる取材と云うことだ。
パラノイアは時に思いもよらぬ行動を招くことがある。
その最たる例が、受刑者に対する執拗な追跡だ。

しかし、それは然るべき理由があったために、当然の報いとして認知されていた。
それが受刑者たちの精神に多少なりとも揺さ振りをかけることが、数多くの歴史の中で証明されていた。

「出版はしないさ。 あくまでも、取材だよ。
さ、時間がない。 拘束具を」

禿頭の男と神父は腕を体の前で組んで、捕縛を催促した。
全ての質問に対して二人の男から有益な情報は得られなかったが、ビブリアはこれ以上訊くことを止めた。
この男は、被害者に雇われた類の人間の可能性が高かった。
時々あるのだが、探偵などを雇って事件の真相を知ろうとする被害者がいる。

探偵の中には様々な経歴の持ち主がおり、ただならぬ雰囲気を漂わせる人間も、勿論その中にいる事が多い。
それに、通常の検査に必要な時間よりも多めに待たせたが、反応は何もない。
後ろで待機していた部下に合図をして、二人の両手首に特殊繊維の枷を巻き付けさせた。
幅の広く分厚い繊維の枷は対象者の手首を痛めることもないし、抜け出すための技も存在しない。

(::0::0::)「では、こちらへ」

678名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:54:35 ID:HcapCJ4s0
カービンライフルで武装した兵士が六人、面会希望の二人を囲みながら歩き始めた。
重々しい音を響かせながら開いた扉を潜ると、そこにはアクリルの扉が付けられた独房に閉じ込められた囚人たちが並んでいた。
特徴的な五角形の吹き抜けがフロア全体に解放感を与え、天井には外部の光を取り入れる――朝から昼までの貴重な光源――為の巨大な強化ガラスがはめ込まれている。
夜になれば、そこから月を見上げることも出来た。

五つの壁と水平になるように並ぶ五階建ての棟はAからEまでの五つの棟に分けられており、天井と壁から離された形で設計されている。
全ての棟が向かい合う形となっており、脱獄だけでなく互いの様子までもが筒抜けの状態だ。
その棟は一つの階に二十人を収容することが可能で、それが五階分積み重ねられている。
一階から五階までは転倒防止用の手摺が付けられた階段で繋がっている。

都合、一つの棚に百人が収容されている計算だ。
つまり、ここには五百人の死刑囚がいると云う事になる。
倉庫に積まれたコンテナ、もしくはペットショップのショーケースを思わせる光景だ。

「僕はデミタスを。 君はシュールを頼むよ」

「分かりました」

歩く速度を全く変えず、視線すら交えずに二人はそれぞれの目的の場所に向かう。
兵士達も二手に分かれ、左右と前方に立って誘導を始めた。
どうしても悪寒が消えないビブリアは、少し離れて禿頭の男の後ろを追うことにした。
目的の独房はB棟の五階にあった。

階段を上り、房の前に着く。
男が羽ペンとメモ用紙を手にその前に立つと、中で丸まって寝ていたデミタスが薄目で見た。

「やぁ、起きたかい?」

(´・_ゝ・`)「……誰だい、あんた」

679名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:02:18 ID:HcapCJ4s0
力無く答えたデミタスは三十代後半のはずだったが、二回りは歳を取って見えた。
逮捕時とは異なり、癖の強い髪の毛は肩まで伸び、脂ぎっていた。
口髭も伸び放題で、痩せこけ、目は眼窩に落ち窪んでいる。
細身で長身の手足に付いた筋肉も落ちていて、枯れ木の様だ。

彫りの深いハンサムな男だったが、今ではもう見る影もない。
元々の人相から大分変ってしまっているが、掠れたような渋い声色だけは昔の面影を残している。

「僕が誰だっていいだろう?
それより訊きたいことがある。
君は、この世界を変えたいと思うかい?」

(´・_ゝ・`)「おい看守の旦那、こいつ何なんだ?
      今更精神科医を頼んだんじゃないだろうな」

デミタスは面白くもなさそうな声色で問いかけるが、兵士たちは三人とも肩をすくめた。
この男が何者なのか、それを訊きたいのはこちら側なのだ。

「僕は君がしたことを知っている。
盗みの理由を知っている。
“あの子達”が君に感謝していることも、知っている」

(´・_ゝ・`)「……あんた、一体」

「今すぐに返事を聞かせてほしい。
僕と一緒に来る事で君が望んだ世界を叶えられるとしたら、どうする?
世界を、変えたいかい?」

680名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:08:18 ID:HcapCJ4s0
何を。
何を話しているのだ。
何の話をしているのだ。
階段で待機して聞き耳を立てていたビブリアは、不穏な空気を悟って腰のホルスターからコルトを抜いた。

発言次第では、拘束しなければならない。

(´・_ゝ・`)「……あぁ、そうだな」

デミタスは返事をした。
これが取材で無い事は明白だ。
そして一連の会話は、デミタスの脱獄に手を貸すということを意味していた。
男を取り囲む兵士たちがライフルを向ける。

至近距離でのライフルは、使用者にとって非常に危険だ。
距離が近い分、得物が持つ長さが仇となることが多い。
近接戦では拳銃を使うか、せめてブルパップ式のライフルを使うのがセオリーだ。
咄嗟の事に、兵士たちはそんな初歩的なことも忘れてしまっていた。

後は、坂道を転がり落ちる石のように事態が動き始めるだけ。

(+゚べ゚+)「おい、おま――」















(´・ω・`)「じゃあ、新鮮な空気を吸いに出かけようか。
     善は急げ、だ」










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681名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:13:07 ID:HcapCJ4s0
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来訪者の神父に対して、ティメンション・マルタは奇妙な感覚を抱いていた。
男の眼は優しげだし、物腰も柔らかい。
おおよそ暴力とは無縁のお花畑で生きてきたような、そんな雰囲気すら感じ取れる。
しかし、男の佇まいからは音を発しないスズメバチのように危険な雰囲気も感じ取れるのだ。

スズメバチは攻撃をする前に警告をする。
警告の後には猛烈で容赦のない攻撃がある。
だが、彼らは羽音と警告音で周囲の生物に己の存在、そしてその危険性を知らせる。
彼らから音を取った場合、恐るべき暗殺者となる。

その存在を認識できるのは、攻撃された後なのだから。

「シュールさんはどんな様子ですか?」

神父の質問にマルタは短く答えた。

Ie゚U゚eI「ここに来てからは誰とも一度も口をきいていない。
      大人しく過ごしているが、人は見かけによらないぞ」

「その通りですね」

682名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:16:47 ID:HcapCJ4s0
会話はそれで終わった。
四人はシュールが鎖で繋がれた檻の前に到着するまで、無言のままだった。
シュールが収監されている独房は、E棟の一階にあった。
垢と埃で汚れた布一枚で体を覆う女性が、独房の中で半身を壁に預けて地面に座り込んでいた。

半分だけ開いた目は虚ろで、ブラウンの瞳は光を反射していない。
以前は整っていた顔も、頬骨が見えるまでに痩せこけている。
瑞々しかった唇は渇いてひび割れを起こし、荒れている。
腰の辺りまで伸びた黒髪は櫛を一度も通していないため、ごわごわとしている。

艶はなく、栄養が行き届いていないのが一目で分かる。
女らしさが残っているとしたら、布きれの下にある小振りな胸ぐらいだ。

lw´‐ _‐ノv

独房の中のシュールはただ茫然と壁を眺めており、強化アクリル板の向こうにいるマルタたちに一瞬たりとも視線を向けようとはしなかった。
この女は何を考えているのは分からない。
分かるのは、子供たちを誘拐し、売り捌いたことだけだ。
歳は確か、三十代手前だったと聞いたことがある。

Ie゚U゚eI「会話の内容は全て記録させていただきます」

「勿論、構いませんよ。
……やぁシュールさん、今晩は」

lw´‐ _‐ノv

683名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:21:13 ID:HcapCJ4s0
声をかけても、シュールは反応しない。
無駄だ。
昔は違ったかもしれないが、今は会話が成立する人間ではない。
ジュスティア軍の尋問係が子供たちの行き先を吐かせるために一カ月かけて聞き出せたのは、彼女の悲鳴だけだったという。

女にしか通用しない尋問や薬も使ったが、シュールは悲鳴以外喋らなかった。
そこまでいくと、心に異常があると考えるしかない。
拷問や尋問を耐え抜くには、コツがいると聞いたことがある。
それは、自らの意志で精神を崩壊させるという手だ。

何度も何度も、自分自身に問いかけて心を壊すのだ。
本当に自分はここにいるのか。
痛みを感じているのは、本当に自分なのか。
これは悪夢であって現実ではないのか、と。

そうすれば、何も喋らずに済む。
ただし、一度壊れた心が元に戻ることはない。

「そのままでいいから聞いて欲しい。
貴女は、世界を変えたいと思いますか?」

lw´‐ _‐ノv

気のせいだろうか。
一瞬だけ、シュールの眉毛が動いたように見えたのは。

「貴女が誘拐をした経緯を、私は知っています。
……それもまた、世界を変えたかったからでしょう?」

684名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:24:17 ID:HcapCJ4s0
シュールの眼が、確かに神父を向いた。
その眼は鋭い眼光すら放っており、先ほどまでとはまるで違う人間に見えた。

「私達に手を貸してくれませんか?」

lw´‐ _‐ノv「……目的は、何?」

男は胸から下げたシンボルに手を当て、優しげに、だがしっかりとした口調で答えた。

( ・∀・)「世界が黄金の大樹となるために」

その言葉の直後、B棟の方から肉を叩きつけるような音が聞こえてきた。

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      _______
    || ____   | |
    || |    ||   .||         総合プロデューサー
    ||.  ̄ ̄   ||        アソシエイトプロデューサー
    ||.        ||        制作担当【ID:KrI9Lnn70】
    ||.        ||
    ||.  |三三| ...||
    ||______| |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

禿頭の男、ショボン・パドローネは一呼吸で勝負を決めようと考えていた。
理由は二つ。
一つは敵に余計な動きをさせたくなかったから。
そしてもう一つは、この後の予定が分刻みで決まっているからだ。

(´・ω・`)「墳ッ!!」

685名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:27:15 ID:HcapCJ4s0
ショボンの左右、そして背後に三人の兵士がいたが、三人とも、何が起きたのか詳しく分かった者は誰一人としていなかっただろう。
特殊繊維の枷を力任せに引き千切り、その勢いを利用して左右同時に放たれた裏拳は二人の男の胸骨を破壊し、手摺の向こうに殴り飛ばした。
背後にいた男の股間を蹴り上げると、その体が宙を舞って手摺を越えた。
彼らが事態を理解しかけた時には、既に落下した後。

待っているのは、頭部の損傷による即死、もしくは瀕死の重傷だけ。
小さな悲鳴が聞こえた時には、もう、彼らは結末を迎えていた。

(+゚べ゚+)「――お前!!」

階段の影に隠れていた男が、拳銃を手にして姿を現した。
隠れて見ているのは分かっていたが、遅い登場だった。
遅すぎるぐらいだ。

(´・ω・`)「……君はねぇ」

羽ペンは鳥の羽を加工しただけの、非常に簡単な筆記具だ。
骨の先端を削って切れ込みを入れた物で、それをインクに浸して使うのだが、殺傷能力はゼロに近い。
それも、使い方次第だ。

(´・ω・`)「呼んでないんだよ!!」

原始的な飛び道具である矢は、速度と安定性によって敵を殺傷する道具となった。
では羽ペンはどうだろうか。
武器にはなり得ないのだろうか。
脆く、強度の無い羽では、何もできないのだろうか。

686名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:30:31 ID:HcapCJ4s0
答えは、否。
当たり所と使い方次第だ。
今、ショボンが人間離れした筋力で投擲した羽ペンは安定した速度で、男の目元に命中した。
それだけで、効果は表れた。

(+>べ<+)「ぬぁっ?!」

目潰しは時間を稼ぐための技。
それが成功した時点で、ショボンの勝利と男の死は確定していた。
銃口が上に向かって逸れ、必殺となり得た二発の銃弾はあらぬ方向に飛んでいく。

(´・ω・`)「悪いが、マナー違反は一発退場だ」

――拳の一撃で人間が殺せるのか。
ショボンは警官時代、何度か犯人を殴殺したことがある。
拳で人間は殺せる。
しかし、一発で殺すのは不可能だと理解した。

何度も執拗に頭部か心臓を狙って拳を繰り出すしか、方法はない。
その理由は、筋力の限界にあった。
どれだけ日々鍛錬を積み重ねても、人間の拳はそう簡単に武器にはならない。
気の遠くなるような時間と想像を絶する執念によって磨き、洗練した場合でのみ、人間の四肢は初めて武器化する。

残念なことに、警官時代にショボンの四肢は武器にはならなかった。
だが今、ショボンの四肢は武器と化していた。
筋肉を一時的にだが、劇的に強化させる失われた技術。
強化外骨格を作ることの叶わなかった貧困国が作り出した強化薬物、“マックス・ペイン”。

687名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:35:27 ID:HcapCJ4s0
使用後に全身に激痛が走るという副作用があるが、一時間の間、使用者は全身の筋力が十倍以上になる。
今やショボンの右ストレートは人を殺せるだけの威力を持っている。
どのような機器を使ったところで、筋力の高さに反応する探知機はない。
それが、この薬物の強みだった。

強化された脚力で地面を蹴り飛ばし、ショボンは男の髭が数えられる距離にまで接近した。

(+゚べ゚+)「かひゅっ!!」

喉の骨を背骨ごとへし折る一撃。
それが、男の命を奪った。
絶命した男は銃を取り落とし、階段から転げ落ちた。
まだ人の手の温もりが残るコルトを拾い上げ、ショボンはデミタスの前に戻った。

(´・ω・`)「さぁ行こう。 君は、こんな狭い世界で生きるべき男じゃない」

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     ,':、〈_ ,イ-゚ ´       ' ./`ヾ.ハ
    八ノ:::::::` ー      ,イ  )  } 編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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(;・∀・)「た、大変だ…… 人が、人が死んでしまった……」

Ie゚U゚eI「糞っ、あんたはここにいろ!!」

688名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:42:50 ID:HcapCJ4s0
警備の男達はライフルを構え、Bブロックに向かった。
マドラス・モララーは言われた通り、その場で待つことにした。
ただし、大人しく待つ気はなかった。
出来る事なら誰も傷つけたくないし、モララーは格闘術が苦手だった。

( ・∀・)「……で、シュールさん、どうしますか?
     私達と一緒に世界を変えませんか?」

さほど気にした風もなく話を再開したが、実際、モララーは人が死んだことに対して悲しんでいた。
まだ役に立ったかもしれない命。
話次第では味方になったかもしれない命だった。
それでも、死んでもらった方が計画の進行には好都合だとしたら、死ぬべきだ。

目の前で鎖に繋がれたシュール・ディンケラッカーの命に比べれば、彼らの命などあまり価値がないとも感じる。
彼女は天才だ。
子供の心を掴み、それを支配する能力の高さは世界一と言っていい。
恐怖と暴力、そしてトラウマこそが支配に必要不可欠な要素だ。

彼女の手口はそれを全て満たしているだけでなく、ある一つの目的のために向けられていることが、組織が評価している点である。

lw´‐ _‐ノv「……内容次第」

( ・∀・)「ありがとう、シュールさん」

彼女の心はまだ、壊れていない。
尋問と云う名の拷問に耐えられたのは、彼女の精神の強さの賜物だ。
何か口にすれば、それだけで尋問が激化することを知っているため、何も喋らなかったのである。
悲鳴に呪詛を込めて、彼女は長い時間耐え抜いたのだ。

lw´‐ _‐ノv「でも、私をどうやってここから出すの?」

689名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:45:40 ID:HcapCJ4s0
( ・∀・)「あぁ、それなら大丈夫」

大気を震わせる爆音が、上空から響いた。

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 == ==ヾ、= ,〃-- -- -- --―――==|= fユ'´ ||ー
      ヾ、 〃             _,|l_r'└‐'└‐:-.、_
        fユへ、        _ ,r‐:'´:f^ヽ :`'ュ、: : : _:.-‐ 二三.、
       〃dノシ       r'´_: : : : : ヾン: :_.┴' ´r‐ ''"、´  、 {、
      // 'l;:.∧     f: :fノ:,,.: -‐ 'f"´fl´|f二fャ   ム -┸ =ヘ
           'l;:.:.∧     ` 7:f'´:./´|l´l:|仁|l=||_l|: ¨ニ:ニ: : : :¨´ : : :ヽ
          'l;::.:.∧  _ - '":l|: : | ´|l´|:l   !_,||=‐': : |   l: :0: :o : : p: :|
      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】
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ショボン・パドローネが暴れ始めたのとほぼ同時に、セカンドロック刑務所上空に一機の中型多目的ヘリコプターが現れた。
高度は三百フィート。
事前にジュスティア軍から査察があると連絡があったため、誰も警戒はしなかった。
疑問を持った時にはショボンが暴れ始め、接待どころではなかったのだ。

だから。
誰も気付かなかった。
ヘリコプターから、一つの黒い影が零れ落ちたことに。

(:::::::::::)『……』

黒い影は天窓の強化ガラスを突き破り、刑務所内への侵入を成功させた。
雨のようにガラス片が降り注ぐ中、片膝を突いて監獄内の中央に現れたのは、滑らかな光沢を放つ人の形をした黒い殺意だった。
細身の体を覆う丸みのある装甲には傷一つなく、青白い光が鼓動するように点滅する黒いヘルメットの向こうに、顔は見えない。
そして、後頭部から腰の辺りまで伸びた直径約一インチの黒いケーブルの束は、まるで髪の毛の様なしなやかさを持っていた。

690名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:50:22 ID:HcapCJ4s0
一つの目的に特化して設計、製造された強化外骨格――別名、“棺桶”――の名は、“アバター”。

川[、:::|::,]

Ie゚U゚eI「ファッツ?!」

突如として現れた約七フィートの来訪者に、ジュスティア出身の兵士たちはマニュアル通りの対応を見せた。
カービン銃を向け、問答無用で発砲し始めたのだ。
銃弾の雨に晒されながらも、アバターの使用者は動揺した様子を見せない。
彼らの銃に装填されている弾の種類など、気にもしていないと言わんばかりに。

銃弾は装甲に当たると、マッシュルームのように潰れて地面に落ちた。
丸みを帯びた装甲に受け流された銃弾は、壁や床にめり込んだ。
ライフル弾では、棺桶に十分なダメージを与えられない。
ようやくそれが人間ではなく棺桶だと気づいた男が、大声で叫ぶ。

(ΞιΞ)「くそっ、棺桶だ!!」

アバターは後ろの腰に取り付けていた自動装填式のショットガン、AA-12を悠然と構え、兵士たちを撃ち殺し始めた。
その場から対して動くこともせず、膝立ちのまま次々と銃爪を引いて散弾を放って行く。
散弾は防弾着をつけていない男達の頭に正確に命中し、肉を散らせた。
四人ほど撃ち殺した時、ようやく刑務所中にサイレンの音が響き渡り始めた。

川[、:::|::,]『……』

アバターは腰を上げ、周囲を見渡す。
警備員は遮蔽物に身を隠し、無意味だと分かりながらも銃爪を引く。

(´・ω・`)「僕はいい!! まずはモララーから頼む!!」

691名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:53:12 ID:HcapCJ4s0
壁際に追い込んだ兵士を縊り殺していたショボンが、そう声をかける。
頷くこともなく、アバターはその場から駆け出した。

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                 /:i:i:/:i:i:i:ミヽ
                   i:i:i:i{´ ̄ ヽ:i∧   _
                  Ⅵハ.    Ⅵ:i: /∧
.             ir==ミ _/==ミi   |:i:i/ / ∧
.             i|   / 7 ̄ \  l:_/'  / ∧   _
.             i|   '  i     Y /'     / ∧/  |   _
.             i|  i|  、   ゞソ  i| /  -/ /  |/  i
.        _     ノ=ミ〈、ハ   /'|i:   ilへ / , {   ノ    |
        ゝ≧=≦i\ /弋'ゞ=彡' i|i:  '   Ⅵ人i| /}    ノ
       ⊂ ァ ヾ 乂  ヽ  ヽ {i_/i|i:_{   }i   ヽ  {  /- 、
           総作画監督・脳内キャラクターデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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ジュスティアでは、“正義”とは誰よりも早く、正確に実行されるべき項目として幼少期から徹底的に教え込まれる。
セカンドロック刑務所で最も戦いのキャリアが長いナショジオ・ユニオンジャック少佐は、ショボンが戦闘を開始した時に誰よりも早く棺桶を準備した。
十年近く使い込んだ愛用の棺桶、“ユリシーズ”を起動させるための音声コードを入力したのは、サイレンが鳴り響いた直後の事だった。

(●ム●)『どんな戦いにも正義が二つあるわけではない。
      最後まで正義を貫いた者が唯一の正義なのだ』

彼の体がコンテナに取り込まれ、体全体に機械仕掛けの鎧が取り付けられ、八フィートの巨人となる。
そのガバメント・シリーズのCクラスの棺桶は、ジュスティア軍人の憧れの存在として人気のある物で非常に貴重な物だった。
全身をグレーの強化装甲で覆い、特徴的な防護襟に守られたその堅牢さはガバメント・シリーズの中でも五指に入る。
小型のグレネードランチャーを全身に隠し持ち、状況に応じて多様な戦い方が出来る。

692名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:57:15 ID:HcapCJ4s0
装着を終えたナショジオは、棚のコンテナからミニガンを取り出して、それをユリシーズの背面アタッチメントに取り付けた。
このアタッチメントが世界にあるほぼ全ての武器と連結できることが、ユリシーズの持つ最大の特徴だ。
武器、兵器の運搬を容易にする実用的な機能だ。
武装を整えたナショジオは武器庫から出て、独房で暴れている愚か者たちを鎮圧するために監獄に向かった。

兵士たちは装備を揃えるために武器庫に向かっているために、殆ど人がいなかった。
まばらに聞こえるカービンライフルの射撃音に被せるようにして、ショットガンの乱暴な銃声が響いている。
勇敢な部下が戦っている音だ。
そしてその音が消えた時、ナショジオは怒りに声を震わせて叫んだ。

〔 <::::日::>〕『……脱獄を試みる馬鹿は久しいが、手助けする阿呆は初めてだ。
       俺の部下を殺して、楽に死ねると思うなよ!!』

言葉が終わるよりも僅かに早く、黒い棺桶が散弾を乱射しながらB棟の影から飛び出した。
右手でミニガンをすぐさま起動し、猛烈な弾雨を浴びせる。
細身の棺桶が相手ならば、この銃弾には絶対に耐え切れない。
それを理解しているらしく、相手は左右に銃弾を避けながら接近してくる。

互いの放つ銃弾が地面を穿ち、壁を破壊する。
円を描くように移動しながら放つミニガンの銃弾は独房の強化アクリルを粉砕し、収監されていた人間を肉片に変えた。
どうせいつか死刑になるのだから、全く心は痛まなかった。
それよりも、この侵入者を排除する方が重要だ。

相手は弾の雨に気圧されてA棟の独房に追い詰めていることに、まだ気づいていない。

〔 <::::日::>〕『疾いが、しかしっ!!』

693名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:00:15 ID:HcapCJ4s0
左手の甲に装着されたグレネードランチャーに焼夷弾を装填し、相手の動きを読んで三発連続で発射した。
床が燃え、囚人がパニックを起こす。
逃げ道を炎が塞ぎ、黒い棺桶は自然と壁際に逃げる。
迂闊な――

〔 <::::日::>〕『ちぃっ!?』

――壁を走って駆け上るなど、考えてもいなかった。
すぐさま破片榴弾に切り替え、それを五発撃った。
独房が爆発に巻き込まれ、爆発の直撃を受けた囚人の血がアクリル板に飛び散った。
ミニガンの弾が切れたのと同時に、相手はショットガンを捨てて小型のナイフを逆手に構えた。

ナショジオもミニガンを手放し、少しでも身軽になるためにアタッチメントからミニガンを外した。
高周波ナイフを両太腿の鞘から抜き放ち、爆発的な加速で迎え撃つことにした。
切れ味だけでなく運動エネルギーもナイフに込めるこの戦い方は、棺桶同士の近接戦闘ではよく使われる。
そして、訓練兵時代からナショジオが得意とする戦い方だった。

〔 <::::日::>〕『うらぁ!!』

川[、:::|::,]『……』

高周波ナイフの刃がぶつかり合う。
火花が散り、二人は必殺の領域へ。
力の優劣の差は、一瞬で現れた。
押されて三歩後退したのは、侵入者の黒い棺桶だった。

幾ら変わったタイプの棺桶とは言っても、所詮はAもしくはBクラス。
Cクラスの棺桶に、力勝負で勝てるはずがない。
反撃の体勢を取らせるよりも早く足払いを食らわせ、転倒させた。
小さく跳躍し、右膝でナイフを持つ右腕の付け根を踏み潰す。

694名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:05:20 ID:HcapCJ4s0
膝の下で、確かな破壊の手応えを感じ取った。
例え装甲に守られていても、使用者の関節は無事では済まない。
腕の付け根を破壊すれば、そこから先を動かすことは出来ない。

川[、:::|::,]『……』

悲鳴一つ上げないとは中々に見上げた根性だが、それがナショジオの神経を逆撫でした。
その時、左足の膝裏に激痛が走った。
痛む足を見て、思わず驚愕の声を上げた。

〔 <::::日::>〕『なっ?!』

関節を破壊したはずの右腕が曲がって、その手が持つ高周波ナイフが突き刺さっている。
関節部を狙われたために、ユリシーズの堅牢な装甲も今回ばかりは意味がなかった。
人体の構造を考えて、動かせるはずがない。
しかし、現実に起こってしまっている。

思考を冷却させて詳しいことを考えずに、結果だけを見て行動を決定する。
素早い行動は無理だ。
もう、遊びはなしだ。

〔 <::::日::>〕『ぬぅっ!!』

痛みに耐え、右手のナイフを相手の喉元に振り下ろ――

(;・∀・)「た、助けてくれ!!」

――す直前、背後から聞こえたその言葉が、ナショジオの腕を止めた。
声の方を見ると、神父が一緒に来た禿頭の男に羽交い絞めにされていた。

695名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:08:26 ID:HcapCJ4s0
〔 <::::日::>〕『卑劣な!!』

(´・ω・`)「随分と酷い物言いだ。
     まぁ、大人しくしなよ」

〔 <::::日::>〕『……だが、人質は無意味だ!!』

振り下ろしかけていたナイフを、喉に突き立てた。
そこは装甲が薄く、ナイフでも容易に使用者を殺せる部位だ。
何をしたとしても、最終的に人質が傷つけられるのは避けられないはずだ。
ならば、己の職務を全うするのが最善の手と言える。

黒い棺桶が動かなくなったのを確認し、ナショジオは足を引きずりながら振り返った。
後は、殲滅するだけだ。

〔 <::::日::>〕『神父さん、悪いがお祈りの時間はなしだ』

(;・∀・)「神よ……」

(´・ω・`)「あーあ、後でジョーンズ博士が怒るぞ。
     クール、さっさと終わらせてくれよ」

その時、背後で棺桶が立ち上がる音がした。
有り得ない。
確かに急所を穿った。
そんなことは、有り得ない!!

〔 <::::日::>〕『馬鹿な?!』

川[、:::|::,]『……』

696名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:11:39 ID:HcapCJ4s0
振り返る間すらなかった。
迎撃する考えすら浮かばなかった。
背後から肩に飛び乗ったその棺桶は、左手で高周波ナイフを逆手に構え、ユリシーズの後頭部からそれを差し込んだ。
高周波ナイフの耳障りな音が頭の後ろから近づき、ゆっくりとナショジオの頸部を切り裂き始めた。

〔 <::::日::>〕『うがああああああああああああああああああ!!』

鋭利な激痛。
滑らかに捌かれる感触。
鎧が意味をなさないという現実を、ナショジオは理解できなかった。
ナショジオが絶命するまでの三秒間は、彼がこれまでに味わってきたあらゆる幸福を打ち消すには十分すぎる時間で、現実を受け入れるには短すぎた。

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     ,!,,,、(     /::τ
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       ゜     (/
     ,,、..   //   ノ'
  π /;::::::::(,.,.(;;;::::(   ,,.,  ・っ 撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】
   ):::::::::::::::::::::::::::/  '''''`   `
 τ !::::::::::::::::::::::::::::)/,,,,, γ
   (::::::::::::::::::::::::::::冫 `'`'    、,:'::::::`:::,,,,
 :::':'::::::::::::::::::::::::::::;(,,,,,,,、:::::::-ー''''`'`''''''''"
序章 イメージソング 【-バトルイマ- song by. THE BACK HORN】
ttps://www.youtube.com/watch?v=1LxNTnKER_g
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697名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:16:56 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「急ごう、増援が来るまでにあまり時間はないぞ」

兵士の死体から銃と弾倉を失敬したショボン・パドローネは、デミタス・エドワードグリーンにコルトガバメントを手渡しながらそう言った。
デミタスは遊底を軽く引いて薬室に弾が入っていることを確認してから、頷いた。

(´・_ゝ・`)「……後で詳しい話を聞かせてもらうぞ」

二人は監獄に通じる扉の制御盤に銃弾を浴びせ、破壊する。
これで多少の時間は稼げるはずだ。

( ・∀・)「何と惨い殺し方を……」

棺桶を纏った死体に向けてそんな言葉をかけるマドラス・モララーの顔には、笑顔が浮かんでいた。
安堵の笑顔だった。
その後ろから、風に煽られる柳のように歩み出てきたシュール・ディンケラッカーは死体を一瞥することもなく、天井に空いた大きな穴から夜空を見上げて言った。

lw´‐ _‐ノv「どうやって、この島から出るつもり?」

最もな質問だ。
当たり前すぎる質問に溜息を吐くこともなく、ショボンは腕時計を見ながら答えた。

(´・ω・`)「外に迎えが来ている。
     後……二秒、一秒」

彼の言葉に合わせるようにして、天窓の穴から黒くて太いラぺリングロープが垂れてきた。
その先端には折り畳まれたハーネスが三つ、束になって取り付けられていた。
ハーネスを組み立てると、一度に三人が引っ張り上げられる仕組みだ。
ショボンは自分以外の三人に組み立てたハーネスを着せて、ロープを何度か引いて安定性を確かめる。

それからハーネスをロープの金具と接続させ、作業を完了させた。

698名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:19:20 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「一度に運べるのはこれが限界だ。
     後はこっちでどうにかするから、モララー、頼んだよ」

( ・∀・)「えぇ、任せてください。
     私の命に代えても、このお二人をお守りいたします」

そして、三人の体がゆっくりと持ち上がり、天窓の向こうに消えて行った。
上空で待機していたブラックホークに収容され、次の準備が整うまではここで待つしかない。

(´・ω・`)「クール、損傷はどうかな?」

川[、:::|::,]『カメラに少しノイズが出る程度で、深刻な問題はない。 それより、増援がくるぞ。
     どう対処する?』

(´・ω・`)「ここの仕組みは調べてある。
     あの扉はけっこう頑丈に作られているから、もう五分は稼げるはずだ。
     脱出も困難なら、侵入も困難。
     難攻不落の要塞ならではの弱点だね」

川[、:::|::,]『だが、棺桶を使われたらどうする?』

その言葉を肯定するように、扉の向こうで強い力が叩きつけられる音が響いた。
爆発物の類ではない。
金属同士の激突する音だ。

699名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:23:17 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「……下調べではあのユリシーズを黙らせれば、残るのはグラマトン中尉の棺桶ぐらいしか脅威はない。
     刑務所長は昨日からジュスティアに定例会議に行っているから、残っているのは有象無象の連中だ。
     それに、僕たちの任務はここの壊滅じゃない。
     対象者の脱獄を成功させることだよ。

     戦いは最小限に抑えるべきだ」

ショボンの言葉に、アバターは首を縦に振った。
目の前の扉が刻一刻と力任せに変形される中でも、ショボンは冷静だった。

(´・ω・`)「上の連中に、僕の棺桶を降ろす様に伝えてもらえるかな?
     グラマトン中尉の棺桶は、残念だが君の棺桶では止められない。
     僕がやる」

川[、:::|::,]『了解した。 ……モララー、ショボンの棺桶をロープと一緒に降ろしてくれ』

上空の同僚に向けて送られたメッセージは、それから三十秒後に実現した。
黒く、巨大で重々しい棺桶が上空から落ちてきた。
アバターは一歩も動かずにそれを両手で受け止め、ショボンに渡した。
遅れてロープが降りてきて、アバターの隣でとぐろを巻く。

川[、:::|::,]『死ぬなよ』

アバターはロープを掴み、ショボンはBクラスの棺桶を背負う。
砕けた天窓に向かって上昇する同僚を見届けて、ショボンは嘲笑うように独り言ちた。

(´・ω・`)「死ぬ時は死ぬのが人間だが、今はその時じゃないのさ」

700名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:28:01 ID:HcapCJ4s0
それから三分後。
遂に、扉が棺桶の攻撃に耐え切れずに吹き飛んだ。
現れたのはテリー・グラマトンが駆るネイビーカラーのCクラスの棺桶、“ガーディナ”のカスタム機だ。
特徴とも言える長身の高周波刀は肩にはなく、代わりに六つの切れ込みが入った四角いコンテナ――中身は恐らく小型ミサイル――が取り付けられている。

両手には金属製の打突用フレームが付いた大口径機関銃、そして体全体はグレーの追加装甲で守られていて、本来の流線型の装甲は頭部だけにしか残されていなかった。
特定の戦場に特化した装備の変更は棺桶の設計上、装着してから手作業で行われるため、時間が掛かる。
その手間さえ惜しまなければ、ガーディナは海でも空でも戦える。
機動力を殺し、火力と膂力に特化したカスタム機はグラマトンが“不動の猛将”と呼ばれる所以となった。

十五フィートの長身を誇るあの棺桶ならば、分厚い扉を拳で破れる。
随伴は銃火器で武装するジョン・ドゥが六機。
予想通りの展開だ。

/鄯《゚::|::゚》)『……ナショジオ!?
        賊が、楽に死ねると思うな!!』

両肩のコンテナから十二発の小型ミサイルが射出され、両腕の機関銃が火を噴いた。
ジョン・ドゥたちも、徹甲弾を浴びせてきた。
問答無用の攻撃もまた、予想通り。
故にショボンは、グラマトンが入ってくるのと同時にコンテナを相手に向け、起動コードを入力していた。

(´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ』

ショボンが駆る“ダイ・ハード”は、Bクラスのコンセプト・シリーズの棺桶だ。
胸や腕を守る装甲は薄く、関節部の守りはほぼ皆無に等しい。
頭部を守るヘルメットはもはや形式的な物で、爆発や徹甲弾には耐えられない。
しかし、上半身に比べて脚部の装甲が圧倒的に厚く、脛から巨大な楯が生えているような歪な形をしていた。

701名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:31:21 ID:HcapCJ4s0
その正体は、高周波発生装置が内蔵された可変式の楯だ。
攻撃のスタイルに合わせて自動で位置を変え、更には真ん中から二つに分かれて蹴り技のリーチを伸ばすと云うことまで可能だった。
焦げ茶色の装甲の形はおおよそ美とは程遠い姿をしているが、その分、下半身の防護は完璧だった。
何よりも特化しているのが、その機動補助能力だ。

十階建てのビルに相当する高さから落下してもその衝撃を緩和し、使い手に一切の負担を掛けさせない。
更に、下半身の装甲の数カ所に圧縮空気による加速装置を隠し持っており、高速起動も可能だ。
バッテリーは上半身と両足とで分かれており、状況によっては無駄な装甲を切り離しても動くことが出来る。
棺桶同士の戦いにおいては脛、踝、踵、爪先に仕込まれた高周波ナイフが決め手だ。

機動力で勝り、そして、速度を乗せたナイフの一撃で相手を屠る。
それが、ダイ・ハードの戦い方。
装着を終えたショボンはコンテナから出ると、即座にその場を離れた。
小型ミサイルと銃弾が降り注ぐ中、ショボンは冷静そのものだった。

コンテナが爆風で倒れる頃には、彼はグラマトンの正面にいた。
この距離、この位置なら随伴しているジョン・ドゥ達は手出しができない。
例え身長差が二倍近くあろうとも、サイズの差は優劣の差には結びつかない。

(::[-=-])『さぁ!!』

/鄯《゚::|::゚》)『無礼――』

ミサイルコンテナを切り離して身軽になったグラマトンは、打撃戦に打って出た。
ガーディナはその巨体故に、超近接戦闘では小回りが利かない。
それを補うための長身の刀と機動力なのだが、今はそれがない。
哀れなことに、グラマトンは有り余る火力では接近戦を補えないことを失念している。

702名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:34:17 ID:.N19d76.0
新しい棺桶がたくさん、支援

703名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:37:49 ID:HcapCJ4s0
攻撃しやすいように右足の可変式楯が脹脛の位置に移り、足に隠されていた高周波ナイフが全て飛び出す。
ナイフの起動を確認することもなく、ショボンは迷わずに飛び回し蹴りを放つ。
迎え撃つグラマトンは、反射的にそれを左腕で防御した。
左腕が落ち、潤滑油と血が床を汚す。

ショボンは右足が地面に着くとそれを軸足に変え、左足の回し蹴りで残った左腕を切断した。
この間、わずか一秒弱。

/鄯《゚::|::゚》)『――るなっ?!』

そして、右の可変式楯が二枚に別れ、爪先を覆って巨大な刃に変貌する。
必殺の突き返し蹴りが、グラマトンの頭部を切り落とした。
彼の部下達は手を出す時間すらなかった。
気付いた時にはグラマトンがミサイルと銃弾の洗礼を浴びせ、気付いた時には腕を失い、そして、気付いた時には首が落ちていたのだから。

マックス・ペインとダイ・ハードを合わせれば、例え棺桶を用いたところで今のショボンに攻撃を当てる事すら適わない。
我が目を疑う兵士たちをよそに、絶妙なタイミングでロープが天井に空いた穴から落ちてくる。
慌てて彼の部下達が銃爪を引き始めるが、もう遅い。
ショボンはグラマトンの体を蹴り飛ばし、爆発的な加速と両足の楯を使って巧みに銃弾を防ぎながら、素早くその場を離れる。

弾雨を掻い潜りながら棟の壁面を走って登り、その頂上部からロープに飛び移った。

(::[-=-])『では諸君、おさらばだ!!』

それを合図に、ショボンの体は急上昇し、監獄から抜け出した。
それは綺麗な月の浮かぶ夜に、細かく千切れた灰色の雲が流れる八月八日の夜の事。
これが、ジェイル島から二人の脱獄犯が出た、歴史的な夜の事。
ここは鐘の音街、ティンカーベル。

――これはティンカーベルに世界最大の豪華客船にして船上都市、“オアシズ”が到着する前夜の事である。

704名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:42:51 ID:HcapCJ4s0
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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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八月九日に日付が変わった時、シュール・ディンケラッカーとデミタス・エドワードグリーンはティンカーベルのモーテルの一室で食事をしていた。
シャワーで汚れた体を洗い、衣服も真新しい物が用意された。
サラダを頬張り、シャンパンを飲み、肉汁が溢れ出るレア・ステーキとライスをワインで飲み込んだ。
血色がよくなり、二人がリラックスしたのは早朝の三時過ぎの事だった。

lw´‐ _‐ノv「……で、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

バスローブに身を包むシュールが、食後酒に用意されたグラッパを飲みながら質問した。
誰に、というほど相手を特定した質問ではなかった。
その部屋には、シュールとデミタスを除いて、他に三人いたからだ。
禿頭のショボン・パドローネ、キャソックのマドラス・モララー、そしてワイシャツとスラックス姿の黒髪の女。

誰でもいいから、答えてくれればそれでよかった。
脱獄を成功させ、食事を与え、平穏を与えたその目的を知りたかった。
シュールは自他共に認める慎重な人間だ。
特に、誘拐と云う仕事を生業にしている場合は、慎重さが物を言う。

大胆さはその次に必要で、事前の情報や状況には細心の注意を払う。
相手の魂胆を知るところから、まずは始めなければならない。
答えたのは、黒髪の女だった。
腰まで伸びた女の黒髪は毛並みが良く、手入れが行き届いているのが一目で分かる。

瑠璃色の瞳は眼光鋭く、その奥は深淵のように暗かった。

705名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:46:55 ID:HcapCJ4s0
川 ゚ -゚)「私達は世界を変える。
     そのために、ある人間を始末するのに手を貸してほしい」

lw´‐ _‐ノv「殺し屋でも雇えばいい」

川 ゚ -゚)「それはマフィアのすることだ」

馬鹿な人間だとは思えないが、馬鹿な願いだと思う。
人殺しはシュールの得意分野ではない。
確かに、人を殺すことは出来るが、それは無抵抗の子供相手に限る。

lw´‐ _‐ノv「意味が分からない。
       人の命を奪うのは、私の特技じゃない」

川 ゚ -゚)「知っている。 殺すのはこちらでやる。
     その下準備を整えてほしいんだ」

殺すための準備。
それも、シュールの専門外だ。
人を捕まえることに関しては専門だが、殺しに関しては素人同然。
となると、求められているのは――

lw´‐ _‐ノv「誰かを捕まえる、ってこと?」

川 ゚ -゚)「そうだ。 ただ殺すのではなく、苦痛を持って殺す。
    そのためには、弱みになる対象を捕らえる必要がある。
    容易な相手ではないからな。
    だろう、ショボン?」

706名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:11:35 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「あぁ、これが曲者でね。
     女が二人と、糞耳付きの糞雄餓鬼が糞一匹。
     女の一人は棺桶持ちだ」

ショボンの言葉には怒りが混じっていた。
特に、耳付きのことについて話した瞬間は明確な悪意が込められていた。

(´・_ゝ・`)「じゃあ俺は、その棺桶を盗めってことか?」

シャンパンを瓶から直に飲みながら、デミタスが口をはさんだ。
女はまず彼を見て、それからショボンを見て、再びデミタスを見て頷いた。

川 ゚ -゚)「この話に乗るか、それとも乗らないか。
     まずはそれについて答えてもらいたい」

lw´‐ _‐ノv「ノーと言ったら? 殺すの?」

武器が手元にない以上、シュールたちは反撃もままならないまま殺される。
断った場合、処遇は相手の気持ち次第となる。
一応、訊いておきたかった。

(´・ω・`)「おいおい、勘違いしないでくれ。
      僕らは人殺しが趣味ではない。
      断った場合は、そうだな……この島で第二の人生を楽しんでもらうだけさ」

(´・_ゝ・`)「悪党は皆そう言うんだ。
      ……だが俺は乗った」

707名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:22:14 ID:86YRT4UU0
飲み干したシャンパンの瓶を覗き込んで、デミタスはそれを床に置いた。
新たなシャンパンをクーラーボックスから取り出し、栓を空けて飲み始める。
三分の一を一気に飲み、デミタスはげっぷ交じりに深い溜息を吐く。

(´・_ゝ・`)「この世界は、変えなくちゃならねぇ。
     それを知っている奴はほとんどいないのが現実だ。
     俺はな、それが我慢ならねぇんだ」

熱の入った言葉だ。
シュールはグラスを空にして、それをテーブルに叩きつけるように置いた。
純米酒をグラスに注ぎ、ステーキを一口食べてそれを酒で流し込む。
辛口の酒とステーキがよく合う。

純米酒にはやはり、塩胡椒で味を調えたステーキが一番だ。

lw´‐ _‐ノv「私も乗る。 でも、訊きたいことがある」

元より断るつもりはなかった。
あくまでも確認のために訊いただけで、戯れのようなものだった。

川 ゚ -゚)「なんだ?」

lw´‐ _‐ノv「理由が知りたい。 子供まで殺す、その理由が」

川 ゚ -゚)「ん? そもそも、餓鬼だろうが何だろうが、耳付きに生存権を許すこと自体がおかしいだろう。
     家の中で見かけた害虫の子供を生かしておくか?
     生ごみに散らかす害獣の子供を放置するか?
     不要な雑草が成長していない内に刈り取るのと同じ、根絶やしにするためだよ」

708名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:24:08 ID:86YRT4UU0
さも当然のように言い放った女の言葉は、シュールには同意しかねた。
子供は価値がある。
それは、未来を担っているからだ。
暗い未来も明るい未来も、全ては教育次第だ。

幼い子供には常識が足りない。
その常識を曲げてしまえば、優秀な道具として使える。
生まれてから言葉を覚える前に性技を教え込めば、立派な性奴隷として育つ。
箸を持つよりも早くナイフを持たせ、人を切り刻むことを覚えさせれば、兵士となる。

耳付きは兵士としての需要はなく、性奴隷としての価値しかない。
百ドル近くの値が付くため、いい商売の道具だ。
どうやら、この女とは価値観が違うらしい。
それでも、それは些細なことだ。

細かなことだが、多方面から質問をすることで彼らの持ち合わせている価値観や情報を手に入れられた。
これから彼らと共に行動をする中では、簡単には手に入れられないような情報だ。
これで分かったことがある。
彼らは本気だ。

lw´‐ _‐ノv「そう。 それだけ」

川 ゚ -゚)「誤解しないでほしいが、私は子供が好きだ。
     こう見えて、娘がいたこともある」

lw´‐ _‐ノv「へぇ。 今はどうしているの?」

709名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:27:44 ID:86YRT4UU0
女は、その質問には答えなかった。
興味があったから訊いただけだったので、シュールは肩をすくめておどけて見せた。
気分を害したのか、クールはその部屋から出て行こうとする。
あの女には、子供の話をしない方がいいらしい。

その背中に、デミタスが声をかける。

(´・_ゝ・`)「なぁちょっと待った。 あんたの名前は?」

川 ゚ -゚)「クールだ。 クール・オロラ・レッドウィング」

そして、振り返らずにクールは部屋を出た。
奥の部屋の扉が閉まる音が聞こえてから、物腰柔らかくモララーがフォローを入れる。

( ・∀・)「済みません、彼女、悪い人ではないのですが」

(´・_ゝ・`)「分かっているさ。 君らは何者なのか、それを最後に教えてくれ」

それは、シュールも知りたいことだった。
ヘリコプターを所有する財力。
コンセプト・シリーズの棺桶を惜しげもなく使う武力。
情報の精度が物語る勢力。

それだけの組織を、シュールは聞いたことがない。
一体何に価値を見出し、何を信念に行動しているのか。
分からないことだらけだ。

lw´‐ _‐ノv「世界が大樹になるためにって、どういう意味?」

710名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:31:16 ID:86YRT4UU0
モララーがシュールに告げた言葉。
その意味を知りたい。

(´・ω・`)「……この世界は、どうしようもなく混沌としている。
     絶え間ない抗争。
     終わらない紛争。
     消えることのない暴力、そして差別と格差。

     僕には我慢できない。
     僕には容認できない。
     それがなぜ起き続けるのか。
     長い、永い間、考え続けてきた。

     そして、教えられた。
     この世界は大小それぞれの街で構成されている。
     それぞれのルールで、それぞれの規則で、それぞれの鉄則に従って、それぞれの利益を追求し、追従した。
     結果、争いが生まれ、暴力が生まれ、差別が生まれ、混沌が生まれたのだと。

     僕らは、その根源を絶つ。
     根底を覆し、世界に蔓延るルールを変える。
     ルール、そう、ルールだよ。
     常識、そして掟となりつつあるルールを、変えてみせる。

     既存のルールに従って育った樹を全て伐採し、根絶やしにする。
     その後、新たなルールを布き、新たな大樹の根を世界に降ろす。
     己にすら容赦のない伐採と植樹を行う者。
     これが、僕らの目的にして、僕らの正体だ」

711名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:34:59 ID:86YRT4UU0
この男。
大人しいと思ったが、信念の強さが狂気じみている。
紛れもなく、シュールと同類の人間だ。
シュールもまた、世界を変えたいと思っていた。

この狂ったルールが蔓延る世界を少しでも変えたいがために、子供を誘拐し、売った。
彼女の誘拐の対象となった子供たちには共通点があった。
誘拐に関わったことのある子供、という一点だ。
それ以外の子供には、絶対に手を出さなかった。

誘拐され、売買された子供を改めて誘拐し直し、本来の家族に売った。
誘拐犯の子供を誘拐し、凌辱し、それから売った。
罪と罰。
因果応報。

悪行には報いを。
それを示したかった。
それが彼女の戦いだった。
子供を不幸にするだけの誘拐組織はシュールの行いを知り、僅かだがなりを潜めたのだ。

世界のルールは、変える必要がある。

712名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:39:14 ID:86YRT4UU0
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                 If you want to change the world.
                  もしも世界を変えたいのなら。

                If you want to take down the world.
                もしも世界を手に入れたいのなら。

              Remember, remember the rule of this world.
                  この世界のルールを思い出せ。

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デミタスはショボンの言葉に、深く感銘を受けた。
そうとも。
この世界は変える必要がある。
この世界に蔓延るルールは、変えなければならない。

盗みを働いたのは、元々は金が目的だった。
小金が欲しかったのだ。
自分が暮らしていた孤児院の一か月分の食費が、欲しかったのだ。
初めて盗んだのは、酔っ払って路地で寝ていた金持ちの腕時計だった。

腕時計は七十三ドルで売れた。
孤児院で飢える百二十六人の子供たちは、一週間ぶりの食事に喜んだ。
だが足りなかった。
次に盗んだのは、女を買いに来ていた男の財布だった。

713名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:41:14 ID:86YRT4UU0
四時間も逃げ回った結果、七百ドルが手に入った。
その晩、孤児院では半年ぶりの肉が振舞われた。
満ち足りた食事を前にして子供たちが見せた笑顔が、全ての始まりだった。
それからデミタスは盗みを本業として、世界中を歩き回った。

美術館。
宝石店。
豪邸。
銀行。

ありとあらゆる店から、金品を盗んで金を得た。
得た金は自分が育った孤児院に送った。
だが足りなかった。
心が救済を快感へと変え、更なる救済を求めた。

そして、更なる困難を求めてしまった。
予告状を出し、警察を欺き、華麗に盗んだ。
名が知られるようになると、幼い頃から読んでいた本に登場する人物から名をもらい、“ザ・サード”と名乗った。
得た金を世界中の孤児院に送り付け、デミタスは満たされ始めた。

少しでも子供たちが飢えから解放され、少しでも笑顔になれればと。
ただそれだけが狙いだった。
ただそれだけでよかった。
全ては世界のルールが歪んでいるからだ。

歪んだルールに抗うために、デミタスは戦ったのだ。

714名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:45:41 ID:86YRT4UU0
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                           That is ...
                           それは……

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(´・ω・`)「改めてよろしく頼むよ、デミタス・エドワードグリーン、シュール・ディンケラッカー」

lw´‐ _‐ノv

(´・_ゝ・`)

二人の眼は、もう、独房にいた時とは別物になっていた。
信念を持ち、理想を胸にした立派な同志となっている。
大樹はより強大に、より強固になる。
この二人の助力があれば、変えられるはずだ。

この世界のルールを。

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                        The power.
                          力だ。

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715名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:50:16 ID:86YRT4UU0
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                 (´・ω・`)「ようこそ、ティンバーランドへ」


















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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...
                 ,-┐ ∧ヾ V7 rァ
              ,r-、」 k V ハ Y / //__
                ィx \マ ィ、 〈 | 、V rァ r‐┘
             > `‐` l/,ィ V / 〉 〃 ,ニ孑
            f´tァ 厶フ ヽ! fj |/厶7厶-‐¬
             │k_/`z_/> ,、    ,、 xへ戈!│
            | l      ̄ | f^´  ̄    !│
            ヽ`ー--、____| |      / /
             \       __ ̄二ニ='/
              そして、愛に満ちた新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!
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716名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:51:37 ID:86YRT4UU0
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                       Ammo for Tinker!!編
                      【序章 beater-勢子-】
                            了

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717名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:52:25 ID:86YRT4UU0
これにて本日の投下は終了となります。

質問や指摘、感想などあれば幸いです。

718名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 22:57:39 ID:.N19d76.0

棺桶と棺桶の戦闘が見応えがあった。

719名も無きAAのようです:2014/08/04(月) 09:38:50 ID:OumwzP.c0

ハゲとシュールが芯から悪人じゃないのが何とも言えないな

720名も無きAAのようです:2014/08/04(月) 10:57:56 ID:BslWETRc0
乙!

前回に続いてジュスティア弱いっすね…
しかし円卓十二騎士の強そう感

721名も無きAAのようです:2014/08/04(月) 11:37:36 ID:wXqaGbYM0
乙でござるよ
>>719
一瞬(´・ω・`)のことかとオモタ
ハゲタスのことデミ(ry

722名も無きAAのようです:2014/08/04(月) 20:59:51 ID:0NGes4PE0

シュールが気になる
ティンカー編はAmmoreじゃなくてAmmotiになってしまうん?

723名も無きAAのようです:2014/09/03(水) 14:16:08 ID:4qUO5k6c0
続きが楽しみ

724名も無きAAのようです:2014/09/14(日) 23:55:13 ID:bh4OkS5E0
明日9/15にVIPでお会いしましょう。

725名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 00:06:51 ID:XOvqHwEs0
クル━━━━川 ゚ 々゚)━━━━!!

726名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:26:03 ID:EXXlvcjc0
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正義を探しているのなら、ここにある。

色褪せぬ正義が、ここにある。


                        ロウテック出版 【初めての“正義の都”観光ガイド】
                                           一ページ目より抜粋
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727名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:30:36 ID:EXXlvcjc0
その街には、分厚く、巨大で、重々しい三重の壁があった。
“スリーピース”と呼ばれるその壁は過去数百世紀に渡って一つの街を守り続け、その街の象徴となった歴史的な建造物でもある。
決して破れず、砕けぬ信念を持った守護者の具現。
即ち、正義の守護者としての誇りが、その街――ジュスティア――にはあった。

その治安の良さと徹底した治安維持の姿勢から、いつしかその街は“正義の都”と呼ばれるようになった。
ジュスティアの街には数日前に襲った嵐の爪痕が残り、まだ完全には消え去っていない状態にあった。
清掃業者の働きで道路は綺麗な状態を取り戻していたが、車道の脇には瓦礫と泥が積まれ、石畳の歩道はまだぬかるんでいる。
しかし後二日もすれば、ゴミや瓦礫は集積所に運ばれて街は本来の姿を取り戻すことだろう。

街で働く清掃業者は掃除に対して異常なまでのこだわりを持つ集団の集まりで、実を言えば特殊な更生施設から派遣された人間達で構成されていた。
時には暴力を伴う、異常なまでの潔癖症。
他の街では異常者扱いされがちな症状だが、ことジュスティアにおいては重宝される性格だ。
常にガスマスクと防護服を着用する姿は異様ではあったが、彼らが通った後は清潔さを取り戻すことから、街の名物の一つとなっている。

彼らが清掃を行うのは主に夜の九時から十二時までと、割と早い時間帯だ。
その時間帯ならば外出している人間が少なく、清掃も行いやすいというのが大きな理由なのだが、実を言えばジュスティアの街があらゆる意味で清潔さを保つ秘訣はそこにあった。
基本的に九時以降には夜勤の警察官が街中に散らばり、入隊間もない軍人が夜間訓練の一環として街を歩き始める。
つまり、その時間から先は犯罪を取り締まる人間の数が圧倒的に増え、犯罪者が犯罪を行う隙間を潰しているということだ。

清掃業者もまた同じ役割を持っており、彼らが主に担当するのは小さな路地などの見回りだ。
ゴミが溜まるところには、同じような人間が存在する。
一部の清掃員には銃器の携帯が許可されており、状況によっては射殺することも許されていた。
また、人目の届かない場所には防犯カメラを設置し、街中の様子を逐一監視している。

そのため、この街で夜間の外出をする人間は少なく、他の街と比べて犯罪に巻き込まれる確率が極めて低い。
だがそれだけでは、この治安の良さは維持出来ない。
治安維持のための手段こそが、ジュスティアが培ってきた世界に誇る歴史だ。
その答えは、ジュスティアに長らく伝わる徹底した正義の信念に基づく行動力と、機関が生み出す“法治”の考えだ。

728名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:36:58 ID:EXXlvcjc0
治安を保つためには、三つの要素が必要になる。
一つは、矛盾なく定められた厳格な法。
二つ目は、法を逸した際に与えられる重罰。
そして三つ目は、法を順守させるための圧倒的な力を持つ機関だ。

細かく定められた法がなければ、人間はあらゆる暴挙に出る。
法に罰がなければ、守る人間はいない。
罰を定めても、それを守らせる人間がいなければ、何の意味もない。
ジュスティアの初代市長はそれを理解しており、街を築いた時に真っ先に敷いたのが法の制定と機関の設立だった。

その政策が功を奏し、街は世界随一の治安を誇るに至った。
街の中心に位置する一際背の高い双子のビルは、闇夜に青白くライトアップされてその存在を強調していた。
それは街の全域から目につく位置にあり、目立つように照らされていた。
どこにでも正義の眼が行き届いていると言わんばかりに、そのビルは太陽を反射する水面のように輝いている。

729名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:40:08 ID:EXXlvcjc0
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730名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:44:22 ID:EXXlvcjc0
地上七十階建て、高さ九八〇フィートの建物は、ジュスティアの第二の象徴“ピースメーカー”だ。
左右対称に建てられたビルの西側は“ワンピース”、東側が“ツーピース”と呼ばれている。
ビルの周囲を囲むようにして道路が円を描き、そこから十二本の太い道が伸びている。
十二本の道から更に蜘蛛の巣状に広がり、街全体に繋がっていた。

“正義の道はピースメーカーに通じる”、とはジュスティアでは誰もが知る諺だ。
ピースメーカーの地下二階で、その会議は開始の時を待っていた。
広々とした部屋には一人の市長、四人の軍人、三人の警察関係者と十二人の騎士、合わせて二十人が円卓に着いていた。
街の治安維持に関する案件から、軍の訓練内容と遠征の結果報告、そして警察が指名手配している人間の情報共有などが主な議題となる。

それぞれの前にはホチキス止めされた分厚い資料とコーヒーが置かれており、開始時間までの間に全員がそれに手を付けていた。
予定の時間になると、ベルが一度だけ鳴った。
会議が、静かに始まった。
最初の議題は、軍に関係した話だった。

( ,,^Д^)「では」

真っ先に回転椅子から立ち上がったのは、ジュスティア軍元帥、タカラ・クロガネ・トミー。
それに続いて、ほぼ同時に三人の男達が音もなく、だが俊敏な動きで椅子から離れた。
全員が完璧に軍服を身に付け、胸にはそれぞれ輝かしい功績を称える勲章が縫い付けられている。
そして全員が、勲功章、パープルハート章(※注釈: 戦闘で負傷しながらも生還した兵士に与えられる章)と
名誉勲章(※注釈: 戦場で任務を超越した自己犠牲を見せた兵士一人だけに与えられる章)を持っていた。

\(^o^)/

カーキ色の軍服の襟を正したのは、陸軍大将オワタ・ジョブス。
スキンヘッドにした頭髪、異様なまでに鍛え上げた両腕の筋肉。
笑顔の張り付いた顔は傷と火傷の痕で岩のように醜く歪み、そこに埋め込まった青い瞳だけは濁りがなかった。
全身に刻まれた無数の傷の内、半分以上が味方を庇っての物だと言われており、自らの命を無視してでも任務を果たす男として知られている。

731名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:49:27 ID:EXXlvcjc0
|  ^o^ |

新品同様のネイビーカラーの軍服を着こんだ男は、海軍大将のゲイツ・ブーム。
黒曜石の色をした肌に刻まれた傷とクルーカットの白髪に走る不自然な剃り込みは、全く同じ理由からできたものだ。
引き絞られた体に搭載した筋肉は徹底的に無駄が削がれ、芸術的なまでに実用的な作りをしていた。
六フィート弱の長身が放つ威圧感と鮫の瞳と称される黒い瞳は、彼の無慈悲な性格をよく体現している。

| ^o^ |

ゲイツの隣に立つのは海兵隊大将、ハンマー・ユウタロウ。
七フィートの身長は戦場で常に仲間の楯として使われ、司令塔として機能してきた。
ブラウンの瞳とコーヒー色の肌、そして一ミリに刈り揃えた髪は海と陸で戦い抜いた男のそれだ。
軍服を破らんばかりに発達した岩の様な筋肉は、彼の腕力の象徴だ。

手に持ったクリップボードに挟んだレポートに目を落とし、タカラは淡々とした口調で報告を始めた。

( ,,^Д^)「まずはオアシズで起こった事件についてです。
     海軍所属の“ゲイツ”は隊長であるカーリー・ホプキンス少佐を含め二十二名が死亡、残り十九名が重傷を負っています。
     首謀者であるショボン・パドローネ以下二名はヘリコプターにて逃亡したとのことです。
     現在、行方を追っています」

誰も、質問をしない。
彼らは情報の共有を目的としており、ここで推理の真似事をすることを目的としていないからだ。
必要な情報収集と事態の全貌解明については今頃、警察本部で話を進めているはずだ。
主に、ジュスティア出身であるショボンが事件を起こすに至った背景を調べている事だろう。

元警察官であるショボンは正義感の強い男で、妻と一人の子供に恵まれていた。
引退後は別の土地で暮らしていたと報告書には記載されているが、そこで何があったのかについては書かれていない。
間違いなく、彼を変える出来事が彼の身に起こったのだ。
その詳細を調べ上げ、彼の正義を腐らせた組織を見つけ出すことが当面の目的だ。

732名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:55:12 ID:EXXlvcjc0
正義の都から輩出してしまった、歴史に名を残す犯罪者。
犯行の影にあったあらゆる情報を集め、そしてパズルのピースを組み合わせて、大きな真実を導き出さなければならない。
この場では軽く触れただけだが、実際問題、これは非常に由々しき問題でもあった。
事件の背後に潜んでいる真実を突き止めねば、被害者の遺族たちに申し訳が立たない。

彼の狂行のせいで、多くの子供たちが父親を失った。
そして多くの妻たちが、夫を失った。
未来ある子供たちのためにも、軍は全力を尽くすつもりだ。
ヘリコプターで逃げたのであれば、逃げた場所の特定はそう難しくない。

現代で使われているヘリコプターには、動力の都合で飛行限界距離がある。
今回はどこからともなく現れ、どこへともなく消えていったという証言がある。
その証言から推測すると、往復出来る距離からヘリコプターを飛ばしたことになる。
ヘリの機種は特定されており、その最大飛行距離の範囲内にある全ての陸地と島に捜索範囲を限定し、既に部隊が派遣されている。

証拠が見つかるのは、時間の問題だ。

( ,,^Д^)「オアシズ側は犯人を全員殺害した後、安置所の都合で海に投棄したと報告が入っています。
     兵たちは明日、オアシズでティンカーベルに到着し、その後にこちらに戻る予定です。
     質問は?」

誰も何も行動を起こさないことを確認してから、タカラは報告を続ける。

( ,,^Д^)「最後になりますが、先日の嵐の際、ピク支部とブランケット支部の武器保管庫で爆発が起こり、大きな犠牲が出た件です。
     市内の、それも軍の施設内での事故ということもあり、これを公にするのはあまり得策とは言えません。
     軍としては遺族に対して、死亡者は“鉄鎖の街”に基地を持つテロリスト撲滅の特別作戦に出かけたと伝え、折を見て戦死したと報告する予定です。
     ……何せ、両支部で基地内の全員が武器庫内で支援物資を捜索していた時に爆発し、文字通り全員死亡。

     この事実を、知らせますか?
     軍の意向で事態の収束を図ることに異議はありますか?」

733名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 18:59:06 ID:EXXlvcjc0
嵐が街を襲ったその日、ジュスティア軍では最悪の事故が起こってしまった。
二つの支部で同時に武器庫が爆発し、中にいた軍人が全員死亡した。
桁で言えば三桁に達する大惨事だ。
これを公表すれば、軍の権威は失墜する。

若くして軍の元帥となったタカラは、決して高圧的な物言いをしない。
淡々と事実を述べ、意見があればそれに答える。
修正の可能な問題であれば彼はその旨を述べ、希望的観測で物を言わない。
典型的な軍人ではあるが、それ故に彼の発言力は強い。

どのような困難があったとしても、彼はそれらを踏み潰してでも前に進む。
その行動力に見合った実力が高く評価され、そして功績を立てたことで三十二歳と云う異例の若さで元帥に昇格したのだ。
彼が余計な発言をしないと云うことは、それ以上の情報か進展がないということを意味している。
報告の間、彼よりも年上の軍人三人は何も言わず、ただ腰の後ろで手を組んでいるだけだ。

タカラの両眼が、警察長官に向けられた。
歴代初の女性長官、ツー・カレンスキーはブロンドの髪を後頭部で束ねた年配の女性だが、その観察眼と情け容赦のなさは同年代の男にも勝る。
物怖じもせずに視線を受け止め、彼女は視線に込められた言葉を実行に移した。

(*゚∀゚)「……警察からの報告に移ります」

その言葉で、軍人四人は音もなく席に着き、警察代表者三人が立ち上がる。
ツーの左右を固める二人もまた、女性だった。

爪゚ー゚)

爪゚∀゚)

一人は黒の制帽を被り、肩から手首に向かって走る赤い線の入った黒い長袖の制服を着た警察副長官、ジィ・ベルハウス。
そしてフレームレスの眼鏡を掛けたもう一人が、黒のスーツとスカートを着たツーの専属秘書、ライダル・ヅーだった。

734名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:00:05 ID:Vp0rojDs0
支援

735名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:04:32 ID:EXXlvcjc0
(*゚∀゚)「オセアンのログーランビルで起こった例の事件ですが、犯人に繋がる証拠品は未だ出ていません。
    目撃者も同様です。
    ただ、進展がありました。
    ビルで用心棒をしていたと思われる男が、危篤状態から意識を取り戻したと云うことです」

その報告の途中、陸軍のオワタが手を挙げた。
若干の憤りを混ぜた非難めいた口調で、彼はツーに質問を投げかけた。

\(^o^)/「被害者は全員死亡したと報告があったと思ったが?」

一度報告された言葉は、真実として記録される。
その重みに対する冒涜を咎めるようなオワタの言葉に対しても、ツーは涼しい顔で答えた。

(*゚∀゚)「悪運の強い男で、そうはならなかったそうです。
    意識は戻りましたが、記憶に障害が出ているため、証言はあまり期待出来ません。
    これと言って新たな情報は増えていませんが、一つ問題が。
    担当者であるトラギコ・マウンテンライトはポートエレンから姿を消し、どう云う訳かオアシズに乗り込んでいました」

警察関係以外のほぼ全員が、説明を求める表情を浮かべた。
それについて答えることは、彼女達の義務だ。
だから予め、用意はしてあった。
ツーではなくジィが市長を見て、余計な言葉を挟む余地を与えない口調で言った。

爪゚ー゚)「まだ彼とはコンタクトが取れていませんが、オアシズの件で有益な情報をもたらすものと思われます。
    クロジング、フォレスタ及びニクラメンでの一連の事件が発生した際にも彼が現場に居合わせていました。
    恐らくは、独自にオセアンの事件を追っているものと考えられます。
    フォレスタの周辺で起こった事件についての情報を所有しているため、ティンカーベルに“迎え”を出しました」

736名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:10:12 ID:EXXlvcjc0
ここで言うところの迎えが捕獲を意味することは、全員が分かっていた。
トラギコという男は警察の命令違反常習者で、常に単独行動を好む四十六歳の刑事だ。
酒に酔えば乱闘騒ぎ、口をきけば流血沙汰と、その粗暴な性格から警察のつま弾き者として見られている。
暴れられると軍人でも捕まえるのに難儀する男であるため、捕獲するという表現が最も合っていた。

それでも彼を警察に置いているのは、彼が優れた行動力と洞察力で難事件を解決してきたからだ。
基本的に全員がトラギコの捕獲に賛成の意志を示していたが、一人だけ、補足をした人間がいた。
その補足は、彼女たちの予定にはないものだった。

爪゚∀゚)「ただ、彼の性格を考えると、ここまでする必要はないとも考えました。
    彼は人格者です。
    あくまでも、彼を安全に連れ帰って情報を手に入れる為と云うことをお忘れなきよう」

それだけ言うと、ヅーは再び寡黙な秘書としての役割に戻った。

(*゚∀゚)「……報告に戻ります。 フォレスタ近郊の事件についてですが、こちらもほとんど情報がありません。
    ニクラメンには現在、トレジャーハンターギルドが集結して宝探しをしています。
    現場を必要以上に荒らすだけでなく、遺体まで乱雑に扱っているとの報告もあり、特に目に余る行動をした三人を射殺したとの報告があります。
    今後も数が増えると予想されるため海軍に協力を頂いているのですが、更なる増員を求めます」

|  ^o^ |「いいでしょう。 ただし 条件が あります」

(*゚∀゚)「どうぞ」

|  ^o^ |「オアシズで 私の “ゲイツ”が 壊滅状態に なった 理由を 必ず 究明 してください」

海軍の所有する強襲専門部隊ゲイツは、ブームが大将となってから作られた部隊だ。
その為、彼は部隊に人一倍強い愛着を持っている。
彼の声色が普段よりも固いことに、全員が気付いていた。
激怒しているのだ。

737名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:16:22 ID:EXXlvcjc0
表情には出さないが、彼の声にはその色が濃く出ている。
彼が誇るゲイツがオアシズで壊滅した経緯が気になるのだろう。
百戦錬磨の猛者たちで構成された部隊が、海賊相手に何をして、何をされたのか。
自分なりに部下の死を知り、可能であれば仇を討ちたいと考えているのだ。

(*゚∀゚)「勿論です。 それでは、各軍でもトラギコを発見次第、ジュスティアに連れ帰る様に通達してください。
    ここまでで、何か質問は?」

手を挙げたのは、タカラだった。
彼は穏やかな口調を変えぬまま、質問をした。

( ,,^Д^)「理解が及ばないのですが、何故、フォレスタ近郊で目撃者もいないのですか?」

考えれば不自然な話だ。
関係者がほぼ死に絶えているオセアンやニクラメンならまだしも、どうしてフォレスタやクロジングの情報が得られないのか。
捜査をすれば、必ず何かしらの情報が得られるはずだ。
ツーは自らの発言が効果を増すよう、声のトーンを落とし、言った。

(*゚∀゚)「……それが、次の話です。
    フォレスタで起こった爆発騒ぎでは、大勢の若者の遺体が発見されました。
    棺桶や銃器で武装した、ね。
    それもトゥエンティー・フォー、そしてガーディナといった非常に希少な棺桶を所有していました。

    また、クロジングではジョン・ドゥとほぼ同型機の棺桶も見つかりましたが、コードが異なりました。
    そして、遺族は棺桶の事は勿論ですが、争いごとに巻き込まれるようなことをする人間ではなかったと証言しています。
    証言者はいますが、目撃者がいないのです。
    巨大な組織が関与し、情報操作と目撃者の排除を行っているとしか考えられません。

    こちらに関しても、トラギコが何か情報を掴んでいると考えられます」

738名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:20:33 ID:EXXlvcjc0
発見された死体は、どれもこれもがひどい状態だった。
顔を吹き飛ばされていたり、胴体のほぼ全てを消失していたり。
トゥエンティー・フォーに関しては、肉片しか見つからなかった。
焼け焦げた人間の肉と思わしき炭化物も発見され、フォレスタは混沌とした墓場と化していた。

数少ないまともな死体の顔を“修復”し、家族を調べ、話を聞いた。
有益とは無縁の情報ばかりで、この事件の全貌を掴むことすらできなかった。

(*゚∀゚)「ニクラメンの事件については、別ですが」

( ,,^Д^)「……どういうことでしょうか」

(*゚∀゚)「つい一時間ほど前、つまり、この会議の始まるほんの少し前に連絡があったのです。
   ニクラメンで行われていたオープン・ウォーターに参加した人間から。
   結果、その実行犯に繋がる情報が手に入りました。
   犯人はオアシズに搭乗し、明日にはティンカーベルに到着するとのことでした」

| ^o^ |「その情報は 誰からの ものですか?」

ニクラメンの生き残り。
その人物から得られる情報は相当な価値がある。
だが、問題はその人物が信用に足るかどうかだ。
でまかせを生業にする人間がいる時代だ。

その情報の発信源こそが、ある意味で最も重要だった。
ツーは意図的に、自分の言葉に全員が耳を傾けるために、僅かではあるが無言の間を挟んだ。

(*゚∀゚)「内藤財団の副社長、ツンディエレ・ホライゾンです」

739名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:25:50 ID:EXXlvcjc0
世界最大の企業、内藤財団。
その起業は数百世紀にも遡り、世界で最も歴史のある企業としても有名だ。
輸送、飲食、被服、不動産、保険などありとあらゆる業種に手を付け、日々成長を続ける大企業。
財団の持つ理念は創業当時から一切変わらず、徹底した信念の下で企業活動が行われている。

そして副社長であるツンディエレは経営の天才で、倒産しかかったいくつもの企業を買い取り、見事に復活させている。
これまでの輝かしい経歴と実績を鑑みて、彼女が真実を語っているの間違いない。

(*゚∀゚)「彼女の証言では、ニクラメンを沈めたのは地元の過激派だったそうです。
    その過激派の生き残りがオアシズに乗り込み、今回の事件を陰で操ったとのことです」

( ,,^Д^)「特徴は何かわからないのか?
     人相とか、そういう確かな情報だ」

(*゚∀゚)「分かっているのは、その賊は二人。
    若い女性が二人、そして耳付きの雄が一匹。
    雄ガキはさておいて、女性の内一人は赤髪で棺桶持ちということが分かっています。
    そしてもう一人、首謀者と思わしき女性に関してですが――」

得られた情報の中で最も詳細だったのが、その最後の人物だった。
単身で海兵を大量に殺し、罪もない民間人を虐殺した張本人として挙げられた名前。
その名前に、ツーは聞き覚えがあった。
だが、それは――

(*゚∀゚)「デレシア、と名乗る金髪の女性だそうです」

( ,,^Д^)「……偽名だな」

(*゚∀゚)「おそらくは、そうでしょう」

740名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:31:19 ID:EXXlvcjc0
――それは、ジュスティア史学に登場する人物の名前なのだ。

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            /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \
.        /   /: :\ \ \ : : \\     〈| .       /   / : :  / } : | 、ヽ
           / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉: 〉
     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
     ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
Ammo→Re!!のようです        “The Ammo→Re!!”         Ammo for Tinker!!編
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定例会議の議題はツーの発言後、ジュスティア市内の治安に切り替わった。
ここ最近、市街で起こっている事件に対する警察の対応力の低さについて、住民から不満が出ていた。
街頭で声高らかに演説をする輩まで出てきており、中には、ジュスティアの正義が腐り始めたと口にする者までいた。
非難の声は警察のみならず軍にまで及び、街全体で不穏な空気が流れ始めていた。

その報告をしたのは警察でも、ましてや軍でもなく、市長の口だった。
飄々とした口調と仕草にも拘わらず、市長の言葉には重みがあった。
彼はジュスティアが掲げる正義の体現、その化身として周知されているだけでなく、その手腕の高さで市長の座に君臨している人間だ。
言葉ではなく、そこに込められた意図を察すれば、彼が立腹していることが分かる。

ジュスティア現市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤ。
警察学校を首席で卒業後、すぐに陸軍に入隊。
勇猛果敢な性格、そして人を指揮するカリスマ性の高さによって、陸軍でも瞬く間に高い地位を確保。
三度の名誉勲章を授与したことによって、歴代最年少で大将の地位についた実力のある男だ。

爪'ー`)「で、だ。 我々の正義が疑われているのは由々しき問題でね。
    私としては、即解決したい悩みの一つだ。
    そこで提案がある」

741名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:35:46 ID:EXXlvcjc0
ブラウンと白の混じった髪は長く、オールバックにして項の所で束ねている。
薄い青色をした瞳は優しげに垂れ、口元は笑みを絶やさない。
葉巻とブランデーを愛する彼の発言力は、立場を抜きにしてもこの場にいる誰よりも強い。
それは、彼の実績にあった。

名誉勲章の様な日の当たる実績ではなく、影の実績。
市内で謀をしていた組織を突き止め、潜入し、内部から壊滅させたことを知らぬ者はこの場にいない。
また、中東のイルクから来た過激派の宗教団体と交戦した際には機転を利かせて全滅させた経歴もある。
彼は戦闘よりも参謀の方が向いていた。

味方が傷つくことなく、敵が壊滅するための方法を編み出すことに関しては天賦の才がある。
街の政策を一人で考案するその頭脳が導き出す提案は、必ずこの状況を打破し得るものだと誰もが確信した。
軍と警察の最高責任者二人は、特に興味深そうな反応を示した。

(*゚∀゚)「どのようなことで?」

フォックスの言う市内での反応の原因には、警察が大きく関係している。
特に、オセアンでの事件が未だに解決できていないことがその要因だ。
あれだけ大規模な事件が起きたにもかかわらず、警察は何もできていない。
むしろ、詰んでしまっている状態だ。

それがマスコミ各社によって世間に伝わっていることが、ジュスティア市民には耐え難いのだ。
その気持ちは分かる。
正義を謳う街が正義を遂行出来ないのは、あまりにも心苦しく、もどかしいのだ。
同じ正義を愛する者として、正義の都という名に泥が塗られるのは、誇りが許さない。

部下の前では晒さないが、ツーは捜査に進展が無い事に誰よりも苛立っていた。
今は僅かでもいいから、解決の糸口を手に入れたかった。

( ,,^Д^)「ぜひ、お聞かせください」

742名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:40:52 ID:EXXlvcjc0
軍もまた、一つ後ろめたいことがあった。
オアシズの事件だ。
海軍から専門の部隊を派遣したにもかかわらず、ほとんど成果が挙げられていない上に、目の前で犯人に逃げられたのだ。
このニュースが世界中に広まるのも、時間の問題だ。

ジュスティア軍は常にイルトリア軍に追いつこうと、日々訓練に励んでいる。
その成果を見せる絶好の機会で、彼らは大きな失敗を犯した。
いつか来るその日に備えて、彼らは力をつけなければならないというのに。
これでは、ジュスティア軍は世界の範たる存在になり得ない。

爪'ー`)「うん。 警察の基準でカテゴリHの事件、つまり、強盗や立てこもりなどの事件が発生した際にはもっと私達の力を示していこうと思う。
    例えばそう、ラジオや新聞社に積極的に来てもらうのが望ましいかな。
    そうした上で事件を解決するんだ、より過激にね。
    いわば見せしめ、言い換えればアレスト・ショーだ。

    だけどね、ただのショーでは駄目だ。
    より派手に、より圧倒的に正義を見せつける必要がある。
    具体的に言うと、円卓十二騎士に動いてもらいたい」

会議開始後、誰一人として発言も起立もしない十二人。
全員が“騎士”の称号を与えられた、ジュスティアが誇る一騎当千の猛者達。
ほぼ全員が軍出身者で構成された彼らは、そう滅多なことで動くことはない。
彼らでは強すぎるのだ。

逮捕であれば殺害。
制圧であれば殲滅。
警告であれば鎮圧してしまうほどの力。
ジュスティアは彼らをある意味で保護してきた。

743名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:46:19 ID:EXXlvcjc0
絶大な力は、時には悪にも転じかねないのだ。
そんな彼らが公に姿を現し、事件解決に動くという。
異例だ。
明らかに、異例だ。

だが、有効なのは分かった。
元々円卓十二騎士は、イルトリアとの均衡を保つために生まれた存在だ。
軍事都市であるイルトリアと渡り合うためには、絶大な力があることを示さなければならない。
騎士達はイルトリア軍との均衡を保てるだけの力があるのだ。

そんな十二騎士が事件に介入するとなれば、世間の見方は変わってくる。
ジュスティアは、事件解決に本気なのだろうと。
たかが事件で、イルトリア軍に相当する騎士が現れると知れば、事件も減る。
再びジュスティアは、正義の代弁者として世間が認知することは間違いない。

爪'ー`)「どうだろう? 君はどう思う?
    第四騎士、ショーン・コネリ?」

(´・_・`)「いいんじゃないですかね?
    そうすれば、ウチの連中の仕事も減るし、世間のごみも減る。
    一石二鳥だ」

ティンカーベルに属する島の一つ、ジェイル島の“セカンドロック刑務所”の所長にして、第四騎士の座に付くのは海兵隊出身のショーン・コネリだ。
一見すると歳を取った優男だが、その実、機械のような正確さと無慈悲さで任務を果たす“執行者”の渾名で恐れられる男である。
その意見に対して、“番犬”の異名を持つ第七騎士の男が同意を示した。
とはいっても、彼はただ頷いただけなのだが。

<_プー゚)フ

744名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:50:34 ID:EXXlvcjc0
陸軍出身、ダニー・エクストプラズマン。
味方を手榴弾から庇った際に喉元に負った深い傷の影響で声が出せず、何か発言をする時には人口声帯を使わなければならない。
滅多なことで声は出さないが、手はすぐに出る。
そして、その躊躇の無さと命令に対する絶対的な服従度から、“番犬”の名で恐れられている。

他の十人の騎士達はと言えば、 机の上を指で二度叩いただけだった。
それは、同意を意味する行為だった。

爪'ー`)「ありがとう。 では、今後はその方針で行こう。
    さて、次は――」

非常時用の内線電話が鳴ったのは、その時だった。
立て籠もり事件が発生したという知らせが入ったのは、午後八時十三分のことだった。

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            //レ|‐┼┼‐ト\\
            //レi レ|‐┼┼‐ト、ト.\\
       /,/レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト \|
       i|/レi レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
     _l|レ' レ' レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
         第一章 【mover-発起人-】
テミ! /|レ| |レ|レ' レ' レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
丁| | |レ| |レ|レ' レ' レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
┼| | |レ| |レ|レ' レ' レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
┼| | |レ| |レ|レ' レ' レ' レ' レ|‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
┼| | |レ| |レ|レ' ,ィ爻从、 |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
┼| | |レ| |レ|レ ,爻爻爻ム ‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|
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745名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:53:12 ID:ANtqAxNA0
支援

746名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:54:38 ID:EXXlvcjc0
事件が起こったのは、ピースメーカーから二ブロック先にあるイセギビルだった。
地上十三階建てのビルには十一の企業が入っており、その日はどこの階にも人がいた。
一階は受付として使われており、常時二名の警備員と一名の受付係が待機していた。
始まりは、事件発覚から二十八分前のこと。

来訪者は二人だった。
紺色の作業着と同じ色をしたキャップを目深に被り、分厚い手袋をはめた手でギアボックスを一つずつ持つ男たちだった。
ビルには定期的に点検と清掃の係員がやってくるため、カウンター越しに雑談をしていた警備員と受付係はその二人を不審には思わなかった。
一つ不審な点があったとしたら、それは来訪した時間だけだった。

雑談を止めた警備員たちはカウンターの前に並んで立ち、腰の警棒に手を伸ばしながら二人の動きを見守った。
警備員の前を通り過ぎ、二人はカウンターの前に屈んでギアボックスを床に置いた。
次に二人が体を起こした時、事件は起こった。
二人は、掌の中に隠し持っていたアストラ社のプレッシンで、警備員の顔を穿ったのだ。

アストラ・プレッシンは護身用の小型拳銃で、握る動作で発砲する仕組みになっている。
外見はステイプラーに似ており、とても銃とは思えない物だ。
その大きさは掌の中に納まるほどで、来訪者たちは艶消しをしたグレーに塗装し、更に手袋をはめることでそれを完全に隠し通していたのである。
小口径だが、装填されていた弾は人を十分に殺せる物だった。

受付係は咄嗟のことにもかかわらず、非常通報ボタンに手を伸ばすことに成功した。
だが、銃弾によって脳幹を吹き飛ばされて即死し、その指がボタンを押すことはなかった。
男たちの呼吸は完璧だった。
警備員に対する発砲もそうだが、受付係の顔に撃ち込んだタイミングも同時。

銃声がフロア中に木霊したが、二人はそれを全く気にする様子も見せなかった。
その場にプレッシンを投げ捨て、ギアボックスを手に取ってエレベーターに向かった。
直後、ビルの入り口から室内用の迷彩服を着た五人の男たちが現れ、その二人の後に続いた。
五人はそれぞれが一つのコンテナを背負って肩から短機関銃を下げており、全員が同じ表情をしていた。

747名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 19:58:31 ID:EXXlvcjc0
決意を固め、死を恐れないと己に言い聞かせた男の顔だ。
男たちは三基あるエレベーターに分かれて乗り込み、最上階を目指した。
彼らは最上階の企業に恨みがあるわけではなかった。
ただ、環境が最も理想的というだけの理由だった。

イセギビルの十三階に入っているのは、民間保険会社“アモインシュ”のコールセンターだ。
犯人たちにとって、コールセンターが立て籠もりの場所は都合のいい場所でもあった。
人質は交渉の材料であって、人質を取る際には如何にその価値の底上げが出来るかどうかにかかっている。
役職についていない人間だとしても、見せ方によっては重役以上の価値を持つことがある。

そしてコールセンターには、大量の電話がある。
電話は実にいい道具だ。
こちらの様子を見ることが出来ないが、音で状況や要求を伝えることが出来る。
互いに音と声からそれぞれの状況を察するために、大きな誤解や錯覚を生むことも多々ある。

暗闇の中で聞こえる音が恐怖をもたらすのと同じ効果が期待出来る。
実際に残虐な行為をしなくとも、ふとした拍子に人質たちがパニックになれば、音を聞いた人間は本来の状況の数倍の深刻さを想像するだろう。
何より電話は、離れた相手に音を届けるための道具だ。
その道具が大量にあれば、大勢の人間に情報を届けることが出来る。

事件が発覚すれば警察や軍が出てくることは想定しており、人質解放のために交渉をしてくるはずだ。
しかし、閉鎖的な取引では意味がない。
閉鎖的であれば、どのような譲渡も、どのような言葉も、当事者同士にしか分からない。
犯人に譲歩するような内容だったとしても、最終的に解決すればどうとでも言い直しが出来る。

それではいけない。
彼らが起こす行動は、街全体、そして世界全体に知らしめなければならないのだ。
完全に解放された状況での交渉。
ジュスティア側は、一切の妥協も譲歩も出来ない交渉が強いられる。

748名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:03:21 ID:EXXlvcjc0
あり得ない話だが仮にその状態でジュスティアが譲歩をして解決したとしても、世間に広まった火種を消すには数が多すぎる。
情報を手に入れたマスコミ各社は、こぞってこの情報を世間に向けて流したがるはずだ。
ジュスティアが緘口令を敷いたとしても、それは気休めにもならない。
それを止めるのは、両手で川の流れを塞き止めるのと同義だ。

ジュスティアは正義の都。
決して、その名に恥じない交渉をしてくれることだろう。
そうでなければ困る。
そうでなければ、困るのだ。

二十四時間体制で稼働するコールセンターには、そこで働く人間のために託児所がある。
それもまた、魅力の一つだった。
つまり、子どもを人質に取ることが出来るのだ。
十歳代の子供ではなく、一桁代の子供を人質にすれば、大規模な作戦は取れなくなる。

これは交渉を有利に運ぶ要因であり、世間から非難を受ける要因でもある。
世間からは鬼畜と言われるだろう。
だが、それでいい。
今回彼らは、畜生以下の鬼になると決めたのだ。

鬼になるためには、素顔を隠さなければならない。
そのため、エレベーター内では一人を除いて全員が目出し帽を被り、同じ服に着替るよう指示が出されていた。
一人が顔を出すことで、発生する恨みは全て一人に集約される。
首謀者であるセルゲイ・ブルーノフは、そのことをよく知っていた。

全員が忌まれなければならない。
全員が蔑まれなければならない。
誰一人として、英雄になってはならない。
そうあればこそ、この行動は意味を持つ。

749名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:10:19 ID:EXXlvcjc0
絶対悪の登場と、その討伐。
絶対正義の登場と、その活躍。
目的はただ一つ、鬼を罰する英雄の存在を証明すること。

从´_ゝ从「さぁ、ここからが本番だぞ。
     人質は女子供だけ、男の処遇は分かっているな?」

(::0::0::)「はい」

これは、歴史に残る大きな事件となる。
そしてジュスティアの歴史を変え、大きな変革をもたらす。
セルゲイ達はその礎として戦うのだ。
昇降機が十一階に来た時、彼は背負っていた軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナを背負い直し、深く息を吐いた。

H&K社のMP5短機関銃のレバーを引いて初弾を薬室に送り込む。

从´_ゝ从「……正義と共に」

(::0::0::)「正義と共に」

祈るようにつぶやき、ゆっくりと開いた扉の向こうに目を向けた。
観音開きのガラス扉に書かれたアモインシュの文字が、最初に目に入った。
扉の向こうからは人と電話のコール音、そして光が漏れている。
少なく見積もっても、十数人はまだ働いている。

三基ともが同時に到着したようで、七人は降りてすぐに合流し、予定通りに動き始めた。
覆面をした男が二人、扉を静かに押し開く。
コンテナを背負っていない男二人が姿勢を低く、跫音を立てずに進入する。
続けて残った三人が間隔を空けて進入し、最後に二人の男がシャッターを下ろし、鍵をかけた。

750名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:15:48 ID:EXXlvcjc0
シャッターが下りる音に気付いたオペレーターが音のほうに顔を向け、セルゲイたちがその手に持つものを見咎め、絶句した。
入り口から三段ほど降りた場所に作られたガラス張りのフロアには、オペレーター用の席が四十五。
働く人間にストレスがかからないように、全ての席にはモザイクガラスの仕切りがついている。
そして、入り口から百フィートほどの場所に、上長と思わしき男が座る席が窓を背にして横並びに三席。

制圧に必要なのは、まずは最初の要求を言葉よりも確実に全員に伝えることだ。
セルゲイと最後に入ってきた二人が、短機関銃で男三人を撃った。
狙いは胴体。
女たちの悲鳴が、フロアを満たした。

思わずセルゲイは、射精しそうなほどの高揚感に満たされ、悦に入った笑顔を浮かべてしまった。
女の悲鳴は、何よりの媚薬だ。
劇薬と言い換えてもいい。
特に、命の危険に晒された時に聞くことの出来る悲鳴はたまらない。

一先ずは銃声と悲鳴、そして人の死で、こちらの要求が伝わったはずだ。

从´_ゝ从「全員、電話を切ってもらおうか!!」

威圧するための声で怒鳴りつけると、次々と受話器が置かれていった。
その間に、仲間たちがフロアと隣接する託児所、そして洗面所に散っていく。
抵抗する女がいたが、髪の毛を掴んで机に顔を叩き付けられて、大人しくなった。

从´_ゝ从「協力感謝する。
     全員手を挙げて、窓に向かって立ってもらおう。
     逆らったり、変な真似をしたりするつもりなら、先ほどの男たちと同じことになるぞ」

女たちは言われた通りに窓に向かって並ぶ。
全部で三十四人。
その内、若い男が二人いた。

751名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:19:42 ID:EXXlvcjc0
从´_ゝ从「そこの男二人」

反射的に男たちが動いた瞬間、後ろにいた仲間が二人の腹に銃弾を数発撃ち込んだ。
再び悲鳴が上がる。
男たちはもがき、血を吐き、臓物を溢しながらこの世のものとは思えない声を出していた。

从´_ゝ从「今、その男たちは妙な動きをしたために殺した。
     いいか、英雄になろうと思うなら、死ぬよりも苦しい思いをさせてやる」

一発で殺さなかったのには、意味があった。
こうして苦痛の中で死んでいく人間を見せれば、抵抗する気力を奪うことが出来るのだ。
だから出来るだけ派手に、痛そうに、そして無慈悲に痛めつける必要がある。
すると、託児所から仲間たちが子供たちを連れてフロアに戻ってきた。

子供は全部で五人いた。
乳児が二人、ようやく立ち歩けるようになったのが三人。

(::0::0::)「お待たせしました」

从´_ゝ从「ご苦労。 さて、改めて要求を伝えよう。
     君たちには交渉の材料になってもらう。
     だから材料らしく、そこに立っていてもらう。
     その間、トイレに行くことも話すことも、子供の世話を見ることも一切認めない。

     おかしな真似をした場合は、ミンチにした顔を家族に送り届けてやろう」

軍靴を鳴らしながら、セルゲイは段差を降りていく。
鼻歌交じりにゆっくりとオフィスを横断し、射殺した上長の元へと向かう。
椅子にもたれ掛かって口と鼻から血を流す男の頭を銃床で殴り、死んでいることを確認した。
死体が椅子から転げ落ち、床に血が広がり始める。

752名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:26:08 ID:EXXlvcjc0
椅子を掴んで、セルゲイは巨大なガラス目掛けて、それを叩き付けた。
蜘蛛の巣状の小さなひびが走る。
強化ガラスを耐衝撃シートで保護してある。
これなら、狙撃をされる心配はなさそうだ。

だが、一か所は穴を空けなければならない。
仲間の一人がセルゲイの様子を見て、予定通りに動いた。

(::0::0::)『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也』

棺桶の起動コードを入力し、強化外骨格を身に纏う。

〔欒゚[::|::]゚〕

純白のジョン・ドゥは先ほどセルゲイが傷つけたガラスの前に立ち、右の拳を振り上げ、叩き付けた。
先ほどとは比べ物にならない大きさのひびが、窓全体に走った。
そしてもう一度叩き付けると、衝撃に耐えかねてガラスが枠から外れ、地上に向かって落ちて行った。
強風がそこから吹き込み、女たちが意味もなく叫ぶ。

机の上にあった書類は吹き飛び、生ぬるい空気がオフィスを舐めるように通り抜けた。
夏の空気だ。
正面に聳え立つのは正義の象徴、ピースメーカー。
それを睨み付けてから、セルゲイは言った。

从´_ゝ从「どこかの宗教には、死んだら空の上にある天国に行けるそうだが」

セルゲイは足元の死体の襟を掴んで持ち上げ、ビルの外に投げ捨てた。

753名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:30:41 ID:EXXlvcjc0
从´_ゝ从「こうして落ちた場合、どうなるんだろうな?
     やっぱり、地獄に行くのだろうか?
     さぁ、正義の味方を待とうじゃないか。
     ……運が良ければその間に、新しい家族が増えるかもしれないな」

その言葉が意味するところは即ち――

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   |ミミ/:_彡ヘ: :ヽ: :ゝ: : : : ‐-、_: : : : : : :、: : ヾミヘ
   .|ミi/,rtイヲ>:へ、: : : : /: ; '' ゙゙̄ヽ、: : : :ヽ: : :゙巛‐-、
   |ミ| レ'~: : : :_:.\ : : :! :i ○   ):: : : : : : : : Y:亡'ヽ
   ヾミ!': : i: :/ ,,==、: ヽ : : : ゙‐- =ニ: : : : : : : : : : :ヽ(⌒: i
   ヾミ!: :U: /  ○ ゙,:! : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i、)ノ::ノ
    Y : : : !   .ノ:.!;:::::::::::: ⌒ :): : : : : : : : : : :/: Y : :!
                 ‥…━━ PM 08:20 ━━…‥
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死体が空から降ってきたと通報を受けたボブ・マーシー・Jrは、状況が最悪であることを理解した。
空から雨や雹が降ってくるならまだ分かる。
人間も稀に降ってくる。
だが、死体が降ってくることはほとんどなかった。

落ちてから死体になるのが普通だ。
射殺体が降ってくるなど、聖書に書かれた死の街ぐらいしかあり得ない。
いや、考えようによっては、よほどの酔狂な人間が自らの体に銃弾を撃ち込んだ後に、飛び降りたのかもしれない。
警察本部の判断は、特殊作戦部隊と人質交渉のエキスパートを出動させることだった。

754名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:31:32 ID:Vp0rojDs0
支援

755名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:33:55 ID:EXXlvcjc0
通報から七分で対策本部が設置され、部隊を編成し、全てが揃い次第一斉に動くということが決定された。
対策班はすぐさま、情報の収集を開始した。
事件はイセギビルで発生し、防犯カメラの映像から、最上階が占拠されているということと、犯人が七人であることが分かっている。
また、犯人の一部が強化外骨格を使用していることも判明した。

ここまでの所要時間は、二十五分。
対強化外骨格戦の特殊装備が積まれた中型トレーラーが五台、本部用の機器を備え付けた大型トレーラーが一台用意された。
そしていざ出動しようとした、その時。
午後八時二十分のことだ。

この一件で、警察は武力行使をしてはならないと、長官から直々に命令が下された。
結局、現場に向かうことになったのは交渉人と現場を封鎖するための部隊だけだった。
腑に落ちないまま、ボブは装備を身に着けて中型トレーラーに乗り込み、現場へと急行した。
現場に到着した時、ボブは絶句した。

マスコミと野次馬で道路が塞がり、繊細さが求められる人質交渉にとっては最も悪しき状態だったのだ。
トレーラーから降りた警察官一行は、すぐさまテープとコーンを使って野次馬を退去させ、ビルから遠ざけることになった。
だが、マスコミだけはコーンの内側に入ったままで、出ようとはしなかった。
規則に従い、ボブは一度だけ警告をすることにした。

報道の義務がどうのとかのたまった場合、すぐにでも逮捕する用意はあった。
そのついでにカメラを叩き壊してもいい。

(ΞιΞ)「おい、早くどけ!!」

写真を撮っているカメラマンの肩を掴んでボブがそう言うと、カメラマンの男は申し訳なさそうに答えた。

( 0”ゞ0)「いや、犯人からの要求でして……」

(ΞιΞ)「なに?!」

756名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:37:57 ID:EXXlvcjc0
聞けば、マスコミ各社に犯人から電話があって、この様子を報道し続けろと要求されたというのだ。
二人の話を聞いていた他のマスコミ関係者も口を揃えてそう言い、報道しなければ人質を殺すと言われたという。
世間に注目されることを目的にする、愉快犯。
ボブは怒りのあまり、吐き気がした。

エゴのために人を殺す人間が、ジュスティア内にいることが許せなかった。
だが記者は、更に続けて最悪な情報を口にした。

( 0”ゞ0)「それと、中の様子が今も電話越しに聞こえているんです。
      ラジオで流せと要求があって、それで……
      ……人質の女性が凌辱される様子も、流れていました」

最悪だった。
考えうる限り、最低の人間だった。
犯人は、非常に狡賢い人間だ。
初手から本気であることを見せつけ、要求を通しやすくしたことによって、警察は対等な立場での交渉が出来ない。

更にその状況を世間に周知させることで、時間を引き延ばすという交渉術も出来なくなった。
時間を稼げば稼ぐほど人質が傷つけられ、その様子が広められる。
早急な解決のためには、犯人の要求を全面的に飲む他ない。

(*゚∀゚)「現場の封鎖は完了したのか?」

そう声をかけてきたのは、長官のツー・カレンスキーだ。
唐突な登場に驚いたが、ボブはそれを表に出すことをしなかった。
長官自らが現場に出ることなど、そう滅多にない。
彼女は抜け目のない人物だ。

おそらくは、マスコミたちに対して警察の対応をアピールするために来たのだろう。

757名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:43:14 ID:EXXlvcjc0
最近は街の外だけでなく、内からも警察に対する批難の声が上がっている。
対応の悪さや、その進展の無さに失望したとの声が大多数だった。
だが警官であるボブは知っている。
怠慢でも対応の悪さが原因ではない。

事件が解決出来ないのは、それほどの巨悪が相手ということなのだ。

(ΞιΞ)「は、封鎖は後一分以内に完了します。
      現在、交渉人が犯人との接触を試みているところです」

(*゚∀゚)「あぁ、ご苦労。
    犯人が分かり次第、教えてくれ」

それだけ命じると、ツーは本部用の大型トレーラーに向かって大股で歩いて行った。
初めて彼女と会話をしたが、ボブはその堂々とした立ち振る舞いに心惹かれてしまっていた。

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从´_ゝ从「ふふ、いいぞ。 現場が温まってきた。
     どうだい、いい眺めだろう?」

758名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:46:57 ID:EXXlvcjc0
立て籠もりの主犯であるセルゲイ・ブルーノフに髪を掴んで起こされ、ガラスに顔を押し付けられた女は、何も言わずに、ただすすり泣いていた。
女の服は引き裂かれ、足の付け根からはねっとりとした体液が垂れている。
セルゲイによって殴られ、罵られ、同僚に見られ、男達に嗤われながら凌辱された女の目は虚ろだった。
希望となる警察を前にしても、この反応である。

この女は最初の内は抵抗していたが、顔を殴られる内にそれもなくなり、やがて抵抗する気を失った。
その結果として、彼女は希望を失ったのだ。
余計なことは何もせずに、ただの道具として成り下がった。
これで下準備が整った。

人質を女子供に限定したのは、支配が容易だからだ。
支配者がどのように罰するかを見せつければ、すぐに言いなりになる。
一度の見せしめでは足りない。
二度の見せしめによって、女たちは抵抗する気力を失う。

一つ目が抵抗に対する死。
二つ目は、無条件の凌辱。
男には通じず、女にだけ通じる脅迫の技だ。

从´_ゝ从「人質の諸君、警察が到着したぞ。
     さて、どうしたものかな」

女の髪で自らの性器を拭い、セルゲイはズボンをはいた。
汚れていない髪を掴んで女を引きずり、ガラスのない場所に連れてきた。

「や、止めて…… お願い……殺さない……で」

759名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:50:20 ID:EXXlvcjc0
だが、まだ死に対してだけは抵抗があるようだ。
これだけの凌辱と暴力を受ければ流石に死を選ぶかと思ったのだが、この女にはまだ恐怖と教育が足りなかったようだ。
これでは、他の人間に対する示しにならない。
失敗作だ。

ならば、見せつけ、教えるしかない。
屈辱に耐えて生きるのではなく、潔く死を受け入れるべきなのだと。

从´_ゝ从「聞こえるか、マスコミ!! 聞いているな、警察!! 聞け、ジュスティア!!
     こちらの要求を伝える!! 今すぐにフォックス・ジャラン・スリウァヤをここに連れてこい!!
     我々は、市長と直接話をする!! 要求に応じない場合は、十分毎に人質をこうする!!」

小さな悲鳴を残して、女はジュスティアの空を舞い落ちた。
下から野次馬の声が聞こえてきたが、何も感じない。
窓から離れたセルゲイは、ハンズフリーモードの電話に向かって感情を殺した声で告げる。

从´_ゝ从「俺の名はセルゲイ・ブルーノフ。 警察官だ」

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  ̄乂_ノ  弋_,人__,LL ≧1 {) }   |≧====rt_ァ===イ
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760名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:52:55 ID:6PNqbX5Y0
なんだこの女装兄者は

761名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:56:17 ID:EXXlvcjc0
セルゲイ・ブルーノフ。
警察官として勤勉に働き、多くの犯罪者を刑務所に送り込んだ男だ。
上司、同僚からも模範的な正義漢として評価が高かった。
――そして、ニクラメンの事件で両親と妹を失い、天涯孤独の身となっていた。

トレーラーが牽引するコンテナ内に搭載されたダットシステムに表示された情報を見て、ツーは目頭を押さえた。
これは愉快犯でも思想犯でもない。
正義を見失ってしまった男の、精一杯の抵抗なのだ。
見失った正義を取り戻すために、彼はこのような暴挙に出たのだ。

警察が事件を解決出来ないせいで次々と事件が起こり、被害者が出て、更に彼は家族を全員失った。
例え直接的な原因がないとしても、彼の心の内にある怒りと悲しみは行き場を失い、ジュスティアの正義そのものに矛先を変えざるを得なかったのだ。
彼はいわば、事件の犠牲者。
犠牲者であり犯罪者でありながら、彼がとった行動は実にジュスティア人らしかった。

最後まで正義を信じたかった彼は、一世一代の賭けに出たのである。
圧倒的な悪を演じ、それを裁く存在が現れるのを期待しているのだ。
欲して止まなかった、彼が信じた正義の登場を。
ならば、その求めに応じるのが正義の務めだ。

小細工は一切抜きで向かい合うことがこの事件を終わらせ、彼を救う唯一の手段。
瞼を下ろす僅かな時間で計画を練り、脳内で流れを作る。
ツーは二名で事件を解決出来ると考え、同乗していた人物に声をかけた。

(*゚∀゚)「……いいだろう。
    ショーン、相手は真っ向勝負をご所望だ。
    出来るか?」

隣で腕を組んで話を聞いていた円卓十二騎士の第四騎士、ショーン・コネリは深く頷いた。
彼なら、セルゲイが望む正義を遂行出来る。

762名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:02:10 ID:EXXlvcjc0
(´・_・`)「あぁ、もちろん。 市長と一緒に行けばいいんだろう?」

流石は円卓十二騎士、言わずともツーの考えが伝わった。
ショーンと共に犯人のいる現場に向かうのは、市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤだ。
今は相手が市長を殺すか殺さないかは別として、一刻も早く人質たちに安心感を与え、交渉の場を作ることが必要だった。
相手が所望する市長自らが出向けば、人質を解放させるための話し合いが出来るはずだ。

(´・_・`)「じゃあ、マスコミの方は任せるよ。
    市長の会見が終わり次第、現場に向おう」

そう言い残して、ショーンは後部ドアから降りて行った。
一人残ったツーは、無線の周波数をフォックスの個人用無線機に合わせ、通信を始めた。

(*゚∀゚)「市長、聞こえますか?」

『あぁ、良好だ。 それで、プランは整ったかい?』

フォックスの声の後ろから、報道陣の野次が飛び交っているのが聞こえる。
これから今まさに記者会見をしようと、記者たちを前にしていることが推測された。
彼は冷静で非常に頭の切れる人物だ。
こちらが計画を練るまで、会見は開かないつもりだったに違いない。

一分一秒が争われる現場で、余計な修飾語は不要。
要点をまとめて、ツーは計画を伝えた。

(*゚∀゚)「はい。 犯人の要求に応じ、市長にはビルに向かっていただきます。
    ショーンを同伴させますので、人質を順に解放させて、最後の一人と交換するように交渉してください。
    あとは、ショーンが引き継ぎ、バックアップとしてカラマロス・ロングディスタンス大佐をピースメーカーに待機させてあります。

    万一の際には狙撃にて事態を終わらせ、殲滅後に電話回線を全て切らせることになっています」

763名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:06:43 ID:EXXlvcjc0
『わかった。 じゃあ、後の処理は任せるよ』

逡巡することのない回答だった。
部下を、そして仲間を信頼しているからこそ出来る返事だ。
ジュスティアがイルトリアに勝っている点があるとしたら、まさにこれだ。
仲間を徹底して信頼し、その判断に無条件で己の命を預ける。

(*゚∀゚)「ご武運を」

無線が切れてからツーに言えたのは、それだけだった。

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会見、準備、そして行動。
全ては異例の速さで進められ、異例の速さで実行に移された。
犯人の要求に応える形となった市長の動きに、マスコミたちはどよめいた。
テロリストには決して屈指ない、それがジュスティアの理念だったからだ。

人質を助けるためとはいえ、テロリストの要求を呑むというのは前代未聞だった。
無責任に発せられる反対意見を退け、市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤは単身でビルに入った。
フォックスの姿がビルの中に消えると、マスコミ各社は訃報と吉報、両方のニュースでもすぐに発信出来る準備を整えた。
だが、市長としてその椅子に座るフォックスは、マスコミの反応を予想していたため、それを制限させなかった。

764名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:14:21 ID:EXXlvcjc0
彼は、市長は、テロリストに屈した覚えはなかった。
要は戦い方の問題だ。
横合いから殴りつけるか、それとも正面から殴り合うかの違いでしかない。
今回のようにテロリストと真っ向勝負という展開は、フォックスにとって理想的な展開と言えた。

ジュスティアの威光を示す絶好の機会だ。
円卓十二騎士の登場と制圧ぶりは、世界に対して再びジュスティアの力を思い出させる切っ掛けとなる。
この事件の首謀者も、それを望んでいる。
だからこそ、彼らは全力で正面から立ち向かわなければならない。

フォックスには覚悟があった。
撃たれる覚悟。
刺される覚悟。
そして死ぬ覚悟だ。

だが死ぬつもりは毛頭ない。
彼が死ぬことでジュスティアが失う物があまりにも大きすぎる。
今はまだ死ねない。
死んでやることは出来ない。

人気のないビルは不気味だった。
照明は全て消え、暗闇に浮かぶのは非常口を示す緑色の明かりだけ。
そこに響くのは一人分の跫音。
そこを進むのは二人の男たち。

地下駐車場から合流した男は気配を絶ち、フォックスの三歩後ろを歩いている。
彼の背中には背丈と同じ六フィートのコンテナがあった。
軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナだ。

爪'ー`)「……」

765名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:17:09 ID:EXXlvcjc0
フォックスは公園を散歩するような気軽さで無人となったエントランスを進み、地面に転がる死体の傍に膝をついた。
瞼に指を乗せて降ろしてやり、背後に立つ円卓十二騎士のショーン・コネリを見た。
彼は無言だった。
だがフォックスは、彼が全てを理解していることを知っていた。

話さずとも、それは分かる。
彼は円卓十二騎士。
ジュスティアの正義を執行する、代表者なのだから。

(´・_・`)「……」

二人は無言でエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。
低い唸りを上げて上昇する昇降機内で、フォックスは小さく溜息を吐いた。

爪'ー`)「なぁ、ショーン。 君は彼のことを、どう思う?」

(´・_・`)「どうしようもない愚か者です。
    正義のために悪になっても、根本的な解決にはつながらない。
    ……だから、私が救ってやります」

爪'ー`)「私も同意見だよ。
    ……彼らのこと、よろしく頼むよ」

一人の男が自らの命と他人の命を利用して正義を蘇らそうとしている。
愚かな男だ。
だがそれを産んでしまったのは、フォックスたちでもある。
最上階に到着し、扉が開く。


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