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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

603名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 01:39:56 ID:DgRsM5/c0
>>602
なるほどー

604名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 04:48:59 ID:y0lTopzo0
あ、うーんでも探偵は無能だから何も「出来なかった」んじゃなく探偵が犯人だったから発表した推理が完全じゃなかったわけで
英語は誰視点なんだか分からなくなったぞ・・・

605名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 07:00:55 ID:t2eI4f0k0
今読んだおつ!

これあれか、アンリライアブルナレーターってやつか

606名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:41:59 ID:JHK3X.IM0
>>604
他の探偵達に対しての呼びかけでありまして、まだデレシアが真実を語っていない段階の言葉です。
詳しくは日曜日に投下予定のエピローグで分かると思います。


>>605
今調べたら、それに該当するそうです。

607名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 00:06:21 ID:tAv7.OxI0
今夜か待ってる

608名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 14:50:30 ID:Xf6oanDE0
今夜VIPでお会いしましょう

609名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:37:32 ID:Xf6oanDE0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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豪華客船オアシズ。
全部で五つのブロックに分けて統治されるその船の、第三ブロック会議室。
そこは、静寂に包まれていた。
剃刀で肌を撫でるような沈黙の中、探偵であるショボン・パドローネが深い溜息を吐いたのをきっかけに、彼は静かに言葉を発した。

驚きの色など、微塵もない。
感嘆の響きだけが、そこには含まれていた。




(´・ω・`)「いつから気付いた?」




一連の事件を起こした犯人とされたが、彼は冷静だった。
慌てることも、戸惑うことも、否定することもしない。
穏やかな表情のまま、質問を一つしただけだった。
それは肯定の言葉に等しい質問だった。

だが彼は、大人しく答えを待つだけだった。
だから、金髪碧眼の旅人であるデレシアはその期待に応えた。

610名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:44:37 ID:Xf6oanDE0
ζ(゚ー゚*ζ「厳密な事を言えば、最初からよ。
      貴方はポートエレンの事件を、頑なに事件とは認めなかった。
      そして、遺書の第一発見者は貴方。
      この時点で、もうおかしいのよ。

      あるはずのない遺書を手に入れることの出来た人間は、犯人か共犯者しかしかいない。
      探偵全体を指揮して糞まみれの銃弾を探させ、別の方向に向かせたのも貴方。
      貴方に探偵たちの指揮を任せたのは、どちらの味方なのかを判断する為よ。
      意図的に被害を拡大させる配置だったかどうかを知るためには、現場の状況と情報が必要だった。

      だから配置の内容と結果を知るために、私がロミスにお願いして様子を見てもらったのよ」

かなり大きな被害が出たが、それがなければショボンが犯人であるという確実な根拠は得られなかった。
美化するつもりはないが、探偵たちの命が犯人を捜し出すのに貢献したのである。
死を賭して真実の断片を手に入れるためには、オットー・リロースミスの協力が不可欠だった。
民間人の頼みをブロック長が聞き入れたと分かれば、大きな信用問題につながる。

大きなリスクを伴った提案にロミスは同意し、銃弾の飛び交う中事実を確認した。
ショボンに犯人に仕立て上げられた時でさえ、彼はそれを言わなかった。
彼には矜持があったからだ。
驕りに等しい矜持の持ち主の彼なら、自分の下心のために失敗を絶対に口外しないとデレシアは確信していた。

それを見越して、この話を彼に持ちかけたのだ。
ショボンがロミスを疑っている素振りを見せていたのは、ブーンから聞いていた。
更に、別の人物からもショボンの行動についての情報が入っていたことも、デレシアの推理を後押しした。

ζ(゚、゚*ζ「貴方が“偽りの主”として探偵達を誘導し、真実から遠ざけた。
      だから、何時まで経っても事件は解決しなかった」

611名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:49:33 ID:Xf6oanDE0
完全犯罪を目指すのであれば、事件を別の方向に誘導するのが一番だ。
ショボンの立場は、絶好の物だったのである。

(´-ω-`)「……そうか。 私は、最初から君に……
      ふふ…… そうか……」

両手をロミスの肩に乗せ、ショボンはくつくつと笑い始めた。
その笑い声は、本当に嬉しそうなものだった。
往年の夢が成就した男の笑いだった。

¥;・∀・¥「お、おい、ショボン…… お前が、犯人なのか?」

市長、リッチー・マニーが恐る恐るそう尋ねると、ショボンは両手を広げ、満面の笑顔を浮かべた。
目は病的なまでに輝き、声は演者のように大きく、部屋に響き渡る。



(´・ω・`)「嗚呼、やっと、やっとだ!!
     デレシア、やはり君は優秀だ!!
     鋭い洞察力、恐れを知らぬ行動力、実に素晴らしい!!
     宿敵とはこうでなければならない!!

     この船にいる役立たずとは大違い、桁違いだ!!」



観念、諦め、そういった負の感情の発散ではない。
驚くほど純粋な、悦からくる感情の爆発だ。
彼の言葉に嘘はなく、真実を暴かれたことに対して悦びを表している。

612名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:54:25 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「デレシア、君の推理は模範解答だ、大正解だ!!
     そう、君の推理した通り、このショボン・パドローネこそがこの事件の犯人だ。
     真実などと云う不確かな物を信じ、それを追う探偵の無能さにはがっかりさせられたが、君のおかげで報われた。
     死んでいったノレベルトも、これで報われるだろう」

川;゚ 々゚)「う、嘘よ……」

検死官、クルウ・ストレイトアウトは言葉を失った。
つい先ほどまで、協力し合っていた間柄が、一瞬で崩壊したのだから、無理もない。
驚き様から察するに、ショボンに対して恋愛感情のようなものを抱いていたのかもしれない。
座ったまま気を失いそうな彼女の姿は、哀れとしか言えなかった。

(´・ω・`)「嘘じゃないさ。
     真実を話すついでに君に言うが、僕は君の事が好きだったよ。
     君は利用価値があった。
     おかげで死体から身分証を取ることも容易だったし、海に捨てることも出来た。

     さて諸君、名残惜しいが私は失礼するよ。
     よく言うだろう? “握り拳と握手は出来ない”ってね」

ショボンの告解によって異様な空間と化したその場において、トラギコ・マウンテンライトだけが殺しの道具、自動拳銃ベレッタM8000を構えた。
撃鉄は起き、安全装置も解除されている。
銃爪に指がかけられているが、彼は引けなかった。
ショボンはトラギコよりも素早くロミスを付き飛ばし、マニーの首をマハトマで掴み、力を込めていた。

部屋に入った段階でショボンの右腕が“マハトマ”を纏い、何気ない会話の中で解除コードを口にしていた事に気付いた時にはもう遅い。
わざわざロミスをマニーの傍にまで連れてきたのは、これを予期していたからだろう。
この男は、リスク管理が病的なまでに徹底している。
全員がショボンの行動に注目する中、デレシアだけは彼が仕掛けた別の手に注意をしていた。

613名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:58:31 ID:Xf6oanDE0
ショボンはマニーを掴み起こし、彼を楯にしながら会議室の出入り口に向かう。
トラギコは銃口を向けたまま、ショボンの動きを待つ。




(´・ω・`)「さぁ始めよう、デレシア!!
     ここから先は、楽しい答え合わせの時間だ!!」




声高らかにそう言い放ったショボンは、部屋を飛び出した。
これが“オアシズの厄日”、その最終幕の始まりであった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                 脚本・監督・総指揮【ID:KrI9Lnn70】

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ショボンの言う答え合わせが、思考の読み合いの話だとデレシアにはすぐに分かった。
彼は馬鹿ではない。
この場が設けられた時点で、その先を見越して手を打っているはずだ。
逃走経路の確保も済んで、万が一の際の指示もしていると考えて挑むべきだ。

道中に彼が仕掛けた数々の罠、細工。
デレシアがそれをどこまで見抜き、対抗できるか。
互いの手の内を打ち消し合う追跡劇。
そのことを、答え合わせと言っているのだ。

614名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:00:44 ID:Xf6oanDE0
デレシアも準備をしていない状態でここにいるわけではない。
しっかりと先読をして、手を打った状態でここにいるのだ。
後は、双方の思考の読み合いが結果となって現れるのを見届けるだけだ。
銃を向け合った状態で撃ち合い、互いの弾丸を撃ち落とすようなものだ。

(=゚д゚)「……で、“言われた通りに”撃たないでやったけど、どういうことラギ?」

トラギコには、犯人がマニーを人質にして逃亡する可能性の高さを話してある。
彼がすぐに撃ち殺さないように言っておいて、大正解だった。
これで読み合いの先制点は、デレシアの物となった。
一連の事件によって信頼を大きく失ったオアシズを復興する際に、マニーの存在は絶対だ。

彼の死はオアシズの崩壊に繋がり、船はどこかの街の支配下に置かれるに違いない。
恐らくはそれがショボンの保険だ。
仮に船がジュスティアなどに買収された場合でも、ショボンは目的を果たせるのだろう。
最悪の事態は避けられた。

しかしマニーの命が握られている以上、状況はショボンに傾いている。
デレシアが彼の思惑を潰すにはマニーを生きた状態で奪い返し、目的を阻止するしかない。

ζ(゚、゚*ζ「説明は後。 各ブロック長はノリハの指示に従って。
      それと、武装させた警備員をショボンの部屋に。
      探偵長の死体があるはずよ。
      トラギコ、ブリッツを装着して彼を追うわよ」


(=゚д゚)「けっ、やりゃあいいんだろ。
    ――“これが俺の天職なんだよ”!!」

.

615名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:04:50 ID:Xf6oanDE0
トラギコの声に応じて、足元のアタッシュケースが展開した。
彼はそこから籠手を取り出して両手に装着し、右手に高周波刀、左手にM8000を持った。
デレシアとトラギコは部屋を飛び出し、ショボンの姿を探した。
黒い絨毯の敷かれた廊下には誰もいない。

だが重要なのはショボンがどこを目指しているかだ。

(=゚д゚)「上か、それとも下か?」

ζ(゚、゚*ζ「下よ」

二人は左に進み、突き当りを右に曲がった。
そこにある扉が開いており、誰かが通ったことが分かる。
デレシアは歩調を緩め、トラギコを先に行かせた。
扉を蹴り開けると、そこには広い道路が広がっていた。

次にショボンが使うと予想できる経路は、エレベーターだ。
自分が追われることは分かっているはずだし、急ぎたいはずだ。
何も言わずに、トラギコはエレベーターを目指した。
その後ろに続いて、デレシアも駆ける。

高速エレベーターの前に着くが、既に呼び出しのスイッチがマハトマで殴り壊されていた。

(#=゚д゚)「くっそ、あの禿!!」

最寄りの物ではなく反対側のエレベーターを利用するしかない。
だが、道路の向こうにあるエレベーターの近くに二体のハムナプトラが待機しているのが見えた。
待ち伏せしていたハムナプトラも、二人に気付いた。

<=ΘwΘ=>『来たぞ、殺せ!!』

616名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:10:12 ID:Xf6oanDE0
ハムナプトラが構えるアサルトライフルが火を噴いた。
銃弾は二人のすぐ傍を通り抜け、壁や地面を抉っていく。
距離による弾道のずれを棺桶が自動で整えるには、五秒ほどの時間が必要だ。
デレシアはローブを広げて咄嗟に応戦しようとするが、トラギコが叫んだために両手をデザートイーグルから離した。

(=゚д゚)「伏せてな!!」

僅か四発で、トラギコは二体の棺桶を屠った。
疾いだけではない。
かなり正確な腕をしている。

ζ(゚ー゚*ζ「ナイスショット」

(=゚д゚)「うるせぇ」

この銃撃戦によって、短時間ではあるが追跡の時間を稼がれた。

ζ(゚、゚*ζ「急ぎましょう、この調子だと逃げられるわ」

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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船倉の最深部に向かって降下するエレベーターの中で、ショボン・パドローネは楽しさのあまり、笑い出した。
やはり思った通りだ。
彼女こそが事件を解き明かす人間だったのだ。
探偵たちの無能さには落胆したが、デレシアと云う人間の有能さには驚愕した。

617名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:15:39 ID:Xf6oanDE0
真の目的から目を逸らさせるためだけに引き起こした事件だったが、それなりに手の込んだ仕掛けだったつもりだ。
探偵たちがこの事件を解いていく内に袋小路に入り、迷走することが当初の予定だった。
一つの事件として、中々に完成度の高い物だったと自負できる。
だがそれは、事件を可決できるだけの能力のある人間がその場所にいれば、の話だった。

それ以前の問題だったのだ。
結局、探偵たちの誰一人として、ショボンの思惑通りには動かなかったのだ。
多少の手助けはしたものの、正しい推理も出来なかった。
先ほどの場に現れることも期待したがそうはならず、ショボンの偽りの推理に流されるがままだった。

探偵長はもう少しの所まで来たが、ショボンに相談に来たのが運の尽きだった。
話すのも面倒だったため、殺してしまった。
用意された真実に到達できたのは、デレシアただ一人。
彼女なら、ショボンを楽しませてくれる。

この答え合わせの時間も、彼女無しでは虚しいだけだ。

(´^ω^`)「うふふふ、あああああああああっははははは!!」

¥#・∀・¥「……キチガイが」

両手足をワイヤーで固定され、肩の上に担がれたリッチー・マニーはショボンの耳元で可能な限りの増悪を込めてそう呟いた。
こんな男の発言一つ気にも留めない。
ショボンにとっては、ただの生きた鍵だからだ。
ショボンは笑みを失わないまま、答えた。

(´^ω^`)「……貴方には分からないでしょうね。
     好敵手の出現程嬉しいことはない。
     こんな事をしていて、唯一の楽しみはそれぐらいなんですからね」

618名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:19:18 ID:d8jt7rN.0
支援

619名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:20:22 ID:Xf6oanDE0
¥#・∀・¥「こんな事?」

(´・ω・`)「人殺しですよ、市長。
     私はね、極力人を殺したくないんですよ。
     何かしらの罪があれば別ですが、無実の人間を殺す時には胸が痛みます」

この言葉をマニーが信じるとは思っていない。
人を殺す時には、常に罪悪感が彼を襲った。
全てはより大きな目的のためと言い聞かせ、人を殺した。
一を殺して千を救う。

それこそが正義。
それこそが、ショボンの見出した新たな生き方だった。

(´・ω・`)「信じてもらえるとは思っていませんけどね」

¥;・∀・¥「海のように広い理解力があれば、信じられるんだろうけどね」

ショボンを乗せたエレベーターは、存在しないはずの地下二階に到着した。
扉が開くと、目の前には銀色の巨大な壁があった。
そこには鍵もなく、パネルもない。
凹凸のない滑らかな銀色の壁と床、そして天井しかない。

人一人分の最小のスペース。
これが、オアシズの大金庫だ。
音声入力と網膜スキャン、そして分厚い特殊合金によって守られた金庫内部は六つの部屋に区切られ、要求に応じて金庫内部の部屋が回転する。
音声によって指示された金庫を開く、回転式金庫だ。

マニーを地面に降ろし、ショボンは要求を伝えた。

620名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:25:31 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「さて、市長。
     貴方の所有する“キング・シリーズ”の棺桶を渡してもらいましょう」

その名を聞いた途端、マニーは驚きに目を大きく見開き、ショボンを睨み上げた。
呆れ、そして激怒の色が窺える。

¥;・∀・¥「あれが、狙いだったのか……
      あんな、棺桶一機のために!?
      そのためにどれだけの人間を殺した!!」

(´・ω・`)「人間は七十億以上。 対して、この世界に現存するキング・シリーズは十機もいない。
     価値の高さは、比べるまでもない。
     他と一線を画するその内の一機、是非とも欲しい」

¥・∀・¥「断る、と言ったら?」

(´・ω・`)「この船を沈めます。
     現在、この船の操舵室は私の同胞が占拠しています。
     いつでもどうにでも出来るんですよ?」

¥・∀・¥「地獄に落ちろ」

マニーは扉を睨みつけ、下唇を噛んだ。
唇は次第に白くなり、そして、血が滲みだした。
最初の血の一滴が地面に花を咲かせた時、マニーは怒りに声を震わせながら言った。

¥・∀・¥「……アイデンティファイ、リッチー・マニー。
      コード、アルファ・レガシー・トロント。
      オーダー、SK-00」

621名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:31:14 ID:Xf6oanDE0
金属の扉の向こうから、低い唸りの様な音が聞こえ、ゆっくりと壁が床に沈んだ。
そして、回転式金庫の中からそれが現れた。

(´・ω・`)「――素晴らしい!!
     これが……これが……!!」

縁が金色に塗装されただけの長方形の黒柩が、そこにあった。
光沢のないコンテナの表面には、擦り傷さえついていない。
ざっとした目測ではBクラスに分類されるが、性能はCクラス並みの高性能な機器を搭載している。
まだ見ぬその中身は、これまでに出会ったどの棺桶よりもショボンを興奮させた。

(´・ω・`)「……“ドリームキャッチャー”!!」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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ショボンを追うデレシアとトラギコは、非常階段を使って地下を目指していた。
エレベーターに伏兵を配置していた用意周到さを見ると、エレベーターに爆発物を仕掛けている可能性が高かったからだ。
市長を人質にしたショボンは、オアシズの地下二階に位置する金庫室に向かっているとデレシアは推理した。

地下二階に行くための道はエレベーター以外にもある。
デレシアはその道を知っていた。
やられっぱなしも性に合わないので、デレシアは別の手を使ってショボンの逃走経路を妨害することにした。
トラギコの棺桶を利用して、第三ブロックのエレベーターの昇降を行うワイヤーを切断させたのだ。

これで上に向かう道を制限し、時間を稼げる。
階段を駆け下りる途中、先頭を行くトラギコは後ろを見ずに質問した。

622名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:36:30 ID:Xf6oanDE0
(=゚д゚)「……なぁおい、どうしてショボンが金庫室だと?
    普通なら、救命ボートを目指していると考えるはずラギ」

ζ(゚、゚*ζ「ボートで逃げるつもりなら、マニーは必要ないわ。
      海賊の襲撃の段階で船に乗ればよかったもの。
      狙いは、金庫内の棺桶よ」

地下一階に到着し、まっすぐに続く薄暗い廊下を走る。
じめじめとした空間はくぐもったがして不快だった。
硬い靴底が金属の床を踏みつける音が木霊する。

(=゚д゚)「これだけのことをした目的が、棺桶?
    あの禿とは少しの間仕事をしたことがあるラギが、そんな大げさなことが好きな奴じゃなかったラギよ」

ζ(゚、゚*ζ「“キング・シリーズ”って棺桶の事は?」

(=゚д゚)「知らないラギね」

突き当りを右に曲がり、三段だけある階段を飛び降りる。
左右には天井に接続された巨大な円筒が立ち並び、生ぬるく湿気の多い空間だった。
機関室の一部だ。

ζ(゚、゚*ζ「S・キングと云う兵器設計の名匠が手掛けた棺桶の事よ。
      復元されているのは僅かに六機だけ。
      マニーが所有しているのは、その中でも二番目に新しい“ドリームキャッチャー”。
      ショボンはそれを狙っているはずよ」

(=゚д゚)「わざわざ棺桶一機のために、随分と大げさな……」

ζ(゚、゚*ζ「それだけの価値を見出しているのだから、仕方ないわ」

623名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:40:12 ID:Xf6oanDE0
デレシアは先を行くトラギコの肩を掴んで、動きを止めさせた。
周囲を見渡し、溜息の代わりに強い口調でトラギコに訊く。

ζ(゚、゚*ζ「……爆弾解体の経験は?」

(=゚д゚)「そりゃ、何回かはあるけどよ。
    なんで急に?」

ζ(゚、゚*ζ「ここ、爆弾だらけよ」

目を凝らせば分かる。
天井、パイプの下に四角い物体が取り付けられている。
形状から推測するに、プラスチック爆弾だ。
変幻自在の爆弾が相手となると、捜索だけでも大量の時間が必要になる。

見事な足止めによって、デレシアはショボンに追いつくことが不可能になった。
ここの爆弾を解体しなければ、船は最後に沈められる。
それを阻止するためには、今ここで爆弾を全て解体しなければならない。
ショボンを追っている時間も、追いつく時間もない。

(;=゚д゚)「どうするラギ?」

ζ(゚、゚*ζ「他の階に、まだ残党がいるはず。
      私がそっちを片付けるから、貴方はここをお願い」

(=゚д゚)「人使いの荒い奴ラギね。
    ……やってみる。
    手前、死ぬなよ」

ζ(゚、゚*ζ「当たり前よ。 貴方もね、刑事さん」

624名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:44:31 ID:Xf6oanDE0
デレシアはショボンの追跡を諦め、船内の大掃除にその行動を切り替えた。
この時点で、デレシアがショボンに追いつける確率はゼロになった。

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                            配給

【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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棺桶を背負い、ショボンは悔しさで振るえるマニーを見下ろした。
空になった金庫に転がる彼の姿は、この船における彼の立場を比喩しているようだった。
両手足を縛られ、使えるのは口だけ。
正に、無力の象徴だ。

(´・ω・`)「……市長、こんなことを言うのは残念ですが、貴方は優秀だった」

殺してもいいが、極力無駄な殺しは避けたかった。
人が死ぬと、誰かが悲しむ。
それが事件であれ、事故であれ、戦争であっても、だ。
エレベーターに乗り込み、屋上行のボタンを押す。

しかし、一向に昇降機が上昇する気配がない。
原因に思い至り、ショボンは嬉しくなった。

(´・ω・`)「ふふ、楽しませてくれるね」

625名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:51:04 ID:Xf6oanDE0
デレシアはこちらが地下に向かったことを予想し、エレベーターの機能を奪ったのだ。
つくづく、面白い女だ。
女にしておくには惜しい人材だ。

(´・ω・`)「いい女だ、全く」

あの二人がここに来るまでには、かなりの時間が掛かるはずだ。
彼女の洞察力の高さを考えると、道中に用意した爆弾で長い間足止が出来る。
時間的には、まだ余裕がある。
背中のドリームキャッチャー、両腕のマハトマが今のショボンの主装備だ。

ドリームキャッチャーはギリギリまで使いたくない。
左手の小指から順に拳を作り、地面に向けて叩きつけた。
跳躍するよりも高く上空に体を浮かせたショボンは、すぐさま右手のアッパーカットで天井に大穴を空け、その縁を掴んだ。
工夫の仕方では、脱出経路は確保できる。

昇降機の上に乗り、ショボンはワイヤーが蜷局を巻いて屋根に落ちているのを見つけた。
鋭利な断面。
トラギコの仕業だ。
彼の持つブリッツなら、この程度のワイヤーはタコ糸以下の存在でしかない。

この事態は予測していた。
最悪の中でも最上の部類として。
だからこそ、鋭い推理力を持つ人間を足止めするための機関室の爆弾があるのだ。
あれは足止めであると同時に、船を沈めるための物でもあった。

ここまでの相手と分かっていればと後悔するが、やはり嬉しく思う。
世界はこれから大きく変わる。
変わりゆく世界を動かすのは、強い意志と力を持つ人間だ。
彼女なら、これから訪れる新世界を象徴する人物になれるのは違いない。

626名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:55:11 ID:Xf6oanDE0
それが分かっただけでも、ショボンにとっては十分な成果だ。
知恵比べなど、何十年ぶりだろうか。
警察に入ってからは片手に数えるほどしかなかったこの高揚感。
その全てを足しても、これほどの物は得られなかった。

用意したほぼ全てを見抜かれ、準備された。
双方の技量の優劣を知るには、結果を見るしかない。
新たな穴を拳で開け、ワイヤーの切れ端を先ほど開けた穴に通して結ぶ。
幸いだったのは、滑車伝いにワイヤーが両端とも残っていたことだ。

これで、エレベーター機構の再現が出来る。
天秤と同じく、より重い方が下に行く。
その機構が再現できれば、ショボンは屋上に辿り着くための道を手にすることが可能となる。
地下一階まで上がれば、後は階段を使えばいい。

デレシアの事だ、第三ブロックにある二つのエレベーターを無効化しているだろう。
ワイヤーを引っ張り、安全を確認する。
両手でそれを掴んで、ショボンは静かに上を目指した。
時間としては、五分もあれば地下一階に戻れるはずだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

その人物は逃走経路の掃除を行っていた。
使う道具はナイフか拳銃だけで、背中のトゥエンティー・フォーは一度も使わなかった。
対象となるのは、どうしてか道中で待ち構えている警備員達だ。
こちら側の人間ではなく、オアシズ側が配置した人間と云うのが気になる。

627名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:58:11 ID:Xf6oanDE0
計画が表沙汰になったと考えるしかない。
それも、あのショボン・パドローネを上回る形で。
オアシズ付の人間ではないはずだ。
外部の人間の仕業だ。

跫音を消すことをせずに廊下を突き進むその人物は、ショボンの共犯だった。
真犯人の影を演じ、大胆な犯行を担当した。
姿や存在が捜査線上に現れることなく犯行を手掛け、ショボンにアリバイを与えた。
それが彼の役割だった。

そして今、彼の部下が船の各ポイントに立ちショボンの逃走を手助けすることになっている。
仲間のためとはいえ、部下を捨て駒のように使われるのはいい気分がしなかった。
部下全員の顔と名前を憶えている訳ではないが、それでも人間だ。
既に報告で上がっているのが、海賊襲撃時にブロック長達の警備兼監視役の部下が、全員殺されたことだ。

それ以外にも死者が確認されている。
この船に乗り込んだ猛者がおり、トラギコとか云う人間がその内の一人なのは間違いない。
第三ブロック七階にある操舵室の前に来た時、嫌な感覚に襲われた。

「……?」

まず、いるはずの歩哨がいなかった。
命令ではその場から動くなと言ってあったはずだ。
決められた回数、そして間隔で操舵室の扉をノックしたが、応答がない。
扉を押すと、何の抵抗もなく開いた。

一瞬で状況を理解することは出来なかった。
地面に落ちた大量の血痕はまだ乾いていないが、人がいない。
誰一人、そこにはいない。
海を見渡すことの出来る強化ガラスに近づき、他にめぼしいものが無いかを確認した。

628名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:01:18 ID:Xf6oanDE0
窓の傍に一つだけ落ちていた薬莢を爪先でつついた時だった。

「――へぇ、あんたか。
なんだか少し残念だよ」

その声は後ろからかけられた。
刃の様な女性の声だった。
気配は全くしていなかった。
今こうして声を掛けられても、気配を感じるのがやっとだ。

すぐに襲ってこないことを考え、その人物は顔だけを声の方向に向けた。
若い女だった。
細身だが、黒いスラックスの下にある実用的な筋肉の存在は、立ち振る舞いから分かる。
目尻がやや吊り上がった、鋭い眼光を放つ瑠璃色の瞳。

見たことのある女性だった。
餃子を売っていた時に現れた女性だ。
只者では無い事は察していたが、まさかここまでとは。

ノパ⊿゚)「さて、お相手願おうか」

この女性が単身で操舵室にいた部下を皆殺しにしたのは、確認するまでもなかった。
そして、この女性がショボンの言う障害の一人であることはより明白だ。

( `ハ´)「……」

必要なのは先制攻撃だ。
シナー・クラークスは溜息を殺し、覚悟を決めた。

( `ハ´)「私の部下はどうしたアルか?」

629名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:03:55 ID:Xf6oanDE0
ノパ⊿゚)「あんたの部下だったのか、あいつらは。
    悪いが、殺して捨てたよ」

シナーは理解した。
この女性は、強い。
勝てると思って戦わない方がいいだろう。
出来ることは時間を稼ぐこと。

こちらの勝利条件は、ショボンが“迎え”に間に合って荷物を渡すことだ。
矜持や意地は捨て、時間稼ぎに徹する他ない。

( `ハ´)「……名前は?」

ノパ⊿゚)「名乗るつもりはないね。
    ――“あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ”!!」

コンセプト・シリーズの起動コードに、シナーは覚悟を決めた。
別に動いているショボンが逃げ切るまで、この場で戦い続け、生き延びる。
最悪、殺せなくともいい。
殺されさえしなければ。

( `ハ´)「ふん……
     “今日は今までで一番長い一日になる”!!」

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        ‥…━━ August 6th 19:40 on the penthouse ━━…‥

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630名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:07:44 ID:Xf6oanDE0
屋上に到着したショボンは、月と星明りの美しさに思わず感動して涙ぐんでしまった。
何と美しい景色だろうか。
この汚い世界の中でもなお失われない美しさを保ち、ショボンを祝福してくれることの嬉しさ。
今、自分とその行いは世界に受け入れられているのだと自信を持って言える。

濃い群青色をした水平線の向こう、歪な形をした紫色の雲の下に赤と緑の位置灯が見えた。
ローターの羽音を響かせて飛んでくるヘリコプターの姿を幻視し、ショボンは理解した。
迎えが来た。
あと数分で、答え合わせはショボンの勝利で終わる。

少し残念だったが、楽しませてもらえた。
目的は果たした。
後は、帰るだけだ。
ポケットの中の発信機のスイッチを入れ、目的の達成を伝える。

肌寒い空気を運んでくる風は、走り続けた体を良く冷やしてくれる。
風の音が大きい。

(´・ω・`)「ふぅ……」

溜息を吐き、任務達成の解放感に浸る。
ヘリの黒い姿が大きくなるにつれ、ショボンは肩から力が抜けるのが分かった。
多目的ヘリコプター、UH-60ブラックホーク・ヘリコプターだ。
自然エネルギーで飛行を可能にするために、二十年近く改修し続けた機体だ。

昼間の間に充電し、夜中でも飛べるように改良された大容量バッテリーはまだ量産されていない。
迎えとしてそれ一機を飛ばすだけでも、この作戦の重要度がよく分かる。

(´・ω・`)「さよなら、オアシズ」

631名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:11:57 ID:Xf6oanDE0
爆音を響かせ、ブラックホークがショボンの頭上に現れた。
オアシズの屋上は、ヘリの離着陸をするのに十分すぎる広さがある。
海で逃げるのが困難なら、空から逃げるのに限る。
着陸したブラックホークの後部席のスライドドアが開き、室内灯が照らす懐かしい顔があった。

ローターの生み出す風に長めの黒髪を靡かせる碧眼の男性、ドクオ・バンズだ。
空気を震わせ、轟音となったローターの音に消されないように、ドクオは大きな声で話しかけてきた。

('A`)「お疲れ様です、同志!! 船旅はいかがでしたか?!」

両耳を押さえながら、ショボンは口の動きから言葉を読み取り、返答した。

(´・ω・`)「悪くはなかった!!
     無事、ドリームキャッチャーは手に入れた!!
     だが追手が来ている、急いで出よう!!」

背中の棺桶を降ろしてドクオに引き渡すだけで、長い任務は終わる。
これでショボンはオアシズから去り、デレシアとの答え合わせは――

(∪´ω`)「お」

――最後の局面に現れた一人の少年に、その勝敗が託された。

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             Ammo→Re!!のようです Ammo for Reasoning!!編

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632名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:14:59 ID:Xf6oanDE0
ブーンは驚かなかった。
そして、恐れもしなかった。
ショボン・パドローネが犯人であることも聞いていたし、ここに来る事も予期出来た。
戦い方は聞いている。

恐ろしい相手を前にするのは、これが初めてではない。
今、自分が成長するための一枚の壁の前にいる。
故に臆するわけにはいかなかった。
例え、自分を海に投げ捨て、大量殺人を犯した人間が目の前にいたとしても、だ。

(´・ω・`)「……ブーン君?
     生きていたのか?」

(∪´ω`)「はいですお」

この質問は、予想していた。
驚くことはない。

(´・ω・`)「それは良かった。
     どうしてここに?」

(∪´ω`)「つよくなるためですお」

この質問も、予期していた。
恥じることはない。

(´・ω・`)「何が起きたのかは知っているのかい?」

(∪´ω`)「しっていますお」

633名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:19:59 ID:d8jt7rN.0
支援

634名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:21:11 ID:Xf6oanDE0
この質問も、想定していた。
迷うことはない。

(´・ω・`)「なら、どうするつもりだい?」

(∪´ω`)「あなたのゆめを、つぶしますお」

この質問も、想像していた。
躊躇うことはない。
ショボンは一連のやり取りと終えると、眉ひとつ動かさずに、手を懐に入れた。
そこから拳銃を取出し、銃口をブーンの胴体に向けた。

まだ動いてはならない。
ブーンが師匠と敬う人物から教わった事。
相手が銃爪を引くまでは、その銃口と相手の視線から目を逸らしてはならない。
限界まで見極め、最小限の動きで応じる。

然る後に、反撃に転じる。

(´・ω・`)「海に捨てておいてなんだが、君を殺したくはないんだ。
     君はまだ子供――」

ローターが生み出した風と、強い潮風がブーンの被るニット帽を飛ばした。
ニット帽はフェンスに引っかかり、海には落ちなかった。
黒髪の下にある垂れ下がった犬の耳が露わになったことに気付くと、目の前で別の変化が起きた。

(´・ω・`)「――耳付きは死んでいい」

635名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:25:54 ID:Xf6oanDE0
態度を一変させ、ショボンが動いた。
暗闇の中でも、ブーンは彼の動きが良く見えた。
発砲する直前に途切れる殺意。
それを感じ取るのと同時に、銃口の先をよく見る。

自分から見て左側に向かって弧を描くように走り、銃弾を避ける。
ヘリの影に隠れられれば、銃弾は当たらない。

(´・ω・`)「くそっ、耳付きのクソガキと話したのか、僕は。
     最悪だ、悪夢だ。 女にレイプされるよりも辛いな、これは」

淡々と言葉を並べながら、ショボンは発砲を続ける。
銃弾はブーンの後ろを通り過ぎていたが、次第にブーンの目の前を通過するようになり、迂闊に走れなくなった。
走れなくなると、ショボンの射撃の腕の正確さに気付かされた。
ショボンから約三ヤードの位置で最小限のサイドステップで動いているが、銃弾はローブの端を掠め、このままでは胴体に当たるのは確実だった。

武器が。
武器が、欲しかった。
ショボンに反撃し、自分を守ることの出来る武器が。
銃でもナイフでも、なんでもいい。

(´・ω・`)「デレシア程の人間が糞耳付きを最後に残すとは、確かに予想外だったよ。
     だけど死ね。 この世界のためにも死ね!!
     忌々しい耳付きが!!」

これまでに、耳付きと呼ばれる人種を嫌う人間は多く見てきた。
誰もが気味悪がり、嫌悪していたのは分かっていた。
害虫を殺すのと同じく、気分の問題で殺されかけたことがほとんどだ。
だが、ショボンの声には怒りがあった。

636名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:29:34 ID:Xf6oanDE0
この男は怒りの感情でブーンを殺そうとしている。
彼の背後、ヘリコプターに乗る男も異変を察したのか、大声で静止を試みた。

('A`)「同志ショボン、早く乗ってください!!
   そんな子供は放っておいて、急いで!!」

(´・ω・`)「いいかドクオ、こいつらは害虫と同じだ!!
     一匹残せば増えていくんだ。 見つけたら殺さなければならない!!
     もう少し待っていてくれ!!
     私と口をきいた駄犬の肋骨をへし折って、喉に突き刺してやるんだ!!」

ショボンが拳銃の弾倉を排出した時、涼しげな女性の声が響いた。

「――駄犬? 私の可愛い弟子を駄犬扱いとは、気に入らないな」

時間だ。
ブーンの役割はここまで。
後は、ブーンにはない物を持つ人物が、彼の役割を引き継ぐ。

リi、゚ー ゚イ`!「どれ、一つ試してみるか?」

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            Ammo→Re!!のようです Ammo for Reasoning!!編

                          Epilogue

                     【Ammo for Reasoning!!】

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637名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:34:55 ID:Xf6oanDE0
黒い鍔広帽子に黒いロングコート。
限りなく黒に近い灰色の髪。
宝石のように輝き、深淵の如く底の無い深紅の瞳。
影のようにブーンの後ろから現れたロウガ・ウォルフスキンは、ショボンをまっすぐに睨みつけた。

ブーンが屋上で担った役割は、時間稼ぎと銃の弾を尽きさせること。
これが上手く行かなければ、答え合わせはショボンの勝利で終わっていた。
何故なら、ブーンには武器がない。
誰かを殺すだけの力もない。

だから、ロウガがそれを代わりにやる。
その為に必要な道具を取りに行く時間を稼ぐのが、ブーンの真の目的だった。
ロウガの放つただならぬ雰囲気に、ショボンは怒りの感情を抑えた。

(´・ω・`)「……ドクオ、ヘリを上空で待機させることは可能か?!」

('A`)「五分だけなら!!」

(´・ω・`)「いいだろう。 この女、今ここで犬と一緒に殺す!!」

ショボンは棺桶をヘリコプターの男に渡し、両の拳を眼前で打ち鳴らした。
機械仕掛けの籠手の正体は、マハトマだ。
Aクラスの棺桶で、重い荷物の運搬に使われるようなもので、戦闘には向いていない。
しかし、生身の人間との肉弾戦の場なら殺傷能力は十分だ。

(´・ω・`)「相手をしてやる。 こい、女」

638名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:38:44 ID:Xf6oanDE0
ショボンの注意がロウガに移行したのを見逃さなかった。
指示を待つよりも先に、ブーンが動いた。
狙いは、彼の脚だ。
足払いでバランスを崩せば、ロウガに有利な状況を作り出せる。

上昇を始めたヘリコプターの風圧で近づくのは困難だったが、距離が縮まっていたのが幸いした。
人工芝の摩擦の少なさを利用して、片膝を突きながら素早くショボンの背後に滑り込む。
視線も注意も、ブーンには向けられない。
眼中にないのだ。

片手を軸にして、ロウガに習った足払いを繰り出した。

('A`)「悪いな、小僧」

いつの間にかヘリから飛び降りた男が、足払いが形となる直前のブーンの足を掴んだ。
ショボンの脚までもう僅かの地点で、それは阻まれた。

(;∪´ω`)「お!?」

('A`)「あの女を殺したら、すぐに楽にしてやる」

男は懐から拳銃――コルト・ガバメント――を抜いて、ロウガに向けて発砲した。
だがロウガはそれを避けた。
一発ずつ、銃口を確認しても回避行動だ。
それだけではなく、彼女はブーンとは比較にならないほどの速度でショボンに接近している。

彼女の目の輝きが、まるで残光のように見えた。

(´・ω・`)「疾いっ?!」

639名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:39:32 ID:LyEmKjUM0
支援!

640名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:43:29 ID:Xf6oanDE0
ロウガの接近に半歩後退したショボンは、リーチのある回し蹴りで応じた。
その蹴りは、虚しく空を切った。
彼女は上半身の動きだけで紙一重でそれを避けたのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「遅いぞ、探偵」

たじろぐショボンに、ロウガは後ろ蹴りを下方から一発放った。
それで、二人の勝負は終わった。
両腕を交差させて攻撃を受け止めたショボンだったが、その体は嘘のように宙を舞い、ブーン達の頭上を越えて地面に叩きつけられた。
圧倒的な戦力の開きに、男は立ち向かうのを諦めた。

(;'A`)「ちっ!! 人質ってのは好きじゃねぇが!!」

もう二度と、人質になって足手纏いになりたくない。
その想いが、ブーンを動かした。
体を一回転させ、男の手から足を解放させる。
そして、蹴り上げによって男が持つコルトを蹴り飛ばした。

(;'A`)「お!?」

リi、゚ー ゚イ`!「墳っ!!」

呆然とする男の腹に、ロウガの掌底が命中した。
男もまた、宙を舞ってショボンの隣に落下した。
男の手を離れたコルトも、ほぼ同時に地面に落ちた。

リi、゚ー ゚イ`!「他愛ない連中だ」

ロングコートの裾を風に棚引かせるロウガは、帽子が飛ばされないように鍔を摘まみながら短く落胆の言葉を吐いた。

641名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:47:39 ID:Xf6oanDE0
(;´・ω・`)「……なんだ、この女。
      本当に人間か?」

ゆっくりと立ち上がりながら、ショボンはロウガを見た。
距離は十ヤード近く。
その気になれば、ロウガは二人を殺しに行ける距離だ。
耳付きと呼ばれる人間にとって、この程度の距離は問題にならない。

リi、゚ー ゚イ`!「勿論、人間さ」

(;´・ω・`)「お前も、耳付きだな」

忌々しげな口調でそう言ったショボンに、ロウガは冷ややかな目と言葉を与えた。

リi、゚ー ゚イ`!「貴様の嫌悪する耳付きに、手も足も出ないのか。
      情けないな」

(#´・ω・`)「ケダモノがっ」

(;'A`)「ごっ……げぇぇぇっ」

ロウガに発砲した男は、体をくの字に曲げて吐瀉し、悶絶している。
文字通り、決着は一瞬でついた。

リi、゚ー ゚イ`!「貴様らの負けだ」

その言葉を聞いたショボンは、肩を震わせて笑い声をあげた。

642名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:52:37 ID:Xf6oanDE0
(´^ω^`)「……はははははっ!! それはないね!!
     確かに、私は君に負けたが、答え合わせでは私の勝ちだ。
     分かるかい? すでに棺桶は我々が手に入れた。
     この時点で、私達の勝ちなんだよ!!

     最後の一問で君達の負けだ、犬が!!」

リi、゚ー ゚イ`!「……“最後の一問”、か。
      ならそれは、貴様の採点ミスだ。
      主の盟友は、こうなることを予期していた。
      最後の最後で、詰めを誤ったな」

直後、上空に浮かんでいたブラックホークで爆発が起こった。
ブーンには見えていた。
爆発が、内側からの物であることが。
小さめの爆発だったが、黒煙がヘリから立ち上り、棺桶の運搬用コンテナがそこから海に落下した。

(´^ω^`)「え」

リi、゚ー ゚イ`!「マニーに頼んで、コンテナの中にプラスチック爆弾を詰めておいた。
      内側からの爆発なら、例え棺桶といえども耐えきれない。
      コンテナの頑丈さに感謝するんだな。
      おかげで、ヘリはまだ墜ちていないぞ」

(´^ω^`)「……」

誰が仕掛けて、誰が起爆したのかは分からない。
それは、ブーンも知らないことだった。
しかし分かる気がする。
ここまでの戦術を組み立てた人物の仕業だ。

643名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:56:58 ID:Xf6oanDE0
つまり、デレシアの仕業だ。
それ以外の人間に出来るとは、とても想像できなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「詰みだ。 どうする、探偵?」

(´・ω・`)「……ふ」

足元で悶える仲間を尻目に、ショボンは再び笑った。
今度の笑いは心の底からの笑い声だと、直ぐに分かった。

(´^ω^`)「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
     アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッキンヘル!!
     やるねぇ、やるねぇ!!
     想像以上だよ、この展開は!!」

黒煙を撒き散らしながら高度を落とすヘリコプター。
響き渡るショボンの笑い声。

(´^ω^`)「全部、デレシアの指示かい?」

リi、゚ー ゚イ`!「あぁ。 あの方はここまで予想していた。
      答え合わせは、あの方の勝ちだよ」

(´^ω^`)「仕方がないさ。 これはあくまでも私の戯れだ。
     この程度で私に勝ったと思われたくないが、負けは負けだ」

ヘリから一本の太いロープが落とされる。
蹲る男にロープを握らせ、ショボン自身もロープを掴んだ。
ロープが巻き上げられ、ショボンの姿はみるみる遠ざかっていく。
ロウガは追撃をする素振りを見せない。

644名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:00:19 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「次は、こうはいかないよ。
     ……さよなら、犬ども」

ヘリが十分な高度に達した時、ショボンはそう言い残した。
空いた手でショボンが何かのスイッチを押すと、大きな爆発音が響いた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

爆発はオアシズから離れた沖合で起こったものだった。
船に仕掛けられた全てのプラスチック爆弾を積んだ脱出艇は木っ端みじんになり、海の藻屑と化した。
その様子を見ていたトラギコ・マウンテンライトは、安堵の溜息を吐いた。
結局、爆弾の解体は不可能だった。

どのコードを切断しても起爆するように設定されていて、手出しができなかった。
出来たのは、設置されている爆弾を取り外す位だ。
それでも、自力で全てを見つけ出すのは不可能だった。

(=゚д゚)「……どうして、協力したラギ?」

トラギコの声は横に立つ女性にかけられたものだ。
彼のいる船尾のプールサイドには、彼と女性の二人しかいない。
その女性は笑みを浮かべて、答えようとはしなかった。

(=゚д゚)「答えろよ」

デレシアが賊の討伐に動き出してから数分後、トラギコの前にその女性が現れた。
初めは妨害に来たのかと思ったが、女性は武器を持たず、代わりに情報を与えた。
爆弾の隠された位置、そして構造。
全ての情報は正しかった。

645名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:04:29 ID:Xf6oanDE0
彼女がいなければ、船の機関部が吹き飛ばされてオアシズは漂流、もしくは沈没していた。
当然とも言えるトラギコの質問に対して、返答はない。

(=゚д゚)「あいつらの仲間なんだろ?
    どうして裏切ったラギ?」

首を横に振るだけの否定。
裏切っていない、ということなのだろうが意味が分からない。

(=゚д゚)「裏切ってないなら、どうして爆弾の位置を全て教えたラギ?」

笑顔を崩さぬまま、無言。
気味が悪い。
何を考えているのか分からない。

(=゚д゚)「おい、答えろよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

从'ー'从「……」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ノパ⊿゚)「ちっ……」

ヒート・オロラ・レッドウィングは割れた窓ガラスの向こうを睨みつけた。
相対した餃子屋の男は、時期を見計らったかのようにヒートとの戦闘を中断して逃走した。
良い引き際だ。
緊急時に最適なタイミングで撤退を決断できる人間は、総じて優秀だ。

646名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:09:05 ID:Xf6oanDE0
細目の男、シナー・クラークスは迷うことなく逃げた。
対峙したトゥエンティー・フォーの装甲には穴を空けたし、何度も殴り飛ばした。
だが倒せなかった。
使い手のシナーは巧みな動きで全ての攻撃を人体に到達させず、自分の身だけを守った。

久しぶりに骨のある男だった。
初めて会った時、あの男はとても敵には思えなかった。
ブーンによくしてくれたし、料理も美味かった。
しかし改めて殺し合って分かったのは、ヒート達と同じ世界に足を踏み入れた人間と云うことだ。

ブーンには才能がある。
人を魅了して味方にするか、嗜虐心を擽って暴力を振るわれるか、だ。
旅を始めて分かったのは、後者の方が世界には溢れているということだった。
前者の場合、夥しい量の人間を殺し続け、心の平穏を求めている人間に限られる。

殺し屋として長い間生きてきたヒートには、ブーンは心の救いだった。
彼が生きているとデレシアから聞いた時、彼女の用意周到さに驚いた。
驚いたのと同時に、胸が苦しくなった。
何時かまた彼を失ってしまうことがあるのではないかと、そう思ったからだ。

もう失うのは嫌だった。
ブーンを失わないためには、彼に四六時中貼りつかなければならない。
それでは、彼のためにはならない。
戦い方を教えなければならないのと同時に、武器を渡した方がいいと考えた。

彼の腕力は歳以上ではあるが、非力の部類だ。
ならば、筋力の関係ない銃を持たせてやるべきだ。
棺桶を背負いなおし、ヒートは操舵室を後にした。

ノパ⊿゚)「後味わりぃな……」

647名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:14:02 ID:Xf6oanDE0
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                 ‥…━━ August 6th 21:20 ━━…‥
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本当の意味でオアシズの厄日が終わったのは、午後九時を過ぎた時だった。
各階に散らばっていた賊の死体と、亡骸となった船長の供養など、やることは本当に多かった。
オアシズの厄日は結果として、偶然乗り合わせた人間の活躍によって大参事を免れた。
犯人側の目的は全て打破できたが、爪痕は残ってしまった。

ζ(゚、゚*ζ「……」

航行を再開したオアシズの屋上で、デレシアは月を見上げていた。
大きな月だった。
美しい星空だった。
昔から考えれば、有り得ないほどの輝きだ。

デレシアは考えに耽っていた。
これから先、旅は続いていく。
ブーンの成長速度には驚かされるし、彼の魅力に気付く人間が増えるのは嬉しかった。
しかし、それでは足りない。

探偵としてオアシズに長い期間潜りこんでいた、ショボン・パドローネ。
彼はまず間違いなく、ティンバーランドの人間だ。
使われた棺桶に残されていた、金色の樹のエンブレムがその証拠だ。
今、ティンバーランドは世界中にその根を下ろし始めている。

かつてデレシアが潰した組織が、再び芽生え始めている。
潰さなければならない。
彼らの最終目的を考えると、それは絶対だ。
その為には速さが必要だ。

648名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:18:19 ID:Xf6oanDE0
ブーンの成長を促し、少しでも早く立ち向かえるようになってもらう必要があった。
いつまでもブーンを守れるわけではないのだ。
今回がそのいい証明となった。

ζ(゚、゚*ζ「……ロウガ、ブーンちゃんの事、礼を言っておくわ」

眩い月が生んだ濃い影。
その影に潜むように傍に立っていたロウガ・ウォルフスキンは無表情のまま、答えた。

リi、゚ー ゚イ`!「礼には及びません。 私も彼に個人的な興味がわきました」

ノパ⊿゚)「あたしからも礼を言うよ、ありがとう」

その隣にいたヒート・オロラ・レッドウィングもロウガに礼を述べた。
彼女がいなければ、ブーンは海に沈んで溺死していた事だろう。

リi、゚ー ゚イ`!「私は主の友を救ったまで。
      ですがそのお言葉は、ありがたく受け止めさせていただきましょう。
      それで提案なのですが、どうですか、月を肴に一杯」

ロウガは耳付きだ。
空気の動き、人の動きを察することに関しては人間以上に発達している。
胸糞悪い気分になった二人をリラックスさせようと、彼女なりに気を遣ったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、折角私達だけの貸切状態だしね。
      ヒートちゃんも一緒に飲みましょう?」

ノパ⊿゚)「あぁ、だけど酒はどこに?」

リi、゚ー ゚イ`!「こちらに。 ハイランドパークの十二年ですが、お嫌いかな?」

649名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:22:09 ID:Xf6oanDE0
ノパー゚)「あたしの好きな酒さ」

リi、゚ー ゚イ`!「それはなにより」

三人は丸椅子を三つ並べ、それを海側に向けた。
ロウガがどこからか取り出したボトルは、スコッチ・ウィスキーのハイランドパークだった。
甘い香りが特徴の酒で、長く続くフィニッシュ(※注釈:飲み終えた後に残る香り)は食後酒として非常に優秀な物だ。
美しく繊細なカットの施された三つのグラスに琥珀色の液体を注いで、ロウガは全員に手渡した。

デレシアを中心に三人は席につき、グラスを掲げた。
誰も何も言わなかった。
三人は無言の尊さを知っていた。
三人は無言の儚さを知っていた。

何も言わずとも、分かることがある。
それを助けるのが、酒なのだ。

ノハ*^ー^)「ふぅ」

美味い酒は溜息を誘発する。
特に、疲れ切った体にはよく染みる。
少量であっても心地よい陶酔感を味あわせてくれる。
デレシアは空を仰ぎ見た。

月明かりに照らし出される群青色の雲。
水平線の彼方に漂う雲の群れ。
どれもこれもが、美しい。
世界の美しさは、何年見続けても飽きることはない。

――一瞬だけデレシアの瞳に浮かんだ愁いの色に気付いた人間は、誰もいなかった。

650名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:26:12 ID:Xf6oanDE0
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                 ‥…━━ August 6th 21:30 ━━…‥
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ブーンはお祭り状態の第二ブロック一階にいた。
オアシズの全ての封鎖状態は解除され、全ブロックの一階は繋がっている。
その道路に沿って、屋台が軒を連ねている。
全階層の客が来ているのではないかと疑うほどの、大盛況だった。

道は混み合い、店に寄るのも一苦労だ。

(*∪´ω`)「おー」

人混みを見下ろしながら歩くのは、初めての経験だった。
いつもは人混みの中を泳ぐように歩くのだが、今だけはそうする必要がない。
ブーンは今、肩車をしてもらっていた。

(*∪´ω`)「たかいですおー」

漂う空気は様々な匂いが混ざり、何とも言えないが、食欲をそそる匂いがほとんどだ。
雰囲気は良く、皆、陽気に過ごそうとしているのが分かる。
市長、リッチー・マニーの配慮で目的地に到着するまでの飲食代は全て無料と云う措置がされたため、人々は気兼ねなく飲み食いを楽しんでいる。

(*∪´ω`)「お、リンゴパイ!!
       餃子!!」

様々な看板がブーンを魅了する。
きっと、どの食べ物も美味しいのだろう。
とは言え、ヒートやデレシア、ロウガの料理には適わないだろうが。

651名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:30:16 ID:Xf6oanDE0
「何を食いたいんだ?」

ブーンの脚の下から、厳めしい声が聞こえた。
ゆっくりとした歩調、がっしりとした体格、ずっしりとした存在感。
旅を始めて出来た、二人目の友人の声だった。
その友人こそがロウガに指示をし、ブーンを荒れ狂う海から助けさせた人物だった。

ロウガが“主”と慕う人物は、夜色の髪をオールバックにした、黄金瞳の持ち主だった。
年老いても失われぬ鋭い気配は、獣のそれ。
両瞼の上からついた深い傷は彼の誇り。

(*∪´ω`)「おいしいもの!!」

(´ФωФ)「これ、それでは分からんだろうが」

前イルトリア市長“ビーストマスター”、ロマネスク・O・スモークジャンパーは呆れ顔でそう言ったのであった。

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                 ‥…━━ August 6th ??? ━━…‥
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考え得る限り最悪の報告だった。
彼らの組織で最も優れた計画力と推理力を持つショボン・パドローネが、失敗した。
船を沈めることも、棺桶を奪うことも。
歩みが止まってしまった。

内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンは、持っていたワイングラスを床に叩きつけた。

ξ#゚⊿゚)ξ「どこの誰が、こんな真似をっ!!」

652名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:34:00 ID:Xf6oanDE0
憎たらしかった。
崇高な目的のために多くの犠牲を生み出し、心を痛めてきた。
それが邪魔された。
それは、犠牲の意味を踏みにじるものだった。

許しがたい行為だ。

ξ゚⊿゚)ξ「同志ビロード・コンバース、同志マドラス・モララー。
      ただちに件の邪魔者を排除してください。
      我らの大義を嘲笑う逆賊です。
      全ての権限を解放します、生死は問わず、必ず消してください」

( ><)「御意」

ビロードと呼ばれた皺のないスーツを着込んだ若い男は、断言するように返事をした。

( ・∀・)「かしこまりました、同志」

キャソックを纏う茶髪の男、モララーは右手を心臓の上に乗せて返事をした。
自らの横に立つ女に、ツンディエレは声をかけた。

653名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:38:15 ID:Xf6oanDE0
.



















ξ゚⊿゚)ξ「……貴女も、同行してください。
      同志、クール・オロラ・レッドウィング」

川 ゚ -゚)「了解です、同志」




















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              Ammo for Reasoning!! 編 The End
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654名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:40:36 ID:Xf6oanDE0
これにて本日の投下は終了となります。
支援ありがとうございました!!

次回投下まではだいぶ時間が開くことになりますが、ご了承ください。

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。

655名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:54:32 ID:woV2K1KQ0
乙でした
次回も楽しみにしてます

656名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 00:03:11 ID:Q7Qgh3GU0
乙。
ドクオ、モララー、クールはいつ出てくるかなと思ったらまさか全員出てくるとは思わなかった。
クールに至ってはヒートと同じ名前、これから続いていくデレシアたちの旅が波乱に満ちた旅になりそうですね。

657名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 01:32:11 ID:kr6skGhIO
姉妹喧嘩が始まるな

658名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 03:11:12 ID:iCzd1DuY0
おっつおっつ

659名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 07:36:32 ID:5Jr64VYA0
乙!

メジャーなAAが続々出てきて話がかなり進んできたな

660名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 20:43:37 ID:mZvfPIoM0
キングシリーズの機能が見れなくて残念である

見返したら本当色々伏線張ってあったんだな
犯人関連もそうだし>>229-230のロウガとか
伏線全部紹介してほしいくらいだ

661名も無きAAのようです:2014/07/30(水) 22:10:08 ID:zGoG7U6I0
8/3にVIPでお会いしませう

662名も無きAAのようです:2014/07/31(木) 20:56:24 ID:fyNw6BQoO
全裸になるのは二日で良いわけだな。

663名も無きAAのようです:2014/07/31(木) 22:39:52 ID:doQ7HJDE0
投下ペース早めで、なによりずっと安定してて本当すごいです

664名も無きAAのようです:2014/08/01(金) 00:50:21 ID:rEVpsyUUO
おれは靴下は履くぞ

665名も無きAAのようです:2014/08/01(金) 08:51:03 ID:Rw3BP9rU0
タイを締めないのなら通報する。

666名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 18:53:19 ID:HcapCJ4s0
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In that Island, the peal of Great Bell has the job that cautions everything's beginning and ending.
その島において、グレート・ベルの鐘の音は全ての始まりと終わりを告げる役割を担っている。

                         ロウテック出版 【初めての“鐘の音街”観光ガイド】
                                           二ページ目より抜粋

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667名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 18:56:21 ID:HcapCJ4s0
自然の生み出す音だけが聞こえる、静かな夜だった。
鬱蒼と生える木々が風に揺らされ、潮騒の様な音を鳴らし、虫々と鳥の鳴き声がそれに合の手を入れる。
僅かに欠けた巨大な月は柔らかく白い輝きを放ち、夜空に浮かぶ雲の輪郭と女性の脚を思わせる見事な山の尾根を照らしていた。
乾いた潮風は涼しく、夏のうだるような暑さを海の彼方へ押しやる。

四方を透明度の高い海に囲まれ、自然豊かな複数の島で構成された街。
ジェイル島は、そんな街の最南端に位置する小さな島だった。
海岸には長い年月を経て風雨と潮が削った鋭利な岩が転がり、剥き出しの自然がそこかしこに溢れている。
だが未開拓の島と云う訳ではなかった。

島の森全体は夜の心地よい静寂その物に包まれ、そこに生きる生物たちは静かな夜を過ごしていた。
巣で眠りにつく鳥もいれば、悲しげな声で鳴く鳥もいた。
虫は次の世代を残すために異性を呼び寄せる音を鳴らし、雑木林の間から多様な音の混声合唱が聞こえる。
僅かな光を吸収して光る獣の眼は、跫音を忍ばせ獲物となる動物の姿を探してゆっくりと上下する。

獣たちは地面に鼻を寄せて匂いを追いながらも、小さな体で賢明に音色を奏でる虫を極力踏まないようにと足を進める。
月光が森に落とす影は濃く、木々の間から木漏れ日のように降り注ぐ青白い光は日光よりも柔らかく儚い。
僅かな蒸気がゆらりと天に上る様子が、月明かりによって幻想的な光景として目視できる。
水辺の近くではカエル達が不思議と統制の取れた音楽を演奏し、川のせせらぎが森のざわめきと合わさって胎内を思わせる音を奏でている。

静かな夜を過ごそうとする点で言えば、急な坂道を登り切った崖の上にある“セカンドロック刑務所”の囚人たちも同様だった。
収監された死刑囚たちは死刑執行までの間、最期の時間を牢獄の中に鎖で繋がれて過ごしていた。
殺人鬼、強姦魔、詐欺師、泥棒など彼らの犯罪歴はばらばらだが、誰一人として、そこでの生活に満足はしていなかった。
自由を失い、誇りを失い、そして命を奪われるだけの余生に満足する人間は、そこにはいない。

他者に対して与えた苦痛や屈辱を考えれば、然るべき処遇なのだと自覚する者もいるが、それでも、望むのはやはり自由。
再び自由を手にして、再び己の心の赴くままに行動したいというのが、受刑者全員の望みだった。
同時に、罪を犯した人間が自由を望むことを許す被害者もいない。
被害者が望むのは、徹底的な苦痛の伴った贖罪だ。

668名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:03:34 ID:HcapCJ4s0
苦痛と汚辱に塗れた余生を過ごし、後悔に満ちた死を遂げさせる。
それこそが、被害者が最初に抱く自然な感情。
その感情を実現させる場所が、ここ、セカンドロック刑務所だ。
セカンドロックはジェイル島自体が刑務所としての役割を持つように設計された、監獄島だ。

その名前は世界で最も有名だった刑務所にあやかって付けられのだが、その性能は決して名前に負けることはなかった。
厳重な警備、設備、全てが一流揃いの施設だ。
当然、刑務所である以上は避けられない脱獄者は何人もいた。
しかし、誰一人として脱獄に成功した者はいない。

厳重極まる監獄からの外に出たのは、セカンドロック設立から現在に足るまでに一度だけ。
八十七年前に起こった三人の脱獄未遂事件。
それに関わった三人の犯罪者たちは、週に一度だけある運動の時間の際に打ち合わせを行い、一年で計画を実行に移した。
脱獄の方法は極秘とされ、分かっているのは三人が嵐の夜を選んだということだけだった。

しかし全員が島の土を踏む前に、計画に勘付いた看守たちによって捕らえられ、監獄の中央で嬲り殺しにされた。
非人道的な殺害の光景は全ての囚人に見せつけられ、殺人鬼でさえ、目を背ける程だった。
死体は見せしめとしてしばらくの間そこに放置され、やがて、死体が放つ悪臭に囚人たちは三日間食事が出来なかった程だという。
今でも床にその痕跡が残っていると、当時からいる人間は語っている。

刑務所を上空から見ると綺麗な正五角形をしており、それぞれの頂点には監視塔が立てられている。
そこから周囲を監視するのはサーチライトと人の眼、そして温度を識別する機械の眼だった。
強力な熱感知カメラの情報は逐一監視室でチェックされ、六時間ずつのシフトで二十四時間交代の監視がされている。
脱獄を補助しようとする人間など、万が一不審な物があれば、監視室から遠隔操作で機関銃を撃つことも出来た。

施設は外壁を強固な鉄筋コンクリートで固め、外壁と内壁の間には分厚い鋼鉄の板が埋め込まれ、隙間はない。
コンクリートは劣化を防ぐための薬品が混ぜて練られた物で、数世紀の時が流れたとしても強度はほとんど変わらず、戦車砲の直撃にも耐えられる。
内側の壁や床は同一柔軟性のある素材で保護され、自殺と脱獄の両方を防いでいる。
受刑者全員に与えられた独房に窓もライトもなく、常に薄暗がりの中での生活が強いられている。

669名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:09:56 ID:HcapCJ4s0
ベッドはおろか、毛布すらなく、あるのは排泄用の携帯便座が一つ。
鉄格子の代わりに設けられた五十口径の銃弾も防ぐ強化アクリルには、空気穴と食事受け渡し口の穴だけが空けられていた。
嘗て脱獄王として名を馳せた東洋人が行ったように、食事に出されたスープを使って金属を錆びさせての脱獄もまた、不可能だ。
偶然金属片を手に入れたとしても、房を開けるためにはカードキーが必要になる。

両手足の親指同士が結束バンドで巻き付けられ、更には手錠、足錠が嵌められた上に、それが鎖で壁に繋がっていた。
手先が器用な人間でさえも、指と手足の付け根を押さえられてはどうにも出来ない。
また、大きな吹き抜けを囲むようにして独房が設置されているため、誰かの目を盗むことは不可能だった。
これが、施設が五角形の理由の一つだ。

創設から長い時代が経過した今も尚、脱獄不可能と言わしめる堅牢な警備の維持には、“正義の街”ジュスティアの協力があった。
正義を貫くことを誇りとするジュスティアの街から出た犯罪者の中でも、特に極悪とされる人間はここに運ばれる。
汚点を街に残さず、別の場所で罪を償って死んでもらいたいという、街の方針だった。
勿論、ジュスティアはそれを強要することはしていない。

島の警備に軍人や装備を惜しげもなく提供し、相互扶助の関係を保っているのだ。
ここはジェイル島。
またの名を、監獄島。
罪人が死をもって罪を償うために辿り着く、最果ての島。

――八月八日、午後九時三十七分にそこを訪れた人物によって、ジェイル島が持つ長い記録が終わりを告げた。

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                  ,,,.ii..,               The Ammo→Re!!
                ,,。..,ll::;;liii|,,..,,,         原作【Ammo→Re!!のようです】
───ーー────ー-"───ー-─’──ー──ーー─────ーー─
... ... :::..:.............:::::.:.::.::.::::::: ... :::..:.............:::::.:.::.::.::::::: ::: ..:: .:.::... .... ....
 .....::::: .:.::.::. :::::::..        ...:::::.:.::.::.       :::::::  .....:::::.:.::.::.:::::::
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670名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:13:05 ID:HcapCJ4s0
サーチライトが空と海、そして地上に広がる闇に向けられ、影の中にある翳を照らし出す。
小動物が強烈な光に怯えて逃げ、森の奥深くに走り去る。
そして、それを狙っていた肉食獣が狩りを始める。
白と黒で熱源を示す映像を見る監視室の男達は、何も異変がないことを確認してから、別の方向にカメラを向けた。

藪に潜んで脱獄補助のチャンスを窺う愚か者は、今日もいない。
監視員たちはそれでも気を抜かずに、注意深く闇に浮かぶ熱源を見ていた。
濃く淹れたコーヒーを飲んで眠気を覚ましつつ、BGM代わりに流しているラジオの声に耳を傾けるのが、彼らの日課だった。
厳戒態勢の敷かれた警備網を突破するためには、唯一の入り口から来るしかない。

刑務所唯一の入り口は崖を背にした施設の正面にあり、そこに続く道は未舗装の状態だ。
装輪装甲車で攻め入られたとしても、その悪路が機動力を削ぎ、迎撃を容易にする。
また、道の脇には対戦車地雷も設置されており、一定の重量を超える乗り物がそこを通ると爆発する仕組みになっていた。
近々指向性対人地雷も設置する案が出ており、来月中には実現する予定だった。

入り口から監獄に行くまでには、二重の警備態勢が敷かれていた。
外部の重役であろうと面会希望者であろうと、その対処は同一とされており、変装や裏切り行為による事故の発生を封じている。
第一段階は、施設に続く分厚く背の高い鋼鉄の扉の前で、身分と所持品の確認を行う。
あえて屋外で検査をすることにより、危険物を施設内に持ち込まれる危険性を無くしたのだ。

第二段階では施設に入り、最新の機器を用いて改めて所持品の検査を行う。
体内に隠し持った微細な金属片、更には毒物でさえ見逃さない。
全ての検査が終わり次第、特殊繊維の枷を両手に嵌め、一人に対して三人の警備員が監視に付く。
不審な行動が見られ次第、彼らには射殺許可が下りていた。

夜も深まった九時三十七分、左右を深い森に挟まれた荒れた道に現れたのは一人の禿頭の男だった。
特徴的な垂れた眉毛は一見して温厚そうな印象を与えるが、眼光の鋭さは彼が只者では無い事を雄弁に語っている。
その日、第一ゲート前で警備に当たっていたのはビオ・ブランドーとダノン・プレーンの二人だった。
ジュスティア出身の二人はその男を見た時、コルト・カービンライフルの安全装置を無意識の内に解除していた。

671名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:20:45 ID:HcapCJ4s0
今晩この刑務所を訪問する予定の人間と言えば、ジュスティアから来る査察のヘリコプター以外はいないはずだ。
招かれざる客と考えた方がいいと、ビオは判断した。

(::゚,J,゚::)「止まれ」

ビオは銃口を向けた。
彼の背後の建物から溢れる光が、男の顔を照らし出す。
光に照らされた青白い顔は無表情だったが、気だるげに垂れ下がった眼には狂犬と同じ類の光が宿っていた。
黒いポロシャツにジーンズ姿とラフな格好で、武器は手にしていない。

禿頭の男は指示通りに歩みを止め、淀んだ目でこちらを睨む。
場数を踏んだ人間の眼だ。
服をしたから持ち上げる過度に発達した筋肉は、ボディビルダーの比ではない。
肌に刻まれた細かな傷は、これまでに通り過ぎた道の険しさを物語る。

アポイントなしでも受刑者に面会することは出来るが、身分と持ち物を検査する必要がある。
今この段階で、この男を門前払いにすることは出来ない。

(::゚,J,゚::)「ここは刑務所だ。 観光客の来る場所じゃない」

「分かっているさ。 僕は面会に来たんだ。
僕は記者だ」

カメラも持たない記者など、妙な話だ。
だがこの施設内ではカメラは禁止されている。
それを知った上で持ち込んできていない可能性もあり、怪しむ要素にはなり得ない。

(::゚,J,゚::)「記者? 誰に取材するつもりだ?」

「デミタス・エドワードグリーンと、シュール・ディンケラッカーだ」

672名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:26:47 ID:HcapCJ4s0
今世紀最悪の泥棒、デミタス“ザ・サード”。
そして今世紀最悪の誘拐魔、シュール“バンダースナッチ”。
どちらも一年以内の処刑が決定している人間のカスだ。
逮捕されてから少なくとも三年――生き地獄を味あわせるため最低限与えられる期間――は経過しており、記事にするには旬な人物とは言い難い。

三世を意味する“ザ・サード”と云う渾名は、彼が盗みの前に送り付けた予告状の中で、自らが伝説の怪盗の孫だと主張していたからである。
デミタスは歴史的、芸術的に価値の高い物を盗み、高値で売り払った。
その被害総額は天文学的な物で、盗まれた品の多くは闇市場に流れ、未だに手がかりが掴めていない。
彼が捕まったのは、ジュスティア軍が保管する貴重な棺桶を盗もうとして失敗したからだ。

事前の情報もあったが、過去五回も被害を出したジュスティアの意地もあった。
ジュスティアは世界中にある警察の本部ある街で、正義の代行者としての自負と責任があった。
軍に向けて予告状を出したデミタスを捕らえるために“円卓十二騎士”が投入され、デミタスは捕らえられた。
その場で殺すことも出来たが、ジュスティアとしては愚か者には長い苦しみを味あわせたかったこともあり、セカンドロックに投獄された。

世界各地を転々としながら誘拐と人身売買を行ってきたシュールもまた、一時期は話題になった犯罪者だが今では風化しつつある。
主に十三歳未満の子供を対象として誘拐、監禁、凌辱の限りを尽くしてから売り払う悪質な手段。
悲鳴を残すことなく子供たちを誘拐する手際の良さと、抵抗と逃走を防ぐために両手足の腱を切断することから、“バンダースナッチ”の名で知られた。
高額な現金取引が主な人身売買界の大物として、その業界に巨大なコネを持っていた彼女は、居場所すら簡単には捕まらなかった。

分かっているだけでも二十の隠れ家があり、その地下からは子供たちの様子が記録されたデータが見つかっている。
そのデータは高額で取引され、世界各地の変態の欲望を満たすために使われたらしい。
売られた子供たちは、まだそのほとんどが見つかっていないという噂だ。
奴隷として売られているのならばまだ探しようがあったが、高額で取引される臓器移植目当てとなると、最早救助は絶望的だった。

そんなシュールを捕らえたのは、人質解放を専門とする会社の人間だった。
その人物はシュールの隠れ家を突き止め、単身で突入し、見事に子供たちを救出した。
救助された子供の中には両足を切断され、傷口を焼いて塞がれた子供もいたという。
彼がいなければと思うと、ぞっとする。

673名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:34:05 ID:HcapCJ4s0
ビオは目の前にいる自称記者の男に、嫌悪感を覚えた。
あの人でなし共に今更何を訊く必要があるのか。
今すぐにでも縊り殺してやりたいと思って止まない犯罪者に、何を訊くというのか。
それでも、仕事とは切り離して考えなければならないのが辛いところだ。

(::゚,J,゚::)「……ボディチェックを」

「あぁ、分かった。 ところで、この後すぐに連れが来るんだ。
どうにも膀胱が弱くてね。
だから面会者は二人になる」

そう言って、男は親指で背後の森を指した。
どこかで用を足してくるというと、男だ。
感心できることではない。
監視塔からその姿は見えているだろうし、何よりその格好のまま死んでも大変だからだ。

(,,゚,_ア゚)「ここは野生動物や毒を持った虫が多い。
     藪に行くのはあまり感心しないな」

「一刻を争うって言っていたからね。
さ、始めてくれ」

ダノンがビオに目配せし、ビオは頷いた。
ライフルを背中側に回し、ダノンは金属探知機を使って男の体を念入りに検査する。
金属反応は出なかった。
続いて、衣服の中のチェック。

674名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:38:20 ID:HcapCJ4s0
例えば、プラスチックで作られたペーパーナイフでさえも、使い方一つで凶器になる。
ここでは、どんな小さな物も見逃すわけにはいかなかった。
靴を脱がせ、中敷、靴底、靴紐に至るまで念入りにチェックする。
ベルトも外して素材や隠された物がないかも確認した。

結局、男の体から出てきたのはボールペンと新品のメモ帳だった。
メモ帳のリング部分は厚い紙で作られていたために、持ち込みが可能な品だった。

(,,゚,_ア゚)「悪いが、ボールペンは禁止だ。
     中にある羽ペンを使ってもらう」

「構わないよ。 書ければいいんだ」

メモ帳だけを返された男はそれをジーンズのポケットにしまった。
ほどなくして、もう一人の男が藪から現れた。
十字教のキャソックに身を包んだ程よい肉付きをした、長身の神父だった。
茶色の髪の毛は短く刈られ、円らな碧眼は凪いだ海のように穏やかだった。

禿頭の男に比べると怪しげではない。

「こんばんは、皆さん。
すみません、お待たせしてしまって」

温和そうな表情をした神父は、首から金色の輝きを放つシンボルを下げていた。
奇妙なシンボルだった。
十字教のそれではない。
木が枝を伸ばした、変わったシンボルだった。

「所持品検査ですか。 では、私もお願いします」

675名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:42:02 ID:HcapCJ4s0
再びダノンが金属探知機を手に神父を調べた。
服の中も調べたところ、神父が持ち合わせていたのは首から下げた金色のネックレスだけだった。

(,,゚,_ア゚)「それをお預かりしても?」

「出来る限りご配慮いただきたいのですが、無理は言いませんよ」

ダノンが意見を求めてきたので、ビオは頷いた。

(,,゚,_ア゚)「いえ、お持ちになっていて結構です」

肩の無線機を取り、ビオは第二ゲートに連絡を入れた。

(::゚,J,゚::)「こちら第一ゲート。 男性二名がそちらに向かう。
     一人は記者で、もう一人は神父だ」

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                            配給

【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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676名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:47:32 ID:HcapCJ4s0
第二ゲートは施設に通じる最後の検問所だ。
十平方メートルほどの空間は薄暗く、空気は乾いている。
一切の装飾品の無い白い部屋には、ジュスティアから派遣された腕利きの軍人が四人いた。
その晩、そこを守る四人の軍人は現れた二人の男を見て、警戒心を露わにした。

神父は笑顔だし、禿頭の記者は無表情だ。
危険を感じる要素は特に見当たらないが、それでも、彼らの直感が告げるのだ。
この二人に気を許してはいけないと。
それもそうだ。

ここは極悪非道な罪人を収容する場所。
そこを訪れる人間が、普通であるはずがない。
第二ゲート警備担当者、ビブリア・ガガーリンは己の勘に従ってライフルだけでなく、拳銃の安全装置も解除した。

(+゚べ゚+)「目的は?」

「取材だよ」

禿頭の男が答えた後に、神父が続く。
胸元に右手を添えて、若干腰を屈めての礼のおまけつきだ。

「そのお手伝いに」

(+゚べ゚+)「どこの社の取材だ?」

ビブリアはあくまでも慎重に、男達の本質を見極めようと決めた。
こうして尋問している間にも、床、天井、壁に仕掛けられた高性能な探知機が男達の体に危険な武器や脱獄用の道具がないかを調べている。
部屋全体が赤くなれば何か発見したことを知らせ、何も変化がなければ危険性は低い事を示す。

「僕たちは会社には属していないよ」

677名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:51:28 ID:HcapCJ4s0
飄々とした禿頭の男の発言に、ビブリアは眉を顰めた。

(+゚べ゚+)「社でなければ、自費出版の類か?」

新聞社やラジオ会社が今更あの二人の事件を特集するとは考えにくい。
ならば、誰かの偏執的な執念で行われる取材と云うことだ。
パラノイアは時に思いもよらぬ行動を招くことがある。
その最たる例が、受刑者に対する執拗な追跡だ。

しかし、それは然るべき理由があったために、当然の報いとして認知されていた。
それが受刑者たちの精神に多少なりとも揺さ振りをかけることが、数多くの歴史の中で証明されていた。

「出版はしないさ。 あくまでも、取材だよ。
さ、時間がない。 拘束具を」

禿頭の男と神父は腕を体の前で組んで、捕縛を催促した。
全ての質問に対して二人の男から有益な情報は得られなかったが、ビブリアはこれ以上訊くことを止めた。
この男は、被害者に雇われた類の人間の可能性が高かった。
時々あるのだが、探偵などを雇って事件の真相を知ろうとする被害者がいる。

探偵の中には様々な経歴の持ち主がおり、ただならぬ雰囲気を漂わせる人間も、勿論その中にいる事が多い。
それに、通常の検査に必要な時間よりも多めに待たせたが、反応は何もない。
後ろで待機していた部下に合図をして、二人の両手首に特殊繊維の枷を巻き付けさせた。
幅の広く分厚い繊維の枷は対象者の手首を痛めることもないし、抜け出すための技も存在しない。

(::0::0::)「では、こちらへ」

678名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 19:54:35 ID:HcapCJ4s0
カービンライフルで武装した兵士が六人、面会希望の二人を囲みながら歩き始めた。
重々しい音を響かせながら開いた扉を潜ると、そこにはアクリルの扉が付けられた独房に閉じ込められた囚人たちが並んでいた。
特徴的な五角形の吹き抜けがフロア全体に解放感を与え、天井には外部の光を取り入れる――朝から昼までの貴重な光源――為の巨大な強化ガラスがはめ込まれている。
夜になれば、そこから月を見上げることも出来た。

五つの壁と水平になるように並ぶ五階建ての棟はAからEまでの五つの棟に分けられており、天井と壁から離された形で設計されている。
全ての棟が向かい合う形となっており、脱獄だけでなく互いの様子までもが筒抜けの状態だ。
その棟は一つの階に二十人を収容することが可能で、それが五階分積み重ねられている。
一階から五階までは転倒防止用の手摺が付けられた階段で繋がっている。

都合、一つの棚に百人が収容されている計算だ。
つまり、ここには五百人の死刑囚がいると云う事になる。
倉庫に積まれたコンテナ、もしくはペットショップのショーケースを思わせる光景だ。

「僕はデミタスを。 君はシュールを頼むよ」

「分かりました」

歩く速度を全く変えず、視線すら交えずに二人はそれぞれの目的の場所に向かう。
兵士達も二手に分かれ、左右と前方に立って誘導を始めた。
どうしても悪寒が消えないビブリアは、少し離れて禿頭の男の後ろを追うことにした。
目的の独房はB棟の五階にあった。

階段を上り、房の前に着く。
男が羽ペンとメモ用紙を手にその前に立つと、中で丸まって寝ていたデミタスが薄目で見た。

「やぁ、起きたかい?」

(´・_ゝ・`)「……誰だい、あんた」

679名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:02:18 ID:HcapCJ4s0
力無く答えたデミタスは三十代後半のはずだったが、二回りは歳を取って見えた。
逮捕時とは異なり、癖の強い髪の毛は肩まで伸び、脂ぎっていた。
口髭も伸び放題で、痩せこけ、目は眼窩に落ち窪んでいる。
細身で長身の手足に付いた筋肉も落ちていて、枯れ木の様だ。

彫りの深いハンサムな男だったが、今ではもう見る影もない。
元々の人相から大分変ってしまっているが、掠れたような渋い声色だけは昔の面影を残している。

「僕が誰だっていいだろう?
それより訊きたいことがある。
君は、この世界を変えたいと思うかい?」

(´・_ゝ・`)「おい看守の旦那、こいつ何なんだ?
      今更精神科医を頼んだんじゃないだろうな」

デミタスは面白くもなさそうな声色で問いかけるが、兵士たちは三人とも肩をすくめた。
この男が何者なのか、それを訊きたいのはこちら側なのだ。

「僕は君がしたことを知っている。
盗みの理由を知っている。
“あの子達”が君に感謝していることも、知っている」

(´・_ゝ・`)「……あんた、一体」

「今すぐに返事を聞かせてほしい。
僕と一緒に来る事で君が望んだ世界を叶えられるとしたら、どうする?
世界を、変えたいかい?」

680名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:08:18 ID:HcapCJ4s0
何を。
何を話しているのだ。
何の話をしているのだ。
階段で待機して聞き耳を立てていたビブリアは、不穏な空気を悟って腰のホルスターからコルトを抜いた。

発言次第では、拘束しなければならない。

(´・_ゝ・`)「……あぁ、そうだな」

デミタスは返事をした。
これが取材で無い事は明白だ。
そして一連の会話は、デミタスの脱獄に手を貸すということを意味していた。
男を取り囲む兵士たちがライフルを向ける。

至近距離でのライフルは、使用者にとって非常に危険だ。
距離が近い分、得物が持つ長さが仇となることが多い。
近接戦では拳銃を使うか、せめてブルパップ式のライフルを使うのがセオリーだ。
咄嗟の事に、兵士たちはそんな初歩的なことも忘れてしまっていた。

後は、坂道を転がり落ちる石のように事態が動き始めるだけ。

(+゚べ゚+)「おい、おま――」















(´・ω・`)「じゃあ、新鮮な空気を吸いに出かけようか。
     善は急げ、だ」










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681名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:13:07 ID:HcapCJ4s0
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来訪者の神父に対して、ティメンション・マルタは奇妙な感覚を抱いていた。
男の眼は優しげだし、物腰も柔らかい。
おおよそ暴力とは無縁のお花畑で生きてきたような、そんな雰囲気すら感じ取れる。
しかし、男の佇まいからは音を発しないスズメバチのように危険な雰囲気も感じ取れるのだ。

スズメバチは攻撃をする前に警告をする。
警告の後には猛烈で容赦のない攻撃がある。
だが、彼らは羽音と警告音で周囲の生物に己の存在、そしてその危険性を知らせる。
彼らから音を取った場合、恐るべき暗殺者となる。

その存在を認識できるのは、攻撃された後なのだから。

「シュールさんはどんな様子ですか?」

神父の質問にマルタは短く答えた。

Ie゚U゚eI「ここに来てからは誰とも一度も口をきいていない。
      大人しく過ごしているが、人は見かけによらないぞ」

「その通りですね」

682名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:16:47 ID:HcapCJ4s0
会話はそれで終わった。
四人はシュールが鎖で繋がれた檻の前に到着するまで、無言のままだった。
シュールが収監されている独房は、E棟の一階にあった。
垢と埃で汚れた布一枚で体を覆う女性が、独房の中で半身を壁に預けて地面に座り込んでいた。

半分だけ開いた目は虚ろで、ブラウンの瞳は光を反射していない。
以前は整っていた顔も、頬骨が見えるまでに痩せこけている。
瑞々しかった唇は渇いてひび割れを起こし、荒れている。
腰の辺りまで伸びた黒髪は櫛を一度も通していないため、ごわごわとしている。

艶はなく、栄養が行き届いていないのが一目で分かる。
女らしさが残っているとしたら、布きれの下にある小振りな胸ぐらいだ。

lw´‐ _‐ノv

独房の中のシュールはただ茫然と壁を眺めており、強化アクリル板の向こうにいるマルタたちに一瞬たりとも視線を向けようとはしなかった。
この女は何を考えているのは分からない。
分かるのは、子供たちを誘拐し、売り捌いたことだけだ。
歳は確か、三十代手前だったと聞いたことがある。

Ie゚U゚eI「会話の内容は全て記録させていただきます」

「勿論、構いませんよ。
……やぁシュールさん、今晩は」

lw´‐ _‐ノv

683名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:21:13 ID:HcapCJ4s0
声をかけても、シュールは反応しない。
無駄だ。
昔は違ったかもしれないが、今は会話が成立する人間ではない。
ジュスティア軍の尋問係が子供たちの行き先を吐かせるために一カ月かけて聞き出せたのは、彼女の悲鳴だけだったという。

女にしか通用しない尋問や薬も使ったが、シュールは悲鳴以外喋らなかった。
そこまでいくと、心に異常があると考えるしかない。
拷問や尋問を耐え抜くには、コツがいると聞いたことがある。
それは、自らの意志で精神を崩壊させるという手だ。

何度も何度も、自分自身に問いかけて心を壊すのだ。
本当に自分はここにいるのか。
痛みを感じているのは、本当に自分なのか。
これは悪夢であって現実ではないのか、と。

そうすれば、何も喋らずに済む。
ただし、一度壊れた心が元に戻ることはない。

「そのままでいいから聞いて欲しい。
貴女は、世界を変えたいと思いますか?」

lw´‐ _‐ノv

気のせいだろうか。
一瞬だけ、シュールの眉毛が動いたように見えたのは。

「貴女が誘拐をした経緯を、私は知っています。
……それもまた、世界を変えたかったからでしょう?」

684名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:24:17 ID:HcapCJ4s0
シュールの眼が、確かに神父を向いた。
その眼は鋭い眼光すら放っており、先ほどまでとはまるで違う人間に見えた。

「私達に手を貸してくれませんか?」

lw´‐ _‐ノv「……目的は、何?」

男は胸から下げたシンボルに手を当て、優しげに、だがしっかりとした口調で答えた。

( ・∀・)「世界が黄金の大樹となるために」

その言葉の直後、B棟の方から肉を叩きつけるような音が聞こえてきた。

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      _______
    || ____   | |
    || |    ||   .||         総合プロデューサー
    ||.  ̄ ̄   ||        アソシエイトプロデューサー
    ||.        ||        制作担当【ID:KrI9Lnn70】
    ||.        ||
    ||.  |三三| ...||
    ||______| |
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禿頭の男、ショボン・パドローネは一呼吸で勝負を決めようと考えていた。
理由は二つ。
一つは敵に余計な動きをさせたくなかったから。
そしてもう一つは、この後の予定が分刻みで決まっているからだ。

(´・ω・`)「墳ッ!!」

685名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:27:15 ID:HcapCJ4s0
ショボンの左右、そして背後に三人の兵士がいたが、三人とも、何が起きたのか詳しく分かった者は誰一人としていなかっただろう。
特殊繊維の枷を力任せに引き千切り、その勢いを利用して左右同時に放たれた裏拳は二人の男の胸骨を破壊し、手摺の向こうに殴り飛ばした。
背後にいた男の股間を蹴り上げると、その体が宙を舞って手摺を越えた。
彼らが事態を理解しかけた時には、既に落下した後。

待っているのは、頭部の損傷による即死、もしくは瀕死の重傷だけ。
小さな悲鳴が聞こえた時には、もう、彼らは結末を迎えていた。

(+゚べ゚+)「――お前!!」

階段の影に隠れていた男が、拳銃を手にして姿を現した。
隠れて見ているのは分かっていたが、遅い登場だった。
遅すぎるぐらいだ。

(´・ω・`)「……君はねぇ」

羽ペンは鳥の羽を加工しただけの、非常に簡単な筆記具だ。
骨の先端を削って切れ込みを入れた物で、それをインクに浸して使うのだが、殺傷能力はゼロに近い。
それも、使い方次第だ。

(´・ω・`)「呼んでないんだよ!!」

原始的な飛び道具である矢は、速度と安定性によって敵を殺傷する道具となった。
では羽ペンはどうだろうか。
武器にはなり得ないのだろうか。
脆く、強度の無い羽では、何もできないのだろうか。

686名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:30:31 ID:HcapCJ4s0
答えは、否。
当たり所と使い方次第だ。
今、ショボンが人間離れした筋力で投擲した羽ペンは安定した速度で、男の目元に命中した。
それだけで、効果は表れた。

(+>べ<+)「ぬぁっ?!」

目潰しは時間を稼ぐための技。
それが成功した時点で、ショボンの勝利と男の死は確定していた。
銃口が上に向かって逸れ、必殺となり得た二発の銃弾はあらぬ方向に飛んでいく。

(´・ω・`)「悪いが、マナー違反は一発退場だ」

――拳の一撃で人間が殺せるのか。
ショボンは警官時代、何度か犯人を殴殺したことがある。
拳で人間は殺せる。
しかし、一発で殺すのは不可能だと理解した。

何度も執拗に頭部か心臓を狙って拳を繰り出すしか、方法はない。
その理由は、筋力の限界にあった。
どれだけ日々鍛錬を積み重ねても、人間の拳はそう簡単に武器にはならない。
気の遠くなるような時間と想像を絶する執念によって磨き、洗練した場合でのみ、人間の四肢は初めて武器化する。

残念なことに、警官時代にショボンの四肢は武器にはならなかった。
だが今、ショボンの四肢は武器と化していた。
筋肉を一時的にだが、劇的に強化させる失われた技術。
強化外骨格を作ることの叶わなかった貧困国が作り出した強化薬物、“マックス・ペイン”。

687名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:35:27 ID:HcapCJ4s0
使用後に全身に激痛が走るという副作用があるが、一時間の間、使用者は全身の筋力が十倍以上になる。
今やショボンの右ストレートは人を殺せるだけの威力を持っている。
どのような機器を使ったところで、筋力の高さに反応する探知機はない。
それが、この薬物の強みだった。

強化された脚力で地面を蹴り飛ばし、ショボンは男の髭が数えられる距離にまで接近した。

(+゚べ゚+)「かひゅっ!!」

喉の骨を背骨ごとへし折る一撃。
それが、男の命を奪った。
絶命した男は銃を取り落とし、階段から転げ落ちた。
まだ人の手の温もりが残るコルトを拾い上げ、ショボンはデミタスの前に戻った。

(´・ω・`)「さぁ行こう。 君は、こんな狭い世界で生きるべき男じゃない」

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    八ノ:::::::` ー      ,イ  )  } 編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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(;・∀・)「た、大変だ…… 人が、人が死んでしまった……」

Ie゚U゚eI「糞っ、あんたはここにいろ!!」

688名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:42:50 ID:HcapCJ4s0
警備の男達はライフルを構え、Bブロックに向かった。
マドラス・モララーは言われた通り、その場で待つことにした。
ただし、大人しく待つ気はなかった。
出来る事なら誰も傷つけたくないし、モララーは格闘術が苦手だった。

( ・∀・)「……で、シュールさん、どうしますか?
     私達と一緒に世界を変えませんか?」

さほど気にした風もなく話を再開したが、実際、モララーは人が死んだことに対して悲しんでいた。
まだ役に立ったかもしれない命。
話次第では味方になったかもしれない命だった。
それでも、死んでもらった方が計画の進行には好都合だとしたら、死ぬべきだ。

目の前で鎖に繋がれたシュール・ディンケラッカーの命に比べれば、彼らの命などあまり価値がないとも感じる。
彼女は天才だ。
子供の心を掴み、それを支配する能力の高さは世界一と言っていい。
恐怖と暴力、そしてトラウマこそが支配に必要不可欠な要素だ。

彼女の手口はそれを全て満たしているだけでなく、ある一つの目的のために向けられていることが、組織が評価している点である。

lw´‐ _‐ノv「……内容次第」

( ・∀・)「ありがとう、シュールさん」

彼女の心はまだ、壊れていない。
尋問と云う名の拷問に耐えられたのは、彼女の精神の強さの賜物だ。
何か口にすれば、それだけで尋問が激化することを知っているため、何も喋らなかったのである。
悲鳴に呪詛を込めて、彼女は長い時間耐え抜いたのだ。

lw´‐ _‐ノv「でも、私をどうやってここから出すの?」

689名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:45:40 ID:HcapCJ4s0
( ・∀・)「あぁ、それなら大丈夫」

大気を震わせる爆音が、上空から響いた。

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 == ==ヾ、= ,〃-- -- -- --―――==|= fユ'´ ||ー
      ヾ、 〃             _,|l_r'└‐'└‐:-.、_
        fユへ、        _ ,r‐:'´:f^ヽ :`'ュ、: : : _:.-‐ 二三.、
       〃dノシ       r'´_: : : : : ヾン: :_.┴' ´r‐ ''"、´  、 {、
      // 'l;:.∧     f: :fノ:,,.: -‐ 'f"´fl´|f二fャ   ム -┸ =ヘ
           'l;:.:.∧     ` 7:f'´:./´|l´l:|仁|l=||_l|: ¨ニ:ニ: : : :¨´ : : :ヽ
          'l;::.:.∧  _ - '":l|: : | ´|l´|:l   !_,||=‐': : |   l: :0: :o : : p: :|
      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】
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ショボン・パドローネが暴れ始めたのとほぼ同時に、セカンドロック刑務所上空に一機の中型多目的ヘリコプターが現れた。
高度は三百フィート。
事前にジュスティア軍から査察があると連絡があったため、誰も警戒はしなかった。
疑問を持った時にはショボンが暴れ始め、接待どころではなかったのだ。

だから。
誰も気付かなかった。
ヘリコプターから、一つの黒い影が零れ落ちたことに。

(:::::::::::)『……』

黒い影は天窓の強化ガラスを突き破り、刑務所内への侵入を成功させた。
雨のようにガラス片が降り注ぐ中、片膝を突いて監獄内の中央に現れたのは、滑らかな光沢を放つ人の形をした黒い殺意だった。
細身の体を覆う丸みのある装甲には傷一つなく、青白い光が鼓動するように点滅する黒いヘルメットの向こうに、顔は見えない。
そして、後頭部から腰の辺りまで伸びた直径約一インチの黒いケーブルの束は、まるで髪の毛の様なしなやかさを持っていた。

690名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:50:22 ID:HcapCJ4s0
一つの目的に特化して設計、製造された強化外骨格――別名、“棺桶”――の名は、“アバター”。

川[、:::|::,]

Ie゚U゚eI「ファッツ?!」

突如として現れた約七フィートの来訪者に、ジュスティア出身の兵士たちはマニュアル通りの対応を見せた。
カービン銃を向け、問答無用で発砲し始めたのだ。
銃弾の雨に晒されながらも、アバターの使用者は動揺した様子を見せない。
彼らの銃に装填されている弾の種類など、気にもしていないと言わんばかりに。

銃弾は装甲に当たると、マッシュルームのように潰れて地面に落ちた。
丸みを帯びた装甲に受け流された銃弾は、壁や床にめり込んだ。
ライフル弾では、棺桶に十分なダメージを与えられない。
ようやくそれが人間ではなく棺桶だと気づいた男が、大声で叫ぶ。

(ΞιΞ)「くそっ、棺桶だ!!」

アバターは後ろの腰に取り付けていた自動装填式のショットガン、AA-12を悠然と構え、兵士たちを撃ち殺し始めた。
その場から対して動くこともせず、膝立ちのまま次々と銃爪を引いて散弾を放って行く。
散弾は防弾着をつけていない男達の頭に正確に命中し、肉を散らせた。
四人ほど撃ち殺した時、ようやく刑務所中にサイレンの音が響き渡り始めた。

川[、:::|::,]『……』

アバターは腰を上げ、周囲を見渡す。
警備員は遮蔽物に身を隠し、無意味だと分かりながらも銃爪を引く。

(´・ω・`)「僕はいい!! まずはモララーから頼む!!」

691名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:53:12 ID:HcapCJ4s0
壁際に追い込んだ兵士を縊り殺していたショボンが、そう声をかける。
頷くこともなく、アバターはその場から駆け出した。

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                  Ⅵハ.    Ⅵ:i: /∧
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.             i|   '  i     Y /'     / ∧/  |   _
.             i|  i|  、   ゞソ  i| /  -/ /  |/  i
.        _     ノ=ミ〈、ハ   /'|i:   ilへ / , {   ノ    |
        ゝ≧=≦i\ /弋'ゞ=彡' i|i:  '   Ⅵ人i| /}    ノ
       ⊂ ァ ヾ 乂  ヽ  ヽ {i_/i|i:_{   }i   ヽ  {  /- 、
           総作画監督・脳内キャラクターデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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ジュスティアでは、“正義”とは誰よりも早く、正確に実行されるべき項目として幼少期から徹底的に教え込まれる。
セカンドロック刑務所で最も戦いのキャリアが長いナショジオ・ユニオンジャック少佐は、ショボンが戦闘を開始した時に誰よりも早く棺桶を準備した。
十年近く使い込んだ愛用の棺桶、“ユリシーズ”を起動させるための音声コードを入力したのは、サイレンが鳴り響いた直後の事だった。

(●ム●)『どんな戦いにも正義が二つあるわけではない。
      最後まで正義を貫いた者が唯一の正義なのだ』

彼の体がコンテナに取り込まれ、体全体に機械仕掛けの鎧が取り付けられ、八フィートの巨人となる。
そのガバメント・シリーズのCクラスの棺桶は、ジュスティア軍人の憧れの存在として人気のある物で非常に貴重な物だった。
全身をグレーの強化装甲で覆い、特徴的な防護襟に守られたその堅牢さはガバメント・シリーズの中でも五指に入る。
小型のグレネードランチャーを全身に隠し持ち、状況に応じて多様な戦い方が出来る。

692名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 20:57:15 ID:HcapCJ4s0
装着を終えたナショジオは、棚のコンテナからミニガンを取り出して、それをユリシーズの背面アタッチメントに取り付けた。
このアタッチメントが世界にあるほぼ全ての武器と連結できることが、ユリシーズの持つ最大の特徴だ。
武器、兵器の運搬を容易にする実用的な機能だ。
武装を整えたナショジオは武器庫から出て、独房で暴れている愚か者たちを鎮圧するために監獄に向かった。

兵士たちは装備を揃えるために武器庫に向かっているために、殆ど人がいなかった。
まばらに聞こえるカービンライフルの射撃音に被せるようにして、ショットガンの乱暴な銃声が響いている。
勇敢な部下が戦っている音だ。
そしてその音が消えた時、ナショジオは怒りに声を震わせて叫んだ。

〔 <::::日::>〕『……脱獄を試みる馬鹿は久しいが、手助けする阿呆は初めてだ。
       俺の部下を殺して、楽に死ねると思うなよ!!』

言葉が終わるよりも僅かに早く、黒い棺桶が散弾を乱射しながらB棟の影から飛び出した。
右手でミニガンをすぐさま起動し、猛烈な弾雨を浴びせる。
細身の棺桶が相手ならば、この銃弾には絶対に耐え切れない。
それを理解しているらしく、相手は左右に銃弾を避けながら接近してくる。

互いの放つ銃弾が地面を穿ち、壁を破壊する。
円を描くように移動しながら放つミニガンの銃弾は独房の強化アクリルを粉砕し、収監されていた人間を肉片に変えた。
どうせいつか死刑になるのだから、全く心は痛まなかった。
それよりも、この侵入者を排除する方が重要だ。

相手は弾の雨に気圧されてA棟の独房に追い詰めていることに、まだ気づいていない。

〔 <::::日::>〕『疾いが、しかしっ!!』

693名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:00:15 ID:HcapCJ4s0
左手の甲に装着されたグレネードランチャーに焼夷弾を装填し、相手の動きを読んで三発連続で発射した。
床が燃え、囚人がパニックを起こす。
逃げ道を炎が塞ぎ、黒い棺桶は自然と壁際に逃げる。
迂闊な――

〔 <::::日::>〕『ちぃっ!?』

――壁を走って駆け上るなど、考えてもいなかった。
すぐさま破片榴弾に切り替え、それを五発撃った。
独房が爆発に巻き込まれ、爆発の直撃を受けた囚人の血がアクリル板に飛び散った。
ミニガンの弾が切れたのと同時に、相手はショットガンを捨てて小型のナイフを逆手に構えた。

ナショジオもミニガンを手放し、少しでも身軽になるためにアタッチメントからミニガンを外した。
高周波ナイフを両太腿の鞘から抜き放ち、爆発的な加速で迎え撃つことにした。
切れ味だけでなく運動エネルギーもナイフに込めるこの戦い方は、棺桶同士の近接戦闘ではよく使われる。
そして、訓練兵時代からナショジオが得意とする戦い方だった。

〔 <::::日::>〕『うらぁ!!』

川[、:::|::,]『……』

高周波ナイフの刃がぶつかり合う。
火花が散り、二人は必殺の領域へ。
力の優劣の差は、一瞬で現れた。
押されて三歩後退したのは、侵入者の黒い棺桶だった。

幾ら変わったタイプの棺桶とは言っても、所詮はAもしくはBクラス。
Cクラスの棺桶に、力勝負で勝てるはずがない。
反撃の体勢を取らせるよりも早く足払いを食らわせ、転倒させた。
小さく跳躍し、右膝でナイフを持つ右腕の付け根を踏み潰す。

694名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:05:20 ID:HcapCJ4s0
膝の下で、確かな破壊の手応えを感じ取った。
例え装甲に守られていても、使用者の関節は無事では済まない。
腕の付け根を破壊すれば、そこから先を動かすことは出来ない。

川[、:::|::,]『……』

悲鳴一つ上げないとは中々に見上げた根性だが、それがナショジオの神経を逆撫でした。
その時、左足の膝裏に激痛が走った。
痛む足を見て、思わず驚愕の声を上げた。

〔 <::::日::>〕『なっ?!』

関節を破壊したはずの右腕が曲がって、その手が持つ高周波ナイフが突き刺さっている。
関節部を狙われたために、ユリシーズの堅牢な装甲も今回ばかりは意味がなかった。
人体の構造を考えて、動かせるはずがない。
しかし、現実に起こってしまっている。

思考を冷却させて詳しいことを考えずに、結果だけを見て行動を決定する。
素早い行動は無理だ。
もう、遊びはなしだ。

〔 <::::日::>〕『ぬぅっ!!』

痛みに耐え、右手のナイフを相手の喉元に振り下ろ――

(;・∀・)「た、助けてくれ!!」

――す直前、背後から聞こえたその言葉が、ナショジオの腕を止めた。
声の方を見ると、神父が一緒に来た禿頭の男に羽交い絞めにされていた。

695名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:08:26 ID:HcapCJ4s0
〔 <::::日::>〕『卑劣な!!』

(´・ω・`)「随分と酷い物言いだ。
     まぁ、大人しくしなよ」

〔 <::::日::>〕『……だが、人質は無意味だ!!』

振り下ろしかけていたナイフを、喉に突き立てた。
そこは装甲が薄く、ナイフでも容易に使用者を殺せる部位だ。
何をしたとしても、最終的に人質が傷つけられるのは避けられないはずだ。
ならば、己の職務を全うするのが最善の手と言える。

黒い棺桶が動かなくなったのを確認し、ナショジオは足を引きずりながら振り返った。
後は、殲滅するだけだ。

〔 <::::日::>〕『神父さん、悪いがお祈りの時間はなしだ』

(;・∀・)「神よ……」

(´・ω・`)「あーあ、後でジョーンズ博士が怒るぞ。
     クール、さっさと終わらせてくれよ」

その時、背後で棺桶が立ち上がる音がした。
有り得ない。
確かに急所を穿った。
そんなことは、有り得ない!!

〔 <::::日::>〕『馬鹿な?!』

川[、:::|::,]『……』

696名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:11:39 ID:HcapCJ4s0
振り返る間すらなかった。
迎撃する考えすら浮かばなかった。
背後から肩に飛び乗ったその棺桶は、左手で高周波ナイフを逆手に構え、ユリシーズの後頭部からそれを差し込んだ。
高周波ナイフの耳障りな音が頭の後ろから近づき、ゆっくりとナショジオの頸部を切り裂き始めた。

〔 <::::日::>〕『うがああああああああああああああああああ!!』

鋭利な激痛。
滑らかに捌かれる感触。
鎧が意味をなさないという現実を、ナショジオは理解できなかった。
ナショジオが絶命するまでの三秒間は、彼がこれまでに味わってきたあらゆる幸福を打ち消すには十分すぎる時間で、現実を受け入れるには短すぎた。

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     ,,、..   //   ノ'
  π /;::::::::(,.,.(;;;::::(   ,,.,  ・っ 撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】
   ):::::::::::::::::::::::::::/  '''''`   `
 τ !::::::::::::::::::::::::::::)/,,,,, γ
   (::::::::::::::::::::::::::::冫 `'`'    、,:'::::::`:::,,,,
 :::':'::::::::::::::::::::::::::::;(,,,,,,,、:::::::-ー''''`'`''''''''"
序章 イメージソング 【-バトルイマ- song by. THE BACK HORN】
ttps://www.youtube.com/watch?v=1LxNTnKER_g
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697名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:16:56 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「急ごう、増援が来るまでにあまり時間はないぞ」

兵士の死体から銃と弾倉を失敬したショボン・パドローネは、デミタス・エドワードグリーンにコルトガバメントを手渡しながらそう言った。
デミタスは遊底を軽く引いて薬室に弾が入っていることを確認してから、頷いた。

(´・_ゝ・`)「……後で詳しい話を聞かせてもらうぞ」

二人は監獄に通じる扉の制御盤に銃弾を浴びせ、破壊する。
これで多少の時間は稼げるはずだ。

( ・∀・)「何と惨い殺し方を……」

棺桶を纏った死体に向けてそんな言葉をかけるマドラス・モララーの顔には、笑顔が浮かんでいた。
安堵の笑顔だった。
その後ろから、風に煽られる柳のように歩み出てきたシュール・ディンケラッカーは死体を一瞥することもなく、天井に空いた大きな穴から夜空を見上げて言った。

lw´‐ _‐ノv「どうやって、この島から出るつもり?」

最もな質問だ。
当たり前すぎる質問に溜息を吐くこともなく、ショボンは腕時計を見ながら答えた。

(´・ω・`)「外に迎えが来ている。
     後……二秒、一秒」

彼の言葉に合わせるようにして、天窓の穴から黒くて太いラぺリングロープが垂れてきた。
その先端には折り畳まれたハーネスが三つ、束になって取り付けられていた。
ハーネスを組み立てると、一度に三人が引っ張り上げられる仕組みだ。
ショボンは自分以外の三人に組み立てたハーネスを着せて、ロープを何度か引いて安定性を確かめる。

それからハーネスをロープの金具と接続させ、作業を完了させた。

698名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:19:20 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「一度に運べるのはこれが限界だ。
     後はこっちでどうにかするから、モララー、頼んだよ」

( ・∀・)「えぇ、任せてください。
     私の命に代えても、このお二人をお守りいたします」

そして、三人の体がゆっくりと持ち上がり、天窓の向こうに消えて行った。
上空で待機していたブラックホークに収容され、次の準備が整うまではここで待つしかない。

(´・ω・`)「クール、損傷はどうかな?」

川[、:::|::,]『カメラに少しノイズが出る程度で、深刻な問題はない。 それより、増援がくるぞ。
     どう対処する?』

(´・ω・`)「ここの仕組みは調べてある。
     あの扉はけっこう頑丈に作られているから、もう五分は稼げるはずだ。
     脱出も困難なら、侵入も困難。
     難攻不落の要塞ならではの弱点だね」

川[、:::|::,]『だが、棺桶を使われたらどうする?』

その言葉を肯定するように、扉の向こうで強い力が叩きつけられる音が響いた。
爆発物の類ではない。
金属同士の激突する音だ。

699名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:23:17 ID:HcapCJ4s0
(´・ω・`)「……下調べではあのユリシーズを黙らせれば、残るのはグラマトン中尉の棺桶ぐらいしか脅威はない。
     刑務所長は昨日からジュスティアに定例会議に行っているから、残っているのは有象無象の連中だ。
     それに、僕たちの任務はここの壊滅じゃない。
     対象者の脱獄を成功させることだよ。

     戦いは最小限に抑えるべきだ」

ショボンの言葉に、アバターは首を縦に振った。
目の前の扉が刻一刻と力任せに変形される中でも、ショボンは冷静だった。

(´・ω・`)「上の連中に、僕の棺桶を降ろす様に伝えてもらえるかな?
     グラマトン中尉の棺桶は、残念だが君の棺桶では止められない。
     僕がやる」

川[、:::|::,]『了解した。 ……モララー、ショボンの棺桶をロープと一緒に降ろしてくれ』

上空の同僚に向けて送られたメッセージは、それから三十秒後に実現した。
黒く、巨大で重々しい棺桶が上空から落ちてきた。
アバターは一歩も動かずにそれを両手で受け止め、ショボンに渡した。
遅れてロープが降りてきて、アバターの隣でとぐろを巻く。

川[、:::|::,]『死ぬなよ』

アバターはロープを掴み、ショボンはBクラスの棺桶を背負う。
砕けた天窓に向かって上昇する同僚を見届けて、ショボンは嘲笑うように独り言ちた。

(´・ω・`)「死ぬ時は死ぬのが人間だが、今はその時じゃないのさ」

700名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:28:01 ID:HcapCJ4s0
それから三分後。
遂に、扉が棺桶の攻撃に耐え切れずに吹き飛んだ。
現れたのはテリー・グラマトンが駆るネイビーカラーのCクラスの棺桶、“ガーディナ”のカスタム機だ。
特徴とも言える長身の高周波刀は肩にはなく、代わりに六つの切れ込みが入った四角いコンテナ――中身は恐らく小型ミサイル――が取り付けられている。

両手には金属製の打突用フレームが付いた大口径機関銃、そして体全体はグレーの追加装甲で守られていて、本来の流線型の装甲は頭部だけにしか残されていなかった。
特定の戦場に特化した装備の変更は棺桶の設計上、装着してから手作業で行われるため、時間が掛かる。
その手間さえ惜しまなければ、ガーディナは海でも空でも戦える。
機動力を殺し、火力と膂力に特化したカスタム機はグラマトンが“不動の猛将”と呼ばれる所以となった。

十五フィートの長身を誇るあの棺桶ならば、分厚い扉を拳で破れる。
随伴は銃火器で武装するジョン・ドゥが六機。
予想通りの展開だ。

/鄯《゚::|::゚》)『……ナショジオ!?
        賊が、楽に死ねると思うな!!』

両肩のコンテナから十二発の小型ミサイルが射出され、両腕の機関銃が火を噴いた。
ジョン・ドゥたちも、徹甲弾を浴びせてきた。
問答無用の攻撃もまた、予想通り。
故にショボンは、グラマトンが入ってくるのと同時にコンテナを相手に向け、起動コードを入力していた。

(´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ』

ショボンが駆る“ダイ・ハード”は、Bクラスのコンセプト・シリーズの棺桶だ。
胸や腕を守る装甲は薄く、関節部の守りはほぼ皆無に等しい。
頭部を守るヘルメットはもはや形式的な物で、爆発や徹甲弾には耐えられない。
しかし、上半身に比べて脚部の装甲が圧倒的に厚く、脛から巨大な楯が生えているような歪な形をしていた。

701名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:31:21 ID:HcapCJ4s0
その正体は、高周波発生装置が内蔵された可変式の楯だ。
攻撃のスタイルに合わせて自動で位置を変え、更には真ん中から二つに分かれて蹴り技のリーチを伸ばすと云うことまで可能だった。
焦げ茶色の装甲の形はおおよそ美とは程遠い姿をしているが、その分、下半身の防護は完璧だった。
何よりも特化しているのが、その機動補助能力だ。

十階建てのビルに相当する高さから落下してもその衝撃を緩和し、使い手に一切の負担を掛けさせない。
更に、下半身の装甲の数カ所に圧縮空気による加速装置を隠し持っており、高速起動も可能だ。
バッテリーは上半身と両足とで分かれており、状況によっては無駄な装甲を切り離しても動くことが出来る。
棺桶同士の戦いにおいては脛、踝、踵、爪先に仕込まれた高周波ナイフが決め手だ。

機動力で勝り、そして、速度を乗せたナイフの一撃で相手を屠る。
それが、ダイ・ハードの戦い方。
装着を終えたショボンはコンテナから出ると、即座にその場を離れた。
小型ミサイルと銃弾が降り注ぐ中、ショボンは冷静そのものだった。

コンテナが爆風で倒れる頃には、彼はグラマトンの正面にいた。
この距離、この位置なら随伴しているジョン・ドゥ達は手出しができない。
例え身長差が二倍近くあろうとも、サイズの差は優劣の差には結びつかない。

(::[-=-])『さぁ!!』

/鄯《゚::|::゚》)『無礼――』

ミサイルコンテナを切り離して身軽になったグラマトンは、打撃戦に打って出た。
ガーディナはその巨体故に、超近接戦闘では小回りが利かない。
それを補うための長身の刀と機動力なのだが、今はそれがない。
哀れなことに、グラマトンは有り余る火力では接近戦を補えないことを失念している。

702名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 21:34:17 ID:.N19d76.0
新しい棺桶がたくさん、支援


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