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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot

449名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 13:53:11 ID:4BDREpvo0
かわいいなおい

450名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 13:54:30 ID:/CLIVcps0
ゆっくりおやすみw

451名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 15:47:08 ID:qLk0D7M20
おやすみ

452名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 16:39:12 ID:vEnWOG16O
不覚にも吹いた

453執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:15:29 ID:xtON.OOM0
■ホーク、フジ=ヤマ、おナスが強い■再開だ■

454執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:16:51 ID:xtON.OOM0
(*゚∀゚)「もっと!もっと愛し合おうぜええええ!
    なああギコォォォオオ!愛してるんだあああああ!」

赤黒の刃の群れ。
我先に、入り乱れるよう、絡まり合うように殺到する、血の豪雨。

上半身を逸らし、右足だけで飛び、左腿を掠った一本を日本刀型振動実剣で切り捨て、頭を狙って飛び来るもう一本を歯で噛んで止める。

<ヽ8w8>「シィを…シィを…シィを……」

着地。
全身の装甲の隙間から人工血液と潤滑油が噴き出すが無視。
走る度、装甲板が剥がれ落ちるがそれも無視。
刀を握って再びの低跳躍。右足の腱が乾いた音を立てて千切れたが無論無視。
赤黒の槍が胴を、腿を、肩を、腕を、胸を、貫いていたが、しかし無視。
蛇腹の刃を振るって触手の群れを切り払い、開けた視界、日本刀を振り抜く。

<ヽ8w8>「シィィィイイイィィイイィィイイヲヲヲヲヲヲ!」

それは、呼びかけではなく、咆哮。
空気を、原子を切り裂く、神速の一撃。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャヒャヒャ――!」

赤黒の触手の塊となったツーが、狂笑する。
黒鋼の悪鬼が、その横を駆け抜ける。

455執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:18:31 ID:xtON.OOM0
汚水が跳ねあがる。
血の飛沫が踊る。
時間が止まる。

<ヽ8w8>「――」

(*゚∀゚)「――」

どさり、と音がする。

(*゚∀゚)「ゲ――ブッ――」

ツーの首が、ぐらりと傾ぎ、そのまま汚水の中に転がった。

<ヽ8w8>「ハァ…ハァ…アア…アアア……」

ギコは、振りかえらなかった。
日本刀型の振動実剣を振り抜いたままの姿勢で。それは、残身のようでもあった。
四つのカメラ・アイは、金色から一点、仄暗い鬼火の赤に変じていた。

<ヽ8w8>「シィ……」

彼は、最後の力を振り絞るようにして、首を上向けた。
ドーム状の天井の錆ついた鉄パイプから、血の鎖で吊るされた、“彼の唯一の希望”を見上げた。

(*;д;)「ギコにぃ…!良かった…良かった……」

<ヽ8w8>「――今、迎えニ、行く、かラ、な」

456執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:19:36 ID:xtON.OOM0
彼は、腱の千切れた脚を踏み出した。
意識は既に混濁していた。
ただ、その身体だけが、機械的に動いていた。

『バイタル低下…40、34、29…限界か。――いや、よくもここまでもったものだ、と言った方がいいか』

既に罅割れまともな映像を映さなくなった視覚野の隅で、ショボンが驚嘆の声を上げる。
その声も、ギコには既に聞こえていなかった。

主を失った血の鎖がずるりと解け、シィの身体が重力に引かれる。
滅茶苦茶になった世界の中で、ギコはその様子をスローモーション映像のように認めながら、両腕を広げた。

<ヽ8w8>「ヤッ――ト――」

(*;ー;)「ギコにぃ…!」

とすん、と。
羽毛のように重さを感じさせないシィの身体を抱きとめて。
その軽さに、その壊れやすさに。ギコは泣きたくなるほど悲しい気持ちになった。

(*;д;)「ごめんね、ギコにぃ。あたしが…あたしが、気付いて上げるべきだったね…もっと、ちゃんと見ていてあげるべきだったね……」

嗚咽交じりに「ごめんね」を繰り返しながら、胸郭装甲に頬を寄せるシィ。
栗色の髪。入院服の裾から覗く、か細い四肢。華奢な肩。
その全てを、抱きしめたくて。抱きしめたらば、壊して、握りつぶしてしまいそうで。
ギコは、ただ、ただ、首の下と腰の下にあてがった腕を、動かせないままに、立ちつくしていた。

457執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:23:28 ID:xtON.OOM0
(*;д;)「もう、離さないから…どんなことがあっても、絶対離さないから……。
      もう、何処にも行かないで…ねえ…お願い…今度こそ、離さないから……」

<ヽ8w8>「……」

泪と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、それでもシィは弱弱しい笑みを向けて来る。

――ギコは、泣いた。
その日、彼は人生で初めての涙を流した。

けれど、彼には涙を流す涙腺が無かった。
泣き顔を作る顔面括約筋が無かった。

ギコは、だから、心で泣いた。
悪鬼のような忌まわしい形相のまま、彼は返す言葉もなく、立ち尽くした。

(*;ー;)「――ねえ、約束。これからは、ギコにぃが辛い時は、あたしにちゃんと話すこと。
     何か、悩みがある時は、あたしに相談すること。一人で背負いこまないで。ね?
     あたしたち、たった二人の家族なんだから……」

泣き笑いのままに、シィは小指を立てて突き出す。
ゆっくりとシィの身体を瓦礫の上に降ろすと、ギコは恐る恐る自らの小指を差し出した。
節くれだった鋼のそれを、シィの細い指が絡め取った。

(*;ー;)「……ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます。ゆびきった」

震える声でそらんじて、シィが指を離す。
小指と鋼が離れる。
ギコは、その瞬間を、間延びした意識の中で何時までも何時までも見つめていた。

458執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:25:02 ID:xtON.OOM0
何時までも、何時までも、見つめていたかった。

<ヽ8w8>「ココデ、待っテイろ」

(*;ー;)「え?」

シィの顔が、一瞬歪んだ。
ギコは、背後を振りかえった。

<ヽ8w8>「――全テ、終ワラセテクル」

苦鳴のような歪んだノイズ音声に答えるよう、闇の中で動くものがあった。

「ついてみたら祭りの後かと思ったが…やれやれ…どうにも、間にあっちまったみたいだな」

ギコは、足元の振動実剣を拾う。
壁際の下水口から這い出してきた人影が立ち上がる。

<ヽ●∀●>「――よう、犬っころ。来てやったからには、持て成せよ。勿論、お前流のやり方でな」

二丁拳銃を構えたニダーが、そこに居た。

459執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:26:10 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――とても寒かった。それは、多分、長い間下水の中を這いずってきたからだけでは無い。
ニダーは、そんなことを考えながら、一歩を踏み出した。

<ヽ●∀●>「なあよ、ここまで来るには随分と長かった。
      どうだい、ここは一つ趣向を凝らして、おっぱじめる前に打ち明け話の一つでもしねえか?」

まっすぐに、ギコを見据えたままで、ニダーは両手を脇にだらりと下げた。
どうしてそんな言葉が口をついて出たのかは、彼にも分からなかった。
随分と、ナーバスになったものだ、と口の端に自嘲の笑みが浮かぶのが分かった。

<ヽ8w8>「……」

ギコは、何も反応しなかった。
幽鬼のように立ち尽くしたまま、その四つの眼をぼんやりと赤く光らせていた。

<ヽ●∀●>「思えば、お前さんとウリの因縁も随分と長い事になっちまった。
        妙な話だぜ、全くよ。今じゃ、お前さんが昔別れた恋人か何かみてえに思えちまう」

ふざけた話だ。
そう、吐き捨てる様に次いで、彼は懐からしけった葉巻を取りだした。
それから懐をまさぐった。目当てのものは、そこには無かった。

<ヽ●∀●>y―「ああ、参ったな。ここに来る途中で落としちまったか……。
        なあ、お前さん、火ぃ、持ってねえか?」

460執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:28:20 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「……」

ギコは、無言で首を振った。

<ヽ●∀●>y―「――そうかい。まあ、どの道しけっちまって火なんかつきやしねえだろうがな……」

何でもないように言って、ニダーは火のついていない葉巻をくわえたまま、天を仰ぐ。
天井に空いた、一際大きな下水口が見えた。
まるで、鼠捕りの仕掛けの中に居るみたいだな、と思った。

彼は、大きな溜息をついた。
それから、気だるげに丸サングラスを外した。

<ヽ†∀´>y―「“覚えてるか?ヒッキーを。覚えてるか?お前さんに付けられた、この傷を。
        ウリは忘れもしない。目を閉じる度にこの傷が疼くからな”」

そこで一旦言葉を切り、ニダーは肩を竦めた。

<ヽ†∀´>y―「我ながら、こっぱずかしい話もあったもんだな。
       道中で聞いたが、どうにもウリがお前さんだと思って撃ったのは、
       別人さんらしいじゃあねえか。ええ?こいつぁ傑作だな」

乾いた笑いが、ニダーの肩を震わせた。
ギコは、それに僅かに拳を握りしめた。
だが、彼はそれ以上は動かなかった。

<ヽ†∀´>y―「……笑えるぜ。とんだ笑い話だよ、これは。
       それで復讐が終わったと思って、ウリは昨日まで高鼾をかいていたんだ」

461執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:29:46 ID:xtON.OOM0
ニダーは、ひとしきり笑い続けた。
枯た柳のような笑いだった。

やがて、彼は大きな溜息とともに口を閉じた。
そうしてもって、再びサングラスを掛け直した。

<ヽ●∀●>y―「――なあ、ウリはもう疲れちまった。仇だとか、復讐だとか、
       そう言った大義名分を振り回して、やんちゃするには、疲れっちまったんだ」

<ヽ8w8>「……」

ギコの四つの瞳が、相槌を打つかのように赤く点滅した。
ニダーは、火のついていない葉巻を吐き出した。
ぽちゃん、という酷く惨めな音をたてて、汚水に小さな波紋が広がった。

<ヽ●∀●>「だがよ、ウリはそんな風に腐れ落ちていく自分を許せそうもねえ。
      ヒッキーの仇打ちを成し遂げられないまま、老いぼれていくてめぇを許せそうもねえ」

ゆっくりと、ニダーが右の手の拳銃を構えた。

<ヽ●∀●>「だからよ、せめて。せめて、ウリがアイツの事に拘っていられる、今のうちに。
      全て、終わらせてくれねえか」

ギコは、その銃口を見るともなしに見つめた。
小さな穴は、吸い込まれそうな程に、暗かった。

<ヽ●∀●>「そして、お慰みだと思って教えてくれ。……黒狼のギコ。
      ――“お前は、この復讐を終えた後、それからどうする?”」

ニダーが言い終わると同時に、地下空洞に悲鳴が響き渡った。

462執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:31:12 ID:xtON.OOM0
(*;ー;)「いや!いやああああ!」

(*#゚∀メ)「うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえあああうるせえええええええ!」

浮島めいた瓦礫の上。
何時の間に立ち直ったのか。
血の触手でシィを縛り上げたツーが、血走った目を見開いて吠えた。

(*#゚∀メ)「外野が!部外者が!何時までも!何時までも!出しゃばってんじゃあねええええ!
     ギコォオオ!こっちを見ろォ!私を見ろおおお!」

<ヽ8w8>「……」

(*#゚∀メ)「お前は私のものだ!誰にも渡さねえ!こっちを見ろってんだよぉおお!」

鋭く尖らせた触手の先端が、シィの首筋にあてがわれる。
白く細いそこから、血の筋が一筋、垂れ落ちた。

(*;д;)「ぁ――ぁあ――」

(*#゚∀メ)「やっと見つけたんだ!やっと出会えたんだ!今更首をブッ飛ばされたぐらいで手放せるかよ!
     私にはお前しか残ってないんだ!ギコ!ギコォオオ!」

<ヽ8w8>「……」

ギコは、ゆっくりと瞬きした。
それは、アイカメラの点滅という形で現れた。

彼は、ニダーを見つめた。そうして、次に天を仰いだ。
鼠捕りのような天井が、そこにあった。

463執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:32:14 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「……」

もう一度、ギコはニダーを見つめた。
丸サングラスの中に映る自分の姿がそこにあった。

彼は、頷いた。
そうして、ゆっくりと上体を逸らした。

<ヽ8w8>「ハハハ…クハハハ…ハアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

ギコは、笑った。
歪んだ電子音声で、狂ったように笑い出した。

464執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:33:32 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――その瞬間のギコの頭の中は、今までの混濁が嘘のようにクリアだった。

<ヽ8w8>「クハハハハハ!ハハハハハ!ハハハハハハ!」

彼の背後で、シィの喉元に触手をつき付けたまま、ツーが硬直している。
目の前のニダーは、表情を消した顔で、黙ってギコを見つめ続けている。

彼は問うた。

「復讐を終えて、それからどうする?」と。

長い間、気付かなかった。
どうして、自分はそんな事を考えていたのだろう、と今更になってギコは思い知った。

<ヽ8w8>「ハハハハ!クハハハ!ハハハハ!復讐?
     復讐を終えて、ソれカら?クハハハハハ!」

(*;д;)「ギコ、にぃ……?」

<ヽ8w8>「復讐ヲ、終えル?ドウヤッテ?復讐トハ、終わリガあるモノナノカ?」

<ヽ●∀●>「……」

本当は、最初から気付いていた。
オヤジが殺されたあの夜。
再び刃を手に取ったあの日の時点で、気付いていた。

ただ、自分に都合がいいようにと今まで忘れていただけに過ぎない。
最初から、決まっていたのだ。初めの一人を殺めた時点で、もう後戻りなど出来なかったのだ。

465執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:34:32 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「ハハハハ!クハ!ハハハ!幸せに?なル?ドウやッテ?俺ガ?しィと?」

仮に、今ここでニダーを殺めたとしよう。
それで復讐が終わるのか?なるほど、確かに自分の分の復讐は終わる。

だが、ニダーの方はどうだ?
ニダーを殺された、彼の部下達はどうだ?

終わらない。
ギコが仇を討てば討つほど、殺された者の復讐を望む者が、再びその前に立ちふさがるだけだ。

実際、今彼の目の前に立っているニダーにしたって、そのようにしてここに居るのだ。

何も変わっては居ない。
あの頃から。復讐を誓ったあの日から、何一つとして変わっていない。

綾瀬会を潰したら陣龍が出て来た。
陣龍を潰せば次は大陸から三合会が出張ってくるのだろうか。

自分は、そのままの勢いで全てを皆殺しにするつもりでも居たのだろうか。

<ヽ8w8>「ハハ!ハハハハ!全ク!馬鹿馬鹿しイ話もアッタもノだ!」

それとも、ニダーを殺めた後は、シィを連れて復讐者から身を隠しながら各地を転々と逃げ回るつもりだったのだろうか。

それが、自分にとっての、シィにとっての幸せだと思っていたのだろうか。

466執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:35:23 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「ハハハッハ!ハハハハハハ!ハハハハ……ハハハ…ハハ…ハ……」

(*;д;)「ギコにぃ……」

ならば、自分はどうするべきなのか。
シィとの幸せも叶わず、復讐の無限地獄からも解放されない自分は、これからどうするべきなのか。

<ヽ8w8>「――オイ。聴いテイるか、悪魔よ!」

<ヽ●∀●>「……」

<ヽ8w8>「契約ハ成ッタ!約束通リ、シィハ治しテ貰オウ!」

ギコが叫んだのと同時だった。

「いいだろう。――君のその願い、僕が叶えてしんぜよう」

芝居めかしたその声が、闇の吹き溜まりから木霊した。

467執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:36:46 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――最後のタンクを設置し終えた隊員が、白銀の西洋甲冑めいた強化外骨格の右手を上げた。

<ヽ÷>「ポイント・デルタ、クリア。これにて第二段階のシーケンスを完了。作戦を第三段階へ移行されたし」

ヘッドギアの中のインカムに向かって報告。
地下の為か、若干電波が悪い。返事を待つべく、彼は同僚達にハンドシグナルで待機のサインを送る。

<ヽ÷>「――しかし、VXガスか。あの若造も、随分とえげつない手を考え付く」

当初は会長の客分として招かれた筈のあのラテン男は、知らないうちに自分達に命令を飛ばす現場指揮官の座についていた。

一体、何故あの若造が、と当時は隊員の殆どが異を唱えた。

だが今なら理解できる。あの男は、“会長好みのやり方”というものを、存分に心得ている。

やると決めたのなら、そこに一切の慈悲や迷いは無い。
徹底的に、機械的な判断でもって、仕事を成し遂げる。
そのような自らの隊内での評判を耳にした当の本人は、「まあ、“メカニック”として長かったから」と冗談めかして答えていた。

468執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:37:49 ID:xtON.OOM0
<ヽ÷>「末恐ろしい、ってのはああいうのを言うのかね……」

常日頃のジョルジュは気さくな二枚目半と言った所だ。
ジョークを言う事を心掛け、年下に指図される事が気に食わない隊員達に対し、細やかな気配りでもって誠意を見せる。
敵にすれば恐ろしいが、味方にすれば頼もしい。概ね、部隊内でのジョルジュの評価はそんなものだった。

だが、彼は、そんなジョルジュの笑顔を見る度に、何かしらの違和感を覚えていた。
それは、ひどく些細なもので、ともすれば気のせいだとも言い切れてしまうような、本当に小さな違和感だった。

<ヽ÷>「――ったく、何をじじむさい事を考えているんだか」

他人の心配より、今は作戦の遂行が第一だ。
知らずのうちに、自分にもヤキが回ったのだろうか。

壁から背を離し、もう一度地上へ通信を試みる。
短いコールの後、帰ってきたのはノイズだった。

<ヽ÷>「畜生め。一体なんだってんだ。圏外です、ってか?」

毒づき、ヘッドギアをごつんと叩く。
スピーカーが一瞬ぶれた後、遠くで巨大な何かが動くような音がした。

<ヽ÷>「――ああん?」

彼は、周囲を見渡した。
他の隊員達は、それぞれに壁に寄りかかったり、足場に座り込んだり、特に変わった様子は無い。

469執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:39:53 ID:xtON.OOM0
<ヽ÷>「……気のせいか?」

連日の激務で、神経が過敏になっているのだろうか。

<ヽ÷>「帰ったら、久しぶりにキメるか……」

自室のフローリングの下に隠した、ペインキラーの箱の事を思い出しながら、彼は再びとりとめの無い思索に耽った。

470執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:40:59 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――少女の喉元に爪を立てながら、ツーは生まれて初めて自分の行動を訝った。

(*#゚∀メ)「お前は私のものだ!誰にも渡さねえ!こっちを見ろってんだよぉおお!」

自分は、何をしているのだろう。
一体、こんな事をして何になるというのだろう。

(*#゚∀メ)「やっと見つけたんだ!やっと出会えたんだ!今更首をブッ飛ばされたぐらいで手放せるかよ!
     私にはお前しか残ってないんだ!ギコ!ギコォオオ!」

(*;д;)「あぁ…あぁ……」

少女の首の薄皮が破れ、血が滲む。
思えば、この娘を人質に取った時点で気付くべきだったのだ。

いや、もしかしたら気付いていたのかもしれない。
気付いていて、気付かないふりをしていただけなのかもしれない。

(*#゚∀メ)「私を見ろぉぉぉおお!ギコォォオ!私だけを見ろってんだよぉおおお!」

こんな事は、無駄だ。
こんな事をした所で、何にもならない。

<ヽ8w8>「……」

(*;д;)「ギコにぃ…たすけ……」

中華系男の言葉を前に立ちつくすギコ。
その背中に向かって、必死に呼びかけるシィ。

471執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:41:56 ID:xtON.OOM0
(* ∀メ)「私を――私を見ろ――私だけを――」

言葉が、音が、宙に放り出されたままで、汚水の中に転がる。

<ヽ8w8>「クハハハハハハ!クハハハハハ!」

獣の哄笑。
血に狂った、化け物の上げる笑い。

それは、自分が求めていたモノの筈なのに。
血溜まりの中で、狂おしい程に求め続けていたモノの筈なのに。

(*;∀メ)「私だけを……見ろ……見ろ……見て……」

本当は、気付いていた。
先に、彼とぶつかり合った時には、もう気付いていた。

彼は、私の事など、見ていない。
例え、彼の大切なモノを人質に取ろうと、私が何をしようと。
彼が、私を見てくれることなんてないと。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!返事をしてよぉ!」

きっと、それは、この少女の命を奪おうと、変わらない。
何時だって、この少女は殺せた。それをしなかったのは、分かっていたから。

本当は、最初から。
あの雨煙る沿岸道路での邂逅の時から、分かっていた。

472執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:42:58 ID:xtON.OOM0
(*;∀メ)「お願い…だから…私を……見てよぉ……」

それでも、縋りたかった。
彼は、自分と「同じ」だと証明したかったから。

化け物は、獣は、自分だけじゃないと。
そう、証明したかったから。

<ヽ8w8>「クハハハハ!ハハハ!フハハハハ!」

(*;∀メ)「ああ……あ…ぅあ――」

ツーは、少女の首筋から手を離し、ギコへと向かって伸ばす。
血だらけの腕が、空気を掴む。

遠い。

たった数メートルの、血の鞭を伸ばせば届く距離が、果てしなく遠い。


<ヽ8w8>「悪魔ヨ!俺ノ身体ハクレテやル!連れテいクがイイ!貴様ガ言ウ、人類ノ限界トやラへ!」

(*;∀メ)「あぁ――」

待って。
置いていかないで。

私も連れて行って。
私を、一人にしないで。

お願い。お願い。お願い。

473執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:43:52 ID:xtON.OOM0
(*;∀メ)「おね…が…い……」

ツーの頬を、風が撫でた。

川 ゚ -゚)「――御覚悟を」

大鎌を振り被った黒衣の堕天使が、彼女の頭上に落ちて来た。

474執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:45:14 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――横倒しになった視界の中に、夥しい数の死体が転がっている。
自分もまた、この中の一人に加わるのだろうか、などと考えながら、オサムは荒い呼吸を整えるのに必死だった。

【+  】ゞ )「カハッ――コッ――ヒュッ――」

血の触手に貫かれたのは、幸か不幸か心臓では無く肺だった。
一撃の下の絶命は免れたが、このままでは呼吸困難で数分ともたない。
何度となく、自らを化け物と自認してきたが、まさかこんな無様な最期を遂げるとは、思いもしなかった。

【+  】ゞ )「ホント――上手く――いかないわネ――」

目と鼻の先。
少し手を伸ばせば届きそうな距離にある、アタッシュケースを憎々しげに睨みつける。

酸素不足で頭に霞が掛ってきた。
この分だと、任務の達成は到底無理そうだ。

「――やあ、久しぶり。随分と苦しそうだけど、大丈夫かい?」

唐突に、その声は天から降ってきた。
まさか、とオサムは首を巡らせた。

475執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:47:03 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ )「アン――タ――」

(´・ω・`)「やあやあ、何年ぶりだろうねえ。データベースが正しければ、
     確かツクバでの件以来だから…もうかれこれ十年以上経つわけか」

そんな筈は無い、と理性は否定した。
彼がここに立っている筈が無いと、異を唱えた。

(´・ω・`)「死んだ筈だって?そうだね、確かに僕は君達の手によって殺されちゃったね。
      じゃあ、どうしてここに立っているんでしょう?答えは、“まーそういうのはどうでもいいんじゃあ、ないかなあ”です」

下手糞なウィンクをして見せた後、彼は、ショボンは「ああ、そうだ」と言って二の句を継ぐ。

(´・ω・`)「君達の手によって、っていうのは訂正しよう。君達に裏切られて、といのが正しいかな。
     実際、実行犯はロイヤルハントだったし、本当、君達の職場はそういう根回しが上手いよね。
     僕も最近では、君達のやり口を見習ってるんだけど、――どうだい?びっくりした?」

人を小馬鹿にしたような態度。
あくまでも柔和な表情と物腰を崩さない、優男風の出で立ち。
それは、オサムの記憶の中の彼と、寸分違わぬままの姿を保っていた。

(´・ω・`)「まあ、でもさ。別に、僕は復讐だとかそう言った事は、今は割とどうでもいいんだ。
      あっちの子達はそうでもなさそうだけど」

くすり、と子犬のような笑顔を浮かべてショボンは自らの背後を顎でしゃくる。
中央管理小屋の足元、瓦礫と死体の山の中では、今しもギコとニダーが睨みあっている所だった。

476執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:49:02 ID:xtON.OOM0
(´・ω・`)「君達にも、止むにやまれぬ事情があったことだろうし。元々、あそこはそういう方針だったしね。
     それに、僕が憎いのは、あくまでも“米帝”という概念そのものさ。そこら辺、勘違いしないでほしいな。
     元同僚で今は何の関係もないとはいえ、かつての友人と険悪な仲になっちゃうのは苦手だ」

【+  】ゞ )「ハッ――そんなの――知ったこっちゃ――ない、わ――」

何が、友人だ。
何時も、何時もこいつはそうだ。
フラットラインだとか、ニューロマンサーだとか言われ、常に余裕のある態度で笑いかけて。
ノブリス・オブリージェとでも言いたいのか?

【+  】ゞ )「クソったれ――何が――望みよ――」

(´・ω・`)「何が望みって、聞かれてもね……別段、君達とは関わりの無い所なんだけど」

困ったような笑顔を浮かべると、ショボンは足元に転がっていたアタッシュケースを拾い上げる。

(´・ω・`)「まあ、ちょっとした交渉材料の調達と言うか、ね。僕も色々と夢のある若者でして。
      主目的はそれだったんだけどさ――」

独裁者の遺伝子をアタッシュケースから取り出し、それを背広の内ポケットに入れると、彼は立ち上がって再び先の二人へと視線を向ける。

(´・ω・`)「――今は、俄然あの子に興味津々、恋する季節ってところさ。君も直接やり合ったから分かるだろう?
      信じられないよ。今、まさに彼は、人類という種の限界の先へと一歩を踏み出そうとしている所だ」

477執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:50:41 ID:xtON.OOM0
生まれて初めてカブトムシの雄を見る少年のような眼差しで、ショボンは黒い悪鬼の威容を見つめる。
人類の限界の先。下らない。ようは、ただの化け物だ。

【+  】ゞ )「何――アンタ――マッドサ、イエン――ティスト、に――転向したわ、け――」

地下下水処理施設中に、狂ったような哄笑が響き渡る。
上半身を仰け反らせ、悪鬼羅刹が大口を開けていた。

その後ろでは、ツーが、茫然自失とした表情で、その様を見つめている。
人質にとった少女への拘束も緩み、ただ、ただ、途方に暮れたようにしてギコだけを見つめるその様子が、
初めて彼女と会った時のそれと重なった。

(* ∀メ)「あ…あ…あ…あ……」

【+  】ゞ )「ザマア――無いわね――バッカ――みたい――ほん、と――」

結局、壊すことしかできない彼女に、何が成せるというものでもない。
大人しく、首輪を嵌められたまま、命令された相手だけに噛みついていれば、餌は貰えるのに。

それで、満足していなければならなかったのに。

<ヽ8w8>「――オイ。聴いテイるか、悪魔よ!」

下手な希望など、持つから、馬鹿を見るっていうのに。

<ヽ8w8>「契約ハ成ッタ!約束通リ、シィハ治しテ貰オウ!」

悪鬼羅刹の叫びに呼応するように、新たな質量がオサムの脇に降り立つ。
濡羽色の髪に、同色のゴシックドレス。レースのヴェールから覗く、ぞっとするほどに白い肌。

478執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:51:52 ID:xtON.OOM0
川 ゚ー゚)「マスター。そろそろ私の出番ではないでしょうか?」

(´・ω・`)「ああ、そうだね。ご客人の大事な大事な妹君だ。丁重に、御迎えに上がっておくれ」

川 ゚ー゚)「イエス、マスター。仰せのままに――」

恭しく、まるで執事か何かのように一礼をすると、女は左の手首を捻る。
圧縮空気の漏れる小さな音と共に手首の穴から飛び出す鋼鉄製の伸縮棒。
右手でそれを引き抜き回転の勢いで伸ばすと、ゴシックドレスの開いた背中から取り出した刃と連結。
またたく間に組み上がった大鎌を手に携え、女は跳んだ。

(* ∀メ)「あ…あ…ああ……」

向かう先は、放心状態のツー。
目的は、火を見るよりも明らか。

【+  】ゞ )「――“フレ――ッド”――聞こえ、てる――んでしょ――フレ…ッド……」

無線制御データリンクに、僅かな反応。
矢張り、チーム内最強のタフネスは頼もしい。

【+  】ゞ )「クソ――ったれね――アタシが――こんなザマで――
        悪い、けど――も、ひと――ふんばり――して――くれ、る?」

大鎌の女が、クーが、ツー達への距離を詰める。
からり、と遠くで微かに瓦礫が崩れる音がした。

479執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:52:48 ID:xtON.OOM0
(* ∀メ)「ぎ、こ…わたし…わた…わたしは……」

虚空を見つめたまま、へたり込むツー。
不吉な鴉の急降下めいて跳びかかるクー。
大鎌の刃が振り被られる。
ツーは、動かない。

――ホント、馬鹿な子。

【+  】ゞ )「ホント――救いようが――ない――くらい――アンタは――手が掛る――わ――」

川 ゚ -゚)「――御覚悟を」

(* ∀メ)「……」

振り下ろされる、大鎌。

断裁音。

硬く、耳障りな、断裁音。
否。刃が鋼に食い込む、それは金切り声。

川 ゚ -゚)「むっ」

(*゚∀メ)「――え?」

〔φ@φ〕「KHO…HOOOO……G」

ツーと、クーの、間に、鋼百足の上半身が、割って入っていた。

480執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:54:44 ID:xtON.OOM0
(*゚∀メ)「え――」

耳元での轟音に、我を取り戻したツーが、鋼の百足を見上げる。
白黒の真逆になった双眸が見開かれ、次いでオサムを見た。
全てを悟ったその顔が、くしゃりと、紙のように歪んだ。

(*゚∀メ)「な――んで――」

【+  】ゞ )「ホント――なんでかしら――ね――ガラじゃ――ないってのに――」

――あーあ。
ホント、アタシってば、バッカみたい。
なんで、こんな――。

……ああ、そうか。アタシは、こいつの事を――。

(´・ω・`)「おっと、邪魔をしてくれちゃ、困るな」

ショボンが、袖口からポップアップした拳銃の引き金を引いた。
ずどん、と乾いた音が鳴った。
銃声にしては、比較的小さかったが、それで事足りた。

【+  】ゞ )「ガッ――」

虫の息の根を止めるには、それだけで十分だった。

481執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:55:46 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――突如として、翼の無い堕天使のような影が、飛来した。
大鎌を振り被った女と、鋼の百足めいた化け物がぶつかった。
離れた場所で、銃声が鳴った。
その瞬間、ニダーの中で時が動き出した。

(*;゚∀メ)「なんで――こんな――なんで――」

ネオゴス風の女が、へたり込んだまま、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

(´・ω・`)「やれやれ…もうそろそろ時間も押してきてる。手早く頼むよ」

銃声の音源では、背広姿のしょぼくれた顔の男が、遠巻きにこちらを見つめている。

川 ゚ー゚)「ええ、善処いたしますわ」

鋼百足の残骸の上では、ゴシックドレスの女が大鎌の刃を引きぬいている。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!返事してよ!ギコにぃぃい!」

その傍らでは、まだ幼さの残る少女が、声の限りに叫び続けている。

<ヽ8w8>「ハハハハハ!クハハハハハ!ハハハハ!」

そして、目の前では、討つべき筈だった仇が、未だ狂ったようにして笑い続けている。

482執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:56:54 ID:xtON.OOM0
<ヽ●∀●>「……」

ニダーは束の間、天を仰いだ。
矢張り、そこには鼠捕りのような天井が広がっていた。

首を振って、彼はもう一度地下空間を見渡した。
自分は今、何をするべきなのかを、考えた。

<ヽ8w8>「ハハハハ!クハハハハ!ハハハハハ!」

ともすれば、今のギコならば、銃弾の一発でその命を消し去ることが出来るだろう。
あのいけすかない何でも屋が言う通り、勝てる見込みが無かった試合だが、ここにきてまさかの逆転さよなら満塁ホームランに変わるわけだ。

<ヽ●∀●>「……下らねえ。下らねえし、笑えねえな」

それに、何の意味があるのだろう。
復讐を果たす価値は?今、ここで奴の眉間に鉛玉を叩きこむ事の価値は?
今のこの男の首を手土産に、あの世のヒッキーに持っていた所で、何になる?

――こいつには、今、何も見えていない。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!ねえ!返事をしてってば!お願いギコにぃ!」

悲痛な、張り裂けそうな、魂を八つ裂きにでもされているかのような悲鳴が、耳にこびりついて離れない。

可哀相に。
どういうわけか知らんが、彼女の兄貴は急にヤクでも決まっちまったかのように、笑い転げていて聞く耳も持たないようだ。

<ヽ●∀●>「ご愁傷さま、ってやつだぜ」

483執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:58:02 ID:xtON.OOM0
言葉にしてみて、何と乾いた響きなのだろうかと愕然とした。
結局、最期の矜持の残照すらも貫けない、どうしようもない自分。
成るほど、あの何でも屋が言った通り、自分は確かにクズなようだ。

<ヽ●∀●>「……」

ならば、クズはクズらしく、しみったれた最期を遂げるのが相応しいのでは?

<ヽ●∀●>「ハッ。本当に、下らねえ人生だったぜ、おい」

その場に座り込み、ベレッタの銃口を自分の側頭部に押し付けると、丸サングラスの下でニダーはそっと目を閉じる。

こう言う時は、今までの半生が瞼の裏を過るものだと相場が決まっているが、何時まで待っても一向にその兆候は訪れない。

「ギコにぃ!ギコにぃ!お願い――だからぁ!返事、してよぉ…!」

代わりに聞こえて来るものと言えば、悲痛なまでの少女の叫びだけだった。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーは、再び目を開いた。
こんなに騒々しくては、おちおち半生も振り返れない。

川 ゚ -゚)「さあ、シィ様、こちらへ」

跪いたゴシックドレスの女が、少女へ向かって左の空いている手を差し出している。
少女はいやいやと、懸命にその細い首を振っている。

484執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:58:54 ID:xtON.OOM0
(*;口;)「イヤ!イヤァ!ギコにぃと!私はギコにぃと居るの!もう離さないって、ずっと側に居るって!約束したんだからぁ!」

ギコは、黒狼は――悪鬼は、振りかえらない。

<ヽ8w8>「ハハハハハハハ!」

狂ったように笑い続ける修羅の眼には、既に何も映っていなかった。

川 ゚ -゚)「我儘を言われましても困りますわ。さあ、お手を――」

(*;口;)「イヤだっ!」

差し出された手を、少女がはねのける。
ぱんっ、と乾いた音が鳴った。

川 ゚ -゚)「そう――ですか」

ゴシックドレスの女の表情が、鋼鉄の冷たさを帯びた。

川 ゚ -゚)「――あまり、こういうのは好きではないんですがね……」

跳ねのけられたままに宙ぶらりんになっていた女の手が、ゆっくりと少女の首根っこへと伸びていく。

ニダーは、走り出していた。

485執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 17:59:54 ID:xtON.OOM0
<ヽ●∀●>「……」

ベレッタを右の手だけに握って、ニダーは走っていた。

(*;口;)「イヤ!いやぁ!」

何だ、これは。
何で、自分はこのようなな事をしている?

まさかとは思うが、あの少女を助けようとでも言うのか?
あろうことか自分は、仇の妹を助けるつもりでいるのか?

止めておけ。そんな事をして、それこそ何なる。
ヒーロー気取りか?だとしたら、それは何処の世界のヒーローだ?
それは一体、何の冗談だ?

川 ゚ -゚)「申し訳ありませんが、マスターの命令ですので――大人しく、していただけますね?」

少女の薄い胸倉に、女の指先が触れる。
精一杯に上半身を引いて、少女が逃げる。
それを追うように、女が身を乗り出す。

(*;口;)「イヤアアアア!」

空気を切り裂く様な悲鳴。
宙に架かる、涙滴の橋。

<#ヽ●∀●>「――糞ったれめっ!」

ニダーは、引き金を引いた。
乾いた音が、福音のように彼の耳朶を打った。

486執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:01:32 ID:xtON.OOM0
川 ゚ -゚)「――むっ」

鋼の衝撃に、女の腕が弾かれる。
面くらったような表情を束の間浮かべた女が、直ぐ様ニダーの存在に気付いて顔を上げた。
ニダーは、獰猛な笑みを浮かべてそれを見返した。

<#ヽ●∀●>「はっ!大陸の双龍の名は伊達じゃあねえぜ!」

立て続けに二発、三発、四発、とニダーはベレッタを連射する。
女はそれを避けるでもなく防ぐでもなく、着弾の衝撃に僅かに身を揺らしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

川 ゚ -゚)「それは、我々への敵対行動、という事で宜しいですか?」

<#ヽ●∀●>「そんな事はお天道様にでも聞きな!」

川 ゚ー゚)「――なるほど。神のみぞ知る、ですか。良いでしょう」

ゆっくりと、これから演武でも始めるかのようにして、女が大鎌を構える。
互いの距離は、目測にして10メートルもない。
馬鹿な事をしている。ニダーの口の端に、自嘲の笑みが浮かんだ。

川 ゚ー゚)「ですが、その答えは貴方自身が天に登って聞いてきて下さいませ」

大鎌の切っ先が、落雷の速度で弧を描く。
反射神経で避けるのは、不可能だ。
ニダーの行動は最初から決まっていた。

487執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:03:10 ID:xtON.OOM0
<#ヽ●∀●>「おおおおおおお!」

雄たけびと共に、身を沈める。
断頭台の一撃が、ニダーの頭上を過っていく。
汚水を跳ね上げつつ、彼はスライディングの姿勢でゴシックドレスの女とすれ違った。

川 ゚ -゚)「おや――」

そのまま直ぐ様身を起こし、少女の腰を抱く。

(*;д;)「――え?」

涙に濡れた顔が、ニダーを見上げる。

<ヽ●∀●>「嬢ちゃん、ちょいと失礼するぜ」

腰と首に手を回して少女を抱き上げると、ニダーは一点を目指して再び走り出した。
遠くで、地響きにも似た音が近付いてきていた。

(*;口;)「離して!離して!ギコにぃ!私はギコにぃと――!」

腕の中で少女がもがく。

川 ゚ -゚)「――逃がしませんよ」

大鎌を振りかざした女が、背後に迫る。
随分と、滑稽なとんずらの絵面だ。
そう言えば、あの夜もこうして必死に走ったものだ。

488執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:07:01 ID:xtON.OOM0
――あれは確か、荒巻屋のショバ代の取り立ての時だ。
子供騙しの幽霊屋敷で気絶したヒッキーを抱えて、夜の街を事務所に向かって走ったっけ。

幽霊など居るわけもないのに。
馬鹿みたいにブルって。
必死になって、全力で、死に物狂いで駆け抜けたものだった。

<ヽ●∀●>「――あの頃から、馬鹿なまんまだぜ」

若かった。
あの頃は、必死だった。
兎に角、体当たりだった。
それで、何とかなると思っていた。

何時からだ。
それだけで、何とかなるものじゃないと、思い知ったのは。

川 ゚ -゚)「シッ!」

大鎌の切っ先が、ニダーのトレンチコートの裾を切り裂く。
脚がもつれて、転びそうになる。

<;ヽ●∀●>「チィッ――!」

何とか立て直して、彼は前を見据える。地響きが、どんどんと近くなってくる。
“目指す先”まで、後少し。だが、もう若くない。

<;ヽ●∀●>「ハァ…ハァ…クソったれ……」

あの夜。
事務所に帰りついてからポケットを漁ったら、メジロステイツの馬券が無くなっていた。
皮肉にも、その日の一着は、自分が一点張りをし続けたあの駄馬だった。

489執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:08:05 ID:xtON.OOM0
結局、あの日以来、メジロステイツはもう二度と一位の栄誉を得る事もなく、
再び最下位を舐めるように独走した後、一昨年の春に一部のファンに惜しまれながら天へと旅立った。

走る為に生を受けながら駄馬の烙印を押された彼は、その苦しい生涯の中で一度だけ“奇跡”を起こした競走馬として、競馬界に名を残した。

<;ヽ●∀●>「走れ…走れ……」

地響きが、地下空洞をどよもす。

川 ゚ー゚)「御覚悟――!」

大鎌の刃が、肩口に迫る。

<ヽ●∀●>「走れ…!走れ…!」

奇跡。
もしも、そんなものが、自分にも起こせるならば。

<#ヽ●∀●>「走れえええええええ!」

最後の2メートル。
肺の中に残った空気を全て吐き出して、跳ぶ。

(* ∀メ)「なんで…なんで……」

ドームの壁に、亀裂が走る。
少女を抱えたままで、ニダーの身体が宙に弧を描く。

490執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:08:59 ID:xtON.OOM0
川;゚ -゚)「くっ――このっ!」

大鎌の刃が、右の肩甲骨の上の肉を切り裂く。
痛みを堪えて、少女を抱く腕に力を込める。

(´・ω・`)「――潮時、か」

二人の身体が、巨大な棺桶の中に着地する。

(*;口;)「ギコにぃ!ギコにぃ!イヤ!イヤアアアアア!」

ドームの壁を突き破って、汚水の濁流が迸る。

<#ヽ●∀●>「おおおおおおお!」

満身の力で、棺桶の蓋を閉じる。

<ヽ8w8>「ハハハハハハ!ハアッハッハッハッハッハッハ!」

暗黒の大波濤を背にして、悪鬼が狂笑する。

<;ヽ●∀●>「ハァ…ハァ…ハァ…」

これで、正しかったのだろうか?
自問自答に目を閉じる。
瞼の裏で、懐かしいあの顔が、困ったような顔で笑ったような気がした。

<ヽ●∀●>「ヘヘッ…どっちだよ…馬鹿……」

黒い濁流が、全てを飲み込んだ。

491執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:10:19 ID:xtON.OOM0

Epilogue


――『爆破テロか!?VIP地下下水処理施設、謎の大崩落』。

携帯端末に表示されたニューステロップから顔を上げて、頭上を仰ぐ。
通勤ラッシュでごった返すニーソク駅前のロータリー。
ビルの壁面に埋め込まれた街頭テレビの中では、GMN(グローバル・メディア・ネットワーク)の新人女子アナウンサーが、
神妙な顔で原稿を読み上げていた。

「昨夜未明、突如として起こったこの崩落の原因は未だ不明――坑内の支柱に爆弾が仕掛けられていた疑いが――
 死傷者の数も不明ですが、地上では今の所怪我人は見られま――」

('A`)「……」

溜息が、知らず口から漏れる。
隣を歩くキュートが、それを目敏く見咎めた。

o川*゚ー゚)o「……ほぉら、どっくん!ぼーっとしてると置いてくよ!」

意地悪そうな表情を作り、キュートは努めて明るい声音で言う。
彼女もまた、割り切った訳ではない。
優しい彼女は、それでも俺を気遣う事を優先してくれる。
その気遣いが、とても痛かった。

492執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:11:50 ID:xtON.OOM0
('A`)「んん、ああ、すまんこ、すまんこ」

o川#゚ー゚)o「ちょっとぉ!朝からそういうの止めてくれるう!?」

('A`)「ほっほっほ。おぬしもまだまだうぶよのぉ。
   そんな事では、我が毒尾流の秘儀を授けるのは何時の日になる事やら……」

o川#゚ー゚)o「けっ!こう!ですっ!」

さくらんぼのように頬を真っ赤に染めると、キュートはそっぽを向いて歩きだす。
デニム地の短いジャケットの背中に聞こえないよう、俺はそっと謝った。

从 ゚∀从「……結末が、気になるか」

何時の間にか追いついていたハインが、右隣に並ぶ。
血のように真っ赤な双眸は、俺では無く、前だけを見つめていた。
答えは予測できたが、ふと気になって聞いてみた。

('A`)「――君は、どうだ。気になるか?」

鋼鉄の処女は、だが、以外にも直ぐには答えなかった。
ちらりと俺を横目で見てから、彼女は再び目の前を行く人混みの中へと視線を戻した。
ヒトの形をしたヒトならざるその瞳は、ここでは無い何処かを睨みつけているようだった。

从 ゚∀从「……復讐は、神が行うものだ。それは、人間の領分ではない」

一陣の風が、彼女の銀糸の髪をなびかせる。
この世ならざる美貌が、一瞬隠れる。

493執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:13:00 ID:xtON.OOM0
从 ゚∀从「人の怒りは。怒りによる報復の裁きは、人が下して良いものではない。
それは本来、神と神の法に任せるべきものだ」

どういう意味だ?
尋ねようとして、彼女の視線が上向いているのに気付いた。

从 ゚∀从「宗教の垂れる戯言だが、今回ばかりは的を射ていたようだな」

視線を辿ったその先。
摩天楼の屋上看板の上に立つ黒い影。
豆粒ほどにしか見えないその影が、俺には咆哮したように見えた。

从 ゚∀从「復讐を遂げるのならば、ヒトでは居られない。だが、ヒトは神にはなれない」

瞬きをした次の瞬間には、その黒い影は看板の上から姿を消していた。
風に乗って微かに聞こえて来た咆哮の残響が、俺の眼が確かだった事を保障した。

从 ゚∀从「では、彼らは何処へ向かえばいい?」

('A`)「……」

俺は、束の間目を閉じ、耳をすませた。
その咆哮は、泣いているようにも聞こえた。

494執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:15:49 ID:xtON.OOM0

 

 

       从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

         Disc11.No. of the beast

           ///the end/// 

 

 
.

495名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 18:24:03 ID:4BDREpvo0
進んだなあ


496名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 18:24:32 ID:CN5MqrtQ0

これのニダーやっぱ好きだわ

497執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/18(火) 18:26:18 ID:xtON.OOM0
■親愛なる読者のみなさんへ■オカメ■貴方もオカメ■

予測演算UNIXが故障していたせいで今回のエピソードが長くなることを我々は予見できませんでした。

これは我々ではなく調整を担当したUNIX業者の責任なので我々はノーギルティです。ご安心ください。

次のエピソードは恐らくはЯebootの方の時系列のエピソードとなることだろう。

しかもなんと次のエピソードはサマーなんとかで募集した公募プロットの中から選ばれたものを元にしたお話だ。素晴らしいDIYだと思う。

どのプロットを参考にしたのかは、みなさんがその目で確かめてほしい。あなたは時代を見つめる。

次の投稿はわからないが多分早い。我々は疾走感を追体験する。だが分からない。備えよう。

498名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 18:56:02 ID:Hh8v4olU0
まじか楽しみやで

499名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 21:21:24 ID:/mpPRCEg0
セルフ管理メント重点な

500名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 21:28:15 ID:vIgFicgo0


501名も無きAAのようです:2012/09/19(水) 01:29:50 ID:OSsRGgNw0
乙乙

502名も無きAAのようです:2012/09/20(木) 02:12:06 ID:.rxkkgVo0

キュートかわいいなぁ
ドクオがキュートと一緒に行動してるのは次の依頼がキュートからのものだったから?
でもそれにしては違和感のある言い回しが多かったし、何か他の理由があったのかな?

503名も無きAAのようです:2012/09/20(木) 02:14:30 ID:YfpN/UD20
>>502
前回嫁

504名も無きAAのようです:2012/09/20(木) 07:14:28 ID:1Vx.e6.60
ハインのプロフはまだか

505名も無きAAのようです:2012/09/20(木) 13:24:08 ID:bWcIH5co0
おつ

506執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/21(金) 03:32:26 ID:VkdYY7x.0
◆ハインリッヒ◆インデックスとキャラクタープロウフィール◆ワッザ◆誰だそれは◆投稿される◆

507執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/21(金) 03:35:34 ID:VkdYY7x.0
   
     =index=


【disc 11. No. of the Beast】

story…雨に錆ついた因果。海を超える悪意。疾走する狂気。嘲笑する悪魔。
   復讐、陰謀、切なる願いも全てを置き去りにして、激化する戦い。
   殺し殺され奪い奪われ、この復讐の果てには何が待つ。
   ――今、獣の咆哮が、VIPの街に木霊する。


tips…バトル、バトル、またバトル。頭から尻まで殴り合いが続く超人オリンピック回。
   「disc10.ヴォルフの尻尾」の後日談的なアレなのと過去のエピソードからの続投キャラが多いので、単体では訳が分からない感じです。
   「disc6. 硝煙挽歌」を読まれてから目を通す事をお勧めします。
   

↓成分表↓
バトル……………★★★★★
サイバーパンク…★★★★★
萌え………………★★☆☆☆
サスペンス………★★★★☆
ハイン……………★☆☆☆☆
田所さん…………★★★☆☆



508執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/21(金) 03:36:50 ID:VkdYY7x.0
キャラクタープロフィール

<ヽ`∀´>

氏名:ニダー(本名の記録なし)
年齢:47歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:2月9日
血液型:B型
人種:モンゴロイド(朝鮮人)
現住所:不明
本籍:ニホン国特別政令都市VIPニューソク区鵬華通り3-1(偽造国籍)
所属:「陣龍」日本支部代表
病歴:成人二年目に胃下垂を一度患ったが、入院はしなかった。
術歴:脳核挿入手術。尻に銃弾を受けた際に、自分で外科摘出を行った(非公式)。
頭髪:黒の頭髪、オールバックの髪型。
瞳:黒
好きなもの:莱謝(中華料理店)の北京ダック、競馬、爪切り(自室の抽斗にコレクションがある)、スラップスティックコメディ
嫌いなもの: 凪凪(子飼いの中華料理店)の北京ダック、推理小説(なぞなぞを解く為に小説を捲るのは下らないと考えている)、電脳ゲーム全般(ヒッキーに大負けして以来触っていない)

――ユーラシア最大の犯罪組織「三合会」の下部組織、「陣龍」の香主(代表)。
かつては陣龍の中でも一介の鉄砲玉でしかなかったが、数々の仕事をこなして行く事で組織内で伸し上がっていき、現在の地位に就いた。
二丁拳銃の名手であり、全身義体を相手に回しても、条件次第では十分打ち勝てる程の実力を持つ。
現在は一線を退き書類仕事や管理職めいた業務が多いが、今でもその腕はさほど衰えてはいない。
初めての部下であるヒッキーとは鉄砲玉時代からの付き合いであり、幾つもの鉄火場を共に潜り抜けてきた仲である。



509執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/21(金) 03:38:35 ID:VkdYY7x.0
キャラクタープロフィール

(,,゚Д゚)

氏名:西村ギコ
年齢:25歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:1月5日
血液型:O型
人種:モンゴロイド(ニホン人)
現住所:不明
本籍:無し(市民IDを持たない為、不法滞在者と同義)
所属:フリーランス
病歴:無し
術歴:全身義体置換手術(FUGAKU)→ヾ(666)、神経加速装置挿入手術、ドラッグホルダー挿入手術、脊椎直結用プラグ挿入手術(以上、全て違法サイバネ手術)
頭髪:くすんだ黒
瞳:黒(サイバーアイ)
好きなもの:シィと過ごす時間、シィが向いたリンゴ、リッキー(彼が世話をするタマサボテンの鉢植え)、ホームセンター(工具を見て回るのが好き)、手の掛る女の子(本人は無自覚)
嫌いなもの:海(泳げない)、蜘蛛、カレー(甘口も食べられない)、定規(幼少時に怒ったシィに投げつけられてからトラウマ)

――通称「黒狼のギコ」。闇社会でその名を知らぬものの居ない始末屋。
漆黒の強化外骨格と光学迷彩に身を包み、日本刀のような形をした振動ブレードをエモノとして振るう姿は、「ジャパニーズ・ニンジャ」で裏社会の者には通じる程。
「万魔殿」の浮浪児出身でありながら、当時の西村組の頭目に見出され、養子として迎えられる。シィとフサギコとは義理の兄妹。
西村組の頭目が殺害された事により、その復讐を遂げる為に始末屋として裏社会に足を踏み出し、現在に至る。非常に意志が強く頑固。



510執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/21(金) 03:43:03 ID:VkdYY7x.0
◆以上だ◆一切の欺瞞は無いので安心です◆獅子舞◆

511名も無きAAのようです:2012/09/21(金) 04:16:49 ID:xjdPIykM0
おつー

512名も無きAAのようです:2012/09/21(金) 09:46:05 ID:/iQrS.SAO
突然だが作者さんってブログやってるの?

513名も無きAAのようです:2012/09/21(金) 14:46:34 ID:rcHR0jSU0
田所さんじゃなかった

514名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 16:31:00 ID:PN5rYyxA0
レポートから現実逃避だよお
('A`)从 ゚∀从o川*゚ー゚)o
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_082.jpg

515名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 16:34:39 ID:PN5rYyxA0
sage&h抜き忘れ
済まぬ

516執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/24(月) 21:34:27 ID:I0FdEFaw0
◆◆◆◆

定時巡回の際に質問やDIYなイラストを頂いている事を発見した投稿担当者は、悲鳴を上げて執筆アジトに引き返した。

「た、大変です。二年ぶりのイラストと質問です。どうしたらいいですか?
 こんなことは予測演算UNIXも言って無かった。私は正直コワイ」

チャブの前で正座してコブチャを飲んでいた執筆担当者は、彼女を振りかえると、ゆっくりとザブトンを差し出した。

「落ちつきなさい。先ずはキミもコブチャを飲みなさい。とても健康に良い。ニューロンが冴え渡る」

差し出されたユノミを、投稿担当者は時間を掛けて空にする。
ややあって、その口からほうっとため息が吐き出された。

「どうだね、落ちついたかね?」

「はい、遥かに良いです……遥かに……」

「それで、何がコワイだって?」

「え、でも、こんな突然イラストを頂けるなんて…あと質問も…」

投稿担当者は拳を握りしめて言った。

「何かの陰謀ですよ、これは。我々が構われた事で調子に乗った所を、足元を掬おうとしている何者かの陰謀に違いありま――」

「オチツキタマエ!」

執筆担当者の怒号が、六畳半の執筆アジトに響き渡った。
投稿担当者はびっくりしてユノミを落とした。コブチャがタタミを濡らした。

「……キミは、そんな事でいちいち取り乱していたのかね」

「で、でも……」

「我々は何だね?」

「こ、鋼鉄なんとかの執筆チームです」

「そうだ。鋼鉄なんとかの執筆チームだ。その執筆チームが、作品に寄せられたイラストや、読者からの質問にいちいちビクついていて、何が出来る。
 まさかキミは、作品の投稿と読者へのアナウンスンーだけが自分の仕事だとでも思っていたのかね?」

鷹のような鋭い眼光で、執筆担当者は上から見下ろすように言う。投稿担当者は、しめやかに失禁しそうになったが我慢した。

「今すぐ投稿UNIXを立ち上げたまえ。そして、今から私が言う事を一時一句間違わずタイピングするのだ」

投稿担当者は恐怖した。この男の放つ圧倒的な人外の雰囲気に比べれば、あるかないかもわからない陰謀論など稚気じみたものに思えた。

「いいか、書きだしはこうだ――」

517執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/24(月) 22:04:26 ID:I0FdEFaw0
■親愛なる読者のみなさんへ■初秋■オカメコオロギ■

そう言うわけで私は今回、執筆担当者の言葉を預かってきております。
ミスタイプは許されないので、何時も以上に緊張しているがだいじょうぶ。自分をしんじよう。

先ずは、我々執筆チームがブログを持っているかという質問(>>512)について。

「かつて、Яebootが始まる以前の開拓時代は、そのようなものが存在したという事実はありますが、今現在我々はブログを持っていません。

 我々執筆チームは、パンクの意志を受け継ぐヒッピーめいて電子の海を漂う放浪の身であり、今後また新たにブログを開設する予定は今の所はありません。

 作中の用語整理など、必要性に駆られればその限りではありませんが、ツイッタアーの方の“从 ゚∀从鋼鉄の処女のようです”アカウントで事足りるだろう、というのがチーム内での一応の結論となっております。

 執筆チームの生態系については、我々はこれまで通り若干霞が掛った状態を維持する。何故ならそっちの方がクールだからだ」


続いて、今回頂いたイラスト(>>514)について。

「僕がこの鋼鉄なんとかを書いていて一番幸せな瞬間は何か?
 思うように筆が滑っている時か?ドラマツルギーの地平を垣間見た時か?
 どちらも合っているが、世の中にはもっと素晴らしい瞬間が他にある。
 即ち、読者の皆さんから作品への感想を頂いた時、そしてDIYなイラストを頂いた時、この二つだ。
 それは、僕のタイピングが紡いだお話にジャックインめいて没入してくれている人が居る、という事を確信する事が出来る実に幸福な瞬間だ。
 このイラストのドクオの厭世的な目は実に良い。キュートも実にキュートだ。ハインリッヒも含め、ポップな感じが出ていて可愛らしい。
 皆さんから頂いたイラストは、僕の中で未だ形となっていなかったキャラクター達の細かい所を、その都度補完していってくれている。
 これこそがDIYなんだ(彼は興奮を隠そうともせず熱弁を振るった)」


以上です。
これからも質問とかがあった時は、気軽にどしどしレスポンスンーをしよう。

我々はフレンドリーシップを重点します。なぜならそれもまたDIYの一側面だからです。

サラバダ!

518名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 22:05:14 ID:gbx9Ih0w0
フェイントかよ投下始めるのかと思ったじゃねえか

>>514
デフォルメいいな

519名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 22:15:53 ID:NNrnFjZY0
完成してからこのスレに貼ろうと思ったけど、コーヒー零してしまったので途中ですが貼らしてください・・・・・・
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_040.jpg

520名も無きAAのようです:2012/09/25(火) 00:04:28 ID:487wW8L6O
前見たけど あんたの描くハインも大人っぽくて好きよ・・・

521名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:46:54 ID:uOCgCGf20
絵支援
http://blog-imgs-55.fc2.com/r/p/b/rpbtkool/20120926233434eca.jpg

自スレにも貼ったものですが
厚かましくこちらにも
ブーン系の中で一番好きなハインです
これからも超応援しております

522名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:55:09 ID:uqL7DA0Y0
>>521これ好き
クールでいいね

523執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:30:13 ID:m7k0Y3tk0
あなたがたの知らない真実    執筆アジトの部屋には沢山の額縁があり、今まで寄せられてイラストが全て飾ってある。無論、これからもだ

524執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:31:33 ID:m7k0Y3tk0
◆ワッザ◆電気的介入な◆重点◆

525執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:35:24 ID:m7k0Y3tk0


        WATANABЁNTERTAIMENT PURODUCE


      サマーソニック・イン・アイアンメイデン

            金賞受賞作

526執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:37:49 ID:m7k0Y3tk0
0101■R010101AO塊IM■Solitaire (Single Version) --Carpenters http://www.youtube.com/watch?v=0tgfBabA1_U■01続■貴10?筒■01

527執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:38:58 ID:m7k0Y3tk0

 

0101010101101001010100100101101010
0101011011010100101011100100010011
0100100010111010101010011010010101
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※Now loading※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※
0101010100110101011010110100110110
0101101010110100110011010110100110
0101010101101010010101011010010101

 
.

528執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:39:45 ID:m7k0Y3tk0

………

……



insert disc to 「the October country」

///hava a nice dive!///

529執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:40:48 ID:m7k0Y3tk0

 

And solitaire's the only game in town

and every road that takes him takes him down

and by himself it's easy to pretend

he'll never love again

 

……Solitaire/Carpenters

530執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:42:09 ID:m7k0Y3tk0

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

    =Яeboot=


  「10月はため息の国」

 
.

531執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:43:42 ID:m7k0Y3tk0


 
 
           ///disc.1///

 

.

532執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:46:35 ID:m7k0Y3tk0

Prologue


――早朝六時の二分前。
  _,,,
_/::o・ァ「アサダョ、オキテ!オキ――グゲッ」

LEDのカメラアイをピンクに染めようとする鳥型ペットロイドの頭を鷲掴みにすると、私はアラームが鳴り出す前に布団を跳ね上げる。

o川*゚∀゚)o「おはようございます!!」

掌の中で“きゅう子”がペットロイドらしからぬ苦悶の電子音声を上げるが無視して埋め込み式クローゼットの前に移動。

o川*゚口゚)o「破ァッ!」

桜色の寝巻を刹那のうちにパージ。
生まれたままの姿でクローゼットを開け、昨晩用意していたチューブトップとホットパンツ、ニット帽を装着。

o川*゚ 3゚)o「トウッ!」

ワンステップで六畳半を横断し、窓際へ。
さくらんぼ柄のカーテンを引き開けた所で朝日と対面した私は、今日という一日への万感の思いを込め、高らかに告げる。

o川*゚∀゚)o「よぉぉおおし!今日は一日楽しむぞぉお!」
  _,,,_
/::o・ァ「アサダョォ…オキテョォ……」

握りしめたままの“きゅう子”が、ぐったりとした電子音声でそれに答えた。

533執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:49:19 ID:m7k0Y3tk0

#track-1


――最後のワンセンテンスを打ち終えてエンターキーを押すと、大きく伸びをする。
椅子の背もたれを鳴らしながら壁の時計を見上げれば、サクランボの絵柄が散らばる文字盤の中では、
今しもノッポとおチビさんがハグをしようとする所だった。

o川*う〜`)o「ふぁ…もう、こんな時間……」

動体ポインターを指先で操作してテキストを保存。
ホログラフ・ディスプレイを閉じてもう一欠伸。
単純計算すれば、ぶっ続けで三時間も原稿を書いていた事になる。
道理で、背骨が痛いわけだ。

o川*゚〜゚)o「んー…やっぱ、有線直結式の方に変えた方が良いのかな……」

机の上の、まな板にも似た情報端末(ターミナル)を見つめる。
ジャックインすれば、思考の速度がそのままタイピング速度に置き換わる。
作業効率を考えれば、そっちの方が遥かに賢いだろう。

賢いのだろうけれど。

o川*゚―゚)o「……」

ともすれば浮かんできそうになるあの光景を、頭を振って追いだす。
気が付けば、知らず、首筋の六角形を触っている自分が居た。

534執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:50:19 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「――っていうか、作業効率とか……乙女として、その思考はどうなのよ、私」

一昨年にGMN(グローバル・メディア・ネットワーク)を退職してきたからこっち、考える事が随分と増えた。
社会保険だとか、年金だとか、フリーランスというのもこれで中々楽では無い。
企業に属していなければ、小回りの利いた調査が出来ると思っていたかつての自分が、如何に世間知らずだったか。

o川*゚ー゚)o「タイムマシンがあるのなら、説教に行ってるとこだよ、ホント」

フリーランスとなれば、自分で仕事を取ってこないといけないと言う事だ。
人間は呼吸をするだけでもお金を消費する。
実際の所は、明日を食いつなぐ為に方々から仕事を取ってくる事に忙殺され、それどころでは無かった。

社会の闇を暴く正義のフリージャーナリスト、なんてものはムービーホロの中だけ。

現実は、カブキ俳優のスキャンダルを追っかけまわしては、カストリ電脳雑誌の編集者と、
原稿料の上がり下がりを掛けて不毛な暗闘を繰り返す毎日だ。

535執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:52:38 ID:m7k0Y3tk0
o川*;-_‐)o「なんだかなぁ……」

椅子から立ち上がり、六畳一間の自室を見回す。
サクランボ柄のベッドとステンレスの机を置いただけでいっぱいいっぱいの室内は、とてもうら若き乙女の部屋には見えない。
かと言って、フリーランスの出来る女のそれに見えるかというと、首をひねらざるを得ない。

o川*;‐д‐)o「はぁ……」

いまいちカッコよくはいかない。
等身大の私は、否定するにも肯定するにも、どうにも中途半端な所に居るようだ。

o川*゚ー゚)o「――でもま、自分でお休みが選べるのは良い所だ、ってことでここは一つ」

卓上カレンダーの中で自己主張する赤マル。
右にも左にも傾けないなら、傾けないなりにする事は沢山ある。

o川*゚v゚)o「よーっし、明日はしこたま買うぞー!」

小さくガッツポーズを作り、シャワールーム(無論バス・トイレ兼用)の扉を開ける。
独り言が多くなりつつある自分が居る事は、この際無視する事にした。

o川*゚ー゚)o「……」

……無視する事にしたったら無視にする事にした。

536執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:54:25 ID:m7k0Y3tk0

#track-2


――先ず、事を始めるにあたって私の“お気に入り”について話そうと思う。
私の日常には三つの“お気に入り”があって、これは他人から見れば凄くどうでもいいことなのだろうけれど、
私自身にとってこれは、私という人間を構成する上で非常に重要なパーツなのだと思っている。
いささか悠長なことではあるかもしれないが、少し語らせてほしい。
 _,,,_
/::o・ァ「キュキュキュ?キュゥ?」

一つ目は帽子だ。
ハット、キャスケット、キャップ、種類は色々とあるけれど、その中でも私はニットがお気に入りだ。
だるだるに伸びたニットを浅く被って、頭の後ろにびろーんと垂らすのが一番具合が良い。

オフの日は大体、ニット帽を被っている。
自宅が職場なフリーの身になった今は、寝るとき以外は四六時中ニット帽を被っている。
 _,,,_
/::o・ァ「ナンデ?ナンデソンナニスキナノ?」

何でそこまで好きなのか、と聞かれるといささか言葉に詰まるけれど、それが一番しっくりくるのだからしょうがない。
多分、頭を包みこまれているあの感触に、何かしらの安堵を感じるんだと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「フーン!アッソゥ!アッソゥナノ!」

二つ目はヘアゴムだ。
GMN(グローバル・メディア・ネットワーク)時代から、頭の両サイドでちょこんと髪を括るスタイルは私のトレードマークだった。
キュートと言えば、あの髪型だ、という感じでお茶の間の皆さんにも記憶していて貰えると自負している。
ニットの帽子を浅く被るのも、この髪型を崩さない為、というのが大きい。

537執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:55:29 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ソウナノ?ソウナノ?キューチャンシラナカタョ?」

ヘアゴムの方に話を戻そう。
ニット帽程ではないが、ヘアゴムについても私の拘りは深い。

先ず、でっかい玉の飾りがついていないと駄目だ。
子供っぽいと言われようが、これは変えられない。アイデンティティだ。譲れない。

次に……。
 _,,,_
/::o・ァ「ツギニ?」

あれ。

o川*゚ー゚)o「……思い返せば、それ以外に特に拘りとか無いや」
 _,,,_
/::o・ァ「……」

……まあいい。
兎に角、この髪型を崩さないことこそが、私のアイデンティティの形成に置いて非常に重要であると言う事だ。
 _,,,_
/::o・ァ「ヘー!ソウナンダ!ソウナンダ!」

o川*゚ー゚)o「……」

気を取り直して、最後の“お気に入り”に移ろうと思う。
三番目は、エア・ボードだ。
これは私の“お気に入り”の中では比較的歴史の浅いものに分類される。
エア・ボードを御存知無い方は少ないと思う。あの、小型反重力装置のついたスケボーみたいなやつだ。

538執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:57:09 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ソウナンダ!ソウナンダ!ヘー!ヘー!」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンシラナカッタナァ!ヘー!ヘー!」

o川*゚ー゚)o「……おほんっ」
 _,,,_
/::o・ァ「……」

フリージャーナリストとして独立してから、何かと自分の足に頼らないといけない場面が多くなってきた。
今までは緊急速報であっても、会社のバンなどで運んでもらっていたが、フリーとなるとそうはいかない。
 _,,,_
/::o・ァ「ハタラクジョシハツライネ!ネ!」

最初は自転車を利用していたのだが、如何せん体力がついて行かない。
速度的にも、小回りの面でも、エア・ボードに軍配が上がるのは、一度乗った事がある人になら分かっていただけるかと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「ソウハセイガシュゴィ!ゥンドーエネルギーコウリツモシュバラシィ!」

経済的にはバッテリーの充電だとかで結構割高ではあるが、矢張り利便性には敵わない。文明は偉大である。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンモブンメイノチョウジデスョ!キューチャンモネ!」

私が乗るエア・ボードは、ナノテック社の「ピクシーⅡ」のピンク色だ。
一世代前のモデルだけれど、ネットで調べたら最新型よりも燃費が良いと言う事で、こちらを選んだ。

デザインも、桜の花びらみたいで可愛かったし。

539執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:58:09 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「オトメテキニカンガミテ!カワィィハゼッタィソンシュ!キマリダネ!」

そんな訳で、外出時には常にエア・ボードのお世話になっている。

ニット、ヘアゴム、エア・ボード。
これが、わたくしキュートのアイデンティティたる三種の神器と言っても過言ではないだろう。
 _,,,_
/::o・ァ「ネェキューチャンハ?キューチャンハィッテナィョ?キューチャンチガウノ?チガウ?」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンサンシュノジンギチガゥ?ナンデ?ネェナンデ?キューチャン――」

o川*゚ー゚)o「お黙り」
 _,,,_
/::o・ァ「――グエッ」

o川*゚ー゚)o「……」

……おほんっ。
三種の神器、プラスアルファの「アルファ」の部分を紹介しようと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「キュキュキュ!キューチャンダ!キューチャンダネ?ソゥダネ?」

鳥型ペットロイドの“きゅう子”。
この子も、私の日常を語る上では外せないファクターだ。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンデス!キューチャンノトゥジョゥデス!ハイハクシュ!ハクシュシテ!」

540執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 01:59:39 ID:m7k0Y3tk0
この子との付き合いは、エア・ボードより少し長いかぐらいのものだったかと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「ォモゥ?キューチャンノホゥガナガィョ!ゼッタィナガィョ!」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ナガィトオモゥ…ケド、ドゥダッタカナァ…キューチャンワカンナィナァ……」

この通り、一見すると口やかましいだけのペットロイドに見えるが、それだけではない。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンハシュゴィョ!アンシカメラモソナェタジセダィノジョゥホゥツールナンダョ!」

本人(…本人?)が言う通り、“きゅう子”は元々は本場の技術を流用して作られた、ペットロイドに偽装されたスパイ・ドロイドだ。
一定の周波数だけを選んで拾う事も可能な高性能集音マイク。
熱センサーと光学センサーの切り替えが可能な小型ハイレゾ・カメラ。
等級こそアイアンメイデンのそれに劣りこそすれ、自己学習機能のついたAI。
合法、非合法を問わず、最先端科学の粋をこれでもかと詰め込んだこの子は、市場に出回っているものではない。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンハトクベツナンデス!オンリーワンナンデス!オーダーメィドナンデス!」

情報収集と言えば脳核インプラントで自身の視覚や聴覚そのものをサイバネ置換するという手もあるが、
乙女としてはその手のモノには抵抗がある。
何より、ペットロイド型という事で、人が入っていけないような狭い場所の調査や、
パパラッチを警戒する月九の女王を追跡する時なんかは、この子の存在がとても頼りになる。
 _,,,_
/::o・ァ「アガメタマェ!タテマツリタマェ!ケィィヲハラッテセッシタマェ!」

541執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:01:03 ID:m7k0Y3tk0
……最も、全てをこの子に任せられるかと言うと、そうでもない。
小型も小型な為、バッテリーはそこまで長くはもたないし、ハッキングを防ぐ為に、
敢えてスタンドアローンとして設計されているので、リアルタイムで映像を中継する事も出来ない。

なので、調査の際はこの子の他にも、この子が集めて来た記録を再生する為に、ハンディカメラも持っていく。
何より、ジャーナリストとして、カメラが無いというのは矢張り格好がつかない。

o川*゚ー゚)o「そう思わない?」
 _,,,_
/::o・ァ「ジャーナリズムハファッションジャ――」

o川*゚ー゚)o「そ、う、お、も、わ、な、い?」
 _,,,_
/::o・ァ「…ハィ…キュートチャンノィゥトォリダトオモィマス……ハィ……」

設計者に似たのか、時々生意気な口を聞く事もあるが、この子が頼りになる事は疑いようも無い。
寂しい夜の話し相手にならない事も無いし、何だかんだで私の相棒と言えなくもないのだろうか。

o川*゚ー゚)o「相棒…相棒、か――」

機械が相棒だなんて、まるで誰かさんみたいだ。

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ョ!ァィボゥ!タョリニシテルゼ!」

o川*゚ -゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ォーィ?ァィボゥ?ドーチタ?キューチャンノァィボゥサン?ドーチタノ?」

542執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:01:47 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「……ううん、何でも無い」
 _,,,_
/::o・ァ「ソゥナノ?ナンデモナィノ?セィリトカジャナィ?」

o川*゚ー゚)o「……おい」
 _,,,_
/::o・ァ「ゴメンネ!キューチャンジョークダョ!ユルチテネ!オチャメダカラネ!ネ!ネ!――グゲッ」

……ともあれ、一つ多くなってしまったが、これで私の“お気に入り”の紹介を終わろうと思う。
さあ、待ちに待った休日が始まる。

543執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:03:31 ID:m7k0Y3tk0

#track-3


――クリーム色に塗られた六角形の柱。
自分が住むマンションの外観を説明する時に、私は何時もそう答えるようにしている。

「コーポ・ミナミ」。
ニューソク区は8番街。
住宅街の真ん中に立つ、このクリーム色の建物の四階二号室が、今現在の私の“ネグラ”だ。

o川*゚ー゚)o「ネグラ、って響きはカッコ良いと思います」
 _,,,_
/::o・ァ「カッコィィ?カッコィィ?ェ?ェ?」

構造的な話しをすれば、それは見た目通り。
中央の吹き抜けに沿って渡された六つの辺の一つ一つにそれぞれ個室が割り振られ、それが六階建てで連なっている。
……ので、全部で36の世帯がここに暮らしている事になるのだろう。

「ハッ――ハッ――ハッ――」

今しもその36世帯のうちの1人が、朝もや煙る通りの向こうから走ってくる所だった。

o川*゚ー゚)ノシ「モナーさーん!おはようございまーす!」

(;´∀`)「ハッ――ハッ――ハッ――ア」

その場でジャンプしながら手を振る私に気付くと、彼はよろよろと片手を上げる。
少々前に突き出したお腹のお肉が、彼が脚を止めるのと同時にぷるるんっと揺れた。
彼を見ると、何故か私は中華マンが食べたくなる。どうしてだろう。

544執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:04:39 ID:m7k0Y3tk0
(;´∀`)「ハッ――ハッ――キューちゃん、おは――おはようモナ――ゼハァ――」

膝に両手をつき、息も絶え絶えに挨拶を返すと、モナーさんは首に巻いたスポーツタオルで顔の汗を拭った。
人の良さそうな丸顔は、有酸素運動の為にリンゴみたいに真っ赤っかになっている。

o川*゚ー゚)o「お疲れ様です!何時もこの時間はジョギングしてるんですか?」

(;´∀`)「そ、そうモナ――ハァ…ハァ…ほら、僕――ホフゥ…こんな体系だから…ブヒュゥ」

o川*゚ー゚)o「ダイエットってやつ?」

(;´∀`)「モナッ。もっと痩せて――見返してやるんだモナ――プフウ……」

モナーさんは、吹き抜けを挟んで丁度私の部屋の向かい側に住んでいる男の人だ。
越してきた当初は、こんな感じの見た目とあまり社交的と言えない性格も相まって、失礼ながら「アレ」な人だと思っていた。
それでも何だかんだと挨拶をかわして行くうち、誤解を招きやすいだけで、
性根はとても優しい人だと言う事が分かって、今では顔を合わせる度に長い立ち話をするだけの間柄にはなっている。
この前も、買い過ぎた干し柿を分けて貰った。実家からの仕送りだって。甘みが利いていて大変に美味しうございました。

o川*゚ー゚)o「見返す?」

(;´∀`)「っとと!こんな場所で立ち話をしている場合じゃなかったモナ!早いとこ準備しないと!」

o川*゚ー゚)o「バイトですか?」

(;´∀`)「モナッ!夜勤明けは店長の機嫌が悪いから、遅刻したらお目玉モナッ!」

545執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:05:52 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「コンビニっていうのも大変ですねえ」

(;´∀`)「モナ、モナ。なんか慌ただしくてごめんモナ。今度またゆっくり!」

フリーター、というのだろうか。
詳しくは分からないけれど、モナーさんは幾つかのアルバイトを掛け持ちする何かと忙しい身だ。
私が知っている限りでも、工事現場、コンビニ、居酒屋、フラワーショップ、とそのジャンルは多岐を極める。

資格だとかも沢山持っているらしく、スキューバダイビングの講師だとか、
危険物だとか、TOEICだとか、こないだは秘書検定なるものまで取ったと喜んでいた。
どうしてそんなに沢山の資格を持っているのに定職に就いていないのかは分からないが、きっと何か事情があるのだろう。

( ´∀`)「あ、そう言えばこないだ貰ったお米有難うだモナ!月末で厳しかったから助かったモナ!」

o川*^ー^)o「いいえー。何時も貰ってばっかりなのは私の方ですからー」

しゅたっ、と手を上げてマンションの玄関に吸い込まれて行くその背中に小さく手を振る。
どういった事情があるにしろ、頑張っているモナーさんの姿には、何時も何かと元気を分けて貰っている。
私も彼を見習って頑張らなければ。

o川*゚ー゚)o「……まあ、今日の所はゆっくりと羽を伸ばすんだけどね」
 _,,,_
/::o・ァ「ハネ?ハネ、ノビル?ノビナイョ?ゴムジャナィョ?」

今度また、お米の差し入れでも持っていこう。
胸の中で秘かに誓って歩きだす。
肩の上では、“きゅう子”が自分の桜色の羽をつついては、不思議そうに首を傾げていた。

546執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:06:58 ID:m7k0Y3tk0

#track-4


――午前八時に十四分前。
携帯端末を忙しなくいじるサラリーマンや、ヘッドホンを首から下げた学生の群れが、
私達(……達?)の横合いを、何かに追われるように駆け抜けていく。

未だシャッターが半開きのセンターアーケードの真ん中をぼんやりと歩きながら、
「そう言えば世間様は今日も通常運転だったか」などととりとめも無い事をぼんやりと考えた。

o川*゚ー゚)o「ちょっと前は私も毎朝あんな感じだったなー……」

目覚ましアラームに慌てて飛び起き、締切に追われたアニメーターの如く化粧を整えて、
腕時計を気にしつつリニアに飛び込み、車内で毎朝開催されるエクストリームおしくらまんじゅうのVIP大会を経て出社……。

今にして思えば、よくあれで身体がついて行ったものだ。若かったからか。

――いや、今だって十分若いし。花の二十代だし。ふざけんな。責任者出てこい。

(;><)「ぽ、ぽっぽちゃん待って下さい〜!く、靴紐が〜!」

(#*‘ω‘ *)「もー!ワカはどーしてそんなドンくさいっぽ!?ホンっと、しんじられないっぽ!」

益体も無い事を考えている私の横を、二人の小学生が忙しなく駆け抜けていく。
流石にあの二人の若さには負けるな、なんて考えながらも頬が緩むのを禁じ得ない。

547執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:09:27 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「くすっ、かわいい」

幼馴染とか、そういうのだろうか。
私を追いぬいた所で靴紐を結ぶ為にしゃがみ込んだ少年に、気の強そうな少女がランドセルを揺すって可愛らしい嫌味を吐き出している。
少女が何か言う度に、彼女の首から下がった銀色のチョーカーが陽光を反射してキラキラと光った。

(#*‘ω‘ *)「ぐず!のろま!ぐどん!ろどん!しゃかいのおにもつ!
あんたみたいなのがプロジェクトのあしをひっぱるって、パパが言ってったっぽ!」

……いや、可愛らしい嫌味というのは訂正しておこう。今時の小学生こわっ。
どこでそんな言葉覚えて来るのよ。インターネッツは規制すべきだと思いました。

( 。><)「そ、そんなこと言ったって〜」

男の子も半泣きだし。私が教師だったら、言葉のナイフは無闇矢鱈に振り回したらいけませんと教えている所だ。
ナイフを抜くのは、確実に相手を殺せると確信した時だけだ。

(#*‘ω‘ *)「ほんっと〜あんたはわたしがいないとなにもできないっぽね〜……」

ため息をついて、少女が妙に大人ぶった仕草で「やれやれ」と首を振る。
何だかんだと憎まれ口を叩いているが、少女の目元には優しげな表情が浮かんでいた。

(*‘ω‘ *)「はぁ…二分だけまつっぽ。それ以上経ったら置いて行くっぽ」

腕組みをして「いーち、にー」とカウントダウンをする少女。
だが、きっとこの子は二分が経っても少年を置いて行ったりはしない。

恐らくは小学6年生くらいかと思われるが、この歳で既にその域に達しているのは凄い。
きっと、将来的には駄目な旦那の尻を蹴飛ばして顎で使う肝っ玉カーチャンになっている事だろう。

548執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/09/29(土) 02:10:26 ID:m7k0Y3tk0
(*‘ω‘ *)「ひゃーくいち、ひゃーくに」

(。><)「ロスタイム!ロスタイムをください!」

o川*゚ー゚)o「……」

その時まで、この二人の仲が続いていますように。
余計なおせっかいだろうが、胸の中で居るか居ないかも分からない神様に祈っておいた。

(*‘ω‘ *)「はい、ロスタイムしゅうりょうー。じゃ、そういうことで私はお先に」

(。><)「ま、まってください〜!」

o川;゚―゚)o「……」

……結局待たないのかよ。
私の祈りを返せ。返して下さい。ちょっとなんか惨めです。

o川*゚ー゚)o「……はぁ」

ため息と共に苦笑を浮かべると、背中のエア・ボードを担ぎ直して歩きだす。
そう言えば、私の子供時代はどんなだっただろう。

自分では、概ね人並みの子であったとは思っているけれど、それが真に客観的なものだという確証は無い。
高校の頃の友人は、「キュートって話しやすいよねー」と言っていた。
中学二年の頃、斜め後ろに座っていた守山さんは「キュートさんって男子にモテるよね…ねたま、羨ましい」と言っていた。
母親は、「あんたのおへそがボリューム調節のつまみだったらいいのにね」と言っていた。


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