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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです

1名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:47:16 ID:U5Z4bAHs0

潮の香る港に、日本人とはかけ離れた二人の男が降り立った。

ここ、小樽の港には日本人以外にも出稼ぎにきたロシア人も多く、
外国人はそう珍しいものでもなかったのだが、
二人の異色は際立っている。

( ´_ゝ`) 「いやー気持ち悪かったなー。揺れる揺れる。
       船旅ってのはどうにもすかんね、俺は」

2月末とはいえ雪のまだ積もるこの土地で、
極彩色の派手なアロハシャツを羽織り、麦わら帽子を被った短パンの男と、

(´<_` ) 「アニジャ、静かにしろ。任務中だ。目立つ様な真似はするな」

対照的に、どこに売っているのかもわからない、
足首まで丈がある、フード付きの真っ青なローブをきた男の二人組。

( ´_ゝ`) 「はいはーい、わかってますよオトジャくん。
       そんじゃ、粛々と静かーに会話もなく黙々と目的地目指しますか」

アニジャ、と呼ばれたアロハ男は軽く手を振るだけで、
なんら悪びれもせずに歩き出す。

その背をオトジャというローブの男が追い、

(´<_` ) 「分かったのなら行動で示してくれ」

愛想の無い口調でそうたしなめた。
目を引く二人ではあるが、港を少し離れていくと車道を走る車ばかりで、
人通りは少なくなっていき、彼らを気に掛けるものはいなくなった。

309 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:34:06 ID:TimGRJiI0

(,,#゚Д゚) 「退け! 木偶めッ!!」

構わずに干将莫耶を左右から振るおうとするが、
割り込んできたセイバーによってそれは止められてしまう。

疾走の速度を乗せた刃は、あっさりと絡め取られセイバーの手に移る。

<人リ゚‐゚リ 「……」

少女は何も口にはせず背で語る。

干将莫耶を構え蒼のプレートアーマーを纏う、
この少女にしか見えぬ英雄は、バーサーカーとの戦闘を受け持とうと言うのだ。

いや、それだけではない。

ここで合力してバーサーカーの排除に当たるか、という問いも与えられている。

310 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:35:35 ID:TimGRJiI0

(,;゚Д゚) 「くっ……」

今回は円山にシィを探しに来たのみであったが故、
このバーサーカーのような規格外の化物を倒しきれる礼装はない。
並大抵のサーヴァントならまだしも、耐久にこれほど優れる者では手古摺るだろう。

よって、セイバーと共同してバーサーカーを討つことは、
死徒による新たな被害者を生むのみであろうと判断し、ギコは駆け出した。

クーを狙撃した者は一体何者だろうか、という疑問もある。

ある人物の姿が一瞬、頭にちらついた。

あの男であるのならば――――


恋人の仇に宿敵。

両者を一辺に相手取る覚悟をして、ギコは夜の街を走り抜ける。
その背後で、黒と蒼の輝きが再び乱舞を始めていた。

夜の静粛などもはや、どこにも存在しない。

時を超えて現れた英雄と魔術師によって、札幌は今や乱世と化していた。

311 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:40:58 ID:TimGRJiI0

******
  _
(;◎∀゚) 「なっ、馬鹿な! 急所のはずだぞッ!?」

戦場となった場所から2km程離れたビルの上、
灰色に淡い青色などを塗り、都市迷彩を施した布を被ったジョルジュは、
バレットM82A1という狙撃銃のスコープを覗いたまま驚嘆した。

M82A1は1mを優に超える長大なライフルであり.50BMG弾を使用する。
これは現行機関銃弾最大の口径であり、コンクリートを障子紙のように貫く威力を持つ。

2km先の装甲車を撃破したという逸話を持つほどの銃だ。

ただの狙撃銃などではなく、あまりに過剰すぎる威力から、
国際条約で人に対して使用するのを禁ぜられており、"対物狙撃銃"というカテゴリーに属する。

そんな桁違いのライフルによる狙撃を頭部へ受ければ、即死してしまうことだろう。
無論、ジョルジュもそう確信しており、つい先程まで対象は死亡したものだと思っていた。
頭部を粉微塵に吹っ飛ばされて生きていられる者などいるはずもない。

しかし、狙撃された対象は跡形も無くなった頭部をまた生やして見せた。
聞けば冗談だと笑い飛ばすような突飛もない話だが、ジョルジュは現にその様子を目に焼き付けていた。

信じられないのは当人とて同じである。

312 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:42:27 ID:TimGRJiI0

すぐさまジョルジュは第二射へ移ろうとするが、
何せ発射煙が凄まじい為に、ターゲットをスコープの十字線へ収めることは困難だった。

M82A12を使用した後に生じる煙は、
緩やかな気候の土地で使用しても通常の狙撃銃の比ではないが、
何せ雪国で発砲した為、周囲の冷気が火薬の燃焼により発生した煙との温度差から、
通常よりも多くの発射煙が湧き出てきて、更にジョルジュの視界を悪化させる。

この悪状況がジョルジュの焦りに拍車を掛けた。

―――あの女だけは決して生かしてはおけない。

アサシンを連れて円山内へ巡回に出たところ、発見出来たのは僥倖であろうか。
ジョルジュは、二度と出会うこともないだろう女を見かけたその瞬間から、彼女の抹殺を決意していた。
彼のボスであるドクオにその存在を知らせるわけにはいかないのだ。

ましてや、対面させるなど言語道断である。

もしそんなことがあれば彼は躊躇うだろう。揺らぐだろう。
折れはしないが、己の理想を捻じ曲げてでも女を救うはずだ。
共に聖堂協会を抜け出して傭兵稼業を始めたほどの付き合いだ。

ジョルジュには、いともたやすく想像のつくことであった。

救いたい者がいれば、彼は何処へだって向かうのだ。
そこに、どんな困難や苦痛が待ち受けていたとしても。

どんな手段を使ってでも彼は救う。

313 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:43:38 ID:TimGRJiI0

人は彼を大悪党とも英雄とも呼ぶように、評価は両極端である。

誰よりもドクオは人間でありすぎるのだ。聖人君子などとは程遠い。
弱さも強さも持つ、魔術と戦闘の術に少しだけ長けるだけただの人だ。

そんな彼だからこそ、支えてやらねばと人が集った。

ジョルジュ自身は、彼に付き異端を片っ端から狩れれば良いのだが、
ここで動揺されてしまえば目的の達成が危うくなる。

発射煙が晴れていくまで、やけに長く感じられた。

「人ならざる者に、そんな玩具が通じるものかね?」

ふと、背後より声を掛けられた。
  _
(;◎∀゚) 「黙れアサシン、黙って敵に備えていろ」

彼のサーヴァントとなったアサシンは、少々おしゃべりが過ぎる。
腹立たしさに拍車をかけられ、つい引き金にあてた指へ力がこもりそうになった。

敵はまだ見えない。

あの再生能力から、死徒となったのであろう女相手に、
現代兵器などでは心許ないが無駄弾は避けたい。
何より、こちらの位置を探る材料をこれ以上与えたくはなかった。

314 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:44:37 ID:TimGRJiI0

|/▼) 「いや、私は何も言っていないが?」

霊体化を解いて隣に現れたアサシンの言を聞き、ジョルジュの心は乱れた。
  _
(;゚∀゚) 「はっ!?」

思わず背後へ振り返るも、夜空と暗闇に包まれた街並みが見えるだけだ。

「アンタらはよく訓練され武器も揃っているが、束ねる者は如何なものか?
 感情のままに生きる、人間らしい生き方かもしれぬが、果たして王たる器と呼べるか?」

もう一度、振り返る。虚空へと。

( <・>w<・>) 「テメエの待望を託すに、相応しき人物なのかね?」

先程まで自分が見ていた場所、狙撃位置にそれはいた。

宙に浮かんでいるそれは、奇妙と表現する他ない。
人のような外見をしているが人ではなく、足には蹄があり、
細長い顎鬚の生えた面などは人間だが、二つの角が額から伸びている。

極めつけは、背についたコウモリの黒い翼だ。

悪魔である。

聖堂協会の代行者を勤めていたジョルジュは、経験から即断した。
発見から引き金を引くまで、1秒とかからなかっただろう。

しかし、突如として現れた悪魔の姿は霧のように消えていき、

315 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:45:46 ID:TimGRJiI0

川#゚ -゚) 「――――――――ッ!!」

代わりにいつの間にか接近してきた女、クーが現れた。

弾丸が放たれる刹那、宙に飛び上がった彼女はM82A1の銃身を片手で押しのけ、
弾丸は明後日の方角へ飛んでいき銃声が虚しく響く。
  _
(;゚∀゚) 「テメェッ!?」

唐突すぎるきらいはあったが、積み重ねてきた経験から、
ジョルジュが取る行動は迅速そのものだった。

銃を捨ててバックステップを行い、身に纏った蒼い僧衣とコートから、刃のない剣を取り出す。
両手に三つずつ掴んだかと思えば瞬く間に柄から先が出現した。
左右に六つ伸びた、黒鍵という剣を構えた様はまるで異様に長い爪のよう。

十字架を模したそれは切れ味こそ鈍いものの、霊的な干渉力に関しては優れている為、
悪霊や悪魔といったものと戦う代行者にはおあつらえ向きの武器である。
霊体であるサーヴァントに対しても、いくらかは有効だ。

もちろん、死徒に対しても同様である。

ビルの屋上に着地したクーと、ジョルジュは対峙した。
相手の隙を伺うという真似をするようなクーではない。
真っ先に駆け出し、右手を翳すと雷となって魔力が放たれる。

亜光速に達する指向性を持った魔力は雷鳴を響かせ、
身を屈ませたジョルジュのコートの肩を焼け焦がしていく。

316 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:46:51 ID:TimGRJiI0

間一髪で避けたように思われたが、それは本命などではない。
陽動にしか過ぎず、クーは息つく間もなくジョルジュに飛びかかった。

無論、容易に接近させるジョルジュではない。
  _
( ゚∀゚) 『jesus―――christ』

魔術の基礎中の基礎、強化の術を使用し、
代行者として鍛え上げられたジョルジュの肉体は今や、音速の世界の住人となっていた。

肉体のみならず視神経に反射神経をも強化した彼は、
光速で移動する物体すらも捉えられる。
ジョルジュは魔導の素養には恵まれてはいなかったが、強化だけは行えた。

唯一使用出来る魔術をドクオと出会ってから鍛えに鍛え、
既に極めたと言ってもいいレベルに達していた。

生死をかけた戦場を行き来してきたことで、磨きぬかれた集中力による賜物である。

突っ込んできたクーを避ける必要などはない。
ただ、右の膝を突き出してやるだけでことはすむ。

ジョルジュの膝蹴りが炸裂するかと思われたその時、クーは突如として宙を舞った。
それも不自然に、まるで重力が逆さになったかのように、
足が天へ引っ張られたかのようなアクロバティックな動きでだ。

膝蹴りを空振り、隙の出来た背後に回ったクーは、脇腹から臓物を引き出すべく左手を繰り出す。

317 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:47:50 ID:TimGRJiI0

|/▼) 「……」

が、更にその背後から音もなくアサシンが現れる。

気配遮断スキルによって隠密行動をとっていた彼は、この時を待っていたのだ。
クーが魔術を囮に使ったように、ジョルジュもまた自ら囮になったのだった。

雪のように美しき首筋へ、アサシンの抜いた両刃剣が喰らいかかるも、
それは何らかの力を受けて虚空を割くのみに留まってしまう。

|/▼) 「魔術か、面妖なッ」

危険を感じ、アサシンは深追いせずにジョルジュの傍へと身を転がせていく。
ビルの縁に足がかかり、ふと背後を伺った。

すると、

(,,゚Д゚)

以前のマスター、シィに見せられた写真の男がバイクに跨って走っていた。
深夜に、もはや人気の無くなった通りをひた走る彼は、
千里眼を持たぬアサシンの目にもはっきりと映る。

こちらへ向かっているとなれば、尚更だ。

|/▼) (シィによれば、あの男もマスターのはず。
    あれがセイバーのマスターか。あの女がバーサーカーを連れていないということは、
    セイバーに足止めでも食らっているのか? 令呪を使用すれば、一瞬だが……)

318 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:49:03 ID:TimGRJiI0

思考を巡らせ、どの対処法が最も効率が良いか、
暗殺者の論理から解を導き出そうとするアサシン。

両者とも、サーヴァントを連れぬマスターだ。

ならば、サーヴァントであるアサシンに対抗できるわけもない。

|/▼) 「マスター、新手だ。セイバーのマスターが来るぞ」
  _
( ゚∀゚) 「マジか、だったら―――」

|/▼) 「私が仕留めてこよう。その間、お前にこの女を任せるぞ」

ギコがやって来ぬ内に、早々にクーを片付けてしまおう。
そう続けようとした己のマスターに有無を言わせず、アサシンは縁の上へ立った。
  _
(;゚∀゚) 「なっ! ちげぇだろ!!」

クーから目は離さぬまま荒い口調でジョルジュは言うが、
アサシンは自分の力量に絶対の自信があるらしく、既に行動を開始していた。
  _
(;゚∀゚) 「待―――」

瞬間、轟と音が走り、雷がジョルジュを貫かんとして言葉を遮られてしまう。

間一髪で避けるものの、視界の端にはアサシンがビルから飛び降りる姿がちらつき、
クーへの集中力が削がれてしまう。

319 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:49:44 ID:TimGRJiI0

元から、強引に鞍替えをさせたサーヴァントである。

令呪によって服従を強いているが、効力は薄く、
そう易々と言うことを聞いてはくれぬだろう。

半ば諦めにも似たような想いで、ジョルジュはクーとの戦闘を続行していく。

一方のアサシンはと言えば、傍から見れば身投げをしているようにしか見えなかったであろう。
両腕を大きく広げ、およそ30m程の高度から飛び降りる者など自殺者そのものである。
しかし、彼の優雅ささえ感じさせる鳥のようなポーズを見れば、その印象はがらりと変わる。

ギコとの距離は、既に40mにまで縮まっていた。

大型スポーツ車のバンディットのエンジンをもってすれば、
あっという間にビルにまで辿り着くはずだ。

投げ出されたアサシンの身は夜空へ溶け込み、目標へと接近していく。
凍てつくような風が頬を刺し、白いローブは荒々しく翻る。

ビルの高度と己の体重から割り出した落下予測地点と、
ギコのバイクの速度から想定した通過地点は重なっており、その計算は恐ろしい程正確だった。
既に、ギコの首筋が彼の目にはっきりと映し出され、手を伸ばせば届く位置にまで来ていた。

ギコはクーのいるビルへと血走った目を向けている為、アサシンの接近にまだ気づいていない。

|/▼) (仕留めた)

籠手に仕込まれた小刀が腕を突き出すと共に飛び出し、
ギコの首へとその切っ先が叩き込まれていった。

320 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:54:34 ID:TimGRJiI0

第六話 「jesus――――christ」part 乱世エロイカ4 



アーチャーとライダーのステータスを第五話で表記しようとしたのですが、
忘れていた為、おまけという形で投下します
ついでに、おさらいとしてランサーとアサシンも並べておきます

321 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:56:14 ID:TimGRJiI0

【クラス】アサシン |/▼)
【マスター】長岡ジョルジュ
【真名】ハサン・サッバーハ 
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 魔力E 敏捷B 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
           サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
           ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
         
【保有スキル】投擲(短刀):B
         短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。

         風除けの加護:A
         中東に伝わる台風避けの呪い。


【ランサー】 目,`゚Д゚目
【マスター】穏田ドクオ
【真名】???
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B  耐久C 敏捷A++ 魔力D 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】耐魔力A
            Aランク以下の魔術をキャンセル。

【保有スキル】直感B
         戦闘の"流れ"を読むことの出来る能力。
         敵の攻撃をある程度予測することも出来る。
    
         騎乗D
         騎乗の才能。馬であるならば人並み以上に乗りこなすことが出来る。
         知識を与えられれば現代の乗り物を扱う事も可能。

322 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:57:52 ID:TimGRJiI0

【クラス】アーチャー (<`十´>
【マスター】内藤ホライゾン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力C 耐久B 魔力D 敏捷B 幸運A 宝具A++
【クラス別スキル】単独行動A
         マスターからの魔力供給が無くなっても現界していられる能力。
         ランクAならば五日間は行動可能である。

         耐魔力C
         第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。

【保有スキル】千里眼C
         純粋な視力の良さ。遠距離視や動体視力の向上。
         高いランクの同技能は透視・未来視すら可能にするという。        
         
         猟師の手腕A
         残留魔力や魔力の痕跡を元にサーヴァントの動きを把握する追跡術。

         不可視の死神A
         霊体化している時は気配が遮断され、マスターにしか感知出来なくなる。
         しかし魔力供給のパスが切れるとマスターにも把握出来なくなってしまう。


【クラス】ライダー ( ゚_ノ゚)
【マスター】津出ツン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力C 耐久A 魔力E 敏捷D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】対魔力D
         一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
         
         騎乗A
         幻獣・神獣クラスを除く全ての獣、乗り物を乗りこなす事が出来る。

【保有スキル】破壊王A+
         敵を倒すたびに全ステータスが1ランク上昇していく。
        
         戦闘続行A
         瀕死の傷でも戦闘可能。決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

323 ◆IUSLNL8fGY:2012/10/31(水) 23:59:53 ID:TimGRJiI0
宝具と真名は本編の進むと明らかになるという感じで

今回は投下これで終わりです
大幅に遅くなってしまい申し訳ありませんでした

次回は11月末に投下する予定です

324名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 00:44:42 ID:cR45g.z2O
乙、安定して面白い

ところで、この話は元ネタであるフェイトとの繋がりはあるの?
真祖とか、一応型月らしい話は出てきてるけど……

325 ◆IUSLNL8fGY:2012/11/01(木) 01:23:14 ID:DXl/paDA0
>>324
fateとは繋がりがありません
設定を使わせて頂いているだけです

色々と繋がりがあるんじゃ?という所が多々ありますが、
そこは物語が進んでいくにつれて、疑問が解消されるかと思います
真祖については、死徒という設定を説明する上で必要だと判断したので記述しました

326名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 01:32:37 ID:cR45g.z2O
>>325
なるほど、つまり型月の世界観にブーン達を放りこんだって感じなのね
判りやすい説明をありがとう

327 ◆IUSLNL8fGY:2012/11/01(木) 01:36:34 ID:DXl/paDA0
>>326
あ、その説明が一番簡潔で分かりやすいです
こちらこそありがとうございます

328名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 02:26:42 ID:CO0TiRXM0
交信が楽しみですわ

英霊のまなよそくとかは控えた方がいい?

329名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 07:05:46 ID:3A2cL9..0
ライダースキルランク底上げとかやべぇなwww

330 ◆IUSLNL8fGY:2012/11/01(木) 10:38:50 ID:DXl/paDA0
>>328
真名や展開の予想はおkですよ
投下まで時間がかかるので、待ってるまでの間どんどんやってください

331名も無きAAのようです:2012/11/02(金) 15:08:04 ID:JijkyPyg0
>>330
おk、把握。
とはいってもほとんど分かってないけど。
とりあえずアーチャーはシモ・ヘイヘだと思う

332名も無きAAのようです:2012/11/02(金) 16:57:26 ID:QmC3C5YoO
アチャとランサーは判るけど、ライダーが全く判らない
ワルサーやら敬礼やらでドイツ軍って事は判るけど
スキル的に戦車かUボート乗り?

言動からして、ナチっぽくは無いんだよね

333名も無きAAのようです:2012/11/02(金) 19:00:31 ID:BYnBUXMs0
やっぱりあれじゃないの

ルーd

334名も無きAAのようです:2012/11/07(水) 21:48:13 ID:SiCVK5jE0
( <・>w<・>) これもサーヴァントかな

335名も無きAAのようです:2012/11/10(土) 11:06:15 ID:EFQInQtY0
悪魔だって書いてあったよ!

336 ◆IUSLNL8fGY:2012/11/27(火) 01:53:47 ID:G7Pq2aBk0
申し訳ありませんが、今月末の投下は難しそうです
ですので予定を変更して12月の8日か9日あたりに投下したいと思います
度々遅れてしまって申し訳ありません、必ず完結だけはさせますので、どうかしばしお待ちを

337名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 07:25:58 ID:fWWrVuoEO
Vitaでステイナイトしながら待ってるよ

338名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 21:44:48 ID:mXLUZPNc0
遂に今日か・・・

339名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 22:23:39 ID:ncdL14qg0
来るか……

340 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/09(日) 23:32:36 ID:o.JuIvjw0
すまない……バイトが予想以上に立て込んでしまい間に合わなかった。
申し訳ないがこの際、12月24日まで延期させてもらおうと思う。
上手くいけば2、3話書きためられてpart乱世エロイカの終わりまで書けるはず。

本当にごめんなさい。

341名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 23:36:48 ID:ncdL14qg0
おk、把握。ムリしないで下さいねー。待ってます。

342名も無きAAのようです:2012/12/10(月) 00:13:24 ID:bfrvo0Wk0
報告だけでもありがたい
クリスマスプレゼント待ってる

343<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>

344 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/21(金) 23:47:12 ID:dh/5vEkw0
アルバイトが忙しく、なかなか時間が取れないが、24日に必ず投下させて頂く。
途中からながらになるかもしれないが、必ず投下させて頂く。

345名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 23:59:45 ID:3OCDKS4.0
投下してくれるのはもちろん有難いが、あまり気負い過ぎずに楽しく投下してれれば良いと思うよ

346 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/22(土) 22:43:19 ID:je3G2qoA0
暖かいお言葉をありがとうございます
ながらでも楽しんで投下出来ればと思っております

347名も無きAAのようです:2012/12/22(土) 23:06:59 ID:BzmwS2.gO
俺、伏古六条五丁目に住んでたよ(笑)伏古公園でマラソン大会したわ


作者がんがれ

348名も無きAAのようです:2012/12/24(月) 00:59:36 ID:.p1nYNcE0
わくてか

349 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:11:25 ID:Se0v3M7c0

******

空気が張り詰めていた。

冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。

歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。

( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」

ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」

ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。

状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。

むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。

それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。

このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。

350 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:14:23 ID:Se0v3M7c0

ただ、その判断をツンは下せずにいた。

望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。

彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。

追撃か、傍観か、撤退か。

いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。

目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
       恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」

反面、ツンは焦っていた。

状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。

鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。

ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。

咆哮を耳で聞いた。

351 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:15:21 ID:Se0v3M7c0

目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
       出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」

忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず怒声を浴びせたのだ。

このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。

選択が迫られている。

あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。

ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。

取るべき行動方針は四つのいずれか。

第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。

第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。

第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。

愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。

352 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:16:21 ID:Se0v3M7c0

では、残る第四の方針とは――――

何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。

目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」

怒声が上がった。

ついにランサーが動き出す。

ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)

反射的に叫びそうになるツンだったが、

(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
      貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」

ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。

そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。

――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。

ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」

先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。

353 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:17:02 ID:Se0v3M7c0

(;^ω^) 「ッ!?」

槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。

ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」

白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。

ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。

しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、

ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
        盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
        仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」

それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。

ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」

ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。

354 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:18:36 ID:Se0v3M7c0

ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。

      ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」


途端、空が割れた。

この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。

目,`゚Д゚目 「ッ!?」

尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。

死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。

放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。

中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る十五の弾丸がランサーを狙う。

355 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:19:16 ID:Se0v3M7c0

しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。

鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。

と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。

するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。

夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。

            グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。

かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。

その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の敏捷性を活かして逃れるが、

356 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:19:58 ID:Se0v3M7c0

目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」

頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。

ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、

      ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」

金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。

巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。

月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。

――――ユンカース Ju-87

通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。

それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。

357名も無きAAのようです:2012/12/24(月) 23:21:22 ID:noZfhVJE0
うはきてる!

358 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:21:38 ID:Se0v3M7c0

火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。

更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。

目,`゚Д゚目 「笑止」

爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴足りとも流されてはいない。

(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」

全くの無傷である。

(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」

流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」

(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」

複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。

359 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:22:25 ID:Se0v3M7c0

魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。

(;^ω^) 「おぉーんッ!?」

照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。

地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。

(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」

公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。

攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。

謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。

硬い、金属質な音だ。

アーチャーはそれを騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。

黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。

360 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:23:09 ID:Se0v3M7c0

目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」

漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。

先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。

何という槍捌きか。

この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。

彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。

高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。

第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。

鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。

槍術の究極系が、そこにはあったのだから。

361 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:24:11 ID:Se0v3M7c0

まさに神武と言えよう。

ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。

目,`゚Д゚目 「では――――」

( ゚_ノ゚) 「ッ!」

(<`十´> 「……」

ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。

(;^ω^) 「おっ……」

雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。

ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――

362 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:25:05 ID:Se0v3M7c0

目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」

先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、

(;^ω^) 「おぉっ!?」

ブーンの左足から血の花が咲いた。

(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」

彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。

(<`十´> 「狙撃か」

この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。

363 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:26:01 ID:Se0v3M7c0

( A )

背格好からして男であろう。

既視感を覚える姿であった。

ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。

――――あれはたしか昼間に。

角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。

相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。

が、しかし。

目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」

ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれていく。

(;<`十´> 「ちっ」

もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。

銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。

364 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:28:34 ID:Se0v3M7c0

ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。

先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。

敵は、ずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。

あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。

ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。

(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
      これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」

サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。

(<`十´> 「7.62……NATO弾……」

敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。

―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。

などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。

(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)

365 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/24(月) 23:30:10 ID:Se0v3M7c0
第七話前編、ここで終了です。
26日が休日なので続きはその日に。
明日も仕事があるので今日はここで切らせてもらいます。すいません。

366名も無きAAのようです:2012/12/24(月) 23:38:06 ID:noZfhVJE0
乙ー

367名も無きAAのようです:2012/12/24(月) 23:52:44 ID:u602xFKsO
乙ー
ライダーはエーリヒ・ハルトマンかと思ったけど・・・
そういえばこっちもチートだわな・・・

368名も無きAAのようです:2012/12/24(月) 23:55:33 ID:Se0v3M7c0
乙ー
ブーンこれでいいのか……主人公……

369名も無きAAのようです:2012/12/25(火) 00:02:46 ID:ThT8KJC60
乙乙!

370名も無きAAのようです:2012/12/25(火) 00:23:36 ID:xQnRz6A.0
乙ー
ライダーの歴代相棒達も出ないかなー
このランサーさんって1万人相手に無傷だった人だよね・・・?

371 ◆IUSLNL8fGY:2012/12/27(木) 22:40:56 ID:79dFdAXY0
すまん、昨日は寝落ちして投下できなかった
明日も早いので今日はもう寝るが
明後日には出来れば投下しようと思う

372名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 00:23:12 ID:PHHb2tpY0
あけおめー
投下待ってるよー

373名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 23:24:27 ID:/Hw.cJIo0
どうせ言った日に投下しないんだし報告いらね

374名も無きAAのようです:2013/01/11(金) 02:28:37 ID:Sm8VdI6Y0
投下はよ

375名も無きAAのようです:2013/01/11(金) 22:24:29 ID:JOYM5TYU0
生存報告だけでも・・・

376名も無きAAのようです:2013/01/18(金) 23:52:30 ID:wJf4x7u.0
投下マダー?

377名も無きAAのようです:2013/01/28(月) 21:41:56 ID:ew.Lsz1Q0
もう1ヶ月か

378名も無きAAのようです:2013/01/28(月) 23:34:34 ID:vJNk1RScO
のんびり待つさ

379名も無きAAのようです:2013/02/02(土) 14:31:48 ID:RP.JQISQ0
ギコかっけえ

380 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:13:34 ID:1oiKVfdg0

******

空気が張り詰めていた。

冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。

歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。

( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」

ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」

ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。

状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。

むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。

それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。

このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。

381 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:14:16 ID:1oiKVfdg0

ただ、その判断をツンは下せずにいた。

望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。

彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。

追撃か、傍観か、撤退か。

いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。

目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
       恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」

反面、ツンは焦っていた。

状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。

鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。

ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。

咆哮を耳で聞いた。

382 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:15:17 ID:1oiKVfdg0

目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
       出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」

忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず、怒声を浴びせたのだ。

このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。

選択が迫られている。

あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。

ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。

取るべき行動方針は四つのいずれか。

第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。

第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。

第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。

愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。

383 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:16:50 ID:1oiKVfdg0

では、残る第四の方針とは――――

何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。

目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」

怒声が上がった。

ついにランサーが動き出す。

ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)

反射的に叫びそうになるツンだったが、

(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
      貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」

ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。

そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。

――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。

ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」

先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。

384 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:19:18 ID:1oiKVfdg0

(;^ω^) 「ッ!?」

槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。

ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」

白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。

ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。

しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、

ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
        盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
        仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」

それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。

ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」

ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。

385 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:20:41 ID:1oiKVfdg0

ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。

      ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」


途端、空が割れた。

この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。

目,`゚Д゚目 「ッ!?」

尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。

死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。

放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。

中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る15の弾丸がランサーを狙う。

386 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:21:54 ID:1oiKVfdg0

しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。

鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。

と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。

するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。

夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。

                グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。

かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。

その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の俊敏さを活かして逃れるが、

387 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:24:35 ID:1oiKVfdg0

目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」

頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。

ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、

      ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」

金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。

巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。

月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。

――――ユンカース Ju-87

通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。

それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。

388 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:26:39 ID:1oiKVfdg0

火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。

更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。

目,`゚Д゚目 「笑止」

爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴たりとも流されてはいない。

(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」

全くの無傷である。

(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」

流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」

(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」

複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。

389 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:28:24 ID:1oiKVfdg0

魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。

(;^ω^) 「おぉーんッ!?」

照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。

地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。

(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」

公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。

攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。

謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。

硬い、金属質な音だ。

アーチャーはそれをこの騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。

黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。

390 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:32:36 ID:1oiKVfdg0

目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」

漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。

先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。

何という槍捌きか。

この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。

彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。

高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。

第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。

鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。

槍術の究極系が、そこにはあったのだから。

391 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:34:15 ID:1oiKVfdg0

まさに神武と言えよう。

ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。

目,`゚Д゚目 「では――――」

( ゚_ノ゚) 「ッ!」

(<`十´> 「……」

ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。

(;^ω^) 「おっ……」

雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。

ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――

392 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:37:41 ID:1oiKVfdg0

目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」

先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、

(;^ω^) 「おぉっ!?」

ブーンの左足から血の花が咲いた。

(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」

彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。

(<`十´> 「狙撃か」

この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。

それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。

393 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:38:34 ID:1oiKVfdg0

( A )

背格好からして男であろう。

既視感を覚える姿であった。

ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。

――――あれは確か昼間に。

角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。

相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。

が、しかし。

目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」

ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれてしまう。

(;<`十´> 「ちっ」

もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。

銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。

394 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:39:33 ID:1oiKVfdg0

ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。

先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。

敵はずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。

あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。

ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。

(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
      これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」

サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。

(<`十´> 「7.62……NATO弾……」

敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。

―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。

などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。

(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)

395 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:40:59 ID:1oiKVfdg0

******

身に纏う白きローブが凍りつくほどの速度で落下するアサシンは腕を伸ばし、
鈍い輝きを放つ仕込み刃が、ギコの喉元へと吸い込まれるかのように飛び出していく。

気配遮断スキルによってアサシンは夜空と同化しており、
ギコから彼の姿を見ることは出来ず、
ただビルの頂上にいるクーだけを睨み、バイクのエンジンを唸らせていた。

一陣の風と化したギコはアサシンにとって火に飛び込んでくる羽虫も同然で、
その命を刈り取るなど熟練した暗殺者である彼にとって赤子の手を捻るほど容易いことだ。

しかし、刹那の間に予想だにもしなかったことが起きた。

それはまず音となってアサシンに伝わり、仕込み刃を通じてきた衝撃が驚愕をもたらす。

        ロー・アイアス
(,,゚Д゚) 「熾天覆う七つの円環ッ」

静かに詠唱の声が響き渡り、ギコとアサシンの視線が重なった。
アサシンの瞳孔が見開かれていく。馬鹿な、とでも言いたげな表情で。

|/▼) 「宝具をッ!? 貴様ッ」

七つの花弁の如き盾が一瞬で目前に展開され、
仕込み刀を弾かれたアサシンは呟くが、その先の言葉を次ぐことは出来なかった。

敵の攻撃を瞬時に理解したギコが宝具を展開すると共にバイクの機首を上げ、
アサシンの胴体にタイヤを炸裂させたのだ。
雄叫びをあげるエンジンに力を与えられてタイヤがアサシンの肉体を食んでいく。

396 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:43:19 ID:1oiKVfdg0

肉を打つ音が街中を轟いてゆき、胴を衝撃が貫くも、
アサシンの左腕がギコの眼前に突き出される。

(,,゚Д゚) 「ッ!」

直感がギコの身体を突き動かしていた。
ハンドルを振るうが早いかアサシンの右腕から乾いた音が響き、
ギコの左頬を何かが掠めていく。

その何かが通過した後には赤い線が残り、硝煙と血の匂いが鼻腔をくすぐった。

(,,゚Д゚) 「仕込み拳銃とは、小賢しい」

呟き、アクセルを思い切りかけたギコはアサシンを捉えた愛車から手を離していく。
車体を蹴り上げ、宙に飛び上がった彼は、

(,,゚Д゚) 「―――I am the bone of my sword.」

黒白の二刀を作り出しアサシンへ投擲した。
空中へ大型バイクに押し上げられたアサシンの目には、
双刃が映ってはいるが、地に足が着かぬこの状況では身動きが取れない。

そしてその黒白の夫婦剣は更なる驚きをアサシンへ与える。

397 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:44:28 ID:1oiKVfdg0

|/▼) (またしても宝具をッ!)

アサシンには理解ができなかった。

彼の魔術の知識では到底追いつけぬ神秘がそこにはあるのだ。
何故、宝具を一介の魔術師如きが所持している?
アサシンは困惑せざるをえない。

宝具とは打ち立てられた伝説から生み出される、
人々の信仰によって宝具足る力を得る英霊と対となるものだ。

故に伝説の担い手でもないただの凡人が宝具を手にしたとて、
その真価を発揮することは出来ず満足に振るうことすら不可能であろう。

宝具を呼び出し、宝具を使用する、この男は一体?

アサシンが理解の及ばない不条理な事態を前に、
己へと迫る二刀の存在など彼にとっては些細な問題にしかすぎなかった。

白いローブに覆われた両腕を広げたアサシンの眼前で、火花が散っていく。
甲高い音と共に黒白の二刀はあらぬ方向へと飛び去った。
ローブの袖から伸びた、二つの仕込み刃によって弾かれたのだ。

難なく二刀を防いだアサシンは間を置かずしてバイクを蹴り上げた。
この上なく邪魔だったのだ。敵へと斬りかかっていくには。

398 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:45:21 ID:1oiKVfdg0

彼にとっては大した障害でも無く、大した攻撃でもなかった。

ただ、宝具を次々に繰り出してくるこの魔術師、
ギコの不可解さに思考を奪われ、合理的な解を導き出す時間が欲しかったのだ。
先程の夫婦剣の投擲も何ら危険を及ぼすものではなく、アサシンにとっては二の次であった。

蹴り上げられた赤い車体は持ち主のほうへ落下していき、
高速で迫ってくる愛車へとギコは向かっていった。

疾走し、跳躍する。

自分へと宙より落ちてくるバイクを、足場にして更なる跳躍。

高く高く飛び上がったギコは黒白二刀、干将莫耶を大上段に掲げアサシンを捉えた。
空中に浮かぶアサシンもまた彼を捉えている。
そして、抜き放たれたのは無数の短刀であり、その全てがギコへ切先を向けて殺到した。

ほんの一瞬で投擲された十を超える短刀を干将莫耶でギコは防ぐ。

あまりの速さで短刀が弾かれた為に、
連続して発された金属音が重なってほぼ一つに聞こえた。

399 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:46:10 ID:1oiKVfdg0

しかし、それでも左肩と右足に一つずつ短刀は突き立ってしまう。

迸る鮮血にギコは目もくれず、アサシンだけに目をやっていた。

アサシンもこれで仕留められるとは思っていないようで、
ギコから目を離さず、止めを刺すとでも言わんばかりにギコを睨む。

いつの間にか抜き放たれた大振りの両刃剣をアサシンは構え、
両者は渾身の力を込めて剣を振りかぶり、叫んだ。

(#゚Д゚) 「お前と遊んでいる暇はないッ!」(▼\|

互いに、優先するべき敵があった。

その的に比べれば、今己の眼前に立つ敵などただの障害でしかなく、
障害を排除するべく放った剣は激突しあい、街を震わせていく。

400 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:47:14 ID:1oiKVfdg0

川 ゚∀゚) 「ははっ」

紅い双眸は血に飢えた肉食獣の物に等しく、それが彼女の行動原理を物語っていた。

食欲を満たすにはまず獲物を仕留める必要がある。

罠を仕掛け、猟犬に追い立てさせ、銃で撃つというのが狩りであるが、
食欲を満たす為という目的を達する点において、
彼女が行おうとしていることは狩りに他ならず戦闘などではない。

食料を得るべく魔術という道具を用い、クーは魔力を最速で練り上げて右手をジョルジュへ向けた。

川 ゚∀゚) 「は?」

右腕は地面を向いたままだ。

掌へ凝縮された魔力は放たれようとしているが、手が動いてはいない。
ふと視線を腕へと落とすと、

川 ゚ -゚) 「なんだこれは」

細く、視認が困難な糸が二つ絡みついていた。

不思議そうに糸の伸びる先をクーが眺めていくと、ジョルジュが映る。
彼はコートの袖から伸びる何かを両手で握りしめており、
それがクーの腕を締め上げるピアノ線であることは明白だった。

401 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:54:18 ID:1oiKVfdg0
  _
( ゚∀゚) 「"流体魔術"なら通じねーぞ?」

川 ゚∀゚) 「小癪な!!」

こんな非力なピアノ線など吸血鬼であるクーの怪力にすぐさま引きちぎられてしまうことだろう。
現に彼女はそうしようとしたが、魔術の発動直前であることが災いしてしまった。
光にも匹敵する魔力の雷が足場を破壊してしまったのだ。

容易にコンクリートを溶解させて大穴は広がり、音を立てて屋根が崩れ落ちていく。
その上に立つクーもまた溶解液と化したコンクリ片と共に落下していった。

七階建てビルの屋上から放たれた魔の雷は、最下層に到達してなお勢いを衰えさせなかったようで、
クーの落ちていった穴はまるで奈落の底まで続いているようにジョルジュには感じられた。
  _
( ゚∀゚) (やはり真祖には遠く及ばねえ。スペックは匹敵するが、死徒共と変わりやしねえ)

数分ほどの戦闘を経てジョルジュはそう結論づける。

死徒、グールの上位に立つ存在、真祖。
他者の血液を得ることで悠久の時を生きる存在。
人の一生を凌駕する時間を以て身につけたその魔術は人知を超えた域に達する。

到底人間一人で手におえる相手ではないが、クーはまだその域には達してはいない。
真祖ほどではないが、グールほど劣ってもいない。

だからこそ、そこにジョルジュが付け入る隙があった。
そして彼女の扱う魔術を知っているからこそ裏をかけた。

402 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:55:25 ID:1oiKVfdg0

勝てる。

その確信がジョルジュにはあった。
  _
( ゚∀゚) 「死んでもらうぞ化物。異教は排斥されるべきなんだよ」

黒鍵を再び構えたジョルジュは袖から伸びるピアノ線を辿り、
クーを追跡せんと焼き切られた穴へと向かって駆け出すが、腕が突然引っ張られた。
この強引で暴力的な力は明らかにクーのものだ。
  _
(;゚∀゚) 「強化の魔術を使ってこれかよ。馬鹿げてやがる!」

万力で腕を押し潰されているのではないかと錯覚するほどの痛みに、
ジョルジュは素早くピアノ線を左手の黒鍵で断ち切ろうとしたが、
右腕に引っ張られて地面へと叩きつけられた為それは叶わなかった。

強化を施された肉体に大したダメージは被らなかったが、
地に這いつくばっているジョルジュの眼前には、より危険なものが広がることとなる。

川 ゚∀゚) 「ははっ」

クーが、ジョルジュのピアノ線を引っ張り上げることで屋上へと舞い戻ってきたのだ。
左手には莫大な量の魔力が込められており、それが今まさに放たれようと輝きを放っていた。
剣を複製するわけでもなく炎を巻き起こすでもなく、ただ単純に魔力に指向性を持たせて放つ術式。

魔力放出によってジョルジュは貫かれようとしていた。
瞬きする間もなく発動するそれを避ける術は彼にはない。

403 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:57:49 ID:1oiKVfdg0
  _
(;゚∀゚) 「ホントに馬鹿げてやがるぜ」

ならばと、せめて致命傷を避けるべく身を捩らせて覚悟を決めるも、杞憂に終わった。
クーの左腕の肉と血が炸裂し、収束されていた魔力があらぬ方角へと向けて放たれたのだ。

夜空を一筋の雷光が照らしていき、ほんの少し遅れて銃声が二人の耳朶を打っていく。

続けざまにジョルジュの耳へある声が届いた。
     
(⊆、⊇トソン 『I(インビジブル)2、支援します。
        速やかにランデブーポイントへ移動してください』

魔術を用いた一種のテレパシーによって乗せられた、トソンの声だ。
街中に放った使い魔から異変を感じ取ったのか、ジョルジュの帰還の遅れを察してか、
インビジブル1の傭兵達は既に戦闘態勢をとってクーを包囲しているようだった。

その証拠に、クーの目からジョルジュを逃れさせる為ビル屋上へスモークが散布されている。
狙撃とほぼ同時に白リン手榴弾を放っていたのだろう。
  _
(;゚∀゚) 『I2了解。悪い、助かった。その後のプランは?』

念波で交信しながらジョルジュはピアノ線を切り落とし、駆け出していく。

戦闘中に咄嗟に思いついた、黒鍵と右腕にピアノ線を巻きつけ、
"流体魔術"を逆に利用してクーを縛り付けるという戦法は、発想は良かったが失策であった、
とジョルジュは肉に食い込んだそれを切り落としながら悔やんだ。

404 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:59:04 ID:1oiKVfdg0
  _
(;゚∀゚) 「ちっ、アサシンの野郎は何してやがんだ!」

クーを挟撃し各個撃破に当たっていれば、こんな事態にはならなかっただろう。
ジョルジュ一人には荷が重すぎる役目であったのだ。

アサシンはサーヴァントであるが故にギコとクーの戦闘力を過小評価しすぎ、
連携もとれずギコも討ててはいないという体たらくである。
慢心と言われても弁解はできまい。

そのツケを一挙に回されたジョルジュはたまったものではない。
脱兎のごとく逃走する醜態を晒す事態に、舌打ちをついた。

だが、"煙幕をはられ狙撃を受けている"というだけの理由で、逃がすクーでもない。

(⊆、⊇トソン 「目標、左半身を仰け反らせ落下。ビル屋上へ着地までおよそ4秒。
         ヘッドショットエイム――――」
 _、_
( ,_ノ◎) 「ヘッドショットエイム」

スポッターを務めるトソンの傍ら、L96A1構えた澁澤がクーに狙いを定め、
引き金にかけた指へ力をこめたその時、

(⊆、⊇;トソン 「―――ッ!?」

トソンの目に異形が飛び込んできた。異形としか形容の出来なかった。
トソンもとっさにはそれが何であるか理解が追いつかず、ただ呆然とする他なかった。
クーの銃撃によって失われた肘から無数の黒く蠢く物が這い出てきたのだ。

405 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 00:59:57 ID:1oiKVfdg0

蟲である。

鎧のような甲殻で身を多い、鞭のごときしなやかさを誇る無数の触手を伸ばした“魂蟲”が、
女体より這い出てくる姿はトソンに生理的嫌悪をもたらし、それを認知することを心が拒んだ。

魂蟲の一部はそのままクーの血肉へとなっていき、腕を形成していく。
余った蟲達は甲殻を断ち割り、六枚羽根を広げて煙が立ち込める夜空を舞う。

群をなし、ジョルジュを発見するべく街中へと広がっていった蟲達を見て、
ようやっとトソンは己を取り戻したが、澁澤はとっくに銃弾を放っていた。
トソンが気付いた時にはもうクーの頭部から血飛沫が飛び散っており、命中したのだと彼は確信する。

(⊆、⊇;トソン 「ヘッドショットヒッ―――いえッ!」

澁澤が予想していた言葉は遮られ、代わりに起こるはずのなかった事態がスコープに映っていた。
弾丸がクーの眼前に現れた魂蟲が盾となり、蟲達の血飛沫が散ったのだ。

雪のように白い肌は無傷で、赤き瞳が澁澤とトソンを睨む。

川 ゚ -゚) 「そんなオモチャじゃ私は殺せやしない」

次の瞬間には、周囲に青白い光と蟲を纏わせたクーが立ちはだかっていた。
欠損した部位を黒々とした蟲が蠢き合い、それぞれが結集して一つの生物となったような奇妙な光景。
たまらずトソンは足に装着していたホルスターからハンドガンを抜き、乱射した。

406 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:01:25 ID:1oiKVfdg0

刹那の間に瞬いた銃火三つに遅れ、三つの虚しい金属音と火花が散っていく。

魂蟲達の甲殻がトソンの持つUSPの9mm弾を弾いたのだ。

本来、人間の体内に潜り込ませその者の生殺与奪を得、
魔術回路として与えられるこの蟲はこれほどの硬度を持たないのだが、
クーの吸血鬼としての体質と魔力を貪ることにより、
今や魂蟲達はより獰猛により狩猟に適した形に進化していったのだ。

その結果甲触手は剣の如く鋭く、甲殻は鎧の如く発達し、
拳銃弾程度ではもはや彼らは止められなくなった。

次いで、触手が鉄のような冷たい輝きを放ち、クーの腕から一斉にトソンへと蟲達が飛び立っていく。
  _、_
( ;_ノ` )「ちっ!」

群をなして殺到する蟲達へ渋澤が冷静に手榴弾のピンを引き抜いて投げ込むも、
蟲の群れに飲まれた手榴弾は爆発する直前にズタズタに切り裂かれ、
その威力を発揮することはなかった。

小さな爆発が黒い塊となった蟲達の中で沸き起こるも、勢いを彼らが衰えさせることはなく、
トソン達は咄嗟に身を伏せた。這い蹲る形となった彼女らに蟲達が容赦するはずもなく、
降伏を示した獲物達を貪らんとするだけだ。

蟲達が羽音を一層耳障りに響かせ加速した直後、何かが飛来する音がした間もなく大爆発が巻き起こった。
火炎に飲まれた虫たちは六枚羽を燃え滾らせてぼとりと落ちていき、
爆発を避けた虫たちも鉄片によってズタズタに切り裂かれてしまった。

鮮血と炎の紅き乱舞がクーの目前で繰り広げられ、彼女は宙に尾を引いた白煙を辿っていく。

407 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:02:29 ID:1oiKVfdg0

川 ゚ -゚) 「またエサが増えたか。捕食出来ず少々焦れている、逃げるなよ?」

その先にはビルがあり、ちょうどこちらを見通せる階層の窓が割られているが、誰もいない。

既に、そこには。

('、`*川 「逃げるですって? 随分な口を聞くようになったじゃない。
      逃げるのは貴女のほうよ、"クーちゃん"。
      既に貴女は私達に囲まれ銃口に晒されている―――"逃げるなよ"?」

クーの目の前に彼女はいた。

炎の中に"隠れ"潜んでじっと隙を伺っていたのだ、ペニサスは。
気付いた時にはクーの身体は二つの黒鍵によって切り裂かれていた。

川 ゚ -゚) 「クー……ちゃん? 誰だ、貴様は?」

しかし両腕を切り落とされてなお、彼女は余裕を崩さない。
両腕を失うよりも、まるで己の名を知るこの女のほうが重大であるかというように。

('、`*川 「……何も、何も覚えてないのね。なら、何も思い出せぬままに死んで逝きなさい」

突如として幾重もの銃声が響き渡る。まるで一つの音のように感じられるほどそれは同時であった。
そしてクーの身体中に風穴が無数に空いていき蜂の巣となってしまう。

川.゚。-・゚o) 「ナ……ニ……ヲ……? ペ――――」

喉を撃ち抜かれた彼女の声は言葉にはならず闇へと消えていくが、
依然倒れるということはせず平然と立ち尽くしている。
だが、その目からは以前の貪欲な肉食獣の輝きが失われてしまっていた。

408 ◆IUSLNL8fGY:2013/03/25(月) 01:05:01 ID:1oiKVfdg0

かのように思われた。

四方八方より殺到する弾雨によりズタズタに引き裂かれたクーは、
肉片へと変貌していったが、いまだ銃火が止むことはなかった。

だが、吹きす荒ぶ弾雨の中彼女の砕けた足が、胴から溢れた臓物が、
弾け飛んだ腕が、穴だらけの顔が再生していき、立ち上がる。

歯をギリ、と噛み締めたクーは口から血反吐を漏らし、キッとペニサスを睨みつけ―――

川#゚ -゚) 「バーサーカー!!」

令呪を用いて己のサーヴァントを呼びつけた。

雷鳴と白光が辺りを包み込み、一瞬後に闇が現れる。
夜と一体化する、漆黒の巨躯と鎧。


浮かび上がる面は、怒り一色に染まった獰猛な獣のモノ。

以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」

召喚と同時に振り上げられる邪悪な剣が、ペニサスを捉える。
慌てて仲間たちが銃撃を浴びせるもバーサーカーにそんなものは効かず、
虚しく火花を散らしていくのみだ。


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