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リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

690名無しさん:2020/01/15(水) 02:30:21 ID:RCHBUVgA
「本当にいいんだな?ここの魔物たちは処刑用に作られた凶暴な獣たちだ。新兵器を強い相手で試したいのはわかるが……本当にどうなっても知らんぞ。」

「……いいから早く魔物を出して。」

「むむむぅ……」

トーメント城の地下には人が訪れない廃棄施設がある。
劣化した拷問部屋、強すぎる魔物を何年も閉じ込めている部屋、ヴァイスのような大罪人の隔離部屋など、トーメントという闇のまたさらに深部だ。

その中の一つ、獣たちの唸り声が止まないホールのような大部屋にいるのは、金髪碧眼の少女。
そして少し離れた窓付きの安全場所には、相変わらずやせ細っている教授がいた。

「怪我をしても助け出せるレベルの魔物じゃないんだぞ?毒を持ったものもいれば炎を吐くものもいる。ただの獣ではない。当時のマッドサイエンティストたちに魔改造された裏ボスダンジョンに徘徊してるレベルの【バ獣】たちだ。……本当にそれでもやるのか?」

「……やる。」

小さくそう言いながら、リザは伸びた金髪を後ろできゅっと縛った。


(おおっ、髪を縛ってくっきり見えたうなじがめちゃめちゃセクスィー……!いいなぁ、嗅ぎたい……)

一仕事する前にぎゅっと髪を縛る女の子ってなんかいいよね。と思う人はきっと多いはず。
そんな教授のいやらしい視線など気付けるわけもなく、リザは自分の武器の最終確認をしていた。

(篠原唯……市松水鳥……お前たちに私の目的を邪魔されるわけにはいかない。戦争までにもっともっと……強くなってみせる。)

プラントで戦った市松水鳥は、伝説の魔法少女とアウィナイトの魔法少女の加護を受け、自分とは違うやり方で世界を変えてみせると言った。
その目には誰も殺さないという、リザとは違う正義の心が宿っていた。

(違う……!この世界は力こそ全て、力こそが正義。だから私はトーメントの兵士になった。……自分の目的のために大切なものを失う覚悟もなく、周りと仲良しこよししてるだけのあいつなんかに……私は絶対負けない。)

市松水鳥も、あのサキも、自分とは違う恵まれた境遇にいる。
友人、兄弟、恋人、家族……そういった繋がりのために戦っていては、本当の意味で強くなれないとリザは思う。


(つながりなんていつ跡形もなく消えるかわからない。現に私には……そばにいてくれる友達も信じ合える家族も、もう……いないんだ。)

691名無しさん:2020/01/15(水) 02:35:51 ID:RCHBUVgA
武器の最終確認を終えたリザは、ピョンピョンと跳ねたり手首足首を回したりして、さながら運動前の準備体操のごとく体を動かし始めた。

「美少女の準備体操……なかなか健康的に見えてマニアックなエロさがあるな。」

入念に体を動かすリザを見て、そんなことを小さく呟く教授。
彼もこう見えてまだ10代の若い男子ゆえ、仕方のないことである。

「それにしてもまったく、美少女のくせにいつもいつも命知らずだな……なあリザ!もしかしたら最後になるかもしれないし、もったいないから私と○ックスしないか!?死ぬ前に四十八手全部試してからでもいいだろ!特にお前とやってみたいのは松葉崩s」

「いいから早くやらないと……殺すよ。」

「ひいいいいぃっ!もう、ほんと最近のアンタホントに怖ぁい!やだぁもう!どうなっても知らないわよぉ!?」

なぜかオネエ口調になった教授がボタンを押すと、リザの周りの扉が一斉に開かれる。


(……ほんとに気持ち悪いな……)

中から出て来たのは、身体中に目がつけられている不気味な空飛ぶ怪鳥、10本足の猫と蛸を混ぜ合わせたような獣、球体に目と口と足がついただけの獣なのかすらわからない魔物……と、見た目が気持ち悪すぎる魔物しかいない。

(昔の十輝星には教授よりも頭の切れる研究者や、どんな魔物も操る魔獣使いがいたらしいけど……その人たちが作ったのかも。)

「グルルルルル……!」
「シュルルルルルルル!」
「キーーーーー!!」

リザを見た魔物たちは、久しぶりに見た人間の体に興奮を隠そうともせず襲いかかる。
脆弱なアウィナイトの人間、しかも子どもの女だ。苦戦するわけもない。さっさと噛み付いて引き裂いて泣き喚く姿を堪能してから食べてしまおう。
と、当たり前のように思っていた魔物たちは……



「シャドウブレード……!はあああぁっ!」

「ギイイイイイイィ!!」
「グルルアアアァ!?」

刀身をさらに倍増させ、もはや剣といっても差し支えないレベルに進化した刃によって、簡単に斬り伏せられた。



(す、すごい……!これなら魔物も倒せる……!)

「シャドウブレード……闇の魔力によって増幅させた刀身での一閃は、炎を断ち風を裂き水を割る。魔を切ることも容易い。だがその代償に失うのは……持ち主の血。まさに諸刃の剣でもある。」

誰も聞いてくれないから1人語りするしかない教授。
魔物を倒せないというリザの弱点を克服するために作り出した改造兵器だが、その代償は少なくない。
持ち主の血を強化に使う以上、シフトを使うリザが少しでも使い方を間違えてしまえば、あっという間に体力も魔力もボロボロになってしまうのだ。


「連斬断空刃・闇華!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオォ!!!」

シフトを交えたブレードでの連続攻撃に加え、ワープしたすべての箇所から闇魔法が連続で放たれる斬撃と魔法弾を組み合わせた奥義。
自分の身の丈をはるかに超えるドラゴンでさえも、圧倒的な斬撃と強力な闇魔法の前では子犬同然である。

自分の命と引き換えに力を得る刃。
それがリザの新しい武器となった。

692名無しさん:2020/01/18(土) 11:58:51 ID:???
「へっへーん!ざっとこんなもんよ!」
(ううっ……怖かったよぉ……)

「がはっ!!トナカイ柄に、クリスマスリースのワンポイント……」
「げほっ……慣れない戦いで動き回ったせいで、喰い込んでるのも高ポイント……」
「うぐ………時おり人格が入れ替わって、パンモロ状態に赤面しちゃうのすき」

(ひっ!?ま、まだ生きてる!?)
「はいはい、キッチリとどめ刺しときましょうねー」
「たらば!」「あわび!」「けばぶ!」

一人ずつ顔面を踏みつけでトドメを刺すドロシーinサンタガール。
雪人達はありがとうございます的な断末魔を上げつつ戦闘不能になった。

「で、あなたのプレゼント袋ってこれ?」
「は、はい!ありがとうございます!……なんか、見た事ないアイテムがいっぱい追加されてるんですけど……」
「うわぁ。大人用というか……変態用のやつだ。あのスケベ雪人たちが勝手に追加したのね」
「な、なんだかわからないけど処分しなきゃ……」

そして、サンタガールは奪われたプレゼント袋を回収し……

「さーて。これでひとまず、一件落着かしら」
「色々ありがとうございました。……で、でも……」

「うぉぉぉいい!ちょっと待つですわー!!」

丸呑みにされたお菓子の妖精は、忘れ去られて消化され……
なかった。

「HAHAHAHA ごめんごめん!でも無事でよかったわー」
「大事な友人を忘れて放置なんてサイテーですわ!
さあ!闇堕ち雪女に気付かれる前にさっさと脱出しますわよ!!」
「え?このままラスボスぶっ倒しに行く流れじゃないの?」
「あ、あの。あっちで氷漬けにされてるお姉さんは……?」

そう。一件落着までには、まだまだやる事が山積みなのだ!


「ふ……妖精やら精霊やら、騒がしいですね……貴女達にも、血の凍る絶望を与えてあげましょう」


「OH...実の父親に完全に悪エロ堕ちしてますわね。JK忍者YAYOIも完全に氷漬けですわ」
「わ、私のサンタ道具で戻せるかも……?…この『お目覚め!ハピハピ★クラッカー』を、目の前で鳴らせば……」

「『目の前』って……言うのは簡単だけど。相手は雪女で、しかもニンジャなんでしょ?
素のサンタちゃんや、アi……お菓子ちゃんが行ったところで氷漬けにされるのがオチだろうし……」
「ですわよねー」
「………です、よねぇ……てことは……」


「ふふふふ……冬と風の精霊……どんな甘美な絶望を見せてくれるのか、楽しみですね……」

「ううう……あの人すっごく、怖そうです……」
(ビュオオオオオオ!!)
「ひっ!?ま、またスカートがぁ……!!」
「……私達が隙作ってどうするのよ。
ま、ここは私がメインで動くしかないわね。手加減できる相手じゃなさそうだし……ひっさびさに全開で行くわよ!!」

……ドロシーinサンタガール、続投決定。

悪堕ちしたササメに、どう立ち向かうのだろうか……!

693名無しさん:2020/01/19(日) 15:41:47 ID:???
「はぁ……はぁ……」

戦闘が始まってから魔物たちが全滅するまで、そう長い時間はかからなかった。
リザの手に握られた愛用のナイフは、普段通りの銀光ではなく禍々しい黒に染まっている。

「驚いた……まさか本当に全滅させてしまうとは。やはり天才か……あんな武器を作りあげた私の頭脳は。」

ナイフの刀身を切り替えて扱う改造武器シャドウブレード。
もちろん教授は妥協なく作り上げたが、普通の人間に扱いきれるシロモノかは測りかねていた武器だ。
成果としては素直に納得しているが、リザ以外にここまで使いこなせる者はいないだろう。


「……教授、これ……血を代償にするんだよね。」

「ん?あぁ、そうだが?」

「結構力を使ったけど……体力はそこまで落ちなかった。むしろ斬れば斬るほど力が湧いてきた……」

「ククク……流石に気づいたか。シャドウブレードは諸刃の剣であると言ったが、お前が戦う意思を持って敵を斬り続けている間は大丈夫だ。」

「えっと……つまり、敵を斬ることで敵の血を吸収して強くなるってこと……?」

「Exactly!たくさん殺したいならばひたすら斬れ!敵を斬りまくれ!そうすればまだまだ殺せる。斬れば斬るほどたくさん殺せる。フヒヒヒヒヒ!ついに私は完成させたのだよ。戦闘兵器の永久機関を!!!フゥーハハハハハハハハハ!!!」

「……………………」

大笑いする教授には目もくれず、リザはブレードの刀身をまじまじと見つめる。
シャドウブレードには邪神アドラメレクの魔力が込められているという、黒い炎が揺らめく魔石がはめ込まれている。
今の戦いは自分で思い返しても、まるで精密機械のように最適解を繰り返す動きであり、立ち回り全てに隙がなかった。

敵の動きを察知し、シフトで安全圏に移り攻撃態勢を整えている間に闇魔法で牽制し、その魔法によってダメージを負った相手を素早く一刀の元に斬り伏せる。
自分の得意とする戦い方に闇魔法のアシストが入ることで、攻守ともに隙のない戦闘ができる。


(この力があれば……もう誰にも負けない。市松水鳥にも、柳原舞にも、篠原唯にも。……お姉ちゃんにも。)

694名無しさん:2020/01/19(日) 15:43:15 ID:???
「おうリザ、こんなところで教授とイチャイチャしてるのか。お前の男の趣味は読めんなあ。」

「んなななっ!?王様!?」

立ち尽くすリザの前に突然音もなく現れた王は、いつものようにヘラヘラしながらリザの方へと歩いてきた。

「若い男女がこんな暗い部屋で何しようとしてたんだぁ?おじさん怒らないから言ってごらん?んん?」

「えっと……松葉崩s」

「王様、どうしてここへ?」

「んー?決まってんだろ。俺様のかわいいかわゆいリザちゃん人形が元気にしてるか見にきたんだよ。」

「…………」

発言でも行動でも変態ぶりを隠すことなく、王はねっとりした手つきでリザの背に手を回す。
それに対してリザが無抵抗でいると、王はそのままリザの細い体を強引に抱きしめた。

「んっ……!」

「クックック……お前もいい顔つきになってきたじゃないの。力を求めるその貪欲さ、ストイックさ、俺様の大好物だぜ。こうやってついついセクハラしちゃうくらいにはな。」

「……王様、質問があります。」

「ん?なんだ?なんでも言ってみろ。今の俺様は美少女にハグしながら耳元で囁かれて気分がいいからなぁ。ククク!」

「……王様は、戦争に負けないですよね。私が生きてる限りはアウィナイトのみんなを、守ってくれますよね。」

「当たり前だろ?俺様が負けるとこなんて見たことあるか?他の国がいくら小細工しようと、常勝不敗のトーメントが負ける道理はないさ。お前が生きてる限りは、ちゃんと保護区も続けてやる。」

「……………………」

「なんだよ、不安か?お前も今やこんなに強い暗殺者になったんだ。なにも心配することいいだろ。俺様にすべて任せておけ。」

王は自信たっぷりにそう言って、リザの顔を自分の顔の前に寄せた。

「……………………」

「お前も変わったねえ……前はセクハラしたら顔真っ赤にしてビンタしてきたのに、今となっては全然抵抗もしないで無表情とはな。別の意味で興奮するぜ……このままキスされてもいいのか?」

「……戦争に勝ってくれるなら、私のことなんて好きにしてもいいですよ。」

「ぶっ!?」
「ぶほおぉっ!!!」

リザがさらりと言ったとんでもないセリフに、王も教授も吹き出した。
教授の方は鼻血つきである。

「あ、ごめん。流石に抵抗すると思ってたからそんなこと言われると思ってなかったわ……」

「でも……その代わりお願いがあります。私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません。ミストを殺す任務だけは……取り下げてください。」

「お前……アイナを生き返らせてやるなら殺すって言ってたのに、やっぱ無理ってかい。」

「……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません。」

少し目を伏せながらの切ない声。
友を失い家族に否定されたリザの表情を見て、王はわかりやすくため息をついた。

「まあいいさ。それがお前の出した結論なんだろ?その可愛さに免じてとりあえず取り下げてやるよ。」

「……ありがとうございます。」

「でも戦争では容赦するなよ。アイツが俺様に向かってきたら、その時はお前が殺せ。それは絶対だ。いいな?」

「……………………」

「はいって言わないとそのキュートな唇に思いっきりキスするぞ。ちなみにもう気づいてるかもしれないが、俺様の昼食はニンニクラーメンだ。」

「……………………」

沈黙を貫くリザ。
その目は静まり返った夜の海に移る月光のように、静かに光を放っていた。

695名無しさん:2020/01/19(日) 16:22:12 ID:???
「参ります……!氷遁・氷縛暴風雪!」

ササメがすばやく印を結び前に突き出した右手から、猛烈な吹雪が吹き荒れ始める。

「これが雪人の力です……全員まとめて凍りなさいっ!」

「す、すごい吹雪っ……!このままじゃ……!」

回避しようにも部屋を埋め尽くすほどの吹雪では、空中すらも安全場所ではない。
このまま吹雪に囚われてしまえば、なすすべもなく一瞬で凍らされてしまうだろう。

「ド、ドロシー!あなたの風で吹き飛ばせばいいじゃありませんの!」

「ふ、普通に名前呼ぶな!あたしの風でも吹き飛ばせる威力じゃないのよあんなの!」

「こ、ここはわたしに任せてください!風の精霊さん、体を私に!」

「え、あぁ、はい!」

すばやく体を交換したサンタガールはプレゼント袋の中から、筒状の先端が丸くなっている紫色の道具を取り出した!

「じゃじゃーん!これは、ブリザードバリアーです!暴風地域でも安全に配達ができるように開発された、サンタ道具なのです!」

「さ、サンタちゃん……それ、バ○ブ……」

「ああああ!?似てるから間違えちゃいましたあぁ!こ、こっちですっ!」

光の速さでバ○ブを袋にしまったサンタガールは、色しか違わない白い筒状の装置を取り出して起動した。

「ほんとに似てますわね……なんでバ○ブみたいになってるんですの(笑)」

「あのまま起動してたらめちゃくちゃシュールな光景になってたわね(笑)」

「ちょっと、2人とも笑わないでくださーい!!」

サンタ道具のセンスはともあれ、サンタガールが装置を起動させると、ドロシーたちの周りに吹雪が届かなくなった。

「そんな……私の術が……!」

「やった!雪崩防止用の道具がこんな形で戦闘に役立つなんて、思ってもみませんでした!」

「ナイスよサンタちゃん!さぁ次はこっちの番!吹き飛べゲイルインパクトーーー!!!」

「くっ……!きゃああああああああ!!!」

装置によって風魔法の軌道を確保したドロシーの術が、吹雪の間を縫ってササメに直撃する。

「ああぁんっ!!」

悲鳴をあげて吹き飛ばされたササメは、そのまま氷の壁に叩きつけられてぐったりと項垂れた。

「無駄にエッチな声ですわ……!リザちゃんもそうでしたけれど、どうして悲鳴がこんなに女の子要素全開のエッチな声になっちゃうんですの……」

「アイ……お菓子の精霊!あんまり前世の話をあけっぴろげにするんじゃないわよ!もうわたし達は精霊なんだから!」

「ふ、2人とも喧嘩してる場合じゃないです!早くあの氷漬けの子を助けてあげましょう!」

696名無しさん:2020/01/26(日) 14:26:59 ID:???
私は……………夢を見ていた。


「っきゃああああああぁぁぁ!!!体がっ……私の体が、凍り付いて……!!」

(うう、ん……あれ?……私、たしか、あの雪人のボスっぽい奴に、無理やり……
それから、ええと……どうなったんだっけ………?)

「まずいっ……!!…下がって、サツキ!この男は、私が相手をします!!」
「そ、それでも……あなた達を、討魔忍の使命を捨てて、私一人逃げるわけにはいきません……!!」

(サツキって、わたしのこと……?あの人、誰かに似てるような……
なんだか記憶が、ぼんやりしてる……私、夢見てるのかな……?)

「はぁっ………はぁっ………お逃げ、ください……そいつは、強すぎます!…フブキ様おひとりでは……!!」

(そうだ………思い、出してきた………
私は、討魔忍衆中忍サツキ………
皇帝ゲンジョウ様の命を受け、上忍フブキ様の下、部隊の仲間とともに雪人を討伐に来た。)

(だけど…私とフブキ様を残し、味方は全滅。
たった一人の雪人、『銀帝』と名乗る、その男によって……)


「ふん。その程度の実力で、雪人の城まで乗り込んでくるとはな……貴様らも我らの『餌』になりたいのか」
「ふ、ふざけないで……私たちは、雪人にさらわれたミツルギの人々を助けに来たのです!!
あの人たちを、どこにやったのですか……!」

(あ、あれ……?…ちが、う……私の名前はヤヨイ……ササメ先輩と一緒に来た、はずなのに……
じゃあ今見ているのは、誰かの……サツキっていう人の、過去の記憶……?)


「……さらった人間どもなら、『氷柱の間』で兵士どもに好きに嬲らせている。
奴らの嘆きと絶望が生み出す負のエネルギーが、我ら雪人の糧となるからな……」

「なんて酷い……許せません!!……火遁・カグツチ!!」
「ふん………ぬるいわ」
(ビキビキビキッッ!!)
「ぐ……うああっ!!」

(そんな……火炎の術が全然効いてない……雪人は炎が弱点のはずなのに……!
それどころか、ものすごい冷気で、巻物ごと腕が凍り付いていく……!!)

「く、ううっ……ならば、これでどうですっ!!白雁の太刀!!」
「無駄だ……出でよ、妖なる刃…『凍月(イテツキ)』!!」

(ガキィィンッ!ザシュッ!!!)
「んあうっ!!っくあああああぁっ!!」
(な、なんなのあの剣!?斬られた所が、氷におおわれていく……!!)

(キンッ!!ドスッ!ザクッ!!!)
「ぐっ!!……うああああんんっ!!」

(左手が、氷漬けになっちゃった!……これじゃ、戦ってるだけで動きが封じられちゃう!
あいつ、ヤバすぎるよ……!!)

697名無しさん:2020/01/26(日) 14:28:23 ID:???
「ふん……さっきまでの威勢はどうした?……やはり、人間には堪えるか……体中を凍らされながら切り刻まれるのは」
「う、ぐう……なん、の……この程度の攻撃で、私は……っぐ!…つあああああ!!!」
「だ、だめっ……逃げてください、フブキ様ぁあぁっ!!」
(そ、そんな……一方的すぎる……あの人、ササメ先輩と同じくらい強いっぽいのに……!)


「……退屈しのぎにはなったな。そろそろ、幕引きとしよう……魔凍・無限陣!!」

(……ピキピキ……バキバキバキバキッ!!)
(や…やばいっ!!ものすごい冷気で、フブキさんの周りに無数の氷の刀が!!
……って、さっきから誰に解説してんのよ私は…)


「いい、え……まだ、ですっ……砕氷星鎖……流星の舞!!」
(ブオォォォォォンッ!! バキバキバキバキバキッ!!)

(すごい…鎖で氷の刀を弾き返してる…!だけど……)

「ほう。まさか、雪人の氷を弾き返すとはな……だが、無駄だ。
片腕が凍っている今のお前に、我が無限の氷刀は受けきれぬ」

(ガキン!ガキンッ!……ザシュッ!!)
「…はぁっ……はぁっ……こんな所で、負けるわけには……んあううっ!!」

「脚が凍ったか……いい的だな」
(ビキッ!! ビキビキ!……カキンッ! ザクッ!!)
「くっ………!………私、には……ミツルギの人々を、守る使命が………っぐあ!!」

「両腕とも凍り付いたか…これでもう、その鎖は使えまい。我ら雪人に刃を向けた報い。その身に刻んでやる」

(ドスッ!! ドスドスドスッ!!)

「んぐっ!!あうっ!!く、ああああんっ!!」

(………ザシュ!!スブッ!!)
「ひぐっ!!……っう、ああああぁあっっ!!」

「嫌ぁああああ!!フブキ様ぁあああああああ!!」

(それにしても……こんな時に思うのもアレだけど、
フブキさんって、めちゃめちゃ美人なうえにスタイルもササメ先輩並みに良いなあ。
衣装もえちえち着物アレンジ風忍者装束って感じでフェチいし、おまけに悲鳴がもんのすごくエロイし……
というかあの声、誰かに似てるような………あ。もしかしてあの人って、ササメ先輩の……??)

698名無しさん:2020/01/26(日) 14:30:08 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………
まだ、です……人々を苦しめる魔の者達などに…私は決して、屈しない……!」

「人間にしては、よく持った方だな。
それに……こんな状況にあっても、強い意志を失わない、その目……雪人の女たちとは、全く違う。
奴らは皆、我を……雪人の男を、恐れる。怯える、許しを請う、媚びる」

「?……どういう、ことですか……!?」

「嘆きと絶望のエネルギーが、我ら雪人の糧となる……例え雪人同士でも。
故に、弱い者、特に女は、真っ先に標的になるのだ。」

「人里に降りてくる雪人に女性が多いのは、そのせいだったのですね……なんて酷い事を」

「だが……絶望にも、鮮度というものがある。
心が壊れ切ってしまえば、その者から新鮮なエネルギーを取り出すことは出来ん。
我ら雪人は今、食糧難でな……雪人の女たちからは、あらかた絞りつくしてしまった」

「だから、人間をさらい始めたのですか…………雪人達が、生きるために……」

「そういう事だ……だが、貴様は妙な人間だな。
これほど痛めつけたというのに、絶望のエネルギーを全く感じぬとは……」

「私には……ミツルギの人々を守り、討魔忍衆の仲間を守る、使命があります……
忍びが心を失えば、そこに残るのは誰かを傷つける刃だけ。
だから……忍びたるもの、心だけは失ってはならない。
それが討魔忍衆を代々務めてきた、私の家の……祖父、曾祖父から何度も聞かされた教えです」

「なるほど……興味深いな。貴様から、何としてでも絶望を引き出したくなってきたぞ。
私が直々に、じっくりと嬲り、犯し、苛み……どこまで耐えられるか、確かめてやる」


(フブキさん……あいつに、連れてかれちゃう……。あれ?ていうか私、放置?)

「兵士ども……そっちの女はくれてやる。好きにしろ」
「「「さっすがーー!!銀帝様は話が分かる!」」」
「ひっ……!?」
(ですよねーーーー!)
「さわらないで……おねがい、やめて……!」
(ちょ、待ってこれ、私にも感覚が伝わってきちゃう……
あ。おっぱい大きいと、揉まれる時こういう感じなんだ……とか言ってる場合じゃないって!!)

「「イヤあああぁああああああ!!!」」

「あれ?なんか、二人分の絶望エネルギーが感じるぞ?」
「一粒で二度おいしいって事だな!よーし、さっそく『氷柱の間』に連れてって、みんなで林間してやろうぜ!」
「「「さんせーーーい!!」」」

(その後、私は……氷漬けにされたサツキさんが、雪人達に好き放題に犯される感覚を共有し続けた。
何時間も、何日も……何年にも渡って。
終わりのない悪夢に時間の感覚さえも失い、心が壊れようとしていた時……
誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

699名無しさん:2020/01/26(日) 17:06:33 ID:???
私の名は……討魔忍衆上忍、ササメ。

私は………夢を見ていた。


「おぎゃぁ…!!…おぎゃぁ…!!…」
「産まれたか……無理矢理だろうが何だろうが、子というのは出来るものなのだな」

「この子が……私の、私たちの……子供………なのですね。
……抱かせてもらっても、よろしいですか」
「?………好きにしろ」

雪人の城内と思われる、見知らぬ一室。
雪人の男と、出産を終えたばかりの人間の女性。そして、一人の赤ん坊……
……どこか、見覚えがあるような気がする。

「!?………なんだ、この感覚………全身から活力がみなぎるような……
絶望のエネルギーとは、真逆の……
貴様。……いや。フブキ……なんだ、お前のその感情は?……何故その赤子を抱こうと思った」

「これは……『愛情』というものです。……親が子に抱く、人が大切な誰かに抱く、深い慈しみの気持ち。
経緯や過程はどうあれ……この子は大切な、私たちの子供ですから。
母親として、我が子を抱きたいと思うのは、当たり前のことです」

(そうだ………抱きしめた時の感覚。いや。お母様に、抱きしめられた時の感覚……今でも鮮明に思い出せる。
……間違いない。この人は、私の………!!)

「言葉で説明するのは難しいですが……一つ、言えるとすれば。
きっと貴方自身も、この『愛情』を、持つことができるはずです。
雪人が皆、愛の持つ力を理解することができれば、雪人が人間を襲う必要もなくなる……」

「…………一つだけ、言っておく。その赤子は、女だ。
雪人どもが『愛』とやらを理解する前に、他の雪人の女と同じように……
絶望のエネルギーを限界まで搾り取られ、いずれ使い潰されるであろうな」

「!!………」

「だが、問題ない……我から受け継いだ雪人の血を覚醒させれば、
周りの者どもをねじ伏せるだけの力を得る事ができよう。
奪われるのではなく、奪う側に回るのだ。この私と、同じようにな」

「そん、な……」

「そうして、いずれは私の跡を継ぎ、この城の長として雪人達を率いる……
雪人は何千年もの間、そうしてこの『魔の山』で生きながらえてきたのだ。
どちらの道を選ぶのか……母親である貴様に、選ばせてやる。明日までに決めるがいい」


(その夜……お母様は、決断を下した。
私をこのまま『奪われる側』として生かすのでも、雪人に目覚めさせ『奪う側』になるのでもない。
それは……あまりにも無謀な、第三の選択肢。)

「……クックック。まさか、せっかく生まれた赤子を谷底に捨てろ、とはな……
人間の持つ『愛情』とやらは、まったく意味不明なものだ」
「ううっ……ササメ………許して、なんてとても言えない………」

「谷の底は絶えず流れ続けて消して凍らぬ激流。川下は、魔物の徘徊する樹海………
こんな赤子が、生き延びられる環境ではないぞ」
「わかって、います……だけど今の私には、こうするしか……」

「森には、山と森を守護する『ヴィラの一族』の集落がある。
仮に、その者らに運よく拾われたとしても……」

「その子はきっと、恨むでしょう。我が子を捨てた私を……
それでも……構いません」

(お母様の深い悲しみが、痛いほど伝わってくる………
私は……お母様を、憎いなどと思ってはいない。
お母様の決断が、私の進む道を与えてくれたのだから……
早く戻らなくては。そのことを、伝えに行かなければ……そう思ったとき。

誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

700名無しさん:2020/02/01(土) 01:57:24 ID:LFPL1yzg
「う……あ、あれ……?」

「おー! ほんとにクラッカーでお目覚めですわね!J K忍者復活ですわ!」

「うぅん……あっ……」

「お、こっちも起きたわね。あのクラッカーで正気に戻ったみたいよ」

「お目覚めクラッカーはクリスマスに絶対寝坊しないように使われるサンタ道具です! 当日2日酔いになってグロッキーだったときのために、正気に戻る効果もついてます!」

「もはやドラ○もんのひみつ道具ね……」

サンタガールのクラッカーによって目を覚ましたヤヨイとササメ。これで戦力は妖精も合わせて5人分。
銀帝との戦いにフル戦力で挑むことができる。

「ヤヨイちゃん……本当にごめんなさい。私の雪人の血が、あなたを傷つけてしまいました……」

「き……気にしないで、ください……ササメ先輩は、なんにも悪くないです……」

「ヤヨイちゃん……!」

いつもの様子でにっこり笑ってみせるヤヨイ。だがその笑顔はどこかぎこちないものだった。
だが、夢の中で何年間も犯され続ければ普通の少女であれば心が壊れてしまうだろう。
そうならなかったのは、ヤヨイには心を乱されないという忍びの才があるということなのかもしれない。

「それより……ササメ先輩のお母さんが……」

「……ヤヨイちゃんも、過去を見たのですね。私の母はやはり、まだこの城のどこかにいるようです」

「えっえっ、なんの話なのよ……いきなりついていけないわ。説明しなさいよお菓子の妖精!」

「ど、どうでもいいですけどさっきからお菓子の精霊だの妖精だの表記のぶれが起こっていますわ! 妖精に統一してほしいですわ!」

「……えっと、この方たちは……?」

「あ、説明しないとですよね……ていうか私も、こっちのサンタみたいな二重人格の女の子のことはよくわからないし」

「あ……みたいじゃなくて、わたしサンタガールなんです。こんなんでも一応、サンタさんなんですよ」

「二重人格のもう一つはうるさくてガサツでバカで気が強くて演技が下手くそで男の筋肉が好きで友達の買った下着を恥ずかしさから穿けないって言いつつちゃっかり穿いてる風の精霊の人格ですわ! サンタガールちゃんとは無関係ですわ!」

「アイナ……今のあんた程度の小ささなら地球の裏側まで吹っ飛ばせるんだから、そのつもりでいなさいよね」

「ひいいいぃっ!」




「……みなさんが敵ではないのは理解いたしました。私は母を……探しに行きます」

「せ、先輩……本当に行くんですか?雪人はかなり強いし、多分あの銀帝ってやつはそれとは比べられものに……!う、ぁ……!」

「……?ヤヨイさん……?」

銀帝のことを話し始めた途端、ヤヨイは恐怖感に襲われてしまう。
それは銀帝に犯された記憶が原因だ。氷漬けにされ、氷を体に突き入れられたあの痛みと恐怖は、ヤヨイの中で溶けることはない。

「……ササメ先輩……やっぱり帰りませんか……?わたし、こうして現実に戻ってきただけでもすごく嬉しいんです……!早く帰って、お母さんとお父さんに会いたい……それに、ササメ先輩にも危険な目にあって欲しくない!」

「……もちろん無理強いはいたしません。ヤヨイちゃん、貴女はもう十分戦いました……ここからは、私の……銀帝の娘として、けじめをつけるための戦いです」

「……ササメ先輩……!」

使命感に駆られるササメ。それを止めようとするヤヨイ。
両者の想いが通じ合うことはできるのか。

701名無しさん:2020/02/08(土) 14:36:02 ID:iH0lu9bg
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

「ええ!?あんな強そうな人と戦うんですか!?うぅ、サンタは思っていたより肉体労働ですぅ……」

「お菓子!アンタはサンタに憑依して潜伏しつつ道具で援護!私はくノ一に憑いて戦闘力マシマシで行くわ!多分これが一番相性いいでしょ!」

「相変わらず戦闘になると急にイキイキしますわね」

風の精霊の指揮により、サンタガールとヤヨイにそれぞれ憑依するお菓子と風の妖精。

「なんだ、無駄なギャラリーがぞろぞろと……邪魔だ、少し眠っていろ」

銀帝が手をかざすと、怪しい冷気が周囲を包みだす。雪人の持つ精神感応の力……その力が一際強い銀帝によって、お菓子の精霊とサンタガールの精神が、風の妖精とヤヨイの精神が感応する。

「ええ!?氷属性のくせにまたメンタル系攻撃ですの!?ワンパターンですわ!」

「え、なんですかそれ!?私どうなっちゃうんですかー!!?」

「大丈夫ですわ、アイナの記憶はそこまでエグいのないですから……って問題は、B級スプラッター映画みたいな過去のドロシーですわーー!」

「だから名前呼ぶな!でも確かにヤバい、ただでさえ精神的にキテるくノ一に、あの記憶を見せたら……」

「え……?あぐぅ!!」

風の精霊と精神感応したことにより、彼女の……ドロシーの生前の記憶がフラッシュバックするヤヨイ。
それは先ほどの討魔忍の記憶と同等……いや、それ以上に残酷な記憶だった。

詳しくは下記参照。
http://ryonarelayss.wiki.fc2.com/wiki/09.ドロシー

702名無しさん:2020/02/08(土) 14:37:04 ID:???
「なに……これ……!?いや……いやあぁああああ!!!!」

「落ち着いて!それは私の過去!アンタは関係ない!追体験してるだけ!!」

「ええぃ、こうなったらアイナたちだけでも援護に行きますわよ!」

「は、はい!」

崩れ落ちるヤヨイと、お菓子の精霊の力で姿を消すサンタガール。

「半分仕留め損ねたか……まぁいい、どうせ大した影響はない」

「ヤヨイちゃんに……手を出さないでください!『氷雨』!『雪雲』!」

ササメは氷の刃を生成して、銀帝に切りかかるが……

「ふん、人の身に戻った途端、また貧弱になったな」

「な……!?」

ササメの氷の刃は、銀帝の体に到達した瞬間に、呆気なく折れた。

「半分の雪人の力で、完全な雪人に……ましてや王に勝てるわけがないだろう」

ササメが驚いている間に、素早く伸びた銀帝の腕が、ササメの首を掴んで持ち上げる。

「ぐっ、が!!かはッ!」

「さぁ、再び覚醒するがいい」

冷気が銀帝の腕に溜まり、ササメの首を伝って、彼女の口に入りそうになる。

「させませんわーー!」

「ホカホカ加湿器!!」

だが、サンタガールのアイテムから出た暖かい湯気が、銀帝の冷気を食い止める。

「ちっ、猪口才な……もういい、このまま絞め殺すか」

「ぐぅ!!ぎ、があぁ、がはっ!!」

メリメリ、とササメの首を締める銀帝。雪人の力で強くなったササメには、力比べで銀帝を下すのは難しい。
サンタとお菓子コンビは道具によるサポートはできるが、戦闘力自体は低い。

つまり、この状況を何とかできるとすれば……




「うああああぁああああ!!!!!」


精神感応を振り払うように叫びながら、精霊刀を持って突進している、彼女しかいない。

703名無しさん:2020/02/08(土) 15:45:22 ID:bfITBHT.
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

704名無しさん:2020/02/08(土) 17:02:22 ID:???
「受けてみなさいっ……忍影斬!!」
「ぬうっ……それは、精霊刀………!?」

精神攻撃を耐え抜き、銀帝に斬りかかるヤヨイ。
とっさにかわした銀帝だが、腕にわずかな裂傷が刻まれる。

精霊刀は従える精霊の数と強さによってその威力を増す。
手下がお菓子の精霊だけだった時は雑魚雪人にさえ通用しなかったが、今は格段に威力が増していた。

「そっちの雑魚と風の精霊……だけではない。『もう一人』いるな。だが何匹群れたところで結果は変わらぬ!」
「う………げほっ、げほっ!!」
「ササメさん!大丈夫ですか!?」
(さらっと雑魚扱いされましたわ…)

(ギンッ!!ガキン!!ザシュッ!!)

「うわ、すごい……!」
(な、なんかあのJK忍者、思ったより剣技レベル高いですわね)
「あれは……ヤヨイちゃん、じゃない。一体……?」
(え?あの動き、多分ドr…風の精霊とも違いますわよ?……じゃあ誰が…)

(ヤヨイ、よく動けたわね!さすがに精神的に限界かと思ったわ……ヤヨイ?)
(う……うん。なんとか、大丈夫……)
(あれ?ヤヨイも「」じゃなくて()で喋ってるってことは……今、表に出てるのって……)

「フブキ様を長年苦しめた報い……今こそ受けてもらうぞ、銀帝!!」
「なるほど……そういう事か」
(なんか敵は納得してるっぽい!?どういう事、ヤヨイ!?)

(私が、最初に氷漬けにされたとき……
サンタちゃんのクラッカーがならされても、悪夢から抜け出す力が残っていなかったの。
その時、あの人が助けてくれた。)

………………………………

「グッヒッヒッヒッヒ!!夢の中だと何しても死なねーから、色々やっちゃうもんねー!
いっけーイエティ!!サツキちゃんの足と両腕持って〜……地獄のゾウキン絞り!!」

「っぐ……は、放しなさいっ……!」
(うう……手足を掴んで、一体何を……ゾウキン絞りってまさか……)

「グロロロロロゥッ!!」
メキメキメキメキッ!!!
「「っひぎあああああああああああぁっ!!」」

「いやー!いつ見ても骨折音と血のエフェクトがド派手だなー!コマンド複雑すぎて実戦じゃなかなか出せねーけど!」
「イエティって、技がどれもこれも大振りでコンボがつながりづらいんだよな! よーし今日もいっぱい練習しちゃうぞー!」

私が追体験した、ユキメ先輩のお母さんの部下、サツキさんの過去。
夢の中……真っ暗な部屋の中で、格ゲーのトレーニングモードみたいに、自分の意志じゃ身動き一つできなくて……
イエティとかホワイトウルフとか、いろんな魔物に一方的にやられ続けるの。

絶対死んじゃう、っていうような大ダメージも、次の瞬間には元通りになって……
すぐまた、何度も何度も痛めつけられる。でもあの時……

(パアアアアアンッ!!)

「うおっ!?なんだ今の音!?」
「おい見ろ!空中に亀裂が……!!」

<異常発生……異常発生……悪夢空間に亀裂が発生。再構築します>
「うっぐ……何、あの亀裂…………これは…夢……?」
(あれは……………あくむの、でぐち……でも、もうだめ……私……もう、うごけな……)
「……だ……誰かいるの……!?」
「何だかわからねーが、嫌な予感がするぜ……イエティ!サツキちゃんを押さえつけとけ!」

「はぁっ……はぁっ………そうは……行かないっ…忍影斬!!たああああぁっ!!」
「グオォッ!?」
「何っ!?悪夢の中じゃ動けないはずなのに……!!」
「う、動けたっ……!…そうか、あの亀裂のおかげで、悪夢の力が弱まって……」

「くそっ!だが、無駄だ!イエティ超必ゲージ最大!!
ジャンプ強キック!下強パンチ!からのビッグフットスタンプ!」
(ドゴ!! ゴスッ!! ゴシャッ!!)
「んうっ!! うあっ! げううっ!!」
「そして超必投げ!アルティメットイエティバスターコンボ!」
「グオッ!!」
「うっぐ!……これ、は……普通の打撃…?」
「しまっ…!コマンドミスった……!!」

「い、今だっ……奥義・影刃蒼月閃!!」
「グアオォォォォォォゥッ!!」

「クッソがぁぁぁ!!逃がすな、イエティ!!」
「はぁっ……はぁっ……しっかりして……誰だか知らないけど……いるんでしょう、私の中に…」
(………う………ぁ………)

「グロロロロォ!!」
「やってくれたなぁ……だが、悪夢の中ならイエティだって何度でも復活するんだぜ……!」
「もうちょっとで結界も復旧するみたいだしな!コンボ表の上から下まで順番に試してやる!」

(そ、そんな……!!)
「……くっ……せめて、貴女だけでも……!!」

705名無しさん:2020/02/08(土) 17:05:10 ID:???
(その後なんやかんやあって、私たちは奇跡的に脱出した……サツキさんがいなかったら、私は目覚めることができなかったかもしれない)
(ええ……かなり良いところで終わったわね。kwskしたら長くなりそうだから突っ込まないでおくけど)

「私の実体は、未だに氷の牢獄に閉じ込められている。
だから、今の私は影の精霊となって、精霊刀の持ち主に憑依しているのよ!!」

「……雑魚どもが、次から次へと群がりおって……消え失せろっ!!『凍月』!!」
「くっ……!!」

巨大な凍気と共に、氷の刃が振り下ろされる。
回避は不可能。受ければ刀ごと全身が凍り付くだろう。
かつてのサツキが銀帝に挑んだ時も、同じようにこの剣の前に敗れ去った……

(ガシッ!!)
「……ササメ………!!」
「はぁっ……はぁっ……『銀帝』……いいえ。お父様……もう、おやめください」

サツキの前に立ち、真剣白刃取りで銀帝の死の刃を受け止めたのは……ササメだった。

「そもそも……貴様はなぜ、その姿のままでいる。雪人の血に覚醒したのではなかったのか」

「……あなたの言うように、雪人からすれば人間など『雑魚』にすぎないのかもしれません。
ですが、彼らがいなければ、私は……あなたの前に立つことなど到底できなかった。」

「私は……今日、すべてを終わりにするつもりでした。
雪人は、人を襲って、苦しめる魔物……私の体にもその血が半分流れている。
何かのはずみで、さっきのように『雪人』として覚醒し、罪もない人々を……自分の大切な人を、襲い始めるかもしれない。
そうなる前にあなたを殺し、雪人達をすべて殺し、そして自分自身も……そう考えていた」

「なっ……」
(ササメ先輩……!?)

「だけど、お母様の過去を覗いた事で……私は自分の考えの浅はかさを知ったのです。
……私は、疎まれ捨てられた忌み子ではなかった。
私を拾い育ててくれたヴィラの集落、ミツルギの人々、様々な人たち。

雪人の血を引く私を、今日まで受け入れ支えてくれた皆さんのおかげで……
他人を苦しめねば生きていけない雪人の宿命に、私は打ち克つことができた。
お母様が示してくれた私の道は、間違っていなかった……
それを今、お見せします。
雪人の力、忍の技、そして……人の心。その全てを一つに束ねた、私の、この奥義で……!!」

「そんなものは……幻想にすぎぬ。 雪人の『宿命』は、そんなに軽くはない……
受けるがいい!!奥義『永久氷晶』!!」
「『雪月花』!!」

ササメと銀帝、二人の刀が交錯する。
雪人の悲しい運命に翻弄された親と子の、勝負の行方ははたして……

706名無しさん:2020/02/16(日) 19:24:07 ID:WsW31b7A
「くうぅ……!はああああっ!」

「ぬおおおおおおおおお!!!」

ビュオオオオオオオオオオオ!!!

氷の氷華と父の氷晶が炸裂し、部屋中に吹き荒れる吹雪。
その勢いは凄まじく、サンタガールたちは吹き飛ばされないように耐えるのみで精一杯だった。

「ぐ……これじゃ、援護も何も……!」

「むむむ無理ですわ……!あっあっ!吹き飛ばされますわああああぁ!」

「お菓子の精霊さん!危ない!」

吹き飛ばされそうになったお菓子の妖精の小さな手をサンタガールが掴み、なんとか踏みとどまった。



「存外にやるな……腐っても私の血を引いているだけはある」

「負け……ません……!お母様のためにも……お母様と共に戦い命を散らした、サツキ様のためにも……!」

「くだらん。親子の絆だろうと、部下との繋がりだろうと……ここですべて砕いてくれるッ!!!」

ビュウウウウウゥ!!!!ゴオオオオオオオオッ!!!

「な、まだそんな力が……?あああああぁっ!!!」

その身に宿した雪人の力を全開放する銀帝。
先程までは互角に渡りあっていたものの、勢いを増した暴風雪の前に、ササメの足が後退する。



ビュウウウウウウウウゥオオオオオオオオオオオッ!!!

もはや銀帝の吹雪は、吹雪なのかもわからなかった。
目の前が白一色に染められたと同時に、初めて感じる体の感覚にササメは困惑する。

「くっはぁ……!この……感、覚は……?」

「ククク……それが人間どもが感じる、寒さという感覚よ。お前が感じることは今までなかっただろうがな……」

「う、はぁ、はぁ……こ、こ……これが……寒、さ……?」

「私の氷の前には絶対零度すら生ぬるい……お前はまた雪人の血を覚醒させてやろうと思っていたが、気が変わった。貴様も永久に凍結させて、雪人の糧となってもらおう。その美しい肢体でな……」

「……はぁ……ぅ……くぅ……!ま……け……ません……!」

言葉とは裏腹に、ササメの氷の花びらが、一つ、また一つと散っていく。
雪人のハーフとして生まれたササメは、今まで寒さを感じたことがなかった。
銀帝の圧倒的なまでの吹雪を浴び、初めて感じる身体の感覚に意識が遠ざかってゆく。



パリィン!

ササメの氷の花びらが、最後の一つとなった。

「は、は、はぁぁぁ……ぁ……」

「……フフ、怖いか?この氷の花弁が散ったとき、貴様も母親と同じように、永久に凍り続けるのだ……」

「はあああぁっ……ふううううぅ‥…!」

歯がガチガチと音を鳴らす。体の震えが止まらない、
目の前の氷柱は自分の髪だと気づいたとき、ササメの足は完全に凍りついていた。



(……寒さ、とは……こんな、にも……絶望的な……感覚……なのですね……)



銀帝の吹雪の前に、ゆっくりと目を閉じるササメ。
だがその時、豪雪の音に混じって声が聞こえてきた。

「……輩……!……けないで……負け……で!」

(……この声は……ヤヨイ……ちゃん……?)



「……諦め……で……!ササメ先輩!!!負けないでッ!!!」



必死に吹雪の中で声を上げるヤヨイの声に気づいたとき、閉じかけたササメの目が開いた。

707名無しさん:2020/02/23(日) 15:28:13 ID:???
「……ヤヨイ…ちゃんっ……!?………」
必死に叫ぶヤヨイの声に、朦朧としていたササメの意識がほんの少し覚醒した。


「ちょっと、ヤヨイ…!?……無茶よ、戻りなさいっ……!!」
「冷気無効のサンタ服すら貫通する寒さですわよ!?……生身の人間じゃ、持ちませんわ……!!」
「って、つめたっ!!わ、私の服の中に入らないで下さいっ……!」

精霊やサンタガールですら耐えられない、荒れ狂う猛吹雪の中。
ヤヨイは体半分氷漬けになりながらも、ササメの元に必死に這い寄り、しがみつく。

「っぐ……こんな、所で……諦めちゃ、ダメです……先輩のお母さん……フブキさん、やっと目の前に……」
(………ビキビキビキビキッ!!)
「「うっぐ……あああああああぁぁ!!!」」

「先輩……これを………受け取っ、て……」
「……ヤヨイ…ちゃん……!!」
(パキンッ…!)

「……無駄だ。二人まとめて、氷漬けになるがいい」

咄嗟にヤヨイを抱き寄せるササメ。だが、銀帝の吹雪は、更にその威力を増していった。
やがて最後の花びらが散り、二人の体は氷に包まれて……

「フン。所詮は、人間の血が混じった半端者……この私に勝つ事など、不可能だったな」

……ササメとヤヨイは、互いに身を寄せ合ったまま、氷の柱に閉じ込められてしまった。


「さてと。妖精ども……ついでに、貴様らも凍らせてやる。我ら雪人の糧となるがいい」
「ぎょえぇぇぇ、こここ、こっちに来ますわっ……!!」
「うっ……動けない……風が、凍って……っぐ、あああぁっ……!!」

後衛にいたサンタガール+妖精ズにも、少しずつ冷気が迫っていく。
もはや、銀帝の暴虐を止めるものは誰もいないかに見えた。


(……寒い……ヤヨイちゃん、貴女は……今まで、こんな感覚に耐えていたのですね。
これほどの危険も承知で、私のために……ここまで着いて来てくれた。)
(…………。)
(ヤヨイちゃんの、体……とても、温かい……)

(……そうだ。確かに、私は……今まで本当の『寒さ』を知らなかった。
だけど、その代わり……お母様や、今まで出会った大勢の人たちから大切なもの……
『温かさ』を、私は知っている)


「だから……ここで、終わるわけにはいかない……『砕氷星鎖』っ!!」
(バキバキバキッ……!!)
「何っ……!!」


その時。

氷塊に大きく亀裂が走り、中からササメが現れた。
左腕に気絶したヤヨイを抱きかかえ、右手には、ヤヨイから受け取った『砕氷星鎖』を携えている。

そして、全身に纏っている凍気は……今までと、何かが違った。
雪人の長として長年君臨する銀帝も、感じたことのない種類の感覚。


「馬鹿な。下等な人間、中途半端なハーフごときが……銀帝の氷棺から脱出しただと……!?」
「はぁっ………はぁっ………
下等で半端……そんな脆く儚い存在だからこそ……人は、互いを想い、助けあう。
時にそれが……どんな寒さも、絶望さえも、乗り越えるほどの力を生み出すのです」

「ほざくな……そんな不安定なものに、この私が……
雪人の長たるこの銀帝が…惑わされるわけにはっ……!!」

「やはり……一度力で打ち倒さなければ、貴方に認めさせることは出来ないようですね。」

「…………」
「……決着を、付けましょう。
貴方に教えて差し上げます。お母様が……命がけであなたに伝えようとしていたことを」

両者の剣がぶつかり合う。激しい光と凍気が周囲を包み込み……

「「はああああぁっ!!」」

無数の氷の結晶が、咲き乱れる花のごとく舞った。

708名無しさん:2020/02/23(日) 18:32:43 ID:???
(………ここは、一体……?……私は…………)
銀帝は……夢を、見ていた。

「お目通りが叶い光栄です、ゲンジョウ様……
この度、見習いとして新たに討魔忍衆に加わらせていただくことになりました、ササメと申します」

「うむ……事情はヴィラの民から聞いておる。……選抜試験でも、優秀な成績を収めたそうじゃな。
だが、討魔忍とは読んで字のごとく魔を討つ忍び。
事と次第によっては、おぬしの同族である雪人とも戦うことになるやもしれぬ。……その覚悟はあるか」

「ええ、もちろん。……むしろ、私はそのために討魔忍を志したのです。
攫われたお母様を取り戻し、邪悪な雪人達を殲滅するために……」

「うへー。アブネーねーちゃんだな!
でもメチャクチャ可愛いし、まだ1x歳になのにイイカラダしてるぜ!将来が楽しみだ!」

(あれは……ササメか。だが、雰囲気が今と別人……それに、なんだあの失礼なガキは…?)


「これ、お前は黙ってれ!……と。紹介が遅れたな。こやつはテンジョウ。
見ての通りの鼻たれ小僧じゃが……いずれは儂の跡を継ぐことになる。
そして、見習いとなったお主の教育係を務めるのは……」

「神楽木七華と申します。よろしくお願いしますね、ササメさん」

「七華はまだ上忍になったばかりじゃが、実に優秀な忍びじゃ。
彼女の下でよく学び、早く一人前の忍びとなるよう精進するがよい」

「この方が……?
こう言っては何ですが、とても強い忍びには見えませんが。
見たところ、歳も私とそう違わないようですし……」

「ええっ!?………そ、それはその。見た目が強くなさそうなのは、確かにその通りかも、しれませんが……」
「ちょwwwこのねーちゃん、けっこう言う事キツいなwww」

「……ふむ。七華の下には付きたくないか?
ならば……我がミツルギは、知っての通り完全実力主義。
七華と勝負して実力で示す事ができれば、配置については考え直すとしよう」

(そうか。これは過去の記憶……ササメが討魔忍になったばかりの頃、というわけか。しかし……)


「ええ、それで構いませんわ」
「え?い、いきなり勝負するのですか……?」
「安心してください。痛みを感じる暇もないよう、すぐに終わらせて差し上げます。
そんなおかしな人形を持ち歩いてるおかしな人に、長々と付き合うつもりはありません」
(……ピキッ)
「あ。ねーちゃんそれは……」「マズい、のう………」

「……ササメさん、と言いましたか。良いでしょう……
ですが、私は貴女ほど気が短くないので……ゆっくりじっくり、教えて差し上げます」

(なっ……さっきまでと雰囲気が……)

ギギギギギギ……
「っ!?…に、人形が動い………」
「まずは……言葉遣いと態度から、ですかね」

「いやあああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

709名無しさん:2020/02/23(日) 18:46:32 ID:???
「ぶはぁぁっ!!………こここここ、殺されるっっ!!!………って、あれ……??」

身の危険を感じ、銀帝は意識を無理矢理覚醒した。

「あ、気が付かれましたか……お父……いや。その……ええと」

気が付くと、すぐ横にササメがいた。
お互い、氷の力を使い果たしていて、しばらく戦闘は出来そうにない。

「……なんか随分うなされてたけど、大丈夫なの?このおっさん」
「ええと……雪人の『他人に回想シーンを見せる能力』で、討魔忍になりたての頃、お世話になった人の夢を見せて、人間の想いのすばらしさをわかっていただきたいこうと思ったんですが……」
「そ……それにしてはシーンのチョイスがかなり間違っていたような気が」
「こ、この手の能力には不慣れなもので、間違えたみたいです……
 では他に、そうですね……
 あの方の経営する和菓子屋さんでアルバイトをして、季節ものの特殊な服装で売り子をした時の事とか」
「あ。そっちの方がよかった」
「おいコラおっさん」
「というかうなされてるときのリアクションが、ボスキャラの威厳ゼロでしたわ?」

妖精ズもいた。そして……

「ふふふふ……この人、結構気が小さいですから。
いつも雪人の長としての重圧に苦しめられて……私に愚痴を吐き出すしかない、可哀そうな人」

「…………フブキ…………。
そうか………私は………敗れたのか」

「ええ。ササメに……私たちの娘に。
雪人としての力だけではない。あの子が自分で手にした、忍びの技と……人間の、絆の力に。
もう意地を張るのはやめて、話くらい聞いて差し上げたら?」
「ぐぬぬぬぬ………」
「あ、尻に敷かれてる系ですわねコイツ」

すっかり毒気を抜かれた父親、銀帝。
見た目はササメそっくりだが性格は意外とあっけらかんとした性格だった母親、フブキ。
……ササメは、互いの年月の隙間を埋めるかのように、互いに色々なことを話し合った。

………………

「おおおお、親子水入らずはいいですけど、待ってる間に寒すぎるぜーですわ!!」
「運動でもして体あっためないとマジで死ぬわこれ!!
ついでだから、例の鎖借りて氷柱に閉じ込められた人を助けてきましょ!」

「あ、でもあの鎖、訓練しないと使えないとかなんとか、そういう設定があったんじゃ…」
「うがあああああ!!そんなこまけーこと気にしてる場合じゃねーですわ!!」

「あ、私その鎖使えます!!生前に特訓したんで!!」
「ナーーイス影の精霊!!」
「自分で自分を助けるのもちょっとどうかと思いますけど!!」

そして……

710名無しさん:2020/02/23(日) 19:01:54 ID:???
「部下たちも含め、雪人の生き方をすぐに変えるのは難しいが……少しずつ、考えてみようとは思う。
どの道、今のままでは雪人と討魔忍の衝突は避けられぬからな……
………それは、どうにかして避けたい」

雪人の長・銀帝は、人間との和解の道を歩むことを決意した。
あるいは、人間と敵対している現在よりも、イバラの道になるかもしれないが……決して、不可能ではないはずだ。

「おおう……まさかの『決まり手:人形女こわい』ですわ?」
「い、いや…別に、そういうわけではないぞ。人間の持つ力も侮れぬ、という事だ…うん」

(あの人形女は今ちょっと状況変わってるらしいけど…言わない方がよさそうですわね。面白いし)

「……私は一度、ミツルギに戻るわ。テンジョウ新陛下にも、挨拶しないとだし……」
「そうだな……それが良い。私からも、近いうちに使いを送ると伝えてくれ」
「すぐ戻ってくるから、浮気しちゃダメよ?」
「な………わ、わかっている…!」

「それに下界に戻るのは20年ぶりくらいだしー、せっかくだから色々見て回りたいわ!
てことで、おススメのお店とか案内してね、ササメちゃん!」
「は……はい、お母様」
「もーぉ。ササメちゃんたら、お母様なんて……フブキちゃんでいいわよ!!」

「……20年間仮死状態だったから、肉体年齢変わってないみたいね。あと精神年齢も」
「若作りの母親属性……通常攻撃が全体攻撃で2回攻撃しそうですわ」


こうしてササメ達は、母親フブキ、その部下サツキ、他囚われていた人々と共に雪人の城を後にし………


「いろいろと助けていただいて、ありがとうございました。
……お父様のような、素敵なサンタクロースになれるといいですね」
「は、はい!こちらこそ…!
ササメさんも、お父さんとお母さんと、仲良くしてください」

空に消えていくサンタガールを皆で見送った。
クリスマスどころかすっかり年が明けて、暦の上では春が近づきつつあったが、考えたら負けである。

「いやー……思った以上に色々あったけど、丸く収まってよかったです!
正直、私あんまり役に立ってなかった気がするけど……」
「ふふふふ……そんな事ないですよ。
私の力だけじゃ、きっと……こうして、ここに帰ってくることは出来なかった。
最後まで戦い抜く事ができたのは、ヤヨイちゃんや、サンタさんや、精霊さんや……皆のおかげです。
本当に、どうもありがとうございました」

ばつが悪そうなヤヨイに、ササメは優しく微笑みかける。
精霊たちの方にも向き直って、改めて頭を下げた。

「お礼なんていーって。その代わり……
あんたたち、これからトーメントと戦うんでしょ?
その時になったら……私らの方から、頼みたいことがある。止めてほしい奴がいるんだ」
風の精霊、お菓子の精霊は、いつになく神妙な面持ちで応える。

次なる戦い……最後の、負けられない戦いが、間近に迫っていた。
ササメとヤヨイ、そして討魔忍衆を待ち受けている運命とは……

711名無しさん:2020/03/08(日) 14:17:03 ID:Fx3fdoF2
(今日も、ユキに会えなかった……)

サキはトーメント城の廊下を暗い表情で歩いていた。
リンネと繋がって脱走を図っていたことがバレ、リザによって重症を負わされ、舞の助けでリザを退けたが、留守にしている間にスネグアにユキを改造され……今は姉妹揃ってトーメントの駒に逆戻りだ。

いや、むしろ悪化しているかもしれない。

スネグアによって「サキは裏切ったふりをしてナルビアから情報を盗もうとしていたが、スネグアが本当に裏切ったと勘違いして、早まってユキを改造してしまった」ということにされているが……そんな建前を信じている人間はいない。

城の人間は全員、サキが本当に脱走しようとしたことを知っている。
そしてスネグアに弱みを握られていることも知っている。
つまり……以前とは周りからの扱われ方が違う。

ユキに会おうとスネグアの部屋や教授の実験室に行っても、雑に門前払いされるのが当たり前。さらに……


「んむぅ!?」


疲れ果てて歩いていたサキは、背後から音を消して迫る男の存在に気付かなかった。
突然後ろから伸びてきた手に口を塞がれたと思うと、体を乱暴に掴まれて近くの部屋に無理矢理連れ込まれる。

「よっしゃ、よくやった!」

「誰にも見られてねぇな?」

「まぁ別に見られてても問題ないけどな……そっちこそ邪魔な小娘、略してJKの舞ちゃんがいないのは確認済だな?」

「ああ、なんか王様に呼ばれてたっぽい。しばらくは出てこないだろうよ」

連れ込まれた部屋には別の男が2人いた。サキは知る由もないが、>>598とかでちょくちょくいた、サキ派のトーメント兵士である。

「んっ……んんぅ!!ぷはっ!!こ、のぉ……!急に何すんのよ!」

サキは他の十輝星に比べれば身体能力は低いが一般兵よりは十分強いし、邪術を使えば他の十輝星にも引けを取らない戦闘力を誇る。
こんなモブ共に襲われた程度、本来何ともないのだが……


「おーっと、抵抗するなよ……抵抗してもし俺らが傷を負ったら、暴れたサキちゃんのせいで怪我しましたって王様やスネグア様に伝えちゃうからな?ちなみに殺しても無駄な。俺らが戻らなかったらチクるように、別の仲間に伝えてある」

「そうなったら大変だなー、サキちゃんは処罰されるし、ユキちゃんはスネグア様の正式な奴隷。舞ちゃんも誰の下につけられるか分かったもんじゃない」

「お母さんも後追い自殺とかしちゃうかもね。他殺っぽいけど自殺処理される、ドラマでよくある感じの自殺の仕方を、さ」

「っ!」

一連の件以降、サキの弱みにつけこんで好き勝手してくる人間もいる。

家族と舞を人質にされてしまえば、サキはもう何も抵抗できない。

射殺す様な視線をクズ兵士たちに向けながらも……サキは体の力を抜いて、自分を掴んでいる男に身を預ける。

「おほっ!!ホントに抵抗止めたよ!!」

「スネグア様の話は本当だったんだな!」

「ヒヒヒ……これで、憧れのサキちゃんで滅茶苦茶できるのか……嬉しいなぁ!」

サキを掴んでいる兵士は、少し前までサキの口を塞いでいて、微かに彼女の唾が付着している手をベロリと舐めると……そのままその手で、サキの右胸を乱暴に握りしめる。

「ひゃっ!?ぐ、つぅ……!」

童貞らしい乱暴な掴み方。ただ痛いだけで、快楽など微塵もない。

「あー、やーらけー……なんかサキちゃんの胸って、現実離れしてないレベルの程よい巨乳さでいいんだよな……ベロォ!」

「ひっ!」

恍惚としながらサキの胸を揉みしだき、汗の浮かんだ彼女の首筋に舌を這わせる兵士A。ゾワゾワとした気色の悪い感覚に、サキの肌が粟立つ。

「あっ、おいお前だけずるいぞ!いくら直接捕まえた功労者とはいえ!」

「まぁまぁ、俺らも楽しめばいいじゃん……こうやって、さ!」

「っ!」

兵士Bがサキのお腹に向けて拳を振りかぶる。襲い掛かるであろう痛みを予期して、目をギュッと瞑るサキだが……

「おい、お腹はちょっと待ってくれ」

兵士CがBの拳を止めた。

「あぁ?なんで邪魔すんだよ?」

「いやさ、俺、実はガチ恋勢だったんだ」

「お、おう、そうか。唐突なカミングアウトありがとう……で?ガチ恋だから止めてあげてってことか?」

「バカ、そんなんじゃじゃなくてだな……お腹殴ったらえずいちゃうだろ?」

そう言いながらCは、Aに押さえつけられたままのサキに近づいていき……

「はぁ、やっぱりいい……無造作にしてるスピカと違って、髪もお肌もちゃんと手入れされてる……多分毎日ちゃんとそれなりの時間かけてヘアアイロンとかしてるんだろうなぁ……ねぇ、使ってるシャンプーとリンス教えてよ、グルシャンするから。あ、グルシャンっていうのはね、シャンプー飲むことでね……」

めっちゃ早口で気持ち悪いことを喋り始めた。心なしか口調も急にキモオタ化したように見える。

712名無しさん:2020/03/08(日) 14:20:08 ID:Fx3fdoF2
「……キモ」

アイベルト辺りの無害なアホに言う感じの呆れ混じりの『キモ』ではなく、心の底から気持ち悪いと思っている、渾身の『キモ』であった。

「おい、シャンプーは飲み物じゃないぞ。腹壊しても知らないからな」

余談だが、兵士Bは割とガチめにCを心配していた。

「こんな顔して腹黒なのも、腹黒のくせに身内には甘いのも、強いけど戦闘キャラには勝てないくらいの程よい強さなのも、髪飾りとかニーソとかローファーとか、細かい所に光る女の子らしさも……なんていうか、ほんとに好きになっちゃったっていうか……」

サキからキモがられても同僚から心配されても構わずに、ガチ恋っぷりを披露する兵士C。サキの胸を揉んでいた兵士Aも思わずドン引きしていた。

「……好きとかいうなら、このクズ2人から助けるくらいしてみたら?ワンチャンに賭けることもしないで、好き勝手に甚振るだけなんて……そんなんだから彼女の1人もできないのよ」

「何にベットするかは、自分で決める……サキちゃんと付き合えるというメインキャラですら難しいワンチャンに賭けるよりも、モブキャラが好き勝手できる状況が来るのを待つことを選び、そして勝った!」

突然映画のカ○ジみたいなことを言った兵士は、顔をさらに近づけて、サキの頬を両手でガッチリと掴む。

「……だからダメなのよ……最初はアイツの好感度だって最低だったけど……なんやかんや、助けてくれて……」

サキが遠い目をして、リンネのことを想った瞬間……兵士Cは嫉妬の炎に狂った。

「んな!?まま、まさか、敵国に彼氏がいたって話も本当!?」

「へー、そうだったんだ……なぁ、部屋からカメラ持ってくるからさ、ビデオレター作ろうぜ。俺一回『うぇーい!カレシ君見てるー!?』って言ってみたかったんだよな」

「諦めろ……こいつ、聞いてないぜ」

「ちゃっかり彼氏まで作っちゃう性格も含めて、本当に最高だよサキちゃん!なんだかんだ普通の女の子らしさ全開じゃないか……!も、もう辛抱たまらん!!」

Cは早口でまくしたてると……サキの顔をホールドしたまま、口を近づける。

「っ……!何すんのよ!!」

「ぶげ!」

サキは咄嗟に、Aに抑えられていない足でCを蹴り飛ばしてしまう。

「あ……」

「ふ、ふふふ……!手ェ出しちゃったねぇ!!これをあることないこと捏造して報告したら、君の大切な人たちがどうなっちゃうかな!?あ、でもツバ付ければ治るかもね……ということでさぁ!サキちゃんの方からキスしてよ!!」

そして、それもCの計画通りであった。ガチ恋故に、無理矢理犯すみたいなキスをするのではなく、無理矢理サキの方からキスをさせるシチュエーションを作ったのである。

「お前すげぇな……」

「おいA!サキちゃんがキスできないだろ!その手を離せ!」

「はいはい、っと」

Aは言われるままに、サキの体を離す。解放されたサキだが、結局言うことを聞かなければならない状況には変わりない。

ぐっ、と唇を噛むサキ。言われるままにするしかない状況。しかし決断できずにいると……


「あのー、お楽しみのところ申し訳ないんすけどー、モブにヤられちゃうエロパートはスピンオフでやってもらっていーすか?」

いつから見ていたのか、天井から突然声と共に少女が降ってくる。

「ああ?ジェシカじゃねぇか。ガキは帰った帰った」

親切なおじさんと化したBがジェシカを連れ出そうとするが、ジェシカは動く様子はない。

「おっちゃん、あっしもリゲルに用があるんすよ。スネグアさん関係で」

「う……」

スネグア関係と言われると、この状況を作れたのもスネグアのおかげである兵士たちは何も言えなくなってしまう……ガチ恋以外は。

「ふざけんな!ここまでお膳立てしといてそりゃないだろ!!」

「バカ、こいつガキだけど結構強いんだから喧嘩売るな!しかもスネグア様関係だろ?」

「別の機会(スピンオフ)を待てばいいじゃないか。ほら、さっさと行くぞ」

AとBにズルズルと引きずられていくC。それを黙って見送ったサキは……ゆっくりと口を開いた。

「一応、礼は言っといた方がいいかしら?」

「いやいや、礼なんていらないっすよ。あっしはあっしで用があるのは事実っすから」

「用?」

「オカンの仇に記憶を取り戻してもらう為に、記憶喪失になった時と逆のことをして貰おうかな、と」

意味の分からないジェシカの言葉に眉をひそめるサキ。

「とりあえず会うだけ会って欲しいんすよ……サラ・クルーエル・アモットに」

713名無しさん:2020/03/14(土) 22:28:05 ID:???
「コルティナさん!この間はありがとうございました!」
「おー、ルーフェにフウコ。お前ら、あれから元気だったなりかー?」
「はい、おかげさまで! あの。コルティナさんは『次の作戦』に参加されると聞いたんですが……!」
「そうナリよー。なんか、ヴェン何とかの第何小隊って所に呼ばれる事になったなり。
 数字は忘れたけど7じゃないことだけは確かなりよ!」

コルティナ・オプスキュリテ……
「ミッドナイトヴェール」の異名を持つ、ルミナスの魔法少女であり、シーヴァリアの円卓の騎士の一人『暗幕卿』と呼ばれていた。
『ぐーたら三姉妹』の三女、と言った方がわかりやすいかもしれない。

実際には姉妹じゃないので、誰が姉とか妹とか厳密に決まっているわけではないのだが、なんとなく三女っぽい位置づけである。

以前、ブルーバード小隊がトーメントの海上プラントの襲撃作戦に参加した際、
重傷を負ったルーフェやフウコを治療したのは、実はコルティナのオリジナル安眠魔法「スリーピー睡眠」だったりしたのであった。

「それで、コルティナさんが出発される前に、あの時のお礼をしたくて!」
「いやー、そんな本編に出てきてないような事でわざわざお礼だなんて…お前らイイ奴なりね。
アイツらに爪のアカでも煎じて飲ませてやりたいナリよ」
「え、アイツらって…?」

「それがさー。こないだの襲撃で国中に瘴気バラまかれて、みんなで国中を浄化作業してるじゃん?
で、帰ってくるとみんな『疲れたからそのマントで休ませて!』って言ってくるなり!
自分が安眠するために編み出した魔法なのに、なんでみんなを休ませて自分がずーっと働かなきゃいけないナリか!!」
(そ、そんな本編に出てきてないような事でキレられても……)

「え、ええと……わかりました!今日はそんなゆっくり休みたいコルティナさんのために、
私の使い魔のしーぷーちゃんを、フレンド登録しちゃいます!」
「めーー!!」
「おおーー。すっげぇ!もこもこなりー!」

ルーフェの呼び声に応え、羊型使い魔がぽん!と召喚された。
本来の持ち主はルーフェのままだが、フレンド登録する事によって
コルティナも自由にシープーを呼び出すことができるようになる!

……という事で、コルティナは早速しーぷーにガバっと抱きつき、そのもこもこ具合を堪能するのだった。

「……あー…………良いわこれ…………すっげー良い………」
「私もお気に入りなんですよー。気に入っていただけてよかったです!」

「…………。」
「…………。」

「……マジ最高だわー……ありがとうマジで……………ていうかこれ良いわ……すっげー良い……」
「あ………は、はい……どういたしまして……」

「…………。」
「…………。」

「めええええええ」

「…………。」
「…………。」

「…………。」
「……あ、あの。どうしていいのかわからなくなっちゃうので、一旦起きてもらっていいですか……」

「…マジ良いわ………これ…………『マジ良いわ』しか言えなくなっちゃうくらい、ホントにガチのマジで良いわコレ……」
「わ、わかりましたから……一旦起きましょう。ね? 話が空中停止しちゃってるので……」

「いやでもこれ、マジでほんと良いわ……最高にマジで良いわ……ルーフェっちには、ほんと感謝しかないわ……」
「…………。」

(………もしかして私……やっちゃいけないことをやっちゃったのでは……?)

714名無しさん:2020/03/14(土) 22:44:13 ID:???
「よー!キリコにコルティナ、久しぶりだな!」
「ノーチェも元気そうなりねー!」
「やっぱこうなったかー。この人選、絶対リリスっちの差し金だろ」

……そんなわけで、ヴェンデッタ第12小隊に召集されたコルティナは、案の定というかなんというか、
同じく『ぐーたら三姉妹』と呼ばれていた『鉄拳卿』ノーチェ・カスターニャ、『裁断卿』キリコ・サウザンツと再会。
再び同じチームを組むことになったのであった。

「奴は円卓の騎士の中でも最弱……な姫騎士系リョナられ役だったのに、今じゃメインストーリーの中核を担う主要キャラ。
昔はうちらにパシりにされてたっつーのに、随分遠い存在になったもんナリ」

「それはともかく……確かヴェンデッタ小隊って、主要4か国から最低一人はメンバー出すんだろ?
てことは、ナルビアから来るのってまさか」

「いや……リンネきゅんもなんやかんやで物語の本筋にガッツリ食い込んでるし、
こういうはぐれもん部隊には回ってこないんじゃね?」
「……まあ言い方はメタいけど、実際そんな感じかもな。あいつナルビアじゃ最高幹部の一人らしいし。
だとしたら、一体誰が……」

「あのー、すいません。ボク、ここに来るように言われたんですけど……」
「ん?お前は……」

ヴェンデッタ第12小隊のブリーフィングルームに姿を見せたのは……
古垣彩芽。
言わずと知れた「運命の戦士」の一人、ボクっ子メガネっ子もやしっ子の発明ガール。
ナルビアで科学技術を学び、今回のトーメント王国への侵攻に合わせて他の仲間と合流したいと思っているが……

「主要キャラじゃねーか!帰れ帰れ!」
「ええええ!?何その理不尽な理由!?」

めっちゃ邪険に扱われた。

「あたしら、ただでさえ師匠キャラになったり先輩キャラになったり宿屋キャラになったり余計な個性がついちゃってるんだぞ!」
「これ以上キャラが濃くなったらリョナられ役にされちゃうだろ!」
「そうだそうだ!キャストオフが描かれたりしたらどう責任取ってくれるんだ!」
「スピンオフの事かな」

「とにかく!ナルビアじゃどんだけダラけてたか知らねえが、
その程度のキャラの濃さであたしたち『チームGTR』に入れると思ったら大間違いだかんな!」

「……ところで、今回の作戦内容ってどんなんなんだ?」
「それが、えーー……トーメント王国に潜入して、捕虜になってる連中に接触せよ、だと」
「ルミナスの魔法少女とか、ミツルギ最強女剣士と大陸最強拳法使いとか、しぇりめでゅとか、色々捕まってるなりからなぁ…」
「いやいや。そういうのは男キャラにやらせろよ。
あたしらみたいな美少女、捕まったら何されるかわからないぞ!エロ同人みたいに!」

「もちろん全員を国外脱出させるのは無理だから、
一旦敵の目に届かないところに身を潜めさせつつ、
連合軍の侵攻に合わせて、内側から攻撃を仕掛けて暴動を起こさせる……みたいな」
「なるほど絶対無理」
「なり」

「それなら……ボクの発明品が役に立つんじゃないかな。
『アヤメカNo.18「着れば透明になれるよ!キエールマント」』とか使えば、大抵の所には潜入できるよ」
「お前ド○えもんかよ」
「異世界人の科学力やべえ」

トーメント王国に仲間が捕らえられてる、という意味では、お互いの利害は一致している。
こうして彩芽はぐーたら三姉妹と協力し、トーメント王国に潜入することになった。
はたして、サラ、桜子、スバルの三人や、しぇりめでゅコンビなど、捕らえられた仲間を救い出すことは出来るのだろうか。

715名無しさん:2020/03/15(日) 04:26:40 ID:???
「……はぁ、はぁ……!お、王様……き、きき、キスしちゃうんですか?そこにいるリザと……!ほ、ほひっ、ほひっ」

「なんだ教授……なんでお前が1番興奮してるんだ?」

「いやぁ……!最近VR兵器を開発したんですよぉ。それの応用でリザとキスしてる王様の体を遠隔スキャンしてデータ保存すれば、いつでもリザといやらしいキスがVRで鑑賞できる素敵データが出来上がっちゃうんですよぉ〜〜〜!!」

「…………」

「これを使って僕はいつでも金髪美少女JKとベロチューチュパチュパできるVRデータを作りたいんですよ〜〜〜!ぜったいにぃ〜〜〜!」

蚊帳の外の教授がト〇ブラウンの漫才のように好き勝手に騒いでも、リザの表情は変わらなかった。

「なるほど。儚げで危うげな金髪美少女のキス顔が、いつでもどこでもVRで楽しめるようになるわけだ。しかもかなり嫌がってる感じの、なぁ……」

「……………」

リザの顔が嫌悪感に歪む。
そのような対象として見られることばかりの自分の容姿にすら、最近は嫌悪感しか感じられない。
よく知らない自分に対してすぐにそのような感情を持つ男という生き物の感覚が、リザにはどうしてもわからないのだ。

「お!いま明らかにしかめっ面して嫌悪感出したな!今のお前の蔑んだような呆れたような表情、最高にキュートだったぞぉ。辛気臭いツラばっかじゃなくて、たまにはそういう顔もしろよリザぁ」

「……もういいです。するなら、早くすればいいじゃないですか」

「はぁ……そうやってすぐ拗ねんなって。安心しろ。俺様はなにもしないさ」

「……え?」

「えぇ〜〜〜!王様ああぁ!後生ですからリザにこれでもかといやらしいキスをしてくださいいい!お願いですからああぁ!」

教授の懇願も虚しく、王は踵を返してリザに背を向け出口へと歩き出した。

「リザ。今姉を殺すか答えが出せないのなら然るべき時にもう一度聞いてやる。その時にお前が俺様の言うことを聞かないようだったら……姉とお前の姉妹丼リョナをたっっっぷり楽しんでから、仲良く一緒に殺してやるからな」

「……………………」

「沈黙は肯定と取るぞ。まったく……闇堕ちするならちゃんと闇落ちして家族も全部殺すとか言ってみろよ。中途半端に愛情が残ってるからそうやって余計に悩むことになるんだ。なにが大切か判断したらそれ以外はきっぱり割り切ることだな」

「……………………」

何も言い返せなかった。
自分の中で大切なものが家族なのか、アウィナイトを守ることなのか、割り切ったつもりでなにも解決していない。
がむしゃらに力を求めるのも、自分の弱さを隠したいだけ。その事を考えたくないだけ。
考えれば考えるほど沼に嵌って頭痛がする。



「……教授、ありがとう。……私はこれで」

「くっ……キス顔堪能したかったのに……なぁリザ、お金なら好きなだけやるから俺とキスしてくれない?もう最近病んでるお前の姿が性癖に突き刺さってやばいから顔見るだけで勃起しちゃうんだよ。ほんとどーしてくれるん?責任取って?」

「……………………」

教授の戯言は無視して、リザは部屋を出ていった。

716名無しさん:2020/03/15(日) 11:45:01 ID:???
「お前は……!」

「柳原、舞」

教授の部屋を出たリザは、柳原舞とバッタリ行き当たる。
舞はキッと射殺すような視線をリザに送った後に、唇を噛みしめながら横を通り過ぎようとするが……

「待って」

気づけばリザは、舞を止めていた。

「……なに?急いでいるのだけれど。ただでさえ王の部屋に呼ばれたと思ったら教授の部屋にいるとかでたらい回しにされて、サキ様のお側を離れてから時間が経ってるのに」

棘のある口調を隠そうともせず、鬱陶しそうにリザに振り返る舞。
自分がサキにした事を考えれば当然のことだが……リザにはその『当然』が分からなかった。

「異世界人である貴女がなぜ、サキにそこまで肩入れするの?」

「っ……!サキ様を傷つけたお前に、教える義理はない」

「お願い、教えて……私、異世界人と……篠原唯や市松水鳥と、このままじゃ、戦えないかもしれない……」

気づけば口から出ていたのは不安。リザにとってどこまでも眩しい存在であるあの2人。
自分と同じだったはずのサキは、家族も、信頼できる人も、恋人もいて……いつの間にか遠く眩しい存在になった。

なぜ異世界人とサキが信頼関係を結べたのか……自分にできないことをできたのか……暗い色を宿したリザの瞳に思うところがあったのか、舞はポツリポツリと語りだした。

「サキ様は私を救ってくれた……それにあの方は……私と同じだけど、同じじゃないんだ」

「え?」

「私も向こうではサキ様と同じ母子家庭だった。けれど、母が再婚してから……家に居場所がなかった」

故郷のことを思い出すように瞳を閉じた舞はかぶりを振ると、リザに背を向けて教授の部屋に入ろうとする。

「これ以上答えるつもりはない。こうしている間にも、サキ様を不埒な輩が狙っているかも……」

「おう、その通りだよ舞ちゃん」

その時突然、王の軽薄な声が響く。

「王様?まだいたんですか」

「神出鬼没が俺のいいところだろ。決して書き手が上のレスで俺様が教授の部屋から出ていってたのを投稿直前に気づいたわけじゃないからな!」

「はぁ……」

相変わらず意味の分からない事を言う王に、リザは生返事をする。

「それでだ舞ちゃん、君を呼んだのは、ちょっとサキのそばを離れてもらいたかっただけさ。今頃ジェシカかスネグア辺りに捕まってんじゃね?」

「なっ!?」

「ほらほら、早く行った方がいいぞぉ?」

「っ、この……!」

舞は一層強く唇を噛み締めた後、足早に去っていった。

「おーおー、色んなしがらみがあって国にしがみつく姿……お前なら共感できるんじゃないか?」

「王様……あまりサキに、酷いことは……」

しないでください、と続けようとして、リザは口を噤む。
自分がサキを追って深手を負わせたにも関わらず、そんなことが口を出る自分の2枚舌っぷりに、リザは自己嫌悪に陥った。

そんなリザのより一層暗くなる瞳を楽しみながら、王は愉快そうに語る。

「まぁ安心しろ、もうちょい虐めたら、サキへの当たりは緩くするつもりだ……戦争で活躍してくれなきゃ困るからな」

717名無しさん:2020/03/15(日) 11:50:38 ID:uBnACP7I
「サラ……?誰かしらそいつ?助けてもらって悪いけど、協力する義理はないわ」

あれから色々あったのと、気に入らないリザと同じ金髪碧眼としか認識せずに水責めをしていたのもあり、サキはサラのことをすっかり忘れていた。

「まぁまぁそう言わずに。あっしを手伝ってくれたらもうちょっとマシな立場にするって、スネグアさんも言ってたっすよ。ずっとこの立場のままってのも嫌っすよね?」

にべもなく断ろうとするサキに対し、人懐っこそうな笑顔で少しずつ近づいていくジェシカ。

「どうせ騙そうってんでしょ……その手には乗らな……!?」

乗らない、と続けようとしたサキの言葉は、突然サキの首を掴んで来たジェシカによって遮られる。

「あ、があぁああああ……!」

「あっしさー、ずっと気になってたんすけど……ミシェルさんが逃げるの、アンタが手伝ったっすよね?」

ジェシカはサキの首を絞める手に力を入れると、そのまま体を持ち上げた。

「手伝いはしないまでも、見逃しはしたっすよねぇ。ぶっちゃけあの時のヘロヘロのミシェルさんが、誰にも見つからずに脱走できるわけないっすから。
……まぁ、あっしもミシェルさんは嫌いじゃなかったっすから、それは別にいいんす。急に敵国に亡命しちゃったフクザツな気持ちを、あんたにぶつけてるだけっす。」

「か、かひゅ……」

サキはメリメリと音を立てる首に手をかけて、必死にジェシカの腕を外そうとするが、万力の如く……いや、クワガタの如く締め付ける腕は、疲労困憊の少女の細腕では引き剥がせない。

「無駄っすよ。面倒な手下は王様に頼んで足止めしてるし、もうアイツ以外にあんたの味方はいない……まぁ、さっさと気絶した方が楽じゃないすか?」

「うぐううっ………!っが…あぁ………!」

しばらく手足をバタバタと動かしていたが……やがてサキは気を失った。




「ん……ん!?」

目を覚ました時、サキは全裸で寝台に拘束され、目と口も粘着性のある糸で塞がれていた。

(な、なに、どういう……!?)

困惑するサキの唯一塞がれていない耳に、どこかで聞いた覚えのある声が聞こえてきた。

「こんな事をして、意味があるの?記憶を失った時と、逆のことなんて……」

「試せるモンは何でも試すもんっすよ!それにこいつも十輝星だし、アンタが気に病むことはないっす!悪人への正義の鉄槌ってやつっす!」

「……そう」

(この声、あの金髪刑事!?そういえば奴の名前って……!)

ジェシカの言っていたサラという名前の人物を思い出したサキ。
同時に、サラが記憶を失った時と逆の事をするという断片的な発言の意味も分かってしまう。
事実、サキの拘束されている寝台のすぐ横には……12〜3万くらいしそうな、水滴拷問の機械があった。

「ん、んんーー!!んむぅうう!!」

何をされるか分かったサキは必死に体を捩り、塞がれた口からくぐもった声をあげる。

「なんスか急に暴れて……あ、耳も塞がないとダメだったっすね」

ジェシカが指から蜘蛛の糸を出すと、乱暴にサキの耳に突っ込む。

「んぶぅ!?」

完全に五感を遮断されたサキ。否が応でも以前アルガスで受けた水責め拷問を思い出してしまう。
それを再現して気に入らない人間に使っていた機械が、まさか自分に牙を剥くとは思いもしなかった。

「……貴女の言うようにこの子も悪人かもしれないけど、こんなに怖がってる子を痛めつけるなんて……」

「あーもーじれったいっすね!早くアンタの記憶を戻してあっしがアンタをブチ殺すんすから、レッツゴーっす!」

強引にサラの手を取ったジェシカは、そのまま水責めマシーンのスイッチを一緒に押す。


「ん、んんむうぅうう!!?」

718名無しさん:2020/03/27(金) 05:10:35 ID:UsCBJaJU
「……!」
小鳥と鶏の鳴き声が聞こえる。階下からは朝御飯のいい匂いがする。
「怖い夢だった……」
まだ震える足でなんとか立ち上がり、日常に舞い戻っていくのだった。

おわり

719名無しさん:2020/03/27(金) 22:00:30 ID:???
ぽたり。……ぽたり。…………ぼたっ

「…んむっ!!………っぐむ………ん〜〜〜〜〜っっっ!!」

「な、なにこれ……?……ただの、水………?」

「っそ。水滴拷問……これが結構効くらしいっすよ?
あっしもWikiで調べただけっすけど。
そもそも脳はすべての感覚をつかさどる超重要器官。
そこに微弱な、しかも無視できない程度の刺激を、ランダムに与え続ける……
……つーか、ついこの間アンタもされたはずっす。思い出さないっすか?」

………ぽたり。ぼたぼたぼたっ!!………
「……ひぐむっ!!…っぐむぉおおおおおぅっっ!?」

(効いてる…なんてレベルじゃないわ。始まる前の怯え方も異常だったけど、始まった直後から狂ったように暴れだして…)
「…………!!……お……思い出すわけないじゃない。……こんなふざけた事、終わりにしましょう」

拘束具を付けられた手足に血がにじんでいる。鬼気迫るサキの様子に戸惑いつつ、サラは停止ボタンに手を伸ばすが。

「ふざけた、事………?」
……ジェシカの声が、一段低くなる。

……ガシッ!!……ドカ!!
「っぐぁ……!?」
瞬時にサラに詰め寄り、片手で首を掴んで持ち上げ、力任せに壁に叩きつけた。

「あんねぇ……あっしはこれでも、大マジなんすよ。
別に、あっしのママが殺された事は、恨んではねーっすよ?
でも、あっしが復讐のため……アンタを徹底的に破壊して、ぶち殺すために生み出されたのは確かっす」

「っぐ…あ………は、なし………げほっ……」
ギチッ………ギリギリギリギリッ!!

……サラは両手でジェシカの手を引きはがそうとするが、ジェシカの手はビクともしない。
むしろジェシカは、サラの首の骨をへし折ってしまわないよう、懸命に力を抑えている様子だ。
人間と、人知を超えた魔蟲の力の差は、それほどまでに歴然としていた。

「アンタを見るたびに……あっしの身体が疼くんすよ。……あっしの中の蟲が、騒ぎ出すんす……
完全復活したアンタを、完全敗北させたい。破壊して、屈服させて、蹂躙して、絶望させたいってね……!!
あっしの牙も、爪も…あっしの体は全部、そのためにこの世に生み出された道具なんスよォッ!!」
「っぐ………あぁっ……!!」

ジェシカの瞳が妖しく輝くと、全身が甲虫の装甲で覆われていく。
両腕はカマキリの鎌とクワガタの鋏へと変化し、お尻からは蜂を思わせる鋭い針。
獲物を目の前にしながらお預けを食わされ、力を、本能を、抑えきれなくなっているのだ。


……ぐちゅっ!!
「………っ!?」
「この産卵管はぁ……クレラッパーの装甲をブチ破って、アンタの膣をぴっちりみっちり埋め尽くすように出来てるっす……
 こーんなゼロサム8Pカラーみたいなショートパンツなんて、濡れたトイレットペーパー同然っすわ!!」
「う、そ……そんなの、入るわけ……うぐあっ!!………が………あ、ぅ……っぐ!!
 いやぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

720名無しさん:2020/03/27(金) 22:03:05 ID:???
ずぶずぶずぶずぶっ!!

「うぁああああああああああああぁぁぁっっっ!!!」

人間の腕、いや脚ほどもある極太産卵管が、サラの秘唇を容赦なく貫く。
ジェシカの言う通り、産卵管は圧倒的な密着感でサラの膣道が埋め尽くし、内側の性感帯を全部一度にこすり上げていく。

「い……やあ………♥♥…こ、れ…だ…めっ……!!………ぬい……て………んにゃああああああ♥♥!!」
しかも、特に弱い部分を狙い撃ちにするかのように、産卵管表面に微細なイボイボが絶妙に配置されている。
…ほんの少し動かしただけでも……全身を激しい悦楽が電流のごとく駆け巡り、サラの理性をあっという間に焼き尽くしてしまう。

(な、に…これぇっ……こんな、感覚…♥…しら、にゃいぃぃ……♥♥♥)
「ぃ……♥♥………ぅ……♥♥♥♥」
「痛いっすかぁ!? 抜いてほしいっすかぁあ!? そんなワケないっすよねぇ!!!
あっしの身体から出るフェロモンで、アンタの身体ギュンギュンに発情しまくってておまんこもぐっちょぐっちょで、
根元まであっしの産卵管ずっぷし吞みこんじゃってんじゃないっすかぁあああ!!」

ぐちゅっぐちゅっぐちゅっグリグリグリグリグリ!!

「あ♥あ♥あ♥あ♥ああああああッッッ!!!……も、やめてぇえええ♥♥!!ゆるひへぇえええええ!!!♥♥♥」
(だ♥♥♥だ、めぇ……♥♥♥……これ、ほんとに、だめなやつ……♥♥♥♥)

(やっぱり、むり、だったのぉ…♥♥…あたしなんかが、マリアさん、みたいにたたかう、なんてぇ…♥♥♥)

(いまの、あたしのすがた……もし……アヤメたち……みられ……たら………っぉおおおお……♥♥♥♥)

いつしかサラは、敵であるジェシカにしがみついて、許しを乞いながら獣のような咆哮を上げていた。

マリアに助けられ、クレラッパーとして戦った日々の記憶。
彩芽たちと出会い、旅をした記憶。
それらがサラの脳裏に次々と浮かび上がっては……砂のように崩れ落ちていく。

「はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥」

身体が動かない。特に下半身は、溶けてなくなってしまったかのように感覚そのものがまるでなかった。
サラは自らが撒き散らしたねばつく液体だまりの真ん中で、お尻を突き上げたまま突っ伏して荒い息を吐き続ける。

「…ふん。ただの軽〜い挨拶程度で、そこまで気持ちよくなれるなんて……いい気なもんっす。
今の腑抜けたアンタなんて、ゴキブリの餌にもなりゃしない。
早く、記憶を取り戻したアンタにあっしの卵を全〜〜部ブチまけて、内臓全部食い破ってあげたいっすわぁ……」

ジェシカは産卵管をゆっくりと引き抜くと、この上なく惨めな姿で突っ伏すサラの姿を一瞥する事もなく部屋を出ていった。

後に残されたのは、骨の髄までの恐怖と絶望、そして快楽を叩き込まれ、気を失ったサラと……

「…あう………っぐ…!!……っ………!!!」
………サラ達が争っている間中、ずっと水滴拷問に晒され続けていた、サキ。
異変に気付いた舞がこの部屋に駆け付けるまで、サキは延々と地獄の苦しみを味わい続ける事となった……

721名無しさん:2020/03/27(金) 22:57:56 ID:2Y..UVLs
「こんなんじゃ全然、喰い足りねっすわ……
誰か……誰でもいいから、ブチ喰らえるエサは………」

……地下闘技場。
そこでは、トーメント王国に捕らえられた捕虜たちが闘士となり、日々過酷な戦いを強いられる。
観客達がそれを賭けの対象にし、ゆがんだリョナ性欲のはけ口にするという、まさに悪魔の娯楽施設である。

ジェシカの向かった先は、その選手控室……つまりは捕虜たちが捕らえられた牢獄だ。

「てなわけでぇ……お二人さんに相手してほしいっす。
もちろん二人まとめて、フル装備オプションマシマシの特殊能力アリアリでいいっすよ?
そのくらいじゃないと、楽しめないっすからねぇ」

「随分と、舐められたものですね………」
「良いでしょう。受けて立ちます……せいぜい後悔なさい」

勝てば捕虜から開放……という条件をちらつかせるまでもなく、『二人』はジェシカの誘いに乗った。


「赤コーナー!!
虫っぽいことは大体できる という大雑把にして最強最悪な特殊スキル持ち!
虫嫌いな人は観戦注意だ!『恐怖の気まぐれ虫娘』ジェシカー!!」

「「「ウォオオオオオ!!!!」」」
「やっちまえーー!!」
「虫子今日も世界一キモかわいいよー!!」

「青コーナー!!
シーヴァリア円卓の騎士は伊達じゃない!固い絆と完璧なコンビネーションを武器に、
無茶ぶり無理ゲー当たり前な地下闘技場を勝ち抜いてきた実力は本物!
『隼翼卿シェリー』&『睥睨卿メデューサ』……しぇりめでゅコンビの登場だー!!!」

「「「ヴァァァアアアアア!!!」」」
「なんだよ今日は普通の鎧かよー!!………アリだと思います!!」
「めでゅ様こっち向いてーーー!!!」

「実況は例によって私ジッキョー、解説はいつものカイセツさんでお送りします!!
さぁー! というわけで急遽始まりましたこのエキシビジョンマッチ!!
正体不明のインセクトガールvsどこか百合を超えたガチさを感じる危険なハードコアタッグ!
この勝負どうみますかカイセツさん!!」

「そうですねー。
しぇりめでゅコンビはシーヴァリア編後半の時点でやられ役になってたし、流れ的にも所詮かませ犬って感じですから…
たぶん次の書き手さんが1レスであっさり終わらせて終了なんじゃないですか?
それより私、聖剣3体験版と熱森をですね」

「ひひひひ……行くっすよぉぉぉ!!」
「シーヴァリア円卓の騎士の剣……」「とくとご覧なさい!!」
「「はぁぁああああああああぁぁっ!!!」」

「「「ウォォォオォォォオオオ!!!」」」
「ちょ、待ってください!そんな事言ってる間に試合が……って、これは…!?」

722名無しさん:2020/04/02(木) 20:26:34 ID:4vmvxjBI
「ウ、ヴ、ギシャーーーー!!!」

実況が驚きの声をあげるのも無理はない。
突如叫び声をあげたジェシカの下半身がブクブクと膨れ、あちこちから虫の鎌や角、牙、さらには先ほどサラを犯し尽くした産卵管が大量に生えてくる。ジェシカの下半身はそのまま大量の虫の武器を生やしながら膨張を続け……最終的には、ワームやドラゴンのような大型モンスター程の大きさにまで到達した。
元の少女の姿のままの上半身が、ポツンと残されているのが余計に不気味さを増している。

「な、何ですかあの奈落の最終形態みたいな姿は!?」

「えー、ここで、解説助手として依頼を出したフォーマルハウト様と、通話が繋がっております。現場のフォーマルハウトさーん」

「解説さん、現場にいるのは私たちです!」

『ククク、やはりこうなったか』

声を加工して正体を隠しているため、観客たちには分からないが……スネグアの声が、実況席に置いてあるパソコンから響く。

「フォーマルハウトさん、一体どういうことですか!?」

『親の仇を殺す本能を無理矢理抑えた結果、破壊衝動が爆発したのさ。今まではミシェルから貰っていた薬で本能を抑えていたようだが、彼女が消え、さらには世界を越えてようやく見つけた仇の前でお預けを食らい……簡単に言えば欲求不満なのさ。ひとしきり暴れたら姿も戻るだろう』

「なるほど、だから最近のジェシカは荒れてたんですね!」

「解説さん、フォーマルハウト様、ありがとうございました!さぁ、一気にグロい形態に進化したジェシカを前に、騎士コンビはどうするのでしょうか!?」



「はっ!!」

剣を鞘から抜きながらの居合切りを交えた、高速剣術。シェリーの得意とする戦法で、襲い来る尻尾や舌を的確に切り落とす。

「今よめでゅ!」
「喰らいなさい!」

シェリーが時間を稼いでいる間に、メデューサの蛇剣ウロボロスがジェシカの巨大な下半身を這うように進んでおり、元の少女の姿である上半身を狙う。

「ガアア!!」

だが、一見弱点に見えた部位も、薄いが硬い透明な殻に覆われていて、攻撃を阻む。

「くっ、攻撃が通らない……!」

「こういう時にベルガやデイヴがいれば、助かるのだけれどね……」

「ないものねだりをしても仕方ないわ。何とか私が攻撃を通すから、しぇりはその間私を守って!」

「ええ!」

異形と化した少女と、二人の女騎士の戦いは続く。



そして、それと同じ頃……



「ふぅ、何とか忍び込めたな……みんな、このまま観光客になりすましつつ、捕まった仲間たちを……」

「あ、トーメント名物のクッコロポックル人形とかハーラーブレッドとか買ってこうぜ!アゲハ用に、ヤヨイ用に……テンジョウ様にはスケベーカリーでいいか」

「女の子の肌の柔らかさを再現したサンドバッグから転じて、滅茶苦茶人肌の暖かさに近い布団があるらしいなり!これで旅先でも安眠間違いなしなり!」

「この無骨なメリケンサック、あたしの趣味ピッタリだ……中々どうして、悪くないじゃないか、イータ・ブリックス」

「いやガチで観光を楽しまなくていいんだよ!?」

喧しい4人組も、王都に到着した。

723名無しさん:2020/04/05(日) 16:03:06 ID:???
「………あれ………ここ、は………?」
サラが目覚めると、そこは見知らぬ部屋のソファの上だった。
体を起こして周りを見渡すと、近くのベッドには、サキがすやすやと寝息を立てている。
その横に控えているのは、柳原舞………ジェシカが去った後、二人を救出したのは、言うまでもなく彼女である。

「目が覚めたわね。ここは、私たちの隠れ家の一つよ。
……サキ様のついでに助けてあげたんだから、感謝しなさい」

「そう……ありがとう。………あの虫女は?」
「地下闘技場で、捕虜相手に暴れてるわ。ちょうどTVで中継されてる」

─────

ガキンッ!!ザシュッ!!ズバッ!!
「キャーーハハハハハハ!!
ムダムダムダムダムだっすよぉおお!!二人とも、あっしの蟲に喰われるっすァァアアアアア!!」

「くっ……まだ、まだ……このくらいでぇぇぇっ!!」
「しぇり、あぶないっ!!戻れ『ウロボロス』っ……!!」

「さあー大変なことになってきた!!
ムシムシ大行進状態のジェシカの猛攻を、しぇりめでゅコンビが鉄壁のコンビネーションで防ぐ!かわす!捌き切るぅぅ!!」

「ジェシカの発狂モードは、ますますヒートアップしています!
対するしぇりめでゅコンビは、今のところほぼ防戦一方!!
スタミナが尽きる前になんとか有効打を与えたい所ですが、あの怪物相手にはそれも難しいでしょう。
当然その後は、お約束コースへ一直線……」

「いわゆる時間の問題ってやつですね!その時を今か今かと待ちわびて、会場のボルテージもうなぎ上りであります!」

─────

「もう、いいわ………消して」

圧倒的物量の蟲の海に、徐々に飲み込まれていく二人の女騎士。
その光景を見たサラの表情からは、完全に血の気が引いていた。

「厄介なやつに目を付けられたみたいね……それで、どうするの?
本来、アイツの狙いは貴女なんでしょ?」

「私に、どうしろって言うの………今の私じゃ、あんな奴に敵うわけない。
……この世界に来て、つくづく思い知らされたわ。
マリアさんから『クレラッパー』の力を受け継いで、強くなったつもりでいたけど……
結局あの頃から、私は何一つ変わっていなかった。
彩芽や唯達…この世界に連れ去られた子を助け出すつもりだったのに、逆に助けられたり、足手まといになったり。
……私一人じゃ、結局何にもできない……」

「『どうしろ』、なんて言うつもりはないわ。『どうする』のか、聞いてみたかっただけ。
そもそも最初に出会った時点で私より弱かったあなたが、一人で出来る事なんてたかが知れてる」
「……言ってくれるわね」

サラは、舞と初めて遭遇した時のことを思い出した。
ほとんど何もできずに一方的に叩きのめされ、彩芽やアリサの助けで難を逃れた……サラにとって、苦い過去の一つである。

「でも正直あの時、あなたが羨ましかったわ。私はあの時『一人』だった。……だから、敗れた」
「…………。」

「……悪いけど、私たちはこの後、フォーマルハウト隊の指揮下として従軍する事になってる。
この隠れ家は引き払わなきゃいけないし、サキ様が目覚める前に出て行ってもらうわ」

今のサキと舞の立場では、脱走捕虜であるサラを匿うだけでもかなりの危険を伴う。
味方のはずのトーメント兵たちは信用できないし、この隠れ家も、いつ危険にさらされるかわからない。
まして、サキが気絶しており、サラを助けたのは完全に舞の独断……一時的に匿うだけでも御の字と言うべきだろう。

「……私にだって……今やるべき事くらい、わかってる。でも……」
ゆっくりと立ち上がり、体の調子を確かめ……部屋を立ち去ろうとするサラ。
だがその時……

(良いじゃなぁい……あの蟲娘ちゃんなら貴女を確実に、グッチャグチャに嬲り殺してくれそう♥
そして、貴女の魂は晴れて私の所有物になるってわけね♥……フフフフフ……)

……サラの頭の中で、忌まわしい悪魔『アージェント・グランス』の声が囁いた。

724名無しさん:2020/04/05(日) 20:07:38 ID:???
「う、ぅ……!」

頭を抑えてふらつくサラ。だが耳を塞いでも、悪魔の声は変わらずに聞こえて来る。

(多分蟲娘ちゃんはお留守番だろうから、貴女を助け出そうとしてる『あの子』たちと戦いになるでしょうね。
そしてそれを見てられなかった貴女はぐちゃぐちゃに殺されるか、私と本契約する……どちらにしても魂は私のものね♪)

「あの子……?まさか、アヤメが……?」

「ちょっと、大丈夫?」

突然ふらついてブツブツと独り言を言うサラに、訝しげな目線を送る舞。


「え、ええ、大丈夫よ。ごめんなさい……それと、助けてくれてありがとう」

頭を抑えながらふらつく足取りで今度こそ部屋を出るサラ。そのまま、内なる声と会話を試みる。

「なぜ、そんなことを知っているの……?」

(ふふん、悪魔の力を舐めないことね。戦争の予兆であちこちに邪悪なマナが漂っている今、私に分からないことなんてないの)

「じゃあやっぱり、アヤメやアリサたちが、私やサクラコを助けに?」

(アヤメちゃんはいるみたいだけど、他は知らない子だわ)

「そう……今アヤメはどこにいるの?」

(そこまで教える義理はないわ。自分で探すのね……でも特別に、『足』を用意してあげたわ♪)

その声の直後、どこからか聞き慣れたエンジン音と共に、サラの目の前にバイクが無人で走ってきた。

「これは……」

アージェント・グランス。悪魔の化身。
サラがトーメントに捕まった時にナルビアのスパイがどさくさ紛れに盗み……それをまた彩芽が盗んだもの。
彩芽が持っていたはずだが、独りでに走り出し、今こうしてサラの前に戻ってきたのだ。

ブレスレットがないので変身はできないが……それでも移動手段があるのとないのとでは、大違いだ。

「ジェシカと戦うかは今は置いておいても……何もしないわけにはいかないわよね」

戦争の時は近い。彩芽たちが行動を起こすとしたら、その時だろう。それまでに覚悟を決めることができるか……今回も運命の戦士たちに任せきりになってしまうのか……


一抹の不安を覚えながらも、サラはバイクに跨って、当てもなく走り出した。

725名無しさん:2020/04/11(土) 21:42:51 ID:???
「「たあああああぁぁっ!!」」

爪、鎌、産卵管、その他さまざまな蟲触手の大群を、次々に切り伏せていくシェリーとメデューサ。
虫たちの圧倒的物量に圧され、このままでは埒が明かないと、ここに来て二人は攻勢に転じていた。

「クックック……そう来なくっちゃっす……GGRRRRRRRAAAAAA!!!」

「「「ジュルルルルルルッッッ!!」」」
臆することなく向かってくる二人に、蟲触手の大群が襲い掛かる。

「甘いわっ!!」
シェリーは必要最小限の動きで行く手を塞ぐ触手を切り捨て、血路を切り開く。

「「ブオォォォォォォンッ!!」」
更に空中からは、毒蜂、甲虫、吸血羽虫などが群れを成す。

「こんな物で……私たちは止められないっ!!」
メデューサが鞭剣を振るい、迫りくる虫たちを次々と撃ち落としていく。

……足元に無数の蟲の死骸が散らばる。
飛び散る毒液が白銀の鎧を汚し、体力を削っていく……だが、二人は速度を緩めることなく走り、
一気にジェシカの本体へと迫った。

「奴の防御壁を破るには……」
「……私たちの、最大火力をぶつけるしかない。行くわよ、しぇり!!」

「サーペンツ・ペネトレイション!!」
「ヴァンダーファルケ・クライゼン!!」
……バキィィンッ!!

メデューサが鎖剣をドリル回転させながらの鋭い刺突。それに合わせて、シェリーが目にも止まらぬ連続切りを繰り出す。

「ヒヒヒヒ……あっしの『シェルターウォール』は、クロカタゾウムシ級の硬度を持つっす。
アンタら程度の力じゃ、貫けないっすよ」

「それは……どうかしらっ!!」「出でよ、翼ある蛇……」
「「ケツァル・コアトル!!」」

……ビキィィンッ…………!!
「おぉっ!?」

シェルターウォールに突きたてられた二本の剣の切っ先から、竜を象った雷撃が発生する。
雷の竜はシェルターの外殻にぐるぐると巻き付き、激しい熱を放った。

「あっちゃぁ……こりゃちょっと、ヤベー感じっすねぇ」

シェルター内部の温度が急上昇し、ジェシカの笑みが引きつり始める……

「ふ……確か、虫は炎に弱いんだったかしら?」
「このまま丸焼きにしてあげるわっ!!」

ドガアァァァァッ!!!

「………っ!!」
シェルター内で激しい爆炎が巻き起こり、その衝撃で外殻が粉々に砕け散った。


「おおおおっ!!なんと、大番狂わせ!!かませ犬かと思われたしぇりめでゅコンビ、強烈な一撃!!
ジェシカの上半身を……いや。ここでやったか!?とか言っちゃうと、大概フラグなんですが……」

煙が徐々に晴れ、シェルター内部の様子が徐々に明らかになる。
そして……シェリーとメデューサが目にしたのは、本体から切り離され、黒焦げになったジェシカの上半身の残骸だった。

「……どうやら、死んだみたいね」
「厄介な化物だったわ……倒せたのは貴女のおかげよ、しぇり」
「ふふ……めでゅの方こそ。貴方が背中を守ってくれるから、私はまっすぐ前を向いて戦える」
シェリーとメデューサは、手を取り合って、イチャイチャと互いの健闘を称え合う。
だが……

(どくん………どくん………)
巨大な昆虫の下半身は、未だ不気味に脈動していた。

726名無しさん:2020/04/11(土) 22:17:43 ID:???
「決着ーー!! 巨大昆虫触手怪物と化したジェシカ選手でしたが、
シェリー&メデューサの合体技によって焼却されてしまいました!!」

「ジェシカ選手の蟲触手攻撃も圧倒的な物量でした、が……
それを掻い潜って本体に接近できたのは、二人の絶妙なチームワークあってこそ。
そして、最後のあの大技。実に見事と言わざるを得ませんねこれは」

「おおーい!まじかよぉお!大穴じゃねーか!!」
「くっそあああ!!俺の全財産がぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!今日こそめでゅ様の泣き叫ぶお顔が見られると思ったのにいぃぃ!!」

悲鳴と怒号に包まれる大観衆。……どうやらその大半は、シェリーとメデューサが負ける方に賭けていたらしい。

「まぁ、ここの連中らしい、というか……ほっといてさっさと帰りましょう」
「そうね、めでゅ……蟲の体液で下着までぐちゃぐちゃ。早く帰って……」
「ええ。久々に、ゆっくりシャワーでも浴びたいわね。しぇり……」

「クックック……そうは問屋が卸さないっすよぉ」
「「きゃぁあっ!?」」

手を取り合いながら、巨大虫の下半身から降りようとする、メデューサとシェリー。
だがその時。
新たな『手』が二人の足元から突然生え、がっしりと足首を掴んだ!!

「うっ……嘘……こんな事って……!!」
「何よこれ……一体、どうなってるの……!?」

「言ったはずっすよぉ?あっしは、虫っぽい事なら大体できるって………」

巨大虫の身体を突き破って現れたのは、二人のジェシカ。
シェリーとメデューサの身体にムカデのごとく巻き付きながら、カギ爪や触手で手足を絡め捕っていく。

……それだけでは、ない。

「キヒヒヒヒ……あっし『達』を倒したと思いました?甘いっすねぇ……」
…3匹目、4匹目。

「駆除したと思ったらわらわら大量に出てくるのって、虫っぽくないっすか?」
…次々に、巨大虫の残骸を食い破って新たなジェシカが二人の前に姿を現す。

「昔からよく言うっすよねぇ…」「…一匹見たら、30匹はいると思えって」
「しぇ…しぇりっ……」
「めでゅっ…!!」
つないだ二人の手が、力任せに引きはがされる。
分断されたシェリーとメデューサを、それぞれ十数匹ずつの殺戮昆虫が取り囲んだ。

「さぁ、第2ラウンドの、始まり…」
「いや……終わり、っすかねぇ?」
「「「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!!」」」

727名無しさん:2020/04/12(日) 20:44:13 ID:???
「久しぶり、マスター……『オリジナルカレー ハチミツ抜き ガラムマサラマシマシ』で」
「ほう、『白銀の騎士』様か、久しぶりだな。……生きていて何よりだ」

「え……ええ。あれから、色々あって……この店も、まだ営業してるとは思わなかったわ」

……サラが訪れたのは、イータ・ブリックス城下にある宿屋兼酒場、『邪悪にして強大なるワイバーン亭』。
その裏では『情報屋』としての側面も併せ持ち、サラがこの世界に来て間もない頃にはよく利用していた。

「ふん……俺もしばらく留守にしていたからな。……で、何が必要だ?武器か、それとも情報か」

一方、店主の男……『竜殺しのダン』も、唯たちと別れた後、つい最近戻ってきたばかり。
今は連合国陣営からの要請を受け、来るべき『戦争』に備えてトーメント王国内の情報を収集している。

「アヤメ・フルガキ…彼女がこの町に潜入していると聞いたわ。詳しい情報があったら教えて」
「ああ、あいつか。実は、この店で落ち合う事になっていたんだが……想定外の事態になってな」

そう言って、ダンがTVを付けると……映し出されたのは、闘技場の試合中継。
そこには先ほどサラが観た時よりも遥かに凄惨な、地獄絵図が繰り広げられていた。

─────

バキッ!メキッ!!
「やっ……やめてっ……ひっ!!」
シェリーは蜂型に変化したジェシカの一群に捕らえられ、空中で磔にされていた。
元々騎士の中では軽装だったシェリーの鎧は簡単に引きはがされる。

「さっきは、アンタらに」「あっし達の分身が、お世話になったっすからねぇ……」
「お礼に、じっくり時間をかけて」「たっぷりと、いたぶってあげるっすよ」

そこに他のジェシカ達が何匹も群がり、太くて長い毒針を次々と突き立てた。
ドスッ!!ザクッ!!ブスッ!!
「いやああっ!!ふぐうっ…!!……め、めでゅっ……助け……うごぉあああぁ!!!」
薄手のハイレグレオタードはあっという間にボロボロにされ、鮮血で真っ赤に染め上げられていく……

「しぇりっ!!くっ……あなた達……絶対に許さないっ!!『邪眼発動』……」
「おっと……ヤらせないっすよぉ?」
ビュッ!!

「きゃぅっ…!?」
石化能力を発動しようとしたメデューサだが、髪に隠れた『邪眼』が見開かれた瞬間……
横からジェシカの毒液が浴びせかけられた。

ジュゥゥゥゥゥッ……!!
「っいやぁあああぁぁぁっ!!…目……私の、目が……!!」
「別に一体や二体、石にされたところで、痛くも痒くもないっすけど…」
「……やっぱ多少はムカつくっすからね」
「アンタらのターンは……もう永久に回ってこないっすよ。ククク」

毒液に焼かれ、目が見えなくなったメデューサも、ジェシカたちに捕らえられてしまう。

「こっちは、相方ちゃんの目の前で公開産卵ショーといくっすかね……ひひひひ!」
「『本命』の前に、あんまり無駄打ちするのもイヤっすけど……」
「減った分は増やさせてもらうっすよぉ?」
「産卵、って……そんな……いっ、嫌ぁぁああああああああ!!!」

シェリーに比べて重装備なメデューサの鎧も、ジェシカ達の手に掛かればさしたる違いはない。
ロングスカートを引き裂かれ、腰部装甲は粉々に噛み砕かれ、サラを犯した時と同じ、極太の産卵管が鼻先に突きつけられる。

「がはっ………う、ぐ……やめ、なさい……め、でゅを……放せ…!」
「しぇ、りっ………うぅ……お願い、見ないで……!!」

「見えなくても大きさがよくわかるように、体中にスリスリしてあげるっすよ……けっけっけ」
「ほれほれ。抱き着いて、感触を確かめてみるとイイっす……!」
「ひ………!!」
(やっ……すっごい、太い……熱くて、脈打ってる……こんなの、無理よ……入るわけ、ないぃ……)

「ウォォオオオ!!いいぞ虫女ー!!」
「いけいけー!!ヤっちまえーーー!!」
「キャァァァァめでゅ様素敵ィィぃ!!私も犯したーい!!」

百合NTR+虫産卵の危機を迎えたしぇりめでゅコンビに、会場の熱狂は天井知らずに高まっていく。

─────

「…………。」
一方、中継を見てしまったサラは、今まで以上に顔色を失っていた。
あの偏執的な破壊衝動が、もしまた、自分に向けられたら……そう思うと、体の震えを抑えることができない。

「あの二人は、シーヴァリア所属の聖騎士だ。いずれ隙を見て、救出してこっちの戦力に加えるつもりだったんだが……」
「仕方ないわ……あのジェシカってやつは、正真正銘の化物よ。……勝てるわけない」

「おかげで………予定が早まっちまった。アヤメ達は、既に二人の救出に向かってる」
「なん…ですって……!?」

…ダンの予想外の言葉に、サラは思わず目を見開いた。

728名無しさん:2020/04/18(土) 15:56:05 ID:???
「ぐっへっへっへー。男好きするいいボディっすねぇ〜。鎧で隠すなんて勿体ないっすよぉ」
「んっぐ…!!……う、っむ……ん、ぁぁんっ……っぐぅっ…!!…」

ローブと鎧を引きちぎりながら、下卑た笑い声をあげるジェシカ。
口を塞がれ、苦し気にうめく事しかできないメデューサ。
割れんばかりの大歓声と衆人環視の元、女騎士の身体を苗床とした悪夢の産卵ショーが繰り広げられていた。

目に毒液を浴びせられ、両手を蜘蛛糸で拘束された状態で、
咥内膣内菊穴耳穴……全身至る所に、太ささまざまな産卵管が差し込まれ、大量の虫の卵が注ぎ込まれる。
…文字通り、細身な身体がはちきれんばかりに。

「いいぞもっとやれーー!!」
「たまんねぇなぁ……あの女騎士、鎧の下はとんだドスケベボディだぜ!!」
「ああ、私のめでゅ様が……あんな無様で惨めな格好で、誰とも知らない虫の卵を孕ませられて、……最、高……」

「やめ…て………やるなら、私をやりなさいっ……彼女は……めでゅは……うぅ……!!」

その様子を、特等席で見せつけられているのは、パートナーとして共に戦っていたシェリー。
だが、ジェシカ達の針や鎌に全身を刺し貫かれて身動き一つできず、目の前で犯されていく親友を観ている事しかできない。

「ひっひっひ……彼女は…何だっつーんすかぁ?…大体予想はつくっすよぉ〜?
こんなエロい体と顔してるくせに、ガッチガチに鎧でガードしてるようなタイプって…
よほどのムッツリドMか、男嫌いか……」

「……見ない、で……おねがい……見ないで……」
「おんやぁ?………これは、隷属の刻印……なるほど、そういう事っすか……ひっひっひ」

メデューサの背中に刻まれた刻印を目ざとく見つけ、ジェシカが口元をゆがめた。
その時……


……ブツンッ!!

会場内の照明が、一斉に消える。

「おおーっと!?これは一体どうした事でしょう。真っ暗になってしまいましたよカイセツさん!?
 ただいま入った情報によりますと……どうやら、会場内のシステムがハッキング攻撃を受けているようです!」

「これは、まさか……近頃世界各地で暗躍しているという、スーパーハッカーAYMの仕業でしょうか!
だとすると、犯人が更に何かを仕掛けて来るかもしれません!!」

「おいおいマジかよぉぉーー!」
「騎士のねーちゃんが見えねーぞーー!!」
「くっそぉ…スーパーハッカーAYMめ!!お前が美少女だったらレイプしてやる!!」
「ふっふっふ……こんなこともあろうかと、望遠カメラの暗視機能でめでゅ様の艶姿をばっちり(ry」


「ん〜?誰だか知らないけど、乱入なら大歓迎っすよぉ?
……ちなみにあっしは虫っぽいこと大体できるんで、暗闇なんて何の目くらましにもならないっす」

辺りが闇に包まれ、観衆がざわめき始めた。

「ずいぶん有名だなスーパーハッカーさん」
「通称が糞ダサくて草なり」
「ボクが名付けたわけじゃないんだけど……そんなことより、第1作戦ゴーだ!!」

「おっけー!……でやっ!!」

物陰に潜んでいたノーチェが、ボールのようなものを、思いっきり投げる。
「『アヤメカイNo.089 バーニング照明弾』……発火!(ハッカーだけに)」

(ドーーーーン)
放り投げられたボールは、ちょうど試合場の真上あたりで突如爆発し、太陽のごとく燃え盛った。

「っお!?びっくりしたっす……何なんすか、あれ……は……?…」


闇の中で赤々と燃える光源。
ジェシカは、それを見ているだけで……魂が、光の中に吸い込まれていくような感覚を覚える。

ぶぉぉぉおおおおおおん………

「「ギエェェェェェ!!!!」」
「………は!?……っうおっ!!あぶねっす!!」

気が付いたら、ジェシカ達は一斉に羽を広げて、燃え盛る謎の火球に向かって一直線に飛んでいた。
飛び込んでしまった数匹の悲鳴で、残りのジェシカ達は何とか我に返る。
走光性……光に集まる虫の性質を利用した罠である。

「よし、今のうちだ!二人を回収して……」
「秘密通路で地下道に逃げるなり!」

キリコが格闘場の壁を叩くと、まるで忍者屋敷のように壁が回転して通路が現れた。
昔々は、唯やアリサ達も蟲から逃げるために利用した事があるという、由緒ただしい通路である。
塞いどけよって言いたくなるけど、それは置いといて……

「やってくれたっすね……絶対、逃がさないっす……!!」

729名無しさん:2020/04/18(土) 19:52:50 ID:wOstanUQ
「あーくそ!メデューサの奴重いんだよ!!主に胸が!チクショウめ!!」

「お前が一番パワータイプなんだから我慢しろ!ちなみにシェリーは割と軽いぞ!」

「一番大荷物なのは撃退アイテム持たされてる私なり!あ、でも毛布で包んで浮かせてるから重くはないなり」

「えーと、次の別れ道を左に曲がって、2つ目の牢屋を壊してショートカットして……」

ノーチェがメデューサを、キリコがシェリーを抱え、コルティナはアヤメカイNo.64「殺虫カンシャク玉」をばら撒き、彩芽は眼鏡にインプットされた地下道の地図を見ながら最短経路を指示する。

役割分担しつつ順調に逃走していた一行。このまま首尾よくダンの店まで行けるかと思ったが……そう、上手くはいかない。

「ひっひっひ……地下は虫の巣窟と、相場が決まってるっすよー!」

「くっ……みんな!こっちだ!」

熱感知で正確に一行の位置を把握したジェシカが、カンシャク玉をものともせずに後ろから凄まじいスピードで追走してくる。
さらには、地下の虫たちが密集して彩芽たちの前に文字通り壁になって立ち塞がり、カンシャク玉で撃退する暇もなく、彩芽はやむを得ず逃走ルートを変える。

「ヤバいなりヤバいなりヤバいなりーー!このままじゃとうとう私たちもリョナられちゃうなりー!」

「キリコとコルティナはミツルギ編とルミナス編でそれなりにリョナられてたから手遅れだろ!」

「ノーチェてめぇ!一人だけ後方師匠キャラとかいう美味しい上に安全な位置につきやがって!」

「ふん!何とでも言え!多分今回も追い詰められたところでメインキャラが颯爽と助けに来てそいつがリョナられるパターンだし、私だけはリョナとは無縁に逃げ……おわぁ!?」

自分だけは助かる!という映画とかだったら死亡フラグな台詞を言った直後……ノーチェが突然転ぶ。
別に足を滑らせたわけではない。ノーチェに抱えられたメデューサが、いきなり後ろに体重をかけて転ばしたのだ。

「いってぇ……おいゴルァ!なにしやが……る……」

「ハァ……ハァ……!」

押し倒された格好のノーチェが文句を言うが、それは徐々に尻すぼみになっていく。
どう見てもメデューサの様子がおかしい。さっきまで犯されていた事を鑑みても、息が荒すぎるし頬も上気している。

そして何より……毒液で焼かれたはずの目が、まるで昆虫類かのような複眼になって復活していた。

730名無しさん:2020/04/24(金) 03:23:39 ID:tsrYPuAA
「ヴヴヴ……ヴヴヴ……!」

ノーチェの背から転がり落ちたメデューサは、焦点が合っているのかもわからない複眼をギョロリと回しながら手を擦り始める。
それは明らかに人間の動きとは思えない、異質で、奇妙で、不気味なものだった。

「うえぇなんだこれ……!キッショ!円卓の騎士の中で1番のセクシー度を誇るメデューサが 、こんなになっちまうなんて……」

「ずっと某ロボットアニメの略称みたいにヴヴヴ言ってるなりよぉ……!これ、一体どうするなりか……?」

「どうするもこうするもこうなったら無理だろ!相手してたらあの親玉が来るし、シェリーだけでも連れて行くぞ!」

判断の早いキリコの言葉にうなずくノーチェとコルティナ。なんだかんだで1番人間のできているキリコの意見に従うことが多い2人であった。



だが──



「ダメだ。メデューサさんも助けないと……ちょっと気が引けるけど、ここで大人しくさせよう」

「ななな!?この状況で時間使うつもりか!?もうあいつはすぐそこまで来てるんだぞ!」

「そもそもの目的は、シェリーさんとメデューサさんの救出がメインクエストだよ。それを達成できないまま帰るわけにはいかない….この選択で今後の展開が変わるかもしれないし」

「………?ええっと……何て?ドラゴンクエスト?今後の展開?」

「……いったい何言ってんだこいつは……まあでも、最初の方に言ってた2人を助けるために来たのはそうだけど……」

「そ、そ、それに……なんか妙〜に説得力あるなり!これがメインキャラの発言力、スピーチスキルの力なりか……!」

異形と化したメデューサを諦める選択肢を捨て、アヤメカの入った鞄に手をかける彩芽。
以前の自分ならこんな危ない橋を渡ることはなかった。
迷わず逃げていた。
自己保身第一、いのちだいじにが1番大事な作戦だ。
そんな彼女を変えたのは、これまでの経験と、最近ヴェンデッタ小隊内で話題になっている第7部隊の活躍だった。



(唯……君は仲間を見捨てなかった。だからみんな君を信じて戦って、プラント作戦が成功したんだろ?……なら、君と同じ運命の戦士とやらのボクも、ここで頑張ってみるさ……!)



「ヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ!!!」

「来るよ!3人とも気をつけて!」

初めてリーダーシップを取った彩芽の声が、地下水道に響き渡る!

731名無しさん:2020/04/25(土) 17:27:32 ID:???
「ギシャァァァァァ!!」

メデューサの腕がサソリの尻尾のような異形に変化。
伸縮させながら、毒針攻撃を連続で繰り出してくる。
その太刀筋は、彼女がかつて得意としていた『蛇剣ウロボロス』を彷彿とさせた。
しかもあの頃以上に速く、重く、そして毒!

ビシッ!! バチン!! ガキン!!

ノーチェは渋々ながらも覚悟を決め、手甲『ストレングス・イズ・ザ・パワー』で攻撃を捌いていく。

「ったく、マジでやるのかよ!唯と言いコイツといい……異世界人ってのは、どいつもこいつもバカばっかりか!」
「それをお前が言うか……『くるみ』ちゃん」
「うっさいなーもう!!」

そこへキリコが横からツッコミを入れる。
そう。ノーチェの本名は「名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)」……彼女もまた、異世界人なのであった。

「いっくぞおらぁぁああぁ!!」

(だいたい仲間っつってっも……私コイツの事あんまり好きじゃなかったんだよな。
新人とか後輩とか、平気でリョナって喜ぶようなヤツだったし………)

─────

(……ガキンッ!! ギュルルルルッ!! ザシュッ!!!)
「っきゃあああああああぁぁっ!!!」

「こんなものですか、リリス………
防御力だけは大したものですが、その亀のような鈍足では、私の『ウロボロス』の格好の餌食ですよ。
こうして全身を絡め捕って、隙間から刃を入り込ませて………」

(ギチギチッ……ギシッ………ずぶり!!)
「んっ………く………うっ、っぐあああああっ!?」

「ふふふ……このまま内臓を引きずり出してあげましょうか?
そもそも、この程度の実力で、円卓の騎士の末席に加えられるなんて……おかしいと思わなかったんですか?」

「はぁっ……はぁっ……ど、どういう、ことですか…!?」

「リリス・シヴリス。経歴書によれば没落貴族シヴリス家の子女。
騎士養成学校を優秀な成績で卒業したそうですが……シヴリスなんて貴族は聞いたことありませんわ。
あなたは一体、何者ですの?………と言っても、司祭様もおおよその見当はついているようですけどね」

「あの……おっしゃっている意味が、よく…っぐ!!……っう、あああぁ!!」

「これは、模擬戦の名を借りた尋問……いや、拷問。
貴方が心底から屈服するまで……徹底的に嬲って差し上げますわ、お姫様?」

「姫…?……い、一体、何の話…あんっ!!…きゃあああああ!!」

「………あーもう。うるせえな、おちおち昼寝もできねーじゃんか」
「貴方は…『鉄拳卿』ノーチェ…誰も来ないはずの、円卓の騎士専用地下訓練場に、なぜ貴女が!?」

「いやサボってたんだけど…………おい、そっちの新入り!」
「え?わ、私ですか!?」
「お前たしか、さっきコーラ買って来いって頼んだよな。覚えてねーけど頼んだ気がする!
グズグズしてねーで、さっさとキリコ達からも注文取って来い!」

「で、ですが私は……」
「何を勝手なことを。まだ拷問 …もとい、模擬試合は終わって」
「グダグダ言ってねーでさっさと買って来い!モタモタすんな!駆け足!!」
「は、はいっ!!」

─────

「いやー、懐かしいなぁ。……とか言ってる間にメデューサの懐まで潜り込んだぜ!」
「シャゲァァァァァッ!!!」
「こいつ……リョナシーンを回想内の他人に押し付けやがった」
「その発想はなかったなり」

「まあでもアレだ。そんな感じに、一番こっぴどくヤられてたはずのリリスの奴が…
コイツらの行方をマジで心配して、必死に探して、あたしらに『絶対連れて帰ってくれ』って頼んだわけで。」

「器がでかいのか、お人よしなのか……
世界を救ってやろうってな連中の考えは、あたしら庶民にはおよびもつかねー、ってな!」
(…ザシュ!!ザクッ!! ズバッ!!)
新たに伸ばされた触腕が、キリコの『千斬』で瞬く間に斬り落とされていく。

「……ギィィィッ!!」
追い詰められたメデューサは、目を大きく見開いた。
もともと持っていた邪眼の能力……それを、昆虫の複眼で増幅させた、全方位石化光線が発射されようとしている!!

「かくして我々『グータラ三姉妹』は、頭お花畑な女王様の元、平和なよの中で平和にグータラするために……
しょーがないから、たまにはちょっとくらいお仕事するなりよ。『ダークスモーク』!」

……短い詠唱から放たれた、コルティナの魔法。黒い煙が、ピンポイントにメデューサの視界を覆い隠す。

(すごい……この三人、ふだんはグダグダ言ってるけど、息がピッタリじゃないか…!)
メデューサの攻め手を次々塞いでいく完璧な連携に、
後ろで見ていた彩芽も思わず舌を巻く。

「ってことで、さっさと目ぇ覚ませ!!峰打ちアッパー!!」
「ギァァァァァアァァッ!!!」

732名無しさん:2020/04/26(日) 12:16:36 ID:???
(ドゴッ!! ズドン!!)
「ギァァァァァアァァッ!!!」

ひとたび近づけば、『鉄拳卿』ノーチェの必殺の拳に砕けぬものはない。
何がどう峰打ちだったのか全くわからないが、とにかくメデューサは昆虫っぽい外甲を粉々に砕かれて戦闘不能に陥った。

「ギ、ギギギ……」
「…目ぇ覚まさないじゃん。しゃーない、今のうちにふんじばっとこうぜ」
「まあ単に殴っただけだしな。元祖虫女が来る前に、とりあえず移動しよう」
「まだ虫要素が抜けきってないし、安全なところで治療しなきゃなり」
「そうだね……でも、ボクが言いだしといてなんだけど、ここまで虫化しちゃって、ちゃんと治るのかな」

「つーか、無理だろ治すの。いっそ一回死なせちゃえば『王様のところで復活』するんじゃね?」
「いやー……ボクも殺されて復活した事はあるけど、あれはお勧めできないよ?
痛いし怖いし、血がいっぱい出るし、所持金半分になるし、何よりトーメント王にどんな事されるか」
なお我らが主人公は移動手段に使っていた模様。

「………アイツなら、何とかできるかもな」
しばらく考えた後、ノーチェがぼそりとつぶやいた。

「アイツって……もしかして、あのヒーラータンク女なり?」
「いたなー。そういやミツルギでちょっと会ったわ…でもあいつ、今どうしてるんだ?」
続いてコルティナとキリコも、彼女の存在を思い出す。

騎士志望の天才ヒーラー少女、ミライ・セイクリッド……
グータラ三姉妹も以前戦った事があったが、その反則じみた回復魔法には心底ウンザリさせられたものだった。

ただ一つ、問題があるとすれば……

「……聞いた話じゃ、ミライはトーメント攻略軍の一員に加わってるから……
今シーヴァリアから進軍中で、間もなくヴァーグ湿地帯へ辿り着く。戦闘が始まる前に合流できりゃいいんだが……」
「……あんまり時間はないって事か。……今はひとまず、安全を確保しよう」

ふたたびメデューサとシェリーを担ぎ上げ、地下水道をひた走る4人。
目指すダンの店は、あと少しのはずだ。

─────

「……ってなわけで、一応救出には成功したらしい。
アヤメ達は、もうすぐここにやってくる……下手すりゃ、例の虫女も一緒かもな」
「そう……今度出くわしたら…間違いなくバレるでしょうね。私の記憶が、戻ってる事」

ダンとサラは、酒場の地下室…下水道への秘密の出入り口の前で、彩芽たちの到着を待っていた。
その時……

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

通路の奥から、叫び声が聞こえてきた!
……どうやら「最悪の事態」が起きてしまったらしい。

「避けられない運命ってのは……どんなに逃げた所で、しつっこく追ってくるもんだ」
「ええ、わかってる………立ち向かうしかない、って事ね」

「…………。」
耳元で、また悪魔が何事か囁いていたが……サラはもう耳を貸さない事にした。

733名無しさん:2020/04/26(日) 13:05:14 ID:???
時は僅かに巻き戻り、彩芽たちが逃走している間……

「っ!おいコルティナ!ちょっと持つの変われ!」

「え?ちょ、へぶっ!」

抱えていたメデューサをコルティナに投げ渡したノーチェは、近くの地下牢に駆け寄ると、馬鹿力で扉を開いて中に入っていった。

「おいノーチェ、何してる!早く逃げないと……!」

「うるせぇ!!」

止めるキリコを大声で一喝すると、ノーチェは地下牢の中に横たわれていた『死体』に駆け寄り、かき抱いた。

「ああ、くそ、どっかでおっ死んでるとは思ってたが……こんな所にいたのかよ、華霧……!」

「……ノーチェさん、ひょっとして、知り合い……?」

いつになく悲しげな声を出して死体を抱きしめるノーチェに、彩芽が恐る恐る声をかける。

「ああ、私の……友達だ。この世界に来てすぐ、はぐれたんだ……クソッ!モブ顔だから王も蘇生しなかったのかよ!」

ノーチェの腕の中にいるのは園場 華霧(そのば かぎり)……かつてルミナスとの戦争の前に、魔喰虫たちの餌にされて死んだモブである。

「なぁ、こいつも連れてっていいか?どっかで眠らせてやりたいんだ」

「いい話っすねー、不可能ということに目を瞑れば……なんつって!」

その時、突然ジェシカの声が響いたかと思うと……華霧の死体から伸びてきた鎌が、ノーチェの体を貫いた。

「が、はっ……!?」

「きっひっひ……『死体から沸いてくる』っていうのも……中々に虫っぽいっしょ? こいつの死体、ちょうど虫にやられてたっすし」

鎌に続いて全身を現したジェシカが、思いっきり鎌を振りぬいて、ノーチェを彩芽たちの方へ吹き飛ばす。

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

「ひーひっひっひ!!逃さないっすよぉ、このまま虫の苗床にして、あっしの分身を産むだけの存在にしてやるっす〜!」

慌てて逃げようとするが、負傷者が3人もいては逃げるのも叶わない。
ジワジワと迫るジェシカに、最早ここまでかと思われた時……



「待ちなさい、ジェシカ……貴女の相手は、私よ」

「……おんやぁ?」

「アヤメたちには……手を、出させないわ」

「サ……サラさん!!」

734名無しさん:2020/04/29(水) 17:34:53 ID:???
「…サラ…さん………良かった…無事だったんだね…!」
「久しぶりね、アヤメ……色々話したいことはあったけど、あまり時間はないみたい。
みんなと一緒に下がってて」
サラは彩芽達をかばうようにジェシカの前に立ち、ハンドガンを構える。
かつて一緒に旅をしていた時と全く同じ、頼もしい後ろ姿がそこにあった。

「おい、お前らこっちだ!早く下がれ!!」
後から追い付いてきたダンが、重傷者を素早く担ぎ上げて退路を確保する。
……幸いジェシカが深追いしてくる様子はなさそうだ。
『本命』さえいれば、それでいい……そういう事なのだろう。

「その目、その雰囲気……もしかして記憶、戻ったんすかぁ?
ていうか実は、とーーっくに戻ってたとか?……ま、どっちでもいいっすけどねぇ……ククククク」
ジェシカの瞳が赤く輝き、全身が禍々しい装甲におおわれていく。
そして、目の前の一体だけではなく、通路の奥から同質の邪悪な気配が無数に近づいてくるのが、肌で感じられた。

「フフフフ……いよいよねぇ、サラちゃん…♥
ここでじっくり、貴女がぶち殺される所を見物させてもらうわ。
あ、本契約したかったらいつでも言ってね?
もし口が使えなくっても、心で私を呼ぶだけでいいわよ?それだけで、貴女の魂は……」
「…………。」

『悪魔』が耳元でささやく。サラは、振り返らない。ただ目の前の敵だけを見据えていた。


「……なんすかその目はぁ……ッヒヒヒヒヒ。そんなキラッキラした目ぇ見せられたら……
滾ってきちゃうじゃないっすかぁ……光に吸い寄せられちゃうのって……虫っぽくないすかぁぁ!?」

ジェシカが飛び掛かってくる。
サラは冷静にひきつけ、ハンドガンを撃ちながら紙一重で回避。
銃弾は、甲虫の装甲に弾き返される。

(……私は、ずっと、怖かった。
死ぬ事が、じゃない。
何もできないまま、この狂った世界を何一つ変えられないまま、消えてしまう事が……)


「ヘンシンできないのはちょーーっと残念っすけど、モー我慢できねっす!!
グッチャんグッチャンにしてやrっぼべ!!」
(ズドン!ズドン!ズドンッ!!)
「やってみなさい……やれるもんならね」

すれ違いざまに回し蹴りを叩き込み、脳天に残弾を叩き込む。
2匹目、3匹目のジェシカがすぐ背後に迫っていた。
カマキリの鎌と蜂の針を横っ飛びでかわし、マガジンを詰め替える。

(私がいなくなった後も、悪党どもはどこかで高笑いして、罪のない誰かが悲しみの声を上げる。
その声は誰にも届かなくなって…世界は、何も変わらない。)

(私のやってきたことも、マリアさんから受け継いだ正義も、私が死んだら全部無意味になってしまう。
そう思うと……怖くてたまらなかった。…どんなに悪党どもを逮捕しても、心が休まる日はなかった。
でも……)

「……さっきから、ブツブツうるさいっすねえぇ?」
「あっしが聴きたいのは、アンタの悲鳴っすよぉ」「っすよぉぉ?」
ブオンッ!! ガキンッ!!
「っく………!!」

横薙ぎに振るわれたかぎ爪を、拳銃でガードする……が、銃身が半ばから斬り飛ばされてしまう。
サラはやむなく銃を捨て、腰に差した小型ナイフを取り出すが……

「……ま、こんなオモチャでどうにかなる相手じゃないわよねぇ……♥
ところで、『次』は誰がいいと思う?
アナタのお気に入りのアヤメちゃんは、正直ちょっと貧弱すぎなのよねぇ。
どうせなら、前に一緒にいたサクラコって子か、いつだったかの黒セーラーの子とか…
さっき死にかけてたノーチェとかいう子も、なかなかオイシそうだったわねぇ…ふふふ」

(アヤメや、他のみんなに会って、少しずつ分かってきた。時空刑事の力なんてなくても……
正義の心を持っている人はたくさんいて、みんなそれぞれ、自分なりに戦っている。
闘技場に捕まっていた私を、アヤメが助けてくれたように。だから……)

「……あんたみたいなクソ悪魔、誰もおよびじゃないわ。アヤメも、サクラコも、他のみんなも。
諦めて、私と一緒に地獄に帰りなさい。あの子たちは……私が必ず守ってみせる。
それが私の……マリアさんから受け継いだ正義に、繋がっていくはずだから……!!」

「ふぅん……そこまで言うなら、貴女の魂だけで我慢してあ、げ、る♥
その代わり、地獄でたぁっぷり満足させてもらうわよ?」

全力で戦えば、あと10秒……いや、5秒は時間が稼げる。
それから口が動く限りジェシカを挑発して、徹底的にこの身体を嬲らせる。
うまくすれば、自分を殺した事で満足して、立ち去ってくれるかもしれない。

あとは…逃げ延びたアヤメ達が、きっとこの世界も、現実世界のことも……

「サラさんっ!!」

突然、誰かが耳元で叫んだ。
悪魔でも、虫女でもない。それは……

「あ、貴女…とっくに逃げたんじゃ……」
………彩芽が、サラのすぐ隣に立っていた。

735名無しさん:2020/04/29(水) 18:06:22 ID:???
「ったくもー。すぐそうやって、一人で突っ込もうとするんだから……
ほらこれ!
ボクこういうの、バシッ!!とかっこよく投げ渡したりできないから、ちゃんと手渡さないとね」

……彩芽から手渡されたのは、以前敵に奪われたはずの変身ブレスレット。
クレラッパーに変身する……つまりはアージェント・グランスの力の一端を、一時的・限定的に借りるためのアイテム。
だが、以前とはどこか雰囲気が違うような……

「アヤメ……どうしてこれを?とっくになくしたと思ってたわ」
「いやー、(ナルビアの研究所に)偶然落ちてたのを拾ったっていうか……
でも、ただ拾っただけじゃないよ。
色々と中身を弄らせてもらって……なんかリミッターみたいなのがあったから、外してみたんだ。
たぶん以前とは比べ物にならないパワーアップしてるよ!」

「え?………そうすると、じゃあ……どうなるのかしら、この場合」
(はぁぁ!?ちょっとぉ!?このチビ、私の魔界アイテムに何してくれるわけぇぇ!?)

さすがの悪魔も、魔界のテクノロジーで作られたブレスレットを魔改造されるとは想定外だったようだ。
ブレスレットを改造して悪魔の力を無尽蔵に使うなど、
言うなれば「体験版のコードちょっといじったら本編丸々遊べちゃいました!」みたいなものである。
(あ、…ありえない。まさに……悪魔的所業だわ…!!)
「……ちょっと意味がよくわからないけど、とにかく使わせてもらおうかしら」

「サラさん、前にボクに言ったよね……パートナーにならないかって。
知っての通り、ボクは運動音痴だし、逆立ちしたってサラさんみたいに戦うことは出来ないけど……
その代わり、こういうボクにできる事でなら、全力でサポートする。……それじゃダメかな?」

「いいえ……十分よ。アヤメはアヤメのやり方で、あなたらしく。
そして、私は……やっぱり、こうじゃないとね!!………『閃光』!!」

女時空刑事サラ・クルーエル・アモットが<閃甲>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
時空間に存在する未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが超時空バイク「アージェント・グランス」によって増幅され、コンバットアーマーへ変換。
わずか1ミリ秒で<閃甲>を完了するのだ!

(い、いやぁぁぁっ……!?…なにこれ、私の力、全部吸い取られて……!!)
「何回聞いても何言ってるのかよくわからないっていうか、未知の物質とか言ってる時点で原理の説明になってないよね」

「そんな事より……すごいわね、これ。力がどんどん溢れてくる。
これなら5秒と言わず……10分くらいは持ちそうかしら」
「……5分で片づけられるさ。ボクとサラさんならね」
白銀のスーツに身を包んだサラ。
その横で、彩芽も対昆虫用のアヤメカイを取り出し、戦闘態勢を整える。

「ヒッヒヒヒ。……ついに出たっすねぇ、白銀の騎士ィィィ……」
「空気読んで、大人しくしてた甲斐があったっすわぁぁぁ……ギギギギギ!!」
「「ギシャァァアアアアア!!!」」
……ジェシカの大群が、一斉に飛び掛かってきた。
さながら、光に群がる羽虫のように。

「こういうの……何て言うんだったかしら?」
「『飛んで火にいる夏の虫』かな」

「オッケー……それじゃ、ガンガン行くから、サポートよろしく!」
「がってん承知!!」

736名無しさん:2020/05/03(日) 21:41:31 ID:???
「アヤメカイNo.29『リフレクタービットまんまなやつ!』
…サラさん、ポイントA1、10時方向だ!」
「了解!ライトニングシューター・フルバースト!!」
バシュッ!!…ズドドドッ!!
「「んぎゃおおおおっ!?」」

彩芽が小型浮遊マシンを大量に放ち、指示に従ってサラがビームを放つ。
ビームがマシンに搭載されたミラーに乱反射し、何匹ものジェシカの群れを一度に焼き払った。
「ナイス彩芽!だいぶ敵を減らせたわ!」
「ピンボールシューターの計算アルゴリズムを効率化・応用したんだ。
端末の性能もナルビアで大幅バージョンアップしたし、計算も一瞬だよ!」

「くっそー。ちょぉぉっち劣勢っすねぇ……!!」
「奴のなんとかプラズマパワー、もしかして無尽蔵っすかぁ…!?」
「でもあっしもゲーマーの端くれ。ここで退くとかありえねーっす……狙うは」
「「「一発逆転っすよォォォ!」」」

即効性の毒針を手に、残った十数匹のジェシカが一斉に飛び掛かる。

「そろそろフィニッシュね……シルバープラズマソード・モードX…純粋起動!!」
対するサラは、必殺のシルバー・プラズマソードの二刀流、しかもフルパワー。
以前は限られた時間しか使えなかったが、クレラッパーの全機能がアンロックされた今は使い放題だ。

「ジャッジメント・サイクロン!!」
舞うような動きで二刀を振るい、迫りくる敵を次々に切り伏せる。

残り三体、その一体目。毒針の生えた腕を斬り飛ばし、胸板を串刺しにするが……

「ひっひっひ……げほっ…ようやく、取ったっすよぉぉ!!」
「!?…まだ生きて…」
「サラさん!!……」
(ドォォンッ!!)

……ジバクアリ、と呼ばれるアリの一種が存在する。
その名の通り、敵に襲われるとその身を破裂させ、粘性の毒液を撒き散らす。
……つまり、『自爆』もまた虫っぽい攻撃という事だ。

至近距離で、直撃を喰らったサラは……

(まずい、目が……!!)
アーマーこそ無事だったが、飛び散った毒粘液にバイザーの全面が塞がれ、片腕を封じられた。

「今度こそ」「もらったっすぁああああ!!!」
それらを脱する前に、二体目、三体目のジェシカが同時に襲い掛かる。

「正面!!」
(……ズドンっ!!)
彩芽が叫ぶ。同時に、サラがライトニングシューターのトリガーを引いた。

「ん、ぐぉぁ……マジ、すか……」
「あの、クソガキ……」
「先、倒しとくべきだったっす、ね………」
放たれた光条は、正面の二体目と……リフレクターに反射され、頭上の三体目、そして足元に潜んでいた四体目のジェシカを貫く。

……かくして、サラは宿敵ジェシカを倒し、悪魔に魂を奪われる「運命」を乗り越えた。
ジェシカは完全に死んだのだろうか?
だが、そう思わせておいて、実は密かに……というのもまた「虫っぽい」話ではある。

「ふぅ………どうやら、全部倒したわね」
「おかげで助かったよ……サラさんはやっぱり…ボクにとっての、ヒーローだな。
いちばん助けてほしい時に、ズバッと現れてズバッと助けてくれるんだから」

「アヤメ………それは、あなたも同じよ」
「…え?なんか言った?」

「なんでもない……ダンの所に戻りましょう。お腹すいたし、シャワーも浴びたいわ」
(……これで2度目。私がいちばん助けてほしい時に…貴女は現れて、助けてくれた)

「そうだね。下水とか虫とかですっかり汚れちゃったし。一休みしたら…桜子さんとスバルも探し出そう」
「ふふふ……目指すはチームアヤメ、リブートってわけね。」
「え。。そのチーム名はちょっと……」

緊張が解け、和やかに言葉を交わしながら仲間の元へ向かう二人。
だが……『チームアヤメ』の全員集合は、もう少し先の話になりそうだ。

なぜなら。

…………

「クックックック……噂の秘密兵器『メサイア』を前線に引きずり出せるかどうかは、
ひとえに君たちの働きにかかっている……期待しているよ、桜子、イヴ……他の諸君にも」

……春川桜子は今、王下十輝星「フォーマルハウト」のスネグアに従軍し、ゼルタ山地に向けて移動していたからだ。

「……そんな事より、あの約束……忘れるなよ」
「成功したら、今度こそ……開放していただけるんですか。あの子たちと、私たちを」

「もちろんだとも。奴を倒せとまではいわないが、首尾よく奴の弱点でも見つけ出してくれれば上等だ。
その時は、スバルちゃんやメルちゃん達と一緒に、君たちを自由にしてやろうじゃないか。クックック……」

737名無しさん:2020/05/10(日) 09:48:20 ID:???
トーメント王城地下、廃棄施設。
劣化した拷問部屋、危険な魔物や大罪人を隔離した部屋など、トーメントの闇の更に深部が凝縮された場所。

リザは最近、そこへ毎日のように足を運び、凶悪な魔物や罪人たちとの戦いに明け暮れていた。
それは、来るべき戦いの備えて魔剣『シャドウブレード』の扱いに習熟するため……
というより、むしろ戦うことそのものが目的化しつつあった。

戦っている間だけは、余計な事を考えなくて済む……
戦っていないと精神を保っていられない。
そんな、極めて危うい状態に陥っていたのである。

「シャァァァァァッ!!」
「ッグルァァアアアアアアア!!!」
「メスァアアアアア!!」
三人の男が、巨大な鎖鎌を振り回し襲い掛かる。彼らはみな理性を失い、身体も半ば魔物化していた。

ジャキン!! ガキンッ!!  ジャラララッ!!
「はあっ!!……たあ!!………っぐ!」
錆びついた鎖は一見簡単に斬り落とせそうだったが、この地下施設に住み着いているだけあって一筋縄ではいかない。
鎖は強い邪術の力で蛇のように不規則に動き、リザの腕や首に絡みついていく。

ギリギリギリッ……ジャリッ……!!
「くっ………この、位で……」
呪われた鎖が、リザの首に食い込む。ざらついた感触と共に、白い細首から血が滲みだす。

「ヒヒヒヒ……」
「ツカマエタゾ」
「シネヤァァァアアアアア!!」
動きを封じられたリザに、三人…否、三体の異形が一斉に飛び掛かる。

「この程度で、やられるかっ……!!」
「「「ッグアアアアアアア!!」」」
だがリザは、シフトの力…テレポートを発動して拘束から逃れ、三体の魔物を「同時に」斬り伏せた。


「……はぁっ………はぁっ………今……の、感じだ…」
戦いを終え、一息つくリザ。……彼女が今発動したのは、普通のテレポートではない。
普通のテレポートなら、攻撃後に僅かな隙が生じ、一体を倒せたとしても他の二体に反撃されていただろう。

だから……「同時に」三か所にテレポートし、全ての敵を「同時に」倒した。
複数の可能性を選択する事で、一つだけを選択した時にはあり得なかった結果を導く。

新たな能力…「マルチシフト」とでも呼ぶべきか……に、リザは今、目覚めつつあった。

量子的ゆらぎを操作しているのか、あるいは篠原唯達のような『運命を変える力』の一種なのか……
詳しい理屈はリザ本人にもわからないし、また興味もない。

(この力を使いこなせれば、誰にも負けない。『戦争』にも…………勝てる)
………リザにとって重要なのは、ただその一点のみだった。

738名無しさん:2020/05/10(日) 09:49:58 ID:???
「もしもーし。……電波わりーな。また潜ってんのか?
おーいリザ。きこえるかー?」

その時、リザのスマホにトーメント王から着信が入った。
現在地は、城の地下十階。
……こんな地下深くでも辛うじて通信可能なのは、教授の技術力によるものだろう。

「……はい」
「前に言ったかどうか忘れたが、お前は今回の戦争では『遊撃部隊』の隊長をやってもらう。
これからメンバーの顔見せするから、さっさと上がってこい」

「…………」
「返事ぐらいしろっつーの。
そっちにメンバーの一人を迎えに行かせるから、それ以上奥に行くなよ?行くなよ?絶対行くなよぉー?」

「……………………。」
リザがしばらく黙っていると、ブツリ、と音がして電話が切れた。

(……さっきの感覚…忘れないようにしないと)

新たな能力「マルチシフト」はまだ未完成。これまでは数日に一度発動できるかどうか……という程度だった。
しかし今日は、能力を発動するのは今ので2度目。
もう少し続ければ、完全に体得できるような気がする。

(……もう少しだけなら、いいよね…)
リザは迎えを待たず、さらに地下深くへ進もうとした。

その時………。

「ダメだよ、リザちゃん。そこから先は………地獄だよ」
「!?」

いきなり背後に、人の気配が現れる。
…誰かがリザに抱き着いてきた。

「トーメント城地下10階……ここは別名『黄泉比良坂』。この世とあの世の境界線」

背はリザよりやや低いようだ。
ふわりと揺れるオレンジ色の髪。
柑橘系のコロンの香り。
鈴の音のように甲高い、少女の声。
……どこかで、聞いたことがあるような気もする。

「この先に住んでる奴らは、今までとは比べ物にならないくらい、ずーっとずーっと強くて恐ろしい。
 今のリザちゃんじゃ、あっという間に殺されちゃうよ?」
「……放して。誰なの、あなた」

「私は、スズ。 
………スズ・ユウヒ」

リザは振りほどこうとしたが、体にうまく力が入らず、テレポートも発動できない。
柑橘系の香りに包まれているうちに、頭の中に霞がかかったように意識がおぼろげになっていく……。

◇◇◇◇◇◇

「『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

「スズ・ユウヒ…?……あなたが……王様の、迎え…なの……?
 …王様の所へは、もう少ししたら自分で行くから…とにかく、離れて………」

激しい戦闘を何度もこなした後のような、疲労と倦怠感が全身を包んでいた。
いや、実際ここに来るまで戦いっぱなしではあったが……魔剣の力で倒した敵の力を吸い取り、体力魔力とも万全だったはずだ。

「ふふふふ……そんなにこの先に行きたいの?
……だったら、見せてあげるよ。この先に行けばどうなるか」

739名無しさん:2020/05/10(日) 09:51:09 ID:???
<1>

「それって、どういう………
…!?…あれ、いない…?」

……気が付いたら、スズは消えていた。姿も、気配も、柑橘系の香りも、跡形もなく。

(いない……って、誰、が?………今、私……誰かと、話してたんだっけ…?)
…何も、残っていない。

(ええと、そうだ…。王様に、呼ばれてたけど……もう少しだけなら、いいよね)

体力、魔力とも問題ない。地上に戻る前にもう少し戦って、新しい能力の感覚を掴んでおきたかった。


…ここはトーメント城地下10階。
王国の創始者が建造したとされる巨大地下迷宮の『浅層』の終端で、別名を『黄泉比良坂』と言うらしい。
ここから下、地下11階から先は『中層』と呼ばれている。
どのくらい地下深くまで続いているのかは、誰も知らない。

下階へ続く扉が、目の前にあった。
リザは……ゆっくりと、その扉に手を伸ばす。すると……

(バタン!!シュルルルルッ!!!)
「なっ……!?」

いきなり扉が開き、
黒い影のような手が無数に伸び出してリザの全身を捕らえた。

「放、せっ……!!」

一瞬で、扉の中に引きずり込まれた。
扉の先はろうそく一つの明かりもない真っ暗闇。
影の手に捕らわれたリザは、成すすべなく引っ張られ、そして落ちていく。
はるか後方で、バタンと扉が閉まる音がした。
リザがその扉を開くことは、二度とない。

740名無しさん:2020/05/10(日) 09:52:35 ID:???
<2>

「う………ここ、は……?」
…光さえ届かない、混沌と魔の領域にリザは堕ちた。

周囲は完全な暗闇。近くに壁らしきものはないが、広間の中だろうか。
立ち上がってみるが、視界が全くないため、平衡感覚が掴めない。
数歩歩くだけで、なんだか身体がふらつくような、妙な感覚に襲われる。

「シャァーーーッ……」
「グルルルルル……」
「グキキキキ……!!」
(!!……何か、いる!!)

いつの間にか、周囲を無数の魔物の気配に取り囲まれていた。
赤く光る無数の瞳が、獲物であるリザを、じっと見つめている……

「シャァァ!!」

ザシュッ!!
「痛ぅっ!!」

敵の声や気配を頼りに防御を試みるが、周囲が敵だらけの状況ではどうしようもなかった。
背中に激痛、熱、そして……背中がぐっしょりと濡れていた。鉄の…血の臭い。
敵の鋭い爪…あるいは牙で切り裂かれたのだと、数秒遅れで理解する。

「こ、のっ……!!」
文字通り闇雲に剣を振り回すが、当然ながらまともに当たるはずもない。
ほどなくして、激しい疲労感がリザにのしかかってくる。
シャドーブレードは、持ち主の血を代償とする魔剣。
誰かを切り続けていなければ、リザの身体はあっという間に衰弱してしまうのだ。

(まずい……このままじゃ…!!)
人間は、自分で考えている以上に、何をするにも視覚に頼っているものだ。
いきなり完全に視覚を奪われれば、リザのような歴戦の戦士といえども……

「ケケケケケッ!!」
ビシュッ!!
「んぐあっ!!」

「ガオォゥゥンッ!」
ザクッ!!
「いっ……!!」

ドゴッ!!
「あぐうっ!!」

ザクッ!!
「きゃああああああああぁつ!!!」

……成すすべなく、蹂躙されるしかなかった。

体中が痛い。痛い場所が、次々と増えていく。
全身が濡れているのは、汗か、血か、それとも別の何かだろうか。

腕が動かせない。
呼吸も苦しい。
首が、全身が、締め付けられている。
魔獣の腕に、それとも植物の蔦、悪魔の鞭?

周囲に無数にいると思われる敵がどんなやつらで、誰に何をされているのかすら、全くわからなかった。

「ガルルルルッ……」
「キキキキキ……オワリダ」
「ガサガサガサガサガサガサ」
「んっ………ぐ、うぅ……!!」
何かが、太股に噛みついている。
鋭いカギ爪を突き立て、体を這い登って来る。

逃げなければ。…どこでもいい、どこか安全なところへ……
「マルチ……シフト……!」

741名無しさん:2020/05/10(日) 09:54:16 ID:???
<3>

「グォォォォォォッ!!」
「えっ……しまっ」

ぐちゅん!!!
「きゃあああぁっ!!!」

テレポートした先で、リザは生温かい空気が吹き付けるのを感じた。
巨大な口を持つ巨大な魔物が、大きな口を開けてリザを飲み込んだ。


<4>

「ギギギギギッ……マヌケメ」
どすっ!!!
「っぐおぁ、は……!!」
下腹に、激しい衝撃。

……リザはどうやら、敵の目の前にテレポートしてしまったようだ。
みぞおちの辺りに激痛。手で触れてみると、何か硬い棒状の物が突き立てられていた。

太く鋭い、角…あるいは槍に、串刺しにされた…
そう認識するより前に、リザの意識は深い闇へと消えていった。

<14>

「きゃああああああ!!」
何が起きたのかさえ分からず、
リザは死んだ。

<57>

「なに、これ……糸……!?」
「キチキチキチキチキチ………」

ねばつく糸が、リザの絡みつく。切っても切れず、もがいても解けない。
魔蟲の巣網の中に、リザは迂闊にも飛び込んでしまったのだ。

硬い、大量の、何か小さなものが、足元から次々と這い上がって来る。
頭上からもばらばらと振ってきて、耳や鼻、口など、小さな穴を見つけて侵入してくる。

針のような無数のトゲのついた脚が、リザの全身を這いまわる。
トゲからは麻痺性の神経毒が分泌されており、
リザは生きながらにして虫達に体を食い尽くされることになった。


<1086>

「……………」
メキッ!!……ゴキゴキゴキ!!
「あがっ!!……な、あっ………っごああああああ!!!」

硬い岩のような感触の巨大な手に、リザは捕らえられた。
その手に凄まじい力が込められ、有無も言わさずリザの身体を握りつぶした。


<????>

「はぁ………はぁ……………どこ………出口は、一体……」
何度もテレポートを繰り返し、リザは敵の追撃をようやく振り切った。
全身は傷だらけ、出血・失血で意識が朦朧とする。体力と魔力は既に底をついていた。
だが上階へと続く出口はどこにも見つからない。

(あらあら。こんな可愛らしくて美味しそうな女の子が、一体どうして迷い込んできたのかしら……)
(さあ、こっちにいらっしゃい……私たちと、もっとたくさん楽しみましょう………ふふふふふふ)

目の前には、更なる下層へと続く真っ暗な穴が、大きな口を開けて待ち構えている。
リザは、吸い寄せられるように、ふらふらと歩みを進めていく……

742名無しさん:2020/05/10(日) 09:55:47 ID:???
◆◆◆◆◆◆

「!?……あ、あれ……私、今…………
あ、あなたは………………」

「ふふふふ……『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

唐突に、視界に光が戻ってきた。
汗と血と汚泥の臭いは消え、懐かしい、柑橘系の香りが鼻孔をくすぐる。

目と鼻の先に、『中層』へと続く扉があった。その先で見た、何百、何千という死のイメージ。
それは、まるで実際に体験したかのようにリアルだった。

(私……夢を見てた?………いや……違う。全く別の、何かが…起きていた……?)

「リザちゃんは、ほんとにかわいいなぁ。
ねえ……王様の所に戻る前に、もう少しだけこうしてていい…?」

コロンの香りに包まれているうちに、リザの思考に霞がかかっていく。
スズはリザの腰に手を回しながら、耳元に顔を近づけてくる。
温かい吐息はリザの首筋が優しくくすぐると、リザの身体から力が抜けていく。
何かがおかしい。この少女から離れないと……

「だ、め………はな、して………」

リザは全身に力を込め、スズの手を強引に振りほどく。そこで初めてスズ・ユウヒの顔を見た。

(!………ドロシー…!?………いや、違う………)

今はもういない親友の顔と、スズの顔が一瞬重なって見えた。
…もちろん、彼女がドロシーであるはずがない。
髪の色も瞳の色も違うし、雰囲気だってまるで違う。

「もう。どうしてそんな意地悪言うの?
私、リザちゃんのこと助けに来てあげたのに。
今までもずっと、リザちゃんのこと助けてあげてたのに…」

「一体何を言って……やめ、て……触ら、ない…で………!!」

「リザちゃんにとっての『黄泉比良坂』……地獄の入り口は、ここだけじゃない。
この世界中、あらゆる場所に、たくさんあるんだよ。
でも安心して。
リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるように、
私が運命を選んであげる。これからもずっと……」

【スズ・ユウヒ】
人気急上昇中のアイドル歌手。……だがどうやらそれは仮の姿。
トーメント王国軍に結成される予定の『遊撃部隊』のメンバーのようだ。

外見:髪と瞳はオレンジ色。
アイドル歌手というだけあってかなりの美少女だが、
細部の特徴・印象は、なぜか人によってかなり異なる。
服装はかなりオシャレで、ブランドものを効果的にコーディネートしている。
柑橘系の香水を愛用しているようで、近くにいるとほのかに香りがする。

特殊能力?:「黄泉比良坂坂で抱きしめて」
誰かの運命を予知し、いずれかを選ぶ。
または選んだ場合の運命を相手に体験させる事ができる。

裏設定:
様々な世界線を行き来することができる、謎の存在。
もともとは別世界で暮らしていた引きこもりの少女だったが、
ふとしたきっかけで特殊能力に目覚め、自分が人気アイドルになっている世界、すなわちこのリョナ世界にやってきた。

ちなみに、リョナ世界でアイドルだった方のスズは普通の人間。
アイドルとしての多忙な日々に嫌気がさしていたので、
能力者スズとは合意の下で入れ替わり、現在は異世界で引きこもりを満喫中。

743名無しさん:2020/05/13(水) 03:59:02 ID:l0q/Von2
「トーメントの魔物兵発見! まもなく戦闘に入る! みな準備はいいか! ミツルギ皇国の名にかけて、アレイ草原を突破するぞおおぉ!」

「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

草原で両手を広げて 駆け抜けていくのは忍びの大群。
迎え撃つはトーメントの教授ガチャにより魔物 改造された兵士たち。
アレイ草原攻略を担当するミツルギの忍びたちと、トーメントの防衛部隊の戦闘が開始されようとしていた。



「はぁーあぁ……なんでウチまで駆り出されるんや……闘技場の興行収入が盛り上がってきて、今が絶好の稼ぎ時やっちゅうのにぃ!」

「仕方ないです……討魔忍五人衆は最前線で戦うための実働部隊ですし」

「久しぶりに血が滾る戦闘になりそうだな……酒も大量に持ってきた。皆、今日は派手に宴会を楽むとしようじゃないか!わっはっはっは!」

「やれやれ……あなたたちと一緒に戦うと、巻き込まれないように気をつけないといけませんからほんとにめんどくさいんですよねぇ……」

「……手筈通リ私トラガールガ最前線ニ出ル。ザギ、ナナカ、コトネ、オ前タチハ他ノ忍ノ援護ニ回レ……兵ヲ無駄死ニサセルナ」

「「「「了解!!!!」」」」

討魔忍五人衆全員が参加する戦闘自体、かなり珍しいことである。
シンの指示に従い、3人が散開したと同時に敵の魔物兵たちの進軍が始まった!



「ササメせんぱーーい!!」

「……え、ヤヨイちゃん!? 貴女もこの戦闘に参加していたんですか?」

「当たり前ですよー! 討議大会とかこの前の雪人との戦いで経験を積んだあたしは、今やもうその辺の中忍よりも強いんですから! 自称だけど!」

「自称なんですね……やはり総力戦。戦える忍はほぼすべて投入されているようです。ここまでの規模の戦争……いったいどうなるのでしょうか……」

たくさんの血が流れることは必死のこの戦いに、大した反対意見も出ずこうしてたくさんの忍が戦いに参加しているということは、少なからずトーメントに恨みを持つものが多いことに他ならない。
そもそもミツルギとトーメントは古来より犬猿の中であった。最近は小康状態であったが、戦う口実ができればご覧の有り様である。



「どうなるもこうなるも、勝つに決まってます! 討魔忍五人衆が全員揃って戦ってるんですから、負けなんかありえないですよっ!」

「……そう簡単にはいきません。トーメント兵たちの中には十輝星ではなくとも、各国の幹部クラスの者が大勢いるのです。それがこの世界で一強を誇る何よりの証拠……油断は一切できません」

「まじですか……!七華さんやシンさんと同レベルのモブ敵がいるなんて信じられないですけど……」

「….…前線が見えてきました。私が先行します!ヤヨイちゃんは後ろを!」

「お、おっけーです!」

草原に似つかわしくないドラゴンや狼、魔法生物らしき甲冑や揺らめく人魂、巨大スライム……
驚くべきはこれらはすべて人で、高い知能を持って襲いかかってくるということだ。

「来て、氷雨!雪雲!」
「雑魚どもは全員、この斑鳩の錆にしてやるんだからぁ!」

このアレイ草原でついに、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

744>>742から:2020/05/17(日) 10:06:08 ID:???
「………というわけで。
スズちゃんをはじめ4名のメンバーが、これからお前の部下になるわけだが…」

王様の横にいる2人は、COMPと呼ばれる未登場のキャラの正体を隠しておくマントを着ている。

「なに、一人足りないって?…ま、この手の顔合わせに1人2人遅刻するのはよくある事だろ?
残る1名は、お前がよーく知ってる人物……とだけ言っておこうか。ヒッヒッヒ!!」

「ふふふ…♪…いったい誰かしら。気になるねぇ、リザちゃん」
「……別に。……それより、くっつかないで。……」
(この『顔合わせ』が終われば………やっと戦場に行ける)

だがリザは…他のメンバーが誰であろうと、関心はなかった。



…その頃。

「………おっと。もう召集の時間か。
その前に……行きがけに『ちょっと一刺し』していくかな。クックック……」

イータブリックスの路地裏。
鈍く光るナイフを手に、一人呟くのは、悪名高い無差別大量殺人鬼ヴァイス。

『遊撃部隊』のメンバー候補に選ばれた彼は、
「隙があればいつでも『隊長』を殺して良い」「『隊長』を殺したら、その瞬間自由の身」
…という条件で召集に応じていた。

「……さーてと。どうしてやろうかな、っと……」
この国に住む女性、特に今この状況でなお平然と街を闊歩している彼女たちは、
いずれも見た目によらぬ猛者だったり、魔物化していたり、しかも重度なリョナラーだったり……と、
一筋縄ではいかない者たちなのだが、ヴァイスからすればさしたる問題ではない。

道行く女子高生や、水商売風の女性に視線を泳がせ、獲物を物色する。
そして、酔っ払いのようなふらついた足取りで、細い路地に入っていく。

(……一体、どこへ行くつもり…?)
……その後方数メートルには、マントをかぶった小柄な追跡者があった。
だが、迷路のように入り組んだ路地を、くねくねと曲がっていくうちに……

(?……い、いない…!?)
「どういうつもりだぁ?……さっきから、ずーーっと俺様をつけてきやがって……ククククク」
「なっ……!!」

……あっさりと背後を取り返す。
生粋の捕食者であり、狩人、追跡者であるヴァイスからすれば、尾行者のそれは素人同然だった。

(ブオン……!!ガキィィィンッ!!!)
ヴァイスはすかさず相手の脇腹あたりにナイフを突き立てようとしたが、硬質な感触に弾き返される。

「ほほー、コイツは……『爆炎のスカーレット』……エミリアちゃんじゃねえか。
俺に一体何の用だぁ?……なんて、聞くまでもねえか」

「あなたを、リザちゃんの所へは……行かせません!!」
(姿を消してたのに、こんなあっさりバレるなんて……あらかじめ防御魔法を張っといてよかった……)

エミリアは数歩下がって、ヴァイスの方に向き直る。

場内で食堂や雑用の仕事をしていると、情報は嫌でも入って来る。
ヴァイスが「遊撃部隊」にスカウトされたこと、リザの寝首を掻こうと狙っていること。
そして今日、部隊メンバーとしてリザと顔を合わせる予定であることも。

「ふん。それってつまり……力づくで止める、って事かぁ?……おもしれえ」
(ギンッ!! バキン!! ビシッ……!!)
「んっ!!……く………うぅっ!!……」

ヴァイスはへらへらと笑いながら、エミリアに無造作に歩み寄り、ナイフをぶんぶんと振り回す。
すさまじい速度の連続切りに、エミリアの魔法防壁は瞬く間に劣化していく。

…近接戦は、相手の方が間違いなく格上。
奇襲を仕掛けられなかったのは痛いが、エミリアは退くつもりは毛頭なかった。

「……ファイアボルト!!」
「な……!!」
(…ズドォォォォオンッ!!)
至近距離からの攻撃魔法。
エミリアの規格外の魔力で繰り出されるそれは、並の魔導士の中〜上級魔法にも匹敵する。
さすがのヴァイスも避けきれるものではない。

「ゲホッ!ゲホッ!!……てん、めぇぇ……
…イカれてんのか?この距離でそんなものぶっ放したら、テメェだって無事じゃ済まねえぜ……」
直撃は辛うじて避けたヴァイスだが、上着が吹き飛び、右半身に火傷を負う。

一方のエミリアも、着ていたマントが弾け飛び、防御魔法も失われた。
魔法障壁のおかげで外傷はほとんどないが、もうヴァイスの攻撃を防ぐことは出来ない。
新たに障壁を張りなおす時間も、そのつもりも、エミリアにはなかった。

「……この身に代えても……リザちゃんは、私が守る…!」

リザを殺そうと狙うヴァイスを倒し、代わりに「遊撃部隊」メンバーに加わる。
かなり強引なエミリアの目論見は、果たして成功するのか。
それとも………

「ヒッヒヒヒヒ……いいぜぇ。こうなりゃ、とことんヤってやるよ。
火傷の礼に、俺のナイフコレクションで、全身グチャグチャに切り刻みながら犯してやる……いくぜぇぇぇ!!」

745>>743から:2020/05/17(日) 21:28:26 ID:???
「くらいなさいっ!桜花手裏剣!」
「氷刃乱舞!!」
「ギャアッッ!!!」「グアーーッ!!」

後衛から敵の軍勢に手裏剣を投げ込むヤヨイ。
その隙に乗じ、氷の剣で縦横無尽に斬りかかるササメ。
二人の連携に、トーメントの魔物兵たちはバタバタとなぎ倒されていく。

「こ、こいつら、強いぞ!」
「闘技大会で一回戦負けしてたくせに!」
「もー、昔のことをいつまでも!…っていうかコイツらも見てたの!?」
「……あの時の私達と同じだと思ってるなら……後悔させてあげます!」

二人の活躍で勢いづいたミツルギ軍。さらに後続の忍び達が攻勢を仕掛ける!

「あっはははー!甘いねヤヨイ!
飛び道具の破壊力なら、このアタシの爆裂☆スターマイン攻撃がマジ最強だから!」

(ドカーーンッ!!)
「「「ッグアアアアアアア!!」」」

【シノブキ・ナデシコ】
ヤヨイの同級生。忍びなれども忍ばない、おバk…元気いっぱいなギャル系見習い忍者。
髪は金に近い茶髪のポニーテール、なんか瞳の中に星型の光がある謎の体質。おっぱい。
実家は花火師で、お爺ちゃん直伝の火薬攻撃が得意技。
ナシ子ってよんでね!

「ちょっ……ナシ子!爆弾多すぎじゃない!?」
「今日に備えてめっちゃいっぱい作ってきたからね!まだまだ行っくよー!!」

もうもうと上がる爆煙に視界を閉ざされ、前を行くササメ達と分断されてしまった二人。
そこへ……

「くっくっく……自分から孤立してくれるとは馬鹿なやつらね。あんま強くなさそうだし、先に潰してやるわ!!」
「誰がバカよ!!って、誰…!?」「上っ!?」
「「きゃああああああぁ!!!」」

謎の黒い影が、上空からヤヨイ達に襲い掛かってきた!


【ドラコ・ケンタウロス】
人間の身体に、竜の角と翼。怪力やブレス能力など竜の特徴を併せ持つ上級魔物兵。
好戦的な性格の者が多く、武器や素手での近接格闘が得意。
ぷよぷよした同色のものを4つ以上集めるのが趣味だとかなんとか。

(ドガッ!!)
「あぐっ!?」
敵は深紅のチャイナドレスを着た竜人型魔物兵。
炎をまとった回し蹴りで、ヤヨイとナデシコの身体を豪快に蹴り飛ばす!


「っぐ……竜人…!? こんな上級魔物が、雑魚兵士に混じってるなんて…!」
「ふふーん。このドラコ・ケンタウロス『炎脚のニィズ』が、
蹴って燃やして踏んづけて……ボロっクソに痛めつけてあげるわ!!」

「なっ……なめんじゃないわよ!あんたなんか、この『斑鳩』の……」
「この安物刀の錆にしてくれるって?……ムリムリ」
「えっ……!」
(ズドンッ!!)

ヤヨイはなんとか起き上がり、愛刀「斑鳩」を構えなおす。
だが、ニィズはその斬撃を軽くかわしながら、カウンターの膝蹴りをヤヨイの腹に叩きこんだ。

「あ、ぐっ……!!」
ヤヨイの身体がくの字に折れ曲がり、足先が浮く。
忍び装束の蹴られた個所には、竜人ニィズの「炎脚」によってで黒い焦げができていた。
「そんなナマクラが私の鱗に通じるわけないけど……そもそも当たんなきゃ話にならないわね、お嬢ちゃん♥」

(ドスッ!ベキッ!!ゴウンッ!!)
「うぁっ!!ぎゃんっ!!っぐああああああ!!!」
連撃、追撃、ダメ押しの連続蹴りが、ヤヨイの脚、胸、側頭部を撃ちぬく。
たまらず前のめりに崩れ落ちたヤヨイの背中を、ニィズは宣言通り思い切り踏みつけた。

746名無しさん:2020/05/17(日) 21:30:28 ID:???

「こらぁっ!ヤヨイっちを放せ!!『スターマイン☆ナックル!!』」
ナデシコが繰り出すのは、火薬を仕込んだ耐火手甲による一撃。
当たれば手甲に内蔵された火薬が炸裂し、ド派手な爆発とともに敵を倒す驚異のカラクリナッコーである。

「へっへーん。こんなヌルい花火、アタシに効くわけないでしょ!」
バシュン!!
「ふぎっ!!」
…だがその一撃が届く前に、ニィズの長い尻尾が鞭のように飛び、ナデシコを力任せに叩き落す。

「はい、さっそく二人ゲット〜。かわいい女の子は生死問わず、捕獲したら報奨金が出るのよん。
この戦いでいくら稼げるか、今から楽しみだわ」

「な、ん、ですって……」
「そんな事、させるかっ……」
(ギリギリッ………グキッ!!)
「ぅ、っぐあああああ!!!」

立ち上がろうとしたナデシコに尻尾が巻き付き、全身を締め付ける。
圧倒的な力を持つ魔物兵に、下忍コンビは早くも窮地に追い込まれた。


「まったく、だらしないわねー……『今やその辺の中忍より強い』んじゃなかったの?」
そこへ助けに入ったのは……

「なっ……何者だ!」
「あ………あなたは、ええと………どなたでしたっけ」
「す、すいません。私マジ初対面なもんで」

【血華のスイビ】
『ガチレズ吸血鬼』の異名を取る女忍び。前回の闘技大会の準決勝でアゲハと対戦した。
他にも彩芽を襲ったり、唯と瑠奈を苦戦させたりしている。

「……アンタたち、先輩に対する敬意がなさすぎじゃない?
つーか解説まで入れてくれなくていいわよ!新キャラじゃないんだから!」

「す、すいませんスイビ先輩!」
「で、でも……大丈夫かな。こいつメチャクチャ強いですよ?」

「助けに来てやったのに、失礼な子たちね。
 だいたい私は吸血鬼なのよ?強キャラに決まってるでしょ!」
「すぐ死ぬフラグみたいにも聞こえるんですが」

「ふん……まあ、こっちの雑魚どもよりは骨があるのかしら。楽しませてくれそうね」
「そういうアンタこそ、なかなか良い体してるじゃない。……いっぱい楽しませて、骨抜きにしてあげる」

ドラゴンVS吸血鬼。魔物界の頂上決戦ともいえる戦いの行方は………

「や、やめろぉ!!は、放せっ……んにゃあああああ!!!」
「ふふふふ……だぁ〜め♥竜人の血なんてめったに吸えないレアものなんだから」
「や、やめぇぇ……しっぽ、そんな風に触られたら………ん、ああああんぁっ♥♥♥」

((うわぁ……))

………こんな感じになった。

747名無しさん:2020/05/17(日) 21:31:46 ID:???
「くっそ……なんなんだ、おまえぇ……なんでそんな、私の弱いところばっかりぃ……」
「ドラゴンだろうとなんだろうと、どんな魔物にも弱点は必ずあるものよ。
私の友達にマジメで研究熱心な子がいてね。一時は暗殺チームにいたんだけど、
そこを抜けてからは魔物対策の戦法もいろいろ研究してて……」
「…たぶん、アゲハさんが研究してるのはそういう戦法じゃないと思うんですが」

……接近戦では無類の強さを誇ったニィズを、完全に押さえ込んで無力化している。
やり方はどうあれ、血花のスイビもまた、決して侮れない実力者だったようだ。

傷の手当てを済ませたヤヨイとナデシコは無言でうなずき合い、
スイビにこの場を任せてササメを追う事にした。というかここから離れたい。

「ふふふ……大分身体が出来上がってきたかしら?……でもここからが本番よ」
「ひ……!!……や、やめろ……そこだけは、ぁ………!!」
ニィズの首のチョーカーを、手慣れた手つきで外すスイビ。
その下には、小さな鱗が隠されていた。

手足を覆う深紅の鱗とは明らかに違った、まるで宝石のように淡い光を放つ鱗が白日に晒されると、
ニィズの表情に明らかな動揺と、羞恥の色が浮かび上がる。

「竜の喉に一枚だけあるっていう、『逆鱗』……きれいなピンク色してるのね。
確か伝説では、竜はここを触れられると激怒するんだったかしら?
そして竜人の女の子は、ここを人目に晒す事さえ極端に嫌う……」

スイビはニィズの逆鱗を犬歯で軽くついばみながら、耳元でささやく。
「やっ……め、ろぉ………おまえ……ぜったい、ころして、や………んっ、ふぁあああああ♥♥♥」

「ちゅぷっ……れろ……思った通り、可愛い反応。やっぱりココって、そーいうトコだったのね。
やっぱり実際試さなきゃわからないものだわ……後でアゲハちゃんにも教えてあげなきゃ」

「やぁぁ………だ、めぇ………そこ、ぺろぺろしないれぇ……♥♥」

「ふふふ……ちょっと舌で転がしただけなのに、もうすっかりメロメロね。
……ここから直接吸血したら、一体どうなっちゃうのかしら」
「ひ………だ、めぇ………もう許してぇ……」

「ふふふ…楽にしていいのよ。お姉さまに、身も心も任せちゃいなさい…かぷっ♥」
「お、おねえさまぁぁぁぁぁ……んあぁぁぁっ♥♥♥」

……竜人にとって、逆鱗は乳首やクリトリス以上に敏感な性感帯。
後に編纂された魔物辞典には、そう記されるようになったとかならなかったとか。

748名無しさん:2020/05/22(金) 11:34:02 ID:???
「さあいくぜぇエミリアちゃあぁん!これが俺様のナイフコレクションの中でもお気に入りの、斬魔朧刀だ!ククククク!」

ヴァイスが懐から取り出したのは、漆黒に染まった禍々しいナイフ。
何らかの魔法が掛かっているかのようにバチバチと黒の稲妻を放つ刀身は、その様子からしても一太刀の威力を誇示していた。

(アレで切られたら危ない……!ナイフの届かない遠距離から、魔法で攻める!)

「ウィンドブロー!」

(チッ、風魔法か……)

風の力で後方に素早く移動し距離を取ったエミリアは、すぐさま次の魔法を放つ。

「……サンダーブレード!!」

「おおっとぉ!聞かねーよォ!」

バチバチバチバチっ!
エミリアの打ち出した雷の刃は、ヴァイスのナイフで簡単に切り払われてしまった。

「嘘……!魔法を無効化するナイフなの……?」

「ご名答!!魔法少女どもはみんなこのナイフでバラバラにしてきたってもんよ!知ってるか……?お得意の魔法がこんなちゃっちいナイフ一本に無力化されたあいつらは、小便ちびりながら助けてください!助けてくださいっ!って命乞いするんだぜええぇ!勿論結果はバラバラだけどなぁ!!ククククククク!ヒーッヒッヒッヒッヒ!!!」

「……やっぱり……絶対に、貴方をリザちゃんの元には行かせませんッ!!」



殺人鬼の狂気をまざまざと見せつけられたエミリアは、魔法詠唱を始める。
生半可な魔法が無力化されるならば、ナイフでも切り払えない威力の魔法……上級魔法が必要だ。

(ここで普通に発動したら他の人たちも危ない……!威力を抑えずあの男に一点集中……難しいけど、それしかない!)

「はあああああああああああぁっ!!」

ボワアアアアアアアァッ!
エミリアが魔法を唱え始めた瞬間、彼女の周囲を激しい炎が取り囲んだ。

「なんだぁ?詠唱中に邪魔されないための足止めのつもりか?ククク……斬魔朧刀にかかりゃこんなもん、さけるチーズと同じだぜぇ!!」

ナイフを振り上げ、エミリアを囲む炎を一閃するヴァイス。
だが、その結果は彼の思い通りにはならなかった。



「ちくしょう!んだこの炎は!?全然消えねえぞっクソがああああぁ!」

ヴァイスが何度斬っても斬っても、エミリアの炎の威力は弱まるどころか、さらに勢いを増していく。

(私の得意魔法は火……!爆炎のスカーレットの炎は、たとえ水でもそう簡単には鎮火できない!)

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す….!」

「このクソアマァ!炎の中に閉じこもってないで出てこい!ぶっ殺してやるよおおおおお!!」

接近戦に持ち込めないヴァイスが喚いている間にも、エミリアの詠唱は続いていく。
それと同時にエミリアの長い青髪が、燃えるような赤へと変わっていく。
まるで燃え盛る炎のように髪が逆立っていくエミリアの様子を見て、ヴァイスはようやく事の重大さを理解した。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

(なんだ!?化物かコイツ!?自分の髪色まで炎のマナに染めたり地鳴りまで起こしたりする馬鹿魔力、魔法少女の連中の中にすら1人もいなかったぞ!?)

あまりにも強い魔力は、術者にもなんらかの影響を与えることがある。
エミリアのように頭髪の色が変わったり、身体からマナのオーラを発したり、体型まで変わってしまったりと様々だ。
だがエミリアの長髪の全てが赤に変わったのは、その魔力の強大さを証明するには十分だった。

「炎獄顕現せよっ……!我に仇なす物に裁きを与えんっ!!」」

エミリアが詠唱を終えた瞬間、すべての炎が激しく燃え上がり、エミリアを中心に回転を始めた。

「わ、わかった……悪かった……!だから頼むからやめてくれ!こんなのやべえだろぉ!」

命乞いをするヴァイスの声も、もうエミリアに入っていない。
あまりにも強い魔力を持つエミリアにとっては、敵がいる場所に魔法を一点集中させることはかなりの集中力を要する。

今回のように上級魔法でそれが成功したことは、1度もない。
だがこの殺人鬼は確実にリザの命を狙っている。ここで除かねば必ずリザの脅威になり、いつか殺されてしまうかもしれない。
もし失敗すれば周囲の建物をも巻き込み、とてつもない規模の爆発になってしまうが、エミリアに迷いはなかった。



(私が上級魔法を使うのは……大切な人を守るとき!この一撃に全てをかける!!!)



「インフェルノ・ディストラクション!!!」

749名無しさん:2020/05/22(金) 11:41:06 ID:???
ドゴオオオオオオオオオオン!!!

「くっ……!きゃああああああっ!!」

自信の起こした爆発による熱風で、エミリアは吹き飛ばされた。
視界はゼロに近い。爆発の規模はわからないが、目の前には天まで届く炎の柱が見えている。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

(……成功……! 建物が倒れてない……あいつの位置にピンポイントで超爆発を起こせた……炎の勢いは全部上に……)

炎の柱はメラメラと立ち上っているが、火の粉を撒き散らすことはなく、ほどなくして消失した。

(……勝った……! やったよ、リザちゃん……! 私、リザちゃんを守れたよ……!)

周りを巻き込まなかったことに安堵しながら、エミリアはへたりと座り込む。
彼女が本気を出した炎に焼かれた者は骨も残らず消えてしまうので、死体の確認はできない。
それでも魔法は発動の瞬間、確実に敵を巻き込んだ。あの一瞬で逃げ延びる術はない。
あの殺人鬼を確実に葬ることができたはずだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……えへへ….…私だって、やるときはやるんだか……ら……」

魔力を使いすぎた上に、それをコントロールするための精神力も使い果たしてしまったエミリアは、ゆっくりと気を失った。



「ん……あれっ……?」

エミリアがゆっくりと目を開けると、見慣れない光景だった。
広い空間にたくさんのコンテナに工事用の立て看板、天井にはクレーンが吊り下がっている。

(なにかの倉庫……? わたし、気を失って……ッ!?)

ジャリ、という音でエミリアは完全に覚醒する。
寝台のようなコンテナの上に寝かされたまま、四肢が完全に鎖で拘束されているのだ。

「なにこれ!? 動けないッ……! いやっ……! ど、どうして……?」

「ようやくお目覚めか? EMT……エミリアたんよぉ」

倉庫の奥の暗闇から現れたのは、葬ったはずのヴァイスだった。



「嘘!貴方は私の魔法で……!」

「おおそうさ! だが地獄の閻魔様をぶっ殺して甦ったのよ!クククク!」

「……その、ナイフは……!」

「チッ、もうバレたか……斬魔朧刀はもうダメになっちまったよ。誰かさんの馬鹿魔力をちょっと反らしただけでなぁ」

エミリアの魔法は確かにヴァイスを狙っていたが、炎弾の着弾範囲で爆発を起こすものだった。
その炎弾を少しずらされて、爆発から逃れられてしまったらしい。

「まああれだけの炎魔法、回避できるか微妙だったが……さすが俺様のお気に入りナイフだ。しっかり守ってくれたぜええぇ!」

「そんな……そんなぁっ……!」

「お前、周りの奴らを巻き込まないためにあんな魔法の使い方したんだろ? 遠慮なく全部吹っ飛ばしちまえば俺様を消しとばせたのになぁ? なんて優しいエミリアたんなんだあぁ! そのせいで俺にブチ犯されて殺されてしまうたぁ……涙が出るぜ……!」

「ううぅ……!」

「クククク……その鎖は魔装具の一種。そのでっけえおっぱいに詰まった残りわずかな魔力も全部、吸い上げさせてもらったぜぇ?」

残りわずかな魔力すら、エミリアの中にはない。むしろ体内の魔力がなさすぎて、軽い目眩がするほどだった。

「はぁっ、はぁっ……」

(……ごめんね、リザちゃん……私じゃ、無理だったみたい……)

「さて、俺様はせっかく牢から出たってのにいろいろお預け食らってたんだ……ここなら何の邪魔も入らねえ。全部発散させてもらうぜ? エミリアちゃんよぉ!」

「ひっ、い、いやっ……! 来ないで……! いやああああああああああああああ!!!」

「あの金髪のガキとは違っていい反応するじゃねぇかあああああぁ!! ククククク! 思いっきりブチ犯してやるぜええぇ!」



エミリアの絶叫は、ヴァイスの口で強引に塞がれた。

750名無しさん:2020/05/22(金) 21:02:02 ID:nbNP2NFE
「あははははは!!お祭り!お祭り!ララララ!ラララララ!!」

アレイ草原、トーメント側本陣。そこではクルクルと回って紫色のドレスをはためかせたロゼッタが、特に指揮とかする様子もなくケタケタと笑っていた。

「おい、大丈夫かよあの人……俺、生存率高そうなルミナス側が良かったなぁ。あいつらには勝ち癖ついてるし」

「まぁなぁ……あっちは魔法少女特攻とか、デネブ様の毒に耐性があって巻き込まれても大丈夫な奴がメインらしいぞ」

そんなロゼッタの周りでは、やる気のなさそうな兵士たちが雑談をする。戦えば滅茶苦茶強いのは知っているが、幼児退行した指揮官に不安を覚えるなというのは無理な話だ。

「まぁ、多分後詰のシリウス様かプロキオン様辺りがそのうちサポートに来るだろ」

「だといいけど……まぁ前線がようやくぶつかったくらいだし、本陣の俺らにまで危険が及ぶのはまだ先……ふんぬ!」

「お、おい兵士A!どうし……ぐわし!」

雑談していた兵士2人が、突然北斗のモヒカン的悲鳴をあげて爆散する。

「……本陣の警備がこの程度とは、逆に罠を疑ってしまうな」

「て、敵襲ー!であえであえーー!」

まさかの本陣への奇襲に大慌ての魔物兵たち。それを冷静に俯瞰する白髪の女性……アゲハは、奥にいる総大将……ロゼッタに狙いを定める。

「テンジョウ様への恩義……貴様の命で返させてもらう!」

大戦へ向けた人事異動として、テンジョウはアゲハを暗殺部隊から対魔物部隊へと異動させていた。
否、アゲハだけではない。望まぬ意思で暗部に入れられた者のほとんどを、戦争の為と称して通常の部隊に組み込んでいた。

それ故、アゲハを始めとする元暗部の指揮は高い。

しかし、偵察だけして帰るつもりだった彼女がロゼッタを狙ったのは、テンジョウへの恩義で功を焦っただけではない。


(力を持った気狂いは、ただでさえ危険だが……こいつは輪をかけて危険!キリコやテンジョウ様に危機が及ぶ前に、私が仕留める!)

人体のマナの流れに敏いアゲハには、ロゼッタのマナの異常な流れを感知できた。彼女は『今』倒さねばどんどん危険になるという直感……それがアゲハに無理攻めを選ばせた。

邪魔する兵士たちの秘孔を突いて最小限の動きで撃破しつつ、一気にロゼッタまで迫るアゲハ。

「命、消える!天使、迎えに来る!天使!ラララ!ラララララ!ララ天使!」

目の前に死が迫っているというのに避ける様子もないロゼッタに、アゲハの手が迫った時……見えない何かの気配を感じた。

「ふん、お前が不可視の糸使いということは知っている!」

前述のように人体のマナの流れに敏いアゲハは、ロゼッタの糸の攻撃も大まかにだが把握できる。
暗器使いとの戦いも多い暗殺部隊にいたのと、予め情報があったのもあり、アゲハは初見ながら運命の糸に抵抗してみせた。

「当たりさえすれば……取った!!」

糸を完全に回避したアゲハは一息にロゼッタに肉薄し、すれ違いざまに秘孔を突こうとした。
だが……

「が、は……!?」

あと一歩でロゼッタに手が届くというところで、なぜかアゲハは口から吐血し、膝をついてしまう。

(な、んだ……?攻撃を受けた感覚もないのに、血が……?)

血の流れを逆流させる秘孔ならばアゲハも使える。だが、自分は全く攻撃を受けていないはず……

「赤い糸!血の糸!!運命の赤い糸!!」

膝をついたアゲハの目の前で変わらずクルクルと踊るロゼッタ。その左手薬指に……アゲハの吐いた血が細長い糸状になって絡みつく。

「な、に……!?」
(馬鹿な、触ってもいないのに、相手の血を操るだと……!?)

「運命の赤い糸は、全部私のもの!アハハハハ!」

「ぐ、ぶ……!ごぽ……!」

信じられない光景に驚いている間にも、アゲハの口からはとめどなく血が吐き出され、ロゼッタの左手薬指に巻きつく「運命の赤い糸」は増える一方。

751名無しさん:2020/05/22(金) 21:03:59 ID:???
(悔しいが、どうしようもない……!何とか離脱しなければ……!)

止血の秘孔を突いて無理矢理吐血を止めようとするが、一向に効果は現れない。

「う、ぷ……!ご、ぶぅ……!がはっ……!」

「なんか分からんがチャンス!ノコノコやってきた白女にお灸を据えてやるぜ!」

苦しげに呻くアゲハを見て、これ幸いと逃げ惑っていた魔物兵が、アゲハの顔を蹴り上げる。

「ぐはぁ!!」

貧血と血の逆流で動けないアゲハは、一瞬宙に浮いた後、受け身も取れずに硬い地面に倒れこむ。

「アハハハ!踊ろう?歌おう?天使!愛の歌!ラララ!」

ロゼッタ本人は追撃する様子もなく歌って踊っているが、相手の血を操る能力を解除する様子もない。
身動きも取れず、最早これまでかと思われたが……



「ニューベアランス・ベルトコンベアー!!」

突然、アゲハの倒れている地面が高速でベルトコンベヤーのように動き、彼女をトーメント本陣からミツルギ軍側へと引き戻す。

「な、なんだぁ!?あの女、動いてないのに急に遠くへ!?」

「ロゼッタ様!止めてください!」

「タラリラ〜♪ルラララ〜♪」

「ロゼッタ様ぁあ!?」

踊るばかりのロゼッタに兵士たちのツッコミが入るのを聞きながら、アゲハはある程度離れた草陰にまで運び込まれた。

「この忍法、まさか……」

「ぜ、前々回の大会ぶりだでな」

「グリズ、貴様に助けられるとはな……どういう風の吹き回しだ?」

【熊腕のグリズ】
前回の闘技大会の一回戦でアゲハと対戦した。その名の通りベアハッグを得意とする。
怪力と高い再生能力を持つ魔物「トロール」の血を引いており、少々の傷ならあっという間に回復してしまう。
鏡花をあと一歩の所まで追い詰めるが、魔法少女特有の友情パワーに逆転されたりもした。


「お、おでは今回はサポートに徹するんだな。負傷者を後方まで運ぶのがおでの仕事なんだな」

「ふ、随分牙の抜けた熊だ……まるでプーさんだな」

「な、なんとでも言うんだな。もう負けて痛いのはこりごりなんだな」

以前しのぎを削った相手に助けられるという奇妙な体験に何とも言えないこそばゆさを覚えながら、アゲハは口元の血を拭う。

「私が言うのも何だが、変わったな……とにかく、テンジョウ様の所へ私を送ってくれ。至急報告したいことがある」

752>>749から:2020/05/24(日) 15:27:29 ID:???
「あっぎあああああ!!! い、痛いぃっっ!!
 太くて、固くて……奥まで、刺さって………いやああああああ!!!!」
「ギャーーッハッハッハッハ!!痛くて当然。
俺様の特別製改造繁殖肉ナイフは、刺した奴に快楽なんてヌルいもんは一切与えねえ。
純度120パーセントの苦痛。その悲鳴が、俺様をより滾らせるのよォォ!!」

ヴァイスの改造ペニスは、鋭いスパイクが無数に生えた特別製。
彼の性格を反映し、対象に苦痛を与えるためだけに特化した恐るべき代物だった。
伝え聞いていたような『快楽』なるものは一切なく、
代わりにエミリアを襲うのは、覚悟していたより何十倍、何百倍もの純粋な苦痛の渦。
そしてそれは、ヴァイスが腰を一突きするたびに、更に勢いを増していく。

「げほっ!!がは!!!う、ぐ……っつああああああ!!!」
(こ、んなに……太くて、固くて、痛いなんて……!……この、ままじゃ……殺される…!)
前の穴だけでなく後ろも、穴以外の場所も、ヴァイスの肉棒は無差別に暴れまわる。
まるで、ノコギリで股間とその周辺を無差別に切り刻まれているかのような激痛。
エミリアの下半身は既に血の海だった。

「んぐぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!いやあああ!!や、やめてっ……」
(私の命は……アイナちゃんが、守ってくれた命……こんな所で、無駄には……)
エミリアは、消えそうな自らの生命を燃やし、最後の魔力を振り絞ろうとする。だが……

「ヒッヒッヒ………ムダムダぁ!!」
(……バチバチバチバチバチッ!!)
「ひっ、が、っぐああああああ!!!」
(私の命は……リザちゃんを守るため。そのためだけに、使わ………な、きゃ……)
四肢を拘束する鎖に、必死に紡ぎだした魔力も根こそぎ吸い取られてしまう。

「ギッヒヒヒヒ……そろそろ出すぜぇ。その死にぞこないの身体で、たっぷり味わいなぁぁぁ!!」
……エミリアに、もはや打つ手は残されていなかった。
全てをあきらめ、瞳から意志の光が消えようとした、その時………

……さわやかな柑橘系の香りが、エミリアの鼻腔をくすぐった。

753名無しさん:2020/05/24(日) 15:29:15 ID:???
◇◇◇◇◇◇

「……ねえねえリザちゃん。王様が言ってた、リザちゃんが知ってる人って誰のことだと思う?」
「別に、誰でもいい……誰が来ようと、私のやることに変わりはない」

……トーメント王は勿体つけていたが、リザにも察しはついていた。
そもそもリザが知っている人物自体そう多くないし、その中で『遊撃部隊』に選ばれるだけの実力者。
更に、王が選んだメンバーとなると……心当たりは一人、あの狂った殺人鬼しかいない。

「ふふふ。王様はそのつもりかもしれないけど……別の可能性も考えられない?
運命って、意外とちょっとした事で変わるものなんだよ。
例えば………」

「っていうか、遅ぇなぁ。ヴァイスはいつになったら来るんだよ、ったく……」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「あれ?……おいおいエミリアちゃん。なんで君がここに?」
「エミリア!?……傷だらけじゃない。一体何があったの!?」
「ヴァイスは……あの人は、ここには来ません。私が倒しましたから……
…王様、そしてリザちゃん。……代わりに私を、『遊撃部隊』のメンバーに加えてください!」

「……確率で言ったら、10%にも満たないけど……こういう事だって起こりうるの。
私としても、きったないオジサンよりは女の子の方がいいし……」

ヴァイスを倒したというエミリアは、下半身が血まみれ。
そして肩には、大ぶりなナイフが深々と突き刺さっていた。
一体何があったというのか。想像はつくが、想像したくない。

「……あの殺人鬼じゃなくて、エミリアがメンバーに?………?」
「そう……あくまで、これは可能性。だけど今なら、私の能力で、好きな方を選ぶ事ができる。
リザちゃんは……どっちがいいかな?」

「………そんな………エミリア、ボロボロじゃない。この後すぐ戦場に行くのに、こんな状態で、なんて……」
「…平気、だよ。リザちゃんのためなら。…それに、しばらくすれば魔力も回復して、治療できるし……」
「ふふふ。けなげねえ……戦力的には足手まといでも、イザってとき盾くらいには使えそうじゃない?」

「……待って。……やっぱり、ダメだよ。こんなの」
「……リザ…ちゃん……?」
「あら。この可能性は要らない?」

「…こんな状態のエミリアを、戦場に連れていけるわけないでしょ。
それに………もうこれ以上、エミリアを戦いに巻き込みたくない。
ガラドの……エミリアの故郷の人たちも、敵になるかもしれないのに」
「……そんなの、とっくに覚悟してるよ。
私はそれでも、リザちゃんの力になりたい。だから。お願い………!!」

(何より………戦場で、これから私は、たくさん殺す。人も魔物も、手当たり次第に…
そんな姿を……エミリアにだけは、見せたくない)

「リザちゃん!!」
「さあリザちゃん。貴女なら、どっちを選ぶ?
その仲良しの子を戦場に連れていくか。……それとも、汚らしい殺人鬼の方がお好み?
……ふふふふ……」

◆◆◆◆◆◆

754名無しさん:2020/06/08(月) 03:06:37 ID:TcsuKX4Q
「……あの殺人鬼とエミリアなら……エミリアの方が大事に決まってる……」

「あははっ! そうだよね、リザちゃん。だっていまエミリアちゃんを選ばないと、彼女は死んじゃうんだもん」

「……えっ?今なんて……」

「なんでもないよ。じゃあこれで運命を確定させちゃうね!」

リザの感じる柑橘系の香りが強くなる。
その香りに一瞬まどろんだリザが目を開けると、王の前でエミリアが倒れていた。



「はぁ……仕方無いな。ヴァイスがいないんなら代わりにエミリアたんにするか。リザもそれでいいんだよな?」

「……え? あ……」

「? なに惚けてるんだよ。俺様は同じ話をするのは嫌いだぞ。お前可愛いから許すけど、エミリアたんをお前の遊撃部隊に組み込むけどいいよな?」

「……は、はい」

「はいじゃあエミリアたんの治療は適当に済まして後から向かわせるから、お前らさっさと出てけ。もう戦争は始まってるんだ。テキパキ仕事しろよ」

「はい、王様。イータブリックスのために、リザ隊長と戦果を上げてまいります」

「……お前……」

スズの顔を見た王は、一瞬だけ露骨にいやそうな顔をしたが、すぐに元のニタついた顔に戻った。

「……まあいいさ。リザをよろしく頼むな?だが勝手な真似をしすぎるようならお前も俺様の玩具にしてやるからな」

「……? ……なんのことかわかりませんが、肝に銘じておきます」

「ケッ、ほらさっさといけ! お前らみたいな美少女見てると忙しいのにリョナ欲がムラムラして敵わんわ!」

半ば追い出されるように、2人は王の間から出て行った。



「……ねえ、さっきの……エミリアが死んじゃうっていうのは、どういうこと?」

「気にしなくていいよ。エミリアちゃんは今はまだひとまず、死なないことになったからね。リザちゃんが選んだ運命が、そうさせたんだよ」

「……全然答えになってない」

「言ったでしょ? リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるようにしてあげる。たとえリザちゃんがどんなに過酷な目に遭っても、もう死にたいと思った時でも、私が生きているうちは、リザちゃんを守ってあげるよ」

「……話が通じないんだね。もういいよ」

「フフフ……釣れないなあ。けどそういうところも好きだなぁ……」

言いながらスズはリザの腕を掴み、自分の胸にくっつけて恋人のようなスキンシップをしてきた。

「……ねえ、そういうのやめて……」

「残りのメンバーあと2人、どんな人たちだろうね?楽しみだね」

「…………」

どうやらスズはあまりこちらの話を聞かないタイプらしい。
そう判断して閉口したリザの前に、COMPを纏った人物が1人で現れた。

755名無しさん:2020/06/08(月) 03:09:55 ID:TcsuKX4Q
「失礼。王下十輝星のスピカ様でいらっしゃいますか?」

「……そうだけど」

「では、ご挨拶させていただきます」

低音だが凛とした声の主は、ゆっくりとCOMPを脱ぎ去った。



「トーメント王国正規軍、階級は少佐。カイトと申します。遊撃部隊員の任を受け、十輝星のスピカ様と共に戦うべく馳せ参じました。若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」

175くらいの身長に聞きやすい低音の声。
整った黒髪に真面目そうな顔立ち。
このトーメント軍の兵士には珍しく、まさに好青年という印象をリザは受けた。

「カイトくんかぁ。年は幾つなの?」

「……17でありますが……貴女は?」

「私はスズ。スズ・ユウヒ。貴方と一緒の遊撃部隊だよ」

「……失礼ですが、所属部隊は?」

「私は表立った部隊には所属してないよ。トーメントの暗部……って言えばわかるかな?」

「……詮索はしないでおきますが、その言葉遣いはなんとかなりませんか? 軍人である以上、上官の前でそのような振る舞いは失礼ですよ」

「上官って、リザちゃんのこと?」

「なっ!? す、スピカ様を名前で、しかもちゃん付け!? 一体なに考えてるんですか!! 立派な軍法会議ものですよ!!」

「…………」



どうやら目の前の青年は、あまり融通がきかないらしい。
魔物軍とは別の正規軍はガチガチの軍人社会であるそうなので仕方無いのかもしれないが、リザとしてはコミュニケーションの弊害となる言葉遣いはどうでもよかった。

「……ねえ。貴方が正規軍でどういう風に扱われてきたか知らないけど……私のことはリザで呼び捨てにしてくれていい。敬語を使うかも任せる」

「ええ!? そんな……! 上官を呼び捨てなんて……」

「カイトくん硬い硬いよー。せっかく一緒の舞台に配属されたんだから、もっと仲良くしよう?」

そう言ってスズがカイトの手を握ろうと接近したその時……

756名無しさん:2020/06/08(月) 03:10:55 ID:TcsuKX4Q
「うわあああああぁ!!! ち、近づかないでくださいっ!!!」

「え、ええっ!?」

「む、無理なんです! お、おんなの人、おんなのひと、僕、無理なんです!!!

「……はぁ?」

「あ、すすすすみません!! 今のは決してスピカ様を侮辱したわけではなく、そ、その……私の体質といいますか……!」

スズが近づいた瞬間に距離を取り、慌てふためくカイト。その動作の俊敏さから只者ではなさそうだが、体質に難があるらしい。



「……女性恐怖症だね。過去に何かあった?」

「……いえ、あの、ここで話すほどのことではないです……ただ、距離を詰められたり、触られたりするのは、ちょっと……」

「……どうでもいいけど、作戦行動に支障を来すなら降りてもらう。この部隊は私とスズともう1人も女だから、半数以上貴方に近づけない」

「もしかしたら最後の1人も、女の子かも知らないよね? そしたらカイトくん、どうするの?」

「そ、そそ、ソーシャルディスタンスで距離を離していただければ……」

「ねえ、この世界にはコ○ナは蔓延ってないよ?」

「う、うううぅ……」



遊撃部隊としての任務は、なにが起こるかわからない。小隊として活動する以上、潜伏する際や戦闘の際は隊員同士触れ合うことも容易に考えられる。
そんな中触っただけで騒がれては、不要な戦闘を招射てしまう可能性は高いだろう。



「……あの、僕……だめでしょうか」

「……無理かな。私たちが男だったらよかったかもしれないけど」

「……じゃあさ。私たちでカイトくんを女の子大丈夫な体にしてあげようよ。それならいいでしょ? リザちゃん」

「……なにそれ」

「だから、スキンシップとかして、カイトくんの女の子嫌いを克服させてあげよう大作戦! 楽しそうでしょ?」

「あ、女性が嫌いなわけではないですよ?むしろ好きなんですけど……その、触られるのとかは……と、特に美人の人は無理で……」

「……楽しくもないし、そんなくだらない作戦してる場合じゃない。もう1人も合流したらすぐに戦闘に入るんだから」

「でも遊撃部隊は、戦闘が激化したら派遣される予定なんだよ。だから指示があるまでは待機なの。その間にやってみようよ」

「……………」

「ね? リザちゃん。私たちならきっとカイトくんを治せるよ。やってみよう?」

「……はぁ……仕方ないな」

「え、あの、なんか勝手に変なことされそうになってる気が……」



カイト
年齢:17

黒髪黒目の青年。10の時に正規軍に入りその卓越した刀捌きで17にして士官に昇り詰めた。
武器は一子相伝の『名刀 調水』
水の力を纏った刀で、斬撃と共に水流を発生させることができる。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、女性が大の苦手で接近されるのはもちろん触られるのはもってのほか。
それには過去のトラウマが関係しているようだ。

758名無しさん:2020/06/15(月) 05:10:50 ID:TYGwGQpQ
「おーおー。みんな楽しそうで何よりだ。年齢層低そうだから、俺の居場所はなさそうだな」

「ん?誰……?」

突然の男の声に一同が視線を送った先にいたのは……
理科室によくある人体模型をそのまま太らせたような、人間の骨だった。

「って、うわわぁ! 骨!? きもちわるっ!!」

「うわあああっ! 女の人の次はスケルトンッ!? スピカ様お下がりくださいっ!」

「……2人とも落ち着いて。ただの魔物兵。敵じゃない」

リザが前に出て2人を制すると、骨男はカラカラと笑った。

「そうそう。金髪ちゃんの言う通り。人を見た目で判断するのはよくないぜ?俺は骨だが心はある。今のオレンジちゃんと真面目くんのリアクションは悲しさが骨身に染みたぜ……ホネだけにな!」



「…………….」

「おいおい、3人して黙っちまって、誰か死んだのか? あ、死んでるのは俺だった。なにしろもう焼かれて骨になっちまってるもんなぁ」

「……どうでもいいお喋りはやめて。ここになにしに来たの」

面食らってしまったスズとカイトの代わりに、リザが話を進める。
どこでCOMPを脱いだのかわからないが、骨男はダボついたコートに手を突っ込みながらニヤリと笑みを浮かべた。



「俺はボーンド。見た目通りのわっかりやすい名前だろ?遊撃部隊とやらに配属されることになったんでこの辺歩いてたら、それっぽい会話が聞こえたんでね」

そういうとボーンドはウインクして見せた。
落ち着いてよく観察すると骨の目の奥には黄色の瞳があり、空洞ではないようだ。

「……あ、じゃあ私たちの仲間なんだね。私はスズ・ユウヒ。よろしくね」

「ぼ、僕はカイトです。あの、あなたの所属は……?」

「俺の所属? 俺はちゃんとした部隊には所属してねえよ。トーメントの暗部……って言えばわかるか?」

「ま、またそれですか……正規軍以外の管理体制はどうなってるんですかね……」

「真面目くん。管理体制なんてどこの企業も団体もガバガバなんだよ。そもそも人間が管理してるもんなんて、すべてガバガバさ……で、誰がスピカだい?」

「……は?」

「金髪ちゃんはどう見ても細すぎだしちっちゃいしなぁ。オレンジちゃんは強そうだがスピカってほどじゃないだろ。真面目くんはモブっぽいし……まさかこの中にはいないのか?」

どうやらこの男は、管理体制どころか自分の上官の姿さえ知らないらしい。
まあ十輝星は正体を明かしていないので、その反応は当たり前ではある。



「……さっき人を見た目で判断するのは良くないって言ったのは、誰だったっけ」

「……え、まさか金髪ちゃん……?ウソだろ……?」

「十輝星であるスピカ様になんと失礼な……! 気軽に金髪ちゃんなどと呼んでいいと思っているのか!」

「まあまあカイトくん。仲間なんだし仲良くしようよ。リザちゃんもそんなに怒らないで。ね?」

「……別に私は怒ってない」

「いやあ、申し訳ねえ。穴があったら入りたい気分だ……俺の場合はそこがそのまま墓穴になっちまうけどな」

「……この人さっきからくだらないことしか言ってないですけど、ほんとに強いんですかね?」

「え? 俺は弱いよ。人員不足でわけわかんないとこにアテンドされただけの窓際族さ。だからわざわざ作戦に参加する価値もないし、俺のことは透明人間として扱ってくれな。これがほんとの透けルトン……なんつって」

「……ぷっ、あはははは! ボーンドさんおもしろい! さっきから笑い堪えてたから……もう……!」

「おっ! オレンジちゃんは話がわかるな! 柑橘系女子の側にいるとみかん食いまくった後の手みたいに俺の骨が黄ばんじまいそうだが、気に入ったぜ!」

「あははっ!わたしのこと柑橘系女子だって……!じゃあリザちゃんは何系女子?」

「金髪ちゃんはツンデレだろ? 古来から金髪美少女はツンデレって相場が決まってるのさ」

「おお! 結構あってるかも! リザちゃんってツンツンしてるけど意外と優しいもんねー」

「……ま、まだ金髪ちゃんだのツンデレだのと呼んでる……!どうなってるんだ、魔物軍の上官への対応は……!」



ボーンドを加えた場は和んだように見せかけて混沌としていた。
スケルトンは魔物兵の中でも下層に位置しており、その見た目から表舞台に出てくることは極めて少ない。
地下で魔物の世話をさせられているか、重要拠点の夜間防衛などが主な任務となっている。
本人の言う通り、ボーンド自身は本当に弱いのかもしれないが、リザはそうは思えなかった。



(この人……侮れない気がする……)



死戦をくぐり抜けてきた者にしか発することのない雰囲気が、彼の周りにはあった。

759名無しさん:2020/06/20(土) 20:30:23 ID:???
「それじゃさっそく街に出て、カイトくんの女の子嫌いを(略)作戦、いってみよー!ボーンドさんも一緒に行こ!!」
「…悪いが、俺はこの後ちょいと野暮用があるんでね。…ま、三人で楽しんでくるといい」

「えー?残念だなぁ。それじゃ、リザちゃん!」
「カイトって言ったっけ……確かに、今のままじゃまともに使えそうにないし…仕方ないか」
「ふっふっふ…そうこなくちゃ!カイトくんの(略)作戦、開始ー!!」
「えっ……ちょっとまさか、本気なんですか!?か、勘弁してくださいよ…!」
「何言ってんの!こ〜んな超絶美少女2人と一度にデートできるチャンスなんて滅多にないんだから、
もっと喜ばなきゃだよー?」

「ボーンドさん、た、助けてくださいよぉ……」
「クックック……そっちのお嬢ちゃんの言うとおりだな。
どうせこれから糞みてえな戦場に送られるんだ。今のうちに骨休めでもしてきな、若造」
「そ、そんなぁ……!」

「……それじゃ、後で連絡する」
「おう……またな」


スズはカイトを引きずるようにして強引に連れていき、その後をリザが追いかけていった。
三人を見送った後、ボーンドが向かったのは………

「あれが俺らの隊長さんねぇ。……ま、どうなることやら、っと……いたいた。」

人気のない廃倉庫。そこには、瀕死の男が一人、倒れていた。

「初めまして……お前さんが、ヴァイスだな」
「う……げ、ほ………誰だ、テメェは………」
「………クックック。そうだなぁ。ま……死神みたいなもん、とでも言っておこうか。
 見た感じそれっぽいだろ?骨だし」

「クッソがぁ……俺は、死ぬのか……畜生……あのエミリアって女……
まさか、あんな方法で手錠から抜け出すなんて……許さねえぇ……
エミリアも、リザも……ブチ犯して殺しまくるまで、俺はぁ……」

「クックック……まさに恨み骨髄、ってやつか。お前さん、思った通りなかなか骨があるねぇ。
そのすさまじい恨みのパワー……この俺が、骨の髄まで使いつくしてやるよ」
「な……何をしやがる……っぐ、うごぁああアアアアアアァァァァア"ア"ア"ア"……!!!」

「ヴァイス・ザ・リッパー。今からお前さんはこの俺の使い魔……『不死の兵団』の一員だ。
骨身を惜しまず働いてくれよ。
なあに…この俺の下にいりゃ、恨みを晴らすチャンスはきっとめぐって来るさ」

760>>751から:2020/06/21(日) 14:51:59 ID:???
敵陣の奥で見聞きしたことを、テンジョウに報告するアゲハ。
傍に控えていたローレンハインとアルフレッドは、それを聞いて確信を抱いた。

「敵軍の大将……糸使いの女性。紫の髪と瞳……アルフレッド殿、これはやはり」
「ええ。間違いありません………ロゼッタお嬢様です」

ロゼッタ……
不倶戴天の敵、トーメント王下十輝星「カペラ」の星位を持つ者。
そして、かつてアルフレッドが仕えていたラウリート家の、最後の生き残りでもある。

「運命の、赤い糸……確かにそう言ったのか。
そのロゼッタってねーちゃんの能力が、言葉通り、相手の運命を操れるんなら」
「ええ……それに対抗できるのは、この世界の運命の外にいる者……すなわち、異世界の戦士のみ」
「…こんなに早く、切り札を切る事になるとはな」
「………行けますか、お嬢様」
ため息を吐くテンジョウ。
アルフレッドは、柱の陰にそっと目配せを送る。それに応えるのは……

「ええ。……遅かれ早かれ、避けて通れない相手ですわ」
戦闘用ドレスを身に纏い、二刀を腰に差した金髪の少女……アリサ・アングレーム。

「うちの兵士たちもがんばっちゃいるが、そもそもドラゴンなんかの魔物どもと
真っ向からやり合うのは専門じゃないからな。長引けばそれだけ消耗も大きくなる。
……作戦はシンプル、かつ忍びらしく。少数で敵陣深くまで潜入して、大将を直接…倒す」

「ええ、心得ていますわ。この白ドレスでは目立ちすぎますから……はっ!!」
アリスは『早着替えの術』により、一瞬にして深紫色のドレスに着替える。
アルフレッドは、その姿を目にした時、……遠い過去の記憶を、ふと思い出した。

「さあ。行きましょう、アルフレッド………どうしたの?」
「……え、……は、はい。…お嬢様の事は、私が命に代えてもお守り致します」
「もう…そういうのは無し、って約束したでしょう?
 守ってくれるのは背中だけで結構ですわ」

「!……申し訳ありません。あの方に、本当に生き写しだったものですから……」
「ふふふ……アルフレッドが、そこまで上の空になるなんて。
わたくしは話に聞いただけですが……本当に、よく似ていたのですね」

「ええ……ヴィオラ様。そして、ロゼッタ様……今度こそ、決着をつける。
トーメント王を打倒し、お二人を残酷な『運命』の輪から解放してやらねば。
……アリサ様。私に、力を貸してください」
「ええ、もちろん。そのために、わたくしはここにいるのですから」

出陣の準備を整えた、アリサとアルフレッド。
淡い慕情、殺意、憎悪、そして和解……紆余曲折の果てに、今二人は共に戦場に肩を並べる事になった。

「ところでアルフレッド………」
「?」
「……もしかしてヴィオラ様は、貴方の初恋の相手……なのかしら?」
「なっ!?……え、ええと……それは、その……」
「ふふふふ……貴方のそんな顔、初めて見ましたわ。
いつか……すべてが終わったら、ゆっくりとお話を聞かせてほしい所ですわね」

二人の長い長い旅の終着点……最後の戦いが今、幕を開けようとしている。

761名無しさん:2020/06/25(木) 23:58:58 ID:???
「いよいよ作戦間近ね……燃えてきたわ!」

ルミナスの首都、ムーンライトにて。
各地を転戦する魔法少女たちに随員し、実戦で各属性の魔法拳を覚えた瑠奈は、来る決戦に向けて意気込んでいた。

(思えば、この世界に来て戸惑ってばかりいた私たちに希望をくれたのは、ルミナスの攻撃作戦だった……今度は私が!)

手を握りしめて気合を入れる瑠奈。

「あの、瑠奈さん……少しお時間よろしいですか?」

そこに、何やら思いつめた様子のフウコが近づいてきた。水鳥やカリン、ルーフェは一緒ではない。

「フウコ?どうしたの?」

「ここじゃちょっと……場所を変えてもいいですか?」

フウコの真剣な表情を見て、どうやら大声で話すようなことではないと察した瑠奈は、コクリと頷く。

「分かったわ、私の部屋に行きましょう」

瑠奈は以前ルミナスに身を寄せていた時に使っていたのと同じ部屋にフウコを通す。
思い返せば、フウコと初めて会ったのもこの部屋だったが……今は唯もカリンもおらず、自分とフウコしかいない。

「それで、話っていうのは一体なにかしら?」

フウコは出されたお茶にも手を付けずに、少し俯きながらポツポツと喋り始める。

「瑠奈さん、私……実は、フウヤと戦う覚悟が、まだできてないんです」

泣きそうになりながら言うフウコ。フウヤと聞いて、瑠奈はヒカリから聞いた情報……デネブのフースーヤの正体は、フウコの弟であるフウヤだった事を思い出す。

「え、っと……まぁそりゃ、弟が敵になってたなんて納得できないわよね……」

瑠奈としても、もしも兄がなんやかんやあってトーメントの手先になっていたとしたら……など、想像すると悪寒がする。

「でも、前にソイツが攻めてきた時に覚悟を決めて戦ったって聞いたけど……」

「実は、フウヤが攻めてきた時の記憶がないんです」

一度死んでから復活したせいで、フウコはルミナス侵攻編の記憶を丸ごと失っていたのだ。後から何があったかは聞いたが……それだけで納得できるわけもない。

「私は、どうしても納得できないんです、フウヤが裏切ったなんて……だから、だから……!」

鏡花を含め、ルミナスにはフウヤの裏切りによって大打撃を受けた者が大勢いる。そんなフウヤをそれでも信じるという話など、部外者の瑠菜にしか話せないだろう。

「それで、その……カリンちゃんたちに言ったら止められると思って、言ってないんですけど……実は今朝、こんなものが届いてたんです」

そう言いながらフウコは、懐から風魔法のかかった矢文を取り出して瑠奈に見せる。

『今宵、あの場所で待つ。親愛なる姉へ、愚弟より』

シンプルながら中二感溢れるその手紙は、フウヤからフウコへの手紙で間違いない。

「あの場所……心当たりがあるのね?」

「はい。だから、その……このことで、行くべきか少し相談したくて」

「なるほど……話は分かったわ」

瑠奈はデネブとはほとんど接点はないが、以前8対5でひたすら甚振られた時にいた人間だというのは分かる。
正直、説得に応じるような相手だとは思えないが……

(こんな時、きっと唯なら、フウコの背中を押す……なら、私も!)

「フウコは行きたいって思ってるんでしょう?なら行くべきよ!こういう時は自分に素直になるべきだわ!」

「瑠奈さん……」

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫!私も一緒に行ってあげるわ!」

「え、ええ!?その、確かに一人は不安でしたけど……」

「姉弟水入らずの邪魔はせずに様子を伺ってるから、納得いくまで話し合って来なさい!」

決戦を控えた中で行われる、姉弟とそれを見守る運命の戦士の密会。
罠の可能性を考慮しながらも、血を分けた家族への情がフウコを動かした。

この小さなうねりがやがて、ルミナス方面の戦局を大きく動かすことになる……

762名無しさん:2020/06/28(日) 15:16:04 ID:???
アリサたちがロゼッタとの決着をつけるべく出陣した、ちょうどその頃。
テンジョウらは前線で戦う五人衆たちに本陣から狼煙で合図を送っていた。
その内容は……

「……お、テンちゃんからの合図や。それじゃ、手はず通り……ウチらは派手に暴れるで!
 陽動作戦開始や!!」
「「「ハイヨロコンデー!!」」」

(ズドーーンッ!! ビシュビシュビシュ!!)

「「っぐわーーー!?」」
「なっ、なんだコイツら!いきなり攻撃が激しく……」

「張り倒して差し上げます……椿張扇(ツバキハリセン)!!」
「貴方のお命、ご破算します……榎算盤(エノキソロバン)!!」
「汚物は清掃ですわ…………………柊埃叩(ヒイラギハタキ)!!」

「こっからは遠慮ナシや。ガンガン行くでぇ!…
『風遁・カマイタチ』!『水遁・ミズチ』!!…からのー!『雷遁・タケミカヅチ』!」

(ズドドドドドドドッ!!……バリバリバリバリッ!!)

「「「グワーーーーッ!?」」」

テンジョウの居る本陣から狼煙があがり、前線で戦う『金尽のコトネ』達の部隊が大きく動く。
『巻物などの消耗品は公費で落として良い』という言質(煙質)を得たので、強力なアイテムも解禁。
並みいる魔物兵たちを次々となぎ倒していった。

「よーし、このあたりの敵はあらかた片付いたな!……んん?…あれは……」
「コトネ様、どうしました?」
一息ついたコトネは、敵軍がいた場所に、見慣れない箱が置かれているのに気が付いた。
金属製の頑丈そうなチェストで、人一人すっぽり入れそうなほど大きい。
どちらかというと、こういう物はダンジョンの奥深くやお城の宝物庫などに置かれているのが普通なのだが……

「宝箱やん!!いやー、これもウチの日ごろの行いが良いからやな!」
「……やめときましょうよコトネ様。あからさまに怪しいじゃないですか」
「大体こんなフィールドに宝箱が落ちてるのはおかしいですよ」
「いやいや。フィールドの宝箱落ちてたりモンスターが落としたりするのはJRPGじゃ普通やん?」
「そりゃ、JRPGなら普通ですけど……」


お供のアキナイ三姉妹が止めようとするが、もちろんテンションの上がったコトネは止まらない。
「大丈夫大丈夫!罠探知機が反応してへんから、何も仕掛けられて……」

(ばくん。)
「え?……」

………そう。箱には何も仕掛けられておらず、罠探知機にも反応はなかった。
しかし、箱そのものが、宝箱に擬態した魔物だったのだ。

(ブワワワワワワワッ!!)
「なっ!?なんやこr……むっぐ!!」
「「「コトネ様ぁーーーー!!」」」

コトネが箱の前に立った瞬間、箱の蓋が開き、黒い触手が無数に飛び出して………
コトネを箱の中に閉じ込めてしまった。

763名無しさん:2020/06/28(日) 15:17:52 ID:???
【ダークミミック】
不定形などす黒いタール状の身体を持つ魔物兵。
身体を自在に変化、硬質化させ、宝箱など、あらゆる物体に擬態する事ができる。
硬質化させた時の身体は驚異的な防御力を持ち、武器や魔法による攻撃で破壊することは非常に困難。

(ぐちょ………ぬちゅ………)
「フヒヒヒヒ……まさか、五人衆の一人をこうもあっさり捕らえる事ができるとはなぁ」
宝箱に擬態したミミックに飲み込まれたコトネ。
箱の中は狭く、黒い鎖で手足を絡め捕られ身動きが取れない。

「くっ………甘く見られたもんやな。今のウチは能力使いたい放題なんや。こんな拘束、一瞬で抜け出して………」
(あれ、待てよ?テンちゃんは『消耗品は公費』て言っとったけど、
ウチの能力で使った分のお金って、経費で落ちるんやろか……)
力づくで抜けようとするコトネ。だが、彼女の能力『成金術』は、所持金や宝石などを消費する事で力を発揮する。
フルパワーを使ってしまうと、後で経済的・精神的ダメージが自分自身に跳ね返ってくるのだ。

「クックック……その余裕ヅラ、どのくらい持つかな?……喰らえ!硬質化ドリルアーム!!」
「!!…しゃーない……『金剛体・部分課金モード』!」
(………ギュイィィィィィィンン!! ガリガリガリガリガリ!!)

ドリル型に変化したミミックの触手が、コトネの胸を貫こうとする。
コトネは成金術で胸の部分だけを硬質化させ、攻撃を防いだ。

「うっ………ぐ……!!」
(……ウチの『金剛体』でも、防ぐのがやっとや……こいつ、ザコかと思ったら意外と……!)

「ほほーぉ。さすがは討魔忍五人衆の一人……だがドリルはまだまだあるぜぇ?
つぎは……クリトリスだぁっ!!」

(グオンッ!!……ガキィィンッ!!ギュルルルルルルルッ!!)

コトネは課金を最小限に抑えるため、攻撃される個所をピンポイントで硬質化させて防ぐ。
火花が飛び散り、激しい衝撃が生身の部分にビリビリと伝わってきた。

「んぐ……あ、ぅっ……!!………こん、のド変態が…!!
つーかこーいう奴は、ふつう七華かササメっちの所に行くはずやろ……」

「ヒヒヒ…俺はむしろ、自分だけは安全、自分がヤられる事なんて考えもしてないってタイプの奴を
じっくりねっとりいたぶって、『あれ?これもしかしてウチやばいんと違う?』って
気づいたときにはもう手遅れ、みたいなシチュが大好物なんだ。」

「……ガチのドクズやな……こんなんとダラダラ付き合ってたら時間と金の無駄や。さっさと反撃……」
「オラオラ!今度は全身串刺しだぁぁぁ!!」
「!!……『金剛体・全身モード』!!」
反撃に転じようとした瞬間。
ミミックは周囲の触手を無数のドリルに変え、攻撃してきた。
コトネは反撃を中止し、全身を硬質化させて防御せざるを得ない。

まともに戦えば遅れをとる相手ではないはずなのに、コトネはことごとく後手に回らされている。

敵を無名の格下と侮り、課金を渋ったせいか。
五人衆の座について実戦から遠ざかり、戦いの勘が鈍っていたからか。

何にせよ。
「正体不明の敵に捕らえられ、閉じ込められ、全身を拘束されている」
という圧倒的不利な状況を、コトネは甘く見すぎていた。

「クックック……全身を金属化……そう来ると思ったぜ。だが無駄だぁ!!。高圧電流放出!!」
(バリバリバリバリッッ!!)

(んっぐ、ぁあああああぁぁああああああああぁぁっ!!!)
敵はコトネの能力を見抜き、すぐさま攻め手を変えてきた。
コトネの全身に巻き付いた触手から、強力な電流が流される。
金属化した体に、電撃は効果が抜群だ!
しかも、全身を金属化している間、課金はどんどん累積していく。
金属化を解除しても、今度はドリルで全身を刺し貫かれることになる。

(あ、れ………?これ、もしかして…………ウチ、やばいんと違う………?)

764名無しさん:2020/07/04(土) 17:30:43 ID:???
(バリバリバリバリバリ……!!)
「………………。」
(ひっ!!んうぁっ…!!…っくぁああああああああっっ………!!)

「ヒッヒッヒ………金属化してるから悲鳴も上げられねえか?
だが、俺にはわかる……あれだけ余裕ぶっこいていた貴様は今、追い詰められ、焦っている。
俺のような名無しの雑魚なんざ、軽く蹴散らせると思っていただろ?
そういう愚かなネームドキャラが、自分の思い上がりを知り、苦悶し、泣き叫ぶ……それこそが俺様の生きがいだ。
さあ。五人衆とやらのプライドも……何もかも砕かれ、絶望の底に沈むがいい。クックックック……」

「っぐ……ミツルギ討魔忍衆を……舐めるんやないで……!!」
金属化を解除し、元の姿に戻ったコトネ。
だが電撃によるダメージはかなり深刻で、体中が痺れてうまく動かせない。

「クックック……金属化を解除したか。俺様の電撃が相当こたえたようだな。
では今度こそ、ドリル触手で全身串刺しにしてやるぜぇ…」
「勘違いすな……ウチが『金剛体』を解いたのは、電撃がキツいからやない。反撃するためや!!
……成金術『剛力腕』!」

(…ドカッ!!)

「おごっ!?……テメェ……俺の電撃をあれだけ喰らって、まだ動けるのか……!!」
「はぁっ……はぁっ……あったり前や…五人衆の・・…討魔忍の恐ろしさ、思い知らせたる!」
(く、仕留められんかった……体が痺れて、『剛力腕』の威力が出てへん……!!)

「だったら…お望み通り、串刺しにしてやるぜぇぇ!!」

………………

一方。箱の外側では……

「このっ!!コトネ様を出しなさい!!風遁・練空暴風弾!!」
「召喚!破砕超重鉄球!!」
「忍法・蔓落とし!!」
(ブオオオオンッッ!! ガキンガキンッ!! ガコンッッ!!)

アキナイ三姉妹が、コトネを閉じ込めた黒い箱を一斉に攻撃していた。
だが箱の外殻はとんでもなく頑丈で、三人が全力で叩いてもビクともしない。

「ヒッヒヒヒヒ。無駄無駄……鬼さんコチラ、ここまでおいで〜っと!」
(くっそ。中で五人衆のチビが暴れてるのに、外側からも攻撃されたらさすがにやべぇぜ。いったん退却だ…!!)
(…カサカサカサカサ!!)
しかも、箱からなんだか不気味な脚が生えて、すばしっこく逃げ回る。

「まずいですね……あまり深追いすると、敵陣に誘い込まれるかも」
「このままコトネ様が連れ去られたら、もうこき使われなくなr……じゃなくて、私たち揃って無職ですね。何とかしなきゃ!」
「いや、その理由もどうかと思うけど。…とにかく逃がすわけにはいきませんわ!待てー!!」
三人は和メイド衣装の裾を翻しつつ、黒い六本脚の魔物を必死に追い掛け回す。

「和メイドちゃんカワイイヤッター!!」
「グッヒッヒッヒ……俺たち絶倫三兄弟(陸戦型)と」
「3対3でしっぽりイイコトするでヤンス!!」
「待て待てー!お前ら三兄弟にばっかりイイ事…イイ格好はさせないぜ!」
「俺たち魔物兵軍団は一蓮托生!イく時は一緒だぜ!」
「俺も!」「俺も俺も!」「俺はガンダムでイく!」

だがそこに、馬、サソリ、オットセイ、ニンニク、マムシ……様々な魔物たちが行く手を塞いだ!

「くっ!?…案の定なんかキモい奴らが……!」
「そこをどいてください!早くしないとコトネ様が……」
「……なんて、聞き入れてくれるはずありませんね……速攻で倒しましょう」

「ヒッヒッヒ……そんなつれねー事言うなよ」
「じっくり、ねっとり、時間をかけて楽しませてもらうぜぇ……」
「「「ヒャッハァァァァーーア!!」」」

765名無しさん:2020/07/04(土) 17:32:53 ID:a3kvcF06
前線に突出しすぎたアキナイ三姉妹はあっという間に取り囲まれ、乱戦が始まってしまった。
その間に、ミミックは敵陣へと逃げさってしまう。

「やれやれ。仕方ないのう……行くぞい、お前たち」
(じゅるじゅるじゅる……)

その時。

「クックック……和メイド三つ子ちゃんも地味にけっこうソソルるなぁ。
このチビを本陣に預けたら、戻ってあいつらと集団レイp………ん、あれ?」

(ぐちゃっ ねばっ)
「な、なんだこのネバネバは!!」

逃げるミミックの足が止まった。
周囲がいつの間にかネバネバした大量のスライムで覆われている。

「ひょっひょっひょ……やらせはせぬよ。
ネームドキャラをワンチャンジャイキリしてビッグになろうという心意気はよし、じゃが……」
コトネ様には、ワシも健康食品やら回春サプリやら世話になっとるでな」
「ジジイ……てめえも討魔忍か!!ほとんど本陣近くなのに、どうやってここまで来た!」

現れたのは、上忍「粘導(ねんどう)のウズ」。
使い魔のスライムを自在に操る渦壺忍術の使い手だ。

「いかにも。……しっかし、お主んとこの兵隊どもはわかりやすいのう。
 ワシみたいなジジイがこんな敵陣の奥まで入り込んどるのに総スルーで、
 雪女ちゃんやら巫女ちゃんやらはどこだー!って駆けずり回っとるんじゃから」
「あー…………納得」

「まあ、ワシも男を相手にするのは好かんから人の事言えんが……今回は仕方ないの。行け、スライムたち」
「へっ!!なめるなよジジイ!超硬化した俺様の箱型ボディは、ベヒーモスが踏んでも壊れねえぜ!」

「……確かに、随分頑丈そうな箱じゃ。しかし……開けるのはそう難しくはない」
(……にゅるるるるるっ!!)
「あ?……て、てめっ、そこはっ……ぎゃがはははははは!!!」

ミミックの頑丈なボディに、生半可な攻撃は通用しない。
だがそんなミミックに対して、ウズのスライムはただ一点を狙う。
厳重に閉ざされた宝箱の、唯一の進入路……鍵穴へ入り込んだ。

…………………

「うっぐぉああああ!!入ってきた……俺の中に、スライムがぁああああ!!」

「ひょっひょっひょ……ちなみにお主、噂で聞いたアレじゃろ。
例のスライム工場で作ってたっていう『万能武装スライム』とかいう魔物の……」

「お、おう!!状況に応じていろんな武器とかリョナ道具に姿を変えられる、新開発のスーパースライムだ!
宝箱だけじゃなくて色んな物に化けられるし、電撃やら毒ガスやら、いろんな特殊攻撃もできるんだぜ!
そんな万能武装スライムをベースにして先行量産されたのがこの俺ってわけだ!
あーあ、プラントさえ破壊されてなけりゃ、俺たちをたくさん量産して、連合国の連中を数で圧倒してやれるはずだったのになー!
まあでも先行量産でそこそこの数は作られてるみたいだから、他の書き手の方も俺らの仲間をガシガシ使っていいぜ!
それがどうかしたか!?」

「いやなんとなく裏設定的なのを語ってもらいかっただけじゃ。
ていうかその能力ふつうに便利じゃから、ワシのスライムに吸収させてもらおうかの」
「ウグワーーーーッ!!中でスライムが暴れて……溶かされるぅぅぅぅぅ!!」

「はぁっ………はぁっ………な、なんや……?」

箱を内側から破壊しようと暴れていたコトネ。
謎のスライムが内部に侵入してきて、ミミックを溶かし始めたのを見て、何となく状況を察した。

(………このスライム……ウズの爺さんやな…!)

(どろっ………じゅわっ……ぐちゃぁ)
「はぁっ………はぁっ………く、そ、じじい……。
余計なマネ、しよって。こんな相手、ウチ一人でも……」

全身をドリル触手に貫かれ、ギリギリの状態だったコトネ。
だが……五人衆たるもの、この位で弱音を吐いたりはしない。

「ひょっひょっひょ……相変わらずの跳ねっかえりじゃのう、コトネ様。
せっかく『元師匠』が助けてやったんじゃから、少しは感謝したらどうじゃ」

「…………。」

「ま、ええわい。しかしひどくやられたのう。スライムよ、『コトネ様』を治療してやれ」
「っぐ……おおきに、爺さん。この借りは……」
「ひょひょひょ………んじゃ、肩たたき券でもサービスしてもらおうかの」

766名無しさん:2020/07/23(木) 21:09:22 ID:???
「陽動作戦開始、敵兵をポイントAに誘導……か」
討魔忍五人衆の一人、時見(ときみ)のザギが本陣からの狼煙を見上げる。

敵を攪乱して一か所に誘導した後、術による広域殲滅で一気に片づける作戦であった。

『巫女さん発見!めっちゃ可愛い!!』
『マジか!!場所教えろください!!』
『写真の後ろの杉の木、見覚えあるような…』
『特定した 西側のポイントAだな!』
『あれ、隅っこに写ってんの雪女ちゃんじゃね?』
『桃源郷じゃねーか 全力で行く』

「……カイ=コガのやつも上手くやってるようだな」

後方部隊がSNSなどを通じて偽情報を発信。
一方で、真実の情報はミツルギ伝統の「狼煙」によって伝達される。

もちろん指定のポイントに七華やササメはいない。
あるのは一度入れば容易に脱出できない結界空間、そして大量に仕掛けられたブービートラップである。

だが、『情報戦』の首尾を確認していたザギは、気になる投稿を目にする。

『くっそーー!そっちにも行きてーが、今は和メイド三姉妹ちゃんの方も大詰めだ!
手っ取り早くブチ犯したら、肉盾にして持ってくぜ!』
『追加燃料投入か 期待RT』

「コトネの所の三人か……なんではぐれてんだコイツら?」
写真も投稿されている。魔物兵に取り囲まれた三人……どうやらガチ情報らしい。
幸いにも、というか…場所はここからそう遠くなさそうだ。

「チッ……仕方ねえ」
危機を告げる狼煙が見えた方角に魔物兵の一群が集まっているのを見つけると、
ザギは一陣の風のごとく駆けた。

767名無しさん:2020/07/23(木) 21:12:38 ID:???
「ふんっ!! おりゃっ!! ドラァァァァァ!!」
「「「ッグワァァァーーー!!!」」」

「けっ、雑魚が。こっちは急いでんだ、死にたくなかったら道を……ん?」
「…………。」
(…………シャキン)

魔物の軍勢を蹴散らすザギ。だがその行く手に……浮遊する金属片??のようなものが立ちふさがった。

【リビング・ビキニアーマー】
ビキニアーマーが意思を宿し、魔物となった存在。
軽量なため通常のリビングアーマーよりも素早く、表面積が少ないため攻撃が当てづらい。
魔法防御などの特殊な処理が施されている場合も多く、その戦闘力は決して侮れない。


「…なんだ、コイツ……ビキニアーマーだと?」

……ミツルギ闘技大会エキシビジョンマッチでの、苦い経験が一瞬脳裏をよぎる。
奇しくもあの時と同じ、敵の武装はショートソードとシールドだ。
だがあの時とは決定的に違うのは……

「たっ!! オラっ!! くそっ…!!……攻撃が、当たらねえ!!」
着ている人間が存在しないため、攻撃は鎧の部分に当てなければならない。
その点、通常のリビングアーマーとは段違いにやりづらい。

「…………!!」
(ブォンッ!! シャキンッ!!)
加えて敵の攻撃は鋭く、盾を使っての防御も的確。
早く味方を助けに行かなければ、と焦る中、ザギは一進一退の攻防を余儀なくされる。

リビングアーマーは、死んだ戦士の魂を、鎧に宿させたものだ。
多くの場合、その鎧の元々の持ち主。恐らく『彼女』も、優れた戦士だったのだろう。

「確かに厄介だが、あの『お姫様』に比べりゃ……『怖さ』は全くねえな。 はぁっ!!」
ショートソードが振り下ろされる、その刹那。ザギは思い切り前方に飛ぶ。

「………!?」
必殺の一撃をかわされたリビング・ビキニアーマーは、一瞬敵の姿を見失い困惑した。
そして、次の瞬間………

「オラァッ!!」
(メキッ!)
「………!!!」

攻撃をかわしざまビキニアーマーのお腹の空間を跳び越え、背後を取ったザギ。
相手の動きが止まった隙を逃さず、渾身のサマーソルトキックでビキニアーマーの股間を蹴り上げる。

「……!!…………、…………っ…!!!」

鎧だけの魔物となっても、痛みは感じるのだろうか?
ショートソードとシールドが、音を立てて地面に落ちた。

だが、リビングアーマーはこの程度では倒せない。
ザギはすかさずビキニアーマーのブーツを両脇に抱え込み、鎧の股間部分を踏みつけた。

「これ以上時間を潰されたらかなわねぇ。二度と動きださねえように、徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!」

衝撃波と振動の呪符が仕込まれた特殊ブーツが唸りを上げる。
ショートソードがふらふらと浮かび上がる、が……

「うぉらぁああああああああ!!!!往生せいやァァァァァァ!!」
(グオォォォォォォオンッ!!ズドドドドドドド!!!)
「っっっ!!!!」

ザギのブーツが激しく振動し、高速ピストンキックがビキニアーマーの股間を抉る。
ビキニアーマーの胸パーツが反り返りながらビクンビクンと震え。
ショートソードが再び地面に転がり落ち……再び動くことはなかった。

768名無しさん:2020/07/25(土) 05:15:05 ID:???
「ん〜絶頂スプラッシュマウンテン楽しかった〜!次は何に乗ろうかなー?私的には悶絶サンダーマウンテンもっかい乗りたいところだけど、2人はどうー?」

「も、もう勘弁してください……ってうわぁ!スズさん、いきなり触ろうとするのやめてくださいッ!」

「ぴえん……そんな本気で嫌がられると女として自信なくなっちゃうなぁ……カイトくんイケメンだし尚更……」

「ううっ……!す、すいません……スズさんを傷つけるつもりなんて微塵もないのですが……」

「……はぁ……何やってるんだか……」

スズの提案でトーメント王国の人気遊園地、リョナニーランドにやってきた3人。
スズは楽しそうにはしゃいで遊園地を満喫しているが、目的のカイトの治療は全く進んでおらず、リザの口からため息が漏れた。

「もう強硬手段に出ちゃおうかな。カイトくん真ん中でさ、私とリザちゃんを両手に花で手を繋ご!嫌悪感を優越感で塗り替えちゃおう作戦だよ!」

「いや何言ってるんですか、無理に決まってるでしょう!お2人ともその……すごく美人で、魅力的な女性なので……尚更無理なんです……」

「む〜!魅力的で美人なのに手を繋ぐのが無理とはまったく意味が通ってないよ〜!」

「……そもそもなんで無理なの?女が苦手な原因がわからないと、克服のしようがない」

「……確かに、スピカ様の言う通りですね……こんなに時間を使わせてしまっているし、お話しいたします」

「お、リザちゃんもようやく乗り気になってきたね!あ、あっちで電磁棒チュロス売ってるから買ってくるねー!」

なにやら拷問に使われそうな棒形の甘いお菓子を買いに行ったスズ。
ちょうどよく3人座れそうなベンチを見つけたので、リザはちょこんと腰掛けた。



「……座らないの?」

「いや、ちょっと間隔狭いですし……スズさんも座ったらくっついてしまいますので……」

「……そう」

「……スピカ様にもスズさんにも、申し訳ないです。作戦前でピリピリしていてもおかしくないのに、こんな私のために……」

「……気にしなくていい。私にとってはただの暇つぶしだから」

「……でもスピカ様はスズさんと違って、こういう場所は苦手そうですし……」

「……別に、遊園地は……そんなに嫌いじゃない」

「え……そ、そうなんですか……?」

「…………」

リザの脳裏に、家族を殺された日の前日がフラッシュバックする。
遊園地の乗り物をすべて制覇すると意気込んでいた兄。
チュロスという食べ物を食べるのを楽しみにしていた母。
遊園地の後に人気のステーキ店を予約してくれていた父。
自分も姉も、とても楽しみにしていた。
前日の夜は2人でどんな服を着て行こうかで盛り上がって、なかなか寝付けなかったくらいだ。



(……お母さん、お父さん、お兄ちゃん……あとお姉ちゃんも……みんなで来れたら、きっと楽しかったんだろうな……)



「お待たせお待たせー!店員のおじさんがね、可愛い女の子には電圧3倍!とかいってシロップいっぱいつけてくれたー!」

やけに大量のシロップがかかったチュロスを受け取って、リザは母の顔を思い浮かべながらひと齧りした。

「……はむ……もぐもぐ……」

「ひいぃーちっちゃいお口でチュロス食べるリザちゃんかわいぃ……!ねえねえ、どうどう?お味の方は?」

「むぐっ……!ふぁんふぁいは……(3倍は)はまふみっ……!(甘すぎ)」

769名無しさん:2020/07/26(日) 00:14:46 ID:Ur0ouuDw
「ふぅ……なんとか食べれましたけど、あんな砂糖の暴力をよく2本も食べれますね……」

「なに言ってるの?女子ならあれくらい余裕余裕!さあーて、カイトくんのお話を聴かせてもらうぞ〜?」

(……わたしは女子じゃないのか)

電圧10倍かけられてもいけると豪語したスズは、甘すぎて食べられないリザの分もペロリと食べてしまった。



「えっと……昔、好きな人がいたんです。幼なじみの女の子で、家も隣でずっと仲がよかったんです」

目を伏せて語りだすカイトの顔を見たスズの表情が真剣な表情に変わる。
リザはいつもどおりの無表情で話を聞き始めた。

「その子は目立つタイプじゃないけど、女の子らしい白の長髪がすごく綺麗な子でした。性格も明るくて、その娘とだけは何時間一緒にいても、楽しかったんです」

「幼なじみかあ……いいなぁ。私はずっと引きこもりだったからそういうの、憧れちゃうよね」

「え、スズさんは引きこもってた時期があるんですか?」

「あぁ、ごめんごめん。私の話はいいから続けて?」

「…………」

今の明るい性格とは対照的なスズの過去に、リザも少し驚いたが、今はカイトの話を聞いているので掘り下げることはしない。



「それで……僕が14歳の時、思い切ってその子に思いの丈を打ち明けたんです。その……ずっと君の傍にいたい……って」

「わあぁ……!カイトくんみたいなイケメンにそんなこと言われたら溶けちゃうね〜融解しちゃうね〜!」

「……それで、成功したの?」

「はい。相手の少女……シュナも僕を受け入れてくれて、付き合うことになったんです」

「ひゃ〜すご〜……いいなぁ、私もイケメンに告白されたいなあ!リザちゃんは告白されたことあるの?」

「……私に話を振らないで。今はカイトの話を聞いてあげるべき」

「あ、そうだね。ごめんごめん」

「……それで、最初の頃はとても楽しかったんですが……だんだん幼なじみの彼女の裏の顔が見えてきてしまったんです」



「待突然デートのドタキャンとか、お金を貸して欲しいとか、は全然許せたんですが……シュナは他の男とも遊んでいたようで」

「あー……そういう系か……可愛い子にはありがちかもね」

「話をしてもはぐらかすばかりで、その時は信じてあげようと思ったのですが……仕事が早く終わった日に帰ると、僕の部屋からその……いつもより高いシュナの声が……」

「う……」

「…………」

「……裏切られたという感覚よりも、ただただ悲しくなりました。小さい頃仲良しグループのマドンナだったシュナが、そんな人間に変わってしまったことに」

「……てかスルーしたけど、お金貸してとかデートドタキャンとかもかなりまずいけどね」

「……それらしい理由を言っていましたけど……今となってはすべて嘘だったんだろうな……」

「……要するに、浮気をされて女が信用できなくなって、怖くなったのね」

「……そうです、隊長……自分でも情けないと思います。ただの浮気くらいでこんな……全ての女性が怖くなってしまうなんて……」

「……起こった事象をどう受け止めるかは人それぞれでしょ。でもその理由だと……私たちにはどうすることもできないわね」

「うーん……まあそうかもね……幼なじみに裏切られたってのは普通の浮気と違うところかもね……」

「…………」

思い出して辛くなったのか、カイトは俯いてしまった。
リザもスズも、それ以上の言葉が出ない。
生半可な優しさでは、彼を癒すことはできないと理解しているからだ。



3人の間に訪れた沈黙を破ったのは、リザのスマホだった。

ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン!
「あ……エミリアから連絡」

「……なんでリザちゃんの着信音、ベートーベンの運命なのぉ……!あ、やばい笑いそ……!」

「……目が覚めたのですか?」

「……そうみたい。出撃の準備もしないと。……息抜きは終わりだね」

「……お2人にお付き合いいただいたのに結局克服はできませんでしたが、必ず戦場では活躍してみせます」

「ねぇねぇカイトくん、私でよかったらなんでも相談してね!恐怖症克服のためなら手繋いだりハグしたりとか、いつでもしてあげるよ♪」

「……け……検討させていただきます……」

770名無しさん:2020/08/02(日) 15:02:27 ID:???
コトネ配下のアキナイ三姉妹は魔物兵の軍団に囲まれ、窮地に陥っていた。

「はぁっ……はぁっ……キリがないですね。
叩いても叩いても、まだこんなに汚れが……きゃあっ!?」

必殺の殴打武器『柊埃叩(ヒイラギハタキ)』を使う、三女ヒイラギ。
三人の中では前衛担当の彼女だが、オーガやゴーレムなど怪力自慢の魔物を立て続けに相手にし、
疲弊した所を大型豚獣人に捕まってしまう。

「ぐっへっへ……やぁっと捕まえたでゴワス。はたしてわしのサバ折りに耐えられるでゴワスかな」

【オーク・スモウレスラー】
脂肪と筋肉に覆われた巨体を持つ、豚型の獣人。
スモウと呼ばれる東洋の武術を使い、女の子に対しては「サバ折り」と呼ばれる技を好んで仕掛ける。

(ぎりぎりぎりぎりっ!!)
「ん…ぐっ………う、ぁああああああああぁっ!!!」

オークの太い腕で腰を強く締め付けられ、ヒイラギの背骨が大きく反り返る。
さらに並のオークの2〜3倍はあろうかという巨体でのしかかられ、ヒイラギはたまらず膝をつく。
これがスモウの取組なら、この時点で勝負ありだが……ここはルール無用の戦場。
地獄の拷問技は、むしろここからが本番である。

(ぎちぎちぎちぎちぎち………ぐぎっ………)
「はっ………はなし、なさ……っう、あっ……!!」
「ひひひ……わしらの仲間をさんざん叩いてくれた礼。たっぷりさせてもらうでゴワスよ」
腰、膝に凄まじい体重がかかり、反撃どころか身動き一つとれないヒイラギ。
オークは獲物を簡単に壊してしまわないよう、締め上げる力をじわじわと強めていく……

………………

「くっ………ヒイラギ、今助け……あう!?」
(じゅるるるるる!!)
「ぐひひひひ……そうはいかないタコ。伝統のタコ触手の餌食にしてやるタコ」

算術により魔法を強化する魔導具『榎算盤(エノキソロバン)』を使う、次女エノキ。
魔法を得意とする彼女だが、次々と押し寄せる大量の魔物を前に、魔力が底をつきつつあった。
呪文詠唱の隙を突いてエノキに襲い掛かったのは、大ダコ型の魔物兵である。

【ドレイン・オクトパス】
獲物を触手でからめ捕って魔力を吸収するオオダコ型の魔物。
ミツルギ近辺にも古くから生息しているが、魔物兵に改造され更に吸引力がアップしている。

(じゅるるるる……ぴたっ くちゅ ちゅぶっ……)
「き、気持ち悪い……やめてくださっ……ひあぅ!?」
必死に振りほどこうとするエノキ。だが触手は素早く服の隙間から入り込み、吸盤で吸い付いて離れない。
魔法で攻撃しようとすると、タコの吸盤が淡く発光して、集中した魔力が霧散してしまう…

「く、うぅ…魔力が吸い取られてる……!?……これは一体……」
「乳首、クリトリス、おへそ、腋……お前の一番弱いところはどこタコ…?
…そこからお前の魔力、根こそぎ吸い取ってやるタコ……ヒッヒッヒ」
「そん、なこと、させなっ……『サンダーブラス……」
(じゅろろろろろろっ!!)
「っあああああっ!!!」
「抵抗は無駄タコ……空になるまで魔力を吸い取ってから、踊り食いにしてやるタコ。ヒッヒッヒ……」

771名無しさん:2020/08/02(日) 15:08:28 ID:???
「エノキ!ヒイラギっ!!…そんなっ……!!」
(私のせいだ…!…私がもっと早く、撤退の決断を下していれば……)
「ゲッヘヘヘ…人間の小娘の割には中々の使い手じゃが、これだけの数の魔物兵には敵うまいて」

風を起こす魔導具『椿張扇(ツバキハリセン)』の使い手、長女ツバキ。
中衛として他の二人をサポートし、司令塔の役割を担う彼女だが、
怒涛のごとく押し寄せる魔物たちにより孤立させられてしまっていた。

「………たかが女三人相手に、よくまあこんなにゾロゾロと……あきれて、物が言えませんね」
「ここは戦場だ!殺し合いをするところだぜ!」
「男も女も関係ねえ…むしろ女の子いっぱい出てきてほしいです!」
「オレらは戦うのが好きじゃねぇんだ…リョナるのが好きなんだよォォッ!!!」

「こんな奴らに、コトネ様やエノキ達を好き勝手させるわけには……そこをどきなさい!!風遁・練空暴風弾!」
「ゲヘヘヘ!!そうはさせんゲェェ!!」
(ドゴッ!!)
「きゃあぁっ!?」

いきなり背後から突進してきた魔物に、ツバキは吹っ飛ばされた。
うつぶせに押し倒され、起き上がる前に背中にまたがられてしまう。
もがくツバキの視界の端に映ったのは、緑色の、大きな亀のような甲羅を持つ魔物だった。

【カッパ】
ミツルギ近辺に生息する魔物。頭に皿があり、体表は緑色で、背中には甲羅を背負っている。
川、沼などに住み、近くを通った人間に襲い掛かる。

「ゲヘヘヘヘヘ……安産型の、なかなかいい尻じゃ。極上の尻子玉が取れそうじゃゲ!」
(じゅぷっ)
「し……尻…?……一体何の、きゃぅ!?」
(ぐっちゅ……にちゅっ……じゅぷっ)
「あ、ひんっ!!なん、です、これ……!?……ふあぁっ、ぁぁああぁぁあぁっ!!」
(う、うそ………お尻に、魔物の手が……こんなの、ありえない……!!)

カッパはツバキの菊門に腕を突っ込み、その中を乱暴にかき混ぜ始めた。
なんと肘の辺りまでがお尻の穴に突き入れられている……もちろん、こんな事が物理的に可能であるはずがない。
魔物の能力によって無理矢理ねじ込まれているのだ。

そして、ツバキの……実際には人体に存在しないはずの『尻子玉』を、
ヌメヌメする粘液で覆われた手でがっちりとつかみ取った。

(ぎゅむっ………ぞわぞわぞわ……むぎゅっ!!)
「ゲヒヒヒヒヒ……柔らかくてスベスベしとるのう。弾力も………極上!」
「えひ!? 、あ、ひょん、な…!
…それ、だめ、ニギ、ら、ないれぇ………あんっ!!」
「思った通り、えぇ尻子玉じゃ。どれ……引っこ抜いて喰う前に、堪能させてもらうとするか」

全身を、魂ごと、文字通り掌握されたかのような恐ろしさ、そしておぞましさ……
ツバキが今までに感じたことのない感覚だった。

(ぬるり………くちゅっ)
「あぅぅ………!!……ひあぁっ……や、めて……それ、らめぇ………」
『尻子玉』を軽くなでられているだけで、身も心も蕩けそうなほどに気持ち良い。
全身が疼き、火照り、甘い声が抑えきれなくなってしまう。

「ゲッヘッヘッヘ……まぁだそんな口答えするか。それなら、こうじゃ」
(ギリっ!!!)
「んぎあぁあああああああ!!?……いやぁああああああ!!!もう、ゆるひて、くださ……っぎぅ!?」
強く握られると、今度は全身を粉々に砕かれているかのような激痛が走る。
反撃の意志も、一瞬にしてへし折られてしまった。
『尻子玉』をカッパに握られたら最後……もはや抵抗する事は不可能なのだ。

「こらーエロガッパー!独り占めすんなー!」
「さっさと俺らにも和メイドちゃんをヤらせろー!!」
「「そうだそうだー!!」」
「ゲヘヘヘ……慌てるでないわ。玉を引っこ抜いて、このお嬢ちゃんをフヌケにしたら交代してやるわい。
その後はお前さんたちヤりたい放題。なんでも言いなり、どんな事でもしてもらえるから、
和メイドちゃんにどんなハードなご奉仕も思いのままじゃぞ」
(ぬ、ヌく…?……そんな……触られただけで、こんなに、ダメになっちゃってるのに…
身体から、抜かれたら……私、死んじゃい……いや……もっともっと、大変なことに……?)

「うぉぉぉおおお!!マジか!?さっさとしろジジイ―!!」
「俺的には多少抵抗してくれた方がそそるんだけどなぁ」
「でもメイドちゃんのご奉仕ってのもいいな……ぐへへへ。俺の鬼チンポもしゃぶってもらえるかなぁ」
「オイオイそれこそ物理的に無理だっつーの」
「「ガハハハハハハハハ!!」」

「ゲッヒッヒッヒ……仕方ない奴らじゃ。では十分熟成できた頃合いじゃし、そろそろいただくとするかの。
カッパの大好物と言えばキュウリじゃが、人間の尻子玉も、これまた美味でなぁ……」
「い、いやぁ……もう、だめ……助けて……コトネ様ぁ……誰か……!」

772名無しさん:2020/08/02(日) 15:13:00 ID:???
カッパに押し倒され、尻子玉を弄り回されて息も絶え絶えのツバキ。
いよいよ最期かと思われた、その時。

「ほぉ、尻子玉ねぇ……そういや、もう一つ。カッパの特徴と言ったら……」
(ガコンッ!!)
「ゲヒッ!?」
「確か、頭の皿を割られると死ぬんだったよな?」
「!……あ、貴方は………」

(バキッ!!!)
「グ、ゲ……なに、もの……ゲ……!」
「それとも甲羅だったか……まあいいや。無事か?」
「…ザギ様……!……は…はい………!」

音もなく現れた『討魔忍五人衆』ザギの鉄拳が、一撃(二撃)の元にカッパを葬り去る。
カッパが息絶えると同時に、カッパの腕はするりとツバキの身体から抜け落ちた。

「うわぁぁぁあああ!!なんか野郎が出てきたぁぁー!!」
「くっそがぁあああ!!なんだよこの胸糞展開!!」
「カッパなんか無視してさっさと全員でやっとくんだったぁぁぁぁあ!!」

(発狂ポイントがわかりみ深いすぎるんだが……まあいいや、どうせ敵だし)

「くっそぉお!!おい!ヘビメタ野郎!!
この人質の命が惜しかったら、大人しく退場しやがれ!!」
「うぐ……あ……ザギ様っ……」
「私達の事より……早く、コトネ様を……!」
魔物たちが、捕らえたヒイラギとエノキを盾に取って迫る。

「ふん。誰がお前ら雑魚の言う事なんざ聞くかよ……討魔忍五人衆を舐めんなっ!!」
ブオンッ!!ドスドスッ!!

「「グゲェェェェッ!?」」
目にも止まらぬ速さで手裏剣を投げ放ち、ヒイラギとエノキを捕らえていた魔物を仕留めるザギ。
ちなみに………

「さ、流石ですザギ様……あの距離で、正確に人質を避けて敵を射抜くなんて」

(……俺、あんま手裏剣投げ得意じゃねーんだよな。こんな所で『能力』使っちまったぜ)

ザギは『忍法タイムエスケープ』という時間を巻き戻す術を使えるので、
うっかり手が滑って手裏剣が人質に直撃してしまった場合でも、やり直すことが可能なのだ!

「コトネのアホは、ザギの爺さんと合流したから安心しろ。
あとは……あの雑魚どもを片付けるだけだな」

「ぐっ……なんて奴だ……」
「これ、数で勝ってるからってイキって戦ったら全滅するパターンじゃねーか…?」
「こうなったら……巫女さんのいるポイントAに全てを託すしかねえ!!」
「そういやそうだな!先に他のやつらも行ってるみたいだし、こうしちゃいられねえ!」
「「「ちくしょーーー!!覚えてろよぉおおお!!」」」

やる気満々のザギに恐れをなし、というか本命の事を思い出し、
魔物たちは一斉に逃げ出していった。

「やれやれ……ま、指定のポイントには誘い込めたみてーだし、追っかける必要もねえか。
俺らは一旦引き上げだ。えーと………(…こいつら三つ子だから、誰が誰だかわかんねーな)」
「エノキとヒイラギです。そちらはツバキ」
「おお、悪ぃな覚えてなくて。立てるか?ツバキ」
「えっと…………その。申し訳ありません。まだ体に力が……」
「ま、カッパに相当やられたみてえだし仕方ねえか。よっこいしょっと」
「…………!…」

ザギに抱きかかえられるツバキ。
尻子玉を抜かれかけた後遺症か、それとも別の要因か……
心臓が早鐘のごとく高鳴り、ザギの顔をまともに見られなかった。

773名無しさん:2020/08/10(月) 11:24:25 ID:???
トーメントとミツルギの戦いの最前線。そこでは作戦通り、五人衆の中でも武闘派のシンとラガールが暴れまわっていた。

「秘奥義、鳳凰美田!」

ラガールがなんかカッコいいポーズを取ったら酒で形成された鳳凰っぽいエフェクトが出てきて、低空飛行していたワイバーンやドラゴンナイトをなぎ倒していく。いぶし銀っぽい技が多かったのに急に鬼滅っぽくなったとか言ってはいけない。

「滅殺斬魔!」

シンは敵陣の中でも一際巨大な多頭龍に肉薄すると、シフトを交えて一瞬でその8つの頭を全て斬り落とす。

「ひいぃいい!!最強のドラゴン軍団がぁああ!!」

「誰だよ圧で押せば勝てるとかポーカー素人みたいなこと言い出したのは!」

「とにかく一旦退け、退けえええ!!」

貴重なドラゴンタイプの魔物を雑草のように刈られた指揮官は、これ以上の損害にビビッて撤退する。
シンとラガールは深追いせずに、刀にべっとりと付いた血を拭いながら休息に入る。

「ふぅ、先方が根負けしてくれて正直助かったぞ……こちらの体力も無尽蔵ではないからな」

「アア」

ラガールは酒を飲み、シンは腕を組んで体力回復に努めているうちに……本陣から合図の狼煙が上がる。

「陽動作戦へ移行か……道理だな、消耗戦はあちらに分がある」

「……ソウダナ」

「ナルビアからの情報や他の忍の目撃では、こちらの方面の指揮官はカペラとのこと。アルフレッド殿やアリサ嬢に任せておけば間違いなかろう」

「十輝星……」

ラガールの言葉を聞いたシンは、顎に手をあてて考え込む。

「ラガール、頼ミガアル」

「ほう?お主の方から頼みとは、珍しいな」

意外そうな顔をするラガールに対し、シンは敵陣の方へスッ、と指を指し示す。

「私単独デ敵陣ヲ掠メルヨウニ突破シ、陽動スル……ソノママ追撃部隊ヲ引キ付ケ、戦線ヲ離脱シタイ」

「一騎駆けとはまた酔狂な……しかも、離脱すると?」

「私ニハ、決着ヲ着ケナケレバナラナイ相手ガイル。ダガ、陛下ヘノ忠義モ果タス。ソノ最善策ダ」

ナルビアからの情報提供で、ある程度十輝星の配置は把握できているが、その中にスピカ……リザの名前は載っていなかった。
リザだけは自分の手で止めたいと思っているシンは、リザを探す為に別の戦場を見に行くことにした。

「……止めるのも無粋、か……あい分かった、陛下には拙者の方から上手く伝えておこう」

「助カル」

そう言って颯爽と馬に飛び乗ったシンは、一刻も惜しいと言わんばかりに、敵陣へ馬で駆けていく。

「なんだぁ!?変な仮面が馬に乗ってやって来るぞ!」

「まるでゴーストオブツシマだ!」

「とにかく迎撃ぃ!」

シンにトーメント兵が魔法や弓矢で攻撃して来る。

「待ッテイロ、リザ……」

周囲から飛んできた魔物兵の攻撃が仮面を掠り、留め具が外れて地面に落ちていく。


「たとえ殺してでも……アンタを止める!」



「仮面の下から美少女が!?」

「まるで2BMODだ!」

「とにかく追撃ぃ!本陣の守りは他の奴に任せとけ!」


どこにいるかも分からない、道を違えた妹。彼女を探すため、シン……ミストもまた、各地を遊撃することになった。

774名無しさん:2020/08/16(日) 06:27:50 ID:73YF2Dn6
「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、ただいま参りました!」

「ああ、来たか。入ってくれたまえ」

シーヴァリア首都、ルネでは来たる進軍に向けて物々しい雰囲気が街を覆っていた。
ヴァーグ湿地帯へとつながる街道は軍の施設が続々と設営されており、一般人の通行も規制されている状態。
大規模作戦の前の大準備も、騎士たちの持ち前の連携力と統率力によってそれほど時間はかからなかった。

その設営の中でもひときわ大きい作戦本部室に現れたのは、唯たちヴェンデッタ第7小隊の面々だった。

「へーここがイグジス部隊長の部屋かー。突貫で作られたからあんまり部隊長っぽい威厳は感じられないねー」

「ルーアさん……この部屋に入ったら口を開くなと言ったはずなのです……」

「あれ、そうだったっけ?忘れちゃってた!てへぺろり☆」

「出た!エルマの屈託のない最&高のハジケル笑顔!新曲のインスピレーションになりそうだぜ!」

「わわわ、み、皆さんちょっと……部隊長の前ですから、お静かに……!」

「ふふふ……みんな仲が良いみたいで何よりだ。ヴェンデッタ小隊のメンバーでここまで明るいのは、君たちくらいかもしれないな」

「えへへ……それほどでもないですよぉニックさあん……」

「唯さん、今のはウチたちへの皮肉だと思うのです……」

この隊に配属される前は暗い性格だったルーアも、段々とツッコミ役が板についてきてしまったのだった。



「さあ、いよいよヴァーグ湿地帯から騎士たちの進軍が始まる。先行している部隊とナルビアの密偵からの情報によると敵はやはり魔物軍。その規模は掴めていないが、逆に言えば掴みきれないということだ。激戦は避けられないだろう。円卓の騎士にも欠員が出ている以上、文字通り総力戦だ」

「確か、ノーチェさんたちは私達と同じヴェンデッタ小隊に配属されているんですよね?」

「ああ。リリス様の勅命によって12小隊の面々は隼翼卿と睥睨卿の救出に向かってもらっている。首尾は上々と伝令もあった。なんでも変な虫に改造されたからセイクリッドのお嬢さんを用意してくれとか……」

「ミライちゃんならなんでも治せちゃいますもんね!」

(……ウチに弟子入りしてきた変な人のことですね)

最近はもはやソウルオブ・レイズデット要因のような扱いのミライだが、彼女もまた余分三姉妹との戦いでは根性を見せた。
その甲斐あってかは不明だが、騎士団の一員として今回の戦いでは前線の後方支援を任されている。



「そして君たちへの司令だが……急ぎ、ゼルタ山地に向かってほしいんだ」

「……え?」

ニックが目をやったホワイトボードに貼られた進軍図には、ゼルタ山地からはナルビアの軍隊と機甲部隊が進軍すると記されている。
唯の視線を確かめたのか、ニックは少し声を潜めた。

「ナルビア……あの国の動きは少し気にかかる。正直なところ、意思を持たない鉄の塊が何台あったところで、トーメントの魔物軍に適うはずがない。シックスデイという幹部たちもいるがその半数は戦闘要員ではない。些か戦力に不安を残しているんだ」

「なるほど……私達がそこに行って、ナルビアの人たちのお手伝いをすればいいんですね!」

「……とまあ、これは表向きの理由だ」

「……え?」

ニックの声がより密やかになる。



「ナルビア……あの国はこの戦争に乗じて何かを企んでいる節がある。君たちには同盟国として戦いに参加しつつ、メサイアと呼ばれる謎の兵器について探りを入れてもらいたい。入手した情報はこのメサイアという通称のみだ。極秘事項のようでそう簡単には聞き出せないだろうが……正規軍ができることでもないからな」

「メサイア……わかりました!ナルビア軍を援護しつつ、情報を集めてみます!」

「……よろしく頼む」



ナルビアの抱える隠し玉兵器メサイア。
その正体がすべてを破壊する最強人造人間であることを知るものは、まだ少ない。

775名無しさん:2020/08/16(日) 06:37:07 ID:73YF2Dn6
所変わってトーメント城、作戦本部室と立て札の置かれた部屋の中では、シアナが戦況情報の対応に追われていた。
机の上には魔法盤が敷かれ、各国の進軍状況と魔物軍の状況が映し出されている。
各戦闘場所に派遣されている伝令役の魔法使いたちが、同じ魔法版に魔力を注いで状況を更新し続けているのだ。

「討魔忍五人衆が全員前線に来て暴れているとは、やはり脳筋集団のようだ。背後からの奇襲にそれだけ対応できるか楽しみだな……」

シアナが魔力を送り、アレイ草原にドラゴンの姿が浮かび上がる。
このように指示を出すことによって、すべての戦況を管理、指示出しをするのが現時点でのシアナの仕事だ。
ミツルギ以外の各国の進軍状況を確認しようとしたとき、部屋のドアがノックされた。

──コンコンコン。

「入れ……って、げっ!」

「…………」

入ってきたのはリザである。彼女の部屋で喧嘩をし恐怖のあまり失禁までしてからというもの、なんだが目が合わせづらい相手であった。
主に男としてのプライド的な面で。

「……な、何の用だよ。お前の部隊への指示は王様から出されるはずで、僕から言うことは何もないぞ」

「王様が、シアナから指示を受けろって。指示内容はシアナに伝えてあるからって言ってた」

「……なんだよ……こんなときにラインなんか見られるわけ無いだろ……」

リザの言う通り、シアナの端末には王からのメッセージが送られている。
これをそっくりそのままリザに送らずシアナから伝えさせるように仕向けるあたり、険悪な状況にあることを知っての確信犯だろう。



「……じゃあお前の携帯に作戦内容を送るから、それで確認しろ。もう行っていいぞ」

「……シアナ」

鈴を転がすようなリザの声に名前を呼ばれ、シアナはゾクッとしてしまう。
その声のトーンが、思っていたより優しいからだ。

「……何だよ」

「この前のことは……私から謝る。シアナの気持ちも知らないで勝手なことを言った私が悪かった……ごめんなさい」

「えっ……!?」

できるだけ見ないようにしていたシアナがリザを見ると、リザは顔が見えなくなるほど深々と頭を下げて謝っていた。

「や、や、やめろよっ!別にもう怒ってもないし、お前の言う通り両成敗で終わったことだろ……何で今更謝ってるんだよ……」

「……私、この戦いで死ぬかもしれないから……少しでも未練はなくしたくて」

「はぁ……なんか前よりメンヘラ度が上がってないか?心配になるからやめてくれないか」

「でも……謝りたい気持ちは本当だから……素直に受け取って欲しい」

「っ……わかったよ……ぼ、僕も悪かった。女の子をリョナるのは好きだけど、仲間のお前に手を出したのは謝る……ごめん」

「……シアナって、根は優しいよね」

「もう、そういうのやめろよ……照れるだろ」

「……ふふっ」

「……ふん……お前もそうやって笑ってるほうが、何倍もマシだ」

自然に笑みが溢れた様子のリザに、アイナの笑顔を重ねるシアナだった。

776名無しさん:2020/08/16(日) 06:39:27 ID:73YF2Dn6
「笑顔見せるなんて、思ったより落ち着いてるみたいだな。何かあったのか?」

「……別に……落ち着いてなんかないよ。最近はもう普通にしてるのが嫌だから、城の地下で魔物と戦ってばかりだし」

「お前どういう属性を目指してるんだよ……」

最近は城の地下に籠り、ひたすら醜い魔物相手に技を磨いていたリザ。その噂はシアナも耳にしている。
なんでも城の地下に行くとリザの悲鳴が響いて漏れ聞こえるとかで、生の悲鳴を聞こうと一部の兵士が連日通い詰めているらしい。
なんとか映像も撮りたいと一部の有志が隠しカメラを仕掛けようとしたらしいが、地下の魔物たちが危険すぎて泣く泣く断念された経緯もあった。

「私……こんな状態でお姉ちゃんと……ちゃんと戦えるのかな」

「さあな……まあ自分語りは女友達にでもやってくれ。お前の遊撃部隊が向かう場所は……ここだよ」

シアナが指を指したのは、机上の魔法盤に大量の機械兵器が浮かび上がっている場所だった。



「……ゼルタ山地……」

「ナルビアはなにか隠し玉を持っているみたいだ。メサイアという謎のキーワードを諜報員が確認している。実態は不明だが、おそらく機械兵器の一種だろう。同盟国にも秘密にしているほどの……な」

「……そんな情報を漏らしてるなんて、ナルビアらしくないような気がする」

「ああ……もしかしたら外部に漏らすことで、外から探りを入れてほしい誰かがいるのかもしれないけどな」

「……ナルビアも一枚岩ではないかもしれないってことか」

「とにかく。このメサイアについて探ってくれ。別に戦う必要もない。どの程度の規模の平気なのか把握しておきたいだけだからな」

「……了解。エミリアも回復したし、準備でき次第トーメントを発つよ」

「ああ……」

指示を把握したリザが部屋を出ようと踵を返すと、それと同時にシアナは席を立った。



「……リザ!」

「……ん?」

「何があっても……死ぬんじゃないぞ。アトラはお前のことが大好きだし、僕だって……ずっと仲良くやってきたお前がいなくなるのは嫌だ。アイナのことだって神器を使って僕がなんとかしてみせる。だから……」

「……やっぱり、シアナは優しいね」

そう言い残し、リザは部屋を後にした。

777名無しさん:2020/08/16(日) 21:04:13 ID:???
「はぁっ……はぁっ……すっかりはぐれてしまいましたね。
…ヤヨイちゃん達は、大丈夫でしょうか」

一方アレイ草原では、ササメが一人、魔物の大群を相手に奮闘を繰り広げていた。

「ヒャッハーー!!見つけたぜ雪女ちゃん!」
「もうすっかり夏になっちまったし、その雪見大福おっぱいで涼しくしてほしいぜ!!」
「むしろ暖めてやるぜ!中からドバっと!!」

「た、確かに近ごろ暑いですが……みすみすあなた方に倒されるほど、私は甘くありません!」

「グワーッ!」「ギャーーー!!」

迫りくる魔物を、忍術と冷気で次々倒していくササメ。
だが、いくら倒しても敵は次々に集まってくる。

それもそのはず。
雪人の城でのササメの活躍(リョナられぶり)、特にリョナの鐘の一部始終は雪人達の手で
動画サイトにも投稿されていたため、トーメント勢の間でも噂になっているのだ。

今やササメは討魔忍の中では七華に次ぐ人気があり、前線に出ようものなら真っ先に狙われるのである。

「くっ……怯むな!雪人がこの暑さで弱ってないはずはねえ!」
「人海戦術おしくらまんじゅう作戦だー!!」
「野郎同士で密なんて嫌だが仕方ねえ!」
「おしくらまんじゅう!押されてなけわめけー!」

無数の魔物が今のご時世など気にするかとばかりに密集し、一斉にササメに襲い掛かった。
みんなで集まって暖め合えば寒さだって怖くない!

「こ、これは……!」
ものすごい数の魔物に迫られ、さすがのササメも一瞬怯んだが……

「お、ササメ先輩いたいたー!大丈夫ですか!?」
「なんか敵が集まってるし、派手に吹っ飛ばしちゃうよー!!『爆裂☆スターマイン』!!
ズドオオオオオンッ!!

「「「グワーーッ!!」」」

「ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん!…助かりました!」

……ヤヨイとナデシコが駆け付け、密集した魔物を花火爆弾で一網打尽に片づけた。

「そろそろ、例の魔物一か所に集めて一網打尽作戦が始まる頃でしたね……詳細な情報は狼煙で伝えるそうですが」
「うーん。ここからじゃ、狼煙が見えないですね。ちょっと敵陣深くに入りすぎたかな」
「だねー。じゃ、一回本陣に戻ろうか? 地図によるとー、こっちの方角に突っ切っていけば早いよ!」

「……この『ポイントA』という所を通っていくわけですね。
ちょうど私もかなりの冷気を使いましたし、休憩したかったんです」
「実は私らも、ササメ先輩を探して走り回ってたんで、そろそろ戻ろうかなーって」
「アタシも、でっかい花火爆弾あらかた使い切っちゃったし!丁度よかったね!」

……というわけで。

三人はフラグ的な発言をしていることに気づかないまま、
味方の作戦によって大量の罠が仕掛けられ、敵が集中して集められている「ポイントA」に
足を踏み入れる事になるのだった。

778名無しさん:2020/08/23(日) 13:32:23 ID:???
トーメント王国との決戦を間近に控えた、ナルビア王国。
その中枢部、オメガタワーにある、とある研究室で……

「ねぇ〜……お願い。……いいでしょぉ?」

甘い猫なで声を上げているのは、ナルビア王国軍第1機甲部隊師団長、レイナ・フレグ。
キャミソールの肩紐をずらし、「シックスデイのお色気担当」の自称に恥じない健康的な肢体を極限までさらけ出している。

「……だだだだだ、ダメだ!!……いくらレイナの頼みでも、これ以上は……」

誘惑している相手は、椅子に座った白衣の青年……
オメガタワー研究開発部門総括にして、レイナと同じシックス・デイの一人、マーティン。

レイナに少なからず行為を抱いていて、しかも女性にほとんど免疫を持たない彼だが、
今回ばかりは理性を総動員し、必死に誘惑に耐えていた。

「『ライトニングメタルスーツ』のこれ以上の強化改良は無理だ。
体への負担が大きすぎる……下手すりゃ死ぬぞ!」
「だ〜からぁ。上手くやる、って言ってんじゃん。こんなに頼んでもダメなのぉ?」
レイナはマーティンの腕にしがみつき、胸を押し付けた。
上目遣いで見つめられ、マーティンの気持ちも一瞬ぐらつきかけるが……

「…何べんも言わせるな…!…ダメなもんは、ダメだ……!!」
レイナの身を案じ、首を横に振る。
マーティンのレイナへの想いは、……少なくとも、一瞬の肉欲に流されないだけの強さはあった。
しかし。

「へー………ヒルダちゃんの事は、ふつーに改造したくせに」
「え?あ、あ、いや、ボクチンとしてもそこは、立場上仕方なくだな……」
「……それで、メサイアさえいれば、アタシらはもうお払い箱ってわけね。よーくわかった」
(ドカッ!!)
「いや、べ、べ別にそういうつもりは……うおご!?」
レイナはマーティンから離れると、座っていた椅子ごと思い切り蹴り倒す。

「もういい!アンタには頼まない! 一生一人でセンズリこいてろ、このフニャチン野郎が!!」
「……………ん、ぶっ………あ、っが、……おい、待て……!」
悪態を吐き、部屋を飛び出すレイナ。
鼻血を白衣の袖でぬぐいながら、マーティンはその後姿を見送るしかできなかった。

………………

「ふっふっふっふ……どうやら、フラれちゃったみたいねぇ」
「………。」

研究室を出て、自室へ続く薄暗い廊下を歩くレイナに、声をかけたのは……

ミシェル・モントゥブラン。
ナルビアの研究者エミル・モントゥブランの妹であり、
元はトーメント王国の支援を受けて活動していた、マッドサイエンティスト。

「ま、こうなることは想定内だけど……大丈夫よ。
私が言った通り、例の『ブツ』は仕掛けて来てくれた?」
「ええ………アイツを蹴り倒したついでにね」
「OK。これで、そのナントカ君の研究データを手に入れることができる。
そのホニャララスーツとかいうヤツ、私がいくらでも強化してあげる」

エミルがどさくさに紛れて亡命を手引きしたおかげで、
ミシェルの存在は、ナルビアでは限られた人間しか知られていなかった。
だがミシェルはその立場を逆手に取り、こうして『使えそうな人間』に接触を図っていたのだった。

「アンタみたいな胡散臭い奴に、頼りたくはなかったけど……
マーティン君が使えない以上、アンタにやってもらうしかなさそうね」

研究を危険視され、トーメントを追われたミシェル。
メサイアの出現により、ナルビア国内立場を脅かされつつあるレイナ。

二人が密かに手を組んだ事によって、トーメントとの戦い、そしてナルビアの勢力図は、どのように変わっていくのか……

779名無しさん:2020/08/23(日) 18:38:57 ID:???
「久しぶりね、アリスちゃん、エリスちゃん。
アーメルンで会った時は、色々世話になったわね?
まあココは一つ、お互い様って事で水に流しましょ。フフフフ…」

オメガタワー内、訓練施設にて。
ミシェルは開発中の強化スーツの『装着者候補』を密かに呼び集めていた。
レイナと………そして、アリスとエリス。
レイナと同じシックスデイのメンバーである。
二人は以前、任務中にミシェル達と遭遇し、戦ったこともあった。

「レイナ。一体どういうことだ……こんな胡散臭い奴が作った物を、着て戦えと?」
「そういう事。今のままじゃ、メサイアの下っ端に甘んじたまま……
それどころか、トーメントの連中にもヤられちゃいかねないからね」

「!!私たちが、トーメントごときにだと!?……レイナ!私達をバカにしてるのか!?」
レイナの無遠慮な言い草に、エリスはかっとなった。
……それは、心中で密かに抱いていた不安をずばりと言い当てられたから、かもしれない。

「本当のことを言っただけよ。納得いかないなら、試してみる?
今のエリスちゃんの実力が、どの程度のレベルなのか」
「貴様ぁっ!!」
「いけませんエリス!!落ち着いてください!」
挑発され、一触即発状態のエリスを、アリスが必死に止めに入る。

「まあまあ……いいんじゃない?
私としても、ちゃんと納得してから判断してもらいたいし……
それに。思いっきりぶつかり合わないと、見えてこないものもあるものよ。フフフフ」
(くっくっく………笑っちゃうくらい予想通りの反応。
ほんと、レイナちゃんから聞いてた通りの子ね。……転がしやすそうだわ)

……ここまでは計画通り。わざわざ訓練場に呼び寄せたのもこのためだ。
図星をついてエリスを怒らせ、しかる後に………己の立場を叩き込む。

「レイナ。私がお前の目を覚まさせてやる……アリス。手を出すなよ!!」
「やめてくださいアリス!まさか、本気で戦うつもりですか!?」
「べっつに、二人一緒でも構わないんだけどなぁ……
ま、アリスちゃんもじっくり見ておくといいよ。
あなたたちが今、どれだけインフレに置いてかれてるのかをね。
………『雷装!』」

レイナが金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

780名無しさん:2020/08/23(日) 18:40:54 ID:???
「出でよ!テンペストカルネージ!!…たあああああっっ!!」
2本の長槍を手に、レイナに飛び掛かるエリス。
嵐をまとった攻撃を、レイナは金色に輝く二本のブーメランで受け止める。

(グオオオオオンッ!! ガキン!!ビシッ!!)

過去の訓練データによれば、二人の総合的な戦力はほぼ互角。
レイナの従来の戦闘スタイルは、機動力を生かして距離を取りながらの遠距離戦タイプ。
近距離での戦闘はエリスに分があった。

だが今は………

「ふーん。やっぱ、こんなもんかぁ……
こうしてみるとエリスちゃんって、案外動きが荒いっていうか……」

(バチィッ!!)
「なっ!?消え……」
レイナのアーマーが煌めくと、一瞬にしてその姿がエリスの眼前から消えて…

「……けっこう隙が多いよね。
ちょっと速く動かれただけで、まるで対応できなくなる」
(ドカッ!!)
「うぐっ!?」
次の瞬間、レイナが背後からのミドルキックをエリスに叩き込んでいた。

「が、は………黙れっ!!
アーマーだか何だか知らないが、そんな奴に頼って強くなろうなんて……」

(ブオンッ!! ガキンッ!! キンッ! ドカッ!!)

力任せに槍を振り回すエリスを、軽くいなしていくレイナ。
傍から見ていても、二人の実力差は歴然だった。パワー、スピード、反応速度……すべてが別次元。
横で見ていたアリスも、レイナのスーツの性能を認めざるを得なかった。

「武器と身体能力に頼りすぎてるのはエリスちゃんの方じゃん?
はい、また隙あり」

(ズドッ!!)
「あ、っぐ……がは!!」
エリスの脇腹に、ボディブローが突き刺さる。
更に………

「エリスちゃんの方こそ、早いとこ目ぇ覚ましなよ……『スパーキングフィスト』!!」
(バリバリバリバリッ!!!)
「っぐおあああああああぁぁぁぁっ!!」
強烈な電撃が、エリスの体内に打ち込まれる。
激しいショックと、少し遅れて内臓を焼かれるかのような痛みが全身を駆け巡り、
日々苦痛に耐える訓練を積んできているはずのエリスの口から絶叫が漏れた。

「エリスっ!! レイナさん、もう止めてください!!」
「く、るな……アリ、ス……私はまだ、たたか、え……」

(ドスッ!!)
……立ち上がろうとするエリスに近寄り、レイナはその背中を踏みつけた。

「まったく、何を意地になってるんだか……
言っとくけどあたしだって、ミシェルちゃんが何か企んでんのは百も承知よ?
それでも、あたし達は……生き残るためなら、なんだって利用しなきゃならない。
それがわからないんなら……別に無理にこっちにこいとは言わない。
蹴落とされるその瞬間まで、シックス・デイの座にボケっと座ってなさい」

「ぐっ……!!……わかった。レイナが、そこまで言うなら……」
「決まりだね。アリスちゃんはどうするの?」
「………私も、やります。
私達は……もっと、強くならなければならない。例えどんな手を使っても」

781名無しさん:2020/08/23(日) 20:29:48 ID:???
その数日後。

レイナ、エリス、アリスの三人は、今度はミシェルの研究室に集まっていた。
ミシェルは、エミルからあてがわれた自室の一角を改造し、密かに実験設備を整えていたのである。

「……というわけで、これがあなた達用に作った
『レッドクリスタル・スーツ』と『ブルークリスタル・スーツ』。
急ごしらえだけど、レイナちゃんのスーツと同程度の性能はあるはずよ」

インナースーツの上に赤と青に輝く特殊金属製のプロテクターを装着する構造。
自分たちが最終決戦時に身にまとう事になる、新たな戦闘服を目にしたエリス達は……

「ぐっ……それは、いい。だが……レイナのスーツを見た時から思っていたが、
デザインはもう少しどうにかならなかったのか!? 特にこのインナー……
これじゃほとんど水着じゃないか!!」
……不満たらたらだった。

「は?……いやいやエリスちゃん。今時の水着なんてこんなもんじゃないわよ?
それに結構カワイイじゃない?我ながらいい出来だと思うんだけどなー」
「……エンジニアのセンスは測りかねますが……まあ、仕方ないでしょう。それより」

「ええ……3人がこのスーツを着たとしても『メサイア』には遠く及ばない。
レイナちゃんのスーツも含めて、ここから更なる強化が必要になる。

問題は、装着者が強化したスーツに耐えられるかどうか……でも、それについては安心して」


「……ミシェル・モントゥブラン。……私の方でも、貴女の事は調べさせてもらいました」
ミシェルのテンションが上がって、だんだん早口になり始めた所で、
アリスが口をはさんだ。

トーメントの支援を受けていた頃の、研究内容。
……そして、なぜトーメントを追われたのかも」

「へえ……だったら話は早いわ。人体強化改造なら、私の得意中の得意分野よ」

「!?……レイナ、どういうことだ!聞いてないぞ!!」
「……言ったよ?『生き残るためには何だって利用しなきゃならない』って。
エリスちゃんこそ言ったはずだよね?『わかった』って。」
「っ……!!」

「今後のスケジュールを説明するわね。
まず、私が開発した『人体自動改造システム』で、
三人が改造強化スーツに耐えられるよう段階的に肉体強化していく。
その間に、私は三人分のスーツの改造。
これは、元々の設計者であるマートン君?が理論上は考えててくれたみたいだから、
そのデータをもとに私がチョイっと手を加えれば……まあ、『本番』までには間に合うと思うわ」

「人体自動改造…?…また、とんでもない物を開発してるな……」
「うっわ〜……やっぱそれって、痛かったりする?」
エリスだけでなく、レイナも流石に少し引いていた。
具体的に何をどう改造するのか、知らずに改造されるのは嫌だが、知るのも怖いような。

「……わかりました。お二人が気が進まないようなら、まず私から」
その時。アリスが横から進み出て、改造手術の生贄…実験体、もとい、対象者として名乗りを上げた。

「あら、アリスちゃんだっけ?この中じゃ一番大人しそうに見えたのに、けっこう大胆ね」
「アリス!?…一体何を考えてるんだ!? コイツに何をされるのか、わかったもんじゃないんだぞ!!」
「……エリスちゃん、さっきからズイブンな事言ってくれるわね」
唐突なアリスの提案に、驚きを隠せないエリス。
マッド扱いは慣れているとは言え、流石にムッと来るミシェル。

「……別に、何も考えていませんよ。ただ……

今のヒルダさんは……人の形を保っているのさえ奇跡的な程で、常に大量に薬を服用していなければ危険な状態。
彼女一人にこの国の命運を背負わせるのは……それを『あの人』だけに支えさせるのは……余りにも酷です。

彼女の……『あの人』たちの負担を少しでも減らすにも、私はもっと強くならなければならない。
そのためなら………どんな事だって、してあげたい。

……ただ、それだけです」

「アリス………お前、そこまで………」
アリスがリンネにされた仕打ちを、エリスも知らないわけではなかった。
それでもなお、献身的にヒルダやリンネの役に立とうとするエリスに、
アリスはそれ以上何も言えなくなってしまった。

(ふ〜〜ん。メサイアのお付きの男にホの字(死後)ってのは調べがついてたけど……
なかなか面白い子ねぇ。 っていうか……いぢめがいがありそう)
「……いい覚悟ね。戦争が始まるまで日がないし、さっそく強化改造を始めましょう。
エリスちゃんとレイナちゃんはその間、スーツを着て実戦訓練でもしてるといいわ」

782名無しさん:2020/08/23(日) 21:44:06 ID:???
エリスとレイナが訓練場に行き、実験室にはミシェルとアリスの二人きりになった。

「じゃ、始めましょうか。まずは服を脱いで。あ、脱いだ物はこの籠にどうぞ」
「……はい………」

薄暗い部屋の中、アリスは言われるがままに、軍服の上下と、ブラウス、
そして飾り気のないブルーの縞模様の下着を脱いでいく。

きめ細かく手入れされた肌、控えめなサイズのバスト、きれいなヴァージンピンクの秘処。
同性相手とは言え、間近で誰かに観られていると思うと、
流石に羞恥心が沸き上がってくるが……なるべく表に出さないようにしながら、
アリスは脱いだ服を綺麗に畳んで籠に入れた。

「…………。」
「じゃ、そっちの台に寝て。『人体自動改造システム』起動!……」
産まれたままの姿で、小さなベッドの上に寝かされたアリス。

(ガシャンッ!! ガシャン!ガシャン!!)
ミシェルが端末を操作すると、アリスの手首、足首に金属製の枷がはめられた。
先端にハケのついた無数の機械腕が、アリスの身体にゆっくりと近づいてくる。

「なっ……!…これは…!?」
「あら、ごめんなさい。手術中に動いたりしないように、そうやって固定する仕組みになってるの。
それと……全身に、薬を塗ってあげるわね。心配しないで、ただの筋弛緩剤よ」

淡々と説明するミシェル。顔はアリスの方に向けないが、
その表情は嗜虐心に満ちたニヤニヤ笑いを隠そうともしていなかった。

(ウィーン………)
(ねとっ………)
(にゅるるるるっ)

「え……は……はい、………ひっ!!…」
薬が必要だとしても、なぜわざわざ筆で、皮膚から塗り込めるのか。
若干の違和感を覚えないではなかったが、アリスは素直にミシェルの言う事を聞き、
無数の機械腕に、己の身を晒す。

(ぬちゅっ……)
(つるっ)
(さわさわさわさわ)
「んっ……あ、ん…!………く、うぅ……ひんっ……!!」
……全身にくまなく、乳首の先端やおへそ、クリトリスなど、敏感なところは特に念入りに。
何十本もの細い筆で体中を弄ばれていくうちに、ミシェルが言っていた通り、
アリスは次第に四肢に力が入らなくなっていくのを感じた。

「はぁっ……はぁっ……」
「ふっふっふ……まだまだ行くわよぉ……」
「ふ、ひ……ちょっと、待ってくだ……ふああああああぁっ!!」
ミシェルは明かさなかったが、筆で塗られた薬は、ただの筋弛緩剤だけではない。

全身の感覚を鋭敏にする成分や、肉体を昂らせる媚薬成分、強力な利尿剤など、
これから始まる手術を盛り上げるため、様々な……
世間一般では『劇薬』『違法薬物』『毒』に分類されるようなものも含めて、多種多様な薬品をアリスの全身に塗りこめていた。

783名無しさん:2020/08/23(日) 21:49:43 ID:???
(ウィーン………)
(ガチャリ………ガチャリ………)
「っ…ぅ……ぁ………」
『準備』だけで息も絶え絶えなアリスに、再び機械腕がまとわりつく。
アリスの全身にコードのついた金属板……電極を取り付けていく。

「さ〜て、大丈夫かしら?アリスちゃん。手術はこれからが本番……
全身の筋力を強化するため、その電極から強力な電流を発生させて、
まずはアリスちゃんの全身の筋肉をズタズタに破壊するわ。
続いて、これまた全身に、栄養剤と治癒促進剤、筋肉と骨組織の強化剤を注射。超回復を促して、筋力を劇的に強化させる。
これを繰り返すことで、最終的にアリスちゃんの筋肉密度は今の20倍くらいにはなるはず……
あ、別に見た目がムッキムキになったりはしないから、そこは安心してね!それじゃ、行くわよぉ〜」

「え……そ、れって……」
……興奮気味に早口でまくし立てるミシェル。
意識朦朧としていたアリスは危うく聞き流してしまう所だったが、
頭から終わりまで、素人にもわかるレベルで尋常じゃない事ばっかり言っている。

「なーに、何か問題でも?……
アリスちゃんさっき言ってたわよね?『どんな事だってする』って。
んじゃ、スイッチオン!!」

(バリバリバリバリィッ!!!)
「…っぐああああああああああーーーーーーぁぁっっ!!!」
電極から一斉に、強烈な電流が放出される。
手足の筋肉を焼き切られていく激痛で、アリスの身体はガクガクと、丈夫な金属製の枷が壊しそうなほど激しく痙攣した。


(……ヒ…ルダ…さんが受けた、苦痛に比べれば………この、くら…い………)
普通ならとっくに気絶、下手すればショック死しているほどの激痛。
だが、機械腕に塗られた数々の薬品のせいで、アリスは無理矢理意識を覚醒させられている。

しばらく後。
筋肉を焼き切られたアリスの全身からは、ブスブスと黒い煙が小さく上がっていた。
そのアリスに、今度は……太く鋭い針のついた、無数の注射器が迫る。

「ぅ……ぁ………い、や………ま、って、くださ………おねが……」

「あ、そうそう。いきなり話は変わるけど……
前にアーメルンで戦った時、アリスちゃんには特に色々とお世話になったわよねぇ。
水に流すって言ったけど、やっぱりここでノシつけて倍返しさせてもらう事にするわ。
ま、優秀な軍人さんなら死んだりはしないと思うけど……もし精神壊れちゃったらごめんなさいね。
ウフフフフフ………」

「っああああぁぁああああ!!……っひぎ、いああああああああっっっ!!!」
心底楽しげな表情と声を向けるミシェル。
だが、苦痛の濁流に吞みこまれたアリスの耳に、その言葉はもはや届いていなかった。

784名無しさん:2020/09/11(金) 23:36:41 ID:???
バチバチバチバチ………ジュウゥゥウウ………
「ひっ……っぐ……ぁ………ううっ……!」
「ごめんなさいね〜、今丁度、麻酔薬を切らしちゃってたの。ふふふふ……」

……狭い実験室内は、肉の焼け焦げる異臭と煙が充満していた。
『人体自動改造システム』に拘束されたアリスは、無数の電磁メスによって切り刻まれ、
様々な薬品をこれでもかとばかりに投与されていく。

「はぁっ……はぁっ……う、っぐぅっ………!!」
「もっと思いっきり出してもいいのよ?…この部屋、ボロっちく見えるけど防音設備はしっかりしてるから」
苦し気に呻くアリスを見下ろしながら、鼻歌交じりに端末を操作するミシェル。
その目的は、実験・研究が5割、個人的な楽しみが4割、本来の趣旨である人体強化はそのついでと言った所だろうか。

「……………。」
「ふふ……我慢は、体に毒よ?」
「……っく、ああああああぁっ!?」
ミシェルは、アリスの股間に指を突き立て、尿道の辺りをそっと撫でる。
薬品によって極限まで感覚を鋭敏にされていたアリスは、異様な感覚に思わず悲鳴を漏らした。
そして……

じょろ………じょぼぼぼぼぼ…………
「っ………!!…」

アリスに投与された大量の薬液、それに含まれていた水分が、尿として排出される。
部屋中に響き渡るような、大音量と共に。
尿道の筋肉も疲労の限界に達しており、一度決壊した流れをせき止めることは出来なかった。

人前ではしたなく放尿してしまった屈辱に、アリスは顔を紅潮させ、身を震わせる。

いや、それだけではない……放尿するときに感じてしまった、全身が電撃に打たれたかのような得も言われぬ快感。
その瞬間、全身が骨抜きになり、自分自身に何が起きたのかわからず、思考が真っ白になっていた。
一体目の前にいる女科学者は、自分の身体をどのように変えてしまったというのか。

一方のミシェルは、排水溝に流れ落ちていくアリスの小水を指先で本の一滴すくい上げ、舌の上に転がす。
「ふむふむ……さすがのアリスちゃんも、だいぶ参ってきたみたいね。今日はこの位にしておきましょうか」
……尿はその者の体調を明確に表すバロメーター。
アリスの体調を一瞬にして読み取り、手術……いや実験の終わりを告げた。

「…く………大、丈夫……私は……まだ……耐えられ、ます……!」
「黙りなさい。貴女の身体の事は、私が一番よく理解っている……貴女自身よりもね」
(つぷっ)
「いぎあっ!?」
「貴方のカラダの中……今、どれだけグチャグチャになってるか。自分じゃわからないでしょ?ふふふふ」
股間に突き立てた指を軽く滑らせ、クリトリス、臍、みぞおち、胸の真ん中までなぞり上げる。
刃物で縦に両断されたかのような激痛に、アリスの喉から甲高い悲鳴が上がった。

「本当は、私の『クラシオン』で治してあげたいけど、今は調子が悪いから……こっちで我慢してね。」
(どろっ………ぐちゅ)
「っ………そ、れは………あぅんっ!?」
(じゅぶぶぶっ………にゅるっ!!)
「はぁっ……はぁっ……そ、そこは、待っ……ひっ!」
……自らの意志で動く、白い粘液……『ヒーリングスライム』が、アリスの身体を覆っていく。
アリスの傷ついた体を、外側だけでなく内側も、隅々まで。

「2、3時間その子たちに身を任せてれば、負傷が癒えて、貴女の身体も前より『多少は』強くなってるはずよ。
治るまで、ここでじっくり見ててあげたいところだけど……こっちもそろそろ『本業』にかからなきゃね」

巨大な白いスライムに呑み込まれていくアリスを尻目に、ミシェルは端末のキーを素早くタイプする。

レイナに仕込ませたバックドアによって入手したマーティンのアクセス権限を使い、
オメガタワーの中枢へとアクセスするミシェル。
アリス達の新スーツ開発用AIプログラムを起動する。
CPUをフル稼働させれば、どんな鉄壁のセキュリティを誇るコンピュータでも、必ず綻びが生じるはずだ。

「ナルビアの切り札、『メサイア』の研究データ。
それを手に入れて、私の意のままに動かせるようになれば……この国の全てを掌握したも同然。
私を切り捨てたクソ王や、私のシュメルツとクラシオンを奪ったレズ女に、目にもの見せてやるわ………」

薄暗い研究室の中で、野望に目を輝かせ鍵を叩く女狂科学者。
その傍らで、白濁した粘液の塊の蠢く音と、弄ばれる少女の押し殺すような声だけがいつまでも鳴り響いていた。

785>>761から:2020/09/21(月) 15:45:28 ID:???
「あ……あの場って……こんな所なの…!?」
「ええ……あの子は、辛いことがあった時、いつも……あの塔の上から、街の景色を眺めていました」

フウコと瑠奈がやってきたのは、ムーンライト城で最も高い尖塔の頂上。
今は夜という事もあり、人気は全くない。

『今宵、あの場所で待つ』
手紙によれば、もうすぐこの場所にフウコの弟、フウヤが……王下十輝星の一人、フースーヤが現れるはずだ。
以前の戦いでも、フウコとフウヤはここで再会し……
やはりフウヤを説得することができず、大きな悲劇が起きてしまった。

「とりあえず、尖塔の中に隠れていてください。
私一人じゃないと、フウヤが警戒するでしょうから……」
「わかったわ。私が知る限りじゃ相当ヤバい相手だし…気を付けてね。」
瑠奈は尖塔の中に隠れ、フウコはホウキで尖塔の上空に浮かんで待つ。

不気味な黒い雲が空を覆い、星も月も見えない闇夜。
湿り気を帯びた温い風が肌の上をゆっくりと流れていく。

(光さんも、みんなも言っていた。もうフウヤを改心させるのは無理だって……
でも私は、その時のことを覚えていない。
危険かもしれないけど、やっぱり自分の目で確かめなきゃ……)

弟と戦うべきなのか、止めるべきなのか。
もし今のまま戦場で相まみえてしまったら、自分は一体どうするべきなのか。
フウコの心の中には、再び迷いが生まれていた。

だが………

「……久しぶりだね、姉さん……また逢えて嬉しいよ」
「……フウヤ……!?」

目を見た瞬間、フウコは本能的に悟った。
あの目は……今までフウコが出会ってきた、トーメントの兵士たちや、瘴気から生まれた邪悪な魔物と同じ。

女性をいたぶり、体を傷つけ、尊厳を穢すことに悦楽を見出す……リョナラーの目だ。

「あの手紙を見て、来てくれたという事は……
今度こそ、永遠に僕の物になってくれる決心がついたのかい?
それとも……まさか、僕と戦って勝てるつもりなのかな」

「そ、そんなっ!?……そんなんじゃない。
私は、フウヤとは戦いたくないだけなの……
貴方は本当は、誰よりも優しい子だったはずよ!
お願い、優しかった昔のあなたに、もどっ……」

あの目を見ているだけで、体が恐怖に竦んでいく。
必死で紡ぎ出す言葉の全てが空回りして、あの瞳に全てを弾き返されていくのを肌で感じた。

「……何を言っているんだい姉さん?その話なら、前にもしただろう。
君はそんな僕を受け入れ、全てを赦し……僕の物になってくれたはずだ。
まさか……何も覚えていないのかい? その尖塔の十字架で、串刺しにされたことも?」

「!?……そ、そんな……」

……『優しかった昔のフウヤ』は、もうどこにも居ない。
いや、そんな物はフウコ自身が作りだした幻想だったのかもしれない。

「クックックック………なるほど。姉さん、君はやっぱり最高だよ。
君の選択は、二つに一つだと思っていた。
前と同じく僕に屈服し、永遠に僕の物になるか。
あくまで僕らトーメントに抗って、この国と運命を共にするか。
……まさか何の勝算も覚悟もなく、ただリョナられるために僕の前に現れるなんて……」

分厚く黒い雲の間から、血のように真っ赤な月が覗く。
邪悪な気配が、フウコとフウヤの周りの空間と、尖塔を飲み込む。

「今日は、事を荒立てるつもりはなかったんだけど……予定変更だ
姉さんがあまりにも愚かしくて可愛すぎるせいだよ。……クックック」

結界術によって、時の流れが外界と切り離され、結界の外の時間は停止する。
術が解かれるか、内側から結界が破壊されるまで、外からの干渉は事実上不可能になった。

「少しの間だけ、遊んであげるよ。
前にも一度クリアしたゲームだけど……面白いゲームは、何度遊んでもいいものだよね」

尖塔の超常で鋭く尖る鉄製の十字架が、さながら獲物を待つ処刑槍のように、赤い月の光を反射してギラリと輝いた。

786名無しさん:2020/09/21(月) 18:08:12 ID:tx7ft7JM
「………やるしか、ないの…!?………変身!!」
淡い緑色の光をまとい、風の妖精をイメージさせる『魔法少女エヴァーウィンド』へと姿を変えるフウコ。

その戦闘服は、胸の下側やお臍が大きく露出したインナースーツ、
風魔法を使うにはちょっと短すぎるスカートなど、
大人しく生真面目なフウコには少し大胆過ぎるデザイン。
魔力によって視界は良好になり、メガネの代わりに敵の能力を分析するバイザー『エメラルド・アイ』を装備している。

「毒風・鎌鼬!」
「くっ……ウィンドブレイド!」
二人の魔法がぶつかり合い、相殺した。

「やめて……もう、やめてよ……!!
ルミナスのみんなが、フウヤにした事も……私が、フウヤを守れなかったことも……
ぜんぶ謝るから……償うためなら、どんな事でもするから…!!」

「やれやれ。何を言い出すかと思えば……
僕がこの国の魔法少女たちから疎まれてきた事実は無くならないし、恨みが消えたわけではない。
けど今はもう、そんなのどうでもいいんだ。
そんな事より僕は、愚かな魔法少女たちをリョナってリョナってリョナりまくって、
一人残らず毒と汚泥の底に沈めて、その絶望の悲鳴で最高のオーケストラを奏でたいのさ」

「フウヤ……わからない……あなたの言っていることは、メチャクチャよ……う、あぐっ!?」

「そして、姉さん……君も、このオーケストラの一員……いや、誰よりも愛しい君こそが、メイン奏者となるに相応しい」

最初の攻防は互角に見えた。
だがフウヤの放つ毒風の刃は、打ち消したとしても不可視の毒の風となって対象を蝕む。

「がはっ……げほ、ごほっ!!……こ、れは……毒………!?」
「おやおや……まさか僕に会うってわかってたのに、なんの毒対策もして来なかったのかい?
どうやら本当に、この間の事は忘れてしまったみたいだね。だったら……」

(……ガキィィンッ!!)
「う、ぐっ…!!」

フウヤはフウコに急接近し、魔導指揮棒『エアロ・メジャー』で斬りかかる。
対するフウコも、魔導バトン『トワリング・エア』で辛うじて受け止めたが、
その鍔迫り合いで発生した新たな毒が、フウコの身体をゆっくりと侵食していった。

「次の毒は……姉さんは初めてだったかな?全身の骨を弱くする、『ペインシック・フロスト』だ」
「うっ………く、うああああぁっ……!」

フウヤに押されまいと体に力を込めると、それだけで全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
まるで全身がガラス細工になってしまったかのようだった。

「もう少しして毒が全身にいきわたれば、防御力はゼロになる。
 衣装を速攻で切り刻むタイムアタックじゃなく、バフ・デバフを限界まで掛けてから……
最強コンボのオーバーキルで、最大ダメージ狙いと行こう」

フウヤは黒いオーラに包まれた右腕を振り上げ、左胸に叩きつける。
黒いオーラが体内に送り込まれ、毒々しいワインレッドに変色したブレザーコート姿へと変身…再結合(リユニオン)した。


「ま、まずいわ……何とかしてフウコを助けないと……!」
一方。尖塔に隠れていた瑠奈も、フウヤの作った結界の中に入っていた。
結界内にいる瑠奈なら、二人の戦いに介入できる。
だがフウヤ……フースーヤは、その存在も先刻承知だったようだ。

(ぞわっ………)
「なに…この気配……まさ、か………」

既に尖塔の中は、無味無臭の毒で充満していた。
『アンチバグ・ザ・ソロー』
……それは五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような感覚を与える、
瑠奈にとっては最も恐ろしい毒であった。

787名無しさん:2020/10/10(土) 18:04:30 ID:???
尖塔の頂上の小部屋に隠れ、フウコたちの様子を窺っていた瑠奈。
フウヤ……フースーヤが何か怪しげな魔法を使いはじめ、戦いが避けられそうにないとわかった時、
瑠奈もホウキに乗ってフウコの援護に向かおうとしたのだが……

がさがさがさ………ギチギチギチギチギチ……… じゅるっ……ぞわぞわぞわ……
(なっ!?……何、これ……)

……全身を、何かがはい回っている。
小さく、無数の、たくさんの脚が生えた、鋭い爪と牙の生えた、毒のトゲを持つ、ぬめぬめの、ざらざらの、何かが。

「おやおや……姉さんのことだ。誰か連れて来るかも、とは思ったけど……まさか運命の戦士とはね」
フースーヤは塔の中に誰かが潜んでいる可能性を考え、結界の発動と同時に、毒ガスが発生するよう仕掛けていたのだ。

五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような強烈な不快感を与える『アンチバグ・ザ・ソロー』。
フースーヤの魔力によって、その幻覚作用はさらに強化され、本当に大量の蟲に襲われているかのように錯覚させられてしまう。

「ひっ……や、やだっ……登ってこないでぇ……あ、脚……こんなにいっぱい……い、いやあああぁっ……!!」

……瑠奈は今、太ももに巻き付いた幻覚のムカデを追い払おうと必死だった。
太さは瑠奈の指2本分くらい。部屋の奥の暗がりや物影から何匹も何匹も這い寄ってきて、
尻尾がどこにあるのかわからないくらい長い。

更に、こぶし大の蜘蛛が何匹も頭上から降ってきて、耳元や胸の上にしがみつく。
芋虫やアリ、ハエや蚊など、他にも無数の虫たちが、足元、あるいは空中から、一斉に瑠奈に群がった。

ぎちぎちぎちっ………ぶぅぅぅぅん………うぞうぞうぞうぞ………
「ひぎ、うぁぁぁぁぁっ……やだ、やだっ………やめ、てっ……い、やああああああっ……!!」

…一匹一匹は小さく、力も弱い。振り払うのはそう難しくはないだろう。

だが、ダメだった。
羽音や鳴き声を聞くだけで全身に鳥肌が立ち、手足が震え、小さな体を更にぎゅっと丸めて縮こまるしかできない。

瑠奈は昔から、虫だけは大の苦手だった。
幼いころは、面白がったいじめっ子たちに虫をけしかけられたし、
唯と出会い、兄たちの勧めで格闘技を習い、性格も明るく活発になって多くの友達ができた今でも、
その恐怖心だけは、どうしても克服できなかった。

どんなに心を鍛えても、技を磨いても、
おぞましい感触に触れ、音を聞いたその瞬間。
瑠奈の心は無力で幼かったあの頃に引きずり戻されてしまう。

「に、げなきゃ……あ、あれ…?…」
心、だけではない。

これもまた、幻覚の作用だろうか。
瑠奈の身体が見る見るうちに小さくなっていく。手足は細く、疎ましかったバストも平たく。
更に、髪は長く伸び、服は、いつの間にか白いワンピースに変わっている。
……瑠奈がまだ幼かったころ、よく着ていたものだ。

(どうなってるの……まるで……こどものころに、もどったみたい……)
わけがわからないまま、瑠奈はホウキを手にして窓に近づいた。だがその時。

…バサバサバサバサバサッ!!
「ひきゃあああぁっ!?」
窓全体を覆うほどの巨大な蛾飛んできて、窓の外側に張り付いた。

瑠奈は思わず後ろに飛びのく。
巨大な目の模様がついた蛾の翅に、睨みつけられたような気がした。

788名無しさん:2020/10/10(土) 18:05:30 ID:???
「や、やだっ……だれか、たすけて……」
尻もちをついたまま、じりじりと後ずさる瑠奈。
その背中に、蜘蛛の糸が飛んできてべちゃりと絡みついた。

──────
「ひっひっひ……おい、ルナのなきむし!コドク、ってしってるか?」
「ドクのあるムシをつぼにいっぱいいれて、さいごのいっぴきまでたたかわせるんだ!」
──────
「え………?」

蜘蛛糸は、階下に続く梯子穴から伸びていた。
もがけばもがく程、糸は絡まる。
その先にいる何かに、ずるり、ずるり、と、体を引っ張られていく。

ぞわぞわぞわぞわぞわぞわ………
カサカサカサカサ………
ブオォォォォン……
……キチキチキチキチキチキチキチキチ

──────
「なきむしルナも、コドクにいれてやる!」
「ぎゃっはっはっは!ドクムシどもに、くわれちゃえー!」
──────

「い、いやああああぁぁぁっ!!やめて、ひっぱらないでぇぇえええ!!!」
暴れても、もがいても、どうにもならなかった。
今の瑠奈は、幼いころの…唯と出会う前の、無力だった頃の姿に戻っているのだ。

瑠奈はそのまま為す術なく、梯子穴に引きずり落とされ……
暗闇の中、赤い眼を爛々と輝かせた無数の蟲達が、一斉に襲い掛かった。


ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!!
ざわざわざわざわっ……
ガサガサガサガサガサガサ!!
グキキキキキ……ギチギチギチギチッ

「ひ、ぎあああああああぁぁぁっっ!! い、いやっ……こないでぇっ!!……やめてぇぇえええ!!」
無数の蟲、無数の脚、無数の毒針が、子供の姿に戻った瑠奈を一瞬にして呑み込んでいく。

まだ空手を習い始める前の細い腕や足、腰まで伸びていた髪、白いワンピースが、
爪と毒牙に蹂躙され、噛み千切られ、毒液に穢されていく。

ピギィィィイィッ!!
「ぐふあっ!?……ん、むぐっ、…!!!」
極太の芋虫が、瑠奈の口の中に強引に潜り込む。
粘つく毒液が大量に吐き出され、苦い味が口いっぱいに広がった。

「う、え…………あ……!!」
じゅぷっ じゅぷっ……じゅぷっ!!
吐き出そうにも吐き出せない。それどころか、芋虫は咥内でぶよぶよの身体をくねらせ、
喉の奥にまで侵入しようとしていた。

ぬるり……べちゃ ぐちゅっ………
更に、胸の上に手のひら大のヒルが這い上り、まだ膨らんでいない乳房の先端に吸い付く。
「えぐっ……ん、ぐっ……!?」
(そ、そんなっ……!!……だ、め…そんなとこ、すったら…)

……じゅるるるるるるっ!!
「………ん、〜〜〜〜っっっ!!!」
両胸に張り付いた2匹のヒルは、瑠奈の二つの蕾から勢いよく血を…あるいは別の何かを、容赦なく吸い上げる!
その異常な感覚に、瑠奈の全身は雷に打たれたようにビクンビクンと震え、
ヒル達を引きはがすどころか、気を失わないようにするだけでも精いっぱいだった。

じゅぷっ……ぐちゅっ……じゅるるるる……じゅぶっ!!
「ぐむっ……ん、げほっ……あ、ぐ…!!」
(お、おねがいっ……もう、やめて……だれか、たすけてぇ……!!)
巨大芋虫に口を塞がれているせいで、悲鳴も上げられない。
瑠奈は今起こっている異常が幻覚であることさえわからないまま、
……ルミナスの地で必死に修行して得た新たな力を、振るう事さえできずに、
無数に群がる蟲達に成すがままに蹂躙され続けた。

かさかさかさかさ……
「っぐ……あ、あれ、は……っ……!!」
そんな瑠奈に、新たな…最大の脅威が、忍び寄る。
群れの中のどの蟲よりも大きい、黒光りする、長い触覚を持った大きな虫が、ワンピースのスカートの中に潜り込んできた。

(ひっ………ま、まさ、か………)
台所などで見かけたりしたら、瑠奈でなくても卒倒することは間違いない、巨大で不気味な黒い蟲。
しかも、瑠奈の脚よりも太い巨大な卵鞘を生やし、下着越しにぐいぐいと押し付けてくる。

(い、いやぁっ……ゆるして……それ、だけは……!!)
瑠奈の無言の懇願を意にも介さず、巨大な黒い蟲は、瑠奈の下着をやすやすと食いちぎる。
物理的に到底入るはずのない巨大卵鞘が、幼い秘唇にぴたりと張り付いた。

……どくん……どくん……どくん……
蟲の卵から、不気味な脈動と生温かさが伝わってくる。
そして、恐怖に震える瑠奈の中に、少しずつ、少しずつ、侵入してくる。

ずぶっ……ぬちゅっ………ずぶり!!
「……………っっ…っぐむぅぅぅううっっっ!!!!」
黒い蟲が腰を大きく突き動かし、瑠奈の胎内に卵鞘を半分ほど突き入れた、その瞬間…
瑠奈は目を大きく見開き、大粒の涙をこぼしながら、声にならない悲鳴を上げた。

789名無しさん:2020/10/10(土) 18:07:38 ID:???
「っひぎああああああああぁぁぁっ!!」
幻覚に苦しみ、のたうち回る瑠奈の姿が、フウコとフウヤの前に映し出される。
両胸から母乳を、口から吐瀉物を吐き出し、絶叫しながら虚空に手を伸ばし、大きく背中をのけぞらせ……
やがてぱたりと倒れ込んだ。

「クックック……無様だねぇ。運命の戦士ともあろう者が」
「そんな……瑠奈さんっ!!……フウヤ……どうしてこんな、酷い事を…」

「人の心配をしている余裕があるのかい?……
苦しみ悶える少女の姿は美しい。そして、僕にとっての一番は………あくまで君だよ。姉さん」

ババババババッ!!
「う、ぐっ……!!」

フウヤの手から黒いイバラが伸び、フウコの身体に絡みついていく。
毒で動けない今のフウコに逃れるすべはない。
強い力で締め付けられ、弱体化した骨が今にもへし折れそうなほど軋むのを感じた。

「そのイバラも、トーメントの技術を参考に、僕が新たに開発したものだよ。
全身に食い込んだトゲから獲物の血を吸い、毒の花を咲かせる。」
ズブッ……ずちゅっ……じゅるるるっ…!!
「ぐうっ……!!……なん、ですって………う、あぁぁんっ……!!」

イバラに生えた無数のトゲが、まるで意志を持っているかのようにフウコの肌に食い込み、血を吸い上げていく。
やがてフウコの顔のすぐ横で、小さな黒いバラの花を咲かせた。
そして……

「げほっ……げほっ!!……っぐっ!?……あ、っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「その黒い花の花粉は、人間の神経に直接作用して純粋な『苦痛』を与える。
……その神経毒は魔力の循環をも狂わせ、やがて変身さえ維持できなくなる。まさに魔法少女殺しの毒さ。
名付けるなら、そう……『シュメルツ・ブルーメ』とでも言った所か」

全身を貫くような激痛で、狂ったような絶叫を上げるフウコ。
この異様な感覚は……初めてではなかった。
かつて、ミシェルと名乗る怪しげな女研究者が使っていた特殊能力を喰らった時の痛みに近い。
だがそれについて深く考える余裕などなく、フウコは自身の風の魔力の暴走によって、全身をずたずたに切り裂かれていく。

「っぐぅ!!ああああぁぁっ!!!……い、っぐああああああ!!!」
黒い花が二つ、三つ、次々と咲いていく。
そのたびにフウコの全身の苦痛は二倍、三倍に跳ね上がり、
悲鳴のトーンがさらに大きくなっていく。

「変身が解けても、この苦痛は終わらない。魔法少女はひとたびこのイバラに囚われたが最後、
絶え間ない苦痛に悶えながら、全身の血を吸いつくされる事になる。
もちろん今度の戦場となるリケット渓谷にも、至る所にこの花の根が張り巡らされている…今から楽しみだよ」

「でも、姉さんにはこんな物じゃなくて、もっと素晴らしいフィナーレが用意してある。
……見えるだろう?あの鋭い尖塔の十字架が。
僕はいつも思っていたんだ。あの鋭い槍のような先端で姉さんの心臓を串刺しにしたらどんなに素敵かって……」

「あっぐっ……そん、な……こと……うぐ、ぁあああああぁっ!!」

「姉さんは覚えてないようだけど……前回のルミナス侵攻の時、その夢は叶った。
……でも、僕は思ったんだ。
十字架に姉さんを真っ逆さまに堕として、脳みそと心臓と子宮をいっぺんに串刺しにしたら。
……きっともっと、美しいんじゃないかって」

「っぐ、……フウ…ヤ……あなたは……どこ、までっ……!!」
「姉さんのことは、後で王様に復活させてもらうよ。
そして今度こそ……姉さんの存在を永遠のものにして、僕の愛[ドク]を注ぎ続けてあげよう」

黒い花がまた一つ咲き、断末魔のような叫びと共にフウコの変身が解けた。
フウコの身体が、フウヤに抱きかかえられたまま自由落下を始める。
その先には、赤い月の光を受けて輝く十字架の先端があった。


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