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リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

790名無しさん:2020/10/10(土) 18:09:25 ID:???
(もう……だ…め………わたし、このまま……むしに、たべられちゃう……)
消えゆく意識の中、瑠奈が思い浮かべたのは……親友の、唯の事。

(だい、じょうぶ……だよ……)
(こわいむしは……わたしが、みんな……)
(……?……この、こえは……)
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。
おそるおそる顔を上げると、オレンジ色の淡い光が、瑠奈の顔を優しく照らしている。
……まるで夕日のようにきれいで、暖かい光だった。
まるで、唯に初めて会った日に見た夕焼けのように……

瑠奈はふらふらと起き上がり、光に手を伸ばす。
いつの間にか、体は元に戻っていた。あれだけ大量にいた蟲も、一匹もいない。
どうやらあれは、すべて幻覚だったらしい。

「これは……さっき、フウコから借りたイヤリング……」
……ここに来る直前で、『もしもの時のため』とフウコから預かったものだ。
強い守りの力を秘めているのだ、という。

そんなすごい物なら、フースーヤと直接対峙するフウコが持っているべきだ、と瑠奈は主張したのだが……

『いいえ……私は、あの子と戦いに来たわけじゃありませんから。
甘いかもしれませんが、私は……私だけは、あの子とちゃんと話して、
今あの子が思っている事を、受け止めて上げなきゃいけないと思うんです。
例え裏切られたとしても……結局は戦うしかないんだとしても。
……だから、これは瑠奈さんが持っていてください。
もし私に、万一のことがあったら、その時は……』

「………私は、結局また……助けられちゃったのね。
唯を、他の誰かを助けてあげられるように、修行したっていうのに……」

「っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
イヤリングを握りしめ、己のふがいなさを噛み締める瑠奈。
だがその時、塔の外から、今までに聞いたことのないような、凄まじい悲鳴が飛び込んできた。

「フウコっ!?」
ホウキを手に窓を飛び出し、尖塔の屋根に上がる。
頂上の十字架目掛けて、フウコが真っ逆さまに落下してくる。

「やばっ!!……斬鋼・蜥蜴の尻尾切り!!」
ザシュッッッ!!
ドサ!!

瑠奈は、鋼属性の魔力を乗せた手刀で十字架を根元から斬り落とし、
落ちてきたフウコの身体をしっかりと受け止めた。

「はぁ………はぁ………る、な…さん……すみ、ませ……」
「喋らない方が良いわ、フウコ!…にしても何なのよこのイバラ!さっさと解かないと……」
「ふん……無事だったんですか。お邪魔虫の、運命の戦士さん」

フウコに巻き付いたイバラを手刀で切り裂いていく瑠奈。
その目の前に降り立ったフウヤは、苛立ちをあらわにする。

「言ってくれるわね。この私をよりによって『虫』呼ばわりなんて……」

「愛する姉さんとの一時に割って入ってくるなんて『お邪魔虫』以外の何物でもないでしょう。
……僕をあまり怒らせないでください。
どうやらそのオレンジ色のイヤリングで毒を無効化したようですが、そんな物いくらでも対処のしようはある」

「はらわた煮えくりかえってるのはこっちの方よ!よくもフウコに……自分の姉さんに、こんな酷い事をっ!!
って、『愛する』姉さん……??……え、何それ……どういう事……」

「言葉通りの意味ですよ。…僕は前回のルミナス侵攻の時に、自分自身の本当の気持ちに目覚めたんです。
僕は姉さんの事を、世界中の誰よりも愛している。
魔法少女たちに抱いていた憎しみなんて、最早どうでも良いと思えてしまうほどに」

「あ……あなた達って、実の姉弟なのよね!?
いやそれはこの際置いとくとしても、だったらどうしてこんな……!」

「そして、苦痛に歪む姉さんの姿は、誰よりも美しい……
あの時のように、姉さんに不老不滅の屍術を施し、
今度こそ僕の毒で、姉さんの魂に永遠の苦痛……永遠の美しさを与えてあげたい。
それこそが、僕の……姉さんへの、愛なのだから!!」

「なっ…………」

爛々と目を輝かせて語るフースーヤの姿に、瑠奈は眩暈を起こしそうになった。

791名無しさん:2020/10/10(土) 18:12:31 ID:???
「……け……な……」
狂気に吞まれたわけでも、恐れを抱いたのでもない。
むしろその逆……
瑠奈は己の中の怒りを押さえこみながら、気絶したフウコの身体を尖塔の屋根にそっと横たえると。

「ふざっ!!
けんなぁああああああああ!!」

「っ!?速……」
……ドゴォッ!!
「ぐあああああああああっっ!!」

……フウヤに、まっすぐ殴り掛かった。

あまりの速度にフースーヤは反応できず、瑠奈の攻撃…
風の魔力をまとった『鉄拳制裁』をまともに喰らって吹き飛ばされる。

「フウコが、どんな気持ちであんたに会いに来たと思ってんのよ………
何が『本当の気持ちに目覚めた』よ。
相手の気持ちを考えようともしないで、勝手な都合を押し付けるだけ……
そんな物……『愛』なんかじゃない。
アンタはただ自分の欲望を満たしたいだけの異常者だわ!!
私がアンタの姉さんの代わりに……その甘ったれた根性、叩き直してやるっ!!」

「っぐ、がは………さすがは、運命の、戦士。
ですがあなたには……いえ、他の誰にも、姉さんの代わりなんて、務まりません……
残念だけど……今夜はここまでです」

結界が崩れ落ち、月の光が本来の青さを取り戻す。
警備に当たっていた魔法少女たちが異常を察知し、城内に警報が鳴り響いた。

「決着は、明日……リケット渓谷で、付ける事にしましょう。
姉さんに伝えてください。僕の所にたどり着く前に、他の魔物に殺られないよう、くれぐれも気を付けて、と……」

「ま、待ちなさいっ!!このままアンタを逃がすわけには……」
逃げ去るフウヤを追いかけようとする瑠奈。
その時、一匹の蛾がふらふらと飛んできて瑠奈の肩に止まる。

「なによ、また幻覚?そうとわかってればこんな物、怖くもなんとも………」
パタパタと払いのけると、蛾はふらふらと飛び去って行った。
ふと手を観ると、蛾の鱗粉がべったりと付着している……

「あれ?……もしかして今のって………」
瑠奈の顔から、一瞬にして血の気が引く。

「フウコ!瑠奈さん!!」
「一体何があったんですか!!瑠奈さ……ああっ!?」
駆け寄ってくるカリン達の目の前で、瑠奈は再びぱたりと倒れ、そのまま意識を失った。

792名無しさん:2020/10/24(土) 14:16:57 ID:???
「!!……………私、は………」
「フウコ!!」「よかった、気が付いたんだね!」
しばらく後。フウコは医務室のベッドで目を覚ました。
瑠奈、そして同じブルーバード小隊の仲間である水鳥、カリン、ルーフェが安堵の表情を浮かべる。

「…そう、ですか……やっぱり、フウヤは……」
弟フウヤの姿はなかった。彼が改心する事はなく、戦いはもはや避けられない。
自分の考えが甘すぎたことを、フウコは改めて悟った。

「…正直、フウヤに会う前は、迷っていたんです。あの子とは戦えない……戦いたくない。
あの子の心を歪ませたのは、私のせいでもあるのだから。
どうすればいいのか、考えました。
魔法少女と十輝星、互いの立場を捨ててどこか遠い所に逃げる、とか…
またはいっそ、私も……ルミナスを離れて、フウヤの味方になる。
世界中が敵に回ることになっても、家族である私だけは、最後まであの子の味方になってあげる…
そういう選択肢も、ありかもしれないって。」

「え!?…フウコ、それって……」
カリンが動揺し、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
…かつてトーメントがルミナスに侵攻してきたとき、実際に一度フウコはフウヤの軍門に下っているのだ。

「だけど、実際にフウヤに会って……やっぱり、無理だと思いました。
私はあの子の姉であると同時に、一人の魔法少女だから……あの子のやってることを、見過ごすことは出来ない。
だから、私は今度こそ…ちゃんとあの子と向き合って、戦う。
そして……『お姉ちゃんの鉄拳制裁』で、あの子の性根を叩きなおしてあげます!」

フウコは力強くそう言うと、しゅっ!と口で言いながら、拳を突き出す。
その目の光には、揺るぎない強い意志が感じられた。

だが……

…ズキッ!!

「あ……いたたた」
「ちょっ…無茶しちゃダメよフウコ!まだ体の毒も抜けきってないんだから!」
今のフウコは『ペインシック・フロスト』で骨を弱らされた上、
『シュメルツ・ブルーメ』で大量に血を失い、神経もボロボロに傷つけられている。
当分は絶対安静。明日フウヤと戦うなんて、そもそも無茶な話だった。

「貴女の気持ちはよーく分かったわ。
でも今は、ゆっくり休みなさい。あの生意気小僧への『鉄拳制裁』は、私たちに任せといて!」
瑠奈はウィンクしながら、フウコの前に軽く拳を突き出す。

「あ、ありがとうございます。
私が覚悟を決められたのも、あの時の瑠奈さんの言葉のおかげ……って、あれ?
瑠奈さん、その手甲は……?」
「あ……これ?……実は……」
……瑠奈の右拳には、オレンジ色の光を放つ、不思議な手甲が装着されていた。

793名無しさん:2020/10/24(土) 14:18:11 ID:???
「私にもよくわからないんだけど、フウヤに一撃入れる瞬間……
フウコから借りたお守りが光って、手甲に変わったの」

(えええ……カナンさん、どういう事なんですか??)
(一言でいうと『その時、不思議なことが起こった!』って感じかしら。
というか正直、あの時は私も無我夢中だったから……)
オレンジの魔石の中の人…カナン・サンセットに、水鳥はテレパシー的なやつで語り掛ける。
……が、肝心なところはやっぱりよくわからなかった。

(魔石が瑠奈さんの……運命の戦士の、強い気持ちに呼応した。って事でしょうか?)
(とりま、そーいう事でいーんじゃない?変身くらいするでしょ、私は魔法少女なんだし。)

「うーーん。まさかこのイヤリングに変形機能がついてたとは…作った私ですら知らなかったわ」
「ご、ごめん……元はと言えば私が、水鳥ちゃん達に黙って持ち出したせいで」
「え。これカリンが作ったの?ご…ごめんね、こんなんなっちゃって。
なんだったら、この埋まってる石だけでも……」

(きゃ!?痛い痛い痛い!!ちょ、やめてー!!!)
「ちょ、瑠奈さん!無理矢理外さなくていいですから!!」
手甲は瑠奈の右手にしっかりと装着されている。
色々と試行錯誤したが物理的に取り外すことはできず、
魔力切れで元のイヤリングに戻るまでに、しばらく時間を要した。

「と…とりあえずその手甲は、瑠奈さんが持ってるのがいいんじゃないかな…」
「な、なんか……本当にごめんなさい。大事な物なんでしょ?」
「い、いえ。今なら多分、瑠奈さんの方が有効に使えると思いますし……」
こうして瑠奈は、伝説の魔法少女の力を宿した魔法の手甲『サンセット・フィスト』を手に入れた。
なんだか申し訳ない気がしたが。

「その代わり〜〜……
じゃーーん!! こんな事もあろうかと!
というか今更だけどルーフェちゃんの入隊祝いも兼ねて!
ブルーバード小隊のおそろいアクセ作ってきましたーー!!」

「わぁ!ありがとうございますカリンさん!」
「いや『こんな事もあろうかと』は絶対ウソでしょ…」
「あはははは。ルーフェちゃんの分を作った後、どうせだからみんなの分も作ろうかなって思って。
で、どうせなら全部そろってからババーンと発表しようと思ってたんだけど、最近は色々あったから遅くなっちゃって……」
「でも時間かけただけあって、すごくキレイで良い出来だよ!ありがとうカリンちゃん!」
水色、緑色、ピンク色。3色のクリスタルのペンダントが、水鳥、フウコ、ルーフェに手渡された。
それぞれ、鳥の頭、左右の翼を象ったかのようなデザインである。

「ふっふっふ〜。しかも、それだけじゃないんだ。これをこうして、こうすると……」
そしてそれらを、カリンが持つオレンジ色のペンダントと合わせると……

「あっ……すごい!鳥の形に……!」
「カリンのは、尾羽になってるのか。なるほどね〜」
4つのペンダントが、ブルーバード……部隊名の由来である幸運を呼ぶ伝説の青い鳥を形作った。
「ありがとうカリンちゃん!」
「私……大切にするね!」
「私も!」

「ふふふ……私もそっちの方がよかったなあ。……あなた達って本当、いいチームね」
(あの子は立派に独り立ちして、もう私の手助けも必要ない……って事なのかもね)
そんなブルーバード小隊の様子を、瑠奈とカナンは微笑ましく見守る。

トーメント王国…フウヤ達との最終決戦を明日に控え、最後の夜はこうして更けていった。

794名無しさん:2020/10/24(土) 14:19:35 ID:???
「クックック……油断したようじゃのう、小僧」
「くっ………この程度の傷、明日の決戦に支障はありませんよ」

一方その頃……リケット渓谷の奥深くにある、トーメント軍の前線基地にて。
フウヤ……フースーヤは、瑠奈たちとの戦いで受けた傷を治療していた。

瑠奈の拳……オレンジ色の光と共に放たれた一撃は、フースーヤの想定以上に強烈な威力だった。
リユニオンによって強化された戦闘服の防御の上から、肋骨数本をへし折るほどに。
(月瀬瑠奈……この世界に召喚されるまでは、ただの人間だったはずなのに。さすがは運命の戦士、と言った所か……)

「そんなザマでは、明日も足元をすくわれかねんのう。わらわが手を貸してやろうか?んん?」
「『黒衣の魔女』様の手を煩わせるまでもありませんよ。それに……貴女に貸しを作ると高くつきそうですし」

そんなフースーヤにニヤニヤしながら絡んでいるのは、
長い黒髪に、透き通るような色白な肌、真っ黒なナイトローブを羽織った妖艶な美女……
『黒衣の魔女』ことノワールである。

フースーヤと同じくルミナスの魔法少女とは深い因縁を持っている。
ルミナス侵攻で共闘して以来、なぜかノワールはフースーヤを気に入ったらしかった。

「クックック……そう遠慮するな。
……わらわの配下『混沌七邪将』を、何人か貸してやろう。こやつらを使って、本命以外の邪魔な脇役を排除するがよい」

「ヒッヒッヒ……邪海将ダゴン、およびとあらば即参上」
「わが名は邪龍将ファーヴニル。ノワール様の命により、うぬに力を貸そう」
「ワタシハ邪骸将デュラハン コンゴトモヨロシク(筆談)」
「邪剣将ダインスレイフ様がめんどくせーけど来てやったぜぇ」
「でもって、邪艶将(姉)アルケニーと……」
「邪艶将(妹)アルラウネちゃんですよ〜」

闇の中からノワールの配下の魔物達が現れた。
タコのような姿の魔物、龍人、首のない騎士、ひとりでに宙に浮かぶ巨大な剣、
そして少女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ魔物、植物の魔物。
いずれも並々ならぬ邪気を放ち、ただの魔物とは一線を画す実力を感じさせる。

「まあ、そういう事なら………って、一人足りなくないですか?」
フースーヤの言う通り、現れた魔物は六体。『七邪将』には一体足りない。

「ふむ。こやつらは、以前魔法少女どもに敗れて死んだ連中を、蘇らせてパワーアップしたもの。
その中の一匹は、どうやら死んでなかったようじゃな」
「いわゆる再生怪人みたいなやつですか。まあ6人でも十分…むしろ多すぎるくらいですし、構いませんが」
「マイコニドの奴、一体どこで道草を食っているのやら……」

ともあれ、手下を何人か借りる位なら問題ないだろう。
自分の配下の魔物達、ノワールの部下の六邪将達、戦場となるリネット渓谷の地形、敵の意外な実力、自分自身のダメージ……
様々な要素を再構築し、フースーヤは明日の作戦を練り直すのだった。

795名無しさん:2020/10/24(土) 20:34:16 ID:???
「ふう……これで術式は完了しました。あとは1時間ほどで、広域攻撃術が発動するはずです」
「お疲れ様です、七華様。」
「お疲れ!あとは俺らでやっとくから、七華はちょっと休んでな!」

ミツルギ軍本陣にて。
皇帝テンジョウ・ミツルギと討魔忍五人衆の一人である神楽木七華をはじめ、術を得意とする忍び達の手によって、
一か所に集めた魔物達をまとめて倒す、広域攻撃術「オロチ」の発動儀式がほぼ完成していた。
あとは予め用意してあった護符から自動的に魔力が注ぎ込まれ、放っておいても術は発動するはずだ。

「いえ、他の五人衆の皆様が戦場に出ているのに、私だけ休むわけには……」
「いいんだって!何せ今回、術の発動だけじゃなくて敵を集めるための偽情報にも大活躍してもら……
…いや、ゲフンゲフン。そ、その……と、とにかく今回は、前線に出なくていいから。
ここを突破したらトーメントでの決戦もあるんだし、休めるときに休んどけ!」

今回の作戦のもう一つの要…それは情報戦。
トーメントの魔物たちからリョナりたい人気になっている七華のニセの出現情報を
SNSなどに意図的に流すことで、敵を一か所に集中させていたのだ。
これによって敵をまとめて殲滅し、さらに同時進行で、攻撃部隊が敵大将を討ち取る手はずである。
だが七華本人には、敵を集めるニセ情報のネタにされていることは知らされていない。
どうせスマホを持っていないし、バレないだろう的思考である。

「は、はあ……そこまで仰るなら」
「………なーんか怪しいのう。小僧、わらわ達に何か隠してないか?」
「ちょ!…クロヒメ様、陛下に向かってそのような言葉遣いは……」
横に控えていたクロヒメが、テンジョウの不自然な様子をみて口をはさむ。
ともあれ戦況は今のところ順調、敵戦力のほとんどを「指定のポイント」に誘導できていた。
だが………ここで一つ、問題が生じる。

「報告します!第三十三小隊……ササメ様以下三名からの定時連絡がありません」
「何?どういう事だ。戦闘にでも巻き込まれたか、もしかして……
ササメ、ヤヨイ、ナデシコの小隊の行方が途絶えた。
最後の連絡以降、彼女たちがいた付近で大規模な戦闘が起きた様子はないにも関わらず、である。
「……最後の連絡があったのは……『例のポイント』の近くだな。まさか………」

指定ポイントには特殊な結界が張ってあり、不用意に侵入しようものなら、
脱出も、外部との連絡も不可能になってしまう。
『例のポイント』についての情報が外部に漏れることがないよう、
ミツルギ伝統の情報伝達法…狼煙で全軍に伝えてあったはずだ。

実はナデシコの煙幕花火でササメ達が一時的にはぐれていたり、狼煙を見逃していたり、
と現場では色々とあったのだが、その事をテンジョウたちが知る由はもちろんない。

テンジョウは最悪の状況を想定し、行方不明になったポイント周辺に援軍を向かわせようとする。
だがその時……

「敵襲!敵襲ーー!!」
「報告します!後方に敵軍勢が出現!!トーメントの魔物兵、およそ200体!!」
敵軍が後方から突然突然現れ、ミツルギ軍本陣がにわかに慌ただしくなった。

「何だと?…数は多くないが……っかしーな。奴らがそう簡単にここまで来れるはずないんだがな……
とりあえず全員静まれ!隊列を固め、防御陣形を展開!!五人衆の状況は!?」

浮足立つ味方を落ち着かせ、敵襲に冷静に対応するテンジョウ。
だが、この本陣にたどり着くまでには鳴子の結界やブービートラップ等が無数に張り巡らされていたはず。
誰にも気付かれずそれらを突破することは不可能なはずだ。

五人衆のうち、ラガールは前線で戦闘中。シンは故あって戦列を離れている。
コトネは本陣に戻っているが、部下のアキナイ三姉妹ともども負傷の治療中。
他にすぐに呼び戻せそうなのはザギくらいか。

「しゃーない。ここは俺が行くしかねーか」
「テンジョウ様、私も出ます!」
本陣を守っていた兵たちと共に、テンジョウ、七華、クロヒメが迎撃に出る事となった。

これに対し、トーメント軍を率いるのは……

796名無しさん:2020/10/24(土) 20:35:26 ID:???
「おっと。…意外と対応が早いな。完全に裏をかいたつもりだったんだけど」

王下十輝星「プロキオン」のシアナ。
以前ミツルギに潜入した際、コトネやアキナイ三姉妹と戦ったり、ササメをリョナったり、
ラガールに追い掛け回されたりした事もあったので、シアナ達についての情報はミツルギ側もある程度掴んでいる。

「十輝星……話に聞いてはいましたが、本当にあんな子供が?」
「ま、14歳のガキンチョが皇帝やってる国もあるしのう」
「そーいうこった。情報によれば、奴の能力は……穴を開けること。」
「穴、ですか…?」
……そう。
生命体以外のあらゆる空間や物質に、自在に穴を開ける能力。空間に開けた穴を抜けて、瞬間移動する事も可能だ。
今回のように、遠く離れた敵陣に魔物の軍勢を送り込む事だってできる。

「確かに怖ろしい能力ですが……ここで退くわけにはいきません。行きますよ、クロヒメ様!!」
「七華、お前は「オロチ」の発動儀式で魔力を使いすぎてる…無理はするなよ!」
「心配するな。七華にはわらわがついておる。総大将は後ろでドンと構えとれ!!」

神罰刀『桜花』を抜き放ち、戦場へと駆ける七華。
その横には、同じく両手の仕込み刀を煌めかせながら走る、クロヒメの姿があった。
元々クロヒメは七華が作り出した傀儡であったが、とあるアイテムにより人間の身体へと変化したことで
七華が操らずとも以心伝心で完璧な連携を繰り出すことが可能となった。

「うぉおおお!!まさかこんな所で七華たんと会えるなんてーー!!」
「じゃああの出現情報ガセだったって事か!?」
「奇襲部隊に回されたときはクソガキ死ねって思ったけど超ラッキーだぜー!!」
「結婚してくださーーい!!」
「「はぁぁぁあぁぁああああっ!!」」
(ザクッ!!ザシュッ!!ズバッ!!ザンッ!!)
「「「「っギャワーーーーーーー!!」」」」
討魔五人衆となっても自らの立場に驕ることなく日々精進を続け、剣の腕も達人級。
欲望で動くだけの魔物兵など、物の数ではない。
七華とクロヒメは並みいる魔物兵をバッサバッサと切り伏せ、敵の隊長であるシアナの元へ辿り着いた。

「はぁっ……はぁっ……ここまでです。貴方たちの奇襲は失敗しました……!!」
「そういう事じゃ。ガキはうちに帰って寝ておれ!」
「神楽木七華……さすがは、討魔五人衆の一人、って所かな。
それにあれだけの可愛い系お姉さん、ときたら魔物兵たちに人気なのも頷ける。
……でも、どうして貴女が今ここに?
確か、もっと前線の方で、目撃情報が多数寄せられてたと思うんですが」

「?……何の話ですか?」

「………なるほどね。いや、わからないなら良いんです。
ウチの部下どもときたら、僕の命令もロクに聞かず、その場所にみんな集まっちゃってるものだから……
それに貴女たち二人を同時に相手するのは大変そうだし」
七華の反応を見て、だいたいの状況を察したシアナ。

つまり七華の目撃情報はガセで、あの場所に敵を集める必要があった、と言う事だろう。
と言う事は、あそこには罠……または、自軍を一網打尽にしてしまうような、
とんでもない仕掛けがしてある可能性が高い。

「そういうわけで……手っ取り早く、分断させてもらいますよ」
「だから、一体何を……」
「!!……七華、下じゃ!!」
「えっ!?」

シアナが手をかざすと、七華の足元にぽっかりと大きな穴が開いた。
クロヒメが助けに入る隙もなく、七華は空間に突然開いた穴に、一瞬にして落とされた。

797名無しさん:2020/10/24(土) 20:38:50 ID:???
「貴様っ!!七華をどこへやったっ!!」
「どこって……SNSに出ていた情報通りの場所、ですよ。
あそこに何を仕掛けていたかは知りませんが……
今あそこには、トーメントの軍勢がひしめいている。
仲間の命が惜しかったら、その仕掛けを解除する事を勧めます」

落とし穴は瞬時に閉じたが、七華の行方はわかった。
あの場所に仕掛けてあるのは無数の罠、脱出不可能の結界。
そして……1時間後に発動する、広域攻撃術「オロチ」。
伝説の邪竜の名を冠するだけあって、広範囲に凄まじい爆炎を巻き起こす、禁呪並みに危険な術だ。
これが発動すれば、いくら討魔五人衆と言えどもひとたまりもないだろう。
だがもし今、あの場所に封じ込められた魔物達を解き放ったら、
ミツルギ軍は数で圧倒的不利となり、戦況を一気にひっくり返されてしまいかねない。

「そ、それは………!!」
「ふん。悪いがそれは出来んな。そしてシアナとか言ったか。
お前も色々厄介そうだからな。タダでここからは帰さん」
「!!小僧……総大将は控えておれと言ったはずじゃ!!こやつは、わらわが………」
逡巡するクロヒメ。その横に現れたのは……ミツルギ軍総大将である、皇帝テンジョウだった。

「オロチの発動まで1時間。……お前はこんな奴の相手してる時間はないだろう?
こいつは俺が相手しといてやるよ」
「!!………すまん」
クロヒメはテンジョウの意図を察すると、シアナの前から離脱し、一目散に七華の元へと向かう。

「さーて。久々の運動だからな……うまく手加減できるかわかんねーぜ!」
「大将首を直接取れるなんて、願ってもない。
それにしてもお前……僕の知ってる奴に雰囲気がそっくりだな」

ミツルギの皇帝と、王下十輝星。果たして両者の対決の行方は。
そして………危険区域に送り込まれた七華と、救出に向かったクロヒメの運命や、如何に。

798名無しさん:2020/10/25(日) 21:46:11 ID:???
「……きゃああああああっ!!」
シアナの空間転送落とし穴に落とされた七華は、見知らぬ場所の空中に放り出され、そのままお尻で着地した。
幸い、日ごろ和菓子作り&試食で鍛えたお尻回りのむっちりした脂肪のおかげで、大したケガはしていない。

「……何か、誰かにすごく失礼な事を言われたような……
それにしても、一体ここは……アレイ草原のどこかでしょうか」

一見普通の草原の風景が広がっているが、周囲に味方の姿はなく、魔物兵の気配が無数にひしめいている。
更に、よくよく見るとそこかしこに、ミツルギ伝統のブービートラップ。強力な結界も張られている。
今回の作戦で敵を一網打尽にすべく用意された、危険領域の中である事はすぐにわかった。

「だとしたら……この一帯はもうすぐ『オロチ』の術が発動するはず。
早く脱出しなければ……自分で仕掛けた術に自分でかかるなんて、冗談にもなりません」
……岩陰に身を潜め、周囲の様子をうかがう。
術の発動までおよそ1時間。その前に、魔物に見つからないよう、
トラップに引っ掛からないようにしながら、結界の外に出なければならないのだが。

「いたぞーーー!!あっちだ!!」
「なに!?巫女さんいたのか!?」
「いや違う!雪女ちゃんとJK忍者ちゃんだ!!」
「ウオオオオオそれでも全然アリだ!!取り囲めぇえええええ!!」

……突然、周囲の魔物達がざわつき始め、七華の潜んでいた岩陰とは別の方向に、一斉に走り出した。

「!?………て、てっきり見つかったのかと思いましたが……
雪女と、じぇーけー……?まさか、ササメさん達もここに……!?」

他の仲間がここに居るのなら、放っておくわけにはいかない。
七華は岩陰から飛び出し、魔物達の後を追おうとするが……

(………シュッ!!)
「!?」
突然、背後から手裏剣が飛んできた。
すんでの所で回避した七華だが、長い黒髪が数本斬り落とされ、はらはらと地面に落ちる。
相手はかなりの手練れらしく、全く殺気を感じなかった。
……もう少し気付くのが遅れていたら、危なかったかもしれない。

「ふふふふふ……初めまして、神楽木七華ちゃん。
アナタとは一度、会って話してみたかったの……アタシと同じ『人形使い』として、ね」

…手裏剣が飛んできた方角の樹上に、人影があった。
ギラついた光を放つ黄金色の目、ぼさぼさの黒髪。
やせた体に真っ白い装束を身にまとった、まるで幽霊か何かを思わせる、異様な風体の女忍び。

「あ……貴女は、何者ですか!?」
……だが、ミツルギ討魔忍衆の中に、あのような者がいるとは聞いたこともない。
思い当たるとすれば……

「まさか……抜け忍…?」
「ふふふ……そういう事。ミツルギじゃ『呪詛のサシガネ』って呼ばれてたけど…
元暗部だから、五人衆のアナタでも、知らないかもねえ」

【呪詛のサシガネ】
元ミツルギ討魔忍衆暗殺部隊所属の女忍び。人形を使った呪殺術を得意とする。
人を呪い、苦しめて殺す事を無上の喜びとしており、ミツルギの組織改編の折に討魔忍衆を抜け、トーメント王国へと身を投じた。

799名無しさん:2020/10/25(日) 21:47:24 ID:???
「呪詛のサシガネ……名前は知りませんでしたが、噂を聞いたことがありました。
……暗殺部隊に、呪術を得意とする、恐ろしい忍びがいると……」

………大戦の前に、皇帝テンジョウはアゲハをはじめ望まぬ意思で暗部に入れられた者達を対魔物部隊へと異動させた。
だが「呪詛」の二つ名が示す通り、彼女の呪術は人を呪い殺す事に特化しており、
また本人もそれを無上の喜びとしていた。
暗殺部隊の存続が危うくなったことを感じ取った彼女が「抜け忍」となり、
トーメント王国へと身を投じたのは、ある意味自然な成り行きと言える。

「アナタがアタシを知らなくても……アタシはアナタに、ずっと興味があったの。
だって、アナタも……『人形使い』なんでしょう?」
「貴女も…そんな事を言うのですね。
……クロヒメ様は、人形などではありません!!」

クロヒメは七華が自身が作った傀儡であるが、七華は自身の手を介して神の意志が込められた御神体であると信じていた。
そのため、クロヒメを『人形』呼ばわりされることを、七華は激しく嫌っていた。
そして……紆余曲折を経た後、クロヒメが人間の身体を手に入れた今は……
まるで実の姉妹のように心を通わせ合っている今は、なおのこと許せるはずがない。

「ふん……ま、いいわ。そのクロヒメちゃんとかいう『人形』も、今はいないようだし。
アナタを呪いで徹底的に苦しめて、アタシが最強の人形使いだってことを証明してあげる」

「呪い……どんな術か知りませんが、使わせなければいいだけの事。
討魔忍五人衆が一人、神通の七華の力…見せて差し上げます!!」
「……使わせなければ、ねぇ。でも七華ちゃん、アナタは既にアタシの術中にハマってるのよぉ……?」

七華は神罰刀・桜花を構えなおし、樹上の敵を見据える。
対するサシガネは、余裕の笑みを浮かべ……七華のすぐ脇の地面へと視線を向けた。

「?……それはどういう意味……って、ええっ!?」
「……もぐ……もぐ……もぐ」
「あ、あなたは……一体いつの間に!?」
そこにいたのは……サシガネと同じ白い装束を着た、小柄な少女。年齢は七華の半分くらいだろうか。
その少女は……先の手裏剣によって斬り落とされた七華の髪を拾い集め、むしゃむしゃと咀嚼していた。

「ごっ………くん」
「そ、それは私の髪……そ、そんなもの食べたらお腹壊しますよ!?」
(全く気配を感じなかった……一体この子は……!!)

「クックック……アタシの人形に、間抜けなご心配どうも。……でも壊れるのは、アナタの方よ?」
「………いたいの……すき、ですか……?」
「え……?……な、何を……」

七華の呼びかけに反応を示さず、虚ろな瞳の少女は、懐から大きな釘を取り出す。
襟元から一瞬覗いた少女の身体は極めて華奢で、あばら骨が浮き出るほどにやせ細っていた。

………ドスッ!!!
「!?……っぐ、っ……!!?」

少女は五寸釘……ちょっとした短刀程の長さの大釘を、そのまま自分のお腹に突き刺す。
すると、七華のお腹、刺されたのと同じ場所に、激痛が走った!

「っく……こ、れは……一体、何が………!?」
「クックック……その子はアタシの可愛い藁人形、ワラビちゃん。
敵の体の一部……髪の毛なんかを体内に取り込むと、自分が受けた痛みを相手に送り込むことができるの」

「………いたい、ですか?」
ずぶっ……ぐりっ!
「い、っぎ……っああぁぁぁぁぁぁあーーーっっっ!!?」
ワラビが、自分の腹に刺した釘を掴み、力を込めて捩じる。七華のお腹にも、更なる激痛が走る。
……鉄串で内臓を滅茶苦茶にかき回されるような異常な痛みに襲われ、七華たまらず膝をついた。

800名無しさん:2020/10/25(日) 21:49:41 ID:???
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「もっと……いたく、します?」
…ザクッ!!
ワラビは新たな釘を取り出し、自分の左足に突き刺す。

「…あうっ!!」
立ち上がろうとしていた七華の太股に鋭い痛みが走り、再び崩れ落ちてしまう。
刀を杖代わりにしながら、それでもよろよろと立ち上がる七華だが……

ドスッ!!
「うっぐ!!」
ワラビは三本目の肩を右肩に突き刺す。
七華は激痛に刀を手放しそうになるが、体ごと刀に縋りつき、辛うじて己の身体を支えた。

「くっくっく……アタシの呪殺術『ウシノコク』の味はいかがかしら?七華ちゃん」
「はぁっ……はぁっ……確かに、恐ろしい術……ですが、これしきの事で、私は……!!」
(まずい……防御も回避もできないなんて………このままじゃ、やられる……!!)

「本当なら、このままどっかに行方をくらませて、安全な場所からジックリタップリ
嬲り殺しにするのがアタシ必勝パターン、なんだけど……」

……そう。ここでサシガネとワラビに逃げに徹されたら、七華にもはや打つ手はない。
にも関わらず、サシガネは樹の上から飛び降り、ワラビと七華の前まで余裕綽々に歩み寄ってきた。

「っ……一体、どういうつもり……?」
「でもその前に…七華ちゃん、さっき言ってたじゃない。
見せてくれるんでしょ?討魔忍五人衆のチカラ、ってやつ」

サシガネは右手に柄の長い木槌、左手に長剣サイズの大きな釘を持ち、薄笑いを浮かべながら七華を見下ろす。

「!………」
「クスクスクス………それでぇ?いつ、どこで見せてくれるの?
ヒィヒィ言いながらお尻突き出しちゃって、立ってるのがやっとのブザマなカッコで、どうやってぇ?
それとも……七華ちゃんは、お気に入りの『お人形さん』がいないと、なんにもできないのかしらぁ?」

「!………馬鹿に、しないで……たとえクロヒメ様がいなくとも、貴女のような方に、負けはしません!」
「くっくっく……そう来なくちゃ♪」
気力を振り絞って剣を構え、サシガネに斬りかかる七華。対するサシガネは……
七華の方を見る事もせず、傍らにいたワラビに向けて木槌を振り下ろし………

「………これも、いたい、ですか……?」
ドゴッ!!ブシュッ!!
「…っぐあっ!?」

右足の甲に、4本目の釘を打ち付ける。
七華の右足が、地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、
振るった刀の切っ先は、サシガネに届くことなく空を切った。

「5本目は、空いてる左腕にしようかしらねぇ……それにしても、拍子抜けだわ。
あの最強の忍、討魔忍五人衆を名乗ってる位だから、どれほどのものかと思ったら
こんな子供のお遊び程度の呪術に手も足も出ないようなクソ雑魚だなんて。
……これは、ミツルギを見限って正解だったかしら」

「うっぐ…………ううっ……!」
強力な呪術の前に手も足も出ず、一方的に嬲り者にされる七華。
クロヒメを人形呼ばわりされ、その人形が居なければ何もできないと揶揄され、討魔忍五人衆の名さえ貶められる。
そうまでされても何もできない自分のふがいなさに、自然と涙がこみ上げた。

ガコン!!ドスッ!!
「んっ………ぐ!!」
(ここで、倒れるわけにはいかない……こんな所で……負けたく、ない…!!)
ワラビの左腕に、五寸釘が撃ち込まれていく。
それと同等の、骨まで達する地獄の痛みが、七華の左腕を貫く。

ゴスッ!! ドスッ!!
「……っ………!!」
(この両手では、手裏剣は投げられない…刀で、それも…身体ごとぶつかっていくしかない)

「クスクス……せっかくだから、他の所にもダメ押ししましょ」
「……ぜんぶ、いたくします……」
「……………………!!」
(もう一歩……せめてもう一歩だけでも、踏み込めれば……!)

それでも愛刀を手放さないよう、戦意を、意識を失わないよう、必死に気を張り、
あるかどうかもわからない反撃の糸口を求め、七華はただ必死に思考を巡らせた。

801名無しさん:2020/10/28(水) 23:08:06 ID:???
「ここをこうして、こうやって、っと……じゃ、いくわよワラビちゃん。せーの………」

サシガネは「藁人形」ワラビを木の前に立たせ、あれこれと指示を出す。
ワラビが言われるがままにポーズを取ると、サシガネは木槌を大きく振りかぶって………叩きつけた。

ガンッ!!……ガンッ!!……
「……………………。」
「…っぐ…………うっ………!」

…ガンッ!!…ガンッ!!…ガンッ!!…
「ふぅ、疲れた………でも頑張っただけあって、なかなか上手くできたわねぇ。クスクスクス………」
左足を高く掲げ、それを両腕で抱え込む、いわゆる「I字バランス」を取るワラビ。
その左足と両手を、背後の木に大きな釘で打ち付けて固定している。

そして一方、七華はというと……

「ふぅっ………ふぅっ………」
「クックックック……黒巫女七華ちゃんのくそエロ無防備なI字バランス、一丁上がり〜♪」
藁人形の呪いによって、ワラビと同じ体勢を取らされていた。
しかも、釘で打ち付けられた激痛も、そのまま七華の体に送り込まれてくる。
せめてもの抵抗か、歯を食いしばって羞恥と悲鳴を必死にこらえる七華の姿に、女呪術師サシガネは満足げな笑みを浮かべた。

「クックック……無様な格好ね、な・な・か・ちゃん♥」
「………っ………!」
身動きの取れない七華にサシガネが迫り、吐息がかかるほどの距離にまで密着する。
胸や股間を骨ばった指が無遠慮に撫でまわし、七華の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

「私を……辱めるつもりですか」
両手足は固定されて動かせず、かろうじて指が動かせる程度。
頼みの神罰刀も、あっさり取り上げられ、遠くに投げ捨てられてしまった。

「それも素敵よねえ……こんなに可愛い七華ちゃんを、好き放題に出来るなんて、
トーメントの魔物どもが聞いたらヨダレ物でしょうね。でも、その前に……」

サシガネは手にした木槌を、七華の脇腹めがけて思い切り振りぬく。
ブオンッ!……ドスッ!!
「っあぐ!!」
「藁人形だけじゃなくて、直接この手で……徹底的にいたぶってあげるわ」

ゴスッ!! ドガッ!! ……ズボッ!!
「ぐごっ………っぐ!………っがっ!!」
生けるサンドバッグと化した七華の全身を、サシガネが木槌で乱打する。
呪術で釘を打たれた所もそうでない所も、思い切り、何度も何度も。
そして、トドメとばかりに………

ドゴンッ!!
「…っぐああああぁぁぁぁああああ!!!」
I字に上げていた脚のど真ん中……股間に、思い切り木槌を撃ち込まれ、七華はとうとう抑えていた悲鳴を上げた。

「クックック……大きな声出したら、魔物どもに気づかれちゃうわよ?
ったく、五人衆とかいってチヤホヤされてたクセにだらしないわねぇ……ウチのワラビちゃんを見習ったらどう?」
「………………。」
七華の視線の先には、I字バランスの体勢で、木にくぎを打ち付けられて固定されているワラビの姿がある。

「……一体何者ですか、あの子は……明らかに『藁人形』ではなく……人間ではないですか。
痛みを感じないって、一体どうして……」
そう…最初に彼女を見た時から、ずっと疑問だった。
サシガネから「藁人形」と呼ばれてはいたが、ワラビの身体は藁ではなく、どうみても人間そのもの。
釘を刺された個所からは、血だって出ている。
なのにワラビは、全身に釘を刺されても悲鳴どころか痛がる素振り一つない。
痛みに耐える訓練を積んだとしても、手足を釘で貫かれて何の反応も示さないのは、どう考えても異常だ。

「ああ、あれ?……そう難しい話じゃないわ。
特殊なお薬で脳をジャブジャブ洗ってあげれば、『痛み』なんて認識できなくなるわ。
記憶も人格もぶっ壊れちゃうから、自分じゃゼッタイやりたくないけどね」

「なっ…………あんな幼い子供に、どうしてそんな酷い事を……!」
「酷い事?……あの子は人間といっても、貧民街で拾った奴隷。
何の役にも立たないゴミを、アタシが人形として使って役立たせてあげるのよ?
これってすっごくエコじゃない?」

「……許せません……貴女だけは、絶対に……!!」
「ふふふふ……そんな大股開きでニラんだって、ちっとも怖くないわよ。
まだまだタ〜ップリいたぶってあげるから、せいぜい可愛い鳴き声利かせてちょうだい♥」

奴隷の価値は人間未満、ゴミ同然…ひと昔前のミツルギなら、比較的ありふれた価値観だったのかも知れない。
……だが七華には、到底受け入れられるものではなかった。
瞳の奥に、怒りの炎が静かに灯る。だが、絶体絶命の窮地に立たされた七華に、反撃の機会は巡ってくるか……

802名無しさん:2020/11/08(日) 14:30:31 ID:???
「ふひひひ……巫女さんは見つからないけど、雪女ちゃんにJK忍者ちゃんがいるとはラッキーだぜ!」
「雪女ちゃんのおっぱい、ひんやりして気持ちよさそう……まさにリアル雪見大福だな!」
「討魔忍の装束って、露出度高いか、全身ぴっちり覆ってるけど体のライン出てるか、どっちにしろエロくて最高だよな!」
「フィーヒヒヒヒ…JKの太もも……直接かぶりついて吸血しまくりてぇ…!!」

「あーーーもう!!なんでこんなに敵がいるのよ!!最悪ーー!!」

ヤヨイ、ナデシコ、ササメの三人は、無数の魔物たちに囲まれていた。

ここは『ポイントA』…本来は敵軍をおびき寄せるためのエリアであった。
討魔忍五人衆の中でも最かわと名高い神楽木七華がこのあたりにいる、という偽情報もネット上がばらまかれており、
その上で無数の罠が仕掛けられ、脱出不能の結界が張られている。

何の間違いか運命のいたずらか、三人はそんな敵軍の真っただ中に迷い込んでしまっていた。

「落ち着いて、二人とも!ここは…一気に突破しましょう!」
「はい!」「よーし、ヤヨイ!あれで行くよ!!」
年長のササメがヤヨイ達を先導し、敵の一匹に狙いを定める。
駆けだす三人の行く手には、角を生やした巨人、アカオニの姿があった。

「グヒヒヒヒッ……メスガキどもが。たかが三匹、この俺様がヒィヒィ言わせてやるぜぇ!!」

3m近い巨体に赤銅色の肌の赤鬼が、筋骨隆々の全身をふるわせ、襲い掛かる。
そして、巨大な金砕棒を振り上げた瞬間……

「…はっ!!」
「ぐぬっ!?」
ササメが冷気を放ち、鬼の足元に冷気を凍らせた。
そして鬼がバランスを崩したところへ……

「連携技・打ち上げヤヨイ!」
「からのー!!秘伝忍技・落鳳破!!」
「ぐおおおおおおおっ!!!」

ナデシコがバレーのレシーブの体勢で、ヤヨイの踏み台となる。
ヤヨイはナデシコの力を借りて赤鬼の頭の高さまで跳躍し、そのまま鬼の頭を脚で挟み込み、地面に叩きつけた。
秘伝忍技・落鳳破…ミツルギ流体術の高等技とされる、プロレスでいうフランケンシュタイナーに近い投げ技である。
赤鬼は近くにいた魔物数体を巻き添えに倒れ、後頭部を打って昏倒した。

「今のうちです!!」
「なっ!鬼が倒されただと!?」
「追うぞ、逃がすな!!」

魔物の包囲網に綻びが生まれ、三人は脱兎のごとく走り包囲網を突破する。

「でもってこれは、オマケだよ!!」
追ってくる魔物兵達に、ナデシコが煙玉を投げつける。

「ケッ!!そんな煙に惑わされるか!俺たちから逃げられると……」
煙幕の量はさほど多くなく、魔物達の足元が見えなくなる程度。
しかし……

ぷち カチッ ガコン!
「ん?……」「今何か」「踏んだよう、なっ!?」

ドゴォォオオオオンッ!!
ガラガラガラガラ!!
ドスドスドスドスドス!!
「「「グワーーーーーーッッ!!!」」」

……付近一帯に無数に仕掛けられた、トラップを見えなくさせるには十分だった。
地雷、落石、弓矢などの罠が次々に発動し、追ってくる魔物達を蹴散らしていく。
全滅させるには至らないが、これで時間は十分に稼げるはずだ。

「なんとか逃げられましたね……でも確か、この辺のエリアは出られないように結界が張ってあるんですよね?」
「追手が来る前に、結界から抜け出す方法を考えないと!」
「とりあえず、あそこの林に身を隠しましょう!」
草原を抜け、三人は高い木の茂る林に身を隠す。
三人は、はたして無事に魔の領域から抜け出すことができるのか…

803名無しさん:2020/11/08(日) 14:32:13 ID:???
「はぁ……はぁ……ここなら、少しは安全ですね」
「と、とりあえず……休憩しましょう。朝から戦いっぱなしで、もうクタクタ…」
「アタシも……それにさっきの煙幕で、火薬使いきっちゃった」
「そうですね……私ももう、魔力が……」

林の中に身を隠し、束の間の休憩を取る三人。
だがそこに、音もなく忍び寄る影があった。

「それにしてもトーメントの奴ら、どいつもこいつもスケベ過ぎだわ…
アタシやササメ先輩の胸ばっかガン見してくるし。…その点、ヤヨイっちはうらやましいわ」
「うぐぐ……確かに大きいと色々大変そうだけど、なんか負けた気がする……」
「いやほんとマジで。煽りぬきで」
「ま、まあまあ…ヤヨイちゃんは成長期なんだし、まだまだこれからですよ!
それに、アゲハさんやコトネさんみたいに(身長が)小さくても強い忍びはたくさん……」
(…………?……この気配は………!)

「ササメさん?……どうしたんですか?」
「…………。」
「……!?」「……!!」
ササメは不意に怪しい気配を感じ、唇の前で人差し指を立ててヤヨイとナデシコに沈黙を促す。
二人もすぐに状況を察し、茂みに隠れて周囲の気配を探り始めた。
すると……

ぞわわわわっ…!!
ギュルルルルルルルッ!!

「きゃぁっ!?」
「なっ……何これ、植物が!?」

周囲の草花、そして地中から、無数の蔦が伸びてヤヨイとナデシコの体に巻き付いていく!

「これは…魔物!?……いや、この術は……まさか……!!」
ササメは四方八方から襲い掛かる蔦をかわし、氷刀で切り払う。

「…………。」
「………しゅるるるる…」

そして、林の奥から現れた襲撃者の姿に、ササメは我が目を疑った。

白い髪に赤い瞳、うさぎのような長い耳。
一人はすらりと伸びた長い足の、長身の美女。もう一人は、10代前半くらいの幼い少女。
二人の事を、ササメは知っていた。…見間違うはずもない。

「ゼリカさん、ミゲルちゃん……そんな、一体どうして……!?」

サリカの樹海に住み、魔の山に眠る神器を守護する「ヴィラの一族」。
生まれて間もなく雪人の城から捨てられたササメは、彼女たちの一族に拾われた。
幼少の頃、ササメはヴィラの隠れ里で彼女たちと一緒に、実の姉妹同然に育てられたのだ。

「………じゅるっ……」
「しゅるる……」
「なっ……なんとか、言ってください…!
テンジョウ様から、ヴィラの里がトーメントに滅ぼされたと聞いて、私……」

そう。死んだはずの親友たちとの、感動の再会……であるとは思えない。
現に奇襲を仕掛けてきた二人は、ササメに何の反応も示さない。
そして何より異様なのは……二人の肩に乗っている、オレンジ色のカボチャ。

「クキキキキ……何かと思ったら……」
「俺たちの『ノリモノ』の、『元』知り合い、かぁ?……キキキッ!」

【パンプキン・ビースト+】
人や獣、魔物にカボチャの実に似た植物が帰省した魔物。
宿主自体の能力に加え、イバラのような棘蔓を武器として使う。
実は背中に寄生した植物が本体であり、これを破壊しない限り倒すことは出来ない。
規制する対象は人や獣、魔物と幅広く、死体も操ることができる。
多くの生命に寄生したことで知恵を付け、残忍さや狡猾さがさらに増した。

804名無しさん:2020/11/13(金) 01:43:35 ID:???
「あっ………あなたたちは…!?」

「クキキキ……我々は、偉大な王にたてついたこのメスどもを殺し、ヴィラの里を滅ぼした功績によって」
「我らが王から、更なる知恵と魔力を授かり……そしてこのメスどもを『乗り物』として賜ったのだ」

ゼリカとミゼルの肩の上の不気味なカボチャが、言葉を話し出した。

「しゅる、るるる……」
「うじゅ……るるる……」
ゼリカとミゼルは何も言わず、虚ろな表情のまま……
カボチャ達が言うように、彼女たちは、既に死体になっていた。

「!!……殺して……乗り物、ですって…!?」
「その通り……メスの人間や亜人は、我々にとって様々な使い方がある。
生きていれば食料にも苗床になり、死体もこうして、乗り物や……」

「……武器にもなる」
ゼリカとミゼルの死体を操り、パンプキン・ビーストたちが襲いかかった。

「……許せないっ…!!」
魔物達への怒りに身を震わせ、両手に氷の魔力を込めるササメ。
だがこれまでの戦いで魔力が底をつきかけていて、氷の刀を生成するのが、ほんのわずかに遅れる。

「たああああぁっ!!」
ガキンッ!! ビシッ!! ガキィィンッ!!

刀の強度、切れ味も、普段よりわずかに鈍っている。
何より、冷静さを失っていた事で、剣技が普段より、ほんのわずかに……直線的に、単純になっていた。
いずれも、本人も気が付かないほどの、ほんのわずか。
だが……えてして極限の戦いにおいては、そのほんのわずかの差が勝敗を大きく左右する。

「カボチャさえ壊せば……なっ…!?」
「そして、こうして盾にもなるわけだ……ククククッ」

ミゼルに取りついたパンプキンを叩き切ろうとした瞬間、ゼリカが横から割って入った。
例え死体だとわかっていても、長年姉のように慕ってきたミゼルと目が合った瞬間、ササメの動きは止まってしまい……

(違う……惑わされちゃ駄目……だって二人は、もう…)
メキッ!!
「あぐっ!!」
代わりにゼリカからの一撃、彼女が生前愛用していた『神樹棍』の突きをみぞおちに喰らってしまう。

「ヒヒヒヒヒッ……オタノシミは、これからだ」
(し、まっ……)
体勢を整える間もなく、ゼリカの……パンプキン・ビーストの追撃がササメを襲う。

ビシッ!!バシッ!!
「あ、う……!?」
下段に構えた棍を左右に振るい、ササメの左右の踝の内側を打つ。
脚を開かされ、バランスを崩したササメが、その場に崩れ落ちそうになった所へ……

……ドスッッ!!
「…っんぐあああああっ!!」

……そのまま真上に、ゼリカは棍を振り上げる!!


「クックックック……討魔忍だろうと雪人だろうと、同じことだ。
ここに一発ブち込めば、ノリモノは皆大人しくなる」
「っぐ、あ……が………はっ……!」
必殺の一撃を急所に打ち込まれ、ササメはビクンビクンと全身を痙攣させながら崩れ落ちた。

805名無しさん:2020/11/13(金) 01:44:39 ID:???
…ぐりっ!!
「んあぅっ…!!」

悶絶寸前のササメの股間を、パンプキンビーストは追い打ちとばかりにグリグリと踏みにじる。
みぞおちに喰らった一撃のダメージが深く、手足に力が入らないササメ。
ゼリカの脚を払いのけることができず、回復するまでいいように嬲られ続けてしまう。

「クックック……これほどの上物だ。使う前に傷をつけたくはないが……
まずはノリモノとしての態度を、わからせてやらんとな」

パンプキン・ゴーストの本体から、鋭いイバラのような枝が何本も伸びる。
それらが鞭のようにしなり、ひゅんひゅんと風を切り、そして………

ビュッ!!ビシビシビシッ!!ズバッ!!
「それって…まさか、っきゃああああっ!!」
一斉に振り下ろされた。

「クックック……お察しの通り。
このノリモノも、死体にしてはなかなか気に入ってたが……
そろそろ乗り換え時だからなぁ!!」

ベキッ!!パキィィンッ!!ビシッ!!ザシュッ!!ドガッ!!
「っぐ!うああああっ!!んっぐ、あああああああ!!」
氷の刀は砕かれ、白い忍び装束は引き裂かれ、血の赤で染め上げられていく……

パンプキンが乗り移ったゼリカ達の力は、ササメの予想を遥かに超えていた。
…普通の人間は、全力で運動している時でも、無意識のうちに力をセーブしていると言われている。
そうしなければ、体そのものが、自分自身の力に耐えきれず破壊されてしまうからだ。
だがパンプキン達にとって、人間は単なるノリモノ。死体とあらばなおさらの事
ゼリカ達が壊れようとお構いなしに、乱雑に扱い……結果、常人を遥かに上回る力を発揮していた。

「クックック……これでわかっただろう、我々に逆らっても無駄だと。
さあ、お前を新たなノリモノにしてやろう」

パンプキン・ビーストの蔦がササメに巻き付き、全身を拘束する。
そして、目の前に触手が突きつけられる…その先端には、パンプキン・ビーストの種子が不気味に脈打っていた。

「いいえ……私は、貴方たちの思い通りにはならない…!」

悪魔の子種があわやササメの口にねじ込まれようかという、その時……
ササメの目が見開かれ、右手の指先が素早く動き……何かが飛んだ。

ギュルルルルルッ!!
「馬鹿め。全身を蔦に縛られ、手も足も出ないくせに今更何……っが!?」

それは、分銅のついた鎖鉄球。死角からパンプキン・ビーストの本体に巻き付いて、捉える!

「はぁっ……はぁっ……右手の感覚が回復するまでに、時間がかかりましたが……
私は指一本でも動かせれば、鎖を自在に操る事ができる。油断しきった貴方を捉えるぐらい、造作もない」

「バ、カナ……信じ、られん……そん、な、事が……ッギアアアアアッッッ!!」
ササメが指を軽く弾くと、巻き付いた鎖が万力のような力で締め付けられ……
パンプキン・ビーストの本体は、粉々に砕け散った。

「やったーー!さすが、ササメ先輩!」
「指だけで、鎖をあんな風に操るなんて…すっごいです!」

「いいえ……私の技なんて、まだまだあの人には…七華さんには、遠く及びません」

岩をも砕き、鋼をも撃ちぬく威力を秘めた、ササメの『砕氷星鎖』。
それを指先一つで精密に操る術は……師匠である神楽木七華の下で身につけたものである。

「そ、それよりヤヨイちゃん、ナデシコちゃん。もう一人の敵は……」
「んーっ……!!」
「えっ…んぐむっ!?」

ミゼルと、それに取りついたもう一体のパンプキンビーストはどうなったのか。
状況を確かめる前に、ヤヨイとナデシコが駆け寄ってきて……
有無を言わさず、唇を奪われた。

「んっ。…ちゅぷっ………ふふっ。だけど、こうして……」
「口移しで種を植え付けられたら、どうしようもないよねぇ…‥?」
「ん、むぐ……ぷはっ!!…まさ、か……二人とも…!?」

806名無しさん:2020/11/13(金) 23:11:55 ID:???
前後からナデシコとヤヨイに挟まれ、身動きが取れないササメ。
三人のすぐ脇には、動かなくなったミゼルの死体が転がっていた。
パンプキン・ビーストの姿は、既にそこになく……

「ヒヒヒヒ……久々に、新鮮なノリモノが手に入ったよ」
ヤヨイの肩の上に乗り、トゲだらけの蔦を絡まみつかせている。

「乗り心地も実にイイ……同胞が一体潰されたようだけど
新しいノリモノが三体手に入ったから結果オーライだねぇ……ククク」
そして、もう一体……新たに増殖した、小ぶりなパンプキンビーストがナデシコの胸の上に鎮座していた。

(……そんなっ!!二人とも、体を乗っ取られて……!?)
「ん、ぐむ……う、えっ……!」
ナデシコの口からササメの咥内に、苦くてエグくてカビ臭い、謎の粘液を注ぎ込まれた。。
恐らくこれは、パンプキンビーストの種……
もし呑み込んで、体内で発芽してしまったら、自分まで魔物の支配下に堕ちてしまう。
(そうなる前に、何とかして二人を助けないと……!!)

「う、げ……はぁっ…はぁっ…」
ササメは口に含んでいるだけでも軽い吐き気を催してしまい、思わず白く濁った液体を吐き出した。
唾液混じりの粘液が胸の谷間の窪みに溜まり、小さな三角の池を作る。

「ふふふ……ダメだよ?ちゃんと呑み込まないと。逆らったらこのノリモノがどうなるか…………」
「うっ……っぐ、ササメ、先輩……にげ、て…」
「…私の、か…た……を…っ、ああっ……!!」
(ナデシコちゃん、ヤヨイちゃん……!)

ほんの一瞬、ナデシコとヤヨイの意識が解放され、苦悶の表情を浮かべる。
逃げろ、とササメに訴えかけるが……

「どうすればいいか…わかるよね?…セ・ン・パ・イ♪」
「…っ……………!!」

……二人を見捨てる選択など、出来るはずもない。
一度は吐き出され、胸元に溜まっていた白濁汁を、ササメは舌で舐めとり、意を決して呑み込んだ。

「んっ……く………はぁっ………はぁっ………」
(なんとか、隙を見つけないと……)

「ふふふ……ちゃんと飲んだね、えらいえらい。
じゃあ、僕らの種が芽吹くまで、そのまま大人しくしていてもらおうか。
またあの鎖で反撃されないように、ちゃ〜んと押さえとかないと」

パンプキンビーストに支配された二人が、ササメの手を取り、指の一本一本をしっかりと絡み合わせる。

二人とも年下の後輩とは言え、正面にいるナデシコの体格は、ササメとそう変わらない。
お互いに吐息がかかり、押され合った胸が撓むほどの至近距離。
背後のヤヨイは、空いている方の手をさりげなくササメの胸や太ももに這わせて、微妙な感覚を送り込んでくる。
武器を隠し持っていないか調べるためか、それとも単に、魔物の邪悪な欲望に従っているのか……

操られた二人の表情は、どこか妖艶な雰囲気をまとっていて、
同性ながらもドキドキしてしまいそうな体勢である。……こんな状況でなければ、だが。

こうしてササメはしばらくの間、後輩の少女二人に手を握られながら、
じっくりとじらすように全身を撫で廻され、敏感な場所を舌で転がされたり、甘噛みされたり……

「………ん、っ………!!……」
「……ヒヒヒ……」
「クックック……雪人のノリモノは、今までにも何回か乗り潰した事があるけど、
メスはみんな脆弱で、長持ちしなかったんだよね……」
「…!!………」
「こんな見事な身体と美貌を好き勝手にできるなんて、
これから生まれてくる同胞が羨ましいよ。クックック……」

浴びせられる心無い賛美の言葉に、こみ上げる怒りを抑えながら、ササメはひたすら耐え忍ぶしかなかった。

807名無しさん:2020/11/13(金) 23:13:40 ID:???
「さ〜て……そろそろ、種が完全に根付いた頃合か……気分はどうだい、同胞よ」
「…は……は、い……、……とても、すがすがしい気分です…」

(……大丈夫……まだ、意識を保てている。仲間になったふりをして、チャンスを……)
ササメは「ある方法」で、呑み込んだ種が発芽するのを遅らせていた。

人質を取られ、武器を奪われ、複数の敵に至近距離で監視されている今は、
何としてでも敵を欺き、隙を見つけなければならない。
「魔物に乗っ取られた演技」が当の魔物相手にどこまで通じるかわからないが、とにかくやってみるしかない。

「クックック……それは良かった。
ノリモノの乗り心地はさぞ快適だろうけど……よかったら、『顔』を見せてもらえるかな?」
「……はい、わかりました…。」
(よし……安心してるみたい。あとは、片手だけでも自由になれば……)

ササメは全身をだらりと弛緩させ、虚ろな表情を浮かべた。
敵が乗り移ったナデシコとヤヨイに身を預け、あえて無防備な格好を晒す。
『砕氷星鎖』は敵に奪われていたが、代わりの武器なら、灯台下暗し……
ほんの少し手を伸ばせば、ヤヨイの腰に差した刀に届く。

「………なんて、ね。
なかなかの熱演だったけど、その程度じゃ僕たちを騙すことは出来ないねぇ」
「……っ!!」
「雪人の力で呑み込んだ種を凍らせて、発芽を遅らせていたのか……
いくら演技しようと、胸のあたりの体温がこんなに冷たいんじゃ、丸わかりだよ。クククク」
「く、……!!」
パンプキンビースト達がササメの身体を弄っていたのは、ただの趣味だけではなかったらしい。
ササメは拘束から逃れようと抵抗するが、二人がかりで押さえつけられてしまう。

「ノリモノのくせに小賢しい真似を」
……ドゴッ!!
「っぐほっ!!」
ナデシコの拳が、下腹に突き刺さる。
呑み込んだ種を思わず吐き出してしまうほどの、強烈な一撃。

「おっと、やりすぎたかな……まあいいか。種は後でまた飲ませるとして」
「その前に。このノリモノに新たな同胞を発芽させるには…」
「雪人の力が使えなくなるまで、徹底的に嬲って弱らせるか」
「勿体ないけど、殺した方が手っ取り早くいかもねぇ。
死体になっても、ノリモノとしては使えるんだし……」

「げほっ……が、は………」
(もう、ダメ……ごめんなさい、ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん…あなた達を、助けられなくて……)

お腹を抑えてうずくまるササメ。
ヤヨイが腰の刀を抜き、大きく振り上げる。

そして……

「やーれやれ。やっと抜いてくれたわね。一時はどうなるかと思ったけど」
ヤヨイの着ていた忍者装束が、草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「なっ!?俺の制御が効かな……貴様、一体何者、っごぁっ!!」
「簡単な話よ。あんたがヤヨイの意識を乗っ取った所に、更に上書きしてアタシが乗っ取った」
その身に纏った風の魔力は刃となり、ヤヨイの肩に乗っていたカボチャの魔物を一瞬にして細切れにした。

「あ、貴女は……あの時の、風の精霊さん」
「お久しぶり、ササメ先輩。
ヤヨイがまたまたお世話になってるみたいね……あとは私に、」

「き、貴様ぁああああっ!!」
「『エアカットアウト』!
 任せといて!!……っていうか、もう終わったけど!」
「ウギ、アアアアアア!!」
ナデシコの胸に乗っていたカボチャも、瞬く間に切り刻まれた。

ヤヨイの持つ精霊刀・ミカズチに宿った「風の精霊」は、
その名の通り疾風のように現れ、絶体絶命の状況を一瞬にして覆したのだった。

808名無しさん:2020/11/21(土) 19:34:48 ID:???
「す、すみませんでしたササメ先輩!!」
「私たちのせいで、大変な目に……!!」
「い、いえ。気にしないで……それより二人とも無事でよかったです」

意識を取り戻したヤヨイとナデシコが、地に頭を擦り付けんばかりに平謝りする。
そんな二人をなだめるササメだったが……

(それにしても、危なかったです……
ナデシコさんなんて、私より4〜5歳は年下のはずなのに、グイグイ来られて危うく流されてしまう所で…
って、いやいやいや!!あれはあくまで、魔物のせいだから!!
二人とも普段はとってもいい子ですし …いやでも、最近の女子高生は進んでるって聞きますが……)
先ほど唇を奪われたナデシコとは、ちょっと二人と目を合わせづらくなっていた。

(さ、ササメ先輩とべろちゅーしてしまった……唇とかおっぱいとかめっちゃ柔らかかった……お、おかわりしてえ……
っていやいやいや!!私何考えてんの!?……っていうか、魔物に乗っ取られてたんだし、これはノーカン!ノーカンで良いよね!?)
ナデシコも割と気にしていた。
二人とも、カボチャの体液の成分が残っているためか、思考がいけない方向に傾いているようだ。

(ヤヨイの身体は、私が乗り移った時に解毒魔法かけといたけど…二人にも掛けといた方が良いかも)
「そうなの?でも、そのためにもう一回変身するのも疲れるし……そうだ。解毒剤、持ってきてたかな?」

「ササメ先輩、さっき腹パンしちゃったところ痛くないですか?本当にごめんなさい…私、肩貸しますね」
「い、いえ一人で歩けますから……あ、痛っ………」
「あ、ほら。気を付けてください……もっと、こっちに来て…」
「ちょっ……そんな、顔、近……」

そんなわけで、ナデシコとササメは危うく流されそうになっていた。

「あのー。お二人さん? ええと……」
(……やっぱまとめて解毒魔法しとく?)

この後二人とも、めちゃめちゃのたうち回った。


「うあああああああ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「わわわわわ私も申し訳ありませんでしたすいませんすいませんすいません!!」

「いや、二人とも一旦落ち着いて……敵に見つかっちゃうし」
「いやマジで、何やっとるんじゃお主らは。そんな事より七華を見なかったか?」
「うわあビックリした!?…って、あなたは確か……七華さんの、ええと。お付きの人の、クロマメさん?」

いつの間にか、ヤヨイの隣に人が増えていた。
結界内に強制転移された七華を探しに来た、クロヒメである。

「まさか、七華様までこのエリアに飛ばされてたなんて……」
「まずいですよ!もし魔物達に見つかったら、あれだけの数、いくら七華様でも……!!」
「っていうか、さっき私達を追ってきてた奴ら、ぜんぜん近づいてくる気配ないけど……まさか……」

「既に『本命』を見つけた可能性がある、か……。それなら、魔物の群れを探せば、見つかる可能性は高いな。
…よし。お主らは本陣に戻っておれ。『オロチ』の発動まで時間がない。それに、その様子じゃ戦う余力はあるまい。
この護符を持っておれば、結界から出られるはずじゃ」

「え!?……クロヒメさんは、どうするんですか?」
「七華の事は、任せておけ。
わらわが…付喪神・血贄ノ黒姫が、この身に代えても必ず助け出す」

クロヒメは仕込み刀を抜き放つと、魔物の気配の集まっている方角に一目散に駆け出した。

809名無しさん:2020/12/05(土) 17:18:38 ID:???
…ドスッ!!
「うっ、ぐ………!」
ゴキンッ!!
「いぎ、っぅ…!!!」

I字バランスを保ったまま、巨大な木槌で滅多打ちにされる七華。
全身いたるところが赤黒くはれ上がり、骨も何本か折れている。

「くっくっくっく……なかなか頑張るわねぇ。もっとキャンキャン泣きわめくかと思ったのに」
呪術によって、ワラビと同じ体勢を保つことを強いられているため、
どんなに打たれても、折れた片足で立ち続けなければならない。

「ね〜ぇ、七華ちゃん……アタシ、あなたのことが欲しくなっちゃった。
『サシガネ様は私なんかより万倍強くて美しい、ミツルギ最強の人形使いです。
クソ雑魚ダメ巫女の神楽木七華は、今後一生サシガネ様に忠誠を誓います』
って宣言してくれたら〜、アタシの『お人形』にして、可愛がってあげる。どう?」

「はぁっ………はぁっ……げほっ……何を、言い出すかと思えば……くだらない。
貴方のような人に、人形を扱う資格も、討魔忍を名乗る資格もありません。
従うなんて、絶対にありえな」
……ズドッ!!
「ひぎあうっ!?」

無防備な七華の股間に、木槌の一撃を叩きこむサシガネ。
二発目の痛撃に、断末魔にも似た悲鳴を上げる七華。

「……言ってくれてもいーじゃない?本当の事なんだからぁ〜。
ほらほら、りぴーとあふたーみー?
『私はサシガネ様に完全敗北した、おっぱいだけが取り柄のクソ雑魚です』」

「私は………貴方なんかに、絶対負けな」(ごちゅっ!!)
「っぐあぅ!!」

『五人衆どころか、なんで忍びになれたかわからない、ミジンコ以下の虫けらです』

「私は『神通の七華』……今日まで厳しい鍛錬を重ね、皇帝陛下に認められた討魔忍五人衆の一人。
その矜持だけは、絶対に曲げな」(どぼっ!!)
「んああああんっ!!」

「ったく、口だけは一人前ねぇ。アタシの『ウシノコク』呪術で指一本動かせないくせに」

「はぁっ……はぁっ…………あいにくですが、指一本くらいなら、動かせます」

「プっw だから何?
……ていうか七華ちゃんて、もしかしてドM?あそこボコボコに叩かれて、感じちゃうタイプ?
もうめんどくさいから、トドメにまんこに釘ぶっこんで、終わりにしてあげる。
トーメントに帰ったら蘇生して、お薬ジャブジャブ洗脳コース直行よん♪」

鋭い釘が、七華の股間にあてがわれる。
そこをめがけて、サシガネが木槌を思い切り振りかぶった、その時……

「指一本さえ動かせれば……こういう事も、出来るんです」
ドカッ!!
「んがっ!?」

高々と上がった七華の脚が弧を描いて動き、油断していたサシガネを蹴り飛ばした!

「そんなっ!?どうして……!!」
「……!?……サシガネ様………」

サシガネは何が起こったかわからず、周囲を見回し……七華の動きを封じていた『人形』の異変にようやく気づいた。
ワラビの手足を拘束していたはずの釘が、いつの間にか抜き取られている!

「極細の糸で小型の人形を操り、ワラビさんの釘を抜かせて頂きました……
時間はかかりましたが、貴方がまんまと挑発に乗ってくれたおかげで上手くいきました。
そしてワラビさんの、痛みを感じない体質…これは少々賭けでしたが、釘を抜かれた事に気付かなかったようですね」

「なななな、なによそれ!?指一本で、そんな常識はずれな事が……」
「これでも討魔忍五人衆の端くれ。少々私を侮りすぎましたね…
…これで終わりです!!」

五寸釘を拾い上げ、とどめを刺しに行く七華。
予想外の状況に動転し、立ち上がれないサシガネ。
勝負は決したかと思われた、その時………

「………させない」
「……!!……あなたは」
「ワラビ……!」

藁人形の少女ワラビが、二人の間に立ちふさがった。

810名無しさん:2020/12/05(土) 18:31:41 ID:???
「ワラビさん……退いてください。貴女を傷つけるつもりは……」
短刀代わりの釘を構える七華だが、ワラビに立ちふさがれて動けずにいた。

「だめ……サシガネ様、いなくなる……わたし……帰る所、ない」
「な………!!」

ワラビは元々、ミツルギのスラム街で拾われた、何の力もない奴隷の少女。
術を使うサシガネがいなくなれば……たった一人で生きていく術はない。

「っ………ぎゃーーっはっはっはははは!!
そうよねー!七華ちゃんは、ワラビを斬れないわよねえ?
コイツを攻撃したら、同じダメージが七華ちゃんにも返ってくるんだもんねえ!?」
「あ、貴方はっ…!!」

動きを止めた七華を見て、サシガネが狂ったように笑いだす。
そして、たまたま近くに落ちていた、七華の刀を拾い上げ……

「やっぱり…このアタシこそが最強だったって事ね♪」
(ずぶり………)

ワラビを背中から刺し貫いた。

「あ………え……?」
「っぐ……!?」
状況が呑み込めず、戸惑うワラビ。
そして、七華の背中からお腹にも……刃が通り抜ける感触とともに、耐えがたい激痛が走る。

「大体アンタが釘抜かれたときに気づいてれば、アタシが蹴られずに済んだのよ……
こんな役立たず、もういらないわ。……ふんっ!!」

ずぶっ!!
ブシュッ!!
「そん、な……サシガネ、さま……まっ、て……」
「あ、貴方は一体、どこまで……っぐぅ!!」

サシガネが、刀を勢いよく引き抜く。
血しぶきが吹き上がり、ワラビがばったりと倒れた。
痛みを感じないとはいえ、さすがに致命傷は免れないだろう。

「つーか、いい加減コイツにも飽きてきたし、そろそろ捨てるつもりだったのよね。
代わりに、新しい人形……七華ちゃんが手に入るってわけ」
「……ふざけ、ないで……そん、な、こと…させない…!!」

「イキっても無駄無駄。どーせその傷じゃ、助かりっこないわ。
つまり七華ちゃんも死亡確定ってこと。
七華ちゃんだけは、トーメント王に蘇生してもらうけど♪」

「その後はお楽しみの、脳みそジャブジャブ洗脳コース。
でもって壊れるまでアタシの人形になってもらうから……
七華ちゃんが理性保ってられるのも、残りせいぜい1分くらいかしらね。
それに……」

「えっ………」

「次のお客さんが、もうそこまで来てるわ♪」


「おい見ろ!!あんなところに巫女さんが!!」
「やっときたー!!ほんとにいたんだナマナナカ様!!」
「オイオイ既に虫の息でヤられる準備万端じゃねえか!流石のサービス精神だぜー!」
「ふひひひ……横に転がってる幼女も幸薄そうで良い感じだぜ……合間合間につまみてえ……」
「なんかヤバそうな雰囲気のお姉さんもいるけど……」

七華を探していた魔物の軍勢が、ぞくぞくと集まってきていた。

「あらあら、大人気ねぇ。巻き添えにされる前に、アタシはとっとと退散させてもらうわ。
……あ、結界から出る『護符』だけ頂いていくわね」
「ぜぇっ………ぜぇっ………ま、まちなさ……ぐはっ!!」

全身にまとわりつく激痛に抗いながら、サシガネの足に縋りつこうとする七華。
だがワラビがビクリと大きく痙攣すると同時に、七華は大量の血を吐き出しその場に崩れ落ちた。

「最期の自由時間……魔物ちゃんたちに、たっぷり遊んでもらいなさい。じゃあね〜♪」

魔物達の咆哮が、地響きのような足音が、討ち捨てられた巫女と人形の残骸を今まさに呑み込もうとしていた。

811名無しさん:2020/12/19(土) 14:09:46 ID:???
体中から、血が、抜けていく………
頭がぼーっとして、眠くなってきた。
目の前がゆっくり、暗くなっていく……。

サシガネ様に「いらない」って言われた時から……体中が、熱くて、冷たくて、うまく動かせない……
これが、痛い、っていう感覚なのかな……?

「しっかりして……ワラビさん……」「まずい、このままじゃ本当に……」「今、回復魔法を………」
ななか、さん………サシガネ様の、敵……
私も、この人の、敵………の、はずなのに………

どうして、私を助けようとするの…?
私が死んだら、自分も死んじゃうから…?

どうして………
どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの………?

……。

(どんどん生気が失われていく……私の回復魔法だけじゃとても……でも、どうすれば……!)

ワラビの受けた傷、特に最後の刀傷は内臓にまで達していた。
必死に治療を試みる七華だが、それでも僅かな延命措置にしかならない。
そして……今二人は、それすらもままならない状況に陥っていた。

「ヒャッハハハハハハハァーー!!まずはそっちの死にかけのガキからいただきだぜぇー!!」
「あ……危ないっ!!」

【カマイタチ】
両腕に鋭い刃のような爪を持つ、獣人型の魔物。
その動きは風のように素早く、肉眼で捉える事すら困難。

……ザシュッ!!

「んぐぅ!!」
カマイタチの斬撃からワラビをかばった七華は、背中をざっくりと切り裂かれた。

「おっとー?
せっかく邪魔なゴミを先に片づけてやろうってのによ!オラアッ!!」

ズバッ!! 

「っく!!……いいえ……この子は、ゴミなんかじゃない。
あなた達なんかに、やらせはしません!…たあっ!」

ガキインンッ!!
「グエッ!?」

気合い一閃、手にした刀でカマイタチの胴を両断する七華。
その手は呪術による激痛がいまだ残っていて、本来ならまともに剣を握れる状態ではない。
さらにサシガネに木槌で滅多打ちにされ、物理的にも満身創痍。

「し、心配しないで……貴女の事は、この身に代えても……キュアライト!!」

それでも七華は身を挺してワラビをかばい、回復魔法をかけ続ける…

「……どう、して……?私は、敵……
それに、私のきず、なおしても、じぶんが、きずついたら……」

「敵だとか、私への呪いだとか……そんな事関係ありません。
……放っておけるはずが、ないじゃないですか………
好き放題に利用されて、飽きたらゴミの様に捨てられるなんて。
いくらなんでもあんまりじゃないですか……!!」
「ななか、さん………」

「ゲヒヒヒヒ!いいねソソルね嬲りがいがあるねえぇ!」
「さーっっすが、神に仕える巫女さんは心がお優しいタコ!」
「かわいそうなのはぬけるでゴワス」
「極上の尻子玉が取れそうだケ!」
「「「イックゼェェェ!!!」」」

「………!!……」

そんな二人を魔物の群れが取り囲み、我先にと襲い掛かる!!

……だが。

「………また、厄介なことになっておるの。少し目を離すとすぐこれじゃ」

長い黒髪、神々しくも妖艶な雰囲気をまとった巫女姿の美女が現れ、魔物達の前に立ちふさがった。

812名無しさん:2020/12/19(土) 16:23:49 ID:???
「あ…あなたは……?」
「……クロヒメ様……!!」
「まったく…何があった、七華。普段のお主なら、こんな連中どうとでもなるじゃろうに」

「ああー!?クソがぁ!またこのタイミングで乱入かよぉぉお!!」
「いやまて、今度の乱入は……美人のお姉様でゴワス!!」
「と言う事は、あのお姉さんも倒してワンチャン三人まとめて年越し祭りの可能性タコ!」
「いや絶対そういう流れじゃないと思うケど」

「……まあ時間もないし、詳しい話はあとじゃ。久々に『アレ』で蹴散らすぞ!」
「は、はいっ!……ワラビさん、もう少しだけ、我慢してくださいね……」

「「…『神火の天照』!!」」

「「「グアアアアアアァァアッッッ!!」」」

人形を人間に、人間を人形に変える魔法の『クリスマスリボン』で、クロヒメは本来の人形の姿へと変わった。
さらに最大奥義『神火の天照』で巨大な龍へと変形し、群がる敵を次々と焼き払っていく!


「間もなく『オロチ』とかいう攻撃術も発動する頃じゃ…このまま結界から脱出するぞ!」

火龍の姿に変わったクロヒメが、七華とワラビを背に乗せて結界の外壁目指して飛ぶ。
一旦は敵を振り切った一行だが、ここで更なる問題が発生した。

「…ところで七華。結界を出る護符は持っておるか?
実はかくかくしかじかで、わらわの分はササメ達に渡してしまってな……」

「そ、それなんですが……実はかくかくしかじかで、サシガネと言う女忍びに奪われてしまって」
「なっ!?なんじゃとぉ!?」

……このままでは、結界から出られない。
そして『オロチ』が発動してしまったら…周辺一帯焦土と化すほどの強力な術。
魔物だろうが討魔忍だろうが、助かる術はないだろう。

「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「!……ちょっと待ってください。ワラビさんが…」
「…その娘……もう、長くはもたなそうじゃな」

一方。七華の治療もむなしく、ワラビの生命力も限界を迎えようとしていた。

「この子は……敵に利用されていたんです。そして、用済みと判断されて…」
「なるほど。わらわのような人形ならともかく、人のみではこの傷は致命傷じゃろうな。
かわいそうじゃが、こうなっては最早……
…いや、待てよ。人形なら………もしかしたら」

クロヒメはクリスマスリボンを取り出し、ワラビの体に巻き付ける。

「荒療治になるが、許せよ」
「え………あ、………っ……!!……」

すると……ワラビの身体が淡い光に包まれ、人形の姿へと変わっていく。
細身の体、ガラス玉のような瞳、球体関節。
刀傷を受けた個所には大きな亀裂が入っていたが、修復不可能な傷ではなさそうだ。

「よし……あとは修復してから人間に戻せばよいじゃろう」
「あ……ありがとうございます。
……私一人では、この子を助けられなかった。敵の忍…サシガネにも、いいようにやられてしまって……
やっぱり、私……クロヒメ様がいないと駄目ですね」

「……七華、『不還の入滅』の準備じゃ。異空間に入って、治療しながら『オロチ』をやり過ごす」
「え………は、はい。『厨子』がないので、上手くいくかはわかりませんが……」
七華はワラビを抱きかかえると、『不還の入滅』……異空間に身を潜め、自身と人形のダメージを修復する秘術を発動する。
普段は、クロヒメが収めてある巨大な厨子を術の媒介に使用するが、それがない今は……

「そうじゃな。今の状態では、3人分が収まるだけの空間を作り出すのは難しい。
それに厨子がなければ、外部からの干渉に極めて弱くなる。
魔物が入り込みでもしたら、空間自体が維持できぬじゃろう。従って……」

七華の術で、異空間の入り口が出現する。そしてクロヒメは、その術の調整を行う。

「異空間は、七華とそっちの娘、2人分で良い。
魔物どもから空間を守るため、『外』にも一人は必要じゃ」

「!…待ってください、クロヒメ様。それでは……!!」
発動した術を取り消すことは出来ず、異空間の入り口はあっという間に七華とワラビを呑み込んだ。

バチバチバチバチッ……!!

「クロヒメ様がいないと駄目、か……そんな事は無いぞ。
わらわはお主が居なくとも……いや。わらわは、ずっとお主の中に居る。
だから大丈夫じゃ、七華。お主は討魔忍として立派に戦っていける……」

「ヒャッハーー!!見つけたぜ、エロ黒着物お姉さん!!」
「あれ、巫女さんとロリはどこでゴワス?臭いはするでゴワスがなぁ……」
「いい加減辛抱溜まらんケ!尻子玉引っこ抜いてやるケ!!」
「上と下の口がトッロトロになるまでえちえちしてやるタコ!」


「懲りぬ奴らじゃ………よかろう。
付喪神・血贄ノ黒姫末期の舞。
主ら下衆に振る舞うにはもったいない馳走じゃ……存分に味わえ!!

813>>784から:2020/12/25(金) 00:41:05 ID:???
「まったく、エリスちゃんもレイナちゃんも薄情よね、アリスちゃんがこんなに頑張ってるのに」

ナルビアのオメガ・ネットにて。アリスの改造を続けているミシェルがそう呟いた。
既に目当てのメサイアのデータは獲得済だ。あとは戦争のゴタゴタに紛れてメサイアを操れるようになれば、目的は完済だ。
一区切りついたのもあって、改造に集中していたのだが……エリスとレイナはやはり踏ん切りが付いていないようだ。

「むしろ私の本性を知ってて飛びついた貴女に考えが無さすぎるのかもね?」

「ぁ、うあ……」

アリスの顔に触れながらそう聞くも、流石に数多の改造+ヒーリングスライム姦は堪えたのか、アリスの反応は薄い。

「まぁいいわ、実験体……じゃない、被験者データと、盗んだメサイアのデータがあれば後の改造は比較的すぐ済むし、そっちも緒戦が終わってからで……あら?」

アリスの体のあちこちに繋げられた管に繋がっているコンピューターが、脳波の異常を検知した。
記憶を司る部分に僅かな曇りがある。
放置しても問題ない異常だが、攻撃材料を見つけたミシェルは嬉々としてアリスに語りかける。

「まぁ大変!アリスちゃんの脳に異常があるわ!!これは緊急手術が必要ね」

「ぅ、うぅ……?」

「ねぇ、身に覚えがない?記憶の混濁や喪失があるはずなんだけど」

記憶の喪失と聞いて、アリスの目が見開かれる。そう、あの時……リンネを追って赴いた先の月華庭園での記憶が一部ない。スピカやミイラ男と戦って負傷し、リンネと接触していたリゲルが自分を気絶させた所までは覚えている。その後、一瞬目を覚まして何かを見た覚えはあるのだが、肝心の内容が思い出せない。

「あるみたいね。それじゃあ早速手術開始よ!被検体の異常は取り除いておかないと本番で困るからね!」

嬉々として機械を操作し、頭部に電極を貼り付けるミシェル。

「あ、唯一弄ってない脳もグチャグチャになっちゃうけど、構わないわやね?」

「……ぅ、え?や、やめ……」

聞き捨てならない言葉が聞こえ、反応の鈍くなった頭でも必死に否定の意思を紡ごうとするが……もう遅い。

「脳ミソじゃぶじゃぶ洗うのはアンタらの得意分野だし、大丈夫よね?じゃ、スイッチ・オン!!」

アリスを覆う管の2つが、シュルリと彼女の体を離れ、耳元に近寄っていく。
そして、何の前置きもなしに、拘束され息も絶え絶えの少女の耳孔に潜り込んで行った。


……直後にアリスを襲う、脳を直接犯されているかのような激しい苦痛。

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!! ぎっ、ぎぁぁああぁぁぁあぁぁっっ!!」

今まで声を出さないようにしていたアリスも、脳を掻き回されては悲鳴を抑えることができない。

「あた、ま、わ゛れっ……!ぁあぁああああ!!」

ビクンビクンとストレッチャーの上で激しく跳ね、骨が軋むほど背を反らせるアリス。
脳の異常と記憶の混濁は気になるが、明らかに強化手術とは関係のない痛みに、気丈な心も折れていく。

さらには、アリスの痛みを感知したヒーリングスライムが異常を治そうと体に入ってきた。

「ふきゅうううん!??」

脳を揺さぶられ、体内をスライムに蹂躪され、もはやどこを犯されているのかも分からないアリスは、ただただ声をあげてその波を受け入れるしかなかった。

(こ、れ、も……ヒルダ、さんとリンネさん、の、ため……リン、ネさん……リンネさん……!)

苦しむ想い人の姿を思い浮かべ、必死に正気を失わないように耐えるアリス。この科学者の遊びにさえ耐えれば、強くなれる。リンネを守れる。そう健気に信じるアリス。
だが……不幸にもというべきか、この脳リョナの本来の目的が果たされてしまう。

余りの刺激に、脳が忘れていた光景を思い出してしまう。

(あ……)

それは、リンネがナルビアを見限り……敵の女であるリゲルのサキと、キスしている光景……

「あ、あああ、ああぁあ……!」

痛みではなく絶望に慄く。
リンネはとっくにこの国を見限っていた。自分の痛みは無駄だった。彼が助けを望んだのは自国のアリスではなく、敵国の少女だった。

「あああああああああぁあああ!!!!」

最後の一線が千切れた。軍人としての高潔な魂が溶けていく。残ったのは男を取られた少女としての感情と、最早なんの為に受けているのかも分からない強化手術の痛みだけ。


「リ、ゲ、ルゥウウウウ!!!」


理不尽と分かっていても抑えられない八つ当たり染みた激情……憎しみ。
アリスが憎しみに支配された瞬間……彼女の強化手術は終了し、刹羅が産まれた。

814名無しさん:2020/12/28(月) 00:37:12 ID:???
「嘆くな七華……わらわは本来、現世に生を受けるはずではない身。何の因果か生身の体を手に入れ、お前たちと過ごした日々……短い間だったが、楽しかったぞ」

オロチから七華とワラビを守るため、自らが外に残ったクロヒメ。舞うような美しい動きで魔物兵を蹴散らしつつ、聞こえていないと知りながら七華に語りかける。

「しかし、願わくば……平和な世を手に入れたら、もう一度わらわの依代を作ってくれ。今以上に立派になったお主の姿を、わらわに見せてくれ」

そうして、オロチが発動し……全てを飲み込んでいった。

◇ ◇ ◇

テンジョウとシアナの戦いは膠着していた。シアナは黒い穴を大量に開けてテンジョウの視界を遮って魔眼を避けつつ攻撃し、テンジョウは忍者としての身体能力でシアナの攻撃を避けつつ魔眼に収めようとする。

互いに殺傷力の高い武器、しかも相手が野郎同士だから楽しむ為の手加減がなかった結果、逆に互いが決め手の欠ける状況だった。

そこに、広域攻撃術オロチの激しい閃光が2人の所にも届く。

「おーおー、ようやく発動したな、うちの切り札が」

「ちっ、あんな隠し玉があったのか……!」

前線の魔物兵は壊滅状態。すぐに大将首を取れれば相手にも打撃を与えられるが、それも難しい。
トーメント側本陣にいる大将……ロゼッタへの道が開かれてしまった。
こんな所で一騎打ちしている場合ではない。軍を再編しなければならない。

「仕方ない、ここは退く……だが、前線の雑魚を倒したからって、お前らじゃこっちの軍団長を倒せない」

ロゼッタは十輝星の中でもヨハン、アイベルトと並ぶ強者。メンタル面の不調も逆に容赦のなさに拍車をかけている。討魔忍程度、束になっても敵わないだろう。

「ああ、そうかもな……そもそもうちの『お姉ちゃん』は、倒そうなんて思ってない。救おうとしてるんだ」

「救う?」

その言葉を聞いて、唯の顔が浮かび……何故か一瞬、アイナの笑顔もチラついた。

「ふん、どいつもこいつも……甘いことばかり言う」

「いいじゃねーの、人生甘口で行こうぜ」

「興味ないな。精々ロゼッタに嬲られてろ。軍団を再編したら、すぐにお前らを蹂躪する」

そう言ってシアナは、現れた時と同じように、空間に開けた穴に入ってどこかへ消えていった。

「さて……露払いは済ませた。あとは頼むぜ、アリサお姉ちゃん」

815名無しさん:2021/01/02(土) 01:53:53 ID:???
「やぁサキくん、久しぶりだね」

サキと舞はナルビアへの行軍の途中、スネグアの呼び出しを受けた。呼び方がいつの間にか『リゲル殿』から『サキくん』とより舐め腐ったものになっていることに気づき、サキは眉をひそめる。

「……何の用よ?」

「やれやれ、嫌われたものだ」

ぶっきらぼうに返すサキにわざとらしく肩をすくめるスネグア。

「アンタがユキを言いくるめて、教授に改造させたんでしょ……!」

「君を守りたいという健気なユキちゃんの願いを叶えてやったというのに、その言い草はないんじゃないか?」

「このっ……!」

「サキ様」

激昂しかけたサキを、横から舞が控えめに制する。それで幾分落ち着いたのか、サキはぶっきらぼうにもう一度聞いた。

「で?何の用よ?」

「なに、私は十輝星人しては新米だからね」

わざとはぐらかすような言い回しをしてサキをイライラさせた後、ようやく本題に移るスネグア。

「運命の戦士や異世界人というものに興味があってね。君の副官を貸してくれないかな?」

「っ……!そんなこと、させるわけがないでしょ……!」

舞はナルビアに囚われ、司教アイリスに囚われ、何度も洗脳されてきた。そんな彼女をスネグアのような信用できない人間の元に預けるなど、できるはずがない。
異世界人に興味があるとは言っているが、それも本当か分かったものではない。

「無論タダでとは言わない。君が彼女を貸している間、君にユキちゃんを預けよう」

「なっ!?」

「感動の再会でも脱走の相談でもするといい。戦争のどさくさ紛れに逃げるつもりだったろうが、今のままでそれが不可能なのは分かっているだろう?」

「そ、れは……!」

逡巡するサキ。天秤に掛けるとなるとやはり舞より妹の方が重い。とはいえ、みすみす罠にかかりに行けと言えるほど舞を大事にしていないわけがなかった。

「サキ様、私は構いません」

迷っているサキを見た舞は、自分から進んで前に出た。

「舞っ!ダメよ、そんな……!」

「私はどうなっても構いません。貴女がユキちゃんと逃げることができれば、それでいいんです」

「舞……どうして、そこまで……私に……」

今までは、踏み込む勇気が足りなくて聞けなかった(断じて書き手が考えてなかったわけではない)事を、絞り出すように聞くサキ。
舞は「失礼」と前置いてサキの耳元に口を寄せると、スネグアに聞こえないように囁いた。

「向こうの世界では私も、貴女と同じ母子家庭でした。母と私、2人だけで生きてきました」

異世界人でありながら舞が帰ろうとしない理由。それは恩人であるサキを思ってのことであるが……それだけではない。

「ある日、母が再婚して……義父も悪い人間ではないのですが、どうしても打ち解けられなくて……やがて、家に居場所がなくなりました」

遠くを想いを馳せるような切なげな声。

「私には何もない。母と義父も、私がいない方がいいでしょう。無事の便りくらいはそのうち送りたいですが……」

そこで言葉を区切ると耳元から顔を離して、サキの顔を正面から見つめる。

「私には貴女しかいないんです。貴女を守るためなら何だってできます。だから、やらせてください」

「舞……」

そうしてしばらく見つめ合っていた2人だが、白々しい拍手の音が邪魔をする。

「いやはや、全く素晴らしい主従愛じゃないか、泣かせてくれる」

「スネグア……!」

パチ、パチ、パチと拍手をするスネグアを、射殺すような視線で射抜くサキ。そんな視線を気にした様子もなく、スネグアは続ける。

「悪いが時間がないのでね、話が決まったのなら、サキくんはさっさと出ていってくれないか?」

「サキ様、私は大丈夫です。私はスネグアの好みからは外れているでしょうから」

そう微笑みかける舞。心配は止まないが、ここまで尽くしてくれる彼女の為にも、今は脱走計画を少しでも練らなければならないと、サキも腹を決めた。

「舞……くれぐれも気を付けて」

「はい、もう二度と敵に洗脳され、貴女の足を引っ張ることはしません。私は……貴女だけの騎士です」

昔見た演劇の記憶を頼りに、舞はサキの前に跪くと、その手の甲にキスをした。それは、アイリスに無理矢理されたキスや、彼女に洗脳されてレイナとしたキスと比べて、とても無機質だったが……今までで一番、舞の心を熱くさせた。

816名無しさん:2021/01/02(土) 16:32:08 ID:???
巨大な火柱が天高く立ち上り、東の空が赤く染まる。
その光を背に受けながら、アリサとアルフレッドは早馬を走らせ、敵軍の懐深くにまで至っていた。

「見えてきましたわ。あれがトーメントの築いた国境の砦……」
「ええ。あそこから先はトーメント王国領。
そしてあの中にいるのは、トーメント王国軍の総大将」

「王下十輝星『カペラ』……ロゼッタ、さん。
アルフレッドがかつて仕えていたラウリート家の、最後の生き残り。…ですわね」

トーメント王国に仕える王下十輝星『カペラ』……
その名の元となる星は、2つの恒星から成る連星が2組ある4重連星であった。

二つの血統、アングレーム家とラウリート家。
代々、その両家のうちいずれかの、最も優れた剣士が十輝星の名を冠する伝統がある。
十輝星の剣士が倒れても、すぐさま代わりとなる剣士が両家から選出される。
そのようにして、長きにわたって常にトーメントを守護し続けてきた。

だが………

「アリサ様もご存じの通り…
『試合中の事故』で世継ぎを失ったことでラウリート家は権威を失い、
間もなく「何者か」の手によって皆殺しにされた」
「ええ……その12年後、アングレーム家の者達もまた、「何者か」の手にかかって殺されてしまった」

ラウリート家を断絶させたのは、当時『カペラ』として君臨していた
ソフィア・アングレーム……アリサの義理の母親。
その復讐のため、アングレーム家の者達を殺害したのは、今アリサの横にいるアルフレッドその人であった。

「いよいよ、決着の時……ですわね」
「ええ、アリサ様………何も知らなかった貴女を巻き込む事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それと……ありがとうございます。そのドレスを身に着けてくれて」
「いえ………出来ればロゼッタさんと戦いたくないのは、わたくしも同じですから」

今アリサが着ている服は、いつもの白いドレスではない。ラウリート家に伝わる、深紫のドレス。
白では目立ちすぎるから、という理由ももちろんだが、それ以上に……

深紫のドレスを身にまとったアリサは、ロゼッタの姉ヴィオラ・ラウリートの生前の姿に生き写し。
正気を失ったロゼッタにその姿を見せる事で、
あるいは警戒心を解いて戦いを回避する事ができるかもしれない、と思ってのことである。

そう……ロゼッタもアリサと同じ、何も知らずこの残酷な因縁に巻き込まれてしまった者の一人。
いくら因縁とは言え、アルフレッドとしても、これ以上無駄な血を流すことは避けたい。

……そんな想いにアリサが応えてくれた事に、アルフレッドは素直に感謝の言葉を口にした。

「……それに。これを着てるとアルフレッドの態度もいつもより優しくなりますし。
やっぱり、どうしてもヴィオラさんの事を意識してしまうのかしら?」
「え!そ………そんな、ことは、その………」

確信を突かれ、動揺するアルフレッド。
アリサの指摘は直球であり図星であり火の玉ストレートにして正鵠をがっちりゲットしており、
当時のアルフレッドが彼女に憧れに近い想いを抱いていた事は、否定しようがなかった。

「ふふふ。あの堅物のアルフレッドを、そこまで慌てさせるなんて……
素敵な方だったんでしょうね。出来るなら、一度お会いしてみたかった」

「ええ。ロゼッタ様も、幼いころから難しい方でしたが……あの方には心から懐いておられました。
自然と周りの人たちを明るくさせる、素晴らしい人柄をお持ちでした……そう、まるで太陽のような」

「ふふふ……聞けば聞く程、すごい方でしたのね。
……わたくしでは、とても敵いそうにありませんわ」

いつになく饒舌なアルフレッドは、アリサの小さな呟きに気が付いていないようだった。
心の奥にしまい込んでいたかつての想いが、チクリとかすかな痛みを呼び起こす。

(ロゼッタさんは、そんなヴィオラさんのたった一人の妹……やはり何とかして、戦いは避けなければ)

魔物兵が出払い、閑散とした砦内をひた走る。
その先で二人を待ち受けるものは、果たしていかなる運命か………

817名無しさん:2021/01/02(土) 16:33:52 ID:???
……砦の最奥に、ロゼッタは居た。

「……そこにいるのは……誰……??………」

「では、手はず通り……よろしいですか、アリサ様」
「ええ……アリサ・アングレーム、一世一代の芝居……しかと見届けてください…こほん。」

「ロゼぇぇぇ! そこにいるのは、ロゼなんだねぇ〜!? 
わたしだよ、ヴィオラ姉さまだよぉ、会いたかったよぉおぉぉぉ……!」
「!!……姉さま……!?」

アリサはアルフレッドからの演技指導を忠実に再現し、
『久しぶりにロゼッタと再会した時のヴィオラ』を完璧に演じてみせた。

かつてのアリサなら、こんな己とかけ離れすぎたキャラを演じるなど到底できなかっただろう。
だがこの世界に来てからの様々な経験、戦い、仲間との出会いは、彼女を大きく変えていたのだ!

(全てはロゼッタさんを戦いから解放するため……そのためなら、わたくしは敢えて汚れに徹する事も厭わない!!)
その一方。ロゼッタの姉にして、アルフレッドのかつての憧れの女性で
ついさっき『太陽のよう』と評されていたヴィオラは、なんか汚れ扱いされていた。

「こんな暗い所で一人で寂しかったでしょぉ〜?さささ、お姉ちゃんと一緒に帰ろうねぇ〜。
うーー、もう我慢できないからナデナデしちゃうよもう!ういやつういやつ。ヨイデハナイカ!」

(すごい!…正に『2日ぶりくらいにロゼッタ様と再会した時のヴィオラ様』そのままだ!!
これならロゼッタ様も………!!)

アリサの怪演にアルフレッドも舌を巻き、作戦の成功を確信した。だが………

「………違う。あなたは……姉さまじゃ、ない」
「え?………な、何言ってるの、ロゼ。だって、私、どこからどう見ても……」
「あなたの……運命の糸が、見えない。………異世界人?」
近づき、ロゼッタを抱きしめ、ひとしきり頭をなでくりなでくりした所で、
ロゼッタはアリサの正体を看破してしまう。

ロゼッタの持つ特殊能力……運命を司る糸を見て、それを操る力によって。

「え、え?な、何なに?私に運がないって?いやーおかしいなーどうしてかなー、
そうだ、今日の占いでみずがめ座は運勢最悪って言ってたから、そのせいかなー!?」
(忘れてましたわ……この人には、この能力があった。……運命の糸で、そんな事までわかるなんて!!)

さすがに動揺を隠しきれないアリサ。だがここまで来て後には引けない。
強引に押し通そうと、演技を続けるが………

「それに………私の、本当の姉さまは」
「……え…?」
「そこにいる」

「たっだいまー!!ヴィオラお姉ちゃんが帰ってきましたよ〜〜!!
あーーん、半日もロゼと会えなくて、ロゼ成分枯渇で死にそうだよもぉ〜!!
さっそくちゅっちゅさせて……あ、コタツとテレビとPS5とその他色々、
kononozamaから発送されて今日届くって!
これでこの冬はこの砦でバッチリ快適に過ごせるね!!
って、あれ?」

………突然現れたその少女は、ラウリート家に伝わる紫のドレスを纏い、腰には二本の剣を差していた。
買い出しに行った帰りなのか、食べ物、お菓子、ジュースなどが大量に入った買い物袋を両手に抱えている。

「あ………あなたは、まさか」
「バカな。そんな………そんな、事が……」

「おかえりなさい………
姉さま」

818名無しさん:2021/01/02(土) 16:35:00 ID:???
年の頃は、アリサと同じくらい。……容姿も、着ている服も含めて、アリサと瓜二つだ。
アルフレッドもアリサも、彼女のことを知っている。特にアルフレッドは……忘れようはずなど、絶対にない。

「…あれ?その子は………もしかして王様が言ってた、私のニセモノかな〜?
私のロゼに何勝手に密着してるのかねキミは。随分いい趣味してるじゃないの。
てことは、そっちのイケメンはもしや……アル君!?っかー!!懐かしい!!」

「ヴィオラ様………まさか生きていたなんて。
いや、落ち着いて考えてみれば………それも当然か」

「そういう事。あのトーメント王の事は、アル君も知ってるでしょ?
私ほどの超絶ウルトラ美少女剣士が、一回死んだだけでサヨナラできるはずがないじゃない?
無理矢理生き返らされて、何やかんやあって……改めて、トーメント王に忠誠を誓ったってわけ」

ヴィオラは笑顔のまま、腰の双剣を引き抜く。
アルフレッドは………動けなかった。

「あなた達二人を殺したら、今度こそ私は王下十輝星『カペラ』になれる。
その代わり、ロゼッタを十輝星から解放する……それが王との約束。
私がこの手で、ロゼッタを救いだしてみせる。戦いの運命から解放する……」

ヴィオラは姿かたちこそ昔のままだが、
その瞳からは、狂気を感じさせるほどの静かで不気味な光が宿っている。

「こんなイケメンになったアル君を斬っちゃうのは、もったいないけど、ね」

その目に見据えられながら、アルフレッドは己の迂闊さを呪った。
アリサやロゼッタが王によって生き返らされたことを知っていながら、
なぜヴィオラが同様に蘇生される可能性に、思い至らなかったのか。

『無理矢理生き返らされて、何やかんや』の間に、いかなる地獄を味わってきたのか。
なぜ自分が気付いて、探して、助ける事ができなかったのか……

答えの無い問いが頭の中を何度も巡る中、ヴィオラの刃がゆっくりと振り下ろされる……

ガキィィィンッ!!

すんでの所でアリサが割って入り、ヴィオラの刃を受け止めた。

「アルフレッド………立ちなさい。私たちは誓ったはずです。もう過去を悔やむのは終わりにすると。
今私たちが動かなければ、この人たちを救う事は出来ませんわ!!」

「……アリサ様…!」

「ふふふ。邪魔が入っちゃったねぇ。まずはニセモノちゃんから相手してあげる」
「姉さま………私も、お手伝いする」
「ヴィオラ様、ロゼッタ様……やはり…やるしか、ないか」
「今は……私たちのこの剣だけが、彼女たちと対話する術……ですが、最後には必ず……救って見せますわ!!」

カペラの星の下、数奇な運命に導かれた四人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

819>>815から:2021/01/03(日) 02:21:20 ID:???
「さて、では靴を脱いで上がってきてくれるかな?」

サキが天幕を離れてユキに会いに行き、舞とスネグアが残された場所。スネグアの命令に、舞がピクリと眉をひそめる。

「どうした?まさか上司の天幕に土足で上がり込むつもりか?」

「いえ……脱ぐわ」

舞は屈んでシュルシュルとブーツの靴紐を解き、綺麗に揃えて並べる。
そして天幕の中に入ると、その場でタイツに包まれた美脚を畳むようにして正座し、ピンと背筋を伸ばして毅然とした態度でスネグアを見据える。そんな舞を面白そうに見ながら、スネグアが言う。

「気づいてると思うが、異世界人云々は建前だ。私の目的はユキちゃんとサキくんを引き合わせ、脱走の準備をさせること……ナルビアとは浅からぬ因縁があるようだから、シックス・デイを誘い出す良い囮になってくれるだろう」

囮にする、と言われて顔をしかめる舞。だが、囮だろうと逃げさせてくれるならば好都合、と黙り込む。

「シックス・デイを君たちに向かわせている間に、桜子やイヴをメサイアにぶつけて弱点を探る。加えてスピカ殿の援軍部隊もぶつけて、私は後で安全に戦わせて貰おう」

強かというより卑怯。後方支援型というより卑劣。そんなスネグアに思わず歯軋りしかけるが……『今の舞は別のことで歯を食いしばっていた』。

「敵にもヴェンデッタ小隊という増援がいるようだが、まぁ大した問題にはならないだろうね」

「つまり、サキ様を囮にするのには、命令するよりも自由に動かした方がいいと判断して、私を残したのは……真の目的を一時的にせよ隠すため」

「ご名答。逃げていいと普通に言っても彼女は信用しないだろうからね。君を犠牲にして時間を稼いでと思っているサキくんは今頃珠玉の脱走計画を練っているだろう。後はもう私の目的を知っても、掌で踊るしかない」

「……あまり私たちを、サキ様を舐めないで欲しいわね」

「ククク、『その体』で勇ましいことだ」

敵の牙城でも気丈に振る舞っていた舞。だが、スネグアの意味深な言葉を聞いた瞬間、ゾワリと嫌な予感が走る。
嫌味など無視して早く魔法のブーツを吐こうと腰を浮かせた瞬間……天幕の端に隠れていた影が飛び出して来た。

「──ッ、はぁあんっ♥!?」

謎の影が、煩雑に舞の胸を揉む。普通ならばこそばゆさと嫌悪感を感じるだけのはずのその行為で……舞の体は大きく跳ね、ストッキングに染みが広がっていく。

「ほう、やはりか……」

>>137の拷問以降、舞の体は全身クスリ漬けで、イキ癖がついて、もうまともに足腰も立たない状態になっている。その後はナルビアの機械による調整で手先として無理矢理こき使われていた。そんな所に>>208のアイリスの洗脳だ。恭順の刻印は既に消えているが、邪術的後遺症は今でも体内に色濃く残っている。

ボロボロの体内を時間をかけて治療したわけでもない舞が普通に生活し、あまつさえ戦闘までできるのは……ひとえに魔法のブーツのおかげ。故に今、ブーツを履いていない舞は、全身快楽漬けだ。
そんな状態でも、強靭な精神力で必死に気丈に振る舞っていたが……今胸を揉まれたことで、それも決壊した。

「はひゃぁぁああぁっ!?ひきゅぁぁああぁぁっ!!」

「君を置いて行かせたのにはもう一つ目的があってね。最近使い魔にしたゾンビキメラが、君をご所望なのさ」

「んぐぅっ、ゾンビ、キメラ……?」

少し落ち着いた舞が、ゆっくりと、自分に絡みつく影の正体を見据える。

「シャアァア……久しぶりね、小娘ちゃん」

「お前、は……!?」

ラミア……舞初登場の時に死んだはずの魔物が、舞の体に絡みついていた。いや、違う。あのラミアはもっと大きかったはずだ。こんな天幕に隠れていることなど不可能だし、自分に絡みついたらもっと圧迫感があるはずだ。

「魔物の死体を再利用して作ったのだが……どうやらラミアが一番格が高かったようで、人格は彼女のものとなった」

スネグアの言うとおり、ラミア……ゾンビキメラはほとんどラミアの原型を残していなかった。首以外はインプやジャイアントラットにブラッドバットといった低級魔物を継ぎ接ぎして無理矢理人型を形作っているに過ぎない。

「ウフフフ……この日をどれだけ待ったかしら……」

「殺すなよ。彼女は戦争で使い道がある」

「分かってるわ、スネグア様……ただこうして、抵抗できない状態で徹底的にイキ狂わせでもしないと、私の気が済まないのよ」

ダークシュライクといったレズ魔物も混ざっている故か、人間っぽいプレイができるようになったからか、ゾンビキメラはレズプレイに目覚めていた。

820名無しさん:2021/01/03(日) 02:22:34 ID:???
「さて、舞くん……君がギブアップしたくなったら、すぐにでもギブアップするといい。ただしその瞬間、サキくんとユキちゃんは引き離す」

「な、ぁ……?」

「精々耐えて、感動の再会を邪魔しないようにするんだね」

そう言い残すとスネグアは舞に興味を失ったように、天幕の奥へ引っ込んだ。

「さーて、これで心置きなく、アンタを犯せるわね……」

ゾンビキメラは普通の人型であるインプの左腕で、舞の胸を揉むのを再開する。

「んひぃいいいん!?」

たったそれだけの動作で、舞は再び絶頂してしまう。まるで失禁でもしたかのように、タイツの染みがどんどん広がっていく。

「うっわ、くっさ……犬も入って鼻が良くなったから、雌豚の臭いがプンプンするわね」

「だ、だま、りぇ……!これは、ちが……ふくぅうっ!?」

「アンタみたいな淫乱娘に殺されて、この前まであの世にいたと思うと。本当に腸が煮えくり返るわ……!」

ベトベトで粘着質な、スライム状の腕を舞の股関……既にグショグショになっているタイツに這わせる。
ただ触れられただけで、舞の体は再び狂ったようにビクビクと震えた。

「アンタのせいで、こんな醜いキメラにさせられて、男装女の手下にされて……!」

グチュ、ヌチュ、グッチュグッチュグッチュグッチュチュチュグチュ……!!
怒りのままに、猛スピードでタイツ越しに股間を擦り上げるゾンビキメラ。

「あ"っ♥!? あ、ああ、あっ♥あっ──はぁぁぁァァァああん♥♥!」

プシュッ、プシュッと、タイツで抑えきれない愛液が外に飛び出してくる。

「あっははは!苦しいかしら?あの時殺された私は、もっと苦しかったのよ、もっと喘ぎなさい……!ほら、ほらほらぁ!!」

「あっ、や、あんっ、きゃはああぁっああぁっあぁっ!?」

絶頂。絶頂。絶頂。止まらない。何度も何度もイッて、口からは涎を垂らし、目の焦点も合わず、常にイキっぱなしになる舞。
だが、それでも彼女は、ギブアップしなかった。

「へぇ、頑張るわねぇ……もうとっくに限界でしょうに」

「ス、ネグアは、ミスをしたわ……貴女の、暴挙に耐えれば、サキ様の役に立てると、私に、伝えてしまった……これで私は、いつまででも、耐えられる……!」

「は、イキながら凄んだって滑稽なだけよ」

毅然とした態度で言い返す舞に腹が立ったのか、ゾンビキメラは口を開けて舌を出した。キメラ故に本来なら一つしかない器官も複数ある。
口からラミア本来の蛇舌を、両肩の辺りからジャンピングフロッグの伸縮自在の舌をいくつも出す。

「んうっ!? むぐぅっ、うぅっ、んむっ――ふあぁっ」

舌が歯列を押しのけて口膣内に入ってくる。先ほどサキの手の甲にキスし、神聖な誓いを果たした舌が蹂躙される。その事実に、舞は今までで一番の抵抗をするが……

「んんうぅっ!? みゅひゅぅっ! ちゅむっ……んっ、れろれろっ……んあっ……んひゅうぅ……っ……んむぅっおむぅう!!?」

耳穴を舐める舌、首筋を舐める舌、股間を舐める舌……その全てが、発狂しそうな程の悦感をもたらす。
さらには胸と股間を弄る手の速度もどんどん上がり、舞の抵抗は虚しく無駄に終わる。

「ん、む、〜〜〜〜〜〜っっっ!!!??」





「いやはや、こんな時間まで耐えるとは、恐れ入ったよ」

それから数時間は経っただろうか。スネグアが様子を見に来た時には、舞はピクピクと痙攣しながら、時折プシュッ、プシュッと愛液を吹いている。それでも決して気を失わず、ゾンビキメラの復讐レズレイプを受け続けていた。
スネグアはゾンビキメラを下がらせると舞のブーツを掴み、彼女の足に履かせてやった。次の瞬間、舞が息を吹き返したように咳き込んだ。

「――っぷは!!ごほ、げほごほっ!」

「ほう、もう回復したのか」

「んっ!」

試しにぎゅむぅ、と舞の胸を揉むスネグアだが、舞は先ほどまでのように絶頂はしなかった。

「そんな体を無理に治し、動かすマジックアイテム……ハッキリ言って体への負担は計り知れないぞ」

「そんな、の……分かって、る……それで、も……」

「は、羨ましい忠義者だ」

「ぶっ!」

スネグアは舞の顔を踏みつけて、床に作られた愛液の池に押し付ける。

「それじゃあ君が汚したここを、舌で掃除するんだ。それが済んだら帰してやろう。流石にサキくんも話は終わっているだろう」

「く、うぅう……!」

屈辱に顔を歪ませながらも、サキの為にも言うことに逆らえない舞は……舌を伸ばして、自らの愛液を掃除する。
そのさらに数十分後、舞はサキと合流したが……自分がされたことも、ブーツがなければ快楽漬けの体の事も、ブーツの危険性も、決して話そうとはしなかった。

821>>818から:2021/01/17(日) 14:32:48 ID:???
キンッ!キンッ!!
「「たあぁぁぁぁあああっ!!」」

激しく剣を打ち合うアリサとヴィオラ。

「ヴィオラさん……貴方は間違っています!
あんな王の下で働いては、多くの人々に不幸をもたらすことになる……
貴女の剣をそんな悪事に使わせるわけにはいきませんわ!!」

「ふふふ……まっすぐで、素直な剣。まるで、昔の自分を見てるみたいね……
世の中が、キレイに正義と悪に別れていると思ってる……」

アリサが振るうのは、金と銀に輝く双剣ガルディアーノ。
ラウリート家に伝わる宝刀であり、アングレーム家に伝わる宝剣リコルヌと対をなすと言われている。
二刀での連続攻撃を繰り出すアリサに対し、ヴィオラもまた、二刀を縦横に振るって連撃を受け流していく。

初手から全力で攻勢を仕掛けているアリサに対し、ヴィオラは冷静に受けに徹して手の内を晒そうとしない。
自分よりはるかに上回る技量の持ち主であることが、直接剣を交えているアリサには、はっきり感じ取れた。

「さすがは、ラウリート家歴代最強と言われた天才剣士……
ですが、これなら!!シュヴェールト・ラオフェン!」
「!これは………」

キンッ!………

間合いに大きく踏み込んだアリサの縦斬りを、ヴィオラが刀の峰で受け止めた。
その刹那、アリサの剣は刀の峰の上を滑るように動き、ヴィオラの喉元へと迫る!

直剣を得意とするアングレーム流剣術に、双剣を扱うラウリート流剣技を取り入れた、アリサのオリジナル技である。

だが、次の瞬間。アリサの視界に、二筋の銀色の光が走り……

「ふふふふふ……知らなかったわ」
「え………?」

「……現実を知らないバカな小鳥ちゃんのさえずりが、こんなに聞いててムカつくモノだったなんて」

背後から、ヴィオラの声が聞こえた。

ザンッ……!ズブッ!ブシュッ…!!

アリサの全身を、光が切り裂く。
少し経ってから音もなく赤いしぶきが舞い上がり……

「あっ……!?………っぐ、うあああああっ!?」
さらに数秒遅れで、体中を激痛が駆け抜けた。

「わざわざ『ガルディアーノ』を持ち出してくるぐらいだから、もう少しやるのかと思ったけど……期待外れも良い所ね」
「くっ……まだまだ、これからですわ……!」
派手に血は吹き出たが、見た目に反して傷は浅い。剣を握るのに支障はなさそうだ。

……もちろんそれは、ヴィオラが手加減したからに他ならない。
相手がその気ならアリサは今の攻撃で止めを刺されていただろう。

(これほどの実力を持ちながら、ヴィオラさんも……トーメント王に屈服し、恐怖に縛られて忠誠を誓っている。
……なんとかして、奴らに立ち向かう勇気を取り戻してもらわないと……!)

「そうね。まだまだ、これから……貴女には、苦痛と絶望の泥沼でたっぷりともがき苦しんでもらうわ……ふふふ」
「な……何を、言って……んっく……!?」

双剣ガルディアーノを再び構えなおしたアリサ。
だが突然、全身に痺れが走って動けなくなった。
無理に動かそうとすると全身が震え、それと共に全身の性感帯を一度に愛撫されたかのような刺激が走る。
この感覚……アリサには、覚えがあった。

「こ、れは……まさか、毒……!?」
「そう。ミツルギ原産ブラッディ・ウィドー……獲物を生きたまま捕らえて体液を啜る蜘蛛の毒液。
生かさず殺さず動けなくする、強力な麻痺毒よ。

しかも体中がすっごくビンカンになるから、無理に動かそうとする度に、痛めつけられる度に、
ビリビリ痺れて気持ちよくなっちゃうのよね……
ふふふ。気を付けないとクセになっちゃうわよぉ?」

822名無しさん:2021/01/17(日) 14:35:51 ID:???
「ど、毒、なんて………貴女には、剣士の誇りというものが……んっ、あんっっ!?」

「ああ、その無様な姿。その悲鳴……私もクセになっちゃいそうだわ。
もっと、もっと、魅せて、聴かせて……」

ヴィオラは這いつくばるアリサの後頭部を踏みにじりながら、剣から滴る血を拭い取り、ハンカチを投げ捨てる。
アルフレッドから「太陽のよう」と評された少女の顔に、恍惚とした不気味な笑みが浮かんでいた。

………………

「…やぁやぁヴィオラちゃん。
地獄から舞い戻った気分はどうだい?ヒーーッヒッヒッヒ!!」

「最悪……まだ地獄に居る気分だわ。目の前に悪魔が見える」

トーメント王の力で十年以上の時を経て蘇生されたヴィオラは、
その間に起こった出来事をつぶさに聞かされた。

ソフィア・アングレームがアルフレッドに殺害された事、
アングレーム家もラウリート家も滅亡した事……
そして、妹ロゼッタが王下十輝星『カペラ』になっている事。

復讐すべき相手は、既にいなくなっていた……しかし、最早そんな事はどうでもいい。
ロゼッタがこんな王の下で使われ、戦いに巻き込まれている事だけは我慢ならなかった。

「……あの子が、戦いに向いてるとは思えないわ。十輝星なんて今すぐやめさせて。
……手駒が欲しいのなら、私をいくらでも使えばいい!」

「クックック……戦いに向かない?とんでもない。

アングレーム流剣術、その直剣は『運命を紡ぐ針』。
ラウリート流双剣術、その双刀は『運命を断ち切る鋏』。

両家の剣士たちは、代々伝わる魔剣『リコルヌ』『ガルディアーノ』の力を使って
王に逆らう者たちの運命を刈り取ってきた……

だがロゼッタは違う。『運命の糸』を直接操る、これまでにない能力を持っている……

アングレームとラウリートの血統は、むしろあの能力を産み出すために受け継がれてきたと言っても良い。

事実、その実力は現十輝星の中でも最強クラス。しかもその力は日に日に増して言っている。
そのうちヨハンをも超えるかも知れん……そう簡単に、手放したくはないねえ。」

「私が、それ以上の働きをして見せる!だから……っ……お願い!!」

「ん?今何でもするって言ったよね?……そうかそうか。だったらテストをしてやろう。
君が本当に、俺様の意のままに働いてくれるかどうか……クックック」

こうしてヴィオラは王の部下となる決意を固めた。
だが、そのテストの内容は……

「トーメント王国正規軍、カイト准士官
10歳の時に正規軍に入隊、以来その卓越した刀捌きでめきめきと頭角を現す。
士官に昇り詰めるのもそう遠くはないと噂されている。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、最近恋人ができて浮かれモード……

……普通のイケメンリア充じゃないですか。いいなあ、でも彼女いるのか……この人を、どうしろと?」

「いや何。書いてある通り、最近浮かれて仕事に身が入ってないようなのでなぁ。
その元凶である彼女……シュナちゃんって言って、カイトの幼馴染らしいんだが、これがまたいい子でなぁ。
デートのときなんか、毎回必ず早起きして手作りのお弁当とか持って来てくれるらしくて」

「だから……それがどうしたって言うんですか」

「クックック……イラつかせて済まんなぁ。
つまりだ、そんな出来た彼女がいたんじゃ、幸せ過ぎて気が緩んじゃうのも無理はない。
だが……もしそんな彼女が、付き合い始めた途端、実はどうしようもない悪ビッチだったと発覚したら?
デートのドタキャンはしょっちゅう、恋人に小遣いをせびったり、挙句他の男とも遊んでいたり……」

「だから何が言いた……ま、まさか……!」
「その通り。君が裏で動いて、そういうふうに仕向けるんだよ。具体的なプランはこちらで用意してある。
優秀な軍人が道を踏み外さないよう導くためだ。
シュナちゃんみたいな健気で甲斐甲斐しいタイプの子は、むしろ男をダメにする魔性の女。
悪い奴ってのは、天使の顔をしているもんさ……よくある話だ。君にも経験があるだろう?
これは正義の行いだよ。ヒーッヒッヒッヒ!!」

823名無しさん:2021/01/17(日) 14:41:03 ID:???
……簡単なテストだった。
まずはカイトの恋人、シュナを人気のない裏通りに誘い込み、剣を突き付けて脅す。

「くっ……馬鹿にしないでください!
私だってこれでも剣術道場の娘。あなたの様な強盗に、そう簡単に……」

ザシュッ!!ザクッ!!ズバ!!

「きゃあぁっ!! っぐあ!! っひうんっ…!!」

「ふーん。こんな棒っきれ振り回して遊んでるだけでいいなんて、
道場のお嬢さんってのは人生イージーモードで羨ましいねぇ。
彼氏とデートも結構だけど、今からちょーっとお話させてもらっていいかな?
今後の彼氏の出世にも関わる事だし、さ……」

「どういう事……あ、あなたは何者……んっ、ぐ……!? あ……っふ、ぁ…」

……ブラッディ・ウィドーの毒も、この時初めて使った。
毒に悶え苦しむシュナの姿を見下ろしていると、
私の中にドロドロと煮えたぎっていた正体不明の黒い感情が、少しずつ満たされていく気がした。


「こ……こんな格好で、街を歩けって言うんですか……こんな短いスカート、下着だってこんなスケスケで……」
「ええ、もちろん。街で知らない男に声を掛けられたら、ちゃーんとついて行くのよ?」

……それから私は、穢れを知らない無垢な少女を、自らの手で
薬、男、借金漬け……地獄の泥沼へと引きずり下ろしていった。

逆らったり、誰かに告げ口したら『カレシ』の人生に差しさわりが出る。
そう言い含めるだけで、どんな事でも、シュナはやってのけた。
こっちがドン引きするぐらいの事でも。

「地下闘技場……魔物と…戦うんですか」
「そう。負けたら当然、その場でレイプ。
剣貸してあげるから、全力で抵抗してもいいわよ?その方が盛り上がるし」
「わかりました……その代わり、これで最後にしてください。
魔物達との戦いに勝ち残ったら、もうカイト君には手を出さないって……」

結局シュナが壊れるよりも先に、『カレシ』の心が折れて、離れていった。
自分の部屋でカノジョが別の男…しかも魔物兵の集団とやりまくってたんだから、無理もない。

王の命令?妹を助けるため?そんな事は関係ない。
彼女の『運命』を、ズタズタに引き裂いて、汚して、壊して、ボロクソにしてやったのは紛れもないこの私。

こうして、私はテストに合格した……そう、気づいてしまえば簡単な事だった。
弱者を嬲り、喰らい、踏みにじる快楽。この世のどんな綺麗事よりも美しく、甘美な真実……

………………

「……その後も私は王の下で、何人もの少女を地獄に落とした。
今までも、そしてこれからも」

ヴィオラは血と毒にまみれた剣を投げ捨て、アリサから宝剣ガルディアーノを奪い取る。
金と銀の輝きを放つ双剣は、『真なる主』を得た事で今までにない輝きを放つ……妖しく、脈打つような不気味な光を。

「アリサちゃんって言ったかしら?もちろん貴女も、その一人……
真の絶望は、まだまだこれからよ。ふふふふ……」

824名無しさん:2021/01/31(日) 11:31:10 ID:???
宝剣ガルディアーノがヴィオラの手の中で不気味な光を放ち始めた。
危機に瀕したアリサを助けようと、アルフレッドが割って入る。

「……アリサお嬢様を、やらせはしません!…『ダークゲート・スティング』!!」
ガキインッ!!
「!!」

闇魔法ダークゲートを使って空間に穴を開け、遠距離の相手を剣で攻撃する技。
魔法のコントロールが極めて難しい技だが、アルフレッドは決戦に備えこの技を見事に会得していた。

「へえ……アル君、随分器用なマネするんだね。
でも、私とガルディアーノの前では……笑っちゃうくらい無力」

…だがヴィオラは亜空間からの攻撃に瞬時に反応し、双剣で受け止める。

金銀の刃が輝きを放ち、絡み合うように融合していく。
それはまるで、獣の牙のような波打つ刃の、巨大な鋏。

「運命に定められた者を斬る「運命の螺旋」と、望む運命を引き寄せる「絶対の因果」。
魔剣と恐れられたそれらの力も、実は……封印されていたガルディアーノの、力の一端にすぎない。
ほんのちょっとだけ、見せてあげるよ」

アリサに鋏を向け、じょきん、と刃を閉じて見せた。
「これで、アリサちゃんは斬られた。ヒントは、時間。回数は秒、00は60扱い。
死なない程度の数だといいね。ふふふ……」
「そ……それは、一体どういう……」

何をされたのかわからず、困惑するアリサだったが……

「まずい……アリサ様!!逃げてください!!」
「……無駄よ。アル君ならわかるでしょ?『運命』からは、絶対逃れられない……」


…ギュルルルルッ!!
「っぐ!」
「姉さま……こんな男に構っていても仕方ないわ。こいつには運命を変える力も、資格もない」
「ロゼッタ様っ…!?」

ロゼッタが不可視の糸を操り、アルフレッドを拘束する。
アルフレッドは必死にもがくが、ロゼッタの操る強靭な糸は鋼すら切り裂く。
力づくで外そうとしても、身体に深く食い込むばかりだった。

「でしょうね……貴方はこの場にいる誰も殺したくないと思っている。
昔からアル君って、そういう所が甘いんだよね。
そんな半端な覚悟で、私は止められないよ」

アリサの背中を踏みにじりながら、ヴィオラは冷ややかな笑みを浮かべる。

「うぐっ…!!……ア、アルフレッド…!」
アルフレッドが覚悟を決めてこの戦いに臨んでいる事は、アリサも良く知っている。
だがそれでも、死んだはずの想い人が突然目の前に現れた事が大きなショックを与えているのだろう。

「さーて、この刃が閉じた瞬間、能力は発動する。
果たしてアリサちゃんは何回斬られちゃうのかなー?」

825名無しさん:2021/01/31(日) 12:05:16 ID:???
ザシュッ!!
「ぐっ!?」
…突如、アリサの右脇腹に痛みが走る。

「始まったね……思ったより回数控えめかな?まあ、最初はこんなもんか」

ズバッ!! ザクッ!! ドスッ!!
「っぐ!あっ!?きゃああああっ!!」
続いて、左肩、胸、背中。激痛が次々とアリサを襲い、鮮血があたりに飛び散る。

「い、一体、何が……まさか、その鋏が……!?」
ヴィオラの言葉の通り、アリサは斬られていた。
鋭い刃……というより、鋸の刃で無理矢理斬られ、抉られるような…そんな痛みだった。
例えばそう、ヴィオラが持っている鋏の刃のような。

「あと6回、だね。ふふふ……」
(な、なんだかわかりませんけど……このままじゃ、まずいですわ!)

アリサは毒の残る体でなんとか立ち上がり、リコルヌを抜く。
ヴィオラが動く様子は全くないし、攻撃の気配もまるでしなかった。
なんとか追撃を防ごうと神経を集中させるが……アリサの『斬られた運命』は、既に確定していたのだ。

ザシュッ!! ズブッ! ザンッ!!
……右脚の太もも、ふくらはぎ、左足首。
「い、ぎっ!?ぎゃうっ!!」

立ち上がって早々、アリサは再び膝をついてしまう。
そして、8回目と、9回目の斬撃………

ズバッ!!

「…うああああああっ!!」
「両目……ふふふ。痛そう……」

ドバッ!!
「あらあら……ツいてないね。利き腕を落とされちゃったら、剣士としては致命傷じゃない?」

「アリサ様ァーー!!もうやめろ!!止めてくれっ……!!」
「ふふふ……私も昔は、何回も止めろって思って、叫んだわ。『運命』に。でも無駄だった……」
「……そこで、あの娘が嬲り殺しにされるところを見ていなさい。
所詮、貴方には何もできない。それが運命……」


「…運命………また、その言葉ですか……

思えば、あの時もこうして縛られて………
私はロゼッタ様が弄ばれ、殺されていくのをただ見ているだけだった………」

ロゼッタの糸で縛られ、俯いていたアルフレッドだったが……
不意に、呟いた。

「……………あああああああああ!!!
どいつもこいつも運命運命運命!!

もううんざりなんだよっ!!」

そして、吠えた。

「!?……き、急にキレたって、無駄……」
「今さら足搔いたって、どうせ運命には……」

ロゼッタとヴィオラが困惑する中、
10回目、最後の斬撃がアリサの首を捉える……!

826名無しさん:2021/01/31(日) 12:56:19 ID:???
………ガキィンッ……!!

「え………う、嘘……何よ、それは……」
アリサの首を刈りとろうとした最後の斬撃は、一振りの剣によって受け止められた。
確定したはずの『運命』を変えたのは
……アリサの左手に握られた、一本の「木刀」だった。

「これは……ただの木刀ですわ。……だけど私にとって、大切なもの。
この世界で出来た、大切な親友の一人が、お守りとして持たせてくれたものですわ」

…その木刀の持ち主は、アリサがミツルギに滞在している間に友達になった、一人の少女。
アリサにとって、かわいい妹分であり、修行相手、あるいは油断ならないライバルでもあり……。
特別な力があるわけでもない、一人の少女。

「どういうことなの…?…ただの木刀で、私の刃が……運命が、変えられるわけない」
「わからないかしら?この木刀は……異世界人のわたくしが、この世界に住む、ある人から託され、この場に持ち込まれた品。
つまり。
わたくしが…今までの戦いの中で、運命を変え、あの子との出会いを果たしていなければ…
本来なら、絶対ここにあるはずのない一本。いわば、わたくしが運命を乗り越えた証……!
だから、その鋏の言う「運命」によって折られる事は……決してない!!」

「は!?…えええ!? でも、木刀……いや、ええ!?」

「ヴィオラさん……貴女、よく似ていますわ。昔の私に。……厄介事を一人で抱え込もうとするところとか!」

アリサは、再び立ち上がった。拙いながらも回復魔法を使い、一時的に痛みを抑える。
目は見えないし、リコルヌは右腕もろとも斬り飛ばされたが、問題ない。
この場に置いて運命よりも強い剣が、この手の中にある。

「おおおおおおっっ!!」
「ふざけないで……納得できるか、こんなの!!」

木刀を手に、飛び掛かるアリサ。迎え撃つヴィオラ。そして……

(その傷で、まだ動けるなんて……運命を、乗り越えた…!?
そんなの、認められない。認めたら、今までの私は一体……!!)

心の中に生まれた、僅かな迷いを振り払うヴィオラ。
鋏を振り下ろそうとした刹那……

アリサの右足が、地面の土塊に引っ掛かった。

「!その手には……」
遥か昔、ソフィアと戦った時の記憶がよみがえったヴィオラは、反射的に「目潰し」を警戒して地面から目を反らす。

「っ、と、あぶなっ……ったああああ!!」

だが。
アリサは前につんのめりながら鋏の刃をかわし、木刀を地面に突き立てて……
「今ですわ!アングレーム流剣術奥義!アリサちゃんキィーーーック!!」
「ぐあうっっ!!?」

全身のばねと木刀のしなりを利用して棒高跳びのようにジャンプし、捨て身の飛び蹴りを叩き込んだ!

827名無しさん:2021/01/31(日) 13:53:24 ID:???
「どこのどいつだ………
アリサ様を私に殺させ、ヴィオラ様の笑顔を奪い、
今なおロゼッタ様を縛りつけているのは……」

アルフレッドは双剣を手にし、怒りをあらわにしながらロゼッタに歩み寄る。

「な……なにを、いまさら……アルのくせに……わたしに、ねえさまに……うんめいに……
さからっちゃだめぇっ!!」

鬼気迫るアルフレッドに気おされ、不可視の糸で攻撃するロゼッタ。
無数の斬撃が、全方位からアルフレッドに襲い掛かるが……その全てが、目にも止まらぬ斬撃によって斬り落とされてしまう。

「誰だ……トーメント王か、それとも……あいつ、なのか………」
……アルフレッドの目にも、いつの間にか見えるようになっていた。
ロゼッタが操る、そしてロゼッタを何重にも縛り付けている、不可視の糸が。
この糸一本一本が、「運命」というやつなのだろうか。

「こないで……アルは……どうして、いつも……わたしの、じゃまするの……?」
「こんな……こんな物に………貴女はずっと縛られて、今も苦しめられて」

アルフレッドは、自分に向けて語り掛けている……はずなのだが、
虚ろな目をして、こちらを見ていない。そして会話が通じていない。
剣を持つ手が、わなわなと震えていて……ここに居ない誰かに対して、怒っているような感じだった。

得体のしれない恐怖を感じ、じりじりと後ずさるロゼッタ。
だが……どうやらアルフレッドにも「糸」が見えているらしいことは、理解できた。

子供のころから、ずっと見えていた糸。
手を伸ばしても届かない所にあった、糸。

<姉さま…もう、ロゼと遊んでくれない?>
<え、えーと、その……遊んであげたいのは山々なんだけど>
<……やっぱり、きらい。ソフィア様も、姉さまも>

わたしは、あのとき……姉さまにひどい事を言ってしまった。
悪い子だから、悪いやつにさらわれて、じごくに落とされて……

<グヒヒッ!!……ロゼッタちゃんの中、相変わらずキツキツだなぁ。
蘇生すると処女膜も再生するし、ホント最高だよ…グヒッ!また出るっ…!!>

じごくの魔物に、いっぱいいっぱい、いじめられた。
大きくなって、「糸」に手が届くようになって……魔物を、他の人たちを、殺せるようになった。

でも。

糸は、触れた瞬間から、私を縛り始めた。
殺すたびに、糸はどんどん増えていった。

……解けなくなった。糸が私を、操り始めた……

「……やめ、て………その、糸は………!…」
「はあっ……はあっ……ダメだ……普通の剣じゃ、切れないのか……?」

「そうだ………ガルディアーノ……ラウリートに伝わる双刀………『運命を断ち切る鋏』なら…!」

糸………糸を、切られたら……
わたしまた、じごくに落とされちゃう………?

828名無しさん:2021/02/11(木) 17:05:00 ID:???
「くっ……ただのお嬢さんかと思ってたら、意外と根性あるじゃない」

(左手で剣の特訓、した甲斐がありましたわね……)
「はぁっ……はぁっ……まだ……ここからですわっ!!……「四天連斬」!」

「なっ…!?」

ドガガガガッ!!
……ビシッ!!
「っぐあ!」

アリサの意表を突いた豪快な飛び蹴りで体勢を崩したヴィオラに、更なる追撃。
全身を駒のように回転させながら、木刀を連続で繰り出した。
一撃目は紙一重で交わされ、二撃目はヴィオラの鋏に弾き返されたが、
三撃目で逆に弾き飛ばし、最後の一撃がヴィオラの脇腹を打ち抜いた。

「こ、のっ……何なのよっ!!もうボロボロのくせに、どうしてそこまでして……!」

「言った、でしょ……あなたは昔の私に似てるって。
ロゼッタさんを守るために、他の全てを犠牲に……他人を、自分さえ傷つけてしまう。
でもそれじゃ、駄目なの……ボロボロになってるのは、あなたの方なのよ!!」

「………うるさいっ…!あんたなんかに何がわかるの!?
私には何も残ってない。もう、引き返せない……
ロゼさえ………ロゼッタさえ守れれば、私はどうなっても………!」

お互い素手の取っ組み合いになる二人。
だが負傷度の差はやはり大きく、何度かの攻防の後ヴィオラはアリサに馬乗りになる。

「悪あがきは終わりよ。アンタを殺して、私は……私は、ロゼを守る…守り続ける…!」
「このままずっと……トーメント王の言いなりになるつもり?
他人を傷つけ……自分を偽って。
今の、私を見て……『弱者を踏みにじる快楽』ってやつを、感じる?」
「…………!」

満身創痍になってもアリサは動じることなく、その言葉はヴィオラを鋭く射抜く。
自分とそっくりな顔立ちの少女と目を合わせられず、ヴィオラがアリサの上で動けずにいると……。

「勝負はつきました……もう十分でしょう。ヴィオラ様」

いつの間にか、アルフレッドが二人の側に立っていた。

「……奴らのやり口は、わかっているはずです。
貴女がどれだけあの男の言いなりになろうと、ロゼッタ様を救う事にはならない。
……あれを、ご覧なさい」

アルフレッドの指さす方には、宙に浮かぶロゼッタの姿があった。

「もう、じごくはいや……やっと……姉さまと、あえたのに……
いと…糸……きらないで、糸………」

魔法や能力で浮いている…のとは、少し様子が違う。
ロゼッタは意識が朦朧としているのか、がっくりとうなだれ、何かをうわごとの様につぶやいているようだ。
そしてロゼッタ以外にも、かすかに何者かの気配がする。

「………ロゼッタ…!?……あ、あれは……一体……!?」

……ヴィオラにも一瞬、見えた気がした。
ロゼッタの四肢に絡みついた、無数の糸が。
その無数の糸の先にいる、ロゼッタを傀儡の様に操る、何者かの巨大な手が……


【運命の見えざる手】
具現化した運命そのものか、あるいは何者かの悪意の塊か。
巨大な人の手のような姿をした、正体不明の存在。
その指の先からは不可視の「運命の糸」が無数に伸びている。

普通の人間にはその姿を認識する事も、攻撃する事も不可能……?

829名無しさん:2021/02/11(木) 17:06:29 ID:???
「見えますか………ロゼッタ様を縛り付けている、あの糸が。
……あれこそが、我々の本当の敵」
「何よ、あれ……ロゼは、今までずっと、あんな化物に捕らえられてたっていうの……?」

ガルディアーノを手にし、意識を集中すると、おぼろげだが「見えざる手」が見える。


糸でロゼッタの四肢を雁字搦めにし、分身体らしき通常サイズの手が、ロゼッタの全身に無数に群がっていた。

(ぞわっ……すりすりすり……くちゅくちゅくちゅ)
「ん、っはぁ……っ…!?……か、らだ……うず、く……ま、また、薬切れ……!?」

「……ガルディアーノを貸してください。ロゼッタ様は私が…」
「くっ……ロゼから離れろぉっ!!」
「ヴィオラ様っ!いけません、今の貴女では……!!」

アルフレッドの制止を振り切り、ロゼッタの元へと駆けるヴィオラ。
だが、「運命の手」にガルディアーノを突き立てる寸前。
「運命の手」の先に居る存在…得体のしれない何かと、「目」が合ってしまった。

「許さないっ……よくもロゼをっ!!………っぐ…!?」
そして、気付いた。
自分もまた、運命の糸に縛られていて、既に身動きすら取れなくなっていたことに。

ぎちっ………ぎちぎちぎちっ……
「い、いつの間にこんな……い、いや……もしかして、最初から……ずっと昔から、私は……」
<私に逆らっても無駄な事……大人しく、従っていればよいのです……>

ぎりぎりぎりっ!!
「っいぎああああああぁあぁぁっ!!」

運命の手が、わずかに指先を動かした。
それだけで、ヴィオラの全身が締めつけられ、手足があらぬ方向に捩じり上げられてしまう。
「運命」に弄ばれ続けるロゼッタを目の前にしながら、ヴィオラはどうする事もできなかった。

<……ラウリートの剣姫……所詮貴女は運命の駒にすぎない……>

巨大な手が、ヴィオラの身体を掴む。ゆっくりと、手に力が込められていく。

ぎゅっ………ぎち、ぎち…ぎちっ!
「や、めろっ………っぐ……あああああああっ!!」
<貴女はただ、踊っていればいい……私の掌の上で>

運命の巨大な手の中で好き放題に嬲られるヴィオラ。
一方ロゼッタも、無数の小さな手によって全身を隅々まで弄り回され、性感を無理矢理に昂らされていく…

(むにっ……ぐにぐにっ……ぎゅむっ……)
<それにしてもロゼッタちゃん、ほんとーーに大きくなったねえ。昔はあんなにつるぺったんだったのに>
「んっ……あ………だ、め……くす、り……効か、ない……!…」

(ざわざわざわっ……むちっ……じゅぷん)
<こっちも、こーんなに大きく実ってすっかり食べごろじゃぁ……
これもワシら分身体が長年ねちっこくマッサージしてやったおかげじゃのう…ウヒョヒョヒョ>
「からだ、じゅう………疼きが、とまらなくて……!!」

(くにくにくに……くりっ!)
<うふふふ♪こっちはアタシの指一本でいつでもイけるように調教済みよん♪>
「い、や………たすけっ……ねえ、さま……ん、むぐっ!?」
<はいはーい、ロゼちゃんの大好きなお姉さまがレズレズおしゃぶりフィンガーしてあげますよ〜♪>

「やっ……やめ、ろ……ロゼを、放っ……!!」
ぎりぎりぎりぎりっ!!
「っぐああああああんっ!!」
<貴女は人形……その体は、血の一滴、髪の毛一本まで運命の奴隷>

ぎゅむっ……ぐぎっ………
「うっぐ………が、は……!!」
<トーメントに仕え、トーメントのために振るわれる一振りの剣……>
「そん、な………嫌………私、もう………戦いたく………」

<逆らう事は不可能。運命からは決して逃れられない……>
ぎちぎちぎちぎちっ………ぶち……ぶしゅっ……
「お願い………せめ、て………ロ、ゼ……だけは…」

……文字通り、運命の見えざる手に弄ばれ続けるヴィオラとロゼッタ。
運命の糸は二人の全身にびっしりと絡みついて、もはや自分の意志では指一本動かせなくなっていた。

830名無しさん:2021/02/11(木) 17:09:14 ID:???
<ぐひひひひ……これでわかったかぁ?>
<ロゼッタちゃんは、こうしてワシらに弄ばれ続けて……>
<オイシくいただかれちゃう『運命』って事♪>

「んっ……う、ああっ……!!」

<そして貴女たちは……トーメントの手駒として、
永遠に殺戮と絶望を振りまき続ける『運命』という事を……>

「そ、……そん、な……の………」

ヴィオラとロゼッタは運命に、縛られ、苛まれ、弄ばれ、……屈服しようとしていた。


「……嫌なら、抗い続けるしかないのですわ。」
「そう……このふざけた運命に!」

……そこへ、アリサとアルフレッドが斬り込む。
二人の手にはリコルヌとガルディアーノがそれぞれ握られていた。

ザシュッ!!
<ぐっ!?…貴様らはっ……やは、り…>

二人の剣が運命の手を貫き、糸を次々と切り裂いていく。
不可視にして絶対、攻撃など不可能なはずの運命を。

「……運命に打ち克つには、リコルヌだけでも、ガルディアーノだけでも足りなかった。」
「運命に反する、ありえない存在。
本来互いに対立しあい、交わらないはずの両家の剣……
それらを合わせる事こそが、奴を倒す唯一の手段だったのですわ」

ズバッ!!ドスッ!!ザンッ!!

<ぐわあああああぁぁ!!>
<きゃあああああぁぁ!!>
<ひいいい!!と、年寄りに何を、っぎゃああ!!>

二人を縛っていた糸が半ば以上切り裂かれ、分身体も霧散していく。
ヴィオラとロゼッタも、もう少しで体の自由を取り戻せそうだった。

だが……

「しまっ……」「きゃあああっ!?」

<そこまでです………そう簡単に『運命』を乗り越えられるとでも、お思いですか>
……二人は、運命の巨大な手に捕らえられてしまう。

グリッ………ゴギッ………ギチッ!!
「はぁっ………はぁっ……まずい……アリサ様…!」
「っぐ……この、くらいで………っぐ、う、ああああああぁっっ!!」

運命の手は、万力のごとく二人の身体を締め上げる。
特に、既に重傷を負っていたアリサは、全身の傷から大量の血を絞り出されてしまう。


<思い知りなさい。私に………運命に逆らうなど、無駄な事だと……>
「いい、え……諦め…ません、わ……
腕を落とされようと……光を失おうと………何が、あっても……!」

力を振り絞り、運命の手から逃れようとするアリサ。
だが、アリサの身体はとうに限界を超えていた。
上半身を抜けだしたところで意識が途絶え、あふれ出た血で手が滑り、リコルヌが零れ落ちる。

「!?…し………まっ……」
「アリサ様っ!!」

<……アングレームの剣士が堕ち、リコルヌの使い手は居なくなった。
やはり、『運命』を斬る事など不可能ということです……くっくっく……>

831名無しさん:2021/02/11(木) 19:23:24 ID:???
<さあ……残りの者達も一人ずつ、片づけてあげましょう。
『運命』を受け入れ、ひれ伏すのです……>

不可視の糸と分身体が再び生み出され、残る三人に迫ってくる。
『運命』を倒すには、リコルヌとガルディアーノ、二組の剣が必要。
しかしアリサは戦闘不能へと追い込まれ、勝ち目が完全に潰えてしまった……

その時。

「まだ、とどく………私には、とどく。いいえ…‥届いて。うんめいの、いと……!」
ギュルルルルッ!!

<!……まだ糸を………運命を操る力が……!?>

ロゼッタはわずかに残った力で運命の糸を操り、床に落ちたリコルヌを絡め取る。

「姉さまっ!!」
「……ロゼ……!!」
そして、回収したリコルヌをヴィオラに投げ渡した。

<ふん……無駄な事です。
ラウリートの剣姫である貴女に、リコルヌが……アングレームの剣術が、使えるはずは……>

「だいじょうぶ……姉さまなら………」
「………貴女次第です、ヴィオラ様。運命に従うか、抗うか」
「そういう………事、なのね……」


………ジャキンッ!!
<何、だと………>

ヴィオラは……アングレームの剣術を、知っている。
かつてアングレーム家でも歴代最強と言われた剣士の技を、いつも間近で見て、憧れ、目標にしていた。
……その奥義に至っては、この身で受けて命を奪われた事もある。

「なんか……笑うしかないわね。これが運命の皮肉、ってやつかしら」

幼いころから何度も何度も見て、真似して、体に染みついた技だ。
捨てたい、忘れたい、そう思ったこともあったが……

「………アリサって子の言ってたこと、ちょっとわかったかも。
本当はすごく怖い、けど……ロゼッタのために、そして私自身のために……アイツを倒したい。
アルフレッド………手を貸してくれる?」

「もちろん。私の気持ちは………あの時と、少しも変わっていません。
微力ながら私たちも、ロゼッタお嬢様と共にヴィオラお嬢様をお支え致します。
だから……」
「……うん。きっと……大丈夫、だよね」


「アングレーム流奥義、トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「ラウリート流奥義、グランドゥレ・タルパトゥーラ!」

<やっ……止めろっ……っぐあああああっ……!!>

とても初めて共闘するとは思えない、完璧な連携で舞うように敵を斬る二人。
二つの奥義が、「運命の手」を縦横に切り裂いた………


一方。トーメント城の、とある一室。
ローブをかぶった一人の男が、テーブルの上の水晶玉に何やら一心に念を込めていたが……

「……っぐあああああっ!!」
中空に現れた光の刃が、男に襲い掛かる。
厚手のローブ、目深にかぶったフード、そして両腕を、刃が切り裂いていき……

「やはり………こうなりましたか。
アングレームとラウリートは手を結び、私に立ち向かってくる」

男の素顔が、ランタンに照らされる。
彼の正体は………王下十輝星の一人「アルタイル」のヨハン。

「ラウリート、アングレーム、そして運命の糸を操る力……
……良いでしょう。
果たしてあなた方が、私を………『運命』を越えられるか。
決着をつける時が来たようです」

832名無しさん:2021/02/12(金) 00:00:42 ID:???
「アリサ様!大丈夫ですか!?」
「失血がひどいわね……今まで動けてたのが不思議なくらい」
「止血……しないと」

「運命の手」をなんとか退けたアルフレッドたち三人は、倒れたアリサの元へと駆けよる。
特に右腕が重傷で、すぐにでも治療しなければ危険な状態だ。

「ど……やら……決着がついた、ようですわね………」
アリサがわずかに意識を取り戻した。
深い傷を負ったその目は、見えているのか定かではないが、
アルフレッドとヴィオラたちの雰囲気を感じ、全てが解決したことを察したようだ。

「丸く収まって、何よりですわ。ヴィオラさん、ミツルギの方々に宜しく……
後ほど、トーメントで…合流しましょう………」
「トーメントって、まさか………ちょっと、待ちなさいよっ!?」
「アリサ様っ!?いけません、アリサ様っ……!!」

……そう。もしアリサが絶命すれば、トーメント王の能力によって蘇生される事になる。
復活する場所は当然、王の居るトーメント城。
今の状況で、アリサがトーメント城に送られたら……最悪の事態だ。

「大丈夫よ、アルフレッド……知っているでしょう?
……わたくしなら、たとえ、死んだとしても……」
「くっ……アリサ様、気をしっかり持ってください!今、本陣に応援を……アリサ様!!」
「アリサっ!?ちょっと、さっきまでの根性はどーしたのよっ!?」

……アルフレッドたちの必死の手当ても空しく、
アリサの呼吸はだんだんと弱弱しくなり。そして………息絶えた。

「………………。」
「なんて事だ………アリサ様が、トーメントの手に……!!」
「………ど、どうしよう。アルフレッド………」

アリサの死体が淡い光を放ち、転送される。
更に悪い事に、彼女の愛剣リコルヌはヴィオラが持っていたため置き去りとなった。
身を守る武器もなく、王の喉元トーメント王国に送り込まれる事となったアリサ。
このままではアリサがトーメントに囚われ、どんな目に遭わされるかわからない。
それだけではなく、これから本格的に始まるトーメントとの戦いにも、大きく影響するだろう。

「……我々だけでは、どうしようもありません。
ひとまずミツルギ本陣に戻り、協力を仰がねば。
ですが……」
ロゼッタとヴィオラを見やり、アルフレッドは躊躇する。
言うまでもなく二人は、ミツルギにとって敵であるトーメントの人間。
アリサが居ればともかく、外様のアルフレッドが事情を話したとしても、果たして納得してもらえるか。

「わたしは糸……使えなくなったみたい。つまり……運命に、見放された。
だから、ミツルギがわたしに何かする、場合は……にるなりやくなり」
「いやいやいや……そのテンジョウ皇帝とかいう奴、大丈夫なんだよね?
最悪の場合、私とロゼは別行動するけど…」
「大丈夫です……ヴィオラ様、ロゼッタ様。お二人の事は、決して悪いようには致しません。
それに、アリサ様の事も……このアルフレッド、身命を賭して必ず無事に助け出します」

最終決戦の舞台、トーメントを見据え、想いを新たにする三人であった。


「ウィーー、ヒック。アルフレッド殿、それにアリサ殿ー!どうやら無事なようだな!」
……そこへ、アルフレッドの救援要請を受けて、五人衆の一人、酔剣のラガールが現れる。

「え、アリサ様?……そうか。私をアリサと間違えてるんだ」
「ラガール様!実は大変な事が起きてしまいまして………かくかくしかじか」

「ウィー……いや、カクカクシカジカじゃわかんねーでござるっつーの!
あれ、そっちの人はトーメントのロゼなんとかでござるじゃないか!
つまり、説得して和解したって事でござるな?いや流石アルフレッド殿!これにて一件落着ござるじゃないか!」

今回ラガールは、戦場の至る所を駆け回り、数多くの魔物を蹴散らし、窮地の味方を助け、
戦闘描写こそバッサリカットされたが、まさに獅子奮迅、八面六臂の大活躍。
かつてないほど酔剣を使いに使った結果、今の彼はぐでんぐでんのヘロヘロ状態であった。

「と、とりあえず……テンジョウ様の所に戻りましょう。詳しい事情はその時に……」
「アルフレッド……本当に大丈夫なの?こいつら……」
「………もうどうにでもなーれ」

833名無しさん:2021/02/13(土) 21:32:59 ID:???
「……なん…だとっ……アリサ姉ちゃんが………!?」
「申し訳ありません、テンジョウ様。……全てはこの私の責任です」
ミツルギ軍は、アレイ草原の戦いにおいて見事トーメント軍を打ち破った。
その矢先のアリサの「戦死」報告に、テンジョウたちは衝撃を受ける。

「……陛下…この事が兵たちに知れたら、全軍の士気に影響します。今は我々だけの秘密に留めておくべきかと」
この重大な報告はごく限られた者にのみ伝えられた。
今ミツルギでこの事実を知る者は、皇帝テンジョウ、執事ローレンハイン、
そして当事者であるアルフレッド達のみである。

「ちっ………わかってるよ!
……アルフレッド。今すぐお前をボッコボコに殴ってやりたい所だが……
今はアリサ姉ちゃんを助けるのが先だ。トーメントに着いたら、速攻で城に潜入して救出するぞ!」

かくしてテンジョウ率いるミツルギ軍は、改めてトーメントの首都へ向け進軍を開始するのであった。

………………

「ふん……アレイ草原を突破され、ミツルギに差し向けた魔物兵どももほとんどやられたか。
ロゼッタ達も、「向こう側」に落ちたと考えるべきだろうな。
……まあ、こうしてアリサお嬢様が手に入ったのは良かったが。ヒヒヒヒヒ………」

一方、トーメント城内の中庭にて。
巨大な十字架に磔にされたアリサが目を覚ます。

「……んん、っ………ここ、は……?……」
(!……迂闊でしたわ。アルフレッドとヴィオラが仲直りしたのを見て、気が緩んでしまったのかしら……)
目の前には、ニタニタと笑うトーメント王の姿。
自分が一度死に、蘇生されたのだとすぐにわかった。

「お目覚めのようだな、アリサお嬢様。
ようこそ……いや、おかえりというべきか。ヒッヒッヒ!
運命の戦士の一人である君が、早々に『処刑場』に送られてくるとはね……」

「トーメント王………処刑場、ですって…‥!?」
アリサが周囲を見回すと、広大な庭の中に無数の十字架が立てられているのが見えた。

「開戦後は、女の子たちが戦死したら自動でここに送られてくるようにしておいた。
ここに来た子はスイッチ一つで拷問部屋や地下闘技場に送り込めるし、
もちろんこの場で痛めつけても良し……以後いろんなシチュでリョナり放題というわけだ。
いずれはここに設置されている十字架を全部埋めてやる……
目指せネームドキャラフルコンプ!ってところだな!」

「ネームド…?……またわけのわからないことを……そう上手く事が運ぶと思わない事ですわ。
今にアルフレッド達や、唯達が……必ず、助けに来てくれる…!」
「ヒッヒッヒ!アルフレッドのアホはどうでもいいが、
ミツルギの女の子や唯ちゃん達には、もちろん全員ここに来てもらうとも。
今まで君たちは散々俺様に盾突いてきたが、今度こそ、二度と逆らう気にならないよう徹底的にいたぶってやろう」

「くっ………見損なわないで。
どんな卑劣な事をされようと、わたくし達は貴方たちに決して屈しませんわ!」
身動きが取れないながらも、アリサはトーメント王を毅然と睨み返す。
王は「その言葉が聞きたかった!」と笑みを浮かべ、満足げにうなずいた。

「さてさて……アリサちゃんはこの手で直々に嬲ってやりたいところだが、俺様も色々忙しい身でな。
ひとまず地下闘技場で、魔物どもの相手をしていてもらおうか。
あそこの奴隷闘士たちはスネグアの奴に傭兵として連れて行かれたから、観客も魔物どももみんな血に飢えている……
格ゲーのサバイバルモード回復なし版か、無双できない無双ゲーみたいな事になるだろうな……ヒッヒッヒ!」

「ふん……わたくしだって、大人しくやられる気はありませんわ。
地下闘技場の貴方の手下どもを、一匹残らず切り捨てて差し上げます!」
「ヒッヒッヒ……その木刀で、かね?」
「!?……これは……!」

王に指摘されて、初めて気づいた。
アリサが腰に差していたのは宝剣リコルヌではなく、エリから貰ったお守りの木刀。
トーメントに送り込まれる際、手放してしまったのだ。

「君の戦いは、録画して後でじっくり見させてもらうよ。では健闘を祈る。ヒヒヒヒヒッ……!!」
「くっ……負けるものですか。みんなが来るまで、絶対に持ちこたえてみせる………!」

834名無しさん:2021/02/13(土) 23:05:15 ID:???
「さ〜てと。今回の『戦利品』で、目ぼしいのはもう一人……傀儡人形のクロヒメちゃんか。
たしか主人の身代わりになって爆死したんだっけか?泣かせるねえ」
「………ぜんぜん違う。過去ログを見直してこい、愚か者が」

トーメント王は闘技場に送られたアリサを見送った後、
少し離れた場所で同じく磔にされた、もう一人の戦死者……クロヒメに話しかけた。

「がははははメタい!きみ巫女さんより現世に馴染んでない?!
まあそんな事より……君の処遇については、実はある人物に一任してある。
ミツルギに派遣した軍勢の、数少な〜い生き残りだ。ヒッヒッヒ………」
「生き残りじゃと?………まさか…」

王が合図をすると、黒い人影が風の様に現れる。

「ハーイ♪私は人呼んで『呪詛のサシガネ』よん。初めまして、クロヒメちゃん♪
思った通り、素敵な人形ねぇ。あのクソ巫女には勿体ない逸品だわ。フフフフ………」

……元ミツルギの暗殺部隊所属、今はトーメントに仕える女忍び。
先の戦いでは七華を一方的にいたぶり、クロヒメの死の間接的な原因にもなった。

「ふん。誰だか知らんが……わらわはどうせ一度死んだ身。
何をされようと、今更どうという事もないわ。こんな戒めなど、そのうち抜け出してくれる」
トーメント王は、死者蘇生の力がある……噂には聞いていたが真実だったとは、
しかも人形である自分にも適用されるとは思っていなかった。
だがこうして生き返った以上、なんとか脱出してもう一度七華に……
クロヒメが、そう考えていると。

「あらそう……じゃあ、遠慮なく。
クロヒメちゃんにはこれから、アタシの呪詛人形になってもらうわ。
呪う相手はもちろん、あの忌々しいクソザコ巫女ちゃんよ。
ここに送られてくると思ってたのに、まーだゴキブリみたいにしぶとく生き残ってるなんて……絶対許せないわぁ」

「なっ………なんじゃと!?……そうか、貴様が七華を……!」
「………だからアイツがここに送られて来るまで、呪いで徹底的にいたぶりまくってあげるの。
まずは釘で両目を潰してあげましょうか?それとも独蟲攻めがいいかしら?楽しみねぇ………」

………………

ところ変わって、戦いを終えたミツルギ軍本陣。
危ない所で撤退に成功した七華は、先の戦いでの負傷を癒していたのだが……。

……ズキンッ!!
「っぐ、あぁっ……!?」
巨大な釘で全身を刺し貫かれるような、鋭い痛みに襲われた。

ザクッ………ブシュッ………ドロッ
「これは………まさ、か………奴の、呪術……っきゃあっ!?……」
傷口を覆う包帯から、血が滲みだす。両目にも同様に痛みが走り、目を開けていられなくなった。

「七華様…!?……これ、まさか……サシガネ様が…」
「え、ええ………間違い、ないでしょう……ん、あああんっ!!」

七華は苦しみにのたうち、時折甲高い悲鳴を上げ、全身に玉のような汗が浮かべる。
横に居たワラビ……サシガネの『人形』だった少女が、思わず心配そうに声をかけた。

<安全な場所からジックリタップリ嬲り殺しにするのが本来の必勝パターン……>
サシガネが言っていた通り、これほど理に適った暗殺手段はない。
術者が遠く離れた場所にいる上、呪術に対する知識がない以上……対処は不可能。

「七華様……ミツルギに戻りましょう。そんな身体じゃ、戦うどころじゃ……!」
「……だ、め…です……私は……五人衆の一人。
クロヒメ様がいなくても、私は……戦い抜かなければなりません……!」

「ですが、このままでは……トーメントに……サシガネ様に近づくにつれて、
呪いの力は、もっともっと強くなっていくんですよ…!」
「それに、私に呪術を使っているという事は、サシガネはまた誰かを『人形』にして使っている。
そんな事、許しておけない……だから、ワラビさん。
この事は……絶対誰にも、言わないでください。お願い、します………!」

満身創痍になりながら、最後の戦いへの決意を新たにする七華。
果たして、仇敵サシガネの元へとたどり着き、呪いを打ち破ることは出来るのだろうか……

835名無しさん:2021/02/27(土) 20:32:58 ID:???
深夜。
トーメント軍の小型ステルス機が、ナルビアとの国境、ゼルタ山地付近を飛行していた。

「間もなく目標地点へ到達する。作戦を説明するから、降下準備しながら聞いて」
「はいはーい、全員けいちゅー!リザ隊長のお言葉ですよー」
「……スズ。黙って」
「…………はーい」

乗り込んでいるのは、リザ率いる小隊のメンバー、エミリア、スズ、カイト、ボーンド。
降下用のパラシュートを装着しながら、リザの話に耳を傾ける。

「目的は、ナルビアの最終兵器『メサイア』の破壊、無力化。
この高速ステルス機で目標地点近くまで一気に接近し、この『破壊プログラム』を対象に打ち込む」

リザは懐からダーツ型デバイスを取り出し、メンバーに1本ずつ配った。
これをメサイアに打ち込めば、プログラムが作動してメサイアを無力化する仕組みらしい。

「『破壊プログラム』……そんな物、よくこの短時間で準備できましたね」
「詳しくは聞かされてないけど………情報提供者が居た、みたい」
「ま、知る必要はない、って奴だな。俺らの仕事は、メサイアちゃんに一発ぶち込むだけ、と」
「そういう事……簡単だけど、説明は以上。何か質問ある?」

「うーん……あ、そうだ!私たちのチーム名、まだ決めてなかったよね!
『トーメント小隊』はダサいから、なんかオシャレでかっこいい感じにしたい!」
「……なんでもいいよ。任せる」
スズに適当に受け答えしつつ、リザもパラシュートを付けて降下準備を整えた。

「チーム名、ねえ。…それじゃ………」
ボーンドはどこからか古びた辞書を取り出し、ぱらぱらとめくり始めた。

「…………『トラディメント小隊』、ってのはどうだ」

「その決め方、なんかおしゃれでイイ!さっすがボーンドさん!」
「な、なんかあんまり変わってないような気がしますけど……どういう意味なんですか?」
「ああ。これはだな………」

………ドガーーーンッ!!

その時。激しい衝撃が走り、機体が大きく傾いた。
リザたちの居る降下口も、一瞬にして半壊する。

「これは…敵襲!?」
「レーダーに反応なし!これは……戦闘機じゃない。正体不明の何かが、攻撃を仕掛けてきました!」
「ま、まさかメサイアってやつが向こうから仕掛けてきたの!?」

「いや、これは……魔法針………!」
リザは、足元に金属製の小さな針が転がっているのに気付いた。
これが無数に飛んできて、機体を破壊したのだ。

「正体不明の敵、再接近してきます!」
「この機は持たない!全員、すぐ降下して!私が時間を稼ぐ!」

リザは叫ぶと、ナイフを抜き放って敵に備える。
青い光が、急速に接近してくるのが見えた。あれは………


「第3機動部隊師団長………シックスデイの一人、アリス・オルコット……!」

836名無しさん:2021/02/27(土) 20:36:42 ID:???
…その少し前。


「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、隊長篠原唯以下5名、現着しました!」
唯達ヴェンデッタ小隊のメンバーは、ゼルタ山地の中腹に建てられたナルビア軍の前線基地へ到着した。

「はーい、ごくろうさまです。
第3機動部隊、副師団長臨時補佐代理のエミル・モントゥブランよ。よろしくね♥
これからあなた方は、我々の指揮下の元行動していただきます。
それで、こちらが隊長の………」

「アリス・オルコットです。あなた方が連合軍からの援軍ですね」
唯より少し年下に見える、軍服を着た少女がほんの少しだけ顔を見せ……

「……せいぜい足を引っ張らないように。後の説明は任せます、エミル副団長」
5人を一瞥すると、またどこへともなく歩き去ってしまった。

「……なんだ今の!感じ悪っ!」
「あー……ごめんなさいね。彼女、最近とくにピリピリしてるみたいで……」
(最近ずっとあの調子なもんだから、副団長がコロコロ変えられて、とうとう私にお鉢が回っちゃった……のよね)

「うーん……確かに元々あんな感じだったけど、昔はあそこまでではなかったわよね」
憤慨するオトをなだめるエミル。
そして、エルマもアリスの様子にただならぬ不自然さを感じていた。

「そういやエルマは地元だっけ。知ってんの?今のやつ」
「うーん……まあ知り合いって程じゃないけど、有名人だからね。かくかくしかじかWiki参照で」
「へー。双子の姉妹がいるのか。てことは、片方が毒舌でもう片方が常識人なパターン?」
「残念だったな……さっきのが、比較的常識人な方だ」
「なん………だと………」
「ちょっとエルマちゃんオトちゃん!ストップストップ!」

悪口大会に発展しそうだったので、唯が慌てて止めに入る。

「……ごめんなさいね。ああ見えて本当は、優しくて繊細な子なの。
ああなった原因は……心当たりがあるから、私の方でなんとかしてみる。
とにかく今は、なるべく彼女をフォローしてあげてほしいの」
「りょ、了解であります!」
「ふふふ……貴女が唯ちゃんね。彩芽ちゃんから聞いてた通りの子だわ……アリスちゃんの事、よろしくね」
「!…彩芽ちゃんを知ってるんですか!」
「ええ、そうよー。あの子、一見ぐうたらしてるように見えてなかなかどうして、
ウチに滞在してる間に、研究データを利用してあんな事やこんな事……」

妙なところから思い出話に花が咲き、
ブリーフィングルームは、間もなく戦いが始まるとは思えない和気あいあいな雰囲気に包まれた。


一方………

「アリスちゃん。調子はどう?」
「………問題ありません。何か用ですか?……ミシェル博士」
首都オメガネットからの通信を受けたアリス。

「トーメントの特殊部隊が乗り込んだステルス機が、間もなくそっちにやって来る。
おそらく陸上部隊も、それに合わせて奇襲してくるはずよ」

管制からは何も報告はない。レーダーにかからない高性能ステルス機、だとしたらその出撃をなぜミシェルが知っているのか。

「……それも、『信頼できる情報筋』からですか」
「ふふふ、どうかしらねえ……とにかく。『あれ』の実践初運用の相手には、丁度いいじゃないかしら?」

恐らくミシェルは、トーメントと内通しているのだろう。
アリスはそれを知りつつも、ミシェルを利用している……
というより、そんな事は、何もかも、今のアリスにとってはどうでもよかった。

「いいでしょう……『ブルークリスタル・スーツ』で、出ます」

……目の前に現れる敵を、ただせん滅するのみ。

837名無しさん:2021/02/27(土) 20:41:27 ID:???
「滑走路開けなさい。私が出ます……『蒼填』!!」

アリス・オルコットが<蒼填>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
オメガネットのマザーコンピュータによって増幅された未知の物質、
ブルー・エネルギースパークが衛星を通じて転送され、ブルークリスタル・スーツへ変換。
わずか1ミリ秒で<蒼填>を完了するのだ!

アリスがブレスレットを掲げ、コマンドワードを叫ぶと、よくわからない謎の原理によって
一瞬にしてコンバットアーマー……
レオタード型のインナースーツに、青く輝く金属装甲を装着した姿へと変わった。

サラ・クルーエル・アモットの装着していたアーマーに似ているが、
こちらはより機動力を重視……そして防御を捨てて一撃に特化しているのか、装甲は少なく、肌が露出している部分も多い。
そして何より特徴的なのは、背面のバックパックに付いている、巨大な羽とスラスター。

そう……アリスのために特別に作られた「ブルークリスタル・スーツ」は、
エリスやレイナのそれにはない、飛行能力を持っていた。


「え、ステルス機が奇襲!?
アリス隊長が単独で突っ込んでったですって!?
どどど、どうしましょう……!」

遅れて敵の襲来を察知したエミルたちは、隊長不在で混乱に陥ってた。

「わ、私、追いかけます!ホウキで飛べるんで!」
「ええ!?ゆ、唯ちゃん!じゃあ私も……!」
唯とサクラはホウキにまたがってアリスの後を追う。
……とは言え、圧倒的なスピードで飛んで行ったアリスに、追いつくのは難しいだろう。

「あ、うちらはムリ」
「あたしの強化装甲も、飛べる事は飛べるけどさすがに戦闘機レベルの高度は……」
「ここは唯さんたちに任せましょう。それに……」

「えええ!?地上からも敵の魔物兵ですって!?」
エミルが再び叫び声をあげる。
前線基地のあるゼルタ山に、トーメントの軍勢が押し寄せていた。

「やはり……地上からも来ましたね。ウチらは地上の守りを固めましょう」
「そ、そうね。じゃあ、紹介するわ。わが第3機甲師団が誇る、頼もしき究極機兵部隊たち!」

「我ら機兵部隊『地獄の絶壁Ω』!!」
「格闘機兵最終決戦仕様『ルビエラ・リアライジングホッパー』!」
「殺戮機兵最終決戦仕様『アルティメット・エミリー』!」
「砲撃機兵最終決戦仕様『フルアーマー・サフィーネ』!」
「であります!」

「赤がルビ、緑がエミ、青がサフィか!よろしくな!」
「一瞬で略された!?」

もちろん機甲師団というくらいだから他にもいっぱい色々いるのだが、ここでは省略。
残ったルーア達は、ナルビアにおけるセロル枠『地獄の絶壁Ω』と共に戦う事になった。

「みんな頑張ってね!他の機甲師団とも連携して、前線基地を守るのよ!」
「「「おーーー!!!」」」

かくして戦いは、トーメント王国軍の奇襲により慌ただしく幕を開けた。
前線基地の防衛に当たるルーア達。そして、アリスの後を追う唯達の運命やいかに……

838名無しさん:2021/02/28(日) 01:02:19 ID:???
「よし、このまま身を潜めて逃げるわよ。連中が潰し合ってるうちに、リンネと合流できたらいいけど……真っ白幼女の件もあるし難しいかしら」

戦闘のどさくさに紛れて逃げているのは、サキ、ユキ、舞の三人。サキが先導してトーメントにもナルビアにも見つからないルートを探し、ユキを背負った舞が後ろに続いている。

舞がスネグアの天幕で時間を稼いでいる間、サキはユキと再会し、脱出計画を話した。舞から自分たちはシックス・デイを誘い出すデコイにされていると聞かされても、脱出しなければ遅かれ早かれ破滅しかない。作戦を強行するしかなかった。
ユキは機械化はしているが、素直に話を聞いてくれた。そもそも今回はサキを守る為に自分からされた改造であり、サキを傷つける気持ちは全くないと、ユキはサキの胸に顔を埋めながら言った。

ユキは機械化された影響で立って行動することもできるが、エネルギー補給の目途がない今、舞に背負われている。

「んっ!」

「……舞?大丈夫?やっぱりスネグアにやられたのがまだ……」

「い、いえ、大丈夫です。ユキ様は私が背負うので、サキ様は探索にご専念ください」

「……分かったわ。でも辛くなったら、すぐに言ってね」

心配そうな顔をしたサキ。だが、だからこそ早く安全圏まで逃げなければならないと、再び前を向いて先導した。



「んふふ♡お姉ちゃんにバレないで良かったね、舞さん?」

サキが前に行ったタイミングで、ユキは舞の耳元で囁き……その耳穴に、舌を捻じ込んだ。

「んっ……!ふ、わぁ……!」

「ふふ♡頑張るなぁ♡でも、お姉ちゃんがピンチの特に舞さんが助けたらヤだからね?」




時は、前日の夜に巻き戻る。

ゆっくり休息できるのは今日が最後だからと、ユキは三人で寝ることを提案した。不埒な輩がサキを狙わないかと警戒した舞も、スネグアの作戦に自分たちが逃げることも組み込まれている以上、開戦前の今何かしてくることはないと思い直した。

サキの天幕で、三人川の字になって眠っていたが……舞に問題があった。ブーツがなければ体に刻まれた快楽が抑えられないことをサキにも伝えていないが故に、寝る時にブーツを脱がなければならないことだ。

今まではブーツを履いたまま寝るか、一人で喘ぎながら何とか眠りについていた舞。
サキに心配をかけたくない彼女は、自分の体のことを伝える気はない。ブーツがないからと言って喘いではいけない。

キメラに責められてから、ブーツがない時はより一層体が疼くようになった舞。それでもサキにもユキにも心配をかけない為、喘ぎ声を我慢して眠りについたのだが……

それは、突然訪れた。


「うぅん……ユキ様……?」

サキに抱きついて眠っていたはずのユキが、もぞもぞと身じろぎしてこちらに来た。何か伝えることでもあるのだろうかと、寝ぼけまなこを擦ったその時……ユキの唇が、舞の口を塞いでいた。

「んむぅ!?」

「んちゅ、はむぅ……んっ、は、はぁ、はぁんむ……」

熱い吐息を吐きながら、一心不乱に舞の口の中に舌を入れてディープキスを繰り返すユキ。
思わず相手がユキだというのも忘れて力を入れて抵抗しようとしたが……

839名無しさん:2021/02/28(日) 01:03:28 ID:???



「ん……大きい音、出さないで……お姉ちゃんが、起きちゃうよ……?」

一旦キスを止めてそっと耳元に口を近づけたユキに囁かれて、抵抗が止まる。

「やはり、改造の洗脳が……」

「んふ、そんなのどうでもいいじゃない……重要なのは、私がお姉ちゃんを守るのに、貴女が邪魔ってことだけ」

妖艶に微笑んだユキが、スルスルと舞の寝間着の隙間に手を差し込む。

「お世話になったから着いて来るなとは言わないけど、お姉ちゃんを守れないくらいにはなってもらわないと、ね?」

「ユキ様、いけ、ませ……」

「声を出さないで」

ゾッとするほど冷たい声で囁かれた瞬間……ユキは片手で舞の左胸の乳首をギュゥウウ!と摘まみ、片手で陰口に指を突き入れて掻き回す。さらに舌は舞の左耳をじっとりと舐める。


「んっ、〜〜〜〜!?」

キスをされていないのも、声を抑えなければいけない今となってはデメリットでしかない。ただでさえ疼いていた体に、13歳とは思えぬ手管で三点責めされる。

声を押し殺す為に、サキを起こさない為に、守る為に、必死に歯を食いしばる。

「んっ、ふっ、ふぅう……お姉ちゃんは、誰にも渡さない……!んちゅっ、れろ……お姉ちゃんは、ユキだけのもの……!はむっ、むぅ……お姉ちゃんを守れるのは、ユキだけ……!」

熱い吐息を耳に吹き掛け、じっとりと耳穴をねぶりながら、ユキは興奮気味に言う。やはり、前に機械化した時と同じ。洗脳され、それを隠している。サキを守りたいという想い自体は本物なのだからたちが悪い。

「あああンッッ!」

「もう、そんなに大声出したら、お姉ちゃんが起きちゃうよ?どうやって誤魔化すつもり?」

「は、あぁ……んっ!!や、やぁあ……!」

「私、別に逃げるのは止めないよ?舞さんが邪魔なだけで。でも私がこうだって知ったら、お姉ちゃんは逃げるの諦めちゃうかな。そうしたら、スネグアさんに使い潰されて、姉妹揃って玩具になっちゃうかも♡」

「だ、めぇええ……!」

「そーう?私は別にそれでも構わないけど……嫌なら、我慢しなきゃね?」

「やぁん、やはぁぅっ、あん、あんぅぅ!!」

大声を出さないように必死に我慢する舞。限界が来そうになっても、隣で安らかに眠るサキの顔を見て、決意を新たに耐える。だがそれを見てユキが嫉妬し、舞への責めをさらに激しくする。
最早何回イッたか分からない程、舞は下着どころか寝間着までぐしょ濡れにしていた。



結局、舞はそれ以降、一睡もできなかった。そして今も、おぶったユキが隙あらば耳を舐めて来る。
ブーツを履いていても走る電流に、とうとう抑えるのも限界が来たと悟る舞。

サキさえ無事なら、ユキが守ってくれるので問題ないが……もしもユキでも勝てないような相手と当たってしまった時は……その時は、命を捨ててでも盾になる、悲壮な覚悟を決めた。

840名無しさん:2021/03/06(土) 18:41:41 ID:???
リザたちを乗せた輸送機は半壊し、墜落は確実だった。
だが、攻撃を仕掛けてきた青い飛行体………アリスは、なおも輸送機に襲い掛かる。

「あの青いの、まだ追ってくるみたいだな。ここは隊長のお言葉に甘えるとしますか……お先に失礼」
「わわわわわ!待ってボーンドさん!パラシュートのつけ方、これで合ってるかな!?」
「やれやれ……面倒見てやれ、小僧」
「ええ、僕ですか!?……エミリアさん、ちょっと見せて下さい……」

ドガァァァンッ!!

「「わああああっ!?」」

「また来たっ……みんな、急いで降りて!私も後から行く!」
(接近してきたところを、テレポートで……迎え撃つ…!)

炎上する輸送機から、「トラディメント小隊」のメンバーが次々飛び出していく。

「………逃がしません」
飛行能力を持つ特殊スーツを身に着け、高速で迫りくるアリス。その周囲には、小さな光が無数に追随している。

……ズドドドドドッ!!

光の正体は、アリスの得意とする魔法針。
改造手術で魔力が大幅に強化された事で、以前とは比較にならないほどの数を同時に、自由自在に動かす事が可能。
そして超鋭敏になったアリスの感覚は、周囲の空間すべてを支配する。
羽虫一つでさえ見逃さず、戦闘機や巨龍すら撃墜する、恐るべき兵器へと進化を遂げていた。

「はーい、アリスちゃん。こちらミシェルよ。調子はどうかしら?」

「問題ありません……既に交戦状態です。無駄話は止めて、オペレートに専念して下さい」

「ふふふふ……これでも心配してるのよ?
ついさっき『改造手術』を終えたばかりなのに、いきなりの実戦ですもの。
本当はこのシステム、レイナちゃんかエリスちゃんに使ってもらう予定だったのよ?
アリスちゃんたら、元の体力や筋力は三人の中じゃ一番低かったのに、
あんまり可愛くおねだりしてくるもんだから、ついついサービスしすぎちゃったのよね……」

「頼んだ覚えは……ありません……再び接敵します。もう、切りますよ……!」

改造される前後のアリスの記憶は曖昧だ。
この状況を自ら望んだのか、強要されて拒めなかったのか、今のアリスにはもうわからない。

ただ一つ覚えているのは……リンネがナルビアを見限り、敵であるリゲルと愛を交わしていた、あの日の光景。
自分にはもう何も残っていない、という、絶望的な現実。

それを束の間でも忘れるためには、目の前の敵を殺して殺して殺して殺しまくるしか……

「はいは〜い。それじゃ頑張ってね〜♪
あ、最後に一つ忠告(ブツッ!!」

「……アリス・オルコットぉぉぉっ!!!」
「…………スピカ……!!」

ミシェルからの通信が突然途切れ、アリスの思考が中断される。

敵が、目の前に居た。
自分と同じ目をした少女が。

841名無しさん:2021/03/06(土) 18:45:14 ID:???
「たああああぁっっ!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
キンッ!!キンッ!!ガキンッ!!

テレポートで一瞬にして斬りかかってきたリザを、
アリスはスーツに内臓された接近戦用の電磁ブレードで迎え撃つ。

((強い………!!))
過酷な修行の経て、戦闘力に更なる磨きをかけたリザ。
強化手術を受け、近接戦闘力も格段に向上したアリス。
両者とも、まるで殺気をむき出しにした獣……否、眼前の敵を殺すだけの、殺人機械のような戦いぶりだった。

(仲間を守るため、時間稼ぎのため……?…違う。私はただ、戦いたかっただけ……一秒でも、一瞬でも早く…)

リザとアリスは、目が合った瞬間、少しだけ互いの事が分かった気がした。
過酷な運命の濁流に飲み込まれ、戦い、抗いながら、ここまで押し流されてきた事を。
……そして、お互い引き返す術は既にない事も。

(アリス……貴女を殺して、私は生き延びる。お姉ちゃんも、篠原唯も、私の敵は……トーメントの敵は、全員……)
(スピカ……貴女も何か……背負いきれないものを背負っている。しかし、今の私には関係ない事)

アリスは高速飛行で間合いを離し、魔法針の弾幕を張る。
対するリザは、針の弾幕をナイフで弾き返しながら、連続テレポートで再び間合いを詰めていく。

(ここで……)
(………決める!!)

激しい空中戦が繰り広げられ、目まぐるしく攻防が入れ替わった後。

リザはナイフから魔剣『シャドウブレード』に持ち替え、アリスもまた魔法針に魔力を込め、必殺の構えを取った。

その時。

「そこまでよ、リザちゃん……みんな無事に降下したわ。」
「スズ…!?」
いつの間にか、スズ・ユウヒが二人の近くに飛んできていた。
背中には個人用の飛行ユニットを背負っている。

「非常用ジェットパック?…ありえない。そんなもので、私たちに追いつけるはずが…」
「ふふふ……リザちゃんと私は、運命の赤い糸で結ばれてるからね♪」
「……誰だか知りませんが、邪魔をするなら、貴女も一緒に始末するまで」

「今のリザちゃんの、深海みたいな碧い眼はとっても素敵だけど……
ここで散るには、まだまだ早すぎる。わかるでしょ?」
「スズ……わかった。先走ってごめん」
「いいのよ、これくらい♪……だってリザちゃんを守るのが、私の生きがいだもの」

ズドンッ!!
……スズは不敵に笑い、ハンドガンを頭上に向けて放った。

「っぎあ!?」

閃光弾。周囲に激しい光と衝撃が走る。
常人より遥かに鋭敏な感覚を持つアリスには、格段に効いた。

「さ、リザちゃん。今のうちに、降下しましょ」
「う、うん。でも………」
リザは飛び出すとき、パラシュートを持って来なかった。
スズの飛行ユニットも、二人で飛べるほどのパワーはないし、何より燃料がもう切れかかっている。

「大丈夫、そこも計算済みよ。……この下は、ちょうど湖があるの」
「え……でも、下が湖だとしても、この高さじゃ……!?」

慌てるリザの身体を、スズはゆっくりと優しく抱きしめる。
リザの中で、かすかな記憶がよぎった。
前にもこうして、誰かに守られた事があった……遠い遠い、昔の事のような気がする。

「大丈夫。きっと……母なる海が守ってくれるわ。湖だけど」
「スズ……!?」

………ザバンッ!!

微笑むスズの顔が一瞬、姉ミストと重なって見えた。
リザが何か言葉を紡ごうとしたその時。大きな水音と共に、視界は暗転した。

842名無しさん:2021/03/06(土) 18:47:58 ID:???
「あらら……通信切れちゃったわ。忠告してあげようと思ったのに。
改造手術したばかりで体がまだ慣れてないだろうから、体力や魔力の使い過ぎには注意しなさい、って……」

リザとアリスの空中戦が始まった頃。
ミシェルはアリスからの通信が一方的に切断されて困惑?していた。

「今のあの子じゃ、全力全開で戦えるのは、せいぜい10分か15分くらい。
困ったわねぇ、あんまり無理せず、早く帰ってきてくれるといいんだけどぉ〜♪」

「おやおや……いけないなぁ。
そんな大事な情報を本人に教えず、あろうことか『敵』に漏らしてしまうなんて」
「あらやだ、すっかり忘れてたわぁ。『昔の友達』との通信、入れっぱなしだったなんて♪」

しかもしかも、敵軍の司令官であるスネグアに、うっかり独り言を聴かれてしまっていたのである。

「フフフフ……ま、君の独り言という事にしておいてあげようか。
しかし、良いのかい?彼女は君の、お気に入りだったのでは?」

「ふふふふ……確かに。いっぱい弄ってデータも沢山とれて、もう十分満足したからね。
最後に、手土産として役に立ってもらうわ……私がトーメントに舞い戻るための、ね。
ああいう子、貴女も好きでしょ?スネグア司令官様」

「なるほど……『古い友人』だけあって、私の好みを心得てるね。
それじゃ、私も遠慮なく君の玩具で遊ばせてもらおうか。
継戦能力に乏しい相手には、飽和攻撃……ひたすら数で押すのが有効そうだ。

それにしても、分断されたウチの特殊部隊のメンバーも心配だなぁ。
ナルビアの軍勢に待ち伏せされて、各個撃破されていなければいいんだが……?」

「そうねえ。あの5人の降下ポイントは大体わかってるし、
私の『切り札』ちゃんに近づかれないうちに、始末しておかないと……」

適度に情報を分け合い、互いに貸し借りなし。
二人はサキとリンネがやっていた「協力者」に近い関係を保っていた。
だが、二人は本心から互いを信頼しているわけではない。
隙あらば相手を葬り去り、最終的に自分だけが利益を得ようと、水面下で互いに爪を研いでいるのである。

(切り札……ナルビア最強の生物兵器『メサイア』か。そいつも近いうちに、私の手中に収めてやる)
(スネグア……気の毒だけど、あんたの天下もそろそろ終わり。一度どん底を味わった私にはわかる。
……そろそろ貴女も、これまでのツケが回ってくる頃よ……フフフフ)


「シックスデイのアリス・オルコットが現れ、特殊部隊の乗った輸送機が撃墜されたとの報告が入った!
空戦部隊、総員出動!グズグズするな!!」

私室から戻ったスネグアは、鞭を振るって飛行型魔物兵の舞台に指令を送る。
その様子を、物陰から見つめる一匹のインプが居た。

(……王下十輝星「フォーマルハウト」、スネグア・『ミストレス』・シモンズ様か……
普段は男装してるけど、俺の目はごまかせねえ……あの尻は、間違いなく極上モノ……)

「………何をしている?貴様も空戦隊所属だろう、グズグズするな!」
「は、はい!かしこまりました!!」

(あー、なんとかしてあの雌犬を調教でもなんでもして、俺のものにしてぇ……
男装しようが所詮は女だってわからせてやりてぇ……
無理かなぁ、俺みてえな底辺魔物じゃ……なんかチャンスはねえかなぁ……)

高みから鞭を振るい、邪悪な魔物達を従えるスネグア。
下賤なモノたちからの視線など、意にも介さない。

ミシェル、ナルビア軍、魔物兵、王下十輝星、運命の戦士……
全ては、自分が成り上がるための単なる道具にすぎない。

そんな連中に自分が足元を掬われるなんて、夢にも考えていなかった。
……この時は、まだ。

843名無しさん:2021/03/06(土) 20:58:52 ID:???
「エミリアさん!足から着地してください!最後に気を抜いた時が一番怪我しやすいんですから!」

「あわわわわわ〜!!!」

四苦八苦しながらパラシュートを付けて飛ぶエミリアと、その近くでアドバイスを続けるカイト。

何とか無事に着地したエミリアは、弾けるような笑顔を続けて着地したカイトに向ける。

「ふぅ……ありがとうカイトくん!助かったよ!」

「ひぇっ、ち、近寄らないでくださいー!まだ業務上以外で近寄られると……」

「あ、そっか、女の子苦手なんだっけ……」

「と、とにかくこうなっては仕方ありません。各々メサイアを急襲し、破壊プログラムを打ち込むとしましょう」

エミリアのパラシュートが絡まったのを声だけのアドバイスで解いたり、無駄に離れて地図を確認したエミリアとカイト。

目的地へと向けて歩き出してしばらくすると……ポツポツと、雨が降り始めた。

「……雨?妙だな、この辺りだけ……」

「よぉ、はじめましてだな」

雨霧の中から声がし、エミリアとカイトは身構える。

「二人か、貧乏クジだな……まぁいい、まだまだインフレに置いてかれちゃいないって事を見せてやるぜ」

「何者だ……!」

「シックス・デイのダイ・ブヤヴェーナ。思う所はあるが、とりあえず今はうちの最終兵器を守ってる」

「シックス・デイか……早速一人釣れるとはありがたい!」

カイトは名刀『調水』を構える。雨水ではない水が剣を包み、戦闘態勢に入る。

「水の剣士か……アクアリウム好き?」

「戯言を……なに?」

だが、カイトの水の力を秘めた魔法剣は、ある程度の時間雨に触れると纏っていた水を霧散させてしまう。

「同僚がデバフの研究ばっかしてて、ちょっと俺も覚えてみたんだよ。アンチ・スキルマジック・レイン……略してASMRってんだ」

決してちょっとエッチな同人音声を聞いてる時に思い出したわけではない。

「ならば純粋な剣技で押し通るまで!」

「勇ましい真面目クンだな、でも隣……というには離れ過ぎてるな……とにかくそこの女の子は辛そうだぜ?」

「なに?」

先ほどから黙っているエミリアの方を見ると……滝のような汗を流しながら自分の体を抱きしめて、苦痛に呻いていた。

「く、っ、んぅ……!は、ぐぅう……!」

「ははん、つい最近回復魔法で無理矢理傷を治したな……俺のASMRで傷が開いたってわけだ」

ヴァイスとの戦いで付けられた傷を、回復魔法で回復させて無理矢理リザに付いてきたエミリア。
その強行軍のツケが、ここに来て巡ってきたのである。

「貝殻イメージの女の子を水責めってのもいいな……舞い踊れ水たち!」

三下なのか実は黒幕なのか分からないあの人みたいな掛け声を出すD。すると、シックス・デイの仲間を模した水の分身たちが現れる。

「初戦闘は無双したいだろ?しばらくソイツらと遊んでてくれ」

「しまっ……!」

離れていたのが仇となり、カイトとエミリアの間に素早く水の分身たちが立ち塞がる。その間にDは、とうとう蹲ってしまったエミリアに歩み寄る。

「楽しまなきゃ戦争なんてやってらんねぇし、悪く思うなよ」

844名無しさん:2021/03/13(土) 11:44:05 ID:???
「ぷるぷる……」」
「じゅるっ……」
「ざばざば……」
「ていっ!! はあっ!! ……くっ……し、しがみつくなっ……!!」

アリス、エリス、レイナ、そしてリンネの姿をした水人形が、カイトに襲い掛かる。
というより、一斉に抱き着いてくる。

「うっ……な、なんか適度にあったかくて、柔らかくて………こ、これは……!……や、止めてくれっ…!!」
必死に刀を振って抵抗するが、水の塊相手では斬っても突いてもまるで効果がない。

水流を操る『名刀 調水』の力を封じられた今のカイトが、
水人形達のぬるま湯おっぱい抱擁地獄から抜け出すことは難しかった。


「あの感じじゃ、真面目君は当分足止めだな。さてと……」

ブシュッ………じわっ……
「っく……う、うぅ……!!」

「雨の中しゃがみ込んで苦しんでる女の子ってのも、また乙なもんだ」
それに、白いワンピースの背中にブラ紐が濡れ透けて見えるのがたまらなく良い。
またロリコン扱いされてしまうから、レイナ達の前でこんな事言えないが……

エミリアの両脚にはヴァイスの凶刃によって刻まれた無数の傷が再び表れ、
その時の痛みと恐怖までもが心に蘇っていた。

「や、ば……立たな、きゃ………っく、あうっ……!」

逃げられないよう、抵抗できないよう、筋肉や腱を念入りに切り刻まれている。
立ち上がろうとしようものなら、激痛と共に大量の血が傷口から噴き出してしまう。
動けずにいるエミリアに、ダイがすぐそばまで迫っていた。

「……回復魔法は、言わば生命力の前借り。
借りる相手が神か悪魔か精霊かによって、細かい所はイロイロ違うが……
基本、借りた分は利子つけて返さなきゃならないもんだ。
だから、治ってすぐの時は、魔力そのものを封じられると、こういう事になっちまう」

エミリアたちの能力はASMRによって封じられているが、
もちろん仕掛けた側であるダイは、水を操る能力を自由に使える。

「しゅるるるる………」
「い、やっ………っ、こ、れはっ……!?」

周囲の水たまりが集まり、巨大な蛇へと姿を変え、エミリアの足に絡みついた!
「そんな身体で戦場にノコノコ出てきた、自分の迂闊さを呪うんだな……そらっ!」
「……ぎちぎちぎちぎちぎち!!」
「っぎ、いやあ"あ"あ"あ"あああぁぁっっ!!!」

845名無しさん:2021/03/13(土) 11:46:24 ID:???
水蛇は、その丸太のように太い身体で、エミリアの脚を力いっぱい締めあげる。
傷口からは新たな鮮血が絞り出され、更なる激痛、骨までも砕かれそうな程の圧力。
だが、水蛇の責めはこれだけでは終わらない。

巨大な鎌首が、エミリアの頭上でその顎を開いた。
そしてエミリアを頭から丸吞みにしようと、鎌首がゆっくりと降りてくる。

「っぐ、うぅ……や、めて……!!」
水蛇の口をおさえ、抵抗するエミリア。だが、腕力だけでは長く持ちこたえられそうにない。
「……こ、のっ………!!」
残った魔力を総動員して、爆炎魔法を発動しようとする。

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す…」
エミリアの青色の髪が、燃えるような赤へと変わった。

圧倒的な魔力によって、ASMRによる封印ごと、力づくで吹き飛ばす……
およそ作戦とも呼べない作戦だが、その力づくこそが最善、最適解だった。

ただし………

それもエミリアの魔力や体力が万全の状態だったら、の話である。

………ぽたり。
「ひゃんっ!?」
水蛇の舌先から、粘つく唾液が一滴、エミリアの額に垂れ落ちた。

「無駄だ……」

唾液の正体は、濃縮された高純度のASMR。
触れた途端、エミリアの魔力は霧散し、髪色は再び元の青色に戻ってしまう。

「ん、ぐっ……!!…だ、だったら……もう、一度……」
「『爆炎のスカーレット』……いくらアンタでも、そんなズタボロの状態じゃ、俺のASMRは破れん」

蛇に半分吞まれかけながら、再び魔法を詠唱しようとするが、
ダイが言う通り、今のエミリアにASMRの呪縛を跳ね返す事は不可能だった。

蛇の唾液が再びエミリアの髪を穢すと、
熾火のようだった暗赤色の髪が、凪いだ海のような青色へと戻ってしまい……

……どぷんっ!!
「……っが……ごぼっ…!!」

エミリアの頭は、そのまま水蛇に飲み込まれてしまった。
水蛇の口の中は、すなわち水中。呼吸ができないことに気付き、咄嗟に息を止めたエミリアだが。

「こっちも久しぶりの得物だからな。……ゆっくり、じっくり、溺れさせてやぜ」
ダイが、エミリアの肩を掴む。
そこにあるのは……ヴァイスによってつけられた、深い刃傷。

ギリギリギリッ……!
「……〜〜〜〜っ…!!!………ごぼごぼごぼごぼっ!!……!!」
激しい痛みに襲われ、エミリアはたまらず肺の空気を吐き出されてしまう。

「苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて………底の底まで、沈んでいきな。
お友達も、後からそっちに送ってやるぜ」

水蛇に巻き付かれた手脚を、必死にばたつかせるエミリアだが、
抵抗は次第に弱まっていき、やがてその全身が水蛇に吞み込まれていった。

846名無しさん:2021/03/14(日) 20:50:14 ID:???
一方。エルマ、ルーア、オトは、
ナルビア軍の部隊と協力して前線基地の防衛に当たっていた。

「グワーーッ!!く、なんだこいつら、つえええ……!!」
「オラオラー!ルビ!そっちに行ったぞ!」
「おっけーオト!全員ボコボコにしてやんよぉー!!」

先陣を切ったのは、短めなポニーテールに体操服っぽい戦闘服、赤く輝く装甲が印象的な格闘機兵ルビエラ。
そしてヴェンデッタ小隊所属、琵琶を背負った音使いの討魔忍オト・タチバナである。

「地の文にも略された!くっそー、こうなったら……バーニング・エイトビート・キック!!」
「「「グワーーッ八つ当たり!!」」」

オトは琵琶をブンブン振り回し、楽器が壊れるとか全くお構いなしにゴブリン、オークなどの一般魔物兵を蹴散らしていく。
そしてルビエラは、討ち漏らした魔物達を炎をまとった跳び蹴りで次々となぎ倒す。
二人は初共闘とは思えない抜群の連携を見せ、同型の格闘機兵たちと共に敵陣深くへ攻め込んでいく。

「うおーー!待て待てこのやろー!!」
「くっ……おい、一旦引け!こいつらに後を追いかけさせて、他の連中と一緒に待ち伏せるぞ!!」
「ちょっと、オトちゃん!ちょっと奥まで突っ込みすぎじゃね!?
自重せい自重……って、聞こえてないのか、おーーい!!」

……だが、オトは耳が悪かった。過去に耳に大きなダメージを受けているためだ。
このため特に戦場のような喧しい環境では、相手の声を聞き取れないことが多々あった。


「仕方ない……救援に行ってくるわ。
エミリー、一緒に来て。ルーア達は援護射撃をお願い」
「了解」「です」
ヴェンデッタ小隊最年長、装着型人体強化マナ装甲によってどんな局面でも万能に戦う天才少女、エルマ・ミュラー。
そして、ツインテールに緑色の装甲、白スク水っぽい戦闘服が特徴で、
高い機動力とブレード型兵装による一撃離脱を得意とする、殺戮機兵エミリー。
この二人が、オト達の救助に向かった。

「どーせ、オトさんが一人で突っ込んだのでしょう。仕方ないですね……フレイムバースト!!」
「支援砲撃開始ー!です!」
ズドォォォォンッ!!
敵の包囲に魔法と砲弾の雨を降らせるのは、
ヴェンデッタ小隊最年少にして、攻撃・回復とも高レベルな魔法の使い手、ルーア・マリンスノー。
長距離砲を搭載したランドセル、青い装甲、戦闘状況をリアルタイムに映し出すメガネ型デバイス、セーラー服っぽい戦闘服など、
地獄の絶壁でも最も重装備かつ高火力な、砲撃機兵サフィーネ。

前線基地を守る第3機動部隊は、隊長であるシックス・デイのアリス・オルコットは不在ながらも、
この6人を始めとする多数の機兵部隊が協力して、敵の侵攻を食い止めていたが……

847名無しさん:2021/03/14(日) 20:51:46 ID:???
「ヒッヒッヒ……こんな所までノコノコ責めて来るとは馬鹿なやつ……琵琶女にロボ娘なんざ、スクラップにしてやるぜぇ!!」

「んっ?……なーんか、気が付いたら周りに味方がやけに少ないような。
ていうかここ、けっこう敵陣の奥深くなような……」

……オトとルビエラ、そして付いてきた機械兵部隊、総勢10体ほどは、敵陣の中で孤立してしまった。

「だから、さっきからそう言ってただろーが!」
「おいお〜いルビ子ー。気付いてたんならもっと早く言えよ!
おかしいと思ったら、まずは隊長に『ほーれんそう』だろーが!」
「だーれが隊長だ!オトのアホ!!」
「なにー!?アホとは何だアホとはー!」
「ていうかちゃんと聞こえてんじゃねーかボケ!」

周囲は敵魔物兵の大群。どうにか包囲を突破して、自陣に戻りたいところだが……

「グッヒッヒ……イキの良さそうな元気系ロリっ子ロボに」
「アホそうなガサツ女か」
「オレたちの歌で、徹底的にメス堕ちさせてやる…」
「「…ゲロ!!」」

【ワーフロッグ】
カエル型の獣人。高い跳躍力を生み出す強靭な脚、自在にのびる長い舌が特徴。
その鳴き声は強力な催眠&催淫音波で、今回の戦闘にあたりナルビアの機械兵にも効果を発揮するよう調整されている。


「あーー?なんだお前ら!見せもんじゃねーぞ、引っ込んでろ!」
「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」

「バーニング・トルネード・キーッk………あ………あ、れ………?」

カエルたちが一斉に鳴きだすと、ルビエラを始め、戦闘機兵たちの動きが鈍くなっていく。


「おいっ!?どうした、ルビ子!」
(戦闘モード、強制終了………た、体内温度、急激に上昇中……い、いったいどうなってんだ……?)

「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」
「さあ、ロリ機兵ちゃん達、こっちに来るゲロ……」
「ご主人様に、その幼い身体を使って、ご奉仕するゲロよ……!」

「はあー?何キメー事言ってんだロリコンクソガエルが!
そんなんするわけ……ってルビ子、どこ行くんだ!?」
「はい………ごほうし、します……
娼婦モード用プログラム、ダウンロード開始………」

「おい、ちょっと待てルビ子!どうしちまったんだよ!!」
「邪魔、するな……」
(!?……な、なんなんだ、これ……オト、たすけ………)

「おやぁ?一匹、聞き分けのない子がいるゲロね……」
「悪い子には、お仕置きが必要ゲロ……どうやらこいつ、人間のようゲロね」
「それなら、媚薬唾液入りの舌鞭連打でイチコロゲロ!!」

怪しい声に誘われるまま、ふらふらと歩いていく機兵たち。
果たしてオトは、カエル男達から仲間の危機を救うことは出来るのだろうか…

848名無しさん:2021/03/27(土) 21:35:36 ID:???
ガシャン! ガシャン!!

右腕武装解除……
左腕武装解除……
「ゲロゲロゲロ………そうだ、余計なものは全部脱ぎ去ってしまえ……ゲゲゲ」

背部バックパックパージ……
胸部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

脚部装甲パージ……
腰部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

全身を覆っていた大量の鉄塊を脱ぎ捨てながら、ルビエラはカエル男たちの方にふらふら歩み寄っていく。
残るは、体操着っぽい見た目のインナースーツと、その下は最低限の防護面積しかないサブ装甲のみとなった。

「ゲロゲロゲロ……その体操着も、さっさと脱いじまうゲロ」
「だ……、め………これ以上、は………!」

胸部インナースーツ、手動パージ……
「なんで、手が、勝手に………や、だぁっ………!!」
涙声になりながら必死に抵抗するルビエラだが、カエル男の声にどうしても逆らえない。

「やだ、やだ、止まってぇっ!!……どう、して……こんな事、したくないのにっ……」
「ゲロロロロッ!!ほれほれ、手伝ってやるゲロォッ!」
バリバリバリッ!!

……カエルの舌が、体操服の上着を、その下のブラ型サブ装甲ごと強引に剥ぎ取る。
「ゲヒヒヒヒ!!これでスッキリしたゲロ……どれさっそく味見を、べろべろべろぉっ……」
「ひ、や、あぁあぁあんっ!!」

「グヒヒヒヒヒ!!ほのかに染み出た冷却水の甘みが、また格別だゲロ!
それじゃ、お次は……下の装甲も頂くゲロよっ!!」
じゅるるる………じゅぽんっ!!
「ひ、待って、そこ、だけは………ふぁぁぁぁぁっ!?」

じゅぷっ!じゅぷっ!じゅぷっ!!
「待って、だめ、いやぁぁぁぁっ!」
じゅるじゅる……ぐちゅっ!!
「もうやめてぇぇぇっ!!」


「ルビ子っ!みんな!!……クソっ、どうなってんだ!」
他の機兵たちもカエル達の声に操られており、
カエルの舌に全身を舐めしゃぶられる者、醜い身体に抱き留められて甘い嬌声を上げさせられものなど、
周囲は惨憺たる有様になっていた。

カエル達は、機兵たちの管理者権限情報を自身の声紋に紛れ込ませていた。
もちろん、管理者情報はナルビア王国の最高機密。
スパイに情報を盗まれていたのか、あるいは内通者が流出させたのか……
いずれにせよこのままでは、機兵たちは皆、トーメント軍の思うままに蹂躙されてしまうだろう!

「ゲロゲロ、お前には効いてないゲロか?……っかしいゲロなぁ……俺らの歌は、人間にも効果あるはずゲロ?」
「くっ……なんだかよくわかんねーけど、よーするにお前らの仕業だな!さっさとルビ子たちを元に戻せ!!」
「まあいいや!残りの一人くらい、俺らでヤっちまおうぜ!!、全員で掛かれーー!!」
「くそっ……こっちの言う事なんて、聞く耳もたねーってか!!」

残ったオトにも、他の魔物達が一斉に襲い掛かった。
無数の攻撃を掻い潜り、なんとか元凶のカエル男に近づこうとするが……

「音の忍びを舐めんな!だりゃああああ!!」
「おーーっと!俺様を攻撃しようったって無駄ゲロ!
こっちには……人質が、いるゲロ!」
「きゃぁっ!!お、オトっ……!!」

(ギュルルルル!!)
「!?……ルビ子っ……しまっ……!!」

素早くルビエラを盾にしたカエル男。
攻撃の手を止めてしまったオトを、長い舌で瞬時に捕える。

「ゲロロ!一丁上がり……お前一人が何をしたところで、所詮は無駄な足搔きゲロ!
機兵どもに『ご主人様刷り込みプログラム』をインストールして、俺らのラブドールにしてやるゲロ!」

849名無しさん:2021/03/27(土) 21:40:50 ID:???
「こんのカエル野郎ぉぉ!ルビ子たちを放せっ!!」
「ゲロゲロ……そこは『ご主人様刷り込みプログラム』って何だ!って聞いてほしかったゲロ。
これをインストールすると、機兵の機能が停止して、再起動する……
そして、再起動後に初めて見たものをご主人様と認識して、永遠の忠誠を誓うんだゲロ!!」

カエル男の舌に捕らえられたオト。
必死に暴れるが、ゴムのように伸縮する舌を引きちぎる事はできず、逆に粘着質の唾液を全身に塗りこめられてしまう。

「てめえ!一体ルビ子たちに何する気だ!ていうかアタシも放せ!」
「な、なんか会話が微妙にかみ合ってないゲロ……まあいいか」
「それよりも、おい。ロボ子ちゃ〜ん?にプログラムを入れてやるから、データスロットの場所を教えるゲロ……!」

「だ、だめ……そんな、プログラムなんか……
 み、耳の後ろの、隠しスロット、に……い、入れられちゃったら、あたいは……」
「ゲロゲロ、なるほど耳の後ろかぁ……それじゃ教授から貰った、このクラゲ型マシンで、っと」

ぷすっ……ちくちくちく! チキチキチキチキチキ………
「や、なにこれ……ひゃうっ?!………んぅ、やぁ、ん………!!」

手のひらサイズの小さなクラゲが、発光する糸のような触手を無数に伸ばし、ルビエラの耳の隠しスロットを探し当てる。
教授が開発した『ご主人様刷り込みプログラム』はデータ量が大きいため、こうして「有線」でインストールを行うのだ!

<データアップロード中……25%>
チキチキチキチキチキ………
「や、ら……あたひ、の中に、………ふぁ♥、あああ♥♥、ぁぁぁぁ♥♥♥」
「なにか、はいって………や、ああんぅっ♥」
「ら、らめっ、うわがき、されて…………ひいぃぃぃんっ♥♥♥♥」

<データアップロード中……60%>
チキチキチキチキチキ………
「やっ♥♥あ♥♥♥♥あああっ♥♥♥」
「ひゃ、ふぅんっ♥♥♥」
「ルビ子ぉっっ!!くそぉ!!なんだかよくわかんねーけど、やめろぉぉ!!」
「グヒヒヒヒ……お仲間の機兵ちゃん達も、俺らの仲間にプログラムをインストールされてるゲロ。」
「インストールが終わったら、一斉再起動して……全員、俺らの下僕にしてやるゲロ!!」

<データアップロード中……99%>
チキチキチ………
「おいこらルビ子ぉ!!そんなクラゲみてーのに負けるんじゃねー!変態ガエルなんかぶっとばしちまえ!!」
「ん、ふぁ……オ…ト…♥♥…も、だ、め……」
「あたま、なか……かきかえられてぇぇ……♥♥♥」
「……ヘンに、なっちゃ……ぁぁぁぁっっ♥♥……」
「「「い、くぁぁぁぁぁあああああんんんっ♥♥♥♥」」」

「ルビ子ぉーーー!!」

<データアップロード完了……再起動を開始します>

「「「………………。」」」
「み、みんな…!?………死んだ……いや、気絶したのか……?」
「グヒヒッヒッヒ……これで、ロボ子ちゃん達が目を覚ましたら」
「俺らの虜ってわけだゲロ!」
がっくりと項垂れ、動かなくなったルビエラ達。
お姫様抱っこやら駅弁やら騎乗位やら、魔物達に好き勝手な体勢で拘束されていく。
中には、装甲剝き出しの股間に、早くもイボだらけの生殖器をねじ込まれている者もいる。
いずれも、目を覚ませば真っ先に魔物達の顔が目に入る体勢だ。


「畜生……お前ら、しっかりしろぉぉぉ!……」
「忍びちゃんもさっさと諦めて、そのおっぱいで俺らに奉仕するゲロ!」
「くっそぉ……こうなったら、アタシの歌で……目を覚まさせてやるぜえええ!!」
「あ、相変わらず話が嚙み合わないケロ!こいつ人の話聞いてないケロか!?」
カエルの舌に拘束され四苦八苦ながらも、オトは背負っていた琵琶をなんとか構え直し……

ジャカジャジャジャジャジャーーーーンッッ!!
「っしゃおらお前らぁあぁあああ!! アタシの歌を聴けぇぇぇえええ!!」
「ッゲロ!?な、なんだこの喧しい声はッッ!?」
周囲一帯に響き渡る大音量で歌い始めた!

850名無しさん:2021/03/27(土) 22:03:55 ID:???
「……!!!♪♪♪……♪♪!!!!!」
「……ましいゲロ!!………黙れゲロ!!」

(あ………)
(あの声、は………?)

再起動したルビエラ達が目を開けるより前に、真っ先に飛び込んできたのは……
激しく情熱的でひたすら喧しい、オトの歌声と琵琶の音だった。

ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!
「カエルだろうが何だろうが♪♪!アタシの歌はとめられねーぜ!!♪♪
アタシゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!♪♪仇探して西から東、っとくらぁあ♪♪」

「オト…ちゃん………?」
「そうさアタシはオト・タチバナ!!!ミツルギの音の忍び一族!!!未来の究極スーパーアイドル!!!
スズ・ユウヒなんて目じゃねーぜッ!!………って、おお、ルビ子、それに他のみんなも、目ぇ覚めたか!!」

………あまりの大音量に、魔物達もオトを止めるどころか近づく事さえできず。
いつしか、周囲の魔物達……そして再起動から目覚めた機兵達、全員の視線がオトに向けられていた。

「う………うん。目、覚めた」
「っしゃー!んじゃ、こっから反撃だぜ!みんな、遠慮はいらねえ!魔物どもに一発ブチかましてやれ!」
「げ、ゲロロロッ!?」
「ま、まさか、あの忍び女を見たせいで、制御権が……!!」
「了解……ファイナルバーニングモード発動承認」
「敵を殲滅する」
「殲滅する」
「する」

「「「ゲロロロロロォォォォォ!!!」」」

………こうして、最強モードを発動したルビエラ他十数体の機兵の活躍により
カエル男たちは徹底的にオーバーキルされ、オト達は辛くも敵陣から離脱したのであった。

851名無しさん:2021/03/28(日) 13:27:28 ID:???
……オトとルビエラ他機兵部隊はなんとか敵陣から後退し、救援に来たエルマ&エミリーと合流した。

「……ったくアンタは、余計な手間かけさせんじゃないの。ルーアちゃんも心配してたわよ」
「わりーわりー!なんか、カエルみてーなやつにルビエラ達が操られたみたいでさー!」

元はと言えばオトがルビエラの話を聞かず前線に突っ込み過ぎたせいなのだが、
本人はきれいさっぱり忘れているようだ。

「やっぱり……どうやら、機兵ちゃん達の情報が敵に洩れてるみたいね。
ワクチンプログラムを作ってあるから、ルビエラ達にインストールするわね」
「あー?よくわかんねーけど、ルビ子たちの事が敵にスパイされてたのかもな。
エルマ、メカに詳しいんだろ?どうにかできねーかな?」
「………はいはい。んじゃ機兵ちゃん達、こっち集まってー」

エルマは会話の噛み合わないオトをスルーしつつ、小型のメモリスティックを取り出す。
すると、ルビエラ達がワラワラと集まってきて……

「じゃ、このワクチンプログラムを一人ずつ入れてくから、私の所に並んで……」
「………やだー。オトママ、やってー」
「え?アタシが?」
「あたしもー」「あたしが先―」
「え?なんか幼児化してる?……しかも、オトに懐いちゃってる……?

ルビエラを始め、前線にいた機兵達は、オトの周りに集まってきゃいきゃい騒ぎ始めた。
前線で一体、何があったのか……
とにかく、また敵と遭遇する前に、さっさと機兵たちにワクチンを接種させなければならない。

「って言われてもなー。これ、どこに入れりゃいいんだ?」
「耳のうしろ……隠しスロット」
「え?何?この辺か?どれどれ」
「あんっ……♥♥……そこじゃなくてぇ、もっと、下ぁ……♥♥」

「ルビエラがおかしくなった…」
「……つーか、一体何したのよアンタ……」
オトにぎゅっとしがみ着いて、甘えた声を上げるルビエラ。

普段のルビエラを知るだけに、唖然とするエミリー。
エルマにも何か異常な事態が起きていることは一目瞭然だった。
ワクチンプログラムで、すっきりさっぱり元の状態に戻ればいいのだが。

……

「っしゃ、全員終わったー!」
「はー……見てるだけで疲れたわ。あたしが手伝おうとすると全力で拒否ってくるし……」
「ってことで、さっさと基地に引き上げよーぜ!腹も減ったし!」
「はいはい。もしもしルーアちゃん?これから帰還するわね……もしもし?」

ザザザザザ………ガー……
「エルマさ……早く、帰還……敵襲………剣士と、魔法少女が……きゃあっ!!」
ドガンッ!!ザァァァァァァ………

帰還報告のため、ルーア達の待つ前線基地に連絡するエルマ。
だが何かが爆発したような異音を最後に、通信は途切れてしまった……!

「こ、これ………ヤバいんじゃない!?早く戻らないと……!」

852名無しさん:2021/04/06(火) 00:45:40 ID:???
アリスの後を追う唯とサクラは、戦闘機の離発着所にやって来ていた。
なんでも、アリスはここの滑走路から出撃したらしい。

「兵士さん!アリス隊長は、どちらへ行かれましたか!?」
「えー?なんか、北東の方角からステルス機が奇襲してくるとかなんとか言って、飛んでったぜ?」
「レーダーにゃ何も映ってなかったのになー。なんで知ってたんだ?隊長は」
「え、じゃあ……隊長一人で出撃したんですか?」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「さーねー。あのへんの空域は、トーメント領だしな。魔物兵がウジャウジャ飛んでるみてーだぜ?」
「……そ、それって……大変じゃないですか!皆さんは救援に行かないんですか!?」

「まー大丈夫なんじゃね?なんたってあの『シックス・デイ』のアリス・オルコット様だし(棒」
「『私一人で十分。足手まといは付いてこないでください』なーんて自信満々に言ってたしな〜」
「ったく、馬鹿にしてるよなー!お嬢ちゃん達も、クソ隊長なんかほっといて、俺らと遊ぼうぜぇ〜?」
「け、けっこうです!(うっ……酒臭い……)」

格納庫内には待機中の戦闘機が何機も並んでいるが、兵士たちの士気はかなり低い。
……そのは、アリスの態度にも原因があるらしかった。

「ヒヒヒ!いいじゃねえかよ。どーせシックスデイなんて、もうオワコンだし」
「いざとなりゃ、メサイアとかいう秘密兵器でトーメントなんてイチコロらしいからな」
「もう俺らが真面目に戦う必要なくね?それより俺らとイイことしようぜぇ〜?」
「そんな……ちょっと、放してください!いい加減に……きゃっ!?」

兵士たちはかなり泥酔しているようで、態度がかなりおかしくっていた。
慣れなれしく唯の肩を抱き、酒焼けした顔を近づけ、空いた方の手は、唯の太ももをいやらしく撫でまわす。
(こ……この人…!)

一応は味方同士。唯が強く反抗できないのをいいことに、兵士の手はスカートの中まで侵入し始め……
「やめて………それ以上やったら、容赦しませんよ…!」
「クックック……篠原唯ちゃんって言ったっけ?噂で聞いたことあるぜぇ。
アンタら『運命の戦士』には、それぞれ『致命的な弱点』があるってな。
唯ちゃんは確か……ここだろ?」

ぞわ、ぞわり………しゅるっ!
「な、何を言って……ひゃぅん!?」
兵士は慣れた手つきでするりと唯のショーツに指を滑りこませ、ピンポイントでクリトリスを探り当てた。

「や、あっ…!……そ……こ、は……っ!…」
いざとなったら兵士を投げ飛ばしてやろうと身構えていた唯だが、
その瞬間、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜けてしまう。

くに、くに、くに……むにむにむにっ!
「や、めて……くださっ……あんっ…!!」
「ヒヒヒヒヒ……イイじゃねえかよ、唯ちゃぁ〜ん?」
「おいおい、お前らだけお楽しみってかぁ?」
「俺らも混ぜろや…けっけっけ」

そのまま身を預けるような恰好で兵士に抱きつかれ、さらに他の兵士たちも群がってきた。
乱暴にブラウスを引きちぎられ、胸を無遠慮に揉みしだかれる。
押し当てられた兵士の股間の、熱くて硬い感触が伝わってくる。

(ど……どうして……?クリトリス、弄られてるだけなのに……)
「ほらほら唯ちゃん、アーンしな〜www」
「おいしいおちんぽミルクだよ〜www」
(逆らえない……体が、言う事聞かないっ……!!……私、このままじゃ……!)

数人の兵士が我先にとズボンのチャックを下ろし、いきり立った剛直を眼前に突きつけてきた。
鼻を突くような青臭さに、嫌悪感しかないはずなのに、目を逸らす事が出来ない。
促されるまま、唯の口がゆっくりと開かれていく。黒々と反り返った兵士たちのペニスへと、舌が伸びていく……

だが、その時。

「……?………こ、れは……?」
唯は、足元に大量のつる草が生え、小さな花が無数に咲いているのに気付いた。

(ぼわんっ!)
「な、なんだこr………ふごっ」
「ぐごぉぉ……ぐごぉぉ……」
「ZZZ……ZZZ……」
そこから白い花粉が大量に舞い上がると、兵士たちはバタバタと倒れ、一斉に寝息を立て始める。

「ごめんなさい、助けるのが遅れちゃって。大丈夫、唯ちゃん?」
スリープフラワー……眠りの花の魔法を発動したサクラが、眠りこけた兵士たちをどかして唯を助け起こす。

「う、うん。ありがとうサクラちゃん……」
サクラに魔法で服を直してもらう唯。よく見ると、サクラにもわずかに着衣に乱れがあった。
恐らく同じように兵士たちに襲われたのだろう。

「だめだな、私。隊長なのに……もっとしっかりしなきゃ」
「気にしないで、唯ちゃん。
とにかくアリス隊長が向かった場所はわかったんだし、いそいで追いかけよう!」

思わぬトラブルに見舞われた唯達だったが、
アリスの援護に向かうため、北の空域を目指して飛び立つのだった。

853名無しさん:2021/04/11(日) 17:01:43 ID:???
ズドォォォンッ!!…ドガガガガガッ!!

「グワァァーーーァッ!!」
「ギヒアァァァ!!」
「こんな物ですか……他愛もない」

リザたちの乗っていたステルス機を撃墜したアリスは、
その後間髪入れず襲い掛かってきた飛行型魔物の大群を相手に、単独で交戦を続けていた。

大量の魔法針でインプ、ハーピー、ガーゴイルなど幾千もの魔物を瞬く間に屠りながら、
青い光の翼で風のように大空を舞う。
その姿は、さながら天使……いや。敵対する魔物達からすれば死神のように見えた事だろう。

「グキィッ!!スネグア様ァ!!あの青い奴、とんでもねえ強さです!!どうか撤退を!
このままじゃ、俺たち全滅しちまいますぜェェ!!」

「ふん……問題ないさ。お前達の代わりなどまだまだ無数に居る。
あの子を堕とすまで、退く事は許さん……わかったら、安心して逝くがいい」
(ビシッ!!)
「グキィッ!?そ、そんなぁ……!!」
撤退を進言する手下のガーゴイルを、にべなく一蹴するスネグア。

彼女からすれば、下級の魔物などいくら失おうと痛くも痒くもない。
そして、彼女の支配下にある魔物達は、その命令に背くことは出来ず、死力を尽くしてアリスを襲い続けた。

「たあああぁぁっっ!!」
ドスッ!! ザシュンッ!!
「「「「ギュギィィィイイイッ!!」」」」
アリスは一斉に飛び掛かってきたガーゴイル4〜5匹をかわしざま、電磁ブレードで斬って捨てていく。

「キシャァァァァッッ!!」
「!……こ、のっ……!!」
ズドオオオンッ!!

更に、真上から迫るハーピーの群れに、魔法針が射出された。
アリスの周囲を常に浮遊し、意のままに操り攻撃できる。いわばファンネル的な超兵器だが、その残弾も底を突きかけていた。

「はぁっ……はぁっ……」
(おか、しい……こいつら、倒しても倒しても、ぜんぜん怯まない……それに……)

死を恐れず襲ってくる魔物達。しかも戦っているうちに、アリスは少しずつ、敵陣深くへと誘導されていた。
恐らく偶然ではない。何者かが魔物達を操って、アリスを孤立させているのだ。
これだけの魔物を支配し、戦略的に操る狡知を持つ敵……心当たりが、一人いる。

(魔物を操る……魔獣使い、フォーマルハウト……)
<警告……残エネルギーが20%を下回っています。セーブモードに移行、スーツ出力低下……>

「!?……まずい、想定より早い……すぐに、離脱しないと……」
それだけではない。
当初ミシェルが懸念していた通り、アリスの「ブルークリスタル・スーツ」のエネルギーも残り少なくなっていた。
スーツの能力、特に飛行性能の低下は、そのままアリスの機動力、戦闘力の低下に直結する。

だが、そんなアリスの異変を察したのか、
周囲の魔物の数は、ますます数と勢いを増していき、じわじわとその包囲を狭めていった。

「……グロロオオオオオッ!!」
ドガッ!!
「っうあぁっ!?」

突如、死角から襲ってきたのは、大鷲の首と翼、ライオンの身体を持つ魔獣グリフォン。
巨体から繰り出された突進をまともに喰らい、アリスはゴムまりのごとく吹き飛ばされてしまう。

(し、まっ……今ので、片翼が……!!)
<警告!!……飛行ユニット破損 右メインスラスター出力45%低下……>

改造されて鋭敏になった全身が、衝撃と風圧と、凄まじいGによってかき混ぜられる。
アリスは軍人として鍛え抜いてきた精神力でなんとか意識をつなぎ留めながら、きりもみ回転で吹っ飛ぶ体を必死に制御する。

「ま、だ……私は……誇り高き、ナルビア軍人……この位でっ……!」
「グルァァアアアア!!」
「くっ……!!」
ザシュッ!!
追撃を仕掛けてきたグリフォンの喉笛を、アリスは自身の回転を利用して電磁ブレードで搔き切る。
計算や、軍人としての戦闘勘、ではない。……ほとんど偶然といってよかった。

854名無しさん:2021/04/11(日) 17:04:12 ID:???
「グエァァァァァァ!!!」
「ぜぇっ……ぜぇっ……たお、した……?」
(目が回って………頭、くらくらする……)
(一、体……これ、は………体に……力が、入らない……?)

<危険……残エネルギーが5%を下回っています。直ちに着陸し、エネルギーを……>

「キキキキッ……!」
「なっ……!?」
意識が朦朧とする中、危険を告げるアラームに一瞬気を取られたアリス。
だがその隙を突いて、いつの間にかインプが接近し、アリスの胸にしがみついていた。

「このっ……放し、なさいっ……!」
倒したグリフォンの背中に乗っていたのだろう。
すぐさま引きはがそうとするアリスだが、インプの様子は明らかに異常だった。
見た目からは信じられないような力でアリスの身体にしがみつき、しかしそれ以上は攻撃を仕掛けようとはしてこない。
そして身体の内側から、時計の秒針のような音が聞こえてくる……

カチ、カチ、カチ、カチ………
「まさか、これって………」
「キキッ!!」
ズドォォォンッ!!!
「っきゃああああああーーーっ!?」

………自爆。
スーツの胸部装甲が破壊され、アリスは悲鳴と共にまたも大きく吹き飛ばされた。

(だ……め………わたし、もう………)

今までシックス・デイの一員として戦いの中で生きてきたアリスにとって、
窮地に追い込まれた経験も数限りなくあった。しかし今回は……これまでとは決定的に違っていることがあった。

過酷な状況に追い込まれた時、アリスの心を支えてきたのは、
ナルビア軍人としての誇りと、姉妹であるエリス、そして仲間の存在。

だが、あの時。
自分の目の前で愛を確かめ合う、リンネとサキの姿を思い出してしまってから、アリスの中で何かが壊れてしまっていた。

(たたかえ、ない……何のために、頑張ればいいのか………もう、わからない……)

心の奥底にある、戦う理由、生への執着、大切なものが、ごっそりと抜け落ちて……
何のために、あの狂った女科学者にこの身を改造されたのか。
どうして、こんなに辛く苦しい思いをしてまで、戦い続けなければならないのか。
もうアリスには、わからなくなっていた。

<危険……危険……危険……メインスラスター、機能停止……>
「………。」


「ふふふふ……さあ、捕まえた♥」
「だいぶお疲れみたいねえ、かわいい子ウサギちゃん?」
「!……また、新手………」

スーツからエネルギーが失われ、落下するアリスの身体を受け止めたのは、
ダークシュライヒ……黒い翼を持つハーピーの変異種の群れだった。

「もうあと一押し、って所かしら……♥♥」
「ここからは、私達ダークシュライヒが」
「たぁっぷり、可愛がってあげるわ♥♥♥♥」

「だ、黙りなさいっ………お前たちごときに、シックス・デイの一員であるこの私が、やられるわけには………」

「ふふふふ……無理しちゃって。体が震えてるわよぉ?」
「クスクス……もう、まともに飛ぶ事すらできないんでしょう?」
「ほらほら、どうしたの〜?お姉さん達が、身体を支えてあげましょうか?フフフフ………」

ここは戦場。
戦えなくなった戦士、絶望に染まった少女の運命は……一つしかない。

855名無しさん:2021/04/11(日) 18:51:17 ID:???
「アリスが単独で緊急出撃しただと!?クソッ!」

エリス・オルコットはトーメント軍の遊撃に出ていたが、突然入ってきた連絡に顔を歪める。
エリスは結局、ミシェルの改造手術を受けなかった。決して怖気づいたわけではない。どんどん様子がおかしくなっていく妹を見て、自分だけはまともなまま支えなければならないと思っただけだ。

『……とにかく、アリスが敵ステルス機を破壊し、乗組員は散会した。降下ポイントはこっちで観測したから、エリスはそちらの撃破を頼む』

通信機からは落ち着き払った指示……リンネの声が響いている。直接的な戦闘力を持たないリンネはメサイアの近くに控えながら、観測員として戦場を見渡していた。

「リンネ……」

『急いだ方がいい。くれぐれも指示された以外のルートを通らないでくれよ。変な敵と遭遇されたら予定が崩れる』

妹がその身を犠牲にして尽くしているというのに、全く意に介した様子のないリンネ。彼に思うところはあるが、今は彼の言う通りそれどころではない。
『ほとんどのシックス・デイが遊撃に出ている間に奇襲があった』ことは気になるが……結果として各個撃破の機会ができたのだ。それにリンネや例のミシェルは独自の情報入手ルートがあるようだった。そういうツテは深入りしない方がいい。
違和感を無理矢理拭いながら、エリスはリンネに指定されたルート……『サキと遭遇する可能性の低いルート』を通って、降下した敵部隊の元へ向かっていく。
すると……

「やれやれ、パラシュートはホネが折れるぜ」

骨をカラカラと鳴らして伸びなのかよく分からない行動をしている、ボーンドがいた。

「おっ?もう来たのか、ナルビア人は仕事が早いねぇ」

「貴様がトーメントの特殊部隊か……スピカでないのは残念だが、スケルトン如き手早く片付けてやろう」

相手がいかにも弱そうなスケルトンだったのを見て、にわかに残念そうな顔をするエリス。明らかにシックス・デイが出張るような魔物ではない。

「怖い怖い、ナルビアの神風はスケールがトンでもないねぇ」

「ほう、私の異名を知っているのか」

「ああ、骨身に染みて知ってるよ……俺の知り合いがな」

ボーンドが取り出したのは、骨の棒。棍棒とも言えないような、ただの棒だった。

「ならば今日、貴様自身の身で味わうのだな!!」

勝負は一瞬だった。風を纏って急加速したエリスの槍が、一撃でボーンドを真っ二つにする。

「この程度か……特殊部隊といえど、全員が戦闘員というわけではなかったのか?とにかく、アリスの援護へ……」

「おいおい、連れないこと言うなよ。これっぽちじゃ足りねぇ。もっと骨抜きにしてくれよ」

だがさすがはスケルトンというべきか、上半身だけになったボーンドから下半身が生え、再び立ち上がる。

「ちっ、雑魚のくせにしぶとい……ならば今度は木端微塵にしてやろう」

そう言って再びボーンドに向けて槍を構えた瞬間……後ろから斬撃が飛んできた。

「ぐっ!?」

「あぁ?なんだ、あのクソガキ共じゃねぇじゃねぇか!」

咄嗟に回避して後ろを振り返ったエリスの目には……先ほどボーンドが復活した上半身ではなく、下半身から生えてきた別のボーンド……否、スケルトンがいた。

「分身……いや、別人か?まさか……!」

「そ。骨さえあればいくらでも復活できるけど……復活に使わない骨が勿体無いじゃん?だからそっちには別の人格を宿すってわけ」

それこそがボーンドの『不死の軍勢』。集めた魂さえあれば、自分一人を元手に無限の手下……それも戦闘経験に溢れた手下をスケルトンにして呼び出せる。

「おいボーンドォ!本当にクソリザとエミリアがここにいるんだろうなぁ!?」

「おう、さっきまで一緒にいたから間違いない」

「ケケッ……ならこんなガキさっさとぶっ殺して……俺はあの二人を犯しに行かせてもらうぜ!!」

「……少しばかり、厄介そうだな……!」

856名無しさん:2021/04/18(日) 12:37:48 ID:???
ガキンッ!! ザシュッ!! ギインッ!!

「くっ………きゃうっ!!………っああっ!!」
「ほらほら、どうしたの?もっと反撃していいのよぉ?」
「逃げ回ってばっかりじゃ、面白くないわ♥♥」

ハーピーの変異種『ダークシュライク』の毒爪が、四方八方から襲い掛かる。
既に魔法針は打ち尽くし、近接用の電磁ブレードで必死に応戦するアリスだが、
スーツのエネルギーも既に使い果たし、空中に浮かんでいるだけで精いっぱいだった。

ギンッ!!……ベキンッ!!

「!!ブレードが……‥!」
「フフフ……これで武器もなくなっちゃったわねえ」
「クスクス……そんなオモチャを気にしてる場合かしらぁ?ほら、隙ありぃ♥」
ザシュッ!!
「あうっ!!」
「背中もガラ空きよぉ♥」
ズバッ!!ザクッ!!ドスッ!!
「きゃ、あぐっ!んあああああっ!!」

……空中戦においてもっとも重要な「スピード」を失ったアリスは、もはや敵の的になるしかなかった。
敵の攻撃を辛うじて防御できても、他の敵に死角から襲われ、嵐のような連撃に晒される。
そして反撃に移る前に、はるか遠くへ飛び去ってしまう。
圧倒的なスピードとパワー、数の暴力の前に、
アリスは防戦一方、とすら呼べない程、ただひたすら一方的に弄ばれた。

「うっ………ぐ………あ、ぁっ…………!!」
全身に痛々しく刻まれた無数の爪痕が、どす黒く変色している。
ダークシュライクの爪は猛毒を持っており、普通の裂傷とは比較にならない激痛をもたらす。
しかも今のアリスは改造手術で全身の感覚を強化されており、痛覚も常人以上、必要以上に、敏感になってしまっていた。

「クスクスクス……あんまり虐めちゃ可哀そうよ。アリスちゃんてば、泣いちゃってるじゃない、ほらぁ♥」
べろお……
「ん、ぐっ!?」

黒翼の魔鳥がまた一羽、後ろからアリスにまとわりつき、激痛に思わず零れた涙の雫を長い舌で舐め取る。
ナメクジの這うような不快な感触に、思わずアリスは眉をひそめた。

「だ、め……放しなさっ……んぅ、あっ…!」
「ウェスト細くて羨ましいわぁ。でもちょこっと力入れたら折れちゃいそうねぇ。
バストもヒップも、小ぶりで可愛い……ふふふふ………」

ハーピーの変異種ダークシュライクは、高い知性と冷酷かつ変態淑女な性格を持つ。
獲物を生かさず殺さずしつこく嬲るねちっこさは全魔物中でも上位に属し、
同性のどこを弄ればどう気持ちよくなるか…といった性知識も、淫魔並に熟知している。

「やっ………あ、ん……♡」
「あ、アリスちゃんの弱いとこみーっけ♪ここ、気持ちよくて力抜けちゃうでしょぉ〜♥」
「アタシにも触らせて〜…ふふふ、ココなんて、手触りすべすべ〜♥」
「いっ……痛…あ、ん……♡」
「ほらほら、もっと可愛い鳴き声聞かせてちょうだい♥」

傷だらけの肢体を好き勝手に弄られるアリス。
時に敏感な性感帯を優しく愛撫され、時には傷口を爪で更に抉られ……
痛みと快感がないまぜの不思議な感覚に翻弄されていくうち、いつしか魔物に身を任せてしまっていた。

「も……やめ、て………は、な…して……あ、あぁっ……ま、た……♡」
「クスクスクス……アリスちゃんたら、すっかり大人しくなったわねぇ」
「これだけボロクソにいたぶられた相手に好き放題弄られて、えっちに感じちゃうなんて……」
「アリスちゃんって、ひょっとしなくてもドMなのかしら?フフフ……」

「もう。アンタたちばっかり独り占めなんてズルいわよ?私にもよこしなさい」
「んもう、まだ壊しちゃダメよ?……アリスちゃんはアタシたちみんなのオモチャなんだから」

すっかり脱力したアリスを、別のダークシュライクが無理矢理奪い取る。

「わかってるわ。それにこの後は、『ミストレス』様も……」
「そういう事。アタシ達の役目は、あくまで『味見』……まだまだ、お楽しみはこれからよん♥」
「はぁっ………はぁっ………(や、はり………こいつらの、主は……)」

857名無しさん:2021/04/18(日) 13:21:29 ID:???
「お次は私と、二人っきりで空中デートなんてどう?………こんなふうにっ!!」
「!?………っぐ、うああああああああ!!!」

アリスの脚をがっしりと掴んだまま、ダークシュライクは翼を畳んで一気に急降下した。


……ゴオオオオオオ!!

「っぐ……!!……う、………うああああああっ…………!!」

ダークシュライクに足を掴まれたアリスは、そのまま一緒に急降下させられ、
目の前が急速に暗くなっていく感覚に襲われる。

大きな下向きのGによって脳に血液が回らなくなり、視界が失われる、
いわゆる「ブラックアウト」と呼ばれる症状を起こしていた。

このまま続けば失神してしまう事もある、極めて危険な状態。
だが今のアリスには、反撃する力も、逃げる術も、残されていなかった。

「う……あ………殺……して………お願い、もう……終わらせて……」
「キャハハハハハ!!何言ってんのアリスちゃん♥♥お楽しみは、まだまだこれからよぉ〜?」
「……っ……ひ、いやああああああああああぁぁぁっっ!!!」

身体能力を強化され、常人よりはるかに死ににくくはなったが、
同時に感覚も超鋭敏に強化されたため、痛みや快感に極端に弱くなってしまっている。
そんなアリスは、魔物達にとってこれ以上ない格好の玩具であった。

「いっくわよぉ〜〜、アリスちゃんっ!」
「………ひぐっ!?………っあ………!!」
ダークシュライクは数秒掛けて急降下した後、地表スレスレの超低空飛行で飛ぶ。

ドガッ!!……ザリザリザリザリッ!! ガゴンッ!!
「んぎっ!! も、やめ………っぐぁぁあああああ!!………ひ……んぎゃうっ……!!」

荒れ果てた山肌の上を高速で引きずられていくうち、スーツの装甲や飛行ユニットなどは次々と砕かれ、削ぎ落とされていく。
その下に着ているのは、ハイレグレオタードと薄いタイツで形成されたインナースーツのみ。
それらも角ばった岩や砂利であっという間にボロボロにされ、アリスの全身に切り傷と擦り傷が刻みつけられていった。

ガリガリガリガリガリ…………ザシュッ!!
「っ………んぐあああああぁっ!!」

インナーに覆われていない背中が、尖った岩の先端に斬りつけられる。
白とブルーを基調としたインナースーツは、あっという間にボロボロに引き裂かれて赤い血と黒い泥に汚れていった。


「この辺りの岩山は、瘴気のおかげでイイ感じの岩とか枯れ木が沢山あって最高の眺めなのよね〜♥
………そぉ〜〜、れっっ!!」
「…ぅあ……ぐ……………ろ…し、て………」

そこから更に急上昇に転じ、今度はアリスの身体をはるか高空まで一気に引きずり上げる。
高低差はざっと、2000m以上はあるだろうか。
激痛と失血に加え、急激な気圧変化と激しすぎるGを受け、アリスの脳裏に明確な死のイメージが浮かび始める。

だがそれでも、ダークシュライク達の言うように、お楽しみは……
アリスにとっての地獄は、「まだまだこれから」だった。

858>>855から:2021/04/24(土) 12:01:31 ID:???
「くっ、テンペストカルネージ!」

エリスの一閃が走る度にスケルトンは真っ二つになる。しかしすぐに分裂したかのように復活し、また動くようになる。
ただ復活するだけのスケルトンならばエリスの相手にならないが、スケルトンに宿る魂は皆ボーンドが見繕ったそれなり以上の使い手。最初はボーンド一人だったのが、いつの間にか10人以上のスケルトンに囲まれていた。

「俺まで駆り出されるとは久しぶりだなあ!!」

「しかもガキだがいい女だ!骨じゃなかったらお楽しみもできたんだがなぁ!!」

死を恐れないスケルトンが左右から素早い動きで挟み込む。

「でぇえりゃぁぁ!!」

二本の槍を振るって左右のスケルトンを両断する。直後、斬り飛ばされた上半身に宿った新たな魂が、再生する前に上半身だけでエリスの顔に飛びかかる。

「しまっ……!?ぐぅうう!!」

咄嗟に長物の槍を捨てて手で素早く防御するが、大口を開けるスケルトンが目の前にいるのは気色が悪い。

「隙ありぃ!!」

「ごぼっ!?」

顔面を守っているうちに、他のスケルトンに腹部を思い切り蹴られて吹き飛ばされる。

「か、はっ……!」

衝撃で顔に張り付いていたスケルトンは外れたが、受け身も取れずに地面に転がり、蹲ってしまう。

「あ、おい!せっかく顔をグチャグチャに噛み千切ろうとしてたのに!」

「ばーか、防がれてたくせにナマ言うな」

「ま、この調子だとあと何体か仲間を増やせば倒せるだろ、その後で楽しむとしようぜ」

「さっき槍も捨てちまってたしな。素手じゃあ俺らには勝てんぜ?」

「……ちっ、悔しいが、私もアレに頼るしかないらしい」

武器を失ったエリスはゆっくりと立ち上がると、赤いブレスレットを掲げる。

『紅衣!!』

原理……はいい加減聞き飽きたと思うのでかっ飛ばし、水着のような露出のレオタード風のインナースーツと、アリスと色違いの赤い金属装甲がエリスの身を包む。
エリスのものと違い、背面にスラスターは付いていないが、その代わりに……

「テンペストカルネージ、キャストオン!」

近くに落ちていた二本の槍がひとりでに動き出し、エリスの背中にクロス状に収まったかと思えば、カシャンカシャンと変形して装甲に組み込まれていく。

「これが『レッドクリスタル・スーツ』……矜持を捨てて手に入れた、新たな力だ!」

腕部装甲からブレードを出現させ、迫ってきているスケルトンを切り刻む。これだけなら先ほどまでと同じだが……

「はぁああああああ!!!」

復活するより早く斬る。斬る。斬る。石ころ程度の大きさに分割され、放っておいたら大量のスケルトンが生まれるそれを……

「粉微塵にして、吹き飛ばす!!風雲紊乱!!!」

背面の排熱機構から凄まじい暴風が吹き荒び、復活する前の骨を戦場の遠くへ吹き飛ばした。

「げっ!?」

「多少手間だが、復活するスケルトン程度、こうすれば何の問題もない」

「お、おい、どうすんだよボーンドの大将?」

「まぁ落ち着け、変身時間は3分ってのがお約束だ。実際はそこまで短くないだろうが、長期戦にすりゃ勝てるのには変わらないさ」

「それは……どうかな!」

エネルギー効率は確かにまだ最適化されていないが、アリスのように飛行ユニットにエネルギーを割いていないエリスのスーツは、比較的長期戦にも耐えられる。

次から次に襲い来るスケルトンを粉微塵にし、風で吹き飛ばす。スーツの補助があれば、時間は少しかかるが造作もない。
気づけばあれだけいたスケルトンはボーンドと最初に呼び出したヴァイスだけになっていた。

「あーあー、やってくれちゃって……回収には骨が折れそうだぜ」

「ふん、その心配はない。確かに私ではお前を完全に消滅させるのは難しいが、粉微塵の状態で戦場に放り込めば流れ弾でいつかは死ねるだろう」

「粉微塵、ね……」

ボーンドは含みのある笑みを浮かべる。

「俺らの対策として粉微塵にするってのは正解だよ。でもさ、粉塵って勝手に体に入るよな。地下労働してたら肺がやられるもの粉塵のせいだし……お前みたいなお嬢さんには分からないか」

「……何が言いたい?」

苛立たしげに吐き捨てるエリスに対し、ボーンドは表情のない骨でも分かるくらいに口を広げて笑い……




「お前さ……吸い込んだな?」

直後……エリスの体内で、何かが急激に膨れ上がった。

859名無しさん:2021/04/25(日) 15:57:10 ID:???
「……そろそろ頃合のようだね。ご苦労様、シュライク達」

「ふふふ……ようこそおいで下さいました、ミストレス」
「下ごしらえは、万事整えて御座いますわ。あとは煮るなり焼くなり、存分に……」

「やれやれ……。私の分を残してくれないのかと、こっちはヒヤヒヤしたよ」

その後、ダークシュライク達に何度も何度も「空中散歩」に付き合わされ、息も絶え絶えのアリス。

岩山の頂上に立つ枯れ木に拘束され、隠し持っていた武器も残らず取り上げられていた。
そして、目の前に姿を現したのは………

「………やはり……現れ、ましたか…………スネグア・『ミストレス』・シモンズ……!」

「久しぶりだね、アリス・オルコット……愛らしい私の仔ウサギちゃん。
そんな状態でも、まだ元気に喋れるとは驚いたよ。さすがミシェルが改造しただけの事はある」

ナルビア方面に展開するトーメント軍の総司令にして、魔獣を操る一族ミストレス家の現当主。
性格・趣向はいささか偏り気味で、幼い少女を愛玩用の奴隷として飼うのが趣味と噂されている。
思えば初めて遭遇した時から、スネグアはアリスやエリスを「別の意味で」狙っている気配があった。

「相変わらず、気色の悪い……!
おおかた私が戦闘不能になったと見て、姿を現したのでしょうけど、
甘く見たら、痛い目に遭いますよ……!!」

ニヤニヤと笑うスネグアに、嫌悪感をあらわにするアリス。
武器を失い、戦うどころか自力で立っている事すらままならない状態だが、
それでも弱みだけは見せまいと、スネグアを睨みつけた。

「ふふふ……怖い怖い。では、手っ取り早く要件を済ませるとしようか。
君の身体が、とあるマッドな女科学者に色々と改造されてしまった事は私も聞き及んでいる。
その影響で、君の遺伝子は今、非常に不安定な状態にある事もね。
自分でも、薄々わかっているだろう?」
「…………。」

スネグアの言う通り、アリスの身体はミシェルによって好き放題に弄りまくられた。
結果、たしかに筋力や耐久力は大幅に増大し、飛行ユニットでの高速戦闘も可能になった。
だが、その代償……というより、ミシェルが他にも色々と改造を施したことで、
アリスの身体に様々な「異変」が生じ、戦闘どころか日常生活にも重大な悪影響が及んでいる。

「そこで……この『薬』だ」
……ズブッ!!
「ひぐぁっ!?」

スネグアは笑みを浮かべながら、アリスの左肩に注射器を突き立て、毒々しい色の薬を打ちこむ。
「重大な悪影響」のせいで、今のアリスは痛覚も常人の何倍も敏感。
注射器の小さな針がアリスの肩に刺さった瞬間、鉈で肩の骨ごと叩き割られたかのような激痛が走った。

「その薬は、君の不安定な遺伝子を安定させる作用がある。
きっと今の君にぴったりの姿に変わる事だろう……フフフフ」

「遺伝子改造薬……そんなものまで用意していたなんて……!」

スネグアの言う「とあるルート」が、改造を施した「マッドな女科学者」と同一である事はもはや明らか。

「遺伝子を安定」と言っても、まともな人間に戻るとは思えない。
恐らくこれは、「最後の仕上げ」。
かろうじて戦闘可能だった身体を、完全な愛玩用へと造り変えるための……

「初めから……計画通りだったという事ですか。私を捕らえて、その薬を打ちこむ所まで」
「そういう事さ。君の肉体を改造し、単独で出撃させる所から、ね」

「やはり……あの女科学者と、裏で通じていたんですね……!」
「まあ、そういう事だ。
つまりミシェルの奴は、君の身体を弄るだけ弄った挙句、敵であるこの私に売り渡した……
我が旧友ながら、まったくあれはワルい女だよ……くっくっく」

ミシェルの技術を利用して力を得るつもりでいたアリス。
だが実際は、手のひらで良いように転がされていただけだった事を思い知らされる。

「もっとも、二重スパイや裏切りなんて、良くある話だ。
君の知り合いにも居るんじゃないかな?そういう手合いが……」

………ドクンッ!!
「……許しません……あなた達は、絶対に……っ、ぐあっ!?」

体中が熱い。
全身の細胞が悲鳴を上げながら溶け落ち、全く別の存在に造り変えられていくのを感じた。
傷口が、淡く発光し始め、そして……

アリスの頭の上に、ウサギのような長い耳が生える。
お尻の上には、白くて短いふさふさの尻尾も。

「……君のような純真な子供が、大人の世界の醜い騙し合いに関わってくるのが、そもそも間違いだったのさ。
安心したまえ。これからはこの私が、たっぷりと君を可愛がってあげよう……ククク」

860名無しさん:2021/04/25(日) 16:02:06 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「なるほど。戦闘服自体、この変化ありきのデザインだったわけか……
実に最低の発想だ。私の好みを心得ている」

アリスの頭上にウサギのような長い耳、お尻には尻尾が生えた。
身に着けているレオタードスーツと相まって、まるでバニーガールのような姿になっている。

「ふ、ざけないで………んっ、ああっ…!!」

自然界において、ウサギは天敵が多いため、生き残るために常に生殖行為が可能……つまり、一年中が発情期。
故に古来よりウサギは「性」のシンボルとして捉えられてきた。
獣人化した事で、そんなウサギの特徴が、より色濃くアリスの身体に現れる。

全身に受けた傷の痛み、目の前に現れた恐るべき「天敵」。
己の生命に危険が迫るその感覚が、体中の性感を昂らせてしまう。

「気持ちよくてたまらないだろう?
ウサギ型の獣人、特に愛玩用に調整された品種は、激しい苦痛を脳内で快楽に変換する。
もともと『ドM』の素質十分な君には、まさにぴったりだ」

「ふ……ふざけた、事を……私はぜったい、あなたの様な人には屈しません……!」

「フフフ……まだそんな反抗的な口を利けるなんて、さすがは『元』ナルビア王国軍シックスデイ。
まずは、その身体で存分に、ご主人様のムチの味を味わうがいい……!」

体中に湧き上がる疼きを抑え、それでもなおスネグアへの反抗心をむき出しにするアリス。
スネグアは配下の魔物達を下がらせると、愛用の鞭をピシリと地面に打ち付ける。

「はぁっ………はぁっ………」
(ほんの少しだけど、魔力が回復してる……これなら、魔法針一本くらいは……)

改造されたアリスの身体は、耐久力と回復力にだけは特化しているらしかった。
少し休んだおかげで、体力と魔力がわずかに戻っている。
針一本に至るまで奪われたが、こうした事態に備えて、針そのものを魔法で生成する術も扱える。

「たああああああぁっ!!」
瞬時に拘束を解き、スネグアの喉笛を狙い、一直線に飛び掛かるアリス。

「フフフ………そらっ!!」
その動きに合わせて、スネグアの鞭「リベリオンシャッター」が飛ぶ。

(スネグア……こいつは私を捕らえた後、間違いなくエリスも狙う……そうなる前に私が……!!)

一発受ける事は想定の内。例え刺し違えてでも、アリスはスネグアを倒す覚悟だった。
だが……

バシュッ!!ドガンッ!!ズガッ!!
「きゃあぐっ!?っぐあああああああ!!!」

魔獣使いの鞭「リベリオンシャッター」は、その名の通り魔獣の「反抗心をへし折る」。
一撃を受けた瞬間、頭が真っ白に、視界が真っ暗になり……アリスは体勢を崩して顔から地面に叩きつけられた。

「っぐあぅっ…!?………あ、っっぎ…いっ……!!」
まともな言葉を紡げなかった。激痛、というのも生温い。体中が痺れて、吐き気と眩暈すら催して、
自分が今立っているのか倒れているのか、敵がどの方向に居るのか、どちらが上か下かすらわからない。

「いっ……っぎ、あ……!!」
(な、っ……今、何が………!?)
左手の感覚が、全くない。右手で恐る恐る触れてみると、
左肩から背中にかけて、肉を抉られ、焼かれたような壮絶な傷跡が刻まれていた。

「おやおや、たったの一発で終わりかい?
案外だらしないな……もう一鞭くれてやるから、お腹もだしたまえ」
「ひぅ……や、っ……そん、…なっ………」
戦う事も立ち上がる事もできず、無様に地面を転げまわるアリス。
スネグアの声に従うかのように、気づけばお腹を上に向け、脚を無防備に広げた、服従のポーズを取らされてしまう。

「クックック……素直で良い子だ。思った通り、君には…愛玩奴隷の素質があったようだね!」
ビシュッ!!バシッ!!ドシュンッ!!ギュバッ!!

「あぎっ!! っぐあぅっ!! ふぎああああああああぁぁぁっっ!!」
右胸、左胸、お腹………打ち据えられるたびに、アリスの腰がビクンビクンと跳ね上がる。

「ひっ………が………は…………」
「クックック………上々の仕上がりだな。それっ!!」
「ひぎゅううううううんんんっっ!!?」

最後のトドメに、股間へ一撃。
アリスは白目を剝き、口から泡を吹き、そして股間からは薄いレモン色の小水を垂れ流しながら意識を失った。

861名無しさん:2021/05/04(火) 11:48:45 ID:???
「ふふふ……できればこのままずっと楽しんでいたいのだが……私には、まだやることがある」

スネグアはアリスの顎を持ち上げ、耳元でささやいた。
気絶したアリスがその声に反応できるはずもなく、その身はダークシュライクに預けられる。

「続きはトーメントに帰った後、じっくりと楽しむとしよう……
シュライク達、彼女をトーメントに『送って』さしあげなさい」
「かしこまりました、ミストレス……フフフフ」

二羽のシュライクに両脇を抱きかかえられ、アリスの身体は再び宙を舞った。

………………

(ふふふふ……イイのは見つかった?)
(ええ、あの山の頂上……高くてブッとくて、あれならバッチリだわ♥)

「…ぅ……ぁ……?…わた、し……きぜつ、して………」
「ふふふ……お目覚めね、アリスちゃん♥」
「これからアナタを、トーメントに送ってあげる所よん♥」

ダークシュライク達の囁き声で、意識を取り戻したアリス。
2羽のダークシュライクに手足を押さえつけられ、空中で逆さづりの体勢にされている。
眼下にはゼルタ山地の山々が広がっているのが見えた。飛行スーツを破壊された今のアリスでは、落ちたらひとたまりもない。

「トーメント?……このままイータブリックスまで飛んでいく気ですか……?」
「クスクス……そんな面倒なことしないわ」
「アリスちゃんは知ってる?この戦争で死んだ女の子は、王様の能力で蘇生されることになってるの」

王の蘇生能力「ロード・オブ・ロード(おお しんでしまうとはなさけない)」は、この世界全体に効果を及ぼすことが可能らしい。
今行われている世界大戦で命を落とした場合、王が選択した者……要するにかわいい女の子は……
王のいる場所、すなわちトーメント城に送られ、復活する事になる。

「!……それって、まさか……」
「察しがついたみたいね、アリスちゃん。」
「名残惜しいけど、そろそろフィナーレの時間、ってわけ♥…そ〜れっ!!」
「っぐえ!?」

首と手足を掴まれ、再びの急降下。
今度は下を向いたまま落とされているので、前髪が風圧であおられ、まともに目を開けていられない。
遊園地の絶叫マシーンなど、これと比べれば可愛いものだろう。
(くっ……このまま地面に叩きつけて……とどめを刺すつもり……?)

「ふふふ……もう少し右、かしら」
「オーケー。この位?ふふふ……さあアリスちゃん、見えてきたわよぉ♥」
「え…………、あ………あれ、まさか……」

眼下に見えるのは、荒れ果てた岩山。その頂上に立つ、一本の枯れ木。
どす黒く変色したその幹は、瘴気の影響で硬質化し、枝の先端は槍のように鋭く尖っていた。

「ふふふ……ぶっとくて鋭くて、ロケーションも最高ねぇ」
「でしょぉ〜?これならサイコーのオブジェになるわ♥」

ハーピーの変異種である、ダークシュライク。
彼女たちはモズと呼ばれる鳥の性質を持ち、無力化した獲物を木の枝等の鋭い物に突き刺す、『早贄』と呼ばれる行為を行う。

「ひっ……い、いやっ……やめて…それ、だけは……!!」
「だぁ〜め♥あの一番てっぺんの枝にぶっさして……」
「アリスちゃんをサイコーに芸術的な早贄にしてあげる♥」

アリスは半狂乱でじたばたともがくが、二人掛かりでがっちり押さえつけられて逃げられない。

「いやっ……はなして、おねがい、誰か、助けてっ……
エリス……レイナ……り…………い、やあああああああああぁぁっっ!!」

少女のが岩山にこだまする。だがその悲痛な声に、救いの手は間に合わず……

………ザシュッ!!
「ぐぶっ…!!………」

黒く鋭い枝槍がアリスのみぞおちへ突き刺さり、脊椎をかすめて背中まで貫通。
口から血の泡を吐き出し、全身をビクンビクンと痙攣させる。

「ぁ………っが………は………!!」

常人なら間違いなく致命傷だろう。
だが邪悪な改造が施されたアリスの身体は、ここまでされてもなお、彼女の魂に安らぎと解放を与えようとしなかった。

862名無しさん:2021/05/04(火) 12:34:10 ID:???
「げぼっ……が、あぁっ………!!」
鋭い木の枝に串刺しにされ、アリスは小さな体をビクビクと震わせる。

「あはははは!ぴくぴくしちゃって、可愛い〜♥」
「こんなになってもまだ生きてるなんて、アリスちゃんてば本格的に人間やめちゃってるわね♥
でも、周りをごらんなさい……」

「グゲゲゲッ!」「ハヤク、クワセロォォ!!」

「インプやガーゴイルちゃん達も、もう我慢の限界」
「生きながら肉を食いちぎられて、上も下も後ろも犯されて……」
「最高に気持ちよくなりながら、確実に逝けるわね♥」

「そ………んな、の………」

「もちろん、これで終わりじゃないわよ。
なにしろトーメントに帰ったら、ミストレス様に毎日たっぷり可愛がってもらえるんだから……」
「ドMなメスウサギのアリスちゃんには、きっと最高の環境よねぇ……フフフ」

「い………い、や………!」

「さあ、みんないらっしゃい………食事の時間よ!!」
「「グゲェァアアアアアアア!!!」」
絶望に沈む少女の悲鳴は、魔物達の嵐のような咆哮にかき消された。
無数の魔物が爪と牙を剥き、早贄にされたアリスに一斉に群がる………

(ぼふん!!)
「「!?」」

……だが、その時。

アリスが串刺しにされている木に突然、無数の花が咲き、大量の花粉を撒き散らす。
そして、魔物達の只中に、二人の人影が、風のように飛び込んできた。

「っぷ、何これ……!?」
「一体何者っ……!?」

「神速・薙手刀!!たあああぁっ!」
アリスが突き刺さった枝を、唯が手刀の一閃で斬り落とす。
落ちてきたアリスの身体を、サクラが受け止める。

「……あ……なた、たちは……」
「アリスさん、しっかりしてください!!」
「サクラちゃん、全速離脱っ!!」

救援に駆け付けた唯とサクラの二人は、一瞬の早業でアリスを助け出すと、あっという間にその場を離脱した。

「はぁぁ!?……何よあいつら、アリスちゃんを攫ってくなんて…!」
「アリスちゃんを確実に殺さないと、ミストレス様がお怒りになるわ。追うわよ!!」

グォォォォォォォ……

「あ、あの黒いハーピー、追ってくる!?」
「アタシ達の得物を横取りするなんて、生意気な泥棒猫ちゃんね!!」
「こうなったらまとめて片付けて、ミストレス様に献上してあげるわ!!」

ダークシュライクの飛行能力は極めて高く、その速度は通常のハーピーとは比較にならない。
アリスを抱えながらホウキで逃げる唯達が、追いつかれるのは時間の問題……かと思われた。

「……大丈夫だよ、唯ちゃん。」
しかしサクラは慌てることなく、呪文を唱え始める。
すると、サクラのホウキの柄から枝が伸び、唯のホウキと合体していき……

「……私、逃げるのだけは得意中の得意だから」
「!?……サクラちゃん、これは……」

小型の飛空艇へと変わった。

サクラが最も得意とするのは、植物を操る花属性の魔法。
木と藁でできたホウキは、魔法の媒体としても最適であった。

「全力で逃げ切るよっ……フライングボート・ダブルジェット!!」
正しくはツインターボだ!

863>>858から:2021/05/06(木) 01:38:23 ID:???
「げほっ!?……ごほっ!!げほっ!!」

急に喉の奥に不快感を催し、エリスは咳き込む。
口を覆った手に、唾液に混じって黒い粉のような物が付着していた。
(これは………先ほど砕いた、骨の粉か…!?)

「砕いた骨の粉塵は、肺の中にちょっとでも入ったら、あっという間に増殖していく。
若いのに残念だったなあ、お嬢ちゃん……あんたもう終わりだよ」
「げほっ!!……げほっ……なん、だと……!?」

咳き込んでも咳き込んでも、不快感はどんどん増していく。
エリスが吐き出す咳は、黒い煙となってエリスの周りを漂った。

「つってもまあ、体の中でスケルトンになって内側から……なんて事にはならねえ。
骨の形に固まる前に、咳で体外に出されて、風で飛び散っちまうからな。
そ、こ、で………」

ボーンドは荷物の中から黒い小瓶を取り出し、エリスの足元に投げた。
(ガシャン! びちゃっ!!)
小瓶が割れて、黒いヘドロのような粘液が飛び散る。

「そいつは『万能武装スライム』。
使用者の思い通りの武器に変化する便利なモノなんだが、ちょっとしたイワク付きでな。
そいつを作ってた生産プラントが破壊されて、所長やってた男は、責任を問われて処分されちまった」

「っ……一体、何の、話を……げほっ!!げほっ!!げほっ!!」
激しく咳き込むエリス。吐き出した黒い煙がひとりでに動き、足元のヘドロに吸着されていく。

「なに。あんまりかわいそうなんで、俺ん所で引き取ることにした、ってだけだ。
スケルトンは粉微塵じゃあ大したことは出来ねえが、そのスライムに溶かしてやれば……」

「じゅぶっ……じゅぶぶぶぶ……こうして、スライムと融合して自在に動けるようになる、というわけです。
感謝していますよ、ボーンドさん。おかげでまた、いたいけな少女を痛めつけることが出来る……ククククッ!!」
黒いヘドロが寄り集まって、人の形に変わっていく。
骨の粉塵を吸収したことで、万能武装スライムに邪悪な意思が宿ったのだ!

「くっ……新手か!……テンペスト……っぐ、げほげほっ!?………こ、のっ……!」

眼前に現れた敵を、槍で薙ぎ払おうとするエリス。
だが、体内を蝕む骨の粉に、魔槍の力を阻害されてしまった。

ぐちゅっ……じゅぶぶぶっ!!
「クックック……無駄ですよ、そんな攻撃では……」
「なっ…は、放せっ!」
魔力の宿っていない物理攻撃では、スライムの身体を滅することは出来ない。
テンペスト・カルネージの穂先は、黒いスライムにずぶずぶと呑み込まれていくのみ。
槍を引き抜こうと力を込めるが、柄の半分ほどまでスライムが巻き付いてしまっている!

「おいおい……俺も残ってる事、忘れてんじゃねえか?お嬢ちゃんよお……」
ガキンッ!!
「っぐ!?」

……スライムから槍を取り戻そうと手間取っている間に、背後から近づいたヴァイスがエリスの脇腹をナイフで狙った。
だがレッドクリスタルスーツの装甲に阻まれ、逆にヴァイスのナイフが折れてしまう。

「はぁっ………はぁっ………うぐ…!……げほっ…ごほっ……うぐ、おえっ…!!」
なんとか槍を取り戻し、ヴァイスたちから距離を取ったエリス。
だが肺の不快感は更にひどくなり、咳はますます激しくなっていた。
まともに呼吸を整える事も出来ず、疲労が急速に蓄積していく。

「チッ……厄介な鎧だ。まるでカニの甲羅だぜ。引っぺがさねーと中身が食えねーってなぁ!」
「私の武装スライムなら破壊は可能かもしれません。
……しかし私自身は、武器の扱いは素人。骨の粉に肺を蝕まれているとはいえ、彼女に攻撃を当てるのは難しいでしょう。
そこで……」
「クックック……なるほど。どうやらお前と俺は、とことん相性がいいようだな、元所長さんよぉ?」

刻々と悪化していく状況に、焦りを感じるエリス。
その目の前で、ヴァイスのスケルトンと、クェールのスライムが、一つに合わさっていった。


「……さーてと。この場はあの二人に任して、俺は早い所、お仲間と合流するかね……」
エリスとヴァイスたちが戦っている一方、ボーンドは余裕綽々で離脱していた。

「まぁ、仲間っつっても……仮初の、だがな」

ボーンドは懐から辞書を取り出し、用済みとなったそれを投げ捨てる。
風でぱらぱらとページがめくられ、しおり代わりに折り目が付けられたページで止まる。
そこには、仲間達の……小隊の名前の元となった単語が記されていた。
tradimento… 裏切り 叛逆、と。

864名無しさん:2021/05/09(日) 22:12:56 ID:???
スケルトンの骨に黒いスライムの肉体の怪人へと合体したヴァイスとクェールは、
右手を鉈、左手をチェーンソーに変化させて猛然と襲い掛かる。

「クックック……貴女のその赤い鎧、どれほどの強度なのか確かめてあげましょう」
ガキンッ!! ガキン!!

「はぁっ……はぁっ……ゲホッ…ゲホッ……こ、のぉっ……!」

すぐにでも撃退して逃げたボーンドを追いかけたいエリスだが、次第に防戦一方に追い込まれていく。
瘴気を纏った骨の粉がエリスの体内に大量に入り込んで、肺腑を冒され、呼吸を阻害され、体力を削り取られ、
その槍さばきは先ほどまでよりも明らかに鈍っていた。

ヴァイスの戦闘スタイルは攻撃一辺倒、防御をまったく考えない。
しかしそれが無限に再生可能なスケルトンの身体と見事なまでに嚙み合っている。

更にクェールの万能武装スライムによって、装備の差は縮まり、
エリスのアーマーでも攻撃を防ぎきれるか怪しくなってきた。

「クックック……そろそろ限界みてえだなぁ?『ナルビアの神風』ちゃんよぉ…!」
「それに、その鎧も。ナルビアの技術で作られただけあって、さすがに大した強度でしたが……」
ガキッ!!………ベキンッ!!
「し、まっ……!」

エリスの防御を掻い潜り、脇腹に鉈が直撃する。
鉈の刀身はへし折れたが、レッドクリスタルスーツにもわずかな亀裂が走った。

「装甲の弱い部分に集中攻撃すれば、この通りってわけだ……
ま、こっちの武器は折れようがいくらでも再生できるがな!」
「それに、スライムの身体は変幻自在。ほんの僅かな亀裂からでも………自由に中に入り込める」

……じゅるるるっ!!
「っ………!!」
スライムの一部がエリスに飛びついて、アーマーの中に侵入してきた。
スライムが直接肌に触れる不快感に、エリスはバイザーの奥で端正な顔を歪ませる。

「ヒヒッ!今度は肺だけじゃ済まねえぜ……前も後ろも上から下まで、ぐっちょぐちょに犯してやる!!」
「フフフフ……私としては、鎧を剝がして、無防備なお腹をボコボコに変色させてあげたいですねえ」

スケルトンに両腕を掴まれ、両脚はスライムに絡め取られ、動きを完全に封じられてしまった。
絶体絶命の危機に陥ったエリスに、反撃の手段は………

「……あれしか、ないか。……バーストモード、起動っ……!」
……残っている。たった一つだけ。

…………

<残念ねぇ〜、私の改造を受けてくれないなんて。
これじゃ、せっかくのスーツの性能を半分も引き出せないじゃない>

<まぁ今更オミットもできないから、機能だけは残しておくけど……
このモードだけは絶対に、使わないでね>

<……今のあなたが使ったら、命の保証はないわよ?フフフ……>

…………

ゴゴゴゴゴゴッ……

「ぐっ!?なんだ……!?」
「一体これは……アーマーが‥…!?」

スーツが赤く輝き、高熱の炎を発生させる。
二本の長槍テンペストカルネージがアーマーと合体して、炎を纏った一本の巨大な槍へと変形した。

……ジュウウウウウゥウゥゥッ……

「う、っぐ……熱………だがっ……アリスの受けただろう苦しみに比べれば、この程度……!」
激しい熱気が、肺の中の骨粉塵を焼き尽くす。
だがあまりに膨大な熱量は、使い手であるエリス自身をも呑み込みかねない勢いで燃え盛っていた。

「構う…ものかっ………全てを、焼き尽くせっ!!
……『クリムゾン・カルネージ』!!」

「「ぐわあああああぁっ!?」」

超高熱の炎を帯びた竜巻で、スライムとスケルトンが一瞬にして蒸発する。
活動限界を超えたレッドクリスタルスーツが、赤い光の粒子となって消えていく。
後に残ったのは、二本の槍を天高く掲げて立つ、エリスただ一人。

「はぁっ……はぁっ……こんな所で……倒れていられるか…!
早く、逃げたスケルトンを……いや、その前に……アリ、ス……」

一歩踏み出した瞬間、膝から崩れ落ちるエリス。
長槍を杖代わりになんとか立ち上がると、妹の名をうわごとの様に呟きながらその場を立ち去った。

865名無しさん:2021/05/13(木) 01:21:00 ID:???
「ふふっ、ようやく、ようやくアリスくんが我が手中に収まった……、従順になるまで躾けるのにどれだけかかるか……想像するだけでも楽しみだ……。さて次は…」

アリスを捕らえ、スネグアは更なる暗躍の前に一度拠点に戻ってきていた。

拠点は配下の魔物兵の中でも、選りすぐりの強個体数匹に守らせている。
各国の動きはスパイからの情報でほとんどを網羅しているが、万が一想定外の奇襲に遭う可能性も、ゼロではない。
そんな時のため、自分のいる拠点には自分の意のままに操れるキメラ兵や最上級の魔物兵を配備し、自分が逃げる時間を十分に確保するための対策を施していた。

「おかえりなさいませ。スネグア様。……お怪我はございませんでしたか?」
天幕に戻ると、中での世話を任せている魔物兵ーー先日のラミア人格のゾンビキメラが、珍しく話しかけてきた。

「?。ああ、当然だろう?私が行く時には、すでに戦いは終わっているのだからね。もっとも、戦闘が終わっていないところには行かない、というのが正しいわけだが……ククク。」
「そうでしたねぇ。貴方はいつも、配下や立場の弱いものに戦わせて、安全なところにいらっしゃる。自分で戦われることはありませんものね」

「……何が言いたい?」
「いえ、なんでもありませんわ。失礼いたしました」
急に話しかけてきたと思ったら、嫌味のようなことを言ってきた。
少し気を悪くしつつも、羽織っていたコートを脱がせながら自分の天幕の入り口をくぐる。
(何だ?今、背中を触られたような……?)

首筋や肩、太ももの付け根に感じた、かすかな違和感。
これ以上不快な言動をするようなら配置を変えようかなどと考えつつ、椅子に腰かけようとした次の瞬間。
視界がぐらついた。身体のバランスがうまく保てない。

急激に地面が近づいてくる。

「…………は?」

地面にぶつかる衝撃とともに視野が回り、周囲に転がったモノが視界に入ってくる。

……バラバラになった、自分の身体だった。
高貴な装いに包まれた胴と、すらりと細い手足。間違いなくスネグア自身の身体だが、手足と首が根本から分離され、まるで解体されたマネキンのように散乱している。

「は!?何が起きている……!?」

頭、胴、両手、両足。6つのパーツに分離されたようだった。
あまりに不可思議な事態。
血は出ていない。手足や身体を動かそうとするとその部位が動くが、パーツ同士の接続を失っているためその場でバタバタと無意味に跳ねるばかり。

「うふふ、上手くいったようねぇ。」

声がした方を見ると、ラミア人格のゾンビキメラが見下ろしていた。
「!!、貴様の仕業か……!!ふざけるな!!早く元に戻せ!許さんぞ貴様……」

咄嗟に腰にある魔獣殺しの鞭に手を回そうとして…

「…っ!!」
手を回した先には、腰がなかった。

「おお怖い怖い。今、鞭を取ろうとしたわね?これは危ないからもらっておくわ」
手が届かなかった腰から、鞭が抜き取られるのを感じた。
「なっ!?待て!返せ!返せぇっ!!」

自分が強大な魔物兵たちに対して一方的に強く出られる理由。それが全てというわけではなかったが、その理由の大半は今取り上げられてしまった鞭、リベリオンシャッターによる痛みと恐怖による支配であった。

魔物兵に対する絶対的な地位が、揺らぎはじめる。

「くっ……!」
悔しそうに歯をギリリと噛み締めて睨みつけてくるスネグアの頭の様子に、満足気に笑みを浮かべるラミア。

「んふふ、大人しくなっちゃって。これがないと強く出られないのかしら?」
「っ!!……貴様の目的はなんだ?……これは立派な反逆行為だ、タダでは済まされないぞ……!」

「あらあら今度は脅迫?心配いらないわ。この後行く当てはあるし。」
「なに……!?」
「目的はそうね、ちょっとした手土産と、貴女への復讐ってとこかしら。今まで散々コキ使ってくれたじゃない?だからその復讐よ。ただそれだけ。ちょうどいいところに手を貸してくれる人がいたっていうのが大きいけど……、っとまあこれは貴女に話すことではないわね」

「ちぃっ…!!」
(どこの差金だ?こんな情報は入っていない……。ナルビアか?ミシェルが何かしたのか?ミツルギか…あるいは他の勢力…?)

「ちなみに外に助けを求めても無駄よ?今ここに残ってる魔物兵は皆仲間に引き入れてあるし、人間の戦力はみんな出払っているもの。あ、そうだ……もう入ってきていいわよ。」
「ンモォォォ……!待ち侘びたぞォォォォ。早速始めようぜェェェ。」
「グギギギ、あのスネグアが無様に地面に這いつくばってらぁ。これはもうブチ犯すしかねぇぜぇ……」
「いつかこんな日が来るんじゃねえかと思ってたぜぇ……。身体の隅まで堪能してやるぜぇ……ギヒヒヒ……」

ラミアが声をかけると、テントの中に図体の大きなオークと2匹のゴブリンがドカドカ入ってきた。

866名無しさん:2021/05/13(木) 01:22:07 ID:???
自分で選んだ選りすぐりの強個体とはいえ、ゴブリンとオーク。見た目は相変わらず醜悪で、異臭を放っているのも一般のものと変わらない。

「お前たち……いい加減にしろ……!貴様らの好きにはさせん!魔獣昇華……!」

汚らしい魔物3匹無遠慮にテントに侵入されたことにより不快感の限界値を越えたスネグアは、近くにいたモグラを魔獣化して魔物兵に立ち向かう。

ドォ゛ォ゛リュゥ゛ゥ゛ゥ゛……!!!!

両手に巨大なドリルを備え、強大なモンスターとなった大土竜が、4体の魔物兵に襲いかかる。が、

「……うふふ。リベリオンシャッター。」
バヂヂヂィィィィーーンッッ!!!

ドォ゛ォッッ!?!?ビクビクッ……キュゥゥゥゥンッ……

「なぁっ……!?そんなバカ…な……」
強力無比な鞭の一打によって動きが止まり、萎縮して全く攻撃する素振りを見せなくなった。

「じゃあなァァァ……!!!」
ドッゴォォォォン……!!

巨体オークが頭上から振り下ろした棍棒が大土竜の頭に直撃し、戦闘不能となった大土竜の魔獣化は解除された。

「グギギギ、やっぱりお前の鞭は強いなァ…!!おいおい、そんな泣きそうな顔すんなって」

「そんな……私の魔獣が……あ…あぁ……!ま、待て!くるな……!!……やめろ、触るなっ…!離せぇっ!!」

逃げることも戦うこともできず、床に転がされて叫ぶことしかできないみじめな男装の麗人に、薄ら笑いを浮かべた魔物兵たちの魔の手が伸びる。

「まあ、こんなにふるふる震えちゃって可愛い……。んふふ、まずはお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
スネグアの胴体の部分を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめたラミアは、スネグアが纏うベストのボタンに指をかけていく。

「なぁ、あぁ…!?やめ……!!」

手際よくシャツのボタンもベルトもチャックも外されて、しゅるしゅると剥かれていくスネグア。手足のない身体には引っかかるものもなく、あっという間に下着姿にされてしまう。

「あら、見た目は男性的な服装をしてたけど、中はちゃんと女性らしいもの着てるじゃない。」
「〜〜〜ッ!!////」

ところどころレースがあしらわれた、花柄刺繍入りの濃紺のショーツとブラジャー。
それらがスレンダーなボディを、より引き締めて見せている。

「まだまだ若くて健康的な身体だわ……ラミアの時だったら食べちゃいたいくらい……。じゃ、これも脱ぎましょうね」
背中のラインをなぞられながら、滑らかにブラのホックが外され、それほど主張の大きくない胸があらわになった。ショーツにも手がかけられ、ついに一糸纏わぬ姿にされてしまう。
「っ、ううぅぅぅ……!」
ゴブリンたちの好色な目線に晒され、顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

手足に残っていたシャツの袖やスラックスも、抵抗虚しくゴブリンとオークによって抜き取られ、生まれたままの姿にされてしまう。

「ギヒヒ、こういうのは初めてって顔してるなぁ?そりゃあお高く止まった貴族様には、こんな経験あるはずないってかぁ?今どんな気分でさぁ?」

カアァァッと赤く染まった顔は、ゴブリンの1人に髪を掴みあげられていた。
顔の前まで持ち上げられ、ゴブリンの吐息が頬を撫でる不快な感触に顔が歪む。

「ぐっ……ッ……黙れッ!!こんなことをして、許さん……断じて許さん!!あとで絶対に殺してやる……!!覚悟しておけよ……!!」

泣きそうに顔を歪ませながらも睨みつけ、精一杯の怒声を浴びせるスネグア。
そんな怒るスネグアに怯む様子もなく、ゴブリンはスネグアの顔を持ち変え、目を見開かせるように指で瞼を押し上げ、露出した眼球を舌でベロベロと舐め上げた。

べろり…ぬちゃぁ……

「ひぃっ!?やっ……!ッッぎゃああああああああぁ゛ぁ゛!!や“め“、や“め“ぇぇッ……!!」

「あぁーうまいなぁスネグアさんの目、ほどよいしょっぱさでニュルっとしてて舐め心地もいいし、ほんのりあったかい……。」

ぶちゅり…じゅるじゅる……

そのままゴブリンは目にディープキスをするように唇を沿わせ、まぶたを唇でどかしながら眼球を隅々まで舐め回す。
目の上をザラザラしたものが這い回る感触に、スネグアは鳥肌が止まらない。

「ひッ!?あ゛ッ!舐めるのっ、や゛ぁぁ……!!」

「これが今まで俺たちを見下してきた目だと思うとまたたまらなくウマい……!はぁ……身体が繋がってたらここまで濃密には舐められないよな……分解マジ最高だぜぇ……!」

ぶじゅるるうううううう……

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

ゴブリンが眼球にしゃぶりついたまま口をすぼませて吸い上げると、スネグアは言葉にならない悲鳴をあげた。

867名無しさん:2021/05/13(木) 01:23:09 ID:???
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……グギギギ、あいつも早速楽しんでやがるなァ。あ、やべ出る。う゛……!!」

もう1匹のゴブリンはスネグアの足でペニスを扱き、早速射精しながら様子を伺っていた。
もがく両足を膝立ちの形に揃えて自分の両足で抱えこみ、ふくらはぎの部分に腰を下ろして動きを封じ、ふとももに自分のペニスを挟んで腰を前後に揺する。

「ッいい加減、脚に挟むのやめ……!?ッくぅぅ……!!…や、やめろ……!!脚に…か、かけるな……!!」

ドロっとした生温かい精液がふとももにべったりと付着するたび、嫌悪感を示すように脚を大きく動かして抵抗しようとするのがおかしくて、ゴブリンは何度も精液を塗りたくっていった。

「……ふふ。あなた、乳首もクリも感度良好じゃない。これはこのあとが楽しみねえ」

ラミアはずっとスネグアの胴体を抱き抱えたまま、乳首とクリトリスをカリカリといじっている。

「ひぅ……んんっ……んあぁっ!」
「ブモモ……早くしろラミアゾンビィィィ……!」

スネグアの指を上から握りしめて自分の竿を無理やり触らせているオーク兵。
元上司に自分のチンポを素手で握らせるという直接的なセクハラがもたらす背徳感は並大抵のものではなかった。自分の竿のサイズと形を、スネグアに無理やり覚えさせていく。

「んもぅ、急かさないでよ、あとその呼び方やめて。……んん、ここをこういじって、と……これでよし。」

「はぁい、スネグアちゃんお待たせ、とっておきのプレゼントよ。あなた、いつも男装をしてるじゃない?だから、その装いにふさわしいような、立派な男性のシンボルをあげるわ」

「ぐぅぅ……何を言って……ッ!?なぁぁぁっ!?」
不穏なセリフを吐くラミアに陰核をギュッと握られた直後、クリトリスからじんわりと染み込むような違和感が下腹部へ抜けていく。
「これ、はぁッ……!?」
嫌な予感がして視線を向けると、そこにはスネグアの身体には似つかわしくない、たくましい男根がそそり立っていた。
「ふ、ふざけるなぁぁ……!!もどせ!!…もどひぐぐぅぅぅぅッ!?」

ラミアに軽く擦られただけの刺激で、抵抗の言葉を遮られてしまう。

「ふふ、感度抜群ね。クリをもとにして、さらに刺激に敏感になるように作ってあげたから、ちょっと触られただけでもたまらないでしょう?」
しゅりしゅりしゅりしゅり……
「あっ!ああっ!!ああああぁっ!!」
ラミアによって優しくしごかれ、ふたなりペニスがむくむくと大きくなっていく。
ひと擦りされるたびにビリビリとした刺激が襲い、スネグアは悶えることしかできない。

(あぁだめだ刺激が強すぎる……!!何かが込み上げてきているようなっ……!!これはぁぁぁッ……!!)

何かがペニスの奥で蓄積され、ドクドクと脈打っているのを感じる。

低俗な魔物どもに反逆され、あろうことか射精までさせられるなど、スネグアのプライドは絶対に許せなかった。
しゅこしゅこしこしこ……
「ん、ぎぎぎぃ……」
限界まで怒張したペニスを尻目に、なんとか歯を食いしばって堪える。
後ろの穴に何かが触れたのは、そんな時だった。
「はっ……!やめ、何して、い゛ぎい゛い゛っ!?」
「ブモモぉォォ……!これがスネグアのケツ……!!犯すぜェェ!!」
オークのデカマラが、スネグアの尻穴を貫く。カウパーでぬらぬらだった肉棒はすんなりと入り、オークはそのまま重量級の身体をスネグアの胴体に打ちつけるようにして、ストロークを開始した。

ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん……!!

「ひゃぎいいいぃぃ!!ひゃめ、ケツはひゃめろおおお…!お、奥を刺激するなっ!!……っぎぁぁぁあああああああああああああぁぁぁっ!!」

お尻の穴からの突き込みによってペニスの奥のドクドクしている部分を後ろから刺激され、ところてん射精に追い込まれていく。

「ちなみにねそのペニス、絶頂するたびにスネグアちゃんの人格とかをねぇ、精液にして吐き出しちゃうのよ。」

「は……?」

「つまりスネグアちゃんは、このおちんちんでイクたびに少しずつスネグアちゃんじゃなくなっちゃうの。何回もイっちゃったら、ただのお肉になっちゃう。一回出しちゃった精液はもう2度と元には戻らないから、肉人形になりたくなかったら頑張って我慢するのね」

ビクビク震える限界ペニスをしゅこしゅことしごき続けながら、淡々と重大な事実を告げる。

ごりゅ…!!
「あ゛がっ!?」

ビュルルルーーーーッ!

オークの突きにペニスの弱点を裏から擦りあげられた刺激がトドメとなった。
放出された精液が、放物線を描いて勢いよく飛んでいき、床や壁にこびりつく。
ドクン…!という虚脱感が全身を包む。
自身の不可逆な喪失を感じ、スネグアの顔が青ざめていく。

「あ……あ……嘘だ……私が……消えっ……!!そんなことがあってたまるか……!」

868名無しさん:2021/05/13(木) 01:24:57 ID:???
「ブモモ、元気なペニスだなぁぁぁ。射精するとき、ケツ穴も収縮して気持ちよかったぜぇ。」

オークがスネグアのペニスの裏を丁寧にしごくように自身のブツでスネグアの腸壁をこすりあげ、スネグアの射精を残りカスまで搾り取る。
残渣がどろりとこぼれ出るだけでも、自分の人格がこぼれ落ちていくのを感じてしまい必死に身体を捩るが、手足のない体では逃れられず、結局全部搾り取られてしまった。

「ブモ。収まったようだな、じゃあ再開だモォォォ……!」

射精が収まったのをみるや、再びペースをあげるオーク。
スネグアの身体を後ろから抱えあげて密着度を高め、ひと突きごとにスネグアの腸壁をゴリゴリと削っていく。

「や、ちょッ!?ま、まってくれ……!まだイッたばかりで!……ひぎぎぃぃぃぃッ!!」

これ以上はマズイと踏ん張るスネグアだが、オークに無防備なペニスの裏側を容赦なくしごきあげられ、たちまちフル勃起にさせられてしまう。
「あ゛ッ!あ゛ッ!あ゛ッ!や゛ッ!!あ゛ぁぁぁぁッ!!!」

「ブモ?ここを突くとケツの締め付けが強くなるなぁ。さてはお前、ここ弱いなぁ?」

「あ゛がっ!?やっ……!!そこゴリゴリッ……!やめッ!!そこダメだめらぁーーーーーッ!!!」

腰の当たり方を変えて、スネグアの腸の前側にある、無防備な弱点をピンポイントでえぐりぬく。
ごり、ごり、ごり、ごり……

「やだやだやだやだッ……!!イギたくな゛いッ……いやあああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ドビュルルルルーーーーッ!!
アナル責めだけで、スネグアは再び達してしまった。
ドクン……!!
さっきよりも大きな虚脱感がスネグアを襲う。何がなくなったか認識はできないが、大切なものを失ってしまっているという確信だけは確かにあり、スネグアの心を恐怖で震え上がらせる。

「あらあらスネグアちゃん、もう2回目出しちゃったの?しかも1回目よりもたくさん。このペースだと、たぶん次でもうスネグアちゃん、終わっちゃうわねぇ」

「なぁ゛……!?いやだ!!もういやだぁッ!!あがぁ!?い、1回休ませてくれ……!!そこ……!そこもうやめっ!!腰を一回止めてくれえぇぇぇ!!!」

イったばかりだというのに、オークは今度は動きを止めず、変わらずスネグアの弱いところを責め続ける。股間に勝手に生やされたペニスは絶倫で、またすぐにビキビキと硬くなってしまう。

「ギヒヒヒ……頑張って耐えてるなぁスネグアさんよぉ。次で終わりってんなら、とびっきりみじめな最期がいいよなぁ」

頭を弄んでいたゴブリンが、あと一歩というところで必死に踏ん張っているスネグアの顔をみて二チャリと笑うと、スネグアの頭を胴体の前まで持っていく。
そして怒張したふたなりペニスに、スネグアの唇をぶちゅりと押し当てた。

「ぐぅぅ……!き、きはまぁッ……!!ふ、ふざけうなぁっ……!!」

ペニスを頬張らせようとぐいぐい押してくるゴブリン。
スネグアは懸命に歯を食いしばりながらギュッと目をつぶり、屈辱に耐える。

869名無しさん:2021/05/13(木) 01:26:59 ID:???
そこへ、両足を持ったゴブリンも近づいてきた。

「グギギギ、口に咥えるのが嫌だからって、足まで動かして暴れるなよぉ。危ないだろぉ?」

両足首を持って、暴れる足先を左右からペニスに近づけていく。
目を固く閉じたスネグアは、目の前で起きようとしている悲劇に気づくことができなかった。

「はぎゅぅぅぅぅああああぁっ!?」

気づかずに足をばたつかせ続けたスネグアは、ついに自分の足先で、思い切りペニスを踏み潰してしまった。
自らの身体で自分の性感を刺激され、思わず口を開けて嬌声をあげてしまう。

ずぼぼぉ!

「んぶうううぅぅぅ…!!」

そのの隙に、口の奥深くまでペニスを咥えこまされてしまった。

「グギギギ、自分で自分のを咥えてらぁ。」
「ギヒヒヒ、無様だなぁスネグアさんよぉ。」

息苦しさと臭さを感じるが、それ以上に自分の舌と唇の感触に、腰が砕けそうになる。


「ブモ、今、腰を後ろに逃がそうとしたなぁぁ?楽なんてさせねぇ。逃がさんぞォォォォ」

ゴブリンたちの動向に注目し、一時的に尻穴へのストロークを緩めていたオーク兵。

スネグアの腰の動きの余裕のなさを感知し、すかさず抽挿を再開する。

「んゔぅぅぅ...!ゔっ!ゔゔぅっ!ゔああああぁぁぁ!!」


(このままではマズイのに、ダメなの、に…!舌が表面を這い回る感覚が、気持ち、いいっ…!舌の動きが制御できない…!マズい...!耐えろ、耐えろおぉぉ…お゛ほぉぉぉぉ!)

頭ではダメだと理解しているのに、気持ちよさのあまり自分の舌でふたなりペニスを舐めまわしてしまう。

後ろからはオークの突き上げが、前からは自分自身の口が。もう後がないスネグアをこれでもかと追い詰めていく。

「スネグアちゃん、そんなにビクビクしちゃって。もう我慢できないんでしょう?手伝ってあげるから、気持ちよくなりましょうねぇ」

ラミアがペニスにしゃぶりついたままの頭を前後に動かして、スネグアのペニスを優しく口でしごかせてあげる。

「ん゛ぅ“ぅ“!??う゛っう゛っうぅぅぅーーっ!!」

ビクビクビクビクッ!ビクッ!ビククッ!!

引かれる時は柔らかい唇や舌がペニスに吸い付き、押される時は口の中の凹凸がペニスを擦りつける。
喉奥まで達するほどに深く押し込まれると息ができなくなり、苦しくなった喉がギュムゥとカリ首を締め付け、たまらない刺激をペニスに与えていく。

セルフフェラの刺激が強すぎて、腰の震えが最高潮に達する。
限界が近い。

「こんなのはどうかしら?」

悪戯な笑みを浮かべたラミアが、スネグアの顔をペニスの根本まで押し込む。
気道が完全に詰まり、スネグアは目を見開いて呻く。
喉がスネグアのペニスを、最大限に締め付けていく。

そしてラミアは喉奥まで飲み込ませた状態のまま強く押し付け、ぎゅるりと90度ほど、スネグアの頭をゆっくりと回転させた。レモンを搾る時のように優しく、力強く、ひねる。

喉奥に締め付けられたままのペニスは、不意に与えられた回転運動に成す術もなく、全てを搾り取られた。


「う゛う゛!!ア゛、ヴアアアーーッッ!!!ッ!ッッ!イヤアアア゛ーーーーッ!!!」


ドビュルルルルルルルル!!!


「んふふ、よくできました……!スネグアちゃん、自分の人格の味はどう?」

「ごぼぼ……ごぽッ……ぉ」

スネグアの喉奥に吐き出された精液が、スネグアの首の断面から地面にボトボトと垂れ落ちる。
ペニスを咥えたままの口元からも溢れ、ダラダラとこぼれ落ちていく。

「もしかして。もうただのお肉になっちゃったのかしら。」

90度ほど傾いて己のペニスにしゃぶりつき、自分で自分の人格を根こそぎ搾り取ってしまった、“元”麗人の瞳は裏返り、もはや人としての風格は微塵も残っていなかった。

870名無しさん:2021/05/16(日) 15:27:53 ID:???
前線基地に敵が攻めてきたと知り、急ぎ帰還するオト&エルマ達。そこへ……

「たく、ツイてねーな。ちび子しかいない時に攻め込まれるなんて……早いとこ戻ろうぜ!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ……
あ、ちょっと待って!?空の向こうから、何か飛んでくる……!?」

唯とサクラが、ホウキを合体変形させた「フライングボート・ダブルジェット」に乗って猛スピードで向かってくるのが見えた。

「くそっ…距離が縮まらない!……まさかアタシ達と互角のスピードなんて!」
「何としても捕まえるのよ!ミストレス様のお怒りに触れたらタダじゃ済まないわ!!」

「うううう、なかなか振り切れない……!!」
「サクラちゃん、前、前みて! 避けないとぶつかr……ってあれ、オトちゃん、エルマちゃん!?」
「うっわあぶね!!」

地面スレスレの低空飛行で突っ込んできた唯達を、慌てて避けるオト達。
そして、それを追ってきた2羽のダークシュライクは……

「……なんか魔物に追っかけられてるみてーだな」
「データベース検索……『ダークシュライク』ハーピー亜種の上級魔物。弱点は光属性……」
「ったく、次から次へと……。まあ要するに」

「……後ろの奴らは、倒しちゃっていいのよね?…ストロボフラッシュ!!」
「「ぐぁっ!?」」
「殺戮する……エメラルドブレード!!」
「「ギャアアアアアアアァッ!!」」

エルマの秘密兵器と、殺戮機兵エミリーのブレードで一刀両断された。


こうして偶然にも合流を果たした唯たちは、重傷のアリスを連れて前線基地へと帰還する。
しかし基地は既に攻撃を受けた後で、周囲は破壊された兵器や機械兵の残骸が散乱していた。

「うわ……荒らされ放題じゃない。ルーアちゃん達、無事かしら…!?」

基地の最奥、司令部へと急ぎ戻る唯達。そこで見たものは……

「うっ……」
「……降参してください。例え機械兵とは言え、できれば破壊したくはありません……」
「………で、できませんっ……私の任務は、この基地と、エミル様を防衛する事…!」
気絶したエミル、中破状態の砲撃機兵サフィーネと、トーメント軍と思われる魔法少女。
そして……

「ゆ……唯、さんっ……!」
敵の猛攻を受け、満身創痍のルーアと……

「何っ……唯……だと…!?」
漆黒の仮面を付け、右腕を魔物のように異形化させた、女剣士の姿だった。

871名無しさん:2021/05/29(土) 21:27:32 ID:???
今から十と五年と、少し前。
その赤ん坊は、トーメントから北方に位置する極寒の町ガラドで、この世に生を受けた。
燃えるような赤い瞳と、赤い髪が特徴的な、可愛らしい女の子だったという。

白い雪と氷に閉ざされたこの地方において、赤い色は暖かさ、幸福の象徴とされている。
エミリアと名付けられたその赤ん坊も、暖かい幸福に包まれ、健やかに育てられる……はずであった。
だが……


ゴォォォォ……パチパチッ!

「火事だぁぁあああああっ!!」
「エミリアが!まだ、中に子供がっ!!」

………エミリアが2歳の時、不幸な事故により母親はこの世を去った。
そして、エミリアが極めて強い、強すぎる魔力をその身に宿していることも明らかになる。

以来。父親は酒に溺れろくに働かなくなり、生き残った娘の事を露骨に避け始める。
ほどなくして、エミリアは近くの山村で暮らしていた祖父に引き取られ、育てられる事になった。

祖父は優しく、時に厳しく、深い愛情をもってエミリアに接した。
エミリアも、祖父の事が大好きだった。

彼はエミリアに、多くの事を教えた。
家事や生活にまつわる様々な事、言葉や文字の読み書き、山や自然にまつわる知識。
そして、強すぎる力の扱い方も。

「エミリア……お前の『力』は、お前の大切な人を守るための物。
だから、決して力を無暗にひけらかしたり、自分のために誰かを傷つけるような事をしてはいけないよ」
「うん、お爺ちゃん。……私、約束する」

「私の大切な人は、お爺ちゃんと、天国のお母さんと……今もガラドにいるはずの、お父さん」
そう嬉しそうに語るエミリアの笑顔を、祖父は優しい眼差しで見つめながらも、少し心を曇らせる。

エミリアの父親、祖父にとっては娘の婿であるその男は、
自分の所にエミリアを預けて以来、娘に顔を見せに来たことは一度も無い。
噂では以前にもまして酒や博打に溺れるようになり、借金まで抱えているという。

祖父もまた、最愛の娘を失った身。気持ちは判らなくもない……
だがこのままではエミリアの為にならないと、男の住居を訪ねては説得した。怒鳴りつけた事も一度や二度ではない。
だが男の態度が改まる事はなく、ついには住居を引き払い、行方をくらませてしまった。

(優しい子じゃの……あんな男でも、エミリアにはかけがえない父親、ということか)

神話や伝説に語られるレベルの超魔力など、平和な村で静かに暮らすには、無用の長物に過ぎない。
エミリアは祖父の言いつけを守り、魔力を制御する術を身に着け、普通の少女として幼少期を過ごした。
生まれつき真っ赤だった髪の色は、いつしか海を思わせる青い色へと変わっていた。

872名無しさん:2021/05/29(土) 21:29:41 ID:???
(お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?)

……月日が流れ、8歳になったエミリアの家に、ある人物が訪ねてきた。
一人はきっちりとスーツを着こなした大人の女性、もう一人は、ブレザーを着た15〜6歳くらいの少女。

祖父はスーツの女性と大切な話をするから、とエミリアに外で遊んでくるよう言いつけ、
エミリアは、もう一人の少女に遊び相手になってもらった。

小さな村を一回りしたり、まだ夏になる前の川に入って冷たい水を掛け合ったり、
とっておきの場所にある秘密のお花畑に案内したり……
エミリアは初めて会った名前も知らないその少女と、無邪気に笑いあって楽しいひと時を過ごした。

夕方、家路につくと、祖父たちの話も一区切りついたようで、スーツの女性は「また来ます」と言い残し帰って行った。

「お姉ちゃん、またね」
「うん。……またね、エミリアちゃん」

ブレザーを泥だらけにした少女も、スーツの女性と一緒に、ホウキにまたがって飛び去って行った。

……だが家に入り、祖父は暗く沈んだ表情をしているのを見て、楽しかった気持ちは一瞬で吹き飛んでしまう。

「お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?」
「そんな事はないよ……あの人たちはとても良い人たちだ。何も心配することはない……」

……後になってから、彼女たちは魔法王国ルミナスの魔法少女だった事を知る。
エミリアをスカウトするためにやってきた事も、容易に想像がついた。

(あの子は……とてつもなく強い力を持って生まれてきた。
出来るなら、このままあの子には普通の生活を送らせてあげたかった。

だが強い力は、強い運命…過酷な運命をも呼びよせる。それが避けられない事なのだとしたら……
せめて貴女の言うように、運命に呑まれぬよう、正しい使い方を身に着けるべきなのでしょう。
ですが………せめてもう少しだけ、この老人のわがままを……許していただけませんか)

(お気持ちは、よくわかります……最大限、貴方のお気持ちは尊重しましょう)
(感謝します……私に残された時間は、もう長くない。その時はエミリアの事、くれぐれもお願いします)

「……さあ、そろそろ夕ご飯の時間だ。急いで準備をせんとな……エミリア、手伝ってくれるか」
「うん、お爺ちゃん!」
そう言ってエミリアの頭を撫でた祖父は、いつもの優しい笑顔に戻っていた。

「また来る」と言っていたスーツの女性、一緒に遊んだライトグリーンの髪の少女……
だがエミリアが、後に彼女たちと再会する事はなかった。

873名無しさん:2021/05/29(土) 21:32:13 ID:???
更に2年後。

「お爺ちゃん、死んじゃいやだよ……!!お爺ちゃんがいなくなったら、私……!!」

「エミリアや……よくお聞き。
お前の力は、正しい使い方をすれば、きっとたくさんの人を幸せにすることが出来る。
これからは、たくさんの人と出会って、大切なものをたくさん見つけて、
いざというとき、それらを守れるように……」

「お爺ちゃん……いやああああああぁぁぁ!!」

……エミリアの祖父は、息を引き取った。
村の人たちによってささやかな葬儀が行われた後、エミリアは祖父の家に、一人ぼっちになった。

(最期にお爺ちゃんは言ってた……たくさんの人と出会って、大切な物を見つけて………
でも、どうすれば……)

あまり多くない祖父の遺品の整理を終え、途方に暮れるエミリア。
だがそんな彼女の前に現れたのは、祖父が期待していたのとは異なる人物だった。

「エミリア………ひっひ………大きくなったなぁ」
「!……お父、さん……?」

長い間行方をくらませていた父親。
共に過ごした記憶もほとんどなかった。にも関わらず、エミリアにはすぐにその男が実の父だと確信できた。
父親は、ローブを着た数人の男達と一緒だった。

「どうして……その人たちは、一体……?」
「お前を、迎えに来たんだ……この人たちは……お前の新しい仲間、家族だ」
「その通り。我々は、ガラド解放同盟……歓迎しますよ、同志エミリア」
「どうし……?」

「我々は、ガラドの街をトーメントの支配から解放するため」
「悪の王国トーメントから、我々の大切な故郷を守るために戦っています」
「ガラドの地に生れた貴女も、我々と志を同じくする『同志』」
「貴女の『力』が必要なのです。協力してもらえますね?」

「え………えっと、その………」
「怖がらなくていいんだよ、エミリア……一緒にガラドに帰ろう。これからはお父さんとずっと一緒だ。
それとも……こんな山奥の村で、ずっと一人ぼっちで暮らすつもりかい?……ひひっ」

祖父を失ったばかりの幼いエミリアが、父親と知らない大人に取り囲まれて、毅然とした判断を下せるはずもない。
これからずっと「一人ぼっち」で過ごすことになったら、と想像すると怖くて仕方がなかった。

こうしてエミリアは、言われるがままに「ガラド解放同盟」なる武装組織の戦闘員となる。
トーメント王国を震え上がらせた最凶の魔術師「爆炎のスカーレット」の誕生であった。

だがそれでも、エミリアの孤独は癒される事はなかった。

「ずっと一緒だ」と約束してくれた父親は、ガラド解放同盟から「用済み」と判断され、
その後まもなく「借金の形に娘を売り渡したクズ」に相応しい末路を辿ったという。

874名無しさん:2021/05/29(土) 21:35:53 ID:???
それから更に5年が経ち……

「爆炎のスカーレット」ことエミリアの名はトーメント王国、いや大陸中に轟き、
ガラドの街はエミリアが生まれた頃とは比べ物にならない程、急速な発達を遂げた。

エミリアは「トーメント王国の軍勢を魔法で焼き尽くすだけの簡単なお仕事」に従事し、
大切な生まれ故郷の街を守ることで、日々の生活を賄うには十分すぎるほどの「報酬」を得ていた。

その間、魔法王国ルミナスからの使者が街を訪れ、子供を攫い不当に労働させている事について抗議を申し入れていたが、
ガラドの外交官に冷たくあしらわれ、エミリアに直接会う事さえ叶わずにいた事を、エミリア本人は知らない。

「また『点数』がふえてる……この分だと、今年中には9桁突破しそうだね〜」
敵の軍勢を消し炭に変え、その合間に街の食堂で食事をとり、買い物をして、ついでに振り込まれた報酬の額を確認する。

いつもいつも変わらないルーチンワークの中で数少ない「変化」は、
天井知らずに増え続ける通帳に書かれた数字と……

「このワサビチョコ、なかなか強烈……ハバネロチョコも最高だし、最近のグロルチョコはアタリが多いなぁ」
過激化の一途をたどる、コンビニお菓子の新製品。

(これが……お爺ちゃんが言ってた、大切なものを守る、って事なのかな……)
「……あ、れ?………ワサビで……目が……」

「いったあぁあーーーーい!!!あー!血が出てるうう!アイナの小さく整った美しい手に…汚い血が…醜い血が…!」

その時。
虚空を見つめ、立ち尽くしているエミリアの耳に、甲高い悲鳴が飛び込んできた。

「あ……あれは」
見慣れない二人連れの少女、そのうちの一人が派手にすっ転んで大声で泣き叫んでいた。
転んだ一人は派手なピンク色の髪にピンク色の服の少女、もう一人は金髪と美しい碧眼の、黒い服を着た少女。
年はエミリアと同じか、やや下くらいだろうか………

「たいへん……!」
反射的に、エミリアは二人の元へと駆けだしていた。

「キミ大丈夫!?派手に転んでたけど…うわ!こんなに血が出てる!」

二人組の少女、アイナとリザとの出会いは、エミリアを更なる混沌の運命へと巻き込んでいった。
それと同時に、エミリアは少しずつ、自身の持つ力と過酷な運命に抗い、己の意志で道を選ぶ術を学んでいく事になる。

彼女の祖父が最期に望んだ形とは、やや違っていたのかも知れないが……

875名無しさん:2021/05/31(月) 00:59:21 ID:???
────そして、現在。

「げほっ!! ごぼっ!! がは……!!」
エミリアは水で作られた巨大な蛇に呑み込まれ、重傷を負った傷口から血を絞り出され、半ば意識を失っていた。
いわゆる走馬灯というやつか、幼い日の思い出やガラドでの暮らしなどが唐突に脳裏をよぎる。

(くる、しい……わたし、このまま溺れて……死んじゃう、の……?)
魔法で脱出しようにも、周囲はASMR…魔法や特殊能力を封じる特殊な雨水の塊。
エミリアの超魔力さえも押さえ込まれてしまっている。

「が、はっ……」
(だ、め……まだ、終われ……な……………)
チアノーゼ……長時間呼吸が阻害されたことで血中の二酸化炭素濃度が上昇し、身体が痙攣し始めた。
人が溺れて死に至るまでにはいくつかの段階が存在するが、意識を失う前のこの状態が最も苦しいとされている。

「おっと……まだ楽になるのは早いぜ。もう少し楽しませてくれよ」
そしてDの水責めは、この苦しい状態が最も長く続くよう調整されているのだ。

エミリアが意識を失いかけると、水蛇は体内の獲物を少しだけ呼吸させるため、小さな空気の泡が生み出す。
泡はゆっくりと水中を漂い、エミリアの口元へ向かう。

「…っ……!!」
だが、その時。エミリアの右手がわずかに動き、小さな気泡を指先で捕まえると……

……ズドォォォンッ!!
「うっぐぁっ!?」
凄まじい爆音と共に、水蛇が一瞬にして弾け飛んだ!!

「…………。」
「う、ぐっ……今…一体何が起きた……!?」

ほんの一瞬だけ、エミリアの指先が気泡に触れたことで、水の呪縛から解き放たれた。
その瞬間、無詠唱で攻撃魔法、ファイアボルトを発動。
初歩の火属性魔法だが、エミリアの魔力を以てすれば、触れていた水蛇を水蒸気爆発で一瞬にして吹き飛ばすほどの威力となる。

「これが、『爆炎のスカーレット』……噂通り、飛んでもねえバケモンだぜ。
だが残念だったな……水蛇を吹き飛ばしたところで、俺のASMRは………」

無傷とはいかないが、運良く直撃を避けたD。
再び水蛇を作り出し、エミリアを呑み込もうとする、が。

「そうは行かないっ!!」
「く!……真面目君、思ったより早かったじゃねえか……!」
水人形達を振り切ったカイトが、Dに接近し斬りかかる。
特殊能力抜きでも剣の腕前は確からしく、エミリアの爆発で負傷した今は分が悪い相手だった。

「こりゃそろそろ、潮時みてーだな……あばよ!」
「待てっ!逃げるか!」
「待てと言われて待つ馬鹿いるか、ってね。せいぜいエミリアちゃんと仲良くやんな、真面目君!」
「………くそっ」

Dは水を操って霧を発生させ、一目散に逃げていく。
追いかけたくてもエミリアを置いては行けず、カイトは逃げるDを黙って見送った。

(敵を逃がしたのはまずかったな。増援を呼ばれる前にここを離れないと……)
「エミリアさん……大丈夫ですか、しっかり……!」

あれだけ激しく降っていた雨はあっという間に止んだ。
いつの間にか空は茜色に染まり、夕闇が迫ろうとしている。

「エミリアさん!エミリアさんっ!?………これは……まずいな……」
「…………。」

呼びかけても、エミリアの意識が戻らない。顔色は青白く、呼吸も止まっている……
カイトも軍人のはしくれ、当然こういう時の処置方法は心得ている、のだが……

876名無しさん:2021/05/31(月) 01:06:27 ID:???
……それから、しばらく後。

「……あ、あれ……………わたし……………?」
エミリアは、かろうじて意識を取り戻した。

「エミリアさん。気が付いたんですね。よかった」
「……カイト君……」
体がぽかぽかと暖かい。いつの間にか掛けられていた毛布と、すぐ傍で赤々と燃えている焚火のお陰だろう。

徐々に意識がはっきりしてくると、気を失う前の状況が思い出されてきて、
溺れた自分をカイトが介抱し、敵が来ないよう見張っていてくれていた事を理解する。

「カイト君が、助けてくれたんだね……ありがとう」
「い、い、いいい、いえ、いいんです、この位。むしろ、その……申し訳ない、と言いますか……」
「……え?申し訳ないって?」
感謝の言葉を伝えるエミリアだったが、どういうわけかカイトはしどろもどろになる。

「実は、その……助けるために、ですね。
なんというかその……人工呼吸と、心肺蘇生……
それにあと、体が濡れて体温が下がっていたので………………着替え、を………」

「……ああ、なるほど。……色々ありがとう。
カイト君女の子苦手なのに、ごめんね……嫌じゃなかった?」
「いいいい、いえ!そんな、嫌だなんて!!
僕の方こそ、やむを得ないとはいえ、色々と。その……嫌じゃなかった、ですか?」

「え?…………あ……」
………少し間をおいて、意識がさらにはっきりしてくるにつれて、
カイトが行ってくれた「処置」のアレコレについて改めて意識してしまう。

毛布の中でごそごそと手を動かし、体の状態や、今着ている服を確認するエミリア。
魔法を封じられて開いていた傷口は、どうやらまた塞がったようだ。
服は、生地の感触からすると、自分が持っていた着替えではなく……
おそらく男物の、カイトのシャツ。下着も……

「いや、で、でもほら、気絶してたし……?
 そ、そんな、ぜんぜん……………嫌じゃ、……なかった、…よ…?」
(人工呼吸……って、アレをアレするやつだよね。心肺蘇生って、いわゆる心臓マッサージ?
そういえばなんか、気絶してるときに、そういう感じがしたような、しなかったような……
……ななな、なんか改めて考えると、すっごいドキドキする……!!)

「そ……そう、ですか……なら、ほんと、いいんですけど……」
(めっちゃめちゃ柔らかかった……やばい、思い出してきた……か、顔に出しちゃダメだ!)

「そ、そうだ、あの、まだ無理せず、休んでた方が良いです、僕見張ってるんで!」
「え?あ、そ、そうだね!じゃ、じゃあ、もう少し、寝ようかな!」

意識しだした途端、カイトの顔をまともに見られなくなったエミリア。
絶対寝られるわけない、と思いつつも、ガバっと毛布をかぶった、その数秒後。

ぐぅぅぅぅぅぅ………

………いびき、ではないく、お腹の鳴く音。

落ち着いて考えてみたら、慌ただしく出発したせいで、エミリアは朝から何も食べていなかった。

「あ…………」
「……はは……」
「………先に、食事にしましょうか。簡易レーションと、スープ位ならすぐできますよ」
「うん……ありがとう、カイト君。何から何まで」

二人とも一気に緊張がほぐれたのか、互いに視線をかわしくすりと笑い合う。

「実は私も……お爺ちゃん以外の男の人って、ちょっと苦手だったんだ。
でもカイト君は……本当に、すごく、いい人だなって思う……だから……これから、よろしくね。
私も、もう足手まといにならないように、がんばるよ」

「こちらこそ……今回は僕がエミリアさんの側にいなかったせいでもありますし。
……もう、あんな事にならないよう……僕も頑張ります」
カイトはエミリアの傍に座って、スープの入ったマグカップを手渡す。
スープを口に運びながら、エミリアは穏やかな気持ちで焚火の火を見つめていた。

(たくさんの人と出会って、大切なものを見つける)
(『力』はいざという時、大切な人を守るために……)
(お爺ちゃんが言ってたのは……きっと、こういう事なんだ)
心の奥でずっと凍り付いていた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じながら。

877>>869から:2021/06/06(日) 18:05:32 ID:???
(あぁぁぁぁ……おぢんぽしゃぶるの、すっごいきもちぃぃいい……
あたし、ずっとこれが、ほしかったのおぉぉぉ……これ、さえ、あれば……)

生きたまま体をバラバラにされ、分割したパーツそれぞれを下衆な魔物に好き放題に犯される。

叛逆の首謀者ラミアに無理矢理はやされたペニスをしごきまくられ、
大量の特濃ザーメンと共に、理性や人格を最後の一滴まで搾り取られる。

もはや誇り高き魔獣使いの末裔「スネグア・『ミストレス』・シモンズ」の面影は、微塵も残っていなかった。

(そう……あたひ、おちんちん、ほしかった………おとこのこに、なりたかった……どうして、だったっけ……)

シモンズ家の紋章が刻まれたクラバット・ピンが落ちて地面に転がった。
ラミアとスネグアが無意識にそこへ視線を向ける。
その時、深紅の宝石はまばゆい光を放ち始めた!

「?………あらぁ?スネグアちゃん、これは一体……」

異変を察知したラミア。だが、宝石はそれ以上の変化を見せず、スネグアも問いかけに答えるだけの人格は残っていない。

「もう答えられない、か……でも、問題ないわ。
この大量のザーメンには、スネグアちゃんの記憶や知識が封じられている………つまり」

ラミアはスネグアの吐き出した精液を指で掬って舐め取った。
たちまち、頭の中に、スネグアのかすかな記憶が入り込んでくる……!!

『一体……どうなっている!妻だけでない。妾や使用人やら合わせて、
50人以上もの赤子を孕ませたというのに………こうも女しか産まれないとは!』

『代々男子によってのみ受け継がれてきた家督……遺憾だが、止むをえまい。』

『だが忘れるな!お前は所詮、真の世継ぎが生まれるまでの代理……
シモンズの守護獣『ベヒーモス』も、女のお前を、決して認めはしない………』

「………ふうん。なるほど……
スネグアちゃんは家を継ぐために、ずっと男の子として育てられてきた。
でも本当の男の子じゃないから、『守護獣』とかいうすっごい魔獣は使えなかった……
そして……アタシがおちんぽを生やしてあげた事で、召喚する資格を得た、って事ね……クスクス」

(!………そう……だ……わた、しは………誇り高き、魔獣使いの……)
「はぁっ………はぁっ……守護獣『ベヒーモス』…わが、呼び声に…答え、よ……」

「本当に……クックックック…皮肉な話だわ。
長い間ずっと、欲しくてたまらなかったモノが、ようやく手に入ったって言うのに……!!」

スネグアの瞳に、消えていたはずの意志の光が再び灯る。
ほんのわずかに残っていた意地とプライドを総動員し、理性を必死にかき集め……守護獣に呼びかける。
ブローチはひときわまばゆい輝きを放ち、そして………

878名無しさん:2021/06/06(日) 18:09:29 ID:???
「!?………ど……う……して……」

………それだけだった。
最強の力を持つと伝えられる守護獣が現れる様子はない。

「キャハハハハハハハ!!! あったり前じゃない!!
言ったでしょ?理性や人格を精液として出しちゃったら、もう2度と元には戻らない、って。
今のアナタはもう、魔獣使いの貴族様なんかじゃない、ただのおチンポ生えた肉人形でしかないのよ!」
「ひゃぐぅんっ!?」
ラミアはスネグアのペニスを奪い取ると、トゲだらけの手で力いっぱい握りつぶす。
スネグアの最後の力、最後の理性、最後の希望が、精液となって弾け飛んでいく。

「スネグアちゃん……その宝石が反応してるのは、貴女にじゃないわ。
魔獣使いの遺伝子を取り込み、一族に伝わる魔獣使いの鞭を手に入れ、
貴女より遥かに立派な『オス』のシンボルを持つものが……ここに一人、いる」

様々な魔物の死体をつなぎ合わせたゾンビキメラであるラミアの股間にも、
凶悪なイボイボのついた異形のペニスがそそり立っていた。

「そ、ん………なぁ……う、そ……」
「さあ、いらっしゃい……アタシのカワイイ下僕……ベヒーモスちゃん」

ラミアの足元に、途方もなく巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「グロロロロロロォォォォオ………」

「フフフ……長い間出てこられなくて、お腹がすいてるでしょう。
このブツ切り肉人形ちゃんのカラダを召し上がれ♥」

「……グロォォォォッ!!!」
「い……や……やめ、て……たす……」

地の底から鳴り響くような唸り声とともに、魔法陣から巨大な獣の手が現れる。
人格も理性も完全に失われたはずのスネグアさえも、恐怖と絶望に泣き叫ぶ程の威容。

スネグアにはもう、何も残っていなかった。
襲い掛かる魔獣を従える力も、逃げ出すための足も。

(ゴリュッ)(ブチブチブチ)(グチャッ!!)
「…ああああああああぁぁっ!!!」

為す術なく巨大な手に捕まれ、魔法陣の中へ引きずり込まれる。
断末魔の叫び、骨や肉が砕け千切れる音………やがて、静寂。
少し離れた場所で他の魔物達に弄ばれていた手足も、ビクリビクリと痙攣して完全に動かなくなった。

「グギッ?……動かなくなっちまったぞ」
「ケッ!つまらねえ。もっとエサはねえのかよ!!」

「フフフ……そんな物より、もっと新鮮な獲物を探しに行きましょ♥
まずは、スネグアちゃんが連れて来てたおチビちゃんたち。
それから戦場に出れば、いろんな餌がより取り見取りの早い者勝ち♥♥」

「「「ウォォォォォ!!」」」
「さっすがー!!」
「ラミア様は話が分かるっ!!」

「クックック……ここからは魔物の流儀でいかせてもらうわ。さあ、パーティの始まりよぉ……!!」

魔物達の主人となり、最強の守護獣をも手に入れたラミアが、戦場を混沌に染め上げるべく新たな号令を下した。

879名無しさん:2021/06/06(日) 22:19:50 ID:???
唯達のいるナルビア軍の前線基地より更に後方、
旧研究都市アルガスに設置された、ナルビア軍の総司令部にて。

「くそっ……まだ前線基地と連絡は付かんのか!?」
「シックス・デイは一体何をやっている!!」

シックス・デイが出払っている間に、謎の二人組に前線基地が襲撃された……
という報告を受けたものの、その後の動向が全く掴めず、混乱に陥っていた。

「……こちら総司令部。アレイ前線基地。直ちに状況を報告してください」
「アリス、エリス。レイナ。ダイさん……応答願います!!」

観測員であるリンネも、前線基地、そして出動中のシックスデイ達に応答を呼びかけている。

(……ザザザザ……)
「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「了解。アレイ前線基地は今回の戦いの要だ。なんとしても死守してくれ」
「わかっています(ザザ……)この身に代えても(ザザザ)」

しばらくして、アリスから連絡が入る。
やや通信に障害があるが、基地に帰還できたなら問題ないだろう。

「おう、やっとつながった……すまん、侵入者の二人組に逃げられちまった。
それに……魔物どもの動きが、急におかしくなったみたいだ。
敵味方の区別なく、女や金目の物狙いで手あたり次第襲ってやがる……おかげで俺はスルーされてるが」

「了解……今は前線基地の防衛を優先してください。既にアリスが戻っているから大丈夫と思いますが」
「オーケー。急いで戻る」

続いて、Dからも報告が入った。
魔物の動きは確かに気になるが……今は防御を固めるのが優先だ。

エリスやレイナとは一向に連絡がつかない。
周囲のお偉方の苛立ちが募っていく中、リンネは一人別な事を考えていた。

(………あの人は……無事に逃げられただろうか)

リンネは最早、ナルビアの事などどうでもよかった。
自分にとって『かつて』最も大切だった存在を失った…否、自らの手で消し去ってしまった。
今はその罪悪感に苛まれながら、こうして無意味に仕事をこなし、
その合間に、大切だった存在の「残骸」の相手をさせられる日々。

いっそ「残骸」すら綺麗さっぱり捨て去って、どことも知れぬ新天地を目指すか。
今の『大切な存在』と、手を取り合って……

リンネも出来る事ならそうしたかったが、いざ実行するとなると、やはりそれは不可能に近かった。
少しでも誤れば、その『大切な』相手を致命的な危険にさらす事になる。
そうなる位なら……
(サキさんは怒るかもしれないけど……やっぱり僕は……)

慌ただしく動く指令室にあって、淡々と、自らの仕事をこなし続けるリンネ。
その様子を、入口の陰から遠巻きに見つめる人影があった。

「………リンネ……」
白い髪、白を基調とした軍服の少女、メサイア……
ナルビアの科学技術を結集して造られた、最終兵器ともいえる存在。
一見普通の少女にしか見えないが、シックス・デイ全員を遥かに凌ぐ力を秘めている。

(……あの人は……何者だろうか。
私に、いつも優しくしてくれる……それなのに、いつも悲しそうな顔をしていて……
今は何か、別の事を考えてるように見える……)

その正体は、かつてリンネと常に一緒にいた少女、ヒルダだった。
遺伝子配合で産まれた試験管ベビー1000号。
だがメサイアとして覚醒した時ヒルダとしての記憶が失われたため、
メサイアにとって、リンネはほとんど面識のない存在。そのはずだった。

(………どうして、私は……あの人物を、こんなに気にしている……?)
リンネと会う機会はそれほど多くはない。
だが彼は自分の事を恐れず、優しく、自分の拙い言語機能での会話をきちんと聞いてくれる。
それなのに、全くと言っていいほど自分の感情をださず、どこかで一線引いて、距離を置いているように思える……

(私が戦って、敵を殲滅したら……少しでも、あの人の負担を減らすことが出来る……?)
いつしかメサイアは、そんなリンネに興味を持ち、出来る事なら手助けしたい、と思うようになっていた。

だがメサイアが戦場に出るには、軍上層部の承認が必要。
他国に対して機密を保つため、今回の戦いで表舞台に出される事はない。

「ふふふふ………お困りのようね」
……そんなメサイアに、怪しい影が忍び寄る。

「もし望むなら、貴女が出撃できるようにしてあげてもいいわよ……私の指揮下で動いてもらうのが条件だけどね」

ミシェル・モントゥブラン……
とある事情でトーメント王国を追放され、とある人物により非公式に匿われている女科学者。

既にアリス達シックス・デイを利用し、掌の上で転がしている彼女が、
『本命』のターゲットであるメサイアにもその魔手を伸ばし始めた。

880>>870から:2021/06/06(日) 22:34:34 ID:???
「……その右腕は……桜子さん!?」
「…………」

……女性らしいプロポーションの体と明らかに不釣り合いな、大剣と一体化した異形の右腕。
あんな腕をしている者は、唯の知る限り一人しかいない。

「まさか、イヴちゃんっ…!?どうしてこんな所に!?」
「え?……知り合いなの、唯、サクラ!?」

一方、剣士と一緒にいた魔法少女の姿を見て、サクラが声を上げる。
同じルミナスの魔法少女だからか、サクラもイヴの事を知っていたようだ。


「イヴ。これ以上の増援が来る前に、メインシステムを破壊するぞ。基地機能を完全に停止させる」
「……わかりました、桜子さん」
「!………ま、待ってください、桜子さんっ!なんでこんな事を!」

「それ以上近づくな……今の私の右腕は、自分の意志では制御しきれない……」
「一体何があったんですか……!それに、スバルちゃんは……まさか……!」

一方の桜子も、唯に気付いて動揺している様子を見せていた。
少なくとも、洗脳などで意思が奪われている様子はない。


「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「わかっています……はぁ……はぁ………この身に代えても………っう、ぐ……」

半壊した通信機で、なんとか総司令部に連絡を取るアリス。
桜子の正体に気付き、手を出せずにいる唯を押しのけ、敵の前に一歩進み出る。

「アリスさん!?……下がってください!貴女は戦える状態じゃ…」
「いいえ……この前線基地は、我が第3機動部隊師団が防衛を任された、この戦いの最重要拠点………
絶対に守り抜かなければなりません」

「その通り。いかに秘密主義のナルビア軍といえど、ここを落とされれば……
温存している『切り札』を使わざるをえまい」

「なるほど。やはり、あなた方の狙いは『メサイア』ですか……
ならばなおの事、あなた方の好き勝手にはさせないっ!!」
「っ……来るな……私の右腕が、抑えきれな……うああああああぁあっ!!」

桜子本人に戦う意思が薄くても、本人が言う通り、右腕は近づくものに容赦なく襲い掛かる。
強化スーツも魔法針も使えない、満身創痍のアリスが挑むのは……誰の目から見ても、無謀でしかない。

「あ、危ないっ……!!」
「GRRRRRR……!!!」
ブオンッ!!

桜子の異形の右腕が更に巨大に膨れ上がり、アリスめがけて横薙ぎに振るわれた……。

881>>839から:2021/06/07(月) 01:50:37 ID:???
「……あっぐ!?」

「ユキ!?どうしたの!?」

「あ、た、まが……!緊急帰還、コードが……!」

戦場を逃げるサキ、ユキ、舞の三人。洗脳が溶けていないユキは、サキがピンチになった時に手を出させずに『楽しむ』為に舞の体に密かに手を這わせていたのだが……突然ユキが苦しみだした。
スネグアはサキたちをナルビア勢をおびき寄せるデコイにするためにユキの身柄を明け渡したが、当然可能ならばユキだけでも帰還するように手を打っていた。
それが緊急帰還コードである。スネグアを制圧した魔物兵たちが適当に押したスイッチにより、機械化されたユキの体内を電気信号が駆け巡り、スネグアのいる天幕へ戻らなければならないという強迫観念に囚われる。


「帰ら、なきゃ……帰って……スネグア様に……体を……捧げ……」

教授がガチで改造していたらすぐにでも戻っていただろうが、スネグアが楽しむ用で自分に得がないということで緊急帰還コードの効力がやや弱めだった。
むしろヤンデレロリって最高じゃね?とサキへの執心が滅茶苦茶強くなっていたので、ユキは頭を抱えてブツブツ呟きながらも無理に戻ろうとする様子はない。

「ユキ!」

ユキを背負っていた舞から妹を預かったサキは、ブルブルと震えているユキを抱きしめて落ち着かせる。

つい先ほどまでユキに弄ばれていて体が火照っていた舞の様子には気づいていないようだが、それでいいと舞は安堵の溜息を吐く。

(スネグアの身に何かあったのか、単に玩具として呼び戻しただけか……ユキ様の状態が落ち着いてくれないと、正直危うい)

ユキが舞を責めていたのは舞の戦闘能力を奪ってサキのピンチを楽しんでから自分の手で救う為という迂遠極まりない目的だ。そして舞の体の疼きを強めて戦闘能力を奪うことには成功している。
そこまでは成功した上でユキに異変が訪れたというのがまずい。

戦うつもりだったユキは戦闘不能となると、サキを守る為には自分が疼きを押して戦うしかない。



そう決意した直後……舞の体が今まで以上にドクンと疼き、先日ラミアゾンビにされた凌辱がフラッシュバックする。

『じ、つ、はー、隠してこーんなものも持ってるのよねぇ』

『なっ、それは……ふむぅっ!?うっ、ぐぅぅっ!!』

『これは今はただの精液だけど、私が上手いこと力を手に入れたら体内で暴れだすわぁ……スネグアが様子を見に来る前に、さっさと飲みなさい!』

『ぐぐぅ、ぷぉっ……んむむぅうううううううう!!!!?』

直後、今まで必死に抑えていた疼きが一気に爆発的に頂点に達すると同時に、舞の体は考えるよりも先に動き……ユキを介抱するのに必死なサキを、後ろから抱きしめていた。

882>>880から:2021/06/18(金) 23:20:49 ID:???
「……危ないっ!!」

桜子の異形の右腕が、アリスに襲い掛かった。
だが唯が素早く割って入り、巨大な剣を手甲で受け止める!

バキッ!!……ガキィィンンッ!!
「くっ……きゃああぁっ!!」
「あぐっ!!」

剣と呼ぶにはあまりにも巨大な「まさに鉄塊」の薙ぎ払いを、唯は合気道の技法を駆使してなんとか逸らした。
だが、シーヴァリア滞在中に買った店売り最強の篭手「ガントレット」が破壊され、唯の体は後方に吹き飛ばされる。
唯は後方にいたアリスを巻き込み、覆いかぶさるように倒れた。

「くっ……やめろ……沈まれ、私の右腕っ!!」
「グロロロロォォォッ!!」
「えっ……!?」

かつての仲間を攻撃してしまい、悲痛な声を上げる桜子。
だが異形の右腕は、極上の獲物を前に歓喜の雄たけびをあげた。
大剣の刃が、唯の頭上に高々と振り上げられ……

「あ……や、ば」

ブオンッ!!

「唯ぃいっ!!」」

手甲を破壊された唯に、二撃目を防ぐ術はない。
無情にも死の刃が振り下ろされた。その時……

……ガキンッ!!

「エルマちゃん……!」
「ったく……みんな揃いも揃って、何も考えずに突っ込み過ぎだっての!!」

絶体絶命の窮地に、今度はエルマが割って入る。
強化装甲とブレードで異形の大剣を受け止めるが、圧倒的質量で押さえつけられ身動きが取れなくなってしまった。

「ご、ごめんっ……」
「ん、っっぐ………いいから、さっさと下がって……!!」

「……グルルルルッ!!」
「え……今度は、何……?」
数百キロはあろうかという巨大な鉄塊つきの塊を、支えるだけで精いっぱいのエルマ。
だが異形の腕は不気味な唸り声をあげ、更なる変異を始める。

大剣の長大な刃は鋸のように波打つ形に変わっていき……

………ギュイィィィィィインンンッ!!

チェーンソーのように動き出す!!

「ちょ、まっ……」

バキンッ!!ガキガキガキッ!!

普通の大剣を防ぐだけなら、電磁ブレードの強度と強化装甲のパワーで数分は耐えられる計算だった。
だが、この変形はエルマにとって完全に想定外。
エルマの頭脳とナルビアの技術によって作られた強化装甲といえど、凶悪な回転刃の前ではひとたまりもない。
電磁ブレードが激しい火花を散らしてへし折れ、右肩の装甲がいとも簡単に砕かれ……

ギュオオオオオオン!!ズババババババブシュッ!!

「きゃあああああああぁぁぁ!!」
「エルマちゃん!!」
「エルマーーーッ!!」

883名無しさん:2021/06/18(金) 23:27:02 ID:???
大量の鮮血が辺りに飛び散り、思わず目を向けたくなるような凄惨な光景が繰り広げられる。
突然の事態に、絶叫する唯とオト。悲鳴を上げるエルマだったが……

(っぐ………あ、あれ……?
お、思ったより痛くない……いやもちろん滅茶苦茶痛いけど、思ったよりは……
これは、一体………?)

回転刃は、エルマの肩口から袈裟斬りに、胴体を一刀両断……する事はなかった。
魔物の腕が手加減している様子はない。
にもかかわらず、まるで何かに守られているかのように、
巨大チェーンソーはエルマの右肩に少し食い込んだだけでそれ以上動く事はなかった。

「うっぐ……エル、マ……!」
「オト……!?……あんた一体何を……」
苦痛にあえぎながらもエルマが周囲を見渡すと、同じように右肩を抑えて苦痛に呻くオトの姿が目に入った。

何が起きたか、オトが何をしたのかはわからないし、今は問い詰める余裕もない。

「グルルルルッ……!?」
ギュイイイイイインッ!!

「っぐああああああああ!?ゆ、いっ……あああああああ!!」
「エルマちゃんっ!!」

……何らかの術で軽減されているのだとして、それでも気を抜けばショック死しかねない程の激痛が絶え間なく襲い来る。
エルマはたまらず膝を屈し、巨大チェーンソーの刃はゆっくりと、エルマの身体に食い込んでいく。

「止めなきゃっ……柔来拳、大地の型……このおっ!!」
ガコンッ!!

異形の腕に攻撃を加える唯。
だが、いかに唯が技を駆使しようとも、異形の右腕を素手で破壊する事は難しい。

ガキッ!!ブシュッ!!みしっ!!
「………!!」
魔力を込めているとはいえ、拳を守る小手が破壊された今の唯では、
素手で殴っても逆に自分の拳を痛めるだけだ。
そして異形の腕には、人間用の関節技も通用しない。

……ギュルルルルルルッ!!
ズブブブブブッ!!
「っぐ、ううううっ……あああああ!!」
(早くなんとかしないと、エルマちゃんが……!!)

有効打が与えられないまま、刻一刻と時間が過ぎていく……
時間にして十数秒に過ぎないが、唯にとっては何十分、何時間にも感じられた。
異形の刃が唸りを上げ、エルマの悲鳴が響きわたり、更なる鮮血が飛び散る。
唯の心に焦りが募りだした、その時………

「くっ……サンダーブレードッ!!」
「……グギャァァアアアアアアアアア!!!」
「…………っ!!」

桜子が左手で剣を抜き放ち、雷魔法を纏わせ、己の右腕に突き立てる。
異形の右腕は激しい電撃に悲鳴を上げ、エルマを切り刻む回転刃の動きはようやく止まった。

884名無しさん:2021/06/19(土) 22:22:15 ID:???
「イヴちゃん……どうしてこんな所に……!?」
「あなたは………サクラ、なの……!?」

イヴとサクラはともに魔法王国ルミナスの出身で、魔法少女学校の同級生だった。

だがルミナスがトーメントから侵攻された際、イヴは妹のメルと共に、トーメント軍に連れ去られてしまった。
紆余曲折を経て、今のイヴはスネグアの配下、トーメント軍としてこの戦いに参加している。

……イヴにとっては、最悪のタイミングでの再会だった。

「なぜトーメントの手先に……メルちゃんはどこに……まさか」
「ごめんなさい。メルを守るためには、こうするしかないの……変身!」

まばゆい光とともに、イヴの姿が変わっていく。

白と黒を基調としたゴシックドレス。黒と白が幾重にも折り重なったフリルは、囚人服の縞模様を想起させる。
両手両足には鎖付きの金属製のリングが嵌められ、鎖の先には大きな鉄球が繋がれている。

「たあああああぁっ!!」

イヴは変身と同時に、見た目に反して凄まじい速度で突進。
四肢に繋がれた鎖鉄球をそのまま武器にした、単純にして豪快な近距離パワー型だ。

……ブォオンッ!!ドゴッ!!
「待ってイヴちゃん、こんな事やめ……きゃああっ!」

説得しようとしたサクラだが、飛んできた鉄球に弾き飛ばされてしまう。

(もしかして、メルちゃんが人質に……!?…)
「とにかく止めなきゃ…変身っ…!」

イヴの言葉から、サクラもおおよその事情を推察する。
変身したイヴに対応するため、サクラも同じく変身しようとするが……

「……させないわ。その前に……」
ジャラッ!!……ギュルルルッ!!
「え……!」

「………潰す」
ズドンッ!!
「っぐ!」
鎖がサクラの脚に巻き付いて、地面に叩き落す。

「魔法少女クリミナルドール……それが今の、私の名前。
消えない罪を永遠に刻み続ける、咎人の人形……」
……ドゴドゴドゴドゴッ!!
「あぐっ!!…っがは!!」

間髪入れず、鎖鉄球が連続で降り注ぐ。
激しい衝撃で土煙が上がる中、サクラの身体が淡く発光し、変身が発動した。だが……

「はぁっ………はぁっ………う、っぐ……」

淡い緑と桜色を基調としたワンピースは泥と血にまみれてボロボロになり、
花をあしらった髪飾りは鉄球によって無残に砕かれ、額からは流血が滴っている。
全身、特にお腹の辺りに青黒いあざがいくつも浮かび上がっていた。

「サクラ……できれば、貴女を殺したくはない。
見逃してあげるから、もう私達の邪魔をしないで」

「………。」
「力の及ばない相手から逃げるのは、恥じゃない……貴女が教えてくれた事よ」

「………でき、ないよ。
私は……魔法少女『スプリング・メロディ』。
そんなに強くはないし、怖い事、辛い事から、逃げてばっかりの落ちこぼれだけど……
それでも、ルミナスの魔法少女だから」

サクラは大の字に倒れたまま、近くに転がっていた鉄球の鎖を掴むと……小さく呪文を唱える。

「友達が困ってて、目の前で泣きそうな顔してるのに……逃げ出すなんて、できっこない」
……咲いて、安らぎにいざなう花たち!『スリープフラワー』!!」

「……っ!!」
サクラの手からつる草が伸び、鎖を伝ってイヴの顔の横で小さな花を咲かせる。
至近距離で眠りの花粉を嗅いだイヴは、意識が急速に遠くなり……

かくん、と膝から崩れ落ちた。

885名無しさん:2021/06/20(日) 22:13:16 ID:???
「だ……め……サク……ラ……」
「メルちゃんの事、必ず何とかするから……今は安心して眠って」
スリ-プフラワーの花粉で眠りに落ちるイヴの身体を、抱き寄せるサクラだが……。

「だめ、なの……私には……許されない」
「え?」

<……意識レベルの低下を確認>
<作戦行動中の睡眠は許可されていません>

ジャララララッ!!

「きゃあっ!?」
「っぐあ!!」

無機質な機械音声とともに、鎖鉄球が一斉に動き出した。
身を寄せ合っていたイヴとサクラに鎖が巻き付き、二人は抱き合ったまま縛り上げられてしまう!

ウィィィン………
ギチギチギチギチ……
<制裁します><制裁する>
<制裁を開始><制裁>
「う、ぐっ……痛っ……!」
「や、やめて……それだけは……」

四つの鉄球が浮遊し、サクラとイヴの周りをゆっくり旋回しながら、不気味な電子音声を発する。
鎖の締め付けが徐々にきつくなっていき、苦悶の声を漏らすサクラ。
その腕の中で、ブルブルと震えだすイヴ。その表情には明らかに怯えの色が浮かんでいた。

ウィィィィン………
「許して……お願い、せめてサクラだけでも……」
「な……一体、何……!?」
鉄球の前面が開き、まるで生物の目のような、赤いランプが現れる。
そして……

<<<制裁>>>
バリバリバリバリバリッ!!

「「きゃああああああああぁぁっ!!」」

鉄球の動きが一斉に停止し、冷酷な電子音声の宣告とともに、
鎖から強烈な電撃が放たれた!


「さっ……サクラさん…!」
「高圧電流……二人のバイタルが低下……危険な状態」
「っ……あの鉄球壊さないとヤバそうだな!!」

既にイヴと戦い倒されていた砲撃機兵サフィーネ。そしてけが人を介抱していた
殺戮機兵エミリー、格闘機兵ルビエラが、サクラの窮地に助けに入る。

「ガトリング掃射!!」
「……エメラルドスラッシュ」
「バーニングフィストぉ!!」

<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

ババババババ!!
「!!…かわされた……!」
バチイイッ!!
「!……攻撃、失敗……」
ガゴオンッ!!
「……いっででででで…!!」

だが鉄球たちはガトリングガンの掃射を易々とかわし、強固な鎖はエミリーの斬撃を弾き返す。
そして、ルビエラの拳の直撃にも、鉄球はびくともしなかった。

<外部からの攻撃を認識>
<反撃><排除><破壊>
……バリバリバリバリバリバリ!!
「きゃああああぁっ!!」
ジャララララッ!!……ドカッ!!
「拘束……しまっ、ぅああああっ!!」
ドスッ!!ドゴッ!!
「や、べ……うごっ!! っぐああああ!!」

逆に電撃と鎖鉄球による反撃を受けてしまう。
機械、あるいは何らかの魔道具か。謎の鎖鉄球は、ナルビア最新鋭の戦闘機兵すら寄せ付けない驚異の力を持っていた。


<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

「ひ、ぎあああああああ!!………っああああああああんっ!!」
「っうああああああああ!!………が、はああああああああ!!」

長時間に及ぶ高圧電流で、強い耐久性を持つはずの魔法少女の衣装さえボロボロに焦がされていく。
電流が流れる間にも鎖の締め付けはますます強くなっていき、少女たちの柔肌に血が滲み始める。
サクラとイヴは互いの身体をぎゅっと抱きしめ合いながら、いつ果てるとも知れない「制裁」に耐え続けた。

886>>881から:2021/06/21(月) 01:07:44 ID:???
「だい、じょうぶ……強制権は、薄めにされてるみたい……」

「ユキ、ごめんね、その体のことを考えずに、焦って逃げ……っ?」

スネグアを制圧した魔物たちが起動した帰還プログラムは、体の一部が機械化されているユキをスネグアの元へ戻らせるもの。苦しむ妹を介抱するサキは……突然後ろから舞に抱きしめられた。

「ど、どうしたの!?」

「ぁ……ぅ……」

舞の体はとうに限界を超えていた。ナルビアの改造とアイリスの調教で開発されきった体を無理矢理魔法のブーツで押さえつけ、その上でゾンビラミアから何時間も陵辱された。逃亡途中には舞の戦闘能力を奪おうと洗脳されたままのユキが何度も体を弄ばれた。

そして、ゾンビラミアに飲まされた精液が、魔物使いの遺伝子とベヒーモスの力を手に入れた本体の魔力に呼応して、舞の体内で暴れ出す。

『私たちが望むのは混沌としたパーティなの。戦場の端っこに敵戦力を集めるなんて無粋な真似はさせないわ』

「ま、い……?」

虚ろな瞳でサキに抱きついた舞は、そのままスルスルとサキの腕を自らの腕で絡め取って拘束する。

「舞、さん……ごめん、私が、私がずっと舞さんを……!」

帰還プログラムによって逆に精神は正気になったユキが何かを姉に伝えようと立ち上がったが……直後、その鳩尾に、舞の爪先が食い込んでいた。

「ご、ぼぉっふ!?」

「ユキっ!」

サキの悲鳴も聞こえていない様子で蹲るユキ。皮肉にもユキの異常は、それ以上に様子のおかしい舞によって鎮められた。

「は、ぁあ……!あ、んあ、んああぁあ……!」

その間にも舞は苦しげな艶めかしい喘ぎを漏らしている。
ここに来てサキは、舞が自分のあずかり知らぬ所で大変な目に遭っていたことを察した。そしてそれが自分の為であることも。

「ぎ、ぐぐぐぅ……!サキ、様……私を、置いて行って……ください……」

「舞!?あんた正気に……」

「もう、抑えているのも、限界、です……ユキ様に乱暴を働き……サキ様を汚すなんて……嫌です……」

体の内側から作り変えられているような疼きに、舞は息も絶え絶えに喘ぎながら言う。今はサキの体を抑えるだけで済んでいるが、いつ襲ってしまうか分からない。
ナルビアの時にサキに暴力を振るってしまったことは舞にとって許されざることだ。今またサキの体を穢すようなことになるなど、耐えられない。

だから早く振り払ってユキと共に逃げてほしい。そう涙ながらに告げる舞に……サキはぼそりと呟いた。

「……もっと早くこうするべきだったわ。舞の人生を縛るのが怖くて、ずっと後回しにしてた……それが結局、舞を無駄に苦しめてしまった」

「……え?」

サキは自らを絡める舞の腕を振り解くと、今度は逆に自分から舞に覆い被さった。

「サキ様、なにを……?」

「今みたいな名目だけじゃない。邪術で舞を私の……私だけの奴隷にする。刻印の上書きで、その体も楽になるはずよ」

「え……サキ、さ、ま……?」

困惑する舞に、顔を赤くしたサキは唇を近づけ……そっと、キスをした。

887>>885から:2021/06/27(日) 15:11:06 ID:???
ガシャンッ ガシャン ジャララララッ………

ピーーーーー
<制裁完了>

「あ………ぐ」
「うっ………ん……」

<戦闘モード再起動>
<戦闘再開>
<破壊><破壊><破壊>

無機質な電子音が響き、サクラとイヴを縛り上げ、締め付けていた鎖が離れていった。
鎖鉄球はゆっくりと浮遊し、基地の中枢を担うメインコンピュータに近づいてくる。

「エミル博士……無事な人を連れて、退避してください。
私が何とか時間を稼ぐ、です」
「バカ言わないで……だいたい、この場に無事な人なんていないでしょ」

部屋の一番奥、壁一面に設置された巨大コンピュータの前に、エミルとルーアはいた。
背後に逃げ場はない。そして目の前に迫る鎖鉄球も、簡単に横を通してくれそうにはない。

(考える、です……なんとかこの場を切り抜けて、
サクラさんも、助け出さないと……)

(基地とかコンピュータとかは最悪壊されてもいいけど……
鉄球ミンチからの電撃ハンバーグなんてごめんだわ!
……そういえばあの鉄球、どこかで見たことあるような………)

その時。エミルの頭の隅に引っ掛かっていた記憶がよみがえった。
研究都市アルガス壊滅の責任を取らされ、投獄されていた時の事……

……そう。あの鎖鉄球は、当時エミルも着けさせられていた、囚人拘束用のものとまったく同じ。
元がナルビアの機械であれば、基地内のコンピュータでも操作できるかもしれない。

(あの時は本当、死ぬかと思ったわ。思い出したらムカついてきた……
でもあの子、トーメントの兵士なのよね?
それが、なんでナルビアの拘束具を?……まさか、これって……)

(つまり、何者かがナルビア製の機械をトーメントに持ち込むか送るかして、
それを身に着けた兵士をナルビアにわざわざ送り込んできた……?
でも、どうして??)

(こんな回りくどい事思いつくのは、ミーちゃんくらいだわ。
また何か、ろくでもない事企んでるのね……)

(それでも今は……迷っている時間はない。乗っかるしかないわ!!)

ここまでの思考時間、わずか2秒。
エミルはメインコンピュータの端末に駆け寄り、
ナルビア製囚人拘束・監視システム「インヴィンシブル・スフィア」の
強制停止プログラムを起動させる。

「ルーアちゃん!あの鉄球、止められるかもしれないわ!!
30秒だけ時間稼いで!」

「博士!?……わかりました。
でも出来れば20……25秒で頼みます、です!!」

かなり強制力の強いプログラムで、ひとたび発動すれば、
ナルビア国内で使われている拘束・監視システムの全てが
最低24時間は解除・無効化されることになる。

もちろん通常なら、前線基地のコンピュータで動かせる代物ではない。
首都オメガネットのマザーコンピュータに接続し、何重にも渡るチェックを潜り抜け、
認可を得なければならない……はず、だが。

<認証OK プログラム発動まで あと 00:28.57>
(やっぱり……認証があっさり通った)

ミシェルはこうなる事を見越していた……というより、恐らくすべては計算の内。
エミルにこのプログラムを発動させるために、イヴに鉄球を持たせて送り込ませたのだろう。
その真の狙いとは、一体何なのか。

そして、果たしてエミルは、ルーアは、この窮地を切り抜けることが出来るのだろうか……

888名無しさん:2021/06/27(日) 15:20:05 ID:???
プログラム発動まで あと
【00:28.43】

<破壊><破壊><破壊>
ジャラララ……ブオンッ!!

「それ以上は行かせない……です!」

エミルが作業しているコンピュータに近づかせないよう、
ルーアは前衛に出ると、最初の鎖鉄球をギリギリまでひきつけて回避し……

【00:27.19】
「……ヌルインパクト!」
ガシィィンッ!! ガコンッ!

2つ目の鉄球を、魔法杖で打ち返す。
無属性の魔力を乗せた一撃が鉄球は大きく弾き飛ばし、3つ目の鉄球を撃ち落とした。

(よし。あと……一つ!)
横から4つ目の鉄球が飛んでくる。
ルーアは鉄球に向けて杖をかざし、防御魔法を展開する……

【00:26.47】
……ジャラララッ!!
「プロテクト……ひ、ぐぇっ!?」

だが、その時。最初にかわしたはずの鎖鉄球が死角から飛んできて、ルーアの首に絡みついた。
魔法を妨害され、障壁を展開できず、飛んできた鉄球は……

……ドゴッ!!
「んあっ!!」
ルーアの右肩に直撃した。ごきん、と骨の折れる嫌な音がして、ルーアは激痛で手に持った杖を落としてしまう。

【00:25.01】
カランカラン……
ギリギリギリギリギリ……

「し、シールド………あ、ぐぁ……!!」
鉄球が続けて左側からも飛んでくる。
ルーアは残る左手でシールドを張ろうとするが、
本来両手で発動する魔法を片手で、しかも詠唱もままならない状況では、強度がまったく足りない。

……バキンッ!!ドゴッ!!
「……ぐふぇっ!!」
鎖鉄球は簡単にシールドを粉砕し、全く勢いを減じることなく、ルーアの細い脇腹に突き刺さる。

……まさに、一瞬の油断が命取り。
ルーアの目論見としては、杖と体術で出来る限り時間を稼いで、
あとは防御魔法でひたすら守りに徹することで30秒を耐え抜くつもりだったが……
実際にはこの通り。5秒ともたず鉄球の餌食となってしまうのだった。

【00:18.34】
<破壊>
<破壊>
<破壊>
<破壊>
……ドゴッ!! ドボッ!
「えぐ!! あうっ…… ぐぼぁ!!」

左手一本では、締め付ける鎖を外すことは出来ない。
首を絞められていては防御魔法も使えない。
防御も回避も反撃も封じられ、暴風のような鎖鉄球の乱打を、
ルーアはその小さな身体で受け続けるしかできなかった。

889名無しさん:2021/06/27(日) 15:22:59 ID:???
【00:15.00】
<抹殺>
ジャラララッ!! ……ブオオオオンッ!!

鎖が大きく唸りを上げ、鉄球が既に青紫色に腫れあがったルーアのお腹に向かって飛んでくる。
鉄球たちは早くもルーアにとどめを差すつもりのようだ。

(こんな、はずじゃ……すみません、エミルさん、皆さん……)
「ルーアさんっ!!」
……ガゴンッ!!

すでに意識朦朧としているルーア。打つ手は全くなく、万事休すかと思われた、その時……
砲撃機兵サフィーネが、体を張って鉄球を防いだ。

バチバチバチッ……ドゴンッ!!
「い、ぐぁあっ!!」
「さ……サフィーネさん…!!」
鉄球はサフィーネの装甲を突き破り、胴体に深々と食い込んでいた。
全身から火花がバチバチ飛び散り、サフィーネはその場に崩れ落ちる。

「あ、れ……おかしい、な……わワワ私、機兵の中でも一番いちばん頑丈……
予測、もう少し、耐えられ、rrrrr……」
バチンバチン!バシュンッ!!

「…………。」
……ひときわ大きな火花と煙を吹き出し、サフィーネは沈黙した。

「……サフィ……さん……そん、な……!」

【00:10.00】

<抹殺><抹殺><抹殺>

……ジャラララッ!!
グオオオオッ!! ガコンッ!! バキッ!! ドゴッ!!

「い、や……お願い、もう、やめてください……!!」

鎖鉄球の勢いは止まらず、なおもルーアを攻撃し続ける。

ドゴッ!! バチバチバチッ!!
「気に、しないでddd くだssss……仲間を、そして……」
「エミル博士を、mmmmもるrr
それがggg、あたしたち戦闘機兵のtttt務め」

……だがサフィーネと同じ戦闘機兵、エミリーとルビエラが
身を挺してルーアを守っていた。
鎖鉄球は、ナルビアの兵器であるエミリーたちの装甲をも易々と破壊していく。

ドガンッ!! バチバチバチ!! バシュンッ!バシュンッ!!

サフィーネ同様、二体が完全に沈黙するまで、それほど長い時間はかからなかった……。


【00:00.10】

<破壊><攻撃><殺戮><抹殺>

(私の……私のせいで、機兵の皆さんが……)

まるで人間のように笑い、泣き、束の間ではあるが仲間として共に戦った三体の機兵。
それが破壊され、物言わぬ鉄塊へと変えられていく様を、目の前で見せつけられたルーア。

そして今度こそ確実に止めを刺すべく、鎖鉄球は大蛇の鎌首のごとくうねり、
ルーアの顔面目掛けて飛んだ。

「ひっ…!!」
鎖で拘束されたルーアに避けられるはずもなく、思わず目を瞑る。
まともに喰らえば、顔面どころか頭そのものがザクロのごとく吹っ飛ぶ威力。
だが……

「……ヴァインキャプチャー!!」
……ギュルルルッ!!
「!………サクラさん……!!」

……間一髪。意識を取り戻したサクラが、
つる草で強靭な網を作り出す花属性の魔法、『ヴァインキャプチャー』で鉄球を抑え込んだ。


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