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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト4部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:17
DQ4の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

67ミントスにて 5/8:2008/01/31(木) 01:22:10
「言うこと聞かないと、次は槍で貫いちゃうよ?」
「貫くのは槍じゃないかも知れないけどさ。」
 男達がゲラゲラ笑う。私はなんとか体を起こし、震える手でベルトを外した。上着を脱ぐと寒気が襲ってくる。
ああ、どうしよう。本当に体が不調を訴えてくる。シャツを脱ぐ時、ちらりと男達を見上げたが、嬉しそうにこちらを見つめているだけだ。
上半身裸になった途端、男達からほぅ、と息が漏れ、胸部をぺたぺたと触られたが、私は寒さを堪えるので必死だった。

 4本の手が離れるとすぐに頭をヒゲ男につかまれた。目の前に現れたモノに思わず「ひ…」と叫び声を上げてしまった。
きつい匂いが鼻につく。
「しゃぶってよ、兄さん。」
「い…いやだ…!!」
 拒否した瞬間、後ろからバンダナ男に鼻をつままれた。息苦しくなり、思わず口を開くとそこへヒゲ男のモノが突っ込まれる。
「歯、立てたら承知しねぇからな。」
 そう言って、私の頭をつかんだままヒゲ男が腰を動かし始めた。嘔吐感が急激にこみ上げてきたが、必死で耐える。
しばらくして、バンダナ男が私の前をズボン越しに掴んできて、危うく口の中の物を噛みそうになった。
くぐもった悲鳴を上げると、そのままヒゲ男のものが口の中で弾けた。
「こえー!急に握ってやんなよ、お前!!」
ヒゲ男に責められ、バンダナ男が愉快そうに笑う。
私は口の中のものを吐き出すとそのまま反射的に吐き気を催し、胃の中のものも全て嘔吐してしまった。
服を脱いでて良かったかも知れない。危うく精液と胃液まみれになるところだった。
 バンダナ男が私の腕をつかんで無理矢理に立たせた。そのまま壁に押し付ける。

「なんだ、元気ないじゃん。吐いて萎えちゃった?」
「もう…許してください…。」
 ヒゲ男は膝で私の前をぐっぐっ…と押し続けてくる。
「なぁ、こいつ、もう俺達でヤっちゃわね?どうせ次の船がいつ来るか分かんねぇんだし。
 すぐ死んじまいそうだしさ。」
「大灯台の魔物退治に向かったヤツが居るって聞いたぜ。
 どこの命知らずか、と思ったらどっかの商人らしいけど。
 それに聞いた話じゃ、伝説の勇者を見たヤツが居てさ。
 美人の踊り子と占い師を連れてて、剣術が優れているどころか、
 攻撃魔法も回復魔法も使える連中らしい。
 もうすぐどっちかが大灯台の魔物やっつけてくれるかも知れないぜ?」
「へぇ。じゃあ、俺達の仕事ももうすぐ再開できそうだな。
 その美人の姉さん達にもお目に掛かりたいもんだ。」

68ミントスにて 6/8:2008/01/31(木) 01:26:57
 ぼんやりと話を聞いていると、パシン!と頬をはたかれた。
「おい、下も脱げって言ってんだろ?」

「クリフトー!!」
 姫様の声が表通りから聴こえ、私は息を飲んだ。アリーナ姫の姿が路地の隙間から見える。
遠目からでも、姫様が私の帽子を抱きかかえて辺りを見回しているのが分かった。
ただ、向こうからはこちらが薄暗いせいか見えていないらしい。姫様が不安げにうつむいて、再び走り去った。

「あんた、クリフトっていうんだ?」
「あんたの連れの娘も可愛いな。少し幼いが、一緒に連れて行くか?」

 何をしてるんだ、私は。
 彼女を守ると、サントハイム国の神官になった時に誓ったのではなかったか?
 今、ここで力尽きるわけにはいかない。せめて、今聞いた情報を、彼女に伝えなくては。

「…あの子に見つかりたくない…。もっと奥でやってくれませんか…?」
 細い声で言うと、男達は笑って顔を見合わせた。「ああ、構わねぇぜ?」
 ヒゲ男が先に奥へと向かう。バンダナ男が私を奥へ連れて行こうとして腕をつかもうとした。
私は素早くスカラを唱え、その腕を弾き、腰をかがめて鉄の槍を拾い上げた。
驚くバンダナ男の足を切りつけると、男は悲鳴を上げてうずくまる。
そのまま私は鉄の槍を逆手に持ち、振り返ったヒゲ男の喉元目掛けて突き上げた。
ヒゲ男のうめき声が聴こえたが、結果を見ずに身を翻し、ふらつく足をなんとか走らせたのだった。

 路地裏から飛び出したものの、人通りが少なく、誰もこちらに気が付いていない。叫ぼうとしても、力が入らなかった。
振り返るとヒゲ男がバンダナ男と共に路地の奥から怒りの形相で向かってくるのが見えた。
再び前方を見ると、町の入り口辺りに姫様とブライ様の後姿が見えた。
声が聴こえれば振り向いてくれるだろうが、大声でも出さねば聴こえないだろうし、
第一、この汚れた姿のままでは姫様に会うことは断じてできない。
焦る気持ちで辺りを素早く見渡すと、絶好の逃げ場所が目に飛びこんできた。

 そのまま倒れこむように絡まる足をなんとか走らせ道を横断し、私はキラキラ光る夕暮れ時に赤く染まった池へと跳躍した。
 派手な水音が町中に響き渡った。

69ミントスにて 7/8:2008/01/31(木) 01:30:54
 足が立つかと思いきや意外と池は深く、意識が朦朧とする中で、それでも必死に水面から顔を出し、池の淵にしがみつく。
と、誰かに腕をつかまれた。ヒゲ男だ。反対の手でナイフを振り上げている。

 悪いことをする人でも、聖なるナイフを装備できるんだな。神は本当に残酷なほど平等だ。
と何故か私はのんびりそんな事を考えつつ、続けて絶望感でいっぱいになり、とっさに両目を閉じた。

 どこか遠くでヒャダルコを唱えるブライ様の声と、私の名を呼ぶアリーナ姫の声がする。
と、私の腕を握っていたヒゲ男の気配が吹っ飛んだ。
 訳が分からないままに、それでも今のうちだとばかりに池からなんとか這い上がると、目の前に泣きそうな顔のアリーナ姫と、どこから拾ってきたのか私の神官の制服を手にしているブライ様が私を見下ろしていた。
その背後に先ほどの2人組が折り重なるようにして倒れていた。

「頭を冷やせ、とは言うたが…どこまでアホウなんじゃ、おぬしは。」
「何してたのよ、クリフト。どれだけ探したと思ってるの。」
「すみません。…酔っ払いに絡まれまして…。」
「どんな絡まれ方をすればそんな格好で水泳する羽目になるのよ!」
 姫様にしては至極最もな意見だが、それどころじゃなかった私は池の淵に座り込み、気を失いそうになるのをなんとか必死で堪えていた。
体の震えが止まらない。

「姫様…伝説の勇者様が、旅をしているそうです。」
「え?」
「連れの方も居て…攻撃魔法と回復魔法が使えるのだとか…
 もしかして、目的は我々と同じかも知れません。」
「その話はあとよ。顔色、さっきよりひどくなってるわ。お医者さんに診てもらいましょう。」
「大丈夫ですから…!」
「大丈夫なんかじゃないわ!」

 姫様の目元が赤くなっている。でも今、言わなければ、と私はなんとか言葉を紡ぎ続けた。
「姫様、その方たちに力を貸してもらいましょう。仲間を増やせば…姫様の負担も…軽く…。」
「ブライ、その槍、貸して。」
「いや、あの、姫様、それは…。」
「私は…姫様の足を引っ張ってしまいますから…もう…ここで…。」
 次の瞬間、腹部に再度衝撃を受け、目の前が赤く弾けた。
「姫様、殺してしもうたのではないでしょうな!?」
「みね打ちよ!頭も診てもらえばいいんだわ!!」
 2人の声が遠くなっていく中、私はスカラで守備力上げといて良かった…と思ったのを最後に、意識は深い闇の中へと溶けていってしまった。

70ミントスにて 8/8:2008/01/31(木) 01:34:30
 …こうして病が回復した今なら分かります。
あの時、無力感を感じていたのは私だけでは無かった。
姫様も…恐らくはブライ様も自分自身に無力感を感じ、苦しんでいたんだと思います。
私は、病に侵されていたとは言え、とても後ろ向きな考えを持ってしまいました。
姫様の重荷になりたくない一心で言った言葉だったのですが、
あの後、しばらく意識が回復しなかったでしょう?
まるで死を予感させるような内容でしたから、益々姫様を苦しませてしまったようです。
目が覚めてからブライ様にまた怒られてしまいました。反省しています。

 それだけに、あなた方が我々の前に現れてくれたのは、本当にありがたかった。
あなたは「勇者」と呼ばれるのがあまり好きではないようですが、
少なくとも、私にとってだけではなく、我々3人にとっては、やはり救世主そのものだったんですよ。

 …しかし、2人組の男達のことを聞いて、すごく怒ってくれたのは嬉しいのですが、
何故、あなたはさっきから路地裏で起こったことをそこまで詳細に聴きたがるのですか?
あの…やはり話していて楽しい話ではないではありませんし、ここらでお仕舞いにしてくださいませんか?
え?ええ、そうですね、耳が弱いのは認めますけど、何故、そんな嬉しそうなんですか?
え、ちょっと…腕を放してください。
え、まさか、冗談ですよね、そんな。ちょっ…!!!

71名無しの勇者:2008/01/31(木) 01:36:19
以上です。改行不慣れで、読み辛かったらすみません。

72名無しの勇者:2008/02/01(金) 21:26:33
「変態さん」ってなんて可愛いんだクリフト・・
全てにおいてかわいいクリフトゴチでした

73名無しの勇者:2008/02/02(土) 04:18:18
ラストの勇クリにニヤニヤ。
クリフトかわいいなあ。まんべんなく萌えた。
作者様GJです!

74名無しの勇者:2008/02/11(月) 17:13:16
どうもありがとうございます。性懲りも無くまたクリ受です。
何だか申し訳なくなってきたので、これ以降、しばらく自粛します。
掲示板占領しまくってすみません。

では、勇クリ前提のピサクリです。

75無題 1/7:2008/02/11(月) 17:33:48
 ピサロさんを仲間にしてから初めてきちんと宿に泊まった町はエンドールだった。
「世界樹の葉」が無くなったから取りに行こう、と勇者さんが提案して、メンバーの一部はエルフの里に向かっている。
勇者さんは嬉しそうに私を「世界樹」に登らせようとしていたが、今回ばかりは固辞させてもらった。
あの人は何故、私が高い場所が苦手だと何度言っても忘れてしまうんだろう。
何度も伝えているはずだし、実際に登らされた時にも私がどれだけ青くなっているか、ちゃんと見ているはずなのだけど…。

 今夜は家族と過ごす、と言うトルネコさんをご自宅まで送ってから宿屋に戻ると、ライアンさんとマーニャさんが宿屋の食堂で向かい合わせにテーブルについて、夕食を摂っていた。
マーニャさんが私に気が付き、手招きしてくる。
「クリフトくん!ピーちゃんと今夜、同室になる勇気ある?」
「え…?」
 私はライアンさんの隣に座る。
「実は今夜、3人部屋を2つと2人部屋を1つ、宿を取ったんですが、
 夕食に誘っても ピサロ殿がさっさと2人部屋に入ってしまいましてな。
 我々とは食べるものが違うんでしょうかなぁ…?」
「まぁ、私達は3人部屋を使うとして、問題は男性陣よね。
 勇者クンは絶対ピーちゃんと同室なんてならないだろうし。」
「こういう事で気を使うのは信条に反しますのでな。ここは私が…。」
「すでに気ぃ使ってるわよ。もう欠席裁判でさ、『世界樹の葉』メンバーから選べばいいじゃない。」
「それではもうブライ殿しか居ませんぞ!どんな会話が繰り広げられるか考えるだけでも恐ろしい!!」

「あ…あの、いいですよ、私が同室になります。」

 2人がピタリと黙ってマジマジと私を見る。「クリフトくん、いいの?」
「ええ。正直に言ってしまえば、私はあの方が苦手ですが、一緒に戦う同志となったわけですから、
 そうも言っていられません。一度ゆっくりお話してみなければ、と思っていました。」
「いいのですかな、クリフト殿?あなたは神官ですぞ?方や向こうは…」
「いらっしゃい、ご注文はいかがなさいますか?」
 店員さんがやって来て、ライアンさんは慌てて口を閉ざす。
「あ、この定食と同じものを。それから、部屋に持っていけるよう、
 後からもう1人前追加で作ってくださいますか?」
 店員さんが下がると、マーニャさんが肩をすくめた。
「怖かったらいつでも言いなさいよ。
 それから、またいつかどっかの町で泊まることがあれば、
 歓迎会兼ねて飲みに行くから、ピーちゃんと打ち解けられそうなら誘ってみてよ。」

76無題 2/7:2008/02/11(月) 17:36:33
 夕食の乗ったトレイを持って部屋へ行き、緊張しながら扉をノックする。返事は無い。
そっと声を掛けてから扉を開けてみてもピサロさんの姿は無かった。
 なんだか気が抜けて部屋のテーブルの上にトレイを置く。と、その時、部屋のシャワールームが開き、全裸でピサロさんが現れた。
 あまりにも見事な体で絶句してしまう。美しい銀色の長髪に鍛えられた筋肉。まるで神話を描いた彫像のようだ。
「あ…あ、すみません。勝手に入ってしまって。」
 私は我に返って視線を落とす。ピサロさんがまるで観察するかのように炎のような赤い眼でしばらく私を見つめているのが分かる。
やっぱり…怖い。

「…構わん。今夜はお前が私の相手をしてくれるのか。」
「はい…あの、ご迷惑ではありませんか…?」
「お前は神官ではないのか。私と寝ることが辛くはないか?」
 私はピサロさんの言葉に驚き、顔を上げた。
「今は共に戦う仲間です!た…確かに、あなたを敵と思って長く旅をしてきましたから、
 上手く接することができず、こうしてあなたのそばで話していても…
 正直恐ろしいと思う気持ちもあります…。
 ですが、分かり合うことができれば、きっと…!」
「これは、お前の夕食か?」
「え?…あ、いえ、これあなたの分です。良ければ食べてください。」
「お前がシャワーを浴びている間に食べておこう。」
「シャワー…?ああ、そうですね。入ってきます。」
 食べているところを見られるのが嫌なのかも知れない。私は特に疑問も持たず、シャワーを使わせてもらうことにした。

 私が寝巻きを着て、脱いだ服を持って部屋へ戻ると、ピサロさんはまだ裸のままでベッドに腰掛けていた。
ジロリとこちらをにらまれ、ビクッと体を震わせてしまう。
「何故わざわざ服を着る。面倒だろう。」
「え?いえ、別に。これは習慣のものですから。あなたこそ、裸のままでは風邪をひきます。
 寝巻きをお持ちじゃなければ、そうですね、
 ライアンさんの服ならサイズが合うかも知れません。借りてきましょうか。」
「いらん。」
 一刀両断。またこちらをにらみつける。何だかさっきから会話に違和感を感じるのだが、やはり魔界の住民ならば多少言葉の表現にズレがあっても不思議じゃないかも知れない。

77無題 3/7:2008/02/11(月) 17:40:04
 私はピサロさんの視線に耐えられず、咄嗟にまた顔を逸らした。テーブルの上の夜食が全て平らげられているのが目に入る。
良かった、食べるものは私達と同じなんだな、
これならば、マーニャさんから頼まれた歓迎会の話も始めやすい。
「あの、ピサロさ…」
 振り返るとすぐ目の前に当人が立っていたから面食らった。
 その時、何か破裂したような音がして思わず天井を見る。なんか…少し息苦しくなったような…。
「えーと…あ、あの、良ろしければ今度…」
「お前は誰かに抱かれたことはあるのか?」
 ピサロさんは私の右腕を掴んで聞いてきた。質問の意味を飲み込むのにしばらく掛かる。え、今、なんて…
 次の瞬間、凄まじい衝撃が右腕から私の体を走り抜けた。数日前に体を重ね、最後に果てた時の記憶とその絶頂感が一気に蘇り、足から一瞬にして力が抜けた。
 構えることも無く突然襲った衝撃に私は思わず絶叫していた。腕を掴まれたままでなければ、そのまま座り込んでいただろう。
「…あ…あぁ…。」
「なんだ、相手はあの小僧か。初めてでないのなら遠慮する事は無いな。」

 私は、そこで初めてピサロさんが私を最初から抱く気で質問を重ねていたことに気が付いた。
今までの会話のわずかな違和感が全てストンと理解できた。
「え…?」とぼんやり彼の体を改めて見上げ、その冷ややかな赤い眼に映る自分を見つけ、一気に恐怖感で頭がいっぱいになる。
腕を振り解こうとしたが、解放してもらえない。体が震えてきた。
「や…すみません…私はそんなつもりじゃ…へ…部屋を変えて…。」
「お前の意思など関係ない。それとも、お前の代わりに誰かを差し出すのか?」
「ダメです!!
 そ、それに、今、私は大声を出してしまったから…すぐに誰かがここにやって来ます!」
「誰も来ない。」
「…え…?」
「さっき、この部屋の空間を『閉じた』。
 この部屋は私が元に戻すまでは異空間に留まっている。」
 今の破裂音か!やっと私はピサロさんの腕を振り解くことができ、ふらつく足で扉に向かった。ドアノブはピクリとも回転しない。
何度もドアノブを捻ろうとしている私の肩に、ピサロさんの手が乗せられた。痛いくらいに肩を掴まれ、自分でも滑稽なほど体が大きく震える。

78無題 4/7:2008/02/11(月) 17:43:48
「ど…どうして…。」
「私は人間を抱いた事が無い。人間を深く知るためには
 一度抱いてみた方が早いと思った。」
「もし、私ではなくライアンさんがここに来てたら、どうするつもりだったんですか。」
 私の言葉にピサロさんは愉快そうに笑った。
「さすがに好みはある。お前か、占い師の女か、
 あの気に食わない勇者の小僧が来れば良いと思っていた。私は運がいい。」

 私は息を飲んだ。
「やめて下さい!…あ、あの…私だけで…勘弁してください…。」
 自然と声が消えそうになったが、なんとか言葉になったらしい。ピサロさんは楽しげに「お前はそれほどの価値があるのか?」と私を覗き込んだ。
「他の者に無いものがお前にあるというのか。」
 その言葉にすぐさま必死で考える。

 この部屋から逃げられない以上、腕力や魔力で敵うはずが無く、私がピサロさんに抱かれるのはもはや決定事項だ。
恐ろしいが、殺されまではしないだろう。私が耐えればそれで済む。
しかし、ここで否定の言葉を言えば、他の仲間も同じ目に遭わされるかも知れない。
相手によっては2度と立ち上がれないほど傷つくだろう。
何か…私にしかできないこと…他の方にはできないような…しかし…。

「…あのお前が護衛している女も楽しめそうだな。」
「待ってください!!あの…私は…神官ですから…神の教えを説いたり、祈ることができます…!」

 ピサロさんが笑みを消した。私は自分の言葉に青ざめる。何を言ってるんだ、相手は魔王だというのに!

「す…すみません…あ、あまり、人に自慢できるようなものが無くて…。」
「面白い。」
 ピサロさんは私の肩から手をはずした。そのまま背を向けて自分のベッドに向かい、腰を掛ける。
「やってみせろ。」
 扉の前から動けずに、私は呆然とピサロさんを見つめる。
「私に抱かれながら神を説いてみせろ。」
 私は目の前が暗くなった。

79無題 5/7:2008/02/11(月) 17:46:53
「あ…あなたが目の前のよ…欲望に負けそうなとき…その欲望は…
 け、けして我々の神が…仕向けたわけでは…。
 私たちは…自分自身に芽生えた欲望に心を奪われ……落とされるのです…。」
「聴こえぬ。もっと声を張り上げねば、お前の下から聴こえる音でかき消されるぞ。
 もっとも、お前の下の口はその欲望を説いているようだがな。」

 裸に剥かれた私は、すでにピサロさんに組み敷かれ、体を貫かれている。
ピサロさんが放ったものか、私が2度ほど達して放ったものが流れたのか、それとも体が自己防衛で出したのか、私とピサロさんの結合部から耳を覆いたくなるほどの水音が部屋に響き渡っている。
私は涙で目の前が見えず、上手く呼吸もできなくなっていた。説教を続けているせいで喘ぎ声を堪えることもできず、言葉の合間合間にこれまで自分でも聴いた事の無いような声を出してしまって、情けなくて羞恥で体が震えた。
体中、透明なものと白く濁ったものとで汚れている。

「…悲しまないで下さい。私たちが信じる神は…悪を…許容しています。」

 こんな情けない惨めな姿で、私は神を説いている。一番耐えられないのはこのことだった。
何度か耐え切れずに思わず体が逃げたり、拒否の言葉を口にしたが、その度に押さえ込まれては、罰としてまた自分の体の記憶を呼び覚まされた。
それは彼との秘め事の数々で、ピサロさんはそれを読み取っては愉快そうにそれぞれの過去に対して侮蔑の言葉を、過去と現実の境界が曖昧になってきて混乱している私にいくつもいくつもぶつけてきた。
 何度か死の呪文が頭をよぎり、口にしかけたが、私はそれをなんとか飲み込んだ。

 これまで経験したことが無いような大きな存在が何度も私を侵し続け、嵐のような快楽に体がついていけない。
最初のうちは機嫌を損なわせるのが怖くて、なんとか愉しませなくては、と思っていたが、今は最初の言いつけの説教を続けているだけでも、たどたどしかった。
今なら教会の門番の子の方が上手く神を説けるに違いない。

 永遠とも思えるほどの時間、抱かれ続けているような気もしたが、実際にどれだけの時間が過ぎているのか皆目見当もつかなかった。
ピサロさんは一度私の中で達しているが、止める気配すら無い。
もしもこれが彼ならもう許してくれているのに…。
私は現実逃避もあっただろうが、彼に体を揺すられながら、意識が朦朧としてきた。

80無題 6/7:2008/02/11(月) 17:49:11
「神は…我々にそれを乗り越え…神の存在により近くなるよう…強くなるよう、望んでいるのです。
 ただ…現実は神が許したとは思えないほど苦しい。
 あなたが神を信じていないことは、ある意味正しい。」

 ピサロさんの動きが止まったが、私は気付かなかった。

「この世の中には色んな神が居て、それぞれの神を信じている者たちが居ます。
 遥か遠い極東の島では木や、土や、風に至るまで全てにそれぞれの神が息づいていると
 信じられているといいます。きっと…あなたの村をこんな姿に変えてしまった者にも…
 絶対に守り抜いて信じなければならない何かがあったのでしょう。
 もちろん…彼らがしたことは許されるものでは…ああぁっ!」

 私からピサロさんが出ていったことで、私は我に返った。「続きは?」とピサロさんが私を見下ろす。
「え…?」私は息を整えながらピサロさんを見上げる。
「今の説教の続きを言えと言っている。」
「え、続き?」
「やはり意識が飛んでいたのか…。また過去を読めばいいのか?」
「ひッ…!!」
 腕をつかまれ、身を縮めて震える私の姿がおかしかったのか、ピサロさんがふっと微笑む。そして「…もういい。」と私の横に寝転んだ。
2人寝るには狭いので、私はずり落ちるようにベッドから抜け出た。床にしりもちをつく。
「何処へ行く?」
「も…もう許してもらえたのかと…」
「上に乗れ。」
 私は冗談かとピサロさんを見つめたが、ピサロさんが眉をひそめたのが見えて、慌てて腰を上げた。
「ひぁぁ…。」私は再びぺたりと座り込む。
「何をしている?」ピサロさんはベッドを抜け出し、私の腕を掴んで、首を横に振り続けている私を無理矢理立たせた。
私の座っていた床で血と混じって白濁した粘着力のある液体が小さな音を立て、私は自分が一気に赤面していくのが分かった。
「ほぉ…?」
「す、すみません、あの…」
「私がお前に注ぎ込んだものだ。気にするな。」
 予期しない言葉に私は思わずピサロさんを見つめた。

81無題 7/7:2008/02/11(月) 17:52:53
 崩れ落ちそうな体を必死に動かし続ける私を見上げ、ピサロさんは「何故、さっき死の呪文を唱えなかった?」と聞いてきた。
「私を殺そうとしたのだろう?」
 私は首を横に振る。「あなたに…死の呪文は効きません。」
「ならば何故…」
「死のう、と思いました…。」
 私は微笑もうとしたが、顔が歪んでしまい、逆に涙がこぼれた。
「私1人耐えれば…と軽く考えていましたが、神の教えを口にしながら、
 こんなに乱れてしまって…耐えれるものでは無かった。」
「何故、死ななかった?」
「私たちの神は…自害を禁じていますから。」
 私の体はついに動けなくなった。ピサロさんの上に倒れるのだけは避けようとしたが、そのままベッド下まで落ちそうになった。
ピサロさんの腕に抱きとめられる。
「お前は死ぬ自由さえ奪われているのか。」
 そのまま体位を変えられ、再び下に組み敷かれる。ピサロさんは私の胸の中央に手を当てた。
「今、楽にしてやる。」


「……リク!!」
 私が目を覚ました時、ピサロさんの赤い眼が覗き込んでいて、一気に記憶が蘇って飛び起きた。不思議と体が軽い。
「無理するな。体力は全快しているはずだが、精神的には疲れ切っているはずだ。
 もうしばらく寝ていろ。」
「か、回復呪文を唱えてくださったのですか…。」
「蘇生呪文だ。成功したのは初めてだ。」
 また思考が固まりそうになった。「そ…蘇生…?」
「死姦も試してみたが、人間相手ではつまらなかった。」
「試しちゃったんですか…。」
 もうついていけない。想像することが恐ろしく、私は自分の体に視線を落とした。体が綺麗に拭かれ、寝巻きを着せてもらっている。
「あ、あの、ありがとうございます。」
「そんなに嬉しいなら、もう一度死んでみるか?」
「その事じゃありません!」
「ロザリーを蘇生させてくれたことには感謝している。」
 ピサロさんは夕食のトレイを持ち上げた。そして、軽々と部屋の扉を開ける。
「約束は守ろう。共に旅を続ける間、お前以外には誰にも手は出さない。」
「そ…そうですか!」
 私は安堵して礼を言いかけ、ふと言葉の意味が気に掛かった。お前以外に?
「なかなか面白かった。次の説教を楽しみにしている。」
 私が自分の血の気が一気に引いていくのを感じたのと、扉が閉まったのはほぼ同時だった。
「は…早く勇者さんに真の敵を倒すようお願いしなければ…。」

82名無しの勇者:2008/02/11(月) 17:55:18
以上です。どうもでした。

83名無しの勇者:2008/02/11(月) 20:34:42
ピサクリ!!
鬼畜魔王×神官実にゴチでした。萌えに萌えた。
これからも書き込んでください・・お待ちしております。

84名無しの勇者:2008/02/12(火) 20:14:59
アアアーピサクリぃぃぃ!
動悸が鎮まりません…!悶えました!
自粛するなんて言わずに、また書きに来て下さい!

85名無しの勇者:2008/02/14(木) 20:23:08
や、ありがとうございます。あまりこういう掲示板に小説出すの初めて
だったんで1人で勝手に恐縮してたんですけど、
んじゃまた、いいネタ思いついたら落としにきます。
3作連続で落としたのでさすがに今は全く何も思いつきませんが…。

86名無しの勇者:2008/02/18(月) 22:52:03
久々に来たら栗受けの宝庫になっとる…!!
どれもこれも萌えまくりでした。ごちです。

87名無しの勇者:2008/02/24(日) 00:41:23
今日ここに初めて来たのですが、いいもの読ませていただきました!
もともとDQで801萌えはなかったのですが、クリファンでしたので
思いっきり禿げました(≧∇≦)

あぁ、美味しかったです〜(*´Д`)ハァハァ

88名無しの勇者:2008/03/04(火) 21:55:22
序盤、ちょっとピサ勇っぽくなったんですが、勇クリ投下します。
紛らわしくてすみません。
ちなみに単独でも読めるつもりですが、75−81の続きです。

89あやしいかげ 1/10:2008/03/04(火) 21:58:09
 最近のクリフトはどこかおかしい。なんとかクリフトさんが僕に自ら体を許してくれるようになってから、毎晩お願いしたいトコロをなんとか週2回ペースで頑張って耐えて、やっとこさ関係を保ち続けているというのに、ここんとこ、そのうち1回は拒まれるようになってしまった。その上、残りの1回もどこか辛そうな顔をする。
確かに真の敵との対決に備えて、これまで以上に激しい戦闘が続いているけど、そんなの今に始まった訳じゃない。
それにもっと気に入らないのが、神の教えを説く、とかで毎週、短時間だけど部屋でピサロと2人きりになっていることだ。
昨夜もそのことで僕はクリフトさんとケンカしている。

「その時間はわずかに15分位よ?だけど、その間、鍵が無いはずの部屋でも何故か魔法が掛かってて
 扉を開かなくしているし、扉に耳をつけても、クリフトくんの声どころか物音ひとつ聴こえないのよ。」

 マーニャさんが僕に声を潜めて疑問を投げかけてきたのは、2人でエンドールの城下町でネネさんの銀行にお金を預けた帰り道だった。

「しかもよ、部屋から出てくるクリフトくんが入る前よりも、体力全快してるのよ!
 一度、声掛けたらビクビクしちゃってさ。本人笑ってるつもりでも、顔が引きつってるのよね。」
「疲労困憊してるならともかく、元気になっているなら別にいいじゃないですか。」
 僕も気になっていた事だったけど、マーニャさんの推理が聞きたくて気の無い返事をしてみたら、マーニャさんは綺麗な眉をひそめた。

「あんたね、考えてもみなさいよ。クリフトくんかピーちゃんか、
 どちらが唱えたか知らないけど、体力全快ってことは、ベホマ使ってんのよ?
 ってことは、あの部屋でクリフトくんが瀕死の状態になってる、ってことじゃないの?」
「ベホイミかも知れませんよ。」
「一緒よ!なんでボーズが10分かそこら説教するだけで回復呪文掛けなきゃなんない位体力消耗する訳!?
 どこまで全力投球なのよ。馬鹿も休み休み言いなさいよね。」

 宿屋に到着すると、その前でマーニャさんは足を止めた。
「あんたさ、クリフトちゃんのこと大事に想ってんなら、なんとかしなさい。
 近い将来に旅を終わらせたとき、仲間全員でそれを喜びたいのよ、私は。」

 マーニャさんはそのまま振り返らずに宿屋に入っていった。
 僕らのこと、バレてたのか。

90あやしいかげ 2/10:2008/03/04(火) 22:00:25
 クリフトが道具屋に不用品を売りに行っている間にさっさと部屋割りを済ませた。
今日、ピサロと同室だったのは本来ライアンさんだったけど、僕は代わって欲しい、とライアンさんに頼んでみた。
ライアンさんは心配そうにしていたけど、僕が武器まで預けると最後は納得して部屋を譲ってくれた。

 僕が部屋に入ると、ピサロはベッドに座り、一本の杖を面白そうに眺めていた。部屋に入ってきた僕をチラリと一瞥し、ピクリと眉を動かす。
「話がしたいんだけど。」
 僕はピサロの前に立った。ピサロは何も言わず、目だけで先を促す。僕はマーニャさんの話していた疑問をそのままピサロに話した。

「…クリフトさんを密室に閉じ込めて、あの短時間でいったい何をしてるんだ?」
「1ヶ月も掛かるとはな。」
 ピサロは愉快そうに笑った。「いつお前が私を追求に来るか、と待っていたんだが、少し鈍すぎるな。クリフトも気の毒に。」
「ふざけるな!何をしたんだ、クリフトさんに…!」
「知りたいか?」
 笑みを浮かべたまま、ピサロは僕に問いかける。僕がうなづくと、部屋のどこかで破裂音がした。少し、息ぐるしさを感じる。
ピサロはそのまま僕の腕を握った。驚いた次の瞬間、大きな衝撃が体を走り、目の前に昨日、ケンカの末に無理矢理押し倒したクリフトさんの泣き顔が蘇る。
これは僕が絶頂を迎えた時だ。一気に体が熱くなった。

「…あんた、体の記憶まで触っただけで蘇らせることができるのか。」
「大事に想っているわりには、無茶をするな。私を責める権利がお前にあるのか?」
「抱いたのか、クリフトさんを…!」
「分かってて来たんだろう?」
 ピサロは立ち上がり、僕の顎に指を添えた。そのまま僕に口付ける。驚くほど長い舌が歯肉をなぞり、僕の舌を絡め取る。こいつ、腹が立つけど、上手い…。
体の熱が徐々に高まってくるが、心に浮かんできたのは、目の前の男に滅ぼされた僕の故郷の光景だった。

 ピサロが体を離す。僕は何の感動も無く、ピサロを眺めていた。どうやら僕の心を読み取ったらしい。
「私は信念に基づき、あの村を滅ぼしたまでだ。少しも間違った事をしたとは思っていない。」
 ピサロは冷ややかに僕に言い放った。
「だが大切なものを失う悲しみは分かる。一度は、ロザリーを失った今ならば……。

91あやしいかげ 3/10:2008/03/04(火) 22:02:17
「村ひとつ滅ぼしといて何を言っている!あんなに残酷にシンシアを殺しといて何を言っているんだ!」
 僕は思わず大声を出した。「シンシアは…シンシアとして死ぬことさえ出来なかったんだぞ!!」

「お前は自分の信念に基づき、ロザリーヒルにたどり着いた。
 そして、ロザリーに会う為だけに、門番を殺した。
 門番が居なくなったことで、ロザリーは誰に守られること無く人間になぶり殺しにされた。」

 僕は冷水を浴びせられた気分だった。ピサロは表情も無く、その血のように赤い眼で僕を見据えている。
「お前らが殺した我々の仲間はどうだ?
 お前が住んでいた村人の数よりもお前が殺してきたモンスターの数の方が遥かに多いとは思わないか?」
 僕は向かいのベッドに座り込んだ。怒りと戸惑いと不安が一気に僕の心を凍りつかせた。

「お前は何故、我々の仲間を殺してきた?私を殺す為に邪魔になるから殺し続けてきたのではないのか?
 勇者という芽を摘むために、それを守る村人を殺した我々と何がどう違うというのだ。」

「僕の怒りは…間違いだと言うのか?あんたが僕の村を滅ぼしたのも、
 サントハイムを無人の城にしたのも仕方ないと言うのか…!!」
「同じことだ。私がロザリーを殺されたことが仕方ないと納得できることではなかった、ということと。
 所詮、お前も私と同じ穴のムジナだということだ。」

 違う違う違う違う!僕は両手で顔を覆った。   だが、何が違う?

「お前はここに何しに来たんだ。折角あの神官がけなげにお前らを守っているのに、その努力を無にしに来たのか?」
「…守ってる?」
「他の人間に手を出さない、という約束だ。あまりに楽しませてもらえたのでな。約束を守ってやることにした。」
 ピサロは愉快そうに僕の顔を眺めながらベッドに腰を下ろした。

92あやしいかげ 4/10:2008/03/04(火) 22:03:52
「最初は人間というものを知りたかっただけだ。誰でも良かった。最初の部屋割りがあの神官の運の尽きだな。
 お前があの男を気に入るのも分かる。あれは貪り付きたくなる体だ。人間にしておくのはもったいない。」
「15分ほどの短時間で出てきていた…。」
「今、この部屋は異空間に留まっている。私が扉を開くまでは何人たりとも入室できない。
 ここの閉鎖空間は通常よりも時間が流れるのが遅くてな、外の15分はここでは2時間半ほどだ。」
「クリフトさんを…抱き続けていたのか。」
「週に1度の約束だ。ちゃんと体力を回復しておいてやっている。責め殺してしまったのも2回だけだ。」
「二度とクリフトに触れるな!!」

 感情が沸点に到達した。武器はライアンさんに預けてきてしまった。もし装備していたとしても、一対一では僕はこの男に敵わない。
相打ち覚悟で挑んでも、僕が死に、彼は瀕死で生き残る。そんな気がした。
 部屋を沈黙が支配する。ピサロからは反省する素振りが全く感じられず、僕は次第に怒りが静まってくるのを感じた。
ピサロはクリフトに対しても僕に対しても全く罪悪感を感じていない。むしろ楽しんでいたんだろう。

 ピサロは興味を無くしたのか僕から視線を外し、ベッドに転がった杖を再び手に取った。そして、薄く笑った。

「ひとつ、ゲームをしようじゃないか、勇者殿?
 お前が勝てば、私はもう2度とクリフトには手を出さん。約束しよう。」


 部屋の封印が解かれた途端、突如扉が開かれて、クリフトさんが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
すぐに扉を閉め、素早く部屋を見回し、僕を見上げてにらみつける。
「勇者さんはどこですか!」
 僕は必死で感情を殺す。本当はすぐにでも抱きしめたかった。
「勇者の小僧はここには居ない。」
「じゃあ、何故、部屋の空間を閉じていたんですか!私以外には手を出さないと約束したのに!!」
「息苦しくなったんだろう。すぐに出て行った。空間を閉じたのは、ゆっくり休みたかっただけだ。」

 そう、僕は今、変化の杖でピサロの姿をしている。耳元でクスクス笑い声を立てているのは僕の影の姿となったピサロだ。

93あやしいかげ 5/10:2008/03/04(火) 22:06:24
 ピサロが提案した賭けは、僕がピサロの姿で正体を明かさないまま、クリフトを抱くことだった。
「もし途中で放棄したり、クリフトがお前に気が付いた時点でお前の負けだ。
 クリフトを異空間に閉じ込めたまま、2度と外へは出さん。絶対にだ。」

 クリフトは青ざめた顔で僕を見上げていたが、やがて緊張の糸が切れたのか崩れ落ちるようにその場へ座り込んだ。
「良かった…良かった…」と声を震わせた後、クリフトはハッと息を飲んだ。

「す、すみません、勘違いをしてしまって…。」
 部屋全体に何かの破裂音がする。ピサロが空間を閉じたんだろう。クリフトは弾かれたように顔を上げた。顔は血の気が引いたままだ。
「きょ…今日は約束の日ではありません…。」
「お前が勝手に決めた約束だ。私にはどうでもいい。」
 いいから早く僕に抱かれろ。僕はクリフトの腕をつかんだ。クリフトはこちらが驚くほど大きく体を震わせた。
まるで殴られるのを待っている子供のように体を竦ませる。もちろん何も起こらず、クリフトは目をぱちくりさせて僕を見上げた。
 あんた、この1ヶ月どんな抱き方してきたんだよ、と僕は呆れて影をにらみつけると、影は素早く床から伸びてきて、クリフトの腕に触れた。

 途端、視界が急に変わり、突然、揺れる天井が見えた。涙で歪んで見にくいが、これは昨日泊まった部屋の天井だ。僕の切羽詰った顔が現れる。

 クリフトの細い悲鳴で我に返った。昨日の僕との記憶を呼び起こされたのか。気の毒に、折角身構えていたのにフェイントを掛けられた形になってしまったクリフトの体は一気に薄い桃色に染まり、ガクガクと体を震わせている。
恐怖に震える姿だけならクリフトに同情するだけだっただろうが、残念ながらこんな状況だというのに、昨日のことをクリフトの視点で見させられただけで、僕はすっかりクリフトを抱く気になっていた。
何故なら、昨日、クリフトと僕の達したタイミングがほぼ一緒だったからだ。これを喜ばずに何を喜べというのか。

 ホント、こんな状況でおかしな話だけど、僕はどうやら微笑んでいたらしい。クリフトが僕の顔を見て益々青ざめた。

「あの、今日は…今のでお分かりになったと思うのですが…さすがに連日になるので…。」
「ごめん、無理。服脱いで。」

 クリフトは面食らった顔をして、目が何度か言い訳を探すように部屋をさ迷ったが、やがて目線を落とし、素直に震える手で服を脱ぎだした。
ノロノロと全裸になるとピサロのせいですでにクリフトの前が半立ちになっていた。
泣きそうな顔で恥ずかしそうに顔を逸らしたクリフトの胸元には昨夜の僕が付けた痕が残っている。
僕は、自分でも思いがけない感情が沸いてくるのを感じていた。
後ろめたい思いを急速に掻き消すほどの黒い感情。それは怒りだった。

「あの、シャワーを浴びさせてくださ…。」
「ヌく必要があるならここですればいい。」

94あやしいかげ 6/10:2008/03/04(火) 22:08:06
 僕の言葉にクリフトが固まる。

「いえ!今日は、汗をまだ流していませんから!」
「構わない。目の前でしてみせろ。」

 クリフトは耳の先まで赤くなり、途方に暮れた顔をした。何か言いたそうに口を開きかけたが、唇を噛んで向かいのベッドに座る。
もう一度僕の顔を確認し、諦めがついたのかクリフトはおずおずと自分のモノに手をかけ、拙い手つきでゆっくりと擦り始めた。

 熱をある程度引きずり出された後だっただけに、ぐちゅ、と水音が静かな部屋に響き渡る。
その音でますますクリフトは消え入りそうに体を小さくしたが、繰り返すほどに水音は消えず、クリフトの耳朶を犯し続けた。
クリフトは必死に泣きそうになるのを堪えながらも、律儀に言いつけを守って自分のモノを擦り続ける。

 段々と息が浅くなっていき、ようやくイけそうになって、クリフトは小さく何かを呟いた。
何と言ったか、こちらが身を乗り出しかけたとき、クリフトは不自然にピタリと動きを止めて、切なげに小さな悲鳴を上げた。
 不審に思って視線の先を辿ると、ピサロの影がいつの間にかクリフトのモノの根元を締め付けている。

「ちょ、あんた…!」
「もう…モンスターは連れてこないでください、とお願いしたじゃありませんか!」

 え、2度目なの!?僕が視線を戻すとクリフトが涙を溜めてこちらを見つめていた。

「そ、そんな約束したかな。」
「前は…ホイミスライムを連れてきて…!もう連れてこない、と言ったのに、次に連れてきたのはマドハンドだった…!」
 息絶え絶えに訴えられて、僕のキャパはもうパンク寸前だった。マドハンドてあんた。
「喜んでいたんじゃないのか?」
 僕の答えにクリフトは目を大きく見開いた。
「そんな…モンスター相手は嫌だと…あれだけ…やっ…!」
 続けてクリフトは座位を崩してベッドに両手を突いた。影がクリフトのモノに絡みつき、蠢いている。
「や…やめてください…今度は…何をさせるつもりなのですか…?」
 もう、ダメだ。僕の頭は真っ白になり、そのままクリフトを押し倒し、噛み付くように唇を奪った。

95あやしいかげ 7/10:2008/03/04(火) 22:11:32
 表情でバレる恐れがあったので、クリフトを背中から組み伏せて貫いた。
ピサロの影は気まぐれにクリフトを愛撫し、また何度かクリフトの喉元を軽く締め付けた。
クリフトの体は首にいつまでも影がまとわりついているせいか、いつも僕に抱かれている時よりも萎縮していて、その分いつも以上に締め付けて、なかなかに具合が良かった。
すすり泣きに近い喘ぎ声が漏れ聴こえる。本人はさぞ辛いだろう。

 クリフトが3度目に達した時、本人はそのままくたりと気を失ったが、影が「この男はこれからが楽しい。もう少し揺さぶり続けてみろ。」と言うから、僕はとり憑かれたかのようにその言葉に従った。
言われたとおり、クリフトは何度か揺すられると目を覚まし、今まですすり泣くだけだったのに、弱々しく行為の終了を途切れがちな声で訴えてきた。

 この光景は見たことがあった。僕が初めてクリフトを抱いた日だ。あの時も、こんな風に泣きながら相手を煽るだけの無駄な哀訴を繰り返してきた。
僕がやってきた事はピサロがクリフトに強いてきたことと、何ら変わりは無い。

 僕がこの状況でクリフトを攻め続けているのは、クリフトを愛しているからではなく、ピサロが相手でも出てくるクリフトの無意識の媚態に、猛烈に心が掻き乱されたからだ。
最初は傷つけずに抱こうと思っていたけど、もう構ってはいられなかった。
 クリフトは優しい。悩める若き勇者に体を提供するほどに。相手が僕じゃなくても体を許すほどに。

『何を呆けている。クリフトが逃げるぞ。』
 ピサロの声に我に返ると、クリフトがベッド脇にいる影が恐ろしいのか、必死に僕の下から這い出そうとしていた。
こんなことして何の意味があるんだ。どうせ部屋からは逃げられやしないのに。
クリフトはベッドからバランスを崩して床へと大きな音を立てて落下した。痛みでうずくまっている。
 とにかく彼を攻め殺せばピサロは満足するのだろう。僕がベッドから降りようとしたとき、クリフトの目線が何かを捕らえたのに気が付いた。
クリフトはそのままベッドの下へ腕を伸ばす。果たして出てきたのは、変化の杖だった。

 僕は次の瞬間、変化の杖を奪い取った。クリフトの目に力が戻り、すでに正気を取り戻しているのが分かる。
ヤバい。この人は妙に勘がいいところがある。

「誰でもいいんだろ?」

 咄嗟に出た僕の言葉にクリフトは目を見開く。
「お前は誰が相手でも悦楽に溺れるんだ。娼館の女よりもタチが悪い。」

 杖を振る。僕の体は再び姿を変える。クリフトは床の上で体を起こしたまま驚愕の表情をした。

96あやしいかげ 8/10:2008/03/04(火) 22:13:55
「やめて下さい。冗談が過ぎます…!」
 僕はその言葉を無視してクリフトに近づいた。クリフトは力の入らない体でなんとか逃げようとするが、すぐに僕に後ろから抱きすくめられ、「嫌です!離してください!」と必死に叫んだ。
僕の体は…いや、ライアンさんの体はビクともしない。クリフトさんは自分の最奥に当たる熱を感じたのか、「ひ…!」と引きつったような悲鳴を上げた。
そのまま僕はベッドに腰掛け、クリフトを僕の上に降ろした。胸が締め付けられるような悲鳴を上げ、クリフトが僕の、ライアンさんのモノを美味しそうに飲み込んでいく。
僕は萎えたクリフトのモノを絞り尽くすように愛撫した。
クリフトはその僕の手を外そうと手を掛けたきたが、何度か体を揺するとすぐに力が入らなくなり、後はただ僕の手の上に自分の手を添えているようにして一緒に動いているだけになった。

 やがてクリフトは小さく僕の名を呼び、水のような精を吐いた。
こんな状態でも僕の名を呼んでくれるのか。それだけで僕は自分の中の黒い感情が消えていくのを感じ、同時に沸き上がる罪悪感に目頭が熱くなった。

 クリフトから自分のモノを抜き、彼をベッドに横たえる。僕自身も何度か擦り、手の中に精を吐き出したが、一部、クリフトの腹部に掛かってしまった。
クリフトがぼんやりと目を開く。僕の顔を見つめる。そして、吐息に近い声で呟いた。

「あなたは何も悪くない。」

 僕は目を見開いた。いつの間にか僕の姿は元の姿に戻っている。クリフトはそのまま瞼を閉じた。
「クリフト…?」僕はクリフトを覗き込んだ。「クリフト!!」

「お前がやり過ぎて気絶してるだけだ。休ませてやれ。」
 影はピサロの姿に戻っていた。そしてまた僕にあの言葉を囁く。
「お前がやってきたことは、私がやってきたことと何ら変わりは無い。」

 僕は首を横に振った。
「それで大事な人が守れるなら、魔物になろうと構わない。」

 ピサロの眉がピクリと動く。僕は宿の備え付けの布でクリフトを清めることにした。しばらく部屋に沈黙が訪れる。

「…全く、人間というものはもう少し脆いものかと思っていたがな。」
 ピサロが突然笑いを含ませながら言うから、僕は驚いて布を取り落としそうになった。

「『あなたが安易に人間を滅ぼそうと考えたのが全ての元凶ではないのですか』」
 ピサロは顔を歪めた。「あの神官が言った言葉だ。」

97あやしいかげ 9/10:2008/03/04(火) 22:15:34
「お前に言ったのと同じ台詞をあの神官を抱きながらぶつけてやったんだ。
 痛恨の一撃を喰らった気分だった。
 確かにそのとおりだ。騙されていたとは言え、
 何故これほどまでに人間を滅ぼそうと容易く考えてしまったのか。」

 ピサロは肩をすくめてベッドに腰を下ろした。
「普段は私に大人しく抱かれているくせに、さすがに腹が立ったらしい。
 その後すぐに青くなっていたが、
 なんとなく癪に障ったので思わず責め殺してしまった。」

 僕はピサロを見つめ、彼が背負っているあらゆるものの重さに思いを馳せた。そしてその十字架を背負わせたクリフトさんに視線を落とす。
彼は青ざめた顔をして目を覚ます気配が無かった。
「クリフトさんは最後まで僕に気が付かなかった。もう2度と行為を強制しないでくれ。」
 僕の言葉にピサロは「そうか?」と笑みを浮かべた。

「この神官は早々にお前の正体を見抜いていた。ゲームは最初からお前の負けだ。」
「クリフトさんは何も言わなかったじゃないか!」
「『夜の帝王』だ。」
「は?」
「2度目に連れてきたモンスターは『夜の帝王』だった。
 本当にネーミングどおりなのか知りたくてな。」
 ピサロは笑みを浮かべたまま話を進める。
「この男はお前を試したんだ。しかし、マドハンドとはな!笑いを堪えるのが大変だった。
 ご要望にお答えして3匹ほど連れてこようかと思ったぞ。」

「あんたじゃない、と分かっても中身が僕だとは気付いてなかったかも知れない。」
「お前が自慰行為をさせた時、お前の名を呼んだ。
 まぁ、これは普段から達する時にはお前の名を呼ぶことが多いからな。
 お前がその事を知って喜ぶと面白くないから、今回はお前の名を呼びそうになったら首を絞めていたわけだが。」

 僕は自分の馬鹿さ加減を思い知らされた。なんとくだらない嫉妬をしていたのか。

98あやしいかげ 10/10:2008/03/04(火) 22:16:54
「じゃ、なんでクリフトさんは何も言わずに抱かれるままになってたんだ…?」
「訳が分からなかったんだろう。どうせ私に脅されてるか、
 自分の不貞にお前が怒り狂ってるか、
 それぐらいは察していたかも知れないがな。」

「ゲームはあんたの勝ちってことか?クリフトさんを解放してくれないのか?」
 僕が震える声で言うと、ピサロは指を鳴らした。再度破裂音が部屋に響き渡る。部屋の封印が解けたのだ。

「蘇生呪文を完璧に詠唱できる者が私以外にこの神官しか居ないからな。
 本当の元凶を倒す為には幽閉など馬鹿げたマネはできん。」

 ピサロはあっさりと言う。僕はポカンとピサロを見つめた。まさか、最初からその気が無かったとか?

「今夜はお前がこの部屋を使え。私はロザリーヒルへ向かう。」
「ロザリーヒル?何しに行くんだ。」
 ピサロは目を逸らした。「クリフトの為、もう一部屋用意しておこうと思ってな。」
 僕が思わず大声を出しそうになった瞬間、ピサロは「冗談だ。」とベッドから立ち上がった。
「急にロザリーに逢いたくなっただけだ。しかし最後まで面白かった。
 これで終わりなのは正直惜しいな。」

 ピサロが部屋から出て行った。僕はクリフトの清拭を終え、彼が目覚めるのを待った。
 僕はクリフトに全身全霊で謝るつもりだ。目が覚めたら泣くだろうか、それとも怒るだろうか。
 どちらにしても全て受け入れる。僕はクリフトの何を見ていたのか。早くクリフトと話がしたかった。


 ピサロがマドハンドを呼ぶのなら一度くらいは許してやってもいいかもな、と少し考えてしまったことはクリフトには絶対に内緒だ。

99名無しの勇者:2008/03/04(火) 22:18:01
以上です。どうもでした。

100名無しの勇者:2008/03/05(水) 19:41:34
ぬああああー続き的新作ゥゥゥ!!ktkr!!
ゴチです!

101名無しの勇者:2008/03/06(木) 23:36:55
キターーー!!!乙です!
栗ももちろん、一途な勇者も可愛いなぁー

102洋二郎:2008/03/07(金) 08:41:37
半信半疑で試したらマジだった件w
騎乗位してあげただけで万冊くれるとかww
最近の若者は分からんわww
ttp://jbbs.livedoor.jp/movie/8433/?Pz87rm4v

103名無しの勇者:2008/06/23(月) 01:28:17
勇クリです。エロさ少なめ。
トランプの模様(?)はうろ覚えです。

104運命のカード 1/5:2008/06/23(月) 01:30:49
 きっかけはエンドールのカジノだった。格闘場でマーニャさんが3連続の大当たりを出し、ハイテンションになったメンバーが嬉々としてベットを続ける中、僕はその中にクリフトが居ないことに気が付いた。そういや、クリフトはいつもカジノには入ってこない。
先に宿屋に戻ったのかな、と入口に目をやると、クリフトの姿が見えた。少し寂しげに見えたその姿に、他のメンバーは全く気が付いていない。
僕はそっとその場を離れ、クリフトに近づいた。

「クリフト、どうしたの。マーニャが妙にツキまくって変なテンションになってて面白いよ。
 見にくりゃいいのに。」
 声を掛けると、クリフトは「いえ、さすがにこの姿では目立ちますから。」と首を横に振った。
なるほど、神官が格闘場で狂喜乱舞している姿は確かにあまり人にはお見せできないだろう。
「じゃあ、着替えてきなよ。僕の服貸してあげるからさ。」
「いえ、あの、賭け事自体、教えに反しますから。」
「えー、じゃあ、なんでここへ来たのさ?」

 僕にとっては特に何の意味も無い質問だったのに、クリフトが思いきり動揺した表情になったのに驚いた。
目が何度か言い訳を探すようにさ迷い、「すみません!宿屋に戻っていますから!!」と身を翻した。
「えー、ちょっと待ってちょっと待ってよ、クリフト!ごめん、僕、何か悪いこと言った?」
 とっさに腕を掴むと、クリフトは目を見張り、「いえ、勇者さんは悪くありません。」と申し訳なさげに言い、小さな声で、
「カードゲームが気になりまして…」と呟いた。
「え、何、ポーカーやりたいの?」

 僕の問いにピクリと肩を震わせ、観念したように顔を上げて、恥ずかしげに微笑んだ。
 ああ、もう、可愛いなぁ、この人。どうしてこういう事が素でできるんだろ。

「マーニャさんが以前、ポーカーをやっているのを後ろで眺めていたのですが、役を作っていくのが面白そうだな、と思いまして。」
「いいじゃない!やろうよ、ポーカー。」
 掴んだ腕をそのまま引っ張ると、クリフトは「いえ…」と僕の腕をやんわりと解いた。
「賭け事できないんです。ごめんなさい。ありがとうございます。」
「クリフトってそうやって何でも我慢しちゃうの?人生の半分損して無い?」
 思わず出た僕の言葉にクリフトの顔が面食らったように目をみひらいたけど、すぐに「気を悪くされましたか?」と不安げに僕に聞いてきた。
何、その反応。我慢している、という認識が無かったのか?

「分かった、分かったよ、クリフト!」
 僕はハァー、とため息をついた。
「僕、カード借りてくる。教えてあげるから宿屋で一緒にポーカーしよう。」
 その時のクリフトの顔は忘れられない。一瞬、ぽかんと僕を見つめて、
「え、あの、いいんですか?カジノを楽しまれなくても?」
と早口で僕の意思確認をし、僕が再度「マーニャかミネアがカード、持ってたし」とうなづくと、こちらが驚くほどの笑顔になった。

105運命のカード 2/5:2008/06/23(月) 01:32:47
「はい、ストレート。」
「スライムのフラッシュです。」
「!!」

 僕はガクリとうなだれた。お互いのベッドに腰掛け、サイドテーブルを間に挟んでポーカーを始めたのはいいけど、実はこれで3連敗だ。
クリフトはニコニコとカードを切りながら、
「本当に面白いですね、このゲーム。もっと早く教えてもらえば良かったです。」
と、カードを再び配り始めている。

 クリフトはポーカーの役や強さの順番をすぐに覚えた上に、慣れてくると異様に強かった。クリフトは表情豊かだし、思考を読むのは簡単だと思っていたけど、生憎、ポーカーができる喜びからか、終始笑顔を浮かべたまま、表情を崩さないのだ。
そういや、元々僕よりも魔力や運の強さも上だったな。今度、カジノに強制連行してやる。
 幸せそうに微笑み続けるクリフトを眺めていると、ふと、いい考えが思い浮かんだ。そうか、動揺させてみればいいんだ。

「クリフト、何も賭けてないとつまらないよ。」
「はぁ、でも、先ほども言いましたけど、賭け事は禁じられていて…」
 向かいのベッドに腰掛けているクリフトは困ったように眉根を寄せた。

「お金じゃなくてさ、負けた方が勝った方の言うことをきくってのはどう?」
「え?そんな、勇者さん、無理難題を言うつもりじゃないでしょうね?」
「無理難題なんかじゃないよ。僕が勝ったらクリフトを抱くだけだから。」
 クリフトは息を飲んだ。笑みが消え、みるみる青ざめていく。

 過去、僕は1度だけ嫌がるクリフトを無理矢理抱いたことがあった。最後には十分悦ばせたつもりだったけど、本人は結構ショックだったらしく、
「お酒に酔ってらしたからですよね?」と事故に遭遇したかのように、忘れようと努力しているようだった。その様子は僕にも衝撃を与えた。別に軽い気持ちで彼を抱いたわけではない。
こんな風に何もかも無かったことにされるくらいなら、忘れられないように何度も繰り返すまでだ。

「冗談はやめてください…」
「冗談なんかじゃないって。この前もそう言ったろ?僕はクリフトを好きだから抱く、それだけだ。」
「わ…私なんかを抱いて、何が楽しいのか分かりません。」
「僕だって何でこんな気持ちなのか分からないよ。でもクリフトが最後に僕にせがんでくれた時、すごく幸福になれたよ。」

 ガタン!とサイドテーブルを鳴らしてクリフトが立ち上がった。顔が赤いんですけど。どうしよう、可愛いな、畜生。

106運命のカード 3/5:2008/06/23(月) 01:34:17
「こんな賭け、私は認められません!もう今日はやめにしましょう。」
「クリフトが勝ったら、もう2度とこんなことは言わないよ。約束する。」

 目を逸らしていたクリフトが弾かれたように僕を見下ろす。正直、そんな約束守る気は無かったけど、クリフトには絶大な効果を発揮したらしい。
ここでゲームを降りたら、僕がクリフトを求めることを今後も許すことになるのだ。クリフトは泣きそうな顔で再びベッドに座る。僕は内心、気合を入れ直した。
「じゃあ、ここから3勝した方が勝ち。OK?」
 クリフトに確認すると、怯えたような顔でこくりとうなづいた。
よし、ゲーム開始だ。

 そこからはもう、面白いようにクリフトはボロボロになった。配られたカードを見て、色の白い顔をますます白くさせ、僕の笑顔を見てはビクリと大きく体を震わせる。
「ツ…ツーペアです。」
「騎士とクイーンのツーペア。はい、こっちの数字がでかいから僕の勝ちね。」
 こんな小さな役で勝てるとは。続けて今度はクリフトが勝利する。1勝1敗となったクリフトは、それでも見ていて気の毒になってくるほど手を細かく震わせていた。

「スリーカードです。」
「お、こっちはただのワンペアだ。クリフトの勝ちだね。」
 2勝したクリフトがホッとしたように笑顔を浮かべる。そんなに嫌なのか。分かる気はするけど、やっぱり腹が立つ。

「ソードのストレートです。」
「おっと、ごめん。フルハウスだ。」
 クリフトが「ひっ!」と喉を鳴らした。2勝2敗。次で勝負が決まる。
「も…もう、いいです。やめにしませんか?」
 耐え切れなくなったのか、クリフトが訴えるように僕に詰め寄った。キスできますけど、今は見逃してあげます。
「やだよ。それとも勝負を捨てて、僕に抱かれてくれるの?」
 僕の言葉にクリフトはグッと詰まって身を引いた。目が少し潤んでいる。手が震えてカードが上手く切れないから、僕が代わりにカードを配布した。
「私は…修行中の身です。恋愛はご法度なんですよ。」
 クリフトはわずかに震えた声でおずおずと言った。僕はカードを配り終えた。
「僕は僧侶じゃないから。」

107運命のカード 4/5:2008/06/23(月) 01:38:46
 僕はカードを確認する。ワンペアだ。やばい。表情を変えないまま、クリフトをチラリと見ると、クリフトはカードを手に取らず、まだ僕を見つめていた。
目が合った瞬間、泣きそうな顔で慌ててカードを手に取った。少し、表情が緩む。うわ、いい役だったのかな。こうなったら心理戦だ。

「人間、いつ何が起こるか分からないんだ。
 僕は二度と後悔したくない。欲しいものは絶対手に入れる。」

 僕はすでにいい役が固まっているフリをして1枚だけカード交換した。ラッキー、ジョーカーだ。これでなんとかスリーカード。
クリフトの目線は僕の顔とカードを何度も行き来した。さぁ。無駄な勝負に出ろ、クリフト。
今の「ほどほどいい役」を捨ててしまえ。
 クリフトはギュッと目を瞑った。顔は青ざめているけど、鼻先が赤い。ああ、泣かしちゃったか。
クリフトが震える手で1枚、カードを捨てた。カードの束から1枚抜いて、それを見た瞬間、

 彼は驚愕したように大きく体を震わせた。

「あ…あぁ…!」
 クリフトの手からカードが全てこぼれ落ちる。軽いパニック状態に陥ったようで全身を震わせていた。
「クリフト!」
 クリフトの腕を掴むと、クリフトはすでに涙を流して「い…今のゲームは無効です…」と搾り出すように言った。
「それは無理だ。約束だよ。」
「でも…でも、私の…!」

 無駄な抵抗をするクリフトの唇を自分のそれで塞いだ。自分の気が済むまで何度もキスを繰り返し、そのままベッドに押し倒す。
キスのせいで虫の息になったクリフトの服をさっさと身包み剥ぐと、クリフトは恐怖で硬直していた。

「…そんなに怖がられちゃ、ちょっと傷つくんだけど。」
「い…今の…ゲームは…無効にしてください…。」
「まだ、そんなこと言うんだ!?」
 涙目で訴えられたら、こちらも惚れた弱みもあるし、心が咎めてしまう。僕は彼の上に乗ったまま、サイドテーブルに手を伸ばした。
 クラウンのキング、クイーン、騎士、10。え、これ、まさかのロイスト!?最後のカードは…!?


「THE HANGED MAN」


「うっわ、これ、タロットじゃん!」
 ミネアから借りたから混じっちゃったのかな。裏面も良く見るとサイズだけしか合ってなくて他のカードとデザインも違った。

108運命のカード 5/5:2008/06/23(月) 01:42:40
「その…そのカード、どういう意味ですか?」
「え?」
 クリフトは僕にすがるような目で見上げてきた。

「こんな…こんな状況で出てくるなんて、何か神からの啓示としか思えません!
 『吊るされた男』なんて!
 な…何か、不吉な意味でもあるんでしょうか?」
「や、でも、成位置みたいだし。これは苦行に耐えて出た結果を…」

 ミネアからの受け売りを説明しようとして、僕は気が変った。ベッドに散乱したクリフトの着衣からベルトを手に取り口に咥えると、クリフトの両腕を掴んだ。
縄結びの速さは旅を始めて身に付いたものだ。
「え?え?何を…」
「こんなのが神の啓示なら、そういう姿で頑張りなさい、ってことじゃないの?」
「そんな!」
「拘束はベッド柵が定番だけどねぇ。今日は後ろからいっとこうかな。」
「なに?何の定番ですか!?後ろって何!?…あぁぁっ!」

 体をすっと撫で上げるだけでクリフトはまるで僕を煽るように細く悲鳴を上げて、背中を仰け反らした。これで無意識の行為だから恐ろしい。
「終わったら、説明してあげるよ。ちゃんと意識を飛ばさずに居てくれたらね。
 さて、みんなが帰ってくるといけないから、とりあえず、この部屋には鍵を掛けておくね。」
 
 始めは辛いけど、いつかは報われる。気長に考えろ…だったかな。あとは「自己犠牲」。最近の僕の状況にも、クリフトの状況にもピタリと当てはまる。
さすがはミネア。居なくても占いをピタリと当てちゃうんだもんなぁ。
 少し冷えたクリフトの体を後ろから僕が抱きしめた時、クリフトの体の震えが少しマシになったのが救いと言えば、救いかな。諦めただけかも知れないけどね。

109名無しの勇者:2008/06/23(月) 01:44:21
以上です。どうもでしたー。

110名無しの勇者:2008/06/24(火) 00:29:28
勇クリきてたー!
クリフトかわいいです。ゴチでした。

111名無しの勇者:2008/07/11(金) 00:31:18
新作きてたー!ヽ( ゚д゚)ノヽ(゚д゚ )ノ2人ともかわいいよ!!
乙でした!!

112名無しの勇者:2008/07/20(日) 23:55:57
「前は…ホイミスライムを連れてきて…!もう連れてこない、と言ったのに、次に連れてきたのはマドハンドだった…!」

このあたりの詳細をお聞かせ願いたい。
と言ってみるテスト。

113108:2008/07/24(木) 00:22:07
>110
>111
ありがとうございます!

>112
のんびり待っててくれるなら夏休みの課題だと思って書いてみます。

114108:2008/07/28(月) 00:09:03
…すみません。のんびり待ってて、と言いながら、書き始めたら3日間で書き上げちゃいました。
ピサクリ前提のホイミスライム×クリフトです。
触手、書き方が良く分からず、勢いで書いてます。

115108:2008/07/28(月) 00:15:24
「無理なさらないでくださいね、クリフトさん。
 今はマシになりましたけど、朝はひどく疲れた顔でしたよ?」

 戦闘が終了したところで、ミネアさんへの交代を断った私に、彼女は顔に疲労の色を浮かべつつも心配してくれている。
戦闘終了後の回復はほぼ彼女が担ってくれているから魔力が乏しくなってきているのはお互い様のはずだった。
「大丈夫です。高いところも終わりましたし、ここから先は安心して歩けそうですから。」
 冗談めかして言うとミネアさんはクスッと笑い、「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらいますね」と馬車の中へと引っ込んだ。ちなみに現在は隠しダンジョン探索中だ。

「大丈夫ですかな、クリフト殿?」と先頭を歩いていたライアンさんが振り返る。
「心配しないでください!さあ、行きましょう。」

 笑顔を作り、ふと振り返ると無表情でこちらを見ているピサロさんと目が合った。ビクッと体が振るえ、慌てて目を逸らして歩き出す。
 そうだ、気付かれてはいけない。私がここ最近3日と置かず、彼に体を提供していることを。

 ダンジョンの角からモンスターが数匹現れた。私は腰に差してあった魔封じの杖を素早く抜き前方へ大きく振るった。魔法を封じられた魔物たちが力任せに襲ってくるのを前衛でライアンさん、ピサロさん、勇者さんが応戦してくれている。私も杖をベルトに差しなおすと素早く背中に背負った剣を抜いたが、すでに半数以上の魔物が倒されていた。
ピサロさんが仲間になってくれたおかげで最近は後衛に居る事が多い。炎などのブレスを吐く魔物さえ出なければさほど大怪我をすることも少なくなった。
 だから、おそらく油断していたのだと思う。すぐ背後にモンスターが迫っていたことに気が付かなかったのだから。
鞭のように風を切る音を立て、剣を持っていた手を弾かれ、ギョッと振り返るとそこに居たのはベホイミスライムだった。

 心臓が止まるか、と思うほど体が恐怖で萎縮したせいで2撃目は脇に入ってしまい、横へ吹っ飛ばされて馬車に体が衝突、中から女性陣の短い悲鳴が聴こえた。
驚かせてしまったことを申し訳なく思いつつ体を起こせば、3撃目のためにベホイミスライムが長い触手を再び持ち上げるのが見えた。ダメだ、これも防げない。

「何やってんだ、クリフト!」
 前衛からひとっ飛びで走りこんできた勇者さんが一撃でベホイミスライムを仕留めてくれた。

「ありがとうございます…。」
「あんなのに何ボコられてんだ!何の為にはぐれメタルのフル装備渡してると思ってんの!?」
 勇者さんに一喝され、私は「す、すみません!」と慌てて立ち上がった。
「おかげでダメージはそれほど受けてません。」
「そういう意味じゃ無いだろ!」
 確かに今の行動はまずかった。べホイミスライム相手に吹き飛ばされるなんて、昨日までの私ではあり得なかった失態だ。
「まぁまぁ、私もホイミスライム系を倒すのは未だに迷いますからなぁ。あいつを思い出してしまって…。」
 ライアンさんが間に入ってくれたが、フォローが的を得ていない。しっかりしなくては、と自分自身に言い聞かせ、
「いきなりで驚いてしまったんです。今後、気をつけますから。すみませんでした。」
と、勇者さんの叱責を封じた。勇者さんは「どうしちゃったの?」という目でしばらく私を見つめていたが、
「…傷、深かったら治しといてよ?じゃあ、出発しようか。」
と肩をすくめ、私に背中を向けた。パトリシアが動き出してから、私は馬車の中へも「驚かせてすみません。」と声を掛け、気持ちを奮い立たせるように一歩目を踏み出した。

 大丈夫、大丈夫だ。「通常」ならホイミスライム系はそれほど強くないし、攻撃以外のことなんてしてこない。また自分自身に言い聞かせるように心の中で呟き、顔を上げた時、再びピサロさんと目が合った。

 微笑んでいる。

 私は再び恐怖心で縛られそうになり、ギュッと杖の柄を握り締めた。もうダメだ。これ以上は耐えられない。もうダメだ。もうダメだ。これ以上は耐えられない…

116ツワモノ 2/5:2008/07/28(月) 00:20:35
↑ すみません、タイトル入れるの忘れてました…。
↓ 続きです。


 これ以上は耐えられない…。

 昨夜、私はピサロさんの部屋の前に立ち、いつものように心に沸く恐怖心と戦っていた。宿屋に泊まる度にピサロさんに呼び出されていて、もうこれで3度目だ。
人間を抱いたことが無い、というピサロさんに、他の仲間には手を出さない、という交換条件で始めたことだが、1度目はもう死ぬか、と思うほど凄まじかった(実際一度は死んだらしいし)。
2度目は驚くことに私が話す神の教えを、1時間何もせずに興味深そうに聴き入っていた。まぁ、途中で飽きてきたのか、説法を続けるように言うと、そのまま私を着衣ごしに触りだして泣いて頼んでもやめてくれなかったのだが。
 私は自室から持ってきた聖書に視線を落とした。中で何をされるか分かっているのに、それを阻止する術が分からない。いつも悩んだ時は聖書を読んで様々な苦難を乗り越えてきたが、今回ばかりは解決法が分からなかった。
ページをめくる度、ピサロさんにされた事を思い出すのだから、集中して読めるはずも無い。

 私が何度目かのため息をついた時、突然、扉が勢い良く開いた。とっさの事に反射的に身を引いたが避けきれず、鼻先に扉が直撃した。
痛みのあまりに左手で顔を覆った次の瞬間、右上腕に何かが絡み、扉の中から思いっきり引っ張られた。バランスを崩して部屋の中に倒れこんだ私の背後で扉がまた勢い良く閉まる。
ピサロさんの仕業かと鼻を押さえつつ顔を上げると、部屋の奥のベッドで腰掛けている姿が見えた。今日は裸じゃない。私が手にしていたはずの聖書が吹っ飛んでしまったようで、彼の足元に何度も回転しながら滑り込んでいく。
 聖書を拾い上げるピサロさんを見上げつつ、では今、私を引っ張り込んだのは誰だったんだろう、とぼんやり考えた。パシン!とまた空間が閉じられる音がする。
これで、当分の間、この部屋にはどれだけ叫んでも誰も入ってこなくなるのだ。

「部屋の前で突っ立ったままいつまで待たせるんだ。」
「あの…頻度が高すぎませんか?
 魔族の方は普段どれだけなのか存じ上げないのですが、さすがに辛くて…。」
「終了後、全快させているはずだが?こちらは毎日でも構わな…」
「無理です!絶対無理ですから!!」
 私は床に座り込んだまま慌てて言った。「き、気持ちの切り替えができなくなるのです。」
「ほぅ。」
 ピサロさんは興味深げに私を見つめる。「昼間でも貫かれている気分になるということか?」
「そ、そんなあからさまに…。」
 私は顔が火照るのを感じた。ピサロさんはじぃっと考え込んでいる。

「…試してみたいが、この旅が落ち着いてからの方が良さそうだな。
 分かった。今後、もう少しペースを落としてやろう。」
「ありがとうございます…。」
 礼を言いつつも、旅が落ち着いてから、ってどういう意味だろう、真の敵を倒すまで、って言ってなかったっけ?と不安な気分に陥った。
「ところで、この本は何だ?」
「あ、それは聖書です。神の教えが書かれています。
 興味がおありのようだったので、読んでいただこうかと思いまして。」
「ふーん。」
 興味無さげに鼻を鳴らし、ピサロさんはベッドに腰掛けたまま、ページをめくり出した。私は途端に手持ち無沙汰になり、床に座ったままでピサロさんを眺めていた。

 頭上に異様な気配を感じたのはその時だ。

117ツワモノ 3/5:2008/07/28(月) 00:24:02
 つま先で床を蹴り、部屋の奥へ飛んで振り返ると、先ほどまで座っていた場所に、ビチャビチャビチャ!と大きなクラゲのお化けのようなモノが降ってきた。
ホイミスライムだ。しかも3匹も。表情が掴めない3つの顔がじぃ〜と私を見つめている。私は立ち上がって剣を抜こうとしたが、すでに武装解除していて、手が空しく空を切った。

「さすがだな。顔面に落としてやる予定だったんだが、猫並みの反射神経だ。」
 ピサロさんが笑みを浮かべて私に顔を向けた。
「何の目的で、こんな事!?」
「無論、お前を襲わせるつもりだったんだが。」

 ホイミスライムは普通のものより一回り大きめだった。3匹は顔を見合わせ何か呟きあっている。
「…これ、いつも見かけるホイミスライムよりもレベル高くないですか?」
 ホイミスライムから目を離さずに訊いてみると、視界の端でピサロさんが枕の下から金色に光る腕輪を取り出すのが見えて、思わず振り返ってしまった。
「そ、それって、黄金の腕輪ですよね?」
「進化の秘法でレベル60前後に成長させてみた。」
「そんなことに使わないでください!」

 ホイミスライムから目を離した瞬間、私の左足に1本の触手が巻き付いて引っ張られた。転倒した私は、そのまま3匹の元へと寄せられる。
抵抗しようとした両手を別の触手で拘束され、触手という触手が首や足首や胴回りに絡みつき、私は一気に体が恐怖で凍りつくのを感じた。粘液が体にまとわりつき、生理的にも嫌悪感が湧き上がるのを抑えられない。
力を込めて引っ張っても何本も絡みついた触手はビクともしてくれなかった。数本の触手が着衣の裾から入ってきて直接胸部に触れ、心臓の上で這い回った。

 殺される…!

「助けてください!助けて!!」
 私の叫びにピサロさんは聖書から顔を上げ、私の姿を眺めると「もう少し経ってから呼んでくれ。」と再び視線を戻した。
「お、お願いします…!う、うわッ!」
 触手が私の脇腹をなぞっていく。体を仰け反らせた私は、今度は背中を背骨に沿ってなぞられ、「あああぁぁっ!」と声が漏れた。自分で思ったよりも大きな声が出て、途端に気恥ずかしくなったが、それを恥じ入る隙すら与えられず、耳やら脇やら胸部やらを何本もの触手で触られ続けた。声を堪えようと歯を食いしばっても、意識が体に容赦無く与えられ続けている愛撫に流され、思考に霞が掛かってしまう。

 …愛撫。自分の中で浮かんだ言葉にハッと我に返る。そうだ、このホイミスライムには私を殺す気が無い。私の体を弄んで、私の体の熱を一方的に上げようとしているだけだ。
一体だけならなんとか素手でも抵抗できただろうが、複数で来られると為す術も無い。それを全て考えた上で、ピサロさんは3匹もここへ連れてきたのか。

 触手がズボン越しに下肢の付け根あたりを触れてきて、私は背筋が凍りついた。嫌だ、こんなのに触れられるのは嫌だ。こうなったら3匹まとめて…

「ザラ…ッ」

 口を開けた瞬間、2本の触手が私の口腔に飛び込んできた。

118ツワモノ 4/5:2008/07/28(月) 00:26:24
 舌を絡めとられ、口腔内を這い回られる。噛み付こうとしても力が入らず、粘液の苦味が口に広がった。
 強い悦楽を耐える事も逃がす事もできず、ただ私は喘ぎ続けるだけの生き物となった。粘液とも唾液とも分からぬものが口の端からこぼれ出て、私の胸に落ちた。
上着はもうとっくに脱がされ、ズボンも下着ごと破かれた。両下肢を強引に開かされ、拒否を口にしようとしても「ううぅぅん!」と鼻に掛かった情けない声しか出ない。
私は朦朧とする意識の中で、それでもまだしぶとく逃げる方法を必死で考えていた。視線をさ迷わせ、ふと、ピサロさんが聖書を読むのをやめて、こちらを見ているのに気が付いた。

「た…助けて…」

 絡め取られた不自由な舌を動かし、なんとか言葉を紡いだが、ピサロさんはピクリとも動かず、こちらを静かに見つめているだけだった。その視線は、私を現実に戻すのに十分有効だった。
こんなに乱れ、喘ぎまくっている姿を、いつから彼は眺めていたのか。いや、声は最初から聴こえていただろう。羞恥の余り、足を閉じようとしたが、全く動かす事ができなかった。
 触手が、私の持ち上がった物に絡みついた瞬間、私は大きく体を震わせ、か細く悲鳴を上げた。勢い良く出た私の精が床に飛び散り、パタパタパタ、と音を立てた。
堪えていたはずの涙が頬を伝う。もう、羞恥の涙なのか、快楽のための生理的な涙なのか、自分でも分からなかった。触手は再び、私の物を捉えている。
私はまた大きく体を震わせ、自分でも情けないくらい力無い声で小さく喘いだ。

 長い触手が持ち上がり、ゆっくりと私の下肢へ近づく。その目的地が分かり、私は泣きながら首を振り、何かわめいたようだが、もう、自分でも何を言っているのか分からなかった。
頭の中が混乱し、逃げ出したくて力の入らない体を必死に動かそうとしたが、ホイミスライムの拘束は緩むどころか益々強くなり、与えられ続けている愛撫も激しくなるだけだった。
 かすかな抵抗を物ともせず、触手はズルリと私の内部に入ってきた。自在に動くそれに私は再び一気に昇り詰めさせられた。ホイミスライムが私の顔を覗き込む。
私は藁をもすがる思いでホイミスライムにまでもう行為を止めてくれるよう拙い口調で哀願してみたが、願いも空しく、再び精を吐き出さされた。私は呼吸困難に陥り、笛のように喉を何度も鳴らした。
意識が闇に飲まれようとしており、私はもう抵抗せず、そのまま気を失うことにした。

「ホイミ!」

 暖かな空気が私を包みこむ。私は意識を取り戻した。触手の動きが止まっている。

「え…?」
 私はホイミスライムを見つめる。3匹のホイミスライムは私が覚醒したのを確認すると、再び活動を再開した。
「嘘…そんな…。」
 再び体の芯で触手が蠢き、自分でも不思議なくらい体が跳ねた。全身を弄ぶような愛撫が続き、水のように薄い精を吐き出す。

 あとは、もう、何も考えられなくなった。

119ツワモノ 5/5:2008/07/28(月) 00:30:57
 前方を肩を落として歩く若い神官を眺めながら、さすがにやり過ぎたか、と私は昨夜の事を思い出していた。


 ホイミスライムが何度目かの回復呪文を唱えようとしたのを止めて、私はぐったりとホイミスライムに身を預けているクリフトに近づいた。私は触手の拘束を緩めさせ、クリフトを眺めた。
この男は今、自分がどれだけ淫らで卑猥で悩ましい姿をしているのか分かっているのだろうか。口腔内から触手が抜けた途端、苦しげに顔をしかめ、激しく咳き込み始める。
 私が上位の回復呪文を唱えると、短めの睫毛を震わせ、クリフトは薄く目を開けた。再びホイミスライムたちが次々と彼の顔を覗き込む。クリフトの目の焦点が合った。

「うわあああぁぁぁぁ!!!!」

 恐怖で顔を歪め、拘束が緩んでいることでクリフトは触手の束から抜け出した。クリフトは立ち上がろうとして床を濡らす粘液に足を滑らせ倒れたが、私の存在に気が付くと泣きそうな顔で必死にこちらに向かってきた。
殴りかかるのか、と思いきや、クリフトは私の背後に周り、左足にすがりつくと、「助けてください…!」と小さく呟いた。血の気が引いた顔で、体をガクガクと震わせている。
 ホイミスライムたちはまた、顔を見合わせ、ズズッとこちらに近づいてきた。「ひぃッ!」とクリフトは喉を鳴らし、ギュッとこちらの衣服を震える手で強く握り締めた。
 私は涙で目を濡らしたクリフトをしばし見下ろしていたが、指を鳴らし、別の空間へホイミスライムたちを飛ばした。クリフトはしばらく体を強張らせ、やがて脱力して私の足から手を離した。
「もう…モンスターは呼ばないで下さい…。」
「……。」
 沈黙で返した私に、クリフトはやや強めの口調で同じ事を繰り返した。私は肩をすくめ、「分かった分かった。もうホイミスライムは呼ばん。」と約束する。

「ホイミスライムだけじゃありません!」
「今日初めてお前を愛しく思った。神官という職種は皆、そんなに愛らしいものなのか?」
「え?」
 クリフトは面食らった顔をして、「きょ…今日の私のどこにそんな要素を見出したのか…私には解りかねます…。」と眉根を寄せ、怯えたように顔を逸らせた。
身の危険を感じたのか、立ち上がろうとしてまたバランスを崩す。
どうやら腰が抜けているらしい。シャワールームに向かおうとしているようだったので、私はひょいとクリフトを担ぎ上げた。クリフトは体を強張らせた。

「ひ、1人で大丈夫です。降ろしてくださ…」
「おとなしくせねば腕をへし折る。」

 クリフトはギョッと私の顔を見上げ、やがて諦めたように私に身を任せたのだった。


「ちょ…!なんでこんな場所にホイミスライムが居るんだよ!?」

 勇者の言葉で我に返った私の視界に、ダンジョンの天井からボトボトッとホイミスライムが3匹落ちてきたのが映った。
「こやつら、異様にレベルが高いようですぞ!?」
 勇者とピンクの戦士の会話で、これらが昨日、どこかへ飛ばしたLV60のホイミスライムたちだ、と思い至る。こいつはやっかいだな、とクリフトを振り返った。

「ザラキ!」

 容赦の無い死の呪文を喰らい、ホイミスライムたちはもんどり打って倒れていく。
 クリフトはつかつかとホイミスライムに歩み寄り、剣を抜くと、躊躇する事無く3匹に次々と剣を突き立て、足で転がし生死を確認した。

「…絶命しました。行きましょう。」

 呆気に取られている2人に声を掛け、クリフトは馬車の横の定位置に戻る。剣を戻そうとして、粘液に汚れているのに気が付くと、ピクッと動きが止まったが、イラついたようにブンッと剣を振るって鞘に戻した。
私は笑いを堪え、先頭に立って馬車を出発させた。

 人間というのは実に興味深い生き物だ。滅ぼすには惜しい存在なのかも知れないな。

120名無しの勇者:2008/07/28(月) 00:32:16
以上です。相変わらず長々とすみません。

121名無しの勇者:2008/07/28(月) 00:53:41
リクエストした者です。こんなに早く読めると思ってなかったので驚きです!
ああぁ、やっぱりクリフト可愛い(*´Д`)ハァハァ
もう連れてこないでって言ってるのに、この次はよるのていおうなんですね。
しかしピサロがモンスター呼ぶ気持ちもワカル…。

122121:2008/07/28(月) 18:10:48
お礼を言うのを忘れていました。
リクエスト答えてくださってありがとうございました(*´∀`)ノ

123119:2008/07/28(月) 22:49:06
いえいえ、こちらこそ、読んでもらってるんだな、と嬉しかったですよ。
ありがとうございます。

124名無しの勇者:2008/11/02(日) 11:20:38
ライ×ホイです。
※最後に僅かに性描写あるのでイメージ崩れるのが嫌な人は避けてください。
※ホイミン誘い受け
※ホイミン転生説があるそうで、それをベースにしています。
 だから一度ホイミン死んじゃいます。ごめんなさい。

125さよなら ライアンさん 1/6:2008/11/02(日) 11:27:34

 僕 ホイミン。今は ホイミスライムなの。
 でも 人間になるのが 夢なんだ。
 ねえ 人間の仲間になったら 人間になれるかなあ……?


 今まで自分の酒の強さにこれほどうんざりした事は無く、酒場の席を立つ事にした。
強い酒をいくら飲んでも、ヤツを忘れる事など出来やしない。そんなことは分かっているつもりだが、それでも止められなかった。

「ダンナ、さすが戦士さまだわねぇ!こんなに飲んでも顔色ひとつ変りやしない!」
 酒場女がウットリした顔で声を掛けてきた。「ねぇ、部屋で一緒に飲みましょうよ。」
 女でも抱けば、ヤツを忘れられるか、と思ったが、なんだかそんな気持ちにもなれず、首を横に振った。
「いや、残念だが、明日に大仕事が待っているんでな。」
 私は酒代を女に渡した。「生きて帰ってきたら付き合ってくれ。」
「アンタも死にたがりなの?」
 女は肩をすくめ、あっさり引き下がる。
「昨夜も旅の吟遊詩人がモンスターに殺されにいったのよ。」
 足を止めた私に、女は自分の話に興味を持った、と思ったらしい。
「恋人がモンスターに捕まって殺されたらしいわ。後を追って死のうと思ったのか、何の装備もせずに街の外へ出て行ったのよ。バカよね。」
「知っている。」
 私は足早に酒場を出た。そのバカにホイミンは犠牲になったのだ。


 ホイミンは勇者を探す途中で仲間になったホイミスライムだ。モンスターのくせして言葉を操り、人間になるのが夢だ、と言っていた。
魔力が無く回復手段を持たぬ自分にとって、人間になる方法を探す為に旅に出たい、というホイミンは渡りに船だった。
内心、モンスターが人間になどなれるはずが無い、と思っていた。

「ライアンさん、ライアンさん!
 今日はとってもいい天気だからひなたぼっこでもしようよ。」

 子供のように無邪気に私の名を呼び、自分の感じた事を素直に口にする。旅が長引くにつれ、正直、ホイミンをかばって戦い続けるのは辛い、と感じることもあったが、険しい旅の間、気持ちを和ませてくれたのはホイミンの温かく柔らかい言葉の数々だ。
長い間、共に旅をするうちに、ホイミンがこれからも自分のそばに居続けてくれれば良い、と望むようになった。もし、本当に人間になれたなら、私の養子になれば良い。
 ホイミン自身の考えは聞いたことが無かった。だからあの日、この町に来る途中でふと気になって聞いてみたのだ。青く晴れ渡った、静かな日だった。

126さよなら ライアンさん 2/6:2008/11/02(日) 11:30:31
「もし、人間になれたら…?」
 ホイミンは首を傾げ、私を見上げて、顔を逸らした。「秘密!」
「ホイミン、何かやりたいことがあるのか?」私は内心、慌てて聞いてみた。
「うん。でもライアンさんには内緒だよ。」
 えへへ、とホイミンは笑ったが、私は逆に不安感に襲われる。
「…ホイミンさえ良ければ私の元に来ればいい、と思っていたのだ。」
「ライアンさん…!?」
 ホイミンは立ち止まった。
「ホイミン…もし、ホイミンさえ良ければ…私の子として…。いや、人間になってからじゃなくてもいいのだ。」
 ホイミンは立ち尽くしている。沈黙が怖くて私は喋り続けた。
「母親が必要なら、城で私のことを慕って帰りを待ってくれている女もいる。寂しい思いをさせたりはしな…!」
 私は言葉を切った。ホイミンが私の足にしがみ付いてきたからだ。綺麗に澄んだ目を涙でにじませて私を見上げてきた。
「ありがとうライアンさん…。僕、本当に嬉しい。でも、僕…!」

 甲高い魔物の鳴き声が聴こえたのはその時だった。声のした方を見ると、丘の上で誰かがライオンのような魔物に襲われていた。吟遊詩人のようで、どうやら得物を持っていないようだ。
私は舌打ちをした。バカめ!殺されたいのか!!丘を目指して走ろうとした時に、別の魔物が私の前に立ちはだかった。私はホイミンをかばうように立ち、剣を抜く。

 男の悲鳴が聴こえた。振り向くと吟遊詩人が崩れるように倒れる姿が見える。
「いけない!」ホイミンが私の脇をすり抜けた。

「ダメだ!ホイミン、戻れ!!」
「でも、あの人、動かないよ!早く手当てをしないと、僕、蘇生魔法が使えないんだから!!」

 ホイミンはよくその足で、と感心するほど素早く丘へと向かっていく。私はホイミンを心配しながらも目の前の魔物に意識を集中させた。一太刀を相手に浴びせ、さっと身を引く。
ホイミンの詠唱が聴こえてきて…途切れた。

 魔物を倒し、丘へと駆けつけた私は、ホイミンが物言わぬ屍になっているのを見つけた。魔物は姿を消していた。
 何度もホイミンの名を呼んだが、声も鼓動も聴こえず、私はうろたえ、ホイミンを抱き寄せた。

「ホイミン…私の家族になってくれ…」

 ホイミンの体がくたりと何の抵抗も無く私の腕の中に納まっている。「嘘だ…ホイミン、嘘だろう?」
 返事が無い。その代わり、足元で呻き声が聴こえた。吟遊詩人の男だ。まだ息がある。ホイミンが助けようとした男だ。なんとか救わねば。
 この時ほど、自分が回復呪文が使えないのを苦しく思った事は無い。私はホイミンを左肩に、男を右肩に担ぎ上げると、もう目の前に見えていた町へと大急ぎで走っていった。

127さよなら ライアンさん 3/6:2008/11/02(日) 11:33:02
 結果を言えば、担ぎ込んだ教会で結局男は息を引き取った。男は生きる気力が皆無だったから、ホイミンは遺体の損傷がひどかったから蘇生は不可能とのことで、神父がひどく気の毒がってくれた。
男はキングレオ城の王、キングレオに恋人を殺され、自暴自棄になっていたそうだ。何でも「進化の秘法」とかいう術の実験体として彼女が犠牲になったらしい。
 明日、2人の埋葬をさせてもらう、と神父は言い、寄付金を払おうとした私をやんわりと断った。その金があるなら酒でも飲んで来い、と神父は痛ましそうに私を見た。

 結局、酒にも酔えず、私は宿屋の自室に戻ってきた。鎧を脱ごうとして手が震えている事に気が付く。平気だ。一人に戻っただけではないか。違う。ここ数年はずっとホイミンと共に居た。
モンスターなどではない。ヤツはもう、私にとって大切な家族だった。急速に目の前が歪み、床がぽたぽたと音を立て、それが自分の涙だと分かった時には号泣していた。
志半ばで果てた無念はどれほどだったろう。ヤツに家族は居たのだろうか。私はどうすればいい。どれだけの時間があればヤツを忘れられる?

 トントン!と扉がノックされ、私はハッと我に返った。大の男が大声で泣いているのだ。宿の者が驚いて飛んできたのやも知れぬ。私はグッと涙を堪え、顔を袖で拭った。
「すまない、うるさかったか。」
『ライアンさん、ライアンさん、僕だよ!!』

 私は次の瞬間、扉を全開に開け放っていた。見知らぬ青年が目の前に立ち尽くしている。違う、ホイミンではない。私は急速に心が沈み込んだ。
「…旅の連れが亡くなってな…うるさくしてすまなかった…。」
「ライアンさん、僕だよ。ホイミンだよ。」

 カッと頭に血が上り、私は男をにらみつけた。「お…お前は、よく見れば昼間の吟遊詩人だなっ!!仲間が亡くなって苦しんでいる私を笑いに来たのか!!?」
「違う!昼間の吟遊詩人の人は死んじゃったんだよ。覚えてないの!?」
「何をっ!…そうだ…蘇生してもらえたのか…?」
「僕、ホイミンなんだって!バトランドの古井戸の下で僕を旅に連れ出してくれたでしょ!?空飛ぶ靴でお空も一緒に飛んだじゃないか!!」
「お空って…」

 私は絶句した。頭が混乱して状況についていけなかった。「な…何故それを…?」
「だから、僕はホイミンだって言ってるじゃない!」
「でも…私のホイミンは…ホイミスライムだった…あ、あんたは人間で…。」
「僕、人間になれたんだよ。ずっと夢に見てた、人間にようやくなれたんだよ。」
 青年は嬉しそうに私を見つめる。

「心の中に神様が現れて、この男が恋人の元に行きたがっているし、僕に対してすごく申し訳なく思っているって。
 だから、この体を使ってもいいんだって、そう言ってくれたんだ。」

 この時の衝撃をどう言い表せばいいのだろう。私は頭が真っ白になり、気が付けば男を…いや、ホイミンを抱きしめていた。

128さよなら ライアンさん 4/6:2008/11/02(日) 11:36:18
「わっはははは!こんな…青年として人間になるとは思っていなかったぞ!子供として引き取ろうと思っていたのに、どうしてくれるんだ。」

 落ち着いてから私とホイミンは自室で向かい合って乾杯をした。人間になったホイミンは神父に今までのことを話したらしい。
神父は全て了解し、ホイミンの亡骸だけ、手厚く埋葬しておく、と約束してくれたそうだ。明日は私も埋葬に立ち会おうと思う。

「でも、考えてみればもう何年も一緒に旅してきたのだからな。ホイミンももう子供ではなくなっていたんだなぁ。」
 寂しさも感じたが、今は喜びの方が勝っていた。人間になったことよりも、生きていてくれた、それだけでこんなに嬉しいとは。

「私の子に、と思っていたが、これでは親子は無理だな。家族に、と言われてお前が困っていたのもよく分かる。」
 興奮しているせいか、もしくは酒のせいか体が熱かった。風呂に入りたかったが、ホイミンから目を離した途端、どこかへ消えてしまいそうで怖かった。
「家族になることが嫌だったわけじゃないよ。」
 ホイミンは真顔で私を見つめてきた。私は沈みかけた気持ちがその一言で簡単に急浮上したのを感じた。「そ、そうか。そうか。」
「僕は…ライアンさんのパートナーになりたかったんだ。」
「パートナー…?ああ、相棒のことか。ずっと一緒に旅してきたからな。」
 私はさっとホイミンの体を一瞥した。元々は吟遊詩人だった体だ。顔は穏やかそうで、色が白い。ひょろりとした体型をしているし、魔法を唱えられるかどうかは知らないが、武器を持って一緒に旅ができるようには見えなかった。きっと、ホイミン以上に戦闘能力が低いに違いない。
 ホイミンを二度と危険な目に遭わせたくは無かった。しかし、どう言えば傷付けずに言えるだろう。私は視線を机の上のグラスに落とした。

「バトランドで…待っててくれないか。私が勇者殿を見つけて、彼を守り、世界を救える手助けができるまで。
 何年掛かるか分からない。だけど、私はお前をもう喪いたくは無いんだ。」
 ホイミンは目を見開き、しばらく固まっていたが、やがて柔らかく微笑んだ。「それって、プロポーズみたいだけど、そういう意味じゃ…ないんでしょ?」
「あっはっは!そうだな、確かに求婚のようだった。だけどお前を大切に思っているのは違いな…んんん!!!」

 私の唇がホイミンのそれに当たっていた。机を乗り越え、彼は私の唇を吸い続けようとする。私は席を立ち、ホイミンの両肩を掴んで身体を離した。
「酔っ払ったか?ホイミン?」
「…愛しています。」
 ホイミンが搾り出すように言う。「子供としてじゃなく、あなたが好きなんです。人間になればなんとかなるかと思ってた…!」
 私はホイミンを見つめた。うなだれて涙を落とす彼は、冗談を言っているようには見えなかった。

「な、泣くな、ホイミン。驚いただけだ。お前を嫌いなわけじゃない。」
「僕、子供としてなんて耐えられない。バトランドであなたの奥さんと一緒に暮らす、なんてできないよ。
 女の人に生まれ変われば良かった?それなら僕を抱いてくれた?」
「抱いて、って…」
 私は放心して椅子に座り直した。酔っ払って幻聴を聴いているわけではあるまい。ホイミンが私に恋愛感情を抱いているとは気付かなかった。
女性ならば望まれれば素直に抱いていたか、と言われると自信は無い。ホイミンに対し、今朝まで自分の子供か幼い弟のような気持ちで居たのだ。
急に恋愛対象として見ろ、と言われても気持ちの切り替えなどできぬではないか。しかし、ホイミンの想いを拒否して彼を喪うのが一番怖かった。
 汗が額から頬へと流れたのに気が付いた。酒のせいか、それとも冷や汗か?元々物事をあれこれ思い悩むのは苦手な性質だ。ホイミンが涙を手で拭いながら私を見つめている。

「ふ…風呂に入らせてくれ…。」

 何かを考え、結論を出して言った言葉ではなかった。ただ、問題を先延ばしにしたくて、今やりたい事を口にしただけだった。
 しかし、自分が発した言葉の持つ意味に気付いた時には、すでにホイミンが私を抱きしめていた。

129さよなら ライアンさん 5/6:2008/11/02(日) 11:39:19
 入浴中も結局逃れる上手い言い訳が思いつかなかった。風呂から上がって体を拭き、裸のままベッドに座った。ホイミンは軽く汗を流し、また裸のままでベッドのそばに立った。

「…泣きそうな顔してるよ、ライアンさん。」
「ホイミン…私はお前を抱けるか自信が無い。」
「僕はライアンさんを抱けるよ。」

 私はビクリと体を震わせてしまった。
「…さすがにそこまでの覚悟はしてなかった?」ホイミンはふわりと笑う。
「僕も、ライアンさんを泣かせたくなんかない。ライアンさんは何もしなくていいよ。僕はそれでも十分幸せだから。」

 ホイミンはベッドに座る私にキスをし、そのまま跪いて私の足の間にあるものを綺麗な手で愛撫し始めた。私は思わずホイミンを離そうとしたが、首を横に振って拒否し、一心不乱に愛撫を続けた。拙い手技でも久々の行為だけあって徐々に立ち上がってくる。ホイミンは左手を添えるとそれにキスを落とした。

 ホイミンの表情が見えず、私はあまりのことに混乱し始めていた。不安感がずっと漂っている。我が子だと思っていた子にこんなことをさせて良いものか。バトランド国の兵士らの中には男色を好む者も居て誘われそうになったこともあったが、自分は女性以外をそんな対象に見た事は無かった。
 こんな行為をするなんて、この男は本当にホイミンなのか。むしろ別人であって欲しくて、私は発作的にホイミンの肩を押した。

 ホイミンは綺麗に澄んだ目を涙でにじませて私を見上げてきた。

「お願い…お願い、ライアンさん。僕を嫌いにならないで。」

 ホイミンがホイミスライムだった頃と何も変らぬ目で、彼はぽとりと涙を落とした。体を震わせ、ごめんなさい、ごめんなさい、と私の物をつかんだままで泣き続ける。ホイミンの右手は、自分の後ろを解そうとしていた。
 私が困惑して何もしようとしないから、ホイミンが全てを自分だけで処理しようとしていた。
 私は彼の右手をつかんだ。ホイミンは息を飲んで身を小さくさせた。

「自分が入るところだ。自分で解す。お前は何もしなくていい。」

 ホイミンは目をみひらき、また身を震わせて泣いた。

130さよなら ライアンさん 6/6:2008/11/02(日) 11:41:09
 ライアンさんがキングレオ城から嬉しそうに走って行くのが見え、僕は安堵した。
 もう、このままライアンさんに会わず、僕も旅に出た方がいいだろう。バトランド城へ行って待っているように言われたけれど、バトランドへ送ってもらうのも申し話無いし、何年掛かるか分からないライアンさんたちの魔王退治を大人しく待ち続ける気もサラサラ無かった。
いつの日か、僕がライアンさんと一緒に戦えるようになるように、僕も修行の旅に出よう。

 城から勇者さん達が出てくるのが見えて、僕は彼らにライアンさんへの言伝を頼んだ。無事で旅を続けて欲しいこと、僕が感謝していること。
ライアンさんよりも遥かに若そうに見える少年のような勇者さんだったが、僕を安心させるようにしっかりとうなづき、必ず伝えると約束してくれた。
 遠ざかる彼らの背を見送りながら僕はこれまでのこと、そして昨夜のことを思い返していた。城の前に停めてあった馬車が動き出す。僕も出発する事にしよう。

 さよならライアンさん。
 あなたは本当に 優しかった。

131名無しの勇者:2008/11/02(日) 11:42:03
以上です。ありがとうございました。

132名無しの勇者:2008/11/06(木) 16:42:56
ホイミン可愛いよホイミン
いいものを見せてもらいました

133名無しの勇者:2008/11/11(火) 18:52:41
ライホイきてたー!乙です

134名無しの勇者:2008/11/17(月) 17:22:51
泣けました!心の底から乙です
ホイミンかわいいよホイミン
ライアンさん無骨で優しいよライアンさん

135名無しの勇者:2009/02/02(月) 21:46:35
ピサロザ前提のピサクリです。
6章を思いっきりネタバレしています。
暴力描写あり。苦手な人は避けてください。

136籠の小鳥は3度鳴く 1/7:2009/02/02(月) 21:52:27
 ロザリーをも殺した愚かな人間どもを滅ぼす為、ピサロ自身が進化の秘法で究極の力を手に入れることを決めた夜、彼は急にデスキャッスルから出て、外の世界を見たくなった。
 進化の秘法を試して、自分が正気を保っていられるか、一抹の不安を覚えていたのかも知れない。ロザリー亡き今、狂気に走ったところでピサロに惜しいものなど何も無かったが、ロザリー自身を忘れ去るのは忍び難がった。
しかし、ロザリーヒルへ赴くには彼女との想い出が強すぎる。ピサロは夜空に浮かびながら、ふと、岩山に囲まれた砂漠地帯に目が向いた。ロザリーが生まれ育ったというエルフの里がそこにある。
 ロザリーの故郷のその里は世界樹という不思議な巨木がそびえ立っており、ロザリーが昔語りをするときにはよくその大樹のことを愛しそうに口にしていたものだった。実際、人目につかないよう2人で出掛ける時は夜が多かったが、夜間でも柔らかく光る世界樹にはピサロ自身も何度か足を運んだことがあった。
 最後に彼女が愛した世界樹を愛でるのも悪くは無いだろう、とピサロはエルフの里へと滑空した。

 エルフの里に人間が近付く事は少ないが、ピサロは念のためモンスターを内部に入れて見張らせてある。実際、忌々しい勇者達が足を踏み入れた事もあったらしいから腹立たしい。
 ピサロは入口に立ち、過去、ロザリーとここで過ごした時間を思い出す。そう言えば、世界樹の中は迷宮のようになっていたので、「かくれんぼ」をしないか、とロザリーがいつになくはしゃいで言い出したことがあった。

『3回、私を捕まえたらピサロ様の勝ち、ということにしましょう。
 私はここの構造を知り尽くしていますから手強いですよ?』

 嬉しそうに身を隠す為に奥へと走っていくロザリーを、ピサロは気配を辿って瞬く間に3度見つけてしまい、ロザリーの口を尖らせてしまったのだが。

 世界樹の中に入った途端、ピサロの顔が険しくなる。人間が内部に侵入している気配があった。小さく舌打ちし、意識を集中させる。居る。もう少し上層に気配がある。1人だけのようだ。

「ピサロ様。」

 ふいに声が掛けられ、振り返ると世界樹の入口に部下のエビルプリーストが陰気な顔で立っていた。
「この大切な時に何故、このような場所へ。デスキャッスルに戻りましょう。」
「少し外の空気が吸いたくなっただけだ。夜明けには戻る。」
「それならば良いのですが…。」
 疑わしそうな目でピサロを見上げていたが、やがて顔を上部へ向ける。
「おや、人間が1匹潜んでいますな。」
 エビルプリーストはどこから持ってきたのかボウガンを構えた。
「おおかた、世界樹の葉を狙ってきたのでしょう。私めが仕留めて参ります。」
「待て。…そいつは私の獲物だ。邪魔をするな。」
「そうでしたか。」あっさりとエビルプリーストは引き下がる。
「では、私は先に戻っておりますので。ピサロ様もお早く願います。」

 エビルプリーストの姿が消えるのを待ってから、ピサロは奥へと進み、その人間を見つけた。20歳過ぎの青年のようで、顔や神官姿に見覚えがある。
勇者の一味の1人に違いない。どうやら世界樹の葉を探しに来たようだが、他に人間の気配を感じないところを見ると、自分の強さを過信してのこのこ単身で乗り込んできたのだろう。好都合だ、とピサロは長剣を抜いた。
ヤツは勇者らの中で唯一完璧な蘇生魔法が唱えられるという。ここで息の根を止めてしまえば、ヤツらの戦力を削ることができる。
 ピサロは神官に飛び掛ろうとして、ふと奇妙なことに気が付いた。この男はすでに葉を入手しているようだが、まだ何か周りを見回して探し物をしているようだ。
しかも、枝先を見たがっているようだが、なかなか幹から枝へと身を移せないで居る。世界樹の放つ光に神官の白い顔が浮かび上がった。優しげな顔をしてとても屈強なモンスターを倒してきたようには見えない。
その顔も何故か今は血の気が引き、不安げな表情を浮かべていた。ロザリーヒルの塔の中で佇んでいたロザリーと同じような…
 ピサロは舌打ちし、自分の中に浮かんだ思いを打ち消した。神官がそれに気が付いたのかハッと振り返る。ピサロはすかさず神官に向かって一瞬で距離を詰め、相手を袈裟懸けに斬り付けた。

137籠の小鳥は3度鳴く 2/7:2009/02/02(月) 21:56:53
 クリフトは一瞬で自分の懐近くまで攻め寄ってきた相手から間合いを取るため後ろへと飛んだ、が、左肩から右腹部に掛けて相手の長剣が浅く自分の身を裂くのを感じる。
仲間の疲労具合から、高所の恐ろしさを必死で抑えて世界樹まで1人で来てしまったことを、その一瞬で後悔した。
そして、10歩と離れていない所に追い続けてきた魔王・ピサロが感情の無い目で自分を見つめている事に気が付き驚愕する。

「デ…デスピサロ…!?」
「忌々しい人間風情が単身、エルフの里にのこのこと現れるとはな。
 人間など根絶やしにしてもまだ足りぬ。貴様、覚悟はできているのか。」
 クリフトは息を飲む。
「ま…待ってください!私達は長年、あなたに遭う為に旅を続けてきたのです。
 最初はあなたを倒す為でしたが、今は違うのです!」
「何が違う?変わらぬ。お前も、他の人間も自分以外の存在を許す事ができない愚かな生き物なのだ。」
「それはあなたも同じでしょう!あなたが滅ぼそうとしている人間も、
 モンスターやエルフと同じ生きとし生ける者なのです!」

 ピサロの眉間に皺が寄る。要らぬ事を言ってしまったか、とクリフトはまた激しく後悔したが、どうせ殺されるなら、と言葉を続けた。
「確かに、人間は愚かで欲深い生き物です。でも…滅ぼす前にチャンスをください。
 これから少しずつでも歩み寄れるかも…」
「無駄だ。」
 ぴしゃりと言われ、クリフトは口をつぐんでうな垂れた。身にまとっていたマントや上着が剣で裂かれ、胸部から血が流れているのが目に入った。
志半ばで、仲間に知られずこんなところで死ぬなんて。せめて自分の命が何かの役に立たないだろうか。
「あ、あの、私を殺す事によって、人間を滅ぼす気持ちが晴れますか。」
 ピサロに睨まれ、クリフトは三度自分の言動を後悔したが、次の瞬間、我が目を疑った。ピサロが微かに笑ったのだ。

「分かった、神官。お前にチャンスをやろう。」
「え…?」
「3回、私が夜明けまでにお前を捕まえたら私の勝ち。お前が逃げどおせたらお前の勝ちだ。
 何処へなりとも行けば良い。しかし、私が勝てば、お前を嬲り殺すからな。」

 ピサロは楽しげに微笑んだ。「さぁ、逃げろ、人間。3分待ってやる。」

 クリフトは咄嗟に駆け出した。ピサロの脇をすり抜ける時に、ピサロが素早く何かを詠唱した。それが魔封じの術だと分かった時にはすでに1階へと駆け下りていた。
出口を目指して走ったが、出口はモンスターたちが集結していて近寄るのは無謀な行為と思われた。他のメンバーが居る時ならともかく、自分ひとりであれだけの数を倒すのは困難だろう。クリフトは絶望して逆戻りした。
 胸の傷が痛むが、魔力を封じられ、傷を癒すこともできない。夜明けまではまだ数時間ある。自分がそこまで魔王相手に逃げとおすことができるか。答えは限りなくゼロに近い。やはり、一刻も早くここから逃げ出さなければ…。
 クリフトは塞ぎこみそうになる気持ちをなんとか奮い立たせた。考えなければ。考えなければ、待つのは「死」だ。
 下からの脱出が不可能なら、上から飛び降りなければならない。しかし、それはクリフトにとっては究極の選択だった。上へ戻って身を隠そう。
 そう思って顔を上げた時、目の前にピサロが立っていた。

138籠の小鳥は3度鳴く 3/7:2009/02/02(月) 22:01:50
 左頬を裏拳で殴られ、クリフトはよろめいた。そのまま腹部にピサロの右足が入り、仰向けに蹴り倒される。立ち上がろうと横向きになったところへ、脇腹にピサロの爪先がめりこんだ。
息が止まって、クリフトはうずくまった。あまりのことに涙がにじんでくる。咳き込んだクリフトの後頭部をピサロが鷲づかみにして無理矢理顔を上げさせた。
目線を上げると、ピサロの燃え上がるような深紅の目がこちらを覗きこんでいた。殺される、とクリフトはギュッと目を閉じた次の瞬間、クリフトはピサロに唇を奪われていた。
口の中に、鉄の味がしたが、それを舐め取るように長い舌がクリフトの口内を万遍なく侵していく。舌が絡み、逃げてもすぐに捕まえられる。
息が上がり、何とかピサロから体を逃れようとして、強い力で押さえつけられた。あまりに長い行為に膝立ち状態の足が振るえ、押し返そうとする手さえもただ、ピサロの着衣に必死にしがみ付いているだけだった。
 ようやくピサロの唇が離れた時、クリフトは大きく息を吸い込み、そのまま前へと倒れそうになった。が、ピサロに再び裂かれた襟元を両手で掴まれて左右に引っ張られた。かろうじて付いていた服のボタンが弾け飛び、ピサロの舌が胸の傷をなぞっていく。クリフトは恐怖で錯乱しそうだったが、ピサロの目を見て、我に返った。
「や…やめて…やめてください…」
 震える声でなんとか言葉を発すると、ピタリとピサロの動きが止まった。クリフトを抑えていた手を離し、スッと立ち上がると、1歩後ろへ下がった。

「3分待ってやる。」

 クリフトは目をみはった。どこまで本気か想像が付かないが、これは彼の中でゲームなんだ。クリフトは立ち上がろうとして足がふらつき転倒した。
どうやら今の長時間のキスか恐怖のどちらかが足と腰から力を奪ったらしい。力が抜けそうな足をなんとか動かし、クリフトはピサロのそばから離れた。

 ピサロから逃げるには、やはり世界樹の上から地上へと飛び降りるしかないだろう。不思議とアリーナ姫と旅に出てから、高所から飛び降りても傷を負わなくなった。仲間の占い師・ミネアは「それは私達が『選ばれし者』だからじゃないでしょうか」と言った。何か、神のような存在が「死」から守ってくれている、と。
だから、今回も世界樹の上から飛び降りたって、無傷で居られるだろう。だが、クリフトは極度の高所恐怖症だった。今は3階だが、外の景色が見えていなくても、ここが地上から離れた位置にある、と考えるだけで足がすくんでしまうのだ。飛び降りるなど、その場所に行き着くまでに気を失うかもしれない。
 クリフトは痛みを堪えて息を整えた。気配を絶たなくては、相手はすぐにここへやって来るだろう。しかし、凄まじいまでの憎悪を叩きつけられた。クリフトは思い返すだけで震え上がる。
 しかし、クリフトの血を口腔内や胸元から舐め取っていた時、彼の目からは憎悪ではなく、むしろ慈愛さえ感じられた。憎悪は自分にぶつけられたもので、あの慈しむ心はきっと亡きロザリーに向けられたものだ。
これ以上何をされるか分からない恐ろしさと彼の傷つきように芽生えた切なさが心の中で膨れ上がり、思わず中止を請うたが、あのままそれを受け止めれば彼の哀しみは癒えただろうか。
 一介の神官ごときが魔王を癒すなどおこがましいにも程があるだろう。クリフトはため息をつく。それに、今、ここで彼を受け止める事はそのまま死を意味しているに等しい。
今は、生きてここを出なければ。そしていずれ仲間と共に、彼に会いに行こう。
 何が何でもここから脱出する。だが、もし彼に捕まった時は、全身全霊で彼を受け止めよう。

139籠の小鳥は3度鳴く 4/7:2009/02/02(月) 22:06:09
 どれだけの時間が過ぎただろう。ピサロの姿を見かけては慌てて姿を隠し続けていたが、体力的に限界を感じ始めていた。途中、都合良くキメラの翼を拾ったが、ダンジョンを脱出しなければ使っても意味が無い。
やはり、枝から下へ飛び降りようか。クリフトは重くなる足をなんとか前へ進め、逸らしたくなる目線をなんとか外へと向けた。世界樹の枝葉が優しく光るその向こうに夜の闇が広がっていた。
 これが昼間ならば下の世界が見えて、ますます足が竦んだだろう。飛び降りよう。クリフトは決意した、と、その時、フッとクリフトは体が少し軽くなったのに気が付いた。
 魔封じの術が解けた。どうしよう…今、回復呪文を唱えるのか。それとも脱出してから?

 瞬時迷ってから、クリフトは回復呪文を先に唱える事にした。高所から飛び降りる、という恐怖を心のどこかで先延ばしにしたかったのかも知れない。
目を閉じ、小声で詠唱をして、目を開けた瞬間、ピサロが素早く詠唱しながらこちらに向かってくる姿が目に飛び込んできた。思わず魔法を唱えるのを一瞬忘れる。途端に魔封じの術が掛けられた。
 クリフトは素早くピサロから距離を取った。背後に世界樹の枝が広がる。クリフトはちらっと背後を見て眼下に広がる光景に息を飲んだ。た…高い…。

「何故、飛び降りないのか様子を伺っていたが、お前は高い所が苦手のようだな。」
 ピサロが近付いてくるに従い、クリフトは後ずさりした。枝がギシッと音をたて、寒気が走る。
「勇者の一行は高所から飛び降りても怪我を負わずにいられる、と報告を受けている。」
 ピサロは愉快そうに言った。
「だが、お前もそうなのか?」
「…近付かないで下さい。」
「『選ばれし者』なのは、お前の姫だけであって、
 配下のお前はただ、そばに居たから無事だっただけではないか?」
 クリフトは弾かれたようにピサロを見つめた。
「違います!私だって…」
「なら、飛び降りてみろ。私から逃げたいのだろう?」
 クリフトはピサロに背中を向け、枝先へと足を進めた。足元が揺れ、枝葉から透けて遠く下に地面が見える。地面に叩きつけられるイメージが浮かび、その恐怖が足元から全身へと瞬く間に広がる。
 我に返ったときにはもう、目前に立っていたピサロが剣を抜いていた。そのまま左足の甲に長剣が勢い良く突き立てられる。激痛に絶叫し、思わず腰の剣を抜こうとしたが、血の滴る剣が先にクリフトの喉元直前にまで詰め寄った。
「武器を捨てろ。」
 クリフトは震える手で腰にぶら下げていた剣を放り投げた。目線で促され、クリフトは世界樹の幹の方へと戻る。ズキズキと足が痛み、血が溢れているのが分かる。骨が折れたかも知れないな、とクリフトは恐怖の中、どこか他人事のようにぼんやりと考えた。
 襟首を掴まれ、乱暴に上着を脱がされる。前は全て裂かれていたから、あっさりと上半身を裸にされた。夜の外気がひやりとクリフトを震わせる。
「両手を壁に付けろ。」
 言われたとおりにすると、「そこから指1本離すな。」と言って、ピサロはクリフトを後ろから覆うように抱きしめた。ピサロの冷たい手がクリフトの胸元や脇、背中に這い回り、時折、クリフトの体を震わせた。声が漏れそうだったが、1度目に自分の声でピサロが我に返ったのを思い出し、クリフトは必死に声を出すまいと歯を食いしばった。
口付けをされ、また足から力が抜けそうになっても、クリフトは子供が親の言いつけを守るように頑なまでに幹から手を離さなかった。
 だが、ピサロの手がズボンの中にまで届いた時はさすがに驚いて身をよじって逃げようとした。

140籠の小鳥は3度鳴く 5/7:2009/02/02(月) 22:10:08
「動くな。」
 ピサロの一声にクリフトは息を飲んだ。本当は、怖くてたまらなかった。ピサロの指が自分のものに絡まった途端、「やッ…」と声が漏れてしまい、クリフトは咄嗟に唇を噛む。
「何故、声を堪えている。ちっぽけなプライドでも守っているつもりか?」
 手を止めずに耳元でピサロが不機嫌そうな声で問い掛けた。頭に靄が掛かりそうになりながらも、クリフトは慌てて首を振った。
「わ…私は…男ですから…声など出せば…きょ…興醒めされるかと…」
「心配しなくともお前がロザリーの代わりになるとは思わん。
 おのれの命さえ風前の灯だというのに、私への同情か?」

 心の中を見透かされたような気がしてクリフトは恥ずかしさのあまり、体温が一気に上がるのを自覚した。
「同情などでは……!やっ、ちょ…お願いです、あの、本当を言うと、わ、私は、こういうことが不慣れで…。」
 クリフトは動揺し過ぎてすでにピサロを癒すどころでは無くなった。ピサロの指の動きが早まったせいで、息が上がって足がガクガクと震えている。手が幹から外れそうになるのを泣きそうな思いで耐えていた。
「も、もうダメです、手を、手を離して…んッ!ああ…ッ!」
 ピサロの指の中で精を出し、クリフトは大きく息をした。
「す…みませ…。手を汚してしまいました…。」
 もう、手を離してもいいだろうか。これ以上されると3回目がスタートしても明け方まで体力が持ちそうも無い。そう思った時、ピサロの手がクリフトのズボンを下着ごと膝まで一気に下ろした。
「もう止めて…!」思わず自分の手でピサロを止めそうになり、慌てて自制する。
「今、指が離れたな?」
 ピサロの声が背後で放たれた。「いえ、私は…。」クリフトは必死に首を振る。
「何本、指を離した?」
「す、すみません、許してください…!」
「何本、指を離した?」
 同じ質問を繰り返すピサロにクリフトは心が凍てつく思いがした。
「ご、ごめんなさい…、3本くらいだったと…思います。」
「3本か。まぁ、無難なところだな。」
「い…痛い…ッ!!」
 そのままピサロはクリフトの最奥へと無理矢理指を突き入れてきた。しばらくデタラメに動かしたあと、続けて2本目が入る。
クリフトはあまりの展開に思考が付いていかず、幹にこめかみを当てるようにして痛みを耐えた。指がどこかを掠め、途端にクリフトがビクリと跳ねた。ピサロが笑ったような気配がして、振り向こうとした瞬間、3本目が入った。
息が詰まりそうになり、大きく息を吸った瞬間、また急激な波に飲まれそうになる。思わず「うぁぁっ!」と喘いでしまい、クリフトはまた恥ずかしさの余り体温が上がるのを感じた。
いや、もう、この体温の上昇は恥ずかしさの為だけではないだろう。クリフトが内心パニックに陥っていることを知ってか知らずか、ピサロの指はクリフトを追いたて、耐えようと空しい努力をしているクリフトの口から何度も喘ぎ声をこぼれさせた。

 2度目に精を放った時、自分がまだ幹から手を離していないのがクリフトは我ながら不思議に思えた。そのまま、ずるずるとその場に座り込む。ピサロが覗き込んできたので、クリフトは肩で息をしながら、
「もう…手を離してもいいですか…?」と恐る恐る尋ねてみた。
「勝手にしろ。」
 クリフトは安堵の息を吐き、手を幹から剥がした。両手共に血の気が引いている。クリフトは痺れた両手をすり合わせ、なんとか動くようになるともたもたとズボンを履き直し始めた。
「お前がここで降参するなら、お前を生かしておいてやっても構わんぞ。」
 ピサロの声にクリフトは驚いて顔を上げた。「え、本当ですか。」

「ああ、次の3回目でお前を殺すのは少し惜しいからな。
 ただし、お前にはロザリーヒルの塔へと入ってもらう。
 人間を滅ぼせば、モンスターどもに最後の人間として狙われるようになるやも知れんからな。
 一生塔の中で可愛がってやろう。お前はロザリーの代わりになってくれるのだろう?」

141籠の小鳥は3度鳴く 6/7:2009/02/02(月) 22:14:13
 全身をピンク色に上気させて息を切らしていた神官は、ピサロの言葉に悲しげに眉をひそめた。
「そんなもの…何の解決にもなりません。」
 そのまま無言で傷ついた足をかばう様にして武器を拾いに行く。
「私などが…あなたを癒そうとするなど、おこがましいことでした。やはり…ロザリーさん自身でないと…」
 ピサロは思わず詠唱し、手の平の上に火の球を素早く作ると、裂かれた上着をどうしようか躊躇しているクリフト目掛けて放っていた。火弾は上着に直撃し、クリフトが衝撃で倒れている間に燃え上がる。
クリフトはようやく上着を諦め、「3分、お願いします。」と言って肩を落として部屋を出て行った。
 今の提案が気にいらなかったのか?命を捨ててまで何を解決させようというのだ。ピサロは燃え続ける衣類を見つめていたが、身を翻してクリフトを追う事にした。夜明けまでさほど時間は無い。
 瞬殺してやろうか、とも思っていたのに、意外とこのゲームを楽しんでいた自分に驚く。あの男はロザリーの代わりにはならない。しかし、あの男が言った言葉は、ロザリーがよく口にしていた言葉と同じだった。

“人間も、モンスターやエルフと同じ生きとし生ける者なのです!”

 あの男はキメラの翼を持っていた。ダンジョン内部で翼が使える場所と言えば世界樹の天辺しかない。
極度の高所恐怖症のあの男が青い顔をして向かっているだろう、と思うと何故だか妙に面白かった。あの男は気配を消すのは上手いが、思考は読みやすい。

 ピサロがのんびりと時間を掛けて最上階へと向かうと、案の定、クリフトはそこでうずくまっていた。何かを隠すように必死に枝や葉を集めている。
世界樹の枝葉はまるで自分の意思があるかのように、普通は別の力によって折れたり千切れる事は無い。しかし、何故かクリフトの手に従うように枝や葉が千切れてはクリフトのそばへと集められていく。

「クリフト、ここまでだ。」
 ピサロが声を掛けるまで気が付かなかったらしい。顔を上げて見えたその表情は涙に濡れながら、しかし、微笑んでいた。
「これで3度目なのは分かっているな?
 屋上まで来ていながら、何故キメラの翼で脱出しない?」
「え?あ、キメラの翼って、屋上でなら使えるんでしたね。
 うっかりしていました。」

 クリフトは左足をかばうようにして立ち上がる。そしてキメラの翼を取り出した。周囲の空がやや明るくなりだした。夜明けが近い。

「あなたに言わなければならないことがあります。
 いくら人間の私が言ったところで信じてはくれないかも知れませんが…。」
「何だ?」
「ロザリーさんをあんな目に遭わせたのは、人間だけでは無いのです。
 本当は彼らを操った者が…」

 ひゅ、という風を切る音の後に、ドン、という鈍い音がした。クリフトの腹部に長い矢が深く突き刺さっていた。クリフトの目が険しくなり、ピサロの背後に向けて怒りの目を向けた。
 エビルプリーストがボウガンを構えて立っていた。もう1本発射しようとしているのを、ピサロは「止めろ!!」と一喝し、ボウガンを叩き落した。
「あのような馬鹿馬鹿しい話を信じる気じゃありますまいな、ピサロ様!?」
 エビルプリーストはボウガンを拾い上げる。
「人間を生きて帰すなど正気の沙汰とは思えん。この世界樹も早く焼き払っていれば良かったのだ!」
「ヤツはこのまま帰す。」
「何故!?」
「夜明けだ。約束だからな。」

142籠の小鳥は3度鳴く 7/7:2009/02/02(月) 22:16:34
 キメラの翼を構えるクリフトの背後から、朝日が昇り始めていた。クリフトの姿がキメラの翼に覆われ、光の中へと消える。エビルプリーストは舌打ちしたが、ニヤリと笑ってピサロに1本の腕輪を手渡した。黄金の腕輪だった。
「さぁ、ピサロ様。進化の秘法をお試しになるときです。」
 ピサロはクリフトが何を隠そうとしていたのか気になったが、何故かこのことをエビルプリーストに知られるのはまずいような気がして、言われるままに腕輪を手にはめた。やがて、急激に自分の力が上昇するのが感じ、反比例するように意識が曖昧になっていく。
 エビルプリーストに導かれるままデスキャッスルに戻った時には、世界樹で出会った神官の事やロザリーのことなど、忘却の彼方へと流してしまっていた。


 実際にあの時の神官が屋上で何をしていたのかは、蘇ったロザリーが目の前に現れた時に分かった。ロザリーの言葉で全てを思い出し、そして全ての元凶を知ったピサロは彼女から数歩下がった所で涙を必死で堪えている神官を目の端で捕らえた。

「お前は花を探していたのか…。」

 ピサロがロザリーを抱きしめながらクリフトに問うと、クリフトはビクリと体を震わせた。
「まだ蕾の段階で摘んで帰れませんでしたので…。お待たせしてしまってすみません。
 あの節はご迷惑をお掛けして…」
とやや見当違いの返答をする。
 マーニャという踊り子が「とりあえず、馬車に戻りましょうよ!積もる話はたんとあるでしょ。」とピサロとロザリーの肩を気安くたたく。
「そうだな。」とピサロは微笑んだ。落ち着いた時に、クリフトには礼をせねばならない。ピサロは馬車に乗り込んだ途端、ポツリと思いついたことを口にした。
 誰にも聴こえないように言ったつもりだが、横に座ろうとしていたロザリーのとんがり耳には伝わったらしい。無邪気な声でロザリーは尋ねてきた。

「ピサロ様、『3度目が途中』って何のことですの?」

 馬車に乗り込もうとしたクリフトが足を踏み外して落ちていくのが見えた。彼の仲間が不思議そうにクリフトを見ていたが、ピサロは気にせずデスキャッスルを後にした。

143名無しの勇者:2009/02/02(月) 22:20:15
以上です。
世界樹の構造がうろ覚えの上、本当に天井が無ければキメラの翼が使えたのかも曖昧です。
違ってたらごめんなさい。

144名無しの勇者:2009/02/12(木) 00:01:50
久し振りのピサクリありがとうございました!
ドキドキしながら楽しませていただきました。
次回作もお待ちしております。

145名無しの勇者:2009/02/21(土) 00:28:39
ピサクリ来てたー!
クリフトの一挙手一投足に激しく悶えました!
途中のままの3度目成就祈願ww!

146143:2009/02/27(金) 00:49:10
ありがとうございます。なんとなく痛々しい話になっちゃったのに
読んでもらえて嬉しいです。
ぼんやり続編も思いついたので書けたらまた来ます。

147名無しの勇者:2009/03/08(日) 01:24:24
と、言う訳で書いてきました。
142の続きです。ピサクリ。

148無題 1/5:2009/03/08(日) 01:30:00
 クリフトはぼんやりと窓の外を眺めていた。もう、ここへ連れて来られて何日になるだろう。ロザリーヒルの隠された塔の一室で、クリフトは遠くに立ち上る黒煙を見つけて、また何度目か分からぬほどの絶望的な思いに駆られる。
 あの若き魔王がまたどこかの国を襲ったのだろうか。勇者の郷のように。我らがサントハイムのように。
 いずれまた、ここへやって来ては、嫌がる私を押さえつけ、今日、どのように町を焼いたか、どのように命乞いを受けたか、耳元で囁くのだろう。クリフトは震える己の手を見つめる。武器を奪われ、部屋にある果物ナイフでピサロを殺そうとしたときもあった。死の呪文を唱えて殺そうとした時もあった。ナイフなどではピサロは死なない。ましてやザラキなどでは言わずもがなだ。
 絶望感に打ちひしがれ、何度か自害しようか、とも思った。神は自害を禁じているが、耐えられずに自分に対して死の呪文を唱えた事も幾度と無くあった。1度成功した事もあったが、すぐにピサロに蘇生呪文を使われ、最近はザラキの効きさえ悪くなって、自分がいかに飼い慣らされて神官として使い物にならなくなっているか、を思い知る。
 クリフトは鉄格子のはまった窓を恨めしげに見る。何故、ここに居るのか過去の記憶さえ曖昧になってきていた。自分は壊れてきているのかも知れない。いっそ、狂ってしまえるのなら、その方が楽なのだろうか。

 前触れも無く鍵を開ける音がして扉が開き、クリフトは息を飲んで振り返った。鎧に返り血を浴びたままの姿で魔王が立っている。部屋に一瞬で溢れる生臭い匂いにクリフトは気分が悪くなった。昔、旅をしていた頃はこんな匂いで怯むことなど無かったのに、と、再び自己嫌悪に陥る。
 ピサロはクリフトの心中を知ってか知らずか、ズカズカ中へ入ってくると嫌がるクリフトの顎を強引に掴み、口づけた。離れようともがくが、すぐに体から力が抜けて、血で汚れた魔王の体に
倒れこむ事になる。自分の体に付く紅い汚れに、クリフトは泣きそうになった。彼に浴びせられた返り血は、間違いなくどこか誰かの人間から流れたものだからだ。

「お前の体を汚した血が、誰のものか教えてやろうか?」

 抵抗するクリフトの汚れた服のボタンを難なく外しながら、ピサロは楽しげに言う。

「もう…止めてください。人間を滅びしたって、世界は変わりません…。」
「この血は、お前の大切な姫様のものだ。」

 クリフトは全身の血液が死の呪文に遭遇したかの如く凝固するのを感じた。一気に体が震え、耳鳴りがし始める。
 ピサロは獣のように咆哮を上げて激しく抵抗するクリフトを、しかし易々と抑え込んでベッドに放り投げた。神官だった男の上に乗り、嬉々として耳元に囁き続ける。

「お前の名を呼びながら死んでいったよ。お付のジイさんもな。」
「嘘だ、嘘だ、嘘だっ!!!」
「明日は勇者を探し出して血祭りに上げてやる。」

 裸に剥かれながら、クリフトは暴れ、抵抗が敵わないとなると自分を殺すように叫んだが、ピサロは「ああ、死ぬような思いをさせてやるさ。」と笑って抱きしめ、組み敷かれて力尽きた彼を、一気に貫き悲鳴を上げさせた。

149無題 2/5:2009/03/08(日) 01:33:17
「うわぁぁぁ!!!」


 見覚えの無い天井が見え、クリフトは一瞬、自分の所在が分からなくなった。浅い息を繰り返していると、一気に記憶が戻ってくる。ここは温泉町アネイルだ。
 今日は朝からずっとゴットサイドに隠されたダンジョンを探索していた。モンスターのレベルが高くて回復役の自分とミネアが疲労困憊してきたから、途中で切り上げ、疲れを癒そうと今日の宿をアネイルにしたのだ(ちなみにここは安い方の宿だ)。
 現在の状況把握ができた瞬間、クリフトは吐き気に襲われてベッドから飛び降り、ふらつく足で洗面所に駆け寄った。昼から何も食べてないから胃液しか出ない。
体調が悪い、というより夢の内容を体が拒否した、というのが正しいだろう。クリフトは吐瀉物を水で流し、タオルで口を拭った。窓の外を見るとすでに暗い。部屋には自分以外に誰も居なかった。テーブルにメモが残されていたので、部屋のランプを点けて手に取ると、勇者の字で

『よく寝ているようなので先に温泉に行ってくる。もし起きられて何か食べられそうなら、今日はここの宿屋で飲む、とマーニャさんが言ってたし、多少遅くなっても食堂で
 騒いでると思うから、後から来ても大丈夫だよ。』
と走り書きがしてあった。少し安心したが、夢だと分かっていても仲間の無事を確認をしなくては落ち着かない。クリフトは部屋の扉を開けてにぎやかな声がする階下へ向かった。
 ここのところ、毎晩のようにロザリーヒルに幽閉された夢を見る。よほど、世界樹でピサロに言われたことがショックだったのか、とも思ったが、ピサロが仲間になる前にはこんな夢はみていなかった。仲間になったというのに、恐怖感からこんな夢をみるのだろうか。おかげで最近、うなされることが多く、疲れが取れない夜もあった。
夢の内容が内容なので誰にも相談できないし、ピサロにもなんだか申し訳が無い。敵が強くなっているし、疲労が溜まっているのだろうか。1時間ほど寝ただろうが、MPがほとんど回復されていないようだ。食欲も沸かないし、仲間の無事を確認したら、自分も温泉に浸かって、マーニャさんに捕まらないうちにとっとと寝てしまおう。

 そっと食堂を覗くと、仲間の全員が揃ってワイワイ食事をしていた。湯上りの者もちらほら居るようだ。アリーナ姫も凄まじい勢いでスープを飲んでいるし、ブライも麦酒を美味そうに飲んでいた。ピサロも無表情でミネアの隣りで葡萄酒を飲んでいる。良かった。これ以上無い、というくらい姫もブライ様も元気そうだ。
 クリフトはホッとして部屋に戻ろうとしたが、「起きたのか?」と、気付かれていないと思っていたピサロに声を掛けられた事で仲間全員の注目を浴びてしまった。
「ああ、クリフト復活した?部屋に入るなりバタンキューしたから心配したよ!」
 勇者が明るく言ったが、すぐに眉をひそめる。「なんか、まだ顔色悪くない?」
「大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません。私も温泉に浸かってきますから。」
 慌てて逃げようとしたが、ピサロが続けて「吐いたのか?」と言ったから息を飲んだ。
「何故それを…」
「吐いた!?」「吐いたってどういうことよ!?」
 仲間全員に詰め寄られ、クリフトは絶句する。「あ、あの、本当に大丈夫で…」
「大丈夫、大丈夫ってミントスのときもそうだったじゃないの!」
 アリーナが間髪入れずに突っ込む。「夢見が悪かったんです。」「夢見たくらいで吐いてたらベッドが凄まじいことになるわよ。」とマーニャが言う。
 それは自分もそう思ったが、なんせ、夢がリアルだったから仕方が無い。そう…リアルなのだ。恐ろしいくらいに。

「もう少し、ベッドで横になってらした方がいいんじゃありませんか?
 私もまだ疲れが取れてないのでもうすぐ部屋に戻ろうと思っていたんです。」
 ミネアが言ったが、夢の続きを見そうな気がしてクリフトは首を横に振った。

150無題 3/5:2009/03/08(日) 01:36:29
 仲間の追及をなんとか振り切り、着替えを持って1人温泉に向かった。ピサロを除く男性陣が「誰か一緒に行こうか?」と聞いてきたが、食事中なのが申し訳無く、必死にそれを断った。
最後はアリーナまでもが「じゃあ、私が一緒に行く」と言い出し、逃げ出すように宿を出たのだが。

 英雄リバストの像の前でなんとなく一礼してから温泉に向かっていると、「おい。」とふいに声を掛けられた。一瞬、リバストの幽霊が現れたか、と身構えたが、振り返るとピサロが自分を追いかけてくるのが見えた。
 クリフトは戸惑い、「あの、どうかされましたか?」とそばに立ったピサロを見上げた。

「あの後、やっぱり誰かお前についていけ、という話になってな。」
「え、それでピサロさんが!?」
「お前には借りがあるからな。」

 ピサロはそのまま温泉の入口に入っていく。ピサロとふたりっきりになるのは世界樹以来だったのでにわかにクリフトは緊張した。ピサロの好意を無にするのは悪いし、まさかここで引き返しては仲間に不審がられるだろう。温泉内に誰か居るかも知れないし、彼はそんなに怖い人間ではない…と言うか、人間ではなく魔王なんだけど…。
「何をしている?」
 温泉の入口からピサロが不機嫌そうに顔を出す。「いくら私でもこんなところでお前にどうこうするつもりは無い。」
「いえ!そんなつもりでは…。」
 クリフトは慌てて中に入った。じゃあ、どこで何を私にするつもりなんだろう、と一瞬、疑問が心に過ぎる。
 脱衣所に入り、籠に荷物を放り込んで、ふと振り返るとピサロは何もせずに壁にもたれてジッとクリフトを眺めていた。
「ピサロさんは入られないのですか。」
「お前が寝ている間に入った。…まさか吐くとは思わなかった。今日のはきつかったか?」
 一瞬、赤い鮮血が脳裏に過ぎり、クリフトは顔が強張ったが、きっと今日のダンジョン攻略のことを言っているのだろう、と思い直し、服を脱ぎながら「そうですね。」と苦笑した。
「だけど、今日でレベルアップできましたし、次にあのダンジョンに入るときはもう少し頑張れそうですから。」
「…まぁいい。今日で仕上げに入ってやる。」
 ピサロの言っている事が良く分からず、「それはどういう意味ですか?」とクリフトは首を傾げて話の続きを待ってみたが、何も言ってもらえず諦めて服を脱ぎ続けた。

 湯船にはクリフト以外に誰も入浴しておらず、洗身を終えたクリフトは湯の中でとろけそうになりながら「うーん!」と伸びをした。頭上に星が広がり、クリフトはささやかな贅沢を噛み締めた。
もうしばらく浸かっておきたい所だったが、脱衣所でピサロが待っている、と思うと気持ちが急いてしまう。クリフトは体が温まったところで湯船から出た。
 脱衣所に入った途端、突然頭から大きなタオルを被せられた。視界が奪われつつも、クリフトは「ありがとうございます」と言いながら頭を拭き始めた。

「お前にチャンスをやろう。クリフト。」

 頭上からピサロの声が降りてくる。クリフトは動きを止めた。
「お前が服を着る前に、私が裸のお前を捕えることができたら私の勝ち。先に服を着られたらお前の勝ちだ。」
 ポタ、と頭から雫が堕ちた。
「3分待ってやる。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
 タオルから顔を出した時にはピサロの姿は無かった。幻聴じゃない、はっきりとこの耳で聴いた。あの世界樹の口調と同じだ。クリフトは血の気が引き、慌てて脱衣籠に手を伸ばす。

 脱衣籠は忽然と姿を消していた。

「えええぇぇぇぇェェェェ?」
 世にも情けない声を吐き出し、クリフトは頭をタオルごと抱えてうずくまった。と、足元にキメラの翼が落ちている。

151無題 4/5:2009/03/08(日) 01:40:39
「ずるいですよ…。キメラの翼で町の入口に飛んでも人目につかなくて、
 私の服が置いてあるところなんて、ここしか無いでしょう…?」

 サントハイム城内の自室の扉のノブを掴んだまま、クリフトは泣きそうになりながら目前に立つピサロに訴えた。
「世界樹でのゲームが途中のまま邪魔が入ったからな。続きをしたくていい場所を探していたんだ。」
「あれは私が脱出してゲームは終了じゃないんですか。」
「ヤツが来なければ、お前を捕まえていたさ。それに最後までやらなかっただろう。」

 何を持って最後とするのか良く分からなかったが、考えるのも怖くてクリフトは小さな声で「私の服を返してください。」とつぶやいた。タオル1枚を羽織ったままだ。
「どうせすぐ脱がす事になるんだ。別に着なくて構わないだろう。」
「……ですよね。」
 クリフトは絶望的な思いで周りを見回した。サントハイム城内はピサロに住人を別空間に閉じ込められたせいで、全くの無人となっている。世界樹と同じ条件なのだ。
一瞬、逃亡しようか、とも考えたが裸の自分がどこまでピサロから逃げられるというのか。また、キメラの翼すらもう無くなっている状態でどうやって脱出すればいい。
 夢の中の出来事のように、これからピサロに抱かれるのだ、と考えると足が震えだした。抱かれて、それから私はどうなるのだ。まさか、塔での監禁生活も正夢になるのではあるまいか。恐怖感に襲われ、クリフトは急に不安感に襲われた。平静を装うとしたが、むしろ逆効果で涙が溢れそうになる。ピサロが訝しげに見つめているのが分かったが、どうしても震えを抑える事はできなかった。夢の中とはいえ、生き地獄とも言うべきあの世界。
 クリフトは搾り出すように「あの…終わったら…私はどうなるんでしょう…?皆の元へ返していただけますよね?」と震える声で尋ねた。ピサロは驚いたように目をみはった。
「や…約束してください。お願いします。」
 訪れた沈黙が恐ろしく、クリフトは言葉を続けた。
「お前が大人しく私に抱かれるのならば、お前をちゃんと仲間の元へ返してやるさ。」
 ピサロは優しく微笑む。整った顔が神々しささえ感じ、クリフトは思わずコクコクと何度もうなずき、鼻先を赤くして涙をこぼした。
「い…一度だけなら。」
「ふーん…。まぁ、行こうか。」
 ピサロはクリフトを促して部屋の外に出る。「私の部屋では…ダメなんですか?」
「もっと広い場所を見つけてある。」
 ピサロはどんどん奥へと進んでいく。クリフトは涙を手の甲で拭い、裸足のままピサロについていった。
 以前なら城内はとても賑やかで、衛兵達が幼い頃から顔馴染みのクリフトによく声を掛けてくれた。今は悲しいほど静かで、ピサロの靴の音だけが響き渡っている。本来なら兵士が止めるはずの謁見の間までピサロはずんずんと入って行き、クリフトは嫌な予感がして足が重くなる。案の定、ピサロは玉座の前で止まるとクリフトの方へ振り返った。
「玉座の上と王の寝室、どちらがいい?」
 美しく微笑むピサロの言葉に、クリフトは凍りついた。
「じょ…冗談は止めてください。臣下の私が使うなど、許されるはずがありません。」
「選ばないなら玉座だ。憧れの場所だろう。」
 腕を引っ張られ、クリフトは足を踏ん張りながら叫ぶように「止めてください!!寝室!寝室でお願いします!!」と訴えた。ピサロは小さく舌打ちし、クリフトの手をつかんだまま奥へと進んだ。

152無題 5/5:2009/03/08(日) 01:42:50
 城内は人が居ない時間が長いのに不思議と埃が積もっていなかった。王の寝室の大きなベッドもつい先刻、ベッドメイキングされたかのごとく、美しく整えられていた。
王の部屋に入った途端、クリフトは萎縮して固まってしまったが、その顎をピサロに指ですくわれ、拒否する間も無く口付けをされた。2度ほど軽いキスの後、深々と口腔内に侵入される。
ピサロの口付けは唇から離れた後、そのままうなじへと進み、首筋、鎖骨へと進んでいく。いつの間にかベッドに寝かされたクリフトは、ピサロの愛撫を受けながら、自分がこうしてピサロに抱かれている事に抵抗感が余り無い事に我ながら驚き、ショックを受けていた。
息が徐々に上がり、自分の体が嬉々として快楽を得ようとしているのが分かる。声が漏れそうになって、必死で堪える。自分の体はどうなってしまったんだろう。クリフトの瞳が不安でキョトキョト揺れ動き、ピサロが目を閉じさせて瞼の上に唇を落としても、なお、不安で涙がこぼれた。
クリフトはすでにピサロの行為よりも自分の体に戸惑い、恐怖を感じていた。夢と現実の狭間に落ち込んだようで、何度もここがロザリーヒルのあの塔の中ではないか、と部屋の中を確認した。そうする間もピサロに快楽を引きずり出され、何度も声を上げては自己嫌悪に陥る。

「あ…あの、もう…止めてもらうわけには…」
 ピサロの体が一時離れた時、クリフトは体を起こそうと横向きになって訴えた。が、ピサロは再び、彼を背後から抱きしめ、耳を甘噛みしてクリフトを震わせると、
「なんだ、今日は後ろからか?」と呟いた。クリフトは弾かれたように振り返る。
「『今日は』…?」
 ピサロは何も答えず、クリフトの肩甲骨あたりを口付け、クリフトの体を跳ねさせた後、もの言いたげなクリフトの唇に背後からもう一度口付けた。

 前を愛撫され、自分の後ろにピサロのものが当たった時、クリフトは力を抜こうと自然と息を吐いた。途端、驚きで体が凍りつく。熱で浮かされそうだった頭が、ピサロが侵入した痛みで一瞬冴える。
やっぱり自分は、こういう行為に慣らされている。夢で何度も体験してきたからだ。夢の中で、抵抗しても逃げる事も叶わず、何度も何度もピサロに抱かれてきた。痛みから逃れる為に、自然と色んなことを体が覚えてきたのだ。ピサロに揺さぶられながら、クリフトは必死で霧散しそうになる考えをまとめていく。あれは自分で勝手に見た夢の中の出来事だったじゃないか。にも関わらず、体が慣らされているなんて。

「ピ…ピサロ…さ…。き、聞きたいことが…」
 接合部で鳴る水音がクリフトの耳を打ち、赤面しながら、それでも言葉をなんとか紡いでいく。ピサロは動きを止めてくれない。
「わ、私の体…おかしいんです…は、初めてのはずなのに…こんな…」

「『不慣れ』でこんな行為はやめて欲しい、と世界樹で言ってただろう?」

 後ろから耳元でピサロが囁き、途端に大きく突いてきた。クリフトは自分の体が支えられなくなってシーツに突っ伏す。

「だから学習させたんだ。最初は夜に頭の中でシミュレーションさせてたんだ。
 宿のベッドで喘ぐお前が可愛くて何度か本当に抱いた事もあったがな。なんだ、覚えていないのか?」

 クリフトは頭が真っ白になって、パタパタとシーツに自分の精が放たれた音がしたのを最後に意識を手放した。

153名無しの勇者:2009/03/08(日) 01:45:08
以上です。実は、塔の方を現実にしようか、とも思ってたんですが、
あまりにもクリフトが気の毒かと思って止めときました。

154名無しの勇者:2009/04/01(水) 17:23:05
>>153
遅ればせながら、GJです!
監禁が現実で、和みシーンは夢?!と途中ハラハラでした。
楽しそうなピサロ様に禿萌え。クリフト可愛いよクリフト。
次回作も期待しています。

155名無しの勇者:2009/04/02(木) 14:03:55
>153
勇ピサ派だったんですが攻ピサロも萌えます…!
クリフトも可愛いです

156名無しの勇者:2009/04/24(金) 00:53:37
ピサクリ来てたー!
クリフトかわいいよクリフト

157名無しの勇者:2009/05/17(日) 23:19:02
勇クリです。勇者がかなり極悪人になってしまいました。
注意:若干、DQ6が混ざってます。

158月の戯れ 1/6:2009/05/17(日) 23:22:46
「んんー、その人数じゃ、一組ダブルベッドになってしまうようですが、構いませんか?」

 夕刻、移民の町の宿屋でのことだ。宿屋との間に入って宿泊手続きをやってくれたホフマンさんは申し訳無さそうに僕に頭を下げた。

「ダブルベッド…。」ピクリと反応した僕に、慌てたのかホフマンさんは早口でアピールタイムに入った。
「かなり年代物なんですが、可愛らしいベッドなんで、女性のお客さんには人気がありまして。
 カップルの方だと特に喜ばれているようですよ。」
 僕はさっと後ろを振り返る。みんな成長した町が物珍しいのか、宿屋の予約は僕に任せて散ってしまったので誰も居ない。僕はまたホフマンさんに向き直る。
「仕方ありません。それでお願いします。」
「かしこまりました。じゃあ、その部屋はマーニャさんたちが泊まられる、ということでよろしいですか?」
「いや!あの、部屋割りは後で決めますから。他のメンバーにはダブルベッドのこと、黙ってていただけますか?」
「…分かりました。」
 ホフマンさんはニヤリと笑ったが、僕は何も気付かないフリをして渡された宿帳にサインをした。

 ひとまず案内された部屋に入ると、なるほどアンティークなベッドが大きなバルコニーが見える位置に置いてあった。窓も大きく、夕日に照らされた海が見える。
夜は星空がさぞ美しいだろう。カップルに人気が高い訳が分かる気がした。しかし、このベッドは可愛い、というか、むしろ子供向けのような気がする。

「ほう、珍しいものがあるな。噂には聞いていたが、本物を見るのは初めてだ。」

 声に驚いて振り返るといつの間に戻ってきたのか、ピサロが物珍しげに部屋に入ってきた。
「今夜はこの部屋も取ってるのか。」
「そうだけど…このベッド、そんなに有名なのか?」
「ほう、知らないのか。まぁ、マスタードラゴンが生まれる前のシロモノだからな。
 まだ残っていた事が奇跡に近い。」
「えぇ!?そんなに古いの!?」
「ここの店主は知らずに買ったんだろう。でなければ普通に客を寝かせたりはしない。
 ベッドが持つ力も薄れてきているようだ。」
 ピサロはベッドのそばに片膝を突いて座り、ベッドに視線を走らせたあと、薄く笑った。

「この部屋はお前と神官で使う気だったのか?」
「え!?いや、あの…。」
 言葉に詰まった僕を見て、ピサロは楽しげに笑った。
「よし、このベッドの力を戻してやる。その代わり今から言う条件を飲むと約束するならば、だ。」

159月の戯れ 2/6:2009/05/17(日) 23:26:01
 皆とワイワイ夕食を済ませたあと、クリフトを宿屋の一番上の階にある例の部屋に案内する。
 高所恐怖症であるクリフトは上の階の部屋というだけで遠慮したかったようだが、ベッドが宿屋中で一番古いから僕らの部屋にした、と言うと納得したようにうなづいた。
 が、部屋に入ってベッドを目にした途端、硬直されてしまった。

「こ、これ、ベッド、ひとつしか無いんですか。」
「うん、この部屋だけダブルベッドなんだ。ごめんね。」

 窓からも近く、外の景色が丸見えで満月が見える。海も見下ろせる絶景ポイントだ。この部屋の高さが十分身に染みるほどに。クリフトは元来白い顔を益々青褪めさせてクルリと窓から背を向けた。

「私、今からライアンさんと部屋を交換してもらってきます。」
「な!?ダメだよ!みんなもう休んじゃってるって。疲れてるのに迷惑だよ。」

 慌てて通せんぼすると、クリフトは僕の言葉にグッと詰まった。かなり正論を行ったつもりだが、過去、何度か僕に一方的に抱かれてしまった身としては、このままこのベッドを使って無事に朝を迎えられるとは到底思えなかったのだろう。
ベッドを背に向けたまま固まってしまったクリフトに、僕はわざとらしくため息をついた。

「分かった分かった。クリフトさんが抱きついてこない限りは手は出さないよ。」
「…本当ですか?」
「約束する。」

 僕は今まで約束を違えたことはない。クリフトはやっと肩の力を抜いて笑顔を見せた。寝相には自信があるのだろう。確かに彼は死んだように静かに眠る。が、今夜は悪いがゆっくり寝てる暇は無いぞ、神官。


「可愛らしいベッドですよね。次回はアリーナ様達に譲ってあげてくださいね。」
 寝巻きに着替えてベッドの左側に潜り込んできたクリフトはそう言うと小さく欠伸をして目を閉じた。なんとなくその顔を眺めていると、疲れていたのか早々に小さな寝息が聞こえ始め、窓から入ってきた月光がクリフトを白く浮かび上がらせた。もういい頃合かな。そう思った途端、すっと音も無く部屋の窓が開いて、冷たい夜気が入り込んだ。

 そしてベッドが、音も無くふわりと浮かび上がった。

160月の戯れ 3/6:2009/05/17(日) 23:29:09
 気付かずに眠り続けるクリフトが愛しく感じられ、引き寄せられるように彼の頬に触れる。
「ん…」と小さく息を吐いた彼の髪をなでようとした時、クリフトの目がゆっくり開いた。

「何…?」
 ベッドは少し揺れて、部屋の窓からバルコニーに出た。クリフトは首をひねって状況を把握する。僕が彼の口を押さえるのと、彼が絶叫したのはほぼ同時だった。
危ない危ない。クリフトは僕の腕にしがみつき、息が続かなくなったのか叫ぶのを止めた。気の毒に、手が震えだしている。ベッドはそのままバルコニーの柵を追い越し、その高さのまま、町の屋根のそばを飛翔する。

「な、な、な……何ですか、これ!?」
「うん、何だか、急に飛び出したんだよね。勝手に動いてるから戻し方が分からなくって。」
 嘘だ。実は自分の意思で操る事ができる。このベッドはマスタードラゴンが生まれる少し前に病気だった子供の夢から生まれた魔法のベッドなんだそうだ。こんな事に使ってごめんね、と見知らぬ子供に対して内心こっそり謝っておく。
僕は震えが止まらなくなっているクリフトをそっと抱き寄せた。

「まぁ、しばらくしたら元の部屋に戻ってくれると思うし、大丈夫だよ。」
「そんな!?しばらくっていつまでですか!?」

 クリフトは泣きそうな顔で今までに無いくらい自分から僕に密着してくれる。僕はクリフトの目から一粒だけ流れた涙に唇を寄せたあと、そのままその唇に口付けた。
ビクリとクリフトの体が震え、離れようとしたが、そのまま押さえ込み、思う存分クリフトの口腔内を味わった。顔を離した途端、クリフトは肩で息をしながら真っ赤な顔で
「ちょ、ちょっと待って…。」と弱々しく僕の肩を押したが、僕は無視してクリフトの寝巻きのボタンを外し始めることにした。クリフトは僕の手を掴んで、
「やめてください!約束が違うじゃないですか!何やってるんですか、こんな状況で!」と僕に抗議した。

「約束?約束って、クリフトさんが抱きついてこない限りは手は出さない、ってやつだろ?抱きついてきたじゃない。」
「え!?」
 クリフトはギョッとして体を勢い良く僕から離したが、手を突いた先がベッドの端だったようで「うわぁぁぁッ!」と再び僕にしがみついた。なんとか息を整えるのをしばらく待ってあげる。

「だ…だってこれは…。条件が違うでしょう。」
「条件って何の?抱かれるのが嫌なら僕から離れればいいじゃないか。」
「そんな、だって、これは非常事態で…」

 僕は痺れを切らしてベッドを大きく揺らしてやった。クリフトは「ひやぁぁ!」と叫んで僕に正面からしがみつき、体を震わせる。僕がそのまま無言で寝巻きのボタンを外し続けるのを見て(本人が貼り付いてきてるからやり辛かったけど)、クリフトは「ひどい…」と小さく文句を言った。無理に抵抗してベッドが揺れるのが怖いらしい。
下手すればベッドから落ちるかも知れないし、残念ながらクリフトに逃げ場は無かった。

161月の戯れ 4/6:2009/05/17(日) 23:36:05
 クリフトは緊張からか体は震え、落ち着こうとして深呼吸を繰り返している。体を押すと、あっさりとベッドに倒れ、そのまま自分を愛撫する手を不安げに見続けていた。
震える手は必ず僕の体をすがるように触れ、どんなことをしても逃げる事は無く、ただ、「やめてください…」「嫌です…」とこちらを逆に高揚させる拒否の言葉を震えた声でつぶやいた。
これが高所でなければ、これほどクリフトに必要とされている事に感激しただろう。彼は身を離そうとした僕に「放さないでください!」とまで言った。いつもこうならいいのに…と呟く僕を涙目で睨みつけてくれたけど。

 クリフトはなかなか行為自体には集中できないようで、熱が体にこもったまま、苦しげに息を吐き出していた。クリフトのものを握っても、大きく震えはしたが、精を吐き出すまでには至らない。クリフト自身も自分が達するのは難しい、と早々に理解したらしく、
「も、もう…私は結構ですから…」と涙目で訴えてきた。
 しかしながらこれも僕には逆効果で、このままだとクリフトが可哀想だし、一度無理にでも絶頂を迎えさせておこうか、と思ってクリフトの前を指で弄ってみた。
クリフトは悲鳴を上げ首を何度も横に振る。なかなか思うようにイかせてやれず、段々、この後も長くクリフトを持たせるにはそのままにしておいた方がいいか、と考えを改め、僕はクリフトから手を離した。クリフトが驚いたように僕を見たので、間髪居れずにクリフトの奥の方へ手を伸ばした。
 クリフトは緊張のために体に力が入ったままで、指すら入らなかった。力を抜くように頼んでも「もう、許してください…」と泣くばかり。
僕は後ろをほぐす行為に夢中になって、ベッドが降下し始めている事に気が付かなかった。

「勇者さんっ!」
 クリフトが悲痛な叫び声を上げるので顔を上げると、いつの間にかベッドは海上まで進んでいてて、その海へと急降下していた。クリフトが絶叫する中、なんとかベッドを再浮上させる。ベッドが安定し、一息ついてクリフトを見ると、彼は気を失っていた。

 一瞬、もう諦めて帰ろうか、とも思ったが、先ほどとは一転して脱力しきっている彼の体に気が付き、そのまま行為を続行させることにした。指を入れて慣らし、彼の中に入って中を味わっていると、やがて彼が目を覚まし、僕を締め付けてきた。
クリフトは状況に気が付き慌てて起き上がろうとしたが、それで益々僕との結びつきが深くなり、「ひっ!」と体を強張らせてシーツに倒れた。
きつい締め付けの中、僕がゆっくり動き出すとクリフトは切なげに悲鳴を上げ、ギュッと目を閉じた。僕の動きは知らず激しいものとなって思わず彼の中で達してしまったが、それでも彼は一度も達せず仕舞いだった。
 クリフトは苦しそうに「もう…私は大丈夫ですから…帰りましょう…」と涙目で僕を見上げたが、逆にそれが追い風となり、抜かないまま再び立ち上がったモノで、そのまま彼を揺さぶった。
今の発言は、まるで僕がベッドを動かしている事を気付いているみたいじゃなかった?僕はその考えを消すように、無言で彼を攻め立てた。

 しばらくクリフトは行為の終了を懇願していたが、やがて何か吹っ切れたように自分から腰を急かすように動かし始めた。
「あっああっ…早くっ…お願いです…」
 喘ぎ声も箍が外れたようにこぼれ出し、僕はそれに興奮して2度目の精を彼の腹部へ吐き出した。クリフトもようやく長い苦しさから解放されて、満月の明かりに白い裸を仰け反らせ、長く精を吐き出すと再び意識を失った。僕は青白いクリフトの頬にキスをすると、宿屋に向かってベッドを動かした。

162月の戯れ 5/6:2009/05/17(日) 23:43:23
 とにかく、早く宿屋のあの部屋に帰りたかった。私は高所の恐怖に耐えながら勇者の執拗な愛撫に身を晒していた。自分が今居る場所が、屋外でしかも高所であることを夜気と満天の星空が教えてくれる。おかげで行為に集中できず、恐怖が私の体を占領していた。
 それでも全身をくまなく弄られれば、否応無く体が熱を持つ。普段の私はどうもこういう悦楽に弱いのか、すぐにも精を吐き出し彼に笑われる羽目になるのだが、今回ばかりはなかなか達する事ができず、どんどん体が熱を持って苦しくなってきた。
 しかし、もしここから堕ちたら、いや、ベッド自体が落下したら、という恐ろしい想像に囚われている限り、このベッド上で私自身が達する事は無いだろう、と予想がつく。
もう私のことはいいから、自分だけ楽しんで早く終わらせて欲しい、と心底願い、実際口にもしたが、逆効果だったらしい。彼が私の前を触ってくれた時には突然の事で体が強い衝撃に大きく震えた。だが、ようやくこの苦しみから楽になれるかも、と淡い希望を抱きそうになったが、無情にも彼はすぐさま私から手を離したどころかベッドを落下させ、私を更なる絶望へと叩き落した。

 急降下したベッドが再度浮上したことを知ったとき、私はこのベッドが勇者によって操作されていることを確信した。なんて人だ…!私は彼を非難しようと口を開いたが、口からこぼれ出たのは細い悲鳴のみ。情けなさに涙が溢れ、やっと私は彼から目を逸らせた。今まで存在を忘れていた大きな満月が目に飛び込んで、その美しさに私は一瞬、心を奪われ、今の状況を忘れそうになった。
この月の美しさは海上に居るからこそ映えたのだろう。この神々しい景色がが見られた事は彼に感謝してもいいかも知れない、と目を固く閉じた途端、勇者が私を激しく攻め立てはじめた。
 ベッドが揺れ、再び恐怖に包まれた私は今度も達する事ができなかった。とにかく、苦しい。もう早く部屋に帰して欲しい。彼にその思いを伝えても、無視されて再び体を揺さぶられた。
 苦しい。ベッドが再び揺れ、泣きそうな思いで勇者に行為を終えてくれるよう頼んだが、聞く耳さえ持ってもらえない。熱に浮かされた頭で、どうすれば彼が行為を止めるか必死で考えた。

 そうか…とにかく彼が満足すれば良いのだ。

 私は自ら体を揺らし、彼から精を搾り取る事にした。早くイけ!このガキッ!!頼む、イってくれ!!
 うっとりするように私を見る勇者に、破れかぶれになった私は喘ぎ声を我慢する事無く聴かせてやった。彼が2度目にイったとき、ようやく私も精を吐き出すことができた。
月をぼんやりと見つめているうちに私は意識を失った。

163月の戯れ 6/6:2009/05/17(日) 23:47:09
 ふと気が付くと、ベッドはゆっくりとバルコニーから宿屋の元の部屋に戻るところだった。
 やっと終わった…私はどっと緊張感から解放され、手の震えを抑えようと両手をぎゅっと組み合わせた。
 怖かった。怖かった。とてつもなく怖かった…!!!私はシーツを被り、握り締めた手を解き、涙を拭い、必死に嗚咽を耐えた。

 ベッドが元の位置に戻ると、勇者は2度も達したとは思えない身の軽さでベッドから降りた。やがて戻ってくると、私からシーツを突如奪い去った。
 泣き腫らした私の顔を見て、勇者は驚いたらしい。「…ごめん、そんなに怖かったのか。」と私に謝ると、どこからか持ってきたタオルで私の体を丁寧に拭き清め始めた。その心地良さとようやく訪れた安堵感から睡魔が戻ってきて、意識が朦朧としてくる。
反省しているのか、私を大切に扱ってくれる事が嬉しく、勇者が私にした悪魔のような所業を忘れてしまいそうになる。
 彼に礼を言わなければ、となんとか気力をフル動員させて
「あ…ありが…と…ございま…す」と口を動かした。

 勇者はピタ、と動きを止め、「眠ってなかったの?」と尋ねてくる。
「気が…遠のきそう…ですが…。」
 勇者はふぅ、と何故かため息をついた。そのまま私の下腹部まで拭き終わると、また私から離れていき、戻ってきた時に、長い布でさっと私の両手を拘束した。
「な…何を…ふぐぅっ!!」
 今度は別の布で猿轡される。驚きではっきりと覚醒した時には目隠しまでされていた。

「ごめんね。暴れて堕ちたら危ないから。」

 勇者が私から離れるのを感じ、何をするつもりなのか不安になってベッドから起き上がろうとした途端、隣りに誰かが座る気配がした。ベッドがかすかに軋み、私は新たな恐怖に思わず身を強張らせた。

「約束しちゃったし。あともう少し頑張ってよ。」

 勇者の声が前方から聴こえ、ぐらりとベッドが傾いた。再び浮上したことを認識し、私は見えないままベッドから飛び降りようとしたが、隣りの人物に抱き止められてしまった。
暴れてもビクともせず、私の頬を再び夜風が当たったのを感じて、私はピタリと動きを止めた。猿轡越しに叫び声を上げたが、くぐもった呻き声にしかならなかった。

 ふいに目隠しが外され、眼下に広がる町の灯にまたもや恐怖感に包まれる。目を逸らした私の目に飛び込んできたのは、月光に光る長い銀髪だった。
「あの小僧の後というのが気に食わんが、たっぷりと可愛がってやるからな。」
 ピサロは薄く笑って、動きが凝固した私の口から猿轡を取り去る。その口から飛び出した悲鳴は、満月と魔王が呑みこんでしまった。

164名無しの勇者:2009/05/17(日) 23:48:24
以上です。ありがとうございました。

165名無しの勇者:2009/05/20(水) 00:45:48
>>164
投下きてた!乙です〜
虐げられてるクリフトがツボすぎる

166名無しの勇者:2009/05/25(月) 01:09:15
久々に来たら勇クリが。
高所恐怖症のクリフト可愛すぎる、もゆりました・・・・!
ぜ、ぜひピサロ様のバージョンもお願いいたしまゲフゥ


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