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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
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雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
規約はこちら
>>2
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>>503 さん
「最優先事項」のあらすじは以下の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
(>>505のメール欄①)した結果(>>505のメール欄②)と判明。
しかし(メール欄③)で頼れず(メール欄④)に踏み切る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そこで提案なのですが、こんな対応はどうでしょうか。
①>>422の作品と「最優先事項」を、同じ時間の出来事とする
②>>422の作品を先に投下していただく。>>503の描写はそのまま
③「最優先事項」を後から投下する。内容は上記のまま
オリジナルの思惑をレプリカたちがいきなりひっくり返すことで、
本能に根ざした認識のズレやら落差やらが逆に強調できるのでは、
と考えます。
お手数ですがご返答または代案のほう、お願いいたします。
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>>506
ども、ありがとうございます。
>>505->>506のメール欄は当メール欄の①と②で①ですよね。
①であるなら>>506の通りの方向で、此方で>>503を強調しつつ
①がやっちまってありゃりゃーと言う側面を混ぜ当方作で上手く合作できると思いますので
此方は>>506の案でOKです。
細かい部分での擦り合わせは作品投下しあわないと解らないでしょうからその時に。
もし②で行ないたかったというのがあれば、後編に最優先事項にあわせたシーンを挿入することもできます。
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>>507
①です。
その頃②は>>293の後編の状態にあるのだと「最優先事項」で少し触れる予定です。
では、>>506の流れということで、宜しくお願い致します。
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ttp://d1s.skr.jp/ergr/
>>504に対応しました。
各話のlinkだけは修正しきれてませんが、それ以外は全てweb対応にファイル名やリンク箇所の全角文字を変更できてると思います。
一応>>284氏にと圧縮したものも上げておきます。
ttp://d1s.skr.jp/ergr/negibr.zip
此方は284氏の受け取りを確認次第消します。
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>>509
更新乙です!
圧縮したものも受け取りました。
ありがたく使わせていただきます。
それでは作業に戻ります。
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遅れてしまいましたがこれから仮投下します。
タイトルは本投下の際に変えると思います。
描写は追加すると思いますが、それほど加えません。
まとめは先日を含めた都合により火曜日の夜のUPになりそうです。
ゴメンナサイ。
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>>505
(二日目 PM6:13 東の森・双葉への道)
広場中央に長谷川の姿はなかった。
辺りは炎と煙に囲まれ、巨木にいたであろう双葉の姿を確認する事もできそうにない。
わたしは長谷川追跡を続行すべく即座に広場の外周を観察する。
見つけた。
一ヶ所だけ火が途切れてる箇所がある。
罠の可能性も考えて、わたしは他に抜け道がないかどうか観察する。
今度は見当たらない……長谷川はあそこから逃げたんだろうか?
顎から汗が流れ落ちた。その直後、どこかの木が爆ぜ大きな欠片が地面に落ちる音がした。
燃え盛る音と熱風が一層強くなったような気がした。
頭の奥から鼓膜にかけてキーンと耳鳴りがする。
わたしは他に道はないと悟り、抜け道の入り口まで走った。
突如、目の前が暗くなった。
「!?」
わたしは急停止して、視線を下にして目を何度も瞬かせた。
目が見えなくなったらという不安を打ち払いたくて。
地面を凝視すると火に照らされた枯れ草がはっきり確認できた。
幸いにも視力が失われた訳ではなさそうだ。
ザドゥから一気に離れたのがいけなかったのだろうか?
わたしは前を見つめ思った。
これも敵の誘いだろうか?
わたしはこれまで罠と知りつつあえて何度も敵の誘いに乗り続けた。
けど今度は違うものであってほしいと思う。
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病院で撃った時、猛獣でさえ殺せる攻撃を当てたのにも関わらず奴は生きていた。
今度は止めを刺して、本当に死んだのかを確認しなきゃいけない。
結果、わたしが火に巻かれ命を落とす事になってでも。
「……」
不安と焦りが心を満たしつつあるのを感じ取り、振り払うようにわたしは頭を振る。
道自体が何かのまやかしか何かでないか凝視し、耳を澄ませ、決断しその道に足を踏み入れる。
両端には遠目ながらも燃え移っていない木や草がところどころ確認できた。
わたしは煙を吸わないように姿勢を屈め、ゆっくり前進していく。
きーんと言う耳鳴りは未だに続いている。
戦闘に支障がなければいいけど……。片目失明はもとより胃とわき腹も痛む。
力を出し切れるだろうか……わたしがアインであり続ける以上、命を失う事に恐れはない。
けど……長谷川に返り討ちにされるのは怖い。
人質を取っていたとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手、どんな方法で来るか。
「……………………………………………………」
ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……
突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
まった火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながら進む。
未だに鳴る耳鳴りに連動するように後方から熱風が流れる音が聞こえた。
そしていきなり目の前に黒い塊が降ってきて、音を立てて地面を叩いた。
「!」
遅れた!
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大木の欠片が砕け、周囲に飛び交い、わたしは腕で防御しながら全速力で迂回、息を止め一気に前進した。
一瞬振り向き、後方から火の手が来ないのを確認。 息継ぎをしさらに前進した。
「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」
火の粉はわたしに移らなかったが、ちょっと煙を吸いこんでしまった。
わたしはすすを吐き出そうと何度も咳をする。
胃と肺がきりきり痛む。
そんな状態でも耳鳴りはして、ちょっと鬱陶しかった。
わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
右を見て、今いる場所の横が燃え移ってないことを確認する。
それ以外は相変わらず炎と煙に覆われている、火の手が上がるのが早すぎる気がする。
次にわたしの口から出た言葉は、思いとは別に陳腐な感想だった
「地獄のようね」
自らの不幸を嘆いてのことじゃない。
こんな陳腐な台詞口にしなきゃよかったと思ったに過ぎない。
この火災で死んだ者なんて一人も出ないかも知れないのに。
その時だった。
「……っ」
左腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。
右目で左腕を見る。
服の裾が燃えていた。
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「!?」
火を消そうと、身を屈み左腕を地面に擦り付けた。
左端には火の手が上がっていたのだ。
そんな、気づけなかった?
懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。
「……」
わたしは息を吐きつつ、おぼつかない足取りながら進んだ。
焼けた裾の布を払うと、左腕に火傷があった。
それは少し痛むが支障があるようには見えない軽度のもの。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。
こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まり、冷や汗が流れ落ちる。
数えられる範囲でだけど、戦闘や訓練で傷を負ったことは何度かあった。
けど、こんな事で怪我をしたことは記憶のある限り、なかった。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それは石だった。
自らの迂闊さに頭が痛くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足が重くなったような気がした。
「わたしは……」
思わず出てしまった呟きは力なかった。
その言葉には続きがある。けどその先は言ってはいけない。
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目の前が突然真っ暗になった。
□ ■ □ ■
――今日、わたしはここを出る。
目の前には薄暗く、古びた木の板で作られた部屋があった。
そこは昨日までのわたしの居場所だった。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られたという。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。
でもそれほど自分を不幸と思ったことはない。
聞いた話とラジオからの情報を合わせると、わたしの故郷と思わしき国は飢饉や暴力に見舞われて、
多くの住民は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要だろう。
何度も町の外を見ていただけに解る。
積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いない。
いつの日だったか、憂さ払いにわたしを虐めに来た女の子を返討ちにした時でさえ、
後の非難と恨みのこもった眼差しには結構応えたんだ。
そんな道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいいと思った。
何だかんだで勉強させてくれたし、わたしだけかも知れないが特別扱いさせてくれたのが解ってたから。
……けど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを幼女にしたいと申し出にきたどこかの国の富豪。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。
引き取り先が臓器密売所や、外国の特殊部隊だったらどうしようかと思ってただけに安心した。
ちょっと胡散臭そうなのが不安だったけど、こんな理由で拒んでも仕方ない。
おばあさん達には大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ食い扶持が減る。
何より周りに疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
少し寂しいけど。
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わたしは感慨に浸りつつ部屋を凝視する。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
たまにお香が炊かれなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたことだ。
わたしは口元に笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえた。強い風が吹いているのだろうか?
もし心地よい風に煽られながらここを発てるなら、わたしにとってそれは幸先のいいことだ。
空が晴れてるなら、なおいい。
わたしの夢。
いつの日かわたしが見つけたいと願う、理想の場所を探す励みに――
□ ■ □ ■
意識が覚醒すると、わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめた。
息を荒く吐くと、ゆっくりと視界が開けた。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実。
やや上方を見る。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスだと思い、やや上に顔を持ち上げ、歩行スピードをちょっとだけ上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められる。
やかましいまでの耳鳴りはいつの間にか止んでいた。
さっき浮かんだ部屋は双葉のまやかしか、カオス使用の後遺症だったんだろう。
わたしはそう思いつつ、気を引き締めながら先に進もうとした。
なのに、意に反して足は止まった。 胸の奥にむかつきを覚える。
それは幻惑され行動をまともに取れない、わたしの不甲斐なさだけから来るものではなかった。
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「……できるの?」
わたしに。
左腕の火傷を見る。
用心すれば素人でも充分に回避できたはず。
それなのに手傷を負ったファントムと呼ばれていた暗殺者のわたし。
多少の疲れはあるけれど、長谷川を殺せるだけの余力は充分にある。
なのに……。
「死ぬのは覚悟してたけど、これは無いわね」
死ぬのはこわくない。アインという殺人人形である限りは。
もうひとつの名前のわたしにしても玲二と一緒にいられるなら、
彼を生かし続ける事が出来るなら命は惜しくは無い。
でも……この様は……。
「……!」
きーんと耳鳴りがまた聞こえ始めた。
脳裏におぼろげながら記憶に無いはずの映像が浮かんでいくのを自覚する。
わたしは縋るように空を見た。
目に入ったのは炎と黒煙。
好みじゃない。
耳鳴りはまた消えていた。
「……わたしにも……あったのね」
玲二に対して口にしないと決めてたけれど、わたしは失われた記憶に関してこう考えたことがある。
死ねば記憶も元に戻る。または思い出したくないから思い出さないのとさえ。
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玲二が思ってるほど、失われた記憶に関してわたしは希望を懐いていない。
この島に来る前の生きる目的は玲二とマスターの存在そのもの。
島に来て、遙が死んだ今は長谷川をこの手で殺すことが生きる目的となっていた。
他の事はできるだけ思い出さないようにしていた。
なのに、こんな時に……期待してなかった事が……。
殺意で心を黒く塗りつぶさなきゃいけないのに、なんで。
「遙」
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せれば良かったとさえ思ってたから。
だけど願いを叶えさせる力が自称プランナー達以外にも利用可能ならどうなのだろう。
蘇生とまではいかなくても、何らかの形で償いが出来るなら。
たとえ可能性がゼロに等しくても。玲二に起こったような希望がここにもあるなら……。
「……」
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえる。
わたしは深くため息をついて、言った。
「でも、どうしようもないわ」
この先進んで長谷川を絶対に殺せるまでの自信はもうない。
例え、すぐに殺せたにしてもこの火の中、自身が生き残れる手段は思いつかない。
だから叶わないだろう希望はもう考えないことにした。
ただ、今持ってる力を最大限に使う為に。
わたしはまっすぐ先を見つめて、今度こそ迷わず前を進んだ。
↓
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【アイン(元№23)】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、 肉体にダメージ(中)
肉体・精神疲労(中)、右腕上腕部に軽度の火傷】
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仮投下終了です。
問題が無ければ火曜日に本投下使用と思います。
もうちょっと状態表いじった方が良いかなあ。
それでは次は感想を
>( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!
本投下乙です。
カオス良かったなwある意味ランス以上に相性のよさそうな相手に出会えて。
対主催の希望が主催の手に渡り、力関係が大きく変わりそうで面白い。
相変わらず予断を許さないザドゥ達の状況も緊迫感があってよかったです。
タイトルが良いなあ。
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すいませんが明日は忙しいので、本投下は水曜日になるかもしれません。
まとめUPもそれくらいになると思います。
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明日の本投下の前に後半部分をメール欄のように変更します。
おおまかな内容は同じです。
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これから本投下します。
UPはパソコンとネット環境の都合でまだできません。
すみません。
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すみません。
規制でこれ以上本投下できません。
ks3hR5Lp0さん支援ありがとうございます。
続きはここで投下させていただきます。
コピペしていただけるとありがたいです。
そうでなくても明日の晩、続きを投下します。
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「ごめんなさい玲二」
わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名を呼んだ。
もしわたしが今この道程を歩んでいなければ、生き残って――主催者を倒した上で
彼の元に帰る可能性が残っていたなら、互いにとって最高の喜びを分かち合うことができたに違いない。
でも、それはもう選び取る事はできそうにない。
何故なら、道はひとつしかないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見る。
「……わたしはできるの」
長谷川に倒されてしまえば、わたしにとって最悪な結果が訪れる。
薬に打たれて、奴の欲望を叶えるだけの人形にされてしまう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
今の確実に弱くなったかも知れないわたしに奴を殺すことができるの?
わたしは右手を持ち上げ、拳を音もなく額に叩き付けた。
「…………何を弱気な事を言ってるのかしらね」
痛みとともに、不安が霧散していくのを感じる。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を。
「……」
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せれば良かったとさえ思ってたから。
だけどもし願いを叶えられる力が、自称プランナー達以外にも利用することが可能だったなら。
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蘇生とまではいかなくても、何らかの形でこれまでの償いが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
魔窟堂のように他の主催者や自称神に全力で立ち向かってこそ、意味を見出せる結果を出せるかも知れない。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深くため息をついて、言った。
「でも、どうしようもないわ」
長谷川は主催の中の駒の一つに過ぎない。
奴相手でさえわたしは翻弄され続けた。そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに殺せたにしてもこの火の中、自身が生き残れる手段は思いつかない。
失った記憶を戻す時間も、多分ない。
だから、叶わないだろう希望はもう考えないことにした。
ただ今は持ってる力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。
わたしはまっすぐ前を見つめて、今度こそ迷わず先を進んだ。
↓
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【アイン(元№23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害、双葉としおりを警戒(だが素敵医師殺害を最優先)】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、 肉体にダメージ(中)
肉体・精神疲労(中)、左腕上腕部に軽度の火傷、行動に支障がない程度の記憶混濁】
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終了です。
無題なのはタイトルが考え付かなかったからです。
それではまた明日。
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代理投下終了しました。
>>422遅れてます。
メール欄をつぎ込んだせいで30KBいきそうな予感が……
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230さん、先日は代理投下ありがとうございました。
現在、予約希望なしです。素材作りを続けます。
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>>422にもう少し時間がかかる模様であること、
「無題」が無事本スレ投下されたことなどから、
投下の予定を一部繰り上げたいと思います。
次回は「妄執ルミネセンス」。
双葉とアインが登場、仮投下は週末深夜を予定しています。
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以下14レス、「妄執ルミネセンス」を仮投下致します。
問題なければ火曜あたりで本スレ投下したいと思います。
次回予定は「紅蓮の挙句」。
双葉とアインの決着編で、火曜晩の仮投下予定です。
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>>627
(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)
アインは歩いていた。
双葉の道の奥へ奥へと、まっすぐに、ひたすらに。
横幅は約4m。
広場とは桁違いの音が、熱が、煙が、左右から間断なくアインを苛んだ。
それでも。
僅かな視覚。僅かな聴覚。僅かな嗅覚。
アインはその全てを研ぎ澄ませて、ここに辿り着いた。
彼女を悩ませていた頭痛と吐き気は、いつの間にか収まっていた。
しかし、それは決して回復を意味しているわけではない。
意志の力が肉体を凌駕したわけでもない。
頭痛や吐き気などのサインを脳に伝える余裕が無くなって、
彼女の全細胞全神経が生命を繋ぐことのみに注力しているからだ。
単に生命力が尽きようとしているだけだ。
例えば仮にこの奥に素敵医師がいなかったとして、
道を引き返し広場に戻るだけの体力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は進む。
確信しているからだ。
素敵医師はこの奥にいると。
かさり。ちいさなちいさな音。
ごうごうと唸る炎の音にかき消される前に、アインの耳がその異質な音を拾った。
それはこの道の最奥、10m程前方にある茂みの中から聞こえてきた。
アインは無言で包丁を握り締める。
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>>530
(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)
双葉は潜んでいた。
素敵医師の死体が隠されている茂みのすぐ脇の、炎の中に。
また一体、式神が燃え尽きた。
既に10体以上を炎の犠牲としている。
そのうえ。
森の木々。素敵医師。式神星川。
双葉はそれら全てを生贄に捧げ、アインをここまで導いた。
彼女を今、最も責め苛んでいるのは眠気だった。
精神の集中を要する木々や式の使役を広範囲・長時間行ってきたことで
限界を超えた脳が、休眠を求めて意識を落としに掛かっているのだ。
自暴自棄と復讐心が油を注ぎはしたが、それも蝋燭の最後の揺らめきのようなもの。
そのことを彼女は自覚していた。
例えば仮にアインがここから引き返したとして、
アインを追って広場に戻るだけの精神力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は潜む。
確信しているからだ。
アインは決して引き返さないと。
ゆらり。炎に照らされて伸びる影。
もうもうと立ち込める煙のカーテンの向こうに、双葉はアインの姿を捉えた。
仇が、目測で10m程前方から近づいてくる。
双葉は心の中でカウントダウンを開始した。
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閃光と轟音が2人を襲ったのは、その時だった。
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アインは瞬時に理解した。
この種の閃光と轟音を発するものは、スタングレネードと呼ばれる兵器であることを。
理解したがしかし、対処は出来なかった。
出来るはずがなかった。
100万カンデラの閃光と、170デシベルの爆音。
それを身近に受ければあらゆる人間は機能停止に陥るが故に。
どれほどの修練を積み、警戒状態していたと、最低で2秒間は麻痺してしまう。
アインはその稀有な修練を積み、警戒心を持っている人間だ。
故に麻痺状態はデータに等しい2秒で解けた。
しかし、その2秒が致命的だった。
閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生したのだ。
アインに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、アインに撃ち付けられた。
アインの麻痺が解けたのは、それらの猛威になす術も無く倒れ伏した後だった。
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双葉は何が起こったのか判らなかった。
何処から、如何して閃光と爆音が発生したか判らぬままに意識を失い、くず折れた。
主を守ることを厳命されている式神たちとて、
意識の外から浴びせかけられた衝撃から双葉を守ることは出来なかった。
閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生した。
双葉たちに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、双葉たちに撃ち付けられた。
爆発の地点は左側の人型式神の脇で、直撃を食らったのもこの式神だった。
衝撃の予兆を感じた刹那、この式神は双葉に背を向け仁王立ち、その身を双葉の盾とした。
決して怯まず、決して恐れず。
全身に燃土を浴び終えて後、膝をつき、前のめりに倒れ、その機能を終えた。
それでもなお防ぎきれなかった拳大の焼け石が、双葉の左二の腕に喰らい付いていた。
石は狂猛に皮膚を破り、肉を燃やし、脂肪を溶かし、骨を砕いた。
双葉の意識は、その痛みと衝撃によって取り戻された。
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閃光と轟音の発生源は1発の閃光弾。
爆発の発生源は2枚のカード型爆弾。
それらは双葉が素敵医師の遺体から回収した道具の一部。
用途がわからなかった双葉はデイパックに詰め込んだまま放置していた。
兵器の知識が皆無の双葉にはそれが爆弾であると理解できなかった。
それが、高温に耐え切れなくなって爆発したのだ。
つまり、一連の出来事は双葉の策略ではない。
アインの先制攻撃でもない。
無知が産んだ、偶発的な事故だった。
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アインが立ち上がった。
体の前面のいたるところが焼け爛れている。
木片が右の肺に突き刺さっている。
左腕は出血すること夥しい。
頬の皮がべろりと剥けている。
肋骨5本と右足の腓骨が折れている。
それでもなお立ち上がる事が出来るのは、人体の神秘か、女の執念か。
怪我の状況を確かめることも。
さらなる罠や攻撃への警戒も。
今の爆発がなぜ起きたのかも。
自分に残された時間さえも。
意識が朦朧な今のアインの頭にはよぎらない。
取り戻した遠い昔の記憶も。
ファントムという二つ名も。
かつて愛した少年の面影も。
涼宮遙への憧れすらも。
全て爆風と散弾の衝撃に吹き飛ばされた。
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双葉は動かなかった。
未曾有の痛みが双葉を襲っている。
生肉が焼け、脂肪が溶ける異臭が漂っている。
それが他ならぬ自分の腕から煙と共に立ち上っている。
常人であれば泣き喚きのた打ち回るであろう惨状だが、
それでも双葉は微動だにしなかった。
悲鳴の一つも上げなかった。
眉間に深い皺を寄せ、歯を食いしばって耐えていた。
右に侍る式神も動かなかった。
この式神は双葉に覆いかぶさることで炎から守ろうとしたが、
それを察した双葉に動くなと命じられていた。
ほんの数m先に、アインがいる。
自分の悲鳴が耳に届くかもしれない。
式神の動きが目に止まるかもしれない。
そうなったら逃げるかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。
痛みに負けるわけにはいかなかった。
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ガラクタに成り果て、終わりが間近に迫るアインの肉体に留まったのは、
たった4つの妄執の欠片。
長谷川。
首。
わたし。
包丁。
ただその4つの単語が、アインの命を繋いでいる。
ただその4つの単語が、アインの足を前へ前へと進めている。
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遂に双葉の左腕が焼け落ちた。
こみ上げる悲鳴を飲み込ませるのは、どろどろと渦巻くたった4つの妄執の欠片。
星川。
恋。
アイン。
憎。
ただその4つの単語が、双葉に痛みを耐え忍ばせる。
ただその4つの単語が、双葉を炎の中に縛り付けている。
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見つけたわ、長谷川。
アインが呟いた。
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来たわね、アイン。
双葉が囁いた。
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アインが茂みまであと3歩の距離に達したとき、茂みの揺れがピタリと止んだ。
―――来る。
直感したアインが包丁を腹部に対して直角に構えた。
―――行け。
飛行型式神に命じつつ双葉がポケットから何かを取り出した。
直後、素敵医師が茂みからアイン目掛けて飛び出した。
その下半身は無い。無論命も無い。
素敵医師と共に茂みの中に潜み、枝葉を揺らしていた飛行型式神が
双葉の命に従い、彼の遺体をアインに向けて弾き飛ばしたのだ。
アインが素敵医師に向けて包丁を突き出す。
双葉がアイン目掛けて炎の中から飛び出す。
研ぎ澄まされた妄執と熟成された妄執が、今、かみ合わぬまま重なった。
↓
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【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】
【アイン(元№23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:重態】
【朽木双葉(№16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符7枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【備考:左腕喪失、ダメージ(大)、疲労(大)、
式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=3分程度】
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>>533-547
遅れてしまいましたが、仮投下乙です。
ようやく今深夜に新コンテンツを加えたまとめが更新できそうです。
ただ扱う情報が膨大な為に完成には相当の時間が掛かりそうです。
なので今回は骨組み程度で。詳細は更新の度に追記していきます。
間に合わなくてもSSと地図の方はUPします。
まとめをチェックした所、ミスがいくつか見つかったので報告を……
「妄執ルミネセンス」内でカード型爆弾二枚と出てますが実は一枚です。
本スレ>>163では一枚に減っていたので、>>213から表記ミスが生じてしまったようです。
幸い、本編では触れられてませんので各状態表を修正すれば大丈夫だと思います。
なので本投下の際はご注意を。
本スレ>>25 で
>秋穂に関連するランスと恭也の会話内容は他の4人は知らない
との記述があったので、時間軸的には『亡きエーリヒ殿に問う』より前の
『あの頃の感覚』内にて以下の文章を入れようと思います。
「ランスを迎え入れた時の恭也とのあのやり取りの後、
魔窟堂が恭也にその詳細を聞いた事により大体の成り行きは彼に伝わっていた。
まひるはその会話を聞き取っていた。
秋穂と言う人物名を交えた恭也の語気は短くも重く、そのゆえ不用意に返答するのはためらわれた」
それと『無題』におけるアインのマスターの呼称はちょっとあれなので
サイスに変更し、所々描写の追加と修正をします。内容は変わりません。
まとめ収録時のタイトルは『終わる長い夢』です。
レスが付き次第、本スレにそれらの修正文を投稿します。
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時間がなくなってきたので、まとめをUPします。
264話まで地図とSSを更新です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org10797.zip.html
パスは rowa です。
カード型爆弾と秋穂関連は修正済みですが、『無題』は編集しただけです。
『無題』修正版は264+のテキストファイルに書かれてます。
548に対するレスで確認が取れ次第、本スレ及びここでの投下を考えてます。
不完全ながらアイテムリスト追加と、HP素材として使いやすいようにと思い
ファイル名を一部変更しました。
以降のUPではアイテムリストの追記とキャラクター紹介追加を行う予定です。
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すみません。
今日中に「紅蓮の挙句」を仮投下できそうにありません。
勝手ながら明日or明後日に延期させて頂きたいと思います。
「妄執ルミネセンス」の本スレ投下もその折に。
ですので、>>548の修正文の本スレ投稿はお先にどうぞ。
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延長了解しました。
先ほど修正文を投下しましたが、『終わる長い夢』については
本スレの容量のこともありますので、投下は『妄執ルミネセンス』本投下後に
するかどうか検討します。
他にも本編の状況が状況だけに、没になりそうな6人組ネタもあるので近い内に投下しようかと。
それと予約という訳でないですが、次の次くらいの透子登場話でメール欄の
事に触れようかと思っています。
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延長了解です。
ってか此方も長くなりすぎて延長してるのですみません。
もう少しで完成するので明日明後日には……。
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これより9レス「だって、あいつは(略」を、
その後15レス「紅蓮の挙句」を、仮投下いたします。
「だって、あいつは(略」は、双葉単独(但し回想で何人か登場)で、
「紅蓮の挙句」を書く中で長くなりすぎた双葉のモノローグを独立させたものです。
了承が得られれば「妄執ルミネセンス」より先に本スレに投下したいと考えています。
ダメならアナザー入りとします。
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>>530
(二日目 PM6:21 F−5地点 東の森・双葉の道)
眠い……
気怠い……
頭が全然働かない……
炎の中に潜めば熱気が倦怠感を覚ましてくれるかと思ったけど、
そんなに上手くはいかないみたい。
そりゃそうよね。
陰陽術の使い過ぎであたしの精神力はすっからかん。
逆さに振っても埃も出ない。
気を失ってない今の状況の方がどうかしてる。
《もういいや》
《もう寝ちゃお?》
あたしの心の中でリフレインする誘惑の声。
今眠ったらきっと目覚めることなく焼け死ねる。
死ぬことは怖くない。
てゆーか死にたい。
むしろ死ぬべき。
心の底からそう思ってる。
でも、あたしがここで全てを投げ出したら、星川の無念の行き所はどうなるの?
あたししかいないんだ。あいつのことを想っている人間は。
あたししかできないんだ。あいつの仇を討つことは。
眠る前に、気絶する前に、死ぬ前に。それだけは果たさなくちゃダメだ。
迷いと躊躇だらけの半端なあたしだけど、あいつへの想いだけは貫き通したい。
-
だから、折れるな。
負けるな、あたし。
誘惑なんかに屈するな。
思い出せ。
あの病室を。
思い出せ。
思い出せ。
丁寧に丹念に思い出せ。
一挙一動逃さず思い出せ。
希望が絶望に塗り変わった出来事を。
思い出せ。
思い出せ。
胸を痛めながら思い出せ。
慟哭を飲み込んで思い出せ。
星川の死の瞬間を。
心の痛みで、目を覚ませ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
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(一日目 AM11:35 E−6地点 病院)
「その『目貫』という能力で君は双葉殿の首輪を破壊したというわけか…」
エーリヒさんの言葉に感嘆のため息を漏らす2人の女の子。
ちっちゃくて肌の白い巫女ちゃん・神楽と、
柔らかそうで幸薄そうなお姉さん・遙。
2人はまるで英雄でも見るみたいな眼差しで、星川を見つめてる。
ふふん。
あたしの彼氏は凄いでしょ?
だって、あいつは王子様。あたしの大事な王子様。
サイコーなヤツに決まってんじゃない!
「では…では、私たちにお力添えいただけませんでしょうか?」
「もちろん♪」
でもね。
あいつったらあたしの熱い視線に気づきもしないで、
軽薄なノリで神楽ちゃんの手を握ったり、
爽やかな笑顔を遙さんに向けたりするんだ。
「な〜に鼻の下伸ばしてんのよ」
「…やきもちはみっともないよ、双葉ちゃん?」
「誰がっ!」
どうしてあいつってばあたしにキ…… キス…… したくせに、
他の女の子の手をぎゅって握ったり、優しい瞳で見つめたりできるわけ?
好きなコがいるならその人のことしか目に入らないもんじゃないの?
少なくともあたしは…… そうだよ?
-
「取り込んでいるところ申し訳ないが善は急げという、
早速だが星川君、まずは私からお願いできるかな?」
「OK」
張りのある渋い声が星川に目貫の使用を促した。
星川がわたしの手からアイスピックを持ってゆく。
手を伸ばしたあいつの唇が、こう動いてた。
ご め ん ね ♪
そして、軽くウインク。あたしにだけ伝わるように。
ちっちゃな2人だけの秘密。
やだ、もう。ドキドキするじゃない。
今のあたしの顔、絶対真っ赤だ。
こんなに照れた顔、みんなに見せらんないよ。
「少し顎をあげてもらえますか?…OK、行きますよ」
でも、星川の声が聞こえてくると目で追っちゃう。
いつものチャラい態度じゃなくて、真剣な声と顔つきをしてた。
あたしの胸がきゅんってなる。
―――カッコいい。
あたしって意地っ張りだし、素直じゃないし、あいつの前じゃ絶対言えないけどね。
心の中ではずっと思ってるんだよ?
出会ったときからずっと、ね。
あんたは王子様。
大事な大事なあたしの王子様。
-
だから絶対上手くいく。
エーリヒさんや魔窟堂さんや他のみんなの首輪を解除して、
力を合わせて主催者たちをやっつけて、それぞれの故郷に帰るんだ。
だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。
そんなふたりのおはなしだから、最後はきっと「めでたしめでたし」。
日本に帰って、いつまでも2人で幸せに―――
パ ァ ン ! ! !
―――暮らしましたとさ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
って、思ってたところだったのに。
「…ぁ………」
悪い予感なんて全然なかったのに。
「どうして……」
どうしてエーリヒさんが血まみれで倒れちゃったの?
どうして遙さんまで倒れたの?
どうして神楽ちゃんが悲痛な顔をしてるの?
どうして…… 星川が血に染まってるの……
だって、あいつは王子様だよ?
こんなことになるわけないじゃない?
これじゃまるで、星川がエーリヒさんを殺しちゃったみたいじゃない!
-
時間が止まってた。
動いているのはエーリヒさんの首から流れる鮮血だけ。
「待ってください、この人は…」
時間を動かしたのは神楽ちゃんの切羽詰った声。
待ってって…… 誰に向かって?
声のするほうに目をやる。
「チッ!」
部屋に入ってきたのは、天パでセーラー服の女のコ。
神楽ちゃんとそのコが重なって。
神楽ちゃんが倒れて。
そのコは倒れる神楽ちゃんを振り返りもしないで。
足を止めなくて。
……星川に向かってる?
あれ? 今、キラッて。
あの子の手の中で光ったのは……
星川っ、後ろに女のコ!
女の子があんたの背中にキラって光る腕を伸ばしてる!
「…まずは、一人。」
-
まずはひとり?
何が? 何を? 神楽ちゃんと合わせて2人じゃないの?
ちょ、ちょっと待ってよ。思考が追いつかないから。
てゆーか星川、なにひっくり返ってんの?
小柄なコに背中を軽く叩かれたくらいでだらしなくない?
「え…?」
あのコの手の光るモノが今は光ってない。
神楽ちゃんとぶつかった後で光ってたアレが、星川とぶつかったら光らなくなった。
赤く濡れてる。
どういうこと? あの赤いのってエーリヒさんの血と同じ色じゃない?
それじゃあ……
「星川ッ!?」
うそ…… やだ…… だって、あいつは王子様でしょ?
こんなあっけなく…… ありえないでしょ!!
ねえ、めでたしめでたしは!? いつまでも幸せに暮らしましたは!?
あのコ、爬虫類みたいな目でこっち見て……
来た!! あたしだ!! あたしも!?
敵、星川、血、ナイフ、神楽、老人の亡骸、ゲーム、ゲーム、ゲーム、殺人ゲーム
迫る無機質な目、ベッド、あたし、手の中の鉄砲、ゲーム、ゲーム、殺人ゲーム…………
……………………
……………
……
-
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
何度思い出しても色あせない。
何度思い出しても吐き気がこみ上げる。
何度思い出しても…… あの女が許せない。
見開いた視界が赤く染まってた。
炎の赤じゃない。鮮血の赤に。あの病室の赤に。
―――来た。
思い出から滴り落ちて来た。
ドス黒い殺意の凝縮液が。
半紙に垂らした墨汁が染み込んで広がるように、
あたしの意識に殺意が染み込んで広がってゆく。
殺意はじわじわと染め上げる。
眠気を、疲労を、倦怠感を、黒く、黒く、ひたすら黒く。
うん。
もう大丈夫。もう目は醒めた。
恨みは最高の気付け薬。
諦めへと誘う声は聞こえない。
星川、もうちょっとだけ待っててね。
あんたの無念は、絶対晴らしてみせるから。
↓
-
【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】
【朽木双葉(№16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符×7、薬草多数、自家製解毒剤×1、メス×1、
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、カード型爆弾×1、閃光弾×1】
【備考:疲労(大)、式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=8分程度】
-
>>???
(二日目 PM6:26 F−5地点 東の森・双葉の道)
復讐に必要な条件ってなんだろう?
無念を晴らすってどういうことだろう?
星川が死んでからずっと断続的に、あたしはその事を考えてた。
仇の命を奪うこと?
それはもちろん必要だ。
でも、それだけじゃまだ足りない。
仇を苦しませること?
それは絶対に必要ってわけじゃないけど、あった方がいい。
だから、まだ足りない。
仇に自覚させること?
うん、これは大事。
自分がどうして死ぬのか、誰に殺されるのか。
それを理解させないまま命を奪うだけでは、消化不良もいいとこだ。
星川を殺したからあんたが殺される。因果応報。
それを思い知らせてから、殺す。
よし、あと1つ。
復讐に必要な最後の条件。
それはあいつに星川と同じ無念さを味わわせること。
あいつは死体を前に呆然とする星川を、無防備な背後から襲い、刺した。
卑怯に、無慈悲に。
あたしも死体を前に呆然とするアインを、無防備な背後から襲い、刺してやる。
卑怯に、無慈悲に。
自分がどれほど卑怯なやり方で星川を殺したのか思い知らせるために。
-
だからあたしはこの状況を作った。
状況を再現するために。
あの油断も隙も無いアインを星川みたく呆然とさせる―――
ここが一番悩ましいところだったけど、上手い具合に素敵医師がいた。
アインが唯一、執着しているらしいこいつが。
あの女と交わした言葉はそれほど多くないけれど、目を見ればわかる。
あれは、あたしと同じ目だ。あたしと同じ目で素敵医師を追っていた。
だからこいつを殺した。
殺したい相手を殺されたことに気づけば、あの女もきっと自失するから。
よし、舞台装置は整った。
血で真っ赤な病室が炎で真っ赤な森の中だ。
遙さんと神楽ちゃんが式たちだ。
エーリヒの死体が素敵医師の死体だ。
その亡骸を前に呆然と立ち尽くす星川がアインだ。
その無防備な背中を刺したアインがあたしだ。
だからあたしは攻撃に式神を使わない。
兵器化した植物をしない。
この鉄砲だって使わない。
あたしが使うのは―――メス。
この攻撃だけはあたし自身の手で刃物によって行わなければならない。
あたし自身が刺さなくちゃいけない。
それがあたしの選んだ、復讐。
-
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
素敵医師の喉首にアイン必殺の包丁が鋭く突き込まれた。
既に絶命している素敵医師は包丁に勢いが削がれたものの、
四肢に力の入らないアインは素敵医師の重量を支えきれず、
包丁を手放してしまった。
仰向けに地面へ叩きつけられる素敵医師。
アインの目が足元に落ちた彼を追い―――
2歩、3歩。
後ろへとよろめいた。
そのアインの背に、炎の中から飛び出した朽木双葉が衝突した。
手には医療用のメス。
それを、彼女は突き込んだ。
双葉なりの渾身ではあったが、腰の入っていないぬるい刺突だった。
故に刃先はアインの肋骨に刃を留め、勢い余った双葉の柔い掌を
深く切りつけてしまう。
しかし双葉は、それを意に介さない。
刃を握りこんだままアインにぴったりと身を寄せると、
吐息で耳朶を愛撫するかの如く、艶かしく濡れた声で思いを吐き出した。
怒りと恨みと憎しみがたっぷり篭ったどろどろの呪詛を。
「――――いきなり後ろから刺される気持ちはどう?
星川もね、あんたにこうやって殺されたのよ?」
-
たかがメスだ。
この一撃で殺せるなどとは双葉も考えていなかった。
ただ、お前が星川を殺したのだと、
卑怯にもこうして星川を背後から襲ったのだと
アインに伝わりさえすればそれで良かった。
たとえ振り返りざまの一撃で返り討ちにあったとしても、もはや悔いは無い。
双葉が命を失えば、制御を失った炎がたちまちに双葉の道を飲み込む。
アインの命は必ず奪われる。
復讐は成った。
朽木双葉は緩やかに瞼を閉じる。
(星川、今、あんたのとこ行くからね……)
双葉に達成感はなかった。
満足感も恍惚も無く、嫌悪感も後悔も無かった。
彼女の五体を包み込んでいるのは、開放感。
やっと終わった。
五体に張り詰めていた緊張が解きほぐされていくのを感じた。
今まで蓄積してきた疲労が一気に噴出するのを感じた。
ただ疲れていた。
もう眠りたかった。
その永劫の眠りがアインによって与えられるのを待っていた。
しかし―――
予測していたアインからの反撃がまるで来ない。
そのことが、一度は弛緩したはずの双葉の心と体に再び緊張を与える。
(もしかして…… あたしのメスで死んじゃった?)
-
双葉の背筋を駆け昇ったのは動揺。
メスの一突きでアインが絶命したとするならば、
状況を再現するという条件については青写真以上の成果を上げたと言える。
逆に。
仇に自覚させるという条件についてはまるで達成できていない事になる。
双葉の呪詛が、アインの耳に届いていない事になる。
完璧なはずの復讐に大きな瑕疵が生じてしまう。
(目を開けて、状況を確認しなくちゃ……
でも、もし目に入ったのがアインの死体だったら……?
もう取り返しはつかないのに……)
葛藤が双葉の胸を大きく揺さぶる。
双葉の額に冷や汗が流れる。
その彼女の耳に―――
ざり。
ざり。
音が、聞こえてきた。
双葉がその短い生涯の中で、一度たりとも聞いたことの無い音が。
たまらなく不吉な響きを伴った、単調で重厚な音が。
ざり。
ざり。
音の重圧に負けて開いた双葉の瞳に映ったものは、
素敵医師の遺体に馬乗りになり、その首を切断せんと包丁を鋸の如く
挽いている、アインの姿だった。
-
「なにを……」
鬼気迫る光景だった。
アインからはかつての彼女が持っていた機敏さやしなやかさが失われていた。
代わりに得ているのは緩慢さバランスの悪さ。
これがかつてファントムの2つ名で恐れられた暗殺者の姿なのか?
彼女の過去を知るものが見れば、目を疑うに違いない。
「煙で目をやられたの? 良く見なさい、アイン。
あんたが死に物狂いで追いかけてた男はもう死んでるの。
あたしが殺してあげたから」
双葉が悪寒を堪え、アインへと告げる。
アインは、無反応だった。
包丁に体重をかけて一心不乱に首を挽いている。
「もう死んでるって言ってるでしょ!!」
双葉は叫びと共にアインを蹴り飛ばす。
アインは腰砕け転がった。
糸の切れた操り人形を思わせる、無様な転がり方だった。
それでも。
ゆらぁり……
炎に不気味な影を揺らしてアインは立ち上がった。
墓場から蘇る屍鬼の如く、緩慢に、鈍重に。
双葉をその意識に捉えることなく、素敵医師の側へ。
そしてまた、首を挽く。ざり。ざり。
-
哀れな双葉が膝をつく。
メスを突き込んだ時とは似て非なる、重々しい疲労感が彼女を飲み込む。
意図せぬ2種類の爆弾の炸裂。
それが閃光弾だけだったら、アインにダメージは無かっただろう。
それがカード型爆弾だけだったら、アインはダメージを軽減できただろう。
2つの要素が、この順番で、そのタイミングで、あの距離で。
全て揃ってしまったが故に。
長谷川。首。わたし。包丁。
その4つのことだけしか判らないくらい追い込まれた。
長谷川やわたしの生死も判らないくらい追い込まれた。
……ごとり。
執念が実ったか、ついに素敵医師の首は落ちた。
アインはそれを拾い上げると、大切な宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめた。
その首の重さも、既にアインの腕の許容量を超えていたらしい。
膝立ちのアインはふらりと後ろに倒れた。
その後ろでしゃがみこんでいた双葉の胸に抱かれるように。
「アイン……」
虚ろな目で仇の名を呟く双葉。
その声にか人肌の感触にか、ともあれ、アインが反応した。
「そこに誰かいるのね……
聞いてくれるかしら……?
わたしの話を……」
双葉が息を呑み、アインを見つめる。
-
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
ねえ、あなた。運命って信じるかしら?
わたしは信じるわ。
今までのすべてことがこの瞬間のために用意されていたような気がするのだもの。
きっと、わたしが今まで生きてきたのもこの日のためよ。
わたしは人を殺すために生かされていたの。
殺して、殺して、殺して、殺す。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
様々な技術を身につけたわ。
雑多な知識も学んだわ。
全ては人を効率良く、高精度で殺す為に。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
それだけしか無い人生だったわ。
いつだったかしら。
そんなわたしに転機が来て、しがらみから逃げ出したの。
その時から、人を殺すために生かされていたわたしが、
人を殺さなくても生きてゆけるわたしに変わったわ。
-
それからのわたしの隣にはいつも彼がいたわ。
今はもう、上手く彼のことを思い出せないけれど、
彼はいつだってわたしの手を引いてくれたの。
だからね。
わたしは振舞ったわ。
彼が望むままに。彼の愛するままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
わたしはそういう人間だったの。
環境が変わっても、立場が変わっても。危険な時でも、平和な時でも。
誰かが指し示す方向にしか進めない人間。
機能だけを磨かれた、ヒトガタの道具。
この首はね。
そんなわたしが初めて、自分が欲しいって思ったものなの。
憎かったような気もする。
愛しかったような気もする。
悲しかったような気もする。
どうしてこれが欲しいと思ったかなんて、もう思い出せないけれど。
それでもね。
わたしはずっとこの首のことを想っていたの。
そのことだけを願っていたの。
欲しい、欲しい、あの首が欲しいって。
これでなくちゃいけない。そんな固執を抱いたのは初めてだったし、
その気持ちを理性で制御できないことも、初めてだったわ。
感情の波に揺さぶられる。眩暈がするほど鮮烈な経験よ。
-
それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。
わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの
わたしの全てを、わたしだけの為に使って。
だからね、はっきりといえるわ。
わたしは、いま、しあわせよ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
-
「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」
アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。
「なによその顔はぁっっ!!」
一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。
「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
こっちを見ろ! あたしを見ろ!」
満ち足りて死ぬ―――
そんな死に様は双葉にとって完全に予想外だった。
可能性が頭に掠めもしなかった。
たとえ双葉の掲げた復讐の条件を全て満たしていたとしても、
この一手で全てがひっくり返る。全てが無駄になる。
そんな身勝手な死に様、許すものか。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の方向を向ける。
「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
あたしがあんたを殺すんだ!!」
アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。
-
朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。
「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」
思わず手が出た。平手を見舞った。
「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。
「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。
「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。
「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。
「星川っっっっ!!!!!」
双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。
「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」
双葉の声が歓喜に震える。
復讐が遂に実を結ぶ。その予感に。
「……って……」
-
「…………………………何だったかしら」
誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え、四肢がだらりと垂れ下がる。
双葉は絶句するのみ。
その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。
「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」
言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も、打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。
アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。
満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。
↓
-
【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】
―――――――――残り 8 人
-
>>553-576
仮投下お疲れ様です。
だってあいつは(略の、の投下の方了解しました。
こちらはOKです。妄執レミネセンスの前でも一向に構いませんので。
-
名前欄入れ忘れましたorz
「紅蓮の挙句」の方も内容に問題はないと思います。
明日か明後日の夜に6人組の小ネタをここに仮投下する予定です。
「最優先事項」等との兼ね合いができそうなら本投下も考えてます。
ぎりぎり本スレ埋められる容量だといいのですが。
「終わる長い夢」は次スレかここの投下にします。
「最優先事項」等の内容次第で、次は透子の方を予約します。
気づいたことですが、どうもアインの参戦時期はメール欄みたいですね。
-
「……ちと良いかの狭霧殿?」
地獄の苦しみに悶絶して自らのバットを抑えるランス。
ふんっ。といい気味といった表情でバットを地面につけたつ狭霧。
男とてその様子に少々怯えながら魔窟堂は後ろから狭霧に話し掛けた。
「あぁ、魔窟堂さんですか」
ニコニコとしながらジジイではなく名前で呼ぶ狭霧の顔が魔窟堂や横にいるまひるたちには少々怖く感じれた。
なにしろ、ランスのハイパー兵器を破壊?した直ぐ後である。
「い、いやの、話したいことがあるんじゃが……」
魔窟堂の言葉で心の中でピクリとだけ動いた狭霧が魔窟堂の顔を覗く。
(さて、ジジイ? もしかして先ほどのことですかね? それとも探りを入れてくるのか……)
ジジイこと魔窟堂が不信感を抱いたのは先ほどのやり取りで感づいた。
このタイミングで話し掛けてくるということは、その気づいた不信感を直接か、
遠まわしか、どちらにせよぶつけてくるのか。
それとも確信を持つために探りを入れてくるのか。
騙しあいが始まりますかね? と狭霧は心の中で呟く。
-
「なんでしょう?」
まずは切り出してみないことには始まらない。
魔窟堂の声にとてもランスのハイパー兵器をバットで……とは思えないほど爽やかに返事する狭霧。
その様子が余計にまひる達の顔を青く引きつらせる。
「う、うむ。……有体に言えばこれからのことにあたってなんじゃが」
「……と言いますと?」
どうやら今のところ先ほどのこととは無関係であるようだ。
尤もこの先に何があるか、狭霧は油断できないが。
「此方側の戦力・状況分析はほぼ終わったと言ってよいじゃろう。
で、これからの指針になるわけじゃが……、その前に運営者達のことについてじゃ」
「なるほど。脱出が成功するにしろ彼らとの衝突は避けれない。
これからの行動を決める前に、その為にも私達と同じように彼らの戦力と状況を分析すると言うことですね?」
「流石狭霧殿じゃ。解りが早くて助かる」
純粋にそれだけの理由で魔窟堂は話している。
それは例えかすかな不信感があったとしても、やはり知能という面においては最も狭霧が頼りになるからであろう。
ふむ。と内面で思考した狭霧は、警戒を解く。
必要以上に張れば、何処かで警戒を相手にも気づかせてしまう。
それは必要以上に不信感を煽ってしまう、と判断した。
魔窟堂の方も必要以上に勘繰れば彼女に警戒と不信感を抱かせてしまうのがわかっている。
今まで通り普通に接するべき部分ではそうしていくべきだろう、と判断し、これからのことも兼ね揃え、話題を切り出した。
-
「では、順番に行きましょうか。
まずはあのザドゥという男ですね」
アソコを抑えてフーフーしてるランスと心配するユリーシャもようやく彼らの会話が耳に届く余裕を取り戻す。
「あぁ、あの野郎か……」
低い声を出しながらランスはザドゥのことを思い出す。
同じく、全ての始まりであったあの時を各々は思い出していた。
「最初の彼の立ち位置から大体想像できますが……タイプ的にも駒というよりは彼の役割はリーダーでしょうね。
恐らく頂点にどっしりと構え座り、まとめ役に立つものだと思いますが……」
「ワシもそう思う。そのためにも圧倒的強さを持つ彼なのじゃろうな……じゃが……」
「ええ、倒せないわけではありません」
あくまで倒せない『わけではない』ですけどね、と付け加わる。
タイガージョーとの打ち合い。
凄まじい攻防の果てにザドゥはタイガージョーを打ち倒し、その自らの強さを示した。
その強さは参加者を畏怖させる。
が、今この時をもってして、それは手の内を晒したという事実に他ならなかった。
「格闘家に間違いないでしょうね。それも生粋の」
「ったくこのアマ……。
格闘家なのは解るが、あいつの打撃一つで虎野郎の動きが止まったぞ?」
「何か言いましたか?」
-
狭霧に対して少々ぼやきながらもランスはあの時見えた光景の疑問を吐き出す。
彼の世界にも格闘家は存在している。
例えば、かつて世界最強と謳われたフレッチャー・モーデル……本人はもはやただのデブだったが、
その弟子は真空破のような物を出したし、ランスの良く知るヘルマンの皇子パットン・ミスナルジは、
格闘レベル2であり、武闘乱武という奥義を使える。
……周囲の認識は自爆技では有るが。
「俺様のランスアタックのように気を使ってるのは解ったんだが……あれはちと厄介だぞ?」
タイガージョーが放った奥義といい、ザドゥが使った死光掌といい、どちらも気を利用している。
同じく気を利用した必殺技を放てるランスは、全てを捉えきることは不可能だったが、彼らの気の動きを原理は解らぬが垣間見ることができた。
「ふむ、気か……。それなら恐らく。
気を相手の身体に打ち込んで相手の体の動きを止めたり、支配権を封じて自由に動かすとかかのう……。
YOU は SHOCK〜 愛で空が落ちてくる〜。というやつじゃな」
世紀末覇者達が繰り広げる漫画のテーマソングを歌いながら魔窟堂がそこから読み取った推測を重ねる。
あの時は何をしたのかどんな技か解らなかったが、気を使ってるという事実さえ解れば、無駄なオタク知識が導いてくれる。
「……触れられたらアウトってことですかね?」
歌う魔窟堂に呆れつつ狭霧が推測を尋ねる。
もし、それが事実であるなら、真正面からの戦いではほぼ無敵と言っていいだろう。
-
「それはないんじゃねーかな。俺様のランスアタックもそうだが、気を整えるための時間が必要だし、この手の技は練った時間と込めた力に応じたモンになるからな。
あの時、あの野郎も気を練ってやがったのは感じ取れた。
速射性はなし、触れられたらアウトってこたないと思うぜ」
「うむ。わしもそう思う。全力全開で撃ったものがどのくらいの威力でどういう効果を出すかまでは解らぬが、
漫画のように指先一つで秘孔を押せばダウンということはなかろうて」
「なにその漫画?」
「なに世紀末覇者達の集う熱い漫画じゃよ。無事戻れたらまひる殿も読むといい。なんならワシが貸して……」
「はいはい、それはいいですから。続けましょう」
「ちょっとくらい語らせてくれてもいいじゃろう。オタクの本分は語ることに……」
さみしいのう。とさめざめという魔窟堂を横に狭霧は情報を皆の前で整理する。
ザドゥ。
格闘家であり、その実力は計り知れない。
彼の役割は、ゲーム運営実行者達のリーダー。
運営実行者達を纏めている象徴が彼なのだろう。
が、真正面からでもこのメンバーで勝つ事は可能と判断できる。
スピードにおいては魔窟堂の方が圧倒的であるし、ランスや恭也の戦闘力、まひるのトリック的な能力、
そして今はいないが知佳、更にもしアインが加われば、益々負ける要素はない。
また人間である以上、粉塵爆弾のようなトラップを防ぎきる事は不可能だろう。
しかし、ザドゥの格闘家としての戦闘力もまた達人を超えたものであり、その一撃もさることながら、
相手の動きを止める奥義も所有していると判断できる。
攻撃力は非常に高く、一撃一撃が下手をすれば致命傷に繋がる可能性もある。
真正面からぶつかれば、何人かは命を落とす可能性が高い……いや落とす方が確実だろう。
あくまで真正面から闘った場合であり、奇襲をされた場合の対処は難しいといえる。
倒すのは難しい。
しかし、方法がないわけではない。倒す方法を取れないわけでもない。
みなの指揮を高めるためにも『希望は見える』と強調する。
-
「奇襲してくるようなやつにはみえなかったけどな」
「あの手のタイプは正々堂々真正面から制裁を加えに来るタイプじゃな」
と最後にランスと魔窟堂の意見が付け加わった。
「では次に行きましょうか」
「関わった順番からいけばあの嬢ちゃんかのう……」
「それって……」
「どれだ?」
察したまひるに対して、嬢ちゃんと言われて、最初にいた三人のうちどちらであろうかと尋ねるランス。
「御陵透子……警告者の方じゃな」
「おー、あのねーちゃんか」
んむ、あのねーちゃんも中々えがった。とランスはニヤケタ顔で思い出す。
警告を喰らったことより彼の中ではいい女という印象の方が強い。
「「…………」」
その様子をジト目で見る狭霧とまひる。
狭霧は重要な情報なのにと呆れつつ、まひるはこの人は相変わらずだなぁと苦笑しながら。
-
「まず共通している事は、神出鬼没。恐らく何らかの移動能力を持ってるのじゃろう。
次にどうやら初期の頃からゲームに消極的なもの、反抗的なものや行為を取るものに警告を加えていたようじゃな」
「……何というか得体の知れない不気味な感じでしたね」
「でも攻撃的じゃなかったよね……」
「総合するとその移動能力を持って警告と監視をするのが彼女の役割じゃろうな」
事実、病院では透子の警告の後に狭霧達は襲われている。
ランスは、その後にケイブリスの襲撃を受けている。
透子の役目は警告者に徹するものだろう。と彼らは判断する。
「戦力としては不明じゃな……あの神出鬼没な移動能力は厄介じゃが」
故に不気味である。
ザドゥやケイブリスのように見るものを畏怖させるような『強い』という感じはないが、
先ほど、狭霧が言ったように何かを隠してるような不気味さがある。
「実際に戦闘になってみないと解らんが、知佳殿やまひる殿のように特殊能力的な何かを使うタイプかのう……」
「直接戦うタイプではなさそうですからね……。ま、現状ではこのくらいでしょう」
「では次じゃな……」
「包帯ぐるぐる男ですか?」
「んむ……嫌な声をしとった」
あまり思い出したくない、語りたくないといった風に魔窟堂が口篭もりつつ語る。
狭霧の方も遺作に捕まった時に少々の事は聞いていたし、因縁のある物が多い相手である。
「トリックスター……と言ったところかの」
-
素敵医師の行なったことは、ゲームを加速させること。
薬と話術を用いて、遺作のようなゲームに乗っているものにはサポートを。
遥やアインのような消極的なものには薬を用いて混乱を。
彼らの知らぬ所では藍にグレン達にと様々な手を用いて接触し、混乱させている。
最もどれも破滅していく様を見るのが素敵医師は好きだったのだが。
先に出た透子のような警告者とは違い、直接手を下す実行者的な役割だろう。
「私は一番警戒するタイプだと思いますけどね」
狭霧は考えた結果を口出す。
遺作のことからも愉快犯的な一面があるのが読み取れる。
また策を講じてあれやこれやと此方を引っ掻き回すようなこともしてくるのが遥の件から読み取れる。
ザドゥと違って奇襲も遠慮なくしてくるだろう。
罠も仕掛けてくるだろう。
この状態なら、もしかしたら交渉も持ちかけてくるかもしれない。
この島において最も注意せねばならぬ人物であると彼女は踏む。
「実行犯であることとアイン殿が追いかけてることからも戦闘力も備えてると見た方が良さそうじゃな」
「本質的には裏をかくタイプでしょうけどね」
「そういえばおっぱい娘は俺様達しか出会ってないのか?」
カモミール・芹沢、といってもランス達の前で名乗ったわけではないのでおっぱい娘である。
ちなみに彼女の襲撃でグレンが死に、解除装置を受け取った、ということにランスはしていた。
ばれたらまずいと思い、この輪の中にいる内に浅はかな行動に反省はしつつも、反面「嘘はついてない」とランスは思っている。
確かに彼女の襲撃でグレンが死んだのは事実である。
トドメを刺したのがランスであっただけで。
-
「改めて聞くがどんな感じでしたか?」
「あのおっぱいは兵器だな。うむ、一戦お手合わせしたかったぞ、ガハハハハハ」
「ランス様、そういうことではなくて……」
「ん、ああ。チューリップみたいな大砲を使ってたな。あれは少々厄介だな。
帯剣もしてたが恭也のやつの方が強いと俺様は思うぞ……だが」
「だが……どうしました?」
「グレンのやつに左腕をすっぽり切られた」
「「「「え?」」」
一同の声が重なる。
もしかしたらグレンの最後の力で倒されたのだろうか?
と少しだけ期待しつつ。
「斬られた手に握ってた刀だけもって逃走しやがった。
左腕も置きっぱなしだったし、出血も凄かったし、あの様子じゃ長くないと思うぞ」
実際には斬られた左腕は、斬られた所が素敵医師の薬の副作用で硬質化、更に少しずつ異形化している。
「グレン殿……」
その光景を目に浮かべ魔窟堂がぐっと目を堪える。
「まぁ、処置を施されれば生きてる可能性はありますね。
ですが、戦力としては使えたとしても大幅にダウンしてるでしょう」
「ふむ。では要注意人物ではないじゃろうな」
「……向こうに反則的な回復手段がないことが前提ですけどね」
-
しかし、戦闘手段は大砲で砲撃し、接近戦は剣士として戦うというスタイルだろうことがわかる。
その実力も厄介であるには違いないが、ザドゥ程のような強大なものでもないのがランスの言からも取れる。
素敵医師と違って純粋な歩兵が彼女の役目であると狭霧たちは判断した。
「では、あの巨大な化け物についてじゃが……」
「ケイブリスの野郎か……。強いぞ」
「ワシも姿を見たが、あれを相手にするのは骨が折れそうじゃな」
ケイブリス。
純粋な破壊力ならザドゥ以上であろう。
何より、あの体格が脅威である。
人の身のザドゥと違い、致命傷を与えるのが難しければ、接近戦なら六本の腕と八本の触手の猛攻を掻い潜って攻撃を与えねばならない。
更にランスから聞き及んだ限り、ザドゥと違って奇襲もしてくる可能性が高い。
勿論、巨体である故に目立ちやすい上に大きさから来る立ち回りの不利があるのは間違いない。
が、それを有り余って補う圧倒的な暴力。
奇襲するにしても人間であるザドゥと違って耐久力も防御力も与えなければいけない範囲も桁違いである。
ザドゥの時で述べたような粉塵爆弾等では目くらまし程度の効果しかない可能性もある。
もし戦うことになったら単体では最も一同が警戒せねばならぬ相手。
「できるなら真正面からは戦いたくない相手じゃのう」
「流石の俺様も武器なしじゃ真正面はきついぞ」
「その辺は最悪、恭也さんと魔窟堂さんに前線を期待するしかないですね……。まひるさんでは機動力という面で向いてないでしょうから」
「ご、ごめんなさい」
「後方支援として期待してますよ?」
「が、頑張ります」
-
果たしてそんな化け物相手に自分が役に立てるのだろうか。
いや、やらなければいけないのだ。とまひるは自分に言い聞かせる。
「良きかな良きかな」
と魔窟堂はそのやり取りを見て「努力、友情、勝利はいいのう」と頷いていた。
「ジジイは、その加速装置で相手の撹乱ということで……」
と狭霧は突っ込むようにぼそりと言った。
(ザドゥとケイブリスに対しての理想は奇襲から短時間で仕留める。もしくはトラップにはめる。ですかね……)
かつて。
狭霧があちこちに仕掛け、参加者がかかってくれれば良しであった時と違い、
今度は特定の相手のために罠を仕掛けなければいけない。
今どこにいるか解らない上に次に出会うと限らないケイブリスとザドゥを対象にしたトラップを
連れ込むための場所を用意して仕掛けるというのは現実的に無駄が多い。
彼ら以外が引っかかってもそれはそれで有効なこともあるだろうが、
苦労して仕掛けた切り札をなくしてしまうのは惜しいし、参加者がかかる可能性もある。
ならば、二人以外にも有効なトラップでもいいし即席的なトラップでもいいが、
そうなると煙幕等の小細工的な手段になるだろうか。
奇襲するなら、トラップなら、役立つアイテムを作って用意するとしたらどんな方法がいいか、と狭霧はあれやこれやと考え始める。
-
「各々の対処は、後々臨機応変にしていくとしてじゃ。あと一人じゃな……」
思考しはじめた狭霧を見て、「狭霧殿らしいのう」と言いながら魔窟堂が最後の一人について切り出す。
「正確には何機いるのかわかりませんがね」
「……病院で私達を襲ってきたあの……人?」
「改めて聞く限りでは完全なアンドロイド……で間違いないかの?」
「えぇ、恐らく司令塔である本体は本拠地にいて、そこから遠隔操作で分体を操作しているんだと思いますけどね」
「……まだ駒はあると思うか?」
「断言はできませんが……もし今後のことを考えるのなら、少なくても繰り出してきた数と同数以上、6体前後は最低でも残してる可能性がありますね」
放送の声が彼女であったことからも本体が残ってるのも解る。
「特徴は……」
警告者である透子、早々に舞台へ登場した素敵医師とカモミール芹沢。
それに対して智機が出てきたのは首輪解除後である。
「運営側の最終防衛ラインを担ってる者と言ったところですか」
「あとは、機械歩兵として可能な技術は詰め込めると見てよいじゃろう……」
一度に同時並行で操れる数は解らないが、各々の機体を別々の指示で繰り出す事が出きるだろう。
戦闘方法といった細かい部分はあらかじめ組み込まれたプログラムによってオート化されているのだろうが、
アレを使え、ココは引け、等と言った指示は有効と判断できる。
-
「6か……」
全てを上げ終えたところで魔窟堂がその数を呟く。
「……まだいたりするのかな?」
最初に出会った五人とは別に現われたケイブリス。
そのこともあるともしかしたら、まだ出ていないだけで他にもいるのかもしれない。
他の皆も一度は思った疑問をまひるはこの場にぶつけてみた。
「難しい話じゃな……。じゃが、戦闘員はほぼいないと断言しても良かろう」
「同感ですね」
「え、え、どうして?」
魔窟堂の返答に対して当然といったように返事をする狭霧。
それを見てまひるがクエスチョンマークを浮かべる。
「単純なこった。今俺様達がゆったりしてられる。それが事実だろ?」
挟むようにしてランスが横から答えた。
「まぁ、ランス殿の言う通りじゃな」
「まひるさん、今首輪をつけている参加者は後何人いると思います?」
疑問に対して狭霧は疑問に答えた。
「え、えーっと……ここに6人いて、あとアインさんでしょ……。
あっ!」
-
数え出してまひるはピンと来た。
「そうじゃ、恐らく2人か、3人もいればいい方じゃろう」
「つまり、あちらも全力で此方を潰しにこなくてはいけない……はずなんですよ」
「その状況下で俺達は襲われてない……それが事実だ」
一呼吸つくと魔窟堂が状況整理とばかりに語りだす。
「まず純粋にザドゥと名乗る男はトップじゃ。
トップが軽軽しく動いてはならぬのが組織の定めであり、そのために各々の役割を持った執行者がおる。
この男が前線に出てくるのは、まず余程のことがない限りありえないじゃろう」
「もしかしたらワシラが知らないだけで、今までも、今もどこかに出動してる可能性もあるかもしれんがの」
とだけ魔窟堂は付け加え、
「ありえねさそうだけどなー」とランスが応答する。
「では消去法で行きましょう。次はけったくそわるいと評判の包帯男ですが……」
「アインさんが追いかけてる人……だよね?」
「そうじゃ。今まで此方に来る素振りもないということは、おそらくアイン殿が追跡してるおかげじゃな」
素敵医師がまだ単独で動いてるのかは解らないが、此方に来るには、アインの手を振り切る必要がある。
しかし、その名を知られたファントム。
出し抜くには困難をきっするのは間違いないであろう。
もし他の駒をぶつけたとしたらそれも可能だろうが、それなら今だ此方に来ていないのが気にかかる。
「他にも怪我をしたか、アイン殿の手によって既に亡くなっているか、残る少ない参加者の方に加担しにいったかは解らぬが、
ここまで放置されている以上は、現在手が空いていないと見てよいじゃろう」
-
「手が空いてないと言えば、残りの三名も大なり小なり同じでしょうからね」
「まず陣羽織のお嬢ちゃんじゃが、ランス殿からの情報によれば、そうそう前線復帰はできんじゃろう。
勿論、あれから大分時間も経っとるので既に治療されている可能性もなきにしにあらず、じゃから今後はわからんがな……」
片腕となったカモミール芹沢。
「……ケイブリスの野郎もダメージは負ったはずだからな」
中の両腕と鎧の背を破壊されたケイブリス。
「此方も全滅させましたからね……」
病院で破壊した6機。
今までの彼らの行動は無駄ではない。
勿論、カモミール芹沢やケイブリスのように戦力を戻しつつあるものもいるが、
少しずつではあるが彼らは着実に運営陣たちにダメージを与えていた。
「つまり、もし他にも人員がいたり余裕があるのだとしたら、それを此方に必ず割いてくるはずじゃ。
故に余裕がない可能性の方が高いじゃろう」
「ただ非戦闘員……。まぁ例えば彼らの食事を用意する係りとか掃除係とか……半分冗談ですが、雑用のための人員はいるかもしれません」
「これらから恐らく向こうは今戦力を割く余裕がない、と見ることができる。
そして次に来る時は必勝を来してくるじゃろう」
「前も言いましたが、そのために準備を整えてる……未だ整っておらずと言ったところですかね」
-
ふぅ、と一息つくと「しかし」と狭霧は言葉を再開する。
「ただ一つ気になるとしたら……」
「うむ。戦力はある……しかし、あちらさんの方か、それともここにいない参加者達の方で何かあったか……」
「こっちにかかれないようなことが起きたか、ってことか」
あちら側が、現在此方に手を割くことができないような重大な何かが起きたとした場合である。
戦力も余裕も十分にあった。
しかし、そのせいで此方に来る事が未だできないということである。
「それの懸念材料が今回の放送ですね」
「死者がいなかったことですか?」
此方にとっては喜ばしいことでしたけど、とユリーシャは言った。
「いや、時間の方じゃな」
が、即座に否定の発言が出る。
「ええ、今までぴったりと時間通りに行なわれていたはずの放送が今回に限って6分ですが遅れた」
「たかが数分と思うかもしれんが、少なくともその時何かがあったのは間違いない」
「果たしてそれが何であるのかは解りません……。しかし今現在私達が全く放置されたまま。
先ほどまで出払っていた魔窟堂さんの方にも何も有りませんでした」
「それらと放送遅れが因果関係が全くないとは思えぬ」
「例えば、あの機械兵の軍団ですが……。
もし私達を殲滅できるほど、または兵糧攻めできるほどにストックがあるのだとしたら、既に投入しているはずです。
けど、実際には何も起きていない」
「繰り返しになるが、ストックはあるが手が空いていないかストックに余裕がないか、だな」
-
事実、智機のストックはもう無駄にできない地点まで追い込まれている。
まずアズライト・鬼作・しおりの一件で80体以上を失い、次に病院での戦闘で戦闘特化させたはずの6体を失った。
その時点ではまだ余裕があり、狭霧の懸念したように今度は本気での追撃を行なおうとしたが、
19体を破壊され、とうとう追い込まれた。
挙句の果てには透子の手により二機破壊されている。
本拠地の防衛、管制室の防衛を割くのは最終手段であり、それを除けば智機が総力を尽くせるのは後一回が限度とまで来ていた。
尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。
「わしらが放置されたまま、その上での放送の遅れ。
全く関連性がないとも思えぬ……」
「これ以上は完全に読めない推測になるので何ともいえませんけどね」
と狭霧が一旦締めくくる。
小屋の外で見張りに立つ恭也の額に汗が走る。
少し前から東の方でオレンジ色の光が浮かび上がっていた。
恭也が気づいたのは少し前。
何事かと思いつつ其方からも目を離さなかった恭也であったが、直ぐにそれが何であるかに気づく。
焦げた臭い。
上空に立ち上る巨大な煙の雲。
火の粉が飛び散る様がここからでも良く解る。
森が燃えている……それも大規模な火災。
-
燃えているのは、彼らがいる西の森ではなく東にあった群生の森である。
しかし、ここからでも鼻を燻る臭いが感じ取れる。
病院や学校、東の森の近くの建築物はまず壊滅的だろう。
あの勢いがこのまま続けば、風に流れ、こちらの群生の森まで飛び火する可能性がある。
(これはまずい)
直ぐさま、小屋のみんなに知らせて相談をした方がいいだろう。
しかし、全員外に一斉に出すわけにはいかない。
まずはリーダー格として主導を握る魔窟堂と狭霧の二人に見て貰うか。
そう判断した恭也は扉を背にし、「魔窟堂さん、狭霧さん」と声をかけながらトントンとノックをして開けた。
「あ、恭也さん。どうしたんですか?」
あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
そんなことありますか、と狭霧が否定しつつ。
まぁないとも言えんがのう、と魔窟堂が頭を捻らせ。
機械がどうして食中毒を起こしますかこのジジイ、と狭霧が魔窟堂の頭を叩き。
あれではないか、これでもないか、と現在ある情報を元に推測を重ねている所に開かれた扉と呼び声にまひるが答える。
「魔窟堂さんと狭霧さん、少し来てもらえませんか?」
此方に身体を半分向け、中にいる二人に向かって恭也は催促する。
-
「む? 何事じゃ?」
「……何かありましたか?」
「むっ?」
「?」
空気が打って変わって変わった。
恭也の声にただならぬ事態が起きたのではと中にいる各々は思う。
敵か? いや敵ならこんな余裕はないはずである。
では、一体なんであろうか。
緊張が走る中、次に恭也の口から出た事実は想像以上の衝撃をもたらす。
「……向こうの森が燃えているんです。
多分、こっちまで火が移ってきそうな勢いで」
「「「「「え」」」」」
驚きの声を上げる五人をよそに恭也が続ける。
「詳しい状況は見てもらった方が解りやすいので……」
「ぬぅ……。すまんが一度に全員出ると万が一の可能性もある。
ランス殿、ユリーシャ殿とまひる殿を頼めるかの?」
「む、がはははは。そういうことなら任せておけ」
「おいどういうことだ」と言っていたランスだが、女性二人?を任せられると機嫌よく引き受ける。
-
「では、まひるさん、ランスさん、ユリーシャさん、少し見てきますね」
そうして恭也に連れられ、魔窟堂と狭霧の二人は小屋の外に出ていく。
そして
「こ、これは……!?」
「本当に森が燃えている……」
ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。
「恭也度のこれは何時頃から?」
「最初に光が上がったのに気づいたのは放送の少し前です。
何だろうと思ったんですが、直ぐに消えるかとも思ったら、それどころか……」
「もしや……」
「えぇ、可能性は0ではありませんね」
「うむ。時間的にも一致する。
恐らく火災だけではあるまい、あそこでわしが見過ごした何かが起きているかもしれん」
「……どういうことです?」
狭霧と魔窟堂の相槌を見た恭也が何の話かと尋ねる。
「うむ、実はの……」
ひとまず整理した運営組の詳細はおいておき、二人は先程まで小屋の中で運営組に関しての情報整理をしていたことを簡潔に述べると
首輪をつけた参加者が数少ない状況で未だ自分達が放置されてる理由、どうして放送が遅れたかの疑問、などを答えていく。
-
「なるほど……」
「どう思う狭霧殿? 安全を取って移動をするにこしたことはないが……」
「……もしこれが結びつくのなら、打って出るチャンスでしょうね。
しかし……」
安全の為にも移動はした方が良いだろう。
炎をやり過ごすなら西の海方面である。
打って出るのならば始まりの地であった学校であろうか。
しかし、この炎の勢いでは学校は、今いる森より早く火が飛び移り燃えるだろう。
どうするべきか、と恭也を交え二人は考え込む。
一方、小屋の中に残された三人。
「赤い光……大丈夫でしょうか?」
「がはははは、大丈夫だ。いざとなったら海にでも飛び込めばいい」
「あたしは寒いのは嫌だなぁ……」
良く見れば、小屋の窓からもオレンジ色の光が少々垣間見ることができる。
窓越しに見える光を見ておののくまひるとユリーシャだが、外で実物を見たらもっと驚くだろう。
「―――ッ!?」
「「ランスさん・様?」」
二人を元気付けるかのごとく笑っていたランスの雰囲気が変わる。
-
「ど、どうしたの、ランスさん?」
「三人の気配がここからでも解るくらいになった」
急に本気の顔になったランスを見たまひるは意外性もあり、何事かと驚く。
「誰か……よろしくねぇやつが来た」
小屋越しにぴりぴりとした空気をランスは感じ取る。
外にいる三人のものだ。
きっかけは急に恭也の気が緊張して膨れ上がったことだった。
変哲もなかった空気が小屋の中にいても解るほど。
恐らく恭也の方も、気を高めることによってランスに気づかせる意味合いも含んでいるのだろう。
「ユリーシャ、まひるちゃん、気を入れておけよ……」
ケイブリスなら一発で解る。
ザドゥでも同じだ。
あの強烈な気は臨戦体制に入っているのなら気づかぬはずがない。
表の三人の気配が変わった以上、何物かが気づかれるように来た線が濃厚である。
しかし、凝らすようにして気配を探ってもザドゥやケイブリスのような空気を感じ取れない。
(何が来やがった? 参加者か? それとも運営の野郎どもか?)
-
「あぁ、ようやく見つかった」
一人分の足音が三人の耳に聞こえる。
ザッザッザッとした重い足音。
ゆっくりと少しずつ小屋へと近づいてくる。
「恭也さん、魔窟堂さん……」
狭霧の声に応じかのごとく、三人の体を支える足に力が入る。
「動員中による不幸中の幸いといったところか」
オレンジ色の空を背景にして現われるシルエット。
狭霧と恭也には見覚えのある形。
「そう身構えないでくれ。今回は君達と戦うつもりは一切ない」
忘れるはずもない。
細部こそ違うが自分達の命を狙いに来た刺客と良く似た形。
「勿論、ゲームに参加しろと警告を発しに来たわけでもない」
-
露わになる頭部を見て二人は確信し、二人に向いた魔窟堂の目に頷く。
「純粋に頼みたいことがあって交渉をしにきたのだよ」
魔窟堂の体に力が入る、いざとなれば即座に加速装置を発動できるように。
恭也の身体がゆっくりと構えを取る、いざとなれば奥義を発動できるように。
「―――話くらいは聞いてもらえないか?」
両手を上に挙げ、非戦の意思を示した智機が彼らの前に現われた。
-
大変お待たせしました。
それぞれの持ってる運営陣の情報に見落としはないと思いますが(そのために何度も読み直しましたが……)
穴やミスがあったら遠慮なく教えて下さい。
智機の残機数と現状も「最優先事項」にあわせておきました。
>尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。
なら大丈夫と思いますが、どうでしょうか?
今晩、ちょっと帰ってくるのが不可能なので土曜に確認後、早ければ土曜夜にOKが取れ次第投下します。
後編はそんなに長くない+既にある程度できているので時間が取れれば水曜には仮投下できるかと思います。
>「紅蓮の挙句」
>「だって、あいつは(略」
こちらも内容に問題ないと思います。
-
>>579-603
仮投下お疲れ様でした。待った甲斐がありました。
おお思わぬ展開!そして久々に魔窟堂が活躍してていい。
特に問題はないと思います。
おかげさまでこちらも色々アイデアが浮かんできました。
使うとしても、まだ先の方ですが。
こちらの小ネタ仮投下は夜の12時過ぎになります。
「最優先事項」を確認次第、次の予約をどうするか月曜日くらいまでに決めます。
-
>>603
お疲れさまです。
内容に問題はないと思います。
「だって、あいつは(略」に対する返答が頂けましたので、
これより本スレに投下致します。
7〜8KB程度なので、次スレのアナウンスを加えたとしても
DAT落ちにはならないと思います。
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