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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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571三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:05:19
>>570

「小角さん――ですか」

「はじめまして」

    ペコリ

「三枝千草です」

「三つの枝と千の草」

「――と書きます」

挨拶を返します。
礼儀正しく振舞うのは大事なことです。
こうして小さなことを積み重ねていけば、いつかは『夢』も叶えられると思います。

「僕も、将来は立派な人になりたいと思っています」

「小角さんを見習って頑張りたいです」

そして、視線はかばんの方に移りました。
ふくろうがお好きなんでしょうか。
そういえば、小角さんを見ていると何となくふくろうが思い浮かびます。

「とっても気になります」

「何が入ってるんでしょうか?」

興味深そうに目を軽く見開いて、かばんを見つめます。
ドキドキしてきます。

572小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 02:20:55
>>571

「ちなみに私の名前は、
 小さい角で『おづの』だし、
 宝ものの夢で『ほうむ』だ」

「よろしく頼むよ、千草くん」

この『くん』は『ワトソンくん』のくんだ。
小角は今だいぶ『いい気になってる』。

「どんどん見習うといいともっ!
 ともに立派な大人になろうじゃあないか!
 わたしは毎日早寝早起きを守ってたり、
 なにかと『見習いがい』があると思うんだ」

       フフフ

小角自身、まだ自分は子供だと思う。
だがいつか大人になったときに、
見習いたい人はいる。自分もそうなりたい。

「よしよし、今見せてあげるから待ちたまえっ」

        ゴソゴソ

小角は、ふくろうのような顔の少女だった。
目は丸くぱっちり開き、顔の形も丸い。
彼女自身ふくろうに愛着でもあるのか、
幾つか『そういう柄』の小物が見て取れた。

そしてカバンから出てきたのは――――

「探偵といえばだね……『七つ道具』があるものだ!
 今は……まずはこれ、『ペンライト』だよ。
 細かいところを調べたりするのに便利だと思う。
 照らすのはスマートフォンでもいいのだが……
 強いライトのアプリは、充電の減りが早いからね」

小さいペンのようなものだ。説明通りの機能なのだろう。

             キラン

「いずれ『ペン型カメラ』とかにアップデートしたいなあ……」

夢を語りだす小角。中学生の資金力には限界があるのだ。
ともかく、どうにも胡乱さのわりに『マジの探偵道具』なのかもしれない。

573三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:48:49
>>572

「早寝早起きは大事なことだと思います。
 毎日している小角さんは偉いです」

「僕は『考え事』をしていると時々夜更かしをしてしまいます。
 だから、まだまだです」

『理想の死に方』について考えていると、つい時間が経つのを忘れてしまいます。
昨日の夜も、いつのまにか遅い時間になっていました。
反省しないといけません。

「『ペンライト』――探偵さんらしいです」

「これがあれば調査に役立ちそうです」

「小さな手がかりも見つけられそうです」

出てきた七つ道具の一つに、じっと目を凝らします。
探偵さんのお仕事は詳しくは知らないですが、きっと立派なことだと思います。
だから、そのための道具には興味があるのです。

「ライトで照らしながら写真が撮れたら、とっても便利だと思います」

「もし新しくなったら見せてくれますか?」

夢を持つのは素敵なことです。
それが実現できるのは、もっと素敵なことだと思います。
小角さんにあやかって、千草の夢も叶えられたら嬉しいです。

574小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 03:19:39
>>573

「き、きみぃ、ちょっとほめ過ぎだぞ!
 まったく……まったくだなきみは! ふふふ」

        ニコニコ

「考え事か……それは仕方ないね。
 わたしも謎を考えたりしてると、
 少し遅くまで起きてしまう事はあるよ」

夜を更かして考え事なんて、
なんだか知的な気もする。
小角はそれでも早めに寝るが。

「ふふ……いいだろう。まさにきみの言う通り、
 小さな手掛かり一つが答えになる事もある!
 きみぃ、さっきからなかなか鋭いぞ!
 もしかすると……きみも『頭脳派』なのかもね」

        「そう、写真まで撮れれば、
         もう一つの証拠も見逃さない!
         ……もちろんわたしの推理力も、
         それまでに追いつかせる予定だ!」

「わたしは、名探偵:『小角宝梦』になるのだからね」

高らかに語る小角の顔は非常にノっているが、
浮ついた夢ではない。『今考えた』事でもない。
『いつも考えている未来』を、口に出しているだけだ。

「ふふふ、当然見せてあげるとも、千草くん」

「あ! 連絡先を交換しておくかい?
 むろん、新しい探偵道具を買ったら、
 ちゃんと教えてあげるためにだが……」

千草と話すと気分がいいし、
それに……友だちになれる気がする。
友だちが多いわけじゃあないが……『欲しくない』わけじゃあない。

575三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 03:54:42
>>574

「いいんですか?ありがとうございます」

    ペコリ

人との繋がりが増えるのは嬉しいです。
他の人達との関わりは、成長のきっかけになると思っています。
それを積み重ねていけば、目標に少しずつ近づいていけると信じています。

「よろしくお願いします、小角さん」

    スッ

自分のスマホを取り出します。
ケースは無地の白で、飾り気のないシンプルなデザインです。
連絡先の交換は問題なく済みました。

「僕にも叶えたい夢があります」

夢を語る小角さんの姿が、心に響きました。
それに応じるように、こちらからも夢という言葉を口にします。
『最終的な目標』と言ってもいいかもしれないです。

「いつか一緒に実現できたら嬉しいです」

苦しみや不安のない安らかな気持ちで穏やかに最期を迎える。
それが千草の『将来の夢』です。
その夢を叶えるために、まずは人から愛される立派な人物になることを目指します。

「――他には何が入ってるんですか?」

決意を新たにしたところで、またかばんの方に向き直ります。
次は何が出てくるんでしょうか。
楽しみです。

576小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 04:04:34
>>575

「いいとも、いいとも。よろしくね千草くん。
 ぜひ一緒に夢を叶えようじゃあないか!」

「わたしたちは――――『夢仲間』だっ!」

        ニコニコ

小角宝梦は、まだ『名探偵』ではない。
三枝千草の、『夢を叶える』意味を推して知れない。

「よし、それでは次をお見せしよう!
 千草くん、探偵の道具といえば、
 たとえば何を思い浮かべるかね?
 ふふ……もちろん『麻酔銃』とかはちがうぞ!
 ああいうのは全部フィクションであってだね、
 知的な探偵とは少し違ってくるのだよ……」

「あ! あった」

     ゴソゴソ

          「――――じゃん! パイプだ!
           も、もちろん喫煙などしないぞ!
           なにせこれは『カカオパイプ』という、
           ちょっぴり特別なものなのでね……」

                 「甘さで知性を引き上げて……」

――――『探偵の夢』と『甘き死の夢』。

それは致命的なほど同床異夢であると気付かないまま、
それでも楽しげに、小角は夢の道具を語り明かすのだった。

577平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/12(土) 23:20:55
歩いている。
筋肉質ではない。肥満でもない。しかし誰が見ても体は大きな男だ。
ポケットから携帯電話を取り出そうとして――

  チャラ

カラビナに纏めた鍵束がぽろりと落ちて、

「…」

   パシン

余人には見える筈も無い、『壊れた歯車をあしらった手』が、問題なく掴んで、ポケットに仕舞い直した。

578鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/16(水) 22:18:37
>>577

>  チャラ

『チラ』

同じく歩いている中、擦れる金属音を耳にしてそちらを向く学生服の少年。
男が携帯電話を取り出す、と同時に同じポケットから何かを落としてしまったようだ。
電話で片手が塞がっている以上、拾うのには手間がかかるだろう。
代わりに拾ってあげようかと考え、そちらへと一歩踏み出そうとして。

「──────────」

落ちる前に、人間のそれとは違うデザインの手が何かを拾い上げる。それはカラビナだった。
いや、違う。重要なのはそこではなくて、今のは確かに。

「『スタンド』…?」

呟き、急に立ち止まってしまう。もし後ろを誰かが歩いていれば、ぶつかってしまうかもしれない。

579平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/17(木) 23:02:48
>>578
「………」

『スタンド』と声に出した彼に、無言で視線を向ける。
警戒でも親愛でもない、単なる確認だ。
それから、鍵束を仕舞った『スタンド』の『腕』で

  ちょい ちょい

と、『後ろから人が来るから危ないよ、脇へ退けた方が良い』とジェスチャー。
隠そうとかそういう気がないヤツだ…。

580鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/17(木) 23:26:49
>>579

「…っと」

『スタンド』の仕草に応じて、道の脇へ逸れる。
自分が急に止まったことにより驚いた主婦へと頭を下げて、道を譲った。
そして改めて、男へと向き直る。

「あなたは…『スタンド使い』なんですね?」「自分以外の人は、初めて見ましたが…」

581平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:11:50
>>580

「………」

話しかけられた大男は、暫くじっと相手を見つめる。興味。好奇。
『スタンド』も出したままだ。壊れた歯車を思わせる意匠の、人型の『スタンド』。

「お互い、『そう』だってことだな」「当然、この世で一人って自覚なんか無かったし、驚きは無い」
「でも割と早い段階だ」「一生のうちで何度、ってわけでもなさそうだな」

『スタンド使い』であることの肯定と、思っていた以上に『引かれ合う』確率は高いことへの興奮が伝わる。
四割がた『独り言』のような感じだ。

「ヒライシだ」「名前だ。平石という」

『二人称』で呼ばれるのを好まない平石は、ひとまず名乗る癖があるのだ。

582鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 00:21:08
>>581

「平石さん、ですね」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言います」「よろしくお願いします」

相手が名乗られたのに応じて、こちらも名前を告げて頭を下げる。
年上への礼節は欠かせないものだ。
それにしても、いい体格をしている男性だ。以前はスポーツでもやっていたのだろうか。

「・・・・・」

そして、相手の『スタンド』へと目をやる。
自分の『スタンド』とは同じ人の形をしているが、姿はかなり別物だ。
ところどころ、欠けた歯車が見えるヴィジョン。と、そこまで見た所でふと思う。

「こういう場合は…オレも『スタンド』を見せるのが礼儀と判断しました」
「敵意はありません」

「───『シヴァルリー』」

スタンドの名を呼び、傍に立たせる。同じく人型で、騎士のような装いをしたそのヴィジョンを。

「平石さんは、『音仙』さんに聴いて頂いたのですか?」

583平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:48:48
>>582
「鉄君か。そうか、こちらこそ」

相手の『スタンド』そのものには、特に興味があったわけではないのがわかるだろう。
『シヴァルリー』を見て、単純に『驚いた』顔をしたからだ。
『礼儀ってそういうものなの?』って感じの顔だ。

「『音仙』?」「いや…違う。そういうのじゃない」

あの『部屋』を覚えている。そこで起こったことも。
だが曖昧だ。名前も声も、茫漠とした記憶でしかない。自分だけがそうなのか、他人がいないのでわからない。
ただ確実なのは、『キック・イン・ザ・ドア』がともに在ること。それだけだ。そして『何が出来るのか』。

「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

平石も『スタンド』も、動いてはいない。
可能かどうかも分からないことを、初対面の人に、しかし奇妙な『落ち着き』すら感じられる声色で…平然と、問う。

584鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 01:16:52
>>583

「…一方的に『スタンド』を見てしまって、失礼をしたかと思いましたが」
「考え過ぎだったようで何よりです」

特に気にしていない風の平石に、ほっと胸を撫で下ろし、微かに笑う鉄。
『音仙』───あの人は『心の声』を聴くと言ったが、ならばスタンドは精神の顕在化と言えなくもない。
それを見られるのが嫌な人も、あるいはいるかもしれない。彼がそうでなくて良かった。

「………なるほど」「やはり、という所ですが」
「あの人の携わっていないところにも、『スタンド』はあるのですね」

腕を組み、独り言のように呟く。
つまり全ての『スタンド使い』をあの人が把握しているわけではない、か。
しかしそれなら─────。

>「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

>「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

「…はい?」

思考を中断し、平石の問いに鉄は思わず聞き返す。ややあって、困惑したような様子で答えた。

「・・・・・・・・・・」
「あの車が『自動運転』で、平石さんの『所有物で』」
「ここが平石さんの『私道』であるなら、オレは止めません」

「ですが、そうでない場合は…できる範囲で、止めさせて頂きます」
「ただ、あなたがそんな事をしない事を、何より願っていますが」

はっきりと宣言して、唾を飲む。心臓の音がどんどんと大きくなるのが分かった。

585平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 01:49:44
>>585
沈黙。
荒唐無稽――と言い切れないことを鉄夕立は知っている。
『そういう能力』ならば『それが出来る』ことを、スタンド使いならば知っている。
『止める』ことも。

「……勿論」
「ここは『公道』だし、『他人の車』だし」「…『人が乗ってる』」

淡々と、一つずつ確認するように言葉を吐いて、

  ス ッ

「だから当然、『出来てもやらない』。気の迷いって言ったじゃないか」
「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「悪かった、自分でも答えられないことを聞いて、意地が悪いしマナー違反だな」

スタンドを仕舞い、からかうような真似をしたことを詫びる。

「うん、初めて『他のスタンド使い』と出会ったから、はしゃいでしまった」
「立ち話ですまなかった。もし、今度、会うことがあったら」「何かおごるよ。じゃあな。『鉄』君」

微笑んで、そのまま立ち去る平石の、しかし『大通り』をゆく車列に向けた眼差しが、いやに醒めていたのは
『ただそういう風に見えただけ』かもしれないし、『思い込み』かもしれないし、『そうではない』のかもしれない。
平石基の脳みその中身など、平石基にしか分からない。ひょっとすると、本人にもよく分かっていないのだ。

586鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/19(土) 00:41:17
>>585

『フゥーッ』

勿論やらない、という平石さんの言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
一気に緊張の糸が切れていった。

「…いいえ、こちらこそ申し訳ありません」
「友人からも、あまり冗談が通じない方だと言われています」

そう、『スタンド』は平石さんの言うようなことができる。
そして何より、『スタンド使い以外には何が起きたか分からない』。
その事が、いわゆる『犯罪行為』に対してのハードルを引き下げかねないことは想像に難くない。
例えば─────見知らぬ中学生の腕を、切りつけたりすることもあるかもしれない。
もちろん、平石さんはそういった人間ではないようだ。ではない、はずだが。

>「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「・・・・・・それは・・・・」

なんとなく意味は分かるようで、分からないようで。
それは誰もが心のどこかで思っていることかもしれない。
けれどそれを認めることは、今の鉄にはできないことで。
その言葉を口にする平石さんに対して、自分は何も言う事ができない。

「…いえ、そのようにお世話になるわけには…っ。はい、またお会いしましょう平石さん」

慌てて申し出を断ろうとするも、その前に大男は去っていく。その背中に向けて、頭を下げた。
そういえば連絡先を交換するのを忘れていたな、また会えた時にしておこうと心の中で呟く。
また自分も『シヴァルリー』を消して、帰途へと着いた。

587宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 17:31:25

雑踏から離れた小さな公園のベンチに、一人の男が座っていた。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
その手には白いカップが見える。

「――分からないな」

手元のカップを見下ろしながら独り言のように呟く。
どうやらコンビニで買えるコーヒーのカップらしい。
人気の少ない場所だが、誰かがいたとしても特に不思議は無い。

588空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>587

「何がだ?」

 ベンチの背後から声。

    ガササッ

 ベンチ裏の茂み、その葉が擦れ合う音がした。

 宗像の座るベンチの背に手をつき、
 身を乗り出すようにして宗像の隣に背後から男の顔が現れる。

「悩み事ならわたしに話してみないか?
 協力できるかもしれないぞ」

「ヒック」 「心当たりがある」

 男の顔は宗像の一回り下ぐらいに見える。
 だが赤ら顔だ。そして酒臭い。「ヒック」

 彼の片編み髪はいま蜘蛛の巣やら木の葉を乗せて
 できたてのホームレス風に装飾されていた。

589宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:01:04
>>588

現れた人物に対して軽く視線を向ける。
そこに不愉快そうな色は無い。

「さっき、近くのコンビニでコーヒーを買った」

「これを渡されたが、その先が分からない」

カップを相手の眼前に持ち上げて見せる。
中身は空のようだった。

「もし知っていたら、教えてくれないか」

世間話をするような何気ない口調で質問を投げ掛ける。
買い方の手順を知らないという事らしい。

590空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 23:19:04
>>589
 自宅のソファに身を投げ出すように
 ドカッと宗像の隣に座る。

「店員が外人で日本語が通じないとかだったのか?

 もしくは袖口からチラッと入れ墨だか注射痕が見えたりして
 なるべく関わり合いになりたくなかったか?」

「そうでもないなら店員に聞け」

「ヒック」 
「わたしへの対応を見る限り、
 君はそういう会話に苦するタイプとは思えんが……?」

 男は既成品でない仕立てのスーツを着ていた。
 生地はメリノウールとシルクのブレンドらしいが
 今は三時間休憩後のラブホのシーツみたいにしわくちゃだ。

「『わからない』ってのはそれか?
 それだけなのか?」 「ヒック」

591宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:53:03
>>590

塀の中にいる間にも、世の中では新しい仕組みが増え続ける。
社会に戻ってから、分からない事というのは度々あった。

「俺の後ろに大勢が並んでいた」

そのせいで聞くタイミングを逃したというのが理由らしい。
いずれにせよ、大した悩みでは無い事は明らかだ。

「ああ――」

「それだけだ」

手の中でカップを握り潰して屑入れに放り捨てる。
それから男の方に顔を向けた。

「あんたにも何かあるようだな」

相手の風貌から、それを感じ取った。
もっとも、それが何かは知る由も無い。

「話を聞いて貰った代わりに、今度は俺が聞こう」

「余計なお世話でなければだが」

元々、暇を持て余して街を歩いていた。
今の所、他にする事も思い付かない。

592空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:14:10
>>591
「……?」

 『後ろに大勢並んでいた』ことが今の話になにか関係あるのか?
 という顔をする。眉ハの字で首を傾ける。
 どうもこの男はその辺に全く気を遣わないタイプらしかった。

「そうか。それだけか。
 それはできれば聞きたくない回答だったな」

「わたしの悩みか?
 財布をなくした」

「君の独り言を聞いて、
 もしかしたら君が見つけたんじゃないかと思って
 一縷の望みをかけて話しかけてみたってわけだ。

 『分からないな』――」

「『これはいったい誰の財布だろう』ってな」

「ヒック」

「もともとドブ底みたいな生き方していたが、
 今は完全にドブさらいの気分だ」

「知らないか? 知らないよな?
 わたしの財布」

593宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 00:33:34
>>592

「――知らないな」

質問に対して、至って簡潔な答えを返す。
これといった感情の篭っていない淡白な声色だった。

「ここで無くしたのか?」

「財布を無くすまでの行動を遡れば場所が分かるかもしれない」

「それで見つかる保障は出来ないが」

時折、目の前の通りを何人かが通り過ぎる。
当然だが、彼らがこちらに注意を向ける事はなく、逆も同様だ。

「――幾ら入っていた?」

594空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:50:31
>>593
「正直言って、
 場所の心当たりがなさすぎて困ってる」

 右手を顔の横でひらひらさせる。
 巻き髪が風で揺れて、絡まってた木の葉が落ちる。

「昨日は歓楽街のバーで飲んでいた。
 そして、今朝目が覚めたらここにいたというわけだ」 「ヒック」

「だから今はこの場所に縋ってるってだけだな……
 フフフ。
 我ながらマヌケすぎて腐った笑いがこみあげてくる」

「金は5万くらい入っていたかもしれない。
 酒飲むたびに財布落とすのは『常習』だから
 手続きが面倒なカード類は
 別に入れていて無事だった」

「だが金とか財布のガワとかその辺はどうでもいい。
 『指輪』だ。
 大事なのはその中に入れちまった『指輪』なんだ」

 常時薄笑みを浮かべていた唇が糸を引くように結ばれる。
 目の奥を刺す針の痛みをこらえるみたいな表情だ。

595宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 01:13:34
>>594

「指輪――か」

その指輪が何か詳しく聞く必要は無いだろうと考えた。
これぐらいの年代の男が指輪と言えば大方の察しは付く。

「この辺りに落ちている可能性も無くは無い」

「今、俺は手が空いている」

「もし探すのなら手伝おう」

無くした指輪が男にとって重要な物である事は理解出来た。
その気持ちは分からないでも無い。

「少なくとも、ここに座って嘆き続けるよりは有意義な時間の使い方だ」

「――そう思わないか?」

596空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 01:36:36
>>595
「君は『いいヤツ』だな」

 眉尻を下げて笑う。
 眼が目尻の皺に混じってほとんど糸みたいになった。

「そして真面目な男だな。
 そういう『着住まい』をしてる。
 短いやり取りしかしてないが、
 わたしは君を信頼する。
 君の申し出に感謝するよ。
 そしてぜひ協力を頼みたい」

 襟を正して宗像の正面に向き直り、頭を下げる。

「財布はボッテガだ。
 インテレチャートの上に
 ミントブルーのドット柄」

「まあわたしみてーな奴が
 持ちそうな趣味柄を思い浮かべれば
 だいたいそれであってる」

「わたしは裏の茂みを探す。
 一晩過ごしたベッドだからな。
 しかし、他に酔っぱらいが
 公園内で行きそうなところってどこだろうな……?」

 そういってベンチの裏に頭から緩慢な動きで潜っていった。

597宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 17:20:29
>>596

着住まいとは珍しい表現だ。
この男が衣に関わる職に就いているとも考えられる。
財布の紛失と関係があるとまでは思わないが。

「――分かった」

財布の外見に関する説明は少しも理解していなかった。
そういった分野には疎い質だ。
だが問題は無いだろう。
財布は何処にでも落ちている物では無い。
他と見分ける必要は薄いと判断した。

「俺は向こうを探して来る」

立ち上がってトイレの方向に向かう。
特に根拠がある訳では無い。
敢えて言うなら酔っ払いが行きそうな場所ではある。

「ここにあれば良いが」

使用中の人間がいない事を確かめてから中に入る。
洗面台の蛇口から水滴が滴っているのを見て栓を閉め直した。
それから内部を見渡して男の財布を探す。

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 20:51:41
>>597
 ベンチを発って公衆トイレへと向かう宗像。
 道すがら、公園内の設備がいくつか視界に入った。


   公園の中央にはL字型の『水飲み場』があり、
   それとベンチを結んだ対角線上には
   寂れた『公衆電話ボックス』があった。

   また公園の入り口横に『自動販売機』があり、
   その対角線上に屋根つきの『ロの字型ベンチ』
   ――ひょっとしたら数年前までは
   『喫煙スペース』だったのかもしれないが、
   今は中央の灰皿台が撤去されている――があった。

  (※配置はあくまでこの交流内でのみ適応されるもので、
    公園の公式の設備設定ではないことをご了承ください)


 トイレに着いた宗像は中を検める。
 が――見渡したかぎり特に目立つものはない。
 管理が行き届いているのかそれなりに清潔そうには見える。


 空織は地面に膝をつき、茂みの根本を漁っている。
 特に顔や声をあげたりすることもなく、収穫はなさそうだ。

599宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 21:35:39
>>598

ここに目的の品は無いらしい事を悟った。
そうなると他を探さなければならない。

「先に拾われている可能性もあるか」

わざわざ伝える必要性は感じないが。
持ち主を失望させる以外の意味は無いだろう。

「虱潰しに当たるしかなさそうだな」

手掛かりらしい物は何も無い。
目に付いた場所から順に調べていく。

「――公園外に落ちている事も考えられる」

入り口付近にも目を向ける。
真っ先に拾われるような場所だが可能性は無くは無い。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 22:13:22
>>599
 トイレを出て水飲み場を調べる。
 排水部分ははめ込み式の格子型だが、
 財布が通り抜けられるような隙間はない。

 『誰かに拾われた』可能性について宗像は思考する。
 それは大いにありえることだった。
 公園内の人通りは少なくはない。
 トイレを見るかぎり清掃員だってきちんと職務を全うしている。
 だとしたらそこから先は警察の仕事で、
 これ以上の探索は『徒労』でしかない。

 宗像は公園外にも目を向ける。

 相手は記憶を飛ばすほど飲んだ酔っ払いだ。
 シラフでは考えられないところに取り落としている可能性もある。

 だが、もしこの公園内にあるのだとすれば――
 酔った人間が園内で『財布を落とす』としたら、
 それは一体どんな場所だろう?

 入り口付近には『糞は飼い主があとしまつ!』みたいな注意書きの立て看板と、
 自動販売機が二つ並んでいるぐらいだ。
 その間には二穴式のゴミ箱(空き缶/ペットボトル入れ)がある。
 まばらに伸びる草丈は浅く、目立つものは見えない。


「やはり――ダメか。
 茂みの中にはなにもなかった。
 きっと、運のいい誰かが持っていっちまったんだろうな」

 茂みから足を出し、力ない微笑みを浮かべながら
 天織は宗像に近づく。

601宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:39:19
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も『そうする』」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

602宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:47:36
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も手は尽くす」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

603空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 23:29:25
>>601

「スマホならちゃんと持っているが――
 (さすがのわたしもそこまで粗忽者じゃないぞ)
 だが、それが一体なんだって言うんだ?
 警察には一応、それで連絡をしてある」

 眉根を寄せ、訝しみながら宗像についていく空織。
 自販機に近づいたとき、ふむ、と顎に手を当てる。

「自販機……自販機か!
 そういえば、あれだけ酒を飲んだ翌朝だというのに
 起きた時わたしは水をそれほど必要としてなかった」

「しかし、自販機の周りならわたしもざっと見てはいるぞ。
 妙なものはないと思っていたが……」

 
 宗像は自販機の周囲や底部の隙間を探す。
 だが――財布らしきものは見当たらない。
 空き缶やペットボトルの殻が、
 そこそこ清潔そうな空き缶入れの前に二・三転がっているだけだ。


 宗像の背中を見守りながら、空織はスマホを取りだす。

「……警察にもういちど連絡を入れてみよう。
 もしかしたら財布だけ届けられてるってことがあるかもしれない……」


 宗像は、自販機に挟まれた二穴式の空き缶入れの上蓋が、
 少しだけズレていることに気づく。

604宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 23:56:42
>>603

「――ああ」

背中を向けたまま男に答える。
警察に届けられていれば解決だろうが望みは薄い。

「ドブ底のような生き方をしていたと言ったな」

言葉を告げながら空き缶入れの上蓋を取り外す。
ここで見つからなければ俺に出来る事は無くなる。

「そこから何かが見つかるかもしれない」

ゴミの山に視線を向ける。
ドブ程ではないが汚い場所には変わりない。

「見つからないかもしれないが」

605空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 00:14:33
>>604

「……な、んだと」

 スマホを耳元から下ろし、
 宗像の言葉の意味を反芻するように
 目を見開いて彼の背中を見つめる。

 宗像は上蓋に手をかける。

    ガポッ


 蓋はきちんと嵌められていなかったらしく、
 取りはずすというよりも持ち上げる程度の力で
 簡単に取りのぞくことができた。

 空き缶とペットボトル殻が雑多に詰め込まれた、
 雑食性のゴミ山が宗像の目の前に現れる。

 その色彩過剰の山を注意深く見つめて、宗像は気づく。
 山の隅に、どこか隠されるようにして――
 財布の編み込み革の一辺が顔を覗かせていた。


「…………あった、のか?」
 吐息のような声が空織から漏れ、宗像の背中に触れる。


 財布の口はどこか乱暴に開かれていた。

606宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 00:41:00
>>605

「何も見つからない場合は少なくない」

「だが、今は見つかったようだ」

ゴミの山から財布を引っ張り出した。
革手袋を嵌めている手で軽く汚れを払う。

「――これで合っているか?」

蓋を元に戻し、男に財布を渡す。
だが問題は中身だ。

「あんたの扱いが雑なだけなら良いが」

中身だけ抜いて残りは捨てたか、あるいは持ち主が乱雑に扱っただけか。
前者の場合、取られたのが金だけなら悪くない結末と言えるだろう。

「指輪は入っているか?」

声を掛けながら、ゴミ箱に視線を向ける。
財布の中に指輪がなければ、次に探すべき場所は一つしか無い。

「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

607空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:03:39
>>606

「……ない、な」

 そう発した言葉の意味と同じくらい、
 空織の声は空虚だった。

「何もない。空っぽだ。」
「――指輪もだ」

 無意味な記号を眺めるように、
 手の中で意味の失われた財布をぼんやりと眺める。
 目を伏せて黙思の淀みに沈む。だがその耳に――


>「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

 「!」

 宗像の一言が届く。
 空織は顔を上げ、前に立つ作業着の背中を見る。


「…………フ」
「フフフ、ハハハハ」
「ドブさらい、か。任せてくれ、それなら得意だ。
 わたしよりドブさらいがうまいヤツはそうはいないだろう」

 しわだらけのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって前に進む。
 ゴミ箱の前に立つ宗像の横に並ぶ。
 その横顔に向けてつぶやく。

「だが――いったい君は、
 なんだってこんなことをする?」

「知り合ったばかりのわたしに、
 どうしてそこまで……」

608宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 01:30:23
>>607

最悪に近い結果だが、まだ可能性はある。
見込みが残っているなら、出来る限りの手を打つべきだ。

「そうか――」

「なら良かった」

空き缶入れの蓋を取り外し、地面に置く。
それから空き缶入れを逆さにして、中身を全てブチ撒ける。

「ドブさらいは俺も得意な方だ」

「あんた程ではないかもしれないが」

地面に屈み込んでゴミの海を漁る。
同時に、一つずつ空き缶入れに戻していく。

「今、丁度暇を持て余していた」

「あるいは、あんたに少し共感を覚えたせいかもしれない」

「――どちらにしても、大した理由は無い」

答えながら、作業を続ける。
目立った感情の篭らない声だったが、何処か『残り火』のような響きがあった。

609空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:55:56
>>608

「そうか……
 ならわたしの見立てが間違ってなかったってことだな」

「君は『いいヤツ』だ」

 隣に並ぶ宗像に、空織は歯を見せて笑った。


    ガッシャァアア――――――ン


 沼湖に沈泥していた澱を掻き出すみたいに、
 ひっくり返されたゴミ箱から色鮮やかな残骸が逆流する。

 溢れでた缶がいくつか二人の足先にぶつかって跳ねる。
 そうして弾かれるペットボトルや缶の波にまぎれて、
 宗像の足元へゆっくりと転がる銀円のきらめきがあった。

      コンッ

 ペットボトルの蓋ほどの大きさの環は、宗像の爪先にぶつかり、
 ちいさく跳ね返って、ぱたりと二人の間に倒れた。

 それは飾り気のない銀色の指輪。
 結婚指輪だった。


「…………あった」

610宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 02:14:45
>>609

「こんな事もある――」

「運が良かったな」

男の方に視線を向けて拾うように促す。
それは持ち主の手で拾い上げるべき物だ。

「――だが、生憎まだ仕事が残っている」

告げながら、散らかったゴミを元に戻す。
少しばかり骨が折れるが、後始末はしなければならない。

「二度と無くさない事だ」

どうやら最悪は避けられたようだ。
最良に近いと呼んでも差し支えないだろう。

「ドブさらいをしたいなら別だが」

611空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 14:55:25
>>610

「……ああ。
 わたしは本当に運がいい」

 光の糸を摘み上げるみたいに、
 足元に転がる銀の指輪を拾い上げた。

 未練と恩顧を解いて織り編んだような瞳で
 手の中の光を眺める。

 それは見つけられて良かった、という安堵のようでもあり、
 結局見つけてしまうのか、という諦念のようでもあった。


「わたしの前のベンチに君が座ったこと。
 それが今日一番の『幸運』だったな」


 宗像の隣に屈んで手伝う。
 ゴミをひとつひとつ拾い上げてゴミ箱へと返していく。
 あるべきものが、あるべき場所に戻る。
 指輪を薬指にはめ直す――


「そうだな……これからは気をつけるよ。
 一人でやるならドブさらいもどうぞご勝手にって感じだろうが、
 誰かを巻き込んでまでやるもんじゃあない。
 さすがに酔っぱらいでも心が痛んだ」

 眉尻を下げて苦笑しつつ、ジャケットを羽織りなおした。
 皺だらけだが、今は卸したてより気分が良い。

「本当にありがとう。
 君にはなにかお礼をしなくちゃあいけないな。
 ええっと、君は――?」

 ジャケットの内ポケットに手を入れつつ、宗像の名を訊ねる。

612宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 17:35:51
>>611

「好き好んで手を汚したがる人間は少ないだろうな」

男が抱える心中の深部まで察する事は出来ない。
少なくとも、それは俺が手伝うような事ではないのは確かだ。

「俺にとっても有意義な時間だ」

「――良い退屈凌ぎになった」

ゴミ箱を置き直して、両手に付いた汚れを手袋越しに払い落とす。
指輪もゴミも、今は全てが元の位置に戻っている。

「『宗像征爾』――」

年齢によっては、この名前に聞き覚えがあるかもしれない。
聞いた事が無いかもしれないし、忘れていたとしても何ら不思議は無いだろう。

「そういう名だ」

613空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 22:41:29
>>612

「『宗像』――」

   微笑み、彼の名前を反復しかけたとき、
   鋸刃のような光が視界の隅を掠めた。
   記憶の扉から漏れ出すみたいな細く鋭い光。
   警告音にも似た閃き。

 (……なんだ?
  初めて聞く名前のハズだぞ。
  だが『宗像』、『ムナカタ セイジ』……?
  この名前、どこかで――)


「――『征爾』さんか。覚えておく」

 直感から芽吹いた疑念を飲み込み、
 空織は内ポケットから名刺を取りだして宗像に渡す。

「わたしは『空織 清次 (くおり きよつぐ)』だ。
 すまないな、今は古い名刺しかないんだが――」

┌───────────────┐
│      Tailor  Blank Whale       │
│                        │
│        仕立物師        │
│        空織 清次.          │
│                        │
│      Phone: XX-XXXX.       │
│                        │
└───────────────┘


「……『上半分』は今や無意味な記号でしかないが、
 わたしの携帯番号はそのままだ。
 いつでも連絡してくれ」

 ふと、出会いのきっかけが頭をよぎった。

「……それと、なんだ。
 もし君にこれから時間があるのなら、
 なにか一杯ご馳走でもできればと思うんだが」

「なにか飲みたいものはないか?」
 微笑を浮かべながら、宗像に訊ねる。

614宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 23:18:06
>>613

「空織か――覚えておこう」

二十年前は、『宗像征爾』という名前がニュースや新聞で報じられていた。
それは殺人事件の犯人の名前だった。
今では、この街における過去の一つとして埋もれている。

「――仕立て屋か」

名刺を受け取ってポケットに仕舞い込んだ。
代わりに、少し前に立ち寄ったコンビニのレシートを手渡す。
裏側に電話番号が書き込んであった。

「俺は配管工事を扱っている」

「見積もりは無料だ」

それから、不意に空を仰ぎ見る。
特に意味の無い行動だ。
ただ何の気なしに、意識が向いたというだけの事に過ぎない。

「さっきも言ったように俺は暇だ」

「ゴミをバラ撒いて片付ける時間がある程だからな」

おもむろに視線を空織に戻す。
そこにあるのは虚無的な瞳だ。
愛想が良いとは言えないが、冷たさは無かった。

「そういえば、コーヒーを飲み損ねた事を思い出した」

「その代わりを貰いたいが、構わないか?」

615空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/03(日) 00:05:21
>>614

「正しくは、『元』仕立て屋……だな。
 今は店もなければ伝手もない。
 だが――」

  番号の書かれたレシートを宗像から受けとる。
  空っぽになった財布に最初に収めるものとして、
  それは今一番ふさわしいものかもしれないと空織は思った。

「もしこの街に店を出せる時が来たなら、
 その時は君に工事を手伝ってもらうことにしよう」

 冬晴れが強張りをほぐすように、
 自然と口角が緩んで笑みを作る。


「――そうか、それは良かった。
 わたしもこの街には越してきたばかりで、
 いい店はそれほど知らないんだ」

「だがうまいコーヒーを出す店だけは
 知っていてね」

  すべての過去が電子的にアーカイブされるこの時代に、
  いったい誰が『精算した過去を忘れられる権利』を持ちえるだろう?

「すこし歩くが構わないか?
 ――よし、なら案内しよう。
 ところで君、甘いものは好きか?」

  いつか、彼の犯した罪を空織が知る時が来るのだろう。
  だが――少なくともそれは今じゃない。


 宗像を連れ、空織は冬晴れの街路を歩きはじめる。
 薄雲を脱ぎ捨てた空は、しばらくのあいだ
 二人に穏やかな暖かさを運んでくれるはずだ――。

616硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/05(火) 21:50:44

「鬼は外。福は内、というが。まさかマジモンのガチで追い出されるとは。
それもかれこれ丸2日もだ。
『硯旭(スズリアキラ)』、我が母ながら中々にクレイジーだ」


ダンボールで作ったであろう『棍棒』を手に持ち、
履き古した便所サンダルに虎柄のジーンズ、
更に上半身裸の男子高校生が大通りで途方に暮れている。

617今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/07(木) 22:25:41
>>616

「うわっ、『鬼が外』にいるっ!?」

思わず声に出ちゃったけど、節分は終わってる。
だって売れ残りの恵方巻も昨日食べたくらいだし。

「あのー」

「なにしてるんですかっ?」
「っていうのは独り言で聞いちゃったけど」
「えーっと」「フツーに寒くないですか、それ?」

明らかにフツーじゃないし、イジメとかかもしれない。
だから話しかけるのはちょっとどうかと思った。

けどなんとなく、見たことがある顔な気がして、気になったんだ。

―――――――――――――――――――――――――――

硯に話しかけたのは茶色のツインテールが特徴の『女子高校生』だ。
もし硯が『清月学園の1年生』なら、この少女の事を多少なり知っているかもしれない。

618硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/07(木) 23:35:29
>>617

『硯研一郎』は『清月学園』ではなく『私立獄楽高校』の生徒だ。
なので『硯』は『今泉』の事を認識していないが、
友人と遊ぶために『清明』には頻繁に出入りしているので、
もしかしたら『今泉』は『硯』の事を見たことがあるかもしれない。
(『獄楽高校』ーー比較的自由な校風で生徒の自主性を重んじた隣町の『私立高校』。
不良漫画よろしくのヤンキーや、国立大学にストレートで入学する優等生が卓を並べたりする光景が当たり前で、
学生間の偏差値の開きはおそらく県内屈指である)


「親戚の『キラミちゃん』が遊びに来ていてね」


話し掛けられたので振り向く。
特に寒そうにしている素ぶりはなく淡々とした語調で話を続ける。

「せっかく『節分』の時期に遊びに来たのだから、俺は『鬼役』を引き受けたんだ。
それで『鬼』のお面を被って、キラミちゃんに豆を投げられた。

キラミちゃんもお父さんがいないからな。こーいうイベントは初めてだったらしいし、
キャッキャと喜びながら俺に豆を投げてくれた」

「そこまでは良かったんだ」


「俺の『お母さん』が中々に『本格派』でね。
まだ5歳のキラミちゃんは、鬼の正体が俺だなんてわからないんだ。
彼女の事を溺愛してる俺のお母さんは、キラミちゃんの夢を壊したくないから、
おばさんとキラミちゃんが東京に帰るまで、家に戻ってくるなって言い放ったんだ。全くのマジの真顔で。


ーーそれが2日前の話だ。オーケー?」

619今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 00:04:25
>>618

思い出した。この人確か獄校の人だ。
他校にも知り合いはいるといえばいる。
けど、そうじゃなくて『うちに遊びに来てた』人だ。
多分友達に会いに来てた、のかな。

「それは、フツーじゃあないですね」
「いい話かなって途中までは思ってたんですけど」

『も』っていうことは、そういうことなんだろうな。
そうしたらそれは、すごく綺麗な話なんだろうな。

って思ってたんだけど。

「いや、いい話なのかもしれませんけど」

フツーじゃない。話の半分くらいが。
いや、獄校ではフツーだったりするのかな。

でも、他にも知り合いいるけど。
こんなレベルの話、聞いた事ないけど。
やっぱり『本格派』だから、なのかもしれない。

「ええと、うん」

「そこまではオッケーです」
「それで!」

「――――その、親戚の人たちはいつまでいるんですかっ?」

620硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 18:23:25
>>619

「お母さんは中々変わり者だけど、多分悪い人じゃあないんだ。
息子を片親で苦労させまいと色々と頑張ってるみたいだし、
おかげで俺も今の所お酒やタバコに手を出さない真っ当な男子高校生だ」


無表情のまま淡々と語る。
感情を読み取らせるのを妨げている要素の一つである薄い下唇には、
『在来線』の意匠の『リップピアス』が蛇のように巻きついている。


「明日の朝には帰るとの事なんだ。
俺のお母さんも『鬼』ではないし、
追い出される時にこっそりと数日分の『生活費』を渡されたんだが」

自身の左手に持っている『家電屋』かなにかの『紙袋』に目を向ける…。

621今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 21:26:33
>>620

「なるほどですね、良いと思います」
「お酒飲んでた友達とかいましたけど」
「バレて停学になってましたし!」

ピアスは、流石に珍しいけど怖くは無い。
きっと怖い所もある人なんだとは、思うけど。

「明日の朝ですか〜。今夜冷えるそうですね」
「『寒波』が、来るとかどうとか」
「カイロあげましょうか?」「素肌だと熱すぎるかな」

かばんから貼らないカイロを出す。
カラオケとかで寝る事になるのかな。
でも、半分はだかで入れてもらえるのかな。

「へえ、生活費を……?」「あれっ」

さすがにそれはそうだよね。
追い出すならお金を渡すのはフツーだ。

お金の使い道は何がフツーだろう。
とりあえず私なら『服』から買うけど。
食べ物とか、寝床の方が先かな?

「それ、『電気屋さん』の袋じゃないですか」

『家電屋』で買うもの、あるかな?

「えーと、『電気毛布』でも買ったんですか?」

「それとも、まさか……」

私も思わず、紙袋を見た。中身はいったいなんだろう。

622硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 22:47:11
>>621

「カイロか。それは、とてもありがたい。
せっかくの好意だ。ならばお言葉に甘えようかな」

「『電気毛布』ッ!惜しい。
駅前にでっかい家電屋があるだろう?
ホラ、あの一番上にゴルフの練習場があって、
キャンプ用品やらも売ってる『なんとかカメラ』。

そこで、着込むものを買おうと思ったんだ。
流石に裸では風邪をひいてしまうからね。
この格好でビルの中に入れたのには驚きだが、
おそらく気の狂った『ユーチューバー』かなにかと勘違いされたんだろう」


ガサゴソ


ダンボール製の棍棒を小脇に抱えて、空いた手を家電屋の紙袋に入れると、
中から巨大な長方形の分厚い『プラモデルの箱』を取り出し今泉に見せる。

「『キャンプ用品コーナー』に向かう途中にある『オモチャコーナー』で見つけて、
一目惚れして衝動買いした『定価3万円』の『1/350スケールの名古屋城』のプラモデルだ。
ーーどうだ?カッコいいだろう?」

「もう一度言う」

「格好良いだろうーー?」

623今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 23:08:46
>>622

「どーぞ、フツーにあったかいですよ」

カイロは、一枚あげた。

「ああ、ありますねえ〜っ。大きいですよねあれ」
「『名前通り』っていうか」
「カメラの売ってる面積ほとんどないっていうか」

「確かにあそこなら、アウトドア用品?みたいな」
「あっ、『キャンプ用品』でしたね!」
「そういうコーナーに防寒着とか、置いてたかも」

「それで――――」

納得しようと思ったのに・・・箱が服じゃない。

「それで」「えっ、プラモデル買っちゃって……」

この人。

「え……」「そ」「そうですね」

フツーじゃない。相当フツーじゃないよ。

「カッコいい、ですね」「さすが3万円というかっ」
「あ」「お城のプラモデルなんて、あるんですねえ!」

心が、ちゃんとできなくなってるかもしれない。
ユメミンとか芽足さんとかも『フツーじゃない』けど、この人はまた違う感じだ。

624硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 23:33:58
>>623
貰ったカイロをぺたりと腹部に貼り付ける。
これでお腹が冷えるのを防げる。

「メルシー、グラッツェ、シェイシェイ、
サンキュー、グラシアス、ダンケ、スパシーバ。
兎にも角にもありがとうって感じだ」


取り出したプラモデルの箱をまるで野良猫を愛でるようかのように、ゆっくりと撫でる。
表情は相変わらず崩れないが、その挙動は何処か自慢気に見える。


「俺は正直言って『城』になんて全然興味がないんだが、
この『名古屋城』ってのは凄くいいな。
特にこの上に乗ってる『鯱鉾』ってのがカッコいい。
おもちゃコーナーでこいつを見た時は、
『ブランキージェットシティ』を聴いた時以来の衝撃が走ったよ。
全くマジの一目惚れだ。参ったよ」

「でも一つちょっとした『問題』が起きてしまってね」

625今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/09(土) 00:16:54
>>624

「どういたしまして。ユアウェルカム」
「イッツマイプレジャーでしたっけ?」

英語と日本語以外は、ちょっとわからないかな。
意外と国際的なのかな。

「シャチホコ……しゃちほこですかあ」
「そうですね、たしかに『誇らしげ』っていうかっ」
「堂々としてて、かっこいいかも」

私はプラモデルとかはあんまり知らない。
けど、そう考えて見たら、いいものなのかも。

ブランキー、っていうのは洋楽かな?
これが休み時間ならそこを聞くべきなんだろうな。
でも、今は『問題』っていうのを聞いた方がよさそうだ。

「ここまで来たらどんな問題でもフツーに聞きますけど」
「いったい、なにが起きちゃったんですか?」

「あ、もしかして!」「組み立て用の道具がない!とか!」

いつもプラモデル組んでますって感じじゃないし。
もしかしたら趣味なのかもしれないけどお城って珍しそうだし。

「あはは」 「……いやー」 「『生活費』って、何円だったんです?」

フツーじゃない。けど、いや、そうだ。フツーじゃないんだった。

626硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/09(土) 00:39:28
>>625

「お母さんから貰ったお金は『3万円』だが?
『プラモデル』というのは組み立てるには、
ニッパーやらの『工具』が必要なんだな。
いやはや完全にーー『想定外』だったよ」

バリッ!ボリッ!ボリッ!

ジーンズのポケットから『節分』の『豆』を取り出し、齧り始める。
おそらく家を追い出されてる間はこれで飢えを凌いでいたのだろう。

「つかぬ事をお伺いするが、
君『ニッパー』と『スプレー』と『接着剤』を持っていないかい?」

627<削除>:<削除>
<削除>

628今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/09(土) 09:15:08
>>626

「えっ…………」「思い切りがよすぎません?」
「ごはんとか寝るところとか、どうするんですかっ」

きっと何か考え……あるのかな。
友達の家に行くとか? 野宿に慣れてるとか?
こういうフツーじゃなさは初めてだ。
不思議ちゃんとか、そういうのとも違う感じだ。

「うーん」「ニッパーとスプレーは無いですけど」
「あ、接着剤もプラモデル用じゃない」
「ちょっと強いのりみたいなやつだし」
「お城の組み立てには弱いですよねえ」

「えーと」「あ! 『マスキングテープ』じゃだめですよね」
 
         ゴソソ

「こういう、無地のやつもありますけど」
「色塗りと接着兼用って感じにならないかな」

プラモデル、ちゃんと作った事ないかも。

「見た目の『3万円』感は薄れちゃいそうですけど」

かばんからいくつかテープを出す。
レンガっぽい柄なら、辛うじて雰囲気は壊さない……かな?

「あとは、ニッパー」「うーん」
「確か……ハサミみたいなやつですよね?」

「こういう、テープを切る用のハサミならありますけど」

テープと一緒に小さいハサミも出しておく。
プラスチックが切れる気はあんまりしない。

629硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/09(土) 22:52:35
>>628
「ご飯はーー『豆』だ(ボリボリ)。
まだまだ(ガリッ)あるんだ(ボリッ)
よかったら(ボソ)君も食べるかい(ボリボリ)」


取り出した『節分用』の『豆』を咀嚼しながら話を続ける。
丸2日間家に帰っていないにしては不潔な感じはしない。


「それに昨日は『夜叉丸先輩』の(ボリ)の家にお邪魔したんだ(ボリ)

『夜叉丸先輩』は俺の学校の『番長』ってやつで、優しい人なんだ。
恥を忍んで『服』も借りようかと思ったんだか、
夜叉丸先輩の『ファッションセンス』は『壊滅的』でねーー」

差し出された『それっぽい柄』のマスキングテープを受け取り、
感謝の気持ちを伝える為に深々と頭を下げる。


「ありがとう。本当にありがとう。
どんな名古屋城になるかはわからないが大事に使わせてもらう」

630今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/10(日) 00:16:44
>>629

「豆はこの前沢山食べたんで、遠慮しときます」
「気持ちだけもらっておきますね!」

たくさんというか16個だけど。
17個食べちゃった気がするんだよね。

「いやあそんな」「頭下げる程の事してないですよ」
「ほんとは服とかあげられたらいいんだけど」
「フツーに女物の服しかないですし」

今持ってる買い物袋には『春服』が入ってる。
というかほんとうにマスキングテープで作るのかな。

「あ!」「お城出来たら見せてくれません?」
「なんていうのかな」「『スポンサー』みたいなものですし」
「プラモデルって、どんななのか見てみたいですし」

見届けた方が、良い気がしてきた。
スマートフォンを出す。

「今夜も、番長の人の家に泊まるんでしょ?」
「それか他の友達の家?」「そこで組み立てて〜」

「出来上がったら、ラインで写真送ってくれません?」

631硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/10(日) 00:33:45
>>630

「うん、今日も夜叉丸先輩の家にお邪魔しようかな。
そこでセコセコとやってみるつもりだ。
是非君にも完成した『名古屋城』を見てもらいたい」

「ーー見てもらいたい気持ちは、
『名古屋城』よりも大きいのだが」


貰ったマスキングテープとプラモデルの箱を紙袋に入れると、
指を揃えてピンと伸ばし、直ぐに折り曲げる。


「ぱかぱか」

「今は携帯を持っていないし、
俺の携帯は『ガラケー』なんだ。ぱかぱか。
なので俺は『ライン』ってヤツは使えないから、
是非『ショートメール』でお願いしたい」

632今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/10(日) 01:00:13
>>631

「えーっと」

指のジェスチャーに一瞬迷ったけど。

「あ、ガラケー派なんですね!」
「友だちにもいますよ」「たまに」

  pi pi

「それじゃあメールアドレス教えるんで!」
「ぜひ写メってきてください」

夜叉丸先輩は番長らしいし、家に『接着剤』とかあるかも。
あるかもしれないけど、『テープ』だらけになるかも。
どちらにしてもフツーに続報が気になるから、連絡先を教えた。

「それじゃあ、私はそろそろ行きますね」「あっ」
「カイロ、ずっと直接だと火傷するかもしれないんで」
「そこのところ、気を付けてくださいね!」

「それじゃあまた〜」

そして買い物の続きのために、ここから去った。
この後どうするのかとか、そういえば名前とか……気になる事は多い。

けど、連絡先は交換したし、多分お城といっしょに知る事になるんだろうな。

633芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 21:57:51

通りを、少々危ない雰囲気の男が闊歩している。隣には男より少し小柄な
スタンドが2〜3m離れつつ一緒に歩いている。

「さあ てな訳でだ 冷風吹きすさぶ中でウィゴーちゃんとの初めての外出さぁな。
因みに俺は20代である目的に人生を模索していて、それは『納得』って言う
まぁ哲学的で答えるとしちゃあ難しいものを見つけてる最中なのよ。
 んでもって趣味は大麻育てんのと、相手が最大限に傷つく事を考える事かねぇ。
んっ、あぁジョーク ジョークだって、六割位は さ。はっはっ ここ笑う所
好きな食い物は甘味よりはサラミとか胡椒利いた酒にあうツマミが好きなのよ。
んでウィゴーちゃんの趣味は? 人生楽しんでるかい? 好きな食べ物は?」

『……控え目な言葉を選びますけど。芦田様は頭のネジがちょっと
ブッ飛んでるんじゃないですか? 普通、自分のスタンドに趣味とか
好きな食べ物とか聞く事ないと思いますよ。
 あと、私はウィゴーでも、ウィゴーちゃんでも有りません。
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト 妖甘様から頂いた正式な名があります
例え、本体だとしても略称を好き勝手に呼ばれたくありません』

    ヒュー♬

「おぉっ、こりゃ雪風よりも粘っこい風味が利く皮肉じゃねぇか。
ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃんよぉぉ
 俺は正直よ、ウィゴーちゃんを俺の中から引っ張り出したのか
それとも、あのスーツのぼんぼんちゃんのオリジナルかぁどうかぁ
知らないが。それでもよ、俺の糞溜め見たいな中に、ウィゴーちゃん見てぇな
ものが出てくるなんぞ夢のまた夢って奴だったんだぜぇ?」

  ひっひっひひ♪

「・・・あぁヤベェな ウィゴーちゃん、ちょいと
目ぇ瞑って顔近づけてくんね?」

『おい 寄るな 近づくな それと 私はウィゴーちゃんじゃない
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
……ちょっと! 誰がお近くに正義のスタンド使いはおりませんか!?
不審者が居ます!』

不気味に笑う男と、それに後ずさるスタンドと言う奇妙な構図が出来上がっている。

634御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 22:49:28
>>633
「あ゙ 、 あ゙ぁぁ〜〜〜〜ッッ!?」

     「なんじゃぁぁ〜〜〜〜ッッ こりゃあぁ〜〜〜〜ッッ」


    ガゴッ  ゴホッ
                      ペッ

大通りを歩いていたら、スタンドと共に独り相撲をしてる若者を見かける。
思わず大声を上げ、周囲の奇矯な視線を集めながらも、
喉に溜まった『痰』を吐き出し、『芦田』の傍に大股で歩み寄る。

     「あ、アンタぁ、何してるんですかァ!?

      ちょっとねェ、それッ  しまいなさいよ、みっともない!」

黄ばんだ歯を剥き出しにしながら、『芦田』に唾泡を飛ばしながら、怒鳴りつける。

635芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 23:10:23
>>634

      パチ  パチクリ

        ニヒィ

「おいおい、おいおい おいジィさん。しまっておくれって何かい?
怒張した腰のモンって言うんなら、そりゃ生理現象ってもんだろぉ、おい
 それとよ、おりゃあジィさんの唾でRight-Onのシャツをデコレーション
する趣味はねぇんだぜぇ?
 あぁ、でもよ。ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃあぁん
俺ぁ ウィゴーちゃんのよ 可愛いチロチロした活かしたニップで
ベトベトになるんなら 吝かでもねぇんだが どうだい?」

『すいません 何が どうだい? なのか全く意味不明 理解不能ですし
それと、繰り返しますけどウィゴーちゃん じゃありません
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト それが私であり 存在の名称です』

「つれないねぇ。あぁ、ジィさん そんでもって 此処ら辺で
小洒落た ちょいと人気が殆どねぇ活かしたスイーツ店でもねぇかな?
 ウィゴーちゃんとのデートする場所として探してんのよ」

『ちょっと本当待て 何なんだこの本体っ どう説明すれば
まともになるんだ!? あと私の名はウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト!』

「ん? あぁウィゴーちゃんはスイーツより自炊派かい?
そんなら八百屋でもいくか ちょいと精のつくもんでも買おう」

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』

大様に自分のペースで話しをする本体に、金切り声を上げる始末のスタンド。
だが、殴ると自分にもダメージが来るのでフラストレーションは堪りに溜る。

636御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 23:20:34
>>635
「その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

 何が『スイーツ』じゃあ、このアホンダラぁ!
 アンタみたいに人の話を聞かないノータリンがねェ、
 店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!」

一人で勝手に喋っている(ように周囲には見える)『芦田』、
その『芦田』目掛け、ヒステリックに怒鳴りつける『御徒町』。
周囲の目を引くのは間違いないが、『御徒町』の怒声は止まらない。

     「アンタねェ、道の往来で恥ずかしくないんですかァ!?

      そのフザけた一人芝居を止めて、
      畳の上でマスでもかいてろ、と言うべきでしょう!」

     「無線のイヤホン繋いでバカ話してる『中国人』だって、
      私はブキミでしょーがないんですよぉ、ええっ!?」

637芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 23:33:50
>>636

>その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

『そうですっ。そう常識を教えて下さい ご年配の方っ
この男には、そう言った当たり前の情操教育の大事な部分が欠落してます!』

赤の他人にもスタンドは味方につく。だが、芦田は悪びれる事なく笑う。

>店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!

「おぉ! よく、俺の過去を知ってんなぁ? 
確かにジィさんの言う通り。おりゃあ高校時代は万引き・器物破損
色々と悪もやったよ。殺し以外は殆どやってた感じだなぁ
 んでもよぉ。そりゃあ全部『納得』する為の模索だったしなぁ。けど
これがさっぱり、イマイチ心から、あぁそうだったなあ! って実感を
今まで得た事が無いんだなぁ、これが!」

>畳の上でマスでもかいてろ

「あぁ、そうそう……これ一番肝心なんだけどよ、ジィさん。
俺がウィゴーちゃんを組み敷いて、まぁゴールデンじゃ放送出来ない事
やるとするじゃん。けどよ、ウィゴーちゃんは俺の半身だろ? 
でもウィゴーちゃんと俺ってば結構思考に嗜好も違うしさ。この場合
強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?
 あんた結構歳食って色々経験してそうだし、答えも知ってそうだよな」

『知るわけねぇだろ 脳味噌パープリンなのか異常性癖者』

本当に不思議そうに御徒町い実入りが全く無い質問を投げかける。
スタンドは既に本体を罵倒しかしなくなった。

638御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 23:49:32
>>637
>この場合強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?

    「『高度』なワケがないでしょうがッ!

     私はねェ、アンタみたいな『常識』のない小僧が、
     世間様にツバ吐いて鼻高々にしてるのに、
     ガマンならないんですよォ!  ええッ!?」

既に禿げ上がった額に『青筋』を浮かべ、
落ち窪んだ両目をカッと見開き、怒気を隠そうともしない。

    「ふざけやがって、青二才が……。

     おい、アンタらもねェ! 何をニヤニヤしてるんですかぁ!?
     カメラ止めろォッ! こちとら見世物小屋じゃないんだよッ!」

遠巻きに様子を見ている群衆に怒鳴り付け、因縁に近い罵声を浴びせる。

    「クソ共が、渋谷のハロウィンみてェなバカ騒ぎを、
     まだ続けようっていうんですかァ、上等ですよ!」

    「アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!」

『御徒町』は全てに苛立っていた。
すっかり様変わりした『業界事情』や、己を無下にする『学生』共、
一応の『名声』を利用して、授業料を巻き上げるための『客寄せパンダ』に仕立て上げた『経営者』、
無論、目の前でわめきたてる『小僧』も遠因ではあるが、……あくまでも『切欠』に過ぎないのだ。

639芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/17(日) 00:05:33
>>638(次あたりで〆させて頂ければと)

>アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!
   
         ピクッ

『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

 只ならぬものを感じたのか。芦田の飄々とした戯言に癇癪起こした態度から
一転して生真面目な雰囲気になり御徒町を見定める。

    ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ……

『ご尊老 貴方のその気迫 そして怒り。
ただ単純な世界への単純な反抗心以外の【何か】を感じ取りましたが……
【過去】に何かを宿しておいてで?』

「……ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん そう虐めてやんなさんな。
過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。
 疑わしきは罰せず だろう? ウィゴーちゃあん。それより俺達の
未来の愛についてでも語り合おうぜぇ。なぁ、おい」

『喧しい ハウス』

『……えぇ そうですね。疑わしきは 罰せず。
ご尊老 このような青二才に余り構う事はありませんよ。所詮は
クソ共の一人ですので』

「酷いねぇ けどツンツンしてるのも可愛いぜぇ ウィゴーちゃん」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト です』

スタンドが穏やかに別れを告げる……秘めたる力は開示しない。
このままなら、頭のネジが外れた若者と それに侮蔑する奇妙な自我ありの
スタンドと変な絡みをしただけで済む

640御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/17(日) 00:19:18
>>639
>『喧しい ハウス』

    「お前がハウスだバカヤロー!
     さっさと本体に戻らんかァァ〜〜〜〜ッッ!!」

『御徒町』の激昂はスタンドにも見境がない。
無論、干渉できるわけはないのだが、ネバっこいツバ飛沫も、
相当『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』へ飛んでいる。

>『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

    「あ゙ぁ゙ぁ〜〜〜〜〜ッッ!?

     私もねェ、この業界で『35年』はやってますよッ
     『新機軸』と称した産廃物なんか下の下であっても当たり前ッ

     ワールドワイドを言い訳に金を集める手法ばかり磨いて、
     真に『頭脳』や『技巧』でのみ筆頭となれる、理想郷としての『市場』は、
     いまやすっかり過去のモノですよ! 私の『玉座』だけを残してねェ!」

別段、『芦田』は『TVチャンピオンのラスト・インタビュー』のニュアンスで訊いたはずはないのだが、
それを逆手に取って長々しい『自分語り』にすり替える、老獪な手腕を『天然』でやってのける。
骨の髄まで『自己主張』に満ちた下劣な『老骨』の真骨頂ともいえる、がなり声が大通りに響き渡る。

    「ええっ、やったことねぇんでしょう!? 『おかしのマーチ』をッ!?

     おい、そのスマホをすぐに捨ててねェ、中古屋にダッシュでッ!
     古い方のDSにも移植してある、『おかしのマーチ』を買いなさいよォ!」

    「私の『過去』にねェ、やましいことなんて何一つありませんからねェ!
     勝手に理解した気になるんじゃありませんよ、『第九局面』もクリアしてないひよっこがぁ!」

既に野次馬達もドン引きして散り散りになっているのだが、その背中に向けて怒鳴り声をかます。
好奇心で首を突っ込んだ通行人達もまた、『変な絡み』で済んで何よりといったところだろう。

641芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/17(日) 00:36:52
>>640(お付き合い有難う御座いました)

「おいおい 唾を飛ばすんじゃねぇよ ジィさん
俺はいいが ウィゴーちゃんの可愛い顔が、あんたの唾でマーキングされたって
ちっともおっ勃ちもしねぇよ…………あん、待てよ?
ウィゴーちゃんの唾液で」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
いやいい 本当いい ろくでもない事しか話さないから
そこで黙りなさい 会話が進まないんですよ 貴方が口挟むと』

御徒町の話を、右から左へと芦田は聞き流してる様子で
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトは真摯に耳を傾ける。

『35年 ゲーム会社……嘘をついてる様子は無さそうでした。
だが、ゲームに参加させると言った時の鬼気迫る表情……』

「あんまり深く悩むこたぁねぇよウィゴーちゃん。
『おかしのマーチ』
お菓子で可笑しな犯しのま ぁ ち〜♪
みんながみんなイきたいのよ♫ 侵したいのよ あなたの……♩」

『すいません エチケット袋を近くの店で買ってくれませんか?』

「ついでにスイーツ食べない? 予定通りにさ?」

『……あの 本当どうでも良いですけど、何で私を女性扱いで
話を進めてるんです?』

「そりゃあ、ウィゴーちゃん。片方眼鏡の老紳士風味か
片方眼鏡の司書っ娘、どっちが見栄え良いかって言やあ
断然的に後者じゃねぇか。そりゃ、世の皆さん全員がそう思うぜ?
こりゃ『納得』とかそう言う範疇以前の『常識』だろ?」

『何で私は貴方の目覚めから出て来たのか、理解に苦しみますよ。
切り取りたい過去は、本当起源からですよ』

「つれないねぇ けど、あの淡吐きジィさん なかなか愉快じゃねぇか。
また道中揶揄ってやろうぜぇ ウィゴーちゃあん」

 道すがら雑談しつつ、過去を掘り下げるスタンドと若者は
裏ゲーム主催者と別の道を行く。
 ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトの力が、何時か御徒町の過去を
引き出すのかは 未だ誰にもわからない。

642御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/17(日) 01:02:23
>>641

      「ハァ……  ハァ……

       クソどもが、ようやく消えましたね――――」

      「『GEO』の方角じゃあないのは気になりますが、

       ゴホッ  グェ、ッ……まぁ、いいでしょう」

いつの間にかいなくなった『芦田』を尻目に、
三々五々に散っていった群衆達に恨み言を零す。

冷や汗が、身体の震えが止まらない。
喉を擦る『異物感』、『痰』であればどんなにいいことか。

>過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
>骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。

       「わ、だしに、ゴホッ

        目を背ける『過去』など、ない――――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「『御徒町』君ねェ、我が『嵯峨野研究室』は、

        『最新鋭』なんだよ。『優秀』とか、そーいう意味じゃあない」

       「『最新』ってのは、『一番』ということであってねェ、
        『未開拓』である、君みたいに誰でも出来る、誰かがやってる、
        そーいう『成果』はねェ、『成果』とは言わないんだよ、そうだろぉ?」

       「これからの『産業形態』を大きく変える、
        『相互補完アルゴリズム』、ハッキリ言って『荒野』に等しい。

        我が大学の『門』を潜った学士であっても、
        君のような『凡才』では、全くお話にならない、ということだよ」

       「これでも君程度に解るように話のグレードを下げに下げたのだがねェ、
        何も解っとらんらしいなぁ。ん? そうだろぉ? 君は『0』から作れないんだろぉ?」

       「なぁ、そうだろぉ? ん? どうした?
        『理論』は理解できるんだろーが、
        だからってエラそーに出来る話じゃあないだろぉ?
        そーいうのは『市場』に出す時に、民間がやってりゃあいいんだ」

       「まあ君も後数ヶ月でおサラバだから、どーこーは言わんがねぇ、
        全くの『お荷物』だったよ、君が余所でひけらかす借り物の説明は聞き飽きた。

       「これからはそーいうのは止めてくれな、我々『研究者』の評判まで下がってしまう。
        コピーペーストは学生論文のレベルでやってればいい、じゃあ達者でな」

                バタンッ!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「何も、ない……」  ガホッ



.

643日沼 流月『サグ・パッション』:2019/02/24(日) 01:42:45

         ザッザッ

「もしもし〜ッ、え、今ですか?
 今星見街道の〜、あの、お店多い通りですケド」

      「え」 「ウソっ」

「あ、びっくりしたぁ〜〜〜ッ
  今日かと思いましたですってェ〜〜〜」

名前通りファンシーな品を扱う店から、
スマホ片手に通話しつつ……前を見ず、
金とも銀とも言えない髪の少女が出て来た。

肩に掛けた買い物袋はそれなりに大きなもので、
近くを通る人がいればぶつかるかもしれないし、
あるいは単に『同好の士』の目に入るかもしれない。

「え? 今日じゃダメかって、ダメですよ〜。
 流月(ルナ) 今日は買い物日和なんです。
 今日逃すと買えないものがありましてェ〜っ」

ともかく日沼は今不注意だ。何が起きてもおかしくない。

644日沼 流月『サグ・パッション』:2019/02/27(水) 01:14:08
>>643(撤退)
運よく何事も無かったので、そのまま立ち去った。

645三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 02:07:46

こんにちは、千草です。
今日は一人で喫茶店に来ています。
以前は小角さんにお会いしましたが、今は一人です。

「ふう――」

テーブルの上にはノートが広げられています。
生徒会会議の議事録です。
それを見やすくまとめる作業中なのです。

「すみません。注文をしたいのですが」

ボールペンを置いて、ウエイトレスさんを呼びました。
少し疲れたので、一休みです。
ところで店内は満席のようなので、誰かと相席になるかもしれません。

646鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 21:43:14
>>645

チリーン

『申し訳ありませんお客様。ただいま満席となっておりまして、相席となりますが…』

「えっ」ビクッ

チラッ

「ああ、大丈夫です」

『ありがとうございます。それではこちらへどうぞ』



「こんにちは、三枝さん」「お邪魔させてもらってもいいか?」

長身の学生服、ザックリと斜めに切られた前髪が特徴的な青年が、笑顔で声をかけてきた。
トレードマークのような、背負った竹刀袋も以前と一緒だ。

647三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 22:58:37
>>646

「あっ、鉄先輩――」

      パァッ

「こんにちは」

      ペコリ

「どうぞ、またお会いできて嬉しいです」

知っている顔を見かけて、自然と表情が綻びました。
それから、背中の竹刀袋に視線を向けます。
先輩は、やっぱり剣道部の帰りでしょうか。

「そういえば――」

「鉄先輩は高等部二年の日沼流月先輩を知っていますか?」

少し前のことを思い出しました。
一緒にお話してくれた先輩です。
確か、鉄先輩と同学年だったと思います。

648鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:09:54
>>647

「ありがとう」ペコリ

幼くも礼儀正しい三枝さんに合わせて、こちらも礼をして椅子に座る。
竹刀袋は邪魔にならないように、椅子の背もたれに引っ掛けておいた。

「・・・日沼さん?」「一応知ってる、かな」「話したことはないけれど」

ただその名字は聞いたことがあるし、恐らく遠巻きながら姿も見たことがあるはずだ。
なかなか派手な髪色をしていて、いわゆる『不良』的なグループの1人らしい、と耳にした。
そのグループに関して根も葉もない噂はいくつかあるが、そこまでは言わなくていいだろう。

「三枝さんこそ、どうして日沼さんを知っているんだ?」

『メニュー』を開きながら、訊ねる。
三枝さんとは学年も違うが、何よりあまりに『タイプ』が違う。接点はないように思えてしまう。

649三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 23:32:16
>>648

「そうですか――」

「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

やっぱり、なかなか深い親交というのは見当たらないようです。
生徒数の多い学校だからでしょうか。
でも、それは構いません。

「『超能力』です」

鉄先輩の質問に、真面目な顔つきで返しました。
そして、すぐに口元を緩めます。
本当は違うからです。

「――――だったらビックリしますか?」

          クスクス

「『冗談』です」

普段よりも子供っぽい笑顔で、そう言いました。
目指す『立派な人』になるためには、ユーモアも理解していないといけません。
『本当の本当』は、少しだけ『本当』ですけど。

「この前、学校で少しお話したからです」

「鉄先輩のことを話したら、千草が感謝していることを伝えてくれると言ってくれました」

「日沼先輩は親しみやすくて、良い先輩だと思いました」

650鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:52:19
>>649

>「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

「…だろうなぁ」

その言葉に深く頷く。
今泉さんのように顔が広い子ならともかく、ましてや自分はさほど知り合いは多くない。
同じ学年といえど、同じ部活や同じクラス、あるいはそうだった過去があるか、
または友人の友人という繋がりでもない限り、なかなか知り合いになることはない。
それこそ、自分にとっての鳥舟さんや平石さんのように。

>「『超能力』です」

「─────」

『スタンド使い』という共通点がなければ。
そう思っていた矢先に投げかけられた言葉に、『メニュー』を読んでいた手が止まり、
バッと三枝さんを見上げる。だが、その真意を問おうとするよりも早く。

>「――――だったらビックリしますか?」

>          クスクス

>「『冗談』です」

「・・・いや、中々『冗談』が上手いな、三枝さんは」

応じるように、こちらも口角を上げる。
子供は時々、驚くほど本質を見抜くことがあるという。一瞬だけ、その笑みも、全てを知った上での事のように思えてしまった。
が、流石にそれは妄想に過ぎないだろう。ただ最近自分の知り合いに『スタンド使い』が多かったので、過敏になっているだけだ。

「…そうか」「日沼さんはいい人なんだな」「今度、オレからも話しかけてみるよ」

正直、三枝さんの言葉はあまりに意外だったが、確かに自分とて日沼さんと直接話したことがあるわけではない。
ならば、実際に言葉を交わしたこの少女の言葉を信じるべきだ。それに、いい人ならそれに越したことはない。

「オレは『黒蜜ときなこのプリン』にしようかな」「三枝さんは?」

651三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:12:45
>>650

「はい――」

そう答える表情は、心なしか少し誇らしげに見えました。
何だか、自分が二人の先輩の架け橋になれたように感じたからです。
少しだけ――ほんの少しだけ、『立派な人』に近付けた気がして嬉しく思いました。

「千草は『フルーツあんみつ』にします」

言いながら、メニューの一点を指差します。
あんみつは好きなのですが、今日はフルーツあんみつの気分です。
それから、出しっぱなしになっていたノートを脇に片付けましょう。

「鉄先輩は部活動の帰りですか?」

「ご苦労様です」

       ペコリ

鉄先輩は立派な人です。
それを少しでも見習っていきたいです。
千草は、まだまだ未熟者ですから。

652鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 00:27:09
>>651

「お、いいセンスだ」
「すみません、注文をお願いします」

いいセンスと言ったのは、実際自分も『あんみつ』にするか迷ったからなのだが。
とにかく、運良く男性のウェイターが通りがかったので、2人分の品を注文する。
そのままメニューも持っていってもらった。

「そうだよ。もう少しで『大会』もあるから、頑張らなきゃな」
「三枝さんは?ここでテスト勉強とか?」

カバンからファイルを取り出しながら、こちらからも訊ねる。

653三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:50:23
>>652

「剣道の大会――ですか」

テレビか何かで見かけたような覚えはあります。
でも、実際に見たことはありませんし、詳しい内容までは分かりません。
ただ、きっと凄いものなんだろうという想像くらいは千草にもできます。

「千草には何もできませんが」

「でも、鉄先輩のことを応援しています」

「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

        ニコリ

以前に神社の近くで出会った時のことを思い出しました。
その時、鉄先輩は千草が立候補したら応援してくれると言ってくれました。
だから、千草も先輩を応援したいのです。

「生徒会会議の『議事録』の整理です」

「書記として、正式に生徒会に加わることになったので」

       ペコリ

「鉄先輩が応援して下さったおかげです」

でも、まだまだです。
千草は、もっともっと成長したいのです。
そのためには常に上を、常に先を見つめなければいけません。

654鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 01:07:42
>>653

>「千草には何もできませんが」

>「でも、鉄先輩のことを応援しています」

>「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

「・・・いや」「そう言ってくれる人がいる事が、オレにとっては何より力になる」
「ありがとう、三枝さん」ペコリ

両手に膝を置き、頭を下げて感謝を示す。
『団体戦』のレギュラーは、あと一歩のところで。…本当に、僅かな差で落としてしまったが。
『個人戦』のレギュラーは、まだ確定していない。ここからの挽回次第では、チャンスはある。
自分の心が抱える問題さえクリアできれば、だが。

しかし、その次に聞いた報告は、そんな憂いを吹き飛ばすように喜ばしいものだった。

「そうか、三枝さんは『生徒会』に入れたのか!」「おめでとう」「目標が1つ、叶ったな」

あの神社でこの少女が口にした望み。
それが叶ったかどうかはずっと気になっていたが、これはとても嬉しい事実だ。

「偉いなぁ、三枝さんは」「ここでも『お仕事』をしてたんだな」

素直に感動しながらも、自分もファイルからこの街の地図を取り出して、スマホを隣に並べた。
こちらもお仕事というほどではないが、私用を片付けておこう。

655三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 01:35:24
>>654

「えへ……」

「――ありがとうございます」

     ペコリ

今日一番の嬉しそうな表情で、頭を下げました。
本当に嬉しかったからです。
生徒会に入れたことでも、それを祝ってもらえたからでもありません。
その二つも嬉しいことですが、
それよりもお互いに応援しあえる関係を築けていることが嬉しいのです。
それは、得た結果よりも尊いものだと千草は思っています。

「他に『雑用』も幾つかやらせてもらっています」

「いつか『生徒会長』になるのが、次の目標です」

「そのために、今は与えられた仕事を精一杯やっていきます」

一つ一つの言葉を噛み締めるように、実現させたい展望を語ります。
いつかは叶えたい目標です。
でも、そこで終わりではありません。
もし、そこに辿り着けたら、さらに先を目指したいのです。
千草の『最終目標』は、その向こう側にあるのですから。

「鉄先輩――どこかにお出かけの予定ですか?」

先輩が取り出した地図を眺めながら尋ねます。
この街ということは、それほど遠くではなさそうですが。
どこか地図に印などがしてあるのでしょうか?

656鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 22:15:45
>>655

「『生徒会長』か…更に大きく出たな」

『生徒会』に入ることそれ自体も容易いことではないと思うが、
更に『生徒会長』となれば、尚更だ。学園の中で、生徒代表とも言える立場にあるからだ。
それに相応しい人望と能力が求められる。

「でも、きっと三枝さんなら大丈夫だ」「真面目で勤勉なキミなら」

そう言えるくらい、自分はこの少女に好感を覚えている。
重ね合わせるのは彼女に失礼かもしれないが、自分も器用に色々とこなすというより
地道に少しずつ努力を重ねていくタイプだ。だから三枝さんの成功も、我が事のように嬉しいのかもしれない。

「あぁ…出かけるわけじゃあないんだ」「ちょっと、この街の危ない所をマークしておきたくてな」


鉄が広げた地図の中には、幾つかの印がしてある。
緑色の丸は、『ホームセンター』『大型ディスカウントストア』『骨董品店』などに記されている。
また赤色の丸は、時刻の他に『通り魔』『暴行事件』など備考が記されていた。
スマホを見ながら、鉄は更に地図の上に赤色の丸を書き記していく。


「三枝さんも、気をつけて」「生徒会で遅くなった時は、2人以上で帰ったりとか」

「…お、来たな」

『お待たせいたしました』

注文の品が届き、店員が『フルーツあんみつ』と『黒蜜ときなこのプリン』をテーブルの上に置いた。

657三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 00:09:29
>>656

千草は何よりも『死』を恐れています。
だから、それを連想させる言葉も怖いのです。
普段は、目に入れないように意識しているのですが――。

「 あ 」

      プイッ

赤丸に書かれた言葉を見て、一段階高い声を上げて反射的に顔を逸らしました。
『通り魔』や『暴行』――そういう単語を見ると千草は『死』を連想します。
だから、無意識に反応してしまったのです。

         スゥー……

こういう時は、まず深呼吸です。
どうにか気持ちが落ち着いてきました。
予想していなかったので、少し驚きましたが。

「――――はい、ありがとうございます」

     ニコリ

「鉄先輩も気を付けてください」

「でも、先輩なら大丈夫かもしれませんけど――――」

その時、ちょうど品物が運ばれてきました。
話すのを途中で止めて、あんみつを一口食べます。
鉄先輩が大丈夫だと思う理由は、もちろん『アレ』です。

「だって鉄先輩は、8年も『剣道』を続けてらっしゃるんですから」

竹刀袋の方に視線を向け、そう言いました。
だけど、不思議なことだと思います。
どうして先輩は、こんなに熱心なのでしょうか。

「……朝陽先輩のお加減はどうですか?」

神社から帰る途中で鉄先輩から聞いた話を思い出します。
朝陽先輩はピアノが上手で、今は腕を怪我しているとのことでした。
あの時も、つい千草は少し耳を塞いでしまいましたが……。

658鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 00:35:20
>>657

「!」

「・・・すまない」「無神経だった」

地図を見て目を逸らす三枝さんに、深く頭を下げる。
家での作業を当事者の妹に見られる訳にはいかないと思ってここでやる予定だったが、
そもそも並んでいる字面だけで、女の子にとって気分の良いものではなかったのだろう。
こういった気遣いが欠けている己の無神経さを悔やみ、反省する。
地図を折り畳み、再びファイルへとしまった。
妹が寝静まった後や、あるいは学校の図書室など、他にできる場所はある。焦る必要はない。

「ありがとうございます」

店員へ礼を言い、プリンを自分の前へと置いた。
せっかく喜ばしい出来事があったのだ、気分を切り替えていこう。

「どうかな、こういう場合は『剣道』より『空手』や『柔道』の方が強そうだけど───」ハハハ
「まぁでも、そういう状況になったとしても負けるつもりはない」
「だから安心して、頼ってくれ」

『剣道』で勝てる相手ならそれでいい。そうでなかった時のために、手にした『シヴァルリー』だ。

「・・・・・ほとんど完治したよ」「以前のように動かすには、少しリハビリが必要だけどな」

「そういえば、あの時の三枝さんの『お願い』は叶ったのかい?」

妹、朝陽のことを話したあの帰り道を思い出して、訊ねる。
カラメルの代わりに黒糖が乗った、きなこ混じりのプリンを食べる。とても美味しい。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 01:04:57
>>658

「謝らないでください」

「鉄先輩は悪くありませんから」

先輩は何も悪いことはしていません。
悪いのは千草の方です。
でも、この習慣は多分なくせないと思います。

「分かりました、先輩」

「その時はお願いします」

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――千草の『墓堀人』は役に立ってくれるでしょうか。
何度か練習してみましたが、まだ分かりません。
そもそも、危ないことにならないのが一番だと思いますけど。

「――そうですか……」

「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

千草にできることは多くありません。
千草は未熟で弱い人間です。
できることは、ここにも朝陽先輩を待っている後輩がいることを伝えることくらいです。

「いえ、『まだ』です」

「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

あの時に祈ったのは、『素晴らしい最期を迎えること』でした。
それが訪れるのは、きっと何十年も先のことになるでしょう。
きっと、そうであって欲しいと思います。

「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「――プリンもおいしそうですね……」

鉄先輩のお願い事は叶ったのでしょうか?
先輩のプリンをチラリと見ながら聞き返しました。
行儀が悪いですが、いわゆる隣の芝生は青いというやつです。

660鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 01:51:51
>>659

>「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

「…ありがとう」「本人に…朝陽に伝えておくよ」

やはり優しい子だなぁ、と思いつつ。
多分に気遣いの含まれたその言葉を受け取った。
朝陽は、そういう言葉を力にできる人間だから。かけ値なしに喜ぶだろう。

>「いえ、『まだ』です」
>「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

「そうなのか…てっきり『書記』や『生徒会長』になることかと思っていたけど」
「三枝さんの『夢』は、それ以上に壮大ってことなんだな」

予想が外れたな、と小さく口にする。とはいえ願い事の内容を聞いたりはしないが。
例えば、素敵なお嫁さんとかだったりするかもしれない。あまり女の子のプライバシーに立ち入るべきではない、よく妹が口にしていた。

>「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「うっ」「いや、オレもまだでね…オレの努力が足りてないんだろうからしょうがない」モグモグ

頭を書きながら、答える。結局仲直りはまだできていない。
何が悪かったのか、自分自身がそれを把握しないといけない。謝るには、誤りを知らなければ。

「今度、知り合いの人が勤めている『烏兎ヶ池神社』にでも行って、またお祈りしようかな」
「他の場所なら効くってわけじゃあないだろうけど」

「…ん?」

プリンを物欲しそうに見る三枝さんに、年相応の微笑ましいものを感じて。
思わず小さく吹き出してしまう。

「いいよ、少し食べてみな」

そう言って、『黒蜜ときなこのプリン』を彼女の方へと差し出す。

661三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 03:31:51
>>660

「壮大だなんて、そんな――」

苦しむことなく安らかに旅立ち、看取ってくれる人の心にも良い影響だけを残すこと。
それが千草の『夢』で、『人生の目標』です。
何か大きなことを成し遂げようというお願いではありません。
ただ、それでも叶えるのは難しいと思います。
生徒会に入ったり生徒会長を目指すのは、その一歩です。

「千草の夢は、ほんのささやかなものですから」

本音を言うと、『死にたくない』という思いがあります。
でも、それが無理なことくらい未熟者の千草にも分かります。
だから、せめて『素敵な最期』を迎えたいと思うのです。

「『烏兎ヶ池神社』――初めて聞きました」

「それは、この街にあるんですか?」

「千草も一度行ってみたいです」

神頼みだけで夢が叶えられるとは思っていません。
だけど、自分の気持ちを新たにすることはできると思います。
それに、少なくとも損をすることはないですから。

「鉄先輩、今笑いましたね?」

「千草のことを子供だと思いましたか?」

少しだけすねたような表情をしてみせます。
でも、プリンを差し出されると、そちらに視線が向きました。
自然と、少しずつ口元が緩んできます。

「……ありがとうございます」

         ニコ

「でも、いただくだけじゃ不公平です」

「お返しに、鉄先輩も千草の分を食べていいですよ」

「――『パイナップル以外』ですけど……」

控えめに付け加えながら、フルーツあんみつを先輩の方に差し出します。
それから、先輩が分けてくれたプリンを一さじすくって口に運びました。
初めて食べましたが、優しい甘さがとてもおいしく感じられます。

「これもおいしいですね」

「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

662鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 21:53:49
>>661

「ここにあるらしいぞ」
「友人の友人が言っていたんだけど、『パワースポット』とかなんとか」

今度は紙の地図ではなく、スマホの『地図アプリ』で指し示す。
【ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1549033452/1】
とはいっても、場所と少しの情報だけで、自分も詳しくは知らない。
烏と兎に池、その変わった名前にも何らかの由来があるのだろうか。

「あぁ、いや別に、そんなわけじゃあ…」
「…すまん。ちょっと思った」「いや、年相応に可愛らしくていいんじゃあないか?」
「朝陽も以前はもっと可愛げがあったんだけどなぁ…」

ちょっぴりふてくされた様子を見せる三枝さんに慌てて首を振るが、
どうせウソをついてもバレると思い、観念して両手を挙げ正直に言う。
妹も、これくらいの時は…いや、もう少し以前、小学生くらいの時は、よく懐いてくれたものだ。
何にせよ、差し出したプリンに彼女が頬を緩めるのを見て、安心する。

「え、オレも頂いていいのか?」
「実はちょっと気になってたんだ、『フルーツあんみつ』」「ありがとう」

感謝の言葉を述べながら、餡と白玉をスプーンに乗せ、口に運ぶ。
和菓子ならではの、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。

「…あぁ、美味しいな」「よし、今度来た時はこちらを頼もう」

>「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

「そうだな、どちらかというと洋菓子より和菓子系統が好きだ」
「生クリームやバターたっぷり、とかはあまり得意じゃなくて…」
「でも『バターどら焼き』は以前食べてみたけど、アレは新しい美味しさだったな」
「『和スイーツ』?とか言うらしいが、ああいう菓子も新鮮で良かった」

自分は男子だが、甘いものは好きだ。

663三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 00:08:48
>>662

「『バターどら焼き』ですか――それもおいしそうです」

「違うもの同士が合わさると、今までとは違う素敵なものができることがあるんですね」

「時には、それが失敗することもあると思いますけど」

「でも、千草と先輩は『バターどら焼き』になれそうな気がします」

「――ね、鉄先輩」

          ニコリ

「先輩、連絡先を交換しませんか?」

「鉄先輩とは、またお話してみたいです」

「先輩が嫌じゃなければ、ですけど……」

手帳型のケースに入ったスマートフォンを取り出します。
先輩は『立派な人』ですから、この繋がりは大事にしたいのです。
そういう関わりは、千草が成長する上でも大切だと思っています。

「もし何かあった時は、先輩を頼りにさせていただきます」

「その代わり――先輩も千草のことを頼ってもいいですよ?」

「『一方通行』じゃ不公平ですから」

千草には大したことはできないでしょう。
でも、もしかすると何かの役に立てるかもしれません。
千草の目指す『立派な人』になるためには、それも必要なことです。

「何だか、たくさんお喋りしちゃいましたね」

「それで、あの――早速なんですが……」

「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

664鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 00:38:14
>>663

「詩的だな」ハハッ
「でも確かに、それには同意する」「年は5コも下だけど、オレはキミを『尊敬』してるからな」

三枝さんの言葉に頷き、自分もスマホを取り出す。市松模様の、ハードケースだ。
好感を覚えている彼女に対して、連絡先の交換を拒む理由などなく。
むしろ、『通り魔』のような人間がいるかもしれないこの街で。
いざという時に、連絡はすぐに取れた方がいい。

「もちろん、こちらこそよろしく」
「ああ、その時は頼りにさせてもらうよ」「何せ、未来の『生徒会長』だからな」

もちろん冗談だ。
彼女が『生徒会長』になったとしても、例えば別に剣道部に対してどうこうしてもらうつもりはない。
この子の直向きさ、勤勉さは、きっと自分の心の支えになる。そういう頼り方もあるだろう。

>「それで、あの――早速なんですが……」

>「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

「ん、なんだ?」「忌憚なく言ってくれ」

665三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 01:08:37
>>664

「――ありがとうございます」

       ペコリ

「千草も鉄先輩を尊敬しています」

「だから、これからも先輩のことを見習わせていただきます」

連絡先の交換を終えて、スマートフォンをしまいます。
こういう出会いの積み重ねも、『夢』の実現に繋がると思います。
身の回りにある全てを、その一つにしていきたいです。

「えへ……」

「大げさですよ、先輩」

「でも――それを叶えるために、これからも頑張ります」

軽い否定を含んでいましたが、表情は嬉しそうでした。
期待に答えるのも『立派な人』の条件です。
冗談まじりであっても、今から期待されるのは喜ばしいことです。

「今日、一緒に帰ってくれませんか?」

「さっき、先輩も『二人以上で帰った方がいい』と言われていたので」

「これを食べて、残りの議事録を整理してからになりますけど……」

「後は見直しをするだけなので、そんなにかからないと思います」

「……お願いできますか?」

上目遣いで鉄先輩の顔を見つめます。
一緒に帰れたら、その分だけ先輩と長くお話ができます。
少しズルいですが、それがこのお願いの『本当の理由』です。

666鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 01:44:37
>>665

「もちろんだ」

三枝さんの言葉に、笑顔で頷く。急いで家に帰る用事があるわけでもない。
もっともあったとしても、彼女の安全の方が優先だ。
もし、万が一。朝陽に続いて、この少女にまでも凶刃が振りかざされてしまったなら。
…そんな想像したくもないような事を防ぐためなら、何でもしよう。

「ゆっくり食べるといい」
「それと、今回の会計はオレに出させてもらっていいかな」
「祝『会計』就任ということで」

恐らく三枝さんは断ろうとするかもしれないが、この点に関しては甘んじて受け取ってもらおう。
自分は年頃の少女への贈り物などには全く疎い。こういった形でしか、祝いを形にできないのだから。

「…本当に、おめでとう」

微笑みながら、小さく、呟く。
自分が守りたいものは、確かにこれなんだという実感がある。
自分には朝陽や三枝さんのような大きな『夢』はないけれど。
そういった話を聞いて、そして努力している彼女たちが、理不尽なものに脅かされないように。
そういったものへと『立ち向かう』。それが自分の『士道』だ。


結局、この日も無事に三枝さんを家へと送り届けて、幸い『通り魔』は現れなかった。
代わりに幾つかの楽しい話をして、満たされた気持ちで己もまた、自宅へと帰った。

667鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 03:00:05

                 ブロロロ・・・

バスから降りて、大通りを歩く。
アンティーク雑貨を買って、
本屋で欲しい新刊を買って、
ランチを食べて、それから。

(ああ、まいったなあ。やる事がたくさんあって、
 しかもそれが全部楽しい事なんて、たまんないなあ)

特別な日というわけでもないのだが、
浮かれてしまっているのは事実だろう。

そういう気分が、ポケットから落ちた『小銭入れ』に気づかせなかった。

668高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 22:01:05
>>667

(前のミニライブは上手くいったな……)

(でも、ずっとああやって頼るのはな……)

(……今日は成功のお祝いなんだからもっと前を向かないと)

伸びた背筋のまま俯いて歩く女性がいる。
緩く結んだ黒髪。
それと同じように黒いカーディガンはセーラー服のようなシルエットをしていた。

(あ)

俯いているから、見えるものがある。

「落としたよ」

一旦拾わずに声をかける。
昔それで窃盗犯と間違えられたから。

669鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 23:42:42
>>668

「あっ、え、ああっ小銭入れ!
 いつの間に落としてたのかな、いえ、
 ありがとうございます、助かりました」

           クルッ

「っと」

金色の瞳と、左右で長さを変えた黒髪。
振り向いた女は、そういう姿をしていた。

「すいませんね、ちょっと浮かれてたみたいで」

一瞬高宮の『手』を見たが、
拾った訳ではないと気付いて、
しゃがんで『鳩』柄の小銭入れを拾う。

「気付いてくれて、どうもありがとう。
 ソレがなかったらボク、大変な事になってたよ」

「えーっと。何かお礼とかした方がいいかな。
 あ、新手のナンパじゃあないからね?
 女同士だしさ……そうだ、缶ジュースとか飲む?」

特に他意はなく、自販機を軽く指さす。
口頭のお礼だけでも良かったが、今日はやはり浮かれていた。

670高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 23:52:26
>>669

「別に、そんなつもりで声をかけたんじゃあないから」

目を逸らして言葉を返す。
浮かれた相手に比べて、少し沈んだところがある。

「それに君が自分で財布を拾ったからね」

自分は何もしていないと言外に含ませる。
それが相手に伝わるかはわからないけど。


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