したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 大通り ―星見街道― 』

511小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 02:38:42
>>510

  「――ありがとうございます……」

自分にとっては、こうして観てもらえるだけでも十分ありがたい。
それだけでなく、いい絵だと言ってもらえたことが素直に嬉しかった。
その気持ちを示すために、深いお辞儀と共に感謝の言葉を返す。

  「これは……私がドレスを試着した際のスケッチを元にして描いたものです」

当時のことを思い出しながら話す。
あれは結婚する直前のことで、その時の自分はとても幸せだった。
絵の中の自分を見ていると、まるで昨日のことのように思い出が蘇ってくる。

  「……はい、彼は絵を描くことを仕事にしていました。
   こうした油絵だけではなく、他にも色々な分野の絵を描いていましたが……」

  「この絵は一度も発表する機会がなかったもので……これを選びました」

言葉を続けながら、少女の仕草が視界に入る。
次に、その表情を見つめた。
それから、穏やかに微笑んだ。

  「ええ――どうぞ……」

512小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/02(火) 22:40:22
>>511

「はっきりと言ってしまうのだけれど」

「その方は亡くなられた、と解釈してもよろしいかしら」

揺らがない瞳。
変わらない声色。
刺々しくはないが鋭い言葉の色がにじむ。
すっぱりと言葉にした。

「それで貴方は今も喪に服していると。私は考えているわ」

513小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 23:49:54
>>512

少女の真っ直ぐな視線を受け、軽く目を伏せる。
しかし、それは僅かな間のことだった。
一瞬の後には、また少女を見つめ返す。

  「……その通りです」

  「結婚して間もなく……彼は……」

無意識の内に、左手が右手に触れる。
左手の指先が、右手の薬指に嵌められている銀の指輪を撫でた。
それは、左手の薬指に見える指輪と対になっているものだ。

  「……それから、長い時間が経ちました」

  「ですが……私は、これからも喪に服し続けるつもりでいます」

普通は、一定の期間を過ぎれば、喪は明ける。
けれど、私の喪は明けることがない。
今までも、これから先も、生きている限り続いていく。

  「それが、彼に対する私からの手向けになると信じていますから……」

もしかすると、それは愚かな考えなのかもしれない。
そうだとしても、止めようという気持ちはなかった。
いつまでも想い続けることが、彼に対して自分ができることなのだから。

514小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/03(水) 00:27:08
>>513

「そう」

視線を切った。
一歩絵に近づく。
絵を見つめ、息を吐く。
いま目の前にあるものの持つ意味と、それに繋がる人間。
点と点。
繋がっているのか繋がっていないのか。

「貴方は素敵な人ね」

ぽつりとそう呟いた。
それは小石川に向けられたものだったのだろうか。
目も合わせずに言葉が零れている。

「思わぬ場所で思わぬ作品と出会って」

「人の思わぬ場所を知ったわね」

515小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/03(水) 01:16:41
>>514

  「――……」

何も言わず、絵に視線を向ける少女の背中を見つめる。
自分と同じ黒い装いの少女。
その色が意味するものは何なのだろうか。

  「私も、思わぬ場所で思わぬ方と出会えました……」

今日、こうして再会したのは、きっと偶然なのだろう。
だけど、もしかしたら何かの縁があったせいかもしれない。
ふと、そんな考えが心の中に思い浮かんだ。

  「そして……思わぬ言葉をいただきました」

一歩足を進め、再び少女の隣に並び立つ。
その視線は、少女と同じように絵の方に向けられていた。
壁に飾られている額縁を隔てて、絵の中にいる過去の自分と、
今ここに立つ現在の自分が向かい合う。

  「小鍛冶さん……」

  「この絵の前で足を止めてくださったことに、心から感謝します」

  「彼に代わって、改めてお礼を言わせてください」

  「本当に……ありがとうございます……」

真摯な思いを込めた言葉の後で、深々と頭を下げる。
先ほど口にした謝辞は、自分の気持ちを示すためのものだった。
これは、絵を描いた彼の言葉を代弁したものだ。

516小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/03(水) 01:43:41
>>515

「そう。でも、感謝をされる筋合いというのはないわ」

「いいものを見て、いいと言うのは当然のことよ」

髪を触る指。
黒い髪に白い指が潜り込んでいる。

「それじゃあ私はそろそろ行かせてもらうわ」

「用がある作品があるの。えぇ、この絵には及ばないものだけれど」

(私の作品が、ね)

517葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 17:29:02

何か用事があったというわけでもなく、なんとなく町を歩いていた。
なんとなく町を歩く。小雨が髪を濡らす。良い気分だ。
            パタ
         
「…………」

           《お嬢様、じきに本降りになりましょう。
            今の内にお纏い下さいませ》

「また……勝手に出てくる……」

ただでさえその赤い髪と目、大きな黒いリボンは目立つのに、
その傍らには『蝙蝠傘』を人型に組み直したような異形の『従者』。

           《『雨具』の本懐です故、どうぞお赦しを》

「……目立つから、そこ、入るよ」

本降りの雨の中を闊歩するのも気分は良い。
気分は良いが……風邪を引くのは、いやだ。

従者の勧めに素直に従うのは少し癪だが、
屋根のある路地裏に入り込み彼の能力を使う事にする。

・・・ただでさえ目立つ格好が、そんな目立つ事をしているわけだ。

518美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/25(火) 22:51:39
>>517

「出掛けた矢先に降られちゃうとは、我ながらツイてないわねぇ」

思わずグチを零したくなるが、それで雨が止んでくれる訳もない。
仕方なく、ひとまず屋根のある場所に入る事にする。
そこで――――『吸血鬼』を思わせる少女と、奇怪なスタンドに遭遇した。

「………………」

その時、チラリと見てしまった。
見たというより、たまたま視界に入ってしまったという方が正しいかもしれない。
とにかく、その光景を目撃してしまったって事になる。

(自分で喋るスタンド――『コール・イット・ラヴ』と似てるわね)

自然公園で出くわした少女のスタンドを思い出す。
あの『コール・イット・ラヴ』と名乗ったスタンドは、
自分の意思を持っているようだった。
この『蝙蝠傘』のスタンドも、きっとそうなんだろうと思う。

(さて、どうしようかしら)

私は向こうのスタンドを見た。
その視線には気付かれただろう。
黙ったままというのは何となく居心地が悪いし、
かといってスタンド使いである事を指摘するというのも違う気がする

        ――シュンッ

ラフなアメカジファッションの女の肩に、『機械仕掛けの小鳥』が止まる。
ちょっとした挨拶のようなものだが、どう受け取られるかまでは分からない。
もちろん、この何処か『吸血鬼』を連想させる佇まいの少女が、
まさか『本物』ではないだろうと判断した上での行動ではあったが。

519葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 23:04:08
>>518

「……」

「……? 『エヴリウェア』?」
 
              ≪――――お嬢様。面目御座いません。
                お言葉通り、『目立って』しまったようで≫

「!」

       バッ

振り返った。美作と、目が合った。

吸血鬼――――というには、
愛嬌ある顔だちの少女だった。   
冷たい美貌とはまるで違う。

だが、どこか異様――――『非現実』の風ではある。

「…………」

(どう、しよう。あれ、スタンド……だけど、
 私のを見て、びっくりして出しただけ……かも)

       (……悪い人、じゃなさそう) 

              ≪万一も御座います、故に。
                ――――警戒失礼致します、ご婦人。
                そしてお嬢様、遅ればせながら『お纏い』下さい≫

                主の考えには同意する。
                悪意は感じない、ゆえに謝罪のあと、
                あくまで念のためその身を主に委ねる。

「……ん」

            『ベキバキッ』

      『ミシ』  『ボギ』     『パタパタパタ』

そして何より異様なのは、その『従者』が『変形』し、
骨と皮膜で構成された赤黒の『レインコート』として少女に纏われたこと!

「……あのっ、ええと。その。
 …………こんにちは! 見えてます、か?」

                 「その、すみません。……驚かせちゃって」

520美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/25(火) 23:36:35
>>519

「…………わぉ」

スタンドに生じた変化を目の当たりにし、小さな呟きが漏れた。
少女が言うように、『驚いた』というのが正直な感想だ。
『蝙蝠傘』と『レインコート』――共通点は『雨具』だろうか。

「ううん、いいのよ。私は全然気にしてないから」

「こっちこそ変な事しちゃってゴメンなさい。何かしようって訳じゃなかったんだけど」

「そこの『エヴリウェア』さんを見たもんだから、つい。ホントにゴメンね」

     アハハハ

開いた両手を軽く上げて、申し訳なさそうに笑う。
ちょっと軽率だったかもしれない。
でも、本当に危険な相手なら、こんな場所で目立つ行動は取らないだろうし。

(というより――――日頃から警戒が必要なのは私の方かもね)

自身のスタンドを考え、ひそかに胸中で思う。
『プラン9』の専門は『情報』だ。
純粋な力や速さを一切持っておらず、
あぶらとり紙の一枚さえ持ち運ぶ事ができないのだから。

「ね、『プラン9』」

『小鳥』に語りかけるが、当然答えは返ってこない。
肩の『小鳥』は囀る事もなく、ただ黙って佇んでいる。
遠目から見ると、アクセサリーか何かに見えるかもしれない。

521葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 23:59:30
>>520

「いえ、その、私も大丈夫、です。
 こっちが、先に出しちゃってた、ので」

       モゴ

「その……こっちが悪い、です。……」

         チラ

             ≪ご無礼をお詫び申し上げます、
               早計が過ぎました、ご婦人。
               それに――――『プラン9』殿≫

「……もう」

やはり『半自立』のスタンド。
本体とは違う気持ちを持ち、動き回る影。

        サ
             ア 
                 ア   ・ ・ ・

小雨をBGMに、穂風は肩の鳥に視線を向けた。

「『プラン9』さん、って、言うんです……ね。
 その、『鳥さん』……スタンド、なんですよね?」

             ≪同輩の気配を感じます故≫

(そんな気配とかあるのかな……)

鳥のスタンド。穂風のスタンドも異形だが、
人型ではないスタンドは比率的には『珍しい』のかもしれない。

「えへ、でも……なんだか、かわいい感じ……ですね」

ただ、穂風にはスタンドだからとかではなく、
肩に乗る鳥、というのが珍しく、愛い物に思えた。

        (……ペット、とか。ちょっと憧れる……けど。
          でも、かわいいだけじゃない、よね。きっと)

自分のが口うるさくておせっかい焼きなだけじゃないように、だ。

522美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 00:34:48
>>521

「じゃあ、『おあいこ』って事にしときましょうか。それで、この問題は解決よ」

自分の意思を持ち、言葉を話し、行動するスタンド。
やはり、『マスキングテープのスタンド』と同じだ。
当然ながら、その性格には違いが見られるのだが。

「ええ、そうよ。僭越ながら『ご同輩』ね」

「褒めてもらってありがとう。可愛いでしょう?私も気に入ってるの」

「でも、『エヴリウェア』さんもイケてるわよ。何ていうか風情がある佇まいよね。
 あなたとのコーディネートも上手くできてると思うわ」

少女と『従者』を交互に見比べる。
スタンドは本体の精神の発露。
この少女がどんな人物かは知らないが、何処となく似合っているような気がする。

「それに、お話もできるみたいだし。
 前にも一度、そんなスタンドを見かけた事があるのよ。
 私の『プラン9』はお喋りしてくれないから、ちょっと羨ましいかな」

目の前のやり取りを見ていると、実際は苦労もあるかもしれない。
ただ、自分が持たないものでもある。
ボディに『マイク』と『スピーカー』を備えた小鳥――
『プラン9』は無口であり、『従者』とは対照的だ。

「私は美作っていうの。美作くるみ」

「スタンドの自己紹介をした訳だし、せっかくだから名乗っておくわね」

まだ雨は止まないし、名前が分かった方が話はしやすい。
そう思って、名前を名乗った。
静かに佇み続ける『プラン9』は、外見と同じく機械的な雰囲気があった。

523葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 01:05:50
>>522

「あ、はいっ。それでお願い、します」
 
       ペコリ

丸く収まったようで安堵する。

         ≪お褒め頂き、光栄の至り。
           お嬢様を着飾るのも、
           『雨具』としての勤めですゆえ≫

「……そうです、か?」

(見た目は、まあ、嫌じゃない、けど。
 ……性格もべつに、嫌って訳じゃないけど)  

胸を張るようなしぐさを見せる従者を、
なんとも複雑な表情で見やる穂風。

「皆さん、その、言ってくれます。
 お喋りできるの、うらやましいって」

「……私は、その鳥さんみたいに、
 その……静かでかわいいのも、羨ましいです」

            ≪……≫

「あ、う……別に、うるさいのが、
 …………嫌とかじゃ、ない……から」

            ≪ええ、存じておりますとも。
              ご信頼をいただいている以上、
              いえ、仮に頂かずとも――――
              私めは常に『従者』に御座います≫

             煙たく思われても、忠言はいつか主の為になる。
             主も、それを何処かでは理解してくれている。

「……そ、う」

穂風と従者の関係は一言で表しづらいものだ。
信頼はある。かけがえのない存在でもある。
それはそれとして、なんとなく煙たい時もある・・・

             ハトリ ホフリ
「あ、ええと、その。『葉鳥 穂風』と、いいます」

             ≪改めまして――――お嬢様の従者にして、
               『雨具』にして、スタンドで御座います。
               私めの名は、『ヴァンパイア・エヴリウェア』≫

                        ≪――――お見知りおきを≫

524美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 01:35:28
>>523

「葉鳥さん、改めてこんにちは」

「そして、『ヴァンパイア・エヴリウェア』――――ね」

「やっぱりイカしてるわね。その名前も覚えておくわ」

その名前も、少女には似合っているような気がした。
少女に対して、吸血鬼っぽい風体などとは流石に言えないが。
それでも、精神の象徴なだけあって、相応しいという感じはする。

「それなら、私もちゃんと紹介しておかないとね」

「『プラン9・チャンネル7』よ。この子の代わりに、私の口から言っておくわね」

肩の『小鳥』に視線を向ける。
もう一人の自分であり、小さなパートナー。
厳密には喋る事もできなくはないが、挨拶はできない。

「この名前も気に入ってるのよね。私にピッタリだから」

「私、ラジオの仕事やってるの。いわゆるラジオパーソナリティーってヤツ」

「『Electric Canary Garden』って番組でね。私が色々お喋りする小さな『箱庭』よ」

525葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 02:18:07
>>524

「はいっ、こんにちは……くるみ、さん」

         ≪それはそれは、
          身に余る光栄に御座います。
          美作様、そして――――
          『プラン9・チャンネル7』様≫

               ペコォーーーッ

礼節正しく頭を下げる従者と、
笑みを浮かべ、挨拶を返す主。

「ラジオ、ですか……!」

ラジオは知っている。
昔から聞いていたし、
『外』に憧れた理由の一つだ。

もっとも、美作の番組は知らないけれど。

「すごい、です……ラジオの、喋る人、なんて。
 とってもすごい……人、なんですね。美作さん」

            キラキラ

それでも憧れの視線を向ける。
なりたい!と言う憧れというより、
有名人に会うというのが穂風には新鮮だ。

「その、ええと。何をしゃべってるん、ですか……いつも。
 ええと、例えば……ううん、その、音楽の事……とか、ですか?」

526美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 02:54:52
>>525

「アハハハ――その言葉は嬉しいけど、そんなにスゴい事もないわよ?」

羨望の視線を向けられて、笑いながら軽く片手を振ってみせた。
ここまで言われる事は少ないので、やや照れもある。

「私は、まぁ『それなり』だから。順位としては、そこそこって感じね」

まぁまぁの人気はある――と、自分は思ってる。
昔ほどではないけど。
それでも、支持してくれる人がいるのは決して悪い事じゃない。

「私が喋るのは――『楽しい事』かしら。
 流す音楽の事や、新しいお店の事や、普段のちょっとした話なんかね」
 
「聴く人が楽しい気持ちになれるような話題を提供してるってところよ」

「私の話を聴いて、少しでも皆に楽しんでもらう事が、私の目標だから」

かつては歌で、今ではトークで、それを目指す。
フィールドは変わっても、そこは変わらない部分だ。

「葉鳥さんは、ラジオは好きかしら?」

「私は好きよ――って、これは当たり前だけど、ね」

527葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 04:00:54
>>526

「順位……順位が、あるんですね。
 知らなかったです、その……
 でも、どんな順位でも、あの、
 ラジオで話してるのが、すごいなって」

       モゴモゴ

「私、その、あまり話し上手でなくて。
 ラジオ聴いてると、皆さん、凄く上手で。
 お仕事だから、そういうものなのかも、
 その……しれない、ですけど。でも」

時折もごもごと言葉を濁しつつ、
穂風は己の語彙を動員して、よく話す。

「楽しい事――――ですか」

          ≪バラエティーと言った所、ですかな。
            私めも詳しい訳では御座いませんが≫

(私よりは、詳しいけど……)

「は、はいっ、好き、です。
 最近はあまり……聞けてない、ですけど」

学校に通っているから。
昔は通ってなかったから、夜長に楽しめる娯楽だった。
何を想って、与えられていた娯楽だったのかは、
今となっては――――穂風には定かではないが。

「でも、好きです。あの……『想像』出来る、から」

         「お話とか、音楽とか、聴いて。
          それがどんなに楽しいか、って」

                 「考えて、もっと……楽しめる、から」

後見人が出来てから、今風の娯楽もいろいろ知った。
スマートフォンも持ってるし、動画サイトなんてのも知っている。

けど、ラジオはそれとは別のチャンネルで、楽しい事を届けてくれる。

528美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 14:35:26
>>527

「ああ、ハッキリしたランキングみたいなものがある訳じゃないのよ。
 順位っていうのは言葉のアヤってヤツでね。
 人気があるかどうかっていうのは順位に近いかもしれないけど」

「言い方が紛らわしくって悪かったわ。
 つい普段のノリで喋っちゃって。
 要するに、私の人気は『まぁまぁ』くらいだから、
 そんなにスゴくないって事が言いたかったの」

こういったタイプとはあまり接した経験がなかったために、
少しだけ戸惑いがあった。
何というか、ピュアというのだろうか。
表現しにくいが、一般的な人と比べて世俗的な匂いが薄いような気がする。

「そうね……『バラエティー』っていうのは中々いい言葉だと思うわ。
 よく分かってらっしゃるじゃない」

軽く頷いて、『ヴァンパイア・エヴリウェア』に同意を示す。
そして、穂風の話を静かに聴きながら、僅かに目を細める。

(やっぱり不思議な感じがする子ね)

彼女の生まれ育った環境がどんなものであったか。
当然それは知る由もない。
それでも、やはり普通とは違った雰囲気がある事は察せられた。

「『想像』――――ね」

「その言葉、他のパーソナリティーにも伝えておくわ。
 きっと喜ぶと思うから」

「現に、今私が喜んでるんだもの。素敵な言葉をありがとう」

       ニコリ

化粧っ気のある顔に、明るく気さくな笑みを浮かべる。
こういう時が、ラジオの仕事をしていて良かったと思う瞬間だ。
もしアイドルを続けていたとしたら――知る事はなかったかもしれない。

529葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 21:44:50
>>528

「あっ、そ、そうなんですね。
 すみません、その、早とちりで」

(美作さんで、スゴくないなら、
 スゴい人ってどんななんだろう。
 こ、こっちが言う前に、分かったりするとか……?)

穂風は知らないことが多い。
いろいろな事を知れるのは美点だが、
なんとなく話がかみ合わない事もある。

          ≪本日は良くお褒め頂きますな。
            私めには、身に余る光栄で御座います≫

「……調子、乗らないでね」

          ≪とんでもございません、お嬢様≫

やはり誇らしげな従者に視線を流しつつ、
美作の笑みには、同じく明るい笑みを返す。

      ニコォ〜ッ

「あ、いえ、そんな。えと、こちらこそありがとうございます」

「あの、ラジオ、『エレクトリック……』」

             ≪……≫
                     ボソボソ

「……カナリア・ガーデン』!
 あ、と、ちゃんと、覚えておきます、から。
 またお休みの日とかに、聴いてみます」

             「その、楽しみにしてますっ」

もしかすると、『ファン』というやつが1人増えたのかもしれない。

530美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/27(木) 19:41:21
>>529

(何だかんだ言っても、やっぱり良い関係みたいね)

番組名を主人に伝える従者を見て、そう感じた。
そういうのを見てると微笑ましい気分になる。
自分も従者とは言わないが、そういう相手が欲しいと思えてくる。

      …………現在、『募集中』だ。

「ありがと。葉鳥さんが聴いてくれたら、私も嬉しいな」

ファンが増えるのは、何よりも喜ばしい事。
それに関しても、昔と変わらない部分と言えるのかもしれない。

 「あ、そうだ――って、名刺入れ置いてきちゃったか」

   「いや、待てよ……」

      「あ、あったわ……」

         ゴソ ゴソ

スタジャンのポケットを漁るが、目的の物は忘れてきてしまっていた。
途中、ふと思い出して財布を手に取る。
名刺入れを忘れた時のために、財布にも一部入れていたことを思い出したのだ。

「これ、良かったらどうぞ。放送局とか放送時間とか、色々書いてあるから」

鮮やかなグラデーションで彩られた名刺を差し出す。
『Electric Canary Garden』と『パーソナリティー:美作くるみ』の文字が、
細身のシャープなフォントで印刷されている。
片隅に描かれているイラストは、
『電源コード付きの丸みを帯びたデフォルメ調のカナリア』だ。

「この子はイメージキャラクターの『電気カナリア』。私がデザインしたの。
 くるみ共々よろしくね」

イラストを指差して、そう付け加えた。
それから、雨の方に視線を向ける。
話している間に、少しずつ弱まっていたようだった。

531葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/27(木) 21:15:02
>>530

「えへ……あっ。ありがとうございますっ」

           ゴソリ

ポケットに名刺を入れた。
これで番組を間違える事もない。

          ≪――――お嬢様。空を。
            どうやら通り雨だった模様で≫

「そう、みたい……」

「あの、私、そろそろ。
 その、行こうって、思います」

理由はとくにないけれど、
雨の切れ間だったし、
ちょうど話題の切れ間でもあった。

「今日は、ありがとうございました! それでは、また……!」

           ≪お寒い季節です故、御息災を。
             またお会いしましょう、美作様≫

そうして穂風は歩きだし、雨上がりの町へと溶け込んでいく。

532美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/27(木) 22:21:09
>>531

   「 『Goodbye』 」

       「 『and』―――― 」

            「 『See you again !!』 」

主人である少女と、精神の片割れの従者を見送る。
雨に降られてツイてないと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
神様も案外、粋な計らいするじゃない。

      キュッ

「さてと――『私達』も行きますか」

肩の上の『小鳥』に小さく声をかけ、キャップを被り直す。
歩き出し、その姿は街の中へ消えていく。

ある雨の降る日の小さな一幕だった――。

533門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/01(火) 22:32:54

 「………ふゥゥ〜〜〜〜」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケット、20代半ばの男が、
わざとらしいほどの溜息を繰り返すのは、『駅』近くにある彼の行きつけのファミレス。
年明け早々、派手ともいえる外見に反してなにやら陰気な雰囲気を漂わせていた。

ファミレス自体はそれなりに混雑している。そしてこのファミレスは時折『相席』を求められる事もある。
あるいは近くの席に座っているならば、彼の仰々しい『溜息』は『気になるもの』として感じられるかもしれない。

534斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 19:32:34
>>533

    「……何か『悩み事』でもあるんスかァ〜〜?」

      「いやね、“お一人様でゆっくりしたかったのに、
       相席に来たのが『カワイコちゃん』でもねえ『こんなナリ』のヤローだとは思わなかった”
       ……ッつゥのもワカランでは無ェ〜ッスけどォォ〜〜」

向かいあった席からの声。
赤と黒の入り混じった派手めの髪、ドクロのシルバーアクセをゴソゴソつけた、
ひと昔前の「信念持ってバンドやってます!近頃のJポップはクソ」とか言いそうなルックスの青年が
心配そうというか、迷惑そうというか、そんな感じの眼差しで門倉を見つめている。

   「まァ……メシぐれーは楽しく食いましょーよォ…!」

           ピンポーン

     「あ、オネーサン、俺ランチセットで」

535門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 21:16:49
>>534(斉藤)
「そういう悩みもあるにはあるがね………」

向かい合う席のバンドマン(だろう)『斉藤』を一瞥する門倉。
門倉自身もきちんとした社会人の身なりとは到底言いがたいが、
そういうのは棚にあげた視線だ。

「あ、君。俺もその…ランチセットで。飲み物はコーヒーでいい。アイスで。

 そういえばあの店員は今はいないの? ツインテールの。

   ――あ、辞めた。
                                ………そう」

結構前からちょっかいかけていたツインテールの店員も辞めてしまったようだ。
なんだかやけに時が経ってしまったような感覚を覚える門倉だった。

「………そういう君は楽しそうだね。やっぱり悩みなんてないのかい?」

眼前の青年に何の気なしに語りかけてみる。

536斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 21:57:15
>>535

 「いやァ〜〜俺こんなッスけど、悩みまくりッスよ」

  「年末特番録画忘れたり、バイトで年下に怒られたり、
   知り合いが軒並み『インフルエンザ』に罹って連絡取れなかったり、
   親父は自営業なんスけど、最近ヒマそーだしよォォ〜〜」

気まずそうに後頭部を掻きながら小市民的な悩みを吐露する。
体が揺れるたびにチャラチャラとアクセサリーがうるさい。

  「おじ……オニーサンもパッと見、
   フツーの会社員ッつーカンジじゃねーケド芸能関連の人ッスか?
   俺、実はバンドやってんスけど、CDとか聴いてみてくんねーッスか?」

『おじさん』と言いかけてやめた青年は、黒い革のバッグからペラペラのCD-Rを取り出そうとしている。
実際の年齢は二人ともさほど変わりないのだろうが、門倉は年上認定されたようだ。

537門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 22:23:58
>>536(斉藤)
「へェ―― タイヘンそうだねェ〜〜〜」

自分から話を振ったにも関わらず、人の悩みにはあまり興味なさそうな返答の『門倉』。
あらかじめ運ばれた冷水にズズイと口をつける。

「いや、芸能関係なんてモノじゃあないよ。ただのふど………」

 何かを思い出したらしくしかめ面をする『門倉』。
   彼の悩みは仕事がらみの事なのかもしれない。

 「………まあなんであれ、せっかくの出会いだ。聴いてみよう。
  といってもさすがに今すぐは無理か。
   聴ける機器なんて今どき持ってはいないだろうからね」

 一応、CD-Rを受け取ろうとする。

538斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 22:47:15
>>537
  「ま、仕事以外の悩みも色々ありますしねェ〜〜……
   お気に入りのファミレス店員が辞めちゃったりとか、色々ね」

最初の店員とのやり取りもちゃんと聞いていたようだ。
悪意は無いのだろうがニヤついている。

  「不動産屋ッスか?オニーサン、仕事で悩んでんスか?」

言いかけた部分を取りあえず無遠慮に拾っていく。
CDは、まあ宣伝のつもりでそのまま渡す。あまり意味はない。

539門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 23:07:18
>>538(斉藤)
「………」

 『斉藤』の意味ありげなニヤつきに少しの間、沈黙しつつも

「不動産屋……そう、だったんだがね」

 『斉藤』の問いかけに再び口を開く。

 「ちょっと店がね。
               その………『爆破』してね」

少し前に世間を騒がせた某不動産チェーン店のスプレー破裂事件。
その影に隠れるように『門倉』の不動産屋、『門倉不動産』も何者かによって爆破されていた。
(何となく心あたりがあるような気もするので『門倉』としては犯人捜しをする気はないのだが)
爆破といっても例の事件に比べるとささやかなもので、被害も軽微といえるものだった。
地方ニュースでちょこっとやった程度の事件性で怪我人すら出ていない―――
だがそれでも周辺の店舗への保障、そして何より、自身の店の補修は行わらなければならない。

「まあ、詳細は端折るがその『保障』に追われているというわけなんだ。
             だから稼がないといけない……いけないのだ」

                      ふゥ〜〜〜……

『門倉』は再度溜め息をつく。
そう言いながらもファミレスなんかでノンビリしているのだが。

540斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 23:27:32
>>539

  「ばッ……」

    「『爆破』ァァ〜〜ッ!?」

  「そりゃ『大事件』じゃねェーッスかァァ〜〜ッ!!
   こんなトコでのんびりしてる場合じゃねェ〜〜ッスよ!!」

周りの客や店員が一瞬こちらに注目するのも構わず、大きな声で驚く青年。
少々オーバーリアクション気味ではあるが、素の反応なのだろう。
斉藤のような一小市民にとって、そういった出来事はそれこそ『ニュース』の中だけの出来事なのだ。

   店員:「あ、あのォ〜………
       『ランチセット』とアイスコーヒーお持ちしましたァ〜……」

 「あ、スンマセン……!そこ置いといてください」

店員が怪訝そうな顔で配膳に来たのに気づき、声のトーンを落とし気味で受け取る。
門倉の注文も同じタイミングで届いたようだ。

541門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 23:44:56
>>540(斉藤)
「『大事件』―――そうだな、そのとおりだ。普通ならば。
 ただこの町じゃあ『大事件』ってほどじゃあないんじゃあないか?
                    中……いや、『小事件』程度さ。

  もしかしたらあのニュースの爆破も、『能力』の仕業かも―――なんてね」

訳知り顔でよく分からない事を語りだす『門倉』。
あるいは『能力』という言い回しに何かしら感じるものがあるかもしれない。

「おっと、そんなこんなでランチタイムだ。とりあえずは食べようじゃあないか。
 ノンビリしてる場合じゃあないというが、腹は減っては戦は出来ぬというしね」

  話の途中で来たランチに早速手を出そうとする『門倉』。

542斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 23:58:43
>>541

  「いやね、最近思うんスけど」   カチャ カチャ

  「オニーサンの言う通り『フツー』に言えば……ッスよ、
   店舗が『爆破』!ッつーたら結構な事件ですよ、フツー」

        「ところで不幸なオニーサンにはコレをあげます」

ランチセットのハンバーグを齧りながら、
そしてセットのプチトマトを門倉の皿に勝手によこしながら、一般人の立場で話をする。

  「それこそ『能力』だとか、そういうのを抜きにすれば―――の話ッスけどォォ〜〜〜……
   ――――――………ん?いまアンタ『能力』ッて言った?」

門倉の風貌から「胡散クセ〜〜〜」ぐらいは思っていたが、
そこまで警戒心を抱いてはいなかった斉藤の箸が一瞬止まる。

543門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 00:12:38
>>542(斉藤)
「君がキライなんじゃあないのかそれは……」

よこされたプチトマトに軽くツッコみながらも、素直に頬張る『門倉』。
プチっと潰れ口から軽く種が出てしまったが、まあ些細な事だ。

「ん……んん、『能力』。
               確かに。確かにそう口にしたが―――」

アイスコーヒーを飲みつつ、『門倉』はじっと『斉藤』を見ている。
不用意な事を言った、というより、その言葉に反応している
『斉藤』に興味を抱いたようだった。

            「何か気になる事でもあるのかい?」

ちょっとズレてはいるものの普通に使う日本語ではある。
ただその言葉に特殊な意味を籠めている人種も居る。

  眼前の男がそれに当てはまる男なのかどうか―――
          ・ ・

544斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/03(木) 00:28:57
>>543

   「『能力』ッてのは、いわゆる―――――――

    ――――――『スタンド能力』ッてヤツですよ!(小声)」

僅かな警戒心が言葉を遅らせようだが、『スタンド』について言及する。
あまり大声で叫ぶようなことでは無いので小声ではあるが、
まあいざとなったら逃げるなりなんなりすれば良い。

門倉の言う通り『爆破事件』なんてのは『スタンド使い』同士が話をする上では
それほど『大事件』というワケでもない、という事を斉藤は知っている。

   「アンタもそうなのか?『刺青』とかそういう類の」

545門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 00:47:55
>>544(斉藤)
「………!」

『斉藤』の言葉に『門倉』は一瞬を見開き、そして黙る。
しかしその仕草は明確に語っていた―――『門倉』が『知っている』という事を。

「驚いたな………しかも、『刺青』の事まで知っているとは。
 得る方法はいろいろあるようだが………そこまで『一緒』なのか」

              グ イ  ン
                             シュウウ……

ほんの一瞬………まるで秘密を分かち合うように
『門倉』の体から半透明の『人型』が現れ、そして消えた。
注視している『斉藤』でなければ見落としてしまうであろう刹那の出来事だ。

「………『見せる』事を嫌う者も居るだろうけどね。
  人生は短いし、出会いは貴重だ。
     語り合える『仲間』が増えるのに越した事はない」

546斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/03(木) 01:08:39
>>545

   「やっぱ『刺青』――――かァァ〜〜〜……
    いやァ、世間は狭いッスねェ〜〜〜〜〜」

                 ズズ    !

特に危険人物では無さそうなので、自身もスタンドを一瞬だけ発現させる。
箸を止めていた斉藤の腕に、やはり半透明の『腕』が現れ、消えた。

  「ま、ヤバそーな相手だったら見せねーッスけどね……」

     「うおッ……や、ヤベ〜〜〜もうこんな時間か……!
      そろそろ俺は行くッス!バイトあるんで」

時計を確認すると斉藤は慌てた様子でランチの残りを頬張って、そそくさと帰り支度を始めた。

    「オニーサンも、その『爆破』とか、何か協力できんなら手伝いますよォォ〜〜〜
     ここで会ったのも何かの縁だし、『仲間』ッつーコトで!」
                                   グッ

別れ際にサムズアップし、特に声をかけられなければそのまま立ち去るつもり(会計は済ませるが)。
ちなみに、斉藤から渡されたCD-Rには一応連絡先らしきものが書いてある。

547門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 01:19:40
>>546(斉藤)
「ほう………」

『斉藤』の『腕』に興味深そうな声をあげる『門倉』。
そして―――

「ああ、もう少し話したかったがバイトならば仕方がないな。
 世の中、稼がないといけない―――」

再び自分の置かれた惨状を思い出したのか、顔が曇る『門倉』。

 「確かに縁、『運命』というものはある。また会える時を楽しみにしているよ」

 そのまま『斉藤』を見送る『門倉』。
  そして去った後は、一人でほんやりとランチを貪ったのだった。

548鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/04(金) 03:03:48
相も変わらず寒い日が続いていた。
星見駅の近くのベンチに和服の少年が座っている。
若草色の長着と羽織、白い足袋と木の色の雪駄。
黒い癖毛の後ろ髪を平織りのミサンガで結んでいる。
小さな尻尾のようになった髪が、彼の動きに合わせて揺れている。

「……ふぅ」

空に向かって息を吐くと、それは白い煙のようになってあがっていく。
少年はそれをただ静かに眺めていた。
煙草の煙のように薄く細いその白い筋が天に昇って消えるのを見つめている。

「綺麗……」

雲一つない晴天だった。
何ということのない一日である。
代り映えのしない日常を彼の視界が切り取っていた。
空に雲がかかったような表情で見ていた。

549門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/05(土) 21:05:46
>>548(鈴元)

「……ふゥ〜〜」

まるで『鈴元』のため息に追従するかのように少し離れた場所から溜め息が聞こえた。
『鈴元』がそちらに目をやれば、同じくベンチに座る20代半ばの男が目に入るだろう。

栗色のソフトモヒカンに、ワインレッドのジャケット、マフラーを身に着けた人物。
『門倉良次』―――しばらくぶりに目にする彼は『鈴元』には気づいていないようだ。
何やら考え事をしているのか、散漫な印象を受ける。

550鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/05(土) 21:47:52
>>549

「ん……」

自分以外の存在を感じて視線を向ける。
あまり見過ぎては失礼だろうからそーっと覗き見るように。
遠慮がちな視線が泳いで男性の姿を捉える。

「あ」

ダメだと思いながらも声が漏れた。
自分はこの男性を知っている。
色々と縁が重なった結果、知っている人物に変わった男性。
もちろん、勝手知ったる仲、ではないが……
それでも全く知らない人という訳でなかった。
何だか心の中でモゾモゾと動くものがある。

(休んではる……ん、よね……)

声をかけていいものか、と思ってしまう。
何か疲れているのかもしれない、仕事の待ち合わせかもしれない。
そんな思考が頭の中に浮かんでいく。
ただ、そんな中でも自分の心に従ってみることにした。

「門倉さん……やんね?」

「なんか、お悩み事でも、ありそんな感じやけど……?」

551門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/05(土) 22:15:29
>>550(鈴元)
「………ん?」

『鈴元』の呼びかけに『門倉』は首をかしげる。
残念ながらというべきか、思い出すのに時間がかかっているようだ。

「あ―――ああ、その恰好と言葉遣い………
 君はアレだ。
             ……す………」

必死こいて『す』まではなんとか出てきたらしいが、それ以上はけして進めない様子だった。

「―――ステキな男だね。人が悩んでいるのをみて声をかけてくれたわけか。
 そういえば、前も何か手伝ってもらった気がするよ。

     とりあえず
                    ―――あけましておめでとう」

『門倉』は何かをごまかすかのようにやや遅めの新年のあいさつをしてきた。

552鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 01:23:18
>>551

「あけましておめでとうございます」

相手の話し方に若干の違和感を感じつつも挨拶には挨拶で返す。
話し方というか、なんとなく何か考えつつという感じ。
明らかに『す』から先に進めていない言葉が引っかかる。
突っかかるほどではないけど、引っかかりはする。
それぐらいの感覚が喉につっかえた小骨のように感じる。

「……その、よかったらお話聞きますけど。僕で良かったらやけど」

「まだ子供やけど話聞くくらいは出来るから」

553門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 02:02:38
>>552(鈴元)
「ああ―――ありがとう、………す、スズ……君」

最後の方は聞き取れないほどの小声だ。
どうやら名を忘れてしまった事をごまかしている(つもり)らしい。

「まあいい―――いいんだ。それで『悩み』というのはね。

 知っての通り………いや知っていたかどうかは定かじゃあないが、
 俺は『不動産屋』をやっている。だが、不幸な事件によって『店舗』が爆破してね、
 まとまった金が必要なんだ―――

  ………………一番いいのは。

  何気なく俺の前に現れた君が
  実は札束に火をつけて遊ぶくらいの『大富豪』で、戯れついでに
  俺に数百万ほどホイッと施してくれるという結末なんだが………」

唐突にそんな厚かましいお願いをしてくる『門倉』。
さすがに冗談だろうが、妙にねちっこいその視線は、
『あわよくば』という、一縷の希望を託しているようにも思えた。

554鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 02:16:49
>>553

「……」

目を閉じてにっこりと笑う。
優しい笑みだ。

「不動産屋さんっていうのは、どっかで聞いたことある気ぃするけどぉ……」

詳しくは知らなかった。

「いや、それは……大変なんやねぇ……」

爆破という言葉に少し眉が歪む。
一体どういう経緯なのかというのは気になるが、そこに触れてもいいものかとも考えてしまう。
心の迷いが指に出る。
規則的な拍子で自分の手の甲を反対の手の指が叩く。

「残念やけど、僕は大富豪ではないんよ。鈴元の家のお金も僕のお金やないし」

心苦しそうな声と表情だった。
あわよくばという意志に気づいていないのか、もしくは気づいた上でこれなのか。
それは鈴元涼だけが知っている。

「えろうすんまへん。地主さんの知り合いとかもおらんでもないねんけど……富豪……多分そない急に言うて融資してくれはるんは……」

555門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 02:33:13
>>554(鈴元)
「そうか―――
          いや、そうさッ そうだろうとも!

               そうだろうとも………」

 『門倉』は少しだけ肩を落とすが、ほどなくして再度語り出す。

「正月だからといってそんな『お年玉』が
 簡単に転がり込んでくるとは俺も思っちゃあいない。
       むしろもうあげる側の年齢だしね―――

 だから『お年玉』は自らの手にする………ッ
 そう思ってツテを使って、『お金』になりそうな話を探したんだ。
 そして一つの依頼を受けた。
 不可思議な『呪い』を解決してほしいという特殊な依頼だ。

             …………あれ、そういえば、君はどうだったっけ?」

『門倉』の話がふと止まる。
『鈴元』が『門倉』をみやると、彼の体から霊体のような『腕』が重なるように出ている。
『スタンドの腕』………これをこれみよがしにヒラヒラと動かしている。

 おそらく『鈴元』がこれが視える存在かどうか確かめようとしているのだろう。

556鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 20:16:57
>>555

「……」

鈴元涼はお年玉を貰える歳だ。
姉からも、兄からも、京都からこの街に来てくれたお弟子さんやお手伝いさんからもだ。
申し訳ないという気持ちと嬉しい気持ちが半々である。
自分からお年玉を得る、ということがどういうことか、門倉が何をしたのかは予想出来ないが、大変なことがあったのだろうと考えた。

「え、あぁ、はい」

鈴元の傍に経つ霊体。
『ザ・ギャザリング』
そういう名前を付けられた存在。
儚く、消え入りそうな姿。
人の形をとったもの。

「あの、呪いってどういうことなんやろ?」

557門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 21:05:48
>>556(鈴元)

「―――ああ、やはり君も『使える』身か。やはり『刺青』?」

『君はどこ中?』みたいなノリで軽くスタンドの出自を確認しつつ、『門倉』は更に語る。

「そして『使える』のならば、話を進めよう。
 といっても俺も得ている情報は少ないんだけどね。

  依頼元は、とある『美容外科クリニック』。
  かなり評判のいいクリニックでいつも予約一杯って感じだったらしい。
  『だった』と表現したのは、今はそうではないという事だ。

  少し前から、そのクリニックの患者の『顔』が―――
                     『崩れる』というトラブルが起こっているらしい。

  それだけきくと、『手術失敗』したんじゃあないの? と思ってしまうんだがね。
  どうやらそういう事でもなく、その『症状』はしばらくすると収まるとの事らしい。

  それをそのクリニックの『院長』は『呪い』と称して解決する術を探っているというわけさ。
  『呪い』をかけられる『心当たり』があるのかないかは不明だが―――

                           ・ ・
   ともかくそれを解決するのが今回の俺たちの『仕事』というわけだね」

※ミッションの誘いとなります。危険度は高くない推理系ミッションの予定です※
※当然、断って頂いてもまったく構いません※
※開催される場合、門倉『ソウル・ダンジョン』はNPC的な参加となりますl※
※当然、このミッションによって門倉がいわゆる『リアルマネー』を得る事はありません※

558鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 22:37:51
>>557

「ま、まぁ。そうです、けどぉ」

困ったように笑いながら言葉を返す。
背中にある咲いた桜の刺青。
色々困ることもあるが、後悔はない。
自分の目では見えないところにあるというのもいい。

(美容外科……)

美容外科でお金になりそうな話。

(受けに来る人を増やす、とかなんかなぁ)

顧客が増えるのは病院にとっていい事だ。
だからスカウトというか、人を集める仕事かと思っていたが、真実は違うらしい。

「顔が崩れる」

思わず復唱してしまう。
尋常ではない事だ。
そして、実際に門倉が依頼を受けたということはそれは事実なのだろう。

「呪いかぁ」

確かに、呪いと言えるだろう。

「……たち?」

たち。
たち、と言われてしまった。

「……」

少しの沈黙。
それから柔らかな笑みを浮かべて言った。

「分かりました。これもなんかの縁やし、そのお話受けさせてもらいますぅ」

「よろしゅうね」

559門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 23:04:03
>>558(鈴元)
余談になるが門倉の刺青も『背中』にある。ドアノブ。
まあ背中を見せ合う事など基本ないだろうから完全な余談である。

「フフフ―――『たち』と言ったのに少々驚いているようだね。

 無理もない無理もない。だが………

                       ――――え?」

『鈴元』が語り出す少しの沈黙の間にさらに言葉を重ねた『門倉』。
しかし、『鈴元』から帰ってきたあっさりとした返答についマヌケな返しをしてしまう。

「あれ、あれ、い、いいの!? いいのかい? そんなに即答してしまって。
 これからあの手この手で説得にあたろうと身構えていたのに………」

『門倉』の悩みというのは『依頼を受けたものの一人では心もとない』という事だった。
こんな町なので有象無象の『解決すべきこと(ミッション)』は溢れている。
しかし、『門倉』は今まで単独でそういった事案に立ち向かった事はない。
そういうわけで『どうしたものか』と悩んでいる時に、声をかけてきたのが『鈴元』だったというわけだ。

「いや――― いいんならいいんだ。問題はまるでない。
 じゃあ俺の方で依頼元と交渉してアポはとっておくから………
                    後日、君に連絡させてもらうよ」

『門倉』はそう言って『スマホ』を取り出す。『連絡先』を交換したいという事だろう。
『鈴元』に迷いがなければ、このまま『連絡先交換』を行い、『仕事』の誘いを待つ事になる。

560鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/07(月) 00:23:56
>>559

「ええよ。門倉さん、困ってはるんやろ?」

説得されるまでもなく鈴元の心は決まっている。
自分が求められたならそれに応えるだけだ。
そういう心持ちで動いているのだ。
それ以外の感情は大きくない。

「はい。待っときますぅ」

スマホを取り出し、連絡先を交換しておこう。

561門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/07(月) 00:42:07
>>560(鈴元)
互いの連絡先を交換する二人。
その際に『門倉』は抜け目なく『鈴元』の名前を再確認した。

「ありがとう! いや、ありがとう、鈴元君。
 初夢にタカもナスビも富士山も出なかったが
   そんなもの見なくても新年早々、君に会えた―――

      俺は素でツイてる、そういう事だね?

         なんだか勇気がわいてきたな。フフフ―――」

 『門倉』がそんな事を言いつつベンチから立ち上がる。

「じゃあ、そういう事で、そろそろ俺は帰らせてもらうよ。
        機が来たら連絡するからね。くれぐれもよろしく頼むよ」

        新春の寒空の下、『門倉』は軽くスキップをしながら去っていく。
こうして『鈴元』は、新年早々よく分からない『呪い』とやらに対峙する事となったのだった。

562小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 01:53:32

大通りの『オープンカフェ』に小さな『探偵』がいた。
白銀の髪、鹿撃ち帽、インバネスコートなど、
いかにもな外見だが……顔立ちに覇気は皆無。

(……うう、雰囲気で外の席にしてみたが、
 あまりに寒いぞ……よく皆平気な顔をしてるなあ)

     ポンポンポン

ポケットに入れたカイロを叩く音だ。
 
         (それにしても……)

「『不動産屋爆破事件』……だとぉ?
 こ……この町にも魔の手が迫っていたとは」
 
          パラパラ 

手帳をめくりながら、思わず声に出してしまった。

街中で聞きつけたウワサを、
勝手に『事件』とか言ってるだけだ。
不可解ではあるが……なにも『証拠』はない。
聞いたのは『不動産屋で爆発があった』事だけだ。

(まあ、スプレー缶とかが爆発したんだろうけどね……しかし、
 そんなにいっぱいスプレー缶を開けたくなるものなのかなあ)

本人的にも事故の可能性は高いと思うのだが、
こういう『ポーズ』から入るタイプ、ということなのだ。
ちなみに今はもう、ほとんどの席が埋まっていて、
それが小角が未だに外に留まっている理由でもある。

・・・『相席』という形でこいつと相まみえる理由にもなり得る。

563三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/10(木) 21:52:09
>>562

「お向かい、失礼します」

    ペコリ

ずっと歩いて少し疲れたので、カフェにやってきました。
探偵さんの向かいの席が空いているみたいです。
挨拶してから座りました。

     ビクッ

そのすぐ後に、『爆破事件』という言葉が聞こえました。
そういう話を聞くと『死』を連想してしまいます。
とても怖いです。

     ササッ

なので即座に目を瞑り、両手で耳を塞ぎました。
怖い話を聞くと、ついやってしまいます。
いつもの癖です。

      ……スッ

もう怖いところは終わったでしょうか?
薄く目を開けて、両手を少しだけ離してみます。
終わっていたら嬉しいです。

564小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 22:29:50
>>563

「ああ、かまわないとも。
 好きに座りたまえ……ふふん」

         スイッ

「わたしのテーブルじゃないからね」

机に広げていた本を滑らせ引き寄せる。
いわゆる『推理小説』だ。ほとんど新品のように見える。

「……??」

「な、なんだい、きみは……!
 わたしの顔を見るなり、
 いきなり目を閉じたりして……」

    「あっ、それに耳まで!」  「ううむ」

謎に直面し、思わずうなる小角。
フクロウのような丸い目がやや細まる。

「むむむ……も、もういいのかね?」

爆破事件の話には思い至らないが、
その事自体は、もう口にしていない。

「きみぃ……いきなり謎めいているぞ。
 いったいどうしてわたしを怖がったりするんだ。
 自慢じゃあないが、あまり怖がられたことはないのに」

         「あ、これがメニューだよ」

    ススッ

手元のメニュー表を得意顔で滑らせて渡す。
最初の本といい、机の上を滑らせるのがマイブームなのか?

565三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/10(木) 23:23:18
>>564

怖い話は終わったみたいです。
ゆっくり目を開けて、両手を離しました。

「はい、もう大丈夫です」

「失礼しました」

     ペコリ

「ありがとうございま――」

     スカッ

メニューがテーブルから落ちてしまいました。
受け止めるのが少し遅かったみたいです。

     スッ

メニューを拾い上げて、軽く手で払っておきます。

「これを下さい」

店員さんを呼び止めました。
ココアを注文します。

「お姉さんは怖くないです」

「怖い話が苦手なので、ついやってしまいました」

「ごめんなさい」

    ペコリ

566小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 23:50:07
>>565

「な、なに、怖い話……?
 わたし、お化けの話なんかしたかい?」

         「……ああっ!」

「つまり、わたしの推理によると……
 きみは爆破じ……お、おほんっ。
 『怪事件』の話の事を言っているのだろう!」

ややばつの悪そうなどや顔という、
器用な顔を作りつつ机の下を覗く。
落ちたメニューを目で追っていたのだ。

          ススス

そして拾われたメニューと共に顔を上げる。

(お……お姉さんかあ。
 なんだかいい感じの響きだぞ!
 わたしをそう呼ぶやつはそうそういない)

「ま、気にする事はないさ……
 誰にでも怖い物の一つくらいある。
 むろん、このわたしにだってあるとも」

         フフン

怖い物が結構ありそうな顔だが、
探偵だしそうでもないのかもしれない。

「事件の話を迂闊にしてしまった、
 わたしも悪かったよ。おあいこだね」

「……それにしてもココアか。わたしも頼んだよ。
 寒い日に外で飲むのはココアが一番だと思うんだ」

567三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 00:20:49
>>566

    パッ

爆破事件という言葉が聞こえかけたので、反射的に目を閉じて耳を塞ぎました。
でも、すぐに終わったので、また目を開けて手をどけます。

「癖なので、つい」

顔を上げて、探偵さんの方を向きました。
カールした睫毛と巻き毛が軽く揺れます。

「すみません」

   ペコリ

性別の分かりにくい顔立ちですが、小さいので子供なのは確かです。
何かの発表会にでも着ていくような、キッチリしたブレザーを着ています。

「そう思います」

「お姉さんもココアを注文したんですか」

「ココア仲間ですね」

そう話す声は高い声です。
やはり性別は判断しづらいです。

「お姉さんが怖いものはお化けですか?」

「さっき、そう言われていたので」

568小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 00:44:12
>>567

「か……かまわないよ。気にしなくても」

(なにか……爆破にトラウマがあるのかもしれないぞ。
 ここはお姉さんとして、冷静に触れないようにしておこう)

        (……それにしてもだ)

自分がお姉さんだとする。
この相手は『お嬢さん』なのだろうか?
『お坊ちゃん』でも不思議はない気がする。

「……」

(な、難題だぞ、これは……!
 間違えるのは失礼もいいところだが、
 なんということだ……まったくわからない!
 まつげが長いし……そんなの証拠になるもんか!)

        「ううう……む」

               「え?」

「ああ……ああ、そうだよ。
 わたしは甘い物が好きなのでね。
 知っているかね、きみ……
 甘いものは頭の働きをよくするのさ」

       フフフ

マグカップを傾ける。
漂って来る匂いは成る程確かにココアだ。

「……な、なんだ、よしたまえ。
 確かにお化けはあまり好きじゃあないが、
 べ、べつに怖いなんて一言も言っていないぞ……」

      「わたしのことを推理するのはよしたまえ……!」

怒っているという感じでもないが、どちらにせよ迫力に欠ける声だ。

569三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 01:12:48
>>568

「そうでしたか」

「僕も同じです」

「お化け仲間ですね」

   ニコリ

そう言って、ほんのり笑います。
そういえば千草の『墓堀人』も、お化けに似てるかもしれません。

「お姉さんは物知りですね」

「知りませんでした」

感心した表情で軽く頷きます。
物知りな人は立派な人です。
そんな人を見習って、いつか自分も同じように立派な人になりたいです。

「お姉さんは探偵さんですか?」

改めてお姉さんの格好や手帳に視線を向けて尋ねてみます。
それから、探偵のお姉さんに期待の篭った視線を向けました。

「他にもお姉さんのお話を聞きたいです」

「――してくれませんか?」

探偵さんなら色々なことに詳しいと思いました。
千草の知らないことを教えてもらえたら嬉しいです。

570小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 01:44:05
>>569

「まったく……仲間はココアだけで十分だろう」

           ズズ…

お化けはいるし、基本的にろくなものではない。

「……そう、わたしは頭脳派なのさ!
 知識なくして、謎は解けないのだからね」

(なんだかいい子だなあ。
 幾つなのかもわからないが)

人に褒められるのが好きだ。
自尊心がくすぐられるし、
気分がいい……裏も無さそうだし。

「わたしの話かい?
 ふふん……かまわないとも。
 存分に聴かせてあげよう」

       ニヤリ

ここに来て最大のドヤ顔だ。
小角は、乗せられやすい女なのだ。

       オヅノ ホウム
「まず、わたしは『小角 宝梦』というんだ。
 きみの推理通り『探偵』……の卵だよ。
 いずれは名だたる『名探偵』になる女さ」

       どさっ

「探偵が何を持ち歩いているか……気になるかい?」

         「気になるんじゃあないかい? きみ……」

テーブルの上にかばんを置いた。
こじんまりとしたかばんで、ふくろうのキャラの飾りが着いていた。

571三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:05:19
>>570

「小角さん――ですか」

「はじめまして」

    ペコリ

「三枝千草です」

「三つの枝と千の草」

「――と書きます」

挨拶を返します。
礼儀正しく振舞うのは大事なことです。
こうして小さなことを積み重ねていけば、いつかは『夢』も叶えられると思います。

「僕も、将来は立派な人になりたいと思っています」

「小角さんを見習って頑張りたいです」

そして、視線はかばんの方に移りました。
ふくろうがお好きなんでしょうか。
そういえば、小角さんを見ていると何となくふくろうが思い浮かびます。

「とっても気になります」

「何が入ってるんでしょうか?」

興味深そうに目を軽く見開いて、かばんを見つめます。
ドキドキしてきます。

572小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 02:20:55
>>571

「ちなみに私の名前は、
 小さい角で『おづの』だし、
 宝ものの夢で『ほうむ』だ」

「よろしく頼むよ、千草くん」

この『くん』は『ワトソンくん』のくんだ。
小角は今だいぶ『いい気になってる』。

「どんどん見習うといいともっ!
 ともに立派な大人になろうじゃあないか!
 わたしは毎日早寝早起きを守ってたり、
 なにかと『見習いがい』があると思うんだ」

       フフフ

小角自身、まだ自分は子供だと思う。
だがいつか大人になったときに、
見習いたい人はいる。自分もそうなりたい。

「よしよし、今見せてあげるから待ちたまえっ」

        ゴソゴソ

小角は、ふくろうのような顔の少女だった。
目は丸くぱっちり開き、顔の形も丸い。
彼女自身ふくろうに愛着でもあるのか、
幾つか『そういう柄』の小物が見て取れた。

そしてカバンから出てきたのは――――

「探偵といえばだね……『七つ道具』があるものだ!
 今は……まずはこれ、『ペンライト』だよ。
 細かいところを調べたりするのに便利だと思う。
 照らすのはスマートフォンでもいいのだが……
 強いライトのアプリは、充電の減りが早いからね」

小さいペンのようなものだ。説明通りの機能なのだろう。

             キラン

「いずれ『ペン型カメラ』とかにアップデートしたいなあ……」

夢を語りだす小角。中学生の資金力には限界があるのだ。
ともかく、どうにも胡乱さのわりに『マジの探偵道具』なのかもしれない。

573三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:48:49
>>572

「早寝早起きは大事なことだと思います。
 毎日している小角さんは偉いです」

「僕は『考え事』をしていると時々夜更かしをしてしまいます。
 だから、まだまだです」

『理想の死に方』について考えていると、つい時間が経つのを忘れてしまいます。
昨日の夜も、いつのまにか遅い時間になっていました。
反省しないといけません。

「『ペンライト』――探偵さんらしいです」

「これがあれば調査に役立ちそうです」

「小さな手がかりも見つけられそうです」

出てきた七つ道具の一つに、じっと目を凝らします。
探偵さんのお仕事は詳しくは知らないですが、きっと立派なことだと思います。
だから、そのための道具には興味があるのです。

「ライトで照らしながら写真が撮れたら、とっても便利だと思います」

「もし新しくなったら見せてくれますか?」

夢を持つのは素敵なことです。
それが実現できるのは、もっと素敵なことだと思います。
小角さんにあやかって、千草の夢も叶えられたら嬉しいです。

574小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 03:19:39
>>573

「き、きみぃ、ちょっとほめ過ぎだぞ!
 まったく……まったくだなきみは! ふふふ」

        ニコニコ

「考え事か……それは仕方ないね。
 わたしも謎を考えたりしてると、
 少し遅くまで起きてしまう事はあるよ」

夜を更かして考え事なんて、
なんだか知的な気もする。
小角はそれでも早めに寝るが。

「ふふ……いいだろう。まさにきみの言う通り、
 小さな手掛かり一つが答えになる事もある!
 きみぃ、さっきからなかなか鋭いぞ!
 もしかすると……きみも『頭脳派』なのかもね」

        「そう、写真まで撮れれば、
         もう一つの証拠も見逃さない!
         ……もちろんわたしの推理力も、
         それまでに追いつかせる予定だ!」

「わたしは、名探偵:『小角宝梦』になるのだからね」

高らかに語る小角の顔は非常にノっているが、
浮ついた夢ではない。『今考えた』事でもない。
『いつも考えている未来』を、口に出しているだけだ。

「ふふふ、当然見せてあげるとも、千草くん」

「あ! 連絡先を交換しておくかい?
 むろん、新しい探偵道具を買ったら、
 ちゃんと教えてあげるためにだが……」

千草と話すと気分がいいし、
それに……友だちになれる気がする。
友だちが多いわけじゃあないが……『欲しくない』わけじゃあない。

575三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 03:54:42
>>574

「いいんですか?ありがとうございます」

    ペコリ

人との繋がりが増えるのは嬉しいです。
他の人達との関わりは、成長のきっかけになると思っています。
それを積み重ねていけば、目標に少しずつ近づいていけると信じています。

「よろしくお願いします、小角さん」

    スッ

自分のスマホを取り出します。
ケースは無地の白で、飾り気のないシンプルなデザインです。
連絡先の交換は問題なく済みました。

「僕にも叶えたい夢があります」

夢を語る小角さんの姿が、心に響きました。
それに応じるように、こちらからも夢という言葉を口にします。
『最終的な目標』と言ってもいいかもしれないです。

「いつか一緒に実現できたら嬉しいです」

苦しみや不安のない安らかな気持ちで穏やかに最期を迎える。
それが千草の『将来の夢』です。
その夢を叶えるために、まずは人から愛される立派な人物になることを目指します。

「――他には何が入ってるんですか?」

決意を新たにしたところで、またかばんの方に向き直ります。
次は何が出てくるんでしょうか。
楽しみです。

576小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 04:04:34
>>575

「いいとも、いいとも。よろしくね千草くん。
 ぜひ一緒に夢を叶えようじゃあないか!」

「わたしたちは――――『夢仲間』だっ!」

        ニコニコ

小角宝梦は、まだ『名探偵』ではない。
三枝千草の、『夢を叶える』意味を推して知れない。

「よし、それでは次をお見せしよう!
 千草くん、探偵の道具といえば、
 たとえば何を思い浮かべるかね?
 ふふ……もちろん『麻酔銃』とかはちがうぞ!
 ああいうのは全部フィクションであってだね、
 知的な探偵とは少し違ってくるのだよ……」

「あ! あった」

     ゴソゴソ

          「――――じゃん! パイプだ!
           も、もちろん喫煙などしないぞ!
           なにせこれは『カカオパイプ』という、
           ちょっぴり特別なものなのでね……」

                 「甘さで知性を引き上げて……」

――――『探偵の夢』と『甘き死の夢』。

それは致命的なほど同床異夢であると気付かないまま、
それでも楽しげに、小角は夢の道具を語り明かすのだった。

577平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/12(土) 23:20:55
歩いている。
筋肉質ではない。肥満でもない。しかし誰が見ても体は大きな男だ。
ポケットから携帯電話を取り出そうとして――

  チャラ

カラビナに纏めた鍵束がぽろりと落ちて、

「…」

   パシン

余人には見える筈も無い、『壊れた歯車をあしらった手』が、問題なく掴んで、ポケットに仕舞い直した。

578鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/16(水) 22:18:37
>>577

>  チャラ

『チラ』

同じく歩いている中、擦れる金属音を耳にしてそちらを向く学生服の少年。
男が携帯電話を取り出す、と同時に同じポケットから何かを落としてしまったようだ。
電話で片手が塞がっている以上、拾うのには手間がかかるだろう。
代わりに拾ってあげようかと考え、そちらへと一歩踏み出そうとして。

「──────────」

落ちる前に、人間のそれとは違うデザインの手が何かを拾い上げる。それはカラビナだった。
いや、違う。重要なのはそこではなくて、今のは確かに。

「『スタンド』…?」

呟き、急に立ち止まってしまう。もし後ろを誰かが歩いていれば、ぶつかってしまうかもしれない。

579平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/17(木) 23:02:48
>>578
「………」

『スタンド』と声に出した彼に、無言で視線を向ける。
警戒でも親愛でもない、単なる確認だ。
それから、鍵束を仕舞った『スタンド』の『腕』で

  ちょい ちょい

と、『後ろから人が来るから危ないよ、脇へ退けた方が良い』とジェスチャー。
隠そうとかそういう気がないヤツだ…。

580鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/17(木) 23:26:49
>>579

「…っと」

『スタンド』の仕草に応じて、道の脇へ逸れる。
自分が急に止まったことにより驚いた主婦へと頭を下げて、道を譲った。
そして改めて、男へと向き直る。

「あなたは…『スタンド使い』なんですね?」「自分以外の人は、初めて見ましたが…」

581平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:11:50
>>580

「………」

話しかけられた大男は、暫くじっと相手を見つめる。興味。好奇。
『スタンド』も出したままだ。壊れた歯車を思わせる意匠の、人型の『スタンド』。

「お互い、『そう』だってことだな」「当然、この世で一人って自覚なんか無かったし、驚きは無い」
「でも割と早い段階だ」「一生のうちで何度、ってわけでもなさそうだな」

『スタンド使い』であることの肯定と、思っていた以上に『引かれ合う』確率は高いことへの興奮が伝わる。
四割がた『独り言』のような感じだ。

「ヒライシだ」「名前だ。平石という」

『二人称』で呼ばれるのを好まない平石は、ひとまず名乗る癖があるのだ。

582鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 00:21:08
>>581

「平石さん、ですね」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言います」「よろしくお願いします」

相手が名乗られたのに応じて、こちらも名前を告げて頭を下げる。
年上への礼節は欠かせないものだ。
それにしても、いい体格をしている男性だ。以前はスポーツでもやっていたのだろうか。

「・・・・・」

そして、相手の『スタンド』へと目をやる。
自分の『スタンド』とは同じ人の形をしているが、姿はかなり別物だ。
ところどころ、欠けた歯車が見えるヴィジョン。と、そこまで見た所でふと思う。

「こういう場合は…オレも『スタンド』を見せるのが礼儀と判断しました」
「敵意はありません」

「───『シヴァルリー』」

スタンドの名を呼び、傍に立たせる。同じく人型で、騎士のような装いをしたそのヴィジョンを。

「平石さんは、『音仙』さんに聴いて頂いたのですか?」

583平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:48:48
>>582
「鉄君か。そうか、こちらこそ」

相手の『スタンド』そのものには、特に興味があったわけではないのがわかるだろう。
『シヴァルリー』を見て、単純に『驚いた』顔をしたからだ。
『礼儀ってそういうものなの?』って感じの顔だ。

「『音仙』?」「いや…違う。そういうのじゃない」

あの『部屋』を覚えている。そこで起こったことも。
だが曖昧だ。名前も声も、茫漠とした記憶でしかない。自分だけがそうなのか、他人がいないのでわからない。
ただ確実なのは、『キック・イン・ザ・ドア』がともに在ること。それだけだ。そして『何が出来るのか』。

「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

平石も『スタンド』も、動いてはいない。
可能かどうかも分からないことを、初対面の人に、しかし奇妙な『落ち着き』すら感じられる声色で…平然と、問う。

584鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 01:16:52
>>583

「…一方的に『スタンド』を見てしまって、失礼をしたかと思いましたが」
「考え過ぎだったようで何よりです」

特に気にしていない風の平石に、ほっと胸を撫で下ろし、微かに笑う鉄。
『音仙』───あの人は『心の声』を聴くと言ったが、ならばスタンドは精神の顕在化と言えなくもない。
それを見られるのが嫌な人も、あるいはいるかもしれない。彼がそうでなくて良かった。

「………なるほど」「やはり、という所ですが」
「あの人の携わっていないところにも、『スタンド』はあるのですね」

腕を組み、独り言のように呟く。
つまり全ての『スタンド使い』をあの人が把握しているわけではない、か。
しかしそれなら─────。

>「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

>「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

「…はい?」

思考を中断し、平石の問いに鉄は思わず聞き返す。ややあって、困惑したような様子で答えた。

「・・・・・・・・・・」
「あの車が『自動運転』で、平石さんの『所有物で』」
「ここが平石さんの『私道』であるなら、オレは止めません」

「ですが、そうでない場合は…できる範囲で、止めさせて頂きます」
「ただ、あなたがそんな事をしない事を、何より願っていますが」

はっきりと宣言して、唾を飲む。心臓の音がどんどんと大きくなるのが分かった。

585平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 01:49:44
>>585
沈黙。
荒唐無稽――と言い切れないことを鉄夕立は知っている。
『そういう能力』ならば『それが出来る』ことを、スタンド使いならば知っている。
『止める』ことも。

「……勿論」
「ここは『公道』だし、『他人の車』だし」「…『人が乗ってる』」

淡々と、一つずつ確認するように言葉を吐いて、

  ス ッ

「だから当然、『出来てもやらない』。気の迷いって言ったじゃないか」
「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「悪かった、自分でも答えられないことを聞いて、意地が悪いしマナー違反だな」

スタンドを仕舞い、からかうような真似をしたことを詫びる。

「うん、初めて『他のスタンド使い』と出会ったから、はしゃいでしまった」
「立ち話ですまなかった。もし、今度、会うことがあったら」「何かおごるよ。じゃあな。『鉄』君」

微笑んで、そのまま立ち去る平石の、しかし『大通り』をゆく車列に向けた眼差しが、いやに醒めていたのは
『ただそういう風に見えただけ』かもしれないし、『思い込み』かもしれないし、『そうではない』のかもしれない。
平石基の脳みその中身など、平石基にしか分からない。ひょっとすると、本人にもよく分かっていないのだ。

586鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/19(土) 00:41:17
>>585

『フゥーッ』

勿論やらない、という平石さんの言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
一気に緊張の糸が切れていった。

「…いいえ、こちらこそ申し訳ありません」
「友人からも、あまり冗談が通じない方だと言われています」

そう、『スタンド』は平石さんの言うようなことができる。
そして何より、『スタンド使い以外には何が起きたか分からない』。
その事が、いわゆる『犯罪行為』に対してのハードルを引き下げかねないことは想像に難くない。
例えば─────見知らぬ中学生の腕を、切りつけたりすることもあるかもしれない。
もちろん、平石さんはそういった人間ではないようだ。ではない、はずだが。

>「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「・・・・・・それは・・・・」

なんとなく意味は分かるようで、分からないようで。
それは誰もが心のどこかで思っていることかもしれない。
けれどそれを認めることは、今の鉄にはできないことで。
その言葉を口にする平石さんに対して、自分は何も言う事ができない。

「…いえ、そのようにお世話になるわけには…っ。はい、またお会いしましょう平石さん」

慌てて申し出を断ろうとするも、その前に大男は去っていく。その背中に向けて、頭を下げた。
そういえば連絡先を交換するのを忘れていたな、また会えた時にしておこうと心の中で呟く。
また自分も『シヴァルリー』を消して、帰途へと着いた。

587宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 17:31:25

雑踏から離れた小さな公園のベンチに、一人の男が座っていた。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
その手には白いカップが見える。

「――分からないな」

手元のカップを見下ろしながら独り言のように呟く。
どうやらコンビニで買えるコーヒーのカップらしい。
人気の少ない場所だが、誰かがいたとしても特に不思議は無い。

588空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>587

「何がだ?」

 ベンチの背後から声。

    ガササッ

 ベンチ裏の茂み、その葉が擦れ合う音がした。

 宗像の座るベンチの背に手をつき、
 身を乗り出すようにして宗像の隣に背後から男の顔が現れる。

「悩み事ならわたしに話してみないか?
 協力できるかもしれないぞ」

「ヒック」 「心当たりがある」

 男の顔は宗像の一回り下ぐらいに見える。
 だが赤ら顔だ。そして酒臭い。「ヒック」

 彼の片編み髪はいま蜘蛛の巣やら木の葉を乗せて
 できたてのホームレス風に装飾されていた。

589宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:01:04
>>588

現れた人物に対して軽く視線を向ける。
そこに不愉快そうな色は無い。

「さっき、近くのコンビニでコーヒーを買った」

「これを渡されたが、その先が分からない」

カップを相手の眼前に持ち上げて見せる。
中身は空のようだった。

「もし知っていたら、教えてくれないか」

世間話をするような何気ない口調で質問を投げ掛ける。
買い方の手順を知らないという事らしい。

590空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 23:19:04
>>589
 自宅のソファに身を投げ出すように
 ドカッと宗像の隣に座る。

「店員が外人で日本語が通じないとかだったのか?

 もしくは袖口からチラッと入れ墨だか注射痕が見えたりして
 なるべく関わり合いになりたくなかったか?」

「そうでもないなら店員に聞け」

「ヒック」 
「わたしへの対応を見る限り、
 君はそういう会話に苦するタイプとは思えんが……?」

 男は既成品でない仕立てのスーツを着ていた。
 生地はメリノウールとシルクのブレンドらしいが
 今は三時間休憩後のラブホのシーツみたいにしわくちゃだ。

「『わからない』ってのはそれか?
 それだけなのか?」 「ヒック」

591宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:53:03
>>590

塀の中にいる間にも、世の中では新しい仕組みが増え続ける。
社会に戻ってから、分からない事というのは度々あった。

「俺の後ろに大勢が並んでいた」

そのせいで聞くタイミングを逃したというのが理由らしい。
いずれにせよ、大した悩みでは無い事は明らかだ。

「ああ――」

「それだけだ」

手の中でカップを握り潰して屑入れに放り捨てる。
それから男の方に顔を向けた。

「あんたにも何かあるようだな」

相手の風貌から、それを感じ取った。
もっとも、それが何かは知る由も無い。

「話を聞いて貰った代わりに、今度は俺が聞こう」

「余計なお世話でなければだが」

元々、暇を持て余して街を歩いていた。
今の所、他にする事も思い付かない。

592空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:14:10
>>591
「……?」

 『後ろに大勢並んでいた』ことが今の話になにか関係あるのか?
 という顔をする。眉ハの字で首を傾ける。
 どうもこの男はその辺に全く気を遣わないタイプらしかった。

「そうか。それだけか。
 それはできれば聞きたくない回答だったな」

「わたしの悩みか?
 財布をなくした」

「君の独り言を聞いて、
 もしかしたら君が見つけたんじゃないかと思って
 一縷の望みをかけて話しかけてみたってわけだ。

 『分からないな』――」

「『これはいったい誰の財布だろう』ってな」

「ヒック」

「もともとドブ底みたいな生き方していたが、
 今は完全にドブさらいの気分だ」

「知らないか? 知らないよな?
 わたしの財布」

593宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 00:33:34
>>592

「――知らないな」

質問に対して、至って簡潔な答えを返す。
これといった感情の篭っていない淡白な声色だった。

「ここで無くしたのか?」

「財布を無くすまでの行動を遡れば場所が分かるかもしれない」

「それで見つかる保障は出来ないが」

時折、目の前の通りを何人かが通り過ぎる。
当然だが、彼らがこちらに注意を向ける事はなく、逆も同様だ。

「――幾ら入っていた?」

594空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:50:31
>>593
「正直言って、
 場所の心当たりがなさすぎて困ってる」

 右手を顔の横でひらひらさせる。
 巻き髪が風で揺れて、絡まってた木の葉が落ちる。

「昨日は歓楽街のバーで飲んでいた。
 そして、今朝目が覚めたらここにいたというわけだ」 「ヒック」

「だから今はこの場所に縋ってるってだけだな……
 フフフ。
 我ながらマヌケすぎて腐った笑いがこみあげてくる」

「金は5万くらい入っていたかもしれない。
 酒飲むたびに財布落とすのは『常習』だから
 手続きが面倒なカード類は
 別に入れていて無事だった」

「だが金とか財布のガワとかその辺はどうでもいい。
 『指輪』だ。
 大事なのはその中に入れちまった『指輪』なんだ」

 常時薄笑みを浮かべていた唇が糸を引くように結ばれる。
 目の奥を刺す針の痛みをこらえるみたいな表情だ。

595宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 01:13:34
>>594

「指輪――か」

その指輪が何か詳しく聞く必要は無いだろうと考えた。
これぐらいの年代の男が指輪と言えば大方の察しは付く。

「この辺りに落ちている可能性も無くは無い」

「今、俺は手が空いている」

「もし探すのなら手伝おう」

無くした指輪が男にとって重要な物である事は理解出来た。
その気持ちは分からないでも無い。

「少なくとも、ここに座って嘆き続けるよりは有意義な時間の使い方だ」

「――そう思わないか?」

596空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 01:36:36
>>595
「君は『いいヤツ』だな」

 眉尻を下げて笑う。
 眼が目尻の皺に混じってほとんど糸みたいになった。

「そして真面目な男だな。
 そういう『着住まい』をしてる。
 短いやり取りしかしてないが、
 わたしは君を信頼する。
 君の申し出に感謝するよ。
 そしてぜひ協力を頼みたい」

 襟を正して宗像の正面に向き直り、頭を下げる。

「財布はボッテガだ。
 インテレチャートの上に
 ミントブルーのドット柄」

「まあわたしみてーな奴が
 持ちそうな趣味柄を思い浮かべれば
 だいたいそれであってる」

「わたしは裏の茂みを探す。
 一晩過ごしたベッドだからな。
 しかし、他に酔っぱらいが
 公園内で行きそうなところってどこだろうな……?」

 そういってベンチの裏に頭から緩慢な動きで潜っていった。

597宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 17:20:29
>>596

着住まいとは珍しい表現だ。
この男が衣に関わる職に就いているとも考えられる。
財布の紛失と関係があるとまでは思わないが。

「――分かった」

財布の外見に関する説明は少しも理解していなかった。
そういった分野には疎い質だ。
だが問題は無いだろう。
財布は何処にでも落ちている物では無い。
他と見分ける必要は薄いと判断した。

「俺は向こうを探して来る」

立ち上がってトイレの方向に向かう。
特に根拠がある訳では無い。
敢えて言うなら酔っ払いが行きそうな場所ではある。

「ここにあれば良いが」

使用中の人間がいない事を確かめてから中に入る。
洗面台の蛇口から水滴が滴っているのを見て栓を閉め直した。
それから内部を見渡して男の財布を探す。

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 20:51:41
>>597
 ベンチを発って公衆トイレへと向かう宗像。
 道すがら、公園内の設備がいくつか視界に入った。


   公園の中央にはL字型の『水飲み場』があり、
   それとベンチを結んだ対角線上には
   寂れた『公衆電話ボックス』があった。

   また公園の入り口横に『自動販売機』があり、
   その対角線上に屋根つきの『ロの字型ベンチ』
   ――ひょっとしたら数年前までは
   『喫煙スペース』だったのかもしれないが、
   今は中央の灰皿台が撤去されている――があった。

  (※配置はあくまでこの交流内でのみ適応されるもので、
    公園の公式の設備設定ではないことをご了承ください)


 トイレに着いた宗像は中を検める。
 が――見渡したかぎり特に目立つものはない。
 管理が行き届いているのかそれなりに清潔そうには見える。


 空織は地面に膝をつき、茂みの根本を漁っている。
 特に顔や声をあげたりすることもなく、収穫はなさそうだ。

599宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 21:35:39
>>598

ここに目的の品は無いらしい事を悟った。
そうなると他を探さなければならない。

「先に拾われている可能性もあるか」

わざわざ伝える必要性は感じないが。
持ち主を失望させる以外の意味は無いだろう。

「虱潰しに当たるしかなさそうだな」

手掛かりらしい物は何も無い。
目に付いた場所から順に調べていく。

「――公園外に落ちている事も考えられる」

入り口付近にも目を向ける。
真っ先に拾われるような場所だが可能性は無くは無い。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 22:13:22
>>599
 トイレを出て水飲み場を調べる。
 排水部分ははめ込み式の格子型だが、
 財布が通り抜けられるような隙間はない。

 『誰かに拾われた』可能性について宗像は思考する。
 それは大いにありえることだった。
 公園内の人通りは少なくはない。
 トイレを見るかぎり清掃員だってきちんと職務を全うしている。
 だとしたらそこから先は警察の仕事で、
 これ以上の探索は『徒労』でしかない。

 宗像は公園外にも目を向ける。

 相手は記憶を飛ばすほど飲んだ酔っ払いだ。
 シラフでは考えられないところに取り落としている可能性もある。

 だが、もしこの公園内にあるのだとすれば――
 酔った人間が園内で『財布を落とす』としたら、
 それは一体どんな場所だろう?

 入り口付近には『糞は飼い主があとしまつ!』みたいな注意書きの立て看板と、
 自動販売機が二つ並んでいるぐらいだ。
 その間には二穴式のゴミ箱(空き缶/ペットボトル入れ)がある。
 まばらに伸びる草丈は浅く、目立つものは見えない。


「やはり――ダメか。
 茂みの中にはなにもなかった。
 きっと、運のいい誰かが持っていっちまったんだろうな」

 茂みから足を出し、力ない微笑みを浮かべながら
 天織は宗像に近づく。

601宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:39:19
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も『そうする』」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

602宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:47:36
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も手は尽くす」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

603空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 23:29:25
>>601

「スマホならちゃんと持っているが――
 (さすがのわたしもそこまで粗忽者じゃないぞ)
 だが、それが一体なんだって言うんだ?
 警察には一応、それで連絡をしてある」

 眉根を寄せ、訝しみながら宗像についていく空織。
 自販機に近づいたとき、ふむ、と顎に手を当てる。

「自販機……自販機か!
 そういえば、あれだけ酒を飲んだ翌朝だというのに
 起きた時わたしは水をそれほど必要としてなかった」

「しかし、自販機の周りならわたしもざっと見てはいるぞ。
 妙なものはないと思っていたが……」

 
 宗像は自販機の周囲や底部の隙間を探す。
 だが――財布らしきものは見当たらない。
 空き缶やペットボトルの殻が、
 そこそこ清潔そうな空き缶入れの前に二・三転がっているだけだ。


 宗像の背中を見守りながら、空織はスマホを取りだす。

「……警察にもういちど連絡を入れてみよう。
 もしかしたら財布だけ届けられてるってことがあるかもしれない……」


 宗像は、自販機に挟まれた二穴式の空き缶入れの上蓋が、
 少しだけズレていることに気づく。

604宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 23:56:42
>>603

「――ああ」

背中を向けたまま男に答える。
警察に届けられていれば解決だろうが望みは薄い。

「ドブ底のような生き方をしていたと言ったな」

言葉を告げながら空き缶入れの上蓋を取り外す。
ここで見つからなければ俺に出来る事は無くなる。

「そこから何かが見つかるかもしれない」

ゴミの山に視線を向ける。
ドブ程ではないが汚い場所には変わりない。

「見つからないかもしれないが」

605空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 00:14:33
>>604

「……な、んだと」

 スマホを耳元から下ろし、
 宗像の言葉の意味を反芻するように
 目を見開いて彼の背中を見つめる。

 宗像は上蓋に手をかける。

    ガポッ


 蓋はきちんと嵌められていなかったらしく、
 取りはずすというよりも持ち上げる程度の力で
 簡単に取りのぞくことができた。

 空き缶とペットボトル殻が雑多に詰め込まれた、
 雑食性のゴミ山が宗像の目の前に現れる。

 その色彩過剰の山を注意深く見つめて、宗像は気づく。
 山の隅に、どこか隠されるようにして――
 財布の編み込み革の一辺が顔を覗かせていた。


「…………あった、のか?」
 吐息のような声が空織から漏れ、宗像の背中に触れる。


 財布の口はどこか乱暴に開かれていた。

606宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 00:41:00
>>605

「何も見つからない場合は少なくない」

「だが、今は見つかったようだ」

ゴミの山から財布を引っ張り出した。
革手袋を嵌めている手で軽く汚れを払う。

「――これで合っているか?」

蓋を元に戻し、男に財布を渡す。
だが問題は中身だ。

「あんたの扱いが雑なだけなら良いが」

中身だけ抜いて残りは捨てたか、あるいは持ち主が乱雑に扱っただけか。
前者の場合、取られたのが金だけなら悪くない結末と言えるだろう。

「指輪は入っているか?」

声を掛けながら、ゴミ箱に視線を向ける。
財布の中に指輪がなければ、次に探すべき場所は一つしか無い。

「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

607空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:03:39
>>606

「……ない、な」

 そう発した言葉の意味と同じくらい、
 空織の声は空虚だった。

「何もない。空っぽだ。」
「――指輪もだ」

 無意味な記号を眺めるように、
 手の中で意味の失われた財布をぼんやりと眺める。
 目を伏せて黙思の淀みに沈む。だがその耳に――


>「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

 「!」

 宗像の一言が届く。
 空織は顔を上げ、前に立つ作業着の背中を見る。


「…………フ」
「フフフ、ハハハハ」
「ドブさらい、か。任せてくれ、それなら得意だ。
 わたしよりドブさらいがうまいヤツはそうはいないだろう」

 しわだらけのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって前に進む。
 ゴミ箱の前に立つ宗像の横に並ぶ。
 その横顔に向けてつぶやく。

「だが――いったい君は、
 なんだってこんなことをする?」

「知り合ったばかりのわたしに、
 どうしてそこまで……」

608宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 01:30:23
>>607

最悪に近い結果だが、まだ可能性はある。
見込みが残っているなら、出来る限りの手を打つべきだ。

「そうか――」

「なら良かった」

空き缶入れの蓋を取り外し、地面に置く。
それから空き缶入れを逆さにして、中身を全てブチ撒ける。

「ドブさらいは俺も得意な方だ」

「あんた程ではないかもしれないが」

地面に屈み込んでゴミの海を漁る。
同時に、一つずつ空き缶入れに戻していく。

「今、丁度暇を持て余していた」

「あるいは、あんたに少し共感を覚えたせいかもしれない」

「――どちらにしても、大した理由は無い」

答えながら、作業を続ける。
目立った感情の篭らない声だったが、何処か『残り火』のような響きがあった。

609空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:55:56
>>608

「そうか……
 ならわたしの見立てが間違ってなかったってことだな」

「君は『いいヤツ』だ」

 隣に並ぶ宗像に、空織は歯を見せて笑った。


    ガッシャァアア――――――ン


 沼湖に沈泥していた澱を掻き出すみたいに、
 ひっくり返されたゴミ箱から色鮮やかな残骸が逆流する。

 溢れでた缶がいくつか二人の足先にぶつかって跳ねる。
 そうして弾かれるペットボトルや缶の波にまぎれて、
 宗像の足元へゆっくりと転がる銀円のきらめきがあった。

      コンッ

 ペットボトルの蓋ほどの大きさの環は、宗像の爪先にぶつかり、
 ちいさく跳ね返って、ぱたりと二人の間に倒れた。

 それは飾り気のない銀色の指輪。
 結婚指輪だった。


「…………あった」

610宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 02:14:45
>>609

「こんな事もある――」

「運が良かったな」

男の方に視線を向けて拾うように促す。
それは持ち主の手で拾い上げるべき物だ。

「――だが、生憎まだ仕事が残っている」

告げながら、散らかったゴミを元に戻す。
少しばかり骨が折れるが、後始末はしなければならない。

「二度と無くさない事だ」

どうやら最悪は避けられたようだ。
最良に近いと呼んでも差し支えないだろう。

「ドブさらいをしたいなら別だが」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板