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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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288レオナ『ホームランド』:2017/06/04(日) 23:57:31
>>287

「来ないねー誰もこないねー」

289夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/21(水) 22:49:55

テク テク テク ……

日差しも穏やかになった夕刻の通りを一人歩く少女がいた。
清月学園の制服を着て、胸元にはサングラスが引っ掛けてある。
ストラップで首から提げたカメラが、歩く度に軽く揺れている。

       キョロ キョロ

……しきりに周囲を見回している。
『初めて来日した外国人観光客』ばりだ。
そして、ある一点で視線が止まった。

「あっ――」

   タタタ……

早足で歩いていき、『それ』の前でピタリと立ち止まる。
目を見開いて、しばし『それ』を見つめる。
『それ』の存在は知っていたし、使ったこともあったが、『見た』ことはなかった。

「『自動販売機』――初めて見た……」

     パシャッ

カメラを構え、正面から『自販機』を撮影する。

     パシャッ

横に回り込んで、更にもう一枚。

続いて後ろに回り込もうとしたが、あいにく幅が狭い。
しかし、それでも後ろ側が見たいので、なんとか身体を捻じ込もうと四苦八苦している。
客観的に見るとかなり怪しいが――今のところ人に見られていないのは幸いだった。

290太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/23(金) 22:28:18
>>289
「自動販売機に――ッ!!」
「ああ…あんなスキ間に!ほんの4センチ×20センチ(適当)の細いスキ間に自分の肉体を………」

   残念ながらばっちり見ている奴がいた。

「あんな隙だらけで」
「…………せっかくだし後ろからビックリさせちゃうッスよ」
「ついでにパンツ見てやるッス 無防備なのがいけネーと思うッスよ」

自販機にサンタナ(動詞)かまそうとしてる女子生徒に、後ろから接近する。
靴を脱ぎ、靴下で歩き足音は殺す。ヒタヒタ。
よほど『耳のいい』やつじゃない限り気づかれんだろう。
接近して、
     「わァっ!!!」
               ってする。したい。できるか?

291夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/23(金) 23:19:45
>>290

「き……キツイッ……」

「だ、だけど――もう……ちょい……!」

依然として、半ば無謀な試みを続けている女子生徒。
第三者から見ると、その姿は全くの無防備状態。
背後から忍び寄る足音に気付いた様子もない――ように思われた。

――しかし

ピク……

普通なら到底聞き取れないような、本当に僅かな物音。
しかし、生まれてからもっぱら聴覚に頼る生活をしてきた身。
そうした経験が、ほんの僅かな物音さえも、敏感に聞き取ることを可能にした。

――そして

(……はっはーん)

ニヤリと笑い、背後から近付く何者かに対し、『あえて気付かないフリ』をする。
そして、ギリギリまで引き付けてから、不意に振り返ってデカい声を出してみる。
具体的に言うと、「わァっ!!!」って感じで。

ついでに、見事に成功したあかつきには、その驚いた顔を激写してやる。
どっちが驚いてどっちが驚かされるか。
気分は荒野の決闘場に立つガンマンだ。

――果たして、結果は?

292太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 00:10:02
>>291
「(へっへっへっ…悟られてないッスね……)」
「(そろりそろり……そろそろ……もうそろそろ…いい距離ッス)」

このイタズラ少年は気付かない。『気付かれた』事に『気付かない』。

「わ
       >「わあっ!!!」

   ああああああああああああああ!
     ああああああ石踏んだァっ痛あああああう!?」

          レンズ
振り返った夢見ヶ崎の銃口の先には、

眉を顰め、目を瞑り、歯が見えるまで口を大きく開け、声を上げる人間がいた。
その声は変声期を過ぎた、おそらくは夢見ヶ崎と同じくらいの年頃の、男性のものである。
ちなみに二つの違う『色』で染色されたシャツを着ている。

(本来は『縞模様のシャツを着た、苦悶の表情で声を上げる少年』、と表現される。
 君は『縞模様』を知っているだろうか?苦悶の表情を目にした事は?
 放課後に帰路を行く少年たちは、既に見ているだろうか?)

…とりあえず、決闘は君の勝ちだ。写真でも何でも撮ってしまえ。

293夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 00:46:18
>>292

   バシャ バシャ バシャ バシャ

とりあえず撮った。
勝てたみたいなので、なんとなく満足した。
ありがとう、と天に感謝したくなった。

   じいっ……

カメラを下ろし、決闘場(自販機前)で悶える少年を見つめる。
彼が自分と同じ年頃の男性、つまり少年であることは分かった。
だが、『縞模様』は見たことがなかった。
『苦悶の表情』も同じく目にした経験はない。

「――へぇー……ほぉー……あぁー……」

なので――じっと見つめた。
まるで社会見学に来た幼稚園児のように、興味津々といった表情で。
本人に悪気はない。
だからこそタチが悪いと言えなくもない――かもしれない。

  ピッ ガシャンッ

二人の後ろで、一人のサラリーマンが自販機でジュースを買ったようだ。
怪訝な表情で立ち去っていく。
なんとも言えない空気が漂っている、気がした。

「あ」

「えっと――」

「ダイジョーブ?」

しばらくして、思い出したかのように少年に声を掛けた。
遠くの方でカラスが鳴いている。

294太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 01:19:33
>>293

  カァー カァーッ 

「ふーッ ふーーッ だ、大丈夫ッス………」

とりあえず靴を履く。
なんかこうして心配されたことにより改めて完全敗北した気がする。
敗北も何も、悪戯を仕掛けたのも靴を脱いだのも自分なので、完璧に自業自得なのだが。

 「…………」 「……見世物じゃないッスよ」

写真を撮られまくって物珍し気に観察されて、

 「なんか俺に……虫でもついてるんスか?ん…?」
 体を見る。何もついていない。

295夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 01:51:04
>>294

「ゴメン」

さすがに気まずくなって小さく頭を下げる。
『視線』というものの感覚に、まだ慣れてないことを実感した。
凝視したのが世間的に『ヤバイ相手』じゃなくてラッキーだったかもしれない。

「なんていうか、その――」

「『見たことがなかった』から、つい、ね……」

自販機に歩み寄ってお金を入れて、ボタンを押す。
出てきたのは緑茶だ。
350ml入りの一回り小さいペットボトル。
それをイタズラ少年、もとい太田垣少年に投げる。

「一杯おごるよ」

「お礼っていうかなんていうか……まあ、とにかくとっとけとっとけっ」

自分も同じものを購入し、太田垣少年の所に戻る。
そして、自販機横の植え込みの縁の所に座った。

   グビグビグビグビ

「くっはーッ!」

喉を鳴らしながら、豪快に一気飲みする。
中身は粉微塵になって消えた。
――ように見えて、実際は普通に全部飲んだだけである。

296太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 02:21:21
>>295
「あ〜〜〜〜?」「見たことが無い」
「………フムン、何やら事情があるんスねェ」

あんま聞かん方がいいのかな。面倒な来歴を持ってそうだ。
そして施しも受けておく。真夏日で喉も渇いていた所。

  「サンキューサンキュー、頂くッス」

    ドボドボボドボドボ  プヘー


       「……ウーン」
 「空がオレンジ色になってきた」
 「湿気が強いと夕焼けがめっちゃ赤くなるんスよねェ」
        
 なんか話すことも浮かばないので天気の話題でも振っておく。

297夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 02:47:00
>>296

「へー、そうなんだ」

無難な感じで相槌を打つ。
こっちも話題があるわけじゃなかったので助かった。
ふと無言になり、じっと夕日を見つめる。

「……夕日ってキレイだよね」

「湿気が強い時は、もっと赤くなるんだっけ?」

「今よりキレイになるんなら、それも見てみたいなぁ……」

初めて自分の目で夕日を見た時は衝撃的だった。
あまりの美しさに圧倒されてしまい、そのまま二時間くらい見続けていた。
今でも、つい見入ってしまうことがある。

「っていうかさ――」

「君、高校生だよね。学校どこ?何年生?」

「ちなみに私は清月の高一だけど」

唐突に話題を変えてきた。
周りからは、結構マイペースな性格だと言われている。
自分ではあまり分かっていないが。

298太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 18:17:17
>>297
「…マイペースだなアンタ」
「………宇宙ステーションにでも住んでたんッスか」

自販機へ謎の行動かましたり、
たびたびの『見た事が無い口ぶり』。良いとこの生まれか?はたまた監禁でもされてたのか?
まあいきなりの話題転換は助かる。話すことが天気ぐらいしか無くて困ってたからね…。


「えーー…と…何だっけ……清月の1年………俺と同じじゃん!」
「スマンねェ〜〜他クラスの女子の顔とか正直覚えてなかッたス……」 
「俺部活にも入ってねーから他人との交流薄いッスし」

「あんたは部活動やってンの?」
「『写真部』とか?…もしや『自販機部』?」

カメラを覗き込みながら聞いてみる。これが趣味なのか?

299夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 22:56:18
>>298

「いやぁ、見たことないのはトーゼンだと思うよ。私、少し前まで他の学校に通ってたし」

「あれよあれ、いわゆる転校生ってヤツ」

「――だから、これからよろしくッ」

かつて自分が通っていたのは特別支援学校。
視覚障害者のために設けられている学校。
清月の生徒になったのは、目が見えるようになった後だった。

「『自販機部』ゥゥゥ〜?誰が入んのよそれッ?そんなのあったら見てみたいよ!」

「部活は……そういえば私も入ってないなぁ……。転入してまだ日が浅いしさぁ」

「でも、『写真部』ってのは悪くないかも。なんかアーティスティックな感じがしてカッコイイし」

そこで、カメラを見る視線に気付く。

「あ、このカメラはお父さんの。借りてきちゃった」

「ファインダー越しに見ると、世界がまた違って見えるってウチのお父さんが言ってたから」

「ホントかどうか試してみようと思って、こっそり借りてきたの」

言うなれば、世界の見方のバリエーション。
その一つを試してみた、といったところだ。

「ん?んー……?」

不意に、手に持っている空のペットボトルを見つめて、なにやら考え込み始めた。
ラベルの一部分を凝視しているようだ。

「あのさ――これ、なんて読むんだっけ?」

  ズイッ

言いながら、またもいきなりペットボトルを突き出してきた。
ラベルには『京都産茶葉使用』と書かれている。

「ここ、ここなんだけど。ちょっとド忘れしちゃって。見覚えはあるんだけどなァ〜」

ある一部分を指差しながら、尋ねてくる。
そこには『京都』と書いてある。
まともな日本人なら『きょうと』と読むだろう。
しかし、日本語を勉強中の外国人ならまだしも、この少女は誰が見ても日本人。
いくらド忘れしたとしても、『京都』という漢字の読み方を忘れることがあるだろうか……?

300太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/25(日) 00:26:24
>>299
  キョウトサンチャバシヨウ
「『京都産茶葉使用』ッスよ」
「宇宙人かオメ―」


ほんとに宇宙ステーションかなんかに居たのかこの女…もしくは宇宙人。

「……『成績悪すぎて』転校してきたッスか?」
「忠告しとくがこっちでも成績それなりの方がいいッスよ
 でなきゃ清月の大学に『エスカレーター』できねッスし」
「成績…まあ俺も人の事言えた義理じゃないッスけど」

ウヒヒヒヒ、と笑う。

 「俺は『太田垣』ッス。理系科目は赤点スレスレ!あと古文も苦手!」
 「……あんたとは成績悪い仲間ッスね!!ようこそ補習組へ!!」

とりあえずネタっぽく仲間認定。
成績がいいヤツならここで笑いながら否定してくるだろう。
悪いヤツなら補習仲間として手厚く歓迎。

301夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/25(日) 01:14:37
>>300

「あァァァ〜。『キョート』ね、『キョート』。今思い出した」

「シツレーな。どっから見ても地球生まれで地球育ちの地球人よ」

全盲だった自分にとって、使ってきた文字というのは『点字』だった。
文字を読むようになったのは視力を得てからなので、まだ慣れていない。
今は平仮名とカタカナは読めるようになった。
……が、漢字となると小学生レベルのものすら読めないことも多い。
現に、さっきのラベルの漢字も半分以上は読めてなかったりする。

「まぁ、成績が良い方じゃないのは否定しないけどさ……」

「っていうか、マジで?」

「『エスカレーターは乗ってりゃいいから楽だわァ〜』とか思って、余裕かましてたのに」

前途を思い、クラッと軽くよろけた。
でも、目の前にいる少年も成績良くなくて笑ってられるんだから、まあ大丈夫かな、とも思った。

「私は『夢見ヶ崎』。成績は――まあ、勝手に想像してもらうとして……」

「とりあえずよろしくッ!!」

正確には補修組ではないが、片足を突っ込んでいる感はある。
言ってみれば予備軍といったところだ。
けど、友達が増えるのは嬉しいから歓迎されてみた。

「――あッ」

   「お腹空いた」

       「晩御飯食べたいから帰るね!」

           「バイバーイ!!」

               「また学校で〜!!」

いきなり立ち上がり、そんなことを言いながら手を振って帰っていく。

最後までマイペースを貫いて、宇宙ステーション出身?の女生徒は去っていったのだった。

302名無しは星を見ていたい:2017/08/14(月) 22:49:27

「……」

夜の街の片隅の、裏通りの飲食店。

そのまた裏にあるごみバケツの隣で、『女』はゆっくりと目を開いた。

ザワ
ガヤ ウェーイ

「……」
「……」

耳に入る、少し遠くからの喧騒。
『女』は無言のまま、周囲に目線を走らせる。
しかし街灯の光があまり届かないこの場所では、
周囲どころか自分の姿すら不確かで


「……」

それと重なるかのように、
思考にも深い闇がかかっているような感覚を『女』は覚えた。

  ガヤ     ザワ

                  ワォーン

少し離れた所から音は耳に届くのに、どれこれもまるで遥か遠くにあるかのようで
『女』を少しも、動かす力にはなりえなかった。



「────……フゥッ!」


それらを振り払うように短く強く呼吸をして、空を見上げる。

綺麗な星空があった。

303undefined:2017/08/14(月) 23:05:32
星の明かりが、『女』の姿を照らし出す。

   スーッ

『女』の身体は、女性にしては大きい。

──動かなくてはならない。

『女』は瞬時にそう思った。

──自分の役割を果たさなければならない。

             ニャオーン

遠くで、猫の鳴き声が聞こえた時、彼女の思考の闇は晴れた。
星明かりで照らされる赤みを帯びた長髪。


──猫を探して、依頼主に届けなければならない。

『動く方向』を見いだした女は、駆け出していった。

304斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/17(木) 02:46:29
「うーん……?」

黒いジャケットが夕日を照り返し
白のシャツには首元の赤い布切れが揺れている

「もう一回……試したほうが良いな。」

灰色のジーンズは精々スニーカーの引き立て役だろう
それも一昔前の奴では大分色あせていたが

「『ロスト・アイデンティティ』……!」

商店街の路地裏、自販機の影でスタンドを発動する
たちまちの内に斑鳩の全身に鎖が巻き付いた
だが目的はそれでは無い

(右腕を振ると同時に…右腕から伸びてる鎖の先端の『連結』を『解除』する!)

  キンッ

鎖の一欠けらが表街道に放り込まれ、微かな金属音を立てる
瞬間、雑踏の中で数人が視線を其方の方に向けたが 気にも留めずに歩きだす
その様子を斑鳩は路地裏から観察していく
ここで隠れながらスタンドを使うのもそれが理由だった。

(あの視線、反応……やっぱり、普通の人にも見えてるよな。)

「外したのは実体化しているのか。」

僕に変に隠す理由も無かったのもあるが慣れておく必要があった
もっとも、『右利き左利き』を『両利き』にする程度の感覚だったが。

(他の人にも見えている ……なら使いどころは考える必要が有るな。)

「それにしてもこの…『スタンド』初めて使った気はしないな」

才能っていう物はそういうものか、と自分で再確認する
先程の投てきも、狙ったところにほぼ寸分違わず着弾したのだ。

――これが補助しているのかな?
そう考え、『スタンド』を発動した自らの身体を見直してみる

『ロスト・アイデンティティ』は纏う型のスタンドだった
それは全身に幾重にも巻かれた鎖として表れている。

――前は見えるけれど、複雑だな。

『技巧に優れた鎧』なのか、それとも『枷』なのか?
斑鳩は『奇跡』を望んではいたが、それは彼にとって『身に纏う鎖と影』だ。
言葉にしたい事は山ほど有ったが、それは脳の中で渦を巻き
まさしく絡まった鎖のようになって喉から出てこない。

……そしてそんな事を延々と考えていたので、周囲にはまるで気を配っていなかった。

305小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/01(金) 01:01:31

洋装の喪服と黒いキャペリンハットの普段着で、人々の行き交う通りを歩く。
ここは、よく買い物に来る場所。

けれど、今日の目的は買い物じゃない。
ふと、一人きりで過ごすことに寂しさを感じた。
だから、人の大勢いる場所へ行きたくなったのだ。

  「――これをお願いします……」

一軒のオープンカフェに立ち寄り、テラス席の片隅に腰を下ろした。
そこから賑やかな通りを眺め、この町の息吹を感じ取る。
そうしていると、心の中にある寂しい気持ちが少しずつ和らいでいくような気がした。

しばらくして、テーブルの上に注文した品が置かれた。
ミントの葉とレモンの輪切りが添えられた、爽やかな香りのミントティー。

         カラン……

グラスの中で氷が軽い音を立てた。

306<削除>:<削除>
<削除>

307朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 19:33:47
>>305

  クルクルクル


      クルクル


           シュッ

                    タンッッ!

 「ほぉぉぉぉおおおお〜〜〜〜!! トォーーーーーッッス!!!」


   「悪の組織の首領! モーニングマウンテンただいま登場!」

308朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 19:40:15
>>307続き  (失礼しました、途中送信です)

 赤を基調とした、熱血なジャンバーと短パンに。ホッケーマスクのようなものを被る
怪しい悪の首領は颯爽とオープンカフェの外で決めポーズを繰り出している。

 「我が名は悪の首領の組織モーニングマウンテン!!
さーさーっ! お日柄の良い日に集まってる皆さん!! 今度、悪の講演会を公園で行う
モーニングマウンテンが直にパンフレットを渡してるっスー!! 御菓子やジュース
星の味金平糖やインスタンドウナギ飯味ヌードルも、今なら半額で売ってるすー!!
 みんなジャンジャン来てほしーっス!!! 悪の首領モーニングマウンテンっス〜!!」


 ざわざわざわ……

 何処か聞き覚えのある声が、オープンカフェの近くの通りでピョンピョン跳ねるお面の人物から聞こえてくる。
色々動き回っているので、少し声掛けすれば気づく距離だ……。

309小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 21:15:01
>>307-308

ザワ ザワ ザワ ……

  ――……?

物思いに耽っていた時、聞き覚えのある声が耳に届き、軽く視線を動かす。
それと同時に、明るい声と元気な動きが視界に入る。
顔は隠れていても、それが誰であるのかは、すぐに分かった。

  「朝山さん――」

だから、つい声を掛けてしまった。
もしかすると名前を呼ばない方がいいのでは、という所にまで考えが及ばなかった。
今、ちょうど物寂しい思いを感じていたところだったから。

  「――こんにちは」

軽く頭を下げて挨拶し、柔らかい微笑を投げかける。
人との出会いは、胸の中にある寂しさを埋めてくれる。
ここで思いがけず見知った人に出会えたことを、嬉しく思っていた。

310朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 21:23:32
>>309

 >朝山さん――



「うん? どうしたっすか……   はっΣ!!!?」

 振り向き、気づく!! そうだモーニングマウンテン!!
君は悪の組織の首領であり、正体不明の謎の首領なのである!

 「いやいやいやいやっ!! そこのおねーさんっ!
私は朝山などと言う、とっても可愛いパワフルガールと同一人物ではないっス!!
 我が名は悪の組織の首領!! そう! モーニングマウンテンなんっス!!」

 シャキーンッッ!!!

すかさず決めポーズを繰り出すっス!! パワフルなポーズの衝撃は
きっと知り合いだと思ってる小石川おねーさんすらも騙せる筈なんっス!

 (しかし、不味いっス。これは、夕飯でピーマンの肉詰めが出た時ぐらい
不味い状況っス。小石川おねーさんは勘がするどそーな雰囲気をしてるっス。
このままじゃ私が悪の組織の首領である事が完全にバレてしまうっス!!)

 うーんっ!! 

頭をひねってモーニングマウンテンは考える!! そうだ、誤魔化すのだ
モーニングマウンテン! 今なら間に合うかも知れない!

 「あー、そうそう! おねーさん、このモーニングマウンテンに
話しかけてくれたのは良い機会っス!!
 よければ、悪の首領に何か質問をして見れば良いっス!
そ〜〜〜すれば!! この悪の首領が朝山と言う名前でない事がわかる筈っス!!」

 そうっス! ここは嘘をつきとおすっス!
この巧みなる悪の話術で、小石川おねーさんを騙しとおすっス!!

311小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 21:59:21
>>310

  ――……。

彼女の慌て方を見て小首を傾げ、改めて考える。
名前を呼んでしまってはいけなかったのかもしれない。
そうだとすると、悪いことをしてしまったことになる。

  「そう――ごめんなさい」

  「知っている人に似ていたものだから、つい……」

彼女が知られたくないと思っているのなら、そのままにしておこう。
誰だって、一つ二つは隠しておきたいことはある。
私にも、それはあるのだから。

  「質問――そうね……」

  「じゃあ、少しお話しましょう」

  「――モーニングマウンテンさん」

ほんの少しだけ悪戯っぽくクスリと笑って、自分の隣の席の椅子を軽く引く。
せっかく会えたのだから、落ち着いて言葉を交わし合いたかった。
たとえ彼女がどんな姿でどんな名前を名乗っていたとしても、その気持ちは変わりない。

312朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 22:33:44
>>311

>じゃあ、少しお話しましょう
> ――モーニングマウンテンさん

 「ふーーーっ!! うんっ!! お話をするっス!
楽しくお喋り!! 時が経つのを忘れ、私の正体が何者か気になる事すら
忘れるぐらいに駄弁りふけるっス!!」

 (ふーーーっ!! 第一段階成功っス!! 名付けて
たのしーお喋りで、朝山と呼ばれ振り向いた事を忘れる作戦!!!
 まず、最初に声を掛けられ振り向いたのが不味かったと思うっス!!!
ここは悪の妙技である、108式の話術で手玉にとるっス!!!!)

 「いやー、それにしても残暑が厳しいのなんの!!!
うちの権三 じゃなかった うちの犬もよく一緒に散歩にいくっスか
こー暑い日が続いてると、まいにちヘッヘッ ヘッヘッと舌を出してるっス!
 そして、悪のパンフレット配りも余り成果が伸びてないんっス。
御菓子やジュースと、目玉商品も幾つか挙げてるんっスけど……まぁ、これからっス!!」
 
 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

 ポーズと共に、諦めず悪の広告活動を続ける宣言をするっス!!

「えーっと、それで、こい  じゃなかった。
初対面のおねーさんは、どうやら悩みを持ってるような雰囲気を……ん? 
 こう言う、やりとりを少し前にした事がある気がするっス 忘れるっス!!
とりま、私は改めて告げるが悪の首領なーんっス!
 と〜〜〜〜っても恐ろしい存在なんっス!!!!
今なら、この悪の首領にインタビューする事も考えない事もないっス!!」

 エッヘン! と胸を張って悪の首領は小石川おねーさんに
インタビューを答える姿勢を構えている。

313小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 23:21:48
>>312

  「――ええ、これから季節の変わり目で体調を崩しやすいから……。
   風邪を引かないように気を付けましょうね」

話に耳を傾けながら、その合間に軽く頷いて相槌を打つ。
こうして人と話すのは、とても楽しい。
彼女の元気な声を聞くと、こちらも元気を分けてもらえるような気がして、自然と口元が綻ぶ。

  「さっき、講演会という言葉が聞こえたのだけど――」

  「よかったら、そのパンフレットを見せてもらえないかしら……?」

彼女が名前と素顔を隠していることについては追及するつもりはない。
けれど、彼女が行っている活動には関心を引かれた。
宣伝しているのなら、尋ねても彼女を困らせることになりはしないと思う。

カラン……

  「――喉が渇いていると思ったから注文したの。
   レモネードが苦手じゃなければいいんだけど……」

ウェイターの手で、テーブルにグラスが置かれた。
縁にレモンの輪切りが飾られている、よく冷えたレモネード。
暑い中でマスクをしていれば、きっと喉も乾いているだろうと思ったため、注文したのだった。

314朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 23:39:47
>>313

 「うんうんっ! 風邪は万病の元と言われるっス!! 油断は出来ないっスからね〜!
こいし じゃないっス そっちのおねーさんも体調には気を付けるっスよ!! パワフルっス!」

 「わあ! レモネードっス! おねーさんは親切っス! ありがとーっス!!
ウェイターさんもありがとっス!」

諸手をあげてレモネードを飲む! マスクを被ってもなんのその! ちゃんとストローでマスクを
完全に外さないように飲む術は備えているのだ!!!


 そして、パンフレットは小石川の手に一枚託された……。

 『  悪の組織の首領モーニングマウンテンの講演会!!
〇▲星見〇丁公園にて、〇月◇日に悪の講演会をするっス!

世の中には不思議な力があるっス! その不思議な力を集約して
願い事をすると、どんな願いもたちまち叶う可能性があるっス!
モーニングマウンテンは、その可能性を高める細やかな活動内容を
星見公園にて話したいと思うっス!!
 美味しい星見金平糖やジュースもいっぱい用意してるっス!
みんなたくさん来てほしいっスーーーーー!!!     』

 ちゅ〜〜〜〜!!

 「ン  まーーーいっ! いやー、暑かったから
冷たいレモネードはとても美味しいっス!!」

 ぷはー!! っと、モーニングマウンテンは人心地ついている。

315小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 00:16:24
>>314

  ――不思議な力……。

その文面に目を通し、ある一ヶ所に気にかかるものを感じた。
ここに記されている不思議な力には心当たりがある。
自分も、その力を持っているのだから。

  「――モーニングマウンテンさん」

  「あの……。
   この不思議な力というのは、どんなものなのかしら……?」

目の前の少女も自分と同じような力を持っているのだろうか。
そんな考えが、ふと脳裏を掠めた。
でも、そんな偶然が……?

  「――願い事が……叶う……」

  「もし――もし、本当に叶うなら……」

おもむろに目を伏せ、思いを馳せる。
考えないようにしようとしても、無意識の内に考えてしまう。
私の願いはただ一つ。
彼の傍らで、彼と共に在りたいということだけ。
それが叶ったら、どんなに素敵なことだろうと思う。

  「いいえ……。何でもないの……」

彼が生きていてくれたら。
そんな叶うはずのない願いを考えてしまった。
そう、そんなことは叶うはずがない。
できるとすれば、私が彼の下へ行くことだけだろう。
でも、それは許されない。
静かに深呼吸し、グラスのミントティーを口にして気分を落ち着ける。

  「――美味しかったのなら、良かったわ」

隣席の少女の元気さに励まされ、気を取り直して微笑みを浮かべた。

316朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/08(金) 21:58:18
>>315

>この不思議な力というのは、どんなものなのかしら

「うんっ? あぁ、それはっスね!
『スタンドパワー』って奴なんっス!!
 人の精神力で出来ているって言うパワーで。普通の人には見えないんっス!
ものすごーいパワーだったり、ものすごい変わった力もあるんス!!」

 小石川おねーさんは友達っス! スタンドについても詳しく丁寧に教えちゃうっス!!

 >願い事が……叶う

 「そうなんっス! 願い事が叶うんっス!!
今はまだ詳しく言えないんスっけれど。すごーい人数の
スタンドパワーを持つ人が揃うと、どんな願い事も叶う事が出来る方法を
 このモーニングマウンテンは知っているんス!
まーだまだ先は長いっスけどねぇ。けど、私は星見町を征服し
宇宙統一の夢を実現する為に、日々切磋琢磨してるんっスよ!」

 チュ―――― とレモネードを飲みつつ力説するっス!!!

このドでかい野望を聞き、小石川おねーさんも震え上がる筈っス!!

317小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 22:53:36
>>316

  「そう――」

  「頑張ってね」

何でも願いが叶う。
この世には、そんなスタンドも存在するのかもしれない。
もし、そんなものがあるなら、私は……。

  ――いいえ……。

本当にそんな力があったなら、きっとそれは、もっと多くの人達のために使われるべき力。
私一人のために使われるべき力じゃない。
でも……その力が目の前にあったとしたら……。

  ――この気持ちも……変化してしまうかもしれない……。

  「――スタンド……」

  「あなたも……それを持っているのかしら?」

  「……私も――それを持っているの……」

小さな声で、ぽつりと呟いた。
その声は、街の賑やかさの中に溶けて消えていく。
これが聞こえたのは、隣に座る少女だけだろう。

318朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/08(金) 23:14:43
>>317

>頑張ってね

 「うんっ! 頑張るっス!!
何てたって私は悪の組織の首領! モーニングマウンテンっスからね!!
 どんな困難が待ち受けていようと、夢を叶えるっス!!!」

 シャキーンッッ!!!

 決めポーズも華麗に素早く行う! これぞ悪の瞬足っス!!

 >「――スタンド……」
>「あなたも……それを持っているのかしら?」
>「……私も――それを持っているの……」

 「……?」

 ボスッ。

 朝山は椅子に座り直し、まじまじと小石川を見つめる。
ホッケーマスクをしてる為、表情を読み取るのは難しいが。

 「おねーさんもスタンド使いなんっスか? 
けど、なんか  嬉しくなさそうっス。寂しそうなんっス」

 スタンド使いの仲間なんっス!! と、エクリプスダンスをするような
感じじゃないっス。何だか、スタンドを持ってる事が苦しいような感じっス。

319小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 23:52:19
>>318

  「私は大丈夫だから……」

  「ただ――」

  「いいえ……大丈夫よ」

私の心には、死を望んでいる部分がある。
けれど、私は生きなければいけない。
その相反する想いの狭間から、『スーサイド・ライフ』は生まれた。
だから、自分のスタンドのことを考えると、心の中にある迷いを改めて思い出してしまう。
この感覚は、いまだに消えていない。

  「だから――」

  「だから、あなたも元気なままでいてね」

  「それを見ると、私も明るい気持ちになれるから……」

胸の内に生じた迷いを押し殺し、少女に向けて微笑む。
彼女を心配させたくないから。
瞳の奥に一抹の寂しさを残しながらも、できるだけ明るい笑顔で。

320朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/09(土) 00:11:57
>>319(ここら辺で〆たいと思います。お付き合い有難う御座いました)


 「――うん わかってるっス!
私は元気なんっス パワフルなんっス!!
 みんなに元気と笑顔をいっつも分け与えるっス!」

 シャキーンッ!!

 「だから、おねーさんも悩みがあっても大丈夫っス!
私が 何時か いつか必ず夢を実現する時。
 

   おねーさんの夢を一緒に叶えてあげちゃうっス!! 


 そうっス! これは物凄く画期的で悪らしい願いっス!!
クックックッ! 他人の夢も総取りして一人占め! なーんて悪らしいっス!」

 パッ!! 悪の首領モーニングマウンテン!
喉の渇きも完全に無くなり、疲労も薄れた! 次の地区でパンフレットを配るのだ!

 「それじゃあ、また今度っス!
このモーニングマウンテン! 常に夢を叶える為に全力疾走っス!
 うおおおおおおぉぉ!!! パワフルっスぅぅううううう!!!」

 朝山、もといモーニングマウンテンは。小石川が呼び止める間もなく
人垣の中へと消えていく。テーブルにはレモネード代の5百円玉が置かれていた。

 例え、それがどんなに叶える望みがなくても。悪を名乗る朝日の少女は。

突き進むのだろう。その夢(太陽)に向かって

321硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/14(木) 20:41:05


     「…」  

「営業努力もしないくせに、
 地元愛を主張して家電量販店や大型スーパーを
 目の敵にするような個人経営の店は淘汰されても当然だと思わないか」


個人経営のゲームショップ、
伸び放題の金髪に、耳にびっしりピアスを付けたヤンキーが、
店の奥に1台だけ設置された『女児向けゲーム』の筐体用の
長椅子に腰かけボケっとしている。客は誰もいない。

322稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 00:07:16
>>321

         ガラララ

「………………」

眼鏡を掛けた黒髪の少女が入店した。
服装はボーイッシュ。学校帰りの雰囲気じゃない。

・・・こういう個人経営の店には、
たまに掘り出し物があったりする。

(うわっ……DQNだ。モンスターハウスか?
 一人っぽいけど……どっちにせよこわちか)

           トコ
              トコ

なるべく気づかれないように歩く。

まあ足音で気づかれるだろうし、
スパイゲームをするつもりもない。

(…………あんま良いのないな)

手のひらを反すのが早いけど、
まあ、最初から過度な期待はしてない。

(まあ、宝はダンジョンの奥にある……
 常識的に考えて、ボスもいるもんだけど)

店の奥を見るため、『硯』の方に否応なしに近付く。

323硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 05:09:25
>>322



「ふぁぁ」

大きな欠伸を漏らした所で、
恋姫が入店した事に気付き、立ち上がる。


「いらっしゃいませ。何をお探しなんだい。
 『Switch』が欲しいならお一人様一台までで、取り置きはなし。
 昔のゲームが欲しいならばそこのワゴン。
 武器は、装備しなきゃあ意味がないぜ」

324稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 16:20:37
>>323

「………………店員だったんだ」

(人は見かけによらないってやつだ……)

――シンボルエンカウントのゲームで、
盗賊のグラフィックだと思って避けたら、
それが道具屋の店員だったって感じだ。

店員だと分かったら話は早い。

「マジで……switchあるんだ。
 SSRな店引き当てちゃったな……」

     「えひ……まあ、でも今日は」

そういうわけで、中古ワゴンへ。
こういうところに謎ゲーがあるのだ。

             ガサ

「なんかクソゲー欲しいんだよな、
 ドン引きするようなやつ…………」

    ゴソ

      「呪いの装備的なぁ……」

ワゴンの方に歩み寄って、古いゲームを探す。
ハードは気にしない。たいていは揃えているし。

325硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 19:27:25
>>324

「俺は店員じゃあないよ。
家の手伝いをしている玩具屋の小倅だ」

ゆら ゆら

「今日は同じ商店街の幼馴染達と一緒に、
映画を観に行った後にカラオケに行く予定だったんだが、
俺だけ貧乏くじを引かされて店番を、しているんだ」


恋姫の横に立ち、最近据え置き機からファミコンまで
ありとあらゆる『ワケあり』のゲームが詰まったワゴンの中に手を突っ込み物色する。

「これはどうだい。中々に面白かったんだが。
『モンスター・オブ・ザ・デッド3』」

硯が取り出したのは、デスメタルのアルバムのような気味の悪いイラストが描かれたセガの家庭用ソフト。
『モンスター・オブ・ザ・デッド』ーー
現在は既に倒産しているメーカーが20年近く前に発売したガンシューティングだ。

1990年代、当時ゲームセンターでは『タイムクライシス』や『HOD』等の銃型のコントローラーを画面に向けて撃ってゾンビやテロリストを倒す、
自動スクロール型の体感ゲームが大流行しており、
メガスマッシュを叩き出した同ゲームが家庭版に移植されるや否や、
同業他社が二匹目のドジョウを狙おうと粗悪なパクリゲーをこぞって出して、互いに潰しあっていた。
この『MOTD』もその内の1つである。

MOTDも粗悪なパクリゲーの例に漏れず、突貫工事で作られた為、
理不尽な難易度に加えてデバックをしたのかと疑う程のバグの多さ。
それに加え、『ゾンビ』や『テロリスト』ではなく『黒人』や『モンペのババア』や『ルンペン』を狙撃する、
という明らかに倫理的に問題がある内容にユーザーから苦情が殺到し、
メーカーが発売して1週間で自主回収した為、
現在も市場には殆ど出回っていない幻のシロモノだ。

326稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 22:37:06
>>325

「ふうん……まあ、敵キャラじゃないなら……
 店員でもお手伝いでも僕はいいんだけど……」

(…………リア充なのは見かけ通りか)

             ガサガサ

ワゴンを探りながら、生返事気味に返した。
そして――現れた『怪物』に目を向ける。

「うっわ……」

モンスター・オブ・ザ・デッド。
ドン引きしたのはジャケットの趣味だけではない。
そのネットの海に轟く悪名と言ったら、まさに四天王だ。

しかも、これは『3』――もはや伝説の存在。

「うわ……やばぁ…………
 ガチで呪いのアイテムキタコレ」

「プレミアついてるやつだろ確か……悪い意味で伝説だぜ」

散々な評価をするが、興味はある。
倒産の原因とも囁かれるまさしく呪われた一本。
内容も凡百の『つまらないだけ』の物とは一線を画する。

べつにクソゲー愛好家というわけではないのだが・・・
名作や良作に慣れ切ったゲーム歴に刺激をくれる気がする。

327硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 23:04:53
>>326

「凄いだろう。
 何が凄いって、『モンスター・オブ・ザ・デッド3』と
 銘打っておきながら実は『1』が出ていないって所だ。
 
 いきなり『2』から出ているってのは周知だろうが、
 あまりにも出荷が少なくて誰もどんなゲームか知らないんだ。
 続編だと思わせて買わせようとしたのかな。
 ……倒産した今となっては真相は霧の中だが」


            「そうだ」 ガサゴソ


更にワゴンを漁り、中から縦長のパッケージを取り出す。
プレイステーション2のソフトだ。

「こいつは凄いぞ。
 『ライジング娘。無双』だ」


『ライジング娘。無双』――
『戦国』やら『三国』やらのシリーズでお馴染みのメーカーが、
まさかの『ライジング娘。』(※)とコラボ。
(※当時メディアを席巻していた国民的アイドルグループ)
当時、既に完成されていた『無双』のシステムを流用しているので出来は秀逸だが、
毒にも薬にもならない様な歌をBGMに、
アイドル達が画面狭しと暴れまわり『悪魔』達をなぎ倒していく様はまさに『バカゲー』。
メインターゲットであるアイドルのファンは勿論、
アイドルに毛ほども興味もないゲーマー達をも虜にし、
現在も動画サイトに『TAS』の類の動画が頻繁に投稿されている。

――もっとも発売から数年後に、
登場するアイドルの1人が『大麻取締法違反』で逮捕され、
更に別のアイドルの弟が『銅線窃盗』で逮捕されたり、
つい最近では『政治家』との『不倫』が『文春砲』されたりなど、
登場するアイドルが軒並み『悲劇』に巻き込まれたりしているが。

328稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 23:33:30
>>327

「……伝説を始めようとしたんじゃね。
 『ドラクエ』の時系列は3から始まる的な」

恋姫は微妙な顔で適当な事を言った。
……いくら『クエスト』にしたって、
難易度が高すぎる試みだろうが。

ともかく『クソゲー』部門はこの魔物がノミネートだ。
今後も恋姫の中から消えないタイトルになるはず。

             ガサ
                  ゴソ
「……ん?」

「……うわっ 『ライ娘無双』じゃん」

プレイしたことは無いが……知っている。
コアなネットユーザーの中では語り草だ。
クソゲーではないが、バカゲーとして名高い。

仕事を選ばない姿には一種の尊敬があるが、
壮絶な『棒読み』と無個性なキャラ性能は、
彼女らの心の内の何らかの哀愁を感じさせる。

「……ある意味リアルも無双だったよな。
 記者が無双ゲー並みに集まってたし……」

「ま、そんだけ人気あったんだろうけどぉ……」

リアルじゃそのまま、ゲームオーバーというわけ。
同じ『アイドル』としては、複雑な心境だ。
もっとも無実の罪とかではないので同情は薄いが。

「……今日はその二本にしとくかな。
  ……もう無いよな? 今のでラスボス?」

       「これ以上はハードすぎるぜ……」
 
とはいえ最近のゲームというのは裏ボスが付き物。
恋姫としても怖いもの見たさでワゴンを漁る手は止めない。

329硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/16(土) 00:03:22
>>328

「『ゴキマ』が弟の為に責任取って引退した時、
 近所の寿司屋の娘はこっちがヒく程泣いていたよ。
 俺は、そのゲームでしか『ライ娘』を知らなかったから、
 何の感情も湧かなかったんだが」

            
                「俺は、冷徹なのかな」


指の背で耳をびっしりと埋めたピアスに触れ、
考え込むような仕草。

「いや、ラスボスは別に居る。
 確か、まだ売れ残っていたような…
 ええと、確かこの辺に、あった気が」

             
             「あった」

取り出したのはパッケージにタイプの違う何人もの美少女が、
扇状に並んだイラストが描かれた、『君と僕に降り注ぐ愛の唄』(通称:きみうた)。

『きみうた』――そのジャケットのイメージ通り、
『恋愛シミュレーション』に分類されるゲームなのだが、
開始5分でメインヒロインが主人公の顔面目掛け『嘔吐』するシーンから始まり、
告白してきた『女教師』とのラブシーンで腸を食われ、
また別のルートでは『幼馴染』のツンデレ美少女が『ミサイル』に『変形』して、
唐突に出てきた『黒人マフィア』の基地目掛け飛んで行ったり…等、
頭が狂ったとしか思えない『イカした』展開が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

また恐ろしい事にメーカーはそれらの『超展開』の情報を
意図的に伏せており、発売当時『本スレ』は『阿鼻叫喚』。
インターネット上では『伝説』となっているゲームである。

330稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/16(土) 20:37:43
>>329

「……僕は『ライ娘』知ってたけど、泣きはしなかったしぃ。
 知らないアンドファンじゃないならそんなもんじゃね……?」

     (そんだけ泣いてもらえるなら、
      アイドル冥利には尽きるだろうな……)

考え込む様子には、それほど強い感情を持たなかった。
何の感情も沸かない――という言葉を『誇張』と捉えたから。
その寿司屋の娘に同情するとか、そういうのはあるんだろう、と。
それに冷徹だとしても、ゲームを買うのには関係ないと思ったから。

「うわぁ……いるんだ。真ラスボス…………えひ。
 ラスダンの一番奥まで来て、帰るルートは無……」

              ジロ

現れたパッケージに視線を向けて――
すぐにそれの正体に気づいた。知っている。
 
          「うおッ…………!」

例えばテレビで見た犯罪者とばったり出くわしたような。
というより、天井からいきなりゾンビが降って来たような
顔に似つかわしくない呻き声が出た。ここに演技は無い。

「『君と僕に降り注ぐ愛の唄』……………………」

           タジッ

――『公式が病気』

        ――『皆のトラウマ』

                   ――『風邪ひいたときの夢』

「プレイ動画は見たことあるぜ……パート2で投げたけど…………」

そんな安い文句は無数につけられていて、しかし形容しきれない。
恋姫も実物を手に取るのは初めてだ。手に取りたいと思わなかった。
グロテスクな表現が好きなことを偉いと思わないし。……何か禍々しいし。

「ラスボスっていうか……
 エンカしたら即死のトラップだろこれぇ」

                   ゴク

          「…………買おうかな、これも」

とはいえ、ワゴン価格で買えるなら……悪くない。気がする。『授業料』としても。

331硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/17(日) 22:26:55
>>330


     「違うんだ」

     「こいつの『魔力』はプレイ動画で、
      観るだけでは伝わらないんだ」

      トン トン

パッケージに描かれた、
リボンを巻いた紫髪の美少女を刺す。

「ネットで一番有名であろう、
 この『金城沙希絵』ルート。

 登校途中の幼馴染がいきなり宇宙人にロボットに改造され、
 好感度を上げる程に増えていくヒロインの『武装』。
 主人公への愛を形で実感できる事に喜ぶ沙希絵だが、
 いつ完全に『機械』へと変質してしまうのか恐れる日々。
 
 両想いになってからも彼女の『変質』に葛藤する主人公。
 そして主人公の手元には彼女の『自爆スイッチ』。
 沙希絵が『機械』になる前に『救う』事はできる。
 だが、沙希絵を殺す事などできない。、
 ヒロインの生殺与奪を常に握りながらの薄氷の上のような学園生活」


              「外していないんだ」

              「こんな『荒唐無稽』な展開ばかりなのに、
               どのルートも『ギャルゲー』として、
               とてもとても面白いんだ。
               笑い有り、涙あり、そして心に芽吹く甘酸っぱい感情」

「特に『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』の
 ルートは素晴らしい。
 このゲームはプレイしないと分からないんだ。

 3枚合わせて1000円で良い。
 君も、是非プレイしてみてくれ」

332稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/17(日) 23:19:34
>>331

「あ〜〜…………………すまん、我ながら、ニワカおつだった」

『きみうた』については『当然の感覚』がマヒしていた。
言うなれば単なるコンテンツ……話のネタでしかないと。

「買ってやってみなきゃ、ゲームは語れないわな。
 ……だから、ネタバレはそれ以上NG。
 僕の手で全ルート通るから…………その後語ろう。えひ」

        「…………はい、1000円な」

財布から1000円札を出して、陰気な笑みを浮かべる。

違うのだ。『ゲーム』なのだ。そして自分はゲーマーを自負している。
プレイせず語るなど『未プレイ乙』の一言で切り捨てられる塵芥。

(…………『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』
 名前でおなかいたくなることはあったが……攻略する事になるとはな……)

                (……やってやんよ)

ひそかに決意を固めつつ、今日の買い物はこの辺にしておこう。

「……今日は掘り出し物だった……良いゲーム屋だな、ここ」

           「…………あー、ありがとな。
             選んでくれて……また来るぜ」

       ニタ

笑みの陰気さを深めつつ、店の入り口へと踵を返す。
特に止められたりしなければ、このまま店を出て家に帰ってゲームをオンだ。

333硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/17(日) 23:28:05
>>332


 「プレイしたらまた来てくれ。
   俺の友達は、ゲームなんてしないから
   語れる相手が全然いないんだ」


1000円札を受け取ると、
ゲームをビニール袋に入れて手渡す。


   「俺は『硯 研一郎』。
    大抵この辺で遊んでいるから、
    いつでも来てくれ。
    今度はお茶でも出そう」

ポケットに手を突っ込み、
恋姫の背中を見送る。


「ありがとう、
 ございました、だな」

334稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/17(日) 23:58:03
>>333

人は見かけによらない――ゲームも同じ。
今日は改めてそう言う事を分からせられた。

まあ、人生観が変わったとか大袈裟な話じゃないけど。

「僕も……ゲームの話をする相手は、
 いくら多くても、多すぎる事はないし……」

            トコ

                 トコ

     クル

振り向いて、自己紹介に応える。

「僕は稗田……『稗田恋姫』
 この辺は……あんま来ないけど……
 これからは、行き先一個できた。えひ」
 
            「んじゃ…………また」
  
                       トコ  トコ
       
         ガララララ
                バタン

335神『フライト800』:2017/09/23(土) 00:32:59
「ほほぉ……いや、なるほどねぇ」

俺はストリートミュージシャンという奴を見ていた。
俺ぁ別にそういうのに深い興味ってのはあんまりないんだが。
何事も知ることが大事ってのがあらぁな。

「そろそろ寒くなってんのにご苦労さんだ」

吹く風は少し冷たい。
羽織を着なきゃあちょっと辛い季節だ。
和服を着るってのも色々季節に合わせた生地を選んだりして面倒だ。
嘘だが。

さてそろそろと帰ろうか。
にしてもこういうのを見てる奴ってのはどんなやつなんだろうな。
ストリートミュージシャンの演奏に足を止める奴っていうのは。
俺はビー玉の入った金魚鉢を小脇に抱えながら周りをぐるりと見渡した。

336夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 21:29:08
>>335

「ふむふむ」

神が視線を向けた先――
演奏するストリートミュージシャンの近くに、少女が一人しゃがみ込んでいる。
頭にはリボンのように巻いたスカーフ、目元に薄い色のサングラス、指にはネイルアートの付け爪。
好奇心の強さを伺わせる興味津々といった眼差しで、演奏の様子を見つめている。

   パチパチパチ

笑顔で合いの手を入れているところを見ると、楽しんでいるようだ。
ふと、少女が顔を上げて、神の方を向いた。

「――へぇぇ……」

ミュージシャンに向けていたのと同じような興味深そうな視線で、神の格好を見つめる。
どうやら和服を珍しいと感じたらしい。
その割には、じっと見すぎている気もするけど。

337神『フライト800』:2017/09/30(土) 22:27:37
>>336

なんだあの子は。
なるほどな。今時の子って感じだな。
俺ぁ別にああいうファッションに興味があるわけじゃねえがね。

「あ?」

んだぁ?
こっち見てんのか。
何が面白くてこっちを見てんだろ。俺は見せ物じゃないんでね。

あ、もしかしてこの金魚鉢か。
まぁなんでもいいが。

「おいあんた。どうした」

声ぇかけてみるか

338夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 22:56:59
>>337

「はっ」

声をかけられて、我に返った。
何か変わったものはないかと、町へ出かけたのが今から少し前のこと。
そしたら、ストリートミュージシャンを見かけて思わず足を止め、見入ってしまった。
耳で聞いたことはあっても、目で見たのは初めてだったから。
今に至るまでの経緯は、だいたいそんなトコです。

「いやー、別にどうしたってこともないんだけど――」

今日の私はツイてる。
なんだかまた珍しそうな人に出会えちゃった。
そこで、遅ればせながらビー玉入りの金魚鉢に気付いた。

「――それは?」

金魚鉢を指差し、不思議そうに尋ねる。
なんで金魚鉢?なんでビー玉?ついでになんで和服?
疑問が重なる度に好奇心が募り、心の奥から泉のように湧き上がって来るのを感じる。

339神『フライト800』:2017/09/30(土) 23:28:49
>>338

「あ?」

特に何も無いのか。
近づいて損をしたかもな。
まぁなんだって俺ぁ構わないんだがねぇ?

「ん」

「これか。金魚鉢だよ」

「師匠の無茶振りだ」

340夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 23:58:04
>>339

「金魚鉢なのは分かるよ。金魚入れるヤツでしょ。入ってないみたいだけど」

「私が知りたいのは、なんで金魚鉢にビー玉だけ入ってるのかってこと。それ、ビー玉だよね?」

サングラスの奥の瞳が、ビー玉の群れを見つめる。
目が見えるようになってから、ビー玉を見たのは初めてだった。
知識としては知っていた。ガラスで出来た小さな球で、色んな種類がある。
だから、なんとなくそれがビー玉だと分かった。
触ったこともある。ツルツルしてた。
でも、見たことはなかった。

「透き通っててキレイだね。初めて見た」

「で――」

「あと、どうしてそれを持ち歩いてるのかっていうのもフシギな感じ」

「シショーって何の?」

口では別にどうってこともないと言いながら、表情は興味津々だ。
その証拠に、次々に質問が飛び出してくる。

341神『フライト800』:2017/10/01(日) 00:14:26
>>340

「あーあーあーあー」

「ちょいと待ちない」

一度に言われるとどれから答えたもんかわかんねぇな。
二度三度と手を振って待ったをかける。

「まずは手前の事からだな」

ちょっとテンションを上げねぇとならんのがしんどい話だ。
どうにもスイッチが入らねぇと飽きちまいそうで。

「あー……知らざぁ言って聞かせやしょう」

                セイサイテイ             ヒトイキ
「私はこの星見町に根付く星彩亭一門に属する星彩亭一生っていうのさ。ま、落語家さ」

「この一生ってのは師匠からもらったありがたぁい高座名でねぇ」
                                                        カミキヨイ
「私の本名が神ってかいてジン、清いって書いてキヨシでジン・キヨシ。この二つをくっつけて神清」
           ジンセイ
「読み方を変えて人生としたはいいがこれじゃあ捻りがねぇってんで、一生とかいてヒトイキと読ませた」

そこまで一息。
まぁ慣れた自己紹介っていうもんだねぇ。
神清が人生になって一生ときた。
またこっちはこっちで読み間違えられることが多くて嫌なもんさね。

「それでこの金魚鉢が星彩亭名物、『師匠の無茶振り』またの名を『精彩問答』」

「師匠がこれこれこうでなんとする・なんというと聞いたらば、我々弟子が頭を捻って答えを出す訳なのさ」

「今回のお題は『金魚鉢で泳ぐビー玉。この色味、美しさをなんという』と来たもんで」

「答えは何かと思って持ち歩いてんのよ」

342夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 00:50:34
>>341

   パチパチパチ

その芸達者な自己紹介に思わず拍手した。
だけど、今の状況ちょっとスゴくない?
横を向けばミュージシャン、正面を見れば落語家。
そして、その二人に挟まれてる私。
街角の小さなワンダーランドって感じするもん。

           アリス
なんていうか――『私』の冒険、絶好調。
あ、ストリートミュージシャンの人からは少し離れよう。ジャマになるし。

「じゃ、ヒトイキさんって呼べばいいの?」

「なんか全然知らない世界って感じでさ――」

「すっごいキョーミあるぅ」

今までの人生で全く縁のない世界。
好奇心がツンツン刺激されてくる。
いつか見てみたいな。

「そんなのあるんだ。金魚鉢で泳ぐビー玉……。んー」

「……ダメ!難しすぎる!アタマ痛い!」

考えてみても答えは出ない。
どうにも自分には向いてないようだ。

「あ――私、明日美。夢見ヶ崎明日美」

「夢見ヶ崎家に属する普通の高校生」

「美しい明日って書いて明日美って読ませてる。
 お父さんとお母さんにもらったありがたい名前」

343神『フライト800』:2017/10/01(日) 01:29:14
>>342

「ははぁこれはどうも。あんたいい子だねぇ」

まぁ普段だったら絶対に話しかけやしない相手だろうけどねぇ。
……別に私、普段誰かに積極的に話しかけたりもしないんだけどね?

「そうヒトイキで結構」

「……正直言うとね、この問答に答えなんてないのさ」

師匠を納得させたり笑わせる答えが必要って事ね。
だから適当な事を答えにしてもいいわけさ。

「明日美……夢見ヶ崎明日美……んー」

「私人の名前覚えるのって苦手なのよねぇ」

「そういや、さっきは流しちまったけど、ビー玉見たことなかったのかい?」

344夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 01:54:52
>>343

「答えがない問題かぁ……。
 そうだよね。落語ってそういうもんだもんね」

「じゃあさ――
 『こりゃあキレイな金魚だ。
  丸くて色んな色があって、まるでビー玉みたいじゃないか』なんてのでもいいのかな?」

頭を悩ませ、どうにかこうにか一つひねり出した。
これが落語になるかどうかと言われると自信はないけど。

「ふーん……じゃあ、『アリス』でもいいよ。
 私が自分で考えたニックネームだけど」

見えない世界にいた私が、ある日突然見える世界にいざなわれた。
私にとって、この世界は不思議でいっぱいのワンダーランド。
だから、私は『アリス』。

「そう――初めて見たよ」

「でも、ビー玉ってものは知ってたし、触ったことはあったんだ」

「そうだ、ヒトイキさん――問答のついでに、この問題の答え当ててみてよ」

そう言って、ほんの少しだけ悪戯っぽく笑う。

「たぶん、その問答よりは簡単だと思うから、ヒントはいらないよね?」

345神『フライト800』:2017/10/01(日) 02:17:39
>>344

「そ、答えがないの」

「考えてたらどうどう巡りよ」

腕を組んで首を傾げてもなんも見えては来ないのよ。
餅屋問答みたいにうまい具合に運ばないかねぇ。

「お? それでもいいねぇ。困ったらそいつを使わせてもらうかしら」

答えがないなら何言っても問題はないのさ。
いい悪いがあるだけでね。

「へぇアリスか。それでいいや。アリスちゃん」

「あら問題かい? まぁ、私は構わないけど?」

346夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 02:39:28
>>345

「どーぞどーぞ」

候補に採用されるとは思わなかった。
言ってみるもんだね。
特に何かあるわけじゃないけど、こういうのってちょっと嬉しいよね。

「問題はね、私――アリスはビー玉を知ってたし触ったこともあったけど見たことはなかった。
 その理由を当ててみて、ってこと」

「問答じゃないから、答えは一つしかないよ」

「挙げるならいくつでもいいんだけどね」

「分からなかったらヒント出してもいいかな」

347神『フライト800』:2017/10/01(日) 03:05:32
>>346

「知ってたし、触ったこともあった」

「別にアリスちゃん、なぞかけの類をしているわけじゃないんだろう」

だったらその色のサングラスっていうのを見ればちょっとはピンと来るんじゃないのかい?

「あんた、目が見えなかったんじゃないかい?」

「どうだい」

348夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 00:45:25
>>347

「あー、やっぱり簡単だったかー」

小首を傾げ、笑いながら軽く頭をかく。

「そーいうコト。見えるようになったのは最近なんだ」

「でも目が強い光に弱いから、コレが必要ってワケ」

そう言いながら、サングラスを指でつつく。

「初めて見えるようになってさ、世界が変わったって感じだったね」

「正確には世界は何も変わってなくて、ただ私が変わっただけなんだけど――」

「ホントに別世界だよ。見たことないものばっかりなんだもん。場所も人も物も、何もかもぜーんぶ」

「まるで不思議の国に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『アリス』ってワケ」

349神『フライト800』:2017/10/02(月) 01:15:52
>>348

「なるほどねぇ」

見えないもんが見えるようになったわけか。
私は見えてたもんが見えなくなったがね。
まぁ、わざわざアリスちゃんに言ってやることでもないが。

「アリスの由来ってのはそういうわけかい」

「じゃあ私はさしずめチェシャ猫ってところかねぇ」

くっくと笑って見せる。
もっともマッドハッターの方が私の性には合うが。

「……アリスちゃん」

「私が不思議の国に連れていってやれるよ」

350夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 01:40:56
>>349

「いーね、それ。似合ってるかも。うん、いい感じ」

くすっと笑う。
友達に向けるような屈託のない明るい笑い。
礼儀に欠けるとも言えるけど。

「――んー?」

「どこか面白い場所でも紹介してくれるの?『チェシャ猫』さん?」

「だったら、落語に関係してるトコがいいな。見たことないし」

「ホントは知らない人についてっちゃいけないんだけど――」

「なんてったって、私は『アリス』だから」

軽く服を払って立ち上がり、もう一度笑う。
ストリートミュージシャンが奏でる曲が、辺りに響いている。

351神『フライト800』:2017/10/02(月) 02:07:27
>>350

「ん。ん?」

嘘だと言おうと思ったがこう返されちゃ応じるしかないねぇ。
いや我ながら墓穴を掘ったし、面倒なことになった。
掘りたくないもんってのは墓穴とオカマと相場が決まってんだ。

「しょうがないねぇ」

「ま、うちの一門の所に連れてったげるよ」

「ただで落語聞けるよ。代わりにあんたも精彩問答に加わってもらうけどね」

この金魚鉢の中のビー玉。この色味、美しさをなんという。
……透き通る美しさ。天も地もなく輝き、鉢の中に宇宙を創る。
私この宇宙に夢中でございます……なんて、イマイチ極まりないわね。

「さ、行きましょう」

352夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 02:31:44
>>351

「やった!うん、行く行く!」

相手の心境など知る由もなく、明るい表情で大きくうなずき返す。

ショージキ断られるかなーと思ってた。
自分でも無茶振りだとは思ったし。
でも、断られなかった。
きっとヒトイキさんはいい人なんだ。

「うえー、それはキビシーなぁ。まー、タダじゃしょーがないよね」

ま、なんとかなるでしょ。
そう考えて、アリスは期待と好奇心を胸に、新しい世界に向かって歩きだしたのでした。
そのお話は、また今度――。

353小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/26(日) 22:53:36

探偵のようなコートと帽子で秋の街を歩く少女が一人。
銀の髪、茶色い瞳、ふくろうのような顔は自前だが、
コスプレ感を増す――ハロウィンはもうとうに過ぎたのに。

(やはり寒い季節はいいな、コートが自然に着られるし)

              トコ トコ

とはいえ本人は大真面目で、照れもない。
奇抜だが、ファッションの範疇にもとれる。
これが夏ならやばかったが、秋なのでセーフだ。

       「ん」

そうこうしていると、小角は立ち止まる。
――――気になる物が目に入ったから。それが>>354だ。

354夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/26(日) 23:42:19
>>353

――小角が向けた視線の先には、一人の少女がいた。

まず目に付くのは、大きめのサングラスだ。
頭にはリボン代わりの派手なスカーフが巻かれている。
服装は、上はブラウスとジャケット、下は吊りスカートにタイツ。
両手の指にはネイルアートの施されたカラフルな付け爪。

たとえるなら、『不思議の国のアリス』をパンキッシュにしたような格好だった。

「――ん〜〜〜」

その少女は、正面を向いていた。
視線の先には小角がいる。
明らかに、彼女は小角の姿を見ていた。
それも、ちらっと見ているという程度ではなく、まじまじと。
悪感情が感じられるような見方ではない。

ただ――目立つことは間違いない。

355小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/26(日) 23:55:39
>>354

「………………」

(め、珍しい恰好だな……まるで『アリス』のようだ。
 いや、それより彼女の視線。わたしを見ているのか?)

            「……お、オホン」

   スタスタ

小角は咳ばらいをしながら、やや早足で近寄った。
別人を見てました、ということもないだろうと考えて。

「わたしに、何か用かな? きみ。
 いや勘違いだとしたら申し訳ないのだが――」

         「視線を感じたので、ね」

とはいえ、まあ、そういう推理も成り立つ。
なので少しだけ予防線を張って、知性的に話しかけるのだ。

356夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 00:27:28
>>355

「――おっ」

近付いてくるのを見て、軽く声を漏らす。

さては、尾行がバレたか!?
チッ、しくじったぜ。
このままだとマズい。
なんとか誤魔化すか?
それが無理なら、この場でやるしかねえな……!

なんてセリフが瞬間的に脳裏を駆け巡った。
昨日の夜に観た古いスパイ映画(タイトルは忘れた)の影響らしい。
まあ、当然ながら尾行なんてしていたはずもなく――。

(――珍しい格好してるなー。まるで『探偵』みたいな……)

偶然にも、小角と同じようなことを考えていたのが少し前のこと。
そして、自分としてはごく自然に小角に視線が集中し、今に至る。
つまりは、好奇心ゆえの行動だった――というワケ。

「うふふふ――」

「それを見破るとは、さすが名探偵……!」

「ならば、私の目的も暴いてみるがいい!」

「私は、アナタを見て『珍しい格好してるなー。まるで探偵みたいな……』と思っていた!」

「さあ、推理してくれたまえ!」

だけどまあ、ちょっと遊んでみるのもいいかな。
そんなこんなで、ちょこっとだけ悪ノリしてみるのだ。
ふふふふふ。

357小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 00:49:45
>>356

「なっなにっ……だが、わたしに推理勝負を挑むとはね。
 探偵みたいなだけではなく、わたしは名探偵を目指す女!」

        「推理はお手の物、というわけだ。ふふん」

驚きつつも、自信ありげな笑みを浮かべて考えを巡らせる小角。
しかし、人の考えを読むなんていうのは難しい。

ましてや――『架空の目的』の推理。普通に考えて不可能だ。
しかし小角は『名探偵』を目指している。くわえて『ノセられやすい』のだ。

(服装を見るに、どこかに遊びに行くところだろうか……
 少なくとも部活や塾という雰囲気じゃあない気がするぞ。
 ううむ……彼女の目的はいったいなんなんだろうか?
 ここはメインストリート、彼女は見るからにお洒落好き。
 探偵を警戒してる感じでもないし、悪だくみとかではない)

              (……ならば)

「よし! 推理できたぞ……きみの今日の目的は、洋服を買うこと!
 そして、わたしを見てこういうコートが欲しくなったんじゃあないか!?」

          「どうかね! わたしの推理は当たっているかい?」

       フフン

そして推理には、あるていどは真剣みをもって挑むのだ。
ここでふざけては探偵の名折れ。小角はそのような事を、少し考えているのだ。

とはいえ、推理自体は決して優秀とは言えないかもしれないが・・・それはそれ。

358夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 01:40:22
>>357

「それでこそ我が好敵手というもの!」

「最後に立っているのは追う者か、それとも追われる者か……!」

「さあ、長きに渡る因縁に決着をつけようではないか!」

ありもしない捏造した過去を交えつつ、対抗するかのように不適に笑う。
もちろん後先など考えていない。
頭の中にあるのは、この場を煽って盛り上げることのみ。

「――フッ」

「どうやら私の負けのようだな……」

「歴史は君を選んだということか……」

何かを悟ったような顔で、意味もなく壮大な言葉を呟く。
負けはしたが、そこに食いはない。
なぜなら、名探偵と戦ったという誇りを得たのだから。

……なんていうドラマは特にない。

しかし、洋服を買いに来たという推理は当たっていた。
だから、探偵である彼女の勝ちなのだろう、たぶん。

「ところで――そのコートいいよね。
 うんうん、カッコイイと思う」

悪ノリはやめて、普段の自分で話しかける。
確かに言われてみると、こういうのもいいかもと思えてくる。

「こう……全身から知性あふれてるっていうか……」

「なによりも――着てる人に似合ってる!!『85点』!!
 あっ、残りの15点は大人になったらもっと似合うだろうなってコトで」

いわゆる伸びしろというやつだ。

359小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 01:57:25
>>358

(か、彼女はスパイ映画とかが好きなのだろうか?)

やや自分と異なるタイプのノリに内心疑問に思う。
まあ、はたから見たら大して変わらない気もするが。

「よし、やったっ!」

「ふふん――――如何にも、わたしは名探偵。
 しかし、えらんだのは歴史ではなく、わたしのほうさ!」

        「真実はいつもわたしが選び取る!」

「……」

「……お、おほん。失礼。
 わたしとしたことが、少し熱くなってしまった」

勢いにずれた帽子を直しながら、咳払い一つ。
冷静な感じの顔をして――それから笑みを浮かべる。

「おお、やはり分かっているね、きみ!
 探偵らしくていいだろ? お気に入りなんだ。
 着ているだけでこう、全身から知恵がわいてくる」

                バサ

身の丈に合ったサイズの、インバネスコート。
被った帽子と併せて、まるで『探偵小説』の住人。
 
「よ、よしたまえ……ほ、褒めてもなにもでないぞ」

そして自慢気にしてはいたが想定以上に褒められたので、照れた。

             「それよりっ」

「きみの衣装もなかなか似合っていると思うよ。テーマは『アリス』かい?」

何とかペースに持ち直そうと、話題を相手の服に逸らす。わりと本心だ。
自慢じゃないが、小角が着ても似合うような服ではないだろう。たぶん。

360夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 02:25:32
>>359

「――ふっふっふっ」

目の前にいる探偵姿の少女は、自分が出会ったことのないタイプの人間だった。
姿だけでなく、その内面も。
たまたま出くわしただけだから、詳しく知っているわけじゃない。
それでも、未知の存在に触れることは自分にとって何よりの喜びだ。
サングラスの奥の瞳が好奇心で輝いていることが、その証拠だ。

「そう、『アリス』――なぜなら、私は『アリス』だから」

「もちろん名前がアリスってわけじゃないよ。
 私の名前は、夢見ヶ崎明日美」

「それでも、私はアリスなんだ」

「ただし、『不思議の国』でも『鏡の国』でもないんだな」

「じゃあ、『どこの国』のアリスかっていうと――」

そこで言葉を区切り、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「当ててみてよって言ってみたい気もするんだけど……」

「これは、ちょっと難しいと思うなぁ〜〜〜」

「だから、答え言っちゃった方がいいのかな?」

「――それとも名探偵さんなら解けるかな?」

やや大げさな勿体ぶった言い回しで、そう告げる。
同時に、レンズの奥に見える黒目がちの瞳が、きらりと煌いた。

361小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 02:38:49
>>360

「わ、笑うのはよしたまえ――――アリス?
 アリスという名前……ああいや、ちがうのか」

    「あだ名と受け取らせていただこうかな」

バカにされているとは感じないが、
なんとなく不思議な笑いのように感じた。

だけどそれより――また、新たな謎が立ちはだかる。

「むっ……」

しかも、挑戦という形で。
これはノらずにはいられなかった。

            オヅノホウム
「いいだろう、この『小角 宝梦』、
 名探偵を目指す以上謎からは逃げない!」

さりげなく名を名乗り返して、挑戦を受けよう。

もちろん理由あって逃げる可能性もあるのだが、
心持ちの問題だ。戦う前から逃げる気はないのだ。

「だが・・・」
              「ううむ」

(不思議の国のアリスと、鏡の国のアリス……
 タイトルは知っているが、読んだことが無いぞ。
 そこにヒントがあるとすれば、これはまずい)

(あるいは彼女自身の過去……それもわたしは知らない!
 な、難問だ。ユメミガサキアスミ……ユメミは『夢見』か?)

          「………………ゆ、『夢の国』かい?」

さきほどよりは目に見えて自信の無さそうな声で、答えを導く。

362夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 02:58:26
>>361

「――近い、かな」

「間違いじゃない、かも」

今、こうして世界が見えるということ。
それは、以前の自分にとっては夢のようなものだった。
だから、夢という答えも、あながち外れているとも言えない。
そもそも、問題からして唐突なものだ。
付き合ってくれた彼女には感謝しなければならないだろう。

「答えはね――」

「『光の国』だよ」

片手でサングラスを外し、ウィンクしてみせる。
強い光を遮るレンズがなくなったせいで、視界がぼやける。
すぐにサングラスをかけ直すと、少しずつ視界はクリアに戻っていった。

「私、生まれつき目が見えなかったんだ。
 でも、最近になって見えるようになったの」

「初めて見えるようになって、色んなものが新鮮に感じた。
 まるで別世界に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『光の国のアリス』ってコト」

「でも――『夢の国のアリス』っていうのも素敵かもね」

そう言って、また笑う。
今度は悪戯っぽさはなく、純粋で屈託のない笑いだ。

363小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 17:00:54
>>362

「近いのか! じゃあ眠りの国か、ううむ、それとも――――」

                   「光?」

光と、夢。明るいイメージの言葉だと思った。
それ以外になにか、近いものがあるのだろうかとも。
それ以上は小角には推理できていなかった。材料はあった。
サングラス。昼間とはいえ、眩いと思うほどの太陽でもない。

――――はっとさせられたのは、想像が及んでなかったから。

「なっ…………そうなのか」

目。思わず絶句した。どういう顔をすればいいのか分からない。
それでも、夢見ヶ崎の笑みを見て、少しは言葉が喉にのぼって来た。

「それは……おめでとう、と言わせてもらうよ。
 わたしが軽々しく言ってしまっていいのか、わからないが」

              スッ

「きみの顔を見れば、祝うべきなのは間違いないと分かった」

「おめでとう、夢見ヶ崎さん――いや、『光の国のアリス』さん」

いつの間にか、やや俯きがちになっていた顔を上げて、そう言うしかなかった。
おめでとう。ともっと心の底から言いたかったけど、今はまだ言葉だけが精一杯だった。

364夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 20:46:51
>>363

「ありがとう――オヅノちゃん」

一点の曇りもない笑顔で、お礼を言った。
出会ったばかりなのに、やや馴れ馴れしい感はある。
それでも、素直に感謝しているのは本当のことだ。
文字通り光が溢れんばかりの表情が、それを証明している。

そして――。

「ヘイヘイヘイッ――」

「お願いだから、そんな暗い顔しないでくれよ、スイートハート。
 キュートな君には、明るい顔が一番よく似合ってるよ。
 そのコートがキミに似合ってるのと同じくらいにさぁ〜〜〜」

「――ところで、今ヒマかい?
 良かったら、オレと一緒にショピングでもどう?
 この辺じゃあ一番の店を紹介するからさ」

また悪ノリが始まった。
どこかの映画か何かで見た『プレイボーイ』の影響らしい。
しかし、ただふざけているわけではない。
雰囲気が暗くなりかけたのを察してのことだ。

――私は、いつだって明るい方が好き。
   だって、私は『光の国のアリス』なんだから――

365小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 21:21:29
>>364

「れ――礼を言われることはしていないさ」

             「……」

思わず沈黙してしまったから、続く悪ノリは助かった。
小角宝梦はノせられやすい。ゆえに、答えは決まっている。

「……ふふん、言っただろう?
 わたしを褒めても何も出ないと!
 しかし、暗い顔をすべきじゃないのは同感だ」

              フ

微笑を浮かべて、小角はいつもの顔に戻る。
せっかくのお誘いなのだ。今日は、もう用もないし。

(わたしが暗くなってどうする!
 気を使わせてしまったじゃないか)

         (平常心、だ)

「それに……良い推理だね、ひまなんだ。
 どうせなら、きみのおすすめを聞いてみようか」

           ザッ
                  トコ トコ

「一体――どんなところに連れて行ってくれるのかね?」

案内役を買って出たアリスに、白梟のような探偵が着いて行く。
聞いた事も無い物語だが、それが今確かにここにあり――楽しい時間なのだ。

366夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 22:16:46
>>365

「なぁに――」

「最高にクールでイケてる店だよ、ハニー。
 コレも、そこで買ったのさ」

自分の頭を飾るリボン代わりのスカーフを指差す。
探偵のようなシックな装いとは異なる、様々な色が使われたカラフルな布地。
行き先となるのは、そういった商品を扱っている店のようだ。

「もっとも――」

  ワンダーランド
「『不思議の国』ってワケじゃあないけどね」

普段の自分に戻り、クスッと笑う。
そして、アリスは歩く。

  トッ

時計を持った白ウサギではなく、探偵姿の白梟と共に。

     トッ トッ

奇妙で不思議な取り合わせ。

          トッ トッ トッ

だが――それも一つの物語だ。

367冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/27(水) 23:46:27
「え? うん、分かった。後でそっち行くね」

「何食べたいって? うーん……あ」

「夜は焼肉っかなぁー」

ある日の大通り。
一人の少年が歩いている。手には通話中のスマホ。
上着のポケットから何か落ちた。
手袋だ。
右手の手袋がポロリと落ちた。

368夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 20:37:23
>>367

ブルーのサングラスをかけた少女が歩いている。
格好はパンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションといったところ。

「お」

歩いている少年を見かけた。
夏に海で会ったことを覚えている。

「ん?」

電話の内容が耳に入った。
そして、手袋が落ちるのが見えた。

「よし」

横から近寄っていく。
何事かを企むような薄笑いの表情で。

「や、レイゼイくん」

「久しぶりだね。ところで今、誰と喋ってたの?」

「さあ、教えてもらおうか!こいつは人質だ!」

言いながら、少年の前に手袋を出してみせる。
もちろん本気ではない。

369冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 22:05:45
>>368

「あれ、明日見」

「わわわ。手袋なんで?」

「あー違うの。違う違う」

スマホの会話に集中していたため突然の登場に驚いてしまった。
それから手袋に気付いて二度目の驚き。

「お姉さん。前に話したっけ」

「お世話になってる人」

スマホを耳から離して、囁くように言う。
スマホの画面には通話中であることを示す画面が浮かぶ。

370夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 22:39:59
>>369

「聞いた聞いた。マッドサイエンティストのお姉さんでしょ」

「あ、これ返すよ。そこに落ちてた」

手袋はあっさりと返した。
それはいいとして、このお姉さんとやらには興味がある。
前に聞いた限りでは、色々と実験とかしてるらしい。

「私もちょっと挨拶したいな、そのお姉さんに」

「いい?」

そう言って片手を差し出す。
直接話をすることができれば、謎の片鱗が見えるかもしれない。

371冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 23:21:22
>>370

「マッド? いや、そこまで危なくはないと思うけど……?」

「あぁありがと」

手袋を受け取り上着のポケットに押し込んだ。
先程同じようにして落としたのは忘れているのか、覚えているがそうしているのか。

「挨拶? 僕はいいけど」

「もしもし? うん、ごめんね。えっと、明日美が話がしたいって」

「え? いや、違うよ。トモダチ? うん、そんな感じ」

「……はい」

スマホを差し出した。

372夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 00:07:37
>>371

「センキュー!」

お礼を言ってスマホを受け取る。
さて、どう切り出そうかな。
相手はかなり変わった人みたいだし。
でも、今は情報が少ないからなぁ。

――ま、普通にすればいいか。

「もしもし?はじめまして」

「私、レイゼイくんの友達で、夢見ヶ崎明日美っていいます」

「前にレイゼイくんからお姉さんの話を聞いてたので、ご挨拶させてもらいましたぁ」

こんな感じでいいかな?

373冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 00:48:22
>>372

『ああ! どうもどうもー』

『自分はツクモってゆーのねー?』

聞こえてきたのはまったりとしていて微妙に元気な声だ。
騒ぎはしないものの声のトーンは明るい。

『咲ちゃんの友達? ホントホント?』

『あーでも明日美ちゃんって聞いたことあるかもー?』

『海で遊んでくれた子?』

374夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:10:16
>>373

「そーです、そーです」

「一緒にビーチバレーやってましたぁ」

もっとトッピな人かと思った。
でも、意外と普通の対応で、少し驚いた。

「あの時は楽しかったなぁ」

「レイゼイくん、私のことなんて言ってました?」

喋りながら、ちらっと横目で少年の顔を窺う。
特に深い意味はないが。

375冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 01:35:25
>>374

『ふーん。そうなんだー』

おかしな反応はない。
さすがにおかしな人がすぎると冷泉咲も懐かないという事なのだろうか。

『咲ちゃんはねぇ、初対面なのに話しやすい人だったって言ってたよー』

『だーけーどー自分ちょっとジェラシー。ジェラっちゃったんだよねぇ』

咲が君を見ている。
特に何か意味のある視線でもないが。
目が合っている。

『自分は咲ちゃんの変化を求めたー』

『だけど考えたの。あの子がどう変化するは興味深い』

『でもでも変わっちゃった彼の中にある魂はどうなんだろう』

『実験で得られる成果が常にプラスではないのと同じように人間関係もプラスだけを生まない』

『もちろん、マイナスが悪いという訳でもないけど』

『はっきりと言って自分は嫉妬を感じるよ。自分は彼の変化に立ち会えない』

『同時に彼が自分以外の色を飲み込んでいく様は喜びと悲しみを教えてくれるおかしな教師なーんーだー』

少し、興奮しているようだ。

「?」

『変化や成長は破壊と創造に等しく、自分との会話によって君や咲ちゃんも破壊と創造を繰り返してる……』

『……あーちょっと待って興奮し過ぎちゃった』

『えっと、とにかくとにかく咲ちゃんは明日美ちゃんを気に入ってるってわけ!』

376夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:58:23
>>375

「?????」

頭上に大量の疑問符が浮かぶ。
自分が馬鹿だとは思わない。
だけど、言われて即座に理解するにはツクモの言葉は難解すぎた。

しかし、彼女が複雑な感情を抱いていることは分かった。
そして、彼女が自分の期待していた通りの人間であることも。

「あー、そーなんですかぁ」

「良かったなぁ良かった、うんうん」

謎に包まれたツクモの一端を知ることができた。
もっと深く突っ込んでもいいけど、さらに嫉妬が強くなって嫌われると話しにくくなる。
話題を変えよう。

「そういえば、ツクモさんは実験するのがお好きなんですよねぇ?」

「最近はどんなことをしてるんですかぁ?」

377冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 02:21:06
>>376

矢継ぎ早に出る言葉は相手が理解できるかというコミュニケーションとしての性質を少々欠いているのだろう。

『ごめんねーほんとー』

『どうにも気まぐれな割にはガーッと言っちゃうんだよねぇ』

『実験? 最近は過冷却水とかブタンガスとか?』

378夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 18:36:15
>>377

「あははは、いいですって。私も時々そんなことあるしぃ」

「カレイキャクスイ……豚、ガス……?」

何か分からないが、科学とかそういう専門的な言葉らしい。
聞いたら説明してくれるだろうか。
いや、説明されても余計分からなくなるだけかもしれない。
聞くのはやめよう。

「へぇぇぇ〜、興味あるなぁ」

「いつか私も見せてもらいたいな、なぁんて」

意味は分からなくとも、実験という響きには興味をそそられる。
未知の世界の匂いを感じる言葉だ。
それに、ツクモに対しても興味はある。

379冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:08:54
>>378

『そー。過冷却水にブタンガスねぇ』


相手が理解しているのかいないのかあまり気にしている雰囲気でもない。
ただどういうものかの質問がなされなかったので特にそれ以上説明することもなかった。

『別にうち来てくれたらやるやるー』

『咲ちゃんの連絡先とか聞いといたらー?』

『でも今日はダメだよーまたジェラっちゃっうかーらー』

けらけら笑ってツクモは答えた。
実験を見に行く分には大丈夫なようだ。
タイミングというのはあるが。
話はひと段落といったところだ。
咲に電話を戻してもいいしもう少し話しても大丈夫だろう。

380夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 20:37:12
>>379

「オコトバに甘えて、そのウチ行かせてもらいますねー。そのウチ」

言葉で説明されるより、自分の目で実際に見る方がいい。
頭でアレコレ考えるのではなく、五感を通して体験し、感じること。
それが自分の望みだ。

「んじゃ、この辺でレイゼイくんに代わりますね。ありがとうございましたぁ」

ツクモに挨拶し、咲にスマホを渡す。
こうして話ができたし、次は実際に会うこともできるかもしれない。
収穫としては十分だ。
上出来、上出来。

「――面白い人だね、お姉さん」

電話口にいるツクモに聞こえないような小さな声で、咲に感想を漏らす。
一言で表現するとしたら、そういった印象を受けた。

381冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:43:28
>>380

『はーい。ばいばーい』

頭で理解して見るか、目で見て理解するか。
進み方は人それぞれだ。

「ね? 言ったでしょ? もう、そういうんじゃないって」

「じゃあね」

スマホを受け取り咲が通話を終了した。

「でしょ? 楽しい人」

382夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 21:17:15
>>381

「うんうん。少なく見積もっても、私と同じくらい面白いね」

咲の言葉に何度か頷いて納得の意思を示す。
それに、咲には強く執着している様子だった。
今は咲が説明してくれたから、友達以外の関係かどうかという疑いは晴れたらしい。

けど、もし彼女に会う機会があったなら、目の前ではあまり咲に近付きすぎない方が良さそうだ。
面と向かってジェラシー入っちゃうと、さっきよりもヤバくなりそう。
こえー、こえー。

「あっ、そうだ。連絡先教えてくれない?」

「また今度、私も実験とか見てみたいから」

「ついでに私のも教えとく。なんか変わったこととか珍しいこととかあったら教えて」

ツクモに言われた通り、連絡先を交換しよう。
それが終わったら、自分の当初の目的地へ向かうことにする。
ネイルの新しいのが欲しいんだよね。

383冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 22:47:37
>>382

「そうだね!」

自分と同じくらい面白いという言葉に頷いて同意した。

「連絡先? いいよ。えっとね、これ」

スマホを君の方に向けた。
連絡先の交換を拒むことは無かった。
これで元の目的地に行けるだろう。

「じゃ、また今度とか」

384夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 23:18:15
>>383

「あっはっはっ、照れるなぁ〜〜〜!」

同意されてしまった。
これをどう受け取るかは人によると思う。
とりあえず私は喜んだ。
面白いというのは、私にとっては褒め言葉だから。

「ありがとありがと。これでまた一つ入り口ができた」

入り口――それは未知の世界への扉だ。
人の数だけそれがある。
そして、それは多ければ多いほど良いのだ。

「うんうん、また今度ね」

「今日は焼肉だっけ?ウチは何かなぁ?」

「ま、いいや!これからネイルチップ買いに行くんだ。新しいの作りたいからさ!」

「――じゃ、レイゼイくん、またね!」

一通りの挨拶と軽い身の上話を終えてから、手を振って立ち去っていく。
その姿は徐々に遠ざかり、やがて見えなくなった。

385宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 16:59:33

カーキ色の作業服を着た肉体労働者風の男が、大通りを歩いている。
四十台半ばの年齢だが、その屈強な体格には身体的な衰えは見えない。
鋭い視線には虚無的な光があった。

「この辺りも、随分と変わったものだ」

自分が刑務所にいた二十年の間に、色々なものが新しくなった。
街も、物も、人も、時代と共に移り変わっていく。
この場所も例外ではないようだ。

「ここは――」

「この店が生き残っていたとは驚いたな」

商店街の片隅にある一軒の雑貨屋の前で立ち止まり、思わずそう零した。
自分が幼い頃からあった店だ。
てっきり、とっくに潰れているものと思っていた。

「おやおや」

「誰かと思えば坊主かい。ようやく戻ってきたようだねえ」

中に入っていくと、奥にいた顔なじみの老婆に声を掛けられた。
この婆さんには、成人を過ぎてからも小僧扱いされてきた。
どうやら、それは今も変わらないらしい。

「婆さん、あんたもまだ生きていたのか。ますます驚いた」

「あたしは生涯現役なんだよ。まったく、いい若いもんがそんな元気のない顔をしてんじゃあないよ。シャキッとおし、シャキッと」

「俺はもう若くはないぞ」

「年上に口答えするんじゃないよ。あたしから見れば、まだまだガキさね」

腰の曲がった老婆は、ブツブツ言いながら、また奥へ引っ込んでいった。
俺はそれを見送り、何気なく店内を見て回る。
様々な品物を雑多に扱う昔ながらの雑貨屋といった感じで、基本的には俺が入所する前から変わっていない。

「――変わらないものもあるということか」

この店と、店主の老婆を思い出し、ポツリと呟いた。

386硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 20:23:46
>>885
「こう言った、オブラートに包んだ表現をすれば
”昔ながらの”商店が、
どうやって生計を立ててるか気にならないかい。
火曜日の9時くらいにやっている人情ドラマでは、
こんなひなびた商店街に巨大なショッピングモールが出来て、
彼らを悪と決めつけて追い出すために躍起になる。
だが、地元の客が来る事に胡座をかいて経営努力を行なう商店なんて、
滅びて当然じゃあないか、って俺の母さんが言っていたよ」


気が付けば真後ろに、鼻ピアスに、髪を派手に金色に染めた
シュプリームのダウンを着たヤンキー風の男子高校生がいた。


「俺は、明日学校で書道の授業があるから墨汁を買いに来たんだが
あなたは何を買いに来たんですか」

387宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 21:17:28
>>386

「大いに関心があると言いたいところだが、生憎そうでもない。
 この店がなくなろうと俺にさしたる影響は与えないし、その逆も同じだろう。
 実際、ここに来るのも二十年ぶりだ」

振り向いて相手の姿を一瞥する。
学生か。
スタイルは違えど、こういったタイプの生徒がいるのも変わらないようだな。

「俺は散歩の途中で立ち寄っただけだ。
 客観的に見れば冷やかしだな」

「だが、歩いて少し喉が渇いた。
 飲み物でも買うことにしよう」

冷蔵ケースから缶入りのお茶を取り出し、会計を済ませる。
そして、再び歩いてきて棚の一角を指差す。

「墨汁ならそこにある。最近でも習字の授業があるのか。
 変わらないものというのも案外あるものだ」

老婆はレジの前にいた。
買うのであれば、問題なく買えるだろう。


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