したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

---------------------------------------------------------------------------
                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------

162遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/22(金) 19:48:06
>>161

ポトッ  チャリンチャリン……コロコロ

 チャックの開いた財布が落ちれば、当然 中の小銭も『転がり落ちる』

幾つかの硬貨が周囲に転がる可能性だって在り得る出来事だ。

 「ひぃっ……!?」

 稗田は、真横付近に転がった硬貨が視界に入ると共に、その視界の死角へと
消えた硬貨の先で小さな悲鳴を聞くだろう。

 「こっ  こっ  ここここ小銭……。
ぇ あ、ご、ご、ごめんなさい……ひ、悲鳴あげちゃっ……て」

 貴方は、この女性を見ると。何処かの森で見かけたような既視感が起きるかも知れない。

だが、雰囲気が『違う』 髪も、あの時はもっと長かった気がするし、あの時
出会った女性は、裸眼で物腰もある程度芯に強みがある女性だった。
 この髪の毛だけは同じピンク色で、眼鏡をかけて如何にも小心で少し震えてる少女は
あの時と全く、容姿は似てるものの全く異なる気配を漂わせてる。
 恐々と、それが毒虫であるように硬貨を1、2回一瞬手を伸ばしひっこめる動作を
してから、震える指で硬貨を掴み、稗田に一歩近づくたびに泣きそうになる表情に
なりながら、拾った硬貨を差し出した。

 「こ、こここここここここれ ど、どどどどううううぞ」

 


163稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/23(土) 04:56:20
>>162

チャリンチャリン……

「うわっ……」

           コロコロ

(乱数クソ過ぎぃ〜……)

不幸な事というのも起こる物だ。
まさか財布のチャックまで開いていたとは……

「…………」

     トコ トコ

背中に哀愁を負いつつ、拾いに行く。

不幸中の幸いがあるとすれば……
落としたのが『コインケース』でなかった事か。

          ――と。

「……?」

恋姫は湿った目を細めた。

「お、おう……ありがとな。」

(なんだこいつ……キョドり過ぎだろ、JK。
 だけど、なんだ……どっかで……見た事、ない?)

やや困惑の色を浮かべ、小銭を受け取る恋姫。

(この前……湖の方で会った、あいつ……? 
 いや、どう見てもこんなキャラじゃなかっただろ……
 双子の姉妹とか……えひ、クローン? なにそれこわい……)

どうにも――既視感がある。
少なくとも、見た目だけなら相当の既視感がある。

「……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?」

人違いだとは思うのだが――なぜこんなに怖がられているのか。

        「悪霊、とか……? えひ。
         みんなのトラウマ級のやつ……?
         もしそうだったら確かにこわちかだよね……」

164遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/23(土) 22:11:41
>>163>>162の最後の あ は誤字なんて気にしないでください)

 ……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?


「ご ご、 ごご御免なさい。じ、じっと見て御免なさい、御免なさい
御免なさい御免なさい御免なさい。
で、でも、ちゃ ちゃんと見ないと小銭、こ、小銭。わ、わわ渡せないし……」

清月の制服を着てる、ピンク色の女性は何をそんなに恐れ怯えてるのか。
……いや、恐らく彼女にとって、恐ろしくないもののほうが少ないのかも知れない。
多分、いま歩いてる周りの人間、建物や空の太陽だって怖がれるぐらい臆病なのだろう。

>悪霊、とか……? えひ。
>みんなのトラウマ級のやつ……?
 >もしそうだったら確かにこわちかだよね……


 「ひ  ヒィ   ひっっ……っ」
(ど、どどどどどどどうしようどうしようどうしよう
やっぱり、こんなどもってたら嫌だよね、不愉快だよね、
あぁ、どうしようどうしようどうしよう、駄目だ。やっぱり私ってば
普通に人と喋れないんだ。前向きになろうとしてるのに、どうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしよう)

 「ふぇ  ぇ  えぐっ  うぇ゛」

   ポロポロ ポロポロ ポロポロ。

話しかけられ、泣き出した。
 恐らくながら、かなり精神的に弱い人間であるのが 容易にわかる。
 少なくとも、あの自然公園にいる女性とは 似ても似つかないメンタルだとも。

165稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/23(土) 23:56:20
>>164

    スッ

「……こっちこそ……えひ。
 悪かったな、冗談が下手で。」

いそいそと小銭を受け取る。
そして、突然の涙に――

「……は?」

脈絡なく泣き出した女に――
あるいは、清月の制服に?

    …イラ

(なんだこいつ……意味わからん……
 感情バグってんのか……? イライラする……)

・・・・わからない。
感情は複雑で、フローチャートに出来ない。
だけれど、それはハッピーエンドを辿る線では、ない。

「……あー、僕、消えた方がいい展開?
 こわちかなのは僕でした〜……ってぇ……?」

    イラ

(僕がなんか、悪いフラグでも……踏んだのか?
 これ初見クリアしなきゃとか、人生ハードすぎる……)

              「……どうすりゃいいんだよ?」

166遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/24(日) 00:17:39
>>165

>……どうすりゃいいんだよ?

そう、貴方が口にするのも無理はない。どちらが悪いと問われれば
ソレは間違いなく『こちら側』だ。
 小銭を拾って、それで見つめられる位で泣き出すような彼女は
ひゃっくりを上げつつ、手の甲で何度も何度もポロポロと落ちる涙を拭う。

 「ひっ え゛ ず ずみばせ い゛っく
お、お願い゛です。あ、あああ謝るから、お、怒らないで」

 貴方は怒ってない。余りに唐突に泣き出した彼女を見て虚をつかれてる
とは思う、だが怒るまで至らない様子にも関わらず彼女は懇願する。

 泣きながら謝罪して懇願する其の様子は、ある一定のレベルの人間は
加虐心が多少増長しそうな雰囲気が彼女から放たれてる。恐らく意図してではないと思うが。

 「御免なさいごめんなさいごめんなさい何度でもしますから
お願いだから怒らないで怒鳴らないで、許してください許してください」

 ペコペコペコペコ

 そう、口早に何度も頭を激しく上下に揺らして貴方に謝罪する、
繰り返すが、彼女は意図してイライラさせる行動を取ってるわけでない。

『ベソ子』にとって、たぶん生まれつき周囲から攻撃されたくなるオーラが
滲み出てるのだろう。それ程、彼女の様子は思わず赤の他人でも小突きたくなる
行動をしている。演技でも何でもなく 素でだ。

167稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/24(日) 10:51:24
>>166

        イラ

加虐は恋姫の好みではない……
だが、イライラはする。

    イラ


(いらいらし放題だな……この状況……
 ボーナスステージかよ……それか、無限バグか。)

明らかな『弱い者いじめ』だ。
そうみられても仕方のない状況だ。

・・・・恋姫はいらだつ。隠せるほど大人じゃない。

「怒ってねえよ……深読みやめろ。
 まだ、僕、おこじゃないから……
 大事な事だから二回言うけど……やめろ。」

少なくとも、このイライラを人にぶつけるなんてことはない。
ブロック崩しのボールのように、心の中で反射する感情。
 
「んで、今……言ったか?
 『なんでも』するって……?」

        ジト

「……まあ、常識的に考えて、
 何でもはしないんだろうけど……
 そのぺこぺこするの、やめてほしい……」

       「……ベリーイージーな依頼、だよな。」

湿った桜の花のように目を細めて、そう零す。
財布を拾われただけの関係――走って逃げても、いいのだけれど。

168遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/24(日) 23:08:19
>>167

 遊部は、ぶるぶると、スライムよりも体全身を震わせ
涙目で貴方の言葉に、米つきバッタの如く頭を振っていたのを止める。

 「ひっ ひぅ す、すみません。や、止めます もう止めます」

「い、イライラさせて御免なさい。
け、けけけど、ど、どうしようも、な、なないんです。
 う、生まれつき、こ、ここうで。
な、ななんとか直そうとしてるんですけど、い、いつも泣いちゃ……
な、泣いちゃう うぇ え゛っ」

 感情が昂ぶったのだろう。ポケットティッシュを取り出して鼻をかみ
女性はまだ泣き腫らしてはいるものの少しだけ声が落ち着きを取り戻す。

「ど、どうすれば。ど、どどうすれば私。
い、いいまより、この泣き虫が直るでしょう」

 そう、貴方に顔を向けて言った。
貴方との関係性は、小銭を拾ったぐらいの関係。そんな行き成りの言葉など
拒絶して、はい、さようならと立ち去るほうが建設的かも知れない。

 ただ、彼女は貴方に助けを求めてるようなのは確かでもある。

169稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/24(日) 23:37:29
>>168


「…………」

      イラ

「生まれつき……?
 まじで……そりゃハード……」

同情――しないこともない。
だけれど、どうしてもやれない。

人生はゲームじゃあない。
選択肢一つで、人格は変えられない。

「でも、僕は……どうも出来ない。
 それは、ハードどころじゃない……
 僕はお助けNPCとかじゃない、から……」
  
今までも、きっと色んな人に、
こうして助けを求めてきたのだろう――

「変わるためのアイテムなんてのも、持ってないし……
 僕と喋ったからって、良いフラグが立つとも限らないし……」

「……ゲームオーバ―にはならないだけ、マシってくらいだぜ。」

少なくとも、自分よりは年上に見える相手。
生まれてから今まで変われなかったの、ならば。

            ・・・・助けを求められても、何が出来る?

170遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/25(月) 15:42:55
>>169

助けを求めても、生来の気質であれば誰かの助言で劇的に
変われるなどある筈がない。
 当然だ。現実はそんなに並大抵の事で漫画のように変わる筈がない。

「ひ ひぐっ そ、そうですよね。わ わわ私がしっかりしないと
だ、だだだ駄目ですよね。ご、ごめんない。む、むちゃくちゃな事、いい言って」

 「も、もももう、お家、か、かか帰ります。ご、ごごご御免なさい
ご迷惑おかけして、ごめんなさい」

 遊部は頭を一度下げ、とぼとぼと貴方と反対の方向に帰っていく。小さく泣きながら

「ひっぐ ぃっぐ  やっぱり やっぱり私 な なな何も出来ないんだ。
わたし  わたし……      ――痛ッ」

 『ベソ子』は立ち止まる。また頭痛が彼女の頭を掠めたのだ

  また 『塔』が見える。 白い雲のすら突き抜け 地平線は白い靄に
かき消され、だがそれでも一つだけ突き抜けて見える『塔』が

 塔の先端に襤褸をまとった誰かがいる アレは……。


 「――ハアっ はぁっ……っ   ……ま ままままた見えた。
アレは……何? 私 な、何であんなのを…」

  『ベソ子』には何も解らない。
助けを求めても、他者には自分の弱さをどうにかする事は当然ながら出来ない。
それは、自分自身が決意を抱かねばどうしようもない事なのだから。

 夢か幻か疾患の類か。 頭に過る『塔』に怯え、彼女は家路に着く。

 ……一体、どの道を通り家に到着したのか。奇妙にも彼女の
記憶には『空白』があった。

171稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/25(月) 20:27:26
>>170

あるいは変わることも無ではないのかもしれない。
だけれど――今はその時ではないのだろう。

変化とは段階を踏むものだ。たいていは。

「おう……悪いけどな……
 あと、別に謝れとか、思ってないし。」

「……ちゃんと前見て歩けよな。」

危なっかしい物を強く感じた。
恋姫も、元の目的地へ向かった。

(なんだったんだ、あいつ……)

この日の事はそうそう忘れはしない。
けれど――何かの変化がある時では、なかった。

           ・・・・あくまで奇妙な、日常だ。

172小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/30(土) 22:54:14
町を包む宵闇が徐々に濃くなり始め、夕暮れ時から夜に変わろうとしている時のことだった。
一台の自販機の前に、喪服姿の女が佇んでいる。
不思議なことに、飲み物を買う気配もなく、ただひたすら立ち続けている。
その姿は、何かを待っているように思えた。
しかし、辺りには人気はなく、人待ちをしているようにも見えない。

            ガサッ
                    ガササッ

不意に、自販機と地面の間にある隙間から物音がした。
その奥で『何か』が蠢いているような音だ。
光が届かない暗がりの中で、『何か』が這いずっている。

    ザザッ!

やがて、自販機の下から『何か』が這い出してきた。
自販機の明かりが、その輪郭を映し出す。
それは――大きな『蜘蛛』のように見えた。

173小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 00:55:57
>>172

少年探偵風に、サスペンダーで吊ったズボン――
はともかくとして、創作探偵風の鹿撃ち帽と銀髪が目立つ小角。

(推理するに……お葬式でもあったのだろうか?
 まあ、わたしにはあまり関係のないことではあるが。)

       ザッ

自販機に近付く。
べつに、お葬式と推理された女性に――ではない。

「……〜♪」

            ガサッ
                    ガササッ

(……なんだろう、物音がするぞ。)

鼻歌など歌いつつ、コインを投入――


    ザザッ!

       「わわわわッ!?」

かなり大きく驚いた。
蜘蛛だか何だかわからないが、こわそうだ。

   チャリン

           コロコロコロ

「あぁぁっ! わ、わたしとしたことが!!」

小銭まで落としてしまう始末なのだ……しかも自販機の下へ。

174小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 01:32:11
>>173

「あ……。ごめんなさい。驚かせてしまったようね……」

被っている帽子の陰に隠れていた顔を上げて、穏やかな口調で小角に謝罪する。
気にする程のことでもないかもしれないが、帽子の角度は左側に傾いている。
しかし、今はそれよりも奇妙なことがある。
小角が驚いたとしても、何故この女性が謝る必要があるのだろうか?
そして、近くで見れば、這い出してきた『何か』の正体が分かるだろう。

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

それは蜘蛛ではなく、五本の指を持つ人間の『右手』だった。
切断された手首が、まるで生きているかのように、その指を動かして這いずっているのだ。

そして――小角が気付いたかどうかは分からないが、よく見ると、傍らに立つ女性には『右手』がない。

     ザザザッ

そして、『右手』は蜘蛛を思わせる動きで、再び自販機の下に潜っていく。
しかし、すぐに戻ってくると、糸で吊るされているかのように『浮遊』する。
『浮遊』した『右手』は、喪服の女の右腕にある『切断面』へ移動し、元通りの位置に『結合』を果たした。

     チャリッ

「――はい。どうぞ……」

右手の中に握っている小銭――自販機の下から拾ってきたそれを小角へ差し出した。
どことなく陰はあるものの、柔らかく人当たりの良さそうな微笑みを浮かべる。
少なくとも、害意はないらしい――と思える。

175小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 01:59:13
>>174

「あっ、ひっ……手っ、手ッッ……!?」

    「こっこれは」

       「なにがどうなって」

   ブルッ

落ち着いた物腰に恐怖心を煽られた。
この前見せられたホラー映画みたいじゃないか。

「きみは……きみはいったい……」

     ザザザッ

「うわっ――」        

     チャリッ

         「あっ!」

せわしなく表情を変えリアクションする小角。
その姿はまさしく『フクロウのゆるキャラ』だ・・・・

     「お、おほん!」

もっとも、小角自身にそのような自覚は無い。
どうやら少しずつ飲み込めてきたらしく、咳払いをして。

「どうも、あ、ありがとう。どうやら悪い手ではない……
 というよりは、きみの手、なんだよね……? う、浮いていたが。」

浮いてはいたが、今はこうして繋がっている。
帽子を押さえつつ小さく頭を下げて、小銭を受け取った。

    (わ、悪い人ではないように見えるが……!
     いや、人は見かけによらないというのは鉄則!
     しかし見かけによらないなら手もノーカンでは?)

                 ・・・・内心、錯綜している。

176小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 20:30:07
>>175

  「――ええ……。そうね……。ただ……何と言えばいいのかしら……」

言葉を選びながら、やや躊躇いがちに言葉を返す。
少女が来る少し前、自分も自販機の下に落し物をしていた。
それを探すために、『スーサイド・ライフ』の能力を使っていたのだ。
切り離した『パーツ』の操作に集中していたせいで、この探偵姿の少女を驚かせてしまった。
自分が彼女を怖がらせているというなら、それを取り除いてあげなければならない。
しかし――どう説明するべきなのだろうか。

     スッ

考えた末に、今までバッグの中に突っ込んでいた左手を、おもむろに外に出した。
そこには自身のスタンドである『スーサイド・ライフ』が握られている。
『パーツ』は誰にでも見えるが、『スーサイド・ライフ』は、スタンド使いにしか見えない。
これで少女が何らかの反応を示せば、説明するのは簡単になる。
ただし――仕方がないとはいえ、『抜き身のナイフ』というヴィジョンは、あまり穏やかとは言えない。
この行動が、さらに少女を怖がらせることにならなければいいのだが……。

  「もし――この左手に何も見えなかったら、この言葉は聞き流してちょうだい……。
   私は決してあなたを傷つけるつもりはないわ……。
   だから、どうか落ち着いて聞いて欲しいの……」

  「信じられないとは思うのだけど……。
   私には……他の人とは少し違う不思議な力があって……。
   今は……落し物を探していた所なの……」

できる限り不安を与えないように、少女に優しく語りかける。

177小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 22:28:35
>>176

    ザリ

「うっ……」

小角は一歩、後ずさりをした。
しかし、逃走するには――続く言葉は理解できた。

「そ、そのナイフは――いや。
 その言い方は、それに手……つまり。
 なるほど、それならば、が、合点がいく。」

     「……わ、わかる。知っている。
      きみの言っている事はわかるぞ。」

恐る恐る、そう答えた。
自分の『力』では、攻撃されればどうしようもない。

    ジリ

だから、少し下がりながら答えた。
お返しに見せる――という事も、しない。

「す、すまないが。わたしは武闘派ではない。
 むしろ知性派……ゆえに、少しだけ警戒するぞ。」

「き……きみは、いい人そうには見えるけれども!」

小角は臆病だ。
けれど、表情に浮かぶ不安は削られる。

それは、小石川の言葉に悪意を感じなかったから。

「探し、物? それは……わたしの得意分野だ。
 しかし、きみの『手足』のほうが得意そうにも見えるね……」

先ほどまで切り離されていた『右手』に、ゆっくり視線を遣った。

178小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 23:44:32
>>177

  「――そう……。これが見えるの……。では、これ以上の説明は必要ないようね……」

小角の言葉を聞いて納得した表情を浮かべる。
そして、左手を静かにバッグの中に戻した。
まだ解除する訳にはいかないが、これ以上見せておく理由はない。

  「『今も』探しているのだけど……。暗いから、なかなか見つからなくて……。いえ……あったわ」

      コロロッ……
               キラッ

何かに押し出されるようにして、自販機の下から、小さな光る物が転がり出てきた。
金属質の輝きを放つそれは、どうやら指輪のようだった。
宝石の類は付いておらず、全体的にシンプルなデザインだ。

                  コロロロロロロ・・・…

そして、その後から、もう一つ出てきたものがあった。
ピンポン玉のような球形だが、大きさはだいぶ小さい。
ガラス質の表面が、自販機の明かりを反射している。
それは――人間の『眼球』だった。
緩いカーブを描きながら、自販機の下の隙間から、指輪の後に続いて転がってきている。

  「――本当に良かった……。これが見つかって……。これからは気をつけないと……」

思わず安堵のため息が漏れた。
拾い上げた指輪を、右手の薬指にはめ直す。
そして、帽子のつばを少し持ち上げる。
そこには、普通はあるべき『左目』がなかった――。

          フワッ

先程と同じように浮遊した『眼球』が、空洞になっている左の眼窩に収まり、元通りの状態となった。

179小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 23:59:15
>>178

「う、うむ……」

    ホッ

隠されたナイフに、内心、安らぐ。
危険はなさそうだが、断定は出来ないのだ。

「そ、そうなのかい。……しかし、そうまでして――」

一体何を、と聞きかけた。
が、それはすぐに判明して。

  「あっ、指輪」

      「……ん?」

指輪、なるほど大事そうなものだ。
そう思ったのもつかの間、後から出てきた物。

「ひっ――――」
  
    バッ

ひろわれた指輪を追うように、思わず顔を上げた。
予想通りの恐怖光景がそこにあった。

空っぽの眼孔――

「めっ、目……目まで、切り離せるのか……」

あまり意味もなく事実をただ述べ、精神の安定を図った。
あるべき場所にあるべき器官が収まると、不安も収まる。

「お、おほん……ううむ。
 どうにも見ていて不安になる能力だ。」

「けれど――み、見つかって良かったね、探し物。」

            「……」

小角は探偵のたまごだ――から、一応考える生き物だ。
だから、今考えているのは、彼女の喪服と――『指輪』の関係。

しかしそれは、迂闊に触れて良い物では、とうていないのだろう。

「もし……また、なくしたら。
 わたしに相談してみるのもいいかもね。」

「いや、もちろん、無くさないのが一番なのだが……うむ……」

勝手になんとなく気まずい気がして、そのようなことをまくしたてた。

180小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/01(月) 00:39:02
>>179

  「ごめんなさい。本当に不安にさせたくはないのだけど……。
   こうするのが一番探しやすかったものだから……」

深く頭を下げて、謝罪の言葉を述べる。
自分でも、あまり町中で能力を使うべきではないことは理解しているつもりだ。
それが原因で騒ぎになったり、何かのトラブルを引き起こしてしまう可能性もある。

しかし、この結婚指輪は、自分にとって命の次に大切なものだ。
その指輪が手元からなくなってしまったことで、内心では激しく動揺していた。
とにかく早く見つけなければ――頭の中が、その考えで一杯になっていた。

そのせいで、小角が傍らにやって来たことにも気付くのが遅れ、驚かせてしまった。
しかし、こうして指輪は無事に自分の下へ戻ってきてくれた。
今は、精神的にも安定を取り戻した状態にあった。

  「――あなたも探し物は得意そうね……。とても似合ってるわ……」

小角の探偵姿を改めて見つめ、素直な感想を告げる。
その両手の薬指には、おそらくは一揃いであろう同じデザインの指輪が光っている。
未来の名探偵を目指す少女探偵の慧眼ならば、彼女の相棒の力を借りずとも、
その手がかりから真実を導き出せるかもしれない。

  「でも――突然おかしなことを言うようだけど……。何だか嬉しいわ。
   この町に来て、私と同じような人に出会ったのは、初めてだから……」

そう言って、柔らかく人当たりの良い微笑みを浮かべる。
少なくとも、明確に自分と同じスタンド使いに出会えたのは初めてのことだ。

  「――私は小石川……。小石川文子。
   もし、良かったら――あなたの名前を聞かせてもらっても構わないかしら……?」

だからこそ、この出会いを、記憶の中に留めておきたかった。

181小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/08/01(月) 01:00:37
>>180

「いや、うむ……」

「きみがそれを大事なのは、その、分かるよ。
 だから……うん、わたしは気にしていないとも。」

  コクリ

両手の薬指の――『結婚指輪』。
あるいは、『形見の』――

「ふふん、ありがとう。
 わたしは探偵になる女だからね。
 この夏服も……とても気に入っている。」

「……きみも、ええと。お、おほん。」

何か褒め返そうとしたが、喪服に指輪。
意味を推理したいま、上手い褒め言葉が、見当たらず。

「その帽子は、とても似合っているように見えるよ。」

などと、言った。
それから、柔らかい笑みに釣られるように笑って。

「おお、そうだったのかい。
 わたしはそれなりに会っている。
 この町には、案外多いみたいだよ。」

「ああ失礼――――
 わたしの名前は小角 宝梦(おづの ほうむ)だ。」

         ニコ

丸い顔を笑顔で満たして、名前を返した。
それは、不安が一種の友好へと変わっていく証でもあった。

「……おっと、買い物に行くところだったんだ!
 それでは小石川さん、また機会があれば会おうじゃないか。」

              「では、さようなら!」

     タッ

そして、小角はその場を、やや急ぎ足で去ったのだった。
後になって、喉が渇いていたことを思い出すのだが……別の話だ。

182小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/01(月) 01:38:37
>>181

  「――ありがとう」

この帽子は、確かに自分でも気に入っているものだ。
しかし、それを褒められたことが嬉しいのではない。
自分の言葉を受け止め、それに応じようとしてくれた少女の心遣いが嬉しかった。

そして、また一つ繋がりを得ることができたことも、自分にとっては喜ばしいことだった。
些細なことかもしれないが、こうした小さな出会いが自分の支えになってくれる気がする。
この世界で生きる力を、彼らから分けてもらえる気がするから――。

  「ええ。またどこかで……。さようなら、小角さん……」

立ち去っていく少女の後姿が見えなくなるまで見送る。
そう――生きていれば、彼女ともまた会うことができる。

     スッ
         ドクン ドクン ドクン……

心臓の鼓動を確認するように、そっと胸に手を置く。
生きる理由の一つが、また一つ増えた。

きっと、今夜は、よく眠れるだろう。
『鎮静剤』を使う必要もなさそうだ。
小角宝梦――銀髪の少女探偵との出会いが、その代わりとなってくれたから。
そんな思いを胸に抱きながら、家路に着いた――。

183のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/02(火) 23:44:08
諸君。僕だ。
新しい朝が来た。希望の朝だ。
早起きは三文の徳というものの、実際の三文は非常にわずかである。
寝ていた方が幸せなこともある、ということだろう。
しかし、この僕の才覚が目覚めれば三文もあれよあれよという間に六文どころか三両に変えてしまうだろう。

早朝の散歩というのは心地がいい。
なによりも人が少ない。そして、この商店街の商店のほとんどがシャッターを下ろしている。
実に素晴らしい。この道をいま僕一人だけが歩いている。
人通りはない。何をしようとバレはしない。

ぴたりと不意に立ち止まってみる。
後ろを振り返れば暗い空。前を見れば上る太陽が見える。
我が身を包む甚平や草履は否応なく僕という存在をここに溶け込ませ
同時に僕という存在を浮き彫りにしていく。
寂しき街にただ一人、僕だけが生きている。
ふふ、まるでよき時代の文士のような知性を感じさせる僕だ。

一味違う。

184小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/03(水) 20:56:43
>>183

同じ時間、同じ場所――それは全くの偶然だった。
古き良き時代の文士を思わせるいでたちの少年。
彼の正面から、喪服姿の女が静かに歩いてくる。
彼と同じく、この清々しい空気を吸うために、朝の散歩に出てきたのだ。
辺りには、他に人がいる気配はない。

  「――おはようございます……」

すれ違いざまに挨拶し、軽く会釈する。
その表情は人当たりが良く、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
しかし、決して陰のない明るさではなく、どこか物悲しさを含んだ顔でもあった。
その姿を見てどう感じるかは見る人次第だろう。
ともかく、黒衣の女は少年の横を通り過ぎていく――。

     フワリ……

白い薄布が宙を舞う。
それはハンカチのようだった。
どうやら女性が落としたものらしい。
そして、彼女は立ち止まる気配がない。
それを落としたことに気付いていないらしかった。

185のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/03(水) 23:37:12
>>184

おや、と僕は眉を上げる。
このような時間に人と出会うとは。
しかも美しい女性である。

「あ、ああ……お、はよう……ございます」

僕は一瞬、心臓がびくりとするのを感じた。
どこかほの暗さを感じさせるあの表情。
薄幸の令嬢、といった風情だ。
ほんの一瞬、その顔に見惚れていたのだと気付くのに時間はかからなかった。
しかし、恋に落ちたわけでは断じてない。
僕には心に決めた相手がいたはずである。

「あ」

ハンカチだ。
恐らくあの女性の落としたものだろう。

「すいません」

僕はそれを拾い上げる。
そして、彼女に声をかける。

「落とされましたよ」

186小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 00:18:21
>>185

  「あ……。ご親切に、どうもありがとうございます」

柔らかい笑みと共に、おもむろに手を伸ばしてハンカチを受け取る。
その左手の薬指には指輪がはまっているのが見えたかもしれない。
恋に落ちた――という訳ではないものの、目の前に立つ少年の礼儀正しさには、素直に好感を覚えた。
そして、少年と同じく、自分にも心に決めた相手がいた。
お互いにそれを知ることはないが、奇妙な一致だった。

  「――気持ちのいい朝ね……。散歩しているの?」

なんとなく、少し話してみたい気持ちがあった。
同じ時間に同じ場所に二人きり。
それは、ただの偶然かもしれない。
でも、何かある種の繋がりようなものを感じていた。
だから、何気ない調子で話しかけた。

  「違っていたらごめんなさい。私も散歩するのが好きだから……」

     ヒュオオオオオ……

その時、一陣の風が通りを吹き抜けていく。
帽子が飛ばないように右手で押さえながら尋ねる。
その右手には、左手と同じ場所に同じ指輪がはまっていた。
それに気付くかもしれないし気付かないかもしれない。
気付いたとして、何かが分かるかもしれないし分からないかもしれない。
全ては、のり夫少年次第だろう。

187のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 00:39:12
>>186

「……いえ、別に。当然のことです」

てらいなく僕は答えた。
この自然な対応、紳士性があふれてきている。
ただの知性派というだけではないのだ。

ちらりと見える指輪。
僕は心の中で何かがしぼんでいくのを感じる。
いや、これはなにかの気の迷いだ。
それに僕と彼女は今日この時初めて会った仲。
なにも気にすることはない。

「えぇ、散歩ですよ。私は」

「いえ、私もかな。ふふふ」

気持ちのいい風が吹く。
右手にも、指輪?
どういうことであろうか? 左手のそれの意味は知っている。
それぞれの指でなんらかの意味があったはずだが、そういう類ではないだろう。
洒落っ気を出すにしても、同じものをはめるのだろうか。
……僕は、考えるのをやめた。

「申し遅れました、私は卜部のり夫」

「よくこの時間に散歩を?」

188小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 01:15:44
>>187

  「ご丁寧にどうも……。私は小石川文子といいます。はじめまして、卜部さん」

深々とお辞儀をしながら、お返しに自身の名前を答える。
とても爽やかな気分だった。
この少年に、どこか自分と近い陰の部分を感じたせいもあるかもしれない。
もちろん明確な根拠がある訳ではない。
あくまで、そう感じたというだけの話――単なる直感だ。

  「ええ。朝夕の静かな時間に散歩するのが好きなの。
   この辺りには、あまり来たことがなかったけれど……」

ゆっくりと周囲を見渡す。
大勢の人々がいるはずだが、今この場には誰もいない。
不思議な感覚だった。
ややあって、その視線がのり夫少年に戻ってくる。
彼の顔を正面から見据え、さらに言葉を続ける。

  「これからは、こちらの方にも来るようにしようかしら。
   できれば、また会いたいから……」

そう言って再び微笑む。
少なくとも今は、ただ散歩の途中に偶然出会っただけの関係だ。
再会したとしても、挨拶を交わすだけになるかもしれない。
けれど、それでもいい。
この礼儀正しい少年には、いつかまた会いたい。
心の中でそう思い、そのまま素直に口にした。

189のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 14:49:31
>>188

「小石川さん、ですか」

深々と頭を下げる小石川さんに恐縮してしまう。
これほどの女性はそういないだろう。
年下のそれも初めてあったものに頭を下げ、丁寧に僕の名前を呼ぶ。
礼儀礼節、そういったものを身につけているということか。
やはり、教室で見かけるあれらとは大違いである。
僕は敬意を胸に頭を下げた。

「そうですか……私はたまたま早く目が覚めたので」

「しかし、こういう時間に散歩するのも、なかなか味がある」

このような出会いがまたあるのなら、早起きも悪くは無いだろう。
三文として扱っていいのかは僕には分からないが
価値があるものということは確かだ。

「うっ……」

「そうですね。しかし、また会いたいなどと軽々しく言わぬ方が良いでしょう」

「いらぬ誤解を招きかねない」

小石川さんを少なくとも今までみた感じなら、おかしな意味は無い言葉だろう。
しかし、受け手側が分別のないものならば
誤解を招くこともあるだろう。
僕はそんなことはないが。
断じてないが。
少し、どきりとしたが。

190小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 18:11:43
>>189

  「――そうね……。気を付けるわ。ありがとう」

指摘されて、少し正直すぎたことに気付いた。
こうして人と関わっていると、訳もなく嬉しくなって、不必要なことまで口走ってしまう。
それは自分の悪い癖だ。
もっとも、傍から見れば、自傷行為の方がよほど悪癖に思えるかもしれない。
しかし、それは自分にとっては不可欠なことであり、むしろ薬となるものなのだ。

  「一人暮らしだと、時々寂しくなることがあって、つい……」

  「この町に来てから、まだ日が浅くて、知り合いも少ないものだから……」

右手にしている形見の指輪――左手の指先で触れて、その感触を確かめる。
亡き夫との思い出が脳裏をよぎった。
そのせいか、顔の上に落ちている影が、ほんの少しだけ濃くなったようだ。
知らず知らず暗い表情になってしまうのを隠すために、軽く俯く。
再び顔を上げた時には、表情は最初の状態を取り戻していた。

  「もし、気を悪くしたのなら、ごめんなさいね」

この町に来たのは、新たな人生を歩むと決めたからだった。
死に別れた彼の遺言に報いるために生き続ける。
そのためにも、悲痛な顔をして生きるよりは、できるだけ笑っていたいと思う。
けれど、その微笑には消せない陰が纏わりついていて、本当に明るい笑顔にはならない。
きっと――今もそんな顔をしているのだろう。
それでも構わない。
暗い影に覆い尽くされなければいい。
胸の中にある光を忘れなければいいのだから。
だからこそ、今この時は、自分にできる精一杯の笑顔を、眼前の少年に向けているのだ。

191のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 21:27:15
>>190

「あなたが謝ることではありません」

あなたほどの人が謝ることではないのだ。
あなたは優しいのだろうから、それにあなたは綺麗な人だから
いらぬことが起きそうだと、僕は思っているのです。

「これは受け手側の問題。あなたに対して、よからぬ事を企むものがいないとも限らない」

「だから……いえ、む……」

なんというべきか。
僕にはわからなかった。
あなたを安心させる言葉が見当たらない。
あなたは僕の周りに蔓延したウイルスのようなよからぬ者とは違う。
違うはずなのです。


「私はおじやいとこと暮らしていますが、独り身の寂しさを知っています」

「その感情に理解はありますから、気を悪くなど」

「天地がひっくり返ってもしませんよ」

嘘だ。一人の寂しさなど、とうの昔に忘れてしまった。
父が死に母が死ぬまでの間、僕は一人だった。
友を持たず、恋を持たず、ただ帰りを待っていたのだ。
哀しいことを教えられ、覚えるまでの猶予が伸びただけだったが。

悲しいなあ。
笑う。鏡に映したように。
あなたにそういう顔をさせてしまうのは。
おねーさんがいたらなんというだろうか。

「私がその寂しさを埋めてあげられればいいのだけれど、どうしたものか」

192小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 23:17:54
>>191

  「気遣ってくれて、ありがとう」

何となく――彼の言葉には、どこかしら嘘が交じっているような気がした。
でも、嬉しい気持ちに変わりはなかった。
そうしてまで自分を慰めようとしてくれたのだから。
きっと、彼はとても優しい人なのだろう。
この短い時間の中で、そんな思いを感じていた。

  「いえ、いいのよ……。そう思ってくれただけで、私には十分だから」

そう言って、小さく首を横に振る。
同じ時間を共有し、こうして言葉を交し合えた。
それだけで、自分はささやかな幸せを感じている。
現に、少なくとも今の自分は寂しさに苛まれてはいない。
だから――それで十分なのだ。

  「でも、もし……。これから町で私を見かけることがあったら――」

  「その時は、また声をかけてくれると嬉しいわ」

ただ、ほんの少しだけ我侭を言うのならば、もう一度会いたい。
それはいつになるか分からないし、もう会うことはないかもしれない。
けれど、もし会えたとしたら、それは自分にとって、とても嬉しいことだから。
人との出会いは素敵なことで、それが続いていくことは、さらに素晴らしい。
そう思ったからこそ、その気持ちを言葉にした。

     ガララララッ

少し離れた所から、シャッターの一つが開く音が聞こえた。
いつの間にか、思っていた以上に時間が経っていたようだ。
差し込む陽光によって、町を包む影は徐々に取り払われ、少しずつ明るさを増しつつある。
やがて、この通りも人々で賑わい始めるだろう。
また今日も、新しい一日が始まろうとしている――。

193のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/05(金) 00:17:36
>>192

「私は気遣いなど」

していない。そうであるはずだ。
きっと、きっと。

「ええ、もしまたお会い出来たら、その時はまた」

「よきことが起こることを願います」

開き始めるシャッター。
そろそろ街が動き出す。
僕の嫌いな時間が始まる。
さぁ、帰ろう。元いた場所に。

「それでは、また」

僕は歩き出す。
彼女のいない方向へ。僕が向かわなければならない場所へ。

僕はなんて惚れっぽいのだろう。

194小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/05(金) 00:50:23
>>193

  「――ふふ……」

否定する少年を見て、ただ黙って微笑む。
彼の温かい心遣いは伝わっている。
だから、あえて何かを言う必要はない。

  「卜部さん、あなたにも――」

  「いいことがありますように」

差し込む朝日を受けて、眩しそうに目を細める。
日が高くなってきた。
今日も天気が良さそうだ。

  「ええ。また……」

彼と同じように、自分の場所へ歩き出す。
けれど、どちらも同じ町に生きている。
だから、いつか再会することもできるだろう。
ふと立ち止まり、空を仰いだ。
澄んだ青空を入道雲が彩っている。
きっと、いい一日になる。
何となく、そんな予感が胸の中にあった。

195小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 21:06:47

  トコ
        トコ


小角は道を歩いている。
二学期はとっくに始まり、今は下校時刻。

(うぅむ……まいったなあ。
 よりによって今日がお休みとは)

しかしここは通学路ではない。
小角は文房具屋を探しているのだ。

馴染みの店は閉まっており――コンビニは少し遠い。

       「ううむ」

   グイ

内心のうなりが口に出てしまう。消しゴムを買わねば。
このままでは帰っても宿題ができず、テスト勉強も出来ない。

       (スーパーがこの辺に、
        あったような気がするのだが)

              (見当たらないなあ・・・)

196朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 22:34:53
>>195


 「     ――ふっ ふっ ふっふっ……」


  ドンッ!!!


 「――トゥ!!」

 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

「悪の組織の首領 モーニングマウンテン 電信柱の影からドンッと登場!」

 決めポーズと共に、悪の首領は真っ赤なジャンパーを着つつ
片腕に手提げ袋を掛けつつ、バイキ○マンの仮面と共に登場した!

 「何やら困ってる様子だっス 天津飯の友よ!
この天津飯大好き仲間である悪の首領が宜しければ相談にのるっス!
 そして相談が解決するんだったら悪の首領の仲間になるっス!」

 今日も今日とて悪の勧誘活動だ! ちなみに親から買い物を頼まれた帰りでもある!

197小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 22:52:03
>>196

「むっ…………!?」

(な、なんだ、この笑い声は? どこから――)

           「うわっ!!」

     ダッ


どこかといえば、電信柱の影――
そして、誰かと思えば、あの時の『危険なやつ』だ。

(こ、こいつに関わるのはまずい!)

「い、いや……別に困ってなどいない!
 わたしのどこがどう困っているというのだ……」

     ブンブン

手を体の前で振って、徹底的に拒否の構え。
どう見ても困ってたのだが。

「む、向こうに行きたまえ、向こうに!」

        「変な目で見られるだろう!」

  ザワ

実際、今の時間この辺には人がいないわけでもない。
小角としては、この状況で踊りに巻き込まれたりするとこまるってわけ。

198朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:00:50
>>197

「まぁまぁ! 遠慮なんてしなくてもいいっス!
私と天津飯の友の仲っス! そんな他人行儀にならなくていいっスよ!!」

 パワフルに小角の周りをカサカサと動くモーニングマウンテン!
常にいつも走り回ってる俊敏さは悪の首領の際にも損なわれる事はない!!!

 「お腹が空いてるとかなら、天津飯はいまないっスけど
食パンならあるっス。食べるっスか?」

 スッ。と食パンを一枚差し出すモーニングマウンテン!
確か…食パンの白い部分は消しゴムのように鉛筆の黒い部分を何とか
消す事が出来るらしいと言う知識を、小角ならもってるだろう。

199小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:13:11
>>198

「よしたまえ人を勝手に……
 ヘンな仲間に入れるのは!」

    (な、なんてすばしっこいやつだ!)

  クル
         クル

なんとかこう、間を抜けたいが……
動きに翻弄される小角は、なかなか上手く行かない。

「ば、ばかいうんじゃあない。
 わたしはお腹なんて空いてないよ」

       「だから食べない」

食パンが欲しいわけではないのだ。
『消しゴム』がいるのだ!

学校で堂々と使える――鳩の寄ってこないやつが。

「良いから向こうに行きたまえきみ!
 わたしは探しものをしているんだから……」

           「あ」

    (し、しまった、言ってしまったぞ……)

小角の迂闊だが、この状況で平常心を保つのは難しいのでは・・・?

200朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:20:29
>>199

 「ふーむ! 探し物っすかっ!!
天津飯の友の探し物と言うのなら放っておけないっス。
 どう言うものなのか、このモーニングマウンテンに告白すればいいっス。
もしかすれば私の近くにあるかも知れないっス」

 と、腕を組んでモーニングマウンテンは答える。
そのポケットからは、爽やかなミントの香りが漂ってる……。

201小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:26:08
>>200

「そんな友になった覚えは……
 ええい、こうなっては仕方がないか」

「じゃあ単純に言うけど、
 わたしは消しゴムを探してる」

    ス

もはや隠しても仕方がないのだ。
小角は指を小さく立てて、四角を描いた。

(む……なんのにおいだこれは)

           スン

「きみが持ってるのはいらないからね。
 わたしが、自分の消しゴムを、買いたいんだ」

           「……知っているかね?
             売って良そうな場所とか」

ミントの香りにやや惑わされつつ、小角はよどみなく尋ねた。

                   ・・・何のミントだろうか?

202朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:31:46
>>201

 スンスンと鼻を動かす小角。そして出たワード『消しゴム』

 「消しゴムっスか? それなら、あそこの角で売ってるっス!
じゃ、じゃじゃーん!」

 ポケットから出したのは……『練り消し』だ!
 ミントの匂いのする練り消しを、印籠のごとく自慢気に悪の首領は出してきた!

「ガチャポンっス。より取り見取りの五十種類ある練り消しが出てくる奴っス。
外れだと、普通のMON○消しが出たと思うっス」

 ガチャポン! 普通のお店や文房具店を探してる貴方には盲点だった
かもしれないが。遊ぶ場所に意外にも売ってたらしい!

203小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:40:45
>>202

「何! あそこの角だって?
 あんなところに、お店なんて――」

          「あっ!」

   バン!

練り消し。
それではよくないのだが――

「消しゴムのがちゃがちゃ……
 そ、そんなものがあったとは!」

        「も、盲点だった……」

普通の消しゴムが出るなら、話は別だ。
外れ扱いならどう考えても数回で出るだろう。

「……」

「……れ、礼を言わせていただこう。ありがとう」

         ス

やや目を逸らしつつ、小角は礼を述べた。
何となく気恥ずかしいような気がしたからだ。

          ザ

    そして、歩く向きを『ガチャポン』へと変えた。回そう。

204朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:52:58
>>203


>礼を言わせていただこう。ありがとう


 「ふっふっふ! なーに、天津飯の友と私の仲っス!
また困った事があれば、直ぐにこの悪の首領の名を呼ぶっスよ!
 それと今度悪の講演会をする予定っス! それに関して
いっぱい広めてくれれば、今日の借りはチャラーっス!」

 今日も今日とてパワフルに悪の勧誘をするのだっモーニングマウンテン!

 小角の悩みが解消されたのを知るや否や、目指すは次の
悪を求める者たちのところへシュパッと参上する為に駆けだす!
 目指すは星見町の悪を求める者たちの声を全て束ねてしまうのだ!

205小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:57:50
>>204

「あ、悪の手先になるつもりはない!
 まったく、よくわからないやつだきみは」

悪になる気はないが、
今までより『警戒』の気持ちは薄い。

悪を標榜していても――『悪人』じゃなさそうだから。

        「……ふん」
 
(講演会とやらに行く気はないが……
 今回は、こいつに助けられたのだからな)

「借りは別の形で返すだろう。
 ……また会おうじゃあないか」

           「では、失礼!」

    ザッ

そうして小角はガチャポンへ行き――『500円』で消しゴムを取った。  

                ・・・ついでに、練り消しも4つ手に入った。

206草壁多聞『アンサング』:2016/09/22(木) 22:23:16

人気のない深夜の町を彷徨う影が一つ。
背格好から見て、男のようだった。
身長は180cmといったところ。
革ジャケットにジーンズというラフな格好。
口元にスカーフを巻き、頭にはアポロキャップを目深に被り、
夜だというのにサングラスをかけている。

男はしばらく通りをうろつき、駐車場の前で足を止めた。
視線の先には、一台のセダンがあった。
いかにもスカした感じの高級車――こいつにしよう。

ズギュンッ

自身の精神の象徴たる『枯れ草が絡まった細身の人型』を発現させる。
そして、その手が車に触れた。
振れると同時に、『騒乱の種』を仕込む。

「よし」

『人型』を伴い、男が一歩ずつ後退し始めた。

「5、4、3」

車を見つめたまま、下がり続ける。

「……2、1、『0』」

カウントを終えると、体を反転させて、車に背を向けた。
その動作と同時に、セダンの内部から小さな破裂音が聞こえ、煙が吹き出る。
人目がなくなると同時に、『騒乱の種』が『発芽』したのだ。

「なんというか……。『悪いこと』って、なんでこんなに楽しいんですかねえ。
いや、まったく、やめられませんよ」

その男――清月学園教師・草壁多聞は本当に気持ち良さそうに笑っていた。

207白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 00:10:31
>>206

「なーにが楽しいんだって?」

「聞かせてもらえるかねぇ?」

赤いジャージの女が言う。
身長は女にしては高い183。
目は爛々と輝き、その手には買い物の後らしいコンビニの袋。

208草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 00:30:01
>>207

「いや、人に迷惑をかけずに悪いことをするのが楽しいと言ったんですよ」

白瀬が故障した車を見たなら、『騒乱の種』によって起こされた『故障』は元に戻るだろう。
見てないなら、自分が『目撃』することで元に戻す。
最初から、そうするつもりだったのだ。
実害のない悪戯こそが自分の望むものだからだ。

しかし――内心少々ヤバイとは思っていた。
相手は女性だが、体格もいいし、威圧感がある。
これで腕っ節が弱いなんてこともあるまい。
自慢じゃないが、喧嘩は売ったことも買ったこともない。
人と争うことは嫌いだからだ。
それに、もし殴り合ったとしたら、まず自分が負ける。

「ね?元通りでしょう?」

そう言いながら、さりげなく辺りに気を配り、逃げ道を探しておく。

209白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 00:58:31
>>208

「ふーん」

白瀬は目撃する。
故障した車をだ。
つまり、故障は消える。
元の車がそこに残る。

「待てよ」

「ちょっと、お話ししようや」

その眉間にはしわが寄る。
大きく一歩を踏み出して近寄る。

「なあんで、そんなこと楽しんでるのか」

「なぁ?」

「後さぁ、お話しするときは、スカーフとかサングラスとかとって、目と目を合わせてお話ししようよ」

210草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 01:27:13
>>209

ひとまず今は逃げない。
とりあえず、いざというときに逃げる方向だけ把握しておけばいい。
下手に逃げようとすると、かえって危ない。
そんな気がする。
『アンサング』は出したままだ。

「申し訳ないですが、これを外すことはできません。
ファッションでやっている訳ではありませんのでね」

半分はファッションですが、と心の中で付け加える。
相手が近寄るのを見て、警戒する。
『故障』が元に戻ったのを見ても全くのノーリアクション。
自分と同じスタンド使いだと確信した。
近付いてくるということは、近付く必要があるということなのだろうか。
もし、さらに踏み込んでくるようなら距離を取る。

「……ですが、人と話す時に目を合わせないというのは失礼ですね」

そう言って、サングラスを外した。
特に変わった色をしているわけでもない、ごく普通の黒い瞳。

「これで勘弁していただきますよ」

「さて……」

「『なんでそんなことを楽しんでるのか』でしたね?
少し長くなるかもしれませんが、お時間大丈夫ですか?」

211白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 01:45:15
>>210

こちらもスタンドを出しておこう。
人型のそれを

「お時間なら大丈夫だぞ」

「それと、質問に質問で返すなよ。学校で教わらなかった?」

くいと小首をかしげる。
ぱきりと首を鳴らした。
まだ近づいていく。

「まぁ、長く話したければそうしろよ」

「喋られる時間は長い方がいいだろう?」

「弁明でもなんでもよぉ?」

212草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 23:29:28
>>211

「いえ、そろそろ帰ろうと思っていましたのでね」

向こうが近付けば、こちらも後ろに下がる。

「手短に済むなら、私としてもありがたいです」

未知の相手を前にして、緊張が高まる。

「私には悪いことをしたいという思いがあるんです。
ですが、人に迷惑はかけたくない」

まず、こちらの能力は見られている。
そして、自分のスタンドは戦闘には向いてない。
なにより、自分には戦う意思はない。

「だから、こうして発散しているわけです」

できれば今すぐ背中を向けて走り去りたい。
だが、きっかけが見つからない。
背中を見せるのは危険だ。
距離を取りながら、いつでも防御できるようにスタンドを構える。

213白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 23:52:36
>>212

「ふーん。なるほどなぁ」

うんうんと納得した白瀬。
その眉間に先ほどまでのしわはない。

「……危険だけど、危険すぎないな」

そう呟くとその場に胡坐をかいて座り込んだ。
そして首をニ三度鳴らす。

「アタシは他人を踏みにじったり傷つけたりする人間が大嫌いだ」

「あんたはその領域に片足を突っ込んでる。ぶっ飛ばしたいが、まだ片足だ」

「その言葉が嘘だっていうなら今すぐにでも叩くけど」

今はしない。そう明言した。

「両足突っ込んだら殺す。容赦なく」

「今はまだ取り返しのつく悪事だからな」

「だがその精神が『人を害するのが楽しい』に傾いたり、今やってること以上のことをしたら」

「両足突っ込んだとみなす」

それからぎぃっとあなたを見上げる。

「帰りたいなら帰りるといい」

スタンドも解除する。
攻撃の意志はない。厳密にはあるが、今すぐに叩くつもりはない。

214草壁多聞『アンサング』:2016/09/24(土) 00:22:06
>>213

「……ありがとうございます」

意外な反応だった。
てっきり、攻撃を仕掛けてくるかと身構えていたが……。
分かり合えたとは言えない。
しかし、納得はしてもらえたらしい。
話はしてみるものだ。

「人を踏みにじり、傷つける人間が嫌いだというのは私も同じですよ」

そう答える目に嘘はない。

「だから、もし私がそうなったら、その時は殺して下さい」

その声にも迷いはない。

「そんな風になるくらいなら死んだ方がマシですから」

そう言って、こちらもスタンドを解除する。

「では、失礼します」

立ち去ろうとして、はたと立ち止まる。

「……おかしな言い方かもしれませんが、感謝しますよ」

そう言い残して、今度こそ立ち去っていった。

215白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/24(土) 00:29:10
>>214

「あいよ」

「その首すぱっとやってやる」

からからと笑って物騒なことを言う。
それが白瀬という女性であった。
そしてその言葉は本気の言葉でもある。
容赦なく許しはしない。

「感謝……?」

立ち去る背を見つめ。
そう呟く。

「気に食わねぇ。ま、許しておいてやろう」

「その言葉信じとくぞ」

216小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/15(土) 22:50:21

――PM12:00――

最近見つけて時々通っている輸入雑貨店でいくつかの小物を購入し、店の外へ出た。
時間を確認すると、もう昼間だ。
そろそろ食事をしようかと、適当なレストランを探しながら、通りを歩く。

今日は休日ということもあって、平日よりも人手が多かった。
夫婦と子供の家族連れ、若い恋人たち、高校生くらいの友人同士など、様々な人々とすれ違っていく。
その時、不意に足が止まり、帽子の下の視線が一点に注がれる。
雑踏の中に、愛した相手とよく似た後ろ姿を見つけたからだ。
――もしかすると彼なのでは。
自分でも馬鹿げた考えだと思いながら、目を逸らすことができない。
しかし、まもなく振り返った顔は、当然ながら全くの別人だった。
その男性の下へ、恋人らしき女性が駆け寄ってきて、連れ立って歩き去っていく。
彼らは、とても幸せそうだ。

かつては、自分もそうだった。
当時の思い出が脳裏をよぎり、一抹の寂しさが心を掠める。
胸に生じた感慨に思わず目を伏せ、やがて再び歩き出し、雑踏の中に消えていく。

217小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/31(月) 22:58:12

『ハロウィン』――ヨーロッパを発祥とする民族行事で、秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す祭りである。
近年は日本でも知名度が上がり、季節を彩る楽しみの一つとして浸透し、人気を博しているようだ。
ここ星見町も例外ではなく、通りの各所に飾り付けがなされ、
何かのイベントに参加するらしい仮装した人々も散見された。

少しだけ普段と違う町を歩きながら、ちょっとした非日常に思いを馳せていると、
突然何かに喪服の裾を掴まれたような感覚があった。
少々驚いて振り向くと、小学校に上がったばかりといった少年が、こちらの顔を見上げていた。
帽子とマントを身に着けている姿を見ると、差し詰め魔法使いの扮装といったところだろうか。
どうやら彼の母親と間違われてしまったらしい。

  「坊や――お母さんとはぐれちゃったの?」

不安にさせないよう、少年に声をかけつつ、辺りを見回す。
おそらくはぐれてからまだ時間は経っていないだろうし、向こうも捜しているはずだ。
それなら、少年の母親が近くにいる可能性は高い。
まもなくして、少し離れた所から、母親らしき人影が、少年の名前を呼びながら近付いてきた。
それは、黒尽くめの魔女の仮装に身を包んだ若い女性だった。
これでは間違えるのも無理はない。

頭を下げる母親に会釈を返し、小さく手を振る少年に手を振り返す。
それは日常の中に生じた、ほんの些細な出来事だ。
しかし、今日がハロウィンでなければ起きなかったに違いない。
ある意味では、これも一つの『非日常』と言えるのかもしれない……。
そんなことを考えながら、再び歩き出す。

218小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/10/31(月) 23:26:38
>>217

(嫌になるわね)

ふぅとため息をついて歩く。
何をするという訳でもないが、歩いている。
黒い服に赤いスカーフが栄える。

集団のハロウィンに浮かれた塊を避ける。
面倒くさそうに。

「はぁ」

またため息が出る。

219小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/31(月) 23:57:56
>>218

向こうから歩いてきた小鍛冶とほぼ同じタイミングで人並みを避ける。
人並みに遮られて、向こう側の様子は見えていなかった。
だから、相手の存在に気付いたのは、至近距離まで近付いた時だった。
さすがに避ける暇がない。
その結果、軽くぶつかってしまうことになった。

  「あっ……」

  「ごめんなさい」

頭を下げて、自身の不注意を詫びる。
洋装の喪服に黒いキャペリンハット。
帽子の下の黒髪はアップヘアだ。
この時期だと、遠くから見ると魔女の仮装に見えなくもないが――仮装ではない。

220小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/11/01(火) 00:00:18
>>219

「んっ……」

「いえ、こちらこそ。ごめんなさいね」

謝罪と同時に相手を見る。
その服を観察。

「喪服、かしら」

(仮装かとも思ったけれど、そうじゃあないし)

(そういうタイプでもないわね)

221小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/11/01(火) 00:21:19
>>220

ややあって、自分を見る視線に気付いた。
観察されることは初めてではない。
しかし、それが原因で動揺することはない。
自分自身、この服装が街中を歩くのに似つかわしい格好ではないということは分かる。
それでも、この習慣を止めるつもりはなかった。

  「ええ」

  「仮装ではないわ」

  「さっきは間違われてしまったけれど」

そう言って、軽く微笑む。
それは明るい笑いではなく、どこか陰のある笑顔だった。
もし、小鍛冶の視線が両手に移ったとしたら、両手の薬指に同じような指輪をしているのが見えるだろう。

222小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/11/01(火) 00:36:09
>>221

「そう。それは、気の毒といっていいのかしら?」

「私はあまり、こういうことは好かないから、そう思ってしまうけれど」

指輪が視界に入るがそれについて突くことはしなかった。
それをするほど子供でもなかった。

「あなたはどうかしら? ハロウィンが好きとか、あるのかしら?」

「それともイベントは苦手?」

223小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/11/01(火) 00:58:27
>>222

投げ掛けられた問い掛けに対し、頭の中で考えを巡らせながら、おもむろに口を開いた。

  「私は――静かな場所が好きね……。湖畔の近くの自然公園には、よく出かけているわ」

  「あの辺りで過ごしていると気持ちが落ち着くから……」

  「そうね……。あまり賑やかな所に入るのは苦手かもしれないわね……」

ぽつりぽつりと話しつつ、一旦言葉を切る。

  「でも、時々寂しくなることがあって……」

  「そんな時は、少し賑やかな通りに出てみようと思うこともあるわ」

  「今ここにいるのも、そんな理由かしら……」

そこまで言って、今度こそ言葉を終えた。

224小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/11/01(火) 23:01:14
>>223

「そう。私は騒がしいのが嫌いなの」

「まだここはマシだけど、ただバカ騒ぎしたいだけなところは好きじゃあない」

流れる様に言葉が生まれる。
彼女にとって間違いのない言葉だった。

「寂しさ、ね」

(随分と昔に忘れてしまったわね)

「なら、ほんのちょっぴりだけその隙間埋めてもよろしくて?」

225小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/11/01(火) 23:22:10
>>224

無言で目を少し見開き、少々驚いたような顔をする。

考えてみれば妙な状況だった。
彼女とは、ただぶつかっただけの関係なのだから。
普通なら、そのまま通り過ぎて終わりだろう。
しかし、こうして言葉を交わしている。
それは、彼女に対して何かの縁を感じたからかもしれない。

  「――ええ」

しばしの沈黙の後、短く返事をした。

226小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/11/01(火) 23:34:11
>>225

「まぁ、なんということはなく」

「少し一緒に歩きましょうかということなんだけれど」

髪をかき上げる明。

「ところで、名前を聞いていなかったわ」

「私は小鍛治明。あなたは?」

227小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/11/01(火) 23:58:10
>>226

思わず、くすりと笑う。
先程と比べると、幾分明るさの感じられる微笑みだった。
それは傍らにいる少女のお陰なのだろうと思えた。

  「ありがとう」

素直に感謝の気持ちを口にする。
彼女にとって、自分は出会ったばかりの人間だ。
そんな自分のために何かをしてくれる。
なんということはない、と彼女は言った。
しかし、自分にとっては、それはとても温かい心遣いだった。

  「小石川文子よ」

  「じゃあ……小鍛冶さんと呼ばせていただいてもいいかしら?」

気付けば、人の通りも徐々に落ち着いてきていた。
少なくとも、先程よりは歩きやすい道に見える。

228小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2016/11/02(水) 00:12:42
>>227

「別に」

「よろしくお願いするわね。小石川さん」

(気まぐれよ)

ただの気まぐれだ。
かつての自分は彼女ではなかったし、寂しさを忘れた小鍛治にとって彼女が特別な存在であったという訳でもない。
偶然だったのだ。すべて。

「トリックオアトリート」

「なんてね」

229小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/11/02(水) 00:41:46
>>228

  「ええ。よろしく……」

彼女が心の中で何を考えているのか。
勿論それは分からない。
もしかすると、彼女にとっては、本当になんということもないことなのかもしれない。
ただ、自分は少女の気遣いに感謝し、嬉しく思っていた。
仮にそれが自分だけのものだったとしても、今この時、それは自分にとっての真実だ。

  「――ハッピーハロウィン」

『トリックオアトリート』と言われたら、こう返事をすることが通例となっているらしい。
どこかで聞いた知識を思い出し、やや冗談めいた口調で返した。
その後は、小鍛冶の言った通り、肩を並べて通りを歩いていく。
そうしている間は、少しだけ寂しさを忘れられた。
自分からすれば、大きな出会い。
けれども、この町からすれば、ほんの些細な小事。

どちらにしても、二人は共に歩き、同じ一時を過ごした。
それは紛れもない事実なのだ。

230『寝坊すけハロウィン』:2016/11/06(日) 22:28:37


星見町  大通り


   ハロウィンの日は、この通りも幾つもの仮装行列をする
子供や大人が並び、賑わっていた。だが、ハロウィンから六日も
過ぎた今の時刻、この通りで仮装をするような人はいない。

 いない……と思われていた。


  『トリック・オア・トリート!』

 いや 『居た』

幼稚園に通う子供ぐらいの背丈の、手足は見間違いでなければ
木のような感じ。本物の南瓜らしき頭をした何ものかが叫んでる。

 『トリック・オア・トリート!
オラは恐ろしーいジャック・オー・ランタン様だぞー
 トリック・オア・トリートっ

……ぜぇ ぜぇ。何で人間達は仮装もしてないし、こんなに
恐ろしいオラに気づかないんだ???
 しかも普段より力が出ない気もする……。
いや、諦めるなジャック・オー・ランタン!
 オラがやらなきゃ誰がハロウィンを盛り上げる!
 うおー オラはハロウィン一恐ろしいジャック・オー・ランタンだ
誰が早く気づけ―! こわがれーー!』

 何やら騒いでいる……

231小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/11/06(日) 22:45:45
>>230

「う、うわっ……」

(なんだあいつは……もう7日だぞ。
 非常識というか、世間知らずというか)

       「……?」

探偵の卵――小角の観察眼は、
やや時季外れの『それ』に違和感を見た。

しかし違和感は違和感とまりなのが『卵』な所以。
とはいえ、向こうも聞いても無いことをしゃべってくれる。

「…………」

(ほ、ホンモノのおばけなのか……
 それとも、そう思い込んでいる何かか)

       ソソ…

     (む、無視がよさそうだな、ここは。
      超常の存在だとしても……いや、なおさら!)

小角はどちらかといえばかなり臆病だが、
こうも堂々と騒いでいては逆に怖くないものだ。

こっそりと――それを見ないように歩いていく。もうじっくり見た後だが。

232『寝坊すけハロウィン』:2016/11/06(日) 22:53:59
>>231

 名探偵の卵 小角にとって。その奇妙なハロウィンに
乗り遅れたお化けとの遭遇は とてもとても危ない事も考えられる。
 故に、貴方はじっと観察したあとに距離をとる。

 『トリック・オア・トリート! ぜぇ ぜぇ だーれも気づいてくれないゾ
ん?  んんん??

 あっ! お、お前。こ、このジャック・オー・ランタン様に気づいてるなっ』

 枯れ枝のような……いや、貴方を指す ゆびらしきものは本物の枝らしい。
それを振りつつ、カボチャの頭のお化けは騒ぐ。

 『うおーっ! 気づいたが百年目! お前の運の尽き!
トリック・オア・トリート! お菓子か悪戯が選ぶんだー!!』

 たったったったったっ……   がくり。


  『……ぜぇ  ぜぇ  ぜぇ』

 走り出し、約五歩ていどで。ぐったりとカボチャのお化けは
地面に伸びる。 どうやら、このお化けは体力が皆無のようだ……・

233小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/11/06(日) 23:12:02
>>232(GM)

「うっ」

(しまった……気づかれた。
 ま、周りにこいつは見えていない)

      (反応したらばかみたいだ!)

かといって無視しても面倒――

「えっ」

かと思ったが、想像以上に貧弱だった。
小角は丸い目をさらに丸くしたが、すぐに落ち着く。

「……」

      キョロ

  キョロ

(ど、どうすればいいというのだ。
 無視したらわたしが悪者みたいじゃないか)

「…………」

     トトトト

夢見も悪いので、近づいてみる――
倒れた理由が小角には分らないからだ。 

     「お、おーい……」

そして、小声で呼びかける……スタンド会話は、頭から抜けている。

234『寝坊すけハロウィン』:2016/11/06(日) 23:22:49
>>233


 「はぁ  はぁ……お オラはハロウィン1 恐ろしい
ジャック・オー・ランタン
 け、けど・・・ お オラはもう……駄目見たいだ」

 シュゥゥゥゥ…

 南瓜頭のお化けは 段々と体が消えて行こうとしている……

 「あぁ……ハロウィンを……したかった  なぁ……
トリック・オア・トリート……
 トリック・オア・トリート…………
だ、誰が……オラに……お菓子か 悪戯を……。
い、一度だけで良い、んだ。それで……オラは 満足 出来る」

 弱弱しい声で、小角のほうに力なく南瓜頭の顔部分を向けて頼み込んでいる。

235小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/11/06(日) 23:36:32
>>234(GM)

「い、いきなりダメと言われても……
 困るじゃあないか、こんな町中だぞ!」

       (あっ、き、消えて行く……)

  アタ

     フタ

どうしてやればいいのかもわからない。
困惑する小角だが、答えはすぐに出た。

「ハロウィンはもう……」

      「い、いや」

(何らかの理由があったに違いない。
 ここで見殺しにするのは……かわいそうだ!)

「わ、わかった。じゃあお菓子をやろう!」

         「今買ったばかりだが……」

   ゴソ
 
          ゴソ

「やむをえない……わたしの明日のおやつだが!」

         「う、受け取りたまえ!」

手に持っていた鞄から、
一枚の板チョコレートを出して渡す。

           ザワ

周囲の奇異の目は小角の視界には入っていない――今は。

236『寝坊すけハロウィン』:2016/11/06(日) 23:56:12
>>235(小角)

 >受け取りたまえ!

 キラーン☆

 その板チョコレートが出た瞬間 ハロウィン1おそろしいお化けの
徐々に消失していく体が一時的に、かなりくっきりと姿を戻らした。

 「うわーーーーーーーーーーーーーー!!!
チョコレートだあああああああ!!!」

 ドヨドヨドヨッ。

 板チョコを掲げ、ピョンピョンと跳ね回る南瓜のお化けを
周囲の歩く一般人達は、驚いた様子で見る。

 「有難うっ! あんたは命の恩人だよ!
けど、もうオラの残り時間も少ないみたいなんだ。
だから、また来年の。正真正銘のハロウィンのオラが
あんたをお化けの王の賓客として本格的に楽しませるよっ!」

 ジャック・オー・ランタンは。小角の片手を枝の両手で熱烈な握手を
おこないつつ、そう約束をした。

 「命の恩人の、あんたにプレゼントをやるよ!」

パイプらしきものを、ジャック・オー・ランタンは何処からか取り出して
貴方の手へ渡す。それは――『パイプ』だ。

「こいつは『カカオパイプ』!
このパイプのさきっちょに、ココアの粉とお湯を少し注ぐだけで
何時だって、まろやかな色んなチョコとかの味を咥えれば楽しむ事が出来るのさっ。
 次のハロウィンが恋しくて我慢できない時は、これを咥えてくれ!
また来年 このジャック・オー・ランタン様がやって来て、お前を
精一杯恐怖のどん底に落とすからな!   それじゃあ

 ――トリック・オア・トリート」

 ぼふんっっ!!



 ……お化けは消える。まるで嵐のような展開のままに

周囲の一般人達は、瞬く間に起きた数々の異常な出来事に目を白黒させ
結局、何かしらの幻覚か 若しくはイベントだったのだろうと決めて解散する。

けれど、貴方はその夢幻のような一時が確かだったと実感出来る。
 その手には しっかりとカカオの香りが立ち上るパイプが握られてたから……。



小角 宝梦『イル・ソン・パティ』⇒ユニークアイテム『カカオパイプ』get!

237小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/11/07(月) 00:07:05
>>236(GM)

「う、うわっ!! いきなり叫ぶな!」

「お、大袈裟……でもないのか。
 いやしかし、恐怖のお礼なんてまっぴら――」

> ぼふんっっ!!

       「わっ」

(な、なんだったのだろうか。
 お化けの王……来年本当に……)

        ブルッ

「……う、うう。
 ろくでもないぞ……」

背筋に寒気を感じた。
7日前の忘れもののような寒気を。

それから――手には、確かな重みを。

     「あっ」

(の、残っている……チョコのにおいだ)

「このパイプだけは……
 まあ、ありがたくもらっておくが!」

外で加えるには少し……目立ちすぎるけれど。
パイプというのは、前から欲しかったものだ。

  「ふふん」

     スッ

チョコレートを入れていたポケットにそれを納め、家に帰ろう。

238小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/12(日) 23:58:32
ある日、商店街の古本屋にて。
一人の少女がレジ係として座っていた。
ただし、椅子に座りじぃっと本を読んでいる。
業務も上の空だ。
ただ本を読んでいる。周りのことに一切気が付いていない。

「……」

彼女がページをめくる音が聞こえる。

239薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 00:51:50
>>238

「――――っと」

    「――ちょっと」

       「ねえ、ちょっとってば」

呼び掛けが耳に入って来だしたのは、
その主が少しずつ声を張り上げだしたから。
 
顔を上げれば、奇抜な外見の、小柄な少女がいる。
白髪赤目――肌を見るに天然のものではなさそうだ。

「これ。買いたいんだけど……
 続きの巻はここには売ってないの?」 

       「店員さんよね? あんたが」

差し出している本は『少女漫画』だ。
小鍛冶ならば、続巻のありかもわかるかもしれない。

240小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 01:21:26
>>239

「……」

「あぁ、すみません」

しおりを挟み、本を閉じる。
黒い髪、黒い瞳、白い肌。服も白と黒。
こちらは天然もの。

「えぇ、確かに店員ですけれど」

本に視線をやる。
『少女漫画』か。
手に持っていた本をレジの置かれた机に立てる。
それからコンコンと指で机を叩いた。

「続きはありますよ」

「ただ、品質は保証しかねますけれど」

「それでもよろしくて?」

241薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 01:38:29
>>240

「古本屋だって分かってる。
 品質は……売り物になるんでしょ」

      「じゃあ問題ない」

品質を気にするなら新品を買いに行く。
古くても、読めればいい……安いのだし。

薬師丸はそのように考えている。
付録のミニポスターも、べつにいらない。

     「あー、でもそうねぇ」

「ページが欠けてるとか、
 そういうのはちょっと嫌だけど」

などと言いつつ、少女漫画をレジに置いた。

「そのへんも、保証できない感じ?
 ページがガムでくっついてるとかも」

口調から察するに試しているとかではなく、
この店の品質の『基準』を尋ねているだけだろう。

242小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 01:59:31
>>241

「そう言ってもらえるとこちらもありがたいです」

「時々、わからず来る方もいますから」

微笑みながら立ち上がり、本棚に歩み寄る。

「そういう品は買取の際や仕入れるときに選別するので大丈夫ですよ」

「さすがにそんなものを売ればこんな小さなお店すぐに潰れてしまいますから」

壁際の棚を上段から順番に見ていく。
冷たく、鋭い目つきだ。

「大手の店ほどきれいではないですが、読む分には問題なし」

「それと種類はなるべく豊富に。そこがこのお店の売り、ですから」

目の動きが止まる。
そこに手を伸ばすと目当ての少女漫画がある。

「全巻はないですけど、五巻分くらいなら」

243薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 02:20:08
>>242

「そっか、店員さんも大変ねえ」

       ツカ
          ツカ

店員の後に続いて、
本棚の方へに歩いていく。

薬師丸は『サービス業』だ。
よくない客に関する苦労は、想像できた。

「良いお店だと思うよ。
 色々置いてあってさ……」

本棚を目で追っていたが、
本職である小鍛冶の目には敵わない。

「ああ、そこにあったのね〜ぇ。
 高くて背表紙が見えづらかったから」

「助かったよ。ありがとうね」

       グ
           グ

比較的上段に並べられたその本には、
踵を上げて手を伸ばすとギリギリ届く。

       「……」

「脚立とかあると、もっと助かるかも」    

      ニコ

小さく笑みを浮かべつつ、追加の要求をした。

244小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 23:22:21
>>243

「えぇ、色々置いておかなければいけませんから」

「どこにでもあるものをどこにでもある値段でなんて、スカイモールがやってしまいますもの」

生々しい話であった。
客にする話ではないのかもしれないが、静かに小鍛治はそんなことを話していた。

「脚立、ですか」

「椅子ならありますけど」

そういってレジの方からさっきまで自分が座っていた椅子を引っ張り出す。
背もたれ付きのしっかりした椅子だ。
これに乗れば本も取れるだろう。

245薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 23:30:22
>>244

「まあね。高いなら新品でいいし」

生々しい話には、
同じく生々しい話で返す。

それが許される店だと思ったからだ。

「踏んじゃってもいいの?
 その椅子……靴は脱ぐけどさ」

         「よいしょ」

   ス
        スポ

ファーのついたブーツを脱ぐ。
靴下のまま椅子に上がって、本を取る。

「いい店だって覚えとく。サービスもね」

       ニコ

笑みをもう一度浮かべて、
まとめて取った本を手に椅子を降りた。

「それじゃ、お会計よろしく。
 ポイントカードとかはないよ」

あとは会計を済ませるだけだ。
両手で本を抱えて、レジの方へ戻る事にする。

246小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 23:52:15
>>245

「ふふっ。その通りですね」

薄く笑う。

「えぇ、では私も店長に告げておきます」

「今日はお客様が来たと」

椅子を持ち、レジに戻る。
会計の時間だ。
だが、別段バーコードとかを通すわけでもなく。

「六百四十八円ですね」

「……ところで、お客様はオカルトとか信じるタイプでしょうか」

「不思議な出来事とか、不思議な存在を」

247薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 00:02:37
>>246

「流行ってないんだ。
 まあ本読んでたもんね」

「ま、貧乏暇なしともいうから、
 暇できるくらいがいいのかもね」

      ジャラ

小銭入れから3枚出した。
500円と、100円と、50円だ。

「良い買い物したよ」

漫画6冊の値段なら相当安いだろう。
商品を受け取ろうとして――

「……っと、急ねぇ〜え。
 オカルト、不思議な存在」

「そういうの好きそうに見える?」

確かに不思議な見た目ではある――
フリルのついた衣装も、やや非日常の黒色。

「ま、信じないことは無いけど……
 なんかの勧誘なら間に合ってるよ」

そう返して、清算を済ませた本を受け取ろうとする。

248小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 00:14:10
>>247

「暇すぎても問題ですけれど」

「はい確かに」

お金を受け取りレジの中へ。
レシートは出してくれた。
必要ないならそう告げておこう。

「えぇ、ついさっき思い出したものですから」

「というか正直、お話ししたお客様にはだいたい聞いているのですけれどね」

本を袋に入れる。
薄茶色の紙袋だ。

「勧誘ではないですが、興味がなければ構いません」

「白紙の本に興味はあるか、ということなのですけれど」

紙袋を差し出した。
その眼は落ち着き、冷たく、鋭い。
口には微笑みを浮かべてはいるが柔らかそうではない。

249薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 00:33:54
>>248

「ほどほどが一番でしょうね。
 なんか普通な結論だけどさ」

レシートは受け取っておく。
まあ、一応のことだ。

紙袋を脇に挟んで、鞄を持ち直す。
まだ立ち去らない。判断しかねるから。

「『白紙の本』?」

ノートのことではないだろう。
聞きなれない単語に瞬きする。

     「…………」

「それさ、お金になる話?
 ……ああ、『犯罪』以外ね。
 それなら興味あるんだけど」

「ただ不思議なだけなら、いいや。
 そういうのも間に合ってるからね」

――意味深な言葉だが、
薬師丸には意味を察しかねた。

とはいえ、話しは聞いておくものだ。
寝て待てば来る果報は、それほどないのだし。

250小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 01:03:02
>>249

「えぇ。中身はもちろん、表紙も裏表紙も背表紙も」

「何も書かれていない。製本されただけの本です」

レジの置かれた机。
その下を彼女がまさぐると何冊かの本が現れる。
どれも劣化しているのか少し茶色い色をしている。
そしてどれも共通して何も書いてはいなかった。

「お金、なるんじゃあないですかね」

「この本はここが本を仕入れているところからいただいたものですけど」

「心霊現象が起きたりしてみんな突き返してしまうのですって」

「その時、決まって本に文字が浮かび上がる、らしいです」

「普段はなにも起こさない普通の本なんですけれどね」

「仕入先の方はそれがどういうものなのか知りたいらしいですけど、あいにく私が持っていても何も起きないものですから」

「興味がある方にでもお渡ししようかと」

251薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 01:13:45
>>250

「それ、つまりノート……
 とは違うのよね、やっぱ」

     ジ

     「何冊もあるんだ」

赤い目を細めて、本を見る。
変哲もない・・・ように見えるけれど。

「解明すれば謝礼も出る……
 ってとこかな、悪くはないけど」

「今持って帰るのは嫌ね。
 一人暮らしでもないし……
 心霊現象ってのはちょっとね」

興味は多少ある、とはいえ。
それ自体が金になるわけでもなく、
今のところ誰の手にも負えない代物。

持って帰るには、リスクが大きい。

「どうせそうそう捌けないでしょうし、
 気が向いたら調べてみてもいいよ」

     「でも今日は漫画で十分」

白紙の本。

ひとつのめぐり合いかもしれないが、
今日の所は『日常』を大事にしたいと思った。

252小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 01:29:25
>>251

「私も驚きましたけど」

本を手に取りぱらぱらとめくってみる。
勿論というべきか、何も書いていないが。

「そうですか、それもそうです」

「生活のある人間がそう簡単に手を出していいものでもないのかもしれませんね」

「えぇ漫画だけでもこちらとしては嬉しいものですもの」

「日常にこれは不要、かもしれないですね」

また薄く笑う。
本をまた机の中にしまい込む小鍛治。

「またのお越しをお待ちしております。それと、もしもまた興味が湧いたりすればお話しください」

「この本はずっと、待っていますから。誰かを」

ね、と優しくいって首を傾げて見せた。

253薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 01:40:08
>>252

「悪いね、今すぐ入用でもなくて」

富に満ちた生活でもないが、
特別困窮しているわけでもない。

・・・少なくとも今は。

「どうしても手が欲しいなら、
 呼んでくれたら手伝えるかもね」

「心霊現象が悪化したとかさ」

     スッ

懐から名刺を出して、
カウンターの上に滑らせた。

手書きの名刺に、兎の絵。

「メアドだけ教えとく」

        「んじゃ、また」

これが最後の来店ではない。
もっとも、次にどんな用で来るかは分からないが。

254小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 01:02:38

洋装の喪服と黒い帽子を身に纏い、雑踏の中を一人歩く。
家族、友人、恋人。
様々な繋がりを持つ人々が通りを歩いている。
その中に見知った顔はない。
それでも、こうして人の多い場所にいると、ほんの少し寂しさが薄れるような気がした。

しばらく町を歩いた後、休憩するために一軒の喫茶店に入った。
静かで落ち着いた雰囲気の店。
店内に流れる優しい響きのピアノ曲が耳に心地いい。

しばらく窓の外を見つめていると、注文した品物が運ばれてきた。
ラベンダーを使ったハーブティーとラベンダー入りシフォンケーキのセット。
お茶を一口飲むと、芳しい香りが心を落ち着けてくれる。

カップを置き、店内を軽く見渡した。
日曜日の昼過ぎということもあって繁盛しているようだ。
新しく入店する人がいたなら、もしかしたら相席になるかもしれない。

255?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/05(日) 23:07:07
>>254
 イラッシャ……!? イラッシャイマ…セ…? 
 「一人です」
モウシワケアリマセン、タダイマ、マンセキデ……
 「相席でも構いませんよ俺は」


ベルの鳴る音の後、店員と客のやりとりが聞こえる。
かと思えば、小石川文子のくつろぐその席の傍らに誰かが来たようだった。

    ミシ……

 「すみません」
 「ここのお席、座ってもよろしいでしょうか」

よく響く男の声である。

256小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 23:59:14
>>255

店内から目を離し、ケーキの一欠片を口に運ぶ。
柔らかい甘さが口の中に広がっていく。
その直後、傍らから響いてきた男性の声。
それを聞いて我に返り、フォークを置いた。
紙ナプキンで口元を軽く拭う。

  「はい、どうぞ――」

そう言って顔を上げる。
目の前にいるであろう男性の姿が視界に入る。
それは、どんな人なのだろう。

257?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 00:23:11
>>256
小石川文子が顔を向けた先、どんな人間がいたのか。
―――――――姿は『異様』の一言に尽きた。

 椅子に座ろうとしているのは、珍妙な服装をした、大きめの体躯の男であった。
珍妙というのは、それが、黒いワンピースと白いフリル付きエプロン
……所謂『メイド服』、本来女性のための洋服を身に付けているためである。

 メイド服そのものは、決してコスプレ用の安い生地(サテン、とかか)でなく、
よく見れば丁寧な仕立てが施されたものであるのが分かるだろう。
一見すれば『ある種の喫茶店』の店員が着ていそうな物であるが、
それを着るのは、大きめの体躯の男なのである。


 「お邪魔してすみません」

片目に付けた眼帯(レース製だった)が、
ますます男の『異様』さを加速させていた…

 
「ああ、俺の事は気にせず、ゆっくりしていて下さい」

258小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 01:12:46
>>257

一瞬――視線が固定されたように空中で止まる。
物珍しさから来る新鮮な驚き。
それが素直な感想だった。

  「――いえ、お構いなく……」

けれど、その驚きは一時のことだった。
なぜなら、自分も同じだから。
夫と死別して以来、外に出る時はいつも喪服を身に着けている。

大袈裟かもしれないが、それは自分にとっての信条のようなもの。
きっと目の前に座る彼にも、そういった理由があるのだろうと思えた。
だから、一風変わった彼の服装も何となく納得することができた。

  「とても繁盛しているみたいですから」

少し周りを見て、再び男性に視線を移す。
町へ出てきたのは、一人で過ごす寂しさを紛らわすため。
同席する相手がいてくれるのは、自分にとっては有り難いことだった。

  「素敵な洋服ですね」

けれど、驚かないことと好奇心の有無とは別の話。
彼の服装に関しての興味はある。
だから、それとなく尋ねてみることにした。

259?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 02:06:23
>>258
小石川が服について言及してみると、

「…!」
「ありがとうございます!」

どうやら喜んでいるようだった。
メイド服は嫌々着ているわけでは無いのだろう。

「これ、自分で作ったんですよ デザイン、型紙、縫製まで」
「裁縫が得意でして、俺!!」
「…」

そう笑いながら、男は小石川の着衣に目をやると、すぐさま固い表情になる。
どうやら『素敵な服』と言う訳にもいかないのか、言葉に詰まっている。

「……すみません、『奥様』…」
「俺としたことが、その……不躾な………」

「…店員さんすみません…この人とおんなじ物を」

260小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 03:07:27
>>259

左手の薬指に光る銀色の結婚指輪。
そっと伸びた右手の指先が、それに触れる。
全く同じデザインの指輪が右手にもある。
それらは、肌身離さず実に付けているもの。
自分にとって、命の次に大切なかけがえのないものだった。

  「……いえ、いいんです」

奥様――そのような呼ばれ方をするのは久しぶりだった。
あの新婚旅行中の事故がなければ、今でもそう呼ばれていたと思う。
ふと、幸せだった頃の記憶が脳裏をよぎった。

  「気を遣って下さって、ありがとうございます」

そう言って、静かに微笑む。
どこか陰を含んだ憂いのある微笑み。
明るく朗らかな笑いとは言えない表情。
こうなったのは、一人だけ取り残された時からだった。
その時から、たとえ意識していなくても、自然とこんな笑い方になってしまう。

  「とても器用なんですね――」

  「それを生かしたお仕事をしてらっしゃるんですか?」

手元のハーブティーを一口飲んでから、男性に問い掛ける。
最初は確かに驚きもあった。
でも、こうして言葉を交わしてみて改めて分かる。
彼は、とても優しい人。
それが名も知らない彼に対して抱いた印象だった。

261?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 18:40:18
>>260
「…あ、『メイド』です、見ての通り」
「家政婦ともハウスキーパーとも呼ばれます
 …家事のお手伝いを、あちこちの『家庭』でするんです」

午後の日差しに照り返す、小石川の手元のそれが見えたのだろうか。
大きな肩を縮こめ、男はそう話す。

   オマタセシマシター

  「ありがとございます」
   「わあカワイイ」
    「……すみません、ちょっと写真撮ってもいいですか」

ケーキとハーブティーが運ばれてきた。
男は携帯電話(ビーズやら何やらでデコられ女々しい) を取り出している


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板