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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------

118稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/19(日) 00:11:37
>>117

    グル
         グル

濡れた髪を指で巻いていると、声がした。
それも、かなり高いところから。

「……」

    ビクッ

(声でけえんだよ……
 音量調整ボタン壊れてんのか……)

     「……僕?」

話しかけられたと気づいて、顔を上げる。
指を抜くと、濡れ羽色の髪がくるりとカールする。

かなり見上げる形になる。

「……じゃなかったら、何に見えるよ。」

        ザ
           ァ
              ァ

雨の音は少し遠く聞こえる気がした。
遮る軒は広く、頭を濡らす雨粒は無い。

「ここは安地(アンチ)だから……
 えひ、強制スクロールがあるわけでもないし……」

      「ずっと待ってるって……
       わけにもいかないけどさ……」

119白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/19(日) 00:20:01
>>118

「何に見えるって……誰か待ってるかもしんないだろ?」

こげ茶色の目がまん丸となる。
何を言っているのだろうといった感じだ。

「アンチ? 強制スクロール?」

よくわからないらしく小首をかしげる。

「わかんないけど、雨やむまで待ってるってことでしょ?」

「まぁ、アタシも待ち続けるってわけにもいかないけどさ」

着ているツナギのジッパーを開ける。
腰の辺りでそれを結ぶ。結ぶ際、少し水がツナギから落ちた。

「買い物の帰りかなんか?」

120稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/19(日) 00:32:38
>>119

「…………そういうのもあるか。
 リア充特有の考え方かなぁ……えひ。」

待つような相手もいない。
こんな雨の中だし?
言い訳しなくても、そうそういない。

祖母に迎えに来てもらうのは悪いし。

「……」

「まあ……そうだけど……」

     ザ  ァ
           ァ

雨は降り続ける。
止むまで待ってたら、時間制限が切れそうだ。

「……ゲーム、買いに行って。
 濡れたら故障するかもしれないから……」

    ス

手に持った袋を、背中に回す。

「……買ったのがスポンジとかなら、
 このまま……帰ったんだけど。えひ。」

             「……お前は? 買い物?」

121白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/19(日) 00:53:57
>>120

「リア充? なにそれ」

どうやらこいつはそういう人間らしい。

「ゲームかぁ……アタシもよくするよ」

「頭使うのは苦手だけどなー」

そういって頭をかく。
ぶるぶると犬用に頭を振ると水しぶきが飛ぶ。

「そうだよなぁスポンジなら吸ってくれるもんなぁ」

「ん? アタシは買い物に行こうと思ってね」

「降られちゃった」

122稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/19(日) 01:13:37
>>121

(情弱乙……
 とか言ったら、殴られそう……
 ちょっと……DQNっぽいし……)

    (いや、そもそも通じないか……)

「えひ……専門用語ってやつ。」

どうにも文化圏が違うと察した。
暗く曖昧な笑みを浮かべる。

       パチャ

「うわっ……!
 犬かよ……ああもう……」

頭から飛んできた水に、目を瞑る。
袖で顔を軽く拭う。

          ゴシ

「天気予報って……
 なんで当たらないんだろ……」

       「逆神様かよ……」

  ゴシ

むしろ当たっていることの方が多いのは、知っている。

それよりも。
恋姫の顔に、微妙な笑みが混ざる。

「……ゲーム、するんだ。
 スマホの……パズルゲーとかぁ……?」

       「えひ……それか、格ゲとか……?」

123白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/19(日) 01:22:19
>>122

「専門用語……? かっこいーな!」

元気はつらつな笑顔だ。
恋姫の笑みとは対照的である。

「ああ! ごめんなー癖なんだ。つい……」

思わず手を合わせて謝罪する。
ぺこりとお辞儀もした。
なんだか決闘前のようである。

「そうだよなあ。80%でも降らないのに20%ぐらいでも降る時あるよね」

不思議なものだ。
いや、そんな現象はなかなかないとは思うが。
あくまで確立なのだ。

「いや、格ゲーの方が多いかな。パズルとか長くなりがちだし。まぁ普通にやるけど」

「君ゲーム好き?」

124稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/19(日) 01:45:52
>>123

「………………別にぃ。」

陰気な笑み。
絶やすことは、今はない。

「いや、別に……
 謝る事でもないしぃ……」

  (こういうタイプは……
    調子、狂うんだよな……)

顔を拭いていた手を小さく動かす。
手持ち無沙汰の動きだ。

「……ゲームの命中率みたいだよな。」

     「嫌な確率の方が……
       当たりやすい、っての……」

     ニヤ

         「……」

「えひ……ゲームは大好き。
 ゲームが嫌いな僕なんていないぜ……」

      「100%いない……
        確率的に考えて……」

          ニマ…

陰気な笑みには変わりないが、少し違う色。
はにかむような色。

「格ゲーも好きだよ……
 なあ、お前も……ゲーム、好きなの……?」

           ニマ   ニマ

人形のような顔立ちに、年相応の熱が浮かぶ。
もっともテンションはローで、ダウナーのままだけど。

125白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/19(日) 23:07:30
>>124

「ほんとゴメンなぁ」

しかし許してもらえたことが嬉しいのかニコニコしている。

「命中率。あぁ、確かにそうだなあ」

80%なのに外れるときとか結構ある気がするのは白瀬だけではあるまい。

「そう。いいじゃん。興味があるっていうか好きなものがあるって」

「アタシもゲーム好きだよ」

ピッとVサイン。
そしてあふれる笑顔。

「楽しいし、燃えるし。体に関係ないしね」

126稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/19(日) 23:49:30
>>125

「……謝らなくていいって。
 無限ループでも引き起こす気……?」

       「えひ……」

陰気な笑みが絶えない軒下。
実際、謝って欲しいとも、思わない。

「……」

「そっか……」

     ニマァ

笑みが深まる。
思わぬ所に接点があったから。

「えひ……分かり手だ〜……
 ゲームでなら……何でも、出来るしな……」

指先から他の世界に繋がることだって出来る。
恋姫は、液晶画面の中でならいくらでも輝けると信じてる。

    ザァ   ァァ ァ

        「……ちょっと、雨……
         弱くなってきた……かな?」

「威力120が110に…… 
 下がったくらいだけど……
 えひ。乱数で埋まるくらいの誤差……」

127白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/20(月) 00:37:29
>>126

「それはヤだなぁ……」

えへへと頭をかく。
髪型が崩れる。
いや元よりセットなどされていなかっただろうか。

「そうだよ。ゲームは何でもできるし」

「なによりいろんな人と遊べるもんな」

大きく伸びをして見せる。
見上げる空はまだ雨だ。

「うーん。あんまり長引いてもヤだしなぁ」

「もういっそのこと雨の中突っ切ろうかなあ」

「どうしよう?」

128稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/20(月) 01:03:37
>>127

「ここで詰みってのは……えひ、僕もヤダ。」

     ス

           パチャ

     「冷た……」

軒下から外に出した手に雨粒が落ちる。

どうせ、芯まで濡れ烏だ。
本当に人形なら生地がダメになるくらい。

「……」

  コク

小さく頷く。

「えひ、あんないいもの……
 一日、たったの一時間なんて……」
  
「ハードすぎるだろ……常識的に考えて。
 名人の言う事も、聞いちゃられないぜ……」

       ニヤ

軒下から、少しだけ乗り出す。濡れない程度に。
ゲームの袋を抱え込むようにして。

「僕は……そろそろ、行こうかな……
 今なら……帰る難易度もハードぐらいだろ。」

           ザァ
               ァァ

        「まあ……濡れるだろうけどさ……
         そんなことより、ゲーム……したい。」

129白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/20(月) 01:18:21
>>128

「ゲームは一日一時間ね」

「アタシも昔よく言われたよ。でも、気にしたことなかったなあ」

遠くを見つめる。
どこか懐かし気な瞳。

「アタシも行こうかな。帰りは迎えに来てもらえばいいし」

とんとんとつま先を地面に当てる。走る前の準備運動もしておく。

「物干しざおとか買わなきゃいけないしね」

「あ、アタシ白瀬っていうんだけど、君の名前は?」

「またなんかあったら遊ぼーよ」

130稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/06/20(月) 01:26:47
>>129

「…………」

「僕はあんま、言われたこと……
 ない、かな。……えひ、懐古乙……」

      ニタ

陰気に、少し俯きがちに言う。
首の動きは――恋姫の操作ではない。

昔に思いをはせても。
恋姫の太陽は、昇らない。

「……物干しざお、か。
 悲報、販売終了のお知らせぇ。
 ……って、なるもんでもないわな。えひ。」

      クス

    「んじゃ……」

と、立ち去ろうとして。
言葉が聞こえた。良い言葉が。足を止める。

「……僕は、稗田(ひえだ)。
 この辺のゲーセンか……えひ、
 ネット対戦の海で、また会おうぜ……」

         「今度こそ、おつ〜……」

   パシャ

         パシャ

雨の中に飛び出していって、今度こそその場を去った。

131白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/06/20(月) 01:36:46
>>130

「なんかぶん回してたら折れちゃったんだよなー」

物干し竿。
折れてしまったらしい。ぶん回して折るものなのかは謎だが。

「稗田。稗田ね」

「覚えた。じゃあ、またどっかで。また今度とか!」

そういって白瀬は雨の中にかけていった。

132葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/06/29(水) 23:50:23

   トト

        トトト


大通りを歩く穂風。
意味もなく歩いてるんじゃなく、買い物だ。

(……夏のお洋服、欲しいなぁ。
 この辺りには、あんまり良いのがないし。)

       ピタ


ふと、道の端に寄り、足を止めた。
そして――

   グイ

(あそこに行けば……
 いっぱい、お店がある……)

       (……行ってみようかな。
         でも、なんだか緊張する。)

星見スカイモールのてっぺんを、見上げてみる。
この町に来てから、あそこには未だ踏み入っていない。

               ・・・・悩むところだ。

133のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/01(金) 23:54:19
>>132

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

やぁやぁ、諸君。僕だ。
今僕は呼吸を荒げているわけだが。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

決してなにか悪い意味で興奮しているわけではないことを約束しよう。
ならなぜこのように息を荒げているか。
単純である。走っているからだ。
今の僕はメロスもかくやというほどのスピードと心で走っているわけだ。

「!」

急ブレーキは急にかけるから急ブレーキである。
ならば急でない急ブレーキは存在するのだろうか。
僕はそれをいま身をもって知った。
減速がいまいち上手くいかないということだ。

「おっと。ご無礼」

転びそうになりながらも持ち前の紳士度を落とすことなくスピードの身を落として止まった僕だ。
止まった先に人がいた。挨拶しておこう。ぶつかりそうになったし。

134葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/01(金) 23:58:51
>>133

「……?」

   「わっ」

          「わっ……」

   フラッ

       ト トト

突然迫りくる『はぁはぁ男』に驚く穂風。
ぶつかりそうだったが、間一髪。

    「と」

  「と……」

とはいえ少しバランスを崩す。
後ろにふらつき、なんとか保つ。

「あ、い、いえ。大丈夫、です。
 こちらこそ、その。すみません。」

     「ぼーっと、してまして、その。」

非現実的な赤い髪が、揺れる体に伴ってたなびく。
瞳の色も赤く、それはのり夫に向けられている。

そして。

「あの、どうしてそんなに……急いでたんです、か?」

穂風はややもごもごとした口調で、何気なく問いかけてみた。

135のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/02(土) 00:12:22
>>134

少し待っていただきたい。
いや、これは決してなにか引っ掛かりがあったあったわけではない。

「すーはぁ……」

呼吸が整わないだけである。
すーはーと深呼吸を繰り返しなんとか正常な呼吸に戻そうとする僕だが
心臓は相も変わらず早鐘を打っている。
先ほどはあんなにきれいに言葉が発せられたのになんということか。
責任者はどこか。恐らく僕だろう。

「いや……私が走ってきただけだよ……」

おお、なんと燃えるような瞳と髪。
不思議である。
なんとも奇妙奇天烈しかしこれが現実。
事実は小説より奇なりである。

「ん?」

「いや、いや。急いでいたわけじゃあないよ。ちょっと、ね」

思わせぶりに口元に手をやって笑う僕。
我ながらなかなかにミステリアスな感じを出せているのではなかろうか。
ははは。

「そんな君こそ、ここでなにを?」

136葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/02(土) 00:21:01
>>135

「…………」

穂風は焦らない。
呼吸を整える男を、待っている。

そして、待ち終えた。

「あ……はい。」

現実と非現実の境目があれば、穂風は後者の側に近い。
だが、間違いなく、ここにいる。現実でもがいている。

「あ……ちょっと、でしたか。
 すみません、ちょっと気になって。」

大したことではない――
あるいは、いえないことだと察した。

「ええと……」

「あそこ、を。あの、スカイモールを見てました。
 すごく大きくて……お店がいっぱいあるって、聞いて。」

       「行ってみたいな、って。」

  コク

穂風の側には、特にやましい事情もないし、隠す事もない。
考えて居た事を、そのまま言うことにした。

「行った事、ありますか? その、スカイモール……」

       (……あ……いや、ふつうはあるよね。
         失礼な聞き方、しちゃったかもしれない。)

穂風はふつうというほどふつうではない。だから行ったことがなく、行きたい。

137のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/02(土) 00:33:21
>>136

「気にすることはないよ」

ライフワークの話だ。
僕の趣味は人に知られてはいけない、いや知られてもいいが自己責任である。
無論、僕にとっての自己責任だが。

「スカイモール」

あぁ、確かにあったはずだ。
僕はスカイモールと呼ばれるその高くそびえたつものを見上げる。
高い。太陽の塔などよりも高い。

「あるよ。あぁ、あるさ」

「しかし、簡単に行ける場所のはずだけど?」

君にはなにか理由があるのかい?

「行けばいいんじゃあないかな。それともなにかい」

「『人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ』のように、とても大切な一歩なのかい?」

138葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/02(土) 00:41:49
>>137

「は、はい。気にしません。」

そうすることにした。
気にするほど、気になることもない。

   スック

背筋を伸ばして、また塔を見る。
展望台がある、と聞いた。
誰かここを見ているだろうか。

「あ……あるん、ですか。」

やっぱり、と思った。
きっとこの町のみんなは行っている。

「あの……私、行ったことがなくて。
 少し、緊張して。あんな大きな建物……」

      「ええと……」

  モゴ

何か言おうとしたが――

「あ……そ、そうですよね!
 大切な一歩、ですけど。行ってみれば……」

        「あの、ありがとうございます。」

思いがけずシンプルに背中を押されたので、決断した。
元より、行きたい気持ちは、ずっとくすぶっていたから。

139のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/02(土) 00:54:15
>>138

「あるさ」

思い出されるいつかの展望台。
そして思い出されるいつかの少女。
いま思い出してどうしようか。

「大きい、まぁ大きいけれど」

僕には少女が少し他の人間とは違うように思えた。
教室に蔓延る平々凡々、十把一絡げの掃いて捨てるほどいる人間とは違う
という意味では現段階ではない。
つまりは僕は今、目の前の会って間もない少女に少しの不思議を感じていた。

「お礼を言われるほどじゃあないさ」

「にしても、珍しい」

また少女を見やる。
赤い。とてもとても。僕が普段見る火などよりも赤いのではなかろうか。
僕の黒い髪と瞳とは違う。

「君ぐらいの歳の子ならああいう所にいっているのだと思った」

年齢を憶測で話しているのは少し不味いだろうか。

「友達とか……そういう人と」

恋人の話をしてまともに返されたら反応に困るので除外しよう。

140葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/02(土) 01:02:22
>>139

「…………?」

穂風にはのり夫の想起――
あるいは想像、興味を察することは出来ない。

「言いたかった、ので。
 あの、迷惑でしたら、すみません。」

     ペコ

小さく頭を下げる。
思ったことで、良い事は、素直に言いたい。

「……?」

珍しい――穂風は確かに珍しい。
見た目も、話し方も、出自も。
どこを言われたのか。怪訝な顔をしたが。

「あ……はい、クラスの子とかは。
 けっこう、その、行ってるって聞くんです、けど。」

クラスメイトとの距離は着かず離れず。
親密な相手は、むしろクラス外にいる。
その相手とも、まだ、あの場所には行っていない。

「私は……予定が合わなくて。
 お休みの日も、お仕事がありますし。」

    ニコ…

     「それに、初めは……
      その、一人で行ってみたくて。」

穂風は自立と独立を大切に思う。孤独ではなく――だ。
新たな一歩を踏み出す時、それを少し、一人で噛みしめたい――たまにそう思う。

穂風にとって、この町はまだまだ未開の宝島だ。

141のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/02(土) 01:11:32
>>140

「迷惑じゃあないよ」

なにも、迷惑ではない。
しかしあまり突っ込んでも謝罪やなにやらのループにはまりそうなのでこれ以上は触らないでおこう。
僕だって訂正合戦は望んでいない。

「……」

失敗しただろうか。
すこし彼女の顔が変わった気がする。
いや、しかし僕は間違えたことを聞いただろうか。
聞いていないはずである。いや、たぶんおそらく。

「ふうん。そうか、仕事までしているんだね」

「立派じゃあないかな」

勤労が偉いとは思わないけれど。
働かないよりは上等だとは思う。
働きながら働かない人間もいるけど。

「そうかそうか。つまり君はそういう奴だったんだな」

頷く僕だ。
僕にはどうにもそういう感覚が薄い。
あまり興味がない。しいてあるというならばあの巨大な建造物を焼けば誕生ケーキの蝋燭みたいだなぐらいだ。
大切なことだ。

「まぁ、いい刺激にはなると思うよ。色々あるし」

142葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/02(土) 01:22:53
>>141

「あ……はい。」

それ以上は言わないことにした。
そうしてしまうと、ずっと続く気がしたから。

「いえ、そんな……
 自分のため、なので。」

仕事は自分のため。
お客様のため――でもあるけれど。

「立派とかでは、ないです。
 あの、その、ありがとうございます。」

でも、自分が生きていくのが第一だ。
もっとも今は、保護者もいるのだけれど。

「……?」

         「え、ええと……?」

穂風は『ヘッセ』を知らないし――どういうやつかも、察せない。
けれど、考えるより早く次の言葉が来たので。

「あ、ええと、はいっ。
 色々見てみたいなって、思ってます。」

        「お洋服、だけじゃなくて。」

どんな店があるのかも、聞けばわかるかもしれない。
けれどそれは楽しみをいくらか、損なうことになるから。

    「あの、私、そろそろ行きます。」

穂風は次に行くべき場所を定める。
そこでの事に、思いをはせる。

「その、色々ありがとうございました。
 お礼……いらないかもしれないけど、その、言いたいので。」

            ペコ

けれどその前に、眼の前の男に――恐らくは望まれない礼を述べておいた。

143のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/07/02(土) 01:37:25
>>142

僕は目の前の少女に対する不思議が少し薄れたような気がした。
なるほど。そういう奴なのだと。
ほんの少しだけ、本当の本当にちょっぴりだけ彼女のことを知れた気がするわけだ。
しぼむ風船を内に秘める気分だ。

「うん。色々と見るといい」

「そうか。私は君を引き留めるつもりはない、ここでお別れだ」

礼を述べる彼女はふむ、なるほど。
いや、なんということはない。
なにもないさ。

「それじゃあね。私はのり夫。卜部のり夫」

「いつかまで、またね」

さようなら優等生。
恐らく僕と道を交えることのなかった人間よ。
またいつかまで。

144葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2016/07/02(土) 01:48:07
>>143

「はいっ、いろいろ見ます。
 あ……名前。ええと、私、
 葉鳥 穂風(ハトリ ホフリ)って、言います。」

       「それでは……その。
        卜部さん、お元気で。」


のり夫に、改めて一礼して。

「またっ!」

  トト

     トトト


やや小走りに、その場を去った。
そこからのことは、今はまだ分からない。

145稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/05(火) 23:08:05

額に玉のような汗を浮かべて恋姫は歩く。

真夏なんてまだまだのはずなのに。
もう、こんなに暑い。
暑いのは苦手だ。

(温暖化にしたって……
 数値バグってんじゃないか……
  チート使ってるやついるだろ……)


   ジリ

        ジリ

だから、帰り道にこうして涼むのも仕方ない。

    カラン
          カラン

あまり賑やかすぎない喫茶店に入って、席に座った。

     あまり賑やかすぎないので、席は空いている。
       もちろん、恋姫の隣や前も例外ではない。 
         外は暑いし、ちょっと一服の客もいるのでは?

146溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/06(水) 23:05:59
>>145

「あっつ……」

  カランカラン

熱さに苦しみつつ、涼を取るために喫茶店に入る。
大丈夫? また7月頭なんだけど。
例年どんな感じだったっけ。
……毎年同じこと言ってる気もするよね、これ。

「……おっ」

ところで喫茶店の中で見知った顔を見つけた僕だ。
喫茶店で知り合いを見つけたら話しかける。
誰だってそーするし、僕だってそーするわけだ。

「やぁやぁ奇遇だね、お嬢ちゃん」
「相席しても?」

というわけで恋姫ちゃんの前に立って尋ねてみるよ。
断られたら? 泣いて諦めるしかないよね。

147稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/06(水) 23:29:52
>>146

    カランカラン


視線を上げる。
机の上に置いていたスマホから、だ。
 
  「げ……」

漫画のような声が出た。
来たのが知っている顔だからだ。

「まあ別に……
 僕の店じゃないし……」

「いいんじゃない……?
 えひ、事案ってほどでもないし……」

  エヒ

陰気な笑みを浮かべて。

「一緒に座ってて……
 噂とかされたらいやだけど……」

「えひ……おじさん世代向けのジョーク……」

別に拒絶はしない。
スマホを懐に戻して、小さなメニュー表を押し渡す。

148溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/06(水) 23:48:52
>>147

「ハハ、『げ』って酷くない?」

苦笑しながら、お嬢ちゃんの向かい側の席に座ろう。

「ま、ありがと……って言っとくよ。礼儀的にね」
「事案っちゃあ事案っぽい絵面だけど、まぁともかく」

中学生の美少女と、へらっとした中年。
この二人が差し向って喫茶店で喋ってる絵面は、まぁちょっと犯罪っぽいかな?
親子兄妹と言わずとも、親戚ぐらいに見えてると嬉しいところだね。

「あー、懐かしいねぇそのゲーム」
「学生時代中古で買ってやったよ」

お嬢ちゃんのジョークに応えつつ、小さくお礼を言ってからメニューを見る。

「今のギャルゲと比べると全然違くて、『世代だなぁ』ってたまに思うよ」
「ギャルゲ自体そんなにやらないんだけどさ、僕」

シュミレーションとかRPGの方が好きだからね、と笑いつつ。
手でパタパタと自分の顔に風を送り、注文を考えようか。

149稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/06(水) 23:59:03
>>148

「えひひ……だってお前……
 わぁ! すてきなおじさまだわ!
 って言うようなキャラでもないし……」

「う、うれしくなんか……
 ないんだからね! とか……?
 そういう気分でもないじゃん……」

やや作った声は、すぐいつもの声に戻る。
少なくとも、怪しい関係には見られまい。

    コト

店員がおしぼりと水を置いた。
よく冷えている。

「僕はあんまり……ギャルゲとか、しないし……」

「言ってみただけ……
 世代かな、って思ってさ。えひ。」

プレイしたことは――たぶんなし。
あっても、頭のメモリーカードに残っちゃいない。

「……」

   グイ

「ここは……かき氷が美味しいぜ。
 僕の攻略情報……最速攻略ブックよりは役に立つよ。」

             グイ

恋姫は額や首の汗を小さな、黒いタオルで拭いながら教える。

メニューを見れば、なるほどかき氷があるようだ。
味がどんなのがあるのかは、溝呂木のみている通り。

150溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/07(木) 00:20:26
>>149

「あはは、そりゃそうだ!」
「ちょっとどころじゃなく好感度が足りないワケだね」
「そりゃしょうがないや」

お嬢ちゃんの小芝居が面白くって、ケラケラ笑いつつ。
店員さんに軽くお礼を言って、水をひと口。
なんというか、一息ついたって感じするよね。

「……ふぅ」

「女の子はあんまりギャルゲとかやんないよねー」
「やる子もいるって聞くけどさ」

女の子って、女の子好きだからね。
いや変な意味じゃなくて、女の子って『かわいい物』が好きだからさ。

「おっ、『大丈夫、お嬢ちゃんの攻略本だよ』って?」
「んじゃ信用して……すいませーん、かき氷の『イチゴ』と『アイスティ』ひとつずつ」

店員さんに声をかけ、注文しておく。
どっちもそんなに時間のかかるもんじゃないし、すぐに来るだろう。多分ね。

「……よく来るのかい?」

それでも待ち時間はあるわけだし、お嬢ちゃんに尋ねてみようか。

151稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/07(木) 00:40:39
>>150

「そもそも僕のルートは無いぜ……」

「えひ……バグじゃなくて、
 仕様だから……諦めるしかない。」

     ゴク

よくしゃべったので、口が渇いた。
水を口に含み、ゆっくり飲みこむ。

「完全やらないわけじゃないけど……
 まあ『どきメモ』シリーズはないかな……」

「乙女ゲーとかも……
 そんなに、しないし……」

自分の注文は、席に着いた時に済ませている。
恐らく、もうすぐにでも来るだろう。

    コト

「えひ、疑問形のやつじゃん、それ……
 かき氷の味は自分の口で確かめてみよう!」

       「……ってか? えひっ。」

と、来た。
それを見てやや、語調が上がった。

シンプルな、レモンシロップのかき氷だ。
氷の質感がフワフワしているタイプのやつだ。

「ん……まあ……わりと来る方かな……
 ログインボーナスが貰えるほどじゃないけど…」

     「お昼とか……
      ランチ美味いし……」

スプーンで器からこぼれかけた氷をすくいつつ、答える。

       「あ〜」

「かき氷って時間制限あるから……
 先にいただきますしちゃっておk……?」

           ・・・・それから、そう付け加えた。

152溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/07(木) 00:57:47
>>151

「でも『ギャルゲじゃねーか』って言いたくなるゲームはちょこちょこあるよね」
「『牧場』のアレとかさ」

複数人ヒロインがいて、好きな相手をパートナーにできる……ってゲームも増えたよね。
結婚できたり、子供まで作れちゃったりして。
でも明らかにロリロリしてる子と結婚できちゃうのはマズいと思う。
とまぁ閑話休題。

「最近はもうWikiとかあるから使わなくなったけどね、攻略本」
「ま、『購入特典でレアシロップが手に入るぞ!』って感じさ」

おっとところでお嬢ちゃんのが先に来たようだ。
当たり前だよね。だってお嬢ちゃんが先に入店してたんだし。
で、先に食べてていいかって聞かれて……

「え、ダメ」

「……なんて言う権利があるわけでもないし?」
「溶けたらただの『シロップジュース』になっちゃうしね。どうぞお先に」

そりゃダメって言う理由も特にないのである。

「ランチか……今日お昼ご飯おにぎりだけだったんだけど、かといってお腹減ってるわけでもないんだよねぇ」

視線をメニューに移してみよう。
追加注文しようかな、と考えてみるけど……

「……いやでも、もうかき氷頼んじゃったからダメだね」
「流石にかき氷の後に主食お腹に入れるのは、お腹が変になりそうだ」

153稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/07(木) 02:28:41
>>152

「えひ……わかる。
 フラグ立て難しいやつな……」

      カチャ

「いただきます……」

溶けだす前に、一口目を口に入れる。
口の中で溶ける。涼しい。

    シャリ  シャリ

          ゴクン

「……えひ、買い占めてレアシロップ30連ガチャ?
 全部Sレア『キュウリ味』とかになりそ〜……えひひ。」

      「苦情不可避ぃ……」

ダウナーな笑いを、一通りえひえひと笑った。
それから、メニュー表を見て。

「メニュー、色々あるけど……
 最強恋姫データベースwikiによると……」

     「……」

視線が移る。

       「シチューセットとか……」

少しだけ悩んだけれど、それが良いと思った。
恋姫自身の好物というだけ、ではあるのだけれど。

「氷属性からの熱属性……
 ダメージ倍点しちゃうんだ……えひ。」

      コト

溝呂木の注文が、運ばれてきた。
想像通り、イチゴのかき氷と、小さな器に分けられた練乳。
それから、ごく普通のアイスティーに、ミルクとシロップ。

    チリン

         「涼し……」

少し気の早い風鈴が、揺れた。
気づけば汗もほとんど乾いたか拭き取れて、気分も涼しい。

154溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/07(木) 23:04:15
>>153

「ハハ、『キュウリ味』でSレアなの?」
「レアっちゃレアだけどさぁ」

シロップは実はみんな同じ味で色が違うだけって結構有名な話だけどね。
にしてもどこぞの炭酸飲料じゃないんだから、って感じだ。

「シチューかぁ」

ちょっとだけ、メニューとにらめっこする。
シチュー、シチューねぇ。
オススメってぐらいだから、そりゃおいしいんだろうけど。

「……ま、今度来た時かな」
「ちょっとダメージ大きそうだし」

苦笑する。
流石に『かき氷』とセットで食べるのは、冒険だ。
というわけで運ばれてきたかき氷に意識を移そう。
練乳をかき氷にかけて、アイスティーにミルクを入れて。

「じゃ、僕もいただきます、と」

    シャク
      シャク

イチゴのかき氷に舌つづみを打つ。
……ってほど立派な食事でもないけどさ。
ちなみにイチゴ味が好きっていうよりは、単純にカラーリングで選んでる僕だ。
赤とか、原色好きなんだよね。

「うーん、『夏』って感じだねぇ……」

甘くて冷たいかき氷、冷房の効いた店内、風鈴の音。
まだまだ七月の頭だけど、気分はすっかり夏だ。

「夏、僕にとっちゃ忙しくなってくる時期でもあるんだけどさ」

僕の職業は司書だ。
隣町で図書館の司書をやってる。
……夏、涼みに来るお客さん増えるしねー。
夏休みの学生向けに色々イベントとか企画したりしてさ。
いやぁ、めんどくさいなぁ。あはは。

「お嬢ちゃんも、結構忙しいんじゃない?」

155稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/07(木) 23:30:00
>>154

「いわゆるハズレアってやつ……
 えひ。まあキュウリも氷も水多いし……」

       シャリ

「まあ……」

「わざわざ一緒に食うことないな。
 ……シチューにせよ、キュウリにせよ。」

想像通りの、イチゴ色のシロップ味。
オススメとは言え、本格的なそれではない。

「ほとんど夏だし……実質……
 えひ、セミがスポーンしてない分ましだけど……」

それでも、時折耳にするようになってきた。
セミの鳴き声がBGMになると、いよいよって感じだ。

「夏祭りとかあるから……ハードかな。
 まあ……お声かかるか、わかんないけど……」

     ニタ

      「お前は……司書だっけ?
       えひ、騎士では無かったよな。」

            「夏の本祭りでもすんの……?」

恋姫は図書館に出入りはしても、『学生向け企画』に縁がない。
推薦図書を借りる――なんてことも、もうずいぶんしてはいないのだ。

156溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/07(木) 23:47:21
>>155

「絶品のお菓子も、ステーキと一緒に食べる気にはならないしねぇ」

食べ合わせって大事だよね、って話さ。

「あー、夕方ぐらいになるともう『ヒグラシ』の声が聞こえてきたりするね」
「カナカナカナカナ、ってさ」
「嘘だ! ……って訳じゃないぜ?」

今の子に伝わるか微妙なネタを振りつつ。
結構長いんだよね、ヒグラシの出現時期って。
あれ聴くとノスタルジックな気分になるのはきっと僕だけじゃないと思う。

「そーそー、隣町でね」
「そりゃあ『騎士っぽい気分』になることもあるけど、流石に騎士にはなれないさ」

カラカラと笑い、アイスティをひとくち。

「ま、基本的には学生向けに『推薦図書』の選抜とか」
「あと『読書会』みたいなのやってみたり、ちっちゃい子向けに『朗読会』とかやったり」
「ウチはレクリエーションで『百人一首』やったりもするねー」

単純に利用客も増えるし、夏は一番忙しい時期なのさ。

「今度遊びに来るかい? 冷房バッチリでお迎えしますよ、『お姫さま』」
「少しは『ラノベ』とかも置いてあるしね」

157稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/08(金) 00:06:31
>>156

「えひ、そりゃそうだ……」

「……」

    シャリ

「……えひひ。そのネタは……
 ちょっと古くないかな…………かな?」

幸いにも、ここにセミの声は届かない。
今の内なら……まだ、風物詩で済む音量だけれど。

それから。

「僕は別にそこまでぇ……
 『ラノベクラスタ』でもないけど。」

     「隣町か……」

少しだけ目を伏せて、考えるそぶりを見せた。
百人一首とかは、そんなに興味もないけれど。

「まあ……えひ、招待されたなら……
 おしのびで行ってみるのがお姫さまの役目か……」

        「えひひ。」

    エヒヒヒ

やや芝居がかった調子で笑いながら、溶けだしたかき氷を混ぜる。
そろそろ、食べ終わりそうだ。頭は痛くならない。

「えひ、苦しゅうない、苦しゅうない……
 蛮族に絡まれないように……ちゃんと護衛してくれよな。」

         シャラララ…

器を口に近付けて、ゆっくりと流し込む。

   「んく……」

           プハッ

もうほとんど、香りつきの砂糖水みたいなものだ。
甘いだけの物は好きじゃないけれど、冷たいから許すのだ。

              ・・・・器が空になった。

158溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/08(金) 00:23:41
>>157

「それでもちゃんとノってくれるお嬢ちゃんが僕は好きだよ」

苦笑して、肩を竦める。
こういうのはひとり相撲になると悲しいからね。

「はは、わざわざ姫に御足労願うのは無礼と承知ながらも、生憎図書館に足は生えていないものでして……」
「我ら一同、姫のお越しを心よりお待ちしております」

仰々しく、騎士っぽく返そう。
芝居がかったセリフ回しは得意なんだ。
得意って言うか、好きって言った方が正しいけどさ。

「……あっ、姫って『わらわ系』?
 『苦しゅうない』って一気に悪代官力上がったけど大丈夫?」

そりゃあ確かにそれは『姫口調』だけど。
でもなんとなく『金の菓子』で私腹肥やしてそうだよね、そのセリフ。

「ま、図書館で騒ぐ不良の相手も業務の内だし……」
「っと、お帰りかな」

お嬢ちゃんがかき氷を食べ終わった。
僕の方はと言えば、のろのろ食べているのでまだそこそこ残っている。
たかがかき氷だからそんなに時間はかかんないだろうけど、まぁもう少しはかかりそうな感じだ。

159稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/08(金) 00:46:28
>>158

「えひひ、そりゃどうも……
 そういう『好き』ならいつでもこい。」

        ニヤ

真似するわけじゃないが、肩をすくめた。

こういうネタは、相手が少ない。
ゲーム仲間はいても『オタク仲間』は少ない。

「ロールプレイしすぎぃ。
 えひ、ふつうにはずいぜ、それ……」

      「新ジャンル:騎士喫茶かよ……
        あーでも、もうありそうだな……」

ニッチな需要でも探せばある物だ。
この町ではあいにく見かけることはないが。

「苦しゅうないは違うか……?
 えひ、あんまりお姫さま言葉詳しくない……」

         ニコ…

「どっちかというとオタサーの姫だしぃ……えひ。」

微妙な笑みを浮かべながら、スプーンを置いた。
飲み物は頼んでいない。

        ゴッ ゴッ

水を数回に分けて飲み干す。     

「ん……そろそろな。」

「まあ……結構楽しかったよ。
 えひ、お返しに……デレをあげるぜ。」

           ニコ

      「ありがとな……んじゃ。」

この笑みは本心だ。数少ない友人に見せる程度の。
そして、支払いを済ませて――店を出る。

160溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2016/07/08(金) 01:18:34
>>159

「ははは、こういうのは恥を捨てた奴の勝ちだよ」

その点、僕は恥を捨てるのになれきってるからね。
あんまり自慢することじゃない気もするけど、こういうのは得意だ。
友達とナンパに行った時、「おまえよくそんな歯の浮くよーなセリフ言えるな。引くわ」って言われたぐらい。
……打率は悪くないんだよ?

…………ともあれ。

「吸血鬼喫茶とかもあるらしいし、執事喫茶の親戚で普通にありそうだねぇ、騎士喫茶」

でも配膳の度に鎧がガッチャガッチャうるさそうだ。
いや、それがいいのかもしれないけどさ。

「おいおい頼むぜ、みんなのお姫さま」

軽口を叩いて笑いつつ、アイスティを手に取ってひとくち、ふたくち。
コトン、とコップをテーブルに置く。

「――――――」
「その御慈悲、誠に恐悦至極……」
「……なんつって」
「こっちこそ、オジサンに付き合ってくれてありがとねー」

へらへら笑って、ひらひら手を振って、お嬢ちゃんを見送ろう。
やれやれ、名前も知らない女の子と相席してかき氷食べて……犯罪だなぁ。
なんてことを考えながら、僕は残りのかき氷と向き合うわけだ。
少なくとも、溶けきる前に食べきらなきゃだし……なんてね。

161稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/19(火) 00:57:28

街道を歩いていると、色々な発見がある。
なんて、リア充的な考え方だ……
そう思いながら恋姫はやや俯いて歩く。

変装は、帽子と眼鏡だけで妥協している。
マスクまで着けると、流石に暑い季節だ。

       トコ

   トコ


そういうわけで、目当ての電気屋まであと少し。
目的はただ一つ、ゲームを予約する事。
わざわざスカイモールまで足を運ぶのも面倒だ。

         ポト

  「あっ……」


――と、財布が鞄から落ちてしまった。
チャックが開けっ放しになっていたらしかった。

162遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/22(金) 19:48:06
>>161

ポトッ  チャリンチャリン……コロコロ

 チャックの開いた財布が落ちれば、当然 中の小銭も『転がり落ちる』

幾つかの硬貨が周囲に転がる可能性だって在り得る出来事だ。

 「ひぃっ……!?」

 稗田は、真横付近に転がった硬貨が視界に入ると共に、その視界の死角へと
消えた硬貨の先で小さな悲鳴を聞くだろう。

 「こっ  こっ  ここここ小銭……。
ぇ あ、ご、ご、ごめんなさい……ひ、悲鳴あげちゃっ……て」

 貴方は、この女性を見ると。何処かの森で見かけたような既視感が起きるかも知れない。

だが、雰囲気が『違う』 髪も、あの時はもっと長かった気がするし、あの時
出会った女性は、裸眼で物腰もある程度芯に強みがある女性だった。
 この髪の毛だけは同じピンク色で、眼鏡をかけて如何にも小心で少し震えてる少女は
あの時と全く、容姿は似てるものの全く異なる気配を漂わせてる。
 恐々と、それが毒虫であるように硬貨を1、2回一瞬手を伸ばしひっこめる動作を
してから、震える指で硬貨を掴み、稗田に一歩近づくたびに泣きそうになる表情に
なりながら、拾った硬貨を差し出した。

 「こ、こここここここここれ ど、どどどどううううぞ」

 


163稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/23(土) 04:56:20
>>162

チャリンチャリン……

「うわっ……」

           コロコロ

(乱数クソ過ぎぃ〜……)

不幸な事というのも起こる物だ。
まさか財布のチャックまで開いていたとは……

「…………」

     トコ トコ

背中に哀愁を負いつつ、拾いに行く。

不幸中の幸いがあるとすれば……
落としたのが『コインケース』でなかった事か。

          ――と。

「……?」

恋姫は湿った目を細めた。

「お、おう……ありがとな。」

(なんだこいつ……キョドり過ぎだろ、JK。
 だけど、なんだ……どっかで……見た事、ない?)

やや困惑の色を浮かべ、小銭を受け取る恋姫。

(この前……湖の方で会った、あいつ……? 
 いや、どう見てもこんなキャラじゃなかっただろ……
 双子の姉妹とか……えひ、クローン? なにそれこわい……)

どうにも――既視感がある。
少なくとも、見た目だけなら相当の既視感がある。

「……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?」

人違いだとは思うのだが――なぜこんなに怖がられているのか。

        「悪霊、とか……? えひ。
         みんなのトラウマ級のやつ……?
         もしそうだったら確かにこわちかだよね……」

164遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/23(土) 22:11:41
>>163>>162の最後の あ は誤字なんて気にしないでください)

 ……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?


「ご ご、 ごご御免なさい。じ、じっと見て御免なさい、御免なさい
御免なさい御免なさい御免なさい。
で、でも、ちゃ ちゃんと見ないと小銭、こ、小銭。わ、わわ渡せないし……」

清月の制服を着てる、ピンク色の女性は何をそんなに恐れ怯えてるのか。
……いや、恐らく彼女にとって、恐ろしくないもののほうが少ないのかも知れない。
多分、いま歩いてる周りの人間、建物や空の太陽だって怖がれるぐらい臆病なのだろう。

>悪霊、とか……? えひ。
>みんなのトラウマ級のやつ……?
 >もしそうだったら確かにこわちかだよね……


 「ひ  ヒィ   ひっっ……っ」
(ど、どどどどどどどうしようどうしようどうしよう
やっぱり、こんなどもってたら嫌だよね、不愉快だよね、
あぁ、どうしようどうしようどうしよう、駄目だ。やっぱり私ってば
普通に人と喋れないんだ。前向きになろうとしてるのに、どうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしよう)

 「ふぇ  ぇ  えぐっ  うぇ゛」

   ポロポロ ポロポロ ポロポロ。

話しかけられ、泣き出した。
 恐らくながら、かなり精神的に弱い人間であるのが 容易にわかる。
 少なくとも、あの自然公園にいる女性とは 似ても似つかないメンタルだとも。

165稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/23(土) 23:56:20
>>164

    スッ

「……こっちこそ……えひ。
 悪かったな、冗談が下手で。」

いそいそと小銭を受け取る。
そして、突然の涙に――

「……は?」

脈絡なく泣き出した女に――
あるいは、清月の制服に?

    …イラ

(なんだこいつ……意味わからん……
 感情バグってんのか……? イライラする……)

・・・・わからない。
感情は複雑で、フローチャートに出来ない。
だけれど、それはハッピーエンドを辿る線では、ない。

「……あー、僕、消えた方がいい展開?
 こわちかなのは僕でした〜……ってぇ……?」

    イラ

(僕がなんか、悪いフラグでも……踏んだのか?
 これ初見クリアしなきゃとか、人生ハードすぎる……)

              「……どうすりゃいいんだよ?」

166遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/24(日) 00:17:39
>>165

>……どうすりゃいいんだよ?

そう、貴方が口にするのも無理はない。どちらが悪いと問われれば
ソレは間違いなく『こちら側』だ。
 小銭を拾って、それで見つめられる位で泣き出すような彼女は
ひゃっくりを上げつつ、手の甲で何度も何度もポロポロと落ちる涙を拭う。

 「ひっ え゛ ず ずみばせ い゛っく
お、お願い゛です。あ、あああ謝るから、お、怒らないで」

 貴方は怒ってない。余りに唐突に泣き出した彼女を見て虚をつかれてる
とは思う、だが怒るまで至らない様子にも関わらず彼女は懇願する。

 泣きながら謝罪して懇願する其の様子は、ある一定のレベルの人間は
加虐心が多少増長しそうな雰囲気が彼女から放たれてる。恐らく意図してではないと思うが。

 「御免なさいごめんなさいごめんなさい何度でもしますから
お願いだから怒らないで怒鳴らないで、許してください許してください」

 ペコペコペコペコ

 そう、口早に何度も頭を激しく上下に揺らして貴方に謝罪する、
繰り返すが、彼女は意図してイライラさせる行動を取ってるわけでない。

『ベソ子』にとって、たぶん生まれつき周囲から攻撃されたくなるオーラが
滲み出てるのだろう。それ程、彼女の様子は思わず赤の他人でも小突きたくなる
行動をしている。演技でも何でもなく 素でだ。

167稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/24(日) 10:51:24
>>166

        イラ

加虐は恋姫の好みではない……
だが、イライラはする。

    イラ


(いらいらし放題だな……この状況……
 ボーナスステージかよ……それか、無限バグか。)

明らかな『弱い者いじめ』だ。
そうみられても仕方のない状況だ。

・・・・恋姫はいらだつ。隠せるほど大人じゃない。

「怒ってねえよ……深読みやめろ。
 まだ、僕、おこじゃないから……
 大事な事だから二回言うけど……やめろ。」

少なくとも、このイライラを人にぶつけるなんてことはない。
ブロック崩しのボールのように、心の中で反射する感情。
 
「んで、今……言ったか?
 『なんでも』するって……?」

        ジト

「……まあ、常識的に考えて、
 何でもはしないんだろうけど……
 そのぺこぺこするの、やめてほしい……」

       「……ベリーイージーな依頼、だよな。」

湿った桜の花のように目を細めて、そう零す。
財布を拾われただけの関係――走って逃げても、いいのだけれど。

168遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/24(日) 23:08:19
>>167

 遊部は、ぶるぶると、スライムよりも体全身を震わせ
涙目で貴方の言葉に、米つきバッタの如く頭を振っていたのを止める。

 「ひっ ひぅ す、すみません。や、止めます もう止めます」

「い、イライラさせて御免なさい。
け、けけけど、ど、どうしようも、な、なないんです。
 う、生まれつき、こ、ここうで。
な、ななんとか直そうとしてるんですけど、い、いつも泣いちゃ……
な、泣いちゃう うぇ え゛っ」

 感情が昂ぶったのだろう。ポケットティッシュを取り出して鼻をかみ
女性はまだ泣き腫らしてはいるものの少しだけ声が落ち着きを取り戻す。

「ど、どうすれば。ど、どどうすれば私。
い、いいまより、この泣き虫が直るでしょう」

 そう、貴方に顔を向けて言った。
貴方との関係性は、小銭を拾ったぐらいの関係。そんな行き成りの言葉など
拒絶して、はい、さようならと立ち去るほうが建設的かも知れない。

 ただ、彼女は貴方に助けを求めてるようなのは確かでもある。

169稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/24(日) 23:37:29
>>168


「…………」

      イラ

「生まれつき……?
 まじで……そりゃハード……」

同情――しないこともない。
だけれど、どうしてもやれない。

人生はゲームじゃあない。
選択肢一つで、人格は変えられない。

「でも、僕は……どうも出来ない。
 それは、ハードどころじゃない……
 僕はお助けNPCとかじゃない、から……」
  
今までも、きっと色んな人に、
こうして助けを求めてきたのだろう――

「変わるためのアイテムなんてのも、持ってないし……
 僕と喋ったからって、良いフラグが立つとも限らないし……」

「……ゲームオーバ―にはならないだけ、マシってくらいだぜ。」

少なくとも、自分よりは年上に見える相手。
生まれてから今まで変われなかったの、ならば。

            ・・・・助けを求められても、何が出来る?

170遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/25(月) 15:42:55
>>169

助けを求めても、生来の気質であれば誰かの助言で劇的に
変われるなどある筈がない。
 当然だ。現実はそんなに並大抵の事で漫画のように変わる筈がない。

「ひ ひぐっ そ、そうですよね。わ わわ私がしっかりしないと
だ、だだだ駄目ですよね。ご、ごめんない。む、むちゃくちゃな事、いい言って」

 「も、もももう、お家、か、かか帰ります。ご、ごごご御免なさい
ご迷惑おかけして、ごめんなさい」

 遊部は頭を一度下げ、とぼとぼと貴方と反対の方向に帰っていく。小さく泣きながら

「ひっぐ ぃっぐ  やっぱり やっぱり私 な なな何も出来ないんだ。
わたし  わたし……      ――痛ッ」

 『ベソ子』は立ち止まる。また頭痛が彼女の頭を掠めたのだ

  また 『塔』が見える。 白い雲のすら突き抜け 地平線は白い靄に
かき消され、だがそれでも一つだけ突き抜けて見える『塔』が

 塔の先端に襤褸をまとった誰かがいる アレは……。


 「――ハアっ はぁっ……っ   ……ま ままままた見えた。
アレは……何? 私 な、何であんなのを…」

  『ベソ子』には何も解らない。
助けを求めても、他者には自分の弱さをどうにかする事は当然ながら出来ない。
それは、自分自身が決意を抱かねばどうしようもない事なのだから。

 夢か幻か疾患の類か。 頭に過る『塔』に怯え、彼女は家路に着く。

 ……一体、どの道を通り家に到着したのか。奇妙にも彼女の
記憶には『空白』があった。

171稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/25(月) 20:27:26
>>170

あるいは変わることも無ではないのかもしれない。
だけれど――今はその時ではないのだろう。

変化とは段階を踏むものだ。たいていは。

「おう……悪いけどな……
 あと、別に謝れとか、思ってないし。」

「……ちゃんと前見て歩けよな。」

危なっかしい物を強く感じた。
恋姫も、元の目的地へ向かった。

(なんだったんだ、あいつ……)

この日の事はそうそう忘れはしない。
けれど――何かの変化がある時では、なかった。

           ・・・・あくまで奇妙な、日常だ。

172小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/30(土) 22:54:14
町を包む宵闇が徐々に濃くなり始め、夕暮れ時から夜に変わろうとしている時のことだった。
一台の自販機の前に、喪服姿の女が佇んでいる。
不思議なことに、飲み物を買う気配もなく、ただひたすら立ち続けている。
その姿は、何かを待っているように思えた。
しかし、辺りには人気はなく、人待ちをしているようにも見えない。

            ガサッ
                    ガササッ

不意に、自販機と地面の間にある隙間から物音がした。
その奥で『何か』が蠢いているような音だ。
光が届かない暗がりの中で、『何か』が這いずっている。

    ザザッ!

やがて、自販機の下から『何か』が這い出してきた。
自販機の明かりが、その輪郭を映し出す。
それは――大きな『蜘蛛』のように見えた。

173小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 00:55:57
>>172

少年探偵風に、サスペンダーで吊ったズボン――
はともかくとして、創作探偵風の鹿撃ち帽と銀髪が目立つ小角。

(推理するに……お葬式でもあったのだろうか?
 まあ、わたしにはあまり関係のないことではあるが。)

       ザッ

自販機に近付く。
べつに、お葬式と推理された女性に――ではない。

「……〜♪」

            ガサッ
                    ガササッ

(……なんだろう、物音がするぞ。)

鼻歌など歌いつつ、コインを投入――


    ザザッ!

       「わわわわッ!?」

かなり大きく驚いた。
蜘蛛だか何だかわからないが、こわそうだ。

   チャリン

           コロコロコロ

「あぁぁっ! わ、わたしとしたことが!!」

小銭まで落としてしまう始末なのだ……しかも自販機の下へ。

174小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 01:32:11
>>173

「あ……。ごめんなさい。驚かせてしまったようね……」

被っている帽子の陰に隠れていた顔を上げて、穏やかな口調で小角に謝罪する。
気にする程のことでもないかもしれないが、帽子の角度は左側に傾いている。
しかし、今はそれよりも奇妙なことがある。
小角が驚いたとしても、何故この女性が謝る必要があるのだろうか?
そして、近くで見れば、這い出してきた『何か』の正体が分かるだろう。

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

それは蜘蛛ではなく、五本の指を持つ人間の『右手』だった。
切断された手首が、まるで生きているかのように、その指を動かして這いずっているのだ。

そして――小角が気付いたかどうかは分からないが、よく見ると、傍らに立つ女性には『右手』がない。

     ザザザッ

そして、『右手』は蜘蛛を思わせる動きで、再び自販機の下に潜っていく。
しかし、すぐに戻ってくると、糸で吊るされているかのように『浮遊』する。
『浮遊』した『右手』は、喪服の女の右腕にある『切断面』へ移動し、元通りの位置に『結合』を果たした。

     チャリッ

「――はい。どうぞ……」

右手の中に握っている小銭――自販機の下から拾ってきたそれを小角へ差し出した。
どことなく陰はあるものの、柔らかく人当たりの良さそうな微笑みを浮かべる。
少なくとも、害意はないらしい――と思える。

175小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 01:59:13
>>174

「あっ、ひっ……手っ、手ッッ……!?」

    「こっこれは」

       「なにがどうなって」

   ブルッ

落ち着いた物腰に恐怖心を煽られた。
この前見せられたホラー映画みたいじゃないか。

「きみは……きみはいったい……」

     ザザザッ

「うわっ――」        

     チャリッ

         「あっ!」

せわしなく表情を変えリアクションする小角。
その姿はまさしく『フクロウのゆるキャラ』だ・・・・

     「お、おほん!」

もっとも、小角自身にそのような自覚は無い。
どうやら少しずつ飲み込めてきたらしく、咳払いをして。

「どうも、あ、ありがとう。どうやら悪い手ではない……
 というよりは、きみの手、なんだよね……? う、浮いていたが。」

浮いてはいたが、今はこうして繋がっている。
帽子を押さえつつ小さく頭を下げて、小銭を受け取った。

    (わ、悪い人ではないように見えるが……!
     いや、人は見かけによらないというのは鉄則!
     しかし見かけによらないなら手もノーカンでは?)

                 ・・・・内心、錯綜している。

176小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 20:30:07
>>175

  「――ええ……。そうね……。ただ……何と言えばいいのかしら……」

言葉を選びながら、やや躊躇いがちに言葉を返す。
少女が来る少し前、自分も自販機の下に落し物をしていた。
それを探すために、『スーサイド・ライフ』の能力を使っていたのだ。
切り離した『パーツ』の操作に集中していたせいで、この探偵姿の少女を驚かせてしまった。
自分が彼女を怖がらせているというなら、それを取り除いてあげなければならない。
しかし――どう説明するべきなのだろうか。

     スッ

考えた末に、今までバッグの中に突っ込んでいた左手を、おもむろに外に出した。
そこには自身のスタンドである『スーサイド・ライフ』が握られている。
『パーツ』は誰にでも見えるが、『スーサイド・ライフ』は、スタンド使いにしか見えない。
これで少女が何らかの反応を示せば、説明するのは簡単になる。
ただし――仕方がないとはいえ、『抜き身のナイフ』というヴィジョンは、あまり穏やかとは言えない。
この行動が、さらに少女を怖がらせることにならなければいいのだが……。

  「もし――この左手に何も見えなかったら、この言葉は聞き流してちょうだい……。
   私は決してあなたを傷つけるつもりはないわ……。
   だから、どうか落ち着いて聞いて欲しいの……」

  「信じられないとは思うのだけど……。
   私には……他の人とは少し違う不思議な力があって……。
   今は……落し物を探していた所なの……」

できる限り不安を与えないように、少女に優しく語りかける。

177小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 22:28:35
>>176

    ザリ

「うっ……」

小角は一歩、後ずさりをした。
しかし、逃走するには――続く言葉は理解できた。

「そ、そのナイフは――いや。
 その言い方は、それに手……つまり。
 なるほど、それならば、が、合点がいく。」

     「……わ、わかる。知っている。
      きみの言っている事はわかるぞ。」

恐る恐る、そう答えた。
自分の『力』では、攻撃されればどうしようもない。

    ジリ

だから、少し下がりながら答えた。
お返しに見せる――という事も、しない。

「す、すまないが。わたしは武闘派ではない。
 むしろ知性派……ゆえに、少しだけ警戒するぞ。」

「き……きみは、いい人そうには見えるけれども!」

小角は臆病だ。
けれど、表情に浮かぶ不安は削られる。

それは、小石川の言葉に悪意を感じなかったから。

「探し、物? それは……わたしの得意分野だ。
 しかし、きみの『手足』のほうが得意そうにも見えるね……」

先ほどまで切り離されていた『右手』に、ゆっくり視線を遣った。

178小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/31(日) 23:44:32
>>177

  「――そう……。これが見えるの……。では、これ以上の説明は必要ないようね……」

小角の言葉を聞いて納得した表情を浮かべる。
そして、左手を静かにバッグの中に戻した。
まだ解除する訳にはいかないが、これ以上見せておく理由はない。

  「『今も』探しているのだけど……。暗いから、なかなか見つからなくて……。いえ……あったわ」

      コロロッ……
               キラッ

何かに押し出されるようにして、自販機の下から、小さな光る物が転がり出てきた。
金属質の輝きを放つそれは、どうやら指輪のようだった。
宝石の類は付いておらず、全体的にシンプルなデザインだ。

                  コロロロロロロ・・・…

そして、その後から、もう一つ出てきたものがあった。
ピンポン玉のような球形だが、大きさはだいぶ小さい。
ガラス質の表面が、自販機の明かりを反射している。
それは――人間の『眼球』だった。
緩いカーブを描きながら、自販機の下の隙間から、指輪の後に続いて転がってきている。

  「――本当に良かった……。これが見つかって……。これからは気をつけないと……」

思わず安堵のため息が漏れた。
拾い上げた指輪を、右手の薬指にはめ直す。
そして、帽子のつばを少し持ち上げる。
そこには、普通はあるべき『左目』がなかった――。

          フワッ

先程と同じように浮遊した『眼球』が、空洞になっている左の眼窩に収まり、元通りの状態となった。

179小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/07/31(日) 23:59:15
>>178

「う、うむ……」

    ホッ

隠されたナイフに、内心、安らぐ。
危険はなさそうだが、断定は出来ないのだ。

「そ、そうなのかい。……しかし、そうまでして――」

一体何を、と聞きかけた。
が、それはすぐに判明して。

  「あっ、指輪」

      「……ん?」

指輪、なるほど大事そうなものだ。
そう思ったのもつかの間、後から出てきた物。

「ひっ――――」
  
    バッ

ひろわれた指輪を追うように、思わず顔を上げた。
予想通りの恐怖光景がそこにあった。

空っぽの眼孔――

「めっ、目……目まで、切り離せるのか……」

あまり意味もなく事実をただ述べ、精神の安定を図った。
あるべき場所にあるべき器官が収まると、不安も収まる。

「お、おほん……ううむ。
 どうにも見ていて不安になる能力だ。」

「けれど――み、見つかって良かったね、探し物。」

            「……」

小角は探偵のたまごだ――から、一応考える生き物だ。
だから、今考えているのは、彼女の喪服と――『指輪』の関係。

しかしそれは、迂闊に触れて良い物では、とうていないのだろう。

「もし……また、なくしたら。
 わたしに相談してみるのもいいかもね。」

「いや、もちろん、無くさないのが一番なのだが……うむ……」

勝手になんとなく気まずい気がして、そのようなことをまくしたてた。

180小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/01(月) 00:39:02
>>179

  「ごめんなさい。本当に不安にさせたくはないのだけど……。
   こうするのが一番探しやすかったものだから……」

深く頭を下げて、謝罪の言葉を述べる。
自分でも、あまり町中で能力を使うべきではないことは理解しているつもりだ。
それが原因で騒ぎになったり、何かのトラブルを引き起こしてしまう可能性もある。

しかし、この結婚指輪は、自分にとって命の次に大切なものだ。
その指輪が手元からなくなってしまったことで、内心では激しく動揺していた。
とにかく早く見つけなければ――頭の中が、その考えで一杯になっていた。

そのせいで、小角が傍らにやって来たことにも気付くのが遅れ、驚かせてしまった。
しかし、こうして指輪は無事に自分の下へ戻ってきてくれた。
今は、精神的にも安定を取り戻した状態にあった。

  「――あなたも探し物は得意そうね……。とても似合ってるわ……」

小角の探偵姿を改めて見つめ、素直な感想を告げる。
その両手の薬指には、おそらくは一揃いであろう同じデザインの指輪が光っている。
未来の名探偵を目指す少女探偵の慧眼ならば、彼女の相棒の力を借りずとも、
その手がかりから真実を導き出せるかもしれない。

  「でも――突然おかしなことを言うようだけど……。何だか嬉しいわ。
   この町に来て、私と同じような人に出会ったのは、初めてだから……」

そう言って、柔らかく人当たりの良い微笑みを浮かべる。
少なくとも、明確に自分と同じスタンド使いに出会えたのは初めてのことだ。

  「――私は小石川……。小石川文子。
   もし、良かったら――あなたの名前を聞かせてもらっても構わないかしら……?」

だからこそ、この出会いを、記憶の中に留めておきたかった。

181小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/08/01(月) 01:00:37
>>180

「いや、うむ……」

「きみがそれを大事なのは、その、分かるよ。
 だから……うん、わたしは気にしていないとも。」

  コクリ

両手の薬指の――『結婚指輪』。
あるいは、『形見の』――

「ふふん、ありがとう。
 わたしは探偵になる女だからね。
 この夏服も……とても気に入っている。」

「……きみも、ええと。お、おほん。」

何か褒め返そうとしたが、喪服に指輪。
意味を推理したいま、上手い褒め言葉が、見当たらず。

「その帽子は、とても似合っているように見えるよ。」

などと、言った。
それから、柔らかい笑みに釣られるように笑って。

「おお、そうだったのかい。
 わたしはそれなりに会っている。
 この町には、案外多いみたいだよ。」

「ああ失礼――――
 わたしの名前は小角 宝梦(おづの ほうむ)だ。」

         ニコ

丸い顔を笑顔で満たして、名前を返した。
それは、不安が一種の友好へと変わっていく証でもあった。

「……おっと、買い物に行くところだったんだ!
 それでは小石川さん、また機会があれば会おうじゃないか。」

              「では、さようなら!」

     タッ

そして、小角はその場を、やや急ぎ足で去ったのだった。
後になって、喉が渇いていたことを思い出すのだが……別の話だ。

182小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/01(月) 01:38:37
>>181

  「――ありがとう」

この帽子は、確かに自分でも気に入っているものだ。
しかし、それを褒められたことが嬉しいのではない。
自分の言葉を受け止め、それに応じようとしてくれた少女の心遣いが嬉しかった。

そして、また一つ繋がりを得ることができたことも、自分にとっては喜ばしいことだった。
些細なことかもしれないが、こうした小さな出会いが自分の支えになってくれる気がする。
この世界で生きる力を、彼らから分けてもらえる気がするから――。

  「ええ。またどこかで……。さようなら、小角さん……」

立ち去っていく少女の後姿が見えなくなるまで見送る。
そう――生きていれば、彼女ともまた会うことができる。

     スッ
         ドクン ドクン ドクン……

心臓の鼓動を確認するように、そっと胸に手を置く。
生きる理由の一つが、また一つ増えた。

きっと、今夜は、よく眠れるだろう。
『鎮静剤』を使う必要もなさそうだ。
小角宝梦――銀髪の少女探偵との出会いが、その代わりとなってくれたから。
そんな思いを胸に抱きながら、家路に着いた――。

183のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/02(火) 23:44:08
諸君。僕だ。
新しい朝が来た。希望の朝だ。
早起きは三文の徳というものの、実際の三文は非常にわずかである。
寝ていた方が幸せなこともある、ということだろう。
しかし、この僕の才覚が目覚めれば三文もあれよあれよという間に六文どころか三両に変えてしまうだろう。

早朝の散歩というのは心地がいい。
なによりも人が少ない。そして、この商店街の商店のほとんどがシャッターを下ろしている。
実に素晴らしい。この道をいま僕一人だけが歩いている。
人通りはない。何をしようとバレはしない。

ぴたりと不意に立ち止まってみる。
後ろを振り返れば暗い空。前を見れば上る太陽が見える。
我が身を包む甚平や草履は否応なく僕という存在をここに溶け込ませ
同時に僕という存在を浮き彫りにしていく。
寂しき街にただ一人、僕だけが生きている。
ふふ、まるでよき時代の文士のような知性を感じさせる僕だ。

一味違う。

184小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/03(水) 20:56:43
>>183

同じ時間、同じ場所――それは全くの偶然だった。
古き良き時代の文士を思わせるいでたちの少年。
彼の正面から、喪服姿の女が静かに歩いてくる。
彼と同じく、この清々しい空気を吸うために、朝の散歩に出てきたのだ。
辺りには、他に人がいる気配はない。

  「――おはようございます……」

すれ違いざまに挨拶し、軽く会釈する。
その表情は人当たりが良く、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
しかし、決して陰のない明るさではなく、どこか物悲しさを含んだ顔でもあった。
その姿を見てどう感じるかは見る人次第だろう。
ともかく、黒衣の女は少年の横を通り過ぎていく――。

     フワリ……

白い薄布が宙を舞う。
それはハンカチのようだった。
どうやら女性が落としたものらしい。
そして、彼女は立ち止まる気配がない。
それを落としたことに気付いていないらしかった。

185のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/03(水) 23:37:12
>>184

おや、と僕は眉を上げる。
このような時間に人と出会うとは。
しかも美しい女性である。

「あ、ああ……お、はよう……ございます」

僕は一瞬、心臓がびくりとするのを感じた。
どこかほの暗さを感じさせるあの表情。
薄幸の令嬢、といった風情だ。
ほんの一瞬、その顔に見惚れていたのだと気付くのに時間はかからなかった。
しかし、恋に落ちたわけでは断じてない。
僕には心に決めた相手がいたはずである。

「あ」

ハンカチだ。
恐らくあの女性の落としたものだろう。

「すいません」

僕はそれを拾い上げる。
そして、彼女に声をかける。

「落とされましたよ」

186小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 00:18:21
>>185

  「あ……。ご親切に、どうもありがとうございます」

柔らかい笑みと共に、おもむろに手を伸ばしてハンカチを受け取る。
その左手の薬指には指輪がはまっているのが見えたかもしれない。
恋に落ちた――という訳ではないものの、目の前に立つ少年の礼儀正しさには、素直に好感を覚えた。
そして、少年と同じく、自分にも心に決めた相手がいた。
お互いにそれを知ることはないが、奇妙な一致だった。

  「――気持ちのいい朝ね……。散歩しているの?」

なんとなく、少し話してみたい気持ちがあった。
同じ時間に同じ場所に二人きり。
それは、ただの偶然かもしれない。
でも、何かある種の繋がりようなものを感じていた。
だから、何気ない調子で話しかけた。

  「違っていたらごめんなさい。私も散歩するのが好きだから……」

     ヒュオオオオオ……

その時、一陣の風が通りを吹き抜けていく。
帽子が飛ばないように右手で押さえながら尋ねる。
その右手には、左手と同じ場所に同じ指輪がはまっていた。
それに気付くかもしれないし気付かないかもしれない。
気付いたとして、何かが分かるかもしれないし分からないかもしれない。
全ては、のり夫少年次第だろう。

187のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 00:39:12
>>186

「……いえ、別に。当然のことです」

てらいなく僕は答えた。
この自然な対応、紳士性があふれてきている。
ただの知性派というだけではないのだ。

ちらりと見える指輪。
僕は心の中で何かがしぼんでいくのを感じる。
いや、これはなにかの気の迷いだ。
それに僕と彼女は今日この時初めて会った仲。
なにも気にすることはない。

「えぇ、散歩ですよ。私は」

「いえ、私もかな。ふふふ」

気持ちのいい風が吹く。
右手にも、指輪?
どういうことであろうか? 左手のそれの意味は知っている。
それぞれの指でなんらかの意味があったはずだが、そういう類ではないだろう。
洒落っ気を出すにしても、同じものをはめるのだろうか。
……僕は、考えるのをやめた。

「申し遅れました、私は卜部のり夫」

「よくこの時間に散歩を?」

188小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 01:15:44
>>187

  「ご丁寧にどうも……。私は小石川文子といいます。はじめまして、卜部さん」

深々とお辞儀をしながら、お返しに自身の名前を答える。
とても爽やかな気分だった。
この少年に、どこか自分と近い陰の部分を感じたせいもあるかもしれない。
もちろん明確な根拠がある訳ではない。
あくまで、そう感じたというだけの話――単なる直感だ。

  「ええ。朝夕の静かな時間に散歩するのが好きなの。
   この辺りには、あまり来たことがなかったけれど……」

ゆっくりと周囲を見渡す。
大勢の人々がいるはずだが、今この場には誰もいない。
不思議な感覚だった。
ややあって、その視線がのり夫少年に戻ってくる。
彼の顔を正面から見据え、さらに言葉を続ける。

  「これからは、こちらの方にも来るようにしようかしら。
   できれば、また会いたいから……」

そう言って再び微笑む。
少なくとも今は、ただ散歩の途中に偶然出会っただけの関係だ。
再会したとしても、挨拶を交わすだけになるかもしれない。
けれど、それでもいい。
この礼儀正しい少年には、いつかまた会いたい。
心の中でそう思い、そのまま素直に口にした。

189のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 14:49:31
>>188

「小石川さん、ですか」

深々と頭を下げる小石川さんに恐縮してしまう。
これほどの女性はそういないだろう。
年下のそれも初めてあったものに頭を下げ、丁寧に僕の名前を呼ぶ。
礼儀礼節、そういったものを身につけているということか。
やはり、教室で見かけるあれらとは大違いである。
僕は敬意を胸に頭を下げた。

「そうですか……私はたまたま早く目が覚めたので」

「しかし、こういう時間に散歩するのも、なかなか味がある」

このような出会いがまたあるのなら、早起きも悪くは無いだろう。
三文として扱っていいのかは僕には分からないが
価値があるものということは確かだ。

「うっ……」

「そうですね。しかし、また会いたいなどと軽々しく言わぬ方が良いでしょう」

「いらぬ誤解を招きかねない」

小石川さんを少なくとも今までみた感じなら、おかしな意味は無い言葉だろう。
しかし、受け手側が分別のないものならば
誤解を招くこともあるだろう。
僕はそんなことはないが。
断じてないが。
少し、どきりとしたが。

190小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 18:11:43
>>189

  「――そうね……。気を付けるわ。ありがとう」

指摘されて、少し正直すぎたことに気付いた。
こうして人と関わっていると、訳もなく嬉しくなって、不必要なことまで口走ってしまう。
それは自分の悪い癖だ。
もっとも、傍から見れば、自傷行為の方がよほど悪癖に思えるかもしれない。
しかし、それは自分にとっては不可欠なことであり、むしろ薬となるものなのだ。

  「一人暮らしだと、時々寂しくなることがあって、つい……」

  「この町に来てから、まだ日が浅くて、知り合いも少ないものだから……」

右手にしている形見の指輪――左手の指先で触れて、その感触を確かめる。
亡き夫との思い出が脳裏をよぎった。
そのせいか、顔の上に落ちている影が、ほんの少しだけ濃くなったようだ。
知らず知らず暗い表情になってしまうのを隠すために、軽く俯く。
再び顔を上げた時には、表情は最初の状態を取り戻していた。

  「もし、気を悪くしたのなら、ごめんなさいね」

この町に来たのは、新たな人生を歩むと決めたからだった。
死に別れた彼の遺言に報いるために生き続ける。
そのためにも、悲痛な顔をして生きるよりは、できるだけ笑っていたいと思う。
けれど、その微笑には消せない陰が纏わりついていて、本当に明るい笑顔にはならない。
きっと――今もそんな顔をしているのだろう。
それでも構わない。
暗い影に覆い尽くされなければいい。
胸の中にある光を忘れなければいいのだから。
だからこそ、今この時は、自分にできる精一杯の笑顔を、眼前の少年に向けているのだ。

191のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/04(木) 21:27:15
>>190

「あなたが謝ることではありません」

あなたほどの人が謝ることではないのだ。
あなたは優しいのだろうから、それにあなたは綺麗な人だから
いらぬことが起きそうだと、僕は思っているのです。

「これは受け手側の問題。あなたに対して、よからぬ事を企むものがいないとも限らない」

「だから……いえ、む……」

なんというべきか。
僕にはわからなかった。
あなたを安心させる言葉が見当たらない。
あなたは僕の周りに蔓延したウイルスのようなよからぬ者とは違う。
違うはずなのです。


「私はおじやいとこと暮らしていますが、独り身の寂しさを知っています」

「その感情に理解はありますから、気を悪くなど」

「天地がひっくり返ってもしませんよ」

嘘だ。一人の寂しさなど、とうの昔に忘れてしまった。
父が死に母が死ぬまでの間、僕は一人だった。
友を持たず、恋を持たず、ただ帰りを待っていたのだ。
哀しいことを教えられ、覚えるまでの猶予が伸びただけだったが。

悲しいなあ。
笑う。鏡に映したように。
あなたにそういう顔をさせてしまうのは。
おねーさんがいたらなんというだろうか。

「私がその寂しさを埋めてあげられればいいのだけれど、どうしたものか」

192小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/04(木) 23:17:54
>>191

  「気遣ってくれて、ありがとう」

何となく――彼の言葉には、どこかしら嘘が交じっているような気がした。
でも、嬉しい気持ちに変わりはなかった。
そうしてまで自分を慰めようとしてくれたのだから。
きっと、彼はとても優しい人なのだろう。
この短い時間の中で、そんな思いを感じていた。

  「いえ、いいのよ……。そう思ってくれただけで、私には十分だから」

そう言って、小さく首を横に振る。
同じ時間を共有し、こうして言葉を交し合えた。
それだけで、自分はささやかな幸せを感じている。
現に、少なくとも今の自分は寂しさに苛まれてはいない。
だから――それで十分なのだ。

  「でも、もし……。これから町で私を見かけることがあったら――」

  「その時は、また声をかけてくれると嬉しいわ」

ただ、ほんの少しだけ我侭を言うのならば、もう一度会いたい。
それはいつになるか分からないし、もう会うことはないかもしれない。
けれど、もし会えたとしたら、それは自分にとって、とても嬉しいことだから。
人との出会いは素敵なことで、それが続いていくことは、さらに素晴らしい。
そう思ったからこそ、その気持ちを言葉にした。

     ガララララッ

少し離れた所から、シャッターの一つが開く音が聞こえた。
いつの間にか、思っていた以上に時間が経っていたようだ。
差し込む陽光によって、町を包む影は徐々に取り払われ、少しずつ明るさを増しつつある。
やがて、この通りも人々で賑わい始めるだろう。
また今日も、新しい一日が始まろうとしている――。

193のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/08/05(金) 00:17:36
>>192

「私は気遣いなど」

していない。そうであるはずだ。
きっと、きっと。

「ええ、もしまたお会い出来たら、その時はまた」

「よきことが起こることを願います」

開き始めるシャッター。
そろそろ街が動き出す。
僕の嫌いな時間が始まる。
さぁ、帰ろう。元いた場所に。

「それでは、また」

僕は歩き出す。
彼女のいない方向へ。僕が向かわなければならない場所へ。

僕はなんて惚れっぽいのだろう。

194小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/08/05(金) 00:50:23
>>193

  「――ふふ……」

否定する少年を見て、ただ黙って微笑む。
彼の温かい心遣いは伝わっている。
だから、あえて何かを言う必要はない。

  「卜部さん、あなたにも――」

  「いいことがありますように」

差し込む朝日を受けて、眩しそうに目を細める。
日が高くなってきた。
今日も天気が良さそうだ。

  「ええ。また……」

彼と同じように、自分の場所へ歩き出す。
けれど、どちらも同じ町に生きている。
だから、いつか再会することもできるだろう。
ふと立ち止まり、空を仰いだ。
澄んだ青空を入道雲が彩っている。
きっと、いい一日になる。
何となく、そんな予感が胸の中にあった。

195小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 21:06:47

  トコ
        トコ


小角は道を歩いている。
二学期はとっくに始まり、今は下校時刻。

(うぅむ……まいったなあ。
 よりによって今日がお休みとは)

しかしここは通学路ではない。
小角は文房具屋を探しているのだ。

馴染みの店は閉まっており――コンビニは少し遠い。

       「ううむ」

   グイ

内心のうなりが口に出てしまう。消しゴムを買わねば。
このままでは帰っても宿題ができず、テスト勉強も出来ない。

       (スーパーがこの辺に、
        あったような気がするのだが)

              (見当たらないなあ・・・)

196朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 22:34:53
>>195


 「     ――ふっ ふっ ふっふっ……」


  ドンッ!!!


 「――トゥ!!」

 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

「悪の組織の首領 モーニングマウンテン 電信柱の影からドンッと登場!」

 決めポーズと共に、悪の首領は真っ赤なジャンパーを着つつ
片腕に手提げ袋を掛けつつ、バイキ○マンの仮面と共に登場した!

 「何やら困ってる様子だっス 天津飯の友よ!
この天津飯大好き仲間である悪の首領が宜しければ相談にのるっス!
 そして相談が解決するんだったら悪の首領の仲間になるっス!」

 今日も今日とて悪の勧誘活動だ! ちなみに親から買い物を頼まれた帰りでもある!

197小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 22:52:03
>>196

「むっ…………!?」

(な、なんだ、この笑い声は? どこから――)

           「うわっ!!」

     ダッ


どこかといえば、電信柱の影――
そして、誰かと思えば、あの時の『危険なやつ』だ。

(こ、こいつに関わるのはまずい!)

「い、いや……別に困ってなどいない!
 わたしのどこがどう困っているというのだ……」

     ブンブン

手を体の前で振って、徹底的に拒否の構え。
どう見ても困ってたのだが。

「む、向こうに行きたまえ、向こうに!」

        「変な目で見られるだろう!」

  ザワ

実際、今の時間この辺には人がいないわけでもない。
小角としては、この状況で踊りに巻き込まれたりするとこまるってわけ。

198朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:00:50
>>197

「まぁまぁ! 遠慮なんてしなくてもいいっス!
私と天津飯の友の仲っス! そんな他人行儀にならなくていいっスよ!!」

 パワフルに小角の周りをカサカサと動くモーニングマウンテン!
常にいつも走り回ってる俊敏さは悪の首領の際にも損なわれる事はない!!!

 「お腹が空いてるとかなら、天津飯はいまないっスけど
食パンならあるっス。食べるっスか?」

 スッ。と食パンを一枚差し出すモーニングマウンテン!
確か…食パンの白い部分は消しゴムのように鉛筆の黒い部分を何とか
消す事が出来るらしいと言う知識を、小角ならもってるだろう。

199小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:13:11
>>198

「よしたまえ人を勝手に……
 ヘンな仲間に入れるのは!」

    (な、なんてすばしっこいやつだ!)

  クル
         クル

なんとかこう、間を抜けたいが……
動きに翻弄される小角は、なかなか上手く行かない。

「ば、ばかいうんじゃあない。
 わたしはお腹なんて空いてないよ」

       「だから食べない」

食パンが欲しいわけではないのだ。
『消しゴム』がいるのだ!

学校で堂々と使える――鳩の寄ってこないやつが。

「良いから向こうに行きたまえきみ!
 わたしは探しものをしているんだから……」

           「あ」

    (し、しまった、言ってしまったぞ……)

小角の迂闊だが、この状況で平常心を保つのは難しいのでは・・・?

200朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:20:29
>>199

 「ふーむ! 探し物っすかっ!!
天津飯の友の探し物と言うのなら放っておけないっス。
 どう言うものなのか、このモーニングマウンテンに告白すればいいっス。
もしかすれば私の近くにあるかも知れないっス」

 と、腕を組んでモーニングマウンテンは答える。
そのポケットからは、爽やかなミントの香りが漂ってる……。

201小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:26:08
>>200

「そんな友になった覚えは……
 ええい、こうなっては仕方がないか」

「じゃあ単純に言うけど、
 わたしは消しゴムを探してる」

    ス

もはや隠しても仕方がないのだ。
小角は指を小さく立てて、四角を描いた。

(む……なんのにおいだこれは)

           スン

「きみが持ってるのはいらないからね。
 わたしが、自分の消しゴムを、買いたいんだ」

           「……知っているかね?
             売って良そうな場所とか」

ミントの香りにやや惑わされつつ、小角はよどみなく尋ねた。

                   ・・・何のミントだろうか?

202朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:31:46
>>201

 スンスンと鼻を動かす小角。そして出たワード『消しゴム』

 「消しゴムっスか? それなら、あそこの角で売ってるっス!
じゃ、じゃじゃーん!」

 ポケットから出したのは……『練り消し』だ!
 ミントの匂いのする練り消しを、印籠のごとく自慢気に悪の首領は出してきた!

「ガチャポンっス。より取り見取りの五十種類ある練り消しが出てくる奴っス。
外れだと、普通のMON○消しが出たと思うっス」

 ガチャポン! 普通のお店や文房具店を探してる貴方には盲点だった
かもしれないが。遊ぶ場所に意外にも売ってたらしい!

203小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:40:45
>>202

「何! あそこの角だって?
 あんなところに、お店なんて――」

          「あっ!」

   バン!

練り消し。
それではよくないのだが――

「消しゴムのがちゃがちゃ……
 そ、そんなものがあったとは!」

        「も、盲点だった……」

普通の消しゴムが出るなら、話は別だ。
外れ扱いならどう考えても数回で出るだろう。

「……」

「……れ、礼を言わせていただこう。ありがとう」

         ス

やや目を逸らしつつ、小角は礼を述べた。
何となく気恥ずかしいような気がしたからだ。

          ザ

    そして、歩く向きを『ガチャポン』へと変えた。回そう。

204朝山『ザ・ハイヤー』:2016/09/14(水) 23:52:58
>>203


>礼を言わせていただこう。ありがとう


 「ふっふっふ! なーに、天津飯の友と私の仲っス!
また困った事があれば、直ぐにこの悪の首領の名を呼ぶっスよ!
 それと今度悪の講演会をする予定っス! それに関して
いっぱい広めてくれれば、今日の借りはチャラーっス!」

 今日も今日とてパワフルに悪の勧誘をするのだっモーニングマウンテン!

 小角の悩みが解消されたのを知るや否や、目指すは次の
悪を求める者たちのところへシュパッと参上する為に駆けだす!
 目指すは星見町の悪を求める者たちの声を全て束ねてしまうのだ!

205小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2016/09/14(水) 23:57:50
>>204

「あ、悪の手先になるつもりはない!
 まったく、よくわからないやつだきみは」

悪になる気はないが、
今までより『警戒』の気持ちは薄い。

悪を標榜していても――『悪人』じゃなさそうだから。

        「……ふん」
 
(講演会とやらに行く気はないが……
 今回は、こいつに助けられたのだからな)

「借りは別の形で返すだろう。
 ……また会おうじゃあないか」

           「では、失礼!」

    ザッ

そうして小角はガチャポンへ行き――『500円』で消しゴムを取った。  

                ・・・ついでに、練り消しも4つ手に入った。

206草壁多聞『アンサング』:2016/09/22(木) 22:23:16

人気のない深夜の町を彷徨う影が一つ。
背格好から見て、男のようだった。
身長は180cmといったところ。
革ジャケットにジーンズというラフな格好。
口元にスカーフを巻き、頭にはアポロキャップを目深に被り、
夜だというのにサングラスをかけている。

男はしばらく通りをうろつき、駐車場の前で足を止めた。
視線の先には、一台のセダンがあった。
いかにもスカした感じの高級車――こいつにしよう。

ズギュンッ

自身の精神の象徴たる『枯れ草が絡まった細身の人型』を発現させる。
そして、その手が車に触れた。
振れると同時に、『騒乱の種』を仕込む。

「よし」

『人型』を伴い、男が一歩ずつ後退し始めた。

「5、4、3」

車を見つめたまま、下がり続ける。

「……2、1、『0』」

カウントを終えると、体を反転させて、車に背を向けた。
その動作と同時に、セダンの内部から小さな破裂音が聞こえ、煙が吹き出る。
人目がなくなると同時に、『騒乱の種』が『発芽』したのだ。

「なんというか……。『悪いこと』って、なんでこんなに楽しいんですかねえ。
いや、まったく、やめられませんよ」

その男――清月学園教師・草壁多聞は本当に気持ち良さそうに笑っていた。

207白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 00:10:31
>>206

「なーにが楽しいんだって?」

「聞かせてもらえるかねぇ?」

赤いジャージの女が言う。
身長は女にしては高い183。
目は爛々と輝き、その手には買い物の後らしいコンビニの袋。

208草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 00:30:01
>>207

「いや、人に迷惑をかけずに悪いことをするのが楽しいと言ったんですよ」

白瀬が故障した車を見たなら、『騒乱の種』によって起こされた『故障』は元に戻るだろう。
見てないなら、自分が『目撃』することで元に戻す。
最初から、そうするつもりだったのだ。
実害のない悪戯こそが自分の望むものだからだ。

しかし――内心少々ヤバイとは思っていた。
相手は女性だが、体格もいいし、威圧感がある。
これで腕っ節が弱いなんてこともあるまい。
自慢じゃないが、喧嘩は売ったことも買ったこともない。
人と争うことは嫌いだからだ。
それに、もし殴り合ったとしたら、まず自分が負ける。

「ね?元通りでしょう?」

そう言いながら、さりげなく辺りに気を配り、逃げ道を探しておく。

209白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 00:58:31
>>208

「ふーん」

白瀬は目撃する。
故障した車をだ。
つまり、故障は消える。
元の車がそこに残る。

「待てよ」

「ちょっと、お話ししようや」

その眉間にはしわが寄る。
大きく一歩を踏み出して近寄る。

「なあんで、そんなこと楽しんでるのか」

「なぁ?」

「後さぁ、お話しするときは、スカーフとかサングラスとかとって、目と目を合わせてお話ししようよ」

210草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 01:27:13
>>209

ひとまず今は逃げない。
とりあえず、いざというときに逃げる方向だけ把握しておけばいい。
下手に逃げようとすると、かえって危ない。
そんな気がする。
『アンサング』は出したままだ。

「申し訳ないですが、これを外すことはできません。
ファッションでやっている訳ではありませんのでね」

半分はファッションですが、と心の中で付け加える。
相手が近寄るのを見て、警戒する。
『故障』が元に戻ったのを見ても全くのノーリアクション。
自分と同じスタンド使いだと確信した。
近付いてくるということは、近付く必要があるということなのだろうか。
もし、さらに踏み込んでくるようなら距離を取る。

「……ですが、人と話す時に目を合わせないというのは失礼ですね」

そう言って、サングラスを外した。
特に変わった色をしているわけでもない、ごく普通の黒い瞳。

「これで勘弁していただきますよ」

「さて……」

「『なんでそんなことを楽しんでるのか』でしたね?
少し長くなるかもしれませんが、お時間大丈夫ですか?」

211白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 01:45:15
>>210

こちらもスタンドを出しておこう。
人型のそれを

「お時間なら大丈夫だぞ」

「それと、質問に質問で返すなよ。学校で教わらなかった?」

くいと小首をかしげる。
ぱきりと首を鳴らした。
まだ近づいていく。

「まぁ、長く話したければそうしろよ」

「喋られる時間は長い方がいいだろう?」

「弁明でもなんでもよぉ?」

212草壁多聞『アンサング』:2016/09/23(金) 23:29:28
>>211

「いえ、そろそろ帰ろうと思っていましたのでね」

向こうが近付けば、こちらも後ろに下がる。

「手短に済むなら、私としてもありがたいです」

未知の相手を前にして、緊張が高まる。

「私には悪いことをしたいという思いがあるんです。
ですが、人に迷惑はかけたくない」

まず、こちらの能力は見られている。
そして、自分のスタンドは戦闘には向いてない。
なにより、自分には戦う意思はない。

「だから、こうして発散しているわけです」

できれば今すぐ背中を向けて走り去りたい。
だが、きっかけが見つからない。
背中を見せるのは危険だ。
距離を取りながら、いつでも防御できるようにスタンドを構える。

213白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/23(金) 23:52:36
>>212

「ふーん。なるほどなぁ」

うんうんと納得した白瀬。
その眉間に先ほどまでのしわはない。

「……危険だけど、危険すぎないな」

そう呟くとその場に胡坐をかいて座り込んだ。
そして首をニ三度鳴らす。

「アタシは他人を踏みにじったり傷つけたりする人間が大嫌いだ」

「あんたはその領域に片足を突っ込んでる。ぶっ飛ばしたいが、まだ片足だ」

「その言葉が嘘だっていうなら今すぐにでも叩くけど」

今はしない。そう明言した。

「両足突っ込んだら殺す。容赦なく」

「今はまだ取り返しのつく悪事だからな」

「だがその精神が『人を害するのが楽しい』に傾いたり、今やってること以上のことをしたら」

「両足突っ込んだとみなす」

それからぎぃっとあなたを見上げる。

「帰りたいなら帰りるといい」

スタンドも解除する。
攻撃の意志はない。厳密にはあるが、今すぐに叩くつもりはない。

214草壁多聞『アンサング』:2016/09/24(土) 00:22:06
>>213

「……ありがとうございます」

意外な反応だった。
てっきり、攻撃を仕掛けてくるかと身構えていたが……。
分かり合えたとは言えない。
しかし、納得はしてもらえたらしい。
話はしてみるものだ。

「人を踏みにじり、傷つける人間が嫌いだというのは私も同じですよ」

そう答える目に嘘はない。

「だから、もし私がそうなったら、その時は殺して下さい」

その声にも迷いはない。

「そんな風になるくらいなら死んだ方がマシですから」

そう言って、こちらもスタンドを解除する。

「では、失礼します」

立ち去ろうとして、はたと立ち止まる。

「……おかしな言い方かもしれませんが、感謝しますよ」

そう言い残して、今度こそ立ち去っていった。

215白瀬 希『トンプソン・スクエア』:2016/09/24(土) 00:29:10
>>214

「あいよ」

「その首すぱっとやってやる」

からからと笑って物騒なことを言う。
それが白瀬という女性であった。
そしてその言葉は本気の言葉でもある。
容赦なく許しはしない。

「感謝……?」

立ち去る背を見つめ。
そう呟く。

「気に食わねぇ。ま、許しておいてやろう」

「その言葉信じとくぞ」

216小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/15(土) 22:50:21

――PM12:00――

最近見つけて時々通っている輸入雑貨店でいくつかの小物を購入し、店の外へ出た。
時間を確認すると、もう昼間だ。
そろそろ食事をしようかと、適当なレストランを探しながら、通りを歩く。

今日は休日ということもあって、平日よりも人手が多かった。
夫婦と子供の家族連れ、若い恋人たち、高校生くらいの友人同士など、様々な人々とすれ違っていく。
その時、不意に足が止まり、帽子の下の視線が一点に注がれる。
雑踏の中に、愛した相手とよく似た後ろ姿を見つけたからだ。
――もしかすると彼なのでは。
自分でも馬鹿げた考えだと思いながら、目を逸らすことができない。
しかし、まもなく振り返った顔は、当然ながら全くの別人だった。
その男性の下へ、恋人らしき女性が駆け寄ってきて、連れ立って歩き去っていく。
彼らは、とても幸せそうだ。

かつては、自分もそうだった。
当時の思い出が脳裏をよぎり、一抹の寂しさが心を掠める。
胸に生じた感慨に思わず目を伏せ、やがて再び歩き出し、雑踏の中に消えていく。

217小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/31(月) 22:58:12

『ハロウィン』――ヨーロッパを発祥とする民族行事で、秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す祭りである。
近年は日本でも知名度が上がり、季節を彩る楽しみの一つとして浸透し、人気を博しているようだ。
ここ星見町も例外ではなく、通りの各所に飾り付けがなされ、
何かのイベントに参加するらしい仮装した人々も散見された。

少しだけ普段と違う町を歩きながら、ちょっとした非日常に思いを馳せていると、
突然何かに喪服の裾を掴まれたような感覚があった。
少々驚いて振り向くと、小学校に上がったばかりといった少年が、こちらの顔を見上げていた。
帽子とマントを身に着けている姿を見ると、差し詰め魔法使いの扮装といったところだろうか。
どうやら彼の母親と間違われてしまったらしい。

  「坊や――お母さんとはぐれちゃったの?」

不安にさせないよう、少年に声をかけつつ、辺りを見回す。
おそらくはぐれてからまだ時間は経っていないだろうし、向こうも捜しているはずだ。
それなら、少年の母親が近くにいる可能性は高い。
まもなくして、少し離れた所から、母親らしき人影が、少年の名前を呼びながら近付いてきた。
それは、黒尽くめの魔女の仮装に身を包んだ若い女性だった。
これでは間違えるのも無理はない。

頭を下げる母親に会釈を返し、小さく手を振る少年に手を振り返す。
それは日常の中に生じた、ほんの些細な出来事だ。
しかし、今日がハロウィンでなければ起きなかったに違いない。
ある意味では、これも一つの『非日常』と言えるのかもしれない……。
そんなことを考えながら、再び歩き出す。


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