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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

320弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:34:53 ID:YrRABrO.

『キョン君、痛イヨ、助ケテ・・・・・・』
「ハッ!?」

キョンの正面、詳しくはスバルの背後からキョンの妹が現れた。
しかし、妹はいつもの妹ではなく、ミイラのように包帯で全身がグルグル巻きだ。
包帯の僅かな隙間から皮をひん剥かれたかのように肉が見え、そこから血が漏れて、包帯をところどころ赤く汚している。
助けを求め、いかにも苦しそうな姿をしていた・・・・・・

『ドウシテ私タチを売ッタンデスカ? キョン君・・・・・・』
「ひっ・・・・・・!」

次に現れたのはみくる。
何者かに『襲われた』のか、衣服があちこちはだけている。
ただそれだけでは無く、こめかみから鉛玉によって作られた風穴があり、そこからダラダラと血を垂れ流し、両目はそれぞれあらぬ方向を向いていた。
元の可愛い少女の顔を知っているキョンを戦慄させるには、過剰なインパクトだ。

そして、極めつけは彼女だった。

『許・・・・・・サナイ』
「う、うわああああ!!」

最後に現れた彼女は、裂かれた腹から片手でおさまりきらないほどの大量の臓物を剥き出しにし、口からは血へどを吐き、眼からは赤い涙を流している。

『イマサラ逃ゲルツモリナノ?
絶対ニ許サナイ・・・・・・!』

表情は元の輝く精悍な顔つきが崩れるくらいの憎悪。
その憎悪をキョンに向けていた彼女こそ、ハルヒである。

『助ケテクレナイナラ呪ワレロ・・・・・・ノロワレロォーーーッ!!!』

その憎悪に塗れた怒声は、キョンの顔を恐怖で引き攣らせ、一気に血の気を引かせる。

『キョン君、キョン君・・・・・・』
『汚サレタ、痛カッタ、苦シカッタ・・・・・・』
『死ネ、死ネェ!!』

辛み、恨み、憎しみ・・・・・・彼女たちのその全てを向けられ、恐怖を味わうキョンは確信する。

(ダメだ・・・・・・俺はもう引き返せないんだ。
引き返しちゃいけないんだ・・・・・・!)





ここで断っておくが、彼女たちは幽霊でもなんでもない、キョンの勝手なイメージで作られた被害妄想である。
だが、それを見たキョンには・・・・・・

−−−−−−−−−−−

321弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:36:09 ID:YrRABrO.

「う、うわああああ!!」

突然、装甲から剥き出しのキョン君の素顔が引き攣ったと思えば、いきなり彼は叫び出した。
まるで、何か怖いものでも見たかのように。
ウォーズマンさんも空曹長も驚き、顔をしかめて警戒する。
私といえば彼が心配になり、声をかける。

「どうしたのキョン君!?」
「お、俺に触るんじゃねぇ!!」

彼は怒鳴ると、握手を求めようとした私の手をぴしゃりと払った。
手の痛みは大したことはないけど、キョン君の眼はまるで私をすごく怖いものを見ているようだった。
それはどうしてなの?

「怖がらないで!
いったい何をそんなに恐れているの?」
「うるせえメスゴリラ!」
『年頃の女の子をゴリラ呼ばわりするなんて!
なんてことを言うんですか!』
「空曹長はちょっと黙っててください・・・・・・」

わざとなのか素なのか、とりあえず空気を読まない発言をする空曹長を喋らせないようにさせておく。
それは置いておくとして、突然恐慌したキョン君は私たちから遠ざかるようにゆっくりと後ろに下がってゆく。
彼を逃がしたりするわけには行かない私たちも、警戒しながらキョン君へと近づいていく。

「本当にどうしたんだキョン!
いったい何を恐れている?」
「来るな・・・・・・俺に近寄るな!!」

混乱しているキョン君が手から高周波ブレードを抜き出す。
一度は全員が警戒レベルを上げた。
私も変身してバリアジャケットに身を包む。
だけど、キョン君自身は近づかれないように剣をぶんぶんと振り回すだけで、それ以上してくる様子が無い。
いわゆる錯乱状態にも見えた。

「キョン君、落ち着いてよ!」
「嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!」
「なっ・・・・・・?」

なぜ、そんな事を言うのキョン君?
私たちの何かを恐れているのがわかるけど、それが何なのか私にはわからなかった・・
そんな中でキョン君は私に向けて叫ぶ。

「スバル・・・・・・
俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!」

322弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:39:42 ID:YrRABrO.

吐き捨てるように言うと、彼はすぐに私たちに背を向けて駆け出した。

「逃げるつもりか!」
「キョン君・・・・・・仕方がない、バインド!」

仲良くなれるかもしれない相手に、手荒な真似は極力したくなかった。
だけど、今のあなたを逃がすわけには行かない。
そこで魔法の捕縛錠、バインドを唱えた。
しかし・・・・・・生成されたバインドは逃げるキョン君を捕らえきる前に断ち消えてしまった。

「あれ?」
「なんだ、どうした?」
『消耗により、魔力のコントロールが効いてないよう模様です』

レイジングハートの的確な分析によって、バインドができない理由がわかった。
・・・・・・そこまで私は消耗してたのか。

キョン君はその間に鬱蒼と生い茂る木々と草の雑木林の中へと飛び込む。

『あぁーー!
逃げられたぁ!?』

そうこうしている内にキョン君はどんどん私たちから距離を離していく。
まだ彼の背中が見える内に、私とウォーズマンさんは走って追いかけることにした。
走力には二人とも自信があった。
消耗はしていても、陸曹である私は走るのは得意だ。
キョン君との距離をぐんぐんと縮めていく。

「クソッ・・・・・・そうだ!」

それに気づいたキョン君は、何か思いついたのか、顔を空に向けてヘッドビームを放つ。
正確にはビームは、天へと伸びる木々の枝を狙って放っていた。
ビームが当たり、本体である木々から切断された大量の葉のついた枝が地面に落ち、私たちの行く手を阻むハードルになった。

「足止め!?」
「キョンの奴め、こんな時に知恵を回し追ってからに!」

ここは深い森。
木々の間が狭く、枝の塊によって阻まれた道は、塊を退かすか迂回しない限り通る事ができない。
生憎、私にもウォーズマンさんにも、塊をどかす技も道具も技術もない。
迂回するしかなかった。
しかし、その先にもキョン君はいくつも同じ手の障害物を作り上げ、あたしたちの進行を阻んでいく。
やがて、夜の闇も手伝って見えない距離にまで差をつけられてしまった。

「しまった・・・・・・」
『まだ諦めないでください。
見た目ほど遠くへは行ってません。
距離、約30m前後。
このまま前進してください!』

323もふもふーな名無しさん:2009/06/29(月) 00:40:32 ID:YrRABrO.
デバイスであるレイジングハートの索敵能力が感知できる距離には、キョン君がいるようだ。
逃してキョン君をまた殺し合いをさせるわけにも、危険人物がウヨウヨいるこの島を一人で歩かせるわけにもいかない。
レイジングハートの索敵範囲にいる内に、絶対にキョン君を連れ戻してみせる!



・・・・・・それにしても、何がキョン君をあそこまで怖がらせてしまったのだろう?

『嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!』
『俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!』

責める気は更々なかった。
だけど、あたしの何かが彼を傷つけてしまったのか、胸が痛くなる・・・・・・

−−−−−−−−−−−

324弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:42:30 ID:YrRABrO.

ただ、ひたすら走り、ビームで落とした枝の塊で障害物を作り、俺はあの女たちから必死に逃げていた。
後ろを振り向くと、あの女たちは見えなくなっていた。
逃げきれた・・・・・・?

「待てェー、キョン!」
「戻ってきてキョン君!」
『逃げないでください!』

・・・・・・いや、暗闇でよく見えないだけで数十mの差で追ってきてやがる。
こんなんじゃ逃げきれた内に入らねぇ!


もし、俺が普通だったら逃げるなんてことしなかっただろう。
元から奴らとは別れたかったが、ギュオーと合流するまでは我慢する予定だったんだ。
でも、そんな予定をご破算にしてまで、奴らから・・・・・・正確にはスバルから逃げたくなったんだ。
もはや、心の舵が効かなくなるぐらいの本能的なレベルで。
今、俺が逃げてるのは計算や打算があるわけじゃなくて、ただただ、どんな醜態を曝そうとも、あの女から離れたくてたまらないんだよ。



あの女と一緒に行けば、俺を救ってくれそうな気がした。
だが、それは精神的に弱った時に、甘い事を言われると、そっちに走りたくなる衝動的なものだ。
あの女の言う通り、この殺し合いを放棄してしまったら、今度こそハルヒたちが生き返る道が閉ざされちまう!
俺はそれで楽かもしれないが、それじゃあハルヒや朝比奈さんや妹に、二度と会うことができなくなっちまうじゃねーか!
ハルヒたちを日常に返すことができなくなっちまう。
きっとあの世で恨むだろうな、ハルヒたちは・・・・・・

−−痛イヨォ
−−苦シイ・・・・・・
−−呪ワレロ

ああ・・・・・・、思い出したくもないのに、さっき頭に浮かんだグロテスクなハルヒたちの姿が眼に浮かんじまう。
一瞬でも優勝を諦める方に浮気しかけた俺を許してくれよ・・・・・・もうしないから。
だが、優勝すれば統合思念体がきっと生き返してくれる。
そしたら、何事もなかったように皆が日常に帰ることができるんだよ。
そうなりゃ嬉しい限りだろ、ハルヒ、朝比奈さん、妹。
統合思念体にはそれを実現できる力を持ってるのを俺は知っているんだ。
俺がしくじらなければ大丈夫な話なんだ。
もう諦めないし、しくじるつもりもない。
だから・・・・・・だから・・・・・・、あんな姿で俺の前に出てこないでくれよ!

325弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:47:27 ID:YrRABrO.



いつの間にか、死んだハルヒたちが恐怖の対象になりかけていた。
甘えるな・戦いを放棄するなと、頭の中の彼女たちが俺に警告してきやがる。
だから、俺はハルヒたちを恐怖の対象にしたくないためにスバルを恐れているんだ。
あの『ヤサシイ』女と一緒にいたら、目的も信念もハルヒとの約束も全部失っちまう、そしたら他が俺を許しても死んだハルヒたちが俺を許さない、今度は魂まで抜けるぞ。
言うなれば、あの女から逃げてるのは精神からの拒絶反応なんだ。
俺にあの女は毒なんだ。

ただ、今は本能と感情に従い逃げている。

もっと早く、もっと遠くへ!

その時の俺に、後のことはどうでもよくなっていた。
逃げる他は何も考えたくなかった。

さっき顔面の装甲を剥がして、まるだしになった顔面が涙と鼻水と汗で汚れ、恐怖で引き攣って酷い顔になるなど、どれだけ喚き散らして醜態を曝そうともどうでもよかった。

今いる、この殺し合いの場についての危険性もすっかり忘れてた。
・・・・・・それがいけなかった。
あの女たちが見えないことで、完全に失念していた。
殺し合いに乗ってる奴に襲われる可能性を−−



ガシッと、何者かに俺の首根っこを後ろから鷲づかみにされ、やたらとゴツイ手で口も塞がれる。
俺は何者かに持ちあげられて、そのままどこかへと連行される。

「もがっ、もがが・・・・・・!?(な、なんだ・・・・・・!?)」

首を掴まれ、口を塞がれてるだけあって、呼吸が苦しい。
精一杯もがいてみるが、腕を外そうとしてもその力は万力のように強く、外れない。
しかも、後ろから掴まれてるから、メガスマッシャーもプレッシャーカノンもヘッドビームも使えない!

「・・・・・・!!」

後ろへと伸ばす事ができる高周波ブレードで反撃しようとするが、出した瞬間に壁みたいなものにぶっかってバキリと折られちまった・・・・・・

「足掻くな」

それだけ言うと、首を掴んだまま尋常じゃない威力の膝蹴りを、俺の背中に寄越しやがった。

「ガ・・・・・・ハ・・・・・・」

326弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:48:02 ID:YrRABrO.
その蹴り一つで背骨がもっていかれそうになる。
叫ぼうにも呼吸がろくにできてないせいか、大きな声を出せない。
しかも、反撃も覚束ない俺を見て何者かは笑ってやがる。
・・・・・・万事休すだ。

−−−−−−−−−−−

327弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:49:01 ID:YrRABrO.

F‐5から出たギュオーは、さっそく何かから逃げるガイバーを発見した。
一瞬、ガイバーⅠのそれと見間違い兼ねないフォルムを持つそれは、よく眼を懲らせば細部が違うことに気づけた。
つまり、ノーヴェと同じく支給品としてガイバーユニットを渡され、ガイバーと化した参加者であるようだ。
そして、耳を澄ませば、聞き覚えのある男の声と、聞き覚えのない女の声。
どうやらウォーズマンはあのガイバーを追っているらしい。

これは念願のガイバーユニットを手に入れられるチャンスであり、急がねばウォーズマンたちの邪魔が入ってこのチャンスを逃してしまう。
ギュオーはすぐに行動に移った。

理由はわからないが、このガイバーはウォーズマンたちから逃げている。
しかし、後ろから追ってくるウォーズマンたち以外の警戒が無い。
それに気づいたギュオーは側面から背後に回り込み、ガイバーの首根っこと口を掴む。
ガイバーの武装はたいてい前面に出ている。
後ろから掴めば一部例外を除いて反撃手段が無くなってしまうのだ。
また、簡単に捕まえられ、捻りのない反撃をする所からして、ガイバーの中身は戦い慣れてない素人であることもわかった。
おぞましいゾアロードの姿をしたギュオーは笑う。
ちなみに、下手に気絶させるとガイバーの防衛本能が働いて面倒なことになるので、手加減をする必要がある。
そのため、普段なら簡単にできる、腕で首をへし折ることや顎を砕くこともせず、先に放った蹴りにも気絶しないギリギリの力でやったのである。
それでキョンは、ダメージを与えられつつも、気を失うことはなかった。

ウォーズマンに見つからないように、彼らの気配がする方向から離れるべくガイバーを手に持ったまま走る。
途中で騒がれても困るので、重力を纏った拳を背中に打ち込んで黙らせた。


ところで、ギュオーはガイバーユニットをどうやって手に入れるつもりなのか?
殖装者とユニットを分離する装置・リムーバーがあれば非常に簡単なのだが、それは今、ギュオーの手元には無い。
リムーバーが期待通りに誰かに支給されているとは限らないとギュオーは思っている。

328弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:49:35 ID:YrRABrO.

では、他に殖装者とユニットを分離する方法は無いのか?
それに対してのギュオーの答えは単純明解、『殖装者の殺害』である。
しかし、殖装者は身体をバラバラにされようとも、ユニットに強殖細胞が少しでも付着していれば復活する(主催者からの制限によりできないかもしれないが、復活できる可能性はゼロでもない)。
間違って何もかも灰にしてしまえばユニットが消失する。
さらに、周辺にはウォーズマンたちがいて、死体をうまく隠さないと後々厄介になりそうだ。

−−そこでギュオーは思いつく。

(禁止エリアに放り込んでみてはどうか?)

もうじき、この場所に近いF‐5は禁止エリアになる。
そこへこのガイバーを放り込めば、たちまち身体はLCLとやらになるだろう。
流石に液体と化した殖装者が復活できないハズの上、ユニットと分離できるかもしれない。
新しい首輪が手に入り、実際にこの眼でLCL化した者の姿を見る事ができ、一石三鳥という計画だ。
また、LCLをウォーズマンたちが発見したとしても、コイツが誤って禁止エリアに入ってしまったことにできる。
ウォーズマンに真意を悟られることもないという計算だ。

この計画を実行するためには、まずウォーズマンたちから離れることが前提だ。
見つからない距離にまで離れて、このガイバーを液体化させる!

そんなことを思いつつ、ふとギュオーはガイバーの顔を少しだけ見てみる。
詳細名簿で見た未来人・朝比奈みくるの友人・キョンのようだ。
朝比奈みくる及び未来の技術について聞き出そうと思ったが、恐慌状態とダメージでまともに会話できそうに無い。

329弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:51:52 ID:YrRABrO.
元は戦闘力も技術力も無い役立たずであるし、ウォーズマンとも対立してるようだ。
やはり殺した方が約に立ちそうだ、とギュオーは思い、キョンの耳元で囁く。

「ふふふ、喜べ。
貴様のような冴えない男でも、私のために約に立てるのだ。
ガイバーユニットと首輪を私に捧げることでな」

ガチャッ

「ん?」
「・・・・・・」

ギュオーが囁いた後に、キョンは静かに胸部の装甲を開く。
ギュオーに後ろから掴まれているため、必然的にメガスマッシャー発射口はギュオーとは反対の方向を向く。
その時点では、ギュオーはキョンの意図が全く読めなかった。

−−そして、発射口からまばゆい破壊の閃光が吐き出される。

「ぬ、ぬわあああああああああああああああ!?」

制限下でパワーダウンしたギュオーの力では、メガスマッシャーで勢いのついたキョンを支えきれず、キョンを持ったままのギュオーは後ろへと突き飛ばされた。

前面についているメガスマッシャーで、後ろにいるギュオーを撃つ事はできない。
キョンはそれを逆手に取り、メガスマッシャーをロケットブースターのような動力にして、自分ごと相手を突き飛ばすようにした。
これは、撃たれなければ武器を潰さなくても良いと侮っていたギュオーの失策である。
結果、メガスマッシャーで生み出された力は前方の雑木林を焼きながら二人を突き飛ばし、後ろのギュオーを盾にしながら数m先の木々へと盛大に叩きつけた。
それで多少なりともダメージを受けたギュオーは、キョンの首を掴んでいた手を離してしまう。

「お、おのれ・・・・・・」

ギュオーから解放されたキョンは、先に受けたダメージでフラフラになりながらも立ち上がる。
自分が咄嗟に思いついた策が功を成し、今度こそまともに反撃ができるようになった。

「こ、このやろぉ!」

相手を確実に仕留めるべく、至近距離から攻撃に移ろうとする。
だが、ギュオーは腐っても一騎当千の戦闘力を持つゾアロード。
怪力を込めた拳で、キョンよりも早く反撃する。

「私を舐めるなぁ!!」

破壊の拳が、キョンの剥き出しの顔面を潰さんと向かう。
キョンは反射的にそれを避けようとする。


・・・・・・お互いのその行動が、悪い結果を産む。

330弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 00:53:03 ID:YrRABrO.

ギュオーの拳はキョンの顔面に直撃する事は無く、額を霞め、金属製のパーツが外れて地面に落ちる。
パキンッと地面に金属の澄んだ音が立つ。

「・・・・・・!!」
「し、しまったぁ!!」

キョンの額から外れて落ちたパーツこそ・・・・・・ガイバーを形成する核となるパーツ『コントロールメタル』。
キョンが避けた事により拳の本来の軌道から逸れ、この金属片に当たって外れたのだ。
それがガイバーから外れたのを見た二人は驚愕する。
片や、ついうっかり勢いでやってしまったことを・・・・・・
片や、自分の命運が尽きる予感−−『マジでくたばる5秒前』を感じて。

コントロールメタルとは、その名が表す通り、強殖細胞を制御するための金属。
これを失う事が意味することを、ギュオーは以前から知り、キョンは付属の説明書を通して知っていた。

そこへスバルたちが草を掻き分けて現れる。

「キョン君!」

スバルがキョンの名前を呼んだ時を同じくして、コントロールを失ったキョンの纏う強殖細胞が暴走を始める。

装甲がスライムのように溶けだし、宿主だったキョンの肉体を喰らい始める!

「う、うわあああぁああああぁあああぁあああ!!」

身体を肉塊に蝕まれる恐怖と、生きたまま喰われていく想像絶する痛みに、キョンはこれ以上無いくらい顔を歪ませ叫び、のたうち回る。

それが哀れな道化の末路だった・・・・・・

331(緊急連絡) ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 01:00:36 ID:YrRABrO.
皆様に申し訳ないのですが、体調が優れないため、今日はここで一旦仮投下を中断させていただきです。
話の流れ(二話構成型)では、ここまでが前編です。
後編は明日にでも投下させていただきます。
申し訳ありません。
5x氏様、私のSSは途中ですが、投下しても構いません。

332もふもふーな名無しさん:2009/06/29(月) 01:28:46 ID:vZIcJnC6
乙です
どうかお体をご自愛ください

333 ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:26:45 ID:YrRABrO.
これより昨夜中断したSSの続きを投下いたします。

334さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:32:15 ID:YrRABrO.

−−時間を別の視点から少しばかり巻き戻す。

キョンを追う三人の男女。
その途中で何かを察知したレイジングハートが報告する。
暗闇と雑木林で視界が悪い世界でキョンの動向を探るには、彼女の報告が頼りだった。
ギュオーには彼らが、こんな高性能なAIと索敵能力を持つデバイスを所持してることは知らないだろう。
レイジングハートには、キョンとギュオーの動向はある程度までサーチできていた。

『Mrキョンの近くにもう一つの生命反応を察知しました』
「生命反応? 他に誰かがいるってこと?」

その反応こそギュオーであるが、この時点の彼女たちは知らない。
さらにレイジングハートはリアルタイムで報告を続ける。

『待ってください・・・・・・!
エネルギー反応を感知。
Mrキョンと何者かが戦闘をしている可能性があります!』
「戦闘、まさかキョン君が・・・・・・!」

スバルは焦る。
戦闘と聞いて思いあたる節は、恐慌状態のキョンが何者かに襲いかかったか、逆に何者かにキョンが襲われているか。
今のキョンでは、何をするかわからないし、何をされるかわからない。
止める意味でも守る意味でも、早く保護しなければ・・・・・・だが、状況は次々と変化していく。

『・・・・・・?
Mrキョンと何者かが急速に我々の方から離れていきます。
速度は先程までより若干早く、このままではすぐに私の索敵範囲外へ離脱してしまいます』
「・・・・・・急ごう。
スバル、俺はペースを上げるが、君はまだ走れるか?」
「ハイ!」

報告を受け、キョンを追って走る速度を早めるウォーズマンとスバル。
進んだ先には、刃のカケラ−−折れた高周波ブレードが落ちていた。
それが三人の不安を加速させる。

『スバル、あれを見て!』
「あれはキョン君の!?」
「嫌な予感がする。
キョンの奴はいったい・・・・・・」

追跡しつつ、不安を募らせていく三人。
すると、三人には見覚えのある閃光により前方の雑木林の中が光る。

『前方で高出力のエネルギー粒子反応!』
『あの光はナーガがやられる時に見た・・・・・・』
「メガスマッシャーか!」
「あそこにキョン君がいる!」

閃光がメガスマッシャーの光であると確信を持ったスバルたちは、戦闘が起きてるであろう前方へ向けて駆け出す。

335さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:32:50 ID:YrRABrO.

「このやろぉ!」
「私を舐めるな!!」

二人の男の声が聞こえる距離まで三人は接近し、最後に背の高い草を押しのけて、ようやくキョンと異形の怪物・ギュオーが視界に入った。
ウォーズマンは怪物の纏う雰囲気から、それがギュオーであることを理解した。
そして、キョンを見つけたスバルは第一声に彼の名を呼ぶ。

「キョン君!」

だがその時に、コントロールメタルを失ったキョンの纏う強殖細胞が暴走し、装甲化していた細胞がぶよぶよと溶けだし、キョンの肉体を喰らい始めたのだった。
キョンが絶叫を始める。

「う、うわあああぁああああぁあああぁあああ!!」

ドロドロに溶けた装甲がキョンを蝕んでいる−−ガイバーの全てを知っているわけではないスバルたちは、一瞬、言葉を失った。
だが、それが緊急事態であると知るやいなや、スバルとウォーズマンは気持ちを切替えて、すぐにキョンの元に向かう。

「キョンくぅーーんッ!!」
「キョン、大丈夫かぁ!!」

−−−−−−−−−−−

336さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:33:33 ID:YrRABrO.

「があああ、うああぁあ!!」

強殖細胞が身体を蝕んでいき、キョンは呻き悶える。
その肉体的・精神的痛みは、唯一外気に晒されている顔面の歪んだ表情から伺える。
焦燥のスバルはそんな彼を助けようと、リインと共に近寄る。

「キョン君! しっかりして!」
『これはいったい何がどうなってるんですかぁ!?』


スバルたちが異常状態のキョンに対処している側から離れて、ウォーズマンは彼女たちの背中を守るように後ろに立ち、ギュオーと向き合う。

「ギュオー!
これはいったいどういうことなんだ!」

ウォーズマンはギュオーに向けて語気を強めて問い掛ける。
決して、ギュオーが殺し合いに乗ったとわかったためではなく、元々の彼への疑念に加えて感情が入っているのだ。
問い掛けに対し、できるだけ誠実に繕って無害そうに装うギュオー。

「待ってくれ、君らは奴を追っていたんではないか?
奴は敵じゃなかったのか?」
「・・・・・・保護すべき相手だ。
詳しい経緯は省くが、見張り、守らなくてはいけない少年なんだ」
「な、なんと!?」

ウォーズマンたちから逃げているので、てっきりキョンが敵対しているのだと思ったギュオー。
実際には、(言い回しからして何か事情があるみたいだが)味方だったのである。
つまり、誤ってギュオーは味方を攻撃してしまったのだ。
良心の呵責がないギュオーには、それ自体のことはどうでも良いことなのだが、問題なのはそれによりウォーズマンたちとの友好関係にヒビが入ったことである。
ギュオーにとって利用価値のあるウォーズマンたちとは、関係を悪化させたくなかった。

(クソッ、ガイバーユニットは壊してしまうし、出会うタイミングは最悪だ!)

奪うつもりだったガイバーユニットは、思わぬ反撃(と自分のミス)で破壊してしまう。
再開のタイミングはちょうどコントロールメタルを破壊した所を、目撃される気はなかったのに、キョン(確実にもうじき死ぬ)を殺してしまう所を見られてしまった。
ウォーズマンに見せる誠実そうな態度の裏で、自分の思い通りに行かないことに腹を立てる。
だが、あらかじめガイバーが自分にとっての敵であると教え込んでいるため、今なら誤殺や事故でごまかせるかもしれない。

337さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:35:01 ID:YrRABrO.
関係そのものの悪化は避けられなくとも、交戦は回避できるハズだ。
ここはなんとか凌ごう−−と、ギュオーは肝に銘じる。
そんなギュオーの心の内を知りもせず、ウォーズマンはギュオーに問い掛け続ける。

「一緒にいたタママはどこに行った?」
「タママ君なら火事になっている北の市街地へ向かった」
「そんな危険かもしれない所へ一人で行かせたのか!?」
「止めようとしても話を聞かなかったんだ!
頭に血でも昇っていたのだろう」

それは嘘ではない。
タママが出ていったことで、一人でにこの殺し合いに関しての考察ができたのは秘密だが。
タママの動向についてわかった所でウォーズマンの質問は次に移る。

「おまえを疑いたくはないが、キョンに襲いかかったのは故意ではないんだな?」
「待ってくれ!
私にとってガイバーは敵なんだ。
やらなきゃやられると思ったのだよ。
それを君たちの仲間と知らずに討ってしまった事には責任を感じてる・・・・・・
信じてくれ、あくまで自分の身を守ろうとしてやってしまった事なんだ・・・・・・!」

偽りの自責の念を見せつけるギュオー。
しかし、そこへ彼の予想してなかった横槍が入る。

「う・・・・・・嘘をつくなあああ!!
・・・・・・俺の・・・・・・ユニットと首、輪を頂くとほざいてやがった癖にぃ!!」
「「!?」」

キョンは死ぬような痛みを押し切り、自分をこんな身体にしたギュオーへのありったけの憎しみを込めて、記憶のままの事実を告げる。
それによりギュオーへのウォーズマンたちから向けられた視線が、疑念から敵意に変わりかける。

「よくも・・・・・・よくも・・・・・・ぐうう!!」
「それ以上喋らないでキョン君!
ギュオーさん、あなたはまさか!」
「ギュオー!
それが本当なら貴様を叩きのめさねばならないぞ!!」

意外な伏兵・キョンの言葉により、話の流れが一気に悪化したことにギュオーは焦りを覚える。

(あやつにはまだ喋れる気力が残っていたのか!?
まずい、完全に疑われてしまってた。
もはやこれまでか・・・・・・仕方ないがここでこいつらをまとめて始末・・・・・・)

自分ならば、浮遊する小さな妖精を含めた三人を消せる自信があった。
一度は懐柔するのを諦めて、三人を抹殺しようとして・・・・・・やはりやめた。

338さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:36:24 ID:YrRABrO.

(いや、短気は損気だ。
まだ先は長いのに戦って消耗したくはないし、コイツらには戦闘面で利用価値があるんだ。
・・・・・・無ければ容赦なく殺してるが。
あのガキはもうすぐ細胞に取り込まれて死に、死ねば事実はわからなくなる。
そこまで粘るんだ!)

「ち、違う!
彼は何か誤解しているんだ!
被害妄想か何かではないのか!?」

とりあえずは、ギュオーは懐柔する道を選ぶ。
既にウォーズマンたちはかなり疑いだしてるので、それもまた難しそうだ。
それでも件のキョンも、先に告白したのを最後に呻く以外は何も言わなくなった。
もうすぐ死ぬのだろう、そうすればどうにかごまかせるかもしれないと思っていた。

『それが本当ならいいですけどね・・・・・・』
「本当だよ妖精君、ウォーズマンも信じてくれ!
私はそんなやましいことは一切考えてないんだ!!」
「・・・・・・だと良いがな。
ところでなぜ変身を解かない?」
「婦女子の前で裸になれと言うのか君は!?」

疑念をうやむやにするために、ギュオーは場をもたせようとする。


−−そんなやり取りをしている一方で、スバルはキョンを助けるべく方法を模索する。

「がはぁ、くうう・・・・・・」
「キョン君!
クソッ、早く助けないと・・!」

だが、ガイバーの事を聞いた分しか知らないスバルには、助ける方法が思い浮かばず、キョンの苦しむ声を聞きながら焦るのが関の山だった。
方法が無いとはいえ、次第に侵食され衰弱するキョンをスバルは見ていられない。
ガルルと同じく、目の前にいるのに助けられないのは、もう沢山なのだ。
悲しみでスバルの目頭が熱くなる・・・・・・そこへ、ウォーズマンの側からこちらへ移ってきたリインが励ましの言葉を送りながら現れる。

『スバル〜! 諦めちゃダメです』
「・・・・・・空曹長?」

リインはその小さな身体で誰かのデイパックを持っていた。
デイパックをスバルの側に降ろすと、リインはウォーズマンからの頼みを伝える。

『ウォーズマンさんが言うには、支給品の中にはキョンを助けられる道具があるかもしれません。
だからデイパックを調べて何か使える物が無いか探せ、という事です』
「そうか、それなら!」

339さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:38:07 ID:YrRABrO.

キョンを救える道具がデイパックの中に眠っているかもしれない。
それを思いたったウォーズマン自身は疑いがあるギュオーを見張らなくてはいけないので、その役目をスバルに任せたのだ。
僅かでも希望が見えたことにスバルは眼を輝かせ、リインと共にさっそく二つのデイパックを調べ始める。

スバルのデイパックには、円盤状の石、首輪、SDカード、カードリーダー、巨大化させる銃・・・・・・どう考えても役に立ちそうな物は無い。
次にウォーズマンのデイパックを開ける。
スナック菓子に木の美・・・・・・求める物がなかなか見つからない中で、スバルは何かを発見する。

「これはいったいなに?」

金属で覆われたハンドサイズのカプセル状の物体。
一瞬、キョンを救える物かとスバルは期待したが・・・・・・

『スバル、それはN2地雷って言う一エリアの1/4を吹き飛ばすトンでもない爆弾みたいです』

付属の説明書を読んだリインが、謎の物体が爆弾であることを告げる。
期待通りに行かず、スバルは落胆せざる追えなかった。
爆弾じゃなかったら、それを地面に叩きつけてたぐらいにだ。

「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具があるハズなんだ!」

340さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:40:19 ID:YrRABrO.

こうしている間にもキョンは弱っていく、もはや叫ぶ気力も無いのか、弱々しく呻くくらいしかできなくなっている。
キョンはもはや限界だった。
だからこそ、スバルは諦めてはならない。
デイパックの中に都合良くキョンを助けられる支給品があるとは限らないが、それでも自分が探さなければ助けられる可能性もゼロになる。
何よりガルルと同じく、何もできないまま、目の前で人が死ぬのはもう見たくなかった。

「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない。
キチンと罪を償って元の世界に帰すまで、あたしはあなたを生かしてみせる!」

キョンを必ず助けたい強い意思から、スバルは祈りながらデイパックの中へ腕を突っ込む。

(お願い!
キョン君を助けられる道具が出てきて・・・・・・!)

祈りが通じたのか、デイパックの中から出したスバルの手には宝石のようなものが握られていた。
その宝石こそ、幸福と不幸をもたらす青い魔石−−ロストロギア。
それを見たスバルとリインは思わず声を揃えて驚く。

「これは・・・・・・」
『まさか・・・・・・』
「『ジュエルシード!!』」

−−−−−−−−−−−

341さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:41:50 ID:YrRABrO.

最悪だ。
まさかこんな形で俺が終わるなんて・・・・・・

利用するつもりだったギュオーが、有無を言わさずに襲いかかってくるなんて想定できるハズがない。
おまけにそのギュオーに殺されるなんてビックリ展開だぜ・・・・・・

結果、俺の身体はコントロールメタルをやられて制御不能になった強殖細胞に蝕まれ・・たぶん喰われてやがる。
もう、首から下の感覚がぐちゃぐちゃでよくわからん。
気が狂いそうな痛みと、死の恐怖って奴が、現在襲進行形で俺を襲いかかっている。
さっきまでは喚いて叫んで泣いてたが、もうその気力すらない。
こうやって考え込む程度の正気はギリギリで保っている。

・・・・・・俺の命はもう持たない。
あの女が必死で俺を助けようとしているが、無駄だろう。
すまない、ハルヒ、朝比奈さん、妹・・・・・・
俺の手で皆を日常に返したかったが、それももう叶いそうにない。
あとは、一人にしちまって迷惑をかけるが、古泉に任せるしかない。
でも、アイツがパソコンの掲示板を見ていたら、きっと怒ってるだろうな。
ひょっとしたらアイツが優勝しても俺だけ生き返してもらえんかもしれん・・・・・・俺への報いだとしても正直、嫌だな。


ハァ・・・・・・それにしても俺はどこで間違っちまったのかな?
俺が自分を抑えて、あの女たちから逃げなければ良かったのか?
ハルヒを殺した時点からか?
殺し合いに乗らなかった方が良かったのかもな?
そもそも、この殺し合いに連れてこられた時点で、俺の運命は最初から終わってたのかもしれない。

・・・・・・思い返して見ても、守るつもりだった奴を斬ったり、仲間や兄妹を売ったり、蛇の舎弟にされたり、土下座したり。
揚句の果てに、勝手に暴走して泣きわめきながら逃げて、ぶさまに死ぬ・・・・・・俺はこの殺し合いでろくなことは何一つしてないな。
汚いことを色々やって、それでも願いを叶えられないまま、俺は死ぬのか・・・・・・
ハルヒたちにあの世で笑われても文句が言えないな。


「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具が!」

眼中ではまだ、あの女−−スバルが頑張ってやがった。
なんか一エリアのほとんどを吹き飛ばすらしい爆弾を地面に置いて、めげずに『俺を助けるために』デイパックを漁っている。

342さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:42:52 ID:YrRABrO.
何をスバルは、必死になってるんだ?
俺なんてヤツは見殺しにしちまえば良いのに。
『あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!』
そういえば、そんなこと言ってたっけ?
しかし、味方はともかく敵だったヤツにまで手を差し延べるなんて、この殺し合いの場じゃバカか変人だぞ。



本当にスバルには変人って言葉は適切なのか?
ふと、疑問に思う。
そして、ここにきて俺がスバルが嫌いだった理由がようやくわかった気がする。

−−スバルが信念を曲げずに戦っているからじゃないのか。
敵にまで手を差し延べ助けようとし、誰であろうが死ねばその悲しみを受け止める。
力の差が歴然な相手にも、立ち向かおうとする。
一人でも多く助けたいという理想を貫こうとするその様は、あまりにもヒロイズムで気高い。
それは同時に、守りたかった少女を殺し、自分が助かりたいために仲間を売ったり、優勝のためには仕方ないとわかっていながら仲間の死を聞いて心が耐え切れずに醜態をさらしてしまったり。
所々で信念が揺らいでいたキョンにとって嫉妬の対象になり、彼女の近くにいると自分の惨めさを思い知ってしまう。
この殺し合いにおける進む道は真逆でも、信念を貫く彼女の姿勢は、キョンが自分に求めていた姿だったのかもしれない−−

俺は守りたいものを自分の手で壊しちまった。
必要悪だとわかっていても仲間が死んで芯が折れそうになった。
同盟を組んでいた古泉に対しての仕打ちは、明らかに俺の裏切りだ。

・・・・・・なのにコイツは俺とは逆で、ぶれずにやりたいことをできる。
いったいどうすりゃそこまで強くなれるんだ?
戦闘力じゃなくて、精神的な意味で。
俺もそうなりたかった・・・・・・できれば教えて欲しかった。


でも・・・・・・スバルの強くなった理由を知りたくても、もうそれはできそうにない。
いい加減、意識が遠退いてきやがった。
視界が徐々に真っ暗になってきやがる。
いよいよ俺は死ぬみたいだな・・・・・・

343さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:43:46 ID:YrRABrO.
俺にできることは、スバルと小さい女に看取られながら、仲間を裏切ったことへの後ろめたさを感じつつ、自分を殺したギュオーを憎んで、生きているだろう古泉に期待しながら死ぬだけだ。

・・・・・・虚しいな。
そんでもってSOS団の皆に裏切る以外の何もしてやれないまま終わるんだ。
だが、文句をたれた所でもう遅いんだ。
俺は自分の不甲斐なさを悔いながら死ぬとするか・・・・・・



「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない−−」



誰かの声が聞こえた。
その言葉に俺の意識は溺れきる前に引き戻される。
−−そうだ、俺は裏切ってしまった仲間への償いをまだしていない。

今思えば俺は自分の事しか考えてなかった。
自分の生存率をあげるために古泉を落としめた。
自分は立ち止まるべきじゃないのに、ハリボテのような覚悟で朝比奈さんと妹の死を聞いて、つぶれてしまいそうになった。
優勝して、皆を生き返して日常に帰ることにだって、俺は本気で挑んでいたのか?

もし、もう一度チャンスがあるのなら、俺は今度こそ本気で優勝を目指すために頑張ろう。
その時はスバルと同じく、自分の信念を曲げない。

優勝するためには、命をかけるぐらいの覚悟で頑張ろう。
弱い俺が誰にも負けないようにするには命を張るしかない。

そして、皆をを日常に帰す、それこそが不器用な俺なりの償い方だ。
これからは自分の都合ではなく、償いのために戦いたい!



−−死ぬ寸前にも関わらず、そんな決意を固めると、天は俺を見放さなかったのか、閉じかけた視界の奥で青い輝きが見えた。

その輝きを見て思い出すのは、SOS団での日々。
ハルヒによってSOS団に無理矢理入れられた事に始まって。
長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人だったり、古泉が超能力者だと名乗った事に最初は戸惑ったり。
朝倉に殺されかけ、長門が身体張って俺を守ってくれた事。
大人の朝比奈さんに出会いもした。
たまに遊びにきた妹。
島に行ったり、野球やったり、アホで電波な映画を作ったり、コンピ研とゲームをしたりもした。
俺はその思い出の全てが、口ではなんやかんや言いつつも、楽しかったに違いない。
俺はそれらを取り戻し、その日常の続きを皆で見るんだ。

344さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:45:16 ID:YrRABrO.

俺が意気込むと、例の青い輝きが一層強くなった気がする。
そこで『この輝きに触れれば、俺はもう一度立ち上がることができる』と、直感が告げていた。
これこそ、俺の願いを聞いてくれた神様が与えた最後のチャンスに思えた。
もちろん、今度こそ揺るぎない決意を胸に秘めた俺は、迷うことなくその輝きを掴む。

そして強く願った。

−−−−−−−−−−−

もう迷わないし逃げない。
あの輝いていた日常を取り戻すためなら全てを捧げても良い!
だから・・・・・・あと一回だけチャンスをくれ!

−−−−−−−−−−−

345さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:46:10 ID:YrRABrO.

そう願い終えると、手の中の輝きが大きくなり、やがて俺を包んだ。
身体中が隅々まで生まれ変わるような感覚を味わう。
もう一度、眼を覚ました時には、俺は以前とは別物になっているかもしれんないな。

そして、輝きの先にはハルヒがいた。
表情がよく見えないが、俺を見ていることだけはわかる。
彼女に俺は微笑みながら、自分の胸の内を告白する。

「ハルヒ・・・・・・口ではああだこうだ言ってたけど・・・・・・
俺はおまえの作ったSOS団に入れて良かっ−−」



瞬間、硝子を割ったかのように粉々に砕け散る俺の魂。

−−−−−−−−−−−

346さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:47:52 ID:YrRABrO.

スバルとリインがジュエルシードを引き当てたことに驚いている隙に、どこにそんな力が残っていたのか、強殖細胞でドロドロになっている腕を伸ばし、スバルの手元からジュエルシードを掠め取ってしまう。
強殖細胞の中にジュエルシードが取り込まれた時、キョンが光に包まれた。
目の前でジュエルシードを奪われ、突然に光だしたキョンに呆気に取られるスバルとリイン。
多少遠巻きにいるウォーズマンとギュオーもすぐに事態の変化に気づき、驚く。
その中でレイジングハートがスバルたちに警告する。

『膨大な魔力の発生を感知・・・・・・ジュエルシードが暴走している可能性があります!
早急にMrキョンから離れてください!!』
「でも・・・・・・キョン君が!」
『巻き込まれて死ぬつもりですか!?
上官命令です、早く離れて!!』
「・・・・・・くッ」

デバイスの警告と上官の命令を受けて、仕方なく二人分のデイパックを拾ってスバルはキョンから離れつつ、光り続ける彼を心配そうに見つめる。
なぜなら、スバルはジュエルシードが良き結果をもたらさないことを知っているからだ。


やがて、キョンを覆っていた光が消えていく。
すると、キョンがいた位置には『何か』が立っていた。
その『何か』の姿にその場にいた全員が驚くことになる。

『何か』はキョンであった。
キョンはついさっきまでの肉塊状態では無く、人型のフォルムに戻っていた。
しかし、その姿は異様かつ不可解。
目立った特徴をあげるなら、ガイバーと人間が合わさっている姿。
もっと詳しく追求すると、殖装者はガイバーという装甲を『纏って』いるのが普通であるが、今のキョンの場合は装甲と『一体化』しているのである。
首から下の外見特徴はガイバーに近けれど、型の合わないパズルを無理矢理押し込んではめ込んだように所々がイビツであり、アプトムのコピー並にガイバーとしての再現率が低い。

347さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:49:07 ID:YrRABrO.
首から上はもっと異様だ。
頭部の装甲は角や額部分を除いて剥がれ落ちたのか、素顔や頭髪が見える。
血の気を持ってかれたのか、茶色みを帯びていた頭髪は全て老人のように真っ白になっている。
ガイバーの特有の前から後ろに伸びる一本角は、頭から直接生えているようにも見えた。
額に残っていた装甲はヘッドビームの発射口と、コントロールメタルが嵌まっていた場所には、おそらくキョンのこの変身の原因となったジュエルシードが代わりに納まっていた。
最後にもっとも異様なのは、頬など一部が強殖細胞に侵された顔は、マネキンのように張り付いたような無表情であり、眼は光も闇も無い虚無を写している。

総じて纏う雰囲気は異様、身体はガイバーでも人でも無いクリーチャーのようだ。
当の本人は黙ったまま直立不動であり、その様子がさらに不気味さを掻き立てる。


起死回生したキョンに対して、状況が飲み込めないギュオーとウォーズマン。

「な、何が起きたんだ・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・俺にもさっぱりわからん」

逆に、キョンの身に起きた事象の原因を知っているスバルとリインには、キョンが死の淵から蘇ったことに素直に喜べないでいた。
キョンに関して悪い予感がしてならないのである。

「キョン・・・・・・君?」

呟くようにスバルは声をかける。

「・・・・・・」

声にキョンがぴくりと反応を示し、ゆっくりと視線を動かして周りを確認する。
顔色一つも変えずにロボットのように見回し、そして−−突然、問答無用で他の四人に向けて額からヘッドビームを放った。

『わあああ、いきなり撃ってきた〜!』
「キョン君!?」

スバルはサイドステップで、側にいたリインは宙を宙返りして回避する。

「キョン!」
「うぬ!」

ウォーズマンはしゃがみ込んでかわし、ギュオーはバリアを張って防ぐ。
防いだギュオーは、ビームがバリアに当たった時の手応えで違和感を感じた。

(ビームの出力が、私の知っているスペックより強いぞ!?)

ギュオーを違和感を感じている一方でスバルには、キョンがいきなり周りを攻撃してきたことについて思い当たる節があった。

(ジュエルシードの暴走!?)

348さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:51:34 ID:YrRABrO.

悪い予感が的中してしまった。
攻撃してくるのはジュエルシードの暴走かわからないが、現在のキョンは目に見えておかしいのである。

『今のビームには魔力が付加されて出力が上がっていました。
おそらく額にあるジュエルシードの影響と思われます』
『ひぇぇぇ、パワーアップまでしているんですか?』

デバイスの分析、それを聞いてリインは驚きを隠せない。
口には出さないが、スバルもリインが言ったことと同じ心境だ。

その三人を尻目にキョンは次の行動へ移る。
駆け出し、ウォーズマンとギュオーの元へ向かう。

「よくわからんが・・・・・・止めなくはならないみたいだな!」

最初に迎撃に出たのはウォーズマン。
向かってくるキョンに向けて、まずはパンチを放つ。
腕力も速さも技術も常人を上回る拳撃、ガイバーになって一日足らずのキョンには避けること不可能のハズだった。
しかし、キョンは拳が当たる寸前に素早く体で捻って回避する。
そして、お返しと言わんばかりに、ウォーズマンにプレッシャーカノンを喰らわせようとするが、すぐに後退して攻撃を避ける。
プレッシャーカノンが直撃した地面は爆音とともに大きなクレーターを作っていた。

「驚いたぞ。
攻撃の威力はもちろん、反応速度まで上がっているとはな」

超人の一撃をかわし、この前に戦ったギガンティックの時には及ばないものの、ガイバーに比べれば攻撃の威力が上がっている。
素直に危険だと感じ、油断はできないと悟った。

そして、次の標的をギュオーに変更するキョン。
ウォーズマンはギュオーに注意を促す。
ギュオーが殺し合いに乗っている疑いの要素は大きいが、今はまだ味方の内に入っている。

「ギュオー!
そっちで行ったぞ、気をつけるんだ!」

ギュオーは(そのまま死んでくれれば後が楽になったのに・・・・・・ユニットを取れなかった腹いせも兼ねてもう一度地獄に送ってやるわ!)などと思いながら構える。
重力指弾による迎撃を行おうとするが、そこへキョンは片手に持っていたカプセル状の物体を見せつける。
その物体に気づいたスバルとリインは戦慄する。
物体の正体はN2地雷、ウォーズマンのデイパックから取り出したものだが、焦っていたため、回収をし忘れていたのだ。
それをいつの間にかキョンに拾われてしまったらしい。

349さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:53:41 ID:YrRABrO.

「?」

アレは何だと疑問に思うギュオー。
その疑問を持ちながらも、構わずに攻撃しようとするギュオーにリインが必死に説明して止めようとする。

『それは爆弾です!!
それを爆発させたらここにいる皆が吹っ飛んじゃいますーッ!!』
「なんだと!?」

リインが説明を終えたのはギュオーが攻撃を放とうとする直前、キョンが持つ爆弾を爆発させてはならないと慌てて攻撃を中止する。
ところが、攻撃中止により硬直したそのタイミングを、今のキョンが見逃すハズはなかった。
すかさず、ギュオーに向けてプレッシャーカノンを発射した。

「ぬううううん!!」

ギュオーは防ぐが、その威力はバリアを最大出力にしないと防ぎきれるものではなくなっていた。
すでに攻撃の出力が上がっていたことは予想済みだったのでバリアの出力を上げたのが幸を成したが、それも束の間。
防御をしたことで更に隙を産み、そこへ胸部装甲を開く。
片肺のメガスマッシャーでも、バリアで防ぐことはできないことをギュオーは身を持って知っている。
そこへさらに、魔力とやらにより出力が上がってるだろうメガスマッシャーの直撃を受ければいくらゾアロードである自分でも危険は必至。
おまけに、爆弾を盾にされているせいでこちらからは満足に攻撃できない。
よってギュオーは回避を選択した。

しかし遅すぎた、否、キョンのチャージの方が早かった。
胸の二つの球体から膨大な粒子の魔力が合わさった極大の閃光が放たれる。

「間に合わん・・ぬわああああああああ!!」

回避に失敗したギュオーは断末魔を上げて閃光の中へと消えていった。

「ギュオーーーッ!」
「ギュオーさん!」

スバルとウォーズマンが無事を願って名を呼んだ時には、ギュオーがいた場所は焼き払われた雑木林だけが残っていた。
ギュオーが閃光に包まれる瞬間を見ていた二人にとって、その場に何も残されてないということはすなわちギュオーの死を意味していた。

「そんな・・・・・・」
「やられてしまったのか、ギュオー!?」

あっけなく死したギュオーに悲壮感を覚えるが、キョンは二人の都合など考えずに、再びN2地雷を盾にする戦法をとって襲いかかってくる。

『あれじゃあ迂闊に攻撃できないです!』

350さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:54:50 ID:YrRABrO.

自分の腕の中で爆破させることはまずないだろうが、下手に攻撃が加えられず、逆に向こうから撃ち放題である。
スバルが彼を助けようとした際にN2地雷の威力を聞いていたのだろう。
でなければ、爆弾を盾にする奇策など使ってこない。
スバルたちが人殺しを嫌うスタンスであり、N2地雷の威力を知っていればこそ通用し、絶大な効果を持つ作戦である。
ウォーズマンが舌を巻くほどだ。

「あれが奴の手元にある限り、ろくに戦えん!」

しかし、スバルもまた策を思いつき、ウォーズマンに耳打ちする。

「(あたしがバインドを仕掛けます。
今の魔力じゃ一瞬で消えてしまいますが、一瞬だけ隙ができるハズです。
そこを突いてください)」

バインドは今のスバルでは消耗によって制御が利かず、拘束魔法として機能しずらい。
それでも一瞬でも隙を作ることができ、反応速度が上がって捉えづらい今のキョンから爆弾を奪うには打ってつけの作戦だ。
ウォーズマンは策の意図を理解し了承する。

「任せろ!」

爆弾を盾にヘッドビームやプレッシャーカノンを放ちながら近づいてくるキョン。
ウォーズマンは射撃を避けながらキョンへ接近、彼の後方のスバルはバインドを唱えるタイミングを伺う。
そして、キョンとウォーズマンの距離が無くなった時に、スバルは唱える。

「今だ! バインド!」

魔法の拘束具がキョンにかかる。
バインドはすぐに消えてしまったが、僅かでも動きに制限がかかり、そこを目論み通りにウォーズマンが狙う。

「それはおもちゃじゃない! 返してもらうぞ!」

パッと腕からN2地雷を奪い返し、スバルの下まで後退し、自分のデイパックにしまい込む。

「やりましたねウォーズマンさん」
『作戦成功ですぅ』
「ああ、後は技を決めてキョンには眠ってもら・・・・・・ん?」

爆弾を奪ってしまえば、あとは全力でキョンを叩いて気絶させるなりして暴走の原因を断ってしまえば良いのみ。
最大の威力を持つメガスマッシャーも、撃ったばかりでチャージが終わってないようだ。
叩くなら今がチャンス!・・・・・・そう思っていた三人だが、行動に移す前にキョンの変化に気づく。

キョンが口を大きく開いている。
・・・・・・暗いためか、喉奥に光る金属球があることにまで三人は気が回らなかった。
そして、放たれる音波攻撃。

351さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:56:11 ID:YrRABrO.

『いけない! 早急に退避してください』

レイジングハートが警告するが、三人がその警告の意味を理解する前に怪物・キョンは口から直接、ソニックバスターを放ったのだ!!

「うわああああああ!!」
「がはっ!?」
『うぐっ・・』

身体を襲う強烈な痛みにスバルが悲鳴を上げ、ウォーズマンが片膝を付き、リインが羽虫のように地面に落ちる。
前はダメージを受けても根気があれば動く事ができたが、パワーアップしたソニックバスターは動いただけで全身がバラバラになるような想像を絶するダメージが与えられる。
射程から離れるほどの力が出ないため、逃れようにも逃れられない。
そんな動こうにも動けない三人に、ソニックバスターを放ちながらキョンは接近する。
トドメを刺すつもりらしい。
最初に目をつけたのはかろうじて立っているスバル、立つことで精一杯の彼女にじりじりと詰め寄っていく。

『ス・・・・・・バル!』
「逃げるんだ・・・・・・スバル!」
「ダ・・・・・・ダメです、身体が動けない!」

1mもしない距離までキョンが腕を振り上げる。
構えからして高周波ブレードで斬り掛かろうとするつもりだ。

「あ・・・ああ・・・・・・」
『protec・・・・・・振動波で魔力の供給が阻害されてます!』

レイジングハートもスバルを守ろうと自動で障壁を張ろうとするが、デバイスに送られる魔力が足りず、発動できない。
スバルは逃げられない恐怖の中で死を覚悟した。
そして、キョンの高周波ブレードでスバルが袈裟斬りされる。
バリアジャケットの硬度も虚しく、袈裟型に斬られた傷から血液が飛散する。

「う・・・・・・」
『スバル、いやあああぁあああぁあああ!!』
「キサマーーーッ!!」

仰向けに倒れるスバルに絶叫するリイン。
斬るつけたキョンに激しい怒りを覚えたウォーズマン。

352さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 21:58:46 ID:YrRABrO.

「うおおおおお!!」

怒りを爆発させたウォーズマンは、自身を襲う痛みを押し切り、体内の回路がいかれかけるようなな無茶を押して立ち上がり、渾身の力でキョンの顔面に殴りつける。
パンチが顔面にめり込ませ、直撃したキョンは大きく吹っ飛ばされ背中で地面を滑った。
同時に、ソニックバスターによる音波攻撃は止み、身体の自由が利くようになった。

「ハァハァ・・・・・・」
「うぅ・・・・・・!」
『生きてた、良かった〜!』
「無事だったのかスバル!」
「な、なんとか・・・・・・傷は浅いです」

致命傷を受けていたと思っていたスバルが起き上がり、ウォーズマンもリインも安心した。
スバル自身も斬られ、身体に大きな斜め線が引かれるような広範囲の傷を受けたが、傷は浅く、出血はあっても量はたいしたことなかった。
その理由は、キョンの高周波ブレードが短くなっていたことにある。
倒れたキョンの高周波ブレードを見てみると、ギュオーに折られてナイフ並に短くなっていた。
口部金属球は形を変えて再生したが、こちらは再生が間に合わなかったようである。
さらに本人もそれを感知してなかった結果、リーチが足りず、スバルに致命傷を負わせることはなかった。
もし、高周波ブレードが元の長さだったら彼女は真っ二つに両断されていただろう。
今回は運に助けられた。

戦いはまだ終わらない。
倒れたキョンはむくりと上半身を起こし、口内で折れた歯を吐き出して、何事もなかったように立ち上がる。
顔は腫れ上がっているが、超人の拳をその身に受けても痛みは全く感じてないようだった。
そして遠巻きからヘッドビームを放ってくる。
三人はそれを避けながら、会話をかわす。

「ロボ超人である自分が言うのもなんだが、アイツはロボットにでもなってしまったのか!?」

以前のキョンならダメージを受ければ素直に痛がったりし、攻撃が効いたとわかると調子に乗る面があったが、今はそれが無い。
しかし、ただ感情が無いわけでも、本能だけで戦っているわけでもなく、時に知恵を働かせて攻撃してくる。

353さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:00:04 ID:YrRABrO.
全体的にギガンティックにパワーこそ劣るが、動きは過剰防衛行動モード並、さらに絡め手を使ってくる分だけ厄介に感じられた。
見た目も戦闘力もまさしく怪物である。
スバルはキョンの怪物化はジュエルシードが原因と思い、早く止めなくてはと思っている。

(このままでは、他の人にもキョン君自身にも危害が及ぶ。
ギュオーさんのような犠牲が出る前に止めなくちゃ、それに・・・・・・)
「彼を怪物にしてしまったのはあたしの過失です。
あたしが絶対に止めないと・・・・・・!」

自分が迂闊だったばかりに、キョンにジュエルシードを取られ、彼は怪物になった。
さらにN2地雷を回収を忘れてしまい、その結果、ギュオーが命を落とした。
スバルは心を痛ませる程の強い責任を感じていた。
だから、キョンを全力を尽くして止める腹づもりた、った。
・・・・・・しかし、レイジングハートがそれを許さなかった。

『いいえ、この場は即座に撤退してください』
「なんですって?」

スバルとウォーズマンは耳を疑った。
自分たちはまだ戦えると意気込んでいたからだ。
だが、デバイスは誰よりも冷静に状況を読んでいた。

『今のMrキョンを相手にするには、体力・打撃力が不足しています』
「ここでキョンを止めないと被害が増えるぞ!」

正義超人として、キョンを見逃したくないウォーズマンは反論する。

『しかし、スバルは消耗が激しく、Msリインフォースではパワー不足。
あなたに至っては動くが鈍くなってます、おそらく内部のパーツをいくつかやられたのでしょう』
「ぐっ・・・・・・気づいていたのか」
「ウォーズマンさん、怪我をしていたんですか!?」
「おそらく、さっきの音波攻撃の時に無茶をしたのが祟ったんだろう」

このデバイスは細かい所にも目を配ってたようだ。
ウォーズマンの表面では見えない負傷も見抜いていたらしい。

『よって、Mrキョンを止めるには戦力が不安要素が多過ぎです。
再度、撤退を提案します』
(キョン君は止めたい・・・・・・
でも無茶をして空曹長やウォーズマンさんまで犠牲にしたくない・・)
(被害を食い止めたい。
しかし自分だけならまだしも、スバルたちにまで危険で犯させるわけにもいかない)

354さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:01:03 ID:YrRABrO.
自分たちでは力が及ばない悔しさを感じながらも、仲間は犠牲にできないと二人は思い苦渋の決断をする。

「わかった。
この場は引こう」
「あたしも・・・・・・引くしか無いんですね」

三人はキョンの下から逃走することを決定した。
しかし、キョンの方がやすやすと見逃してくれるとは思えない。
そこでリインは申し出た。

『リインが殿りになって、二人の背中を逃げきるまで守ってあげます』
「リインフォース、一人で大丈夫なのか?」
『マスターにもう一度会うまでに壊される気はありません。
リインは二人が逃げきったらすぐに追いかけます。
時間を稼ぎますから早く行ってください』

リインは二人に微笑みかけながら指示を出す。

「わかりました。
絶対にやられないでくださいね、空曹長」
『もちろんですよ』
「よし、では任せたぞリインフォース!」

その会話を最後に、スバルとウォーズマンはキョンから逃走を始めた。
背中を見せる二人に、キョンは容赦なくビームやカノンを撃ち込もうとするが、リインの魔法攻撃がそれを阻む。

『あなたの相手は私ですよキョン!』

−−−−−−−−−−−

355さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:02:03 ID:YrRABrO.

魔法で出した剣や得意の氷結系魔法で戦うリイン。
倒すには些か攻撃力が足りないが、牽制と時間稼ぎが目的なので問題無い。
再度、逃げたスバルたちを追おうとすると、必ずリインに邪魔をされ、キョンは追跡できない。

仕方なくキョンは標的をリインに変えて、ヘッドビームとプレッシャーカノンで応戦する。
自律型デバイスと怪物の撃ち合いが始まった。
リインは小回りが利く小さな身体を活かして、宙を自由に飛び回りながら数多のビームや衝撃破を避けていく。
またソニックバスターを喰らうと厄介なので、一定の距離には近づかないなど警戒も怠らない。
スバルたちが撤退してからある程度の時間が立ち、目的も果たされそうである。

しかし、撃ち合いの中、リインは疑念を抱き始めていた。

(攻撃の頻度がだんだん落ちてる気がする?)

ついさっきまでは、乱射というレベルで射撃をしていたキョンだが、だんだん一辺に撃つ回数が少なくなっていた。

よく考えれば先程からおかしな行動も目立つ。
音波攻撃の時だって、こちらは全員が動けないのだから高周波ブレードを使わずともビームなどで撃ち殺せば簡単にケリがついたハズだ。
なのに、それをしなかったのはどうしてか?

(消耗をしているんですか?
いや、油断を誘う作戦かもしれません。
どちらにしろ気は抜けないです)

リインはキョンについて深く考えるのを止めた。
それにそろそろ稼いだ時間からして引き際にはちょうど良い頃合いだろう。

「キョン!
次に会った時、リインたちは今度こそ負けませんよ!
覚えといてください!」

捨て台詞を吐くと、リインはスバルたちと合流するべく、ピューッとその場から飛び去った。



−−−−−−−−−−−

356さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:03:07 ID:YrRABrO.

キョンは願い通りに、修羅の道を歩むことに迷わず、責任から逃げず、目的を忘れない、怪物になって強くなった。
そして強殖細胞に喰われかけた自分の命を繋がれ、もう一度殺し合いの場に立つチャンスを与えられたのだ。
ジュエルシードはキョンの望みを、酷く歪んだ形で叶えてくれたのだ。
その代償として、感情の全てを失った。
つまり彼は、大切なSOS団での日常を取り戻すために、感情を失い、SOS団での日常の何が大切なのかがわからなくなってしまったのだ。

今のキョンは、自我の一切が消えているため・・・・・・
良心の呵責も無く、平気で人を殺せる。
慢心が無いため、調子に乗ってドツボにはまることは無い。
恐怖が無いため、恐れずに敵に立ち向かえる。
怒りが無いため、我を忘れない。
悲しみが無いため、朝比奈みくるや自分の妹が死んだことに何の感慨も抱かない。
彼の心はもはや冷徹な殺戮マシーンである。
イメージとしてはスバル・ナカジマが未来に戦う相手、洗脳され心無い破壊兵器と化した姉ギンガ・ナカジマに近い。
いちおう、優勝を目指す目的と記憶・思考だけは残されたが、前者はそれ自体が願いに関わるから、後者の二つは無くすとキョンが優勝を目指す=目的を果たせなくなるため、残されたのだろう。
目的と計算だけで生きる者を魂があるとはとうてい言えないことであるが。
だが、代償はそれだけでは止まらず、キョンの生命力までも死なない程度に奪う。
頭髪が全て白髪化したのも、生命力をジュエルシードに吸われた証である。

だが、精神的・肉体的に多大な代償(これ以外に払う代償がなかったとも言える)を払って得た力は確かなものだった。
ジュエルシードを通して、深町晶よりもさらに深く強殖細胞と融合。
ガイバーには無い魔力の付加により、武器の攻撃力は軒並み上昇。
超人のパンチもある程度は避けられる反応速度を手に入れた。
そこへ、戦いに邪魔な感情が無いことにより、より無駄の無い戦いをできるようになった。

だが、代償を払ったにも関わらず、この強さには副作用がある。
力を使う度に体調が悪化し、寿命を擦り減らしていくように感じるのだ。
「・・・・・・ぐふッ」

357さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:04:14 ID:YrRABrO.
戦闘が終わり、リインも去ったしばらく後、彼は人知れず吐血をした。
吐血の原因はウォーズマンに殴られてではなく、自分の内側からくる崩壊によるものである。
元々、無茶な融合をしたため、身体のバランスを欠いてしまっているのだろう。
戦う度にそのバランスが崩れていき、元に戻せないほどバランスが崩れれば死ぬ。
同じく戦闘に特化した調整を行ったために、生命体としてのバランスを欠いて寿命が一週間足らずになってしまったネオ・ゼクトールという前例もある。
キョンの場合はあまりにも無茶苦茶な融合だったため、ゼクトールよりも生命体としてのバランスが悪く、寿命は短くなっている上に、戦うだけで死に近づく。
ヘッドビーム、プレッシャーカノン、ソニックバスター、メガスマッシャーと立てつづけに使ったので、体調は一気に悪化し、局面においてそれらの武器を使わなかったり、使用の頻度が下がったのはそのためである。
先程の戦いはキョンの圧倒的な優勢に見えて、実はキョンも戦えば戦うほど消耗していた(ただし、顔には出さない)、故にスバルたちを追うこともしなかった。
あと一人、ナーガレベルの強さの参加者がいたら負けていたのは自分だろう。
と、キョン自身も自覚していた。

今から会場の参加者を皆殺しに回ろうとしても、多く長く戦闘もできない調子の身体では2・3回も戦えば倒れるだろう。
基本的には遠巻きから狙撃するなり、嘘を流して殺し合いを加速させることに専念し、あくまで直接正面から戦うのは最終手段にするべきだと頭に刻む。

結局の所、高い代償を払って得た力は、一歩間違えれば自滅しかねないイビツて不安定な強さだったのである。

358さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:05:34 ID:YrRABrO.

さて、ギュオーやスバルたちを襲った理由だが、これは無差別ではなくわけがある。

まず、ギュオーは自分のガイバーユニットを狙っていたので殺しておくべきだと判断した。
仲間にしてもいつかは寝首をかかれるからだ。

続いて、スバルとウォーズマンたち。
この二人はギュオーと違って自分を殺すことは無いだろうが、代わりに自分が殺し合いをしようとする度に邪魔になるのは明白だった。
邪魔をされては目的が果たし難くなる。
警戒心があり隙もないので利用しようにも利用できない。
だから排除しようとした。
戦闘中に自分で消耗してしまい、取り逃がしてしまった。
自分の危険性を言い触らされるだろうが、どっちにしろ醜い今の姿では見られただけで警戒されるとも思える。
だったら姿を極力曝さないように心掛けた方が良い。
また、向こうは強力な爆弾を持っているので、自決ついでに爆発に巻き込まれたら、いくらパワーアップしたとはいえ持たないだろう。
よって追跡は諦めた。


過程はともかく、ようやく一人になることができた。
自由になったキョンは次の行動方針を考える。

まず、火事になっている北の市街地、ハルヒの死体が燃えてしまうのではないかと、前には思っていたが、それは流した。
ハルヒを殺し合いに参加させた以上、ハルヒの身に何があっても良いように考慮されているハズなのだ。
例え、死のうと、死体が焼かれようと、もっと酷いことになっていようと、万能な力を持つ統合思念体ならば生き返す問題無いハズだ。
だから北の市街地へ向かうのは止めておいた。

そして、18時に古泉と採掘場で待ち合わせをする約束を思いだす。
もっとも肝心の18時はとっくに過ぎてしまったが、古泉がいないとしてもあそこは隠れる場所にはちょうど良い。
高周波ブレードも折れたままであるし、休憩をして体力を回復させて武器の再生を待つこともできる。
古泉がいれば、殺し合いを加速をさせるために再度、連携を取ろうと思う。
掲示板を見て怒っており、言うことを聞かないようなら力で捩伏せて言うことを聞かせよう。
全ては目的のためだ。
−−善悪の概念や罪悪感を失っているため、古泉をおとしめた事に今は何も感じず、仲間を強引に言うことを聞かせようとする非道な行いなど、今の彼は平気で考えられるのだった。
とりあえずのキョンの行動方針は決まり、一路採掘場へ向かうことにした。

359さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:06:35 ID:YrRABrO.


−−もう、ここから先はキョンと言われた少年の物語ではない。
ここにいる怪物は、ハルヒたちを蘇生し、日常へ帰る目的のためだけに動く、キョンという名の抜け殻である。

360さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:09:37 ID:YrRABrO.
【G-5 森/一日目・夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】ジェエルシードを通したガイバーユニットとの融合、高周波ブレード破損(再生中)、生命力減退、白髪化、自我喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0、ハルヒたちを蘇生し日常に帰る及び優勝のために手段を選ばない。この目的のためだけに行動する。
1、採掘場へ行き、隠れて休憩。できれば古泉に会い、再度連携を取る。
2、戦う度に寿命が減るので、直接戦闘は最終手段。基本的には殺し合いの促進を優先する。

【備考】
※ジュエルシードの力で生を繋ぎ、パワーアップしてますが、力を行使すればするほど生命力が減るようです。
※自我を失いました。
思考と記憶はあっても感情は一切ありません。
※第三回放送の死者について、古泉・朝倉が生きていること、朝比奈みくるとキョンの妹が死んだこと以外は頭に入ってませんでした。



−−−−−−−−−−−

361さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:12:28 ID:YrRABrO.

その頃、キョンから逃走を果たしたスバルたちはG‐4にいた。
詳しい場所は川の近くである。
そこを、スバルとウォーズマンは走っていた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「コー・・・ホー・・・・・・」

スバルは度重なるダメージと疲労で息を切らし、ウォーズマンは内部にダメージを受けたためどこか動きが鈍い。
消耗が激しいのは一目瞭然だ。

そんな折にスバルが考えていたことは、ジュエルシードで心無き怪物と化したキョンと、それにより犠牲になったギュオーのこと。
ギュオーには大きな疑いがあったものの、自分が焦ってN2地雷の回収を忘れてなければ、死ぬことはなかったハズだ。
キョンを見張りつつも守るつもりが、一度逃してしまい、自分の隙でジュエルシードを奪われ怪物と化させてしまった。
どちらもスバルの過失であり、非常に強い責任を感じていた。

(私がしっかりしていれば、キョン君もギュオーさんも・・・・・・!)

悔しさから次第に俯いていくスバル。
しかし、同時に決意も固めていく。

(次は絶対、ギュオーさんのような犠牲者を出さないためにも同じ過ちは繰り返さない!
キョン君も絶対に救ってみせる!)

彼女はクヨクヨ悩むよりも、ミスを糧にしてミスを繰り返さないようにする道を選んだようだ。

(だから・・・・・・暴走したキョン君による犠牲者が出ませんように・・・・・・!)

本当は、同行者として、怪物になってしまったキョンを自分で止めたかった。
しかし、今の消耗した自分では、挑んだとしても死体が一つ増えるだけだとも理解していた。
ならば、生き延びて万全な状態でキョンを止めにいった方が良い。
今逃げているのははあくまで力を蓄えるための戦略的撤退、
それまで、キョンの手が新しく誰かの血で染まらないことを祈るしかない。
考えをまとめたスバルは下を向いていた顔を、再び正面にむけた。

その横で、スバルの顔ををウォーズマンは見ていた。

(一瞬だけ俯いたが、すぐに揺るぎない意思を持つ顔に戻った。
思う以上に彼女は強いようだ。
クヨクヨしているようなら、背中を押してあげようと思ったが、そんな必要はなかったな)

そんなことをウォーズマンが思っていると、後方から、殿りの勤めを果たしたリインが後ろから飛んできて合流した。

362さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:13:45 ID:YrRABrO.
『お〜い、大丈夫みたいですねスバル〜、ウォーズマンさ〜ん!』
「空曹長!」

そんな彼女たちの後方から、殿りの勤めを果たしたリインが後ろから飛んで合流した。
二人をリインを温かく向かえる。

「無事でいてホッとしたぞリイン!」
『ハイ、リインはちゃんと時間稼ぎをしてきましたよ、えっへん。
とりあえずはこのペースならキョンに追いつかれないと思いますよ』

自分の成果を自慢しつつ、報告をするリイン。
スバルはリインに微笑み、お礼を言う。

「あたしたちも空曹長のおかげで助かりました。
あなた自身も無事で何よりです」

一先ず、キョンを除いた全員が集まれたことにより、少しは安堵する三人。



−−それも、デバイスの突然の報告により破られる。

『後方よりエネルギー反応!』
「え・・・・・・?」

安心しかけた心が、一気に緊張していく。
後を振り返ると、遥か後方に暗くてよくわからないが、誰かがいた。

それを見た瞬間、スバルは直感で嫌な予感がして、反射的にウォーズマンとリインの前に飛び出してきた。
瞬時にデバイスへ指示を出す。

「いけない! 障壁を!」
『protection』

魔力による障壁が現れ、同時に見えない攻撃が障壁にぶつかる。
しかし、攻撃は障壁の硬度を僅かに上回っていた。
障壁が破られ、殺しきれなかった余波がスバルに襲いかかる。

「うわああああああ!?」

余波を受けたスバルが仰向けに倒れ、デバイスへの魔力の供給が完全に途絶えたのか、レイジングハートは杖から赤い宝石に戻り、バリアジャケットが消えて、元の制服姿に戻る。
ようやく、スバルが何者かの攻撃から自分たちを守るために盾になったことにウォーズマンは気づき、倒れた彼女の名前を叫ぶ。

「スバルーーーッ!!」
「ふむっ、あの一撃を受けてバラバラにならないとは・・・・・・」
「その声は・・・・・・!」
『なんでここにいるんですか!?』

突如、自分たちを襲った襲撃者が、聞き覚えのある声を発したことにウォーズマンもリインも驚く。
その声の主こそ、死んだと思われた男・ギュオーである。

−−−−−−−−−−−

363さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:15:05 ID:YrRABrO.

回避が間に合わずにメガスマッシャーの閃光に包まれた瞬間、ギュオーはある方法により死を免れていた。
最大出力のバリアでも、例え制限下で無くともメガスマッシャーは防ぐ事はできない。
増してや両肺で、魔力により強化されたメガスマッシャーの前ではいくらゾアロードでも一たまりも無い、と思われる。

そこでギュオーのとった判断は、防御では無く攻撃である。
攻撃対象は迫る閃光・・・・・・ではなく、己自身!
重力使いであるギュオーは、自分に重力攻撃を当てて反動で吹っ飛ばし、メガスマッシャーの直撃を避けてしまおうというのを閃いたのだ。
その時のギュオー自身には、それ以上迷ったり考えたりする時間も無く、すぐに実行に移した。
即座に出力のある限り、パワーを集中し、自分に向けて放つ。

「・・・・・・ぬわああああああああ!!」

自分に殺傷能力のある技などかけた事が(おそらく)無いギュオーは、己の技に悲鳴をあげる。
だが、生き延びるためには必要なダメージだ。
あとは自分のタフネスさを信じるしかない。

そして、目論み通りにメガスマッシャーの直撃を受ける前に反動でギュオーは飛ばされることができた。
他の者の目には、閃光が眩し過ぎてギュオーが飲み込まれたように見えた。
レイジングハートですら、エネルギーの奔流が激し過ぎてギュオーが死んだと誤認してしまった。実際は、少しばかり大きく吹っ飛び、人知れず戦いの輪から外れていただけである。

気がつけば、戦いからはやや遠い場所にいた。
高出力で放ったため、けっこう遠くまで飛んだようだ。
同時に全身の打撲が、もう一度上塗りされたように痛み、私は今までこんな痛みを敵にぶつけてたんだな〜と理解する。

「しかし、キョンの奴め。
私にナメた真似をしやがって・・・・・・必ず八つ裂きにしてくれる」

キョンへプライドを傷つけられた恨みをギュオーは呟く。
キョンは確かにパワーアップしたが、あれぐらいなら全力を出せば倒す事はできそうだ。
実際に、ダメージを受けたのは脱出のために自分を攻撃した時だけであり、キョンの攻撃そのものは防ぐか避けている。
しかし、周りを消せるほどの強力な爆弾を持っていたらしく、こちら実力を出し切れないまま、撃たれてしまった。

364さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:15:57 ID:YrRABrO.
まだ負けを認めたわけではないが、あのような者に一杯くわされたことに非常に腹を立てている。
将来の帝王になる男をてこづらせたキョンへの殺意は十分だった。

とりあえずは、そのキョンを八つ裂きにするために戦闘に戻ろうかと考えていたが、ビームなどが飛び交う戦闘の音が途絶えた。
やがて、遠くにキョンと戦っていたハズの二人が見えてくる。
元からそれなりにボロボロだったが、さらにボロボロになっているところからして、キョンに負けて敗走中ということか。
ギュオーを含めた殺し合いに乗った者から見れば、絶好の獲物であろう。

そこでギュオーは考える。
一体の怪物・キョン、ろくに戦えそうも無い手負いの二人、どちらを狙うべきか。
キョンは自分が全力を出せば殺せる。
例の爆弾を持っているが、今度は可能な限り遠距離から攻撃する、または奪ってしまえば良い。
ただし今はそれなりにダメージを受けているため、安心して戦うためには少し時間をかけて回復する必要がある。
一方で、ウォーズマンたちは手練れのようであり、行動に支障が出るほどのダメージを受ければ話は別だ。
しかも、自分が優勝を目指している事を強く疑っている。
このまま、生かしておくと疑いが広まって会場が歩きづらくなる。
先はまだまだ健全だったために、どんなに疑われても引き止めようとしたが、手負いの今はもう必要無い。
今から合流しても、足手まといと懸念材料が増えるだけで意味が無い。
だったらまとめて殺して首輪と支給品を奪った方が利益は大きいかもしれない。
逆に別の殺し合いに乗ってる者に首輪や支給品を奪われるのは癪だ。

365さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:17:43 ID:YrRABrO.
戦うとして、ギュオーもダメージがあるが、こちらが近・中・遠距離の技を一通り持っているのに対し、向こうはどちらも近接攻撃型だ。
負けない自信はギュオーにはある。

・・・・・・ここまでくれば、ギュオーにとってキョンと目の前の二人のどちらを狙うか、おわかりだろうか?
ギュオーは一定距離まで近づき、後から二人にリインが合流して安心している所を襲撃のチャンスと見て、三人をまとめて吹き飛ばせそうな威力の重力波を放ったのだった。

−−−−−−−−−−−

366さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:18:42 ID:YrRABrO.

リインが小さな体で、倒れたスバルの肩を必死に揺さぶるが、スバルは起きる気配を見せない。

『起きてスバル! 起きて!』
『落ち着いてください、過労で気を失ってるだけです。
命に関わるようなダメージはありません!』

レイジングハートは焦燥している仲間たちに、スバルの身の安全を教える。
あの一撃で生きていたスバルには安心するが、今の状況そのものは予断を許せる事態じゃない。
ウォーズマンは襲撃をしてきたたギュオーに怒鳴る。

「何のつもりだ、ギュオーッ!!」
「見てわからないのかね。
諸君を抹殺しにきたのだよ。
生かしておくと後々面倒になりそうだからな」

物騒な事を余裕の表情を浮かべるギュオーに、ウォーズマンは苛立ちを覚える。

「キサマ、本当に殺し合いに乗っていたのか」
「そういうことだ。
安心したまえ、その怪我では二人ともあまり長生きできないだろう。
だから君らの死は私の糧とさせてもらうぞ」

これかる狩る対象の怒りを嘲笑うギュオーは、重力指弾を容赦無く放つ。
最初の狙いは気絶して自力で動けないスバル。

「クソッ」

ウォーズマンは即座に気絶したスバルを抱え、側面へ大きく動いて指弾を回避する。

『動けない相手を狙うなんて、この卑怯者ぉーー!!』
「なんとでも言うが言い。
勝てれば言いのだよ」
「三流悪行超人みたいなことをほざくな!」

ギュオーの卑怯な行いにウォーズマンたちは怒るが、ギュオーは気に止める様子も無くバンバン攻撃を加え続ける。
ウォーズマンはひたすら回避するが、少女を抱えたままでは動きが制限され、反撃することができない。

『えーい!』

代わりにリインが魔法によって生み出した剣で応戦しようとする。
が、ギュオーの張ったバリアに防がれてしまう。

『そんな・・・・・・』
「無力だな。
そんな攻撃が私に通じると思っていたのか。
こちらのエネルギーはまだまだ余裕があるぞ!」

唯一攻撃ができるリインでもバリアを貫くことは叶わない。
焦りと絶望感がウォーズマンを襲う。

(ギュオーは強い。
それ以前にスバルを抱えたままでは反撃もできない。
彼女が起きる気配もないから、自分で身を守らせるのも期待できない。
いつまでも抱えたまま避け続けられはしない、このままでは二人とも死ぬ。
だからといって仲間を見捨てる事など論外だ!
何か良い方法は無いのか・・・・・・?)

367さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:19:59 ID:YrRABrO.

現状の打破を模索する彼の目に、水が流れる川が止まる。
その時、彼の脳裏にスパークが走る。

「イチがバチかになるが・・・・・・リイン、レイジングハートと一緒にスバルの制服のポケットに入れ」
『え?』
「早く!」
『は、はい!』

唐突に指示を出したウォーズマンの意図が見えず、戸惑いつつも言われるがまま、スバルの制服のポケットの中にレイジングハートを先に入れ、自身も顔を残してすっぽりと収まる。

『こうですか?』
「そうだ・・・・・・
リイン、後はおまえだけが頼みの綱だ」


「スバルを守ってくれ」

その言葉を送ると、ウォーズマンは全力でスバルを遠くへぶん投げた!

『ウォ、ウォーズマンさぁぁぁぁぁん』
『Mrウォーズマン!?』

予告も無しにいきなり投げ飛ばされ、ジェットコースター状態のポケットの中で悲鳴と疑問をあげるリインとレイジングハート。
投げ飛ばされたスバルは宙に孤を描き、自由落下で川へと水しぶきをあげて着水した。
しばらくして、デイパックが浮き具代わりとなり、どうにか顔だけでも水面から持ち上がり、運よく気動だけは確保できた。
リインもまた、レイジングハートを抱えて水面から上がり、スバルを足場に上がる。

『ゴホッゴホッ・・いきなり酷いですよウォーズマンさん!』

プンスカという擬音が似合いそうなくらい、ウォーズマンに文句を言うリイン。
だが彼女の視界にあるウォーズマンとギュオーはどんどん小さくなっていく。
いや、彼女の足場になっているスバルが流されているのだ。

『流されてる・・・・・・ウォーズマンさん、これって!』

思わず、浮遊してウォーズマンの所へ向かおうとするリインを、レイジングハートは呼び止める。

『いけません!
あなたが動けばスバルが無防備になってしまいます!』
『えぇ、それじゃあ・・・・・・』

彼が別れ際に言った、スバルを守れという言葉、その意味をリインフォースが理解したのはその時だった。



「荷物を川に捨てたか」
「荷物呼ばわりするな! 立派な仲間だ!」

ウォーズマンはスバルを守る手段として、川へ彼女を投げ込んだのだ。
後は水の流れに任せて彼女はこの戦いの場からでていく。

368さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:20:49 ID:YrRABrO.
自身も、彼女を守る必要が無くなり行動の自由を取り戻せる。
スバルの安否についてはリインに頼る他ないが、この場で戦えないままギュオーに殺されるよりは遥かにマシだと判断した。
あとは彼女の身の安全を信じるつつ、ギュオーと戦うだけである。
しかし、ギュオーも彼女を見逃す気はなかった。

「それであの小娘を守ったつもりか、ウォーズマン?」

ギュオーは流れていくスバルが視界にいる内に、追撃をかけようとする。
それをウォーズマンは許さない。

「させるかぁーーー!」

ウォーズマンは駆け出し、そして地面を蹴って飛び、身体を捻りながら拳を突き出し、技の名前を言い放つ。

「喰らえ、マッハ・パルパライザーッ!!」

回転する弾丸のように突進するウォーズマン。
ギュオーはそんな攻撃にも余裕の態度でバリアを張るが・・・・・・

「怪我人の攻撃など、このバリアの前では−−」


拳の弾丸が、最大出力ではなかったとは言え、やすやすとバリアを突き破り、ギュオーの腹に直撃する。


「−−ぐはああああ!?」

表情を余裕のから苦悶に変え、勢いあまって後方に吹っ飛ぶギュオー。

「怪我人の攻撃ではバリアが、何だって?」

ウォーズマンがニィとスマイルをする。
そのしたり顔にも見える表情はギュオーを怒りのベクトルをあげる。

「お、おのれえぇぇ!!」

スバルはこの間に二人の視界の外へと流れていった。

(なぜこうまで動ける?
手負いではなかったのか!?)

怪我をしているのだからまともに戦えるハズは無い・・ギュオーはそう思っていた。
実際には、さっきまでフラフラしてたとは思えない、普段と謙遜無い動きに戻っている。
ギュオーには理由がわからなかった。

ギュオーの目測通り、ウォーズマンは手負いで間違っていない。
ウォーズマンは身体のダメージはかなり蓄積されているにも関わらず、無理を押して戦っている。
そんな無理をしてまで、身体を動かそうとする原動力は正義超人としての魂だ。
悪を許さない正義感が、傷ついても立ち上がろうとする闘志、仲間を守ろうとする思いやりが彼を支えているのだ。
ギュオーにはこの内の一つでも理解できるだろうか?

ウォーズマンはギュオーを指差し、挑戦状を叩きつける。

「ギュオー、一対一の真剣勝負だ!!」

369さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:21:42 ID:YrRABrO.

ギュオーはウォーズマンほど、こういった挑戦を素直に受けるタイプではない。
しかし、プライドが高い彼にはウォーズマンにナメられたままこの場を引く気にはなれなかった。
スバルも既に視界の外へ流れていき、その少女を殺すためにもウォーズマンと戦って勝たねばならない。
よってギュオーは挑戦を受けることにした。

「面白い!!
貴様を全力で叩き潰し、あの小娘も追いかけて殺してやるわ!」

睨むあう両雄。
ロボ超人と獣神将の戦いが始まる−−

370さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:23:56 ID:YrRABrO.
【G-4 川辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身打撲・火傷、大ダメージ、疲労(小)、回復中
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、毒入りカプセル×4@現実
空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
博物館のパンフ
【思考】
0、自分が殺し合いに乗ってることが広まらない内に手負いのウォーズマンとスバルを抹殺する。
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、キョンはとりあえず後回し。いつかは殺す。

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に名前が彫られていたことに気づいていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※首輪に『Mei』『Ryoji』と名前が掘られていることに気づいてません。

371さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:24:45 ID:YrRABrO.

【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、草壁姉妹やホリィ(名前は知らない)への罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン、、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の実@キン肉マン
、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1、ギュオーを倒し、スバルを助けにいく。
2、今は暴走したキョンから離れ、スバルをどこかで休ませてやりたい。
3、タママの仲間と合流したい。
4、もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5、スエゾーとハムを見つけ次第保護。
6、正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒せる。
7、超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8、暴走したキョンは戦力が万全になり次第、叩きのめす。
9、機会があれば、レストラン西側の海を調査したい。
10、加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11、紫の髪の男だけは許さない。
12、パソコンを見つけたら調べてみよう。
13、最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました。
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています。
※加持リョウジが主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくらクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。


−−−−−−−−−−−

372さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:26:26 ID:YrRABrO.

川の流れによって戦場から離脱することができたスバル。
その上を追従するように浮遊するリイン。

リインは酷く緊張していた。

『・・・・・・責任重大です』

ウォーズマンにスバルを守るように頼まれたリイン。
肝心のスバルは、叩いても起きず、バリアジャケットもないため完全に無防備なのだ。
今なら銃弾の一発でも喰らわせられれば簡単に殺される。
だから、リインが護衛についているわけだ。
しかし・・・・・・

『ギュオーみたいなのが現れたら、リインでは止められたもんじゃ無いです』

自分の魔法攻撃をたやすく弾いたバリアを持ち、攻撃力も高いギュオー。
もしくは同じレベルの敵が現れたらスバルを守り通せる自信がリインにはない。
思わずため息を吐きたくなるほどだ。

『自信を持ってくださいリインフォース。
私も、誰かが接近してくる時は位置を知らせるなどをしてサポート致します』
『レイジングハート・・・・・・』

弱気なリインを気遣ってか、レイジングハートがサポートを約束することを兼ねて応援する。
すると、気が楽になり使命感が湧いていた。
表情は眉を寄せて真剣なものへと変える。

『そうですね、上官は部下を守らなきゃいけないのに、上官のリインが弱気じゃいけませんよね』

そして、眠っているスバルへと堅い誓いを立てる。

『ウォーズマンさんは、リインたちを逃がすためにギュオーと戦いにいったんです。
リインはウォーズマンさんからスバルを守る役目をもらいました。
何があってもスバルはリインがお守りします』

スバルから返事は無い。
気絶しているので返事は無くて当然だ。
リインにとっては、むしろ自分に言い聞かせるために決意を口にしたのかもしれない。

『だからウォーズマンさん・・・・・・必ず勝って、リインやスバルたちに合いにきてくださいです』

小さな人型デバイスは、男の無事を祈った・・・・・・

彼女たちの流れつく未来は、神のみぞ知る。

373さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:27:48 ID:YrRABrO.
【G-4 川/一日目・夜】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(極大)、魔力消費(枯渇)、胸元に浅い刀傷、意識朦朧
川に流されてます
【持ち物】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹
リインフォースⅡ(ダメージ・小/魔力消費・中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、(意識朦朧)
1、機動六課を再編する。
2、何があっつも、理想を貫く。
3、人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4、戦力が万全になったらジュエルシードで暴走したキョンを止めに行く。
5、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう(ケロン人優先)。
6、オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7、中トトロを長門有希から取り戻す。
8、ノーヴェのことも気がかり。
9、パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

【備考】
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が元に戻りました(気づいてない)。



【N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン】
超強力な爆弾。
見た目は零号機(綾波レイ搭乗)が使用した物と似てる。
劇中に登場したサイズでは参加者が扱えないので、片手で携帯できるサイズになっている。
小型化に伴い、その分だけ威力も大幅に下がったが、それでも一エリアの1/4が跡形も無く吹き飛ぶ絶大な威力を秘めている。

374 ◆igHRJuEN0s:2009/06/29(月) 22:28:54 ID:YrRABrO.
以上で、投下終了です。

375決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:02:01 ID:HUBhMMTs



『この勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

激励の言葉と共に数えて三度目の放送が終わる。
響き渡った声はとても弾んでいた、聞いた者全てが草壁タツヲの歓喜に満ちた表情を容易く思い浮かべられる程に。
理不尽な催しに招かれた参加者は殆どが憤るであろうが動揺しない者もここに居た。

アプトムは冷静にメモを取り終えると椅子を軽く傾けた。
体重を預けられてオフィスチェアの背もたれがギギィと軋む。
人を人とも思わない扱いをされるなど損傷実験体の男には慣れきっている。
憤りを感じぬ訳ではないが今無駄に頭に血を上らせる気など更々無い。

「ギュオー閣下は無事か。そしてやはり深町晶も生き延びている」

新たな禁止エリア、前回に倍する死者、そして最後に草壁が言っていた事よりも先にアプトムが考えたのがそれだった。
合流を目指す上司と自ら手を下したいと望む相手、両者の名が呼ばれなかった事に軽く安堵する。
二人に比べれば他に誰が死のうと些細な事に過ぎない。

『ズーマ、それにあのアスカという少女も死んだか。特に小砂君とは協力を続けられると思ったのに残念な事だ』

アプトムの頭上で参加者ならぬ暗黒生物も感想を述べる。
残念と言うにも関わらずその口調は淡白だ、かっての所有者とはいえ偶然自分を手にしたにすぎない相手など悼むつもりはないらしい。
彼が本当に情を注ぐのは娘のみだ、もし現パートナーのアプトムが斃れたとしても何ら感じる事は無いだろう。
アプトムとてネブラに仲間意識など持ってはいない、あくまで利害が一致しただけの関係に過ぎない。

「口だけで役に立たん小娘だったな。まあいい、いくらか情報を得られただけでもマシというものだ」

砂漠の便利屋などと大層な肩書きを名乗っていた割にあっけなく死んだ小砂をアプトムは吐き捨てた。
予想してなかった訳ではない、彼女が追った筈のアスカがあの場所に現れた時から可能性は頭に有った。
期待を裏切られたのは残念だがアプトムは早々と思考を切り替える。哀れな少女の事など頭から追い出して物言う道具に今すべき事を言い放つ。

「今回も禁止エリアは遠い、主催者が姿を現したとしても勝ち目の無い限り戦う気など無い、まずはこいつから話を聞く」

クイと顎で示した先に在ったのは壁一面のモニター、そこに映し出されていたのはこの建物の各所に配置された監視カメラの映像。
無論アプトムが設置したものではない、これは元々備わっていた設備。
ここは市街地でも一際目立つデパート内部の保安室、本来防災とセキュリティを担う筈の部屋に居るのはその対極、破壊と殺人を目的として創られし獣化兵。

地階を映す一画面をアプトムは見ていた、デパートお馴染みの食品売り場が液晶の向こうに存在している。
その中の惣菜を調理する厨房の一つ、カメラを操作してズームすると異形の存在が画面に広がった。

『ちょうど彼が目を覚ましたようだぞ。さて、君の目論見道理に事が運ぶのかね?』

ネブラの言うとおり囚われの甲虫は動き始めていた。
存在については小砂より聞いた、しかしエリートたる超獣化兵と損傷実験体の自分では接触したところでいい様に使われるのが明らかな為会う気は無かった。
―――そのエリートが弱者が多く居たあの場で何故自分に狙いを定めたのか?

アプトムはそれが疑問だった。しかし彼は答えを知りたくて殺さなかったのでは無い。
ましてや同じクロノスに属する者だからでも無い、敵視された以上殺す事に躊躇いは無い。
狙いはこの甲虫、ネオ・ゼクトールを自分に協力させる事。

376決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:02:33 ID:HUBhMMTs

「試す価値は有ると言った筈だネブラ。決裂も想定してわざわざこの場所まで運んだのだからな」

アプトムの目的は生存だ。
悪魔将軍を筆頭に自分を軽くあしらう強者の存在に対抗するには何としても力が欲しい。
だからこそ危険を承知でゼクトールを生かしたのだ。

デパートという場所を選んだのも交渉のアドバンテージを握る為。
アプトムはネオ・ゼクトールの能力を全ては知らぬ、ネブラの拘束と大鎌が有っても直接の対峙はリスクが大き過ぎる。
生存を第一とする男にとってその方法は選べない、下手すれば会話も成立せずに逆襲されるやもしれぬ。

危険は可能な限り避ける為にやって来たのがこのデパート。
相手を一方的に観察し、姿を見せずに対話が出来る。その設備が整っている。
交渉が不調に終わったとしても地階と保安室は複数の階層で隔たっている、戦闘するにも待避するにも時間を稼げる。

特にネブラがデパートを知っていると助言した事が大きかった。
家具売り場で小砂によって取り出されのがネブラのスタート。彼女との接触の中で内部構造や設備についても観察し覚えていたという。
そのお陰で短時間で準備を整えられたのだ、これもゼクトールに対するアドバンテージの一つとなる。

『ふむ、現状ではこれがベターか。それにしても彼の持ち物に大した物が無いのは残念だったな』
「幻覚を見せるマスクが脅かしに使える程度だな、後は壊れた腕時計に拘束具。お前やユニット程のものはさすがに希少らしいな」

モニターではゼクトールが全身の拘束を外そうと足掻いている。
時空管理局が犯罪者拘束に用いるものらしいが最強の超獣化兵相手は荷が重い、見る間に形が歪んでゆく。
長くは持たないだろうが準備が整うまで動きを止めておければ良いのだ、十分役に立ったといえるだろう。

「頃合だな、始めるぞネブラ」

全ての拘束が破壊されたのはすぐだった、遂にゼクトールは己の自由を取り戻す。
それを見て取ったアプトムもまた動く、内線電話を手に取って地階の番号をプッシュした。

コールは長く続かない、数回で目当ての相手が応対する。
地階では苛立ったゼクトールが乱雑に受話器を取っていた、その様子は監視カメラで筒抜けだった。
情報で優位に立っている事を実感してアプトムは口元を歪める。

だが勝負はここからだ、猛獣を手懐けて初めて成功と呼べる。
一度は殺されかけた恨みを胸に仕舞ってアプトムは喋りだす。

ここに二人の復讐者はホットラインで繋がれた、しかし両者の隔たりはあまりに大きい。
同じ世界から来たにも関わらずアプトムもゼクトールも相手に不可解な点を感じていた。

コンタクトは疑問を解きほぐす糸口となるかもしれない。
しかし、その答えがどのような結果をもたらす事になるのかはわからないのだ。

377決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:03:15 ID:HUBhMMTs


               ※       



ゼクトールは久しぶりに仲間の夢を見た。

エレゲン、ダーゼルブ、ザンクルス、ガスター……

クロノスを知り、激しい選抜試験を潜り抜け、幹部候補生となって超獣化兵への調整。
それから十二神将が一人、バルガスの部下としての数々の功績を上げた。

(俺の傍らにはいつもあいつ等が居てくれた)

彼等との出会いは時期も場所もバラバラであったが深い絆で結ばれるまでに時間は掛からなかった。
苦楽を共にした彼等と共に将来クロノスが治める世界を支えるつもりであった。

思い出すのは自らの黄金時代と胸を張って言える過去の日々。
未来への道は開けている筈だった、だがその夢は一瞬で黒く塗り潰された。

―――アプトム

自らを調整したバルガス最大の失敗、仲間を次々と捕食された光景、そして脚を奪われた悔しさが蘇る。
結果奴はガイバーと並ぶクロノス最大の敵とされるまでになった。

(クソッ! あの時仕留めておけば―――)

タールを満たしたような漆黒の中、浮かび上がるように何かがゼクトールの眼前に現れる。
それは薄笑いするアプトムの顔、忽ち怒りは頂点に達した。
殴りかかろうとしたが身体は何故か動かない、見れば黒いスライムが水飴の様に絡み付いている。

ゼクトールは唐突に喫茶店の出来事を思い出した、
女と直立する兎を追い詰めた筈が隠れ潜んでいたアプトムによって不覚を取った。
その時に自分を拘束・攻撃したのが今絡み付いているものと似た黒い触手。
だとすれば絡みつくこれもアプトムの一部か。

(おのれ、二度と失敗を繰り返してたまるか―――)

更なる力を四肢に込めた瞬間にゼクトールは覚醒した。
そこはやはり暗い場所だった、しかしアプトムの憎らしい面構えは何処にも無かった。

(夢を見ていたのか、俺は)

気絶してる間捕食されなかった事は不思議ではない。
再調整によってゼクトールの体内にはアプトムの捕食を阻む抗体と代謝を狂わせるウイルスが存在しているのだ。
だが何故殺さずこんな場所に放置したのか?

378決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:03:47 ID:HUBhMMTs
「何を考えているアプトム……」

見渡せば建物の中らしいが照明は切られ非常灯だけがぼんやりと闇の中を照らしている。
意識を取り戻すに従い強い異臭が鼻を突いた、腐った野菜を思わせる不愉快な臭いだ。
そして感じる息苦しさと何処かから聞こえてくる警報音、何が起こっているのか明らかだった―――

ガス漏れ、それも既にかなりの量がフロアに満ちている。
すぐさま動こうとしたが身体を締め付ける拘束具に阻まれた、複数のリングが腕と脚を縛り付けていたのだ。
何を考えてかしらないが、こんな姑息な方法で俺を殺せるかとゼクトールは怒る。

フンッ、と気合と共に力を込めるとミチミチと拘束具が悲鳴を上げた。
右腕は未だ再生途上だが引き千切るのに不都合は無い、結果数分と持たずに時空管理局の官給品は不燃ゴミと化す。
予想通りというべきか荷物は何処にも見当たらない。奴は何処だと考えた直後に闇の中で赤いランプが点滅した。

それは電話だった、わざわざここに掛けてくるような奴は一人しか居ない。
耳障りな呼び出し音を続かせずに左手で受話器を取る、すぐに神経を逆撫でする不敵な声が聞こえてきた。

『グッドモーニング、エリートさんのお目覚めは随分遅いな』

危うく受話器を握り潰しかける、ぬけめけとよくそんな事が言えるものだ。
だが奴がこの建物に居るのがわかったのは大きい、電話機にはしっかり『ナイセン』と表示されているからな。

『単刀直入に言わせて貰う、俺と手を組まないか?』

奴は何を言っている? 手を組もうだと?
どの口でそんな事を言えるのかと憤る俺に奴は更に続けた。

『貴様が何の為に俺を狙ったのかは知らん。だが生き残りたいと思うなら悪い話ではない筈だ。
 ギュオー閣下とも合流すれば生存の確率は更に上がる、深町晶と戦うにも有利だ』

俺は一言も返さずに奴の言葉を聞き続けた、内容は返事をする気にもなれん。
奴とギュオー、裏切り者同士が組むのはお似合いだが俺も仲間に加われだと!?
これ程の厚顔無恥とはな、怒りが突き抜けると案外に冷静になれるらしい。
返事せず黙っていると勘違いした奴がまた喋りだす。

『迷うのも無理も無い、だがお前は荷物を失った上に放送を聞き逃した。
 近くには誰も居ない、しかし承諾すれば荷物は戻り死者と禁止エリアの情報も手に入る』

そんなものに釣られるか! どれだけ人を舐めるつもりだアプトムめ。
ガス漏れも脅しの一つという訳か、だが俺は命など惜しいとは思わん。

『罠と思うか? 安心しろ、殺すつもりならとっくに殺している。
 頭を冷やせゼクトール、信じるかは自由だがこの島には閣下並みの実力者も存在する。
 全身銀色の男だ、万全で無い貴様では危うい。ここで俺を殺して何が変わる、後の事を考えれば今は組むのが最善だ』

悪魔将軍を知っている事からして声を偽った他者でもない。
俺を怒らせるのが目的でもない、奴は―――本気でこの俺を仲間にしようと考えている!!

379決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:04:45 ID:HUBhMMTs

『今すぐ返事できんならそれでも良い、だが情報を交換する程度はお前も支障は無いだろう?』
「ほう、お前は何が知りたいというのだ?」
『まずお前は何故俺を感情剥き出しで襲った? 俺には何一つ心当たりが無いのだが』

その瞬間、俺の中で何かが切れた。

「……アプトム、これが俺の返事だ!」

どこまでふざけた奴だ、エレゲン達の恨みを忘れるとでも思ったか。
これ以上の話は無意味だ、俺は監視カメラに向けて受話器を握り潰す。
俺は天井を見上げた、ここが地階ならば奴が居るのは間違いなく上。

「心当たりが無いだと? ならば直接身体で解らせてやる!」

復讐者の心が燃え滾る。
今度こそアプトムを葬らんとゼクトールは三度目の戦いに挑む。

二人の間には重大な齟齬があった。
アプトムの問いかけは彼にしてみれば当然の事。
しかしゼクトールはアプトムの無知を侮辱と捉え、結果―――逆鱗に触れたのだ。

アプトムは知らなかった。
ゼクトールが生存に全く興味が無い事を。
その命全てを仇と狙う自分の為に使うつもりである事を。


               ※       


「チッ、損得勘定一つ出来ないのか奴は。どう考えても俺と組む方がマシだろうが!」

モニターを見ていたアプトムが罵声を吐きながら受話器を捨てる。
決裂だ、しかも情報は何一つ引き出せていないという最悪の結果ともなれば彼ならずとも罵りたくなるものだ。

『やはり失敗か、君の言葉がよほど腹に据えかねたらしいな。本気で心当たりが無いのかね?』
「無い。そもそも実験体の俺と奴では顔を合わせてすらいないんだぞ! もういい、やれ」

ネブラに苛立った声がぶつけられる、承知したとばかりに触手が配電パネルに伸びる。
落とされていた地階のブレーカーが全て上げられた、これが決裂への備えであった。

ゼクトールが目覚める前に地階の照明と電気機器の配線は故意の損傷が付けられていた。
そこに電子の流れが再開する、銅線を伝わった電流は忽ち同時多発的な漏電と短絡が発生される。
地階に満ちていたのは適度な混合比で空気と交じり合ったLPガス、即席の点火プラグを種火として音速を超えて燃焼した―――

380決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:05:56 ID:HUBhMMTs

それは爆弾並みの爆発だった。
落雷の様な轟音と同時に鉄骨鉄筋コンクリートのデパートが突き上げる様に揺さぶられる。
地階防犯カメラの映像は全てが砂嵐に変わり監視パネル一面に赤いランプが点灯した。

『こちらはまあまあ上手くいったな、彼はタフだから安心は出来ないがね』

アプトムとネブラは単純に元栓を開放しただけではない、爆発を発生させその威力を高める為にいくつかの工作を行っていた。
一つは建物の空調を停止させガスが排気されないようにした事。
二つは防犯シャッターを下ろして地階を密閉空間と化していた事。
三つはスプリンクラー等の消火設備が作動しない様にしていた事。
四つはデパートへの途中で発見したガスボンペをゼクトールと同時に運び込んでいた事。

結果大量のガスが短時間で充満した、そして消火設備も働かない以上階層全域が燃え続ける。
爆発だけでゼクトールが死ぬとはアプトムも期待していない。
爆発、熱、酸欠、有毒ガスの災害コンプレックスと呼ぶべき大火災を作り出して包み込む。
結果死なずとも体力を削り弱体化させられれば御の字だ、煙に紛れて隙を付く。
今度は躊躇無くゼクトールの命を奪う。

「出るぞネブラ、この建物はもう終わりだ」

アプトムは荷物を持って立ち上がる。
地階以外の防犯カメラには既に炎と煙で充満する各階が映し出されていた。
これもまた決裂への備えだった、放送前に着火した衣料品売り場の火災は既に上階の家具売り場まで及んでいた。
目的は煙と炎のバリケード、化学繊維の燃焼は大量の有毒ガスをフロア一面に撒き散らしていた。

だが上階の保安室にまでその煙は届かない。
何枚もの防火防犯シャッターで侵入を阻み、予め開放しておいた窓が煙突の役目を担って保安室を避ける排煙ルートを確保していた。
もちろん限界はある、建物全体が煙に包まれればやがて全ての空間に有毒ガスが侵入する。

だからその前に脱出するのだ、アプトムが保安室を出るとすぐ屋上に向かう階段が目の前に現れる。
このデパートは最上階が従業員の更衣室や休憩室、、機械室、保安室に割り当てられていたのだ、これもまたネブラに教えられた事だった。
しかし客向けの案内図をいくら眺めてもそのような情報は載っていない、ゼクトールが迷っている間にアプトムは遠くへと逃げられる。

屋上に出た途端ムンとした熱気がアプトムの全身を包む。
今しがた発生した火災によるものだけでてはない、市街地の大火も既にデパートに到達する寸前であったのだ。
時間が無いと見て取るやネブラが翼を広げ大きく羽ばたきだす。

火災の副産物ともいえる上昇気流に乗ってアプトムが空の人となったその時だった。
炎の全身を侵食され猛烈に煙を噴き出すデパートの奥底、爆炎に隅々まで舐め尽された筈の地階。
そこから、超高エネルギー粒子が空へ向け真っ直ぐ建物を貫いた―――

381決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:07:31 ID:HUBhMMTs


               ※       



爆発に見舞われた地階食品売り場は大釜の底さながらに燃えていた。
爆風はシャッターを吹き飛ばし、そこからは猛烈に煙が流れ込んでいる。
消火設備は作動せず、難燃材も抗する事を諦めて次々に炎に屈していた。

彼の能力が本来のままであったら無傷とはいかなくても軽傷で終わっていたかもしれない。
この舞台、弱体化された肉体は本来耐えられる筈の爆発から容易にダメージを受けてしまう。

それでもゼクトールは生きていた。
爆発の衝撃で内臓を叩かれ、全方向から襲い来る熱に装甲を焼かれ、充満する煙は容赦無く呼吸器官を苦しめる。
既に常人なら酸欠で倒れているだろう場所で何も感じてないかのように立っている。
元々地中はおろか成層圏すら行動範囲とする能力の持ち主、酸素が欠けようがある程度は耐えられるのだ。

顔面を保護していた左腕を下ろし飛び散った破片を踏みしめる。
ゼクトールはこれより上を目指す、しかし闇雲に突っ込むつもりは無かった。
先程は喫茶店で女と獣に気を引かれた隙を付かれた、今回も同じ事が起こりえる。
それにこの煙の勢いと火の回りの早さ、恐らく他の階にも火は回っている。

(何があろうが吹き飛ばすまで、ここで奴を逃がす訳にはいかん!)

ゼクトールは燃える地階で羽を広げた。
辛うじて飛ぶ事ができる程度の損傷した羽、しかし今は飛ぶのが目的ではない。

―――ブラスター・テンペスト、ゼクトールの切り札

急速に周囲の熱が奪われてゆく、温度差が空気の流れを変えてゆく。
アプトムが放った炎が形を変えてゼクトールの体内に蓄積する、何時の間にか周囲にはダイヤモンドダストが舞っていた。
そして腹部の生体熱線砲発射器官が露出する、喫茶店で使わなかったそれは無傷。
そこに全てのエネルギーが集束される、敵より来たものは敵へと戻す。

(―――ッ!)

僅かに目が霞み、足が揺らいだ。
ダメージによるものか制限か、エネルギーの蓄積は彼の肉体に更なる負荷をもたらした。
しかしゼクトールは撃つのを止めない、どれ程自らの命を縮める行為かを知りながら迷う事は無い。
羽が万全ならファイナル・ブラスター・テンペストを撃っていたかもしれない、だがそれは仮定の話。

「食らえアプトムゥゥゥッッ!!! ブラスター・テンペストォーーーーーーーッッッ!!」

遂にそれが放たれる、地下の炎も惨状も全ての景色が恒星の表面並みの光によって塗り潰される。
全獣化兵最強、ガイバーのメガスマッシャーにも匹敵する威力の粒子の奔流。

382決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:08:01 ID:HUBhMMTs

そこから全ては一秒にも見たぬ時間に起こった。
地下から屋上に至る十数枚の床と天井が紙の様に光のランスが貫いたのだ。

だがその射線の延長にアプトムはいない、ゼクトールもそこまで期待した訳ではない。
建物全体は不可能としても罠を粉砕し最短距離での追撃ルートを開削するのがその狙い。
それのみでも十分成功した、そしてゼクトールも予想しなかった効果をもたらした。

断熱材とコンクリートを粒子と化したエネルギーが行き着いた先に有ったのは屋上の貯水タンク。
ステンレスの皮に蓄えられた数千リットルの水道水、それが全てのエネルギーを受け止めた。
原子の全てが加速する、数千度に熱せられた水は液体の姿を保てず数百倍以上に膨張した。

単純な水蒸気爆発では無い、到達したあまりの高温の為に分子の結合は断ち切られ水は水素と酸素に分解した。
超高熱の金属蒸気を纏ったガスの雲が屋上の半分程度に広がった時、水素と酸素が再結合し大規模な二次爆発が発生した。
これらは全て超獣化兵ですら認識できぬ刹那の間の出来事である。

アプトムとネブラは空中で爆発に巻き込まれた。
彼等の感覚では何が起こったのか理解できなかった、爆風は二人を飲み込み尽くし更に周囲へと拡大した。
衝撃波が建物を伝わる、上階から下へ全ての窓ガラスを粉々に砕きながらデパートを揺るがせる。

地下のゼクトールにもその異変は伝わった。
建物が崩壊するかと思う程の激しい揺れと流れ込む爆風、そして穿たれた穴を大小の破片が落下する。
原因を考えるのは無意味、ここに追撃の道は拓けた。

羽をコンパクトに畳みゼクトールは垂直上昇する。
デパートを貫通した大穴は巨大煙突となり炎と煙を噴き出していた。
上がるたびに羽が燃えてゆく、それでもゼクトールは飛び続ける。

そして視界が一気に開ける、炎に飲み込まれる市街地がそこにあった。
眼下には爆発で瓦礫の山と化した屋上の光景、着地するとそれだけで足元に亀裂が走る。

(アプトムは何処だ? 間違いなく奴は近くに居る筈だ)

空には姿が無い、先程上空から見回した限りでは人影も見当たらなかった。
かといって焼け落ちる建物の中に留まり続けているとも考え難い。
ゆっくりと爆発で陥没した跡地を歩いてゆく、追うものとしての勘が”奴はここに居る”と告げていた。

風の為時折煙が流れて視界を奪う、警戒を怠り無く歩を進める。
ジャリ、と踏み出したその時だった、煙の向こうで何かが動いた。
布切れの身間違いではない、確かに生物の動きで瓦礫の影から影に走っている。

383決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:08:39 ID:HUBhMMTs

「そこかっッ!!」

躊躇わずにミサイルを撃ち込んだ、寸分違わず狙った位置に着弾する。
ゼクトールの意識がそこに集中したその瞬間、真横の瓦礫から黒い触手が飛び出した。

それは、腕の無い右側から襲い掛かってきた。
それは、爆煙に紛れて一直線に首輪に狙いを定めていた。
煙の中でシルエットが交錯する、槍となった触手は甲虫の身体を貫いた様に見えた。

『馬鹿な……』

槍の先端は確かに首輪に触れていた、しかし表面を削ったのみだった。
勝負を決めたのは些細な事、ゼクトールの足元が崩れてネブラの狙いが僅かにズレたという事実のみ。

すぐさまゼクトールが触手を掴む、電撃をネブラに流し自らが巻き込まれるのも構わず根元に向けミサイルを連射する。
更なる屋上の爆発と破壊、遂に仇の姿が現れた。

鉄筋の残骸の中にアプトムは潜んでいた、その状態は酷かった。
一糸纏わぬ肉体は全身の火傷で爛れ、叩き付けられた際の裂傷であちこちでベロリと皮膚が剥けている。
それでもあれだけの爆発に巻き込まれて生きているだけ脅威だった、ネブラスーツは立派にその役割を果たしていた。
代償は反撃の手数、同じく巻き込まれたネブラは一本の触手を出すのが精一杯だったのだ。
あの影のタネも知れた。アプトムの手元に有ったのは黄金のマスク、幻覚を囮に逆転の一撃を狙ったのだろう。
もはや同じ手は通用しない、ネブラは三番目の主人から引き離され餅状の姿に戻っていた。

それを見るゼクトールもまた酷い姿だった。
自慢の装甲は焼け爛れて歪み、割れた隙間からは赤黒い液体がただ漏れとなっている。
全身から立ち上る水蒸気は彼が自らの肉体を限界以上に酷使した事を示していた。
あのブラスター・テンペストは彼の内臓までも焼いたのだ。

お互い命は尽きる寸前、ならその前に決着を付けるのみ。

「なぜ、だ……」

何故そうまでして自分を追うのか最後までアプトムには解らなかった。
命乞いしようが恐らくゼクトールは自分の生存を許さない。
問いかけは時間稼ぎの狙いもあった、しかし返ってきたのは膨れ上がる殺気。

「うおおおおおぉぉぉぉっっっっーーーーーー!!!」

望みは消えたとみるやアプトムは起死回生の反撃を試みた。
狙いはただ一点、傷付いた首輪のみ。
体液を撒き散らしながら獣化すると同時に黄金のマスクを起動、周囲の瓦礫が一斉にワニと化す。
アプトムにとってもここで死ぬ訳にはいかないのだ、損傷実験体の仲間を殺された仇を取る為に。

384決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:09:11 ID:HUBhMMTs

伸ばした腕は届かなかった。
ゼクトールの高周波ブレードがアプトムの身体を袈裟切りに切り裂いた。

(―――ソムルム、ダイム、すまん)

それがアプトムの最後の意識、二つに分かたれた獣は臓物を撒き散らして倒れ伏す。
ピクピクと痙攣はするものの血まみれの肉塊となったそれを誰も生きているなどは思わないだろう。
―――ただ一人を除いて。

ブチャリ! グチュッ! ブバッ!

ゼクトールは渾身の力で肉塊を踏みつけた、足で磨り潰し繰り返し拳を叩きつける。
物言わぬ骸を砕き、引き千切り、赤黒い液体へと変えてゆく。
ここまでせねばアプトムは何度でも蘇る、肉片一つあれば再生する事をゼクトールは知っていた。

それは言い訳でもあった、肉体を滅失させるのが目的ならばもっと手っ取り早い方法がいくらでもある。
こうせねば気が済まなかった、それ程憎んでいた相手であった。

肉塊が肉片に変わる頃、汚れきったゼクトールはアプトムの首輪を掴む。
この島では首輪が壊されれば誰であろうと死ぬルール、握り潰せばアプトムが再生する可能性はゼロになる。
最初からそれをしなかったのはゼクトールの気持ちの問題、少しでも仲間の苦しみを味わわせたかった。
その願いも果たせた、焼け落ちる寸前の屋上にやがて金属がひしゃげる音が響く。
それが復讐は終わりを告げる鐘の音であった。



               ※       


―――終わった


ゼクトールはただそれだけを思った。
支えるものを失った肉体は立つ事もおぼつかず何時の間にか座り込んでしまっている。

命も開かれた未来も全てを捨てて追っていたアプトムは討ち果たした。
悪夢が全て過去になり、もはやこのまま朽ち果てた所で悔いは無い。
実際そうなるだろう、このデパートは間も無く全焼する筈だ。
苦しむ事も無い、その前に自分は死んでいるだろうから。
残された僅かな時間の使い道を考えていた時、突然語りかける声があった。

385決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:10:17 ID:HUBhMMTs

『気は済んだかね? ネオ・ゼクトール君』

首を動かしたゼクトールが見た物は黒い餅状になったネブラであった。
一瞬アプトムの分体かと警戒するも首輪を破壊した事を思い出す。

「何者だ……?」
『初めましてと言うべきだな、私はネブラ。アプトム君の支給品だったものだ』

自己紹介しながらもネブラは目を出すだけで全く動かなかった。
他人の頭に乗せられて初めて本領を発揮できるものだという事をネブラ自身が説明する。

『君は生きたいと思わないのかね? 飛べんというなら私が力を貸そう、ここで消し炭になりたくないのでね』

それは新たなる主人への誘いであった。
小砂、ズーマ、アプトム……以前の主人は皆死んだ、そして今度はゼクトールに使われたいとネブラは望んでいるのだ。

「蝙蝠め」

ゼクトールは吐き捨てた。
彼は忘れてはいない、ネブラがどれ程障害になったのかを。
アプトムだけならば喫茶店で終わっていた、ここまで手間取ったのはこの支給品が触手を振るったからなのだ。
なのにアプトムが死んだ直後にぬけぬけと協力を申し出る変わり身の早さ、一つの組織に忠誠を誓っていた彼には不愉快でしかない。

『私は君達と違って恥を感じないのでね。第一動けない私にはそうするしか無いのだ』
「そして俺が死ねば次の主に取り入るつもりか? 生憎お前の様な死神はここで焼け死ねとしか言いようが無いな」

血塗れの拳を黒い塊に叩きつける。
飛び散りはしなかったが餅の様に粘るそれは潰れて大きく変形した。

『う……止めてくれたまえ、せめて話ぐらいはさせてくれんかね?』
「いいだろう、最後に話すのが貴様の様な蝙蝠とは残念だがな!」

助けを求める気は更々無いが死を待つ状態で他にする事も無い。
一方のネブラにとっては会話を繋ぐことが生存の鍵、冷静な口調だが内心薄氷を踏む思いであった。
屋上は既に煙と炎に包まれて灼熱地獄と化している。
ガス爆発に始まって、ブラスター・テンペストと屋上の水素爆発と続いた災厄はいつ建物が倒壊してもおかしくない程のダメージを与えていた。
何としてもゼクトールを変心させ、生存の糸口を掴まねばならなかった。

『では聞くが君は何故あれ程までにアプトム君を狙ったのだね?』

ネブラもそこが気になっていた、アプトムは最後まで知らぬままだったがゼクトールにここまでさせた理由は彼を動かす鍵となりえる。

「奴は俺の大切な仲間を殺した、俺は最後に一人残された」
『それは本当かね? アプトム君は君と顔を合わせた事も無いと言っていたが』
「間違いなどあるか! 奴は俺の脚を奪ったのだぞ!」

386決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:11:10 ID:HUBhMMTs

明らかに矛盾していた、しかし声を荒げるゼクトールに嘘など感じられなかった。
アプトムの言っていた事も恐らくは正しい、どう考えるべきかと思うネブラは似た事があったのを思い出した。
あの時の自分とアプトム、考えれば考える程酷似している。

『一つ訊ねるが……君はアプトム君に何かおかしな点を感じなかったのかね? どんな違和感でも構わない』
「奴は弱かった、俺を襲った時の奴とは比べ物にならん程弱体化していた。だがそれがどうした!? 奴は間違いなく本物のアプトムだった」

ゼクトールは素直に違和感を述べた、悪魔将軍から話を聞いた時から感じていた疑問。
しかし目的は謎解きではなく殺す事、だから本物と確信した以上考える事はしなかった。
―――奴は確かに仲間を殺したのだ!

『話を聞いて欲しい、私もこの島でとある参加者に身に覚えの無い恨みをぶつけられた。知ってはいるが会ってない相手にだよ。
 実に奇妙だ、君に私にアプトム君、皆が同じ違和感を感じている』
「それは興味を惹かせて俺に使わせようという魂胆か?」
『正直に言えばその通りだ。だが君自身が興味を惹かれなくとも伝えたい誰かは居ないのかね?
 その人に役立ててもらえれば君も悪い気はしないだろう?』

その様な謎を知りたがる人物―――確かに心当たりは有る。

(考えれば将軍に一つも借りを返していないか……)

仇を討てたのは悪魔将軍の情報があったからこそ、なのに自分は何もしていない。
この蝙蝠の口車に乗せられるのは癪だがこのまま灰になるよりは残せるものがあるだけマシかもしれない。

「だが俺が何を頼もうがお前は拾われた奴に媚びてそのままの気がするのだがな!」
『手に取ってくれた者に協力するのは仕方ない、それは判ってくれたまえ。それでも伝言ぐらいは会えば確実に伝えると約束しよう』
「ふむ……」

ゼクトールは考える、しかしすぐに結論を出した。
時間が残されてなかったのだ、足元から立て続けに伝わる揺れは建物が崩壊し始めた事を知らせている。
それに次第に目の前が薄れてきた、体力の限界も近付いていたのだ。

387決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:12:02 ID:HUBhMMTs


               ※       



俺は南の方角に飛び去っていくミサイルの噴煙を眺めていた。
あのミサイルはバッグを曳航している、そこには荷物とネブラが入っている。
もし拾った奴がキン肉マン、ウォーズマン、高町なのはを知っていたなら悪魔将軍が湖で戦いたがっていたと伝えておけとネブラには言い含めた。
荷物も巡り巡って将軍の役に立つかもしれん、これで思い残す事は何もない。

地鳴りの様に建物全体が振るえ始めた、そろそろ眠らせてもらうとしよう。
俺は睡魔に抵抗する事を止めた、こんなにも気持ちの良い眠りにつけるのは久しぶりだった。


エレゲン、ダーゼルブ、ザンクルス、ガスター、今そちらにゆくぞ……





【アプトム@強殖装甲ガイバー 死亡確認】
【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー 死亡確認】
【残り26人】



【拘束具@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
管理局員が用いる物理拘束具。対象の動作と魔力発動を阻害して行動を封じる。
普段は薄いボックス状で、使用の際に金具とベルトに展開させる。
第12話でルーテシアとアギトの拘束に使用したものと同型。

388 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/30(火) 02:12:42 ID:HUBhMMTs

以上で投下終了となります。
お待たせして本当に申し訳ありませんでした。

389 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:00:25 ID:YrRABrO.
これよりSSの投下いたします。
非常に長いですが、よろしくお願いします。

390パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:01:36 ID:YrRABrO.


『スバル! 山の向こうで物凄い煙が上がってるですぅ!!』

空から偵察していたリインフォースが降りてきた、慌てたような報告が彼女の第一声だった。

日が落ちて夜の闇に包まれ始めたG‐5の森の中にいた蒼き髪の少女・スバル、黒きロボ超人・ウォーズマン、0号ガイバー・キョンに緊張が走る。


「山の向こうは市街地・・・・・・まさか!」

スバルは焦燥する。
記憶が正しければ、山の向こう−−島の北側は市街地。
そこには上官・高町なのはが実の娘のように大切に保護していた少女・ヴィヴィオがいる可能性がある。
正確な位置は小・中学校だが、ヴィヴィオがそこから動かないとも、危害が及ばないとも考えにくい。
そうでなくとも、市街地には火災が発生するほどの騒乱が発生しているのである。
今、こうしている内にも誰かが犠牲になっているかも知れないのだ。
それは正義感の強いスバルを焦らせるには十分な要素だ。


一方のキョンは、スバルとは違う理由で焦っていた。

(オイオイ!
まさか、学校まで燃えてねえだろうな!?
・・・・・・もしハルヒの死体が燃えちまったらどうなるんだ?)

彼にとって、他の参加者−−あえて言うなら仲間である古泉以外は火事で死のうが構わない。
殺すべきライバルが減って、後が楽になる。
ところが、自らの手で殺してしまったハルヒの遺体については別だ。
彼女の死体が燃えて消失してしまった場合、生き返せなくなってしまうかもしれない気がするのだ。
・・・・・・そんな気がするだけなのだが、先程、顔を合わせた主催者タツヲの『優勝しても全員生き返すのは無理だね』という言葉が頭に引っかかているのだ。
この殺し合いを放棄する気が無くなったわけではないが、本人の気づいていない内に主催者二人への疑心は微かに生まれている。
頭によぎる可能性の一つに「死体が燃えたら生き返せないのでは?」と、彼の心には確実に揺らぎが生まれていた。


最後の一人のウォーズマンは動じてなかった。
それはリインフォースの報告に何の感慨も抱いていなかったわけではなく、むしろ彼の熱い魂は、被害が少しでも減らせるように速く市街地へ向かいたかった。
だが、焦るわけにはいかない。
彼は衰えを見せぬ身体に反し、少なく見積もっても40か50以上は年齢を重ねている。

391パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:02:48 ID:YrRABrO.
その分だけ戦う者としての経験も長く、貫禄も備えている。
これが数十年前のウォーズマンならわからないが、ケビンマスクのセコンドを勤めるように、自分がどうやって動けば良いかも、若者をどうやって引っ張っていけば良いかもだいたい心得ている。
故にこの場にいる誰よりも、冷静でいられた。

「落ち着くんだスバル、リィン、・・・・・・キョンもだ」
「ウォーズマンさん・・・・・・」
「・・・・・・」

ウォーズマンの言葉に、焦燥を感じているスバルとキョンに冷静さを思い出させる。
キョンに至っては、遠回しに焦りを指摘されたのが面白くなかったのか、無言でそっぽを向いたが・・・・・・
それはとやかくとして、ウォーズマンは二人に指示を出す。

「まずはこれから、この先にある神社に向かい、タママたちと合流する。
彼らと合流ができ次第、市街地へ向かうぞ」

まだ、紫の髪の男や悪魔将軍のような強敵が生き残っている可能性は十分にある。
被害を減らすためには、戦力は多い方が良いだろう。
オーバーワークのスバルや、目を離していると殺し合いに乗る可能性があるキョンへの監視のためにも、最低限タママとは合流したかった。
だが、その合流についての懸念材料はあり、ウォーズマンは考える。

(ギュオーが殺し合いに乗った危険人物でなければ良いがな)

ギュオーがクロだった場合は、タママの安全のためにもギュオーから引き離す必要がある。
できれば、被害を出さないためにも、殺し合いに乗ってる者は早々に叩いておきたい。
しかし、前述の通り、こちらには消耗しているスバルと、まだ信用仕切れないキョンがいるので、無理に戦うのも良くないとも思っている。
だが、正義超人として、そこに悪があるなら見逃したくはない信念がある。
逆にギュオーがシロだった場合は、疑う事自体が杞憂で終わることができる。
ウォーズマンは、どちらかと言えばギュオーをまだ信じている。
仲間だと思っていられるからこそ信じていたいのだ。

(とにもかくにも、殺し合いに乗っているかいないかを見極めるためにも、ギュオーは今一度きっちり問い詰める必要がある。
そうすれば、俺が彼に感じていた違和感もすっきりするハズだ。
もし殺し合いに乗っていたとしたら・・・・・・タママ、無事でいてくれ)

392パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:04:03 ID:YrRABrO.
考えを整理し、まだ薄いがギュオーへの疑惑を持ちつつ、仲間の無事を祈るウォーズマン。

他の人間が話をしている傍で、キョンは一人、ただ黙って考え事をしていた。
考え事とはもちろん、どうやってギュオーに取り入るかである。

(どうやってギュオーを味方につけるかな・・・・・・
賄賂でも送って「おぬしも悪よのう」と言われつつ取り入るのも・・・・・・
いや、なにも持ってなかったんだな、俺。
気は進まないが、ナーガのおっさんの時のように下僕になるフリをするか?
そもそも、あのまっくろくろ男と一緒に行動している所からして、立ち回りは長門たちと戦おうとしている奴らの中に潜り込んで、油断した隙に後ろから襲いかかるタイプなのかも・・・・・・
その場合は俺もその方針に従って・・・・・・でも、もし、殺し合いに乗ってなかったらどうしよ・・・・・・)
『なーに、考えてるですか?』
「って、うわぁ!?」

一人、黙々と思考している最中に、妖精のように小さな人型デバイス・リインが、彼の眼前にいきなり現れた。
あまりに唐突だったので、キョンは思わず驚いてしまった。

リインもまた、スバルとウォーズマンの相談している横で、一人だけ何も喋らないキョンに不信を抱き、声をかけたのだった。

「な、なんだよ。
いきなり脅かしやがって」
『一つ、聞いて言いですか?
変な事は企んでませんでしょうね?』
「!」

図星を突かれ、ギョっとするキョン。
ガイバーの装甲を上に纏っていなかったら、その驚きの表情が顕になっていただろう。
それでもキョンは、首を横に降ってリインの疑いを否定する。

「いいや、何にも企んでおりません!」
『本当ですかぁ?』

尚も疑い続けるリイン。
というよりも、彼女の場合はキョンを最初から信頼していない様子である。
おそらく、この場で誰よりもキョンを疑っているのは彼女だろう。
大きい胸の下に両腕を組み、宙に仁王立ちしながら睨みつつ、キョンに改めて警告をする。

393パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:05:55 ID:YrRABrO.
『例え、あなたが後ろから私を含めた誰かを襲いかかろうとしても、残りの二人が襲いかかろうとするのを忘れないでください。
そしたら、あなたはすぐにボッコボコのギッタンギッタンですよ?』
「・・・・・・ハイハイ、肝に銘じておきますよ」

睨みつけてきてもあまり迫力がないリインに対して、キョンはそっけなく言葉を返す。
しかし、リインの脅しに臆したわけではないが、それとは別の事で焦りを感じていた。

(クソッ・・・・・・
コイツらといるとペースが狂ちっまう!)

そのペースとは、自分の企ての事か、自分自身の精神的なものか、はたまた両方か。
詳しくはわからないが、とにかくこの三人といる限りは、いろんな調子が揺らいでしまうのをキョンは実感していた。

(ああ、とっととコイツらとオサラバしたい・・・・・・)

−−さもないと、狂いが生じて思うように動けなくなってしまう。
現状、スバルたちは殺意こそ持っていないが警戒はされ、隙も見せないため、迂闊に襲いかかろうとすれば返り討ちに合うのは目に見えている。
自由に動けるようになるのは、ギュオー次第と言ったところか。

(頼むぜ、ギュオーさんよ。
俺が思うような使える奴であってくれ。
ついでにコイツらから俺を解き放ってくれ、いやマジで)
『本当に何も企んでないんですよね?』
「しつこいぞ、アンタ」

また黙り込んだキョンに、リインは釘を刺す。
考え事すらゆっくりさせてくれないリインに、キョンの中にだんだんストレスが溜まっていく。

(いい加減、このチビ女にイライラしてきたぞ。
それに小さい体に無駄に大きな胸をしやがっても、俺人形に欲情する趣味なんて持ち合わせちゃいない。
俺を萌えさせるにはせめてポニテになって出直してこい!)

心の中で小妖精に悪態をつく。
ついでに彼女の胸が目についても、性的な興味はわかなかったらしい。
しかし、彼は気づく。

(・・・・・・ああ、ポニテなんてくだらないこと考えてやがる。
駄目だ、本当に調子が狂い始めてるみたいだ)

いつの間にか、殺し合いやハルヒたち以外のことを考える自分がいた。
主にツッコミなど。
こんな場所でどうでもいいことを考えている自分に呆れたくなる。



−−放送が始まったのは、彼が『くだらいないこと』を考えていた直後だった。



−−−−−−−−−−−

394パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:06:41 ID:YrRABrO.


場所は変わってG‐5にある神社。
その神社の境内に座りながら放送を聞いている白い制服を纏った男・ギュオー。
やがて、今回の放送が終わる。
その頃には参加者名簿には死亡した者たちの名前に線を引かれ、地図には新たな禁止エリアを示す×印が書かれていた。

「むぅ、どうしたものか・・・・・・」

参加者名簿と地図を広げているギュオーの顔は不満気だ。
自分の思うように事が進んでいかないのである。
まず、今回の死亡者について、10人も出たのに関わらず自分の死んで欲しい者が死んでくれなかった。
自分の命を狙ってきたゼクトール、互角以上の実力を見せつけてきたリナ・インバース、一度は対峙したノーヴェもだ。
アプトムについては、詳細名簿に書かれていた内容及び連れて来られた時間によれば利用価値がありそうなので、生きてても良い。
深町晶については、彼が所持するガイバーユニットを奪いたいため、自分の知らない所で死んでくれなくて良かったとも言える。
だが同時に、自分を知っている事と自分には及ばずながら高い戦闘力を持つ要素から、生きている限り障害になるのは明らかである。
ユニットは他にも支給されている可能性があるので、晶への生存優先度は以前よりは低めなものの、危険度は変わりない。
複雑な所である。


さらに、詳細名簿と死亡者を照らし合わせて見る。
小泉太湖、碇シンジ、惣流=アスカ=ラングレー、キョンの妹、そして自分が殺した加持リョウジ。
この者たちはスパイだったり、過酷な砂漠で生きてきたのでサバイバル能力が高い、巨大な決戦兵器のパイロットである特異点を含めても、ただの人間に過ぎない。
首輪を分析できるような技術力も無さそうなので、生きていた所で邪魔になるだけで価値は無い。

次に佐倉ゲンキ、ナーガ、ラドック=ランザート。
戦闘力が高く、敵に回すと厄介な相手になっていただろう。
人間の子供である佐倉ゲンキすらワルモン(ギュオーはゾアノイドのような存在だと思っている)を相手に素手で渡り合える力の持ち主だ。
性質上、殺し合いに乗りそうもない佐倉ゲンキはともかく、後の二人は生きていれば参加者をもっと殺してくれただろうが・・・・・・

395パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:09:09 ID:YrRABrO.
そこはポジティブに考えて、後の障害が減ったと見るべきだと、ギュオーは割り切った。

次に草壁サツキ。
主催者である草壁タツヲとの繋がりを持っていた少女。
妹の草壁メイが死に、この会場で草壁タツヲを知る最後の一人となり、主催者に関する貴重な情報を失ったかに思えた。
しかし、詳細名簿を読む限りでは姉妹共に極めて平凡な人間であり、そこから察するに草壁タツヲも元は平凡な人間なのだろう。
では、主催者として立つ草壁タツヲは何者なのか?

(おそらく、あの男自身に大した力はない。
自分の娘を殺し合いに参加させるほどの狂人か、洗脳されて操れてでもいるのだろう。
まぁ、そんな事は考えてもしょうがないが)

人の親は人。
ただの人である草壁姉妹の親が、人間でないハズがない。
ゾアノイドのように調整でも受けない限りは、人間は人間なのだ。
しかし、情報も少なく、ギュオーにとっては打破するべき相手に過ぎないので、草壁親子の事情についての考えは打ち切った。
もっとも、問題は草壁自身ではなく、草壁サツキの死によって招かれるかもしれない事態である。

「草壁サツキの死にタママが変な気を起こさねば良いが・・・・・・」

先程、市街地が燃えているのを見ると血相を変えて神社から出ていったタママ。
タママの慌て具合からして、サツキをとても大事にしていたようだ。
そんな彼女の名前が放送で挙がった今、これを市街地の辺りで聞いているであろうタママは何を思っているのだろうか?
短絡的で頭に血が昇りやすい性格のタママが、暴走して自分に不都合な問題を引き起こさなければ良いが、とギュオーは祈る。

最後に未来人・朝比奈みくる。
彼女には、会って(拷問などで脅しつつ)未来の行き来の方法などを聞きたかったが、それも叶わなくなった。

「惜しいな・・・・・・
優れた技術力を持つクルルとやらですら作れない時間を移動する技術や知識は是非知りたかったのだがな。
まあいい、主催者共が似たような事をやっている以上、奴らも同じ力を持ち合わせているようだ。
その力をいずれ奪うのだから問題無い」

朝日奈みくるの損失は小さくはなかったが、時間移動などの力は主催者から奪えば良いと結論づけたのだった。

396パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:10:15 ID:YrRABrO.

死亡者についてのギュオーなりの考察は以上である。
深町晶やリナ・インバースのような自分に不都合な参加者がなかなか減らず、タママのような懸念材料も増えた。
それでも、冬月コウゾウのように首輪を解除できそうな人間はまだ生きているため、ギュオーの望みは潰えていない。
故にまだまだ前向きな考えができるのだった。


だが、死亡者とは違う問題もできてしまった。
今、彼がいるF‐5が禁止エリアに指定されてしまったのである。
ここが禁止エリアとして定まる時間は一時間の猶予もないようだ。

「やれやれ、ここから移動する必要があるようだな。
しかしウォーズマンめ、放送時になっても戻ってこないとは、どこで油を売っているのだ?」

自分のするべき事と、ついでに神社に戻ってこないウォーズマンに文句を垂れるギュオー。
一方のスバルを助けだしに向かったウォーズマンは、スバルと合流した道中でナーガ達と激しい闘いを繰り広げていたのだが、そんな事情はギュオーの知った事ではない。

それでもウォーズマンは利用価値のある駒。
まだまだ先が長いこの殺し合いにおいては、自分の保身のためにも合流しておきたい。
精神的な面で扱いづらいタママよりは、安心できるため、早め合流して損は無い。

「・・・・・・仕方がない。
この私が直々に捜しに行ってやろう」

こうしてギュオーは、ウォーズマンを捜しに神社を後にする。
とりあえずは南方向へと歩き出すが、炎でそこそこの明かりができている北方面と違い、光が射さない南方面は夜の闇で真っ暗だ。
見えないため、進行の邪魔になる木々や草も多く、ろくに進めない。

「ええい、面倒だな。
ここはとりあえず・・・・・・」

人間形態ではろくに進めないと思ったギュオーはネルフ製の制服を脱いで獣神変をし、その姿を魔人のごときものへと変える。
変身に伴って上昇した知覚のおかげで、暗闇の中でも視野が広がり、だいぶ歩きやすくなった。

「さて、行くとするか」

再びギュオーは南へと歩き出す。
移動ペース的には、F‐5が禁止エリアに指定されるより早く出られそうだ。
そして、彼の向かう南方面・G‐5では・・・・・・


−−−−−−−−−−−

397パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:11:49 ID:YrRABrO.



−−朝比奈みくる
−−キョンの妹

その名前が放送に出た時、俺の頭が真っ白になった。
覚悟はしていたさ。
いずれ朝比奈さんや妹の『  』が死んで、こうやって放送が流れるくらいはな。
・・・・・・でもな、情けない事に、聞いた途端にぽっかりと心に穴が空いた気分になっちまった。
平常心を保とうと意識しているのに思うように冷静になれん。
タツヲさんが他の死亡者の名前とか、殺し合いについてうんたらかんたら言ってるがほとんど耳に入らねぇ。
せいぜい、古泉や朝倉の名前が呼ばれなくて、自分が殺したナーガのおっさんの名前が呼ばれたのがわかる程度だ。

二人はどうやって殺されたんだろうな?
雨蜘蛛のおっさんが依頼通りに殺してくれたのか?
だとすると、二人が死んだのは俺の責任になるんだな。
しっかし、あの趣味の悪そうなおっさんの事だろうから、ろくな殺され方はしてないだろうな・・・・・・
いや、まてまて、何も雨蜘蛛のおっさん以外にも二人を殺したかもしれない奴らはいるだろう。
下手すりゃ、おっさんよりも趣味が悪い奴に殺されたのかもしれない。

銃で貫かれたのだろうか。
刀でばっさりと斬られたのか。
素手で死ぬまでボコボコにされたのか。
鈍器で頭を砕かれたのか。
炎に包まれ、身体を燃やされたのか。
毒を盛られて血ヘドを吐いていたのか。
禁止エリアにでも引っ掛かってスープと化したのか。
爆弾でバラバラになったのか。
首の骨をへし折られたのか。
誰かに騙されて殺されたのか。
死ぬ前に性的な暴行でも受けたのか。
それとも・・・・・・

二人の死に際(シチュエーション)のイメージが、俺の頭の中でグルグル回る。
朝比奈さんも、妹も、最後は苦しみながら助けを求めていた・・・・・・そんな気がしてならない。
もしくは、七代まで祟るくらい俺を恨みながら死んでいった気もする・・・・・・

二人の死を想像すればするほど、俺はなんだか泣きたくなってきた。
この感情を抑えるのは無理だ・・・・・・でも−−

−−−−−−−−−−−

398パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:13:05 ID:YrRABrO.

「そんな・・・・・・サツキもゲンキも死んでしまったなんて・・・・・・」

それが、放送が終わった直後のウォーズマンの悲壮感に満ちた感想である。
自分が不甲斐ないばかりに幼いメイがマスクの男に殺され、今度は姉のサツキまで何者かに殺されてしまった。
また、死にいく少女に頼まれた仲間の一人、ゲンキも死んだしまった。
自分の目の届かない所で起こった事とはいえ、責任感の強いウォーズマンがコレを悔やまないハズはない。

「済まない・・・・・・
君達の大切な者すら守ってやれなかった・・・・・・」

彼が機械超人でなければその二つの眼から涙を流していたかもしれない。
代わりに、拳をミシミシとヒビが入りかけるほど力強く・硬く握りしめ、自分の情けなさと殺し合いに乗った者への怒りで震えさせる。

スバルもまた、ウォーズマンと同じように悲しみや怒りを覚えている。
違いと言えば、眼からほろりと涙を流せる事だろう。
なのはやヴィヴィオ、ノーヴェやケロン軍人の面子が現時点で無事なのは確認できた。
だが、前の放送から今回の放送の間に、今までの倍近い人数が死んでしまった。
つまり、殺し合いの激化を意味している、それを殺し合いを止めようとしている彼女にとっては脅威に他ならない。
そして、善き人も悪しき人も含めた10人が死んでしまった・・・・・・
自分がもっと強ければ・上手く立ち回れば、その中から(その人物の善し悪しに関係なく)数人は助けられたかもしれない。
ウォーズマンと等しく正義感の強い彼女が、それを悔しくないわけがない。

彼女にはもう一つ大きな心配事があった。
放送を聞いてから石のように動かなくなっているキョンである。
妹の名前が放送で流れたからだろうか、あれからノーリアクションで立ち尽くす姿はかえって不気味である。
元は殺し合いに乗っていたとはいえ、やはり親しい者の死はショックだったのだろう。

(あたしも、ギン姉を失ったら、今のキョン君と同じ気持ちになるのかな・・・・・・)

自分の掛け替えのない姉・ギンガがナンバーズにさらわれた時、心が軋むようだった。
さらに誘拐された先で姉が命を落としていたら・・それ以上、スバルは想像できなかった、というより想像したくなかった。

399パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:13:56 ID:YrRABrO.
厳密には姉を喪失したわけではないが、スバルにはキョンの今の心境がわかるような気がしていたのである。
そんな彼女は、キョンにかける言葉が見つからず、ただただ動かない彼を見ているしかなかった。


『こんなに死人が出ているなんて・・・・・・』

昼になるまでデイバックの中にいたリインフォースは、スバル達と比べれば、この会場で活動していた時間が短い。
元々の仲間を除けば、知り合いも少ないため、面識が無い相手にはスバル達ほどの悲しみを抱けない。
しかし何も感じていないわけではなく、少なくともこの殺し合いへの嫌悪はスバル・ウォーズマンのそれと変わりない。

『それにあの人は他人どころか、自分の娘が死んで何も思わないんですか!』

そして、人を人とは思わない主催者を憎む気持ちも同じである。
キョンいわく迫力に欠けてはいるが、間違いなく彼女は怒りを顕にしていた。
その怒りには、口には出さないもののウォーズマンもスバルも同意見だった。


『・・・・・・そろそろ行動を再開しましょう。
より早く行動する事によって救える命はあるはずです』

状況を切り上げるに提案したのは、完全な機械であるレイジングハートである。

デバイスである彼女には、涙を流す事も怒る事もできないが、機械だからこそ、より効率的かつ冷静なアドバイスをする事ができる。
悲しみも怒りも顕す事はできなくとも、持ち主たちを全力でサポートする事が彼女なりの誠意なのだ。

「レイジングハート・・・・・・そうだね、立ち止まってる暇は無いね」
「いつまでも悲しみや悔やみを引きずっている暇があるくらいなら、一人でも多くの命を助けるために尽力しろ、という事だな?」
『わかってくれましたか、スバル。
その通りですMrウォーズマン』

レイジングハートの言葉に、スバルもウォーズマンも理解を示し、悲しみや悔やみや怒りを今は心の奥に留めておくことにした。

踏ん切りをつけた所で、ウォーズマンは次の立ち回りについて話そうとする。

400パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:16:13 ID:YrRABrO.
「今後の方針についてだが、神社でタママたちと合流する・・・・・・つもりだったが禁止エリアになってしまったな」

タママたちが禁止エリアになろうとしている神社にわざわざ留まっている・または近づこうとは思わないだろう。

「おそらく神社にはもういないと思って良いだろう、だから二人と合流しやすくするために次に行く所を決めて−−
キョン、聞いているのか?」
「・・・・・・キョン君?」

いまだ棒立ち状態のキョンが目につき、ウォーズマンは話を中断して話しかける。
スバルも心配そうにキョンに目をやる。

二人に見られていても放心状態なのか、やはり無反応なキョン。
そんな彼に痺れを切らしたリインは叱咤する。

『もう!
なんとか言ってください!
それでもし、何かを良からぬ事を企んでいるなら口約通り容赦無く・・・・・・』

リインはスバル、ウォーズマンと比べれば、明らかにキョンを信頼してない様子だ。
その証拠に、いつでも魔法攻撃ができる事を見せつけて威嚇する。

「やめてください空曹長」
『ちょっと、スバル!』

威嚇するリインの小さな身体を押しのけて、威嚇されても動く様子を見せないキョンにスバルは近寄って諭すように話しかける。
いちおう、キョンがいきなりスバルに襲いかからないように、ウォーズマンとリインは警戒し、レイジングハートもいつでも障壁を張れる準備をする。

401パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:18:06 ID:YrRABrO.

「言い辛いけど・・・・・・
キョン君が妹さんを失って悲しいのはわかる・・・・・・わかる気がするよ」
「・・・・・・」
「その・・・・・・私もフェイトさんやガルル中尉のような素晴らしい人たちを失って、ものすごく悲しかった。
ここでの出来事じゃないけど、ギン姉・・・・・・大切な姉さんをさらわれた時はとっても胸が痛かった」
「・・・・・・」

言葉を投げかけてもキョンは何も喋らない。
それでもスバルは更に気持ちを乗せて、諭し続ける。

「あなたは確かに人を殺し、誰かの大切な家族や誰かの大切な友達を奪ってきてしまった。
今キョン君が味わっている悲しみは、まさしく大切な人を奪われた悲しみだよ」
「・・・・・・」
「だからって、あなたが奪ったから大切な人を奪われても自業自得だから仕方ない・・・・・・とは私は思わない。
妹さんは死んで良いハズはなかったんだ」
「・・・・・・プッ」
「?」

今、キョンから声がはっせられた気がするが・・・・・・そうとは思いつつも、スバルは構わずに話を続ける。

「でも、キョン君がこの殺し合いから生き延びれば、罪を償っていけると思う。
法的な物はともかく、それがあなたの救いになれるハズだから」
「・・・・・・」
「だから、こんな所で立ち止まらないで!
悲しみに溺れないで、動いて、生きて、罪を償って、元の世界に帰ろうよ!
それがきっと・・・・・・殺してしまった人や、殺されてしまった掛け替えのないさ人たち・・・・・・何よりあなたのために−−」
「・・・・・・へへへ」
「!?」

とうとう、キョンが反応を示してくれた。
しかし、それは不適な笑い声によるものだった。
そして−−

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

キョンは奇声じみた不気味な笑い声を腹から大きく吐き出した。
その笑い声に驚いて後退るスバル、気味悪く思うリイン、怒るウォーズマン。

「なッ!?」
『うわぁ・・・・・・』
「何が可笑しい、キョン!!」

ウォーズマンの質問されたにも関わらず、キョンは腹を抱えて笑い続ける。

「アハハハハハ、ヒィヒィ、アハハハハハハハハ!」
「こ、こいつ!
自分の妹が死んでいるというのに!!」
『それにスバルが心を込めて励まそうとしていたのに、なんて奴ですか!』

402パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:20:15 ID:YrRABrO.
キョンの笑い声は、ウォーズマンとリインの二人の怒らせるには十分な要素になっていた。
それはもう、ショックで棒立ち状態になっていた方が可愛く思えたぐらいである。

一方で、スバルの反応は怒りではなく眼の瞳孔が開くほどの驚愕だった。
大切な人が死んだにも関わらず、大笑いしているキョン。
ずっと悲しんでいるのだと思っていたスバルにとっては裏切られた気分だ。
驚嘆するスバルの気持ちなどは尻目に、キョンは煽るように語りかけてくる。

「ハハハハ、アヒハハハハハハハハハヒハハハハハハハハ・・・・・・ゴホッ、ゴホッ・・・・・・ヒヒハハハハハハハハハハハ」
「・・・・・・?」

笑い過ぎてむせかえっても、尚笑い続けるキョンをスバルは理解できないだが同時に、彼女は彼に何かしらの違和感を感じてもいた。
他方で、ウォーズマンとリインはキョンへの怒りを高めている。

「いい加減にしろキョン!
おまえを励まそうとしたスバルはもちろん、それが死者が出た時に取る態度か!」
「待ってくれよウォーズマンさん、俺はただただ笑いたい気分なんだハハハハハハ。
また殺し合いに乗るってわけじゃないから別に良いだろ、これくらい?
それでも、気に入らないだけでアンタらは俺を殴るのか?
アハハハハハハヒハハハハハハハァハァハハハハハハハ」
『ようやく喋ったと思ったら・・・・・・この人って人は!』

いくら殺し合いには乗らないと言ってるとはいえ、死者やスバルのような人を侮辱するように嘲笑うキョンに対して、ウォーズマンたちはもう一度シメてやろうかと考え出していた。

「待って! 落ち着いて二人とも!」
「『スバル?』」

今にも手をあげそうな怒る二人を制したのは、スバルだった。
その彼女の顔は、さっきの驚きの表情から哀れみの表情へと変わっていた。
そして静かに語りかける。

「キョン君・・・・・・」
「なんだぁ?
俺に・・・・・・ヒヒヒ・・・・・・笑うなって言うのかよ?」

キョンは笑いつつ、他人を小馬鹿にした態度を取り続ける。
そんな態度や口ぶりにも構わず、スバルは真剣な眼差しで、優しく囁いた。

「泣いているのを、悲しんでいるのを、隠すために無理をして笑う必要はないんだよ・・・・・・」
「ハハハハハァハァ・・・・・・ハ?」

403パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:21:43 ID:YrRABrO.
言葉が耳に入った瞬間、キョンの笑い声がぱったりと止んだ。
スバルの後ろにウォーズマンとリインも、『キョンが泣いてるのを隠しているために笑っている』という言葉に疑問を浮かべる。

『スバル、どうしてこの人が無理をして笑っているとか思ったんですか?』
「・・・・・・根拠はありません。
ただ、無理をして笑ってるようにも見えた。
・・・・・・それだけです」

キョンは些か怒気を孕んだ口調でスバルの言葉を否定する。

「ハァ?
そんな曖昧な理由でか?
馬鹿らしい」
「そうだね・・・・・・だけど−−」

確かに、確信を得る証拠としては弱い。
それでもスバルは、キョンが悲報を聞いて笑ってられるような人間だとは思いたくなかったからこそ、問い掛ける。

「ひょっとしたら、君の纏っているガイバーのせいで泣くに泣けないんじゃないのかな?」
「!!」

スバルの言葉が図星だったのか、ピクリと反応するキョン。
ガイバーの装甲でわからないが、さぞ驚いた表情をしていたろう。
子供のように(子供で間違ってないが)。

「な、何言ってやがんだ!
その根拠もあるのかよ!」
「ただの勘だよ。
あたしがそう思っただけ」
「勘て・・・・・・」

スバルのあっさりとした解答にキョンは不満を感じつつ、呆れる。
そこへウォーズマンとリイン、そしてレイジングハートが横槍を入れる。

『女の勘って言うのは割と当たるもんなんですよ〜』
「茶化すなリインフォース。
だが、実際の所はどうなんだ?」
『我々も、もしくはMrキョンもそれほど把握してないでしょうし、詳しい原理は不明ですが、異世界の技術で涙を流せなくさせるような機能がついていてもおかしくありません。
具体的には余分な身体機能をカットしてしまう機能がついている可能性は考えられることです』
「こ、こいつら・・・・・・」

他の二人とデバイスもスバルに同調し始める。
特にレイジングハートの考えは的確だ。
キョンはとうとう観念し、自分の鎧を指差しながら真相を口にする。

「・・・・・・もういい、隠すのもめんどくさくなった。
おまえの言う通りだよ!
俺はコイツのせいで涙を流せねぇんだ!!」

ガイバーと融合中は、戦闘に不必要な臓器は全て無くなる。
涙腺も例外では無いだろう。

404パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:23:16 ID:YrRABrO.

「・・・・・・本当は泣きてえさ。
おまえらがいる前で女々しくオイオイ泣く気は無いが、ちょっとくらいでも涙を流したいさ。
−−それすらもできねえ。
泣きたい時に泣けないことがこんなに辛いなんて思ってもみなかったよ!!」

涙を流すことは精神的ストレスを軽減させる、生理現象の一つだ。
それができなくなったキョンは、元・平凡な少年には耐え難いストレスを発散できずにいる。
声を荒げて話すキョンの様子から、その精神的負荷がいかに深いかが伺える。
・・・・・・ガイバーユニットを外せば、身体が元に戻って涙は流せるが、既に周りの人間にユニットを脱げないことを教えてしまっている。
教えると何かと面倒になるからだ。
それより、外した所で自分がみっともなく泣いている恥ずかしい姿を三人に見られ、更なる精神負荷を招きそうなので、どちらにせよ脱ぐ気はなかった。

キョンが涙を流せないということを知ったウォーズマンとリインの瞳は怒りから哀れみに変わっていった。
彼らなりに怒鳴ったり罵ったりしたのが悪かったと思っているのだ。

「何十年と生きてきたが、おまえの気持ちまで読み切れなかった。
さっきはすまん、そんな事情があったのか」
『リインも、流石に言いすぎたと』
「・・・・・・なんだよおまえら、そんな目で俺を見るな!!
可哀相な奴として見られているみたいでムカつくんだよ!!」

キョンにとっては、三人の視線や態度が気に入らない模様だ。
そして今度は逆ギレである。
自分から、自身が泣いていた=悲しんでた事を告白していた。

「泣けない・・・・・・だから、笑ってごまかしでもしないと、気が狂いそうで仕方なかったんだよ・・・・・・だから笑ってたんだ」

それがついさっき、狂ったように笑っていた真意である。
別に何かが可笑しいわけではなく、精神の均衡が崩れておかしくならないために笑った。
涙を流せない分、笑い飛ばせば、血の繋がった妹と可愛い先輩を失ったショックを忘れられる・・・・・・
彼女たちを自分が間接的に殺した可能性があることすら忘れられる・・・・・・そんな気がしていたのだ。
それも、スバルをきっかけに暴かれてしまい、こうして逆上している始末だ。

405パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:24:02 ID:YrRABrO.

「男が泣きたいなんてぶざまだろ?
笑ってくれてももいいんだぜ。
むしろ、嘲笑ってくれた方が気が楽だ。
どうしたんだ? 笑えよ」

ヤケっぱちになっているキョンに対して、スバルはあくまで真剣な眼差しで応える。

「あたしは笑わない。
大切な人を失って涙を流したい人を笑う最低な真似は絶対にしない。
それに、悲しみから逃げたくて笑ってごまかそうとしていたのも責める気はない!」
「へへ、随分とヒロイズムな慰め方をしてくれるじゃないか・・・・・・
こんな何人も殺した男の味方をしてくれるのか、おまえは?」

卑屈になり、皮肉った言い方でキョンは言葉を返す。
それだけ彼の心は荒み、精神はグラついていた。
そうだとしても、スバルの彼に対する対応は変わる事はない。

「ええ、あたしは味方だよ。
もう一度殺し合いに乗らないよう見張るためだけあたしはいるんじゃない。
ここから生きて脱出させて、犯した罪を償わせて、それから元の世界にあなたを帰そうと思っている」
「どうだろうな・・・・・・もしもの場合は、みんなして俺を盾にして逃げるんじゃないのか?」
「そんなことをするわけなかろう。
むろん、スバルも俺もだ」
『あなたは信用ならない要注意人物ですが、同時に保護対象でもあるのでちゃんと守る時はちゃんと守るですぅ』
「チッ・・・・・・」

406パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:27:41 ID:YrRABrO.
偽善者同士で肩を持ちやがって−−などと、キョンは彼らを快く思えなかった。

「俺はもう心が折れそうなんだよ!
例え殺し合いに乗った因果応報だとしても、知りあ・・・・・・」

知り合いと言おうとした所で踏み止まる。
少しでも目の前の連中に情報を明かすべきではないとの判断だが、みくるとは何の関係は何もなかったかのように口に出せないことに、キョンは心を痛ませる。

「・・・・・・妹が死んじまったんだ!
おまえらにそいつの代わりはできるのか!?
できないよなぁ!!」

それは半ば本音であった。
修羅の道を突き進み、優勝を目指すと決めたが、妹と朝比奈みくるを失った悲しみはただの少年に過ぎなかったキョンには想像以上だった。
例え生き返ることが前提だとしてもだ。
そこへ、自分が雨蜘蛛を使って二人の殺しを依頼したことへの、自己嫌悪が上乗せされる。
キョンを襲うその悲しみと重圧は、殺し合いすら続行できなくなりそうなくらいに大きく、心を折りそうなのだ。

「・・・・・・私に妹さんの代わりはできない。
でも、折れそうなあなたの心を支える事はできる!
たとえ、二人には及ばなくても支えてあげる!」
「聖人みたいなをことを言って、おまえはそんなに偉いのかよ!!」

キョンは綺麗事を言い続けるスバルがいちいち気に入らなかった。
同時にそんな綺麗事を真剣な表情で力強く言う彼女に嫉妬も覚えていた。
そしてスバルがまた、言葉を力強く熱を持たせて、キョンがキライな綺麗事を口に出す。

「あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!」

その理想こそ、彼女の志。
この殺し合いに連れてこられる前なら、ただの甘ちゃんの戯れ事に過ぎなかったそれは、ある異星の軍人の仕業で、磨きかかり理想にまで押し上げられた。

キョンは今、初めてスバルの理想を聞いた。
その心境は−−

(こいつ・・・・・・ただの脳筋バカじゃねぇ。
バカの遥か上を行く善人(バカやろう)なのか!?)

−−もはや彼女のあまりの善人(バカ)っぷりに清々しさすら感じていた。

407パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:28:47 ID:YrRABrO.
次第に怒気が薄れて、気を抜けば、気を許してしまいそうなくらいに。
だんだん器がデカイのか、自分より幼いから綺麗事を平気で言えるのかわからなくなってきた。
もう優勝を目指すのも億劫になってきた弱気なキョンの信念が揺れる。
故に、ある意味での弱音を吐く。

「俺に・・・・・・やり直しがきくのか?」
「やり直せるさ。
泣いていたってことは、キョン君が人間性を残している証だよ。
あなただって、こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う。
だけど罪を償うには、このゲームの主催者たちを倒して、ここから生きて脱出しなきゃいけない、だから−−」

そう言うと、スバルは片手を差し出す。

「−−民間人であるあなたに戦えとは言わない。
でも、一緒に行こう、あたしたちと一緒に!」

そして、彼女は微笑んで言った。


キョンは思う。
『主催者たちを倒して、ここから脱出する』・・・・・・無理だ。
長門のバックには、常軌を逸した力を持つ情報統合思念体がいる。
おそらく、この殺し合いは情報統合思念体が観測か何かを目的に実行したものだ。
倒そうとしても、力の次元が違い過ぎて勝てる道理が見つからない。
第一、端末に過ぎない長門すら反則じみた戦闘力を持ち、それを目の当たりにしてもまだ戦おうと言うのか?
だが、そんな無茶な姿勢すらカッコよく見える自分がいる。

それに、『こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う』、あながち間違ってない気はする。
そこへ魔が刺し、ガイバーになり、結果的に守るつもりだったハルヒを殺めてしまった。
今思えば、殺し合いに乗ったのも、深く考えずに状況に流されてしまったせいでもあると思う。
ハルヒを殺した今は手遅れだが、スバルはそれすらも許してくれそうな気がしていた。

(・・・・・・もう疲れた。
本当に殺し合いに乗るのをやめてしまおうか。
そもそも、殺し合いを促進させようにも、頭を使ったりすることはそんなに得意じゃないんだ。
向いてないことをするよりは、流れに身を任せちまった方が、俺らしくていいかもしれない)

例え、主催者たちに勝てない前提でも良い。
スバルの手をとれば犯してしまった罪の全てが許される。
やらなくてはいけない事をやらなくていい気がする。

408パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:29:29 ID:YrRABrO.
肩に乗っている重荷を降ろして、気分が楽になれそうだ。
そんな気がしたから、キョンは無言でありながらも、スバルの手を取ろうと、ゆっくりと片手を向かわせる。

キョンの反応が、自身が求めていたものであった事に喜びを覚えるスバル。
ウォーズマンとリインも、あえてあまり口出ししなかったのは正解だと確信する。
何せ、二人はスバルほどキョンを信頼していなかったため、キョンにはスバルこそ適任だと思ったからだ。
結果的に、キョンの心を少しだけ開かせることができたのだろうか。
念のため、いつ襲われても良いように、三人とも気は許さず警戒は忘れてないが、キョンに心は許しはじめていた。



スバルとキョンの手が重なるまで、あと少し。
あと少しだった・・・・・・



−−−−−−−−−−−

409パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:31:17 ID:YrRABrO.

『キョン君、痛イヨ、助ケテ・・・・・・』
「ハッ!?」

キョンの正面、詳しくはスバルの背後からキョンの妹が現れた。
しかし、妹はいつもの妹ではなく、ミイラのように包帯で全身がグルグル巻きだ。
包帯の僅かな隙間から皮をひん剥かれたかのように肉が見え、そこから血が漏れて、包帯をところどころ赤く汚している。
助けを求め、いかにも苦しそうな姿をしていた・・・・・・

『ドウシテ私タチを売ッタンデスカ? キョン君・・・・・・』
「ひっ・・・・・・!」

次に現れたのはみくる。
何者かに『襲われた』のか、衣服があちこちはだけている。
ただそれだけでは無く、こめかみから鉛玉によって作られた風穴があり、そこからダラダラと血を垂れ流し、両目はそれぞれあらぬ方向を向いていた。
元の可愛い少女の顔を知っているキョンを戦慄させるには、過剰なインパクトだ。

そして、極めつけは彼女だった。

『許・・・・・・サナイ』
「う、うわああああ!!」

最後に現れた彼女は、裂かれた腹から片手でおさまりきらないほどの大量の臓物を剥き出しにし、口からは血へどを吐き、眼からは赤い涙を流している。

『イマサラ逃ゲルツモリナノ?
絶対ニ許サナイ・・・・・・!』

表情は元の輝く精悍な顔つきが崩れるくらいの憎悪。
その憎悪をキョンに向けていた彼女こそ、ハルヒである。

『助ケテクレナイナラ呪ワレロ・・・・・・ノロワレロォーーーッ!!!』

その憎悪に塗れた怒声は、キョンの顔を恐怖で引き攣らせ、一気に血の気を引かせる。

『キョン君、キョン君・・・・・・』
『汚サレタ、痛カッタ、苦シカッタ・・・・・・』
『死ネ、死ネェ!!』

辛み、恨み、憎しみ・・・・・・彼女たちのその全てを向けられ、恐怖を味わうキョンは確信する。

(ダメだ・・・・・・向かないとかそんな問題じゃなくて、俺はやらなくちゃいけないんだ。
引き返しちゃいけないんだ・・・・・・!)





ここで断っておくが、彼女たちは幽霊でもなんでもない、キョンの勝手なイメージで作られた被害妄想である。
だが、それを見たキョンには・・・・・・

−−−−−−−−−−−

410パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:32:33 ID:YrRABrO.

「う、うわああああ!!」

キョン君が声を跳ね上げて絶叫した。
まるで、何か怖いものでも見たかのように。
ウォーズマンさんも空曹長も驚き、顔をしかめて警戒する。
私は彼が心配になり、声をかける。

「どうしたのキョン君!?」
「お、俺に触るんじゃねぇ!!」

彼は怒鳴ると、握手を求めようとした私の手をぴしゃりと払った。
手の痛みは大したことはないけど、キョン君の視線が、私をすごく怖いものを見ているように感じる。
それはどうしてなの?

「怖がらないで!
いったい何をそんなに恐れているの?」
「うるせえメスゴリラ!」
『年頃の女の子をゴリラ呼ばわりするなんて!
なんてことを言うんですか!』
「空曹長はちょっと黙っててください・・・・・・」

わざとなのか素なのか、とりあえず空気を読まない発言をする空曹長を喋らせないようにさせておく。
それは置いておくとして、突然恐慌したキョン君は私たちから遠ざかるようにゆっくりと後ろに下がってゆく。
彼を逃がしたりするわけには行かない私たちも、警戒しながらキョン君へと近づいていく。

「本当にどうしたんだキョン!
いったい何を恐れている?」
「来るな・・・・・・俺に近寄るな!!」

混乱しているキョン君が手から高周波ブレードを抜き出す。
一度は全員が警戒レベルを上げた。
私も変身してバリアジャケットに身を包む。
だけど、キョン君自身は近づかれないように剣をぶんぶんと振り回すだけで、それ以上してくる様子が無い。
いわゆる錯乱状態にも見えた。
装甲の下の表情は恐怖で引き攣っていると予想づく。

「キョン君、落ち着いてよ!」
「嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!」
「なっ・・・・・・?」

なぜ、そんな事を言うのキョン君?
私たちの何かを恐れているのがわかるけど、それが何なのか私にはわからなかった・・・・・・
そんな中でキョン君は私に向けて叫ぶ。

「スバル・・・・・・
俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!」


吐き捨てるように言うと、彼はすぐに私たちに背を向けて駆け出した。

「逃げるつもりか!」
「キョン君・・・・・・仕方がない、バインド!」

仲良くなれるかもしれない相手に、手荒な真似は極力したくなかった。
だけど、今のあなたを逃がすわけには行かない。

411パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:33:59 ID:YrRABrO.
そこで魔法の捕縛錠、バインドを唱えた。
しかし・・・・・・生成されたバインドは逃げるキョン君を捕らえきる前に断ち消えてしまった。

「あれ?」
「なんだ、どうした?」
『消耗により、魔力のコントロールが効いてないよう模様です』

レイジングハートの的確な分析によって、バインドができない理由がわかった。
そこまであたしは消耗していたのか。

『ここはリインに任せてくださいです。
リングバインド!』

ろくにバインドもできないあたしの代わりに、空曹長が捕縛魔法を唱える。
それは見事にキョン君を捕らえることができた。

「がッ!?」
『よし、やりましたです!』

魔法の錠で両手両足を拘束され、地面に倒れるキョン君。
彼を捕まえたことによる活躍を喜ぶ空曹長。

「は、外れない!」
『リインのバインドは簡単には外れないですよ〜だ』

キョン君はもがくけど、バインドは力技では簡単には外れない。
だけど、喜ぶにはまだ早かった。

「・・・・・・だったらぶっ壊すまでだ!!」

キョン君はヘッドビームを放ち、右手のバインドに直接ビームを当てる。
ビームの威力がバインドの耐久力を上回り、手のバインドが破壊されて消滅する。

『し、しまったです!
頭にも武器があることを忘れてました!』

一つの失念により、キョン君に付け入る隙を与えてしまった空曹長は驚愕する。
破壊できる方法を知ったキョン君は矢継ぎ早に、ヘッドビームでバインドを破壊していき、ついに縛る物を全て取り払って立ち上がり、逃走を再開する。

「待ってキョン君!」
「逃がすわけにはいかん!」
『もう一度、リングバインドを!』

逃げだそうとする彼を、あたしとウォーズマンさんが取り押さえようとし、空曹長は再びバインドを試みる。

「来るんじゃねぇぇぇ!!」

あたしたちに捕まるまいと、キョン君はこちらに頭からのビームを乱射してきた。

「うわっ」
「避けろ!」
『ひぃぃぃ!』

あたしたちはそれぞれ、ビームを避けていく。
しかし、これでは思うように彼を捕まえにいくことができず、空曹長もバインドに集中できない。
キョン君はその隙に鬱蒼と生い茂る木々と草の雑木林の中へと飛び込む。

『あぁーー!
逃げられたぁ!?
バインド・・・・・・間に合わないです!』

412パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:37:11 ID:YrRABrO.

そうこうしている内にキョン君はどんどん私たちから距離を離していく。
アッという間に空曹長のバインドの効果範囲外に出てしまった。
まだ彼の背中が見える内に、私とウォーズマンさんは走って追いかけることにした。
走力には二人とも自信があった。
消耗はしていても、陸曹である私は走るのは得意だ。
キョン君との距離をぐんぐんと縮めていく。

「クソッ・・・・・・そうだ!」

それに気づいたキョン君は、何か思いついたのか、顔を空に向けてヘッドビームを放つ。
正確にはビームは、天へと伸びる木々の枝を狙って放っていた。
ビームが当たり、本体である木々から切断された大量の葉のついた枝が地面に落ち、私たちの行く手を阻むハードルになった。

「足止め!?」
「キョンの奴め、こんな時に知恵を回し追ってからに!」

ここは深い森。
木々の間が狭く、枝の塊によって阻まれた道は、塊を退かすか迂回しない限り通る事ができない。
生憎、あたしにもウォーズマンさんにも、塊をどかす技も道具も技術もない。
バインドも維持できなかったあたしが、空中に道を作って移動できるウィングロードも使えるかも怪しい。
迂回するしかなかった。
しかし、その先にもキョン君はいくつも同じ手の障害物を作り上げ、あたしたちの進行を阻んでいく。
やがて、夜の闇も手伝って見えない距離にまで差をつけられてしまった。

「しまった・・・・・・」
『まだ諦めないでください。
見た目ほど遠くへは行ってません。
距離、約30m前後。
このまま前進してください!』

デバイスであるレイジングハートの索敵能力が感知できる距離には、キョン君がいるようだ。
逃してキョン君をまた殺し合いをさせるわけにも、危険人物がウヨウヨいるこの島を一人で歩かせるわけにもいかない。
レイジングハートの索敵範囲にいる内に、絶対にキョン君を連れ戻してみせる!



・・・・・・それにしても、何をキョン君をあそこまで怖がらせてしまったの?

『嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!』
『俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!』

責める気は更々なかった。
だけど、あたしの何かが彼を傷つけてしまったのか、胸が痛くなる・・・・・・

−−−−−−−−−−−

413パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:38:31 ID:YrRABrO.

ただ、ひたすら走り、ビームで落とした枝の塊で障害物を作り、俺はあの女たちから必死に逃げていた。
後ろを振り向くと、あの女たちは見えなくなっていた。
逃げきれた・・・・・・?

「待てェー、キョン!」
「戻ってきてキョン君!」
『逃げないでください!』

・・・・・・いや、暗闇でよく見えないだけで数十mの差で追ってきてやがる。
こんなんじゃ逃げきれた内に入らねぇ!


もし、俺が普通だったら逃げるなんてことしなかっただろう。
元から奴らとは別れたかったが、ギュオーと合流するまでは我慢する予定だったんだ。
でも、そんな予定をご破算にしてまで、奴らから・・・・・・正確にはスバルから逃げたくなったんだ。
もはや、心の舵が効かなくなるぐらいの本能的なレベルで。
今、俺が逃げてるのは計算や打算があるわけじゃなくて、ただただ、どんな醜態を曝そうとも、あの女から離れたくてたまらないんだよ。



あの女と一緒に行けば、俺を救ってくれそうな気がした。
だが、それは精神的に弱った時に、甘い事を言われると、そっちに走りたくなる衝動的なものだ。
あの女の言う通り、この殺し合いを放棄してしまえば、俺はそれで楽かもしれない。
だがそれじゃあ、ハルヒや朝比奈さんや妹に、何もしなくなった俺は顔向けできなくなっちまうじゃねーか!
そんなんじゃ、きっとあの世で恨むだろうな、ハルヒたちは・・・・・・

−−痛イヨォ
−−苦シイ・・・・・・
−−呪ワレロ

ああ・・・・・・、思い出したくもないのに、さっき頭に浮かんだグロテスクなハルヒたちの姿が眼に浮かんじまう。
一瞬でも殺し合いに消極的になって、戦いから逃げる方に浮気しかけた俺を許してくれよ・・・・・・もうしないから。
だが、この殺し合いが終われば長門がきっと生き返してくれる。
そしたら、何事もなかったように皆が日常に帰ることができるんだよ。
そうなりゃ嬉しい限りだろ、ハルヒ、朝比奈さん、妹。
統合思念体にはそれを実現できる力を持ってるのを俺は知っているんだ。
俺がこの殺し合いをできるだけ早く終わらせるように動けば、その分だけハルヒたちは苦しい思いをしなくて済むんだ。
まぁ、死人に苦痛があるかはわからんけど。
俺が彼女たちを早く生き返らせたい気持ちは変わらない。

414パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:39:58 ID:YrRABrO.
だから・・・・・・だから・・・・・・、あんな姿で俺の前に出てこないでくれよ!



いつの間にか、死んだハルヒたちが恐怖の対象になりかけていた。
一秒でも早く生き返してくれと俺を恨みながらせがんでくる。
甘えるな・戦いを放棄するなと、頭の中の彼女たちが俺に警告してきやがる。
だから、俺はハルヒたちを恐怖の対象にしたくないためにスバルを恐れているんだ。
あの『ヤサシイ』女と一緒にいたら、目的も信念もハルヒとの約束も全部失っちまう、そしたら他が俺を許しても死んだハルヒたちが俺を許さない、今度は魂まで抜けるぞ。
言うなれば、あの女から逃げてるのは精神からの拒絶反応なんだ。
俺にあの女は毒なんだ。

ただ、今は本能と感情に従い逃げている。

もっと早く、もっと遠くへ!

その時の俺に、後のことはどうでもよくなっていた。
逃げる他は何も考えたくなかった。

れだけ喚き散らして醜態を曝そうともどうでもよかった。

今いる、この殺し合いの場についての危険性もすっかり忘れてた。
・・・・・・それがいけなかった。
あの女たちが見えないことで、完全に失念していた。
殺し合いに乗ってる奴に襲われる可能性を−−



ガシッと、何者かに俺の首根っこを後ろから鷲づかみにされ、やたらとゴツイ手で口も塞がれる。
俺は何者かに持ちあげられて、そのままどこかへと連行される。

「もがっ、もがが・・・・・・!?(な、なんだ・・・・・・!?)」

首を掴まれ、口を塞がれてるだけあって、呼吸が苦しい。
精一杯もがいてみるが、腕を外そうとしてもその力は万力のように強く、外れない。
しかも、後ろから掴まれてるから、メガスマッシャーもプレッシャーカノンもヘッドビームも使えない!

「・・・・・・!!」

後ろへと伸ばす事ができる両腕の高周波ブレードで反撃しようとするが、出した瞬間にバリアみたいなものにぶっかって二本ともバキリと折られちまった・・・・・・

「足掻くな」

それだけ言うと、首を掴んだまま尋常じゃない威力の膝蹴りを、俺の背中に寄越しやがった。

「ガ・・・ハ・・・・・・」

その蹴り一つで背骨がもっていかれそうになる。
叫ぼうにも呼吸がろくにできてないせいか、大きな声を出せない。
しかも、反撃も覚束ない俺を見て何者かは笑ってやがる。
・・・・・・万事休すだ。

−−−−−−−−−−−

415パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:40:37 ID:YrRABrO.

F‐5から出たギュオーは、さっそく何かから逃げるガイバーを発見した。
一瞬、ガイバーⅠのそれと見間違い兼ねないフォルムを持つそれは、よく眼を懲らせば細部が違うことに気づけた。
つまり、ノーヴェと同じく支給品としてガイバーユニットを渡され、ガイバーと化した参加者であるようだ。
そして、耳を澄ませば、聞き覚えのある男の声と、聞き覚えのない女の声。
どうやらウォーズマンはあのガイバーを追っているらしい。

これは念願のガイバーユニットを手に入れられるチャンスであり、急がねばウォーズマンたちの邪魔が入ってこのチャンスを逃してしまう。
ギュオーはすぐに行動に移った。

理由はわからないが、このガイバーはウォーズマンたちから逃げている。
しかし、後ろから追ってくるウォーズマンたち以外の警戒が無い。
それに気づいたギュオーは側面から背後に回り込み、ガイバーの首根っこと口を掴む。
ガイバーの武装はたいてい前面に出ている。
後ろから掴めば一部例外を除いて反撃手段が無くなってしまうのだ。
また、簡単に捕まえられ、捻りのない反撃をする所からして、ガイバーの中身は戦い慣れてない素人であることもわかった。
おぞましいゾアロードの姿をしたギュオーは笑う。
ちなみに、下手に気絶させるとガイバーの防衛本能が働いて面倒なことになるので、手加減をする必要がある。
そのため、普段なら簡単にできる、腕で首をへし折ることや顎を砕くこともせず、先に放った蹴りにも気絶しないギリギリの力でやったのである。
それでキョンは、ダメージを与えられつつも、気を失うことはなかった。

ウォーズマンに見つからないように、彼らの気配がする方向から離れるべくガイバーを手に持ったまま走る。
途中で騒がれても困るので、重力を纏った拳を背中に打ち込んで黙らせた。


ところで、ギュオーはガイバーユニットをどうやって手に入れるつもりなのか?
殖装者とユニットを分離する装置・リムーバーがあれば非常に簡単なのだが、それは今、ギュオーの手元には無い。
リムーバーが期待通りに誰かに支給されているとは限らないとギュオーは思っている。

では、他に殖装者とユニットを分離する方法は無いのか?

416パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:41:17 ID:YrRABrO.
それに対してのギュオーの答えは単純明解、『殖装者の殺害』である。
しかし、殖装者は身体をバラバラにされようとも、ユニットに強殖細胞が少しでも付着していれば復活する(主催者からの制限によりできないかもしれないが、復活できる可能性はゼロでもない)。
間違って何もかも灰にしてしまえばユニットが消失する。
さらに、周辺にはウォーズマンたちがいて、死体をうまく隠さないと後々厄介になりそうだ。

−−そこでギュオーは思いつく。

(禁止エリアに放り込んでみてはどうか?)

もうじき、この場所に近いF‐5は禁止エリアになる。
そこへこのガイバーを放り込めば、たちまち身体はLCLとやらになるだろう。
流石に液体と化した殖装者が復活できないハズの上、ユニットと分離できるかもしれない。
新しい首輪が手に入り、実際にこの眼でLCL化した者の姿を見る事ができ、一石三鳥という計画だ。
また、LCLをウォーズマンたちが発見したとしても、コイツが誤って禁止エリアに入ってしまったことにできる。
ウォーズマンに真意を悟られることもないという計算だ。

この計画を実行するためには、まずウォーズマンたちから離れることが前提だ。
見つからない距離にまで離れて、このガイバーを液体化させる!

そんなことを思いつつ、ふとギュオーはガイバーの顔を少しだけ見てみる。
詳細名簿で見た未来人・朝比奈みくるの友人・キョンのようだ。
朝比奈みくる及び未来の技術について聞き出そうと思ったが、恐慌状態とダメージでまともに会話できそうに無い。

元は戦闘力も技術力も無い役立たずであるし、ウォーズマンとも対立してるようだ。
やはり殺した方が約に立ちそうだ、とギュオーは思い、キョンの耳元で囁く。

「ふふふ、喜べ。
貴様のような冴えない男でも、私のために約に立てるのだ。
ガイバーユニットと首輪を私に捧げることでな」

417パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:43:28 ID:YrRABrO.

ドオンッ

「ん?」
「・・・・・・」

ギュオーが囁いた後に、キョンは彼の気づかぬ内にプレッシャーカノンを放っていた。
衝撃波が放たれた先にあるのは一本の大木−−ギュオーのすぐ目の前にあったものだ。

「ぬわあああああ!?」

そして、衝撃波により折られた大木はそのままギュオーに向かっていき、ズドォォンと大地が揺れる音を立ててギュオーを下敷きにした。
その際、キョンは運良くギュオーの腕から離脱できた。

前面にある武装では、後方にいるギュオーを攻撃できない。
キョンはそれを逆手に取り、周りにある木々に向けて攻撃し、折れた木を使って脱出しようとしたのだ。
これは、撃たれなければ武器を潰さなくても良いと侮っていたギュオーの失策である。
結果、ギュオーは大木の下敷きになり、キョンの首を掴んでいた手を離してしまう。
自分にのしかかる大木を怪力でどけようとしても、いかんせん俯せという体勢が悪すぎて、すぐにはどかせられない。

「お、おのれ・・・・・・」

ギュオーから解放されたキョンは、先に受けたダメージでフラフラになりながらも立ち上がる。
自分が咄嗟に思いついた策が功を成し、今度こそまともに反撃ができるようになった。

「こ、このやろぉ!」

相手がバリアを張れる事を知ったキョンは、敵を確実に仕留めるべく、胸の装甲を両方外して近距離から最高の火力を持つメガスマッシャーによる攻撃に移ろうとする。
両肺の球体にエネルギーが収束していく・・・・・・

(まずい!!)

ゾアロードであるギュオーでも、この距離・この耐性で両肺のメガスマッシャーを喰らえば、例え全力でバリアを張ったとしても蒸発させられる。
片肺のメガスマッシャーを喰らい、防ぎきれなかったことを覚えているギュオーだからこそ焦った。

「私を舐めるなぁ!!」

そうはさせまいと、ギュオーは大木から片腕を抜き出して、重力波を放つ。

そして、キョンの身体が後方に吹き飛ばされ、その時の重力攻撃によって両方の球体にヒビが入った。

一度溜め込んだ莫大なエネルギーは、元に戻す事はできない。
方法はあったとしてもその術をキョンは知らない。
エネルギーを解き放つ機構であった球体は壊された。
それは故障した銃と同じであり、そんな銃の引き金を引いてしまったら最後・・・・・・

418パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:44:17 ID:YrRABrO.



そこへスバルたちが草を掻き分けて現れる。

「キョン君!」

スバルがキョンの名前を呼んだ時を同じくして、メガスマッシャーは暴発した。
発射機構である球体の破損、それによる収束されたエネルギーの暴走、・・・・・・爆発。



それなりの距離があったスバルたちへの影響は爆発による突風を喰らう程度で済んだ。
ギュオーはバリアを張って難を逃れ、自身を下敷きにしていた大木は軽く吹っ飛ばされた。
しかし、爆心地となったキョンは爆発の中で体中をちぎられていき・・・・・・



それが哀れな道化の末路だった。

419パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:48:55 ID:YrRABrO.


−−時間を別の視点から少しばかり巻き戻す。

キョンを追う三人の男女。
その途中で何かを察知したレイジングハートが報告する。
暗闇と雑木林で視界が悪い世界でキョンの動向を探るには、彼女の報告が頼りだった。
ギュオーには彼らが、こんな高性能なAIと索敵能力を持つデバイスを所持してることは知らないだろう。
レイジングハートには、キョンとギュオーの動向はある程度までサーチできていた。

『Mrキョンの近くにもう一つの生命反応を察知しました』
「生命反応? 他に誰かがいるってこと?」

その反応こそギュオーであるが、この時点の彼女たちは知らない。
さらにレイジングハートはリアルタイムで報告を続ける。

『待ってください・・・・・・!
エネルギー反応を感知。
Mrキョンと何者かが戦闘をしている可能性があります!』
「戦闘、まさかキョン君が・・・・・・!」

スバルは焦る。
戦闘と聞いて思いあたる節は、恐慌状態のキョンが何者かに襲いかかったか、逆に何者かにキョンが襲われているか。
今のキョンでは、何をするかわからないし、何をされるかわからない。
止める意味でも守る意味でも、早く保護しなければ・・だが、状況は次々と変化していく。

『・・・・・・?
Mrキョンと何者かが急速に我々の方から離れていきます。
速度は先程までより若干早く、このままではすぐに私の索敵範囲外へ離脱してしまいます』
「・・・・・・急ごう。
スバル、俺はペースを上げるが、君はまだ走れるか?」
「ハイ!」

報告を受け、キョンを追って走る速度を早めるウォーズマンとスバル。
進んだ先には、刃のカケラ−−折れた高周波ブレードが落ちていた。
それが三人の不安を加速させる。

『スバル、あれを見て!』
「あれはキョン君の!?」
「嫌な予感がする。
キョンの奴はいったい・・・・・・」

追跡しつつ、不安を募らせていく三人。
その中で、数十m先の何かが崩れて倒れるのが見えた。

「あそこにキョン君がいる!」

スバルたちは、戦闘が起きてるであろう方向へ向けて駆け出す。

「このやろぉ!」
「私を舐めるな!!」


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