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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

188痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s:2009/05/27(水) 00:31:46 ID:YrRABrO.

一方、その頃。
二体の怪物が戦っている隙に、喫茶店から逃げ出した夏子とハムは、市街地を駆け足で北上していた。
南は悪魔将軍、西は火事と危険人物と思わしきものたちが多数。
逃げられるのは北方面ぐらいなものだった。

突拍子もない出来事の連続で、夏子の頭はろくに働かなかった。
彼らの予測を越えた力を目の当たりにして、ただ夏子は愕然とし、無力なまま何もできなかった・・・・・・
逃走を提案したのも冷静な判断を下せたハムであり、自分は結局、なし崩し的に動いていたに過ぎない。
それが夏子には何より悔しくたまらなかった・・・・・・

「・・・・・・夏子さん。
泣いているのですか?」

夏子の前方を走るハムが振り返り話しかける。
夏子が泣いているとハムが思ったのは耳に二人の足音の他に、鼻をすするような音がしたからだ。
しかし夏子はそれを一言で否定する。

「・・・・・・泣いてない」
「そうですか」

ハムはそれ以上、追求せずに前に向き直った。
とにかく、あの二体の怪物から逃げる事に専念する。


夏子は泣いていないと言ったが、本当は半ベソをかいていた。
涙はなんとか眼の中に押し止めているが、鼻水を抑えている鼻は真っ赤である。

(悪魔将軍の時と同じようにまったく歯が立たなかった・・・・・・
私は何がしたかったのよ!?)

心の中で、自分を罵る夏子。
責任感とプライドが高い夏子は、無力で何もできなかったという事に、強い自己嫌悪を抱いていた。
さらに、集まる予定だった公民館は既に火に包まれ、思い通りに集まる事はできなくなってしまった。
そのことからの焦りが、自己嫌悪を加速させる。

(深町晶を甘いヤツだと言っておきながら、このザマよ。
私だって大概甘いじゃない・・・・・・)

急に自分が、いつもよりちっぽけな人間に思えてきた。
故により一層、力への渇望が強くなる。

(本当に・・・・・・力が欲しい。
どんな怪物にも負けない力が欲しい!)

今日ほど、彼女が力を求めた日はないだろう。
それぐらいに、自分の無力が許せなかった。

(力さえあったら、朝比奈さんもシンジ君を守ることだって!
この殺しあいから生きて帰ることだって・・・・・・!!)

その時の彼女は、ただただ力を求めていた。
力を持つことこそが、仲間や自分を守るための最良の手段にも思えた。
もっとも、心の中でたらればを吐いているだけとも言えるのだが・・・・・・

189痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s:2009/05/27(水) 00:32:41 ID:YrRABrO.

夏子は気づいけなかっただろう。
自分が半ベソをかきながら走っている前方で、賢い野兎が厳しい顔をしていたのを。

彼女には走る野兎の後ろ姿しか見えない。
野兎は後ろを見なくとも、彼女のだいたいの心境を把握できていた。

ハムはとにかく、厳しい顔をしていたが、それだけでは彼が何を考えているのかを読み取れない。



一人と一匹が疾走するさなかに、放送が始まる。
そして、彼女らに限ったわけではないが、残酷な知らせと未来も待っている・・・・・・

190痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s:2009/05/27(水) 00:35:31 ID:YrRABrO.
【B-7 市街地(北方面)/一日目・夕方(放送直前)】


【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(微少)、無力感
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、怪物(アプトム、ゼクトール)から逃げる。
2、シンジとみくるに対して申し訳ない気持ち。みくるのことが心配。
3、万太郎と合流したいが、公民館が燃えてしまった・・
4、ハムを少し警戒。
5、シンジの知り合い(特にアスカ)に会ったらシンジのことを頼みたい。
6、力への渇望。
7、水野灌太と会ったら−−−−
8、シンジに会ったら、ケジメをつける

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、アプトム(名称未確認)、ゼクトール(名称未確認)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。

191痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s:2009/05/27(水) 00:37:22 ID:YrRABrO.

【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】健康
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、???
2、夏子に同行する。
3、万太郎と合流するつもりが、公民館が燃えてしまっている・・
4、シンジの知り合い(特にアスカ)を探し彼の説得と保護を依頼する。
5、殺し合いについては・・・・・・。

【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、アプトム(名称未確認)、ゼクトール(名称未確認)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※スタンスは次のかたにお任せします。仲間集めはあくまで生存率アップのためです。

192 ◆igHRJuEN0s:2009/05/27(水) 00:40:15 ID:YrRABrO.
以上で仮投下を終了いたします。
矛盾や指摘があれば受け付けます。

タイトル「痛快娯楽復讐劇」の元ネタは、
TVアニメ「ガン×ソード」のキャッチコピーから。

193 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 22:56:51 ID:7QWhozu2
さるさんです・・・
続きはこちらに落としますのでどなたか転載おねがいします

194 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 22:57:48 ID:7QWhozu2

「だから、この首輪をそのまま埋めてしまうわけにはいかないんですよ」

「む、むぅ。だったら……だったら仕方ないのう……。たくさんの人の命が懸かっとるかもしれんのじゃから。
……なら、はやくしてやってくれ。」

1秒だってこの酷い地上にいさせてやりたくない。そう思いながらシンジの遺体を地面に横たえ、その前をゼロスに譲ろうとする。

「いえ、これはスグルさん、あなたにしてもらいましょう。」
「何ィーーーッ!?」

背を向けようとしていた体を思いっきり反転させる。

「わ、私はその子に本当に謝っても謝りきれんようなことをしてしまったんじゃ!これ以上、これ以上その子に酷いことをするなんて……」
「だから、あなたがするんです。この子はあなたが近づいていっただけで心が耐えきれなくなるほどひどい目にあってきたんですよ。
さっきの人の話からもたぶんひどい目に遭わされたのはひとりやふたりじゃないでしょうねぇ。怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ。
今はもう死体とはいえこの子にひどいことをする人間が増えるのは申し訳ないと思いませんか?」
「グ、グムー……っ!!し、しかし!」

苦渋の表情でうなるキン肉マンに畳み掛けるようにことばを続ける。

195 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 22:58:46 ID:7QWhozu2

「それにね、あなたはこの子のことをしっかりと覚えててやるべきじゃないかなーなんて思うんです」
「覚えてて、やる?」
「言ってませんでしたが、僕はこの子の前に一人、すでに目の前で死ぬのを見てるんです。
一緒にいる間ずいぶんとツライ思いをさせましたし、最後は熱い火に焼かれて死んでしました」
「なんと……ゼロス君」
「けど僕は、あの人が負った背中の傷も苦悶の表情も感情も全部覚えています。忘れられるものじゃありませんね。」

そう、あんな甘美な感情は。

キン肉マンは立ち尽くしたまま悲痛な表情をゼロスに向ける。
ゼロスは一転、口調をもとの軽い調子に戻す。

「個人的意見からいうと、本当はどちらでもいいんですよ」
(首輪が手に入れば多分誰かが解析できますしねぇ。誰のものでもかまいませんし。)
「あなたの意思を尊重します。」


スグルはゆっくりと噛み締めるように目をとじた。










西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

196 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 22:59:58 ID:7QWhozu2

血と土にまみれた手で持つ首輪の裏側に刻んであるのは少年の名前。
その名をゆっくりとなぞりながら、こんなものからではなく本人からその声で名前を聞きたかったと、強くそう思った。

「Shinji Ikari……シンジ君、君がその命をなげ出したことで、私はこのバトルロワイアルの戦いでやるべきことを教えられたよ」

先ほど己が手でかぶせた土の山に目線をうつしてさらに独白は続く。

「私の目の前で起こる悲劇は君を最後にしたい。そして愛と平和、笑顔の溢れる世界を守りたい」

スグルは首輪を握りしめたまま墓の前にひざまずいた。

「だからこの悪趣味な戦いを終わらせられたらもういちど……もういちど君にあやまらせてほしい」

そう言った後、スグルは頭を垂れて少しだけ、すこしだけ泣いた。





墓の前で死者に語りかけるスグルを見ながらゼロスは思考を巡らせていた。


いやー、今回の説得はすこし骨が折れましたね。

あの手のひとを立ち直らせるのには怒らせるのが手っ取り早いとはいえ、そのあと首輪を手に入れるまでにだいぶ無駄話をしてしまいました。
ちょっとしゃべりすぎましたかね。
でもまぁ僕は嘘をついてませんよ。言ってないことがたくさんあるだけです。

けどスグルさんに首輪の回収をさせたのは正解でしたね。
この罪悪感があるかぎり、いろいろとうまく仕向けられるでしょう。
スグルさんが、ここでは敵を倒すことが殺すことに直結してるのを理解してるのかは疑問なんですけど、まぁそれはいいでしょう。







西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

197 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 23:00:29 ID:7QWhozu2


そういえばそろそろ放送の時間ですね。
スグルさんは森の中にいるせいで気づいてないようですけど北の方で大乱闘があったみたいですし、だいぶ人が減ったかもしれませんね。
知識ある者とセイギノミカタが生き残っていてくれればいいんですが、どうでしょうかねぇ。

この後の方針も考えたいところですし、とりあえずは放送を待ちましょうか。

しかしゲンキさんといい、スグルさんといい、僕はいったい何人のセイギノミカタを励まさなくちゃいけないんでしょうか。

そんなことを思いながらゼロスは空を見上げた。
向きの変わった風が死のにおいを運んでくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうすぐ闇がやってくる。

198 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 23:01:30 ID:7QWhozu2






【E-4 森林地帯/一日目・夕方放送直前】
【ゼロス@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】絶好調
【持ち物】デイパック(支給品一式(地図一枚紛失))×2、草壁タツオの原稿@となりのトトロ
【思考】
0:首輪を手に入れ解析するとともに、解除に役立つ人材を探す
1:放送を聞く
2:A.T.フィールドやLCLなどの言葉に詳しい人を見つけたい。
3:悪魔将軍の元へ行くか朝倉と合流するかをスグルと話し合う。
4:ゲンキとヴィヴィオとスグルの力に興味。
5:ヴィヴィオの力の詳細を知りたい。
6:セイギノミカタを増やす。 

 
【キン肉スグル@キン肉マン】
【状態】脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック
【持ち物】ディパック(支給品一式)×4、タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、
     ホリィの短剣@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、金属バット@現実、100円玉@現実、不明支給品0〜1
【思考】
0:悪を倒して一般人を守る
1:ゼロスと協力する。
2:学校へ行って朝倉とヴィヴィオと合流する。
3:ウォーズマンと再会したい
4:キン肉万太郎を探し出してとっちめる
5:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
6:シンジのことは忘れない

※砂ぼうずの名前をまだ知りません。

199 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 23:03:37 ID:7QWhozu2
以上です。申し訳ありませんが代理投下をお願いしますです。

あと今更うっかりに気づきました
>>196

西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

は抜いてください

200 ◆MADuPlCzP6:2009/05/28(木) 23:11:59 ID:7QWhozu2
タイトルは

魔族は嘘をつきません

です

201もふもふーな名無しさん:2009/05/28(木) 23:16:34 ID:eK9xEQBk
>>◆MADuPlCzP6氏
本スレへ転載させていただいた者ですが、>>199までは投稿できましたが>>200は規制されました…
すいませんが>>200はまた別のどなたかお願いしますー

202スープになっちゃいました:スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

203もふもふーな名無しさん:2009/05/30(土) 00:07:31 ID:L7g3hoig
夢は叶います。
私はほんの小さなころ、お父さんとお母さんにそう教わりました。
私がいい子でいて頑張りさえすれば、私の願いはなんだって叶えられるんだって。

でも、今の私はちゃんと知ってます。
本当は、叶わないこともあるんだってことくらい。
もう、それも分からないほど、子供じゃあないんです。

だって。
人の夢って書いて、儚いって読むのですから。
お兄ちゃんに教わりました。

それでも。
私の夢なんて、儚いものだったとしても。
それでも信じたい。
信じてみたい。

夢は叶うって。
奇跡は、きっと起こるって―――

信じていいかな?
本当に―――そうかな。

うん、そうだね、『    』
私、信じるよ。

まだ―――私は『しあわせ』になれるんだって。



『……くそっ』
『ま、まずいでありますよ、もっとスピードは出ないでありますか!?』
B−6地区。
かつては住宅地が広がっていたそこは今―――赤に包まれている。
赤色の正体は、炎。
膨大な量の炎が―――街を呑みこんでいた。
住宅地は炎により火柱を上げて燃え上がり、緑はところどころしか残されていない。
この中で気絶している人間がいたならば―――間違いなく命は助からないだろう。

しかし、『彼女』はまだ生きていた。
自らの武器であるナビ達の力によって。
『……これが限界だ!我慢しろ!……くそ、まずいな……』
思った以上に、事態は悪化していた。
炎は市街地全域を覆い尽くし、炎を縫って進むだけでも時間がかかる。
更に言うならば―――このシールド機能は、あと数十分しか持たないのである。
殺し合い下の制限で使用時間を6時間にまで抑えられた防衛型強化服は、じきに限界が来てしまうのだ。
それまでにここを抜け出せるか―――可能性は、五分五分―――いや、それ以下だろう。
地図上の一ブロックは縦横約1キロメートル。この移動方法で、この速度で、いったいその距離を進むのにどのくらいかかるというのか。
何せ、移動速度があまりにも遅い。
土をざりざりとこすりながら、少しずつ妹の体を動かすことしかできないのだから。
妹が意識さえ取り戻せば助かる確率は段違いに上がるのだが―――そんなことに期待はできない。
彼女が精神的に落ち、そして不安定だというのは彼らが一番良く知っていた。

『……中尉、あっちも通れないですぅ!』
タママの人格を持ったナビが声を上げたその先には、ごうごうと燃え上がる大木。
炎が高く宙まで伸びており、そのまま進めば妹の体は炎に焼かれてしまうことは明白だった。
『……くそ、避けるぞ!北に舵を取れ!』
『くーくっくく、しかし、北は行き止まりだぜ?どうするんだ?』
『北に向かえば海があるはずだ!さすがに海までくれば炎は途絶えているはず。……やるぞ!』
『イエッサー!』
妹の体は、ところどころ火傷を負っている。
シールドは確かに存在している。しかし、制限故か、それとも所有者である妹の意識がないからか、防御が完璧ではないのだ。
体に傷を負っても尚、妹は目を覚ますことはない―――このまま死んでしまってもおかしくない状態だといえた。
それでも、まだあきらめない。
少しずつでも進み続けること、それがナビ達にできる唯一のことだった。
『妹殿……負けてはいかんでありますよ……どうか……』

204笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:09:51 ID:L7g3hoig
すみません、↑もです。



そして、その願いは通じたのだろうか。

一時間ほど経った頃。
まだ制限時間こそ来ていないものの、妹の体力は限界に近く、このままでは火傷以前に脱水症状で死んでしまうのではないか、と思えた、その瀬戸際。
『……中尉!海、海が見えたでありますよ!』
緑のナビが、喜びの声を上げた。
彼に体があればその先の景色を指差し、飛び跳ねていただろうが、ナビの姿ではそれもかなわない。
悔やんでもどうにかなることではないのだが。
『よし、ここまで来たぞ、あと少しだ!』
これで、妹は助かるはずだ。
惣希望を持ち、進む。
そして、森を抜け、視界が開けたその先に待っていたのは―――
『……なっ!?』
『炎が……!?』
………………赤い、世界だった。
海が見えたことに気を取られた故の失態。

あと、もう少しだというのに。
数十メートル先には、砂浜が広がっているのが確認できるのに。
目の前に広がるのは、燃え盛る炎。
―――行き場がない。
緑が次々と枯れ、燃え尽きていく。
四方八方を囲まれてしまっていたのだ。
そして、それは次第に―――無抵抗な少女とナビへと触手を伸ばす。
逃げるためには、炎の中を正面突破する必要がある。
しかし、そんなことができるだろうか?
この妹の体調では―――先に喉がやられてしまう。
『そ、そんな、そんなことってないですう……』
それは、絶望を告げる合図だった。
背後に襲いかかる、炎。
その速度は、もはやカウントするまでもなく明らかだ。
……じきに、ここは炎に呑まれてしまう。
右も左も、赤一色。
妹の口から洩れるのは、弱弱しく乾いた息遣いのみ。
逃げ場は、もはやなかった。
せっかく、助かったと思ったのに。
もう少し、あと少しで水辺までたどり着くというのに―――
ナビの人格たちは、終わりを悟った。
『……そ、そんな……吾輩達は……もう終わりでありますか……?』
『せ、せっかくこの子を助けたのにあんまりですぅ!』
ここであきらめたくはないのに、浮かぶ選択肢にはろくなものがありはしない。
このまま、ここで終わるなんて―――
『……信じろ』
しかし、赤のナビだけは―――違っていた。
『な、何を信じろと言うのでありますか!だってこんな―――』
『このままじゃ、ただボクたちごと焼け死ぬだけですぅ!』
『まだ助かる方法はある!妹が意識を取り戻しさえすればここから脱出できる!だからまだあきらめるな!』
『そ、そんな……そんなに上手くいくはず……』
『ああそうだ、そう上手くことが運ぶはずはない……しかし、そんなことを言うなら彼女が今まで生きていたことが奇跡なんだ。……もう一度くらい奇跡が起きることを祈って何の問題がある?』
『くーっくっくっく、まあ、賭けてみてもいいかもしれないなあ』
赤が、そう叫ぶ。
黄色が、笑う。
そして、残された二人は。
しばしの沈黙ののち―――ゆっくりと。

205笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:10:23 ID:L7g3hoig
『……そう、であります。……こんなところで……こんなところで妹殿を失う訳にはいかないでありますよ!』
『で、でも……仮に意識を取り戻したとして……この子は生きたいと思うかどうかわからないですぅ……あの状態じゃ、もしかしたら自殺したいって思うかも……』
『何を弱気なことを言っているでありますか二等兵!お前らしくもないでありますよ!』
緑のナビが、叱責する。
『で、でも―――ぐ、軍曹さあん……』
『ああそうだ、そう思うかもしれない。だがそれがどうした!
俺達は何のための人格だ!……あいつを説得することくらいはできるだろう!』
『……う、うう……』
この場にいる全ての人間は―――否、ナビは思っていた。
妹を救いたい、と。
自分たちは支給品であり、例え焼け焦げようとも本体が死ぬことはない。
しかし、妹は生身の人間―――防衛服の制限を迎えた時点で、おそらく命はないだろう。それ以前に、水分が枯渇して死ぬ方が先かもしれない。
救われる方法などほとんどない。それでも。
『……やるでありますよ。全員に告ぐ!妹殿の無事を祈り少しでも前へ進むであります!』
そんなことをしても、妹に届かないかもしれない。
そもそも彼らは、ただのナビにすぎない。
それでも。
無意味だとしても。
ほんのわずか、妹の体を動かす。
少しでも、炎から逃れようと―――抵抗し続ける。
それでも―――救いたかった。
この、あまりにも悲しい少女のことを。

彼らは知っていた。
壊れてしまう前の妹の様子を。
笑ってほしい。
ゲンキと一緒にいた頃のように、和やかに、穏やかに、華やかに、無邪気に、ただ。
赤が、迫る。
それでも尚―――彼らはシールドを展開し、まっすぐに進み続ける。
民家さえも薙ぎ倒す灼熱が彼らのところにたどりつくまで、あと―――



気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち、悪いよ。ゲンキ君。

私―――何でこんなところにいるんだろう。
何で、こんなふわふわしたところにいるんだろう。
もしかして、死んじゃったのかな?
あはは―――別に、いっか。
それでもいいよ。
だって、ゲンキ君のところに行けるなら。
それだけで、嬉しいよ。
アスカだって殺したんだ。もう死のう。
死んでも、いいよね。

もう、いいよ。
もう、――-疲れたよ。
だからもう、ゴールして……いいよね。

『だめよ!』
……あれ、誰?
どこかで、聞いたことがある声だ。
ゲンキ君?……ううん、違う、女の人だ。
これは……
『だめよ妹ちゃん……こんなところで、そんな悲しそうな顔で死ぬなんて、私は認めないわ!』

ハル……にゃん?
私の目の前にいたのは―――ハルにゃんだった。
あれ、おかしいな。ハルにゃんは死んだはずなのに。
あ、そっか。そうだよね。私も死んだんだった。だから関係ないんだよね。あはは。

『……』
ハルにゃんの顔は、哀しそうだった。
私のことを、じっと見つめている。

何で?何でそんな顔するの?
私、ハルにゃんがそんな顔してると悲しいよ。

もう、いいの。
もういいんだよ、ハルにゃん。
私、頑張ったよね?
アスカを殺したんだ。これで幸せなんだ。
ゲンキ君の仇をとったんだから、それでいいはずなんだよ。

『……妹ちゃん、一つ聞いてもいい?』
ハルにゃんが、私にそう言ってきた。
私はただ、何も考えずに頷く。
何を聞かれてもどうでもよかった。
だって、私はもう死んでるんだもん。

『……ゲンキ君に……会いたい?』
何で?
何で、そんなこと言うんだろう。
すぐにでも、会えるよ?
だって、私もすぐに死ぬもん。
その時に話すから。
だから、ハルにゃんはそんなこと考えなくていいんだ。
もう―――いいんだよ。

私は言った。
もういいよ、って。
どうせもう私も死ぬんだから、すぐに会えるんだよ、って。
でも言ってたから気づいた。
あ、そっか。
もしかしたら私―――死んでもゲンキ君に会えないかも。
あ、そうだ、きっと会えないや。
悲しいなあ。
だって私は、人殺しだもん。地獄に落ちるに決まってる。
アスカみたいな最低な奴さえ助けたゲンキ君なら、絶対に天国へ行くよね。
……あ、そうか……会えないんだ。

206笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:10:55 ID:L7g3hoig
仕方ないのかな。
だって、私はいけない子だもん。
ゲンキ君の復讐のために人を殺したんだから―――
このまま、ゲンキ君に会えずに一人で死んでいくんだ。

『そういうことじゃなくて……』
なのに。
ハルにゃんは、まだ私の目の前にいて。

……なんで?
なんで、そんなこと言うの?ハルにゃん。
……ううん、理由は分かってる。
私が悪い子だからだよね。
やっぱり、私が地獄に落ちちゃうから。
ハルにゃんは、私がアスカを殺したこと、知ってるんだね。
そうだよ、ちゃんと分かってる。
もう、私は―――ゲンキ君に会うことなんてできないんだ。

『違うわ。妹ちゃんは悪い子なんかじゃない。だからアスカのことは気にしなくていいのよ。私が聞きたいのは、』
ありがとう。
私をかばってくれるんだね。
でももういいんだ。
すごく、哀しいけど。
本当はすごく、すごく会いたいけど。
でも、しかたないよね。
だって私は、犯罪者なんだもん。
だから―――

『………………あああああああもう!妹ちゃんも人の話を聞きなさいっ!どうしてあんたたち兄妹は二人とも人の話を聞かないのよ!』
突然、ハルにゃんは大きな声を上げて髪を掻き毟った。
兄弟って……キョン君のことかな?
ハルにゃんは、キョン君ともここでお話したのかな。

『いい、妹ちゃん、よおく聞くのよ。いいわね?』
なんだかハルにゃんはちょっと怖い顔だった。
ごめんなさい、私が悪いんだよね。
でも、ゲンキ君の仇を討つためには仕方なく―――

『私は、聞いたのよ。……ゲンキ君に会いたい?って』
ゲンキ、君に。
今度は、ハルにゃんの質問をちゃんと聞いていた。
ゲンキ君に、会いたいか?
そんなの、当たり前だ。

―――会いたい。
―――会いたいよ。
でも、そんなの―――無理だよ。
私は人を殺しちゃった。
アスカを殺したら幸せになれると思ったのに―――私は今、全然幸せじゃない。
ただの、人殺しだよ。
そんな私が、ゲンキ君に会う資格なんて―――

『資格?そんなものいるわけないじゃない!だって、妹ちゃんは何も―――何も間違ってないわ』
ハルにゃん、そんなこと言ってくれなくてもいいよ。
だって、私は人殺しなんだ。
分かってる。
どうにも、ならないよ―――
私はこのまま、ただ死んじゃうだけなんだよ―――

『……そう、確かにアスカを殺したかもしれないわ。それは、いけないことよ。でも、それでも、誰も妹ちゃんを責めたり、しないから。だからどうでもいいなんて言わないで』
どうして。
どうして、ハルにゃんにそんなことが分かるの?
ハルにゃんは、私じゃないのに。
ただの―――キョン君の『お友達』……じゃない。

『……分かるのよ、私は』
なんで、どうして?
そんなの変だよ。
……それに、そうだ。さっきから、どうしてハルにゃんは私の気持ちを勝手に読み取ってるの?
私、何も口にしてなんかいない!
ハルにゃんは私じゃないんだから、勝手に人の心を覗かないでよ。
もう、私はどうでもいいんだから―――
もう私なんか、一人ぼっちで死んじゃったほうがいいんだ―――

『……いい加減にしなさい!』
ハルにゃんは―――今度こそ、大きな声で怒鳴った。
思わず、びくりとする。

207笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:11:34 ID:L7g3hoig
『……どうでもいいなんて、言わないでって言ったでしょ!?……私が聞いてるのはただ一つよ、ゲンキ君に会いたいの?資格なんてどうでもいい!ただ、会いたいかどうか、それを聞いてるのよ』
……そんな、めちゃくちゃだよ。
会いたいからって、そんな簡単に会えないよ。
私は、悪い子なんだから。
もう誰も、私を許してくれないよ。

『私がいいって言っているんだからいいのよ!他の人たちが何を言おうと、私は妹ちゃんの味方だからね!だから―――ちゃんと本当のこと言いなさい!貴方の口からね!』
むちゃくちゃだよ、ハルにゃん。
ハルにゃんが許してくれても、皆は許してくれないよ。
ハルにゃんが味方になってくれても、私はもう笑えないよ―――

でも。
でも―――
でも――――――

会いたいよ。
本当は、会いたいよ。
会いたいよ―――

「……あい、たいよ……」
それだけは、本当だ。
ハルにゃんの質問に私は―――それだけ答えた。

今度は、言葉になった。
声が、震えた。
「……会いたい、会いたい、会いたい……会いたいよっ!」
止まらない。
どうでもよかったはずなのに。
もう―――会えないだろうなあって思っていたはずなのに。
もう、死んじゃうって思っていたのに。
それなのに―――一度言葉にすると、何でだろう、止まらないよ……

「本当は!もっとお話したかった!もっと遊びたかった!こんな場所じゃないところで、ゲンキ君の仲間やハルにゃんたちと一緒に!楽しいことしたかったよ!!!
助けてくれてありがとう、ってまだ言い足りてないよ!私―――いつだってゲンキ君に助けられてばっかりだったのに、なのに、なのに―――何も、何もできなかったよお!」
本当は―――
本当は、分かってたんだ。
ゲンキ君が、私がアスカを殺すことなんて望んでいなかったことくらい。
だって、ゲンキ君はあのアスカを助けるような人なんだよ?
私が人殺しになるのを喜んだりするはずない。
だから―――私がアスカを殺しても、それはゲンキ君の仇を討ったことにはならないんだって。
アスカを殺して―――喜ぶのは私だけなんだ。
結局、私も全然嬉しくなかったんだけど。

だって―――
私は、今でもアスカのことを許せないけれど。
アスカなんて、死んじゃえって思っていたけど。
それでも。
殺したくは、なかったんだよ。
本当は―――アスカのことも殺したくなんかなかった!
当たり前だ。
だって、私は普通の女の子だったんだから。
人を殺したいだなんて思えるはずないよ。

それなのに、私は―――
もう、取り返しのつかないことをしてしまったんだ―――
ゲンキ君、私―――
悪い子だけど―――貴方に会いたいよ。

「……会いたい……会いたいよおおおおお!」
私―――どうして気付かなかったんだろう。
アスカを殺しても―――私も、ゲンキ君も、もちろんアスカも、誰も嬉しくないんだってことに。

……あれ、何で私、泣いてるんだろう?
喉はからからなのに、目から水は出るんだね。
「……う、うあ……ああ……ああああああああああああああ!」
どうしてかな。
もう―――何も思いつきもしないのに。
ただ、ゲンキ君に会いたいってことだけは―――はっきり分かるんだ。

208笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:12:16 ID:L7g3hoig

私、ね。
ちょっとだけ、キョン君の気持ちが分かった気がするんだ。
キョン君は、私を殺そうとしてきたよね?
私、それがすごく怖かったんだ。
普段は素直じゃないけど優しいキョン君が、私を殺そうとしてくるなんて、理解できなかった。
でも、ね。
今ならちょっとだけ、ううん―――すごく、よく分かる。
キョン君が、私を殺そうとした理由。
間違いない、って思えるよ。

キョン君はきっと―――ハルにゃんを救えなかったんだ。
私と、同じように。

何があったのかはよく分からないよ?
キョン君の目の前で、ハルにゃんが誰かに殺されてしまったのかもしれない。
ハルにゃんがゲンキ君みたいに、誰かからキョン君をかばったのかもしれない。
それとももしかしたら、もしかすれば―――キョン君がハルにゃんを殺しちゃったのかもしれない。
どれが正しいかは、私には分からない。
それでも、きっとそれだけは間違ってないはずだ。

だって、私とキョン君は―――兄弟なんだもん。
それくらい、分かるよ。
もう、子供じゃないもん。

妹舐めたら―――おしおきなんだからね。

『……そう言うと、思ってたわ』
ハルにゃんは、今度は笑っていた。
私の大好きな、明るくて自信満々の笑顔だった。
『ごめんね、強く言っちゃって。でも、今の妹ちゃんが見てられなくってね』
そう言って、私の頭を撫でる。
少しだけ、気持ちが落ち着いた。

『……そうよね、ゲンキ君に会いたいわよね。……でも、まだ早いわ』
ハルにゃんは、私の顔を真剣に見つめた。
こんな顔のハルにゃんは―――初めて見た。
「……早い……?」
だって、私はもう少しで死んじゃうのに―――

『……ううん、まだ死なない。今なら、まだ間に合うから。……だから、お願い。生きるのよ。絶対に。何があっても―――貴方はまだ生きなきゃ』
でも、生きててもゲンキ君に会えないよ。

『だからそんなことないってば。全然大丈夫よ。第一、ゲンキ君はそんな簡単に人を嫌いになるような子?』
違う。そうなら、アスカを助けたりしないよ。
ゲンキ君は優しくて、強くて、かっこいい男の子だもん。
そう、分かってるよ。
分かってるからこそ、私みたいな悪い子とは―――

『会えるわよ。これから妹ちゃんが頑張れば―――いつか会えるわ。……だってゲンキ君は―――』
ハルにゃんは、すっと私の左胸を指差し―――

『妹ちゃんの心の中にずっといるじゃない』

あ―――-
何かが、すっと溶けた。
そっと、左胸に手を伸ばす。
友達に比べて全然発育はしていないけれど―――それでも、聞こえる。
とくん、とくんという、規則的な音が。

ああ、そうか。
―――これが、ゲンキ君なんだね。
私の左胸にいる―――この音がゲンキ君の命の音なんだ。

『……そうよ、いつだってゲンキ君は、貴方の傍にいるの。だから、がんばって目を覚まして』
そうか。
そうなんだ。
ゲンキ君は―――私の中にいるんだ。
ゲンキ君は、私と一つになったんだ。
ゲンキ君は―――私なんだ。
そうなんだね?

私がここで死んだら―――ゲンキ君は、また死んじゃうんだ。

209笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:12:54 ID:L7g3hoig
『……』
ハルにゃんは、また何か言っていた。
でも、その言葉は聞こえない。
何を言っているのかは気になったけど……でも、いいや。
私は、――-決めた。

私―――
私、生きたい。
そして、ゲンキ君を今度こそ守りたい。

悪いこと、しちゃった。
分かってる。分かってるよ。
それでも、私は―――
死にたくない。死にたくないんだ。
ゲンキ君を死なせないために。

ゲンキ君、ごめんね。
私、もうこんなことしない。
これからは、がんばって生きる。
ゲンキ君は許してくれないかもしれないけど―――
それでも―――
今からでも、貴方を守りたい。

涙がこぼれた。
気づけば、私は泣いていた。
『ああ、そうだ、がんばるんだ、『   』』
ゲンキ君の声。
こんな状態じゃ、たぶん喋ることもできないと思うから、聞き間違いかもしれない。
もしかしたら、妄想かも。
それでも、いい。
だって、私は……

―――あはは。
私ったら、そっか。
そうだったんだ。
今更、気付いちゃったのか。
遅いなあ。
もう少し、早くから気付けばよかったのに。
―――ううん、それは違うかな。
気づいてたんだ。
気づいていたのに、気付いてなかったんだ。
だって、恥ずかしかったんだもん。

会って、ほんの少しの時間だったけど。
今なら、はっきりと言おう。
私は―――


―――私はゲンキ君が―――大好きだよ。

あ、……笑えた。
変だな、こんな場面なのに―――
なんだか体が熱いのに―――
私今、――-笑えている。

本当にありがとう、ハルにゃん―――とっても、嬉しい。
ハルにゃんのおかげで、私、分かったよ。
私が―――今から何をするべきなのか。
こんなところで死んでる場合じゃないって。
私が今度は、ゲンキ君を『生きて』助ける番だって。
本当にありがとう、ハルにゃん。
まるで、神様みたいだね。
ううん、もしかしたらキョン君たちにとっては本当に女神様だったのかな?
神様なハルにゃん―――うん、なんだか、すごくしっくりくるや。

「ねえ―――」
ハルにゃんは、まだそこにいるかな。
問いかけてみると、返事が返ってきた。
さっきより、声が少し小さくなった気もするけど。
『何、妹ちゃん?』
「……お願いが、あるの」
私は、もう大丈夫だよ。
もう、笑えるから。
もう、ちゃんとまっすぐに歩けるよ。
何があっても、もう道を間違えたりしないから。
ゲンキ君のために―――進むから。
だから、お願い。
「……キョン君が―――キョン君が、もし、もしね、」
人を殺そうとしているのなら。
「……止めてあげてほしいんだ」
怒られちゃうかな。
キョン君はお前が心配することじゃない、って言うかもしれない。
でも。
でもね。
それでも―――私には今のキョン君の気持ちが分かる気がするから。
大切な人が死んだ後の、どうしようもない気持ちっていうのが。

210笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:13:28 ID:L7g3hoig

『……』
ハルにゃんは、何も言わなくなった。
「……どうしたの?」
『……ま、……任せて』
あれ、なんかハルにゃんの様子が変だな。
もしかして、いけないこと頼んじゃった?
「……我儘かな」
『……そんなことないわ!分かった、私に任せて!
キョンは―――貴方のお兄ちゃんは私が何とかするから!』
ありがとう。
ありがとうね、ハルにゃん。
これで―――私も起きられるね?

私、生きるよ。
生きなくちゃ。
ゲンキ君のために。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。

……喉が、熱いなあ。
体中がからからする。
このままじゃ、死んじゃう。
水か何かを呑まないと、まずいかも。
嫌、死にたくない。死んじゃダメだ。
生きたい。生きたい。生きたい。
ゲンキ君、私、
生きたいよ―――!



そして―――少女は、……『生きたいと願った』。


熱い。
熱い、熱い、熱い。
早く、何か、冷たいものが欲しい。
このままじゃ。
私は―――ゲンキ君を殺してしまう―――



意識を取り戻した少女は、――-誰もが予想だにしたなかった行動に出た。
突然立ち上がり、――-真っ直ぐに費消したのだ。
向かう先は、…………ただ一直線。

否、その表現は少しばかり間違っていた。
彼女は、意識を取り戻してなどいない。
ただ、その生存本能が―――彼女の身体をひたすらに動かしていた。
全身を焼かれた体を癒す、水を。
―――生きなきゃ。
―――ゲンキ君のために生きなきゃ。
本能が告げる。
生きなければ、と。
瞳の裏の表情は、分からない。
しかし、その口元は―――笑っていた。
希望を見つけたことに対する喜びに。
そう―――彼女は、すでに壊れていたのかもしれない。
『佐倉ゲンキ』を失ったその瞬間から、彼女はすでに取り返しなどつかないところに来ていたのかもしれない。
そして、そのような状況下、夢で『生きる』ことを選択した彼女がとる行動は―――

211笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:14:04 ID:L7g3hoig

『飛び込む』。

襲う、冷たさ。
爽やかな冷気が―――妹の肌を刺す。

もし、強化服が制限時間に達していたとしたら。
妹はそもそも泳ぐことすらかなわず、こんなことにはならなかったかもしれない。
もしかしたら、そのまま溺れ死んでいたかもしれない。
もし、彼女が夢を見なかったなら。
彼女は絶望のまま、炎に呑まれていたかもしれない。
そんなことは―――ただの『if』にしかすぎない。
ここで語られるのは、妹が不安定な中自ら『選び取った』、『幸せ』なのだから。

『妹殿……で……あ……』
『こ……禁……死……』
『こ……だ、……すぅ……』
がやがやとした音が、妹の耳に飛び込んできた。
普段なら、それがナビの言葉だと、彼女は判断できるだろう。
しかし、今の妹には、そんなことを考えられる余裕がない。
早く、早く、早く。
ゲンキ君を、守るんだ。
今度こそ、私が、何とかして、ゲンキ君を―――

泳ぐ。泳ぐ。泳ぐ。
水を浴びるために、それほど長い距離を往く必要などどこにもない。
それでも、妹は、ひたすらに進み続ける。
更にその妹を励ますように―――波は妹の体を沖へ沖へと押し流していく。
(ああ、ゲンキ君が、頑張ってって言っている)
(ゲンキ君も、私に助けてほしいんだよね)
それを妹は―――危険視するどころか、幸せそうにほほ笑み。
(分かった、ゲンキ君―――もっと頑張って前に行こうか)
更に、その泳ぎを加速させる。

ある程度のところまで来たときだっただろうか。
『警告、キョンの妹の指定範囲外地域への侵入を確認。一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る 』
何かが、聞こえる。
しかし届かない、聞こえない。
ナビはすでに―――言葉を発しはしない。
いや、何か言っているのかもしれないが、妹には聞こえない。
もはや彼女の頭にあるのは―――『ゲンキのために生きること』だけ。

ゲンキ君。
待ってて。
私―――生きて見せるよ。
今はまだ体が熱いけど―――もう少ししたらすっきりするから。
だから、ね。
ちょっと、待ってて。
もうちょっと、がんばるから。

―――ああ、気持ちいいなあ。
すっごく気持ちいいよ、ゲンキ君。
ゲンキ君も気持ちいいかな?
……えへへ、なんだかこういうの、照れちゃうね。
私とゲンキ君は、今、一つなんだよね。
この『気持ちいい』って感覚も―――ゲンキ君と同じかな?
こんな気持ち―――初めてだよ。

あのね。
朝倉さんとヴィヴィオちゃんの言いたかったこと―――よく分かったよ。
朝倉さんが、私を怒った理由も分かった。
朝倉さんは―――私に生きてほしかったんだね。
今からでもゲンキ君を守れ、って言いたかったんだね。
何で、気付かなかったんだろう。
でも、今は分かったよ。
ハルにゃんが教えてくれた。

もう、ハルヒの声は聞こえない。
実にすがすがしい気分だった。

『10、9、8、7……』

ああもう、五月蠅いなあ。
私が今から頑張ろうとしているのに、邪魔しないでよ。
ねえ、ゲンキ君。
私、がんばるから。
だから―――これからも一緒にいてね。
私、今度こそゲンキ君を守るから。
だから、一緒に『いこう』?
一緒に、生きようね。

『ああ、当たり前だろ』

そうだね。
ありがとう、ゲンキ君―――

―――絶対、だからね。約束♪

『       』


『0』

海の一辺に、小さな水飛沫が上がった。

212笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:17:05 ID:L7g3hoig




A−6、そこに広がるのは紅い炎。
そこには、誰もいない。
だから、そこで何が起こったのか、誰にも分からない。
知っていた少女と動かない体に正義の意思を持ったヒーローは、既に文字通り海の藻屑、オレンジ色の液体と化してしまったから。

果たして、少女はこの殺し合いで何をなしたのか?
何を思い、何を考え、どのような苦しみを抱えていたのか。
どうして、火災がこれほどまでに市街地に広がったのか。
この状況だけを見たところで、一向に答えは出ない事ばかりだ。

しかし、それでも確かに一つ言えることは。

少女の命が消えるその瞬間―――幸せそうに笑っていたということだ。

憎しみに染まった笑顔でもなく。
不安を打ち消すための作り笑いでもなく。
心の底から『誰か』に向けた―――子供らしい純粋な笑顔を。
たとえ、それが心が壊れた後であったとしても。
彼女が死ぬその瞬間幸せだったということは―――誰にも否定できるものではないだろう。

そう、少女は、『幸せ』に、なったのだ。
自分の罪も、思いも全て乗り越えて―――誰よりも、幸福な存在に。

【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

※キョンの妹の支給品はA−6に放置されています。
焼けてしまったかどうかはわかりません。

213笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:17:52 ID:L7g3hoig











しかし、ここでこの物語は終わらない。
視点を、この殺し合いの観察者たる二人に移してみよう。



「……ふう、いやあ、キョン君は実に面白い参加者だねえ」
『その空間』に帰ってくるなり、草壁タツオは楽しそうにそう言った。
「彼のような人間には、もっと頑張って人を殺してもらいたいところだね。そう思うだろう、長門君?」
そして、いつの間にかそこにいた長門は、しかし何も答えない。
帰ってくるなりパソコンに向きなおり、何かの作業をしているようだった。
「……長門君、少しくらい休んだらどうだい?」
「……心配は要らない」
相も変わらず愛想もなくそう返す長門。
草壁タツオは、そんな長門の背中に視線を向け―――一言呟いた。
「……そうかい?それならいいんだけどねえ。
……それより、長門君。……一つ気になることがあってね」
長門はその言葉に、表情は変えずに振り向いた。
タツオは満足そうに、言葉をつなげる。
「実はね、さっきまでこのモニターの様子を見ていたんだよ。そしたらね……ところどころノイズのような……うん、どういえばいいのかな、僕は専門ではないからよく分からないけど……
……『何かが干渉したかのような痕跡』がね、残っていたんだ。」
長門が、何か呟いた気がした。
しかし、それは何も聞こえない。
「偶然だといいんだけど、とてもそうは思えなくてね―――」
タツオは天井まで埋め尽くされるように並んだモニターの前に立ち、そして指差した。
途端画面は切り替わり、誰も映っていなかったモニターに二つの人影が映し出される。
一人は、学生らしき茶髪の青年。
一人は、異形の姿をした『ガイバーⅢ』。
超能力者・古泉一樹と、戦闘機人・ノーヴェである。
「……一度目は、第一回放送の後。これが、はじまりだね。
地点は、F−8。時刻は朝。ネオ・ゼクトールが、ノーヴェの脳髄を叩きつぶした少し後だね。
……て、長門君にわざわざ説明するまでもなく分かるか。まあいいや、一応口に出しておくよ。
ノーヴェは殺されかけたことで過剰防衛反応に出、その際に襲いかかったのが古泉一樹だった。
そこでジ・エンドかとも思ったんだけど、結局ノーヴェは意識を覚醒させ、二人は協力してネオ・ゼクトールを撃退することに成功する。いやあ、少年漫画みたいだね!
……そう、そしてここからだよ。……わずかな異常があるのは」
タツオはそう言いながら、モニターのボタンを押した。
ピ、という音とともに画面が再生される。高性能なビデオのようなものらしい。
「……長門君、見てるかい?……まあ君のことだから既に知っているかもしれないけどね」
古泉が仮面を取り、ノーヴェが殖装を解除する。
そして二人が何度か言葉を交わした後―――『それ』は、起きた。

ザッ---―――

それは、ほんの短い時間だった。
鈍感な人間なら、見逃してもおかしくないくらいの、小さな違和感。
一瞬、ほんの一瞬間だけ―――画面が暗転したのだ。
そして、そのわずかな刹那のあとは、何事もなかったかのように画面は動き続けていた。
声が聞き取れない以上、何が起こっているのか分からないが―――ノーヴェの慌てた様子から判断するに、古泉が意識を失ったのだろう。

「…………分かるね?」
草壁タツオは、微笑を浮かべる。
「……これ、だよ。この、謎のブラックアウト。
ここだけなら、僕もそう気にしはしないさ。機械の調子が悪いなんてよくあることだからね。
でも、これと同じ事態が―――他に三か所も見られたんだ。
一度は二回放送後、高校で。
一度は、今から数十分前―――僕たちがいたリングから。
そしてもう一度は―――今、ついさっき。B−7の火災現場からだ」
草壁タツオは、滑らかに言葉を紡いでいく。
無言の長門を、置き去りにするようにして。
「一度ならともかく―――何回も。この場で気絶した人間のほとんど、と言っていいかもね。さすがにこれは何かあるって思わないかい?」
長門は、やはり何も言わない。
何も、言おうとはしない。
確かに長門は、常から無口で、多くを語る人物―――否、宇宙人ではない。
しかし、今の彼女は、普段すらしのぐほどに寡黙だった。

214長門有希は」 ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:19:07 ID:L7g3hoig
「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「他にも、若返った冬月コウゾウとか、佐倉ゲンキ―――ああ、もう彼は死んでしまったけどね、ヴィヴィオなどの参加者が気絶していたと思われる場面でも同じことが起こっている」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いじゃなくて、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいいよね、もうこんなことあってほしくないけど」
タツオはため息をつきながら画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。

「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。――-そうだろう?」
探るように。
問いただすように。

215長門有希は草壁タツオを前に沈黙する ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:19:49 ID:L7g3hoig
「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「他にも、若返った冬月コウゾウとか、佐倉ゲンキ―――ああ、もう彼は死んでしまったけどね、ヴィヴィオなどの参加者が気絶していたと思われる場面でも同じことが起こっている」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いじゃなくて、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいいよね、もうこんなことあってほしくないけど」
タツオはため息をつきながら画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。

「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。――-そうだろう?」
探るように。
問いただすように。

216長門有希は草壁タツオを前に沈黙する ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:20:34 ID:L7g3hoig
タツオは、笑顔のまま、長門に話題を振る。

長門は、無反応。
指一本すら、動かそうとしない。
タツオの言わんとしていることが、「分からない」訳でもないだろうに。

「たとえば―――『思ったことを現実に変える力の持ち主』、とかね」

―――まさか、君は涼宮ハルヒの『干渉』を予想していたのではないか?
そう、暗に問いかけるタツオ。
どう応えてほしかったのかは分からない。
頷いてほしかったのか、首を横に振ってほしかったのか。
そもそも、タツオに人の心が残っているのかすら―――分からないのだ。

「……証拠はない。……今のところ断定はできない」
長門は、ぽつりとそれだけ答えた。
ただ、機械的に。
自分の今の状況が理解できていないようにも思えるくらいに微動だにせずに。
草壁タツオが常に笑顔なのと同様に―――常なる無表情で。
「……今から調査は行っておく」

落ちる、沈黙。

かたかたと、窓が鳴る。
風が吹いている訳でもないのに―――そもそもここがどこなのかも判然としないのに―――何かが、外壁を叩きつけていた。
それはもしかしたら、長門の無言の圧力だったのかもしれない。

神妙な顔つきで長門を見つめていた草壁タツオは無言で立ち上がり、―――長門に歩み寄る。
爽やかな笑顔で。
「……うん、そうか、助かるよ。じゃあ後のことは長門君、君に任せようかな」
その答えに対して―――何も触れようとはしなかった。
「もうすぐ放送だからね。僕はそっちをやってくるから、後のことは君に頼むよ。くれぐれも、無理はしないように」
タツオはそう言いながら、するりと、長門の横を素通りした。
何もなかったかのように。
先ほどまで長門に向けていた疑惑など、全くなかったかのような、態度で。
部屋を出掛けたところでぴたりと立ち止まり、そしてドアノブに手をかけたまま、言う。
長門にしか届かないくらいの、小さな声で。
「僕たちは―――『共犯者』なんだからさ」

長門は、何も言わない。
無言で―――キーボードを高速で叩き始める。
タツオがその部屋を離れるのに、振り向きもせず。
その顔に浮かぶ本当の表情は、何色か。

バックアップが、反逆を誓った。
超能力者が、宣戦布告を行った。
『一般人』の少年が、救いを求めすがった。
『神』が、――-最期の瞬間まで信じ続けた。
それが、……この長門有希という少女なのだ。

「……」
何か、呟いたのかもしれない。
でも、それは聞こえない。
仲間たちも、タツオも、誰にも―――今の長門の声を聞ける者はいなかった。

217 ◆h6KpN01cDg:2009/05/30(土) 00:23:21 ID:L7g3hoig
以上です。
すみません、ミスしていました。
>>213からが「長門有希は草壁タツオを前に沈黙する」です。
そして>>214はミスなので>>213の次は>>215でお願いします。

……そしてこんなにややこしい状態なのに規制なのでどなたか問題なさそうでしたら代理投下お願いします。

どうして地元は田舎なんだ、新ハルヒが見れねeeeeeee!

218もふもふーな名無しさん:2009/05/30(土) 17:18:31 ID:zG04jV6w
さるさんになりました
誰か代わりにお願いします

219もふもふーな名無しさん:2009/05/30(土) 17:54:32 ID:qCfgI2s.
私もさるさんを喰らいました。どなたかお願いします。

220 ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:02:29 ID:YrRABrO.
それではこれより修正版を投下いたします。
修正をするのは>>174から先の部分です。
>>173までは同じでお願いします。

221痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:04:32 ID:YrRABrO.
『そうはさせん』

だが、それに気づいたネブラが攻撃を阻止すべく、触手を一本だけ先をナイフ状にし、レーザーを撃たれる前に横一閃する。

「なにぃ!?」

レーザー発射口が切り裂かれ、チャージされていたエネルギーが霧散する。
反撃は失敗に終わったのだ。

(ま、まだだぁ!!)

それでもゼクトールは諦めない。
執拗に攻めてくる触手を電撃で吹き飛ばそうと、体内でエネルギーをすぐにチャージする。
しかし、それも未遂に終わる。
電撃が体内から放たれるより先に、トドメと言わんばかりに、一際太い触手がゼクトールの頭に叩きつけられた!!

「ぐわあぁぁ・・・・・・!!」

ゼクトールの脳みそがシェイクされ巨大なハンマーで砕かれたような衝撃が襲う。
元からボロボロであり、ダメージを耐えてきた彼だが、ここでとうとう限界を超えてしまったらしい。
すーーーっとゼクトールの意識がブラックアウトしていく。

「おのれぇ・・・・・・アプト・・・・・・ム・・・・・・」

その言葉を最後に、ゼクトールは意識を手放し、その巨体が床に沈むことになる。

−−−−−−−−−−−

222痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:06:58 ID:YrRABrO.

数分前。
ゼクトールから逃れるべく、市街地で起きた火災による煙に紛れつつ、喫茶店へ逃げ込んだアプトム。
(ちなみに、逃げることに夢中でお目当てでもあったガイバーに気づけなかったようだ)
文字通りゼクトールを煙に撒き、見失なわせることができた。
しかし、それも一時的なもので、すぐにでも追ってくるだろうとアプトムは予感していた。
そこで、喫茶店の先客であった人間の女と、雰囲気からしてゾアノイドには見えない二足歩行の巨大野兎に自身を匿うように要求した。
もちろん唯ではなく、金貨の詰まった箱を代金として取引とした。
しかし、返ってきた反応は・・・・・・

「悪いけど、できないわ。
あなたを匿う気も、この箱を受け取る事も」

人間の女−夏子はアプトムに箱を返還し(余談だが、箱が返された時に野兎−ハムは、勿体ない、と惜しそうな顔をしていた)、銃口を向ける。

「あなたを信用するわけにはいかないわ。
即刻、でていかなかったら撃たせてもらうわよ」

厳しい顔をして、夏子は非常に濃い警戒の色を見せる。
交渉は決裂だった。

「そうか・・・・・・」


アプトムは諦めを思わせるような態度を取ると、その直後に片腕を伸ばして夏子の首を強引に掴み、圧迫する。

「がっ!? な、なにを・・・・・・!!」

突然の思わぬ攻撃に、夏子は焦燥する。
しかし、それでも軍人である夏子は反撃することは忘れず、手に持っていた拳銃の銃口をアプトムの額に向け引き金を引こうとする。
撃たれるよりも早く察知できたアプトムは、もう片方の腕を延ばして拳銃を奪い取る。
一瞬で攻撃手段を奪われてしまった夏子は唖然とする。

「馬鹿が!
こんな所で発砲すれば、奴を呼び込む事になるぞ!?」

アプトムは、火力の低い銃撃では簡単に死なないとは自覚しているが、問題なのは銃声でゼクトールが招きよせられてしまう事。
それを防ぐために夏子の拳銃を奪ったのだった。

「ハ、ハム!!」

武器を奪われた夏子はハムに助けを求めようとした。
しかし、返ってきたのは情けなく謝る彼の言葉と、喋るネコミミの報告。

223痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:07:50 ID:YrRABrO.

「す、すいません夏子さん。
助けたくとも助けられなくなってしまいました・・・・・・」
『飛び掛かろうとしたのか、逃げようとしたのかわからないが、何やら動きがありそうだったので無力化させてもらったまでだ』

夏子がハムを見ると、ハムはいつの間にやら彼女同様に捕縛されていた。
もっとも、ハムを縛りつけていたのはアプトムが頭に装着しているネブラであり、自身を変形させて大鎌の形状を作り、それをハムの首に当てていた。
その鎌の存在感は、何かすれば首と胴体をお別れさせると語っている。
そういう意味でハムは動けなくなっていた。
相変わらずの掴み所の無い飄々とした態度を取ってはいるが、心中は外見ほどの余裕は持っていない。

「め、面目ないです」
「くぅ・・・・・・」

こうして、一人と一匹はあっさりと無力化されてしまった。
夏子の絞殺刑準備とハムの斬首刑準備は、アプトムとネブラによって整った。
ハムは打つ手無しと諦めたのか、両手を上げて降参のポーズをする。
夏子は力の無さを余計に痛感し、悔しさで泣きたくなる気分を持っていた。
二つ分の生殺与奪を握ったアプトムは冷徹に言葉をかける。

「わかるか?
これが力の差というものだ。
首をへし折られるか、切り落とされるのが嫌なら俺に逆らわない方が懸命だぞ」

取引できないなら、強行手段により強引に従わせる。
それがアプトムのとった方法だった。
いくらダメージを負っていたとしても、銃に頼るようなヤワな人間なら捩伏せられる。
また、ダークレイス(おそらく人間以外)ならネブラも快く戦ってくれる。
そして、制圧は簡単に成功したのである。

「どうだ?
従う気になったか?」
「だ、だからといってあなたのような危険のある人物を近くに置くわけには−−がふっ」
「まだわからないのか?
この店に匿うだけで良いのに、なぜ嫌がる?」
「夏子さん!」

いまだに反抗の意思を持つ夏子の首を伸ばした身体でギリギリと締め付ける。
夏子は首を締め付ける腕を外そうともがくが、まったく外れる様子がない。

ある程度苦しめた所で、アプトムは腕の力を一時的に抜き、夏子は窒息から解放される。
首を締められたことにより、顔は充血で真っ赤だ。
「ゴホゴホ」とむせ返っているのは酸欠によるものである。

224痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:09:21 ID:YrRABrO.

今度は穏やかな口調でアプトムは夏子とハムに語りかける。

「おまえたちだって死にたくはないだろう? それは俺も一緒だ。
だが、徒党を組むなりしなければ、殺し合いを生き延びることは難しいだろう?
それはおまえたちとて同じハズだ」

アプトムの言う通り、夏子とハムの最低限度の目的は生き残ること。
そのためには優勝だろうと、脱出だろうと−−
少なくとも夏子は、シンジやみくるたちと徒党を組んだのも、優勝や脱出を目指すというより、生き延びる確率を上げるために徒党を組んでいたにすぎない・・・・・・最初の内は間違いなくそうだった。
つまり、アプトムは夏子たちと同じ考えを持っていたとも言える。
だが、どうしても、感情やら得体の知れなさによりアプトムを拒絶したくなるのだ。
夏子をその拒絶反応を睨みつける事で顕にする。
しかし、アプトムは至って涼しい顔をしていた。

「安心しろ。
今すぐとって喰おうとは思わん。
安易に殺して、情報などが手に入らなくなるのは痛いからな」
「よく言うわね。
こんなことをしておきながら・・・・・・」
「危機的に状況に陥れば誰だってこうするだろう。
立場と実力が逆だったら、きっとおまえたちもそうする」
「なるほど・・・・・・この仕打ちはあなたなりの手荒い交渉といった所ですか」
「そういうことだ」

何やら納得したハムに、ハムの解答を肯定するアプトム。

「あの・・・・・・そろそろ、この鎌を退けて欲しいのですが」
「返答は?」
「わ、我輩はあなたを匿うしかない・・・・・・いや、匿っても良いと思いますよ」

先に折れたのはハムだった。
どこか調子が良く、飄々とした言葉には抵抗の意思が見られない。
そんなハムを一度怒鳴る夏子。

「ハム!!」
「だって夏子さん!
この状況はどう見たって我輩たちに勝ち目はありませんぞ!!
彼の方が何枚か上手だったんですよ」

ハムもまた、弁解をする。
言っている事は正しい事であり、このまま逆らうものなら犬死に確実。
犬死にを避けるには、今だけでもアプトムに従うしかないのである。

夏子もそれは頭ではそれを理解している。
ただ、折れるということは負けるということ。
自身の力不足を感じている彼女には、辛酸を舐めさせられるという事だ。

225痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:11:49 ID:YrRABrO.
それでも例え辛かろうと、プライドに命は変えられない。
生き延びるためにはプライドを捨てることも、時には必要なのである。

「・・・・・・クソッ、仕方がないのね・・・・・・」
「よろしい」

結果、苦味を潰したような顔をしながらも、彼女も折れる事を宣言した。
それを聞いたアプトムは、これでゼクトールから逃れる事ができると、口を三日月にしてニヤリと笑う。
だが、その笑顔も、ネブラの報告により一瞬で掻き消える。

『奴が近づいてくるぞ、アプトム君』
「何ッ!?」

今まで二人に恐怖を与えていたアプトムが、今度は戦慄させられる。
ネブラはいち早くゼクトールの気配を察知し、その事をアプトムに伝えた。
すぐに夏子の首を締めていた腕と、ハムの首にかけていた大鎌からネブラの形状を元に戻し、割れた窓から外の様子を見る。
解放された夏子とハムも、アプトムに続いて窓を見た。
そこには、まだ距離としては遠いものの、ゼクトールが空を飛んでいた。

「来るにしても予想より早過ぎる・・・・・・!」
『どうする?
目的はここかどうかは知らんが、確実に近づいてきているぞ』

迫るゼクトール。
人間程度なら軍人相手でも、問題なく押すことはできたが、流石に自分を痛め付けた当人である超獣化兵に勝てる自信はない。
アプトムに焦りがつのっていく・・・・・・
そんな彼に、ネブラはあくまで冷静に質問する。
アプトムもまた、ただ焦ってばかりではなく、頭を働かせて考える。
より最善の方法を考えて店内を見回し、そして−−

「よし、俺に考えがある」

そう言った途端、アプトムは身体をスライム状に変える。
だが、このスライム状態を正確に説明すると、元の姿から別の姿へ移るための中間形態である。
これを維持するには、かなりの無理をする必要がある。
よって、そこに現れたのはグロテスクな泥人形のごとき物体。


「ひッ!」
「うわぁ・・・・・・」

夏子はその様子に絶句し、恐怖する。

226痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:12:37 ID:YrRABrO.
ハムのような人外の生物は見慣れたつもりでいたが、生物的にはまずありえない、身体を自由自在に変形させてしまう者までいたことは、遥かに予想外だった。
現状のアプトムの形態だけでも、良くも悪くも普通の感性を持つ彼女にはおぞましい姿に見えた。
故にアプトムを脅威的な化け物と思えてしまう。
一方でハムも驚いてはいたものの、夏子ほどではない。
ハムのいた世界にも、身体がスライム状の種族は存在しているのである。
・・・・・・流石に、アプトムほどの力は持ち合わせていなかっただろうが。

元・アプトムだった気味の悪い物体が声を発する。

「これは返す」
「!」

それだけ言うと、アプトムは夏子に先程奪った拳銃を投げて返した。
それはまるで泥人形が銃を吐き出したみたいな、奇妙な光景だ。
夏子が拳銃をキャッチしたのを確認すると、二人に命令を下す。

「奴がきたら、俺がここにいることは隠し通せ」
「ちょっと待ってください!
我輩たちはどうなるんですか!?」
「策はある・・・・・・俺を信じろ。
いちおう、殺されないように動いてやる」

−−−−−−−−−−−

227痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:13:07 ID:YrRABrO.

一方その頃、ゼクトールも喫茶店の中の人影を発見する。
アプトムがいる可能性は考慮していても、アプトムの存在に気づいている様子は無い。


−−−−−−−−−−−

228痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:14:52 ID:YrRABrO.



『奴がこちらに気づいたようだ、明らかにこちらに近づいてくる』
「そうか、では行動開始と行こう」

アプトムは素早く床から壁を伝って天井に移動する。
床及び自分を踏まれた時の感触で、所在を気づかれるのはマズイと思ったからだ。
ゼクトールが来るまでの短い間に、アプトムとネブラは小声での会話をする。

『(策とは何かね?)』
「(単純な奇襲だ、奴があの二人に気を取られている隙に後ろを取って反撃を許さないように攻撃を浴びせる。
それにはおまえの力が必要だろう)」
『(心得た)』
「(あと、もう一つ。
絶対に殺さず無力化させてくれ)」
『(・・・・・・なぜだ?)』

アプトムは自分の障害になる者には情け容赦をするつもりはなかったハズだ。
それが急に、「殺すな」と注文してきたことに、ネブラは無い首を傾げる。

「(理由は後で話す。
今は俺の指示に従う事だけ考えていろ)」

そして自分の体色をカメレオンのように周りの景色に合わせようと保護色を帯びさせようとする。
しかし、能力的には未熟なアプトム、彼が変身した部分は天井の色とは違うシミのようになっていた。
されど、決してそれは不自然では無く、周りの景色に溶け込んでいた。
なぜなら、先の爆風で天内は荒れていたため、ガラスの破片が散乱し、テーブルやイスが無造作に倒れている。
他にも汚れや傷だらけの店内で、天井に大きなシミが一つくらいあっても、不自然ではなかった。
これはアプトム自身が己のコピー能力の未完成さを知っているからこそできた技である。
最後に、唯一身体からはみ出ている首輪とネブラとディパックを、スライム状の肉体を覆い被せることで、隠す。

そして、全ての準備が整った所で、ゼクトールはやってきた・・・・・・

−−−−−−−−−−−

229痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:16:47 ID:YrRABrO.

あまりに現実離れしたものを見せられて半ば呆けていた夏子とハムは、ゼクトールの出現にいやがおうにも現実に引き戻される。

「クッ!」
「ムハ?」

ネブラの忠告から、ここへ何者かがやってくるのはわかっていたが、甲虫の怪人・ゼクトールがやって来たのがその忠告から間もなくだったため、対応が遅れてしまった。
また夏子は、反応と仕草からして、甲虫の怪人はアプトムと何かしら関連性があり、アプトムとの公約を破って売りつけてしまおうか、とも考えた。
しかし、それをやれば姿を消したアプトムが何をしてくるかわからない。
結局、生殺与奪は握られたままなのだ。
第一、アプトムの事をゼクトールに話したからといって、そのゼクトールが自分たちを助けてくれるとは限らない。
戦闘力の差は日を見るより明らかであり、結局の所、アプトムがやろうとしている事を信じるしかないのだ。
もちろん、アプトムが土壇場で裏切ったり、失敗すれば全てはおじゃん。
彼女たちにやれることは、詰み将棋状態の状況下で、アプトムを信じるか、見つけるのが非常に困難な逃亡手段を自力で考えるしかなかったのだ。


ゼクトールが最初にとったのは対話だった。
最初に「俺は優勝に興味がない」と踏み出したが、夏子はゼクトールを拒絶する。
ゼクトールの様子を窓から伺っていたからでもあるが、何より先程までアプトムから虫けらのような扱いを受けていたことの要因が大きい。
要は、怖くて恐ろしいものだから拒絶しているのだ。

だが、夏子たちの警戒は間違ってなかったのかもしれない。
何せ、ゼクトールは夏子たちを殺す気でいたのは確かなのだから・・・・・・


打って変わって、ゼクトールの頭上−−天井に張り付いているアプトムは様子を伺う。
目論み通り、囮に気を取られているゼクトールは、アプトムに気づいている様子もなかった。
ゼクトールの真上から上半身を天地逆転状態でゆっくりと形づくり、奇襲をかける準備をする。
天井から上半身が現れる奇妙な光景に、夏子とハムは眼を丸くして見ていたが、こんなものを見た経験の無い彼女らには無理もないだろう。
二人の視線の先を察知したのか、ゼクトールが天井を見上げるが、もう遅い。

230痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:18:00 ID:YrRABrO.
ゼクトールが攻撃してくる前に、アプトム及びネブラは一気に畳みかけた。
アプトムの指示により、殺すなと命じられたネブラが考えた攻撃手段は『殺傷力の低い打撃』だった。
その解答が触手による鞭撃である。
鞭は与える痛みが大きいが殺傷力が低く、相手を無力化するにはうってつけだった。
殺傷力が低いとはいえ、ダメージ超過によるショック死もあるが、アプトムより実力が上の怪物であるゼクトールに限ってそんなに簡単には死にはしないだろう。
むしろ、鉄骨すら雨細工のように曲げる甲殻の持ち主だ。
人間なら殺せるぐらい打撃を与え続けなければ、まず倒れなかっただろう。
元から耐久力があるのか執念のためか、なかなか倒れないゼクトールに、ネブラは一際太い触手による鞭撃を頭目掛けて喰らわせた。
異常な硬度を持つ甲殻は割れなかったが、そこから内側には強い振動によるダメージを与えたのだ。
振動により、ゼクトールに脳震盪を引き起こさせ、制圧に成功する。
気を失う瞬間に、ゼクトールはアプトムへの恨み言葉を口にしながら、床に倒れ伏した。
ネブラは触手を引っ込めて、アプトムに言った。

『勝ったな』
「ああ・・・・・・」



−−単純な戦闘力で劣るアプトムが、ネオ・ゼクトールに勝つには奇襲しかなかった。
アプトムは勝つために知恵、囮や装備、己の能力やその未熟さすらも、使える物は全て利用した。
ゼクトールも決して驕っていたわけではないが、彼は二手三手先を読み切れず、チェスの達人が不慣れな将棋をやるように、相手の土俵に立ってしまった。
これがアプトムの勝因であり、ゼクトールの敗因である。

仇を討つつもりが、逆に返り討ちにあったことは、ゼクトールにとっては、さぞ苦痛だろうに。
ただ、不幸中の幸いとして、勝者であるアプトムが、敗者であるゼクトールの命を取ろうとは考えていなかったのである。
少なくとも、今はまだ・・・・・・

−−−−−−−−−−−

231痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:21:36 ID:YrRABrO.

アプトムは身体をまたスライム状にしてそのまま床へと降りる、身体をスライム状にしたため落下の衝撃は分散、そして通常の身体を形作って人間の男性の形を取る。
そこでふと、違和感に気づく。

「あの二人はどこへ行った?」
『我々が戦っている最中に逃げ出したようだ』

いつの間にやら、夏子とハムは喫茶店からいなくなっていた。
戦闘中の隙をついて、裏口から逃げ出したのだ。
奇襲に集中していたアプトムたちは、一人と一匹まで気が回らなかったのである。
だが、アプトムはそれを気にする様子も無かった。

「まあいい、囮にぐらいは約に立った。
あいつらは後回しで構わん。
それよりも・・・・・・」

アプトムは床に倒れたゼクトールに眼を向ける。

(コイツはなぜ、俺に襲いかかってきた?
しかも、面識のない俺へなぜ、あそこまで感情を剥き出しにして襲いかかってきたんだ?)


再調整を受けたアプトムが組織から離反し、ゼクトールの仲間たちを目の前で補食した事により、ゼクトールの復讐が始まった。
・・・・・・だがそれは、アプトムにとってはまだ先の未来の話であり、知るよしもない。
『今この場にいる』アプトムには無関係なのだ。
アプトムから見れば、身に覚えのない恨みで追われているようにしか思えないのである。

『ところで、君が言っていたことは結局なんなんだ?』
「ああ、その事か」

ネブラはアプトムが先程言っていた「考えがある」についての話を尋ね、アプトムは答える。

「コイツを味方につけることだ」
『・・・・・・それは本気か?
起き上がってきたら再び襲いかかってくるかもしれんぞ』
「おまえもコイツの戦闘力を見ていただろう」

強力なレーザー光線、その発射口が破壊されても、格闘だけでも十分な攻撃力を持ち、ケタ外れの頑丈さを誇っている。
それを見ていたアプトムは、味方に引き込めばこれほど力強い者はないと確信していた。
補食すれば能力をまるまる吸収−−の能力は、この時点のアプトムには持ち合わせていない。
せいぜい劣化コピーが限界である。
だから、力を手に入れるには、味方に引き込むしかないのだ。

「可能な限り、説得または取引をして徒党を組み、生存率を上げる。
生き残るにはどうしても力がいる。
そのためにコイツを生かしたのだ」

232痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:23:56 ID:YrRABrO.
それがアプトムの真の目論みであった。
だが、その目論みにネブラは疑問を投げかける。

『だが、もしも従わなかった場合はどうするつもりなのだ?』
「・・・・・・俺も、そう易々とコイツを味方にできるとは思っていない。
仲間にならないなら、容赦なく殺すつもりでもある」

既に徒党を組めない場合の処理も、アプトムは考えていた。
そんなアプトムは、床のゼクトールを冷たく見下しながら、ネブラに指示をする。

「ネブラ、コイツを拘束しておけ。
ついでに念のため、いつでも殺せる状態にしろ」
『了解した』

指示を受けたネブラは、触手を伸ばしてゼクトールの四肢と武器が飛び出しそうな部位を拘束し、その首には、ハムに施したような大鎌状に触手を変形させ、いつでも首を跳ねられる状態にした。

「まぁ、無理はしない。
ただ、この殺し合いに関する情報だけでも手に入れたい。
・・・・・・なぜ、俺を狙っているかの理由もな」

独り言のように呟きつつ、さらにゼクトールからディパックも没収する。
その中身を確認しようとした所で、ネブラが割り込む。

『アプトム君、火の手が迫っているぞ』
「・・・・・・そのようだな」

外を見ると、隣のエリアから伸びた火の手は喫茶店の近くまで来ていた。
もうあまり長く喫茶店にはいられないようだ。

『わかったのなら、早く出よう。
この建物が燃えるのも時間の問題だ』
「・・・・・・いや、ちょっと気になる事がある」
『なんだ?』
「これだ」

喫茶店を出ることを促すネブラに、アプトムは壁一面に書かれた大きな文面に指をさす。
壁には、
『うとたまなこりふうのぞうえたまつまりあのなたまうがつあたゆきるばうにいたるぞ
ともそうはふおまきおいたこま

仲間のことは気にしないで コサッチへ』と、意味不明の言葉を大半で埋めつくされた形で書かれている。
何かの暗号だろうか?
どうやら、その文面にアプトムは興味を持ったらしい。

233痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:24:49 ID:YrRABrO.
「さっきから気になっていたんだ。
燃える前に書き写していきたい」
『悠長にそんなことをしてる暇はないだろうに』
「三分もいらん。
少しくらい待ってろ」

アプトムはすぐにメモとペンを取り出し、すぐにスラスラと書き写す。
火は迫ってるが、どうしてもこの暗号を自分の手元に置いておきたいらしい。
ここで書き写さねば、炎に包まれてこの情報は二度と手に入らなくなるからだ。
この暗号を残す価値があるならば失うわけにはいかないし、価値が無くても邪魔な荷物にはならない。
生き残るためには、親友以外は何もかも利用し、何もかも無駄しないアプトムらしいと言えば、この行動はアプトムらしかった。


「これでいい。
よし、ここを出るぞ」

約一分後、作業が終わり、ディパックにメモをしまい、アプトムはようやく喫茶店を出ることにする。
この店は火の手が上がり始めていたが、幸い、まだ出られないほど激しく燃えてはいないため、ゼクトールを引きずっても脱出は容易であった。
アプトムは、ネブラから伸びる触手でゼクトールを引っ張りながら喫茶店を後にした。
重いゼクトールを引っ張る力をネブラが補正してくれるので、引っ張っていくのに疲労は感じず、少しばかり重い程度の荷物の感覚である。
しいていうなら、頭からネコミミ改め複数の触手を伸ばし、巨大なカブトムシを引きずる姿は、とても珍妙な姿であろう。



燃えていく喫茶店を背中に離れていくアプトムは、ふと、空を仰ぎ見る。
彼のカンが正しければ、時間的には−−

「−−そろそろ放送の時刻だな・・・・・・」

234痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:27:18 ID:YrRABrO.


【B-7 市街地/一日目・夕方(放送直前)】


【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)、右腕の先を欠損(再生中)
ネブラによる拘束
【持ち物】なし
【思考】
0、(気絶中)
1、ズーマ(名前は知らない)に対処する(可能な限り回避を優先)
2、正義超人、高町なのはと出会ったら悪魔将軍が湖のリングで待っているとの伝言を伝える。ただし無理はしない。
3、機会があれば服を手に入れる(可能なら検討する程度)。
4、ヴィヴィオに会っても手出ししない?
5、アプトムを倒した後は悪魔将軍ともう一度会ってみる?

【備考】
※キン肉スグル、ウォーズマン、高町なのはの特徴を聞きました。(強者と認識)
※死体は確認していないものの、最低一人(冬月)は殺したと認識しています。
※羽にはダメージがあり、飛行はできても早くは飛べないようです。無理をすれば飛べなくなるかもしれません。

235痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:29:10 ID:YrRABrO.
【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着
【持ち物】碇指令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVORUSION
ヴィヴィオのデイパック、ウィンチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず、デイパック×2(支給品一式入り、水・食糧が増量)、金貨一万枚@スレイヤーズREVO、ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、
ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、ピアノの弦、スーツ(下着同梱)×3、高校で集めた消化器、砲丸投げの砲丸、喫茶店に書かれていた文面のメモ
ディパック(支給品一式)黄金のマスク型ブロジェクター@キン肉マン、
不明支給品0〜1、ストラーダ(修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS

【思考】
0、なんとしても生き残る。
1、ゼクトールと仲間になるように交渉及び情報を聞き出す。
反抗的だったり、徒党を組めないようなら容赦なく殺害。
2、遭遇した人間は慎重に生殺を判断する。
3、冬月コウゾウ他、機会や生体化学に詳しい者と接触、首輪を外す為に利用する。
4、情報を集め、24時に警察署に戻ってきて小砂と情報を交換する。
5、強敵には遭遇したくない。
6、深町晶を殺してガイバーになる。
7、水野灌太を見つけても手出しはしない。たぶん。
8、女と野兎(夏子・ハム)はどうでもいい。

【備考】
※光の剣(レプリカ)は刀身が折れています。
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか?と推測しています。
※ネブラは相手が“闇の者“ならば力を貸してくれます。
※ゼクトールは自分を殺そうとしていると理解しました。
※逃げるのに夢中だったため、ガイバーⅡに気付いていませんでした。
※ストラーダの修復がいつ終わるかは次以降の書き手さんに任せます。


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236痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:32:04 ID:YrRABrO.

一方、その頃。
二体の怪物が戦っている隙に、喫茶店から逃げ出した夏子とハムは、市街地を駆け足で東方面へ向かっていた。
北も火の手が回り、南は悪魔将軍、西は火事と危険人物と思わしきものたちが多数。
逃げられるのは東方面ぐらいなものだった。

突拍子もない出来事の連続で、夏子の頭はろくに働かなかった。
彼らの予測を越えた力を目の当たりにして、ただ夏子は愕然とし、無力なまま何もできなかった・・・・・・
逃走を提案したのも冷静な判断を下せたハムであり、自分は結局、なし崩し的に動いていたに過ぎない。
それが夏子には何より悔しくたまらなかった・・・・・・

「・・・・・・夏子さん。
泣いているのですか?」

夏子の前方を走るハムが振り返り話しかける。
夏子が泣いているとハムが思ったのは耳に二人の足音の他に、鼻をすするような音がしたからだ。
しかし夏子はそれを一言で否定する。

「・・・・・・泣いてない」
「・・・・・・そうですか」

ハムはそれ以上、追求せずに前に向き直った。
とにかく、あの二体の怪物から逃げる事に専念する。


夏子は泣いていないと言ったが、本当は半ベソをかいていた。
涙はなんとか眼の中に押し止めているが、鼻水を抑えている鼻は真っ赤である。

(悪魔将軍の時と同じようにまったく歯が立たなかった・・・・・・
私は何がしたかったのよ!?)

心の中で、自分を罵る夏子。
責任感とプライドが高い夏子は、無力で何もできなかったという事に、強い自己嫌悪を抱いていた。
さらに、集まる予定だった公民館は既に火に包まれ、思い通りに集まる事はできなくなってしまった。
そのことからの焦りが、自己嫌悪を加速させる。

(深町晶を甘いヤツだと言っておきながら、このザマよ。
私だって大概甘いじゃない・・・・・・)

急に自分が、いつもよりちっぽけな人間に思えてきた。
故により一層、力への渇望が強くなる。

(本当に・・・・・・力が欲しい。
どんな怪物にも負けない力が欲しい!)

今日ほど、彼女が力を求めた日はないだろう。
それぐらいに、自分の無力が許せなかった。

(力さえあったら、朝比奈さんもシンジ君を守ることだって!
この殺しあいから生きて帰ることだって!!)

237痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:33:49 ID:YrRABrO.

その時の彼女は、ただただ力を求めていた。
力を持つことこそが、仲間や自分を守るための最良の手段にも思えた。
もっとも、心の中でたらればを吐いているだけとも言えるのだが・・・・・・



夏子は気づいけなかっただろう。
自分が半ベソをかきながら走っている前方で、賢い野兎が厳しい顔をしていたのを。

彼女には走る野兎の後ろ姿しか見えない。
野兎は後ろを見なくとも、彼女のだいたいの心境を把握できていた。

ハムはとにかく、厳しい顔をしていたが、それだけでは彼が何を考えているのかを読み取れない。



一人と一匹が疾走するさなかに、放送が始まる。
そして、彼女らに限ったわけではないが、残酷な知らせと未来も待っている・・・・・・

238痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:35:47 ID:YrRABrO.


【B-7 市街地(東方面)/一日目・夕方(放送直前)】


【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(微少)、無力感
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、怪物(アプトム、ゼクトール)から逃げる。
2、シンジとみくるに対して申し訳ない気持ち。みくるのことが心配。
3、万太郎と合流したいが、公民館が燃えてしまった・・・・・・
4、ハムを少し警戒。
5、シンジの知り合い(特にアスカ)に会ったらシンジのことを頼みたい。
6、力への渇望。
7、水野灌太と会ったら−−−−
8、シンジに会ったら、ケジメをつける

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。

239痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:37:10 ID:YrRABrO.

【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】健康
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、???
2、万太郎と合流するつもりが、公民館が燃えてしまっている・・・・・・
3、シンジの知り合い(特にアスカ)を探し彼の説得と保護を依頼する。
4、殺し合いについては・・・・・・。

【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※スタンスは次のかたにお任せします。仲間集めはあくまで生存率アップのためです。

240 ◆igHRJuEN0s:2009/05/30(土) 22:43:27 ID:YrRABrO.
これで修正版の投下は以上です。
まだ指摘があれば連絡をお願いします。
不備が無ければ、どなたか代理投下をお願いします。

241嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:28:29 ID:BWzY8uBA


『あと50メートル西を進んだ方が良いでしょう、安全の為にお願いします』
「わかったよレイジングハート、禁止エリアに近付いたら大変だからね。調子は大分良くなった?」
『はいスバル、完全な修復にはまだ時間がかかりますがナビゲーション機能は回復しました』
「キョン君、そういう訳だからもっと左を歩いて。ペースは体力に合わせてゆっくりでいいから」

わかったよ、と言いながら俺はガサガサと草を掻き分けて左に寄って歩いた。
邪魔な茂みはブレードを鉈代わりに切り開いて進む、後ろにはウォースマンにスバル、そしてリインとかいうちっこい妖精が付いてくる。
先頭を歩く、いや歩かされるって事は草刈りまでさせられるのかよ!
後から付いてくるお前らは楽でいいよな、ちくしょう!

あー、わからない奴の為に状況を説明するぞ。
俺達は山登りの最中だ。
試合という名のしごき……いやあれは『かわいがり』ってレベルだったぞ、思い出すだけで腕が痛くなる。

それでも命が助かっただけマシか、とにかく俺は逃げる事も出来ず捕まっちまった。
荷物も殆ど取り上げられ、今は連中の仲間が待つ神社目指してるって訳だ。

それにしても疲れてんのに山登りかよ……待ち合わせすんならもっと楽な場所を選べと言いたくなる。
いや、あいつら揃いも揃って体力馬鹿だから気にする筈無いか。
自分のペースで歩いていいってのがせめてもの救いだ、とはいっても後ろからプレッシャーが掛かるので好きに休むなんて事は出来ないけどな。

更にやっかいな事に最短距離に禁止エリアが出来ちまったので回り道する羽目になっちまってる。
確実に放送には間に合わないな、まあ俺が困る訳じゃないし問題無いだろう。

『データ交換終了ですぅ〜、ふええ〜スバルがこんなに苦労してたのに私はぼんやりとしてただけなんてぇ〜』

後ろだから見えないがちっこい奴の涙声が聞こえて来た、俺の苦労もわからせてやりたいぞ。
ガイバーのお陰で後ろの話もよく聞こえる、俺は歩きながら連中の会話に聞き耳を立てた。
どうやら仲間が信用できるかどうかについて話してるらしい。



               ※

242嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:29:07 ID:BWzY8uBA



空曹長とレイジングハートのデータ交換がやっと終わった、こんなに時間が掛かったのはレイジングハートの状態もあるけど制限も大きいのかな。
今まで何もしていなかった私は軍人失格ですぅ、なんて言われても逆にあたしの方が困ってしまう。
泣きべそをかく空曹長をなだめて落ち着いてもらって改めて皆でこれからの事を話し合う。

「あの、空曹長達はギュオーさんを知っているんですよね? それならもっと詳しく聞かせてください!」

今頃は神社で待っている筈のギュオーさんとタママ二等兵、キョン君が話してくれた情報でギュオーさんが人を襲った可能性が浮かんできた。
人を疑うなんて嫌だけどはっきりさせなければいけない、結果乗っているとすればキョン君と同じく止めてみせる!
ギュオーさんに会ったのはウォーズマンさんと空曹長だけ、直接会う前にどんな人か聞いておきたかった。

『う〜ん、確かにリインはギュオーって人に会いましたけどぉ、たった数分ですよぉ? 話もしないうちに別れてしまったのにどんな人かなんてわからないですぅ』
『私もデータを精査してみましたが彼に対する情報は皆無でした、申し訳ありません』

空曹長は困ってるけどしょうがないよ、誰だってそんな短時間で相手の事がわかる筈無いんだから。
キョン君も掲示板の情報以外は知らないみたいだし、だとすればウォーズマンさんの情報だけが頼りかな。

「お前達が解らないなら仕方ない。とにかく俺がギュオーを出会った時から話すとしよう、始めて会った時あいつは酷い怪我をしていた―――」

ウォーズマンさんはすぐに頷いてギュオーさんが倒れていた状況や会話の内容を丁寧にあたし達に話してくれた。
『リナ』という栗色の髪の女性と水色のケロン人に襲われたっていうのがギュオーさんの言い分、その二人が掲示板に書き込んだのは間違いないとあたしも思う。
でもお互い相手から襲われたと言い合っている状態ではどちらも疑えない、不幸な誤解って可能性もあるんだから。

「どちらにも心当たり無いですね〜、ギュオーって人は他に何か言ってませんでしたかぁ?」
「そうだな……本来は黙っているべきなのだがお前達になら話してもいいだろう、あいつが言うには”クロノス”という闇の組織に狙われているそうだ」
『そのような名を持つ組織を私は知りません、別世界の存在とみるのが自然ですね』

また初めて聞く名前が出てきた、その組織は殺し合いに何か関わりが有るのかな?
ウォーズマンさんの言い方だといろいろ複雑な話みたいだけど。

「クロノスとゲームの関わりは俺にもわからん、とにかくギュオーは元々組織の一員だったが裏切って逃げていたところを連れてこられたらしい。
 名簿に載っている組織の構成員はネオ・ゼクトール、アプトム、深町晶だとあいつが言っていた、お前達は会ったか?」
『いえ、その誰にも会いませんでした』

その話が本当ならギュオーさんは正義感が強い人って事になるのかな?
三人については残念だけど会った事の無い人ばかりでわからない、そうだキョン君にも聞いてみよう。

「キョン君も聞こえてるんだよね、ウォーズマンさんが言った五人に心当たりは無いの?」
「……知らん、聞いた事もない」

キョン君は振り返りもしないでそんな返事を返してくる、本当に知らないのかわからないけれど土下座までしてくれたのに疑うのも悪いよね。
とにかくその人達も止めなければいけない、ギュオーさんにもクロノスの事を詳しく聞きたい。

243嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:29:47 ID:BWzY8uBA

「知らないなら話を続けるぞ、とにかくギュオーはその三人を倒す事が当面の目的らしい……おっともう一人を忘れていた、ノーヴェという女性がその一人と手を組んだと言っていたな」
「ノーヴェ! 彼女の事なら知ってます、コテージでお話ししたセインの妹で私の世界の人間です!」

正直わだかまりが無いわけじゃないけどミッドチルダでの事は終わった後で考えればいい、会えたらセインの事をちゃんと伝えてあげたい。
少なくとも三人のうち一人は無差別に人を殺すような性格じゃない事がわかっただけでも大きいと思う。

「知り合いだったとは驚きだな、悪いが彼女が何処に向かったのか聞いていない。確か開始直後の話だと言っていたから同じ方角に居るとは限らんだろうが会ったら聞くとしよう。
 その後からスバルに会うまでの経緯は既に話した通りだ。うーむ、こうしてみるとギュオーを疑うには証拠が少なすぎるな」
『話に出た誰か一人でも会っていれば良かったんですけどぉ、うまくいかないものですねぇ〜』

二人の言う通りだとあたしも思う、はっきりした証拠も無しに悪人とは決め付けられない。
予定通り神社に向かって直接ギュオーさんとタママ二等兵に会ってみよう、いろいろ話をしてから改めて考えてみても遅くない。

『これ以上考えても答えは出ないので話題を変えるですぅ。キョン! 貴方にはまだキチンと話を聞いてなかったですねぇ』
「うっ、やっぱり聞くのかよ……」

そうだった! キョン君にはまだまだ聞きたい事が一杯有る。
殺した人の事、ヴィヴィオの事、市街地で見た事や出会った人の事、どれ一つとっても大事だ。


それに―――何故知り合いの子を殺したの、キョン君?



               ※



俺は後ろの連中の話を聞いて俺は心の中で笑っちまった。
間違いなくギュオーって奴は危険人物だ。そしてマヌケなウォーズマンを利用してるんだってハッキリ解ったんだからな。

ギュオーって奴が敵と言った深町晶、ガイバーショウに俺は会っている。あいつは一緒にクロノスと戦ってくれなんて俺を説得してきた。
おまけに小動物なんか助けようと荷物まで捨てた、あれで逆にクロノスの構成員だったのならガイバーショウはアカデミー賞目指せる名優って保証してやるぞ。

もちろん連中に教えるつもりなんてない、この状況を上手く利用すれば逃げられるかもしれないからな。
他の四人には本当に会ってないんだがガイバーショウ並みにお人好しなら儲け物だし名前はちゃんと覚えておこう。

そんな事を思ってるとあのちっこい妖精が俺に話を振ってきやがった。
まあいい、何か聞かれるには予想してたんだし三人殺したって事もとっくにバレてんだからな。
今更何を話したところでこれ以上状況が悪化しやしないだろう、もちろんガイバーショウの事は伏せるつもりだがな。

244嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:32:08 ID:BWzY8uBA

「キョン君……もう一度聞くけど君は反省してくれたんだよね?」

振り向きもしないで歩いていると後ろからスバルの声が聞こえていた、いかにも偽善者らしい心配そうな声だ。
何を聞かれるかと身構えたつもりだが最初にそんな質問とは恐れ入るな。
まぁ、ここは無難に答えておくか。

「そうです、俺は反省しました」
『まだ信用できないですぅ! 本当に反省している人はそんな軽々しく言えないですぅ!』

またちっこい奴が口を出してきた、人を信じるって事を知らんのかこの性悪妖精は。
まあ当たってはいるんだがな。

「それなら知ってる事を全部話して! 私達はどんな小さな情報でも欲しいの!」

いかにも必死そうな口ぶりでスバルの奴が聞いてきた、断ってどんな顔するか見てやりたいが反省したフリを続けなきゃならん。
面倒くさいなと思いつつ俺はわざと弱気な声を出してやった。

「すまん……歩き通しで疲れていて投げやりな口調になっちまった。とりあえずどんな事から話せばいいんだ?」
『それなら貴方のここまでの行動を全て白状するですぅ、おかしな部分があったら反省してないとみなしますよぉ!』

間髪入れずに性悪妖精の声が背中に飛んできた、疲れてると言ったのが聞こえなかったのかこいつは?
しかし愚痴をこぼす訳にもいかん、下手に嘘を付くとボロが出るかもしれんしここは正直に答えてやるか。

「俺がスタートしたのは小学校だ、このガイバーって鎧を手に入れてすぐ……既に言った通り中学生ぐらいの奴を殺した」

いろんな事が起こり過ぎたせいだろうか、一日も経ってないのにやけに昔の事に思えちまう。
まさか人殺しになるなんてハルヒに振り回されていた時ですら予想していなかったな。

「何故……そんなに早く人を殺す気になったの? キョン君はどうしてそんな道を選んだの?」
「フン、ナーガの時みたいに度が過ぎた力を手に入れて調子に乗ったのかもしれんな」

いきなり話の腰を折るな! しかし困った、ハルヒや長門の事を何て説明すりゃいいんだ。
統合情報思念体を満足させる為に殺し合いに乗ったなんて言ったら余計話がややこしくなる気がするし草壁のおっさん達を怒らせてしまうかもしれん。

正直に答えるつもりだったのは確かだがそれはあくまで行動の事だ、こんなやっかいな事を言わされるなんて思ってなかったぞ!
……いや、どうせこいつらには解らないんだ。長門に迷惑の掛からない範囲で済ませりゃ問題無いじゃないか。

『何を黙ってるですかぁ? 怪しいですぅ』
「う、うるさい! とにかく俺は早く元の日常に戻りたかったんだよ! その為なら何でもしてやるって思ったんだ!」

嘘は言ってないぞ! 身勝手な理由と思われようが今更気にしてられるかよ。
後ろの連中は見えないが視線が背中に突き刺さってやがる、まるで針のムシロに座らされてる気分だぞ。

245嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:33:04 ID:BWzY8uBA

「その為に……知っている人まで殺すつもりだったの? 一人だけで帰るなんて、それでいい訳がないよ」
「どうせ生き返るんなら問題無い、そう思っちまったんだよ。今じゃあ本当に馬鹿な事考えたと反省してる」

本当は大真面目に考え中なんだが当然口には出さない、視線が痛いが反省したふりを続けてとっとと話を進ませちまおう。
お前らだって俺なんかよりも俺の知ってる情報が欲しいんだろうからな。
決して考えてたらあいつを踏み潰した時の感触が蘇ったからじゃないぞ!

「とにかく俺が次に向かったのは遊園地だ、そこでヴィヴィオと同じぐらいの小僧と……女の子を襲った、けど逃げられちまった。
 すぐその後でナーガのおっさんに襲われて気絶したんでそいつらが何処に向かったのかは知らん、本当だぞ?」
『ん〜、何途中で口ごもっているんですかぁ? 気になりますぅ』

事務的に手早く済ませるつもりだったのに性悪妖精の言う通りあいつの部分で止まっちまった。
あいつを、実の妹を―――初めて殴ったんだ。乗り気になった今だって思い出したい光景じゃない、どうしても胸クソが悪くなる。

「まさかとは思うけど……知ってる人だったの? キョン君より小さな女の子の知り合い―――”キョンの妹”と名簿に有る子だったとか」
「―――っ!!!」

この女超能力者かよ!
絶句していると肯定と受け取られたのかもしれない、背中に突き刺さる視線がいきなり強くなった。
ガイバーを着ている今は関係無い筈なのに喉がカラカラだ、罪悪感や居心地の悪さがミックスされてとてつもなく気持ち悪い。

「つ、続けるぞ! その後目を覚まして高校に行ったらハルヒとヴィヴィオに会ったんだ。後は言わなくても解るだろう?」
『ヴィヴィオを襲ってハルヒって女子高生を殺したって事ですね〜、一応何が起こったのか説明してくれますかぁ?』

人が思い出したくない事を言わせるつもりかよ! 性悪なんてもんじゃない、こいつは極悪妖精だ。
あの時のハルヒの顔、腕に伝わった柔らかい感触―――それだけで本当に気が狂いそうになる。
口に出せない代わりに邪魔な潅木を大げさに切り開く、するとスバルの奴が察したのか知らんが助け舟を出してきやがった。

「空曹長……キョン君だってそんな事は言い辛いと思いますから簡単に話すだけで許してあげてください」
『む〜、スバルがそう言うのなら仕方ないですねぇ。でも甘いと思いますよぉ?』

俺は聞こえない程小さくほっと息を吐いた。その代わり罪悪感が若干増した気がするが気にしたら負けだ。
あの時の光景を出来るだけ頭の隅に追いやって必要な事だけを早口で言う。

「ハルヒとヴィヴィオは一緒に行動してた、アスカとモッチーっていう仲間が後から来るとか言っていた。
 そういやヴィヴィオにはクロスミラージュとバルディッシュって喋る機械を持っていたぞ」
「ティアのデバイス! それにやっぱりと思っていたけどバルディッシュも在ったんだ……」

ひょっとして、こいつらの持ち物だったのか?
よく考えれば喋るペンダントなんてものがある時点でその可能性を考えとくべきだった。

「それから……ヴィヴィオを襲おうとして、ハルヒを……しちまった後は動揺して学校を飛び出した」
「………………」

極力無味乾燥に言おうとした、けどやっぱり無理だった。
何度も思い出しちまってる筈なのにどうして慣れないんだ……最後の方は変な声になっちまった。
極悪妖精のツッコミも偽善者の励ましもまっくろくろすけの怒鳴り声も何故かやって来やしない、ただ惨めにとぼとぼ歩き続ける。

246嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:34:04 ID:BWzY8uBA

呆れてんのか? それとも同情してんのか? 赤の他人に余計な気遣いされるのは却って腹立つんだよ。
とっとと話を終わらせちまおう、しかし気が動転しちまっていたからその後の記憶が定かじゃないんだよな。
高校を逃げ出したところで誰かを見た気がするかどんな奴だったのかまるで思い出せん、気が付いたら採掘場に居たんだよな。

放送前で時間を気にしてたから学校に居た時間は覚えている、何でワープしたみたいにあんなに遠くに行けたんだ?
超常現象といってもいい移動具合だ、ワープポイントでもあったのか? ひょっとしてハルヒの不思議パワーが関係してんのか?

―――馬鹿馬鹿しい、現実逃避もいい加減にしろよ俺。

変な事を考え出した俺を別の俺が冷めた目で見詰めていた。
確かにその通りだ、思い出すのが辛いからってそんな下らない事考えも仕方ないな。

「とにかく気が付いたら採掘場に居た、そこで最初の放送があった事は覚えている。
 で、その直後に古泉って奴と会った。こいつも元の世界の知り合いだ」

あの時俺は古泉に何て言ったっけな、罪を被るのは俺一人で十分だとか随分青臭い台詞を口にした覚えがある。
本気で言ったのか古泉に少しでも善人ぶりたくて無意識に飛び出した出任せなのか―――考えるまでもないよな。

結局数時間も続かなかったんだ、その古泉に罪を被せた以上後者って事になる。
……とことん下らない奴だったんだな、俺は。

「古泉一樹君だね、その人にも襲い掛かったの?」
「逆だ、古泉の方から協力を申し出て来た。俺は西、古泉と分担して参加者を減らしましょうってな。
 さっきは聞かれなかったから言わなかったんだが……ちょうど18時に採掘場で会う約束だ」
『何故そんな大事な事を言わなかったんですかぁ! 今からではとても間に合わないですよぉ!』

せっかくの機会だから約束の事を教えてやった。
これで俺達全員とはいかなくても一人でも採掘場に向かってくれれば俺が逃げられる可能性が高くなるって寸法だ。
古泉があの書き込みを見たか気付いてないかは関係ない、どっちにしろ連中との間で騒ぎが起こってくれればいいんだからな。

「仕方ないだろう? お前達が神社に行くって決めた以上立場の弱い俺が口を挟める道理もないじゃないか」
「く……俺だけなら間に合うかもしれんがお前達や待っている筈のギュオー達を放り出して行く訳にはいかん」
『私も現状での戦力の分散は得策ではないと進言します、ここは次の機会を待つべきかと』

俺の話を聞いて連中はガヤガヤと言い合っていたがどうやら失敗か、さすがに今の時間からじゃあ遅すぎるからな。
リングに居た時に言っておけばと思ったが今更だし仕方無い、まあこれで連中も古泉を危険人物と見なした筈だし良しとしよう。
騒ぐ連中を見ていたら少し気分が紛れてくれたしな。

「その後だが……博物館辺りからでかい爆発を聞いたな、レーザーみたいな光も見た。
 古泉が博物館にはアシュラマンって危険人物が居たと話してたからそいつと誰かが戦っていたのかもしれないぞ」
「その時戦っていたのはあたしだよ。その時からそんな近くに居たんだ、奇遇だね」

247嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:34:37 ID:BWzY8uBA

げっ! するとアシュラマンを殺したのはまさかこいつか!?
殺さないとは言ってるが力加減を間違えました……この女ならありそうだ。
とにかくこいつが当事者なら次に移ってもいいよな、ここからは嘘吐きタイムだ。

「そんな訳で警戒して森の中を歩いてたんたが途中目玉お化けみたいな奴を見たぞ、遠くでチラッと見ただけだったが博物館の方に行っちまった」
「目玉の参加者だと? 超人にもそんな奴はいないな、スバルは出会わなかったのか?」
「はい、あたしはすぐ採掘場に向かったから会えなかったんだと思います」

誰にも出会わなかったと言っちまうと後で矛盾が出るかもしれんし知らない参加者と擦れ違ったとだけ言っておく、要はガイバーの事が知られなきゃいいんだ。
今頃あいつら何やってんだ? お人好しの奴らの事だ、ひょっとして古泉に騙されて採掘場で待ちぼうけしてるかもしれないな。

「次寄ったのはレストランだ。そこで顔を隠したおっさんに会った」
「顔を隠した男だと!? そいつは俺は探している奴かもしれん、奴と一体何を話した?」

おいおい、雨蜘蛛のおっさんはウォーズマンに追われてんのかよ! うーん、ここは何と答えようか。
雨蜘蛛のオッサンに痛い目に遭わされたのは確かだが今は手を組んでんだ、俺があれこれ喋ったと知れたら間違いなく裏切ったと思われるな。
再生した筈の指が疼く、あんな目に遭わされるには二度と御免だ。

「おっさんの名前は知らんし目的も解らん、銃を突きつけられて色々喋らされたがなんとか隙を見て逃げ出すだけで精一杯だったんだぞ」
「くっ、せっかく奴を追う有力な手掛かりを掴めたと思ったんだがな」

真っ赤な嘘だ、雨蜘蛛のおっさんからはいろいろ話が聞けたし逃げ出した訳じゃない、一緒に皆殺しの相談をして平和裏に別れたんだ。
妹と朝比奈さんを殺してくれと頼んだ事は―――本当に正しかったのか? 馬鹿な、決まってるじゃないか。

「じゃあレストランに落ちていた指は君のだったんだね、もう大丈夫なの?」

いきなりスバルが俺の手を取ってまじまじと見やがった、もう治ってるからほっとけ!
苛立って振り払おうとする前にパッとスバルが腕を離す、すっぽ抜けた腕はぶんと音を立てて立ち木にめり込んじまった。
そんな俺をスバルは笑って見てやがる、治って良かっただと? 普通いい気味だと思う所だろう?
……何だかくすぐったいな、次だ次!

「で、コテージにはナーガのおっさんが居て戦った結果手を組むことになりました。適当に電話を掛けたらそこのスバルさんに繋がりました。後は知っている通りです」

喋り続けて疲れたせいもあるがロクな体験してこなかった所為で投げやり気味に説明を打ち切る。
おっさんには腹を抉られたし次は変な夢見ちまった。俺、ハルヒと来て次寝たら誰が夢に出てくるんだ?

「キョン君が電話を掛けた相手はあたしだけ? それとも他にも誰かに同じ事言ったの?」
「掛けてません、そんな事したらダブルブッキングしちまうじゃないか。俺だってそこまでマヌケじゃないぞ」

全くしつこいな、こんな奴に繋がった事自体が不運としか言いようが無いぜ。
うまく呼び出せたと思ったら嘘は見破られていて、殺したと思ったら生きていて追いかけてきやがって。
……ストーカーかこいつは、こりゃよっぽど上手くやらないと逃げられそうないな。

248嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:35:09 ID:BWzY8uBA

『聞く限り行動に矛盾は無いみたいですね〜、あくまで矛盾だけですけどぉ』
「隠し事をしてないとはいえんが一応は信じてやろう、但し嘘が混じっていた場合は相応の報いを受ける事になるがな」

物騒な事話してやがる、だがいくら疑ったところで証拠は何もないんだし当分はこのまま行ける筈だ。
連中も少し話し合っていたが結局は信じる事にしたらしい、何の突っ込みも来ないまま俺は先頭を歩く。
その方が気が楽だ、嘘付いた相手の顔を見ずに済むというのは現状で唯一マシな部分かもしれない。


―――疲れた


従うふりをしなければいけないとはいえ思い出したくもない事を延々と喋らされたんだ、気が滅入って当然だろう?
振り返ってみたらスタートしてから楽しい事なんて何一つ無かった、スプラッタと激痛の繰り返しばかりエンドレスで再生されてる気分だ。

ナーガや雨蜘蛛のおっさんは互いに利用するだけの関係でSOS団みたいに仲間なんて呼べる付き合いなんかしなかった。
そういう関係になれるかもしれなかった古泉は俺の方から裏切った。
善人と出会ったら殺しにかかり、悪人相手には惨めに負けたり殺しの相談を持ちかけた。

ガイバーじゃなきゃとっくに死んでいただろう。
いや、支給品がガイバーじゃなかったらもっと慎重に行動しててハルヒを殺すなんて事は無かったかもしれない。
―――一わかってるさ、たらればを考えても無意味だって事ぐらい。

ルーベンスの絵を見たがっていた少年じゃないが今の俺はちょっと弱気になっちまってるらしい。
ずっと走り続けてきたんだ、途中休みたくなっても自然かもしれん。
まずいな……ギュオーって奴を利用して逃げる為にもとっとと気力を回復させてこんな気分をオサラバしたいところだ。

俺は少しでも休息を取りたくて緊張を緩めた。
歩くペースも更に落とす。山頂が近づいて登りもきつくなってきたし不自然には思われないだろう。
このまま神社まで黙って歩かせてくれよ、と思っていたその時だった。

「キョン君、隣いいかな?」

突然スバルの奴が前に出てきて俺と横並びになった。
おい、返事した覚えは無いぞ!

『スバル、近付き過ぎると危ないですよ〜!』

俺の抗議と同時に極悪妖精の人を動物扱いした警告が飛んできたがスバルの奴は全然気にしちゃいない。
平気な顔でジロジロと俺を眺めてやがる、何だか口元が笑ってるぞ?

249 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:35:49 ID:BWzY8uBA


あたしは前を歩くキョン君の背中を眺めていた。
気のせいかさっきより小さく見える、ペースも落ちてきたし随分疲れていたのかな?
無理に話を聞いてごめんなさい―――一でも、あと少しだけ聞いてみたい。

さっきのキョン君はどこまで本当の事を言ってくれたのかわからない。
あたしだって無条件で全部信じている訳じゃない、ひょっとして隠している事もあるかもしれない。

でも、一つだけわかった。
キョン君はまだ戻れる、人間として大事な心が残っている。

だってハルヒって人の事を話す時、とっても辛そうだったから。
殺して動揺したって言っていた、本当はその子を殺したくなかったんだってあたしにもわかる。
草壁と長門に生き返らせれるかって念入りに聞いていたのはひょっとしてその子の為でもあるの?

けどそれは絶対間違ってる、本当に出来るとしても決してその子は喜ばないと思う。
それをキョン君に認めさせるのは―――一辛い思いをさせる事になるとわかってるけど、やらなければいけない。
偽りの希望なんて持っていても貴方の為にならないよ!

代わりにあたしがキョン君の支えになってあげたい。
あたしに何処まで出来るのかわからないけど、ガルル中尉の様に導いてあげられないかもしれないけど、傍にいてあげるぐらいは出来る。

誰かが一緒に居てくれるのは―――一とっても安心するんだから。
ティアがいてくれたあたしにはわかる。

だから教えて、キョン君の事。
あたしはウォーズマンさんを追い抜いてキョン君に並んだ。
すぐ空曹長から注意されたけど今は見逃してくださいね?

一緒に歩きながらキョン君の横顔を見ると顔を逸らされた。
でもそうしてると危ないよ? ほら、すぐ木にぶつかった。

キョン君の表情は見えないけどムスッしている気がして思わず笑う。
するとキョン君はあたしに構わず歩き出す、機嫌悪くしたのなら謝るよ。

「……話はもう終わったじゃないか、何じろじろ見てんだよ?」

構うなって言いたげな声、やっぱりすぐには打ち解けてくれないよね。

「ううん、まだ終わってないよ。キョン君の世界と……キョン君の事を聞かせて?」

キョン君の事が知りたい、友達の事も。
まだ君の事を何も知らないんだから今のうちに聞いておきたい。

どんな生活をして、どんなことで遊んで、どんな友達がいたのか。
ハルヒって子や古泉という人、妹さんはどんな人なのか。

鎧の下でキョン君があたしを怪訝な目で見ているのがなんとなくわかった。
あたしはにっこりと笑って早く話してと催促した。

250 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:36:20 ID:BWzY8uBA



               ※


何なんだ、一体。
スバルがいきなり馴れ馴れしく近付いてきたかと思うと俺について知りたいと抜かしやがった。
やっぱりこいつは真性のストーカーなのか? だが無視し続けるのも居心地が悪い。

「聞いても詰まらないと思うぜ……日本のごく普通の高校生の日常なんてな」
「全然そんな事ないよ。日本でのキョン君はどんな毎日だったの?」

妙に笑顔が眩しい奴だな。
まあどうせ殺し合いには関係の無い事だ、ちょっと話すぐらいはいいだろう。
ハルヒの不思議パワーについては抜きで普通の部分だけ言っておけば長門にも迷惑は掛からないだろうしな。
そして俺は喋りだした、つい昨日まで当たり前だった日常の世界を。

(キョン君、キョン君。もう朝だよ)

朝ベッドの中で寝ぼけていると妹の奴が起こしに来る、年齢よりガキっぽいのにしっかりした奴なんだよな。
そして我が家の飼い猫シャミセンを一緒に撫でたり遊んだりしてそこらは見た目どおりかわいいんだけどさ。

学校に行けばアホの谷口と下らない事を言い合ったりして、後ろの席には……あいつが居てちょっかい出して来たりして。
どんな事習ってるの? とも聞かれたので適当に問題を思い出してスバルの奴に出してやる。
数学の難しい問題にどう反応するかと思ったんだが即答されちまった、答えは合ってるかどうか俺の方が戸惑っちまった。
国語の問題はスバルが答えられない代わりにウォーズマンの奴が答えやがった、ひょっとしてこいつら頭いいのか?

そして……放課後SOS団の部室に行けば長門が、朝比奈さんが、古泉が、あいつが俺を待っていてくれている。
コンピ研の連中とゲームで勝負したり映画の撮影をしたり……そこまで話すつもりは無かったのに自慢するみたいに次々に話してた。

「凄く楽しそうで羨ましいよ。キョン君は本当にそのSOS団が好きなんだね」

ああ、その通りさ。
こんな事になっちまった今、素直にそれを認めちまえる。
ハルヒのわがままに振り回されて、それでも時折笑うあいつが可愛くて。
ハルヒだけじゃない、長門も、古泉も、朝比奈さんも、妹も、一人だって俺の日常に欠かせない大事な奴ばかりなんだ。

―――一そんな奴らを俺はどうした?

また木にぶつかっちまった、おかしいな前がちっとも見えないじゃうか。
前だけじゃない、気が付くとスバルやウォーズマンの輪郭がやけにぼやけていた。

どうしたんだよ俺は!? 何でこんなに胸と―――一目元が熱くなっちまってんだ!

スバル達に気付かれたくなくて前に出ようとした、けど木の根っこに躓いたのか膝を突いちまった。
はは……何情けない事やってんだ俺は。どうせ優勝すれば元通りになるって解ってる筈なのにな。
景色がぼやけてるのだって目にゴミでも入ったに違いない、ガイバーだって完璧じゃないだろうからな。

251 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:36:53 ID:BWzY8uBA

ぱふっ。

俺はさっさと立ち上がろうとした。
しかし立てなかった、何故なら―――一スバルの奴が俺を抱きしめたのだから。

構うなと振り払おうとするが無理だった、スバルは首を振ってギュウと強く俺を抱く。
頭がこいつの胸に納まっちまった、近くで妖精が騒いでいたが全然耳に入ってこなかった。

「泣くって……とっても大事な事だよ? そうしないと悲しみがどんどん溜まっちゃうよ」

何言ってんだこいつは、お前に俺の何がわかるってんだ。
ほら、早く突き飛ばして勘違いするなと言ってやれ。

そうしたいのに、そう言ってやりたいのに―――一出来なかった。
ガイバーの中で何時の間にか俺は泣いていた。

ちきしょう……ちきしょう!
何でだよ! 何でこんに偽善者の腕があったかいんだよ!



               ※


腕の中でキョン君が泣いている、今まで辛い事ばっかり続いてたんだからそれでいいんだよ。
楽しかった日は取り戻せなくても、きっとまた笑える日が来るよ。

今のキョン君に言葉なんて必要ない、あたしから少しでも温もりが伝わってくれればそれでいい。
抱きしめられるって本当に安心すんだから、立ち直れる勇気をくれるんだから。

空曹長とウォーズマンもキョン君の様子を見て警戒を緩めてくれていた。
あたしはキョン君の気が済むまでこうしてあげたい、ここで放送を迎えても構わない。

二人を見るとそれだけで判ってくれた、安心てあたしは震えているキョン君を抱きしめ続ける。
それにしても時間の割りに随分暗くなってる、天気が悪くなったのかな?

『では私が確かめてくるですぅ〜』

雨が降る可能性もあるので調べるため空曹長が枝の合間を縫って上空へ抜け出してゆく。
すぐその姿は見えなくなった、キョン君の背中を撫でながら上を向いて帰りを待つ。

この時のあたしは全然警戒なんてしていなかった。
誰か近付いたら警告してくれるレイジングハートも何も言っていなかった。

『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

空曹長が厳しい顔で急降下してきたその瞬間、あたしの背中から刃が飛び出した。

252 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:37:34 ID:BWzY8uBA

―――一え?

感じたのは途方も無い熱さ、灼熱した鉄棒を突き刺されたと錯覚する程の感覚がお腹で爆発した。
スパークしたみたいに頭が真っ白になる、訳が解らなかった。

―――一どうして、キョン君が?

あたしを貫いた何かかが真一文字に動く、お腹をケーキみたいに切断して脇へ飛び出す。
ガイバーの高周波ブレード、血塗れになったそれがキョン君の答え。

こんな事した理由を聞きたいのに声が出ない、もう一度止めたいのに身体が全然動かない。
あたしの中で何かが切れた、身体から血がどんどん流れていくのがわかった。

「キサマーーーッ!!!」

ウォーズマンさんの凄い声が聞こえた。
空曹長も何か言ったかもしれないが聞こえなかった。

二人にビームを放ったキョン君はあたしを突き飛ばして急斜面を転がるように森に消えた。
元気……まだ残ってんだ。

―――一とめなきゃ。

何度道を間違えても私たちが必ず引き戻すって言ったんだから。
寝てる場合じゃないのに、早く追いかけないといけないのに。

―――一何で指一本動かせないの?

目の前がだんだん暗くなる、日はそんなに早く沈むのだったかな?
地面に液体が広がっていた。
あたしの……血だ。



               ※



俺は必死で森の中を突っ走っていた。
方角なんて気にしちゃいられない、ひたすら走り続けて連中から逃げるしかなかった。

ギュオーって奴を利用して逃げるはずだったとかそんな考えはとっくに頭から追い出されていた。
そんなのんびりしてられなかった、悠長に時間をかけてられなかった。
だって本当にヤバかったんだ!

253 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:38:06 ID:BWzY8uBA

「スバル……」

これ以上お前の傍にいたら、これ以上お前に抱きしめられていたら。
あの温かさに縋っちまったら、


―――一俺は本当に止められちまう!


それだけは絶対に嫌だった、俺はハルヒを生き返らせて皆で元に戻るんだ。
悪いのはスバルだ、俺をこんな気持ちにさせなかったらもう少し長生きできたんだ。

それでも走りながら俺は泣いていた。
悲しいってのか、あの偽善者を傷付けた事が悲しいってのかよ!
胸がズキズキ痛む、やっぱりそうなのかよ!

決めた。
優勝を目指すのは変わりない、けど全員生き返らせれないってんならもう一つ決めてやる。
スバル、俺は。


―――一ハルヒを生き返らせたら、次はお前を生き返らせてやる!





【G-5 森/一日目・放送直前】




【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、0号ガイバー状態
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
1:ウォーズマンから逃げる。
2:採掘場に行ってみる?
3:ナーガが発見した殺人者と接触する。
4:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
5:博物館方向にいる人物を警戒。




※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※どの方角に向かったのかは次の書き手にお任せします

254 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:38:48 ID:BWzY8uBA



ウォーズマンがこれ程怒りを感じたのは長い人生の中でも初めてだった。
キョンに対する怒り、それに劣らぬ自らへの怒り。
すぐキョンを追おうとした、しかし三歩も進まないうちに小さな少女の悲鳴に引き止められた。

『ウォーズマンさん! スバルが! スバルがーっ!!』

広がる血だまりを見ればどちらを優先するべきかは明らかだった。
リインは何度も魔法をかけ続けていた、ウォーズマンもすぐ救命措置を取ったがスバルの状態は酷すぎた。

胴体が半分以上切断されていた。
その出血量だけでも致命傷は明らかだった、例え戦闘機人だとしても。

いかに魔法として失った血液までは戻らない。
休息にスバルの身体から体温が失われてゆくのを感じて二人は絶叫した。

「スバル! 必ずお前を助ける! だから諦めるな!」
『一緒に帰るですぅ! スバルだってまたギンガ達に会いたくは無いですかぁ!』

光が失われつつあるスバルの瞳がゆっくりと動いた。
そして普段の彼女からは考えられないような微かな声が喉から聞こえた。

「おね……がいです。キョ……ン……くんを…ゆ…る……して……あげ……て」
『こんな時に何言ってるんですかぁ! スバルは……スバルは本当に甘すぎるですぅ!』

泣きながら叫ぶリインに対し、スバルの目は確かに笑っていた。
何があろうと理想を貫かんとする少女の意思が其処に込められていた。
ウォーズマンはそれに答える事ができずただしっかりとスバルの腕を握り締めていた。

「ギン姉のこ……と……お願い……します。 それ……と、わ……たしの……くび…わ……を……つかっ……て」
『リインは嫌ですぅ! スバルが自分でやらなくてどうすんですぅ……ぅぅ』

ポロポロとリインの涙がスバルの顔に落ちた。
わかっている、スバルはもう助からない。

『スバルはそれでいいんですかぁ!! こんな所で死んで満足なんですかぁ!!』

それでもリインは認めたくなかった。
スバルはこんなところで倒れていい存在なんかじゃない、奇跡があるのなら今起こるべきだと。

「……い、や」

泣いて縋り付く上司の想いは届いたのだろうか、笑っていた筈のスバルがそんな声があふれ出た。
ウォーズマンの腕が握られる。
スバルの双眸からその名前を思わせる光の玉が落ちてゆく。

255 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:39:51 ID:BWzY8uBA

「死にたくないよ……、みん……な助け…て……帰り……たい……よ」

それがスバルの本心だった。
キョンも中トトロも、今島に居る全員を助けたい。
ミッドチルダに戻ってギンガと危険に巻き込まれている人を助けたい。

「まだ……ま……だ、いっ……ぱい……や……りた……い……こと……が」

スバルは生きたいと強く願う。
たがそれは適わぬ願い、ウォーズマンが握り締めるスバルの腕から力が抜ける。

『スバルーーーッ!!!』
「スバル……お前の無念、俺が必ず晴らしてやる!」

ここに一つの星が落ちた。
その星は強く輝いて他人を導く事のできる星だった。
そして道標の喪失は直後に島の隅々にまで伝えられる事になっていた。








【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
【残り27人】

256 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:41:06 ID:BWzY8uBA


【G-5 森/一日目・放送直前】


【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感、深い悲しみ、キョンに対する途轍もない怒り
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0〜1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の種@キン肉マン
     リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
     デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1:???
2:ギュオーが危険人物かどうか気になる。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
9:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
10:紫の髪の男だけは許さない。
11:パソコンを見つけたら調べてみよう。
12:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。



【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していましたが、今は疑いを強めています。
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。

257 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:41:46 ID:BWzY8uBA


気が付いたらあたしはオレンジ色の海の中で浮かんでいた。
死んだはずなのに……どうしてだろう?
息が出来るのは不思議じゃないよね、だってあたしは死んじゃっているんだし。

見渡しても全てがオレンジ一色で何もわからない。
これからどうなるのかな、ここから一人で天国に行かなきゃならないのかな。

(スバル……)
(―――一!?)

あたしの背中を電撃が走り抜けた、この声を間違えるはずなんて無い!
何故かどの方向から聞こえたのか全然解らない、不思議に思いながら辺りを見渡すと離れた位置に突然人影が現れた。

(スバルもこっちに来ちゃったんだ……。来て欲しくなかったな……)
(ティアッ!! どうしてティアがこんな所に? ここって一体!?)

あたしの目の前にいるのはティア、ティアナ・ランスター!
今頃ミッドチルダで戦っている筈のティアがどうして?

見ればティアはとても悲しそうな目をしていた。

何故呼ばれなかった筈のティアが居るのか、ここは何処なのか。
一つ確かなのはあたしはまだ終わった訳ではないみたいという事だけ。

(わからない事だらけだよ、説明してティア!)

泳いて近付こうとする必要も無かった、思っただけであたしはティアの傍に居たんだから。
あたしの戸惑いをティアは黙って眺めていたけどすぐ真剣な顔であたしに説明しだした。

(スバル、ここはね―――一)

258 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/03(水) 03:42:30 ID:BWzY8uBA

以上で仮投下終了いたしました。
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

259憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:31:06 ID:1IE6bSgg
陽が傾く。



赤い光が湖面を反射し、青々とした周囲の植物を幻想的に照らす。

風に揺れる木々のざわめき。
わずかな水の流れる音。

何もかも忘れて、それらにだけ意識を集中することができればどれだけ気が楽だろう…と
湖上に設置されたリングの隅で座っていた古泉は思った。


リングから落ちたキン肉万太郎の姿は視認できないままである。
あれだけフラフラの状態で威力は低いとはいえヘッドビームの直撃を受けたのだ。
陸地に着いたか、あるいは溺れ死んだか分からない。
常識的に考えれば溺れ死んだ可能性のほうが高いだろう。
なにせ、あの『将軍』ですら死んだと思っているのだから。

周囲の景色からリング上へと目を向ける。


古泉とは対面のリングの隅で腰を下ろしロープに背中を預ける姿勢でいるジ・オメガマン。
今現在は仲間という間柄である。
実力のほどは嫌というほど思い知らされた。
先程、少し会話をしてみたが話が分からない人物ではない。
しかし、一本筋の通った信念を感じれるような人物でもない。
信用しないに越したことはないだろう。


リングの審判兼実況兼観客の中トトロを抱えて撫でながら
市街地から上がる煙を見つめているのはノーヴェ。
直情的で男勝り、攻撃的。しかしその実、心優しい女性である。
ときおり風でなびく髪をかきあげたり押さえたりする仕草は年頃の古泉には美しいとすら思える。

戦闘能力も決して低くはない。
その分、最近の敗戦続きや『訓練』が堪えたのだろう。強さに対して貪欲である。
純粋ゆえにその貪欲さがどこに向くかはわからないが…
彼女の存在は古泉の『目的』にとって間違いなくキーマンとなるであろう。

260憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:31:53 ID:1IE6bSgg
夕陽を身に纏う鎧に反射させながらリングの外を見続ける悪魔将軍。
実力・知能ともに恐るべき人物。そして、古泉の殺意の対象。
最初は手を組むにはリスクこそ大きいがリターンも大きい相手だと思った。
そして、それは正しかった。
将軍は、古泉から大切なものを奪っていった。

無造作に。
無遠慮に。

結果、悪魔将軍を見ている今の古泉一樹は『涼宮ハルヒの望む古泉一樹』ではなくなった。
この付け入る隙のない要塞を陥落させるためなら泥でもすするような男へと変貌させた。
ガイバーの仮面の下でどのような表情をして悪魔将軍を見ているかは知る術はない。



陽が傾いていく。



「古泉」

ノーヴェが市街地から昇る煙を発見し、会話が途絶えてから十分以上経っただろうか。
岸のほうを見ていた悪魔将軍が、視線はそのままに突如口を開いた。

「…なんでしょうか?」

穏和な口調で古泉は返事をする。
常日頃から自分を殺した演技をしていた賜物か、殺意の類は微塵も感じさせない。
ピリピリしていた雰囲気も、敗戦のあとは鳴りを潜めていた。

「生身のノーヴェと違い、貴様はもう十分に動けるだろう」

「ええ」

座ったまま軽く左腕を挙げてみる。問題なく動く。
さすがに右腕はまだ完全ではないが…
しかし身体全体では疲労もダメージも随分と軽減されている。
相手次第では戦闘行動を行うにはもう支障はない。

「来客が来る気配は今のところない。
 そこで、次の放送までに貴様にひとつ働いてもらう」

「分かりました、何をすればいいのでしょうか」

261憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:32:36 ID:1IE6bSgg
殺そうとしている相手の命令を聞くのは不本意ではあるが、仕方がない。
『来客が無い限り放送後南に向けて出発する』
と言っていたのだ。もう放送まで時間はないから大がかりなことではないだろう。
せいぜい、北から逃げてきた参加者がいないかの捜索や
南方向への斥候といったところだろう、そう踏んですぐに返事したのであったが。

悪魔将軍はノーヴェに目を向け、こう言った。

「ノーヴェの抱えているもののけを拷問しろ」



陽が赤暗くなっていく。



古泉も、ノーヴェも一瞬何を言っているのか分からなかった。
その戸惑っている様子を察したのだろう、悪魔将軍がさらに口を開く。

「お前達は、この悪魔将軍が
 そんなもふもふした主催のまわし者をただで見逃すと思ったか?」

このリングをノーヴェとの特訓のために使用した際に
悪魔将軍が中トトロを尋問をしたということは古泉もノーヴェから聞いていた。
そして、そのときは大した情報を得られなかったことも。

ノーヴェの腕の中で中トトロがきゅっと身を固くする。
そんなことは意に介さず悪魔将軍は古泉を見続け、言葉を発するのを待った。

今の古泉の力ならば中トトロを拷問や殺害することなんて造作もない。
『あの』長門有希の配下である獣を一匹殺すことなどに躊躇する理由なども微塵もない。

だというのに、なぜ将軍の命令に"YES"と即答できないのだろうか。
理由は分からない。いや、本当は理解している。
ノーヴェと一緒にいる中トトロを見て知ってしまったからだ。
憎むべき主催の部下であるこの獣は…古泉にとって不都合なことに心優しく、
手を出して良いような生物ではないということを。

目的のためなら手段を選らばないと決心したのはいつだったか。その決心に嘘偽りはない。
ただ、タッグマッチ戦前にノーヴェの言った通りだったということだろう。
『古泉一樹』はどこまでいっても所詮は『古泉一樹』なのだ。
少なくとも半日やそこらで『古泉一樹』は消えない。
身も心も『ガイバーⅢ』になるには時間が足りなさすぎる。

262憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:33:11 ID:1IE6bSgg
(だけど、俺は…ノーヴェさんがああ言おうとも…『古泉一樹』を捨てることはできなくても
 目的を果たすまでは『ガイバーⅢ』でいたい。そのためには甘い心を捨てるべきでしょう)

「分かりました」

「なっ…古泉!?」

許諾したのが意外だったのだろう。
ノーヴェは素っ頓狂な声を上げ、古泉や悪魔将軍から隠すように中トトロを背に回した。

「クォクォクォ、誰もいないか確認もせずに隠すとは相変わらず大間抜けよ〜〜〜」

そして、いつのまにか背後に回り込んでいたオメガマンが
ひょいっと中トトロの首根っこをひっつかんだ。
慌てて『放して!』と書いた看板を掲げてジタバタする中トトロだったが
その程度で超人の拘束がはずれるはずもない。

「あ、このヤロ!」

「ほぅら、受け取れ〜〜〜っ」

そして文句を言うノーヴェは無視して
オメガマンは中トトロを下手投げで古泉へと放り投げた。
古泉も難なくキャッチし抱きかかえる。

「待てよ、将軍、古泉!中トロに攻撃なんかしたら
 あの銀髪ヤローみたいに主催にスープにされちまうかもしれないぞ!!」

「案ずるな、ノーヴェ。主催者に対して反抗の意を持っている者は多くいる。
 その中に内情を知るかもしれない部下を送ればどうなるかは考えるまでもない。
 これくらいは想定の範囲内だろう」

言われてみればそうなのだ。
今まで中トトロが襲われなかったのは運が良かっただけともいえる。
もっとも、一度オメガマンに蹴っ飛ばされているが情報を聞き出す目的ではなかった。

「そして私が主催者ならば…少なくともいきなり殺したりはしない。
 警告もなしに殺すのは惜しいからな。というわけだ。古泉よ、遠慮なくやれ」

263憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:33:43 ID:1IE6bSgg
「………それで、何について聞けば…いや、どうすればよいでしょうか?」

古泉が将軍へと問いかけた。中トトロは露骨におびえた表情を見せる。

「そのぐらい自分で考えろ」

古泉のほうに身体を向けながら、ぶっきらぼうに将軍は言い放った。
早い話が、これらは古泉に対する追加課題のようなものなのだ。
何を聞くか、そしてどう聞き出すか、
これらの課題を通じて古泉が悪魔超人として成長するのを狙っているのだろう。

どうしたものかと思案しながら腕の中の中トトロを見る古泉。
目が合った。おびえている動物の潤んだ瞳を思いっきり見てしまった。
わずかにながら決心が揺らぎ、ひるんでしまう。

「迷いがあるようだな、古泉よ」

そんな心の機敏を感じ取り、悪魔将軍が古泉に歩み寄ってきた。

「いえ、そんなことは…」

「このもののけが参加者で、殺すべき相手だった場合はそれが命取りになりかねん。
 お前はこの悪魔将軍の部下としての覚悟が足りないのではないか?」

悪魔将軍の言葉に古泉は強殖装甲の下で強く歯を噛みしめる。
否定したいが、できなかった。
一瞬とはいえ二度も躊躇したのは事実だ。
部下として、のくだりはともかくとして覚悟が足りていないといわれても仕方ない。

「将軍ッ!いきなり拷問しろっていってもできるわけないだろ!
 それに中トロは真面目なヤツだ。拷問したって口を割らないよ!!」

「お前は黙っていろ、ノーヴェ。
 そもそも口を割らない者から情報を得るために拷問をするのだ」

悪魔将軍のもっともな意見に「うっ…」と口ごもるノーヴェ。

「…なんなら、私に意見するほどに体力が回復したのなら、
 お前に拷問をやらせてもよいのだぞ」

264憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:34:19 ID:1IE6bSgg
さらにこんなことを言われたのだからノーヴェは俯くしかなかった。

「いえ、俺がやります」

ノーヴェをかばうようにすぐに古泉が話に割って入ってきた。
中トトロも小さく震えながら健気に『僕は大丈夫!』と看板を掲げている。
ちなみにオメガマンはといえばまたリングの隅に座り込んで
つまらない茶番を見るかのように3人+1匹のやり取りを見ていた。

彼らの様子を、どこか満足げに眺めた後、悪魔将軍はこう言った。

「そうか、ならばお前が拷問をしろ、ノーヴェよ」

「なっ…!?」

これには古泉もノーヴェも絶句する。

「古泉は何か勘違いしているようだな。
 なぜ、嫌がる事を自ら進んでやる?お前達には仲間がいる。
 仲間とは利用するためにいるのだ。仲間をかばう、守るという考えは
 敵に付け入る隙を与えるだけだ」

古泉は、反論したくなる気持ちを必死で抑えた。
反論したところで何も変わらないだろうということは理解している。

「これはノーヴェをかばった古泉に対する罰だ。古泉への罰はノーヴェ、お前が受けろ。
 そしてノーヴェへの罰は古泉へと下す。
 これから、お前達がこの悪魔将軍の部下として相応しくない行動をとれば
 時と場合により懲罰を下す。心しておけ」

悪魔のルールを守ればその行動により自身の心が悪に染まっていき
悪魔のルールを守らなければその行動により苦しめられた相方は
憎しみから仲間を想う心を失っていく。
そのような魔の制約を悪魔将軍は二人に課した。

「話が脱線したな。さぁ、ノーヴェよ。このもののけを拷問しろ」

265憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:34:49 ID:1IE6bSgg
古泉から中トトロをぶんどり、ノーヴェへと投げつける将軍。
反射的に「俺がやります」と言おうとして、古泉は思いとどまった。
下手にかばうと、どのようにノーヴェが罰せられるか分かったものではない。



陽が傾き影が彼らを長く不気味に投影する。



空中を舞う中トトロをノーヴェは優しくキャッチした。
さっき将軍が説明したルールによると、
ここで躊躇したりしたら古泉に嫌な思いをさせることになるのだろう。

実際に中トトロつかんでみて、さっきよりも震えが大きくなっていることがわかった。
だからといってノーヴェがどうこうできるわけはないのだが…
中トトロは看板を出すこともせずにただノーヴェを見ていた。
彼(?)も事情は十分に理解しているのだ。
腹を括ったような眼をしていた。

「いいか、中トロ。さっさと喋っちまったほうがお前の身のためだからな」

そう言って、ノーヴェは目を瞑り大きく深呼吸した。
そして意を決し目を開くと―――

―――そこにはいないはずの『彼女』がいた。



陽が傾き影が闇へと溶け込んでいく。



無表情な瞳が、直情的な少女の顔を映していた。
殺意も敵意も、何の感情も感じ取れないのに確かな息苦しさがノーヴェを襲っていた。
中トトロを抱えているノーヴェの目と鼻の先に『彼女』―――長門有希は現れた。

266憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:35:21 ID:1IE6bSgg
「お前はな、が…ッ!!?」

ノーヴェの言葉は最後まで紡がれなかった。
腹部に衝撃。視界が暗転し、天地の感覚がなくなる。背中に柔らかな衝撃を受け
そこでようやくノーヴェは自身がロープ際まで吹っ飛ばされたことに気がついた。
すぐさま長門のほうに目を遣る。
先程まで自身が抱えていたはずの中トトロはこの一瞬の間に奪取され
長門の腕の中に収まっていた。

その長門の背後に高速で迫る影があった。
古泉だ。
長門の死角から音もなく跳びかかり、その後頭部へと左の拳を伸ばす。

だが、長門はわずかに横に移動するだけでそれを回避。
古泉が横を通り過ぎる直前に
長門はサッカーのヒールキックをするように擦れ違いざまに古泉の脛を蹴り飛ばした。
高速で下半身を跳ね上げられ腰を中心にして回転し古泉は額からリングへと墜落する。

「足元がお留守」

二人を一瞬で倒したにも関わらず、息一つ乱さずに軽口を叩く。

「くっそ…!」

ノーヴェはロープに身体を預けすぐに起き上がろうとするが、
中腰ぐらいまでどうにか体勢を立て直したところで腰が抜けたように前のめりに倒れた。
頭を思い切りぶつけた古泉は額から落ちたため、またリング上だったこともあり
気絶するまでには至らなかったものの意識がはっきりせず立ち上がることもままならない。

長門は二人が動けなくなったのが手応えで分かっているのだろう。
一瞥すらすることなく残り二人の参加者へと目線を遣る。

オメガマンは明らかに動揺していたが、構えるだけで攻撃する様子はない。
悪魔将軍に至っては悠然と成り行きを見守っていた。
彼らを攻撃する必要はないと判断し本題へと移る。

267憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:36:09 ID:1IE6bSgg
「主催者への反逆は禁止事項。今回は警告のみ。
 同様のことを行えば次回以降は制裁を下す可能性がある」

そうとだけ言い、長門は周囲を支配しつつある闇に溶けるように消え去った。
彼女が消えた後には、中トトロどころか毛の一本すら落ちていなかった。



オメガマンは距離をおいて一連のやり取りを観察していた。
そして、戦慄していた。

ほんの一瞬だけ現れた主催者の肩割れは目にも止まらぬ攻撃を連続で繰り出し
ガイバーⅢと小娘をねじ伏せた。
それだけならまだいいのだ。
体調次第ではその二人が相手ならオメガマンでもやってやれないことはない、と自負できる。

問題はといえば…

(一瞬で現れたり消えたりするなんて反則すぎるぜ〜〜〜っ!?)

長門有希は高速で動いたのではない。文字通り、瞬間移動してこの場に現れそして去ったのだ。
元から優勝狙いのオメガマンではあったがこんなものを見せられては反抗する気も失せるというものだ。

(そして、あんな連中を殺そうとしている悪魔将軍にいつまでも付き合ってられんぜ〜〜〜。
 とばっちりを受けるようなことになったら困る、さっさと始末してしまわんとな〜〜〜!!)

そのためには体力の回復が最優先。
放送まで残りわずかな時間ではあるが、オメガマンは休息に集中し始めた。



長門が消えるとほぼ同時に、ノーヴェはようやく腰に力が入るようになってきた。
ロープを掴みながらよろよろとどうにか起き上がる。

268憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:36:41 ID:1IE6bSgg
長門の攻撃を受けた腹部を触る。
あれだけ吹っ飛ぶほどの衝撃を防御することなくクリーンヒットしたのだ。
内出血どころか、内臓にダメージを受けていても何の不思議もない。
それなのに身体に残るようなダメージはほぼなかった。
理由は予想がつく。殺し合いの参加者に無駄なダメージを負わせたくなかったのだろう。

つまりは、長門にとってノーヴェは
『手加減をした攻撃』で『反撃する隙すら与えず』『あしらえる』相手でしかないのだ。

ギリリッ、とノーヴェの歯が鳴った。
たびたび口に出していた「主催者を蹴り飛ばしにいく」というのは、
今のノーヴェの実力では妄言以外の何物でもないということを噛み締める羽目になった。

(力が…欲しいッ!!)

そう願ったのは何度目だっただろうか。
この島に来た当初よりは確実に強くなっているはずだ。
でも、まだだ。まだ、全然足りない。
どうせすぐに別れる予定だったのだ、中トトロを失ったことによるショックはない。
ただ、それでも悔しさのみが心に渦巻く。
空いた両手を強く握りしめ、ノーヴェは拳をリング隅の柱へと叩きつけた。



古泉も、力が欲しいという想いは同じだった。
わざわざ宣言してやったのだ。自分が長門の命を狙っていることは彼女も十分に知っているだろう。
だというのにわざわざ姿を見せたのだ。
殺せるものなら殺してみろ、ということだろうか。

そして結果は見ての通り、自分から触ることすらさせてもらえなかった。
それどころか、長門は古泉の姿を見ることすらしなかった。
眼中にないというのを体現したかのような敗北である。
今も立つことすらままならず、地面に這いつくばっているのだ。

分かってはいたが、長門を前にして確信を深めた。やはり仲間が必要だ。
キョンのような者ではない。トトロのような者でもない。ましてや悪魔将軍のような者でもない。
主催者を叩き潰すという信念を同じくできる真の仲間が。

万太郎のような無駄に戦力を殺ぐ結果にならぬよう将軍とは逆方向へ―――北進したい。
市街地からの煙を見て、正義超人たちが集まっているかもしれない。
機をみて悪魔将軍から離れる、まずはそれが第一だ。

269憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:37:12 ID:1IE6bSgg
(もっとも…将軍を上手く出し抜いて別行動することができるかは未知数ですがね)

冷たく自嘲的に笑う古泉。底冷えするような空気が生まれたように感じる。
今はただ、機が熟すのを待つしかない。



中トトロへの拷問は失敗した。
突如現れた主催者に対し、傷をひとつ負わせることすらかなわなかった。
だが、悪魔将軍は動じない。

拷問を加えようとしてから主催者側が行動を起こすまでの時間。
この事態で長門有希自らが行動を起こしたこと。
長門有希の実力。
その他諸々。

この短時間で起きた出来事の全てが他では得難い貴重なデータだった。
悪魔将軍にとっては使い走りである中トトロを拷問して得られたであろう情報よりもよほど有用だ。

ただ、ひとつ気に食わない。

(主催者もそれらをわざわざこの悪魔将軍に見せつける行為が
 どれほどの情報の損失になるか分かっていないわけではあるまい。
 その程度は影響はないということか…その高慢な態度、高くつくぞ)

ほの暗い炎を胸の中で燃え上がらせながら悪魔将軍はリングの外を見る。



まもなく、陽が沈む。


【E-09 湖のリング/一日目・放送直前】





【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
     ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉とノーヴェを立派な悪魔超人にする。
2.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
3.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
4.強者であるなのはに興味
5.シンジがウォーズマンを連れてくるのを待つ

270憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:37:46 ID:1IE6bSgg
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(中)、ダメージ(中)
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0〜2
【思考】
0.もっともっと強くなって脱出方法を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.強くなったらゼクトール、悪魔将軍も蹴っ飛ばす?
5.ジェットエッジが欲しい。




※参戦時期は原作の第18話〜第21話の間と思われます。






【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
     ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。




※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
 禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。





【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1〜3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。




※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。

271憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:38:24 ID:1IE6bSgg
◇ ◇ ◇

「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」

長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。

「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
 中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」

本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。

「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」

「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」

相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。

「制裁は加えたのかい?」

「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」

「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
 どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」

レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。

「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」

「そう」

タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。

キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。

「そうそう、次の放送だけどね。ちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?
 何かをするってわけじゃないんだ。ちょっと言い回しを僕流にしてみるだけだよ」

キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。

「ありがとう、有希君。それじゃあ今後もお互いベストを尽くして頑張ろうね」

そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
再びキーボードを叩く音が部屋を支配する。

「………関係ない」

カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。

272 ◆321goTfE72:2009/06/09(火) 23:38:54 ID:1IE6bSgg
以上で仮投下終了です。

273 ◆321goTfE72:2009/06/11(木) 20:24:22 ID:g1IfTQPQ
さるさんが来てしまいましたので
たいして変わってませんが続きはこちらに投下します。

274 ◆321goTfE72:2009/06/11(木) 20:24:52 ID:g1IfTQPQ
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
     ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。




※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
 禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。





【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1〜3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。




※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。

275 ◆321goTfE72:2009/06/11(木) 20:25:25 ID:g1IfTQPQ
◇ ◇ ◇

「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」

長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。

「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
 中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」

本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。

「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」

「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」

相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。
もしこれがネコであったならひっかいて逃亡しているだろう。

「制裁は加えたのかい?」

「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」

「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
 どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」

レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。

276 ◆321goTfE72:2009/06/11(木) 20:26:08 ID:g1IfTQPQ
「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」

「そう」

タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。

キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。

「そうそう、次の放送だけどね。いつものことだけど有希君の放送草案は事務的すぎるよ。
 今回もちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?」

キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。

「ありがとう有希君。それじゃあ今後もお互いを支え合い、ベストを尽くして頑張ろうね」

そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
通路から、意味深な笑い声が漏れてくる。
しばらくすると再びキーボードを叩く音のみが部屋を支配した。

「………関係ない」

カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。

277 ◆321goTfE72:2009/06/11(木) 20:27:49 ID:g1IfTQPQ
以上で投下終了です。
どなたか代理投下してくださると助かります。

既に放送案を考えている人に影響を与えかねない表現だったので
>>276のように修正しました。

他にも指摘ありましたらよろしくお願いします。

278第三回放送 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/17(水) 01:45:17 ID:BWzY8uBA


―――しゅっ


紙箱の側薬に擦られたマッチがぼおっと燃える。
草壁タツヲはゆらゆらと指先を動かして炎が揺れるさまを楽しげに眺めながら紙巻たばこに火を付けた。

チリチリと先端が燃えたところでゆっくり息を吸う、安たばこの苦い煙は口内を満たし、続けて鼻腔へと抜ける。
香りを存分に味わった後、タツヲはふぅと煙を吐き出した。

ぷかり、と白い煙が輪っかを形作ってゆらゆらと天井に昇ってゆく。
片手に紙箱をもてあそびながらタツヲは数度同じ行為を繰り返した。

嗜好品を嗜む間に身体を反らせば目に入るのは古びた木張りの天井と吊るされた白熱電球。
首を傾ければ目に入るのは壁に掛けられた時計と補修の跡が目立つふすま。

時折ちゃぶ台の灰皿にトントンと灰を落とす、何本もの吸殻がそこには溜まっていた。
六畳の和室はそれらの燃焼の結果として霞がかかった様に白っぽい。

まるで築数十年のアパートを彷彿させる光景だった、タツヲは座布団で胡坐をかきながら半分になったたばこを灰皿で揉み消す。
時計の針は間も無く長針と短針が垂直に並ぼうとしている、放送を滞りなく行うのが彼の仕事であり、そして楽しみでもあった。

「もう三回目の放送か、わかってるけど楽しい時間が過ぎるのは早いものだね。随分煙たくなっちゃったけど有希君は平気かい?」

軽い調子の声が部屋の片隅に向けられる、そこには木製の勉強机を構えた長門が座っていた。
ヤニとタールの臭いに燻される中彼女が何を考えているのかは解らない、その視線は机のパソコンに向けられたまま微動だにしない。

「……問題ない」

気遣いなど無用とばかりにカチカチとキーボードが叩かれる、これが彼女の返答。
平然と、静かに、感情を表に出さないまま正確にやるべき事をこなす。
それが―――長門有希という存在である。

「それじゃあ始めよう、ここまで生き残った運のいい人達に僕らの声を届けなきゃね」

どんな顔してくれるのか楽しみだよ、とタツヲは灰皿の横に置いてあったマイクを手にとった。
まるで子供の様に本当に楽しそうな表情でスイッチをONにする。

これで島の隅々、あらゆる場所に放送が届く、その仕掛けは電磁気的なものか魔法その他の力が働いているのかは一切が不明。
時計の針が18時に差し掛かった瞬間に男は勢い良く喋りだした。

279第三回放送 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/17(水) 01:46:30 ID:BWzY8uBA

               ※       



『全員聞こえているかな? まずは君達におめでとうと言ってあげるよ。
辛く厳しい戦いを乗り越えてここまで生き残っているなんて、それだけで褒められるものだしね。

だからといって油断しちゃ駄目だよ? 友達が出来た人も多いみたいだけどその人は隙を伺ってるだけかもしれないんだからね。
できれば堂々と戦って死んでくれる方がいいなあ。
あ、これはあくまで僕の好みの話だよ? 油断させて仲間を裏切るのは賢い方法だし大いに結構さ。

さて、皆が気になる禁止エリアを発表するよ。九箇所にもなるとさすがに危ないから聞き逃さないようにね。
暗くなってきたけどしっかりメモしておく事を薦めるよ。


午後19:00からF-5
午後21:00からD-3
午後23:00からE-6


覚えてくれたかな? 近い人は危ない場所に入り込まないようによく考えて行動すべきだよ。
そんな死に方も僕にとっては面白くないからね。

次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
会いたい人には早く会っておけば良かったのに―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?


朝比奈みくる
加持リョウジ
草壁サツキ
小泉太湖
佐倉ゲンキ
碇シンジ
ラドック=ランザード
ナーガ
惣流・アスカ・ラングレー
キョンの妹


以上十名だ、いやあ素晴らしい!
前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だって自分の家で寝たいよね?

280第三回放送 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/17(水) 01:47:26 ID:BWzY8uBA

ただ―――残念なお知らせというか、改めて君達に肝に銘じてほしい事がある。
最初の説明で言ったよね? 僕達に逆らっちゃいけないってさ。

わかる人にはわかると思うけど僕達は何度か会場に出向いているんだ。
理由は色々だけどそういう時は黙って見ていてくれないかな、襲い掛かってくるなんてもっての他だよ。

さっき呼ばれた人の中にはね、反抗した末に命を落とした人がいるんだよ。
僕だって不本意だったけどどうしても態度を改めてくれなかったんでこの有様という訳さ。
普段の生活でも困るよね、そんな人。

念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう? 
愚かな犠牲者が続かない事を切に願うよ。

話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』



               ※       



マイクのスイッチをOFFにするとタツヲはうーんと身体を伸ばした。
その表情は一つの仕事をやり遂げただけあって爽やかだ、殺し合いが加速した事実も彼を喜ばせている一因だろう。

「三度目ともなると結構自信が出るものだね、これが板についてきたという事かな?」
「恐らくそう、貴方は十分アナウンサーとしてやっていける」

嬉々としてマイクを片付けるタツヲを長門は冷静に評した。
棒読みでも無い、一言もどもる事ない正確な喋り、声だけでもクッキリとした輪郭のあるキャラクター、素質としては及第点だ。
リスナーの好感度が低いのが玉に傷だが彼は立派に仕事を務めていると言えるだろう。

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、何だか殺し合いが長く続けばいいと思えてきたよ。放送がもっと楽しめるからね」

本気では無いだろうがタツヲはそんな軽口を叩く。
そしてガラリとふすまを開けると用意されていたものに目を輝かせた。

「おーっ! もう届いてるなんて気が利くねえ、有希君は何を頼んだんだい?」

出前のおかもちをちゃぶ台に乗せて早速タツヲは中身を改めた。
中には丼が二つ、ラップを掛けられた表面は湯気で曇ってよく見えない。

長門は無言で自分の分を引き寄せる、しかし丼のサイズが明らかに大きい気がするのは気のせいだろうか?
タツヲの丼と比べると大人と子供程も違う、もちろん大人が長門でタツヲが子供だ。

「僕はカツ丼だよ、美味しいし”勝つ”なんて本当に縁起がいい食べ物だ。有希君は……ラーメンかい?」
「……ニンニクラーメン特盛、チャーシュー増量」

それだけを言うと長門はパチンと割り箸を割った。
いただきますと言うべきだよ、というタツヲに遠慮せずおかもちから取り出した小さめの器にラーメンを移す。

281第三回放送 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/17(水) 01:48:09 ID:BWzY8uBA

「これ……貴方の分」

長門が招いたのだろう、何時の間にか中トトロがちゃぶ台の足元に座っていた。
おずおずと器を受け取って長門とタツヲの顔を交互に見比べている。

「ふうん、気が利くんだねぇ。中トトロ君は何度も働いてくれたんだから考えたらそのくらいしてあげて当然だよね」

タツヲが微笑ましく見守る中、中トトロは受け取った割り箸を器用に動かして食べ始めた。
それを確認して長門も麺を掬って食べ始める。

「僕からも中トトロ君へのねぎらいだ、カツ丼のグリーンピースをプレゼントしよう」
(ふるふる、僕は好きじゃない)

微かに中トトロが首を振った気がしたがタツヲは構わずグリーンピースを何粒か器に投入する。
これが旨いんだよと言いたげな彼の目線に押されて中トトロも我慢して食べざるを得なかった

「……ごちそうさま」
(えっ!? な、なんて早さだ!)

男と獣の微笑ましいやりとりの間に少女は全てを食べ終えていた。
明らかにオーバーサイズのラーメンがスープも底に残さず消えうせた事に中トトロは目を丸くして驚いた。

「いけないなあ、食事はゆっくりと楽しんだ方がいいよ有希君」
「……今は時間が大事」

まだ半分を残してるタツヲを尻目に長門はさっさとおかもちに丼を片付けてパソコンに戻ってしまった。
やれやれと言いながらタツヲは中トトロと共に食事の続きに取り掛かる。

(ノーヴェからもらったおにぎりの方が美味しかったな。口になんて出せないけど)

もぐもぐと口を動かしながら中トトロは残してきた少女の事を思う。
―――ちくり、と胸が痛んだ。

ノーヴェが自分よりも悪魔将軍を選ぶ事は予想しなかった訳でもない、だからといってショックが軽くなる訳でもない事を中トトロは実感した。
抱かれていた時の温もりを思い出す、彼女は本当に自分を想ってくれていた。

ところが将軍の命令はその上にあった、いや古泉という少年の為でもあった。
早い話が中トトロの位置は将軍や古泉の下でしかないと否応なく実感させられたのだ。

(ノーヴェは悪くない、この人達の手先になっている僕が狙われるのは当然なんだから……)

胸の痛みを忘れようと中トトロは口を盛んに動かした。
グリーンピースの青臭い味が口一杯広がる、何も考えずにガツガツと麺とスープを咀嚼する。
食欲旺盛だね、と笑みを浮かべるタツヲの横で中トトロは黙って食べ続けた。



―――何故か、最初に食べた時よりも塩辛かった。

282 ◆5xPP7aGpCE:2009/06/17(水) 01:49:24 ID:BWzY8uBA
以上で放送案の投下終了です。
問題点ありましたらご指摘ください。

283 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/06/19(金) 21:13:20 ID:7JgOXQ1g
「走る二等兵・待つ獣神将」の修正版を投下します。

284走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/06/19(金) 21:14:01 ID:7JgOXQ1g
 ここは島のほぼ中央にある神社(F−5)。
 タママとギュオーの2人はウォーズマンと合流するために早々とここに到着していた。

「……モールで見た連中は今言った5人ですぅ」
「むう……そうか。その銀色の巨人がその一団のボスかもしれんな」
「たぶんそうですぅ。あいつどう見てもまともな雰囲気じゃなかったですぅ」

 到着したはいいが、一向にウォーズマンが現れる様子はない。
 それでギュオーはタママがモールで目撃したという5人の参加者について聞いていたのだ。
 2人は彼らの名前を知らないが、それは悪魔将軍率いる一党と彼らに捕まった2人。

 銀色の巨人・悪魔将軍。
 黒い鎧(ガイバーⅢ)の男・古泉一樹。
 青いボディスーツを着た赤い髪の少女・ノーヴェ。
 悪魔将軍にヘッドロックされて連行されていった、背中に巨大な手がついたホッケーマスクの怪人・オメガマン。
 気絶して黒いガイバーに背負われていた、頭にトサカのついたマッチョ男・キン肉万太郎。

 それがタママが目撃した5人である。
 ただし、彼らの名前はここにいる2人にはまだほとんどわかっていない。

「ギュギュッチはあいつらの事知ってるですかぁ?」
「うーむ。その赤い髪の女というのは会ったことがあるな。
 間違いでなければノーヴェという参加者のはずだ」
「う〜ん。そいつ、悪いヤツだったですかぁ?」
「うむ。そいつも私を襲ってきた危険人物だな。
 仲間がいたのならおそらく徒党を組んでいるのだろう。迂闊に手は出さない方がいい」
「そうですねぇ。ボクもそう思って声はかけなかったですぅ」

 実際はギュオーがノーヴェを襲ったのだが、タママは少なくとも表面上は気付いていないように見えた。
 しかし、黒い鎧というのが気になる所だ。
 タママの説明を聞く限り、特徴はガイバーⅢそのものだ。
 だが、ガイバーⅢはノーヴェが殖装者になったのではなかったのか。
 あるいは、ノーヴェが殖装していたユニットは新たな別のユニットなのか。
 そう言えばノーヴェのガイバーは色が少し違っていた気もするが。
 あとは、最初に会った時は一緒にいたゼクトールが居ないのが少し疑問だが、2人の目的が違ったのかもしれない。
 一度別れたが、後で合流するという可能性もある。

「しかし、すでにそれだけの人数を集めている危険人物がいるとなると、こちらも戦力を集めねばな」
「クロエがあのスバルっていうでっかいのを連れてくるかもしれないですぅ。
 いつまでもでっかいまんまじゃあ無いとは思いますけどぉ」
「確か、人間を巨大化する発明品があると言っていたな。本当にそんなものが?」

 ギュオーの質問を受けて、タママはめんどくさそうにクルルの発明品について説明する。

285走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/06/19(金) 21:14:32 ID:7JgOXQ1g
「クルル先輩の作るものは確かにすごいんですけど、大抵使うとろくな事にならないですぅ。
 合体巨大ロボットとかはいいですけど、若返らせたり、大人にしたり、性格を逆にしちゃったり。
 動物や機械をペコポン人に変えちゃったり、他人の心の中に入り込んだり。
 周りが真っ暗になったり、時間が遅くなったり。
 履いたら踊り出しちゃう靴とか、人の足の小指に自分からぶつかっていくタンスとかもあったですねえ。
 サブローって人が持ってた書いたものが実体化する実体化ペンも黄色先輩があげたみたいですぅ」
「お、恐ろしいテクノロジーだな……いろんな意味で」

 ケロン軍脅威のテクノロジーについて教えられたギュオーは驚愕するばかりであった。
 タママによると、ワープやテレポートのような技術も彼らにとってはさほど珍しいものではないらしい。
 クルル曹長に作れないものはケロボールとタイムマシンぐらいのものだという話だ。
 ケロボールというのはケロン軍の隊長が持つ万能兵器で、それ1つで地球を制圧できるほどの力があるそうだ。
 一小隊の隊長にそんなものを与えている宇宙の侵略者ケロン軍。すさまじい強敵である。
 ただ、それでも地球を侵略できずにいるというケロロ小隊のやる気のなさも相当なものだが。

「タママ君がそんなに科学の進んだ世界の住人なら、この首輪もどうにかできないか?」
「そんなの無理ですぅ。
 クルル先輩なら道具さえあれば分析して外すと思いますけど、ボクはそんなに機械に詳しくないですから。
 それより、ボクの事ばっかり聞いてないでギュギュッチの方も話して欲しいですぅ。
 博物館には何か面白いものとかなかったですか?」
「博物館には全部で10個の展示があったな。どうやら我々参加者の出身世界についての展示らしい。
 犯人捜しをしていてあまり詳しくは見ていないが……」
「具体的にどんな展示があったですか?」

 そう尋ねるタママに、ギュオーは大まかに10個の展示のおおざっぱな説明をする。

「ふぅ〜ん。なんだかペコポンのアニメとかマンガとかに出てきそうな世界が多いみたいですねぇ。
 まあ、その話は役に立ちそうにないからもういいですぅ。
 それよりギュギュッチの事を聞いておきたいですぅ。
 ギュギュッチは何で変身なんかできるんですか? 変な支給品でも手に入れたですか?」

 その問いに対して、ギュオーはウォーズマンにしたのと同じような説明をする。
 つまり、自分はクロノスに改造された被害者であり、クロノスから逃げ出した逃亡者であると説明したのだ。
 そして、ギュオーは念のため降臨者(ウラヌス)についても説明し、タママに意見を求めてみる。

286走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/06/19(金) 21:15:19 ID:7JgOXQ1g
「ペコポン人が誕生する遙か以前からペコポンの生物の進化を操作してた宇宙人なんて知らないですぅ。
 あの腹の立つ女は500年前ぐらいにペコポンに来たらしいですし、
 他にも大昔にペコポンにやって来た宇宙人は居ると思うですけどぉ……」

 「あの腹の立つ女」というのはわからないが、たぶん500年以上生きている宇宙人の知り合いが居るのだろう。
 それよりも、タママたちはやはり降臨者とは無関係と確認し、ギュオーは1人頷いて納得する。




 だがその時、何気なく窓の外を見たギュオーの目に気になるものが飛び込んできた。

「煙……か? ここからではよく見えんが」
「煙って、どこですかぁ?」

 ギュオーの言葉を聞いてタママも窓の外を見るが、身長が低すぎてよく見えない。

「見えないですけど、どっかでたき火でもしてるんですかねぇ?」
「気になるな。何か見えるかもしれん。外に出てみるか」

 そう言ったギュオーにタママも同意し、2人は一緒に神社を出て煙の出所を探す。

「どうやら北の方で大きく何かが燃えているようだが……
 火事のようだな。これはかなり燃えているかもしれんぞ」
「北って事は……軍曹さんやサッキーやフッキーⅡがいる方ですぅ!」

 黒煙の上がっているのがケロロたちの居る方向だとわかり、タママが思わず叫ぶ。
 木々に阻まれて街の様子が見えるわけではないが、煙の上がっているのはほぼ真北。心持ち東よりだろうか。
 支給されているコンパスで確かめてみても間違いない。
 そこはまさしくケロロ達が居るはずの公民館のある方向だ。

「やべえ……やばいですうぅぅ!!
 メイちゃんを殺したヤツを探すのに夢中になってて、軍曹さん達を放っておいたから……
 ボクは……ボクはまた間違ってしまったというのですかああぁあぁぁ!!」
「タママ君。落ち着きたまえ。
 まだそのケロロ軍曹たちに何かがあったとは限らないではないか」

 ギュオーは目に見えて狼狽しているタママをなだめようと声をかけるが、タママの動揺は収まらない。

「うるさいですぅ!! てめーらがもたもたしてやがるから軍曹さんの所に戻るのが遅れたですう!!
 もし軍曹さん達に何かあったらどうすんだよこのクソ野郎ーーーっ!!
 こんな事ならカジオーが死んだ後、すぐに北に向かっていれば……
 軍曹さんもサッキーもフッキーⅡも、たいした武器は持ってないし、もしかしたら、もしかしたら……!」

287走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/06/19(金) 21:16:15 ID:7JgOXQ1g

 そう言っている間にも、煙は激しくなってゆくように見えた。
 何かの事故で火がついたのか、あるいは何者かが火をつけたのであろうか。

「やはりこれは大きな火事になるかもしれんな……」
「落ち着いてる場合じゃねーですぅ!!
 こうしちゃいられないです! ギュギュッチ! 今すぐ街に向かうですぅ!!」
「いや、しかしタママ君。我々はウォーズマンと合流せねばならん。
 危険人物が徒党を組んでいるんだ。我々も人数を集めねば……」

 ギュオーはあまり迂闊に危険に飛び込みたくはない事もあってそう答えた。
 それを聞いたタママは説得する時間も惜しいと言った様子で叫ぶ。

「ああーーーっ!! もういいですぅ!! ギュギュッチはここに残ってクロエを待ってて下さい!
 ボクは軍曹さんたちを助けに行くですぅ!!」
「お、おい。タママ君!」

 ギュオーが止めるのも聞かず、タママは自分のデイパックを担いで猛烈な勢いで北に向かって走り出す。
 北へ、北へ、北へ。

「軍曹さん! サッキー! フッキーⅡ!
 ボクが今すぐ行きますぅ! 待ってて下さいですぅ! 生きていて下さいですぅーーっ!!」

 行く手を阻む木々の間を縫うようにして、道なき道を黒い小さな影が走る。
 本来なら腹黒いその生物の心に今あるのはただ1つの思いだけ。
 3人を助ける。3人を守る。その事だけを願ってタママは走り続ける。







 タママが走り去ったあと、1人残されたギュオーは少し考えた後で小声でつぶやく。

「フッ。まあいい。兵隊が減るのは避けたかったが、あの様子では止められん。
 私を連れて行く事を早々に諦めてくれただけでもよしとするか」


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