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>>2「>>2の3分クッキングの時間だよ!」 PartⅩⅩⅧ

1 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:12:06 ID:Ye6lfww6
安価スレのようなそうじゃないよう
なSSスレ


前スレ(ⅩⅩⅦ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1556555843/

前前スレ(ⅩⅩⅥ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1531398039/

前前前スレ(ⅩⅩⅤ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1520423523/

前前前前スレ(ⅩⅩⅣ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1513250979/

前前前前前スレ(PartⅩⅩⅢ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1507460469/

前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅡ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1501931181/

前前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅠ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1496660857/

前前前前前前前前スレ(PartⅩⅩ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1491735745/

前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅨ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1487495156/

前前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅧ(再々))
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1486897355/

320 ◆WsBxU38iK2:2020/12/10(木) 01:41:32 ID:WOkYiq1k
にこ(――別の何かに乗っ取られた)

ビクンッ!

にこ「……!?」


にこ(無限に回転しながら雷の洪水の中を吹き飛ばされ続ける私の体)

にこ(私は突如としてその体を指一本たりとも動かすことができなくなる)

にこ(痺れや痛みのせいではない、もちろん意識を失ったわけでもない)

にこ(私じゃない別の何かが、私の体を動かし始めたからだ) 
 

グッ ググッ

グインッ! バッ!!

にこ(何者かは空中で無理やり体をひねって姿勢を制御すると、再びイージスの盾を展開する)

バッ! バババババババッ!!

にこ(まず中心に1枚、その1枚の周囲に3枚、その外側に4枚、さらに外側に5枚)

にこ(まるで盾による花弁、雷の波が向かってくる方向に対し、イージスの盾を13面同時展開)

にこ(私が全身全霊を込めて投影した1枚と同じか、それ以上の盾が寄り集まり、トールの雷を後方へと受け流す)

バリィィィィィィィィィッ! ドゴォォォォォォォォォッ!!
 

にこ(そして、そこまでの十数秒がトールの最後の余力だったんだろう)

にこ(13面のイージスが最後の一撃をしのぎ切ると、スタジアム全体を覆い尽くしていた雷の洪水は跡形もなく消失した)

バシュッ!!!!


にこ(まるで夢でも見てたかのよう)

にこ(悪夢のような雷の洪水は一瞬で消え失せて、残ったのは広大な破壊の跡のみ)

にこ(粉々になった地面からは粉塵が舞い上がり、遠くにいるトールの姿は確認できない)

にこ(けど、雷の攻撃が消失したってことはトールも倒れた……はず、たぶんあの粉塵の向こうで気を失っているんだろう) 



にこ(それより、問題なのは――――)


??「ふぅ……何とかなったか」

スタッ

にこ(“私でない何者”かは私の声で一息つくと、荒れ果てた地面へと着地した)


??「それにしても全身酷い火傷、大事には至らなかったけど……当分治療が必要になりそう」ケホケホッ

??「とりあえずトールの戦闘不能を確認するアナウンスを待って、帰還して、それから……」

??「……ん?」

キョロキョロ

??「……ああ、そうだ、そういえば、そっちの意識はまだ残ってたっけ」

にこ(何者かは大げさな身振りで頭に手を当て、私に話しかけるような仕草をする)


にこ(そうよ、体を勝手に乗っ取られて困ってるんだってばー!)

にこ(……って、頭の中で考えたら向こうに伝わったりするの?)


??「もし喋ってるなら残念だけど、そっちの声は届かないんだ」

にこ(ダメじゃないっ!!)

??「いきなりで驚いてると思うから説明はしておく」

??「今この体を動かしてる私は>>321

321名無しさん@転載は禁止:2020/12/10(木) 20:44:40 ID:ZQvsWIa2
中川菜々、またの名を優木せつ菜と申します

322 ◆WsBxU38iK2:2020/12/11(金) 01:44:41 ID:Aumkcs5U
??「中川菜々、またの名を優木せつ菜と申します」


にこ(前者の中川……は聞き覚えがないけど、後者のせつ菜には聞き覚えがある)

にこ(せつ菜……優木せつ菜……?)

にこ(この微妙に思い出せない感じ……過去に直接会ったわけじゃなく、又聞きやデータベースで閲覧した中に混ざっていた名前なんだろう)

にこ(確か……何かのリスト、そう、たぶん要注意組織のメンバーの名前が並んでいたリストだ)

にこ(メインの構成員じゃなく、末尾に載っていたから印象が薄れてるに違いない)

にこ(思い出せ、思い出せ、絶対にそのリストに目を通したはず)


にこ(その組織、組織名は――――)




せつ菜「――新魔王軍」

にこ「……!」


せつ菜「私がよほど戦力として度外視されてるか、あなた達の情報共有がお粗末でない限り、この単語と私の名前でピンと来るはず」

せつ菜「新魔王軍、魔人管理部の優木せつ菜、部下にはゲンムさん……元ゲンムさんがいましたね」

せつ菜「あなたのお仲間とは沼津市のヌーマーズで大変楽しく遊ばせて頂きましたが……そろそろ思い出しました?」


にこ(……そうよ! 優木せつ菜は新魔王軍のメンバーだわ!)

にこ(でもどうして? 新魔王軍が今更ラグナロクに介入してくるなんて……どう考えてもおかしい)

にこ(新魔王軍のトップはフードマン、ラグナロクが発生だってフードマンの筋書き通り)

にこ(新魔王軍にはラグナロクを止める理由も、ましてや私を助ける理由なんてないはずなのに)


せつ菜「……ま、そう自己紹介したところで余計に不審がりますよね、返事を聞かなくてもわかります」

せつ菜「今更信用しろとは言いませんが、これだけは知っておいてください」

せつ菜「あなたの体を操ったこと、あなたを助けたこと、こうしてあなたの口を通して話してること」

せつ菜「これらは全て私の独断で行っていることです」

にこ(独断……?)


せつ菜「考えてみてくださいよ、フードマンを筆頭にした新魔王軍の主力は、ヘヴンズコートの拠点ごと次元の彼方に吹っ飛んでるんですよ」

せつ菜「私はたまたま関西方面防衛の指令を受け、こちらの世界に来ていたことで巻き添えを免れたましたが、中核の消えた穴は大きすぎました」

せつ菜「今や新魔王軍の残党は方針を失って空中分解」

せつ菜「責任の所在を求めて争う名前だけの古参連中、がむしゃらに拠点の修繕とフードマンの捜索を強行する技術者たち、行く当てなくリーダーの帰りを待つもの、組織を見限って抜け出すものまで様々」

せつ菜「こんな体たらくの組織のどこにマトモな指揮系統が残ってるというのでしょうか」フッ

323 ◆WsBxU38iK2:2020/12/11(金) 01:45:11 ID:Aumkcs5U


にこ(……ふむ)

にこ(所属している組織への感想としては辛辣な気がするけど、新魔王軍って忠義ある部下が多い組織には見えないからねぇ)

にこ(利害の一致で席を置いていたタイプならこんな感想になるのかも)


せつ菜「とは言え、ここらの情報の真偽はどうでもいい事なのです」

せつ菜「重要なのは私が単なる業務命令や善意であなたを助けたわけじゃないということ」

せつ菜「ラグナロクへの介入、スタジアムという目立つ場所での能力の行使は大きなリスクを伴います」

にこ「…………」

せつ菜「……お分かりですよね? 取引ですよ」


せつ菜「私の能力は万能ではありませんが、特定の条件下であれば神の如き力を振るえます」

せつ菜「ゲームにおけるゲームマスターと認識してもいい」


せつ菜「現在、このマナーバトルスタジアムは私の能力の支配下にあり、外部からの観測を一時的に遮断しています」

せつ菜「そして、あなたの体は私の操作によってどうにか立っている状態」

せつ菜「私が操作を放棄し、意識を交代した瞬間、間違いなくあなたは100%ぶっ倒れます」

せつ菜「そうした場合、粉塵の晴れたフィールドにはあなたとトールの両者が倒れていることになるでしょう」

せつ菜「ですが、この場で私があなたのHPを回復させればあなたは倒れることはない」


せつ菜「この意味……分かりますよね?」


にこ(はいはい……なるほど)

にこ(取引を了承すれば確実に勝たせる、断れば両者戦闘不能でドロー扱いにさせる)

にこ(単純明快、分かりやすい脅しで助かるわ)


せつ菜「では取引の内容と行きましょう」

せつ菜「こちらも至ってシンプル、あなたを助ける代わりに私の目的に協力してほしい、それだけのことです」

せつ菜「私の目的とはずばり>>324

324名無しさん@転載は禁止:2020/12/14(月) 13:09:01 ID:3AXQaAYs
焔の力を得ること

325 ◆WsBxU38iK2:2020/12/15(火) 00:56:56 ID:8utlhddY
せつ菜「私の目的とはずばり、焔ノ力を得ること」

にこ「……!」


せつ菜「もちろん知らないとは言わせませんよ」

せつ菜「最初の火、根源たる穂乃果から分かたれた27の魂」

せつ菜「その魂の特徴がより濃く滲み出た元型保有者、いわゆるそっくりさんは各平行世界、各分岐世界に数多く存在します」

せつ菜「ですが祖となる27の魂を保有できる者は全世界でも限られた者だけ」

せつ菜「元型保有者の中で最も濃く魂を受け継いだその者だけが焔ノ力を得ることができる」


せつ菜「矢澤にこ、あなただって持っているでしょう、こうして力を込めれば胸の所に紋章が――――」

キィィィィィィィンッ


フッ

せつ菜「おや、消えてしまいました」

せつ菜「さすがは魂とリンクしたシステム……こればっかりは私の能力でも操作できませんか」



にこ(優木せつ菜……やけに焔に詳しいわね)

にこ(私たちだって外郭界まで行ってやっと手に入れた情報なのに)  

にこ(こちらの調査を傍受していたのか、新魔王軍も別で調査を進めていたのか)

にこ(どちらにせよ、そこまで知っていて欲しがるということは…………)


せつ菜「はい、お察しの通り私は27の魂の保有者の1人」

せつ菜「焔ノ力へ到達できるチャンスを持つ唯一の優木せつ菜です」

にこ(……ま、そういうことでしょうね)  


せつ菜「ただ、資格はあるのに力を得る方法が分からなくて……」

せつ菜「私たちは敵同士ですし、頼んだところで素直に教えてくれるはずがない」

せつ菜「だからこそ取引、交渉なんです」


せつ菜「良いですか? 今からあなたの体の中で右手の操作だけを解除します」

せつ菜「動かせるのは右手だけ、了承なら親指を上に、拒否ならば親指を下に向けてください」

せつ菜「サムズアップかサムズダウン、分かりやすいですよね」


せつ菜「では時間もないので、さっさと行きますよ」

せつ菜「せーのっ……はい!」
 

ピクッ!

にこ「……っ!」

にこ(せつ菜の掛け声と共に右手に感覚が戻ってきた)

にこ(変わらず焼けるような痛みはあるけど、指くらいならなんとか動かせそう)


にこ(せつ菜は私の意志を示せと言った)

にこ(ラグナロク2回戦、ここで勝利すれば2連勝で大きなアドバンテージを得る)

にこ(だけどせつ菜に協力することは新魔王軍に加担すること、つまり後々の戦いで不利になる可能性がある)

にこ(リスクと勝利を取るか、リスクを避けて勝利を諦めるか)


にこ(…………そうね、うん、だったら)

グッ

にこ(私はゆっくりと指を動かして形を作る)

にこ(せつ菜へ示す返答は>>326)

326名無しさん@転載は禁止:2020/12/15(火) 15:07:46 ID:aYaDbX9s
サムズアップ

327 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:47:36 ID:WpbrChtQ
にこ(せつ菜へ示す返答は――――) 
 
スッ


せつ菜「サムズアップ、良い選択ですね」


にこ(厄介な契約……ではあるんだろう)

にこ(だけど目の前の勝利を逃すことは私にはできなかった)

にこ(ここは悪魔の囁きに乗るしかない……)


せつ菜「では約束通りあなたのHPを回復してさしあげましょう」

せつ菜「ただし、回復と言っても全快させるわけにはいきません」

にこ「……!」バッ! バッバッ!

せつ菜「なんですかその手の動き、不正を疑われて困るのはお互い様でしょう」

せつ菜「気絶せず動ける程度には戻してあげますから、転送されたらちゃんと治療を受けるように」


にこ(確かにせつ菜の言う通り、トールの一撃を食らってピンピンしてるのは逆に怪しい)

にこ(ちょっと騙された気もするけど、私は渋々親指を上に立てる)


にこ「…………」b

せつ菜「よろしい」


にこ(せつ菜はそれに大きく頷くと、左手を前に出して言葉を発する)

せつ菜「フィールド操作、ドロップ――回復ポーション!」

ポンッ!

キュインッ!

せつ菜「はい終了、これであなたのHPは僅かばかり回復したはずです」

せつ菜「あと10秒ほどで私の操作が解除、同時にこのスタジアムへの観測妨害も解除されるのでそのまま待っていてくださいね」


にこ(オッケー……って、ん? 待って待って、焔ノ力を教えるうんぬんはどうするのよ)

にこ「……!」バッ! バッ!
   

せつ菜「……ああ、私の交換条件なら次に会った時でいいですよ」

せつ菜「どうせ近いうちにまた会うことになると思うので」

にこ「…………?」


せつ菜「その代わり、約束は絶対に忘れないでくださいね!」

せつ菜「絶対! 絶対ですからね!」


せつ菜「ではまた!」

バシュッ!!


にこ「はっ……!」バッ!

にこ(せつ菜がそう言い残して一方的に操作を解除すると、一気に体の感覚が戻ってきた)

にこ「ぐっ……あぐっ……!!」

にこ(全身を襲う疲労感、焼けるような肌の痛み、意識が朦朧として立っているのが辛くなる)

ガクッ ザザッ

にこ(思わず膝をつく……が、逆にこれ以上悪くなる様子はない)

にこ(疲労も痛みも耐えれる範疇、せつ菜の回復のおかげでどうやらドロー試合にはならなそうだ)

328 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:47:48 ID:WpbrChtQ
サァァ……

にこ(不自然なほどに立ち込めていた粉塵が一気に晴れていく)

にこ(せつ菜による観測妨害の解除、これでメインスタジアムのカメラに映像が再び映るはず)

にこ(顔を上げると、遠くにはうつ伏せに倒れているトールの姿がある)

にこ(頭の上のカウントはゼロ、間違いなく全てのHPを使い切ったことによる敗北)

グッ グググッ

にこ「……っ!」

にこ(痛む節々に力を込めて、私はもう一度立ち上がる)

グンッ!

にこ(両手を大きく掲げ、これを見ている観客たちへ私は生きてるぞとアピールをする)

バッ!

にこ「はぁ……はぁ……」

にこ「どう……見てるわよね……私は立ってる……ここに……立ってる……」


にこ「判定は…………」



ビーーーーーーーーーーッ!!

にこ(鳴り響くブザー音、そしてダル子の声が聞こえた)


ダル子『トールの戦闘不能を確認! よって第2回戦はチーム穂乃果の勝利となります!』

ウォォォォォォォォォォォォォ!!


にこ(勝利を告げるダル子の宣言、そして後ろから聞こえる観客の歓声)

にこ(だけど、私にはそれに応える気力すら残っていなかった)

ガクンッ

にこ「はぁ……はぁ……」

にこ(辛く、細く、苦しい勝ち筋)

にこ(スタジアムのルールと、せつ菜というチートに助けられてなお、結果は満身創痍の瀕死の体)


にこ(全く……不甲斐ない)

ギュッ

にこ(言葉なく、誇りもない、あるのは勝利したという事実だけ)


にこ(私はその事実を確かめるように、固く握った拳を天へと突き上げた)

グッ!


ダル子『勝者! 矢澤にこ!』

ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!


─────────────────

マナーバトルスタジアム

PM4:15〜4:25 反逆の焔編『15』了

329 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:48:28 ID:WpbrChtQ
というわけでここまで

2回戦終了

反逆の焔編『16』に続く
かもしれない

330 ◆WsBxU38iK2:2020/12/17(木) 00:40:05 ID:6re12p1c
反逆の焔編『16』

─────────────────
──メインスタジアム


ダル子『マナーバトルスタジアムを破壊せんとばかりに放たれたトールの最後の一撃』

ダル子『それを耐え抜き最後に立っていたのはチーム穂乃果の矢澤にこでした!』

ウォォォォォォォォォォォォォ!!

ダル子『戦いを終えた戦士たちが転送陣で帰還して参ります』

ダル子『観客の皆様! 両者にもう一度大きな声援と拍手を!』

ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!



──チームオーディンベンチ



フレイ(割れんばかりの歓声がスタジアムを包み込む)

フレイ(戦士と観客が一つになる一体感、決戦が盛り上がるのは大いに結構)

フレイ(結構……なのですが……)

チラッ


ヴァーリ「どしたのフレイ」

フレイ(私の隣に座り試合を見ていたヴァーリが不安そうな視線を送ってきた)

フレイ(ヴァーリは決して頭の良い神ではないが、代わりに人の心の機微を感じ取る本能のようなものを生まれつき持っている)

フレイ(おそらくそれで私の不安な心を感じ取ったのでしょう)

フレイ「いえ、なんでもないですよ」

ポンッポンッ

ヴァーリ「わっ」


フレイ(次に決戦に出るのはこの子だ)

フレイ(出陣前に余計な心配をかけてはいけないと、私はヴァーリの頭に軽く手を置いて安心させる)

ヴァーリ「な、なにー、もうー」


フレイ「私は少しオーディンと話してきます」

フレイ「もう少しするとトールがボロボロの状態で戻ってくるので、彼をベンチまで運んでおいてください」

ヴァーリ「……うん、わかった」コクンッ

フレイ「では」

スッ

331 ◆WsBxU38iK2:2020/12/17(木) 00:40:52 ID:6re12p1c


フレイ(ヴァーリを残し、私はベンチから立ち上がると奥の通路へと進んでいく)

スタスタ

フレイ(スタジアムの内部、観客席の下に当たる通路)

フレイ(ここは決戦の関係者や運営スタッフが移動したり、出陣する戦士たちが自分の控室に移動するために使う)

スタ スタスタ

フレイ(オーディンの控室は更に特別扱いで、私たちチームオーディンの控室とも別の場所にある)

 
ザッ

フレイ「主神控室……ここですね」


フレイ(扉の前に立ち、一呼吸)

スーッ ハァーッ

フレイ(正直、私たちのチームの旗色は悪い)

フレイ(ヘイムダムが一敗、トールが一敗、これで五戦中こちらが二敗という結果)

フレイ(万が一、次の三回戦も敗北すれば負け越してしまう)

フレイ(ホームとも呼べるヴィーグリーズの地で我々がアースガルズの神々の顔に泥を塗るわけにはいかない……)

 
フレイ「……ふぅ」

フレイ(しかし、私が一番に気にしてるのは勝敗ではない)

フレイ(こちらの残る戦士は戦闘に長けたヴァーリ、主神のオーディン、そして私)

フレイ(順当に戦えば勝つ可能性は大いにある、今から悲観するほどではない)


フレイ(むしろ私が気になるのはオーディン自身の機嫌だ)

コンコンコンッ

フレイ「オーディン、私です、フレイです」

フレイ(先鋒と次鋒の連続での敗北、加えてこの会場の盛り上がりよう)

フレイ(それを観ていたオーディンの心境は如何なものなのか)

フレイ(もし荒れてたら私が対応しなければいけないんでしょうねぇ、嫌ですねぇ……)


コンコンコンッ

フレイ「オーディン? 入りますよー」

ガチャッ

フレイ(そんなことを考えつつ、主神控室の中へと入る)

フレイ(するとオーディンは>>332)

332名無しさん@転載は禁止:2020/12/17(木) 14:05:39 ID:fg0PnwoM
投げやりになっていた

333 ◆WsBxU38iK2:2020/12/18(金) 00:32:38 ID:0wFjte.I
フレイ(するとオーディンは控え室の中で槍を振りかぶっていた)


オーディン「ぬおおおおおおおおおおおおっ!」

フレイ「ちょっ! オーディン!? そんな投げ槍にならないでください!」

ダタタタッ! ガバッ!


オーディン「ぐぬぬっ……ええい離せぇ!!」

フレイ「落ち着いて! 落ち着いてください!」

オーディン「あれだけ大見得を切っておいて未だに勝ち星がないのだぞ! これが落ち着いていられるかぁ!」

オーディン「こうなればグングニルでメインスタジアムごと破壊してくれるわぁ! うおおおおおおおお!」

フレイ「いやいや、その投げ槍は洒落になりませんから!」

バタバタッ! ガタガタッ! 

ドッシャーンッ!!


オーディン「はぁ……はぁ……」

フレイ「はぁ……はぁ……」


フレイ(グングニルを振り回しながら暴れるオーディンを羽交い締めにし、何とか落ち着かせることはできた)

フレイ(全く……会場を破壊なんて暴挙に出られたらそれこそ神としての面目が丸潰れですよ)


フレイ「良いですか? ヘイムダムは試作段階で歓声に至ってなかった故の敗北」

フレイ「トールは戦闘にこだわり過ぎてルールを無視した故の敗北です」

フレイ「私たちはまだ実力では負けてはいない、ルールを遵守し慢心しなければ勝てるはずなんです」


オーディン「でも……そんな屁理屈を並べたところで負けは負けだろ?」

フレイ「ぐっ……」

フレイ(いや……いやいや、屁理屈なのは分かってるんですがねぇ、あなたを説得するためにわざわざ屁理屈をこねてるんですよ)

フレイ(それをあなたが指摘しますか、駄々こねた上に床に体育座りをしてへしょぼくれてるあなたが!)


フレイ「……はぁ」

フレイ(しかしそんなことを言っても仕方がない、身内で喧嘩してる場合などではないのです)

フレイ(肝心の主神がこれでは勝てる戦にも勝てない、今はオーディンにやる気を出させるのが最優先)


フレイ「落ち着いて状況を再確認しましょう」

フレイ「ラグナロクは残り3戦、こちらに残ってる戦士はヴァーリ、オーディン、私フレイ」

フレイ「向こうに残ってる戦士は園田海未、南ことり、穂乃果です」

フレイ「このうち南ことりはフェンリルの力を、穂乃果はスルトの力を取り込んでいます」


オーディン「ふむ……ラグナロクにおいて虹の橋を超えて攻めてくる者共だな」

フレイ「神話記述的に考えれば南ことりと当たるのはオーディン、穂乃果と当たるのは私になるでしょうね」

オーディン「ということはヴァーリと当たるのは……園田海未か?」

フレイ「はい、園田海未には特に神話記述に類する因子は見受けられませんし、ヴァーリ自身も彼女を気にかけてる様子」

フレイ「この2人が次の3回戦へ挑むのはほぼ確定でしょう」

オーディン「……ほう」


フレイ「ですが、今までのように個々のスタイルに任せベンチで静観していては同じことの繰り返し」

フレイ「チーム穂乃果は人の身で神に挑むため、あらゆる準備をし、装備を整え、情報共有と相談を欠かしていないと聞きます」

フレイ「おそらくそこが、私たちと彼女たちの決定的な差」

フレイ「私たちの人任せ、いや神任せなスタイルを改善しない限り、万が一の可能性は捨てきれません」


オーディン「だがなぁ……具体的な案は何かあるのか?」

オーディン「正直ヘイムダムがああなった時点で私のプランは狂ってしまった」


フレイ「無論です、考えていないわけがありません」

オーディン「おお、やけに自信があるではないか」


フレイ「ここからの3戦を有利に進めるための策、それは>>334

334名無しさん@転載は禁止:2020/12/18(金) 06:35:49 ID:iPweB5ZU
彼女らの本拠地にあるデータベース

335 ◆WsBxU38iK2:2020/12/19(土) 01:07:59 ID:zccV91RI
フレイ「彼女たちの本拠地にあるデータベースを利用することです」

オーディン「データベース……?」


フレイ「はい、彼女たちは戦闘に関するデータを独自のネットワークを通じて共有、本拠地のサーバーに保存していました」

フレイ「ドスケーブ城、浮遊塔、これらの施設に設置されていたサーバーは襲撃部隊が制圧した際にこちらが接収済み」

フレイ「解析まで終わっていつでも情報が取り出せる状態です」


オーディン「なるほど、仕事が早いな」

フレイ「データベースには敵の情報、作戦の進行状況、もちろん仲間に関する情報も載っています」

フレイ「これを利用すればこちらが有利に立ち回ることが可能」

フレイ「ここからの3勝はより硬いものとなるでしょう」

オーディン「ふむ……」


フレイ(私の言葉を聞き、体育座りでしょげていたオーディンはようやく座り直して顔を上げる)

ドサッ

オーディン「面白い、して具体的な対策はどうする」

オーディン「3回戦までのインターバルは短い、転送が始まれば声は届かぬ」

オーディン「早急に考えねばヴァーリに策を授けることは叶わんぞ」

フレイ「はい、では3回戦の相手、園田海未の情報から整理して行きましょう」

カタッ


フレイ(控え室のテーブルの上に懐から取り出した端末を置く)

フレイ(ドヴェルグたち技術班に作らせたもので、地上のスマートフォンやタブレットと構造はほぼ同一)

フレイ(こちらが乗っ取ったMLINEネットワークの情報にアクセスできる代物だ)


ピッ

フレイ「まずはこちらを見てください、これが彼女の能力で――――」





336 ◆WsBxU38iK2:2020/12/19(土) 01:08:30 ID:zccV91RI





──第二世界樹・隠れ家


ピピッ ピピピッ

鞠莉「おや……」


鞠莉(視界の端、サブモニターに表示させていた監視プログラムに通知が表示される)

鞠莉(クリックして詳細をチェック……)

カチッ

鞠莉(……っと、これは旧MLINEネットワークへのアクセスね)

鞠莉(四次元IPから察するに接続先はアースガルズ側の端末)

カチッ カチッ

鞠莉(参照してるのは海未ちゃんのデータ一覧の箇所か)

鞠莉(体格などのパーソナルデータから、異能、武装、焔ノ力などの能力の詳細までが載っている)

鞠莉(一応こういった敵の手に渡ると困る情報には相応のセキュリティを敷いてたはずだけど、相手方にやり手のハッカーでもいるのかしら)



鞠莉「全く……乙女の秘密を覗き見ようだなんて無神経な神様たちだこと」

鞠莉「手の内を探るのは戦争の常套手段だけど、こんな事しなくたって勝てるでしょうに」


鞠莉(モニターに向かって文句を呟くものの、特に今の私にできることはない)

鞠莉(いや……その気になれば盗み見を止めることは自体できるのだけど、止めれば私の存在が気取られてしまう)

鞠莉(この段階で隠れ家の存在が発覚するのはこちらの作戦としても本意ではない)

鞠莉(彼女たちには悪いけど、神様たちの盗み見はスルーさせてもらうとして――――)


ピッ

鞠莉「侑? 世界扉の前に着いたわね」

侑『はい! 着きました!』

鞠莉「よし、私たちは私たちの作戦を進めることに専念するわよ」

侑『ん?』

鞠莉「気にしないで、こっちの話よ」

侑『はあ……』


鞠莉(メインモニターの映像には目的の世界扉が映っている)

鞠莉(この扉の出口を任意の場所に書き換えるのが作戦の第一歩)


鞠莉(私はマイク越しに現場の侑へ話しかける)


鞠莉「侑、扉の周囲の状況を報告して」

鞠莉「特にカメラに映ってない範囲ね、警備をしてる人物やそれに類する機械、何か不審な物がないか確認してもらえると助かるわ」

侑『分かりました』

鞠莉「気をつけて、慎重に観察するのよ」



侑『ええと……扉の周りには>>337

337名無しさん@転載は禁止:2020/12/19(土) 21:45:30 ID:qZHuOdsA
ダンボールがあるぐらいで特に何も

338 ◆WsBxU38iK2:2020/12/20(日) 00:39:35 ID:8dN.Lhm2
侑『ええと……扉の周りにはダンボールがあるくらいで何も』

鞠莉「ダンボール?」

侑『はい、扉から少し離れた壁際にダンボールが5,6個くらい、二段に積み重ねられて置かれてます』

侑『第二世界樹はオープン前ってことだし、搬入された荷物なんかが入ってるんじゃないですか』


鞠莉「ふむ……」

鞠莉(カメラの死角に位置するダンボールか)

鞠莉(ダンボールと言ったら潜入の際に中に潜り込むのが定石だけど、さすがにそんな分かりやすいことはしないはず)

鞠莉(何より侑の近くの扉は未だどの出口とも繋がってない未登録の世界扉)

鞠莉(他の世界に繋がってる扉ならともかく、こんな重要度の低い場所でわざわざ隠れ潜んでる理由がない)


鞠莉「侑、もう一度聞くけど警備の姿は無いのよね?」

侑『ないです、私以外に人の気配はしません』

鞠莉「…………」


鞠莉「……オーケー、周囲を警戒しつつ作業に取り掛かりましょう」

鞠莉「まず扉に近づいて、取っ手の部分を掴んでくれる?」

侑『はいっ』

タタタッ

  
鞠莉(侑は指示通りに扉へ近づくと、両開きになってる扉の中心に付いてる2つの取っ手に手をかけた)

鞠莉(監視カメラから見える映像、及び侑のバイタルに異常はなし)


侑『こう……ですか?』

鞠莉「ええ、そのまま両開きの扉を手前に開いてみて」

侑『開く……分かりました』

ギィーーーーッ

侑『おぉ、思ったより軽い……私の力でも簡単に開けられる』

侑『それに……あれ? 扉を開くと世界樹の木の壁が見える』


鞠莉「そうね、今は世界樹の内壁に打ち付けられてるだけの扉よ」

鞠莉「そのハリボテに出口を登録させて異空間トンネルを作り出すの、やり方は覚えてる?」

侑『確か……決まったリズムで扉を開閉でしたよね』

鞠莉「ピンポーン」


鞠莉「取っ手を掴んだまま、私の言うリズムに合わせて開閉しなさい」

鞠莉「合図は開く時はツー、閉める時はトンと言うわ」

鞠莉「既に開いてる時にツーと言われたらツーの数だけ開いてる状態を維持、トンの連続も同じく状態を意地」

鞠莉「失敗に特にペナルティはないけど、一度ミスると入力が最初からになるから気を付けて」

侑『は……はい』ゴクッ

鞠莉「じゃあ行くわよ」


鞠莉「トンツーツー、トンツーツーツー、トンツートン」

侑『トンツーツー、トンツーツーツー、トンツートン』

ガチャッ ガチャッ 

ガチャッガチャッガチャッ


鞠莉(転移先の座標を登録用の信号に変換したデータ)

鞠莉(私は間違えないよう注意しつつ、モニターに表示された信号のオンオフを読み上げていく)


鞠莉(悪用乱用防止のためのシステムとは言え、ひどくアナログで時間のかかる作業)

鞠莉(侑がその作業を終えるまで、目立った横やりが入る様子は>>339)

339名無しさん@転載は禁止:2020/12/20(日) 13:40:09 ID:n1gtWNM2
他の扉が使われたがそれだけ

340 ◆WsBxU38iK2:2020/12/21(月) 01:46:31 ID:YoPwBlkE
鞠莉(目立った横槍が入る様子はなかった)

鞠莉(強いて言えば作業中に別の扉が使用されたくらい)

鞠莉(監視プログラムから通知が来てカメラを切り替えた時には既に利用者が通り過ぎた後で、誰がいたのかは分からなかったけど……)

鞠莉(ラグナロク開催中の期間にオープン前の第二世界樹を通れる人物、そう考えると整備関係者の可能性が高い)

鞠莉(もしくは地上に降りてた制圧部隊の誰か……とか)


鞠莉(まぁ、侑がいる場所とは階層の違う遠く離れた場所の扉だし、特に問題はないでしょう)

ウンウン

鞠莉「侑、これで入力は終わりよ、扉の様子はどう?」

侑『そうですね、扉は……うわ光った!!』

パァァァァァァァァァァッ!!

鞠莉「成功の証ね、座標登録が完了してやっと扉が稼働を始めたの」

侑『おおー!』


鞠莉(作業時間は10分ほど、初心者があの量のコードを打ち込んだにしては短く済んだ方ね)

鞠莉(侑は覚えが良いというか、飲み込みが早い? 一度教えると器用にこなすから助かるわ)


侑『鞠莉さん! これが歩夢たちのいる場所へ繋がってるんですよね!』

鞠莉「ええ」コクンッ

鞠莉「扉の先は九州中央、地理的には熊本辺りだけど、ムスペルとの戦いで一面焼け野原だから元の面影は皆無」

鞠莉「穂乃果たちの2大拠点である浮遊ドスケーブ城と浮遊塔はここに集まっていて、その他の飛行船や移動要塞なんかも同様に合流してる」

鞠莉「現在はその全てがワルキューレとエインヘリヤル合同の制圧部隊に襲撃を受けて制圧、乗組員は拘束状態にあるわ」


鞠莉「もちろん、貴女の記憶にあるお仲間たちもその中に……ね?」

侑『…………』

ジリッ


鞠莉(侑の言葉と動きが僅かに止まる)

鞠莉(目の前の扉を開けた先はほぼ敵地と言っていい)

鞠莉(使徒のアイテムを持ってるとはいえ、戦闘能力のない女の子が単身で乗り込むにはハードルの高い場所)

鞠莉(尻込みしたって仕方がない、むしろ当然の反応と言える)

341 ◆WsBxU38iK2:2020/12/21(月) 01:46:53 ID:YoPwBlkE


侑『…………私、行きます、行きますよ』

バッ!

侑『今更そんな話で怖気づいたりしません』

侑『鞠莉さんだって言ってたでしょ、疑問があるなら自分で確かめて来いって』

侑『私はそのために行くんです、そのために歩夢たちに会いに行く!』


鞠莉「ふふっ……そんなこと言って、扉を掴んでる手がプルプル震えてるわよ」

侑『む、武者震いです! 武者震い!』

鞠莉「良いわよ侑、面白いわぁ、私はそういう無鉄砲な女の子は嫌いじゃないの」

侑『むぅー……』


鞠莉「じゃ、ここからはボーナスよ」

鞠莉「扉が作成された時点で私と貴女の目的は達成、協力関係を結ぶ理由は無くなったけど、楽しませてもらったから追加でお節介してあげる」

鞠莉「ここから先、通信機が妨害されずに繋がってる保証はできないから、今のうちによく聞いて覚えておきなさい」


侑『……鞠莉さん、優しい?』

鞠莉「やさっ……あ、貴女がマヌケに捕まるのは勝手だけど、あまりに速攻でポカすると協力者の私まで足がつく、それを避けたいだけよ」

鞠莉「これ以上第二世界樹の中で暗躍しにくくなったら困るでしよ」

侑『うーん……素直なのかそうじゃないのか、やっぱり捻くれてる?』

鞠莉「いーいーから、黙ってアドバイス聞なさい」

侑『はーい』


鞠莉「まず扉の先、繋がった先の座標の詳細よ」

鞠莉「さっきは大雑把に九州中央と説明したけど、荒野にポンと放り出されるわけじゃない」

鞠莉「扉の座標は九州に集結した穂乃果たちの拠点、乗り物、そのうち1つの内部に設定してある」


鞠莉「その場所は>>342

342名無しさん@転載は禁止:2020/12/26(土) 22:17:18 ID:P.4ckm9Y
タイムマシンのあるラボ

343 ◆WsBxU38iK2:2020/12/28(月) 00:52:15 ID:vLaTG1eU
鞠莉「その場所はタイムマシンのあるラボ」

侑『ラボ……研究所?』

鞠莉「そうよ、そのラボ」


侑『へー、それにしてもタイムマシンなんて突飛な話、本当にそんなものあるんですか?』

鞠莉「そんなものを大真面目に研究してるとこなの」

鞠莉「名前は未来ガジェット研究所、元々は浮遊塔内部に間借りする形で存在してたラボよ」

鞠莉「だけど浮遊塔爆散の際に研究者は避難、研究していたガジェットやタイムマシンは一緒に避難先の船へ移送されたらしいわ」

侑『ってことは、今は別の場所に?』」

鞠莉「ええ、研究者たちが避難したのがデータを見るに……うん、バーミヤンだからラボもバーミヤン内に再建されてるはず」

鞠莉『とにかく出口が研究者のような施設に繋がってると理解してたらオッケーよ』


鞠莉「バーミヤンについては……」

侑『……レストラン?』

鞠莉「ま、分からないわよね」

侑『はい』

鞠莉「バーミヤンは元魔王軍の移動要塞、魔王軍と言っても今は殆ど味方みたいなものだから安心していいわ」

鞠莉「内部は三層構造になっていて、ブリッジは一番上の上層にある」

鞠莉「艦長はミナリンスキー、他の乗組員の場所は不明だけど、彼女はブリッジに残ってる可能性が高いわ」

侑『なるほど……』


鞠莉「ただ、バーミヤンも例によってアースガルズの制圧部隊に乗り込まれてるから注意すること」

鞠莉「あとは何とか奴らの目を掻い潜ってブリッジにいるミナリンスキーに接触しなさい」

鞠莉「事情を伝えれば多少なりとも力にはなってくれるはず」

侑『……はい、そうしてみます!』


鞠莉「じゃ、後は扉を開いて潜るだけよ、ここまでありがとうね」

侑『いえ、こちらこそありがとうございました』

スッ


鞠莉(侑は監視カメラに向かって一礼すると、世界扉に手をかけ、両開きの扉を手前に引く)

ギィーーーーーーッ

鞠莉(座標入力の時とは違う、実態を伴った鉄の扉の重み)

鞠莉(その隙間からは眩い光が漏れ出し――――)

ピカァァァァァァァァッ!

侑『いってきます!』


鞠莉(侑が一歩踏み出すと、その体は光の中へと消えていった)

バシュンッ!!

344 ◆WsBxU38iK2:2020/12/28(月) 00:52:36 ID:vLaTG1eU


鞠莉「ふぅ……」

ギィッ

鞠莉(侑を見届け一息、椅子へと腰を降ろす)

鞠莉(思わぬ拾いものだったけど、これで本拠地を取り戻す作戦の第一歩は完了)

鞠莉(イレギュラーな第三者、静止した水面に投げ込んだこの小石の波紋がどう影響するか……)

鞠莉(私が裏で工作するためにも、侑には存分に現場を掻き回してもらわなくちゃ)


カタカタッ

鞠莉「さてと……」

鞠莉(モニターの映像をメインスタジアムへ切り替えると、既に海未と対戦相手が闘技場の上に立っていた)

鞠莉(どうやら私と侑が座標入力の作業をしている間にインターバルは終わっていたらしい)

鞠莉「……わっ、もう始まっちゃうのね」


鞠莉「前のインターバルでは解説が挟まれてたけど、今回は何かあったのかしら」

カタカタッ 

鞠莉(ラグナロク運営が公式に流してる映像は遡って見ることはできない)

鞠莉(ただし、観客たちの撮影した写真、映像、書き込みなどの非公式なものは別だ)

鞠莉(時代の流れか、アースガルズにも地上のネットのようなものが存在する)

鞠莉(魔術か科学かのアプローチの違いはあれど、人並みに痴情のもつれのある神たちの発想は人とそう変わらない)
  
鞠莉(要は便利なものが発明されると行き着くとこには行き着くというだけ)


鞠莉(最初こそ否定派や懐疑派が多かったらしいけど、そこは奔放な性格の多い北欧の神々)

鞠莉(手早くどっぷりと沼に浸かり始め、良くも悪くもネット文化の成長は著しいとかなんとか)


カタカタッ

鞠莉「お、あったあった」

鞠莉(情報収集の1つとして、アースガルズの主要な神たちのアカウントは全てチェック済み)

鞠莉(1クリックであらゆる角度からの検索ができるようにしてある)

鞠莉(とりあえず観戦してる神たちのSNS、TL、掲示板なんかの流れを追ってみて――) 


鞠莉「ふむ……私が見てない間の出来事は>>345

345名無しさん@転載は禁止:2020/12/30(水) 00:18:48 ID:2YJhqoE6
神が相手の能力をデータベースを利用してまで覗き見たことで炎上中

346 ◆WsBxU38iK2:2020/12/31(木) 00:21:32 ID:vrdXTbH2
鞠莉「なになに? 『【悲報】チームオーディン対戦相手のデータを事前に盗み見ていた』……ってあらあら」

鞠莉「神が相手の能力をデータベースを利用してまで覗き見たことで炎上中みたいね」

カタカタッ

鞠莉(複数のサイトやSNSをクロールし抽出された情報をまとめ読みした感じ、発端はオーディン側の不正アクセスの証拠が載った画像が出回ったこと)

鞠莉(これにあることないこと尾ひれを付ける流れが生まれ、大手サイトにまとめられて更に拡散されたみたい)

鞠莉(インターバルの間のネットはこの噂で持ち切り、ネット端末を持ってない神たちにも観客席内の口コミで拡散されてる……と)


鞠莉「しかし……妙ね」

カチッ カチッ

鞠莉(まとめサイトでは幾つかの個人SNSのスクショとリンクがソースとして貼られてるけど、どれも画像自体の出どころを書いてるものはない)

鞠莉(さらに言えば、オーディンたちがデータベースにアクセスした時刻から、情報が流出して話題になるまでの時間が早すぎる)

鞠莉(この速さでアクセスを感知できるのは元々データベースの管理者で、管理権限をこっそり残していた私くらい)

鞠莉(もしくはオーディンたちの計画を事前に知っていて、アクセスと同時にログを保存して流出させた……くらいじゃないと説明が付かない)


鞠莉(無論私は関与してないから前者はあり得ない、となると可能性は後者に絞られる)

鞠莉(オーディンに計画を持ちかけた者、もしくは計画を持ちかけた者の関係者)

鞠莉(それ以外だとオーディン側のベンチ、もしくは控え室の会話を盗み聞ける人も考えられるけど……)


鞠莉「……はぁ〜、そこまで行くと推測のしようがないわねぇ」

鞠莉(忘れがちだけど、メインスタジアムの観客の大多数は使徒、その中にはあのカリオペーだって混じってる)

鞠莉(彼女、彼女に準じる力を持った使徒が悪意を持ってオーディン側を貶めようとすれば幾らでもやりようがあるだろう)


鞠莉「それで……チームオーディン側の釈明はっと」

カタカタッ

鞠莉「……お、インターバルでスタジアム内に流れてたアナウンスの動画がある」

鞠莉「よくこんなものまで律儀に録音してることで」

ピッ

鞠莉(動画をクリックして再生)

鞠莉(ボリュームを大きくすると観客のざわめきに混じってダル子の公式アナウンスが聞こえてくる)


ダル子『えーー皆さん、落ち着いてください、落ち着いてください』

ダル子『チームオーディン側からの説明文が届きましたので代読させていただきます』

ダル子『チーム穂乃果のメンバーの情報が載ったデータベースはこの決戦が始まる前に接収したものであり、アースガルズの所有物となっていたものである』

ダル子『よって、決戦が始まった時点でデータベースはチームオーディンの持ち込みアイテムとして扱われる』

ダル子『管理、運営についても既にヴァルハラ側のスタッフが行っており、なんら不正な手段を用いた行為ではない! とのこと』


ダル子『あーー皆さん落ち着いて! 落ち着いください!!』

ブツッ!

347 ◆WsBxU38iK2:2020/12/31(木) 00:21:47 ID:vrdXTbH2


鞠莉「動画はここで終わり……と、それにしても大した屁理屈ね」

鞠莉「いくら正当性をアピールしたとこで一度卑怯だというレッテルを貼られたらどうしようもないでしょうに」

鞠莉「流出させた犯人だってこの状況を見て今頃ほくそ笑んでいるはず……」


鞠莉「……ん?」ピクッ

鞠莉(なんだろう、何か違和感がある、何かを見落としてるような……そんな気がする)

鞠莉(データベースにアクセスしていたオーディンたち、それを感知して覗き見れたのは私と犯人)

鞠莉(つまりあの時刻、データベースと繋がっていた端末はオーディンの物、犯人の物、そして目の前の物の3つ)

鞠莉(ということは、履歴を遡れば犯人の物と思わしきアクセスを見つけられる……)


鞠莉「……いや、待って、違う」

鞠莉(これが身内による流出みたいなつまらない事件じゃなく、第三者による悪意のある犯行だとしたら)

鞠莉(ヴァルハラ管理下のデータベース内に潜り込み、オーディンたちのアクセス履歴を瞬時に確保できるスキルの持ち主だったとしたら)

鞠莉(ヴァルハラの物とは違う、高位のアクセス権限を持ったアカウントの存在に気付いていたとしたら――――)


ピロリンッ

鞠莉「……!」


鞠莉(メールの通知がディスプレイの端にポップアップする)

鞠莉(この隠れ家、この端末の存在を知ってるのは私と侑だけ)

鞠莉(他の皆は捕まったままだし、スタジアムの穂乃果たちに至っては私が1人脱出し行動を始めたことを知る由もない)

鞠莉(そして侑に渡したスマホにはメール機能なんてつけてない)


鞠莉(つまり、このメールは……)

ピッ ピピッ

鞠莉(解析ソフトにかけ、ウイルスや謎の添付ファイルがついていないのを確認した上でメールをクリックする)

カチッ

鞠莉(そこに書かれていたメールの差出人の名前は……>>348)

348名無しさん@転載は禁止:2021/01/02(土) 21:40:23 ID:Re.PhtWo
カリオペー

349 ◆WsBxU38iK2:2021/01/03(日) 00:30:02 ID:0YCIt1C2
鞠莉「カリオペー……よりによって貴女ってわけね」


鞠莉(開かれたメール、そこに表示された文面に目を通していく)

パッ

カリオペー『ごきげんよう親愛なるお母上、不肖の娘である私のことを覚えるかな』

カリオペー『ま、聡明なるお母上のことだから私の介入にはとっくに気付いているはず』

カリオペー『もしかしたら……そう、私の加護を授けた子がお世話になったかも』

カリオペー『まだ会ってないなら出会った時にはよろしく言っておいて』


カリオペー『って、いけないいけない、偽装通信の仕様上あまり長い文面は送れないし、さっさと本題に入るね』

カリオペー『お察しの通り炎上騒ぎの犯人は私だよ』

カリオペー『拡散させた書き込みに悪意を煽るような術式を混ぜておいたから効果は抜群』

カリオペー『すぐに私の想定した騒ぎに発展してくれた、神様たちってのもチョロいねぇ』


カリオペー『動機は……ま、お母上の動機とそう変わらないと思うよ』

カリオペー『私もチームオーディンにここから逆転勝ちされるとすこーし困るんだ』

カリオペー『さすがにオーディンたちの記憶を消すほどの術式は通用しそうにないし、仮に通用したとしても私の存在がバレそうだからパス』

カリオペー『考えた結果、観客を扇動して叩かせる方向に持っていったわけ、文芸の女神としては良い落とし所じゃない?』


鞠莉「…………」

鞠莉(チームオーディンに勝たれると困る……つまり穂乃果たちに肩入れしての行動ということだろうか)

鞠莉(いや、使徒たちにとってはラグナロクに関わるもの全てが討伐対象、単にカリオペーが心変わりしたとは考えにくい)

鞠莉(あれだけ使徒を観客席や解説席に引き込んだ事と言い、絶対によからぬことを企んでいるはず)


カリオペー『だからさ、ここはお互いに邪魔せずにいこうよ』

カリオペー『お母上の行動に私たちからは口を出さない、私たちの行動にもお母上も口を出さない』

カリオペー『人と神による世紀の決戦、せめてこの戦いが終わるまではぬるーく傍観してない?』


カリオペー『私からの提案はそんな感じ、それじゃあお母上、元気でね〜』



カチッ

鞠莉「ふむ……」

鞠莉(メールの文面はここで終わっている)

鞠莉(一応差出人に気付いた時点で精神干渉系の防護術式を走らせてたけど無反応)

鞠莉(さすがのカリオペーも私まで罠に嵌めようとは思わないか……)


鞠莉「それにしても、カリオペーの提案を額面通りに受け取るか、悩みどころねぇ」

鞠莉「お互いに裏があるのを察しつつ不干渉というのは望むとこだけど、他人の思惑に丸乗りするのは気に食わない」


鞠莉「……ま、とりあえずカリオペーには『>>350』と返信しておきましょう」

カタカタッ

350名無しさん@転載は禁止:2021/01/06(水) 00:32:03 ID:fcF2QqTc
私の邪魔にならなければいいわ
邪魔をしたらわかってるわね?

351 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 00:58:31 ID:Iz/jPjKM
鞠莉「……っと、返信はこれでオーケー」

タンッ


鞠莉「カリオペーだったり侑ちゃんだったり予定外の事態は多いけど、計画自体は概ね順調ね」

鞠莉「アースガルズに気取られて邪魔される前に、さっさと本命の作業に取り掛かるとしましょう」

カチッ

鞠莉「ふふ……誰がどう掻き回そうと最後に笑うのはこの私」

鞠莉「遥か昔からこの地上で、この世界で遊ぶのは私の専売特許って決まってるのよ」

鞠莉「北欧の神様だろうがなんだろうが、手を出したらどうなるか――――」



タタンッ!

鞠莉「徹底的に分からせる、あまり人間を舐めない方が良いってね」






352 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 00:58:47 ID:Iz/jPjKM




──メインスタジアム・観客席

同時刻 PM4:55 



ピピッ

カリオペー「……ん、お母上から返信……っと」

ピッ


『私の邪魔にならなければいいわ』

『邪魔をしたらわかってるわね?』


カリオペー「うわー……相変わらず邪魔者には容赦ない人だなぁ」

カリオペー「自分が面白いと思った者には味方するけど、敵と認定したら徹底的に叩き潰す」

カリオペー「基本的に快不快が行動指針な人だからコントロールはしやすいけど、あんまり調子に乗って利用すると痛いしっぺ返しくらうからなぁ」

ブルルッ

カリオペー「あーやだやだ……実験体の頃を思い出すと未だに寒気が止まらない」

ブンブンッ


カリオペー(とりあえず、文面を見る限りお互いに邪魔しない路線で行くことは受け入れられたみたい)

カリオペー(正直スタジアム側と世界樹側、両面を警戒し続けることは難しい)

カリオペー(お母上が向こうの勢力をけん制してくれるのなら願ったり叶ったりだ)

カリオペー(なにより一番はお母上と正面から敵対することを避けられた、ってのに尽きるんだけど……)


カリオペー(あーあ……そんなお母上の玩具の世界樹を襲撃して制圧したやつら、無事に帰ることができるのかなぁ)



ケモミミ「……ミャ! お姉さん! そろそろ3回戦が始まるみたいミャよ!」

カリオペー「ん、そうみたいだね」

ケモミミ「楽しみだミャ、次はどんな戦いが見れるかミャ」

カリオペー「ふふっ……ケモミミちゃんは純粋で可愛いなぁ」ナデナデ

ケモミミ「ミャミャっ!?」ビクッ



カリオペー(炎上でオーディンサイドを掻き回す仕事は終わったし、次の段階までは普通に観戦して楽しんでようかな)

カリオペー(たまたま隣に座ってたケモミミちゃんもすっかり乗り気みたいだし)

カリオペー(気難しい作戦のことは一旦他の面子に丸投げにして、興行を楽しむのありよりのあり)


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

カリオペー(チーム穂乃果、チームオーディン、両方の戦士が闘技場に立ってる様子が巨大モニターに映る)

バッ!

ダル子『えー、色々、非常に色々ありましたが、気を取り直して3回戦を始めさせて頂きます』

カリオペー(解説席からのアナウンスは変わらずダル子ちゃん、彼女も結構な巻き込まれ体質で大変そうだねぇ、かわいい)


ダル子『チーム穂乃果、園田海未!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!

ダル子『チームオーディン、ヴァーリ!』

ウォォォォォォォォォォォォォッ!


ダル子『両者一歩前へ!』

ダル子『これよりラグナロク決戦、第3回戦を開始します!』



─────────────────
 
メインスタジアム・オーディン控室
第二世界樹・隠れ家
メインスタジアム・観客席

PM4:30〜4:55 反逆の焔編『16』了

353 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 01:00:10 ID:Iz/jPjKM
というわけでここまで

インターバルが終わり3回戦へ

本年も続く限りダラダラとやっていきます
よろしくおねがいします


反逆の焔『17』に続く
かもしれない

354 ◆WsBxU38iK2:2021/01/08(金) 01:01:10 ID:O6sdUpgM
反逆の焔編『17』

─────────────────
──メインスタジアム・医務室

PM4:55


ピッ ピッ ピッ ピッ


にこ「…………ん」


にこ(医療機器の鳴らす電子音、ゆっくりと落ちる点滴の音、その向こうから僅かに聞こえる歓声)

にこ(鼻孔をくすぐるのは薬と湿布の匂い、ゆっくり息を吸うとどこまでも空虚な清潔感のある空気が肺へ吸い込まれる)

にこ(まぶたは腫れて重く、ぼやけた視界には真っ白な天井が映っていた)


にこ「ここは……」


希「起きたみたいやね、気分はどう?」

にこ「……希」

にこ(声の方、横に立っている希を見ようと体を僅かに浮かし、首を傾けようとする――――)

ビリッ

にこ「うぐっ……!」

にこ(……が、動かない)


にこ(着せられた服、寝かされたベッドのシーツ、それらとの僅かな衣擦れが痺れるような痛みに変わる)

にこ(体中の筋肉が痛い、皮膚をめくって肉の中に針でも埋め込まれてるんじゃないかって痛さだ)

にこ(この痛みに抗って体を動かそうとする気概は、今の私にはとても持ち得るものじゃない)


にこ「はぁ……」

希「ダメやで、安静にしてないと、まだ動けるような傷やないんだから」


にこ(首さえ動かせない私の代わりに、身を乗り出して私の顔を覗き込む希)

にこ(その顔を見てると段々と記憶が戻ってきた)


にこ(トール戦のあと、メインスタジアムへと転送された私はすぐに地面へと倒れ伏した)

にこ(穂乃果たちは大騒ぎで私を医務室へと搬送)

にこ(私に呼びかける声や医療スタッフを呼ぶ声、様々な声を聞きながら私は意識を失い――――)


ピッ ピッ

にこ(今に至る、というわけね)

355 ◆WsBxU38iK2:2021/01/08(金) 01:01:38 ID:O6sdUpgM


希「にこちゃん、痛い所はある?」

にこ「頭の天辺から指の先まで全身余すとこなく痛いわよ……はぁ、口は何とか動かせるのが御の字ね」

にこ「そういう希は付き添っててくれたみたいだけど……そっちはもう大丈夫なの?」  

希「うち? うちはにこちゃんと違って外傷はないからなぁ」

希「まだ貧血みたいなフラつきは残ってるけど、何とか立って歩ける程度には回復したで」

にこ「へー、それは良かったじゃない」


希「ま、それでもまだ生命力はすっからかんやし、医者の先生に言わせれば絶対安静らしいんやけど」

希「こうやって看病するくらいな問題ないやろ、ってうちが判断して押し切ってここに来た」

にこ「はは……あんまり困らせたらダメよ?」

希「分かってるって」


希「でも……皆の力になりたい、皆を応援したいって気持ちは止められないから」

希「無理してるのは承知、にこちゃんはうちを見習ったらアカンからね」


にこ「見習いたくても動かすに動かせないからへーき……っつ、いたた」


にこ(こんな包帯グルグル巻きで半ばベッドに縛り付けられた状態、無茶のしようがないっての)

にこ(自分の体だから分かるけど、回復して動けるようになるのはかなり先だろう)

にこ(まぁ、あのトールの本気の一撃を受けたんだし、命があるだけマシと考えなきゃ)

にこ(実際……せつ菜が介入して来なければどうなっていたか、今こうして希と話せてるかさえ分からない)


にこ(せつ菜との約束……この体だと果たすのは当分先になるんじゃないかしら)



にこ「それにしても、応援……か」
 
チラッ

にこ(仰向けのまま動かせない視界にギリギリ映り込む時計は4時55分を指し示していた)

にこ(進行表が正しければそろそろ3回戦の始まる時間だ)

にこ(たぶん次は海未だろうけど……大丈夫かしら)


希「そうやね、もうすぐ海未ちゃんの出番」

希「ちゃんと小型モニター借りてきたからこの部屋でも観戦できるで」

にこ「……ありがとう、助かる」


希「……あー、そうそう、海未ちゃんから言われてた事があったわ」

にこ「なに?」

希「にこちゃんが目覚めたら伝えておいてって」


希「『私のことは心配ありません、勝ってきます、それから>>356』」

356名無しさん@転載は禁止:2021/01/08(金) 08:16:39 ID:XkgeENmM
これ死亡フラグになってませんか?大丈夫ですか?

357 ◆WsBxU38iK2:2021/01/09(土) 00:52:18 ID:cgHMqNlU
希「『これ死亡フラグになってませんか?大丈夫ですか?』やって」

にこ「ふふっ……海未らしいわね」


にこ「死亡フラグなんて口に出した時点で大したフラグじゃないのよ」

にこ「私や希だってカッコつけて戦いに臨んだわりにこうして生きてるし」

希「そうやね、にこちゃんはギリギリ死にかけって感じやけど……よっ」

ツンッ

にこ「っ! ったぁっ!!!!」ビリッ!


にこ「ぐ……ぐぅ……の、希!」

希「ごめんごめん」フフッ

にこ「ったくもー……そのふさげたツンツンがこっちは激痛なんだから……たたた」


希「それでどうやろ、海未ちゃん」

にこ「ま……ちょっと心配だったけど、それだけ軽口が叩けるなら大丈夫でしょ」

にこ「この3回戦に勝てば私たちの3勝なんだから順調に勝ってもらわないと」

希「そうやね、これで負けたら死んだにこちゃんも浮かばれんわ」

にこ「いや、死んでないし……」



『ワァァァァァァァァァァァァァッ!!』

希「……お」

にこ(希の持つタブレットのスピーカーからより一層大きい歓声が聞こえてくる)

にこ(追いかけるように鳴り響く3回戦の始まりを告げるダル子のアナウンス)


希「よし、応援の時間やね」

にこ「ええ」コクンッ


にこ(2回戦、自分なりに全力を出したつもりではあった)

にこ(けれど私の力は本物の神様へは届かず、勝利はしたものの結果は不甲斐ないものだった)

にこ(仕方なかった、勝ったんだから良いに決まってる、卑怯なんてことはない)

にこ(事情を聞けば皆はそう言ってくれるだろうけど、私だけはこの結果に満足することはないし、満足しちゃいけない)

グッ……


にこ(頼むわよ、海未)

にこ(不甲斐なかった私の分まで……)


にこ(人が神様に勝てるってとこ、見せつけてきて……!)


・ 


358 ◆WsBxU38iK2:2021/01/09(土) 00:52:34 ID:cgHMqNlU
・ 




──メインスタジアム・闘技場


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!



海未「ふぅ……」


海未(会場を包み込む歓声は2回戦より大きなものとなっていた)

海未(応援する声、鼓舞する声、煽る声)


海未(そんな大歓声の中であっても、味方のベンチにいる2人の声はしっかりと聞こえる)

穂乃果「がんばれー! ファイトだよ!」

ことり「海未ちゃーん! 大丈夫! おちついていこー!」


海未「……よし」

海未(穂乃果、ことり、2人の声が私の力になる)

海未(医務室で見守ってくれてる希とにこ、2人の想いが背中を押してくれる)

海未(皆がいる限り、私の芯は揺るがない……!)


ダル子『両者一歩前へ!』

海未「……」タンッ

ダル子『これよりラグナロク決戦、第3回戦を開始します!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!!

ウォォォォォォォォォォォォォッ!!

 
海未(闘技場の中心へ歩み出ると、反対側のチームオーディン代表との距離が縮まる)

海未(相手はヴァーリ、北欧神話ではオーディンの息子として記述され、復讐者の名を持つ神)

海未(一応の知識はあるにせよ、神話はあくまで神話)

海未(同じ運命、同じ元型に縛られていたとしても、全くの同一人物になるとは限らない)

海未(数多の世界で見てきたその現象は、北欧神話世界だって同様に生じている)


海未(本来ならばアースガルズに存在しない文化や技術の数々、神の模造品として作られたヘイムダム、人に似た化身体を持つトール)

海未(相手が“どんなヴァーリ”か確定できない以上、油断は一ミリも許されない……)


ヴァーリ「よ! おねえちゃん!」

海未「……」

ヴァーリ「ぼく たたかうならおねえちゃんがいいってずっとおもってたんだ」

ヴァーリ「だからおねえちゃんが相手でうれしい、わくわくする!」


海未(ローブを纏ったヴァーリはこちらに向かって大きく手を振る)

海未(背はトールより小さく、発する声は甲高くて中性的、捉えようによっては男児にも女児にも聞こえる)


海未「これから戦う相手にお姉ちゃんとは馴れ馴れしいですね、私は海未です、園田海未」

ヴァーリ「じゃあウミおねえちゃんだね」

海未「はぁ……まぁ何でもいいです」



ダル子『では両者揃ったところで3回戦のスタジアムを決定していきましょう』

ダル子『3回戦の舞台となるスタジアムは――――』

ドゥルルルルルルルルルルル


ドドンッ!!


ダル子『>>359スタジアムです!!』

359名無しさん@転載は禁止:2021/01/09(土) 09:50:42 ID:dUZtXlGA
ラブホ

360 ◆WsBxU38iK2:2021/01/10(日) 00:34:30 ID:af0Fm2W6
ダル子『ラブホスタジアムです!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!!


海未「ラブホ……」

ヴァーリ「らぶほ……?」


海未(とんちんかんな名前のスタジアムに疑問を持っていると、頭上の4面巨大モニターにスタジアムの全景が表示される)

バッ!

ダル子『こちらのスタジアムは豊穣神フレイヤ様の設計したスタジアムであり、城塞型のラブホテルをモチーフとしています』

ダル子『敷地面積は1万平方メートル、中央塔を含めた全高は150メートル』

ダル子『部屋数は1万をゆうに超え、広大な庭や多くの娯楽施設を内包』

ダル子『フレイヤ様の趣味も多少入った規格外の巨大ラブホテル、それがラブホスタジアムなのです!』

ウォォォォォォォォォォォォォォ!!


海未(この説明でそんな歓声があがります? 神様たちの感覚というのはよく分かりませんね)

海未(昨今のラブホというものはバラエティ豊かなものと聞きますが……この規模ではまるで某夢の国並のテーマパーク)

海未(逆にラブホの意味があるのかどうか問いただしたくなってきますね)


海未「はぁ……」

海未(まぁ、この際ホテルとしての機能は置いておきましょう)

海未(単純に巨大な城塞を舞台にした戦いと考えていい)

海未(一回戦の宇宙ステーションほど限定された施設内ではなく、2回戦の結界ほど開けた空間ではない)

海未(中庭、室内、外壁、屋根上、塔、どこに陣取るかでロケーションは大きく変化する)


海未(転送地点とそこからの立ち回りが戦況に大きく影響しそうですね……) 


ヴァーリ「ねーねー、ウミおねえちゃん、らぶほってなに?」

海未「……特に知る必要はありませんよ」

ヴァーリ「ふーん……テキにイうとフリになるから?」  

海未「しょ、勝負には関係ないことですから……」

ヴァーリ「じゃあよくない?」

海未「……っ」

タジッ


海未「と、とにかくいいんです!!」
 

ヴァーリ「えー、おしえてよー」

ヴァーリ「ねーえ、ねーえー」

海未「ぐっ……」


海未(無駄にしつこいですね……ここは>>361)

361名無しさん@転載は禁止:2021/01/12(火) 22:18:30 ID:7Tyfog5E
ビンタ

362 ◆WsBxU38iK2:2021/01/14(木) 00:49:06 ID:LQeGuOJE
海未(ここは……)


海未「そこまでっ!」ブンッ!!

ヴァーリ「おっ」タンッ


海未(私が空の右手を右から左に薙ぎ払うように振り抜く)

海未(それと同時にヴァーリが半歩下がると、ヴァーリの足元に一直線のラインが刻まれた)

ザッッッッッッッッッッ!


ヴァーリ「すごい、なにこれ」

海未「ただのビンタです」

ヴァーリ「いや……ビンタはトばないでしょ」

海未「気合入れたら飛びますよ」

ヴァーリ「そういうもん……かなぁ」


海未「今のビンタであなたの足元の石床の表面を削り境界線を引きました」

海未「そこを踏み越えたら今度はあなたの頬に今のビンタを食らわします」

スッ

ヴァーリ「いじわる、ぶー」


海未「私たちは世界を背負って戦う武人の身」

海未「武人ならば口より戦で語り合おうではありませんか」

海未「それでも己の我を通すなら勝利すればいい、そのための戦場だって用意されていますし」


海未「ふふっ……まさか、神ともあろう方が口だけ達者というわけではないでしょう」

ヴァーリ「むっ」


クルッ

ヴァーリ「……はいはい、わかったよ」

ヴァーリ「よーはごちゃごちゃイうなってことでしょ」


ヴァーリ「もっとウミおねえちゃんとはなしたかったけど……うん、しかたないか」

ヴァーリ「ボクもダイヒョウらしいし、イチオウがんばりますよー」

スタ スタ


海未「はぁ……」

海未(誤魔化しが効いたのか、ヴァーリは渋々といった様子で定位置へ帰っていく)

海未(全く……ラブホだ何だと私の口から語らせないでほしい)

海未(大事な決戦にこんなスタジアムを混ぜてくるなんて、フレイヤとやらは何を考えているんだか……)

363 ◆WsBxU38iK2:2021/01/14(木) 00:49:22 ID:LQeGuOJE


ダル子『おや……トラブルでしょうか、何事ないなら良いですが……はい、大丈夫そうですね、では転送へ進みます』

キィィィィィィィィンッ

海未(足元に現れる魔法陣)

海未(その光は段々と強くなり私の体を包み込んでいく)


ダル子『事前説明の通り、転送先はラブホスタジアムのランダムなスポーン地点となります』

ダル子『転送終了と共に第3回戦の開始となるので油断しないようご注意を』


海未「すぅー、はぁー」

海未(深呼吸、精神を集中、気を高めていく)

キィィィィィィィィンッ!



ダル子『では転送まで、3……2……1』


海未「……よし、いきましょう!」


ダル子『転送!』

バシュンッ!!


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!







──ラブホスタジアム・??



バシュンッ



海未(光の中、数秒、僅かな浮遊感)

海未(体を包んでいた光が泡沫となり消えていくと、再び体は重力に引かれ、足元に確かな感触を覚える)

スタッ


海未「…………」

海未(着地と同時に姿勢を低くし、腰の剣の束に手を当て、周囲に気配がないか気を張り巡らせる)


海未「……ふぅ」

海未「とりあえず襲撃はないようですね」

スッ


海未「それにしても……」

海未(私が転送された場所、ここはラブホスタジアムの>>364)

364名無しさん@転載は禁止:2021/01/14(木) 01:47:19 ID:lq713LAk
理事長☆ルーム

365 ◆WsBxU38iK2:2021/01/15(金) 01:34:33 ID:QqC3rw8g
海未(ここはラブホスタジアムの一室でしょうか)

タン

海未(大きな窓から差し込む光、機能美を兼ね備えた高級な机と椅子、掃除の行き届いた清潔な環境)

海未(寝具などが無いことから寝泊まりする部屋でないことは分かりますが……)

スタ スタ

海未(スタッフの事務室、いや……それにしては値段が張る内装すぎますね)

海未(大机も1つですし、校長室や社長室に似た雰囲気を感じます)


海未(部屋は見る限り無人のようですが、念の為――――)

スゥーー

海未「ヴァーリ! そこにいるのは分かっていますよ!!」





シーーーン

海未(ふむ、返事は無し……と)


海未(もちろん気配で付近にヴァーリがいないことは察知済み)

海未(万が一私の気配探査を潜り抜ける魔術を使用していた場合を考えカマをかけてみましたが、出てくる様子はなさそうです)

 
海未「他に誰かーー! いませんかーーーー!」

海未(加えて2回戦のようにスタジタムを管理する存在も出てこない)
 
海未(今回は特殊ルールなどは無いということでしょうか……?)


スタスタ

スッ

海未(机と反対に歩くと大きく厚いドアに突き当たる)

海未「翡翠の眸――――透」

カッ!

366 ◆WsBxU38iK2:2021/01/15(金) 01:34:46 ID:QqC3rw8g
海未(視覚強化の翡翠の眸)

海未(元々は強力無比なロックオン効果の瞳力でしたが、修行により別系統の力を発現させることに成功しました)

海未(それが透視能力、範囲は狭いものの翡翠の眸を通して障害物を透視することができる)

キィーーーーンッ

海未「ドアやドアノブに罠のようなものが仕掛けられてる様子は……ありませんね」

海未「ドアの向こうは廊下、左右に伸びているからここは突き当りの部屋ではない」

海未「……む、ドアの反対側に何か文字の印刷されたプレートが貼り付けられていますね」

海未「裏から読む手前、少々読みにくいですがこれは……り、じ、ちょ、う ☆ る、ー、む」


海未「り、理事長☆ルーム……?」


海未(上の役職の人物の部屋、という推測は間違ってなかった)

海未(しかし理事長とは、ラブホに何故理事長の部屋が……正直困惑を隠せない)

チラッ

海未(部屋を探索すれば何か手がかりが見つかる……かもしれませんね)


スタスタ

海未「まずは如何にもな机、その引き出しから……」

ガチャッ

ガチャッ

ガチャッ

海未「外れ、外れ、外れ」

ガコッ

海未「……おや、一番下の引き出しは鍵がかかってるようですね」

海未「こんなものは少し強く引っ張れば――――」

メキッ バキッ…バキンッ!

海未「はい、開きました……っと、ここには何か入ってますね」


海未(鍵を破壊し取り出した机の引き出し、その中に入っていたものは>>367)

367名無しさん@転載は禁止:2021/01/15(金) 09:15:21 ID:dlylGJQo
ルールブック

368 ◆WsBxU38iK2:2021/01/16(土) 01:01:42 ID:vDb4dstQ
海未(入っていたのは一冊の薄い冊子)

海未(本というよりパンフレットと言った方が近い数ページ程度のもので、指で挟んで持ち上げてみても厚さというものを感じられない)

海未(その表紙に書かれているタイトルは――――)


海未「……ルールブック」


サッ ササッ

海未(一度左右を見て周囲を確認してから慎重にページを捲る)
 
ペラッ

海未「ルールブック、名前の通りならこのスタジアムのルールが書いてあるはず」

海未「ヴァーリより先に詳細なルールを知ることができれば有利に立ち回れるのでは……」


海未(ともかく読んでみないことには始まらない)

海未(周囲の警戒を続けたまま、ルールブックに記された文章に目を通していく)


海未「ふむ……」

海未(序文や前置き、そういった要らない要素を除外すると、まず目に付くのは勝敗の条件について書かれた項ですね)

海未(勝利条件は対戦相手の戦闘不能、もしくは降参、エリア外での時間切れ)

海未(敗北条件は逆に自分が上記の状況に陥ること)

海未(この辺りは事前に教えられた共通のルールで特に変わりはありません)


海未「エリアと言うのは……あれですね」

海未(本から目を離し、視線を大きな窓の方へと向ける)

海未(窓から見える景色には城塞型ラブホの各施設が立ち並んでおり、それらの外側に広大な庭や花畑が広がっている)

海未(更にその向こう、城全体を取り囲むように覆っているオレンジ色のドーム、あれがエリアを区切る境界線)


海未「あのドームの外に行くと体力の減少が始まり、ゼロになると戦闘不能扱いになる」

海未「さらにドームは時間と共に範囲を縮小して行き、最終的には城全てがエリア外となる……と」

海未「実質的な時間切れのシステム、要はあのエリアが縮まり切る前にヴァーリを倒せば勝ちですか」



海未「それで、エリアが完全に消失するまでの時間は…………1時間」

海未「敷地面積から考えると短めですね、手早く動いていく必要がありそうです」


海未(主な勝敗についての記述はこんなところ、後は細かいルールや注意点について載っている)

海未(城の壁や物品などを壊すことについてのペナルティは無し)

海未(あらゆるものを自由に使用して自由に立ち回ることが許可されているそう)

海未(その他、Q&Aなどを読み進めていくものの…………)


海未「……なんでしょう、これといって把握したから有利になる事は書かれていませんね」

海未「鍵付きの引き出しから手に入れたものですから少しは期待したのですが……はぁ、こちらの考えすぎでしたかね」

ピラッ

海未(そんなことを思いながら最後のページに目を通す)

海未(そのページに書かれているのは>>369)

369名無しさん@転載は禁止:2021/01/17(日) 15:56:08 ID:IbDdF1Is
これを読んだら地下牢に来い

370 ◆WsBxU38iK2:2021/01/18(月) 01:24:52 ID:TkGVT.Ak
海未「“これを読んだら地下牢に来い”」

海未「なんでしょう……この文章は」


海未(この文章だけが明らかに異質、ルールについて記述していた他の文章と毛色が違う)

海未(ルールブックを読んだものへの指示なのだとすれば、従ったほうが良いのか、はたまた罠なのか)


海未「ふむ……」

海未(10秒ほど思考を巡らせるも答えは出ない)

海未(ルールブックを閉じて筒のように丸め、背負ってるリュックの脇に突き刺す)

スッ

海未「……ま、他に手がかりもありませんし、とりあえず地下牢とやらまで行ってみますか」

海未「これと同じものが各部屋に隠してあるなら、ヴァーリも見つける可能性は充分にある」

海未「ならば先に行って確かめるべきですね」

タンッ


海未「善は急げ、宝だろうと罠だろうと、先に見つけるのは私ですから!」

タタンッ!







──メインスタジアム・実況席



ダル子『さぁ始まりました第3回戦、チーム穂乃果の園田海未が早速動き出すようです』

ダル子『見てる限り地下牢へ向かうようですが……解説の三船さん、この動きはどう思います?』

三船『ええ、判断が早い、良い動きだと思います』

ダル子『ほぉ、と言うと――――』


ダル子(実況席には一回戦のインターバル、2回戦、2回戦のインターバルから続いて三船さんが隣に座っている)

ダル子(何か質問をすれば的確に返してくれるし知識も豊富、解説として不満のあるところは無いけど……)

ダル子(なんだろう、やっぱり使徒って言うところが気になる)

ダル子(仕事に集中しつつなるべく挙動から目を離さないようにしないと)


三船『ランダムに選ばれるスタート地点が理事長ルームだったの幸運ですが、転送されてからの初動が得に素晴らしい』

三船『素早い索敵と安全確保、注意深く鍵のついた棚を見つける探索力と強引に鍵を破壊する思い切り』

三船『そこからルールブックを読んで地下牢へ動くところまで、一つ一つの動作に無駄がありません』

ダル子『なるほど』


三船『ラブホスタジアムは広く、広大な敷地と複数の建物が連なるため接敵しにくい戦場となっています』

三船『故に必要なのは素早い判断と正確な立ち回り方』

三船『ここを疎かにしては準備が間に合わず接敵するはめになるか、無様にエリアに飲み込まれるか、どちらにせよ勝機はないでしょう』

ダル子『ほー、そういう意味でも園田海未の動きは理想的というわけですね』

三船『はい』コクンッ


ダル子『では一方のチームオーディン、ヴァーリの様子はどうなっているのか』

ダル子『こちらの様子も見ていきましょう』

パッ!

ダル子(私の実況に合わせ、巨大モニターの映像がヴァーリの方へ切り替わる)


ダル子『現在ヴァーリがいる場所は……>>371

371名無しさん@転載は禁止:2021/01/22(金) 22:24:00 ID:NB6aLaw6
受付

372 ◆WsBxU38iK2:2021/01/24(日) 00:56:22 ID:ME2xNJqs
ダル子『現在ヴァーリがいる場所は受付、ホテルの入り口にある受付を探索してるようです』

ダル子『しかし三船さん、この受付……というかエントランスもホテルに負けず劣らず大きいですね』

三船『はい、フレイヤ様及びスタジアム建築班から配布されて資料によればエントランスには一層の気合を入れて作ったそうですね』

三船『ホテルの入り口はホテルの顔、ここを豪華にしなかったら気分が乗らない、とのことです』

ダル子『ほー』


三船『その他には妖精族から巨人族まで、様々な種族が利用できるようにとの意味もあるそうです』

ダル子『なるほど、これだけ広ければ体の大きな種族でも難なく入れますからね』

ダル子『誰とでもやりたがりの……い、いえ、グローバルな視点を持ったフレイヤ様らしい設計思想です』

三船『……?』

ダル子『と、ともかく、ヴァーリの動きに注目してみましょう』


──────────────


ヴァーリ『おー? んー?』

ガサゴソ ガサゴソ

ヴァーリ『ダメだなぁ、おもしろそうなものぜんぜんないや』

──────────────



ダル子『あれは……受付のカウンターの中に入って物色してるようですね』

三船『初動としては間違った行動ではないでしょう』

三船『しかし園田海未と比べると雑な探索で見落しが多く見受けられますね』

三船『性格の違いとは言え、手がかりを見落とすのは痛いところではあります』


ダル子『ふむ……しばらく探索は続けられるようですね』

ダル子『ではここで園田海未のいた理事長ルーム、それから地下牢との位置関係を整理しましょう』

ピッ

ダル子(ヴァーリの姿を映していた巨大モニターにワイプで全体マップが表示される)

パッ!


ダル子『えーラブホスタジアムには多くの建物が立ち並んでいますが、ホテルとしての機能を持った施設は敷地の中央に密集しています』

ダル子『それが今映してるマップ、中央塔と中央塔に繋がる東西南北4棟の建造物の図です』

ダル子『1本の長い塔と4つの高層ビルの集合体……みたいなイメージだと想像しやすいでしょうか』

ダル子『高さ150mの中央塔とそれを囲む東西南北のビルは空中を結ぶ連絡通路で移動することが可能となっています』


三船『これを見ると……理事長ルームがあるのは北のビル、北館の上層階ですね』

三船『対して地下牢は中央塔の地下、受付は南館の一階にあります』

三船『北館の上層階から降りてきて連絡通路を通り中央塔を降りることを考えると、位置関係的にはヴァーリの方が地下牢には近い』

三船『両者地下牢を目指すのであればヴァーリが有利ですが……』

ダル子『はい、ヴァーリはまだそこには至ってない様子です』


ダル子『この間にどこまで差を縮められるかが園田海未には求められ――――』

──────────────


ヴァーリ『そうだ! だったらこうすればいいんだ!』

──────────────


ダル子『……おおっと! 物色を続けていたヴァーリ、ここで新たな行動に移る様子』

ダル子『その行動とは>>373

373名無しさん@転載は禁止:2021/01/24(日) 12:12:29 ID:BEGISWaw
歌う

374 ◆WsBxU38iK2:2021/01/25(月) 00:35:04 ID:da1W9RK.
ダル子『その行動とは……歌っています!』

ダル子『チームオーディン代表ヴァーリ、ここに来て探索の手を止め歌うという選択』

ダル子『受付のカウンターの上に飛び乗り、上機嫌に歌いながら歩いています』


ダル子『三船さん、これはどういう……?』

三船『……私にも分かりません、歌そのものに効力があるのか、歌うという行為に意味があるのか』 

三船『この行動はいったい何を――――』









──チームオーディン・ベンチ



フレイ「…………」


ザッ

トール「なんだありゃ、ヴァーリのやつ歌ってんのか」

フレイ「……ええ、そのようですね」


フレイ(ベンチに座り、ヴァーリを観戦していた私に背後から声をかけたのはトールだった)

フレイ(全身に包帯を巻き、足運びは重く、顔色も青く全体的にぐったりとしている)

フレイ(さすがのトールと言えど生命力を搾り取られるのは相当憔悴した様子)


フレイ(まぁ……それでも数十分の休憩を挟むだけでここまで回復するのだから、トールのタフネスさには驚嘆するばかりです)


フレイ「トール、体の方は大丈夫なのですか」

トール「傷は問題ねェよ、ただ生命力の回復にはどうしても時間がかかるな」

トール「あと少し時間が残ってりゃ仕留めきれたってのに……矢澤にこ、運の良いやつだぜ」

フレイ「…………運、ねぇ」



トール「そんで? もうヴァーリは戦い始めてんだろ」

フレイ(トールは立ったまま体重をベンチに預けるように、ベンチの後ろから背もたれに手を置く)

ギシッ

トール「あいつ、随分とテンション高いな、あんなにテンションの高いヴァーリは見たことないぞ」

フレイ「ええ、私もです」


フレイ(この世に産み落とされヘズを殺した後、ヴァーリは生きる理由を失ったようにふさぎ込んでいた)

フレイ(多少の言語や知識は教え込まれたものの、自ら外に出ることはなく引きこもる日々を送っていた)


フレイ(そんなヴァーリを見ていた私としては驚きもあり、また喜ばしく思うところもある)


トール「加えてあの歌、戦地にいるのに歌うとは呑気なことで」ハッ

フレイ「あの歌は……ああ、そうですね、トールは知らなかったのでしたね」

トール「ん? 何の話だ」

フレイ「ヴァーリが口にしているあの歌は>>375

375名無しさん@転載は禁止:2021/01/26(火) 15:57:24 ID:3KcRAXx.
夢への一歩

376 ◆WsBxU38iK2:2021/01/27(水) 00:19:56 ID:IS4sBpJI
フレイ「ヴァーリが口にしてるあの歌は夢の一歩、地上のアイドルの歌です」 

トール「地上のねェ……」

フレイ「ヴァーリが引きこもっていた時、ヴァルハラのお世話係たちが元気を出させようとあれこれ試していたんです」

フレイ「外の世界へ興味をもたせるような物品、遊戯、文化、芸術」

フレイ「まぁ……殆どの物は空振りに終わりましたが」

トール「ほォ」

フレイ「その中でヴァーリが唯一興味を示したのがあの歌です」


フレイ「ヴァーリを外に出すことは叶いませんでしたが、それでもあの歌がヴァーリに勇気を与え続けたことは間違いない」

フレイ「ヴァーリにとって、あの歌は自らを奮い立たせる大切な歌なのです」








──ラブホスタジアム・北側連絡通路



??『はてしなーい みちでもいっぽーいっぽ』

??『あきらーめなければゆめはにげない』


タンッ

海未「……! この声は……?」


海未(理事長ルームを出た私は階段を使って北館を下り、途中にあった館内案内図で地下牢が中央塔の地下にあることを知った)

海未(そこで北館の中層から北側連絡通路を通り、中央塔へと足を踏み入れたのですが……)


海未「歌……誰かが歌ってる……?」

海未(中央塔は各階の真ん中が大きな吹き抜けになっている)

海未(吹き抜けはおそらく一階から始まり、私が今いる連絡通路と繋がるフロアを超え、さらに十数階上まで続いている)

海未(そんな長い長い吹き抜けを通り、歌声は階下から響いていた)


??『ぎゃっきょーも、ふあーんも、のりーこえーてゆけるよー』


海未「翡翠の眸――――」キィンッ

海未(遠視で吹き抜けの最下層を見てみるが人影は見当たらない)

海未(ということは、中央塔の外から発せられた声が中央塔まで届いて響いている……?)


海未「……ふむ」

海未(ラブホスタジアムで発せられる私以外の声、そんなものは十中八九ヴァーリに違いない)

海未(そう考えるとこの歌声も転送前に聞いたヴァーリの声と似ている気がしてきた)

海未(どうして歌ってるのか、どんな声量ならここまで届くんだ、という疑問は今は置いておくとして――――)


海未「このまま地下牢へ向かうと、間違いなく歌声の方へ近付くんですよね……」

ギュッ

海未(吹き抜けの周囲に張り巡らされた転落防止用の手すりを握り、階下を見下ろす)

海未(歌声に近付くということは当然ヴァーリに察知されるリスクも高くなる)

海未(しかしこれといった手がかりのない今、地下牢という選択肢は捨てがたい)


海未「そうですね、ここは……>>377

377名無しさん@転載は禁止:2021/02/07(日) 00:34:47 ID:rnsmXkVk
様子見

378 ◆WsBxU38iK2:2021/02/08(月) 03:29:08 ID:yPs3WZSo
海未「そうですね……ここは様子を見ましょう」

海未(地下牢へ向かうという判断を曲げることはしないとしても、このまま無策で階下へ飛び込むのは早計)

海未(せめて歌が終わった後にヴァーリがどう行動するのか探ってからでも遅くはない)


ヴァーリ「あなたーがてをにぎってーくれーたー」


海未(しかしこの歌、どこか聞き覚えがある気が…………)


フッ

海未「……ん?」

海未(歌に耳を傾け始めた瞬間、唐突に歌声が消失し吹き抜けが静寂に包まれる)

シーーーーン

海未(歌はこれからサビという所で途切れたから歌い終わったわけではない)

海未(歌っていたヴァーリに歌を中断アクシデントがあったのでしょうか)

……ゴクッ


海未(急に静まり返ると、今度は自分の呼吸音や鼓動がやけに大きく聞こえてくる)

海未(気をつけなければ……足音などでヴァーリに存在を気取られるわけにはいかない)

海未(慎重に、慎重に、気配を、存在を霧消させて――――)


ヴァーリ「ごめーん! それはムダだよーー!」

海未「……っ!」

海未(先程までとは違う、明らかに“私を認識した”ヴァーリの呼びかけ)


ヴァーリ「だってーー! さっきのウタのトチュウさーー! ウミおねえちゃんのとこだけオトのハねカエりがちがったもん!」

海未「音の跳ね返り……まさか、反響定位、エコーロケーション!?」

海未(あり得ない、あんな距離からあんな適当な歌で私の位置を察知したなんて)

海未(いや……相手は神そのもの、あり得ないなんてことはあり得ない)

海未(思考を切り替えろ、対応するのです私!)


ヴァーリ「だからさーー! いくよーーーーー!」

海未「っ!」バッ!

海未(翡翠の眸による索敵、声の反響からの逆算的にヴァーリが中央塔にいないのは確実)

海未(残る可能性は私の来た北館以外の3つの建造物、そして北館と同様に連絡通路で繋がっているのならそれ相応の距離がある)

海未(距離を詰めるには時間がかかり、ヴァーリとしては私を逃したくはないはず)


海未(ならば、“弓の名手ヴァーリ”として取る選択は1つ!)



ヴァーリ「はっしゃー! どーん!」

海未(やはり……!)


ゾォォォッ!!

海未(南館の方向から飛来した物体が凄まじい速度で空気を切り裂きつつ、中央塔の吹き抜けを垂直に駆け上がってくる)

海未(ヴァーリの打ち出した一の矢、その正体は>>379)

379名無しさん@転載は禁止:2021/02/08(月) 21:39:02 ID:5clf4loE
歌いたい気持ち

380 ◆WsBxU38iK2:2021/02/10(水) 00:50:16 ID:Npcvsg6k
海未(その正体は……見えないっ!?)

ゾォォォッ!!

海未(形のあるもの、弓矢や弾丸のようなものではない)

海未(目視できない力の塊が風切り音を鳴らし駆け上がってきている)


海未「いや……見えないなんてことはありませんっ!」

カッ!!

海未(両目を見開き翡翠の眸の能力を最大限まで発揮する)

海未(音がするということは質量がある、移動の際に空気を押しのけてるなら気流の乱れができる)

海未(その風の流れをこの瞳で捉えることができれば――――)


バシュッ!!

海未「そこですっ!!」

海未(階下からスクリューのように回転し登ってきた空気の流れ)

海未(その流れが速度を落とし、私のいる階の天井付近の高さで数秒の溜めを作る)

海未(そして再加速、吹き抜けの近くにいる私めがけて飛んでくる見えない弾を……ぶった斬る!!)

ザンッ!!!!


海未「どうです! これで……」



海未「……?」

海未(おかしい……確かに私は見えない弾の位置を見定め、タイミングよくファントムエッジを振るったはず)

海未(それなのに……無い、どこにもない)

海未(振り抜いた刃、その柄を握る手に感触が伝わってこないのだ)

海未(そこにあったはずの弾を斬った感触が……)


海未「……ない!?」

ブフォアッ!!

海未「ぐっ!」

海未(その事実に気付いた瞬間、私の顔面に生温い風のようなものが吹きかかった)


ヴァーリ「ざーんねーん! ケンをぬいたオトがしたけど、それはキれないんだよー!」

ヴァーリ「だってそれー! かぜなんだもーん!」


海未「……っ!?」

海未(しまった、判断を誤った)

海未(見えない弾丸が風を纏っていたのではない……その風こそがヴァーリの放った弾丸だったのだ)


海未「しかし……」

海未(風の弾丸と言えど、ダメージを与えるほどの密度や威力は無かった)

海未(むしろ私に当たる直前で霧散し、そよ風程度の風速に減速してしまった)

海未(だからこそ、私が剣を振るったところで感触がなかったわけなのだが……)


海未「ダメージを与える目的ではない、となれば状態異常……麻痺や毒を与える目的……?」

海未「ですが体のどこにも異常は感じられません、呂律も回ってますし意識もハッキリしている」


ヴァーリ「なーんかキョロキョロしてるーー? だいじょーぶだいじょーぶ、そんなカラダにドクなものじゃないってー!」

ヴァーリ「そのカゼにフウじられてたのはウタいたいキモチだよー!」


海未「歌いたい……気持ち?」


ヴァーリ「そのカゼをあびるとウタをウタいたくなってー! それからー>>381

381名無しさん@転載は禁止:2021/02/20(土) 08:43:14 ID:dke9UntI
歌を聴くと歌わずにいられなくなる

382 ◆WsBxU38iK2:2021/02/21(日) 00:15:30 ID:Jne5w/gk
ヴァーリ「それからー、ウミおねえちゃんのことだからガマンするとオモうけどー!」

ヴァーリ「ウタいたいキモチはウタをキくたびにつよくなっていくんだよー!」

ヴァーリ「そのうちウタをキいただけでウタわずにはいられなくなるはず……」

スゥーー


ヴァーリ「らーーーー♪ あーーーーーー♪」


海未「……あぐっ!」ビクッ!


海未(遠くから響くヴァーリの歌声を聞いた瞬間、脳内が歌いたい気持ちで満たされる)

海未(自然と口腔が開き、肺に空気が吸い込まれ、押し留めようとすると体が震える)

ブルルッ

海未「…………あ、あーーーー」



ヴァーリ「はい、そこ」

海未「――――くっ!」


海未(こらえ切れず響かせてしまった私の歌声)

海未(その歌声を目印に今度こそ本当の攻撃が飛んでくる)

ビシュッ!

ザザザザザンッ!!!!

海未(足元のフロアに突き刺さったのは4本の矢)

海未(見た目は何の変哲もない木の矢だが、その鏃はフロアを砕く勢いで刺さっている)

海未(明らかに普通の矢ではない、ヴァーリの力が込められた弾丸――――)


ザザザザザンッ!!!!

海未「っ!」

バッ!

海未(1射目、さらに2射目を斜め前方への飛び込むようなローリングで回避)

海未(起き上がった勢いでそのまま走り出す)

ダダダッ!


ヴァーリ「おっとー! どこに逃げても無駄だよー!」

ヴァーリ「ウミおねえちゃんのコエがきこえるかぎり、どこにいたってネラいウてるから!」


海未「ええ、そうでしょう」

海未(分かっている、だから逃げはしない、前に進むだけ……!)

ダンッ!

海未「そうでしょう……ねぇぇぇぇえぇぇぇぇええ♪」

バッ!

海未(ビブラートを響かせながら、私は吹き抜けの手すりに足をかけ、階下へと飛び降りる)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

383 ◆WsBxU38iK2:2021/02/21(日) 00:15:49 ID:Jne5w/gk


海未(まだヴァーリとの位置には距離がある)

海未(全力で中央塔へ走りながら距離を詰めてきているだろうけど、この距離なら私の落下速度の方が早い)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


海未(こうなってしまえば様子見は無意味、このまま一気に……地下牢へ突入する!)


ヴァーリ「あれ? このオトはもしかしてオちてる?」

ヴァーリ「ダメだよー! クウチュウじゃイイマトなんだからーー!」


海未「……っ、誰が良い的ですって……テンタクル!!」

ビシュッ! バシュッ!!


ヴァーリ「おおっ? なにそのウゴき!?」


海未(背中から伸ばした2本の触手を各階層の手すりに絡め、スイングと伸縮でヴァーリの矢を避けていく)

海未(某スパイダー男並の空中機動力で加速して行けば、そこはもう一階の床――――)


海未「ファントムエッジ!!」 

チャキンッ


ザンッ!!!!!!


海未(テンタクルで加速した落下の速度に抜刀の速度を加えたファントムエッジの斬撃)

海未(放たれた一文字の閃光が中央塔一階のフロアを崩壊させる)

バララララララララッ!!

ガラガラララララララララッ!!!!


海未「よし……!」

海未(開かれた穴、崩れ落ちる瓦礫)

海未(その瓦礫の中に飛び込み、一緒に地下空間へと落ちていく) 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


海未「お先に失礼しますよ〜〜♪」

ヴァーリ「だーーっ、まってぇぇぇぇぇぇ♪」


海未(段々と遠くなる頭上の穴、そこにヴァーリの姿はまだ見えない)

海未(どうやら私のほうが先に地下牢へ着くことができそうだ……)


海未「……さて」

海未(視線を頭上から足元に広がる薄暗い空間へと移す)

海未(地下牢がある……とだけ説明があった中央塔の地下空間、そこには>>384)

384名無しさん@転載は禁止:2021/02/21(日) 20:11:07 ID:2HXCDwEs
何者かの拠点

385 ◆WsBxU38iK2:2021/02/23(火) 01:11:58 ID:b3JD90RM
海未(そこにあったのは何者かの拠点だった)


海未「これは――――」キュインッ

海未(翡翠の眸、明)

海未(暗視の効果を持つ新たな翡翠の眸のモードの1つ)

海未(このモードならば薄暗闇が包む広大な地下空間さえハッキリと見通すことができる)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


海未「……イメージしていた地下牢とは程遠いですね」


海未(岩盤をくり抜いて作られたであろう大空洞にはコンクリート打ちっぱなしのような無骨な白の建物が1つ)

海未(建物の上部の四隅には大きなサーチライトが設置されてるが点灯されておらず、建物の窓からも灯りが漏れている様子はない)

海未(周囲にはビニールシートを被せられた山積みの物資が所々にまとまって置かれている)

海未(それら全てを囲う用に何重にも張り巡らされた金網のフェンス、分解されたままの機械類)

海未(明らかに何者かが備えていた形跡、拠点として利用していた形跡が垣間見える……)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


スタッ

海未「……っと」


海未(体のバネを使い難なく地下空間の地面に着地)

海未(地面はこれまたコンクリート張りのようになっていて着地の風圧で軽く埃が舞い上がる)

海未「こほっ……んんっ」


海未(見た目は完全に放棄された拠点)

海未(しかしそう決めつけるには早い、あの建物の中からは僅かだが息を潜めた何者かの気配がする……)

ザッ

海未(何より、ルールブックに記載があってハズレということはないだろう)


海未「よしっ」


タンッ タタタタタッ

海未(建物に向かって走り出す)

海未(私の足音が地下空洞に響くが注意したところで完全に物音を立てないというのは無理な話)

海未(僅かな音でもヴァーリが追跡してくるというのなら、物音に気を使うより全速力で急いだ方が早い)

タタタタタッ タタンッ!


海未(何度か金網を飛び越えて中央の白い建物に近づいていく)

海未(今頃ヴァーリは私が切り開いた一階の大穴の辺りまで来たのだろうか)

海未(そこから躊躇いなく飛び込んでくるのか、様子を見て矢を放ってくるのか)

海未(ま……どちらにせよ急いだほうが良いことに変わりはない……)


海未「……ですね、っと!」


ガシャンッ! 

タタタンッ!

海未(最後の金網を飛び越え、白い建物の側まで辿り着いた)


海未「ここが……地下牢なのでしょうか」


海未(とりあえず建物の周囲をグルっと回りながら様子を探る)

海未(すると>>386)

386名無しさん@転載は禁止:2021/02/27(土) 07:56:26 ID:bZkdfgs6
宝箱がある牢屋が1つあった

387 ◆WsBxU38iK2:2021/02/28(日) 00:34:44 ID:hhtZa.ag
海未(すると建物の一角にこれまた奇妙な場所があった)


海未「む……?」

ザッ

海未(そこはコンクリートの天井がむき出しのガレージのような場所)

海未(しかしガレージと言っても車があるわけでもなければシャッターが閉まっているわけでもない)

海未(その場所と外を分け隔てるのは天井から床へと伸びる何本もの鉄の棒)

海未(それらは外部からの侵入を、または内部からの脱出を防ぐかの如く、僅かな隙間を開けびっしりと等間隔に並んでいた)

海未(正に……牢屋、その呼び名がしっくりと来る場所だ)


海未(さらに奇妙なことに牢屋の中を覗くと宝箱が置いてあった)

海未(映画やゲームなどでよく見る宝箱然とした宝箱)

海未(古今東西老若男女、ひと目見れば誰でも宝物が入ってると勘付くあの宝箱だ)


キョロキョロ

海未(一通り観察し終わった私は辺りをもう再び見回す)


海未「あの〜〜〜〜♪ どなたか〜〜〜〜♪ いませんか〜〜〜〜♪」


海未(隠密行動をする気はさらさらない)

海未(こうして口を開けば歌ってしまう状況で隠密なんて出来ないし、行動の遅れはヴァーリに追いつかれる可能性を上げてしまう)

海未(建物の周囲を不用心に歩き回ったのも、こっそり嗅ぎ回るというよりは私の存在を中にいる何者かにアピールする意味合いが強い)

海未(要は時間がないから敵でも味方でもさっさと姿を表して欲しい……という話)


シーーーーン

海未「……反応なしですか」


海未(ミュージカル風に呼びかけてみても声が帰ってくることはない)

海未(謎の拠点、怪しげな牢、潜んでいる気配、あからさまな宝箱)

海未(誰がどう考えても罠としか思えないシチュエーションですが……)


海未「まぁ……ここまで来たなら仕方がありません」チャキッ

海未「虎穴に入らずんば虎子を得ず! です!」

ガキィンツ!!!!!


海未(牢の鉄棒を刀でなで斬りにし、内部へ侵入)

海未(そのまま暗い牢の中を宝箱の元へと進んでいく)

スタ スタ


海未「ふぅ……」

海未(一息整え、姿勢を低くし、宝箱へ手をかける)

海未(そして宝箱を開けると……>>388)

388名無しさん@転載は禁止:2021/02/28(日) 23:11:42 ID:TRle7JfU
めのまえが まっくらになった

389 ◆WsBxU38iK2:2021/03/03(水) 00:35:45 ID:5rLHdXpw
ガブンッ!

『めのまえが まっくらになった』


海未「……なっ! なんですかこれ!?」

海未(謎のテキストが視界に表示されると同時に視界が暗転、目の前が真っ暗になってしまった)

海未(翡翠の眸の能力を一通り試して見るが……)

海未「遠視! 透視! 暗視!」

キュインッ キュインッ キュインッ

海未(……ダメ! 視界は暗闇のまま、効果は全く感じられない)


海未「くっ……」

海未(視力と瞳術系スキルの封印、それも元型能力が通用しないほどの高度なもの)

海未(罠があるかもとは思っていましたが、まさか物理的なものではなく視界を奪ってくるとは……)

海未(ただでさえ聴力に長けているヴァーリ相手に視力を縛って戦う?)

海未(いやいや、そんな勝負勝ち目があるわけがない!)


海未「くっ……ど、どうして〜〜♪」

海未「いったい誰がなんのためーにー♪ こんなー罠を〜♪」


ピロンッ

『ようこそ! ドキドキ地下の大冒険! 目隠しプレイルームへ!』

海未「……は?」


海未(疑問を口にした瞬間、再び真っ暗な視界にテキストが表示された)


『運悪く敵勢力の手に落ちてしまったあなたを待っていたのは敵拠点での捕虜生活!』

『逃げ出すことの出来ない地下空間で牢に入れられ自由を奪われる日々』

『さらに敵の兵から目隠しをされたあなたは、あ〜んな風やこ〜んな風に体を弄ばれちゃうの、やっだ〜! ぴ〜んち!』

海未「…………」


『……と、そんなシチュエーションプレイを楽しめるのがこの地下施設となっています』

『パートナーと存分に楽しんでね〜! バァ〜イ』


海未「……は はぁあああああああああああああああっ!?」

390 ◆WsBxU38iK2:2021/03/03(水) 00:36:04 ID:5rLHdXpw
海未(忘れていた、失念していた、このスタジアムは頭のおかしい色ボケ女神が陣頭指揮を取った複合ラブホ施設だった……!)

海未(つまりこの広大な地下空間こそがプレイを楽しむためだけに作られた1/1のジオラマ! 完全な趣味の空間!)

ガクッ!

海未(思わず膝をつき項垂れる)


海未「な……な……」

海未(なーにがプレイルームですか! こちとら命をかけたやり取りしてるんですよ! ふざけるのもいい加減にしてください!)


海未「はぁ……はぁ……」


海未(いや、一旦冷静になりましょう)

海未(ここが頭のおかしな施設とは言えど、地下牢へ行けというメッセージがあったことは事実)

海未(あのメッセージが目隠しプレイをさせるための指示だったとは思えない)

海未(そしてこのガイドテキストらしきものは私の声に反応する)

海未(……と、考えれば)


海未「すみませーーん♪ プレイに関して聞きたいことがあるのですが〜〜♪」

ピロンッ

『なんでしょう』

海未(やはり……!)


海未「この目隠しを取る方法を〜♪ ご存知ないでしょうか〜♪」

海未(プレイなのなら終わらせばいい)

海未(目隠しを取った後でこの拠点の探索を再開する……!)


『はい、それでしたら>>391

391名無しさん@転載は禁止:2021/03/17(水) 07:33:48 ID:R9jJuvJo
クッキングssの1スレ目見たのって5年くらい前だった気が

392名無しさん@転載は禁止:2021/03/17(水) 07:34:50 ID:R9jJuvJo
あっkskst

393名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 17:57:49 ID:5rx9Bp/w
プレイが終われば外れます

394 ◆WsBxU38iK2:2021/03/22(月) 01:19:01 ID:U0Sh0Qn2
『プレイが終われば外れます』

海未「……い、いや、ですからそのプレイを終わらせる方法というものを質問してるわけでして〜♪」

『プレイが終われば外れます』

海未「だからあの〜♪ そういうことではなく〜♪」

『プレイが終われば外れます』

海未「……っ!」


海未(完全に堂々巡り、いくら質問してもシステムが具体的な解決策を提示することはない)

海未(良いアイディアだと思っただけに悔しさが隠しきれず思わず歯噛みする)

ギリッ


海未(聞き方の問題か、目隠しのどこかに別のシステムコンソールを開くボタンがあるのか)

海未(どちらにせよ文字通り手探りをしている時間は――――) 


ビュォンッ!!!!

海未「っ!」


ドゴォォォォォォンッ!!

バラララララララッ


海未(拠点内へ迫ってきた風切り音に反応して身を撚ると、私の横を衝撃が通過しコンクリートの壁が破壊される音が響いた)

海未(間違いない……ヴァーリによる狙撃)

海未(やつはもう地下空洞まで降りてきて私が拠点に潜んでいることに気付いている)


海未「だからっ、そんな時間はないと言ったでしょうに!」

海未(初撃を回避できたのは偶然の産物)

海未(ヴァーリとしても狙いを絞るために放った矢でトドメを刺すつもりは毛頭ないだろう)

海未(私が動けば動くほど、音を立てれば立てるほど、ヴァーリは正確に私の位置を把握できるのだから……)


海未(ここから始まるのは文字通りの目隠しプレイ)

海未(視界を奪われ彷徨う標的となった私を、追い立て追い詰め撃ち抜く一方的な遊戯)

海未(私に勝ち目などは端から用意されてなどいない)


海未(ならば……少しでも盾にできる障害物のある方、音の反響する拠点内へ移動するのが吉だろう)

海未(暗闇に怯える2本の足に活を入れ、私は拠点の奥へと走り出す)

ダタタッ!!





395 ◆WsBxU38iK2:2021/03/22(月) 01:19:28 ID:U0Sh0Qn2




海未「くっ……! ぐぅっ……!」

タンッ! タタタタタッ!!

海未(視界を奪われた状態で走るのが怖いことが、目を瞑って歩いてみればすぐ分かることだろう)

海未(それが勝手知った自分の家ならまだしも、全く未知の建物の中を走らなければならないと来ている)

海未(失われる平衡感覚、把握できない壁に衝突する可能性、吹き飛んだコンクリの破片が床に転がれば避ける術など有りはしない)

海未(さらに背後からは自分を狙う複数の風切り音!)

ビュォンッ! ビュォンッ!

ドゴォォォォォォンッ! ドゴォォォォォォンッ!!


海未「はぁっ……! はぁっ……!」


海未(頼りになるのは眷属化で研ぎ澄まされた聴覚と反射神経だけ)

ビュォンッ!

海未「くっ……!」ヒュンッ!

ゴッ!!

海未「ぐっ!」タンッ!

海未(矢の音が迫った瞬間に身を翻して回避をし、壁に体が触れた瞬間に身を捻って飛び退く)


海未(だがそれでも――――)

ブシュッ!! 

海未「がっ……!」

海未(完全に躱しきれなかった矢が肌を裂き、熱した鉄の棒を押し付けられたような痛みが走る)

グッ

海未「止ま……るな、止まるなぁぁぁぁぁ♪」

ダタタタタタッ!

海未(僅かな傷や打撲は仕方がない、今はとにかく走ることだけを考えなければ死あるのみ)



ヴァーリ「あのさーーーーー!」

キィーーンッ

海未「……!」

海未(ヴァーリの声、遠くにいるはずなのに相変わらず大きく響く声だ)

海未(狙う獲物に呼びかけるその様は、狙われる側からすればプレッシャー以外の何物でもない)


ヴァーリ「ぼくさーー! あんまりイッポウテキなカリってすきじゃないんだよねーー!」

ヴァーリ「いやなオモイデしかないんだよーー! にげるアイテをおいつてるってのはーー!」


海未「はっ……だったら少しは手加減してくれても良いんですよ……?」

海未(ボソリと口元で呟く声、だがこんな音量の声もヴァーリの耳には届いているのだろう)


ヴァーリ「だからさー、イッキにおわらせてあげるね」

海未「……なっ!?」


ヴァーリ「ほーーらっ!」

バシュンッ!!!!


海未(音で分かる)

海未(ヴァーリが今放った矢はこれまでのどの矢とも違う)

海未(一本だった矢が空中で無数の矢に分裂、この拠点ごと殲滅せしめようと雨の如く降り注ぐ)

バババババババババババババババッ!!


海未(そして、矢が拠点の外壁へ到達すると>>396)

396名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 09:06:52 ID:QZB6Yd9Q
「激しいプレイですね」とガイドメッセージに言われた

397 ◆WsBxU38iK2:2021/04/05(月) 00:25:05 ID:pHNozD1U
海未(矢が拠点の外壁に到達するとコンクリートの牙城は無残にも砕け散り――)


『激しいプレイですね』


海未「は……? このタイミングで何を……………」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

海未「ぐっ……! ぐあああああああああああっ!!」

ゴロロロロロロロロッ



ガンッ!

海未「がはっ……」


海未(おそらく拠点は全壊、そうはいかずとも半壊したのだろう)

海未(立っていられないほどの揺れに私の体は転倒し、衝撃波で床を激しく転げ回った後に壁へと叩きつけられた)

海未「はっ……がはっ……」

グッ ググッ

海未(衝突した壁面に鉄筋などが突き出してなかったのが不幸中の幸いか)

海未(打撲のダメージはあるものの矢は刺さっておらず、まだ走り出す程度の余力は残されている)


海未「しかし……先程のは……」

海未(狙撃の枠を超えた爆撃とも言える矢の雨、ヴァーリの攻撃が衝撃的だったのは確かなのだが、私にはそれより引っかかってることがあった)

海未(拠点が崩壊した際のガイドメッセージの言葉)

海未(『激しいプレイですね』と残したあの言葉だ)


海未「つまり……そういうことですか……?」

海未(考えられるのは、ガイドメッセージが、私とヴァーリの一連の攻防をプレイと認識している説)

海未(ヴァーリが攻めで私が受け、命懸けのやり取りをしている点を除けば広義の意味で目隠しプレイとは言える)

海未(自分の中ではあくまで悲観的な比喩に過ぎなかったが、もしシステムが同じ判断を下しているのならば……)




海未「……終わらせればいい」

グッ

海未「この逃走劇に明確な決着が付けば私の目隠しは外れる」

海未「『決着によりプレイが終了した』とシステムに錯覚させるような状況を作ればいいんです……!」


ググッ

海未(決着……決着……)

海未(私は瓦礫の山の陰で伏せの姿勢を続けたまま考えを巡らせる)


海未(一番手っ取り早いのは私が敗北することだ)

海未(何も命を差し出したり、第三回戦自体の勝利を諦める必要はない)

海未(あくまでシステムに、“この地下空間での一連のプレイが園田海未の敗北で終わった”と思い込ませればいいだけ)

海未(私がこの状況と能力を使って敗北を演出すればいいだけの話だ)


海未「ならば……することは1つ……>>398

398名無しさん@転載は禁止:2021/04/05(月) 19:50:01 ID:iPc246i.
催眠を自分にかけアへ顔ダブルピースする

399 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:48:47 ID:Eq/4uYqQ
海未「ならば……することは1つ……」

シュルルルッ

海未「マインドコントロールテンタクル――――」


カッ!

海未「セルフコントロール!」







──メインスタジアム


ワァァァァァァァァァァァッ!

ウォォォォォォォォォォッ!!


──実況席


ダル子「第三回戦、ラブホスタジアムの地下空間での戦闘」

ダル子「中央の拠点へ逃げ込んだ園田海未へ降り注ぐ矢の雨、雨、雨」

ダル子「ヴァーリの手により堅牢な外壁は崩壊し、園田海未の逃げ場は殆どなくなってしまいました」


ダル子「三船さん、この状況をどう見ます?」

三船「そうですね、両者の位置関係を考えると一方的に撃ち続けられるヴァーリが圧倒的に有利と言えるしょう」

三船「彼女の耳は優れておりあらゆる音が敵の位置を正確に捉えることができます」

ダル子「なるほど」


三船「一方で園田海未は視覚をゴーグルのようなもので封じられた状態、このまま逃げ回るのは不利と思われます」

三船「ところで……あのゴーグルのようなアイテム、宝箱の中から飛び出て装着されたように見えましたが……」

三船「実況の方に何か情報は来てるのでしょうか」

ダル子「い、いやぁ……特にこれといった情報は入ってませんね」

ガサガサ パラララッ

ダル子「スタジアム内のアイテムに関してはフレイヤ様が好き勝手に配置したとのことなとで、彼女に聞けば分かるとは思いますが――――」

三船「ふむ」


ピピッ!!

ダル子「おっと! ここで画面が切り替わりました、また何か動きがあったようです」

三船「これは園田海未側を映しているカメラですね」


ダル子「瓦礫の山の間、伏せていたはずの園田海未が仰向けになり、口をだらしなく開けて両手でピースしています」

三船「両者で……ピース?」

ダル子「あ……アヘ顔ダブルピース! これはアヘ顔ダブルピースだあああああああ!!」

ワァァァァァァァァァァァッ!!


三船「は……?」


ダル子「園田海未、ここに来てアヘ顔ダブルピース、開けた口からは舌を出し、天井に腹を向け、がに股のポーズまで取っています」

ダル子「三船さん、いったいどういうことなんでしょうか」

三船「いや、私に聞かれても……」

ダル子「目元はゴーグルで隠れていますが一切の躊躇が見られません、喘ぎながら涎まで垂らしています」


ダル子「まるで獣が見せる服従のポーズ」

ダル子「園田海未、どうしたのか! 全てを諦めてしまったというのか!!」





400 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:50:55 ID:Eq/4uYqQ




──地下空間


ヴァーリ「おねえ……ちゃん?」

ピタッ


ヴァーリ(おねえちゃんのコエが、イキが、かわった)

ヴァーリ(さっきまでのヒッシににげるものじゃない、ヒッシにあがくものじゃない)

ヴァーリ(これは、これは――――)







──チームオーディン・ベンチ



トール「おいどうした、ヴァーリまで動かなくなっちまったぞ」

トール「引き絞ってた弓まで降ろして……どうなってんだおい!」


フレイ「悟ったんでしょうね、獲物が抵抗を止めたのを」

トール「あぁ?」

フレイ「ヴァーリには分かるんです、感じ取れるんですよ」

フレイ「あの子は敵を狩るためにオーディンより生み出された天性の狩人」

フレイ「声、震え、息遣い、そういったものから獲物の感情を読み取ることができる」


フレイ「だから悟った、園田海未がこれ以上抵抗する気を無くしたことを」

フレイ「だから落胆した、これ以上楽しい時間が続かないことに」


トール「……わっかんねぇなぁ、相手が諦めたんなら勝利だろ、勝ちゃ楽しいじゃねェか」

トール「端から戦う気のない相手をいたぶるならともかく、園田海未は十分に抵抗した」

トール「その上で相手を詰ませたのはヴァーリの力量と時の運だ、何もバツの悪いことはしてねェだろう」


フレイ「まぁ……私たちにとって戦いは戦闘や娯楽の一部ですから、本当の意味であの子の気持ちを理解することはできません」

フレイ「あの子にとって戦いは、狩りは生そのもの」

フレイ「最初に腹違いの兄であるヘズを殺した時も、その後にオーディンの命令で別の標的を殺した時も、あの子の生は狩りの中にあった」

フレイ「そんなことを繰り返すうちに気づいたのでしょう、自らの生は狩りの中にあり、外にはない」

フレイ「戦ってない自分は無価値で、無意味で、抜け殻のような存在だと」


トール「なっ……! んなこたねェだろ!!」バンッ!

フレイ「はい、私もそう思います」

トール「……っ」


フレイ「ですから私は引きこもったあの子を外に出すように努力を重ねてきました」

フレイ「ま、無駄でしたけどね……ラグナロクが始まるまでは」


トール「このラグナロクが、またあいつの心に火を付けたのか」

フレイ「ええ、特に園田海未、彼女の活躍を見てね」


フレイ「ヴァーリは思ったのでしょう、彼女とならばまた心熱くなる戦いができると」

フレイ「戦場でしか示せない自分の生の輝きに浸れると」

401 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:51:45 ID:Eq/4uYqQ
フレイ「ですが、希望が大きければ絶望もまた大きくなる」

トール「…………」


フレイ「どうします、ヴァーリ」

フレイ「あなたが初めて自ら焦がれた標的が、他の愚鈍なる獲物と同じ末路を辿ろうとしている」

フレイ「そんな獲物を前に、あなたは――――」







──地下空間、崩壊した拠点



ザッ

ヴァーリ「おねぇ……ちゃん」


ヴァーリ(ガレキのヤマのナカ、アシモトにウミおねえちゃんがころがっている)

ヴァーリ(ここまでサッキをだしてムボウビにあるいてきたけど、ハンノウするヨウスはない)


海未「あへ……あへへへ……」

ピクッ ピクッピクッ

ヴァーリ(あおむけになって、だらしないヒョウジョウ、ハツジョウしたニオイまでする)

ヴァーリ(シをサトっておかしくなった……?)


ヴァーリ(ベツに……おかしいことじゃない)

ヴァーリ(イマまでもそう、おいつめられたエモノはヘンなことばかりしてきた)

ヴァーリ(みにくくなきさけんだり、イノチごいをしたり、すべてをあきらめてムになったり)

ヴァーリ(だからわかる、おねえちゃんのこれはエンギじゃない)


ヴァーリ(おねえちゃんは……ココロのソコから……ほんとにこわれちゃったんだ……)

ギリッ


ヴァーリ「……ちがう、ちがう、ちがうちがうちがう!」

ヴァーリ「そうじゃない! こんなんじゃない! ボクがやりたかったのはこんなんじゃない!」

ヴァーリ「おねえちゃんとだったら、ウミおねえちゃんとだったら……もっとあつくなれるたたかいができるとおもったのに!!」


海未「あへぇ……あへあへ……ぐへへへへへ」

ヴァーリ「…………っ」



ヴァーリ「……もういい、もういいよ、ケッキョクみんなおなじなんだ」


ヴァーリ「だから、ボクが、ボクが……おわらせる」

ガシッ

ヴァーリ(ヤをミギテでつかみ、ヤジリをおねえちゃんのシンゾウにあわせて、おもいっきりふりかぶる)

ググググググッ


ヴァーリ「これで……おわりだっ!!」

ブンッ!!!!

402 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:52:08 ID:Eq/4uYqQ
ザクッ!!


ヴァーリ「ささっ……あれ?」


ポタッ ポタッ ポタッ

ヴァーリ(ふりおろしたヤはたしかにつきささった)

ヴァーリ(でも、ささったのはおねえちゃんのシンゾウじゃない、おねえちゃんのテだった)

ヴァーリ(いつのまにか、かかげられていたおねえちゃんのヒダリテ)

ヴァーリ(そのテにヤがカンツウしたまたま、ボクのテをにぎりしめるようにうごきをとめられている)


ポタッ ポタッ ポタッ

ヴァーリ(そのテからたれおちるチでそまるクチモトは、さっきまでのほうけたヒョウジョウとはちがっていた)

ヴァーリ(ぎゅっとかたくむすんだ、ケツイのヒョウジョウ)



ピーーーーーーーーッ

システム『敗北のポーズ、終わらせる宣言、両者のプレイ終了の希望により目隠しプレイを終了』

システム『視界の封鎖を解除致します』

バシュンッ!!

ヴァーリ「……っ!」


ヴァーリ(ナゾのコエとドウジに、おねえちゃんのメをおおっていたキカイがバラバラにはじけとんだ)

ヴァーリ(そのムコウにみえるのは、ヒカリをうしなっていない、キボウにみちたヒトミ……!)


ググッ  ググググググッ

海未「……ええ、そうですよ」

ヴァーリ「……ぐっ!」

海未「私だって、こんなところで戦いを終わらせるつもりは毛頭ありません」

グググググッ

ヴァーリ(おしもどされる……)

ヴァーリ(ヤをにぎるボクのミギテが……ヤのつきささったおねえちゃんのヒダリテに……おしもどされる……)

ググググググッ

ヴァーリ(ゆるみきっていたはずのカラダにチカラがはいる……ボロボロでキズだらけのカラダにチカラがみなぎる……)

ググググググッ

ヴァーリ(たちあがる……とめられない……!?)

グンッ!!


ヴァーリ「なっ……!?」

海未「はぁ……はぁっ……」

ザッ


海未「随分と無様な姿を見せてしまったようですね、落胆させてしまいすみません」

ヴァーリ「ええ、ああ……うん、まぁ……そうだね」


海未「ですから、ここからが本番です」

ヴァーリ「……っ!」

ヴァーリ(にぎられたコブシにチカラがはいる)

ヴァーリ(おねえちゃんのあついコドウが……つたわってくる……!)



海未「あなたのしたがっていた熱いバトル」

海未「本当の園田海未の力というものを、存分に見せてあげます――――!」



─────────────────

メインスタジアム
ラブホスタジアム

PM4:55〜5:30 反逆の焔編『17』了

403 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:53:56 ID:Eq/4uYqQ
というわけでここまで

ちょっと長くなりましたがこれで3回戦の前半終了
次から後半ですね

反逆の焔編『18』に続く
かもしれない

404 ◆WsBxU38iK2:2021/04/08(木) 00:15:23 ID:bIwAgezA
反逆の焔編『18』

─────────────────
──地下空間・崩壊した拠点 

PM5:30


海未「さぁ……いきますよ!」

ヴァーリ「なっ……!」ビクッ

海未(私の宣戦布告によりヴァーリが動揺するのが手にとるように分かる)

海未(ま、実際に手と手は物理的に繋がれてるわけなのですが……)


ヴァーリ「だ、だましたの!? ぼくをここまでおびきよせるために!」

海未「騙すとは人聞きが悪いですね、こちらのデバフを解除しつつあなたを適正距離まで引っ張り出す戦術です」

ヴァーリ「そんな……アレがエンギだとはとても……」

海未「ええ、ですから演技ではありません」

ヴァーリ「は、はぁ!?」


海未(マインドコントロールによる自己洗脳、ヴァーリの五感を持ってしても見抜けないのは仕方ない)

海未(むしろ狩人としての感覚が優れているからこそ、本物を疑うことができないとも言える)

海未(生まれついての戦闘マシーン、だが経験は浅く、常に追い立てる側故に搦手を知らない)

海未(付け入る隙は……そこにある!)



海未「ほら、戸惑ってる時間はありませんよ」

海未「弓の使えないこの距離なら有利なのは私です!」

ヴァーリ「くっ……」グッ

海未(矢を握ったままのヴァーリの手を私が掴んでる以上、戦闘はインファイトの距離で行われる)

海未(そして片手を封じてる限りヴァーリは次の矢を放つことができない)


ヴァーリ「それは……そっちだっておなじだよ!」

ヴァーリ「このキョリじゃケンをぬいてふりまわすことだって――――」

海未「はっ!!」

ゴッ!!

ヴァーリ「ぐがっ!?」

メキメキメキッ


海未(私の放った掌底がヴァーリに突き刺さり、ヴァーリの体が地面から僅かに浮かび上がる)

ヴァーリ「ぐっ……かはっ」

海未「忘れましたか? 転送前に見せた私の腕前」

ダンッ

海未「はっ! とうっ! たぁっ!!」

ヴァーリ「ぐっ! がっ! ごぁっ!!」

海未(一歩踏み込み、落ちてきたヴァーリの体に打撃を連続で叩き込んでいく)

405 ◆WsBxU38iK2:2021/04/08(木) 00:15:40 ID:bIwAgezA


ガンッ! ボコッ!! ゴリッ! メキィィッ!!

海未(拳! 拳! 蹴り! 蹴り! 拳! 蹴り! 拳!)

海未(息もつかせぬ連打、反撃を許さぬ乱打)

ヴァーリ「こ、このっ……」バッ!

海未(そしてヴァーリの目が私の打撃に慣れてきたところで――――)

フッ

ヴァーリ「……こない!?」

海未「フェイントです、たぁっ!!」

メキィィッ


ゴッ!!!!

海未(掴んでいた手を離し、力を込めた一撃を食らわせると、ヴァーリの体は後方へ吹き飛び瓦礫の山へと突っ込んだ)

バァァァァァァァァァンッ!!

ガシャァァァァァァァァァァァンッ!!!!


海未「ふっ」


ヴァーリ「く……このちから……ほんとに、にんげん……?」

ガラララッ


海未「人間離れしてるとはよく言われます」

海未「一応眷属化してる手前、身体能力は“あの吸血鬼”水準、あまり舐めると痛い目を見ますよ」

ヴァーリ「っ……もうおそいっての……」ググツ


海未「それとご忠告ついでにもう1つ」

海未「人と話す時はそのローブ取って目を見て話すべきです」

海未「まぁ、さっきの私の一撃でローブは千切れとんでしまったようですが……」


ヴァーリ「え……あぁっ!」


海未(ローブが剥がれた状態で起き上がるヴァーリ)

海未(今までローブ越しに隠れていたその姿は>>406)

406名無しさん@転載は禁止:2021/04/15(木) 18:44:01 ID:kQJw3rPw
超絶美少女

407 ◆WsBxU38iK2:2021/04/17(土) 00:41:32 ID:HXkRgfFE
海未(その姿は超絶美少女だった)


ヴァーリ「くっ……」


海未(髪は手入れされてる様子がなく無造作に伸びてるものの絹のような滑らかさ)

海未(長く伸びた前髪の間から覗かせる美しい顔は芸術品と言っても過言ではない)

海未(私たちの世界の北欧神話ではヴァーリの息子という伝承でしたが、こちらではどうやら娘だったみたいですね)


海未「あらあら、随分と綺麗な顔をしていますね」

ヴァーリ「う……うるさいっ!」

海未「ですが……手加減はしませんよっ!」

ダンッ!!

海未(瓦礫の山で上体を起こしているヴァーリに対し、ファントムエッジを鞘から抜いて斬りかかる)


海未「はっ!」

ヴァーリ「……っ!」バッ!!

海未(しかし流石ヴァーリと言ったところ)

海未(瓦礫の積み上がった足場、上体を起こしただけの姿勢、そんな不安定な状態から両手の力と反動だけで斜め後方に飛び上がり、私の斬撃を回避する)

海未「ほう」

ヴァーリ「そんなカンタンに……やられてたまるかっ!」


海未(先程は虚を衝いて乱打に持ち込めましたが、やはり神族というだけの身体能力はある)

海未(来ると分かっている攻撃を避けることは容易いか)


ザンッ!!

海未(私の放った斬撃に両断される瓦礫の山)

海未(その上、飛び上がったヴァーリは空中で態勢を整え弓を引き絞る)

ギギッ


海未「ですが、この距離はまだ私の射程圏内……!」

408 ◆WsBxU38iK2:2021/04/17(土) 00:41:48 ID:HXkRgfFE
バッ!

海未「引きずり落とせ、テンタクルズ!」

バシュルルルルルルルルルッ!!

ヴァーリ「……っ!?」

海未(私の髪の毛の先が纏まり、10本の太い触手となってヴァーリへ伸びる)


ヴァーリ「このっ!」

バシュッ! ダダダダダ!!

海未(正に文字通りの神業、発射から接触まで1秒とかからないであろう速度の触手をヴァーリは目にも留まらぬ速射で落としていく)

海未(一本、また一本、さらに一本、的確に撃ち抜かれた触手が動きを止めて髪の毛へと戻る)

海未(しかしこの距離、いかに神業を持ってしてもは全てを撃ち落とすことは――――)


海未「できない!」

シュルルルッ! ガシッ! ガシッガシッ!!

ヴァーリ「ぐっ……!」

海未(生き残った3本の触手がヴァーリの左手と右足と腰に絡みつく)


ヴァーリ「こ、こんなもので……」グググッ

メリリリッ

海未(もちろんこんなもので物理的に、拘束できるとは思っていない)

海未(実際ヴァーリが力を込めるだけで楽に引きちぎられてしまうだろう)

海未(だから、一瞬触れられればいい……!)


海未「マインドコントロール・テンタクル!」

ヴァーリ「ぐっ……」ガクンッ!

海未(拘束、洗脳、文字通りの絡め手にヴァーリの抵抗が弱くなり、その体は地面へと落ちていく)

ヒュゥゥゥゥッ


海未(アース神族相手に人間の私の異能がどれほど効くのか、おそらくそう長くはないだろう)

海未(10秒か、5秒か、1秒か、あるいは瞬きにも満たないのか)

海未(確実なのはその後にヴァーリが再び意識を取り戻すということ)


海未(この一瞬が……私にとって最大のチャンスとなる!)

ダッ!!


海未(駆け出す、前傾姿勢、見据えるは触手で繋がれたヴァーリの落下地点)

海未(そこに叩き込むのは>>409)

409名無しさん@転載は禁止:2021/04/23(金) 22:46:48 ID:bJSzsKnw
すべての剣を弓で放つ

410 ◆WsBxU38iK2:2021/04/25(日) 00:05:19 ID:G/Av1alI
海未(そこに叩き込むのは必殺の一撃)


海未(ただし文字通りの“一撃”では勝負を決めることはできないだろう)

海未(何故なら一撃加えた時点でヴァーリは間違いなく意識を取り戻す、そして一撃だけではヴァーリに大きな痛手を負わせるには程遠い)

海未(打撃、投げ、射撃、斬撃……)

海未(人間相手なら必殺となり得る一撃も神族相手に放つにはどこまでも心許ない)


海未(だから……私は束ねる!!)


バッ!

海未「ファントムエッジ――ディープミラージュ!」

バシュシュシュッ!

海未(剣を振りかざしそう叫ぶと、私の周囲に3本のファントムエッジが召喚される)

海未(ファントムエッジは巨海霊の力を宿した変幻自在の刀身を持つ幽鬼剣)

海未(今まで刀身の変化ばかり重視して来ましたが、応用すれば霊力によって自らを海に浮かぶ蜃気楼のように複製することだって可能)

海未(これも円卓での修行の成果の一つというわけです)



海未(そしてこの蜃気楼は……実体を持つ蜃気楼!)

シュルルルッ! ガシッ! ガシガシッ!!


海未(ヴァーリへと駆ける足はそのままに、伸ばした触手で宙空に召喚されたファントムエッジを掴んでいく)

海未(複製したファントムエッジは掴む触手は3本、ヴァーリを捕らえている触手は3本、つまり空いてる触手は残り4本)

海未(その残りの手を埋めるのは――――)

海未「ラブアローシュート! ディープミラージュ!」

バッ! バッ! バッ! バッ!


海未(同じように召喚、複製した4つのラブアローシュートの弓)

海未(それらをすかさず残りの触手で掴み、ファントムエッジを掴んだ触手へと、ニ本一組になるよう近くへ持っていく)

海未(ファントムエッジを巨大な矢とし、ラブアローシュートの弓へとつがえる)

ギリリッ

海未(触手同士で1組、2組、3組……最後の4つ目の弓を掴んだ触手は私の胸の前へ)

シュルルルッ

海未(痛めて弓を握れない左手の代わりに最後の触手を使い、右手に掴んでる本物のファントムエッジを放つ!)

411 ◆WsBxU38iK2:2021/04/25(日) 00:05:49 ID:G/Av1alI


海未「ふっ!」

海未(短く浅く息を吸い込む、ヴァーリはもう目の前、手を伸ばせば届く距離)

ダンッ!

海未(最後の一歩を力強く踏みしめ、姿勢を固める)

ギリリリリッ!!

海未(4つの弓を触手と右手で同時に限界まで引き絞り、狙いをヴァーリへと向ける)


海未「はああああああああああ!!」

ググググググッ!

海未(これは複製した“全ての剣を弓で放つ”一撃)

海未(一撃だが一撃ではない、4つの連撃を束ねて同時に放つ、一撃を超えた一撃)

海未(これなら……ヴァーリに届く!)



海未「超超近距離、4連――――」

バッ!!

海未「ファントムアローインパクト!!!!」

ドドドドンッ!!!!!!!!



ザザザザンッ!!!

ヴァーリ「がっ……!」

海未(到底弓の距離でない、クロスレンジから放たれる、パイルバンカーにも似た4連撃)

海未(最高速で射出された4本の剣はヴァーリの体に突き刺さってなお速度を落とさず、ヴァーリを貫いたまま地下大空洞の壁へと吹き飛んでいく)

ゴッ!!!!



ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

バリバリバリバリッ


海未「はぁ……はぁ……」

海未(ヴァーリが壁へと激突するのに1秒とかからなかった)

海未(その衝撃で岩壁には大きなクレーターが生まれ、四方に長い亀裂が走る)

海未(振動が天井まで伝わったのか、小さな岩や砂が上から落ちて来る始末)


パラララララッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 
海未「これ……天井崩れたりしませんよね、大丈夫ですよね……?」


海未(そんな心配をしているうちに、壁に叩きつけたヴァーリを覆い隠していた粉塵が晴れてくる)

海未(私の渾身の一撃を食らったヴァーリ、その様子は……>>412)

412名無しさん@転載は禁止:2021/04/27(火) 23:22:26 ID:1Wc4zVQI
弓をこちらに向けていた

413 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:21:05 ID:zrZpH/Zo
海未(その様子は……)


海未「……っ!?」

海未(粉塵の向こう、ヴァーリの目に灯る戦意の光は消えてなどいなかった)

海未(体には確かに貫通した5本の剣、傷口から壁面へと流れる血がその証左)

海未(常人ならば死んでいてもおかしくない傷を受け、なおヴァーリは不敵に笑い弓をこちらに向けていた)



バシュッ!


海未「っ!」バッ!

海未(そこから放たれた風を纏う1本の矢)

海未(咄嗟に身を捻り回避したものの、肌には一筋の赤い線が走る)
 
ツーーーー


海未(避けきれなかった……?)

海未(ヴァーリの姿は確かに目視していたはず)

海未(先程までの目隠し状態ならまだしも、今は翡翠の眸の動体視力と眷属の体の反射速度をフルに活用できる)

海未(それなのにたった一本の矢を避けきれない、まさか今までのダメージで私の体のパフォーマンスが落ちて――――)


バシュッ!!

海未「……っ!」

海未(思考を引き裂く二発目、これもすんでのところで回避したものの、明らかに反応速度が遅れている)

海(やはり私の体が……いや?)

海未(待て、よく考えよう、もしかしたら……そうだ……私は遅くなってない、これは逆に……)


バシュッ!!!

海未「くっ……!」

海未(3発目、どうやら私の考えは合っているようだ)

海未(とても悪い予想が的中して思わずため息が溢れてしまう)

海未「はぁ……」


海未「ヴァーリ、あなた……ここに来て矢の速度が上がっていますね」



ヴァーリ「……くくっ、あはははははは!!」

バシュッ! バシュッシュシュ!! バシュッシュシュシュシュシュシュ!!

海未「だっ……もうっ!!」


海未(ヴァーリが矢筒から矢を取り出した瞬間に矢は弓へとつがえられ、弓を引き絞った瞬間に矢は発射されている)

海未(まるでコマ数の少ないパラパラ漫画のような、翡翠の眸を持ってしても捉えきれない物理現象を逸脱した速射)

海未(そこから放たれる矢は空中で再加速を繰り返し、こちらの予測より速く目標へと着弾する)

ズダダダダダダダダダダダダダダ!!


海未(最早マシンガン、矢の嵐は真横から叩きつけるように降り注ぐ)

海未(全てをかわし切ることは不可能、素早く身を翻し、近くに転がっている拠点の瓦礫への裏へと走る)

ダダダダダダダダダダ! 

ゴシャァッ!!

海未「……っ、保たないっ!」

海未(1つの瓦礫が盾として機能するのはよくて数秒)

海未(コンクリートがヴァーリの連射により砂塵と変えられるまでの間に別の瓦礫へと走る)

ダタタッ

海未(けれどこんな一時しのぎな回避、いつまでも続くはずがない)

414 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:21:42 ID:zrZpH/Zo
ヴァーリ「はははははっ! たのしい! たのしいよおねえちゃん!」

ヴァーリ「ぼくがやりたかったのはこういうたたかい、チとニクがココロからわきおどるたたかい!」

ヴァーリ「いま、さいこうにいきてるってかんじがするよ!」

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!


海未(力を出し惜しみしていた……ということは性格上ないだろう)

海未(今正にこの瞬間、ヴァーリの中に秘められていた天賦の才がさらなる成長を遂げたのだ)

海未(致命傷に近い傷を負い、死の淵に追い込まれてなお、戦闘本能の進化は止まることを知らない)



ヴァーリ「あつい、あつい、からだがあついんだ!」

ヴァーリ「ねぇおねえちゃん、いまならぼくにもできるかな」

ヴァーリ「トールがやってたみたいに、チカラをめいっぱいつかうほうほう」

ヴァーリ「いまなら―――――」

キィィィィィィィィィィンッ


海未「……!」

海未(ヴァーリが握った弓を天高く掲げると、周囲に漂っていた力がヴァーリの元に集まってくる)

海未(そして、その力の奔流が眩い光と共に爆発し……)


ヴァーリ「けしん! かいほう!」

カッ!!







415 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:22:12 ID:zrZpH/Zo




──メインスタジアム


──チームオーディンベンチ



ガタッ!

トール「化身解放だと! あのヴァーリが!?」

フレイ「どうやらそのようですね」


フレイ(ヴァーリの発した化身解放の言葉にスタジアム全体がざわめき、隣で観戦していたトールまでもが思わず立ち上がる)


トール「おいフレイ、ヴァーリが化身解放使えるって知ってたのか?」

フレイ「いえ、おそらく初めての試みでしょう」

フレイ「2回戦で見たあなたの化身解放の見様見真似、きちんとした形になるかは分かりませんが……あの神力の高まり、案外成功するかもしれまんね」

トール「マジかよ……」


フレイ(トールが驚くのも無理はない)

フレイ(何故なら化身解放とは“単なる化身解除”とは意味合いが大きく異なる、一朝一夕で会得できる技術ではないのですから)



フレイ「ふふっ」

フレイ(化身とは神族が周囲への影響力を軽減させるため人や他の生物の似姿へと体を変化させること)

フレイ(この化身体と本体を行き来すること自体はなんら難しいことではない)

フレイ(しかし私たちのような強大な力を持つアース神族の場合は事情が異なってくる)

フレイ(化身と共に増減する力が大きすぎるため行き来のたびに身体に多大な負担がかかり、無理をすれば体が崩壊する危険性まである)

フレイ(そのため自らの力を一度切り離し、武具の形に封じ込め、負担の少ない形で化身体となるのです)


フレイ(そして、武具に封じ込めた力の全てを攻撃へと転化し、解放することこそが化身解放)

フレイ(単に元の姿へと戻る化身解除とは違い、自らの力を増幅して取り込むことにより、100%を超えた真なる力を発揮する形態へと姿を変えることができる)

フレイ(その姿は天災を体現した巨人のようなものから莫大なエネルギーを持つ火や雷のエレメントに包まれたもの、大地や遺跡と一体化したものから巨大な武具を鎧として纏ったようなものまで様々)

フレイ(いずれも共通するのは日々の鍛錬とたゆまぬ努力により到達する領域ということ)

フレイ(それ故真なる化身解放に至った者は例外なくアースガルズの歴史に名を刻まれる)


フレイ(少なくとも“お試し”で出来てしまうことではないのですが……)

コトンッ

フレイ「さて……ヴァーリ、あなたはその領域に至ることができるのでしょうか」



ヴァーリ『はあああああああああああああああああ!!』

カッ!!!!


フレイ(モニターの向こう、光に包まれるヴァーリ)

フレイ(化身解放へと挑んだその姿は>>416)

416名無しさん@転載は禁止:2021/04/29(木) 08:48:17 ID:oRF0qRsY
明らかに暴走してる

417 ◆WsBxU38iK2:2021/04/30(金) 00:12:13 ID:kQJ9j/mQ
フレイ(その姿は……明らかに暴走していた)


ヴァーリ『うっ……ぐうううううううううううう!!』

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


フレイ(化身解放で封を解かれた力の塊を何とか周囲に形として留めてはいるものの、完全な具現化とまでは至っていない)

フレイ(宙に浮かぶ無数の光の束を無理やり重ね合わせ、力で抑えつけてるような状態)

フレイ(表面は白一色、群体を無理やり束ねているせいか輪郭は定まらず、沸き立つ水のように耐えず変化を続けている)

フレイ(ヴァーリを中心に、左右対称に斜め後方へ弧を描きながら伸び行く光の奔流)

フレイ(その輪郭は遠目で見れば辛うじて巨大な弓の弦のように見えなくもないが……やはり荒削り)

フレイ(とても化身解放と呼べるものでないことは確かだろう)

ドドドドドドドドドドドドッ!!



トール「おいアレ、暴走してんじゃねェか!!」

フレイ「ええ、あの状態で溢れ出す力に押しつぶされず、無理やり捻じ伏せてる所はヴァーリの才能でしょうね」

フレイ「しかしすぐに崩壊しないとは言え安定とは程遠い代物、そう長く保つものではないでしょう」

トール「あいつ、勝手に無茶なことしやがって……!」ドンッ!


フレイ「まぁ、おそらく武装一体型の解放なのが不幸中の幸いと言ったところですかね」

トール「武装一体型……オレみたいに体が直接変化するわけじゃねェ、武具を鎧のように身に纏うタイプのやつか」

フレイ「ええ、あなたのようなタイプの解放で暴走してしまうと体へのダメージが深刻ですから」

トール「……ったく、武装一体型だろうが暴走してんだからダメージ自体はあんだろうがよ」チッ

フレイ「ですから最悪ではない、という意味です」

トール「ふんっ」


フレイ「化身解放を使ってしまった以上ヴァーリ自身タダではすまない」

フレイ「そして相対する敵もまた同じ」


フレイ(さて、どうします園田海未)

フレイ(未熟な力とは言え、本質は2回戦であなたの仲間を焼き尽くした神の力と同じもの)

フレイ(仲間の二の舞となるのか、対抗策を用意して来ているのか)

フレイ(さぁ……あなたの実力、しかと見せてください)


フレイ「ふふっ……くくくくっ」






418 ◆WsBxU38iK2:2021/04/30(金) 00:12:39 ID:kQJ9j/mQ




──ラブホスタジアム・地下大空洞


ドドドドドドドドドドドドドドド!!

ヴァーリ「ぐうううううう、がああああああああああああ!!」



海未「……っ!」

海未(地下大空洞にヴァーリの咆哮が響く)

海未(ヴァーリの目の前からV字に迸る白い光の塊は間違いなく高純度の神の力だ)

海未(完成された術式とはかけ離れてるものの、驚異的なエネルギーを秘めてることに変わりはない)


ヴァーリ「ぐぅぅぅぅっ、いくっ、い……いくよおおおおおおおっ!!」

グググググググッ

海未(光の中心で悶えるヴァーリが何か重いものを押し込むように開いた手をゆっくりと下げていく)

海未(それに呼応し、V字の光の塊が地面と垂直になるまで傾く)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

ガキンッ!!


ヴァーリ「はぁ……はぁ……さすがにきついけど……やれなくない」

ヴァーリ「さぁ、いくよおねえちゃん、ぼくのホントウの……サイコウの……イチゲキってやつ!!」

グッ


海未(間違いない……来る!)

バッ!


ヴァーリ「いっけえええええええええええっ!!」

ゴッ!!!!

海未「……っ!」


海未(ヴァーリが突き出した拳の先、V字の光の頂点から放たれる閃光は>>419)

419名無しさん@転載は禁止:2021/04/30(金) 18:13:35 ID:ua.OFfdg
防御の上から私の胸を貫いた


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