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>>2「>>2の3分クッキングの時間だよ!」 PartⅩⅩⅧ

419名無しさん@転載は禁止:2021/04/30(金) 18:13:35 ID:ua.OFfdg
防御の上から私の胸を貫いた

420 ◆WsBxU38iK2:2021/05/01(土) 00:59:40 ID:Erzzp69Y
海未(防御の上から私の胸を貫いた)

ズンッ!

海未「え……?」



海未(貫かれた、と気づいたのは全てが終わった後だった)

海未(意識より先に反射で動いたのは10本の触手)

海未(触手全てが盾のように重なり合い防御姿勢を取るも、化身解放したヴァーリの矢はそれら全てをいとも容易く貫いていた)

ジジッ ジジッ

海未(意識も、思考も、痛みも、あらゆるものが遅れていた)

海未(ポッカリと空いた胸の穴に現実感が追いつかない)

海未(光で焼き切れ止血されているのか、穴からは血の一滴すら垂れていない)

海未「あ……」


海未(心臓や肺、その他機能を失っている可能性がある)

海未(だけどそれをゆっくり確認する時間が残されてるか――――)



ヴァーリ「あははははははははははははははっ!」

ヴァーリ「いい! いい! ぼくならこのチカラをつかいこなせる!」

ヴァーリ「ボウソウしてたってかんけいない、ゼンブぶっとばす!!」

ドガガガガガガガガガガ!!


ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!

海未(その攻撃は最早射撃と呼べるものではなかった)

海未(化身解放体のヴァーリから閃光が放たれた直後、地下大空洞の壁が一瞬で削り取らるように吹き飛ぶ)

海未(10秒と経たず天井は次々と削り取られていき、暗い地下空間へと光が差し込んでくる)

海未(地盤が崩壊し、頭上にあるホテルが落ちてくるのはそう遠くないだろう)



海未(だけど……それより今は私の体の方が問題)

海未(呼吸が止まる、血が回らなくなる、地盤が崩落するより私の意識が消失する方が絶対に先だ)

グッ

海未(意識は保ってあと数秒、ここで命を繋ぐためには……>>421)

421名無しさん@転載は禁止:2021/05/05(水) 09:56:09 ID:3.hcbfjg
吸血鬼の眷属としての能力をフル活用

422 ◆WsBxU38iK2:2021/05/06(木) 01:12:12 ID:g6.CXdoQ
海未(吸血鬼の眷属としての能力をフル活用するしかない)



海未「眷属化――第ニ段階!」

ドクンッ!

海未(私の焔ノ力は眷属化のコントロール)

海未(力を練って高めれば眷属化を更に進めることだって可能だ)

ドクンッ!

海未「ぐっ……」


海未(しかし、私の眷属の力の源は吸血鬼穂乃果の物)

海未(眷属化を進めるということは吸血鬼穂乃果との繋がりを強めるということと同義)

海未(人の領域を更に離れ、未だ不安定な立場にある彼女に近付くことに不安が無いわけがない)

海未(それでも……今は四の五の言ってはいられないのです!)


海未「はあああああああああ!!」

ドッ ドッ ドッドッドッドッドッドッ!

海未(心臓を失ったはずの体内で血流が熱く脈動する)

海未(筋肉のポンプで押し出されるのではない、血液の一粒一粒が自分自身で血管内を移動している)

海未(その感覚は手にとるようにハッキリと分かった)


海未(そして、あたかも最初から体に備わっていた体の機能であったように――)

バシュッ!! 

海未(脳内でイメージするだけで、血流を自由自在に操れる!)

シュルルルッルルル!  

ギュルルルッ!  

海未(胸に空いた穴の断面から激しく吹き出した血流が空中でラインを描き、別の断面から吹き出した血流と合流)

海未(繋がった血流の外側だけが凝固するとそれは擬似的な血管となる)

海未(それは一本だけではない、何本も何本も同時に作り出され、絡み合い、毛糸玉のように球体の形を取る)

海未(そうして穴の中に生み出されるのは心臓と肺を代替するための器官)

ギュインッ!

海未「……っ!」ビクンッ!


海未「……ぐっ……はぁ……」

ドクンッ ドクンッ

海未(一度は途切れかけた体内の循環を取り戻したことで体に熱が戻ってきた)

海未(ポッカリと空いた胸の穴の内側では血管の塊が激しく脈打っている)


海未「ふぅ……」

海未(一命をとりとめたことに安堵しつつ、同時にまた人外へと近付いたことに憂慮を覚える)

海未「……ま、やってしまったことは仕方ありません、今はこの力を活用させて頂きましょう」

バッ

シュルルルッ

海未(開き伸ばした左手)

海未(その手のひらの中心に貫通した矢傷から溢れ出した血液が空中へと浮かび上がる)

海未(吸血鬼穂乃果と同じ血液を意のままに操る異能力)

海未(そうして左手の上に顕現せしは血で形作られた>>423)

423名無しさん@転載は禁止:2021/05/06(木) 15:29:21 ID:tSapB8kU
目玉

424 ◆WsBxU38iK2:2021/05/07(金) 01:12:56 ID:PbClzxO6
海未(顕現せしは血で形作られた目玉)

海未(ドロリと血の滴る赤い眼球は自身を直径1メートルほどまで膨張させながらゆっくりと浮かび上がっていく)

海未(そして頭上でピタリと止まると遠くで暴走しているヴァーリへと照準を合わせた)


ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


海未(暴走し四方八方へ神速の光弾を撒き散らすヴァーリにより、地下空洞の耐久力は限界へと近づいている)

海未(早く勝負を付けなければ2人纏めて岩盤の下敷きとなってしまうだろう)


海未「すぅーー」

海未(大きく息を吸い込み、神経を集中させ、ヴァーリを見据える)


海未「クリムゾンアイズ!」

カッ!!

海未(眷属の瞳、翡翠の瞳に続く第三の目)

海未(頭上に浮遊する真紅の瞳が瞳孔を開く)


海未「位置情報入力、地形情報補正」

キィィィィィィィンッ

海未(焔ノ紋章が浮かぶ右目と翡翠色の光が強まる左目)

海未(両目で得たヴァーリを取り巻く座標データを左手から真紅の瞳へと伸びる1本の血管を通じて送り込む)

海未「ロック――――」

キィィィィィィィィィィンッ!

海未「オン!」


ギィィィンッ!!

バシュッ!!!!

海未(真紅の瞳がより一層瞳孔を開くと、ヴァーリの前後に瞳を模した紋章が出現した)


海未「さぁ、もう逃しませんよ……」

海未(真紅の瞳、クリムゾンアイズの能力はロックオンで捉えた相手に対し>>425)

425名無しさん@転載は禁止:2021/05/14(金) 08:07:33 ID:gsEnNGaQ
自分のダメージを移す

426 ◆WsBxU38iK2:2021/05/16(日) 03:02:47 ID:ONDtqJHY
海未(クリムゾンアイズの能力はロックオンで捉えた相手に対し自分のダメージを移す)

海未(反転、鏡像、返しの瞳術)


海未(高度な術式であるため、準備から発動までに時間がかかるのが現状の弱点ではあるものの、幸運なことに相手は暴走状態でこちらに目もくれない)

海未(そのため初の実戦での使用にも関わらずゆっくりと狙いを定めることができた)

海未(だからこそ、言葉通り逃しはしない)

海未(私があなたから受けたダメージをそっくりそのまま……)


海未「お返しいたします!!」

カッ!!!!

海未「クリムゾンペイン!!!!」




ドドドッ!!

海未(能力を発動した瞬間、赤い氷柱のような物体がヴァーリの体に突き刺さった)

海未(柱は全部で4本、しかしそのどれもが真紅の瞳から物理的に発射されたものではなく、瞳に捉えられたヴァーリの内側から突き出したものだ)

海未(柱はヴァーリの皮膚を突き破るように四方に伸び、出現地点の周囲の肌を赤く染めていく)

海未(真紅の瞳の能力による侵食、私のダメージがヴァーリの体に伝わり肉体と精神を蝕んでいく)



ヴァーリ「ぐっ……ぐああああああああああああああああっ!!!!」

バリバリバリバリバリバリィッ!!


海未(ただでさえ力を抑えきれず暴走状態だったヴァーリが更に激しく悶え苦しむ)

海未(彼女が放つ閃光は最早ビームとしての形さえ保てず、放たれたそばから粒子となって空気中に消えていく)


海未(反面、ダメージを移した私の体は途端に楽になった)

海未(変わらず体のど真ん中に穴は空いてるものの、痛みなく体は軽い、動くのに支障はなさそうだ)


海未「さて……」

海未(一息付きたいところだが、周囲の状況がそうさせてはくれない)

海未(化身解放したヴァーリの攻撃により虫食いにされた天井はホテルの重量を支えるほどの強度を失い、崩落までは秒読み寸前)

海未(一方のヴァーリ自身はクリムゾンペインと自らの暴走の板挟み状態になり一歩も動けない状態)

海未(おそらく追撃はない、私に構っていられる余裕はないからだ)


海未(ならばヴァーリが開けた天井の岩盤の穴からさっさと脱出するのが現状では一番安全な策……なのだろう)

海未(が、敢えてリスクを取るのであればヴァーリに確実にトドメを刺すチャンスとも言える)

海未「…………」

海未(しかし、どうせ岩盤に埋まる相手、わざわざトドメを刺す必要があるのだろうか……いや、神族だからこそ念入りに……いや、それにしてもまずは生存を優先……いや、そもそも他の手がないか……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

海未「……っ!」

海未「悠長に考えてる暇はありませんね、ここは>>427

427名無しさん@転載は禁止:2021/05/17(月) 00:09:36 ID:Ra3qrrko
一か八か洗脳もしてみる

428 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:15:44 ID:7A04gXpc
海未「一か八か洗脳もしてみましょう」

ダンッ!!

海未(時間はない、決断したなら即行動あるのみ)

海未(地面を蹴り上げ駆け出し、崩壊する天井から降り注ぐ岩石を避けながらヴァーリの元まで走る)

シュッ! シュッ! バシュンッ!!

海未(岩石の落ちない箇所から箇所へとダッシュ、そうしたらまた落ちない箇所から箇所へとジグザグにダッシュを繰り返す)

海未(飛び出すタイミングが0コンマ数秒ズレるだけで命取りになる芸当だが、ダメージを消失させた今の体ならこれくらいはお手の物)

海未(ある程度近づいたら今度は落下途中の岩石を足場として乗り継ぎ、更にヴァーリとの距離を詰める)

タンッ! タンッ! ダタンッ!!


海未「マインドコントロール――」

シュルルルッ

海未(先の洗脳攻撃ではヴァーリの動きを数秒止めるほどの効果しか得られなかった)

海未(しかし今なら、真紅の瞳と自己暴走により精神を乱してる今なら、ヴァーリの心の隙間に入り込めるかもしれない)

海未(本当に一か八かの賭け、成功しなけれな二人揃って生き埋めとなる)

海未(それでも――――)

バッ!!!!

海未「テンタクル!!!!」


シュルルルッ!! ガシィッ!!!!


海未(ヴァーリへと絡みつく10本の触手)

海未(この10本がヴァーリから発せられる光に消し飛ばされるまでの一瞬が勝負)

海未(その一瞬でヴァーリの心の奥深くへ……一気に……入り込む!)

グンッ!

海未「……!」



海未(つながっ……た……?)






429 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:16:30 ID:7A04gXpc
────────
────
──






──??



海未(気が付くと私は暖かな空間にいた)

海未(手を伸ばせばすぐ壁に届くほど手狭で、光はなく真っ暗、しかし不安はなく妙に心地良い)

海未(水面に揺蕩うような、誰かの腕に抱かれるような、不思議な感覚を覚える)


海未(何も見えない……しかし、声は聞こえた)

海未(頭に響くその声が聴覚を通してものなのか、心に直接働きかけられたもなのか、判断はつかない)

海未(ただその声は低く、冷たく、荒々しく、今いる暖かな空間とは正反対のものだった)


??『……ヴァーリ、聞こえるか、我が子ヴァーリよ』

??『お前の兄ヘズは許されないことをした』

??『たとえあのロキに騙されたとは言え、兄弟であるバルドルを害することなどあってはならない』

??『ヴァーリ、お前の使命はヘズを殺すことだ、お前は生まれついての復讐者となるのだ』

??『何も問題はない、お前の体は一夜にして成人となるだろう、お前の体は既に殺しの術を身に着けているだろう』

??『さぁヴァーリ……早く生まれておくれ』



??『そして……やつを殺すのだ』




バシュッ!!





430 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:17:18 ID:7A04gXpc




──森


海未(次に気が付くと、私は暗い森の奥にいた)

海未(右手には弓が握られ、左手は矢を掴んでいた)

海未(視線を向ける先にあるのは一本の天へと伸びる大樹……いや、その根本だろうか)

海未(大樹の根本には血溜まりが広がり、1人の男が幹に体を預けるように座り込んでいた)


??「あ……ああ……」


海未(男の顔は恐怖に歪み、拒絶と懇願が入り混じったような顔でこちらを見る)

海未(近寄らないでくれ、助けてくれ、許してくれ)

海未(最早言葉にならない呻き声だけが静かな森に響く)


海未(私はその哀れな姿に何の感情も沸かなかった)

海未(いや、どちらかといえば失望していた)

海未(こんなものか……と)

ギリッ

海未(あの男が頼んだもの、私の使命は、私の生きる意味は、こんなものだったのか……と)


パンッ!


海未(何の感慨もなく放たれた矢は男の脳天を貫き、哀れな男は物言わなぬ屍となった)


海未(血溜まりに倒れる屍、この男の生に果たして意味はあったのだろうか)

海未(生きる意味のない生など、それはどちらにせよ最初から屍と変わらないのではないだろうか)

海未(では、使命を果たした後の私はどうなる……?)

ドクンッ


海未(生まれた使命を終えてしまった私は……私は……私は……僕は……)




ヴァーリ「ボクは……ナニモノなんだ……」



バシュンッ!







──???



海未「今のは……ヴァーリの……」


海未(3度目の場面転換、私が目を覚ましたのはまたしても真っ暗な空間だった)

海未(しかし一度目ほど狭くはなく、暖かくもない)

海未(どこまでも広がる荒涼とした冷たい闇、埋まることのない、満たされることない、空っぽの空間)


海未(私はここにきて今までのものがヴァーリの記憶の追体験だったことに気付く)

海未(おそらくはマインドコントロールのためにヴァーリの精神と繋がった所で私の精神が取り込まれたのだろう)

431 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:17:54 ID:7A04gXpc
海未「こんなケースは初めてですね……」

海未(眷属化が進んで能力の基盤が強化されたからか、相手が人並外れた神族の精神だからか、理由は定かではない)

海未(ただ、今いる空間は今までのようなヴァーリの記憶とは明らかに違う)


海未「動ける……みたいですね、浮いた状態で移動できる……変な感じです」

スーーッ

海未(こうして私が思考できて、精神体とはいえ移動できて、“私を私と知覚できる”場所)

海未(ということは、まさかヴァーリもここに……?)

スーーッ

海未(私が個として存在できるなら、ヴァーリの精神が同様に個として存在する可能性が高い)


海未「ヴァーリ……どこかに姿は……」

パッ!

海未「……わっ!」

海未(探すまでもなかった)

海未(私がその思考に至った瞬間に、空間の中心にヴァーリの姿が現れた)

海未「認識による空間の変化……これも精神世界特有の現象でしょうか……」


海未(真っ暗な空間の中心にポツリと現れたヴァーリは腕で膝を抱えた態勢で座り込み俯いていた)

海未(こちらに向ける小さな背中は時折震えているようにも見える)


海未「あれがヴァーリの精神の核……なんて小さく……弱々しい」


スーーッ


ストンッ

海未(すぐ側に降り立つ、反応はない)

海未(こんなに広大な空間の真ん中に1人孤独に、これがあなたの心の中だと言うのですか)

海未(あれだけ闘争を求め、渇望していたあなたの本当の姿だというのですか)


スッ

海未(背中に手を伸ばす、抵抗はない)

海未(今ならいける、彼女の精神体をどうするも私の自由)


海未「……ヴァーリ」


海未(そう呟くと、私は精神体を>>432)

432名無しさん@転載は禁止:2021/05/20(木) 16:31:39 ID:7cEc2bz2
ビンタした

433 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:45:22 ID:SBv6oWlk
海未(私は精神体をこちらへ振り向かせ、その頬に向かってビンタを繰り出した)

バチィンッ!!!!


海未(始点と終点しか捉えることのできない超高速のビンタ)

海未(掌からは摩擦の熱で僅かに煙が上がっている)

海未(そんなビンタの快音が広い空間に響いた数秒後、頬を赤く腫らしたヴァーリが僅かにうめき声を上げた)


ヴァーリ「……え?」

海未「え? ではありません、何を呆けているんです」

ヴァーリ「…………え……いや……」

海未「その無様な姿はなんなのです、あれだけ大見得を切っておいて、実際は単なる臆病者ですか」

ヴァーリ「そ……その…………」

海未「ハッキリ答えなさい!!」

バチィンッ!!!!

ヴァーリ「がっ……!!」


ドサッ!!

海未(二回目、再びのビンタにヴァーリは態勢を崩して床へとひれ伏す)

ヴァーリ「う……ぐ……」

海未(そうすると今度は這いつくばった姿勢のまま、私から逃げるように距離を取り始める)

ヴァーリ「や……やめて……」

ズズ ズズ


海未「逃げても無駄です」

ブォンッ!!



バチィンッ!!!!

ヴァーリ「がっ……!」

海未(飛ぶビンタ)

海未(私が自らの正面で手を振ると、床のヴァーリが横方法へと吹き飛ぶ)

ドッ!!



ゴロロロロロロロロッ

海未(その勢いのまま床を何回転か転がり、先後には仰向けになって力なく両手両足を投げ出した)

ヴァーリ「あぁ……うぐ……」

バタッ


海未「転送前に飛ぶビンタは見せたでしょう」

海未「こんな物も避けれないとは、精神体のあなたはよっぽどの腑抜けのようですね」

ヴァーリ「…………」



海未「ヴァーリ!! なんとか言いなさい!!」


キィーーーーンッ

434 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:47:18 ID:SBv6oWlk
海未(広く暗い空間に私の声が虚しく響く)


海未(そこから何秒経っただろうか)

海未(仰向けのヴァーリが虚空を見つめながらポツリポツリと話し出した)


ヴァーリ「……たぶん、もう、終わりだから」

海未「……終わり?」

ヴァーリ「そう、ボクの体はもう保たない、始めは制御できていた化身解放の力がボクの体を蝕み始めている」

ヴァーリ「だからもう終わり、瓦礫に押しつぶされるか、その前にぶっ壊れるか、どっちみち助からない」


海未「…………」

海未(外にいた時よりヴァーリの言葉がハッキリと聞き取れる)

海未(いや、聞き取れる……というより言葉の意味が、言葉に込めた意味が心に直接伝わってくるような感覚だ)

海未(お互いに精神体だからこそ、ヴァーリの意志が鮮明に伝わるのだろうか)



ヴァーリ「海未お姉ちゃんは呆れるだろうけど、これが本当のボクなんだよ……」

ヴァーリ「今いるこの世界と同じ、どこまでも空っぽで、空っぽで、空っぽ」

ヴァーリ「与えられた使命をこなすこと以外に意味のない、空っぽの人形」


ヴァーリ「それに気付いたら……もうダメだった」

ヴァーリ「ヘズを殺して、みんな殺して、殺して、殺して、その先に何が残るの」

ヴァーリ「誰かの命を取ったって、ボクはなんの感情も沸かない、ボクの空っぽは少しも埋まらない」

ヴァーリ「こんなボクに……生きる意味なんてあるはずがないんだよ」


ヴァーリ「はぁ……」

海未(浅いため息の後、ヴァーリは上半身を起こす)


ヴァーリ「でもさ、最後にお姉ちゃんと戦えて良かった」

ヴァーリ「最後に……少しだけ熱くなれた、この暗くて空っぽな心の中に少しだけ明かりが灯った気がした」


ヴァーリ「だからさ……」

海未「…………」プルプル

ヴァーリ「……ん、お姉ちゃん?」


ザッ ザッ ザッ ザッ

海未「あなたは――――」

ガシッ!!

ヴァーリ「うぐっ……!」

海未「あなたは卑怯です!」


海未(思わずヴァーリの胸ぐらを掴みあげていた)

海未(近付いたその顔には困惑の色が浮かんでいる)


海未「あれだけ人に突っかかってきて、自分が満足したらそれで終わり? 最後を受け入れる?」

海未「馬鹿なことを言わないでください!」グイッ!

ヴァーリ「ひっ」

海未「生きる意味? そんなもの知りませんよ、私だって教えてほしいくらいです」

海未「生涯のうちに生きる意味を悟れる人なんてごく僅か、殆どの人はそんなもの知らずに死んでいくんです」

ヴァーリ「じゃ……じゃあ……どうやって……」

海未「それでも生きるんですよ!」

ヴァーリ「……っ!」

435 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:48:07 ID:SBv6oWlk
海未「必死に、必死に生きるんです」

海未「無様でも、格好良くなくてもいい、生きる意味なんてなくても、自分勝手にこじつけて、足掻いて足掻いて足掻いて」

海未「最後の瞬間まで……必死に……生きて……」

スッ

海未(ヴァーリを掴む手から力が抜ける)

 


海未「……私は、この戦いで多くの人を見てきました」

海未「誰もが満足に生きていたわけではありません、夢半ばで、無念に、朽ちて、託して、散って」

ヴァーリ「…………」

海未「何の力が無くても、使命なんて無くても、過酷な世界に翻弄されたって、私たち人間は生きている」


海未「私はね、ヴァーリ、運命に抗うためにここにいるんです」

海未「天から与えられた使命なんてクソくらえだと、自らを縛る運命なんて跳ね除けてやると」

海未「神の鼻っ柱に叩きつけてやるためにラグナロクに参加してるんです」


海未「ですから、神の力を持ったあなたが“生きる意味ごとき”で落ち込んで、さらには自滅までされては張り合いがないんですよ」

ヴァーリ「……お姉ちゃん」

海未「ほら、手を取ってください、そして叫ぶんです」

海未「あなたの願い、使命などではない、あなた自身の、本当の願いを」



ヴァーリ「ボクは、戦いたいっ!」

ヴァーリ「最後の、最後の瞬間まで……諦めず戦うんだああああああっ!!」


キィィィィィィィィィンッ!!!!


カッ!!!!!


海未(暗く空虚だったヴァーリの心象風景に光が広がる)

海未(宇宙誕生のような、熱く燃えたぎる光が瞬く間に広がる)

海未(そして――――)






──
────
────────

436 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:48:29 ID:SBv6oWlk





──ラブボスタジアム・地上


ゴッ!!

ドドドドドドドドドドドドドドッ!!


海未(崩れる地盤に飲まれゆく地上の娯楽施設たち)

海未(大きく陥没した中央の穴に、城型の巨大ホテルが、屋外プールが、整えられた自然公園が、なすすべなく吸い込まれていく)

海未(そんな流れに逆らうかの如く、瓦礫の濁流を突き破り、地下から飛び出した影が2つ)

ドッ!! ドッ!!


海未(赤と白、2つの影は勢いのまま空高く舞い上がり、スタジアムを囲む範囲ドームの上限スレスレまで上昇)

海未(崩壊する地上など目もくれず、互いに視線を交差させた)


海未「いいです、いいですよヴァーリ!!」

ヴァーリ「おねえちゃんこそ!!」


海未(血の装甲を纏い赤い光を発する私と神力を纏い白い光を発するヴァーリ)

海未(二人の距離は1キロは離れていたが、今の私たちにとってこんな間合いは無いに等しい)

海未(戦術も、駆け引きも、最早意味をなさない)

海未(互いに全力をぶつけ合う最後の激突)



ヴァーリ「はぁああああああああああっ!!」

バリ! ビリバッ! バリバリバリッ!!

海未(ヴァーリが薄く纏う神力が線香花火のように弾けていく)

海未(あれだけの暴走の後だ、残された神力は残り少なく完全な制御など夢のまた夢)

海未(対する私はダメージのない万全の体、見ようによっては結果の見えた勝負と言えるのかもしれない)

海未(けれど――――)



ヴァーリ「それでも!!」

海未「ええ、それでも!!」


海未(勝負は最後まで分からない)

海未(戦意を取り戻したヴァーリの全力に私も全力で立ち向かう)


海未「はあああああああああああああっ!!」

ヴァーリ「だあああああああああああっ!!」


海未(ラブボスタジアム、上空)

海未(崩れゆく城塞の頭上で赤と白、2つの影が交差する)

ゴッ!!!!!!


海未(一瞬の激突、一瞬の決着)

海未(一人が残り、一人が堕ちる)


海未(交差の後、天に立っていたのは>>437)

437名無しさん@転載は禁止:2021/05/21(金) 15:06:09 ID:s.rCDjqc
笑顔のヴァーリ

438 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:58:24 ID:eE8Wt6uU
海未(天に立っていたのは笑顔のヴァーリだった)


ヴァーリ「やった……やった、やったあああああああっ!」



海未「……っ」

海未(油断など微塵もなかった、慢心など欠片もなかった)

海未(間違いなくこの身に宿る全ての力を用いて放った一撃だった)


海未(しかし、あの瞬間)

海未(空中で交差するあの一瞬、ヴァーリの戦闘における天賦の才が私の技術をほんの僅かだけ上回ったのだ)

海未(それは土壇場で見せたヴァーリのさらなる成長と言えるだろう)

海未(その僅かな差が勝敗を分けるには充分な要素だった)


海未(私の攻撃は紙一重で躱され、代わりに突き刺さるヴァーリの芸術的なまでに美しいカウンター)

海未(お互いにここが最後と覚悟した上でのノーガードの激突)

海未(それ故に受けた傷は深く大きく、私は姿勢を制御し続けることができなくなった)

海未(傷口から血を吹き出したまま、地上にポッカリと空いた奈落へと落ちていく)



海未「全く……本当に……」

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ


海未(敵に塩を送ってしまったのか、眠れる獅子を起こしてしまったのか)

海未(どちらにせよ、私は後悔などしていない)

海未(最後に本気のヴァーリと相見えたあの一瞬は本当に濃密な一瞬だった)



海未「本当に……あなたは素晴らしい戦士ですよ……ヴァーリ……」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



海未(ただ、穂乃果たちには謝らないといけませんね)

海未(1敗とは言え人類側にとっては手痛い敗北、叱咤される覚悟はできています)


海未(……それでも、たぶん穂乃果は笑って問題ないと励ましてくれるでしょう)

海未(ことりも大丈夫だよと慰めてくれるはず、そういう所がまだまだ甘いのですが)

海未(そしてにこは皆の代わりに厳しい言葉をかけてくれて、希はその意図を察して和ませてくれる)

フフッ

海未(ああ……そうですね、ちゃんと謝らなければ……)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



海未「ちゃんと、生きて帰れたら………」

ガシッ!

ヴァーリ「おねえちゃん!」

海未「……ん、ヴァーリ?」

439 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:59:00 ID:eE8Wt6uU
海未(真っ暗な奈落へと落ちるはずだった私の体は気がつけば空中で停止していた)

海未(見上げればヴァーリが大層慌てた顔で私の腕を掴んでいる)


ヴァーリ「ちょっ、なにかってにおちてるの! あぶないじゃん!」

海未「いや……あなたが叩き落としたのでしょうに……」

ヴァーリ「え!? ああいや……そうだけど……ごめんなさい」

海未(今度は申し訳なさそうにそっぽを向くヴァーリ)

海未(何か言いたげな表情を浮かべるも言葉が上手く出てこないと言った様子)

海未(はぁ……全く、世話の焼ける神様ですね)


海未「……助けてくださるんですか?」

ヴァーリ「まぁ、うん、ケッチャクはついたし」

海未「確かに」

ヴァーリ「それに……おねえちゃんがしんじゃったら、もうイッカイたたかえなくなるし、それはイヤだから!」

ヴァーリ「だから……だからね……その……」

海未「ふふふっ、はははははっ」

ヴァーリ「なっ! わ、わらわないでよ!」


海未「いえ、すみません、あなたは本当に戦いが好きなのですね」

ヴァーリ「……バカにしてる?」

海未「褒めてるんですよ」

ヴァーリ「あやしい……」ムッ

海未「ふふふっ」




ヴァーリ「……まぁいいや、テンソウジンまでいくから、しっかりつかまってて」

海未「ええ、そちらこそうっかり落とさないでくださいよ、今の私は本当に飛ぶ余力さえないのですから」

ヴァーリ「ヘイキヘイキ、おもってたほどおもくないから」

海未「思ってたほど……? ヴァーリ、ちょっと後でお話しましょうね」ニコッ
 
ギリリリリッ

ヴァーリ「いたいいたいっ、おちるって!」

海未「全くもう……」

ヴァーリ「というかおねえちゃんホントウはゲンキなんじゃ……」

海未「……」ペシッ

海未「いやごめん、ふふふ、いたっ、いたたっ、ははははっ、だからごめんってー!」

ペシッ ペシッペシッ






440 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:59:48 ID:eE8Wt6uU




海未(夕焼けが近づく空、崩れゆく城を尻目に一柱の神と一人の人間が去っていく)

海未(振り向けばスタジアムは跡形もなく、全ては大地の底へと飲み込まれていた)

海未(本当に、全てを破壊し尽くした戦いだった)


海未(しかし、これで良かったのだと私は思う)

海未(運命の鎖など引きちぎり、私達はただあるがままにぶつかり合った)

海未(お互いを高め合い、競い合い、蹴落とし合い、今はこうして笑い合っている)

海未(本気で命のやり取りをした相手と手と手を取り合っているのだ)


海未(神も人も関係ない、己の生き様は己が決めるものだ)

海未(でなければ……あまりに報われない)



ヴァーリ「ねぇ、おねえちゃん」

海未「なんです?」

ヴァーリ「ボク、かわれるかな」


海未「……ええ、きっと」



海未「きっとあなたは――――」




─────────────────


ラグナロク第3回戦

勝者 チームオーディン ヴァーリ


─────────────────



ラブボスタジアム

PM5:30〜PM6:00 反逆の焔編『18』了

441 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 01:01:33 ID:eE8Wt6uU
というわけでここまで

なんとか3回戦も終了
次はインターバル

反逆の焔編『19』に続く
かもしれない

442 ◆WsBxU38iK2:2021/05/24(月) 00:29:05 ID:X50PjkwA
反逆の焔編『19』

─────────────────
──メインスタジアム

PM6:00


ダル子『き、決まりましたああああああああ!!』

ワァァァァァァァァァァァァァァ!

ウォォォォォォォォォォォォォォォ!


ダル子『ラグナロク第3回戦、園田海未対ヴァーリの戦いはヴァーリに軍配が上がりました』

ダル子『またもや息をもつかせぬ激しい攻防の連続』

ダル子『いやー三船さん、すごい戦いでしたね』


三船『はい、序盤は常にヴァーリが追い立てるような形でしたが中盤から園田海未が勢いを取り戻し競り合う形に』

三船『そこから終盤のダメージ交換で園田海未の勝利は確定かと思いましたが、ヴァーリが意地を見せての再逆転となりました』

三船『真紅の瞳によるダメージの負荷、神力の暴走によるガス欠、多くのハンデを最後の最後で跳ね除けたヴァーリの戦闘スキルは素晴らしいの一言でしょう』

ダル子『そうですね、正に二転三転した運びとなった3回戦でした』



ダル子『えー、ラブボスタジアムが全壊し予め用意していた転送システムが使えないので、両戦士は現在急遽用意した転送陣へ向かっているとのこと』

ダル子『両戦士の帰還まで3回戦のダイジェスト映像を見ながらお待ちください』

ダル子『ではこちらをどうぞ』

パッ!






ダル子「……ふぅ」

ダル子(巨大スクリーンに3回戦の映像が流れる中、マイクを切り軽くため息をつく)

ダル子(これでラグナロクは2-1、まだ穂乃果チームが優位とは言え、オーディンチームには大本命のオーディンが残っている)

ダル子(ここから逆転を許すのか、止めるのか、次の4回戦はどちらにとっても落としたくない戦いになるはず)



三船「お疲れですか?」

ダル子「……ああ、いえ、平気です」

三船「そうですか」

ダル子「…………」


ダル子「そういえば三船さん、準備はどうなりましたか?」

三船「……え?」

ダル子(2回目のインターバルで三船が口にしていた準備が順調と言う言葉)

ダル子(あの時は聞き流したけど、妙に頭に引っかかっている)


ダル子(もし使徒側が企みをしているのなら少しでも追加の情報がほしい)

ダル子(カマをかけるというにはストレートな聞き方すぎるけど、何かぽろっと零さないか淡い期待で聞いてみる)


三船「ああ……やはりちゃんと聞いていたんですね」

三船「準備……ええ、準備なら……>>443

443名無しさん@転載は禁止:2021/06/02(水) 10:47:14 ID:gHXKtOAI
完璧

444 ◆WsBxU38iK2:2021/06/03(木) 00:42:30 ID:jpm/j9cM
三船「完璧です」フフッ

ダル子(そういって三船は不敵に笑う)


三船「1回戦、2回戦、3回戦、仕掛けをする時間はたっぷりとありました」

三船「最早この世界の人も神も私たちの計画を止めることはできません」

ダル子「……………」


三船「ふふっ、そう怖い顔で睨んだ所で私は何もしませんよ」

三船「私はあくまで観測者、この終末の神事が私達の望むように運ばれるかどうか見定めるのが役目」

三船「そして万が一不測の事態に陥りそうなら本隊へ報告をする、そのために全てを俯瞰できる席に腰掛けているのですから」


ダル子「私は何もしない……ですか」

三船「ええ、ですから私を捕らえようとも無意味、いたずらに混乱をもたらすだけです」

三船「私とあなたはただ成り行きを見守ることしかできない」

ダル子「…………」


ダル子(狭い実況ブース内の空気がひり付いて行くのを感じる)

ダル子(私たちの間にあるのは椅子1つ分の距離、お互いに手を伸ばせば容易に届いてしまう)

ダル子(三船が戦闘タイプの使徒とは思えないけど、油断は禁物)

ゴクッ

ダル子(重い……さっきまでの気まずさとは違う)

ダル子(どこに地雷が埋められているか分からない道をジリジリと歩くような、強い緊張感が場を支配し始めている)


三船「例えば……そうですね、そろそろ地上の別働隊が動き出している頃ですが、それを知ったところであなたに何ができます?」

ダル子「……っ」

ダル子「な、舐めないでください、私だってヴァルハラに連絡をし、応援の部隊を手配させることくらい――――」

三船「ふふっ、ふふふっ、ははははははっ!」

ダル子「何がおかしいんです!」

445 ◆WsBxU38iK2:2021/06/03(木) 00:42:44 ID:jpm/j9cM
三船「“だから”無駄なんですよ」

ダル子「…………?」

三船「“既に別働隊は動き出している”んです、今ではない、3回戦の途中からです」

三船「それなのにあなたには何の連絡も来ない、ラグナロクは予定通り続けられている」

三船「この状況こそが私たちの計画の完璧さを意味しているのです」

ダル子「…………っ!」


バッ!

ダル子(通信機を手に取り大会運営本部へ連絡を取る)

ダル子(三船が邪魔してくる様子は特にない、ただ私の行動を不敵な笑みで眺めているだけだ)

ピピッ

本部『はい、こちら運営本部……』

ダル子「運営本部! 会場警備及びヴァルハラ本館から至急の報告は来ていませんか!?」

ダル子「第二世界樹、地上部隊からの物でも同様に! 不審者、不審物、どんな小さな報告でも構いません!」

本部『……い、いえ、そのような報告は来ていませんね』

本部『ラグナロクを妨害するような外部からの不審な動きは見られず、プログラムは順調に進んでいます』

ダル子「…………」

本部『……あれ、ダル子さん? ダル子さん?』



ダル子(本当に本部は何も気付いていない……?)

三船「ふふっ、言った通りでしょう」

ダル子「…………」

ダル子(三船の言葉がブラフという可能性、確かにそれはある)

ダル子(だけどここまでハッキリと言い切られた以上、無関係だと捨て置くこともできない)


三船「……ま、あまりデタラメを言っていると思われても不本意ですし、1つだけ具体的なことを教えてあげましょうか」

ダル子「それはどうも……ご親切に」


ダル子(惑わされるな、クールになれ、判断を誤るな……!)


三船「現在地上で活動してる私たちの別働隊、その作戦目標の一つは>>446

446名無しさん@転載は禁止:2021/06/04(金) 05:50:51 ID:kJDsCo.M
予備のよりしろの覚醒と回収

447 ◆WsBxU38iK2:2021/06/05(土) 02:02:26 ID:FGB6T6hw
三船「その作戦目標の1つは予備のよりしろの覚醒と回収」

ダル子「依代?」

三船「ええ、“よりしろ”です」



本部『ダル子さん? ダル子さん?』

スッ

ダル子「……ヴァルハラに待機してるワルキューレを地上へ追加投入してください」

ダル子「続いて地上部隊へも警戒を強化するよう通達してください」

本部『え? それはどういう……』

ダル子「私の名前を出してもらって構いません、責任は私が負います、早く!」

本部『は、はい!』



三船「ふふふっ」

ダル子「…………」

ダル子(慌てふためく私を眺めて楽しむような三船の余裕ある態度)

ダル子(どんな仕掛けは分からないけど、天上から地上の様子は観測できず、向こうからの報告も上がらない状況にされてるのは確か)

ダル子(私がここからどんな指示を出そうと事態は既に手遅れ……ということだろう)



三船「他の神に伝えるもよし、インターバルの間に話し合うもよし」

三船「しかし天上にいる限り真偽が分かることはなく、曖昧な情報で大事な戦力を割くわけにもいかない」

三船「万が一スタジアム警備の戦力を分断してこちらが襲撃されることがあっては本末転倒」

三船「正確な判断を下すには放った偵察兵が戻ってくるのを待つしかないてすが……」


三船「そうなればどのみち……ねぇ」

ダル子「……っ!」


ダル子(まるで私の考えを先読みして代弁してるかのよう)

ダル子(流暢に紡がれる三船の言葉に私は段々と追い詰められていく)



ダル子(使徒はラグナロクの裏で行っている計画……)

ダル子(そして依代とやらの覚醒と回収)


ダル子(いったい地上で何が起こってると言うんですか……!)







────────
────
──

448 ◆WsBxU38iK2:2021/06/05(土) 02:02:48 ID:FGB6T6hw





──地上・九州上空

PM4:50







──移動要塞バーミヤン・ラボ



バシュンッ!!


侑「……っ!」

侑(世界扉を開いた先、眩い光の中に飛び込んだ瞬間、私の体は別の空間に転送されていた)

ガッ

侑「うおっ!? わっ、とっ!」

タッ タッ タッ

侑「うぎゃっ……!」

ドシャァァァンッ!!


侑「あいたたた……」


侑(そこは第二世界樹の中とは打って変わって真っ暗な場所)

侑(足元もよく見えず、床に転がっていた何かに足を引っ掛け思いっきり転んでしまった)


侑「けほっ、けほけほっ、なんだか埃っぽいし……ここが鞠莉さんの言ってたラボなのかな」

侑「とにかく地上に来れたからには早く歩夢に会わないと」

侑「そのためにはブリッジにいってミナリンスキーって人を探す……よし、ちゃんと覚えてる」グッ


侑(そうこうしてるうちに暗闇に目が慣れたのか、徐々に部屋の様子が見えてきた)

侑(すると>>449)

449名無しさん@転載は禁止:2021/06/06(日) 18:20:19 ID:2nzSowVE
躓いたのは「絶対に触るなよ!絶対だぞ!」と書いてあるものだった

450 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:32:09 ID:30ISaUgg
侑(すると当然さっき自分の躓いたものの形も見えてくる)


侑「んん……?」

侑(それは黒い布で包まれた横長の物体)

侑(横幅は1.5mから2mほど、高さは足の膝下……スネくらいの高さがある)

侑(ちょうど人か、それに近しい大きさのものを横にして布でグルグル巻きにしたらこんな風になるはず)


侑「人……いやまさか」ゴクッ

侑(私の頭の中を嫌な想像がよぎるが確かめないわけにもいかない)

ソーッ

侑(恐る恐る、ゆっくりそれに近づいて様子を観察する)

侑「……ん?」

侑(なんだろう、黒い布の表面に張り紙がしてある)


侑「文字……? あ、そうだ!」

侑(すっかり忘れていた、私には鞠莉さんから渡されたスマホ型の通信機があったんだ)

侑(連絡できるかは置いといて、画面を表示させたらライト代わりにはなるはず)

ガサゴソ ガサゴソ

侑(手探りでポケットから通信機を
取り出し電源ボタンを押す)

パッ!

侑「よし、これなら読めそう」 



侑(通信機の灯りに照らし出されたのは短い日本語の文章)

侑(赤く太い文字でデカデカと書かれ、!マークがこれでもかと強調されている)


侑「『絶対に触るなよ!』『絶対だぞ!』……って、ええ!?」

バッ!

侑(明らかに警告を鳴らすその文章を見て私は思わず飛びのいた)


侑「待って待って、触るなって言われたって、私これに思いっきり躓いちゃったんだけど」

侑「足で蹴ったのは触った判定にならない――――」

黒い物体?『ビガーー!! ドガドガビガガーー!!』

侑「わあああああああっ!」ビクッ!!

451 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:32:48 ID:30ISaUgg
侑(謎の物体は突然激しい音と光を発しながら立ち上がった)

侑(黒い布越しにカラフルな光が点滅を繰り返し、壊れた機械のようなくぐもったノイズ混じりの叫び声を響かせる)

侑(生き物なのか機械なのか判断がつかたい、もしかしたら化け物なのかもしれない)

黒い物体?『ドガッ! ビガッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』

侑「え……ええ……え……」

侑(完全に予想していなかった事態に私は頭がフリーズしてしまい……)


ダッ!!

侑(次の瞬間には黒い布の化け物に背を向けて走り出していた)


侑「うわっ! うわああああっ!」

黒い物体?『ガビビーー!』

侑「ちょっ、追ってくる、追ってくるの!?」

ダタタッ


ガチャッ ガチャッガチャッ!

侑(一目散に部屋の扉まで辿り着くと取っ手を掴み、勢いよく扉を開け放つ)

バッ!

侑「……まぶっ!」

侑(明るい、強い光に目を細める)

侑(どうやらラボの外は普通に電気が付いてるらしい)


侑「それに……誰?」

侑(光の中、廊下側の扉の横に立っている人影が見える)

侑(見えると言うか、私は今正に扉から飛び出た所だから私の真横にその人はいる)

侑(背が高く、筋骨隆々で、兜と鎧を纏って、巨大な剣を携えた、まるでヴァイキングのような大男――――)


侑「エインヘリヤル!?」

見張り「なぁっ!?」

452 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:33:02 ID:30ISaUgg
侑(いや、考えてみれば当たり前のことだろう)

侑(地上の穂乃果関係の船はエインヘリヤルとワルキューレの混合部隊によって全て制圧済み、それはバーミヤンも例外じゃない)

侑(部屋の中はそうでなくても、部屋ごとに出入りがないよう見張りが付いていても全然おかしくない)


侑(だけど、あまりに突然の出来事)

侑(私も、見張りのエインヘリヤルも、何が起こったか理解できずに一瞬固まってしまう)


黒い物体?『ガガピーー!!』


侑「はっ!」バッ!

侑(その硬直から一瞬早く抜け出たのは私だった)

侑(頭で考えたわけじゃない、黒い布の化け物の声に反射的に体が動いただけ)


見張り「お、おい!」

侑「ええと、ごめんなさい!」


侑(何故謝ったか、それは次に起こることが予想できていたからだった)

侑(反射的に一歩早く踏み出した私、遅れて私を追う見張りのエインヘリヤル)

侑(そして彼の背後には私を追ってきた――――)


黒い物体?『ガガガッ!!』

見張り「な……?」



侑(ちょうど私と黒い化け物の間に立ち塞がってしまったばかりに、黒い化け物のターゲットは目の前のエインヘリヤルへと移る)

侑(見張りのエインヘリヤルには悪いけど、黒い化け物の正体を安全な所から見極めるチャンス)

侑(逆に化け物を倒してくれるなら、それはそれで都合が良い)


見張り「貴様……何者だ!」

黒い物体「ガガガ! ピピー!!」


侑(エインヘリヤルは剣の柄に手をかけ、化け物は黒い布をマントのように広げ威嚇する)

侑(そして、>>453)

453名無しさん@転載は禁止:2021/06/09(水) 14:48:05 ID:qV8Ea96Y
鎧が黒く染まってきた

454 ◆WsBxU38iK2:2021/06/11(金) 00:21:51 ID:ktmWSwj2
侑(そして、お互いに威嚇の姿勢を保ったまま時間が経過する)

侑(10秒、20秒、30秒……)

侑(不思議なことに1分近く経っても両者が動き出す様子は見られない)



侑「……いや、違う?」

侑(よく観察すると変化はあった)

侑(剣を引き抜こうとする体勢で固まったエインヘリヤル、その鎧が段々と黒く染まってきていた)

ズズ ゾゾゾゾ

侑(ゆっくり、少しずつ、だけど確実に鎧が黒に侵食されていっている)

侑(鎧の他にも携えている剣や身に着けている装飾品、目の色や髪の色までもが鎧と同様の侵食を受けている)


黒い物体?『ガガ! ガガピー!』

侑「……っ!」

侑(その瞬間、私にはハッキリとわかった)

侑(エインヘリヤルは動かないのではない、黒い化け物の何かしらの影響を受けて動けなくなっているんだと)

侑「…………」ゴクッ

侑(黒の侵食が完了したらエインヘリヤルはどうなってしまうんだろう)

侑(完全に動きを封じられるのか、存在を消されてしまうのか、はたまた化け物の手下となるのか……)

侑(何にせよ、エインヘリヤルの侵食が終われば次の標的は私)

侑(だとしたら……ここでのんびり観察なんてしてられない!)

ダッ!!


侑「おさらば!」

ダタタタタッ!


侑(とにかく走る、廊下を闇雲に走って黒い化け物から距離を取る)

侑(やつの正体を確かめるにはあのラボの人間、もしくはその関係者に話を聞くのが一番だ)

侑(だけどこの要塞の乗組員は全て制圧部隊によって閉じ込められているはず)

侑(加えて私には誰が何処に捕まっているのか全く情報がない)


タタタタッ

侑「ま、分からないんだったらもうやることは1つ――――」

タンッ!

侑(角を曲がると、廊下の通路の先に別の見張りが立っているのが見えた)

侑(見張りがいるということは重要な部屋のはず、つまり誰かが捕まってる可能性が高い)

侑(好都合……私はニヤリと笑いながらポケットから身分証を取り出す)

スッ


侑(カリオペーの身分証、相手に好きな身分を信じ込ませられる万能の偽造書)

侑(これがあれば私は何にだってなれる!)

455 ◆WsBxU38iK2:2021/06/11(金) 00:22:10 ID:ktmWSwj2
侑「そこのエインヘリヤル! “私と同じ”このフロアを担当する兵士だな!」

見張りB「ん? そうだが……どうしたんだ、そんなに息を切らせて走ってきて」

侑「大変なんだ! 向こうのラボから正体不明の化け物が現れて見張りが襲われた!」

見張りB「な、なんだって!」

侑「上に報告したら化け物の対処には専門的な知識が必要らしく、それには捕まえた乗組員に話を聞く必要があるらしいんだよ」

侑「ここの部屋にも捕まえた乗組員がいるんだろう?」

見張りB「ああ、確かにいる、だが奴らが素直に答えるどうか……」

侑「問題ない、私は尋問のための能力を有したエインヘリヤルだ、そのために上が私をよこしたんだよ」

見張りB「なに? そうなのか……そんなエインヘリヤルが……」

侑「だから早く扉を開けろ! もたもたしてると手遅れになってしまうぞ!」

見張りB「……わ、わかった!」コクンッ!

ピピッ

バシュッ!

侑「助かる!」タタッ


カシュンッ!



侑「ふぅ……」

侑(開いた扉に駆け込み、閉じたのを確認してほっと一息をつく)

侑(かなりアドリブになってしまったけど、カリオペー身分証はエインヘリヤルにも問題なく効くみたいだ)

侑(見張りは完全に私のことを仲間と信じ込んでいる)


侑(そうやって潜り込んだ1つ目の監禁部屋)

侑(場所が分からない以上はこうやって片っ端から潜入していく他ないだろう)

侑(とにかく今は情報、誰でもいい、乗組員を助けて手がかりになる情報を手に入れないと……)


侑「……よし!」

侑(気合を入れ直し部屋の奥へと進んでいく)

侑(そこに捕まっていたのは>>456)

456名無しさん@転載は禁止:2021/06/30(水) 08:05:02 ID:tCSMm.gI
知らない人

457 ◆WsBxU38iK2:2021/07/02(金) 00:41:52 ID:mwDfZBvg
侑(そこに捕まっていたのは知らない人だった)


侑「あの……大丈夫ですか?」

侑(まぁ、知らないのは当たり前と言えば当たり前)

侑(私がぱっと見分かるのは虹ヶ崎のスクールアイドルのメンバー……のそっくりさん顔くらい)

侑(この船に乗っている9割9分は知らない人なんだから適当に部屋に入ればそりゃ知らない人と出会う)


??「あ、ああ……」

侑(だけど、この人がミナリンスキーでないことは一目でわかった)

侑(背の高いヒョロッとした男、やつれた顔にシワだらけの白衣)

侑(何かの研究者か、私が転送されたラボの関係者なんだろうか)


??「君は……」

侑「私は高咲侑、あなたは?」

??「私は鳳凰院凶魔、ここのラボ、未来ガジェット研究所2ndのラボメンだ」

侑「凶魔……」

凶魔「君は見たところガチムチ筋肉男や鎧の女戦士たちの仲間ではないようだが、いったい何者なんだ?」

侑「何者……ま、味方だと思ってくれて構わないかな、とにかくあなたを解放するから」

ガチャッ ガチャッガチャッ

侑(後ろに回って凶魔の拘束を解く)

侑(厳重な見張りのわりに拘束自体は素人でも簡単に解けるような煩雑なもの)

侑(目や口も塞がれていないし部屋に閉じ込めておけないとたかをくくっていたのか……)

ガチャンッ!

侑「とれた!」

凶魔「……ああ、ありがたい」


凶魔「早く、他の者も解放せねば……」

ヨロッ

侑「ちょっ、大丈夫?」

侑(凶魔はゆっくりと立ち上がるけど、長く拘束されていたせいかふらついて上手く歩けないようだ)

458 ◆WsBxU38iK2:2021/07/02(金) 00:42:10 ID:mwDfZBvg
凶魔「問題ない、この鳳凰院凶魔がこの程度で屈するわけにはいかんのだ」

凶魔「早く、早く、早く行かねば……ぐっ……」

ガクンッ

侑「もう、焦ったって仕方ないって」

凶魔「し、しかし……」


侑「一応見張りは遠ざけているけど、エインヘリヤルやワルキューレたちの配置すら分かっていない」

侑「そんなところを1人無策で進んだってまた捕まるのがオチだよ」 

凶魔「うむ……」


侑(私1人なら身分証でどうとでも騙せる、けれど2人なら話は別だ)

侑(この鳳凰院凶魔と口裏を合わせるための時間を作らなきゃいけない)


侑「それに……近くの通路にはラボから出てきたあの化け物もいるし」

凶魔「なに!? ラボからだと!」

バッ!!

侑「え? ……うん」コクンッ

侑(凶魔はその言葉に反応するようにして勢いよくこっちを振り向いた)


侑「そうだよ、なんか黒い布を纏ってガシャガシャ動いてるやつ」

凶魔「馬鹿な、あれは外部から触られなければ決して動かないはずなのだが」

侑「あ、あははー、なんでだろうねー」


凶魔「そうか、あれが動いているとなれば話は別だな」

侑「ねぇ凶魔、あの化け物っていったいなんなの? エインヘリヤルを侵食して同化してたのは見たけど」

凶魔「ああ、あれの正体は>>459

459名無しさん@転載は禁止:2021/07/02(金) 08:54:48 ID:PmLaakKQ
対エインヘリヤル特化型未来ガジェット

460 ◆WsBxU38iK2:2021/07/03(土) 00:19:00 ID:YIcEykGQ
凶魔「あれの正体はエインヘリヤル特化型ガジェットだ」

侑「特化型未来ガジェット……!?」


凶魔「あのガジェットはエインヘリヤルを優先的に追跡するようにできている」

凶魔「そして実際に稼働している現場を見たということは知ってると思うが、エインヘリヤルを見つけると内部に格納されてるチューブから特殊な薬液を注入、侵食を開始するんだ」

凶魔「侵食されたエインヘリヤルは自我を失い敵味方の区別をつけることができなくなるんだ」

侑「それはすごい!」


凶魔「ただ……」

侑「ただ?」


凶魔「あ、あのガジェットには欠点……ごほごほっ、いや、特殊な機能が付随していてな……」

侑「急に端切れ悪くなりましたね」

凶魔「侵食されたエインヘリヤルは敵味方の区別がつかない化け物になる」

凶魔「つまりだな、同じエインヘリヤルを襲う可能性もあれば我々を襲う可能性もあるわけだ」

侑「じゃあダメじゃん……」


凶魔「だ、ダメではなーーーーい!!」バッ!!

侑(急に大声出すなこの人……)


凶魔「侵食された時点で知能のない暴走した獣になることは間違いないんだ」

凶魔「ということは裏をかかれたり待ち伏せをされることがない、きちんと警戒していけば恐れることはない!」

侑「はぁ……」


侑(その理屈だといずれこのフロアのエインヘリヤルは全てあの黒い布の化け物に侵食されるわけか、軽く地獄だな)

侑(まぁ同情はするけどこっちにも退けない事情がある)

侑(特化型ガジェットとやらを止めるのはまた今度にして上層を目指そう)


凶魔「どうした? 黙り込んでしまって」

侑「……いや、考えことをしていただけ」


侑「凶魔さん、お仲間を助けたい気持ちは分かりますけど、1人1人解放していても埒があきません」

侑「この移動要塞を占拠している天界の勢力と乗組員の戦力差、人数差は明白です」

侑「例え何人か助けだしたとしても再び捕まってしまったら同じこと」

凶魔「だがガジェットはあるぞ?」

侑「このフロアでは……ですよね、デコイとしては有用ですが限界はあります」

凶魔「まぁ……そうだな」


侑「ですから優先順位をつけましょう」

凶魔「優先順位?」

侑「はい、優先目標はミナリンスキー、この移動要塞の制御権を持つ人です」

侑「いかに相手が物量で勝っていようと要塞のシステムを奪い返してしまえば手の打ちようはあります」

凶魔「確かに……理にはかなっているな」 


侑「凶魔さん、知りませんか? ミナリンスキーが今どこに捕まってるか、どういう状況にいるのか」

凶魔「ミナリンスキーか……そうだな、信憑性は薄いが見張りが話していたのを耳にはしたな」

凶魔「彼らの話によるとミナリンスキーは今>>461

461名無しさん@転載は禁止:2021/07/03(土) 22:31:51 ID:gg/FE21c
動力炉付近に連れていかれた

462 ◆WsBxU38iK2:2021/07/04(日) 00:20:24 ID:eusOG4Fk
凶魔「ミナリンスキーは今動力炉付近に連れて行かれているらしい」

侑「動力炉……この要塞の? 場所は!?」

凶魔「そ、そうまくし立てるな」

侑「ご、ごめんなさい」


凶魔「そうだな……場所は下層にあるということしか分からない」

凶魔「今我々がいるフロアは中層、つまり1つ下に降りる必要があるということだ」

侑「階段かエレベーターみたいな?」

凶魔「ああ、各層の中央に直通のエレベーターがあるという話は聞いたことがある」

凶魔「だが直通なだけに警備は厳重、通り抜けることは難しいだろう」

侑「うん……」


侑(私1人ならワンチャン行けるかもしれない、ただ凶魔や他の協力者を連れてとなると無理だ)

侑(エインヘリヤルに身分を偽装し、凶魔たちを捕虜に見立てたとて、捕虜をわざわざ別のフロアへ移送する理由がない)

侑(ワルキューレやエインヘリヤルの能力は多彩、末端の見張りならまだしも中央の警備を任されるような強者の中に偽装を見抜く能力持ちがいないとも限らないし……)


侑「だとしたら、中央エレベーター以外のルートで下層に降りるしかない……か」

凶魔「こちらも同意見だ、非常用の階段などなら監視の目をかいくぐれる確率は高い」

凶魔「だが、それには1つ問題があってだな……」

侑「問題?」

凶魔「道が……分からないんだ」

侑「え?」


凶魔「この要塞に来てから日が浅いんだよ」

凶魔「元々未来ガジェット研究所は浮遊塔にあった施設だ、要塞の構造を完璧に把握するにはまだまだ時間が足りない」

凶魔「主要な施設と行き来するメインの道は覚えていても、裏路地のような細かな通路は把握できていないんだ」

侑「なるほど……」


侑「となると、必要なのは道案内役か、詳細な地図か」

凶魔「地図……そうだ!」

侑「ん?」

凶魔「ラボにならバーミヤンの通路を記したマップが置いてあったかもしれない」

凶魔「それにラボにはこれからの救出作戦で役立つであろうガジェット、>>463もあるはずだ!」

463名無しさん@転載は禁止:2021/07/07(水) 14:54:33 ID:w/xgsWjg
ステルス迷彩

464 ◆WsBxU38iK2:2021/07/08(木) 02:38:39 ID:6rZr5UMU
凶魔「ステルス迷彩もあるはずだ!」

凶魔「だからラボまで戻ることができれば何とかなるかも……しれない」


侑「よし! じゃあ早速行きましょう!」

凶魔「行く? いや、行くのは賛成だが外にはまだ多くの見張りが彷徨いているはず」

凶魔「迂闊に飛び出そうとした身で言うのもなんだが無策ではラボに辿り着くことさえ――」

侑「ほう……誰が無策だと言いましたか?」

凶魔「え?」


侑「私が慎重になっていたのはミナリンスキーの居場所とそこへ辿り着くための道が分からなかったからです」

侑「それが判明したとなれば最早恐れることはありません」

凶魔「し、しかしエインヘリヤルたちが……」

侑「ちっちっち」

凶魔「……?」



侑「凶魔さん、いったい私がどうやってここまで来たと思ってるんです?」





465 ◆WsBxU38iK2:2021/07/08(木) 02:39:12 ID:6rZr5UMU




──ラボ

PM5:05


ガチャッ


侑「……よし、中には誰もいないみたいです、電気つけますね」

パチンッ

凶魔「しかし驚いたな、こうもスムーズに移動できてしまうとは」

侑「ふっふっふ、すごいでしょう」

凶魔「ああ、そんな便利なものがあるとは思わなかったぞ」


侑(凶魔に身分証のことを説明した私は再び廊下を通りラボへと戻ってきていた)

侑(手に入れた経緯などを伏せたせいか凶魔は初め半信半疑だったものの、実際にすれ違ったエインヘリヤルに効果を発揮したのを見ると信ざるを得ないようだった)

侑(ちなみにすれ違ったエインヘリヤルには化け物の騒ぎが起きたから捕虜を少し離れた部屋に移すと話しておいた)

侑(近場で化け物が暴れているのは本当だし、同フロアでの移送ならそこまで怪しまれないだろう)


凶魔「ふむ……どうやらラボには内にも外にも見張りがいないようだな」

侑「あの黒い布の化け物、対エインヘリヤル特化型未来ガジェットでしたっけ?」

侑「あのガジェットの姿が見えませんし、離れたところへエインヘリヤルたちを引きつけてるのかもしれないですね」

凶魔「そうか、ならばチャンスだな」 


凶魔「ステルス迷彩ガジェットを探してくるからそちらはマップを探してくれ」

侑「分かりました、それでどの辺りに……」

凶魔「その机の辺りだ、頼んだぞ!」

ダダッ!


侑(凶魔は私の近くの机を指差すとラボの奥の方へと駆けていった)

ドッタンバッタン ガシャンッ! ガシャンッ!

侑(何やら物をひっくり返してるような音がしてきている、私も言われたものを探すことにしよう)


侑「マップ、マップっと」

侑(転送されて来た時と違い明かりがついてるため探索はしやすい)

侑(そのおかげか目的のマップはあっさりと見つかった)

侑「えーと……あった! これだ!」


侑(おそらくはタブレット的な端末なんだろうけど、本物の紙と見間違うくらい薄くてペラペラ、巻いて筒状にできるくらい柔軟性がある)

侑(そして端末の表面に表示されているのはこの移動要塞の詳細な見取り図)

ピッ

侑(画面を直接タッチで操作できるようなので指で拡大しつつルートを確認していく)


侑「なるほど、ここが中層でここが今いるラボ」

侑「だったらここから下層へ行くために一番近いルートは……」

ピッ ピッ

侑「……うん、この>>466って場所を通るのが一番早そう!」

466名無しさん@転載は禁止:2021/07/08(木) 20:47:57 ID:HNY7xfAU
外側緊急通路

467 ◆WsBxU38iK2:2021/07/10(土) 00:31:29 ID:Y6EpPE6Q
侑「この外側緊急通路って場所を通るのが一番早そう!」


侑(ルートを間違えないよう、指でなぞりながら二度三度と確認を重ねる)

侑(そうこうしてるうちに凶魔がラボの奥から戻ってきた)


ガタンッ ガタガタガタンッ

凶魔「あうっ! いたたた……」


侑「ステルス迷彩見つかりました?」

凶魔「あ、ああ、少々探すのに手間取ったが確保してきた」

凶魔「とりあえず今いる2人とミナリンスキーの3人分だ、1つは渡しておこう」スッ

侑「ありがとうございます」


侑(手渡されたのは見るからにベースが雨合羽の装備だった)

侑(表側に銀紙をぐしゃぐしゃに丸めてから広げたようなフィルムが一面に貼られていて、内側には沢山のコードが張り巡らされている)

侑(見た目は夏休みの工作程度の出来栄えに見えるけど、本当にこれで姿が消せるのかな……)


凶魔「なんだその目は、見た目はアレだが機能はバッチリだ、しっかり実験もしてある」

侑「ま、まぁそんなドヤ顔で言うなら……信じます」


凶魔「ところでマップの方はどうだ? 見つかったか?」

侑「はい、こっちは普通に置いてあったのでアッサリと見つかりました」

侑「凶魔さんが来るまで軽く目を通してたんですけど、この外側緊急通路ってとこが一番近そうです」

ピッ

侑(見ていた箇所を拡大し画面を凶魔へと向ける)


凶魔「ふむふむ……なるほど」


凶魔「よし!それで行くぞ!」

侑「え……提案したのは私ですけど、そんな軽いノリでいいんですかね、凶魔さんの案とかは――――」

凶魔「いいか、よく聞け新ラボメンよ」

侑「ラボメンではないです」

凶魔「何を隠そうこの鳳凰院凶魔は道を知らないのだ、貴様と同じくらいにバーミヤンにおいては初心者だと言っていい」

侑「はぁ……そうらしいですね」

凶魔「だから心配などは皆無! 己の直感の信じた道を進めばいいのだ!」ビシッ!

凶魔「ハッハッハ、フハーハッハッハ!!」


侑「…………」


侑(ええと、つまり自分も知らないから口出しすることはないし黙って付いてくると)

侑(うーん……この人連れて行く意味あるのか疑問に感じてきた)

侑(でもミナリンスキーに会うなら乗組員がいたほうが話が早いしなぁ……)


侑(いや……仕方ない、これも目的のため!)


侑「では移動します! 付いてきてくください!」

凶魔「心得た!」





468 ◆WsBxU38iK2:2021/07/10(土) 00:32:19 ID:Y6EpPE6Q



──外側緊急通路

PM5:10


侑「……って、ノリで飛び出してきたは良いものの」

凶魔「これは……なかなかスリリングな道のりだな」

ヒュォォォォォォォォッ

ガタガタンッ ガタガタンッ


侑(外側緊急通路C-26、そう書かれた扉を開いた私達の目に飛び込んできたのは一面の空だった)

侑(吹き付ける風、揺れる足場に目を向ければ、それは“要塞の外側”に取り付けられた外装メンテナンス用の通路)

侑(垂直の外壁に階段のような狭い足場と心もとない手すりが打ち付けられているだけの通路だった)


侑「お、おお、押さないでくださいね! ゆっくり行きますから!」


侑(特に高所恐怖症だったりするわけじゃないけど、流石にこの高度は足がすくんでしまう)

侑(足元を見ればその隙間から遥か下の地面が見える)

侑(地上まで何百メートルあるんだろうか、分かるのは足を踏み外せば間違いなく命はないということだけ)

カンッ 

カンッ

侑(ゆっくり……ゆっくりと、確実に階段に足を置いて下っていく)


ヒュォォォォォォォォッ

侑「わっ!」バサバサッ!

侑(時々吹く突風に羽織っているステルス迷彩カッパがはためく)


凶魔「さすがにこれだけ上空だと強風が吹くな……」

侑「上空……確かにそうですね」


侑(足元ばかりに気を取られていたけど、少し慣れてくると周囲の風景も目に入ってきた)

侑(間もなく夕暮れ時、赤い空が荒涼とした九州の大地を照らしている)

侑(削り取られた山々、吹き飛ばされた平地、燃えた森に崩壊した街、戦の傷跡がどこまでも続いている)


侑「本当にここで戦いがあったんですね」

凶魔「ああ、痛ましい戦だった、そして今は――――」


侑(凶魔の目線の先、そこにあるのはスクリーン型の紋章陣)

侑(天を覆うように並ぶ無数の赤と緑のスクリーンは人と神の最終決戦、ラグナロクの模様を全世界へと中継している)

侑(ちょうど今は3回戦、海未さんとヴァーリの戦いが映し出されているみたいだ)


侑「そうですね、これで戦いが終わると良いんですけど…………」


侑「……ん?」

凶魔「どうした?」



侑(上空に浮かぶスクリーンを見ていた私は気づいた)

侑(何かがバーミヤンとバーミヤンに一番近いスクリーンの間に浮かんでいると)


侑「あの、凶魔さん、あそこ――――」


侑(逆光のせいか最初はスクリーンにちらつくノイズかと思っていた)

侑(でも違う、あの影は画面と関係なしに動いている)

侑(スクリーンと私たちとの間に何かが浮遊しているからこそ見える影だ)


侑(あれは……>>469)

469名無しさん@転載は禁止:2021/07/14(水) 15:01:06 ID:3.geCbK.
飛行型の敵

470 ◆WsBxU38iK2:2021/07/15(木) 01:21:49 ID:WXQOtLxQ
侑(あれは……飛行型の敵)

侑(純白の翼を広げ剣を携えた戦乙女――)


侑「……ワルキューレ!」

凶魔「ワルキューレだと!? どこだ!」

侑「いいから走って!」

凶魔「りょ、了解した!」

カンカンカンカンッ! 

カンカンカンカンッ!


侑(バーミヤンの外壁に打ち付けられた金属の足場を駆け足で降りていく)

侑(もう怖いだのなんだのと言ってる場合じゃない)


侑「油断してた、てっきり見張りは要塞の中だけかと……まさか要塞の外を飛び回っているワルキューレがいるなんて!」

凶魔「どうする? もうステルス迷彩を使うか!」

侑「それはなるべく最後の手段、確か電気の消費量が多くて長持ちしないんでしょ」

凶魔「ああ、その通りだ、さっきの移動の最中に話したことをよく覚えているようだな」

侑「感心してる場合じゃないって!」


カンカンカンカンッ! カンカンカンカンッ!


侑「私の身分証もあるし、見つかっても誤魔化せる可能性はある」

侑「そもそも向こうが私たちを発見できていない可能性だってある」

侑「だから、今はとにかく手早く移動しちゃおう!」

凶魔「なるほど……だが……」

ピタッ


侑「え、ちょっと凶魔さん! どうして止まったの!?」


凶魔「その可能性の片方は、どうやら断たれてしまったようだ」

侑「え?」

471 ◆WsBxU38iK2:2021/07/15(木) 01:22:04 ID:WXQOtLxQ
侑(背後で急に停止した凶魔を振り返って見上げた視線の先)

侑(こちらに向かい真っ直ぐ突っ込んでくるワルキューレの姿があった)


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

侑(翼を畳んで空気抵抗を減らすスピード重視の飛行形態)


侑「……っ! 流石にバレるか!」



侑(仕方ない、ここは例の身分証で……)

スッ

侑(……と、懐に手を入れたところでふと気付く)

侑(私がカリオペーの身分証で相手を騙すには自分の身分を宣言して相手に信じ込ませる時間が必要だ)

侑(それには相手が私を疑うこと、つまり私の存在に対しての興味がなければいけない)

侑(怪しい人物だ、何者なんだと思考を巡らせ手を止めるからこそ付け入る隙ができる)


侑(それならば、もし相手がそう考えなかったとしたら?)

侑(目についた不信人物は全て排除しろと命令を受けていたとしたら?)

侑(私の声が耳に届く前に攻撃を放ってきたとしたら?)


侑「…………あ」


凶魔「どうした! 早く能力を!」

侑「あ、わ、私は――――」


ワルキューレ「はぁっ!!!!」

侑「……っ!」


侑(眼前に迫るワルキューレの刃、そして次の瞬間>>472)

472名無しさん@転載は禁止:2021/07/15(木) 17:31:51 ID:r4y1LO.M
私が刺されているのが見えた

473 ◆WsBxU38iK2:2021/07/16(金) 01:23:33 ID:7HyCkEeo
侑(そして次の瞬間、私が刺されているのが見えた)

ザンッ!!

侑「……っ!?」


凶魔「おいっ!!」


侑(しまった……油断にもほどがある)

侑(カリオペーから渡されたアイテムが完全に目を曇らせていた)

侑(身分証が万能なのは曲がりなりにもコミュニケーションが通じる状況だけ)

侑(一触即発の戦場でそれを期待するのはあまりに甘い考え……)


ズズズッ

侑「がはっ……!」

侑(薄刃の剣が私の脇腹を貫いている)

侑(裂けた傷口が焼けるように熱い、痛い、体中から汗がドッと吹き出る)

凶魔「おいっ、――――、おいっ、――――」

侑(耳鳴りがする、自分の心臓の音が大きい、隣の凶魔が何か喚いているけど耳に入ってこない)


ワルキューレ「標的、排除」

侑「はぁ……っ、はぁ……っ」


侑(ただ、私はまだ生きている)

侑(心臓は動いてるし、喉も潰れていない)

侑(だったら――――)


ガシッ!

ワルキューレ「……?」

侑「私は……」

侑(ワルキューレの腕を掴み、その無機質な瞳を見つめ、震える唇から声を絞り出す)


侑「……私は、追加で派遣されたエインヘリヤルの1人……敵では……ありません」

ワルキューレ「敵ではない、なら何故この場所に」

ワルキューレ「エインヘリヤルは全員内部の警備に当たっているはずだが」


侑(ああ……やっぱりそういうことになってたんだ……)

侑(凶魔もいるし、上手い言い訳を考えないと……)



侑「……ええと、それは>>474

474名無しさん@転載は禁止:2021/07/16(金) 07:59:46 ID:XRaVM2DY
中でこいつが開発した化け物が誤作動して暴れてるから制御装置があるという動力炉に向かっている

475 ◆WsBxU38iK2:2021/07/17(土) 00:14:33 ID:NJYj.LTo
侑「それは……中で化け物が暴れてて、それを開発したのが横のこいつで……制御装置が動力炉にあるから……それで……向かってる………途中……ぅぐっ!」

ワルキューレ「中で、化け物? 確認する」


侑(痛みで集中できない中、なんとか絞り出した都合の良い理由付け)

侑(それを聞いたワルキューレはロボットのように表情を1ミリも変えないまま黙り込み、代わりに顔の横の耳飾りが僅かに点滅を繰り返す)

ピピッ ピピッ ピピッ


ワルキューレ「確認終了、確かに中層で未確認兵器が暴走してるのは事実なようだ」

ワルキューレ「しかし動力炉へ向かうのならばわざわざ外を通る必要はないだろう」グッ

侑「……っ!」

侑(ワルキューレが剣を握る拳に力を入れるたび、私のお腹に言葉にならない激痛が走る)

侑(まだ完全に疑いが晴れたわけじゃない、私の命は未だにワルキューレの機嫌次第)

侑「っはぁ……はぁ……」

侑(次……次だ、言葉を途切れさせるな……)


侑「いや、だから、中では化け物が暴走してると言ったでしょ……」

侑「私の任務は……こいつを死なせず、迅速に、下層の動力炉まで連れていくこと……がっ、ぐはぁ……ぐっ……」

侑「……そういうこと、考えるとさ、外側の緊急通路通った方が良いって……思わない……かな」


ワルキューレ「なるほど、一理ある、失礼した」

侑「で、でしょ……」

ワルキューレ「この剣は引き抜こう」

ブンッ!!

侑「ってちょ……がぁっ!!!」 

ビシャァァァッ!!


ワルキューレ「ふっ」チャキンッ


凶魔「おい貴様! いきなり抜いたら出血が止まらなくなるだろ!」

ワルキューレ「口を挟むな人間、エインヘリヤルの戦士ならこれくらいの傷では死なん」

凶魔「だが、この子はエインヘリヤルでは……」

ワルキューレ「……?」

凶魔「……い、いやその……」


侑(済まし顔で鞘に剣を収めたワルキューレの視線に凶魔は気まずそうに口籠る)

侑(だけど私にはそんなやり取りを気にしてる余裕はなかった)


ズキンッ ズキンッ ズキンッ ズキンッ

侑「はぁっ……はあっ……はあっ……」

ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ

侑(熱い、痛い、うるさい、眩しい、苦しい、もう何がなんだか分からない)

侑(叫び声を上げてのたうち回りたい衝動を死ぬ気で我慢し、目の前の手すりと震える二本の足でなんとか体を支える)

476 ◆WsBxU38iK2:2021/07/17(土) 00:14:57 ID:NJYj.LTo
凶魔「そう、そうだ、死ななくたって支障が出るじゃないか!」

ワルキューレ「支障?」

凶魔「小さな傷だと舐めてはいけない、いつどんな時に悪化して足を引っ張るか分からぬのだぞ」

凶魔「この鳳凰院凶魔と契約を交わたのはこのエインヘリヤル、我はこの者以外には身を任せん!」

凶魔「つまりこの者が倒れたなら我は動かんということだ、そうなれば化け物の暴走は止まらず任務は失敗となる」

凶魔「わかるか? ワルキューレ、貴様が我々の任務を邪魔した事になるのだ! 個人でその責任が取れるか!!」ビシッ!!


ワルキューレ「……捕虜のくせに任務の心配をするとは、加えてよく喋る」

凶魔「悪いか!」
 
ワルキューレ「善悪は問うてない、しかし……そうだな、些細な事とは言えエインヘリヤルとの間に軋轢を生むのも本意ではない」

ワルキューレ「そこまで騒ぐのであれば傷口は治そう」

パッ


キュィィィィンッ

侑「……!」

侑(ワルキューレが手をかざすと緑色の粒子が放出され傷口を塞いでいく)


凶魔「おお! 大丈夫か!」

侑「……な、なんとか」フラッ

侑「まだ痛みは残ってるけど……うん、これなら歩けそう」



ワルキューレ「…………」


侑「じゃ、じゃあワルキューレさん、私たちはこれで――――」

ワルキューレ「待て」

侑「え?」


ワルキューレ「そこの人間の言葉で考えを改めた」

ワルキューレ「このような不測の事態の判断、たかが1兵士の自分が独断で決めていいことではない」

ワルキューレ「ワルキューレ警備部隊の隊長格へ連絡し応援を要請するからしばし待て」


侑「あぁ……いや、ほら急ぎの任務なので! お忙しい?隊長さんたちを待ってる暇がないんで! ね?」

凶魔「そ、そうだ! その通りだ!」


侑(凶魔の言葉で無駄に責任感に芽生えたのかもしれないけど、こっちとしては隊長格と関わるなんてお断り)

侑(時間を言い訳にしてさっさとこの場を離れてしまいたい)


ワルキューレ「時間ならば気にするな、自分の直属の隊長は現在動力炉近くにいる」

ワルキューレ「つまりお前たちが移動する道すがら合流できるはずだ」

侑「えっ……動力炉近くに、隊長?」

ドクンッ

侑(なんだろう、不味い、すごい不味いことになりそうな予感)


ワルキューレ「ああ、地上のワルキューレ部隊は第1から第5までの5つの部隊に分けられていて各部隊に1人ずつ隊長がいる」

ワルキューレ「このバーミヤンを担当しているのは>>477番目の部隊長だ」

477名無しさん@転載は禁止:2021/07/17(土) 00:36:53 ID:4rzr/oNk
2番と3

478 ◆WsBxU38iK2:2021/07/18(日) 00:29:34 ID:maST7Aoc
ワルキューレ「2番と3番目の部隊長だ」

侑(しかも2人……!?) ビクッ!


ピピッ ピピッ

ワルキューレ「よし、報告は完了した、これでお前たちのことは伝わっているはず」

侑「…………」

ワルキューレ「どうした? 時間がないのだろう、早く行け」

侑「う、うん……」

 
侑(状況は悪くなったけど、このまま残っていたって怪しまれるだけ)

侑(今はとりあえず下層に向かうしかないだろう)


侑「行くよ!」

凶魔「ああ……了解した」コクンッ


タンッ

カンカンカンカンッ 
 
カンカンカンカンッ


侑(下層に待ち受ける2人の部隊長)

侑(彼女たちの目をすり抜けてミナリンスキーを助ける方法)


侑(早く、それを思いつかないと……!)


カンカンカンカンッ





479 ◆WsBxU38iK2:2021/07/18(日) 00:30:00 ID:maST7Aoc




──動力炉制御室

同時刻


ウゥーーーーーーーーーーン


ミナリンスキー(動力炉からガラスの壁一枚隔てた制御室には低く小さな駆動音が鳴り響いていた)

ミナリンスキー(半待機状態の動力炉に火は灯っておらず、ただ移動要塞を浮遊させるだけの僅かなエネルギーを生成している)

ミナリンスキー(普通ならばブリッジで指揮しているはずの私が何故こんな場所にいるのか……)

ミナリンスキー(その答えは単純明快、ワルキューレたちに捕まったからなのである)


ガチャッ ガチャガチャッ


ツヴァイノート「いやさぁ、だからその手枷を解くのは無理なんだって」

ツヴァイ「何度も説明したけどその手枷はうちの末っ子ちゃんの特製手枷であなたの能力を封じることができるの」

ツヴァイ「無駄な抵抗を続けてないでさっさと吐くこと吐いちゃってよ」


ミナリンスキー(後ろ手に手枷を嵌められ自由を奪われた私)

ミナリンスキー(目の前に立つのはその手枷から伸びる鎖を握った青髪のワルキューレ)

ミナリンスキー(背中に2の文字を背負い、腰の両側に2本の短剣を携えた彼女はツヴァイノートと名乗っていた)



ドライノート「そうよ、姉さんの言う通り」ジッ


ミナリンスキー(更に少し離れた位置に立っているのはドライノート)

ミナリンスキー(短く切り揃えられた桃色の前髪の隙間から、こちらを鋭い目で睨みつけている)


ドライノート「私たちが聞きたいのは御託じゃなくて動力炉の制御の仕方」

ドライノート「それを吐きさえすれば貴女はこんな尋問に付き合わなくて良くなるのに、やれやれだわ」


ミナリンスキー(そう、私は動力炉を再び稼働させるために捕縛されこんな所まで連れてこられていたのだ)

ミナリンスキー(現在、バーミヤンの動力炉は半待機状態にあり、それ以上の機能は全てロックされている)

ミナリンスキー(要は乗っ取りを防ぐためのセキュリティシステム)

ミナリンスキー(管理権限を持つものが許可しない限り、バーミヤンはただの巨大な箱で、移動することも兵器として運用することもできない)

ミナリンスキー(ま、この2人はそのロックを解く方法を私から聞き出そうとしてるわけだね)


ドライノート「はぁ……変わらずだんまり、賢くない選択よ」

ツヴァイノート「仕方ない、じゃあ尋問を続けよっか」

ガシャンッ

ミナリンスキー「うぐっ……」


ミナリンスキー(……で、さっきから行われている尋問方法というのが>>480)

480名無しさん@転載は禁止:2021/07/19(月) 00:25:47 ID:FAtrzuP.
中学生の頃の日記の音読

481 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:23:39 ID:mgXqXU96
ミナリンスキー(尋問方法というのが……)


ツヴァイノート「『今日は穂乃果ちゃんと遊んだよ、今日も穂乃果ちゃんは天使みたいにかわいい、好き好き大好き、その目で見つめられると甘く蕩けちゃう』」

ツヴァイ「『気持ちはホイップ、心はマカロン、今すぐ私ごと食べちゃって』」

ミナリンスキー「ぐわああああああああああああああ!」


ミナリンスキー(私の中学生の頃の日記、その音読だった)



ツヴァイノート「……ふむ、書いてあることは相変わらず意味不明だけど効果は抜群、さすがドライの考えた尋問ね」

ドライノート「いえ、姉さんに褒めてもらうほどではないわ」

ツヴァイノート「も〜そんな謙遜しちゃって」

ドライノート「さ、姉さん続きを」

ツヴァイノート「おっけー」


ツヴァイノート「ええと……『すきすきちゅっちゅ、すきすきちゅっちゅ、だいす――――」

ミナリンスキー「うがああああああああああああ!!」


ミナリンスキー(……ぐっ、ひどい、なんて残酷な責め苦、精神がかき乱されて頭がどうにかなっちゃいそう)

ガクッ

ミナリンスキー「はぁ……はぁ……」

ドライノート「効いてる効いてる」



ミナリンスキー(でも、ワルキューレたちは私の日記なんて何処から持ってきたんだろう)

ミナリンスキー(あの黒歴史日記の存在を知っていたのも、日記の場所を知っていたのも私だけ)

ミナリンスキー(それに存在を知っていたとしてわざわざ東京まで取りに行くとは思えないし、何よりそんな時間はなかったはず)


ミナリンスキー(ブリッジで拘束され、下層まで降りてくるまでの十数分間)

ミナリンスキー(移動中の目隠しがあったとは言え、常に2人の声は近くで聞こえていた)

ミナリンスキー(目隠しが取れたときには既に日記が彼女たちの手にあったことを考えると、その間に何かしたと考えるのが自然……)


ミナリンスキー(でも、日記なんて本当にどこから……?)

482 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:25:48 ID:mgXqXU96


ツヴァイノート「どう? これ以上苦しみたくなかったらさっさとバーミヤンの制御権を渡すのよ」

ツヴァイノート「私たちだって本職は戦闘、こんな専門外の地味な仕事さっさと終わらせたいんだから」グイッ

ミナリンスキー「ぐっ……」フラッ

ガシャンッ!


ツヴァイノート「あっ、ごめんね〜、鎖を強く引っ張り過ぎちゃったかな」 

ツヴァイノート「この程度で転んじゃうだなんてメンタルだけじゃなくて体力も無くなってるんじゃない」

ミナリンスキー「……っ」ググッ


ミナリンスキー(正直青髪の言う通り、私のコンディションはボロボロに近い)

ミナリンスキー(バーミヤンの初陣から続く連日の戦闘であまり休めてないし、加えてあの日記は実際私に効く)


ツヴァイノート「『ねぇ穂乃果ちゃん、明日はどんな幸せな日になるかな』」

ツヴァイノート「『明日も、明後日も、穂乃果ちゃんがいるだけでことりは幸せだよ』」


ミナリンスキー(あの日記に書かれている言葉は、青髪の口を通して聞こえる言葉は、何も知らなかった過去の私だ)

ミナリンスキー(穂乃果ちゃんと世界を愛し、未来が絶対の物だと信じ込んでいた頃の私)

ミナリンスキー(ああ……なんて、甘ったるい……)


ググッ グググッ


ミナリンスキー(そんなんだから、“こんな私”になっちゃうんだ……!)

ミナリンスキー(世界を破滅に導く親友を止める覚悟さえ持てず、寄り添うことが愛だと思い込む)

ミナリンスキー(愛する人のために世界さえ超え、自分を省みず戦いに見を投じる、“向こうの私”とは大違い……)


ミナリンスキー「そうだよ、そんなんだから貴女は……」

ググッ 



ミナリンスキー「“南ことり”さえ捨てることになっちゃうんだよ!」

ダンッ!!


ツヴァイノート「お?」



ミナリンスキー「はぁ……はぁっ……ぐっ……」

ミナリンスキー(顔も髪も全然可愛くない、本当にかっこわるい立ち姿)

ミナリンスキー(でも、どんなに無様でも構わない、私はまだ倒れるわけにはいかないんだ)



ドライノート「へぇ、まだ立ち上がる気力が残っていたのね」

ドライノート「尋問用に一番心を抉る物を記憶から切り取ったはずなのに……逆に火をつけちゃった感じかしら」

ミナリンスキー(記憶から……?)


ツヴァイノート「ん? どういうこと?」

ドライノート「偶にいるのよ、嫌な記憶に屈せずそれをバネに立ち上がってしまう愚か者が」

ドライノート「過去に学ばず、己を曲げず、どうせ足掻いた所で同じ未来しか待ってないというのに……」



ミナリンスキー「へー、じゃあ私も相当な愚か者だったみたいだね」

ドライノート「構わないわ、そういう愚か者は全員――――」

スッ 

キィンッ

ドライノート「私がこの手で切り捨てて来たから」

ミナリンスキー「……っ!」

483 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:26:59 ID:mgXqXU96


ミナリンスキー(薄い縦長の長方形の刀身、刃の付いてないノコギリのような剣を桃髪のワルキューレが構える)


ツヴァイノート「こ、殺しちゃったらまずくない?」

ドライノート「バカね、死なせはしないわよ」

スッ

ドライノート「私の剣で、もう少し記憶の深いとこまで探ってみるだけ」


スタッ スタッ

ミナリンスキー(切っ先をこっちに向けながら、桃髪のワルキューレはゆっくりと距離を詰めてくる)


ドライノート「ま、当たりどころが悪かったら精神が歪んじゃうかもしれないけど、それは仕方ない犠牲と考えましょう」

ミナリンスキー「こ、このっ……!」

ガシャガシャ!!


ミナリンスキー(手枷から乱暴に引き抜こうと当然外れるはずもない)

ミナリンスキー(手枷が直接鎖に繋がれてるから逃げられないし、能力が封じられてるから抵抗もできない)

ミナリンスキー(何か……何か……ここを切り抜ける方法は……)


ドライノート「ないわ」

ザンッ!!

ミナリンスキー「っ!」



ミナリンスキー「…………あれ?」


ミナリンスキー(思わず瞑った目をゆっくりと開くと、桃髪のワルキューレの剣が私の額へと差し込まれていた)

ミナリンスキー(だけど私は普通に生きていて、意識はあって、痛みはこれっぽっちも感じない)

ミナリンスキー(え……えぇ……?)



ドライノート「言ったでしょ、死なせはしないって」

ミナリンスキー「ど、どういうこと!?」


ツヴァイノート「ふふっ、驚いた? ドライの剣の名は『栞のグラム』!」

ツヴァイノート「普通の剣とは違い殺傷能力は無いけど、記憶に差し込むことで記憶から過去の物質を取り出せるのよ!」

ドライノート「……はぁ、姉さん喋りすぎ」

ツヴァイノート「あ、ごめん……」


ドライノート「別にいいわ、栞のグラムの能力は分かっていたって防げるものじゃないし」グッ

グリグリ グリグリ

ミナリンスキー「記憶から過去の物質を……? ってかなんで剣を頭の中でグリグリやってるの!?」

ドライノート「うるさいわね、栞のグラムは記憶を探れるけど私自身に記憶を覗く力はないのよ」

ドライノート「だからこうしてグラムを動かして手探りで記憶を探ってグラムを通して伝わる感触で記憶の性質を判別するの」

ミナリンスキー「感触で……分かるんだ」

ドライノート「そうね、嬉しい記憶、楽しい記憶、悲しい記憶、柔らかかったり硬かったり、それぞれちゃんと感触が違うわ」

ドライノート「あとは刃を差し込む角度と深度、ミリ単位の調整……まぁここらへんは経験のなせる技ね」

ミナリンスキー「は、はあ……」

484 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:27:27 ID:mgXqXU96


ミナリンスキー(頭の中を直接剣でグリグリ探られてるのは不思議な感覚だ)

ミナリンスキー(私の日記もこうやって目隠しの間に抜き取られたんだろうか)

ミナリンスキー(だとすると……1つ疑問が残る)


ミナリンスキー(どうして直接バーミヤンの情報を引き出さず、日記なんて遠回りな手段を取ったんだろう)

ミナリンスキー(もしかしたら栞のグラムでは記憶の情報自体は取り出せない……?)

ミナリンスキー(あくまで取り出せるのは物質、記憶の世界に形としてあるものだけかもしれない)


コンッ!

ドライノート「ん」

ミナリンスキー「お?」


ミナリンスキー(私の頭の中で刃が何かに当たって快音を立てる)

 
ドライノート「この感触は……良さげなものに当たったわね」

ドライノート「あなたの記憶のより深い場所にある、あなたをより揺さぶるもの――――」

グッ

ドライノート「出てきなさいっ!」

ブンッ!!

ミナリンスキー「うっ!」


ミナリンスキー(桃髪のワルキューレは小さく笑うと剣を一気に引き抜いた)

ミナリンスキー(それに引っ張られるようにして出て来たのは>>485)

485名無しさん@転載は禁止:2021/07/20(火) 10:52:33 ID:zfWfcPIM
三枚のパンツ

486 ◆WsBxU38iK2:2021/07/21(水) 00:11:29 ID:pjI.I4GQ
ミナリンスキー(出て来たのは三枚のパンツだった)

ヒュッ! ヒュヒュンッ!

ミナリンスキー(刃の角に引っかかるようにして飛び出たパンツがひらひらと宙を舞う)


ドライノート「なにこれ……下着?」

ヒラッ ヒラッ ヒラッ


ドライノート「心を揺さぶるトラウマの対象、もしくはそれに類するものを取り出したはずだけど……予想外の物が出てきたわ」

ドライノート「ほんと、人の記憶というのは物質の記憶と比べて個人差が大きい」

ドライノート「釣り上げるまで中身が確定しないのが困りどころね」



ドライノート「……ま、当の本人に見せつけてみれば分かること」パシッ

ミナリンスキー(桃髪のワルキューレはそう言うと宙に舞うパンツのうちの1枚を掴み取る)

ミナリンスキー(そのまま私の顔にパンツを近づけようとしたところで……)


ツヴァイノート「ねぇドライ、ちょっといい?」

ドライノート「なんです姉さん」

ミナリンスキー(青髪のワルキューレが桃髪の肩掴んで引き止めた)


ツヴァイノート「外の子から報告が来た、どうやらこの制御室の近くにお客さんが来るみたい」

ドライノート「客?」

ツヴァイノート「うん、担当のエインヘリヤル1人と研究者の捕虜が1人」

ツヴァイ「「中層で暴走してる化け物を止めるため……って名目らしいけど、ちょっと怪しいから同行して欲しいんだって」

ツヴァイ「おそらくその研究者が隙をついて何かしでかすことを危惧してるんじゃないかな」

ドライノート「なるほど……承ったわ」



カツンッ

ドライノート「では、客人が来る前に尋問をさっさと終わらせてしまいましょうか」

ミナリンスキー「……っ!」
 
ドライノート「ほら……この下着、どこか見覚えがあるんじゃないかしら」

ドライノート「思い出しなさい、この3枚の下着のこと、あなたの奥底に眠る記憶のこと」

ドライノート「さぁ、さぁっ!」

グイッ! ググイッ!


ミナリンスキー「う……あ……」

ミナリンスキー(ワルキューレは私の眼前でパンツを広げ、顔と触れ合う寸前まで押し付けてくる)

ミナリンスキー(視界いっぱいに広がるパンツ、それを見ていると脳がチリチリ焼けてくるような感覚が湧き上がってくる)


ドクンッ!

ミナリンスキー(はっ、そうだ……私はこの3枚のパンツに見覚えがある……)

ミナリンスキー(このパンツは……>>487)

487名無しさん@転載は禁止:2021/07/27(火) 08:49:09 ID:3o79lTpQ
穂乃果ちゃんちに泊まりに行った後何故か消えたと穂乃果ちゃんが言ってた洗濯前、洗濯後、タンスの中のパンツ

488 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:29:01 ID:i2FRFvek
ミナリンスキー(穂乃果ちゃんちに泊まりに行った後何故か消えたと穂乃果ちゃんが言ってた洗濯前、洗濯後、タンスの中のパンツ……!)

ドクンッ


ミナリンスキー(ああ……そうだ、間違いない、鮮明に記憶が蘇ってくる)

ミナリンスキー(パンツを失くして戸惑う穂乃果ちゃんの表情と、素知らぬ顔をした私のポケットの中の温もり)

ミナリンスキー(欲望に身を任せた衝動的な行動に募る後悔、チクチクと刺してくる胸の痛み)

ミナリンスキー(結局言い出せず家に持って帰ってしまい、ベッドの下と記憶の底に封じ込めた罪の証)


ミナリンスキー「うぐっ……!」


ドライノート「良いわね、そうやって苦しむといいわ」

ドライノート「苦しみから開放されたいのなら制御方法を吐くのよ!」


ミナリンスキー(眼前に広げられたパンツに思わず目を瞑る)

ミナリンスキー(こんなこと思い出さなきゃよかった、あんなことやらなきゃよかった)

ミナリンスキー(私はいつも欲望に負けて、楽な方に流れて、逃げてばっかりで)

ミナリンスキー(私は、私は――――)



クンッ

ミナリンスキー「……?」


ミナリンスキー(……匂い、匂いだ)

ミナリンスキー(目を瞑ったことで鋭敏になった鼻が、パンツから香る匂いを感じ取った)

ミナリンスキー(パンツに染み込んだ穂乃果ちゃんの濃厚な匂い)

ミナリンスキー(大好きで、愛していて、何度も何度も嗅いでいたあの匂いだ!)

ビクンッ!

ミナリンスキー「あああああっ!」


ドライノート「……なっ、何事!?」

489 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:29:40 ID:i2FRFvek
ミナリンスキー(その瞬間、私の体に電流が走り抜けたような衝撃が走った)



ドライノート「ほ、ほら、跪きなさい! これがあなたの後悔の象徴なのでしょう!」

ミナリンスキー「……そうだね、そうかもしれない」



ミナリンスキー「だけど、それだけじゃないんだ」

ドライノート「……?」


ミナリンスキー「確かに私は友達のパンツを盗んで後悔した、心が痛かった、でもね、同時に満たされた気持ちもあったんだ」

ミナリンスキー「ズタボロの心の中に残った、ほんの一欠片の温かい気持ち」

ミナリンスキー「パンツを顔に当てて息を吸うと胸の中が穂乃果ちゃんでいっぱいになったの」

ミナリンスキー「南ことりを捨ててミナリンスキーになった今もそう」

ミナリンスキー「道を間違えて後悔だらけの毎日、だけど間違えたからこそ出会えた仲間もいる、抗える今がある」

ググググッ


ミナリンスキー「私に残ったのは後悔だけじゃないんだって、そのパンツが教えてくれる!」



ドライノート「……わ、わからない、分からないわ姉さん、こいつはなにを言ってるの!?」

ドライノート「友達の下着を盗んだ話からどうしてこんな過去を吹っ切るみたいな話に――――」


ミナリンスキー(分からなくたっていい、軽蔑されたって構わない)

ミナリンスキー(これが私の向き合う罪と、超えていくための試練なんだ)



ミナリンスキー「だからっ!!」

ガブッ!

ドライノート「っ!?」

ミナリンスキー(私はワルキューレが押し付けてきたパンツを口で咥えて奪い取る)


ミナリンスキー「はむっ、はむはむっ!」

ドライノート「なっ、なっ!?」



ミナリンスキー(パンツを噛みしめ、心の中で穂乃果ちゃんを思い描くと、全身に力がみなぎってくる)

ミナリンスキー(心の奥が熱く燃え、まだ自分の知らないエネルギーが湧き上がってくるのを感じる)

ビキッ ビキッビキッビキッ

ミナリンスキー「んおおおおおおおおおおおおっ!」

490 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:30:00 ID:i2FRFvek
ドライノート「こいつまさか、下着で興奮した力で手枷を壊す気じゃ……!」

ツヴァイノート「だ、大丈夫よ! あの手枷は人間の腕力じゃ壊すことなんてできないから!」

ドライノート「でも、実際に今ヒビが入って――――」



ミナリンスキー「ほっ、ほっ、ほむむぅうううううううううううううんっ!!」

バキィィィィィィィィィンッ!!!!


ドライノート「割れたぁ!」

ツヴァイノート「嘘ぉ!?」



ミナリンスキー「はぁ……はぁ……」

パシッ

ミナリンスキー(咥えていたパンツを自由になった右手でキャッチする)


ミナリンスキー(自分でも不思議だ、私に金属製の手枷を壊すほどの筋力はなかったはず)

ミナリンスキー(もしかして、この穂乃果ちゃんのパンツの力……?)


ミナリンスキー(分からない、だけどそう考えるなら残りの2枚のパンツにも同じような力があるかもしれない)


ミナリンスキー「……」ジッ

ミナリンスキー(残りの2枚が落ちてるのは桃髪のワルキューレの後方、右と左にそれぞれ1メートルくらい離れた位置)

ミナリンスキー(拾って試してみる価値は……ある!)



ミナリンスキー「はぁあああああっ! たあっ!!」

ガシッ ブンッ!!!!

ドライノート「っ!?」


ミナリンスキー(目の前の桃髪のワルキューレの襟首を掴み力任せに投げ飛ばす)

ミナリンスキー(そうすると意表を突かれたワルキューレは勢いよく反対の壁に向かって吹き飛んだ)

ゴッ!!!!


ミナリンスキー「よしっ!」

ミナリンスキー(やっぱりそうだ、私は穂乃果ちゃんの匂いのついた1枚目、言うなれば『濃厚のファーストパンツ』で人を超えた筋力を発揮している)



ツヴァイノート「ドライ!」

ドライノート「姉さん! 私は良いから下着を、やつに他のパンツを拾わせないでっ!」

ツヴァイノート「……っ、分かった!」

シュンッ!!



ミナリンスキー(来る……!)

ミナリンスキー(青髪のワルキューレが腰の双剣を抜いてこちらに迫ってくる!)

ツヴァイノート「拾わせない!」

ミナリンスキー「拾う!」


ミナリンスキー(床のパンツへ手を伸ばした私へ振り下ろされようとする双剣)

ブォンッ!!

ミナリンスキー(……実は、私はこの双剣の能力を知っている)

ミナリンスキー(バーミヤン制圧時の戦い、その時に青髪のワルキューレが剣を使っていたのを見ていたからだ)


ミナリンスキー(この双剣の能力、それは>>491)

491名無しさん@転載は禁止:2021/08/02(月) 12:55:43 ID:yOOjkAO2
片手は斬ったものを重くしてもう片方は軽くする

492 ◆WsBxU38iK2:2021/08/04(水) 00:35:51 ID:ImYQqcaA
ミナリンスキー(片手は斬ったものを重くしてもう片方は軽くする能力)

チッ!!

ミナリンスキー「……っ!」


ミナリンスキー(2枚目のパンツへ手は届いたものの、僅かに引き戻すのが遅かったせいで剣先が腕をかする)

ミナリンスキー(切り口は薄皮1枚程度、僅かに血がにじむくらいで大した怪我ではないけど……)

ガクンッ!!

ミナリンスキー「ぐっ……!」

ミナリンスキー(急に体が重くなり思わず片膝をついてしまう)



ツヴァイノート「かかったみたいね!」

ツヴァイノート「この『秤のグラム』の効果は切り口の広さと深さに比例して増大する」

ツヴァイノート「逆に言えばほんの少し切れただけでも貴女は重くなるってわけ!」

ダッ!


ミナリンスキー(そう言って青髪のワルキューレはさらに距離を詰めてくる)


ミナリンスキー(重くなれば秤のグラムの攻撃は避けにくくなり、当たればさらに重くなる)

ミナリンスキー(防ごうにも盾や防具を重くされてしまえば同じこと)

ミナリンスキー(最初の1かすりが延々と相手を苦しめる厄介な攻撃だ)



ツヴァイノート「無駄な抵抗しないでよ! 加減を間違えると自重で潰しちゃうから!」

ブンッ!!


ミナリンスキー(……だけど、私にもリスクと引き換えに手に入れたものがある)

ギュッ

ミナリンスキー(2枚目の穂乃果ちゃんのパンツ、洗濯後のパンツだ)

バッ!

スゥーーーーーーッ!


ツヴァイノート「っ!? あいつまたパンツを――――」


ミナリンスキー(鼻孔に充満するのは洗濯された清涼感のある穂乃果ちゃんの香り)

ミナリンスキー(濃縮されたパワーとはまた違う、透き通った青空のようなエネルギーが私を満たす)


ミナリンスキー「清涼の――セカンドパンツ!」

バシュンッ!!

ツヴァイノート「消えた!?」

493 ◆WsBxU38iK2:2021/08/04(水) 00:36:27 ID:ImYQqcaA
ミナリンスキー(私の体はその場から消え去り、青髪のワルキューレの剣が空を切る)



ドライノート「姉さん! 後ろよ!」


ツヴァイノート「なっ……!」

バッ!

  
ミナリンスキー「……っと、流石にその位置からだと見えちゃうか」



ミナリンスキー(壁際の青髪、その背後に回り込んだ私、更に反対側の壁へと投げ飛ばされた桃髪)

ミナリンスキー(壁際に拘束され追い詰められていた時とは立ち位置が大きく変化する)


ツヴァイノート「嘘でしょ、あの体重でこんな機敏な動きができるわけがない!」

ミナリンスキー「ふっふっふ、できるんだなーこれが」



ミナリンスキー(どうやら1枚目のパンツがパワータイプとするなら2枚目のパンツはスピードタイプみたいだ)

ミナリンスキー(秤のグラムで1段階目の負荷を打ち消すほど超スピードで動くことができる)


ドライノート「姉さんっ!」

ツヴァイノート「……っ、分かってる! 未知の力には慎重に対処すべし!」

ツヴァイノート「私と貴女で両端から追い詰めていくわよ!」

ドライノート「ええ!」


ミナリンスキー(投げ飛ばされ体勢を崩していた桃髪が立ち上がり剣を構える)

ミナリンスキー(背後の桃髪とは大体制御室1つ分の距離があるものの、挟まれて警戒されてることに変わりはない)

ミナリンスキー(私が指一本でも動かせば、2人も同時に動き出すだろう)



ミナリンスキー「ふぅ……」

ジリッ

ミナリンスキー(……どうしよう、このままセカンドパンツのスピードを活かして青髪の近くに落ちてる3枚目を拾いに行くか) 

ミナリンスキー(それとも前後どちらかのワルキューレをかいくぐって外へ逃げることを優先すべきか)
 
ミナリンスキー(ちなみに制御室から廊下への出入り口は青髪側に近く、動力炉本体への出入り口は桃髪側に近い)


ツヴァイノート「…………」ジリッ


ドライノート「…………」ジリッ



ミナリンスキー(うん……だったら、ここは>>494)

494名無しさん@転載は禁止:2021/08/04(水) 09:09:38 ID:GhhNwuSM
パンツを拾い勢いで廊下に出る

495 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:24:58 ID:2jrVxBJk
ミナリンスキー(パンツを拾った勢いで廊下に出る!)

バッ!!



ツヴァイノート「やはり狙いは3枚目……そうはさせないっ!」シュッ!

ミナリンスキー(私がパンツへ駆け出すと、青髪はもう1つの剣で自分の腕を斬りつける)

ブンッ!

ツヴァイノート「止めるっ!」

ミナリンスキー(秤のグラムのもう1つの能力、軽くする能力で自分の重さを軽くして私に対抗するつもりだ)



ギュンッ!!

ミナリンスキー(重くするのが右の剣、軽くするのが左の剣)

ミナリンスキー(当たりたくないのは右……だからこっちも右に踏み込む)

タンッ!

ミナリンスキー(右にステップした私を狙うために青髪の右手の剣の軌道は横なぎに)

ツヴァイノート「はっ!」ブンツ!

ミナリンスキー(それに合わせて姿勢を低くして今度は左に切り替えし――――)

ギュィンッ

ミナリンスキー(振られた剣の下を潜るようにスライディングで滑り込む!!)

ザッ!!


ミナリンスキー「ついでにパンツも頂くよ!」

ツヴァイノート「なっ!?」



ミナリンスキー「そして逃げる!」ビュンッ!

ツヴァイノート「ま、待ちなさい!」



ミナリンスキー(一目散に廊下へと続く扉へ駆け込み、扉を蹴り飛ばす勢いで廊下へと出る)

バンッ!!


ミナリンスキー「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

タタタタタタタタタタッ!!

ミナリンスキー(とにかく遠くへ、制御室から遠くへ!)






496 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:26:07 ID:2jrVxBJk



──廊下


タンッ

ミナリンスキー「よし……ひとまずここまで来れば……」 


ミナリンスキー(想定通り上手く逃げることができた、だけど一息つくにはまだ早い)

ミナリンスキー(パンツを拾って脱出できたのはワルキューレが油断していたからに過ぎない)

ミナリンスキー(単に清涼のセカンドパンツの速さが1段階軽量化を上回っただけだ)

ミナリンスキー(さらに軽量化を重ねて追ってこられたら逃げ切れる保証はない)


ミナリンスキー「うん、まずは何とかして上へ帰る道を見つけないと――――」

凶魔「ミナリンスキー!」

ミナリンスキー「……え?」


ミナリンスキー(声をした方を見ると白衣の上からカッパを羽織った奇妙な姿の鳳凰院凶魔がいた)

ミナリンスキー(その隣には同じカッパを来た女の子も立っている)


ミナリンスキー「凶魔、どうしてここに? 自力で脱出を?」

凶魔「ああ、こっちの侑という少女に助けられた」

ミナリンスキー「侑……この子が」

凶魔「そうだ、ミナリンスキーも無事なようで何よりだ」


侑「あなたが……ミナリンスキーさん……はぁ……くっ……」

ミナリンスキー(侑と呼ばれた女の子は浅い呼吸を繰り返しながら私の名前を呟く)

ミナリンスキー(体調が悪いのだろうか、顔も青ざめてるように見える)



ミナリンスキー「この子のことも気になるし、あなたがここに来た理由も気になるけど、それより今は逃げないと!」

凶魔「逃げる?」

ミナリンスキー「追ってくるんだって! ワルキューレが!」

凶魔「な、なんだと!?」

497 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:26:27 ID:2jrVxBJk


侑「ワルキューレなら……大丈夫、私はなんとかできるから……」

ミナリンスキー「なんとかって……」

侑「これ、ミナリンスキーさんの分のカッパです、少しの間なら姿を消せるらしいので使ってください」スッ

ミナリンスキー「……う、うん」


ミナリンスキー(渡されたカッパを手に取る)

ミナリンスキー(なんだろう、ただの弱ってる女の子のはずなのに……目の奥に強い意志が宿ってるのを感じる)


侑「ミナリンスキーさんはどうにかブリッジを取り戻してバーミヤンの制御を取り返してください」

侑「そのための時間稼ぎは……私がしますから」グッ


ミナリンスキー(侑には有無を言わせない気迫があった)

ミナリンスキー(その気迫に押されていると通路の奥からワルキューレの声が響いてくる)


侑「早く!」

ミナリンスキー「う、うん」


ミナリンスキー(侑の言う通り、この場を任せて離れるのが今は最善なんだろう)

ミナリンスキー(ただ、見ず知らずの子に追手を任せて逃げるというのも心苦しくはある)


ミナリンスキー「……あ、そうだ、せめてこのパンツを持ってて!」

侑「え……パンツ!?」

ミナリンスキー(驚く侑の手に、私は3枚目のパンツを握りこませる)


ミナリンスキー(本当は私が持っていたい、ずっと嗅いでいたいのが本音だけど、この場を任せるのなら渡すべき)

ミナリンスキー(私の心の友、穂乃果ちゃんのパンツならこの子のことも守ってくれるはず)


侑「いや……でもこれ、ミナリンスキーさんの私物――――」

ミナリンスキー「大丈夫、穂乃果ちゃんのパンツなら私は2枚持ってるから、1枚はあなたが持ってて」ギュッ

ミナリンスキー「私の予想だけど、たぶん3枚目のパンツ、タンスの中にしまわれていたパンツの効果は>>498

498名無しさん@転載は禁止:2021/08/06(金) 20:57:56 ID:hZi.ldsg
防御系

499 ◆WsBxU38iK2:2021/08/09(月) 00:10:31 ID:2yiisNbM
ミナリンスキー「効果は防御系、名付けるなら堅牢のサードパンツだね」

侑「……?」

ミナリンスキー「そんな難しい顔しなくたって大丈夫、使い方はパンツを鼻に当てて息を吸い込むだけだから」

ミナリンスキー「私以外にどこまで効果があるか分からないけど、いざって時には頼ってみて」グッ

侑「……あ、はい」



ミナリンスキー「じゃ! ここは頼んだよ!」タタタタタッ

侑「き、気をつけて!」



ミナリンスキー(とにかく急ごう、侑ちゃんと凶魔が稼いでくれるこの時間を無駄にはできない)

ミナリンスキー(このスピードでバーミヤン中を回って片っ端から戦力を開放)

タンッ!

ミナリンスキー(一気にブリッジを取り戻す!!)





500 ◆WsBxU38iK2:2021/08/09(月) 00:10:55 ID:2yiisNbM




ヒュンッ! ヒュンッ!



侑「……な、なんだったんだろ」


侑(ミナリンスキーさんは有無を言わさず私の手にパンツを押し込めるとそのまま走り去っていってしまった)

侑(一応こっちの目論見通りではあるけど……謎の副産物をもらってしまった)


侑(とりあえずこれはポケットに入れておいてっと……)スッ


??「ちょっとー! どこまで逃げたのー!?」


侑(通路の奥から響いてくるワルキューレの声)

侑(ミナリンスキーさんにあれだけ大見得を切った以上、何がなんでもこの場は時間を稼がないと)

侑(外側緊急通路でのような失敗は二度と繰り返さない……!)




侑「うぐっ! ぐあああああああああああっ!! いたたたたたたっ!」

凶魔「なっ! どうした!?」

侑「しっ……演技だよ演技」

凶魔「ああ、なるほど」



??「悲鳴? どうしたの!? 大丈夫!?」

タタタタタッ

侑(私の悲鳴を聞きつつけて通路の奥から姿を見せたのは青髪のワルキューレ)

侑(その後ろから少し遅れて桃色の髪のワルキューレが走ってくる)

侑(おそらくこの2人がバーミヤンに割り振られた部隊長だろう)



侑「私は中層担当のエインヘリヤル、ここに来ることは予め連絡はしていた……と思います」

侑(床に倒れたまま、弱々しさを強調するように話す)

侑(もちろん紐で首にかけられるようにした身分証を視界に収めさせることも忘れない)

侑(あくまで味方の弱者、被害者をアピールすることで初手の攻撃性を減衰させる)


侑「あ、あなたは……」

ツヴァイノート「私はツヴァイノート、それより大丈夫なの? すごい声がしてたけど」

侑「……う、うん、さっきこの通路をものすごい速さで何かが走っていって、それに衝突してしまって」

ツヴァイノート「……!」ハッ


ツヴァイノート「ミナリンスキー、ドライ! ミナリンスキーだわ!」

ドライノート「そうね姉さま、ここは私に任せて姉さまはミナリンスキーを追ってちょうだい」

ツヴァイノート「ええ」コクンッ


侑(……これで1人は足止めできる、一通り介抱されてから凶魔を連れてきた理由を適当にでっち上げれば時間も稼げるだろう)

侑(ただ、出来ることならもう1人の青髪の方まで足止めしておきたい)


侑(そのためには>>501)

501名無しさん@転載は禁止:2021/08/15(日) 22:15:14 ID:0e7ZAmi6
警報を鳴らす

502 ◆WsBxU38iK2:2021/08/17(火) 00:35:51 ID:kO1FURvs
侑(そのためには……)

カチッ


ビーッ! ビーッ! ビーッ!

ツヴァイノート「今度はなに!?」


侑(私がこっそりポケットに手を滑り込ませてスイッチを押すと、警報がけたたましく鳴り響いた)

侑(床と接してる側のポケットは私の体で死角になってるから、ワルキューレから気付かれることもない)


侑「これは……下層の警報音、さっき逃げた女が下層のどこかで暴れてるのかも……」

凶魔「あ、ああ、設計に携わった者として言うが間違いない」

凶魔「この警報音の種類はどこかの重要な機関に損傷が出ている時に発せられるものだ」


ツヴァイノート「……っ、ミナリンスキーのやつ、まさか下層から破壊してバーミヤンを物理的に使えなくするつもり?」

ドライノート「奪われるくらいなら自分で、という考えね、無くはないと思うけど……どうする姉さん」

ツヴァイノート「どうもこうも確かめてくるしかないでしょ、ドライはここ、二手に分かれるわよ!」

ドライノート「はい、お気をつけて」


ダッ!! タタタタタッ


侑「…………」


侑(……ま、もちろん警報音なんてのは嘘なんだけど) 


ググッ

ドライノート「あなた、体は平気? 無理して今すぐ立つ必要はないわよ」

侑「いえ、大丈夫です……」グッ

侑(青髪のワルキューレ、ツヴァイが走り去ったのを確認し、私はゆっくりと立ち上がる)


侑(あの警報はここに来るまでに凶魔に手伝ってもらって仕込んでおいたトラップの1つ)

侑(隊長格のワルキューレの元に向かうのに無策で真っ直ぐ歩いていくなんて流石にあり得ないからね)

スタッ

侑「ふぅ……」

侑(警報自体は下層のシステムとは全く関係ないダミー、私の持ってるスイッチに合わせていくらでも鳴る仕組みになっている)

侑(さっきの凶魔の設計に携わった〜のくだりも真っ赤な嘘、咄嗟に話を合わせてくれて助かった)




侑「さて、私たちは私たちで――」

クラッ

侑「うっ……ととと」タタッ


ドライノート「本当に大丈夫?」

侑「あはは、ご心配なく」


侑(軽い立ちくらみで足元がふらつく)

侑(倒れ込んだのが演技とは言え、血を失っているのは本当のこと)

侑(顔色の悪さで演技に迫真さを出してくれるのは助かるけど……本格的に参ってしまったら元も子もない)


侑「とにかく急ぎましょう、こっちはこっちの仕事を済ませないと」

ドライノート「そうね」


ドライノート「それで……具体的にはどうするの?」

侑「はい、私たちの仕事は中層で暴走してる機械を止めることなんですけど――」

侑(大丈夫、理由の候補は幾らか考えてきたし、凶魔とも口裏を合わせてある)


侑「そのためには>>503

503名無しさん@転載は禁止:2021/08/20(金) 08:22:52 ID:arE05h4Y
中層の動力を遮断する

504 ◆WsBxU38iK2:2021/08/21(土) 00:06:37 ID:wBYT0Tlk
侑「そのためには中層の電力を遮断する必要があるんです」

ドライノート「電力を……遮断?」


侑(ドライは訝しげな顔をする)

侑(それはそうだろう、中層の電力を遮断するということは中層のシステムをシャットダウンすることと同義)

侑(それはつまり捕虜がいる各部屋のドアロックの解除にまで繋がりかねない)



侑「ドライノートさん、不安に思うのは分かります、しかしこれしか手段はないんです」

侑「中層は今、あの機械のせいで大混乱、これではエインヘリヤルの警備もままなりません」

侑「仮にミナリンスキーが下層の破壊を終えて中層に上がったとしたら、捕まえるのは更に困難になるんです!」


侑(……まぁ、実際ミナリンスキーさんは真っ先に中層へ向かってるはず)

侑(だからこそ、ここで中層のシステムを落とせればミナリンスキーさんが皆を解放しやすくなる)


ドライノート「…………」

侑「確かに他の捕虜を逃してしまう危険性はあります、しかし今は他の取るに足らない捕虜よりミナリンスキー」

侑「中層で暴れてる機械を止めさえすれば我々エインヘリヤルは必ずミナリンスキーを捕まえるでしょう」


ドライノート「しかし……」

侑「電力を落とすのはほんの一瞬、ほんの一瞬でいいんです」

侑「どうにか……どうにか許可をもらえませんか!?」

バッ!

侑(ドライの前で深く頭を下げる)

侑(ドライの顔は見えないけれど迷っている空気は伝わってくる)

505 ◆WsBxU38iK2:2021/08/21(土) 00:07:14 ID:wBYT0Tlk
侑(そして、数十秒ほど時間が流れた後……)


ドライノート「……はぁ、分かった、そこまで言うならやってみなさい」

侑「あ、ありがとうございます!」


侑(よし、これで時間が稼げる……!)



侑「では手順を電力制御室へ向かいながら話しましょう」

侑「手順についてはこちらの凶……捕虜になっていた技術者が詳しいはずです」

トンッ

侑「……ほら、喋って」ボソッ


凶魔「……あ、ああ、そうだな、電力の遮断自体は簡単だ、この鳳凰院凶魔の手にかかれば些末なことだ」

凶魔「機器に触るのが許されるならあっという間に実現してみせよう」

ドライノート「そう、ならさっさと歩いて」ゲシッ

凶魔「あいたっ! ちょっ、捕虜の扱いが雑では……あいたっ、分かった、歩く歩くから」

タタッ



スタスタ

スタスタ


侑(そうして私と凶魔、ドライノートは通路を歩き出した)

侑(先頭に凶魔、ついで私、少し離れて後方にドライ)

侑(一番後ろを歩く様は私たち2人を監視しているようにも感じられる)



侑(でも、話を信じさせて連れ回す事ができる状況に持ち込めただけで上々)

侑(あとはなるべく時間を稼いで――――)


スタスタ

スタスタ




・ 
・  



──電力制御室

タンッ

侑(――と、あれこれ努力した結果、電力制御室にたどり着いた時には>>506分の時間が過ぎていた)

506名無しさん@転載は禁止:2021/08/22(日) 08:20:26 ID:l5c/QGa6
15分

507 ◆WsBxU38iK2:2021/08/24(火) 01:33:17 ID:7XOJortI
侑(なんとか遠回りと中身のない会話で時間を稼いで15分、実際よく稼いだ方だとは思う)

侑(電力制御室の時計をチラ見すると時間はPM5:45を指していた)


侑(ミナリンスキーさん……上手くやってくれてると良いけど)



ドライノート「全く、やっと着いたみたいね」

ドライノート「私はここで見てるから早く作業を済ませてしまいなさい」


侑「はーい」


侑(ドライは電力制御室の入り口の横に立ったままこちらを見つめている)

侑(その視線に追い立てられなが私と凶魔は奥の操作盤が並ぶ一角へと足を運ぶ)


侑「ほら行くよ凶魔、ここからはそっちが頑張る番なんだから」

凶魔「分かっている、分かってはいるが……うむ」

侑(操作盤の前で立ち止まった凶魔は難しい顔をして腕組みをする)


侑(まぁ……それもそのはず、凶魔はラボの研究者ではあるけどバーミヤンについて詳しい技術者ではない)

侑(格好が白衣でそれっぽいからだけで電力制御室の操作なんて分かるはずがない)


侑「はぁ……」

侑(私は小さくため息を吐き、ワルキューレに聞こえないように小声でアドバイスをする)


侑「電力を切るだけなら片っ端からポチポチすれば何とかなるって、少なくとも私よりは機械に詳しいんだし」

凶魔「うむ……」

侑「とにかく手を動かして、何より立ち止まってるのが一番怪しまれるから」

凶魔「あ、ああ」コクンッ


スッ

パチッ ポチッ

ガチャンッ ゴチャンッ


侑(私の言葉で一歩前へと出た凶魔は操作盤についているボタンやレバーを適当に触っていく)

侑(ここまで来たら後は数撃ちゃ当たる時間との勝負)

侑(後はドライが不審がる前に凶魔が電力遮断の手順を当てずっぽうで探り当てることができれば……)


ガクンッ!!!!

侑「え!?」

凶魔「おお!?」


侑(そう考えていた矢先、予想外の出来事が起こった)

侑(凶魔の適当な操作が原因だったのか、突然>>508)

508名無しさん@転載は禁止:2021/08/28(土) 08:57:24 ID:Ci3UMiMg
内部にいる登録者を会議室に転移させる緊急会議システムが作動

509 ◆WsBxU38iK2:2021/08/30(月) 00:17:58 ID:RXpnzRqs
侑(突然大きな揺れと共に施設内にアナウンスが鳴り響いた)

ウーッ! ウーッ! ウーッ!


『緊急会議システム作動、緊急会議システム作動、転送までその場でお待ちください』



侑「ちょっ、何これ、凶魔がやったの!?」

凶魔「適当にやってたんだ分かるわけないだろ! だが……何が起きたのかは分かる」

侑「アナウンスで流れてる緊急会議システムってやつ?」

凶魔「ああ、事前に登録した人間を会議室へと強制転送させるシステムだ」

凶魔「間もなくこの体はシステムによってこの場から転移、消失するだろう」


侑「待って、事前に登録した人間ってことは……私は!?」

凶魔「設計者でないから確かなことは言えないが、おそらく適用外、ここに残されるんじゃないか」

侑「えぇ!?」



ドライノート「そこの2人、何をコソコソ喋っているの!」

ドライノート「それにこの放送もなんなの? 早く説明しなさい!」ビシッ


侑(あぁもう……後ろのワルキューレもワーワー騒いでるし、こんな状況で残されて1人で対処できるのかな)


ドライノート「ちょっと、聞いてるの!?」


侑「…………」

侑(事前の登録、おそらくはバーミヤンの乗組員が招集されるよう設定されてるんだろう)

侑(このシステムによってミナリンスキーを含め捕まっていた乗組員たちが一箇所に集合することになる)

侑(そうなればまたとない反撃のチャンスが生まれるはず)


ゴソッ

侑(カリオペーの身分証……か)

侑(私の首から下げられたこの身分証は対人相手なら強力な認識改ざん効果を発揮する)

侑(以前からバーミヤンに乗船していた人員と思い込ませることだって簡単だろう)

侑(ただ、機械相手にはどうなるのか)



『転送まで、5、4、3……』



侑「ええいっ、もうやってみるしかない!」

スッ

侑(使徒カリオペーの造りしアイテム、機械だって騙せる……はず!)


バッ!!

侑(私は身分証の紐を首から外し、身分証を操作パネルに向かって掲げる)


侑「緊急会議システム! 耳があるかどうかは分からないけど、聞けるなら聞いて! 私もバーミヤンの登録者なの!!」


『……1、転送開始』


キィーーンッ!

凶魔「……おお」


侑(凶魔の体がオーラのように青く薄い光を纏って輝き出す)

侑(そして私は>>510)

510名無しさん@転載は禁止:2021/08/30(月) 12:45:42 ID:0WgmvfXg
気が付いたら異空間にいた

511 ◆WsBxU38iK2:2021/08/31(火) 00:10:49 ID:utCXvhgA
侑(気づいたら異空間にいた)


侑「……え?」







──特別会議室

PM5:50



シュンッ! シュンッ! シュンッ!


タッ

ミナリンスキー「……っと」


ミナリンスキー(転送のアナウンスの後、一瞬の暗転、そして気がついたら会議室の床に着地)

ミナリンスキー(どうやら緊急会議システムは問題なく作動したみたい)


オペ子「わわっ」

蛸穂乃果「ふむ、これは僥倖」

分霊ゴースト「誰が発動させたか分かんないけど、やっと自由になれて清々したわ」


ミナリンスキー(オペ子、蛸穂乃果、ゴースト、その他の乗組員たちも次々に転送されてきている)


凶魔「うおっ」

ドンッ

凶魔「あいたた……着地失敗してしまったな」


ミナリンスキー「……! 凶魔!」

タタッ

凶魔「おおミナリンスキー、無事だったか」

ミナリンスキー「それはこっちのセリフ、一緒にいた女の子は?」

凶魔「侑……そうだ侑!」

バッ バッ

ミナリンスキー(尻もちを着いていた凶魔は立ち上がり辺りを見回す)

ミナリンスキー(だけど会議室の中に侑の姿はどこにもない)


凶魔「いない……か」

ミナリンスキー「まぁ登録はされてないから仕方ないよ、1人残されちゃったのは心配だけど」

凶魔「ああ、転送の直前に認識を改ざんさせるアイテムを使用していたから、もしかすれば……と思ったのだが、やはりダメだったみたいだな」

ミナリンスキー「……ん? 待って、認識改ざんのアイテム?」

凶魔「そうなんだ、実は――――」



ミナリンスキー(私は凶魔から侑ちゃんのことと、侑ちゃんの所持していたアイテムについての話を聞いた)

ミナリンスキー(相手の認識に割り込み自分の身分や所属を誤認させることのできるカード)

ミナリンスキー(侑ちゃんはその能力を使ってワルキューレやエインヘリヤルの目をかいくぐっていたということ)


ミナリンスキー「ふむ……」


ミナリンスキー「もしその効果が緊急会議システムにまで働いたとなると、ちょーっと厄介なことになってるかもね」

凶魔「どういうことだ?」

ミナリンスキー「このシステム、変な介入を受けると転送先が変わっちゃうことがあるんだよね」

凶魔「なっ、つまり違う場所に飛ばされてる可能性もあるのか?」


ミナリンスキー「うん、大抵こういう場合、飛ばされる先は異空間の>>512

512名無しさん@転載は禁止:2021/08/31(火) 08:10:08 ID:i.t6JiZA
遠くはないどこか

513 ◆WsBxU38iK2:2021/09/01(水) 00:27:54 ID:A5vI3Lo2
ミナリンスキー「飛ばされる先は異空間、それも遠くないどこか」

凶魔「遠くないどこかの異空間……か、また曖昧な言い方だな」


ミナリンスキー「大丈夫、具体的な場所が分からなくても近場の異空間ならバーミヤンのシステムを使って探知できる」

ミナリンスキー「そのためにも指揮系統を私たちの手に取り戻さないと」

凶魔「ああ、そうだな」

 
ミナリンスキー「じゃ、オペ子! 早速お仕事頼むよ!」

オペ子「はい、ミナリンスキー様!」

タタタタッ

ミナリンスキー(振り向いて声をかけるとオペ子は会議室中央の机へと走っていく)


オペ子「ええと……ここをこうして、よし……」

タンッ タタタタンッ


オカン「なんや、机ぺたぺたしてなんかあるん?」

前世穂乃果「よいしょっと」スタッ

前世穂乃果「広くて丸いテーブルだね、上も歩きやす……わわっ!」

ゴゴゴゴゴゴゴッ!

ミナリンスキー(机をいじるオペ子の後ろで興味深そうに様子を眺めるオカン)

ミナリンスキー(その肩から前世穂乃果が机と降り立つと同時に、机の形が会議室のそれとは別物に変形していく)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ガシャンッ ガシャンッ ガシャンッ

ガシィィィィィィィンッ!


前世穂乃果「おおっ!」

オカン「これは……」


オペ子「緊急用の第二ブリッジです、もしもの場合はこちらからバーミヤンを操作することができるよう設計されています」

前世穂乃果「すごい、一気にカッコいい形になった!」

オカン「なるほどねぇ、これで上層のブリッジを占拠してるやつらに対抗できるんやね」


オペ子「まずはシステムの制御権をこちらに取り返します、蛸穂乃果さんお手伝いお願いできますか?」

蛸穂乃果「任せて、あよよいっと」シュルルルッ

ミナリンスキー(オペ子と蛸穂乃果がコンソールを操作し、協力してバーミヤンの機能を1つずつ取り戻していく)

カタカタッ カタタッ 

ピピピピピッ



ミナリンスキー(よし……このペースならいけるはず)


前世穂乃果「……ん? ミナリンスキー、このモニターに映ってるのはなんだろ」

ミナリンスキー「え?」

ミナリンスキー(2人が作業を進めてる中、ブリッジのモニターの1つを前世穂乃果が指差す)

ミナリンスキー(それはバーミヤンの外、外部を監視するカメラの映像が流れているモニター)


前世穂乃果「地上に人っぽい集団が見えるけど、エインヘリヤルやワルキューレじゃないよね」

前世穂乃果「普通の人間がこんなとこに近づけるわけないし……もしかして使徒?」

オカン「使徒だとしたって、どうしてあんなことやってるんやろなぁ」

前世穂乃果「さぁー、なんだろ」



ミナリンスキー(2人が見つめるモニターの先、使徒と思われる集団は地上で>>514をしていた)

514名無しさん@転載は禁止:2021/09/01(水) 13:31:00 ID:OmAs44yQ
弾き語り

515 ◆WsBxU38iK2:2021/09/02(木) 00:21:08 ID:J11KoT/.
ミナリンスキー(使徒と思われる集団は地上で弾き語りをしていた)


ミナリンスキー(主に視認できる集団は2つ)

ミナリンスキー(様々な楽器を持ち寄って演奏をしている集団と、それを取り囲むように耳を傾けている集団)

ミナリンスキー(前者は10人ほどで、後者はその倍くらいの人数)


ミナリンスキー「……やっぱりおかしい」

凶魔「そうだな、あんな荒れ果てた場所で弾き語りだなんて」

ミナリンスキー「いや、状況もおかしいけど一番おかしいのはあの弾き語り集団がワルキューレに見つかってないことだよ」

ミナリンスキー「ワルキューレは艦内は元より上空や地上まで監視しているはず」

ミナリンスキー「飛行船に滞空している空域の真下に近付く不審者を見逃すはずがない」

凶魔「確かに、あんな音を出していたらすぐさま警備に見つかって止められてもおかしくないか……」


前世穂乃果「でもさミナリンスキー、実際に弾き語り集団は楽しそうに歌ったり聞いたりしてるよ」

ミナリンスキー「うん、そうなんだよね……」


ミナリンスキー(ワルキューレたちが意図的に見逃してる……とは考えにくい)

ミナリンスキー(ってことは、私たちには認識できて、天上の警備舞隊には認識でき無いような特殊な結界でも貼っているのか)


ミナリンスキー「……ま、どっちみちバーミヤンの制御を取り戻さなきゃ手出しのしようはない」 

ミナリンスキー「今は監視を続けるだけにしてシステムの復旧に集中しよう」

前世穂乃果「そうだね」


オペ子「任せてください! 速攻で片を付けますから!」

カタタタタタタッ





516 ◆WsBxU38iK2:2021/09/02(木) 00:21:29 ID:J11KoT/.





──異空間




侑「それにしても……ここほんと何処なんだろ」

スタスタ スタスタ


侑(凶魔とはぐれた私は1人謎の空間を歩いていた)

侑(屋外でもなければ屋内でもない、白い壁のようなものに囲まれた広大な空間)

侑(ところどころが濃い霧に包まれていて、空間すべてを一度に見通すことはできそうにない)


侑(だけど、別に闇雲に歩いているというわけでもなかった)


ジャッ♪ ジャジャッ♪

??「あ〜♪ あぁ〜♪」


侑(音楽……どこからか流れてくる楽器の音と人の歌声)

侑(途方に暮れていた私はその音に惹かれるように、濃い霧を掻き分け歩みを進めていた)


スタ スタ


侑「うん、やっぱりそうだ、こっちの方から弾き語りの声が……」


タンッ

侑「……あっ!」


侑(音の間近まで来た私が目にしたのは、霧に映し出された人型のシルエットだった)

侑(僅かに手の部分が動き楽器を弾いてるように見える)


侑「あのっ、あなたはいったい……」


侑(私が呼びかけるとシルエットの主は手を止め、口を開いた)


??「>>517

517名無しさん@転載は禁止:2021/09/05(日) 09:30:31 ID:twAWB22g
いらっしゃいませー

518 ◆WsBxU38iK2:2021/09/07(火) 01:51:14 ID:pc6Z7XJc
??「いらっしゃいませー」

侑「……え?」 


侑(警戒するわけでも驚くわけでも気さくな物言いに私は困惑を覚える)

侑(敵なのか味方なのか声の印象だけでは判断がつかない)



??「この空間にお客さんが迷い込むなんて珍しいね」

??「使徒の中でも一部の特別な使徒しか侵入できないはずなんだけど……」

侑(使徒……!)ピクッ


??「……ああ、なるほど、君からはカリオペーの音色がするね」

??「彼女の寵愛を受けたのなら……うん、ただの人間が私の空間に入り込んでも不思議ではないか」


侑(霧のシルエット越しの人物は1人納得した様子を見せて楽器の調整に戻る)


ジャンッ ジャラランッ

??「ふむ、現代の楽器というのも中々悪くない」


??「君も音楽は嗜むのかい?」

侑「え? 私? まぁ……一時期音楽を学んでたことはありましたけど」

??「ほう」

侑(歩夢の、みんなの、スクールアイドル活動を支えていたころの記憶)

侑(今はもう無い、改変前世界の記憶)


侑「……って、違う違う」ブンッブンッ 

侑(頭を振って余計な考えを振り払う)


侑「そんなことより貴方は誰なの? ここで何をしてるの?」

??「ん? 弾き語りの準備だよ、これから地上で演奏会があるからね」


??「そして私は>>519

519名無しさん@転載は禁止:2021/09/07(火) 20:04:05 ID:rNcMvEfg
ギターソロだ

520 ◆WsBxU38iK2:2021/09/09(木) 00:17:00 ID:ogye0l9o
ギターソロ「そして私はギターソロだ」

侑「なんか……そのまんまな名前」



ギターソロ「迷い込んで来たところ悪いけど、私はそろそろチューニングを終えて演奏会に向かわねばならないんだ」

ギターソロ「既に向こうで私の仲間たちが待機してるはずだし」

侑「向こう?」

ギターソロ「地上だよ、愚かな異教の神々の手によって破壊された荒涼の大地」

ギターソロ「その悲しく寂しいステージで私たちは音楽を奏でるんだ」


侑「……?」


侑(待って、どういうことなんだろう、急な展開に頭の中で整理が追いつかない)

侑「えっと……その……」

侑(考えよう、ギターソロはこの異空間には使徒しか入ってこれないと言っていた、つまりギターソロ自身も使徒)

侑(ギターソロはこれから地上で仲間と、他の使徒たちと弾き語りの演奏会をするらしい)

侑(いったい何のため? それにそんなことしたら……)


侑「そんなことしたら、地上を見張っているワルキューレやエインヘリヤルたちが黙ってないよね」

ギターソロ「ふふっ、そこは問題ない」

ギターソロ「天上の彼らはアースガルズでラグナロクに夢中だし、地上の彼女らも私たちを止めることはできない」

侑「それはどういう……」


ギターソロ「ん? そこに疑問を持つのは妙な話だな、君だってここまで来るまでにワルキューレやエインヘリヤルに捕まらなかったんだろう?」

ギターソロ「それが術式なのか神器なのかまでは分からないが、カリオペーの力が働いてるのは間違いない」

ギターソロ「とすれば……つまりはそれと同じことを私もやるだけ」

侑「……!」



ギターソロ「私たちムーサの卓越した文芸は他者の心に用意に入り込み認識を狂わせる」

ギターソロ「詩、音楽、劇、舞踊、歌唱、物語、人や神が五感に頼る存在である以上、文芸を享受する魂がある以上、私たちから逃れる術はない」


侑(確かにカリオペーの身分証の効果は恐ろしい、それは身に沁みて分かっている)

侑(それと同じ力を持ってる使徒なら、ワルキューレたちに気付かれず行動を起こせてもおかしくはない)


侑「……っ」グッ


侑「でも、そんなこと誰とも知らない私にペラペラ喋って大丈夫なの?」

ギターソロ「問題ないさ」


ギターソロ「これは既に決められた旋律、君にも誰にも邪魔することはできない」

ギターソロ「そして私たちの音色が大地に満ちた時、作戦目標である>>521が達成されるのだ」

521名無しさん@転載は禁止:2021/09/13(月) 09:04:16 ID:4/aBmSx.
音楽の女神の召喚

522 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:08:20 ID:312bqMWU
ギターソロ「音楽の女神の召喚が達成されるのだ」

侑「音楽の……女神?」


ギターソロ「そうさ、かの女神が降臨する時こそ本当の黙示録の始まり」

ギターソロ「愚かな闘争により汚された大地が女神によって浄化される時が来るのだ」

スッ

侑「あっ、待って!」


侑(そう言い放つとギターソロはチューニングしていたギターを手に取り立ち上がる)

侑(深く濃い霧越しのシルエットが段々と遠のいていく)


侑「黙示録? 大地の浄化? そもそも貴方たち使徒ってなんなの?」

タタタタッ

侑(遠ざかる影を走って追いかけるも距離は一向に縮まらない)


侑「まだ聞きたいことが山ほど……」

シュンッ!

侑「……くっ」



侑「もうっ!」

侑(ギターソロの影は完全に消失し、真っ白な異空間に私の声だけが虚しく響く)


侑「ギターソロの言う女神の降臨が何かは分からない、けれど実際に起きたら地上が滅茶苦茶になっちゃうのは間違いないはず」

侑「早くこの空間から出てミナリンスキーたちに知らせないと」

グッ


侑(そして……早く歩夢たちに……)


ピピッ


侑(歩夢に……)


ピピピピピッ!


侑(ん……?)

523 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:10:32 ID:312bqMWU
侑「なんだろ、何かがポケットの中で鳴ってるような……あっ!」

侑(取り出して見ると、鳴っていたのは鞠莉さんから貰ったスマホ型の通信機) 

侑(ライト代わりに使ったっきりですっかり忘れていたけど、私ちゃんと連絡手段持ってたんだった)


ピッ  

侑「はいもしもし」

鞠莉『良かった、別世界でもちゃんと通信できるみたいね』

侑(通話ボタンを押して耳に当てると鞠莉さんの声が聞こえてくる)

侑(一度出会っただけなのに妙な安心感を覚えるのは、この白くて殺風景な異空間に孤独を感じているからだろうか)


鞠莉『それで進捗の方はどうかしら、お目当ての子には会えた?』

侑「はい、実は――――」







侑「……というわけです」

鞠莉『なるほどねぇ』


侑(私はこれまでに起こったこと、今のバーミヤン内の状況、使徒たちの不穏な動きを簡潔に鞠莉さんへ報告した)

侑(鞠莉さんは時折相槌を打ち、驚くというよりは納得するような反応を見せていた)


鞠莉『ふむ……まずバーミヤン内のゴタゴタはミナリンスキーが解決してくれるから任せておきましょう』

鞠莉『気になるのは使徒の動きだけど……そうね、あなたがギターソロから聞いた通り、アースガルズで地上の動きに気づいてる者はいないわね』

侑「やっぱり隠蔽が成功してる?」

鞠莉『ええ、警備用の通信ログもハッキングして漁ってみたところ目立った報告は無し』

鞠莉『ついさっきダル子名義で警戒を強めるよう要請が来てるけど、使徒の妨害を解かない限り異常なしと返答されるだけでしょうね』

侑「ダル子ちゃんが……」

鞠莉『彼女、役職柄スタジアムで使徒の近くに座ってるから、会話や動向から何か怪しんだのかもしれないわね』

鞠莉『けれど、その役職故に自由に動くことはできない、特に今からはね』

侑「今から?」


鞠莉『ええ、だって今の自刻は午後6時、次のインターバルが終われば始まるのは第4回戦よ』

鞠莉『アースガルズ中の神が注目する大一番、かの主神の出番だもの』

侑「……え、まさか!?」



鞠莉『そうよ、ラグナロク第4回戦の組み合わせは――――』



─────────────────


バーミヤン内部〜異空間

PM4:50〜6:05 反逆の焔編『19』了

524 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:12:50 ID:312bqMWU
というわけでここまで

あまりに区切りがなさすぎましたが一区切り

反逆の焔編『20』に続く
かもしれない

525名無しさん@転載は禁止:2021/09/14(火) 21:38:21 ID:U1el7Lqc


526 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:09:39 ID:WIYMbiaQ
反逆の焔編『20』

─────────────────
──メインスタジアム


──医務室

PM6:15



海未「面目ないです……」


海未(目線の先には白い天井、メインスタジアムへと帰還してきた私はすぐさま医務室へ運び込まれ、清潔なベッドの上に寝かされることとなった)

海未(個人的にはそこまで大怪我の印象は無かったのですが……駆け寄ってきた穂乃果とことりにあれだけ強く言われては大人しくしてるしかありません)


海未「はぁ……」

にこ「良いのよ気にしなくて、お互いボロボロなんだし」

海未(落ち込みを隠せない私へにこが声をかけてくる)

海未(にこが寝ているベッドは私のすぐ隣、見た目だけなら仲良く並んで療養中ですが、にこが辛勝したの対して私は惜敗)

海未(勝ち星の差を考えると同じ怪我人とは言え申し訳なさが滲み出てしまう)


海未「しかし……あれだけ大見え切った伝言を残しておいて、この結果は……」

にこ「だから良いのよ、あんたは立派に戦ったわ」

にこ「ほんと、私なんかよりよっぽど――」

海未「え?」

にこ「……ううん、なんでもない」



ガチャッ

希「はいはい、怪我人と怪我人で言い争わんといてなー」


海未(にこが気まずそうに押し黙ってしまったところで希が医務室へ入ってきた)

海未(片手はドアノブに、もう片手で何本かのジュース缶を抱えている)


海未「希……!」
 
にこ「あんた、さっきからやたら出歩いてるけど体はもう大丈夫なの?」

希「んー、日常生活するくらいなら平気やで、来る途中に自販機があったから飲み物買ってきたわ」


希「はい海未ちゃん、こっちはにこっち」

海未「ありがとうございます」

にこ「まだ口の中もヒリヒリして飲めないから置いといて」

希「はーい」


海未(希から渡された缶を見ると『ヴィーグリーズアップル!黄金の林檎味!』とラベリングがされていた)

海未(これ……人間が飲んで大丈夫なものなんですかね……)

527 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:11:09 ID:WIYMbiaQ
希「ま、2人とも怪我人なんやから後はの雑務はうちに任せて休んでもらって……」

フワッ

希「……ん? なんか今……」

海未「……ええ、何か匂いが……」

海未(希が喋ってる途中、嗅いだことのない匂いが一瞬鼻孔をくすぐった)

海未(まるで一枚の花びらが顔の前を掠めたのような僅かな甘い香り)


クンッ

海未(今にも消えそうなか細い匂いの糸、それを辿ると――)

バッ!

海未「なっ……!?」

海未(今まで注意を払っていなかった医務室の一角、部屋の角にローブ姿の人物が立っていた)

海未(その足元には桃色の花びらが何枚か落ちている、おそらく私たちが気付いたのはあの匂いだ)



希「だ、誰やっ!」

海未「待ってください希、このローブの柄に見覚えがあります」

海未「あなた……チームオーディンのフレイですね」

希「えっ?」


フレイ「正解、流石は園田海未、記憶力がいい」

海未(正体を言い当てられたフレイは小さく笑いながら体を震わせる)


海未「…………」

希「戦闘を控えたやつが医務室になんの用や? 怪我なんてしとやんやろ」

にこ「ちょっ! 何が起こってるの!? 私にも説明して!」バタバタ

海未(全身包帯で起き上がれないせいで現状を把握できてないにこが暴れてるが、フレイを前にして余計なことに気を使う余裕はない)

海未(にこには悪いがしばらく放っておこう)


フレイ「……おっと、君たちにどうこうする気はないよ、私は単に付き添いなんだ」

フレイ「警戒するなというのは無理な話だが……まぁ、落ち着いてくれると助かる」

海未「付き添い? いったい誰の――――」

ヴァーリ「おねえちゃん!」バッ!

ドンッ!!

海未「へぶっ!!」


海未(私が疑問を口にし終わる前にフレイの後ろから飛び出してきたヴァーリがベッドへ飛び乗ってきた)

海未(ヴァーリの膝が私のお腹にめり込み何本か追加で骨が逝った気がする……あぐ……)


海未「……って、なんですかいきなり!」バッ!

ヴァーリ「ごめんごめん」

528 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:13:15 ID:WIYMbiaQ
海未「全く、私が眷属だから良いものの、普通は怪我人のベッドにダイブなんてしてはいけません、分かってますか?」

ヴァーリ「えへへ……」

海未「笑い事ではありません」キリッ

ヴァーリ「……き、きをつけます」シュンッ



希「な、なんや……?」

フレイ「ヴァーリがどうしても様子が気になると言って聞かなかったんですよ」
 
フレイ「お姉ちゃんは大丈夫かだの、お姉ちゃんは元気かだの、昔はあんなに特定の誰かに懐く子では無かったんですが」

希「はあ……それでフレイが連れて来たと」

フレイ「はい、ヴァーリ1人で行かせるのは心配ですし、私の術なら見た通りこっそり侵入できますから」



海未「ええと……要はあなたなりにお見舞いに来たかったと?」

ヴァーリ「うん!」

海未(私のベッドの片隅であぐらをかくヴァーリは無邪気に首を振る)

ヴァーリ「おねえちゃん、からだはへいき?」

海未「今あなたに軽い追い打ちを喰らいましたが概ね支障はありません、眷属の体なら数時間もすれば完治するはずです」

ヴァーリ「おーー! じゃあまたたたかえる?」

海未「いや……それは遠慮しておきます、あなたと戦うのそれなりに疲れるので」

ヴァーリ「なんで! なんで! なおったならたたかえるよ!」

バンッ! バンッ!


海未「ああもう、病室でうるさくするならフレイに引き取ってもらいますよ!」

ヴァーリ「うぐっ……しずかにします」



海未「はぁ……」

海未(少し柔らかくなったとは言え、ヴァーリから戦闘マシーンとしての気質が抜けたわけではない)

海未(他者と一般的なコミュニケーションを取るには欠けてるものがあまりに多すぎる)


海未「ヴァーリ、お話をしましょうか」

ヴァーリ「おはなし?」

海未「はい、人間は話をして他者のことを知るのですよ」

海未「力だけが、戦いだけが、他者と分かり合う術ではないのです」

ヴァーリ「へぇ……」

529 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:14:41 ID:WIYMbiaQ
海未「ではまず、ヴァーリのことから教えてくれますか? 私、まだまだ知らないことが多いと思うので」

ヴァーリ「わかった!」


ヴァーリ「えっと、えっと、ボクは――――」








希(ベッドの上で楽しそうに会話する海未ちゃんのヴァーリ)

希(ここだけ切り取ればまるで歳の離れた親戚のお姉ちゃんに懐く小さな女の子)

希(とてもさっきまで殺し合いをしていた2人とは思えん)


希「……ま、こういうのを見てるとフレイがあの2人を会わせたがった気持ちも分からなくはないかな」

フレイ「ええ」コクンッ

フレイ「後は単純に私以外に付き添える者がいなかったという事もありますが」

希「ほう」


フレイ「ヘイムダル仮はあなたに壊されましたし、トールはプライド的に矢澤にこのいる部屋には行きたがらないでしょうし」

フレイ「我が主神オーディンは……次の戦いのことで頭がいっぱいですから」フフッ

希「次の……ああ、せやね」



希(今の勝利数はチーム穂乃果有利の2-1、チームオーディン的には後がない状況や)

希(そんな中でチームリーダー、北欧神話界の主神として出場する重さ、他の事を考えてる余裕なんてないやろうな)


フレイ「そちらは南ことりが出場予定でしたよね、今はどちらに?」

希「ん? ことりちゃんなら穂乃果ちゃんと準備運動しとくって出てって、今はたぶん>>530

530名無しさん@転載は禁止:2021/09/15(水) 00:35:53 ID:AHOKDbXg
焼かれてるころ

531 ◆WsBxU38iK2:2021/09/16(木) 00:09:53 ID:SNBGd8tU
希「今はたぶん焼かれてる頃なんちゃうかな」

スルト「焼かれてる……?」


希「うん、穂乃果ちゃんと一対一でな、そりゃもうあっあつに――――」








──スタジアム内・トレーニングルーム


ゴォォォォォォォォォォッ!!


ことり「あぁっ! あついあつい! もう熱いって〜!」

心ノ穂乃果「……そうかな、私的にはもうちょっと焼いた方が良いと思うけど」

ことり「それは穂乃果ちゃんの好みの問題でしょー」

心ノ穂乃果「そうとも言う」



ことり「もぉー」パタパタ


ことり(手で顔を扇ぎながらトレーニングルームの大きな鏡を見る)

ことり(映っているのは練習着までびっしょり汗だくの私)

ことり(そして、そんな私の肌は健康的な小麦色に染まっていた)


心ノ穂乃果「いや、でもこの服との境目のラインをもうちょっと……」

ゴォォォォォォ ゴォォォォォォ

ことり「だからもう日焼けは充分だってば」

心ノ穂乃果「うーむ……」


ことり(穂乃果ちゃんは難しい顔をしながらパーにした両手を色んな角度からかざしてくる)

ことり(なんでも穂乃果ちゃんが言うには、両手から日焼けマシンに似た効果のある炎を放てるとかなんとか)

ことり(スルトの能力はそんなことまで出来るのかー……という感想は置いといて、私はあんまりこの行為に意味を見いだせていない)


ことり(まぁ、褐色はそれはそれで服を選ぶ楽しみは増えるけど)

ことり(……っていやいや、今は関係ないってば)

ブンブンッ



ことり「ねぇ穂乃果ちゃん、いい加減に教えて」

ことり「今このタイミング、4回戦前に日焼けをすることに何の意味があるの?」


心ノ穂乃果「ふっふっふ、それはねー、>>532

532名無しさん@転載は禁止:2021/10/20(水) 23:42:28 ID:9BFMzP6U
チャージインって感じ

533 ◆WsBxU38iK2:2021/10/22(金) 00:56:52 ID:deOoXqck
心ノ穂乃果「それはねー、チャージインって感じ!」

ことり「チャージイン?」


心ノ穂乃果「そう、ボーグバトルの全てはチャージインに始まりチャージインに終わる」

心ノ穂乃果「次のスタジアムがチャージ3回フリーエントリーノーオプションバトルの基本ルールなのか、はたまた違うルールなのかは不明だけど、チャージインを怠ったら勝てないのは同じ」

ことり「……えぇっと、つまり?」


心ノ穂乃果「とにかくチャージインだよ、ほら素振りして!」

ことり「素振り!?」

心ノ穂乃果「手はこう、そして腕をこう振る!」

ことり「こ、こうかな……」ブンッ!

心ノ穂乃果「そう! 心を込めて!」

ことり「こ、心を込めて!」ブンッ!

心ノ穂乃果「チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「チャージインヌッ!」

ことり「チャージインヌッ!」

ブンッ! ブンッ!


ことり(……って、ついついやってるけど本当になんだろこれ)

ことり(穂乃果ちゃんの目は真剣だからふざけられないし、口を挟める雰囲気でもないし)

ことり(チャージしてイン、本番の前に力を貯めておく……的なことなのかな?)

ブンッ! ブンッ!

ことり(穂乃果ちゃんの力を全身に受けての日焼け、このよく分からない素振り)

ことり(私が感知できないだけで何か見えないエネルギーが溜まってる……?)



心ノ穂乃果「ほら、ぼーっとしないで!」

ことり「う、うんっ」

心ノ穂乃果「チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「熱き闘志に!」


心ノ穂乃果・ことり「チャージイン!」



バンッ!!

??「この常識知らずのボーグ馬鹿!」

心ノ穂乃果「ぐっ……あいたたたたたたたた!」


ことり「え?」

ことり(突然開いたトレーニングルームの扉、その奥から投げかけられた声に穂乃果ちゃんはうずくまって苦しみだす)


ことり「どうしたの!? 大丈夫?」

心ノ穂乃果「いたたたたたた」

ことり「穂乃果ちゃん!?」


??「問題ない、ボーガー特有の発作のようなものだ」

ことり「発作? いや、それよりあなたは……」


ことり(海未ちゃんとにこちゃんは医務室で治療を受けてるし、希ちゃんはその看病をしている)

ことり(あの3人じゃないとしたら、他にチーム穂乃果のトレーニングルームを訪れる人なんて……)


??「ああ、私は>>534

534名無しさん@転載は禁止:2021/12/05(日) 23:03:24 ID:ZtiNTvVw
君の想像通りだよ、南ことり君

535 ◆WsBxU38iK2:2021/12/06(月) 03:00:58 ID:.rA/W5s.
??「君の想像通りだよ、南ことり君」


ことり「ま、まさか……その仮面は……」

??「そうだ、この仮面の私は……」



ことり「誰!?」

??「ええーーっ!?」ズコッ��!!



心ノ穂乃果「なんかすごい勢いでコケたけど大丈夫かな……」


謎の仮面「ま、まさか私を忘れてしまったのか!?」

ことり「ごめんなさい、きっと過去にどこかでお会いしたとは思うんですけど」

ことり「あまりにそこから時間が経ったというか、私も目の前のこと……4回戦のことに頭が一杯で」

ことり「だから本当に……ごめんなさい!」バッ!


謎の仮面「いやいいんだ、頭を上げてくれ、私の名前なんて些細なことだからね」

心ノ穂乃果「そこは名乗るんじゃないんだ……」



謎の仮面「私は君たちのファンのようなものだ、訪ねたのは応援の品を渡そうと思ってのこと」

ことり「応援の品?」


ことり(不思議に思って振り返ると、胸の痛みをケロリと忘れている穂乃果ちゃんも私と同じような顔をしていた)


ことり(このスタジアムに詰めかけている観客の多くは北欧神話の神様か使徒のはず)

ことり(前者は当然チームオーディンの勝利を願ってるし、後者は中立であってどちらかに肩入れしてるわけじゃない)

ことり(そんな中、いきなり私たちの控室を訪ねてきてファンだなんて言われても……)


ことり「…………」ジリッ


謎の仮面「ははは、そう警戒しなくたっていい、私が味方なのは本当だ」

謎の仮面「この通り手ぶらだし、君たちほどの実力なら敵意があるかどうかくらい見破れるだろう?」

ことり「…………」


ことり(……確かに、この仮面の人から私たちを害する意思は感じられない)

ことり(武器は持ってないし、魔力を練ってる様子も見られない)

ことり(私が本気を出せば1秒かからず喉笛を切り避けそうなほどに隙だらけ)


ことり「まぁ……ファンかどうかは置いといて、敵じゃないってことだけは信じます」

ことり(私が忘れてるだけで、本当にどこかで会った関係者かもしれないし……)


謎の仮面「うむ、それで応援の品なのだが――――」

ガサゴソ ガサゴソ


謎の仮面「どぅるるるるるるるる、じゃん!!」

ことり「……?」


ことり(仮面の人はあまり上手くないドラムロールを口ずさみながら、足元に置いてあった紙袋から何かを取り出した)

ことり(本人曰く応援の品だと言うもの、それは>>536)

536名無しさん@転載は禁止:2021/12/06(月) 20:00:14 ID:ewlpAh4Y
小さな箱に入ったチョコレートだった

537 ◆WsBxU38iK2:2021/12/07(火) 20:45:02 ID:.t9PruwQ
ことり(小さな箱に入ったチョコレートだった)


ことり「これは……」

謎の仮面「チョコレートは嫌いかね?」

ことり「え? ああいや、嫌いではないですけど……」

謎の仮面「それは良かった」


ことり(ずいと目の前に差し出された箱、不審に思いつつもとりあえず受け取ってみる)


ことり「…………」クンッ

ことり(私の嗅覚は海未ちゃんほどではないけど、あからさまな毒物は入ってなさそう)

ことり(食べれないものでは無いって感じかな……それでも怪しいものは怪しいけど)


謎の仮面「ま、渡したからにはチョコレートは君のものだ、焼くなり煮るなり捨てるなり好きにするといい」

謎の仮面「もし食べる気があるなら……そうだな、ピンチの時に食べてみると良いことがあるかもしれないな」



謎の仮面「では私はこれで失礼しよう、本番前の調整頑張ってくれたまえ」

ザッ!

ことり「は、はい」


ことり(戸惑いは収まらないまま、謎の仮面の人は踵を返し廊下へと出ていく)

ことり(どうしよう、声をかけてもう少し探りを入れるみるべきだろうか)


ことり「あの――――」

謎の仮面「そうそう」ピタッ

ことり「……?」


ことり(私が引き止めようと声をかけるより早く、謎の仮面の人がドアの前で足を止めた)

ことり(そのままこちらを振り返ることなく、ひょうひょうとした口調で言葉を続ける)


謎の仮面「君たちはまだ知らないだろうが、先程4回戦のスタジアムが発表されたよ」

ことり「4回戦の!?」

心ノ穂乃果「もう出たんだ」


謎の仮面「ああ、4回戦の舞台となるスタジアムの名は>>538

538名無しさん@転載は禁止:2021/12/08(水) 21:35:35 ID:McVCvSyA
……簡単に言えば『遊園地』だな

539 ◆WsBxU38iK2:2021/12/09(木) 00:53:49 ID:tycWVgMY
謎の仮面「スタジアムの名は――ヴァルハランド」

ことり「��ぁるは……なんて?」


謎の仮面「……簡単に言えば『遊園地』だな」

 







──医務室



希「遊園地?」

フレイ「分かりやすく表せば」

フレイ「ま、実態はそんな可愛げのあるものではありませんが」

希「なんか含みのある言い方やなぁ」


──

ワーワー ワーワー

モニター『4回戦がこのスタジアムなるとは……何か運命的なものを感じますね』

モニター『ええ、正にオーディンに相応しいスタジアムと言えるでしょう』

ワー ワーワー ワーワー

──


希(医務室の壁に取り付けられたモニターから流れるスタジアム発表の中継映像)

希(うちはダル子ちゃんと解説の三船さんがスタジアムの説明をするのを眺めつつ、隣に立つフレイと会話をしていた)

希(ベッドの上のにこちゃん海未ちゃん、海未ちゃんのベッドに腰掛けてるヴァーリも同じようにモニターの映像を見ている)



フレイ「彼女たちが説明してるようにヴァルハランドとはオーディンの偉業を讃えた巨大施設」

フレイ「彼に関する様々な神、動物、建物、土地をモチーフとしたモニュメントやアトラクションが立ち並ぶ北欧神話界の一大テーマーパーク」

フレイ「それを決戦用のスタジアムとして改造したのがヴァルハランドスタジアムというわけです」

希「はぁ……なるほどぁ」


希(○ッキーの遊園地といえばディ○ニーランドみたいにオーディンの遊園地はヴァルハランドってわけか)

希(しかしランド……ランドねぇ、ランドと名のつく物にはうちらはあんまり良い思い出がないんよなぁ)


希「それにしてもよくオーディンは自分のテーマパークをスタジアムに改造するのを許したというか……てか許可済みなら事前に存在は知ってたん?」

フレイ「ええ、おそらく」

希「知ってて自分の出番まで引かれなかったと、はー……なんか作為的な匂いを感じるわ」

フレイ「はは、あの人ならやりかねませんね」

希「そこは否定しないんかい」


希(オーディンもオーディンやけど、こよフレイという神も本当に掴みどころがない)

希(トールみたいに闘争心バリバリで向かってきた方がまだやりやすいまである)


フレイ「オーディンは本気です、本気で勝利を狙いに行く、そういう神ですから」

フレイ「あのオーディンのオーディンによるオーディンのためのテーマパークでは全ての要素が彼の味方となる」

希「…………」

フレイ「ですが片方がホームで片方がアウェイというのはあまりフェアとは言えません」

フレイ「そこでどうでしょう、私から1つヴァルハランドについてアドバイスをするのは」

希「……取引かな?」

フレイ「いえいえ、単なる好意ですよ」

希「それが一番怪しいんやけどなぁ」



フレイ「あのテーマパークで南ことりが有利な勝負に持ち込める可能性があるとすれば、それは>>540

540名無しさん@転載は禁止:2021/12/09(木) 09:02:36 ID:ZTchO24w
唯一オーディンが設置に反対したお化け屋敷

541 ◆WsBxU38iK2:2021/12/10(金) 00:17:15 ID:TFBFowhM
フレイ「それは唯一オーディンが設置に反対したお化け屋敷」

希「なんや、お化けが苦手ってことなん?」

フレイ「どうでしょうねぇ、理由はそれこそ神のみぞ知るわけですが、あそこまで反対してた以上、彼にとって好ましくないのは確か」

フレイ「上手くお化け屋敷へ誘導して戦うことができれば南ことりにも勝ち目があるかもしれません」

希「ほー」



フレイ「もちろん信じるかどうか、実際に活用するかどうかはあなた方次第です」スッ

希(ロープを目深に被ったフレイはうちの方を向くと自分の胸に手を当て軽く頭を下げる)

希(フェアプレーなんて言葉を頭から信じるはさらさらないけど、だとしたらこいつの目的は一体なんなんや)

希(外野からはお祭りやとしても、ラグナロクは神たちにとって負けられない戦いのはず……)



希「…………」


フレイ「……どうしました?」

希(……いや、考えてもここで答えはでんか)

タンッ

希「とりあえずことりちゃんにお化け屋敷のこと伝えてくるわ」

希「情報持ってる方が無策よりかはええやろし、使う使わんはことりちゃんに任せる」


フレイ「ふむふむ、では気をつけて」

希「そっちは残るんか?」

フレイ「ヴァーリはまだ此処に残るつもりでしょうし、帰りの付き添いもありますから」

希「なるほど」


フレイ「……あ、やっぱり心配ですか? 敵チームのメンバーを残して部屋を出るのは」

希「そりゃ心配だよ、でも燃料切れのうちなんかいてもいなくても戦力に変わりはないし」
 
希「あなたが本気で殺す気なら、こんな会話する前に指先1つで全滅させとるやろ?」

フレイ「やだなぁ、怖い怖い」


 
希「本当に……どこまで本気なんだか」

スタスタ スタスタ


希(フレイの意図は測りかねたまま、にこちゃんと海未ちゃんに声をかけ、うちは一旦医務室を出る)


ガチャ


希「さて、ことりちゃんたちのいるトレーニングルームは――――」

タタッ

542 ◆WsBxU38iK2:2021/12/10(金) 00:17:39 ID:TFBFowhM





──トレーニングルーム 



心ノ穂乃果「うーん……なんか喋るだけ喋ってあの仮面の人消えちゃったな」

心ノ穂乃果「いったい正体は誰だったんだろう、ねぇことりちゃん」



心ノ穂乃果「ことりちゃん……?」


ことり(ヴァルハランドスタジアム……か)

ことり(元々オーディンは一筋縄じゃ行かないと思ってたけど、スタジアムまでオーディン有利だなんて)

ことり(本当に今の私でオーディンに勝てるのかな……)グッ


ことり「穂乃果ちゃん! 何か残りの時間で出来ること……というか、そうだよ、さっきのチャージインはどうなったの!?」

心ノ穂乃果「チャージイン?」

ことり「仮面の人が来るまでやってたでしょ、こう右手を動かしてチャージインって! あれって効果あったの?」

心ノ穂乃果「あー……うん、アレねアレ、覚えてるよ、うん」

ことり「ほんと……?」



心ノ穂乃果「本当だって! あのチャージインをしたことによって、>>543

543名無しさん@転載は禁止:2021/12/11(土) 13:39:58 ID:mzCyY93c
必殺技の演出や効果が変わる

544 ◆WsBxU38iK2:2021/12/12(日) 01:21:55 ID:szFiw0A2
心ノ穂乃果「あのチャージインをしたことによって、必殺技の演出や効果が変わるんだよ」

ことり「本当かなぁ」

心ノ穂乃果「信じてよ、この日焼けもチャージインも、絶対ことりちゃんの役に立つから」

ことり「うーん……」


ことり(チャージインの素振りはせいぜい体がポカポカする程度で、あれで私の必殺技――マカロンやほのリルの技が強化されたとは考えにくい)

ことり(ただ、スルトを取り込んだ穂乃果ちゃんの力は私でも理解の及ばない領域まで到達してるはず)

ことり(何より、他でもない穂乃果ちゃんの言葉だ、穂乃果ちゃんが言うのなら私は信じるだけ……)


ことり「……うん、わかった、信じるよ」

心ノ穂乃果「ありがとう! 信じてくれたら後はチャージインあるのみ! ほら手を動かして〜」

ことり「う、うおおおおおお!」

ブンッ ブンッ

心ノ穂乃果「いいよいいよ! チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「いいチャージインだ! もう1回!」

ことり「チャージイン!」

心ノ穂乃果「まだまだ!」

ことり「チャージイン!!」

心ノ穂乃果「もっといける!」

ことり「チャージぃぃぃぃ――――」







ピンポンパンポーン!


ことり「――はっ!」


アナウンス『間もなく4回戦が開始されます、各チームはメインスタジアムのベンチへ移動してください』

アナウンス『繰り返します、間もなく――――』


ことり(数分程度の時間だったけど、すっかりチャージインに夢中になっていた)

ことり(もう決戦の時間、準備を整えて!ベンチに向かわなくちゃ)


ことり「穂乃果ちゃん!」

心ノ穂乃果「うん、いい感じにアップできたと思う、移動しようか」


タタタッ

ガチャッ

545 ◆WsBxU38iK2:2021/12/12(日) 01:22:18 ID:szFiw0A2
ことり(トレーニングルームを出て外の通路へ)

ことり(チーム穂乃果側のベンチへと続く道を気持ち早足で歩いていく)


ことり「えっと、あっちが控室だから、このT字を右に曲がればいいんだよね」

心ノ穂乃果「そうそう、そっちでいいはず」


希「おーーい!」

ことり「ん?」

ことり(そのT字を曲がろうとしたところで、目的地とは反対側の通路から希ちゃんが走ってくるのが見えた)


心ノ穂乃果「希ちゃんだ!」


タタタタッ

希「見つけられて良かったわ、トレーニングルームの場所がいまいち分からなくて迷っちゃって」

希「どうせ時間だからベンチに向かえばどこかで合流できるやろと思ってたんや」

ことり「あー、このスタジアム、関係者側の通路が妙に入り組んでて分かりにくいよね、防犯対策なのかな」

希「防犯ねぇ……それにしては味方以外がほいほい乗り込んで来すぎやけどな」

ことり「?」

希「いや、こっちの話だから気にせんといて」


希「それより次のヴァルハランドスタジアムについての情報を手にいれたんや、時間ないから歩きながら話そ」

ことり「………情報?」


スタスタ スタスタ


希「実はな、ヴァルハランドスタジアムにはお化け屋敷ってアトラクションがあるらしいんや」

ことり「へー、お化け屋敷」

心ノ穂乃果「なんだか怖そう」

希「なんでもオーディンはそのお化け屋敷を避けてるらしくてな、理由は不明だけど、もしかしたら弱点になるかもしない」

心ノ穂乃果「なるほど、じゃあオーディンをお化け屋敷へ誘いこめばいいんだね」

ことり「はは……、言うのは簡単だけどね、弱点の自覚があるとこに誘導するのは相当難し――――」

バッ!!

ワァァァァァァァァァァァァ!!!!

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

ことり「わっ」


ことり(ベンチへと続く出口を通り抜けた瞬間、スタジアムの熱気と歓声が一気に辺りを包み込む)

ことり(会場のボルテージは休憩の間も冷めやらぬまま、4回戦へ向けてさらなる高まりを見せていた)


心ノ穂乃果「すごいすごい! 盛り上がってる!」

希「ことりちゃんがベンチに姿を見せたからやろなぁ」


希「さーて、そんなことりちゃんと対戦するオーディンの姿は……っと」

ジーッ

希「おお、もう闘技場の上におるみたいやな」


ことり(メインスタジアムの中央に備え付けられた円形の石畳)

ことり(そこに1人立っているオーディンの様子は>>546)

546名無しさん@転載は禁止:2021/12/14(火) 22:41:15 ID:KnTedgis
その石畳の中心に立っていた

547 ◆WsBxU38iK2:2021/12/15(水) 01:32:35 ID:F.o5J6JM
ことり(オーディンはその石畳の中心に立っていた)

ことり(威厳を感じさせる堂々とした立ち姿、ローブ越しでも最高神としての気迫が伝わってくる)


希「待ち構えとるねぇ、お相手は準備万端って感じやな」

心ノ穂乃果「準備ならことりちゃんも負けてないよ、ファイトだよ!」


ことり「……うん、行ってくる!」

タタタッ

タンッ

ことり(ベンチを飛び出し、スタジアム中の観客が注目する闘技場の上へと躍り出る)

スタッ



ダル子『おおっと!来ました!』

ダル子『南ことりが到着したことにより、ラグナロク4回戦を行う両戦士が揃い踏みです!』

ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!

オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


ことり(降り注ぐ視線と歓声、スクールアイドルとしてだってこんな舞台にはまだ立ったことがない)

ことり(人類の未来をかけた一戦だっていうのに、なんだろう……ワクワクするなぁ)

ことり(アースガルズ、ミッドガルズ、全世界が私に注目している)

ことり(ここで私はどんなパフォーマンスを見せることができるんだろう)

ゾクッ



オーディン「笑っているな」

ことり「……?」

オーディン「緊張の誤魔化しか、己を奮い立たせるためか、何れにせよ些末なことだ」

オーディン「この戦いの勝者は我、最高神オーディンと決まっているのだからな!!」

バッ!!!!

ことり「……!」



ことり(目の前のオーディンが纏っていたローブを勢いよく取り払った)

ことり(その奥から現れた顔は神話に描かれる通りの髭を蓄えた隻眼の翁)

ことり(ただ、これを単なる眼帯のおじいちゃんと片付けるには全身から発する気迫があまりに桁違いだ)
  


オーディン「くく……ただのジジイと侮るでないぞ」

オーディン「最高潮に漲っておる今の我ならば、こういうことさえ容易いのだからな」

グッ!

オーディン「ふんぬっ!」


ことり(オーディンがそう言って自らの肉体に力を込めると、>>548)

548名無しさん@転載は禁止:2021/12/18(土) 11:00:24 ID:aknXsPsU
身体全体が大きく膨れ上がったような錯覚に陥るほどの圧迫感を感じた

549 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:09:54 ID:w8MJdz4c
ことり(身体全体が大きく膨れ上がったような錯覚に陥るほどの圧迫感を感じた)


ことり「くっ……!」

ビリビリッ! バリバリッ!

ことり(異能や魔術なんかの類なんかじゃあない、私に幻覚を見せているのはオーディンの“凄み”そのもの)

ことり(実際に相対して分かる、これが一つの神話の頂点、最高神オーディンなのだと)


オーディン「存分に恐れるがよい、愚かにも神に立ち向かおうとしたことを」

オーディン「存分に怖れるがよい、今から貴様が辿る末路を」

オーディン「存分に畏れるがよい、我こそが比類なき最高位の神であることを!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


ことり「…………っ!」



ダル子『……で、では、両者指定の転送魔法陣の位置へ移動をお願いします』

ダル子『準備が整い次第4回戦の開始を宣言させていただきます』


オーディン「ふっ」クルッ

ザッ ザッ


ことり「…………」

スタ スタ


ことり(あのとんでもない迫力、私は何も言い返すことができなかった)

ことり(世界のため、穂乃果ちゃんのため、絶対に負けられないと思ってたけど、それは相手も同じなんだよね……)


タンッ

ことり(私は本当に、オーディンに勝つことができるのかな……)







550 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:11:10 ID:w8MJdz4c
──医務室



海未「オーディン……物凄い気迫でしたね」

ヴァーリ「ねー」


海未(常人であればモニター越しでさえ体が震えが止まらなくなるであろう威圧)

海未(アレと直に対面してることりはたまったものではないでしょうね)


ヴァーリ「あんなにおこってるオーディンははじめてみたよ」

海未「そうなのですか?」

ヴァーリ「うん、いつもはもっとおちついてるし、あんなにカンジョウテキになるのはめずらしいよ」

海未「ほう」

海未(ヴァーリは私のベットに腰掛け足をぷらぷらさせながらモニターを物珍しそうに眺めている)

海未(味方からそこまで言われるということは実際珍しいのだろう)


海未「やはりもう後がないからでしょうか」

にこ「そりゃねぇ、あと1勝で私たちの勝ちが確定するわけだし、そんな状況で焦らないほうが不自然でしょ」



スルト「まぁ……それもありますが、オーディンがあれだけ気合を入れてるのは対戦相手が彼女なのも大きな要因でしょう」

海未「……彼女、ことりだからですか?」

フレイ「ええ」

海未(私とにこのベットから少し離れ、医務室の壁に背を預けているフレイ)

海未(フレイは私の言葉に頷くと、ローブの袖の隙間から植物の蔓らしきものをスルスルと出していく)

シュルルル

海未「それは……」


海未(出てきた複数の蔓はお互いに複雑に絡み合い、フレイの手の上で蔓の人形とでも呼ぶべき塊を作り上げた)

海未(右手の上には槍を持った老人、左手の上には大きな獣)

551 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:12:22 ID:w8MJdz4c
海未「オーディンと……フェルリルですか」

フレイ「正解」
 

フレイ「私たち北欧神話の神はほぼ全ての者が必滅の定めにあります」

フレイ「それは全ての者に、己を殺す天敵が存在してるということ」

フレイ「お互いに殺し、殺され、破滅へと向かっていく、それこそが世界の終末、ラグナロクの予言」


フレイ「その運命の中では例え最高神と言えど例外ではなく、オーディンはラグナロクにおいて魔狼フェンリルに噛み殺されることとなる」

グシャッ

海未(フレイが左手を右手に近づけると
オーディンを象った蔓人形が潰れる)


フレイ「もちろん多くの神はこの運命を知り、ある程度は受け入れています」

フレイ「中には運命を意味嫌い、流れの外へ出るため愚かか計画に手を染めた神もいますが……」

海未「……!」

にこ「…………」

フレイ「……ロキ、今はフードマンでしたっけ、彼に関しては貴方たちの方が詳しいでしょうし、今は関係ないので置いておきましょう」



フレイ「ともかく、運命は受け入れはしてるものの、最初から負ける気があるかと問われればそうでもないわけで」

フレイ「いずれ自らを滅ぼす存在と同じ力を持った相手と対面できる、そんな機会が来たらやはり疼いてしまうのでしょう」

フレイ「自らの天敵にどこまで抗えるのか、どこまで己の力は通用するのか、試したくてたまらなくなる」


にこ「ほー、だからあのお爺ちゃんは最高神のくせに4回戦に出てきたと」

海未「ほのリルと融合していることりと戦うことで、自分の力を試すために」


フレイ「伊達に巨人や荒くれ揃いのこの世界で最高神なんてやってませんからね、根の気性が荒いんですよ」

フレイ「天敵の力を持つ者を正面から打ち倒してこそ全世界に神の力を知らしめることができる、なんてことを真面目に考えてるはずです」


にこ「なんというか、そこのバトルジャンキーと変わらない荒っぽさね」

にこ「私が戦ったトールもイケイケだったし、北欧神話の神ってそんなのばっかり」

ヴァーリ「ん? ボクはウンメイとかきにしたことないよ、たのしくたたかえたらそれでいいし」

にこ「うーん……そういうとこなのよねぇ」



海未(運命の克服、ラグナロクによる終末)

海未(本来ならばロキ陣営は終末の日にビフレストを通りアースガルズへ攻め込み、このメインスタジアムのあるヴァーグリーズの野で最終決戦となる)

海未(ですがロキことフードマンは次元の狭間へ飛ばされ行方不明、地上に出てきたヨルムンガンドはにこたちが地球圏外へかっ飛ばし、日本を侵略しかけたムスペルも私たちが壊滅させた)

海未(現状、彼ら北欧の神の天敵と言えるのはフェンリルの因子を持つことりと、それから……)


海未「……スルト、あなたもラグナロクではスルトと戦いますよね」

フレイ「ええ、ラグナロクで私はスルトと戦って敗れる、つまりはそちらのリーダーと戦って負けるのが運命らしい」


海未「だから、あなたも5番目を選んだ? 穂乃果と戦える最後の勝負を」

フレイ「半分は成り行きみたいなものですよ、でも……そうですね、どちらにしろ彼女と戦うことを選んでいたはずです」


フレイ「私にはね、理由があるんですよ、彼女がスルトであるということ以外にもう一つ、彼女と戦いたい理由が」

海未「理由?」

フレイ「ええ、理由です……」

海未(どこか掴みどころのなかったスルトの纏う空気に、じっとりとした感情のようなものがにじみ出る)


フレイ「それは>>552

552名無しさん@転載は禁止:2021/12/19(日) 08:30:53 ID:DUfK8R/c
推しだから

553 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:33:10 ID:wNHyF3o.
フレイ「それは彼女が推しだから」

海未「……は?」


フレイ「推しですよ推し、わかりません?」

海未「いや、推しという概念が分からないわけではなく……」

フレイ「私はね、貴方たちμ'sの中で穂乃果さんが推しなんです」

フレイ「自らが応援する推しと直接戦えたらそれはもう光栄という他ありません」


フレイ「ああ、楽しみですね、最終決戦をするためにオーディンにはぜひ勝ってもらわなくては」

海未「は、はは……」



海未(推し……推しと来ましたか、なんだかいきなり俗っぽい話ですね)

海未(フレイの言葉を鵜呑みにするわけではありませんが……全くの嘘を言っているとも思えない)

海未(何故ならフレイからは私と同じ匂いがするから)

海未(かつて私も穂乃果を好きで好きでたまらなかった時の私と、同じ匂いが)



にこ「推しなら少しは手を抜いてくれたりはしないわけ?」

フレイ「いえいえ、そこはフェアプレイの精神ですよ、全力で当たらなければ推しに失礼です」

にこ「はー、そういうとこだけ妙にしっかりしてるんだから、ファンの鏡ではあるけどさぁ」



海未(例え何か裏に企みがあったとしても、その匂いだけは本物だと……そう感じてしまう)

554 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:33:24 ID:wNHyF3o.

ヴァーリ「ん! そろそろはじまるよ!」

海未「お……」


海未(ヴァーリに肩を揺さぶられモニターの方を見ると、ことりとオーディンは既に転送陣の上に立っていた)


モニター『では転送を開始します、転送まで5秒前――――』


海未「そうですね、今はことりのことを応援しなければ」

にこ「ことり、きつそうだけど踏ん張りなさいよ……!」

ヴァーリ「どっちもがんばれー!」


モニター『4! 3! 2!』



海未「……ん?」

海未(気持ちを切り替えてはみたものの、何か心に引っかかるものを感じる)

海未(さっきのフレイの言葉にどこか違和感があったような――――)

チラッ


フレイ「どうかしました?」

海未「い、いえ、なんでも」


海未(不安げな視線を向けると、何故かフレイも同時に私に顔を向けていた)

海未(ローブのせいで直接目があったわけではないものの、思わず視線をそらしてしまう)


海未(まぁ……話を深く聞くのは4回戦が終わってからでも遅くはないはず)

海未(今は自分の言った通りことりの応援に集中しなければ)



モニター『1! 転送!』

シュンッ!! シュンッ!!


ウォォォォォォォォォォォォォォッ!!

ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!


フレイ「さて、始まりますよ」

フレイ「最高神と滅びの運命のどちらが強いのか、この戦いで審判が下ります」

海未「…………」



モニター『それではここに、ラグナロク第4回戦の開始を宣言いたします!』

ドンッ!!


─────────────────

メインスタジアム

PM6:15〜6:45 反逆の焔編『20』了

555 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:36:14 ID:wNHyF3o.
というわけでここまで

ラグナロクも後半戦

反逆の焔編『21』に続く
かもしれない

556 ◆WsBxU38iK2:2021/12/21(火) 00:09:57 ID:gkT9syqw
反逆の焔編『21』

─────────────────
──ヴァルハランドスタジアム

PM6:45



ことり「…………」


ことり(転送陣の光が消え去ると、そこは一面の暗闇だった)

ことり(足元には舗装されたコンクリートの感触、肌に触れるのは冷え切った空気)

ことり(天上を見上げれば夜空に浮かぶ微かな星の瞬きがここが閉じられた空間でないことを教えてくれる)


ことり(野外なのは確か、だけど外にしては土や木の気配が全くしない)

ことり(流れてくる風もどこか妙な循環をしているように感じる)


ことり「いったい、ここは…………」


ことり(そんな僅かな逡巡の後、私が一歩を踏み出そうとした、正にその瞬間だった)

バッ!!

バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ!!!!

ことり「っ!?」


ことり(夜闇を切り裂くレーザービームが四方八方から飛び交い、辺り一面を昼のように照らし始める)


アナウンス『ようこそ! ヴァルハランドへ!』

ことり(続いて歓迎を告げるアナウンスとテーマパーク風の音楽が大音量で鳴り出す)

ことり(大小様々な建物に付けられたイルミネーションがレーザービームに負けじと輝き、遠くでは大量の花火が打ち上がっていた)


ことり「これが……ヴァルハランド!」

ことり(今いる場所からじゃ全景は見渡せないけど、テーマパークとしての巨大さは十分に感じ取れる)

ことり(ここから見える建物には高層ビルくらいの大きさのものも幾つかあり、夜に負けじと主張を強める輝きは一つの都市と言っても過言ではない)


ことり「とくにアレは目立つね」

ことり(このヴァルハランドのシンボルか何かなんだろうか)

ことり(光り輝くテーマパーク内で一際目を引くのは>>557)

557名無しさん@転載は禁止:2021/12/21(火) 21:49:00 ID:9PZ2bgXg
大人気のジェットコースター

558 ◆WsBxU38iK2:2021/12/23(木) 00:44:56 ID:ioVakTo6
ことり(一際目を引くのはジェットコースターのレールだ)

ことり(中央の高い塔を中心にランド全体の空を駆け抜けるようレールが縦横無尽に敷かれている)

ことり(さすがに地上から手を伸ばして届く距離ではないけど、高い建物の横スレスレを通ってたりしてかなり危ない)

ことり(神様用のテーマパークだから安全性は二の次なんだろうか、中々にスリリングなアトラクションだ)


ことり「……お」

ことり(目線を遥か頭上のレールから地上へ戻すと園内に設置された案内板が目に入った)

ことり(園内全体の地図が書かれているよくあるやつで、端にはパンフレットが置いてある)

ことり「今これを全部記憶するのはちょっと無理かも、一応パンフレットは貰っておこうかな」

スッ

ことり(案内板へ近づき折りたたみのパンフレットを一冊もらう)


ことり(広げてみると園内の地図の他に主なアトラクションの説明が書いてあった)

ことり(それによるとあのコースターは大人気のジェットコースターで、名前を『駆けよスレイプニル』と言うらしい)

ことり(その名の通りスレイプニル……空を飛び地を駆けるオーディンの愛馬をモチーフにしたアトラクション)

559 ◆WsBxU38iK2:2021/12/23(木) 00:45:11 ID:ioVakTo6
ことり「ふむふむ、これは確かに目玉のアトラクションだなぁ」

ことり「……って感心してる場合じゃない」

ことり(いきなり地図を見つけられたのは私にとっては幸先が良い)

ことり(希ちゃんから教えてもらったお化け屋敷を探すため、地図に指を滑らせていく)


ことり「ええと、お化け屋敷、お化け屋敷、どこだろう……」

ことり(ただでさえヴァルハランドは面積が広くアトラクションが多い)

ことり(地図に書いてある番号とアトラクションの名前を照らし合わせていくだけで一苦労)


ことり「ここでもない、ここでもない、ここでも――――」


ヒヒィーーーンッ!!!!

ことり「っ!?」


ことり(馬の嘶くような声が園内に響き、私は思わず地図から顔を上げる)

バッ!!


ことり「ほ、ほのリル!!」

バシュッ!!

ことり(間髪入れずに獣人化して五感を研ぎ澄ませる)

ことり(近くに……いや違う、気配の正体は……)


ことり「空だ!!」


ヒヒィーーーンッ!!!!

ことり(獣人化して生えた獣耳が音の正体を確実に捉える)

ことり(馬の嘶きのような音は、レールの上をコースターが滑ることによるもの)

ことり(夜空に目をこらせば、馬の形を模した漆黒のコースターがこちらへ近づいてきているのがハッキリと分かる)

ことり(さらに悪いことに――――)



ヒヒィーーーンッ!!!!

ガタタタタタタタタタタタタッ!!

オーディン『はははは! 駆けよスレイプニル!!!!』



ことり「オーディン……!」


ことり(見間違えようがない、そのコースターにはオーディンが乗っていた)

ことり(腕を組み仁王立ちでコースターに立ってるオーディンは純粋にアトラクションを楽しむような声を張り上げているため、こっちに気付いてるのかまでは分からない)

ことり(けれどコースターに乗ってる以上、このまま放置していれば私の近くを通るのは確か……!)



ことり「まだオーディンとは距離がある、先手を打つなら今のうち……だよね」

ことり「ここは>>560

560名無しさん@転載は禁止:2021/12/23(木) 08:50:21 ID:RRpusOlc
レールに罠を仕掛ける

561 ◆WsBxU38iK2:2021/12/24(金) 00:23:28 ID:Aczd/UrE
ことり「ここはレールに罠を仕掛ける」

ググッ タンッ!!


ことり(まずは獣の足に力を込め、ジャンプで近場のアトラクションの屋根に飛び移る)

トンッ

ことり(テントのような屋根が少し沈むけど大きな音は出てないし問題はない)


ことり(そこからさらに別のアトラクションの壁で三角飛びをしてレールの上へ)

タンッ タタンッ


スタンッ

ことり(体のバネで衝撃を殺し、なるべく静かに着地)

ことり「ふぅ……」


ことり(手をレールに付けていると、冷え切ったレールの冷たさと僅かな振動が伝わってくる)

ガタンッ ガタンッ

ことり(間違いない、オーディンを乗せたコースターはこの向こうからやってくる)


スッ

ことり「――ぴゅあぴゅあマカロン」

ことり(レールの上でかざした手のひらからマカロンが想創される)

ポンッ ポポンッ

ことり(1つ、2つ、3つ、4つ、重量に引かれて落ちていくマカロンをもう一方の手で受け取り、レールの上に並べていく)

ことり(そしてマカロンを並べ終わったら、その上から氷でコーティング)

スッ

ピキッ パキパキッ パキパキッ

ことり(氷は見て分からないほど薄く張っていく、事前に見つかってコースターを止められたら元も子もない)

パキパキッ パキンッ



ことり「……よし、できた」

ことり(氷でコーティングしたことによって、貼り付けられたマカロンが自然と剥がれ落ちることはない)

ことり(ここをコースターが通った瞬間、コースターからの圧力でマカロンは氷ごと割れることになる)


ことり(つまりその時に、今埋め込んだマカロンの能力、>>562が発動するということ)

562名無しさん@転載は禁止:2021/12/24(金) 20:49:50 ID:TC/rihk.
ペイント

563 ◆WsBxU38iK2:2021/12/25(土) 00:34:55 ID:A.elLJd2
ことり(今埋め込んだマカロンの能力、ペイントが発動するということ)


ことり「よっ」

タンッ

ことり(罠を仕掛けたらもうこの場所に用はない、すぐにレールから飛び降りる)

ヒューーーーーッ




スタッ

ことり「さて、隠れる場所は……あの建物の裏でいいかな」

タタタッ

ことり(さすがにオーディンに気づかれたかな……いや、今はバレてないと信じるしかない)

ことり(コースターが来るまでの間にできるだけレールから離れて、建物の物陰に身を隠す)

ササッ

ことり(ほのリル化も解いて、なるべく気配を断って……)

シュルルル


ことり「……さぁ、どうなるか」



ヒヒィーーーンッ! 

ガタンッ ガタンッゴトンッ! ヒヒィーーーンッ!!


ことり(けたたましい嘶きが段々と近づいてくる)

ことり(漆黒のコースターは大きくコーナーを曲がり直線へ、私が罠を仕掛けた場所へと近づく)


オーディン「ふはははは! いいぞスレイプニル! 爽快だ!!」

ヒヒィーーーンッ!!

ことり(あと10m、5m、1m――――)



パキッ

オーディン「ん?」

ことり(来たっ!)


バキッ バキッバキッバキッ!

バシャァッ!!!!!!


ことり(コースターに轢かれて割れるマカロン、その中から吹き出すのは大量のカラーペイント)  

ことり(それはコースターの勢いで大きく跳ね上がり、コースターの表面とオーディンの体に降りかかる)

ビシャァッ! バシャッ!!!!

オーディン「なっ!?」



ことり(もちろん、このペイントはただの塗料なんかじゃあない)

ことり(このペイントで塗られた対象は>>564)

564名無しさん@転載は禁止:2021/12/25(土) 08:10:51 ID:ibTqPPKk
離れてもどこにいるのかがわかる

565 ◆WsBxU38iK2:2021/12/26(日) 00:11:44 ID:8/cnXVa.
ことり(このペイントで塗られた対象は離れてもどこにいるのか分かる)

ことり「――Tracker Paint Macaron」

ポンッ

ことり(手のひらの上に新しく出現したマカロンはそのまま垂直に浮かび上がる)

ことり(そして私の頭くらいの高さまで来ると、1mほど横に離れて停止した)

スーーッ ピタッ


ことり「……よし」

ことり(このマカロンは私にオーディンの位置を教えてくれる監視衛星)

ことり(浮いたマカロンは私を中心とした軌道上を移動する)

ことり(オーディンのいる方角はマカロンがある直線上、オーディンとの距離は私とマカロンの距離)

ことり(これを使えばオーディンの位置を確認しながら移動することができるはず)


タタタタッ

ことり「さてと……」
 
バッ

ことり(オーディンから離れるように走りながらさっき拾ったパンフレットを開く)

ことり(私の優先目標は変わらない、オーディンの弱点であるお化け屋敷を見つけること)


ことり「ええと、お化け屋敷お化け屋敷……それっぽい名前が見つからないな」

ことり「ホラー○○とか、戦慄〇〇とか、独自の名前が付いてたり?」


ことり「うーむ……」

タタタタッ


ことり(そういえば希ちゃんの話だとオーディンはお化け屋敷の建設に根強く反対してたみたい)

ことり(だとしたら……そう、少なくとも目に付きやすい場所には置かないはず)

ことり(例えばテーマパークの入り口近くとか、人気アトラクションやランドマークの近くとか)


ことり「……ん? 人気のアトラクション?」


ことり「あっ!」

ことり(そうだ、このテーマパークにはメインのアトラクションである駆けよスレイプニルのレールが張り巡らされている) 

ことり(オーディンがお化け屋敷を嫌っていたのなら、そのレールから見える場所にお化け屋敷を置くわけがない)


ことり「レールだ、園内を埋め尽くすように走るレールが通ってない空白地帯を見ていけば――――」

スーーッ

ことり「……あ、あった!」


ことり(園内の端、不自然にコースターが通らない地域にホラーテイストのアトラクションがある)

ことり(その名前は>>566)

566名無しさん@転載は禁止:2021/12/26(日) 18:44:28 ID:Bk2OJK4U
A・ZU・NAの森

567 ◆WsBxU38iK2:2021/12/27(月) 00:12:10 ID:YrEH.iQU
ことり(その名前はA・ZU・NAの森)


ことり「あ……ず……な? あずなの森って読むのかな」

ことり「とにかくここが今考えられる一番の候補だよね、急いで行ってみよう」

タンッ

タタタタッ







──医務室



モニター(ダル子)『おおっと、オーディンとの衝突を間一髪避けた南ことり、一目散にどこかへ向かっています』

モニター(三船)『先程までのような迷いがありませんね、パンフレットに置いていた指の位置から考えるに、これはホラーランドに向かっているのでしょうか』

モニター(ダル子)『ホラーランド、あまり人気のアトラクションは無かったように思いますが……』

モニター(三船)『ええ、何か考えがあるのか、引き続き両戦士の行動に注目していきましょう』


 
海未「ホラーランド……ですか」

海未「となると、ことりはアドバイス通りにお化け屋敷を目指すのでしょうね」

海未「なんでしたっけ、その、あずな……?」


フレイ「A・ZU・NAの森ですね」

海未「ええ、それです」


にこ「ってか、さっきから話聞いてて思ってるんだけど、そのなんちゃらの森はどんなアトラクションなのよ」

にこ「オーディンを讃えるテーマパークに普通のお化け屋敷があるわけでもあるまいし」


ヴァーリ「おばけやしきってなに?」

にこ「あんたは逆に何も話聞いてなかったみたいね」


海未「ええと、そうですね……」

海未(ヴァーリはお化け屋敷すら知らないのですか、西洋の神様に端的に説明するにはどう言ったものか)

海未「……そう、お化け屋敷というのはゴーストやモンスターに襲われるような怖い体験ができる施設なんですよ」

ヴァーリ「こわい? ころされる?」

海未「うーん……怖いけど殺されはしませんね、あくまで娯楽施設ですから」

ヴァーリ「なーんだつまんない」プイッ

海未「ははは……」



フレイ「まぁ、概念的には人類が想像するお化け屋敷とそうかけ離れたものではありませんよ」

にこ「そうなの?」

フレイ「ええ、さすがに森というだけあってアトラクションとしての規模は違いますけど、ヴァルハランドの物は皆巨大なのでそれが売りというわけではないです」


フレイ「A・ZU・NAの森が地上のお化け屋敷のそれとは違う最大の特徴は>>568

568名無しさん@転載は禁止:2021/12/28(火) 08:58:28 ID:gWKo238U
本物を使ってる

569 ◆WsBxU38iK2:2021/12/29(水) 00:39:49 ID:lazyGXXQ
フレイ「本物を使っているという点にある」

にこ「本物?」

フレイ「そう、作り物なんかじゃない、本物のゴースト」
  

にこ「ふーん、本物ねぇ」

海未「それは中々迫力がありそうですね」

フレイ「……おや、本物という点にはあまり怖がらないんですね」



にこ「まぁ幽霊の知り合いなら沢山いるし、今更驚くことでもないというか」

海未「なんなら私は死んで冥界に行ったことだってありますし、私の愛刀も幽霊の取り憑いた魔剣ですから」

フレイ「それは中々……奇想天外な冒険を繰り広げた来たようで」フフッ



にこ「で? まさか本物のお化けが出るからオーディンがビビってるとか言わないわよね」

にこ「あそこまで胆力のあるお爺ちゃんがそんなことでへっぴり腰になるとは思わないわよ」


フレイ「ええ、そうですね」

フレイ「ここに来て貴方たちに説明する必要は無いと思いますが、北欧神話界は他の世界に負けず劣らず争いの絶えない世界です」

フレイ「争いが多いということはそれだけ敵味方問わず死者が多く出るということ」

フレイ「それで終わればまだ良いのですが、今度はその死者をいずれくる戦いの兵としてかき集める始末」

フレイ「死してなお終わらない、戦、戦、また戦、いやはや虚しいことですよ」


にこ「……? つまり何が言いたいのよ」


フレイ「死者に因縁のある者が多いんですよ」

フレイ「自らを殺そうとしたもの、自らが殺したもの、本物のゴーストたちを集めれば当然そういった者たちも紛れ込む」

フレイ「最高神ともなれば尚更、知り合いと出会う確率は多くなるでしょう」


フレイ「つまりですね、オーディンは忌避してるんです、自らが最も出会いたくないゴーストと出会うことを」

フレイ「だからお化け屋敷の建設そのものに反対していたんですよ」



海未「……なるほど、自らのテーマパークにかつて手をかけた敵や忌み嫌っていた相手が住まうのは、確かに良い気がしませんね」

にこ「最も出会いたくない……ねぇ」


にこ「フレイ、もしかしてあんたそれが誰かまで知ってるとんじゃない?」

フレイ「ええ、もちろん」

にこ「ちょっ! だったらそこまで教えてくれたら良かったのに!」

フレイ「いやいや、私はあくまでオーディンの勝ちを願ってますから、そのまでサービスしたらフェアではありませんよ」

にこ「むっ……それはそうだけど」

 

フレイ「まぁ、今なら南ことりに伝える術はありませんし、ここで口にするだけなら構いません」

フレイ「オーディンの最も忌避するゴースト、それは>>570

570名無しさん@転載は禁止:2021/12/29(水) 08:37:31 ID:r11uBFfQ
ユミル

571 ◆WsBxU38iK2:2021/12/30(木) 03:13:10 ID:77PEYmnU
フレイ「それはユミル」

海未「ユミル……あの!?」


フレイ「そう、この北欧神話界の元となった始まりの巨人、ユミルですよ」







────────
────
──




──ヴァルハランドスタジアム




──ホラーエリア


タタタタッ

ことり「なんだか雰囲気が暗いなぁ」


タンッ タタタタッ

ことり(ヴァルハランドの端、ホラーエリアに足を踏み入れてから、辺りはどんどん陰鬱になっていく)

ことり(外灯やイルミネーションは煌々とした発色の良いものから明滅するぼやけたものへ)

ことり(お店やアトラクションなんかも数は少なく、手入れが行き届いてないのか廃屋のようになってる場所も多い)

ことり(全体的に廃れた雰囲気が漂っていて、とてもさっきまでと同じテーマパークの中とは思えない)


ことり「……で、あれが森か」


ことり(ホラーエリアを進むと巨大な森が見えてくる)

ことり(場所はこのエリアの更に端、それでいてエリア全体の1/3を占める広大な面積)

ことり(あれが一つのアトラクションって言うんだから流石に神様のテーマパークは規模が違う)


ことり「よしっ」

ことり(目的地はもうすぐ、今のうちに考えを口に出してこれからの行動を整理しよう)


ことり「まずはあの森に侵入、お化け屋敷に行ってオーディンの弱点を探る」

ことり「そしたらオーディンをおびき寄せ、なんとか有利に戦えるようにする」

ことり「って、なんとか……なんとかかぁ」


ことり(改めて口に出すと、自分で立てた作戦ながらフワフワしたところが多すぎる)

ことり(不確定要素の多い作戦……けれど今はやれることをやるしかない)

グッ


ことり「うん、それと今のオーディンの位置を確認しておいて――――」

ことり(私は走りながら後ろを振り向き、浮いてるTrackerPaintMacaronの様子を見る)

ことり(今、オーディンは>>572)

572名無しさん@転載は禁止:2022/01/03(月) 08:26:27 ID:do3mHQmA
マカロンが仕掛けられていた位置を中心に探索中

573 ◆WsBxU38iK2:2022/01/04(火) 00:40:33 ID:4Wj9vsEo
ことり(今、オーディンは遠く離れてるみたい)

ことり(距離と角度から考えるに……まだマカロンを仕掛けた場所、レールの辺りを中心に探索してる)

ことり(私が森の方に向かってることには全く気付いてなさそう)


ことり「なら今のうちに森の中へ、だね」

タタタタッ







──A・ZU・NAの森


ザワザワ ザワザワ


ことり(森の中は幾くつも重なった葉がテーマパークの灯りを遮り、ホラーエリアより一層暗くなっていた)

ことり(ただひたすらに暗い森を草の匂いと木々のざわめきだけが支配している)

ザッ ザッ

ザッ ザッ

ことり(泥濘んだ地面を踏みしめ、とにかく奥へ奥へと進んでいく)



ことり「それにしても、どこまで行っても木、木、木の同じ景色、ここまで暗いと迷いそうで怖いな」

ことり「さすがに遭難しちゃったらオーディンと戦うどころじゃないし気を付けないと」

ザッ ザッ


ことり「灯り代わりのマカロンと、それから方位が分かるマカロン」

ポンッ ポンッ

ことり「あとは―――」

ザザザザザッ!!

ことり「っ! なに!?」バッ!


ことり「…………」

ことり(私が森の中で使えそうなマカロンを召喚していると、近くの茂みの奥から物音がした)

ことり(トラッカーを確認すると、オーディンはさっきの場所からまだ動いてない)

ことり(つまりは私でもオーディンでもない第三者)


ザッ

ことり「まさかお化け屋敷のある森だからって本物が出たりは……」

ゴクッ



ことり「――ほのリル」バシュッ!

ことり(獣人化して感覚を研ぎ澄まし、一歩ずつ慎重に、音のした方向へ歩みを進める)

グッ グッ グッ


ガササッ

ことり(そして、茂みの奥をそーっと覗いてみると>>574)

574名無しさん@転載は禁止:2022/01/05(水) 10:56:44 ID:g6zAG4MM
私のようなものがいた

575 ◆WsBxU38iK2:2022/01/06(木) 01:01:25 ID:5XKWqGYY
ことり(そこには、私のようなものがいた)


ことり「……え?」


ザッ ザッ

ことり(茂みの向こうは鬱蒼としたこっち側とは打って変わって小綺麗に整えられた空間だった)

ことり(舗装された石畳の道、その脇にはぼんやりと道を照らすガス灯が点在し、遠くには大きな建物の影が見える)

ことり(おそらくは、あれが目指しているお化け屋敷なのだろう)


ことり(だけど、私の目線はその道を歩く私に似た女の子に吸い寄せられていた)


少女?「…………」

カツンッ カツンッ


ことり(外見は私に瓜二つ、ぱっと見年齢もそう変わらない)

ことり(違うところと言えば服装が牧歌的で現代のものとはかけ離れてるところ、そして……)

スーーッ

ことり「体が……透けてる?」



少女?「……!」パッ!

ことり「……っ」ビクッ


ことり(偶然なのか、こちらの気配を何かで察したのか、半透明な女の子と目があってしまう)


少女?「お客様ですね、A・ZU・NAの森へようこそ」

ことり「…………」

少女?「そんな茂みの中でどうかされましたか? お屋敷はあちらですけど」  

ことり「ああ、いや……うん」

ガサッ


ことり(女の子の毒気のない純粋な雰囲気に吸い寄せられるように私は茂みから出る)

ことり(敵意は無さそう、言い回しからしてここのキャストさんなんだろうか)



ことり「驚かせたならごめんね、ちょっと道に迷っちゃったんだ」

ことり「A・ZU・NAの森のお化け屋敷っていうのはここで合ってるのかな」

少女?「はい、そうですよ、屋敷までご案内しましょうか?」

ことり「うん、お願い」


少女?「では早速……っと、いけない、その前に自己紹介ですね」

クルッ

少女?「私はこの森のゴーストで、名は>>576

576名無しさん@転載は禁止:2022/01/06(木) 11:09:10 ID:ykFkLXPQ
コトーリ・サウスバード

577 ◆WsBxU38iK2:2022/01/07(金) 15:51:43 ID:gTvX8fBs
少女?「名はコトーリ・サウスバード」

少女?「コトーリでもサウスバードでも好きな方でお呼びください」ペコリ

ことり(半透明の女の子はそう自己紹介をすると丁寧にお辞儀をする)


ことり「分かった、じゃあ……サウスバードって呼ぶね」

ことり(コトーリは身内にいるから被るとややこしいし)


ことり「私は南ことり、今このヴァルハランドはラグナロクのスタジアムになってて……」

サウスバード「はい、私たちゴーストにも通達はあったので知っています」

サウスバード「それでも訪れてくださったのであればお客様、ご案内いたしましょう」


ザァァァァァァッ

ことり(サウスバードの優しい笑みと共に森の木々が風によって揺らめく)


サウスバード「私たちの主人の待つお屋敷――A・ZU・NA屋敷へ」



────────
────
──







──コースター付近


タンッ


オーディン「ふむ……」


オーディン「あらかた調べ終わったが、どうやらこの塗料からは微弱な波動が出ているようだな」

オーディン「それも我に対して害を成すようなものではない、となれば波動を受信して我の位置を探るのが目的だろう」

オーディン「しかし……それはそれで妙な話だな」


スタ スタ

オーディン「先程からこうしてわざと無防備に身を晒しながら近場を歩いているというのに、やつが攻撃を仕掛けてくる気配がない」

オーディン「てっきり周囲に身を隠しながら我の位置を特定し不意打ちを食らわす策かと思ったのだが……」


タンッ

オーディン「まさかこの我が気配を感知できない場所まで一目散に逃げたか?」

オーディン「確かに時には撤退も有効な戦術だが、このラグナロクに制限時間がある限り逃げ続けることはできない」

オーディン「何よりヴァルハランドの知識のない者が園内をいくら駆け回ったところで、我を打倒する新たな手立てなど沸いてこないはず」


オーディン「ではいったい……?」


オーディン(迷いのない、しかし不自然な対戦相手の行動)

オーディン(それに対し、我が為すべきことは>>578)

578名無しさん@転載は禁止:2022/01/11(火) 22:10:50 ID:Ec9izkpk
フギンとムニンの力を使い逆探知

579 ◆WsBxU38iK2:2022/01/13(木) 00:13:46 ID:J2Lb9o8Q
オーディン(我が為すべきことは……)


オーディン「フギン! ムニン!」

パチンッ!

オーディン(指を鳴らすと何もない空間から2羽のワタリガラスが出現する)

バササササササッ!

オーディン(その鴉はすぐに形を変え、背中に羽を生やした天使のような姿を取る)

フギン「はいはーい」

ムニン「どうしたの?」


オーディン「この絵の具から使用者の位置を逆探知したい、できるか?」

フギン「わー、いつになく真剣な顔してるね」

ムニン「真面目ー、眉間にシワがぐぐぐっとよってるー」

オーディン「いいから答えろ」


フギン「うーん……そんな犬みたいな真似は好きじゃないんだけど」

オーディン「けど?」

フギン「オーディンが真面目に頼むのは珍しいことだし、特別にやってあげる」

ムニン「あげるー!」

オーディン「ならば迅速にだ」



フギン「わかった、ムニン、塗料の性質を記憶できる?」

ムニン「はーい……」ペロッ

オーディン(ムニンが絵の具に舌をつけると、羽の色が絵の具と同じ色へと変化した)


ムニン「うん、甘い味、甘い匂い、覚えた、そっちに共有するね」

フギン「おっけー」キュインッ

オーディン(ムニンの採取したデータが2人の間で共有されると、フギンは素早く飛び立ち鴉の姿へと戻る)


バサササッ

フギン「じゃあこの性質の持ち主を探しに行ってくるよ、見つけたらムニンを通して教えるからー!」

オーディン「ああ、頼んだ」


バサッ! バサッ!

オーディン(普段は世界中を飛び回りその目と耳で情報を集めるフギンのことだ、この園内程度の広さならすぐに探知するだろう)


オーディン「さて……」ググッ

ムニン「ん? 何かするの?」


オーディン「ただ待ってるというのも無駄であろう」

オーディン「位置を特定した時にすぐに打ち込めるよう、術式を練っておこうと思ってな」

ブォォォォォンッ
 
ムニン「おお、大きな魔法陣だ」



オーディン「くくっ……このオーディンから逃げ切れると思うなよ、小娘」


──
────
────────





580 ◆WsBxU38iK2:2022/01/13(木) 00:14:21 ID:J2Lb9o8Q




──A・ZU・NAの森


ザッ ザッ

ザッ ザッ


ことり(どのくらい歩いたのだろうか、辺りは木々に覆われ薄暗く、目の前を歩く女の子の持つランプが石畳の道を照らしていた)

ことり(道の両脇にポツポツと置かれているガス灯は迷い込んだ人間を奥へ奥へと誘い込むように妖しく揺らめいていて、森の深くへ進んでいくほど時間と場所の感覚が曖昧になっていく)

ことり(一本道ではあるはずなのに、一人で来た道を引き返す自信がまるでない)

ことり(案内人を見失った途端、森に取り込まれてしまいそうな、何とも言えない不安が心中に広がっていくのを感じる)


ことり「……あの、あとどれくらい」

サウスバード「着きましたよ」

ことり「え?」


ことり(着きました、と言われても私には何も見えない)

ことり(サウスバードが指差す先にはただ一面の闇が広がっているだけだ)


サウスバード「ほら、あなたにも見えるはず」カチャッ

フッ

ことり(サウスバードは持っていたランプを顔の高さまで持ち上げ、優しく息を吹きかけた)

ことり(その途端、何故かガラス越しの炎が大きく揺らめき、炎の端が細かい粒子となってガラスから外へと流れ出した)

サァァァァァァァァァァッ

ことり(赤と橙と金が混ざった曖昧な光の粒)

ことり(それらが闇を優しく撫でると、カーテンが開かれたように景色が変わり――)


バッ!!

ことり「わっ……!」


ことり(目の前に巨大な屋敷が姿を現した)


サウスバード「……ね?」

ことり(狐につままれる、というのはこんな感覚なんだろうか)

ことり(アワアワしそうになる心をどうにか落ち着かせ、目の前の屋敷に目を向ける)


ことり(その屋敷は>>581)

581名無しさん@転載は禁止:2022/01/25(火) 15:02:14 ID:jugrYWuE
水晶のようなものでできていた

582 ◆WsBxU38iK2:2022/01/26(水) 00:19:04 ID:/MFoJoMc
ことり(その屋敷は水晶のようなものでできていた)


ことり「綺麗……」

ことり(素直な感想が思わず口をついて出る)

ことり(屋根や壁、扉や柱、あらゆるものが青白い水晶で形作られた建造物は、周囲のガス灯の光源と相まってより一層幻想的な雰囲気に包まれていた)

ことり(ここが戦いの場だということを一瞬忘れてしまうような、そんな光景)


ことり「いつの間に……さっきまであんな屋敷なかったよね」

ことり「幻術か、結界か、それとも……」 

サウスバード「ふふふ、ちょっとした余興、お客様に愉しんでもうためのサプライズですよ」

サウスバード「そこまで深く考えることではありません」

スッ

サウスバード「さぁ、顔を上げてこちらへ――」

ことり「う、うん」



ことり(サウスバードに促されるようにして、私は水晶の屋敷の大きな扉へと近づいていく)

ザッ ザッ


サウスバード「このA・ZU・NAの屋敷は主人によって建てられたものです」

ことり「え? このテーマパークに初めから建ってたものじゃないの?」

サウスバード「はい、A・ZU・NAの森とお化け屋敷というコンセプトは最初からありましたが、肝心のオーディン様があまり乗り気ではなかったんですよ」

サウスバード「それ故、森の中は口出しされない反面、これといった開発計画もなく、オープンしてからも手付かずだった場所が多いのです」

サウスバード「そんな中で私たちの主人が直接指揮を取って作り上げたのがこのA・ZU・NAの屋敷というわけです」

ことり「へー」

ザッ ザッ


ことり(オーディンが最後まで作るのに反対していたエリアでそんなことをする偉い人か)

ことり(なんかどんな人なのか気になってきたなぁ)


ことり「ねぇ、サウスバードたちのご主人様って……どんな人?」

サウスバード「主人ですか?」

ことり「ああ、人というか、神? 精霊? 幽霊? なんて言えばいいか分からないけど……」

サウスバード「ふふふっ、そうですね、主人も私たちと同様にゴーストです」

サウスバード「A・ZU・NAの森を統率するマスターゴースト、その名をユミル」

ことり「ユミル……」


サウスバード「ゴーストになる前は巨人だったと聞いていますよ」

ことり「巨人かぁ」


サウスバード「ええ、そしてユミルがどんな人かと簡潔に言うのであれば……>>583

583名無しさん@転載は禁止:2022/01/30(日) 23:12:26 ID:u1Gidjfo
多分想像してるより小さい

584 ◆WsBxU38iK2:2022/02/01(火) 00:42:17 ID:SUPF15w.
サウスバード「多分想像してるより小さいかと」クスッ

ことり「え?」








──ヴァルハランド・中央エリア



ピクッ

ムニン「オーディン様、フギンが見つけたみたいだよ」

オーディン「ほう」


オーディン(コースターのレールの上、隣に立つムニンが口を開く)

オーディン(その指差す先に見えるのはヴァルハランドの一画に広がる忌々しき黒い森)


ムニン「あの絵の具の匂いの持ち主は森にいるっぽい」

オーディン「A・ZU・NAの森か……はぁー」

オーディン(無意識に深いため息が出る)


オーディン(何処かで知ったのか、知らずに迷い込んだのか、あの森は“やつ”の支配下にある)

オーディン(勝負の場とは言え、攻撃を加えればやつが反撃してくるのは自明の理)

オーディン(やれやれ……此処に来てあの森が邪魔をしてくるとは、あんなものはさっさと焼いておくべきだったな)


ムニン「どうする? もうちょっと詳しい位置まで特定する?」

オーディン「いや、それには及ばん」

スッ


オーディン「ムニン、我から離れていろ、フギンも同様に森から遠ざけろ」

ムニン「あー、なるほど、おっけー」

バサッ バサッ

オーディン(ムニンは我の行動を察し、その場から後方へと飛び立つ)


オーディン「ふんっ!!!!」

カッ!!!!

オーディン(一歩前に踏み出し、体に力を込めると、足元に展開していた魔法陣が光輝く)

オーディン(そして魔法陣へかざした手に吸い込まれるように、陣から一本の槍が姿を表す)

スーーッ


ガシッ!

オーディン(逆手に掴んだ槍を上段に構え、投擲の姿勢を取る)

ギリッ ギリギリッ

オーディン(全身の筋肉が軋むほど力を込め、その槍を――――)


ブォンッ!!!!

オーディン(投げる!!!!)


ゴッ!!!!

オーディン「ゆけ、グングニル」



オーディン(我がグングニルは万能たる槍にして魔術の増幅器)

オーディン(刻まれたルーン文字により如何様にもその姿を変え神敵を殲滅する)


オーディン(その証左、空を切り裂き森の上空へと達した槍は、>>585となって森へ襲いかかる)

585名無しさん@転載は禁止:2022/03/12(土) 14:14:43 ID:tnu2qXtA


586名無しさん@転載は禁止:2022/03/14(月) 00:11:57 ID:tXt5y5L2
オーディン(“私”となって森へ襲いかかる)

カッ!!


ドドドドドドドドドドドドドドド!


ムニン「わっ! 槍が森の真上でたくさんのオーディン様に分裂した!」

オーディン「『ᚨ(アンスール)』、それは私、つまり神たる我を意味するルーン文字だ」

ムニン「おぉー」


オーディン「さぁ、どうする南ことりよ、貴様の頭上から降り注ぐのは1つ1つが我の分身と言っても過言ではない存在」

オーディン「その身で神域の魔術を解くと味わうがよい!」






587名無しさん@転載は禁止:2022/03/14(月) 00:12:34 ID:tXt5y5L2


──A・ZU・NAの屋敷、エントランス前



サウスバード「ではこちらへどうぞ」

ガチャッ

ことり(……と、サウスバードが水晶の屋敷のドアに手をかけた瞬間だった)


ことり「……っ!」ドクンッ!!

ことり(瞳孔が開き、全身の毛が逆立ち、鼓動と血流が加速する)

ことり(生物的な本能が訴える危機に、私は無意識に戦闘態勢を取っていた)

バッ!

ことり(そして、視線は自然に空への水困らるように動く)


サウスバード「どうしました、急に空を見上げて――――」

ことり「来る!!!!」


カッ!!

ことり(遥か森の上空で閃光が瞬くと、そこから多数に分裂した影が投下される)

ことり(数はぱっと見20〜30、透過されたのは矢か、槍か、爆弾か、はたまた魔術か)

ことり(いや……違う、あの大きさと形は……)


ヒュォーーーーッ!


ことり「オーディン!?」

ことり(思わず自分の目を疑ったけど間違いない)

ことり(30近い数のオーディンが森へと高速で降下して来ている)


ことり「……っ!」

ことり(一人でさえ手をこまねいていたのに、いきなりこんな数で攻めてくるなんて)

ことり(でも、こうなったらやるしかない……!)


サウスバード「お客様!」

ことり「サウスバードさんは中に避難してて!」

バッ!

ことり(ほのリルで獣化、マカロンと焔ノ力を発動、とにかくありったけで迎撃をするしかない)


ことり「はあああああああっ!!」

ドンッ!! ドンッ!!

ことり(焔ノ力で強化したマカロン砲を空に向けて放ち、降下してくるオーディン軍団を撃ち落とす)

ギィンッ! ゴンッ!! ガンッ!!

ことり(1体、2体、3体……ダメ! 全然迎撃が間に合わない!)



ヒューーーーッ ヒューーーーッ ヒューーーーッ

ドドドドドンッ!!

ことり「……っ!」

ことり(屋敷の前の開けた空間、そこに降り立つ筋骨隆々のオーディンたち)

ことり(その目は獲物を狙うハンターのように私に注がれている)


ことり「もう、作戦を練る時間も与えてくれないんだからっ!」グッ!!

槍オーディン「うおおおっ!」ダンッ!

ことり(一番近いオーディンが拳を振り上げ襲いかかってくる)


ギィィィンッ!!

ことり(交差するオーディンの拳と獣人化した私の爪)

ことり(槍から生まれた槍オーディン、その1体1体の力は、私と比べて>>588)

588名無しさん@転載は禁止:2022/05/21(土) 20:32:36 ID:zY8K32bQ
強いのと弱いのが入り混じってる

589名無しさん@転載は禁止:2022/05/25(水) 01:17:18 ID:NJYr/VGw
ことり(私と比べてそこまで強くなさそう)

ことり(真っ先に襲いかかってきた槍オーディンの拳は私の爪より柔らかいし、突きを繰り出す挙動も目で追える)

ことり(これなら多少数が多くても――)

ヒュンッ!!!

ことり「……え?」


ゴンッ!!!!

ことり「うぐっ!!」メリメリッ


バンッ!!!!

ことり「がはっ!」

ことり(一体目の槍オーディンを切り裂いた瞬間、背後から背中にめり込むような衝撃を加えられ、私はそのまま地面へと叩きつけられた)

ことり「な、なにが……げほっ」


ことり(すぐに立ち上がり、辺りを確認すると、そこには二人目の槍オーディンが立っている)

ことり(そうか…私が一体目と交差した瞬間、二体目が瞬時に背後に周り込み、死角から背中を殴りつけたんだ…)


ジリッ

ことり(見えなかった、目で追えなかった、一体目と二体目では……いや、この槍オーディンたちは皆強さが違う?)


槍オーディン1「はっ!」ダンッ!

槍オーディン2「はっ!」シュッ!

槍オーディン3「はっ!」ゴッ!

ことり「くっ……やっぱり!」


ことり(今度は更にもう1体加わって、3体が同時に襲いかかってくる)

ことり(同時……だけど、個体ごとに速度、構え、体から溢れる闘気の強さに明確な差がある)

ことり(見た目が全部同じなのに強いのと弱いのが入り混じってるなんて、これじゃ……)


ゴッ!!

ことり「ふぐっ……!」

ガンッ!! バキッ!! ゴッ!!

ことり「がっ! ぐっ! あぐっ……!」


ことり(弱く遅いオーディンから片付けようとすると、意識の外から強く早いオーディンに刈られる)

ことり(逆に強く早いオーディンを警戒してタイミングを読んで反撃しようとすると、弱く遅いオーディンにタイミングをずらされ隙を作ってしまう)

ことり(まるで豪速球とスローボールを巧みに投げ分けられてるような感覚)

ことり(ほのリルの身体強化を持ってしても戦いのリズムが全く掴めない)



バッ! ザザザッ!

ことり「ぐっ……!」


ことり(ダメだ、捌き続けてるだけじゃジリ貧になる、こっちから反撃して状況を変えないと)

ことり(とは言え、これだけ多くの槍オーディンに囲まれてたら時間のかかる大技を放つ余裕はない)

ジリッ

ことり(こうなったら、>>590)


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