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>>2「>>2の3分クッキングの時間だよ!」 PartⅩⅩⅧ

1 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:12:06 ID:Ye6lfww6
安価スレのようなそうじゃないよう
なSSスレ


前スレ(ⅩⅩⅦ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1556555843/

前前スレ(ⅩⅩⅥ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1531398039/

前前前スレ(ⅩⅩⅤ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1520423523/

前前前前スレ(ⅩⅩⅣ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1513250979/

前前前前前スレ(PartⅩⅩⅢ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1507460469/

前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅡ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1501931181/

前前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅠ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1496660857/

前前前前前前前前スレ(PartⅩⅩ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1491735745/

前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅨ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1487495156/

前前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅧ(再々))
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1486897355/

220 ◆WsBxU38iK2:2020/09/21(月) 00:20:20 ID:LWNLFBM.
希(アスセスするには……今いる場所の下に行く必要があるな)

ピッ ピッ

希(判明した主砲のある区画は重力制御室と重なっていて、一番下の層の外側、つまりは宇宙スタジアムの底面にあるらしい)

希(念の為マップを立体マップに切り替え拡大、複数の角度から確認してみる)

希「……うん、確かにここやな」トンッ


希「真下ってことはこの辺りの床下に何かあるんやろうか……?」

希「ま、とりあえず手当り次第探してみるしかないか」

タンッ

スーッ

希(うちはモニターのついてる機材に足をつけ、そのまま踏み込んで床や水平に飛び、一旦重力制御室の入り口まで戻る)

希(扉から顔を出して覗いてみると、案の定壁際に置いていた宇宙服は宙を漂っていた)

希(うちはそれを掴み取って引き寄せ、なんとか空中で着込んでいく)

グイッ ググッ

希「よっと……これがこうなって……これがここに来るんか……?」

カポッ キュッ

希(主砲がスタジアムの外にあるのなら宇宙空間で活動することだって考えられる)

希(移動手段を見つける前に着ていたほうが色々都合は良いだろう)


希「よっし、着れた着れた」

タンッ スーッ

希(宇宙服を身に纏い、再び重力制御室の内部へ)

希(何か下へ繋がる通路がないか、床を中心に目を凝らして辺りを観察する)


希「そう広くはない部屋だし、何かあるならすぐ気づきそうなんもんやけど――――」

キョロキョロ

希「お」

希(部屋の角、注意して見ないと分からない箇所にハッチがついている)

希(殆ど床と同化していて見つけづらい……大きさは人間一人が通り抜けられる程度の幅)

キュインッ!

221 ◆WsBxU38iK2:2020/09/21(月) 00:20:33 ID:LWNLFBM.
希(当然鍵はついてたけど、この程度のロックなら砂鉄ブレードを滑り込ませれば切断できる)


希「ふぅ……全部これで解決すれば楽なんやけど、床をやたらめったら切り刻むと主砲関係の重要な配線とか切る可能性あるからなぁ」

希「こういうシステム中枢に近い場所だと確実に余計なものを切らない箇所にしか使えないんがちょっと息苦しいわ」

グイツ パカッ

希(ハッチを開いて一個下の階層へ体を滑り込ませる)


希(そのまま下の部屋へ着地……っと)

スタッ


希「ここは……主砲の制御室か」

希(上の重力制御室と似た作りで、正面には巨大なモニターが一個、なにもない宇宙空間を映している)

希(その手前にはボタンやレバーが多く取り付けられた装置が置いてあり、装置の傍らにひとまとめにされた書類の束が置いてあった)

希(説明書……主砲の制御マニュアルか何かか?)

スッ

パラララララッ

希「やっぱりな」


希(大事なマニュアルがこんな不用心に置いてるのはどうなん……って感じはするけど、ここは決戦用に作られたスタジアムや)

希(重力制御や主砲が運営が想定して作ったギミックなら、うちらに扱えるようにマニュアルがあっても不自然やない)

パラララララッ


希「なるほど、主砲の角度はこのレバーで、狙いをつけるにはこっちのレバーを使えばいいんやな……ふむふむ」

希「そんで肝心の主砲を起動状態にするには……>>222

222名無しさん@転載は禁止:2020/09/21(月) 08:43:15 ID:a5odFlYA
自分のエネルギーを注ぎ込む

223 ◆WsBxU38iK2:2020/09/22(火) 00:34:30 ID:tvI2vgzo
希「そんで肝心の主砲を起動状態にするには……って何やこれ! 宇宙スタジアムの動力炉からエネルギーパイプが主砲のタンクまで繋がってないやん!」

希「照準の制御なんかは今いる制御室で出来るけど、エネルギーの供給はどうやっても無理そうやな」

希「別のページか? ええと注入、エネルギーを注入するには――――」

パラララララッ

希「なっ! 直接!?」


希(そこに記載されていたのは、主砲を起動状態にするには外に出て直接主砲のタンクにエネルギーを注ぎ込まないといけないということ)

希(さらに注ぐエネルギーは戦士自身の生命エネルギーだということだ)


希「これは事前に宇宙服を着てきて正解だったようやな……」

パラララララッ

希(マニュアルに目を通し一通り発射までの全体の流れを確認する)

希(まず照準、これは予め上の制御室で砲撃目標を定めることが可能で、一度セッティングすれば後は自動照準してくれるらしい)

希(それが終わったら主砲制御室から直通のエアロックから外に出て主砲のエネルギー貯蔵タンクへ)

希(タンクに取り付けられた生命エネルギー転送モジュールからエネルギーを注ぎ込んで発射ボタンを押せば主砲が発射される)


希(この形式のメリットはエネルギーがある限り何度でも発射が可能なこと)

希(デメリットは宇宙空間での活動を強いられることと、使用者自身からエネルギーが奪われてしまうこと)

希(一発の発射でどれだけ持っていかれるか具体的には分からんけど、人間1人のエネルギーでそう何度も打てるもんやないやろう)

希(あまり打ちすぎると今度はガス欠になったうちがピンチになってしまう)


グッ

希「せやけど……今はこの主砲を使う以外に道がない」

希「ガス欠したらそこまでや! うちの全力をぶちこんだる!」

カタタタタッ ピピピッ!

希(制御室のコンソールを叩き、目の前のモニターで照準をあわせる)

希(目標は当然、スタジアムの一区画と一体化したヘイムダム!)

グィーーーーンッ

希(主砲上部に搭載されてカメラが主砲と共に動き、スタジアムの8時方向へ砲の先を向ける)

ガチャンッ!


希(ヘイムダムは超重力であそこに押さえつけてるはずやけど……今の様子は>>224)

224名無しさん@転載は禁止:2020/09/23(水) 00:16:23 ID:/rLp8MTs
まだ大きな変化はない

225 ◆WsBxU38iK2:2020/09/24(木) 00:05:09 ID:8RvzWc.U
希「……変わらず、か」

希(大きな変化はなく円形通路にすし詰めになってくれてるヘイムダムを見てほっと胸をなでおろす)


希「正直安心できる要素なんてアレには無いけど、動かずにいてくれるなら好機」

希「今のうちに主砲を発射させてもらうで!」

ピッ ピッ ピピピッ


タンッ!

希(制御装置で狙いを定めてロックオン)

希(そのまま装置を離れて壁際のエアロックへ飛び移る)

タンッ

希(内側の機密扉を開いて中へ)

ピッ ブシューーーーーッ

希(さらに外側の気密扉を開けば……そこはスタジアムの外)

ブィーーンッ ガシャンッ



希「宇宙空間……ってわけやな」



希(目の前に広がるのはどこまでも続く漆黒の空間)

希(うちら人間の知る太陽系の宇宙とは違う、ヴィーグリーズの一地域に存在する大気のない無重力地帯)

希(ま、場所が違うと言ったって理屈は似通ったもんやろう、命綱もなしに放り出されたら戻ってくるのは簡単やない)

カチャンッ!

希(外へ出る扉の取っ手に宇宙服から伸びるロープの先の金具を引っ掛けて固定させる)

グイッ

希「よしっ……」


希(扉から顔を出し、宇宙服のメット越しにスタジアム中央の底に取り付けられた砲台を見据える)

希(大丈夫……ここから真っ直ぐ飛べば問題ない)

希(最悪ルートが外れても命綱があるし、宇宙服の推進剤や気の放出で移動することはできる)

希「ふぅ…………」


希「よっ!」タンッ

希(一瞬の集中の後、扉を蹴って主砲まで一気に宇宙空間を移動する)

希(周囲に何も支えになるものがない、暗黒の世界へ飛び込む恐怖)

希(蹴り出した力だけでうちの体は前へ前へと進んで行き――――)


トンッ

希(主砲の後部、エネルギー貯蔵タンクの側面へと無事に着地した)

226 ◆WsBxU38iK2:2020/09/24(木) 00:05:24 ID:8RvzWc.U


希「はぁ……緊張するなぁ」

希「いや、ここからが本番や、気合を入れ直さんと」

希(主砲の角度は上で設定してきた自動制御システムにより既にヘイムダムに合わせて固定されてる)

希(あとは今張り付いてるタンクの蓋を開けてエネルギーを注ぎ込むだけ)

 
希「蓋……蓋は……おっ、ここやな」

ガポッ

希(探していた蓋は案外小さく、開いてみると中は車のガソリンを入れる給油口のような構造になっていた)

希(口径はちょうど人間の腕が一本入るくらいの大きさ、穴の横には注入と書かれたボタンとメーターが取り付けられている)

希「なるほどねぇ、分かりやすいことで……」スッ


希(躊躇ってる暇はない、右腕をその穴に突っ込みすかさず注入ボタンを押す)

ポチッ

希「さぁ、どんだけ持っていかれるか分からんが……あのヘイムダムを倒せるなら持ってけるだけ持ってけ泥棒!」

キュィィィィィィィィィィンッ!!


グンッ!

希「うぐっ……!」ガクンッ

希(数秒の待機音の後、生命エネルギーの注入が開始されると一気に体を負荷が襲う)

希(なんやこれ、採血で一気に血を抜かれた時みたいな……いや、それよりもっと大きな……)

グゥゥゥゥゥンッ!

希「……っ!」


希(意識を持っていかれないよう、必死に生命エネルギーを奪われる感覚に耐え続ける)

希(目の前のメーターを見るに、満タンまで入れた場合に消費するうちのエネルギー量の割合は>>227)

227名無しさん@転載は禁止:2020/09/24(木) 08:40:58 ID:1.Sl5xzA
11割

228 ◆WsBxU38iK2:2020/09/25(金) 00:17:07 ID:JFy/3qBA
希(エネルギーの割合は……11割!)

ギュィィィィィィィンッ!!

希「ぐっ……!」


希(うちの全生命力を注ぎ込んでもなお1割足りない)

希(充填率を減らせばうちがすっからかんになる事は避けられるけど……)

ブンブンッ

希(……いや、ヘイムダムは手加減して倒せる相手やない)

グッ

希(ここは本気の本気、フル充填の主砲でヘイムダムを撃ち抜く)

希(そのために――――)


希「はっ!!!!」

希(全身の気を一点集中! サイヤ人じゃまだ足りひん……サイヤ人を超えるサイヤ人のパワーを引き出す!)

ゴッ!!

希(もっと、もっと強く、サイヤ人2、サイヤ人3、サイヤ人4、その先へ)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

希「よっし……こんなもんでどうや!」


キュィィィィィィィィィィンッ

希(超サイヤ人化することにより素の形態より多くの生命力を生み出すことができる)

希(この状態なら主砲をフルパワーで撃ってもうちが枯れ果てて死ぬことはない)

希(その後の反動はかなりきついだろうけど……倒した後なら問題ない!)


希「いくで! うちの生命エネルギーフルパワー! 充填率100%の宇宙スタジアム主砲!」

コォォォォォォォォッ

希「発射や!!」

ドンッ!

希(左手で握りこぶしを作り発射ボタンを思いっきり叩く)


ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

希(タンクに充填されたうちの生命エネルギーが主砲の各部に行き渡り、砲身に光の線が走って輝き出す)

希(その砲身が狙うのはスタジアムと同化したヘイムダム!)


希「いっけぇぇ!!」

カッ!!!!

希(暗黒の宇宙を切り裂くように一本の光の線が走った)

希(砲身の先から伸びたその光は宇宙スタジアム外周の円形通路を中に詰まったヘイムダムごと撃ち抜く)

キュインッ!



ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!

希(一瞬の静寂の後に訪れる大爆発)

希(そして撃ち抜かれたヘイムダムは>>229)

229名無しさん@転載は禁止:2020/09/25(金) 00:34:11 ID:vId.pPUY
コアヘイム玉だけが残った

230 ◆WsBxU38iK2:2020/09/26(土) 00:35:48 ID:zvhKpbys
希(そして撃ち抜かれたヘイムダムの肉体は爆発四散)

希(周囲の宇宙空間に大量の千切れ飛んだ白い塵とスタジアム通路の瓦礫が散乱する)


希「やっ……たか……はぁ……はぁ……」

グッ 

希(対するうちも生命エネルギーをギリギリまで注ぎ込んだせいで体力をかなり持っていかれた)

希(今すぐ横になって気を失うように寝たい衝動にかられるけど……ヘイムダムの敗北を確認するまで気絶するわけにはいかん)

ブンブンッ

希(頭を振って意識を保ち、肉の塵と鋼鉄の残骸が漂う空間に目を凝らす)


希(あの様子を見るに暴走したヘイムダムの中身は自己増殖系、塵一つでも残っていれば再生する可能性は否めん)

希(せやけど何の細胞にだって核となるものは存在する)

希(先に奪ったヘイム玉が形を保つための器官なんただとしたら、体を増殖しるための器官――コアのようなものが体に残ってるはずや)

ジーッ


希「コア……核……丸いもの……」

希(大きさはヘイム玉と同じなら手のひらに収まるサイズのはず)

希(主砲の直撃で蒸発したり、爆発の勢いで吹き飛んでないなら、まだあの辺りを漂ってるはずなんやけど……)


スゥーッ スゥーッ

希「……ん? なんや?」

希(砲撃地点を漂う無数の白い塵、それに僅かやけど謎の動きが生まれてる)

希(一見風で塵の塊が揺らめいてるように見えるけど宇宙空間に空気はない、ってことはあれは自発的な動き)

希(もしコアが残っていて、塵がそこに集まろうとしてるのなら……)

希「……はっ!」


希「あの塵が動く先にコアがある!」

バッ!

希(瓦礫の山に惑わされるな、塵の微かな動きに注目するんや)

希(一粒一粒は本当にゆっくりと、ナメクジが歩くみたいな速度で一方向に動いてるだけど、全体を見れば話は別)

希(上下左右前後、あらゆる場所に散らばった白い塵、各場所のベクトルを伸ばして重ね合わせれば――――)


希「あった! あれがコア、コアヘイム玉やな!」

サッ!

希「引き寄せるで――奇跡掌握ワシワシ!」

シュンッ!!


パシンッ!

希(左手の手のひらに伝わるドクドクと脈打つ玉の感触)

希(肉体は滅んだけど、やっぱりこのコアはまだ生きてるみたいやな……)
 

希「それならこの玉を……」

タンッ

希(玉を掴んだまま気密扉へ戻り、制御室の中へ入る)

ガシャンッ ブシューーッ ガシャンッ


希(そして中に置いてたリュックを乱暴に開き、渡してもらったアイテムの1つ、神鎮めの水入りの容器を取り出す)

ガバッ! ガサゴソッ パッ!!

希「こうして、神鎮めの水に入れて封を閉めれば――――」ポンッ

キュッ!!


希「どうや!!」


ブルッ ブルッブルッ

希(水に入れられたコアヘイム玉は容器の中で弱々しく震えている) 

希(その震えは時間と共に段々と小さくなって行き、やがてピタリと動きを止めると>>231)

231名無しさん@転載は禁止:2020/09/26(土) 10:11:05 ID:uIWOrXCk
ため込んだ啓蒙を周囲にまき散らして消える直前ゲームセット

232 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:36:46 ID:dxA/fypA
希(やがてピタリと動きを止めると……)

ボフゥアッ!!

希(水の中で何か黒い煙のようなものを吐き出す)


希「なっ!!」

希(コアヘイム玉から撒き散らされるそれは水中に落とした墨汁のように広がる)

希(ヘイムダム由来なら神の力、本来なら神鎮めの水で浄化されるはずなのに……黒い煙の拡散は止むことを知らない)

ボフゥアッ! ボボボボボッ!!

希(煙はまたたく間に神鎮めの水を黒く染め上げ、それどころか容器を貫通して外へ漏れ出そうとしている)


希「はぁ……ぐっ……」

ガクンッ

希(急に立っていられなくなり、容器を抱えたまま思わず膝をつく)

希(この症状……間違いない、溢れ出したヘイムダムの肉を目視した時と同じや)

希(濃縮された原液に近い神性、人の脳の許容量を越えた啓蒙、神鎮めの水でさえ希釈できない力)

希(おそらくコアに残っていたそいつを、最後の抵抗で周囲に撒き散らしとるんやろう)


希「ぐっ……はぁ……」

希(せやけど、所詮こいつは肉体を失ったコアにすぎない)

希(もう増殖できないのなら神の力を放てば放つほどコアからは力が失われていくはず)

希(だったら最後の我慢比べや……!)

ガッ!

希(蓋を強く抑え、抱え込むような姿勢を取る)


希「ぐっ……悪いな、あんたはワンチャンうちが耐えきれず離れるのを狙っとるんやろうけど……そう簡単には手放さんで……」


希「これはうちの精神がやられて気を失うか、あんたが力を使い切るかの勝負や……はぁ……うぐっ……」


希「ほら、どうした……言うてるそばから段々力が弱まってきたんやない?」


希「心なしか水中の煙の量も、煙越しに透けて見えるコアの大きさも小さくなってきたで……」


スゥーーッ


希「ほら……これ……もう……消えかけ……」



希(我慢比べから何秒経ったのか、意識が朦朧としてるうちには分からない)

希(確かなのは水中にあった黒い煙は殆ど消えて、コアが豆粒ほどの大きさになっていることだけ)

希(もうコアに何かを振りまく力は残っておらず、今にも消えそうなほど弱々しい)

233 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:37:20 ID:dxA/fypA
フラッ

希(これで……完全に無力化……できたか……)

希(でもあかんな、うちも意識が……途切れ……)



ビーーーーーーーーーッ!!!!

希「……はっ!」

希(気絶しかけたその瞬間、スタジアム内に大きなブザー音が鳴り響いた)



ダル子『ゲーーーームセット!!』


ダル子『ヘイムダムの戦闘続行不能を確認! これによりラグナロク決戦第一回戦は穂乃果チーム、東條希の勝利となります!!』

ダル子『両者その場から動かず転送をお待ちください!』


希「勝……った?」


バタンッ

希(力が抜け、思わず背中から仰向けに倒れ込む)


希「はぁ……ふぅ……」

希「予想外な相手で苦戦したけど……まぁ何とかなったってことやな」


希(生命エネルギーはすっからかん、頭はガンガン痛いし吐き気はするし、今にも気絶しそうなくらい疲労困憊)

希(いまいち実感沸かへんけど、何はともかく――――)


ダル子『転送まで……5、4』

キィィィィィィィンッ!

希(転送魔法陣の光の中、仰向けで宙に浮かびながら、うちは拳を高く突き上げる)



希「勝ったで! みんな!」



─────────────────

宇宙スタジアム

PM3:05〜3:25 反逆の焔編『10』了

234 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:38:03 ID:dxA/fypA
というわけでここまで

一回戦終了の区切り

反逆の焔編『11』に続く
かもしれない

235名無しさん@転載は禁止:2020/09/27(日) 09:10:13 ID:s/6H.Lzw


236 ◆WsBxU38iK2:2020/09/28(月) 00:37:25 ID:kqRAATjE
反逆の焔編『11』

─────────────────

メインスタジアム・実況席

PM3:25


ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

ダル子(一回戦の決着に盛り上がる会場)

ダル子(彼らの目は一様にスタジアム中央の4面巨大モニターに釘付けになっていた)


ダル子(そのモニターの真下なある闘技場に出現する魔法陣と2本の光の柱)

ダル子(激しい初戦を繰り広げた2名の戦士が柱の中を通ってメインスタジアムへ帰還してくる)

キィィィィィィィィィィンッ


フワッ

スタッ


ダル子(1人は穂乃果チームの東條希)

ダル子(大きな外傷はなく見た目こそ綺麗なものの、生命力を殆ど使い精神に大きなダメージを受けている)

ダル子(急いで救急班を――――)


心ノ穂乃果「希ちゃん!」

にこ「希!」

タタタタタッ
 

ダル子「……っと」

ダル子(どうやら私が催促する必要はなさそう)

ダル子(既に穂乃果チームの面々が希の元へ走って駆けつけてるみたい)


ダル子(そしてもう一方の戦士、オーディンチームのヘイムダムは、希と対照的に姿を大きく変えていた)

ダル子(転送前の人型とは似ても似つかない、円筒形の容器に入れられた豆粒ほどの球体)

ダル子(あれがヘイムダムのコア、ということらしいけど……)


ダル子「……ううーん」

ダル子(宇宙スタジアムでの戦いで垣間見えた戦闘人形としての働き、そして暴走から鎮圧までの一幕)

ダル子(たぶん何かしらの素体をベースにお父さんのデータを埋め込んで作ったんだろう)

ダル子(とてもじゃないけど人工的な神としては成功例に程遠いし、アレをヘイムダルだとは思えない)


ダル子(アレをヘイムダルの後継として参加させたオーディンは何を考えてるのか……)

ギリッ

ダル子「……いや、いけない」

ダル子(私はあくまで中立、どちらかに肩入れしたり、どちらかに不信感を持つのは良くない)

ダル子(正しさは戦いが、運命の裁定はラグナロクが決めること)

ダル子(私はただその進行を一心に務めるだけ)


ポチッ

ダル子『両者お疲れさまでした!』

ダル子『これより第2回戦まで30分ほどのインターバルとなります!』


ダル子『2回戦の開始はPM4時、両チーム休憩や作戦会議などを行い、規定の時間までに次の戦士の選出をお願いします』

ダル子『そしてインターバルの間、メインスタジアムでは>>237

237名無しさん@転載は禁止:2020/09/29(火) 00:35:03 ID:7tD8N3hg
前の戦いを振り返りつつ専門家による解説を放送します

238 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:35:29 ID:Ta7SZvDA
ダル子『メインスタジアムでは前の戦いを振り返りつつ専門家による解説を放送します』

ダル子『会場の皆様、次の戦いまでしばしお待ち下さい』

ジャッジャ ジャッジャラーン!


ピッ

ダル子(会場内のスピーカーから流れる音を生演奏のBGMに切り替え、マイクのスイッチを切る)


ダル子「ふぅ……」

ドサッ

ダル子(深く息を吐きながら実況席の椅子へ体を預ける)


ダル子(一回戦、進行上は大きなアクシデントなく終えることができた)

ダル子(けれど結果的にオーディンチームの先鋒は敗北してしまった)


ダル子(自らが先鋒に指名した秘密兵器の敗北……)

ダル子(チームのリーダー、オーディンの心境は如何ほどのものなのか)


ダル子「…………」

ダル子(実況席から見下ろすオーディンチームのベンチには慌ただしい様子は見当たらない)

ダル子(至って静かな……)


ダル子「……ん?」

ザッ

ダル子(オーディンチームのベンチから1人が歩み出て闘技場へ向かっていく)


ダル子「あれは……フレイ?」





239 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:36:14 ID:Ta7SZvDA




──円形闘技場上



ことり「穂乃果ちゃん、あれ……」

心ノ穂乃果「……!」


心ノ穂乃果(ことりちゃんの指差した方を見ると、私たちの立ってる円形闘技場に向かって歩いてくる人影が見えた)

心ノ穂乃果(剣の紋章が刺繍されたローブってことは……フレイ?)


ザッ  ザッ


海未「穂乃果……」

心ノ穂乃果「大丈夫、海未ちゃんとにこちゃんは希ちゃんを先にタンカで運んであげて」

海未「……分かりました」

にこ「気を付けなさいよ!」

グイッ  

タッ タッ タッ


心ノ穂乃果(海未ちゃんたちが闘技場を降りるのとほぼ同時、入れ替わるようにフレイは闘技場に上がり、私たちの前までやってくる)

ザッ

フレイ「どうも」

心ノ穂乃果「…………」


フレイ「そう警戒しなくても平気ですよ、私は貴女方の足元にあるそれを回収しに来たのですから」

心ノ穂乃果「それ……? ああ、なるほど」

心ノ穂乃果(今ここにいるのは私とことりちゃん、対面するフレイ、そして足元に置いてある神鎮め水入りの容器)

心ノ穂乃果(この中のヘイムダムのコアのことをフレイは言っているんだろう)


フレイ「そのコアには私たちの技術が詰まってますから、返していただけるとありがたい」

心ノ穂乃果「それは構わないけど……水から出すとまた増殖しちゃわない?」

フレイ「ご心配なく、手渡して頂ければこちらで対応しますから」

心ノ穂乃果「ふーん……じゃあ」

スッ

心ノ穂乃果(ローブで表情が隠れていて意図が読めない、少し怪しいけど……まぁこの場面で嘘は付かないだろう)

心ノ穂乃果(メインスタジアムでヘイムダムを暴れさせて向こうにメリットがあるとも思えないし)

カチッ

心ノ穂乃果(容器の蓋を開け、神鎮めの水に手を浸けてコアを掴んで取り出す)

ピチャッ パシャッ

240 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:36:26 ID:Ta7SZvDA


フレイ「へぇ……水、平気なんですね」

心ノ穂乃果「……?」

フレイ「いえ、こっちの話です、ではそのままコアを私の手に」

心ノ穂乃果「う、うん」

ソーッ


心ノ穂乃果(受け取るように手のひらを上にむけて差し出されたフレイの手)

心ノ穂乃果(その真上に手を伸ばし、指を離してコアをフレイの手に落とす)

パッ



ドシュッ!!!!

心ノ穂乃果「……!」

心ノ穂乃果(その僅かな落下時間、数センチの距離)

心ノ穂乃果(空気抵抗でコアに付着していた神鎮めの水の雫が微かに剥がれた瞬間、コアから細い糸に似た白い肉が増殖しはじめた)

心ノ穂乃果(まさか、こんな短時間で――――)


フレイ「おっといけない」

ドシュルルルルルッ!! 

心ノ穂乃果「わっ」

心ノ穂乃果(コアが微かに息を吹き返した途端、フレイの手から大量の植物の根のようなものが生み出されコアを包み込んだ)

心ノ穂乃果(根はしばらくモゾモゾと動いていたけど、すぐに静かになる)


フレイ「この子たちは大変食いしん坊な植物でね、素のコアの増殖速度くらいなら上回れるんですよ」

心ノ穂乃果「あの勢いで増える白い肉を養分として取り込んでる……ってこと?」

フレイ「はい、アルフヘイムに自生する植物で、あの程度なら2,3日はこのまま食べ続けられますよ」

心ノ穂乃果「それは……すごいな」ゴクッ



フレイ「さて、私はこれにて戻りますか」

フレイ「そろそろインターバルの解説も始まるでしょうし……」

心ノ穂乃果「ああ、そんなことやるってアナウンスで言ってたっけ」

心ノ穂乃果(希ちゃんのことで慌ててたからアナウンスの内容まであまり頭に入ってなかったな)


フレイ「知ってます? 解説で呼ばれる専門家って>>241らしいですよ」

241名無しさん@転載は禁止:2020/09/30(水) 08:27:20 ID:70KJDbuI
使徒

242 ◆WsBxU38iK2:2020/10/01(木) 00:38:17 ID:7T4RcPwo
フレイ「解説で呼ばれる専門家って使徒らしいですよ」

心ノ穂乃果「いや、知らなかったけど……そうなんだ」


心ノ穂乃果(使徒が解説か、確かにラグナロクに関わらない使徒なら中立だし解説するには持ってこいなのかもしれない)

心ノ穂乃果(だけど……なんだろう、妙な違和感があるな)

クルッ

ことり「ん? 急に観客席を見上げてどうしたの?」


心ノ穂乃果(メインスタジアムの一画を占める使徒用の観客席)

心ノ穂乃果(上位の神様や運営関係のいわゆるVIP席を除いた一般席の中では明らかに特別扱いを受けている)

心ノ穂乃果(確かに使徒は中立だけど、同時にラグナロクに介入するお邪魔者でもあったはず)

心ノ穂乃果(それが普通に大勢で観戦にやってこれて、更に解説までするなんて……)


心ノ穂乃果(北欧神話界って、使徒に対してここまで無警戒だったかなぁ……?)


ことり「穂乃果ちゃん?」

心ノ穂乃果「ううん、なんでもない」

ブンブンッ


心ノ穂乃果「フレイさんもわざわざ引き取りに来てありがとうございます」

フレイ「いえいえ、誰かやらなければいけないことなので」


フレイ「それと、敬称は要りませんよ、決戦では敵同士なのですから」

心ノ穂乃果「敵……」

フレイ「はい、スルトを取り込んだ貴女は私の滅すべき相手、今穏やかに話してるのは決戦の形式に従ってるだけに過ぎません」

フレイ「本当なら今すぐその首を胴体から切り離したいくらいですよ――――」

ゴッ!!

心ノ穂乃果「……っ!」

心ノ穂乃果(丁寧な口調の裏に隠れた明確な殺意、ローブの奥に潜む鋭い眼光が私に向けられる)


ことり「……?」

心ノ穂乃果(なんて鋭い、針のようにピンポイントな殺意の気配を飛ばすんだろう……)

心ノ穂乃果(周りの観客はもちろん、すぐ隣のことりちゃんさえも今の気配には気づいていない)



心ノ穂乃果「…………」ジリッ

フレイ「ふふふっ、少し脅かしすぎましたか、ですが私たちが戦うのはまだ先の話です」

フレイ「次は……そうですね、ヴァーリかトール、うちの戦闘狂のどちからが出ると思いますよ」


フレイ「ではまた、二回戦もラグナロクに相応しい戦いになることを祈っています」

ザッ ザッ



心ノ穂乃果「…………ふぅ」

ことり「帰っていったね、私たちも戻る?」

心ノ穂乃果「うん、そうしよう」

ザッ


心ノ穂乃果(闘技場から降りて自分たちのベンチの方へ歩き出す)

心ノ穂乃果(頭上にある巨大モニターには例の解説者が実況席に到着した様子が映し出されている)

心ノ穂乃果(ってことは、あの>>243な人が使徒……?)

243名無しさん@転載は禁止:2020/10/01(木) 01:12:50 ID:fKtNVoZ6
八重歯のある生徒会長っぽい

244 ◆WsBxU38iK2:2020/10/02(金) 00:18:24 ID:Sbd9LYSY
心ノ穂乃果(あの八重歯のある生徒会長っぽい人が使徒……?)


ことり「インターバルの解説もう始まるのかな」

心ノ穂乃果「そうみたいだね」

心ノ穂乃果(ダル子ちゃんの隣の席に座るその人はダル子ちゃんに促され自己紹介を始める)


ダル子『ではどうぞ』

三船『三船です、ダル子さんと共に解説としてインターバルを振り返ります、よろしくおねがいします』

ワァァァァァァァァァァァ

パチパチパチパチ


ことり「使徒って聞いてたけど普通の女の子っぽい? 学校の制服着てるし」

心ノ穂乃果「まぁ契約して異世界から来てたら種族が何だって使徒扱いだからね」

心ノ穂乃果「でも……確かにあそこまで見るからに一般人な使徒は始めてかも」

心ノ穂乃果「姿が人間に近くても特殊な武器を持ってたり出身の世界や能力にちなんだ服装してるのが大半だし」

心ノ穂乃果「そういうことを考えると、あの三船さんは私たちの世界に似た世界から来たのかもしれないね」


ことり「ふーむ……むむ?」

心ノ穂乃果「……って、どうしたのことりちゃん、そんなにモニター見つめて」

心ノ穂乃果「じっくり見たいならベンチに帰ってチーム専用のモニターで見れば――――」

ことり「ねぇ、あれさ」スッ


心ノ穂乃果「ん?」

心ノ穂乃果(ことりちゃんは頭上のモニターの中心辺り、ちょうど三船さんが映ってる場所を指差す)


ことり「あの胸のとこのリボンだよ、あの制服……どこかで見た気がするんだけど……むむむ」

心ノ穂乃果「どこかで?」

ことり「そう、そんな前じゃない……こっちに来てから……」

心ノ穂乃果(ことりちゃんは思い出そうと頭を悩ませてるけど、私はそこまで服装に着目してなかったからピンとこない)


ことり「ああっ! そうだ!!」

心ノ穂乃果「おわ、びっくりしたー」


ことり「侑ちゃんだよ侑ちゃん!」

心ノ穂乃果「侑ちゃん……ああ、ああ侑ちゃん」ポンッ


ことり「そう! あの制服、私たちをメインスタジアムまで案内してくれた侑ちゃんと同じ服なんだよ!」





245 ◆WsBxU38iK2:2020/10/02(金) 00:18:46 ID:Sbd9LYSY





──第二世界樹・入口前

PM3:15



侑「ふぅ……結構時間かかっちゃったかな」


侑(メインスタジアムからアースガルズ中心にそびえ立つ第二世界樹へ、駿馬スレイプニルの速さを持ってして約1時間)

侑(馬上に座ったままの移動で凝り固まった肩や腰をほぐしながら、片足ずつ地面へ降りる)

トンッ トンッ

侑「よっと、到着!」


スレイプニル「ヴィーグリーズからここまでかなりの距離があったからなぁ」

スレイプニル「それにお前がオレの上で何度か悶えて苦しんでたから休憩してた時間もあるし――」

侑「だぁあああもう! それは触れなくていいから!」ブンブンッ


侑(移動の途中、急に体中の敏感なところが刺激に弱くなってどうしようもないことが度々あった)

侑(しばらく休むとすぐに治ったけどいったいなんだったのか)

侑(心当たりは…………まぁ、間違いなくカリオペーのせいだろう)


侑「綺麗な顔して人にエッチなイタズラするなんて……今度あったら問い詰めてやらないと……!」フンッ


スレイプニル「それよりよ、第二世界樹の入口ってのはここで良いのか?」

侑「……ん? そのはずだよ」


侑「機能停止した先代の世界樹に変わり、貧弱様という名前の樹が世界を結ぶことによって作られた多世界通行システム」

侑「要はアースガルズやミッドガルズ、天上や地上、その他の世界を行き来できる北欧神話界公式の通り道だよ」


スレイプニル「ほぉ、つまりはでかい昇降機ってことか?」

侑「大きなエレベーター扱いすると途端に格式が下がるけど……簡単に言ったらそうなるかな」

侑「私みたいな人間はともかく、神様たちは特別な処理をせず世界を渡るにはかなりの負荷があるらしくて……そう、要は世界樹って回線みたいなものなんだよ」

侑「神格としての容量が大きすぎて、本来は小分けにしてゆっくり送るか、圧縮して化身体になるか、容量の少ない見た目の映像だけ送るとかで工夫してたものが、本体まるまる高速で転送できる」

侑「世界樹が復活したってことは、神様たちからすると最新の光回線が引けたぞやったーって感覚に似てるのかもね」


スレイプニル「お前のモノの例えはよく分からんが……とりあえずニュアンスは伝わった」

スレイプニル「それでその世界樹の入口ってのが……」

侑「うん、あの>>246になってるとこだね」

246名無しさん@転載は禁止:2020/10/03(土) 21:12:48 ID:PowYEO4E
仮設

247 ◆WsBxU38iK2:2020/10/05(月) 01:06:39 ID:VE0hjM1U
侑「うん、あの仮設になってるところだね……って仮設!?」


侑(目の前に広がるのは巨大な第二世界樹の壁面)

侑(その一部にウロのような穴があって、そこが入口になってるはずだけど……)

トンッ

侑(仮設と書かれた立て札が入口を塞ぐように置かれているのは想定外だ)


侑「おかしいな、もう完成していて普通に使えると思ってたのに……」

スレイプニル「おかしいも何も仮設ってこたぁ間に合ってねぇんだろ」

侑「えー」

スレイプニル「ただ、外側が未完成でも中身が未完成とは限らねえ」

スレイプニル「外でウダウダ考えてるよりかは、中に入って直接見てくるのが早いって話よ、ヒヒーン!」


侑「……うん、そうだね!」

タタッ

侑(私は仮設と書かれた入り口に駆け出しつつ、振り返ってスレイプニルに手をふる)

侑「スレイプニル! ここまでありがとう!」


スレイプニル「ここまでって……お前、帰りはどうするんだよ!」

侑「私の個人的な用事に付き合ったのバレたらオーディンに怒られちゃうでしょ、先に帰ってていいよ〜」

スレイプニル「はぁー? お前な、世界樹からメインスタジアムまでどれだけ距離があると思ってんだ」

侑「まぁ……うん、そうだね」

侑「ほんとは待っててもらうと楽だけど、帰ってくるのに何日かかるか分からないし、待つのたいへんでしょ?」

スレイプニル「だったら――――」

侑「それにさ」



侑「また、ここに帰ってこれるとも限らないから」


スレイプニル「……!」



侑「じゃ! そういうことで!」

タタッ!

侑(言うことだけ言って、一目散に入り口に向かって走る)



スレイプニル「おいお前、いったい何を……待て! 侑! 侑!」






248 ◆WsBxU38iK2:2020/10/05(月) 01:06:57 ID:VE0hjM1U




──第二世界樹・アースガルズエントランス


タタタッ

侑(いきなり帰っていいよだなんて、スレイプニルには悪いことしちゃったかな)  

侑(でも私が無事に戻れる保証がないのは確かだし、オーディンの馬をずっと待たせておくなんてできない)
 
侑(少し強引だったけど、スレイプニルも分かってくれるはず……) 


タンッ

侑「……で、ここが世界樹の中か」

侑(世界樹とはよく言ったもので、天井の高いエントランスホールの中の壁や床、あらゆるものが木で作られている)

侑(細かい木材を組み上げたわけではなく、世界樹の中をくり抜いてそのまま形を整えたような構造)

侑(それに外から見た入り口の大きさからは想像もできない、コンサートホールと見間違うくらいの広さ)

侑(周りに人が誰もいないせいで、1人ポツンと立ってるのに若干不安を覚えてくる)


侑「えーと……今いるのはアースガルズ側の玄関口みたいなとこかな」

侑「地上へ降りる道に行くにはどこに――――」

??「すみません、ちょっといいですか?」

侑「わっ!」

侑(声にびっくりして振り返ると、私の背後に明らかに受付っぽい制服を着た女の人が立っていた)


受付「すみません、第二世界樹はまだ試運転段階で一般の方は利用できないんです」

侑「……は、はぁ」

受付「この仮設エントランスを散策していただくことは可能ですが、どのみち世界樹エレベーターの手前まで行くと備の者に引き返しを命令されます」

受付「このラグナロク開催下のご時世、あまりエインヘリヤルの方々に目を付けられるのもよくないでしょうし」

受付「できるなら早めのご退場をなされたほうが良いかと思われます」


侑(世界樹エレベーターって……本当にエレベーターみたいなものがあるんだ)

侑(しかし試運転中で一般は立入禁止と)

侑(試運転できてるなら機能的には問題ないけど……あまり騒ぎになるのはまずいか)

侑(うん、ここは適当な理由で誤魔化そう)


侑「あーー、その……実は私、こういうものでして」スッ

受付「こういう……?」

侑「はい」コクンッ


侑(懐から取り出したのはカリオペーから貰った名刺ほどの大きさのカード)

侑(これにはカリオペーの文章による認識改竄能力が付与されていて、カードの文字を見せることで発動)

侑(カードが完璧な身分証に変化し、自分の偽りの身分を相手に信じ込ませることができる)


侑(この場合は……>>249ということを信じさせた方が世界樹の中を進む上で便利だろう)

249名無しさん@転載は禁止:2020/10/05(月) 16:52:43 ID:usktbZ1A
エレベーター整備士

250 ◆WsBxU38iK2:2020/10/06(火) 00:39:49 ID:VZk.ZsoE
侑「エレベーター整備士の仕事なんですよ、試運転中のエレベーターに少し不調が出たらしくて、今日は様子を見に来たんです」

侑「直接故障に繋がるような深刻なものではないらしいんですけど、早めに確認したほうが良いと思って」


受付「はぁ……こんな日にまでお仕事なんて、整備士さんは大変なんですね」

侑「こんな日に仕事してるのはお互い様でしょう」

侑「本当なら家でお酒で飲みながらラグナロクを観戦してたかったんですけどね」

侑「私みたいな下の人間は命令1つで休日だろうが祝日だろうが駆り出されるものなんです」

受付「ふふふっ……まったくです」


侑「では私は急ぐので、受付さんもお仕事がんばってください」

受付「ええ、お気をつけて」


タタタッ

侑(エレベーター整備士、ぱっと思いついたにしてはもっともらしい職業だろう)

侑(でも明らかに人間の女子高生みたいな格好をした私を疑いなく技術者と信じるなんて……)

スッ

侑(このカリオペーの身分証、思ったよりすごい代物なのかもしれない)


タタタッ

侑(とりあえず入り口近くにいた受付さんから見えなくなる位置まで小走りで進む)

侑(エレベーターの位置は未だに分かってないけど、周りに人がいなくなればゆっくり探索できる)

侑(それに大体こういう公共施設には――――)

タンッ

侑「あった!」


侑(木製の壁に貼り付けられた真新しいパネル)

侑(そこに第二世界樹の構内見取り図が展示されている)


侑「ええと……私はこっちのアースガルズエントランスから入ってきたから……中央エレベーターまではこうで……」

侑「……ってことは、この先の道を右に曲がってしばらく進んで、3つ目の角で左に曲がって、更に突き当りを右に進めば……よし!」

タタタタタッ

侑(エレベーターまでのマップを頭に入れ、また小走りで進み出す)


侑「……お」

侑(世界樹の中の通路を走ってると、一部壁が剥がれてたり、脚立が置かれてたり、ところどころオープン前の作業途中らしき現場に遭遇する)

侑(放置されているわけではなく、今日はラグナロクで作業が休みになってるのだろう)

侑(その証拠にエントランスホールで受付さんに出会って以降は、他の誰かと出会うことはなかった)


タタタタタッ

侑「この調子で警備の人もお休みしてくれてたら嬉しいけど……」

タンッ

侑「……って、そう都合良くはいかないか」シュッ

侑(エレベーターへ辿り着く最後の曲がり角、その先に人の気配を感じた私は壁に隠れてしゃがみ込む)

侑(そろり、そろりと、這うような姿勢で顔を曲がり角から出し、エレベーターの方の様子を伺う)

ジーッ


侑「ちゃんといるなぁ……」

侑(エントランスホールより巨大な空間の中心を貫く一本の円柱、たぶんあれが世界樹エレベーター)

侑(表面は半透明のガラスみたいな素材、内部は七色をパレットで軽く混ぜたようなマーブル模様状の不思議な色に染まっていて、全体が淡く発光している)

侑(それでエレベーターの周りにはエインヘリヤルが見える範囲で5人、それぞれの立ち位置で警戒を続けてるっぽい)

侑(他に目に付くものは>>251)

251名無しさん@転載は禁止:2020/10/06(火) 06:42:44 ID:BpGXM5.s
おっぱい

252 ◆WsBxU38iK2:2020/10/07(水) 00:16:40 ID:8nJEn/R6
侑(他に目につくものは……おっぱい!)


プルンッ プルンッ

侑「おぉ……」ジーッ


侑(むさ苦しい筋骨隆々なエインヘリヤルが徘徊してる中、1人だけ大きなおっぱいを揺らして歩く女性がいた)

侑(金髪でスタイルがよく、見た目は美人のお姉さんとも大人びた学生とも取れるような、年齢不詳な不思議なオーラを醸し出してる)

侑(白衣に似た服を羽織ってるから一見何かの医療関係者か研究者みたいに見える……けど)

ゴクッ

侑(白衣の内側には胸元が大胆に空いたインナーを覗かせていて、とても正規の職員とは思えない)


侑(まぁ神様連中なんて半分露出マニアみたいな服装してるし、これがファッションですと言われたら仕方ないんだけど)
 
侑(どうも私の見てきたエインヘリヤルやワルキューレとはまた違う雰囲気を感じるんだよなぁ)  

 
侑「うーむ……」

侑(悩んで至って始まらない……か)  

侑(カリオペーの身分証があるなら相手がエインヘリヤルだろうが謎の美女だろうが変わらない)

侑(ささっと躱してエレベーターに潜り込むだけ!)


タッ

侑「どうも〜! エレベーターの整備士の高咲です〜!」

スタスタ

侑(潜んでいた角から飛び出し、エレベーター周りの集団に向かって堂々と歩いていく)


侑(カリオペーの身分証を手前に掲げ、大きな声を出して挨拶)

侑(認識の改竄のトリガーは、信じ込ませたい身分を相手に想起させる、その状態で身分証を相手に見せる、この2つだ)

侑(そのためにわざと声で自分に注目を集め、身分を声高にアピールする)

侑(なんなんだと声の方向を見て身分証を視界に捉えた瞬間、相手はもう――)


警備1『おお、これはご苦労さまです』

警備2『わざわざこんな日に仕事とは精が出ますねぇ』

侑(ほら、もう認識が書き換わっている)


侑「いえいえ、警備の皆さんもご苦労さまです」

侑(コソコソするより堂々としたほうが手っ取り早いのは普通の潜入と違うところだなぁ)


侑「そちらのお姉さんは、見ない顔ですが…………」チラッ


鞠莉「ああ、私は鞠莉、写し身の貧弱様――こっちでは第二世界樹と呼ばれているもののシステム管理をしてるわ」

鞠莉「普段は地上に近い階層で仕事してるけど、今日は>>253のためにアースガルズ側のエントランスに来たの」

253名無しさん@転載は禁止:2020/10/08(木) 22:02:37 ID:9efySoe6
整備の立ち会い

254 ◆WsBxU38iK2:2020/10/09(金) 00:23:36 ID:l6ufldNA
鞠莉「整備の立ち会いのためにアースガルズ側のエントランスまで来たの」

侑「なるほど……立ち会い、ですか」

鞠莉「ええ」コクンッ


侑(しまったな、本当に整備の必要があったなんて……)

侑(エレベーターの整備なんて咄嗟に出た嘘だから立会人がいるなんて想定してなかった)


侑「それで……鞠莉さん?は神族なんでしょうか」

侑「地上に近い層で仕事してるという話も聞きましたし、その外見からするに――――」

鞠莉「あぁ〜はいはい、ふふっ」

侑「……え?」

侑(質問の途中で鞠莉さんは何かを察したように頷き上品に笑う)

 
鞠莉「“そういう疑問”を投げかけられるってことは貴女は……ふむふむ、良いわ、着いてきて」

侑「ど、どこに?」

鞠莉「エレベーターの中よ、こんなとこで立ち話も何だし移動しながら話しましょう」

侑「……わ、分かりました」

スタスタ

侑(正体を気取られた……わけではないかな)



侑(手招きする鞠莉さんに続き、様座な色に光る巨大な円柱に近づいていく)

侑(鞠莉さんが半透明の壁に手をかざすと、そこがエレベーターのような両開きのドアとなり、自動的に開いた)

ウィーン

鞠莉「さぁどうぞ」

侑「はいっ」

侑(少し飛び込むのに躊躇するけど、ここは怪しまれないのが大事)

侑(思い切って光の中に飛び込む)

タンッ


侑「わっ……!」フワッ

侑(エレベーターの中は壁も床も天井も存在していなかった)

侑(体全体を不思議な力場が包み、光の奔流の中で体を一定の位置に浮かせている)

侑(無重力のように変に力を入れてクルクル回るような気配はない)

侑(光の中に立っている、という一見おかしな表現が一番しっくりくる不思議な感覚)


侑(これが世界樹エレベーター……?)


鞠莉「何度乗ってもシャイニーな光景よねぇ」

侑「え、ええ」

鞠莉「そんな不思議そうに何度も辺りを見回しちゃって、整備はしてても直接乗るのは初めてだったり?」

侑「ああ……ははは、そんなとこです」


侑(誤魔化せたどうかは微妙なとこ)

侑(それより問題なのはエレベーターの中で整備の話を振られた時だ)

侑(私は身分的には整備士だけど、もちろん整備の知識や技術を持ってるわけじゃない)

侑(実際身分との食い違いが出た場合、カリオペーの能力はどこまで矛盾を許容できるのか……)

侑(できるなら今正体がバレるのだけは勘弁してもらいたい)

255 ◆WsBxU38iK2:2020/10/09(金) 00:23:55 ID:l6ufldNA


鞠莉「じゃあエレベーターを下に、例の点検箇所まで一気に移動して良いわね?」

侑「はい、お願いします」

侑(例の? 例のってどこ……?)


スッ スッ スッ

鞠莉「ぽちっと」

グゥーンッ!

侑「……っ!」

侑(鞠莉さんが虚空を何度か指でなぞり、ボタンを押す仕草をすると、私たちの体が光の中を下降し始めた)


グゥィーーンッ!

侑(囲いがないのに体が固定され、一定速度で下降していく)

侑(うぅ……この感覚は早々慣れるものではなさそうだ)


鞠莉「これでよしっと、それで整備士さん、さっきの話の続きなんだけど……単刀直入に聞くわね」

侑(……来た!)ゴクリ

侑「はい、なんでしょう」


侑(誤魔化すパターンを考えろ、どうにか乗り越えて――――)

鞠莉「貴女、私が人間に見えるの?」

侑「…………は?」


鞠莉「は? って何よ」

侑「ああいや、ごめんなさい、思ってた質問と違ってて」

侑「鞠莉さんが人間かどうかですよね、普通にそう見えますけど……何か?」


鞠莉「はぁ……それで何も不審に思わないのね、思ったよりシャイニーな人なのかしら」

侑「?」

侑(まずい、言ってる意味が尚さら分からなくなってきた)


鞠莉「あのね、ピンときてないみたいだから教えるけど、今この世界樹では人間は自由に出歩けないの」

鞠莉「穂乃果がスルトの力を手に入れたと判明した瞬間、穂乃果と関わりのある人間は一斉に拘束されたのよ」

侑「…………え?」
 

鞠莉「それはこの世界樹、貧弱様の中にあっても同じこと」

鞠莉「拘束状態はラグナロクが行われてる間もずっと続いてて、世界樹の復旧に携わったスタッフだろうが例外はない」

侑「せ、世界樹でそんなことが……」


侑(けど言われてみたらそうだ、神と人が争うこの状況下で、アースガルズ側のエントランスに堂々と人間がいるとは考えられない)

侑(私みたいな穂乃果チームと関わりのない、神様たちから特別お目こぼしされてる人間だって、この期間は世界樹を使用したり地上に降りることは禁止されてるんだから)  


侑「じゃあ、鞠莉さんはどうして自由に行動できてるんです?」

侑「さっきだって警備のエインヘリヤルと普通に話してたし」


鞠莉「それは>>256

256名無しさん@転載は禁止:2020/10/09(金) 08:36:42 ID:TH6RNhJ2
その認識改竄装置…というかその使徒自体私の作品だから

257 ◆WsBxU38iK2:2020/10/10(土) 00:59:30 ID:vA4iXj3g
鞠莉「それは貴女と同じものを使ってるからよ」

侑「同じもの……?」


鞠莉「ええ、貴女が手にしてるその認識改竄装置、カリオペーの作ったものでしょう?」

侑「……っ!」

侑(いきなり確信を突かれて動揺を隠しきれない)


侑(考えろ、考えるんだ私)

侑(カリオペーを知ってるならこの人も使徒……? だとしたら世界樹に潜り込んでる目的は……?)

侑(そもそも、認識改竄を知ってるのなら私が整備士でないことは看破されているんじゃ――――)


鞠莉「混乱してるわねぇ」

鞠莉「1つ言っておくと、私は使徒ではないしカリオペーの仲間でもない」

鞠莉「貴女のようにカリオペーと契約して権能を貸し与えてもらったわけじゃないの」


侑「どうして、契約のことまで……」

鞠莉「ふふっ、貴女からあの女の匂いがするんだもの、見てなくても分かるわよ」

侑「匂い……?」

クンッ クンクンッ

侑「そんな匂いしてるのかな……」

鞠莉「私鼻が良いから、人の鼻じゃ分からないと思うわよ」


鞠莉「ともかく、私の認識改竄装置は私の作ったものだし、更に言うならあの使徒だって私が作ったもの、私の作品の1つ」

鞠莉「随分昔に別れてそれっきりだけど、その様子だとすっかり女神気取りなのね」

鞠莉「ま、私としてはあの子が元気なら何でも良いけど」


侑「…………」

侑(分からない……この人のことが分からない……)

侑(エインヘリヤルを騙して、世界樹の中を自由に行動して、更に使徒まで作った?)

侑「鞠莉さん……あなたはいったい何者なんです……!」



鞠莉「何者……とは難しい質問ね」

鞠莉「使徒ではないし、神様でもなければ悪魔でもない、魔王や主人公にすらなれない傍観者」

鞠莉「個人的にはただの人間のつもりなんだけど……世間的には見るとちょっと浮いてる気がしないでもない」

鞠莉「そうそう、好物はシャイニーなものと面白いこと」

鞠莉「だから私はいつの時代も面白い人の味方で、つまらない人の敵なの」



侑「……だから、穂乃果チームの人たちと一緒に?」

鞠莉「ええ」コクンッ


鞠莉「最初に会った時は敵同士だったし、私の計画を潰してくれた前世たちとの因縁もあったけど、あの子たち以上に追ってて面白いものはない」

鞠莉「だから私はあの子たちに肩入れするし、あの子たちの敵の敵にだってなる」

侑「…………」


鞠莉「ねぇ、高咲さん、貴女は面白い人? つまらない人?」

鞠莉「私の敵と味方……どっちなのかしら」

侑「……っ!」


侑「わ、私は……」ブルッ

侑(笑顔を見せてるはずの鞠莉さんに対し、何故か本能的に後ずさってしまう)

侑(どうしよう……出会ったばかりの鞠莉さんを信用しきるのは怖い、だけど機嫌を損ねると無事に下に着けるかわからない)

侑(正直に私が地上へ行きたい理由を話すべきか、穂乃果チームと敵対しない意思だけ伝えて何とか見逃してもらうべきか)

侑(ここは……>>258)

258名無しさん@転載は禁止:2020/10/10(土) 16:31:29 ID:hW2rhqq2
私は、どうしても確かめなくちゃいけない事があるんだと言う

259 ◆WsBxU38iK2:2020/10/11(日) 00:43:33 ID:BoziyBoA
侑(ここは……)

グッ

侑(うん、そうだよね)


侑(拳を握り、震える体を抑え、鞠莉さんの顔を正面から見据える)

侑(そう、やることが決まってるなら、何も迷う必要はないんだ)


侑「私、どうしても確かめなくちゃいけない事があるんです」

侑「他の人に話せばそこまですることじゃないって止められるような些細なことだし」

侑「私自身、確かめたところで何かが変わるとも、確かめた先に何かが生まれるとも思えない」

タンッ

侑「だけど! そうしたいと思ってしまったから! 私は止まれない!」

鞠莉「……ほう」


侑(人違いならそれでいい、取り越し苦労だったなって笑い話になるならそれでいい)

侑(だけど、今確かめることを諦めてしまったら、私はきっと後悔する)

侑(あの時、皆がスクールアイドルを辞めてバラバラになっていくのを見送った後のように……!)


侑「だから、神様だって使徒だって利用する、ラグナロクも関係ない」

侑「私はどんな手段を使っても地上に降りて、会いたい人に会いに行く!」



侑(どう……だろう)

侑(鞠莉さんは黙って話を聞いた後、しばらく間を開けて口を開く)


鞠莉「……ふ〜ん、ま、詳細は伏せてるようだけど大体事情は分かったわ」

侑「分かった……の?」

鞠莉「このご時世、認識改竄装置を作ってまで忍び込みたい場所なんて限られてるでしょ」

鞠莉「それにリスクを冒す理由が人に会いたいってのも気に入ったわ」


侑「は、はあ……」

侑(とりあえず敵対しないなら良かった)


鞠莉「高咲さん、下の名前は?」

侑「……侑です、高咲侑」


鞠莉「侑、貴女地上に降りた後の当てはあるの? 世界樹の地上側の出口がどこに繋がってるかは分かる?」

侑「それは……」

侑(正直なところ、具体的な策は用意できていない)


侑「このカードを使って人から聞き出して何とか……みたいな」

鞠莉「なるほど、要はいきあたりばったりってことね」

侑「はい」


鞠莉「だったら侑、私に付いてきたらいいわ」

侑「え?」

鞠莉「貴女に興味が出た、私が責任を持って貴女を目的の場所に送り届けてあげる」

侑「いや……その……」



鞠莉「ただしその分、私の野望にも協力してもらうけど」フフッ


侑「…………ええぇ?」



─────────────────

メインスタジアム
第二世界樹〜エレベーター

PM3:15〜PM3:45 反逆の焔編『11』了

260 ◆WsBxU38iK2:2020/10/11(日) 00:46:01 ID:BoziyBoA
というわけでここまで

インターバル時間の前半が終わり
次は後半へ

反逆の焔編『12』に続く
かもしれない

261 ◆WsBxU38iK2:2020/10/12(月) 00:28:02 ID:kFRjEdkM
反逆の焔編『12』

─────────────────
──第二世界樹・エレベーター


ウィーーーーーーンッ


侑「野望……?」

鞠莉「そう、とっておきの秘密の野望」

鞠莉「そのためには侑を私の隠れ家に招待しなきゃ」


侑「ま、待ってください! 私に寄り道してる時間は……」

鞠莉「大丈夫、何の当てもなく地上に着いてからの足を模索するよりきっと早いから」

鞠莉「ね?」

侑「ね? って言われてもなぁ」


ウィーーーーーーンッ


グゥンッ

侑「おわっ!」

侑(鞠莉さんと話に集中していると、降下を続けていた体が急に停止した)

侑(エレベーターが鞠莉さんの設定していた目的地に着いた……ってことで良いのかな)


鞠莉「さぁ、降りるからついてきて」

ウィーン

侑(見えないエレベーターの扉が自動で開き、鞠莉さんが光の中から出ていく)

侑(置き去りにされても行き場がないので、言われた通りに渋々付いていくしかない)

262 ◆WsBxU38iK2:2020/10/12(月) 00:28:13 ID:kFRjEdkM


侑「いや、だからですね」

スタスタ

侑「協力者が欲しいならわざわざ私じゃなくたって……鞠莉さんの元の仲間たちがいるんじゃないですか?」

鞠莉「そっちに頼めるなら私だってわざわざ部外者を巻き込んだりしないわよ」

鞠莉「リスクを抱えてでも得るメリットが大きいから侑に頼んだの」

侑「メリット……ですか」


鞠莉「そうよ」

スタスタ スタスタ


鞠莉「良い? まずこの情勢下で警備に怪しまれず自由に行動できるのがすごいことなのよ」

鞠莉「カリオペーのカードを持ってる貴女には実感できないだろうけど、かなりのチートなのよそれ」

鞠莉「天才の私だってエインヘリヤルやワルキューレの目を掻い潜って抜け出すのは至難の業だったし、拘束されてる仲間を助け出すなんて1人じゃムリムリ」


侑「使徒を作った人でも?」

鞠莉「本業は研究者だから、一応戦う術は心得てるけど……さすがに質と量を兼ね備えた神の軍隊相手には分が悪い」

鞠莉「だから手持ちの認識改竄装置1つを頼みの綱にして、世界樹の中の情報を集めていたってわけ」



鞠莉「……で、そこで出会ったのが貴女!」

鞠莉「私と同レベルの認識改竄アイテムを持っていて、更に北欧勢力ではない独自の目的を持った第三者」

鞠莉「シャイニーすぎる人材、これはスカウトしないわけには行かないでしょ」


侑「……でも、それでも1人が2人になっただけですよ?」

鞠莉「バカねぇ、1人と2人じゃできることが段違いなのよ」


タンッ

鞠莉「ほら、そんな話をしてたら着いたわよ」

侑「?」

鞠莉「ここが現在エインヘリヤルにもワルキューレにも見つかっていないセーフゾーン、私の隠れ家よ」

ガチャッ


キィーーーーーッ

侑「……っ!」

侑(通路の突き当り、鞠莉さんが木の壁に取り付けられた両開きの扉を押して開ける)

侑(その先には>>263)

263名無しさん@転載は禁止:2020/10/12(月) 22:05:21 ID:RDP.0THU
真ん中に何かの機械がある以外何もない部屋

264 ◆WsBxU38iK2:2020/10/13(火) 01:03:42 ID:POz2XcIk
侑(その先にあったのは真ん中に何かの機械がある以外何もない部屋だった)


侑「なんだか……殺風景な部屋ですね」

鞠莉「隠れ家を呑気に飾り付けてる時間がないのよ、ほら入って」

侑「お、お邪魔します」

タタッ

 
ウィーン ガシャンッ

侑(おお、自動で閉まるのか)


鞠莉「貴女も急いでるようだし、簡潔に2つのことを話すわね」

鞠莉「1つは私が今やってることについて、この装置がなんだか分かる?」

侑「いや……」

鞠莉「でしょうね」スタスタ

侑(首を傾げる私を置いて、鞠莉さんは足早に機械の前に歩いていく)


鞠莉「この装置は世界樹のシステムを管理できるコンソール……の予備の1つ」

侑「予備?」

鞠莉「そう、メインの管理ルームは占拠されちゃったけど、予め作っておいた予備のコンソールが世界樹には幾つかあるの」

鞠莉「もちろんエインヘリヤルたちもそれは予想していて、隠し部屋がないか片っ端から世界樹を捜索してる最中」

鞠莉「ここはまだ見つかってないから、幸運なことに邪魔が入らず作業ができるってわけ」

侑「なるほど」

265 ◆WsBxU38iK2:2020/10/13(火) 01:04:01 ID:POz2XcIk


鞠莉「……で、その作業がこれよ」

カタカタッ ピピッ

侑(鞠莉さんがコンソールを操作すると、無機質な壁にスクリーンが投影される)

侑(そこに映っているのは世界樹の立体マップと……なんだろう? 扉?)

侑(ぱっと見ただけでは私には何がなんだか分からない)


鞠莉「大きな扉みたいなものが世界樹の各所にあるのは分かる?」

侑「はい」コクンッ

鞠莉「だったらオーケー、この扉は普通の扉とは違って、世界樹から他の世界へ繋がる扉なのよ」

鞠莉「ほら、ここがさっき貴女が通ってきたアースガルズ行きの扉」

侑「ほう……」

侑(鞠莉さんが世界樹エレベーターの天辺近くを指すと、確かにそこに大きな扉があった)


鞠莉「実はこの扉、各世界に一対一で対応してるわけじゃなく、まだ世界樹側で未登録のものが幾つかあるの」

カタカタッ

鞠莉「私はその未登録扉を使って地上側に秘密の抜け道を作りたいと考えてる」

鞠莉「エインヘリヤルたちの知らない、警戒の薄い場所へ一気にワープできる抜け道よ」


鞠莉「登録先は1つじゃなく複数にするつもりだし、完成した暁には侑の望む場所へ繋げてあげてもいいわ」

侑「え、本当……!?」

鞠莉「もちろん」


鞠莉「ここまでが私の今の野望について、理解できた?」

侑「は、はい!」


鞠莉「よし、じゃあ2つ目の話に移るわね」

鞠莉「こっちも単純で、要は貴女に手伝ってもらう内容についての話」

侑「……!」


鞠莉「実はこの扉、仮に世界扉と呼称するけど、世界扉の登録はこの部屋だけじゃ完了できないの」

侑「そうなんですか?」

鞠莉「ええ、好き放題に世界扉の登録先を変えられるの防ぐためのシステムがあって――」

カタカタッ

鞠莉「私がこうやってコンソールから登録を行うと同時に、もう1人が扉の前で>>266する必要があるのよ」

266名無しさん@転載は禁止:2020/10/14(水) 00:57:30 ID:p.oHHBcM
決められたリズムで扉を開閉か恥ずかしいポーズを

267 ◆WsBxU38iK2:2020/10/15(木) 00:49:00 ID:zn13tmEk
鞠莉「決められたリズムで扉を開閉か恥ずかしいポーズをする必要があるのよ」

侑「待ってください、その二択で後者を選ぶ人いるんですか?」

鞠莉「そうねぇ、扉の開閉での登録が時間かかるのに対して恥ずかしいポーズは一瞬で終わるのが利点かしら」

鞠莉「スマホで言うとこのパスワードを打ち込むか顔認証するかみたいな違いだと思ってもらっていいわ」

侑「は、はあ……」


鞠莉「ま、どっちの方法を選んだところで扉の前での作業は必須」

鞠莉「扉までの道すがらに加え、万が一作業中に見つかっても怪しまれることは避けたい」

鞠莉「つまり自前の認識改竄能力を行使できる貴女が適任なのよ!」ビシッ

侑「……お、おぉ」


鞠莉「どう? 協力してくれる?」
  

侑「…………」

侑(協力……か)
 
侑(正直な話、鞠莉さんの言う通り、地上に出てから歩夢たちのいる飛行船まで潜り込む手段は思いついていない)

侑(もし鞠莉さんの支払う対価が本当で、私の好きな場所へ世界扉を繋げられるとしたら、飛行船へ一気に乗り込めるかもしれない)

侑(だとしたら、無策で挑むよりは手伝ってみる価値がある……か)

コクンッ


侑「……分かりました、その作戦に私も乗ります」

鞠莉「おぉー! そう言ってくれると思っていたわ」ブンブンッ

侑(鞠莉さんは、同意の証として差し出した私の手を両手で強く握りしめ、上下に大きく何度も振る)  

侑「わっ! あは、はははは」


鞠莉「じゃあ渡すものを渡しておくわね」
 
鞠莉「まずはこれ、私特製のスマホ型通信機」スッ

侑「スマホ型……本当に普通のスマートフォンに見えますけど、特別なものなんですか?」

鞠莉「前に使ってたMLINEって名前の念話通信ネットワークが普通にアースガルズ側に傍受されて解析されるようになっちゃったからね」

鞠莉「今度はソフトだけじゃなくてデバイスごと独自規格で製作してみたの、それが試作品2号ね」

侑「ほー、これが」マジマジ


鞠莉「以前とは違う念話周波数帯を使ってるから簡単に盗み聞きはされないと思う」

鞠莉「それと普通に他の電波を拾って聞いたり見たりもできるわ」

鞠莉「ほら、ちょうどラグナロクの中継映像とかだって――――」

ピッ ピッ 

ピピッ!

侑「おおっ!」

侑(鞠莉さんが私の手の中のスマホの画面を何度かタップすると、画面にメインスタジアムの映像が浮かび上がった)

『ワァァァァァァァァァ』


鞠莉「ほうほう、今は第一回戦を振り返ってるみたいね」

鞠莉「ダイジェスト映像を見るに一回戦は穂乃果チーム側の勝ちと、やるじゃない希」

侑「そうですね、神様に勝つなんて本当にすご…………ん? んん?」

鞠莉「侑? どうしたの固まって」


侑「い……いえ、その……ダル子ちゃんと一緒に話してる解説の人、知ってる人な気がして……」

鞠莉「三船って子よね、知り合いなの?」

侑「はい、三船さんとは虹ヶ咲――ああ、虹ヶ咲は今は休校になってる私の通ってる学校です」

侑「以前、そこで私はスクールアイドルのマネージャーみたいなことしてたんですけど、彼女とはその時に>>268

268名無しさん@転載は禁止:2020/10/18(日) 07:33:44 ID:f4e3IWzg
…あれ?スクールアイドル…?

269 ◆WsBxU38iK2:2020/10/19(月) 00:29:29 ID:LAWibdR6
侑「その時に……あれ? スクールアイドル……?」

侑「いや、その……あれ? おかしいな」

侑「な、なんで……」ワナワナ


鞠莉「侑? どうしたのよ、落ち着いて」

侑「はぁっ……はぁっ……」 

侑(鞠莉さんに優しく手を握られるけど、私の思考はこんがらがり、息はどんどん荒くなっていく) 

侑(なんで、どうして、こんなの今まで無かったのに……)

グッ

侑(……ダメだ、気をしっかり保たなきゃ)

侑(落ち着け、落ち着いて、深呼吸、とにかく深呼吸で――――)



侑「……すぅーー……はぁーー」


侑(大きく深呼吸し、なんとか気持ちを落ち着かせる)


侑「あの……鞠莉さん……」

鞠莉「なに?」

侑「スクールアイドルって、なにか分かります……?」


鞠莉「……!」


侑(やっぱり……か)

侑(振り絞るように口に出した弱々しい言葉)

侑(それに対する鞠莉さんの反応を見るに、私が“スクールアイドルとやら”を知らないのは相当におかしいことなのが分かる)


鞠莉「本当に分からないの?」

侑「はい、スクールアイドルだけじゃない、数秒前まで話していた内容が、語ろうとしていた想い出が、何もかも分からないんです」

侑「目を瞑れば情景は薄ぼんやりと浮かんでくるけど、まるで知らない土地の他人の想い出を覗いてるみたいで……」

侑「出てくる登場人物にも、彼女たちの行動にも、何もピンとくるものがない」

侑「自分でも異常なことだってのは感じてるんですが……その……」グッ



鞠莉「そう、じゃあ分かるものと分からないものを整理していきましょう」

侑「は、はい」

鞠莉「スクールアイドルは?」

侑「……分かりません」

鞠莉「三船さんは?」

侑「名前と顔は分かります、ただ私とどういう関係だったかまでは……」

鞠莉「虹ヶ咲はどう?」

侑「同じく、名前や校内のことは覚えてます、でも授業の内容やクラスメイトとの会話なんかは全く……」ブンブンッ


鞠莉「ふむふむ……じゃあ、貴女が地上に行って会いたがってる人については?」

侑「……っ!」

侑「あ、歩夢たちは覚えてますよ! 当然じゃないですか!!」

侑「当然……当然に決まって……」


侑(大丈夫、覚えてる、あの9人との想い出はまだ消えてはいない)

侑(けど……本当に? 本当に忘れない保証があるの……?)



鞠莉「なるほどねぇ」ウンウン

侑「何か……分かるんですか?」


鞠莉「貴女の記憶が消えていってるその症状、考えられる原因は……>>270

270名無しさん@転載は禁止:2020/10/20(火) 08:47:37 ID:0o72F68s
世界改変

271 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:36:31 ID:H4UkPV9k
鞠莉「考えられる原因は……世界改変ね」

侑「世界改変……!?」


鞠莉「そうよ、私たちがいま存在しているこの世界は一度改変されているの」

鞠莉「本来あった過去の事象を捻じ曲げて、平行世界とも言える新しい事象が上書きされた世界線」

鞠莉「ねぇ……侑、もしかして貴女の中に残ってたスクールアイドルの記憶は、改変前の世界のものだったんじゃない?」

侑「な……っ!」


侑「待って、待ってください、いきなりそんなこと言われても……」

鞠莉「頭が追いつかない……でしょうね、正しい反応だわ」

鞠莉「だけどね、そう考えると腑に落ちることは多いの」


鞠莉「不自然な記憶の漂白、ただの女子高生だったはずの貴女がアースガルズにいる違和感」

侑「そ、それは……私はあれから色んな異能に関わる事件に巻き込まれて、運良く解決して、ダル子やアースガルズの神様たちと出会って――――」

鞠莉「魔王が行動を開始してから今に至るまでの短期間に? 一般人の貴女が? そんなマンガやアニメじゃあるまいし……」

侑「だって、本当に、実際そうだったんだから!」


鞠莉「……ええ、実際そうなんでしょうね」

侑「……え?」

鞠莉「だから、どっちも本当なのよ」

鞠莉「改変前の虹ヶ咲の生徒として普通に生活していた高咲侑、改変後の昔から異能の事件にやたら巻き込まれる謎の一般人の高咲侑」

鞠莉「どっちの過去も存在していて、貴女はどっちの記憶も覚えている」

鞠莉「2つの過去が混ざり合ってると考えると魔王による日本崩壊が始ってから今に至るまでの不自然な経験の多さと今の貴女のポジションについての説明がつく」

   

鞠莉「侑、貴女が覚えてるのはもう存在しない過去なのよ」

侑「存在しない……過去」   


侑(歩夢たちとの、あの忘れられない日々が、あの世界が、もう存在しない……?)

侑(そんな……バカなことが……)

ブンブンッ


侑「……い、いきなり言われたって信じられませんよ! 私には確かに記憶があるんですから!!」

侑「鞠莉さんに協力するとは言いましまけど、何もかも鵜呑みにできるわけじゃありません!」

グッ タタッ

侑(簡単にはいそうですかと納得はできない)

侑(動揺する表情を見せまいと、扉の方に振り返って鞠莉さんに背を向ける)


鞠莉「……でしょうね、なら当初の目的通り直接会って確かめてきなさい」

侑「……え?」

鞠莉「彼女たちが囚われてる船には貴女の想い人以外にも、私の仲間や共に戦った戦士が乗っている」

鞠莉「そこへ行けば私以外の人からの話だって聞けるし、この世界の真実を深く知れるわ」

鞠莉「色んな人の話を聞いて、貴女なりの答えを見出せばいい」

272 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:36:42 ID:H4UkPV9k
トンッ

鞠莉「ほら、時間がないわよ、早く会いに行きたいんでしょ?」

侑「……は、はい!」  

タタタタッ

侑(鞠莉さんに背中を押され、私は勢いのまま隠れ家を飛び出していく)


鞠莉「まずはさっきのエレベーターまで行って最下層へ向かいなさい、乗れたらちゃんと通信機で連絡取るのよー!」

侑「はいっ!」

シュンッ


侑(扉が閉まったのを確認し、私は元来た道を小走りで引き返す)

タタタッ

侑(鞠莉さん……完全に信用はできない人だけど、歩夢たちのとこへ行けるのなら協力は惜しまない)

侑(余計なことは今は考えない、とにかく前へ)

侑(一刻も早く……地上へ!)

タンッ!








ピッ

鞠莉「……全く、私も輪をかけてひどい女ね、自画自賛しちゃうわ」

ピッ ピッ

鞠莉「世界改変の片棒を担いだ悪の研究者のくせに、さも他人事のように語った上、改変の記憶で混乱してる女の子を良いように利用してる」

鞠莉「お互いにメリットがある協定とは言え、一方的に騙してるのは変わらないし」

鞠莉「舞台を降りた程度で黒幕だった過去からは足を洗えないってわけか」

カタカタッ カタカタッ


鞠莉「ただ、侑は面白い子ね」

鞠莉「カリオペー、貴女が手を貸したくなっちゃった気持ちが何となく分かるわ」

鞠莉「舞台裏は随分退屈そうに思えたけど、あの子が掻き回してくれるなら中々面白いことになりそうかも……ふふっ」


『ワァァァァァァァァァ!!』

鞠莉「……っと、舞台のほうはそろそろ第二幕に進む頃ね」

ピッ

鞠莉(コンソールを操作し、サブモニターにメインスタジアムの映像を大きく表示する)


鞠莉「いくら黒幕が暗躍したって舞台上の主役が頑張らないと話は進まない」

鞠莉「期待してるから頑張りなさいよ――人類代表の戦士たち」




─────────────────

第二世界樹エレベーター〜隠れ家

3:45〜4:05 反逆の焔編『12』了

273 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:37:20 ID:H4UkPV9k
というわけでここまで

インターバル終わり

反逆の焔編『13』に続く
かもしれない

274 ◆WsBxU38iK2:2020/10/22(木) 00:11:07 ID:y4ts6pBc
反逆の焔編『13』

─────────────────
──メインスタジアム・実況席

PM3:55


ワァァァァァァァァァ!!


ダル子「――――と、言うことで第一回戦は東條希の勝利で終わりました」

ダル子「映像と共に振り返って来ましたが初戦から白熱した対戦でしたね」

三船「ええ、そうですね」


三船「しかしヘイムダムが安定性に欠けた性能だったのは否めません」

三船「それを御し切った東條希の機転と実力は確かなものですが、暴走状態にならなければ勝者は変わっていたかもしれません」

ダル子「なるほど……では次の二回戦からが本番だと?」

三船「はい、次からは力を制御できる本物の神たちが立ちふさがります」

三船「ここでまた勝利を掴めるかどうかで穂乃果チームの真価が試されることになるでしょう」

ダル子「ほうほう、それは楽しみですね」



ダル子「二回戦の時間はこの後4時から」

ダル子「両チーム既に準備は終わり、二回戦の出場戦士のオーダーが実況席側にも上がってきています」

オォォォォォォォォォォォッ!!


ダル子(湧き上がる会場、早く次の対戦を始めろと言わんばかりだ)

ダル子(次は観客の熱気に負けず劣らす血の気の多い戦いになりそうで……どうなることやら)


ダル子「さて、特に無ければこのままインターバルのコーナーを終わりますが……」

チラッ

ダル子「三船さん、最後に何か一言ありますか?」

三船「そうですね……>>275

275名無しさん@転載は禁止:2020/10/23(金) 23:15:21 ID:db7Bz5bo
…準備は順調のようですね(小声)

276 ◆WsBxU38iK2:2020/10/25(日) 00:14:27 ID:r9j5SivI
三船「そうですね……ふふっ……準備は順調のようですね(小声)」

ダル子「……ん? 今なんと?」

三船「いえ、次の決戦も楽しみですねと言っただけですよ」


ダル子「なる……ほど?」

ダル子(小声で聞き取れなかったけど絶対そうは言ってない気がする)

ダル子(でもここで変に聞き返してたら進行が滞るし……一旦流してインターバルを締めておこう)



ダル子「ではインターバルは終了、二回戦の開始をお待ち下さい!」

ウオォォォォォォォォォォォ!!

ワァァァァァァァァァァァァァァ!!







──チームオーディンベンチ


ワァァァァァァァァァ!


フレイ(インターバルの終了を告げるアナウンス)

フレイ(振り返りの映像はよく編集されていて出来の良いものでしたが、肝心の実況と解説が少し噛み合ってませんでしたね)

フレイ(会話の中でちらほら見受けられたダル子の距離感を計りかねてるような態度)

フレイ(相手が使徒だから警戒してるのか、単に打ち合わせが足りないのか)

フレイ(全く……“使徒がこのラグナロクに関わることは何の問題もない”というのに、何を勘ぐっているのやら)


フレイ「はぁ……」

フレイ(次のインターバルまでに運営に改善するように要請しておきましょう)



ワァァァァァァァァァァァァァァ!!

フレイ(とは言え、あんな拙い実況解説でさえ一旦温まった会場の熱気は冷めやらない)

フレイ(むしろに二回戦が近づくにつれますますヒートアップしている様子)



フレイ(……そして、このチームオーディンのベンチにも1人、熱気に当てられ舞い上がってるアホな神が騒いでいた)


トール「良いねェ良いねェ! 盛り上がって来てんねェ!」

277 ◆WsBxU38iK2:2020/10/25(日) 00:15:10 ID:r9j5SivI
ガンッ!

トール「なぁフレイ! 祭りはこうでなくちゃなぁ!」

フレイ(パーマのかかった赤い髪、鋭い眼光を宿とした瞳、スーツ姿のトールはベンチの前の柵に片足を乗せたままこちらを振り向く)

フレイ(全く、今にも飛び出していきたい気持ちを全身から発露させてる子供のようですね)

フレイ(これでも良い歳したアースガルズを守護する神の一柱なのですが……)



フレイ「祭りではありません、これは戦争です」

フレイ「それとトール、まだ貴方を出すと決めたわけではありませんよ」

トール「えーーっ! なんでだよ!」

ガバッ!

フレイ(その言葉を聞いたトールは雷に打たれたような勢いで私に詰め寄ってくる)


フレイ「近い、近いですって」ググイッ

トール「なぁ! 出ていいだろ!? オレも戦いてぇよ!!」

フレイ「貴方の他にヴァーリも出たいと言っているのです、そちらの意見を無視することはできません」

トール「ヴァーリが……?」

フレイ「ええ」


スッ

ヴァーリ「…………」

フレイ(私が頷くと、ベンチの奥、日差しが届かす影になってる場所から、変わらずローブ姿のヴァーリが姿を現した)

フレイ(そのまま私たちの前まで歩いてくると、ピタリと止まって無言でトールの方を見上げた)


ヴァーリ「…………」ジーッ

トール「おう、なんだよ」 

フレイ「ヴァーリ、このバカが第二回戦に出たいと手を挙げています」

トール「バカ……? 誰のことだ?」キョロキョロ


フレイ「私としては貴方の意見を優先させたいと思ってるんですが……」

ヴァーリ「……ボク?」

フレイ「はい、貴方が決めてもらって構いません」

フレイ「この二回戦、自分が出るかトールが出るか、どちらにします?」



ヴァーリ「……え、えーと……だったら、>>278

278名無しさん@転載は禁止:2020/11/05(木) 00:18:33 ID:rLLSJjCk
もっと見ていたいからあとでいいよ

279 ◆WsBxU38iK2:2020/11/06(金) 00:59:10 ID:RBus8WXE
ヴァーリ「……だったら、あとでいいよ」

フレイ「後で?」

ヴァーリ「うん、もっとミていたいからあとでいいよ」コクンッ


フレイ「分かりました、では二回戦はあのバカに出てもらいましょう」

トール「あのバカ……ってオレのことか!?」バッ!

フレイ「今更気づいたんですか、うるさいし暑苦しいから早く行ってきてください」シッシッ

トール「はぁぁぁぁっ? ったくよォ!」

ダンッ! ヒュンッ!


フレイ(私が煙たがるジェスチャーをすると、トールは苛つきながらベンチの策を飛び越え闘技場へと歩いていく)

フレイ(荒々しく髪を掻きむしりながらも、その目は真っ直ぐ戦いの場を見据えている)


フレイ「トール、やるからには勝ってくださいよ」

トール「……当たり前だ、誰に言ってやがる」

フレイ(背中に投げかけた私の言葉に、トールは振り向かず一度だけ片手を挙げて答えた)


ザッ

トール「さぁ出てこい、オレが相手になってやるよ、人間共!」









──チーム穂乃果ベンチ



ことり「うわぁ……なんか荒れてるね」

海未「ええ、ですがオーダー順はこちらの読み通りです」


海未(闘技場を挟んだ向こう、オーディンチームのベンチから出てきたのはトール)

海未(オーディンチームで唯一ローブを羽織っていないため、遠目からでも一発で区別がつく)

海未(雲のようにうねる赤髪、ビシッと決まったスーツ、そしてトールの放つ荒々しい闘気までもがこちらのベンチまで伝わってくる)

海未(決戦を前に昂ぶっているのか、何か気に食わないことがあったのか)

海未(その心中を計り知ることはできませんが……トールが油断できない相手であることに変わりはありません)


海未「にこ、行けますか?」

にこ「勿論よ、誰に言ってるの」

グイッ

海未(トールの出場を読んでこちらの次鋒はにこ)

海未(希の時と同様、あらゆる環境のスタジアムを想定してアイテムを詰め込んだリュックを背負っている)


心ノ穂乃果「……よし、準備はこんなとこで大丈夫かな」パンパンッ

にこ「心配し過ぎよ、遠足前の母親じゃないんだから、リュックがパンパンになってるじゃない」

心ノ穂乃果「えへへ」


心ノ穂乃果「それにしても……その>>280も持っていくんだね」

にこ「ええ、前々からトールと戦う気ではいたからね」

にこ「これはトールを相手取る上で必要なものになるはずよ」

280名無しさん@転載は禁止:2020/11/06(金) 08:18:12 ID:e0cmZ3/A
菓子折り

281 ◆WsBxU38iK2:2020/11/07(土) 00:40:12 ID:PAQTtGj.
心ノ穂乃果「……なるほど?」

にこ「そ、どんな状況だって“手土産”は忘れちゃいけないの」      

海未(にこはそう言うと菓子折りの入った紙袋の紐に手をかけ持ち上げる)


にこ「それじゃ行ってくるわね」

にこ「穂乃果、ことり、海未、それから……希」

海未(にこは私たち1人1人の目を順番に見た後、ベンチで横になっている希の近くに寄ってかがみ込む)


海未(本来、治療ルームのベッドで安静にしておかなければいけないはずの希がベンチにいるのは希たっての希望だ)

海未(近くで皆と応援したいという希の思いを汲み、インターバルの間に簡単な検査だけ済ませて戻ってきた)

海未(症状が生命エネルギーの消耗であって、場所がどこであれ休養さえしていれば回復に向かうというのも医療スタッフに許可された要因だろう)

海未(まぁ、それでも体調が大幅に崩れる様子があれば治療ルームに連れ戻される約束ではあるのですが)



希「ああ……にこちゃん、がんばってな」

海未(まだ生命エネルギーが回復しておらず、弱々しく差し出す希の手をにこが力強く握り返す)

にこ「もちろんよ」ギュッ

にこ「希が懸念材料だったヘイムダムを倒してくれたし、あとはポンポンと連勝してラグナロクを終わらせるだけ」

にこ「このにこにーに任せておきなさいって」

希「うんっ」



クルッ

にこ「はっ!」タンッ!

海未(頷いた希に笑顔で頷き返すと、にこはベンチから飛び出していく)

スタンッ


海未(闘技場を見ると既にトールは到着していて、にこが出てくるのを待っている様子)

海未(そこへにこが歩いていくと、メインスタジアム全体にダル子のアナウンスが鳴り響く)

キィーーンッ


ダル子『会場の皆さん、お待たせしました! 両チームの戦士が出揃ったようなのでこれより第2回戦を始めます!』

ウオォォォォォォォォォォォ! ワァァァァァァァァァ!!
 

ダル子『チーム穂乃果からは矢澤にこ! リボンとツインテールが特徴の宇宙No.1アイドル!』

ダル子『それを迎え撃つチームオーディンからは雷神トール! レクリエーションで垣間見えた雷神の本気が見れるのでしょうか!』


ダル子『そして! この2名が戦うフィールドはーーーーーー』

ドゥルルルルルルルルルルルッ

ダダンッ!

ダル子『>>282スタジアムです!!』

282名無しさん@転載は禁止:2020/11/07(土) 18:40:06 ID:CQbx8thc
マナー講師監修の

283 ◆WsBxU38iK2:2020/11/08(日) 01:08:55 ID:K5AVKKVs
ダル子『マナー講師監修のスタジアムです!』

ワァァァァァァァァァァァァァ!!!!


海未(ダル子の発表と共に上空の巨大モニターにスタジアム名が大きく表示される)


海未「マナー講師監修……ですか」

心ノ穂乃果「一回戦の宇宙スタジアムみたいに名前からじゃどんなスタジアムなのか分からないね」

海未「はい、しかし宇宙スタジアムは周囲の環境をある程度予想できるものでした」

海未「今度は監修者の名前だけで構造や環境、ギミックといった全ての要素が不明瞭です」

ことり「マナーかぁ、うーん……難しいなぁ」


海未「まぁ、とはいえ代表者を送り出した今の私たちにできることは限られてますし」

海未「今は全力でにこを応援しましょう」グッ

ことり「うん、そうだね!」

心ノ穂乃果「がんばれー! にこちゃーん!」



ダル子『さぁ! 観客席、各チームのベンチからの声援を受け、今二人の戦士が闘技場の上に立っています!』

ダル子『お二方、準備ができ次第、目の前の転送陣に乗っていただき……はい、ありがとうございます!』


ダル子『では転送開始まで5! 4!』

キュィィィィィィィィィィンッ!!


海未(にこ、トール、2人の足元で輝く転送陣の光が高く伸びて行き、光の柱となって体を包み込む)


ダル子『3!』


ダル子『2!』


ダル子『1!』


キュィィィィィィィィィィンッ!!!!


ダル子『それではラグナロク第二回戦、矢澤にこvsトール! 開始です!!』


─────────────────

メインスタジアム

PM3:55〜4:05 反逆の焔編『13』了

284 ◆WsBxU38iK2:2020/11/08(日) 01:09:23 ID:K5AVKKVs
というわけでここまで

二回戦の始まり

反逆の焔編『14』に続く
かもしれない

285 ◆WsBxU38iK2:2020/11/09(月) 02:44:07 ID:eApRAEk.
反逆の焔編『14』

─────────────────
──メインスタジアム

PM4:04


ザッ

にこ(闘技場へ上がると既に待ち構えていたトールがこちらを見る)


トール「はっ……遅えじゃねえか、ビビって逃げたのかと思ったぜ」

にこ「レディーのお出かけには時間がかかるの、黙って待つくらいの甲斐性は見せてちょうだい」

トール「はっはっは、レディーとは笑わせる、この雷神を前にしてビビらねぇやつが只の小娘なわけがねぇだろうが」

にこ「…………ふんっ」


にこ(トールは大袈裟な身振りで威圧的に振る舞う、けれど今まで相手取ってきた化物連中に比べれば大したオーラは感じない)

にこ(むしろ、あまりに力を感じなさすぎて不気味に思えるくらいだ)

にこ(この頭の悪そうな振る舞いの裏に海未とのレクリエーションで見せた力の片鱗が潜んでる)

にこ(お遊びであれなら本気を出せばどれほどのものなのか……)


ダル子『さぁ! 観客席、各チームのベンチからの声援を受け、今二人の戦士が闘技場の上に立っています!』

ダル子『お二方、準備ができ次第、目の前の転送陣に乗っていただき……』


トール「よっと」タンッ

にこ「……」スタスタ

ダル子『はい、ありがとうございます!』


にこ(更に戦いの舞台はマナー講師監修のスタジアムというよく分からないスタジアムらしい)

にこ(そんな場所でトールを相手取るなんて……事前に準備した作戦がどこまで通じるにかかってるわね)

ギュッ


ダル子『では転送まで、5! 4!』

キュィィィィィィィィィィンッ!!

ダル子『3! 2! 1!』


ダル子『それではラグナロク第二回戦、矢澤にこvsトール! 開始です!!』

バシュンッ!!!!


にこ「…………っ!」


フワッ

にこ(ダル子の掛け声と共に私の体を光の柱が包む)

にこ(その直後に感じる僅かな浮遊感と明滅する視界)

にこ(足元の石の闘技場の感触や、スタジアムに響いていた歓声がスッと消失する)


にこ(そして再び光の柱が消え去り、足元に確かな感触が戻ってくると……)


スタンッ

にこ(私の体は周りが>>286な場所へと降り立っていた)

286名無しさん@転載は禁止:2020/11/09(月) 06:18:52 ID:X1rlQ3VU
いつぞやの魔女の結界のようなおかし

287 ◆WsBxU38iK2:2020/11/10(火) 01:19:04 ID:g4qvgZ6.
にこ(いつぞやの魔女の結界のようなおかしな場所へと降り立っていた)


にこ「ここは……」

にこ(足元にあるのは転送前と変わらない石の床)

にこ(違うのはただ一つ、転送前は限られた面積だった円形闘技場の床が遥か地平線の彼方まで続いていること)

にこ(障害物が一切ない、延々と続く無味の地平)

にこ(見上げれば昼とも夜とも判別の付かない濁った色の空が広がっている)


にこ「はぁ……また奇妙なとこに飛ばされたわねぇ」


にこ(メインスタジアムとも、宇宙スタジアムとも違う、スタジアムと定義するべきかさえ疑わしい空間)

にこ(そんな中、私の魔術師としての勘はあることを察知していた)


にこ「……やっぱりこれ、結界に似てる」

にこ(漂う空気感が明らかに自然のものではない)

にこ(“元々おかしい空間”にスタジアムを建造したのではなく、建造されたスタジアムをいじって“意図的におかしい空間”を創り出してる)

にこ(ここらへんの違いは微妙だし、判断の理由は私の肌感という他ないけど、とにかくこの空間は鼻につく)

にこ(まるで前に対峙した魔女の結界の中のような不快さだ)



にこ(ワルプルギス――あの魔女も中々に厄介な相手だった)

にこ(あの時の結界は私の心象風景の鏡写しみたいな感じだったけど、ここはどんな結界なのか)

にこ(独自のルールや縛りがあるとしたらそれを解明しないことには――――)


トール「――おい! おーい!」


にこ(しないことには――――)


トール「おいテメェ! 聞いてんのか!!」


にこ「……はぁ」

にこ(考えなかったわけじゃない、後回しにしていただけだ)

にこ(地形が平面で障害物がないということは、当然ながらどれだけ距離があろうがお互いの位置は丸わかりなわけで)

にこ(私を見つけたトールが爆速でこちらへ走ってきてるのくらい数十秒前から知ってるわけで…………)

288 ◆WsBxU38iK2:2020/11/10(火) 01:19:17 ID:g4qvgZ6.
にこ「全くもう! 少しくらい慎重に考える時間作らせなさいよ」

バッ バッ

にこ「トレース・オン!」

ブォンッ!

にこ(開いた両手それぞれに短剣を投影して構える)


にこ(さっきまで地平線の彼方で砂粒程度の大きさだったトールは、もう目と鼻のさきまで迫っている)

にこ(明らかに二足歩行生物が走って出していい速度を超えている、伊達に神様はやってないってわけか)


トール「うおぉぉおおおおおおおおおおっ!!」

にこ「ああもう、こうなったらなるように――――」


ピピーーーーーーーッ!!

トール「あ?」

にこ「お?」


ビタンッ!!!!

トール「……っ!?」

にこ(文字通りの猪突猛進で殴りかかろうとしてきたトール)

にこ(その拳をどう2本の短剣でいなすかタイミングを測ろうとした瞬間、トールの体が空中でピタリと止まった)


トール「……んだ、これはっ! 動けねぇ……!!」ギリギリッ

にこ「……え?」


にこ(空中で停止したまま叫ぶトール、短剣を構えたまま困惑する私) 

にこ(どうすればいいか決めかねていると、そこへ聞き覚えのない第三者の声がかけられた)


??「ダメマナー、ノットマナー、マナーのなってない攻撃マナー」

にこ「……!」

にこ(私とトールの間、さっきまで何もなかった空間に謎の生物が立っていた)

にこ(その姿は厚紙や布の細かい切れ端とほつれた糸を組み合わせて辛うじて人を象った出来の悪い工作ようなもの)

にこ(喋ってはいるけど目や口はなく、生物かどうかすら定かではない)


にこ(さっき魔女の結界を連想したせいか、結界の中の使い魔に似た印象を受けてしまう)


にこ「あなた……いったい……」

マナー「マナーの名はマナー、マナーの調律者にして、このバトルマナースタジアムの監修者」

マナー「さらに言えばマナーバトルにおいての管理者でもある故、両者よろしく頼むマナー」


トール「テメェか……オレを止めたのは……」ギリギリッ

マナー「このマナーバトルスタジアムにおいてマナーのなってない攻撃は通らないマナー」

マナー「さらにマナーを無視した者にはペナルティとして>>289

289名無しさん@転載は禁止:2020/11/14(土) 08:33:43 ID:lgQBfDzE
減点

290 ◆WsBxU38iK2:2020/11/15(日) 00:15:05 ID:ByP1vqIY
マナー「さらにマナーを無視した者にはペナルティとして減点処置がされるマナー」

マナー「ほい減点っ!」ビシッ

にこ(マナーが毛糸をより合わせて作ったような手でトールを指差すと、トールの頭上に数字の羅列が現れた)

にこ(数字は全部で3桁、左から1、0、0の順番)

にこ(何かで固定されてるわけではなく、本当に数字だけが空中に浮かんでいる状態だ)


にこ(その3つの数字がそれぞれパタパタと捲れるように音を立て回転し、別の数字へと切り替わっていく)

カタカタカタッ シュシュンッ

トート「ぐっ……!」

にこ(それと対応するように僅かに漏れるトールのうめき声)

カチンッ!

にこ(そうして数字の入れ替わりが止まると、3つの数字は0、9、5となっていた)


にこ(100から95、元々の持ち点が100で5点の減点を食らった……ってとこかしらね)

にこ(問題は減らされるとどうなるか、最終的に0になるとどうなるかだけど……)


トール「……おいテメェ、今の感覚は」

マナー「ええ、減点はそのまま肉体的精神的なダメージとなって現れるマナー」

マナー「そして点数が0になると強制敗北、それがこのスタジアムのルール! つまりマナー!」デデーン



にこ「マナーねぇ……」

トール「ったく、厄介なルールを押し付けやがって」


にこ(最初に感じた魔女の結界に似た気配……あれはこの空間、スタジアムに付与された術式によるものだったわけか)

にこ(減点の連続で即敗北になりかねないルール、癪だけどトールが嫌がる気持ちも分かる)


にこ「マナー、それで攻撃する時はどうするのが正解なの?」

マナー「お?」

にこ「あなたマナー講師なんでしょ、だったら教えるとこまで含めてこのスタジアムの仕掛けなんじゃない」

マナー「おお、おーおー、そうですマナー、講師なので特別に最初の1つは教えるマナー」 

にこ「助かるわ」


にこ(特別、最初の1つという点が気になるけど、タダで聞けるものを聞いといて損はない)

にこ(あくまで警戒は解かず、双剣を構えたままマナーの言葉に耳を傾ける)



マナー「良いかマナー? 相手に攻撃をする前は>>291するのがバトルマナーの基本中の基本だマナー」

291名無しさん@転載は禁止:2020/11/17(火) 00:39:23 ID:RZsZNX1k
挨拶

292 ◆WsBxU38iK2:2020/11/18(水) 00:21:13 ID:BiviiPjw
マナー「挨拶をするのがバトルマナーの基本中の基本だマナー」


にこ「挨拶……」

トール「はっ、そいつは随分と礼儀正しいことで、結構結構」


マナー「では一時停止を解除、戦闘を再開するマナー」

マナー「この先はマナー違反があっても警告なしにダメージが入るから注意するマナー」

マナー「それじゃあバトルマナーを守って楽しくバトル! 開始!」

バシュッ!!

にこ「……っ!」


にこ(マナーは両腕らしき布を体の前でクロスさせ消失する)

にこ(それと同時に停止していた空気が、空中で固まっていたトールが動き出した)

スタッ


トール「ふぅ……やっと降りれたぜ、それにしてもマナーか、なるほどねぇ」

トール「厄介なルールを押し付けられたことに変わりはねぇが、つまりは正々堂々戦えば良いんだろう?」

ザッ!

トール「オレの名はトール! 雷神トール! オーディンチームの二番槍!」

トール「人間、お前を倒すのはこのオレだ!」ビシッ!


トール「行くぜ行くぜ行くぜぇ!」

バリィィィィィィッ!!!!

にこ(振りかぶったトールの拳が帯電し青白い閃光を放つ)


にこ「……!」

にこ(このスタジアムの大まかなルールは把握した)

にこ(問題はどういった行為がマナー違反に認定されるのかということ)


にこ(例えば、この場面で私が取れる行動を考えよう)

にこ(攻撃宣言をしたトールの一撃に対して取れる行動は、反撃するか、防御するか、避けるか、逃げるか、といったところ)

グッ

にこ(『挨拶して攻撃』の例やトールの言動を見るに、正々堂々と戦うのがバトルマナーなら、避けるや逃げるなど弱腰になるのはダメ……?)

にこ(もし回避行動を選んでマナー違反に抵触した場合、いきなりダメージを受けて回避自体が失敗するリスクがある)


にこ(……だったら、こちらも反撃するまで!)

バッ!


にこ「チーム穂乃果、矢澤にこ! その勝負受けて立つ!」

シュィンッ!

にこ(手持ちの武器を汎用性のある短剣から対トールを想定した武器へ切り替える)   


にこ「はっ!」

にこ(神を目の前にして少し気圧されたけど、こっちだって入念に修行と準備はしてきたのよ)

にこ(トール、アンタのために用意してきた武器、>>293の威力をとくと味わいなさい!)

293名無しさん@転載は禁止:2020/11/18(水) 09:08:17 ID:xUiIqKUs
AK-47

294 ◆WsBxU38iK2:2020/11/19(木) 02:22:40 ID:EuDRhr3A
にこ(AK-47の威力をとくと味わいなさい!)

ジャキッ!

ダダダダダダダダダダダダダッ!!


トール「おお?」

にこ(両手で銃を構え、突っ込んでくるトールに対して引き金を引く)

にこ(銃の扱いに慣れてなんかないけど、流石にこの距離なら外すことはない)

にこ(僅かに銃身が跳ね上がるもののフルオートでばら撒かれた銃弾の多くがトールの腹部から胸にかけて着弾する)

ドシュシュシュシュッ!!


にこ(だけど……)

トール「……はっ!」ニヤリ


トール「効くかよ! そんな豆鉄砲!!」

にこ(AK-47から放たれた弾丸は確かに着弾してトールのスーツに風穴を開けてはいる)

にこ(だけどそれだけ、出血もなければ怯む様子もない、本体であるトールに有効打を与えられていない)


トール「いいか? 攻撃ってのはこうやるんだよ!!」

ゴッ!!!!

にこ(間近まで迫る雷の拳)

にこ(遅れてくる爆音が、この拳に空気を引き裂くほどのエネルギーが集中されていることを証明する)

にこ(頭に喰らえばひとたまりもなく私の頭蓋は吹き飛ぶ)


にこ(だからこそ、その拳に対して――――)


パッ

にこ(私は両手を離し、抱えていたAK-47を地面へ落とす)



にこ「……ま、そこはまだ想定内ってわけよ」

にこ(当然ながら諦めたわけじゃない)

にこ(私は銃から離した両手を素早く顔の正面に持ってきて1つの印を結ぶ)

スッ


にこ「アンタに撃ち込んだ銃弾、あれは単なる鉛の塊なんかじゃあない」

にこ「魔術師がわざわざ銃を取り出す意味、よく考えてみるといいわ」


にこ(そう、撃ち込んだのは布石、術式を構成するための楔)

にこ(トールの体に埋め込まれた楔を元に、私は>>295の術式を発動させる!)

295名無しさん@転載は禁止:2020/11/20(金) 00:43:12 ID:0ihLtywE
裂傷

296 ◆WsBxU38iK2:2020/11/21(土) 01:10:30 ID:1yKyvsqU
にこ(トールの体に打ち込まれた楔を元に、私は裂傷の術式を発動させる!)


にこ「極小結界――烈風空域!」

キュインッ キュインッ キュインッ


にこ(トールに打ち込まれた弾丸の1つから別の弾丸へ直線的につながる光の線)

にこ(弾丸の数だけ増えるその光の線は体全体に広がり、トールを縛るかのように立体的で複雑な軌道を描く)

にこ(そして、トールの体に生まれる無数の裂傷!)

カッ

ザシュルルルルルルッ!! バシュッ!!!!

にこ(その傷の大きさは小さいもので10cm、大きいもので1mほど)

にこ(トールの体のあらゆる箇所からは勢いよく血しぶきが上がる)


トール「がはっ……!」

にこ(よし……成功した!)


ブォン!!!! ゴッ!!

にこ(直後に振り抜かれるトールの拳)

にこ(しかし予期せぬ攻撃と傷の痛みに動揺したのか、拳を私の頭の横をすり抜け通り過ぎていった)



トール「ぐっ……ぶはっ! はぁ……はぁ……」ガクッ

にこ(背後で血を吐きながら片膝をつくトール)

にこ(私はとりあえず距離を取って、再びAKを手元に投影、銃口をトールに向けて警戒を続ける)


トール「なんだこれ……実体のない裂傷、風の刃か……?」

トール「それにしたって一体どこから、何も見えなかったぞ……」



にこ「ふふっ、混乱してるみたいね、良いわ、だったらこのまま――」

ドクンッ!

にこ「……うぐっ!」

にこ(しめしめ、そう思った瞬間、心臓が締め付けられるような痛みが走った)

にこ(続いて頭の上でパタパタと何かが切り替わる感覚)


にこ「まさか!」バッ

にこ(事態を察して頭上を見ると、そこに表示されてる数字が100から95に減っている)

にこ(まさか……これもマナー違反なの? 相手に手の内を知らせないまま攻撃を続けたらダメってこと!?)

にこ「……っ!」

グッ

297 ◆WsBxU38iK2:2020/11/21(土) 01:10:41 ID:1yKyvsqU
にこ「……はぁ、仕方ないわね」

にこ「トール、アンタが負った傷は外部からの攻撃じゃない、内部からの攻撃よ」


トール「あ? わざわざ教えるのか?」

にこ「マナー違反らしいからね、開示せずに攻撃し続けると私が判定負けするのよ」

トール「はっ……そりゃありがてぇ」


にこ「アンタと戦うことを想定した場合、外部からの物理的な攻撃や術式による攻撃は十中八九通じないだろうと思った、前提としてスペックが違いすぎるのよ」

にこ「だから私が考えたのは内側からの攻撃」

にこ「このスタジアムを覆うマナーの結界や私の固有結界よりもっと小さい、人1人分をちょうど覆うくらいの濃縮された極小結界」

にこ「それをアンタとぴったり重ねて体の内部から術式を発動させればさすがのアンタもダメージを負うと考えたわけ」


トール「……なるほどねぇ、この無数の風の刃はオレの中で生まれて外に向かって体を切り裂いて出てったわけか、随分エグいこと考えるじゃねえか」

にこ「でも効果はてきめんだったでしょ?

トール「ああ」


トール「ああ……そうだな、オレがただの人間だったら危なかったかもな」

ポタ ポタ ポタ

にこ(トールのスーツは血に染まり、端から垂れた血が地面に血溜まりを作っている)

にこ(それでもトールは苦痛に顔を歪めることはなく、むしろ自分がダメージを受けたことに高揚しているようだった)


トール「良いねェ、良いねェ、戦いってのは、喧嘩ってのはこうじゃなきゃ」

トール「刺激的なプレゼントをもらった礼だ、オレもとっておきのやつ、>>298を見せてやるよ!」

298名無しさん@転載は禁止:2020/11/21(土) 08:03:45 ID:n/94zHCc
ミョルニル

299 ◆WsBxU38iK2:2020/11/22(日) 00:18:47 ID:IzXZ.Ywk
トール「ミョルニルを見せてやるよ!」

ゴッ!!!!


にこ「……っ!」

にこ(来る、と肌で分かった)

にこ(トールを取り囲む空気の質が変化する)


にこ「こうなったら対策できるだけ対策するわよ! 極小結界を複数展開するために起点となる弾丸をばら撒くから!」バッ!

にこ(マナー減点をくらわないように説明を交え、抱えたAKから周囲の床に弾丸をばら撒いていく)

にこ(装填されている弾丸は私の魔力を込めた特製の弾丸)

にこ(予め弾丸をばら撒いておけば、周囲のあらゆる場所を起点にして私の魔術を行使できる)

にこ(ツインテの風魔術と固有結界を組み合わせた術式、烈風空域もその対象だ)


ダダダダダダダダダダダダダッ!

ダダダダダダダダダダダダダンッ!!


にこ「これで私は周囲の空間にばら撒かれた弾と弾の間に自由に風の術式を放てるわ!」


トール「結構結構、じゃあこっちも召喚するぜ」パチンッ

トール「来やがれ――トール」

ピカッ!

ゴロロロロロロロッ! バリィィィィィィッ!!


にこ「……っ!」

にこ(いつの間にか上空を覆っていた黒雲から落ちる一筋の雷)

にこ(落雷の破壊の跡が残る地面が熱された蝋細工のようにうねり隆起すると、そのまま円柱状に高さを増していく)

にこ(そして円柱がトールが横に広げた手の高さに到達すると隆起はピタリと止まった)

シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

にこ(隆起が止まると、今度は地面と繋がってる部分から段々と円柱の表面がヒビで覆われて行き――――)

バキバキバキバキッ!

にこ(ヒビが全体を覆い尽くした次の瞬間には、円柱は跡形もなく砕け散った)

バリィィィィィィンッ!!


にこ(その中から現れたのは一振りの鎚)

にこ(トールハンマーと名高い多くの巨人を葬ってきた戦鎚――ミョルニル)



トール「……すぅーー」

ガシッ

トール「行くぜっ!!」

ダンッ!!

にこ(ミョルニルの柄を握った瞬間、トールの瞳に赤い眼光が宿る)

にこ(体の内側から引き裂かれる痛みに戸惑っていたやつと同じとは思えない)

にこ(今のトールは紛れもない荒ぶる戦士だっ)


ブフォァァァァァァァァァァッ!!

にこ「くっ……!」

にこ(ミョルニルを引き抜き軽く担いだだけで感じる風圧と威圧、やはり神器はとんでもないわね……)


トール「オレの攻撃は至って単純、こいつで殴って殴って殴り倒す!」

ダンッ

トール「さらにもう1つ教えておく、ミョルニルには使い方に応じた複数の形態があるんだぜ」

トール「力任せにぶん殴るための形態、海未の時に見せた素早く移動するための形態」

ガッ!

トール「そんでもって今のこいつは>>300

300名無しさん@転載は禁止:2020/11/22(日) 12:17:05 ID:K28b55.M
蘇生特化

301 ◆WsBxU38iK2:2020/11/23(月) 00:30:12 ID:hBzTseNo
トール「そんでもって今のこいつは――蘇生特化だ!」

ゴッ!!!!

バラララッ!!


にこ(ミョルニルが勢いよく叩きつけられ、砕かれた床の破片が宙を舞う)

にこ(その破片と同時に、破壊の後から緑色の粒子が舞い上がり、トールの体を包みこんだ)

シュウウゥゥゥゥゥゥゥ

にこ「なっ……さっきの傷が……!」


トール「言っただろ、蘇生特化だって!」ゴッ!

バラララッ!

トール「こいつは破壊すればするだけ使い手の傷を癒やし回復させる」

トール「テメーにつけられた傷だってこの通り! だ!」

シュン! シュン!


にこ(トールの言う通り、攻撃するたびトールの体についていた裂傷が回復していく)

にこ(烈風空域で切り裂かれた肉体が、溢れ滲んでいた血が、元に戻っていく)


にこ「脳筋なのに回復まで使えるなんて……ちょっと反則じゃないの!?」

バッ!

にこ「……っ! 烈風空域複数展開! とにかく斬って斬って斬りまくる!」


にこ(ミョルニルを振り回しながら接近してくるトール)

にこ(それに対して再び烈風空域を発動、加えて予め地面に打ち込んでいた弾を起点に風の刃を発生させる)

シュルルルルルルッ!

にこ(トールの肉体を内から切り裂き、地面から発生させた風の刃をトールの死角から複数打ち込む)


トール「はっ! そんなものは効かねえよ!」バッ!

キインッ!

にこ(しっかり弾く……ってわけね)

トール「さらに体の内からの傷はミョルニルで回復!」キュイン!


にこ「くっ……!」

シュルルッ! シュンッ! ザシュッ! ガッ! キィンッ!

にこ(ダメね、回復速度が速すぎる)

にこ(常時連発させてる体内の烈風空域は回復で相殺)

にこ(やつの着地の瞬間、ハンマー振り下ろした瞬間、やつの動きの隙に合わせて設置型トラップのように起動させる風の刃は当たらなくもないけど……)

キュイン!

にこ(当たったとてかすり傷程度、そしてその程度の傷はすぐに治癒される)


タンッ

にこ(とりあえず後退しながら弾を設置し続けてはいるけど、このままじゃ張り合ってたら私の魔力が尽きるのがオチ)

にこ(何よりこんな地平の彼方まで開けたフィールドで後手後手に回ってたら勝機なんて物は訪れない)

にこ「……っ!」


にこ(考えろ、考えなきゃ)

にこ(背負ったリュックに入ってるものは、簡易的なサバイバル用具一式、非常時の食料一式、神沈めの水のボトル、あと菓子折り)

にこ(使える異能は固有結界、今まで使った宝具や武器の投影、風の魔術、空間転移の焔の力)

にこ(やつが現状押してるのは回復ソースの存在、つまりはミョルニル、あれを一瞬でも手放させることができれば有利になるかしら……?)


ザッ

にこ「……そうね、ここは>>302

302名無しさん@転載は禁止:2020/11/25(水) 13:49:58 ID:cKFWjrQE
菓子折り渡さなきゃ

303 ◆WsBxU38iK2:2020/11/26(木) 00:25:13 ID:u80xjhu2
にこ「ここはぜひ菓子折りを渡して受け取ってもらわなきゃ!」

サッ!

バンバンッ!!

にこ(突進してくるトールに合わせて地面に新たな弾丸を打ち込み、上方向へ噴射される風の刃を発生させる)

にこ(狙うのはミョルニルを持ったトールの右手首付近!)


シュルルルッ!!

トール「っと……また同じ手か? 魔術師にしては芸がねえなぁ!」サッ!

にこ(トールは直前でミョルニルを振り下ろす軌道を変えて、自らの手首を刈るように下から飛んできた風の刃を避ける)

にこ(だけど構わない、今のは避けるとこまで織り込み済みの攻撃)

にこ(全てはトールのテンポを狂わせて一瞬の隙を作るため)


にこ「そう! 菓子折りを取り出して渡すための隙をね!」バッ!!

にこ(AK-47を手放し、リュックから素早く菓子折りの袋を取り出す)


トール「ああ? 何だそりゃ、またかの罠を仕掛けてやがるのか?」

にこ「お生憎様、これは正真正銘のただの菓子折り、だから私に説明義務なないしマナー違反にもならない」

にこ「私はただこれを……手土産として渡すだけ!」

タンッ!!

にこ(敢えて踏み込む、トールの間合いの内側へ)

にこ(そして両手で丁寧に、菓子折りをトールの眼前へと突き出す!)


サッ!

にこ「どうぞ、心ばかりのものですが」ニコッ 

トール「…………は?」

にこ(差し出された紙袋にトールの思考が停止するのが分かった)


にこ(普通の戦闘なら武器を手放して菓子を渡すなんて愚の骨頂)

にこ(だけどここはマナーバトルスタジアム、戦闘の常識なんて通用しない)


にこ(加えてトールは知る由もないだろう)

にこ(学校、職場、初対面の相手、あらゆる場所で手土産を渡す慣習など、高位の神として君臨してきたトールとは縁遠いもの)

にこ(だから硬直する、私の行動に対してどう対処するべきなのか、それが分からず硬直する)

にこ(ミョルニルを握ったまま、菓子折りを見つめるその数秒が――――)


にこ「……あれ? これは受け取らずに戦闘を続ける、ってことで良いのかしら」

トール「……!」

にこ(アンタにとっての命取りになるのよ! トール!)

304 ◆WsBxU38iK2:2020/11/26(木) 00:25:25 ID:u80xjhu2
トール「ち、違っ! 今受け取と――――」

ビーーーーッ!!

にこ(ジャッジを促す私の言葉、それを聞いたトールは慌ててミョルニルから手を離すけど間に合わない)

にこ(マナー違反のアラームが鳴り響き、トールの頭上のカウンターが勢いよく減少)

にこ(トールの体にマナー違反のダメージが与えられる)
 
ドンッ!!!!

トール「……かはっ!!」


にこ(点数は95点から70点へ)

にこ(25点、全体の4分の1のダメージを食らったトールはミョルニルを手放したままダメージによろめく)

トール「あっ……うぐっ……はがっ……」

フラッ フラッ


にこ「はいご愁傷様、このルールって一見公平に見えるけど実は割合ダメージなのよね」

にこ「だから元の体力や精神力が多いほど同じ点数でも食らうダメージが多い」

にこ「私には想像できないけど、神様ってくらいなんだし相当な痛みが襲ってるんじゃない?」


トール「はぁっ……うぐっ……このぉぉぉぉっ……!」

にこ「ではバトルマナーに則って、宣言してから攻撃させてもらうわね」

タンッ

にこ(さらにもう一歩、ふらつき後ずさるトールを応用に懐へ飛び込む)

にこ(無防備に空いたボディ、そこへ食らわせる渾身の一撃) 

グッ

トール「……っ!」


にこ「食らいなさい! これが私の全力の、>>305

305名無しさん@転載は禁止:2020/11/27(金) 08:27:55 ID:8HhOFpXY
最大火力技

306 ◆WsBxU38iK2:2020/11/28(土) 00:56:46 ID:nbRkdTjU
にこ「これが私の全力の、最大火力技――――」

ゴッ!!!!!!!





──
────
───────






──円卓 修行期間


海未「必殺技……ですか?」

にこ「そう」コクンッ


にこ(ラグナロク決戦に向けての円卓での修行、その休憩時間に私は海未に相談をしていた)

にこ(サウナのように蒸し暑くなった修練場、お互いにタオルで汗を拭いたり水を飲んだりしながら会話を続ける)


にこ「修練を通じて色々な技術を習得できてる、強くなってる実感もある」

にこ「だけど私には必殺技、ここぞという時に決めるための火力のある技が足りないと思うのよ」

海未「ふむ……なるほど、ですが今までの技でも充分戦えるのでは?」

海未「例え火力が劣ろうとも手数や戦術で弱点を突けるのがにこの戦闘スタイルですし」


にこ「まぁ……確かに固有結界や、そこからの投影魔術、その他の魔術や元型能力、焔の能力なんかを組み合わせれば私は手数が多い」

にこ「宝具や神具をトレースすれば格上相手にだって上手く立ち回る自身はある」

にこ「だけど……」

海未「けど?」

にこ「今度の相手は正真正銘の神様、私の投影する贋作の武器は本物とぶつかればどうしても劣ってしまう」

にこ「それにラグナロクは個人戦、誰の力も借りれない」

にこ「伊勢湾でヨルムンガンドを倒した時のように、皆の力を纏め上げて本物以上の火力を出すような事だって不可能」


にこ「私一人で……何とかするしかない」

海未「…………」


にこ(実際、ちょっと才能のある程度の魔術師の戦績にしてはここまで上手くやってこれた方だ)

にこ(生まれ持った魔術に恵まれ、仲間に恵まれ、状況に恵まれ、細い勝ち筋を拾ってきた)

にこ(穂乃果のような特記戦力でもなければ、海未や希やことりのような人外の体を持ってるわけでもない)


にこ「……ようはさ、自信が欲しいんだと思う」

にこ「神格と1対1、頼れる仲間はいない、利用できそうなギミックがあるかは分からない」

にこ「そんな状況で“こいつ”をぶっ放せれば何とかなるかもしれない」

にこ「そういう希望みたいなものが、心の支えになる技が欲しいの……!」グッ


海未「……分かりました、あまり時間はありませんが考えてみましょう」

にこ「ほんと!」

海未「はい、ではまず試してもらいたい事が――――」







にこ(そこから私は海未と試行錯誤を繰り返してあらゆる技の組み合わせ、進化の可能性を探った)

にこ(そして生まれた私の必殺技、今までの私の攻撃の中でも最大火力を誇る技こそが>>307)

307名無しさん@転載は禁止:2020/12/03(木) 23:55:22 ID:Ay58QGjI
YAZAWA大回転

308 ◆WsBxU38iK2:2020/12/06(日) 00:43:17 ID:PDNYbXWE
にこ(最大火力を誇る技こそが――――)


にこ「YAZAWA大回転!!!!」

ゴッ!!!!







──メインスタジアム



ワァァァァァァァァァァァァ!!

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


ダル子『おおっと! 矢澤にこの体が目にも留まらぬ速さで激しく回転し、その周囲を竜巻のようなものが包み込んでいきます!』

ダル子『これはいったい何が起こっているのでしょうか……!?』



──チーム穂乃果ベンチ



心ノ穂乃果「おおおっ!」

海未「出ましたね、YAZAWA大回転」

ことり「知ってるの海未ちゃん?」

海未「はい、私がにこの修行に付き合って共に生み出した必殺技ですから」


海未「YAZAWA大回転はその名の通り回転のエネルギーをパワーへ変換する技です」

海未「まずはにこの二振りのツインテールをプロペラのように激しく回転させます」

海未「さらに両腕を回転させ、その状態で体全体をコマのように回転」

海未「これにより体の周囲に風の魔力で練り上げられた竜巻が発生」

海未「そして、回転する竜巻へ元型能力、ラブにこビームの粒子が混ざることにより――――」


『キュィィィィィィィィンッ!!』

ダル子『見てください! 矢澤にこを囲う竜巻の色がピンクに染め上げられていきます!』  


心ノ穂乃果「すごい!」

ことり「綺麗、まるで桜吹雪みたい……!」


海未「5つの回転により回転パワーは2×2×2×2×2の32倍」

海未「さらにラブにこ粒子が混ざることにより2倍の64倍」

海未「そこから思いっきりタックルを繰り出せばさらに2倍の――――」


にこ『128倍パワーだああああああああああああああああっ!!!!』


海未「にこ! 決めてください!」

心ノ穂乃果「もうなんかよく分かんないけど……やっちゃえにこちゃん!」

ことり「いけーー!!」






309 ◆WsBxU38iK2:2020/12/06(日) 00:43:47 ID:PDNYbXWE




──マナーバトルスタジアム




にこ「はああああああああああああああっ!!!!」

ギュルルルルッ!!

ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!!


にこ(吹き荒れる風、舞い上がるピンクの粒子)

にこ(数多の回転を組み合わせることにより練り上げた、全身全霊の魔力の渦)

にこ(目の前には意識を朦朧とさせているトール、回転の速度は最大に達し、行く手を阻むものは何もない)

カッ!!

にこ(決める、決めるしかない、この技でトールを……吹き飛ばす!!)


にこ「YAZAWA大回転――――縦断!」

ゴッ!!!!!!


トール「ぐっ……ぐああああああああああああああっ!!!!」

ブォンッ!!!!


にこ(YAZAWA大回転の直撃を食らったトールは桃色の嵐に跳ね飛ばされ、錐揉み回転をしながら遥か上空へ吹き飛んで行く)

にこ(そして上空で大きく孤を描き、遠く離れた地面に頭から落下)

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ


ドシャァァァァァァァァァァァンッ!!



にこ「はぁ……はぁ……」

バシュンッ!!

にこ(大回転を解除して停止)

にこ(竜巻の残滓が桜の花びらのように舞う中、私は膝に手をついて呼吸をと整える)


にこ「くっ……さすがにYAZAWA大回転は体力の消費が激しいわね」

にこ「それよりトール、トールの様子は……」

グッ ザッ

にこ(鉛のように重い体を半ば引きずるようにして振り向き、遠くに落ちたトールの様子に目を凝らす)


にこ(隕石でも落下したかのように円形にひび割れた石の床)

にこ(その中心に大の字で仰向けに倒れているトールは……>>310)

310名無しさん@転載は禁止:2020/12/06(日) 08:30:12 ID:ZPh28syE
マナーダメージを受けていた

311 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:37:47 ID:Iv6/6ngM
にこ(どうやら大回転のダメージに加えマナーダメージまで受けているようだった)

にこ(大の字に倒れているトールの上にカウンターが表示され、数字が70から50まで下降する)

カタカタカタカタッ パタンッ


にこ「はぁ……はぁ……」

にこ(今の衝突におけるトールは技を受ける側でしかなかったはず)

にこ(攻撃をされる際のマナーなんて私は習った覚えはないけど、ダメージを受けたのならこのスタジアムのマナー違反に抵触したのは間違いない)


にこ(ともかく……だ)

にこ(大回転とマナー違反の20点ダメージ)

にこ(元々25点のダメージを受け前後不覚になっていた所にダメ押しで食らった二重の攻撃)

にこ(普通の人間なら到底起き上がることはできないはず)


にこ(そう、相手が“普通の人間”ならば――――)


ザッ

にこ「……!」

にこ(トールの指がピクリと動いた、と感じた次の瞬間、仁王立ちのトールがそこにいた)

にこ(起きる上がりから起き上がるまでの間の動作が存在しない、一連の映像の途中をカット編集で切り取ったような有り得ない動き)

にこ(物理法則では説明がつかない、人間が構築した理論の輪から外れた現象)

にこ(“今のトール”を私の人としての視覚が、脳が、正常に捉えられていない……)


ピリッ バチバチッ

にこ(かすかに舞い上がる粉塵、俯いて表情の隠れたトールの前髪の先から青い火花が飛び散る)


トール「ははっ、ははははは……」

にこ「…………」


トール「……悪いな、さっきのマナー違反はオレがわざと避けなかったせいだ」

トール「意識が飛びかけてたのはマジだけど、本気で避けようとすりゃ真正面からぶっ飛ばされることはなかったはずだ」


にこ「……あら、そうなの、随分と舐められたものね」

トール「違ェよ、むしろオレは評価してんだぜ」


トール「ずっと考えてた、人間がどこまでオレと戦えんのか、どこまでオレに傷を負わせられるのか」

トール「そんでお前は実際強かった、オレと渡り合えた」

トール「だから受けてみたかったんだよ、お前の最大火力、本気の一撃ってのがどんなもんなのか、この体で試してみたかったんだ」   


トール「……ま、それがこのスタジアムじゃお前の言う舐めてるって判定になっちまうんだろうな」

ビーッ! カタカタカタカタッ

にこ(マナー違反の警告音、トールの頭上の数字が再び減少を始める)

312 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:37:59 ID:Iv6/6ngM
トール「でもな、悪いけどオレはオレのスタイルを変えるつもりはない」

トール「相手の全力を引き出し、受けきり、その上でオレが全てを叩き潰す」

トール「マナーなんて知らねェ、そいつがオレの神としてのプライドだ」

ビーッ! カタカタカタカタッ


にこ(マナー違反を知って尚、マナー違反を続けるという違反)

にこ(このままでは数字が減り続ける一方なのに、トールは気にする素振りを見せない)

にこ(それどころか、マナーダメージを受け続けてるはずなのに顔色1つ変えることがない)


トール「お前は本気を見せてくれた、だからオレも本気を見せる」

トール「“人”として敗北する前に、“神”としてのオレの力でお前の全力に応える……!」

ドゥンッ!!


にこ「……っ!」

ガクンッ!

にこ(その瞬間、今までのトールとは比べ物にならない力の圧が辺り一帯に広がった)

にこ(まるで重力が何倍にも増加したような感覚が全身を襲い、強制的に膝をつかされる)

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

にこ「がはっ…………」


にこ(そんな圧の中、私は1つのことを思い出していた)  

にこ(神が人の前に現れる時、必ずしも本来の姿で現れるとは限らないということ)

にこ(あまりに次元の違う存在は、ただ在るだけで下位世界の理をいとも容易く狂わせてしまうから)

にこ(だから神は人の似姿を取る、人と対話するため、人をいたずらに壊さないようにするため)


にこ(じゃあもし、神が本来の姿を表したら、人は耐えられるのだろうか)

にこ(天災の象徴たる神の本気を前に、人はどこまで抗えるのだろうか……!)



トール「忠告してやる」

にこ「……!

トール「オレの姿が変化したら全速力で逃げろ、地平の果てまで逃げろ」

トール「そこまで距離を取ってお前にできる最大限の防御をすればワンチャン生き残れる可能性はある」

にこ「なに……を……」

トール「間違っても立ち向かおうなんて思うなよ」

トール「目の届く範囲にいるうちは、どう足掻いたって殺さねェ自信はねェからなあ」


スッ

トール「せいぜい耐えろ、たっぷりと味わえ、そしてその目に焼き付けろ」

トール「ラグナロク決戦初の化身解放、その姿と力の隅から隅まで!」

ゴンッ!!

にこ(トールはいつの間にか手にしていたミョルニルを地面へと突き刺し、その柄の前へ手をかざす)

にこ(左手は右腕の肘の辺りに添え、右手は真っ直ぐ、開いた手の平を直立した柄へ押し当てるように差し出す)


にこ(そして吐き捨てるように、解放の言葉を呟いた)


トール「化身解放」



トール「轟け――――天雷鏖鎚」

カッ!!!!


─────────────────

マナーバトルスタジアム

PM4:04〜4:15 反逆の焔編『14』了

313 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:41:31 ID:Iv6/6ngM
というわけでここまで

2回戦の前半戦区切り
のつもりが3/4くらいの進行
ルールはあれど正面から戦うスタジアムの都合上サクサク進んでしまうから仕方ない

反逆の焔編『15』に続く
かもしれない

314 ◆WsBxU38iK2:2020/12/08(火) 01:05:55 ID:sjpyq8vU
反逆の焔編『15』

─────────────────
──マナーバトルスタジアム

PM4:15


にこ(初めに“それ”に気がついたのは大気だった)


カッ!!!!

にこ(トールを塗り潰すように天へと立ち昇る巨大な雷の柱)

にこ(その柱が出現した瞬間、周囲の大気が柱から遠ざかるように一斉に逃げ始めた)

にこ(それにより生まれた気圧の差で柱を中心とした暴風が吹き荒れる)

ゴッ!!!!


にこ(次に気がついたのは大地だった)

にこ(大気から遅れること0.2秒、大気に呼応するように足元の地面が震え、鳴動し、柱から逃げるように地殻が変動)

にこ(地平線の彼方まで平らだった地面がひび割れ、隆起し、陥没し、バラバラに引き裂かれていく)

ドガガガガガガガッ!!


にこ(次に気がついたのは私の魂だった)

にこ(思考より早く生存本能が逃げろと叫びを上げる)

にこ(ここにいては危険だと、人としての、魔術師としての、あらゆる感覚が警告を発していた)

ゾクッ!

にこ(そして柱の出現から0.5秒、ようやく私の体がそれに気がつく)

にこ(光の柱に背を向け、全速力で走り出す)

ダッ!!!!


にこ(どこまで走れば良いかなんて分からない)

にこ(とにかく真っ直ぐ、地平線の彼方まで突っ切ることだけ考える)

にこ(今優先するべきなのは速さ、次点でトールの全力を受け切るための策)

ガッ!

にこ(少しでも軽量化するため、背負っていたリュックから神鎮めのボトルを取り出し、残りはリュックごと投げ捨てる)

バサッ!!

にこ(神鎮めの水――今更ボトルから捻り出せる程度の水量で立ち向かおうとは思わない)

にこ(水をかける対象はトールではなく自分)

にこ(キャップを外したボトルを逆さまにして水を頭から被り、全身を水で濡らしていく)

バシャッ!!

にこ(こうして神鎮めの水でコーティングすれば、万が一攻撃に飲み込まれたとしても少しはマシになるはず)

にこ(そして不要になったボトルも投げ捨て、更に全力で走り続ける)

ダッ!!!!

315 ◆WsBxU38iK2:2020/12/08(火) 01:06:10 ID:sjpyq8vU

バリッ!! バリバリバリバリッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

にこ(轟音を鳴り響かせる雷の柱)

にこ(横目で確認すると、柱の根元から複数の帯のようなものが生えて来ていた)

にこ(複数の帯は柱の表面に沿って周囲を回りながら上へ上へと伸びていく)

にこ(そして木の蔓のように柱へ絡まると柱の各部をギュッと絞り、莫大なエネルギー体である雷の柱に関節を生み出していく)


にこ(極大の雷そのものと、雷を縛る帯)

にこ(2つの要素によって形作られた“それ”は、巨大な神の姿へと変貌していく)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


にこ「……っ!」

にこ(気圧されてる……場合じゃない!)

ブンブンッ

にこ(考えろ、考えるのよ矢澤にこ、全力で走りながら脳みそもフル回転させなさい)

にこ(アレの一撃を耐えるのに必要な条件は3つ、距離と耐性と盾)

にこ(距離は今稼いでる最中、耐性は神鎮めの水で焼け石に水くらいの効果は期待できる)

にこ(ってことは……あとは盾!)


にこ(私が投影できる盾、色々候補はあるけど……ここで選ぶのは>>316)

316名無しさん@転載は禁止:2020/12/08(火) 21:33:28 ID:np495xR.
イージス

317 ◆WsBxU38iK2:2020/12/09(水) 01:11:58 ID:3N97g.t.
にこ(選ぶのは……イージス!) 


ダッ! ビュンッ!

タタタタタタッ ダンッ!!


にこ(トールからとにかく距離を取って盾の発動タイミングを図る)

にこ(タイミングは早すめぎたらダメだし遅すぎてもダメ)

にこ(早いと充分に距離が稼げないままの展開になるし、距離を稼ぐことを考えて展開が遅くなれば元も子もない)

にこ(トールが渾身が放つ渾身の一撃をギリギリまで引きつけて展開する、その見極めが鍵になる)


トール「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

バリィィィィィィィィィッ!!!!

にこ(背後から叫び声と共に轟音を鳴り響かせる解放形態のトール)

にこ(耳に入るだけで身震いする爆音に思わず振り返って盾を展開したくなってしまう)

にこ(いや……ダメだ、まだ耐えないと)

ギュッ

にこ(震える手を押さえつけて走る、走る、遠くへ走る!)


トール「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

にこ(まだ……)

トール「ぐおおおおおおおおおおあああああああっ!!」

にこ(まだっ……)

トール「ああああああああああああああああっ!!」

にこ(まだ……!)



トール「ああああぁ……」


にこ「……!」ピクッ


トール「らァ!!!!」

ブォンッ!!!!


にこ(今だ!!)

キィッ!

にこ「トレース・オン――――」

にこ(トールの呼吸が変わった瞬間、足を伸ばし思いっきりブレーキをかけて180度ターン)

にこ(目の前に巨大なイージスの盾を投影、展開する)

バッ!

にこ「イージス!」

シュンッ!!!!

 
にこ(女神アテナの寵愛を受けし不屈の盾、イージス)

にこ(だけど……今はその盾がひどく心細く思えてしまう)


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

にこ(構えた神の盾、その向こうから迫り来るは視界を覆うほどの雷の洪水)

にこ(巨大なトールが腕を一振りしたことによって放たれたエネルギーの奔流)

にこ(これだけ距離を離しても衰えるということを知らない、大気と大地を引き裂く神の鉄槌)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

にこ「……っ!」

318 ◆WsBxU38iK2:2020/12/09(水) 01:12:32 ID:3N97g.t.
にこ「あ――――」

ゴッ!!!!!!


にこ(ああ、と声を上げる暇もなかった)

にこ(音速を超えた雷の洪水は私の体を瞬く間に飲み、破壊の濁流の中へと引きずり込む)

バリィィィィィィィィィッ!! ゴォォォォォォォォォォッ!!!!

にこ「がっ……!!」

にこ(迸る電撃のせいで目を開けることができない、轟音が耳をつんざき音が聞こえない)

にこ(痛い、熱い、呼吸ができない)

にこ(体が引き裂かれそうなほどの暴風、さらに全身を焼けるような痛みが走る)

にこ(けど……大丈夫、即死はしていない)

ググッ

にこ(イージスの盾で直撃を防いだから体はまだ繋がってる、神鎮めの水を被ったおかけで感電は軽減できてる)

にこ(手が盾を掴んでる感触はある、足が地面を踏んでる感触はある、雷の洪水の中でも上下感覚は失っていない)

にこ(だったら……!)


にこ「ぐ……ぐううううううううううううううううあああっ!!」

にこ(あとは私が倒れるのが早いか、トールがマナー違反で倒れるのが早いかの勝負!)


にこ(化身解放前からトールのメーターは減っていた、マナー違反を訂正していない以上、今もメーターは減り続けているはず)

にこ(例えトールが神の力を開放しようと、ラグナロク決戦の最中である限りルールの適用からは逃れられない)

にこ(マナーの点数がゼロになれば、どんなに元の力が強大だろうとトールのHPはゼロになる!)


バリィィィィィィィィィッ!!!!

にこ「がはっ……!」


にこ(だから……私がここで耐えれば……)


にこ(あと何秒か……分からないけど……耐えさえすれば……!)


にこ(体がどうなろうと、気さえ保っていれば……私は……勝負に……勝て……………)


フラッ


ガクンッ

にこ(……あれ)


にこ(あれ……力が入らない)

にこ(手が、足が、しびれて、頭が、ぼーっと……してきて……)

にこ(だめ、だめ、よ……しっかり、しなさ……)


ドゴロロロロロロロロロ!! バリィィィィィィィィィッ!!

ビガァァァァァァァァァァァァッ!!!!

にこ「ぐっ……がああああああああああああああああっ!!」


にこ(耐えて、耐えて、削られた体力)

にこ(そこへ追い打ちのように来る、ここ一番の電撃)

にこ(トールも私と同じことを考え、自分の体力が尽きるのを悟り、最後の力を振り絞ったんだろう)

にこ(今まで耐え続けた電の洪水より強力な、何倍にも威力を増した雷の荒波が私を襲う)

にこ(その衝撃に贋作のイージスは砕け、体は宙へと放り出され、肌には幾つもの裂傷が走る)


にこ(そして、蒼白い光の中、私の意識は――――>>319)

319名無しさん@転載は禁止:2020/12/09(水) 21:45:17 ID:UN4bB6LY
別の何かに乗っ取られた


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