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私の知らない妻・外伝【原稿】

1名無しさん:2018/10/18(木) 07:59:08


 ある意味で私の人生を狂わせるきっかけとなった北九州への単身赴任は、予定通り半年ほど経った8月末に終わった。
 また家族4人水入らず。
 平凡だが幸せな日常に戻った。

 私は妻と共に心療内科に通っている。
 事件終結からほぼ一年経った今に至ってもだ。
 それだけ妻の受けた精神的ダメージは大きい。
 しばらくしてからも妻は何回も熱を出して寝込んでいた。
 座薬で熱を下げなくてはならないほどの高熱にうなされたこともあったりしたほどだ。

 もちろん私は妻を許している。
 妻のやったことは許されることではない。
 それは本人も自覚している。
 そして自分をずっと責めている。
 精神が不安定になるほど。
 逆に言えば、それだけあの事件が頭に残っているということだ。
 妻の記憶からそれらがすっかり無くなった時、やっと典子は呪縛から解き放たれる。
 そう考えて、妻の心のケアを第一にした。

 家庭ではあの一件は全部無かったことになっている。
 子供たちは何も知らない。
 だから夫婦の間で話題に出ることもない。
 妻が隠し持っていた淫乱な下着やバイブの類いは黙って捨てた。
 妻はそのことに何も言わなかった。
 心療内科の先生は女医で、レイプ被害者の治療経験もあるらしい。
 妻の場合とは直接結びつかないのかも知れないが、信頼感を持つことが出来た。
 事件のことは隠さず話した。

 過去に向き合って夫婦で話し合うという方法もあるらしいが、一切そのことに触れずに新しい関係を一歩一歩築いていくという方策もあるらしい。
 私はそちらの治療方針を選んだ。
 逃げたのかも知れない。
 だが、いまさら傷口を広げて蒸し返すような真似をしたくない。
 正直に言えば怖かった。
 私の知らない妻の姿は、これ以上知りたくない。
 未来にだけフォーカスしたい。
 夫婦のこれからにだけ。

 先生からはとにかく治療には時間がかかると言われた。
 日にち薬という言葉も教わった。
 平穏な生活を積み上げていくことによってのみ、忌まわしい過去は薄れ、やがて消え去って行くとのことだ。
 肝心なのは彼らの干渉を許さないことだ。
 精神が健康を取り戻す前に、フラッシュバックしてしまう可能性がある。
 そう先生が指摘するまでもなく、私にとっても最も神経を使う部分だった。

 特殊AV制作会社と名乗る連中は資金も豊富で、表も裏も社会に強いパイプをもっているらしい。
 ただ私は、社長と呼ばれた長髪の男の言葉を信じる気でいる。
 スマートな組織だと言っていた。
 あれだけの非人道的なことを平気でやる連中の言葉を鵜呑みにするのも変だと思うが、自分は福岡クレイホテルでトップ同士の手打ちをしたつもりだ。

2名無しさん:2018/10/18(木) 08:00:04
 彼らはあれからすぐに事務所を引き払った。
 住宅地から少し離れてポツンとあった2階建ての建物。
 妻が所属していた映像会社。
 それは妻を取り戻した一週間後にはもぬけの殻になっていた。
 どこに消えたかは、もちろんわからない。知りたくもない。
 本当なら私も引っ越したかった。
 このマイホームまで、連中の淫靡なAV撮影の場に使われてしまったのだ。
 妻が忌まわしい記憶から解放されるためにも、新天地での暮らしが理想的だろう。
 だが、出来ない。現実的には無理だ。

 長女の真菜は美容の専門学校に進学した。
 予想通りというか、いや予想以上の費用が掛かることが分かって慌ててしまった。
 新築の一軒家のローンはまだまだ残っている。
 妻は仕事を辞めてしまっているし、一連の奪還作戦で興信所にも少なくない額を支払う羽目になった。
 貯金残高は不安になるほど減っている。
 救いは長男の明弘が真菜の通っていた公立高校に受かってくれたことだ。
 合格発表の時は家族全員で見に行った。
 妻は涙ぐんでいた。
 きっと三者面談の一件を思い出したのだろう。
 帰りには最近出来たステーキチェーン店で奮発してあげた。
 余裕のあまりない我が家だが、頑張った明弘にせめてものお祝いだ。
 4人で記念撮影をして、家族団欒を実感した。
 以前は普通に思えたことが、いまはとても幸せに感じる。

 日を過ごすにつれ、沈んでいた妻も少しずつ昔に戻って行った。
 ただ笑みの見えた翌日には不意にふさぎこんでいたり、回復ぶりは三歩進んで二歩下がるような緩慢なペース。
 それでも雪深い北国もやがては遅い春を迎えるように、日に日に表情に明るさを取り戻していくのが分かって心強かった。
 二十年来の何も変わらない日常。
 ささやかだが、かけがえのない日常。

 唯一神経を使ったのはセックスだった。
 奴らの手に落ちる前と後では、妻の性に対する捉え方が大きく違うことが予想された。
 妻は女子高出身で、大学の頃しばらく付き合った彼が、私以外での唯一の恋愛経験だと聞いていた。
 男友達は当時も今も全くいなかった。
 奥手というより、どうやら男という生き物自体が苦手っぽかった。
 男兄弟もいないせいで、どう異性に接していいかわからない、というのが本当のところだったのだろう。

 それが鬼畜たちに半年の間、良い様にオモチャにされてしまった。
 私が知っている妻の変貌ぶりの知識はあくまでDVDの中に限られる。
 実際にどこまで爛れた性愛の深淵にとらわれてしまっているのかは不明なのだ。

 どんな相手とやったんだ?
 どんなことをやったんだ?
 何回くらいやったんだ?

 訊きたいことは山ほどあった。


「子供のために許す。家庭のために許す。問題はこれからどうするかだ」


 そう繰り返しながらも、疑心暗鬼の自分がいる。
 心の底から許しきれていない自分がいる。
 このセリフが綺麗事でしかないことを知っている自分がいる。
 やはり怖かった。それは認めなければならない。

3名無しさん:2018/10/18(木) 08:02:35
『わかっておられるのですか? 典子はもうあなたの知っている典子ではありません。普通の生活ができる状態ではない。それはわかるはずだ。あれだけの映像をみたのならね』


 長髪のAV会社社長が私に投げかけた言葉。
 それは強烈な呪詛となって私の脳裏にこびりついている。


「以前と変わらない態度で接してあげてください」


 心療内科の女医は、悩む私にアドバイスをくれた。


「性的な面はとにかく相手に逆らわないこと。身体の暴走を止められなかったと本人自身が罪悪感と戦っています。一番強く自分を責めています。見守ってあげることです。なにか要求されたら、どれだけ突飛に思えても理由を聞かずに従ってあげてください」


 妻が家に戻った当初は、私も連中に負けないほどの快楽を与えようと必死になった。
 が、すぐにそれがお門違いであったことに気づかされた。
 私が鬼の形相で腰を振っていると、妻はワッと手で顔を覆って泣き出した。
 私がやっていることは連中と同じだった。
 妻を一個の人格としてではなく、単に快楽を引き出す道具として扱っていたのだ。
 もちろんそんなつもりは毛頭なかったのだが、妻にとっては同じことだろう。
 結局は以前と同じく、漫然と正常位での行為が主流となった。

 ある意味ホッとしていた。
 精力絶倫を求められても応じられない。
 一晩ならともかく、続かない。
 もう自分も40を過ぎている。いや若くても無理だ。
 自分に女を狂わせるテクニックなど昔からない。
 夜の生活で妻が貪欲なセックスモンスターに豹変していたらどうしようとの心配は、そんなわけで杞憂に終わった。
 妻も幼稚なセックスで満足してくれている。
 いや、幼稚だからこそ奴らとの快楽のみの肉の交合を忘れられるのだろう。

 そして女医からのアドバイスも的外れだったと思い始めたある日、妻からこんなことを言われた。

4名無しさん:2018/10/18(木) 08:03:35

「ねえ。これからは何でもあなたに打ち明けようと思ってる。私ときどき身体が凄く疼くの。恥ずかしいけど、そういう時オナニーしちゃっていいかな?」


 頬を染め、少女のように恥じらっている。
 夫婦のすれ違いにこそ悪魔が忍び寄る。
 これは手痛い経験をして得た教訓だった。
 夜の営みは月に一、二回くらいだが、寝室はずっと同じにしている。
 妻が欲求不満から浮気や例の連中のもとに走るのではなく、正直に告げてくれたことがなにより嬉しかった。
 多いとは言えない月に一度ほどの性交渉も本当は張り切りたいところなのだが、前戯もそこそこに挿入してしまうと長くはもたない。
 意識したことはなかったが膣の締まりも素晴らしい。
 上気した顔はやはり斉藤由貴に近い美貌だと見とれてしまう。
 ひかえめに妻が腰を使ってくると、DVDの中での痴態を否応なく思い出して、あっけなくゴムの中に放出となる。


「早くてゴメン」


 と謝ると、


「ううん。抱きしめられているだけで安心する」


 かすかに荒い息の下から、そう答えてくれる。
 そのままキスに発展することも多い。

 不幸な出来事だったが、夫婦の絆がより深まったことは事実のようだ。
 このベッドの上で見ず知らずの男にバイブで悪戯され、後ろから四つん這いで貫かれていた妻。
 不条理ともいえる映像が、頭の中でちらつく。

 しかし過去のことなのだ。
 これからもっと強固に典子との関係を再構築せねばならない。
 なんといっても私がこの世で見つけた最愛の女なのだから。
 もう誰にもとられたくない。
 いや、奪わせない!

5名無しさん:2018/10/18(木) 08:05:37


 妻のオナニーは想像を超えた激しさだった。
 寝室には家の新築に合わせて購入したダブルベッドがある。
 二人が並んで寝ても充分な広さだ。
 普段はそれぞれ別の布団をかけて寝ている。

 妻は私に背を向けて、猛然と指を使っていた。
 布団のせいで、どんな風に股間をまさぐっているのかはもちろんわからない。
 しかし呻き声が凄かった。
 これまでのセックスでも出したことのない声だ。
 欲求不満というよりは完全な喜悦の声。
 アクメを知った大人の女が絶頂を知らせている。

 それも一度や二度では終わらない。
 膝を立てて大きく布団を持ち上げ、身をよじっては女の咆哮を響かせる。
 妻なりにボリュームを絞っている様子だが、子供部屋まで聞こえるのではないかと気がもめるレベル。

 初めて見た時は驚いた。
 そんな姿をまのあたりにすると、恐怖が甦って来る。


 ――俺の知らない女がいる。性の奥底を覗いてしまった女。すっかり変わってしまった女。


 だがすぐに否定する。


 ――いや違う。妻は戻ってきた。俺を選んだ。だから違う。快楽の虜にされたわけではない。異常な世界でなく、典子はこれまで通りの平凡な生活を選んでくれた。そしてその中にこそ本当の幸せがあるに決まっている。


 振り返ればこの一年間にはいろいろあった。
 もちろん大事件はない。ある訳はない。
 それでも暗かった妻の表情が明るさを取り戻すために頑張って来た。
 ささいなことにも気を配った。

 息子と娘の受験を控えていたので、家族旅行も春になって合格祝いに一度行ったきりだ。
 今度は明弘も参加して家族四人で楽しむことが出来た。
 娘は大阪に進学し、独り暮らしを始めるので、その前の大イベントとなった。
 地元の学校へ進学するよう勧めてみたりしたのだが、家を出ると頑として譲らなかった。
 自分の進路に確固たる目標を持つことは良いことだ。
 おっとりとした真菜も自立していくんだな、との感慨もあって、もちろん応援してあげることにした。
 仕送りは増えるが仕方ない。

6名無しさん:2018/10/18(木) 08:06:22
 心療内科の先生には早くから、妻を家に一人で置いておくのではなく、仕事をさせた方がいい、と言われていた。
 考え込む時間を作らないことが良いそうだ。
 仕事をすることが社会復帰になるとの説得だ。

 理屈は分かったが、なかなか踏み切れない。
 妻自身も当初はとてもそんな心の余裕はなさそうだった。
 なんといっても強制されたにしろ、直前まで自分の痴態を撮影する特殊AV会社に勤めていたわけだから、仕事となればその記憶がよみがえるに違いなかった。
 妻は当時事務職だったと説明していたが、本当のところはわからないままだ。

 結局、年が明けてしばらくして、知り合いから持ち込まれた小学生相手の学習塾の手伝いをやることになった。
 進学向きではなく、補習的な内容で、問題集をひたすら解くらしい。
 妻の役割は、その時間中、子供たちを見てれば良いとのこと。
 質問等は別の講師が受けるのだろう。

 最初の日は妻を送って行った。
 ナーバスすぎるとも思ったが、どんな職場か自分の目で見ておきたい欲求を抑えられない。
 過去のいきさつを考えれば無理ないことだ。
 たどり着いてみると、当たり前だがそこは何の変哲もない学習塾だった。
 小さな教室に何人かの5、6年生くらいの男子小学生が入って行くのを見届けて、私は車を戻した。

 それから週に一、二度、夕方から三時間ほど頼まれていたようだが、その手伝いは呆気なく終了した。
 どうやら立ち上げたものの思うように子供が集まらずに、すぐに廃業したらしい。
 なんだか無責任な話だと腹が立ったが、自宅からは離れた場所にあって、妻も通うのが大変そうだったから、まあ良かったかと思い直した。

 いきなりフルタイムの勤務はきつすぎるし、パートまでもいかない仕事で、金銭的にも大した助けにもならなかったが、とりあえずの社会復帰を果たしたことになる。
 本格的な就職への程よい肩慣らしにはなったようだ。

 4月の終わり頃、妻が「とてもいい求人がある」と言ってきた。
 もともと専業主婦でもなく責任感の強い妻だ。
 家計の苦しいことも知っている。

 私は教育費の増大した我が家のピンチを救おうと積極的に残業をしていた。
 だけど高が知れている。
 妻が働いてくれるのは有難い。

 結局妻はそこに働きに出た。
 決め手は誰でも知っている有名大企業だったから。

 妻が面接の時には、付き添って行った。
 まだ妻を外に出すのに不安がある証拠だ。

 場所は支店ながら、福岡の目抜き通りの一角にある立派な古い建物。
 子供の頃から見慣れていて、企業としての信頼感は抜群だ。

 当然中までは入らず、喫茶チェーンでコーヒーを飲みながら待っていた。
 面接を終えて、私の前に現れた妻の姿は眩しいようだった。
 いまさらながらに美しいと思った。
 それなりにお洒落してきた服装のせいもあったのは確かだ。
 だけど一番の要素は表情が輝いていたせいだ。

7名無しさん:2018/10/18(木) 08:07:20
「受かったわ。最初は臨時雇いらしいけど、ゆくゆくは契約社員の道もあるらしいの」
「そうか。良かったなあ」


 弾んだ声を出してしまったのも、妻の喜びが伝染したに違いない。


「お祝いに何か・・・、と言ってもこんなところじゃ、ケーキくらいしかないか」
「あら、そんなのいいわ。もったいない。節約していかないと」
「そうか。じゃあ、うちに帰って、お前の手料理ででも祝おうか」


 私が有頂天になったのは合格よりも、節約という前向きな言葉を妻が発してくれたことだった。
 手に手を取って店を出た時は、私の知らない妻はどこにもいなかった。



 大企業というのはやっぱり違う。
 働きに出すのも安心感が違う。

 例えば書類一つでも重々しい。
 最初に勤めていた教材販売会社は給与明細でもワープロで打ったペラ一枚だった。
 例のいかがわしいAV制作会社など言わずもがなだ。
 私が現在勤務している会社と比べたって、社名入りの封筒や社名入りの便せんには大企業の風格が漂っている。

 これで正しいんだろう。
 妻が仕事をするにあたっては、私の中に逡巡する気持ちがなかったとは言えない。
 なにしろまだ一年も経っていない。
 また私の目の届かないところで何かあっては――。

 その懸念はよく考えれば成り立たないことに気づく。
 私は平日は遅い残業で殆んど家にいない。
 連中がもし勝手知ったる我が家に魔の手を伸ばせば、そっちのほうが危険だ。
 一流大企業のオフィスにいる方がよほど安全だろう。
 アルバイトのようなものだが、5時に終わって夜が遅くなるようなこともない。

 これで仕事のほうは目途がついた。
 経済的にも少し助かる。
 あとは妻が完全に元に戻ってくれればいい。

 心療内科の女医先生は、妻の精神状態をよくするのに、ペットを飼うことも薦めた。
 子供ふたりの養育に手いっぱいでペットまでは、と思ったが、妻は本気だったらしく、ペットショップから二日レンタルで中型犬を借りてきた。
 体験サービスなのだという。
 実際に飼う前に相性その他、ペットの飼い主にどうするかを決めてもらうとのことだ。

8名無しさん:2018/10/18(木) 08:07:59

「へえー、昔はそんなのなかったけどな〜」
「購入後のトラブル防止のために、今はそういうニーズがあるんだって」


 見たところ何の特色もない黒い犬だった。
 別に可愛らしくもない。
 庭とも呼べないうちの小さな玄関先のスペースにつながれていた。


「仲良くなれたら、飼っていいかな?」


 妻は頭を撫でながらそう言っていたが、その犬は次の日にはいなかった。
 ペットショップに返したという。


「フィーリングが合わなかったかも。世話も大変そうだし」


 現実に体験して、生き物を飼うということの重みに気づいたらしい。

 奪還してしばらくはどこか上の空で、魂が抜けたようだった妻。
 ぎこちなかったり、集中力も途切れていたように思う。

 それをゆっくりほぐして行って、やっと最近そんな状態は激減した。
 この調子で生活を重ねて行けば、きっと妻も100%元通りになる。
 確信があった。

 先は長い。焦らずに行こう。
 ともに人生を重ね合い、ともに老いて行こう。
 典子とだったら出来る。
 俺だったら出来る。
 私、典子、真菜、明弘。
 自慢の家族だったじゃないか。
 今までも、そしてこれからも――。



 そして、その時は突然訪れた。
 そう。以前のDVD発見の衝撃と同じように・・・。

9名無しさん:2018/10/18(木) 08:10:22


 8月の下旬、明弘は高校のサッカー部の合宿に出かけた。
 自宅にはしばらく夫婦二人っきりになる。
 キッチンテーブルに向かい合い、妻の心づくしの夕食を味わう。
 ふと、ずっと忘れていた光景が脳裏に広がった。
 どうしてかはわからない。

 このダイニングにまで侵入していた男たち。
 私が居るのにもかかわらず、妻を所有物の如く我が物顔に扱っていた。
 背後からワンピースを首までたくし上げ、剥き出しの乳房を遠慮なく揉みしだく。
 そのあとシステムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている妻。


 ――あれは夢だったのか。


 男たちに殴られて、気絶した間に見た幻だったのか。
 いや、犯されていたのは夢だったが、剥き出しの乳房を揉みこまれていたのは現実だ。

 そのほかのことも全てが夢であったら良かったのに・・・。

 何度となく繰り返した儚い願い。

 いや、俺は直接妻の痴態を見ていない。
 DVDの映像で見ただけだ。
 あんなことを妻がするはずがない。
 巧妙なトリックか何かで。
 誰かが冗談を仕掛けた・・・。

 そう強がってみるものの、我に返り自嘲する。


 ――いや、もうどうでもいいことだ。


 全部過去だ。
 終わったことだ。
 すでに決断は下した。
 その結果、いま目の前には妻がいる。

 典子。俺の愛した女だ。
 優しい笑みで、俺の鋭くなっているであろう視線を受けとめてくれている。
 これが現実だ。
 あとはこの日々を積み重ねていけばいい。

10名無しさん:2018/10/18(木) 08:11:09
「ねぇ、今夜は睡眠薬は飲まないで」
「うん?」


 心療内科の先生によれば、妻はもちろんだが私も治療が必要とのこと。

 それはそうだろう。
 人生における最大の危機をパニックと闘いながら何とか切り抜けたのだから。
 精神的ダメージが残って当然だ。

 妻がうちに帰って来てからも、酷い不眠に悩まされた。
 それからずっと睡眠薬のお世話になっている。
 飲めばよほどのことがなければ起きない。

 妻も自分のオナニーが激しいことを自覚しているようだ。
 だから私が睡眠薬を飲むところを見せると安心するらしい。

 たまに薬の効き具合で、妻の呻き声が耳に入ることもあるが一瞬のことだ。
 たちまちまた深い眠りに落ち込む。
 妻も私が起きているとオナニーに没頭できないだろう。
 そう気遣って毎晩飲む。

 妻が連中に快楽を擦り込まれてしまった部分は否定できない。
 しかしそれは妻の身体だけだ。
 妻の理性は欲望を自慰で発散しようと戦っている。

 かと言って、正直、妻の狂気じみたオナニー姿を見るのは辛かった。
 だからどれだけの頻度で妻がオナニーをしているのかは知らない。
 ちゃんと目撃したのは、最初の頃の一、二回だけと思う。


「いつも食事のあと、すぐに飲むでしょう?」
「そうだな。あ、明日出かけるんだっけ?」
「うん。秋服をデパートで見て来る。あなたも来る?」
「この間言ったようにやめとくよ。ゆっくりして来ていいから」
「ありがとう。お酒も少しにして」


 後で考えれば、妻なりに名残を惜しもうとしたのだろうか。
 もしそんな感傷が一片でも残っていればの話だったが・・・。



 その夜の妻は凄かった。
 3回肉壷の中で搾り取られた。
 正常位一辺倒だったマンネリの性交渉。
 それがどうして・・・?

11名無しさん:2018/10/18(木) 08:11:59
「上になろうか?」


 全裸の妻は照明のついた明るい寝室で私に跨り腰を振った。
 あたりを憚らずに、大きい声を上げた。
 子供はいないので構わなかったが、こんな声をもし聞かれたら親の威厳失墜は間違いなしだ。

 初めてDVDの中の妻に会った気がした。
 見上げる胸はCカップのはずなのにプルンプルンと形良く揺れている。
 顎を突き出し、喉を反らせた顔は、目を閉じて陶酔していた。
 まるで寝そべった私の身体の分身を使って、オナニーしてるかのようだ。

 なにしろ私は動くどころではない。
 大昔に風俗で遊んだくらいしか騎乗位は経験がないが、上下に女が腰を動かすものだとばかり思っていた常識は覆った。
 妻は前後に腰をスライドし、クリトリスを擦り付けた。
 あげくには臼のように腰を回転させて来る。
 1回目はそれで呆気なく放出してしまった。


「まだ出来る?」


 そう尋ねてきた妻の顔は明らかに昂奮で上気していた。

 2回目はフェラチオだった。
 ゴムを外して萎んだ陰茎を妻はためらわずに口中に含んだ。

 舐めるだけだったはずの妻の口技。
 それすら夫婦生活の中で殆んどなかった。
 妻はもうてらいを捨てたかのような、思い切ったしゃぶり方をした。
 さながらDVDの再現だ。

 DVDが幻影である余地はない。
 このテクニックも男たちに仕込まれたのだろう。
 やりきれなさが心をよぎる。

 DVDのイラマチオのシーンが蘇って来て、私は覆いかぶさる妻の喉を下から一気に突き上げた。
 むせかえると思った妻は平然としていた。
 それでも口に根元まで入っている。
 映像での男たちの肉根がどれだけ立派だったかという証明だ。

 私のモノでは妻を狼狽させることは出来なかった。
 妻の横顔に皮肉っぽい笑みが浮かんだ気がした。
 いきなり激しく顔をピストンさせる。
 亀頭と口腔粘膜が摩擦する。
 舌も蠢いた。
 とたんに爆ぜた。
 口内発射。
 妻には初めてだ。

12名無しさん:2018/10/18(木) 08:12:45

 20年連れ添って、お互いを尊敬し支え合ってる夫婦同士では、獣のようなセックスは無理だと思い込んでいた。
 遠慮もあるし、テレもある。
 なにより欲望丸出しにして軽蔑されたくない。
 その思いが単調な営みを繰り返させた。

 単身赴任先でデリヘルを呼んだのも、きっと妻とのセックスに飽き足らなかったからだ。
 一番直近の口内発射はその時になる。
 しかし妻の技量は彼女より上じゃないか。
 しかもあまり本気を出した感じでもない。
 妻はベッドサイドのティッシュに口の中の精液を吐き出した。
 DVDの中ではいつも飲んでいた筈なのに、もうやめたのだろうか。
 男たちにはして、正式な旦那にはしない。
 少し寂しさを感じた。

 いつもの自分だと、これで限界だ。もう無理だ。
 ところが妻は諦めない。
 縮こまった陰茎を飽きずに手でいじくって来る。
 そしてそのまま私の身体をゆっくりと舌先で舐め始めた。

 太腿や下腹部を這い回っていたそれは、最終的に乳首にとどまった。
 舌先はチロチロと円を描くように責めて来る。
 男の乳首が重要な性感帯であることを妻は知っているのだろう。
 いや、知識ではなく実践で学びとった気配が濃厚だ。

 どうして急に妻が大胆に振る舞うのかがわからない。
 それでも快感は強かった。
 その証拠に、萎えていた男根はすでに半勃起まで回復している。
 摘まんでいた指先は、いまや拳に変えて、肉棒全体を覆っていた。
 いわゆる手コキだ。
 これまで妻にされたことがない。

 そのしごき方も堂に入っていた。
 私の乳首に吸い付きながら、器用に手を動かしている。
 立つはずのないペニスは再び勃起した。
 風俗嬢顔負けの妻のテクニックによって。
 
 丁度良い妻の握り心地に煽られながら、いっぽうで心に暗い絶望感が広がっていく。
 一年間必死に頑張ってきたが、妻は奴隷扱いされていた頃に教え込まれた性技を忘れていないのだ。
 身体から消え去っていないのだ。
 いま妻がせっせと男根に奉仕しているのは無意識でも何でもなさそうである。
 だとすれば、気持ちだってあの頃の記憶が抜けきっていない訳だ。

 妻にとってあの時期の体験はどういう位置づけになっているのだろう?
 今までの生活に戻りたいと叫んだ妻。
 その言葉ひとつに賭けてここまでやって来た。
 本心だったはずだ。

 混乱し始めたが、考えをめぐらす余裕はない。
 ペニスに加えられる刺激が気持ち良すぎる。

 妻は伏せていた上体を起こして、私の目を覗き込み、ニッコリと笑った。

13名無しさん:2018/10/18(木) 08:13:42

「ねぇ? 後ろからする?」


 すでに2回発射して3回目となる。
 肉棒への刺激がなくなれば、すぐにしぼんでしまう年齢だ。

 妻は身体の向きを変えながらも、伸ばした右手は男根を放さない。
 自分の股座から通して、後ろ向きにシコシコと緩やかに扱き続ける。
 そんな技法は当たり前だという風だ。
 セックス経験の豊富さを図らずも教えられ、またしても凹む。

 四つん這いになった妻の裸を真上から見下ろす構図は圧巻だった。
 瓢箪のような曲線は男とは全く違う。
 まさに「女」という眺めだった。
 騎乗位の時には揺れるバストに目を見張ったものだったが、今度は妻のヒップが目を打った。
 スレンダーな妻は普段目立たないのに、この格好だと別人のようにお尻が大きく実る。
 艶っぽい。
 二つに割れた臀部の双球の盛り上がりに色気が凝縮していた。

 膝立ちのまま、新しいコンドームを用意しようと、身体を動かすと、気配を感じた妻が男根を握ったままの手をグイと引っ張った。
 妻の陰部に下腹部が密着する。
 妻のソコも濡れ濡れだった。


「今日は大丈夫な日だから生で・・・」


 我慢しようもない。
 いきなり挿入した。
 膣襞に亀頭が沈んでいく。
 得も言われぬ感触。

 これ以上子供は要らないので、明弘が生まれてからずっと避妊している。
 ゴムなしで妻の肉壺を味わったのはしばらく記憶にない。
 それにしてもこれほどの名器だったろうか。
 肉襞は侵入した肉茎に絡みつき、ざらざらヌメヌメと緊め上げて来る。
 これが一回目だったら、とっくに果てていただろう。
 妻はあえて動かず、じっとしている。
 動かれたら駄目だ。
 妻はそのことがわかってるようだ。

 目の下には妻の満ち張ったヒップがある。
 思わず手が伸びていた。
 張りのある臀丘を撫でてみる。
 艶やかな白い雪肌。
 その弾力の素晴らしさがオスの嗜虐性を呼び起こす。

 DVDの中で男たちが妻のお尻をスパンキングしていたが、それも道理だ。
 実に叩きたくなるヒップ。
 しかし妻から忌まわしい記憶を消し去らなければと努力してきた夫の私が、まさかそんな真似は出来ない。

14名無しさん:2018/10/18(木) 08:14:29

 それでも妻の臀部を挟み込んだ私の両手は叩きこそしないものの、ゆっくりとムチムチの臀肉を揉み込み始めた。
 それに合わせ、妻がようやく腰をくねらせる。
 熱っぽい膣内の感触がさまざまに変化する。
 妻は時々息むようにする。
 それだけで蜜壺はギュッと収縮し、私の愚息を追い詰める。
 気が遠くなるほどの快感だ。

 こんな女を妻にしておきながら、デリヘルを頼んだりして大バカだった。
 精神の繋がりが大事だなどとうそぶいて、おざなりのセックスをこなしていたのは大マヌケとしか言いようがない。
 今後は方針を変えよう。
 セックスを楽しんだって好いじゃないか。
 妻も吹っ切れたのだろう。
 オナニーじゃなく、生のセックスを求めるのは、やはり自然のこと。


「ううっ」


 思わず切羽詰まった声を上げた私に、


「ど、どう? 私の身体・・・、気持ちいい?」


 後ろ向きのまま、妻が問いかける。
 その顔は見えないが、きっと恥じらいに赤く染まっているに違いない。


「・・・さ、最高だ。もう出そうだぞ・・・」
「そんなにいいの?」
「・・・ああ。名器だろ、これ。凄い締まりだ・・・。ゴム有りと全然違う・・・」


 うわずった私と違い、妻の声は落ち着いている。


「アソコの機能を褒められても、なんだか恥ずかしいな。エッチな女だと言われてるだけみたいで・・・」


 それ以上の会話は私には難しかった。
 限界が近い。

15名無しさん:2018/10/18(木) 08:15:32

「突いて」


 妻の催促に私は猛然とピストンをかけた。

 腰骨の辺りを掴んで、下腹部を勢いよく打ち付けた。ペチンペチン。
 男たちがやっていたように、後ろから手をまわして胸を揉みしだいた。

 一瞬だった。
 私はまた放出していた。

 味わったことのないような強烈な快感。
 意識が飛ぶ。
 目がくらむとはこういうことか。
 妻は私の爆発を感じ取って、お尻を押し付けてプリプリとこねる。
 同時についていた肘を左右に広げ、鎖骨の辺りまで突っ伏した。
 肩甲骨を背骨に寄せ、弓なりに反る背中。
 片頬をベッドに押し当てた横顔は、どうだとでも言いたげな、勝ち誇った表情にも見える。

 私は妻の肉体に圧倒されていた。
 DVDで強調されていた妻の女の部分。
 乳房とお尻。それに股間。
 どれも素晴らしかった。

 顔は斉藤由貴似とは言うものの、本物に比べれば随分違う。
 冷めた目で見れば、やはり平凡な主婦と形容せざるを得ない。

 逆に、あまり魅力を認めていなかった妻の女の部分の素晴らしさに、私は突如開眼した。
 長年一緒に暮らしていながら、私はエロサイトで巨乳娘のエロ動画を見て鼻の下を伸ばしていたのである。
 巨乳なんかより、妻の美乳のほうが数段上という事実に、やっと気づいた。

 そう言えばここ一年、妻を取り返してからの営みでも、胸へのタッチはほとんどしなかった。
 セックスの際の性的な愛撫は、妻に悪夢の経験を思い出させるだけだとの配慮があった。
 典子には妻、そして子供たちの母でいて欲しかった。
 女であることは要求してこなかった。
 しかしプロである特殊AV会社の連中は、妻の女の部分の素質を一目で見抜いていたのだ。


『我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます』


 長髪の社長は悪びれもせず堂々と言っていた。
 あの連中にはずいぶん私もコケにされたが、その根底に、女の値打ちも分からない未熟な男、という蔑みがあったのかも知れない。

16名無しさん:2018/10/18(木) 08:16:18

 しかしやっと私も彼らに追いついたようだ。
 典子には妻と母という立場だけでなく、まず女であるという大前提があったのだ。
 あんなに激しいオナニーを大っぴらに披露したのも、変に気を使ってくれずにセックスを楽しみましょう、という妻なりのアピールだったかも知れない。
 素直に言ってくれていたらとも思うが、あれだけのことを仕出かしておいて、自分からは言い出せなかったのだろう。
 その気持ちはわかる。

 しかし今後はお互いそんな遠慮はいらない。
 この一年はまさに全力疾走してきた。
 そろそろペースを落としてもいいだろう。
 残業も減らそう。
 典子が働いてくれているおかげでそれも可能だ。
 月一の夜の営みも、せめて週一にアップさせたい。
 体力を温存させれば無理ではなさそうだ。
 とにかく妻の肉体に溺れ切った自分がいる。

 妻の蜜壺は凄まじい性能を発揮して、射精後に萎えるはずの怒張をキツく緊め上げ、勃起を維持させている。
 こういうのは、《巾着》と言うんだったか、《俵締め》と言うんだったか・・・。

 生がこんなに素晴らしいのなら、妻にピルを飲んでもらうという手もある。
 通っている心療内科に相談してみよう。
 薬を各種処方してもらっているので、一応訊いておく必要がある。
 薬の飲み合わせに問題がないとなったら、そのまま婦人科を紹介してもらってもいい。
 DVDの中の男たちは、妻のこの膣肉の直の感触を存分に楽しんだわけだ。
 社長のところのスタッフの何人かは妻に執着しているとも言っていた。
 今なら理解できる。
 ゴム越しにはわからなかったが、押し寄せる肉襞の蠢きが凄まじい。
 これはやはり《ミミズ千匹》という部類なのか。


『毎週火曜が楽しみで仕方ない』


 脈絡なく、脳裏にその言葉が蘇って来た。
 DVDで妻を凌辱していた男の一人が発したセリフ。
 そりゃそうだろう。
 こんな名器にはめったに出会えない。

 ただ妻を開発したのが鬼畜連中だったというのが情けなかった。
 子作りに励んでいた若い頃でもこんな感じではなかった。
 もっと固いというか、こなれていないというか。
 では出産を機に、ということでもないようだ。
 出産して急に感度が上がる女性もいるらしいが、うちはそんなことはなかった。
 どう考えても、連中の調教によって妻の女の部分が花開いたことになる。
 悔しさはあるものの、夫婦ともども、あれだけ煮え湯を飲まされたのだ。
 少しくらい「災い転じて・・・」という拾い物があったっていい。

17名無しさん:2018/10/18(木) 08:17:13

 これからは存分に楽しめる。
 連中はもう妻に手出しできない。
 俺だけのものだ。
 あえて言おう。
 典子の厭らしい身体は俺だけのものだ。
 この濡れそぼった性器は俺だけが挿入できる。
 俺だけが独占する。
 せいぜい羨ましがるがいい。

 気が付けば妻の腰がまたうねり出していた。
 膣内は燃えるように熱い。
 そこに入っている肉根がどういう状態なのか、もう自分ではわからなかった。
 ベッドに胸をついているから、妻のお尻は大きく持ち上がっている。
 ビデオでいつも「ケツをあげろ」と命令されていた成果なのか、やがて反り返るほど臀部が突き出された。
 双臀の亀裂が開き、肛門が露骨に顔を出す。
 こんなにハッキリ妻の肛門を見たのは初めてかも知れない。
 人間の肛門を見る機会など普通はない。
 もっとも、うちに後背位の経験がこれまでなかっただけで、世間ではバックの際の嫁の肛門など見飽きる光景なのだろうか。

 妻のお尻の穴は興奮のせいだろう、ヒクヒクと小さな開閉を繰り返している。
 汚いとは思わなかったが、さほど綺麗なものでもない。
 想像よりも色素沈着の範囲が広く、括約筋の輪が大きくて、皺も乱れている感じがした。
 すると妻は本格的に腰を使い始めた。
 どしどしと腰を打ち付けて来る。
 卑猥な動きだ。
 目の前がかすむ。
 妻はポリネシアンのダンサーのようにお尻をこね回し始めた。
 いかにも慣れた自然なしぐさ。
 丸いお尻が円を描く。8の字を描く。

 流れるような一連の妻の追い上げに、


「あああっ」


 私は叫んでいた。
 妻の大きく張り出しているヒップを掴んだ腕にも、もう力はなかった。
 口から涎が垂れたのが分かった。
 妻の動きが止まった。
 私は果てていた。
 射精したというより、漏れたというのが正しいだろう。
 私の目の前が真っ白になり、妻の背中に崩れ落ちた。
 朦朧とする中で、私は妻の裸身を抱きしめた。
 夫の当然の権利として、妻の熟れ盛りの肉体に酔っていた。

18名無しさん:2018/10/18(木) 08:19:50


 翌日の土曜日、起きたのはもう夕方だった。
 妻との素晴らしいセックス。
 一晩に4回も射精すれば疲労困憊で寝過ごしても不思議はないが、夕方までというのはちょっと解せない。
 頭の芯の痺れ具合が、強い睡眠薬を飲んだ次の日の感じに似ている。
 ただ自分で飲んだ記憶はない。
 最後バックでフィニッシュした後、妻が口移しで水を飲ませてくれたが、少し苦かった。
 あれがそうだったのだろうか。
 だとしたら、何のために?

 妻はまだ帰って来てない。
 息子の明弘は合宿だから当分帰ってこない。
 私は昨夜のセックスを反芻してニヤニヤしていた。
 心療内科でピルだけでなく、バイアグラも相談しようか。
 そんなことを思って浮かれていた。

 7時になっても妻が帰ってこないので、電話をしてみた。
 電源が入ってないのか繋がらない。
 ここ一年そんなことはなかった。
 以前の事件の頃を思い出し、少し嫌な気分になる。
 テレビを観たりしたが落ち着かない。
 もしかしたら食事も済ませてくる気かも知れない。
 すでに食事の用意がしてあるかと、リビングからキッチンテーブルを透かし見たが、それらしい様子はない。

 8時になり、流石に胸騒ぎがして来た。
 何度もかけているが、携帯は相変わらず繋がらない。
 テーブルをよく見てみると、ワインが一本立っている。
 妻の字が書かれたメモ用紙を敷いている。


『お祝いに』


 とだけ書いてあった。
 頬が緩む。
 昨夜の夫婦の交わりは、たしかに記念すべきことだったかも知れない。
 お互いに遠慮やてらいを脱ぎ捨てて、性の欲求に素直になった。
 これをきっかけに今後は性生活も充実したものになって行くだろう。

 ワインを手に取って、私は軽く舌を打った。
 高級そうなワインだった。
 そのことはいい。
 私はワインは殆んど飲まないが、たまに飲む時でもお手頃ワインだ。
 蓋はねじれば開くキャップ式だ。
 ところが妻の用意してくれたワインはコルク栓だった。
 コルク抜きはどこだったかな。
 舌打ちの理由はそれだった。
 ずいぶん前から使っていないので、場所を覚えていない。
 キッチンの引き出しをいくつか開いてやっと探し当てた。

19名無しさん:2018/10/18(木) 08:20:43

 これは・・・?
 その引き出しには白い円盤が入っている。
 CD-RかDVD-Rかどっちかだ。
 どうしてこんなところに?
 典子が今さらDVDなんか観るはずもないから、明弘が音楽CDでもコピーしたんだろう。
 テーブルに出しっぱなしだったのを、妻が仕舞い込んだんだな。
 いつから入っていたのかはわからないが、妻も事件の後半年ほどはボーっとしていた。
 心ここにあらずの状態が多かった。
 それで紛れ込ませたのか。

 反射的にその円盤も摘み上げ、テーブルに戻る。
 コルクを抜き、ワインを味わう。
 美味い。
 味は極上だ。
 飲んでしまってから、ひょっとして妻が帰って来て一緒に飲むつもりで置いてあったのかも知れない、と思いついた。
 確かめようと携帯を掛ける。
 やはり繋がらない。
 呼び出し音も鳴らない。
 まあメッセージが添えてあるんだから俺が飲むのは構わないんだろう。
 ワイングラスを用意して本格的に飲み始め、ボトル半分ほど空けてしまった。
 残りは妻に取っておこう。

 酔いが心地いい。
 何の気なしに円盤を摘み上げ、ノートPCのディスクトレイに乗せた。
 吸い込まれて行く白い円盤。
 ディスプレイにはDVDに動画ファイルがあることが示されている。
 急に胸を締め付けられる感覚。
 あの妻の痴態をおさめたDVDの感覚をリアルに思い出したのだ。
 妻をめぐる一連の事件のおかげで、私は精神的外傷をこうむっている。
 今もまだ治療中だ。
 かなり良くなった気でいたが、こうして動画ファイルの存在を示したDVDメニューを見ただけで胸が苦しくなるようでは、トラウマは根深い。

 内心動揺しながらも、サッと再生ボタンを押す。
 何でもない。大丈夫。
 言い聞かせる。
 しかし始まった動画を見て、私の喉がグッと鳴った。
 画面に映し出されたのは、案の定、妻だった。
 反射的にワイングラスを一気に傾ける。
 ただショックを弱めてくれたのは一緒に流れてくる音声。
 娘の真菜の声だ。


「うわー、いい旅館」


 はしゃいでいる。
 するとこれは、この春に家族4人で行った温泉旅行の記録なのか。
 ふっと肩の力が抜けた。
 沢山は撮らなかったが、確か動画も撮れるデジタルカメラも持って行った。
 その動画を明弘が編集したDVDということか。
 いくぶん落ち着きを取り戻した私は、分量が少なくなったワイングラス片手に、ぼんやりと画面を眺めていた。

20名無しさん:2018/10/18(木) 08:21:27

 こうして家族の絆を振り返るのもいいものだ。
 妻の顔、娘の顔、私の顔まで映っている。だのに明弘の姿はない。
 旅館の作りも記憶と微妙に違っている。
 おかしいな。今年の旅行じゃないのか。
 登場人物は私の家族だ。
 明弘ひとりがカメラマンに徹していたっけかな?

 突然閃いた。
 これは今年の旅行じゃない。
 去年の夏に妻にせがまれて行った温泉旅行のほうだ。
 画面には温泉旅館の外観と、旅館名のプレートまで映し出されている。
 間違いなかった。
 部屋の中の様子までカメラはおさめていた。
 旅館備え付けの見覚えのある浴衣に羽織姿の妻が幸福そうに微笑んでいる。
 この旅行にはビデオカメラを持って行っていない筈。
 どういうことだろう?
 真菜がこっそり携帯ででも撮ったのか。
 たしかに画質はそれほど良くはない。
 妻が「あそこの景色が・・・」と言いながら、カメラのほうを指差した。
 左右から私と娘が寄って来て、妻を中心にして画面中央に並ぶ。
 偶然なのか、図らずも仲の良い家族といった風な、団欒の情景が強調される。

 この時は妻は渦中にいて大変だった筈だ。
 私も奇怪なDVDのせいで苦悩していた。
 娘も家事放棄のような妻の遅い帰宅に気を揉んでいただろう。
 しかしこの映像ではそんなことが嘘のように、幸せいっぱいの家族に見える。

 妻は連中への怯えと私への愛情で揺れ動いていたのだと思う。
 最終的に私の元に帰ることを選んでくれたが、一時期は自暴自棄になって奴らの言いなりになる決心もしたみたいだった。
 妻の心は時計の振り子のように大きく揺れ動いていたに違いない。
 この旅行はそんな妻の心を大きく私のほうに傾けてくれた貴重なターニングポイント。
 その提案も妻からだった。
 すべてが連中の思惑通りではなかったということだ。
 そう思えばいくらか胸がスッとする。

 私たちの勝利に貢献した温泉旅行の映像を私は懐かしく眺めることが出来た。
 ただ誰が撮っているのかは依然としてわからない。
 部屋にいる時は固定カメラっぽくなるが、館内を歩く時などは明らかにカメラが手持ちになっている。
 真菜が撮っていたなら、もっと私たちにポーズや色々注文を付けただろう。
 よもや奴らが・・・。
 しかし部屋の中の様子まで撮影するのは常識的に考えて不可能だ。

 冒頭の部分にダイジェスト的にまとめられているから、旅の記録的な映像は意外と短かった。
 せいぜい7,8分だろう。
 この旅行では温泉以外にも色々と観光に回ったのだが、それらは一切カットされている。
 どういう訳か夫婦二人だけの時の映像もあった。


「あなたと結婚してよかった」


 妻のセリフがはっきりと聞こえた。
 画面には妻の姿も私の姿も映っている。
 妻の言葉を噛み締める俺。
 はた目にも深く感動していることが知れる。
 この妻のひと言はその後の奴らとの戦いにおいて、非常な力になってくれた。
 今眺めていても、その感動は薄れない。
 だから映像に残っていてくれるのはむしろ有り難い。
 だがいったい何のためなのか?

 画面が黒くなった。
 また一瞬ドキッとする。
 去年受けた心の傷は深い。
 暗転の後には必ず妻の衝撃的シーンがあった。
 条件反射。
 落ち着け、落ち着け。
 また自分に言い聞かせる。

21名無しさん:2018/10/18(木) 08:23:27


 混浴風呂。
 そのプレートが大写しになった。
 あの旅館に混浴なんてあったのか?
 私は大浴場。妻と娘は女性浴場。
 貸し切りの家族風呂は妻とだけだったらいいが、まさか真菜とは入れない。
 かと言って仲間外れにするのは悪い。
 最初から特別な風呂は眼中になかった。
 しかし同じ旅館であることは間違いなさそうだ。
 一体撮影者は誰なのか。

 ガラガラガラ、とプレートの下の重そうな扉が横開きになる。
 カメラは脱衣所をさっと横殴りに捉えた。
 そして棚に乗せてある竹籠のうち、衣服の入っているものをピックアップし出した。
 どれも男物ばかり、5つ籠は使われていた。
 いま湯殿には5人の男がいるということだ。

 カメラがゆっくり上に動いて、壁の時計が映った。
 6時を少し過ぎている。
 この時刻はうちの家族なら旅館について温泉に浸かっていた頃だ。
 誰か別の人の映像が繋がってしまっているのだろうか。

 カメラは固定されていない。
 けっこう動いてブレる。
 撮影者が男か女かも定かではないが、ある竹籠の前でとまった。
 シュッシュという音が響いて、赤い羽織が放り込まれた。
 続いて紺の帯が投げ込まれる。
 そして次に投げ込まれたのはブラジャーだった。
 カメラは籠の中のブラジャーをアップで撮っている。
 特徴のない白色のブラ。
 フルカップタイプでサイズは特に大きくも小さくもない。
 これで撮影しているのは女性とわかった。

 裸を見られるのが当たり前の混浴風呂に入ろうというのだから、かなり酔狂な人物らしい。
 それとも露出癖のある変態趣味なのだろうか。
 今度は白いショーツが投げ入れられた。
 その前屈みになった時に一瞬足の先が見えた。
 羞恥心も消え失せた婆さんかと疑ったが、まだそこまでの歳ではない。
 むしろ若そうである。

 またも脱ぎたてのショーツが長めにアップになった。
 ご丁寧にクロッチの部分に寄って、そこの汚れを念入りに映し出す。
 布地が白色なので暗色系と違って目立つわけではないが、粘液の染みが僅かに認められた。
 女性としてある意味もっとも恥ずかしい部分を自ら撮影するとは、どういう心境なのだろう。

 ノートPCの前で、私は自然と膝が震えて来るのを感じていた。
 ある予感が降って来る。

22名無しさん:2018/10/18(木) 08:30:51

 カメラがすべるように動き、竹籠の上にまで来るや、クルリと向きを変えた。
 そしてそのまままそこに置かれた。
 恐れていたことが起きた。
 撮影者の顔がアップになる。
 それは妻だった。

 カメラを覗き込むその顔は青ざめて緊張していた。
 竹籠の上にあるらしいカメラは、至近距離でそのこわばった表情を伝えている。
 唇がピクピクと引きつっているのがわかる。
 それでもどこかトロンとした淫靡な風情が醸し出されるのは、すでに奴らが決めつけているMの血が騒ぎだしてるということなのか。

 私の心臓がドクドクと早鳴りを始めた。
 胃もキリキリ痛む。
 部屋の空気が薄くなった気がする。
 妻は帯を巻かない浴衣だけの格好。
 ともすれば前が大きく開きそうになっている。
 それを両手で撫でつけるように身体に押さえつけている。
 手の平が通るたびにノーブラの乳房の膨らみが強調され、乳首の出っ張りも鮮やかになる。
 その仕草を何度か繰り返した後、妻の左手がカメラに向かって伸び、画面も再び宙に浮いた。
 妻は横を向いたようだ。
 そこには全身の映る大きな鏡。

 さっきのアングルではせいぜいバストショットしか撮れない。
 鏡を利用して自分のフルショットを記録する気らしい。
 鏡の中の妻は左手の指先に小さな黒い物を摘まんでいる。
 またしても一瞬、画面が揺れて流れた。
 次に画面が安定した時、カメラは浴衣が妻の肩から滑り落ちて行く刹那をとらえていた。
 オールヌードの出現。
 ウグッとまたしても私の喉が変な音を立てた。

 鏡の中から妻の目が自分自身を探るように見ている。
 165センチの長身、スレンダーボディは、こうしてみると我が妻ながら恵まれた素晴らしいスタイルだ。
 内股でモジモジ脚を擦り合わせているのは、さすがに恥ずかしいのか。
 それとも興奮で、すでに厭らしい蜜を、秘部から溢れさせているのだろうか。
 時々視線が怯えたように横に動くのは、入り口から誰か入って来るんじゃないかと、つい確認してしまうからのようだ。
 それでも宙に掲げた左手は動かさない。

 おもむろに私は妻が手にしているものの正体を理解した。
 豆カメラだ。
 しかも盗撮用に電波を飛ばすタイプである。
 今は高性能になって超小型化されている。
 現にいま妻が摘まんでいる物も、単三電池をひと回り大きくしたくらいのサイズしかない。
 妻は竹籠にピンクの小さいポーチバッグも入れていた。
 きっとあの中に本体のレコーダーがあるに違いない。
 電波はさほどの距離を飛ばない。
 ピンクのポーチは旅行中、妻が大事そうに持っていた。
 それがこんな用途に使うためだったとは!
 情けなくて泣けてくる。
 あの家族旅行を生涯の宝物と大切な思い出にしていた自分の無垢さが惨めだ。

23名無しさん:2018/10/18(木) 08:31:34

 妻はやがて右腕を伸ばし、何かを取った。
 白いハンドタオルだ。すごく短い。
 その動作の折りにまた違う角度で妻の裸体が映った。
 首のあたりから下へカメラが向いている。
 映し出される二つの胸の谷間。
 愚かにも小ぶりだからとあまり興味を持たなかった妻のバストは、やはり美乳と言えた。
 前屈みのこの角度だと膨らみもけっこう豊かに見える。
 そして妻の下腹部の有り様に、私はまた心臓を掴まれたようになった。

 剃毛されている。
 全剃りだ。
 ただし少し伸びかけで、黒い毛根がプツプツとあちこち芽を吹いていた。
 妻をオモチャにしていた奴らが、自分たちの所有の証しとして剃ったのである。
 だからこの時期そうなっているのは当たり前で、知識としては分かっている。
 だが、こうしてまた目の前に突き付けられるとやはりショックだ。

 確かこの温泉旅行の一週間前、穴あき下着やバイブを自宅で発見した夜、妻に夫婦の営みを迫って拒否されたことがあった。
 この温泉旅行はそれを申し訳なく思ってくれた妻が、埋め合わせに提案してくれたものと信じ込んできた。
 それがいまガラガラと音を立てて崩れている。

 セックスの誘いを「気分じゃない」と断るのも道理だ。
 ツルツルに剃り上げられた陰部を見て、不審に思わない夫はいない。
 バレたくなかっただけだろう。
 問い詰められたくなかっただけだろう。

 この旅行でも娘同伴だから、旅館でセックスはしていない。
 逆にこの旅行があったから、その週末はセックスをしていない。
 もともと私とのセックスもそんなに多い方ではない。
 記憶がおぼろげだが、仕事が忙しかったのと不気味なDVDを見てしまった動揺と福岡と北九州の往復に疲れていたことなどで、結果的に奪還するまで妻とのセックスはなかった気がする。
 だからパイパン状態の妻を肉眼で確認したことはない。
 もっとも無毛を気づかれたところで、気の利いた言い訳が用意されていたのは確実だと思う。

 おそらく典子が誰の女かを自覚させるということで、私の食事を作らせなかったのと同様、セックスもするなと命じられていたはずだ。
 人の妻をパイパンにさせるとはそういうことだろう。
 一度だけでなく、最初に剃られてから何度も定期的に剃られていたのではないか。
 憤りに私の身体がブルブル震えて来る。

 妻のカメラが鏡を向いたのは、ハンドタオルでどれくらい隠れるかを確認するためだったらしい。
 しきりに胸と局部を隠そうとしているが、両方同時は無理っぽい。長さが足りない。
 鏡は全身を映してくれるが、湯気の水滴でやや曇っている。
 最初、妻のパイパンに私が気づかなかったのはそういう事情もあった。
 鏡中の裸体の細部は明瞭ではない。

 妻のゴクリと唾を飲み込んだ音がした。
 ふーっと思い詰めた溜め息が聞こえる。
 音声はピンクのポーチに入っているレコーダー本体のマイクが拾っているようだ。
 カコーン、カコーンという浴室内の桶を使う音が、反響しながら届いて来ている。

 ここでやめてくれ。思い直してくれ。
 私は心の中で叫んだ。
 ワインの酔いが頭をグラグラさせる。

 どういうことになっている?
 この旅行は特別なんだ。
 このあと豪華な食事に舌鼓を打つんだろ?
 温泉街を家族3人で歩いてお土産を探すんだろ?
 神聖な家族の思い出を穢さないでくれ。

24名無しさん:2018/10/18(木) 21:21:20


 妻のカメラが横にゆっくり回転し、鏡を離れる。
 振り返った正面に、浴室へ通じるドアがあった。

 私の祈りもむなしく、画面の中で徐々にドアが大きくなる。
 一歩一歩、妻が近づいているということだ。
 妻の表情は映っていないのでわからない。

 とうとう浴室のドアが開いた。
 流れ込む空気で中は湯気が巻いている。
 妻が後ろ手にドアを閉めると風がおさまり、浴室の景色がより鮮明に目に飛び込んできた。

 中は大浴場などに比べて狭い。
 浴槽も端にひとつあるだけだ。
 ただ壁が一面完全に開け放たれていて、屋根はあるものの露天の野趣も楽しめるように工夫されている。
 画面はゆっくり左から右にパンしていく。
 湯船に二人、洗い場に三人、男がいた。
 例の連中かと思ったが、どうやら本物の宿泊客らしい。

 湯船の二人は妻のような中年女性が入って来たことに驚いている。
 口が大きく開いて何か言っているが、脱衣所に置き去りの本体マイクはさすがにそこまで拾ってくれない。
 椅子に腰かけて髪を洗っていた一人も妻に気づき、すばやく移動して来てちゃっかりと浴槽に浸かった。
 じっくり視姦しようとの心づもりらしい。

 ビデオの目線はかなり低い。
 どうやら妻は小型無線カメラをタオルに忍ばせ、股間を隠しながら、盗み撮りをしている様子だ。
 どうせ妻の自発的な意思でなく、命じられているに違いない。
 一体それは何なのか?

 画面が小刻みに揺れている。
 妻が震えているのだ。
 そんなに嫌ならなぜやめない。
 当然の指摘。
 だが、それは禁句だ。

 似たような言葉を、直接妻にぶつけたことがある。
 奴らとの最終対決の日。


『あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・。誰にも相談する事もできない。何もできないじゃない・・・』


 泣きじゃくっていた妻。
 たった独りで堕ちて行く自分と闘っていたのだろう。
 プロのコマシ屋集団の罠にかけられて、素人の主婦に勝ち目がある筈がない。
 典子はよく耐えた。
 そして戻って来てくれた。
 それで十分だ。
 私は気合いを入れ直す。

 それに所詮これは過去だ。
 過ぎ去ってしまっている。
 過去の典子だ。
 いまさらどうなるものでもない。
 今の典子をどうできるものでもない。
 この先どんな内容だろうとビクともしないぞと決意する。

25名無しさん:2018/10/18(木) 21:22:03

 終わった出来事と完全に割り切ってしまえるのなら、もうこの先DVDを見る必要もないのだ。
 しかしそう出来ない自分。
 やはりこだわってしまう。

 確認のためだ。
 未来をより輝かせるために、過去の分析も手助けになるはず。

 空々しい言い訳。
 やはり見ておきたい。
 弱い自分。

 画面では男たちの顔が一人一人アップになっていく。
 ズーム機能はない筈だから、順々に妻がそばに近寄っていることになる。
 ひと通りそれが終わって、また男たちの顔が画面にいちいち映し出されると、どれも下卑たニヤケ顔に変わっていた。
 混浴に入ろうなどと考える男たちは、こういうハプニングを心のどこかで期待しているスケベ揃いということだろう。
 不自然な挙措立ち居振る舞いから、妻は客たちに脈ありと判定されてしまったようだ。

 無理もない。
 戸口で男性客を見つけて踵を返すでもなく、ひっそりと浴槽に沈むでもなく、裸身を誇示するように、浴室を意味もなくうろついているのだから。
 見られたがりの変態と認識されて当然の行動を妻はしている。

 カメラは足元を映すようになっていた。
 妻の形の良い太腿が膝と一緒に、右、左、と規則正しく画面に入り込む。
 タオルを股間で丸めてるとすれば、おそらく隠せているのは現状、片腕で女性器、もう片腕で両乳首くらいしかないだろう。
 時々画面に入って来る男たちの顔は好色にゆるんでいる。

 やがてカメラは鏡とシャワーがある横に並んだ洗い場に近づいて来た。
 そのうちの一つの石鹸置きが徐々にアップになる。
 何だろう?
 するとカメラが浮いて、いきなり向きを反対にした。
 妻の真剣そのものの表情が大写しになった。
 怖いくらいに強ばっている。
 能面みたいだ。
 肩まである髪を頭の上でひとつに団子にまとめて留めていることが、いま初めて分かった。

 妻はほぼ四つん這いになってカメラ位置を調整している。
 伸ばした右手が動くたびに、画面もグラッグラッと揺れている。
 普通のビデオカメラと違って液晶モニターで確認できないため、ベストポジションが分からないようだ。

 ハンドタオルは今は広げて両乳房に当てている。
 そのため秘部は後ろから丸見えだ。
 ちょうど真後ろ、2メートルほどの近さに浴槽があり、4人の男客が食い入る様に妻の股間を凝視しているのが映っている。
 妻が身体を低くしているため、湯船に浸かった男たちの目線と妻の股間の高さがぴったり合っている。
 秘部どころかハッキリと肛門まで丸出しだろう。
 俺の嫁である典子が、なぜ赤の他人に秘すべき女性器や排泄器官を見せる必要があるのか。

 お湯の中の中年男が浴槽の最前線までザブザブと出て来て何か言った。
 なにやってんの?とでも声をかけたようだ。
 当然妻は無視する。
 きゅっと口をとがらせて、カメラアングルを決定するのに集中している。
 それにしても男たちから、性器を見られ放題になっていることを妻は気づいていないのだろうか。
 そんな筈はない。
 だから分かっててやってるんだろう。
 露出狂もいいところだ。
 いや、よく見ると、やはり這いつくばって女の曲線が強調された裸体は小刻みに震えている。
 完全な露出魔ならこんな反応にはならない。
 これも命令されてやってることなのか。

 ようやくカメラアングルが定まった。
 妻は立ち上がった。
 足首までが大写しになり、それがくるりと向きを変えて、浴槽のほうに歩いていく。
 残されたカメラはほぼ床の位置から、わずかに仰角にセットされている。
 最初は去り行く妻の踵だけ、つぎにふくらはぎまで、そして太腿が交互に動くのをとらえ、浴槽の縁に着いたときには、割れ目が深く刻まれたお尻全体までが、きれいに映し出された。
 湯船の男たちは口々に何か言っている。これも聞こえない。
 ただひやかしていることはその顔つきで分かる。

 浴槽は床と同じ高さの埋め込み式で、背後の壁のところは自然石風に岩が段々になっていた。
 そしてそこを上からの竹筒を通して源泉湯が流れ落ちている。
 ひとりの毛深い中年男はハンドタオルを腰に当てただけで、そこの奥の岩に尻をもたれて涼んでいる。
 飛んで火にいる夏の虫。
 こんな機会をとことん楽しむために、のぼせない対策をしているのだろう。
 そこまで奥に行くと、立ち上がっても全身が画面に入って来る。
 腕や肩の筋肉はないのにお腹だけがポッコリと出た、だらしない体型だ。
 一面に毛が生えている。

26名無しさん:2018/10/18(木) 21:23:13

 妻がしゃがみこんだ。
 妻の距離の場合、その姿勢でやっと画面に全身が映る。
 タオルを前に当てて、湯船の男性客たちからの視線を防いでいるようだが、肌のほとんどは露出している。
 特に背面は丸見えだ。
 丸く膨らんだお尻がとにかく色っぽく見えてたまらない。
 混浴風呂にこんな女性が入ってきたら、私もラッキーと喜ぶだろう。
 しかし自分の妻だ。
 複雑な心境どころか困惑を隠せない。
 しかも思い出の家族旅行中である。
 いったいこれは現実なのだろうか。
 どうしてこんな映像が?
 混乱が増してくる。

 男たちは妻に向かって囃し立てている。
 身振りからすると、浴槽に入る前に身体を流せと言っているようだ。
 素直に従う妻。
 手近な木桶を拾って、肩からザブザブお湯を掛け始めた。
 その姿が画面中央で大きく映し出されている。
 Sの字にしなって強調される女体のカーブ。
 男たちは大口あけて喝采している。
 手を叩いてる者もいる。
 片膝を立て、股間にタオルを当てているからそっちは大丈夫だが、乳房はモロ出しだ。
 飛び切りの巨乳ではないものの、タダで女性のオッパイが拝めるのだ。
 男たちのはしゃぎぶりも無理もない。

 男たちはしつこいほどに妻に身体を流させる。
 このシュチュエーションを長く楽しみたいだけかと思ったら、妻の背後から、コソ泥のように身を低くした男が画面に入って来た。
 そいつをアシストする狙いらしい。
 彼は30半ばくらい。
 割と筋肉質で背の高い男は、そこから四つん這いになって進んで来る。

 すかさず湯船の男たちが、妻に湯加減を見るよう勧めた。
 言われるがまま、伸ばした右手の指先を湯面に浸ける妻。
 反動で持ち上がった臀部のすぐ真後ろに、短髪男のニヤケ顔がある。
 ふたりの肌と肌の距離は10センチもないだろう。
 湯船の男たちに片手でピースして見せながら、オス犬がメス犬の後ろに付きまとって臭いを嗅ぐみたいに、妻の股間に顔面を近づけ大げさにクンクンと鼻を鳴らす。
 男たちは大爆笑だ。

 彼らはいまや殆んどが立ち上がっている。
 ずっと浸かったままは流石に熱いのだろう。
 さっきから妻に指示を出している白髪まじりの元気のいい初老のオヤジが、右手で湯を掻き回す見本を示す。
 熱いからもっと掻き回したほうがいいとでも言っているらしかった。

27名無しさん:2018/10/18(木) 21:24:10

 妻の腕が水面深くに潜ると、必然的にお尻はもっと高く突き上がった。
 そこまで?というほどの角度。
 いつも「ケツを上げろ」と調教されて、もはや習い性になっているのかと、いまさらながら暗い気持ちに満たされる。

 右手を回すのに合わせて、まったく無防備な妻の生臀部も左右に揺れる。
 チラチラ変わる角度で谷間に潜む二枚貝のような肉唇が画面でも確認できた。
 すでに口を開いて、濡れ光っている様子だ。

 短髪男は背後から恵比寿顔で、妻の秘部に息を吹きかけて遊んでいた。
 産婦人科医でもなければ、こんな間近で女性器を見られないだろうと思うほどの至近距離にいる。
 クンニでもされるのかとハラハラしたが、さすがにそれはなかった。

 妻は、湯に入る前によく陰部を洗え、と初老オヤジに命じられたのだろう。
 衆人環視の中で、蹲踞のポーズで両脚をM字に開き、見せつけるようにジャブジャブと女陰を洗った。
 肛門も洗えと言われたらしく、片手をついて腰を持ち上げ身体を後ろに反らすと、お尻の谷間にも湯をすくって何度も擦っていた。
 むごい。
 妻が悪辣な一味に引っ掛かって、脅迫まがいに性調教を受けていたことを知っている私でさえ、この女は発狂しているのではないかと目を疑う光景だ。
 大きくため息をついて、DVDをストップさせる。

 そう言えば典子はどうしたんだ?
 期待はしていなかったが、携帯に掛けてみる。
 やっぱり通じない。
 まだ9時にもならないから、それほど遅いという訳でもない。
 それでも連絡くらい入れろよ。
 何かあったのか?

 ワインを残しておくつもりだったが、とてもシラフではいられない。
 変な動画を見たせいか、胸がザワザワする。
 ボトルからワイングラスになみなみと注ぐと、そのままグイッとあおる。
 酔いがささくれた神経をジンワリなだめてくれた。

 こんなDVDはやっぱり見ずに捨ててしまおうか。
 以前、妻のDVDを粉々にしてコンビニのごみ箱に捨てたことがある。
 存在自体が恐ろしかったからだ。
 中の映像を否定したかったからだ。
 しかし、それはやっぱり逃げだったと思う。
 問題解決にはなんの役にも立たなかった。

 そうだ。俺はもうあの時の俺とは違う!
 妻を取り戻す過程で、勇気の大切さがわかった。
 妻の過ちをすべて受け入れると決心したじゃないか。
 だから見なくてはならない。
 見たからといって俺の典子に対する気持ちは変わらない。
 変わりようがない。
 どれだけ良い妻、良い母であるか、20年の蓄積がある。
 この一年、やり直してからの生活でも、その思いはさらに強まった。
 動じてはいけない。
 いや、動じない。
 向き合おう。
 どんなことをしていたとしても、それは俺の現在の妻。
 結婚式で将来を誓い合った、最愛の妻、典子なのだから。

28名無しさん:2018/10/18(木) 21:27:06


 DVDをスタートさせるが、やはり気分は落ち着かない。
 胸がモヤモヤと苦しくなってくる。
 少し早送りにする。
 画面の中の裸ん坊たちが、トーキー映画の様に、パラパラと高速で動いていく。
 どうせ音声がないので、これで十分だろう。

 画面は大して変わり映えしない。
 妻は立ったまま湯船に入り、周りをこれまた立っている5人の男に取り囲まれている。
 妻の白いタオルが中の一人にひったくられて、カメラのほうに弾丸のように飛んできた。
 湯船でタオルを使うなということらしい。

 素っ裸の妻は一生懸命なにかを説明しているようだ。
 波打つ湯は妻の太腿の半ばあたりを洗っている。
 生えかけ状態のパイパンの恥丘が妙に目立つ。
 これでは男たちが妻を堅気の女と判定しないのも当然だろう。

 混浴マニアの女性というのも稀に居るようだが、たいていは男同伴か大きめのタオルで武装するものではないのか。
 妻の浴室に入ってきてからの行動も、男たちに視姦されたくてノコノコやってくる変態女のそれでしかない。
 妻を取り囲んだ男たちが輪を縮めると、あわてて妻が押し返す身振りをする。
 それで離れた男たちもしばらくするとまた忘れたように詰め寄って来る。
 その間、妻はしきりに何か喋っている。
 口下手なはずの妻なのに、悪辣な命令をこなそうとして、何故そこまで必死になる必要があるのか。
 無理に鼓舞した気分も、呆気なくしぼんでしまう。

 誰かがいきなり妻を抱きすくめようとした。
 それを慌てて左右の男が止めた。
 結局しばらくして男たちはそれぞれに頷いた。
 よくわからないが話がまとまったらしい。
 湯から一人の男がロケットの様に飛び出してきた。
 カメラにぶつかりそうになる。
 私は慌てて早送りを解除した。

 画面いっぱいに髪も眉も濃く、それでいて頭の良さを感じさせない、40過ぎくらいの男の顔が広がった。
 さっき涼んでいた中年男だろう。
 とてもアップで見たいような顔じゃない。
 男が右手を伸ばすと、カメラが浮き上がった。
 画面が落ち着きなく動く。
 男が豆カメラを摘まんで運んでいるのだ。
 妻に頼まれたのだろう。
 ヘリコプターから空撮しているみたいに画面が揺れながら進んでいく。

 男が浴槽に入るところが映り、カメラを横に振ってざっとあたりを撮る。
 男たちの興奮でのぼせた赤ら顔。
 妻は笑顔もなく、カメラを正面に据えられると、こらえ切れずに青くなって、恥ずかしそうに下を向いてしまう。
 乳房と無毛の恥丘をさらけだした綺麗な女の全裸。

29名無しさん:2018/10/18(木) 21:27:47

 ワーンと音が聞こえた。
 カメラが例の初老オヤジを映す。
 大口開けて喋っている。
 レコーダーのマイクは脱衣所から微かに浴室内の音を拾っているのだが、言葉として認識できるほどの精度ではない。
 だが会話は私にとってはどうでもいい。
 聞けば腹が立ってくるに違いない。

 その初老オヤジの両腕が、場所を譲る時のように揃えて動き、妻を背後の壁際の平たい岩の上へ誘っている。
 妻はザブザブと湯を割って歩いてゆく。
 やはり肩が震えている。
 どう見ても哀しげだ。
 屠殺場へひかれていく家畜の様にも見える。
 やってることは過激なのに、やはり心中は嫌々ということなのだろうか。

 妻はそこでクルリとこちら側に振り向いた。
 俯いて、必死に羞恥に耐えているようだ。
 絵面は変わらないのに、ガチャッと浴室のドアの開く音が鮮明になった。
 ガサガサッという音が聞こえたと思ったら、またドアの音。
 そして下卑た調子の男の声がよく聞こえるようになった。


「ほら、奥さん。こっちのが機械本体なんでしょ? まったく自分の混浴ヌードを撮って欲しいなんて、なに考えてるのかね?」


 妻を嘲るような、初老オヤジの嬉しげな声。
 誰かに命じてピンクのポーチバッグを浴室内に持って来させたらしい。


「さあ、さっき俺らに頼んだことやるんでしょ? 命令されてるんでしょ? とっとと、お願いしますよ」


 妻は渋々といった様子で、後ろ向きのままノロノロと壁の平たい岩の上にお尻を乗り上げた。
 カメラは容赦なく、一糸まとわぬ女体を舐め回すように上下左右に移動し、それから乳首に狙いをつけた。
 そしてズームインしていく。

 見たことがないほどの硬い勃起。
 性的昂奮のせいか、血行が良くなったせいか。それはわからない。
 二人の子供を産んでいるにしては崩れていない。
 さすがに十代二十代の初々しさはないが、感度の良さそうな赤い乳首だ。

 カメラは下にさがって、これも年齢の割りには引き締まっている下腹部を通り、無毛の恥丘を大写しにする。
 一面の黒い生えかけの陰毛の芽吹きが、本来の繁みの範囲を教えて、何とも言えず卑猥だ。
 女の縦割れである大陰唇は、ぷっくらとした肉まんじゅうに鋭く斬れ込みを入れ、座った状態なので上半分しか覗かせていないが、それだけでも堂々たる貫禄を感じさせる迫力だった。

30名無しさん:2018/10/18(木) 21:29:06

 すると撮影している男の指が伸びた。
 クリトリスを剥こうとしたようだ。


「いやっ」


 怯えながらもハッキリと拒否する妻の声。


「早くやらないからだろ」


 すぐさま初老オヤジに叱られ、妻は両脚を湯から引き上げる。
 少しだけ後ろに体重をかけ、現れたお湯の滴る踵を、座ったお尻の右左と順に置いて、パックリとM字開脚を完成させた。
 不安定になりがちなこの姿勢もビシッと決まって、やり慣れている印象を受ける。
 私の心の水面にさざ波が立つ。

 抜かりなくカメラが妻の秘部に寄った。
 見たくはなかったが、そこはすでに透明な液体がふんだんに溢れ返り、下へ糸を引いていた。


「いやー、凄いね。奥さん」


 男たちのからかう声がする。
 拍手まで鳴った。


「おまんこ丸見えだ。たまらないね、こりゃー」


 またも自慢の妻が笑いものだ。
 さんざん妻がオモチャにされた映像は見てきた。
 初めての痴態という訳ではない。
 それに今と現在進行形でパニック寸前に追い詰められたあの頃とは状況が違う。
 しかし嫌な気分は変わらない。
 それでもなぜか股間に熱を感じ始める自分。
 昨夜あれほど放出したというのに、妻が画面の中で嬲られるのを見て、勃起している。


「いやっ」


 また小さく妻が声を上げた。
 カメラ担当の男が懲りずにクリトリスに手を伸ばしたらしい。


「・・・自分で・・・やります・・・から・・・」


 消え入りそうな妻の声に対して、叱咤する初老オヤジ。

31名無しさん:2018/10/18(木) 21:30:23

「当たり前でしょ? 俺らは奥さんに頼まれて手伝ってるだけです。早くしてもらわないと、いい加減のぼせちまう」


 強い口調で言われ、妻の胸のところで組んでいた手がおりて来た。
 無毛の肉まんじゅうに入った舟形の亀裂の頂点、肉のフードに指先が乗っかる。
 カメラは下から股間をあおって妻の表情をとらえている。
 撮っている男は意外に撮影の経験者なのだろうか。
 カメラワークが妙に上手い。

 妻は目をギュッとつぶっているが、もう凍り付いた顔つきではない。
 情感がこみ上げてきたのか、半開きの唇から舌先が白い歯の隙間からチロチロ覗き、色惚けた女の顔に変わろうとしている。
 くっと指先に力がこもる。
 ズルッと包皮が剥けた。
 赤くビンビンに尖っている肉芽のどアップ。
 クリトリスがディスプレイ全部を占領する。
 中年女性の生々しい現役の快楽器官。
 十分すぎる勃起状態だ。

 いったい妻の肉体は去年の半年で、どれほど他人の目にさらされたのだろう?
 配偶者の私を差し置いて、熟れ盛りの女体の隅々まで撮影して、金に換えた奴らがいた。
 乳房も、乳首も、太腿も、お尻も、陰唇も、クリトリスも、肛門も・・・。
 下手すれば尿道や、他に思いつかないけれど、マニアックなところまで、彼らの上得意客に披露されてしまったのだろう。
 それも、きわめて克明に。

 愛する妻は一時期、私だけの妻でなくなっていたことを痛感する。
 この映像も商品に仕立てられ、数は少ないとはいえ、確実に販売ルートに乗ったはずだ。

 私でさえまじまじと見たことのない妻のクリトリス。
 今はテカテカと粘膜を光らせ、怒ったような充血を見せて、いきり立っている。
 思いのほか大きい。
 イメージにあわないそのサイズが、妻の隠れた欲望を象徴しているかのようで、たじろいでしまう自分がいる。


「ほら、こっちも」


 初老オヤジの声が飛ぶ。


「良いの撮らないと叱られるんでしょ? ほら自分で開いて」


 クリトリスの包皮から手を放し、おずおずと股間の女貝の縁に両手をあてがう妻。


「違う、違う。手は腿の外側からだよ」


 出来の悪い子を叱りつけるような初老オヤジの調子に、ギャラリーから笑いが起きる。
 言われた通りに妻がすると、おおーっ、とどよめきが湧いた。


「すげー、ホントに開いて見せてるよ、この女」
「綺麗なくせに、変態だな」
「もう濡れまくりじゃん」


 画面は言うまでもなく、妻の秘部の大写し。
 クリトリスの下部から二手に分かれて広がっている小陰唇を、指先で引っ掛けて、思い切り左右に引っ張っている。
 女性器の奥の奥までご開帳で、尿道も膣口も満天下にフルオープンだ。
 何ともあられもない姿。
 女体の神秘の一部始終がすべてわかる。

 典子、なんてことを!
 人妻にあるまじきポーズ――。

 しかしそれを言うなら、実際のところ、典子は人妻にあるまじき行為をこれまで散々重ねて来ていることになる。
 私は日頃は目を背けているが、無念にも現実はそうなのだ。

32名無しさん:2018/10/18(木) 21:31:16

「さあ、早くオナニーしてみなよ」


 初老オヤジの早口が喉に絡んだ。
 妻のクパアから浴室の空気が変わっている。
 ぐっと緊張感が増したのが分かる。

 妻は相変わらずの背を後ろの壁にもたれかけさせた大胆なM字ポーズ。
 顎を上げ、瞼はつぶったまま。
 目許は赤くなり、表情は消えている。
 鼻息を荒くしたこの女が、間違いなく欲情しているのは誰の目にも明らかだ。
 股間の指が位置を変えるまでには少し間があったが、左手が右乳首、右手がクリトリスにたどり着いてからの動きは、一転激しいものになった。

 乳首を指でビンビンと数度弾いてから、胸の膨らみに挑みかかった。
 パン生地を練り込むように、荒々しく揉みこむと、今度は揺さぶって、根元をギュッとつかんで乳首のほうへ絞りだす。
 それを左右交互に繰り返し何度も行った。
 もうこれ以上膨らまないだろうと思われた乳頭が、さらに肥大し硬化を見せる。
 その間、右腕は掌を陰部に押し付け、上下に強く往復させていた。
 手が上にあがるたびに、つられて小陰唇がめくれ上がり、さがる時には肉襞がよじれて汁が散った。

 この猥褻なショーに、男たちの肉根は当然のことながら反応している。
 最初はタオルを頭に乗せたり腰に巻いたりしていたが、今や皆タオルなどどこかに放ってしまい、全員素っ裸である。
 豆カメラを摘まんでいる男は撮影の経験があるのだろうか?
 それとも小さなミニサイズだから、あちこち動かしやすいのだろうか?
 要所要所でカメラを近づけアップにしては、また戻して引きの画を撮ってみたりする。
 パンをして客をひとりひとりレンズにおさめては、また戻って妻の痴態にフォーカスしたりする。
 落ち着かない画面の移ろい具合いではあるが、おかげで固定カメラとは比べ物にならないほど、異常空間と化したこの混浴風呂の淫猥さがリアルに伝わっているのだ。

 今や、ひょろっとした痩せ型の七三分けの男はメガネをかけたままで湯船に沈んでいた。もうひとり若そうな小柄な男も妻から距離を置いて湯に浸かっている。
 このふたりは内心ハプニングを期待して混浴に来たくせに、想像以上の展開に気を呑まれてどうしていいかわからないようだ。
 かと言って立ち去りがたく、横目で推移を睨んでいる状況なのだろう。

 熱心なのは妻をぐるりと取り囲んだ3人。
 まずはのべつ幕なしに妻にダメ出しを続ける白髪まじりの初老オヤジ。
 中肉中背で、肉体労働者風。筋肉はあるほうだ。
 次は犬のように妻の股間を嗅いでいた、背の高い自衛隊員風の短髪男。
 そして撮影をしている毛深い中年男。

 3人ともすでに半勃起というよりフル勃起に近づいている。
 初老オヤジはサイズはそれなりだが、雁首が発達してデカい。
 短髪男は持ち物も長大だ。
 一瞬映ったカメラを持ってる毛むくじゃらの中年男のモノは、太鼓腹の下に毛に埋もれていて、ハッキリ言って短小というやつなのだろう。
 その男による臨場感のあるカメラワーク。
 素人離れしている。
 ただ上手すぎて困ることもある。
 見たくもないものまで見せつけられてしまうのだ。

 妻の局部がまた大アップになった。
 無毛のために細部までわかってしまう剥いたムール貝のような妻の二枚の陰唇。
 その中心で激しく出入りしている妻の中指。
 猛烈なスピードに淫汁が飛び散っている。

 やがておもむろに指が抜かれた。
 すかさずカメラが近づいて、膣口を激写する。
 バラの花弁に例えられる多くの肉襞を重ね合わせた入り口は、子供二人を産んだにも拘らず空洞を見せることなく、ピンクの肉壁がせめぎ合い、物欲しげにウニウニ蠢いている。
 たおやかな妻の身体の一部とも思えない、猥褻そのものの器官。
 昨夜の妻との生セックスの感触を思い出し、股間がいよいよ反り立ってきた。

 早くあの中に入れたい。
 切実にそう思った。
 二日連続など記憶にないが、今夜もやれそうだ。
 早く帰って来てくれないか。
 典子はいったい何をしている。

33名無しさん:2018/10/18(木) 21:34:04


 再び膣内に妻の指が侵入する。
 今度は二本だ。


「うっ、うっ・・・」


 押し殺したような妻の呻きが漏れる。
 右手はせわしなく肉壺に指を送り込み、左手はクリトリスをねちっこく捏ね回している。


「奥さん、だいぶ気分が出てきたようじゃないか」


 初老オヤジが手を伸ばして、大きく開いた妻の内腿に触れる。


「やん」


 妻は拒絶するが、声は弱々しい。


「触らない約束です・・・」


 薄目を開けて、オヤジを睨もうとする妻。
 しかし、すでに八分目くらいまで快楽の階段を昇って来ているのだろう。
 有無を言わさずオヤジがなおも触って来ると、黙り込んでしまった。

 長身自衛官風も、初老オヤジにならって、妻の肩先に手をかける。
 諦めたのかもう妻は何も言わない。


「ハウンッ、ハウンッ・・・」


 色っぽい喘ぎまで発するようになった妻。
 短髪自衛官は無遠慮に、片手で妻の乳房を揉み始める。
 妻の手淫が激しさを増す。
 もう3本の指で肉壺を責めて、蜜の飛沫を飛ばしている。
 囲んでいる3人の男たちも、とっくに自分の勃起をしごき始めていた。


「ハアッ、ハアアアッ・・・」


 妻の喘ぎが切羽詰まって来た。


「イクッ、イクイクッ!」


 その言葉に合わせて画面に向けて妻の股間から何かが飛んできた。
 水流だ。
 潮を吹いたのか?
 小便を漏らしたのか?
 どちらかはわからなかった。
 妻は上体を後ろへ反らし、M字のポーズを決めたまま、あごを天に突き上げてガクガクと痙攣している。


「おっ、奥さん、逝ったのか?」


 初老オヤジの声も耳に入らない様子で、妻は身体を硬直させている。


「自分だけ気持ち良くなっちゃいけないな。俺らの面倒も見てもらわなくちゃ」
「そういうこと。奥さんもそういうつもりなんでしょう?」


 長身自衛官も反対側から妻の白い肉体に取りついた。


「いやっ、だめっ」


 やっと正気づいた妻は、慌ててM字の足を湯に下ろす。

34名無しさん:2018/10/18(木) 21:34:42

「あんな姿を見せて駄目も糞もないだろ。やらせろや」
「旦那が一緒に来てますっ」
「命令してるのは旦那じゃないんだろ? え?」
「いえ、その・・・。あ、ありがとうございました。もう部屋に戻ります。食事の時間なので」
「もうちょっといいだろ? なあ? こんなになってんだよ。ちょっくらサービス。な?」
「もう許してください」


 その時、長身の短髪野郎が力任せに妻を湯船の中央に引っ張り出した。
 脚がお湯でもつれて、頭から浴槽に倒れ込む妻。
 大きな水しぶきが上がる。

 それまで黙って湯に浸かっていたメガネと若いのが、大急ぎで浴室から出て行った。
 安全圏からのハプニングは楽しみたいが、無用のトラブルには巻き込まれたくないということだろう。

 湯に浮かぶ妻の白い背中に自衛隊男が覆いかぶさった。
 またもザブーンと大しぶきが上がる。


「ほら、こっち来いよ」


 完全に金で買われる女の扱いをされる妻。
 湯船によろよろ立ち上がった。
 ずぶ濡れの脅えたその表情を、カメラが思い切り寄って撮っている。


「奥さん? いい気持ちだったんだろ? な? みんなに見られて? 今度は交代だよ〜」


 初老オヤジが妻の頬っぺたにキスしようと首を伸ばした。


「いやっ、やめてくださいっ」


 振りほどいて湯船から出ようとする妻の肩先に、後ろから自衛官男が手をかけて、また無理やり引っ張った。
 妻は今度は仰向けに湯の中にひっくり返る。
 まるでオモチャだ。


「しますっ、しますので。手ならいいですか?」


 ついに諦めてしまった妻。
 湯の中で妻は膝立ちになったらしい。
 左右から迫って来る勃起の二本に観念したように指を絡め、左右の手で握りしめた。
 無理強いなのだが、スコスコと慣れた感じの手コキが始まる。


「あうっ」
「へへっ、上手いじゃねえか」


 男たちが声を上げる。
 妻は般若のように目を吊り上げ、唇を結んだ必死の顔つきだ。
 お湯の中で髪が解けて、顔半分に濡れた髪が垂れているのも、追い詰められた獲物という哀しい風情に拍車をかけている。

 ただ手コキ自体は余裕を持った扱き方で、強弱緩急を自在にコントロールし、男たちを着実に天国に導いていた。
 とても昨日今日で身に付けた技術に思えない。
 AV嬢さながらだ。
 忘れようと努めている妻の凌辱生活の闇の深さをつくづく思い知らされる。 
 暗澹たる気分に襲われるのをどうしようもない。

35名無しさん:2018/10/18(木) 21:36:20

「出したら部屋に帰らせてください。食事の時間に間に合わなくなります・・・」
「わかったよ。出したら終わるよ。せいぜい気張んな」


 厚かましい初老オヤジは、妻の手コキを受けながら、キスをしようと口を突き出し顔を寄せる。
 顔を背けて逃げる妻。
 構わずに舌で妻の顔面をペロペロ舐めだすオヤジ。
 逃げた先にも破廉恥漢の短髪男がいる。
 面白がってそいつも妻の反対側の頬から耳元までを舐め上げる。
 妻はもう目も開けてもいられない。
 その閉じた瞼の上をも這い回るオヤジのねちっこい舌。
 妻はひきつけを起こしたように仰け反っている。
 それでも両手は男根を離れず刺激を与え続けている。


「そんなに逃げ回るなんて可愛くねえなあ、奥さん」


 言葉とは裏腹に、口の周りを涎まみれにした初老オヤジは満足げだ。


「なんでそんなにチンポしごくの上手いんだい? 混浴に入っては男漁りをしてんのか?」
「・・・違います」
「旦那とだけじゃ、こうはならないよな?」
「・・・」


 歯を食いしばって左右の勃起したペニスを黙々としごく湯の中の自分の妻。
 普通だったら絶対に目にしない光景だ。


「奥さん、大好きなんだろ、チンポ? もう一本忘れてるよ」


 目で撮影をしている男の下腹部を指し示す。
 視線を追った妻は初老オヤジから手を放し、下に動いたレンズが映し出した小さいなりにピンピンにそそり立っている毛むくじゃら中年男の肉茎をつかんだ。


「おい、なにやってんだ」


 本気で怒鳴るオヤジ。


「こっちをやめちゃあ駄目だろ?」


 その剣幕に妻はうろたえ、また一度放したオヤジの怒張を握り直した。


「まあ、とにかく一回出すまでは帰さないからな。ほれ、あそこにも時計がある。いま6時45分だから、7時まであと15分。身づくろいを考えると10分で終わらせないと食事に間に合わないね。へへ。もしかして、あわてた旦那がここまで探しに来るかもなあ〜」


 ギョッとした妻が顔を上げて壁の一点を見た。
 オヤジの言葉を確かめたのだろう。
 顔が引きつる。
 ゴクリと唾を呑み込んで何かを決意したようだった。

 それは挨拶でもするような自然の動き。
 毛むくじゃら男の太鼓腹に顔を埋めただけ。
 一見そう思えるほど、何のためらいもなく妻は撮影している男の赤黒いペニスをすんなり口に含んだ。
 カメラはそれを真上からとらえている。


「うっ」


 小さい声がして、画面が小刻みに数度揺れた。
 3分も掛からなかったはずだ。おそらく2分ちょっと。
 妻は口をもぐもぐさせ、舌を蠢かし、最後に二三度顔を振っただけで、男を自失に追い込んだ。
 両者の動きが止まっている。

36名無しさん:2018/10/18(木) 21:37:20

 いま男は極上の快感に酔いしれ、妻は喉奥の精液を胃に飲み下している最中に違いない。
 やがてしなびかけた陰茎をプッと吐き出し、妻が上を向いた。
 カメラと目が合う。
 そして下を向いた妻の唇が、再び亀頭の先端に吸い付いた。
 チューゥッという長く吸引する音が響く。
 鈴口から残りの精子を全部吸い上げているのだ。

 もう一度亀頭を呑み込むと、唇で雁首のあたりを締め上げた。
 唇のあちこちから小さく舌先が顔を覗かせる。
 お掃除フェラなのだろう。
 見たことも無いようなテクニックだ。
 俺とのフェラはゆっくり舐めるだけのフェラだった。
 音を立ててもらったこともない。
 当然、口に咥えてもらった経験は皆無だ。
 正確には昨夜が初めてである。


「すげーな。次は俺だ。ほれ、咥えろ」


 初老オヤジは目をギラギラさせて、妻の濡れて乱れた髪に手を乗せ、後頭部を引き寄せると、唇を開かせそのまま一気にデカイ亀頭を口中へ送り込んだ。


「ぐぷっ、かはっ、ぐべっ」


 苦しそうな声は出たが、たじろぐでもなく、妻は冷静に太さもある肉竿を唇で締め付けた。
 乱れ髪の貼りついた頬が微妙な凹凸を繰り返している。
 内部で舌が盛んに動き回っているに違いない。


「うおっ、なんだこれっ! うめーじゃねえか! こりゃー、素人じゃねえな。うわわっ」


 初老オヤジも思わずたじろぐテクニックを自分の妻が披露している。
 それをまざまざと見せられる。
 根元近くまで咥えた唇をさらに寄せて行き、くいくいと短いストロークで首を振る。
 上目遣いでオヤジの顔を見て反応を確かめつつ、手では自衛官風短髪男の巨根をシコシコと器用にしごく。
 その手コキの対象物はかなりの大きさだ。
 だが妻に慌てる様子はない。
 そこから考えられるのは、これくらいのサイズは何度も経験済みだ、という事実しかない。
 暗い気持ちがさらに新たに上書きされる。

 妻は両手が空いたので、もう一方の手は毛の生えた玉袋を転がすように愛撫している。
 これも一度や二度では会得出来そうにない多彩な指遣いだ。


「チッ、出さねーぞ。出したら終わりだからな。ちょっ、お、おいっ。待てっ。待てったら! あっ・・・」


 思わず腰を引くオヤジの下腹部を追いかけるようにして、その股間に妻の顔がのめり込んだ。
 初老オヤジの腰がピクピクと痙攣した。
 発射したようだ。
 オヤジは妻の顔を両手で挟み込んで、噴出しながら、膨張しきったものが喉奥で締め付けられる快感を貪っている。
 それを妻も身じろきもせず、されるがままに受け入れている。

 咥えたまま顔を小刻みに動かし、上目でオヤジの様子を窺い、射精の快感を出来るだけ持続させることに腐心している自分の妻の姿。
 想像したこともない現実。
 見るに堪えない。
 逆らうような仕草や辛そうにする表情が垣間見えた、初期の映像がむしろ懐かしい。
 もう男性の射精に慣れ切っている。
 飲むのが当たり前になっている。
 擦り込まれた奴隷の作法。

 しかし、それにしては昨夜典子は飲んでくれなかった。
 愛のある夫婦の間では性プレイのような真似は恥ずかしいということなのか。
 妻の気持ちが分からなくなってくる。

37名無しさん:2018/10/18(木) 21:38:40

 妻は喉を鳴らして子種を嚥下し終わると、毛むくじゃら男にしたのと同様、丁寧なお掃除フェラを始めた。
 待ちきれないのは長身の筋骨男だ。
 乱暴に妻の顔を引き寄せると、ぐいぐいと遠慮会釈なく妻の喉奥にまで、その長大な肉槍を呑み込ませていく。


「ごおおぉぉ・・・ぐばぁっ・・・ごおおおお」


 妻の喉が鳴った。
 喉奥まで異物が入った苦しみによる、身体の自然の拒否反応。
 声にならない嗚咽の声が湯殿に響き渡る。
 それを荒々しく短髪男は、己の欲望のままに、妻の顔を振り回す。
 すでにフェラチオではない。イラマチオだ。

 さすがに苦しいのだろう。
 閉じた目尻から涙が一筋伝い落ちた。
 それでも妻は以前のように、男の太腿を手で押し返して顔を離そうとする無作法はしない。
 呼吸のできない苦しみにもがきながら、喉奥を好きなように男根に蹂躙されるに任せている。

 性奴隷として一歩また成長した妻の姿を見せられる俺。
 おそらく鬼畜どもの手に落ちて、まだ4か月くらいしか経ってない時期のはずだ。
 テンポよく堕ちて行っている妻の状況。
 奴らの調教の凄まじさをつくづく思い知らされる。
 この歯止めのなさは、あるいは妻自身が進んで異常性愛の世界に踏み込んで行ったのだろうか?
 有り得ない仮説までが、衝撃に度を失った俺の胸に浮かんで来る。

 波立つお湯に裸身を揺らされ、なんとか身体を安定させようと、無我夢中で妻が男の腰にしがみついた。
 納豆の様にネバネバと糸を引く液体が、妻の口元から大量に溢れてきた。
 その様をアップでとらえるカメラ。
 妻は白目をむいている。
 男は傍若無人に妻の喉奥深くに入れ込んでいるが、見るからに気持ちよさそうだ。
 前屈みでされるがままの妻は、まるで太い一本の棒で串を通された獣のよう。

 その背後に初老オヤジが回った。
 身動きできない状態の妻の隙を突き、後ろからの挿入を狙っているのは明白だ。
 オヤジの手が腰に伸びた。
 そのままウエストを引き付けられ、ハッと身を固くする妻。
 その緊張が画面から伝わって来る。

 妻が身体を猛烈にくねらせた。
 フェラまでは譲歩しても、セックスは絶対に嫌だという、強い決意が窺える。
 腰をひねり、お尻を振りたくり、もがきにもがいて、懸命に逃げようとする。
 押さえつけようとする初老オヤジ。
 妻の口中に長大な肉棒を押し込んで、自由気ままに喉深くを犯しまくっている短髪男も、左手で妻の後頭部を押さえ、右手で妻の腕を捩じ上げて動きを封じるアシストをする。
 オヤジは妻のくびれたウエストをつかもうとするが、濡れた肌が滑ってなかなか上手くいかない。
 必死で逃れようとする妻を、オヤジはしかし余裕のニタニタ笑いで追い回す。
 股間には充分に回復してそそり立った怒張。
 やはり張り出したデカ雁首が目立つ。

 長身の短髪男がいよいよ我慢できなくなったらしい。
 妻の口の中に放出の準備に入った。
 妻の顔を思いっきり自分の下腹部に引っ張り、ガッチリ固定した。
 根元まで呑み込んでいる妻。
 あの長さからすれば、どう考えても普段は食べ物しか入りえない部分にまで、巨根の先端が入れ込まれている状況。
 あの澄んだ高い声を出す妻の喉に、見ず知らずの男の野太い肉棒が埋っているなど信じられないが、事実として映像に記録されている。

 そのまま壮絶なイラマチオ。
 過激なピストン。
 そしてまた深く喉奥に押し込んで動きをとめた。
 妻の顔面が男の下腹部に沈み込むほどの容赦のない密着度。
 普通なら吐き出す。
 吐き出さなければ死ぬ。
 でもイカせて終わりにしたいのだろう。
 大口を開いた妻は必死の面持ち。
 我慢している。
 その悲愴な相貌は真っ赤だ。
 窒息は間違いない。
 男は腰を突き入れたままじっとしている。
 もはや妻は酸欠で朦朧としているはずだ。
 人間扱いではない。
 ここでも便器の扱いだ。
 息の続く時間の限界を超えている。
 妻の全身が痙攣を始めた。
 その痙攣は喉でも起こっているのだろう。
 喉奥の筋反射によるのっぴきならない肉の収縮を、亀頭粘膜で存分に楽しんだ後、やがて男が、


「う〜む」


 と呻いてフィニッシュを迎えた。

38名無しさん:2018/10/18(木) 21:39:58

 妻は慌てて顔を引き抜いて、


「ゲボッゲボッゲボォッ」


 と激しくむせ込んだ。
 折れ曲がった身体も陸に釣り上げられた魚のように、闇雲にもがいている。
 せき止められていた胃液っぽい粘液が精液と一緒に口から、そして鼻からも大量にドバドバと溢れ落ちた。
 ゲロを吐いているのもさながらの惨状。
 目を白黒させた妻は、もうお掃除フェラをする余裕もないらしい。
 それでも視線は壁の時計を追った。
 ふらふらと湯舟を出ようとする妻。


「やっちまおうぜ」


 初老オヤジが声をかけ、出したばかりの自衛官風と追いかける。
 妻が湯殿に一歩足を掛けたところで、オヤジが抱きつく。
 そのまま向こう側に押し倒した。
 勢いで、硬い床に二人の裸体が腹から落ちて打ち付けられ、そのまま滑っていく。


「おとなしくしろ」


 オヤジは倒れた妻に組みついて、上にのしかかろうとしている。
 れっきとしたレイプ場面が繰り広げられようとしている。


「許してっ。許してくださいっ」


 泣き叫んでいる妻。
 しかし容赦なく仰向けにされた両脚を二人掛かりで開こうとする男たち。
 それをカメラが追っている。

 最初は二人に向かって懇願していた妻も、いまは、


「助けてーっ!」


 あたりかまわず、救いを求める大声を上げている。


「口を押えろ」


 短髪筋骨男にそう言って、自らも妻の口を塞ぐオヤジの手に、妻が噛みついた。

39名無しさん:2018/10/18(木) 21:40:41

「助けてぇ! 誰か! 助けて下さいーっ!!」


 妻の金切り声。
 するといきなりカメラが脱衣所のドアへ移動した。
 走って行って、そこで止まって、また戻って来た。
 画面に映っているのは全裸で押さえつけられて、足首を持たれ、限界まで両脚を開かせられ、レイプ寸前の妻。


「誰か来た」


 毛むくじゃらのカメラ担当の中年男の声だ。


「えっ」


 動揺するレイパー達。
 その一瞬の隙に妻が立ち上がる。
 よろよろしながら脱衣所のドアまでたどり着く。


「ちぇっ」


 悔しそうな初老オヤジの舌打ち。
 目的を果たせずブラブラしている股間の屹立が、その無念さを表すかのようだ。


「忘れものだぞ、それっ」


 腹立ちまぎれに、オヤジは何キロあるかわからないレコーダーの入っているポーチを、妻目がけて思い切り投げつけた。
 飛んで来たそれを妻は命より大事なものであるかのように、両手を広げて、必死で受けとめる。
 野球の下手糞な小学生みたいに手をすり抜け、それは妻のなめらかな腹部にまともに当たった。
 ドスンと衝撃で妻の身体が後ろに弾かれ、無様に尻もちをついた。
 しかし決して落とすまいと抱きしめる。
 両腕で大切な宝物のようにしっかりガードしてうずくまる。

 ポーチの直撃で息が止まっているらしい妻に向かって、


「それも返してやれ」


 オヤジの声がした。
 急に画面がくるくる回って妻の黒い髪の大写しになった。
 そしてそれきり画面が消えた。
 盗撮用の豆カメラも妻に向かって投げつけられたようだった。

40名無しさん:2018/10/18(木) 21:44:19


 壮絶なシーンに股間を固くしたまま、私は茫然としていた。
 現実とは認めたくはないが、これまでの経緯がある。
 否定のしようがない。
 妻の裏切りを、またしても目の前に突きつけられる。
 惨めだった。
 それでも、なんとか最後の貞操だけは守り通してくれた、と妙にホッとする自分がいる。
 何の意味もないことなのに。

 あの時妻はどうだったろう?
 自分に問いかける。
 私と真菜が豪華な食事が部屋に次々運ばれて来るのに目を丸くしていると、膳の準備が整ったあたりで、


「あれ、もう食事来てたんだ」


 と濡れた髪を拭きながら、遅れて戻って来た気がする。
 旅行のリラックスムードで何も気が付かなかった。
 妻が混浴風呂で潮吹きオナニーを披露し、3人の男をフェラ抜きしてたなんて。
 それを自分で撮影してたなんて。
 満ち足りて幸せそうだったのに。

 あの時、妻の胃は、見ず知らずの宿泊男性の3人分の精液と山海の珍味とを同時に消化していたことになる。
 妻の心づくしの旅行。
 その美しい思い出がどんどん色褪せていく。



 次の映像が始まる。
 いきなりの男女のバックスタイルでのクライマックスシーン。
 真上からのアングル。
 ちょうど女性の丸々とした美しいヒップだけが、画面に納まっている構図だ。
 ハメ撮りというやつだろう。

 絶頂へ向けて、激しく打ち合う二つの肉体。
 張りのあるヒップに、やや歳を連想させる下腹。
 女の喘ぎと男の荒い息。
 腰のストロークがさらに速まる。
 パンパンと小気味よいリズムで下半身のぶつかる音が鳴る。
 やがて動きが止まり、女の双臀を抱えた男の腕に力がこもった。
 射精の瞬間。
 お互いの身体が硬直する。

 まるで時間がとまったかのように、微動だにせず快感に浸る男女。
 もし断面図があれば、子種の噴射と受けとめる子宮との、壮絶かつ神秘の世界を目の当たりに出来ただろう。
 激しいピストン運動から一転、肉体の打ち付け合いが終わり、外見上は動きを止めた。
 しかし男性器は先端の傘を大きく開き白濁液を噴き続け、子宮口はせっかくの精液を逃すまいと下りて来て亀頭に密着し、ヌメヌメとした膣洞は強く収縮して、最後の一滴まで搾り取ろうとしている。
 その夥しい精子は避妊手段がとられていなければ、確実に受胎することを予感させるほどの量――。
 停止したような動きのない映像。
 しかしその裏では、そんな目まぐるしい《中出し》という体液交換の悦楽の儀式がたっぷりと行われているのだ。

 ややあって、ほおー、と男の口から万感の溜め息が漏れた。
 女の絶頂の後の声にならないかすかな吐息がそれに続く。
 極め合った二人。
 男が男根をズルズルっと引き出す。
 未練げに肉襞がそれに絡みつき伸びる。
 巨大な亀頭が現れ、一瞬の間をおいて、ぽかりと口を開いた膣口から白い樹液が逆流してきた。
 掲げられていた女のお尻が下がり、満足げに横倒しになる。

 誰だ?
 どこだ?
 いつだ?
 次々に去来する疑問。

41名無しさん:2018/10/18(木) 21:45:12

「ああ、良い身体だ。吸いつくようだ」


 ふわりと画面に漂うタバコの煙。

 この声は?
 聞き覚えがある。

 カメラがゆっくりと女の上半身を舐める。
 腰まで尻からげになった、半脱げの旅館の浴衣。
 細いウエストまでだけが丸出しの白い下半身。
 妙に色っぽい絵面だ。
 カメラはさらに上に這っていく。
 肩にかかる長い髪。
 ドキリと胸が鳴る。
 もう何が来ようと驚かない筈だった。
 それでも足がガクガクしてくる。
 後ろ向きの女性の頭。


「奥さん、良かったかい? すごく締め付けて、喜んでたみたいだけど。ええ?」


 それが男の声に応じて、振りかえる。
 その顔は目許まで真っ赤に染めて、セックスの快楽に満足しきっていた。
 旅行中の妻だ。
 頭がまた真っ白になった。
 思考を脳が拒否している。


「風呂場であれだけ逃げ回ったのが嘘みたいだぜ」


 少し皮肉っぽく言う、画面の端に映り込んできたタバコ片手の初老オヤジ。
 女をコマした征服感で、顔の皺が伸びている。


「あのときは命令がありませんでした」


 妻は嫌がる素振りもなく、淡々とした口調で答える。


「ほう? いまはオッケーなのか。なぜ?」
「混浴風呂の課題結果を報告したら、命令されました」
「命令されれば、なんでもするってか?」
「はい。奴隷なので」
「旦那がいるのにいいのか?」
「旦那は結婚相手です」
「ほう?」
「所有者はご主人様達です」

42名無しさん:2018/10/18(木) 21:47:37

「そういうことか」


 オヤジの高笑い。
 妻のマゾ奴隷っぷりを嘲笑っている。

 あれだけ嫌がっていた初老オヤジとの情のこもった濃いセックス。
 なんてことだ。
 奴らに命令されれば妻は何でもするっていうのか――。


『はいぃ・・・、何でもします・・・』


 そうだ。ちゃんと言っていたんだ。
 パイパンに剃られたDVDで。
 奴らに四つん這いにされてバックから犯されていた時に。
 あれは快楽に錯乱した戯言としか思っていなかった。
 甘かった。

 さっきの混浴風呂でのシーン。
 妻が最低限の貞操を守り通してくれたことに、私は嬉しささえ感じていた。
 だがそれは幻想だった。
 その貞操は私にではなく奴らに対してのものだったのだ。

 私は屈辱感に打ちのめされた。
 連中はどれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだろう。
 ムラムラと怒りが込み上げて来る。


「連絡はどうしてんだ?」
「メールで」
「よし。俺からも提案させてもらおう。きっと喜んでくれるぞ」


 オヤジはまだ後ろ向きに寝そべっている妻に被さるように、何やら耳打ちをした。
 ややあって携帯を操作していた妻が顔を上げる。


「返事がきました、OKです・・・」
「よし。俺が撮ってやるよ。ポーチはあんたが持ってな。なに、まんざらカタギでもない。こういう遊びも慣れてるよ。あんたもそうなんだろ?」


 浮き上がり、部屋をうろつくカメラ。
 今は畳に座り、上気しているがおだやかな表情の妻。
 何かを探すようにパンし続けた画面。
 やがてオヤジの手がテーブルの上の黒の太字マジックペンを拾って・・・。
 そこで画面は暗転した。

43名無しさん:2018/10/18(木) 21:50:33
10

 今度は夜の外の風景だった。
 旅館街に続く狭い商店街。
 明々と街灯がともっている。

 少し行くと狭い通り。
 やや薄暗いが、自動車は入って来れず、両脇にお土産屋が続く。
 画面を行き交う歩行者はみんな温泉の宿泊客ばかり。
 それぞれの旅館の浴衣や羽織を着込んだだけで、楽しそうにぶらついている。
 人通りはまずまずある。

 また胸が締め付けられそうになって、ワイングラスを空けた。
 ここまでずっと酔わなければ、とても見ていられない映像ばかりだ。
 家族三人で外へ出たのは9時半頃だったろうか。
 記憶を呼び戻す。
 まだ画面に私たちは映っていない。
 しかしこのシーンが私たち、特に妻に関わって来るのは確実だ。
 暗い気持ちで映像の進展を待つ。

 カメラはお土産屋の軒先を確かめながら進んでいく。
 その間、真菜のはしゃいだ声と楽しそうに応じる妻の声がずっと聞こえている。
 ということは、また本体のレコーダーとカメラが離れた場所にあるということか。
 さほど電波も飛ばないだろうから、30メートルも離れていない筈だ。

 すると右側のお土産屋から仲の良さそうな親娘三人連れが出てきた。
 母娘は顔を寄せ合い、しきりに喋っている。
 レンズが近くに寄っていく。
 聞こえる会話と口の動きが重なった。
 やはり私達だった。
 プライバシーなど関係なく、家族三人の顔が順に映し出される。
 私、妻、真菜・・・。
 久しぶりの家族の団欒にみんな楽しそうだ。
 画面の中の私は特に何も喋らずに、母娘のやり取りを目を細めて聞き入っているだけだ。
 それでも最高の幸福感に包まれていることは表情で分かる。

 カメラが私たち親娘にすれ違えるほどに接近した。
 持っているのはどうせ例の初老オヤジなのだろう。
 なにか目配せでもしたんだろうか。
 妻が、あっ?、というような顔をした。
 俯いた妻の顔は、一瞬こわばり、やがて耳の先まで真っ赤になった。
 カメラはすれ違い、今度は私たちの後ろに回った。
 家族三人の後ろ姿に密着だ。

 旅館の宿泊客たちも、家族連れ、恋人連れ、老夫婦、意外な賑わいで、軒を連ねるお土産屋をひやかして歩いている。
 舗装されてない道を、ざっざっと足音も鳴っている。
 それが画面を行き過ぎていく。
 だが、映像のメインはあくまで中央を歩いている私たち家族だ。

 妻の左腕にはピンクのポーチバッグがある。
 財布とか携帯とかが入っているものだとばかり思っていた。
 その中に自分の痴態を記録したレコーダーを潜ませていたなんて。

 と、ヒュイッ、と軽い口笛が鳴った。
 気にもならないような小さな音だ。
 画面の私たち家族の真ん中にいた妻の肩がビクッと動く。

 どうしたんだ?
 妻はもじもじしている。
 真菜がひとりはしゃいで喋っているのが聞こえる。


「あれも良かったけど、他にもっといいのがあるかも知れないから――」
「そうね」


 小さく相槌を打ちながら、妻の後ろ姿は奇怪な動きをしている。

 ピンクのポーチバッグを持った左手は、寄り添っている私の腰に回された。
 ぐいっと自分の側に引き寄せる。
 仲のいい夫婦が食後の散歩。
 甘いムードで恋人のように身を寄せ合うのも旅行の醍醐味だろう。
 こうして映像でも見なければ記憶にも残らない自然な所作。

44名無しさん:2018/10/18(木) 21:51:18

 真菜は興奮気味に妻の顔を見詰めて、お土産の良し悪しを語っている。
 子犬がじゃれつくように妻の身体に浴衣の腰をコツコツぶつけている。
 夜の帰宅が多く家事に関心を向けなくなった母親との家族旅行が心底嬉しいのだろう。
 妻は娘のお土産談義を頷きながら聞き、左腕を夫の私の腰にしっかり巻きつけている。
 家族の誰も背後など気にしていない。

 妻の空いた右手がだらりと下がって、お尻の辺りに回されている。
 豊かな臀丘の上を指先が動く。
 浴衣の布地を摘まんだ。
 そして少しずつ手繰り寄せていく。
 当然ながら上がっていく浴衣の裾。

 一体何をやってるんだ?
 わけのわからない妻の行動。

 会話は盛り上がり、ラグビーでスクラムを組むように肩を寄せ合っている私達。
 それを背後から追うカメラ。

 妻の白いふくらはぎが剥き出しになり、両腿の半ばまで露わになった。
 脂のほどよく乗った太腿の形良さが眩しい。
 浴衣の裾はじりじりと、それでも休むことなく、止まったと思わせて、また糸で引かれるように上にあがって行く。
 もうお尻の肉が見える寸前。
 これ以上やれば下着が見えてしまう。

 仲良さそうに並んでいる三人連れの中、ひとりだけ母親のしっとりとした白い脚が店の軒先や街灯の光を受けて浮かび上がっている。
 異様な光景がそこにあった。

 これでどうなるというんだろう?
 またも襲う胸騒ぎ。
 どうせまた妻によからぬことを企んでいるのだろう。
 下着を露出させて、恥をかかせようというんだろうか?
 そんな命令を出しているのか?

 初老オヤジのカメラは私たち三人と歩調を合わせ、そんな妻の姿を一定の距離から付かず離れず、後方から飽きもせずに撮っている。
 画面の中の妻の右手の指先は細かく動いて、ずり上がってきた布地を巧みに浴衣の帯に仕舞い込んでいるみたいだ。
 浴衣の上に着ている赤い羽織の丈は短く、腰骨の辺りまでしかない。
 みんなちゃんとした浴衣や丹前や羽織姿なのに、お土産街で生脚をここまで露出しているのは、むろん妻一人である。

 そこで終わるんだという私の予想は外れた。
 更に上がっていく浴衣の裾。
 お尻と太腿を分けている横筋が見える。
 続いてヒップの下側の肉の盛り上がりが出てきた。

 えっ!
 Tバックを穿いているのか?
 お尻の肌色しか見えない。
 歩いているので、余分な弛みのない美臀の双丘が、ムニムニと形を変える様がハッキリ映し出されている。

 ええっ!
 ここは人目もある街中だぞ!
 どういうつもりだ?

 ディスプレイの前で慌てる私をよそに、過去の私たち家族三人は、相変わらず肩を組み合うようにして仲良く歩いている。
 カメラが妻の色っぽいヒップに寄った。
 まだスルスル上がっていく裾。
 やっと下着が見えた。

 黒いショーツ。
 一瞬の安心。
 ノーパンではなかった!

 しかしこんなことに安心してしまう自分は何なんだ。
 大切な家族旅行の最中に、愛する妻が鬼畜たちの言いなりになっているっていうのに。

45名無しさん:2018/10/18(木) 21:52:27

 観光地でパンティを見せろなどというふざけた指令。
 考えれば、はらわたが煮えくり返って来る。
 しかし様子がおかしい。
 ところどころ肌が見えている。

 ん?
 破れてる?
 穴が開いている?
 ボロボロの下着を穿いているのを晒させて、恥をかかせようという魂胆か?

 そして尚も上がっていく布地。
 臀部の半分ほどが露わになった時、私は事態を把握した。
 状況を呑み込まざるを得なかった。
 頭をガツンと殴られたような衝撃。

 妻の魅惑的な臀丘の盛り上がりは、やはり下着で覆われてはいない。
 ノーパンだ。
 日頃の妻からは考えられない姿。
 いや、しかし問題はそこではなくなった。

 黒い部分はパンティの布地ではなかった。
 色が塗られていたのだ。
 いや、正確には文字だ。
 二つの漢字がそれぞれの尻たぼに一字ずつ、黒いマジックインキでデカデカと書かれている。

 とうとう裾は全部手繰り寄せられた。
 そして妻は羽織の中の浴衣の帯に、その手繰り上げた生地を押し込んでしまった。
 もう手を放しても下に落ちない。
 白々とした持ち前の雪肌だからこそ、記された文字はくっきりと鮮やかだ。

 左の臀丘には『変』、右の臀丘には『態』。
 丸々と流麗な曲線を持つ女性のヒップと対照的なゴツゴツとした金釘流で殴り書かれている。
 初老オヤジの仕業だろう。
 下手糞な字だ。
 だが、尻たぼ全体を使うほど大きく描かれたその文字は、距離があっても簡単に読める。

 私の頭は酔ったというのとは別の感覚に陥っていた。
 神経がズタズタにされたような、麻痺したような、自分でもよくわからなかった。
 頭に血がのぼっているのか、それとも血の気が引いているのか。
 とにかくメチャクチャだ。
 天井と床が逆さまになってグルグル回っていた。
 それでも目の前の映像は消えてはくれない。
 夫と娘に挟まれながら、『変態』と書かれた裸のお尻を、誰に見られてもおかしくない温泉地のお土産街で丸出しにしている妻。
 妻であり母である、分別盛りの39歳の大人の女。


「うわっ」
「なにー」


 道行く人たちのリアクションをマイクがクリアに拾っている。
 初老オヤジのレンズはぴったりと妻の背後をキープ。
 おそらく自然な通行人を装っているのだろう。
 妻が歩いたり止まったりするたびに、臀丘の動きに合わせて微妙に形を歪ませる『変態』の文字を、画面中央にこれ見よがしに押さえている。

 画面に後ろから伸ばしたオヤジの武骨な指が映った。
 そしてつんつんと妻の豊かで弾力に満ちた『変』の字の辺りをつつく。
 以心伝心、それだけで伝わるのか、妻はふと立ち止まって、両膝をつと開いた。
 ためらいもなく、その内腿の隙間に入り込み、カメラは上を向く。
 両腿に挟まれた恥部を見上げるアングル。
 そこには妻の無毛の股間。
 薄暗いが、まごうことなき無修正の女陰が、驚くほどの蜜を滴らせて映っている。
 強烈に感じている証拠のはしたない現象。
 まさか妻は喜んでいるのか?
 再びカメラが股間から引き出された。
 相変わらずスクラムを組むような並びで、真ん中の妻のお尻だけがたくし上げられた異常な眺め。

46名無しさん:2018/10/18(木) 21:53:12

 レンズはこの後の私達の行動を逐一記録していた。
 お土産屋に入る。
 軒先に平積みの商品を前屈みになって物色する三人の後ろ姿が映った。
 それを通行人が見ている。
 指差している者もいる。
 笑っている者もいる。

 この日は何軒もお土産屋を見て回った。
 明弘へのお土産の意見が決まらなかったためだ。
 思い出してみると、真菜が、これにしよう、と決めかけたのを妻がことごとく反対していた気がする。
 これも妻に課せられた指令の一端だったのだろうか。
 なるべく多くお土産屋を回るための。
 自分の恥ずかしい姿を沢山の人に見せるための。

 それからのさらに数件のお店への訪問。
 それもすべて記録されている。
 もう惰性だった。
 私は心が冷え切っていた。
 見たくもないし、感じたくもない。
 だが、DVDを停止もしない。
 目の前を非現実的な光景が、ただただ流れて行く。

 妻の出で立ちは、あからさまに露出プレイそのものである。
 健全な通行人は目に入っても、マズイものを見たという感じで慌てて目を背けている。
 仲の良い親娘然としているが、変態プレイを私も娘も承知して、一緒にエンジョイしているように映っている。
 だとすれば私も真菜も変態と見られて当然だ。
 変態家族だ!

 どこまで連中は私達家族を虚仮にするのか。
 絆を再確認し合った大切な家族旅行。
 その真実がこうだったとは!

 私達三人は店を出て、小さなお土産屋街の通りの真ん中に立っていた。
 妻の前側の浴衣の裾も、よく見れば膝のあたりまで後ろに引っ張られて上がっている。
 しかし当然、そのとき妻の浴衣の裾など、気にする訳もなかった。
 妻と真菜は次はどのお土産屋に入るか声高に話している。
 楽しそうに。にこやかに。
 その微笑ましい風景をカメラは正面で捉えている。
 妻の背面を行く人はギョッとしたように視線を送り、足早に去って行く。

 あの活発な土産談義はことさらこの3人が家族であることを示そうとして・・・。
 そして周囲の注目を惹こうとして・・・。
 自分の破廉恥な姿をみんなに見てもらおうとして・・・。
 妻のことが怖くなってくる。
 強制されたとしても、ここまでやれるのか・・・。

 妻は私たち二人を前に押し出すようにして、自分だけ少し腰をかがめた。
 そして膝を曲げ、裸のお尻を後ろに突き出すような格好をした。
 顔は酔ったように赤らんでいる。
 あの旅行の時は、妻の顔の輝きを幸福感とばかり思い込んでいたが、被虐の悦びに浸っていたのだろうか。
 背徳感で紅潮していただけだったのだろうか。

47名無しさん:2018/10/18(木) 21:53:47

 妻の後ろに3歳くらいの子供用浴衣を着こんだ女の子がポツンと立っていた。
 そのつぶらな瞳が大きく見開かれる。
 眼前には、妻の見事な双臀が割り開いており、秘部がはっきり見える角度だ。
 わーん、といきなりその子が泣き出した。
 駆け足で逃げていく。
 転びそうになった。

 何だ子供か。
 チラリと振り返った妻はそういう顔をした。
 淫婦の様な表情に見えた。
 私も真菜もそのことに全く気付いていない。
 お土産の話を一生懸命にしている。
 大人じゃなくて残念とでもいうように、なんとも淫靡な笑みを漏らす妻。
 犬のように首輪をされ、公園で全裸にされ、ついに露出の味を覚えてしまったのか。
 そう思わざるを得ない、常軌を逸した――いや狂気の振る舞いだった。

 もう私の神経は麻痺している筈なのに、視界が真っ白になり、頭がクラクラ回っていた。
 魂が暗い底なし沼に沈み込んで行く。
 これを去年見ていたら妻と再出発しようと思っただろうか・・・。
 それは疑問だ。
 いや、今後も、そんなことが出来るのだろうか・・・。
 心のよりどころだった家族旅行。
 それがこんなに薄汚れたものだったとは!



 暗転後の最後の動画は短かった。
 私達3人で泊まっている旅館の部屋。
 私、妻、娘と川の字になって寝ている暗がりの中で、妻だけが上半身を起こして、自分を撮っている。
 清楚で落ち着いた人妻の顔だ。
 私のいびきと真菜の寝息が聞こえている。
 どちらも最高の家族旅行を満喫した疲れでぐっすり眠っているようだ。


『年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ』


 妻のそんな言葉を、私は夢の中で反芻していたのかも知れない。

 さりげなくカメラが時計を映した。
 夜中の3時過ぎ。
 妻は自撮りをしながら、左手にピンクのポーチを持って、立ち上がり部屋を出る。
 そして襖を通って後ろ手に閉め、玄関の上がり口にゆっくりとしゃがみこむ。

 玄関は煌々と明かりがついていて、どこかでエアコンだかの微かな雑音だけが静けさを破っていた。
 妻は座ったまま浴衣の裾を手繰り始めた。
 はにかんだような顔は真っ赤だ。
 ずっと顔を撮っていたカメラが後ろに回り込む。
 私と真菜が寝静まった寝室の襖をたった一枚隔てたところで、あからさまに特殊AVの素材の撮影をしている妻。


「・・・人妻性奴隷の高田典子です・・・本日はありがとうございました・・・今後もよろしくお願いします・・・」


 『変』『態』と一文字ずつ尻たぶに書かれた形の良い裸の双臀が画面いっぱい大写しになっていた
 これがビデオのラストシーンに使われるということだろう。
 画面が黒くなったディスプレイを、魂を失った私は、いつまでもぼんやりと眺めていた・・・。

48名無しさん:2018/10/18(木) 21:56:33
11

 こんなDVDを見るんじゃなかった。
 断じて見るべきではなかった。
 胸が掻き毟られるような焦燥感。
 去年の悪夢が舞い戻ってくる。
 息が苦しい。
 なんだか部屋の照明すら暗く感じる。
 もう過ぎ去った出来事なのだ、と百回自分に言い聞かせて、私はやっと平静を取り戻した。

 そろそろ10時になる。
 震える指で携帯のボタンを押す。
 まったく繋がる気配がない。
 充電が切れてしまったのだろうか?
 テレビをつける。
 イライラが募って来て、思わずリモコンを画面にぶつけたくなる。
 読みかけの小説本を手に取って読みかける。
 すぐに床に叩きつけてしまった。

 去年とは事情が違っている。
 それは分かっている。
 去年は現在進行形だった。
 早くなんとか手を打たないと、という際どい状況だった。
 いまとは違う。
 だけど苦しい。
 過去の映像と分かっていても苦しい。
 妻の裏切りがあまりにも露骨に映っていたから。
 奴らに脅かされてのことなのだろう。
 そういう生活が嫌だったから、妻は私の元に戻る決意をしてくれた。
 そのことは揺るがない。
 しかし・・・。
 ワインの酔いがひどい。
 飲み過ぎなのは明らかだ。


『私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています』


 自信に満ちた長髪の社長のセリフ。
 まざまざと耳に蘇って来る。
 ハッタリにしか思えなかったのに、今は敗北感めいたものに襲われている自分がいる。
 妻を取り返した俺は勝者のはずなのに――。

 はやく帰って来てくれ。
 そうしたら、こんな呪縛からは逃れられる。

 典子が過ちを犯したのは、20年連れ添った中のたった半年だ。
 どんなに仲が良く、順調に見える夫婦だって、実際には様々な問題が起き、人に言えない苦悩を背負っていることだろう。
 表面上とは違い、お互いの心がすれ違い、修復できずに冷え切っている夫婦は意外と多いのではないだろうか。
 うちはその点は別だ。
 たしかに普通では考えられない経験をした。
 修羅場も味わった。
 だけど修復できた。
 今は未来にだけ向いて歩いている。
 家族みんなが仲良しだ。
 危機は回避した。
 このDVDはその狂った半年の間のひとコマに過ぎない。
 狂った期間なのだから、妻が狂っていてもおかしくはない。



 突如、ガラステーブルの上に乗せた携帯が鳴り出した。
 普通なら、妻からだ、と喜び勇んで出る場面だ。
 だが、なぜか私は身構えていた。
 虫の知らせというものだろうか。
 携帯には知らない番号が表示されていた。
 心当たりはない。
 もしかして携帯の充電の切れた妻が、人のを借りて掛けて来たのかも知れない。
 さっきまでショッキングな映像を見ていたせいで、うまく妻に応対できるか心もとなかったが、声の調子が少しくらいおかしくったって、いつもの会話は出来るだろう。
 私は努めて冷静に電話に出た。

49名無しさん:2018/10/18(木) 21:57:38

「旦那さん、お久しぶりです」


 忘れようもない声。
 しかし人生で二度と聞くはずのない声。
 妻を玩んだ特殊AV会社の社長、例の長髪の男だ。
 その男が今頃何のために?


「典子はもう戻りません。別の世界で暮らすことを決心しました。そのご連絡です」


 相変わらず人の気持ちなど何も考えない、勝手な言い草をほざいている。


「どういうことだ? もう二度と妻には接触しないと話はついたはずだ。約束を破ったのか?」


 冷静にと思っていても、つい声が大きくなる。


「その点の誤解がないようにと、直接お電話差し上げました。私たち――私のスタッフも含めて、典子にはコンタクトを取ってはいません。この事実をまず申し上げたかった」
「なに?」


 どうも話の要点がつかめない。
 こいつは何を言ってるんだろう?


「あのホテルでの会見の時、私はあれらのDVDを見たなら、普通の配偶者だったら離婚を決意するはずだと決め込んでいました。当然あなたもそうだろうと思ったのです。だからあなたが離婚はしないと宣言された時に非常に驚きました。典子は普通の生活ができる状態ではない、そう忠告もしました。見本として似たような境遇の女を生でご覧いただいた。あなたの為にしたことです」


 ホテルの寝室で、ロープで上半身を後ろ手に縛られ、胸の上下にもロープを回されて乳房を大きく絞り出された格好で、男に跨り無我夢中で腰を振っていた女性。
 れっきとした人の妻だが、与えられた快感が忘れられず、呼び出されれば必ずやって来ると連中は豪語していた。
 たしかに私たち部外者が入って行っても逃げ出そうとも裸を隠そうともせずに、そのまま行為を続行していた。
 世界のどんなことよりも、今現在の快感が大事だと言わんばかりに、ひたすら腰を振り続けていた。


『あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ』


 その時にこの長髪男はそう言っていた。
 よく覚えている。

 私は連中の手に乗ってたまるかと、そんなヨタ話には一顧だにしなかった。
 典子はそんな女とは違う。
 今までの生活に帰りたいと言っている。
 連れ戻してやるのが夫の務めだ。
 その決断があったからこそ、今の幸せな日常がある。
 別の世界で暮らすとはいったい何だ?


「話がよくわからないが? お前がまたちょっかいを出したってことか?」


 声に怒気が混じり始めた。
 冷静にと思うものの、この男との会話ではどんなに努力しても難しい。
 そもそも今に至っても典子と呼び捨てにしていることが気に喰わない。

50名無しさん:2018/10/18(木) 21:58:14

「あのとき私は申し上げた。典子にはたくさんファンがいると。うちの会社にあった典子のデータは全部削除しましたが、諦めきれない顧客がいたようです。そして顧客はいずれもあなたがた一般人には想像もつかないレベルのお金持ちです。旦那さん、もしあなたが典子のことを本当に大切に思っていたのだったら、すぐに遠いところに引っ越しをすべきでした。我々が典子の自宅――すなわちあなたの家で撮影をしていたことはご存じだったはず。なのに同じ家に漫然と住み続けたのは迂闊でしたね」
「なっ、なにっ!」


 ほとんど叫び声に近くなる。
 どういうことだ?
 迂闊でしたね、とはどういう意味だ?
 なにかもう取り返しのつかない過去のことを喋ってるみたいじゃないか!
 何か言い返してやろうとしたが、喉がカラカラで声が出ない。
 目の前がぐるぐる回り出した。
 炎天下に貧血で倒れたことがある。
 同じ感覚だ。
 不意に前のめりになった私は、ガラステーブルの端をつかんで倒れるのを防いだ。


「ひと月半ほどだったかな。意外と早かったですよ。ビデオが持ち込まれましてね。これで典子の新作を作って欲しいとの依頼です。もちろん続編を待ち望んでいた顧客はたくさんいるわけだから、私たちも渡りに船でね。ただあなたとの約束は守りました。あくまで編集と販売だけに徹して、制作には一切関わっていません。スタッフの中にはぜひ参加したいと直訴してくるのもいましたが、私がとめました」


 携帯の中の声がうつろに聞こえる。
 こいつは何の冗談を言ってるんだ?
 新作?
 何のことだ?
 典子はあれから一年、俺と平和に暮らしている。
 受けた心の大きな傷を癒しながら、家族と幸せな時間を過ごしている。
 その様子は俺がそばにいて見守り続けてきた。
 突然、また典子に戻って来てほしくなり、出鱈目を言って揺さぶりをかけてきたのか?
 こうやって私が食いつきそうな話で連絡を取るきっかけを作って、なし崩し的に以前の約束を反故にするつもりだろうか?
 解せない。わからない。
 それでもどんどん部屋の空気が薄くなり、息が出来なくなっている自分。
 脈がドクドクいうのがわかるくらい身体も熱い。
 どうして妻は帰宅しないのか?


「DVDをご覧になった頃合いと思い電話をさせて頂きました。典子に『温泉旅行の真実』を旦那に見せるようにとの命令をしておく、と現在の調教師チームから連絡がありましたよ。あれはヒット作でした。反響は凄く良かった。ただしご覧になったのは商品ではなく映像を抜粋したデモ版です。それでも十分に典子の堕ちっぷりがわかるでしょう?」


 耳に音声として入って来るが、言葉としての意味をなさない。

 典子が何だって?
 典子はとっくにお前らと縁を切った俺の妻だ。
 何を訳の分からないことを言っている!


「旦那さん、あれはウォーミングアップです。あのDVDはね。典子が去年の段階であそこまで壊れてしまっていたというサンプルです。あの旅行だって、もうお気づきでしょうが、実は我々が典子に命じて仕組んだものなのです。もっとも費用はあなた持ちでしたが」


 男はこらえきれないようにクスクスと笑った。
 テーブルについた俺の手がぐっと握られ色が白く変わる。

51名無しさん:2018/10/18(木) 21:58:52

 男は真面目な口調に戻って、


「典子はもう戻りません。嘘だと思うなら、印鑑証明や実印、免許証に年金証書や保険証書など、典子個人の重要書類が残っているか捜してみて下さい。また一か月後くらいにご連絡差し上げます。あなたは実に往生際が悪い。それとも鈍いのかな。普通ならとっくに離婚に同意していただけるんですがね。まだまだ事実を積み上げて行かないと納得していただけなさそうだ。まあ、籍が入っているかどうかは、実際のところ私たちの活動にはあまり関係はないのですけれどね。ただ典子もすっきりしたいでしょうから。さてと、この番号にかけてももう繋がりません。次回はまた違う番号でご連絡することになります。ああ、そうだ。典子の携帯ももう繋がりません。解約させるとオーナー達が言ってましたよ」


 私が何も言葉を発せないでいるうちに通話は切れた。
 耳に携帯を当てたまま固まってしまった自分がそこにいる。
 急転直下。
 今の生活がガラガラと音を立てて崩れていく。
 本当の話なのか?
 酔ってしまった私の見ている夢なのか?

 夢なら醒めて欲しい。
 去年もさんざん願った。
 そして叶わなかった。
 今になってまた同じ思いをしなくてはいけないのか?
 嫌だ。
 もう嫌だ。
 耐え切れない。
 どうして俺だけこんな目に遭わなければならないんだ?
 平凡に暮らしたいだけなのに。
 ささやかに日々を過ごしたいだけなのに。
 家族で寄り添って静かに暮らしたいだけなのに。
 そんなことさえも許されないのか?
 俺がいったい何をしたって言うんだ?



 寝てしまっていたようだ。
 喉がカラカラだ。

 シーンと静まり返ったリビング。
 妻が帰った様子はない。
 時計を見ると12時半だった。
 長く寝た気がしたが2時間ほどだった。
 ワインの酔いで頭が痛い。

 キッチンへ行って水を飲む。
 『お祝いに』と書かれた妻の文字。
 何だか遠い昔のことのようだ。
 ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろし、ぼんやり辺りを見回す。
 カウンター形式の間仕切りの向こうにはいつも妻がいた。
 私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
 家を建てるときに嬉しそうに話していた。
 おとなしい、おっとりとした妻。
 料理に掃除に子育てにと頑張ってくれていた。

 身体が鉛のように重い。
 立ち上がるのも億劫だ。
 寝たほうがいい。
 昨日あれだけの愛の行為を交わし合ったダブルベッド。
 戻って寝よう。
 私は大量の睡眠薬を口に放り込んで2階の寝室に向かった。

52名無しさん:2018/10/18(木) 22:24:20
12

 翌日の日曜日。
 誰も起こしてくれる者はいない。
 家の中は静まり返っている。
 もう昼だった。
 ベッドに起き直り、ゆうべの電話の意味を考えてみる。

 妻はダイニングキッチンに居るんじゃないかと、淡い期待で階段を下りる。
 誰もいない。
 これで無断外泊ということになる。
 やり直したいと戻って来てくれた妻。
 なぜ・・・。

 誰もいないマイホーム。
 自慢だった新築の一軒家。
 ここから移らなかったために、新たな悪党に典子は目をつけられてしまったと?
 家族の為に無理をして買ったこのマイホーム。
 肝心のその家族がいなくなってしまう。
 せっかくのマイホームなのに。

 ダイニングの椅子に腰を下ろし、一生懸命考えようとする。
 何を考えようとしていたのか、それすら忘れてぼーっとしてしまう。
 このまま妻は帰って来ないのか?
 あのワインは単にコルク栓抜きを入れた引き出しを開けさせ、DVD-Rを見つけさせる為の手口だったというのか?
 なにがなんだかわからない。

 確かめる方法がある。
 家に重要書類だけを集めた鍵付きの引き出しがひとつだけある。
 カギは夫婦で一つずつ持っている。
 そこに重要書類が残っていたら、長髪の社長の話は嘘ということになる。
 いや、少なくとも正確ではないということだ。

 典子が新生活を送っている間に、よく考えればそんな新作を撮るような余地はない。
 当たり前のことだ。
 ずっと一緒に暮らしてきている。
 昨日はいきなりの電話で動揺したが、酔いも醒めて冷静になって考えたら、ばかばかしい話だ。

 私はアルコールと睡眠薬の効果の残るまだはっきりしない頭のまま、リビングの隣の小部屋に入った。
 ここに衣裳ケースやタンスなどが置いて有り、小物を入れた引き出しもある。
 ふだん実印や印鑑証明、保険証書など、うちの重要書類は全部妻が管理している。
 結婚以来そのルールだ。
 だからカギは持っているが、引き出しを開けたことはない。
 タンスくらいの大きさの小物入れの一番下が鍵付きになっていて、この棚だけは深さもある。
 私は用意してきたカギを使って開けた。

 書類がなくなっているかどうかを調べに来た私の目に、真っ先に飛び込んできたのは、散らばった白いDVD-Rと色のついたDVD-ROM。
 それに底部に白いモーター部分をつけた太い頑丈そうな紫色のバイブもある。
 細長いローターもあった。
 クリバイブらしい先のとがった小さな玩具もあったし、細くねじれたアナル棒まで入っていた。
 標準型の大きな電マもあれば、なぜかピンク色のオナホールまでが仕舞われていた。
 他にはローションらしい小瓶もいくつかあったが、前に見たようないかがわしい煽情的な下着はいっさいなかった。
 どこか別の場所に隠されている可能性はあるが、とにかくここにはない。

53名無しさん:2018/10/18(木) 22:25:19

 どうしてこんなものが!
 私は震える手でそれらの余計モノを払いつつ、証書類を確認した。
 顔から血の気が去り、全身から力が抜けていった。


 ――無い。


 見事なまでに、妻の個人重要書類は消えている。
 膝がガクガクし、ふっと眩暈がして、私は小物入れに前のめりに倒れ込んだ。
 上に飾ってあった置き物が落下して、引き出しに頭を突っ込んでしまった私の身体に次々と降りかかって来た。
 痛みを感じる余裕もない。
 あの悪魔のようなAV会社の社長の言っていたことは嘘ではなかった!


『ひと月半ほどだったかな。意外と早かったですよ』


 ビデオ素材が持ち込まれたのは、去年の奪還劇の余韻も冷めやらぬ、そんな早いタイミングだったという。
 にわかには信じられなかった。
 事件後2か月、その頃は平穏な日々だった。
 家族4人でのどかな夕食を楽しんだものだ。
 いや、そのあともずっとだ。
 平凡でささやかだが、かけがえのない幸せな日常。
 そんな早い時期に、新たな連中がすでにアクションを起こして、典子にアプローチを開始していたというのか。
 いったいどうやって?

 盗撮?
 全部盗撮なのか?
 典子自身は加担していなくても、何らかの形で盗み撮りをすることは可能だ。
 そういうDVDなのか?

 それにしてはこのアダルトグッズの山はなんだ?
 これは典子自身が買ったものなのか?
 指では物足りなくて、通販か何かで買ったものなのか?
 そのオナニー姿を盗撮してるってことか?

 少しでも安心できるほうに辻褄を合わせようと、無理やりこじつけている自分がいる。
 心臓がバクバクして、本当に爆発するんじゃないかと思えるほど、動悸が荒くなってきた。

 しっかりしろ。
 自分を叱咤するが、ここ一年、これほどのショックに見舞われたことはない。
 せっかく奪い返した妻を、また失ってしまうのか。
 下手すれば、もう一生会えないかもしれない・・・。
 気持ちはどうしても最悪の事態へ傾いてしまう。


『別の世界で暮らすことを決心しました』


 この社長の言葉が、私の気持ちを暗く深い底なしの海溝へと沈めていく。

 どうせ幸せな世界ではあるまい。
 異常な世界だろう。
 典子は私の妻であること、真菜と明弘の母であることをやめ、そんないびつな世界で暮らすことを決めたというのか。

54名無しさん:2018/10/18(木) 22:25:51

 歯が折れるほど口を噛み締める。
 いま明弘は夏休みの合宿だが、何日かすれば家に帰って来る。
 これらの淫具は謎が解けるまで、このままここに置いておくしかない。

 私はピンク色の物体を手に取った。
 ブニブニ柔らかく湿り気があって、手の平の両端から下に垂れ伸びた。
 振ってみるとプランプランしている。
 オナホールなど使ったことはないが、エロサイト巡りは常習だったから知識はある。
 特別興味はない。
 何の気なしにそのまま振っていると、小さな口から液が垂れてきた。
 え?
 新品じゃないのか?
 ローションか何かだ。
 使った後、ちゃんと洗わずに仕舞ってあるようだ。
 よく見ると薄く文字がある。
 何だ?


 『典子の代わり』


 横っ腹に汚い字で書かれていた。
 油性ペンのようだが、古くなって消えかかっているのだ。

 とにかく何かアクションを起こさねば――。
 武者震いとも思えないが、身体中がブルブル震えて来る。
 身体中の筋肉を、脳が無理やりに戦闘準備として目覚めさせているのだろうか。
 事態の展開に頭がついて行かない。
 引き出しに打ち付けた頭部や、落ちてきた置き物が当たった背中が、今頃になって痛みだしてきた。
 何も外へ持ち出さずに、元のまま鍵をかける。

 社長の話の一端は真実であることが分かった。
 では次に打つ手。
 まず妻の勤務先に連絡をして、どうなってるのか訊きたかった。
 しかし、いかな大企業といえども、いや大企業だからこそ、日曜日は営業してない。
 月曜の明日になるまで、こっち方面は動けない。

 社長はああ言っていたが、もしかすると典子は連中に拉致されたのかも知れない。
 だとすれば、警察に連絡しておいた方がいいだろう。
 一年前の対応を思い出し、気は進まないものの、後手後手に回ってしまった前回の反省を踏まえて、そのあと警察に届け出た。
 結果はほぼ予想通り。
 案の定「一年前にも届けをされたんですか?」「そして家に戻って来たけど、またいなくなった?」「いや〜警察には民事不介入という原則がありましてね」などと、仲の悪い夫婦のケンカに口出しは無用とばかり、露骨に雑な扱いをされてしまった。
 重要書類ごといなくなったと強調するも、余計に本人の自発的な出奔だろうと断定される始末。

55名無しさん:2018/10/18(木) 22:26:28

「登録されるのは構いませんが、家を出られたのもおそらくご本人の意思でしょう。2回目となると我々もなかなか・・・」


 敵は悪辣なAVメーカーなのだと言いたかったが、証拠のあることではない。
 昔のDVDは全部捨ててしまったし、温泉旅行のDVDなど、妻が変態趣味を持っていることを示す材料でしかない。
 真面目な主婦なのだと説明したところで、信じてもらえるわけがない。
 今日発見した引き出しのDVDは、中を見てさえもいない。


「これはどちらかというと、家庭裁判所か弁護士にご相談いただく事案でしょう。申し訳ありませんが、事件性がないと我々も動けませんので」


 冷たい事務口調に送られて、私は警察署を後にした。

 前回大いにお世話になった興信所に再び頼むことも考えたが、今回は怪奇なDVDや妻の不審な行動など予兆がなく、まったくの不意打ちだった。
 そのため相談するにも判断材料がなさ過ぎた。
 去年は妻の職場に張り込んでもらい、そこから赤坂の不審な行動を焙り出し、同僚の女性が立ち寄ったマンスリーマンションへ踏み込むことによって、事件解決の糸口をつかんだのである。
 妻は今は上場一流企業の支店で働いている。
 怪しげな職場ではない。
 ここから魔の手が伸びたとは考えにくい。
 この線は捨てていいだろう。
 とりあえず明日職場に電話してみれば、何かわかるかも知れない。

 長髪AV社長の言う『ファン』が、どこの誰かは皆目わからない。
 どんな組織を率いているのかも丸っきり不明である。
 長髪社長の事務所自体もホテルでの会見後まもなく、夜逃げ同然で根こそぎ消え失せた。
 こちらから接触する方法は一切ないのだ。

 結局、残る手立ては、引き出しに発見したDVDを見ることだけ。
 内容になんらかの妻失踪のヒントが隠されているかもしれない。
 今ごろ妻がどうなっているのか、何をされているのか。
 気が気ではないが打つ手がない。
 遠回りのようでもこつこつ情報を拾っていくしかない。
 どう考えてもそうなる。

 正直、妻の痴態を収めたDVDの映像を見るのは、身体にこたえる。
 見たくない。
 心療内科の主治医に言えば、病気が悪化する、と必ず止められるだろう。
 しかし妻の現状を探るにはそれしかない。
 この一年間の真実を知るにはそれしかない。
 AV制作の社長の言い分は、自分達に都合良く言っているだけの可能性がある。

 そもそも、もし典子が新作に出たとしたら、そのきっかけは何なんだ?
 脅迫があったのかも知れない。
 暴力があったのかも知れない。
 妻に言うことを聞かせるために非合法な手段がとられたということが大いに考えられる。
 そうなれば警察事案だ。
 捜査の対象である。
 奴らの手口なり妻の痕跡を見つけ出す確率は、個人で動くよりグンと高くなる。
 私は、もはや妻が帰宅する望みは千に一つもないことをわかっていながら、それでも妻が居るんじゃないかと一縷の期待をもって自宅に戻った。

56名無しさん:2018/10/18(木) 22:29:31
13

 ガランとした家に、もちろん妻の姿はなかった。
 重要書類まで持ち出されているのだ。
 自発的にしろ、強制的にしろ、長期にわたって家を空ける意思表示がそこにはある。
 思いついて妻の携帯に掛けてみる。


「おかけになった電話番号は現在使われておりません」


 そっけないメッセージ。
 私はいまさらながらの喪失感を味わいながらも、小部屋の鍵付き引き出しを開けた。
 DVDらしきものはけっこうな枚数ある。
 中のひとつは商品版らしい。
 これまでのいかにもDVD-R然とした白一色ではなく、ちゃんと背景写真にタイトルまでが綺麗にプリントされていた。
 本来ならこれに四角いパッケージも付属するのだろう。

 以前得意げに喋っていた長髪社長の話では、価格は2時間もので10万円以上とのこと。
 内容により値段はさらに上がるらしい。
 どれくらいの顧客を抱えているのかわからないが、100枚売れて一千万だ。
 人気スターでも生まれれば価格も上がるし、数も出る。ボロ儲けだろう。
 そして、どうやら連中の口ぶりでは、妻はかなりの売れっ子のようだった。
 これが正式なコンテストやコンクールで人気が集まったのなら、案ずることなど何もない。
 しかしモノはAVである。
 社会的認知度は高まったとは言えども、現在の日本の常識では賤業の最たるもの。
 売れ線ということは、それだけ妻の秘密が多く出回ってしまっているということなのだ。

 妻も警察にDVDを見せることを極端に嫌がっていた。
 自分が傷つく結果になるだけと拒んでいた。
 情報を開示したとて興味本位で騒がれて、まさにセカンドレイプ状態になるのを恐れていた。
 それを妻の杞憂とは言い難い。
 それが現実だろう。
 レイプ犯や性犯罪者を社会的に裁くことの難しさは、時々ニュースでも取り上げられている。
 だからDVDの映像でなにかヒントがあっても、DVD自体を証拠として出すのはマズい。
 裏付けを取って、別方面からの証拠として提出する工夫がいる。
 繊細な作業となるが、俺は正気を保っていられるのか?

 どんな映像が飛び出してくるのか。
 怖い。
 正直な感想はそうなる。
 また私の知らない妻を見せられる。
 崖っぷちに立って足がすくむような。
 地の底に落ち込むような。
 どうしようもない不安感にとらわれている自分がいる。



 気力を振り絞って、DVDを調べてみる。
 数えてみると製品版らしいDVDが1枚、そしてDVD-Rがかなりある。
 こんなにたくさん?
 分量の多さにたじろいだ私が注意して観察してみると、全部が新作ではなさそうだった。

 「4」「5」「6」「7」「8」「9」「典子ver5」などの文字が書かれたものは、全て去年作成のものらしかった。
 試しにリビングに戻り、手づかみにしたDVD数枚を、ノートPCで次々に再生してみる。

 DVD-Rのうち「4」「5」と書いてある2枚はやはりキーがかかって開かなかった。去年と一緒だ。
 「6」は首輪をされ鎖に繋がれ、男の足を全裸で舐める妻の映像。最大速で最後まで飛ばしていく。
 「7」は赤い紐で縄掛けされ、公園へ全裸で連れ出される妻。これも同じく最大速で飛ばす。
 「8」には奴隷契約書を読み上げる妻がいる。
 「9」には穴あき下着に薄いワンピースで外出する妻。
 もう最初しか見なかったが、以前見た映像と同一であることは間違いない。
 「典子ver5」もそのようだ。

 全部最大の早送りにしていたが、見ているうちに胃がムカムカしてきた。
 連中が行った妻に対する仕打ち、私への挑発とも取れるナメきった態度。
 その他もろもろが嫌な思い出と共に私に襲い掛かり、奴らへの腹立ちが身体に充満してくる。

57名無しさん:2018/10/18(木) 22:30:30

 胸糞悪いとはこのことだ。
 口の中に苦い液がいっぱいに込み上げてきた。
 どうしたわけかエロい気分にはならない。
 一度見たことがあるからか、高速で飛ばしたからか、それはわからない。

 去年最初の頃は、単なる浮気か、と多少の余裕はあった。
 だから非日常の妻の姿に思わず興奮してしまった自分がいた。
 もうそれはない。
 浮気どころの話ではないことを、去年痛感させられた。
 それらのDVDは、私がことごとく破棄した。
 だからここにあるのは新たによそから運び込まれた別物ということになる。
 なぜ妻が持っていたのかはわからない。
 ずっと持っていたのか、昨日になって入れたのか。
 それもわからない。

 私は引き出しに戻り、商品版なのであろうカラー印刷されたDVDをつかんだ。
 DVDの円盤に印刷されているのは、閑静な住宅街を歩く女性の後ろ姿。
 シックなワンピースに身を包んだスレンダーボディは気品と若々しさを兼ね備え、実際に街角で出会ったら、つい振り返らざるを得ないほどの魅力に溢れている。
 わかってはいても、心臓が早鐘のように打ち、息苦しくなるのを防ぎようがない。
 長年連れ添った相手である。
 正面を向いていなくても分かる。
 妻の典子だ。
 盤面には『Episode3』とある。

 3か・・・。
 少なくとも新作は3つは出ているのだ。
 またもや目の前が暗くなる。

 そのまま、まずキッチンに行った。
 湯を沸かし、コーヒーメーカーに紙フィルターを用意する。
 コーヒーの準備ができるまで、私はDVDをしげしげと眺めた。
 どう考えても典子を使って新たに撮影できる余地などない筈なのだ。

 この一年、私は以前の仲の良い家族を取り戻そうと必死だった。
 もちろん表面上はさりげなく。
 急に、家族の絆の、団欒の、と騒げば逆に不自然だろう。
 子供たちも幼くはない。
 あの妻の『出張だった』としてある期間。
 夫婦に何ごとか重大な危機があったことは、敏感に感じ取っていると思う。

 私は妻が平常心を回復するまで、どんな理不尽なことがあろうと怒るまいと決めていた。
 妻は重い病気をした後のようなもの。
 全快までの道は遠い。
 だから家事がおろそかになろうと、息抜きに出かけようと、それで咎めたことは一度もない。

 ただ、妻が子供の世話をうっかり忘れたりした時に、つい声を荒げてしまったことが何度かあった。
 子供たちのためには立派な母親でいてくれ。
 変な世界に行きかけたのは、母親としての自覚が足りなかったからではないのか。
 私の胸の奥にわだかまっている部分。
 この部分だけは妻を許すことが出来ずに、ブスブスと燻っている。



 ある日、私は偶然、流しの三角コーナーの隅に煙草の小さい吸殻を見つけた。
 ごみ入れに移した際、底にこびり付いて残ってしまったらしい。
 私は心療内科通院を機に最近吸わないし、妻はもともと吸わない。
 だとすると、明弘か?
 中学生が興味半分に煙草に手を出すことは珍しくはない。
 私にしたところで友達に勧められ、中学生の頃、煙をふかしてみたことがある。
 よく考えれば煙草を一二度吸ったところで、それで不良になるわけでもない。
 自分にも身に覚えがあるのだから、ことさら問題視する必要もなかったのだ。
 それをつい妻に当たってしまった。


「一日家にいるのだから、子供たちのことはちゃんと見ていてもらわなくては困る。子供まで不良化したらどうするつもりだ」


 子供まで、というのは言わずもがなの当てつけだった。
 家族を裏切った妻を、言葉では許すなどと言っておきながら、その実心の底では許し切っていない、という私の狭量さが図らずも露呈してしまった。

 果たして妻は明らかに狼狽してオロオロしていた。

58名無しさん:2018/10/18(木) 22:31:02

「ごめんなさい。ごめんなさい」


 あの一件以来、妻はすぐに謝るようになった。
 あとで見てみるとキッチンの隅でしくしく泣いていた。
 こういうところで素直に、言い過ぎた、と謝れないのが自分の性格の悪いところだ。
 頑固な自分。

 だが、私も相当なプレッシャーを感じて日々を送っていた。
 なんとしてでも以前の自慢の家族を再構築しようと、シャカリキになっていた。
 昼は少しでも稼ごうと早出残業を繰り返し、夜は精神安定剤と睡眠薬に頼って眠った。
 体力面精神面、両方の疲れで気遣いがおろそかになった部分はあるかも知れないが、それでも私は懸命に努力したつもりだった。

 この世で一番大切なかけがえのない家庭。
 この一年、しっかり守ってきた自負はあった。
 いったい奴らにどこにつけ入る隙があったというのか?

 煙草の件の後、寝室に妻からのメッセージが置いてあった。
 小さな四角い紙に書いてある。
-------------------------
 おかえりなさい。つ
 まとして、もっとこ
 んごふさわしくなる
 ことをちかいます!
-------------------------
 折れて来るのはいつも妻のほうだ。
 今も昔もそうだ。
 私のいうことに言い返したりしない素直な性格なのだ。
 頑固な私に対して、素直な妻。
 それで、これまでもうまくやってこれた。
 次の日には少し長いメッセージがあった。
-------------------------
 本当に夜遅くまで毎
 日働きづめであなた
 お疲れ様です。これ
 まで私のせいで、な
 んだか色々と厄介な
 ことに巻き込んで申
 し訳ありません。い
 まは後悔で一杯。も
 し許して貰えたらま
 た良い妻になります。
-------------------------
 以前から優しい妻だった。
 直接言うのは照れ臭いので、こんな形で気持ちを伝えてくれたのだろう。
 この二つのメッセージは私の宝物にして、大事にしまってある。
 家庭に多少の波風は立ったとしても、夫婦の協力で何とかしのいできた。
 だから妻の新しい撮影映像など存在するわけがないのだ。

 もしかするとこれも発売が最近なだけで、実際に撮影したのは去年のあの時期じゃないのか?
 本当は、妻を拉致して、これから撮るつもりではないのか?
 つじつま合わせのために、わざわざ「妻が私の目を掻い潜りあの後もAV撮影を行っていた」という出鱈目話を電話してきたのではないのか?

 そうだ。
 すべてでっち上げに違いない。
 そうに決まっている!
 気が付けば頬を熱いものが伝わり落ちていた。
 何を信じていいのか。
 もうわからない。

 随分前にお湯は沸いて、もう冷めかけている。
 コーヒーメーカーに粉を入れ、マグカップに多めのコーヒーを作った。
 香りを嗅いで、深呼吸する。
 結婚してから、妻は休日によくコーヒーを入れてくれた。
 変わらない習慣だった。
 軽い誘惑くらいはあっただろう若い頃にも、道を踏み違えることなど一度もなく、変わらず家族を愛し、家庭を愛してくれた。
 それがなぜ今なんだ。
 子供たちも大きく育ち、それぞれ自立の道を進もうとしている。
 夫婦ふたりだけでまた充実した時間を共有しようとしていた。
 なぜ今なんだ!

 癇癪が起きそうになった。
 手にしたマグカップをガラステーブルに思い切り叩きつけたい衝動に駆られる。
 落ち着け。自分を見失ったら終わりだぞ。
 心のどこかが囁く。
 そんなことをしている場合ではない。
 ノートPCのトレイに、いつもと違う色鮮やかなプリントの円盤が吸い込まれて行く。
 ビデオの始まる前の黒い画面ですら、恐怖を運んで来る。

59名無しさん:2018/10/18(木) 22:33:10
14

 やがて明るく変わった場面には、『高田典子』『Episode3』と上下にタイトルが出た。
 字体や色合いは高級感はあるものの、高額な商品の割りには派手派手しくもなく、意外にもシンプルだ。

 不意に映し出された光景は、車窓からの眺めだった。
 特徴のない住宅街の戸建ての家々が横に流れて行く。
 すぐに車は停車する。
 ガラガラガラとスライドドアの開く音がした。

「着いたか・・・」

 若くはない男の声がする。
 咳払いや降車する足音がバラバラ聞こえ、やがて窓の外を撮っていたカメラを持っている男も自分の足元を映しながら車を降りた。
 背後でドアが閉まる音。
 足音も聞こえる。
 まだその他に運転手がいるようだ。
 複数の男たち。

 画面に映る空は晴れていた。
 いい天気だ。
 まだ陽が高い。
 ひょっとすると午前中なのかも知れない。

 カメラはもう家の玄関を撮っている。
 ズキリと胸が鳴る。
 見慣れた玄関だ。
 当たり前だ。
 自分の家なんだから!

 連中は車二台分ある駐車場に入れようとせず、門に横付けする形で停めたようだ。
 鬼畜どもは私の夢の詰まった大事なマイホームも、過去に頻繁に撮影に使っている。
 過去の映像なのか。奪還後の最近の映像なのか。
 これを見ただけではまだわからない。
 先を見なければ。
 胸が締め付けられるように苦しい。

 玄関の前に数人の男たちがいる。
 コートを着ている者が多い。
 また胃をギュッとつかまれたようになる。
 妻の話を信用するなら、過ちが始まったのは私が単身赴任する少し前とのことだった。
 なら3月か?
 ぎりぎり2月ならコートもあるかも知れない。
 でも、この人数は?
 こいつらの中に浮気相手が?

 たむろしている男たちは家に入るでもなく、玄関ドアの前でうろついている。
 それをカメラが撮っている。
 年齢はまちまちだが、皆それなりに高価そうな身なりをしている。
 カメラレンズが彼らの間を掻いくぐり、ドアに思い切り近づいた。
 そこから中の気配を窺っている。
 かすかにブ〜ンという虫でも飛んでいるような音がしている。
 またドアから離れた。
 カメラの画角の横から黒い革のロングコートを着た、取り立てて特徴のない中年男が入って来て、ピンポンを押した。
 反応はない。
 妻はいるのか?
 留守なのか?
 男たちが自宅に集まっているのを知っているのだろうか?

 夫のいない隙に押しかけて来ている不審な男たち。
 もし連中と手を切らせた後なのだったら、妻は関わり合うのを恐れるはず。
 何かあったら、勤務中だろうとなんだろうと、構わず私に電話しろと妻には話してあった。
 幸いにも一年間、そうした連絡は一度もなかった。
 ということはやはり去年の映像?
 とにかく、このまま出て来なければいい。

 もし家にいるなら、妻はドアスコープから覗いて、男たちのことは確認しているに違いない。
 来訪者は必ずドアスコープで確認しろ、と言いつけてある。
 もしかすると私への電話よりも、一足飛びに警察に連絡しているのかも知れない。
 家の中でおろおろしながらも、健気に110番している妻の姿が浮かぶ。
 警察への電話でパトカーが駆け付け、それで事なきを得たのだろうか。
 妻からそれらしい話は聞いていない。
 門前払いで終わり、話すほどのこともないと思ったのだろうか。

60名無しさん:2018/10/18(木) 22:34:28

 長時間勤務で妻と話す暇もなく就寝する日々が続いていた。
 土日も疲れが抜けず、子供たちと一緒の食事も、例の件に話題が及ぶのではないかと気を回し、そそくさと済ませていた。
 ささいな事柄で私を心配させるのも悪いと判断したのか。
 あっさりと追い返せて、妻自身も忘れてしまったのか。
 それにしては今現在、映像として映し出されている。
 これは商品版だ。
 こんな光景に商品価値などあるのだろうか?

 カメラマンらしき男の手が玄関のドアノブに伸びた。
 ガチャッ。音がする。
 鍵は不用心なことにあいていた。
 動悸が一気に高まる。

 扉が大きく引かれ、屋内の様子をいっぺんに画面が捉える。
 陽光が差し込み、中は明るい。
 玄関から通じる廊下の突き当りに、家の電話がある。
 突然の侵入者たちに怯え、警察へ通報するべく受話器を持って固まったままの妻を想像したが、そこにはいない。
 玄関の上がり口にも見えない。
 家ではいつも量販店のトレーナーにブルージーンズという質素な妻だ。
 奥の部屋に隠れているんだろうか。
 もともと留守なのか。
 インターホンが鳴ったのだから、いれば出て来そうなものだ。
 ブーンという、唸る音だけがする。

 カメラのレンズが徐々に下を向く。
 水色の棒。その下で白いプラスチック製の円柱が跳ね踊っている。
 怪訝に思う間もなく、丸いカーブを描いた双つの肉の山が出現し、それはレンズの移動に伴って、すっと絞り込まれたウエストへと続き、背中の背骨の窪みを映して、やがて肩先と艶やかな黒髪を垂らして伏せた後頭部まで映し終えた。
 玄関の土間に誰かいる。
 手先は三つ指ついている。
 土下座をしていた。
 真っ裸の女。


「ひらっひゃいまふぇ」


 グッとさらに身を沈ませ、卑屈な挨拶をする。
 丁寧な口調だが、声はおかしい。
 ろれつが回っていない。
 カメラはそれを真上から撮っている。
 カメラマンはかなり背の高い男らしい。


「よし。命令通りにしてたな」


 威圧感のある低い声。
 言葉は褒めているが、口調には厳しさのみがある。
 これが連中のリーダーなのか。


「よし。顔を上げろ」


 男は艶のある長い髪の毛をつかんで、無造作に顔を持ち上げた。
 案の定、それは妻だった。
 夫婦として長年人生を過ごしてきた妻。
 もっと怒りや悲しみが湧くかと思ったが、そうでもなかった。
 心のどこかが麻痺してしまったのか。
 慣れてしまったのか。

 いや、生物の防衛反応なのだろう。
 これ以上の打撃に私の精神は耐えきれそうにない。
 石になるしかない。
 無機物になってやり過ごすしかない。
 マウスに乗せた私の手だけが神経質にピクピク震えていた。

 妻の顔は見慣れたソレではなかった。
 初めて見る顔。
 そんな風にされていた。

 妻は反り返るように胸を張って、乳房も露わに上体を晒している。
 それをカメラが前方から撮っている。
 ドアは開ききっているから、近所の誰かが通りかかれば、妻の裸が丸見えの位置。

61名無しさん:2018/10/18(木) 22:35:22

 妻の唇の端から涎があごまで伝い落ちている。
 舌が大きく出ているのだから、それは仕方ないだろう。
 引っ込めようにも木製の洗濯ばさみで強く挟まれていた。
 そんなことをされている。
 いや、自分でしたのだろう。
 むろん命令されて。
 さっき男がそう言っていた。

 その洗濯ばさみには細い鎖が繋いであり、両乳首に連結されていた。
 そちらにも木の洗濯ばさみが鋭く食いついている。
 土下座で胸が圧迫されていたせいか、洗濯ばさみはそれぞれハの字に歪んで、乳首を半分ほどだけ潰している。
 それが余計に痛そうだった。

 妻の大きく伸ばした舌の先からは、犬のように次から次へと涎が溢れ、玄関の土間に垂れ落ちている。
 そのままのみっともない姿で、飼い主の次の命令を待つように、上目遣いで男たちの顔色を恐る恐る窺っていた。

 ハアハアと犬が息をするように、思い切りベロを引き出されている妻。
 びっくりするほど長い舌だ。
 夫婦でも普通お互いの舌の長さなんて知る機会はないだろう。
 こんな舌で舐めしゃぶられたら・・・。
 不意に浮かんだ淫靡な連想。
 私自身は妻のその長い舌の恩恵をほとんど味わってはいない。
 ただしビデオで見ただけでも、他の男たちが何人も妻の舌の感触を楽しんでいることは確実だ。
 その舌はすでに様々なテクニックを知っている。
 男たちに教え込まれて。
 もうきっと普通の主婦の舌遣いではない。
 変えられてしまっている。

 連中は妻の長くて厚みもある舌ベロを、料理を味わう器官としてではなく、男を喜ばせるための器官に作り替えようと躍起になり、そして成功したのだ。
 この洗濯ばさみ責めを見れば、奴らの執着が分かる。


「ふふ。奥さんお邪魔します」
「お久しぶりです。またお会いできて嬉しいですよ」
「憧れてました。今日は楽しみだ」
「戻って来るのを許されてよかったですね、奥さん。奥さんにはその格好が似あいますよ」


 集まっていた男たちが、ドヤドヤと家の中に入って来た。
 まるで自分の家のように我が物顔で。

 妻の脇をすり抜ける際、必ず無遠慮に妻の白い肌を撫で回していく。
 肩先からお尻まで。
 脇腹も。
 最近急に大きくなったような妻の美乳に触れる者もいる。
 下腹部の繁みにサッと手を伸ばす者もいる。
 妻の股間で舞い踊っているバイブレーターの尻尾を摘まんで、その振動の強さを確かめて悦に入る者。
 お尻の谷間から飛び出したアナル棒を珍し気に出し入れしてみる者。
 一瞬のうちに、この家の住人である妻の身体のあちこちを玩弄していく。
 その傍若無人さは、ちゃんと靴を脱いで家に上がっていくのが、むしろ不思議に思えるくらいだ。

 妻はされるがままになっている。
 ビデオカメラを抱えたリーダーの男に手を放されて、再び俯いた妻の身体。
 今度は心持ち膝が開き、お尻が上を向いた。
 肩まである髪が顔の両側に垂れ下がり、表情は窺えない。
 小刻みに震えているのはバイブの振動が全身に伝わっているせいなのか。
 玄関の土間で、わけもなく土下座する妻。
 非日常の空間がそこにあった。
 女体のラインを際立たせた、脂の乗った熟れた大人の素っ裸。
 わずかな滑稽さが余計にその迫力を増す。
 異様なエロスが私の生活拠点で撒き散らされていた。

62名無しさん:2018/10/18(木) 22:36:58

 男たちが通り過ぎた後に、玄関に鍵のかかる音がした。
 すると残っていた革コート男の腕が妻の首に伸びる。
 そして離れた時には、長い紐が宙を渡り、彼の手と妻の首輪とをリードでつないでいた。
 チャランチャランと鈴が鳴って、革コート男にひき立てられ向きを変えて、その後に従う妻。
 その最後尾をカメラが追う。
 高く突き上げたお尻を振り振り、軽く曲げた膝裏を見せ、踵を立てて、いそいそと男に付き従う妻。
 まるで本物の発情したメス犬のようだ。

 動じるな。
 私は心の中で必死に叫ぶ。
 最初のDVDで、すでに首輪に鈴の犬の格好の妻を見ている。
 こんなことは初っ端から知っている筈だ。
 いままでのDVDと同じだ。
 きっと去年の映像だ――。

 よたよたと遠ざかる四つん這いの裸体。
 下腹部に黒い翳りがある。
 見慣れないせいか、思いのほか鬱蒼と茂って見える妻の陰毛。
 股間にはバイブとアナル棒がある。
 秘部に刺さって暴れているのは、引き出しで見つけた大きめの紫色バイブで間違いない。
 お尻に刺さっているのも、同じく引き出しにあった水色の捻じれ棒だろう。
 淫具があつらえたように馴染んでいて、すでに常習の貫禄を滲ませていることにドキドキしてしまう自分。
 猛烈にバイブは振動しているが、やはり妻は名器なのか、しっかりと呑み込んで落とす気配はない。
 背中の湾曲は低く下がって、代わりに臀部がグンと持ち上がる、見事なまでに服従の姿勢。
 堂々たる肉奴隷というのも変な表現だが、これが私の率直な感想だった。

 これが自慢の妻?
 局部にアダルトグッズを挿入して、快感を貪っているこれがそうなのか?
 これはAV制作会社社長と直談判して妻を取り戻した前なのか、それとも後のことなのか?
 再び妻は奴らの毒牙に掛かり、こんなことまでさせられているのか?
 裸で犬の真似をさせられ、性器にバイブを突っ込まれる姿を撮影されるまでに、妻の調教は進んでいるのか?
 だとしたら、どうすればいい?

 いや、待て待て。
 もう一度思い返す。
 奴隷宣言のDVD。
 あの時妻は、同じこの家の夫婦の寝室で、後ろ向きにピンクのバイブを突っ込まれていた。
 もっと言えば、そのあと男に背後から貫かれ、何度も喘ぎ声を上げていた。
 だから今さら驚くことじゃない。
 いま見てる映像と変わらないじゃないか。
 全裸で犬になって、股間に大人のオモチャをぶち込まれている妻の姿を見たって、ビビることはない。
 これが今年の映像であってもビビることはない。
 去年の段階で妻は同じことをしている。
 もうそんなことは一杯している。
 してるんだ・・・。

 どこかで笑い声がする。

「あはっ、あははは」

 いったいどこから?
 いったい誰が?
 この家には自分しかいない。
 耳を澄ませる。

 そう、それは私自身の笑い声だった。
 デイスプレイを見ながら笑っているのだ。
 いっぽうで目からは涙が止めどなく溢れていた。
 泣いているのだ。
 私は笑いながら泣いていた。

 男たちの性の道具にされ、言いなりになって陶酔する女。
 全裸四つん這いでバイブをアソコに突っ込んで、見ず知らずの男たちの前で恥をさらす女。
 色んな男たちと変態行為を繰り返して、それがやめられない女。
 去年の段階でここまで堕ちていた女。
 こんな女とどうして俺は、もう一度やり直せるなどと考えたのだろう?

63名無しさん:2018/10/19(金) 14:44:25
15

 一瞬気が遠のいていたようだ。
 DVDはその間にリビングのシーンに移っていた。
 我が家のリビングは広い。
 子供たちが大きくなっても狭さを感じないように、思い切って普通のマンションの二部屋ぶち抜くほどのスペースで作った。
 こんなふうに自由に設計が出来るのが一軒家の醍醐味でもある。

 いまノートPCを見ている私の居るリビングは、日曜の午後だというのに、ガランとして寂しい限りだ。
 少し前までは妻か真菜か、あるいは明弘か誰かしらがいて、賑やかな団欒の場所だった。
 その同じ場所がディスプレイに映し出されている。
 商品版のアダルトDVDとなって。
 そこでは家族とは縁もゆかりもない男たちが、めいめい勝手にソファや椅子に陣取っていた。

 妻は相変わらず丸裸で、ただひとり犬のように四つん這いだ。
 革コートの男は黒いシャツに黒いズボンと軽装になり、首輪の紐を引っ張ってガラステーブルの周りを、妻に回らせていた。
 首輪の鈴が、私は人間ではありません、という合図のようにチャラチャラ鳴っている。
 大切な妻が家畜のように回らされている。

 我が家のリビングは、メインに三人掛けのソファがあり、テーブルの左右に一人掛けのソファがある。計三つ。
 三人掛けのソファの向かいは大型画面のテレビだ。
 そのソファ全部を男たちが占領していた。
 コートはみんな脱いでしまっている。
 スーツ姿もあるが、カジュアルな服装が多い。
 いずれもブランド品で高級そうに見える。
 腕時計はダイヤや金で飾られたものばかりだった。
 上顧客あるいは株主。
 そんなところなのだろう。
 製品版という特殊性なのだろうか。
 男たちの顔にはモザイクが掛かっていた。
 むろん妻の顔にそんな配慮は行われず、ことさらアップになったりしている。
 可哀そうなことに、まだその舌の中央を、バネの強そうな洗濯ばさみが無慈悲に潰していた。

 この連中は、自分たちのプライバシーは大事にするが、その他の人たちの幸せなど微塵も考えない。
 前回妻が失踪して最後に自宅へ突入した時、ビデオカメラを構えている男に、


『何を撮ってるんだ!』


 と怒鳴ってやったが、そいつは平然として、本格的にカメラを回し始めたものだ。
 あのふてぶてしい態度からは、餌食にした家族の顔出しなど平気の平左と窺えた。
 いや、むしろ積極的にビデオに残し、作品のリアリティを高める材料にしているということなのだ。
 『温泉旅行の真実』と長髪社長が呼んでいたあの映像も、もしかすると製品版では、初老オヤジや自衛官風短髪男の顔にはモザイクが掛けられているのかも知れない。それはわからない。
 そして絶対に間違いないこと。
 妻は当然ながら、私も娘の真菜も、素顔のまま流通に乗せられ、全国に晒されてしまっているに決まっている。
 自分たちだけは安全圏に居ようとする連中の姑息なやり口に、もう怒りの炎の燃料など残っていないと思っていた私の心に、また小さな憤りの火種が点った。

 カメラは引きの画で、ずっと部屋の端から変わらず全景を撮っている。
 広く作ったリビングと言えど、ガラステーブルとソファの間は狭い。
 そこを丸裸の妻が四つに這って、男たちの投げ出した足をよけ、あるいは膝の上を乗り上げて、白い裸体をくねらせ通って行く。
 まるでアフガンハウンドみたいな脚の長い大型犬が、本当にリビングに紛れ込んでいる錯覚すら覚える妻の犬っぷり。
 ずいぶんやらされて、すっかり身についてしまっているようにしか見えないのが哀れだった。

 男たちは上機嫌で妻の肌に手を伸ばし、妻の熟れた肉体の感触を楽しんでいる。
 乳房にヒップは必ずタッチされている。
 同時に三人くらいが手を伸ばしているのも珍しくない。
 あとはバイブにアナル棒。
 これも必ず誰かに握られている。
 うちの一人がガラステーブルの上に、ロングの缶ビールを並べ始めた。
 手荷物がなかったから、家の冷蔵庫から出したものだろう。
 妻がわざわざ用意しておいたのだろうか。

 あいまいに男たちが乾杯をした。
 調教師然とした黒シャツは、手首の返しだけで巧みに紐を動かし、妻を操って自分の元へ来させた。
 おとなしくお座りをして、やや怯えた目だけで次の命令を待っている妻。


「はふぃっ」


 思わず俯いた妻の口から大量の唾液が床にこぼれ落ちた。
 男が力任せに舌を留めていた洗濯ばさみを引っ張ったのだ。


「ふひひぃっ」


 次の悲鳴は、両乳首の洗濯ばさみが強引にむしり取られたためだった。
 妻は痛そうに顔をゆがめている。
 乳首は真っ赤に充血して、長時間挟まれた跡が残ってしまっている。
 これだけでも人間扱いじゃない。

64名無しさん:2018/10/19(金) 14:45:17

 調教男は、ピシリ、と紐の反対側で、正座している妻の肩のあたりを打った。
 もう事前に取り決めてあるのか、妻は迷わず四つに這い、鈴を鳴らして、また三人掛けソファとガラステーブルの間の狭いスペースに潜り込む。
 そして真ん中に座っている男の灰色の靴下を、クンクンと本物の犬のように嗅ぎだした。
 思わずドキリとする私。
 鼻を押し付け胸いっぱいに吸い込んでから、次に靴下の先を剥き出しにした歯で慎重に噛みついて、脱がせていく。
 そして完全に脱がせ終わると、いつか見たビデオのように、現れた足指をペロペロと舐め始めた。
 爪を舐め、指の間を舐める。
 それはもう、私は性奴隷です、と自らを認めるような行為だった。
 妻であり母である女のする真似ではない。
 むろん私はこんなことを妻にさせたことはない。
 当たり前だ。
 もしやれと言っても妻はやらないだろう。
 だがビデオの中の妻は現実にやっている。
 念入りに。
 舌を行ったり来たりさせながら。
 配偶者にはしない行為をやっている。
 どこの誰だかわからない男の指を、唾液で光らせていっている。


「典子は締まりがいいんですよ」


 三人並びの右の男がビール缶片手に得々として言った。
 角刈りの落ち着いた中年の男で、仕立ての良い高級スーツ姿。
 サラリーマンではなく、不動産投資でもやってそうな風体だ。


「ご覧なさい。バイブが猛烈に震えているでしょう? あれじゃ普通の女だったら1分で抜け落ちてしまう。ところが外へ飛び出しても来ない。ね?」
「あまり経験がなかったらしいじゃないですか」


 今度はそのソファの左端に座った男が頷く。
 彼はIT社長とでもいうような、お洒落な流行ファッションに身を包んでいた。
 そのモザイク越しの髭の口が動く。


「さほど男を知らなかったって」
「そうなんですよ」


 また右端が嬉しそうに応じて、


「こういうのも経験ですな。場数を踏んで開花したわけですよ。本来の道具の性能がね。男は射精を我慢させると性欲が亢進していきますが、女はセックスをすればするほど性欲が増大する。だからコマシ屋たちは関係を持つと、矢継ぎ早にセックスの回数を増やす。典子もこれまでの人生40年分を合わせた回数より、ここ半年で男と交わった回数のほうが遥かに多いでしょ? もっとも、その数の中にはこの私も入っている訳で、私は典子のことを『しびれクラゲ』とこっそり呼んでいるんですがね」
「もう典子の身体を味わっているとは羨ましいことです」


 手にした缶をあおりながら、左端の男がニヤニヤ笑いで持ち上げた。


「そう。病み付きです」


 右端の男は得たりと頷いて、


「中で出す瞬間がたまらないです。厭らしい襞々が絡みついて来ましてね。ビクビク痙攣しながら『中に下さい』なんて可愛らしい声で言うもんですから、もう大放出ですよ」


 ワハハと笑いながら、男は目の前の妻のお尻を愛おしそうにゆっくりと揉みこむ。


「まあ、女の快感は男の10倍と言いますからな。味を覚えた典子が亭主ひとりで我慢出る筈もない」
「そういうことですね」
「時間の問題ではあったが、こうして再会できて感無量ですよ」


 中年男の手は今度はアナル棒を摘まんで上下に動かし悪戯を仕掛ける。
 嫌々をするように妻のお尻はくねったが、もっとやって、という甘えた仕草に見えなくもなかった。


「いや、舌遣いも最高ですよ」


 真ん中の男も目を輝かす。
 比較的若く、発達した筋肉がラフな装いの上からでも窺える、スポーツマンタイプの男。
 いま妻は彼の右足を舐め終わり、今度は左足を同じように舐めていた。


「なんともねちっこい。足の指を舐められているだけで勃って来ましたよ」


 ワハハハと一同の機嫌のよい笑い声がリビングにこだまする。
 私は居たたまれなくなってきた。

65名無しさん:2018/10/19(金) 14:45:55

 去年の映像であってくれ。
 その思いは強い。
 しかし会話の内容からすると、旗色が悪い。
 どうもいったん典子が奴らを離れ、また戻って来たような口ぶりだ。

 私は推移を見守る気力がなくなり、早送りのボタンにカーソルを合わせた。
 とりあえず時期だけ確定しよう。
 細かい検証はその後だ。
 まずは長髪社長の言葉の虚実を見極めなければならない。
 都合のいい口実で、私はDVDの内容を直視するのを避けた。

 4倍速にすれば音声は消える。
 画面はコマ送りになり、パラパラ動くだけだ。
 だからショックではない。
 いきなり妻が客のズボンのジッパーを下ろし、膨張したものを口に咥えたとしても。
 左右の男が立ち上がって全裸になり、妻に両手で同時に手コキをさせたとしても。
 後ろに回ったもう一人の全裸の男がバイブを引き抜き、代わって自分の怒張を背後から妻の秘部に入れ込んだとしても。
 そしてアナル棒を前後に動かし、妻にひときわ高い喘ぎ声を立てさせたとしても。
 やがては全員が丸裸となり、ガラステーブルの上に妻を仰向けに乗せあげて、10本以上の手で妻の肉体をめちゃくちゃに触り始めたとしても。
 左右から大きく広げさせられた妻の両脚の間に客の一人が割り入って、気持ちよさそうに腰を振り始めたとしても。
 ガラステーブルから食み出して、長い髪と共に下に垂れて逆さまになった顔に、三本の肉棒が突き付けられ、妻がそれを赤い舌で交互に舐めしゃぶっていたとしても。
 上の口と下の口に同時に男の勃起を受け入れ、乳首をローターで刺激され、クリバイブで女の急所を責められ、何度も何度も絶頂に身を震わせていたとしても。
 電マで腹部越しにポルチオを揺さぶられ、同時に乳房を揉みくちゃにされ、嬉ションをリビングの遠くまで虹のように噴出させたとしても。
 中華料理のご馳走を乗せた丸テーブルを囲むように、男たちが回転して、一人ずつM字の膝を立てた妻に挿入して、順番に子種を発射したとしても。
 待ちきれない男たちが、妻の肉体の至る所、腹や胸や首や顔や髪までを、白濁液で汚していたとしても。
 朦朧とする妻を全員で抱え上げ、無理にWピースをさせて、記念撮影をさせたとしても。
 だからショックではない。

 私の目はひたすら、撮影時期を特定できる事象を求めて動いていた。
 もう映像に映っているのが配偶者であることを忘れようと心は働いていた。
 これはAVだ。出ているのは妻に似た人だ。
 そう思い込まなければ、とても見てはいられない過激シーンの連続。
 私は機械になろうと努めた。
 単なる映像チェック機械。
 無感動の淵へと自らを流しやって、何とかしのごうとした。

 激しいプレイが一段落して、妻がガラステーブルの上から彼らに抱き下ろされようとした。
 その時――。
 あっ。
 カメラが大きく動いて、テレビの脇の角になっている壁面を映し出した。
 レンズが初めて捉えた場所だ。
 そこにカレンダーがある。

 よく見ようと通常再生に戻した。
 レンズはしばらく同じ画角を切り取っている。
 私の膝がワナワナ震えた。
 急激に体温が上がっていく。
 耳の中で大鐘が鳴っている気がした。
 速まっていた鼓動がさらに速まって行く。
 胃から苦い液体が遡って来る。
 本当に吐きそうだった。
 リビングの月めくりのカレンダーは間違いなく、妻を奪回した後であるはずの、去年の12月を開いていた。

66名無しさん:2018/10/19(金) 14:47:29
16

 気を失うということが本当にあるんだと私は知った。
 これまでDVDを見終わって放心状態になったり、酔いで眠ってしまうことは少なからずあった。
 しかしまったく意識が途絶したことはない。
 初めての経験だった。

 部屋は薄暗くなっている。
 時計を見ると夜8時を過ぎていた。
 私はソファに横になっていたらしい。
 DVDはもちろんとっくに再生が終わったようで、黒い画面に戻っている。
 立ち上がる。
 縮こまっていたせいか、身体の節々が痛い。
 キッチンで水と共に精神安定剤を飲んだ。
 多めに飲んだ。

 早く効いてくれ。
 心が落ち着かない。
 ともすれば、この一年の努力は何だったんだ、というやるせない思いが込み上げて来る。

 典子は再び奴らの手に落ちた。
 呆気なかった。
 それを少しも気づかなかった。
 ということは典子も加担していたということか。

 キッチンテーブルの椅子に腰かけ、私は頭を垂れてボーっとしていた。
 このままいれば薬が効いて来る。
 それを待った。
 眠いわけじゃないが、感情が鈍くなってきた。
 頭はまだ動く。
 心が平坦になっただけ。

 このDVDを見る限り、長髪の憎いAV会社の社長の電話での言葉は、本当ということになる。


『ひと月半ほどだったかな。意外と早かったですよ』


 胸にグサリと来るひと言。
 やっと薬が効き始めている。
 虫歯を削れば激痛がする。
 だが麻酔を注射すれば、どれほど歯を深く掘ろうが痛みはない。
 薬のおかげで、この異常状況にも耐えられる。
 どれほど持続するのかはわからないが。

 私はしばらくじっとしていた。
 食欲はない。
 あるわけがなかった。
 真菜かせめて明弘でもいてくれたら、多少気もまぎれただろう。
 だが二人ともいない。
 家族。そして家庭。
 自分の人生で一番大切で大事にしてきたもの。
 それが再び崩壊しようとしている。
 去年、それが脅かされた時、探偵の助力もあって、辛くも守り通すことが出来たと信じた。
 妻も泣きながら、家庭に戻って来た。
 あの涙は嘘ではない筈。
 なぜこうなったのか。

 私は椅子から立ち上がった。
 自分でも足がよろめいているのが分かる。
 これは薬のせいだ。
 分量を多く飲み過ぎたのかも知れない。
 明日は会社。
 金曜に退社した時にはこんな週末になるとは夢にも思わなかった。
 とても出勤する気分ではないが、休んで調査するほどの当てもない。
 典子の居所は気になるものの、手掛かりは皆無だ。 
 結局はまだ見ていないDVDの中に答えがあるのだろう。
 会社があるから自由な時間は限られる。
 今夜のうちに見れるだけ見ておくのが正解だろう。

 私はふらつく足を一歩一歩前に運んで、引き出しから『Episode1』と手書きのDVD-Rを探し出して手に取った。
 リビングに戻るにも、まるで竹馬に乗っているかのように、自分の足の動きが覚束ない。
 しかしこれくらいの薬の効きがなければ、妻のDVDを見て、私は発狂してしまうかも知れなかった。

 妻を連中のもとに引き戻した手口。
 恐喝なり暴力なり詐術なりがあったとしたら、まずはこの『Episode1』に痕跡があるに違いない。
 むろん奴らは狡猾残忍な組織。おいそれとやり口を公開などしないだろう。
 だが、妻が再び出演に至った経緯など、さらりと紹介しているかもしれない。
 なんといっても典子はドル箱スターらしい。
 この人妻をまた出演させるとなったら、自慢のひとつも入れたくなるのではないだろうか。
 上手の手から水が漏れることだってあるだろう。

67名無しさん:2018/10/19(金) 14:48:02

 脚をギクシャク動かしながら、私はノートPCではなく、テレビのDVDプレーヤーのトレイに白い円盤をセットした。
 薬が効いているとはいえ、しばらくして表示されたテレビ画面で、DVD-Rに動画ファイルがあるのを見つけると、心臓がギュウっと縮んだ。
 もはや私は取り返しのつかない心的外傷を受けてしまっているようだ。

 リモコン片手に、私は三人掛けソファの中央に陣取る。
 こうなって来ると、家族四人だけの楽しかるべきマイホームも、どれほどの凌辱者たちの侵入を許しているのかが分からなくなってくる。
 去年の夏の終わりに、いったんは手を切らせた危ない連中。
 しかしその後も引き続き私の自宅を遊び場にしていたのだ。
 あの『Episode3』は妻がまだ働きに出る前のことだ。
 土日は私が必ずいたから、あれは平日の昼ということになる。

 どうにも現実感がない。
 映像が目の前から消えると、やはり幻だったのではと思ってしまう。
 20年連れ添って、ずっと良き妻、良き母親だった典子。
 その典子の性に溺れた破廉恥な姿。
 有り得ない。
 何かの間違いだ。
 受け入れることの出来ない自分。
 もう確実に私の精神は蝕まれている。

 動画は以前の『典子ver5』のように中でいくつかキャプチャーに分かれていた。
 当然ながらリモコンで『1』をクリックして待つ。



 普通の小さな洋室。
 マンションのようだが、散らかった作業場という感じ。
 広いテーブルがある。
 その上に、紙袋と便箋があった。
 小包の準備と手紙だ。
 これから発送する。
 その寸前を誰かがビデオカメラで映している。
 緩衝材にくるんだDVDらしき白い円盤が透けている。
 姿の見えない男が手紙を摘まんで、ビデオカメラの前にかざす。
 ワープロできちんと印字してあった。


「こんにちは。貴女のDVDを購入していた者です。貴女が普通に暮らしていけるとは思えません。淫乱マゾなのですから。本当に引退されるのか、直接お話を聞いてみたいと思い、ご連絡差し上げました。奥さんご自身の口から聞けば納得します。諦めます。無視されるのは好まないので、いちおう釘を刺しておきます。旦那にこのことを話したり、会ってさえ頂けなかった場合には、私のコレクションをご近所あるいは子供さんたちの学校にばら撒きます。同封のDVDはそれが口だけでなく本当だというサンプルです。会って頂ければ返事の中身を問わず、そんなことはしません。ただ私は新作が見たいだけの熱烈なファンなのです。10月3日14時に福岡の○○ホテルのロビーに来て下さい。くれぐれも内密に」


 見ている者が全文読めるように、たっぷりと大写しにした後、次は荷造りのシーン。
 ゆうパックの袋にDVDを詰め、さっきの文面の手紙と、さらに小さな便箋も入れて、封をする。
 宛先を書く時も、また手元の大アップ。
 相手の住所は丸わかりだったが、予想された通り、我が家の住所だった。
 送り主の住所はどうせ偽名だろう。



 次のシーンはまた私の家の玄関を撮っていた。
 配達の時間指定がしてあったようで、午前中か昼丁度くらい。
 郵便配達の車が来て、トレーナーにジーンズの部屋着の妻はいつも通り普通に小包を受け取っていた。
 やや離れたところからそれを盗み撮りするカメラ。
 いっさいの演出はなく、事実を淡々と追っていく。

 妻を巡って長髪社長と福岡クレイホテルで談判を行った日は、正確には8月27日である。
 呼び出しの指定日は10月3日と手紙にあるから、ゆうパックを自宅に届けたのはその1日か2日前だろう。
 対決後、一か月。
 やっと我が家もぎこちなさが影をひそめ、以前の仲の良い家族に戻ろうとしていた頃である。
 そんな時期に、妻に新たな魔の手が迫っていたなんて。
 夢想だにしていなかった。
 敵は以前のAV制作会社の連中だけだと信じ込んでいた。
 妻も懸命にそういうおぞましい記憶を忘れようと、一家の団欒に気を配っていた。
 心身ともに忌まわしい組織との悪縁を断ち切るため、必死になっていた。
 その姿に偽りはなかったし、少なくともひと月の間は、妻は全くよそからちょっかいを出されてはいなかったということになる。
 AV社長が約束を守ったということは本当らしい。
 そしていま、新たな別の敵が、妻に触手を伸ばしてきたということなのだ。

68名無しさん:2018/10/19(金) 14:48:52

 それにしても、そいつらが妻を篭絡する過程を、堂々と映像に撮っているのには驚いた。
 手口をさらけ出しているのはどういうつもりなのか。
 この届いたゆうパックを開けてみたあとの妻の反応まではビデオにない。
 どうだったかは当時の記憶を呼び覚ますしかない。
 でも取りたてて目立った妻の変化はなかったように思う。
 ただ妻の精神は事件後半年ほどはずっと不安定だった。
 だから私が気付かなかっただけなのだろう。
 暗い顔でいたかと思うと、そのあとケロリと機嫌が良くなっていたりもしていた。
 特に不思議に思わなかった。
 それまで普通に家庭の主婦として穏やかな日々を過ごしていた妻が 突然、非日常の世界に放り込まれ、いいように玩ばれたのだ。
 何もありませんでしたで済むわけがない。
 しばらくは感情のコントロールが出来ずに苦しむことになるだろう。
 そんな風に主治医から言われていたというのもある。
 本当の回復には長い長い年月と、それに加えて家族の愛情が絶対条件とのことだった。
 おそらくその通りなのだろう。
 そして何事も起こらないまま、家族の絆をしっかり強めていくことのみが、妻に本当の笑顔を取り戻させ、真の回復に導く唯一の道筋だったに違いない。

 だが、そうは問屋が卸さない。
 そうなって貰っては困る連中がいたわけだ。
 妻の熱烈なファン――すなわち他人の幸せな家庭が崩壊し幸せな人妻が地獄に落ちても、自分らの歪んだ性欲が満たされればそれでいいという、悪魔的な趣味を持つ男たち。
 妻に性奴隷としてそのまま続けて行って欲しいと身勝手に願う男たちがそれだ。
 真面目な夫婦生活では決して知ることのなかった享楽的なセックスの快感だけをこれでもかと擦り込まれた妻は、むろんまだ立ち直れていない時期である。
 そんなまだ危うい妻の元に、新たな敵はアプローチを掛けてきた。
 妻の身体の奥に燃える、鬼畜どもに植え付けられた異常性欲の残り火が、完全に消えないうちを狙って、敵は動き出した。
 過去の過ちと決別するべく本気になっている時期に、自分の浅ましい変態セックス映像が満載の販売DVDを送り付けられて、妻がパニック状態に陥った事は容易に想像することが出来る。

 本当かどうかはわからないままだが、妻は前にこんなことを言っていた。


『売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの』


 その言葉を信じるなら、妻は自分の痴態がDVDとなって、商品化されていることを、連中と居た当時は知らなかったことになる。
 『温泉旅行の真実』を見る限り、妻は撮影に積極的に協力している。
 だがプレイの一環として、仲間内の楽しみのためだけのものだ、と言いくるめられていたという解釈も成り立つ。
 だから自宅に届いた出演作品を見て、初めて事実の重みに妻は身震いしたのではないか。
 あれだけ警察にも証拠物件として提出するのを拒んでいた妻なのである。
 あれをばら撒くと言われれば、従うしかなかったことは理解できる。

 我が家では子供たちの手前、あの事件はなかったことになっている。
 急な出張ということになっている。
 だからあの件についての話題は一切ない。
 もしあの事件について妻とじっくり話し合う習慣があれば、こういう場合の対処法などもシミュレーションできていたのかも知れない。
 しかし私はそれをしなかった。
 現実を直視することから逃げた。
 これ以上見たくない。
 私の知らない妻なんて。
 その思いにとらわれていた。
 長髪の社長さえ約束を守ってくれれば安泰だ。
 そう思い込んでいた。


『迂闊でしたね』


 またしても社長の皮肉っぽい電話でのセリフが、耳の奥に蘇って来る。

 迂闊・・・。
 そうだったのだろうか?
 一生懸命頑張って来た。
 妻のために、家族のために、家庭を守るためにこの一年頑張って来た。
 その俺の努力を迂闊の一言で片づけるのか。
 幸せな家庭に手を突っ込んで、メチャクチャにしたのはお前たちじゃないか!

 妻はDVDとメッセージが送られてきたことを、私に相談しなかった。
 こっそり相談したって奴らにバレる気遣いはない。
 なのにしなかった。
 やはり妻との関係はまだぎこちなく、再構築の途上にあったということなのか。
 その間隙を悪魔どもに突かれてしまったのだ。

 
『会って頂ければ返事の中身を問わず、そんなことはしません』


 この誘い水の巧妙さはどうだ。
 妻の口から、引退します、と直に聞けば納得すると言っている。
 しかも以前の連中と違い、一ファンだと言っている。
 それほど危険な匂いはさせていない。
 その一方、夫に話したり会ってくれなかった場合には、妻の人生を破滅させるような場所に、容赦なくDVDをばら撒くと脅している。
 ただのファンどころでないことが窺える。

69名無しさん:2018/10/19(金) 14:51:03
17

 次のシーンはホテルのロビー。
 私は行ったことがないが、疑いもなく○○ホテルなのだろう。

 カメラは壁際の位置から、遠くまでを映している。
 かなり離れたところ右側にエントランスが見え、ときどき小さく人の出入りがわかる。
 左側には遠くフロントがあって、そこにホテルの従業員が動いているのも小さく見える。

 すぐ目の前には一人掛けのソファがあり、カメラマンはその向かい合った反対側のソファから撮影しているらしい。
 この対になったソファが3つほど縦に並んでいる。
 右側は続きの大きな窓になっている。
 外はちょっとした庭のようになっているが、その向こうにエントランスから出てきた人が行き交うのも透かし見えた。
 左側は背の高い観葉植物が並べられていて、この休憩スペースのプライバシーゾーンを確保している。
 窓の端がこの席で終わっていることから、一番奥まった場所だということもわかる。

 不意に画面に腕時計が大写しになった。
 妙な飾りつけはない。
 こけおどしではない正統派の高級時計っぽい。
 時刻はちょうど14時を指している。
 約束の時間だ。
 しばらく文字盤を映していたカメラが、サッと動いた。
 窓の外を狙う。
 ズームになった。

 ひとりの女性が首うなだれて、エントランスに向かうのを捉えた。
 輪郭は遠すぎてボケている。
 それでも妻であることが分かった。
 トボトボとした、いかにも重い足取り。
 嫌で嫌で仕方ない。
 だけど行かなければならない。
 そんな歩調に見えた。
 やがて視界から消える。

 今度はホテル内に入って来た妻が映し出された。
 まだ距離がある。
 トレーナーにジーンズの部屋着とは違った。
 ちゃんとした外出着。
 薄茶のブラウス。
 白のゆったりとしたスカート。
 だが地味だ。
 決して派手な格好ではない。

 男が立ち上がって合図でも送ったのだろうか。
 妻が伸び上がってこちらを見た。
 そしてまたさっきよりも俯きながら近づいて来た。


「高田典子さんですね。初めまして。私はとある人物の代理人としてやって来ました」


 男の言葉を、妻は死人のような表情で聞いている。
 男は名刺を妻の手に握らせたが、それを見ようともしないで突っ立ったままだ。
 カメラを抱えたままの男に恐怖を感じているのは明らかだった。
 男は手振りで妻に座るよう促した。
 妻は魂が抜けてでもいるかのように、よろよろと力なく腰を下ろす。
 顔色は血の気を失い真っ青だ。


「まあ、こういうところで男と会っているのを、奥さんもあまり見られたくはないでしょう。手早く済ませましょう」


 男の口調はいかにもやり手のビジネスマンという自信に満ち溢れていた。
 去年の一味とは全然毛色が違っている。
 もしかすると本物の弁護士か何かを雇ったのかも知れない。
 そんなことを思わせるほど、男の物腰は世慣れていた。


「単刀直入に申し上げる。奥さんは引き続きビデオに出たいのではないですか? どうです?」


 いきなり核心に斬り込んできた。
 精神安定剤が通常以上に身体に回っている状態でも、私は極度の緊張で凍り付いた。
 妻は横を向いて窓の外を見ている。
 男の言葉など聞いていない風だ。
 この場所に時間通りに来さえすれば、イエスかノーかを問わず、DVDをばら撒くことはしない。
 ファンと自称する送り主はそう明言している。
 だから答える必要もない。
 来ただけで役目は済んでいる。
 妻の強ばった横顔はそう主張しているように見えた。

70名無しさん:2018/10/19(金) 14:51:49

「あなたの旦那は良き妻良き母を取り戻しハッピーでしょう。しかし奥さん自身はどうなのですか? 言葉は悪いですが、このまま一生飼い殺しでもいいのですか? あの快感を二度と味わうことなく、退屈な人生を終えていいのですか?」


 男は熱弁をふるう。
 しかし妻は男を見ることさえない。
 その目はずっと窓の外の庭木に注がれている。
 秋口とはいえ、空は明るい。
 晩秋と違い、木々の緑もまだ鮮やかだ。
 わずかに早く紅葉を迎えようとしているハナミズキの枯れた枝先を、ビー玉の様な感情のない妻の瞳が見詰めている。


「旦那の自分勝手な人生設計に付き合わされているだけではないのですか? 自由に生きる権利は誰にでもありますよ。面白おかしく、女としての人生を羽ばたいてみたらどうです? すでに奥さんは禁断の果実の甘さをじゅうぶんにご存知のはずでしょう? 女としての自分に未練はないのですか?」


 妻は何と言われても反応すらしない。
 私は妻の態度に俄然嬉しくなった。
 ここまで拒否している者を再びビデオに出させるには、やっぱり脅迫なり暴力なり、犯罪行為が履行された可能性が濃厚である。
 私は薬で痺れたようになっている脳を無理に働かせて、男の特徴を記憶しようと努力した。
 時間を調べた時に、男の手首が映った。
 40くらいの年齢の手の大きい男。
 腕時計はロレックスだ。
 袖口からするとスーツは吊るしではない仕立物の高級舶来品。
 妻が黙秘を決め込んでいるうちに、また男の身元を示唆する情報が取れるかもしれない。
 警察の捜査に役立つだろう。
 薬で平たくなっている感情が、わずかに持ち上がる。


「そうですか。話し合って下さらないと。困りましたね。過去はなかったことになっているんですかね。でも奥さんがAVに出たことは、厳然たる事実じゃないですか?」


 その言葉に、初めて妻が男に向き直った。


「AVなんか・・・出てません・・・」


 小さな声だった。


「出ていないと・・・?」


 驚いたように返したが、男の声がにやけるのが分かった。
 反射的に妻が返事をしたのが、思う壺だったのだろう。


「数々の名作に出ているじゃありませんか。その痴態に魅せられ、私の依頼者はこうしてコンタクトを取っているんですよ。嘘はいけませんな」
「あれは・・・、無理やり・・・」
「いやいや。無理やりには見えないと思いますよ。客観的ご意見を聞くために、試しにご近所に配ってみましょうか。あれが無理やりなのかどうか」
「それは・・・、DVDは絶対にばら撒かないでください」


 妻は喉を振り絞るようにして言った。


「それだけはやめてくださいっ」


 目に涙がみるみる溜まってきた。
 悲痛そのものの姿。
 よほどそのことを怖れているのだ。


「なるほど。ただね。私の依頼人は新作を見たいと仰ってる。そこを確認しないと私も帰れない。なにも初めて撮る訳でもない。奥さん、こっそり撮れば済むことでしょう。どうですか、新作? 慣れたものでしょう?」


 男の勧誘に、妻は俯いて黙り込んでいる。

71名無しさん:2018/10/19(金) 14:52:58

「あんな中途半端に終わったのでは、奥さんも自分自身にケリがついていないはずだ。モヤモヤしたままでは、新生活を築くのも無理なのではないですか? どうなんです?」


 男の追い打ちにも、妻は沈黙のまま。また顔を背けて窓の外を眺め始めた。
 男はさらに30分以上も妻を掻き口説いていたが、妻はそこからうんともすんとも言わなくなった。
 ただ窓の外の景色を眺めて、ひたすら時間の過ぎるのを待っている風情だ。

 会見が終われば、義務を果たし、この一件はクリアになる。
 となれば、妻が再度陥落したのは、この映像とは関係ないのか。
 それにしては長々と撮っている。

 やがて男は匙を投げたように言った。


「いつまでこうしていても埒が明かない。私は奥さんがきちんと納得して、言葉で、はいやります、というのが聞きたかった。どうもそうはいかないようだ」


 幾分苛立ちが混ざっている。


「まったく素直じゃないですな。まあそこが奥さんの魅力でもありますがね。じゃあ確認させてもらいましょうか。それすら嫌だと言うならこちらも考えを改めなくちゃならない。内気な奥さんのために、口にしなくていいように工夫してあげたんですよ」


 男は恩着せがましくそんなことを言った。
 なんのことだろう?
 横を向いたままの妻の頬に、僅かな赤みがさしたようだった。
 妻は態度で拒否の意思表示をハッキリしている。
 新作の誘いなど、食いつきもしない。
 もう結果が出ているのにしつこい奴だ。
 見ている私は不快になった。
 妻に執着するのは勝手だが、AV制作会社の連中の言いなりになっていた妻は、もう過去のものだ。
 最初の浮気のネタをつかまれ、それで怖くなって男たちと次々関係を続けてしまった・・・。
 だが、それは私が手を切らせた。
 典子は私の妻だ。
 私の配偶者だ。
 所有者が誰かとなれば、そんな封建主義的、前近代的発想は嫌いだが、間違いなく私だ。
 私だけの妻なのだ。


「さあ、これで私も忙しい身です。奥さんもお子さんたちが家に戻って来る前に帰宅したいんじゃありませんか? 便箋に書いてあった提案。ちゃんと理解していただけたでしょうね? 簡単なことです。今後このまま平凡で退屈な生活を続けるならパンティ着用、また調教を受けたいならノーパンでこの場に来る。確認して終わりにしましょう。私はそれを撮影し、依頼者に報告します。いいですね?」


 薬の効力で思考力の薄れた私の頭にも、男たちの要求の突飛さが突き刺さった。
 そう言えばゆうパックの小包には、梱包されたDVDと手紙の他に、便箋も入れていた。
 そこにそんな内容が書かれていたとは。
 妻はもうこれ以上男の顔も見たくないといった様子で、ずっと横を向いている。
 こんなバカな提案をしてくる男たちと、まともに付き合ってはいられないと思うのは当然だ。


「さあ、立って。スカートを捲って下さいよ。奥さん?」


 男が急かす。
 しかし妻は横を向いたまま。
 いまふたりのいるところはホテルのロビーの一番奥まった所。
 スカートをめくり上げても、周りから気づかれる恐れは少なそうだ。
 とはいえ、公共の場所である。
 誰に見られるかもわからない。
 もともと良識のある妻にたやすく出来る真似ではない。
 もしかすると最初から妻が新作撮影にOKするなんて期待しておらず、とりあえずホテルのロビーで下着を露出させ、そういう辱めを与えた映像を撮るのだけが目的だったのかも知れない。


「奥さん?」


 妻は瞼をうっすら閉じた。
 ふー、とため息をついている。
 しかし依然立ち上がろうとはせず、もじもじ身を揺すっているのみだ。

72名無しさん:2018/10/19(金) 14:53:56

「パンティを見られるのすら恥ずかしいのですか? しかたないでしょう。最低限そこは我慢してもらわないと私も帰れません」


 男は妻の逡巡ぶりを見て、強く言う。
 妻は立ち上がる代わりに、一人掛けソファに浅く座り直した。
 顔は窓の外を向いている。
 ローヒールのパンプスが時間をずらして両方、ゆっくりとソファの上に乗った。
 M字の完成。
 柔らかい布地の白いスカートの裾が、膝を通り越して心持ち開き加減の形良い太腿の上を滑り落ちる。
 妻は相変わらず、自分のしていることなど関係なさそうに窓の外を眺めている。
 39歳の真面目そうで平凡だが、ちょっと綺麗な顔立ちの人妻の横顔。
 しかし腰までスカートの布地が落ちきった段階で、くっと両膝も開いた。


 グムムゥ


 私の喉がまた奇妙な音を立てる。
 ビデオで見慣れた妻の猥褻な秘部は、溢れるほどに濡れていた。
 言われてもいないのに立てた両脚の外側から手を回して、グッと左右に引っ張った。
 黒々と飾り毛の復活した肉色の陰唇はパックリと開き、内部の襞々が嬉しそうに蠢いている。

 新たな調教と新作の撮影。
 上の口は最後まで承諾しなかったのに、下の口は明白にYESと言っていた。
 カメラでしっかりと妻の顔と陰部を交互に、さらにアップで引きで、と詳細に記録してから、男は喜色に溢れた声で宣告した。


「手紙にある通り、旦那にバラす気はいっさいありません。なに、黙っていればわかりませんよ。大丈夫、楽しむだけです。とりあえず一年。我々の計画にお付き合いいただきます。その後どうするかはその時になって、奥さんが改めて考えたらいい。交渉成立ですな。さてとあなたには言い訳も用意してあげる。もし契約の一年以内に我々から逃げようとしたら、罰としてDVDがしかるべき場所にばら撒かれます。どうです? 我々の言いなりにならざるを得ないでしょう? 従わなければ家庭が崩壊してしまう。だから、そのために心ならずもという状況を楽しめばいい。ふふふ。また連絡しますよ、変態奥さん」


 男のカメラはM字に両膝を立てた妻の姿を固定アングルでずっと撮っている。

 私は茫然としていた。
 薬が効いているのか効いていないのか。
 それすら分からなかった。
 意味が分からない。
 私はまるでバンジージャンプで突き落とされて、頭と足が上下逆さまになって、そして跳ね上がって、また回転してという、さながら混乱の極にいた。

 妻の横顔はちょっと火照っていた。
 それでいて少し寂しげだった。
 びしょ濡れの秘部をなおも隠そうともせず丸出しにしている妻。
 飽きるほどに食べていたご馳走を取り上げられ、涎を垂らして飢えている物欲しげな下の口――。
 妻の態度は、私の心は違うけど身体はこうなってしまった、あなたたちのせいなのだから責任を取って、と言ってるようにも見えるし、良いも悪いもない、これが背徳の悦びを知った女の正体だ、と主張しているようにも見える。
 口では言えないがもうこの体たらく、察してくれ、とすがっているようにも見えたし、あるいは、これが嘘偽りのない状態だ、もうどうにでもしてほしい、と全てを男たちに委ねてしまっているようにも見える。

 妻の本心は分からない。
 だが、今となってはどうでもいいことだ。
 事実として妻は奴らを選んだ。
 DVDを作る奴も買うやつも同じ穴の狢だ。
 そいつらを選んだ。
 どうしてかはわからない。
 爛れた色欲の世界を断ち切りたいという妻の様子は本気に見えた。
 たぶん本気だった。
 それでもあの異常な世界に舞い戻ることを決めた妻。

 私は手紙は読んだが、同封されていたという便箋のほうは読んでいない。
 そこにはイエスノーの合図としてノーパンか否かで示す指令が記されてあったのだ。
 もしかすると他にも書いてあったのか?
 なにか妻を脅すようなことが?

 一年契約という男の言葉は唐突な気がした。
 私が奪回に動いたために、妻は中途半端に奴らの元を離れた。
 強引に連れ戻され、妻は自分の気持ちに不安を持った。


「一年契約で確かめる方法がありますよ」


 うまくたきつけられ、妻はそれに乗ってしまったのか?
 一年我慢すればそれでいい。
 その先はその時に決断すればいい。
 そんな誘いにうまうまと乗ってしまうほど、性的な責めを欲する身体の疼きが抑えられなくなっていたのだろうか。

73名無しさん:2018/10/19(金) 14:54:31

「ちゃんと身体の欲望にケジメをつけないと、いずれ夫婦関係は破綻します」


 あるいは、そんな風にそそのかされて、変態調教の延長を了承してしまったのだろうか。
 妻は肉体の奥底で眠る情欲の炎と向き合い、それに決着をつけたいと願ったのだろうか。
 最早わからない。

 その時、画面がふわりと動いた。
 男がカメラを持ち上げたらしい。
 まだ妻は大股開きのまま。
 その横顔はまったくの無表情。
 ふしだらな格好をしていることを忘れ去って、魂が別の世界にでも行ってしまっているかのようだ。


「奥さん。家庭は壊れないから安心してください。今回は旦那に知らせない方針だそうです。DVDを送りつけたり、手紙を出したり、挑発はしません。少なくとも一年間はね」


 そこで画面は終わった。



 衝撃だけが残った。
 薬を飲み過ぎたかと思っていた。
 胃に気持ち悪さを感じていた。

 反対だ。
 まだ足りない。
 だがこれ以上飲んだら、たぶん致死量だ。
 それでも、いいのかも知れない。
 これほど惨めな夫はこの世にいないだろう。
 自殺して当然の事態じゃないか。
 奴らが妻に打ち込んだ楔がこれほど深かったとは。


『典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね。旦那さん、あなただけだ』


 不意に蘇ってくる言葉。
 俺が自宅に乗り込んだ時、長髪社長が言っていた。
 さも軽蔑したように。

 どんな状況だというんだ?
 俺が想像していたのを遥かに上回る、凄まじい状況だったっていうのか?
 俺はDVDだって見ている。
 そこにあった妻の数々の痴態。
 一家の主婦として、あるまじき姿も見ている。
 状況なら俺だって把握している。


『DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある』


 またもや耳に、奴の別の言葉が蘇って来た。
 その調子は冷ややかで、事実だけを伝えるという趣きだった。
 そう。俺はこのセリフを確かに以前聞いている。
 だが妻を取り戻したい一心で、興奮状態の俺は、聞き流してしまっていた。
 わからない部分・・・。知らない部分・・・。
 それを俺は教えられるのか――。

 やっと俺は理解した。


『私だって今までの生活に戻りたいわよ!』


 妻の叫び。
 悲痛な叫び。
 紛うことなき本心の叫び。
 俺はその叫びを信じた。
 その叫びに賭けた。
 そして妻を取り返し、この一年頑張って来た。
 仲の良い家族、明るい家庭の再構築に全力を尽くしてきた。
 この妻の叫びが嘘偽りであったなどとは、微塵も疑っていない。
 そう――。
 ただこの後に続きがあっただけだ。
 妻の心の中に。
 声にならない叫び。
 それはこう続いたに違いない。


『もしも戻れるものなら!!』

74名無しさん:2018/10/20(土) 19:05:57
18

 時間の感覚もなくなっていた。
 我が家のリビングのテレビは最新式の大画面である。
 明弘が大きい画面がいいと言ったので、奮発して買ったのだ。
 そのあと価格が値崩れして、すぐにずいぶん安い値段で同じ大きさのテレビが出回るようになったけれど、後悔はしていない。
 しかし家族団欒のために購入したこの大きなテレビ画面で、良き妻良き母であるはずの典子の裸やセックス場面を見せつけられるような羽目に陥るとは。
 しかもそれらは私が撮影したものではない。
 誰か知らない男たちが勝手に撮ったものばかりなのだ。

 もし私が妻の裸を撮影しようとしたとしても、妻はOKをくれないだろう。
 恥ずかしがり屋だし、しっかりとした常識も持ち合わせている。
 それに、もし私がそんな悪趣味な願望を口にして、妻にひと言の元に却下されたら目も当てられない。
 結婚生活を営む上でのかけがえのないパートナー。
 軽蔑はされたくない。
 何よりそれが最優先だ。
 同じような理由で変な体位を試したこともないし、大人の玩具の類いを使用したこともない。
 夫であり父親の自分を長い間続けてきた。
 男の自分を出すことには躊躇いを感じてしまっていた。
 欲望を素直に出すことは抑えてきた。
 第一、妻の裸の映像なんて保管が大変だ。
 子供たちにもし見られでもしたら、とんでもないことになる。
 なので理屈からすると妻のそういう映像なんてこの世に存在しない筈なのだ。
 しかし妻の破廉恥な映像は私が知るだけでも山ほどある。


 ――矛盾。


 リビングに掃除機を掛けている優しくて働き者の妻。
 しかしひと度その部屋のテレビ画面の中で2次元の存在になると、全裸に首輪をして四つに這い、見たこともない男の足の指を舐めたりするのだ。
 公園で丸裸になって若い男にフェラチオをしていることもあった。
 さっきはホテルのロビーで秘部を丸出しにしていた。
 どっちが本当の妻なのか。

 テレビ画面はDVDのタイトルメニューに戻っている。
 キャプチャー『1』は見た。
 他を見るか?
 どうする?
 答えは分かっている。
 見るしかない。
 どんなに辛くても。
 見るしかない。
 だけど辛い。
 妻を奪還してひと月。
 そんな早い時期に、妻はファンを自称する新たな正体不明の男たちの手に落ちてしまっていたことになる。

 前回の長髪AV社長の時も妻に対する調教は十分苛酷だった。
 剃毛しながらのイラマチオ。
 奴隷契約書の読み上げ。
 透け透けワンピースで露出散歩。
 3Pで中出し。
 主婦の浮気のレベルでもないし、素人のなんちゃてSMの域をはるかに超えていた。

 今回はどうだろう?
 ファンというくらいだから、妻を寛大に扱ってくれそうか?

 いや。
 絶望的だ。
 新シリーズの『Episode3』で、妻は自宅玄関に丸裸で土下座させられていた。
 そして舌と両乳首の三点を洗濯ばさみからの鎖で連結されていた。
 さらにバイブにアナル棒まで突っ込まれていた。
 もっと苛酷なものになる予感がする。

 キャプチャー『2』にリモコンでカーソルを当てたものの、押す気力がどうしても湧かない。
 どうせまたテレビ画面いっぱいに、妻が恥を晒す場面が出てくるわけだろう。
 精神安定剤も全身に回っている。
 頭も身体も重い。
 本来なら眠りにつかなければならないコンディション。
 しかし妻の行方を捜すには、何らかの情報が必要だ。
 起きて、活動を続けなければならない。

75名無しさん:2018/10/20(土) 19:10:04

 邪まな連中と戦う闘志をかき立てる為、娘や息子に電話をすることも考えたが、真菜も明弘も突然の父親からの連絡に、何事かと構えてしまう。
 楽しい会話にはなりそうにない。
 敏感な年頃だ。
 珍しい父親からの電話に、家庭の異変を感じ取るかも知れない。
 安定剤のせいで呂律が怪しい話し方となれば尚更だ。
 藪蛇になるのがオチだ。
 やめておこう。

 手にした携帯で、未練と思ったがもう一度妻の携帯に掛けてみた。
 当たり前のことだが、無情にもその電話番号は現在使われていないという、同じアナウンスしか流れない。

 おや?
 留守電にメッセージが1件ある。
 それに気づき、ドキリと胸が鳴った。
 妻からの伝言か?
 薬で痺れている筈なのに、頭に血がのぼる感覚があった。
 使い慣れていない機能だが、何とか再生してみる。
 それは間違いなく妻の声だった。


「あのさ、今日少し遅くなるので、ご飯先に食べてて〜。真菜には言ってあるから、用意してもらってね〜」


 短い伝言。

 なんだ?
 しばらくわからなかった。
 ようやくにして、これが最近のものじゃないとわかった。

 遅くなるも何も妻は失踪中だし、娘も大阪に住んでいる。
 履歴を見ると、なんと2年半も前のメッセージだ。
 その間、まったくその伝言に気づかず、携帯を使って来たことになる。

 私の目からホロリと涙がこぼれた。
 この頃の妻は浮気に追い込まれもせず、もちろんAV会社の罠にも落ちず、家庭第一に頑張ってくれる素晴らしい伴侶だった。
 なんでもない普通の口調。
 だがその口調がとてつもなく懐かしく感じる。
 穢れを知らない初心な妻。
 俺だけの典子。

 しばしの郷愁に浸った私は、家族のアルバムを引っ張り出して、眺め始めた。
 デジタルが主流になった現在、我が家でもあまり写真をプリントしなくなった。
 だから最近のアルバムに家族で写っているものは少ない。
 それでも学校行事や近場のドライブなど、デジカメで撮った中でベストショットと思われるものをチョイスして、妻が貼ってくれている。
 眺めていると、その時その時の情景がまざまざと瞼に浮かんで来る。

 桜の木の下で妻が微笑んでいるのは明弘の中学の入学式だ。
 もう満開を過ぎて、ピンクの花びらが舞っている。
 ややフォーマルなジャケットに身を包んだ妻は、外見からも品の良さや落ち着きが感じられ、いかにも綺麗なお母さんという印象を受ける。

 海岸に家族が並んでいるのは、家族で夏にドライブした時のものだろう。
 私と真菜と妻の三人が笑っていて、背景の海が光っている。
 真菜が幼く見えるのは、まだ中学生の時だからなのかも知れない。
 妻はTシャツにジーンズという普段着だが、肩までの髪が潮風でなびいていて、強い太陽に少し目を細めて口元をゆるめている表情なんかは、アラフォーの人気女優にも引けを取らない美貌だと依怙贔屓してしまう。

 だが子供たちが小さかった頃はともかく、大きくなってからの家族写真は極端に少ない。
 デジカメで撮ってはいるものの、写真屋に出してまでプリントアウトをしていないのだ。

 そうだ、パソコンにデジカメからデータを転送していたかも知れない。
 だったら、もっと家族の写っている画像を見ることが出来る。
 そう思って、私は省電力モードで黒い画面になっているノートパソコンのマウスを握った。
 何の気なしにクリックする。
 うわっ。
 声にならない叫びが出た。

 画面には素っ裸の妻。
 前屈みになって男と顔を寄せ合っている。
 そして突き出されたお尻に取りつくようにして、背後からもう一人の男がせっせと腰を使っていた。
 その下腹部に、妻のアナルから飛び出したゴム製のアナル棒の尻尾が、行き場を失って上向きにねじれて押し付けられているのが見える。
 どうやらDVDを最後まで再生して終わったのではなく、12月のカレンダーを見て慌てた私が途中で一時停止をしていただけだったようだ。
 そして今また弾みで停止が解除され、再度スタートしたということらしい。

76名無しさん:2018/10/20(土) 19:10:46

 重力で体積を増した妻の乳房は片方ずつ、左右の男に揉まれていた。
 荒々しく乳肉全体を揉みこんだかと思うと、ソフトなタッチに変え、乳首を転がしたかと思ったら、強く摘まんで引っ張り出す。
 そんな動きを双方の男が気分次第で使い分け、その連動しない予測不能な責めに妻はどんどん追い上げられているようだ。
 もう一人は水平になっている妻の白い背中を撫で回しながら、ときどき唇をそこへ這わせたりしていた。
 首輪をされた妻は官能を燃え上がらせ、女の顔になって熱い息を吐いている。
 妻の両手はW字に伸ばされ、しっかりと男根を二本握っていた。
 握るだけでなく、緩急自在にしごきあげている。

 このシーンは『Episode3』のリビングの場面の続きみたいだ。
 はっきりと乱交である。
 女が一人だけの乱交パーティーである。
 世にそういうものが存在し、そういう趣味を持つ人間がいることは、聞きかじって知っている。
 しかしそんなものは自分とは無縁だと思っていたし、実際に周りのまともな人間でそういうことをやっているなど聞いたことがない。
 そういうことはカタギではない人種の仕切る、我々素人は手を出してはいけない危ない世界だという認識がある。

 しかしその特殊であるとばかり思っていた乱交プレイが、こともあろうに我が家で行われている。
 それも家族がくつろぐべき、ある意味家庭にとって神聖なリビングでだ。
 一家の主である私が全く知らないうちに。
 そのうえ信じられないことには、多人数の男を同時に相手しているのは自分の妻なのだ。

 レイプでないことは一目瞭然だ。
 妻に嫌がる素振りはまったく見られない。
 去年のDVDでの様子とはやはり違っている。
 男たちの命令に、ためらったり、うろたえたり、固まってしまったり、という初心者的な反応を見せることはもう無くなっている。
 性奴隷としては成長したということだろうが、人間としては堕落だ。
 そして、この期に及んでショックを受けたことは、妻が顔を寄せ合っている初老の男と、激しいディープキスをし合っていたことだ。

 男はでっぷり肥えて、モザイク越しにも白髪交じりの頭髪が薄く、頬がブルドックのように垂れていることが分かる。
 腹だけはポッコリと膨らんでいるが、手足は対照的に筋肉がないため細く、見っともない中高年体型をしている。
 まだ40そこそこの妻の歳では、実生活でも相手にする対象ではないはずが、まるで恋人同士のように舌を絡め合っているのには、ビックリさせられた。
 お互いの唇をベッチョリと触れさせ、大きく舌を伸ばして左右にずらし、顔を揺すって角度を変え、鼻やあごや口角までも、下品な音を立てて滅茶苦茶に舐め上げている。
 はしたないまでの舌の絡め合い。
 さっきのアルバムで、良識ある母親然としていた妻の顔が真っ赤に染まり、陶然として互いの口の中への舌の出し入れに熱中している。

 これまでいろんな映像を見たが、ちゃんとしたキスシーンは初めてだ。
 妻はフェラチオやイラマチオなど、もっと過激なことをさせられていたが、キスはなかった。
 いまさらキスシーンなど見たところで、どうってことはないと思ったが、それは違った。
 猛烈な嫉妬心が湧いてきた。
 自分の妻が見ず知らずの年上男性と、愛をかわすような濃厚な口づけに夢中になっている。
 いまさらながら、配偶者である私は置いてきぼりだ。
 このDVDも全国に何百人いるか知らない顧客の連中が見てるんだろう。
 私は夫であるにも関わらず、そいつらと同じ蚊帳の外だ。
 指をくわえて眺めているしかない傍観者のひとりだ。
 一緒に暮らしているのに、自分の妻であり二人の子供の母親である典子のことを、自由に出来ない。
 自由に出来ているのは、どこから湧いたのかわからない正体不明の連中。
 言われるがままに、妻は玄関の土間に、丸裸で土下座をして待っていた。
 それも舌と乳首に洗濯ばさみを挟み込み、バイブとアナル棒を突っ込んだあさましい姿で。
 ことあるごとに連中は真の所有者が誰なのかを、妻にわからせようとしてきた。
 無理難題を妻に与えて、嫌々ながらでも妻にその命令に従わせることによって、妻に夫を、そして家族を裏切らせ、それを自覚させ、深い絶望に突き落とし、もう仕方がないんだと諦めさせ、その連鎖で言いなりにさせてきた。
 それも完成形に近づいたのだろうか。
 妻は自分の意思で、嬉々として、こんな醜い年上の男とのディープキスに打ち興じている。
 俺の知っている典子はどこへ行ってしまったんだ。
 それとも、そんな女など、もともといなかったのか――。

77名無しさん:2018/10/20(土) 19:12:23
19

 妻は自分の顔を男の顔に密着させ、時おり薄目を開いて、男の目を覗き込んでいる。
 ゾクッとするような色っぽい濡れた目つき。
 そして唇を吸い合い、また離して、舌を突き入れてはねっとりと絡めている。

 俺はこんな情熱的なキスを妻と交わしたことがない。
 チュッと唇が触れ合う、ままごとのようなキスだけだ。
 結婚前に唇を吸いあったこともあったが、それ以上どうしていいのか分からなく、結婚後はそんなこともしなくなった。
 その妻がいまは巧みに赤い舌を自在に踊らせて、男の口腔内まで念入りに愛撫している。
 熟練を感じさせる典子のキス。
 その密着度合いは、ふたりの舌先からの唾液が糸を引いて、お互いの間を液体の橋で繋げているほどだ。


「あっ」


 不意に妻がギュッと目をつぶり、動きが止まった。


「う」


 同時に背後にいた男の小さな声がした。
 その男も動きを止めている。
 妻はディープキスをしているだけではなかった。
 バックスタイルで犯されてもいたのだ。

 男は妻の丸いヒップを両腕で抱きかかえたままで、じっとしていた。
 精液が妻の中に勢い良く注入されている最中なのだろう。
 快楽の絶頂にいる妻も、微動だにせずにそれを受け入れている。
 リビングの空間でふたりだけが時計が止まったようになっている。
 周りの男たちは妻のめくるめく快楽がさらに極まるのを助けるように、ゆっくりと乳房を愛撫したり、反り返った背中を撫で上げたり、耳たぶを舐めたりしている。

 長い時間だった。
 どれだけの量の子種が放出されたのだろう。
 心配になるほどの時間。
 しかしやがてそれも終わり、妻の仰け反っていた顔がガクッとうなだれ、直前までキスをしていた初老の男の胸に埋まった。

 背後の男が妻の身体からもぞもぞと離れる。
 それまでじっとしていた反動のように、妻の裸の背中が二三度小さくうねった。
 快感の余韻がさせる肉体反応。
 妻を味わった男の萎えたシンボルの先から白い体液が垂れている。
 すぐさま空いた妻の後ろの空間に、まるで満員電車で席が空くのを待っていたかのように素早く別の男が入り込み、さっと挿入を果たした。
 その男のピストンに、あっあっ、と声を出す妻。
 一度極めて満ち足りた筈の妻の身体が、また追い上げられていく。
 熱い吐息が漏れ始め、またあられもなく喘ぎだす。

 自分とのセックスでは、あまり喘ぐことのない妻だった。
 こんなに激しく喘ぐ妻は直接見たことがない。
 見るのは全部DVDでだ。
 そのせいなのか現実感がない。
 もしかして双子がいて、そっちがDVDに出て・・・。
 バカバカしく突拍子もない仮説。
 しかしそんなことが浮かんで来るほど、普段の妻とDVDの中の妻は違っている。
 信じられない。
 信じたくない。

 男は妻のヒップの柔らかで張りのある感触を楽しみながら、グイグイと強いピストンを送り込む。
 これは例のソファ中央にいたスポーツマンタイプだ。
 キスの相手の初老肥満オヤジは、胸のところにある妻の顔を誘導して、自分の股間にあてがった。
 ためらいもなく口に含む妻。
 男のものは半勃起くらい。
 締めた唇から外側の男根は、肉が緩んで漲りを見せていない。

 もう妻の身体に全員が精を放って二巡くらいしているだろう。
 早送りで飛ばし見しただけでも、最低そのくらいの計算になる。
 しかし妻も男たちも飽きることなく行為を続けている。
 爛れた肉欲の宴。
 狂った性の饗宴だ。
 そしてその中心に妻がいる。
 もう自分の妻であり子供たちの母親であることをやめたのか。
 そうとしか思えない妻がいる。

 快感の高まりに、こらえきれずに含んでいた肉棒を吐き出して、激しく喘ぎ声を響かせる妻。

78名無しさん:2018/10/20(土) 19:13:14

「人妻の生活もストレスが多いでしょ、奥さん?」


 乳房を玩んでいた男が声をかける。
 もう何回も欲望を遂げて、満足しきった余裕の口調だった。
 さっきの角刈り不動産投資家風の男だ。
 言いつつ妻の首輪の鈴に軽く触れて、チャランチャランと音を鳴らす。


「たまには犬にでもなって発散しないと、やってられないでしょ? わかりますよ、奥さん」


 私はこの全裸の男たちは妻に憧れているんだと思っていた。
 ファンの連中なのだと思っていた。
 去年、妻を地獄に追い込んだ奴らとは、いくぶん色合いが異なるんだと思っていた。
 だが、違った。
 同じだ。
 男の言葉には嘲りがある。
 人間として見ていないような蔑みがある。
 結局、こいつらは全員凌辱者たちなのだ。

 旦那もいて子供もいて幸せな人妻。
 それをセックスの虜にさせ、抜け出せないように変えて、思いのままに操る。
 その家庭を崩壊させることで、満足を得る。
 その家庭がどうなろうと知ったこっちゃない。
 家族がどれほどの辛い思いをしようと、どこ吹く風なのだ。
 むしろそれを楽しんでいる。
 ひどく壊れれば壊れるほどいい。
 その経過を逐一追って、派手なぶっ壊れっぷりを楽しむ。
 そんな外道たちだ。
 そしてその外道たちに妻は取り囲まれてしまっている。

 しかし、結局そんな奴らを呼び寄せてしまったのは、妻ということになるのか?
 口では再調教の誘いに一切乗らなかった妻は、ノーパンという行為で受け入れる意思を示してしまった。
 もう歯止めがきかないくらいに、妻の肉体は変態セックスの快楽が擦り込まれてしまっているということなのか?
 それとも、どのみち目をつけられてしまえばパンティを穿いてNOの意思を示そうがどうしようが、結局奴らの言いなりになるしかないという哀しい諦めがあっての決断だったのか。

 あれこれ考えたところで、現実に妻はまた去年の異常生活に逆戻りしてしまっている。
 今はただ、残された映像の中に、妻の失踪の理由と行く先のヒントを求めるしかない。


「まさに犬だな。それも欲張りなメス犬だ。もう朝から何回やったっけ、奥さん?」


 反対側で乳房を揉んでいた男がからかう。
 顎の出た細長い顔に、ふちがオレンジの派手なメガネをかけて、髪が茶色の一人掛けソファにいた遊び人風の男。
 いまは妻の硬く尖った赤い乳首を重点的に責めている。
 それをローアングルでカメラがとらえる。

 真菜が産まれた時に、母乳で育てるつもりだった。
 だけど思ったほどにはお乳の出が悪く、粉ミルクに切り替えた。
 明弘の時も母乳に再チャレンジしたが、やはりミルクのお世話になった。
 そのためか、妻のバストは大きさはないものの、型崩れはしていない。
 膨れ上がった乳頭もこの年齢にしては綺麗だと思う。
 その真菜と明弘が吸った乳首に、男が吸いついた。
 あああ、と妻の喘ぎが高くなる。


「今日は七人の男を相手して、十五発以上の中出しを食らってる。それも旦那が会社で、子供たちが学校へ行ってる間の我が家のリビングで。どんな気分なの?」


 もう一人がそう言いながら首筋を舐めた。
 例のIT社長風だ。
 ヒイッと妻が身をすくめて、切羽詰まった声を上げる。
 返答はせず、後ろから送り込まれるピストンに、腰のリズムを合わせている。


「答えてくれなくても、奥さんがそういうの大好きだって知ってるけどね。家族を裏切ってるのが最高に気持ちいいんでしょ?」


 ワハハハ、と揃う男たちのバカ笑い。
 顔をしかめた妻の目尻から、涙が一筋こぼれ落ちた。
 その口はまた初老ハゲオヤジのいち物を咥え込んでいる。
 それはさっきよりも元気よく脈打ってるようだ。
 妻の両腕は誰かしらの怒張をしごいていて、ずっとふさがっている。
 全身全霊で性奉仕に邁進する妻に、浴びせられる嘲笑。

79名無しさん:2018/10/20(土) 19:14:30

 背後の男はピストンをゆるやかにして、妻に会話するゆとりを与えているつもりのようだ。


「でも奥さんが戻って来てくれるようになって、皆喜んでますよ」
「そうそう。綺麗で清楚なイメージなのにやることはエグい。何でもありな人妻さん、って大人気だったのに、勝手に引退は通りませんよ」


 男たちは妻の身体をそれぞれに弄くりながら、上機嫌で口々に喋り始めた。


「でも最終決定は来年の夏なんだってねえ、奥さん? てっきり完全復帰って思ったけど?」
「平凡でつまらない家庭に戻るのか、それとも刺激に満ちた奴隷生活に戻るのか。一年間、自分の心と身体に向き合って対話する、って聞きましたよ、奥さん?」
「あんな中途半端に連れ戻されたんじゃ、奧さんだって気持ちの整理が付かないよね。心はともかく、もう身体は半分、いや九割がた変態セックスに行っちゃってたんだし」
「せっかくキツいケジメをつけて復帰を許して貰ったんだから、一年と言わず、さっさと永久奴隷宣言をしちゃったらいいじゃん。奥さん? 好きなんでしょ? こういう遊び?」


 IT社長風男は言いながらも、答えようとしない妻の火照った女体を面白そうに撫であげ撫でつけ、煩悩の渦に陥れようと、反応を窺いながらあれこれ刺激するのに余念がない。


「そうなんだけど、ホレ、あいつがうるさいんじゃないか?」
「あっ、旦那か? 典子を手放したくなくて必死みたいだもんな。絶対に離婚はしないなんて、粋がっちゃって」


 また下卑た笑いが自然に湧いた。


「あの情けない亭主ね。間抜け面をビデオで見ましたよ」
「典子が誰のものか、未だにちっともわかってないんですから、哀れですな」


 それまで淡々とプレイに興じているように見えた妻が初めて辛そうに顔を俯けた。
 何とか続けていた口の動きも止まってしまう。


「へへっ。きっと旦那はこういうとこも知らないだろうなあ」


 言った男が、膝を屈めた立ちバックの姿勢になっている妻の脇腹を、さらりと撫でた。
 とたんに息をつめ、ビクビクっと反応する妻の裸体。


「奥さんは脇腹が弱いんだよね。あと首筋も。耳もそうだよね。自分の女房の身体の開発を怠っていちゃあ、寝取られて当然だ」


 大笑いする男たち。
 またこいつらは夫である俺をとことん馬鹿にして喜んでいる。
 こんな連中に失礼だと腹を立てても仕方がないが、薬で抑揚のなくなっている筈の俺の感情がどんどんささくれ立ってくるのを感じる。


「まあ、旦那の顔も立ててやらなきゃならないところが、人妻の辛いところですよ。いったんは元のさやに納まって、大騒ぎになるのを防ぐ。典子の機転です。いずれにせよ、来年の夏には甲斐性なし亭主のもとを飛び立って、我々の望む世界に羽ばたくことになるはずだ。それは決まったも同然ですよ」
「本当ですね。後ろから他人棒をねじ込まれて、こんないい顔をしちゃってる。もう帰る場所なんてありゃしません。人妻でありながら、あれだけのことをしちゃってる訳ですから」
「知らぬは亭主ばかりなりですか。ほんの少しばかり気の毒にならないでもない。にしても、女房を支配する力もないくせに、夫婦仲が元通りになるなどと淡い夢ばかり見てるアレは真性の愚か者ですな」
「この一軒家も随分頑張って建てた、あいつの自慢のものらしいですよ」
「我々から見たら犬小屋以下のものだ。ハハ、発情したメス犬が一匹住みついていて、ちょうどピッタリですよ」


 男たちはからからと天を仰いで笑いあう。
 バカみたいに機嫌が好いのはお気に入りの人妻を自由にしていることに加えて、酒の酔いも手伝っているようだ。
 妻は連中から、からかうように身体のあちこちをペチンペチンと叩かれながら、屈辱に耐えるように下を向いてじっとしている。

80名無しさん:2018/10/20(土) 19:15:15
20

「それじゃ奥さん、ビデオに出るまでの性体験を聞いておきたいな。さほど男を知らなかったっていうのは本当?」
「旦那との夜のほうも少なかったってねえ。いまじゃ信じられないけど」
「オモチャも初体験だったんでしょ? だからハマッっちゃったんだって?」
「ね? どうなのよ? 経験人数? 教えて?」


 その問いかけに、目を閉じて顔を上気させたまま、恥ずかしそうに口の中の男根をモゴモゴするだけの妻。
 初老ハゲデブが妻の顔を両手で挟みつけ、腰を引いて勃起を妻の口から引き出す。
 そうして返答に支障がなくなっても、妻は黙ったままだ。
 後ろのスポーツマンタイプが業を煮やしたようにピストンを速める。
 たちまち妻の喘ぎが大きくなり淫らになった。


「はっ、はっ、はっ」


 たまらず声が洩れる。


「ビデオに出る前、教えてよ。結構遊んでたとか?」
「つっ、つっ、くはあっっ」


 喘ぐだけの妻のヒップに、画面の外から右腕が伸びて来て、強烈に引っぱたいた。


 パッシーン!


 轟き渡る肉の音。
 妻の身体は落雷にあったように大きく跳ね上がった。
 真っ白い臀部を酷く打擲したのは、これまで乱交には直接参加していなかったカメラマンだ。
 この男が調教チームのリーダーなのだろう。


「お得意様の質問にはすべて正直に答えろ」


 ドスを利かせたというのではない。
 だがその語調には凍り付くような底なしの冷たさがある。


「・・・三人です」


 果たしてすぐに妻の答えが返ってくる。


「ほほう。三人ね」
「これは多いのか、少ないのか」
「そのうちの一人は旦那だな。じゃあ後二人は恋人かな?」
「・・・ひとりは大学の時に付き合った人で、・・・もう一人は結婚後に知り合った人です」


 この調教師リーダーがよほど恐ろしいのか、妻は事実をありのままに話している。
 まだ後ろの男と繋がったままのプリリと割れた双臀の尻たぼに、真っ赤になって男の手形がくっきりと浮き上がって来た。


「それは可哀そうだ。奥さんみたいな淫乱人妻が、それで我慢できるはずがない」
「でもちゃっかり一人くわえ込んじゃってるんだね」
「やることやってるね、奥さん」
「じゃあ、ビデオで調教されて、願ったりかなったりってとこかな」
「旦那との性生活はどうなのよ、奥さん?」
「回数多いの?」
「・・・月に一回くらいです」
「そりゃあ、ダメだ」


 男たちは爆笑する。
 笑いながらも、妻の肉体に悪戯するのを忘れていない。
 両乳房は揉まれっぱなし、脇腹も首筋もくすぐられ、耳たぶはベロベロと舐められている。
 誰かが小型のクリ用バイブまで取り出して、妻のクリトリスに押し当てている。


「まあ、舞い戻って来ざるを得ないな」
「奥さんは禁断の悦楽を知ってしまってる。貧弱な性生活じゃあ、どうしようもない」
「旦那は女房を取り返したって、得意満面らしかったけどね。お気の毒」
「でも奥さん、ひと月調教されるの我慢してたんだってねえ。偉いねえ」
「なるほど。以前のことは分かった。じゃあビデオに出るようになってからはどうなの? どれくらいやったの?」


 この質問に、すでに朦朧としかけていた私は、必死で意識を集中させようとした。
 あの狂気の半年、そしてこの新シリーズ。
 私はその間の妻の真実を知らない。

81名無しさん:2018/10/20(土) 19:18:04

 私が見たDVDはむろん全部とは限らない。
 現に『温泉旅行の真実』など、知らなかったDVDタイトルも存在していた。
 妻の口から語られる、当時の状況とは?
 特に失踪した最後の20日間は何をしていた?

 私は薬と映像のショックでフラフラになりながら、ノートパソコンの内臓スピーカーに耳を傾ける。


「・・・どれくらいって・・・」


 妻の顔が辛そうに歪んだ。
 そのまま黙り込みたい様子に見えたが、調教師に対する恐怖がそれを許さないのだろう。
 頬を火照らせて呟くように言った。


「・・・いっぱいです」
「おいおいー」
「ちょっとぉー」


 妻の返答に男たちが嬉しそうに騒ぎ立てる。
 バックで責めている男も、もっとしっかり答えろと言うように、ピストンのスピードを上げた。
 ハアッハアッ、と簡単に喘がされてしまう妻。


「そっかー。なら、もう三桁かな」


 乳揉みをずっと続けてる角刈り男が、妻の顔を覗き込むように身を寄せる。
 その男の肉根は、妻が左手で延々と愛撫を続けているのだ。


「それくらい行ってるでしょ?」


 妻は恥じらうように黙っている。


「まさか」
「いやいや。有り得るね」
「そうそう」


 三桁か、と訊いた男が嬉しそうに妻の瞳を見て、


「奥さんがすぐに入れちゃうの知ってますよ。それも全部生入れ、中出し。スケベだよね?」


 妻は屈辱に耐えるかのように、ギュッと瞼を閉じ、唇を噛み締めた。
 だがその切なげな表情は、絶頂で込み上げる快感をこらえる表情と、とてもよく似ていた。


「まあ、ウィスキーの味を覚えたら、いまさら牛乳なんて飲んでいられない。よくわかりますよ、奥さん?」
「しかし奥さんの場合、嗜む程度じゃなくて、アル中じゃない?」
「大酒豪ですな。底なし、底なし」


 アハハと笑い声がまた揃う。
 どこまでも馬鹿にされる妻。

 いずれにせよ三桁なんて有り得ない。
 妻を辱めるために言っていることだ。
 夜の生活は、いたって慎ましい妻だったのだ。
 それは俺がよく知っている。
 自分に言い聞かせるしかなかった。


「あっ、あああっ」


 不意に妻が声を上げた。
 後ろの男が猛ピストンしている。
 いよいよ耐え切れなくなったらしい。


「あ・・・」


 その言葉を残して、妻の上体が仰け反った。
 またも精液を注ぎ込まれる妻。

82名無しさん:2018/10/20(土) 19:18:43

 性器で繋がり、体液交換を行っているふたりは、時が止まったように硬直している。
 妻のうつろな目は、渦を巻くように訪れる女体の快楽だけを見据えているかのようだ。
 周りの男たちは、恍惚状態にある妻の色んな性感帯をまたせっせと刺激して、更なる高みに浮かび上がらせるのを手助けしている。
 こうして真面目で奥手だった人妻を、どんどん淫乱な色欲の化身に変えていくのが、このサディスティックな男たちにとっては無上の喜びであるらしい。

 長い長い射精の時間。
 男がやっと欲望を解放したペニスを引き抜くと、妻の股間からは白濁液がどっと零れ落ちた。
 踏ん張った妻の程よい肉付きの太腿に遮られ、膣口自体は見えなかったが、溢れた子種は辺りに付着し、下腹部に繁っている妻の黒々とした陰毛までを白濁色に汚していた。

 いきなりカメラが動いて妻の後ろに回り込む。
 モザイクなどという邪魔物はない。
 無修正ならではの遠慮のない秘部のどアップ。
 これまで片時も休むことなく、膨れ上がった男たちの勃起を中に迎え入れていた妻の蜜壺は、精子で溢れかえっていた。
 カメラはまた動き、前屈みのまま快楽の余韻に打ち震える、妻の側面に回った。
 そうやって移動しながら大写しで、他人棒で逝った直後の女の様子を克明に記録している。
 肉便器という表現があるが、いまの妻がそうではないというのなら、他に該当する者などいないだろう。
 これが私の妻なのか。
 犬用の首輪をつけて鈴を鳴らして、後ろに誰もいなくなった空虚さを寂しがるように、低い姿勢で丸々としたお尻を、ねだるようにくねらせている、これが私の妻なのか。
 百歩譲って私の妻だとしよう。
 断腸の思いで認めるとしよう。
 しかしこれは子供らの母なのか。
 真菜と明弘の母親なのか。
 一緒に子育てに気を配って来た尊敬されるべき母親の姿なのか――。

 膝が落ち、腰砕けになって沈み込んでいる妻の裸のお尻を、新たな男が後ろから両腕で挟み込んで、元のように持ち上げ直した。
 また妻はセックスをするのだ。

 今度の相手はさっき革コートを着ていた男。
 今は全裸になっている。
 カメラを構えるリーダーの片腕らしき男である。
 この男で最後の〆ということらしい。

 その股間にはそれまでとは比べ物にならない魁偉な肉棒。
 ビンと臍に付くほどに反り返っている。
 とにかく大きい。
 20センチはおろか、30センチ近くあるのではないか。
 茎も太い。
 特に亀頭の巨大さには圧倒されるばかりだ。

 去年のAV制作会社の連中は、平均してそれほどガタイの飛び抜けた奴はいなかった。
 意外と普通の体格が多く、私と殴り合いになった短髪の男と、カメラを構えていた男が少しデカかったくらいだ。
 やってることは反社会的で異常だが、見かけはサラリーマンに近かった。

 ところがいま妻の背後にいるこの男は異様だ。
 この男は『サオ師』ではないのか。
 アダルトサイト巡りで読んだことがある。
 AV女優や風俗嬢、あるいは素人女性相手でも、おのれの生勃起一本でイカセまくり、快楽で屈服させて、奴隷にしてしまう。
 そういう職業があるという噂だ。

 AV社長の電話によれば、新たに妻に手を伸ばしてきたのは、ファンということだった。
 それも莫大な財産を持つファン。
 さっきのDVDでの○○ホテルのロビーでの会見でも、現れた身なりの良い紳士は、とある方の代理人、と名乗っていた。
 おそらく黒幕は表にも裏にも豊富な人脈を持つ、強力なフィクサーなのだろう。
 その世界のスペシャリストを熟知し、しかもいくらでも雇うことが出来る資力を備えているのだろう。

 無力感が身体を突き抜ける。
 どうやら戦う相手は強敵らしいとわかってきた。
 なのに失踪の原因をつかめそうな情報はない。
 敗北感のみが込み上げる映像ばかりだ。
 一気に眠気が――いや、眠気はずっと感じている。
 既に脳がおかしいようだ。
 起きていながら寝ている。寝ていながら起きている。
 不思議な状態。
 もう私の大脳はレッドゾーンを振り切っているらしい。

83名無しさん:2018/10/20(土) 19:19:58
21

 サオ師は妻の背後に立って、丸々と張り詰めたヒップの両丘に、それぞれ五本指を喰い込ませながら、荒々しく怒張を押し込んだ。
 精液と愛液で濡れそぼっているにも拘らず、巨大な肉棒の侵入は妻に苦悶の表情を強いる。
 妻の切羽詰まった顔には、メリメリメリメリ、という擬態語をはっきりと読み取ることが出来た。
 根元まで全部受け入れ終わった妻は、串刺しにされた獣同然に、身動きもならず目を白黒、口をパクパクさせるだけになった。


「しっかり答えろよ。今日は日頃お世話になっている方々への接待だ。それを忘れるな」


 カメラを構えたリーダーが重々しく言う。
 いまは繋がったふたりを真横から撮っている。
 エラーが出始めたような私の脳裏に、また過去の記憶が打ち出された。


『せめてもの温情として、今後典子が歩むべき道としての私共の考えをお知らせいたします』


 典子の所有主と名乗る男からのふざけた手紙。
 そこにはこうあった。


『今後1年、所有主の利害関係者への接待要員として、自身の意思を捨て完全なる奴隷としての生き方を学ぶこと』


 接待要員・・・。完全なる奴隷・・・。
 それがいまカメラの前で行われていることなのか?


「皆さん、最後の質問コーナーです。何でも遠慮せずに典子に訊いてやってください。誠心誠意答えさせますので」


 カメラの男が言う。
 顧客に対しては同じ低い声だが、いくぶん丁重だ。


「奥さん、いつも旦那とは何してんの? セックス以外で何してんの?」


 浮かれたように一人の男が問いかける。
 巨根を差し込まれた妻は、何とか馴染ませようと呼吸を整えている。
 サオ師はまったく動かず、妻が平常に近い状態でいられるように助けてやっているが、それでも巨根を受け入れているだけで、妻の発情の熱度は一気にギアアップしているらしい。


「な、仲良くしてます・・・」


 喘ぎ喘ぎ妻が言った。
 その返事がまた笑いを誘う。


「仲良く何してんの? 平日は私たちと仲良くしてるし、じゃあ土日は? 土日は何してんの?」
「せ、先週は・・・、娘と三人でホームセンターに買い出しに・・・、あはっ」
「おお、あの娘か。なかなか可愛らしい娘だな。おっとりしてて」
「はひ・・・」


 妻の顔は引きつっているが、すでに劣情に支配され、逆らうことは出来ないようだ。

 家族のことまで全部喋ってしまうのか・・・。
 わかってはいても暗澹としてしまう。
 妻の所有主は俺ではないのだ――。


「息子はどうしてた?」
「はひ・・・、家族一緒に出かけたがらずに・・・、どこか友達と・・・、はひっ、はうぅっ」


 サオ師は自分が動くと妻が快感で半狂乱になることを承知しているようで、代わりの追い上げ法として、妻の肛門から顔を出しているアナル棒の先を摘まんで、上下に刺激を加えていた。

84名無しさん:2018/10/20(土) 19:22:06

「前みたいに温泉はいかないの、奥さん?」
「そんなお金の余裕は・・・、はんんっ」
「奥さんはたくさんの男と乳繰り合って遊べていいけど、家族は寂しいねえ? 悪い奥さんだ。人妻として問題あるよね?」


 言葉と違って、妻をなぶる男たちの口調は喜々としている。


「はいぃぃ・・・もう妻としては失格ですぅ・・・だらしのない不貞妻ですぅ・・・」


 快楽責めの妻はそんなことまで言わされている。


「旦那は一生懸命働いてるんじゃないの? 今この瞬間も? それで自慢の妻を取り戻したって鼻高々なんじゃない? 奪い返した嫁さんが、こんなことされてるってのに?」


 その茶髪の遊び人風の男はクリバイブを強く妻の股間に押し当てた。
 太い肉茎を収めて、肉芽も膨張しきっているのだろう。
 その女の弱点を責められて、妻の裸身が飛び上がった。


「あああぁぁーっ。そ、そんなっ。くひーいぃ!」
「ふふ。ほれ、顔をよこしな」


 男は妻の顎に手をかけて引き寄せると、正面からキスを浴びせた。
 自分からその唇に貪り付いていく妻。
 後ろから深々と貫かれ、乳房を揉みくちゃにされ、両手で男根に刺激を与えながら、会ったばかりの男と積極的で愛のこもったキスを交わす。
 これが、自身の意思を捨て完全なる奴隷としての生き方を学ぶ、ということなのか。


「家事はしっかりやってるのか、奥さん?」
「昔はちゃんとやってましたけど、最近は・・・はひいぃー」
「サボってるのか?」
「一日中ローターを入れられたり、クリキャップを付けさせられたりで・・・」
「ハハハ、エッチなことしか考えられなくなったか。そんなことじゃ子供の教育もダメだろ?」
「はひ・・・。あっ、うっ、ううっ」


 サオ師のアナル棒の出し入れが、早くリズミカルになった。
 男たちは促すように、妻の昂奮で赤みを帯びた柔肌への愛撫の手を強めていく。


「近所づきあいとかちゃんと出来てるの? 家を預かる主婦として大事だろ、そういうの?」
「ま、前に変な格好で歩いているのを見られてから、気まずくなってぇ・・・、ハアハア」
「ああ、あれか?」


 みんなが揃って吹き出した。


「あれは仕方がない。透け透けワンピースに、真っ赤な穴開き下着で出歩かれちゃ、頭がおかしいんだ、って誰でも思うでしょ?」
「あいつ魂消たような顔してたよなあ。あれ、隣の家の爺さんなんだってな?」
「そのあと出会ったのが、三つ離れた家の女子高生だろ?」
「Uターンしてずっと後をつけて来てた車。近所の食い物屋のなんだってね? へへへ・・・」
「ところが、奥さん? 起死回生のアイデアがあるようですよ。期待して待っててください」


 また男たちが笑い囃す。
 乳首を摘まんで引っ張ったり、首からあごへ撫で上げたり。
 巨根を胎内に収めているだけで身も世もないほど追い上げられている妻の官能を、更にどんどん容赦なく煽っていく。

85名無しさん:2018/10/20(土) 19:22:44

「しかし四十近くにもなって、家事もダメ、教育もダメ、近所づきあいもダメじゃ、どうするんですか、奥さん?」
「そうそう。どうやって生きていくんです?」
「自分の長所は何ですか、奥さん?」
「はっきりとその口から聞きたいですな?」


 たたみ掛けて来る男たち。
 なにか決まりごとが有るような男たちの口ぶり。
 妻は顔を赤らめてもじもじしているが、このタイミングでサオ師がやっと腰を動かし始めた。


「あっ! ううっ!」


 少し腰を使われただけで、妻の慌てぶりが倍加した。
 カメラを持っているリーダーらしき男が何か合図したらしい。
 妻の快感に潤んだ眼が一瞬レンズを見た。
 そしてまた首をうなだれて、炎を吐くような息遣いで告げてゆく。


「わ、私は、妻も母親も失格ですぅ。何もできない駄目な女ですぅー。ああああ、っくくく」
「いや、みんなに褒められることがあるでしょ? さあ、奥さん? 得意なことは?」
「言って? 言って?」


 男の腰のリズムで揺らされる妻は、ギュッと目をつぶって、無理やり白状させられる罪人のように身震いし、観念の臍を噛む。
 その被虐に耐える様は、肉欲に溺れた一匹の白き獣と化していた妻を更に美しく、格段に色っぽく見せている。

 やがて男に背後から突かれて、上がってきたあごを大きく開き、はっきりと妻が言った。


「はいぃ・・・、おまんこです・・・。私はおまんこするくらいしか取り柄がありません・・・。誰でもいいからチンポをおまんこに突っ込んでくださいぃ・・・。あふんっ、あはっ、はがっっ! ひいいいいーいぃ!」


 男たちは大受けだった。
 ついに言わせてやったというガッツポーズも出ている。
 サオ師は妻の言葉の途中から、とうとう今日のフィナーレだという感じで大腰をつかっていた。
 妻はその猛烈なストロークを受け、もうとっくにクタクタなはずなのに、白い咽喉を仰け反らせ、口から泡を吹き、身体中を朱に染めて、ああーっああーっ、と快楽の絶叫を迸らせている。

 おまんこか・・・。
 げんなりする自分がいる。
 気力なんかとっくにない。
 それでも脱力していく。
 こんな言葉を口にする妻など、想像したこともなかった。

 まともな女性の使う言葉ではない。
 私の認識の中ではそうだ。
 AV嬢が、お手軽に購入者の興奮を呼び込もうと、作品の中で連呼する卑猥語。

 妻は充分にその意味もその卑俗さも分かっていて口にしたようだ。
 家庭で出て来る単語ではない。
 我が家で使ったことなど結婚以来一度もない。
 妻が女性器を示す必要がある時は、せいぜいで《アソコ》くらいである。
 男のものも《アレ》とか《ソレ》とか、頑張っても《オチンチン》までなのだ。
 それをチンポとは。

 妻はかなり抵抗していたみたいだが、言葉自体は淀みなく出てきた。
 日常的に《おまんこ》《チンポ》が飛び交っている環境にどっぷり浸かっていた気配がある。
 妻本人も口にするのが全くの初めてという感じでもなかった。
 単に言葉の問題だが、妻がどこまで壊れているのか、恐ろしさを感じてしまう自分がいる。

86名無しさん:2018/10/20(土) 19:24:34
22

 サオ師は妻の上体を前に倒して床に手をつかせ、後背位で本格的に責めたて始めた。
 パシンパシンと肉のぶつかり合う音は少し湿っており、汗や淫汁が飛び散っている。
 今日一番の本格的交合だ。
 後ろから突かれる度に乳房が揺れ、男と繋がったその光景がリビングの雰囲気をエロ一色に塗り替えた。
 まるで玄人の白黒ショーのように、見世物としても圧倒的な迫力がある。
 プロのサオ師のバックからの責めを、肉奴隷への道をひた走る妻は、プリプリと肉の弾力を感じさせる双臀をグンと持ち上げて、真っ向から受けて立っている。
 周りの男たちはサオ師に敬意を表して、妻の裸体から手を放し、模範授業を見詰めるように、自分の勃起をしごきながら、取り巻いている。

 サオ師は妻の股間に手を這わせ、クリトリスをむき出しにしたようだ。
 そして赤く充血した肉芽を指で摘まんで捏ね始めた。
 ぴくぴくと身体を震わせた妻は、たまらず自分からヒップを強く男の腰に押し付け、くなくなと振り始める。
 その動きは男のピストンにぴったりとリズムを合わせ、この体位での妻の経験値の高さを思わせた。

 横からカメラが近づき、妻の耳元で何か囁いた。
 もはや自制もきかず夢中で腰を動かし続けている妻は、何度も頷いている。
 男の容赦ない強烈なストロークが始まった。
 後ろから押された水鉄砲のように、妻の口がまた大きく開き、悲鳴が宙に飛び出してくる。


「ああー、おまんこいいよおー! おまんこいいよおー!」


 それはヨガリ声というより絶叫だった。
 大声コンテストに出場したみたいに、腹の底からのボリュームを放っている。
 これも奴隷の作法なのだろうか。
 妻はイカされながら、こう言えと仕込まれてしまったのだろう。


「ううううぅー、おまんこいいよおぉぉー!! おまんこいいよおぉぉー!!」


 妻の声はコーラス隊に入れたいほど、澄んで良く通る。
 それが動物の様に太い声になっている。
 リビングの壁など通り越して、隣近所まで響きわたっているんじゃないかというくらいの大音声だ。
 話し声とは全然違うトーン。
 まさに大人の女の非日常の吠え声を披露してしまっている。

 時間によってはわが家の前の通りは小学校の通学路になる。
 その小学生たちにも聞こえるほどの大絶叫。
 子供たちはこの声を何と思って聞くだろうか?

 妻の情けないメス犬っぷりに、男たちの淫情が滾って来たらしい。
 誰かが背中に放った。
 もう一人は髪に出した。
 またもうひとりは顔を汚した。


「くっ、ああああっ! あぐぐぐっ! むむむうん! あがっあがっ、がはっ!」


 アクメ声はもう言葉を為さなかった。
 こんなセックスシーンは見たことがない。
 なにより女の本気の反応が凄すぎる。
 そして、プロのサオ師に、突き出したヒップを思うさま蹂躙されているその女は、私の妻なのだ――。

 典子は全身の筋肉を引き攣らせ、数限りなく吼え、逝き続けている。
 イカセ地獄と言っていいだろう。


「ああっ、いいっ! ああっ、いいっ! してっ! してっ! もっと! もっと、おまんこしてっ! ああっ! いくっ! おまんこ、いくっ! いくっ! ああ、またぁっ! もっと! 奥までっ! チンポで、かき混ぜてっ! 何もかも忘れさせてっ! ああっ! いいっ! いくっ! おまんこ、いくっ! あああ、いくいく! もうっ! またいっちゃうのぉ! いくいく! おまんこ、いくっ! おまんこ、いっくううううーぅぅ!!!」


 妻が最終的に大小数十回アクメを極めたところで、やっとサオ師は腰の動きをやめた。
 ぐったりとして肘でやっとひくひく震える上体を支えているだけの妻を抱き起し、放ち立ての男の一人が萎えかけの陰茎を口元にあてがう。
 快楽の極みで疲労困憊でも、やはり躾が行き届いていると見え、妻は素直にお掃除フェラに勤しんだ。
 待ちきれない他の男たちが、横から横から妻の口に肉棒を差し込んで来る。
 けして大きくはない口を巧みに左右に使い、交互に舐めしゃぶる妻。
 さらに一本増えるのを、濃い精液が垂れて殆んど塞がった瞼の隙間から認め、すかさずそちらにも吸いついてゆく。
 そして顔面にこびり付いている精子を、指ですくって口にせっせと運ぶ妻。
 精液の掃除なんか、歯を磨くのと同じくらいやり慣れてる、とでも言わんばかりの自然なしぐさだ。

87名無しさん:2018/10/20(土) 19:25:15

 ひと通り作業が終わると、妻の上体は床に突っ伏した。
 快楽で力が入らずに床に顔から胸まで崩れ落ち、男の手で支えられている下半身だけが男としっかりと繋がった状態で立っている。
 横から食み出している乳房の先端が痛いほどにいきり立っていた。

 一方、驚いたことに、サオ師はまだ放っていない様子である。
 さすがと言えた。
 まだ剛直が妻の肉壺の奥深くに突き刺さったままなのだろう。
 倒れこんだまま呼吸のために上半身が微動しているだけの妻。
 顔の精子はきれいにしたが、その身体中に男たちの欲望の飛沫がかかり、黄白く肌を汚している。
 ボロ雑巾の様な女体。
 大切な妻の残骸だった。

 それをカメラは移動しながら、あらゆる角度から克明に撮っていく。
 とくに顔は非情なまでに大写しで、長回しで撮られていた。
 これなら街で偶然出会っても、それとわかるかも知れない。
 お尻を突き上げた卑猥かつ滑稽なポーズを強いられている妻は、しかしうっとりと目を閉じ、幸福そうな表情で静かに息をついている。
 肉の快感を貪り、よくよく噛み締め、味わい尽くし、そして満ち足りた。
 そんな表情だ。
 この快感が味わえるなら、夫も、子供も、家庭も、全部捨てたってかまわない。
 菩薩のように穏やかで、雑念を取り払った後のような妻の顔が、そう言っている気がして、薬の甲斐もなく私の心は恐怖で震えていた。

 頬を床につけ、こちらを向いた妻の顔の大アップ。
 それだけを映すディスプレイを、ただ茫然と眺める自分・・・。
 すると画面の上から大きな足が降って来た。
 男の裸足。
 まず妻の耳が潰れ、次に顔がひしゃげた。
 目鼻立ちのはっきりした妻の顔がいきなり猿のようになる。
 妻は身悶えするが、体重をかけて強く踏みつけられて、逃れようがない。
 ひょっとこの様に伸びた唇から、ヒィー、という苦し気な、か細い悲鳴が漏れた。

 この連中は妻のことを最初から人間扱いしてきていない。
 それはこれまでの数々の映像が証明している。
 くそっ。
 何度も妻を無茶苦茶に扱われ、麻痺してきた部分もある。
 しかし怒りはぶり返す。
 俺の妻なんだぞ!
 どこかで歯車がおかしくなって、妻は男たちの遊び道具のようにされている。
 だが、たとえそうであっても、この20年、一緒に子供を育て、家庭を守ってきた事実は消えない。
 こいつらに好き勝手にされて良いというものではない。
 立派に暮らしてきた配偶者だ。
 その妻を、こいつらは犬だのなんだの、家畜以下の扱いをしているじゃないか!
 去年、手を切らせたっていうのに、またしつこく手を伸ばし、嫌がる妻をめちゃくちゃにしている。
 妻の意思はどうなる?
 無理やり言うことを聞かせようとしたって、うまく行きはしない。
 奴隷だって?
 この21世紀の文明国に?
 私の妻は愚かではない――。

 そのとき薬で痺れた私の脳は、突然脈絡のない記憶を甦らせた。
 まるでクラッシュしたパソコンが、誤動作で全然別のデータを呼び出したかのように。


『私、典子はこれからの人生をご主人様の性奴隷としてどんなことでも受け入れます』


 なんだ?
 この声はなんだ?
 妻の声だ。
 幻聴か?
 いや、聞いたことがある。
 実際に妻がそう言うのを聞いたことがある。
 DVDだ。
 車に隠されていたDVD。
 裸で我が家の台所に立って、間違いなくそう言っていた。
 言っていたんじゃない。
 読み上げていた。
 男に書面を読み上げさせられていた。
 ただの書面じゃない。
 そうだ。
 奴隷契約書だ。
 そして妻はその契約書にサインまでしていた。
 本名で苗字も名前も書いていた。
 それをビデオで撮られていた。
 妻が奴隷になることなんて。
 いや、既に奴隷になってることなんて。
 去年の段階でとっくに終わってることなんだ。
 妻は連中の奴隷になると去年はっきりと宣言していた。
 俺はなにを無様に、独りで悪あがきを続けてるんだろう?

88名無しさん:2018/10/20(土) 19:37:25
23

 妻の顔を情け容赦なく踏みつけているのは、カメラを構えた調教師リーダーのようだ。
 手を伸ばしてそのカメラで、妻の無惨な顔を変わらず撮影している。
 やつの低い声が聞こえてきた。


「奴隷になる意気込みは前回見せてもらった。もう家族も家庭も未練はない筈だ。遠からずお前はこの家を離れ、完全なる奴隷への道を歩みだすことになる。そのときには、お前の人妻という肩書は外れる。人妻というバリューが剥げ落ちても、お客様に喜んで頂ける女にならなくちゃいけない。わかるな?」


 男は足をより強く踏みつけた。
 妻の顔が歪み、這いつくばった身体が苦痛に悶える。


「わかるな?」


 感情のない声の念押しに、


「ぐぎっぃぃ、ははひぃ・・・」


 首の動かせない妻が懸命に返答する。
 足音や影が動き回っていることが、気配で分かる。
 どうやら客の男たちは代わる代わるシャワーを使いに行っているらしい。


「静かに黙ってセックスをすれば良いというものではない。自分がどういう状態か、自分がどれくらい感じているのか、どれほどイキまくっているのか、自分の口で説明していく必要がある」


 男は言葉を切った。
 また頭蓋骨に圧力が加えられたのだろう。
 妻の顔が、アッ、という苦悶の表情に変わった。


「喘ぎ声もアンアン言ってるだけでは駄目だ。イクということをハッキリと伝えろ。それで見ている人も喜んでくれる。さっきのラストの喘ぎはなかなか良かったぞ。だが言われて思い出すようじゃ、まだまだだがな」


 男は今度は、北国の子供が雪玉を靴裏で転がすみたいに、妻の顔をボールのように足裏で円を描いて捏ねまわした。
 あちこちひしゃげ、汗と精液の残りの付着した乱れた髪が至る所に張り付いて、妻の顔は落ち武者の生首の様な悲惨な有り様だ。
 活を入れるかのように背後のサオ師が、ドン、とひとつだけ大きく腰で突いた。
 ククククぅー、と妻が呻いて、またアクメを貪ったようだ。
 カメラが動くと、別人のように見事に満ち張った妻のヒップが映り、ピクピク痙攣していた。
 まだアナル棒が豊かな臀肉の谷間から飛び出ているのが見える。

 またカメラを戻し、妻の顔を映して、調教師が言う。


「で、お前は何だったかな?」


 相変わらずの抑揚のない低い声。


「教えただろ?」


 声を荒げるでもなく、しかし凄味は充分だ。
 サオ師がまた督促するように、後ろから腰をひと突きする。


「あうあぁ〜! お、おまんこ奴隷です・・・」


 ――おまんこ奴隷だと?


 聞き慣れない言葉にギョッとする。


「そうだな。そいつは何をするんだ?」


 妻は憑かれたように必死で唱えていく。


「はいぃ、おまんこ奴隷は、命じられればどこででもおまんこを露出します」
「命じられれば誰とでもおまんこいたします」
「命じられれば何回でもおまんこいたします」


 耳を疑うような言葉を並べ立てる妻。
 そんな妻を素足で踏みつけながら、聞き入っている調教グループのリーダー。

89名無しさん:2018/10/20(土) 19:42:49

「うむ。お前はその言葉を使うのを嫌がっていたらしいが、これからは一番身近になる言葉だぞ。いつでもどこでも、おまんこおまんこ、と唱えなければいかん。わかってるな?」


 返答も待たず、反動をつけて妻の顔を踏み潰す調教師。


 ギャッ


 と明らかな悲鳴が聞こえた。
 妻が理解したかどうかを確認するかのように、しばらく動きを止める男。
 妻も踏みつけになりながら息を殺している。


「で、旦那にお前がおまんこ奴隷だということは知らせたんだな?」
「はいぃ、知らせました・・・」


 妻は鼻声とも何とも言えない、情けない声になっている。


「いつだ?」
「昨日です・・・」
「どうやって?」
「カードを残しました」
「それは今あるか?」
「旦那が仕舞い込んでしまったので今はありません」
「じゃあ、今夜も旦那にメッセージを残せ。いいか。頭をしぼって書くんだぞ」
「はいぃ、頑張りますぅ・・・」


 サオ師も少しずつ腰の動きを復活させている。
 いよいよ妻の中に出すようだ。
 妻の口調が徐々に上ずり、固定された頭以外の裸の胴体がウネウネとくねり出した。


「あの・・・、もし本当にバレればどうすればいいか・・・?」
「お前の旦那は鈍いから、バレたりしない。それに偶然そうなったという文章を工夫しろ。もう毎日イキ狂いすぎて知能も衰えてるだろうが、お前でも半日頑張ればなんとかなるだろう。チンポ惚けの頭じゃ大変だろうから、今夜はクリキャップは許してやる」


 二人の会話の意味がつかめない。

 カード?
 メッセージ?
 そんなもの妻から貰った覚えはない。
 おまんこ奴隷になったことを知らせる?
 なんのことだ?

 そして聞き捨てならない言葉。
 妻はさっき言っていた。
 一日中ローターを入れられて、クリキャップをさせられて。
 そんなことをさせられていたのか?

 妻は奪還から半年ほど、体調が不安定だった。
 むろん半年間の狂気の生活での後遺症だと私は考えていた。
 心療内科の医者も同意見だった。
 まさか、そんな冗談だろ?

 たしかに連中は去年もDVDの中で「朝までローターは入れたままだ。いいな?」という風に妻に命令していたことがある。
 ということは、去年も妻は秘部にローターを突っ込んだままで、家事をした経験があるということだ。
 DVDでは一度だったが、何度もさせられていたのかも知れない。
 ローターをアソコに入れた変態的快感を味わいながら、普段通り食事の用意をし、子供や私と一緒に食卓を囲んでいた。
 そして学校や仕事の話に花を咲かせた。
 信じたくはないが事実だろう。

 奪還後にはローターに、クリキャップまで?
 いや、単に妻が言ったのがこの二つなだけで、もっと色々されている。
 そう考えるのが論理的だ。

90名無しさん:2018/10/20(土) 19:45:47

 私は少しでも余計に稼ぐために遅い残業を繰り返していた。
 家に帰れば、私のために妻が取っておいてくれた食事を急いで食べ、風呂に浸かるのもそこそこに、睡眠薬をあおって、ベッドに飛び込んでいた。
 だから平日は妻が具合が悪そうでも、あまり無理せずよく休めよ、と声をかけるくらいで、ほとんど会話をしていない。
 もちろん身体には触れてもいない。
 土日は比較的マシそうだったが、それでも辛そうな時もあった。
 一体何をされていたのか?

 画面では、サオ師がとどめの一発を決めようとして、大きく腰を使っていた。
 妻はまだ顔を踏まれたままだが、カメラアングルは変わって、いまは妻の背中を真上から撮っている。
 サオ師のほうが下になるようカメラを90度に傾けているので、画面では丁度、見ている自分が妻とバックでやっている感じの絵面だ。
 縦に映っている伏せた妻のきれいな背中のところどころに、白濁から半透明に精液が乾いた跡がある。
 猛烈な快感にじっとしておられず、踏みにじられた妻は切なく身をくねらせている。
 もともとスレンダーな妻のウエストは、こんなだったかと思うほど括れてスマートだ。
 もう何も握っていない両腕は、W字に肘を張って、手の平で床を押し返そうとしている格好。
 ほっそりと程良い筋肉で、二の腕のたるみもなく、四十近くにしてはじゅうぶん美しい。

 全体が細身の妻の身体で、一箇所だけアンバランスなのが、持ち上げられたヒップだ。
 中年増の熟れたお尻は脂が乗って丸々とはち切れんばかりに実っている。
 その妖しく斬れ込んだドキドキするような双臀を割った深い亀裂の下で、嘘のような太さの肉根が妻の胎内に出入りしているのが見えている。
 いかにもハメ撮りっぽい。
 凄い臨場感だ。
 突然、精神安定剤も、ショックの数々も関係なく、私のいち物が勃起してきた。
 サオ師は妻のプリプリとしたお尻を両手で挟み込んで、茶器を鑑定するように前後左右に傾けては、小気味よい肉の弾力を感じさせる妻の臀丘が様々に変形するのを楽しんでいる。


 パシンパシン!


 肉を打ちつける音がする。


 ヌチョッ、グチョッ、ヌチャッ、ベチョッ、ズズッ


 太すぎる男根が、これまた狭い女陰に緊め付けられ、摩擦の際に派手な淫音を迸らせている。

 肉のすりこぎ棒が蜜壺を突きまわし、底から泉を汲みあげているような湿った汁音は、粘膜同士が擦れる際の驚くべき密着度の高さを示し、その際に生まれる限度知らずの快感の凄まじさを示唆していた。
 見えてはいないが、規格外れの亀頭は膣内で猛烈に膨れ上がり、荒々しく前後に動いては、幸せだった人妻の人生を粉みじんにするほどの破壊力で、性的快感の電撃を妻の全神経の隅々まで浴びせているに違いない。
 私はズボンのチャックを開き、中のブリーフを下げ、いち物を取り出すと、知らず知らずのうちに扱きだしていた。

91名無しさん:2018/10/20(土) 19:46:42

 妻は、おおっ、と呻き、喉を全開に叫び始めた。


「ああー、いいよおー! おまんこいいよおー!」


 性欲に屈服した女。
 理性の崩壊してしまった女。


「いいー、おまんこ最高ぉー! もっと突いてぇー! でっかいチンポで突いてぇー!」


 軽蔑の対象にしかならない淫語をわめく女。
 しかし私の愚息は、女の吠え声に合わせ、グングン大きくなってくる。


「そうだ。詰まらない世間体や人生観は捨てろ。お前はおまんこ奴隷になるのだ」


 妻の顔を踏み潰している男がクールに呟く。
 妻はもう身も世もない風情で、悶えまくっていた。


「あっ! いいっ! あっあっあっ! おまんこいい! おまんこいいっ! おまんこいいよぉー!」


 人が違ったように吠えたてる妻。
 ロボトミー手術で脳髄を入れ替えられてしまったかと、疑いたくなってくるほどの浅ましい乱れっぷり。

 これが自分の妻なのか。
 本当に20年このかた、ずっと一緒に家庭を築いて来た伴侶なのか。
 去年のDVDでは変態的行為をしつつも、まだ秘め事を自覚している静謐さがあった。
 しかるにどうだ今のこの姿は?
 典子は何かに脅かされるように、下品極まる言い方で自身の快楽を告げているではないか。

 妻の淫ら過ぎるヨガリ声で、不覚にも私の右手の肉棒をしごくスピードはどんどんと速くなっていく。
 調教師がさっき妻に言っていた「自分がどんな状況かをハッキリと伝えろ。それでこそ見ている人も喜んでくれる」という言葉。
 たしかに妻のあさましい淫語連発の乱れっぷりは、私の劣情をいたく刺激してくれた。
 その限りでは、この方策は絶大な効果を上げたと言えるだろう。


「あっ! たっ! うっ! あわっ! お、おまんこすごっ・・・。うーん、おまんこすごっ・・・。あわわわっ!」


 私の知っている妻とは別人だった。
 汗だくの妻は半狂乱で、もう自分が何を言ってるかどうかも分からないらしい。
 調教師の合図があったのか、サオ師の腰遣いが、少しゆるやかになった。

92名無しさん:2018/10/20(土) 19:47:51
24

「いいか? 昨夜のカードと今夜のメッセージは、あとでビデオで紹介する。別撮りでインサートするから、あとで写真を撮って送ってこい。わかったか?」
「はひぃぃ、わかりましたあぁー」


 妻はもうほぼグロッキー。
 それでも後ろから思い切りサオ師に肉の槍をぶち込まれ、自分のヒップの舞いを止めることすら出来ないようだ。


「ひいいいぃっ」


 妻の鋭い悲鳴が漏れる。
 カメラは妻の肛門にズームインする。
 すかさずサオ師の右手がアナル棒をズルズルと引き抜いた。


「あああぁぁー!!」


 感極まった妻の声。
 アナルへの異感覚に反射的に後ろに回された妻の手を、サオ師は簡単にはねのける。
 いまや水色の捻じれ棒はすっかり全身を現して、宙に浮いていた。
 思わずどこかが茶色に染まっているのではないかと余計な気を回して、そっちを見てしまう自分。

 画面中央には妻の肛門。
 一瞬だけ小さく口を開けた噴火口は、皺を集めてまたおちょぼ口を閉じている。
 ヒクヒク蠢く菊の花。


「お前が自分で開いて見せろ」


 調教師から指令が飛ぶ。

 背中に乗せた右手をおずおずとお尻の谷間から下に向け、逆ピースの人差し指と中指で肛門の左右の肉を、言われるがまま開いてみせる妻。
 皺の伸びた菊蕾が画面いっぱいに広がっている。

「ちゃんと両手で開け」

 男の声はどこまでも冷徹な調子を崩さない。
 妻は今度はお尻の外側から両腕を回し、プリプリと肉の実った双つの丸い丘に指を喰い込ませ、思い切り割り開いた。
 変色した菊皺の中央に、窪んだ直径1センチほどの肉穴がある。
 ただ空洞ではない。
 一段奥まったところで放射状の肉皺を寄せ合って、ぴっちり口を閉じていた。

 腸内までは映らなかったが、その括約筋の輪の盛り上がりも、アナルまわりの薄茶の皮膚のくすみも、恥ずかしい菊皺の刻みの深浅、形状――おそらく一人一人指紋のように違うと思われる妻の肛門の特徴は、DVDにしっかり記録されてしまっていた。
 1年半前には、とても考えられない事態だ。

 女が自分の肛門をさらすというのはどんな心境なのだろう。
 死ぬほど恥ずかしいに違いない。
 しかし妻は平気でやっている。
 いや、平気ではないのかも知れない。
 しかしやっている。

 顧客は限られる数だと長髪の社長は言っていた。
 だが確実にひとりふたりじゃない。もっと沢山いる。
 ビジネスが成り立つためには、ある程度のまとまった購入者の層が必要だ。
 それが100なのか、1000なのか、あるいはもっとなのか・・・。

 顧客には海外の金持ちもいるかもしれない。
 おそらく社長と顧客との取り決めでは秘密厳守のルールが有るのだろう。
 しかしそれは紳士協定のようなもので、有名無実なのではないか。
 妻がこんな恥ずかしいことをしていることがバレても、顧客で傷つく者は誰もいない。
 妻と私と家族が破滅するだけで、連中は痛くも痒くもない。

 DVDをコピーして闇に流す奴がいたって不思議ではないし、防ぎようがない。
 もうすでにインターネットで妻の素顔と痴態がキャプチャー画像で流れているかもしれない。
 それどころか、裏ビデオの激安コピー業者の手に渡れば、一枚100円の安値でDVDまるまるが世に溢れていく。
 妻の恥ずかしい画像や映像は、悪辣な連中と関わった段階で、全世界に公開される運命だったということになる。
 妻はある意味、もう堅気とは呼べないのかも知れなかった。

93名無しさん:2018/10/20(土) 19:49:03

 長々と妻のアナルをレンズで狙っていた調教師はやがてこう言った。


「今日はそっちは使わない。おまんこ奴隷らしく、最後しっかりおまんこでフィニッシュを決めろ」


 またガンと頭を殴られた衝撃を受けた。
 今日は使わない・・・?
 どういうことだ?
 いつもは使ってる?
 使うってなんだ?
 悪戯するってことか?
 しかしもう今日すでにアナル棒が入っていた。
 これは悪戯ではないのか?


「あっ、ああっ! いいっ! すごっ! おまんこいいっ! やんっ! おまんこすごっ! あああぁー!」


 また妻が勢い良く駆け上がって行く。
 サオ師がついにラストスパートを掛けたらしい。
 リビングに響きわたる妻の嬌声。
 画面は変わらず、バックスタイルで妻の双丘の割れ目に向かって深々と挿入された肉茎が、リズミカルに躍動しているさまを映し出している。
 その太棹に妻の媚肉が伸縮して引き伸び絡みつき緊める。
 見るからに差し込んだ怒張が気持ち良さそうな感覚が伝わって来る。


「ああっ、もう下さいっ! 中に下さいっ! 典子の中に下さいっ! いやらしい典子のおまんこに、ザーメンいっぱい下さいっ! ああ、当たるぅ! 奥に当たるぅ! だめっ! ああっ、チンポすごいっ! チンポすごいっ! ああああーっ! おまんこ大好きっ! おまんこ大好きっ! おまんこ大好きなのぉーーっっ!!」


 画面のエロチックな映像。
 そして妻の破廉恥な声に、私の性感も高まって来た。
 もう果てそうである。
 妻の《おまんこ》という淫語の連打が、私の神経を狂わせるようだった。
 そのとき調教師の呟きが耳に入った。


「縦に読むというのは気づきゃしないか。せっかくヒントを出してやっても、まったく張り合いのないボンクラだぜ」


 もう発射寸前になっていた私の脳に、何故かその言葉だけがクリアに届いた。

 カード?
 メッセージ?
 あ、そう言えば、あったじゃないか!

 私は最終クライマックスの近いDVDを停め、ズボンから勃起した陰茎をブラブラさせたまま、2階への階段をのぼる。
 以前妻がDVDの中で、この階段を駆け上がっていた映像がフラッシュバックする。
 綺麗なスタイルの全裸の女の後ろ姿。
 ツーンとまた勃起が力を増した。
 薬とショックとその他わけのわからない感情で、頭はグルグル回り、足元はフラフラとおぼつかない。
 よろめくようにやっと2階に辿り着き、夫婦の寝室になだれ込む。

94名無しさん:2018/10/20(土) 19:49:33

 ここの小さな書き物机の引き出しが、私の書類入れ代わりになっている。
 仕事の下書きなど、いくつかの書類を掻き分け、目的のものを探す。
 B4のクリアファイルに大切に挟んであった。
 妻との関係の再構築に悩んだり行き詰ったように感じた時など、取り出して眺めては、大いに心を慰められたものである。
 たしかに貰ったのは去年の12月だ。
 まずカードを取り出してみる。
 ごく小さな紙片に書いてある。
-------------------------
 おかえりなさい。つ
 まとして、もっとこ
 んごふさわしくなる
 ことをちかいます!
-------------------------
 心温まる文言だ。
 見慣れた妻の几帳面な文字がまた安らいだ気分にさせてくれる。
 これのどこが変だっていうんだ?
 何気なく左端の文字を縦に読んだ私は、余りの驚愕にガックリと膝を折ってしまった。
 はっきりと読める「おまんこ」と――。
 これが妻がおまんこ奴隷として生きることを、私に通告してきたっていうことなのか? そういうことになるのか?
 偶然だろ?
 こんな短いクリスマスカードのような文面だ。
 この頃の妻は、奴らの影響下にない。
 俺が取り戻したんだ。
 たまたまだ。
 それが妻の決意表明になんてなる訳がない!
 しかし私はもう立ってはいられなかった。
 陰茎を露出したままの見っともない姿で、へなへなと座り込んでいた。

 12月。
 忌まわしい年も暮れ、新しい年には家族の絆をもっと強く確固たるものにしたいと私は張り切っていた。
 そんな時期にすでに妻はおまんこ奴隷という最低ランクの序列で、奴らに従属することを誓っていたということなのか?

 私の脳もクラッシュを始めている。
 それでいい。
 狂った事態には、狂った精神で立ち向かうしかない。
 私は心を空虚にしながら、その次の夜に置いてあった、2つ目のもう少し長い妻からのメッセージを読んだ。
-------------------------
 本当に夜遅くまで毎
 日働きづめであなた
 お疲れ様です。これ
 まで私のせいで、な
 んだか色々と厄介な
 ことに巻き込んで申
 し訳ありません。い
 まは後悔で一杯。も
 し許して貰えたらま
 た良い妻になります。
-------------------------
 もう文章を味わう余裕もなかった。
 私はいきなり左端の文字を一気に縦読みした。


 『本日おまんこしました』


 身体から魂が抜けていくかのような脱力感。
 これは偶然ではないのだろう。
 妻からの事実を伝えるメッセージ。
 いや、連中からの挑戦的なメッセージ。
 妻がもう私のものではないという痛烈な宣告。

 この日に朝から夕方にかけて『Episode3』の撮影があったのだろう。
 それを伝えている。
 酒池肉林の大乱交騒ぎ。
 人妻の貞操など薬にしたくとも欠片もない。
 人間の尊厳すら存在しない。
 まさにおまんこ奴隷と呼ぶしかない痴態の数々を、また妻は不特定多数の目に触れる可能性の高いDVD撮影という形で残してしまったのだ。

 私は泣いた。
 号泣した。
 ベッドに突っ伏した。
 そして吠えた。
 DVDの妻と一緒だ。
 妻はこらえがたい肉体の歓喜に吼えに吼えた。
 私はこの世の終わりのような悲しみに襲われて吠えていた。
 ベッドに立ち上がって、両手の紙片を握りつぶした。
 ピョンピョン跳びながら、カードとメッセージを二つともビリビリに引き裂いた。
 ベッドの上に撒き散らした。
 私は泣いている。
 かつてこれほど泣いたことがあったろうか。
 大の大人が大声を出して泣いている。
 誰もいないマイホーム。
 悪魔たちの遊び場と化していたマイホーム。
 もう正気は保てない。
 そして私は力尽きた・・・。

95名無しさん:2018/10/21(日) 15:54:14
25

 次の日は会社に行った。
 ポカばかりやった。
 信じがたいミスも仕出かした。
 本当だったらその後始末で定時には帰れないのだが、無視して帰宅した。
 出世の糸口だった北九州への支店長代理での赴任。
 しかしその代償は高くついた。
 貞淑で明るい妻が。
 優しくて働き者の母親が。
 性奴隷というおよそ有り得ない境遇にのめり込んでしまっていた。

 それが去年の夏に発覚し、それこそ人生を掛けて私は妻を取り戻した。
 人妻を篭絡して卑猥な映像を撮影し、それをビジネスにしている悪の一味と対決して、きっぱりと妻と手を切らせた。
 つい先週の金曜日までそう思っていた。
 だが違っていたようだ。

 妻は奪還後、早くもひと月ののちに、新たな凌辱者たちの手に落ちた。
 妻の心は――いや、正確には妻の肉体は、悪魔どもに消し難い快楽の楔を打ち込まれていたのだ。
 新たな敵はそれを力に、まだ正常な状態に立ち直り切っていなかった妻をそそのかし、妻を次の底なし沼へと追い立てて行ったのである。

 失踪した妻の手掛かりはまったくなし。
 行き先も見当もつかない。
 私は妻は連中に拉致されたのかと疑ったが、昨日いくつかピックアップして見たDVDの内容からは、妻が自主的に家を去った線も捨てきれなくなった。



 なおも今日はすでにショックな出来事があった。
 会社を早く終わらせたのは、ひとつの目論見があったからだ。
 去年の騒動の時、非常に大きな助けになってくれた探偵。
 もちろん連絡先はまだ残してあった。
 会社帰りに寄って、ともかく妻の件を相談しようと思っていたのだ。

 ところが携帯で電話してみると、私の担当者だった彼はもう辞めていなくなったという。
 物腰は柔らかで、どこと言って個性は感じられなかったけれど、信頼を寄せられるタイプの人だった。
 そういう資質こそが探偵として成功しうる最大の要素なのだということも、今考えればよくわかる。
 彼は独立して会社を興したとのことだ。
 ことさらライバルということでないにしても、今後は競合相手となる訳だから、この福岡を遠く去り、どこか大都市に拠点を構えるとだけ教えて去ったのだそうだ。
 連絡先は分からないし、わかったとしても、大阪や東京からじゃ、出張費だけで莫大なものになってしまう。
 では、その興信所で別の探偵を頼めばいいじゃないかという話にもなるが、まだ具体的な調査の方向は見えていない。
 時期尚早であることは否めない。

 私はただあの探偵と会って、彼の予測を聞きたかった。
 彼は去年の騒動の顛末を、かなりの部分、知っている。
 あの悪魔的組織の一端も、一緒に目撃、体験している。
 彼なら妻の消えた先も、冷静な第三者の目で分析できるのではないか。
 その私の期待は儚くも砕け散った。

 妻が消えて三日。
 どこで何をしているのか。
 きっと碌なことはしていないだろう。
 いや、させられていないだろう。
 もう「去年の失踪は20日間、今回はまだ3日。焦ることはない」と自分自身に訴えるしかなかった。



 チェーン店でラーメンを食べる。
 久しぶりの食事だ。
 家に戻る。
 誰も待っていない家。
 玄関に入る前に、ふと足元に異物を発見した。
 赤茶けた細い犬の糞。
 もう干からびている。
 今日の物ではなく、しばらく前からあったようだ。
 ただ私の精神状態が色々あって、目に見えていなかったらしい。
 私は思い切り脇に蹴って、玄関ポーチから追い落とした。
 家の中に入る。
 ガランとして寂しい限りだ。

96名無しさん:2018/10/21(日) 15:54:48

 その時になって大事なことを思い出した。
 妻の会社に連絡するつもりでいたのを、すっかり忘れていたのだ。
 急いで携帯で掛けてみる。
 去年の反省を踏まえ、職場の電話番号は聞いてあった。
 すぐにハキハキとした若い女性の声が出たが、妻が出勤してるかどうかを尋ねると、少しお待ちください、と言ってずいぶん待たされた。
 やがて、人事の担当者が帰ってしまったので明日またお掛け直しください、との答えが返って来た。
 もう定時をだいぶ過ぎている。
 支店とはいっても有名大企業だ。
 働く人数も多い。
 いちパート社員のことは他部署の人間にはわからないのだろう。
 それに妻が出勤している可能性は極めて低い。
 典子が別の世界で暮らすことを決心した、というAV社長の電話の言葉は、こうなってくるとかなりの信ぴょう性がある。
 きっと会社は辞めてしまっているか、欠勤しているかどちらかだろう。
 奴らの指示か、妻の意思か?
 ともあれこの件は明日を待つしかない。

 キッチンで水を一杯飲んでから、2階の寝室に上がっていく。
 スーツから部屋着に着替えて、ベッドの端に力なく腰を下ろした。
 昨日ビリビリに千切って投げたカードとメッセージの破片が、誰からも片付けられずに部屋のあちこちに落ちていた。

 どうしていいのかわからない。
 あれから妻からも連中からも何の連絡もない。
 もう妻を永久に失ってしまうのだろうか。
 胸を吹き抜ける思い。
 今度こそは取り戻せないかもしれない。
 暗い方へばかり考えが進む。

 ここ2日ほどで見たDVD。
 去年は身体は堕ちても、心はまだ私達との繋がりが濃厚に見えていた。
 今はどうなんだろう?
 家族への愛着。
 それはあるだろう。
 無ければとっくに家を飛び出していた筈だ。
 温かい家庭が何より大切で、妻は戻って来てくれたのだ。
 そう思うそばから、冷たいものが背筋をのぼって来るのを感じる。
 また奴隷契約書の一節が、脈絡なく頭の中に蘇ってきていた。


『旦那との結婚契約は続けますが、身体も心もご主人様のものであり、ご主人様の意思で今の旦那と暮らしてます』


 台所で裸のまま、男に促され、それを読み上げていた妻の映像。
 これは今年見つけたDVDではない。去年のだ。
 しかも新たに発見したものではなく、すでに去年の7月の上旬には私はこの映像を見ている。
 この時期はいろいろなことが有りすぎて、現実感がなかった。
 しかし深刻に受けとめるべきだったのかも知れない。
 身体も心も・・・?
 もしかすると去年の段階ですでに妻の心はすべて奪われ切っていたんだろうか?
 私のあらゆる努力は徒労だったのか?

 フラフラと私はベッドを立ち上がって、妻のハンガーラックの下の衣装ケースを開けた。
 そこにパジャマが畳んであった。
 震える手で摘み上げる。
 そしておもむろにそれを広げると、私は顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。
 ほんのりと香る懐かしい妻の体臭。
 私は何度もその行為を繰り返した。
 20年だ。
 いつも妻がそばにいてくれた。
 空気のように当たり前に。
 そしてその空気がなくなって、私は息も出来なくなっている。

 やがて、私はパジャマをもとへ戻した。
 ぼんやりと考え始める。
 強大な敵にどう立ち向かえばいいのか。
 新たな敵は、それまでに販売されてしまっていた妻のDVDのファンだ、と言った。
 長髪社長は、自分から妻にはコンタクトは取ってはいないが典子の新作が持ち込まれたので編集と販売には携わるようになった、と話していた。
 ということは、去年でさえ手を焼いた厄介な相手に、またややこしい新勢力が合体したということになる。
 とても一介のサラリーマンが扱える事件ではない。
 しかし警察は当てにできない。
 妻が自主的に戻って来るのを待つしかないが、携帯も解約し、個人書類も持ち出したという裏には、典子自身の意思が関わっている可能性が高そうである。

97名無しさん:2018/10/21(日) 15:55:36

 考えてみれば、去年の失踪の時だって、典子は連絡をよこして来なかった。
 最終決着の日、特殊AV制作会社の連中と対峙した際に、興信所の探偵が、


『あなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です』


 と援護射撃してくれた時、奴らは何と言ったか。


『あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。ただ典子の意思はどうでしょうね。旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。それが答えだ』


 そのあと、妻の背後にいた男が、後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始め、ワンピースを捲り上げ乳房を露にして撫で回したが、妻はされるがままに抵抗をしなかった。

 たしかに、それが証拠だったのだろう。
 しかしその光景を見て逆上した私は、いきなり辺りの男に殴りかかった。
 殴り殴られ乱闘になり、私は気を失った。
 気が付いたときには連中はいなくなり、妻だけがその場に残っていた。
 だから妻を奪い返したような気になっていたが、実際には憐憫の情から立ち去れなかっただけかも知れなかった。

 おそらくあの時点では十中八九、典子は連中と行動を共にする覚悟を決めていたに違いない。
 連中もそれを信じて疑わなかった様子だった。
 だが私の剣幕に押され、連中はしぶしぶ典子を手放すことに同意した。
 再び平凡な家庭の主婦に戻ることを選んだ典子も本気のようだった。
 いや、本気だったのだろう。

 夫を愛する良き妻。子供たちを愛する良き母。
 なんのことはない、つい半年前の自分の姿。
 努力も要らないほどの、簡単極まる復帰劇。
 妻もそう高を括っていたに違いない。

 子供らには出張と言ってある。
 夫の私は許している。
 お膳立ては完璧だった。
 典子はこのささやかな幸せに満足して、これまで通り夫をサポートし、子供らの成長に目を掛けてれば、それでいい筈だった。

 だがもう典子は半年前の典子ではなかったのだろう。
 連中も分かっていたし、典子自身もあるいは自覚していた。
 知らなかったのは、独り夫である俺ばかりだ。

 たった半年で奴らは妻を作り変えてしまった。
 常に淫蕩の炎が肉体の奥でくすぶり続ける。
 そんな女に作り変えられてしまっていた。

 覆水盆に返らず。
 一度こぼして地に落ちてしまった盃の水は、もう盃の中に戻りはしないという意味の故事成語。
 もう妻はそんな状態なのか?
 だったらもう何をしたって一緒じゃないのか?

 おまんこ奴隷の映像はひどすぎた。
 クレイホテルでのあの日、奴らにとって想定外の、家庭を選ぶという妻の決断に、連中が鼻白んだのは確かなことだろう。
 典子の心も完全に掌中にあると思っていた奴らにとっては、大きな誤算だったに違いない。
 だから新シリーズの調教では、典子の心を壊すのに腐心したように見える。
 禁断の快楽を覚えさせられた平凡な人妻が、身体の疼きに耐えられず、心ならずも男たちに服従させられ、幾度も逢瀬を重ねてしまう。
 これが連中が販売している特殊AVのメインポリシーの筈。
 去年の典子のDVDもこのラインにのっとって、撮影されていたように思える。

98名無しさん:2018/10/21(日) 15:56:12

 だが新シリーズは『Episode1』と『Episode3』の一部分を見ただけだが、それまでとはテイストがまるっきり異なっている。
 平凡な人妻という要素は残っているものの、より性奴隷という側面が強調されている。
 セックスの快楽度合いを喚き散らす人妻よりも、夫や子供に対する裏切りに苛まれ秘かにむせび泣く人妻のほうが、彼らの抱える顧客の需要に沿っていると思うのは、私が素人の門外漢だからだろうか。
 とにかく典子は奴隷の中でも最下層のランクに向けて仕込まれて行っている気がしてならない。
 妻を取り戻せる取り戻せないに関わらず、そこは気がかりな点だ。

 八方手詰まりな以上、私のとる手立ては、あのDVDの残りを見ることしかない。
 それはわかっている。
 だがその気になれない。
 そんなことを言っている場合ではないのだが、気が進まないものはどうしようもない。
 見れば、また私の知らない妻、その隠された姿を突き付けられることになる。
 正直、もう私の精神は悲鳴を上げていた。
 通ってる心療内科では、正式に患者として扱われている。
 うっかりすればショックで私は廃人になってしまうかも知れない。

26

 私は知らぬうちに、妻の下着の入っている引き出しを開けていた。
 以前、DVDの中で妻がブラの乳首の部分だけに穴が開き、そこから乳首だけが露出している変態的下着をつけているのを見て、探ってみたことがある。
 その時は、赤や黒、まるで水商売の女性が着るような色の派手な下着とTバック、それに黒の紐状のショーツに極端に乳房を支える面積が狭く布着れのようなブラ、他にバイブレーターも見つけた。
 浮気相手の趣味なのかと疑ったが、そんなに単純なものでなかったことは、その後思い知らされることになる。

 忌まわしい記憶。
 今回はどうなのだろう?
 安心したい自分がいる。
 引き出しにあったのは地味なブラ。
 カップも普通だ。
 ショーツも別段突飛ではない。
 それなりにオシャレで、年相応な下着。
 ノーマルなブラに、ノーマルなショーツ。
 底のほうに手を入れても、何も異物に触らない。
 大人の玩具の類いはなさそうだ。
 下着の数も減っている。
 その点では去年よりも好転してるといえるのかも知れない。
 あくまで下着という点だけだが。

 私は階段を下りてきた。
 迷ったが、キッチンで精神安定剤を飲んだ。
 そして効いてくるまでに、どうしても真菜の声が聞きたくなって、携帯で連絡してしまった。


「あ、お父さん? どうしたの?」


 娘のいつも通りの声だ。
 自分が異常状況にいるのを一気に忘れさせてくれる。
 間違いのない私の家族。
 半生を賭けて、懸命に子供たちの成長だけを願ってきた。
 妻に似て家庭的な娘の真菜。
 おっとりとして、家にいる間は家事もよく手伝ってくれていた。


「ああ。夏休みはどうだ?」


 あれほど典子と仲の良かった真菜は、去年の妻の失踪後から、接する態度がすこしぎこちなくなっていたように感じていた。

99名無しさん:2018/10/21(日) 15:57:01

 無理もないと思う。
 出張と言ってあったが、そのあと妻は仕事を辞めてしまったし、食事の時の会話もまったく弾まなくなっていた。
 病院通いは特に子供たちには言ってなかったが、山ほどの処方薬が薬箱に増えたことくらい、難なく気づいたことだろう。


「うん。普通だよ。家に帰れなくて、ごめん」
「いいさ。夏休みったって、課題とか出てるんだろう?」
「うん。少しね。でもどっちかというと忙しいのはバイトかな」
「おお。なんだ、バイトやってんのか?」
「うん」


 電話を掛ける口実として、仕送りを確認してくれたか、とか、お母さんが病気療養で家を空けることになった、とか堅苦しい理由を考えていた。
 だが、いざ会話が始まると、全然違うほうに話は流れ、それでも打ち解けた屈託のない親子の会話となっていた。

 ふいに目頭が熱くなる。
 もう娘は一人前だ。
 明弘も早晩そうなるだろう。
 子離れの進まない親に比べ、子供たちの親離れは順調に進んでいっているらしい。
 親としての役目は、あと少しの期間の経済援助だけだ。


「いや、お盆も一緒に過ごせなかったから、どうしてるかなと思って。元気ならいいんだ」


 心がいつしか潤いに満ちていた。
 思えば単身赴任になる前は、妻や明弘を加え、こういう他愛のない、しかし掛けがえのない家族の会話をしていたことを思い出す。


「じゃ、切るぞ」


 そう言った時に娘が急に言いにくそうに、


「あの・・・、お母さん・・・」


 と言い出した。


「え?」


 と問い返すと、


「ううん。なんでもない」


 つい口が滑ったという調子で、急いで電話を切ってしまった。
 最後の娘の言葉が少し気になったが、かけ直してまで訊くことではない。
 娘も何でもないと言っている。
 すぐに忘れてしまった。

100名無しさん:2018/10/21(日) 16:09:04
27

 娘との会話でかなりリフレッシュできた。
 私は一家の主として、家族を守らなければならない。
 当たり前のことだ。
 なのに、心が揺れてしまっていた。
 それでは駄目だ。
 やはり見なければならない。
 検証が必要なのだ。
 幸いと言うべきか、薬も効いてきたようだ。
 頭の芯がぼーっとしてきた。

 ついでに今日はドラッグストアでウィスキーを買って来てある。
 強い薬を処方して貰っている訳だから、本来アルコールとの併用はご法度だ。
 ドラッグとアルコールの過剰摂取で、むかし何人ものロックスターが不慮の死を遂げている。
 だが、薬の効きが良くなるのは事実。

 私はグラスを出して氷を入れ、ほんの少しだけウィスキーを注いだ。
 これだけでも薬を飲んでる現状では、けっこうな酔いが回る筈だ。
 一緒に買った炭酸水を入れて、ハイボールにしてひと口含む。
 舌には薄く感じるが、体内で分解され、そのうち強く効いてくるはずだ。

 私はアルコールで元気の前借りをして、グラスと共にリビングに陣取った。
 テレビのレコーダーには『Episode1』のDVDがまだ入っている。
 とりあえず見たのはキャプチャー『1』だけだ。
 そこには妻が再出演をOKした○○ホテルロビーでの会見が長々と撮ってあった。
 キャプチャー『2』は、新シリーズでの最初の本格的撮影になるに決まっている。
 どんな妻の痴態を見せられることになるのか。
 復帰第一作。
 過激な調教になっているのではないか?
 その不安でなかなか見る勇気が出なかったのだ。
 今は精神安定剤とウィスキーでダブルの効果だ。
 少々の映像を見せられても大丈夫だ。
 テレビの画面をつけ、現れたメニューのキャプチャー『2』をリモコンで押す。



 そこは何と言えばいいのか。
 スタジオの様な、殺風景な部屋だった。
 壁も天井も打ちっぱなしのコンクリート。
 無機質な冷たさがある。
 その壁面や天井に、金属的な鉄パイプやら、見たことのない革製の拷問具のようなものが並べられている。
 行ったことはもちろんないが、エロ動画で見たことのある有名なSMホテルのような感じだった。
 ただし、もっと広そうだ。

 中央にはすでに全裸にされた妻がいた。
 両手を揃えて高く掲げている。
 よく見ると、両手首には赤い革製の拘束具が付けられていて、天井にあるパイプに鎖で連結されていた。
 首には同じような犬用の首輪をはめられている。
 今日はそれだけではなく、口に黄色いゴルフボールのようなものを押し込まれていた。
 ギャグボールという名前だという知識はある。
 これで声も奪われている訳だ。

 妻は強ばった神妙な顔つきをしている。
 一度、あの世界を離れたのに、舞い戻ってきてしまった。
 それが正しいのか間違っているのか。
 判断を下せていなく迷っている表情にも見えた。

 ギシギシという軋む音が聞こえる。
 両手首の鎖は滑車のようなもので引き上げられ、妻は万歳するような格好で目一杯伸び上がり、天を仰いだ。
 165センチの長身といえる女体が、天井からぶら下がって揺れている。
 一体これからどうなるのだろう?

 妻の映像は単なるエロムービーとは違う。
 いつも人間扱いされず、腹立たしくなるほどの粗暴な扱いを受けてきた。
 また妻は酷い目に遭うのだろう。
 腹を据えて検分する気でいなければ、すぐに停止ボタンを押して見るのをやめたくなってしまう。
 それでも画面中央で裸にされ、非人間的に吊るされている妻が、とてもエロチックに映っていることは否定しがたかった。

 滑車がカシャカシャと鳴らされ、スレンダーな妻がさらに引き伸ばされる。
 カメラは近寄って行き、拘束されている手首、両腕、顔、乳房、お腹、陰毛の生えた下腹部、両腿と移動した後、足先までを映した。
 妻は裸足でつま先立ちになり、やっと背伸びしている。

101名無しさん:2018/10/21(日) 16:09:38

 いきなり画面に黒いトレーナーに黒い革パンツの男が現れ、手にした鞭で妻のお腹の辺りを引っ叩いた。


 ピシィッ


 鞭の音が鳴るや、


「ウゥウゥー」


 ボールギャグで声を奪われている筈の妻の口から、苦痛の呻きが漏れた。


「今日はよお。オレの鞭一本だけじゃなくて、色々来てっからよお」


 男が言った。
 この間のサオ師でもなく、カメラを抱えていた調教師でもなさそうだった。


「鞭の味もちょっとだけかじってお預けじゃ、奥さんも切なかったろ? 今日はたっぷり堪能させてやっからよ?」


 男はそう言って、また鞭でぶった。


「うううぅうぅーん」


 苦痛の呻きの中に甘い色合いが混ざっているのに気づき、私は慌てた。
 暴力的なだけであるはずの鞭打ちに、妻は性的反応を見せているではないか。

 もう一度鞭が鳴る。
 妻の裸身が打撃に合せてくねった。
 黒鞭の先は平たく十本ほどに分かれている。
 バラ鞭というやつだろう。
 派手な音の割りには、それほどの激痛はないように出来ているらしい。
 そうは言っても、男は妻を手加減なしで引っ叩いている。
 これで痛くない訳はない。


 ぴしゃりっ、ぴしゃりっ


 と連続で打たれると、妻の身体は左右によろめき、ボールギャグの甲斐なく、


「あああー、ああああー」


 と大きめの悲鳴が漏れていく。

 妻は右の膝を上げて、柔らかな腹部を狙って振り下ろされる鞭を避けようとガードするが、むろん効果はなく、また数発の鞭をお腹の辺りに浴びた。
 色白の妻の裸身に、下腹部の恥毛だけが黒く目立つ。
 それは逆三角形型に短く濃く縮れていて、なんだかすごく卑猥に見えた。
 堂々とした生えっぷりに、やはり性欲を持った大人の女なんだ、ということを再認識させられてしまう。

 画面には男の言葉通り、もう一人の男が加わった。
 黒に白の柄の入ったTシャツと7分丈くらいの灰色のズボンを穿いている。
 男たちは妻の左右に分かれ、続けざまに鞭を振るった。


「あああぁー、あああぁぁー、ああああぁぁーー」


 打たれる妻の叫びも途切れがなくなった。
 片足立った不安定な姿勢で、ヨロヨロしている。
 鞭の狙いが徐々に上下に散っていく。
 太腿や胸にまで当たるようになった。
 鞭の打撃で揺れる乳房は、普段より張っているように見える。
 そして先端の乳首は硬く肥大している。
 妻が鞭打たれて性的興奮状態にあることは一目瞭然だった。
 こういうことが初めてなのかどうかはわからない。
 さっきの男の言葉からすると、多少は経験済みなのだろうか?
 また私の知らない妻と出会っている。

102名無しさん:2018/10/21(日) 16:10:27

 男たちは呼吸を合わせて、妻の裸身のあちこちを叩いていく。
 白い肌が減っていき、全身が赤く染まり始めた。
 それでも容赦のない打撃が続く。
 二人の男から鞭を浴び続ける妻は、吊られた身体を浮き上がらせるようにして、床についた両方の爪先を交互にバタバタ動かして、地団太を踏むようにして耐えている。


「ひぃたひっ」


 堪えきれずに妻がついに声を上げた。
 悲鳴はそのままだったが、口にかまされているギャグのおかげで、言葉はその通りに出てこない。
 それでも妻は黙っていられないのだろう。
 続けざまに、痛さを訴える叫びを立てる。


「ああああぁーっ、ひぃたひぃ!」


 足をバタバタやって苦痛に耐えているが、鞭は止まらない。
 自分の動きで少しずつ回転していって、やがて妻の後ろ姿がカメラに映るようになった。
 きれいな背中にも、盛り上がったヒップの丘にも、無慈悲な鞭は飛ぶ。


「ひぃたひ、ひぃぃたひ、あああぁうぅぅ、ひぃたひっいぃー!」


 妻は泣きべそをかき始めた。
 興奮して、乳房を大きく漲らせ、乳頭を充血で痛いほどに膨張させながら、妻は泣き悶えている。
 カメラは打たれて揺れる妻の裸体をローアングルから撮っている。
 ひと鞭ごとに、妻の色っぽい尻肉がプリプリ弾む。
 爪先立っているせいか、太腿に筋肉の筋がうっすら浮かび、ふくらはぎはグッと持ち上がっていた。
 ふだん見ることのない一般家庭の主婦の丸出しの下半身。
 そう思えば確かにAVなんかよりも興奮できるネタだろう。
 小さいと思っていた妻のお尻だが、見上げる画角で撮っているせいか、太腿との境の横筋もくっきり入って、臀肉の素晴らしいボリュームがわかる。
 双臀の妖しい亀裂が上の方まで斬れ込んでいるのは、肉付きがずいぶん良くなった証拠だろうか。
 奥にチラリと何かが見えたが、そこで男はクルリと妻の身体を反転させた。

 カメラが上に上がっていく。
 アップで乳房が映された。
 途端に鞭を浴びて無惨に変形する胸の膨らみ。
 両腕を上げているので、巨乳ではない妻の胸は平たい感じになってはいるが、明らかに双乳の裾野から全体的に盛り上がり、発情していることが分かる。


「ひぃぃたひ、ひいったひ、ひぃたひぃっ!」


 妻の本気の苦痛の訴えが続くが、男たちは手を緩めない。
 カメラが妻の表情を捉える。
 顔を上向けて、目をギュッと閉じ、眉間に皺を寄せ、黄色いボールを口中に噛み締めている。
 苦痛なのか陶酔なのか。

 今度はカメラが引きになり、妻の全身が映った。
 妻はもう打撃の度に飛び跳ねている。
 情け容赦のない鞭の洗礼を受けている妻は、両足をジタバタさせて、内腿を擦り合わせて、爪先をピョンピョンさせて、何とか痛みを逸らそうとしている。
 そんな映像が10分以上続いた。

103名無しさん:2018/10/21(日) 16:10:59

 男が鞭を構えただけで、妻の口から、


「うううぅうぅー」


 という脅えが発せられ、そして強烈な一打をくらうと、


「あああああがはぁぁーっ!!」


 と絶叫が響く。

 これはプレイなのだろうか?
 拷問に近いのではないか。
 いまや妻は本気で泣いている。
 泣き叫んでいる。

 これまでずっとDVDの中で妻は家畜以下のような扱いを受けてきた。
 家庭では俺の大切な妻で、子供たちの立派な母親である典子が、男たちにはゴミくず同然の扱いを受けて来ていた。
 そして妻はそんなむごい仕打ちを続ける男たちに隷属してきた。
 俺や家族の生活の世話よりも、男たちの命令を最優先させてきた。
 そこにはいったいどんな理由があったのだろう?


「これで最後だぁー」


 黒ズボンのほうが、野球のピッチャーのように大きく振りかぶって、思い切り後ろ向きの妻の腰の辺りを狙って打ち付けた。


 ビシャァァーン!


 という音と悲鳴が重なり、妻の裸体は向こう側へ逃れるように爪先立ちでヨチヨチと走って行き、勢いあまって離陸するように宙に浮いた。
 クルクルと全裸の女体が旋回する。
 それはまるで肉の工場に吊るされる豚のようだった。
 びくびくと痙攣する妻の肉体。
 男たちの打つ手がやっと止まり、力尽きたような妻の全身が画面中央に映し出されている。

 こうして見る妻の裸体は、贅肉など一切なく、すっきりとスマートだ。
 もとからスレンダーボディだったが、いまは身体のあちこちにしっかり筋肉も付き、メリハリのあるラインを完成させている。
 特に女を感じさせるパーツである胸とお尻は、ひと回りずつ大きく発達し、いわゆる男好きのする身体となっていた。
 ジムに行って運動した訳でもないのだから、これは連日のセックスによって磨き抜かれたものなのだろう。

 妻を、そして母を忘れ、女として生きて行っている典子。
 鞭うたれて汗ばんだ妻の全身から、まだまだ生殖機能の衰えのないメスだと主張する、強烈にオスを引き付ける濃厚なフェロモンが発散されている。
 男たちは滑車を下げて、手首の拘束具の鎖から、天井に繋がる鉄製フックを抜き去った。
 ドサリとコンクリートの床に横倒しに放り出される妻。


「奧さん、今日は終わりだ」


 長々と芋虫のように伸びている全裸の女体に、冷たく言葉が投げつけられた。
 疲労困憊で身動きも出来なそうな妻の身体がもぞもぞ起き出して、カメラに向かって正座になった。
 そしてそのまま頭を下げて行く。
 額の下に拘束具の手を揃えて、身体を縮めた卑屈なお辞儀をして見せる。
 土下座の完成。


「あひがろうごはひまひた・・・」


 礼を述べている。
 垂れた涎が床を濡らした。

 どうして妻はイジメられて毎回礼を言うのだろう?
 いつも嫌そうにしているくせに、なぜ逃げ出さないのだろう?
 怖いのだろうか?
 私の知っている妻と違う。
 一番最初のDVD映像を見た時から感じていた。
 小さな違和感がある。
 もっとも、ここまで調教されてしまった妻の姿を見てしまえば、そんなことはもうどうでもいいことと言えたが。

 やがて画面は暗転した。
 キャプチャー『2』は終わった。

104名無しさん:2018/10/21(日) 16:16:27
28

 鞭打ちか・・・。
 おぞましい映像だった。
 私は生身の人間に暴力を振るおうなどと考えたことはない。
 まして、暗黒時代の奴隷商人のように、剥き出しの肌に鞭を入れることなど有り得ない。
 なのに奴らは鞭で叩いている。
 思い切り引っ叩いて、キリキリ舞いをさせている。
 その相手は私の妻だ。
 私の配偶者だ。
 プレイなら、金で買うなり、自分のパートナーとやればいい。
 なぜ私の妻にする。

 手加減もせずに、泣きわめく典子の全身を、雨あられと打ち据える連中。
 支配者だからか?
 所有主だからか?
 法律上の夫など、お構いなしなのか?



 私はソファからゆっくり立ち上がった。
 第三者的な眼で、自分のメンタルをチェックする。
 まだ大丈夫だ。
 まだDVDを見る気力はかなり残っている。

 妻のDVDを見る時は、いつも魂が削られるような気がしている。
 自分の命の蝋燭を短くされる気分になっている。
 それだけの犠牲を払って確認している妻の映像。

 さっきのキャプチャー『2』には取り立てて、新しい情報はなかった。
 鞭打ちの二人組は、これまでの連中とも『Episode3』に出てきた調教師たちとも違った。
 これもやはり金満家の『ファン』が雇ったプロなのだろうか?
 妻の下腹部に繁茂した、黒々と猥褻感を掻き立てる陰毛を見れば、例の半年間ではなく、奪回後の映像と予測がつく。
 妻が○○ホテルのロビーに呼び出されたのは、10月3日だ。
 きっとその何日か後の撮影なのだろう。



 私はキッチンテーブルのウィスキーボトルから、またグラスに注いでハイボールを作る。
 ちょっとお洒落なアイスペールとアイストングとマドラー。
 ずいぶん前に妻が私の誕生日にプレゼントしてくれたものだ。


「これでバーの気分になるかと思ってね〜」


 明るい声で渡してくれた妻。
 以来うちでウィスキーの晩酌の時は、決まってこの3点セットが活躍することとなった。
 アイストングで氷を挟み、グラスに入れ、ソーダを注ぎ、マドラーで掻き回す。
 つい濃く作ってしまった。
 ダメージは少ないと思い込もうとしても、やはり妻が丸裸で吊るされ、見知らぬ男たちに鞭打たれるシーンは、身体にこたえる。
 オンザロックに近い濃さのハイボールを口に入れ、グラスを持ってまたリビングに引き返す。
 テレビのメニュー画面にはまだキャプチャー『3』もある。
 グラスをガラステーブルに置き、3人掛けソファの真ん中に腰を下ろし、リモコンで操作する。



 始まった。
 映し出されたのは、キャプチャー『2』と同じ部屋のようだ。
 中央にはやはり全裸の女性が吊るされていた。
 妻だ。典子だ。
 分かっている筈なのに、何度見ても直に氷をあてがわれたように、心臓が縮みあがるのを感じる。
 両腕は前回と同じく高々と頭上に引きあげられていたが、手首に巻かれていたのは拘束具ではなく麻縄だった。
 前回よりも更におどろおどろしい姿の妻に、慌てて目を妻の腕から下に走らせると、使い込まれた黒ずんだ縄は、妻の両乳房の上下にも巻かれていた。
 その上下に回された縄の間隔は妻の乳房のカップより遥かに狭い。
 なので必然的に、上下の乳肉が縄の中に押し込められて、巨乳でもない妻の胸を大きく前方に飛び出させている。
 乳肉がしぼられて充血して膨張している結果、その先端の赤い乳頭もすでに大きく勃起していた。
 すぐさま私の脳裏にクレイホテルの奥の部屋で見た女性の姿が浮かんだのは当然の反応だろう。
 男たちに与えられる快感が忘れられずに、呼び出されれば必ずやって来るという人妻。
 株主だという男に単に跨って腰を振っていたのではない。
 同じように胸に麻縄が巻かれ、大きく乳房を絞り出されていた。
 対等ではない関係。
 肉欲の下僕として仕込まれている象徴。
 奴隷の姿。
 妻のツンと尖った乳首が、すでに刺激を求めて欲情しているように見えるのは、私の気のせいだろうか。

105名無しさん:2018/10/21(日) 16:17:36

 縄は今のところそれだけのようだったが、妻の身体を観察していた私は驚いて声を上げそうになった。
 よく見れば身体中が傷だらけなのだ。
 腕にも胸にも腹にも腋にも腿にも、場所を選ばず、妻の素肌がすっかり荒れ果ててしまっている。
 すべて線状の痕跡だ。
 青く色がついているのは比較的古いものなのか。
 赤痣は新しいのだろう。
 かさぶたになっている部分は、生傷が出来て二三日後というところか。

 私はその正体に気づいてゾッとした。
 これらはすべて鞭の跡なのだ。
 しかし余程に滅多打ちにしないと、これだけの数の傷跡は残らない。
 満身創痍というか、いちどきにこれだけの傷を付けられたら、まずは入院が必要なレベルのはず。
 どうやってこれだけの傷創を背負わされたのか、私には皆目わからない。
 それらの傷跡の中には肌が裂けて、明らかに出血を伴ったであろう、未だに無惨な形状を示しているのもある。
 一切の仮借なく、力任せに鞭を振るわれたに違いない。
 私がむごたらしい妻の姿に見入っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「今日が最終日の十日目となる。これが済めば禊は終了だ。きっちり耐えて根性のあるところを見せてみろ」


 『Episode3』に出てきたカメラを抱えていた調教師グループのリーダーで間違いない。
 キャプチャー『2』にはいなかったが、ここで登場だ。
 その口調からは初対面という感じがしない。
 いままでDVD-Rに入っているのは製品版の前の映像素材で、なんとなく全ての撮影記録が収録されているように思い込んでいたが、そうでもないらしい。
 膨大なデータはどこか別のサーバーにでも保存してあり、DVD-Rに焼いてあるのはほんの一部ということなのか。

 その声と同時にカメラ脇から黒い一条の線が伸びて、妻の太腿を襲った。


「うぐっ!」


 叫んだ妻は片脚を上げて身を縮める。
 狙われた腿のすでに痣が縦横に走っている生肌に、新たな赤い鮮やかな線条痕が見事に浮かび上がった。
 今日は妻はボールギャグをしていない。
 それは妻を楽にさせようという親切心ではなく、存分に叫び声を張り上げさせ、それを堪能しようという底意地の悪さからのようだ。

 鞭は連続して乱れ飛ぶ。


「ひいいっ! あああぁっ! 痛いいぃっ! ああっ! ひいいーいぃっ! 許してぇっ! ああぁっっ!」


 鞭打たれるたびに、壊れたスピーカーのように、とんでもない音量で叫ぶ妻。
 身をよじって鞭を避けようとするのだが、吊るされていては出来る努力は少ない。

 唸りを上げる鞭は、前回のバラ鞭ではなかった。
 どうやら一番のハード鞭とされる、黒革の一本鞭のようだ。
 海外では最強の武器と紹介されることもあるそうで、猛獣狩りなどにもよく使われていたと何かの本で読んだことがある。
 サーカスの猛獣遣いが一本鞭を使うのはその名残だそうだ。
 いずれにせよその威力は、バラ鞭の比ではない。

 右の乳房にまともに鞭の打撃を受けて、妻の裸身が大きくビクンと弾んだ。
 その乳房にしても前回の鞭打ちでは見られなかった無数の傷跡がついている。
 痛みの衝撃で妻は硬直したのかと思ったが、新たな赤痣を増やした膨らみの先端では、尖り切った乳首が、もっともっと、もっとして、と言うように膨張しているのを見つけて、また私はショックに震えた。

106名無しさん:2018/10/21(日) 16:18:12

「おら。勝手に抜けるなんて言い出しやがって。これまで世話になった社長の顔に泥を塗るような真似をする奴は、本当は十日の鞭打ちでもまだ手ぬるいほうだ。今日はとことん仕上げるからな」


 画面に映らない調教師はそう言うや、また革鞭を踊らせた。
 伸びていく鞭はそれ自身が凶悪な意思を秘める黒蛇のように、妻の残り少なくなっている白い柔肌を的確に襲う。


「あああぁぁっ! 痛いいぃーっ! あああぁぁーっっ!」


 断末魔の絶叫を上げる妻。
 とても見ていられない。

 私に隠れて奴らとよりを戻していた妻。
 結局、俺は裏切られていたっていうことになるのだろう。
 だが、ここまで残酷に扱われる典子を、長年連れ添った私が可哀そうに思わない訳がなかった。


「一度離れて、簡単に帰って来れるような組織じゃねえ。金も人も動いてるんだ。戻りたいなら、それなりの姿勢ってものを見せねえとな」


 また一本鞭が思い切り妻の腰部を打った。


 ビシャアァーン!


 鞭の先はしなり、臀部を横殴りに赤痣の深い傷跡を残す。


「ひいいいぃぃぃーっっ!」


 床に着くか着かないかの爪先をピョンピョンさせて、宙吊りの身体を浮かせ飛び跳ねる妻。
 続けて繰り出される鞭の連打に、身体がコマ回しのように回転する。
 あまりの妻の哀れな姿に、胸が塞がれる思いの自分がいる。
 また頭の中に、聞いたことのある声が響いて来た。


『本当にいいのか? 一度抜けて戻れるものではない。これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?』


 最後に妻を取り返しに行った福岡クレイホテルの1105室。
 長髪の社長は妻にそう念押しをしていた。

 くどい奴だと思った。
 往生際の悪い奴だとも思った。
 だが結局、妻はあの異常な世界に戻りたがった。
 俺や子供たちを振り捨てでも、あの狂った変態性欲の世界に立ち返りたがった。
 一度抜けて戻れるものではない、と言われながらも、壮絶な禊を済ませることまで了承して、男たちになぶられる生活を選んでしまっている妻。
 私と子供たちのために、これまで通りの幸せな家庭のために、男たちと切れる決心をしてくれたのではなかったのか?

 過去は振り返らず未来を見ようと私は決めた。
 妻もそうだと思っていた。
 新しい『ファン』などというふざけた男が現れなければ、うちの家族は今も平和に楽しく暮らしていた筈なんだ。
 畜生、まだ混乱の極みにあった典子をたぶらかしやがって!

107名無しさん:2018/10/21(日) 16:29:19
29

 男の鞭打ちはその後15分ほど続いた。
 一本鞭はバラ鞭とはやはりダメージの与え方が雲泥の差のようだ。
 打たれ続ける妻は、見るからにぐったりとしてきた。

 そこに画面の外から男が入って来た。
 サングラスに黒い作務衣のようなものを着ている。
 その白髪からすると老人なのだろうが、動きはテキパキしている。
 妻の力の入らない痣だらけの片脚を抱えて持ち上げて、その腿に縄を巻き付け始めた。
 たちまちその足は天井の滑車に通された縄に引っ張り上げられ、Y字バランスに近い形まで高く掲げられてしまう。
 この男は『縄師』というやつなのだろう。
 新たなポーズにさせられた妻は、大きく開いた内腿をしたたかに打ち据えられた。
 みるみるうちに赤い無惨な鞭跡が縦横に描かれていく。


「あああぁぁっ! うああぁぁーっ! ぎゃああぁーっっ!」


 妻の唇からは、もう痛いとかの言葉ではなく、悲鳴だけが噴き出している。
 これはもう拷問だ。
 いや、拷問というより、テロ組織に囚われた民間人への処刑風景にさえ見える。
 吊られている妻の傷だらけの裸身はいよいよ脂汗を振りまいて、ぶるぶるとうち震え、くねり悶えている。


 ジュルジュル


 濃厚な恥毛の森の奥から、透明な液体が放物線を描いてほとばしった。
 失禁だ。
 気持ち良さの果てか?
 いや、鞭打ちの衝撃を受け続けた肉体の、筋肉の弛緩による生理的反応なのだろう。
 堰が切れたような長い放尿。
 それをカメラは股間にズームして、アップで撮っている。

 なかなか女性の放尿シーンなど見る機会はない。
 私も実生活で見たことはない。
 妻のですらない。
 でもその妻がいまDVDの中で放尿している。
 全身から局部にピントを絞られ、女の秘唇から勢い良く飛び出している水流を、克明に記録されている。

 やがて迸りが弱くなり、雫になって、途切れ、そして終わった。
 口を開けている秘唇をカメラはとらえたままだ。
 そこは充血してぼってりと膨らみ、粘膜がてらてらと濡れ光っていた。
 小水以外のもっと濃い欲情の蜜を煮えこぼしている様がありありとわかる。
 それを機にまた縄師の老人が登場し、妻の傷だらけで赤錆にくすんだ様に見える裸体に取りついて、手早く違った風に縄掛けを始めた。
 妻はもう半分意識を阻喪しているみたいに、まったく力の入らない四肢をされるがままになっている。

 完成したのは、人の字型に水平に宙に浮く、うつ伏せでの飛行機の様な緊縛体だった。
 天井へと真上に引き伸ばされていた妻の両腕は今度は後ろに回され、手首同士を組み合わせる後手縛りにいましめられている。
 両脚とも膝を深く折り畳まれ、その外側から大きく縄が幾重にも回され正座の時のように押し付けられた形で固定されていた。
 麻縄で上下から強く挟まれた妻の胸はひしゃげるように大きく飛び出して垂れ、物欲しげに膨張していた乳首には、その渇きを癒すかように鉄製の重りがそれぞれに取り付けられて、下に無情に引き伸ばされていた。
 腕の辺りに回された縄と膝の辺りに回された縄には天井から紐が伸びて、それで妻の全体重が支えられているのだ。
 膨らんだおっぱいは重りのせいで扁平にぶら下がっているが、縄で吊られていない腹部も重力で下に落ち、弓なりになっていた。
 おかげでぷっくらとした恥丘に繁茂する漆黒の翳りの一本一本の生えっぷりまで横からの眺めで丸見えである。


「よし。よく耐えた。あと少しだ」


 調教師の低い抑揚のない声がして、左を向いて吊られている妻のところに、カメラが近づく。
 その画面に、靴ベラを長くしたみたいな、ハエ叩きの様な器具が映った。
 棒の先に数センチ四方のゴムがついたその器具はうなりを上げて、妻の大きく開いた股間を襲う。


「ひぎゃーっっああぁぁ!」


 もう気絶していたかと思えた妻の口から、つんざくような悲鳴が飛び出した。
 妻の肢体は横向きになっているので股間のどこを打たれたのかはわからない。
 しかし身体が伸び上がるように硬直し、またドスンと腹が落ちたのを見ると、相当の激痛が走ったことは間違いなさそうだった。


「二の腕、脇腹、内腿、臀部、乳房、乳首・・・と色々これまで九日、日替わりで順に打ってきたが、今日の最終日はクリトリスだ。五十回で許してやる。それで目出度く、禊完了だ」


 男はそう言い、いーち、と自分で数を数えながら、手首を使って強烈な打撃を妻の陰部に見舞い始めた。
 そこから先の妻の絶叫は聞くに堪えず、私はボリュームをゼロにした。
 それでも妻が激痛にのたうち、半狂乱で髪を振り乱して、女の最も敏感な突起物に加えられる暴虐にきりきり舞いさせられる姿に、私の心は凍り付いた。

108名無しさん:2018/10/21(日) 16:30:25

 五十!


 と男は言ったのだろう。
 男の右腕はもう振り上げられることなくなった。
 画面には、生きたまま皮を剥がれる狩猟での獲物といった風情の、暴れまくって精魂尽きた妻の裸体が、ヒクヒクヒクヒク痙攣したまま宙に浮いている。
 男は器具を手放して、いまは素手で妻の痣だらけの胴体を撫でていた。

 彼自身がカメラを構えているので、距離はすごく近い。
 時々顔のほうも映るが、妻は前のめりに首が折れたかの如く頭を垂らし、汗で濡れた乱れ髪も顔に覆いかぶさっていて、まったく表情は見えなかった。

 男は右手で吊り下げられた妻の身体をゆっくり回転させ、股間を自分のほうに向けた。
 大きく開いた傷だらけの両腿の間にカメラは入り込み、やや上から妻の秘部を映し出す。
 豊かに盛り上がる妻の美尻の肉丘も痣だらけで、正視できる状況ではない。
 そして大陰唇も小陰唇も、もちろんクリトリスも手加減なしの打擲を受け、真っ赤に充血して膨れ上がっていた。
 その勃起したクリトリスをしばらくレンズが大写しで撮る。
 そこは倍になったかと思うほど痛々しく腫れている。
 その後、妻の膣がアップになった。
 男の右手が伸び、充血した肉唇を二本指で開くと、すでに小便やら汗やらでヌルヌルだった媚肉の中から、大量の粘液が溢れ出してきた。
 さらにもっと大きく調教師の指が左右に開くと、中の肉襞の重なった洞窟から真っ白い本気汁が噴き出す勢いでタラタラと外へ流れ、股間を伝わり床にまで落ちていった。
 妻があれだけのむごたらしい陰核叩きに性的快感を覚えていた証拠を見せつけられ、私は思わず目を背けた。
 胸の鼓動の早鳴りに耐え切れず、ついに一時停止ボタンを押してしまう。

 画面には妻の濡れそぼった女性器のアップが静止画となって映っている。
 こんなところまで撮影されてしまってはもう終わりだ。
 薬のせいなのか、そんな諦めの気持ちがどこからか湧いて来る。

 これがDVDになって出回っているということだろう?
 これを知られたら世間並みの暮らしはもう出来まい。
 もう妻は私の手ではどうにもならない事態にまで落ち込んでしまっている。
 その思いが私を苛む。

 せめて去年の夏の連中との対決ののち、すっぱり家庭に引き戻せればよかったのだ。
 そうすれば被害は最小限だった。
 新たな男たちさえ現れなければ、妻の世間体は守られたに違いない。
 こんな恥ずかしい映像が残ることなどなかった――。

 そこまで考えて、私はそれはおかしいことに気づいた。
 妻の秘部の大アップなら、一番最初の初っ端も初っ端、あの犬のように全裸で引きまわされている時に、すでにDVDに焼かれてしまっている。
 今と同じく、露骨な後ろ向きの姿勢で。
 たっぷりと長尺で、貞淑な人妻でしっかりした母親である典子の秘められた女性器は、最初からノーモザイクで世間に公開されてしまっていたのだ!

109名無しさん:2018/10/21(日) 16:31:02

 当時は、日常の妻とのギャップで、その映像が信じがたかった。
 別の良く似た人かと思った。
 そう思い込もうとした。
 だから妻がDVDの中でやっていたことが、すべてに現実感がなかった。
 だが妻は実際に去年の半年だけで、もうかなりのことをやってしまっていたのだ。
 例え、やらされていたにしても。
 長髪社長に言われるまでもなく、典子はすでに《汚れて堕ちた女》なのだった。


『それでも奥さんとやっていけますか? 我々はそれでも構わない。ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです』


 あの社長の言葉は負け惜しみだと思っていたが、案外本当の親切心だったのかも知れない。
 傷つくこと――。
 私は今それを骨身にしみて実感している。


『今まで放した女がどうなったかはわかりません。後追いするようなことはしませんからね』


 そうも言っていたが、実はその後を詳しく知っているのではないか?
 その辺りの管理は徹底していそうに思える。
 深追いはしないが、継続的に観察していそうな気がする。
 そしてその結果は、一度一定ラインを踏み外してしまった、いわゆる堕ちた女は、100%元の生活に戻ることは出来ないという事実に到達したのではないか。
 ただのひとりの例外もなく。
 そうだと仮定して、初めて奴らの強気が分かる。

 あの典子の奪還に動いた最終日。
 奴らはもう典子のことは自分の女扱いだった。
 私と離婚して連中と行動を共にすることを、既定路線として丸っきり疑ってもいなかった。
 さらにいえば、離婚しようがしまいが、それすらどうでもいいような雰囲気があった。
 その理由は奴らが妻を連れ去ることに主眼を置いていたのではないということだ。
 奴らは妻を、堕とす、ことだけに全力を注いでいたのだ。
 そして、典子はきっちりと堕ちた、と奴らは鑑定した。
 私が妻の奪回劇にしゃかりきになっていた時には、もうとっくにゲームは終わっていたということなのだ。
 一度とことん堕ちてしまえば、家飼いだろうが放し飼いだろうが、もうご主人様に忠誠を尽くす忠犬として一生を送ることが、悪魔どもの経験の中では鉄板となっていたのだろう。
 長髪社長は、気前よく典子を手放す態度をとっていたが、さもありなん。
 いずれどんな形であれ、典子が戻ってくることを確信していたに違いない。

110名無しさん:2018/10/21(日) 16:49:42
30

 なんだかどうでも良くなってきた。
 これはウィスキーと精神安定剤のW効果だろうか?
 この映像を見ることだって、無駄骨でしかない気がしてくる。
 全ては後の祭りだったのか?
 溜め息と共に、一時停止を解除する。
 音量もついでに普通に戻した。
 映像が再開する。


 ヌッチャ、ヌッチャ


 妻の後ろ向きに大きく開いた陰部の肉唇に、太い二本指が差し込まれ、前後にゆっくり出し入れされていた。
 男の指に白い粘液が絡みつき、女体の昂奮具合いが一目瞭然だった。


「よく頑張った。組織は一度抜けたらお仕舞いだ。そこを敢えて戻るからには、生半可じゃすまない儀式がいる。お前は十日の鞭打ち修行を耐え抜いた。晴れて調教復帰だ」


 特別褒めているような口調ではない。
 淡々とした感情のない喋り方。
 それでも妻は嬉しかったのだろうか。
 ほおおぉーっ、という深い安堵のため息が聞こえた。


「今日は特に熱が出るぞ。トレーニング用のエア・ゾールを肌に吹き付けておいてやるが、自分でもケアしておかないと後が大変になる」


 その声に応じて、プシュー、というスプレー音がしてきた。
 カメラは基本は妻の開いた股間を見下ろしているが、時々上下左右に動いて、辺りの様子も撮っている。
 作務衣姿の縄師がいまはスプレー缶を持って、妻の傷だらけの身体に、端からまんべんなく霧を放射しているところがチラリと映った。
 妻の両脚は縄でぐるぐる巻きにされて、踵がお尻につくまでに折り畳まれている。
 自由になる爪先だけがピクピク蠢いているが、それが苦痛を訴えているのか快感の悶えなのかは私には分からない。


「これでときどき冷やせば、明日の朝までに腫れは引く。ただケツは氷で冷やしたほうがいい。家に帰ったら真っ先にやっとけ」


 くりっと肉厚で丸みを帯びた妻の美臀の双丘も、むごたらしくどす黒いミミズ腫れが縦横に走り、ところどころで肌が裂け、血が滲み出ている。
 赤痣や生疵の凄まじさに目を奪われて気づかなかったが、吊られてお尻の肉が寄せられ、余計に狭まった双臀の谷間に、白っぽい異物がある。
 そう言えば、キャプチャー『2』のバラ鞭のときも同じところに何かが見えた気がした。
 ただそれはもう少し小さかった気がする。


「スプレーだけじゃ治まらんだろうから、今日も解熱剤の座薬を使え。もしアヌス栓を見られても座薬が抜けないための言い訳に使える。まあ、お前の旦那はユルいから気が付きゃしないだろうがな」


 お尻の谷間にある白いものはアヌス栓だったのか・・・。
 見えているのは直径3センチほどの丸い円だけだ。
 これは尾っぽの部分で、内部はもっと太いということだろうか。
 そう言えば『Episode3』でのリビングの場面で、妻はずっとアナル棒を肛門に入れられていた。
 あれは犬には尻尾が必要という、飾りの意味ではなかったのか?

 不意にフラッシュバックする記憶。
 そうだ。
 去年の10月の中頃だ。
 妻が体調を崩して、寝込んだことがあった。

111名無しさん:2018/10/21(日) 16:50:19

 無理もない。
 あんなことがあったあとだ。
 事件直後は気が張っていたのが、ある程度日が経って、どっと疲労が噴き出したのだろう。
 そう思って私は看病にいそしんだ。
 とはいえ平日は会社がある。
 早朝出勤に深夜帰宅。
 家計を支えねばならないと、それまで以上に仕事に打ち込んでいた。
 仕事に没頭して、あの事件のことを早く忘れてしまいたいというのもあった。
 だから寝込んだ最初の日もベッドで横になっている妻に、声をかけてあげることくらいしかできなかった。
 額に触ってみると焼けるようだ。
 熱を測らせると38度を超えていた。
 心配する私に、病院へはもう行ったと妻は言った。


「あのね、もう薬は貰ってあるからさ、寝てれば良くなるよ。ごめんね〜、家事出来なくて」


 しかしそれからも、なかなかすっきりせず、寝たり起きたりの日が続いていた。
 今考えれば、男たちによる連日の鞭打ちの禊の儀式で、妻の身体が毎日ボロ雑巾のようになっていたに違いない。

 エロサイト巡りで身に付けた知識では、鞭打ちに耐えるには相当なエネルギーを消耗する筈だった。
 生傷からだけでも熱が発生するから、僅かずつでも全身を打たれれば高熱となるし、骨や肉も熱を出す。
 身体中が燃え、筋肉も関節もバラバラになる感覚だろう。
 横になって苦しむ妻に触れる勇気は私にはなく、言われるがままに氷枕や保冷剤などをせっせと妻の枕元に運んだものだった。
 それらはおそらく額にも当てただろうが、ほとんどお尻を冷やしたのだろう。
 妻のますます脂が乗ってムチムチと張りのある美尻は、鞭打つ男たちにとって格好の標的に違いない。
 しかし単に疲れが出ただけだと思い込んでいた妻の体調不良の裏に、こんな真相が潜んでいたなんて!
 いや、こんなことが分かる筈がない。
 そうじゃないか。
 自分の妻が裸にされて鞭打たれて帰って来ている。
 こんなことを想像できる夫が居たら、お目にかかりたいものだ。

 ある夜、私はキッチンで妻と鉢合わせした。
 少し熱は下がったか、と訊くと、妻はお尻をもじもじさせて、


「うん。もう下がると思う。寝なくていいの?」


 と答えた。


「睡眠薬を飲みに来た。明日も早いんで寝るよ。どうした、前屈みになって? 立ち眩みか?」


 膝を屈めた不自然な姿勢でいる妻にそう問いかけると、一瞬困ったような顔をしたが、ちょっと頬を赤らめて、


「座薬を入れてるの。解熱にはこっちのほうが効くんだって。ちょっと変な感じがしちゃってさ」
「ふーん」


 そんな会話をした記憶がある。

112名無しさん:2018/10/21(日) 16:51:26

 私もひどいインフルエンザに罹った時に、座薬の解熱剤を処方された。
 だから不思議とも何とも思わなかった。
 だけどいま考えると、おかしな点はあった。
 熱が治まった後でも、ときどき同じように腰をくねらせたりモジモジさせていたことがあったのだ。
 あれはいったい何だったのか?


「明日になれば大半の鞭痣も消える。二三日で傷跡も癒えるぞ。旦那がお前の裸を見れば仰天するだろうが、ぜんぜん触りもしなかったんだってな? まあ、お前が上手くやったってことだ」


 調教師は言葉ほど褒める風でもなく、相変わらず二本の指で妻の蜜壺をいじくっている。
 そこが発する淫音は、チュピッ、チュピッ、と軋るようで、妻の締まりの良さを教えていた。
 宙ぶらりんに吊られた妻は、ガックリと首を折ったまま、


「ああぁぁ、ああぁぁぁ」


 と熱い喘ぎを漏らし始めている。


「鞭打たれた女は変わるぞ。肌の新陳代謝が良くなり、濡れたような肌は、より一層艶やかになる」


 そう言いながら調教師の指はますます激しく妻の肉壺を責める。


「男日照りの女は駄目だが、奥さん、あんたみたいに男の精を浴び続ける女には効果覿面だ。嬉しいだろ、うん?」


 より一段と激しく突き入れられる太い指。


「あっ、あっ、あっ、あぁっっ!」


 妻の喘ぎがいよいよ高くなる。
 垂れていた頭も首をもたげ、背中と一緒に反り返る。
 カメラが股間を通して床を映すと、その途中で妻の乳首を無慈悲に引き下げている黒い錘が空中にブラブラ揺れているのがわかった。


「そら、御褒美だ」


 カメラが再び構え直された時、画面には黒々とした肉棒が映っていた。
 例のサオ師ほど常軌を逸した巨大さではない。
 しかし平均サイズよりは遥かに立派だ。
 しかも亀頭も大きく、茎の部分も節くれ立って、歴戦の強者という貫禄である。
 そのいきり立った生勃起は、妻のヌルヌルと粘液まみれで指を美味しそうに咥え込んでいる花弁に狙いをつけた。
 つるっと指が引き抜かれる。
 白い本気汁を撒き散らし、肉襞が名残惜しそうに追いかけ震えた。
 その秘唇に男の亀頭が密着する。


「ああー」


 妻が切なげに呻いた。
 また妻はセックスをするのだ。
 誰かも知らないヨソの男と。
 夫である私がそれを見せられる。
 どうすることもできない過去の映像。
 それも一世一代の直談判でやっと妻を取り戻した後の映像。

 頭が真っ白になってくる。
 何を信じて生きて行けばいいのか。
 どうすればいいのか。
 しかし私の懊悩など関係なく、あっさりと膨れ上がった男根は妻の中に消えて行く。
 それを嬉し気に呑み込んでいく妻の卑猥な肉唇。

 根元まで入れた。
 また引き出した。
 奥まで入れて。
 また戻す。

 妻は縄で宙に吊られている。
 男はその揺れの反動を利用して抽送している。
 妻は喘ぐのを必死でこらえ、その浮遊感と一体になった快感をひたすら貪っているようだ。

113名無しさん:2018/10/21(日) 16:52:32

「ふふ。気持ちいいか? じゃあ、これはどうだ?」


 男は空いた右手で、赤色や青色に変色し荒れ果てた妻の生肌を撫であげていく。


「つっ! いたぁいーぃ! うううぅ・・・」


 激痛が走るのだろう。
 妻は涙声になって悶えている。


「痛いか? そうだろう? 10日連続の鞭打ちなんて、俺たちの業界でもやりゃしねえ。まして素人になんて有りえねえ。2日も叩きゃ、伸びちまってそれっきり。それを奥さんは、やめもせず通ってくるんだから、大した根性だよ」


 男の腰遣いで、妻の緊縛体が跳ねあがっては揺り戻される。
 まるでブランコに二人乗りでもしてるかの動きだ。
 妻の呻吟はますます激しくなってくる。
 荒い息も飛び出しているようだ。

 カメラアングルは変わらない。
 男は妻の両腿の間にいて、右手で妻の右の腰の辺りを撫でながら、腰を大きく動かしている。
 猥褻なハメ撮り映像。


「ほら? 痛いのと気持ちいいのが入り混じって、なんともいえないだろう? これが病み付きになる。苦痛は快楽への最高のスパイスだ。まかり間違っても、二度と組織から離れようなんて気は起きなくなる。どの女もそうだし、奥さん、特にあんたみたいなのはそうだ」
「うっ。ううー。うっうううぅー。ううううーっ!」


 妻の悶えは切羽詰まって来た。
 男は、苦痛、という言葉を発したのを機に、撫でていた右手の動きを荒っぽいものに変えた。
 生傷だらけの妻にとっては、肌を擦られるだけでも、灼け火箸を押し当てられるほどの苦しみだろう。
 妻の女貝はニチャニチャ淫水を振りまきながら、出入りする剛直をピッチリと緊めつけて襞々を蠢かせている。
 ぶら下がった妻の丸い腰をリズミカルに前方へ弾ませている光景は、いっぷう変わった除夜の鐘突きのようにも見えなくもない。


「痛いっ! あわわ、痛っ! ああーっ、痛いぃ・・・。ああああっっ!」
「麻酔がありゃ、いいんだけどなあ、奧さん? 代わりにお前の大好きな肉注射をしてやろう。貴重な薬品だ。漏らさず大事に腹の中に溜めて、家まで持ち帰んな。そらっ」


 調教師は右手で妻の腰を引きつけると、ぴったりと陰部を寄せて、猛然とピストンを開始した。


「あああぁーっ! あああああぁぁーっ! あぐぐぐっふぅー! あがっはあぁーぁっ!!」


 身も世もない妻の歓喜の声が部屋中に響きわたっている。


「ああー、すごいすごいっ! ああー、だめだめ、もうだめーっ!! ああああぁー、すんごいすんごいー! ひいいいいいいいぃぃぃーっっっ!!」


 もちろんこんなに激しい妻の喘ぎを私は直には聞いたことがない。
 何度も何度も身体を打ち付け合ってから、妻にとどめの絶叫を絞り出させ、やがて二人は動きをとめた。

 長い長い空白の時間。
 じっとしている。
 その間ずっと妻の子宮に熱い精液が浴びせられっぱなしだ。
 ドクドクと子種が妻の膣内に送り込まれていく。
 典子は一匹のメスとなって、ただただオスの力強い遺伝子を胎内に受け入れる本能の爆発的歓喜に浸りきっている。

 DVDに異常が起きたのかと思ったくらいの長い時間だった。
 男が身じろぎをすると、初めて妻の裸体の硬直が解けた。
 仰け反っていた首がガクッと前に落ちた。


「お前は俺たちの女だ。いいか、忘れるな。典子、お前は俺たちのものだ」


 まだ剛直を後ろから突き刺されたまま、調教師に宣告される妻。


「はいぃ・・・。私は・・・、典子は・・・、ご主人様たちの奴隷ですぅ・・・」


 朦朧とした夢とうつつの境で、必死の声を絞り出す。
 全裸で縄掛けされ、鞭打たれ、宙に吊るされた妻は、後ろ向きのまま慌てたように何度も何度も首を縦に動かしていた。

114名無しさん:2018/10/21(日) 17:04:30
31

 テレビの画面が黒く変わる。
 キャプチャー『3』は終わった。
 あのあとは男が肉棒を引き抜いて、妻の膣口から信じられないほどの精子が溢れ流れてくるシーンのアップだけだった。

 妻はピルを飲んでいるのだろう。
 でなければ妊娠が心配される量だ。
 去年のDVDでも妻がゴムで相手させられているのを見たことがない。
 全部生入れ中出しだ。

 妻に生入れなんて、自分はここ十五年で一回だけだ。
 先週の金曜日に一回だけ。
 それ以外はオールゴム。
 しかも月に一、二度の正常位での営み。
 やはり私は妻の男ではないらしい。


 ――旦那との結婚契約は続けますが、身体も心もご主人様のものであり、ご主人様の意思で今の旦那と暮らしてます。


 妻のセリフが呪いの呪文のように、頭の中で鳴っている。



 キッチンで水を飲む。
 詰めていた息を大きく吐き出した。
 グラスに氷とウィスキーを入れた。
 オンザロックのまま一気にあおった。
 喉を液体が焼いた。

 こんなことしてたら死ぬかな?
 思いがよぎった。
 それもいいじゃないか。
 これ以上惨めな目に遭わないで済む。

 なにか食べたほうがいいんだろうか?
 食べないと気力が湧かない。
 冷蔵庫を開けるとチーズがあった。
 ゴーダーチーズだ。
 カマンベールとかのほうが好きだが別に嫌いではない。
 キッチンテーブルに座り直して、空のグラスに再びウィスキーを注ぎ、今度はソーダも入れる。

 考えようとしたが、頭は空っぽだ。
 何か新しい情報はあったか?
 ああ、あったさ。
 妻は奴らとよりを戻すため、禊の儀式として、ご丁寧に十日間も鞭を打たれに通っていた。
 高熱を出したのはそのためだ。
 それを俺は間抜け面して看病していた。
 せっせと氷を運んだ。
 気を揉んだ。
 子供たちにも、お母さんを労わってくれよ、とお願いしたりした。
 とんだピエロだ。

 硬いチーズを口に入れる。
 味などわからない。
 ハイボールで流し込んだ。
 あらかた食べた時、このチーズは妻の残したワインのつまみだったのか、と不意に閃いた。
 突然、胃の辺りがぎゅっと掴まれたようになり、気持ちの悪いものが喉元に逆流してきた。
 流しに走った。
 グエッと込み上げる。
 吐いた。
 ハイボールを吐いた。
 チーズも吐いた。
 夕方食べたラーメンも吐いた。
 それでもまだ吐いている。
 胃液を全部吐いて、口をゆすいでから、私はテーブルに戻った。

115名無しさん:2018/10/21(日) 17:05:00

 俺は典子を救いたい。
 そのために必死になっている。
 情報を得たいと必死になっている。
 それなのに。
 妻のことを救けようとしているのに、妻のことを考えると吐き気がしてくる。
 あまりにもひどい裏切りを続ける妻のことを考えると吐き気がしてくる。
 汚れた妻、堕ちた妻のことを考えると、吐き気がしてくる。


『もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの』


 妻はそう言っていた。
 しかし妻を取り戻したい一心の私は耳を貸さなかった。
 そのあげくが、この体たらく。
 もう末期だ。
 二度とやり直せないのだろうか、私たち夫婦は――。

 子供たちには何と言おうか?
 真菜はもう家を出ている。
 すでに独立したようなものだ。
 家を出る少し前には、部屋に内鍵を掛けたいと言い出した。
 もちろん快諾した。
 女の子だしプライバシーが気になる年頃なのだろう。

 明弘が合宿から戻って来るには、まだ何日か余裕がある。
 もともと家族といるより友達といる方が好きというタイプだ。
 日付が変わるころに帰ってくる明弘、家にいてもほとんど部屋に篭っている。
 男の子だし高校生だから、夫婦で何かあっても意外と冷静に受け止めてくれるかも知れない。
 いずれにせよ、子供たちに現状を告げるまでには、幾ばくかの猶予はある訳だ。



 私はキッチンを抜け、リビングも通り抜けて、家の外へ出た。
 夜風に当たりたかった。
 そして考えたかった。
 どうしようもない巨大な敵に立ち向かっている現実。
 私の人生を粉々にしかかっている悪鬼ども。

 妻を娶り子供二人に恵まれた生活。
 これまでその有難さを十分に理解していたとは言い難かった。
 毎晩エロサイトを巡り、妻の微乳とは違う巨乳娘のおっぱいを揉んでみたいなどと妄想に耽る日々。
 罰が当たったのか。
 でも男なら皆そんなものだろう。
 無いものねだり。
 幸せの青い鳥は、結局自分の家の鳥かごにいた。
 昔から言い伝えられている真理。
 しかし喉元に突き付けられるまで、実感など湧かないものだ。

 私は当てもなくふらふらと歩いた。
 酔っているから車の運転は出来ない。
 なにかお腹に入れたかったが、このあたりは住宅街だ。
 気の利いた飲食店などない。
 すごすごとコンビニに歩いていく。
 あれが嫁さんに逃げられた男だ、とすれ違う人たちが私を指差しているような気がする。
 今後は典子の居ない人生になるのか・・・。


『離婚してもっと素敵な人を見つけてください』


 再会した時の妻の叫びが耳朶に蘇る。
 素敵な人か・・・。
 たった一人の愛した女も守ることの出来なかった男に、素敵な人など寄ってくるわけもない。

116名無しさん:2018/10/21(日) 17:06:03

 コンビニでもっと強い酒を買うか、それとも家に戻ってDVDの続きを見るか――。
 その時、携帯が鳴った。
 ん? なんだ?
 通話先からガサガサした音が聞こえて来る。


「もしもし・・・もしもし?」


 呼びかけても返答はない。


「はあ〜ん」


 という悩ましい声が聞こえた気がしたと思ったら、もう切れていた。

 誰だ?
 心臓がドキドキして来る。
 短いほんの数秒の音声。
 しかし私には妻の声としか思えなかった。

 なにか連絡してきたのか?
 いったいどこから?
 いったいなぜ?

 慌てて通話履歴を確認してみると、不規則な数字の羅列になっていた。
 いままでこんな電話番号は見たことがない。
 桁も多い。
 案の定、そこへ掛け直しても、電話は繋がらない。
 電話番号ではないのか。
 なんなんだろう?

 しばらくすると、妻ではなかったのかも知れないと思えてきた。
 妻が連絡してくるなら、もっとしっかりした伝言を伝えてくるはずだ。
 偶然誰かの携帯から、短縮ボタンか何かで間違って掛かって来たんだろう。
 でも、それにしては表示された数字が変だ。
 私にはわからないが、携帯キャリア会社自体の誤動作ということがあったのかも知れない。
 混信するとそういうことがあるんだと昔聞いたような覚えがある。

 夜空にオリオン座がきれいにかかっている。
 冬の代表的な星座だが、夏にだって見える。
 優れた猟師だったオリオンは「この世に自分が倒せない獲物はいない」と驕ったため、地中から現れたサソリの毒針で刺し殺されたという。
 俺はそんなに驕り高ぶったつもりもないのだが・・・。

 私はコンビニに行くのをやめ、うちへ引き返した。
 考えてみれば、家族以外に深く付き合っている人なんていない。
 会社の同僚といってもそれなりだし、親戚だって似たようなものだ。
 人生において一番大切なもの、それは家族だと改めて感じる。
 やはり追跡を諦めてはならない。
 決意をこめる。
 私、典子、真菜、明弘。自慢の家族。
 私にとっての幸せはそこにある。

117名無しさん:2018/10/21(日) 17:25:15
32

 その次の日からは殆んどDVDの検証は出来なかった。
 仕事が本格的にトラブったのだ。

 もともとは私のミス。
 それを知らん顔をして帰宅して、より傷口が広がった。
 周りにこれ以上迷惑を掛けられず、関係先に足を運んで謝罪行脚に励んだ。
 だが後手後手に回った対応で、火の手は一向におさまらない。
 へとへとになって家に着くころには、もう午前0時を回っている。
 とてもじゃないがDVDを検分することは出来なかった。

 そんな中、妻の会社へだけは連絡を取ってみた。
 予想通り月曜から出勤していない。
 だが意外なことも分かった。
 妻はすでに6月にはあの大企業の臨時雇いではなくなっていた。
 職場は同じだが、人事担当者の言うことには、妻は別の人材派遣会社に所属し、そこからのスタッフとして働いていたというのだ。
 かなり自由な勤務形態となっていたらしく、また落ち着いた雰囲気を買われて、営業の同行などもやっており、勤務実態の確かな詳細は分かりかねる、というのがその人の弁だった。
 どちらにしても先週の金曜でこの大企業との契約終了ということは、事前に申し入れがあったとのことだ。
 突発的な欠勤ではない。
 ここでも計画的な蒸発の準備が窺える。



 一週間たって、また週末が来た。
 そろそろ明弘も戻って来る。
 妻からの連絡はない。
 警察からもない。
 AV社長からもなかった。
 私にとっては妻失踪という大事件なのに、世間は何事もなかったように進行していく。
 うっかりするとこのままの状態で、あっという間に十年くらいが過ぎそうだ。
 アクションをしなければ。
 だがどうやって?

 あれから引き出しは漁ってみた。
 DVDの量は大したものだ。
 とても見切れないと思えるほど。
 これが全部妻だとしたら、すごい撮影数である。


『AV女優なんかじゃない!』


 と泣きながら叫んでいた典子。
 しかし売れっ子AV嬢のタイトル数と並ぶのではないか?
 この女優は売れると判断されれば、半年で30や50の作品は撮ってしまうのがAV業界だ。
 なんだかんだで妻の作品も多く出回っているのではないだろうか?

 妻をもう一度家庭に引き戻してからの作品――いわゆる『Episode』で語られる新シリーズは私の精神に与えるダメージが大きすぎた。
 実は睡眠薬か精神安定剤か、それとも併用したアルコールのせいか、私の左手の小指に妙な痙攣を感じていた。
 さらに左の太腿にも痺れが出てきた。
 精神的な原因だけなのか、いやもしかすると、もう肉体のほうも蝕まれているのかも知れない。



 金曜の夜もお詫び接待で帰宅は午前様だった。
 土曜日にベッドから起き出したのはとうに昼を回っていた。
 酔い覚ましに起きぬけに風呂に入る。
 いよいよまたDVDと向き合わなければならない。
 明日の夜には明弘も帰って来る。
 妻の不在に対し、なんらかの言い訳をしなければならない。
 ・・・離婚。
 その二文字が初めて現実味を帯びて脳裏に浮かんできた。


『離婚していただきたいと思いまして。もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません』


 あのAV社長のうそぶき。
 離婚は嫌だ。
 したくない。
 だが結局それは単なる私の意地なのか。
 妻を寝取られたくない男の薄っぺらいエゴなのか。
 妻を縛り付けるだけの、私のわがままなのか?
 もう薬を飲まずにはいられなかった。

118名無しさん:2018/10/21(日) 17:26:02

 本当は週のどこかで心療内科に掛かって、女医の先生に相談したかった。
 しかしそんな暇はなかった。
 分刻みで火消しに追われていた。
 いまだって会社から緊急呼び出しが入ったとしてもおかしくない状況なのだ。
 酒を飲もう。
 身体はおかしい。
 しかし飲まずにはいられない。

 昨日は取引先へのお詫びの手土産のついでにコニャックを買った。
 妻と新婚旅行に行った時に機内で初めて飲んだ酒だ。
 イギリスでブロークンな英語を使って話す私を、妻は大いに尊敬のまなざしで見つめていてくれたものだ。
 半分も通じていたかどうかわからなかったのに。

 例の水割り三点セット。
 アイスペールなどを用意して、コニャックを水割りにして飲み始めた。
 引き出しの中には何も書いてないDVDが数枚あった。
 そのうちのひとつを見てみることに決める。
 電話にはもう出ないことにする。
 こんなに酔っていては、どっちみち対応できない。

 ノートPCのほうのトレイに乗せた。
 見たことのあるものなら、すぐに取り出そうと身構えていた。
 すると最初の画面に、放送終了後のテストパターンのようなカラーバー映像が映った。
 ん? なんだ?
 すぐに次の映像が始まった。


「いやっ! いやっ!」


 ベッドに組み敷かれた裸の女性が、裸の男の下敷きにされて、猛烈に抵抗している。
 暴れる女性の両手を両足を、他の男たちが無理やり押さえつけて、逃れられないようにしている。


「観念しろって」


 上に乗った若い男が、腕ずくで貫いたようだ。
 女性は仰け反り、絶息したように口を大きく開けて、硬直した。
 咄嗟に私は女性の顔を見た。
 妻ではない。
 だが、見覚えがある。

 画面が乱れて、すぐに次の映像が始まった。
 その同じ女性が何でもないように、口で男のいきり立つ男根を愛撫していた。
 仁王立ちになった男の前に正座して、丁寧に肉棒をしゃぶっていた。
 いかにも愛おしいもののように、両手で捧げ持って。

 全裸の女性は妻と同じか、少し下くらいに見える。
 若くはない。
 でも上品そうな感じで、とてもAVに出るような人に見えない。

 あっ。
 私の脳裏に閃いた。
 あの女性だ。
 妻のDVDと一緒に妻の車から発見したDVD。
 その『1』と『2』に画像ファイルとして入っていた女性なのだ。

 あの時は着衣と水着の写真だけだった。
 今は脱いでいる。
 DVD『3』には別の女性が収められていた。
 だからこの女性のヌードは初見だ。
 ヌードどころかフェラチオシーンだ。
 その前にチラっと映った映像では本番までやっていた。

 女性は無表情で、しかし上から下まで肉根を舌で舐めて、一心不乱に奉仕している。
 さっきの映像とは別人のようだ。
 こっちのシーンは長い。
 どうも印象的には、この映像だけDVDに収めるつもりだったように思える。
 録画の際のミスで、消し残った映像の上に、本来の映像が重なったのではないか。
 もし番号をつけるならDVD『2-2』といったところだろう。

119名無しさん:2018/10/21(日) 17:26:41

「奧さん、いま旦那はどうしてる?」


 男がからかうように言うと、女性は膨張した男のものを口に含んだまま、ハッと身を縮めた。
 罪悪感が全身を駆け巡っているのがありありとわかる。


「きっと家族のために仕事の真っ最中だよなあ? 旦那を裏切って悪い奥さんだぜ」


 女性は聞こえないふりをして、より一層肉棒への愛撫に熱中する。
 カポッカポッという迷いのない首振りのリズムは、初めてではなくもう何度も馴染んだ関係だという事実を伝えていた。


「おー、気持ちいい。上手くなったな、奥さん」


 女性はその声に、顔をもっと男の下腹部に押し付けるようにした。
 喉の奥を使っているらしい。


「子供も自分の教育熱心な母親が、若い男のチンポ咥えてるなんて、夢にも思ってないだろうな?」


 女性は男の下腹部に密着させた顔を更に左右に振りたくる。
 上目づかいで男の顔を覗き込みながら、舌先を男の膨張しきった肉茎と下唇の間から、チロチロと覗かせている。
 毛の生えた玉袋にまで伸びた舌先を這わす。
 おそらく舌の根は広がって、亀頭を喉の奥深くに誘っていることだろう。
 男も顔を紅潮させ快感に耐えている。


「よし。向きを変えろ」


 男に命じられ、何ら異を唱えることなく、女性はうずくまり、クルリと反対を向く。
 そのヒップを抱えた男は、女性の位置を微調整して、ローアングルから狙うカメラの正面に女性の顔が来るようにした。
 彼女の背中とそれに続くお尻の割れた双つの丘。
 そしてその背後にまだ若いハタチそこそこの男の裸の上半身が映る。
 画面に映る女性の顔は、濃い化粧をしている訳ではないのに、眉はすっと一文字に流れ、鼻筋は通り、唇は引き締まって、まるで国営放送の教育チャンネルに出て来そうなアナウンサー然とした知的な雰囲気を湛えている。
 男は何の前戯もないままに、女性の肉壺に挿入したらしい。
 女性は、あっ、と小さく叫び声を上げたが、それきりだった。
 すでに濡れていたとしか思えない。
 男はゆっくりと背後からピストンを開始する。
 女性も当たり前のように受け入れている。
 ピシャンピシャンと肉の音がすると、女性が俯いてた顔を上げ、カメラ目線になった。


「・・・あなた、お仕事ご苦労様。でもずっと妻をほったらかしにしておくのは失敗だったわね。私には若い恋人が出来ました。毎日、この寂しい身体を逞しい肉棒で慰めて貰ってます。もうこれがないと暮らせないの。私はこの人たちに従います」


 言いながら、うっ、うっ、と嗚咽している。
 本音なのかプレイの一環なのかわからないのは妻の場合と同様だ。
 しかし私の下半身は明らかに反応していた。
 こんなに真面目そうで貞淑そうな奥さんが、若い男にバックから責められながら、ご主人を侮蔑する言葉を投げつけている。
 その禁断の背徳感が、私の肉棒をいたく刺激するのだ。
 きっと典子のDVDも、私が配偶者でなかったら、興奮度マックスのインモラルAVとして強烈に股間に訴える作品なのに違いない。

120名無しさん:2018/10/21(日) 17:28:00

 女性は後ろの男に腰を使われ、喘ぎながら言葉を継いでいく。


「ああっ。硬くて。太くて。あなたと全然違う。あなたは月に一度も出来ないし、すぐに柔らかくなるでしょう? ああっ、擦れる。すごいっ。あっ、またぁ。たまらないっ。たまらないわあっ!」


 彼女の本心か、あるいは脚本があるのか、それはわからない。
 ただこの女性が、快感に追い上げられているのは明白な事実だった。
 女性は若い男の腰遣いに合わせて、自らも腰を揺すって応戦している。
 一度や二度ではない、ただならぬ関係性が見て取れる。
 もう知的でも何でもない、発情したメスの姿がそこに見える。
 男はドスドスと遠慮なく腰を突き出した。
 女性は呆気なく腕を折り、嬌声を響かせ、顔から床に突っ伏してしまう。


「奧さん、もうハマっちゃったね。これからまた楽しいことを色々しようよ」


 男に猛烈に突かれながら、女性は火のように喘ぎだした。


「あっ。もうだめ。だめだめ。くっ。あん。いくっ。いくいく! あーん。だめぇ。いっくうーっ!」


 その女性の絶頂の叫びに合わせて、私は放出していた。
 こらえきれずに、さっきから膨れ上がったものをズボンから出して扱きまくっていたのだ。

 心地よい脱力。
 きっと妻の典子のDVDを見て、多くの男がこの天国の境地を味わったに違いない。
 何という裏切り。何という背信。

 女性はイカされた後も、ヒップを立てて、伏せた上半身だけを芋虫のようにくねらせている。


「奧さん、今夜は旦那のご飯を作るな。忘れたふりをしろ」


 言われた女性は、身体をぐったり弛緩させたまま、何の反応も見せない。
 男はさすが若さなのだろう、まだ女性の胎内で剛直を誇っているようだ。
 促すようにピストンを送る。
 あっ、あっ、とたちまち女性の喘ぎが蘇った。


「いいか。お前は旦那より俺たちの言うことを聞く女なんだ。わかるな?」
「は・・・、はいぃ・・・」
「お前は俺たちの女だ。わかってるな?」
「はいぃ、わかってますぅ・・・」


 その言葉を確認すると、男は用が済んだとばかりに、ピストンを速め、女性の中に精液を注入した。
 オナホ代わりとでも言いたげな、無造作な射精。
 後背位の格好の女性は生中出しを受け、神妙な顔つきでじっとしていた。
 もう何度もあったことなのだろう。

121名無しさん:2018/10/21(日) 17:39:59
33

 私は左手で受けた精子をそのままに、手洗い所に行き水道水で流した。
 すごい興奮だった。
 あのAV社長の言っていたことが分かる。


『どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。そういうことをしている会社です』


 たしかに並みのAVとはリアリティが違う。
 あの女性も自宅や家族や職場など、すべて個人情報を晒されてしまっているのだろう。


『AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?』


 豪語していた社長。
 そう発言するだけの売り上げに裏打ちされているのだろう。
 その売り上げの一端には妻のDVDも貢献している筈――。
 やりきれない思いがまた私を襲う。



 何か食べておかなければならない。
 ゆうべはラウンジに行った。
 クラブみたいなところだ。
 お詫び接待なので、こちらがパクパク食べるわけにも行かない。
 お腹が空いている。
 しかし食欲はない。
 矛盾している。
 だが、その状態だ。
 妻のDVDを見ると吐いてしまう。
 その恐れがある。
 堕ちた妻を実感すると吐いてしまうのだ。
 固形物はやめておこう。
 粉末スープを湯で溶かして飲んだ。
 シンプルなコンソメスープ。
 安物だ。
 それでも温かい滋味が、身体を癒してくれた。

 リビングに戻り、ノートPCからDVD-Rを取り出して、別の白い円盤をトレイに乗せる。
 これも何も書かれていないものだ。
 『Episode』シリーズは身体にこたえる。
 それは後回しにしよう。

 パソコンのディスプレイに映ったものは、DVD-Rに収められている幾つかのフォルダだった。
 映像作品として再生させるのではなく、昔のCD-ROMみたいに巨大記録媒体として、内部に素材を入れてあるものらしい。

 私はグラスをあおった。
 映像でもない、こんな普通のDVDのフォルダメニューを見てさえ、私の胸は早鳴ってくるのだ。
 酒で勢いをつけないと見られない。
 私のメンタル破壊は、もう重症なのだろう。

 中のひとつをクリックする。
 縮小されたアイコンがいっぱい出てきた。
 どうやら画像ファイルのようだ。
 最初のを選んでクリックしてみる。
 画面全体に写真が拡大される。
 妻だ。
 胸から上のバストショット。
 それだけで胸がドキドキしてくる。
 服を着ている。
 それは部屋着ではない。
 外出着。
 しかし派手でもない。
 上着にスカート。
 よく見かける服装。
 近くのスーパーにでも行くような格好をしている。
 顔は無表情に近い。
 何かを考え込んでいるかのようだ。
 笑ったりしている写真ではない。
 だから遊びに行った時などのスナップ写真ではないことがわかる。
 免許証などに使う証明写真に似ている。
 裸でもないのに私の脈拍は早打ちしたままだ。

122名無しさん:2018/10/21(日) 17:40:29

 次の写真をクリックして見る。
 同じようなアングルで妻は横向きになっている。
 次々表示させる。
 どれも少しずつポーズが変わっている。
 腰や足のアップ、それに胸のアップも出てきた。
 前に同じような画像を見たことがある。
 たしかDVD『1』がそんな感じだった。
 さっき無記名のDVD-Rの映像の中で、若い男にバックで責められ喘いでいた女性。
 彼女の洋服姿の画像がたくさん収められていたのがDVD『1』だ。

 クリックが面倒なので、スライドショーにして再生する。
 同じ服装で色々撮られている妻。
 どれも顔つきはうつろで、上の空のように見える。
 ついには下着姿になっていた。
 そのまま、さっきの着衣の時と同じポーズが、またひと通り繰り返された。
 このまま水着姿になって、裸になって・・・。
 私の胸にさざ波が立ったが、スライドショーはそこまで行かずに終わった。

 ふー、とため息が出る。
 こんな他愛のない画像を見るだけでも、私のズタズタにされた神経は消耗してしまうのだ。
 またグビリとグラスをあおる。

 ひとつ仮説が出来た。
 DVD『1』と『2』。
 前に見た時はまったく意味が分からなかった。
 妻が仕事で使っている画像か?
 でも何のためにこんな画像がいる・・・。
 そう思って不思議だった。

 正体はカタログなのではあるまいか?
 奴らの販売するDVDの?
 奴らが抱える人妻女優の画像を収録し、得意先に見せるための?
 画像だけならDVDにすることもない。
 CD-ROMで十分だ。

 あの長髪社長は、得々として言っていた。
 一本が10万円以上。内容に応じて価格はもっと吊り上がると。
 しかし、まったく内容も知らずに、10万からの金を右から左に出す客もいない筈だ。
 いくら金持ち連中といえども。
 AV制作の奴らにとっても金持ち顧客は大切な金づるだ。
 だからDVDの内容を教えるのに、人妻たちの画像を収集するくらいの手間は惜しまないのだろう。
 そして、こういうCD-ROMを作り、手渡しなり、郵送で顧客にばら撒く。
 興味を持てば社長のほうへオーダーが入る。
 そういう仕組みなのだろう。

 しかしあのAV制作会社の連中の下衆さは、DVDの一部映像をサンプルとして送るのではなく、人妻の画像を送っていることだ。
 CD-ROMであっても、長さが1分ほどで画面サイズの小さな映像なら、二、三十本くらい収録できるのではないか?
 それをせずに、あえて人妻の細かいスペックがわかるような写真の数々だけを入れている。
 これは連中がDVDを売っているのではなく、人妻そのものを売っていることを象徴していないか?
 人妻を篭絡し、飼いならし、堕とさせて、商品として売りさばいていることを、端的に示してはいないか?
 人妻の姿かたち外見だけを、あたかも広告のチラシのように陳列する。
 悪趣味極まるやり口だ。
 金持ち相手のスマートな商売。
 あの長髪社長はそう思っているのかも知れないが、こういうところにその腐った社風が臭ってきている。

123名無しさん:2018/10/21(日) 17:41:12

 次のフォルダを開けてみる。
 そこには動画ファイルがあった。
 思わず、グッと身構えてしまう自分。
 条件反射でまたグラスを空けてしまった。

 立ち上がりキッチンに戻る。
 三点セットで、またコニャックの水割りを作った。
 仕事の疲れをバーに行った気分でくつろいで。
 そんな思いからの妻のプレゼント。
 こんなに荒れた酒をこのセットで飲む日が来るとは思わなかった。
 それは妻にとっても同様だろう。

 グラス片手にリビングに戻る。
 ひと口舐めた。
 濃い。
 この際、煙草も吸うか。
 心療内科では強い薬を貰っている。
 通院当初からそう。
 ニコチンもアルコールも併用は良くないと言い渡された。
 私はヘビースモーカーではないが、煙草は昨今の風潮に合わず、以前から出来るものならやめたいと思っていた。
 そこでアルコールはともかく煙草はこれを機会に禁煙しようと決め、初受診の際に、女医の先生に禁煙外来を紹介してもらったのだ。
 ニコチンパッチを購入し、後は自宅で少しずつ小さくなっていくパッチに貼り替えるだけ。
 思った以上に簡単に禁煙できた。

 健康に気を使うのは一家の主として、当然の義務だろう。
 しかしそれは、妻の愛を取り戻し、家族の絆を確認し、楽しい家庭が再構築できたと信じ込んでいた先週までのことだ。
 妻は去り、状況は一変した。
 いまは薬とアルコールをやっている。
 こうなれば煙草もやったって同じだろう。
 しかし手元に煙草はない。
 外に買いに行くか。
 いや、そこまですることもない。
 私は無意識のうちに、以前煙草のストックの置いてあったダイニングの食器棚に歩いていた。
 小さな扉を開く。
 あった。
 煙草だ。
 だが変だ。

 禁煙を決意した私は、その時点でそれまで家にあった煙草を全部処分してしまっていた。
 だから家の中に残っている訳がない。
 だとするとやっぱり明弘か。
 それにしては、こんなところに堂々と置いてあるのはおかしい。
 自分の部屋があるんだから、普通はそっちに隠すだろう。
 となれば妻が置いておいたのか?
 意志の弱い私の禁煙など、すぐに失敗するだろうと思い、その時に備えて買い置きしてくれていたのか?

 銘柄を見てみると、私の吸っていた物とは違う。
 妻は私の好みなど覚えておらず、適当に買ったのだろうか?
 ひとつ手に取ってみる。
 封が開いていて、半分ほどに減っている。
 一本取り出し、棚の上に一年前からずっと置きっぱなしになっているライターで火をつける。
 煙を吹かしてみれば、もうそれでこの一年間の努力はむなしく消え去った。
 肺まで吸い込んだ。
 これで薬とアルコールとニコチン。
 大三元の役満上がりというところ。
 足元がふらついて来ている。
 久しぶりの煙草は一本でも身体にキツイ。
 流しの水道で火を消し、三角コーナーに吸殻を捨てた。
 どの道DVDを見るしか手はない。
 私は再びリビングに戻り、動画ファイルをスタートさせる。

124名無しさん:2018/10/21(日) 17:52:22
34

 何ということもない動画だった。
 いや、連中にとっては意味のあることなのだろうか?
 妻が映っている。
 家の中。
 我が家のキッチンだ。

 妻の髪が短い。
 ショートヘアよりは長いが、今みたいに肩を超えてまでは垂らしてはいない。
 ボブってやつか。
 たしか3年ほど前まで妻はこの髪型にしていた。
 見ると映像の右下に日付と時間表示がされている。
 今までのこの手の映像にはなかったことだ。
 4年前の3月になっている。

 思い出した。
 これは真菜も明弘も進学するから、卒業式や入学式の記録用に、新しく購入したデジカメで撮ったものなのだ。
 写真がメインだが動画も撮影できる。
 新機能のテストということで、真菜がはしゃいで、妻を追いかけ回して撮ったのだ。


「お母さんこっち向いてよ〜」
「もう、いいって。もう終わり〜」
「これ、音も入るんだよ。なんか喋って?」
「もういいよ〜。真菜こそ、今度高校生になるんだから、感想でも言ったら?」


 カメラ片手の真菜は妻にじゃれついているんだろう。
 画像は大きく右に左に揺れている。
 その中で妻が笑っている。
 嬉しそうに。
 幸せそうに。

 数あるDVDの中の妻の映像。
 初めて妻が笑っているのを見た気がする。 
 泣いてるのもあった。
 叫んでいるのもあった。
 苦しんでいるのもあった。
 男たちに貫かれて悶えているものでさえ、山ほどあった。
 ただ、その中に、笑っている妻の姿はなかった。

 『温泉旅行の真実』と題されたDVD。
 あの中にだって、心の底からの妻の笑いはなかった気がする。
 取り繕ったような、よそ行きの笑顔はあったけれど、心を許した真の笑いはきっとなかった。

 いま妻は笑っている。
 キャッキャッと声を上げて。
 自分が産んで育てた娘の真菜と。
 まるで友達同士のように。
 じゃれ合っている。
 幸福に満ち溢れて。
 息を弾ませ笑っている。

 典子のことが大好きな真菜。
 子供の頃は甘えん坊だった。
 ヤンチャだった明弘とは違う。
 どこにでも妻の後をついて行きたがった。
 何でも真似したがった。
 真菜が料理上手で家事もこなせる良い子に育ったのは、そのせいだろう。

 動画は終わった。
 ほんの1分ほどの短い動画。
 たしかこのデジカメで撮った動画はこれひとつだけだったはずだ。
 動画は結局、数多い静止画の集合体だ。
 すなわち、ものすごくメモリーを喰う。
 なので写真を多く撮ることにして、動画を撮ることはそれきりやめにしたのだった。
 しかし、その最もプライベートというべき家族の、しかもテスト動画までDVDに収録されてしまっているということはどういうことか。
 妻が命じられて奴らに献上してしまったということなのか。
 それとも我が物顔に我が家に押し入っていた連中が、勝手に見つけて持ち去ったということなのか。

 他のフォルダも見てみる。
 これには動画ではなく、また写真画像がたくさん入っていた。
 スライドショ-にして映し出した私は、思わずギョッとした。
 これも過激ではない。
 しかし、ある意味刺激的な画像。
 私が携帯に残る妻の留守電メッセージを偶然聞いて、懐かしくなって家族アルバムを開いた日。
 そのあとデジカメで撮影したデジタル画像はないかとノートPCを探そうとした。
 たまたま再生途中の『Episode3』の映像が流れてしまった為、それきりになってしまったが、まさにそのとき私が捜そうとしていた写真群がいま目の前に映し出されている。
 4年前のテスト動画に始まる、新しいデジタルカメラで撮った、我が家のプライベート画像が全部収録されてしまっているのだ。

125名無しさん:2018/10/21(日) 17:53:04

 これから考えられるのはひとつ。
 デジカメの記録メディア自体が、奴らの手に渡り、すべてコピーされている。
 妻が進んで渡したか、簒奪されたのかは不明。
 しかし妻を写した写真は網羅されているようだった。
 子供たちや私だけの写真は弾かれているようで、見当たらなかった。
 連中にとって何の価値もないということだろう。

 どうやって手に入れたのか、妻の若い頃の写真も混ざっていた。
 ほんの僅かだが、学生の頃の妻の写真すらあった。
 これらはアナログ写真をスキャンしてデジタルに置き換えたような粒子の荒さだ。
 連中の妻の対する熱心さが透けて見える。

 私にもやっとこれらのプライベート写真の意図するところがわかってきた。
 妻のDVDの特典映像に使う気ではないのか。
 いや、もう使っているのかも知れない。
 『Episode』シリーズで見せる、最近の妻の気が違ったような変態ぶり。
 だが本来は幸せな家庭の主婦だ。
 真面目な人妻で、優しい母親だ。
 その事実を強調し、そのギャップで顧客を興奮させるための、ダシに使われるのに違いない。

 こんな平凡な人妻が性奴隷に堕ちた。
 その異常性を際立たせ、DVDの価値を格段のものに引き上げる。
 プライバシーを丸出しにして、歴然たる証拠を提供する――。


『AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ』


 あの長髪社長は訳知り顔でそんなことを言っていた。
 最初はたぶんカタログ的な写真だけで良かったのだろう。
 ところが典子のDVDは評判を呼んだ。
 売れ行きも好調だ。
 そこで奴隷で言いなりの典子に命じて、個人的な撮影素材をもすべて集めさせた。
 そんなところなんだろう。
 妻しか所在を知らない写真が混じっていることから、それはまず確実だ。

 また気持ちの悪いものが、胸から込み上げてきた。
 どこまで破壊されているのか、私の家庭は。
 これ以上DVDを見ていられない。
 私はヨロヨロとキッチンテーブルに戻る。
 酒はやめてお茶でも入れよう。
 明日は明弘が戻って来る。
 いきなり妻の不在の我が家を見られ、あたふたするのはマズい。
 問い詰められてシドロモドロなんてのは最悪だ。
 前もって連絡しておいた方がいい。

 心を落ち着けるために熱い茶を入れた。
 濃い緑茶。
 薬にアルコール、ニコチン。今度はカフェインだ。
 身体の中で刺激物がぶつかり合って、どうなっているのか想像もできない。
 どちらにしろ健康に重大な害のあることだけは間違いない悪行だ。

 明弘の携帯を呼び出す。


「あ?」


 今時の子供らしい。
 いつもぶっきらぼうな息子だ。


「急に悪いな」


 私は努めて明るい声を出す。


「あのな。お母さんな。ちょっと大変な病気が見つかったんで、療養に行くことになってな。実はもう行っているんだ」


 明弘は息を呑んでいる。
 唐突に病気と伝えてしまった。
 去年の出来事と結び付けて、考えられてしまうだろうか。
 息子は別に質問は返してこない。
 癌が見つかった、という意味合いで言ったのだが、明弘は別の病気と受け取ったようだ。

126名無しさん:2018/10/21(日) 17:53:35

「連絡とかしていいの?」
「い、いや、無理みたいだな・・・」


 どうやら心の病いを発症したと思っているらしい。
、確かに予兆とすればそっち系だ。
 ここ一年、妻が精神的に不安定だったことは、一緒に暮らしてきた家族なら肌で感じている。
 心療内科に通っていることを特に伝えてはいないが、別に隠してもいない。
 心の病いが悪化した。
 そう思うのが、むしろ自然だろう。
 隔離されて外部と接触できない。
 そう思われている病気のほうが好都合かも知れない。


「明日帰って来るんだろ? じゃあ、気をつけてな」


 ボロが出ないうちに、そそくさと電話を切った。

 息子と電話したことによって、妻の不在がより現実となって胸に迫って来る。
 これからどうしたらいいんだ・・・。
 家庭崩壊は目前。
 いや、すでに崩壊済みなのか。



 ノートパソコンで、開いているDVDのフォルダは無視して、ネットブラウザを立ち上げ、それらしい療養所を探す。
 とりあえずの候補を見つけて、辻褄合わせの材料にしなければならない。
 場所はどこがいいだろう?
 広島辺りがいいだろうか?
 考えがまとまらない。

 明弘の高校は進学校だ。
 真菜と同じ公立校に頑張って入ってくれた。
 何気なくネットでホームページを見てみる。
 いかにも九州の学校らしく、文武両道がモットーとある。
 明弘の所属するサッカー部も伝統があり、名門と評されているらしい。
 自分の子供の学校になど、これまで興味もなかった。
 これで家族の絆を強めるなんて、よくも言えたものだと自分自身で呆れてしまう。
 これまで知らなかったが、県外からの越境入学組も多くいるようだ。
 そんなこともあって寮の施設が凄く充実しているらしい。

 それはそれとして療養所のほうだ。
 検討の結果、妻は広島のK療養所というところに居るということにした。
 メールで入所にはどうすればいいか問い合わせる。
 特別、明弘に教えるつもりはないが、もしどうしても言わなければならない場合があれば、ここの名前を使うことにしよう。
 架空の設定の準備。
 資料を送って貰うなり、それらしい対応をしておかねば。
 子供に嘘をつくための準備。
 情けなかった。

 それにしても日が経つに連れ、どんどん心細くなってくる。
 妻が自主的に帰って来ることは絶望っぽい。
 せめて連絡があればと思うが、それもない。
 果たしてDVDの中に活路はあるのか?
 期待は薄い。
 でもそれしか、やる手立てがないのは変わらない。

 ふっと眩暈がした。
 そりゃそうだろう。
 ろくに物も食っていなけりゃ、睡眠だってとっていない。
 精神安定剤にアルコール、煙草にカフェインと来た。
 身体が悲鳴を上げるのは当然だ。
 左手の小指は痺れている。
 薬指もおかしい。
 そのうち全身が言うことを聞かなくなるかも知れない。
 ただ一矢も報いずに、降参は嫌だ。
 まだその時期じゃない。

 私は冷蔵庫を漁った。
 固形物は胃が受け付けないと思い、牛乳の1リットルパックを買ってあった。
 さすがになにか栄養のあるものを身体に入れないともたない。
 これでしのごう。
 これなら飲める。
 私は出口の見えない戦いに備え、ささやかな補給を行い、息を整えた。

127名無しさん:2018/10/21(日) 18:04:49
35

 テレビ画面。
 『Episode1』のタイトルメニューにはまだキャプチャー『4』があった。
 やはり勇気が要る。
 それでも見なければ始まらない。
 なにかヒントがあるかも知れない。
 覚悟を決めて、『4』を指してるリモコンのエンターキーを押す。


 大きな桃が画面いっぱいに映った。
 丸々として。
 柔らかそうだ。
 それがピクピクしている。
 きゅっと縮まった。


「あ、あ・・・」


 という声がした。
 すると白い桃がぷっと膨張して、いきなり中央から、ミルク色の太い水柱がレンズに向かって伸びて来た。


 ぶしゅーっ


 勢い良く飛び出して、一本の棒のようになって、固まって、そのまま木目タイルの床に落ちた。
 カメラは水を避けるように一気に引きの画になっていた。
 離れたところからズームアップしてたらしい。


「あーあ」
「駄目じゃないか、奥さん」


 男たちの声がする。
 言葉とは裏腹に嬉しそうだ。


「ご、ごめんなさい・・・」


 消え入りそうな声。
 か細い声だがすぐに分かる。
 明らかに妻の声だ。
 またカメラが四つん這いに突き出されたお尻に寄った。
 熟れた桃のように形の良い剥き出しのヒップが、フルフルと恥ずかしそうに震えている。
 赤い痣の痕跡がまだそこここに認められるのは、前回の鞭打ちからさほど日が経っていないということか。


「おら、もう少し我慢しないとな」
「まだ2リットルじゃ話になんないぜ」


 画面中央にわずかに膝を開いた後ろ向きの妻の双臀があった。
 その姿勢に耐えられなくなったのか、持ち上げたお尻を落として、雪ウサギにようにうずくまってしまう。
 それでもローアングルから撮っている秘部はまる見えで、液体で濡れているのがわかった。
 その上の肛門はお尻の肉が寄せ合って見えにくいが、そこにはもっと液体が白く集まっている様子だ。
 妻の股ぐらからは木目調の床に、一本の線が伸びている。
 さっきお尻の穴から噴出した白い水流の跡だ。
 爪先立てた足裏がモソモソ動いているのは、耐えがたい羞恥にどうしたらいいのかわからないのだろう。


「さあ、奥さん。頑張って」
「まだまだこれからだよ」


 妻の両側から男たちの腕が伸びて来て、尻たぼをつかむと、下がってしまったお尻を引き上げる。
 グンと掲げられたヒップはボリュームを増し、悩まし気な肉の谷間をパックリと開いて、排泄孔と女性器をあからさまにした。
 そこにおもむろに突き立てられる浣腸器。
 ガラス製の円柱形で、目盛りが書いてある。
 硬くて冷たそうな先端のノズルが、菊皺を広げたアナルの奥に潜り込んでいく。


「あっ、あっ」


 と上ずった声を上げる妻。
 カメラはゆっくりと動き出し、妻の裸のお尻を中心に、角度を変えて撮り始めた。
 電子レンジや、流し、調理器具、換気扇など、家財が画角に映り込む。
 疑いようもない。
 そこは我が家のキッチンだった。

128名無しさん:2018/10/21(日) 18:05:32

 さっきの動画で、4年前の妻と娘がキャッキャッと楽し気にたわむれ合っていた、まさにその場所。
 幸せな家庭の象徴。
 この場所でまた奴らは妻に淫靡な撮影をさせようとしている。
 連中は平凡な人妻である典子の日常のささやかな思い出を踏みにじり、とことん穢すことに異常な快感を覚えているとしか思えない。
 自分の家のキッチンで丸裸にされ、浣腸をされている自分の妻。
 やがて浣腸器の中の白い部分がガラスに押されて、みるみる妻の臀部の奥に消えて行った。


「あああぁっ」


 またどうしていいかわからないような妻の声。
 カメラは回り込み、頬を床に突っ伏した、妻の紅潮した横顔も几帳面に捉えている。


「奧さん、牛乳は身体に良いんだぜ?」
「そうだよ。便秘解消でデトックス。肌もスベスベになる」
「グリセリンでやったっていいんだが、あれは辛いんでね。俺たちゃ親切だろ?」
「バカ言え。牛乳のほうが白く目立って、派手だからってだけだろ?」


 男たちはゲラゲラ笑っている。
 カメラに映ってないが、4人ほどはいそうだった。

 妻は牛乳で浣腸されているのか・・・。
 さっき飲んだ牛乳が胃から逆流してきそうになる。


「よし。出すんじゃねえぞ。しっかりケツの穴ふんじばって、我慢しとけ」


 声を掛けた男は慎重にノズルを妻の肛門から引き抜くと、すかさず人差し指を菊蕾に当てて押さえ込んだ。
 そして同じ手順で矢継ぎ早に新たな浣腸を施していき、計5本分を妻の体内に送り込んだ。

 妻はヒップをずっとモジモジさせている。
 羞恥と、それに便意もあるのだろう。
 ただし、今日はすでに何回目かの浣腸と見えて、腸内はすっかりきれいになっているらしく、さっきの奔流にも糞塊の類いはいっさい混ざっていなかった
 だから便意というより排泄欲なのだろう。にしても、ずいぶん苦しそうだ。

 動き回るカメラが、下から四つん這いの妻のお腹を撮った時、カエル腹というのか、ぽっこり膨らんでいるのが確認できた。


「お? これでやっと1リットルパック2本半ってとこだな。もうちょっとだ。苦しいか、奥さん?」


 若い男の声。


「うっ、うっ。漏れる・・・。漏れちゃうよぅ・・・」


 妻の切羽詰まった声がする。


「出すなよ。漏らしたらお仕置きだ」
「ひいぃぃい・・・」
「それ、これで牛乳パック3本だ。しっかり呑み込め」
「あああ、く、苦しい。ダメ・・・」


 容赦なくアナルに突き挿される浣腸器のノズル。
 ぐいっと一気にシリンダーが押し出されて、白い液体がまたもや妻のお尻の中に消えて行く。
 限界近くで腸内から押し返す圧力も強くなっているようだ。
 しかし、そんなことを意にも介さず、男は無造作に妻の腸内にガラス管内の牛乳を最後までぶち込んだ。
 風船だったら割れる寸前の手応えで、アヌスに刺さった浣腸器が、男の手の中でビクンビクンと跳ねている。
 さすがに決壊が近いというので、ノズルが引き抜かれた瞬間、男の太い中指が妻のピクピク震える肛門をさっと押さえつけ、塞いでしまう。


「よし。ケツを立たせろ」


 そこで初めて、低い独特の感情のない声が聞こえた。
 例の調教師リーダーだ。
 今回もこいつがカメラを回していたようだ。
 とすると周りにいるのは手下の若い衆といったところか。

129名無しさん:2018/10/21(日) 18:09:29

 何本かの腕が伸び、妻のヒップがグイィッと無理やり持ち上げられた。
 それをカメラが真後ろから、やや見上げるようにして撮っている。
 画面いっぱいのお尻。
 雄大だ。
 いかにも熟れた女性らしい豊かなヒップ。

 ただ横に広がった安産型ではない。
 くりっと厚みのある、どちらかというと少年の様な、それでいて柔らか味もボリュームも十分に感じさせる美臀。
 ふるい付きたくなるようなお尻とは、こういうお尻のことを言うのかも知れない。

 さらに踵から浮かせた太腿のラインも素晴らしい。
 両腿の裏側のすっきりとした肉づきの色っぽさはどうだろう。
 ついつい撫で上げたくなってしまうほど。
 そしてなにより無修正の女性器が猥褻だ。
 興奮のためか、ぽってり膨らんだ土手の二枚の秘唇も開き気味で、先週の金曜にその味の良さを思い知らされている私は、そのまま後ろから挿入したくなってしまうのだ。
 だがそれは私には許されていない。
 これは過去の映像。
 そして妻を支配しているのは、私の知らない男たち。

 この頃私は妻を気遣って、ゴム有りの正常位で、妻に安心感を与えることだけを最優先にした、おざなりの月一セックスをしていた。
 たしかにそれでも妻の締まりの良い肉壺は心地よかったが、本能をぶつけあうような本気のセックスはしていなかった。
 そう。先週の金曜の夜までは。

 あの夜、妻の持ち物が飛び抜けた極上品とわかってしまってからは、DVDで妻がセックスをしているのを見ていると、股間がうずうずして仕方ない。
 もう一度やりたい。
 切実な願望。
 しかし妻は失踪している。
 正式な夫である俺は妻に触れることもできない。
 いまごろ誰かが妻を自由にしていることだろう。
 俺の知らない誰か。
 その誰かは、俺の配偶者である典子を、俺よりも知っていることになるのか――。

 いま妻との接点はDVDしかない。
 そのDVDの中の妻は俺の知る妻ではない。
 破廉恥な妻だ。
 すぐにセックスしてしまう淫らな妻だ。
 そしてそのセックスシーンを見るたびに、妻の名器で精を搾られた俺の愚息が、あの熱くたぎった肉襞の感触を思い出し、切なく疼くのである。

 なまじ本気の交わりだったからいけなかったのか。
 なまじ生中出しを楽しんでしまったから良くなかったのか。
 なまじ体位を増やした濃厚な行為をしてしまったのがまずかったのか。
 なまじ失踪前夜に限って妻が積極的に――。

 とにかく、妻の肉体の甘い甘い蜜の味を知らなければ、DVDを見てもこれほどの焦燥感を掻き立てられることもなかったはず。
 いまとなっては最後の妻とのセックスが仇とも取れる状況である。

 妻が自分で叫んでいた。
 自分のアソコのことを言っていた。
 卑猥な言葉で。
 ――そう、おまんこだ。妻の場合、やはりその言葉がふさわしい。

 私は典子の厭らしいおまんこが忘れられないのだ。
 男を堕落に導く、悪魔の快楽を詰め合わせたような妻のおまんこ。
 いま、DVDで大写しになって、うにうにと蠢く二枚の小陰唇とその狭間のピンクの襞々をまる見せにしているおまんこ。
 そこに突っ込みたくてたまらない。
 遮二無二ぶち込みたくて仕様がない。
 入れたくて入れたくて我慢できない。

 こんなことなら、なにも最後の夜に、生で入れる必要もなかったかもしれない。
 こんなに苦しむことになるのなら。
 またあの夜は初めて妻の本格的なフェラチオまで味わった。
 いままでDVDの中でしか見たことがなかった典子のフェラチオのテクニック。

 音を立てて舐めてくれた。
 亀頭を口に含んでくれた。
 唇で雁首を締めてくれた。
 喉奥まで咥えてくれた。
 口腔と舌と唇を総動員して、顔を上下にピストンしてくれた。
 まるで口全体が性器であるかのように。

 あれだって知らなければよかったのだ。
 そうしたらビデオで妻のフェラチオシーンを見ても、実感は湧かなかったに違いない。

 凄そうだなと思っただけだったかも知れない。
 激しいなと感じただけだったかも知れない。
 絶対にあんなに気持ちいいものだとは想像も出来なかったに違いない。

 妻との最後の愛の営みは、だから皮肉な置き土産を残すことになってしまった。
 結果として、妻のDVDを見るたびに、途方もない淫欲が身体の奥に生まれて来てしまうのだ。
 満たされることのない飢えた欲情。

130名無しさん:2018/10/21(日) 18:10:09

 まさか妻は、私がこんな性欲の飢餓状態に取り憑かれるなどと、思ってもいなかっただろう。
 まさか妻は、最後の夫婦の愛の交歓がこんなに私を追い込むことになるとは、考えてもいなかっただろう。
 まさか妻は、失踪前夜になってわざと――。

 それ以上、私は考えている暇がなくなった。
 妻が妊婦のような腹を抱えたまま、頭を低く下げ、お尻だけを高く突き出して、リビングに向けて体勢を整えたのを見たからだ。

 いよいよ発射するのか?
 さっきは角度も水平に近く、誤発射だったみたいだ。
 今度は牛乳が3リットルまるまる入ったという。
 牛乳の1リットルパック3本分だ。
 飲むだけでも大変だ。
 とてもいっぺんに飲める分量じゃない。
 それを妻は今お尻からお腹の中に入れている。
 いや、無理やり入れさせられている。

 妻はじっとしようとしているらしいが、迫りくる排泄の欲求に、脂汗まで浮かべて、裸体をビクビクくねらせ悶絶している。
 妻の肛門は限界を超えているらしく、いまや若い男の指の先を菊蕾に埋めてもらって、やっと噴出をとどめている状態だ。


「さて、これは禊を済ませたお前自身への祝砲となる。ケチらずに景気よくやれよ」


 例の無慈悲な調教師の声がする。
 カメラは左前方くらいから妻の全身のアップを撮っている。
 調教師は祝砲と言ったが、お尻を大砲の砲筒に見立てれば、確かにそういう体勢に見えなくはない。
 45度くらいに狙いを定め、一番距離の出る角度を決めている全裸の妻。


「よし。やれ」


 その調教師の言葉で、若い男の中指が、妻の肛門から引き抜かれたのだろう。
 同時に、白い水流が、ロケット発射の勢いで、大量にリビングに向かって放たれた。
 高く上がった。
 天井に当たるかと見えた。
 そこはギリギリ掠め、そのままリビングまで弧を描いて、ずっと遠くまで届いている。
 妻のお尻からの爆流はまだまだジェットエンジンの力強さだ。


 ブブッ、ブブブッ、ブブブブウッ、シュゥゥゥーー


 思い切り牛乳を噴射し続けるその姿は、連中の大好きな人間以下の家畜のあさましさ。
 夫を愛し子供を愛し家庭を愛する平凡な人妻を、ここまで堕とすのが奴ら悪魔どもの無上の快楽なのだろう。

 なかなか衰えない妻のお尻からの奔流に、若い男たちがやんやの喝采だ。


「おおっ、奥さん。最高記録」
「やるときゃ、やるねー。すげー」
「まだ、行けるよ。奥さん、頑張って」


 妻に近づき、励ますように丸出しのお尻の丘の丸みを、撫でさする奴もいる。

 何故こんな下らない男たちに、大切な妻が玩具にされなくてはいけないのか。
 去年から感じていた理不尽さが、またしても心の奥底からむくむくと湧き上がって来る。
 人の妻をめちゃくちゃにしておいて、いざ自分の身に火の粉が掛かりそうになれば、へなへなと弱腰になる腑抜けたち。
 私はそのことを知っている。

 去年マンスリーマンションに踏み込んでやった時、私が典子の夫と知って、そこにいた男たちは強気な態度を豹変させた。


『私達も社長には逆らえないんです。わかってください』


 そんな愚にも付かない泣き言を言ってきた弱い男たち。
 こんな糞どもがなぜ典子を自由にできるのか?
 私は情けなさに泣いた。
 一人を裏拳で殴った。
 一人をベランダに押し倒してやった。
 奴らは怯えていた。
 今度だって、もう一度同じことをしてやる。
 この男たちにだって、そうしてやる。
 しかし詳細が分からない。
 どこのどいつなのかわからない。
 わからないが実際に自宅のキッチンにいる。
 キッチンにいて、人の妻である典子を自由にしている。
 新たな敵『ファン』の正体が掴めない。

131名無しさん:2018/10/21(日) 18:11:12
36

 永遠に続くかと思われた妻のお尻からの白い水脈は、やがては細まってきた。
 それでも間欠泉のように、ブホォッブホォッ、と断続的には勢いを取り戻しながら、最最終的には、ショボショボショボ、と植木に水を撒くジョウロのような淋しい水路になり、床にむなしく流れた。
 妻は全身の力を使い果たしたように上体を突っ伏した。
 お尻も下がる。
 残り水がまだ、未練がましくお尻の谷間から少量ショボショボ漏れていた。
 カメラが映し出すのは、赤らんで恥ずかしそうな何とも居たたまれない妻の表情。
 人妻としてあり得ないことをやらかしてしまった女の羞じらいと僅かな興奮の様子を長回しで撮っている。
 妻の肛門から撃ち出された牛乳の水流は、遠くリビングまで汚してしまった。
 私も子供たちも気づかなかったのだから、後で妻ひとりが掃除をしたのだろう。
 ものすごく大変だったことが想像できる。
 奴らに強制され、お尻から牛乳を吹き出してしまった妻。
 その後始末をひとりでやらされる妻の胸中はどうだっただろう。
 連中の奴隷になり、家族より奴らを優先せざるを得なくなった妻だが、その哀れさが胸を掻き乱す。
 去年と違い、いまや妻は撮影された映像がDVDとして販売されることも知っている筈。
 こんな恥晒しな映像が好事家たちに公開されることを、妻は承知している訳だ。
 もう私の妻はどうにもならないところまで来てしまっているんだろうか――。

 例の調教師の声が響く。


「豪快に祝砲を撃ち上げたな。見事だぞ。お前が禊を勤め上げたんでな、社長のほうに渡りをつけた。話はとんとん拍子だったぞ」


 言葉ほど褒める調子でないのは、いつものことだ。
 しかし何のことを言ってるのだろう?
 とんとん拍子?
 思い当たるのはあの言葉。


『ひと月半ほどだったかな。ビデオが持ち込まれましてね。これで典子の新作を作って欲しいとの依頼です。もちろんあなたとの約束は守りました。あくまで編集と販売だけに徹して、制作には一切関わっていません』


 あの長髪社長が言っていた。
 新たな『ファン』が持ち込んだビデオ。
 それが新作をOKする○○ホテルでの会見映像であり、一連の鞭打ち映像だったのではあるまいか。

 今日は体内に精神安定剤とコニャックとニコチンとカフェインが入っている。
 何がどう作用しているのか。
 眠くはない。
 感情も落ち着いている。
 ただ身体のどこかが麻痺している。
 神経が二,三本切れたのか。
 どこかの脳細胞が一部死滅したのだろうか。


「本来はあんな禊ごときで組織には戻れねえんだ」


 独り言の様な調教師の言葉は続く。


「帰って来れない奴はたくさんいる。だが、お前の忠誠を社長は愛でていたぞ」


 謎めいた言葉。
 何のことを言ってる?
 忠誠?
 意味が分からない。


「よし。次は祝いの花火だ。おい、準備しろ」


 後半は妻にではなく、若い衆に命じたらしい。
 キッチンとダイニング、そしてリビングまで、妻がアナルから噴き出したミルクで汚れている。
 めちゃくちゃだ。
 再構築したはずの私の家庭。
 また正体不明の連中のおかげでめちゃくちゃになっている。

132名無しさん:2018/10/21(日) 18:11:51

 再び若い男たちは妻の身体に取りついた。
 チラリと映ったキッチンテーブルの上に、牛乳のパックが山ほど並べられていた。
 20本以上あるだろう。
 封を開けたのも、まだなのもある。

 透明で大きなボウルも映っていた。
 妻がケーキを作るのによく愛用していた耐熱性の料理用ボウル。
 その中にも牛乳がいっぱいに溜めてあった。
 妻と真菜がよく協力してワイワイ言いながらお菓子を作っていたボウル。
 思い出の詰まったボウル。
 その中に、いまは妻に浣腸するための牛乳がなみなみと入れられている。

 男のひとりが注射器みたいな浣腸器の先端のノズルをボウルに突っ込んで、チュゥーと牛乳を吸い上げる。
 画面が移動すると、妻は寄ってたかって男たちの手で、天を仰いでお尻だけを高く天井に向ける姿勢を取らされていた。
 いわゆる、まんぐり返しだ。

 無理くりに、妻の身体を丸め、膝頭をギュウッと床に押し付けている。
 そして、その膝の間に妻の顔が窮屈そうに挟まっている。
 そこをカメラは真上から撮っている。
 お尻の穴がハッキリと見える。
 そして妻の性器もその上に見える。
 同じ並びで妻の顔も見える。

 困ったような表情。
 この場から逃げ出したいような顔にも見える。
 やや赤らんで興奮しているようにも見える。
 寂しそうにも見える。
 そんな39歳の大人の女性のうつろう表情と一緒に、肛門とおまんこがテレビ画面に大アップになっている。
 三つが同じ画面に映っている。
 私の配偶者だ。
 結婚式を挙げ、娘を産み、息子を育て、家族のために料理を作り、家計のために働いてくれた。
 その典子が販売目的のDVDの中でお尻の穴と性器と素顔をいっぺんに晒している。
 その事実はとても信じられるものではない。

 徹底的に弄ばれているアナルは、口こそ開いていないものの、括約筋の輪を盛り上げ、放射状の菊皺を大きく広げて、今日は何十回も強制的に伸び縮みをさせられていることを物語っていた。
 縦に割れた二枚の女唇のほうも牛乳まみれでベトベトになっており、レンズが近いおかげで、中のピンクの肉襞の蠢きの様子まで披露させられている。
 男のひとりは妻の向こう側に回り、その両足首を自分の両手で掴んで、力任せに妻の足の甲を床に圧着させていた。
 カメラの男は自分の両脚を妻の背中に押し当てて支え、曲げられた妻の身体が元に戻るのを防いでいる。
 まだ左右に男がおり、妻自身に自分の膝の裏に外から腕を回させ、しっかり抱きかかえさせた。
 その男たちも妻のお尻や太腿に手を当て、倒れないよう手伝っている。
 確固たるまんぐり返し。
 身動きもできない。
 女性にとっては究極の羞恥ポーズだろう。

 その恥ずかしい格好の妻に、また浣腸器が襲う。
 真上から、牛乳でテカテカしている妻のお尻の穴に、硬質なガラスのノズルがズブリと突き立てられた。
 もうアナルはその先端を何の抵抗もなく呑み込んでいく。
 地面にドリルを突き挿すように、垂直に立ったガラスの円柱。
 シリンダーが荒っぽく押され、白い部分が上の方からあっという間に消えて行く。
 奴らの妻の身体に対する配慮や手加減のなさは、これまで同様、憎たらしいほどに一貫している。
 残酷な扱いだ。

 今度は微妙に移動して妻の浣腸シーンの詳細を描き出す映像。
 女性ならではのお尻の丸み。
 その立体感が強調されていく。
 妻の背を支えているので、調教師自身は歩き回らないが、腕を動かし、可能な範囲でカメラアングルを変えて、臨場感のある画を作っているのだ。
 成熟したお尻はもとより、すっきりとした肉付きの太腿の裏側が、これほどの色っぽさを発散するとは想像もしていなかった。
 どういう経歴かわからないが、調教師はカメラのほうも相当の腕なのだろう。

 テレビの画面に映し出される、素人の主婦が逆さにされ浣腸を受けるシーン。
 それも腸内洗浄というスマートな方式ではなく、肛門にガラス器を突き立てるという、古色蒼然としたやりかた。
 拷問に近い。
 より辱めを与えられる方法ということなのだろう。

133名無しさん:2018/10/21(日) 18:12:22

 そのまま手早く、浣腸器を3回ほど突き立てて、男たちは浣腸を中断し、今度は少し膨らんだ程度の妻のお腹をさすったり押えたりし始めた。
 若い男たちの声がする。


「さ、奥さん。出しちゃいなよ?」
「打ち上げ花火。どこまで上がるかな?」
「奧さんのケツ圧すごいからね〜。けっこう天井まで行くんじゃない?」


 面白がって妻の裸を揺さぶり押し込み振りたてて、噴出を促す鬼畜たち。


「いやっ。だめっ。いやっ」


 妻も顔を振って抗っているが、身体の自由を奪われ抵抗できない。
 喜んだ男たちはますます妻を揺さぶり、お腹を圧迫する。


「ああっ。だめっ」


 妻も必死なのだろう。
 それはそうだ。

 この体勢で漏らしてしまえば、飛び出した水流は宙に浮かんで、やがては落下してくる。
 それが自分の顔を直撃するかもしれない。
 それは絶対に嫌なはずだ。
 なので妻も懸命にこらえているようだ。

 レンズは上から真下の肛門を中心に撮っている。
 もう噴火口のように括約筋の輪が盛り上がり、それが出たり引っ込んだりと、ヒクヒクヒクヒク収縮を繰り返している。

 男たちの妻への狼藉は一段と激しくなった。
 それでも妻は耐えている。
 業を煮やしたような調教師の声がした。
 だが口調はあくまで冷静だ。


「典子。祝いの花火だと言っただろ?」


 その言葉にたちまち肛門が決壊した。
 菊の花が大輪に開いて、噴水のごとく牛乳が噴き上がった。
 真っ白いしぶきがカメラにかかりそうになり、画面がぶれた。
 慌ててカメラをよけたみたいだ。

 暗然としてしまう自分がいる。
 あれだけ嫌がっていたのに、調教師のたったひと声だ。
 どこまで妻は従順に、この男たちに躾けられてしまっているのだろうか?

 最初の牛乳はもう落ちて来て、妻のお尻の球面や太腿の裏側を濡らしていた。
 まだ妻のお尻からは、真っ白い放水が続いている。
 それを周りの男たちが、妻の身体をそれぞれ持って、なんとか妻の顔の上に落そうと、照準を付けている。


「いやっ。いやっ!」


 妻は顔を振りたくっているが、すでにふくらはぎや髪は被弾し、牛乳の餌食になっていた。
 消防士がホースを扱うように、男たちは協力して妻の動き回る腰を支え、さらに正確に妻の顔面を狙おうと躍起になる。


「いやあっ。ぐぷうっ」


 ついに妻の口に命中した。
 止まることのないミルク色の水流は、次に目を襲い、額を濡らし、頬まで白くなった。
 もう妻は目と口を閉じて、修行僧が滝に打たれるが如く、顔面に注がれる水脈を受け入れるしかなくなっている。

134名無しさん:2018/10/21(日) 18:12:56

 カメラが動いて、自分のお尻の穴から出てきた牛乳が自分の顔にかかっている、その妻の惨めな姿を、多彩なカメラワークで映像に収めている。
 非人間的な扱いは連中の大好物だ。
 ここのシーンは奴ら的に価値が高いのだろう。
 胸糞が悪くなる。

 やがて妻の水流が弱くなり出なくなると、また男たちはいそいそと同じ手順を繰り返し、妻の顔へお尻から出てきた牛乳を散々浴びせ続けた。
 何度も何度もやった。
 妻の表情は途中から全く無反応で、新手のエステか何かみたいに顔面に牛乳の膜を張りながら、能面のようになっていた。

 ああ、この流しは少し背の高い典子に合わせて、オーダーメイドで設計したんだっけかな。
 この電子レンジは2年前に、オーブン機能も付いたのに買い替えたんだったな。
 この家も真菜と明弘が小学校の時に建てたから、もう8年にもなるのか、早いものだな。

 私の意識は切り替わっている。
 ときおり画面に入って来るキッチンの造りのほうに流れて行っている。
 これは防衛本能なのだろうか。
 そうかもしれない。
 酸鼻な映像にとてもついて行けない。

 画面中央には、いやでも目に入る、上向きで牛乳まみれの妻の股間がある。
 妻はもう観念しきって身じろぎひとつせず、お尻の穴から白い水流を噴き上げるだけだが、カメラは細かく動いていた。
 妻の顔の下半分と下腹部が被さるアングルになる時がある。
 妻が髭を生やしたみたいに陰毛が映った。

 へえ。意外と典子の下の毛って濃いんだな・・・。
 そんなことを考えている自分がいる。
 何回も剃られて濃くなったのかな・・・。
 そんなことを考えている。

 思考停止。
 事態を打開する思考を放棄していた。
 楽になりたい。
 全部嘘だと言ってくれ。
 これは夢だと言ってくれ。

 北九州への単身赴任中に、俺は事故に巻き込まれた。
 そうだ。交通事故に遭った。
 そして俺はいま、集中治療室にいる筈だ。
 去年の3月からずっと。
 そしてベッドの中の俺は悪い夢を見ている。
 家族は心配しているだろう。
 見舞いには時々来てくれてるに決まってる。
 一家の大黒柱の入院。
 しかし家には典子がいる。
 妻として母として、立派な典子がいる。
 家を守ってくれている。
 しっかりと。
 悪い誘いに乗る筈のない妻。
 身持ちの固い典子。
 その典子はどこへ行ってしまったんだ?
 頭が痛い。
 頭がおかしくなりそうだ。
 このままだと気が触れそうだ。
 いや、もうすでに気が触れてしまっているのか?

135名無しさん:2018/10/21(日) 18:38:32
37

「口を開けろ」


 もう何度目かわからない浣腸で、自分の顔に降り注ぐ牛乳を浴びている妻。
 キーを押せば必ずコマンドを実行するプログラムのように、妻は口を大きく開いた。


「飲め」


 調教師の言葉に、口の中にたまった牛乳を呑み込む妻。
 自分のお尻の穴から出て来たものだ。
 誰だって嫌悪感はある筈だ。
 だらしのない妻ではない。
 きれい好きなほうだ。
 それが自分の肛門から出てきた液体を、喉を鳴らして飲んでいる。
 いや、飲まされている。


「うまいか?」


 妻は黙っている。
 お尻からの水流は弱まってきている。


「うまいか?」


 もう一度、調教師が尋ねた。


「・・・おいしい・・・です」


 首が折れて、喋りにくいらしい。
 分別盛りの39歳の人妻。
 あってはならない姿だ。
 台所で忙しく立ち働く妻。
 そこで料理を作り、食卓を囲む。
 私、典子、真菜、明弘。
 4人の仲良し家族。
 その家族の中心として、まめまめしく世話を焼いてくれていた。
 その残像の残る主婦の城ともいえる台所で。
 妻は裸で。
 まんぐり返しにされて、牛乳浣腸をされて。
 そのお尻から出た水流を口で受け。
 ゴクゴク飲んで、おいしいと言っている。
 あってはならない。
 断じてあってはならないのだ!


「よし。花火は充分打ちあがった。天井まで届いたのが2回か。まあ、いいだろう」


 そこで妻は解放されるのかと思ったが違った。
 まだまんぐり返しをガッチリ決められている。
 画面は妻の丸く張ったお尻を真上から撮っている。
 牛乳で濡れそぼっているが、やはり大きな桃のように見える。
 男の腕が伸びて来て、桃の果実の底の黒点にも見える、中央の妻の肛門に調教師の指が潜り込んだ。
 ゆっくりとほぐすように蠢いている。
 たちまち妻が喘ぎ始めた。
 男は中指を一本、第一関節くらいまで入れただけで、同じ動きを続けている。


「典子。お前はもう夏にはプラグを入れてたんだってな?」


 妻はカメラを見上げる形で映っている。
 もう牛乳の風呂にでも潜っていたかのように、髪も顔もミルク色でぐちゃぐちゃだ。
 その妻の顔が問いかけられて緊張する。
 そして指の蠢きを感じて、あっ、とまたすぐに蕩けた女の顔に変わる。


「どうなんだ?」


 短い督促。


「・・・はい」
「もうケツデビューの予定だったんだろ?」
「・・・はい・・・」
「残念だったろ? 旦那に邪魔されて?」
「いえ・・・」
「正直になれ」
「あ・・・はい・・・」
「Sサイズから始めて、Mサイズまでは行ってたんだってな。社長から聞いたよ」


 典子は黙っている。
 しかしカメラを見上げるその顔は、明らかに快感に染まり始めていた。

136名無しさん:2018/10/21(日) 18:39:07

「家にも帰らず、20日間AV会社の人たちと一緒にいたんだ。そりゃ、色々されちまうわなあ」


 テレビの中で、調教師のごつい指が、妻の噴火口のように盛り上がった肛門に沈み、捏ねるようにねちっこく愛撫している。
 それをただ眺めている部外者でしかない私。


「ここへ一番最初に指を入れたのは誰だ?」
「・・・それは・・・ああんっ」
「誰なんだ? 旦那じゃないだろう?」
「違います・・・」


 当たり前だ。
 俺は妻のお尻の中に指など入れたことはない。
 典子がそんなことをさせる女だとも思っていない。
 そもそも妻の肛門なんて指で触れたこともない。
 まじまじと見てしまったのも金曜の、例の最後のセックスをした夜だけだ。


「言え!」


 男の指の動きが荒くなった。
 すぐさま妻の息が、ハッハッハッ、と弾み、顔つきがいっそう淫らになった。


「しゃ・・・社長・・・です・・・」
「なるほどな。こんな風に奥まで入れられたのか」
「ヒイィッ!」


 男の指がズブリと根元まで埋め込まれると、若い衆に押さえつけられている妻の裸体が、ビクン、と跳ねた。
 そのままゆっくりとピストンしていく調教師。
 あっあっ、と熱い喘ぎを妻が漏らす。


「さっきお前の忠誠を、その社長が褒めてたって話をしたろ?」


 問いかけられても喘ぐだけの妻は、返事をする余裕がないらしい。
 男も別に返事など期待していないらしく、淡々と抑揚のない独特の語り口で話し出す。


「助かったって言ってたぜ。周りの手前、禊やケジメは必要になるが、本心は感謝してるんじゃねえか?」


 こいつは何の話をしてるんだ?
 頭が痛い。
 考えようとすると、頭が痛い。
 もう俺の頭は壊れかけている。
 考えたくない。
 しかし考えねばならない。
 考えなければ妻は戻ってこない。
 いや、もう戻って来ないのかも知れない。
 だが真相を確かめなければ、今後の生活が出来ない。
 子供たちにも説明が出来ない。
 考えろ。
 考えるんだ。


「自宅に旦那が乱入してきたんだろ? 自宅に乱入というのも変なもんだが、自分の妻を寝取られて、こうやって自宅を撮影スタジオに使われて、もう一家のあるじとしての資格はないからな。で、あの時がピンチだったってな? 以心伝心ってことか?」


 わからない。
 調教師の言ってる意味が分からない。
 妻は男にお尻の穴をほじられて、アンアン言って喘いでいる。
 肛門で感じている。
 とろけそうな顔をしている。
 もうそんな女になっているということなのか。


「お前は機転の利く女だっていうことだ。そんなしっかりした女が性奴隷。そりゃあ、顧客も色めき立つわなぁ」


 機転?
 どこかで聞いた覚えがある。
 機転、機転。
 なんだっただろう?

137名無しさん:2018/10/21(日) 18:40:13

「おい、典子? まだ腹が張ってるようだな? 出し切ってないだろう? お前ひとりだけが、ケツでも口でも牛乳をガブ飲みじゃあ何だ。おい、サトシ、お前らもご馳走になれ。典子がケツの穴で温めたホットミルクだ。きっとうめえぞ。口をつけて直飲みしろ」


 その声に、右側から妻の身体を支えていた若い男が、調教師の指が引き抜かれた肛門に、唇を伸ばしてむしゃぶりついた。
 そいつはチューチュー音を立てて強く吸い立ててみせる。
 妻は焦って、猛烈に腰を振り立て始めた。
 だが梃子でも動かないという風に、男は妻の開ききったお尻の谷間に顔を強く押し当て、舌までその奥に潜り込ませようとしている気配だ。
 周りの男たちが面白がって、まんぐり返しの妻の裸身を揺さぶっている。
 お腹をギュウギュウ圧迫して、ついでに太腿の裏で隠れている乳首までを探し当ててコリコリと刺激する。


「おい。出てんのか?」


 仲間の問いかけに、サトシと呼ばれた男はせわしなく頷いて、肯定の意を表した。
 嬉しそうにギャハギャハとはしゃぐ若い男たち。


「あっ、あ〜ん。う、うぅ〜ん・・・」


 妻はお尻の中の牛乳を吸われて、気持ちよさそうに呻いた。


「あっ、あっ、あっ。・・・あぁっ! ああぁっんっ!」


 肛門の奥に男の長い舌ベロがメリ込んだのか、明らかにそれまでより高い喘ぎ声を立てる妻。


「うまいか、サトシ? 産地直送の味は格別だろ? テツヤ? お前はクリを吸ってやれ」


 言われた片側の男が、今度は妻の剥け上がった肉芽に吸い付いた。


「ああああああぁぁぁーーっ!!」


 妻の長い悲鳴がキッチンの空間に響いた。
 白目をむいてアクメに到達する妻。
 また得体の知れない男たちにイカされている20年連れ添った私の妻。
 力んだ拍子に、大量の牛乳をアナルから噴き出したのだろう。
 肛門に吸い付いている男の唇の端から、わずかにミルクが浸み出てきた。

 そうだ。機転!
 その時、まったく脈絡なく、頭の中に、あるセリフが浮かんだ。


『まあ、旦那の顔も立ててやらなきゃならないところが、人妻の辛いところですよ。いったんは元のさやに納まって、大騒ぎになるのを防ぐ。典子の機転です』


 『Episode3』の中、私の家のリビングで得々と喋っていた、角刈り不動産オヤジの言葉。
 典子の機転・・・?
 そのことを言っているのか?
 いったんは元のさやに納まって大騒ぎになるのを防ぐ、だ?
 何を言っている?
 自宅で20日ぶりに妻と再会した時の話だろうか。
 結局、妻は連中と行動を共にする予定が、私が逆上して殴り合いを始めたため、計画変更でいったん家庭に戻っただけだったと言いたいのか?
 そんなことがある筈がない。
 そんなことがある訳はないが、あのAV社長は典子の機転に感謝しているという。
 いったいなぜ感謝する必要がある?

138名無しさん:2018/10/21(日) 18:40:43

 私が警察に通報するのを妻は、


『やめて! これ以上傷つきたくない!』


 と強く拒否していた。
 同行していた探偵も、


『レイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入りする女性も多いようです。警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる。また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?』


 と助け船を出した。
 だから俺は敢えて大ごとにはしなかった。
 しかし・・・。

 頭が痛い。
 頭が割れそうだ。
 考えたくない。
 そこを考えてはいけない。
 だめだ。
 やめておけ。
 私に中の何かが私に命じる。



 私はフラフラとキッチンに戻った。
 呪われたキッチン。
 妻はここで全裸になって、牛乳浣腸をリビングまで『祝砲』と称して噴き上げていた。
 まんぐり返しで『祝いの花火』と称してミルクを噴水のように天に散らせた。

 キッチンテーブルの上に牛乳パックが出しっぱなしになっている。
 もちろん飲む気になんかならない。
 グエッ、と喉が鳴って、吐き気が込み上げて来る。
 私は立ったままで、グラスにコニャックのボトルから琥珀の液体をドバドバ注いだ。
 氷も入れずに一気にあおる。
 グラス半分ほどが消えた。
 また注いだ。
 また半分消えた。
 まだ酔いは回らない。
 もしかすると、とっくに酔ってるから回らないのかも知れなかった。

 私はテーブルの椅子にどすんと腰を下ろした。
 テーブルの板しか視界に入って来ない。
 ということは、私は俯いているんだろう。
 視界がぼやけている。
 ということは、私は泣いているんだろう。

 男たちに電話をかけろと妻に命じた時、私の記憶では妻は正確にこう言っていた。


『今から会いたいんですけど、どこにいますか? ・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません』


 その時は別に何とも思わなかった。
 事実だったからだ。

 その当時の私の心境は、やり場のない怒りをどこにぶつけていいかわからない状況だった。
 矛先の向け場は、妻なのか、男たちなのか、警察なのか、探偵なのか。
 男たちを殴る理由が私にはあった。
 私を殴る理由などないのに、男たちは殴った。
 私は気絶し、そして意識を取り戻した。
 逆上して冷静さを失っていた。
 だから個々の事象の細かい分析など、思いも寄らなかった。

 だが今落ち着いてよく考えてみれば、妻は私が警察に届けることを極端に恐れていたことが分かる。
 私が警察に連絡することを徹底的に反対してたし、連中にもそれとなく警察への通報の危険性を電話で伝えている。
 そのあと、用はないから会うつもりはない、と連中は妻に言ったらしいが、結局、会いたいと向こうから電話が入ってきたのは、もしかすると警察というキーワードの故ではなかったのか?
 後ろ暗い連中は、あの時点で警察に届けられるのが一番マズかったということだったのか?
 核心に近づいた気がして、私の心臓が大きく脈打ち始めた。

139名無しさん:2018/10/21(日) 18:41:19

 やっとアルコールが効いて来て、身体中が燃えるように熱くなった。
 妻が連中と一緒に立ち去らずに自宅に残っていてくれた時、やっぱり家庭を選んでくれたと、私は嬉しかった。
 あるいは床に伸びてしまった私への憐憫からかとも思ったが、それでも嬉しかった。
 身体はともあれ、まだ心は繋がっているんだと、私を置いていくのが忍びなかったんだと、熱いものが込み上げてきた。
 しかし実際はどうだったのか?
 冷静さを失い何を仕出かすかわからない私を危険視して、妻だけが居残っていたのだとしたら?
 いや奴らにハッキリと、監視しろ、と命じられていた可能性もある。
 とにかく警察だけは阻止しろと。

 これは憶測が過ぎるかも知れない。
 しかし疑えば何でも疑える。
 妻は私に従って家庭に戻ることを同意したが、それは単にほとぼりの醒めるのを待つ方策ではなかったか?
 長髪社長は一週間を経ずして会社ごと姿を消し、警察からの捜査の手を未然にブロックし安全圏に逃げた。
 証拠を隠滅し、完全な防戦体制を整え上げた。
 そして典子の離婚計画及び家出計画はそのまま温存された。
 もしそうだとしたら――。

 違う。
 絶対に違う。
 典子はそんな女ではない。
 典子は俺とよりを戻すことを選んだ。
 元通り生涯を俺とともに過ごすことを選んだのだ。
 家族と共に暮らすことを選んだ。
 幸せで温かい家庭を選んだ。
 だから絶対に違う。

 20日間も家を空けておきながら、


『冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。今の話はすべて録音してます。今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。外に停めてある車のナンバーも全て記録してます』


 という探偵のひと言だけで、リビングに居残った女。
 それは偶然だ。
 俺が、今から警察に連絡する、と言ったとたん、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません、と男たちに電話を入れた女。
 それも偶然の重なりだ。
 偶然に過ぎない。

 もしあの時警察に連絡していたら・・・。

 探偵の証言もある。
 あのAV会社――妻は映像製作会社と説明していたが――に強制捜査が入り、たくさんの犯罪の証拠が見つかったに違いない。
 社長の自宅にだって捜査のメスは入ったろう。
 少なくとも無修正映像を扱っていたため《猥褻物販売目的所持罪》あたりには引っ掛かったはずだ。
 そこから芋づる式に顧客名簿なども洗い出され、奴の組織には大ダメージになっていた可能性が高い。

 妻の忠誠・・・。
 一度とことん堕ちてしまった女は、家飼いだろうが放し飼いだろうが、もうご主人様に忠誠を尽くす忠犬として一生を送る――。

 妻はもう忠犬なのか。
 俺のではなく、得体のしれない男たちの?
 うちに帰って来たときには、すでに忠犬だったのか?
 典子は飼い主の長髪社長に感謝されるほどの、忠実な忠犬だったのか?
 俺とは心ならずも一緒に暮らしていただけだったのか?
 あのAV社長が完全に逃げ切るのを手伝うためだけの?
 長髪社長は私との約束の建前上、もう典子と接触できない。
 しかし以心伝心、気脈を通じ合っていたということなのか?
 そして妻は奴らからのなんらかのアプローチがあることを心待ちにしていたのだろうか?
 とすれば仲の良い家庭の再構築なんて、しょせん最初から夢物語だったのか?
 俺の妻だった典子はもうどこにもいないのか?
 戻って来たのは妻の姿をした別人だったのか?

140名無しさん:2018/10/21(日) 18:42:39
38

 目覚めると、リビングの3人掛けのソファの上に寝転がっていた。
 薬の効果も酔いも消えている。
 時計を見る。
 午前2時だ。
 少し眠ったようだった。

 落ち着いて考えてみる。
 妻とAV社長が示し合わせて芝居を打ったなど、よく考えればバカバカしい話だ。
 典子はそんな性悪な女ではない。
 長年暮らしてよく知ってるじゃないか。
 AV社長だって、忠誠に感謝、と言っている。
 典子が勝手に気を利かせただけの話だ。

 いや、それは正確ではない。
 典子は大げさにしたくなかったのだ。
 警察沙汰になり、あのAV会社に飛び火したら、いろんな想定外の大騒ぎが起こる。
 最初の浮気ですら、当時勤務していた会社の取引を慮って、人身御供のような形で始めてしまった典子なのだ。
 仮にAV会社であれ、一度は身を置いた自分の会社。
 自分のせいで波風を立てたくないと思ったのかも知れない。
 もちろん届け出れば警察から撮影等の事も根掘り葉掘り訊かれる。
 そんなことを進んでやりたくないのは当たり前だ。
 それを機転だなどと・・・。
 悪意のある受け取り方だ。

 典子は怖がりだ。
 きっと怖かったのだろう。
 私の反応や子供たちの反応。
 色んな事が怖くて深みに落ちて行ったのだろう。
 私だって思い当たる。
 妻の裸のDVDを見つけた時には怖くなった。
 現実を直視できず、対応を一日延ばしにした。
 そのうちに好転するだろう。
 そう思って手をこまねいていた。
 そして傷口を広げた。
 誰にだってあることだ。
 典子は悪くない。
 悪いのは典子を底なし沼に引きずり込んだ男たちのほうだ。
 俺が典子を信じないでどうする――。

 物音ひとつしないリビング。
 夏なのに寒々としている。
 明日には――正確には今日だが――明弘も帰って来る。
 いつまでも荒れた生活をしていられない。
 DVD-Rはすべて片付けて引き出しに仕舞おう。
 そして鍵を掛けよう。
 酒も煙草も駄目だ。
 睡眠薬を適量だけ飲もう。
 そして眠ろう。
 明日からは明弘と二人だけの生活になる。



 明弘は夕方帰って来た。
 相変わらずぶっきらぼうな息子だ。
 電話で話してあったせいか、妻のことは訊かれなかった。
 夕食は出前を取ってあった。
 ほとんど会話らしい会話はない。
 合宿中の話題でも出てもおかしくないのだが、それもない。
 そんな食事だったが、重苦しい雰囲気ではない。
 明弘ひとりとはいえ、やはり家族が誰かいると落ち着く。
 心が安らぐ。
 これが家庭の良さだろう。

 夜寝る前に、リビングでテレビを観ていた明弘と少し話した。
 明日は会社だ。
 また夜が遅くなり、2,3日すれ違いになるかも知れない。
 その前にやはり妻のことを少し言っておかなければ。


「お母さんのことだけどな」


 言うと、明弘は、テレビ画面から目を離さずに、


「うん」


 とだけ言った。
 聞く気がないのだろうか。
 そうではなさそうだ。
 深刻そうにしてはいけないとの、明弘なりの気遣いのようだ。

141名無しさん:2018/10/21(日) 18:43:11

「少し長引くかもしれないんだ」


 息子は黙って聞いている。


「しばらく二人だけの生活で、不便かけるかもしれないけど、よろしく頼む」


 なんだかぎこちない。
 これで息子に伝わっただろうか。


「お母さんがいないんで、ご飯とかも店屋物か弁当が多くなるが、我慢してくれな」
「いいよ」


 相変わらずテレビに目を向けながら息子が答える。


「山本君のところは、小さい頃両親が離婚してお母さんと暮らしてる。沢木君のところは去年お母さんが乳癌で亡くなって、お父さんと二人暮らし。みんなそれでも楽しくやってる。平気だよ」
「そうか。そう言ってくれて助かる」


 涙が出そうになった。
 子供としか思っていなかった明弘。
 妻がいなくなってショックを受けると思っていた。
 だが、子供は子供で、その年齢でも周りの友達を通じて、人生の苛酷さをしっかり認識していた。
 忘れていたのは私のほうだ。
 世間にはいろんな家庭がある。
 何の不自由もない恵まれた家庭というのは、実はそんなに多く存在しないのかも知れない。
 両親の不仲や病気。
 いろんな不幸がある。
 でも、それは子供には関わりがない。
 子供は子供で逞しく生きていくだろう。
 もともと明弘は友達と遊ぶのが好きで、家にいる時は逆に家族といるより部屋に閉じこもるタイプの子だった。
 社交的な現代っ子。
 いましばらく経済的な援助さえきちんとしてやれば、自分の人生を立派に切り開いてくれるに違いない。
 たとえ私が典子と離婚しても・・・。

 明弘に嘘をつくのが申し訳なかった。
 離婚となれば、今日の嘘をちゃんと謝って、事情を説明しよう。
 ただ今現在は、説明する材料がない。
 妻が家を出て行ってしまっているのは事実だが、それ以外の理由や情報がほとんどわからない。
 ふらりと妻が戻って来ることがあるだろうか?
 残念ながらそれはなさそうだ。
 連絡くらいしてくれればいいのに・・・。
 それもないということは、もう妻は私や子供たちに全く興味もないということなんだろうか?
 家族は捨てたって構わないってことなのか?
 こんなに長い時間を共有して来たっていうのに?
 楽しく過ごしてきたっていうのに?
 しかしどんなに仲が良さそうに見えた夫婦も、当たり前のように離婚してしまう昨今。
 芸能界は言うに及ばず、我々一般社会においても珍しい現象ではなくなった。
 去年の騒動で典子の口からも離婚という言葉が出た。
 本当は典子は家族という足枷を捨てて、自由になりたかったのか?

 人の妻として男たちと羽目を外して遊びまわるのは人倫にもとる行為だ。
 法律上も不貞行為を形成する。
 だがひとたび独身となってしまえば、どんな変態セックスに溺れようが、それは趣味嗜好の問題であって、倫理的にも法律的にも裁かれることはなくなる。
 裏切りが苦しくて、早く楽になりたかったということか?
 だが私は全てを許した。
 ただ前だけを向いて行こうと決めた。
 それでは足りなかったのか?
 それでは嫌だったのか?
 典子の望む人生ではなかったということか?



 月曜出勤すると、私のミスを火元とする混乱は、火の手はおさまって来たものの、あちこち類焼し、いやおうなくその対応に追われて、てんやわんやの状態となった。
 やはり土日に会社から何回か連絡があったらしいが、私が電話に出なかったため、消火できそうだった案件も再度火を吹いていた。
 合間を見て明弘に連絡を入れたが、先に食事を済ませて、寝ろと言っておいた。
 案の定、帰宅は午前様。
 朝もすれ違いで、あっという間にまた週末が来た。

142名無しさん:2018/10/21(日) 18:43:46

 妻のことを考えなかったわけではない。
 ただ明弘がいることによって、思考はより現実的になっていく。
 どう考えても夫婦関係は破綻している。
 事故なら警察から知らせが来る。それもない。
 妻から一切連絡がないのは、妻の決意の表れなんだろう。
 行きつく先は離婚・・・。
 寂しいが、そう思わざるを得ない状況だ。

 土曜の昼くらい明弘と二人で近くのファミレスで食事でもしたかったが、いまさら他人行儀だ。
 明弘も何を話していいかわからず気詰まりだろう。
 やめてしまった。
 珍しく息子は家にいたが、私が居ると部屋に閉じこもって出てこない。
 リビングでテレビだって見たいだろう。
 運動不足解消を兼ねて、少し散歩に出ることにした。

 玄関を出ただけで、また嫌な気分が込み上げて来る。
 探偵に付き添われて、連中と妻のいる我が家へ踏み込んだ時のことが、胸に蘇ってくる。
 一番近い交差点。
 そこに乗ってる車が差し掛かっただけで心臓がバクバクと響いた。
 やがて見えてきた我が家の前に停めてある大型のワンボックスカー。
 その姿のなんと禍々しかったことか。
 手が震えて玄関の鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかないほどの動揺。
 男物の靴を4足も見つけ、もう1足、妻の靴も見つけた時の、身も凍るような緊張。

 私は門から外の道路へ足を踏み出した。
 どうしたって忌まわしい記憶からは逃れようがない。
 空は気持ち良く晴れていた。
 あの朝もいい天気だった。
 だから、煙草を買ったあと、少し遠回りして家に帰ることにしたんだ。
 妻は朝出て行ってたことを、町内会の集まりがあった、と言っていた。
 私が偶然見つけた掲示板には、町内会の集まりは次の週、と告知されていた。
 変に思ったが、妻には言わなかった。

 あの時、妻を問い詰めていれば、何かが変わったんだろうか?
 深みに陥る前の妻は、私に相談し、すべて打ち明けてくれただろうか?
 その時点で奴らの悪だくみをぶち壊し、警察に告げて一網打尽にしてやれただろうか?
 わからない。
 全ては仮定の話。
 繰り言に過ぎない。
 奴らは妻への調教の手を緩めず。
 その後、堕ちた妻へと変えた。
 そして、去年、ギリギリのせめぎ合いの中で、間一髪救い出した最愛の妻は、すでに堕ちきっていた。
 そういうことなのだろう。

 娘の真菜にも、妻が病気治療に出かけた、という話をしておいた方がいいだろうか?
 いや、やめておこう。
 いずれバレる嘘だ。
 なるべくなら真菜まで騙すことはしたくない。
 足は自然とその掲示板に向かって行った。
 古ぼけた木の掲示板。
 何も変わっていない。
 あの日が6月2日だったから、まだ一年と3か月ほどしか経っていない。
 それなのに私の家庭は崩壊した。
 こんな朽ちかけの木の掲示板がまだ立っているというのに。

 泣けてきた。
 妻はどこにいるんだろう?
 本当に自分の意思なのか?
 奴らに無理やり連れ去られたんじゃないのか?
 嫌がる妻に対し。
 奴らが全部無理やりに。
 そうだ。そうに決まってる。
 妻は帰って来たがっているに決まってる。
 だから俺は救い出しに行かなければならない。
 だが、どうやって?

143名無しさん:2018/10/21(日) 20:55:36
39

 次の週も、その次の週も、変わったことはなかった。
 明弘との暮らしのおかげで、昔の落ち着いた生活のリズムを取り戻すことが出来ていた。
 妻の失踪はまもなくひと月になろうとしている。
 前回よりも長くなってしまった。
 このまま帰って来ない公算が大だ。
 警察には伝えてある。
 しかし追跡に役立つ材料はないものの、そろそろ興信所にも動いてもらう時期かもしれない。
 永遠に妻を失ってしまうという最悪のケースが、いよいよ現実味を帯びてきた。

 明弘は昨日の夜から、友達のところに泊まりに行っている。
 秋分の日まで、今日の土曜から久しぶりに4日ほど一人っきりになる。
 仕事に追いまくられて、今日までDVDを見ていられなかった。
 なにより明弘がいる。
 刺激的な内容なので、絶対に目に触れさせることなど出来ない。
 実の母親のあんな姿を見たら、ショックなどという言葉では言い表せない打撃を受けてしまうのは確実だった。
 今後の人生までおかしくしてしまうかも知れない。

 だから、まかり間違っても出しっぱなしなど出来ない訳だが、あのDVDを見て冷静でいられない自分がいる。
 前にはあまりの衝撃に再生中に気絶してしまったことがあった。
 平常心が保てないから、精神安定剤やアルコールに頼ることになり、余計に意識を喪失する手助けをしてしまう。
 とにかく、DVDをプレーヤーに入れたままだったり、PCのトレイに入れたままだったりで、気を失って寝てしまう危険が常にあるのだ。
 もしそんなところに明弘が帰ってきたら一巻の終わり。
 だから極力、明弘には気づかれないよう、例の小物入れの引き出しは鍵をかけ、厳重に封印していたのだった。

 ひと月の奔走の結果、やっと仕事のほうも一段落という感じになって来た。
 ただこれで出世の道はもうないんだろうな。
 仕出かしたミスは大きすぎた。
 結果的に大切な妻を失う原因ともなってしまったといえる北九州赴任。
 あれで支店長代理という、いわば管理職テストをされた私。
 最後のほうは妻の身に降りかかった大事件で気が気ではなく、有休もたくさん使い、なんとなくミソをつけたような終わり方になってしまった。

 この一年はその失点を挽回すべく、早朝から深夜までシャカリキに働いて来た。
 ようやくその努力が周囲に認められてきたかな、という矢先に今回のミス。
 正直、この失敗を取り返すには何年もかかるだろう。
 それにもう私の出世欲は消えていた。
 もともとそれほどあるほうでもない。
 妻を失った喪失感は、日に日にボディブローのように効いて来ている。
 仕事の張り合いも、すでになかった。

 心療内科には、先週になってやっと一回通院できた。
 近況を説明した。
 すると、奧さんは近頃だいぶ安定して来ていたのにと、女医は首をひねった。
 どうも撮影を続けていたようだと言うと、かなり特殊なケースだから、本人と会って話をしてみた上でないと何とも判断つかない、と先生は言葉を濁した。
 そして妻のことよりも、血液検査、尿検査、その他心理テスト等を受けた結果、私の健康が非常に深刻な状態にあると宣告されてしまった。

 自覚はある。
 薬品の用法を無視した大量投与。
 アルコールの大量摂取に、喫煙の復活。
 さらにはそれらの同時服用。
 身体に良い訳がない。

 左手の小指&薬指の痙攣、左腿の痺れを訴える私に、医師は脳のMRI撮影を促した。
 ありがたいことに特別の病根は見当たらずに済んだが、この生活を続ければ確実に重大な病気を招き寄せると断言されてしまった。
 血液検査の結果、かなりの異常値が発見され、一時的なものならいいが、これが続くようだと、各種の慢性病が発症するだろうと予告された。

 妻の今後についての見通しを先生に訊いた。
 無責任なことは言いたくないと、先生は何度も渋った。
 しつこく頼み込む私に、先生は、これはあくまで一般論としてだけど、と前置きをして最後にこんなことを教えてくれた。
 普通に考えて、こういう症例だと、明らかなセックス依存症との診断になる。
 しかしあなたの奥さんはどこかが違う。
 なにか掴めないところがある。
 なにか隠れているものがある気がする。
 それが何なのかはわからない。
 プレイの過激度からして、セックス依存症の限度を超えている。
 しかしそれだからこそ、逆に単純なセックス依存症ではないことが窺える――。


「でもこうなってしまった以上、奥さんは戻っては来られないでしょうね。はっきりと諦め、新しい人生に向けスタートを切る必要があります。これを引きずったまま暮らしていると、あなたは死にます。これは医者としての忠告です」


 それでも薬は今まで通り処方してくれた。
 強い薬だ。
 これは有難かった。
 だが女医先生の薦めるのも、結局は離婚の二字。
 それしかないのか・・・。

144名無しさん:2018/10/21(日) 20:56:07

 妻の失踪のタイミングで計ったように電話してきたAV社長。


『あなたは実に往生際が悪い。それとも鈍いのかな。普通ならとっくに離婚に同意していただけるんですがね。まだまだ事実を積み上げて行かないと納得していただけなさそうだ』


 その事実というのが、引き出しに山と有ったDVDの数々ということだったのか。
 奴らの思惑通り、唯々諾々と離婚に同意するのは悔しい気がするが、他に方法はもう残ってないのか?

 私は久しぶりに小物入れの引き出しの鍵を回した。
 禁断の品々を物色する。
 まだ土曜の昼前だ。
 時間はある。

 よく考えれば、かなり時間を費やした気でいたのに、見たものといえば『Episode1』のキャプチャー『1』『2』『3』と『4』の途中まで。
 それと『Episode3』のこれも途中。
 あとは『温泉旅行の真実』とDVD『2-2』と呼ぶべき無記名のもの。
 そしてまた妻の昔の動画が入っていた無記名のもの。
 それくらいだ。

 プレイはそれぞれに衝撃的で、私の精神を打ち砕く映像ばかり。
 屈んで引き出しの中の白い円盤を掻き回しているだけで、早くもため息が飛び出し、手が震えて来る。
 見るDVDを選んでいる最中に、吐いてしまいそうだった。

 とりあえず途中まで見たものを潰すか。
 『Episode1』はキャプチャー『4』で終わりのようだ。
 新シリーズ第一作だということだし、ここを見るしかないか・・・。
 私の心は浮き立たない。
 重く沈んでいる。

 『Episode1』と書かれた白い円盤をDVDプレーヤーに入れる。
 テレビ画面に表示されたキャプチャー『4』をリモコンで選択する。
 浮かび上がる映像。
 また妻の丸々とした大きな桃の様なヒップの大アップが映し出される。
 8倍速くらいに切り替えて、見た映像をどんどん飛ばして行った。
 画面では白い牛乳が幾度となく乱れ飛んでいる。
 すべて妻のお尻が噴き上げているものだ。
 なかなか見終わったところまで到達しない。
 やっとで牛乳が噴射されないシーンまでたどり着いた。
 倍速にスピードを落としてチェックする。
 若い男たちが妻の逆さにされた裸体に取りついて、争って剥き出しの股間に唇を吸いつけ合ってる場面まで来た。
 妻の直腸から出る牛乳を直に口を付け、奪い合うように交互に飲んでいるのだ。
 その光景はエロチックともいえたが、グロテスクともいえる。
 するとシーンが完全に切り替わった。
 ここからは見ていない。
 通常速度に戻す。

 妻は画面に後ろ向きにされ、挿入を受けていた。
 背中を上から映す、カメラマンの男とのハメ撮り。
 また妻はセックスをしているのだ。
 結婚以来ずっと淡白だと思い込んでいた典子は、DVDの中では必ずセックスをする。

 調教師リーダーの男は放出したらしい。
 妻のバックの裸体が硬直し、ピクピクと痙攣している。
 その女体の動きでわかる。
 セックスの陶酔に酔いしれて、最高の快感を味わったことがわかる。


「典子。プラグで余計に締まって、良い感じだ。とうとうLサイズも馴染んだみたいだな」


 カメラマンの男は右手を妻の右ウエストに添えて、腰を小刻みに動かし、射精の余韻を楽しんでいる。
 妻は例によってゴムなんか不要の生入れをされ、膣奥に生中出しをされたらしい。
 考えてみれば、去年の半年の間だけで、妻は他人からどれだけの中出しを受けたのだろう?
 私がDVDで確認したものだけでも随分になる。
 そんな妻とまた元通り仲良くやって行けるなどと、どうして私は思ってしまったのだろうか?

145名無しさん:2018/10/21(日) 20:57:14

 画面には、魅惑的に盛り上がる、嬉しくなるような妻の双つの尻肉がある。
 レンズはその狭間に潜む直径4センチほどの白っぽい円形の物体を大写しにした。
 これがLサイズのアヌス栓ということか。
 外側からは分からないけれど、内部には大きな瘤のような凶器が埋め込まれているんだろう。
 牛乳浣腸でじゅうぶんにほぐれた妻の肛門。
 いつから入れているのかは知らないが、Lサイズのアヌス栓が古巣に戻って、その蓋の下に広がる菊皺を全部隠していた。
 妻は官能の極みを貪って、全身をだらしなく脱力させている。


「お前、旦那に踏み込まれた時もMサイズをケツの穴に入れていたんだって?」


 感情の起伏のない調教師の声。
 妻はまだ喜悦の境地から覚醒していないらしく、反応を見せない。
 細い胴体だけが息遣いにあわせて収縮している。


「旦那が殴られて気絶した間に引き抜いて、若い衆が持って行ったんだってな?」


 妻はまだ息を整えている段階。
 返答が出来ない。


「まあ、あの日、お前の家でケツセックスを撮っちまえば、良い作品になったのにって、社長も残念がってたぜ。でもまだ無理だったんだってな?」


 調教師の肉茎はまだ完全には衰えていないらしい。
 促すようにポンポンと腰で突いて、鎮火しかかった妻の身体を小さく、あ、あ、と喘がせている。


「お前は締まりがいいから、ケツのほうも無駄に時間が掛かっちまったってなあ? 10日くらいで使えるようになる女もザラにいるのに、しょうがねえから、ひと月じっくり準備にかける予定だったらしいじゃねえか? でも、そんな女の方が、いざ開通すると万力締めで格別の味わいらしいがな」


 調教師にそんな侮蔑的言葉を浴びせられている妻は、どんな表情をしているんだろう?
 いま妻は後ろ向きになっている。
 男は萎えかけた男根を引き抜いた。
 息絶え絶えの妻の裸体はその場にへたり込もうとする。
 それを無理に抱き起し、こちら向きにさせる。

 妻の顔は豚みたいになっていた。
 鼻筋が通った綺麗な容貌。
 斉藤由貴にちょい似の妻。
 その面影はない。

 両方の鼻の穴から金属製の棒が一本ずつ上に伸び、額の辺りで黒い革のベルトに連結されている。
 その銀の鋲を打たれた革ベルトは、頭頂部を通って後頭部に回っていた。
 鼻フックだ。
 これは女性の美貌を破壊し、辱めるための鼻フックに違いない。
 妻はこんなことまでされていた。

 妻の髪は牛乳でテカテカになって、プールから上がったばかりみたいに、全部を後ろに流していた。
 鼻の穴はすっかり前を向いている。


「いい顔だ、奥さん。美人は何をやっても似合うな。よし、お前ら、そろそろ典子に可愛がって貰え」


 その声で、妻に周りに4本の勃起した男根が並んだ。
 どれも若いのだろう。
 臍に付きそうな勢いがある。
 さっきまで着衣だった男たちは、いまは全裸になっている。
 その生勃起を、妻は手慣れた仕草で握り、舐め、扱いて、均等に刺激を与えていく。
 これだけ見れば、AV嬢と何ら違いはない。


「奧さん、鼻の穴に出されたことは?」


 軽薄そうな若い男の声。
 妻は怯えたように首を振るばかりだ。
 その両手は2本の勃起を握り、舌で目の前の二つの亀頭を舐め比べている。


「じゃあ、出しちゃうよ」


 男は言うと、いきなり突き出した屹立の先端から、白濁液を妻の露出した鼻の穴めがけて放出した。

146名無しさん:2018/10/21(日) 20:57:55

「ぐひぃぶえっ」


 何とも言えない声を上げて妻は仰け反った。
 本来は下を向いて隠れている筈の鼻孔が、鼻フックのおかげで平坦に広がり全開している。
 そのため奥まで直撃したらしい。
 なおも男は亀頭の先を妻の鼻の穴に直接擦り付け、遅れて噴出する精子を鼻の奥に注ぎ込むことに熱中している。


「ふぬんぐふん、ぬぬぬんぅー」


 妻が断末魔の叫びをあげる。
 その間も、妻の片方の鼻の穴は勃起によって犯され続けた。


「典子、お前の身体は誰のものだ?」


 調教師の言葉が冷たく響く。
 鼻の穴の奥にたっぷり若い精液が入ったのだろう。
 妻は苦しそうに、鼻から息を押し出し、口を大きく開けて、そこからも粘液を外へ出そうともがいている。


「誰のものだ?」


 やや苛立ったような声。


「はいぃ、ご主人様たちのものですぅ」


 すかさず答える妻。
 へつらいでもなく、当然の事実の通知をした風情に、調教師の声の調子も緩む。


「そうだ。お前の穴という穴は俺たちのものだ。鼻の穴に射精されたのは初めてか?」
「・・・はい」
「よし。お前は鼻の穴も我々に捧げたということだ。わかるな?」
「はい・・・ここの初めてを捧げました・・・」
「うむ。それでいい」


 その会話を聞いたのだろう、もうひとりの若い軽薄な声がした。


「じゃあ耳も行っとく?」


 その男らしいギンギンに膨らんだ怒張が画面に入ってきて、正面を向いた妻の顔の横側に押し当てられる。
 狙いは妻の耳の穴らしい。


「オレ、女の耳に出すなんて初めてだな〜」


 画面はブタ鼻でひきつった妻の顔と、耳に突きつけれた生勃起だけのアップ映像。
 妻は困ったような覚悟を決めたような、なんとも神妙な顔つきになっている。


「うわー、典子の耳たぶ柔らけーなぁー」


 浮かれた男の声が響く。
 その勃起が私のまぎれもない配偶者である典子の耳に直に当たっている。


「ローション使うぞ。ローション」


 男ははしゃいでいる。
 小瓶みたいのが用意された。
 それが男に渡される。
 うちの小物入れの引き出しにあった小瓶のようだ。
 男は自分の亀頭と、妻の耳たぶに塗りたくる。


「おっ、いいね。これで十分イケそう」


 男は腰を突き出し始めた。
 奇妙なセックスシーン。
 ネチャネチャと音がする。
 糸を引く。
 大きい亀頭で捏ねるように、耳たぶの中を掻き回している。
 人間の耳を性器がわりにしようというのか?
 こいつら、狂ってる。

147名無しさん:2018/10/21(日) 20:58:30

「奧さん、耳にピアスの跡もねえのね? 穴開けるの嫌い?」


 男が嬉しそうに問いかけた。
 そういえば妻はピアスをしたことがない。
 せいぜいでイヤリングどまりだ。


「真面目っ子だねえ? そんな奥さんの初めて、貰っちゃうからね、へへへ」


 男は言うと、有り得ないことに、妻の耳の中に射精した。


 ビュッッ!


 その瞬間、妻の顔が驚いたように硬直した。
 耳には鼓膜がある。まさかそこまで当たって充満した訳でもないだろうが、精液は溢れ出し、妻の片頬にダラダラ流れ出た。


「へへへ。奥さんの耳の初めて、頂いちゃいましたよぉ〜ん」
「おおっ、今日だけで典子奥様の初めてをツーポントゲット! やっるぅ〜う!」
「オレ、奥さんの肛門の舌入れしちゃった。これどう? 初めて?」


 耳を犯された妻は多少の動揺があるのか、ぼんやりとしている。
 鼻フックで真正面向きの鼻の穴から精液を垂らし、耳から頬にまで別の子種を流している、呆然としたような妻の顔だけが画面に映し出され続けている。


「どうなんだ?」


 またも響く調教師の低い声。


「し、舌が入るのは・・・初めてでした・・・」


 恥ずかしそうに告げる妻。


「やったー。スリーポイント。ハットトリック達成ーっ」


 知性の感じられない軽い男たちに好い様にされている妻。
 薄っぺらい若い連中と鬼のような調教師が跋扈する。
 そんな空間に、妻がいることが信じられない。
 妻とは人格の釣り合わない連中。
 そんな連中と。
 あの慎重で責任感の強い妻が。
 あの明るい妻であり、優しい母親である典子が。
 自宅キッチンで全裸で顔中を精液まみれにし、一緒にいることが信じられない。


「じゃ、今日あと、誰が典子使うんだ?」


 上機嫌な若い声がする。


「オレ」
「オレも」
「オレもう一回する」


 周りから声が上がった。


「よし、典子。今日はあと3本な?」
「はい。わかりました」


 若い男の声に、まるで喫茶店で注文を受けるみたいに、当たり前に答える妻。
 あと少なくとも3回、妻は男たちの性欲処理をし、自分も気持ち良くなってしまうんだろう。

148名無しさん:2018/10/21(日) 21:11:49
40

 時間にして短かったが、やはりショックは大きい。
 私の知らない妻を見せられるのは辛い。
 だがまだ昼にもなってない。
 ここから薬に頼るのは早すぎる。
 担当医からは、薬の分量を守るように厳重に言われているし、アルコールなどとの併用は命取りだとはっきり言われてしまった。

 妻が出て行った直後に残されたDVDを見ていた時は、やり直せたと思った幸せな家庭がガラガラと崩れ落ちる実感に、恐怖で気が狂いそうだった。
 不意打ちがこたえた。
 家に独りぼっちだったのも悪かった。
 だから薬や酒に溺れてしまったのだ。
 明弘も帰って来たし、日も経って、多少現実を受け入れられるように変わった。
 諦め?
 そうかも知れない。
 現実を受け入れるということはそういうことなのだ。

 打開の方策はない。
 もう一度連れ戻して、妻と一緒に暮らせるのか?
 わからない。
 私の心が、典子を昔の典子として見られるのか?
 わからない。
 そもそも家に連れ戻すことは可能なのか?
 それもわからない。
 私はDVDを淡々と見ていって、諦めようとしているのか?
 裏切りを続ける妻の姿を見て、やり直すことを諦めようとしているのか?
 なにもわからなくなった。
 変わってしまった妻を見て、一切合切これまでの暮らし自体、なかったことにしてしまおうとしているのか?
 自分でもわからなかった。
 それとも・・・。
 まだDVDのどこかに起死回生の一手があると信じて、それを見つけようとしているのか――?



 あと3本、と若い男が言った場面はそのあと暗転した。
 私はコーヒーを用意し、リビングの定位置でDVDを再スタートさせていた。
 『Episode1』のキャプチャー『4』は、終わりそうでなかなか終わらない。
 黒い画面が続き、次に始まった場面では、相変わらず我が家のダイニングキッチンを映していた。
 あれから少し時間が経ったようで、全員がシャワーでも浴びたらしい。
 自分の家の風呂場が連中に気ままに使われたことに、ムカつきを感じる。
 妻が3回セックスしたシーンはない。
 おさめられずにカットされたようだ。

 連中は全員最初の頃のように服を着ていた。
 妻を堪能したらしく、皆満足げだ。
 そいつらがテーブルを囲んで座っている。
 もう牛乳のパックはどこかにやられたようで、テーブルにはなかった。
 カメラマンの男はテーブルの端にいるみたいで、両サイドの若い男たちの様子をなんとなく撮っている。
 このアングルからなら、本来は左側に明弘と妻が座り、右側に真菜と私が並んで座るポジションなのだ。
 ダイニングとのカウンター形式の間仕切りがその後ろにある。
 妻がキッチンに回って調理をする。
 カウンター置かれた料理を、私がテーブルに運ぶ仕掛けだ。

 そういえば妻がいない。
 右側の画面の外でガチャガチャ音がする。
 やがて妻が画面に入って来た。
 ええ?
 異様な格好だった。
 長身で、すっきりスレンダーな妻。
 紐水着を着ている。
 髪はシャワー後なのだろう。
 牛乳の痕跡はなく、きれいになっていた。

 画面で後ろ向きになる妻。
 手に持っていたお盆の上の小鉢みたいなのを、次々テーブルに乗せていく。
 お尻がほぼ丸出しである。
 もちろん全裸の妻を何度も見ている訳だから、ビックリすることもないのだが、ヒップの割れ目に鋭く喰い込んだVになったピンクの細紐が妻の両肩にかかっているだけの眺めは、なんとも淫靡なものがある。
 しかも妻はスタイルが良いとはいえ、10代や20代の若いハーフの八頭身のモデルでもない。
 生々しい主婦の体形だ。
 その程よく脂の乗った人妻の白い肉体が、変態的なウェアのおかげで、限りなく卑猥に見えた。
 特に臀裂に潜り込んでいるTバックの縦紐部分は、高いところまで姿を消していて、どれだけお尻の肉に厚みがあって、張りが充実しているかを雄弁に物語っている。

149名無しさん:2018/10/21(日) 21:12:24

 その色気に誘われたらしい、カメラマンの右手が伸びる。
 双臀の膨らみを撫で、わずかに赤い鞭痕の残る尻っぺたをピシャピシャ叩いて、屈むよう合図する。
 お尻の谷間が見事に開いた。
 水着は紐というより一本の線だ。
 肛門の辺りではアヌス栓の白っぽい円形の大部分がはみ出している。
 股間も極小の細い三角布地で隠しきれず、盛大に黒い縮れっ毛があたりに飛び出していた。
 それをしっかりカメラで確認する。

 そのあとでテーブルに妻も加わった。
 横から乳房が丸見えだ。
 乳首は五百円玉くらいの円い生地で隠れている。
 乳暈の大きくない妻であっても、赤い先端を隠すのがギリギリという小ささだ。というか、少し出ている。
 布地は薄いらしく、乳首が立っているのがハッキリわかる。
 前の部分もVだけになって股間に繋がっているみたいだが、乳首部分の布はもう一本の紐で背後に回り、かろうじてブラジャー機能を果たしているようだ。
 こんな水着は引き出しにはなかった。
 どこか別に隠してあるのか。
 それとも捨ててしまって、もう無いのだろうか?


「これが奥さんの手料理?」
「へへ、用意しておいてくれたの?」
「牛乳しか飲んでねえからなあ。腹減った」
「お前は典子奥様のホットミルクをラッパ飲みだからいいじゃん。美味しかっただろ?」
「まあな。でも、奥さん。凄いね。なんなのこれ?」
「知らねえのか? マグロの山かけにオクラの醤油和え、それにサザエの壺焼きに白子だよ」
「酒のつまみみたいなのばっかだなあ?」


 若い連中がぺちゃくちゃ喋っているのを遮るように、調教師が低く言う。


「精がつく物をずらりと並べやがって、典子? こいつらは若いんだから、そんな配慮要らねえんだぞ。それとも、いつも旦那にこんな物ばかり食わせてるのか?」
「いえ。・・・旦那には作ってません」
「なるほど。もう夜のほうも期待してないか?」


 一瞬だけ、妻の顔が曇ったように見えた。


「まあいい。今日はこれで終了だ。だいぶ散らかしてしまったが、全部お前の尻から出たものだ。あとでちゃんと掃除しとけ。俺たちはこれを食ったら帰る」
「はい」


 若い男たちは特に美味いとも不味いとも言わずに黙々と食べている。


「ところで、典子? 禊は済んだが、ケジメがまだだ。来週か再来週あたりになるだろう。予定は大丈夫だな?」
「平日だったら、たいてい大丈夫です」
「そうか。アナルプラグはずっと入れておけよ。もし旦那に変に思われたら、座薬を入れてるって誤魔化しとけ。細かいところに気づくほど冴えちゃいない。ところであいつは毎日何をやってんだ?」
「朝も早くて、夜帰って来るのも遅いんです」
「働いてるのか? ふーん、まあ勤労は大事だな。子供は?」
「下の子は夜遅かったんですけど、最近少し早くなりました。上の子は5時過ぎには帰って来ます。ふたりとも受験生なので、勉強を頑張ってます」
「学生は勉強が本分だ。主婦の典子も負けじと社会勉強の真っ最中。けっこうなことだ」


 調教師の当てつけに、妻の顔が赤くなり、少し辛そうに俯いた。


「ところでローターはどうする?」
「後ろにLサイズを入れてると、圧迫されて刺激が余計にキツイんです」
「しかし、お前は春から夏ごろまで、ほとんど毎日入れっぱなしで生活してただろ?」
「はい。そうしろと言われて・・・」
「じゃあ大丈夫だろ。リモコンスイッチはお前が自由にできるんだし」
「はい・・・」
「何だその色っぽい目は? すぐに自分でスイッチを入れてしまうのか?」
「・・・はい」
「困った奴だな」


 調教師は大笑いした。
 着衣の男に囲まれた、変態的水着の中年の女性。
 奇妙な食事風景。
 しかしどこか和やかである。
 もう身体を許し合った関係。
 そういう心安さがあるのだろうか。
 なんだか撮影の終わったAV嬢が、監督やスタッフと一緒に打ち上げの席にいるように、見えなくもない。
 奴隷だのなんだのは、あくまでもプレイなのか?
 妻は単なるAV女優だったのか?
 AVを職に選んだのか?
 夫の俺や子供たちを捨てて?
 撮影の現場で、鬼のように厳しい調教師にキリキリ舞いさせられる妻は主従の付き合いかと思っていた。
 なんだ、この和やかさは。
 雑談までしてる。
 しかも妻は手料理でもてなしている。

150名無しさん:2018/10/21(日) 21:13:04

 さっきの牛乳浣腸のシーンでは、鬼畜たちの中に、妻だけがたったひとりまともな人間に見えていた。
 妻が場違いに見えた。
 でも今では溶け込んで見える。
 妻のコスチューム自体は異常だが、画面に映る食事風景を見ていると、家族のようにも見えて来るから不思議だ。
 調教師がお父さん。妻がお母さん。若い衆らが子供たち。
 俺と離婚すれば典子は自由だ。
 こんな風に新たな家庭を持ってしまうのか。
 こいつらということはなくても。
 前に所有主からという手紙で示唆されていたように。
 誰かの子供を産んで。
 新しい家族を持ってしまうのか。
 嫌だ。
 それは絶対に嫌だ。
 俺は渡したくない。
 典子を渡したくない。
 誰にも渡したくない。


「それで、お前、店長どうした? 急にお前が連れ戻されたんで、困っただろ? あれから会ったのか?」
「どっちのです?」
「中州のほうだ」
「ああ、中州の――」


 唐突にテレビ画面はタイトルメニューに戻った。
 長かったキャプチャー『4』はここで終わった。
 これで『Episode1』を全部見終わったことになる。
 どうも最後の部分はDVDに使う気もなく、テープが余ったのでなんとなく撮影していたものだったらしい。
 そのテープが最後まで行って、唐突に切れたようだった。
 店長ってなんだ?
 初耳だ。


『家にも帰らず、20日間AV会社の人たちと一緒にいたんだ。そりゃ、色々されちまうわなあ』


 まんぐり返しにされた全裸の妻の肛門を悪戯しながら、調教師が言っていた言葉。
 俺の知らないことを連中はたくさん知っているんだろう。
 私の知らない妻は、まだまだいっぱいいる。

151名無しさん:2018/10/21(日) 23:24:57
41

 明弘が合宿から帰って来てから、DVDをなかなか見ることが出来なかった。
 ここ4日間はチャンスだ。
 どんなに苦しくても、見れるだけ見ておこう。
 私はプレーヤーから『Episode1』を取り出し、引き出しに行って『Episode2』と交換した。
 これも製品版じゃないので、白い円盤だ。

 キッチンで新しいコーヒーを補充する。
 『Episode2』は初めてだ。
 どれだけ心を落ち着けようとしても、やはり心がザワザワする。
 『Episode』シリーズは妻が一度奴らを離れてから戻った後というので、どれも調教が過激だ。
 大きく深呼吸をし覚悟を決めて、プレーヤーに入れる。
 これもいくつかキャプチャーに分かれているらしい。
 決心が鈍らないうちに、素早くリモコンのエンターキーで『1』を押す。

 まず目に飛び込んできたのは、高級料亭の日本間にありそうな、仰々しい床の間だった。
 大きな掛け軸が掛かっている。
 山水画というものだろうか。
 高価そうな古びた磁器の壷に生花も活けてあった。
 他にも広い座敷には、随所に派手派手しい金屏風など、ヤクザくらいしか喜びそうにない、豪華絢爛だが品のない調度品が並べられている。
 それを誰かが手持ちカメラで撮っている。
 特別に人の声がする訳ではないが、周りの雑音から多人数の気配があった。

 ここはどこだろう?
 いままでにこんな場所が映ったことはない。
 何が始まるんだ?

 カメラは少し引きの画で、同じ床の間の辺りをずーっと撮っている。
 やがて畳をこする足音が聞こえて来て、右端奥から誰かが前方に回り込もうとしているのが分かった。

 画面右側から、緊張した面持ちで現れたのは妻だった。
 ちょうど全身が入るくらいの画面の大きさ。
 コートを着ている。
 前にDVD7で見た公園のシーンで着ていたのと同じような感じだ。
 コートの裾から見える足は裸足だった。
 歩くのにもオドオドと、一歩一歩に緊張が感じられる。

 その妻の後ろを黒っぽい服装をした男が、落ち着いた歩調でついて来ている。
 見たことのない男だ。
 手に銀色に光る細い鎖がある。
 言うまでもないが、それは妻の首の後ろに繋がっていた。
 コートの襟に邪魔されているが、妻の首に大型犬用の黒革の首輪が見え隠れしている。
 ちょうど鎖がたわむくらいの距離を保って、ふたりは真正面の床の間の前まで進んできた。
 犬のように先導させられている妻。
 去年、最初のDVD6で、妻のこの変わり果てた首輪姿を見た時の、衝撃、疑問、混乱。
 あのときの入り組んだ感情がまざまざと蘇って来る。


「本日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます」


 例の調教師リーダーのゆっくりとした抑揚のない声がした。
 音声はクリアに入っている。
 会場のスピーカーからも流れているようだが、ビデオカメラのマイクが男の肉声をそのまま拾っているようだ。
 今日もこいつがカメラマン役なのだろう。


「これより高田典子のケジメの儀を始めますが、まずはスペシャルゲスト到着まで、事前準備の様子をご覧ください・・・」


 カメラは床の間を背に直立している妻を大きく捉えている。
 耳まで赤く染めてもじもじと身を揉むかのような妻。
 その表情は、出来るものなら逃げ出したいという切迫感と、諦めからくる甘い期待感のようなものを同時に感じさせた。


「なお典子には事前にコーヒー浣腸を施しておりますし、自宅でも習慣づけております。今回の事前準備は、それ以降の手順となりますのでご承知おきください・・・」


 浣腸?
 また牛乳浣腸でもするのか?
 また妻に白い水流をお尻から吹き上げさせて、皆の前で恥をかかせようとするのか?
 いや、浣腸は終わったとのことだ。
 だとしたら、どういうことになる?

152名無しさん:2018/10/21(日) 23:25:34

 男が手の鎖を引っ張り合図して、妻にコートを取るように促した。
 一瞬のためらいはあったが、拒否する自由など元から妻にはない。
 何人いるだかわからない客たちの面前で、ストリップするしかない妻。
 垂らしていた両手が持ち上がり、ゆっくりと指で上から順に5つほどのボタンを外していく。
 緩慢な、だが途切れることのない断固たる動き。
 それが終わると、次に肩のほうからコートをずらし、またゆっくりと右腕を袖から抜き始めた。
 その右手首にも首と同じような黒革の拘束具があった。
 銀色の金具が光っている。
 何かに連結できるような機能があるらしい。

 右手を抜いてしまっても前が開かないようにコートにくるまったままで、今度は左手も同じようにした。
 妻は両袖を抜き終わっても、コートを羽織ったまま、前が開かないよう手で合わせ、うつむいてじっとしている。
 膝の辺りがこころなしか、震えて見える。
 しかしそんな妻の心情など、いっさいお構いなしなのがこの連中だ。
 手荒くコートの襟をつかんで、引き毟ってしまう。
 たちまち現れる妻のオールヌード。
 生っ白い39歳の人妻の裸身を、黒い拘束具が飾っている。
 首、両手首、両足首。
 それぞれに革ベルトが巻かれていた。

 待て。
 股間にも貞操具らしきものが・・・。
 私は目を凝らしたが、それは妻の自前の陰毛と分かった。
 逆三角形に形良く、漆黒に繁って逆巻いている。
 いかにも、私は性欲の強い女です、と言いたげな風情で。

 妻の腕は気を付けするように体側に沿ってピッタリ下げられ、もう乳房も秘部もどこも隠すことはなかった。
 初期の映像から遠く時を隔て、妻は人前で自分の肉体の一切を隠さない女になっていた。
 ここに至るまでに、どれほどの調教が度重ねられたのだろう。
 どれほどの叱責と折檻が妻を襲ったのだろう。
 その妻の無防備な全裸をカメラが舐め回すように撮っている。


「よし。では、床の間を向け」


 命じられ、妻は素直にゆっくりとターンする。
 美しいバックショット。
 脂の乗り切った女体の色香がプンプンと匂って来そうな立ち姿。
 このフェロモン全開の女を作り上げたのは男たちだ。
 毎日毎晩、精を浴び続け、夜の女も及ばないほどの、性獣となってしまった妻。
 その色っぽい肉体が、次の調教師の声で屈みこむ。


「膝を広げて、そこに這え」


 命令され、客たちにお尻を向けて四つん這いになる全裸の妻。


「そうだ。ケツはそうやって突き出しておけ」


 私は着衣でさえ、妻の四つん這い姿など見たことがない。
 ふつう人間は生きていてそんな体勢になることはあまりない。
 妻はある。
 私との生活の場でこそないが、DVDの中ではしょっちゅうだ。

 いつも「ケツを上げろ」と鍛えられているから、背中が深く反ってお尻がグンと持ち上がる卑猥なポーズが大得意だ。
 美さえ感じる完成度。
 連中にとっては、それがまさに奴隷にふさわしい、屈服のポーズということなのだろう。

153名無しさん:2018/10/21(日) 23:26:12

 カメラはその背後に迫り、大画面で撮る。
 惚れ惚れするような形良さを見せつけるヒップ。
 本来隠されている、女性の最も羞恥の器官、女性器が画面に大アップになった。
 無修正の持ち味が最大限に生かされる。
 二枚の肉唇はやや口を開いて、早くも粘液で光っていた。
 肛門の位置には白い円形のアナルプラグの尾っぽが鎮座して、それに隠されて、丸々と開いたふくよかなお尻の谷間に、本来の菊皺の一本も見えない。

 カメラは左後方からのアングルを基本に定めたようだ。
 妻の這いつくばった左側の全身が常に映る角度。
 カメラが動いたことで、一瞬だけ座敷内に正座で居並ぶ男たちの姿が画面の隅に映り込んだ。
 もちろん全部ではないのだろうけど、株主やら出資者。
 そんな身なりの良い招待客らしいのが少なくとも5,6人は見えた。
 いずれも静かな興奮とでもいうものに包まれ、固唾を飲んでいる気配だ。

 進行は全体として、かしこまり、儀式のような厳粛さである。


「よし。始めるぞ。多くの方が見て下さっている。ちゃんと感想を言葉で伝えながらだ」


 カメラマン調教師の低い声がする。


「はい」


 画面のほとんどを白い裸体で占領している妻から、口の中が乾いたような声が返った。


「出すぞ」


 男は右手を伸ばし、お尻の谷間から出ている白いプラグを摘まんで引っ張った。
 妻も呼吸を合わせて、息んでいる様子。
 画面はヒップの大写しだ。
 右手でプラグを操作し、左手でカメラを操る器用な調教師。
 妻の顔は見えないが、う〜ん、という深い唸り声がする。

 やがて目一杯に広がった肛門括約筋の輪が見えてきた。
 腸内からの巨大物質に押し上げられ、太く噴火口のように盛り上がっている。
 もし去年、不幸にして悪辣な男たちの手に落ちなければ、妻の肛門がこんな狼藉を受けることなど一生なかっただろう。
 そんな嘆きを禁じ得ないほど、妻の肛門は伸びきっていて、下手をすると裂けるのではないかという惨状を呈している。
 40歳を目前にして、突然、異常性癖の男たちに擒にされ、排泄器官を第二の性器として仕込まれている妻。
 哀れとしか言いようがなかった。

 しかしプラグの出し入れ自体は初めてではないのだろう。
 調教師と妻のコンビネーションにより、私の懊悩の時間は意外と短かく終わった。
 妻の肛門は、長さが15センチ以上、一番太い直径が6センチほどもありそうな白いアナルプラグを、一気に体外へ押し出した。
 その太いところが出ていく瞬間は、肛門の筋肉が輪ゴムのように広がり、まるで地球外生命体エイリアンが、粘液まみれの卵を産みだすかのように奇怪に見えた。
 観客のどよめき。
 しかしプラグを吐き出した妻のアナルは、もう既に何事もなかったように、おちょぼ口を閉じている。
 腸液かローションかわからない粘液の付着した妻の裏門は、皺をギュッと集めて慎ましやかであり、奴らでさえその拡張に手こずったという、別格の緊まりの良さを見せつけている感じだ。
 それをまたカメラがアップでずっと撮っている。

 くどいようだが自分の妻の肛門だ。
 身だしなみや最低限のおしゃれが出来るくらいには、頑張って稼いできたつもりだ。
 世間的に良き妻、良き母親で通って来た。
 その自慢の妻のお尻の穴が、ビデオに映されている。
 AVになって売られている。
 改めて考えてみれば、とても正気でいられない事態だ。

154名無しさん:2018/10/21(日) 23:28:58
42

 カメラが少し引いて、妻の全身を映し出す。
 肘を開いて両手の先を重ねている妻。
 顔は前方を向いて、10センチほど上に浮かせていた。
 これからのことが不安なのか、頼りなさげな様子だ。
 しかし逃げ出すわけでもない。
 もちろん逃げ出しようもないことを、妻も知っている。

 観念したかのように、裸で大きなお尻を調教師に差し出している姿は、なんとも物悲しい眺めだ。
 とても強い母親として、立派な社会人として、日々を健やかに過ごしてきた大人の女性には見えない。
 妻の小振りだったはずのヒップは、数々の調教の成果か、はたまた度重なるセックスで鍛えられたものか、重々しい充実を見せて、これまた形の良い両腿の上にムッチリと実っている。

 調教師の右手が、軟膏を肛門に塗りたくった。


「粘膜が痛まないように準備してやる」


 畳の上に見覚えのある容器があった。
 うちの薬箱の中にも入っていた円柱型の白い容器。
 たしか白色ワセリンと書いてあった。
 肌荒れ用かと別に気にも留めなかったが、妻が自分でアナルプラグを入れる際に使用していたのだろう。
 また軽く眩暈が襲ってくる。

 調教師の軟膏を掬った指先がお尻の谷間を彷徨い、やがて菊蕾を軽く先端でノックした。
 ピクピク反応する妻の肛門。
 おもむろに指の腹でワセリンの盛りを周りへ広げていく。
 唇をくっと結び、薄く開いていた目も閉じて、上下に揺れている妻の切なげな横顔も、作業中の股間と同一画角でカメラは一緒に捉えている。


「どうだ?」
「くすぐったいです」


 のの字を書くように先端をゆっくりと挿入する調教師。
 そのまま奥まで入れるかと思いきや、いったん戻す。
 吸盤のような窪み。
 そしてまた挿入。
 いつの間にかその場面に食い入る様に見入っている自分がそこにいる。
 妻のお尻の穴に他人の男の指が出入りしている光景――。


「肩の力を抜け」


 カメラはさっきから前のように左斜め後ろ側から撮っている。
 指の動きと肛門が全部見えるような角度だ。


「そのまま深呼吸してみろ」
「変な感じですぅ」


 妻の恥じらいが声の響きに滲んでいる。
 黙っていたいのだろうが、感想を言えと命じられているので、逐一答えなければならない。
 どこまでも言いなりの妻だ。


「自然と吸い込まれるぞ。柔らかくほぐれてるな」


 男は言うと、根元まで指をズブズブと埋めて行った。


「いい締め付けだ。期待が持てる」


 奥まで差し込んだ男の口調に、満足の色合いが浮かんだ。
 ゆっくりと感触を確かめるように、調教師の太い指が何度も何度も狭い菊道を往復する。


「ああっ、抜く時が変ですぅ」
「脳が大便を排泄していると錯覚してるんだ。おら、お前も手で持ってみろ」


 妻に自分の左手で片方の尻たぼを開かせる。
 お尻の谷間が平面になるほどに広がって、縦の赤い筋だけが残った。
 本当の桃のようだ。


「ここもおまんこと同じだ。最初はおまんこに指を入れるのも怖かったろうが、今じゃ気持ち良いだろう? じきにそうなる。特にお前はそのはずだ」


 不気味な予言を吐きながら、男の指はスムーズに動くようになっている。
 アナルがひくひく蠢き、妻の息が深く、大きくなった。
 指のピストンに細かい振動を与える。
 そんな変化も付けていく調教師。
 明らかに妻の様子が違ってきた。

155名無しさん:2018/10/21(日) 23:29:36

 息が早く、口が不規則にパクパクしている。
 ハッハッと息がせわしなくなり、額の髪の生え際を畳に当て上体の支えにし始めた。
 右手はこぶしを握ったり開いたりしているが、肛門深くをほじられると平気でいられないのだろう。
 はっと身体を起こして、手の平で畳を押し返す仕草もみせる。

 そんな風にお尻の穴に指を抜き差しされて、人の妻が悶える禁断の淫欲図を、座敷に詰めかけた得体のしれない客たちが息をつめて見守っているのがわかる。
 画面には映っていないが気配がする。
 妻の痴態により、興奮が高まっていく異様空間。

 いずれ、AV社長の言うところの『金に糸目をつけないファン』あるいは『うちの株主の方』どもなのだろう。
 私のれっきとした配偶者である典子が性の玩具にされるのを、眺めて喜んでいる。
 ふだんはDVDでしか見れない、典子の凌辱現場が生で見られるのだ。
 ラッキーと思い、劣情を漲らせ、固唾を飲んでいるに違いない。
 畜生、なんて奴らだ。


「いったん抜くぞ」
「はい」


 根元まで入っていた指が全部引き出される。


「ああーっ、ううぅー、あぁんんっ」


 妻の口から、はっきりとした悶えが漏れた。
 すでに快感を感じているのか?

 カメラに肛門の大アップ。
 妻の左手、男の右手で、アナルが左右に大々的に開いている。
 排泄孔はギュッと口を閉じ、五つの深い皺はまるでスターフルーツのようだった。
 充血しているのか、中の粘膜はピンク色で意外ときれいだ。
 ワセリンの膜が周りに盛り上がっている。
 アナルの内壁はさらに鮮やかなピンク色だった。
 これでもかと言うくらいに接写されてしまっている、妻のアナル。


「よし。お前のケツの穴は美しいぞ」
「ありがとうございますぅ」


 大便の出てくる肛門を褒められ、弱々しく礼を言う妻。
 いや、言わされているが正しい。
 素直でないと判定されれば、後でどれほどひどい懲らしめを受けるのか、私でさえ容易に想像がつく。

 調教師の逞しい指が、再び侵入を開始した。


「お前にとっても記念の日だ。まだここは処女だったな?」
「はい」


 そのことは連中にとって重要なのだろう。
 さらに念を押す調教師。


「大きな声で」
「お尻でセックスしたことありません。まったくの処女ですっ」
「もっと大きい声で説明しろ」
「私、高田典子は、恋人とも、旦那とも、浮気相手とも、一度もアナルセックスをしたことが有りません。きょ、今日が初めてです!」
「皆様に見られてどうだ?」
「う、嬉しいですぅ」


 どこかから笑いが漏れた。
 ケジメという名のもと、こんなアナル破瓜の場を公開で用意され、バカにされ、妻がみじめ過ぎる。


「そうだろ? 奥さんはMだからな。いっそのこと旦那にも見てもらうか?」
「そ、それは・・・」
「なんだ、シュンとやがって。ケツの穴に他の男の指を咥え込んでおいて、いまさら貞淑ぶるつもりか?」


 妻のお尻の中に沈ませた指を、調教師がこれみよがしに蠢かせる。


「お前の身体は誰の物だ?」
「ご主人様たちの物です!」


 間髪を入れず、答える妻。
 恐怖なのか、わずかに這った裸体が震えた。

156名無しさん:2018/10/21(日) 23:30:14

「よし。これから一部始終を丁寧に記録してやる。まずは深呼吸して見ろ」


 その言葉に、素直に吸って吐いてを繰り返す妻。


「ふふふ。痛い思いはさせない。最初から気持ち良くさせてやる」


 不気味に宣言する調教師。
 指はいつしか、根元近くまで入っている。
 ああぁ、という妻の上ずった声。


「どんどん入る。指の動きわかるか?」
「わかりますぅ」
「どんな感じだ?」
「気持ち良いぃっ」


 早くもそんな言葉が妻の口から飛び出した。
 かすかな客の笑い声がまた聞こえた。
 奥まで入れたまま左右に指を回転、ねじる動きを加える男。
 手の平が上になったり下になったり。
 180度以上の回転だ。


「奧で細かく動かすぞ」
「あーあああああっ」


 小刻みな声。
 もう自然と出てしまうようだ。
 すぐに指が二本に増えた。
 それも苦も無く呑み込んで行く。

 奴らに狭いと言われていた妻の肛門。
 やはりアナルプラグの成果なのだろうか。
 男の欲望を受け入れる準備は万端と見てとれる。


「二本入ってるぞ」


 カメラを動かして立体的に撮影していく調教師。
 あぁぁ〜あぁぁ〜、と切ない声を上げ続ける妻。
 途切れることなく続く、いまやはっきりとした妻の喘ぎ。
 それがだんだん大きくな
って来る。

「キツイな。・・・ふふ、締まりが良すぎて、動かす手のほうが疲れてきちまうぜ」


 そう文句を言いながらも、満足そうな調教師。
 映像は、基本お尻の上2/3が常時映るようなアップ画面になっていた。
 その画角で、指を咥え込む39歳の大人の女性の肛門の様々な表情を、カメラが克明に撮っていく。

 存分に嬲ってから、ゆっくりと指を引き抜く。
 口を開けるかと思ったアナルは今度もピッチリ閉じている。
 やはり締まりが極上なのか。
 また肛門周りを二本指ピースで開く。
 やや色素沈着のある皺の面積は広がるが、決して中心の孔は口を開けない。
 その景色を映像にじっくりおさえて、再び指を挿入していく。
 今度は三本。
 それを妻の裏門は美味しそうに呑み込んでいく。

 真下に掘る動きは、アナルから子宮に刺激が伝わり快感なのだろうか。
 妻の喘ぎに新たな色が加わった。
 三本指をひと息に引き抜く調教師。
 妻のお尻は肉厚で割れ目が深い。
 だから肛門は吸盤のように窪み、そこだけアリジゴクの巣のように見える。


「記念すべき処女航海だ。ひと通り手順を踏むぞ」


 次の出番は細いアナル用バイブだった。
 透明なディルドの中に白い芯が通っている。
 持ち手のところにモーターと電池部があり、そこはバイブと同じ構造になっていた。

 差し込む前にたっぷり付けたのだろう、ローションが一筋、妻の蟻の門渡に垂れ流れた。
 そのままためらいもなくアナルに押し込んでいく調教師。
 太さも長さも、指とは違う。
 それが奥まで入って行く。
 妻の背中が猫のように丸まった。
 ふだんからケツを上げろと躾けられている妻にしては珍しい反応。
 それほど身体に走るのが、奥深く妖しい感覚ということか。
 いったん抜ける寸前まで引き戻し、また挿入する。

157名無しさん:2018/10/21(日) 23:30:54

「あふんっ」


 洩れ出る甘い声。
 今度はぐにぐに回している。
 妻の荒い息。
 三つ指ついて畳を何度も押し付けるような動き。
 目を閉じ股間のほうに向けて頭を下げている。

 自分の妻が肛門を差し出して、新たに快楽器官として生まれ変わらせるために、調教を受けている光景。
 夫である自分はまったくの蚊帳の外。
 こんなことを許可した覚えもなければ知らされてもいない。
 典子の肉体を自由にしているのは見知らぬ男たち。


『旦那は結婚相手です。所有者はご主人様達です』


 温泉旅行のDVDの中で、白髪まじりの元気のいい初老オヤジと一戦を交えた後の妻のセリフが脳裏に響く。
 俺は人生を共に築いていく伴侶として尊重を受けていないばかりか、すでに当事者ですらない――。

 ハアッハアッハアッ、と熱い息を吐いて、感度の良さを見せつける妻。
 額に汗が滲んでいる。
 何度か繰り返した後に、調教師がまた引き抜くと、


「はああぁぁぁー」


 妻が情けないような声を上げた。


「抜く時がいいんだろ?」


 言葉にならず、必死に何度も肯く妻。

 妻がAVに出ている。
 まぎれもない現実。
 それをありありと見せられている俺。
 しかもこれからアナルセックスをするという。
 そんな変態のような真似を!

 しかし妻は変態的なことだって、これまで幾度もやっている。
 公園の露出に始まり、極めつけは息子の通っている中学校校舎内での白昼セックス。
 むしろこれまでアナルセックスをしていなかったのが不思議なくらいの乱脈ぶりなのだ。
 この女は本当に私の知る典子なのだろうか。
 いや、私は典子のことをどれだけ知っていたのだろうか――。

 調教師はズブリと突き入れたバイブをスイッチオンした。


「どうだ振動がわかるか?」
「うあああぁぁーっ」


 ひときわ高まる妻の悲鳴。


「揺れてますぅ! な、中でっ。ああぁっ!」
「直腸に振動が伝わって来ただろ?」


 ビーンビーンという機械音。
 肛門だけでなくヒクヒク動く小陰唇もアップで捉える。
 妻は陰毛が濃いのにそれは下腹部だけで、秘唇の横にはそれほど毛が無かった。
 変なところに目が行って、新発見に感心している自分。
 そろそろ精神が事実の直視に耐え切れず、自我の崩壊が始まったのかも知れない。


「一度抜くぞ」


 カメラは引き抜く瞬間を狙う。
 この一瞬がAVとして、絶好のアピールポイントなのだろう。
 またも大きな卵を産みだすように、括約筋の輪を広げてバイブの亀頭を押し戻していく妻のアナル。
 今日だけでいったい何回開閉したことだろう。
 さすがにわずかに綻んだようにも見える。

158名無しさん:2018/10/21(日) 23:31:24

「どうだ?」
「はい。抜かれる瞬間がフワッとしますぅ」


 濡れた声音で答える妻。
 もう一度の挿入。
 今度はピストンだ。
 それに合わせ声が漏れる。
 手の動きを速くすると、それに合せた短いスパンで、


「ああ、気持ちいいっ、気持ちいいぃっ」


 ついに自ら声を出して、気持ち良さを申告する妻。
 くねるバイブ。
 勢い良いピストン。
 とうとうクチュクチュという粘っこい音までが途切れることなく続くようになった。


「振動がすごく気持ちいいぃっ」


 アッアッアッアッ、引っ切り無しに声が漏れる。

 完全に感じている。
 お尻の穴にバイブを突っ込まれ、出し入れされて、振動のスイッチを入れられ、くねる動きまでされて、妻は完全に感じている。


「よし、奥さん。振動をもっと強くしてやる」
「アッアッアッアッ!」


 妻の喘ぎが一層の響きとなった。
 この座敷にどれくらいの男たちがいるのか知らないが、妻はもうそんな事さえも頭から吹っ飛んだように、激しく悶えていた。


「あうぅー、あううぅーっ」


 自分とのセックスでこんなに喘ぐ妻は見たことがない。
 ただDVDの中では何度もあるのが情けない限りである。
 絶頂まであと一息という感じだった。
 部屋の空気のボルテージもあがってくる。
 見守る男たちの興奮と熱気が伝わって来るようだ。


「逝っちゃいそうなら、イッてもいいんだぞ」
「あー。イッちゃうっ。あっあーっ! あっあっあぁっ! あっあああぁぁーっっ! イクウッ!!」


 畳に上半身顔ごと突っ伏してしまう妻。
 なんだか前に比べ、すごく逝きやすくなっているみたいだ。


「逝ったのか?」
「イッちゃいましたあ〜」


 ほんのり顔を赤らめ報告する妻。
 悪びれる様子もない。
 快楽を与えてくれてありがとうございましたという態度だ。


「どこでイッた?」
「はい。アナルでイキましたぁ〜」


 横顔を畳に擦り付けて、媚びを売る妻。
 私の知っている妻とは別人のような姿だ。
 お尻の穴にはまだバイブを咥え込んでいる。
 それは振動し、くねっている。
 お尻だけを宙に突き立てた、恥ずかしいポーズのまま、はっきりとアクメの事実を調教師に告げていく妻。
 ここにも私の知らない妻がいる。

 おそらく集まっている男たちは、典子のDVDを最初から見ているに違いない。
 コップの水を掛けられないと服も脱げなかった人妻。
 力ずくで手をどかさないと、屋外の公園で自分では乳房を露わに出来なかった人妻。
 放心状態で男のものを口に含まされていた人妻。
 それがやがて当たり前のように怒張を口に咥えるようになり、自ら顔を動かして男に快感を与え、ためらうことなく精液を飲み下し、イラマチオにも耐えて、膣で何度も中出しを受ける女に変貌していく。
 きれいな顔立ちの、夫も子供も愛していない訳でもない、幸せな人妻が、苛酷な変態調教を受けて、自らの意思を喪失した性奴隷に堕とされる。
 この人間の皮を被った鬼畜どもにとってはたまらないストーリーなのだろう。
 この言語道断なショーのために、こいつらは大枚をはたくのだ。
 それが回りまわって、また平凡で幸せな人妻を地獄に突き落とす資金源に使われることになる。
 許しがたい悪鬼ども。
 こうした生け贄を使い、おそらくは定期的に繰り広げられる悪魔の饗宴。
 そして本日の目玉が、20年連れ添った私の妻、典子のアナルセックスショーなのだった。

159名無しさん:2018/10/21(日) 23:56:40
43

「ではスペシャルゲストにご登場願いましょう」


 調教師がいつになく声を張り上げた。
 座敷の空気がざわめき、何かを期待するように、再び静まった。
 カメラが、横座りが崩れて畳にひれ伏してしまった妻の肉体から離れ、水墨画の掛け軸の垂れる床の間の右側の襖にピントを合わせる。

 何が始まるのか?
 考える時間もなかった。
 待つ間もなく、襖が開いた。
 紅梅白梅にウグイスがあしらわれた豪奢な襖が横に滑る。

 男が4人入って来た。
 揃って白いバスローブ姿だ。
 まるでAV男優のようだ。
 妻がこれからされることを象徴している気がして、早くも私の心は震えた。

 男たちは素性を隠すつもりか、お面をかぶっている。
 いやマスクだ。
 仮面舞踏会とかに出てくるやつ。
 たしかベネチアンマスクとか言ったか。
 どれも同じ形だ。
 鼻から額まで広く隠すタイプ。
 色はそれぞれ違っていた。
 金、赤、青、白。
 日本の伝統工芸の蒔絵のように、それぞれ金の模様細工がこまかく施されている。
 ちゃちなパーティグッズではなく、本物の秘密パーティで使用されているような高級感がある。
 製品版ではないのにも関わらず、あとでモザイクを掛けることを選ばずに、こういう仮面を被っているのは、来客たちにも正体を知られたくないということなのか。

 男たちは進み出て、そして床の間の前で横一列に並んで直立した。


「これよりケジメの儀式を行いたいと思います」


 調教師の低い声がスピーカーで増幅され、部屋中に重々しく響きわたる。
 DVDを見ているだけの私にも、座敷内の緊張が一気に高まったのが感じられた。
 紹介が始まる。


「高田典子、39歳。人生初のアナルセックスを披露いたします。福岡市在住。20年前に結婚の夫は会社員。長女は高校3年生、長男は中学3年生。二人の子を持つ母親でもあります。性奴隷の分際を忘れ、所有主の元を離れ旦那に連れ戻されてしまった罪を悔い、先日は10日連続の鞭打ちで禊を行いました。そしてまた本日は、長年守り通してきたケツの穴の処女を、大恩あるスペシャルゲストの方々に捧げて復活のケジメにしたいとの、これは典子本人からの強い希望であります。来客の皆さまにも是非その様子を存分に検分いただき、羞ずかしい牝奴隷がアナルの快楽にむせび泣く姿を堪能していただければと思います」


 調教師の低く感情のない声が、座敷の異様な空間に満ちている。
 どこかで和太鼓の音が鳴った。
 まるでヤクザの襲名式でも見ているようだ。

 カメラがターンして妻の姿を捉える。
 いまはきちんと正座して、こうべを垂れ、調教師の口上に聞き入っていた。
 いい大人の女性が畳の上で素っ裸だ。
 男たちの欲望が煮え立っている大広間で、見世物になっている妻。
 そのとき私はハッと気づいた。
 嘘だろ!
 叫び出しそうになった。

 再び映し出される4人の男。
 見覚えがある。
 テレビ画面に釘付けの、ソファに座った私の脚がガタガタ震えてきた。
 半分開いた口の中で、歯がカチカチ合わさって鳴っていた。
 これまで、歯の根が合わない、とは単なる比喩表現だと思っていた。
 だが違う。
 実際にそういう現象が起きうることを、私は自分の身をもって体験した。
 こいつら――。
 どう見ても、例のAV社長と、その仲間たちだ!

 左端の長髪社長の顔つき身体つきはしっかり憶えている。
 マスク越しでも見間違えるわけがない。
 その隣の短髪の男。
 こいつは自宅で殴り合いになった時、私を殴り続けて気を失わせた男だ。
 残りの二人もその時にいた。

160名無しさん:2018/10/21(日) 23:57:11

 どちらにせよ、いずれも妻をもてあそんだ男たちなのである。
 そいつらが雁首揃えて出張って来ている。
 どういうことだ?
 もう二度と妻に接触をしないという約束だったはずだ。
 どういうことなんだ?

 前回電話してきたときも、社長はいけしゃあしゃあと、


『私たち――私のスタッフも含めて、典子にはコンタクトを取ってはいません』


 と言っていたではないか!


『あなたとの約束は守りました。あくまで編集と販売だけに徹して、制作には一切関わっていません』


 とも言っていた。
 あれは真っ赤な嘘だったとでもいうのか?

 その時、あたかも私の疑問に答えるかのように、テレビの中から調教師の声が流れて来た。


「訳あって、スペシャルゲスト側から典子へのコンタクトは、厳重に禁じられています。ただ今回は典子の側からのたっての希望で、プレイヤーとしての参加です。これはルール違反にはならない。我々はそう判断を下しました。組織運営はスマートでなければならない。これが我々のモットーです。良心に照らし合わせ恥じるところがあると、行動が委縮し良い結果が導き出せない。これは経験から得た教訓です」


 何が良心だ!
 糞くらえってんだ!
 結局のところあの長髪社長は、また体よく典子と再会してるじゃないか!
 典子が希望したって?
 そんなことが有る訳ないだろ!

 私は立ち上がっていた。
 身体中がワナワナ震えている。
 久しぶりに強い怒りが全身を駆け巡っている。
 畜生!
 私はDVDを停止させ、無意識のうちにリビングをグルグル歩き始めた。

 これはおそらく去年の11月頃のことだろう。
 今からずいぶん前、というよりも、奴らに妻と手を切らせる約束を取り付けてから、ほんの3か月も経っていない。
 あの社長にお尻の処女を捧げて謝罪するって?
 奴隷に戻してもらうために?
 あの妻が?
 もとの普通の生活に戻りたいと言っていた、あの妻が?

 本当に気が狂いそうになって来た。
 眩暈が激しい。
 動悸も乱れている。
 私はよろめくようにしてキッチンに辿り着き、精神安定剤の瓶を引っ掴むと、分量も見ずに口に運んだ。
 水道水で胃に流し込む。
 どっかりキッチンテーブルの椅子に腰を下ろす。

 欺かれていた。
 妻にも奴にも・・・。
 家庭の再構築のためにあれだけ必死になって働いていたのに。
 妻の心のケアのために、あれだけ気づかって来たのに。
 この酷い裏切りはなんだ!

 やがて心が落ちてきた。
 身体が冷えてきた感覚がある。
 薬がようやく効き始めた。
 どんよりと無感情が押し寄せる。

 なんなんだろう?
 いま俺の置かれている環境は?
 家のキッチンだ。
 ダイニングだ。
 ここでずっと家族4人、楽しく食事をとって来た。

161名無しさん:2018/10/21(日) 23:57:51

 新築の時はまだ子供は二人とも小学生だった。
 急に広くなった我が家を走り回って喜んでいた。
 妻も自分のリクエスト通りの台所に立って、嬉しそうだった。
 カレーも食べた。ハンバーグも食べた。オムライスも、パスタも、たまに妻が真菜と一緒に作ったスイーツも食べたな。
 子供たちの背も伸びて、いまは明弘は高校生、真菜は大阪で専門学校に通っている。

 妻はどうしたっけ?
 妻はいない。
 出て行った。
 行先も告げずに。
 いや、台所は妻の城だ。
 典子の居場所だ。
 だから、ほら。
 居るじゃないか。
 台所で裸で立っている。
 そうだ。
 男に渡された紙を読んでいる。
 なんだ?
 これからの人生をご主人様の性奴隷としてどんなことでも受け入れます、だと・・・?
 違う。
 そんな妻は違う。
 こっちだ。
 妻は見たこともないワンピースを着ている。
 そうだ。
 その妻の姿を俺は肉眼で見ている。
 これは現実だ。
 ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに妻はいる。
 すぐ後ろに立っている男。
 そいつは目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように、妻を後ろから抱きしめている。 両手で服の上から乳房を弄っている。
 妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にして、鷲掴むように荒々しく揉みしだいている。
 いっさいの抵抗をしない妻。
 この家が家族と住んでいる大切な場所だということが、まるで記憶から消し去ったかのように・・・。
 おかしいじゃないか?
 妻がそんな態度なわけがない。
 これは夢だろう。
 いや。
 実際に、この台所であったことだ。
 いつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている妻。
 荒々しい息遣いで腰を動かす男。
 その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻。
 違う。
 これこそ夢だ。
 気絶していた間に見た幻だ。
 じゃあ、これは?
 男たちに浣腸されて、四つん這いで牛乳をリビングまで噴き上げていた妻。
 違う。
 違う、違う、違うッ!
 全てが間違っている。
 有ってはいけないことだ。
 人妻がそんなことをしてはいけない。
 母親がそんなことをしてはいけない。
 共に暮らしてきた典子がそんなことをしては絶対にいけない!
 でも事実なのか・・・。
 こんな辛い事実が、俺の人生に突き付けられるのか。
 事実なのかも知れない。
 だが事実は真実の敵だ。
 俺は真実を探す。
 しかし真実なんて、どこにあるのか・・・。
 どうしてこんなに俺を苦しめる?
 どうして奴らはこんなに俺を苦しめる?
 どうして典子は俺をこんなに苦しめるんだ?


『ごめんなさい! でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・』


 だから俺の前からいなくなったのか?
 待ってくれ!
 行かないでくれ!
 典子!
 典子ぉーっ!!

162名無しさん:2018/10/22(月) 00:01:40
44

 大量の水を飲んだ。
 そして吐けるだけの胃の内容物を吐いた。
 どうせ何も食べていない。
 出てくるのは水と、溶け残った薬剤だけのはずだ。

 しばらく流しに突っ伏していた。
 周りがグルグル回っている。
 世界が回っている。
 精神安定剤はすでに溶けて、もう大部分消化されてしまっただろう。
 だが少しは口から吐き出せたようだ。
 左手の先が痙攣している。
 私は水道水をまた飲んで、また吐いた。

 身体が痺れてくるなら、救急車を呼ばなくちゃな。
 そう思い、リビングまで戻ることにした。
 ほんの少しの距離が、いやになるほど遠い。
 誰かが見たら、パントマイムの練習だと思ったかも知れない。
 それほど手と足の動きがバラバラだ。
 脳の出す命令を受け付けてくれない。
 いや、脳が発する命令のほうもおかしいのだろう。
 壊れたロボットのようにギクシャクしながら、私はリビングの3人掛けソファの定位置についた。

 片手に携帯を握りしめる。
 痙攣はまだある。
 痺れも左手の小指を中心に残っている。
 これが広がって来なければいいのだが・・・。
 これが広がり出すと、危険信号。
 明らかな薬物過剰摂取となる。
 救急車を呼んだ時、救急隊員にテレビに映るDVDを絶対に見られてはならない。
 少し様子を見よう。
 脱力して死体のようにソファに横たわる。
 時が過ぎるのを待つ。
 目立った肉体の変化はない。
 しかし気力もない。
 まさしく生ける屍というやつ。
 だが私には休息は許されていないのだ。
 検証を続けるしか、この袋小路を抜け出す手段はない。

 私はソファの背もたれにグッタリと身を預けながら、体軸が斜めに傾いたままで、リモコンで映像をスタートさせた。
 薬の影響で内容はあまり頭に入って来ない。
 スペシャルゲストであるAV会社の面々は、社長を残し、画面の外に消えて行った。
 カメラは正面のバスローブを着た社長だけを捉えている。

 奴はどんな気持ちでいるのだろう。
 その表情からは何も読み取れない。
 マスクで遮られているのも一因だろう。
 でも特別な感慨があるようにも見えない。
 やはり典子は商品という位置づけでしかないのか。
 これだけ俺の家庭をめちゃくちゃにしておいて。
 家族から幸せを奪っておいて。
 単に奴隷という対象なのか。
 それも多頭飼いのうちの一匹として。

 奴は調教師に促され、ひざまずいている典子の横を通って、その背後に回った。
 映し出される典子の表情には明らかな緊張がある。
 目を伏せてはいるが、奴の脚がそばをよぎった際、その頬が赤く染まった。
 これはどういうことなのだろう?

 そういえば、いま気が付いたが、典子の髪はきれいにセットされている。
 さっきのアナルいじりでわずかに乱れているが、それも気にならない程度だ。
 ふんわりと肩甲骨までかかる黒髪はつやつやとして、女の色香と気品を漂わせていた。

 そうだ。
 思い出した!
 11月の中旬くらいだ。
 妻が美容院でセットしてきたことが有った。
 毎日の激務でへとへとになっていた私でさえ気が付いたほど、まばゆい妻の変化だった。
 私が褒めると、いつもはしないカラーリングも少しやったの、と言っていた。
 気にも留めなかったが、ネイルもきれいになっていたと思う。

 私は派手な化粧を好まない。
 妻もそのようで、ピアスは開けていないし、ネックレスなど装飾品もあまりつけない。
 そもそも顔立ちがそれなりに整っているので、ごてごて飾り付ける必要がないのだ。
 私はそう思っていた。
 ネイルもいわゆるアートと呼ばれるものの類いではなく、うっすらピンク色で覆い、健康的な艶を出すだけの、極めて初歩的なもの。
 その前まで事件の精神的な後遺症からか、高熱を出して寝込んだりしていた妻の、この晴れやかなイメチェンを私は心から喜んだ。
 過去を振り捨て、前へ向かって進んでくれている。
 また明るい妻を取り戻そうとしてくれている。
 いい気分だった。

163名無しさん:2018/10/22(月) 00:13:41

 だが、週末になっても、妻はどこに出掛ける様子もなかった。

164名無しさん:2018/10/22(月) 00:14:38

 てっきり、気晴らしに週末の予定を入れていて、そのための身だしなみかと思っていたので、意外に思ったものだ。
 じゃあ、せっかくだからどこかに出かけるか?
 土日の私のその誘いにも妻は乗って来なかった。
 疲れてるから家で休む、そんなようなことを言っていた記憶がある。

 笑っていたかと思えば急に塞ぎ込む。
 沈んでいたかと思えば不意に陽気になる。
 あの頃の妻の精神はたしかに不安定だった。
 だから取り立てて気にもならなかった。
 しかしその週末までの平日に、このケジメの儀と呼ばれるものが開催され、妻がそれに向けて髪を整えたのはまず疑いようがない。

 その週の金曜日、妻が遅かったかどうか思い出そうとした。
 だがそれは無駄な努力でしかない。
 私は毎日残業で帰って来るのは11時近かった。
 たとえ妻が家にずっといようが、出かけてて10時半過ぎに帰っていようが、私に判断はつかないし、第一全く覚えていない。
 ただ画面には身綺麗にした妻がいる。
 背後にAV社長に立たれて、大人しく正座している手足に拘束具を付けただけの真っ裸の自分の妻。
 セットした髪は誰のためのものなのか。
 この日の再会に備え、髪の色まで変えるのか。
 私の心がまた真っ黒い絵の具で塗りつぶされていく。
 絶望色に染まっていく。

 カメラマンの男は左後方からやや側面に移動したようだ。
 妻はひざまずいた姿勢から、両手の平を畳につけて、膝を広げる。
 四つん這いのポーズ。
 慣れた感じ。
 その顔は真剣で火照っていた。


「典子?」


 背後のAV社長が呼びかける。
 その調子から特別の感情は伝わっては来ない。


「社長・・・」


 それに対し妻の声音には、万感の思いとでもいうものが滲んでいた気がするのは私の邪推なのだろうか?


 ドーンンッ!


 和太鼓が鳴った。
 いよいよ儀式の始まりということらしい。

 社長はバスローブを脱ぎ捨てた。
 その下は予想通り全裸である。
 奴の男根をまじまじと見るのは初めてだが、たしかに大きい。
 平均を軽く超えるスケールだ。
 『Episode3』に出てきたサオ師ほどの魁偉な肉棒ではない。
 だが、カメラを持った調教師とはいい勝負だろう。
 この肉根で狂わされ、妻は正気を奪われてしまったのか。

 四つん這いで前を向いていた妻が、白く引き締まった背をS字にくねらせて、肩越しに社長の股間を覗き込んでいる。
 今は膝立ちになっているAV野郎の肉槍は、ギンギンに膨張していた。
 それを首を後ろに回して、盗み見ている妻。
 怒張を見つめる眼差しは濡れて、興奮からか唇は小さく開かれ、隙間に白い歯が覗いていた。


「握れ」


 言葉が終わるよりも早く、妻の右手は自らのまたぐらを通して、背後の男の肉根に指を絡ませた。
 実に自然でスムーズな仕草。
 その長さも太さも指が覚え込んでいるとしか思えないジャストフィットな握り方。
 何度も行為を重ね、慣れ親しんだ者同士にしか生まれない阿吽の呼吸。

165名無しさん:2018/10/22(月) 00:15:20

 ゆっくりとさすって、その硬度を確認する妻。
 赤らんだ顔にうっすらと笑みのようなものが浮かぶ。
 自分のためにこんな風に勃起してくれている。
 女の本能に基づく満足感なのだろうか。
 満座の中でアナルセックスを披露するという恥辱より、社長に菊花の処女を捧げるという嬉しさに舞い上がっているとさえ取れる妻。
 その表情はすでに蕩けきって、女の顔になっていた。


「典子、よく戻って来たな」
「はい・・・」
「最初から分かっていた」
「あの時はご迷惑を・・・」
「いや、何でもない。予定が少し遅れただけに過ぎない。かえって都合が良かった」
「旦那が・・・すみませんでした」
「なにを言うんだ。お前は良く出来た奴隷だ。今日はいよいよケツの穴を捧げて、奴隷としてさらに飛躍の扉を開けることになる。お膳立てをしていただいた皆様に感謝しないとな」
「はい」


 そう言ってから、妻はしばらく黙っていた。
 ゆるゆると妻の右手だけが動いている。
 が、やがて、


「またお会いできて嬉しいです・・・」


 絞り出すように言った。
 涙ぐんでいる様子だ。
 これから異常セックスの白黒ショーが始まるというのに、なんともそぐわない妻の態度。
 全裸、四つん這いの姿勢でありながら、少女のようにはにかんでいるではないか。


「そうか。会いたかったか。私もだ。鞭打ちは痛かったか?」
「・・・はい」
「10日連続の禊は、私に会いたくて耐えたのか?」
「・・・はい」
「初アナルに私達を指名したのはなぜだ?」
「だって、社長とは途中まで・・・」
「そうだった。亭主の邪魔さえ入らなければ、あと2,3日で貫通できたはずだ」
「はい。あの日も・・・」
「そうだな。Mサイズまで行ってたから、先っぽさえ抜ければってとこだったな。心残りだったか?」
「うん・・・」


 敬語で喋っていた妻が、甘えるようにタメ口になった。
 なんなんだこれは!
 憤りと共に、すっと背筋が寒くなる。


「ケツの味を覚えたら、今度こそ離れることは出来なくなる。そうして欲しいんだろ?」
「典子を・・・あなた色に全部染めて下さいっ」


 思いのたけを吐き出したという風に、大きく息をついている妻。
 四つん這いで眼前の畳を睨んだままの裸身が身震いしている。


「典子、忘れられなくしてやる。ケツでイク女にしてやる。夫も子供も忘れ、ケツで悶え啼く女にしてやる。二度と逃げるんじゃないぞ? お前の初めては全て俺たちのものだ。わかってるな?」
「はいぃっ!」


 妻は感極まったか、泣きじゃくっている。
 妻が落ち着くのを待って、長髪社長はゆっくり膝立ちだった右脚を妻の右足の外側に大きくガニ股のように開いて立てた。

 いよいよ公開肛姦ショーの始まりだ。
 私の妻の筈なのに。
 他人・・・しかも妻を間違った道へ引きずり込んだ張本人の特殊AV会社社長が。
 あろうことか私ですら触ったこともない典子の肛門を貫こうとしている。

 このDVDは本物なのか?
 CGか何かで合成したか?
 いや、もう逃げ道はない。
 これは事実だ。
 しかも進行形のライブ中継ではない。
 もうどうしようもない過去の事実だ。
 変更はきかない。

 やはり薬を飲んでおいてよかった。
 肉体に途轍もない負荷がかかっているとしても。
 正視できる状況じゃない。
 交わされる会話も、展開している映像も。
 夫である自分。
 必死に働いて来た自分。
 家庭の再構築に懸命になって来た自分。
 完全に置いてきぼりじゃないか!

166名無しさん:2018/10/22(月) 00:39:05
45

 妻の開いた両踵の間に割り込ませている男の左膝が、妻の左ふくらはぎに触れ、外に押し出すように広げていく。
 そのタイミングでカメラアングルは真上からに変わった。
 ふくよかなお尻の谷間に突き立てられる怒張の様子がよくわかる。

 決定的瞬間をカメラは捉えようとするのだろう。
 奴は妻が握った手を放させて、ペニスの根元を自分でギュっと握った。


「典子? 今日はケジメだ。ローションは少なめにする。少し痛いが、しっかりケツの穴で俺を呑み込め。いいな?」
「はいぃ」


 妻は今は畳にピッタリ両肘をつき、正面向いて三つ指ついた畳の先をひたと見詰めていた。
 神経をお尻に集中させているのだろう。
 表情は見えないが、反った背中は身じろぎもしない。
 社長は亀頭の先を、待ち受けている妻のお尻の割れ目に沿って上下に動かしていた。
 見るからに硬そうな肉棒。
 しかしその先端は妻の裏門を潜り抜けることができず、毎度弾かれているようだ。
 狙いの窪みに押し付けるものの、そこを突き抜くことが出来ず、勢い余って上か下へと力が逃げ、臀裂の中を滑ってしまっている。

 諦めることなく何度もチャレンジする男。
 健気に後方にムニニッと突き出されている妻の丸いヒップ。
 その悪戦苦闘ぶりをひたすらアップで撮り続けるカメラ。
 場内は寂として声もない。

 男の怒張は鋼鉄の硬さを思わせたが、それでも先のほうがしなっている。
 無理やり入れようとして、ゴルフクラブのシャフトか釣り竿のように、先がしなってしまっているのだ。
 どれほど妻の菊門の抵抗が強いかということだ。

 奴は根元を握って、まだひと握り以上余っている肉茎の先を懸命に押しこむ。
 しかし目的は果たせない。
 ローション少なめというのが仇になっているのも確かだろう。

 このまま入らないんじゃないか?
 そんな他人事のような感想が浮かぶ。
 なんだか現実感がない。
 頭はぼやけている。
 過剰に飲み過ぎた精神安定剤のせいなのか。
 それともあまりにも日常からかけ離れた異空間であるためか。

 AVとしても異常だろう。
 もちろんアナルセックスシーンくらいは見かける。
 アダルトビデオの世界では最近日本でもおなじみになってきたプレイだ。
 だが、広大な日本間にたくさん客を招いて、公開で人妻の初アナルの模様を記録しようというこの状況は、いくらなんでも常軌を逸している。

 ふと病院での採血を思い出した。
 何の脈絡もなく。
 会社の健康診断で当たった新米看護師がそうだった。
 静脈の位置を探し当てられずに、何度も何度も、注射針を私の肌に突き刺さしていた。
 もう無理なんだろう。
 そう思った時に、注射器のシリンダーの中に黒い血が吸い上がってきた。

 それとまったく同じだった。
 なんの前触れもなく、Lサイズのゆで卵ほども大きさのある奴の先端は、妻の菊花に沈んだらしい。


「痛ッ」


 妻の際どい声がした。
 小さい声。
 様子では必死に我慢しているようだ。

 社長は構わずにゆっくりと腰を進めていく。


 ズブズブ、ズブズブ・・・


 真上から映されている妻の後頭部が仰け反る。
 この日のためにセットした妻の明るい髪が散った。
 まだ男の陰茎は半分ほど、妻の身体から出ている。
 妻の肛門がハッキリと映っていて、カメラはここぞとばかりに鮮明に映している。
 男の生殖器を嬉しそうにズッポシ呑み込んでいるのは、私の妻である典子の肛門だ。
 排泄器官なんだぞ。
 精神安定剤は危険水準まで効いている筈なのに、ワナワナと震えを感じる。
 こいつらは妻の身体を使って何をしていやがるんだ!

167名無しさん:2018/10/22(月) 00:39:42

「痛ッッ、ああ・・・、い・・・痛いィ・・・」


 こらえようとしているのに自然と出てしまう妻の声。
 そこには隠しようのない苦悶の色が滲んでいる。
 潤滑油のないままに、排泄穴を犯される妻。
 さっきまでの指やオモチャとは違う、格段の太さ。
 未知の激痛に襲われていることに間違いない。
 それでも肉茎は進んでいく。
 ゆっくりと。
 妻のお尻の中に消えて行く。

 勃起したペニスを生で肛門の中に受け入れている肉感的なヒップ。
 これは本当に典子のお尻なのか?
 また現実逃避し始めた自分がいる。

 妻のお尻は小ぶりだ。
 リビングでくつろぎながら、台所仕事をしている妻の姿に何気なく目をやることがたまにあった。
 キッチンで動くブルージーンズに包まれた妻のお尻。
 スレンダーな肢体に似合った慎ましいものだったはず。
 キッチンテーブルの椅子に腰かけていた時だって、ごく普通の女性の丸みで、とりわけエロかったわけでもなんでもない。

 でも画面のお尻はエロエロだ。
 ムチムチに満ち張って、グラビアアイドル並みの悩殺的な曲線を見せつけている。
 これが典子のお尻?
 違うだろう?
 単に着衣と裸だからなのか?
 結びつかない。
 あの見慣れた妻のお尻がこんなになってるなんて。

 様々な妄念が私の脳を駆け巡っている間にも、容赦なく男の怒張は妻の肛門をえぐり、ついに根元まで埋めた。
 軽くピストンまで始まっている。


 ドドーンンッ!!


 奴の勃起が根元まで妻の裏門に沈め込まれた瞬間、これまでで一番力強く和太鼓の音が鳴り響いた。
 記念すべき人妻典子のアナル処女卒業を確認したという意味か。

 場内は静まり返っている。
 どうやら画面には映り込んで来ないが、大きなプロジェクターのようなものが用意されている気配だ。
 ほんの一瞬、それらしい発光板が画角に入ったことがあった。
 大物アーティストたちがコンサートの際、広い会場の客全部が見ることが出来るように、ステージの奥に巨大モニターを備えつけるのは今では当たり前になっている。
 たぶんビデオカメラからの信号が直接飛ばされ、リアルタイムでプロジェクターに反映されているのだろう。
 客たちは肉眼で目の前のふたりの絡みを楽しみ、局部の動向はプロジェクターのアップで味わう趣向のようだ。

 我が家のリビングのテレビ画面の中には、ただただ静かな熱気に満ちた空間がある。
 その熱源は日本間の上座で繰り広げられている裸の男女の変態プレイだ。
 カメラマンである調教師は、今回自らは参加していないので、市販のAVさながら自由に動き回り、引いたり寄ったり、巧みなカメラワークを発揮している。
 被写体は自分の妻だ。
 お尻の穴を特殊AV制作会社の社長の男根に貫かれている。
 ズボズボされている。
 あの気取った男に。
 いけ好かない野郎に。
 いや、どんなに好感の持てる男であっても、許して良いことではない。
 私の妻なんだ。
 真菜と明弘の母親なんだ。
 動きの良いカメラはまさに臨場感たっぷりに、アナルで繋がっている男女の様子を舐め回すようにして撮っている。
 こんなシーンを撮影されてしまったら、人間としてはお終いじゃないか!

 だがそれは妻にだけ言えることだ。
 堂々の顔出しは常に妻だけなのだ。
 男たちは常に守られている。
 社長はベネチアンマスクで防御している。
 製品版は『Episode3』を見ただけだから、初期のDVDで妻を玩んでいた男たちが、製品版でどうなっているのかはわからない。
 あるいは顔くらいは映っているのかも知れない。
 でも素性を明らかにすることはいっさいない。

 それに対して妻のほうは素顔も本名も住所も、個人情報をすべてDVDで晒されている。
 妻の人生に対する配慮なんてかけらもない。
 そしてそれは私や子供たちに対しても同様。
 自宅の内部はおろか、私や子供たちも撮影され、リアリティを高めるためと称して、そのまま売るのが奴らなのだ。

168名無しさん:2018/10/22(月) 00:40:30

 妻は排泄器官に、男の膨れ上がった肉棒をうずめ込まれて、呻いている。
 息をつめ、徐々にもらし、また止めて、ゆるやかに吸い込み、再びホォーと吐き出して、それを繰り返している。
 耐え難い苦痛を呼吸法によってはぐらかそうとしているようだ。
 それでも痛みを訴える小声は時々もれる。
 裂けそうに広がって蹂躙される妻の肛門。
 薄く伸びた括約筋の輪も限界いっぱいに見える。
 これがケジメなのか。

 社長は左手を妻の左側のお尻の肉の上にあてがっている。
 ちょうど親指の先が、妻の尾てい骨のあたりの位置。
 その手を使って、妻の腰の高さを調整しているみたいだ。
 押し付けたり力を抜いたりして妻に合図を送っている。
 それに従順に従う妻のお尻。
 その柔らかそうな臀肉の盛り上がりが、今は男の股間に密着していた。
 アダルトサイトで見る普通の後背位よりも、ヒップの位置が少し下にあるのが、いかにもアナルセックスしてますという特殊性をアピールしていた。
 性器でない場所に、奥まで完全に入っている。
 男の脈打つ肉茎の肌の色は見えない。
 妻のお尻の谷間にすっかり埋もれてしまった男の陰毛。
 ウウッ、と苦し気に呻きながらも、妻はしっかり背後にお尻を押し付けている。


「う〜っ」


 初めて社長の口から、快楽の声が出た。
 抑えきれずに、思わずといった気配で。

 奴はいま典子の腸壁を味わっている。
 一体どんな感触なのだろうか?
 アナルは膣より締まると聞く。
 そこに奴の肉棒はまさに軋むようにメリ込んでいる。
 とても気持ちが良さそうだ。
 俺は夫なのにその快感を味わえない。
 あの社長が味わっている。
 典子典子と人の妻を呼び捨てにしていた社長が味わっている。
 典子がどこまで堕ちたか知っている、とうそぶいていた社長が、妻のお尻を抱きかかえ、深く挿し込んでいる。
 妻の苦悶などお構いなしに、根元まで生でズッポリ入れている。

 また軽いピストンが始まった。
 妻の激痛と引き換えに快感を貪る男。
 そのとき妻の左手が後ろ手に伸びてきた。

 これは容赦を乞う仕種。
 その手で残酷な振舞いを続ける男の腹を押し返すのだろう。

 しかし俺の予想は外れた。
 黒い拘束具を手首に巻き付けた妻の左手は、社長の左手に触れた。
 その指先が奴の指先に絡まる。
 男も絡め返す。
 左手同士がいわゆる恋人握りになった。
 妻は深く突かれながら、奴の手を握りしめている。
 まるで、遠慮しないで突いて、と語っているかのように。
 それらの指は絡み合い、お互いの感情を確かめ合うかのように握り合い、微妙な力の入れ具合いで意思を疎通させ、絆を確かめ合ってるようにも見えた。

 不意に薬で痺れた私の頭が、電撃を浴びたようになった。
 灰色だという脳細胞がすべて煮立って真っ白になるような感覚。
 天啓というやつか。
 予想もしていなかった観点が、不意に降って来た。
 これは恋・・・?
 恋心?
 そうなのか?
 これはまったく新しい視点だった。

 急激に嫌な汗が湧いて来る。
 一瞬縮んだ心臓がバコバコ言い始めた。

 まるで離れ離れになった恋人を慕うように。
 妻の絡めた指は絶妙のニュアンスで、長髪社長の手を握りしめている。
 妻が激痛をこらえているのは明らかだ。
 まだ肉体的な痛みを訴える小声はときどき飛び出してくる。
 だから実際には慣れない痛みに失神寸前なのかも知れない。
 それでも嫌がる素振りはない。
 心底嫌なら、もう少し態度も違うだろう。

 やはり社長を典子が指名したというのは本当なのだろうか。
 苦痛に耐えて相手に喜びを?
 女性が出産の痛みに耐えて子を産むのは、配偶者を愛しているからに相違ない。
 いま典子は裂けそうなアナルの痛みに耐えて、長髪社長の快感のために菊門の処女を捧げている。
 産みだそうとしているのは赤ん坊ではない。
 そんなものはいない。
 そう。
 典子が産み落とそうとしているのは新たな自分。
 自身の意思を捨てた完全なる奴隷。
 社長の望む、利害関係者への接待要員としての、前も後ろも使える完全なる性奴隷。
 典子は激痛に耐えながら、そんな堕ちた人生を産みだそうと躍起になっているのだ。
 歯を食いしばり、脂汗を浮かべながら。

169名無しさん:2018/10/22(月) 00:42:56
46

 眩暈が襲った。
 ブラックアウトとはこういうことを言うのか。
 視野が狭くなり、すべての色が消えた。
 私はソファに倒れ込みながら、リモコンでDVDをとめた。
 そのまま息が整うまで横になる。
 心臓の激しい動悸はなかなかおさまらなかった。

 寝取られとはこういうことか?
 これまでてっきり、身体を支配して雁字搦めにして言うことを聞かせるのかと、勝手に思い込んでいた。
 心まで奪う。
 本当の寝取られとはこういうことなのか?

 『Episode3』で客だか株主だかが言っていた。


『もう身体は九割がた変態セックスに行っていた』


 それは妻の心にも及んでいたということなのか?

 実は私の胸にわだかまっていることがある。
 どうしても拭い去れない一点。

 私は事件後、家庭のため、子供たちのため、前だけを見ることに決めた。
 奪回劇以降、絶対にあの事件のことを振り返らないことにした。
 妻にはあれから何も問いただしていない。
 なので、事件の紆余曲折に関しては、あの直談判に奴らのもとへ行った日の妻の説明がすべてだ。
 私が知りうる情報はあの日の妻の告白がすべてなのだ。
 あの時、妻は私にすべて正直に話したと信じた。
 少なくとも私の訊くことに対しては嘘はないと思った。
 でもどうしても気にかかる。

 妻は言っていた。


『私だってAV会社だって認識はなかった』


 そして撮影された映像に関して、


『売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの』


 とも語っていた。

 私も妻を信じたい。
 いや。信じたからこそ、過去を水に流し未来に向けて舵を切った。
 だが、そんなことが有りうるのか?
 知らなかった?
 男たちに撮影されていたことは妻も自覚している。


『あなただってDVDを見たんでしょう?』


 開き直ったようになって、言っていた。
 だから撮られていたことを知らないはずはない。
 問題はその先だ。


『事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない』


 ずっと気になっている。
 会社で仕事をしている時にも、ふとした瞬間に出てくる疑問。
 もちろん、妻がどんな風に男たちに凌辱されたのか?
 それも気になる。
 しかし、それについては諦めるしかない。
 今更、もうどうしようもない。
 妻のふしだらな行為の数々は、現にたくさんDVDの映像で残っている。
 だが妻があの時点で私に嘘をついたかどうかは重要だ。
 今後の信頼関係の根幹にかかわる肝心かなめの部分だからだ。

 妻は言っていた。


『あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから、他の社員も何も知らない』


 本当だろうか?
 私はこのことを何度も何度も頭の中で考えてきた。
 何か月も通して長い時間をかけて。
 そしてとうとう思い当たった事がある。

170名無しさん:2018/10/22(月) 00:43:28

 例のマンスリーマンション。
 探偵が調べてあぶり出してくれた奴らの隠れ家だ。
 そこには赤坂もいた。
 その場を仕切っていた男に、社長に連絡をとれ、と迫ったとき、社長の伝言として、


『今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・』


 とブルって答えていた。
 オモチャにしていた人の妻のその旦那が突然踏み込んできたとなれば、ビビるに決まってる。
 が、重要なのはそのあとだ。


『あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に』


 男は目をそらしながら私に言った。
 その時は気づかなかった。
 でも頭の隅に引っ掛かっていたんだろう。
 去年の忌まわしい記憶を、何度も何度も反芻することで。
 ようやく浮かび上がってきた矛盾点。


『あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの』


 妻の言葉。
 しかし社員じゃないはずの人間。
 社長名義で借りたマンスリーマンションでいかがわしい行為をしていた人間たち。
 そのビビった男はハッキリと、


『うちの社員と一緒に』


 と言い切っていた。

 あの時は聞き流してしまった。
 妻が、あの会社の社員じゃない、と言ったのとは、時系列的に逆になっている。
 だから気づかなかったのかも知れない。

 うちの社員、だ?
 うちというからにはコイツも社員なわけだ。


『社長が仲間内で個人的にやってるだけ』


 妻の嘘は明らかだ。
 仲間内だけでやっている筈なのに、どうして社員が関わって来る?
 妻はこのマンションでの一件を知らない。
 男たちが、うちの社員、と口走っていたなんてことを知らない。
 うまく言い逃れできたと思ったのだろうか?
 深い脱力が私を襲う。

 男はこうも言っていた。
 私のご機嫌を取るように。


『でも子供さんたちは今外出中らしくて』


 いかにもこれで安心しろと言わんばかりの口ぶりだった。
 だが、なぜ子供が留守なことが安心材料になる?
 それは妻にいかがわしいことをさせる前提ということだろう?

 普通の会社に勤めていて、自宅にそこの社員が訪れて来るというのは稀かも知れないが、無いことではない筈。
 その場合、子供が家に居たって、なんら問題がある訳でもない。
 お茶を出して、談笑して、用件が済めば帰って行って、それでおしまいだ。
 子供に万が一にも見られたら困るというのは、AVの撮影をするからだろう。

 そのことを自宅にいる『うちの社員』も知っている。
 情報を共有している。
 つまりは会社ぐるみということだ。
 なにが普通の映像製作会社だ。
 全社を挙げてのどっぷりのAV制作会社じゃないか!

171名無しさん:2018/10/22(月) 00:44:07

 そして妻はそんなところに勤めていたということになる。
 この矛盾が私の頭の中で、精密機械のなかの小さな砂粒のように歯車の回転をきしませ、この問題を考えるのをやめさせなかった――。

 そもそも同僚だと称して私に近づいて来た赤坂自身が、裸であの現場にいた。
 妻の言っていた、


『それでも事務の仕事してるの』


 この言葉がむなしく響く。
 もし勤めているのが【普通の映像製作会社】なのだったら、一介の事務員である赤坂はなぜ裸でマンスリーマンションにいる必要がある?
 一事が万事だ。

 しかし妻が自分を恥じて私に本当のことが言えなかったというのは理解できないことではない。
 真実を言えば私に嫌われてしまう。
 何とか取り繕いたい気持ちが生じたとしても無理はない。
 あの20日ぶりの再会のとき、妻にもまだ心の隅に、できることなら元の生活に戻りたい、という願いがあったのだろう。
 穢れた会社内部のことを出来るだけ知られたくない。
 亀裂を深めずにやり直したい。
 そう思っての、そのための前向きの嘘なら、私は喜んで許すつもりがある。
 大いに歓迎だ。
 妻の心が、いままでの生活に戻りたいと、強く希求していることがわかるからだ。

 だがしかし、まだ割り切れないものが残る。
 これは前回も思ったことだ。
 そう。
 なぜあれだけ私が警察に連絡するのを嫌がったのか――?


『やめて! これ以上傷つきたくない!』


 いちおう尤もな理由だ。
 探偵の言うレイプ被害者の例えもよくわかる。
 しかしやはりひっかかる。


『今からお前の会社に行く。男達と話をつける』


 私が宣言すると、妻は必死になって止めた。
 例の、会社は普通の映像製作会社で他の社員も何も知らない、と妻が言ったのはそのときだ。
 通報もさせない、会社にも行かせようとしない。
 自分の恥を知られる以上の理由があったのではないか?

 自宅に乗り込んだあのタイミングは連中にとって計算外だった。
 妻と再会できたのは偶然だった。
 私がマンスリーマンションにたまたま殴り込んだから起きたハプニング。
 連中に事前の備えは何もなかった。
 あの日だったら、奴らの会社に人妻を食い物にする犯罪の証拠は、ゴロゴロ転がっていたに違いなかった。
 私が行くということは探偵も行くということだ。
 それを妻が止めた。
 私の行動をことごとく妨害した。
 その時はそう思わなかったが、結果としてはそうなっている。
 そしてそれらは敢えて意図してやったことだと仮定しても筋は通るのだ。

 すべて社長とAV会社を守るためだったとしたら・・・。
 暗然とした思いが胸を突き抜ける。

 最初に会社に行こうとして妻に遮られ、それならと妻に社長に電話をさせ、面会を断られた後、ダメ元でもう一度会社へ乗り込もうとした時にも、妻は、


『でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う』


 と言っていた。
 二度とも会社に行くことを渋ったのだ。

 そこに長髪社長から折よく電話がかかって来て、福岡クレイホテルの1105室に来てくれという話になった。
 結局会社へは行けずじまい。
 その時は話が付ければどこでもよいと、場所のことなんか考えもしなかったが、大いに意味があったのかも知れない。

 しかもご丁寧にも、奴らは別件でカモフラージュもしている。
 よほど妻の勤めていた【普通の映像製作会社】が、実は特殊な反社会的企業であることがバレるのは都合が悪かったらしい。

 失踪の翌々日、家の真菜から電話が入った。


『あ、お父さん? 今日お母さんの会社から電話があって、今日会社に来てないけど連絡くださいって電話があったんだけど』


 妻を家にも帰さず連れ回して自由にしている張本人、その当のAV会社が無関係を装うために、こんな工作を仕掛けてきた。
 私はまんまと引っ掛かり、AV会社に電話して、典子は取りあえず二三日体調不良で休む、と汗をかきかき説明した。
 まったくもって、いい面の皮だ。
 奴らは大笑いしていたに違いない。

172名無しさん:2018/10/22(月) 00:44:40

 その前の日、私は直接、その会社にまで足を運んでいる。
 インターホンを押し、自分の立場を隠し妻を訪ねた。
 しかし帰ってきたのは予想通りの言葉だった。


『今日はお休みいただいてますが、どちらさまでしょうか?』


 私は何も言わずに妻の会社を後にした。

 でも素性を明かしたところで、中には入れなかったに違いない。
 門前払いを食らったはず。
 会社ぐるみで妻や他の人妻たちのAVを制作している連中だ。
 私の顔など全社員が共通認識で知っていたっておかしくない。
 いや、妻が失踪したのだ。
 早晩、私が会社に現れることは予想していただろう。
 インターホンのモニターで私を確認し、筋書き通りに追い返した。
 そして二度と訪問して来たりしないように、福岡の家のほうに「妻が会社に来ていないので連絡くれ」というダメ押しの印象操作を行ったという訳だ。
 その手に乗せられ、まんまと私は、この会社は妻の失踪とは無関係だ、と深層心理に刷り込まれてしまったのだ。

 後のことになるが、失踪後二週間ほどして、再度妻の会社を訪ねたことがある。
 インターホンを鳴らし、自分の名を名乗り、赤坂を名指しした。
 赤坂はそこの事務所にいた。
 社員として出社していた。
 妻の言う『会社は普通に仕事してる人だけ』『だから他の社員も何も知らない』筈の事務員である赤坂。
 そいつは裸の男女の絡み合ういかがわしいマンスリーマンションの一室で、自らもバスローブ一枚の裸体で同席していた。
 妻の通っていた2階建ての会社。
 そこが【普通の映像製作会社】ではなく、社員自らが出演、撮影、制作、なんでもこなす、れっきとした【AV制作会社】である動かぬ証拠だ。

 赤坂はその時も決して会社の中へ私を入れないようにした。
 話をしたのは近くの喫茶店だ。

 この時点でも赤坂は、妻は浮気中、という基本線を崩さず、


『どうだろう・・・、でも、私以外の人には多分その話はしてないと思うんですけど』


 社内で親しい自分以外の他の同僚とは妻は浮気の話をしていないから、聞きこんでも無駄、と予防線を張った。

 調査依頼した探偵からは、


『一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。奥さんが浮気をしていたという事実はまだ確認できませんが、職場での様子は出張が多く忙しい印象を持たれている同僚が多いようです。仕事を休んで何かをしていたなどは考えづらいかと思われます』


 という報告だった。
 会社ぐるみで真相を隠しているのだから、出張云々とかの話もどうでもいいことだ。
 嘘八百の出鱈目放題。
 しかしこの時も探偵は会社内部に入っていない。
 インターホン越し、せいぜいで玄関先だ。
 もちろん捜査令状の取れる警察とは立場が違う。
 招かれなければ、事務所内には立ち入りできない。
 結局、社長名義で借りられている《ヤリ部屋》とも言えるマンションを焙り出し、事件解決に導いたのは、妻の職場への張り込みだった。
 この時だって会社本体へは、俺も探偵も他の興信所所員も、誰も足を踏み入れていない。

 いったい中はどうなっていたのだろう?
 壁にアダルト女優のポスターが貼られ、机にバイブがゴロゴロ転がっている環境だったのだろうか?
 隅には簡易撮影スタジオがあり、ホリゾントとなる白布が張られ、レフ板や小型の照明機材が置かれ、いつでもAV撮影できるようスタンバイされていたのだろうか?
 それともそういう淫靡な役割は《ヤリ部屋》のほうに任せ、一見地味で質素なオフィスだったのだろうか?

 もはや想像するしかない。
 機は逸した。
 ただあれだけガードを固めていたということは、一歩会社内に踏み込まれたら、よほど都合の悪いことが簡単に露呈したということなのだろう。
 奴らにとっても・・・。
 そして妻にも――。

173名無しさん:2018/10/22(月) 01:08:52
47

 しばらくまどろんだようだった。
 目が覚めた時、まだソファに横たわっていた。

 眠ってる間に死ねば楽だったのに。
 そんな考えが浮かんだ。
 あれだけの薬物を摂ったのだ。
 死んだっておかしくはない。
 だが生きている。
 心臓の鼓動も普通だ。
 でも生きる屍だ。

 妻のアナルセックスシーン。
 衝撃だった。
 しかしもっと衝撃的だったのは、その最中にまるで恋人同士のように、指を絡ませ合う典子と社長の姿。
 プレイだけとは思えない情のこもった合体。
 男はともかく、肉体の痛苦などものともせず、嬉々として受け入れている様子の妻。
 男のピストンに対して、腰に押し返すほどお尻を突き出していた。
 ゆるやかに自らヒップをうねらせさえさせて。
 このために、アナルプラグのSサイズから、Mサイズ、Lサイズと拡張の努力をしてきたんだと言わんばかりの積極性を見せていた。

 ソファの上に起き直る。
 少しフラフラする。
 頭を振ってみる。
 床に倒れ込みそうになった。
 慎重に立ち上がってキッチンに行く。
 流しで水を飲む。

 こんな調子で4日間過ごせるのかな?
 明弘がどれだけ心の安らぎになっていてくれたのかを改めて思う。
 DVDはまだたくさんある。
 この『Episode2』だって、まだまだ先が長そうだ。
 見ておかなければならない。
 早送りでいいから確認だけはしておかねば。

 窓の外は明るい。
 時計を見るとまだ3時過ぎだった。
 思ったほどには寝入っていなかった。

 食欲は相変わらず無い。
 無理に食べようという気にもならない。
 胃に食べ物を入れたところで、おそらく吐いてしまうだろう。
 妻のDVDを検証すれば、そうなる可能性は高い。

 よろけながらソファに戻る。
 テレビは妻のヒップと社長の下半身が上から大写しされた画面でとまっていた。
 もし死んでたら、妻のDVDも全部誰かに発見されてしまうところだった。
 そう思うと寒気がする。
 あまり軽率に薬に頼ってはいけないな。
 私はそう自戒する。

 ふたりの左手は絡み合ったままだ。
 しかし対等ではない。
 女の手は手首に黒革の拘束具を巻き、性器ではなく菊門を貫かれている。
 恋人同士のように指を絡めているが、あからさまにご主人様と奴隷の関係とひと目でわかる。

 こんな映像、誰にも見せられない。
 救急隊員にも誰にも。
 特に子供に発見されるようなら最悪だ。
 辛いことの連続で、人生を終わりにしたい気持ちもゼロではない。
 死んだら楽だな。
 それも、ある意味本音だ。

 だが子供たちに対し、責任がある。
 親としての責任がある。
 勝手に死ぬわけにもいかない。
 せめて子供たちが自立できるまでの経済的保障。
 これが最低限の親の義務だろう。
 そしてもう一人、同じ義務を負うはずの母親。
 その典子は失踪している。

 ここまでくれば、妻が戻って来るのは絶望的だ。
 そのうちに自発的に帰って来るなど、ちゃんちゃらおかしい夢物語。
 とどのつまりは・・・。


 ――離婚。


 その文字が日に日に大きくなって、すでに決定事項のようにも思えて来る。
 でも悔しい。
 あのAV社長の目論見通りになるようで悔しい。

174名無しさん:2018/10/22(月) 01:09:23

 人間の感情というのは不思議なものだ。
 離婚という本来夫婦で一番綿密に話し合わねばならない人生の重大事が、意地という非論理性の最たるものに左右されるようになってしまっている。
 どちらにしろ典子の所在が分からなければ、離婚もクソもない訳だ。

 テレビの中で妻のアナルを犯している長髪社長は、前回の電話でも私に妻との離婚を同意しろと迫っていた。


『まだまだ事実を積み上げて行かないと納得していただけなさそうだ』


 そんなことも言っていた。

 確かにDVDで示される事実はこたえた。
 もうファイティングポーズも取れていない。
 リングにはなんとか立っているが、ノックダウン寸前だ。
 もう倒れずともその前にドクターストップされ、立ったままテクニカルKO負けを宣告されるのかも知れない。

 忘れていたが、奴はまた一か月後くらいに電話するとも言っていた気がする。
 そうすると、その時、典子との離婚話が具体的に出てくるのだろうか?
 そろそろ一か月が経とうとしているが・・・。

 私は無意識にリモコンのスイッチを押していた。
 凍り付いていた男女の裸の腰が、再び血が巡って動き出す。
 テレビ画面に、妻のヒップが男の腰に押し付けられ、丸々と実った臀丘がプニプニと魅惑的に変形する様を映し出している。
 ゆるいピストンだが、社長は今や両手を使って妻のウエストからヒップへの満ち張った美しい曲面を掴み、しっかりとコントロールしていた。
 長大な肉棒全体が、妻のお尻の割れ目の奥の奥に消えてしまっているのが、手品のように奇妙に見える。
 早送りをするつもりだったのに、あまりの迫力に呑まれて、見入ってしまっている自分がいた。
 結論は離婚しかないと思っているのに、それを拒んでしまう俺。
 意地だけなのか。
 それもよくわからない。

 DVDでアナルセックスを披露している自分の妻。
 初アナルだと言っていた。
 そういうことなら、奪回時、まだ妻はお尻は使われていなかったわけだ。
 新品だ。
 どうせだったら、自分が先に貫いてやれば良かった。
 テレビの映像を眺めながら、そんな野蛮な思いも湧いて来る。

 せっかく取り戻したのに。
 そのあとに妻のお尻の純潔まで、うまうまと奪われてしまったのだ。
 でも妻の肛門に触ることなど、考えたこともない。
 まともに妻の肛門を見たこともない俺にはどだい無理な話だ。
 そんな変態的なことが出来るわけがない。

 長い夫婦生活の中で、変わった体位も取ったことがない。
 妻の裸の写真を撮ったり、大人の玩具を使ったこともない。
 それは妻を大切に思って来たからだ。
 そんなことをすれば妻のことを性のはけ口と見ているようで、申し訳がないと思ったからだ。
 一緒に生活をしているかけがえのないパートナーに失礼だと思ったからだ。

 だが奴らはやすやすと人の妻に手をかけ、裸を撮影し、アダルトグッズを使用して、縄で縛り、喉の奥を犯して、変則的な体位で繋がり、複数で同時に挑みかかって、中出しを繰り返した。
 妻の気持ちに配慮もなければ、妻の人格に対する尊重もない。

 たった半年の調教で妻は壊された。
 いや、実際にはもっと短期間で堕とされたのだろう。
 鉄は熱いうちに打て。
 それを地で行ったのだ。
 妻を大事にしていた俺は取り残されて、好き勝手に弄んでいた男たちのところに典子はいる。
 性の慰み者として、人間以下の家畜のような扱いを受け続けてきた典子は、現実問題として奴らになびいているのだ。

 おかしくはないか?
 大いなるパラドックス。
 典子はずっと大事にしてきた俺の元にいるべきだろう!

175名無しさん:2018/10/22(月) 01:10:00

 テレビの中で、何かの合図のように、和太鼓が軽く鳴らされた。
 苦痛の小さな呻きを漏らし続ける妻。
 それに対し、快感が高まってきたことを示す、社長の荒い息遣い。


「典子。そろそろだ」


 それだけで通じるのだろう。
 今は横からの角度で男女の絡み全体を撮っている画面の中で、妻が慌てたように大きく首を縦に振った。
 握り合っていた左手も放され、三つ指つくように、顔の前の畳に、妻が両手の指先を揃えた。
 待ち受けるように、そこにぐっと力が入る。
 クライマックスということだろうか。
 カメラは相変わらずせわしなく動く。
 結合部に近づくと、


 ニッチャッヌッチャッ


 という明らかに、性器での行為とは違う、粘着性の高い摩擦音が聞こえてきた。
 有り得ないことだが、カメラが下がって妻の秘部を映し出すと、ヌルヌルの粘液で溢れかえっていた。
 舟形の陰唇の中心は白濁した本気汁で肉襞すら見えない有り様だ。
 その淫液は垂れ下がり、茂みをも濡らしていた。

 排泄孔を犯されて、典子は感じている・・・。
 ひどい苦痛は肛門だけで、女体全体としては交接の肉の悦びにわなないているのか。


「いつもの要領だ・・・」


 男の声もうわずっている。
 こちらが味わうのは快感のみだろう。
 突き出している妻のお尻の肉が引き締まった。
 そして緩まる。
 社長の両手の中で、プリプリしたヒップが蠢きながら左右に揺れている。
 これが教え込まれた作法なのか。

 今度は妻の顔にカメラが寄った。
 眉間に皺が寄っている。
 目はギュッと閉じて睫毛が目立った。
 ツケマやマスカラには縁のない妻だ。
 それでももともと長い睫毛は妻のチャームポイントのひとつ。
 小鼻を開き、唇は薄く開いているものの、歯はぎゅっと噛み締めている。
 苦痛と快感が入り混じったような妻の表情。
 顔は真っ赤に染まり、息んでいる。

 どこに力を入れているかは、知りたくなくても分かる。
 お尻の筋肉だろう。
 その証拠に臀肉が規則正しく収縮し弛緩する。
 その間も社長は強く腰を押し付け、短いが力強いピストンを送っている。
 妻は顎を持ち上げ、喉をのけ反らせ、ますます眉間に深い皺を刻んでいた。

 ヨガリ顔が不細工な女というのがたまにいる。
 でも妻はあまり変わらない。
 というより真面目そうな顔の印象が、切羽詰まったような緊迫感のある顔つきになる。
 快感がせり上がって来て、どうしていいかわからないという表情。
 アクメを迎える不安と期待。
 抑えていた欲望が表面に滲み出る。
 その顔は美しいだけでなく、オスの嗜虐心をいたく刺激するものだ。


「くっ・・・締まるな・・・」


 誰に言うでもない長髪社長の呟きが漏れた。
 そしてその直後、打ち付けて前に送った下腹部ごと、身体が硬直した。


「あっ! ううぅ〜・・・ん・・・」


 同時に妻の口からも洩れる、
 吐息まじりの甘い声。
 ビクビクッと震えて、社長に反応を返す。

176名無しさん:2018/10/22(月) 01:10:43

 ふたりの繋がった裸身が凝固した。
 時が止まった。
 社長は妻のお尻を自分の腰に強く引きつけたまま。
 見た目に動きはない。
 だがわかる。
 猛烈な勢いで射精している。
 典子はそれを膣ではなく直腸で受けている。
 低い四つん這いの手足を縮めて、全身を引き絞りながら放出を受けている。
 ほぼ額を畳につけてしまい、上体が突っ伏した妻の高く掲げたお尻を、腰で押し潰すようにして上からのしかかっている社長。
 ガニ股になり下腹部を、妻の柔らかく満ち張ったお尻の谷間に擦り付け、そのまま止まっている逞しい男の肉体。
 なかなか終わらない。
 妻はどれだけの量の噴出を受けているのだろうか。

 さっきこの男は呪いの言葉のように言っていた。


『典子、忘れられなくしてやる。ケツでイク女にしてやる。夫も子供も忘れ、ケツで悶え啼く女にしてやる』


 そんなことになってしまうのだろうか。

 とうてい信じられないが、奴らには実績がある。
 あの真面目で貞淑な典子が、透け透け白ワンピースの下に局部の露出した変態的な赤い穴開き下着を目立たせて、家の近所を徘徊するくらいにまで仕込まれてしまったのだ。
 他にも色々されている。
 奴らの調教は生易しいものではない。

 考えてみれば、俺は奴らの言葉を軽く捉えていたのかも知れなかった。
 台所で朗読されていた【奴隷契約書】そして手紙の添えられた【妻からの決別宣言】。
 これらのDVDでの映像は、過去の妻とも普段の妻とも一致しなかった。
 かけ離れていた。
 だから連中の話をどこか軽んじていたのは事実だ。
 認めたくないという心理もあったはずだ。
 でも事態は実際にそこまで進んでしまっていたのかも知れない。

 奴らの不敵な自信。
 再会した時、俺は男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していた。
 しかし妻の口から謝罪の言葉とともに飛び出したのは、


『離婚してもっと素敵な人を見つけてください』


 だった。

 俺とは別れ、奴らと共に過ごすことが前提なのか・・・。
 そのとき俺の胸を吹き抜けた淋しさが、いままた同じように吹き抜けようとしている。

 ケツで悶え啼く女に変えられてしまう・・・。
 典子がさらに堕とされてしまう――。

 むろん私にアナルセックスの経験などない。
 普通あるのか?
 真面目な夫婦生活を送っていれば、そんなチャンスはあまり無いのじゃないか?
 中にはさばけたカップルや好奇心旺盛な夫婦もいるのは分かっている。
 しかし少数派だろう。

 ところが浮気や不倫となると話は違ってくるらしい。
 自分の妻に果たせない欲望を、セフレにぶつける。
 自分の所有欲を満たすために、あえてSMなど変態プレイを仕掛けるとのことだ。

 その中で気になる噂がある。
 アナルの味を覚えた女は決して離反しない。
 アナルでイかされた女、アナルでの絶頂を擦り込まれた女は、その相手の男に完全に隷属するとのことだ。
 それほど強烈な快感らしい。

 これらはいい加減なアダルトサイトで得た知識だから、正しいのかどうかなんて分からない。
 根も葉もないことなのかも知れない。
 しかし心配だ。
 このDVDの段階で、すでに十分に奴らに依存している典子。
 自信たっぷりに「夫も子供も忘れ、ケツで悶え啼く女にしてやる」と宣言する長髪社長。
 これでアナルの快感まで植え付けられてしまったら、典子は永遠に手の届かないところに行ってしまうのではないか・・・。

177名無しさん:2018/10/22(月) 01:22:31
48

 画面を食い入るように見つめている自分。
 妻と社長、男女の裸体は依然として、これ以上ないほどに密着している。
 アナルセックスという風な、そんな上品な感じではない。
 まさに種付けだ。

 低く四つん這いになってオスの種を貰っている発情したメス。
 客観的に見ればそう表現するしかない典子の姿。
 平たく押し潰されても、負けじとがっきと膝を開き、ムンとお尻を突き立て、社長の子種をしっかり搾り取る姿勢を崩さない。
 ただし肉棒はお尻に入っている。
 子供ができるわけではない。
 厳密には種付けではない。
 しかし時が止まったような時間の長さは、それだけ子種の放出が大量だったことの証しに思えた。

 やっと社長の硬直が解けた。
 ゆっくりと剛直を妻のアナルから引き出しにかかる。
 すかさず寄るカメラ。
 徐々に出て来る男根は粘液でテラテラしている。
 妻の腸液だろうか?
 たぶん男の精液も混じっているのだろう。

 亀頭が抜けた。
 さすがに一瞬ポッカリ口を開いたように見えた妻の肛門は、それでもすぐさまおちょぼ口を恥ずかし気に閉じた。
 充血したのか粘膜がさっきよりも赤く見える。
 深く刻まれる放射状に広がる菊皺。
 しかし手順を踏んで拡張した成果か、どこも切れたり出血したりは無いようだった。
 それをずっとカメラがどアップで撮っている。

 とうとう処女を失ってしまった妻の菊花。
 一生に一度の初物が散った。


 ドドーンッ


 また太鼓が打ち鳴らされた。
 同時に調教師の声がした。


「無事、ケジメの儀、第一段階が終了いたしました。高田典子はつつがなくケツの処女をスペシャルゲストに捧げ、ありがたい精液もそのケツにおさめました。奴隷として一段グレードアップした典子ですが、性奴隷として更なる高みに昇るため、このあとも残りのスペシャルゲストの方々に開通したばかりの裏門でおもてなしをさせて頂き、あわせて来賓の方々にもその奉仕の様子をお楽しみいただきます」


 相変わらず感情のない低い声。

 カメラは四つん這いでお尻を高く上げている典子の後ろから肛門をじっくりと撮影していたが、AVによくある中から精子が出てくるところを撮ろうという気はないらしい。
 社長はさっさと典子の身体を起こさせ、仁王立ちになってお掃除フェラをさせた。
 自分の肛門の中にあったものを嫌がるなどという次元はとっくに超越しているのだろう。
 妻は正座してためらわずに口に入れ、舐めしゃぶっている。
 熱心な咥えっぷりだ。
 社長は妻のきれいにセットされた髪を撫でていた。
 そしてその手は少し下がって、髪に隠れた耳の辺りを触り始めた。


「んぷっ、くぷぷっんん・・・」


 明らかな反応を見せる妻。
 首を振りながらも、またも顔が上気し、女の顔になる。
 社長の右手はしきりに蠢き、耳のどこかを愛撫しているようだ。


『奥さんは耳が弱いんだよね。自分の女房の身体の開発を怠っていちゃあ、寝取られて当然だ』


 突然、脳裏に蘇って来た嘲りの声。

 そうだ。
 『Episode3』でリビングにいた客だか株主だかが、そう言って笑っていた。
 耳が・・・?
 しかし妻は社長に耳をいじられただけでハッキリと喘いでいる。
 耳ごときが性感帯になるのか?


「典子。俺たちはお前の身体を忘れていない。お前を女として育ててやる。こんなことを旦那はするか? 妻に無関心な男と一緒にいたって仕方がない。来たるべき時には俺たちのそばに奴隷としてはべれ。それがお前の幸せだ」


 妻はフェラチオに熱中しているのか、そのセリフに対してイエスともノーとも言わなかった。
 ただ口での愛撫にさらに熱がこもり、顔は真っ赤になって社長の指で追い上げられかかっているのが見て取れた。

178名無しさん:2018/10/22(月) 01:23:06

 耳の愛撫ひとつでこれほど変わるのか。
 そして俺は。
 典子の耳なんか・・・。
 触った記憶がない!

 茫然として画面を見守るだけの自分。
 日本間の空間にはリラックスした空気が流れている。
 そこここに微かなざわめきがある。
 それは緊迫した場面で思わず漏れる吐息や身じろぎの音ではなく、クライマックスがいったん終了したため、あちこちで交わされている雑談らしきものをマイクが拾っているらしい。
 妻のアナル破瓜の感想でも言い合っているのだろうか。
 ひとつとして言葉として聞き取れるものはないが、どれも和やかで満足げな声音だ。

 画面では妻が物凄いペニスのしゃぶり方をしていた。
 こんな夫は滅多にいないだろうが、私は自分の妻が他の男の膨れ上がったものを口に含むのを何度も見ている。

 初期の頃はそれでも大人しかった。
 ただ自分の時には音なんかたてず、ただ舐めるだけのフェラだったから、ピチャピチャと音を立てるフェラを見て衝撃を受けた。
 しかし今となってはその頃の妻の技巧は稚拙だったとしか言えない。

 そのあとのイラマチオでは格段に上達した口淫プレイを見せ、喉奥を突かれまくっても耐え抜き、出された白濁液を全部きれいに飲み込んでいた。
 温泉旅行の混浴風呂で見せたフェラチオも見事なものだった。
 あれはもう7月の下旬だったから、テクニックがずいぶんと進歩していたのだろう。
 どれだけ男たちとセックス三昧だったのか。
 考えるとまた吐き気を催しかねない。

 でもそれに比べても今画面で見せている妻のフェラテクは凄い。

 舌の動きが違う。
 頬の凹み具合が違う。
 喉の蠢き方が違う。

 ビデオで見ているだけでこうなのだから、実際にフェラされている社長は、典子の期待通りの成長ぶりに頬を緩めたに違いない。


『その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました』


 耳を洗いたくなるような汚らわしいセリフ。
 初めて自宅のリビングで遭遇した時の奴の得意げな声が脳裏にこだまする。
 育てるとは何だ?
 人の妻だぞ!

 前に北九州のアパートにDVDが送り付けられてきた時に、映像の中の典子を見て、売春婦のようだと思ったことがある。
 妻は寝そべっている男に跨り快楽に身を任せ腰を振り続け、いっぽう口で別の男根を精一杯ほお張りながら奉仕して、二人を同時に相手していた。
 あの時の口使いはプロのようだった。
 そして今画面では、妻の技術はそれをさらに上回っているような気がするのだ。

 プロ?


『それで、お前、店長どうした? 急にお前が連れ戻されたんで、困っただろ?』


 また唐突に蘇る聞き覚えのあるセリフ。
 何だったか?

 そうだ。
 これは『Episode1』のキャプチャー『4』の一番最後、調教師軍団とまるで家族のようにテーブルを囲んでいた時の言葉だ。

 調教師の問いかけに妻は、


『どっちのです?』


 と聞き返し、


『中州のほうだ』


 と調教師が応じて、そこでビデオは終わっていた。

 店・・・?
 なんだかまた胸がドキドキしてきた。
 息苦しさで張り裂けそうになって来ている。

 風俗ってことか?
 まさか・・・。
 店にも色々ある。
 服飾店や飲食店。
 妻はどこかでバイトをしてたのか・・・?

179名無しさん:2018/10/22(月) 01:23:44

 いや、もう自分をごまかすのは無理だ。
 奴らに連れ回されていた妻。
 無断外泊は一拍や二泊ではおさまらなかった。
 その一泊二泊の無断外泊でもかなりのことは出来る。
 それが20日間一日も家に戻らず、失踪を続けていた。
 連絡があったのは最初の日の深夜に一度だけ。


『ごめんなさい。事情は説明するから、とりあえず何かあったわけじゃないから・・・』
『だからどこで何を・・・』
『ツー、ツー』


 俺が焦って問いかけた時には通話は既に切れていた。
 その後もまったく連絡はなし。
 自発的に戻って来たわけでもない。
 考えてみればバカにした話だ。
 しかし私は何者かの影を感じ、妻のことを真剣に心配した。
 男たちから妻を取り戻すと、ほぞを固めた。

 失踪期間中、妻がどこで何をしていたか。
 それはこの特殊AV制作会社の男たちとの一連の戦いの中でもとりわけ深い闇だ。


『DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある』


 冷めたような社長の言葉。
 それはこの期間のことを指しているのだろうか?


「こら」


 不意にテレビから聞こえてきた音声に、私はハッと我に返った。
 社長が妻のセットされた艶のある髪を、ポンと拳で軽く叩いた。
 怒張を咥えたまま、悪戯が見つかった子供のように、男のマスク越しの目を見上げて微笑む妻。
 社長は妻の唇から剛直を引き出しにかかっている。
 ギンギンに勃起していた。

 お掃除フェラなのに、また発射させようと妻が茶目っ気を出したらしい。
 社長に向ける屈託のない笑顔。
 こんなに上手くなったのよ。
 と誇らしげにも見える。
 親しい間柄でしか見せない妻の飛び切りの笑顔。
 胸が錐でつつかれたように痛くなる。

 カメラは妻の背後に回り込んだ。
 妻が爪先立てて正座をして、男の股間に顔を寄せている構図。
 それを後ろから撮るのはなかなかエロチックだ。
 股間に潜り込むカメラ。
 妻のお尻の穴を狙っている。
 精液が垂れ出ることを期待しているようだが、キュッと締まった括約筋はいっさい腸内の物質を外に漏らすつもりはないようだった。
 やはり妻のアナルは連中お墨付きの極上品ということなのだろうか。

 いま妻はAV社長の精液を消化し、体内に吸収しているところだろう。
 精子には奴の遺伝子情報が詰め込まれている。
 それが妻の肉体と同化する。
 理論的には精子は卵子と結びついてのみ受胎し、子を授かることになっている。
 しかし体内に入った遺伝子情報は、まったく影響がないと言い切れるのだろうか?
 人間工学、ヒトゲノムの世界は、まだまだ未知の領分だ。

 これまで妻は無数の精液を体内に入れてきている。
 それも相手は碌でもない遊び人のような男たち。
 コンピューターウイルスがPCに入り込み正常なプログラムを塗り替えてしまうように、下らない男たちのDNAを身体に入れ続けたために、妻の理性はおかしくなってしまったとは言えないだろうか。

 あらゆる生物の基本は自己保存。
 そして自己複製だ。
 だらしないSEX好きの男たちの精液。
 膣からも喉からも大量に受け入れてしまった妻。
 必然的に男たちのコピーが妻の体内に作られるのではないか?
 堕落を賛美するDNA。
 細胞の大半がその影響を受ける。
 当然その遺伝子情報は好ましいものとして体内で認識されるに違いない。
 もっともっとと求めるようになるのではないか。

 今回妻は長髪社長の子種をお尻から注がれてしまった。
 座薬という存在もあることから、直腸は非常に消化吸収の良い器官ということがわかる。
 典子はここでAV社長のDNAを存分に吸収し、また奴好みの女に変わって行ってしまうのではないか・・・。

 そしてそんなことを繰り返し。
 あげくの果てには本当の子供まで――。

180名無しさん:2018/10/22(月) 01:34:25
49

 ドーン


 また合図の太鼓が鳴った。

 妻はまた正座で床の間のほうを向いている。
 素っ裸。
 横からのアングル。
 熱のこもった一戦を終えた、その気怠い女体のフォルムからは、言い様のない色っぽさが匂い立っている。

 AV社長は既に画面から消えていた。
 今度は妻の背後に短髪野郎が立った。
 同じ白いバスローブ姿だ。

 こいつを見ると理屈抜きでムカムカしてくる。
 こいつにもやられてしまうのか。
 いや、ここで力んだって仕方がない。
 こいつももうとっくに妻の身体は味見済みだろう。
 違う、そんなレベルでもない。
 変態プレイで弄び、無理難題を与えて妻をさんざん辱めたに決まっている。
 ただのセックスというのと訳が違う。
 やりたい放題のし放題ってやつだ!

 だが、それでもこれまでアナルだけは無かったはず。
 寂寥感が胸を吹き抜ける。
 俺はなんて無力な男なんだ。
 妻を好いようにされ、手も足も出せない。
 枯れた筈の涙がまたこぼれようとしている。

 ただし短髪男に対しては妻は何の思い入れもないようだった。
 それは表情を見ても分かる。
 社長相手の時とは明らかに違った。
 落ち着いていて普段の表情に近い。


「典子?」


 短髪野郎も社長にならって呼びかける。
 妻は無反応だ。
 苛立ったように男は妻の裸の背を前のほうに押し倒した。
 こいつらは下っ端までが妻のことを、典子典子、と気安く呼び捨てにする。
 毎度ムカッ腹が立つ自分。
 どこかに妻を侮るそんな土壌が潜んでいるのだろうか。

 男は妻の右頬を畳につけさせ、荒々しく両腕を後方に引っ張って、それぞれ片方ずつの手首と足首を近づけた。
 そして拘束具の本来の機能を使い、右手首と右足首、左手首と左足首をガッチリ繋げてしまった。
 典子への奴隷扱いは慣れたものなのだろう。

 必然的に持ち上がる妻の丸いヒップ。
 男は淡々と妻のお尻の穴にワセリンを塗り付ける。
 そして早々とバスローブを脱ぎ捨て、自分の男根にローションを垂らした。
 もうケジメは社長の時に終わったという解釈なのか。

 今日開通したばかりなのに、もう二本目に貫かれてしまう妻の肛門。
 こいつも恐ろしいほど勃起させている。
 普通の映像製作会社が聞いて呆れる。
 こんなAV男優ばりの社員ばかり集めている会社がどこにある!

 男は根元を握って妻のお尻に割れ目に押し当てた。
 社長の時と違って、スムーズに奥に消えて行く男根。
 あっ、あっ、と妻が呻いた。


 ドーン


 とまた和太鼓の音。
 二本目が入ったという合図なのだろう。
 ゆっくりと、味わうようにピストンを開始する短髪の男。
 お尻まで輪姦(まわし)にかけられるのか・・・。
 妻が一日に何人もの男と関係を持たされたことは、いまや疑いようがない。
 アナルも例外ではなかった。

 典子のいかにも人妻といったプリプリと脂の乗り切った真っ白い双臀。
 他人の目で見れば、とてつもない色っぽさを湛えた生々しい女尻だろう。
 それがお尻の割れ目のちょうど真ん中に肉棒を受け入れている眺めは、テレビ画面越しの映像とはいえ、涎を呑み込むほどの退廃的刺激に満ちている。

181名無しさん:2018/10/22(月) 01:35:04

 男の毛の生えた玉袋が、妻の開き気味の二枚の秘唇に当たってこすられるのがよく見える。
 さすがは非合法の無修正だ。
 本来の位置に入っていないから、濡れそぼって白っぽい本気汁を溢れさせている膣口までクッキリ鮮やかだ。
 妻の女性として最も秘めた部分。
 本当に何人の男に知られてしまったことだろう?


『つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。それでもそんなに多くはいませんよ』


 AV社長はそんなことを言っていた。
 すると全国に数十人。数百人?
 いや数千人いたっておかしくはない。
 待て。架空の数字など無意味だ。
 こういう妻の破廉恥な映像が世に出回ってしまっていることが問題なのだ。


『そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと』


 奴はそう豪語していた。

 普通の流通じゃないから何も隠す必要が無い、だと?
 顔バレ、身バレ。全部個人情報はバレバレだ。
 もし私たちの生活圏の誰かがDVDを見たとたんに私たちは破滅だ。
 リリースの本数だって、一本や二本じゃない。
 妻のDVDは膨大な数、出ている。
 現に妻の『ファン』だといういかれた富豪からのちょっかいを受け、事態はとんでもないことになっているじゃないか。

 それに本当にそうなのだったら、なぜモザイクが要る?
 客の顔には製品版でモザイクが掛けられていた。
 今回だってスペシャルゲストとやらは、ベネチアンマスクで武装している。
 何も隠す必要が無い、とはどういう言い草だ。

 画面では短髪男が妻のむっちりヒップを抱きかかえて、気持ち良く腰を使っている。
 こいつのベネチアンマスクの基調は赤だ。そこに金色の装飾が細かく施されている。
 男の息遣いが荒くなってきた。


「さすが・・・典子・・・ケツも・・・締まる・・・」


 褒めたくはなさそうで、むしろけなすかの言い方。
 だが顔は綻んでいる。
 妻は両手足を拘束され、まったくの性処理用の物体のようだ。


「ああああーっっ」


 それでも快感はあるようで、妻は横向きの顔の唇を円く開いて、声高く喘ぎ始めている。
 ついに肛門でも快楽を貪る女になってしまったか・・・。

 男は両腕を伸ばして、妻のCカップ以上に育ったように見える双乳房をガッチリと掴んだ。
 搾り出すように揉みたてる。
 そして前のめりになって、腰は杭を打つように真下に打ち込んでいる。
 体重が乗っているのだが、拘束具で手足を連結されているおかげで、妻の裸体はぺしゃんこにならない。
 それでも快感に染まるその顔は真っ赤だ。


「チッ・・・くそっ・・・だめだ・・・」


 その圧し掛かる体勢で数回ストロークを打ち込み、乳房を無茶苦茶に握りしめたまま、男は動きをとめた。
 男の拳の中の柔らか味のあるバストの先端は、両方とも今日イチの勃起を見せている。
 硬直する男女の裸体。
 射精が始まったのが誰の目にもわかる。
 おおっ、という場内からの声が聞こえた。
 だいぶ一座の雰囲気もほぐれて来ているらしい。
 妻の横向きの顔は口をパクパクしている。
 瞼を強く閉じ、腸内に注ぎ込まれる精液の噴射に、神経を奪われているようだ。

182名無しさん:2018/10/22(月) 01:35:41

 ドーン


 とまた軽く太鼓が鳴らされる。
 二本目の射精が行われましたということだろう。
 また調教師から、二人目のスペシャルゲストが終わり、これから三人目のスペシャルゲストを受け入れるとの短い挨拶が入った。

 もう殆んど行為は同じだった。
 随時鳴り響く太鼓の音。
 三人目も四人目も妻のお尻の穴に膨れ上がった肉棒を押し込み、さんざんその締め付け具合いを堪能して、最後に存分に中出しをした。
 妻は手足の拘束を解かれることなく、そのままの流れで使い回された。

 長いようでも、それぞれ15分くらいのプレイ。
 それでも妻がどんどんお尻の痛みを失い、かわって飛躍的にアナルの快感に目覚めつつあることは、行為が進むにつれ鮮明になった。
 もう最初のAV社長の相手をしていた頃の苦痛の呻きは消え去っていた。
 四人目の時など、恥じらいの中、声を必死に堪えようとして、それでも絶叫に近い形の喜悦の声を張り上げてしまい、満座から失笑を買った。



 強い疲労感を覚え、私はDVDを止めた。
 喉がカラカラだ。
 また流しに水を飲みに行く。
 精神安定剤がまだ効いているのかどうかわからなかった。
 効果は持続するはずなので、まだ効いていないとおかしい。
 でも実感はない。
 もう薬で心が死んだような状態が、普通になってしまっているからだろうか?
 キッチンテーブルの椅子にどっかりと座り込む。
 鼓動は乱れて早かった。

 アナルセックスか。
 それがケジメか。
 奴らの組織に戻るための。
 妻をここまで堕としたあのAV社長と。

 事態は想像以上に入り組んでいる。
 俺はその組織のトップの長髪社長と話をつけ、妻と手を切らせ、妻を取り戻した。
 20日間の失踪を経て、妻は無事に家庭に帰って来た。
 妻にもためらいや逡巡の気持ちが有ったろう。
 それは、


『もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの』


 という泣きじゃくりながらの言葉にも表れていた。
 それを俺は、


『いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな』


 と叱咤した。
 弱気になり、自分を汚れたものとしか見れなくなっている妻。
 俺はそんな妻を救おうとしているんだとの思いがあった。
 しかし・・・。
 俺が見ていたのは過去の妻。
 普段接する妻。
 それだけだったということか。

 私の知らない妻は、私に冷淡だ。
 男たちの命じるままに私の分だけ晩御飯を作らない妻。
 夫がバカにされるのを薄々わかっていながら、ガソリンを入れに行かせる妻。
 家族の絆を再確認するはずだった家族温泉旅行では、混浴風呂でオナニーをし、フェラ三人抜きを披露し、客とセックスをして、《変態》の文字をお尻に書いて露出に興じた妻。

 奴らはとことん私のことを馬鹿にしてきたが、妻も強制されたとはいえ断固拒否するわけでもなく、見事に共犯の片棒を担いでいる。
 いまになって冷静に分析すれば、夫婦の信頼などもともと有ったのか無かったのか、それすらわからなくなってくるほどだ。


『年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ』


 あのセリフは何だったのか。
 あの旅行は結局男たちによって仕組まれたものだった。
 本気だったのか?
 言わされたのか?
 あの時点で妻は壮絶な調教を受け、そうとうな段階まで堕ちていたはず。
 私はこの妻の言葉を素直に喜んだ。
 奇怪な妻のDVDを見せられて、思い悩んでいた時期だったからだ。
 家族で楽しい時間を共有することによって、一転、晴れやかな気分となった。
 DVDでの世界は単純な過ちなのではないか?
 気づかない振りで何もしなければ、妻は俺の知らない場所から帰ってきてくれるのではないか?
 そのときは、今のままがずっと続いてくれることをただ祈っていた。

183名無しさん:2018/10/22(月) 01:36:19

 そんな俺を揺さぶって来た女がいる。
 赤坂。
 あいつの役割は結局何だったんだろう?

 あいつは言っていた。


『奥さんは・・・実は・・・恋人がいるようなんです』


 衝撃はあったものの、何を根拠にそんなことを、との苛立ちもあった。
 会社の同僚である赤坂は、直接妻から聞いたと語った。
 どんどん深みにはまっている様子だと・・・。
 赤坂の話を頭ごなしに否定できない自分がいた。
 なんといっても証拠のDVDを俺は見ていたからだ。

 この赤坂の動きは複雑でわかりにくい。
 当時は赤坂の善意を疑いもしなかった。
 いや、一時期など、探偵も頼りにならないと思う中で、唯一の味方と信じたくらいだ。

 その赤坂が初めての訪問で言わんとした事は結局、


『奥さんに直接言うのではなく、何も言わずに旦那さんの元に戻るようにしてほしいんです。旦那さんももっと奥さんを引き付けるように・・・』


 これに尽きるのだろう。
 意味するところは何か?
 俺が興信所などに依頼し、調査を開始するのを阻止すること。

 長い間疑問に思い、繰り返し考えて来て、やっとそうだったのではないかと思い至った。
 温泉旅行での妻の言葉も、あとで『温泉旅行の真実』などというタイトルで発売する商品のスパイス的なシーンとしてだけでなく、気持ちはまだ俺にあるんだとアピールし、俺にそう思い込ませることにあったのではないか。

 結婚相手の不審なDVDを見たら、普通の旦那は自分であとをつけるなり、興信所に頼むなり、なんらか手段を講じるだろう。
 もしプロの興信所に嗅ぎまわられたら、失踪している訳でもなかった当時の典子の身辺から、キナ臭い事実が続々出て来てしまう。
 とりわけ普通の映像製作会社――なに言ってやがる!――妻の勤め先を深く探られるのがマズかったに違いない。

 赤坂という同僚が現れたことで、妻がちゃんとした会社でちゃんと働いているというイメージを、俺にそれとなく与えることが出来るわけだ。
 そのうえで、赤坂は凶悪な人妻奴隷販売組織ともいえるAV会社の連中に妻が調教されていることを、単なる浮気が進行中とすり替え、俺にミスリードさせた。

 浮気なら世間に溢れている。
 俺が車の中で発見したDVDは、単なる浮気とも思えない異様な妻の姿を映し出していた。
 しかし、浮気と言われてしまえば、それは非日常を演出するための恋人間のお遊びプレイなのかと、どこかホッとする部分も出て来る。
 そのことで、妻が何か大変なことに巻き込まれている、という当初の危機感はずいぶんと薄まった。

 赤坂は巧みに、俺が妻に優しくし、男の魅力を発揮さえすれば、典子の心はすぐにも戻って来るかのような誤った認識を植え付けたのだ。
 妻の浮気の原因は、仕事にかまけて妻への気配りが不十分な俺にあり、そこを治せば事態はすみやかに収拾する。
 指し示されたシンプルな処方箋。


『あの、奥さんにはこのこと言わないでくださいね。私が旦那さんに言ったこともだし、旦那さんも奥さんに問いただすようなことは・・・』


 興信所や警察など外部機関に駆けこむことも封じ、妻にも直接問いただすなと釘を刺す。
 俺は誰に相談することもなく、ひとりで熱烈かつむなしい努力を続けるが、妻はますます浮気相手にのめり込み、俺は意気消沈し自信を喪失していく。

 そういう筋書きだったのだろう。
 その繰り返しは格好の時間稼ぎになる。

184名無しさん:2018/10/22(月) 01:36:55

 土曜日の初訪問ののち、早くも月曜に、赤坂から電話がかかってきた。


『それからどうなったかと思いまして』


 2日しか経ってない状態で何を進展させられるんだ。
 そのデリカシーのなさに俺は苛立ったが、連中は赤坂を操って、俺の動向を厳しく探っていたに違いない。


『今日奥さんに浮気をやめるように言ったんです。旦那さんを裏切り続けるだけだからやめてくださいって』


 そんなことを言い、赤坂は俺を揺さぶって来た。


『奥さんは、それはわかってるし、ただ遊びたいだけだ、って言ってました』


 ただ遊びたいだけ。
 俺を安心させるためだったのか?

 放っておけば、やがて事態は収束する。
 俺にそう思わせるのが狙いだったのか?

 温泉旅行でも妻は、年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ、と共に添い遂げるのが前提のセリフを吐いていた。

 中年時代の単なる火遊び。
 旦那である俺が、大人の余裕で見て見ぬふりをしていれば、そのうちおさまる一過性のハシカのようなもの。
 そう思わせたその裏では、着々と典子の奴隷計画&離婚計画が進められていたということなのか?

 さらに赤坂は最後にも、こんなことを言った。
 俺が、直接妻と話してみる、と告げるや、


『それは、ちょっと待ってください。私が説得しますから、だから旦那さんは家庭で奥さんをもっと大切に・・・』


 自宅への訪問時と同じ対処法を提案してきた。
 おそらく、このときはまだ、私に男たちとの関係がバレていることは、妻は知らされていなかったのだろう。
 旦那にバラすぞという脅しが、まだ妻に有効だったはず。

 当時典子は特殊AV制作会社の連中に捕りこめられ、奴らに変態セックスを仕込まれていた真っ最中。
 まだしばらくの間、私に静観していて貰うほうが都合良かったということなのか。
 そして変態人妻としての典子のビデオを、まだまだリリースしたかったってことか。

 さらに勘ぐれば、一歩進んで、俺があたふたと急に妻をチヤホヤし出す映像も撮りたかったのかも知れない。
 間抜けな亭主を大笑いする趣向だ。
 もう最愛の配偶者の身体は、いいように性奴隷のごとくに扱われ、不特定多数の男に提供されている。
 そんな地に堕ちた女を懸命にヨイショする亭主。
 恋人気分で甘くすり寄り、涙ぐましい求愛を繰り返す。
 滑稽を絵に描いたようなものだ。
 そしてセックスを迫った場合、俺は拒否される。

 あの変態的下着やバイブレーターを妻の下着入れから発見した夜、


『ごめん、ちょっとそんな気分じゃないから・・・』


 と呆気なく拒否されたように。

 男たちに命じられれば、どんな相手とでも、どんな場所でも、どんな格好でも、生入れ中出しを決め込んでしまう人妻。
 その人妻が法律上のれっきとした配偶者、20年連れ添って子供も二人育ててきた旦那にだけはセックスさせない。
 異常なサディスト揃いの購買者たちには、これほど痛快な見世物はないのだろう。

185名無しさん:2018/10/22(月) 01:52:38
50

 いろいろ考えて来ると、妻は非常に早い段階で堕ち切っているのがわかる。
 まとめてみよう。
 キッチンテーブルの端のメモ用紙。
 家族の伝言に使っていた。
 今は誰も使わない。
 そこから一枚切り取って、丸い穴に立ててあるボールペンを構える。

 記憶で日付がはっきりしているのは去年の6月2日だ。
 書き入れる。
 この日が起点になる。土曜日。
 私が朝、煙草を買いに出かけ、町内会の集まりの告知の掲示板を見かけた例の日だ。

 これに繋がって来るのがDVD『典子ver5』。
 キャプチャー『1』で典子は変態的な体操服を着せられ、乳首の布だけを切り抜かれるなど変態的遊戯を仕掛けられた後、口に壮絶なイラマチオをされ、脱がされた股間はシェービング剤を吹き付けられて陰毛を剃られていた。

 その際に男は言った。


『今日は旦那が帰ってくる日だったな』
『いいか、今日は旦那の飯は作るな。お前がもう旦那のものじゃないということを教えてやるんだよ』


 それと同時にこんな命令もしていた。


『もう一つ、今日は旦那には一人で外に飯を食いに行かせろ。そしてスタンドでお前の車にガソリン入れさせるんだ。セルフじゃなく、ちゃんと人が入れてくれるところにいけかせろ、いいな』


 妻は情けない声ですぐに返事した。


『はいぃ・・・、何でもします・・・』


 これが前日の6月1日金曜のことになる。

 ここで考えなくてはならないのは、だから6月以降、妻はパイパンであり続けたということだ。
 おそらく私が奪還するあの日まで。

 私が車から妻のDVDを発見したのが6月22日金曜で、実際に妻の裸が映っていたDVD6を見たのは6月も末の30日土曜のことだった。
 直近の出来事かと思っていたが、そこにはタイムラグがある。
 DVD7で公園露出をしていた妻の下腹部には茂みがあった。
 だからこれは少なくとも5月以前の映像なのだ。

 キーがかかって見ることが出来ず判定しようのないDVD4と5を除き、6も7も8も9も時系列的につながっている。
 最後のDVD9でも、妻は立派な陰毛を股間に生やしていた。
 赤い穴開きショーツから黒々とした茂みが露わになっていた。
 だとすれば、これらの調教は主として5月に行われたことになるのだ。

 各DVDの映像の間に、妻の態度、関係の進み具合などから、ある程度時間の経過を感じられた。
 だから週に一回ほどの調教を収めたものだろうという推測が成り立つ。
 もっとも妻がそれ以外を平穏に過ごしていたかどうかはわからない。
 DVDに残っていないだけで、実際のプレイはもっと頻繁に行われていたのかも知れない。

 『典子ver5』では奴らは昼に典子を剃毛調教し、そのまた夜に不届きにも自宅近くに現れ、車中で典子にフェラをさせ、ローターを一晩入れっぱなしにすることを強要した。
 そして早くも翌朝6時には再び自宅近くに現れて、その後公園に連れ出し妻を玩んだようだった。
 私が気が付いていないだけで、貼り付くようにして妻の肉体を仕込みにかかっている。
 家に帰っている金曜の夜から日曜であってさえこの傍若無人ぶり。
 私が出張先にいる間のことなど、考えるだけで身震いする。

 妻が自宅の台所で全裸で【奴隷契約書】なるものを読み上げさせられていたのはDVD8でだった。
 この時にはあまりに悪趣味な演出だと思ってしまったが、マジだったのかも・・・。
 妻のこわばった顔、それまでの経緯を考えて、てっきり脅されて、それもプレイの一環か何かだと・・・。
 根底にはあの典子がこんなになる訳がないという信頼があった。
 本気で奴隷になると誓うことなど有り得ない。
 常識もあり、しっかりとした妻。
 何かの間違いでそうなっているんだと思った。
 事情があるに違いない。
 最悪アルバイトか何か・・・。
 妻が他人の奴隷になるなんて悪いジョークだ。
 でも本当だったのかも知れない。

 妻の転職も軽く考えていた。


『取引先の担当の人からこないかって誘われてて』


 と妻は言った。


『給料も今より上がるし。でも通勤がここから1時間かかるんだよね』


 妻の方が仕事ができるような気がして、自分が情けなくなったりもした。
 でも自分の妻が仕事を変わると言い出したとして、誰が転職先がAV会社だと思うだろうか。
 それまでは小さいながらちゃんとした教材販売会社に勤めていたのだ。
 取引先の担当から誘われての転職と言っていたんだぞ。
 単身赴任で忙しくしていたため具体的には訊く暇もなかったが、これじゃあ当然同じ教育業界と思うじゃないか。

186名無しさん:2018/10/22(月) 01:53:17

 しかし事実は異なっている。
 奴らと初めて自宅で遭遇した時のこと。


『私たちはAV制作会社でしてね。典子が現在所属している会社でもあります』


 長髪野郎は、思えばはっきり言っていた。AV制作会社と。

 妻が会社を移ったのは、5月の下旬のことだった。
 記憶があいまいだが、たしか何かの折に、月曜から新しい会社だ、とかいう話をしたように思う。
 その話の次の週末、家に帰ると疲れた顔をしていた。
 新しいところへ入るときは気疲れするものだ。
 そのときはそう思って、特に何も訊かなかった。
 そのまた次の週が、例の弁当買い忘れ&ガソリンスタンド事件の6月1日金曜。
 カレンダーで調べてみると、その2週間前の月曜日というと、5月21日。
 妻はその日からAV会社に通い始めた計算になる。

 そう考えて来ると【奴隷契約書】の読み上げは、会社を移る直前、総仕上げとして覚悟を決めさせられたという公算が強い。
 奴らにとって、入社志願書がわりのようなものか――。
 なんてことだ!
 典子は奴隷としてAV会社に入社していた・・・。
 考えたくはないが、入社後はそのサインした【奴隷契約書】の内容を実践させられていたと思うのが自然だろう。

 メモに書き起こしていくと、どこかの一室で全裸で四つん這いで男の足の指を舐めていたのが5月第一週。DVD6。
 公園で露出プレイでフェラチオしていたのが5月第二週。DVD7。
 【奴隷契約書】読み上げのあと、夫婦の寝室でフェラからバックで中出しを受けていたのが5月第三週。DVD8&9。
 断定はできないが、おおむねこういうステップだ。

 吐き気が込み上げてきた。
 文字にすると生々しく実感が湧いて来る。

 しかしこれらはまだ入社前のはず。
 週末は特に不審な点はなかったから、それらの映像は平日に撮影されたものなのだろう。
 とすれば、それまで勤めていた教材販売会社を頻繁に休んでいたことになる。
 有休を使うにしろ、仕事に支障が出ない訳はない。
 だんだん職場に居づらくなることは自明の理だ。
 それも奴らの狙いだったのだろう。
 どうあれこうあれ、いずれ典子は転職の決意を固めなければならなくなる。
 そして計画通り、妻は奴らのAV会社に就職してしまった。


『そもそもなんで転職までする必要があるんだ!』


 失踪後再会したときに私が声を荒げると妻は言った。


『怖くて・・・』


 妻は完全に泣いていた。


『それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない』


 この言葉に縋りつきたい。
 本当であって欲しい。
 だが分析を繰り返すほどに。
 すでに絶望的な願いでしかない――。


『私たちはAV制作会社でしてね。典子が現在所属している会社でもあります』


 所属、か・・・。
 事務仕事で雇われていたら、こんな言い方はしないよな。

187名無しさん:2018/10/22(月) 02:03:18
51

 ビデオを再開させる。

 妻は4人の男。
 過去に妻をオモチャにしていたAV会社の男たちに、お尻を差し出してしまった。
 4人の男たちの精液を、肛門の奥深く、直腸内で受けとめた。
 お尻まで輪姦(まわし)にかけられてしまった。
 でも連中は妻を休ませようとか、手枷足枷を外してやろうとか、そんな配慮はいっさいないようだった。

 座敷にポツンと四つん這いで放置される妻。
 顔を突っ伏して手足を拘束され、お尻だけ高く掲げている妻。
 その心の中はどうなっているのだろう?
 想像すらしていなかった苛酷な運命に翻弄され、胸が張り裂けそうになっているだろうか?
 人間として女として最下級の扱いをされ、惨めさの極致にいるだろうか?
 なにもかも諦め、もはや捨て鉢になっているのだろうか?
 しかし妻は意外に安らいだ表情をしている。
 紅潮した面貌は、陶酔の余韻を味わっているようにも見える。
 妻は肉の悦びに堕落しきっているのか?
 安堵の表情は、ケジメの儀式を無事に果たし終えたという達成感なのか?
 まだ舌先が小さく覗いて、真っ赤に塗られたルージュを舐めていた。
 燃え上がって満ち足りた女体は、まだまだ鎮まっていない。
 なにかを期待するような仕草。
 お尻を犯されたあげく、妻は発情したメス犬のように身体を火照らせている。
 一緒に人生のパートナーとして20年の月日を過ごしてきた私にとって、見るに堪えない妻の現実だ。
 もう二度と見たくない、私の知らない妻なんて。
 そう思って頑張って来たのに。
 また私は見せられるのか、目にしたくもない私の知らない妻の姿を――。


 ドドーンッ


 和太鼓が鳴った。
 小休止が終わりの合図らしかった。
 ベネチアンマスクだけを着け、いまはバスローブを脱いでしまった男たちが、妻の裸体の周りに群がった。
 金、赤、青、白。
 仮面の男たちは皆それぞれに筋肉質の逞しい身体つきをしている。
 流行りの細マッチョというやつだ。
 勃起は半勃起までも行かず、それぞれの股間にダラリと垂れ下がっている。

 社長は妻の前面に回った。
 両手を足首に拘束されて、横顔を畳につけて体重を支えている妻のあごを持って、グイと上に引きあげる。
 周囲を赤く染めた濡れた妻の眼が、煌びやかなマスクから覗く社長の目を、とろりと見返す。

 奴が狙うは唇。
 フェラチオをさせようとしている。
 妻は意図を汲んで、すんなりと咥えていく。
 他の男たちは妻の上体を支えるついでに、乳房を刺激し始めた。
 ひとりは後ろに回って、クリトリスを触りながら、肛門に指を沈めているらしい。
 豪奢な日本座敷の空間が、またエロス一色に染まり始めた。


「これよりケジメの儀、余興といたしまして、高田典子とスペシャルゲストの方々との複数プレイをお楽しみいただきます。子の母、人の妻である典子のアナルでのむせび泣きをご堪能下さい」


 カメラを持った調教師の声が広間に響きわたる。

 両手を使えるようにしないと複数プレイには不便だという判断だろう。
 妻の両手首と両足首を結んでいた拘束は解かれた。
 両手は両サイドの男の肉棒をしっかり握らされた。
 口は喉奥に長髪社長の勃起を入れ込まれている。
 上体はそうやって男たちに支えられ、反り返った背中が水平を保っている、色気の塊のような四つん這いの熟れた女体。
 その妻の顔を抱きかかえて、社長が腰を振っている。
 イラマチオだが、それほど荒っぽくない。
 妻も余裕の表情だ。
 それでも、ゴブッ、ゴボッ、ゴボボボッ、という嗚咽する声が自然に出ている。

188名無しさん:2018/10/22(月) 02:03:50

 苦しくない筈はないだろう。
 涎が大量に垂れている。
 それでも奉仕する満足度のほうが上回っているのか。
 平然としている私の妻。
 妻の唾液と胃液が絡まったような、粘る液体まみれの肉茎が引き出された。
 妻の口中で快感を得ていたソレは、見事なまでに勃起していた。
 そして妻のお尻にまつわりついていた男と社長が場所を変わった。


「典子? ケツをたっぷり可愛がってやるからな?」


 不敵に言い放つ長髪男。
 自分で肉棒を握って、妻のプリプリとした突き出されたお尻の谷間にあてがった。
 最初の時と違い、呆気なく侵入を許す妻の菊門。
 根元まで一気に押し込み、


「おーっ」


 と愉悦の声を上げる社長。
 百戦錬磨の彼も、思わず呻いてしまうほど、妻のアナルの感触は、妖しくも魅惑的なものらしい。

 社長にお尻を自由にされながら、妻は短髪男の怒張を口に含み、左右の男の肉棒を、落ち着いた一定のリズムで両手を使って扱いている。
 従順な奴隷。
 しかも経験を積んだ性奴隷だ。
 妻が一日に何人もの男と関係を持たされたことは疑いようもなかったが、複数同時にプレイすることにも慣らされているのは明白だった。

 妻が半年の間、どれだけの数の男とSEXしたのか?
 それは努めて考えないようにしてきた。
 確実なことをDVDでしか知らない俺は、浮気相手と社長を中心とする男たち、せいぜいで5人ほどだろうと見当をつけた。

 貞淑な人妻が夫に黙って婚外交渉を持ったのは大問題だし、それだけでも結構な数だ。
 でも俺は夫婦と子供たちの今後を考え、前だけを見ることにした。
 だから実際より少なく見繕っているきらいはある。
 しかしほかに顧客や株主や関係者を入れたとして、さすがに10人も行かないだろう。
 そう踏んだ。
 それもすべて強要されて嫌々だ。
 強姦のようなものだ。
 典子に罪はない。
 自分に言い聞かせた。

 俺と一緒に過ごした20年。
 典子は淫乱な妻ではなかった。
 むしろその逆だ。
 男好きでも何でもない。
 俺とのセックスも多いほうではない。
 浮気はもちろん、奔放なセックスプレイなど、縁のない女だ。
 その思い込みがあった。
 しかし、もしかしたらその回数は私の想像をはるかに超えるレベルなのかも――。

 普通に暮らしているだけでは到達できない数。
 異常な環境にいてこそ可能な数字。
 既にそこまで達しているのだろうか?
 そしてその異常な環境とは・・・。

 そのとき勝手に自分の身体がブルブル震えて来た。
 またしても私の脳裏に蘇る、聞きたくもない不快な声。


『そっかー。なら、もう三桁かな。それくらい行ってるでしょ?』


 リビングにいた不動産投資家風の中年角刈り男。
 『Episode3』のなかで妻の経験人数の話題が出た時、男は嬉しそうにそう言っていた。
 あまりの馬鹿馬鹿しさに、私はあっさり聞き流した。
 最後の20日間こそ妻は家を空けたが、それまではちゃんと自宅に帰り、おろそかになっていたと言えども家事もこなしていた。
 夜遊びを繰り返したわけでもない。
 平日夜は子供たちといたし、土日は私とも過ごしていた。
 時間的に不可能だ。成立しない。
 ただし・・・。

189名無しさん:2018/10/22(月) 02:04:23

 いや、そんな訳はない。
 だが、あの不動産角刈りオヤジは、私なんかよりも典子について、よほど事情通らしかった。
 何か知ってるらしい。
 三桁の根拠・・・。

 そう。
 もし――。
 有り得ないことだが平日昼間を使えばじゅうぶん可能なのだ。
 たとえば会社業務としてセックスをこなしたりしていれば――。

 私の心臓の鼓動がより早打ち、いっそう乱れた。
 空気が吸えなくなった。
 肺が苦しい。


『また来週な、俺にとっては毎週火曜が楽しみでしかたないんだよ。こんなきれいな奥さんとやれるなんてな』


 アパートに送り付けられた『典子ver5』。
 見たのは典子が失踪する直前だ。
 言葉からして妻を奴隷調教してきた男たちの一人でないことは確かだ。
 セックスできるのは火曜日と限定されていることから、この男が典子に対し主導権を握っていないことがわかる。
 ビジターあるいはゲスト。


『今後1年、所有主の利害関係者への接待要員として、自身の意思を捨て完全なる奴隷としての生き方を学ぶこと』


 ふざけた長髪野郎からの手紙の一句。
 今後1年と言う以前に、失踪前からすでに接待要員として妻を使っていた可能性が高い。
 たまたま火曜はこの男だった。
 となれば、月曜や水曜、他の曜日にもそれぞれ別のセッティングがあったって、何も不思議ではない。
 それに一日のうちには、午前もあれば午後もあるし夕方だってある。
 会社に拘束される勤務時間というものは意外と長い。
 それがすべてその類いの行為に当てられたら――。

 背筋をゾッとする冷たいものが上がってきた。
 三桁にも色々ある。
 100から999まで。
 口の中が乾き、胸が押し潰されそうになる。
 目がくらみ、意識が遠のいて、身体が前のめりにソファから崩れ落ちそうになった。
 仮説だ。有り得ない。
 心の中で繰り返す。
 幾らなんでもそんなふざけた会社はないだろう。
 典子は事務の仕事をしていた。普通の映像製作会社だったと言っていた。
 だったら、やっぱりそうなんじゃないのか?

 火曜日のビデオにしたって、ホテルの部屋の外が、昼か夜かはわからなかった。
 会社が終わってから、いつもの社長とその仲間の遊びに、否応なしに付き合わされただけに決まってる。

 信じたい。
 妻がそんなにたくさんの男と交わっていたなんて嫌だ。
 無理やりの、しかもDVDで見たシーンだけが、妻の過ちの一切だ。
 昼夜を問わず、のべつまくなしセックスをしていたなんて嘘だ。
 頭の中で悲鳴を上げる俺。
 精神安定剤の効果はもう切れたのか。
 神経がズタズタになりそうだ。

 それにしては、アナルセックスを含む5Pでも、余裕で落ち着き払っているのは何故だ?
 慌てもせずパニックにもならず、器用に全身を使って、周りの男たちに熟練の奉仕を続けていられるのは何故だ?
 これは真面目だった素人主婦が、夫の目を盗んで半年ほど浮気相手と逢瀬を重ねたくらいで、たどり着ける境地なのか?
 そこに何があった?
 妻の真実は一体どうなっている?

190名無しさん:2018/10/22(月) 02:13:47
52

「典子? お前、ここも名器だぞ」


 妻の菊門をズブズブと突いている長髪社長が、感極まったような声を上げる。


「睨んだ通り、実に良い穴だ。じっくり時間をかけて拡張した甲斐があった。これでお前の身体の穴は殆んど頂いたことになるな。言うまでもないが、旦那には絶対にやらせるんじゃないぞ?」


 妻は男根で口を塞がれていて喋ることが出来なかったが、短髪男が気を利かせて口から抜いた。


「はひぃ」


 快感にとろけたような声がした。


「わかってるな?」
「はいぃ、旦那には絶対させません。あ、はふひひいぃーっ〜」


 力強いピストンが開始され、あからさまに喘ぎだす妻。
 完全にお尻の快楽を覚えたようだ。


「あん、あん、あん、あん〜」
「ふふ、どうだ典子? イイだろう? お前がこの快楽を忘れられるわけがない。懐かしいか? どうだ?」
「ああ〜、すごっ、だめっ、だめえっ、あああぁ〜っ」


 普通のセックスと同じパワーとスピードで肛門を突かれる妻。
 強烈な快感を貪っていることは妻の身体の反応で分かる。
 とうとう両手の動きもおろそかになってきた。
 ブルッブルッ、とアクメの前兆らしい痙攣が訪れている。


「おおっ。締まるっ。ううっ、なんて締まりだ。さすがだぞっ」


 たしか『Episode1』のキャプチャー『4』で調教師が言っていた。
 典子はなかなか拡張が進まず、予定よりずいぶんと時間がかかってしまったとのことだ。


『でも、そんな女の方が、いざ開通すると万力締めで格別の味わいらしいがな』


 数多の経験を積んだ調教師の言葉。
 重みがある。

 AV社長はそんな典子の後ろの門の万力締めを褒め上げた。


「典子っ、ここも絶品だ。こりゃあ、客の評判を呼ぶぞっ。使える女だ、お前は!」


 苦労の末、やっと男の生殖器官を受け入れる事が可能になった妻の極上アナルを、いま奴は心ゆくまで味わっているということか。
 文句なしの賛辞を受ける妻。
 しかしそれは肉奴隷としてだ。
 頭がクラクラしてくる。


「ふふふっ、お前はこれが好きだろう? 昔を思い出して、やってやるぞ。どうだ? こんな風だ」


 その声に合わせ、


 ピシャン


 という甲高い音がした。
 スパンキング。
 社長が妻のお尻を平手打ちしている。

191名無しさん:2018/10/22(月) 02:14:25

 続いて、


 ピシャリッ、ピシャリッ!


 連続して音が鳴った。

 社長は妻のお尻を叩きながらも、大きく腰を送って、妻の菊門を自由自在にえぐっている。


「奧さん? どうした? 好きなんだろ、奥さん?」


 語りかける社長の口調が不意に変わった。


「おらおら。嫌がってても、結局おまんこも大好きになったろ? ケツもたっぷり味わえよ。こっちもすぐに病み付きになる」
「あっ・・・ククッ・・・あわわ・・・だめっ・・・すごっ、あっ! だめえ! あっ・・・あああぁっっ!」


 答える妻の声音はすっかり欲情している。

 短髪男は引き抜いた男根で、妻の両頬を往復ビンタし始めた。
 嫌悪感を漲らせて当然の妻の表情は、なんということだろう、トロリとゆるんだ女の顔になって淫蕩の気を漂わせてしまっている。


「ホオォッ、ホオォッ、ホオォッ」


 妻はそう熱い息を吐き、既に快楽に没入しているようだ。


「それーっ、もっとケツ振れーっ! どうした、奥さん? しっかり腰使えーっ!」


 長髪男の口調がスパンキングを始めたとたん、粗暴な別人のものになっている。
 そして典子と呼ばずに奥さんと呼ぶようになった。
 しかし、その奴の言い方に、妻が急速に追い上げられていることが、見ていて分かる。


「社長ーっ! ああーっ、社長ーっっ!!」


 休んでしまった妻の両手は、左右の男たちがその上から自分の手を当てて、強制的に扱かせていた。
 ついでに彼らは残った手で乳房を玩び、ピンと立った乳首をいじっている。
 短髪男の勃起からの先走り液で、妻の顔はヌラヌラしていた。
 ときどき勃起を維持するため、短髪男は妻の口に肉棒を無理やり押し込む。
 そうすると妻は嫌がる素振りもなく律儀にすっぽりと咥え、唇を締めて顔を前後に動かしていくのだ。
 口中で長くて厚みのある妻の舌が肉茎に絡みつき、猛烈に動き回っていることに疑問の余地はない。

 それにしてもこのプレイはなんだ?
 見たこともないほどの妻の乱れよう。
 肛交による快感だけとは思えない。
 奥さんと呼ばれ、お尻を叩かれるたびに、異常昂奮している。


「どうしたーっ? どこがいいーっ? 言ってみろ!」
「ああっ! お、お尻っ、お尻が良いのーっ!」
「ケツが良いのかーっ?」
「そっ、そうですぅ〜」
「ケツが良いのか、って? ええっ? 言えよ、奥さんっ!」
「ケ、ケツが良いのぉっ」
「ケツの穴が感じるのかーっ?」
「ケ、ケツの穴が感じますぅっ!」
「お前は変態だな、奥さん?」
「わ、私は変態ですっっ!」
「変態にはお仕置きだなっ」


 ピシャーン!


 ひときわ高く鳴り響くスパンキングの音。
 もう妻のお尻は真っ赤だ。

192名無しさん:2018/10/22(月) 02:16:32

「ケツまんこが良い、って言え!」
「ひっ、ひいいーっ!」
「奧さん、ケツまんこだよ! わかんねーのかっ!」


 再び炸裂する強烈な打擲。


「ひいっ! ケ、ケツまんこ、良いぃ〜」
「そうだ。お前はどういう訳か、昔からおまんこって言いたがらなかったな。恥ずかしいのか? えっ? ここで一回、言ってみろ!」
「お・・・おま・・・ん…こ」
「続けて言え!」
「おまん・・・こ・・・」
「駄目だ、そんなんじゃ! 俺たちはおまんこ商売だ。お前もそうだっただろ? 思い出せ。敬意をもって、しっかり口にするんだ。それっ! どうだっ!」


 ここぞと力任せに腰をスライドさせる長髪男。


「あっ、あっ、あっ、あっ! おま・・・あああぁぁー! おまん・・・あんあんあんあんんーんっっ! ダメえぇ〜〜! 許してぇぇ〜〜!」
「復帰するならしっかり思い出せ! おまんこ漬けだっただろ? 違うか、奥さん? 俺はまたしばらく会えないから、いまの調教師チームによく言っておく。おまんこ大好きな女に仕上げてくれってな。おまんこって口にするだけで濡れるように躾けてくれって頼んでおいてやる!」


 社長の言葉に、妻はたちまち燃え盛っていく。


「ああぁっっ、そ、そんなぁ〜。あひひぃーいぃっっ!」
「そら、逝けっ! ケツでしっかりイッてみろっ!」
「あああ〜っ、いっ、イクぅ〜っ・・・ハッハッハァァ・・・。あっ・・・イクッ、イクイクッ! イクッ、イキますぅっ! ああああぁぁ〜〜、イッちゃうぅぅーーーっっ!!」


 妻は社長に大腰を使われ、派手に頂上を極めて、盛大に逝った。
 しかし社長はまだ放出していないらしい。
 マスクから覗く眼を細めて、ゆるゆると気持ちよさそうに、妻の直腸内で抽送を続けている。
 妻は畳に頬を落として、白目を剥いていた。
 さすがに綺麗にセットされていた妻の髪もバラバラになり始めている。
 太鼓は鳴らない。
 射精してやっと1カウントという決まりなのだろうか。



 壮絶なシーンに、どっと疲れが込み上げてきた。
 再びブラックアウトの予感。
 自分の周りから色彩が奪われてゆく。

 プラグで拡張されて、ついに男たちの怒張を排泄器官で呑み込んでしまった妻。
 男根で括約筋を広げられる妖しい感覚を、覚え込まされてしまった妻。
 腸壁を擦られる、また新たな奥深い快感を擦り込まれてしまった妻。
 それなのに・・・。
 こうやってお尻の処女を散らされて、妻は何食わぬ顔で帰宅して、私や子供の相手をしていた。
 その事実が私の心に氷のナイフを突き立てる。

 何も気づかずに、週末どこにも出掛ける様子のない妻に、せっかく髪を整えたのだからどこか遊びに出ないかなんて誘っていた呑気な自分。

 驚くことではないかもしれない。
 去年の最初の頃からそうなのだ。
 男たちに凌辱の限りを受けていても、妻は普段通りにカラオケに行ったりしていた。
 家でも電話でも、ほぼ普段通り。
 最後に家出する前に交わした電話だって、明るい声でいつもの妻だった。


『どうしたの〜? 何かあった?』


 あの声は耳にこびり付いている。
 そのあと失踪した妻のことを心配するたび、この会話を必ず思い出していたからだ。
 まったく不審なところはなかったのに。

193名無しさん:2018/10/22(月) 02:17:17

 その後深夜に掛かって来た電話は焦った調子だった。


『ごめんなさい。事情は説明するから、とりあえず何かあったわけじゃないから・・・』


 一方的な伝言ですぐに切れた。
 事情の説明どころか、電話すらそれっきり掛かって来なかった。
 急に、夜自宅に戻る、と伝えた昼の電話のとき、妻は私に隠し事がバレてしまったことを直感したのだろう。
 しかしそれまで、妻は見事に二重生活をこなしていた。
 男たちに調教されていたなどという気配をいっさい見せなかった。
 必死に演技していたのだろう。
 それはわかる。
 自分のしていることが、もしも私たちに知れたら・・・。
 それは恐怖だったに違いない。
 でもそれは最初の内だけだったかもしれない。


『あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくて、もうやめたい、逃げたいって思ってた』


 私に問い詰められ、妻はそう弁明した。

 罪悪感・・・。
 それは周りには申し訳ないと思う一方、自分の行動自体は是認している時に使う言葉ではないのか。
 後ろめたいと思いつつ、していることは気に入ってる場合の用語。

 妻は男たちとの関係を辛かったと言ったが、実は心の底では許容していた。
 例えそれが諦めに近い心情だったとしても、逃げ出さなかった。
 そういう自分の自由意思の部分がなければ、罪悪感などという表現はしないだろう。
 100%強制された場合、もうそれは奴らの道具だ。
 責任の生じる余地がない。


『あなた達さえ知らなければ、ばれなければと思ったらその理性がどんどん小さくなってしまって・・・』


 妻からの手紙の一節。
 ここにも妻の自由意志の存在が窺える。
 妻の不行跡はすべて男たちに脅され仕方なくと思っていたが、爛れた関係を続けたくて只ひた隠しにしていた。
 そういう解釈だって成り立つのだ。

 奪還劇ののち。
 私が家に連れ戻してからは、もう恐怖の種はなかったはず。
 旦那にばらすぞ、というのは脅しにはならない。
 私は妻の過ちを許していた。
 壊れかかった仲良し家族の再構築に心血を注いでいた。
 そんな私を、妻は奴らと一体になって、実は積極的に欺こうとしていた訳だ。
 それほどに一度は失踪までした奴らとの関係は抜きがたく、断固たるものになっていたというのか。


『ごめんなさい。ごめんなさい』


 家庭に戻してからの妻は、よく私に謝るようになった。
 以前は対等なパートナーとして毅然としていた典子。
 自分の犯した過ちが自分自身でも許せず、後ろめたさから、私に対しすぐに低姿勢になってしまう。
 そうなんだろうと思っていた。
 だがそうではなかったらしい。
 罪悪感というより、正真正銘の裏切りを自覚していたのだろう。
 だから我に返るたび、やみくもに私に謝罪を繰り返していたに違いない。

194名無しさん:2018/10/22(月) 02:25:59
53

「ああああぁ〜っっ! ぐぐぅっっ! ぐわはっ! ああああぁぁぁーーー!」


 テレビの中から再度追い上げられた、妻の壮絶なアクメの絶叫が轟いている。
 4人の男に同時に身体をいじくられ、その中の長髪男には裏門にまで男根の侵入を許している妻。
 他に表現のしようのない性奴隷そのものの姿。
 それをカメラが残酷なほどに生々しく撮影している。
 それにしても人間以下の扱いを受けながら、不思議と妻が幸せそうに見えるのはなぜなのか。
 元々こういうことが好きだったのか。


『あなたが知ってる通り、今見ている通り、私はこんな女です。こんなことが大好きで、離れられなくなった女なの』


 男たちから北九州のアパートに送りつけられた最後のDVD。
 決別宣言ともいえるそのDVDの中で、典子は男に跨ってセックスしながら、俺にメッセージを伝えていた。

 思えば妻は見知らぬ男の上に乗り、しっかりと自分で腰を振っていた!
 俺の頭はあまりの衝撃で真っ白になった。
 感覚は麻痺して何も考えられなくなった。
 本能的に典子のDVDでの姿を全否定した。
 事実を認めることを拒否していた。
 だからこそ妻を奪還できたという部分はある。
 なんとも皮肉なことだが・・・。


『離婚する気は無い? 旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね? それでも構わないと?』


 クレイホテルでの会見、社長はいかにも意外だという風に驚いていた。

 ・・・そう。

 もし俺が冷静にDVDでの妻を観察していたなら、あるいは奴の言う通り再構築など無理だと納得したかもしれない。
 いま改めて考えてみても、どうしてやり直せると思ったのか、不思議なくらいだ。
 まさに《あれだけの映像を見せられた》私だったのだから。

 あの時は、まず妻が犯罪に巻き込まれた被害者だと一途に思い込んでいた。
 いまはどうだろうか?
 そこまで純粋に思えない自分がいる。
 だが当時、大泣きする妻を見て、俺が救わねばとの思いは熱くなった。
 その拠り所はあった。
 過去を信じること。
 自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
 その思いがあった。

 妻はしきりに、私は家に帰る資格はない、と口にした。
 弱気を出すなと私は叱った。
 でも実際に家に帰る資格のない妻だったのかも・・・。
 身震いするような映像の数々。
 しかし実際にはもっともっと過激で背徳的なことを、陰で沢山やっていたのかも知れない・・・。

 そう考え、ふと自嘲の笑みを漏らす。
 それって何だ?
 そんなものがあるのか?
 露出プレイに複数プレイ、言われるがままに新しい男に抱かれる売春婦まがいの行為。
 アナルがここまで未経験だったのが奇跡のような歯止めのない乱脈ぶり。


『何でもありの人妻さん』


 『Episode3』で客の一人が小馬鹿にしたように言っていた。

 怒るわけにもいかない。
 息子の三者面談が行われている当の中学校の校舎内で、全裸になって立ちバックで男にセックスさせていた妻。
 お約束のようにここでも中出しをバッチリ決めていた。
 あげくに男子生徒のひとりにその現場を見られてしまっていた。
 何でもあり以外の何なんだ?

195名無しさん:2018/10/22(月) 02:26:31

 男たちと決別し、ホテルの二人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


『本当に・・・ごめんなさい。私には家に帰る資格ない・・・』
『お前のやっていたことは許されることじゃない。ただ、お前だけの問題じゃない。俺も気づいていながら何もできなかった。子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。ずっと母親としているべき存在なんだ。もちろん、俺にとっても!』


 そう叫んで、妻の手を引くように、強引に連れ戻した俺。
 でもしょせんは《べき》だったのか?
 義務では心を動かせられないのか?
 こうしなければならない。
 そんな規範では心に届きはしないのか?
 不条理に満ちた世の中に、通じはしないのか?
 こうすべきだ、というような通り一遍の欺瞞では。

 男と女が出会い。
 恋をし結婚をして。
 子供を作る。
 父となり、母となる。
 人としての営み。
 子育ては当然の義務だ。
 子供が成長し、せめて成人するまでは守り通す責任がある。
 それを放棄しようとした妻。
 もう家に戻る資格はないと泣いた妻。
 そうではないと俺は懸命に説得した。
 妻の心の中に子供たちに対する愛着が消えたわけではない。
 そんなことは話し合わずともわかる。
 母としての責務を全うしろと、俺は掻き口説いた。
 妻は泣き濡れながらも、何度も頷いていた。
 心の底から納得していた筈だ。
 しかし論理と感情は別なのか。
 どうしようもないのか。


『お前がどう思ってるかは関係ない。俺の妻である以上一緒に帰るんだ』


 信念に基づき、そう言い放った自分。
 結局は無理やり連れ戻しただけだったのか。


『もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない』


 社長の呪詛の言葉。
 私は嘘の典子を連れ戻したに過ぎなかったのか?
 俺の妻であるだけの典子。
 本当の典子は変態調教に嬉々として身を任せ、奴隷の境遇に落ちることを望む、色情狂のような女なのか。

196名無しさん:2018/10/22(月) 02:29:27
54

「おっ、おっ、おっ、おぉっ、おおっっ!」


 妻がオットセイの鳴き声のような喘ぎを上げ始めた。
 いよいよ典子は『夫も子供も忘れ、ケツで悶え啼く女』にされてしまうのだろうか?

 テレビの中では、妻の唇を犯していた短髪男が畳に仰向けに寝そべり始めた。
 そして足の爪先から、四つん這いの典子の下に、ウナギの様にクネクネと潜り込んでいく。
 すると典子の身体は左右にいる男たちに両脇から抱えあげられて宙に浮いた。
 ガニ股のようになって、そのまま持ち上げられている。
 寝そべった短髪男は下からその典子の身体を受けとめると、腰の位置を調節し始めた。
 そして彼の長大な勃起が、妻のもう一つの穴を求め、下から狙いを定める。
 妻の両脚は大きく膝を開いたまま降ろされ、相撲の蹲踞のように爪先を立てた。
 妻の濡れた陰部と寝た男の亀頭が接触する。
 カメラはそこを逃すまいと、肉体の重なり合った隙間から、見事なカメラワークで卑猥な男女の絡みの接写に余念がない。

 長髪男は妻が体勢を変更される間も、自分の下腹部を妻の丸いヒップに密着させ、抜けないように注意深く押し付けている。
 妻の裸のお尻の中には、まだ彼の膨れ上がった肉棒があるのだ。
 なのに短髪男は妻の膣内に入れようとしている。
 手間取るかと思いきや、彼の怒張は妻の膣内にズブリと分け入ってしまった。
 先端が入ったと見るや、たちまち男たち全員が協力して、妻の身体を短髪男の上にグッと重ねていき、妻に体重をかけさせて、奥まですっぽり入れ込んでしまう。


「ああああああぁぁぁーーー!」


 妻の絶叫が轟く。
 複数の手に操られ、典子のお尻が相撲の蹲踞の様に深々と沈み込んだ。
 待っていたように下から両腕で、妻をガッシリ抱きしめる短髪男。
 入れ具合を確かめるように、今度は背後の長髪野郎が細かく腰を送って、しっかりと肛門に根元まで埋め込む。


 ドドーンッ


 和太鼓の音。
 サンドイッチの完成ということなのだろう。

 同時に二本。
 膣と肛門に男根を一本ずつ。
 AVでまったく見ない行為という訳ではない。
 しかし自分の妻だ。
 これまでいろんな典子のプレイをDVDで見せられたが、ショックの度合いは弱まらず、常にブランニューだ。まっさらだ。
 いつまでも慣れることはない。
 身体が粉々になって消え失せそうな、とめどない喪失感――。

 妻は激しく熱い喘ぎを、恥も外聞もなく大口開けてずっと撒き散らしている。
 左右の男たちが争うように、その妻の口に勃起をあてがった。
 いち早く届いたペニスを難なく咥え込む妻の唇。


 コーンッ


 小さく太鼓が鳴った。ふちを打つ音。
 とりあえず三つの穴全部を塞いだ記念の合図ということらしい。
 無事に取り戻した筈の妻は、とんでもないことになってしまっている!

 心臓の鼓動が異様に早くなった。
 脈が乱れて、身体を巡る血流が踊り狂っている。
 それがわかる。
 かかりつけの医者の話では、血液検査でありえない異常値が出て来ているらしい。
 下手をすると突然死するとも脅かされた。
 そりゃあ、死にもするだろう。
 当たり前だ。
 去年の一連の妻の事件以来、どれだけのストレスが身体にかかっているか計り知れない。

 典子は両手を伸ばして畳に付き、上体を反らして、前に立った男の勃起を咥えている。
 その男は膝を開き気味にして、やや腰を落としている。
 妻の首の後ろに手をやり、フェラとイラマの中間のような動きだ。
 下に寝た短髪男は無理に動こうとせず、その両手はちょうど典子のくびれたウエストの辺りをつかんでいた。
 固定させて、膣内から肉棒が抜けださないことを第一にしているようだ。
 そのぶん長髪社長はスクワットする様に、膝を横に大きくガニ股に開き、片方の手を典子の尾てい骨の辺りに置き、もう片方は自分の膝に当て体重を支えて、腰を前後に大胆にスライドさせていた。
 こんな伴侶の姿を見せられ続け、心身に異常をきたさない夫がいるわけがない。

197名無しさん:2018/10/22(月) 02:30:08

 カメラはそのあちこちを動き回って撮っている。
 派手な装飾の金、赤、青、白の奇怪なベネチアンマスク。
 それだけを身に付けた異形の男たちが妻の裸体に群がって、熱り立った男性器を妻の穴という穴に突っ込んでいる。
 寄ってたかって凌辱している。
 その酸鼻な光景。
 悪夢のようだ。
 悪夢のようだが異様にエロチックな眺め。

 男たちは快楽の高まりに荒い鼻息を漏らしている。
 妻はと言えば、これも快楽一色に染まっているみたいだ。
 口中を怒張で塞がれ出てこないだけで、もしそこが自由なら火を吹くような喘ぎを吐き出していたに違いない。
 こらえようにも抑えきれない、流れる汗をあたりに飛び散らすような狂おしい身悶えで、それは一目瞭然だった。

 ほんの1年半前。
 こんな現実を北九州へ単身赴任する前に想像できただろうか?
 なにがどうなってこんなことが起きたのか?
 有り得ないと力んだところで、現実はこうなってしまっている。
 変貌ぶりはビデオの中だけでなく、実際の生活の上にも影響を及ぼし、いま現在、妻は行方知れず。
 どうなってしまったのか?
 答えのない問いは、いつまでも私の頭の中で堂々巡りを続けている。

 芋虫の様にのた打ち、悶えている妻。
 短髪男にガッチリと抱きすくめられていなかったなら、きっと暴れ狂うほどの、快感の嵐が襲い掛かっているのだろう。
 口からも怒張が飛び出しそうになるため、立ってる男は今や力尽くで、しゃにむに振られる妻の顔面を、毛むくじゃらの股間に固定していた。


「典子、これが忘れられるか? ええっ? 懐かしいだろ? 俺たちと遊んだこの痺れるような快感が忘れられないだろ? 思い出したか? えっ、どうだ? 男が総がかりのこのめくるめく感覚を忘れられる訳ないよな? そうだろ? いつもあれだけ喜んでたんだからな!」


 長髪社長は何かに取り憑かれたように腰を振っている。
 太い肉棒が出入りするその様を、カメラはアップにした。
 すぐ下の膣にも、奥まで短髪男の肉棒が深々と埋まっている。
 強烈すぎるエロシーン。
 理不尽にも久しぶりに私の股間が熱を持ち始めた。


「ふふ。奥さんよっ? いいんだろ? 良くって良くって堪らないんだろ? ええ? 変態奥さんよ?」


 社長の口調がまた変わった。
 妻は三穴を貫かれて、息も絶え絶えだ。


 パシィーンッッ!


 妻のヒップが高らかに鳴った。
 力任せに引っ叩く社長。
 妻に鞭を入れた気でいるらしい。
 しかしされた妻のほうは、塞がれた喉の奥のほうで深い呻きを漏らし、明らかな絶頂の痙攣をブルブルと披露する。

 強い締め付けが三人の肉棒を襲ったらしく、三者三様、射精をこらえるように身をすくめた。
 素晴らしいメス肉だと、緊迫した彼らの表情が図らずも知らせている。
 みなAV男優そこのけの筋金入りの男たちだ。
 いや、本当に正真正銘のAV男優なのか。
 とにかく強烈な緊まりをしばし耐え抜き、再び悦楽を持続して味わうべく、それぞれがまた腰を揺らし始めた。

 からくも発射の衝動をやりすごした社長が語りかける。


「典子? 今回は我々は部外者だ。スポンサーは別の方になる。すぐにでも戻って来いと言ってやりたいがそうはいかない。特別な趣向でな。聞いているだろうが一年間、正確には来年8月末まで、お前の新たなオーナー方は、お前が調教を取るのか、家庭を取るのかテストにかけるそうだ。お前が勝手に引退したと、えらくご立腹でな。こちらの事情もあったのだが、まあそういう話だ」


 社長は追い上げるようなピストンをやめ、妻のお尻に腰を強く密着させて、捏ねるような静かな動きに変えていた。
 他の二人もほぼ動きを止めている。
 妻も大人しくなったが、聞き入っているのか、意識が遠のいているのか、見ているだけではよくわからない。
 汗まみれになって静かにしている。

198名無しさん:2018/10/22(月) 02:30:43

「旦那に知らせたりはしない方針も聞かされてるだろう? 心置きなく調教と家庭とを天秤に掛けろという配慮だってな。旦那バレの恐怖もない代わりに、脅かされて仕方なくというエクスキューズもない訳だ。ただし調教から逃げようとした段階で、DVDがいろんなところにばら撒かれる。それも聞いてるだろ? 本当に平凡な生活に戻りたいのなら来年8月に改めて結論を下せ。これはスポンサーの方からお前に直接言ってやってくれと頼まれたので話した。我々は無理強いはしない。あくまでお前の意思を尊重するということだ」


 言いながら社長はゆるゆると腰のスピードを上げ始めた。
 さすがAV制作会社の総元締めである。
 並みのAV男優よりも数段モチが良さそうだ。

 そろそろ他の男たちも妻の身体に放ちたくなってきたのだろう。
 口唇愛撫を受けている男は膝を伸ばして、妻の肩先を持ち上げ短髪男の腹から引きはがし、形良く垂れ下がって豊かになった乳房のひとつを揉みこみ始めた。
 もう片方の乳房の先端に、寝そべったまま頭だけをもたげた短髪男が吸いついている。
 残ったもう一人はずっと妻から絶妙の手コキを受けているのだが、手で妻の耳や首筋をくすぐったり、唇を背やわき腹に這わせて、妻の性感をしきりに煽っている。

 妻もやっと覚醒したように、ようやく男たちの動きに身体を合せて反応し始めた。
 燻り続ける官能がまたまた全身に燃え盛ってきたようだ。


「ううっ」


 まず最初に放出したのは短髪男らしい。
 ギュッと妻のウエストを強く抱き締めて、動きをとめる。
 同時に妻の裸体もビクッと小さく跳ねてから硬直した。
 膣奥に放たれる噴射。
 ふたりの時が止まる。

 周りの男たちはそれぞれ妻の身体に対して小さな動きを続けている。
 微動だにしない妻。
 子種を浴びているのだ。
 この子宮に子種を受ける感覚が忘れられなくて、典子は狂ってしまったのだろうか――。

 中出しの間に、今度は口中の男が暴発したようだ。


「うくっ」


 小さく男が快楽を告げ、喉奥に放出する。
 精子をこぼすような初心者ではないのだが、さすがに中出しの最中の忘我の瞬間の不意打ちであったため、妻の唇の端から一筋白い液が垂れ流れる。
 今度はその男との時間が止まる。
 ずっと手コキで我慢している男だけが、活発に妻の背中を舐めていた。


「うむむ」


 背後の社長は石化したような妻のお尻に手を当て、猛然とラストスパートに入った。
 身体の二箇所に精液を注ぎ込まれた妻は、魂が天国に行ったように弛緩している。


「おらっ、典子。しゃきっとしろ!」


 その言葉が催眠術を解くキーワードであったかのように、たちまちハッと四つん這いの女体に力を漲らせる妻。


 ペシーン


 またお尻の横っぺたをビンタされた。


「ふふ。よく味わっておけ。鞭打ち10日でやっと再会できたチンポだぞ。お前の人生を変えたチンポだ。嬉しいだろ? またケツの中に出してやる。有難く受けろ!」


 妻はやっと口を解放された。


「あっ、あぁっ、あぁぁっ!」


 と一気にボルテージの高い喘ぎを吐き出す妻。
 絶頂間近の細かい痙攣が妻を襲う。


「ひいいいいいーっ!」


 甲高い悲鳴を引き絞る妻の口に、無造作に残りのもう一本の男根が押しこまれる。
 塞がれた口をさっそくモグモグし始める妻。
 その顔は涙目を白黒させて、すでに肉体の奥底から込み上げる快楽の大波に翻弄されているようだ。

199名無しさん:2018/10/22(月) 02:31:57

「典子? お前はいい身体をしてる。これを使え! 残りの人生はこれを使っていけ! 顔もいいんだ。みんな喜んでくれる。難しいことは考えるな! 快楽だけに浸ればいいんだ! どうだ? 離れられるか? この快感から離れられるか? お前は奴隷だ! 俺たちの奴隷だ! 今もそうだし、前からそうだ! いいな? これからは頭なんか使うな! おまんこを使え! おまんこで生きていけ! お前はおまんこ奴隷なんだぞ、典子!」


 社長は吠えるように喋り続け、猛烈に腰を打ち付けている。
 容赦のないストロークに、妻の魅惑の曲線を誇る美臀も、圧迫されて押し潰され、右に左に無惨な変形を余儀なくされている。


「ぶぼぉっっ」


 社長より先に典子のフェラに耐え切れなくなった男が先に爆ぜたらしい。
 瞬間引き抜いたのが間に合わず、典子は鼻を中心に白濁液を大量に被弾した。
 いつもの典子ならせっせと指で精液を拭き取っては、口に運んで掃除に勤しむのだが、肛交の真っ最中でとてもそんな余裕はない。
 社長による妻のお尻の穴への狼藉は激烈なものだ。
 奴は女とのアナルセックスの経験も豊富なのだろう。
 妻に一生消えない記憶を刻んでおこうという底意が見えている。


「あぁん? 尻振れよ、典子! もっと、もっとだ! そんなんじゃあ、俺は絞れねーぞっ! 教えただろ? 捏ねろ! 押し付けろ! そうだ。そうそう・・・コツを忘れてはないな。よし。連続して振れ! 前後左右に振って見ろ! 回転させろ! 俺の腰の動きに合わせろ! そうだ。引き絞れ! ケツ全体で締め付けろッ!」
「うおおおおおぉぉぉーーっっっ!!」


 誰の声だかわからない叫びがした。
 とても低い獣の咆哮のような異音。
 それが妻のものだとわかったのは数瞬ののちだった。
 別人のようだという次元ではない。別の動物。
 あの澄んだ高い声を出す妻が、恥も外聞もなく腹から喚き立てた。


「がはあああああああぁぁぁーーっっ! ぐおおぉっあああああぁぁーっ!!」


 ダメ押しに最後の断末魔を放った。
 その声を聞きながら、私の目も眩んだ。
 強い刺激。

 ああ、妻が・・・。
 あの典子が・・・。
 サンドイッチにされて。
 お尻を犯されて。
 あんなに激しくイっている――。

 妻は失神したようだ。
 その刹那、這いつくばった妻の姿態が物凄い硬直を見せた。
 スタンガンの電撃でも喰らったように。
 10秒か30秒か。
 あるいは1分を超えていたかもしれない。
 息を止め、一気に極楽浄土の最上階へ駆けあがった。
 ブルブルブルブルッ、という激しい痙攣を伴って、やがてまた極度の弛緩が訪れる。
 その時点に至って、やっと長髪男は欲望を解き放ったらしい。


「おぅ」


 と小さく満足の声を上げたが、直腸奥に噴射を受ける妻の身体は死んだように伸びてしまい、ピクリとも動かない。
 フェラチオの労苦から解放された妻は、今は上体を短髪男の胸に預けていた。
 精液まみれのその顔は、唇を円く開いた無防備な有り様だが、夢でも見てるようにうっとりと安らかに見えた。

 私の身体はいつしか震えていた。
 ズボンの中が生ぬるく濡れている。
 外にも出さず手で扱きもしなかったのに、知らぬ間に射精してしまったらしい。
 性的昂奮。もちろんそれが主体だ。
 変わり果てたような妻の痴態をまざまざと見せつけられたのだから。
 しかし思わぬ自失は、それとはまた違う衝撃の故だ。

200名無しさん:2018/10/22(月) 02:32:34

 私は調教の凄まじさを目撃した。
 いや正確には、その一端を目撃したのだ。
 対等の恋愛でもない、遊びの浮気でもない。
 これが調教・・・。

 まさに妻は調教されていた。
 俺の思っていた調教のイメージと違う。
 もっと生易しいのかと思っていた。
 これが去年から妻が連中にされて来たことか・・・。


『怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・・怖くて・・・』
『もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・』


 怖かったのも本当だろう。
 妻ひとりでどうにもならなかったのも本当だろう。
 ここまでのことをされ続けてきたってのか典子は・・・。

 ケロッと二重生活を送り続けた典子。
 なんでもないような仮面をかぶり続けた典子。
 夫や子供の前では男たちとの関係をおくびにも出さなかった典子。
 そう思い込み、そんな妻を表の顔と裏の顔を使い分ける器用な女と、半ば蔑みの気持ちすら持ったが、こんな調教を受けていれば誰でも絶対に隠すに違いなかった。

 もし私が典子の立場だったとしても、絶対に家族には知られたくない。
 みじめ過ぎる。
 なによりも奴らの調教を受けて、肉体が屈服してしまっているのが辛いはずだ。
 それはことあるごとに自覚させられたに違いない。

 家族の一員として普通に暮らしていたのに、自分一人だけが恐るべき性調教を受け肉奴隷へと作り変えられていくのを実感せざるを得ない典子。
 焦ったことだろう。
 日に日に理性が快楽に粉砕されていき、欲望に負け、それに支配されてしまっているのを思い知らされる。
 せめて以前の何もなかった頃の関係性で家族とはいたい。
 それがあれだけ一見平然として見えた、妻の態度の理由かもしれない。


『あ、もしもし〜今からカラオケ行ってくるからちょっと遅くなるね。11時くらいに駅前のカラオケ屋にに迎えに来てくれない?』
『どうしたの〜? 何かあった?』


 明るい声。いつもの妻。
 しかしその裏で、妻は信じがたい壮絶な性調教を受けていたのだ。
 その手加減なしの奴らの調教によって、逃れる術のない妻は、とことん堕ちてしまった。
 妻が長期失踪に及んでいる今現在では、もう堕ちるも糞もない。
 手の施しようもない。
 全てが過去完了形なのだ。



 風呂に入った。
 癒しの場所であるはずだが、ここも凌辱者たちが気ままに利用したかと思うと、胸がざわついて来る。
 出来るだけそんなことは考えないようにして身体を流し、下着を着替えてさっぱりとした。

 DVDの検証は限界だった。
 これ以上は無理だ。
 気分転換に家を出ることにした。
 もう夕方だ。
 車を使うのも神経にこたえる。

 あの日。
 いつもは妻が使っているので近いはずの運転席の座席が広くなっていた。
 そしてCDケースからとんでもないDVDを発見したのだ。

201名無しさん:2018/10/22(月) 02:33:08

 主治医の話では、私の病状はかなり深刻だそうだ。
 きっとそうなのだろう。
 付けようと思えば数種の病名がすぐに付くそうだ。
 それも心の分野だけで。

 身体もかなりの変調をきたしていて、どこにどう病変が出ても全くおかしくないと宣告されている。
 過敏な神経は何もかもに過剰反応してしまう。

 車は別段異常はない。
 当然だ。
 だがそれで落ち着く訳でもない。

 車で5分程度のちょっとした繁華街の定食屋で夕食を済ませる。
 それからスーパーへ寄った。
 妻がいる時は思いもしなかったが、一人でスーパーに晩御飯の惣菜を買い出しに行くのはわびしいものだ。
 たまになら苦にもならないが、毎日は凹む。
 気にし過ぎなのだろうが、店員の目には、妻に逃げられた中年男、と映っているのではないかと委縮してしまう。
 酒類とつまみだけを大量に購入した。
 やはり飲まなくては到底やっていられない。
 身体がどうなるのかは、神のみぞ知る、だ。

 家に帰ってDVDのことは忘れてテレビを観た。
 別に面白くもない。
 気が付けばテレビは単に流れるだけになっていた。
 酒を飲む。
 まずはビールだ。喉にぐっと流し込む。
 それだけで『Episode3』でリビングを占拠していた見知らぬ男たちがビールを飲んでいる場面を思い出し、呑み込んだ液体を胃から戻しそうになる。
 早く酔いたいので、買って来たウイスキーをラッパ飲みした。
 ストレート、常温のまま。

 土曜の夜だ。
 妻とは普段どおりに話をし、普段どおりに夕食を終え、いつものように仲良く談笑し、仲良く同じテレビ番組を見る。
 それが普通だった。

 たった一人で、いまにも千切れそうな神経を抱えて、見もしないテレビをつけて、酒を流し込んでいるこの状況。
 誰が悪いかと言えば、やはり妻を地獄に叩き込んだAV会社の連中に違いない。
 仕返しをしてやりたい。
 しかしどこにいるかはわからない。
 妻を連れ戻してから、新たに加わったという調教師グループのフィクサー『ファン』。
 こいつの正体も依然不明のままだ。

 DVDの中にヒントがあるかと必死の検証を続けているが、こちらの精神が破壊されるばかりで、反撃の糸口さえつかめない。
 警察はあれっきりだが、親身になって探してくれる可能性はゼロに近い。
 興信所・・・?
 そっちはなにより担当者がいなくなったのが痛い。
 他の所員にこの込み入った事情を一から説明して果たして理解してもらえるか?
 それと調査してもらう具体的な場所がない。
 妻の去った痕跡をたどる?
 もうひと月経った現在ではナンセンスだが、あの時すぐに頼んだとして、それは可能だったのか?
 現実的には無理だったろう。
 私が目覚めたのは夕方だった。
 その朝家を出た妻はむろん単独ではなく、連中の誰かと行動を共にしたに決まってる。
 足取りなど辿れるわけがない。

 頭がボヤっとしてきた。
 寝るか。
 夜更かしが好きだった。
 朝は「あと5分・・・」と言いはしないが、少しでも寝ようとしていた。
 今は夜どれだけ起きていようが、朝どれだけ寝ていようが、誰も気にも留めてくれない。
 俺の中年過ぎの人生はこんな風に定められていたのか・・・。

202名無しさん:2018/10/22(月) 03:07:15
55

 次の日の日曜。
 起きたのは昼を大きく過ぎていた。
 北九州での単身赴任。
 夜はネットでアダルトサイト巡りをするのが日課だった。
 巨乳娘の痴態に鼻の下を伸ばしていた。
 いま私はそんなオカズには事欠かない。
 実の配偶者である典子のDVDが、そんじょそこらのAVなど足元にも寄せ付けない卑猥さで、私の股間を刺激してくれる。
 昨日は典子の三穴同時プレイで呆気なく精を漏らしてしまったのだ。

 あのあと結局私は、『Episode2』の先を見た。
 膣に短髪男、肛門に社長。そして口には若い男。
 そのフォーメーションが、膣に社長、口に短髪男、そして肛門に別の若い男、と色々バリエーションを変えて展開された。

 そのとき妻の肛門に捩じり込んでいたのは、台所で飢えた獣の様に妻のワンピースをたくし上げ、露わになった乳房を揉みしだいていた男だった。
 次の体勢では、ダイニングでカメラを構えていた男が下になり、彼が妻の菊門深くに男根を差し込んで、蛙の様に上向きになった妻には短髪男が覆いかぶさり膣に肉棒を挿入して、口を社長が味わっていた。

 典子はされるがまま。
 しかし妻が深い愉悦を貪っていることは、AV嬢が見せるより遥かに激しい、生々しい反応を示していることで明らかだった。
 彼らのオスの本能にまかせた凌辱に対し、妻は低い咆哮の連続で応えていた。

 私は何度もしごき上げた。
 妻が変態セックスを極め、恥を晒すたび、私も愚息からしぶきを上げて、同じ快楽に身を任せた。
 妻と4人の男たちの絡みは永遠に続くかと思われた。
 私は精を撃ち出し尽くし、いつしかベッドに戻り、眠りについたようだ。



 目覚め、そして階段を下りてきた、相変わらずガランとして誰もいないリビング。
 ここで家族4人、仲良く暮らしてきた残像すら、どこにも残っていない空虚な空間。
 誰からも、おはよう、とも言われず、遅かったね、とも言われない。

 流しに行ってコップで水を飲む。
 頭がガンガンしている。
 二日酔いだろう。

 以前はワインをボトル半分で真っ赤になり、すぐに睡魔が襲った。
 昨日はビールに加え、ウイスキーをひと壜空けた。

 強くなったわけではない。
 麻痺しただけだ。
 しかし分量が飲めてしまう。

 当たり前だが、酒の呑み過ぎは失敗だった。
 深酒の報いで今日は何の活動も出来そうにない。
 ゆうべ寝るのが遅かったので、昼過ぎというより、もう夕方に近い。
 また水を飲んでソファに横になる。
 目を閉じても頭がグルグル回っている。

 それにしても・・・。
 DVDの中の妻は凄かった。
 男たちの細マッチョの肉体に囲まれて揉みくちゃになっていた妻は、スレンダーな肢体を蠢かせ、口で膣で肛門で手で同時に4人を相手に奮戦し、最後はイキまくっていた。
 こういう言い方が正しいかわからないが、セックスの化け物の様に見えた。

 猥褻でしかない狂ったような妻の痴態。
 眺めている私は、途中からはアルコールの酔いも手伝って、朦朧としてきた。
 それでも自分をしごくのをやめられなかった。
 何回放ったかはわからない。
 その分の疲労も圧し掛かっている。
 今はもう何もしたくない。
 虚無。
 ソファの上で放心している自分。

 考えれば考えるほど、妻を救い出すなど不可能に近いことが分かって来る。
 圧倒的資金力と組織力を誇る悪党たち。
 それに比べて、私は孤軍奮闘するしかない非力極まる一介のサラリーマン。
 さらに肝心の妻自身が変態性欲の虜になってしまっていることも、今回は歴然としていた。
 薄々感じてはいたが、結局のところ私はやはり直視を避けていたわけか――。

203名無しさん:2018/10/22(月) 03:07:50

 これまでのDVDでは、妻が強制されているのか、進んで自ら行為にのめり込んでいるのか判然としなかった。
 どちらかというと奴らが嫌がる妻に対し行為を無理強いしていた印象があった。
 だからずっとその流れで一連のDVDを捉えてしまっていた。
 決別の手紙を添えて、妻が男の上に跨ったまま別れのメッセージを伝えてきたDVDを見た時も、ローターを入れた状態で手紙を書かされていた事を知り、手紙が本音なのか強制なのかもわからない、と逃げ場を捜してしまった。
 おめでたい限りだ。
 こちらが必死で網を張り罠を仕掛けて、探偵が首尾よくマンスリーマンションの奴らの《ヤリ部屋》を突き止めてくれなければ、妻はあと何日だって男たちと失踪を続けていた筈。

 妻と男たちの関係性。
 それが簡単なものではないことはDVDを見てじゅうぶんに分かっていたつもりだ。
 しかし男たちが一方的に妻に執着している。
 その思い込みがどこか頭にあったのは事実。
 男たちに手を切らせさえすれば、妻は元通りになる。
 盲目的にそう信じていた。

 20年もの間、典子は普通に良妻であり賢母でいてくれた。
 たぶらかす奴らさえ消えてしまえば妻は大丈夫。
 疑いもしなかった。
 だからその一点に絞って行動した。
 でもそれは甘かったのか――。

 20日間の妻の失踪。
 マンスリーマンションへの急襲を経て、妻を拉致した男たちとの対決のために戻った自宅。
 男たちはこれまでの経緯について自分勝手な言い分を並べ立てた。
 俺にはそうとしか思えなかった。
 妻の弱みにつけこんで、妻を思い通りに操り、弄んだ男たち。
 一緒に話を聞いていた探偵は断罪した。


『少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。わかっておられると思いますが、それは立派な犯罪です』


 それに対し、男たちはあくまでふてぶてしい態度を崩さなかった。


『探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか? 典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?』


 開き直りとも取れる返答に、探偵は食い下がる。


『ええそうです。無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。あなた方には反論の余地は無いはず。典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう』


 探偵は実に鋭いところを突いた。
 決定打だと俺も思った。
 だからこれを聞いて、すぐに典子が男たちの手を振りほどき、私に駆け寄って、これまでのことを謝り、縋りついてくれるものだと思っていた。
 妻が無理やり服従させられていたのなら、そうならないとおかしい。

 しかし事実は違った。
 妻は奴らのそばを動かなかった。
 そのとき私の胸を言いようのない淋しさが吹き抜けたのを覚えている。
 苦労の末、やっと居場所を突き止めて、救いに来たというのに。
 なぜ・・・?

 その時点で、私は何かを気づくべきだったのかも知れない。
 男たちは探偵の追及にひるみはしなかった。


『ただ典子の意思はどうでしょうね?』


 不敵な言葉を吐いたAV社長。
 薄ら笑いさえ浮かべて。
 気色ばむ私たちに対し、奴らはあくまで余裕綽々。
 そこでも私は何かを察知すべきだったのかも知れなかった。


『旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。それが答えだ』


 傲然と言い放つ長髪の男に、私の理性は吹き飛んでしまった。
 その後乱闘に発展し、男たちは私が気絶している間に家を去った。
 だからこの言葉の意味を吟味するゆとりなどなかったのは事実だ。

204名無しさん:2018/10/22(月) 03:08:41

 たしかに・・・。
 無理やり連れ去られたとしても、本人が心の底から家庭に戻ることを望むのなら、警察に駆け込んででも、男たちのもとから離れるだろう。
 それをしなかった妻。
 男たちに遊ばれ、すでに壊れてしまっていたのか。
 もう俺の知っている典子は跡形もなくなってしまっていたというのか。
 反芻するたび、俺の心のどこかが病み、腐敗していく。
 もう答えは出ていたということなのか――。

 その後、福岡クレイホテルの1105室に場所を移しての会見の場でも、


『普通の生活ができる状態ではない』


 長髪社長は典子のことをそう言い放った。
 大げさな言い様。
 こけ脅し。
 それで腰が引けるとでも思ったか。
 バカにするなと、そのとき私の闘志は余計に燃え上がった。

 俺はお前らから妻を取り返しに来た。
 それだけだ。
 下らない御託など聞く気はない!

 私は不退転の決意でいた。
 何を言われようと、奴の言葉に踊らされるつもりはなかった。
 頭から無視した。
 しかし奴の言葉にも一片の真実はあったのだ。
 いや、一片どころではない。
 まるっきり真実だったのかも。

 典子は想像をはるかに超える凄まじい性調教を受けていた。
 それもおそらく連日。
 社長の言葉責めと肉棒によるイカセ地獄で、理性のタガは弾け飛んだだろう。

 やがて襲い来る快楽が、妻の良識を徐々に破壊し、消滅させた。
 快感の刺激のみを求める脳細胞は、いつしか知性すら劣化させるに至った。
 ヤルことだけしか考えられない、お猿さんになってしまった典子。
 私の大事な妻は、男たちによってお猿さんにされてしまっていたのだ。
 スパンキングでお尻を真っ赤にして、股を開いてそこに男根を突っ込んで貰うことしか興味のないお猿さん。

 妻を家庭に再び取り戻してからの妻のオナニーは壮絶ともいえる激しさだった。
 もちろんそれまで典子のオナニーなんて見たことがない。
 そんなことをするとも思っていなかった。
 ただ遠慮のない呻き声を上げながら、猛烈な指使いで股間をまさぐる妻の狂気じみたオナニー姿は、私の背筋を寒くさせるほどの不気味さだった。
 あれも快楽のしもべと成り果てた、お猿さんの本性だったのだろう。
 男が欲しくて欲しくてたまらないお猿さん。
 性欲を満たすことしか考えられないお猿さん。


『わかっておられるのですか? 典子はもうあなたの知っている典子ではありません』


 あの時の長髪野郎の声が脳裏に響く。

 無慈悲な宣告。
 とても信じがたい。
 受け入れがたいセリフ。
 しかし奴には典子のリアルな状況が把握できていたということなのだ。
 私とは違って――。

205名無しさん:2018/10/22(月) 03:09:20

 俺が知ってるのは単身赴任前の典子。
 明るくてしっかり者の妻。優しくて働き者の母。
 俺が仕事に明け暮れ。
 北九州のアパートと福岡の家を行ったり来たりしている間に。
 典子は作り変えられてしまった。


『旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?』


 俺は奴のこの言葉を侮辱と受け取った。
 しかしAV社長は妻の状況が見えていればこそ、侮蔑とも取れるこのセリフが自然と口を突いて出たに違いない。
 悪気もなかったのかも知れない。
 奴はありのままの事実を告げ、普通の旦那なら当然自分たちの提案を受け入れるものと信じて、話していたのだろうから。


『我々も責任は取るつもりで動いてますので』


 このセリフには、俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしている、との猛烈な反発が湧いた。
 しかし、これもよく考えれば、奴らなりの現状を見据えた当たり前の申し条だったのかも知れない。


『私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。だから言っているんです』


 あの場ではハッタリにしか聞こえなかったセリフ。
 妻を貶めることで、私との仲を裂こうとする策略だと思い込んだ。

 妻を救う。
 その一念で凝り固まっていた私に、どんな言葉も耳に入らなかったのは事実だ。
 しかし、男たちにとっては、典子が快楽のためには何でもする女に成り下がっていたことは、誰でも知ってる共通認識だったのだろう。

 今にして分かる。
 私がマンスリーマンションから自宅に戻って、そこにたむろっていた男たちに向かい開口一番、


『妻はどこだ?』


 冷静に、しかし確実に殺気のこもった声で訊いた時、


『典子ですね、典子はそこにいますよ』


 拍子抜けするほどの気楽な調子で短髪野郎は言った。
 その余裕綽々ぶりに、バカにされたと私の怒りは募った。
 旦那が自分の妻を取り戻しに来ているのに、慌てることも悪びれることもなく、平然としている男たち。
 まるでもう典子は自分たちの所有物だと決め込んでいる。

 それが迎えに来た旦那に対する態度か。
 私は挑発と受け取ったが、実際にはそうではなかったのかも知れない。
 奴らにとっては、貞淑な妻で善良な母親である典子など、とうの昔に地上から消えていなくなっていたのだろう。
 残っているのは、男無しではいられない、常時発情したお猿さんが一匹。

 『Episode1』での調教師によると、この時典子はお尻にMサイズのアナルプラグを入れていたとのことだった。
 快楽を得るためには何でもするお猿さん。
 そしてその快楽は、男たちによってしか得られない。
 離れていくわけがない。
 男たちはそう確信し、旦那の前でも典子典子と呼び捨てにし、憚らなかったのだろう。

 理性も知性も崩壊し、まさにセックスの奴隷と化した妻。


『典子はもうあなたの知っている典子ではありません』


 あの長髪社長の言いたかったことは、そういうことなのだろうな。

206名無しさん:2018/10/22(月) 03:10:02

 これらのやり取りを通して、妻をここまで堕とした張本人のくせに、連中に罪悪感(!)のカケラもないことが、私を極度に苛立たせた。
 でも奴らにとって、典子は最初から《貞淑な人妻》ではなかったということだ。


『もともとあなたの奥さんは、旦那であるあなた以外の男と関係を持っていた。だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。それはわかってください』


 しょっぱなに、そう言っていた。

 浮気妻を譲り受け、調教を施しただけ。
 長髪社長の認識ではそうなのだろう。
 こっそり浮気をしていた淫乱妻。

 人の道を外させたのは私たちではない。
 すでに道を外れてた不貞妻を拾っただけなんです。
 そこを分かって下さいよ、旦那さん。
 あなたが思うほど、典子はちゃんとした人間ではないんですよ。
 もともと堕ちるべくして堕ちた女なんです。
 それを我々は手伝っただけ。
 まだこんな女に未練がありますか?
 離婚して頂きたいと思いましてね。
 こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
 普通の生活ができる状態ではない。
 私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
 だから言っているんです――。

 この一連の流れの大もとには、旦那に隠れて浮気をしていた妻に対する、抜きがたい侮りがあるのだろう。


 ――セックス好きの浮気妻。


 返す返すも、妻が前の会社への要らざる配慮から、取引先の男と深い関係になってしまったのが悔やまれる。

 その会見のあと妻と二人ホテルの部屋を出てエレベーターに乗った時、


『本当に・・・ごめんなさい・・・。私には家に帰る資格ない・・・』


 妻は泣きながらそう言った。


『子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。ずっと母親としているべき存在なんだ。もちろん、俺にとっても・・・』


 そう言い聞かせると、妻は嗚咽を漏らしながら泣き始めた。
 私は立派な母親を、悪魔たちから取り戻した気でいた。
 崩壊しかかった家庭に、優しい母親を再び連れ戻したつもりだった。
 そうではなかった。
 立派な母親などもういなかった――。

 事件後2か月。
 夕食を囲む家族4人。
 夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと、私は満足感に浸っていた。
 過去を振り返るのではなく未来を見ること。
 自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと今更ながら気付いていた。

 いつもの食卓。
 平日は私の帰宅が遅かったから、こうやって家族が揃うのは土日に限られる。
 思えば妻は無口になっていた。
 右側に真菜と私が並んで座り、向かい合って左側に明弘と妻が座るポジション。
 娘と父親が並び、向かいに息子と母親という席順の筈だった。
 だが母親の席に座っていたのはお猿さんだった。
 お猿さんにふさわしく顔を真っ赤にしていた。
 土日は私がいるので新たな男たちも妻を玩べない。
 だからその間はローター装着を命じられていたのだろう。

 私は立派な母親を取り返した気で、快楽のことしか頭にないお猿さんを連れて帰って来ていたのだ。
 時期的には調教も再開され、アナルプラグも肛門に忍ばせていた筈だ。
 夕食を囲む家族4人の団欒の真実は残酷なものだった。

207名無しさん:2018/11/04(日) 23:06:20
56

 二日酔いで頭はガンガンする。
 妻のことに思いをめぐらしても、気が滅入るばかり。
 ソファから重い身体を起こして、また水を飲みに行く。
 やたらと喉が渇く。
 体調は最悪だが、またDVDを見ておかねばならない。
 頭が酔いではっきりしないうちに見ておいた方が、ショックが和らいで逆にいいかもしれない。

 私はリビングの隣の小部屋へ行き、開けっぱなしになっている小物入れの引き出しを物色した。
 とにかく最新のものを見てみよう。
 妻の失踪の原因がわかるとしたら、直近のものにそれは隠されているはず。

 妻のDVDはうんざりするほどの量があった。
 最低ひと月に一枚のペースでリリースされてなければこうはならない。

 暗澹としながら、DVDを引っ掻き回し、やっと『Episode10』というのがここにある最新版らしいと目星をつけた。
 それをDVDプレーヤーに入れる。
 もう完全に心の病の私は、動画ファイルの存在をテレビ画面で認めただけで、心臓が縮み、冷や汗が流れるようになってしまっている。



 映像が始まった。
 最初、何だかわからなかった。
 どこかの一室?
 複数の人の声がする。
 男の声と女の声。
 囁くほどではないが、小さな声でしゃべっている。
 手持ちのカメラが勢いよく振られているため、像を結んでいない。
 左右に流れてしまっている。
 手にぶら下げているだけなのか。
 ただ部屋に肌色のものがあることは分かる。
 これが裸の人間であることは想像がつく。

 急に映像が切り替わった。
 アップになった。
 大写しされたピンクのブニョブニョした物体。
 それが上下に動いている。
 もちろん独りでに動いている訳ではない。
 細くしなやかな指が握っている。
 女の手だ。
 ギュッと握って、リズミカルに上下に振っている。
 ピンクの物体が上に動くと、その下から毛が見えた。
 最初はこね回すような動きだったが、大きく上まで引き出すと、その中に肌色の物が有ることが分かった。
 こらえる様な、それでもはっきりとした女の荒い息づかいが、画面の外から聞こえている。
 手の動きと最初はリズムを合わせていたが、だんだん吐息のほうが速くなってきた。
 突然ピシャッという音がした。
 肌を打つ音。
 しかし叩いたというより、例えば裸の背に手を乗せたくらいの感覚だ。


「上手く合わせてやれよ」


 若い男の声。
 面白がるような調子。
 それでも声は潜めている。


「はうぅぅ〜」


 女の声。
 妻の声だ。
 感じてしまって、思わず漏れたというような色っぽい呻き。
 こちらも必死で声を抑えているようだ。

208名無しさん:2018/11/04(日) 23:08:08

 画面はずっと得体の知れない物体をアップで捉えている。
 ニッチャニッチャと音がし、物体と肌色との隙間に透明な粘液が光っていた。
 女の手がそのピンクの物体をゆっくりとねじって角度を変える。
 現れてきたマジックで書かれた字が読めた。
 そこには『典子の代わり』と書かれていた。
 一瞬遅れて、私はピンときた。

 あれだ!
 引き出しにあった。
 オナホールだ。
 それを誰かが誰かに使っている。
 いや、さっき妻の声がしたから、握っているのは妻なんだろう。
 使われているのは誰なんだ?

 最初に引き出しで発見した時にはマジックの字は薄くなり消えかかっていた。
 いま映像の中では、濃くはないが消えかかってはいない。
 少し前の映像らしいが、どれくらい前のものなのか?


「あっ、あっ、あっ」


 妻の喘ぎ声が次第に大きくなってくる。
 何なんだこの映像は?
 そして一体ここはどこだ?
 画面には蠢くオナホール以外映って来ない。

 急にカメラが切り替わった。
 かなり高いところからのアングルだ。
 一気に部屋の全景が映る。

 そこには男が三人と女が一人いた。
 男二人は服を着ている。
 そのうちの一人はビデオカメラを持っていた。
 一人の男だけが下半身裸になって、すでに全裸の妻を背後から立ちバックで責めていた。
 よく見ると、ベッドにもう一人寝ている。
 その男は上半身はパジャマシャツを着て、パジャマズボンだけを足首まで下げられていた。
 その露出した股間に、典子が手を伸ばしてピンク色のオナホールをあてがい、あまり熱心とは言えない疑似手コキを施しているのである。
 それをアングルが切り替わった今でも、男のひとりがビデオカメラで念入りに撮っている。
 マルチカメラ方式ということらしい。

 そのベッドの男の顔が、部屋に立っている他の男が身体をずらしたため、視界に入った。
 一瞬、血の気が凍り付き、次の瞬間、怒りに血液が逆流しそうになった。

 自分だ。
 寝ている自分。
 そしてここは自分たち夫婦の寝室。
 そこでこいつらはいったい何をやってる!

 いや、今さら怒るのも見当違いなのかも知れない。
 我が家のリビングやダイニングがすでに悪党どもの性の遊び場と化していたのと同様、夫婦の愛の巣である寝室だって無傷ではいられなかった。
 すでに去年の段階、DVD8の中で、妻は男を夫婦の寝室に誘い入れ、バイブでたわむれた後、仁王立ちした男の股間で顔を前後に動かしていた。
 そして当たり前のように男に後ろから突かれ、乳房を揺らし、何度も喘ぎ声を出していたのだ。
 それは映像になって残っている。

 しかしそれは家に子供達も自分もいない時のこと。
 今回は俺が寝ている寝室に堂々と侵入している。
 時間は分からないが俺が家の寝室で寝ていることから深夜だろう。
 強制されたのだろうが、典子が手引きして引き入れたことに疑いはない。
 妻の裏切りをまたもあからさまに見せつけられ、俺の弱った神経はさらにズタズタに四分五裂される。
 仲良し家族の再構築、と張り切っていた裏では、こんなことが起きていたなんて!

 俺は毎日強い睡眠薬を飲んでいたから起きる気遣いはない。
 ただ真菜は大阪に出て行ったあとだろうが、少なくとも明弘はいるはずだ。
 そっちはどうなってるのか?
 声を潜めているということは、やっぱり明弘が家にいるのか。


「ほら、ちゃんとやってやんなきゃ? 旦那の性処理は妻の務めでしょ?」


 若い男の面白がる声。
 そいつはバックで突いている。

209名無しさん:2018/11/04(日) 23:09:04

 典子はいつも後ろからばっかりだな。
 こんな言語道断なビデオを見せられている最中なのに、そんなどうでもいい感想が浮かぶ。
 獣のような背徳的体位。
 DVDの中の妻はほとんどがそうだ。
 あとは騎乗位がたまに。
 どちらも最後の夜の妻とのセックス以外、俺は経験したことがないものだ。
 典子はこんなのが好きなのか?
 もしくは後ろからのセックスが、最も奴隷にふさわしい体位ということだろうか?

 妻は、あんあん言うだけで、返事が出来ない。
 もう快楽が総身に染み渡っているみたいだ。
 それでもなんとか右手でぎこちなくオナホールを動かしている。
 画面の中の私はこんな状況下で、大きくイビキをかいていた。
 自分の妻は誰ともわからぬ若い男に後ろから貫かれ、旦那本人はオナホールで処理される。
 その惨め過ぎる映像をDVDに仕立て上げ、売る。
 サディスト揃いの連中がいかにも好みそうなシチュエーションだ。

 もし二日酔いでなかったら、いや二日酔いであっても、これまで数々のDVDでショッキングな映像に慣れていなかったら、私はテレビの前で闇雲に手足を振り回して大暴れしていたに違いない。
 さんざん旦那である俺のことを馬鹿にし、おちょくってくるのは、もはや伝統芸ともいえる陰湿さだ。
 怒りはあるものの、精神が麻痺してしまったのだろうか。
 それとも理不尽な出来事の連続に、精魂尽き果ててしまったのだろうか。
 憤りは不完全燃焼に燻るだけで、爆発には至らない。
 とにかく妻失踪のヒントだけでもつかめないかと、怒りを押し殺し、先を見続ける。

210名無しさん:2018/11/04(日) 23:10:53
57

「あなた・・・、気持ちいい・・・?」


 妻が小さい声で寝ている私に呼びかけると、男たちはこらえきれないように爆笑した。
 妻の背後の男は、いいぞ、と言うように、腰のピストンを2,3度大きく打ち付けて、妻をいっそう喘がせた。


「ほら、決意のほどを伝えなきゃ? 一緒にいられるのも、あと少しなんだから」


 小さい声だが、男は面白くてたまらないという様子。


「ああっ・・・。あ、あなた・・・、前にも言ったように、こっちを選びます。私には私の人生があります。私の選んだ人生は・・・、選んだ人生は・・・」
「・・・ん? どうした?」


 男は楽しそうに腰を動かし典子を促す。


「・・・ああっ。わ、私は・・・おまんこ奴隷として生きることにしました・・・。去年この世界を知らされて、もう抜けられないの・・・。あなたと、そして子供たちと、妻として母として過ごしたこの20年近く、すごく楽しかった・・・。でもこれからは、ひとりの女として、おまんこだけを使って生きていきます。もう私の身体はあなたの物じゃないのよ。だから今後は私の代わりにこのオナホールで満足してください・・・」


 男たちは妻のセリフを聞きながらゲラゲラ笑っていた。
 抑えてはいるのだろうが、もし明弘が家にいたら、聞こえてしまうのではないかという音量になっている。
 もし明弘が起き出してきて、この部屋に来たら、典子はどうするつもりなのだろう?
 もう快楽に支配され、そんなことも考えられなくなってしまっているのだろうか。


「あー、しっかし典子のマンコは本当に気持ちいい。一回出すぞ」


 背後の男はスレンダーな妻の細く括れたウエストをしっかりと掴むと、思いっきり腰を動かし始めた。
 妻の丸々と肉の実ったヒップが、ペチンペチンと音を立て、蠱惑的に変形する。
 ハッハッと熱い吐息が漏れだして、あわてて片手で自分の口を押さえる妻。 


「おー」


 いかにも満足げな声を上げて、若い男の動きが止まる。
 また精液が典子の胎内に注ぎ込まれている。
 中出しは男よりも女のほうが格段に気持ちいいのだろうか。
 妻はムチムチと満ち張った美尻を、男の下腹部に思い切り押し付けたまま、微動だにせず快楽を貪っている気配だ。
 この瞬間を味わうために、20年からの俺や子供たちとの生活を捨て、性奴隷という有り得ない境遇を選ぶというのか。
 あのしっかり者で明るい典子が――。
 信じられない。
 今に至っても信じられない。
 しかしこれは現実だ。

 数十秒後。
 ふたりの極楽状態の硬直が解けた。
 若い男が妻の背後を離れる。
 ほおおー、と妻が長い溜息を洩らした。
 引き抜かれたダラリとした男根の先からは、白濁液の雫が粘って垂れている。
 脱力し、沈み込みかけた妻のお尻を、今度は別の男が抱えて持ち上げた。
 すでにそいつの下半身は裸だ。
 難なく挿入を果たす。
 新たな男のペニスを受け入れた妻は膝を曲げ伸ばし、相手に合せて自分の腰の高さを微調整した。
 ごく自然に複数プレイの作法が身についてしまっている妻。

211名無しさん:2018/11/04(日) 23:16:01

 新たな男のゆるいピストンを受け、妻がまた口を開いた。
 事前に色々と取り決めてあったのだろう。


「あなた、ごめんなさい・・・。また、おまんこされちゃった・・・。でも、みんなが気持ちいいって言ってくれるの。名器なんだって・・・。すごく締まるって喜んでもらえてるよ。口でするのも上手くなったし、今じゃあ、お尻でもセックスできるようになった。だから毎日してるの」


 淫婦としか言いようのない表情で、意識のない私に、羞じらい気味に語り掛ける妻。
 そのタイミングで背後の男は陰茎を引き抜き、亀頭を膣口の上の菊門に押し当てた。
 グイと力をこめて腰を押し付ければ、若干の抵抗はあったものの、ヌルリとその先端は妻のアナル奥深くに沈んでいく。
 アッアッ、とハッキリと喘ぎを口にする典子。
 去年の秋の初貫通から、どれほどの経験を積んだものか、プリプリとしたヒップは余裕で長大といえる男のペニスを呑み込み、男の開始したピストンに合わせて淫らな舞いまで見せつけている。

 お尻も熟練してしまっているのか・・・。


「あっ、だめだっ」


 二番目の男は早かった。
 それだけ妻のアナルの味が良すぎるということなのか。
 開通に時間がかかった分、狭い肛門は万力締めの技を発揮すると例の調教師が言っていた。

 ふたりの肉体が時間を止めて固まる。
 今度は直腸でほとばしる子種を受けとめている妻。
 妻の顔は半眼を剥いて陶酔していた。
 すでに膣と同じかそれ以上の深い快感を、アナルで得られるところまで来ていることは疑いがなかった。

 二番目の男が離れても、まだ次の男が典子を犯す。
 この男は普通に膣に挿入したらしい。
 右手にカメラを構えて、妻の裸を撮影しながらハメているようだ。

 では、この今映っている映像は何だろう?
 不思議に思った。
 アングルが全く変わらないのは、固定カメラのようにも思える。
 しかも随分高いところにある。
 ほぼ天井だ。
 脚立にでも乗ったもう一人のカメラマンでもいるんだろうか?


「あっ、あっ、あっ」


 また妻は喘がされていた。
 しかし今度の男はそれほど追い上げる気はないらしい。


「ほら奧さん、自分だけ気持ち良くなっちゃダメでしょ? 旦那をちゃんとしてあげないと。あと一週間ほどでお別れでしょ?」


 脇にいた最初の若い男が、真っ赤になって喘ぎ声をこらえ切れない妻に呼びかける。

 一週間でお別れ?

 とすると、再び妻が出て行ったのが2008年8月23日土曜だから、この映像は8月の16日前後ということか?
 例えそれが正確ではないにしても、今年の8月に入ってからの映像で間違いなさそうだ。

 その男は励ますように、肋骨をゆっくり収縮させている妻の白い脇腹を、スルスルと指先でなぞった。


「あっ・・・、ああ・・・、そうなの・・・、あなたや子供たちとはお別れだけど・・・、新しい人生がとっても楽しみ・・・。早くその日が来ないか待ちきれなくて・・・ずっとアソコを濡らしてしまってる・・・それが私です・・・」


 また部屋に軽い笑いが湧いた。

 強制されているんだ。
 言わされてるんだ。
 私はグッと奥歯を噛み締める。


「奧さん? 自分が気持ち良くなるのには一生懸命だけど、旦那へのサービスは全然気が入ってないじゃん。それじゃあダメだよ。一回外して」


 その言葉で、妻がピンクのオナホールを私の股間から引き抜いた。

212名無しさん:2018/11/04(日) 23:16:58

 プニョプニョの物体が消え、私はローションまみれの勃起を見苦しくおっ立てたまま、半脱げパジャマ姿で軽いイビキをかいている。
 自分で見てもその姿はあまりにも情けなく、おマヌケ過ぎた。
 難破船の帆柱のように、中途半端に突っ立った私の愚息は、誰からも触られもせずに、無駄に熱気を迸らせている。


「典子。一番似てるのを選べって言ったのに、これほんとにそうなのか?」


 妻からオナホールを奪い取り、手に取って眺め、咎めるような口調で最初の若い男が言う。


「ちゃんとアダルトグッズ屋で相談したんだろうな?」
「うっうっ・・・。はいぃ、近いのをお願いして・・・」
「見せただけか?」
「いえ。中も触ってもらって・・・」
「指で探ってもらったか?」
「はいぃ」
「10分くらいで適当に決めたんじゃないのか?」
「いえ。違います・・・」
「どれくらい?」
「2時間はかけて・・・」
「へえ? ま、いいや。もう一回、比べてみるか?」
「はい」


 その時には3番目の男は肉棒を妻の秘所から抜いてしまっていた。

 典子は男たちに指示されて、逆さ富士を見る姿勢のような、両脚をハの字に伸ばした股覗きの格好をさせられた。
 それを至近距離で、3番目の男のビデオカメラが狙う。
 妻の女性器のどアップが、いまデジタル信号で、克明に記憶媒体に刻まれている。
 撮影しているところを客観的にもう一台のカメラから見るのは初めてだが、被写体となっているモデルが、レンズが舐め回すように撮っているのを気づかないことは有り得ないことがハッキリと分かった。


『そしてそのまま撮影してたってことか?』
『撮影だなんて・・・。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの』
『お前の車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに、知らなかったと言えるのか?』
『ごめんなさい。でも本当に知らなくて。だからAV女優なんかじゃない!』


 奪還劇の日の妻との会話。

 撮影なんて言わないで・・・。
 妻はそう主張していた。
 じゃあ、逆に何だと思っていたんだと、訊きたくなってくる。

 もし脅迫の材料にするなら、もっと短くて済む。
 裸を撮って、せいぜい一回セックスの場面を撮れば、それで事足りる。
 毎度毎度、舐めるように変態プレイを最初から最後まで撮る必要なんてない筈だ。

 連中が使っているビデオカメラは少なくとも家庭用ではなく、今も画面に映っている通り、業務用のわりと大型のものだ。
 携帯電話のカメラで撮っていた訳ではない。
 個人が趣味で楽しむにしてはおかしいだろ。

 もちろん妻も女性ならではの機械に疎い部分もある。
 だが裸の局部やフェラチオシーンを撮る場合。
 今みたいに、こんなにカメラレンズが近くに寄って、貼り付くように右に左に動いては、ベストなアングルを探っているのだ。
 これだけの手間暇をかけた映像がただの趣味の範囲とでも?

 妻がマンションの一室らしきところで恥毛を剃り取られながら、イラマチオを決められていた『典子ver5』のキャプチャー『1』。
 相手の男は確かにこう言った。


『いいか、せっかくビデオに撮ってるんだ。もっと面白いことしなきゃな』


 すると男は妻に四つん這いになるように言い、妻は素直に従った。
 上に着ていた体操服も脱がされ、全裸にされる妻。
 そしてそのまま妻の陰毛を剃った男が妻に挿入した。
 ビデオに撮っていると宣告されながらの行為。

 小さなことだ。
 確かに小さなこと。
 妻がカメラで撮られていたのを撮影と認識していたかどうかなんて小さなことだ。
 だが隠し撮りではない。
 いろいろと指示を受け、それにひとつひとつ従っていた妻。
 それで撮影なんかじゃないと言えるのか。

213名無しさん:2018/11/04(日) 23:18:53

 もっと根本的なことを言おう。
 DVD6で妻が見知らぬ男の右足に顔をうずめ、犬のように舌を出して舐め始めた映像。


『お前もう忘れたのか?』


 すると妻は髪をかきあげ、すべて左肩に掛け、そして右顔がカメラに見えるように男の足の指先を舐めていた。
 カメラ映りを意識した動作。
 忘れたのか、ということは、何度も注意を受けたということに他ならない。
 これが撮影でなくて何なのだ!

 しかも今回初めて私はメインの撮影ビデオカメラを見た訳だが、レンズの周りをドーナツ型の白色LEDライトが円く覆っていた。
 被写体を明るく照らすためと、アップの際に女優の瞳にキャッチライトを作る目的のカメラアクセサリー。
 いくら機械に疎い妻とはいえ、連中の言動や機材の充実などからして、これが趣味の範疇をはるかに超えた販売目的の撮影であることは、初っ端からピンと来なくてはおかしい。

 いや、もっとはっきりと最初から、


「これは商品にするから、しっかり言われた通りに動け」


 と宣言されていた可能性が非常に高い。

 真実へ近づくためとはいえ、妻の嘘を次々と思い知らされるのは辛いことだ。

214名無しさん:2018/11/04(日) 23:19:39
58

 男三人は妻の後ろ向きの陰部に、レンズと共に顔を寄せ合い、じっくりと観察している。
 妻自身も気になるのか、逆さになった股の間から、自分の局部を見上げるようにしていた。
 画面の中の私は忘れ去られたように、ベッドの上で下半身を丸出しにして、呑気にイビキを立てている。
 愚息はオナホールの刺激が途切れたことで、すでに首うなだれ、腹の上にヘソを向いて横たわり、みっともない半勃起の状態を晒していた。
 寝室を一望できるカメラは、パンしたりアップにはならないものの部屋の中の様子がよく分かる。

 私は初めて自分の寝顔を見た。
 睡眠薬が効いて、太平楽の様に寝込んでいるが、その表情は険しかった。
 こんな顔付きになっていたとは――。

 眉間に深い皺を寄せ、頬をゆがめて歯噛みしたその苦悶の表情は、起きている時よりも10才以上も老けこんでいるように見える。
 もう実際に若くもない。
 しかしその寝顔は老人だった。
 髪も随分白くなった。
 これが妻を巡る事件の後遺症からくるストレスであるのは間違いない。

 そんな厳しい顔付きなのに、下半身はパジャマズボンを下げられ、ローションで粘った陰茎を露出させられている。
 滑稽というも哀れだった。

 そして夫がこんな状態で放置されているというのに、最愛の伴侶は正体不明の招かれざる客たちと一緒になって、自分の女性器についての値踏みに打ち興じている。


「こうしてみると典子のマンコは小さいんだなー」
「だな」
「指一本で結構狭い」
「あん、やだぁ〜」
「奥はどうだろう?」
「深さはあるんだよなー」
「指じゃ届かないか」
「あっ、待って待って、あうぅ〜ん」
「まあ、子供二人産んでるから、色はそれなりだけど、歳の割りには小陰唇の襞も崩れてないし、美マンのほうじゃないか?」
「言えてる。クリも一年半前までほとんど使ってなかったから、皮で隠れた粘膜はピンクだし」
「あっ、そんなに剥かないで・・・」
「でもデカクリは助平だっていうけどホントだよね」
「ああ。典子を見てるとよく分かる」
「だけど典子のマンコは見た目じゃなくて中の襞々で勝負でしょ?」
「そうそう。この絡み具合はオナホには絶対無理だって。典子? お前、そっちに指突っ込んでみろ」


 言われて、女性器をまさぐられ、熱い吐息を洩らし続けていた妻が、渡されたピンクのオナホに細い指二本を忍ばせる。


「どうだ?」
「ヌルヌルして・・・」


 促され、喘ぐようにして感想を述べる。


「中にブツブツがあります・・・」
「片手で自分のマンコに突っ込んで違いを比べてみろ」
「はい」


 妻は素直に反対側の手を股間にあてがい、肉唇にこれも自分の二本指を挿し込み、自らの膣洞の形状を確かめだした。
 男たちは手持無沙汰に、めいめい妻の裸の背中を撫でたり、乳首を悪戯したりしている。


「どうだ、感触は近いか?」


 妻は答えるより先に、


「うう〜ン。あっあっあっあっ・・・」


 と悩ましく呻いた。
 たちまちウケる男たち。


「すぐに気持ち良くなっちゃうんだからな、典子は」
「ちゃんとレポートしろよ?」
「はい・・・。本物もヌルヌルして、襞々があって・・・、でも締め付けて来て、すごく熱いです・・・」


 男たちの笑い声が揃った。
 そのボリュームを絞るのにひと苦労といった風情。
 典子の二本指が、膣口に出たり入ったりしているのが見える。
 このカメラだと遠いのだが、男の手持ちのカメラはその妻の様子をアップでずっと狙っていた。

215名無しさん:2018/11/04(日) 23:22:37

 真っ赤な顔の妻の指の動きが速くなる。


「あっ、あっ、あっ」


 と好い声が口から漏れ出した。


「あ〜あ。オナニー始めちゃったじゃん?」
「ダメだなぁー、典子?」
「まあ、どうせ素人にはオナホの違いなんて分からないよ。で、アダルトショップの店員にも指で探られたんだろ?」
「ああ〜ん、そ、そうですぅ〜」
「色も似てたほうがいいって、写真も撮られたんだって?」
「あああ〜、そうですうー。あっ、ハッハァッッ・・・」
「ビデオは?」
「撮られました〜。・・・うくっ、うんうん、くふぅ・・・」
「まさかハメてはないよな?」
「いえ。やりました。おまんこしました。ウンウン・・・あああぁっ」


 もう会話の中におまんこという言葉を普通に使うようになった妻。
 さらりと日常用語のような、さりげなさだ。


「どうして?」


 嬉しそうな男は問いかけながら、屈みこみ重力で体積を増やした妻の乳房を強く揉みこんだ。


「指よりそっちのほうが、奥までよく分かるからって。ううううくぅぅ・・・」


 北九州のアパートから帰って来た時に、妻に電話がつながらず、結局タクシーを使わなければならなかったことを怒っていた頃が懐かしい。
 いまから思えばなんと他愛のないことだったろう。
 あれから一年半の時を経て、今では何をどう怒っていいかすら分からない事態になっている。


「へえ〜、それで鑑定できたって?」
「はい。近いのがあるからって。狭くて、ビラビラ付きで、奥が深いオモチャが。ああっ・・・」
「そんなの口実に決まってるだろ? 典子とやりたかっただけだな。誰とやった?」
「念のために店長さんと、あと店員さん二人とも・・・」
「ほお? 店員ともやったのか? そいつは若かったのか?」
「はい。一人はまだハタチくらいで・・・」
「典子は若いの好きだからなー。1回じゃ終わんなかったろ?」
「えっ? でも時間がなくて、その人とは2回だけです・・・、ウウっ・・・」


 熱がこもり出す妻の指戯。
 アダルトショップでの顛末を話すうち、身体がさらに燃え上がって来たようだ。
 頭を下げて、掲げたお尻を少し落とした中腰のはしたない格好。
 その突き出した股間の肉唇の狭間に、妻の二本指が差し入れられ、猛烈なスピードで出し入れされている。


「まあ、そういうことなら、似てるんだろう。貸しな」


 若い男は典子の手からオナホールを無造作に取り上げ、手淫に没頭している妻の指を股ぐらから乱暴に引き抜かせた。
 そして、熱い蜜を滴らせ、お預けをくっている妻の媚肉の合わせ目に、今度は自分の指を荒々しく挿入した。
 そうしてもう片方の手の指をオナホールの中に突っ込み、感触の違いを見極めようとする。


「まあ、狭い感じは似てるけど、本物は指を嬉しそうにキュウキュウ締めつけて来るし、中で襞がウネウネしてて、全然違うな〜」


 男は妻の後ろ向きに突き出された性器の奥深くまで指で探って、


「ま、とにかく真剣に選んで貰ったってことだな。旦那のオナグッズのために、身を投げ出すなんて、典子はほんとに人妻の鑑だな」


 妻の股間を指でこねくり回しながら、皮肉を浴びせかける男。
 嘲笑を受けて俯く妻だが、その屈辱がまた性感を高めるのか、その頬がポォーッと火照った。
 どこまで壊れてしまっているのだろう?
 私の愛する妻は――。

216名無しさん:2018/11/04(日) 23:25:41

「よし。旦那を気持ち良くさせてやれ。もう、お前の淫乱マンコには突っ込めない気の毒な旦那だ。オナホールでじゅうぶん満足できるように、お前が調教してやれ。調教され続けのお前に調教される旦那。こりゃ、なんとも惨めだな〜」


 若い男はまたもゲラゲラ笑った。
 他の男たちの笑いもそれに揃う。
 妻の赤らんだ顔には一瞬翳がよぎったが、それでも何も言わない。


「ほら? 旦那がほったらかしで縮んじゃってるぞ。フェラで立たせてやれ」


 男に命じられた妻は、ベッドの上に上半身を乗り出した。
 そして私のしぼんだ股間に目を落とす。
 そこに顔を寄せた妻は口を使う代わりに、汚れた靴下でも摘まむように、二本の指先で縮んだ私の陰茎を持ち上げた。
 そして無表情のまま手コキに入った。

 妻は手コキですら達人の域にあるのだろう。
 たちまち妻の掌の中でそそり立ってくる私の愚息。
 男たちのはためらわずに咥え、私のは咥えないのか・・・?
 妻の真意は分からないが、その姿は、もう旦那には口での奉仕もしたくない、という意志表示の様に見えた。
 改めて言い様のない情けなさが、私の胸を吹き抜けて行く。


「冷たいなあ、典子。もう旦那には興味ないか」


 若い男が面白そうに囃しながら、妻に手にしたオナホールを手渡す。
 受け取った妻は、実に雑な感じで、私の亀頭をピンクの物体の穴に差し込んだ。
 その作業の間に、最初にカメラを回していた男が妻の背後に覆いかぶさり、バックからあっさり挿入を果たしていた。
 妻はそいつにハメられながら、感情を失くしたように、淡々とオナホを上下にしごいている。
 カメラを若い男に渡したバック責めの男は、今度は両手で妻の腰をつかんで、ゆっくりゆっくりと、しかし力強いピストンを開始した。
 すぐさま寝室に響き出す妻の熱っぽい喘ぎ。
 私が毎日寝ている寝室が、異様な空間となっている。


「おお、旦那も気持ち良さそうだ。オナホの中でギンギンに、おっ立ててるだろ? 愛する妻の愛情たっぷりのオモチャ責めに有頂天ってとこかな。さあ、またそろそろ夫婦の会話を始めようぜ、典子? 夫婦そろって気持ち良くなってるところで、別れ話っていうのもナニだけどな?」


 若い男はカメラを回しながらヘラヘラ笑いをしている。
 もう一人は黙ったままで、妻の乳房を揉んだり、妻の茂みの奥に手を入れ、クリトリスを刺激している模様だ。
 妻の背後で勢い良く腰を使っている男が、ピストンのスピードを少しゆるめた。
 追い上げられかけていた妻は、喘ぎを鎮めて、息を整えている。


「さ、言うんだ、典子。ちゃんと別れの挨拶をしろ。正面切ってはとても言えないからって、せめて寝てる旦那にでも挨拶しておきたいって言い出したのはお前だぞ」


 強い口調で言われ、右手でオナホを上下させている妻が、思いつめたように口を開いた。


「あなた・・・私みたいなのが妻になって・・・すみませんでした。あの社長の言ってたことはホントです・・・。私は・・・もうあなたの知ってる私じゃないんです・・・。自分でもどうにもならない・・・。どこまで堕ちたのか・・・知らないのはあなただけ・・・」

59

「今だって・・・おまんこされて、気持ち良くって仕方ない・・・。あなたを裏切り続け・・・せっかく家に戻してもらったのに、それでも裏切り続け・・・。あなたに私のやったことはとても言えない・・・。許されるとかどうとか・・・もうそんなことじゃないの・・・」


 二日酔いの頭が不意にハッキリして、妻の言葉がクリアに耳に入って来るようになった。
 妻の告白!
 いったい何が語られるのか?
 失踪先へのヒントを掴むことが出来るかもしれない。
 しかし怖い。
 私の知らない妻。
 それを知るのが怖い。

 ソファに座る私の膝が猛烈に揺れ始めた。
 膝だけじゃない。
 両脚。
 胴体。
 身体全身で震えていた。

 しっかりしろ!
 もう修羅場は幾つも抜けてきたはずだ!

 自分自身を叱咤する。
 しかし、おさまらない震え。
 真実を知る恐怖。
 そしてそれはこれまでのDVDでの衝撃に比べても、桁外れに大きい。

217名無しさん:2018/11/04(日) 23:27:25

 薬・・・。
 頭に浮かぶ。
 だがすぐに打ち消した。
 駄目だ。
 それは逃げることになる。

 いったんビデオをとめて、気を落ち着けてから・・・。
 それも駄目だ。
 このまま見続けるんだ。

 私の身体の中から、消滅しかかっていた勇気のカケラが語りかけて来る。
 そうだ。受けとめるしかない。
 何を聞かされようとも――。


「もう・・・私のことなんか忘れて・・・。あなたの人生を・・・めちゃくちゃにしてしまった女のことなんか・・・」


 妻は言いながら涙声になっていた。
 俯いて、右手だけを機械的に上下させている。

 全裸になって、夫婦の寝室に見知らぬ男を引き入れ、バックで貫かれている妻。
 旦那である俺のいち物をさらけ出させて、オナホでなぶる妻。
 凌辱者たちと一緒になって、俺を馬鹿にしきった映像を撮っている妻。

 人妻として考えるなら即離婚が当たり前の非道の振舞いだ。
 それでも俺の心の中に「何故だ」という思いがある。
 だんだん強くなる妻の嗚咽を聞いていると、やはり妻は強制され、全てを無理やりにやらされただけではないかとの思いが湧く。

 男との接し方がよく分からなかった典子。
 男を苦手としていた典子。
 うぶだった典子。
 その典子が俺や子供を捨て、自分から家庭を離れようとするだろうか?


「ほら、しっかり右手を振るんだよ。旦那が出さないと、オレたちはいつまでも帰んないぞ」
「あんっ・・・ああぁ」
「ほら、旦那に、私がいなくなってもこのオナホを私と思っていっぱい射精してね、って言わないと」
「そうそう。そして、私のほうは皆さんのオナホ代わりにおまんこを沢山使ってもらいますから、ってそれも言わないとな」


 横から、乳房を飽きもせずに延々揉み続けてる男も、嬉しそうに合せる。


「こ・・・このオナホで・・・あなた・・・」


 今や泣きじゃくっている妻が言葉を詰まらせる。
 やはり本心では妻は別離を嫌がっているんじゃないか?
 20年の間、俺や子供たちと楽しく過ごした過去は事実なのだ。
 小さな不満とかはあったかもしれない。
 しかし妻にとっても幸せな毎日であったことは絶対に間違いない。
 やはり奴らが妻をうまく丸め込んで・・・。
 考えが千々に乱れる。
 精神はもうズタズタ。
 すでに私は発狂寸前だった。

 いや、違う。
 残念ながらそれは違う。
 妻が同意しなければ、奴らだって妻を強引に連れ去る訳にはいかない。
 そんなことをすれば誘拐だ。
 冷静に考えれば、妻はやはり自ら家庭を去ったのだ。
 私と真菜と明弘を――家族を捨てたのだ。
 哀しい結論に辿りつくしかない現実。

218名無しさん:2018/11/04(日) 23:28:22

 家族と離れる実感が込み上げ、感傷的になってただ泣くだけの典子に、若い男が言った。


「典子、一回逝け」


 その言葉を合図に、背後の男が猛然とピストンのスピードを上げた。
 簡単に追い上げられる妻。


「あっ、あっ、ああぁーっ」


 大きな喘ぎ声を出し、あわてて片手で口元を押さえる。
 それでも火のような息を吐き出し、快楽の絶頂に向かって駆け上がっていく。
 後ろからズンズン突かれて、弾む前屈みの上体を支えられず、ベッドに突っ伏した。
 伸ばした右手はピンク色のオナホールを握っているが、もう動かすことは出来なくなっている。


「うっ、うっ、うぅっ」


 手で押さえて、必死に呻き声をこらえる妻。
 それでも、もはや性感の下僕と化した妻は、絶叫に近い喘ぎを放ってしまう。


「あああーっ、すごっ、すごっ、もうー、もうおぉぉー!」


 完全に明弘の部屋まで聞こえるボリュームだ。
 深夜なら隣近所にまで響きわたっても不思議ではないかもしれない。
 とっさに妻はシーツに噛みついた。
 口をベッドに押し付けて声を潰そうとしている。
 シーツはたちまち涎だらけになった。
 そのシーツごと、妻の顔は後ろからのピストンで、前後に激しく揺れている。


「がああああぁぁぁーー! いっくぅーー!」


 もしベッドに顔を突っ伏していなかったら大絶叫だっただろう。
 かなり声は殺されてはいたが、大人の女性の生々しいアクメの叫びを寝室に轟かせてしまった。
 これくらい大々的に騒げば、かえって明弘も恐れをなして、部屋に入って来ないかもしれない。
 夫婦が夜の寝室で何かをすることは明弘だってもう知ってる筈だ。

 それにしても、悲鳴のような快楽を教える妻の声。
 私との行為では、妻は一度も「イク」と言ったことはない。
 絶頂を迎えても、喘ぎ声が少し荒くなるだけだった。
 常にビデオを見ている顧客のことを考えて、調教師に言いつけられたように、自分の感じた様子を表現するよう躾けられたのだろう。
 確かに、絶頂に至るまでに快感の言葉を喚き散らす姿は、またも私の知らない妻の一面だった。


「典子、気持ち良かったか?」


 カメラを持った若い男が少し優しい口調で訊いた。
 典子は恥じらうように目許を染めた顔を上げて肯く。
 そこのシーツは涎でベチョベチョになっていた。


「さあ、また再開だ。旦那はオナホの中で萎んじまったかな?」


 言われて妻がオナホをしっかり握り直す。
 私の愚息は中で縮んでいたようだが、妻はオナホを微妙かつ的確に動かして、再度勃起させたようだ。
 まるで壷の中で複数のサイコロを器用に縦に立ててしまう賭場での鉄火の女壷振りのよう。
 男のペニスを扱わせれば、何をやらせても上手な妻だ。

219名無しさん:2018/11/04(日) 23:29:18

 背後の男は今回はまだ放っていない。
 ゆっくりと腰を打ち付け始める。


「おら、気をやってシャキっとしただろ? いつもここで泣いちまうんだからな。典子?」


 ずっと俯いて伏せていた妻の顔が上がった。
 まだ涙の跡はあったが、もうそこには吹っ切れたような表情があった。


「言わなきゃ。典子?」


 妻はまっすぐ私の寝顔に目を注いでいた。
 夫でもない男にイかされて、現状をリアルに認識したらしい。
 右腕を今までと違い、力強くスライドさせている。


 ニッチャ、ニッチャ


 オナホから粘音が大きく響くようになった。


「あなた・・・家に帰る資格のない私を・・・連れ戻してくれて・・・嬉しかったです・・・でも・・・」


 妻はまた口をつぐんだが、思い直したように、すぐにハッキリした口調で話し始めた。


「もう身体がとまらない・・・去年あなたが知らない間に・・・いっぱいされたの・・・普通じゃないこともたくさん・・・あなたが見たDVDが全部じゃない・・・ほんの一部・・・もっと凄いこともいっぱいしてるの・・・」


 妻の口から喘ぎ声が漏れた。
 その告白に興奮したのだろうか。
 依然として背後から責め続けている男が、腰のスピードを上げている。


「うううっ・・・色んなことを身体に覚え込まされて・・・最初は嫌だった・・・あなたに打ち明けて・・・助けを求めようかと思った・・・でも・・・してることがバレるのが怖かったの・・・私怖くて・・・あっ、あっ、ああっ!」


 妻は後ろからしっかりと腰を打ち込まれて、上体をのけ反らせて喘いだ。

 典子・・・。
 以前アパートに決別の手紙とDVDが送られて来たとき以来の極度の緊張。
 あの時もそれまでのDVDのような客観性はなく、俺に対するメッセージを直接投げかけてきた妻。
 見終わった後、身体を動かす気力すら無くし、混乱の極みに陥った自分。

 今回は直接ではない。
 妻が告げている相手は寝ている自分。
 DVDの中の俺は昏睡し、意識がない。
 妻が話しかけていることを知らない。
 妻の語る内容など分かりようがない。
 だが妻はいずれ俺がこのDVDを見るということを知らされていたのだろうか?

220名無しさん:2018/11/04(日) 23:30:38

 最初の○○ホテルでの妻との会見で、弁護士風のやり手の中年男は、


『安心してください。今回は旦那に知らせない方針だそうです。DVDを送りつけたり、手紙を出したり、挑発はしません。少なくとも一年間はね』


 そう言っていた。

 たしかに私もこの一年、妻の破廉恥な裏の生活を、まったく気づかずに過ごした。
 だが妻がこうやって熟睡中といえども俺にメッセージを発しているということは、やはり、DVDは失踪後には旦那に全部見せるぞ、と通告されていた気がする。


「・・・怖くて・・・何もできないうちに・・・変わって行ったの・・・身体の方がいつの間にか・・・全部受け入れるようになっていって・・・そのうち私の方が・・・それを忘れられなくなってしまった・・・厭らしい責めを求めるようにまでなった・・・恥ずかしいことが気持ち良くなって・・・それ無しじゃいられない身体になってしまった・・・刺激が欲しくて・・・セックスのことやプレイのことが・・・いつだって頭から離れない・・・何を思っても厭らしい想像に結びつく・・・四六時中淫らなことを考えてる女になったの・・・」


 耳を覆いたくなるような妻の告白。


『典子の意思はどうでしょうね?』


 勝ち誇ったような長髪社長の言葉――。

 思えば去年だって妻は同じようなことを言っていた。
 一度だって、


「あの人たちに変なことをされ続けてずっと辛かった。気持ち良くなんか一回もなかった。全部脅迫されて厭々やってた。嫌悪感しかなかった」


 そんな風に振り返ったことはないのだ。

 俺は本気にしなかったが、本気にしたくなかったが、実際には妻が決別のDVDの中で告げた通り、あの時点ですでに、


『こんなことが大好きで、離れられなくなった女』


 だったのだろうな。

60

「典子? 奥を突かれて気持ち良いか? 夢中になりすぎて、右手をやたら振りまくってたけど、もう旦那出しちゃったんじゃないか? 夫婦は息を揃えることが大事だぜ?」


 若い男の言葉に、ハッとしたように腕の動きをとめる妻。
 おそらく後ろの男が中出しをする瞬間に、妻も気をやり、私も射精させる、という神業のようなタイミングに合わせろと、妻は命じられているのだろう。


「ほら? まだ話すことがあるだろ? その後みんなで一斉にフィニッシュしろよ?」


 からかうように促され、焦ったように妻が喋り出す。
 腰をつかまれ、男に後ろからピストンされながら、ベッドの上で死んだように眠る、疲れ果てた老人のような私の顔に、妻は辛そうに視線を据える。


「あなた・・・妻として・・・母として・・・もう一度やり直すつもりだった・・・でも無理だった・・・身体が疼いてどうしようもなくて・・・オナニーじゃ変態性欲の虜にされた身体は満足しない・・・そんなときに誘いがあって・・・私に家庭を選ぶか調教を選ぶか・・・一年間試せばいいと言われて従った・・・すぐに分かったの・・・一年も要らない・・・淫らな私は・・・異常性欲の世界からとても離れられない・・・その一年がもうすぐ過ぎる・・・ごめんなさい、あなた・・・こっちを選びます・・・妻を捨て・・・母を捨て・・・女として・・・私は社長のおまんこ奴隷になります・・・」

221名無しさん:2018/11/04(日) 23:31:56

 若い男はそんな妻の姿を、手持ちのビデオカメラでじっくりと撮っている。
 今は部屋の空間は静けさを取り戻し、妻の独白と、軽く肉の打ち付け合う、ペシンペシン、という音のみが聞こえていた。


「おぉっ」


 妻をバック責めしていた男がいよいよ耐え切れなくなったようだ。
 欲望を解き放つべく、腰を前後に勢い良く振り始める。


「あなた・・・夫婦の寝室で・・・自分は別の人におまんこされて・・・旦那にはオナホールを使う・・・私・・・こんな酷いことまで・・・できる女になりました・・・あっ、あうっ、あくくぅっ、むむっ!」


 妻もまた勢い良く駆け上がっているようだ。


「・・・け・・・軽蔑していいよ・・・気持ち良いことのためなら・・・なんだってやる・・・それが私です・・・ああっ、あああぁっ!」


 感極まりつつある妻を、ハメてない左右の男たちが面白がって煽る。


「典子? もっと正直に言ったらどうだ? でかチンポのためなら、なんだってやるって?」
「そうそう。若くて硬いチンポのためなら、なんだってやる、でしょ?」


 妻の裸身を撫で回しながら、楽し気に笑いあう男たち。
 妻は白目を剥いて錯乱状態にあるようだ。
 うわごとの様に語る口元から、だらしなく大量の涎が垂れてきた。


「・・・そ、そう・・・チンポのためだったら何でもやるの・・・硬くて長い・・・ぶっといチンポのためだったら家族も裏切るの・・・典子は・・・典子は・・・そういう女なのぉー! ああー、くくくぅっっ!!」


 とうとうアクメの大波が妻に襲い掛かったようだ。
 しかしさっき注意されたせいか、右手は休むことなくオナホをつかんで上下させている。
 忠実な奴隷そのものの妻。


「よーし。もう我慢せずに大声を張り上げろ。息子に聞かれたっていいじゃないか。ぶっといチンポのためなら家族も裏切るんだろ? 聞かせてやれ。恥ずかしいメスの鳴き声を!」


 男に誘導され、もう訳が分からなくなっている妻は素直に従う。


「おおおぉーーっ、すごいっ! すごいっ! すごっ! いいよぉー、いいよぉー! ああっ、イキそうっ! ああっ、ダメえぇーっ! ダメッダメダメッ! ああぁーっ、ああぁんん〜っ!」
「そうだ。いつものように誘ってみろ、典子?」
「ああっ、もっと頂戴っ! もう一本っ、もう一本頂戴ぃーっ!」


 もう見境のなくなった妻の声は、ほぼ絶叫に近かった。


「どこにだ?」


 若い男はじらすように楽しんでいる。


「ああっ、お、お尻にーっ!」
「なあんだ? いつもみたいにちゃんと言わないと、あげられないよ?」
「の、典子はぁー! アナルで感じるぅー! マゾ牝ですぅー!」


 男たちも、もう遠慮せずに爆笑の渦だ。


「あちゃー、今のは息子に聞こえちゃったなー。母親がマゾ牝だってバレちゃったけど、どうする、典子?」
「欲しい。欲しいのっ。典子のさもしいお尻の穴に、ぶっといチンポをねじ込んで下さーいっ! お、お願いしますうぅーっ!」
「しょーがないなあ・・・」


 一度妻のアナルを犯した二番目の男が、笑いながらズボンのベルトを緩めた。
 ずっと妻を犯している男は、いったん腰を離して、床に寝そべった。
 間髪入れず、対面騎乗位でその上に跨って、自ら腰を落とし込んで行く妻。
 上体を倒し込む。
 そしてその背後にズボンを脱いだ男が立った。
 二穴同時も妻にはもう慣れたものなのだろう。
 さしたる苦労もなく、性器と肛門とに別々の逞しい男根を埋め込んでしまう。

222名無しさん:2018/11/04(日) 23:33:08

「アアアァァーッ! いいッ! いいのォーッ!」


 入れ込まれ、男たちがピストンを開始すると、ますます身も世もなく悶え啼きを始める妻。
 本当に今にも明弘がドアを叩きそうな尋常じゃない叫び。


「ああーっ、おまんこいいっ! おまんこいいよぉー! ケツも、ケツも掘って! もっと深く掘って! オカマをガンガン突いてぇ〜〜!」


 若い男はそんな典子のメスっぷりを嘲笑いながら、乳房に刺激を加えつつ、ビデオカメラでしっかりと典子の痴態を内部のハードディスクに残している。


「ああっ、いいっ! すごっ! すごっ! もっとぉ、もっとぉ! 犯して、典子を犯してっ! たまらないっ! おまんこいいっ! ケツもいいっ! 二本いいっ! 二本いいよぉーっ! イカセて、典子をイカせてっ! 変態人妻のぉー、典子をイカせてぇーーっ!!」


 目を閉じ、首を振り、髪を乱し、わめき立てる妻。
 狂人のようだ。
 おしとやかな妻とは思えない。
 オナホールを握ったその右手は止まったり、またメチャクチャに振り立てられたりしている。
 もう無我夢中の動きのようだった。


「ぐあはぁぁーーーー! いくいくいくいくー! いっくぅぅーーーっっ!!」


 いきなり妻が吼えた。
 また極めたようだ。
 それに合わせ、二人の男も同時に爆ぜたらしい。
 妻の身体はビクビクと震えている。
 快楽の絶頂に身を任せ、それに浸りきる妻。
 男たちも動かず、射精の快感に身を委ねている。
 男二人に女一人。
 変態セックスの同時絶頂。
 精液を体内に二人から注ぎ込まれる妻。

 膣と肛門。
 アナルを開通させられてから、近頃の妻の定番はこれなのか?
 もともと複数プレイの多かった典子。
 膣への中出しだけで、人生を狂わせるところまで行っていたのに、こんな飛び抜けた快感を植え付けられてしまったら、典子はどうなってしまうのだろう?

 怖くなるような妻のイキっぷり。
 硬直していた妻の肉体が、ほおぉー、という大きな吐息を合図に弛緩した。
 妻の腰を支えていた下の男も、背後からアナルを味わった男も、やっと放出を完了して、満足げに身じろぎをし始めた。


「典子、良かったのか?」


 若い男が妻の顔にかかった汗ばんだ長い髪をかき上げてやり、うっとりと陶酔したその表情をまたもやビデオにおさめていく。
 こんな狂態を撮影されてしまったら、どちらにしろ妻は奴らの言いなりになるしかないだろう。
 男たちが妻の身体から生殖器を抜き取ると、妻は絶頂直後の身体をダルそうに起こしながらも、ひとりひとりに丁寧なお掃除フェラを施した。


「典子? 旦那は出したのか?」


 忘れ去られていた私の股間のオナホールを、妻が指先でつまんで上にあげる。
 ブニブニと揺れるピンクの物体は、中に仕込んでいた肌色の肉根を吐き出した。
 とっくにしぼんでいた私の愚息は、ツルンという感じで外へ滑り出した。
 たらりと少量の精液らしき液体がオナホから流れ出る。
 男たちは帰り支度なのだろう、服を着こみ始めた。


「ほら、旦那の後始末くらいしてやれ。妻の役目だろ?」


 皮肉っぽく言われて、妻は丸裸のまま、私の下腹部に近づいた。
 そうしてしなびた陰茎を無表情で眺めていたが、お掃除フェラはしてくれずに、傍らのティッシュボックスから一枚引き抜き、無造作にソレを拭った。
 そしてパジャマズボンの両端に手をかけ、関心なさそうにそのままズルズル引き上げた。


「典子、オナホールを洗って来い。そのままで行くんだぞ。そのティッシュもついでに捨てて来い。この部屋にそんなもん残したら、流石に鈍いお前の旦那も変に思うだろ?」


 妻はオナホと丸まったティッシュを握り、立ち上がってしばらく私の寝顔を眺めていた。
 身体に込み上げる淫気に負け、夫をないがしろにしてしまったと、後悔の念に苛まれているのか。
 それとも単純に起きていないかどうかだけを確かめているのか。
 映像で見る限りではよく分からなかった。
 どちらでもいい。
 私はとっくの昔に打ちのめされていた。

 妻の告白。
 ショックなのか。
 もうそんなものは飛び込えているのか。

 頭をプロボクサーに1ラウンド3分の間、ずっと思い切り殴られているような感じだった。
 確かなことは、妻自身も、自分自身の身体がすっかり変わってしまったことを、重々自覚していたということだった。
 この一年、いったい妻はどんな心境で、家族と一緒に過ごしてきたのだろう?

223名無しさん:2018/11/04(日) 23:35:59
61

 最初、気づかなかった。
 妻が全裸のまま寝室から外に出て、廊下にいる。
 その異常な光景のほうに驚いてしまっていたからだ。

 妻は、穴から粘液を滴らせているピンクのオナホールとクシャクシャに丸まった陰毛の絡んだ白いティッシュを両手に持って、平然と廊下を歩いている。
 しばらくは妻の正面を高いところから撮っていた。
 するとアングルが切り替わり、今度は同じように高いところから妻の後ろ姿を撮るようになった。

 綺麗なスタイルの全裸の女。
 股間から精液が床に垂れている。
 あれをあとで拭いておかないと家族にバレるぞ。
 典子になった気で、変な心配をしてしまう自分。

 妻は明弘の部屋の前で立ち止まった。
 予測外の妻の行動に、急に心臓がドキドキ高鳴りだした。

 どうする気だ?
 中に入るのか?
 あんな格好で?
 まさか?

 妻はじっとしている。
 オナホとティッシュを持ったままで。
 部屋の中の様子を窺っている。

 おい、やめろ。
 いきなり明弘が出てきたらどうするつもりだ?
 まさかカミングアウトするのか?
 実は私は男たちに調教されて家を捨てて奴隷になるの。
 だから素っ裸になってるの。
 そう息子に打ち明けてしまうのか?

 有り得ない。
 有り得ないが今の妻なら何でもやりかねない。

 時間にしてほんの30秒くらいだったのかも知れない。
 永遠にも思える時間。
 アダルトグッズと使用済みのティッシュを持って、明らかに女の絶頂を味わった直後の色っぽい姿態で、息子の部屋のドアの前に丸裸でたたずむ母親。
 息を呑んでいる私を尻目に、やがて妻は何事もなかったように動き出し、家の中にエロスを撒き散らしながら、ゆっくり階段を下りていく。



 切り替わった映像。
 今度はキッチンだ。
 妻は流しでオナホを洗っていた。
 ティッシュはすでに捨てたようだ。
 裸エプロンではない。
 素っ裸で台所に立つ典子。
 キッチンで裸になる主婦なんて殆んどいないに違いない。
 典子だって、一年半前までは、そんなイカれた真似をしたことがない。
 お風呂上がりだって、バスタオルを巻いただけで出て来るなんて品のないことは、絶対にしない。
 必ずきちんと部屋着に着替えて出て来ていた。

 水道をザーザー流して、ピンクの物体にぶつける裸の妻。
 その内腿に、膣と肛門に注ぎ込まれた精液が、白く濁って伝い落ちて来るのが見えた。

 色っぽいお尻。
 もう40歳だが、たしかにAVとしても売り物になる形の良さを誇っている。
 人妻らしいプリプリとした魅惑のヒップ。
 私の知らない間に、ここもどれだけのことを経験してしまったのだろう。

 カメラはまた高いところから撮っていた。
 ダイニング全体を見渡せる位置だが、これも固定されているようで、アップにはならない。

 妻はすぐに水道を止め、いい加減に水切りをして、オナホを濡れたまま流しの脇に乗せた。
 几帳面だったはずの妻にしては、実に適当な洗い方。
 だから引き出しで見つけた時に、まだ粘液が垂れてきたんだな。
 変なことに納得する自分。

 明弘が部屋から出てくるといけないから急いで作業したことはわかっている。
 でも私が放ったオナホを妻が雑に洗ったことで、私まで粗末に扱われた気がして、気分は暗くなった。

224名無しさん:2018/11/04(日) 23:37:18

 続いて妻はキッチンテーブルの上のティッシュボックスから、ティッシュを何枚か引き抜いて、自分の股間にあてがった。
 こちらを向いている。
 何度も女の絶頂を極めた満足感で、未だにほんのり上気した顔。
 実生活ではあまり見たことのない《女の顔》になっている。

 よく拭こうとして妻はガニ股に腰を落としていた。
 そしてゴシゴシとティッシュで股間をこすっている。
 誰も見ていないという気楽さなのか、典子にあるまじき下品な仕草だった。
 そのティッシュを無造作に妻はごみ箱に捨てた。
 あとで処理しようということなのか?
 男たちの精液と自分の愛液がこびり付いたティッシュ。
 縮れっ毛もたくさん絡んでいるに違いない。
 強い臭いも放っている筈。
 翌朝、気づかれないうちに始末しようという心づもりなのだろうか?

 全裸で正面を向いてカメラに映る妻。
 股間をぬぐう浅ましい格好をやめてしまえば、一転して匂い立つような上品で美しいヌード像だった。


『女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね』


 クレイホテルのスイートルームでの会見の時、長髪社長がそう言っていた。
 AV制作会社の目の肥えたスタッフたちが言うのだから、典子は間違いなく魅力的な女なのだろう。
 もちろん性格や知性など関係ない。
 連中が言うのは、肉体的に、ということだ。
 キッチンの高いところにあるカメラが、そんな妻の姿を撮っている。

 典子はもうあと一二枚ティッシュを取って、股間を拭こうか迷っているように見えた。
 年齢の割りに形の崩れていない双つの乳房。
 大きくはないが美乳と言っていいだろう。
 そしてその先端で尖り切っている赤い乳首。
 下腹部の陰毛は逆三角形型に繁茂して、大人の女性の卑猥さを訴えていた。
 その黒い毛並みは逆巻いて、てんでの向きに乱れている。
 そのことは激しいセックスで散々に擦れ合った直後だということを如実に教えていた。
 斉藤由貴似の美貌。
 男たちにたっぷり満たされて、未だに夢心地といった表情に見える。
 確かに美しい。
 イキ狂った後の典子の何か憑き物が取れたような顔付きは、一緒に暮らしてきた夫の私が見ても、ハッとするような女としての美しさを発散させていた。

 もう股間をぬぐうのはやめることにしたのか、妻はクルリと振り返った。
 そして流しへと向かう。
 スレンダーな妻の肢体には上品さがある。
 歩くたびにモコモコと形を変える満ち張った真っ白な臀肉の盛り上がり。
 男なら誰でも舌なめずりしたくなるような眺めだろう。
 ふと立ち止まる妻。
 そこの床に自分の股間から垂れ落ちた精液の溜りを見つけたらしい。
 よく確認しようと、後ろ向きのまま上体を折り曲げる。
 カメラは遠いが、初めて股間が画面に映った。
 はっきりと晒される妻のお尻の穴。


 ブウゥッ!


 大きな音がした。
 妻がオナラをしたのだ。
 屈んだ姿勢でお腹が圧迫されたのだろう。
 その肛門が収縮する一瞬もレンズは見逃さなかった。

225名無しさん:2018/11/04(日) 23:37:52

 激しいアナルセックルで直腸内に空気が入っていたのか、逞しい肉棒でこすられてお尻の穴が緩んでしまっていたのか。
 オナラと一緒に直腸内に残っていた子種が勢いよく後ろに吹き飛んだ。
 身体を起こして、狼狽したようにおろおろとしている妻。
 精液をどこに飛ばしてしまったかと目で追っている。
 そこで映像は終わった。
 画面が暗くなる。
 これで終わりのようだった。



 私はしばらく何も映っていないテレビ画面を茫然と眺めていた。
 去年のDVD発見から、何度も何度も衝撃を受けてきた。
 奪還劇の直後からは、心療内科に正式な患者としてずっと通っている。
 もう神経はズタズタに寸断され、精神はほとんど崩壊している。
 それなのに、まだそれを上回るショックを与えられる自分。
 妻の裏切り。
 妻の変容。
 男たちには言いなりになり、夫である自分に対しては冷酷な仕打ち。

 わかってはいる。
 連中が自分たちが支配者だと示すためには、妻に旦那をないがしろにさせることが、一番手っ取り早い。
 そのことはよくわかってはいる。
 しかし、もう典子の心の中に俺はいないのか。
 そんな気になって来るのは否めない。

 妻が家を出て行ってひと月になる。
 残されたDVDを見る限り、二度と戻って来るつもりのない覚悟の家出とわかる。
 いつもならやり切れなさの余り、大量の飲酒に走ってしまうところだ。
 だが、それは出来ない。
 さっきのDVDの中に気になる点があった。
 妻がもう想像もつかないほどのセックスモンスターになっていることは、今更ながら身が震えるほどの恐怖だった。
 そしてその事実を私の寝顔に向かって打ち明けている姿は、底知れぬ絶望に私を突き落とした。
 しかし気になったのはそこではない。

 私はまた小部屋の引き出しを漁り、この辺りかと見当をつけ、『Episode6』と書かれたDVDを取り出した。
 テレビに接続のDVDプレーヤーに入れる。

 映像がスタートしたとたん、私の心臓がギュッと縮み上がった。
 妻の一件以来、私はどれほどのストレスにさらされているのだろうか。
 寿命が縮むという言葉がある。
 ぶち当たった出来事に対するショックの大きさを示す言葉。
 私に訪れたこれまでの信じがたい心的外傷の数々。
 私の寿命が平均的な長さなのだとしたら、私は明日あたり死んでしまってもおかしくはない。

226名無しさん:2018/11/09(金) 14:59:40
62

 画面に映し出されたのはわが家のリビングだった。
 いま自分がテレビを見ている空間。
 これも高い位置から見下ろすように部屋を撮っている。

 リビングには複数の客がいた。
 正面にテレビがあって、スイッチは入っておらず画面は消えている。
 ガラステーブルを挟んだ両サイドの一人掛け用ソファに、高価そうなスーツを着た中年の男がそれぞれ腰掛けていた。
 三人掛けの大きなソファ――今まさに自分が座ってDVDを見ている場所には、やはり三人座っている。
 後ろ姿しか見えないが、男、女、男、の順に並んでいる。
 男は同じようなスーツ姿。
 女は赤いドレスのような服をまとっている。

 また留守中に不埒な連中が入り込んでいやがる!
 もう怒る気力なんてこれっぽっちも残っていない筈なのに、反射的にむかっ腹が立ってしまう自分。

 でも何なんだろう、この映像は?
 誰かカメラマンがいて回している感じではない。
 固定カメラのような高いアングルだ。
 それに自分の家族も誰もいない。
 もはや家の中が無法地帯と化しているのか?

 いや――。
 真ん中の女がもしかして妻なのか。
 DVDになっているってことはそうなのだろう。
 ただノースリーブで、大きく背中の空いたパーティードレスのようなものを着ている。
 背もたれに遮られて上半分ほどしか見えない。
 髪を巻き上げてアップにしているから、背中から首筋まで大胆に露出している肌の白さがやけに目立った。
 うなじの数本の後れ毛が妙に色っぽい。

 あのうなじを見ながらバックで突いたら最高だろうな。
 一度しかその体位を経験していない俺は、つい妄想に耽ってしまう。
 そして妻の髪は単にアップにしてあるだけではなかった。
 キャバ嬢の様にゆるく巻き髪にもしてある。
 ただ裸にはなっていない。
 これからなるのかも知れないが、男たちも服を着ている。

 ガラステーブルの上には高級そうな洋酒のボトルが見えた。
 一人掛けのソファに陣取る左右の男たちは手に手にグラスを持って、ときどき喉を潤している。
 三人掛けの男たちも死角で見えないだけで、お腹のほうでグラスを手にしているんだろう。

 いつの映像だろうか?
 不思議になる。
 時間も日付も分からない。
 ただ推測はできる。

 妻のシリーズはひと月に一本くらいのペースでリリースされているようだと目端を付けていた。
 であれば、さっきの『Episode10』が8月か7月くらいの撮影で、この『Episode6』だと2月か3月くらいの撮影という計算になる。
 最初の『Episode1』が去年の10月くらいの出来事だと仮定すると、そう逆算できるのだ。

 時刻については分からない。
 窓は映っていないが、部屋の照明はついていた。
 俺が家にいる訳はないが、もしかすると俺が睡眠薬で眠り込んでしまった深夜とも考えられる。

 妻は剥き出しの肩先に、左側から男のスーツの腕を回されていた。
 右の男は妻の腰を抱いているようだ。
 男たちは左右から妻に寄り添い、もたれ掛かっている。
 普通の来客じゃない。
 まるでキャバ嬢と客みたいだった。

 後ろ向きになっている3人掛けにいる妻と男たちの様子はよく分からないが、一人掛けのソファに座っている男の様子は横からなのでよく観察できた。
 その男は煙草をくゆらしながら、グラスの脚を持って、薄いピンク色の液体を美味そうに飲んでいる。
 その手にしたシャンパングラスに見覚えがあった。
 妻が、お祝いやなんかがあったとき用に、と随分前に買い揃えて大切にしていたものだ。
 かなり高価だった気がする。
 俺ですら一度くらいしかそのグラスで飲んでいない。
 買った日に、試しにということで、妻と二人で安いシャンパンで乾杯をした。
 それっきり、割れるといけないから、と言って妻が仕舞い込んでしまったのだ。
 以来出す機会のなかった高級グラス。
 それをこんな男どもに提供してしまっているのか。


「お母さん・・・」


 緊張しきった声が画面の外でした。
 娘だ。
 真菜の声だ。
 娘も家にいたのか。
 こんな異常な状況下で・・・。

227名無しさん:2018/11/09(金) 15:00:29

 妻はその声に反応して伸び上がるように腰を浮かした。
 そしてクルリと入口の方を振り向いた。
 カメラが妻の横顔を映し出す。
 想像したこともない情景。
 その口元には、なんと煙草が咥えられており、紫の煙をたなびかせていた。

 驚いてテレビの前で硬直してしまった私をよそに、画面の中の妻は気軽に立ち上がって、ダイニングのほうに歩き出した。
 正面から映るその顔を見て、私は再び凍り付いた。
 妻は微笑を浮かべている。
 しかし妻の顔には見たこともないドギツイ化粧がなされていた――。

 まるっきりの夜の女。
 素人がするメイクではなかった。
 眉は茶色のペンシルで細く長く描かれ、青いラメ入りのアイシャドーに黒のアイラインが入り、目がいつも以上にパッチリ大きく見える。
 もともとが長くて必要もない筈の付け睫毛も、二重に付けたくらいの派手さとなっている。
 すっきりと通った鼻筋を更に際立たせるためのノーズシャドウ。
 不自然なほどに赤いチーク。
 極めつけは毒々しい真紅の口紅で飾られた唇だろう。
 その毒々しい口紅がべっとりと移った煙草のフィルターを横咥えしている妻。
 鼻から紫煙が噴きこぼれているところを見ると、昨日今日喫煙の習慣に染まった訳でもなさそうだった。

 見違えるような妻の顔。
 正直まったくの別人に見えた。
 いや別人どころではない。
 自分とは異世界の住人。
 非合法の裏稼業の女。
 そうとしか見えない。

 これらの化粧が、妻を美しく変身させるために施されたのでないことは一目瞭然だった。
 ただただケバくなるようにしただけ。
 誰の手によってメイクされたのかは不明だが、完全に悪意がある。
 妻の清楚さ、上品さ、人の良さ――。
 それらすべての美点をかき消している。
 自分の肉体を使って商売をする、そういう女なんだと、ケバい化粧は全力でアピールしているのだ。

 立ち上がったことでドレスもまた全部見えるようになった。
 背中は腰骨まですっかり空いている。
 前の部分も胸元が大きくV型に切れ込んでいるタイプ。
 どう考えてもノーブラだ。
 ここまで背中や肩口が露出していて、着けられるブラジャーはない。
 胸の布地がどうなっているのかは、まだはっきり分からなかった。

 妻はリビングの入り口辺りで立ち止まっている。
 妻が近づいて来ないので仕方なくという風に、画面の右端から娘が入って来た。
 知らない男たちがたむろっている状況に、明らかに戸惑っている様子。
 服装は普段着だ。
 学校の制服ではない。
 かといって部屋着の感じでもない。
 卒業式も終わり、進路も決まった3月の中旬頃の映像なのだろうか。
 深夜という雰囲気ではない。
 その手に大皿を持っている。
 妻は娘に命じてオードブルを作らせていたらしい。
 真菜は妻に似て料理上手だ。
 しかし自分はリビングで男たちと戯れていながら、娘に料理を作らせているなんて!


「あっ、娘さん。すみません。お母さんの就職の打ち合わせの流れで、ついお邪魔してしまって」


 男たちのうちの一人が上機嫌で呼びかける。


「いやー、お母さんに似て可愛らしいお嬢さんだ。料理も上手なんて最高ですね」


 娘をこんな連中に褒められても、ちっとも嬉しくない。
 吐き気を催すような不快感だけが込み上げる。

 しかしこの男たちは何なんだろう?
 全員中年以上っぽい。落ち着いた年頃。
 金回りが良さそうなのはいつものことだ。
 ただ前回リビングに集まっていた男たちの様にギラギラした感じではない。
 どちらにしてもDVDに登場しているからには、妻によからぬことを仕掛けるのに決まっている。

 妻と向かい合っている娘の顔は引きつっていた。
 それはそうだろう。
 こんな夜の蝶のような化粧の妻。
 見たこともない筈だ。

228名無しさん:2018/11/09(金) 15:01:01

 実の母親が年甲斐もなくキャバ嬢のような格好をし、顔は安手のバーのホステスの様にいろんな色を塗りたくっている。
 衝撃だろう。

 妻は私だけでなく、子供たちそれぞれに決別しようとしているのだろうか。
 さっきは丸裸で明弘の部屋の前でたたずんで。
 今度は娘の前で、男に媚びを売る商売女のような出で立ちを見せつける。
 子供たちに、自分が居なくなった時に備え、あれは碌でもない母親だった、と忘れ去ってもらうための布石ということなのか・・・。

 間近に妻の姿を見た娘は膝が震えていた。
 そしてその視線は妻の胸にずっと据えられていた。
 妻は何でもない様に、平気な顔をして煙草の煙を吹きかけている。

 ここでカメラアングルが切り替わった。
 妻の正面が映る。
 胸のカップにはドレープが加工されていた。
 かなりゆったりとした襞。
 そしてそれは乳房の上のほうだけを装飾している。

 このドレスは高級品なのだろう。
 素材の柔らかさや光沢、色艶などでそのことは分かる。
 数万円?
 いや下手すると何十万かするのかも知れない。
 大きくVカットされた胸元。
 そこに覗く妻の白い肌。
 Cカップの妻の胸の谷間。
 そしてドレープの下の胸の部分の布地には、はっきりと乳首の突起が確認できた。
 ドレスは身体にぴったりとフィットするタイプ。
 身体の線は完全に出ている。
 女の曲線。
 そればかりではなく、乳首の形状までクッキリ浮き立たせている。
 乳暈の広がりすら分かってしまう、その透け具合い。
 娘は呆気にとられたように、その薄い布一枚しか被せていない母親の硬く勃起した乳首を見詰めていたのだ。

 やがて妻は礼を言って、大皿を受け取ったようだ。
 チーズの盛り合わせやローストビーフ、テリーヌが乗っていたが、唐揚げや大きな海老のフライなど揚げ物もあった。
 それを調理していたのだろうか。
 真菜は妻の得意料理をそのまま受け継いでいる。
 逃げるように去る娘の足音がした。
 妻の後ろ姿が映る。
 シースルーとまでは言わないが、極薄の生地は、妻がひも状のTバックを穿いていることまでも明かしていた。
 妻のそこだけムッチリと満ち張った臀肉。
 ドレスはミニではなかったが丈は膝上までで短い。
 ノーパンでないだけマシとせねばならないのか。
 苦い汁を飲み込む気分。
 これは対等の客を招く姿ではない。
 接待。
 それも特別に色濃い――。


『所有主の利害関係者への接待要員として』


 あの不気味な文面がまたも脳裏によみがえって来る。

 再びカメラが切り替わった。
 キッチンで娘を上から映している。
 私の推測がだんだん正しく思えて来る。
 娘は思い詰めたような表情をしていた。
 もうこれ以上の料理を作ることは頼まれていないようだ。
 娘の手に携帯電話が握られた。
 どこかに掛けようとしている。
 直感でピンときた。
 私に掛けようとしているに違いない。
 母親の異変を知らせようとしている。
 だとすれば日中。あるいは夕方。
 少なくとも夜ではないのだろう。
 番号を携帯画面に呼び出して、それでもまだ決心がつかないのか、娘は難しい顔をして考え込んでいる。
 リビングからの笑い声に、娘の顔がそっちを向いた。
 そして諦めたように携帯の蓋を閉じた。

 私はそこでDVDを止めて立ち上がった。
 キッチンへと行き、適量の睡眠薬を飲んだ。
 月曜は連休の谷間の平日となる。
 明日は早起きをしなくてはならない。

229名無しさん:2018/11/10(土) 00:39:42
63

 次の日、私は会社に連絡をして有休を取った。
 そしてそのあと、去年お世話になった興信所に電話をした。
 全ての作業が終わったのは、夕方だった。
 興信所からは専門家を含めて三人所員が来てくれた。
 とうとう一年が過ぎ、また改めて正式に事件の依頼をすることになってしまった。
 前回の探偵はもういない。
 新しい担当者は、若い真面目そうなメガネの探偵。
 彼が中心になって家中の捜索を行った。
 そして隠しカメラがリビングと寝室からそれぞれ一個ずつ見つかった。

 昨日見たDVD。
 寝室で妻にオナホを使わせ私を嬲る映像。
 そして妻が廊下に出た映像。
 キッチンにいた映像。
 ケバい化粧で男たちに囲まれていたリビングの映像。
 娘の真菜が恐怖に怯えた表情で携帯を取り出していた映像。
 これらはすべて高い場所から固定カメラで撮影したとしか思えないアングルだったのだ。
 手持ちのハンディタイプでは撮れない画角。
 私は家の中を隅々まで調べてもらうことを決意した。
 そしてやっと夕暮れ近くになって、作業が終了したのだ。


「あれから前任者と話しました」


 メガネの若い探偵は帰り際、神妙な面持ちで語った。


「彼は非常に責任感の強い人なんです。自分の引継ぎ業務でなにか不便がないかとの気遣いから、アフターフォローの電話を入れてくれました。前に会社の者が話したと思いますが、競合関係になるとのことで向こうの連絡先等は明かしてくれませんでしたが、あなたから問い合わせの電話があったことを伝えると非常に心配していました」


 去年の妻の奪還劇。
 沈着冷静なあの探偵がいてくれたことが、どれだけ大きな助けになったことだろう。
 その彼がいまも自分のことを心配してくれている。
 四面楚歌のようなこの状況で、私の胸がしみじみ熱くなった。


「彼が言うには、福岡からは遠方になるので、費用の面もあり自分が調査に赴くことは出来ないが、とにかく力になってあげてくれとのことでした」


 もし彼がいなかったら、奴らの目論む妻の失踪劇は去年の段階で成就していたに違いない。
 一年早い段階で妻が奴らの奴隷として連れ去られていたことは明白だ。
 いまもひどい状況だが、もっと凄惨なことになっていただろう。
 彼は私の恩人とも言うべき存在だった。


「そこで私は前任者の残した調査ファイルに目を通しました。悪質極まりない反社会的な勢力に奥様が目を付けられ、裏社会に引きずり込まれる寸前だったと記されていました。警察事案相当だが、その後一味は行方知らず、とのコメントも添えられていました。調査終了の棚に分類されていましたが、文面からは彼がまだ非常に強い懸念を残していたことが伝わって来ました」


 それほどあの探偵が妻の事案について危険視してくれていたとは!
 私はやはり甘かったのだろうか?
 最後クレイホテルのエレベーターから泣き続ける妻の肩を抱くようにして出てきた私は、ロビーで待っていてくれた探偵と話し込む時間もなく、簡単に、請求書は自宅に送っておいてくれ、とだけ言って別れたのだ。
 事件のデリケートな性質を慮ってくれたのだろう。
 その後、探偵からこの件での連絡はなかった。
 妻との関係の再構築や心のケアなどで、てんてこ舞いだったという事情はある。
 でもやはりあの探偵とは善後策を含めて、もっとじっくりと話し合っておくべきだったのではないか?

 あのとき私はただ前だけを向いて行こうと決めていた。
 振り返るのは嫌だった。
 私の知らない妻と向き合うのは怖かった。
 逃げだったのかも知れない。
 もう事件はすっかり解決したと思い込みたかったのだ。

230名無しさん:2018/11/10(土) 00:40:50

 やがてメガネの新しい探偵は今日の探索について話し始めた。


「家の中に何台かカメラが仕込まれているというお話でしたが、他のカメラはすべて取り外してしまったようですね。専門装置も駆使して隈なく捜しましたが、音声も送れる特殊カメラがその二つしか残っていませんでした。そしてカメラに指紋は奥様のしかありません。これはコップ等に残った奥様の指紋を採取して照合したので間違いありません」
「連中の物らしき指紋はひとつもなかったんですか?」


 意外の念に打たれて、思わず問いかける私。


「ええ、ありません。あえて言うなら、奧様の指紋だけがクッキリ残っている状況を推測すると、これはわざとつけているんでしょう。もし仮に彼らと連絡がついたとしても、どうせ奥様が勝手にやったと言い張るでしょうね。そのための工作だと思います」
「典子が・・・」
「そうです。別居中の場合、その相手の配偶者が隠しカメラを仕掛けたりしたケースで、家宅侵入罪が成立した事案もあります。その時は男たちを教唆犯なり共犯と出来るかもしれませんが、今回は直前まで同居されていた訳ですからそれも無理です」


 すべて強制されてのことだ。
 20年一緒に暮らしてきた夫の俺にはすべてわかっている――。
 それでも身を斬られるほど辛い妻の裏切り。
 そして専門的知識をさらりと披露する若い探偵。
 やはりここの調査員は教育水準が高いと感じる。
 最初のこの会社を訪れた時に得た印象。
 古びたビルの一室ではなく、カウンター型できれいな不動産屋のような室内に、ここなら任せてもいいという安心できる雰囲気を感じたものだった。

 それにしても何から何まで典子ひとりに手を汚させるわけか。
 卑劣なやり口に怒りがムラムラ湧いて来る。


「調査はひと通り終わりましたが、まだ懸念があります。もしかすると合鍵を作って奥様の失踪後も、この家に自由に出入りしていた可能性があります。カメラで見てれば危険はありません。電波で飛ばして、近所の例えばワンボックスカーなどで受信してあなた方を監視していた、ということも有り得ます。とにかく手口は悪辣のひと言。油断は禁物です」


 そのとき私はどんな顔になっていただろうか。
 残忍な連中だとは漠然と思っていたが、これほどとは。


「前の担当者から伝言があります。もしあなたと話す機会があるんだったら伝えてくれと言われていました。決して相手を一介のアダルト屋と思わないように。ヤクザよりも凶悪でタチが悪い。ある意味マフィアと同じくらいの危険な組織と思ったほうがいい。そういうことでした」


 そうなのだ。
 私も危険な連中との認識はあった。
 人の妻をもてあそぶだけでなく、その夫までおちょくり挑発してくる異常さ。
 そしてそれが緩んだのは妻の言った、


『社長が仲間内で個人的にやってるだけ』


 という言葉。
 それを鵜呑みにした訳でもなかったのだが、あの時はそれで、趣味的アマチュア的な印象を持ち、妻のやっていたことも遊びのように思えてしまったのだ。

231名無しさん:2018/11/10(土) 00:41:43

『AV会社だって認識はなかった。売られてるなんて知らなかった』


 久しぶりに会った妻の証言は、事件をどんどん矮小化させていった。
 男たちと手を切らせ、妻の映像もすべて取り返す、と意気込んでいた筈の私も、


『おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。旦那さんの目の前で消せ』


 との社長の言葉につい納得し、後ろにいた男がパソコンを持ってきてその場で削除したことで、誤魔化されてしまった。
 妻のいた会社は普通の映像製作会社、AV制作会社じゃない、と思い込まされていたからだ。

 お手軽にビデオカメラ一台とパソコン一台で出来てしまうホームムービー、若い男と人妻とのいけない趣味を共有しただけのプライベートビデオ。
 そんなノリにすっかり騙されてしまった。
 本来ならどこかにある商業用サーバーの元ファイルごと、きれいに消去させる必要があったというのに。
 俺は奴らの掌の上に乗せられ、転がされてしまったというのか。
 そして典子はそんな連中に協力して・・・。


「今後も絶対に油断はしないようにして下さい。家も撮影スタジオ代わりにされ、娘さんも撮影されてたとのことですね。これは難しい事かもしれませんが、出来れば息子さんもこの家から出されたほうがいいでしょう。それから、今後ひと月ごとに今回のようなチェックも欠かさないほうがいいでしょうね」


 探偵の言葉が心に沁みた。
 俺が相手にしているのは途方もない力を持った狂った連中。
 そんな奴らに愛する妻、典子が目を付けられ、連れ去られてしまった。
 平凡な人妻が、口に出すのも汚らわしいような凄まじい性調教を長期間受け続け、セックスのことしか考えられない性獣に変えられる。
 そんなまるで別世界のようなことが、自分の身に降りかかっている現実。

 そして考えなければならないこと。
 いつの時からか我が家のプライバシーは丸裸にされていたということだ。
 こんなれっきとした犯罪でも、警察は動いてはくれない。
 なぜなら犯人は家族であるからだ。
 家族が家の中にカメラを仕掛けたところで、家庭の揉め事にはなっても、立件は無理だろう。
 仮に逮捕できるんだとしても、罪は全部典子ひとりが被ることになる。
 悪党一味は常に万全の逃げ道を用意して、絶対に火の粉のかからない安全地帯から、悪だくみを仕組んでいるのだ。

 隠しカメラはDVDから推定すると、10台近くは家の要所要所に仕掛けられていた筈。
 いまは2台しか残っていなかったということは、どの時点かは不明だが、それ以外は撤去してしまったということだ。
 それら取り外した痕跡は探偵が確認してくれた。
 そして残った2台のカメラ。
 リビングと寝室。
 いずれも家での私の暮らしぶりを暴くのに格好の場所。
 茫然となる。

 そうか。
 奴らは私がここひと月、妻のDVDを見て半狂乱になっていたところもビデオで押さえていた訳か。
 そしてそれを見て腹を抱えて笑っていた。
 もちろんそれだけじゃなく作品に仕立て、顧客に販売しただろう。
 間抜けな寝取られ男の狼狽ぶりを嘲笑い、典子という堕ちた人妻へのちょうどよいスパイスとして、金持ち連中の興奮を誘うために――。


「奥様の映像が残されているそうですが、見るのがお辛いようなら我々がチェックしますか?」


 探偵はためらいがちに言葉を継いだ。
 少し考えてから、俺は返答する。


「いや、チェックは全て自分でやります」
「そうですか・・・そうですね」

232名無しさん:2018/11/10(土) 21:34:15
64

 興信所の人たちが帰って行った夜、放心状態だった俺の元へ、見計らったかのようにAV社長からの電話が入った。
 なんの悪びれた様子もなく、開口一番こう言って来た。


「どうです? まだ離婚の決意はされませんか?」


 マフィアと同じくらい凶悪な組織。
 前回の探偵は私宛への伝言でそう言ったという。
 たしかに・・・。
 奴らの妻への非道な扱いは常軌を逸している。


「典子はどこだ?」


 怒りを抑えようとしても無駄だった。
 典子の行方を知る唯一のチャンスかもしれないと思い、次に電話がかかって来たら冷静になって、ああも言おう、こうも訊こう、と考えていたのだったが、そんなことは頭から吹っ飛んでいた。
 声に殺気が滲むのをどうしようもなかった。


「典子は楽しくやってます。ええ、時々会ってもいますよ。それは典子本人の意思でね」


 厭味な言い方だった。
 こんな奴に隠しカメラのことを言ったところで、蛙の面にションベンだろう。
 そういうネタのばれるDVDをわざと置いている。
 どれくらいで発見されると踏んでいたのか知らないが、すでに万全の手配りを終えているのは確実だ。
 どうせ勢い込んで追及したところで、新たな探偵の言う通り、全てが典子の自発的な変態趣味とかで片付けられるに決まっている。
 ここで、典子を返せ、と怒鳴ったところで嘲笑うだけだろう。
 そういう悪質な連中。
 この電話だって録音している可能性がある。
 そしてまたDVD作品の特典のパーツに仕立てる気かも知れない。
 間抜けな旦那の無力な錯乱振りとして。
 だから冷静でいなければならないことは頭ではよくわかっている。


「離婚に応じるにしても、典子と連絡が取れないんじゃ無理だな」


 そう言ってやると、AV社長は軽い笑い声を立てた。


「ホテルの会見で話し合っておくべきでしたよ、本当にね。離婚の慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話。あのとき旦那さんがもう少し聞きわけを良くしてくださってたら、無駄な時間を費やすこともなかった。結局はこうなってしまったわけだから」


 非はこちらにあるんだと言わんばかりのねちっこい言い様。
 こいつと話していて冷静になんてなれるわけがない!
 奥歯を噛み締め、前回の探偵がマンスリーマンションから自宅に向かう車の中で言っていた言葉を思い起こす。


『お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ』


 その通りなのだ。
 それでも表面上の冷静さを装うだけでも、超人的努力を要した。


「俺はいまだって離婚するとは言ってない。有責配偶者からの離婚申し立ては日本の法制度では実質上成立しないことは知ってるな?」


 低い声で言う。
 今日新しい探偵から仕入れた知識だ。
 社長は鼻で笑った。

233名無しさん:2018/11/10(土) 21:35:06

「あいかわらず頑な方だ。まあ、DVDも全部はご覧になっていらっしゃらないようだから仕方ない。まだ時が掛かりそうですね」


 まだ離婚にOKしない私の態度から推測したのか?
 いや、そうではないだろう。
 これまでの隠しカメラで私の視聴履歴を把握しているに決まっている。


「とにかく典子と連絡を取るのが先だ。お前とでは話にならない。典子を出せ」
「さあ? 典子も気が向いたら電話くらいするでしょう。私も配偶者という訳でもないので強制はできないですよ」


 戸籍上の正式な配偶者でありながら、妻の日常にまったくタッチできず、まったくのつんぼ桟敷に置かれてしまっている私に対する厭味な当てつけ。
 こんな奴と話し合ったって無駄だ。
 去年から夫である俺を馬鹿にしきって来た連中。
 どれだけナメた態度をとられ続けて来たことか。
 いろんな悔しさや腹立たしさが一気に込み上げ、話しているうちに逆上してしまう。


「典子に何をした?! お前らと手を切って幸せに暮らしていた典子に?!」
「旦那さん?」


 声を荒げる私に対して奴はあくまで冷静だ。


「今さら慌てるのはおかしいですね。覚悟してくださいとお伝えしておきましたよ。お忘れですか?」


『覚悟をして欲しかったんです』


 たしかに妻奪還劇の日、クレイホテルで奴はそう言った。
 それがないのであれば典子はうちで引き取る意思がある、とまで言ったのである。


 ――自分と妻との間の覚悟だと?


 ナンセンスにしか感じなかった。
 呼び出されればすぐに出て来て男たちに抱かれる人妻。
 そのリアルな姿を生で見せ、


『そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ』


 勝ち誇るでもなく、まるで数学の公式でも証明するように、答えは必ずこうなるんだといけしゃあしゃあと言っていた。
 それを思い出せと奴は言っている。

 あの恥を忘れ性欲に支配された人妻と典子が同類とでも?
 だから簡単に『ファン』の誘いに乗ってしまったと?


「なにが覚悟だ? 典子はキッパリと『もう、そんな世界に戻りたくない』と言ったはずだ。お前の目の前で。あれが出鱈目だったと言うのか?」


 しばらくの沈黙。
 奴に私の言葉が効いたのかと思っていた。
 でも違った。
 奴は笑っていたのだ。


「本心だったかも知れません。その一瞬だけはね」


 おかしくてたまらないという風に、いったん言葉を区切ると、


「旦那さん、あなたはお腹いっぱいの時にケーキを食べたいと思いますか? 思わないでしょう? あのときの典子もそれですよ・・・。10時間以上眠ったら、すぐまた寝たいとは誰も思わない。食欲、睡眠欲、そして性欲。人間の三大欲です。典子は言ってしまえばお腹いっぱいの状態だったんですよ。思い出してください。典子はあのとき20日間にわたって我々と行動を共にしていた。この意味は分かりますよね?」


 まだおかしさが止まらないようにクックと笑っている。

234名無しさん:2018/11/10(土) 21:35:36

「少しは見栄もあったと思いますよ。あなたに対してのね。そんなことでも言わなければカッコがつかない。それに私たちには都合も・・・」


 奴は言いかけてから思い直したように言葉を切ると、


「まあ、私が典子の堕落を教えてもあなたは本気にされなかった。ただね、どこまで堕ちたのかを一番よく知っていたのは、典子本人です。あんな『もう、そんな世界に戻りたくない』という綺麗事を鵜呑みにするより、何度も繰り返していた言葉が本心でしょう。あなたはそうは思いたくはないでしょうが・・・」


 声は普通に戻っていたが、電話越しにも奴がまだ面白そうに笑っているのが分かった。


『もう私は汚れてる』


 確かに妻はそう言って泣いていた。
 そのことを言ってるのか?


『私には家に帰る資格なんてない』


 それも何度か繰り返していた。

 あの失踪期間。
 奴の表現を借りるなら、ずっと性欲の満腹状態にあった妻。
 そこにどれだけ深い闇が広がっているというのか?

 『Episode10』で眠りこけている私に向かって妻が囁いていたセリフ。
 後ろから男に貫かれながら、喘ぎ喘ぎの妻は打ち明けていた。


『もう身体がとまらない・・・去年あなたが知らない間に・・・いっぱいされたの・・・普通じゃないこともたくさん・・・あなたが見たDVDが全部じゃない・・・ほんの一部・・・もっと凄いこともいっぱいしてるの・・・』


 奪還した後に妻を堕としたわけじゃない。
 奴らはその前に典子をキッチリ型に嵌めていた。
 再構築の努力なんて実る筈がない。
 典子はその時にはお猿さんになっていたのだから。


「待て! お前たちは典子に何をした? 20日間も家を空けさせておいて何をした? 店長って何だ? それはなんのことだ?!」


 ほとんど怒鳴り声の大きさだった。
 私は我を忘れていた。


「それは典子本人からお聞きになったほうがいいでしょう。私から言ってもあなたは信じはしないでしょうし。またそのうち電話させてもらいます」


 切れた。

 そういえば一か月ほどしたらまた連絡すると前に言っていた。
 たしかにちょうど一か月ほどになる。
 だが隠しカメラが破棄されたことに気づいて、すぐに電話してきたのかも知れない。
、私はかなりの監視下にある。
 私の行動も顧客への商品になっていると考えれば、探偵の推測も杞憂ではない。
 前回は一か月後と言っていたが、今回次の連絡時期への言及はなし。

 冷静でいることは不可能だった。
 それはやむを得ない。
 だけどキレてしまったことで、妻を手繰り寄せる重要な糸を、私は自分で切断してしまったのかも知れなかった。

235名無しさん:2018/11/15(木) 08:26:45
65

 次の日は秋分の日の休日だ。
 私は業者に頼み、玄関と裏口のカギを取り替えた。
 これも探偵の薦めだ。
 これでいちおうのプライバシー確保はできた筈。
 それにしてもごく普通のサラリーマン家庭が、暴力団顔負けの巨大組織に狙われるとは、考えてみれば恐ろしいことだった。
 警察はまったく当てにはできない。
 それでも興信所に依頼したことで、やっと味方らしい味方が現れ、心強くなった。



 夜帰って来た明弘と話した。


「実はお母さんは長期で留守になりそうなんだ。いま通ってる高校は寮が充実してるそうだな。食事なんかのことを考えると、そっちの方がいいだろう?」
「いいよ」


 もともと自立心の強い息子だ。
 簡単に承諾してくれた。
 憔悴しきった最近の私の様子。
 息子なりに考えるところがあったのだろうか。
 独りになるのは辛いが、息子の安全のため。
 これも探偵と話したことだ。


「じゃあ、学校に相談してみるからな」


 翌日、高校に電話をかけ、手続きや費用のことを確かめ、10月から寮に入ることになった。
 これで息子の身は守れる。

 念のため、娘の真菜にも連絡し、強引だったが、今のアパートから引っ越しさせることにした。
 娘は驚いていたが、私の必死の思いが伝わったのだろう。
 誰にも知らせずに、こっそりと学生寮に移ることを約束してくれた。
 そこは娘が通っている専門学校専用の寮ではないのだが、学生限定で管理がしっかりしているとの評判の良い所だ。
 これもネットで調べ、念には念を入れて、探偵にも探ってもらってGOを出した。

 娘にはこの機会に典子が家にいなくなっていることだけを告げた。
 娘が詮索して来ることはなかった。
 こちらから逆にそれとなく水を向けてみると、子供たちには出張と言ってある妻の失踪。
 そこから帰って来てからの妻の異常に、娘はずっと気づいていたようだ。
 前に娘と電話をした時にも、切り際に「あの・・・、お母さん・・・」と言いかけて「ううん、なんでもない」と思い直したように口をつぐんだことがあった。
 あの売女の様な化粧をして、見知らぬ男たちを家に招き上げた妻の姿も知っている真菜である。
 他にもいろいろ知っているようなのに、言いたがらずに口を濁した。
 ポツリポツリ重い口調で話す娘の話を総合すると、家に戻って来てからの家事を典子は殆んどと言っていいほどやらず、娘に任せっきりにしていたようだ。
 深夜に帰宅する私が、妻の手料理と思って食べていた物は、実は全部娘が作っていたという驚きの事実を知った。


「受験目前だったのに大変だったな」
「ううん。受験って言ったって、専門学校だから」
「それにしたって・・・」


『お前は立派な母親なんだ』


 そう叫んで妻を連れ帰った自分。
 もう母親らしい務めを放棄していたっていうのか。
 子供たちが出張とは信じていないだろうことは見当がついた。
 しかし父親のほうから真実を打ち明けるわけにはいかない。

236名無しさん:2018/11/15(木) 08:27:32

「そうか。お母さんは、そんなに別人のようになってしまったか・・・」


 つい本音がポロリと口から飛び出した。


「ううん。違うよ」
「えっ?」


 娘は仕事を辞めて家にいるようになった妻のことをあまり話したがらなかった。
 それは私にとっても同じで、もう変わり果てた妻のことをあれこれ論じる気にならなかった。
 しかし娘は例の失踪後に典子が変わった訳じゃない、と言って来た。


「どういうことだ?」
「もっと前から・・・だよ」


 娘の話に引き込まれる自分。
 単身赴任中、妻とはもちろんだが、子供たちともコミュニケーションが取りづらくなっていた。
 多感な年頃というのもあるし、週末に家に帰るだけでは、一緒に過ごす時間の絶対量が激減している。
 仕事も家事もきっちりこなしていた典子が、最近は気の抜けた行動が多いな、と感じた時期が私にもあった。

 そうだ。6月の初め。
 あの町内会の集まりの掲示板を見た日。
 日にちを間違えるとは、少し心ここにあらず、だな。
 そんな感想を持ったことがある。
 事実は前日に男に陰毛を剃られ、イラマチオを決められ、後ろから中出しをされ、それでも足りずにその夜に家の近くの車中でフェラチオをさせられ、精液を飲まされ、ローターを一晩入れっ放しにしておけと命令されていた。
 次の日も早朝から男に連れ出され、朝の公園でしたことあるか、と訊かれていた。
 その先は見なかったが、当然公園で青姦プレイに及んだのだろう。
 これが典子の日常だったわけだ。
 セックス浸けの毎日。
 それも異常な変態プレイの連続。


「やっぱり会社を変わってからが、おかしかったか?」


 しばらくの沈黙の後、


「・・・うん」


 娘は肯定した。

 妻が【普通の映像製作会社】といっていた転職先。
 本当は特殊AVを制作する会社だったのだ。
 あの長髪野郎、典子をどんな風に社内で扱っていたって言うんだ?

 以前に妻が失踪した深夜に、その忌まわしい2階建ての建物に行ってみたことがある。
 四角く、その一辺がおよそ15mほどの建物。
 建物の大きさ、駐車場の広さからして、10人から15人はいる会社だろうと目星をつけた。
 10人ほどなら少数精鋭だ。
 DVDに出てくる顔ぶれを考えると、社長以下男のスタッフは少なくとも5,6人はいる勘定になる。
 もっと多いかも知れない。
 それに対し女性は確実に分かっているところで、赤坂と妻だけ。
 もう一人マンスリーマンションのベッドにいた女もそうかも知れないが、社員かどうかは不明。
 数は少ない。
 赤坂らのポジションは分からないが、積極的に加担しているところから奴隷として完堕ちしているのだろう。
 その分、調教は完了している訳で、男たちからの徹底調教の矛先は、一手に典子が引き受けることになったに違いない。
 そんなエロ企業に就職してしまった妻は、まさに飛んで火にいる夏の虫だった。
 妻が言い張っていたように普通の会社であって欲しい。
 しかし、「社長が仲間内だけで・・・」そう言い逃れたところで、そんな変態AVを作ってる奴が社長の会社だ。
 どっちにしろ、まともである訳がない。

 真菜に聞くと、転職してからの平日は、ほぼ家事は娘に任せっきりになっていたようだ。
 失踪後とは違い、まだ家事をやる意欲はあったようだが、疲れ果てて身体が動かない、という状態だったらしい。
 『Episode1』のキャプチャー『4』で調教師が語っていたことによると、典子は春先から夏ごろまで、殆んどローターを入れっ放しで生活していたようだ。
 快楽まみれになっていたんだろう。

237名無しさん:2018/11/15(木) 08:28:07

 そしていま気づいた。
 あのパイパンにされていたシーン。
 マンションの一室らしい部屋、レースのカーテン、そして外から差し込む明るい光。
 あれは昼間だった!


『今日は旦那が帰ってくる日だったな』


 男は言った。


『今日は旦那には一人で外に飯を食いに行かせろ。そしてスタンドでお前の車にガソリン入れさせるんだ。セルフじゃなく、ちゃんと人が入れてくれるところに行かせろ、いいな』


 そう命令していた。
 そしてそれに続く夜の映像で、


『旦那にはスタンド行かせたか?』
『ガソリンも入れさせたか?』


 しつこく訊いていた。
 妻が、はい、と返事すると、


『そうか、じゃあ言うが、お前の車の給油口にこの写真入れといたんだよ。スタンドの人は確実に見るだろうからな』


 そう言って、妻が裸でM字開脚している写真を、ビデオカメラにかざしていた――。

 この日の日付は正確に分かるのだ。
 2007年6月1日金曜日。
 これは妻が前に勤めていた教材販売会社の頃ではない。
 時期的に間違いなく、転職後のことなのだ。

 イカれた特殊AV制作をする社長。
 そいつが【普通の映像製作会社】を経営している?
 じゃあ妻はその普通の会社に有給願いを出して、わざわざ休みを取って、こんな淫猥な映像を撮っていたというのか?
 そんな話は子供だって信じない。
 この撮影は昼間の勤務時間中。
 AV制作会社の会社業務として撮られたものに違いない。

 まだある。
 もう記憶が薄れて確かめるすべもないが、妻が6月1日の真昼間に、DVDの中で男に体操服を着せられ、パイパンにされて遊ばれていた場所。
 その場所は俺が踏み込んだ、まさに奴らの《ヤリ部屋兼撮影スタジオ》だった例のマンスリーマンションじゃなかったのか?

 そうなればすべてが繋がって来る。
 壁もきれいで人が住んでいるようには見えなかったDVDに映し出された部屋。
 何もない部屋にカーテンとベッドのみ・・・。
 名義こそ社長の個人名義だが、社員が頻繁に行き来していて、ほとんど会社の施設と言っていい。

 そうなのだ。
 忘れてしまっていた。
 同じマンションの住人の話によると、そのマンションから妻らしき女性が出てきたところを見たとの証言もあった。
 失踪前はもちろん、失踪中もその《ヤリ部屋兼撮影スタジオ》に妻は通っていたことになる。
 そこで裸の男女がベッドで絡み合っていたのを俺はこの目で見ている。
 いかがわしい行為を映像に残すためだけの場所。
 まさに《バリバリのアダルトビデオ》を承知のうえで妻は撮影していた。
 わざわざ足を運んでいた。


『社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない』


 よくも言ってくれたものだと思う。


『だからAV女優なんかじゃない!』


 その時は私は事態がまったく見えていなかった。
 混乱が深まるばかりだった。
 でも今ならハッキリと断言できる。


「典子、お前は立派な、スタジオ撮影もこなす、正真正銘のAV女優だよ」


 と・・・。

238名無しさん:2018/11/15(木) 11:24:42
66

 娘は私との会話の途中に、電話が掛かって来たから、と携帯を切ってしまった。
 本当なのか口実だったかはどうでもいい。
 私の妻であり、真菜の母である典子。
 最も親しい家族の不埒な行跡について話し合うことが、どれほど気まずいことか。

 私も真菜に言えないこともあったし、それは真菜の側も同じだったろう。
 お互いに言葉に詰まり、途切れ途切れの情報交換で分かったことは、妻は失踪前にじゅうぶん堕ち切っていたという事実の再確認。
 7月21日からの温泉一泊旅行での娘の無暗なはしゃぎっぷり。
 あれは大好きな昔のお母さんに戻ってくれたとの喜びの爆発だったのだろう。
 悲しむべきことに、それすら変態顧客を楽しませるための演技だったのだが・・・。



 10月になった。
 明弘は高校の寮に入り、私は頑張って建てた一軒家に独りぼっちになった。
 むろん妻からの連絡はない。
 あのAV社長らに直接電話をするなと言われているのかも知れないし、妻自身にその気がないのかも知れない。

 私の肉体は主治医から警告を受けていた通り、徐々に変調をきたしてきた。
 一人暮らしで食事も睡眠も、それまで以上に不規則になった。
 飲酒も増えた。
 そして、とうとう私は会社を休むようになった。

 ズル休みではない。
 朝、会社に出かけようとすると心臓が異様に早鳴りを始め、悪寒と冷や汗が襲って来て、ベッドから立ち上がれなくなるのだ。
 かかっている心療内科から正式な診断書を貰い、私は休職扱いとなった。
 精神の疾患だ。
 病気が完治しても、会社で出世コースに乗ることはもはや考えられない。
 いや、会社に残らせてもらえたら、それだけで恩の字だろう。

 不況の昨今。
 企業はどこも甘くない。
 休職しても会社の規定で、半年間は給料が出る。
 その先は無給だ。
 それからは公けの傷病手当金というのが対象になるらしいが、それも最長1年6カ月で打ち切られる。
 経済面も心細い限り。

 そしてお金の面だけでなく、家族もバラバラ、崩壊寸前だった。
 家庭では家族のまとめ役だった典子。
 その典子の2回目の失踪は、間もなくひと月半になろうとしていた。
 手掛かりは依然ない。
 興信所に動いてもらおうにも、この段階では調査依頼のしようもない。
 今できることをしていくしかない。

 休職するための連絡などを自分の会社に入れていて、私はふと典子の勤務状況を調べておこうと思いついた。
 そちらの線から何か手繰り寄せられるかもしれない。

 今年の4月の後半くらいから、妻は働きに出た。
 そこはまともな職場だ。
 そのあたりからは目に見えて妻も明るくなり、精神が安定したような印象を受けていた。
 それには主治医の女医先生も同意見だった。
 だからこそ妻が第二の失踪に及んだことを告げると意外そうな顔で、最近は落ち着いていたように見えたのに、との感想を述べたのだ。

 妻が働きに出てなかった時期の昼間――真菜も明弘も学校に行き、もちろん私も会社に行っている留守中――妻は再びいかれた凌辱者たちの徹底した慰み者になっていた。
 ただ会社に勤めるようになって、物理的にそういう時間は失われた。
 妻がいくらか平常に戻ったように見えたのはそのせいだろうか。
 新たな調教師たちもどうせ碌でもない連中だろうから、本当のところは何とも言えないが、どうもローターやクリキャップ等の責め苦からは妻も逃れられていた気がする。

 妻の勤めていた会社へは妻が失踪した翌週に一度連絡を取ったきりで、それからは何のアプローチもしていない。
 妻と一緒に面接の時に入り口まで訪れた有名大企業の福岡支店に電話をしてみると、前回は若い担当の女性社員だったが、今度は人事部長が相手をしてくれた。

 まずは典子の夫であると身元をあかし、当時の状況を聞いてみる。


「最近は個人情報の保護がうるさくて、たとえ配偶者の方と言えど突っ込んだお話は出来ないんですよ」


 語調は柔らかく、愛想も良かったが、そのように煙幕を張られてしまった。
 もう職場を離れてひと月も経ってから、その夫がいまさら何の用だろう、との不審は当然心の中にあるはずだ。

239名無しさん:2018/11/15(木) 11:25:13

「もしかしてセクハラやパワハラがあったとのご指摘であれば・・・」


 相手の態度が硬くなったので、私は急いで打ち消した。
 勤めていた本人からじゃなく、わざわざ配偶者が電話をしてきたからにはそういう類いのクレームか何か、と勘違いされても致し方ないところだろう。
 実際、それ以外の要件で、家族がとっくに辞めた職場に連絡してくるのは、自分で考えてみてもあまり例がなさそうだった。


「いや、実は家内が大きな病気をしまして、それで健康保険の関係で手続きを見直しているんですが、途中でアルバイトから派遣のほうに換わったとか・・・?」


 そう嘘をつくと、声の調子が急に明るくなって、


「ええ、そうです。これも個人情報に関わりますが、旦那さんだからいいでしょう。ご病気とは大変ですね。役所や病院相手の手続きは細かくてね。え〜っと、ああ、高田典子さんね、そうですね、5月いっぱいで直接の雇用というのは終わってますね。バイトが終了ということですが」
「そ、そのあとも妻はそこの職場にいたんでしょうか?」


 つい急き込んで尋ねてしまう。
 去年のAV会社の悪夢が脳裏をよぎる。
 また知らぬ間に転職したりしていないだろうか?


「ええ。ずっとこちらで働いていらっしゃいましたよ。といっても本年の8月22日の金曜でお辞めになられてますが。すでにどこか具合いが悪かったんでしょうかねえ?」
「その人材派遣会社の連絡先を教えて頂いてもよろしいでしょうか? 保険関係はそちらに問い合わせてみますので・・・」
「いいですよ。うちの系列の派遣会社です。昨今はどこの企業でも自前の派遣会社を抱えていますよ。なにしろ昔ほど良い人材がいませんのでね。それに新卒はちょっと嫌になるとすぐに辞めてしまう。4月の後半に手が足りなくてパートの募集をするのが毎年恒例みたいになってしまって困ったもんです」


 口が軽くなった人事部長はそんなことを言った。
 有名大企業の系列の人材派遣会社。
 となれば、そっちもある程度の大企業で、しっかりした会社の筈だった。

 教えて貰った派遣会社は、さっきの人事部長よりもガードが堅かった。
 電話ではお答えできませんと再三言われた。
 人間を扱う仕事である以上、個人情報の保護はさらに徹底している感じだった。


「ご来訪いただければ最低限度のことはお知らせ出来ますが、それより奥様に直接お聞きになられればどうですか?」


 勤務状況等をしつこく問い詰めると、突き放すように言われた。
 確かにそうなのだが、それが出来ない事情がある。
 離婚も増えている昨今。
 たとえ配偶者といえども、実は調停中で、うっかりしたことを言うと巻き込まれ、責任問題になる。
 そんなケースとかがあるのかも知れない。
 木で鼻をくくった、という表現がぴったりの応対だった。

 情報らしい情報は何も教えて貰えなかったが、妻が6月からこの人材派遣会社に在籍し、職場は引き続き福岡の目抜き通りにある例の支店で働いていたのは事実らしい。
 どうしてそうなったのかは考えてみてもわからない。
 妻はいない。
 訊きたくても訊けない。

 あの人事部長の話によれば、妻は普通に出されていた求人に応募して来て、そして採用されたということのようだ。
 特におかしな点はない。
 それに人事部長の口ぶりでは、妻のようにパートから派遣社員へ引き抜かれることも、さほど珍しいことではないらしい。
 去年とは違い、妻は実にまっとうな職場にいたことになる。

 それにしてもエピソードシリーズを見る限り、変態顧客たちに狼藉の限りを尽くされてきた妻が、4月半ば以降はいかがわしい職場でもなく、しっかりとした会社に勤めていたというのは、逆に意外だった。
 どういう経緯だったのか?

 しかしそんな堅い働き口も温かい家庭も捨てて、妻は突如再失踪してしまった。
 DVDでときどき話に出て来る、調教と家庭を天秤にかけ一年後にどうするかを典子本人が決める、ということが実行されたということなのだろうか。
 典子自身が奴隷の道を選んだのか。
 何が何だか分からない。

240名無しさん:2018/11/16(金) 11:14:40
67

 時だけが淡々と過ぎていく。
 気が付けば10月も半ば。
 独りぼっちの荒れた生活が続く。

 現在の妻の状況はまるで分らない。
 過去の妻の様子をうじうじと思い返すしかない日々。
 手詰まりの中、私に出来ることと言えば妻のDVDを確認することしかなかった。

 連中の手から首尾よく奪い返したと思った妻。
 そのときはすでに典子は性の快楽に屈服したお猿さんになっていた。

 だが私も負けていない。
 会社は休職中。
 どこにも出かけず家に閉じこもったままで。
 典子という人妻AV嬢の主演するアダルトビデオを見て。
 ただただ膨れた愚息をしごき上げる。
 マスかき猿に変貌していた。

 オカズにはこと欠かない。
 妻のDVDは適当に手にとっても、すべて当たりなのだ。

 恥知らずで変態的なマゾ牝。
 もうそう形容しても少しも的外れでないことを、妻はDVDの中でしていた。



 以前はスキップさせた『典子ver5』のキャプチャー『2』の朝の公園のシーンも見た。
 その公園は知らない公園だが、以前DVD7で妻が全裸露出させられていたのと同じ公園だった。
 私が行ったことがないだけで、意外と家から近いのかも知れない。

 男が迎えに来ると言ったのは朝6時。
 私は休日はいつも10時頃にのっそりと起きてくるのが日課だ。
 だがその日は前日早く寝たせいか8時に目が覚めた。
 9時半ごろ家に帰って来た妻は、私が起きていると思ってなかったらしい。
 だからとっさに、町内会の集まりがあった、とウソをついたのだ。
 思えばウソばかりつかれている。
 情けない旦那だ。
 悲しくなってくる。

 DVDを入れたテレビ画面。
 キャプチャー『2』をリモコンで押す。
 妻が口で奉仕していた暗い夜の場面を飛ばして行き、明るくなる翌朝のシーンで通常の再生に戻す。


「朝の公園でしたことあるか?」


 車の中で男に尋ねられ、


「ありません」


 弱々しく妻が答える。

 すぐに映像は切り替わった。
 前回の見覚えのある早朝の公園の風景。
 また露出プレイだろうか。
 そう思いながら見ていた。

 揺れながら進む画面で、男がビデオを撮りながら、ゆっくり公園内のジョギングコースのような木々に囲まれた細い道を歩いていることがわかる。
 男は今日はひとりらしい。

 舗装された小さい道の横には低い草が繁っており、周りの木々も緑が濃かった。
 前回よりも季節が夏に近づいていることがわかる。
 一緒に歩いている妻は普通に服を着ていた。
 どうせあとで脱ぐんだろうけど今はまだ着ている。
 ゆうべの車中と同じような服装だ。

 妻は逃げ出すわけでもなく、むしろ寄り添うように男に歩調を合わせていた。
 前回の露出調教の時のように、いやいや歩かされている、という感じではない。
 自覚があるのかどうかわからないが、男たちと一緒にいる抵抗感は、ずいぶんと薄れているみたいだった。
 これまでに何回も同じようなことをされ続け、中出しを含む身体の関係も一度や二度ではなくなっている。
 心を許し合っている訳ではないが、身体のほうは既に馴染んでしまっている。
 そういう微妙な関係性が伝わって来る映像。
 胸がチクリと痛んだ。

 男はそれからジョギングコースの舗装が少し広くなっている場所へ妻を連れ出した。
 そこは高い木々が取り囲んで、周りからは遮断されたような場所。
 カメラが動くと小道の脇に2脚ほど古びた木のベンチがあるのが映った。
 カメラはあたりの様子を適当に撮っている。
 その中で妻は所在なさげに、ポツンと佇んでいた。
 ここまでは誰にも出会っていない。
 人の来ない公園なのか。

241名無しさん:2018/11/16(金) 11:15:27

 そう思った時、ジョギングコースを、遠くから誰かが走って来るのが見えた。
 レンズがハッと緊張した妻の表情を捉える。
 何か男に予告でもされているのか。
 それとも過去の経験で予測がつくのか。
 妻は脚をもじもじさせ、頬を赤らめ、そのジョギングする人物が通り過ぎるのを、最後まで目で追っていた。


「旦那が起きてくるまでに帰りたいだろ?」


 男は妻を促して、その開けた場所の端のほうに行かせた。
 その一角にコンクリートでできた、直径50センチ、高さ1メートルほどの、円柱形の水飲み場がある。
 怪訝そうな顔をしている妻に男が言った。


「典子。ここのはお前好みだ。太さも長さもタップリだからな」


 手持ちカメラなので、男の表情は映らないが意味深な言い方。

 なおも不思議そうな顔で映っている画面の妻に、


「よし、人が来たらしごけ」


 男は冷たく命じる。

 そのコンクリートの上部の円形の凹みの真ん中に生える、丈夫そうな銀管を手で握ったまま、うつろな表情で待つ妻。
 水も飲まずに、蒼い顔で飲み口の銀管を、ただ握りしめる女性。
 怪しいとまでは行かないが、じゅうぶんに不可解な行為。
 5分ほどしてやっと、ジョギングコースの遠い向こうのほうにまた人影が見えた。

 水飲み場はそのジョギングコースのすぐ脇にある。
 妻はウォーキングしている人影が近づいて来たのを認めると、水の噴き出す銀色の管を手で強く握り直した。
 それは確かに途中で3つほどにくびれているが、勃起した大きめのペニスの形状に酷似している。
 妻は俯いたまま、右手をゆっくり上下させ始めた。

 やって来た初老の男性は、目もくれずにそのまま通り過ぎようとしている。
 その時、妻の背後にいた男が手を伸ばし、飲み口の根元のハンドルを急に捻った。


「キャッ」


 勢い良く妻の頭上を越えて吹き上がる水流。
 何事かと足をとめる初老男性。
 カメラは妻の右手越しに、その男性のポカンとした顔を撮っている。


「ちゃんと飲まなきゃ」


 男は妻の背を押して無理に丸めさせ、銀色の管の先端を咥えさせた。
 あてがった口許がほとばしる水流に襲われ、唇がまくれ上がる。
 水しぶきが妻の顔の至る所に遠慮なくぶつかり飛び散った。
 その光景を落ち着き払って撮っているカメラ。
 男はすかさずハンドルを絞り、水の出を弱めた。
 それ以上男は何も言わなかったが、わかってるな、と妻の背中を撫で回す大きな手だけが映る。

 妻は無表情だったが、水管の先を覆った口の動きは激しくなった。
 そこがアップになる。
 まずは喉奥まで深く咥えた。
 そして二三度顔を大きく振る。
 ディープスロートだった。
 水を飲むのとは、かけ離れた仕草。
 フェラチオだ。
 妻が公園でフェラチオの演技を披露している。
 唇で締め上げるテクニックも見せた

 いまや初老男性はトレーニングウェアを着てウォーキングの最中なのに、足を止めて見入っている。
 妻は一度顔を離した。
 俯いたまま、恥ずかしそうに息をつく。
 チョロチョロ先端から水の出ている、いわば亀頭部分を、今度はチョンチョンと舌先で舐め上げ始めた。
 次には横咥えにして、当てた唇をずらしていく。
 誰にだってこれが何の行為を真似ているのか分かるだろう。
 いい中年の上品で優しそうな大人の女性。
 それが公園の公共施設に対して演じる、ハレンチなたわむれ。

 妻はずっと目を伏せていたが、男の手が妻の顎をつかんで、凝視している初老の男性の方を向かせた。
 そうされた妻は、目線をその男性の目にピタリと合わせたまま、頬を赤くしながら、水管を下から上までなぞるようにピチャピチャ舐めている。
 挑発的行為にも見える。

 初老男性は熱に浮かされたように二三歩踏み出し近寄って来たが、後ろでカメラを抱えた連れの男の存在に気づき、慌てた様子で、何事もなかったように早歩きで立ち去っていった。

242名無しさん:2018/11/16(金) 11:17:03
68

「よし、下脱げ」


 男は晴れ渡る青空の下で妻にジーンズを脱がせた。
 最初固まった妻は、しかしすぐに命令に従う。
 屋外だろうと何だろうと関係ない様子だ。

 ノーパンかと思ったが、妻はちゃんとベージュっぽいショーツを穿いていた。
 でもそれは妻の媚肉が吐き出す愛液でベチョベチョになっていた。
 外からは分からなかったが、裏返しになったジーンズの内布の股間部分もまた、溢れかえった液で黒く変色していた。
 妻がこんなに濡れやすかったのかと、驚くほどの分量。

 男はカメラの脇から手を出して、無造作にそのショーツも引き下げた。
 直射日光に照らされた妻の下腹部は、青々と剃り跡も生々しい、子供みたいなパイパンになっている。
 昨日剃りたての大人の女の秘部。
 それが満天下に堂々と現れるのを見せられる。

 男は粘液で濡れそぼっている縦に切れ込んだ女の割れ目に指を突っ込み、ローターを引っ張り出しにかかった。
 それは微弱ながら、未だブルブルと震えている様子だ。
 電池内蔵タイプなのか。
 全部抜き取ったとたんに肉壺の奥からドロドロと白い本気汁がこぼれ出し、半脱げのジーンズとショーツを汚した。
 妻はもう腰砕けみたいになっている。

 昨晩から入れっ放しということか?
 こんなのを入れたままで眠れるのか?

 大人の玩具に一晩中妻が嬲られていた事実にあらためてギョッとする。

 その前の夜、風呂からあがりリビングへと向うとき玄関のドアが開き、車のキーをもった妻が入ってきた。
 そのとき妻はジーンズの下のショーツの中、秘部の奥にローターを忍ばせていたことになる。


『どこか行ってきたの?』


 何気ない私の問いかけに、


『いや、さっき笑われたって言ってたから、汚れてるんだと思って車の中掃除してきたの』


 と妻は答えた。


『そういや確かに汚かったもんな』


 と笑い合ったものだが、実に臨機応変に、上手な嘘がつけるもんだと感心してしまう。

 そのときの妻は、ローターのみならず、口の中に男の精液を出されていたのだ。
 近づけば臭ったかも知れない。

 私は早くに寝てしまったが、妻は一晩中悶々としていたのだろうか?
 ローターが股間に仕込まれている間中、ずっと妻は男たちの存在を意識せざるを得ない。
 奴隷として隷属させるための調教として、地味ながら効果的な方法だろう。

 男はそのローターを固定していた紐を手早く回収すると、再び冷たく命じた。


「全部脱いで、この上に乗れ」


 妻は抗う様子も見せず、ただ恥ずかしそうに、トレーナーもブラも脱いで、その場で全裸になった。
 脱いだ服はカメラの横から腕が再び伸びて来て、男が取り上げてしまう。
 朝の公園にパイパンの裸体の出現。

243名無しさん:2018/11/16(金) 11:17:35

 前回の公園露出の時は妻にコートを脱がせるだけでも、脅したりすかしたり、ひと苦労していた男たち。
 あれからせいぜい半月ほどだろう。
 この素直な変貌ぶりはどういうことだ・・・。

 それとも連中にとって、2週間という時間は平凡な人妻を堕としていくのに充分すぎる期間なのか。
 のべつ幕なしの調教が可能なら、2週間はむしろ長いのか。
 現に妻は、昨日の昼、夜、そしてこの翌朝と、猛烈なペースで調教されている。


『典子、だんだん俺たちの奴隷としての自覚が出てきたみたいだな』


 この前日の昼にイラマチオからの精飲をこなした典子にかけられていた言葉。
 この段階ですでに妻の奴隷化が、着々と完成に向かっていたということなのだろうか。

 それにしても、よりによって俺が帰っている週末の朝に、妻が男に連れ出され、近所の公園で素っ裸にされていたなんて。
 俺はその時何も知らずに、アパートでは取っていない新聞を、家のリビングでボーっとしながら読んでいた。
 旦那のいる週末でさえこのやりたい放題。
 俺が単身赴任先で変わり映えのしない仕事を漫然とこなしていた間に、妻のほうは徹底的に調教され、加速度的に理想の肉奴隷にされていたのだ。
 なんということだ。
 何も気が付かなかった・・・。

 前回は公園の景色から、カメラが一気に引いて、妻の股間の茂みを大写しに撮っていた。
 こんなところでこんな部分をさらけ出している女だとでも言わんばかりの演出。
 今回も同じように風景からズームアウトして妻の股間を狙う。
 今度はツルツルに剃り上げられている。
 前回よりもさらに変態な女だということが強調される映像。

 誰かが来たらという恐怖心は当然あるのだろう。
 羞恥心を失ったわけではない。
 妻の両腕はあてどなく動いて、身体のどこを隠していいか分からない風だ。
 膝をすくめて、出来るだけ身を縮めようとする素振りが見える。
 それでも言われるがまま屋外の公園で全裸露出している自分の妻。
 それを目の当たりにしてしまうと、やはりショックだ。


「早く登れ」


 全裸にはなったものの、もたもたしている様子の妻に男が強い口調で言う。
 以前だったらそう命令されても、身体が凍り付いたようになって、その場から動けなかったに違いない。
 半月前はそうだった。
 今は違う。
 妻は諦めたように、のろのろとコンクリートの水飲み台の上に登り、やがて両足を跨いで立った。
 そして屈んだまま、恐ろしそうに真下の銀色の水管を眺めている。


「やることはわかるな。そんなどろどろマンコのまま、家に帰っちゃ家族に申し訳ないだろ? その管をマンコに入れて中を洗え。そして自分ひとりで5分以内にイケたら、今日は帰してやる」


 そう言われ、妻は強ばった顔で目を宙に泳がせていたが、逃げ出すわけでもない。
 誰かが来ないか不安げに周りを見回してから、また真下を恐る恐る覗き込む。
 先端から1センチほどだけチョロチョロ水を噴いている亀頭の様な銀色の円筒。
 それがズームアップされる。
 そこへ、妻の剃られたての二枚の肉唇が狙いすまして落ちて来る。
 意を決したのだろう。

244名無しさん:2018/11/16(金) 11:18:19

 画面に映るのは、踏ん張った形の良い両腿。まん丸い臀部のフォルム。
 実った双つの臀球は、成熟した女性の象徴だ。
 しかしその秘部は剃刀を当てられツルツルになっている。
 しゃがみこんだ大股開きをアップで見ると、慎ましい筈の妻の秘部も、二枚の小陰唇の襞が外にクッキリ飛び出しているのがわかる。
 少女とは違う発達した性器。
 それは銀色の亀頭のすぐ上まで来ていた。

 公園のみんなが使う水飲み場の円筒形の蛇口。
 それを直接自分の陰部で咥え込む。
 そんな非常識な行為が許されるはずがない。
 典子は社会のルールは守る女だ。
 しっかりとした公徳心を持っている。

 だがテレビ画面の中で、典子の肉唇は水を流している亀頭の様な蛇口の先端を捉え、難なく呑み込んだ。
 幼女のようになった秘部は、まるで深海魚の口の様に、銀色の円筒を捕食していた。
 のみならず、すでに腰を上下に動かしている。
 一切の毛を失っている妻の秘部は障害物がなく、その陰唇の肉襞が銀色に光るシャフト表面を丁寧になぞっていくのがクッキリと見えた。
 わざわざパイパンにさせたのも、最初から次の日にこのシーンを撮影する考えが頭にあったからだろうか?
 そんなことを思わせるほどの猥褻な光景。

 画面は少し引かれた。
 妻はブルブル震えている。
 野外、しかも公共の場。
 その震えは、恐怖なのか、露出の快感のせいなのか、言いなりになる被虐の悦びからくるのか――。

 ほっそりとした両手を向こう脛に当て、支えているM字の膝もガクガクして、不安定な体勢で腰を振る妻。
 コンクリートの台の上から今にも転げ落ちそうだ。
 周りを深い木々に囲まれたスペース。
 しかし完全に遮断されたプライベートゾーン足り得ない、公けに開かれた緑地。
 朝の陽射しが、全裸になった妻のその前衛彫刻の様な不思議な格好を、舗装した小路の上に、縦に動く長い影にして落としている。

 5分以内にイケ、と命じられた妻は、時間が惜しいとばかり、もう見境なく腰を振っていた。
 水飲み台の上という不安定な場所でなければ、ディルドーに跨って快楽を貪ること自体はもう何度も経験済み、という慣れた腰つきを感じる。


「あっ?」


 驚いたような男の声に、ギクッとして妻の動きが止まる。
 誰か来たか?
 妻の裸体に鳥肌が浮いた気がした。
 恐慌を起こし、膣奥に異物を入れ込んだまま、沈み込む妻の裸体。
 画面には何も映って来ない。
 どうやらもう少しで妻が達すると見極め、男が妨害したようだ。
 それと気づき、ため息をつきながらも、また最初から自分を追い上げにかかる妻。
 危なっかしい姿勢で腰を縦に動かし、円を描くようにグラインドまで。
 ハアハアハア、と熱い息を吐き、そろそろイキそうになっているのが、画面でもわかる。
 こんな場所で、こんな器具を使って、丸裸でイッテしまうのか?
 茫然としているテレビ画面の俺の前で、


「5分。時間切れだ」


 男の非情な声が響いた。
 泣きだしそうな妻の表情をいったん捉えたのち、映像が切り替わった。

245名無しさん:2018/11/16(金) 11:19:30
69

 部活のトレーニング着らしい白い半袖ウェアとぶかっとした水色の短パン姿の少女が水飲み場の前に立っている。
 中学生くらいだろうか。
 すでに全身汗びっしょりだ。
 自主練として、早朝ランニングを、毎朝この公園でしているのだろう。
 水飲み場のハンドルを回しているみたいだが、水の出が良くない。
 ちょっと蛇口の辺りを覗き込んだり不思議そうにしている。
 その間も顔中の汗があごの先から地面に滴っているのが見えた。

 画面はそこから一気にズームアウトした。
 20メートルほども引いただろうか。
 そこは暗がりだった。
 深い木々。
 そこからカメラで撮っていた。

 目の前に巨木がある。
 そこに両手をついて上半身を沈みこませているのは妻だった。
 その大樹の陰に隠れるようにして。
 ハアハアとすでに小さな喘ぎを漏らしていた。

 その背後に男がいる。
 男の右手で持っているカメラが、少しの間だけ重なったふたりの周りを動き回った。
 繋がっている様子がよくわかるように。
 ふたりとも上半身は服を着ていたが、下半身は膝までズボンを下げていた。
 お互いにその露出した腰を押し付け合っている。
 妻は背中を弓なりになるくらいに反らし、お尻を突き出す形にされていた。
 丸々とした綺麗なヒップが男のゆっくりとしたピストンに合わせ、淫靡に変形を繰り返している。
 スピードはないが、深く入れ込まれていることは明らかだ。


『朝の公園でしたことあるか?』


 男の予告通り、妻は朝の公園でされていた。

 暗がりになっているとはいえ、野外には間違いない。
 見つかれば変質者として通報されるかも知れない。
 その恐怖がよけいに官能の炎を燃え立たせるのだろうか。
 妻は反応をこらえているようだが、その熱く吐きだされる荒い息や時おり身体を襲う小さな痙攣からすると、かなりの恍惚状態にあるらしい。
 俯き、ひたすら快感を噛み締めている妻のあごを持ち上げて、男が無理やり水飲み場の方を見させた。
 木の陰から半分だけ顔を覗かせて、自分が向こうから見えないように気を使う妻。
 画面にまた少女がズームアップされたところで男の声がした。


「お前のマン滓を舐めさせられて、あの子も可哀そうだな」


 少女は水が出ないことに業を煮やして、蛇口の先に唇をつけていた。
 そしてやはり変な味がしたのか、顔をしかめて不思議そうにした。
 だが喉の渇きのほうが優先するのだろう。
 また唇をつけて直接銀色の水管の先から飲んでいる。
 カメラは思い切り寄って、ややぼやけてはいるものの、まだ息が整っていない少女の肩が小さく上下するのを撮っていた。
 茎の銀管にはハッキリとは見えないが、確かにところどころに白い粘液が付着しているようにも見える。
 少女の口の中にいくらか入ってしまっただろうか。


「自分の娘みたいな子に、お前のマン汁を舐めさせた気分はどうだ?」


 妻は答えずに、相変わらずハアハアと熱っぽい息を吐き出している。
 ただ目を逸らすと叱られると思ってか、それでもじっと少女のほうを見ている。


「悪い女だ、奥さん。旦那をほったらかして、朝っぱらから公園で男にハメられて。そして自分の娘みたいな歳の子に、自分のマン汁混じりの水を飲ませるんだからな?」


 男にそう嬲られても、妻はひそかな喘ぎを漏らすだけ。


「違うか?」


 少し苛立った男の口調に、たちまち妻が反応する。

246名無しさん:2018/11/16(金) 11:20:04

「はいっ、そうです。私は悪い女ですっ」


 なにかに憑かれたように妻が言う。
 男は気を好くしたかのように腰のスピードを速めた。
 つられて妻の喘ぎも野外であることを忘れたかのように大きくなる。
 いつの間にか少女はいなくなっていた。
 カメラは引いて、いまは画面は妻の背中から長い髪の流れる後頭部の辺りを、漫然と映すようになっている。


「奧に届いてるか?」


 男が世間話のように問いかける。


「ウウッ・・・、は、はいぃ・・・」


 いっぽうの妻の声は、すでに切羽詰まった響きがあった。


「お前の奥は狭くてイイ感じだな。お前も奥がいいんだろう?」
「はっ、はいぃぃ・・・」
「旦那は届くのか?」


 妻は黙り込んでしまった。
 快感に翻弄される中、何とか自分をコントロールしようとして、奥歯を噛み締めている気配がする。


「まあ、誰でも届くってわけじゃない」


 妻の返事も待たず、男はあっさりと言ってから、


「奥さんの歳で若い男と付き合ってる主婦友はいるか?」


 と質問を変えた。


「他の人のことは・・・わかりません・・・ううっ」


 男が今や本気で腰を使い始めたことは、画面に時々入って来る妻の綺麗なお尻の肉が波打っていることで知れた。


「奧さんなら声を掛けりゃあ、いくらでも若い男がついて来るだろうがな。でもこういう楽しい遊びを教えてくれるのは俺たちだけだ」


 妻は片手で自分の口を押えていた。
 もう身体の芯から込み上げる快感が、自分で制御できるレベルを超えて来たらしい。
 呻き声からハッキリとした喘ぎ声に変わりつつあった。


「じゃ、奧に出すぞ」


 男は無造作に宣言した。
 その声に応じ、妻のヒップが男のピストンに合わせて一層うねる。
 フィニッシュへ向けて慣れた感じの身ごなし。


「おおーーっ」


 気持ちよさそうな声を出して、男が射精した。
 妻と男の身体は青天の下で合体したまま硬直している。
 とうとう妻は野外でもセックスできる女になってしまった。

247名無しさん:2018/11/16(金) 11:20:36

 まるで立小便でもしてるかと思うくらい、男の放出は長い時間に思われた。
 男は二十代なのだろうか。
 その生勃起は臍に付くくらいに硬く元気で、子種の量も半端ないのだろう。
 太さもあり、その長くて奥まで届く膨れ上がった先端から、妻は子宮口に直接、勢いの良い子種の噴出を浴びている。
 男のデカイ亀頭を、妻のヌルヌルの膣襞が包み込み、もっともっとと緊めあげているに違いなかった。

 やがて劣情を満たしたふたりは、のろのろと身じろぎを始めた。
 男はいったん自分の男根を引き抜いた後も、褒めたたえるようにその左手で、妻の後ろに突き出したままのヒップラインを撫でていた。
 妻は全身の力が抜けたみたいで、前の大きな樹に抱きつくようにすがって、からくも地面に潰れるのを免れていた。
 まだ絶頂の余韻で息が上がっている妻。
 その丸出しのお尻をカメラが映す。
 妻はジーンズを引き上げることさえ忘れているようだった。



 次のシーンはもう車の中だった。
 帰りの車中のようだ。
 映し出された妻はちゃんと服を着ている。
 何か考え込んでいるような真剣な顔つき。
 運転をしている男に向かって、思い詰めたように口を開く。


「もうこんなことは・・・。せめて旦那のいる日は・・・」


 必死の口調だったが、それに押し被せるように、


「感じただろ?」


 断定するような男の口ぶり。


「返事」


 急かされ、妻の喉が動く。
 唾を飲み込む動き。
 なんと言うんだろう?
 唇が震え、はっきりと言葉を発した。


「・・・はい」


 諦めなのか、本心なのか。
 それは見ているだけではわからなかった。
 男はそんな妻に対し、冷たく言った。


「今日はローターは許してやる。明日、駅まで旦那を送ったら、すぐに連絡して来い。いいな?」


 妻は黙って肯いた。

 頬に赤みが差し、耳の先までが赤く染まっている。
 さっきまでの自分の姿を反芻して恥じ入っているのだろうか。
 公園の水飲み場の上に乗って、自分の秘部に飲み口の管を突っ込んで、オナニーするなど、とても正気の沙汰とは思えない。
 人に見られるかもしれない場所での破廉恥な行為。
 それがすでに快感に変わってしまって、妻自身もどうにもならないように見える。
 間断なく続けられる調教。
 少しずつ典子のどこかが麻痺し、感覚を変えられて行っているのは間違いない。


「今度はもっと面白い場所でやってやる。楽しみにしてろ」


 『典子ver5』のキャプチャー『2』はそこで終わっていた。

 そのあと妻は家の近くで車を落とされたのだろう。

 その朝、自宅にいた私はぼーっとテレビを見ていた。
 そこへ玄関のドアが開く音がし、妻がリビングに入って来た。


「あ、起きてたんだ?」
「おー。どこ行ってたの」
「ちょっと町内会の集まりがあったの」
「朝から大変だね〜」


 そんな会話をした。
 後から考えると、もう起きていた私を見て、妻は少し慌てた様子だった。
 何も知らない私だったが、妻が朝から大変だったことだけは当たっていたようだ・・・。

248名無しさん:2018/11/19(月) 08:39:37
70

 送り主が無記名のまま、北九州の部屋に送り付けられてきた封筒小包。
 『典子ver5』と書かれたふざけたDVD。
 福岡の家に訪ねてきた赤坂から、妻が浮気をしている、とハッキリと告げられた矢先、見ないようにしていたその闇の部分をまたも無理やり見せられた。
 自然と涙が流れ、耐え難いほどの屈辱感を味わった自分。
 キャプチャー『1』を見終わり、『2』は途中でスキップした。
 もういい、これからまた妻が遊ばれるだけなんだろう。
 それ以上の確認を拒否した。
 まだ心の中に誇りがあった。
 遊ばれている妻の姿など見たくない。
 プライドがあった。

 だが今は自分の興奮のために、以前は飛ばした映像を食い入る様に見ている。
 妻の痴態にのめり込んでいる。
 もう私は心の中で半分白旗を上げているのだろうか。
 奴らには敵わないと認めてしまっているのだろうか。
 自分の妻が男たちに好いようにもてあそばれている映像を見て、私はためらうことなく愚息を擦り上げ、快感に身を任せて、何度も白い飛沫を放った。
 欲望を満たした。



 DVD『9』の続きも見てみた。
 時系列的には、さっきの『典子ver5』よりも前の映像になる。
 朝の公園で一段進んだ露出をさせられていた妻。
 それは6月2日土曜だ。
 すでにその前日に毛を剃られ、パイパンにさせられている。
 DVD9はおそらくDVD8の続きだ。
 DVD8では、奴隷契約書の読み上げから、夫婦の寝室で後背位で男と繋がる妻の映像があった。
 そしてDVD9での極薄の白ワンピースに赤い変態的下着を浮かせて、我が家の玄関から外に連れ出されたところまでを、去年見たわけだ。

 その妻の異様な姿に私は欲情し、たまらずに自分を慰め、そのシーンでPC画面に向かって放出した。
 それから冷静に戻った私は、それ以上の映像を見ることなく、DVDコピーをすべて粉々になるまで割って、コンビニのゴミ箱に捨てた。

 このときの妻には立派な陰毛がある。
 私の分析では、これは妻の転職より前の映像という気がしている。
 記憶をたぐり、そして割り出したところでは、妻が新しい職場へ移ったのは5月21日の月曜だ。
 確かなことは何も言えないが、DVD9の映像は、おそらくその何日か前のものだろうと思われる。

 DVD8&DVD9は、奴らの妻へのひと通りの調教が終了した時期、という位置づけになりそうだ。
 顔を強ばらせながらとはいえ、丸裸で自分の家のキッチンに、よその男を上がらせて、奴隷契約書をカメラの前で読み上げていた妻。
 そのあと夫婦の寝室に場所を移し、そこでは旦那以外の男とセックスしている自分に陶酔しているような印象を受けた。
 そして玄関を変態下着と透け透けのシースルーワンピース姿で出てしまった妻。
 自分の家の周辺を変質的な服装で出歩く。
 とても考えられない行為だ。
 だが妻は男たちとの頻繁な性交によって、淫熱に浮かされた状態だったのだろう。



 DVD『9』の続き。
 ビデオに映る妻は神妙な面持ちで、俯きながら歩いて門の外へ出た。
 それを男の持つカメラが道路側から撮っていたが、振られた画面の中に見覚えのある黒い大型のワンボックスカーが停まっていた。
 やがて車は滑るように発進し、妻と並走するように、ゆっくり動き出した。
 すでに仲間の何人かが集結しているみたいだった。

 妻のワンピースは陽の光の当たり具合で、反射して白く輝く時と全く透けてしまう時がある。
 透けてしまえば下にあるのは真紅の煽情的な下着だけ。
 それも乳首のところと性器の部分には布地がない。
 だから硬直した赤い乳首の尖りがはっきりと目立ち、黒々とした陰毛も下腹部にあからさまだった。

 そんな姿で近所を歩かされている妻。
 男に飼われている奴隷女。
 その格好を見れば誰もがそう思うに違いない。
 奴隷契約書にサインしたからには何でもやってもらう。
 そう奴らに因果を含まされでもしたのだろうか?
 それはわからない。
 どちらにしろ妻は唯々諾々と奴らの意思に従っている。

249名無しさん:2018/11/19(月) 08:40:47

 少し離れて撮っているカメラの男と、歩調を合わせて進んでいた妻の脚がハッと止まった。
 妻の脅えたような視線の先にカメラが振られる。
 ひとりの老人が隣家の敷地から出てきたところだった。
 もう八十近そうだ。
 ヨボヨボしている。
 たまに顔を合わせる隣家のご隠居っぽい。
 その爺さんの目が驚きに見開かれた。


「あれぇえ〜」


 頓狂な声が響く。
 一瞬、妻はどうしていいか分からなくなったようだ。
 困った顔でカメラを構えている男のほうを振り返った。
 しかし男に無視されたのだろうか。
 諦めた顔で、何事もなかったように通り過ぎようとした。
 引き攣った顔をして、なるべく目を合わせないようにまっすぐ前を向いている。
 そして一番近くまで来た時、


「高田さんの奥さん、どうしなさった?」


 大声で話しかけられた。
 耳が遠いと声が大きくなる。
 この爺さんもそうなのだろう。
 妻は居たたまれなったのか、慌てて走り出した。
 靴は金色のピンヒールを履いている。
 まるで夜の女が履くような高いヒール。
 スピードは出ない。
 転びそうになっている。
 その様子をカメラがじっと撮っている。

 爺さんは少し追いかけたが、妻が必死で走って行くのに追いつけず、途中であきらめた。
 そのあと怪訝そうにカメラのほうを見た。
 何か言いかけたが、怖くなったか、関わり合いになりたくなかったのだろう。
 また隣家の敷地に戻り、そのまま家の中に入ってしまったようだ。

 妻はカメラの男よりもずいぶん先に行ってしまっていたが、対向車に気づき、向きを変えてまたこちらに戻って来た。
 おそらくは身体を隠すなと命じられていた筈なのに、もうパニックになったのか、片手で胸を、もう片手で股間を覆っていた。
 道の端のほうに寄って、車が通り過ぎてくれるのを待つ。
 しかしその白い軽自動車もまた速度をゆるめ、ピタリと妻の後ろにつけた。

 日の出食堂と側面にロゴの入った軽ワゴン。
 家族で何回か食べに行ったことのある近所の定食屋だ。
 その車が妻の後ろをゆっくりついて走っている。
 運転しているのは店の大将だろう。
 変態的格好の女のお尻をじろじろと眺めているみたいだった。

 しばらくして変態女の前のほうを確認しようと、車が少し前に出た。
 並びかけられた妻は軽ワゴンのロゴに気づき、慌てて両手で顔を覆って立ち止まり、やり過ごそうとした。
 すると車もそのまま停車してしまった。
 至近距離から遠慮会釈なく、裸同然の恥ずかしい格好で出歩いている変態女の肢体を、存分に鑑賞している。
 妻の乳首も陰毛も、薄衣越しに、すべて定食屋の大将に見られてしまった。
 仲の良い4人家族のあの母親だと気づかれてしまっただろうか。

 妻はすぐ隣に車が停車してしまっている事に気づき、再びクルリと反対側を向いて歩き始める。
 ズームで狙う妻の後ろ姿は、真っ赤な下着の線しか見えない。
 ショーツはほぼTバックで、お尻の形が丸わかりだ。
 軽ワゴンはいきなりスタートすると、道の横の小さな空き地を利用して、軽快にUターンした。
 そして再び妻の後を追っていく。

 妻は知ってる店の車がずっと追いかけて来ることでパニックを起こしたのか、徐々に早足になり、そのうちにまた駆けだした。
 その間、手はずっと顔を覆いっ放しみたいだ。
 妻と軽ワゴンが離れて行ってしまいそうになって、カメラの男とワンボックスカーも急いで後を追う。
 焦点のぶれた画面が揺れている。
 妻は一生懸命走っていたが、角から飛び出してきた女子高生と勢い良くぶつかった。
 顔を手で隠していて、前がよく見えなかったようだ。


「キャーーッ!!」


 女子高生の鋭い悲鳴が響きわたった。
 若いだけあって良く通る高い声だ。
 ぶつかった衝撃で声を上げたのではないらしい。
 妻の異様な風体を見て、咄嗟に出てしまったようだ。

250名無しさん:2018/11/19(月) 08:41:24

 なにしろ女子高生の黄色い悲鳴である。
 事件か何かかと思って、人たちがあちこちから集まって来た。
 妻は道路の向こうに多くの人影を見つけて、またこっちに戻って駆け出してきた。
 そして定食屋の車とすれ違う時には、からかうように何度もクラクションを鳴らされていた。
 妻はもうどこを隠していいかわからず、片手で顔を、もう片手は胸を隠したり、股間や、後はお尻に手を当てたりしている。
 こっちに向かって駆けてきたが、カメラの男のいる辺りの左右の家々からも人が出て来て、何事かと様子を窺っている。
 変質者の様な格好の妻は、前後を野次馬たちに挟み撃ちされる形になり、進退窮まっていた。

 その妻のところに大型のワンボックスカーがスーッと横づけになった。
 助かったとばかり妻がスライドドアを開けようとするが、ロックされているらしく開かない。
 カメラの男はそんな妻のところにようやく追いついて来て、開かないドアのところで、焦りまくっている妻の姿を大きく画面に捉える。
 遠巻きにしていた興味本位の人々も徐々に近づいて来た。


「あれー、ちょっと?」
「いやだ。何なのよ」
「えっ、高田さん?」


 そんな声まで聞こえて来る。
 高田さんという固有名詞が出たことで、俺の心臓までバクバク音を立て始めた。
 妻は声を出すと周りにバレると思うのか、無言でスライドドアをどんどんと叩き始める。
 それでもドアは開かず、代わりにスライドドアの上の黒いウインドーが少しだけ下がって隙間を作った。


「どうしました、そんな格好で?」


 誰かが進み出て来て声をかける。
 お困りですか、という風でもあるが、風紀を乱す行為はやめてください、という咎める調子もある。

 切羽詰まった妻は、その上の方が少し開いた窓の隙間から車中に潜り込もうとした。


「典子ここから入れ」


 とでも車内の男に言われたのだろう。
 ただ高い場所にあるので自力では這いあがれない。
 その開ききらない窓の隙間に、妻が両腕と頭を潜り込ませると、引きずられるように身体が上がって行った。
 車内で誰かが引っ張っているらしい。
 しかしその身体は上半身が車の中に消えただけで、腰から下は車の外に出したままで、ストップしてしまった。


「もっと引っ張って。お願いします」


 カメラがもっと寄ると、車の中で悲痛に訴える妻の叫びが微かに聞こえた。
 それでも妻の身体は上がって行かない。
 わざと途中でやめたのだろう。

 身体を覆うワンピースなど、有れども無きが如くの薄さ。
 その下に真っ赤な変態的下着をつけて、これ見よがしに街を歩いていたことがわかる距離にまで、群衆は集まって来た。

 近所の人たちは、高い窓から車内に潜り込もうとしている、はしたない格好の大人の女性の下半身を見詰め、勝手な論評を下していた。


「ねえ? 高田さんだった?」
「高田さんの車じゃないよ、これ」
「どこに停まってた車?」
「山崎さんと井上さんの前あたり」
「デリヘルの送迎じゃない?」
「いやね。こんな時間に、こんな住宅街で・・・」


 野次馬が口々に騒いでいる間も、妻の車外に飛び出した下半身は一向に上がって行かなかった。

251名無しさん:2018/11/19(月) 08:42:09

 妻は自力では腰より下を車中に入れられないようで、宙に浮いた官能的な真っ白い2本の脚が、鈍く光るワンボックスカーの黒い色を背景に眩しく映えている。
 着ていないよりはマシかとの思いで、ワンピースの裾が乱れることを防ぐため、あまりジタバタさせていなかった妻の形良い二肢が、慌てたように大きく動き出した。
 ワンピースの裾が見る見る上がっていくのだ。
 車の中で誰かがワンピースをたぐり上げているのだろう。
 むろん全てのガラスには黒い遮光フィルムが貼られているので、外からその車内の様子を窺い知ることは全く出来ない。


「早く。もう、早く出して下さい」


 妻の小さいが緊迫した声が聞こえた。
 車を動かしてこの場を離れてくれと言ってるらしい。
 そんな願いが通る筈もなく、薄いワンピースは女体から白い膜が剥がれるように、車内へと残らず消えて行った。
 後に残ったのは、小さな真紅のショーツをまとっただけの、色香たっぷりの人妻の下半身。

 いつまでも発車しない車に、取り巻きの群衆の輪がぐっと狭まる。
 もう肌にさわれる距離に何人か来ている。
 カメラを構えた男のほうを訝しげに見る者もいるが、やはりワンボックスカーの高い窓から色っぽい女性の下半身が生えている光景のほうが興味をそそるのだろう。
 視線はもっぱら妻の股間が集めていた。

 説明はなくとも、これが変態的な穴開きパンティであることは、妻の茂みがすでにはみ出して、住宅街の風に吹かれていることで一目瞭然だ。
 お尻の部分も布地は少なく、丈もないので、お尻の谷間の上のほうの深い割れ目もすっかり見えている。
 妻が自力で上がろうと、壁登りをするように膝を開いてスライドドアにすがると、股が大きく開いて、クロッチ部分のまったくないショーツは、肝心の秘部をこれまた大公開してしまった。
 その異常な空間を、カメラがじっくりと撮っている。
 周りの人々の表情、反応。
 おおむね嫌悪感を浮かべている。
 それと多少の好奇心。


「あらあら」


 妻の秘部が見え隠れするたびに、素っ頓狂な声がする。
 私も何度か挨拶を交わしたことのある近所のお婆さんだ。


「駄目よ。子供はあっち行ってなさい」


 別の若い主婦の険しい声がする。
 よく見れば集まっている人たちの中に顔見知りが何人もいる。
 交通整理が要るくらい、住宅地の一角が時ならぬお祭り状態と化してきた。
 車の中に隠れた妻の顔はどんな顔をしているんだろうか。

 これほどの混乱状態になっても、まだ車は出発しない。
 何人かの厚かましいオヤジ風は、もう妻の裸同然の下半身に鼻づら寄せる近さにいる。
 男がカメラを回しているのに気づき、それにならって携帯で動画を撮り始めた者までいた。

 やがて細く開いた黒い窓の隙間から、妻のお尻を撫でるように、中の男の両手が下りてきた。
 新しい展開に固唾をのむ群衆。
 ショーツの両脇をつかんで引っ張り上げるのかと思ったが、そうではなかった。
 その両手は妻の形良く盛り上がる双つの臀肉に押し当てられた。
 そしてムリッと音がするくらいに左右に割り開く。
 いきなりハッキリと妻の女性器が周りの人々にご開帳された。


「キャ〜」


 という悲鳴と、


「イェ〜ッ!」


 という歓声が同時に湧いた。
 どこかで指笛まで鳴ったようだ。


「いやっ」


 車内から妻の抗う声が聞こえた。

252名無しさん:2018/11/19(月) 08:42:47

 ドンッ!


 抵抗して暴れた妻の膝が、スライドドアに当たって大きな音を立てる。


 ピシャッン!ピシャッン!


 鋭く素早い音が、今度はハッキリと車の中でした。
 往復ビンタされる妻。


――車が凹むだろう。
――言うこときけないのか。


 音声として拾ってはいない。
 しかしそんな脅し文句が続いたに違いない。

 美術館の名画に群がるギャラリーもかくやとばかり、顔を寄せている町内のご近所さんたちの前で、妻の両腿が自らの意思で上がって行った。
 そして体操選手並みに大開脚してしまう妻。
 ただずっとその体勢はキツいので、開いたままの両膝をスライドドアにこすりつけ、摩擦を利用して両方の太腿を固定した。
 爪先に引っかかっていた左足の金色のピンヒールが地面に落ちる。

 カエルのような下半身が陽に照らされて赤く染まっていた。
 性教育の教科書のイラストそっくりの、肛門、大陰唇、小陰唇、尿道、陰核、恥毛、すべての性器周りのパーツが、生きた大人の女性の肉体で、標本に供された。
 いまや遠慮なくフラッシュを焚かれたり、写真を撮られまくる妻。
 ついには妻の魅惑的な曲線美の生脚にも手が伸びる。


「いやーっっ!」


 どこまでエスカレートするのかと、妻が恐怖に絶叫した。
 とても声色を作る余裕はないらしい。
 普段の典子そのままの声。
 そこでやっとゆっくりタイヤが動き、少しずつ速度を上げ、群がる人々をクラクションで追い払って、下半身を車外に露出した妻をそのままに、ワンボックスカーが遠ざかっていく。
 角を曲がって消えて行く前に、もう片方のピンヒールも脱げ落ち、地面に転がるのが見えた。
 集まっていたご近所さんたちは、三々五々散っていく。


「高田さんの奥さんか?」
「でもまだお勤めの時間でしょ?」
「声が近かったよな」
「身体つきも・・・」
「でも、あんな下着付けないでしょ。なんなのあれ」
「やっぱりどこかのデリヘル嬢なのかなあ?」
「アソコがハッキリ見えたね」
「あれ、まっちゃんが触らなかったら、あのままずっと見せてくれてたんじゃないか」
「まあ、それでもたっぷり一分間は拝ませてもらったから」
「新手の風俗なのかね〜」
「あの黒いワンボックスカー、最近よく高田さんの家の近くに停まってるよ」
「やっぱり高田さんの奥さんだったんじゃない?」
「ないない。典子さんは真面目で感じの良い人だもの」
「旦那さんが失業して、生活のための裏バイトとか?」
「こんど支店長代理だって聞いたから、それもないんじゃない」
「そっか。他人の空似か。そうだよな。でもあんな綺麗な奥さんが風俗やってたら、オレ絶対に行くな〜」
「なに馬鹿なこと言ってんの。夏に向かって雑草が大変なんだから、ちゃんと草むしりやってよ」


 住民は口々に好き勝手を言いながら帰って行った。
 画面は暗くなった。
 これでDVD『9』を全部見終わったことになる。

253名無しさん:2019/01/28(月) 12:44:25
71

 見たのはもうずいぶん前の気がする『Episode3』。
 リビングで客たちが囃し立てていた場面。


『近所づきあいとかちゃんと出来てるの? 家を預かる主婦として大事だろ、そういうの?』
『ま、前に変な格好で歩いているのを見られてから、気まずくなってぇ・・・、ハアハア』
『ああ、あれか?』


 みんなが揃って吹き出していた。


『あれは仕方がない。透け透けワンピースに、真っ赤な穴開き下着で出歩かれちゃ、頭がおかしいんだ、って誰でも思うでしょ?』
『あいつ魂消たような顔してたよなあ。あれ、隣の家の爺さんなんだってな?』
『そのあと出会ったのが、三つ離れた家の女子高生だろ?』
『Uターンしてずっと後をつけて来てた車。近所の食い物屋のなんだってね? へへへ・・・』


 この会話の意味がやっとわかった。
 あの変態下着の女が妻だとは、ご近所さんたちは誰も断定できなかったに違いない。
 なるべく顔を見られないようにして妻は動き回っていた。
 唯一、最初に出会ったお隣のお爺さんが顔も見てしまっているが、聞くところによると多少認知症気味であるらしい。
 信ぴょう性に難がある。
 だが人の口に戸は立てられない。
 情報は交換され、精度を上げていく。
 もしかしたら高田さんの奥さん、という疑念はご近所にくすぶっていたかもしれない。
 雰囲気を察知して妻も暮らしづらくなったことだろう。

 自宅の中でも撮影させられ。
 近くの公園でも撮影され。
 とうとう自宅の近所まで撮影に使われる。
 あげくには明弘の中学校の三者面談真っただ中の校舎でセックスをさせられ、それも撮影される。
 そうやって妻の生活圏の外堀を埋めていく連中。
 妻が今の家庭に未練を失くすというより、だんだん居たたまれなくなって、やがては家族を捨てる。
 その方向に巧みにリードされていた気もする。

 妻の車外に飛び出していた下半身。
 当然レンズは集まる人ごみを掻き分け、アップの画も押さえている。
 妻の羞恥の諸器官は、ほとんど布地のない真っ赤なショーツに周囲を彩られ、興奮のためか荒い呼吸に合わせて激しく収縮を繰り返していた。
 言うまでもないが秘部はズブ濡れだった。
 典子が強烈な性的快感を味わっていたことは疑いがない。

 こうなってくると、見ていないキーのかかっているDVD『4』と『5』が、俄然気になって来るのは自然な人情としたものだろう。
 去年のDVDで見残しているのは、知る限りこの2つだけ。
 中が見たい。

 家族がみんな家を去り、会社にも行かなくなった私は、一週間ほどかけて、朝から晩まで、このキーの解読に没頭した。
 駄目だろうと思いつつ、まずは典子の生年月日、次に自分のや子供たちので試してみた。
 西暦や年号でいろいろと並べ替えてチャレンジしてみたが、結局はやはり駄目だった。
 次に撮影日時だろうかと考え、これもいろいろ試行錯誤をしてみたが結果は同じ。
 時間だけはあるのだとばかり、総当たり制で順に1から数字を入れたりもしたが、無駄に終わった。

 そもそも桁数も分からず、数字だけなのかアルファベットも混ざっているのかも分からないのだ。
 果たして意味のある文字かどうかも分からない。
 偶然を頼りにしたところで、まぐれ当たりしそうにない。

 盤面をくまなく調べてみたが、おのおの『4』と『5』の数字がマジックで書かれているだけだ。
 目を皿のように凝らしても他に何も見えない。

 この2枚のDVDを見れば何かが進展するという訳ではないと思うものの、秘密めいたキーで封印されているからには何か理由があるのだろうと、とにかく気になった。
 何か手はないかと、キーを解除する方法を必死でネットで検索してみたが、結論としてはそんな裏ワザはないとのこと。
 悔しいが諦めるしかなかった。
 家族もいず、会社へも行かず、体調もおかしい。
 私はますます怠惰になった。

254名無しさん:2019/01/28(月) 12:45:11

 妻失踪の手掛かりを探る。
 その大義名分のもと、私は妻のAVを見ては精を放った。
 検分作業は一向に進まない。
 20年の間、性に真面目で奥手だと思いこんでいた典子の淫らな姿。
 嫉妬なのか怒りなのか後悔なのか。
 ただ毎回間違いのない興奮状態に私は陥って、その都度白濁液を画面に向かって迸らせていた。
 そして、その後は込み上げる自己嫌悪に意気阻喪して、しばらくDVDを見る気にもならない。
 こんな調子では全部見終わるのは一体いつになることか。



 そうこうするうち10月も下旬にさしかかった。
 もう妻の再失踪から2か月近い。
 寝たいときに寝て起きたいときに起き、コンビニやスーパーでインスタント食品を買い込み、不規則で不健康な食事を摂っては、過度の飲酒や喫煙で過ごす生活。
 前途に希望はなかった――。

 ちなみにダイニングの食器棚から発見した見慣れない銘柄の煙草は、妻の物と断定するよりなかった。
 明弘である訳がない。
 去年、私が流しの三角コーナーで見つけ、妻に当たった煙草の吸い殻。
 あれも今思えば、妻もしくは妻が引き入れた客が吸ったものだったのだ。

 『Episode6』での異様なリビングでの接待シーン。
 商売女の様にケバい化粧をして、うまそうに煙草をふかしていた妻。
 奴らとの生活の中で、身についた悪習だろう。
 こんな妻の姿も見たくなかった。

 あのあと娘が自分の部屋に逃げ込んで行くところがDVDに映っていた。
 いまは撤去済みだが、その痕跡を探索してくれた探偵によれば、一時期は家中に10台ほどの盗撮カメラが仕掛けられてあったという。
 そのマルチカメラを駆使して、連中は娘の脅えたような表情を克明に撮っていた。
 娘がいつだったか真剣な表情で、部屋に内鍵を付けたい、と言って来たことがある。
 深い考えもなく賛成したのだが、娘にはそれなりの理由があったのだろう。
 真菜は何も言わなかった。
 無駄なおしゃべりをしない物静かな子だ。
 妻の異常にはとっくに気づいていた娘。
 自分が何か言うことで、壊れかけた夫婦関係、そして大切な家庭までもが根こそぎ崩れ去っていきそうで怖かったのだろうか。

 先日真菜と電話で話した時、私と娘は、典子はすでに去年の6月の段階でおかしくなっていたとの、認識の一致を見た。
 あまり気にも留めなかったが、ご近所との付き合いは娘が代わって行くようになったとも言っていた。

 奪回後はずっと精神不安定な妻だ。
 ご近所とはいえ人付き合いは苦痛だろう。
 だから単身赴任終了後も仕事の忙しかった私は、子供たちには、


「お母さんを手伝えることがあったら、手伝ってあげてね〜」


 と頼んでおいた。

 特に真菜は気を利かせて、積極的に妻に代わってご近所付き合いをしてくれたようだ。
 ただそのときご近所さんたちに妻について何か言われたのかも知れない。
 電話でご近所の話題になった時、真菜は口が重くなり、すぐに話を変えた。
 行きつけのガソリンスタンドの店員にさえ、平気で典子が裸でM字開脚している写真を見せるよう仕組む連中。
 妻の平和な暮らしなど、もとより眼中にない。
 他にもいろいろやっていると考えるのが妥当だ。
 ご近所付さんたちとのやり取りの中で、私にも言えないような諸々がきっとあったのだろう。

255名無しさん:2019/01/28(月) 12:45:42



 家を出た妻の行方は一向にわからない。
 警察からは何も言ってこない。
 興信所は費用のこともあり、現段階では定期的に自宅のチェックをすることだけの依頼だ。
 AV社長からの電話もない。
 またひと月待てば掛かって来るのだろうか?

 そろそろ、また前回の電話からひと月となる。
 ただし奴から、ひと月後に電話する、とは言われていない。
 最後キレて怒鳴った私を持て余し気味に、奴はそそくさと電話を切ってしまった。
 またそのうちにと。
 それはいつになるんだろうか?

 妻のAVを見て、自慰をするだけの日々が過ぎていく。
 こうしている間にも、妻は連中の好い様にされてしまっているんだろう。
 限度を知らない男たち。
 どんどんエスカレートしているに決まっている。
 何か打つ手はないのか。
 手をこまねいているしかない現実。
 自分の無力さをつくづく感じてしまう。

 引き出しで見つけたDVDはまさに大量だった。
 連番になった初期のDVDとエピソードシリーズの新しいDVDだけではない。
 調べてみると盤面に何も書かれていない無記名の物も結構あるのだ。

 DVDを引き出しに入れたのは、連中に命じられた典子に違いない。
 だがそれらは元々どこにあったものなのか?

 大雑把に集められた印象だ。
 選別が行われた形跡がない。
 例えて言うなら、まるで《典子BOX》のようなものがあって、そこに入っていたDVDを根こそぎ運んできた感じだ。
 DVDの『1』『2』『3』がなかったことから、妻の関連の物だけが集められていたと推測がつく。
 これがオリジナルなのかコピーなのかもわからない。

 これまで見た無記名の物は比較的おとなしいものが多い。
 時間も短い。
 資料的な位置づけということなのだろうか。

 妻のものではない女性の映像もあったから、無記名のはいい加減に選んだのだろう。
 というか、何も書いて無く外側から見分ける術がないので、そうなっただけなのか。
 真相は分からないが、どうも奴らの組織の下っ端が上から命じられて、適当にやった気がする。
 連中にしては仕事が粗い。
 なにか奴らにとってマズイものでも混ざり込んでいないか。
 淡い期待もあったが、そのうちの一枚はまた私を打ちのめすものだった。

256名無しさん:2019/01/29(火) 19:43:00
72

 それは単なる食事風景と言ってよかった。
 ただし場所は、テレビでしか見たことのないような超高級フレンチレストランなのだとすぐにわかった。
 豪華で品のある内装。
 訓練されたキビキビ動く正装のウェイター。
 照明は薄暗く、天井から床まである一面の窓の外の夜景を際立たせていた。
 高層スカイレストランというやつだ。
 俺の稼ぎではとても連れて行けない風格が画面からも分かった。
 一食数万円はしそうだ。

 妻はその素敵な大きな窓を背にしてテーブルに座っていた。
 うっすらメイクをして、見たことのない高価そうな白いドレスを着ている。
 いつもよりもさらに美人度が上がって、どこかの上流若奥様のようだ。
 向かい合う相手はあのAV社長なのだろうか。


『もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません』


 頭に蘇る忌まわしいセリフ。
 確かに、悔しいが金回りでは奴に勝てそうにない。
 いや、はっきりと劣る。
 おそらく収入は雲泥の差だろう。

 テーブルの上にはグラスもある。
 妻の頬がほんのりピンクになっていた。
 置かれたボトルは一本数万円とかいうワインなのだろうか。
 いや、もっとするのかも知れない。
 だとしたら食事代は莫大なものになる。
 それでも長髪社長には平気なのだろう。
 こういう店へ典子を連れて行き、生活のために汲々としている旦那との違いをわざと見せつけている訳なのか。


「おいしい・・・」


 典子が微笑んだ。
 屈託のない笑顔。
 誰にでも見せる表情ではない。
 家族など心を許した者のみに見せる親しい笑み。
 もう長髪社長はその選ばれた数少ない対象に入っていることになる。


「典子もこういう生活に慣れていかないとな」


 気取ったその声。
 案の定、AV社長だった。
 してみると映像は去年の単身赴任中の時期らしい。
 奪還後は、奴らと典子は連絡を取れないことになっている。
 腐った連中だから実際のところは分かったものではないが、変なプライドだけはあるらしく、これまであからさまに約束を破った形跡はない。

 貧しいと思うような生活はさせていないつもりだが、我が家は特別裕福な訳ではない。
 平均的サラリーマン家庭だろう。
 だからこれまで私同様、妻も慎ましく暮らしてきている。
 遊ぶといってもカラオケや居酒屋がせいぜいだった。
 普通の主婦なのだから、そんなものだろう。

 しかしこのレストランは、サラリーマンが年に一度の贅沢と思っても、来られるレベルのものではない。
 どう見ても、大企業の役員クラス以上か、大成功した起業家など、並外れた金持ちしか入れない店だ。
 もしかするとエグゼクティブ専用の会員制とも考えられる。

 そこに妻はいる。
 社長と向き合って、上流階級然として、ワインの味を楽しんでいる。
 しかし奴と妻は対等ではない。
 そのことはすぐに思い知らされた。

257名無しさん:2019/01/29(火) 19:43:52

 画面に奴の右手が映り込んだ。
 何か持っている。
 手が動いた。
 すると、妻のドレスが透けて、下のブラジャーが光って浮き上がった。
 ペンライトのようなもので照らしたのか。
 透けた下着はまた乳首のところがくり抜かれた変態的なタイプ。
 それが薄暗い中にボンヤリ浮き上がっている。
 どういう仕組みなのか。
 わからない。
 赤外線カメラとかいうやつだろうか。

 何か合図があったのだろう。
 妻は自分の右手を口元に持ってきた。
 二本指を出す。
 カメラに示すようにじっとしていた。
 そしてそのまま、立てたその指を丁寧に舐め始めた。
 長い舌をこれでもかと出して、舌先をチロチロと上下させて、巧みに舐め上げている。
 半年間に及ぶ荒淫で、妻は信じられないほどのフェラのテクニックを身に付けている。
 それをまた目の当たりに見せられる。

 すると今度は妻の身体がビクンと跳ねた。
 画面に今度はONとOFFのスイッチのある四角いものを持った社長の手が映り込む。
 スイッチはONになっていた。

 意味は明らかだ。
 こんな素晴らしい超一流のレストランに、ふたりはカップルとして来ているのではない。
 ご主人様と奴隷。
 それを明確に告げる映像。
 妻は体内で振動するローターの刺激にうっとりと陶酔しているようだ。
 指先を舐める仕草が、より露骨で淫らになった。
 もう以前のように、込み上げる快感に対し、戸惑う様子や抗う姿勢はない。
 仕掛けは分からないが、穴開きブラはずっと浮き出たままだ。
 その真ん中で乳首が硬く尖って、影を出すほどに目立っていた。

 妻は素晴らしい夜景の窓を背にしている。
 店の広さは分からないが、他の客やウェイターから見える位置。
 それでも妻はためらうことなく痴戯を続けている。
 すっかり奴隷として躾けられてしまっていることが、ありありと分かる映像。


「今頃、旦那はアパートであのDVDを見ている頃かな?」


 そう社長に問いかけられても、妻は指しゃぶりに夢中で答えない。
 すでに口の中に深く二本指を差し込んで、唇でキュッと締め付けている。
 もう『旦那』という言葉を出されても、何の反応も見せなくなっている妻。
 そんな妻の姿に悲しさを覚えた。

 自分の指にむしゃぶりついている妻に、もとから返事など期待していないのだろう。
 社長は独り言のように言葉を続ける。


「きっかけについて喋った部分の音声は外してある。種明かしはまだもうちょっと先になるな」


 ということは、あの失踪の時期か。
 アパートにそのDVDが届いたのが8月16日の水曜だった。
 すると今見ている映像は、失踪から10日ほど過ぎた、ちょうど中間点あたりの映像らしい。


『あなたは気を悪くするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます』


 男たちは自宅で遭遇した時、そう言っていた。
 しかし俺はそのシーンは目にしていない。
 奴らは妻本人にその作業をさせたのだろうか。
 もう旦那には未練がないと、自ら決別の意思を表明させるために。


『それだけの事実を映像に残しているだけ。でもそれだけに典子の全てがわかるんです。本当の姿だから』


 勝ち誇ったように言っていた連中。
 あの別れの手紙を書き、裸で男に跨って腰を振り、それが撮影されたDVDを、自分で旦那の出張先のアパートに送るシーン。
 それらすべてを映像に残される妻。
 俺のところに送られて来たDVDにはもちろん妻が茶封筒を荷造りするそのシーンはなかったが、製品版にはそのシーンがあって、すでに販売されていたのかも知れない。
 妻から旦那に突き付ける三行半。
 夫の権威など見る影もない――。

258名無しさん:2019/01/29(火) 19:45:01

『お互いにこれで終わりだ。俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。それだけは共通認識として持っていてくれ』


 最後にAV野郎とはそう取り決めたが、それ以前の時点で商品として売られていれば、遡っての効力は及ばない。

 そう言えば妻の最初のシリーズはどういう形で終わったのだろう?

 尻切れトンボで終わったはずだが、もしかすると新しいエピソードシリーズが始まった段階で、眠っていたお蔵入り映像も放出した可能性がある。
 自分たちからコンタクトさえしなければ約束違反にはならない。
 都合の良い解釈で、まんまと『Episode2』で典子に初アナルを決め、5Pプレイを演じていた老獪な連中なのだ。

 私が自宅で対決した際、男の一人がずっとカメラを回していた。
 出張先に戻っていると思っている私が現れたのは、奴らにとって想定外だった筈。
 だから旦那である私との対決の場面はオマケと言える。
 本当は我が家を使って、また妻の良からぬ映像を撮ろうと目論んでいたのだ。
 いや、時間的に言って、少しは何かを撮っていたのかも知れない。
 その日だけでなく、失踪中にはいろいろ撮影しただろう。

 しかしその時期に撮られていた映像がどうなったのかは、私には知るべくもない。
 私は妻のDVDは手元に全部そろっている気分でいたが、製品版として見たことがあるのは実は『Episode3』だけだ。
 それすら最後まで見ていない。
 特典映像として何か入っているのか。
 それも分からない。
 結局のところ、奴らが妻を使ってどこで何を撮影し、どんな商品に仕立てて販売していたか。
 正確なところは私には全く分からないのだ!

 ふと『Episode3』のワンシーンが蘇る。


『あんな中途半端に連れ戻されたんじゃ、奧さんだって気持ちの整理が付かないよね。心はともかく、もう身体は半分、いや九割がた変態セックスに行っちゃってたんだし』


 リビングで全裸の妻を玩んでいた男の一人が言っていた。
 この男はビジターとして参加している、つまり本来はAV購入顧客な訳だ。
 その男が、妻が中途半端に連れ戻された、ことを知っていた。


『あっ、旦那か? 典子を手放したくなくて必死みたいだもんな。絶対に離婚はしないなんて、粋がっちゃって』


 他の男からのそんな発言もあった。
 俺が離婚を拒んだことも知っている。


『あの情けない亭主ね。間抜け面をビデオで見ましたよ』


 そういう声もあった。

 ここからわかることは、あの自宅での対決場面。
 そしてクレイホテル1105室での対決場面。
 両方とも商品として仕立て上げられ、すでに昨年12月の段階ではDVDになって流通しているという事実だ。
 自宅のほうはカメラを回している男がいた。
 ホテルのスイートルームにも多数の隠しカメラが仕込まれてあったのだろう。
 製品版の『Episode1』か『Episode2』の特典映像にでもされて、典子の引退劇の一部始終が、DVD購買客につまびらかに紹介されていたと考えるのが妥当だ。


『我々はスマートな組織だ。ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない』


 AV社長はそううそぶいていたが、依然として典子には莫大な商品価値が眠っていることを重々承知していたに違いない。

259名無しさん:2019/01/29(火) 19:45:46

『おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。旦那さんの目の前で消せ』


 そんな茶番を見せつけておいて、その実、妻に関する映像データは後生大事に保管しておいた連中。
 潔く妻から手を引くポーズを決めた裏では、チャンスさえ来れば、まだまだ典子で商売する気が満々だったということだ。



 AV社長はこんな超高級店に典子を連れて来ておきながら、妻を淑女として扱う気はさらさらないようだった。


「ここはセレブしか来れない場所だ。セレブでも何でもないお前は奴隷としてかしずくことで存在を許される。わかるな?」


 言いながら、手にした四角いスイッチをカメラにかざした。
 このリモコンはONとOFFのスイッチだけでなく、その下に強弱のスライドレバーがあるようだ。
 奴の指が横に滑るにつれて、妻の指しゃぶりが激しさを増した。
 ライトは依然妻を照らし、穴あきブラを浮き上がらせている。
 両手のふさがっている社長。
 カメラはテーブルの上に置いてあるらしい。

 真っ赤に上気した妻が濡れた瞳で、


(いいでしょうか?)


 と許可を求めるように、社長を見た。
 奴はOKと頷きでもしたのか。
 妻はテーブルの下から、赤い革の犬用の首輪を取り出し、自ら首に巻いた。
 そして留め金をきちんと嵌めると、ワイングラスを取り上げ、4分の1ほど残っていた液体を、喉を反らせて一気飲みした。
 それから社長に向かってニッコリと微笑みかけると、左手を胸にやり、浮き出ている乳首を摘まんだ。
 そのまま指先で、硬くしこった突起に、丁寧な愛撫を続ける妻。
 俺の出張前までは決してこんな破廉恥な真似を決してするような妻ではなかったのに。

 右手は空になったグラスを唇を押し当てて、疑似フェラチオの長くて厚い舌の動きをカメラに見せつける。
 ガラス越しに押し付けることで強調される、タラコの様に膨らんだ唇と、その隙間を這い回る赤い舌。
 厭らしい、思わせぶりな蠢き。
 男のペニスを舐め回すとき、妻の舌先はこんな風に動いているのだろう。
 口を大きく開ければ、喉の奥まで覗ける。
 なんとも淫らな見世物。

 このころ妻は私にも決別のメッセージDVDを送り、奴の所有物として生きていく決意を固めていたのだろう。
 もう周りの客や従業員から変態とも奴隷とも、どう思われようと気にもならないようだった。
 いや、むしろアピールしている。
 向かい合う男に飼われた女だと。

 だが、さすがと言うべきか、超高級店はそんな客の振舞いを気にも掛けずに、落ち着いて接客サービスに徹している。
 余計な口出しは一切しない。
 そういう店なのだろう。
 客の意向が第一と心得ているようだ。

260名無しさん:2019/01/29(火) 19:46:17

「せっかくのオードブルが冷めるぞ」


 社長がまた何気ない調子で声をかける。
 すると妻はグラスを置き、フォークでテーブルの上の何かを突き刺すようだった。
 画角から切れて見えなかったソレは、妻が手を上げたことで画面に入って来た。
 巨大なソーセージ。
 妻の口に納まらない太さ。
 まるでハムみたいだ。
 それでも口を限界まで開けると、送り込まれた先っぽの部分は妻の唇を伸びきらせるようにして、きしみながら内部へ消えて行く。
 はしたない大口を開けることにも妻は慣れきっているようだった。
 肉汁が妻の口元をテラテラと脂まみれにして垂れていく。

 妻が当たり前に披露する、巨大ソーセージを使ったフェラチオの真似事。
 左手は服の上から乳房をやわやわ揉んでいる。
 膣内ではローターが暴れまくっているのだろう。
 妻でもなく母でもない、色欲に溺れた女がそこにいた。

 25cm以上はあるソーセージを妻は喉奥まで呑み込んで見せる。
 ゆっくりと淫らに。
 そして窒息しそうなほど長い時間、喉奥に突っ込んでから、フォークをあわてて動かし、口から引きずり出す。
 肉汁と唾液と胃液、それらの粘液が一緒にテーブルの上にだらだらと零れ落ちた。
 肩で息するほど、とても苦しそうなのに、その涙目は媚びるようにAV社長を見ている。
 奴の命令に従い、仕えるのが心底嬉しいという風情。
 れっきとした私の配偶者である典子のこのザマはなんだ。


「良いメスを飼っていらっしゃいますな」


 突然の声に妻の身体がビクッと跳ねた。
 そして真っ赤になり、乳房の手を膝に戻して俯いた。


「典子、手はそのままだ」


 社長の冷ややかな声がする。
 ライトがやっと切られ、妻の姿はまた薄ぼんやりと暗がりに溶けた。
 そして画面の外の社長は見知らぬ男へ向けて言う。


「いや、まだまだです。今日はあちらへ?」


 男はAV社長と知り合いなのだろうか。


「ええ。・・・どうですか? このあとご一緒に?」


 相手の声は老齢の落ち着いた声音だ。
 その男も画面には入って来ない。
 映し出されているのは、妻と、その背景に広がる飛び切り美しい夜景だけ。
 きちんとメイクをした妻の首に巻かれた赤い革の首輪が痛々しく見えた。


「よし。典子。次はバーだ。そっちでもお披露目だ。朝まで楽しめるぞ」


 典子の顔が羞恥に紅潮した。
 いや、それは何かしらへの期待だったのか――。

261名無しさん:2019/02/01(金) 10:49:31
73

 俺はそのころ、妻の失踪に慌てふためき、駆け回り、子供たちにも何と言っていいかわからず、不安で消耗していた。
 そんな中、妻は?
 家族のことなど眼中になく、気楽に過ごしていたのか。
 快楽に夢中になって。
 そう見える。
 いや、そう決めつけるのは少し違うようだ。
 家を出て二重生活を捨てた妻は、まさに肉奴隷に専念させられていた。
 楽しむといった次元ではなさそうだ。
 妻が望んだことかどうかはわからない。

 失踪中の妻の映像。
 人の妻とは思えない放恣な暮らしぶり。
 そしてどうしても浮かび上がる自問――。

 考えてはいけない。
 私は努めて考えないようにしてきた。
 大事な妻だ。
 失踪中も、奴らの手から奪い返し、家庭に戻し、元通り子供たちと一緒に楽しく暮らすことだけを思って動いていた。
 結果的に妻を取り戻し、仲良し4人家族は再び揃った。
 しかし――。
 妻は悪鬼どもの手に落ちていたこの半年の期間、何人の男と関係したのだろう?
 何人の男に快楽を与え、自らも絶頂を迎えたのだろう?

 常に襲ってくる不毛の問いかけ。
 セックスも普通のプレイではない。
 奴隷として扱われ、ずっと変態的行為を強いられてきた。

 結婚している女性がゴム無しで浮気する。
 それは本来とんでもないことだ。
 しかも典子はゴム無しどころか、いつも当たり前に中出しされていた。
 フェラの時は飲むのが習慣だった。
 それも不特定多数を相手に。

 妻の心境が分からない。
 でも途中からはもう私や子供たちに愛着はあっても、愛情はなくなっていたのだろう。
 でなければ、いかなる理由であろうと、奴隷契約書などにサインするわけがない。
 しかも全裸で。
 そのシーンを証拠として男にカメラに撮られているのである。
 そのあとは夫婦の寝室でハメられ、しっかり喜悦の叫びを上げさせられていた。
 この夫婦の寝室の本当の持ち主はオレだと言わんばかりの男に・・・。

 私などよりDVDの金持ち顧客のほうが現実を把握できていただろう。
 その時点で私は、すっかり寝取られてしまっている間抜けな夫。
 歴然たる寝取られ亭主。
 誰にでもわかる。
 だから連中は安心しておちょくってきたのだ。
 でも俺はわからなかった。
 あの典子が・・・。
 浮気という事実さえ信じることは出来なかった――。


「ほう? かなり深く喉の奥が使えるんですな?」


 巨大ソーセージを再び口中に突っ込んだ妻を見て、感心したような声を上げる客。


「ええ。なんとかここまでになりました」


 社長も余裕の口ぶりで答える。


「私もぜひ後で試させていただきたいものですなあ」
「どうぞどうぞ」
「あなたの奥さんな訳はないが、品が良い。人妻ですか?」
「そうです。旦那持ちです」
「浮気はまずいでしょうね?」
「誰とでもやらせるのが躾けですから」


 ハハハと笑いが揃う。
 久しぶりに怒りが込み上げる。
 俺の妻なんだぞ。
 まるで物品かなにかのように典子を扱う男たち。


「ほほう。こんな綺麗な奥さんが誰とでも?」
「ええ。別に嫌がりもしません。育ててる期間は短いのですが、これまで相当に数はこなさせてますので」
「ははは。そうですか。何事も最初が肝心。一気呵成にたたみ掛けるのがコツですな」
「まあ、そういうところです」

262名無しさん:2019/02/01(金) 10:50:44


 典子は男たちの会話がまるで耳に入っていないかのように、白い高級ドレスの上流奥様然とした姿で口の周りを脂でベトベトにしながら、喉の最奥に巨大ソーセージを丸ごと呑み込むことに没頭している。


「もう家も出ましたのでね。いろいろ体験させているところです」
「ははあ? じゃあ、これから行くハプバーなぞ序の口ですな?」
「ですね。どちらかというと接待のために本格的作法を学ばせようとしてまして、既に2店舗ほど体験させましたよ」
「ほう? あっちのほうですか?」
「ええ。ひとつは中州です。もうひとつは春吉にも面白いところがありましてね。そっちはまた毛色は違うんですが」
「ほう、そりゃ凄い。ではハプバーでさっそくお手合わせと願いたいですな」
「後ろは仕込み中ですが、口と前は上物です。お気に召すと思いますよ。・・・典子、今の話、聞いてたな?」


 言われて妻は唇からソーセージを慌てて引き抜いた。
 ドバドバとテーブルクロスに垂れ落ちる唾液とも胃液ともつかない大量の粘液。


「・・・はい」


 俯いて小さく答える従順な妻。


「覚悟を決めて家を出たんだ。家族のことなんか忘れるためにも、とことん男に抱かれろ。お前も毎日色んなチンポにおまんこ突かれて楽しいだろ?」


 流石に妻はこのあからさまな言い様に答えることが出来ず、恥じらうように黙っている。


「返事はどうした?」


 苛立った社長の口調に促され、すぐさま反応する妻。


「は、はい。楽しいです・・・」


 その妻の返答は社長の満足を得なかったようで、しばらく沈黙が続いた。
 しかし敢えて妻に言い直させることなく、社長は言葉を継いだ。


「まあいい。今朝、お前の旦那にメール便で手紙を送っておいた。お前が今後奴隷として生きることを決意したという通告だ。籍があろうがなかろうが構わないが、どのみち離婚は間違いないことだからな」


 離婚という言葉を聞いた瞬間、妻の肩がブルッと震えた。


「どうした? 嫌なのか? お前が決めたことだろう?」


 なじるような社長の口調。
 妻は青ざめた顔をして凍り付いていたが、やがて眼の端から涙が一筋こぼれてきた。
 みるみる勢い良く溢れて来る。


「まあ、いまさら後戻りも出来ない。自分のやったことをよく考えてみろ」


 冷たくそう言われて、妻はヒックヒックとしゃくりあげていたが、涙を手の甲で拭いて、正面を向いた。
 泣きべそをかいた子供の様な顔になっている。


「首に手を当ててみろ。自分の状況を思い出せ。その首輪もお前が自分の手で巻いたんだ。俺たちは何も強制していない」


 妻は言われた通りに指先で革の首輪に触れて、淋し気に再び俯いたまま涙がこぼれるのに任せている。


「メソメソしてても始まらない。出かけるぞ。朝までたっぷり可愛がって貰え。こっちの道をお前が選んだんだ。店で覚えたテクニックで、せめて10人抜きはやってみせろよ。もちろん手や口じゃないぞ。身体を使うんだ。お前にとっちゃ朝飯前だろう?」


 からかうように言われ、妻が無理に笑顔を見せる。
 泣き笑いの様な複雑な表情。
 私の胸が短剣で突き刺されたように痛くなる。


「典子、お前は俺たちのものだ。それを忘れるな」

263名無しさん:2019/02/03(日) 11:43:55
74

 その無記名のDVDはそこで終わっていた。
 AV社長がほのめかしたハプニングバーや、体験させたという中州と春吉の店舗。
 それらの映像はなかった。
 情報もない。
 しかし推測はできる。
 20日間に及ぶ、妻の去年の失踪。
 連中が妻を紳士的に扱ったわけがない。
 苛酷な調教にさらに拍車がかかったことだろう。
 時間的な自由度が大幅に増えたことに加え、家を出たという事実が妻の気持ちを吹っ切れさせた。
 これまでとは数段レベルアップした調教が課せられたことは容易に想像がつく。
 そして妻もそれを受け入れたことだろう。
 いや、どうあろうと受け入れざるを得ない状況のはずだ。

 悪い連中には悪い連中なりの人脈がある。
 ピンク産業のネットワークがある。
 奴らはそれぞれ裏で繋がっているんだろう。
 普通の生活をしていれば、まず関わることのないアンダーグラウンドの人種。
 平凡な主婦として真面目に暮らしていた典子は、運悪くそいつらの一隅に接触してしまった。
 そして捕りこめられ、がんじがらめにされた。

 AV社長は当然風俗関係にも顔が利くと見ていい。
 家を出てしまえばもう体裁を繕う必要もない。
 本腰を入れ、奴隷修行の名のもとに、典子に風俗嬢までさせていたってことなのか・・・。
 いや、有り得ないじゃないか、そんなことは。
 あの典子が風俗で働いていた?
 有り得ない。
 典子は立派な母親で、俺の自慢の妻なんだぞ。

 そう自分に言い聞かせながらも涙が止まらない。
 こうなってくればどんな可能性だって否定できないことを認めざるを得ない――。

 典子が一連のAV会社がらみの事件で何人の男と関係したか?
 それは私の中でタブーとなった。

 妻の男性経験。
 『Episode3』で不動産オヤジにしつこく問われ、DVD出演前は3人だとはっきり答えていた。
 これは事実だろう。
 結婚前の恋人と、私、そして浮気相手。
 そのあと、ではDVD出演後は? と訊かれて、妻は答えにくそうにしていたが、結局、いっぱいです、と言葉を濁していた。

 いっぱいか・・・。
 じゃあ3桁だろうと客たちは嬉しそうに囃し立てていたが、私は本気にしなかった。
 妻を辱めて喜んでいるだけだろうと思っていた。
 しかし・・・。

 考えたところで仕方がない。
 現に今この時だって、妻は第二の失踪中だ。
 今回は前回より遥かに長い。
 すでに2か月を超えようとしている。
 法律上は私の妻だ。
 婚姻の効力として、夫婦は互いに『貞操義務』を負っている。
 でも典子の現実は・・・。



 秋になったので妻の実家から梨を贈って来た。
 温厚で素晴らしい義父義母。
 去年は高級な肉を貰ったりした。
 それをすき焼きにして、家族4人で和気あいあいと舌鼓を打った。
 あの生活がまるで嘘だったかのように感じる。

 妻の失踪は自分たちだけの問題じゃない。
 子供はもちろん親や親戚まで巻き込んでしまう。
 妻はそんなことも考えられないような人間になってしまったのだろうか。

 妻の親に現状では会話など出来ない。
 話のはずみで、ついうっかり余計なことまで喋ってしまいそうだ。
 電話ではとても話せないので、メールで短くお礼を送った。
 これまでは当然妻がお礼の電話を入れていた。
 私からメールなんて不自然だが仕方ない。
 大切な娘を託されていながら、みすみす悪魔たちの手に渡してしまった自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう。

 いずれ親戚全部に妻が失踪したことは明らかになるだろう。
 妻が異常な事態に陥ったことまで感づかれてしまうかも知れない。
 正式な手続きを踏んで早めに離婚したほうが、むしろ傷口は浅いのだろうか――。

264名無しさん:2019/02/03(日) 15:37:38
75

 あの憎らしい悪の張本人のAV社長は、最初の電話で、


『旦那さん、もしあなたが典子のことを本当に大切に思っていたのだったら、すぐに遠いところに引っ越しをすべきでした』


 そう私を嘲っていた。

 腹は立つものの、本当にそうだったのかも知れない。
 たとえ福岡を遠く離れたとして、それで万全かと言えばそうではないだろう。
 奴らは至るところに触手を伸ばした、アメーバのような巨大組織。
 どこに逃げようが絶対に安泰ということはなさそうだ。

 だが費用対効果というものがある。
 例えば離島のようなところへ逃げれば、そこまで追って来る可能性はぐんと減るだろう。
 連中にしたって典子一人にかまけてはいられない筈だ。
 奴らはビジネスとして複数の女を常に調達して、悪趣味な変態ビデオを撮り続け、作品をリリースし続けなくてはならない。
 それには拠点をたとえ地方であってもそれなりに大きい都市に置かねばならない。
 そこを中心に活動しなければならない。
 だから本当の田舎に引っ込めば、金持ち顧客を含む変態悪鬼どもの毒牙から我々家族が逃れ得た公算は高い。

 でもそんな決断があのとき出来ただろうか?
 ローンの残っている一軒家を売り払って、遠い見知らぬ土地へ移るなど?
 会社のこともある。
 子供たちの学校のこともある。
 それでも妻の身にこれほどの危機が迫っているとわかっていれば、私だって決断しただろう。
 会社を辞め、子供たちにも転校をさせ、国内といわず必要なら海外にだって脱出したに違いない。

 だがそうさせなかったのは、結局、妻の言葉のニュアンスを信じてしまったからかもしれない。


『会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない』


 四つん這いで首輪をつけてお尻を真っ赤になるまで叩かれていた最初のDVDを見た時は、妻が何か大変なことに巻き込まれていると魂が消し飛んだ。
 次に温泉旅行で普段と変わらない典子が、年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ、と言ってくれ安堵した。
 そのあと赤坂が家にやって来て、奥さんは浮気をしているが遊びたいだけだと言ってる、と俺の暴発を食い止める様な発言をした。
 最後は長髪社長が、私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります、と典子がAV嬢であるかのような紹介をした。

 上げたり下げたり、真実を見失い、俺は振り回されて、神経は極度に摩耗していた。
 そんな中、妻本人の口からそう語られたのだ。

 AVなどというものではなく、個人的趣味的、まったくプライベートビデオみたいなもの。
 ちょっと弱みを握られて遊ばれてしまっただけなの。
 たまたま売られてしまったけど、それは同好の士のような仲間内での流通。
 私だって売られていたなんて知らなかったくらい。
 だから警察なんて大ごとにもしたくない・・・。


 ――それなら大したことないんじゃないか。


 妻の説明を聞いて、俺はそう受けとめた。

 妻に瑕はついていない。
 よく言う、狂犬に噛まれた、ってやつだ。
 これからのケアが重要だ。
 こんなことで大切な家庭が破壊されてどうする。
 仲良し家族がバラバラになってどうする。
 そのほうがよほど大問題だ。
 典子は汚れてなんかいない。
 自分で卑下させちゃあ駄目だ。
 大切にしよう。
 過去はいい。
 前だけを向こう。
 これからが大事なんだ。

 俺の思考はそう運んでいった。

 妻の過ち――。


『お前のやっていたことは許されることじゃない。ただ、お前だけの問題じゃない。俺も気づいていながら何もできなかった』


 この言葉に嘘はない。
 どこの夫婦にでもあるような、ちょっとした躓き。
 今回の事件を俺はそう捉えた。
 だが実態は――?

265名無しさん:2019/02/03(日) 15:38:20

 妻の本心が分からない。
 引っ越しをしたいという提案は妻の口から一度もなかった。
 そりゃそうだ。
 自分の行動が、俺や家族に凄く迷惑をかけたことを分かっている。
 それに我が家の家計が、そんな余裕などどこにもないことも知っている。

 俺は長髪社長に手を切らせる確約を取ったことで安心していた。
 妻は俺などよりも深く、あの暗黒組織について知っているはずだ。
 自分が何をされたか、したか、一番よく知っているのはもちろん本人である妻だ。
 典子はどう思っていたのだろう?

 妻はあの凌辱時期の自分の行動を俺にいっさい喋らなかった。
 忌まわしい思い出。
 妻にとっても俺にとってもそう。
 未来だけを見て行こうとしている夫婦に、過去の悪しき情報など要らざるもの。
 俺は妻の沈黙をそう理解した。
 それでいいんだと俺は自分に言い聞かせていた。

 妻を奪還しての最初の一か月。
 あの『ファン』と称する新たな敵がちょっかいを出して来るまでの間。
 妻の様子、会話。
 いろいろ思い出してみる。

 妻は奴らからの誘いの手を心待ちにしていたのか。
 それとも半年間の悪夢を忘れ、また平凡だが幸せな生活に戻りたがっていたか。
 どっちなのか?


『もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない』


 愚問だ。
 妻ははっきり言っていた。
 やめたい。
 そう俺に断言した。
 迷うことなどない。
 あんな爛れた世界から離れたかったんだ――。
 妻は奴らと手が切れることを喜び、俺や子供たちと再び暮らせることに幸せを感じていた。
 絶対にそうだ!

 じゃあ、なぜ『もう、そんな世界に戻りたくない』と即答していた妻が、また異常性欲の世界に呆気なく戻って行ってしまったのか?

 その問いは、常に俺の胸を揺さぶり、とことん苦しめた。
 解けない謎。
 あの時妻は泣きながら、自分は汚れている、と卑下しながらも、住み慣れた自宅に帰って来てくれた。
 あの社長への妻のきっぱりとした返答を考えると、妻が再び篭絡される要素がないのだ。
 そして長髪社長らが約束を露骨に破った形跡もこれまたない。
 不可解な推移。
 信じがたい展開。
 せっかく戻って来てくれた妻がなぜ?
 なぜ、なぜ、なぜ?
 寝ても覚めても頭を離れない。
 心を抉られるような疑問に悶々とする日々。
 そしてそれはついに私の潜在意識にまで影響を及ぼしたようだった。

266名無しさん:2019/02/03(日) 15:41:02
76

 ある夜、夢を見た。
 鮮明な夢だ。

 私にとって人生で一番長い日ともいえるあの日。
 20日の失踪期間を経て、妻と再会した2007年8月27日月曜。
 あの日の夢だった。

 記憶が薄れて行っている私に、夢というスクリーンがもう一度あの日のやり取りを映し出し、細部までしっかりと事実を甦らせてくれた。

 眠りから覚めた私の瞼には大量の涙が溢れていた。
 顔を触ってみると、寝ている間にかなり大量の涙が、眼尻や頬を伝い、枕など寝具を夥しく濡らしていることが分かった。

 あれから一度もその日のことは夢に見たことがなかった。
 どうして今頃になって見たのだろうか・・・。

 夢は探偵が探り当ててくれた奴らの会社関連施設、異様な《ヤリ部屋》の帰り道から始まっていた。
 夢の中で私は助手席に探偵を乗せ、車を自宅に走らせている。
 白い雲をわずかに浮かべた晴れ渡った青空。
 過ぎ行く道路や街路樹に照りつける、見ているだけでも暑くなるような夏の日差し。
 マンスリーマンションでAV会社の下っ端とやり合った私は興奮状態だったが、同時に不安でもあった。


『事情は説明するから』


 短い一方的な電話だけで、それっきり音沙汰無しだった妻。
 その妻がよりにもよって自宅にいる。
 それも男たちと一緒に。


「俺どうなるかわからない」


 探偵に告げると、彼は短慮は私が損するだけだと諫めてくれた。
 胸の中にどうしようもない衝動が渦巻いていたのは事実だ。
 しかしそれよりも大きい不安。
 果たして妻は本当に自宅にいるのか?
 また捕まえかけた私の腕の中をすり抜けて、どこかに消えて行くのではないか?

 たとえ夢の中とはいえ、眠りの世界でもあの時の焦燥感はリアルに蘇っていた。
 脳細胞のどこかに、深く深く記憶が刻み込まれているのだろう。
 一生治らない傷痕のように。

 家の前に無遠慮に停めてある禍々しい大型ワンボックスカー。
 動揺のあまり手が震え、玄関の鍵穴になかなか鍵を差し込むことが出来ない自分。
 すべて同じだ。

 自宅に入り、リビングに踏み込んだ私の目の前に、


「やあ旦那さん、はじめまして」


 スーツに短髪の男がソファに座っていた。
 憎らしいほどの冷静な目つきで俺を見ている。

 こいつは典子のアナルを二番目に犯した男だ。
 その時はまだそう知らなかったはずなのに、そのように認識できてしまう自分。
 夢の不思議さかも知れない。

 ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男。
 こいつは社長だ。
 その時は分からない筈だが、これも夢の中では認識できている。

267名無しさん:2019/02/03(日) 15:41:45

 そしてビデオカメラを構えている体格のいい男。
 人を馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべている。


「何を撮ってるんだ!」


 思わず私は怒鳴った。
 夢は現実に起きたことと全く一緒だった。
 まさに過去を忠実に再現している。


「あなたっ」


 悲痛な叫びがした。
 キッチンとダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに私が目をやると、妻がいた。
 もう一人の男が背後に立って、急いで私に駆け寄ろうとする妻を、力づくで押さえつけている。


「あなたっ、助けてっ。私・・・私・・・」


 身をよじって振りほどこうとする妻を、男はがっしりと抱え込み、放そうとしない。
 むろん女の力ではとうてい男の力には抗えない。
 それでも妻は男を振りほどこうと、必死にもがいていた。


「これはどういうことだ!」


 激情に駆られ、短髪の男につかみかかろうとする私を、長髪の男が制した。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください」


 そこから長い話が始まった。
 男たちは、旦那もいて子供もいて幸せな人妻だけを狙い、特殊なAVを作っていること。
 典子が前の会社で取引先の担当者と身体の関係が出来、その担当者から男たちに引き渡されて、今のAV会社に転職していたこと。


「本当か!? この男の言ってることは本当か!?」


 私がショックに打ちのめされて問いただすと、典子はその事実を涙ながらに認めた。
 すかさず探偵が奴らに斬り込んだ。
 夢の中でも展開は全く一緒だ。


「そうすると、あなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。わかっておられると思いますが、それは立派な犯罪です」


 探偵の言葉に、長髪の社長はひるむどころか、薄笑いさえ浮かべてうそぶいた。


「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。ただ典子の意思はどうでしょうね。わからないなら見せてあげよう」


 典子の後ろに立つ男は、見たことのないワンピースを着ている妻を後ろから抱きしめるようにして、両手で服の上から乳房を弄り始めた。


「いやっ、やめてっ! いやっ!」


 妻は大声を上げて逃げようとしている。
 しかし必死に払いのけようとしても、腕力では男にかなわない。
 それでも嫌悪感むき出しの表情で、乳房への狼藉に対し猛烈に暴れて抵抗している。


「典子っ!」
「あなたっ、助けてっ! あなたっ、あなたっ!」


 素直に従わない妻に業を煮やした背後の男は、ついにワンピースを捲り上げ、乳房を露わにした。
 気が動転した。
 探偵にも妻の裸を見られた。

268名無しさん:2019/02/03(日) 15:42:38

 頭に血が上った状態だったのだろう。
 私はソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
 乱闘になった。
 殴り殴られ、私は失神した。


「ねえ、大丈夫?」


 意識を戻した私の傍らには妻がいた。
 蒼い顔だったが、私が気が付いたのでホッとしたのだろうか、張り詰めた表情が安堵にゆるんだ。
 でもそれもほんの一瞬で、すぐに神妙な顔つきに戻り、


「ごめんなさい。ずっと見張られてて、連絡も出来ずにごめんなさい。捜し出してくれてありがとう。そうじゃなかったら、私ずっと・・・」


 妻は目に一杯涙を溜めている。
 今にも泣きだしそうだった。


「やつらはどうした?」
「あなたの剣幕に怖くなって、いま出て行ったみたい。本当にありがとう」
「そうか。探偵は?」


 言うと、妻はテーブルのほうを指さした。
 探偵は心配そうな眼付きでこっちを見ている。
 少し心強くなり、妻に問いかける。


「これはどういうことだ? 浮気してたのか? いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?」


 妻はこれまでの経緯を話し始めた。
 涙をボロボロとこぼしながら。
 夢の中で私は驚愕していた。
 話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
 こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?


「なぜ言わなかった!」
「言えないわよ・・・。色んなことを無理やりさせられて。あなたや子供たちに知られたくなかった。でもどんどんエスカレートしていって、奴隷契約書や決別の手紙まで書かされて。辛かった。でもやっぱりバレるのが怖くて逆らえなかった。許してあなた。怖かったの!」
「どうして家出まで?」
「旦那にはとっくにバレてるって教えられて・・・。絶対に家族には秘密にするって約束で従ってたのに。あなた達に会わせる顔がなくなったと文句を言ったら、少しほとぼりが冷めるまで家から出てろと連れ出されて・・・。すぐに帰るつもりだったのに、あの人たちは帰らせてくれないで、逆にこれをきっかけに家族を捨てろと迫って来て・・・」


 妻はしゃくり上げ、言葉も途切れ途切れになった。
 それでもなんとか言葉を続ける。


「旦那に引導を渡してやるんだと、あんなビデオまで撮られて、北九州のアパートにまで送らされて・・・あなた、本当にごめんなさい。でも良かった。あなたが見つけてくれなかったら、私どうなっていたかわからない」


 妻はさめざめと泣いていた。
 警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
 証拠云々の話じゃない。
 男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


 私が言うと、探偵が異を挟んだ。


「ちょっと待ってください。レイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入りする女性も多いようです。事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。まず奥さんの気持ちを一番に考えるべきじゃないんですか?」
「じゃあ、このまま何も無かったことにしろっていうのか? お前はやつらの味方か!」


 荒い口調で言い放つ私に、妻が割り込んだ。


「悪いのは私です。私のことなんか良い。警察へ行って、すべてを話します。あなたの気の済むようにしてください」


 妻はまだ泣きじゃくっていたが、きっぱりとした口調だった。
 覚悟を決めたのだろう。
 涙が顔じゅうを覆って、顔色が蒼白になっている。
 その顔は、奴らに長期にわたって連れ回され、憔悴しきっていた。

 たしかに探偵の言うことも一理ある。
 奴らに制裁を加えることより、妻のことを第一番に考えるべきかも知れない。
 夢の中でそんなことを考えている。

269名無しさん:2019/02/03(日) 15:52:38
77

「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。それでいいか?」
「はい」


 妻はしっかりと肯く。


「じゃあ電話をかけろ!」


 妻は携帯を取り出して、すぐさま電話を掛けた。


「どこにいますか? ・・・いえ、そういうことではなくて。・・・はい、会ってもらえないんだったら、旦那が警察に通報するって言ってます。それで構わないんですね?」


 妻は強気で押した。
 俺がそばにいることで、奴らへの恐怖心が消えたのだろう。
 妻の凜とした態度が嬉しかった。
 やがて妻が携帯電話を耳から離し、ボタンを押した。


「奴らはなんと言ってた?」
「それが・・・、用はないから会うつもりはないって・・・」


 妻も口惜しそうに言った。


「あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


 私が思いっきり床に投げつけたテレビのリモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていく。
 妻は激高した俺を見て、動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい! でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。でもやっぱりあなたのそばにいたい。どんなことをしても償うから。お願いだから、ヤケにならないで・・・」


 それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いた。
 夢はあの日の流れを正確に追っていく。


「お前はどうしたい? これからどうしたいと思ってる?」


 やっと搾り出した俺の問いに、


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。ただ離婚だけは許してください。わがままなようだけど、それだけはしたくない」


 大泣きしている妻。


「男達との関係はどうする?」


 念のために訊いてみる、自信を喪失した俺。


「ずっと嫌だった。でも脅されて仕方なく・・・。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた」
「でも逃げなかった」


 つい口を突いて出てしまった言葉。
 夢でもおんなじだ。


「・・・私みたいなのが妻になって・・・すみませんでした。・・・でも許されるなら、また家に戻りたい・・・どんなことでもします・・・一生軽蔑してくれていい・・・また家族として受け入れてもらえるのなら、それだけで・・・ううっ・・・」

270名無しさん:2019/02/03(日) 15:54:02

 付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
 今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれた妻。
 不幸にも男たちの罠にかかり、好い様にたぶらかされてしまった。
 しかし、その妻にどれほどの罪があるのだろう。


「やめたいのか?」


 妻に訊く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


 下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・」


 またすすり泣きを始めた妻。


「もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、それまでに撮った写真や映像をネタに脅迫されて、もうどうすることも出来なくて・・・。これが表に出てあなたたちにも迷惑が掛かると思ったら、思い切って逆らうこともできないし、それにこんなことは遊びだから俺たちが飽きたらそのうちやめてやるって言ってたの。それまでの我慢だと思って・・・でもこれも全部言い訳です。ごめんなさい・・・」


 妻は私の前で、私の眼を見つめながら、涙を浮かべて切々と語った。
 私に抱きつきたいけど、自分にそんな資格があるのか、躊躇う様子だった。
 子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど、関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う」


 妻は即刻同意した。


「うん、わかった。会社であちこち聞きこめば、きっと行方は分かると思う。私も心当たりを捜す」


 そう意気込む妻の携帯に電話が掛かって来た。
 AV会社の社長からだ。
 今から福岡クレイホテルの1105室に来てくれと言う。
 ホテルの一室で話をしようということか?
 公共の場なだけ話はしやすいだろう。

 指定された会見場所の福岡クレイホテルの1105室に着く。
 キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである広い部屋。
 ガラステーブルを挟んで、奴と私たち夫婦がソファに向き合い対峙する。
 夢の中でもあの時の得も言われない緊張感がまざまざと蘇ってきている。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ」


 この言葉にすべてを込め、俺は言い切った。
 男は全く動じなかった。


「・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね」


 口を開いた社長は勝手なことを言った。
 困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
 頬を伝う涙は依然途切れていない。


「俺は離婚する気は無い」


 俺が更にハッキリと言い渡してやると、隣にいた妻がまた顔中を泣き濡らして、男に訴えかけた。


「私だって離婚はしません。この人と暮らします。どんなに蔑まれても良い。一生口をきいてもらえなくてもいい。そばにいます!」


 その後社長はちょっと困ったような顔をして、奥の部屋に案内した。

271名無しさん:2019/02/03(日) 15:55:01


「あ、奥さんもこちらへ」


 今更奥さんと呼ぶのか。
 そこにいたのは、全裸で全身をロープで縛られ、真っ白なベッドの上で男に跨っていた中年の女性。
 快感を貪るのに無我夢中で、周りのことも見えておらず、ひたすら腰を振り続けることしか眼中にないようだった。
 記憶ではもうぼやけていたが、夢の中では鮮明にその裸体が蘇っている。
 まだ身体の線もそれほど崩れておらず、顔もこんなふうに激しく喘いでいなければ、品のある美形の部類なのだろう。
 快楽に溺れた、浅ましいとしか言いようのない、欲望まるだしのその姿。


「この女も奥さんと同じ、人の妻です。ご主人がいる普通の奥さん。自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。なぜかわかりますか? もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ」


 得々として喋り出す長髪社長。


「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ」


 男の説明が終ると、すぐ傍の妻がいっそう激しくすすり泣きを始めた。
 その涙声が言う。


「違うっ、私はそうじゃないっ、違うっ。ちっとも気持ち良くなんかなかった。ちっとも楽しくなんかなかった。たしかに汚された。でも違う! 私はどれも自分の意思ではやってない!」


 社長は妻に反駁されて、一瞬鼻白んだ。
 今の今まで奴隷扱いしていた女からの意外な反撃を受けて、内心あわてふためいたのではないだろうか。

 夫が隣にいるというだけで、女は強くなれるのだ。
 奴らは夫婦の絆を甘く見ている。
 所詮は遊び半分で人妻を凌辱し、その映像を販売してビジネスをした気になっている下らない男たち。
 そんな甘えた商売センスが実社会に通用するはずがない。

 突然の気丈さを示した妻の様子を醒めた目で眺めている社長。


「そうは言っても、したことは変わらない。旦那さん、それでも奥さんとやっていけますか?」


 ベッドの女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
 快楽のために全裸の身体に縄を巻き、見ず知らずの男に跨り、遮二無二腰を振る女性。
 周りに誰がいようがお構いなしといった異質な状況。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・」


 その女性の姿に自分を重ね合わせたのだろうか。
 妻が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。
 一度は自らを奮い立たせたものの、再び肩を落とし、激しく嗚咽し始める妻。


「しっかりしろ。全部奴らの仕組んだことだ。自分で自分を卑下するようなことだけはするな」


 弱気になり、自分を汚れたものとしか見れなくなっている妻に憤りを感じた。
 俺はそんな妻を救おうとしているんだ。
 そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。

 もとのソファへ座る。
 その後の奴との会話も全くかみ合わなかった。
 離婚しろと迫る男。
 離婚はしないから手を切れと返す俺。
 どこまでも平行線だったが、こちらが優勢だ。

 当たり前だ。
 正式な夫が妻を取り戻しに来ている。
 どこの馬の骨だかわからない奴に指図される言われはない。
 なにより妻はソファで私に身を寄せ、安心しきったように私の手を握っていた。

 焦った男は、


「私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています」


 そんなことまで言い出した。

272名無しさん:2019/02/03(日) 15:55:36

 切り札のつもりだったのか。
 ちっぽけで安っぽい言葉。
 遊びの延長で生きてる連中のくだらない生き様が凝縮している。
 何を言われようと私は動じない。
 私にぴったりと寄り添った妻の体温が、私に無限の勇気を与えてくれている。


「今日で妻とは縁を切ってもらう」


 俺はきっぱりと言った。
 言い切れた。
 今までは妻の心に不安があった。
 もう俺のほうを向いていないんじゃないかと諦めかけたこともあった。
 でもそうじゃなかった。
 20年の夫婦の絆はそんなに容易いものではない。

 また典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は・・・。私は汚れてるの。それでも家に帰る資格ある?」


 泣きながら、妻はそう訊いた。
 全身が過ちを悔い、俺にすがっている。
 もちろんだと言う代わりに、俺はまっすぐ妻の目を見た。
 そして強く手を握り返した。


「資格なんかどうでもいい。聞かせてくれ。お前の本心が聞きたい。誰を気遣うわけでもない、お前の本心だ」
「私だって・・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


 感情が爆発したような大きな声。


「聞いての通りだ。俺は妻を――典子を連れて帰る。今日限り妻に接触しないのはもちろん、連絡先も今すべて削除するんだ」


 俺が言うと、社長は部下に命じて、しぶしぶその通りにさせた。
 しかし社長はまだ典子が諦められないのか、妻に未練がましく言った。


「本当にいいのか? これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


 妻は即答した。


「もう、そんな世界には、二度と戻らない!」


 そしてそのとき信じられないことが起こった。
 妻は立ち上がっていた。
 そして目の前の男の頬を張った。
 思いっ切り強く。


「よくも・・・、よくも、あんなひどいことを。私にも家族にも・・・」


 それ以上言うことが出来ず、クシャクシャの泣き顔をして、ただブルブルと震えている。
 男は頬に手を当てたまま、俯いてテーブルを見ていた。


「いいんだ。帰ろう。こんな穢れた場所にいる必要はない」


 俺は妻を促してホテルの部屋を出た。
 男は追って来なかった。


「本当に・・・ごめんなさい。私には家に帰る資格ない。でも許されるのなら・・・一生かかってでも・・・」


 2人しかいないエレベーターの中、妻は泣きじゃくりながら小さな声で言った。


「終わったことだ。全部忘れよう。俺にはそばに典子がいてくれるだけで十分だ」


 妻は大きい嗚咽を漏らしながら泣き続け、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られてしまった――。

273名無しさん:2019/02/03(日) 16:00:14
78

 これが奪還劇のすべて。
 私の生涯で最も長い一日のクライマックスだ。
 夢がもう一度見せてくれた生々しい再現。
 頬を熱いものが後から後から伝い落ちている。
 枕を濡らすだけ濡らし。
 それでも滝のように流れる涙。

 どうして泣く必要がある?
 輝かしい勝利の記憶。
 見事妻を家に連れ返した。
 俺が奴らに手を切らせたのだ。
 妻は私の元に、子供たちの元に、明るい妻、優しい母として戻って来てくれた――。

 突然、私は大声をあげて泣き叫びたくなった。

 違う!

 そう。
 違うのだ。
 この夢は事実と違う!

 これは妻の失踪中に、再会したらこうなんだろう、と頭の中で想像していたものに近い。
 似てはいるが全くの別物。
 私は寝床の中で身をよじり、横になったまま記憶を遡る。
 本当のあの日へ――。



 実際には典子は、探偵と一緒に家の中に踏み込んだ私に対し、


「あなた、助けてっ!」


 とは言わなかった。
 駆け寄る素振りも見せなかったのだ。
 家では見たことが無いワンピースを着て、ずっと俯いていた。
 こちらから問いかけるまで――。


「どういうつもりだ!?」


 叫んだ私に、


「ごめんなさい」


 妻は謝ったが、


「この状況は何なんだ! ここをどこだと思ってる!」


 憤る私に、


「まあまあ、旦那さん」


 と割って来たのは長髪社長のほうだった。
 典子は口を利こうとしなかった。
 私に助けを求めることは全くなかった。
 むしろ私との直接の会話を避け、会社の上司でもあるAV社長に説明を委ねて、配偶者であるはずの私に距離を置いた感じだった。

 そのひと通りの説明を聞き終わった時もそうだ。
 探偵が、あなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる、と斬り込むと、典子の意思はどうでしょうね、とうそぶき、社長は妻の背後の男に合図した。
 すると典子の後ろに立つ男は、妻を後ろから抱きしめるようにして、両手で服の上から乳房を弄り始めた。


「いやっ、やめてっ! いやっ!」


 夢の中では典子は猛然と抵抗していた。
 逃げようと必死になっていた。
 当然だ。
 俺や探偵の前、そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということをわかっていれば、そうでなければおかしい。

 でも残酷にも事実は違う。

 ずっと俯いたまま、まったくの無抵抗で、されるにまかせていた。
 俺や探偵など、まったく眼中にないかのように。
 ここがどんな大切な場所かすら忘れ去ってしまったかのように。
 そしてそのまま妻を弄っている男が妻のワンピースを捲り上げ乳房を露わにしても、妻はいっさいの拒絶をしなかった。
 AV社長の言葉を全面的に裏付けるかのごとく・・・。

274名無しさん:2019/02/03(日) 16:01:31

 乱闘の後、夢では妻が、気絶から覚めた俺に顔を寄せ、


「ねえ、大丈夫?」


 と凄く心配そうな表情を浮かべていた。
 当たり前だ。
 行方不明の妻を夫が血まなこになって捜し回り、ついに捜し当て、その目の前で妻を玩ぼうとしている男たちと殴り合いになった。
 感謝と共に倒れた旦那の側に駆け寄り、怪我があるかないか心配するのが普通だろう。
 ところがこれも事実は違う。


「大丈夫ですか?」


 声を掛けてくれたのは探偵だった。
 俺を気づかってくれたのは彼だった。
 気絶していたことと、奴らが出て行ったことを教えられた後、


「妻は?」


 尋ねると、探偵は黙って指さした。
 テーブルの横に妻が立っていた。
 私のことなど、どうでもいい様に。
 離れた場所で。
 まるで赤の他人の様に。

 夢の中では妻が盛んに、


「捜し出してくれてありがとう」


 と礼を言ってくれた。
 これだってそうでないとおかしい。
 妻は脅されて従わされていた被害者のはずなのだから・・・。

 むろん現実の世界は違っている。


「どういうことだ?」


 私が訊くまで、妻はうんともすんとも言わなかった。
 話しかけて来ようともしなかったのだ。
 礼なんて、その後も一切なかった。


「ごめんなさい。ずっと見張られてて、連絡も出来ずにごめんなさい」


 これは夢の中での妻の言葉。
 もちろんそんな事実はない。
 たった一本の電話も入れずに、男たちと一緒に行動を共にしていた妻。
 俺や子供たち――最愛であるはずの家族を捨てて、20日間も・・・。
 だからそう謝ってくれたっていいはず。
 気が狂うほど心配していた私に少しでも気持ちが残っているなら、そうでなくてはおかしい。

275名無しさん:2019/02/03(日) 16:02:16

 夢の中では、男たちの行方を妻に訊くと、


「あなたの剣幕に怖くなって、いま出て行ったみたい」


 そう誇らしげに持ち上げてくれたものだが、現実は違う。

 俺への気持ちが一切ない妻が、なぜあのとき自宅に残ったのだろう?
 それを考えるとまた胸が痛くなってくる。


「警察にタレこんだり、変な動きをしないように見張っとけ」


 やっぱりそう命じられて居残った可能性がすごく高い。
 背筋を冷たいものが首の付け根まで伝わり広がって来る。

 『Episode1』のキャプチャー『4』で調教師が言っていたアナルプラグ。
 あれも真実なのだろう。
 乱闘の最中、ドサクサまぎれに妻の背後にいた男が、妻のお尻の穴から抜き取ったに違いない。
 もうワンピースはめくり上げられ、ショーツ一枚。
 殴り合いに皆の目が奪われている間なら、簡単な作業だったろう。
 いや、妻はノーブラだった。
 間仕切で遮られて見えなかった下半身。
 ショーツさえ穿いていなかったのかも知れない。
 そして社長が大事な指令を妻の耳にささやく。
 忠実なしもべである典子は、それを粛々と実行に移したわけだ。

 状況を考えると、連中はたぶん人妻寝取られビデオのひとつのハイライトとして、わざわざ自宅の中で、旦那の目の前で、その妻にアナルセックスを決めようとしていた節がある。
 俺のことなど腹の底から馬鹿にしきっていただろうから、奴らに言いなりの典子の様子を見れば、ショックで腑抜けの様になって、邪魔することすら出来ないと踏んでいたようだ。
 そして、なし崩し的に離婚話に持って行けると、計画していたに違いない。
 それを諦めたのは、おそらくリハーサル時に妻のアナルがまだ貫通出来ないと判ったことと、探偵の存在だろう。
 とくに探偵が放ったひと言。


「こいつらのやったことは犯罪です。今の話はすべて録音してます。今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。外に停めてある車のナンバーも全て記録してます」


 これが効いたんだろう。
 旦那はボンクラだが、思いのほか強敵を連れてきた。
 奴らのひとつ目の誤算だ。
 それでも、アナルセックスは断念したにしろ、普通のセックスを見せつける気では、まだいたのかも知れない。
 カメラを構えた男が、私が登場するや、撮る気満々で本格的にカメラをまわし始めていたことからも、大いに有り得る線だ。

 社長の、見せてあげよう、というセリフひとつで、背後の男が妻に開始した狼藉。
 胸を揉みしだき、次いでワンピースをもめくり上げて、直に乳房を愛撫していく。
 それでも一切の抵抗をしない典子。
 その先には、旦那の目の前でセックスをしろ、という命令があったのかも知れない。
 そのことはもう確かめようはない。
 俺が逆上して暴れ出したからだ。

 そして奴らのふたつ目の誤算。
 俺が離婚に同意しそうにない。
 とてもその場で離婚話にまで持って行ける状況ではないと判断して奴らは去った。
 平常心を失った俺もだが、あの探偵が付いていては危険だ。
 咄嗟にあのAV社長は思ったに違いない。
 典子によくよく因果を含めて、あえてあの場に残したのではなかったか。
 俺たちに勝手な振る舞いをさせないために・・・。

276名無しさん:2019/02/03(日) 16:14:36
79

 夢の中での、男たちが去った後の妻との問答。


「浮気してたのか? いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか? AV女優として」


 キツネにつままれたような心持ちの私の問いかけに、妻は涙をボロボロこぼしながら、


「AVに出たつもりも、浮気したつもりもない。事務の仕事してるし、AV女優なんかじゃない」


 と弁明した。そして、


「あなたや子供たちに知られたくなかった。軽蔑されたくなかったの。でもどんどんエスカレートしていって、奴隷契約書や決別の手紙まで書かされて。辛かった。でもやっぱりバレるのが怖くて逆らえなかった」


 と続けた。
 ただしこれはあくまで夢の中での話だ。
 本当の妻はこんなことを言っていない。


「どうして家出まで?」


 尚も問いかける私に対し、夢の中の妻は、


「旦那にはとっくにバレてるって教えられて・・・。絶対に家族には秘密にするって約束で従ってたのに。あなた達に会わせる顔がなくなったと文句を言ったら、少しほとぼりが冷めるまで家から出てろと連れ出されて・・・。すぐに帰るつもりだったのに、あの人たちは帰らせてくれないで、逆にこれをきっかけに家族を捨てろと迫って来て・・・」


 非道な要求をされたことを告げた。


「旦那に引導を渡してやるんだと、あんなビデオまで撮られて、北九州のアパートにまで送らされて・・・あなた、本当にごめんなさい」


 私にすがり、泣き崩れていた妻。
 しかしこれも全部夢の中の話なのだ。

 実際には、


「なぜ言わなかった!」


 と詰め寄る私に、


「言えないわよ! あなただってDVDを見たんでしょう? あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない・・・何もできないじゃない・・・」


 と逆ギレのような態度をとっていた。

 会社の人間は庇わないかもしれない。
 世間も庇わないかもしれない。
 でも愛を誓い合った俺にはどうなんだ?
 深みにはまる前に相談ができなかったのか?

 妻の話を信じるなら、妻は被害者のようなものだ。
 それでも夫にも相談できない?
 ただ言いたくなかっただけじゃあ?

 そして妻が社長の言い付けで、俺を監視する役目を担っていたのなら、もう問題はそんなところにはなくなってくる。

277名無しさん:2019/02/03(日) 16:15:19

 夢の中、さめざめと泣いていた妻。
 告白を聞き、憤る俺。
 男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


 夢の中では探偵が異を挟んだ。
 私を止めた。
 レイプ被害者云々で私を説得した。
 しかし妻はキッパリと言ってのけた。


「悪いのは私です。私のことなんか良い。警察へ行って、すべてを話します。あなたの気の済むようにしてください」


 夢の中の俺は胸がジーンと熱くなった。
 非を悔い、自分の恥をも厭わず、なんとか事態の解決を図ろうとする強い姿勢。
 立派な妻であり、母である証し。
 もし本当にそう言ってくれていたら、どれだけ胸がスッとしただろう。

 それでももちろん私は妻の立場を慮って、実際に警察に通報したかどうかは分からない。
 しかし禍根を断つという意味では、大きな選択肢のひとつだったはず。
 妻の覚悟があれば、別にDVDなどの証拠がなかろうが、妻の証言だけで奴ら特殊AV制作会社に捜査が入り、その悪行を暴くことも出来たはずだ。
 あそこで押し切ってでも、もし警察に駆け込んでいれば・・・。


「やめて! これ以上傷つきたくない!」


 現実の妻はこう叫んだ。
 あからさまな拒否だった。
 予想外の返事に、俺は呆気にとられ戸惑った。

 だがこれは既定路線。
 というより、これが妻が居残ったメインの目的なのだろう。
 絶対に今の段階で警察沙汰にはさせるな。
 AV社長の厳命。

 夢の中の俺は、警察に行くと言ってくれている妻に対し、やはり無理強いは出来なかった。
 セカンドレイプの恐れは少なからずある。
 次善の策として私は、妻の会社を直撃することを決定した。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。それでいいか?」
「はい」


 妻はしっかりと肯く。


「じゃあ電話をかけろ!」


 妻は携帯を取り出して、すぐさま電話を掛けた。
 テキパキした動き。
 それは夢だからだ。
 現実はまるっきり違う。

 会社へ行って話をつけると宣言した私に、妻はうつむいたままこう言った。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから、他の社員も何も知らない」


 この言葉が嘘っぱちであることは、あとになって詳細な検証の末に分かっている。

 電話をしろと急かす私に対しても、妻の反応は鈍かった。
 妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。
 電話をしたくないということだったのだろうか。
 それが男たちへの気持ちなのか、俺へのためらいなのか、その時はわからなかった。
 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。
 それがプレッシャーになったのか。
 30秒ほどの固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。

278名無しさん:2019/02/03(日) 16:15:57

 夢の中では妻は強気だった。


「どこにいますか? ・・・いえ、そういうことではなくて。・・・はい、会ってもらえないんだったら、旦那が警察に通報するって言ってます。それで構わないんですね?」


 人妻を脅かして卑猥なビデオを撮らせていた悪徳アダルトメーカー社長。
 夫が妻を救出にやってきた今、そんな奴に下手に出る必要はない。
 俺がそばにいることで、奴らへの恐怖心が消えた。
 妻の凜とした態度が嬉しかった。

 しかしこれも現実とは違う。からっきし違う。
 実際はこうだ。


「もしもし、私です・・・」


 妻はずっと下を向いたまま話し続ける。


「今から会いたいんですけど・・・どこにいますか? ・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません」


 俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
 そして『警察に通報されるかもしれません』という、この言い方・・・。
 これは明らかに《向こう側》にいる人間の言葉だ。

 夢の中では『旦那が警察に通報するって言ってます』と妻は言った。
 主体は旦那。
 行方不明の妻を心配し、必死の捜索でついに夫が救け出しに来た。
 そのシチュエーションならば、絶対に夢の中の妻の言い方にならなければおかしい。
 旦那の側に立って言わなければおかしいのだ。
 通報される・・・。
 通報するんだろう。
 なぜ受け身になる。
 これが同じ一味でなくて何なのか。

 用はないから会うつもりはない。
 奴がそう答えたと妻は言った。

 夢の中では、激高した俺を見て、動揺した様子で妻が話した。


「ごめんなさい! 私は謝るしかない。でもやっぱりあなたのそばにいたい。どんなことをしても償います。お願いだから、ヤケにならないで・・・」
「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。ただ離婚だけは許してください。わがままなようだけど、それだけはしたくない」
「・・・私みたいなのが妻になって・・・すみませんでした。・・・でも許されるなら、また家に戻りたい・・・どんなことでもします・・・一生軽蔑してくれていい・・・また家族として受け入れてもらえるのなら、それだけで・・・ううっ・・・」


 一方的な被害者だったのなら、当然こう言うだろう。
 妻を責めに来ているんじゃない。
 妻を許さない私ではない。
 20年一緒に積み上げてきた、大事な家庭に妻を取り戻しに来ているんだから。

 だが現実は違う。


「ごめんなさい! でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


 いきなりこう言った。
 最初から別離の言葉。
 それが前提となっている。
 謝ってくれるんだと思っていた。
 ――姿を消す?
 いや、むしろ積極的にそうしたいとも受け取れる。

279名無しさん:2019/02/03(日) 16:16:36

 ここで俺がそうしてくれと言ったら、妻はどうするつもりだったのだろう?
 得たりと私の元を去って、男たちのところで祝杯でも挙げたのだろうか?
 これで警察にチクられる心配もなくなり、別れ話も円滑に進む。
 そういう心づもりだったのだろうか?

 しかし私には妻を手放すつもりなど毛頭なかった。
 お前はどうしたい?
 その問いにも、現実の妻は私と居たいなんてことを、これっぽっちも言わなかった。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います」


 そう言いながらも、


「離婚してもっと素敵な人を見つけてください」


 とまで言った。
 それまでひと言も《離婚》なんて言葉は出ていなかった。
 それが妻の口からすんなり飛び出した。
 まるで誘い水のように。
 準備していたかのように。
 離婚したいことが本心だったことが透けて見える。


『探偵にも行ってるみたいだけどもうやめてください。あなたと、そして子供たちと過ごしたこの20年近く、すごく楽しかった。でも今後も一緒に過ごす資格は私にはありません』


 手紙だったせいか、それとも出し抜けだったせいか。
 このセリフにまったく実感が湧かなかったが、離婚は典子の希望でもあったのだろう。
 ただし、裏切りを続ける自分を許せないから、という理由が本当なのかどうかは、もう分からなくなっていた。


「あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた」
「でも逃げなかった」


 男たちとの関係について尋ねた時、夢も現実もおおむね同じだった。
 ただ夢では妻はこう言っていた。


「それまでに撮った写真や映像をネタに脅迫されて、もうどうすることも出来なくて・・・。これが表に出てあなたたちにも迷惑が掛かると思ったら、思い切って逆らうこともできないし、それにこんなことは遊びだから俺たちが飽きたらそのうちやめてやるって言ってたの。それまでの我慢だと思って・・・」


 脅迫され、期限付きということで、やむなく従っていたと告白していた。
 だが現実はそうは言ってない。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・」


『私も駄目で・・・』


 もっとこの言葉を真摯に受け止めるべきだったのか。

280名無しさん:2019/02/03(日) 16:26:42
80

「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど、関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う」


 意気込む私に、夢の中の妻は即刻賛成した。


「うん、わかった。会社であちこち聞きこめば、きっと行方は分かると思う。私も心当たりを捜す」


 妻のやる気が嬉しかった。
 でも実際の妻は、私の出鼻をくじくようにこう言ったのだ。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


 なんとかして私を会社へ行かせないようにしていた。
 そうとしか思えない。

 そこへAV社長からクレイホテルでの会見の申込み電話が入ったのだ。
 絶妙のタイミング。
 あとから考えてみれば典子は盗聴器を持たされていた可能性だってないとは言えない。
 逐一、こちらの動きが奴の耳に入り、チェックされていたのかも知れない。
 そして私がもし警察や会社に行くと言い出せば、すぐさま何らかのリアクションが起こせるように準備してあったのかも知れない。
 用意周到な一味だ。
 それくらいのことはやりかねない。

 指定された会見場所の福岡クレイホテルの1105室。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ」


 言い放った俺に対し、


「・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。離婚していただきたいと思いまして」


 長髪社長はまったく悪びれることなく、そう返してきた。


「俺は離婚する気は無い」


 キッパリと言い切る俺。

 夢の中では、隣に座っていた妻が顔中を泣き濡らして、男に向かって主張した。


「私だって離婚はしません。この人と暮らします。どんなに蔑まれても良い。一生口をきいてもらえなくてもいい。そばにいます!」


 20年連れ添った伴侶の頼もしい援護射撃。
 略奪を狙っていた連中はぐうの音も出なかっただろう。

 しかし、むろん現実の世界ではそんな出来事はない。
 妻はただ黙ったままだった。
 離婚という自分も関係している事柄に対し、何の意思表示もしなかった。


「ちょっとお見せしておかなければならないものがあります」


 社長はそう言って奥の部屋に我々を案内した。
 そこにいたのは、快感を貪るのに無我夢中で、ひたすら腰を振り続けることしか眼中にない、全身をロープで縛られベッドの上で男に跨っている全裸の女性。
 この女もれっきとした人の妻だが、与えられた快感が忘れられず、嫌悪感を感じているにもかかわらず、また我々のところへ来るのだ。
 そう得々として喋り出す長髪社長。


「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ」


 勝ち誇ったように言うAV社長に対し、夢の中の妻が猛烈な勢いで反駁する。


「違うっ、私はそうじゃないっ、違うっ。ちっとも気持ち良くなんかなかった。ちっとも楽しくなんかなかった。たしかに汚された。でも違う! 私はどれも自分の意思ではやってない!」


 当然だ。
 呼び出されれば必ずやってきて、株主だか何だか知らないが、見知らぬ男に跨って快楽を貪る。
 そんな女と一緒にされてたまるか。
 弱みを握られて、無理やり脅されて、仕方なく行為を続けていたなら、妻がそう言い返さなくてはおかしい。

281名無しさん:2019/02/03(日) 16:27:17

 しかし現実はまたもや違う。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


 すすり泣く声。
 泣きじゃくりながら、奴の指摘を全面的に認めてしまった妻。


「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな」


 同じ境遇なわけないだろう!
 弱気になり、自分を汚れたものとしか見れなくなっている妻に憤りを感じた。
 だが・・・。
 このとき私は妻の何を知っていたというのか。

 AV社長との対決の場に臨んで、私の原動力になっていたこと。
 それは過去を信じることだった。
 自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの――。

 そう。
 その通り。
 そのこと自体は間違っていない。
 過去は揺るぎのない、厳粛な事実。
 だからこそ重みがある。

 しかし私は忘れていた。
 単身赴任していた半年間。
 その間の妻の行動。
 それもまた過去である。
 もう二度と帰って来ない時間に刻まれた、取り返しのつかない事実の数々。

 妻と二十年暮らした過去が真実なら、男たちに好い様にされ、破廉恥という言葉ではおさまらないほどの乱脈を極めた妻の半年。
 それもまた過去の真実。
 そしてその大半を俺は知らない。
 わずかにDVDでその一端を窺い知ったに過ぎない。
 全てを知っているのは妻と男たち。
 その妻が言った。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


 もっとよくこの言葉を噛み締めるべきだったのか――。



 妻を連れてその部屋を出た、ソファに戻ってのその後の会話も全くかみ合わなかった。
 離婚しろと迫る男。
 離婚はしないから手を切れと返す俺。
 どこまでも平行線。

 でも夢の中では私は心強かった。
 妻がソファで私にぴったりと身を寄せ、安心しきったように私の手を握ってくれていたからだ。


「今日で妻とは縁を切ってもらう」


 私は最後通告をした。
 奴からの返答はない。
 すると典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「私に家に帰る資格はある?」


 泣きながら妻はそう訊いた。
 全身が過ちを悔い、俺にすがっている。
 本心を聞かせてくれと訴える俺に、妻が答えた。


「私だって・・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


 感情が爆発したような大きな声。


「聞いての通りだ。俺は妻を――典子を連れて帰る。今日限り妻に接触しないのはもちろん、連絡先も今すべて削除するんだ」


 俺が言うと、社長は部下に命じて、その通りにさせた。

282名無しさん:2019/02/03(日) 16:27:55

 この辺りは現実もおおむね似ている。
 ただ妻は泣きながら繰り返しこう言っていた。


「もう、私は・・・。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


 自責の念が言わせているんだと思っていた。
 後悔の言葉だと思った。
 ただここまでの経緯を見れば、資格云々を口実に妻は単純に家に帰りたくなかったんじゃないかとすら思えて来る。
 遠回しに、もう帰りたくない、と繰り返し主張していただけとも受け取れる。


「私だって・・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


 ヤケになったかのような妻の大声。
 これだって以前、俺が考えたように、あとに声なき声がこう続いたに違いない。


「もしも戻れるものなら!」


 と・・・。
 妻は半年の間、自分が何をしてきたか、熟知しているのだ――。

 夢の中では妻がAV社長を引っ叩いてくれて痛快だった。
 やられたこと、やらされたことを考えれば、頬を張るくらいではとても釣り合いが取れない。
 半殺しの目に遭わせたって、まだ足りないくらいだ。
 それでも意思表示にはなる。


「よくも・・・、よくも、あんなひどいことを。私にも家族にも・・・」


 それ以上言うことが出来ず、クシャクシャの泣き顔をして、ただブルブルと震えていた妻。
 本人がそれだけやれば、二度と奴らも接触しようとは思わないだろう。


「いいんだ。帰ろう。こんな穢れた場所にいる必要はない」


 俺は嬉しかった。


「本当に・・・ごめんなさい。私には家に帰る資格はない。でも許されるのなら・・・一生かかってでも・・・」


 2人しかいないエレベーターの中、妻は泣きじゃくりながら小さな声でそう言ってくれた。

 こんな終わり方なら、新生活へ向けての再スタートは何の不安もなく盤石だったろう。
 ところが現実はそうではない。
 妻は社長をビンタなどしなかった。
 そんな気振りさえなかった。

 結局は出来レースだったのか。
 茶番だったのか。
 頑として離婚に応じない俺の態度を見て、社長と妻はこれ以上俺を刺激することの危険を感じた。
 それでなくとも既に自宅でひと暴れしている。


『まあ、旦那の顔も立ててやらなきゃならないところが、人妻の辛いところですよ。いったんは元のさやに納まって、大騒ぎになるのを防ぐ。典子の機転です』


 『Episode3』の中で得々と喋っていた角刈り不動産オヤジの言葉。
 ギリギリのせめぎ合いを続ける会見の場にあっても、妻と社長とは一脈気心を通じ合っていたという訳なのか。

283名無しさん:2019/02/03(日) 16:28:38

 そういえば、前回AV社長から電話があったとき、奴はこんなことを言っていた。
 妻が、もうそんな世界に戻りたくない、と言ったことに関して、


『少しは見栄もあったと思いますよ。あなたに対してのね。そんなことでも言わなければカッコがつかない。それに私たちには都合も・・・』


 奴は少し言いかけてから思い直したように言葉を切った。
 奴らの都合――。
 今ならハッキリわかる。
 それは何があろうと組織全体を防衛することに他ならなかったのだろう。


「お前がどう思ってるかは関係ない。俺の妻である以上一緒に帰るんだ。お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


 苛立った私が妻を問い詰めると、妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。今までだって好きでいたわけじゃない。でも・・・」


 その言葉の先は聞けなかった。
 社長が妻の言葉を引き取って、


「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう? 頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。それが女の性というやつだ。なにもおかしいことではない」


 遮るように早口で言ったからだ。

 そのときは家に戻ると言い出しそうな妻の態度に焦った社長が、妻を引き留めるために口をはさんだのかと思っていた。
 しかしこれも巧妙な偽装だったのかも知れない。
 妻が口にした『でも・・・』という打消しの接続詞。
 もし仮に妻がこう続けたとしたらどうだろう?


「でも・・・いつの間にか愛情が芽生え、もう家庭のことなんかどうでもよくなった。この人たちと一緒に付いて行きます。社長のことも愛してるの・・・」


 今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいか。
 その問いの答えとして、もしも妻のそんなセリフを聞こうものなら、俺はまた逆上して大暴れしただろう。
 乱闘になる。
 そのこと自体は大したことではないが、騒ぎになって探偵が乗り出してくるとコトだ。
 社長は咄嗟に考えたに違いない。

 あの探偵は切れる。
 この騒ぎを利用して、警察事案にしようとして動くだろう。
 ホテルという公共の場だ。
 典子の事件でなく、暴行傷害の別件として攻めて来るかも知れない。
 下手すれば会社にまで飛び火する。
 いや間違いなく、それを狙ってくる。

 社長はそう危惧した。
 その気配は典子にも敏感に伝わり、この場を穏便に済ませることにした。
 それにはいったん家庭に戻ると同意すること――。

 俺はまったく気づかなかったが、瞬間的にふたりで目配せを交わし合っていたのかも知れない。


「わかった。旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。本人にその意思がないのであれば、いくらこちらから接触しても仕方ない」


 奴は気前よく言った。
 それまでのいかにも未練ありげな態度とは一変していた。
 不自然だ。
 唐突に過ぎる。
 このとき以心伝心、奴と妻の間で暗黙の了解が成立したのだろう。

284名無しさん:2019/02/03(日) 16:29:09

 どうあれ典子は既に連中の多数飼っている忠犬の中の一匹となっていたに違いない。
 それを知らずに、典子との永遠の夫婦の絆を信じ込んで、奴と必死の交渉をしていた俺は、とんだ道化だったということだ。
 奴らにとっては、本丸であるAV制作組織さえ無事に守れれば、典子などいったん自分らの手から離したところで、いずれ戻ってくる確信があったのだろう。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。旦那さんの目の前で消せ」


 この命令もおためごかしだ。
 どこかのサーバーに蓄えてある妻の膨大な映像は手つかずのまま。
 本当はそれらを全部消さないと解決にならない。
 もっと言えばそれまでに売ったDVDだって全品回収させなければ妻の名誉は回復されない。
 取ってつけたように連絡先だけ削除させる姑息な手口に、私はまんまと誤魔化されてしまった。
 ひとつには妻がやっと、今までの生活に戻りたい、と言ってくれホッとしていたというのがある。
 そして奴らに妻と手を切らせること。
 この大仕事が成就したという安堵感もあった。


「いいか、本当にこれで終わりだ。お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ」


 俺は最後にそう宣言した。
 もうそれ以上、悪辣な首魁とタフな交渉を続ける気力が残っていなかったのも事実。
 あいまいなまま、事態は一応の終結を見た――。



 俺は妻を自宅に連れ帰ったことで大満足していた。
 一世一代の賭けに勝ったのだ。
 だが妻はどうだったのか・・・?


 ――あなたの前から姿を消しますから。
 ――離婚してもっと素敵な人を見つけてください。
 ――もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの。
 ――もう、私は・・・。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの。


 考えてみれば、典子は家に帰りたいなんてひと言も言わなかった。


『お前がどう思ってるかは関係ない。俺の妻である以上一緒に帰るんだ』


 そう言って、俺が無理に連れ戻しただけだった。


『私だって今までの生活に戻りたいわよ!』


 やけっぱちのような妻の言葉。
 唯一、妻が元に戻りたいと意思表示をした。
 だから本心だと思った。
 家へ連れ戻すことが、妻を救うことになるんだと信じた。

 でも冷静に分析すれば、これとて家に帰りたいとの言葉ではない。
 今までの・・・普通に暮らしていた過去の生活に戻りたいと妻は叫んだだけ。
 もうそんなことは出来っこない。
 平凡で幸せだった過去の自分は帰って来ない。
 変わり果ててしまった己を自覚している典子。
 かつての貞淑な人妻は、どんな男とも見境なく変態セックスを繰り広げるだらしない淫婦に変貌してしまっている。
 叶えられない願望を口にしただけ――。

285名無しさん:2019/02/05(火) 23:57:20
81

 妻がいなくなり。
 天の啓示のような夢を見てから。
 やっと私は真相を悟った気がする。
 リアルな夢を見たことで、いままでモヤモヤしていたものが、すっきりと整理された。
 だが得られた結論は残酷な真実。

 妻が家に戻って来たのは私たち家族に対する愛情の故ではない。
 まさにAV社長と奴の組織を守る。
 その一点のみが理由。
 信じがたいことだがそうなのだ。

 警察に通報させない、会社にも行かせない。
 妻の発言、行動――あらゆる要素を組み合わせれば、必然的にそこに帰結せざるを得ない。

 男たちより家庭を選んでくれた妻。
 私は喜びに包まれながらも、無意識の中で様々な矛盾にぶつかり足掻いていた。
 そしてついに深層心理が夢という形で、事実を浮き彫りにしたというわけだ。
 今まで妻への漠然とした割り切れなさは抱いていた。
 疑念も少なからずあった。
 しかしやはり私は心のどこかでそれを拒否していたのだ。

 だが真相は一つ。
 長髪社長は一週間を経ずして会社ごと姿を消し、警察からの捜査の手を未然にブロックし安全圏に逃げた。
 妻はそうやって社長が完全な防戦体制を整え上げるのを、私のそばに張り付き、邪魔だてさせないように見届けた。
 つまりは、そういうことだ。
 それが全て。

 特に連中にとっては探偵の存在が気が気ではなかったのだろう。


『探偵にも行ってるみたいだけどもうやめてください』


 妻からの三行半の手紙にもそう書かれてあった。
 後ろ暗い連中。
 叩けば埃が出る。
 本能的に色々と探られるのが嫌なのだろう。

 やがて事務所ごと奴らは消え失せ、探偵から警察に告発があろうとも、まるっきり危険がない状態になった。
 阿吽の呼吸で無言のうちに与えられた典子のミッションはコンプリートした。
 後は漫然と惰性の毎日を送っていたに過ぎなかったのだ。

 妻は私や子供たちを愛しているので帰って来てくれた訳ではなかった――。

 身を切られるようなつらい現実だが、モヤモヤは晴れた。
 どれほど受け入れがたい事柄でも事実として認識して行かなければ前には進めない。

 思えば典子はずっと《向こう側》だった。
 それは家に連れ戻してからも変わらない。
 ある時点から、典子はもう《向こう側》の人間だったのだ。
 私の妻ではなく。


『私には家に帰る資格ない・・・』


 この言葉には想像をはるかに超える大きな意味があったのかも知れない。
 もはや家族の一員ではなく、奴らの組織の配下になってしまっている、その自覚。
 妻は私に従って家庭に戻ることを同意したが、それは単にほとぼりの醒めるのを待つ方策だったのだ。


『俺の妻である以上、一緒に帰るんだ』


 俺がそう言って、強引に連れ帰っただけ。
 心を男たちに残したままの、妻の抜け殻を帰宅させたに過ぎなかった。
 そして妻はいつか来るに違いない連中からのコンタクトを心待ちにしていたに違いない――。

286名無しさん:2019/02/06(水) 00:00:14


 振り返ってみて何より情けないのは、実はAV社長のほうが長年連れ添った妻よりも、あのとき真実を喋っていたということだ。
 いきなり自宅に出現した見知らぬ長髪の男。
 こいつが今まで俺を散々おちょくり、所有主などとふざけた手紙まで送ってきた男か!
 私が怒りに我を忘れ、奴の言葉のいっさいに耳を貸さなかったのは、むしろ当然だろう。


『私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります』


 開口一番、奴はそう言った。

 AV制作会社?
 典子が所属している?
 じゃあ典子はAV嬢だっていうのか?

 動揺を誘ったこの言葉も、連中がいなくなったあと典子本人が、その口で明確に否定してくれた。


『会社は普通の映像製作会社。事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!』


 やっぱりな。
 自分に都合よく事実を捻じ曲げ、夫婦の仲を裂こうとしていやがる。
 ある事ない事吹き込んで、俺を困惑させて、気持ちをくじこうとしてやがる。
 そうはいくか。
 俺は闘志を燃え立たせた。

 しかし――。
 信じがたいことだが。
 奴は事実を告げていたのだ。
 嘘を言っていたのは妻のほうだ。
 俺はてっきり長髪野郎が口から出まかせを言って、妻を自分のものにしようとしているとばかり思い込んでいた。
 逆だったのだ!


『典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ』
『あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ』
『あなたの為に言っています』
『DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある』
『私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。だから言っているんです』


 すべて本当のことだった――。

287名無しさん:2019/02/06(水) 00:01:06

 対して典子はウソばかりついていた。


 曰く――撮影なんて知らなかった。売られてるなんて、さっき初めて聞いたの。
 曰く――事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない。
 曰く――あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。
 曰く――会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。


 虚偽のオンパレードだったが、俺は気づかなかった。
 さもありなん。
 俺は大バカ亭主。
 それまでにもウソばかりつかれて来た。
 典子が俺を騙すはずがないと、信じ切っていたのに。


 ――ごめん、携帯の電源切れちゃってたみたい。
 ――お茶してカラオケいってくるだけのつもりだったんだけど、ご飯もたべてきちゃった。会社に新しくパートで来た人と仲良くなって話がはずんでさ。
 ――いや、さっき笑われたって言ってたから汚れてるんだと思って車の中掃除してきたの。
 ――あ、ごめん、曜日間違えちゃった。お茶漬けとかでよかったらすぐ作れるけど・・・。
 ――ちょっと町内会の集まりがあったの。
 ――ねぇ、明弘の三者面談いけなかったんだー。仕事で・・・。


 頭の中によみがえる妻の明るい声。
 これらすべてが俺を欺くための真っ赤な嘘だったわけだ。
 いくら何でも、あんまりじゃないか・・・。

 温泉旅行で妻が言ってくれたセリフ。


『年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ』


 お互いに笑顔で見つめ合った。
 夫婦でこういう真面目な会話をするのも悪くない。
 和やかで温かい空気の流れる不思議な時間。
 しかし、あの言葉も心にもない絵空事だった――。

 そして典子が穏やかな口調でポツリと言ってくれた言葉。


『あなたと結婚してよかった』


 その時の妻の顔は本当に美しくて可愛らしかった。
 俺の女房になってくれてありがとう、典子。
 素直にそう思えた。

 それすらも。
 変態顧客たちを喜ばせるためのシナリオで。
 特殊AV制作会社の連中が用意した。
 空虚で、偽りに満ち満ちた。
 飛び切りの大嘘だったのだ!

 俺は知らなかったが、そのとき浴衣に隠された妻の美しい丸々とした真っ白な双臀には、《変》《態》という文字が一文字ずつ大きく殴り書きされていた。
 心からの言葉であるわけがない――。


『典子はもうあなたの知っている典子ではありません』


 一番否定したかった奴の言葉。
 しかし・・・。
 すべての真実はそのひと言に凝縮していたんだろう。



 あの日。


 ――妻を救いたい。


 その一心でシャカリキになっていた俺。
 妻の側に立って社長と対決している気でいた。
 妻とタッグを組んで戦っているつもりだった。
 こうして真実が暴かれてみれば。
 なんと滑稽なことだっただろう!

288名無しさん:2019/02/06(水) 00:02:43
82

 妻が我が家に戻ってからの生活。
 ほぼ時を同じくして、私の北九州への単身赴任も終わった。
 最後は妻の失踪に気もそぞろで、有休も沢山使わざるを得なくなり、仕事の成果どころではなかった。
 同僚や部下に言えることでもない。
 自分一人の胸に仕舞い込んだ。

 単身赴任を終えた日常は、半年前と少しも変わらなかった。
 それは俺がそう思い込みたいだけだったのか。
 仲良し4人家族で過ごす日々。
 子供たちは二人とも受験生。
 妻とは以前と同じに話をし、以前と同じに食事をし、以前と同じに談笑し、以前と同じに同じテレビ番組を見た。
 時おり暗い翳を浮かべる妻の表情を除けば、まるで魔の半年間など無かったかのような、20年来の日常がそこにあった。
 妻が特殊AV社長の意を酌んで、方便として家に戻って来ただけなんて気づかなかった。
 だがそれはもはや疑いとかいうレベルではない。
 心が張り裂けそうに辛いが、冷厳な事実なのだ。

 北九州では会社の寮に住んでいた。
 寮といっても一般のアパートを会社名義で借りているだけの小さな部屋。
 でも最初から通勤の便を考えて近くを選んであるので、朝は比較的ゆっくりできた。
 それが福岡に戻って来ると、また慌ただしい朝だ。
 真菜も明弘も早いが、私はそれ以上に早くに家を出なくてはならない。


「あっ、こんな時間だヤバイっ」
「ほら、新聞なんかバスの中で読んだら? もう7時よ」
「こりゃ車で行かないと間に合わないかな?」
「あまりしょっちゅう車で行くと叱られるんでしょ? 駐車場がいっぱいになるって」
「それはそうだが、緊急事態だ」
「バカね。緊急事態にしたのは自分でしょ? もう少し早く起きればいいのに〜」
「あはは、そうだな。まだ慣れなくてね〜」
「えっ、もう何年も通勤してるのに慣れてないの〜?」
「あはは、これから早出するようにしたんで、まだ身体のリズムがね〜」
「じゃあ帰りは?」
「遅くなるかな〜」
「そう? ほら。鞄、鞄。忘れないでよ?」
「あ、ほんとだ、サンキュー。行って来る」


 朝の風景。
 妻もいそいそと世話を焼いてくれる。
 真菜も明弘も起きてきて、顔を洗ったりトイレに行ったりする、慌ただしい時間帯。
 そんなバタバタした朝の時間は、妻も後ろ暗い記憶が消え去るのだろう、ぎこちない態度は影をひそめ、昔通りの明るい妻、優しい母に戻っていた。
 このささやかな、でもかけがえのない平凡な毎日を重ねることで、元通りの楽しい家庭を構築することが出来る。
 そのことに何の疑問も持っていなかった。
 手応えがあった。
 だから新しい敵――典子のファンとかいう狂った富豪――が余計な手出しさえしてこなければ、きっと私の家庭はすっかり元通りになった筈なのだ。
 そう信じ込んでいた。

 だが妻にとってはこのささやかな幸せも空虚なものでしかなかったということか。
 狂った異常色欲の世界がもたらす骨身もとろかせる刺激に比べて、退屈きわまる毎日だったということなのか。
 その後の経緯を見れば、そうとしか思えない。
 家族に向ける笑顔の裏では、平凡すぎる生活に失望のため息を漏らしていたのだろう。


『本当にいいのか? これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?』


 AV社長の言葉。
 悪魔じみた変態セックスの快楽を五体の隅々まで染み渡らせてしまった妻は、その言葉通り、開発された女体を日々どうしようもなく疼かせていたに違いない。

 私に見せつける様な激しいオナニーは、淫欲を雲散霧消させるための理性的な対処法、と好意的に捉えていた。
 だが、昔の自分とは違ってしまっている、との妻なりのアピールだったのかも知れない。
 もう戻れないところまで行ってしまっていた妻。
 もし例の『ファン』が出現しなかったにしろ、遅かれ早かれ妻はフラッシュバックし、いびつな異常性愛の世界に戻る運命だったのだろう。


『私、典子は旦那との結婚契約は続けますが、身体も心もご主人様のものであり、ご主人様の意思で今の旦那と暮らしてます』


 去年の5月の段階で、典子が直筆でサインまでしてしまっていた奴隷契約書。
 全裸ではっきりと口に出して読み上げていた。
 遊びでも冗談でもなく、その通りだったのかも知れない。
 結局は社長の意をくんで家に戻って来ただけだった妻。


 ――ご主人様の意思で今の旦那と暮らしてます。


 こんなふざけた話があるか!

289名無しさん:2019/02/06(水) 00:06:23
83

 落ち着いて振り返ってみる。
 昨年からの長い顛末。

 結局のところ。
 俺はゲームセンターのテーブルゲームで最高点を出そうと頑張ってるゲーマーだった。
 自慢の家庭を守ろうと必死だった。
 半ば崩壊状態の家庭。
 自分が救えるものだと信じていた。
 まだ画面には《Continue・・・?》の文字が出ていると思い込んでいた。
 そしてコインを入れ続けていた。
 プレイを継続しているつもりだった。

 なんのことはない。
 ゲームはとっくに終わっていた。
 妻はもう奪われていた。
 去年の春の段階で。
 身体どころか、心までも。
 奴らは一気呵成に婚外セックスの回数をこなさせ、変態趣味にもどっぷりと漬け込んだ。
 雁字搦めにし、じっくりと肉体の奥底に肉欲の快感を植え付けた。


『今日は旦那の飯は作るな。お前がもう旦那のものじゃないということを教えてやるんだよ』


 そんな命令をされて、素直に従う配偶者がどこにいるだろうか?
 心身ともに他の男たちの所有物、本物の奴隷にでも成り下がっていなければ。

 妻を救う。
 DVDを見せられ、妻が失踪しても尚。
 私の心には闘志があった。
 燃えていた。
 しかし・・・。
 奪回のあの時点ですでに救いようのない妻だったということなのか。

 AV社長は妻を家に帰すことは、ちょうどいいテストくらいに思っただろう。
 半年の間、まさに夜を日に継ぐようにして、男たちと爛れた関係を続けてきた典子。
 それが切れて、果たして正気でいられるものか。
 もう身体が以前とは違ってしまっている。
 それを典子本人に思い知らせる絶好の機会。
 社長は一石二鳥だとほくそ笑んだかも知れない。

 そうは言っても、妻の心にも、私たち家族とやり直せるかも、という一縷の望みはあったに違いない。

 『Episode10』でのベッドに横たわる私の寝顔に語りかけていた場面。


『あなた・・・家に帰る資格のない私を・・・連れ戻してくれて・・・嬉しかったです・・・でも・・・』


 背後から男に立ちバックで責められながら、裸のまま無我夢中で本心を口走っていた妻。


『あなた・・・妻として・・・母として・・・もう一度やり直すつもりだった・・・でも無理だった・・・』


 そうはっきり告げていた。


『もう身体がとまらない・・・去年あなたが知らない間に・・・いっぱいされたの・・・普通じゃないこともたくさん・・・あなたが見たDVDが全部じゃない・・・ほんの一部・・・もっと凄いこともいっぱいしてるの・・・』


 自分の肉体が異常セックスの快楽に、完全に屈服していることを白状していた。


『本当にいいのか? 一度抜けて戻れるものではない・・・』


 社長は、家に戻ると言った妻――俺に張り付き見張りを続行すると言外に誓った忠実なしもべの典子に対し、皮肉な調子で告げていた。


 ――どうせ戻って来ることになるが、それには禊やケジメが必要になる。しかしどんな苦痛に満ちた調教でも甘んじて受けるだろう。もうそういう身体になってしまっている。ここで思い切りそれを自覚させたほうが、のちのち好都合だ。


 社長はコマシ屋としての豊富な経験で、典子の行く末など、掌を指すがごとくにお見通しだったはず。


『ファンも大勢いますよ。典子と会いたいという話もたくさん来る。金に糸目をつけない連中がね』


 俺という旦那の前で、そう言って、憚らなかった長髪野郎。
 自分が手を下さなくても、いずれ誰かが典子に手を伸ばすという確信があったのだろう。
 そして典子がそれを拒絶できない身体になっていることは百も承知だったわけだ。

290名無しさん:2019/02/06(水) 00:07:01

 案の定、典子は昨年10月3日の○○ホテルでの会見以来、再び異常性欲者たちの網に捕りこまれてしまった。
 俺は自分の不運を呪った。
 せっかく取り戻した最愛の妻をまたしても凌辱生活に引きずり込まれて悔しかった。
 引き出しに仕舞われていたDVDを見るまでそのことに全く気付かなかった俺は、何か防ぐ手立ては無かったのかと、ずっと自分を責めてきた。

 しかしそんなことが出来るわけがない。
 これこそ典子自身が待ち望んでいたことなのだ。
 淫らな刺激を求めて激しく疼く女体を持て余していた典子。
 俺にひと言の相談もなかったのも道理だ。
 典子は帰りたくて家に帰って来たわけではない。
 社長への忠誠の為、いったん元の家庭に身を置いただけ。
 元の生活に戻れるかもという幻想が、おそらくは短期間で呆気なく打ち砕かれて以後。
 もう家族と暮らすことにも何の興味もなかったのだろう。

 精神的に不安定になり、また寝こんだりし始めたのもこの時以降だ。
 『ファン』を自称する新たな調教師チーム。
 妻は苛酷さの増した性調教に自らのめり込んだ。
 アナルプラグを入れられ、ローターで調教され、クリキャップを義務付けられ、随時呼び出されては、鞭打たれ浣腸をされていた典子。
 様子がおかしくなったのも当然だ。
 娘の話だと、ほぼ家事などすることもなく、娘に任せっぱなしとのことだった。
 食事も妻ではなくほとんど娘が作っていたという。
 家族に興味を失った妻が、家事に意欲を燃やすわけがない。
 男たちからの淫靡な命令を嬉々として受け入れることしか考えなかっただろう。

 そんな娘は4月から大阪の専門学校に行っている。
 すると、そのあとは曲がりなりにも家事は妻がやっていたことになる。
 娘がいなくなればたちまち家事が滞りそうなものだが、さほど変でもなかった。
 むろん私は早出と深夜残業を繰り返していたから、細かくチェックできるような立場だったわけではない。
 ただ娘がいなくなると妻一人に家事がのしかかる。
 そのことが無意識に頭にあって、出される食事等が多少いい加減になっても、気にも留めなかったのかも知れない。
 あるいは4月後半から勤めに出るようになって、妻も日中の調教からは逃れ得たので、少し身体に余裕が出たということだったのだろうか。
 料理だって手の込んだものは作らなかったが、7月頃には夏野菜の浅漬けにチャレンジしてくれたりしていた。
 平凡な暮らしに満ち足りていたように見えたのに・・・。
 8月末に予定されていた永遠の別離。
 迫り来る期限を見据えて、せめて家庭の味の思い出をという妻なりの心づくしだったのかも知れない。

291名無しさん:2019/02/06(水) 00:10:10
84

 やがて10月が終わり11月に入った。
 時は無為に過ぎていく。

 大量の薬物服用。
 大量の飲酒。
 大量の喫煙。

 妻の行方は杳として知れない
 打つべき手はない。
 苦痛に満ちた毎日。

 AV社長からの電話はない。
 もちろん妻からもない。
 これだけ狂おしい思いをしているというのに、なぜ典子は連絡一つもよこさないのだろう。
 妻の気持ちが掴めない。
 とっくの昔に俺からは気持ちが離れていて、すでに眼中にないのだろうか。
 きっとそうなのだろう。

 前回、社長は電話で言っていた。


『まあ、DVDも全部はご覧になっていらっしゃらないようだから仕方ない。まだ時が掛かりそうですね』


 確かに・・・。
 妻の出ているDVDを見るにつけ。
 妻の淫乱な痴態を知るにつけ。
 妻の裏切りの実態を目の当たりにするにつけ。
 もう夫婦関係の修復など、夢のまた夢と思えてくる。

 時が過ぎゆくに連れ。
 仲の良い夫婦として一緒に暮らしていた典子の残像は薄れて行き。
 ビデオの中で、裸で色んな男と爛れたセックスに耽る、ふしだらな典子の姿だけが私の頭の中に色濃く残って行く。

 これが狙いなのだろうか?

 奴らは手を下さずとも、私がDVDを見続けることで。
 ショッキングな映像が突きつける、ウラの真実に触れ続けることで。
 妻の堕落ぶりに、ひとりで悶絶し。
 うめき、苦しみ、のたうち回り。
 やがては離婚を受け入れざるを得なくなる。

 そう踏んでいるのだろうか?

 そのためにはわざわざ電話をして、下手に私を刺激することもない。
 柿は苦労して枝に登って取らずとも、熟せば自然と地に落ちて来る。
 ただ待てばよい。
 旦那は半狂乱になり、消耗し、疲労困憊して、やがて白旗を上げるだろう。
 その頃を見計らって、やっと連絡を取れば十分だ。

 いや――。
 社長は以前『婚姻などの法的なものには興味はありません』と通告の文書ではっきり書いていた。


『まあ、籍が入っているかどうかは、実際のところ私たちの活動にはあまり関係はないのですけれどね。ただ典子もすっきりしたいでしょうから』


 最初の電話でもそう話していた。
 だとしたら、あれだけこだわっていた《離婚》についても、もうどうでもいいと方針転換したんだろうか?
 あんな旦那など構うなと。

 亭主持ちだろうが、やることは変わらない。
 かえって人妻のままのほうが面白いぞ。

 そんな展開になってしまっているのだろうか?
 電話がないのはそう言うことだろうか?

292名無しさん:2019/02/06(水) 00:10:55

 奴らとの離婚交渉が、典子との残された唯一の接点と信じてきた。
 その交渉の中にこそ、活路があるのではないかと期待していた。
 それすら連中は放棄してしまったというのか。
 もうこのまま、放ったらかしにされてしまうのか?

 典子が完全に別世界の人間になってしまう。
 もう二度と会えないかも。
 二度と声も聞けないかも。
 この世で再びまみえることは、もうないのかも。
 私は典子のれっきとした配偶者のはずなのに――。



 11月の声を聞き、肉体の異変は新たに瞼にも現れた。
 左の瞼が時々小さな痙攣をおこすのだ。
 左手の小指と薬指の痺れは相変わらずだし、左の太腿の皮膚にも麻痺のようなものを感じている。
 この前撮った脳のMRIでは目立った病変はないとのことだった。
 しかし検知できなかっただけで、何かが進行しているのかも知れない。

 別に怖くない。
 仕事をし。
 家庭を支え。
 家族を支えているという自負があった頃。
 自分なりに健康には気づかってきた。
 若い頃は翌日が仕事の日でも平気で起きていたが、歳を取るにつれて仕事に対する責任感などを感じるようになり、夜更かしはやめた。
 煙草も減らし、禁煙したりした。

 しかし、今のこの状況。
 妻が蒸発し、子供たちとも別々の暮らし。
 自分の身体のことなんてどうでもよくなっていた。
 もっとも多少でも気にかけているのであれば、こんなに薬品や酒煙草を、むやみやたらと大量摂取しやしない。
 自覚はなかったが、もはや自暴自棄の状態だった。

293名無しさん:2019/03/30(土) 11:17:27
続きは?

294名無しさん:2019/03/30(土) 13:29:16
愛欲を独占する淫らな石プレミアムは知ってますか?

295名無しさん:2020/04/10(金) 12:41:48
>>292

296名無しさん:2020/04/10(金) 12:42:18
No

297名無しさん:2020/08/05(水) 18:04:49
続きが読みたい・・・。

298名無しさん:2020/08/11(火) 12:56:30
>>292
続きをお願いします🙏

299名無しさん:2020/08/13(木) 21:39:54
こんな私を起たせてくれた小説がここで切れるなんて・・・。

300名無しさん:2022/12/19(月) 10:17:07
あげ

301名無しさん:2023/03/03(金) 17:42:40
さらにあげ

302名無しさん:2024/02/06(火) 17:24:00
ひさびさあげ

303ステマ:2024/04/14(日) 12:57:34

-Gay兄弟-ゲイビ新宿の男
撮影罪(性的姿態等撮影罪)とは?

2023年7月13日、撮影罪
撮影罪とは同意なく撮影

ゲイビ新宿の男X(旧Twitter)高齢者承認欲求ネカマステマスカウト老害= 高齢者ナマポコジキ老害 =SNS、無料掲示板で大暴れ 

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