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カオスロワ避難所スレ2
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こちらは投下スレです。
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拳王連合はもはや説明不要だろう。あれを理不尽と言わずになんと言えばいいのか。
遡って情報収集をしていた小鳥からは、なんか電車ごっこで遊び半分に人を轢き殺したとかいう情報を得た。
まず、電車ごっこをする意味がわからないし、それで人を轢けるというのも意味が分からない。
常識が通用しない相手であることは間違いなく、こちらも油断はできない相手だ。
しかし同時に現在はホワイトベースと呼ばれる集団が交戦状態に入っているようで、彼らと共闘できればあるいは……
仮面ライダーは実力は未知数だが、書き込みの内容から残念臭がぷんぷんするので、ここは他に任せてもいいだろう。
最後にDMC……狂信者が果たして何人いるのか、その全貌は未だにわからない。
前回の襲撃の際に葬った狂信者の数はおよそ3000。これだけでも相当な数だが、次はさらに増えるだろう。
一人一人は弱くとも、数の暴力とはいつの時代も恐ろしいものだ。
「うん、ちょうどここから直進すれば、首相官邸か。
全速力で向かって天魔王軍を片づけて、転移魔法で都庁入り口に帰還。
そのまま地下に向かって仮面ライダーを捕獲、引きずって地上で狂信者を迎撃、大阪に向かって拳王連合を殲滅……
理論上は可能だけど、やっぱりきついなぁ」
首相官邸の方角を眺めながらも、現実的ではないその考えを自身で却下する。
このポイントからダオスに頼んでレーザーを撃ってもらえば、直線最短距離で首相官邸への道は出来上がるのだが。
「まいったね――もう時間が残されていないかもしれないのに、決められないや」
そうして首相官邸の方角を眺めながら、レストは深いため息をついた。
左手で、右肩を押さえながら、悔しげに。
「レスト様、やはり……」
「あれ、やっぱりサクヤにはばれてたかな?」
少し驚いたという表情を浮かべながら、レストはおもむろに上着を脱ぎ始める。
少女の前で突然脱衣を始めるなど変質者の行う行為だが、見せられているサクヤはそれを止めようとはしない。
その表情は変質者に対する怯えではなく、嘘であってくれと願うような、そんな切ないものだった。
「……他のみんなには隠し通せてたんだけどね」
「私は能力の関係上、闇や悪しき気配には敏感ですから……」
晒されるレストの上半身。
細身であり、無駄なく引き締まってはいるが筋骨隆々というわけではない。
ただ刻まれた無数の傷痕が、彼が過ごしてきた人生の壮絶さを物語る。
そんな傷痕の中で二ヶ所だけ、異質な物があった。
「ちょっと迂闊だったかな。おかげでこのありさまだよ」
右肩と、右肘付近。
そこの傷痕から僅かながら黒い霧のようなものが溢れだしていた。
――ここはかつて、風鳴翼の攻撃によって傷を負った箇所。
――そして溢れる霧は、彼女のものと同じ。
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「吸血鬼か何か、多分そんな能力もあったんだろうね。噛まれた時に流し込まれてたらしい」
レストの推察通り、確かに風鳴翼――その前身である四条貴音は吸血鬼の特性を得ていた。
噛みつき、血を啜った相手を同族へと変える吸血鬼の牙。
だが四条貴音から風鳴翼へ、そして風鳴翼からテラカオスへと変異していく中で、その牙の特性も変異していた。
その牙で噛まれれば、その混沌の力を纏わせた剣で斬られれば、その箇所にテラカオスの因子が残留するのだ。
それが蓄積されれば、感染が加速すれば、どうなるか。もはや答えはわかりきっている。第二、第三のテラカオス候補となる。
テラカオスの一定以上の攻撃を受けた者は、同じテラカオスへと誘われる……この能力は、主催者達ですら把握してはいなかった。
何故、テラカオスが持つこの能力が今まで明らかになっていなかったのか。
答えは実に単純なものであり、現在のテラカオス・ディーヴァの行動方針に原因があった。
全てを食べて取り込む。自分に食べられた者は救われる。救済対象(食材)に対する敬意は失わず、残さず喰らう。
現時点において、テラカオスと対峙した者は一部の例外を除いて全員が喰い殺されている。
その例外は二人。ガオウライナーに撥ねられたキュイと、テラカオス・ディーヴァと化す寸前の風鳴翼と戦ったレストのみ。
キュイは噛まれたり、斬撃などで葬られていないためにそもそもこの能力の対象外だ。
レストのみ、テラカオスの一撃を受けて生存している希少な参加者なのである。
そんな彼もしばらくは腕を切断されたままであり、噛まれた右腕は氷竜の手で冷凍保存され、テラカオスの因子も休眠状態だった。
首輪が外され、腕の結合が可能となり、それから時間が経過して……切断された右腕の中で眠っていたそれは目覚めたということだ。
「なんとか、治療することはできないんでしょうか?」
「無理だね。気づくのが遅れたせいで、多分微量でももう全身にまわってるよ。
フォレスト・セルの穢れ浄化が効くかもしれないけど、勢い余って全身食べられるかもだし」
「そんな……」
「ブリーフ博士が、この黒い何かに対する特効薬を作ってくれれば話は別だけど……
薬学も嗜んでる僕に言わせれば、こんな意味不明な存在に対する特効薬なんてどんな天才でもすぐには作れない」
沈んだ様子のサクヤに対して、当のレストは悔しさこそ滲ませるが比較的落ち着いていた。
自分の傷口から漏れ出す霧を触ってみながら、どことなく他人事のように。
「今はまだ、特に体にも精神にも異常は感じないから大丈夫だよ。
これも鍛えて状態異常耐性も上げておいたおかげかな? とにかく皆との約束だけは守ってみせるよ」
「約束、ですか?」
「ほら、僕の力をもう一度人間に貸すって言ったでしょ。言ったからには最低限……そうだね、どこかの勢力だけでも滅ぼすよ。
まあそれで、どこに向かうべきかと悩んでいるんだけどね。でもどうせ死ぬなら、やっぱ無理してでも全勢力を高速で……」
「死ぬって……どういう意味ですか!?」
なんでもないと言わんばかりに、自然と混ぜられた死という言葉に、サクヤが噛みつく。
「言葉通りだよ。今は平気でも、いずれ僕もあの風鳴翼のようになるかもしれない。
君も見ただろう、あれの危険性は異常だ。同類になる前に命を絶たないと、みんなに迷惑かかるでしょ。
とりあえず危ないなーと感じたら、サクヤが四源の舞でフォレスト・セルを強化して、僕を集中的に爆撃してくれればいい。
その間は無抵抗で受け入れるから、耐性があっても多分数十発撃ちこめば死ねるんじゃないかな? だから……」
「嫌です!」
主の言葉を、従者が遮り拒絶する。
その様子に一瞬驚いた顔をしながらも、すぐさま表情を戻して主は従者の頭に手を置いた。
「ほら、いい子だから落ち着いて」
「っ、今撫でていただいても、嫌なものは嫌です! どうして、レスト様が死ぬ必要があるんですか!」
「……まどかはさ、僕が思っていた以上にすごい子だった。
甘い子なのに、躊躇いもせずに世界樹の巫女になった。ああなっちゃえば、もう元の生活になんて戻れやしない。
あのフォレスト・セルにまで慈愛の感情を向けるっていうのは、魔物を大切だと言っておきながら、僕には真似できなかったと思う」
撫でる手は動かしたまま、独白は続く。
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「あのエリカって子もすごいよね。グンマ―の民ですら諦めた存在をあそこまで手懐けて愛情を向けられるんだから。
彼女達だけじゃない。あかりも、モモも、黒子もそうだ。本当の一般人だろうに、僕も魔物も恐れた様子がない。
会うことはできなかったけど、赤竜さんとフレクザィードの心を動かしたバサラという人もすごいよ。
赤竜さんはわからないけど、フレクザィードとは長いこと一緒にいたからわかる。彼は僕以上に人間に憎悪の感情を持っていたのに。
ああ、小鳥さんもすごいね。どういった経緯であの赤竜さんを怖がらずに着いていく気になったんだろう」
「それと、レスト様が、どう関係するんですか……」
以前は撫でられたら尻尾を揺らしていたサクヤも、今は尻尾が垂れたままだ。
はぐらかすような主の態度と事の問題が大きいだけに、喜びよりも悲しみの感情が勝ってしまう。
「……まどかや彼女達なら、きっとこの殺し合いが終わった後に、本当に人間と魔物の共存関係を築き上げてくれそうな気がする。
僕は、魔物への理解を示す人間なんていないと決めて、多くの人間を斬ってきた。僕が、魔物達を守らなきゃって思ってた。
でももう――僕の役目は終わりなんだよ。僕がいなくても、もっと心優しく人間にも魔物にも手を差し伸べられる子がいるんだから」
役目の終わり。
少し寂しげに、しかしそれを受け入れたように穏やかな声でレストはそれを口にする。
ここの魔物は、多くの人間を排除して自然を取り戻す道より、協力しあっていく共存の道を選んだ。
たとえそれが現状による一時的なものであるにしろ、一時的とはいえその道を歩んでいるということが重要なのだ。
今その道を歩めるということは、この後も歩むことは可能だということなのだから。
「僕の元々の思想は砕かれた。そんな僕に、今なにができるのか。
決まっているよね? 魔物達やまどかが望んだ、そしてかつての僕が望んだ……人と魔物が共に暮らせる未来を切り開く。
戦いに明け暮れ、行く先々で化物と言われ、そして今度は正真正銘の化物になってしまいそうな僕の居場所は戦場しかない。
平和な未来に、僕みたいに穢れきった人間は必要ないし、彼女たちが戦いの中でこれ以上手を汚す必要もない――限界まで僕が殺る」
「……少なくとも、私はあなたを必要としています」
「ふふ、嘘でも嬉しいね」
「大丈夫です。まだ共に過ごした時間は短いですけれど、レスト様が優しい方だということははっきりわかります。
きっともう少し時間をかければ、人間も魔物も関係なくわかってくれます」
「その時間がなさそうだけどね」
「そしてレスト様は強いです。そんな瘴気なんかに呑まれる人ではありません」
「これは僕にとっても未知の状態異常だ。克服できる確証はないよ」
「……頼りないかもしれませんが、私は聖光の神で、五行説では土を象徴する存在です。
大地の守り人であるあなたに、闇を払う加護と土の恩恵をもたらしてみせます」
「ふっ……君の本来の主を、目の前で叩き斬ったいわば仇に、よくここまで肩入れしてくれるね」
「本当はあの時、私も死んでいるはずでした。私をこんな風にしたのは、レスト様なんですよ?」
「ちょっと全身撫でただけじゃないか。それでここまでするのは、尻軽ってやつじゃないかな」
「なんとでも言ってください。前のマスターからのあだ名が開幕欠損即イキビッチの私にはその程度の言葉責めは効きませんよ?」
「ぶっ!? ビッチなの!?」
「ビビビビッチ違います! あくまであだ名ですから!」
しばらく続いた主と従者の受け答えが、なんとも言えない言葉で一度終局を迎える。
どこか張りつめていた空気も、間抜けなまでに解されていく。
「やれやれ、折れないねサクヤも……」
「ええ。誰がなんと言おうと、私はあなたにつきます。万が一、闇に呑まれてしまったとしても」
「そっか……ありがとう」
くしゃりと頭を撫でながら、感謝の言葉が伝えられる。
「少し、救われたよ。だからこそ――僕は君も守りたい」
「え――」
次の瞬間、触れていた掌から淡い光が放たれる。
それに反応することもできないまま、サクヤは光の粒となってその場から掻き消えた。
現在、レストの管理下にある魔物はサクヤとウォークライの二人。魔物と明確な主従関係が構成されている場合……
アースマイトは従者の魔物に対して、主の身代わりとなるか、拠点への強制帰還を命じることができるのだ。
レストが今行使したのは後者、すなわち都庁の世界樹への強制帰還だった。
「さーて……そろそろ出てきなよ。あの意味不明な歌を歌わないで隠密行動ってのは成長したとは思うけど、殺気が隠せてないよ?」
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誰もいないはずの場所に声を投げかけると、景色が揺らいだ。
影薄組のような気配の薄さ、ではない。
「「SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ!」」
光学迷彩服を纏った、DMC狂信者だ。
しかしその手には何も持っていない。
機動兵器に乗るでも、魔界魔法を放つでも、銃を持つでもない。
ただ、他の狂信者達と比べて明らかに発達した肉体を持つ――マッスル狂信者の群れだった。
彼らは狂信者ではあるが、馬鹿ではない。
前回の襲撃の際にレストに属性魔法が効果をなさないことを知った彼らは、純粋な力で挑みかかってきたのだ。
「はは、思ったより早くきたね。――手間が省けて助かるよ」
無数の襲い掛かるマッスル狂信者の大群の中に、レストはただ一人で身を踊りいれた。
入れ替わり、立ち代わり、怒涛の勢いで押し寄せる肉弾の嵐。
その攻撃に流派は感じない。柔道、空手、喧嘩殺法、ボクシング……あらゆる格闘技の技が織り交ぜられている。
彼らはクラウザーさん復活のためだけに、肉体の限界を超えて技を短期間で習得した狂信者達であった。
「あっははははははは! やっぱり首輪がないのはいいね!」
だが、その鍛えられたマッスル狂信者達はわけもわからなかっただろう。
確かに報告を聞いたはずだ。都庁の最大戦力、冥闇に堕した者を一撃粉砕してみせた青年の弱点は物理攻撃だと。
それだというのに、何故技を繰り出した自分たちの拳や脚が、逆に見るも無残な潰れたザクロに成り果てるのか。
彼らは知らない。制限状態であっても、鬼の顔面陥没パンチを平然と耐える程にレストの肉体は異常に硬いことを。
「ひ――」
ある狂信者は、確かに恐怖を感じた。
自分達が死ねば、それはそれでクラウザーさん復活へ近づくということは理解している筈の狂信者がである。
触れれば潰され、触れられたら粉微塵にされる。
白い服を返り血で染め上げながら、レストは流れるような動きで、素手で相手の身体を容易く抉り取る。
戦いなどとは言えない、ただの殺戮。まるで何かの鬱憤を晴らすような、理不尽な暴力が狂信者を狩りつくす。
「ちっ……どいてろ貴様ら」
「へぇ、君がこの格闘家軍団の頭かな? 随分と化物染みた格好だね」
「ほざけっ!」
そんな暴虐の宴の中に、一人の男が文字通りに舞い降りた。
悪魔のような角、悪魔のような翼、悪魔のような尻尾……否、悪魔そのものであり、DMC狂信者幹部の一人――三島一八その人だった。
一八こそ、このマッスル狂信者を率いてきた存在だ。
先の襲撃で冥竜が敗れた以上、生半可な力の持ち主では都庁を倒せないと知った彼らは作戦を練った。
明智光秀より仮面ライダーとの共同計画を聞かされてはいたが、その仮面ライダーもいずれ殺すのだ。
そんな相手の協力をわざわざしなければならないというのは癪であったし、なによりも一八は惜しいと思ったのだ。
冥竜を一撃で消し飛ばす程の格闘家、爆弾で殺す前に自分の手で討ち取ってみたいと、格闘家としての血が騒いでしまった。
この男の弱点は意外にも物理攻撃だという。だからこそ特に覚えのよかった狂信者を引き連れて、戦いを挑んだ。
だが技を教えた付け焼き刃の狂信者はご覧のザマ、やはり俺自身が奴の首をとってクラウザーさんに捧げるべきだと……
「――もう、容赦も、遠慮もしないよ?」
にやりと笑ったその顔を見た瞬間、一八は本能的に全ての思考を放棄した。
ただただ、走馬灯のように流れる聞きなれたクラウザーさんの歌声を脳内へ求めて旅立ったのだ。
格闘家としてだとか、デビルとしてのプライドだとか、そんなものは投げ捨てた。
一八が強者だからこそ、彼は目の前の青年から繰り出される、首輪の制限も遠慮もない拳の異常さを感じ取ってしまった。
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一八に付き従っていた狂信者は、一八の行動が理解できない。
彼らは一八ほどの域に達していないためだからだ。
振るわれる、レストの拳。その威力を数値化し、何かと比べた場合、どうなるか。
かつて彼と同郷であり、世界を支配できるだけの力を持つ大いなる神と呼ばれるドラゴンがいた。
彼女の神竜としての腕力はおよそ3000。神を名乗れるだけの存在の腕力3000を基準とするならば。
限界までレベルを上げ、ドーピング薬に頼っていなかった場合のレストの腕力は。
表面上の測定限界値は99999、そして内部値においてはその上昇は実は止まっておらず、およそ200000である。
とてもではないが、人間が持っていい腕力でなければ、デビルとはいえ一応分類は人間の一八に対して打ち込んでいい代物ではない。
もっとも、その無慈悲な拳を止める気をレストが持ち合わせているわけもなく。
その力を察した一八も、察せなかったマッスル狂信者も、仲良く屑肉以下の細かな深紅の飛沫となって緑の大地を彩った。
【三島一八@鉄拳6】死亡確認
【マッスル狂信者の群れ@デトロイト・メタル・シティ】死亡確認
「……この程度か。再襲撃にしては随分と弱いね」
「ウヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!」
だが、敵は一八の率いる軍団だけではなかった。
第二波、おそらくは格闘集団が敗れた際に備えていたのであろう軍勢が飛び出してきた。
今度はあからさまな悪魔、一つ眼の象が猛然とレストに突進をぶちかます。
だが今更象の悪魔の突進程度で動ずるレストではない。カウンターの拳打で、一八達と同じように葬り去ろうとする。
「っ!? ごほっ!?」
だが、ダメージによりぐらついたのはレストの方であった。
そして吐血こそないものの、不可視の一撃を受けた彼は困惑してさらに一歩後ずさる。
一度脱いでいた上着を纏い――僅かに減少していた装備品分の耐性を元に戻してなお、攻めあぐねていた。
(今の一撃は……あの象のものじゃない。まるで、自分で自分を殴った時のような……)
「なるほど、確かに貴様の弱点が物理攻撃というのは間違ってはいないらしいな」
「やれやれ、あっさり逝ってしまって一八め……だから最初から、僕らに任せておけと言ったんだ」
象の悪魔の後ろには、二人の青年が立っていた。
白い学ランの青年と、逆に全身黒づくめのコートの青年が。
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「ふん、たかがファン歴が長いだけの野蛮な男が幹部などとは笑わせる。
連れていた信者も有象無象の類では、勝てる戦も勝てぬというものよ……」
「まあそういうな大和。君だって最初はクラウザーさんの歌のことを、愚民どものくだらない娯楽だと言っていただろう?」
「ち……あれは私の人生において最も恥ずべき汚点だ。もっと早くからクラウザーさんと出会えていれば……」
「まあ今の君のクラウザーさんへの想いと、悪魔使いとしての強さは認めてるよ。だからこうしてここに来たんだからね」
一人は、一八と同じく狂信者幹部を務める狭間偉出夫。
もう一人は、その狭間が認める高位の悪魔使い狂信者、峰津院大和。
狭間はアームターミナル型COMPから、大和は携帯に内蔵された召喚アプリから悪魔を呼び出す所謂デビルサマナーだ。
彼らの後ろに控える狂信者も召喚アプリに適応した者であったり、狭間から直々に魔界魔法を叩き込まれたサマナー揃いであった。
「さて……今の様子を見る限りでは、奴のふざけた攻撃も所詮は物理攻撃の範疇。このままギリメカラで完封できるやもしれんが……」
そして大和が繰り出した悪魔の名はギリメカラ。
この名前を聞くだけで露骨に嫌な顔をするメガテニストもいるというほど悪名高い悪魔である。
その特性はシリーズ毎に微妙に変わるが、後期のものには揃って最悪な能力を引っ提げている。
それが――物理攻撃の完全反射である。よってオート戦闘をしたプレイヤーはそのままゲームオーバー。
完全なる反射であり、どれだけ高威力の物理攻撃でもダメージはそのまま跳ね返り『貫通は絶対に不可能』である。
これを貫くには、物理攻撃の枠を飛び出した、神の炎を纏わせた万能属性の一撃しかない。
「物理反射とはやってくれるね――ぺネトレイトソニック」
「ヴォォォッ!?」
しかしギリメカラは、レストが放った風の刃に切り刻まれてあっさりと死んだ。
物理反射と呪殺以外の耐性はザルなのがギリメカラ、オート戦闘さえしなければ言う程苦労はしないのだ。
【ギリメカラ@女神転生シリーズ】死亡確認
「ち……やはりこの程度の悪魔では物理反射も活かしきれないか」
「だが今の攻撃で確信したよ、大和。この勝負――僕らの勝ちだ」
だが、ギリメカラが倒されてもリーダー格の二人はまるで動じない。
それどころか、勝利すら確信していた。
「その機械から悪魔を呼び出しているのか。なら君らもろともそれを壊せば……!」
「無駄だ愚民。私も、そして狭間のCOMPにも召喚アプリを流用して物理反射のスキルをセットしてある」
「なっ!?」
「そして今、君はギリメカラを倒すのに風の魔法を使った。悪魔は同名でもスキルや弱点、種族まで変化するおもしろい生き物だ。
そんな彼らを確実に倒すなら、ある程度強さをもった悪魔使いは無属性、万能属性の魔法を使う。
それをしないってことは……君は、そういった魔法は使えないってことだ」
大和と狭間の言葉に、レストは一度退いて態勢を立て直した。
狭間の言うとおり、レストが操れる魔法は火、水、土、風、光、闇のみ。
いわゆるどんな敵にも通用する無や万能属性の魔法は使えない。
だが腕力が異常な時点で察せそうだが、彼は魔法攻撃力まで異常な値となっている。
「まさか、君らまで風鳴翼のように全属性吸収ってことはないだろう? なら普通に焼き尽くすまでだ!」
爆炎が放たれ――
「絶一門・火炎!」
ることなく、魔力を練る段階でそれは封じられた。
今の叫び声は、後ろに控えるサマナー狂信者のものだろう。
「物理反射を貫けるのは万能、無属性のみ。それ以外の魔法は全て絶一門スキルで封ずることができる」
「まあ僕らも絶一門時はその属性魔法が使えなくなるけど、それは大した問題じゃあない。何故なら……」
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「「 メ ギ ド ラ オ ン 」」
狭間と大和が、同時に叫ぶ。
その魔法こそが、万能属性の魔法。
いかなる手段をもってしても、防ぎきることも封印することも吸収することもできない、最強の属性たる魔法。
神の紫炎は、全てを飲みこんでいく。
「手を休めるな! 貴様らも続け!」
「「SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ!」」
「「奴をレイプ! レイプ! レイプ!」」
「「クラウザーさんへの生贄にするんだー!」」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
二人ほどではないが、しごかれた狂信者達からも神の炎が絶え間なく放たれていく。
無敵とも言えるこのメギド系魔法の唯一の欠点は消費魔力が馬鹿にならない点であるが、彼らはそれさえ克服している。
狂信者必須アイテム、スマホ。その中に入っているクラウザーさんの歌を聞くだけで彼らには魔力切れという概念とは無縁だ。
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
相手が普通ではないことは冥竜や一八の犠牲で嫌という程理解している。
だが物理反射+属性魔法封印or吸収は、万能属性攻撃を持たない相手には完封状態を生み出せる。
相手も全属性を吸収する化物だが、万能属性はその吸収対象外。このまま撃ち続ければいつかは撃破できるのである。
狭間の作戦は、一八のものとは異なり、盤石の構えであった。
さらに新入りとはいえ類い稀な統率力と力を持つ大和を連れてくることにより、他の狂信者達の統率も可能となった。
「ああ、クラウザーさん。今あなたに極上の生贄を捧げます」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギ――
「 始 原 の 印 術 ! 」
メギドを放っていた狂信者の一角が、突然の大爆発により吹き飛ばされる。
「これ以上は、やらせません!」
「グオオオオオォォォォォウ!」
何事だと狭間と大和が構えれば、ウォークライの背に乗ったサクヤが魔道書を構えていた。
さらにウォークライも両手で何かを持っており、彼らがレストの援軍で再び駆けつけたということは明らかだった。
「ふん、雑魚共が私達に立てつこうというのか? そこで無様に燃えている男と金色の魔王以外は私達の敵ですらない」
「大和、油断はするな。奴らは悪魔に分類すれば龍王と神獣。おそらくこの二匹があの男の連れている手勢と考えていいだろう」
「いまさら雑魚共を呼び寄せ、メギド部隊の一部を倒したとしても既に召喚者は死に――」
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「ふー……どうして戻ってきちゃうかなサクヤは。それにウォークライまで連れて」
「だからなんでレスト様は一人で戦おうとするんですか! ご自身の弱点を把握されていないわけではないでしょう!?」
「いやー、ははは……うん、正直こうも簡単に僕への対策が練られるとは思ってなかったんだ。情けない主でごめん」
「もう……急いで世界樹の不思議のダンジョンから、無属性魔法の始原の印術書を拾ってきましたから、お使いください」
「いやいや、折角拾ってきたならそれは拾ったサクヤのものだよ。四源と始原で噛みあってるし」
「「なっ……!?」」
狭間と大和も、控えているサマナー狂信者も、誰もが絶句した。
あれだけ神の炎で焼き払ったというのに、その相手はぴんぴんして普通に増援と会話をしている。
その増援も動じた様子はなく、主人が生きているのは当たり前であるといった様子である。
「どうせまた強制送還しても戻ってくるんだろうけど……結構派手な殺し合いになるよ?、それでも二人とも来るのかい?」
「勿論です」
「グォウ!」
「ち……私と同じく、奴も万能属性に耐性を持っているということか。
だがその左右の龍王と神獣を葬れば、サマリカームが機能しない今、奴は再び攻撃の手段を失う」
「全員、絶一門を維持したまま左右の悪魔を片づけることに専念しろ!」
狂信者と、世界樹の門番三人が再び対峙する。
お互いが強力な耐性を持ち、攻撃の手段が限られている現状では数の多い狂信者が有利。
そして先にも言った通り、狭間のこの襲撃作戦は盤石のものであった。
メギドの嵐を浴びてほとんどダメージを受けていない相手の体力値こそ想定外ではあったものの。
相手がこちらの物理反射及び絶一門の構えを突破する無、万能属性の攻撃を持っていた場合への対処も。
しっかりと、考えられていた。
「こうなったら仕方がない。プランCで行くよ大和」
「わかっている」
狭間と大和が、常人にはわからない何かを呟く。
すると二人の身体が宙へと浮いた。
「私は峰津院家の長、峰津院大和。この大地を巡る龍脈を操ることができる。龍脈にも色々な使い道があってな……
一つは、大阪の通天閣とクラウザーさんのライブ会場から流れる龍脈とクラウザニウムを我が体に宿すことで私を超強化……
そしてもう一つ、ここが東京都庁ということが幸いした。都庁の地下に奥の手を隠し持っているのは、貴様らだけではないのだよ!」
「僕はクラウザーさんを奪ったこの世に罰を下さなければならない。クラウザーさんが生き返っても罰を与え続けなければならない。
クラウザーさんは――神だ。あの方は謙遜して魔王を自称されているが、あの方こそ魔界神。
だから僕は……同じ位に立つことはおこがましくてできないから、その一つ下の階級『魔神皇』として、罰を与える……!」
大和が、黄金の光に包まれる。彼の変化はそれだけだ。
だが狭間の方は、人の姿から巨大な顔と手を持つ異形の存在――『魔神皇ハザマ』と化していく。
そしてハザマの手から、強力なエネルギーの槍が間髪入れずに放たれた。
狙うのはレストでも護衛の二匹でも世界樹でもなく、地面であった。
「目覚めろ――龍脈の龍よ。そして手始めに、あのセプテントリオンを始末しろ」
※
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それは、一瞬の出来事。
魔神皇の力によって、都庁地下に隠されていた峰津院の龍脈召喚の陣が起動した。
直後に召喚陣から飛び出してきたのは、三竜や神樹すら凌駕する……否、巨大な樹となった都庁をも超える大きさの異形の龍。
頭部のみの姿、自身で自身に噛みつく形で無限とも思える程に長大に連なった龍脈の龍。
一度天を衝き、やがて先端の頭部が狙ったのは世界樹の頂上にぶらさがり続けていたセプテントリオン、ミザール。
「ΩΩΩ、Φθ$ё……!」
突然の攻撃に、ミザールはまるで反応が間に合わず、龍脈の龍に思い切り噛みつかれてしまう。
しかしぶら下がり続け健康になった今の自分は以前とは違う、何しろ触手が増えているのだと果敢に反撃を試みる。
二本の触手で世界樹にしがみつき、新たに生えた4本の触手で龍脈の龍へ高速の突きと全てを粉砕する主星の圧撃を叩きつけた。
驚異的な増殖能力に加え、この触手を用いた強力な物理攻撃こそがミザールが持つ能力だ。
「ЁЁ……!?」
だが、ミザールは知らなかった。
龍脈の龍が持つ能力の一つは、物理攻撃の吸収。どれだけ攻撃しようとも、全て吸収されて逆に相手の傷を癒してしまう。
さらに本来の龍脈の力に加え、峰津院大和が独断で流し込んだクラウザー成分により、龍脈の龍は殺意全開。
必死の抵抗を嘲笑うかのように、龍脈の龍はミザールを噛みちぎり、分裂を許さない速度で次々に飲みこんでいった。
【セプテントリオン・ミザール@デビルサバイバー2】増殖不能、死亡確認
「な……」
そのあまりの光景に、レスト達は全く動くことができなかった。
いやもし仮に動けたとして、龍脈の龍を止めることなどできなかっただろう。
「いいぞ、そのまま――世界樹もレイプしろ」
大和が龍脈の龍へと指示を出す。
既に召喚時から龍脈の龍の巨体は世界樹全体へと巻き付いており、三竜が施した結界を破り世界樹そのものを締めあげている。
そしてミザールを食べ終えた頭部は、手頃に齧りつけそうな世界樹の幹へと噛みつく。
べき、べきべき、ばきりと、樹が噛み砕かれていく嫌な音が響き渡った。
その音はおそらく、関東全域に広まったことだろう。そもそも龍脈の龍があげた咆哮で、手の空いていた参加者の多くが世界樹を見ていた。
巨大な龍が、紫色の怪物を捕食し、魔物の巣窟である世界樹を喰わんとしている。
――怪獣大戦争。モブ参加者の頭の中には、そんな言葉が浮かんできたという。
「行って、セルちゃん!」
「神樹、お相手をしてさしあげて」
「 に し ゃ あ あ あ あ あ ! 」
「 シ ン ジ ュ ― ッ ! 」
-
眩い閃光。
直後に現れた異形の存在により、噛みついていた龍脈の龍の頭が粉砕される。
すぐさまその粉砕された頭に噛みついていた別の龍脈の龍の頭が先頭の役割を果たすが、それでも大きくのけぞり後退した。
「にしゃあああああ!」
「おいおい、なんだってんだこのふざけたドラゴンは?」
そして大地を揺るがしながら、モンスターボールから繰り出された二体は地表へと降り立った。
新たな怪獣の投入――フォレスト・セルとその頭部にドッキングした歪みし豊穣の神樹である。
二人の巨体が縦に合わさったことにより、その身長は世界樹をも上回り、龍脈の龍へ対抗できる大きさとなっていた。
さらに……
「私も、戦う! サウザンドネイル!」
どこからかまどかの声が響くと同時に――世界樹そのものが動いた。
無数に伸びた枝の一部が、まるで鉤爪のような動きをし、龍脈の龍の身体を掴んで拘束する。
「ば、馬鹿な!? 何が起きている!?」
「あの黒い怪物は、首相官邸にいたはずじゃあ!?」
「この声は……まどか? それに神樹は……」
地上では誰もが混乱状態に陥っていた。
超大型の怪物が次から次へと繰り出され、さらには世界樹そのものが意思を持って動き始めたのだ。
ハザマの計画でも、ここまでは想定されていなかった。
『レストさん、聞こえる!?』
「まどか……まさか君は……!」
『うん。今私は――世界樹と同化している。雷竜さんから教えてもらったんだ。本来は男の王様がとる戦法らしいんだけどね』
「何をしている龍脈の龍よ! その化物共を始末して世界樹を圧し折れ!」
「にしゃあああああ!」
「ガアアアアアアア!」
再び牙を剥く龍脈の龍と、フォレスト・セルの触手が激しくぶつかり合う。
そこへ黒い鉤爪も加勢し、龍脈の龍は大口を開けたまま固定された。
そのまま触手が上下へと動き、龍脈の龍の頭部は引き裂かれて地面へと落下していく。
吸収の限度を超えた、圧倒的な怒りの力が龍脈の龍の守護を貫通しているのだ。
「よぉ、さっきはエリカを治してくれてありがとうな」
「神樹、君達はこんな連中の相手より、仲間のところへ急ぐべきじゃないのか?」
「エリカが俺達を助けてくれたあんたらの助太刀をするって言ってるんだ。俺はそれに従うまでよ。
それにまだあっちには桑原がいる。ユーノならあのオカマ野郎の危険性わかるだろうし、次元刀で逃げ延びてくれるだろうぜ」
「ガアアアアアア!」
「うおっと! というわけだから、このドラゴンは俺とフォレスト・セルが始末してやんよ!」
左右から繰り出された尖った神樹の蕾が、龍脈の龍の両眼を貫く。
それに怯んだところを、今度は口内に炎を流し込んで爆散させた。
-
龍脈の龍の頭部は無数に存在する。数個破壊したところで、次から次へと新たな頭が世界樹が生み出した二大怪物へと襲いかかる。
それを食い止めるように、世界樹の葉が盾の役割を果たしたりすることもある。
同化した世界樹の巫女たるまどかの力であり、今世界樹が傷つけばそれはそのまままどかへのダメージとなる。
だからこそフォレスト・セルは最初からアクティベイト状態、全力で龍脈の龍を始末しにかかっている。
それにドッキングした神樹は飼い主のエリカの命により、そして元は世界樹である彼も今の世界樹を守りたいと思い、容赦なく暴れる。
その光景を見たモブ参加者は、怪獣超戦争と題を改めてカオスロワちゃんねるに書き込みをするのであった。
「はは……まったくまどかには敵わないなぁ。そんな簡単に、人の体を捨てて自ら危険な目に遭いに行くなんて。
風鳴翼のようになるかもしれない、本当に人間じゃなくなるかもしれないって恐怖してた僕が馬鹿みたいじゃないか」
そしてそんな怪獣超戦争の中で、レストは己の右腕に力を込めつつ道具袋の中から巨大な何かを取り出した。
「ついさっきまで普通の女の子だったまどかがあれだけ体を張ってるんだ。僕もやらなくてどうする。
今まで散々化物呼ばわりされてきたんだ。今更姿形が変わろうが大差ないし、こんな力ごときに呑まれてたまるか!」
それは、巨大な石版とも見える竜の鱗だった。
三竜の鱗の中でも特に鋭く頑強であり竜の力を蓄えたそれは、彼らも一枚しか持っていない逆鱗と呼ばれる部位。
この3枚を加工すれば最強の剣が生み出せ、三竜もその思惑からレストに託した素材なのだが……
「本当はこの使い方はしたくなかったけど……古代秘術――エーテルリンク!」
モンスターボールのものとは異なる、閃光。
誰もがその光に一瞬目を閉じ、そして再び目を開けた瞬間。
「なん……だと……!?」
誰もが、化物を見つけてしまった。
「はは、ここまで細かくエーテルリンクできるとは、これは風鳴翼の力の恩恵かな? うん――悪くない」
レストが発動した禁術は、魔物と人の融合魔法。
素体となる者に、変化したい対象の鱗の一枚でも掛け合わせるだけでその力の大部分を行使でき、完璧に同一の姿となれるものだ。
生きた者を融合素材として取り込むことさえ可能であり、術者の力が強ければそのまま相手の精神を殺して乗っ取ることもできる。
かつてのレストの怨敵はこの術を用いて人間から神となったが、今この場に降臨した存在はそれ以上だ。
大きく異なる点は、レストが竜の体そのものではなく人間の体を維持した言わば人竜であるということ。
各竜を模倣するのではない。神をも超える力を持つ彼の肉体をベースに、竜の力を加算させた姿。
三竜の中で唯一二足歩行が可能であり、大地を踏むだけで強固な氷の盾を生み出せる氷竜の強靭な脚と翼。
三竜の中で最も鋭く、全てを薙ぎ払い噛み砕く屈強な赤竜の剛爪と牙。
三竜の中で最も美しく、敵対者を翻弄する技を繰り出す荘厳な雷竜の角と長尾。
伝説の竜になるのではなく、その力の全てを掌握して従える。完全に人の枠から飛び出た化物。
「レスト様……」
「グオオン!」
事前に彼の奥の手の一つを聞かされていた従者二人でも、驚かずにはいられなかった。
エーテルリンク最大の弱点は、融合状態を長時間続けると元の姿に戻れなくなるという点だが、彼は最初からそれを考慮していない。
混沌の力に呑まれればどの道化物と化す。抗えても既に異常な力を持っている自分は化物と同義。
ただただ敵対者を撃滅するためだけに、その力は振るわれる。もはや人間に戻る気などはないのだ。
そしてサクヤが魔術書を持参したように、ウォークライもレストの助けとなるある道具を持参してきていた。
むしろそれこそが、レストにエーテルリンク発動のきっかけを作ったと言っても過言ではない。
-
ウォークライが人竜と化したレストの前に、どさりと何かを差し出す。
それは、死後かなりの時間が経過した屍であった。
死体の分際で黄金に輝くそれは不思議と力を放っている。
人はソレを――真竜ニアラと呼ぶ。
この世界樹、東京都庁において、一番最初に犠牲となったウォークライの元主人である。
野球チームに所属していた仲間の真竜に情けないと言われた、可愛そうな金ピカである。
並行世界においても色々と醜態をさらしていそうな雰囲気までする、残念なドラゴンの屍である。
これが一般の相手に対する贈り物であれば、こんな生ごみよこすんじゃないと憤慨されるところだろう。
「追加エーテルリンク――真竜ニアラ」
だがレストは、躊躇わずにその生ごみ(の鱗)とも融合してみせる。
ウォークライも内心ではこの生ごみが本当に役に立つのか不安ではあった。
やたらと派手好きであり、その脚から生えた青いよくわかんない部位は本当になんのためにあるのかとか疑念は尽きなかった。
さらに公式で出オチ、下品、無価値、醜い、最悪、邪魔、相当イタい、存在そのものが罪などとボロクソに言われる竜だ。
不安になるなという方が無理だろう。
「……どのパーツ出しても邪魔になるな。この王冠っぽい装飾だけでいいや」
案の定、融合完了したレストからの評価もいまいちであり、ニアラとの融合を証明するのは頭部の王冠っぽい部分のみ。
「――だけど能力は、今の状況下では最高だね」
「っ来るか人外! 総員構えろ! もう一度取り巻き共もろともメギドで焼き払え!」
「ゴアアアアアアァァァァァ!」
「たとえ微々たるものでも、レスト様を傷つける魔法は許しません!」
「うぐ!? ハ、ハザマ様! 俺達のスキルが全部使えなく……!?」
「なにっ!?」
身構える狂信者に対して、それよりも先にウォークライとサクヤが動く。
ウォークライの口から放たれたのは、かつてミケ・ザカリアスとニセアカギを都庁から追放したタイフーンハウル。
サクヤの手から放たれたのは、彼女の先制能力の一つである封印の波動。
双方共、相手のパッシブスキルを除いた全スキルを一定時間封じる強力な力を持っている。
さらにタイフーンハウルは付加効果が無くとも無属性の強力な全体攻撃であり、狂信者の隊列を乱すには十分であった。
そこに、竜の力を上乗せしたレストが襲いかかる。
赤竜の力『赤竜の猛攻』――物理・魔法攻撃力を約2倍に
氷竜の力『ミラーシールド』――連続使用はできないが、万能属性を含む全ての攻撃を無効化しカウンター
雷竜の力『古竜の呪撃』――与えたダメージの200%分体力を回復
そしてニアラの、真竜の力が発動される。
『キリングリアクト』――敵対者を死亡させた場合、即座に再行動が可能となる
『真竜ブレス』――使用者の魔法攻撃力依存の普通のブレス。ただし『無』属性
「ぐああああ! クラウザーさんばんざぁぁぁぁぁぁ……!」
信者の一人が呪撃を浴びて消し飛んだ――次の瞬間。キリングリアクト発動、Action+1!
即座に再行動、手に入れた竜の尾でまとめて一団が薙ぎ払われる。キリングリアクト発動、Action+1!
続いて人間の口から爆音と共にブレスが吐き出される。キリングリアクト発動、Action+1!
蹴り飛ばされ、殴り飛ばされ、引き千切られ、踏み砕かれ、裁断され、貫かれ……
キリングリアクト発動、Action+1! キリングリアクト発動、Action+1! キリングリアクト発動、Action+1……!
※
-
リアクト中は、同じような即座に再行動が可能になるか超スピードの能力を持ってでもいない限り、誰も割り込めない。
そして行動はあくまで1ターン内の再行動であるため、能力を知らない者は同一時間内で仲間が惨殺される光景を目の当たりにする。
「オオォ……!」
ウォークライは感動していた。これこそが、キリングリアクト本来の使い道であると。
折角の再行動時に最大体力の4%しか回復しないへちょい再生能力を使ってチャンスを捨てる馬鹿な元主人とは大違いであると。
数多の竜を屠り、数多の竜の力を自在に使いこなす彼にこそ、自分は仕えるべきであったのだと。
瞬く間に狂信者は死んでいく。
フォレスト・セルと神樹の力であれば、龍脈の龍を相手取りながら隙を見て狂信者の群れを全滅させることはできただろう。
しかしながら彼らはあまりにも強すぎ、手加減の仕方というものを知らず、攻撃範囲が広すぎる。
ハルマゲドンをこの至近距離で発動させた場合、確実に余波で世界樹に被害がでてしまう。
だがレストはそれに並ぶ力を持ちながら、かつての侵入者に見せたように手加減ができる。
強力無比な竜の力を上乗せしたとはいえベースは人間であるレストであり、その攻撃可能範囲はどうしても本家に劣るが、
逆にそれが世界樹に被害を出さないまま、相手だけを殲滅できる武器となっているのだ。
数千人の狂信者を相手にちまちまと殺していては時間がかかるが、その問題点もキリングリアクトが補う。
「っ!」
「ようやく、捉えたぞ人外!」
だがついに、リアクトタイムが終了する。
龍脈を身体の隅々まで巡らせ超速移動する大和の物理反射が、レストの攻撃を弾いたのだ。
「さすがに一筋縄じゃいかないか。できれば君らなんかの相手をするより、あの巨大な龍をどうにかしたいんだけどね」
「黙れ人外。貴様なぞに私達の邪魔はさせぬぞ。今しがたミザールは始末した。あとはクラウザーさんを生き返らせ……
最後のセプテントリオン、ベネトナシュを倒せば管理者ポラリスへの謁見が可能となる筈なのだ!」
「まあ、大和の管理者に頼んで世界をクラウザーさん主義に書き換える作戦が上手くいかなくても問題はないんだけどね。
クラウザーさんを理解しない者には全て僕が罰を下す。そうすればどちみちクラウザーさん主義の世界は生まれる!」
「そんなよくわからない世界はごめんだね!」
さらに割って入ってきたハザマの巨大な拳に対して、レストが拳を突き返す。
「無駄だ、魔神皇の力を舐めるな!」
「っ! 腹が立つなぁそのインチキスキル!」
だがやはり、物理反射のスキルがそれを防ぐ。
竜の力を加算させても、やはりこのスキルだけは突破することはできないということだ。
「メギドラオ「ミラーシールド!」っこの!」
「ふむ、どうやら厄介な盾のようだが、私の速度なら背後から盾が生成される前に「始原の印術!」ぐあっ!?」
ハザマがメギドラオンを発動するよりも早く、氷の盾が生み出される。
超速移動により盾が生成されきる前に大和が背後を取ったかと思えば、その場所へサクヤの印術が放たれる。
門番達と狂信者達の戦いは一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「つくづく邪魔な連中だ……! 現れろ『邪神 ニャルラトホテプ』『天使 メタトロン』!」
さらにその場に、大和の携帯から呼び出された巨大な二体の大いなる存在が現れる。
「我は這い寄る混沌なり。顔無き者なり。クラウザーさん復活を切望する者なり」
「Y・H・V・Hは神などではない! クラウザーさんこそが唯一神である!」
真っ黒な顔無しの悪魔は邪神ニャルラトホテプ。全身メタリックな機械の大天使はメタトロン。
強大な力を持つ二体もまた、例に漏れず熱狂的なクラウザーさんの信者となっていた。
-
「大和、あまり悪魔は呼び出しすぎるなよ。それも微量とはいえ生体マグネタイトを消費するんだからな」
「わかっている。だが龍脈の力とて無限ではないのだ。出し惜しみせずに目の前の障害を排除する方が先だろう」
「次から次へと……! サクヤ、背中に乗って左右の警戒を頼むよ。ウォークライは後ろを!」
「りょ、了解しました!」
「グオオオオ!」
「「SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ!」」
大和が邪神と大天使を従えて空を飛べば、レストも神獣と龍王を従えて空を飛ぶ。
空を飛ぶ必要もなく巨大な魔神皇ハザマはその両の手で獲物を捻りつぶさんとする。
地上からはSATUGAIコールが響き続け、さらに各サマナーも悪魔を召喚してハザマ達の援護へとまわる。
「ゴガアアアアアアア!」
「にっしゃあああああ!」
「セルちゃん、あまり無理はしないでね!」
「神樹、貴方もですよ?」
「わかってるっての! 少なくともあのオカマ野郎を殺すまでは意地でも死なねえ!」
その後ろでは、世界樹を締め上げる超巨大な地龍とそれに真っ向からぶつかる世界樹の権化達。
咆哮だけであらゆる生命体をすくみ上らせ、唸る鉤爪と蕾は見るものの心を折りに行く。
この殺し合いが始まって以降、大規模な戦闘は何回か起こっている。
また拳王連合の手により、多くの地域が壊滅的な被害を受けてもいる。
それに比べれば、現時点ではまだマシな状況だろう。
だがこうも規格外の化物が入り乱れた、誰もが近寄りたくないと思うような戦場は初めてだろう。
半数以上が殺害されてなお、初回よりも人数の多い狂信者のSATUGAIコールも相まって、そこは本当に悪魔の宴会場のようであった。
ただただ、モブ参加者はカオスロワちゃんねるへと書き込みをする。
自分程度が、いやもはやちょっと腕に覚えがある程度の人間が踏み入っていい領域ではない。
あれはそう、あれこそが魔界なのだと、誰もが思い、絶望する。
西も東も地獄絵図。北は凍結、南はロボ化。
逃げ場無きこの世界の混沌は加速していく。
新着スレッド
1:東京と魔界が繋がった (1)
2:大阪方面避難誘導スレ(985)
※
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【二日目・8時45分】
【世界樹近辺】
○世界樹門番三人衆
【レスト@ルーンファクトリー4】
状態:ダメージ(微)、全属性吸収、物理&無属性攻撃88%軽減、攻撃無効化率50%、首輪解除、物攻4倍魔攻2倍、テラカオス化制御中、エーテルリンク中
思考:従者二人を護衛しつつ、ハザマ達狂信者を全滅させる
※候補者の一人となりました。現在はその肉体と竜の力でテラカオスの力を制御していますが、なんらかの要因で抑えきれなくなる可能性もあります
※進行を抑えているため、テラカオス化が進むことによる新たな能力取得はできません
【聖煌天の麒麟・サクヤ@パズドラ】 状態:健康、レストに搭乗中、首輪解除、攻撃力1.5倍、被ダメージ半減
装備:巨大棘鉄球×2、始原の印術書
【ウォークライ@セブンスドラゴン2020】状態:健康、飛行中、首輪解除、攻撃力1.5倍、被ダメージ半減
道具:余った真竜ニアラ
思考:レストの援護をしつつ、ハザマ達狂信者を全滅させる
※レスト直属の魔物のため、装備の恩恵によりステータスが上がっています
☆デビルサマナー狂信者軍
【狭間偉出夫@真・女神転生if...】状態:魔神皇ハザマ(第一形態)、物理反射、メギドラオン習得
装備:アームターミナル型COMP(悪魔数体入り)、サマナー狂信者(残り2500人)
思考:クラウザーさんを殺した世界に対して魔神皇として罰を与える
※クラウザーさん効果で原作以上のステータスとメギドラオンを手に入れています
※ゲーム仕様ではないので、空しくランダマイザを繰り返す残念AIではありません
【峰津院大和@デビルサバイバー2】状態:ダメージ(小)メタトロンに搭乗中、万能耐性
コマンドスキル:メギドラオン、常世の祈り、吸魔
自動効果スキル:物理反射、全門耐性、真・龍脈の秘術
思考:世界樹連中のSATUGAI
※ニャルラトホテプ及びメタトロンが生存している限り、あらゆる攻撃ダメージを半減させます
※真・龍脈の秘術の効果により、邪神族の移動制限効果を受けてなお凄まじい速さで行動できます
【ニャルラトホテプ@女神転生シリーズ】状態:全属性半減
【メタトロン@女神転生シリーズ】状態:物理反射、風雷弱点、自動回復
思考:クラウザーさん復活のために大和に従う
※高位の悪魔ですが、やはり狂信者です
【世界樹・外部】
☆捕食者
【龍脈の龍@デビルサバイバー2】状態:健康、物理吸収、全属性耐性
思考:世界樹を破壊し、食い尽くす
※胴体の一部が外から世界樹を締め上げています
○バケモンとトレーナー
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】状態:ダメージ(小)、世界樹の巫女、世界樹と同化中
道具:支給品一式 その他不明、モンスターボール(フォレスト・セル)
思考:フォレスト・セルと神樹の援護、世界樹を守り抜く
※世界樹と同化状態のため、世界樹へのダメージを同じく受けます
※世界樹の王@世界樹の迷宮と同じスキルが使用可能です
【エリカ@ポケットモンスター】 状態:健康、衣服損傷、首輪解除
道具:基本支給品一式、モンスターボール×2
思考:世界樹の軍勢を手助けする
【歪みし豊穣の神樹@世界樹の迷宮4】(上)
【フォレスト・セル@新・世界樹の迷宮】(下)
状態:健康、激昂、ポケモン状態、首輪解除、ドッキング中
思考:世界樹と主人(エリカ&まどか)を守りつつ、龍脈の龍を始末する
※手加減ということを知らないので、現時点では世界樹付近への狂信者の群れに攻撃ができません
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「負傷者の治療を優先! 準備が整い次第、外敵への迎撃を開始しろ!」
同刻、世界樹内部ではダオスが矢継ぎ早に魔物達に指示を出していた。
これまでにはなかった、世界樹そのものの突然の損傷。世界樹内にいながら出てしまった負傷者の治療。
そしてそれをやってのけた龍脈の龍への対応。彼にはやることも考えることもあまりにも多すぎた。
「おのれ、世界樹を傷つけた罪、万死に値する……!」
「伝令! 現在DMC狂信者と思われる大軍勢とレスト様達が交戦中!」
「やはり奴らか! レストに増援を送るべきか、しかし天魔王軍に拳王連合との戦いを考えると……」
龍脈の龍は確かに目に見えたかつてない脅威である。
しかし敵は狂信者だけではなく、激情のまま全ての戦力をぶつけて万が一があれば、以後の戦いが厳しくなる。
レストの力を信じ、残る戦力を分けて、少なからず消耗しているであろう天魔王軍と拳王連合を同時に叩くべきか。
「狂信者が来たとなると、件の呉島とやらがこの世界樹の地下に到達している可能性も高い。
捕縛班からの連絡はまだか……?」
【世界樹内部】
○世界樹司令塔
【ダオス@テイルズオブファンタジア】状態:健康、物理攻撃無効、雷耐性低
思考:早急に今後の方針を固める。態勢が整いしだい、狂信者と龍脈の龍に対して世界樹頂上からレーザーによる迎撃
【メガボスゴドラ@ポケモン】状態:健康
思考:ダオスの援護。狂信者が接近してきた場合、ステルスロック
【世界樹連合他メンバー】状態:健康〜ダメージ(?)
思考:状況整理
※少なからず負傷者が出ています
※世界樹の一部が龍脈の龍の攻撃で損傷しました。まどかやフォレスト・セルなど一部の能力者にしか修復はできません
※三竜の結界が破られました。バスターガンダムの砲撃などが来た場合も世界樹が損傷します
――ほんの少し時は遡り、世界樹地下。
「っ! 今の衝撃は何!?」
「んんんwwwwwwまたやばい敵が現れたんですかなwwwwwww
だがあの封印の遺跡の化物にそれを下僕にするエリカ嬢がいればぶっちゃけ安心ですぞwwwww」
「あの子もえぐいもんマスコットにするわー……マスコットはやっぱりワイみたいにかわいくないと」
「いやいやwwwwwwマスコットなら強くてかっこよくて愛嬌もある我の方がむいてるに決まってるwwwwww」
「黙りなさい淫獣ども」
そこにはほむらと、それについてくる淫獣二匹がいた。
呉島貴虎なる人間の計画を阻止するために、多くの魔物が既にこの地下でスタンバイしている。
FOEもそこには加わっており、ほむらがわざわざここを訪れる必要はない。
だが彼女は、妙な胸騒ぎがしていたのである。
長年培った、まどか(世界樹)への危害を加えそうな気配というのであろうか。
とにかく直感だ。あえていうなら、魔物達の地下の定期報告が僅かに遅れていることぐらいである。
「だいたいなんで貴方達まで――っ!?」
そしてその直感は、当たってしまった。
-
目の前に転がっていたのは、無数の魔物の屍であった。
殆どが爆散しているむごい有様であり、黒焦げの屍も多く見られた。
そんな中で、希少な原型を保ったままの屍があった。
「この、魔物は……」
忘れもしない。銀色の巨大カニ、メタルシザースだ。
フォレスト・セル制御に向かった際にその姿は目にしており、また雷竜からその強さは聞かされている。
そのメタルシザースが、メタルシザースの群れが、おそらく何かに射抜かれて殺されているのだ。
【メタルシザース@世界樹の迷宮シリーズ】死亡確認
「貴方達、気をつけなさい。これをやったのは相当に厄介な相手よ……」
「これはwwwwwwはやいとこ戻って報告したほうがいいと思いますなwwwwwww」
「そうね。時間が惜しいし、私が魔法を使って……」
「あ、ちょっと見てみい! 生き残りの魔物がおるで!」
時を止めて帰還しようとしたほむらを、ケルベロスが止める。
見れば確かに、無数の屍の中で一つだけ、ぷるぷると震えている影が見えた。
「おいお前、何があったんや!?」
「ぴ、ぴきー……」
震える魔物は、実に弱弱しい声で鳴いた。なんとも庇護欲をそそる声で。
「っ!? ケルベロス! そいつから離れなさい!」
「え――?」
だがほむらは、その弱弱しい――媚びた声に聞き覚えがあった。
まるでまどかをおびき寄せるために、怪我をしたいたいけな小動物を演じてみせたインキュベーターのような。
そしてそれもまた、当たってしまった。
「ピッキー!」
震えていた魔物は突如として強者の顔を見せ、近寄ってきたケルベロスを灼熱の炎で焼き尽くしたのだ。
【ケルベロス(小)@カードキャプターさくら】死亡確認
「くっ……!」
「ほむほむ危ないですぞwwwwww炎なら我の霞ブレス乱射で鎮火する以外ありえないwwwwww」
「ピキ!?」
咄嗟にオオナズチが前にでてほむらを庇うと、灼熱の炎を吐いた魔物はぴょんぴょんと飛び跳ねていった。
「逃走確認ですぞwwwwwww」
「違う、あれは逃げたんじゃなくて……」
「む……本当に人型のインベスがいるとはな」
-
そこに現れたのは、美味しそうなカラーリングの仮面ライダー。
その手には機械仕掛けの弓を持ち、彼がメタルシザースの群れを下した存在と見て間違いないだろう。
そして……
(仮面ライダー……! こいつが、カオスロワちゃんねるに書き込んでいた少し抜けていそうな男、呉島貴虎!
そうなると、さっきのぷよぷよがレベルが高いスライム……予想以上に厄介な相手だわ。それにしてもインベスって何よ?)
身構えつつ、ほむらはじりじりと後ずさる。
あの書き込みの内容を信じるのであれば、まだ究極邪龍が控えているはずだからである。
抜けた行動に反して、本当に高い実力の持ち主。これは報告をせねばならないであろう。
「ミツケタ。オマエ、マルカジリ!」
「なっ!?」
そんな時、凄まじい速度で天井をぶち破り骨竜が貴虎の頭上から奇襲攻撃をしかけた。
他のフロアを散策中だったのだろうが、仲間の死の気配を感じて救援に駆けつけたのだろう。
さしもの仮面ライダーも、完全な不意打ちで防御行動すらとれていない。
「真・双龍掌!」
「グォオオ……!?」
だがその完璧な奇襲をしかけた骨竜が、乱入者の拳によって吹き飛ばされた。
高い体力値を誇るはずの骨竜が、その攻撃を受けただけで四肢をもがれて息絶えてしまう。
【死を呼ぶ骨竜@新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女】死亡確認
「骨竜!?」
「すまない、助かった。しかしまさか、こうも警備の手が回っているとはな……」
「はっはっはっ! まあ全てワシに任せておけ。ワシの可愛い娘を攫った不届きなインベス共など、一人残らずこの拳で粉砕してくれるわっ!」
「さっすがファガンさん! 俺達ドラゴンタイプの希望の星! マジかっけえっす!」
「グオオオオォォォォン!」
「ピキー!」
吹き飛ばされた骨竜を見やる余裕すら、ほむらにはなかった。
仮面ライダーの背後から現れたのは、スライムと、やはりいた邪龍。そして、書き込みにはなかった新たな二体の龍。
例の書き込みはリアルタイムのものではない。呉島貴虎一行には、新たな協力者が増えていたのだ。
一人は逞しい上半身と立派な角を持つ龍、星輝の黄龍帝・ファガン。
四神を束ねる長にして、龍の力を極限まで高める力を持っている。
彼はヘルヘイムの救援要請により駆けつけたが、実は都庁に娘が囚われているという情報も手に入れており、快く一行へ加わった。
そしてもう一人、こちらも同じく金色に輝く龍、グレイトドラゴンのシーザー。
強力なブレス攻撃と強靭な爪と牙を持つ最強種族であり、またその鱗は灼熱の炎も輝く吹雪もよせつけない。
スラリンと同じくとある国王に仕えており、親友である彼の頼みであるならばと、打倒ヘルヘイムの森を誓ったのである。
(状況は最悪……! まさか間抜け男が、三体のドラゴン引き連れてるなんて予定外ってレベルじゃないわよ!?)
「wwwwww………大ピンチですな」
(オオナズチ、早いとこ霧を出して。どうにか隙を見て、時を止めている間に逃げるわよ!)
-
○魔法少女と淫獣
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】状態:健康、疲労(小)
【オオナズチ@モンスターハンターシリーズ】状態:健康、角破壊
思考:隙を見て逃走、爆弾を仕掛けられる前に援軍を呼びたい
※貴虎が対主催だと気がついていません
☆残念な強者達
【呉島貴虎@仮面ライダー鎧武】状態:健康、斬月・真に変身中、財布と貯金が素寒貧
【究極邪龍・ヘルヘイム@パズドラ】状態:健康、防壁展開
【スラリン@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】状態:健康、LV99
【星輝の黄龍帝・ファガン@パズドラ】状態:健康、LV99
【シーザー@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】状態:健康、LV60
思考:インベス達を倒し、N2爆弾を起動させる
※全員が世界樹をヘルヘイムの森と誤認しています
-
聖帝軍がDMC狂信者の一軍に攻撃を受けている最中。
一台の青い戦闘機が埼玉県の上空に入ろうとしていた。
「いや〜、ブルースワローに変身できたから、もしやと思ったが、ジェットマシンまで呼べるとは思わなかった」
「なんにせよ、足が手に入って良かったです。
車による陸路の移動も狂信者やマーダーに襲われる可能性もありますし、何より戦闘機ですから移動も早い。
これなら、西武ドームもすぐに着くでしょう」
戦闘機の正体は超人戦隊ジェットマンの使う戦闘機、ジェットマシンの一つ、ジェットスワローだ。
そしてコクピットの中にはブルースワローに変身できる野球漢の高津、彼の補佐を務める犬牟田が乗っている。
先ほど出会い喪った友との約束を果たすべく、西武ドームへ向かうための乗り物を東京で探していた二人だが、偶然ジェットスワローを呼べると知った彼らは車を探すより、断然こちらの方が早くて安全ということで、呼び出した戦闘機に搭乗して西武ドームに向かうことにしたのだ。
「しかし、正直言って到着してからが大変ですよ。
現場には狂信者達の大軍がウジャウジャいる……子供ばかりの聖帝軍は持つんだろうか?」
「今は俺達がくるまで凌いでくれることを信じるしかない」
乗り物を探している途中、犬牟田の情報収集によって二人は聖帝軍が西武ドームにてDMC狂信者の大軍に襲われていることを知った。
ほぼ密閉されたドームなので内部がわからない以上、形勢はどちらに有利かまではわからず、戦闘はまだ続いているかも現状では不明だが、どっちにしても西武ドームに急いで向かう必要があると高津は判断した。
同じ野球仲間がピンチなら助けに行かねばならぬ、それが高津の胸中からの想いであり、犬牟田も聖帝軍の救援には同意し、二人は聖帝軍の救援に向かうことにした。
「せめて極制服さえ見つかれば、僕もあなたと一緒に戦えるのですが……」
「気にするな犬牟田。
おまえには情報収集という俺にはない武器がある。
聖帝軍の安否と、周辺のDMC狂信者の動きだけはリアルタイムで追ってくれ」
「ハイ!」
「……よし、コイツの操作にもだいぶ慣れてきた。
少しばかりスピードを上げるぞ!」
西武ドームへ一秒でも早くたどり着いて聖帝軍の味方をすべく、高津はジェットスワローを加速させた。
果たして彼らの救援は間に合うだろうか?
彼らの存在が聖帝軍の明日を決める……かもしれない。
-
【二日目・8時00分/埼玉県上空】
【高津臣吾@ササキ様に願いを】
【状態】健康、ブルースワローに変身中
【装備】クロスチェンジャー、ジェットスワロー@鳥人戦隊ジェットマン、
【道具】支給品一式、カチドキロックシード@仮面ライダー鎧武、ボロボロのグローブ
【思考】
0:大急ぎで西武ドームへ向かい、聖帝軍を支援する
1:DMC狂信者をぶっつぶす
2:カチドキロックシードを葛葉紘太に届ける
3:俺が間に合うまで耐え凌いでくれ、聖帝軍……
【犬牟田宝火@キルラキル】
【状態】健康
【装備】だいぶ古い型のノートパソコン@現実
【道具】支給品一式
【思考】
1:高津に同行する
2:もうちょっとまともなパソコンがほしい
3:できれば極制服もほしい
※パソコンによる情報収集により、聖帝軍がDMC狂信者の襲撃を受けていることを知りました
-
DMC狂信者による二回目の都庁への進撃が始まる寸前の、都庁の地下ダンジョン・南部方面にある一室――
そこでは都庁に爆弾を仕掛けようとする男、他の都庁の同盟仲間と同じく呉島貴虎を捕獲しようと地下を奔走していた影薄組の五人は、貴虎達とは別に地下から潜入したDMC狂信者の一団と交戦状態に陥っていた。
攻防の中央では赤毛の死神と、青白い炎のような光を纏った銀髪の兵士との激しい一騎打ちが行われていた。
赤毛の死神は影薄組のリーダー格を務める三途の案内人の小野塚小町。そのバストは豊満であった。
銀髪の兵士は狂信者をまとめあげる上層部の一角にして伝説的存在であるヴァルキュリアのセルベリア・ブレス。そのバストは豊満であった。
「幻想郷で鍛えたあたいの弾幕を喰らいな!」
小町が懐から一枚のカードを取り出した――スペルカードだ。
それすなわち弾幕攻撃を仕掛ける合図である。
「投銭『宵越しの銭』!!」
気合を入れて放たれた言葉と共に、無数の銭による弾幕がセルベリアに襲いかかった。
一見すると回避不能な銭の弾丸の群れ、そこらの有象無象の戦士ではまず回避不能だろう。
しかし、セルベリアは伝説的種族であるヴァルキュリア人。
その弾幕の大半を超人じみた反応速度でかわし、回避しきれぬ銭はラグナイトでできた堅牢な盾で凌いだ。
「チィッ、防いだか!」
「これで終わりか? ならば次はこちらから行くぞ!」
銭による弾幕が止んだと同時に、セルベリアは小町にラグナイトの槍を向ける。
槍による突撃(ランスチャージ)?
否、槍先から繰り出されるのは突きではなく、一筋の巨大な閃光――光線であった。
戦車すら一撃で蒸発しかねないラグナイトの一撃。これが直撃すれば小町の命はない。
「きゃんッ!?」
そして、小町は眩い光に飲み込まれてあえなく消滅した……
「!?」
「今のは危なかった……」
「あの攻撃を防いだだと!?」
――かに見えたが、小町は生きていた。
セルベリアはレーザーが小町に飲み込まれる直前でレーザーの方が小町を避けていった奇怪な現象を目撃し、驚きの色を隠せなかった。
「なん…だと…?!」
さらに続けて、小町が幽霊のように姿を消したかと思えば、次の瞬間にはセルベリアの背後を取っていた。
背後から襲いかかられるも、セルベリアもヴァルキュリアの超反応で対応。
槍で刀を防ぎ、危うく袈裟斬りにされかけたところを鍔迫り合いにまで持っていった。
「流石に上層部を名乗るだけあって、あっさり勝たせちゃくれないね……!」
「絶対防御に瞬間移動の能力……いや、貴様はまさか『間合いを支配する能力』でも持っていると言うのか?!」
「だいたいあってるよ。
まだ数回しか使ってないのに能力まで見抜かれるとは、頭まで回るみたいだねぇ」
セルベリアの読み通り、小町は『間合いを支配する能力』=『距離を操る程度の能力』を使っていた。
レーザーを自分に届かないようにして防御したのも、縮地方より早くセルベリアの背後を一瞬で取れたのも、この能力によるものである。
間合いを支配するということは、敵のあらゆる攻撃を寄せ付けない絶対防御と、擬似的な瞬間移動能力、敵に攻撃を必ず命中させる必中攻撃を可能にさせることと同義だ。
しかし、この能力はあまりにも強力過ぎたために、首輪によって一度の使用における疲労が増加する制限がなされ、使いすぎれば過労で死にいたるなど、小町自身も能力を自由に扱うことができなかった。
だがそれも昔の話。
首輪が外れた今は、この能力を少し使ったぐらいでは疲労することはなくなった。
少なくともいっぺんに百回ほど使用しない限りは過労で倒れることはないだろう。
-
(こちらの攻撃が尽く防がれる……まるで同じヴァルキュリアを相手にしている気分だ!)
それが、東ヨーロッパ帝国軍最強の歩兵にして敵対者であるガリア軍から鬼神の如く恐れられたセルベリアの、小町への評価――ガリア軍のヴァルキュリアと同じぐらいの力を持つと断定した強者認定である。
ならば戦況は小町に有利か、と言えばそうではない。
(こっちの攻め手のほとんどが弾かれちまってる! このアマを倒すにはあたいでは火力不足だ!)
セルベリアはヴァルキュリアゆえに攻撃力だけでなく、破格の防御力を持っている。
流石にレストやダオスのような規格外ならまだしも、FOE程度では彼女に爪を立てることもできはしないだろう。
小町の武器も銭の弾幕と、斬魄刀である神鎗である攻撃力は別段高くはなく、ヴァルキュリアを相手にするには決め手に欠けていた。
首輪解除によって『距離を操る程度の能力』がほぼ自由に使える状態で無ければ、とっくの昔に小町はやられていただろう。
(だが、ここで退いたら狂信者共が都庁の中になだれ込んじまう!
広いダンジョンで仮面ライダー一人探すのも大変なのに、面倒事を増やすわけにはいかない。
都庁の同盟のみんなや、影薄達に迷惑をかけないためにも、あたいは負けるわけにはいかない!
それにこいつに勝てないようじゃ、風見幽香に勝つのだって夢のまた夢だ!
活路はきっと見つかるハズだ! やっつけてみせる!)
敵の力は強大なれど、小町は意を決してセルベリアに挑む。
両者が膠着状態の鍔迫り合いから一旦距離をとる。戦いの仕切り直しだ。
「やるな……貴様、名はなんと言う?」
「小野塚小町……死神だ。
名乗ったからにはアンタにも名乗ってもらおうかい?」
「私はセルベリア・ブレス。とある帝国軍の侵攻部隊司令官をしていたヴァルキュリアだ。
帝国がなくなり、今の私にはクラウザーさんしかないがな」
そして二人の女は互いに啖呵を切った。
「実力のほどは概ね互角といった所か。だが、クラウザーさんのためにも貴様をSATUGAIするのは私だ。
ここからは更に全力を出させてもらおう」
「上等だぁ! こっちもアンタ相手に加減はしない。もっと本腰を入れてやるから遠慮せずに来な!」
啖呵を切ると同時に、刀と槍による白兵戦、もしくは銭と光線による弾幕合戦はよりビートアップする。
嵐のように飛び交う弾幕と、赤と青の閃光がぶつかり合う戦場には何人たりとも近づくことは叶わないだろう。
右翼。
ここでは影薄組にして箱庭学園元生徒会長の日之影空洞と、北斗神拳伝承者候補にしてDMC狂信者であるトキとのタイマン勝負が繰り広げられている。
「おお〜、こまっちゃんは派手にやってんな〜」
「貴様ぁッ! この天才であるトキ様を前にして余所見とはいい度胸だな!」ユクゾッ ナギッ ナギッ!!
「うおっと、わりィわりィ」
軽口を叩いて余裕そうな日之影だが、実際はとてつもない死闘が繰り広げられている。
こちらは完全な肉弾戦による拳の弾幕合戦であり、一撃一撃が死に直結しかねない拳の応酬が続いている。
「まさかジーミーで学園でも目立たない俺が、北斗真拳伝承者候補のアンタと拳を交えるなんてな……」
「クックックッ……嬉しいか?」
「それだけにアンタが狂信者に堕ちてたことが残念でならねえんだよ!」
軽口から一転、互いに百烈拳を打っているような無数の拳の嵐の中で日之影は怒声をぶつけた。
「フッ、貴様にSATUGAIとクラウザーさんの素晴らしさなどわかるか?
大災害によって世紀末となったこの世界にこそ希望が! クラウザーさんが必要なのだよ!」
「大災害で世が世紀末になってるのは知ってるし、そんな世界にこそ希望は必要なのはわかるが、だからってクラウザー一人のために無関係な人間を生贄に捧げようとするアンタらの行動が意味不明だな!」
「希望のためには犠牲も必要なのだ! 希望のためには命は投げ捨てるもの、わかるだろう?」
「ハッ、わかりたくもねぇや」
「ならば死ぬがよい!!」
もはやトキの人格はDMC色に染まっており、かつての高潔な人となりは消えていた。
クラウザーさんの死によるショックが彼を豹変させたようだ。
今なら、このトキが偽物だと言っても誰もが信じるであろう。
-
(――だが、腐っても狂信者に成り果てても、実力者なのは変わらずか。
流石は病んでいなければ北斗真拳伝承者になれたと言われたほどだ)
日之影は自身の存在感を徹底的に薄くする異常性『知られざる英雄』による能力の補正も手伝って秘孔を突かれてしまうような致命打こそ躱わしているものの、それ以外の攻撃によるダメージを時折受けていた。
一発一発は軽いがダメージが蓄積すれば、いずれはやられてしまう。
一方のトキは日之影に比べればダメージは浅い。
相手の存在感のなさによって中々、秘孔をつけないことに苛立ってはいるが、日之影から放たれる幽かな闘気を辿って激流に身を委ねるが如く、攻撃のほとんどを躱している。
現状で有利なのはトキであった。
貴虎捜索に出かける前に、回復魔法や食事などで傷や疲労を取り払って万全な状態でなかったら、日之影の敗北は決定的なものになっていただろう。
それほどまでに、北斗真拳伝承者になりかけた男の強さは伊達ではないのだ。
(チッ、こりゃあ、できるだけ早くこまっちゃんやモモ達の援護に向かいたいが、ちょいと無理そうだ。
俺もこんなところで死ぬ気はねえが。なんとか持ちこたえてくれよ、四人とも!)
左翼。
こちらはセルベリアとトキが強者を抑えている間に、銃で武装したモブ狂信者の集団がダンジョンの奥へ突入しようとしていた。
しかし、ある者達によって侵入は阻まれていた。
残る影薄組である、黒子テツヤ・東横桃子・赤座あかりの三人だ。
彼らは(桃子には雀力を戦闘力に変える異能はあるが)基本的に非戦闘員である彼らは、自分達のステルス能力が役に立つと思い、貴虎捕縛に自ら志願した。
結果として、貴虎ではなくセルベリア達との戦いで手一杯である小町と日之影の代わりに、狂信者達の侵攻を抑える役目を引き受けることになった。
「……」
「SATUGAIセヨ! SATUGAぐわッ」
黒子は冷静にショットガンで狂信者を撃つ。撃たれた狂信者が地面に転がった。
「さっさとここから出て行ってくださいっす!!」
「うおおおお、いったいどこから!?」
桃子は黒子から借りた猟銃で狂信者を狙撃し、ダメージを負わせた。
「あかりっくサンダー!!」
「雷まで!?」
そして、残るあかりは黒子から譲渡されたエンシェントソードによる強力な雷撃で多くの狂信者の進軍を足止めする。
銃撃に雷撃、それに加えて影薄達特有の影の薄さも手伝い、どこから飛んでくるかわからない攻撃となって、狂信者達の突撃を押しとどめていた。
狂信者達も負けじと反撃するが、影薄達の前では銃弾は、せいぜいかすめるぐらいが精一杯だった。。
銃弾の放たれた方向から場所を推測して攻撃しても、その頃には三人はとっくに移動しており、無駄弾を増やすばかり。
狂信者も銃を持っているため、硝煙の匂いだけでは影薄達を辿れない。
そもそも三人揃えば、レストすら欺くほどのステルス能力の持ち主達であり、モブ狂信者程度の索敵能力では感知は不可能だ。
そうこうしている内に、モブ狂信者は一人また一人と倒れていく。
このようにして三人はモブ狂信者達の進軍を押し止め、翻弄していた。
「はあはあ……」
「……大丈夫、モモちゃん?」
「し、心配はいらないっす! ただ、人を撃つのには慣れてなくって……」
「東横さん……無理もないでしょう。
人を撃ったり傷つけたりするのは本当は嫌でしょうに。
赤座さんだってそうでしょう?」
「「……」」
しかし、普段から暴力を振るうことになれていない影の薄い少年少女達にとって、人を撃つ行為そのものが精神を削らせるものであった。
(桃子はマーダーであるぼのぼのを斬殺しているが、あれは必死だったため、仕方なく殺害しただけである)
いちおう、モブとはいえ大半は人間ではあるので、なるべく手足や武器を狙って命までは取らず、あくまで足止めに徹しているが、それでも人に銃弾を当てるのは気持ちの良いことではなかった。
手足を狙うと言えど、その怪我が原因で後で死んでしまう可能性だってある。
戦い疲れはあれど肉体的なダメージはほぼない三人だが、小町や日之影と違って戦う時間が増す度に精神的な疲労は蓄積されていく。
-
「でも、ここであかり達が戦わなくちゃ、狂信者達が都庁の中に入っちゃうよ!
都庁のみんなのために主人公として……いや、主人公じゃなくても、ここで逃げ出すなんてあかりにはできないよ!」
「あかりちゃんの言う通りっす。
中には強力な魔物や仲間がいるとはいえ、油断はできないっすからね」
「小野塚さんと日之影さんは手一杯で助けを呼ぶ暇もない以上、こっちは僕達で戦うしかないということですね」
されど、三人は己の都合に構わず、戦う道を選んだ。
都庁を守り、信じる仲間達のためにも自分達だけ戦わないわけにはいかないのだ。
そうして三人は再び銃と剣を握った。
場面は再び右翼。
日之影とトキの戦いもいよいよ決着がつく時が来た。
「闘気は十分に溜まった。貴様を確実に殺せる私の必殺奥義で葬ってやろう」
そう言うとトキは一旦、日之影から十分な距離をとり、その場に胡座をかきだして両の手を上げた。
「なに!? あの構えは!!」
「惨めな醜態をさらしながら死ぬがいい。
クラウザーさん! 我が奥義で敵を葬り去るところを是非ご覧あれ!」
その構えは、かの有名な北斗有情破顔拳。
両の腕から放たれるビームのような闘気に当たれば、(体中を捻じ曲げつつ、快楽の中でアヘ顔になりながら)相手は死ぬ。
しかも射程は無限大で、発射速度も異様に早く、そのくせタメもほぼ無い。
直撃すればどんな相手でも確実に死ぬ、トキの一撃必殺奥義であった。
トキが技を放つ前に追撃する――間に合わない。
追撃を間に合わせないために十分な距離を取ったのだ。トキが闘気を放つほうが早いだろう。
さらに、追い打ちをかけるような現状を日之影は把握してしまう。
「後ろにはこまっちゃんやモモ達がいる! このままじゃ……!」
「フフフッ、気づいたか。だが、もう遅いわ!!」
トキの破顔拳の射線上にはセルベリアと戦っている小町、モブ狂信者を押しとどめている三人の影薄がいる。
もし放たれた闘気を避けられなかった場合、仲間は破裂して死ぬことになる。
しかし仲間に注意を喚起する時間も、もう無い。
ちなみに、この場合は狂信者達も巻き添えになるが、ラグナイトの光に守られたセルベリアには闘気は効かず、モブ狂信者達は死んでも代えが効く上に本人達もクラウザーさんのための死なら了承する、と計算してトキは味方ごと破顔拳を放てるのである。
「万事休す……か」
有情破顔拳を防ぐ手立てはなく、日之影は打つ手なしと諦めて――
・・・
「……なんてな! 俺はアンタがそれを使うのを待ってたんだ!!」
――などいない。
箱庭学園元生徒会長は諦めておらず、闘志は一切に鈍っていなかった。
先程も述べたが、トキの技の発射速度と、日之影と空いた距離からして、日之影の攻撃は間に合わない。
後ろには味方がいて、仮に日之影が避けても味方に大なり小なり被害が出る。
そのようにトキの計算は完璧なハズであった。
-
相手が型破り(アブノーマル)に定評のある箱庭学園の生徒であることを除けば。
「ずおりゃああああああああああああ!!!」
トキが奥義を放つ直前、日之影は地面に拳を突きたて、そのままバキバキと床を引き剥がした。
剥がした床を盾にして防御?
いや、違う。
床と言っても僅か一部ではない。
戦場となっているダンジョンの一室・「右翼側のほぼ全部の床」だ。
その床の上にはトキも乗っており、トキが破顔拳を放つより早く、日之影はちゃぶ台返しのように剥がした床を座っているトキごとひっくり返した。
「――破顔拳……なにいいいいいい!?」
トキの体が床ごと90度ひっくり返る。するとどうなるのか?
有情破顔拳による闘気のビームの射線軸が変わり、日之影達のいる正面〜側面の横軸から、誰もいない天井と床の上下縦軸に放たれた。
相手が乗っている土俵を破壊し、発射軸を変えてしまうことで自分や味方の身を守る――それが日之影の有情破顔拳攻略に対する答えであった。
逆に言えば土俵を破壊して利用するなど、純粋な格闘戦能力やセンスならば黒神めだかでさえ足元にも及ばないと言われる彼以上の強者にしかできない芸当である。
「馬鹿な、この天才たる私の必殺奥義が敗れるハズが……うわらば!!」
そして、破顔拳発射直後による膠着状態、さらに奥義を破られたことへの動揺によって生まれた僅かな隙を日之影が見逃すハズもなく、トキの首に日之影の手刀が入り、その一撃がトキの首の骨をへし折り、絶命させた。
人殺しは日之影の望むところではなかったが、トキほどの強者を見逃せば、また狂信者として多くの人々が殺すかもしれない。
さらに付け加えれば、その一瞬しかトキほどの強者を仕留められるタイミングはなく、迷ってる暇もなかった。
そのような考えがよぎり、日之影に冷徹な判断を下させ、トキを殺害する道を選ばせた。
今しがた殺害したトキの死体に哀れみの表情を向けながら、日之影は呟く。
「アンタが病んでいたのが体だけだったら、負けていたのは俺かもしれねえ。
……まあ、アンタが心まで病んでなかったら、こうして殺し合うこともなかったんだろうがな」
純粋な格闘の腕はトキの方が上手であり、そのまま殴り合いを続けていれば死んでいたのは自分であったろうと日之影は考える。
トキの敗因はあの世にいるクラウザーへの顕示欲から大技に走ってしまい、日之影の死を貢物にしようとした結果、相手の機転に敗れたのである。
強すぎる信仰が、トキに激流に身を任せる彼本来の冷静な戦法を忘れさせたのだ。
クラウザーを失ったことで心の病に侵されたトキだからこそ、日之影に敗れたのである。
そして、中央。
こちらでも戦いの決着がつきかけていた。
互角と思われた戦いであったが、一定時間が過ぎたのを境にセルベリアの纏う光がだんだん弱まっていった。
「ハァハァ……ラグナイトの光が……! ぐうッ!!」
「息が上がってるってことは、その光と力は以前のあたいと同じく、首輪によって制限されていたみたいだね!」
ラグナイトの光の減衰は、セルベリアの防御力の減衰を意味する。
その機を狙って小町が銭の弾幕を撃ち込めば、そのほとんどが直撃し、若干のダメージをセルベリアに与えた。
ヴァルキュリア化は首輪によって力を使えば使うほど体力を大幅に消耗する制限がなされていたのだ。
そのため、セルベリアの体力は僅かな時間のうちに大きく消耗し、ヴァルキュリア化の維持も難しくなっている。
小町も首輪が外れて制限がなくなったとはいえ、この一戦で能力を大量に使ったために疲労の色は見られたが、セルベリアと比べればまだまだ余裕があった。
このまま戦えば、余力の差でセルベリアの勝率は低いと言え、そこへさらにダメ押しするように増援が現れる。
「スマンこまっちゃん! 待たせた!」
「日之影!」
「トキほどの猛者がやられたのか……!?」
-
右翼にいたトキは倒され、影の薄い巨漢・日之影が小町の横に並んだ。
部下のモブ狂信者達は他の影薄達によって足止めを食らっているため、味方の援護は期待できない。
形成は明らかにセルベリアにとって不利であった。
それを見越して小町はセルベリアに降伏を迫る。
「さあ、白旗あげて降参するなら今のうちだよ、セルベリアさんよ」
「まだ負けが決まったわけではない……小野塚小町、貴様らを絶対にレ○プしてSATUGAIしてくれる!」
「そうかい。
あたいらは殺しなんてしたかないが、アンタらに殺害されんのもごめんだし、やるっていうんなら是非もない。
満身創痍か……最悪、死を覚悟するんだね!」
明らかに劣勢で勝機の薄いにも関わらず、セルベリアは影薄組との戦いを選んだ。
何が彼女をそうさせるのか?
勿論、クラウザーへの強い信仰である。
小町が刀を、日之影が拳を、セルベリアが槍と盾を構え、いざ、第二ラウンドが始まる……そう思われたとき。
DMC狂信者の側から突如、青い髪に桃のついた帽子と腕に持つグラットンソードが特徴的な少女が現れた。
その少女の姿に、小町は目を見開く。
「おまえは……緋想天の時の天人、比那名居天子?!」
「死神の小野塚小町……都庁の軍勢に組みしていたのね……汚い、さすが死神汚い」
「知り合いなのか、こまっちゃん?」
「どうやら互いに面識があるようだな、天子」
小町と天子は同じ幻想郷の出身者であり、緋想天という事件(黒幕は天子本人)の折に面識をもっているのだ。
「アンタも狂信者なのかい……ハッ! アンタの従者も浮かばれないね」
「おいィ? クラウザーさんの素晴らしさを理解出来ない愚か者はマジでかなぐり捨てンぞ?
それから衣玖に関しては……何も言うな」
天子は狂信者であり、これで1対2から2対2となることで両者のパワーバランスも対等に近づいた。
モブ狂信者達も「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」という喝采を上げており、天子の狂信者内での実力の高さを物語っている。
戦いになれば苦戦は強いられるかもしれないと思い、小町と日之影の二人は身構えた。
しかし、天子がこの戦いにおいて剣を抜くことはなかった。
彼女はあくまでメッセンジャーとしてここにやって来たのだ。
「おっと、勘違いするな。私は戦いに来たわけじゃない。
……セルベリア、狭間と大和が配置についた。陽動はもう十分だ」
「!……そうか」
天子の言葉を聞いたセルベリアとモブ狂信者達は、途端に撤退の準備に入った。
一方、天子の言葉に入っていた『陽動』という言葉に小町も反応し、問い詰めようとする。
「アンタらが陽動だって?!
おい! そりゃどういうことだい!?」
「お前達がそれを知ったところで意味はない。時既に時間切れだからな!
さあ、破壊力ばつ牛ンな地震がくるぞぉ」
小町の問いに対して返ってきたのは望んでいた答えではなく、天子のわけがわからなくはない言葉(ブロント語)と局地的かつ強力な地震であった。
「きゃん! 地震かい!?」
「こいつは……かなりでけえぞ!!」
-
その頃、都庁の地上では魔神皇・狭間を中心としたDMC狂信者による侵攻が始まっていた。
そして、大和が都庁の世界樹攻撃のために龍脈の龍を召喚したのも、ちょうどこの時刻である。
龍脈の龍による世界樹へのダメージの余波は、地下にも広がり、大地震という形で影薄組を襲った。
具体的には玄室全体の床が揺れ、落石が落ちていき、一室が土砂で埋もれていく。
それによって影薄組が満足に動けなくなった内に、天子ら狂信者達は、自分達が侵入してきたルートからの脱出を図る。
「逃がすかい!」
小町はすかさず、距離を操る程度の能力でセルベリア達を引き寄せようとした。しかし……
「待て、こまっちゃん! あれを!」
「はッ、モモ達が!?」
日之影の指し示した方向を見ると、左翼でモブ狂信者集団と戦っていた三人の影薄達が地震に足を取られ、身動きがとれなくなっていた。
さらに彼女らの周辺には大量の落石が降っており、逃げ遅れた狂信者達が次々と岩に押しつぶされる惨状が広がっていた。
「あかり達、ひょっとしてピンチ?!」
「ひょっとしなくてもピンチですね、赤座さん」
「死にたくないっす! 助けてください、小町さん!!」
セルベリア達を追うなら今を置いて他になかったが、日之影のように頑丈な体を持つわけではない三人をこのまま無視すれば、落石によってまとめてミンチになってしまうだろう。
仲間を見捨てて狂信者達を追うという選択は小町の中にはなく、彼女は能力をセルベリア達ではなく、かけがえのない仲間達に向けて使った。
「今、助ける!」
小町はまず、距離を操る能力で三人を自分と日之影のもとに手繰り寄せ、さらに天井から降ってくる落石が一つも仲間に当たらないように距離を操って当たらないようにする。
それが仲間達を救うための最善の策であると小町は信じた。
――それは引換に、セルベリアを始めとする狂信者達をダンジョンから脱出を許すことを意味していた。
セルベリアは脱出する前に、落石でドンドン埋まっていく一室の中で、小町がいるであろう方角を見て、そして啖呵を切った。
「小野塚小町! おまえはこの程度で死ぬ輩ではあるまい。
再び相まみえることがあれば、その時はこの手で必ず貴様をレ○プ(倒す)する!
その時までは必ず生きていろ!」
それはセルベリアから小町への挑戦状であった。
その挑戦状を叩きつけたのを最後にセルベリアはダンジョンから脱出した。
一方、仲間を助ける作業をしていた最中に聞こえたセルベリアの言葉より、因縁をつけられたことを理解した小町はため息混じりに呟くのだった。
「チェ、また厄介そうなのに目ぇつけられちまったね」
※
龍脈の龍が都庁の世界樹に攻撃をしかけた隙にセルベリアと天子の狂信者部隊は都庁の地下を抜けて、南にある南新宿の地下まで脱出した。
セルベリアの部隊に、ディーから与えられた任務は陽動である。
暴れることで敵の目を引きつけ、地下では貴虎の都庁侵入の手助けを、地上では大和が龍脈の龍を召喚できるようにさせるための時間稼ぎをさせるために、陽動部隊が送られたのだ。
(ちなみに貴虎はネットで自分が都庁に侵入し爆弾を仕掛けることを吹聴していたが、これはスマホやパソコンが使える人間が僅かながらも組みしている都庁軍には高確率で気づかれていると見ており、突入支援に陽動部隊を送り込む必要があると見越しての判断である)
結果として大和は龍脈の竜の召喚に成功し世界樹に打撃を与え、貴虎の地下ダンジョン侵入への成功率を上げた。
一先ず、任務を終えたセルベリアは天子という護衛をつけて、態勢の立て直しのために一度、ビッグサイトまで後退することになった。
(だが、代償は高くついた……)
陽動そのものは成功したが、見返りに上層部にして古参ファンの一八と手練のトキが戦死した。
その事実にセルベリアは歯噛みする。
(元より独断専行し始めた一八はまだしも、トキまで失うハメになるとはな……
警戒が地上のフォレストセルや、レストとダオスにばかり目が行き過ぎていた。
我々はまだ都庁軍を侮っていたのかもしれない)
さらにセルベリアは先ほど戦った小町と影の薄い集団についても着眼する。
実は本来ならもっと多くの魔物を引き付ける予定だったが、セルベリア達はむしろ翻弄され、影薄組以外の敵を釘付けにすることができなかった。
セルベリア自身もこのまま戦闘を続行するには危険と思われる損耗をすることになった。
天子が駆けつけなければ、自分は小町達にやられていただろうとも自覚している。
-
(デスマンティスの情報にもなかった異様に隠密性の高い集団……そして小野塚小町、大阪で巨大ロボットを破壊した赤毛の女……その女もレストやダオスほどではないにしろ、相当な実力を持っている。
こいつらの危険性を仲間達に伝えておくべきだな)
今後のためにも仲間達に、小町と影薄達という実力者が都庁にいることを報告する必要があるとセルベリアは見ていた。
ちなみにデスマンティスの報告に小町以外の影薄組の情報が載っていなかったのは、彼らの影が薄すぎて報告し忘れたためである。
「天子、おまえは小町と面識があるようだが、他に何か知らないか?」
「サボり魔で乳の大きい死神ということぐらいしか……だけど、幻想郷で会った時とは目つきが違う。
この殺し合いがぐーたらな奴の何かを変えたのか、まるで怒りが有頂天なナイトの如き本気さを感じた。
いずれにせよ、警戒の必要があるのは確定的に明らかだ」
なんにせよ、小町及び影薄組の存在が自分達DMC狂信者の障害になることを二人は予感させた。
そんな思惑を抱きつつ、二人は生き残ったモブ狂信者達と共にビッグサイトへの後退を急ぐ。
※
場面はダンジョンの一室に戻る。
龍脈の竜による巨大な地震は止み、一室に落石が降ってくることはなくなった。
未だに部屋が振動しているが、これは地上でレスト達とDMC狂信者の軍団が大規模な戦闘を始めたからである。
部屋は落石と土砂でほとんど埋もれていたが、小町の能力によって影薄組五人の周りだけは避けるように空間ができていた。
「みんな、大丈夫かい」
「ありがとうっす、小町さん。
おかげで全員無事で済んだっす」
「そのようだね……安心したよ」
小町が心配して仲間の安否を確認したが、全員がかすり傷や疲労は目立てど、命に別状のあるダメージは追っていなかった。
生き残った狂信者は全員ダンジョンから脱出し、そうでなければ落石に潰されて死んだのか敵は周辺にも見られず、ここ一帯は安全になったといえよう。
結果的に影薄組は誰ひとり欠くことなく危機を脱出した。
しかし、それは一つの危機を脱したに過ぎないのであった。
「でもまずいよ、小町ちゃん」
「完全に閉じ込められましたね、これは……」
影薄組が入ってきた部屋の出入り口は地震と落盤によって積もった大量の落石と土砂で塞がれてしまっていた。
同様に狂信者達が侵入してきたルートも同じく塞がっていた。
これでは部屋から出ることができず、影薄組は地下の一角に閉じ込められてしまったのだ。
「確かにまずいね、こりゃあ」
「ああ、さっきから上の方からの揺れを感じるし、地上で戦闘が起きてるのかもしれねえしな」
「狂信者の二回目の攻撃が始まったんすかね……」
「地上が攻撃を受けてるってことかい。
さっきの地震は尋常なものじゃなかったし、とにかく急ぐべきだね。
掘って掘って掘りまくって早いとこ、ここから出るよ!」
このままでは身動きがとれず、閉じ込められている以上は地上や他の仲間達との状況確認もできないため、脱出を急ぐ必要があった。
そのために五人は団結して落石や土砂を掘る作業に移った。
その中で小町には引っかかることが一つあった。
(あいつら、自分のことを陽動だって言ってたね……おそらく、さっきの地震と都庁に爆弾を仕掛けようとしている貴虎って奴のための陽動か?)
セルベリア達はあくまで陽動部隊。
その言葉が本当ならば、小町達はまんまとハメられたことになる。
自分達が目の前の敵に気を取られていた分、貴虎の侵入を許していないか、それが気がかりであった。
万が一、貴虎が都庁の内部で爆弾が作動し、世界樹が灰になればそれは都庁同盟軍の敗北を意味する。
爆弾が起爆すれば多くの魔物や、力を貸している人間達も死に絶えるだろう。
当然、都庁の地下にいる自分達も例外なく爆発に飲まれて死ぬかもしれない。
それだけでなく世界樹がなくなれば、主催がバラ撒いたであろう謎の瘴気を浄化する手段もなくなり、日本は風鳴翼のような怪物塗れになるかもしれない。
それでは自分達が打倒すべき主催の思うツボである。
そうなる前に同盟の誰かが先に貴虎見つけて捕縛できているならそれでいいが、あまり他人任せにばかりするべきではないと、四季の喪失から小町は学んでいる。
その考えが頭をよぎり、小町の中の焦りを加速させる。
-
(あたいはもう、四季様、あやの、混沌の騎士、マナや美樹のように仲間が死んでいくのはゴメンだよ。
一人でも多く殺させないためにもあたいも全力で頑張らないと!)
この殺し合いで出会った多くの仲間への情と、仲間の喪失への恐れ、そして芽生えた責任感が小町を確実に変えていた。
今の小町の顔はロワ開始時点のダルそうな顔ではなく、凛とした一介の戦士そのものであった。
都庁同盟軍とDMC狂信者軍、そして貴虎を中心とした残念な強者達との熾烈な戦いはまだ始まったばかり……
果たして小町と影薄組は、閉じ込められたダンジョンから脱出し、貴虎の捜索に戻れるのか?
【一日目・9時00分/東京都・都庁地下南部】
【影薄組】
※落石と要石によって地下の一角に閉じ込められました
自力での脱出には1〜2時間かかります
【小野塚小町@東方Project】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、首輪解除
【装備】斬魄刀『神鎗』@BLEACH
【道具】舟
【思考】基本:もう仲間を誰も失わない為にカオスロワを終わらせる
0:早くここから脱出し、呉島貴虎を探す
1:殺し合い打破のためにも都庁には協力する
2:もう二度と仲間を置いて行こうとしない
3:幽香と戦う事を覚悟する
4:変なの(セルベリア)に因縁つけられちまったね
※飛竜たちと情報交換して、主催達が九州ロボにいることを知りました。
※ダオスとの情報交換で、カオスロワちゃんねるの信憑性に疑問を持っています(フェイ・イェンにもたらされた情報より、少なくとも都庁の悪評は天魔王軍による仕業だと理解しました)
【日之影空洞@めだかボックス】
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】己の拳
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者を倒す
0:早いとこ、ここから脱出し、呉島貴虎を探す
1:仲間を守る
2:混沌の騎士が遺した謎を解く
3:↑の全部やらなくちゃあならないのが先代生徒会長の辛いとこだな。
【東横桃子@咲-Saki-】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(中)、首輪解除 、全裸(恥部を葉っぱで隠してる)
【装備】猟銃@現実、斬鉄剣@ルパン三世
【道具】支給品一式、スマホ、謎の物質考察メモ、筆記用具
【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる
0:さっきの揺れ……地上の人達は大丈夫っすかね?
1:加治木先輩や友人たちと生き残る
2:時間があればスマホを使ってネットで情報を探る(現在は電波の届かない地下なので不可)
3:DMCファンだけど信者の暴動にはドン引き
4:早 く 服 を 着 た い
【黒子テツヤ@黒子のバスケ】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(小)、首輪解除
【装備】ウィンチェスターM1912
【道具】死出の羽衣@ 幽々白書
【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる
0:脱出を急がないと
1:友人たちと生き残るためにも、都庁に協力する
2:空気中に漂う物質への対処法を考える(世界樹が有力?)
3:狂信者には絶対に負けません
【赤座あかり@ゆるゆり】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(中)、首輪解除
【装備】エンシェントソード@Minecraft
【道具】マムルの肉@風来のシレン
【思考】基本:仲間と一緒にカオスロワを終わらせて主人公らしく大活躍!
0:戦いは怖くても、あかり負けない!
1:混沌の騎士の分も頑張る
2:まどかと同じく、人間と魔物の共存に賛成
3:オオナズチ以外の都庁のモンスターの背中に乗りたい
-
【一日目・9時00分/東京都・南新宿地下】
【DMC狂信者 セルベリア部隊】
※他にも狂信者の部隊があるかもしれません
【セルベリア・ブレス@戦場のヴァルキュリア】
【状態】ダメージ(小)、疲労(大)
【装備】ラグナイト製の槍と盾
【道具】支給品一式、モブDMC狂信者×10人
【思考】
基本:クラウザーさんの復活
0:態勢の立て直しのために一度、後退する
1:仲間に、小町と隠密性に優れた集団(影薄組)の危険性を伝える
2:小町はいつか、この手で必ずレ○プ(倒す)する
3:マクシミリアン殿下が生きてたらクラウザーさんとSATUGAIの素晴らしさを伝える
※制限により、ヴァルキュリア化による疲労が増大しています
【比那名居天子@東方project】
【状態】健康、謙虚
【装備】グラットンソード@FF11
【道具】支給品一式
【思考】
基本:SATSUGAI
0:セルベリアをビッグサイトまで送る
1:小町が都庁に組みしていたとは……汚い、さすが死神汚い
2:小町と、彼女の率いる影の薄い連中を強く警戒
3:従者が死んでも、ここは謙虚にポーカーフェイス
【トキ@北斗の拳 死亡確認】
-
「ぐ、おおおおおおおお!?」
かつて、ゴロリを一撃で戦闘不能に追いやった『黒棺』がナッパを包み込む。
本来のナッパの機動力であれば、たとえ詠唱を破棄し速度を重視した黒棺であっても回避することは可能。
しかし『完全催眠』に捉われてしまったナッパは、敵がどこにいるかも、攻撃がどこからくるのかすらもうわからない。
「くそ、ナッパ……!」
「あのゲスオチ○ポめ……!」
それは彼と行動を共にするドラゴンズの面々も同じこと。
いくら並外れた攻撃力と守備力を持つドラゴンといえども、攻撃をあてられなければ意味はないし体力は削られ続ける。
「ぐ、く、サイヤ人を舐めるなよ……!」
「まぁだ倒れねえのか……流石にうんざりだ。狛村みたいに綺麗に一発退場してくれよな」
久保帯人の一方的な攻撃を、彼らはただ耐えることしかできない。
そんな中でも、ナッパは最も多くの攻撃にさらされながらもその全てを肉体で受け止め、耐えきっていた。
完全催眠及び自身の負ったダメージから攻撃を躊躇するドラゴンズに対して、ナッパは休まず動き続けているのが原因だ。
「そのふざけた頑丈さだけは評価してやるよ。でもな、単細胞なパワー馬鹿は俺の漫画じゃ最下層の存在なんだぜ?」
「うるせぇぇ!てめえだけは、許さねえぞ!」
完全催眠とはいえ、攻撃をしかけるために久保帯人は確かに周囲のどこかに存在する。
だからこそナッパは手当り次第に攻撃を繰り返す。いつかは当たるだろうという、分の悪すぎる賭けをして。
「ち……」
そして催眠状態のナッパは知らないが、久保帯人は直撃こそしていないが爆撃の余波で極僅かだが傷を負っている。
当然ドラゴンズの面々も余波を浴びているが、肉体の頑丈さだけを見ればここに集った生存者の中では久保帯人が最も脆い。
負ける気はしないが、それでも久保帯人にとって、現状で一番の邪魔で厄介な相手はナッパとなっていた。
(何故倒れない……?)
この邪魔で馬鹿な単細胞をとっとと沈めて、頭がきれるらしいギムレーを葬り去ってやろうと考える久保帯人。
だが彼の予想を遥かに上回る程に、ナッパは丈夫であった。
普通の相手ならとっくに殺せている筈なのに、殺せない。
ドラゴンズの三体は攻撃を躊躇っている現状、相手はナッパ一人だというのに。まるでチャドのような男だというのに。
それが、殺せない。
久保帯人の中で、無自覚の内に怒りと焦りの感情が蓄積されていく。
「……」
ナッパが傷つき、久保帯人が密かに焦る中、ギムレーは口を開かない。
(完全催眠による行動制限範囲は、ここまでか。
リオレウスのワールドツアーが妨害された地点から察するに、球状に催眠空間の形成がされていると考えるべきかな)
彼は外への逃走を試みるふりをしながら、完全催眠によって支配された自分たちの行動可能範囲を計測していたのだ。
あくまで推測の域をでないが、広すぎず狭すぎず絶妙な範囲の催眠空間。
これでは助けを呼んだとしても、救援者も完全催眠の餌食となり殺されるか自分たちを認識できなくなるだけだ。
(結局結論は、僕たち四人でこの場をどうにかするしかないってことだね……)
ギムレーは小さく舌打ち顔を歪める。
絶望の使者たる自分が絶望的な状況に陥っていることが、実に腹立たしい。
そしてこの状況を覆す手段が考えつかない自分自身にも腹が立っていた。
-
(あの完全催眠も、穴はあるはずだ。
少なくとも、元からか制限のせいかはわからないが、一度発動した催眠は必ずしも永続というわけではない。
ナッパがリオレウスを誤爆した直後、僕らは傷ついたリオレウスと移動していた久保帯人を見ている。
つまりあの時は一度催眠から解放されているんだ。そしておそらく、目の前で傷ついているナッパは本物のナッパだ。
視界に映る全てが催眠ではない、奴が同士討ちを優先的に考えているとすれば、おそらくあれも……)
否、正確にはギムレーは一手だけ、戦局を変えられるかもしれない作戦を考えついていた。
(だが……)
しかしその作戦は、彼の器であるルフレが考えるような作戦ではない。
何も知らない第三者、いやドラゴンズの仲間やナッパからも批難されるだろうほどのものだった。
絶望と破滅を司るギムレーからすれば、本来は躊躇いもなく実行できる手段なのだが……
(くそ、僕は何を躊躇っているんだ。我はギムレー、絶対の存在。世界に絶望と破滅をもたらす邪竜、そのはずだ。
なのに、何故……?僕の中のルフレの記憶のせいか、あるいは……野球をしてしまったせいなのか?)
視線を動かせば、ナッパは今も見えない久保帯人を相手に戦っている。
全身ボロボロの状態で、しかし何かに突き動かされるように、ナッパは倒れる素振りすら見せない。
(仲間……絆……ああ、そうか)
ギムレーはナッパの行動を振りかえる。
彼は真っ先にドラゴンズとイチローチームの共同戦線を受け入れ、久保帯人の裏切りに激怒していた。
それだけではない。大魔神軍の死にも怒りを露わにしていた。
おそらく、自分と同じく冷酷で残虐な種族であったであろうナッパが。
(野球に出会って人生観が変わったと言っていたけど、どうやら本当らしいね。
まさか僕もそれと同類に……いや、こんな作戦を思いつく時点で僕とナッパは別物か)
自嘲気味に乾いた笑い声を漏らしながら、しかしギムレーの掌には闇の力が既に集まっていた。
(だが、こんな絶望的な状況下で『仲間』を助けるには……これしかない)
掌を地面に押し付ける。
完全催眠と言えども天地の認識をひっくり返すことまではされていないのは確認済み。
確実に地面であると断言できるその場所に、邪竜ギムレーの力が染み込み、駆け巡っていく。
(おそらく、地中から『甦らせる』ことは制限状態では無理だ。だが『目の前に』あれば、きっと……)
-
それはとてもとても残酷で。非道で、無慈悲で、血も涙もない所業。
心境に変化があったとはいえ、冷静な軍師の一面も持つギムレーはそれを決行した。
「――ッ!」
びくりと、地面で何かが蠢いた。
(完全催眠には発動条件があるはず。『鏡花水月』が手元にある限りと奴は言っていた……
つまりおそらくは、あの刀を対象者に見せる行為こそが条件。完全催眠にかかる前に、絶対に刀を見ずに済む状況を作り出せれば……)
「――ァァァ」
蠢いたそれは、小さく不気味な唸り声を上げる。
ぎらりと輝くは、鮮血のような眼光。
(……っ、我が命ずる。両の眼を自ら潰せ。臭いで敵を捕捉せよ)
「――ア゛ア゛ッ!」
(本能に従い『人間』を襲え。それに奴にはまだ……君の血の臭いが残っている)
「――オオォ!」
蠢いていたそれは、ギムレーから送られる指令に忠実に動いた。
迷わずに赤眼を潰し、鼻を頼りに久保帯人を狙いに行く。
元は死人。鏡花水月による完全催眠の影響下にはあらず、視力を失うことで以後も催眠状態に陥ることはない。
とある世界を絶望で包み込んだギムレーが無尽蔵に生み出す生体兵器『屍兵』
その名の通り、人間の屍を材料として生み出される異形の怪物だ。
戦争で死んだ名もなき戦士達は勿論、英雄と呼ばれる程の存在でさえ、死んでいれば屍兵に変えることができる。
しかしあらゆる蘇生手段が使えなくなってしまったこの世界では、屍兵の製造も封じられていた。
殺し合いの世界、屍兵の材料など見渡す限りに転がっているにも関わらずギムレーがこれまで使用しなかったのもこれが原因である。
だが混沌の騎士がメガザルの腕輪で瀕死の仲間たちを救って見せたように、たとえこの状況下でも超強力な術や道具は多少の効果を発揮できる。
故にギムレーは実行した。
『とてつもなく新鮮な死体』に『邪竜ギムレーが直々に力を流し込む』ことで、短時間しか動けないが本来のものに遜色ない屍兵を作ったのだ。
「グルオオオォォォォォォ!」
出来たての屍兵……否、かつて『吉川ちなつ』と呼ばれた少女の怪物は釘バットを構えて猛然と走る。
-
そして、釘バットはギムレーから見れば何もない空間に振り下ろされた。
だがその釘バットは『見えない何か』で防がれる。
ちなつの屍に与えた指令、見えない何か、それの正体など一つしかない。
「みんな!あの場所に攻撃するんだ!久保帯人本体はあそこにいる!」
自身もトロンの雷を極限までチャージした状態でギムレーが叫ぶ。
「わ、わかったぜ!火達磨になって無様に前転繰り返しやがれ!」
「オチン○野郎になんか絶対に負けない!裁きを下してくれるわ!」
それに合わせるように、リオレウスの炎の球とソウルセイバーの光の球が放たれる。
確実に致命傷たりえるドラゴンズ渾身の一撃だ。
そんなものを放てば、久保帯人に襲いかかったちなつの屍も跡形もなく吹き飛ぶ。
それをわかっていながらも、ギムレーは雷の砲撃を解き放った。
いくら屍兵とはいえ、素体は戦闘力を持たないちなつ。久保帯人の気をひけるのは一瞬であり、チャンスはこの一度しかないからだ。
「縛道の八十一『断空』」
「なん……だと……!?」
そんな一度きりの逆転のチャンスを。
仲間の屍を弄繰り回し、眼を潰させ、挙句捨て駒にするという非道な作戦をとったというのに。
たった一言、久保帯人の声が響いただけで。
全てが無へと還った。
「なるほど、この俺の催眠空間内で増援を作った上で眼を潰させるとは……なかなか恐ろしい真似をしてくれる。
だが詰めが甘かったなギムレー。お前の雷もそこの気持ち悪い女の光も霊術や魔術の類、チキンの火球も赤火砲と変わらない。
この八十九番以下の破道やそれに準ずるものを完全に防ぐ俺の断空の前じゃ……何発撃とうが無意味なんだよ」
ゆらりと、久保帯人が姿を現す。
ちなつの屍をなんなく撥ね退け、愕然とするギムレーを見下すかのような笑みを浮かべながら。
「だからいったろ?俺は、完全催眠に頼るだけの男じゃないってよぉ?」
「く……!?」
「でもちょっとだけ驚いたぞ。褒美にお前から殺してやるよ。
破道の九十……黒ひっっぎいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!?」
「!?」
今まさにギムレーを葬ろうとしていたシリアスな久保帯人から、非常に情けない声が漏れた。
-
それの理由は、すぐにわかった。
「ち、ちなつ!?」
あっという間に久保帯人に返り討ちにされ、地面に転がされていたちなつの屍が釘バットを久保帯人の股間へ振り上げたのだ。
断空はドラゴンズの猛攻から久保帯人を救ったが、同時に彼の側にいたちなつも救っていたのである。
そしていくらさほど強くはないとはいえ、屍兵の一撃を人体の急所に、しかもとびきりえげつない武器で強打されたともなれば。
「あひ、あひぃぃぃん!?」
どれだけ残酷で絶対な力を持つとはいえ、人間の男であれば悶絶しないわけがない。
さらにいえば、今の一撃はタマだけでなくホモには欠かせない大事な竿にすらも致命的なダメージを与えていた。
野望のためだったとはいえ、野球チームの監督が男の誇りをバットにより打ち砕かれるのはなんという皮肉だろうか。
「うおおおおおおお! くらえ久保帯人ォォォォォォ――――――ッ!!!!!!」
そんな悶絶する男に、絶叫しながらナッパが殴りかかる。
最高の技で跡形もなく消し飛ばすことも考えたが、彼の中には純粋な怒りがあった。
仲間を裏切った男を、この手でぶん殴りたいという強い怒りが。
そして戦闘民族サイヤ人の本能が、断空が気による攻撃も防ぐ可能性を見出していた。
この一瞬の戦闘、刹那の時ながらも視界に映った元ちなつと思われる少女には、手を出したくないという思いも。
「ひぎっ、ば、縛道の八『斥』……!」
結果として、ナッパの選択は正しかったと言える。
もし強力な技で攻撃して、倒し損ねてしまえば相手は土煙に乗じて退避、完全催眠で安全圏まで逃げてしまうだろう。
そして久保帯人の操る鬼道は強力ではあるが、接近戦で純粋な物理攻撃を防御する盾を生み出す術は断空よりも遥かに弱い。
ナッパの剛腕が、防御に使用された鏡花水月を粉々に粉砕する。
その勢いのまま鬼道で生成された盾も貫き、久保帯人の腕を破壊した。
「――ッ」
鬼道を唱えようとしたのか、それともなっさけない悲鳴でもあげようとしたのか。
しかしそのどちらも実現する前に、ナッパのもう一方の拳が久保帯人の顔面へ叩き込まれる。
ボッ!という音が響くと同時に、裏切りの監督はこの世を去るのであった。
「はぁ……はぁ……や、やったぜ……!」
「霊圧も感じないし、あのゲス○チンポが起き上がる気配もない。どうやら倒せたとみていいようですね」
「おい、伏せる位置ちがくね!?」
肩で息をするナッパに、ドラゴンズの面々が駆け寄る。
鏡花水月が破壊され、久保帯人が死んだことで完全催眠も解かれたのだ。
-
「……」
そんなメンバーを、倒れ伏した屍が見つめていた。
眼は潰しているためその姿を見ることは叶わないが、臭いで判断しているのだろう。
そんな屍も、時間制限か或いは久保帯人の攻撃によるせいか、崩れて霧になっていく。
言葉も遺品も、何も残すことなく、消えていく。
「……」
「なあ、ギムレー。さっきのあれはやっぱり……」
「……そうだ。吉川ちなつ、彼女の屍を僕が兵にした」
消えていく屍を見ていたナッパは、先ほどよりは落ち着いた様子でギムレーに問いを投げかける。
ギムレーもそれに誤魔化すことなく答えて見せた。
リオレウスとソウルセイバーは僅かに驚きの表情を浮かべるが、以外にもナッパは激昂することはなかった。
「あいつ、さっきは助けてくれたんだよな。あれも、お前が命じたのか?」
「……最初はね。だが、倒されてから起き上がり、凶器で急所攻撃なんて追加命令はしていない筈なんだ。
おかげで僕は命拾いしたわけだけど、まさか偶に見られた自我の残った屍兵……?だが強固な精神を持つ英雄でもない彼女が……」
「理由はなんだってかまわねえよ。確かなのは、俺達のチームにはちなつが確かにいて、そいつに救われたってことだ」
「……」
それぞれ思うところはあるだろう。
しかし、彼らには休む間も悩む間もない。
久保帯人の裏切りは予定外のことであり、本来の倒すべき強敵はまだ残っているのだから。
「よし、とにかくイチロー達も早く助けて……っおぉ?」
「無茶をすんなナッパ!お前が一番ダメージ受けてるんだぞ!?」
「私達も少なからずダメージを受けています。あの触手オ○ンポが気になるところですが……」
「心の底から認めたくないが、今の僕らじゃ足手まといだ。まずは傷を癒す手段を探さないといけない」
「チ、チクショウ……!みんなが危険な目にあってるってのに……!」
ぎりぎりと歯噛みするナッパだが、その足取りはふらついている。
常人であればとっくに死に絶えているであろう程の傷なのだ。立って喋っていることすら奇跡である。
「俺が、ワールドツアーで何か探してくるか?」
「待てリオレウス、もはや飛ぶことすら控えた方がいい。この関東周辺は僕から見ても化物のような連中がうじゃうじゃいる。
回復しきる前にうかつに空を飛べば、最悪モブの狂信者にすら撃ち落されかねないぞ……」
ナッパ達のもとから、ひとまずの危機は去った。
しかし失った代償は大きく、決して軽視できない傷も受けた。
そして久保帯人が倒れ、彼の野望が潰えたとしても、彼の目的がはからずも遂行されてしまう危険はまだ在る。
狂信者と触手男の襲撃により、既にドラゴンズは野球を行えない状態。
霊夢とちなつが犠牲となり、イチローチームも存続の危機。
そして彼らは知らないが、あの拳王チームも次々にスタメンを失い、超人チームは既に崩壊。
ウルフハリケーンズは狂信者の手により壊滅し、聖帝軍も続いて狙われている。
久保帯人の暗躍だけでなく、野球選手はいつでもどこでも命を狙われているのだ。
全てのチームが機能しなくなった時、救いの予言は果たしてどうなってしまうのであろうか……
-
【二日目・9時00分/千葉県木更津市から南側】
【イチローチーム+ドラゴンズ B】
【ソウルセイバー・ドラゴン@ヴァンガード】
【状態】大ダメージ、巨乳
【装備】不明
【道具】支給品一式
【思考】基本:世界を救うためにも、オシリスについていく
0:ドラゴンズAチームが気がかり
1:人間のオチ○ポには絶対に負けたりしない
2:都庁軍討伐は後
3:都庁軍は絶対に信用しない
※♀です
【ギムレー@ファイアーエムブレム 覚醒】
【状態】大ダメージ、中魔力消耗、人間形態
【装備】トロンの書、鋼の剣、邪竜の鱗
【道具】支給品一式、不明品
【思考】基本:野球で優勝して、自分の信者を増やす
0:傷を癒す手段を確保したいが……
1:ドラゴンズAチームが気がかり
2:試合の邪魔をするDMC狂信者を倒すために、本拠であるビッグサイトを攻略したい
※外見はデフォルト設定の銀髪青年です
※制限により、しばらく邪竜形態でいることはできません
※首輪を外したとしても、屍兵は簡単には生み出せません
【リオレウス@モンスターハンターシリーズ】
【状態】ダメージ(大)
【装備】不明
【道具】支給品一式
【思考】基本:へたれイメージ払拭のために野球で優勝する
0:ドラゴンズAチームが気がかり
1:オシリスに着いて行く
2:実はレイアと仲直りしたい
【ナッパ様@ドラゴンボールZ】
【状態】特大ダメージ、野球脳、激しい怒り
【装備】なし
【道具】一人用のポッド
【思考】基本:ハラサンの意思を継ぎ、イチローチームを優勝させる
0:早く傷を治して仲間を助けに行きたい
1:あの触手男も倒す
2:野球を邪魔するDMCは許さない
3:バーダック生きてたのか
4:あのガキ(光熱斗)にはいつか報復する、野球で
5:ベジータはそのうち探す
6:無事でいてくれよみんな……
※回復した場合、戦闘力が大幅に上昇します
【久保帯人@現実?】死亡確認
※鏡花水月以外の支給品は放置されています
※ちなつの遺体と支給品が消滅しました
-
時刻は9時前。
ここは巨大な世界樹と化した東京都庁の地下北部。
影薄組がセルベリア・トキを中心としたDMC狂信者の陽動部隊と戦闘を繰り広げていた頃、こちらでもDMC狂信者の一団による襲撃を受けていた。
地下から侵入した部隊はセルベリア・トキの一つだけではなかったのである。
「「「SATUGAIセヨ!! SATUGAIセヨ!!」」」
ざっと見て50人以上は確実にいるであろう人数の狂信者達が地下北部に侵攻してきていた。
それぞれが武装した銃、もしくは死に物狂いで鍛錬を積んで覚えた魔法や格闘技でダンジョンに破壊をもたらしている。
だが、これに対して黙って見過ごす都庁の軍勢ではない。
世界樹に爆弾を仕掛けんとする貴虎捜索に出ていた者達の中である三匹が騒ぎを聞きつけ、狂信者討伐のために北部に現れたのだ。
『シャアアアアア!! ブラインドブレード!!』
「目が、目が〜!?」
FOEの一角にして、都庁の守護者の一匹、アイスシザース。
デスマンティス達につけられた傷もとうに癒え、万全の状態でモブ狂信者達を死に誘う大鎌を振るう。
『力溜め……からの荒れ狂う爪牙だクマッ!!』
「うおおおおお!? クラウザーさん万〜歳!!」
さらにFOEの一角であり、かつて都庁の門番であった熊、魂の裁断者。
風鳴翼とぼのぼのに深手を負わされ一時的に戦線を引いていたが、レストの治療の甲斐もあり、つい先ほど復活を果たす。
門番の役目こそレストに譲ったが、世界樹を守る役目は現在も同じであり、世界樹を侵さんとする狂信者達をその爪で容赦なく裁断していく。
そして。
『我が吐息で灰になるがいい! サンダーブレスッ!!』
「「「ぎゃああああああああああ」」」
大量の狂信者を雷撃のブレスで宣言通りに灰にしたのは、都庁の軍勢の元リーダーである雷竜。
雷鳴と共に現る者、雷竜クランヴァリネである。
今でこそ純粋な実力や指揮能力の差、そして信頼に値する者としてリーダーの座をダオスに譲ったが、その実力は今でも都庁の軍勢上位クラスである。
少なくとも、メギドを覚えた程度のモブ狂信者に敗れることはないであろう。
雷竜、アイスシザース、裁断者。
この三匹が現場に駆けつけ、狂信者達の進軍を押し止めていた。
『こいつら、クマを喰おうとした貧乳の女やラッコほど強い奴はいないみたいクマ! いけるクマー!!』
『油断するな裁断者! おまえは復帰したての病み上がりなんだからな』
『だが、我々にとって大切な住処である世界樹である都庁に土足で足を踏み入れたこやつらの罪は重い。
この中にはどうやら貴虎に該当する輩はいないようだが、破壊工作を手伝おうとしているのは明らかだ。
みすみす見逃して被害を拡大するわけにもいかん。
アイスシザース! 裁断者! 必ずや、こやつらを皆殺しにするぞ!!』
『『応ッ!!』』
長の声に応じ、二匹のFOEは士気を上げた。
それに比例して地下の一角に狂信者の死体が次々と積み重なっていった。
狂信者側は数こそ圧倒的に多いが、三匹の実力に及ぶ戦力は持っていないようだ。
こちらには南部側に出現したセルベリアやトキのような実力者はいないようであり、三匹による駆逐は容易に可能と見られていた。
そう……何事も起こらなければ。
それは、彼らと狂信者との戦闘中……唐突にやってきた。
-
『次は呪縛の円……なに!? こんな時に地震だと!?』
突然に、彼らのいる世界樹の地下が揺れだした。
知らぬ者、魔力の動きがわからぬ者にはただの地震と思うかもしれない。
実際には同時刻に大和の召喚した龍が世界樹に攻撃を仕掛け、世界樹そのものが攻撃を受けたことによる余波が地下に響いているのである。
『……いや、違う。これは地上が攻撃を受けているのか!?』
『わかるのですか雷竜様?!』
『地上が攻撃を受けているですとクマ?!』
『この魔力の大きさ……まずい!! これは果たして地上に戻るべきか?』
地上から磁波もしくは多大な魔力の動きを読み取り、雷竜は地上が攻撃を受けていると結論づけた。
フォレスト・セルに結界やミザールなど、二重三重の防衛手段があるにも関わらず世界樹が打撃を受けた事実は、三匹を戦慄させるには十分であった。
狂信者側もこの地震に対して何か思い当たる節があるのか、退却を始めだした。
それを踏まえて、雷竜の脳裏に地上に引き返すべきであろうか、という疑問符が頭をよぎる。
しかし、彼らが行動を起こすより早く、ダンジョンの天井から大量の土砂と落石が三匹の頭上に降り注いできた。
『危ない!! 落盤だ!!』
『うおおおおおおお!!』
『クマァーーーーーーーーーーー!?』
防御手段を持たない三匹と、逃げ遅れた狂信者が落石と土砂に飲み込まれていった……
『……ようやく収まったか』
やがて大地震は収まり、土砂と落石の雨が止んだ。
その雨を雷竜はその身に受けたが、命に別状はなく、大したダメージは受けなかった。
落石によってダメージは受けはしたものの雷竜の防御力と耐久力でこれを凌いだのである。
土砂崩れや落盤程度で命を落とさなかった点は流石は都庁の軍勢を率いていただけの存在であると言えよう。
『くッ、怪我は大したことはないが……身動きがとれん……!』
しかし、ダメージこそ少ないものの、完全に無事で済んだとは言えなかった。
頭を除いた全ての部位が、不運にも土砂に巻き込まれて埋もれてしまったのだ。
今の雷竜は首以外は動かすことができないでいる。
『せめて私にも氷嵐の支配者のようなミラーシールドが使えれば……こんなことにはならなかっただろうに……
たらればを吐いてもしょうがないが……フンッこのッ動けッ! ……ダメか』
必死にもがいて脱出を図ろうとするも、爪一つ動かすこともできない。
相当な量と重さの土砂が積もっているのか、雷竜の力をもってしても自力脱出は不可能であり、抜け出すには他者の手を借りる必要がありそうだ。
『うむ、一緒にいたアイスシザースと裁断者は無事だろうか?
死んでるとは思いたくはないが……ん?』
するとそこへ、ダンジョンの闇の奥から一匹の熊が現れた……裁断者だ。
どうやらあの落盤の中で雷竜同様生き残れたらしい。
『魂の裁断者! 無事でだったか!』
『……』
『すまぬが助けてくれまいか? この通り身動きがとれんのだ』
雷竜は部下である魔物に助けを請う。
何をするにしても埋もれた体を出す必要があり、そのためには裁断者の協力が必要であるからだ。
『……』
『裁断者……?』
しかし、助けを求められた裁断者は返事をしない。
そして、僅かな間の後に、雷竜は裁断者の異常にいよいよ気がつくのであった。
『!!?』
よく見ると裁断者の頭部が凹の形にヘコんでいた。
二つの目からは眼球と脳漿が飛び出している。
裁断者は既に死んでいた……
【魂の裁断者@新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女 死亡確認】
-
「やったDEATH! クラウザーさんに生贄を更に一匹捧げることができたDEATH!」
裁断者の巨体がズシンと前のめりに倒れると、そこから血のついたギターを抱えた黒髪ツインテールの女子高生が現れた。
ギターによる48の殺人技の使い手にして狂信者の一人、中野梓だ。
ギターに真新しい血糊がついているところからして、裁断者を殺害した下手人は彼女であることを示していた。
更に先ほど雷竜達と戦っていたモブ狂信者達が数人ほど梓のバックについていた。
『狂信者共……まだ残っていたか!』
「おや、首から下が埋まっているようDEATHね。
都庁の軍勢のリーダーらしい竜を討ち取ったあらば、大功績DEATH!
逃げ道が塞がった時はヤバイと思いましたが、怪我の功名って奴DEATHね!」
この北部に現れた狂信者の部隊も、セルベリアが率いていた部隊同様、ディーから与えられた任務は陽動であった。
本当ならば、狭間と大和が配置についた時点で退却する手筈だったが、梓と数人のモブ狂信者達は逃げ遅れてしまった。
しかし、引き返してみれば傷ついたFOEと動けなくなった雷竜を討ち取るまたとない機会に遭遇したのだ。
雷竜にとっての不運は、梓ら狂信者達にとっての僥倖であった。
『おのれ! よくも裁断者を! サンダーブレスで灰燼に帰すがいい!!』
雷竜は首以外身動きが取れない状態でも臆すことなく、狂信者達に雷のブレスを吹きつけようとする。
しかし……それより早く、梓のギターが雷竜の顎に強烈な一撃を放って口を強引に閉じさせ、ブレスを阻止した。
『グガアアアッ!!』
「ふう……危ない危ない。
事前にモブ狂信者の人にタルカジャとスクカジャを目一杯かけてもらって正解でした」
『こ、これだからロリは嫌いだ……!』
梓やモブ狂信者は狭間から教わった攻撃力を上げる魔法・タルカジャと、素早さを上げる魔法・スクカジャによって肉体を強化していた。
機動力は雷竜がブレスを吐くより早くなり、一撃一撃が雷竜に通用するほどの威力を獲得していた。
逆に雷竜は埋もれていて身動きができず、敵の攻撃を一切回避することができず、首以外の部位に依存する「竜の鉄槌」や「呪縛の円舞」などの技で反撃することができないでいた。
首があれば「サンダーブレス」と「古龍の呪撃」は使えるが、攻撃する前に梓達に阻止されてしまうのだ。
雷竜が万全あれば、梓+モブ狂信者のひと束程度など苦もなく駆逐できるだろう。
しかし今の雷竜は本来の実力を発揮できない不利な状態で戦わなければいけないのだ。
それからの展開は至極一方的であった。
「さあ皆さん! クラウザーさんのためにこの雷竜を生贄に捧ぐのDEATH!!」
拳や蹴りなどの狂信者の鍛えられた格闘技が雷竜の頭部にクリーンヒットする。
『ぐがッ!』
マシンガンやライフルなどで武装した狂信者より放たれた銃弾が雷竜の頭部に降り注ぐ。
『ふぐッ!!』
「アギダイン」「ブフダイン」「メギド」という狂信者の詠唱と同時に魔法による一斉射撃が雷龍に襲いかかる。
『があッ!!』
一方的に攻撃を受け続けた雷竜は苦くるしい顔で狂信者達を睨みつけ、諦めずにサンダーブレスで反撃を試みる。
「お口は閉じてなさい!!」
『ぐああああああああッ!!』
だが、反撃は許さんとばかりに、攻撃をしようものなら梓のギターが叩きつけられる。
もはや、これは戦いではない。リンチか拷問と言った方が正しいだろう。
一撃一撃を食らうたび、雷竜の体力がゴリゴリと削られていった。
『この私がこの程度の輩に何もできないだと? おのれぇ!!』
「さて、そろそろトドメといきますか」
最後に梓が雷竜の頭に向けてギターを振り上げ、腕一杯に力を込めた。
そして、振り下ろす直前にボソボソと呟く。
「……唯先輩も澪先輩も死んじゃって、ムギ先輩は悪い奴らとつるんじゃって……
こんな最悪な世界、クラウザーさん無しじゃもう私、生きていける気がしないんですよ。
だから……クラウザーさん復活のために死んでください!! DEATHゥッーーーーー!!」
『うぐああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……』
タルカジャで強化され、なお威力を増した梓の最大限の一撃が、雷竜の脳天に振り下ろされた。
その一撃が、雷竜の中で切れてはいけない糸を、プッツリと切ってしまった……
雷竜の目から生気が急速に失われ、その長い首がぐったりと地面に横たわった……
-
「殺った! やりましたよクラウザーさーーーん!!」
雷竜とは対照的に狂信者側は歓声に湧く。
都庁の軍勢の元リーダー格である雷竜を、偶然が重なったとはいえこの手で討ち取ることができたのだから、当然と言えば当然であった。
しかし、その歓声もまた、一瞬の出来事であった。
『氷鎌……乱舞!!』
モブ狂信者達の首や胴がスパパパパーンと、一瞬にして宙を舞った。
「DEATH?」
仲間の歓声が突然消えたのを不思議に思い、梓は振り返った。
そこにはFOE・アイスシザースが自分に向けて鎌を向けていた。
『凍土の大鎌!!』
次の瞬間には、即死属性の一撃が梓の首を捉えた。
梓の死を理解する暇もまま、絶命した。
はねられた首がバレーボールのように宙を舞った。
【中野梓@けいおん! 死亡確認】
『雷竜様ッーーー!!』
狂信者を全て斬殺したアイスシザースは大急ぎで雷竜に元に詰め寄った。
アイスシザースは雷竜同様、土砂に埋もれていたが、自力で脱出できたのだ。
だが土砂から脱出した矢先に見たのは、殺害された裁断者と虫の息の雷竜、勝利に酔っていた狂信者達であった。
土砂に埋もれていた結果、今まで狂信者達に感知されなかったのだ。
そして自分に気が付いてない点と勝利に酔ってる最大の隙をつき、狂信者達を奇襲で全滅させたのだ。
『アイスシザース……生きていたのか……』
『申し訳ございません、私が落盤に巻き込まれず、もっと早く脱出できていればこんなことには……』
『そう…自分を責めずとも良い……』
息も絶え絶えの状態で、アイスシザースに語りかける雷竜。
アイスシザースは自分の救援が遅れたことを強く後悔していたが、雷竜はそんな彼を恨むことはせず、むしろ生きていたことを喜び、微かに微笑んでいた。
『ア、アイスシザース、私はもうダメなようだ……』
『そんな……!』
雷竜は頭部に致命傷を受け、もうすぐ己の命が限界を迎えようとしていることを悟っていた。
『すぐに怪我を治せる者をお呼びします! 世界樹の巫女やレストなら一瞬で治せるでしょう』
『間に合わんよ……それに先ほど感知した魔力の動きから察するに、巫女とレストは地上で戦っているようだ』
『なんと……』
『彼女らの戦いを……邪魔するわけにもいかんしな……』
超大な回復魔法持つまどかとレストはエリカと歪みし豊穣の神樹の回復のために地上に戻り、そのまま狂信者の大軍団との戦闘に入ってしまった。
さやかはおそらくまだ地上に残っており、地下で貴虎捜索に向かった者達の中に回復魔法を使える者もいない。
仮に使えても、周囲には雷竜とアイスシザースしかおらず、まず治療は間に合わないだろうというのが雷竜の見解だった。
『せ、せめて最期に一度くらい……美しい人妻熟女を見ながら、熟女に注がれた酒を飲みたかったが……な……』
『馬鹿なことを言わないでください!
トップの座は他者に譲ったとしても、あなたは我らが軍勢に必要な方なのですから!』
『その言葉を聞けただけでも嬉しいぞ……アイスシザース……』
雷竜の声が徐々に力をなくし、弱まっていく。
『親友たる氷竜や赤竜、ダオ…ス殿達には本、当に申し訳ないが、私はここまでだ……
……魔物と、共に生きてくれる良き人、間の未来のためにも、世界樹だけは絶対に守ってくれ……』
『雷竜様?』
『…………』
『雷竜様ァァァァァーーーーーッ!!!』
そして、人妻熟女と酒が大好きな誇り高き魔物の長、雷鳴と共に現る者は永遠の眠りについた。
【雷鳴と共に現る者@新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女 死亡確認】
-
『……雷竜様……この世界樹を守る役目、必ずや全うして見せます! この命に代えても!』
雷竜の死はショックではあるが、だからと言って踏みとどまっているわけにもアイスシザースはいかなかった。
今こうしている間にも、この地下ではどこかで爆弾を仕掛けようとする輩が侵入し、地上では大規模な戦闘が行われている以上、自分だけ立ち止まっているわけにもいかないであろう。
『本当は今からでも墓の一つでも建てて上げたいところですが、申し訳ありません雷竜様。
裁断者もスマン、後で必ず建てるから許してくれ』
事態が切羽詰まっている以上、雷竜と裁断者の死体は野晒しにするしかなかった。
今は単純な死体処理ですらやる時間がないのである。
死者を悼む時間すら与えられてない現状にアイスシザースは歯噛みする。
(落盤で多少のダメージは受けたが、戦う分には問題あるまい。貴虎捜しに戻ろう。
地上もとても気になるところだが、地上にはフォレスト・セルや巫女殿達もいる……きっと大丈夫、というよりフォレスト・セルですら止められないなら俺が行っても足でまといだろう、今は勝利を信じるしかない)
幸いにも落盤でダンジョンの部屋に閉じ込められてしまった影薄組とは違い、こちらには退路が残っていた。
その道からアイスシザースは貴虎捜索に戻っていった。
(仲間達は無事だろうか……特に骨竜には無事でいて欲しいが)
目の前で雷竜と裁断者が死なれたこともあり、仲間の身を案じるアイスシザース。
しかし、不幸なことに、既に地上・地下共に少なくない犠牲者が出ており、FOE仲間である死を呼ぶ骨竜は貴虎一行に既に討ち取られていることを、彼はまだ知らない。
【二日目・9時30分/東京・都庁地下南部】
【アイスシザース@新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女】
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【装備】無し
【道具】ちりとり、支給品一式
【思考】
基本:都庁を住処にしたモンスター達と協力して生き残る
0:引き続き貴虎を探す
1:雷竜様(雷鳴と共に現る者)の意思を引き継ぎ、都庁の世界樹は死んでも守る
2:魔物を奴隷にする人間は嫌いだが、同盟の人間なら一応は信頼する
3:デスマンティス達の裏切りに未だにショックを受けてるが、戦いに私情は挟まないようにする
4:他の仲間は大丈夫だろうか?(特に死を呼ぶ骨竜)
※雷鳴と共に現る者より、地上が攻撃を受けていることを知りました
-
「RXキック!!!!」
「お、おんみょ〜ん……」
開幕必殺技に見えるが、この間にいろいろあったのだ。
そう、光太郎はちゃんと悪の波動、痛み分け、不意打ち、鬼火の対策を練り戦った。
悪の波動⇒キングストーンフラッシュで相殺。
痛み分け⇒キングストーン+太陽の光で即回復。
不意打ち⇒食らっても怯まない。
鬼火⇒……
「この身体は炎を力に変えているのか……?」
悲しみの王子・ロボライダーである。
悲しみとキングストーンが反応して、ロボライダーに変身可能になったのだ。
炎を自分の力に変えて戦う、それがロボライダーである。
そして、冒頭RXに戻り、ミカルゲにRXキックをかましたのだ。
――CLOCK OVER――
「ハッ!」
「グ……!」
超高速の中を二人のライダーが駆け抜ける。
しかし、片方はやさぐれているが戦闘経験豊富なライダー。
もう片方は変身アイテムを手に入れたてのライダー。
その経験値の差は火を見るよりも明らかであった。
立っているのはキックホッパー。
地に伏せているのはザビー。
「止めだ……!」
だが、次の瞬間ザビーの変身は解けた。
「!?」
-
――KABUTO POWER――
――THEBEE POWER――
――DRAKE POWER――
――SASWORD POWER――
――ALL ZECTER COMBINE――
大体、虫取り棒……もとい、パーフェクトゼクターが悪い。
カブトとドレイクの資格者は死亡し、サソードは存在しない。
そして、ザビーは今しがた奪った。
「そうか、この剣にはこういう使い方があったのか!」
光太郎は戦いの最中、パーフェクトゼクターの使い方を理解したのだ。
そして、パーフェクトゼクターをミカルゲにぶっ刺した。
「お、おんみょ〜ん……」
ミカルゲは四散爆散した。ナム=サン。
【ミカルゲ@ポケットモンスター 死亡確認】
「由良さん……ここは一旦引きましょう!」
「井之頭さん!」
形勢は圧倒的に不利。
ならば取るべき行動は一つ。
逃走である。
高級外車に飛び乗り、逃走する。
-
「逃すか! 来い、ジェットスライガー!!」
――3・8・2・1――
――Coming on Jet Sriger――
オーガフォンで素早く入力して、追撃のためのジェットスライガーを呼ぶ。
何故呼べるのか理由は定かではないが、きっと鴻上会長のおかげである。
,ィ〃≦ミ三≧=z、_
/ミヽ、j从リ l!i レノクミ、 実に・・・
/ム彳jハリlソハ川リノノノ、ミ彡} .! _ ! 、 、
,K≧=ヲ´─≠´ ̄ ̄`ヽK}| 三|三 L_| ヨ三 | ヽ | 、 ヽ. /
{彡'/クl ___ニ=ーィ=-- }≧} 幺 | | l二.l L__ | } | /
j、ゝ' / 'ー─‐`ヽj!Kニ=、ハ |! 小  ̄ |─j __)ゝ__ノ レ ノ o
{fj | K´C、 }| |r´C、 | /
トヽ、j `¨ ノ !}`¨´ }|
ゝj` ./r'_ j:、 ソ
`.、 ;: `^ー^ハ /i!' 私のプレゼントだ!!
,ィ7!::. __, -== 、_j /
/|!八::. `ゝ=彡',〈、
,ィ≦//::::!、 \ ノ、 ノ/!::!≧z、
,.. ≠ ´№№,'№::::|№ `>‐‐'< /クハ::!№№≧=zュ、
r、<№№№№N/№|:::::!N} /∧___∧} ! ,'№l:::}№№№№№ヽ
. {№Y№№№№K、№N:::::NNレ'/ /小、 ヽ、|№j:::::№№№№№リハ
ソ№ハ№№№№№>N::::::№ハ' ,:::::::::! |NN::::::N№№№№V!N
. ∧|N№!№№№№〈N№|::::::L№l_j:::::::::::ゝ__jNN:::::::N№№№№|№|
/№№№!№№№№N、№|:::::::::::::::::::::::: ̄::::::::::::::::::::::::::::V№№№V!№}
だが……
「来ない」
来ない。
来る気配がない。
「皇帝も地獄兄弟の資格者か……」
「矢車さん、バイクを持たないと入れるんですか?」
「ならば、私は地獄の父親になるな」
「皇帝、そういう問題じゃない」
◆
-
「響子、早く契約を!」
「待って、まずはその契約で起こりうることを全て話して頂戴……でなきゃその契約とやらは出来ないわね」
(ガード固い!?)
「何か話せない理由があるの?」
「そんなことより、響子手伝って!!」
「ほら、だから早く契約を!」
ベノスネーカーが吐く毒液を空は二人を抱えながら避ける。
陸上と対空だが、流石の空も守りながら戦うのは鳴れていない。
その時である。
バイクの走ってくる音が周囲に響く。
皇帝が呼んだジェットスライガーがやっと来たのだ。
しかし、ジェットスライガーには先客が二人も乗っていた。
「弦十郎さん、いきなりどうしたの!!」
「わかんねぇッ! 急にコントロールが効かなくなったッ!」
「ええーっ!?」
「だが、なんかヤバい所にツッコミそうだッ!
友紀ッ! 少し運転を頼むッッ!」
「あたし、リリーフカーしか運転したことないよ!!」
「それで十分だッ!」
次の瞬間、『弦十郎』と呼ばれた男はジェットスライガーから飛び降りた。
「オラァッ!!」
「!?」
「!?」
「!?」
拳。
たった一発の拳でベノスネーカーをぶっ飛ばした。
その光景はあまりにも衝撃的だった。
光太郎や皇帝、矢車さんが変身するライダーたちと大差ないインパクトであった。
こんなことができるのも彼が……
「お前たち、大丈夫か?」
OTONAだからであるッ!
【ベノスネーカー@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
◆ ◇
-
「あたしは姫川友紀! こう見えてアイドルやってるんだ!」
大正義巨人軍に似たユニフォームを着た少女が元気に挨拶する。
彼女は野球好き畜生アイドルとして有名であった。
「光太郎、知っているか?」
「分からないな……」
「私も知らないわね……」
「ねぇねぇ、矢車、『あいどる』って?」
「アイドルか、俺達には眩しすぎる光だ……だが、お前のようなアイドルは知らん」
「……友紀、本当にお前は有名なアイドルなのか?」
「本当だよ! デビュー曲がオリコンウィークリーで5位だったんだよ!!
……ああ、もうあたしの知名度が低いのも……これも全部アライが悪い!」
「いや、これはゴルゴムの仕業だ」
結構、落ち込む友紀であったが、全てをアライとゴルゴムのせいにすることでことなきを得た。
そして、今度は先程の男の方に皆は視線を向ける。
赤いシャツのいかにも屈強そうな男である。
「俺は風鳴弦十郎……」
「風鳴? まさか、あの放送で指名手配された『風鳴翼』と何か関係あるのかしら?」
「翼は俺の……姪だ」
「なんだって!?」
「詳しく聞かせてもらおうじゃない」
弦十郎は話す。
今までのことを、特異災害対策機動部二課のことを。
そして、翼のことを。
「俺達は大阪に向かっていた」
「どうして?」
「それはッ! 勿論、野球ッ!」
「友紀、今はそんなことはどうだっていいだろう……これを見てくれ」
弦十郎は持っていたノートパソコンの画面を見せる。
主にカオスロワちゃんねるの掲示板を。
「なるほどね」
「それで大阪に行こうというのか?」
「おうよッ! もし本物の翼がやってきたらなら止める。
偽物が来たなら、そいつを止めるッ!」
右拳にグッと力を込める。
「子供が間違った道を進んでいるなら、正してやるのが大人の仕事だ」
「弦十郎さん……! 俺も手伝います! それが仮面ライダーだ!」
このことに光太郎は深く感銘を受けた。
――この人は強い。身体だけじゃない、その心が。
-
「でも、野球はやってもらうよ!」
「友紀、さっきから野球、野球ってなんなのだ?」
「ふふふ、皇帝さん! よくぞ聞いてくれました!! これを見てよ、予言の書!」
畜生な笑顔を浮かべながら、予言の書を見せびらかす。
彼女は幼少のころ、宮崎県の大正義巨人軍のキャンプ地近くで育ったのだ。
それがきっかけで彼女は大正義巨人軍の大大大ファンになったのだ。
「監督であるハラサンがいない今! 私がこの予言を完遂するしかないと思うんだ!
勿論、歌姫兼九人の最良の戦士の一人はあたし!」
声高々にそう宣言する友紀であったが……
「あの友紀ちゃん?」
「なんだい、光太郎君?」
「ふむ、そんなこと信じられるか?」
「野球ねぇ……」
「矢車、『やきゅう』って?」
「球遊びだ」
「わけがわからないよ」
「俺もそう思うッ!」
「皆ひどいなぁ……」
一先ず、友紀の話は置いといて、大阪に向かうことにした。
全員でジェットスライガーに箱乗り状態。
「狭いな」
「仕方ないな」
【二日目・8時00分/日本・三重県】
【ネオ・クライシス帝国御一行】
【南光太郎@仮面ライダーBLACK】
【状態】健康
【装備】キングストーン、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
カブトゼクター、ザビーゼクター、サソードゼクター、ドレイクゼクター
【道具】支給品一式、カラオケマイク
【思考】基本:この殺し合い、ゴルゴムの仕業だ!
0:大阪に向かう
1:クライシス皇帝と空、響子、弦十郎、ついでに友紀と共に行動する
2:あの少女(歌愛ユキ)はどこに行ったんだ?
※RXに進化しました。ロボライダーに変身可能になりました。
※バイオライダーにはまだなれません。
※パーフェクトゼクターの使い方を理解しました。
【クライシス皇帝@仮面ライダーBLACKRX】
【状態】健康
【装備】サタンサーベル オーガギア@仮面ライダー555
【道具】基本支給品一式
【思考】基本:光太郎とともに主催者とゴルゴムを潰す
0:大阪に向かう
1:戦力を集めて、『ネオ・クライシス帝国』を建国する
2:一先ず、地球人類抹殺は置いておく。(主催を潰したら取り掛かる)
3:矢車から地獄の匂いがする
4:私のカラオケマイクはどこに行ったんだ?
※参戦時期は仮面BLACKRX本編開始前です。
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