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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……代理投下スレ
1
:
そろそろ建てなきゃって気づいた
:2011/09/11(日) 14:05:25
規制中・本スレが落ちている、など本スレに書き込む事ができなかったり
ちょっと、みんなの反応伺いたいな〜…って時は、こちらにゆっくりと書き込んでいってね!
手の空いている人は、本スレへの転載をお願いいたします
転載の希望or転載しなくていいよー!って言うのは投下時に発言してくれると親切でよい
ぶっちゃけ、百レス以上溜まる前に転載できる状況にしないときついと思うんだぜー
ってか、50レス超えただけでもきっついです、マジで
規制されていない人は、そろそろヤバそうだと思ったら積極的に本スレ立ててね!
盟主様との約束だよ!!
597
:
世界の敵END4【六本足】
:2016/10/25(火) 00:00:44 ID:l/IfoibY
「主様、もう一度――」
「あのー、君達」
割って入った声に、俺達は反応した。
「もしかして、僕の事忘れてない?」
声の主は空井。
げんなりといった様子の顔をしている。
「そういえば、いたな」
「すっかり、忘れていたの」
「……あのねー」
ため息を吐くと、空井は俺達を窘めた。
「仲がいいのは結構だけど人前では遠慮してもらえないかな。というか、傍目から見ているとロリコ――」
「じゃあ、行くか。森に」
「主様、それなんじゃがな」
「……息ぴったりだね、君達」
空井の呟きを聞き流し、俺は真紅に向き合った。
「ちょっと問題があるんじゃ」
「問題」
「ああ、羽根を組み込まれて気づいたんじゃがな。まあ、取り合えず見るのじゃ」
真紅は、手を離し歩き始めた。
俺から数メートルほどの所で立ち止まる。
598
:
世界の敵END4【六本足】
:2016/10/25(火) 00:01:57 ID:l/IfoibY
「よし、この辺で」
変化は、すぐに起きた。
「へー」
空井が感嘆の声を上げる。
視線の先には、もちろん真紅。
詳しく言うと、その光り輝く背中だった。
色はオレンジ、目を瞑りたくなるほどに眩しい。
その光の名から、飛び出るものがあった。
翼だ。
真紅の体を、容易に包む込むほど巨大。
動物の翼というより光の集合体といった感じだ。
両翼が広がると、周囲に熱気が立ち込めた。
「【ガルダ】の羽根を取り込んだだけはあるね」
「ああ」
俺と空井が感想を述べていると、真紅は難しげな顔をした。
「立派な翼じゃろ、主様」
「ああ」
「だが、問題があるんじゃ。主様、新しい能力を発動してくれ」
言われた通りに、俺は能力を発動する。
「ちょっと、近いよ!」
慌てて、空井が離れていった。
その間にも、能力は発動している。
俺の場合、背中ではなく足に変化が起きた。
両足の回りが光り輝き、強い熱を発している。
都合のいいことに、履いているジーンズが燃える様子はない。
中々、便利な能力だ。
「よし。では、ちょっと飛んでみるんじゃ」
「ああ」
俺は、垂直に跳ねてみた。
すると、身体が自然と浮き上がり宙を自由自在に飛んだ。
――ということはなく、普通に落下した。
一方、真紅は翼をはためかせ辺りを飛び回っている。
これは。
「そういうことか」
「ああ、そういうことじゃ」
「えっと、どういうこと?」
空井の疑問に、真紅は簡潔に答えた。
「わらわは飛べて、主様は飛べないということじゃ」
599
:
世界の敵END4【六本足】
:2016/10/25(火) 00:04:00 ID:l/IfoibY
「組み込んだのが羽根一本じゃからな。効果が中途半端なのじゃ」
地上に降りると、真紅は俺が飛べない理由を語った。
「わらわが飛べて、主様が飛べないのはそれが原因じゃろう」
「俺を抱えて空を飛ぶことは?」
「……できると思うか? この体で」
華奢な体を見せつけるように、真紅がくるりと回る。
白のワンピースがふわりと揺れた。
「確実に墜落するのじゃ」
「そうだな」
世の中、都合のいい話は続かないらしい。
「どうやら、当てが外れたらしいね」
そこで、空井が割って入ってきた。
「ここは大人しく、僕らの助っ人を頼ってよ。せっかく、用意したんだから」
「……それしか、ないじゃろうな」
俯いた真紅が頷く。
「仕方ない。主様、ここは助っ人とやらに頼るのじゃ」
不本意じゃろうがな。
真紅はそう呟くと、労わるように俺を見上げた。
「時には、こういうこともあるのじゃ。ここはおとなしく――」
「必要ない」
「……え?」
真紅の言葉を遮るように俺は言った。
同時に、腰をかがめ視線を合わせる。
「必要ない。お前だけで十分だ」
「……無茶苦茶を。さっき言ったように、わらわらだけでは無理じゃ」
「お前がそう思っているだけだ」
真紅の肩に手をのせる。
「お前が取り込んだのは【ガルダ】の羽根だ。この程度の状況を切り抜けられないような力じゃない」
「……それも直感か?」
「いや、違う」
目を合わせながら俺は囁く。
「信頼だ」
「……言うおるな」
返ってきたのは苦笑。
だが、すぐに勝気な笑みに変わる。
「わかった、信頼に応えてやるのじゃ。わらわは、主様を支えると決めたからの」
言うやいなや、真紅の背中が再び輝き始めた。
再び、オレンジ色の翼が姿を見せる。
「この先じゃな、主様が望むのは」
「ああ」
俺は短く答える。
「頼む」
「簡単に言うの」
まっ、主様らしいが。
そう呟くのと、真紅の全身が光に包まれるのは同時だった。
600
:
世界の敵END4【六本足】
:2016/10/25(火) 00:06:04 ID:l/IfoibY
真紅の変身が終わった後。
空井は、頭を掻きながら尋ねてきた。
「確証はあったのかい?」
「ああ」
軽く頷いた。
「【ガルダ】の羽根を取り込んだ時、真紅は鶏から人間に姿を変えた。なら、他の姿に変わることも出来ると思った。おまけに」
「おまけに?」
「俺は変化系だ。あいつとの相性はいい」
「……支えることが出来ると?」
俺は答えず、空井に背中を向け歩き出した
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。もし彼女を正気に戻せたら、逃亡の手伝いくらいはしてあげるよ」
「手伝うのは、突入までじゃなかったのか?」
「ちょっとしたサービスだよ。君には愚痴を聞いてもらったからね」
「そうか。だが」
「必要ないとは言わせないよ。そっちが拒否しても、こっちが勝手にやるから」
プロらしくないことを言い、空井は微笑んだ。
「個人的な所、君達には死んで欲しくないんだよ」
「自分達と重なるからか」
「まあね。ラブストーリーはハッピーエンドに限るよ」
君もそう思うだろう?
無言の問いが聞こえた。
だから、俺は返す。
「いや」
変身した真紅。
光り輝く翼を持つ、巨大な六本足の鷲の前で。
「グッドエンドで十分だ」
真紅に跨り飛び立つまで、空井は何も答えなかった。
――続く――
601
:
スペシャルマッチ side-G.K&S
◆MERRY/qJUk
:2016/10/25(火) 07:39:13 ID:wtlFSBzc
ザンの能力により豪雨に覆い隠された会場
良栄丸とクイーン・アンズ・リベン周辺のみがこの影響から逃れていた
逆に言えばその他は例外なく豪雨の只中に存在するということだ
「もー、いきなり乗りかかるなんて大胆……って、なにこれ!?」
水上、もといクラーケンの上で戦っていたサキュバスも例外ではない
すっかり萎びたヒトデ型をタコ型に持ち上げさせてみれば
周囲は先の見えない豪雨という状況だ。しかし彼女の動揺は長く続かなかった
雨の中からザリガニ型クラーケンがはさみを突き出して、それどころではなくなったのだ
タコ型を強く叩いたはさみだがその軟体にはあまり効いた様子はない
肝心のサキュバスの方もまた、タコ型の上を転がって難を逃れていた
タコ型はヒトデ型を放り捨てるとザリガニ型に絡みつき動きを封じにかかる
抵抗するザリガニ型の上に、タコ型の触腕を伝ってサキュバスが飛び乗った
「雨痛い!風強い!こうなったら……効率は悪いけど速さ重視で行きますか!」
サキュバスの体に翼や尻尾が生え、彼女の瞳が赤く輝く
体の表面から、あるいは翼や尻尾が変化しぬらぬらとした触手が現れる
伸びた触手はタコ型とは別にザリガニ型の体に絡みついて
「お姉さんの全力、見せちゃうんだから☆」
ニッと笑うと同時、サキュバスの体や触手に触れたところから
ザリガニ型の生命力が吸収されていく。身悶えるザリガニ型だが
タコ型に押さえつけられている状態ではサキュバスを振り落とすことも叶わない
だが速さ重視とはいえ相手は巨体のクラーケン。吸い尽くすのに一分はかかる
様相の変化したこの会場で一分という時間は果たして短いのか、長いのか
大量の精気を溜め込みつつも、サキュバスは内心焦りを感じていた
602
:
スペシャルマッチ side-G.K&S
◆MERRY/qJUk
:2016/10/25(火) 07:40:36 ID:wtlFSBzc
ところ代わって良栄丸とクイーン・アンズ・リベンジに集まった契約者達
彼らは豪雨に包まれた会場と、メガロドンの契約者である深志の証言から
ザンが攻勢に出始めたということを否応無く認識させられていた
豪雨の限定制御に大砲での砲撃、水中での爆音……彼らはそれぞれ
自身の持つ能力を駆使してザンの攻勢に抗い反撃の機会を探す
そしてそれは覆面の彼も、例外ではない
「外海」
「む、なんだ?見ての通り忙しいのだが」
「帽子を預かってくレ。俺もデル」
「おわっ!?」
返答も聞かず中折れ帽を黒の頭に被せると甲板を歩き
クイーン・アンズ・リベンジの舳先から水面を見下ろすゴルディアン・ノット
彼のトレンチコートからザンのものにも似た闇が溢れ体を包み始めた
彼が覆面を脱ぐと同時に頭部も闇に包まれて見えなくなり……
「おい!水中には今クラーケンが――――」
気づいた黒の声は聞こえなかったのか、無視されたのか
ゴルディアン・ノットは空中に身を投げ出し、水中へと落ちた
ゴォン ゴォォン
水中から先ほど黒服の男の銃撃が齎した破裂音とは明らかに違う
まるで鉄の壁に重いものを打ち付けるような鈍い音が響く
立て続けに二回、三回と繰り返す音に数人が水中に意識を向け
バキンッ
鎖が断たれる鋭い音が、鳴り響いた
603
:
スペシャルマッチ side-G.K&S
◆MERRY/qJUk
:2016/10/25(火) 07:42:02 ID:wtlFSBzc
最初に事態を理解したのはメガロドンの契約者、深志だった
視界を共有しているメガロドンの目に映っているのは
先ほど攻撃を受けて一旦良栄丸から距離をとったドラゴン型クラーケン
その首に掴みかかる黒い鱗を纏った巨大な腕だった
豪雨の向こうでドラゴン顔のクラーケンが水中から顔を出し
続いてヒレのある足、どっしりとした体がなんとか見えたところで
何名かがドラゴン型を持ち上げる巨大な黒い腕という異常に気づく
――――――ギュラァアアアアア
腕から逃れるように咆哮をあげつつ身をよじるドラゴン型に対し
黒く長い鞭のようなものが水中から現れてその身を打ち据えた
やがて水中から出てきたのはビルを悠々と見下ろす巨体
ドラゴン型クラーケンにも劣らないドラゴンに似た頭部
左右に一本ずつ、さらに背から長く伸びた一本の合計三本の腕
ビルを軽く越す体高よりさらに長いように見える尻尾
全身は黒い鱗に包まれており、その姿は直立した黒いドラゴンと形容するほかない
強いて言うならば翼の類がないことが特徴かもしれない
ヴァアオオオオオオオオウウ
黒いドラゴンの咆哮が一瞬、雨の音すらかき消した。思わず数名が耳を抑える
さらなる異変に最初に気づいたのは、やはり深志だった
水中を縦横無尽に何か細いものが行き来しながら水面へと向かっている
やがて隙間なく編まれた繊維製の足場が水面に浮上する
少し離れたところではシーサーペント型のクラーケンが
まるで水揚げされる魚のように水中から引きずり出されていた
「……怪獣映画再び」
誰かが漏らしたその言葉に、周囲が心の中で同意した
【続】
604
:
戦技披露会スペシャルマッチ 観客席のチキン野郎一行
:2016/10/26(水) 23:28:50 ID:j2ILWUFE
「戦技披露会?」
「そうっす」
すっかり肌寒くなった頃、ボクは憐君から戦技披露会へのお誘いを受けた。
「組織や首塚が合同で開催するイベントっす。すずっちも来ないすか?」
「うーん。でも、ボクどこにも所属してないよ。行ってもいいのかな?」
「問題ないっす! 契約者なら、観戦も試合への参加も自由っすよ」
「そっか。なら、行ってみようかな」
「わかったす」
そんな経緯で、ボクは戦技披露会に来た訳なんだけど……。
「何、この怪獣大決戦!?」
ひたすら、度肝を抜かされっぱなしだった。
「No,0ってあんなに強いの!?」
「そりゃ、No,0は各Noのトップだからな。チートで当たり前なんだよ」
取り乱すボクに比べ、トバさんは冷静。クラーケンと黒い竜の戦いを見ながらも、呑気に寝そべっている。
周りを見ると、殆どの人が同じように落ち着いた様子だった。屋台の料理を食べたり、仲間同士で話したりと思い思いに過ごしている。あのくらい、驚くことじゃないとばかりに。
契約者ってすごい、ボクは改めて思った。
「……ボクも、いつかはこうなるのかな」
「何の話ですか?」
「あ、ううん。何でもないよ、緋色さん」
笑みを浮かべ誤魔化す。
「それより、ボクちょっと治療室まで行ってくるから」
「お友達に会いにいくんですか?」
「うん。何か食べたくなったら渡した財布で買ってね」
ボクは、二人に背を向け歩き出した。
――続く?――
605
:
続く契約と守るもの
◆nBXmJajMvU
:2016/10/27(木) 17:51:16 ID:j4WSQCWw
塾の門前。そろそろ授業が終わる時間帯なのか、子供のお迎えの車が集まってきていた
車のない保護者もお迎えで集まり、保護者同士でお喋りに花を咲かせてもいる
最も、中には仕事の電話をしながら子供を待っている保護者もいて
……そんな中、ひときわ目立つはずのその男も、携帯で何やら話しながらお迎えすべき相手を待っているようだった
目立つ「はず」としたのは、その男の容姿からして明らかに目立つはずだと言うのに、周囲が全く、彼へと視線を向けていないからだ
二メートルをゆうに超える、がっしりとした大柄な体格の西洋人。携帯で何やら話しているその言葉も、どこの国の言葉やら周囲の者は恐らく理解できないだろう
この学校町はわりと日本人以外も多いとはいえ、この巨体であれば、目立つ
目立つはずなのだが……誰も、彼へと好奇の視線すら向けていない
まるで、男がこの場に立っている事実に気づいていないかのように
『……そうか。やっぱ普段守りが堅い分、壊されると修復にも時間がかかるのか…………「薔薇十字団」「レジスタンス」に加えて、「教会」からも一部人員来てるんだろ?その分マシではあるだろ』
かなり古い、現代の人間では聞き取れぬだろう言語で男は携帯越しにそう話していた
会話している相手がいるのは国外、それもヨーロッパの方だ
携帯越しに、少し苛立っているような声が聞こえてきて、苦笑する
『仕方ないだろ。お前の能力は悪人見極めるのに適してんだから………さっきも言ったが、あちらこちらの組織が手を貸してんだから、時間かかるっつっても少しは早く修復完了するんじゃないのか?………「組織」からも、少し遅れるが誰かしら向かうはずだし………』
と、携帯の向こう側から大きな声でもしたのか、携帯を耳から話す
話してもきちんと声は聞こえているのだから、どれだけ大きな声を出しているのか
そして、周囲にもその声が漏れているだろうに……誰も、気づかない
『んな声出さなくてもいいだろ。耳の鼓膜破ける………わかった、落ち着け。行くとしたらダレンやヘンリエッタが信頼している相手が行く。ついでに言えばザンもセットだ。これなら問題ないだろ?』
己の上司とその同僚の名前を口に出してみたが、携帯の向こう側の相手はまだ警戒しているままだ
(……まぁ、仕方ねぇか。あいつも一時期、「組織」に追われていた身だしな)
「組織」が危険視した気持ちも、わからないではないが
606
:
続く契約と守るもの
◆nBXmJajMvU
:2016/10/27(木) 17:52:02 ID:j4WSQCWw
なにせあちらは、本気を出せば国を滅ぼしかねない程度の事は出来るのだ
かつて、朝比奈 秀雄に憑いていたタイプとは違うとは言え、厄介さで言えばむしろ上だ
派手にやらかす気はないのだと「組織」に納得させるまでだいぶ手間取った覚えがある
それを手伝った自分も、お人好しに分類されてしまうのかもしれないが
『とにかく、今回の件でしっかりやれば、またあちらこちらからの警戒もゆるくなるだろ。ちゃんとやっとけよ?……間違っても誰かに囁きかけるなよ。またややこしくなるぞ』
『………やりませんよ。囁きかけてもつまらない連中しかいませんから』
違う、そういう問題じゃない
ツッコミをいれたいところだが、入れても無駄だろうと判断して、黙った
と言うか、ツッコミ入れると話が長くなりそうだ
『……んじゃあ、そろそろ切るぞ?契約者の子供逹連れて帰らないといけないんだからな、こっちは』
『貴方、まだ契約を続けていたのですか。もうそろそろ、契約を切ってもいいでしょうに』
『一応な。看取って……子供達の方は都市伝説と関わることになるかどうかわからんが、そっちもある程度は見守るさ』
『………………お人好し』
呆れたような声がして、ぶつり、通話が切られる
少しは機嫌が悪いのが緩和されたならいいのだが
(…まだ機嫌悪いままだったら。がんばれ、「アヴァロン」の入口付近の結界修復に関わる連中)
仕事はきっちりとやるだろうが、八つ当たりも酷い事になるだろうが、頑張れ
自分がその場にいない事をいいことに他人事のように考えていると……あぁ、来た
本日の分の塾の授業が終わって、生徒逹がぞろぞろと出てくる
契約者の子供逹、あの双子は、いつものようにきゃいきゃいと何やらお喋りしながら歩いてきた
「雅、渚」
日本語で声をかけてやると、2人はすぐに気づいて視線を向けてきた
ぱっ、と表情を輝かせ、駆け寄ってくる
「ジブリルだー!」
「今日はお迎え、貴方なのね!」
「あぁ。ここんとこ物騒だから俺に行け、と」
全くもって都市伝説使いが荒い契約者だ
自分としては、契約者の娘と息子たるロリとショタを守れるのならば守ってやりたいので、これくらいならば請け負うが
「まぁ、そう言えばそうね。怖い事件が多いと聞くわ」
「怖いね。怖いよ。でもジブリルが一緒なら、そんな事件に巻き込まれる事なく帰れるね」
「えぇ、そうね!とっても素敵な事だわ。でも、寄り道出来ないのが残念」
「あぁ、そうだね。そこはちょっと残念だ」
「……運転手が毎度、お前ら連れてどっか寄り道してるってのは本当だったか」
そこは後で伝えておこう、とそう思いながら、二人と手をつなぐ
二人はきゃいきゃいとジブリルに手を引かれていく
三人の姿は、周囲の者逹にはまるで見えていないかのように人混みの中へと消えていき
……その人混みの中からも静かに、消えた
おしまい
607
:
や
◆HdHJ3cJJ7Q
:2016/10/28(金) 04:03:17 ID:exWfXAA.
ーー戦技披露会
「三尾、お前は医務室に行け」
戦技披露会の当日、いきなり三尾はそう告げられた。
「医務室ですか?」
「ああ、そこで治療の補助をしろ。もう話は通してある。
今日は治療系のが集まってるからな、お前の能力の参考にできることがあるかもしれん」
「ありがとうございますっ、葉さま」
医務室での治療の仕事となると、他の仕事を同時こなす事はできない。
だから、三尾が今日やろうと思っていた事を、他の人に頼むために確認すると、既に他の人達へ割り振られていた。
おそらく葉が先にやっていたのだろう、こういうイベント事となると手際が非常に良い。
なぜ普段からこの性能を発揮してくれないのか。
問いただした所で逃げるか、はぐらかされるかのどちらかなのを、長く仕えている三尾はよく知っている。
むしろ、流れに逆らうと労力が増えるだけなので、そのまま流れに乗った方が結局早く済む。
手際よく身支度を整えた三尾は、小走りで部屋を出ていった。
それを見送った葉は大きく背伸びして呟いた。
「よっし、これでゆっくり観戦できるな」
ーー医務室
三尾が戦技披露会会場内の医務室に行くと、すでに連絡は来ていたらしく治療のサポートや備品の整理などを指示された。
能力的にも止血の即効性はあるものの、傷自体の治癒には時間がかかるため、治療するとしても軽症の患者のみだろう。
医務室なので、白衣か何か着た方がいいのだろうかと思い、先生と呼ばれていた白髪の男性に尋ねると、
「では服が汚れてはいけないからこのナース服を」
「なに着せようとしてんだっ!」
どこからか純白のナース服を取り出した白髪の男性は、即座に少年によって蹴り飛ばされた。
その弾みで服は三尾の手元へ飛んでくる。
三尾は生地や縫い目などを確認するが、コスプレ用ではなく、実用に耐えうるちゃんとしたものだ。
デザインとしてはややスカート丈が短いようだが、普段夢魔が三尾に着せようとする服と比べると露出も少ない。
見た感じではサイズもちょうど良さそうである。
「ありがとうございます。着替えて来ますね」
ーーー
着てみるとサイズは体のラインに沿ってぴったりだった。
一般的な半袖タイプのもので、左前に並んでいる大きなボタンで留めるタイプだ。
丈は太ももの中程まで見える、やや短めのもの。
受け取った時には気付かなかったがオーバーニーソックスとナースキャップも入っていた。
全て着用して、再び白髪の男性の所に行くと、
「うむ、私の見立てに間違いはなかっ」
白髪の男性はセリフの途中で少年にまた蹴り飛ばされた。
続く?
608
:
単発ネタ
:2016/10/29(土) 04:04:47 ID:nO95j6tI
おぼろげな記憶だが、司書になりたかった。
それを諦めたのは、司書が思った以上に狭き門だったからだ。
司書を諦めて、その後どうしたのかは覚えていない。
私は司書になりたかった。その事だけを覚えている。
たぶん、私は司書になれなかった事に未練があったのだろう。
しかし。
だからと言って。
組織の書架の管理を任されたかったわけではない。
「司書資格持ってるんだ」とか言われたが、
そもそも、黒服になった時に人間だったころの私は死んだようなものなわけで、
人間だったころの資格に何の意味があるのか、
というか、組織の図書室は図書館法の適用外だと思うのですが絶対。
大体において司書の仕事というのはハードだ。
本の収集、整理、保管、提供、レファレンス、その他もろもろの図書館に関する雑務。
図書そのものと図書館に関するあらゆる仕事をするわけだが、
組織の図書室だと、も一つ仕事が増える。
そりゃあ、都市伝説的な組織の図書室だものね!
あるよね!!都市伝説的な本とか!!魔導書とか!!!
「あの、なんかこの人おかしいんですけど」
「あばばばばばばbbbb」
ああ、ドグラマグラですね。「読んだら気が狂う」らしいですよね。
医務室へ連れて行けぇい。
「小人が!小人が襲ってくるんです!!」
それ「クロムウェルの聖書」です。早く本閉じろ!
「ええと、同僚が死にかけてるんですけど……もしかして」
はい、そうですね。「ブックカース」付きの本は返却期限守ってください。
ま、これくらいの事は日常茶飯事ですよ。泣きたい。
ていうか、ブックカースは私が対処することじゃなくない?
返さない人が悪いよ。返さない人が。
ちなみに、もちろん、普通の司書の仕事もある。忙しいね。辛い。
「法の書って無いんですか?」
「オカルトの棚を探してください」
なんで法律関連の棚探してるの?
「天使ラジエルの書を至急借りたいんです!」
「貸し出し中です」
あ、ていうか返却期限過ぎてる。ブックカース付けとけばよかった。
「Sナンバーの名簿見たいんだけど」
「閲覧制限かかってます」
出直せぇい。
「アッピンの赤い本を寄贈しに来たのだけれど」
「わー、ありがとうございますー」
これ閉架書庫だな。危なそう。
しんどい。疲れる。
司書補欲しい。いつでも募集中。
本が好きな方。司書になりたい方。あとすぐに死んだり発狂したりいなくなったりしない方。
待ってます。是非に。
そうそう、特に関係ないけど、私ね、
こんなところで働いていて、本に囲まれていて、
本は好きだし、司書になりたかったし、司書資格も持ってるんだけど、
別に、本に関する都市伝説と契約していたわけじゃないの。
可笑しいね。
終
609
:
治療室から
◆nBXmJajMvU
:2016/10/30(日) 01:46:25 ID:LbSIkrQU
「……おや、「アカシックレコード」か。実に懐かしいねぇ」
恐らく、そう口にした当人は、本当に何気なくそう言っただけなのだろう
そもそも、あの「組織」X-No,0とのスペシャルマッチの現場に「アカシックレコード」などという規格外の都市伝説契約者が本当に参加しているのかどうかは不明である
だが、そうだとしても、その可能性が少しでもあるのならば、この場を一刻もはやく離れるべきだ、とそう感じた
「先生」と呼ばれている白髪赤目の白衣の男が件の言葉を口にしたのは、スペシャルマッチの様子を映し出している画面を見ながらだった
それだけで、ほんの少しでも「アカシックレコード」の契約者、もしくはそれに類似した能力の持ち主が、この治療室に来る可能性があるのならば
ここから離れるべきだろう、何かしらの理由で、己について調べられる前に
「……運ばれてくる人数も増えてきたし、俺はもうここを出るが。構わないか?」
「うん?治療は終わっているし、違和感や痛みが残っていないなら、問題ないよ」
「あぁ、どこも痛みは残っていないよ」
なら良し、と「先生」とやらは笑って、こちらの対戦相手だった女性の診察に入った
こちらが与えた傷も治療したのだし大丈夫だと思うのだが、「念の為」だそうだ
恐らく、都市伝説やその使い方の関係なのだろう
「人肉シチュー」の契約者についても、己の肉体を溶かすと言う使い方をしていたせいか、当人に目立った怪我がなくとも診察していた
万が一がないようにしっかり診察している、そういうことなのだろう
(…記憶方面を読まれる、と言うことはなかったから、良かったな)
そうなっていたら、まずかった
自分が「あの方」の配下であることは、絶対に知られてはいけないのだ
九十九屋 九十九はす、と治療室を出ると、観客席へと向かって歩き出した
途中、治療室に知り合いでもいるのかそちらに向かっている少年とすれ違いながら、思案する
(診療所もやっていると言う「先生」とやらの治癒能力がどんなものか見たかったんだが………まぁ、いいか。別の治癒能力者を確認できた。聞いていた話通り、あちらの治癒能力はかなり優秀だな)
「ラファエル」の契約者、荒神 憐。「ラファエル」の治癒能力に特化した契約者であると言う話は本当だった
あれは「使える」
「あの方」が見つかり次第、あの少年を誘惑してこちらに引き込むべきだろう
治癒能力者が一人いるかいないかで、生存率と言うものは大きく変わる
(あの少年の精神的な弱みもわかった。うまくやれば、「あの方」が見つかる前でもこちらに引き込めるな)
大きな収穫を得られた
この情報を、今後に活かさなくては
観客席が並ぶエリアへと入っていくその時、ふと、冷たい空気を感じたが九十九屋はあまり気にせず観客席へと向かい
………自分を見ていた、凍れる悪魔の視線に、気づくことはなかった
610
:
治療室から
◆nBXmJajMvU
:2016/10/30(日) 01:48:35 ID:LbSIkrQU
空井 雀がそっと治療室を覗き込むと、そこは忙しさのピークは脱したようだった
スペシャルマッチの初手で溺れた人達の処置はもう終わったのだろう
ぐっしょり濡れている服を乾かしている者や、まだ意識が戻らない……と言うより、気絶からスヤァへとモード移行した者がベッドで寝ていたりしているが、慌ただしい様子はない
そんな中で、雀は自分を戦技披露会へと誘った相手を探す
「……あ、いた」
憐は、ちょうど溺れた拍子に怪我をした人の治療をしているところだった
ぽぅ、と掌から溢れ出す白い光が、傷を癒やしていっている
傷を癒やす様子は以前にも、見た
以前と違うのは、憐の背中から淡く輝く天使の翼が出現していた事だ
よくよく見ると、治療室の床や寝台の上に羽根が散らばっている
「おや?怪我人かな?」
と、何やら女性を診察していたらしい白衣の男性が雀に気づいた
診察は終わったようで立ち上がり、雀へと視線を向けて
(………あれ?)
何か
じっと、「視」られたような
そんな感覚を、確かに感じた
「……っと、すずっち。来たっすね」
その感覚は、憐に声をかけられたことで途絶える
怪我人の治療が終わったらしい。普段通りのへらりとした笑顔を向けてきた
「わが助手の従兄弟よ、もうそろそろ、その翼はしまっても大丈夫だよ。君も疲れただろうし、だいぶ羽根が散らばっているから治癒の力はそれで十分だ」
「ん、そうっす?……あんま疲れてないし、平気っすけど」
と、白衣の人に言われて憐はすぅ、と天使の翼を消した
白衣の人の言い分からすると、散らばっている羽根にも治癒の力があるのだろう………ようはこの治療室は今、治癒の力に満ち溢れていると言っていいのかM沿いれない
「そちらの少年、知り合いかい?」
「はぁい。クラスメイトっす」
へらん、と笑って白衣の男性に答えている憐
ぱたぱたと、雀に駆け寄ってきた
「大丈夫?忙しくない?」
「ん、平気っすー。俺っちは、「先生」やかい兄のお手伝いしてるだけっすから」
雀の問いに、憐はへらりと答えてくる
一応、その顔に疲労の色は見えないが、実際のところはどうなのだろうか
「他のみんなも来ているんだよね?龍哉君や直斗君、神子ちゃんは実況やってるみたいだけど…」
「来てるっすよー。はるっち逹は観客席にいるはずっす。後で合流するっす?俺っちはっもうちょいこっちのお手伝いしてるっすけど………」
「君は、もう休んでも大丈夫なのだけどねぇ」
白衣の男性が苦笑する
そうして、こっそりと、雀に話しかけてきた
「……すまんが、少年。後で彼をここからなんとか連れ出してくれるだろうか?」
「え?」
「当人、顔に出さないようにしているが、これだけ治癒の羽根をばらまいたのだからだいぶ疲労している。ヘタをシたら倒れかねんからね」
それは困る、と
「あとで怒らられるのは渡しだからねぇ」と、自分のことだというのにまるで他人事のように言いながら、白衣のその人は苦笑したのだった
to be … ?
611
:
世界の敵END5【六本足】
:2016/10/30(日) 22:09:13 ID:AJPUzMtA
街外れの森。
普段は人が近づかない静かな場所だ。
特別、珍しいものがある訳ではないが子供には幽霊が出ると恐れられている。
その中央に野原があった。
半径は約数百メートル、空中から見ると綺麗な円形をしていることがわかる。
これだけだと、別に不審な点はない。
偶然、森の中に出来た円形の野原。
たった、それだけの説明で事足りてしまう。
おかしいのは、こんな場所が昨日までなかったということ。
そして、地面に無理矢理へし折られた木々が横たわっていることだ。
「これが本当の森林破壊か」
「破壊というより蹂躙じゃな、これは」
野原の端に、人間体に戻った真紅と俺はいた。
今さっき、ここへ降り立ったばかりだ。
「ここまで、豪快にやられると一周回って清々しいのじゃ」
「蹂躙される側にはなりたくないけどな」
「モチのロンなのじゃ。……で、主様」
「何だ」
真紅は森の中央、そこに佇む人物を指差した。
「話しかけないのか?」
「もう少ししたらな」
俺は中央に居る人物、ひどく見慣れた彼女を観察した。
腰まで伸びた艶のある黒髪、雪のように白い肌はいつも通り。
ただし、目に生気はなく澱んだ空気を醸し出している。
何より、変わった服装をしていた。
分類はいわゆる巫女装束だが色が違う。
上半身に纏う白衣は漆黒に、緋袴は艶めかしい鮮血の色に染まっていた。
巫女の持つ神聖のイメージとは程遠い格好だ。
……カンさんが隣に立っていたら対照的だろう。
「主様」
真紅が袖を引っ張る。
「ああ、行くか」
「なのじゃ」
二人揃って歩を進める。
「作戦は簡単。【忍法】の黒服達にやったように本能に介入して正気に戻す。それだけだ」
「纏めるとな。で、具体的には?」
「あいつは今、暴走状態だ。中々、付け込む隙は生まれない。だから、一度叩きのめして弱った所に介入する」
「……自分の恋人に言う言葉じゃないの。まあ、状況が状況だから仕方ないんじゃが。あまり、手荒く扱うなよ?」
俺は小さく頷いた。
612
:
世界の敵END5【六本足】
:2016/10/30(日) 22:11:50 ID:AJPUzMtA
野原中央に近づいている内に、恋人は俺達に気づいた。
向けられたのは、
「笑顔じゃと?」
満面の笑みだった。
おまけに、手まで振っている。
予想外の行動に、真紅は困惑した態度を見せた。
「どういうことじゃ、主様。なんか、滅茶苦茶ニコニコしておるぞ。これは、あれじゃ。愛の力で正気に戻ったパターンなのじゃ」
「いや」
俺は首を振った。
「そんな都合のいいことはない」
「いや、しかっ!?」
瞬間、真紅の背から翼が展開。
間髪入れずに、無数の輝く羽根が矢のように放たれる。
なぜ、こんなことをしたか?
答えは迎撃。
先に、恋人が笑みを浮かべたまま無数の黒い札を飛ばしてきたからだ。
ぶつかる黒の激流と熱の塊。
勝つのは、もちろん後者。
空を埋め尽くすほどの灰が宙を舞い、羽根の残骸が光の粒へと変わる。
「そんな技使えたんだな」
「呑気に言うとる場合か!? なぜじゃ、なぜいきなり攻撃してきた! あんなに、ニコニコしておるのに!!」
「表面上はな」
「表面上じゃと?」
「ああ、何となくわかる」
今の恋人は、俺をまともに認識できず敵と判断していることを。
【野生】が包み隠さず教えてくれた。
「仮面をつけているのと一緒だ。表情に意味はない。中身はドロドロだ」
溢れんばかりの殺意、敵意を恋人は発していた。
人間時代の面影は一切ない。
あるのは、人に裏切られた都市伝説だからこそ持つ闇だけ。
完全に【姦姦蛇螺】の色に染まっていた。
「ぬるい展開は期待しないほうがいい」
「……そのようじゃな」
真紅も、どうやら向けられた感情に気づいたようだった。
顔を引き締め、背中の翼をはためかせる。
すると、恋人の方にも動きがあった。
目を細めたかと思うと、腕を広げ宙に浮いた。
「空中浮遊だと!?」
「ああ、師匠の話にあった」
昨夜は、宙に浮いたまま札をばらまいたらしい。
空中からの一方的な攻撃なので、かなり厄介だったそうだ。
「ちなみに、さっきの札。生命力を吸う効果がある。貼り付いたら、最悪ミイラだ」
「そういうことは、もっと速く言うのじゃ!」
怒鳴る真紅に、俺は言葉を返す。
613
:
世界の敵END5【六本足】
:2016/10/30(日) 22:19:51 ID:AJPUzMtA
「安心しろ。昨日、大抵の黒服や人間を殺したのは札じゃない」
「……逆に言うと、札以上の脅威があるということなのじゃ」
「気づいてはいたろ」
「まあ、この森の惨状を見ればわかるのじゃ。それに、相手は【姦姦蛇螺】となればな」
「あれしかないだろ」
「あれしかないのじゃ」
二人揃って同意する。
その様子を見てか、空中で恋人は口元を歪めた。
まるで、お気に入りの玩具を披露する子供のように。
機会を逃さんとばかりに、魔法の呪文を言い放った。
「カ■さ■」
突然、大地が揺れた。
前方からは土煙が上がり、倒木がマッチのように飛び散る。
嘘のような光景。
しかし、それを作り出したものは更に圧倒的だった。
「……なあ、主様」
「なんだ」
土煙が消え、元凶が姿を現す。
「わらわは、大蛇が出てくることは想像できていたのじゃ」
「だろうな」
「じゃがな」
全長数十メートルの大蛇を眼前に、真紅は声を張り上げた。
「多頭竜が出てくるとか予想できる訳ないのじゃ!!」
元凶は、ただのでかい蛇ではなかった。
六つの長い首と尻尾を持つ、正真正銘の多頭竜。
異形の中の異形だった。
「【姦姦蛇螺】の逸話は、巫女を食った大蛇について詳しい説明がされてないからな。別に、多頭竜でもおかしくはない」
「いやいや! あんなもんが出てくるとか想像すらしないわ! 大体、主様は!」
真紅が騒いでいる間、多頭竜は複雑怪奇な身体をくねらせていた。
それだけで地響きが立ち、倒木が無数の破片へと変わっていく。
本人からしたら、ちょっとした準備運動のつもりなんだろうが。
やはり、巨大なものは強い。
今頃、腹の中では【獣の数字】の契約者が揺られているだろう。
614
:
世界の敵END5【六本足】
:2016/10/30(日) 22:23:12 ID:AJPUzMtA
「――おい、聞いておるのか。主様!」
「聞いてない」
「……どうやら、一回炙ったほうがよさそうじゃな」
「後でならな。それよりも、一応説明しておく」
俺は多頭竜を顎で示した。
「昨日、恋人が都市伝説化した時に二人の姿は大きく変化した。恋人は巫女服に、カンさんは多頭竜の姿になった。理由は不明だ」
「……それぞれ、巫女と蛇の力を分担したということか。やけに強いのは、個々の属性を分離したせいかの」
「かもな。とにかく、属性を分離しているというのだけは覚えてろ。今の姿のカンさんは、札を使うことが出来ない」
「了解じゃ。で」
真紅が目配せをした。
あの二人とどう戦うかという意味を込めて。
俺は即答する。
「先に、カンさんを正気に戻す。その間、真紅はあいつと戦って時間を稼ぐか弱らせてくれ」
「まっ、妥当なとこじゃな。しかし、大丈夫か? いくら、【ガルダ】の力を使えるとは言え相手は多頭竜じゃ。そう簡単にはいかんぞ」
「問題ない」
真紅の頭に手を乗せる。
見据えるは、多頭竜いや「カンさん」。
「相手は、多頭竜である以前にカンさんだ。なら、突破口はある」
「ふん。まあ、策があるならいいのじゃ。わらわの方も」
恋人を見上げ、真紅は肩をすくめる。
「相性的には悪くない。この翼がある限り、ミイラになることはないのじゃ」
背の翼が一段と輝きを増す。
呼応するように、俺の両足も強い熱と光を発する。
まるで、札から俺達を守ると誓うように。
「なら、行くぞ」
「のじゃ」
真紅は飛び立つ。
笑顔の面を被り続ける巫女と相対するために。
俺は脚を広げる。
六つの頭と尻尾を持つ大蛇と対峙するために。
目的は救済、俺のエゴによるもの。
だからこそ、ここまで来ることが出来た。
「殺した、殺した」
上から声が聞こえた。
「憎い、憎い、憎いあいつを殺した」
よく知っているようで、聞いたことがない声。
「だから」
俺は能力を展開。
あまりにも慣れすぎた痛みが走り、下半身から四本の足が生える。
「お前達も殺す」
空中で閃光が走るのと、俺が駆け出すのは同時だった。
――続く――
615
:
スペシャルマッチ side-G.K&S
◆MERRY/qJUk
:2016/10/31(月) 00:50:33 ID:5zXd39x6
戦場に現れたクラーケンと同等、あるいはそれ以上の体躯を誇る黒い二足歩行型のドラゴン
この姿こそがゴルディアン・ノットの切札であり、彼の真骨頂であった
"機尋"と並ぶ彼のもうひとつの契約都市伝説。それは"鎖室エリア"
某駅の鎖で封鎖された扉と、その奥から現れた黒く大きな五本足のトカゲという都市伝説
この都市伝説は彼が生来持つ都市伝説を補助・強化する形でその力を発揮した
平素は都市伝説としての力に制限をかけて万が一の暴走という危険を減らし
有事には体を巨大化させ腕などの部位を増やして戦闘能力を向上させることも可能
さらには機尋の使用にも支障なく、むしろ普段以上に使うことができるのだから
まさに切札と称するに相応しい能力であると言えるだろう
だが無論のこと、この切札にも欠点が存在する。それが時間である
制限をかけて抑えていた力を強化して解放するというのは
人間と都市伝説の間を行き来する彼にとって、天秤を大きく傾ける行為に他ならない
一度大きく傾いた天秤はそれだけ平衡へと戻るのに余計な時間がかかる
力を解放し続けた時間に比例した期間、都市伝説側へ性質が固定されてしまう
それが鎖室エリアによる強化による欠点であり、彼がこの能力を多用できない理由だ
背から伸びる腕が掴んだドラゴン型クラーケンの首を潰さんとばかりに握りこまれる
時折鞭のように振るわれる尻尾に打たれながらも暴れて抵抗するドラゴン型
ゴルディアン・ノットは空いていた両腕を使いドラゴン型の体を押さえにかかった
その腕の表面から解けるように布や縄が剥離してドラゴン型を拘束していく
動きが緩慢になったドラゴン型、その前足を噛み千切らんと
ゴルディアン・ノットは巨大な口を開き、咆哮をあげて牙を突き立てた
ミシミシブチブチという骨が軋み肉が裂かれる音が豪雨と強風の中に消える
だが突然、風雨を貫くようにして水流がゴルディアン・ノットの背に襲いかかった
背後からの攻撃に体勢を崩し、ドラゴン型を取り落としつつ振り向いた彼は
鎌首をもたげて口を開き、ゴポゴポと喉奥に水を蓄えたシーサーペント型を睨む
再び水流が放たれると同時、大量の海水が再び会場を水で満たさんと放たれた
ヴァアオオオオオオオオウウ
再び黒いドラゴンの咆哮が会場の空気をビリビリと揺らした
616
:
スペシャルマッチ side-G.K&S
◆MERRY/qJUk
:2016/10/31(月) 00:52:02 ID:5zXd39x6
咆哮と呼応するように侵食する海水を逆に飲み込むように足場全体がせり上がっていく
シーサーペント型の放った水流は、対抗するようにいくつも屹立した布と縄の柱で
勢いを幾分か散らされつつも再びゴルディアン・ノットに直撃した
しかし水流に逆らうようにゴルディアン・ノットはシーサーペント型との距離を詰め
その体を三本の腕と巨大な顎で捕まえ持ち上げにかかった
―――――クルァアアアアアアアアア
己に食らいつく黒いドラゴンに三度目の水流をぶつけようと口を開くシーサーペント型
その頭部を"四本目の"黒い腕が殴りつけ、口を抑えて閉じさせる
ゴルディアン・ノットは鎖室エリアの能力を使い体に新たな部位を追加したのだ
さらにギョロリと後ろ向きに一対、新たに生えた両眼が背後に迫るドラゴン型を睨み
長い尻尾が迎撃のために振るわれる。同時にシーサーペント型を掴んだ腕と顎には
その体を引きちぎろうと力が込められていく。布と縄に覆われながら
黒いドラゴンの四本の腕と顎によって引っ張られ続けたシーサーペント型は
ついに断末魔の咆哮を上げながら体を引き裂かれて活動を停止したのであった
動かなくなったシーサーペント型の体を放り捨てたゴルディアン・ノットは
尻尾で牽制していたドラゴン型に向き直り、咆哮と共に掴みかかった
「もー!いったいどこにいるのよ!!」
一方、無事にザリガニ型から生命力を奪って虫の息に追いやったサキュバスはといえば
あまりの風雨の強さから完全にザンの姿を見失って困っていた
「というかこれカメラ中継できてるの?在処ちゃんにお姉さんの活躍見せられなくない?!」
こんな時にカメラの心配をするのは余裕の現れか、それとも変わり者の証明か
なんにせよハート柄のタコ型クラーケンを連れて彼女は足場の上を移動していく
その先にあるはずの、座礁した海賊船を目指して
【続】
617
:
組織の蔵書 誰かのレポート あるいは黒歴史ノート
:2016/10/31(月) 01:34:58 ID:R/FHrSjY
ここに記されている内容はあくまで私の憶測に過ぎず、確かな裏づけがなされているものでは無い事を先に明記しておく。
これは本来チラシの裏にでも書いておくべき物であり、恐らく時が経てば若気の至りとして恥ずべき記憶として脳の奥底に封印しておく類の物であり、ここまで読んだ諸兄らにはこのままページを閉じていただきたい。
では何故これを文として記すかと言うと、私自身の為の覚書である。
618
:
組織の蔵書 誰かのレポート あるいは黒歴史ノート
:2016/10/31(月) 01:35:42 ID:R/FHrSjY
我々契約者にとっては今更の説明は不要だと思うが、都市伝説とは近代あるいは現代に広がったとみられる口承の一種である。 大辞林 第二版には「口承される噂話のうち、現代発祥のもので、根拠が曖昧・不明であるもの」と解説されている。
都市伝説の概念は1969年のフランスで最初に記されたとされており、また日本で都市伝説という言葉が使われたのは1988年が最初との事でだとすれば我々を定義する「都市伝説契約者」という言葉もそれ以降に定着したものという事になる。
無論、それ以前の古い時代にも契約者の存在は確認されているので、都市伝説契約者という呼称が用いられたのが最近であって、契約者自体の起源はさらに古く何処までも遡れる筈である。
では、我々の契約している存在について確認したい。
我々の契約している存在、即ち都市伝説は口承の一種であり噂や伝承と言い換えても良い。
あくまで近代に定義された「都市伝説」の呼称を用いている為混乱を招きやすいが我々の契約している存在は口承や伝承で語られる存在が何らかの力(何かはわからない、その辺りはF-No.がいずれ解明してくれるのではないかと期待している。)によって実体を持った物だと言える。(この際、未確認生命体、UMAは少々ややこしい立場となる。口承が実体を得た存在なのか実際に発見されていなかっただけの生物なのか、我々には判断がつかないからだ)
口承、面倒なので以後噂で統一させて頂くが、噂が元となり何らかの力の作用によって実体を得た彼らは非常に不安定な存在だ。
噂が広まれば広まる程、語られた本質は希薄になり余分な情報が付与される。その付与された情報は実体を得た彼らにもフィードバックされ、語られれば語られる程に力を増す。
その反面で弱点が付与される可能性もあり、一長一短ではあるが、そんな噂一つで能力が変動しかねない彼らは言い換えれば語られなければ消滅しかねない為、己の存在を維持する為に人を襲い語らせようとする。
首塚の将門公の様に古くから存在し最早一種の信仰となれば消滅の心配とは無縁なのだろうが…
619
:
組織の蔵書 誰かのレポート あるいは黒歴史ノート
:2016/10/31(月) 01:36:29 ID:R/FHrSjY
ここで一つ疑問が発生する、例えば口裂け女は今までま延々と語られた為か多くの個体が確認されているがその反面で強力な個体は珍しい。
対して同じ様に語られた将門公は強大な力を持つ代わりに(恐らくは)1個体、単体の存在である。
この差が何処から来るのかは気になるところではあるので今後調べてみても良いかもしれない。
話を元に戻すがそんな不安定な存在である彼らからすれば契約者はどういう存在なのか。
契約によって人間を契約者にする事でその都市伝説は人に力を分け与え同時に自身も強化されている事が多い。
恐らく契約という行為を通じ契約者に存在を認識される事により噂の浸透具合と無関係に個人でも常に認識してくれる存在を得ることで消滅のリスクから解き放たれるのではないだろうか。
また強化についても同様で契約者と繋がる事で元々不安定な彼らは契約者の影響(イメージと言い換えても良い)をダイレクトに受ける事になり、その影響によって生じた変化が強化された力ではないだろうか。
もっと踏み込むなら我々が都市伝説から与えられたと認識している契約者側が得る契約による付与能力もまた、契約者のイメージに都市伝説が影響された結果引き出された物なのではないかと考えられる。
(まぁ、この理屈ではイメージ次第で都市伝説は何処までも強くなれるという事になるが、契約者のイメージ次第で能力ご拡張されている例は確かに存在しているので検証が必要である。)
続けて飲まれた人間について。
人間は一人一人に器としての容量が定められており、その容量を超える存在との契約を結ぶと器から溢れ出した噂に侵食され飲み込まれ都市伝説へと変貌してしまう。またこの際に記憶障害を引き起こす等の情報があるが何が原因かまでは解明できていない。
また、都市伝説へと変貌しても契約時の能力を保有しているパターンは多々あり、人間の頃の性格も残っている事から人間としての要素が完全に消えてしまうわけではない様だ。
都市伝説に飲まれた人間は人間としての人格を残しながらも都市伝説よりの不安定な存在へと変化しており、人間との契約も可能である事はこの身をもって確認している。
ただ、彼と契約した事で私が新たな力を得たわけではない。それが元人間と契約したからか、私が彼から引き出せる力をイメージできなかったからかはわからない。
噂一つで存在が変化する程不安定な都市伝説にとって、契約者のイメージは強烈であり、双方合意の上でなされるとは言えど契約によって存在が歪められる事もあるだろう。
では、私と契約した彼は?
私は彼を愛してしまった…いや、正確には彼に恋してしまった、その事を今更否定はしない。
そして、彼もまた私を愛してくれた、私たちの思いは通じあったのだと信じていた。
しかし、彼は都市伝説で私は契約者だ。
都市伝説は契約者の影響を強く受ける。
彼が私に対して抱いた愛情は私が彼に対して望んでしまったから、彼の存在を歪めてしまった結果ではないか?
もしそうなら、私は、私は…私は怖い。
彼の思いは本当に彼の物で私は本当に彼に愛されているのか、彼の思いは私がねつ造してしまったもので今の関係は私の一人遊びではないのか?
もしここまで読んだ人がいるなら誰か教えてください、私はどうすればそれを確かめることができますか?
2012年 2月 大門望
620
:
単発ネタ
:2016/11/01(火) 00:37:57 ID:qhN9ofT6
はーろうぃーんですー!よく知りませんけど!
お化けになって、お菓子もらうそうです。
なので、今日はこれをきます。きぐるみぱじゃま?とかいうのです。
おーかみさんのです。
今日のわたしは、おーかみおとこですよ。がおがお。
それでは、いってきます!
……。
…………だれもお化けのかっこうしてません!
どうしてでしょう?今日は31日ですよね?
むむぅ。
……あ!いました!
すごく、せの高い、まっくろな、のっぺらぼうさんです。
なんのお化けなんでしょう。
よくわかりませんけど、あの人についていきましょう。
まよいました。
のっぺらぼうさん、せまい道ばかりいくんです。
こんなところでお菓子がもらえるんでしょうか?
「あら、子供?」
おんなの人がいました。すごいおっきいマスクです。
「がおー」
「オオカミ少女、なの?いやあね、最近はなんでも可愛くなっちゃって」
おんなの人は行ってしまいました。
おーかみおとこですよ。あとお菓子ください!
「なんだい、ゴミはやらないよ」
人みたいなかおの犬さんがいました
「がおー」
「ふん」
犬さんはお菓子くれないですよねー。
「足はいらんかn……四つもあるねえ」
「がおー!」
おーかみさんですからね!
それよりおばあさん、お菓子ください。
「……」
「がお」
おねーさん、やっぱりそこせまいですよ?
「ぽぽぽ」
「がおー」
「ぽぽぽぽぽ、ぽぽ」
「がおがお?」
「ぽぽぽぽぽぽ、ぽ、ぽぽぽぽ、ぽぽぽ」
なに言ってわかりません!どうしましょう、この人もお菓子くれそうにないんですけど。
「……お嬢ちゃん」
……!この声は!
「ねk、もごもご」
ネコさんです!クロネコさんが、顔に、顔に!
「もごもごもごもご!」前が見えません!
「喋らねえでください」
「もが?」はい?
「そのまま走って!」
「もがー」はいー
前見えてないんですけどー。
――――――
――――
――
「にゃー」
ネコさんが顔から下りると、家のまえでした。
……どして?
ああ!そしてネコさんがいません!すばやいです!
「あら、そんなところでどうしたの?」
「がおー!」おかーさん!
「……?」
「がおがお!」お菓子ください!
「じゃあ、手を洗ってきなさい?プリンあるわよ」
「プリン!」がお!
プリンープーリンー今日のお菓子はプリーン♪
「はぁ、疲れた」
むっ、ネコさんの声が!
…………いませんね。
「どーしたのー」
はっ、それよりプリンでした!
「今行きますー」
終
621
:
凍れる悪魔と燃える魔人
◆nBXmJajMvU
:2016/11/04(金) 01:47:20 ID:3bEjpm5s
ひやり、と辺りの空気が冷え込んでいる
その事実を気にした様子もなく、その男は思案していた
悪魔としての本性を表には出していないものの、その男がこの場にいると言うただそれだけで、空気が冷え込む
こうして能力が漏れ出しているのは、思考の海に沈んでいるせいなのかもしれない
(さて、どうするか……)
軽く首を振ると、ぱきぱきと空気中の水分が凍りつく音がした
じわりと染み出す力の余波で生まれた小さな氷の結晶は、すぐに空気中に溶けて消える
(試合ではつまらない雑魚にあたったが、他に面白い奴はいたな。これからどう動くか、楽しませてもらうか)
彼、メルセデスは悪魔である正体がバレた今も、様々な裏取引の結果「教会」にとどまり続けている
メルセデス自身、「教会」に所属したままの方が自分にとって都合よく動けるのか、そのまま所属し続けているのだ
故に、今の彼は(一応)「バビロンの大淫婦」の捜索自体は真面目にやっていた
今回の戦技披露会への参加も、「バビロンの大淫婦」絡みの契約者がいないかの確認が主な目的である
自分の対戦相手を含め、今まで試合に参加していた者逹。そして観客席にいる連中からは、「バビロンの大淫婦」の気配は一切、なかった
ようは本来の仕事に関してはハズレだ
その代わり、見つけた「面白い」もの
この情報をどう活かすか、考え込んでいた時だった
「あぁ、居やがった」
「あ゛?……お前か」
声をかけながら近づいてくる気配に、メルセデスは小さく舌打ちする
…辺りの気温が、平常通りに戻る
メルセデスから溢れ出ている冷気の影響が消えた訳ではない
近づいてくるその人物の周囲が、ほのかに温かいのだ
「よぉ、氷野郎」
「よぅ、暖房野郎」
「首塚」側近組筆頭。「日焼けマシンで人間ステーキ」の契約者。日景 翼
能力的に相性が悪いはずのその男が、睨みつけるような表情を浮かべながら近づいてくる様子に、メルセデスは楽しげに笑った
正直なところ、翼としてはこの凍れる悪魔の事は苦手だ
セシリアと結婚した事で年上の義弟となったカラミティは随分懐いているらしいが、翼にとっては「厄介な相手」以外の何物でもない
今も、何か面白い玩具でも見つけたような表情を浮かべてきている
「俺に何か用か?」
「あぁ、「狐」絡みの件でな」
「………「狐」、ねぇ?「教会」は「狐」関連はほぼ動いちゃいねぇんだ。俺は情報らしい情報は持っていないぜ?」
残念だったな、と肩をすくめてくるメルセデス
そんな彼に翼は疑いの眼差しを向けた
「おぉ、怖い怖い。こっちとしては現状、「狐」サイドから直接ちょっかいかけられてもいないからな。そっち絡みは積極的に動けないんだよ」
「ヨーロッパの方で「アヴァロン」に「狐」辛みのやつが侵入仕掛けたんだろ?ありゃ、「教会」にとっても問題なんじゃねぇのか?」
「表向き、「関係ない事になっている」。直接命令がこないかぎりは、積極的に動く理由にならねぇな」
「「教会」としては、か。じゃあ、お前個人としては?」
「狐」絡みで、この男は何か知っている
翼はそう確信していた
メルセデス当人の性格を考えると「狐」に加担していると言う事はないだろうが、何かしら情報を掴んでいるのは確かなのだ
(「教会」本部から、何か資料を取り寄せてたっつーし……ちょっとでも、何か聞き出せれば、と思ったんだが)
…自分では、少し聞き出すには難しいかもしれない
メルセデスに気づかれぬよう、翼は小さく、舌打ちした
to be … ?
622
:
アダム・ホワイトの焦燥
◆nBXmJajMvU
:2016/11/06(日) 21:09:39 ID:H3g.jQ3k
「………だからさぁ、そいつの家に上がり込んでやったらさ、漫画なんて描いてやがったんだよ。そいつ。それも、すっげぇへたくそなの」
「はぁ」
「くっだらねぇだろ?くそみてぇな時間の使い方しやがってよ。残業嫌がるから何かと思ったらそれだよ。あんまりにも腹たったからビリッビリに破いてやった訳」
「……はぁ」
「傑作だったぜ、そん時のあいつの顔。あんな事に無駄な時間使ってたって、ようやく気づいたのかねぇ」
違うと思う
彼なら確か、今日、社長宛に退職届を出したとかって聞いている
なるほど、原因はコレか
と、言うか、聞いた感じだと土足で上がり込んでいるじゃないか
よく警察呼ばれなかったな
(よくもまぁ、酔っ払ってるからってこんな事自慢げにぺらぺらと………あー、もう。俺もこの職場辞めるかな……)
こんな事する人間が、社長から表彰されるような会社ならさっさとやめようか
自分が持っている資格なら、東京あたりにでも出れば他に仕事見つかるだろうし
電水している上司の散々たる姿に、彼はため息を付いた
「すいません、自分、そろそろ帰らないと最終バス逃すんですが」
「あ゛ー?タクシーで帰れりゃいいだろうが」
うっわ。まだこの蛮族みたいな自慢話聞かせる気か
いい加減、こんな奴の話聞いても体内に毒がたまるだけだから帰りたいのに
他の連中め、こっちに押し付けてさっさと帰りやがって覚えていろ
「課長だって、早く帰らないと奥さんが五月蝿いでしょ。玄関、鍵かけられてても知りませんよ」
「ぐ………仕方ねぇな。あの女、ヘタに遅く帰ると水ぶっかけてくるしな……」
電水して帰るからでは、と言いたかったがぐっ、と抑える
と、言うか。奥さんを「あの女」呼ばわりか。浮気されているという噂は本当かもしれない
会計を済ませて店を出る
課長はふらっふらな訳だが、タクシー乗り場にぐっと押し込んだ
「寝ないでくださいよ?自分はバス逃す前に全力で走らないと駄目なんで)
「おー、走れ走れ。バス行っちまったらそのまま走って帰れ」
ふざけんな。そんな事したらぶっ倒れるわ
てめぇと一緒にするなお手本にしたくない体育会系め
薄暗いタクシー乗り場からダッシュで離れていく
背後で、何か聞こえた気がするが気にせず走る。次のバスが本当に今夜ラストなのだ。逃すとまずい
何か言われたとしても、もう知らん
彼は気づかない
あの電水した姿が、最期に見た課長の姿になるなどと
ガリッ、ボリッ、ガリッ、ボリッ
「かたいー」
「まぁ、柔らかい肉ではねぇだろうよ」
「でも、おなかやぁらかいー」
「たるんできてたみたいだからなぁ」
もっしゃもっしゃもっしゃ
口の周りを真っ赤に染めながらそれを食べる皓夜の様子に、、アダムはほっと息を吐き出した
今日はなんとか、皓夜の食事を確保できてよかった
「なー、このおっさんの鞄とかはどうする?」
「財布の金は使うとして……身分証やらクレジットカードやらは、ヘタに使うわけにもいかないな。なんとか処分するか……」
ヴィットリオが持っていた、皓夜の「食事」の鞄を受け取りながらそう答えるアダム
今回は、今までのように「いなくなっても、すぐには気づかれない」対象を狙えなかった
と、言うより、そろそろそういった対象を狙う事を気づかれて、「組織」やらに警戒されつつある
少々、危ない橋を渡らなければならなくなってきた
(ミハエルが、まとまった「食事」を手に入れられるかもしれないとは言っていたが………)
それがうまくいかないと、まずい
今夜の中年男性を食べきっても、皓夜の腹は満たされないだろう
何も食べられずにいた時間が、あまりにも長過ぎたのだから
早くしなければ、早く何とかしなければ
アダムは、足元に火がついたかのような思いだった
to be … ?
623
:
単発ネタ
:2016/11/07(月) 03:32:59 ID:4z/XvGjE
世界の崩壊が近づいていた。
それは瞬く間に、賞賛したくなるほど手際よく行われた。
さながらホラー映画、いや、パニック映画?スプラッタ映画かもしれない。
とにかくまるで映画のような光景が繰り広げられていた。
文明は崩壊し、多くの人が死に、
そして、死人が歩き出した。
「ゾンビ」だった。
「ゾンビパウダー」だったのかもしれないし、もっと別の都市伝説だったのかもしれない。
一人だったのか、複数だったのか、都市伝説単体なのか、契約者なのか。
今となっては知りようもないが、このテロにより、多くのヒトがゾンビと化した。
こういう事態を防ぐために、組織はいたはずだった。
しかし、渋谷の交差点でゾンビの集団発生が確認されたのとほぼ同時、
組織の中に、大量のゾンビが発生した。
黒服、契約者、果ては上層部にまでゾンビとなったモノが現れ、組織は大混乱に陥った。
そうして組織が、いや、組織以外の都市伝説集団もかもしれないが、
とにかく誰もかれもが混乱し、機能不全をおこしている間にもゾンビは増え続けた。
そして、気が付けば、世界の崩壊が近づいていた。
わずかな望みを託して入ったコンビニは無人だった。
もちろん、このゾンビ社会で営業しているはずはないし、
むしろ誰かいたらゾンビの可能性大なので別に人がいないのは良いのだが、
問題は食料も留守らしいことだ。
おそらくは先にここに来た奴が持って行ってしまったのだろう。
インスタント食品や缶詰は軒並み持ち去られている。菓子パンもお菓子もない。
アイスもない。溶けたからだ。
おにぎりはあった。が、数か月前に賞味期限の切れたおにぎりだ。食べていいものだろうか。
餓死寸前の死にかけなら、迷うことなく食べるだろうが、まだ断食二日目だ。もう少し耐えてみよう。
食料を諦め、コンビニから外の道路を覗く。ゾンビがイのニのサのヨの……6体。見える範囲でだが。
突破することはできなくもないが、下手に戦闘すると物音で奴らが集まってくるかもしれない。
来たときは2体しかいなかったのだ、もう少し時間をつぶしてみよう。いなくなるかもしれない。
「ふぅ……」
静かに、ため息をつく。
どうして、こうなったのか。
624
:
単発ネタ
:2016/11/07(月) 03:33:34 ID:4z/XvGjE
こんなサバイバルを数か月もやっていたわけじゃない。二日前まではそれなりに安全だったのだ。
ショッピングモールにいた。そう、ショッピンモールだ。ゾンビものの定番だ。
そこにバリケードを張り、籠城していた。
他の生き残り達と生活していた。一般人十数名、契約者三名、黒服二名といったところか。
都市伝説の関係者が五人もいたのだ、ただのゾンビなど問題にならない。
モール内のゾンビをあらかた排除し、安全を確保した。
食料はあった。毛布だってあった。なんあら娯楽だってある。しばら生活していけた。
このまま待っていれば、事態は収束するかもしれない。そう、思っていた。
だが、バリケードは破られた。二日前の話だ。
車が突っ込んできた。ローススロイスだ。そう「壊れない」やつ。
誰かが助けを求めてやりすぎたとか、そんなんじゃない。
そのロールスロイスの契約者はゾンビだったのだから。
ついでに言えば、そのロールスロイスから降りてきた他の奴もゾンビだった。
口裂け女のゾンビ。100m3秒の超速ゾンビ。こいつに速攻二人ゾンビ化された。
ダウジングの契約者のゾンビ。隠れたやつを的確に見つけ出していく。
錆びない鉄柱の契約者のゾンビ。こっちの攻撃がさっぱり効かない。むしろどうやってゾンビにやられたのか。
当然のことだが、ロールスロイスが突っ込んで空いた穴からも、ゾンビはぞろぞろと入ってきた。
あっという間に、地獄と化した。
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、口裂け女のゾンビ、ゾンビ、戦う契約者、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、銃を撃つ黒服、
ゾンビ、ロールスロイス、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ダウジングするゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、黒服のゾンビ、契約者のゾンビ、ビッグフットのゾンビ、花子さんのゾンビ、ゾンビ、
噛まれる契約者、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ……
俺は逃げた。無理だと思った。
まだ戦っている契約者や、立ち向かおうとする一般人がいるのは見えていた。
彼らがどうなったかは知らない。
きっと死んだ。そして歩き回っているだろう。
俺は生きている。未だに逃げ回っている。
「いつまで……?」
答えはない。恐ろしい答えにたどり着く前に、考えるのをやめる。気分を切り替える。
ゾンビはいなくなっただろうかと、コンビニ前の道路を覗く。
ゾンビは、いなくなっていた。
「こんにちはー」
代わりに、黒服の女が立っていた。
625
:
単発ネタ
:2016/11/07(月) 03:34:08 ID:4z/XvGjE
ゾンビが数体倒れている。
その頭には穴が開いている。黒服の光線銃だろう。
黒服の女はのんびりと歩いてコンビニに入ってきた。
「生きてる人なんて久しぶりに見ましたよぉ」
「俺もです」
「一時間ぶりくらいです」
「さっきぶり!?」
「嘘ですけどね」
「え、あ……え、嘘?」
「はい。それより食べ物ありませんか?」
「え?あ、ああ、ない、みたいです。黒服さんは?」
「サルミアッキなら」
「何故……」
「嘘ですけどね」
……なんだこの人。頭おかしいんじゃないのか。こんな状況で笑って、いや、目が笑ってないが。
まあ、こんな人でも貴重な生存者だ。協力していきたい。協力できなくても、何か情報が欲しい。
状況はどうなっているのか。組織は何をしているのか。事態は沈静化の見込みがあるのか。
「あのっ、、、むぐ……」
口を開こうとしたが、その口に人差し指がそえられた。
「しー……」
静かにしろと、黒服の女がジェスチャーで示す。ゾンビが来たのかと警戒し、身を固くした瞬間、
「まあ、嘘なんですが」
一気に脱力した。
何なんだ?本当になんだこの人。
「冗談はこの辺にして」
急に、黒服の女の雰囲気が変わる。いや、変わった、ような気がした。
表情も立ち振る舞いも、何も変わっていないのに、雰囲気だけが変わった気がした。
「いくつか、私に質問に答えてください
626
:
単発ネタ
:2016/11/07(月) 03:34:39 ID:4z/XvGjE
何故そんなことを聞くのか?そう思うような質問ばかりされた。
ゾンビが発生したのはいつだったか。犯人は誰か。組織が何をしていたか。今までどうしていたか。たけのこ派か。契約している都市伝説は何か。
そして、
「平和だった時の最後の記憶を教えてください」
「平和だった時……」
覚えている。もちろんだ。今でも正確に思い出せる。
いつものように仕事を終えて、いつものように夕食を食べた。家族はいないから、一人でコンビニ弁当だ。鶏肉の乗ったペペロンチーノ。風呂はシャワーで済ませた。缶ビールを飲みながらテレビを眺め、今日は都市伝説や契約者と遭遇することもなく平和だったと思いながら、布団に入った。
そして、そして次の日、目が覚めた時には、世界は一変していた。
その後の記憶はあいまいだ。俺も、他の全員もパニック状態だったのだから、仕方がないといえば仕方ない。
「あ、そこですね」
「……え?」
「そこですよぉ」
……なにが?どこ?え?
「どうしてそんなに詳細に思い出せるんですか?数か月の前の、何でもない日を」
……え。
「どうしてゾンビ発生時の状況を知っているんですか?渋谷の事も、組織の事も。貴方、組織所属じゃないですよね」
…………あれ?
「お気づきですか?」
………………まさか。
「これ、夢ですよぉ」
嘘?
「本当ですよぉ」
黒服の女は笑っている。だが、その目は何もかもどうでもよさそうだ。
そりゃそうだ。どうでもいいに決まっている。これは、夢だ。
「サキュバス。猿夢。ナイトメア。バリバリ。インクブス。夢と違う。他、いろんな夢系の都市伝説や契約者が集まった、壮大な悪戯です
結構な人数巻き込んじゃってまして、困りますね」
たぶん、俺は三日前か、四日目か、ショッピングモールの中にいた時、その時から、夢の中にいる。
その前までの記憶はあいまいだ。当然だ。そんな記憶はないのだ。
ゾンビの事。組織の事。ただの情報だ。「ごっこ遊び」をするために、知っているべき前提の情報だから知っている。いや、与えられている。
なんてことだ。茶番にもほどがある。
だが、これが夢だと分かった今、一つだけ、大きな問題がある。
「あ、私、起きます」
突然、黒服の女がそんなことを言った。
「え?」
「目覚まし鳴ってますから」
そう言った瞬間、黒服の女の姿が霧のように消えていく。
「ちょ、ちょっと待って!!」
慌てて呼び止めると、
「あ」
霞んでいた姿が、再びくっきりとしてきた。
「言い忘れてました。これは夢ですけど、リアルすぎる痛みでショック死すr」
消えた。ちょっと待って。くっきりした状態から、いきなり消えた。じゃあ、最初に薄くなってたのは何だったんだ。
嘘か?嘘だったのか?
「え、ていうか、え?何?死ぬことあるの?夢なのに?」
最後の最後、言い切らずに消えやがった。凄く重要そうなこと言ってたのに。言ってたぞ。
「嘘ですけどね」って最後に言うつもりだったんだ。きっとそうだ。そうだよね?
落ち着こう。いや、落ち着けない。無理だ。
さっきの、そう、さっきの続きを言おう。
これが夢だと分かった今、一つだけ、大きな問題がある。
こうして三、四日ゾンビの夢を見ているわけだが
「……どうやって起きるの?」
終
627
:
死を従えし少女 寄り道「たのしいエビフライの作り方」
◆12zUSOBYLQ
:2016/11/24(木) 22:44:43 ID:7FGUyC7.
一方その頃。クイーン・アンズ・リベンジの上では。
「わーい!おっきなエビ!エビフライにしたら、なんにんまえかなあ」
鋏を振り上げたエビ型のクラーケンを前に、上機嫌の幼女と苦笑いをする黒髪の少女に、色素の薄い青年。
「さて澪ちゃん、どうしようか?」
肩をすくめて問う真降に、澪は銀の大鎌を呼び出し、
「殺ります?」
紫色の瞳を眇め、いたずらっぽく笑う澪。本気か否か真降にも判断が付きかねる。
「いや、死人は出さない事になっているし、都市伝説といえど、それは良策じゃないね」
「じゃあ真降さんには良策が?」
真降はまあねとだけ応えると、とととっと前に走り出していった幼女に視線を向けた。
「とりあえずお手並み拝見といこうか。危なくないように目は配るよ」
「ふぁいやー!」
ひかりが手鏡をかざすと、周りの気温が俄に上がり、炎が巻き起こる。
エビ型クラーケンが鋏を振り回し抵抗すると、炎が風にかき消され、鋏と胴体の一部に熱が入り、赤く染まる。
「殻の焦げる、いい匂いが…」
「いやいや、食欲をそそられる匂いだね、これは」
突然浴びせられた熱に、エビ型クラーケンは鋏を振り回して怒り狂った。
「あれー!?エビフライにならないの。おかしいなあ」
手鏡をのぞき込み首を傾げるひかりに、年長者たちは苦笑いだ。
「ひかりちゃん、エビはね、衣を付けて油で揚げないと、エビフライにはならないんだよ」
しっかり者の澪が、珍しく斜め上なアドバイスをした。
「やっぱり、はじめからこうすればよかったー!」
ひかりは無骨な銀の槍を掲げ、何事か呟く。
「全知全能なる記録。その光と闇よ。わが意に応えその記すところを書き換えんことを」
天上から光が降り注ぎ、エビ型クラーケンは…
一尾の、巨大エビフライと化していた。
「えびー!」
様子を見ていた澪と真降は茫然自失。
「そんな、バカな…」
「これが、『ロンギヌスの槍』…『アカシックレコード』の力…」
エビ型…否、エビフライ型クラーケンは、自らに起こった変化もつゆ知らず、鋏をふりふりひかりに向かってゆく。
「えびー!」
「ひかりちゃん、危ない!」
間一髪、真降が水面ごとクラーケンの下半身を凍らせて動きを封じる。
「これで当面は凌げるね」
「でも…時間の問題ですよね、これ」
クラーケンが氷を割る前に、何とかしなければならない。
628
:
死を従えし少女 寄り道「たのしいエビフライの作り方」
◆12zUSOBYLQ
:2016/11/24(木) 22:46:34 ID:7FGUyC7.
「全身凍らせることは、可能ですか?」
「時間があるなら」
「分かりました。時間の稼ぎ方を考えます」
二人の会話は、それで十分だった。
その頃観客席では、一人の少女がもじもじそわそわしていた。
「神子、どうしたの」
「んっ…いや、なんでも…」
(なんだろ、この…体の中をかき回されるような、変な感じ)
なにかを感じ取るように、闘技場で銀の槍を手にした幼女に、視線を向けた。
続く
629
:
続々々々々・戦技披露会・スペシャルマッチ
◆nBXmJajMvU
:2016/11/26(土) 00:13:11 ID:3Nktl4Mg
神子が、まるで何かを感じ取っているかのようにそわそわとしている
その様子に気づいた直斗は
「………………厄介な能力使いやがった」
と、ぼそり、実況のマイクには入らないよう、そう呟いた
その声は、忌々しそうな、今にも舌打ちしそうなものだったが
「?何か言った?」
「いや、何も」
神子に問われた時には、普段通りの軽い調子の声に戻っていた
そうしながら、神子に告げる
「とりあえず、さっきからそわそわしてるみたいだけど。この試合終わったらすぐ手洗い行けよ。こういう場で漏らしたら属性付けられるぞ」
「そういう意味でそわそわはしてないっ!?」
力いっぱいの神子のツッコミを軽く流しながら、直斗は試合会場を映し出すモニターに視線を戻した
激しいスコールによって、ほぼ何も見えないも同然の状態が続いているが……
「龍哉、今、どんな状態になってる?」
龍哉なら、自分達より多少は見えているであろう
そう判断し、直斗は龍哉に問うた
ようやく、龍哉が神子の目隠しから解放されたおかげで、もう少しマシに実況できそうだ
そうして、龍哉はその問いに答える
「そうですね。ザンさんが呼び出していましたエビ型のクラーケンが、エビフライになりましたね」
「「何が起きてる試合会場」」
思わず、直斗と神子の言葉が重なった
本当に何が起きている、試合会場
「……まぁ、どちらにせよ。そろそろ決着つくだろ」
「どうしてそう思うの?」
「思ったより時間かかってるし。そろそろ、ザンが焦れてくるだろうからな」
スペシャルマッチの試合の経緯を思い返す
ザンは「試合の最中に武器を補充していた」のだ
そろそろ、それを使うだろう、と。直斗はそう確信していた
次々と特攻し、自爆してくる人形逹をクラーケンの足で防ぐ
ただ、そろそろ決着をつけるべきだな、とザンはそう考え出していた
さて、人形を特攻させまくっている彼女をどうしようか………
ごぅんっ
「あ」
「影守ーーーーっ!?」
あっ
何気なくクラーケンの足で特攻を防いだら、クラーケンの足で絡め取ったままだった影守が人形の自爆特攻をもろにくらった
あれ、生きてるだろうか
「っく……なんて酷い事を……!」
「会話聞いてた感じ、人形に八つ当たりで自爆特攻させてる時点でお前も酷くないか?」
希の言葉にザンは思わずツッコミを入れた
が、希はそれを華麗にスルー(と言うより聞かないフリ)して、ザンを睨みつけた
「しかも、さっき影守に当たったので人形ストックがほぼ尽きた……!なんて事なの……!」
「そら、あんだけ特攻かましまくったら残機なくなるわ」
自業自得だろう、とツッコミを入れながら、ザンは傍らにブラックホールを思わせる穴を空けた
その真っ黒な空間を見て、希が警戒する
「…それ、攻撃には使っちゃ駄目なんでしょ?今回は」
「あぁ、「直接」攻撃に使うのは、駄目だな」
そう、「直接」は駄目だ、「直接」は
……だが、この使い方なら許される
漆黒のその向こう側から顔を覗かせ始めたそれに、希は対応しようとして………
630
:
続々々々々・戦技披露会・スペシャルマッチ
◆nBXmJajMvU
:2016/11/26(土) 00:14:07 ID:3Nktl4Mg
時は、ほんのちょっぴりだけ遡り
「はぁい、来ちゃった♥」
ようやく、クイーン・アンズ・リベンジと「良栄丸」の辺りまで移動完了したサキュバス
そこにいた面子に、ウィンクを一つ飛ばし
………っぱん、と、銃声が響き渡った
「危なっ!?いきなり撃ってくるなんて大胆……♥」
「……っち、外しましたか」
何があったか、と言えば。蛇城がサキュバスを見た瞬間、問答無用で発砲したのである
残念ながら(?)、サキュバスが支配権を奪い取ったタコ型クラーケンによって防がされたようだが
「味方を銃撃するのはどうかと思うんだけど」
「若に見せてはいけない姿をしていたので、今のうちに撃ち落としておくべきだと判断しました」
黒服Yのツッコミにもこの反応を返す蛇城
反省している様子はない、と言うより、隙あらばまた撃ち込む構えだ
「そのタコの支配権、完全に奪い取っているのか?突然、支配権を奪い返され、タコが暴れだすなどということはないだろうな?」
「大丈夫大丈夫、そう簡単に支配権奪い返されるほど、お姉さんは甘くないぞ♥」
ゴルディアン・ノットの帽子を抱えた外海に問われ、セクシーポーズとりつつ答えるサキュバス
そう、彼女とて熟練の実力者サキュバスである
一度誘惑して支配権を奪った存在を、そう簡単に奪い返されたりはしない
そう、やる気がなくならない限りは………
「在処ちゃんにお姉さんの活躍見せなきゃいけないんだもの、無様な姿は晒さないんだから」
「念のため言うが、奥方様……在処様は、会場には来ていないぞ」
「えっ」
蛇城からの容赦なき言葉に、一瞬霧散しかけるサキュバスのやる気
が、ギリギリのところで、サキュバスは耐えた
落ち着こう、淫魔はクールかつ情熱的であれ。会場に来ていなくとも、後で録画映像を見たりとかあるかもしれない。どちらにせよ無様な姿を晒す訳にはいかないのだ
と、茶番を切り上げ、真面目にこの状況をどうすべきかとなった、その時
「………あ?」
「黒髭、どうかしたのか?」
「…今、爆音がしなかったか?」
直ぐ側の音しか聞こえない…どころ、その音さえかき消しかねないスコールが降り注ぐ中、黒髭が何やら聞きつけた
そして、その音は彼にとって聞き覚えのある、馴染みのある音であり
直後、この場にいる全員が悪寒を感じた
びちびちっ、と、タコ型のクラーケンがビチビチと暴れだす
「っきゃ!?あれ、どうしたの?」
サキュバスが問いかけるが、タコ型クラーケンは人語を話すことはできない
代わりに、びっちんびっちん足で海面を叩き、何かを訴え……その足の動きが、おかしい
何か、痺れているような
「痺れ………まさか!」
深志が慌てて、辺りを泳がせていた「メガロドン」と視界を共有した
近場を泳がせていた「メガロドン」の視界が、それを捕らえる
「げ……っ栄、今すぐ「良栄丸」をこっから移動させろ!」
「無茶言うな。海水がなくなった分、スピードが落ち……っ!?」
しゅるり、と
何か、半透明の細いものが「良栄丸」に絡みついてきた
黒服Yと蛇城が絡みついてくる触手のようなそれを銃撃するが、後から後から伸びてくる
「なにこれ!?」
「クラゲ型のクラーケンだ!サキュバスに吸われた後放置されてんのかと思ったら、一旦引っ込めて召喚し直しやがったんだな!?」
澪の叫びに応える深志
そういえば、サキュバスに生気を吸われ放置されていたはずだったのだが………スコールが降り注ぎ始めて以降、姿が見えないと思ったらそういうことなのだろう
スコールに紛れて、接近してきていたらしい
触れた瞬間に相手を痺れさせるであろうその触手から、「良栄丸」に乗り込んでいる面子は距離を取る
「…でも、このお船を沈めるだけのパワーはないのかな?」
エビフライ型クラーケンがびたーんびたーんと己の進撃を封じる氷を破壊しようとしている様子を横目で見つつ、ひかりはクラゲ型クラーケンの触手の様子に首を傾げた
631
:
続々々々々・戦技披露会・スペシャルマッチ
◆nBXmJajMvU
:2016/11/26(土) 00:15:44 ID:3Nktl4Mg
そう、どうやら、「良栄丸」を沈めるようなパワーはクラゲ型クラーケンにはないらしい
もしも、沈められるのならばこれだけ絡みつかせた時点でとっくにやっているはずだ
では、このクラゲは何の為に?
「まるで、ここから移動させないために絡みついているような……」
そう、口にしたのは誰だったか
その言葉が最後まで続く前に、クイーン・アンズ・リベンジ、「良栄丸」、そして黒いドラゴンと化していたゴルディアン・ノットの真上に、漆黒の闇が生まれる
触れたものを容赦なく吸い込み消し去るその闇の向こう側から、何かが、無数に………
「…あれは、まさか」
「クイーン・アンズ・リベンジが放った大砲の弾!?」
そう、黒と黒髭が容赦なくザンに向かって撃ち込みまくっていた大砲の弾
ザンの能力で闇の向こう側に吸い込まれていたそれらが、一斉に姿を表して
希相手にやったように、大砲の弾は容赦なくザンへの挑戦者逹に降り注いだ
厄介な連中は一箇所に集まっていたようである
召喚しなおしたクラゲ型クラーケンで「良栄丸」の動きを封じ、そこに吸い込んでストックしておいた大砲の弾を返しまくる
これで、「良栄丸」は落ちるだろう
大砲の弾だけで落ちなかったら、他にも過去に吸い込んだ攻撃を放出していけばいい
「あとは、あそこに合流していない、まだ潜んでる奴一人ずつ見つけて落としていけば終わるだろ」
そうじゃなくとも、これだけのスコールだ
運が良ければ、もう落ちているだろう
このエリアから回収されていないところを見るに、まだ気絶していないらしい影守の方も、もう少し強めにクラーケンに絞めさせて落とせば………
「っと」
「が!?」
ザンへの奇襲を試みた小さな人影が、イカ型クラーケンの太い足に叩き落された
ずっと、気配を潜ませ攻撃のチャンスを狙っていたらしい
ザンが攻勢に転じた様子を見て、今仕留めなければ挑戦者側は勝てない、と踏んだか
叩き落された、忍びのような服装の人影は、そのまま地面へと落下していって
ぺふしゅるんっ、と
イカ型クラーケンの足に、そっと抱きとめられた
スコールがゆっくりと晴れていく
「…………やりやがった」
ぽつり、呟いたザンの右肩
そこに、小さな苦無がざっくりと、突き刺さっていた
【戦技披露会 スペシャルマッチ ザンへ一撃を加える事に成功しました 挑戦者側の勝利です!】 彼女は、己の容姿に絶対の自信を持っていた
to be … ?
632
:
チキン野郎in医務室
:2016/11/27(日) 21:13:09 ID:hmWCfQog
医務室に来たボクは、いきなりお医者さんに頼みごとをされた。
「……すまんが、少年。後で彼をここからなんとか連れ出してくれるだろうか?」
「え?」
それは、憐君をここから連れ出して欲しいというもの。
どうやら、治療の羽を出しすぎたせいで疲労しているらしい。このままだと、倒れる可能性もあるとの事だった。
「わ、わかりました!」
あまりに予想外な出来事。ボクは、慌てて返事をした。
「頼むよ。そう焦らなくていいから」
お医者さんは、軽く微笑みながら次の怪我人の下に向かっていった。
入れ替わりに、憐君が話しかけてくる。
「すずっち、『先生』と何の話してたっすか?」
「え。いや、大したことじゃないよ。それよりも凄いね。この部屋中の羽根、全部憐君が出したんでしょ」
「そうっすよ。このくらい、朝飯前っす! なんで、もうちょっと治療を――」
「も、もう十分じゃないかな!! ほら、あのお医者さん。『先生』も羽根だけで十分だって言ってたし」
「いや、念には念を入れるっす!」
「入れちゃうかー!」
説得の失敗に、ボクは一人頭を抱えた。うん、もうちょっとコミュ力を上げる必要がありそう。
さてさて、次はどうしようかと考えていると鶴の一声が飛んできた。
「憐、ここはもういいから休んでこい」
「ちょっと、かい兄まで何っすか。俺っち、まだまだいけるっす」
「いいから、行ってこい。お前が倒れたりしたら患者も心配する」
「え?」
「もしかしたら、自分達のせいで倒れたんじゃないかと思うかもしれない」
「そ、それは……」
かい兄と呼ばれる人の説得に憐君は揺れた。自分のことだけでなく、患者さんの話を持ち出されたのが効いたらしい。
そして。
「……わかったす。あと少ししたら休憩に入るっす。すずっち、それまで待ってもらっていいっすか?」
「うん!」
内心、ほっと一息つきながら返事をする。完全に、あの人のおかげだけど目的は達成できた。……後で、機会を見てお礼をしておこう。
憐君が離れていき、一人残されたボクはテレビに目をやり
「エビフライ!?」
絶句した。
続く?
633
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:31:21 ID:i6wXlp0c
人面犬のおっさんと別れた後、俺は何をしていたか
一言で言うと、追い掛けてくる数名の「赤マント」から逃げていた
まさか土砂降りの中を逃げ回る破目になるとはね
トホホだぜ畜生
「マジなんなの、ホントなんなの」
赤いマントはいらんかと直球で尋ねられたので平静にスルーしてその場を立ち去ったら、これだ
どこから湧いたのやら徒党を組んで追い掛けて来やがった
もう少し頭を使うべきだった
「撒いた、よな?」
長いこと逃走した
振り向いてみたがもう連中の気配もニオイもない
ひとまずは安心って所だろうけど、もちろん油断はできない
ここ最近は特に「赤マント」と出くわすのが増えている
特に人っ気のない道と時間帯は遭遇の確率が高い気もする
辺りを見回す余裕もある
やたらガムシャラに走った所為か見覚えのない場所に来ていた
多分、東区のかなり奥の方だ
閑静な住宅街、そう言えば聞こえはいいが、まだ宵の口だっていうのにこの静けさは何だ
薄気味悪く感じるのは雨に降られて濡れ鼠になった所為だけでは無い
雨に濡れて服が重い
おまけに靴の中までグショグショだ
いい加減この履き古しは買い替えよう
そうだな、明日にでも買い替えた方がいい
もう今日は帰るぞ、これ以上「赤マント」に出くわさないといいけどな
そう思いながら、とりあえず勘で南区方面へ向かうことにした
634
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:34:17 ID:i6wXlp0c
その勘が、知らせる
うしろ、と
「こんばんは」
俺が振り返ったのと、振り返った先から声がしたのは、ほとんど同時だった
傘を差した女の人が立っていた
灯りが遠いのではっきりとは見えない
なので、目を凝らしてしっかりと視ようとした
「ずぶ濡れ、ね
大丈夫?」
俺に声を掛けてるのだという当たり前のことに数秒置いて気づく
「あ、はい。大丈夫っす」
「私の傘に、入りますか?」
目が慣れてきた
女の人は美人さんだ
そして恐らく、俺と年齢は近い
先程よりも弱まりはしたものの、雨自体は未だに降り続けている
傘に入らないか、とは嬉しいお誘いだ
「ありがとうございます、でも大丈夫っす。俺ん家はもう近いんで」
「そう
本当に、大丈夫?」
だが相手は初対面の女性
ここは断っておくのが男としての、ほら、なんかアレだ
「あなたは、雨に降られて、走っていたの?」
「はい。まあ、そういう。最近は天気予報当たんないですね」
635
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:35:48 ID:i6wXlp0c
「今夜は、少し、騒がしいわ
こんな夜は、早く帰るに、限るわね
――なにと行き遭うか、分からないし、ね」
目が慣れてくるとよく分かる
女の人がじっとこちらを見つめていることを
「例えば
『赤マント』、とか」
「はあ、そうっ、す、ね――!?」
待て
今、何と言った
目の前のこの人は、今、何と言った
確かに「赤マント」と、そう言ったのではないか
「本当に、何も、されなかったかしら」
息が詰まった
急に緊張がこみ上げてくる
俺を追っていたあれが赤マントであると知っている
知っているということは、つまり
“視える”人なのか、それとも契約者なのか
集中しろ
自分にそう言い聞かせて、感覚を押し拡げる
微かだがこの人から夜の大気のようなニオイが滲んでいた
このニオイは純粋に、都市伝説由来の感覚だ
間違いない
契約者だよこの人
636
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:37:14 ID:i6wXlp0c
「気をつけて
最近は、以前より、殖えているわ」
この町に越して来たからには、こういうことが起こるのは予想していた
こういうことってのは、もちろん契約者との遭遇だ
ただ四月から随分この町をうろついたのに契約者と出くわすなんて無かった
いや、遠巻きに見かけることなら何度かあったが今回みたいなのは初めてだ
いくらなんでも急過ぎる
「人気のない道には、特に」
正直言って心の準備が間に合ってない
落ち着けって、俺
落ち着くんだ
「ごめんなさい、唐突過ぎた、でしょうね」
女の人の言葉に我に返る
目の前の美人さんは目を伏せていた
「お喋りが、過ぎたわ」
声がどこか申し訳なさそうなのは、気の所為ではない
先程よりも一段とトーンが低めだ
俺がさっきからずっと黙ってた所為か
何か返事しないと
頭の中を掻き回すが言葉が出ない
「こういう日は、早く帰った方が、いいわ
特に、こんな夜は、ね」
637
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:39:29 ID:i6wXlp0c
女の人は踵を返した
いいのか? この人を行かせてしまって
いいのか!? 契約者で、しかも美人さんだぞ!?
いいのか!? 俺!!
「あ……、あの、あのぉっ! すいません!」
思った以上に大きい声が喉から飛び出ていた
女の人は振り返った
「こ、今度、一緒に……お茶でもどうですか」
口から飛び出た言葉に、頭が真っ白になった
なに言ってるんだ俺は
これじゃ、ただのナンパじゃねえか
「あら」
美人さんの表情は大きく変化したわけではない
でも、少し驚いているような感じがした
あくまで印象だ
「そうね」
美人さんが微笑んでいるのに気づく
これは俺の印象じゃない、確かに微笑んでる
「じゃあ、今度、会えたら、また、誘ってください、ね」
638
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:41:11 ID:i6wXlp0c
今
この人、なんて言った?
また、誘ってください??
正直、やっちまったと思ったが、これは
もしやこれは、成功した、だと?
何が成功したってんだ
落ち着けって
普段の俺なら舞い上がっていただろう
だが今は状況が状況だ、心臓もドコドコ鳴いてる
「さようなら
気をつけて」
女の人は今度こそ踵を返して歩き出した
彼女の別れの言葉に返事が詰まる
ここでさよならと返したら二度と会えなくなるような気がしたからだ
未だ頭は真っ白のままだ
後ろ姿を呆然と眺めるより外ない
傘に隠れて彼女は笑っているのではないか、そんな感じがした
美人さんは行ってしまった
□□■
639
:
次世代ーズ 04 「会遇」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 22:42:56 ID:i6wXlp0c
男@自宅
男 「本当何言ってるんだ俺……」
男 「出会ったばかりの人にお茶とか、馬鹿か俺は」 ☜ソファの上で体育座りしている
男 「しかも相手は契約者なのに」
チラッ
コンビニで買ったエンタメ雑誌「女性の『また今度』は、ヤンワリとした断り文句。まさか本気にしてる男性はいないよね?
この程度の本音が読めないようではモテ男君を目指すだなんて無理です。素直に諦めましょう」
男 「まあそりゃそうだよね」
男 「いきなりナンパとか、そりゃ警戒するよ」
男 「馬鹿か俺は……」 ☜ソファの上で体育座りして反省している
男
高校生
名前はいずれ出る
四月に学校町へ越してきた
マジカル★ノクターン
詳細は不明
“学校町”外の出身らしい
「シャドーピープル」の契約者らしい
学校町には情報収集(比重9割5分)と害を為す都市伝説の撃退(比重残り5分)に来ているらしい
ゴシック趣味があるらしいがこちらも詳細は不明
「組織」とは関わらないらしいがこちらも詳細は不明
ただ一つだけ確かなのはこのお話のヒロインではない
朱の匪賊
「トンカラトン」で構成された都市伝説集団
この内の一部が現在学校町に潜伏中
兄者
ヤッコから兄者と呼ばれた「トンカラトン」
鍔広の麦わら帽子と赤いコート姿
刀の腕だけは確か
ヤッコ
「兄者」からヤッコと呼ばれた「トンカラトン」
おつむはやや残念
団長から受けた命令とか潜伏中の理由とか
口裂け女を斬ったのに「トンカラトン」の能力が発動しなかった理由とかは追々(多分)
640
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:51:40 ID:i6wXlp0c
雨に濡れた夜道をユキオ少年は走っていた
勿論それは後ろから追いかけてくる変質者数名から逃れるためである
「ハァッ、ハァッ」
角を曲がり、走り、更に角を曲がり
少年はブロック塀にもたれかかって荒い呼吸を繰り返した
動揺する心を抑えながら彼は耳を澄ませる
何ということだ――あれだけ逃げたというのに、連中の迫りくる足音が聞こえてくるではないか!
「なんで……っ!」
パニックのあまり叫んでしまいたくなるのを堪える
ユキオ少年は変質者が未だ執拗に彼を追跡しているという事実に恐怖していた
発端は学習塾からの帰宅途中に近道しようと街灯の少ない道へ入ったことだ
すると奇妙な装束に身を包んだ彼らが急に現れ、奇声を上げて追い掛けてきたのだ
「どっ、どうしよう……っ!」
こうなったら民家に逃げ込んで警察を呼んでもらうしかない
パニックながらもユキオ少年の判断は的確かつきわめて常識的なものだった
「変な人に追い掛けられてるんですって、事情を説明すれば……!」
だが問題は少年を追う彼らにその常識が通用しないという点にある!
言うまでもない! ユキオ少年を追い回す不埒な輩とは、その実、都市伝説なのである!
「留守だったらどうしようっ!? でもっ!!」
グズグズしている暇はない
ユキオ少年は意を決し、近くの家宅に駆け込もうと次の曲がり角を飛び出た、次の瞬間!
「赤いマントはいらンかァァァッッ!!!」
「うわああああああああああっっっっ!?!?」
曲がり角からコンニチハしたのは、なんと先程の変質者ではないか
そう、その変質者とは近頃の学校町内を跋扈する都市伝説「赤マント」である!
「あか、あか、あかーいィィィィィィィィィィィィィィィィー……」
「マぁぁぁぁぁントはぁ、いーらんかァァァァァァァァァァァァァァー……」
ユキオ少年は驚きのあまり後退ろうとして躓いてしまった
角から現れたひとり。そして、何ということだ、少年の後方からも更にふたり、赤マントが近寄ってくるではないか
「あっ、ぅあ……っ」
完全に不意を突かれた彼の口から漏れるのは悲鳴ではなく吃音
少年の恐怖を知ってか知らずか、赤マント達は緩慢な挙動で距離を詰める
「 赤い マントは いらんか 」
そして、遂に
彼ら変質者がマントの下から凶刃を覗かせて、少年に迫ろうとした
次の瞬間だ!
「レン・ディルレット! (阻止して!)」
熱風のように熱い奔流が、少年と変質者の間を駆け抜ける!
大振りのナイフを少年に突き出そうとした赤マントの体が、弾き飛ばされた!
一体何が起こったというのか!?
ユキオ少年はほぼ反射的に、声のした方向へと振り向いていた
.
641
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:53:23 ID:i6wXlp0c
そこに立っていたのは、少女だった
鮮やかな赤い髪がユキオ少年の目を引いた
一瞬ユキオ少年は自分の置かれた状況を忘れ、その少女に見惚れていた
「ユル・ヴェジュ――レン・レヴェット! (矢を放って!)」
少女は真っ直ぐに腕を伸ばし、叫んだ!
同時に腕の先、手に握られた何かから眩い光が迸る!
少女から発射された赤い閃光が尾を引くように空中を奔った!
一瞬にして赤マントに直撃!
「おごォォーーッッ!!」
赤マントは絶叫と共に吹き飛ばされる!
直撃した赤マントの体は何やら炎上しているようにも見えるぞ!
「大丈夫!?」
少女が駆け寄ってくる
ユキオ少年は思考が麻痺した頭で彼女の顔を見た
「メリー! この子をお願い!」
「まかせてなのね!」
少女とは別の声が、少年の手元から聞こえた
考えるでもなく、彼はそちらの方へ視線を落とす
何時からいたのだろうか、そこには何やらぬいぐるみようなものがあった
「わたしメリー! 今、東区二丁目大通り300メートル手前南側の十字路にいるの!」
突如、未知の感覚がユキオ少年を襲う
まるで臍が外側へと思いっきり引っ張り出されるようだ
「んひぃっ!!」
思わず変な声が出る
立ち眩みの時のように目の前が真っ暗になり
「あれ? ここ、どこ?」
未知の感覚は一瞬だった
視界が明るい、というより眩しい。思わず手で目の前を遮った。直ぐ近くの街灯の光のせいだ
おかしい、ユキオ少年は違和感に気付いた
ここは先程の場所ではない。変質者達から逃げていたあの道には街灯は無かったのだ
少年はアスファルトにへたり込んだままの体勢で周囲を見回す
ここは学校町の東区、それは間違いない
ただしこの場所は、先程いた場所とは全く別の場所で、厳密に言うと距離的に離れている
近道しようとして通った道からはだいぶ離れた、大通りに近い場所だ
「えっ、どういうこと?」
「んふー」
可愛らしい声が手元から聞こえる
驚いてそちらを見れば、先程のぬいぐるみだった
「んふー……。んふ、やっぱり、ピンポイントの転移は、んふー、きつきつ、なのー……」
「えっ、嘘、ぬいぐるみが、喋った……!?」
..
642
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:54:49 ID:i6wXlp0c
ぬいぐるみ、小さな羊のぬいぐるみだ
白いもこもこに黒い顔のそれは確かに羊のぬいぐるみのはずだ
ぬいぐるみが、喋った
ユキオ少年の思考は未だに麻痺したままである
「ぬいぐるみじゃないのー! わたしはメ……、あっ、……と、とにかく、ぬいぐるみじゃ、ないのー!」
ぷんすか、という表現が適当だろうか
そのぬいぐるみは可愛い声で抗議の意思を表明している
少年はよろめきながら立ち上がった
僕は、夢でも見てるんだろうか?
「あっあっ、わたしも抱っこしてほしいの、ぬれぬれの地面はいやなの!」
少年は未だに喋るぬいぐるみに視線を落とし、言われるままに持ち上げた
アスファルトは数時間前の雨でひどく濡れていた。ぬいぐるみだから汚れたくはないだろう
「なんだか、瞬間移動したみたい」
「うん、そうなのー」
ユキオ少年が先程起きたことの感想を漏らすと、あっさりその答えが返ってきた
驚いてぬいぐるみを見ると、何やら得意そうに鼻をふんふん鳴らしていた
「あれは、わたしの能り、あ、えっと、ソレイユちゃんの能、あっ、魔法なの。すごいでしょー、褒めてくれてもいいのー」
「ソレイユ、ちゃん?」
「うん、えっと、さっきキミを助けたお姉さんなの」
「あ……!」
そうだ、あのお姉さんだ
ユキオ少年の頭の中で先程の出来事が鮮明に甦る
赤い髪の、綺麗なお姉さんだった。僕より年上かもしれない
可愛い感じの羽織りものの下は、何だかエッチな格好をしていた気がする
ユキオ少年は心臓の鼓動が駆け上がっていくのを感じていた
そしてそれが先程の恐怖の余韻なのか、はたまたあのお姉さんの為なのかは、分かっていなかった
「あっ、電話なの」
ぬいぐるみの声で我に返った
羊のぬいぐるみはどこから出したのか携帯電話を抱えていた
「ソレイユちゃん、終わったの? うん、分かったのー」
鼓動が一際高鳴るのを感じた
通話相手はきっとあのお姉さんだ
「ソレイユちゃんは今、私の前にいるの」
一瞬、目の前の空間が捻じ曲がるような錯覚がした
その直後、そこにはなんと先程のお姉さんが立っているではないか
「ソレイユちゃーん!」
突如ユキオ少年の手からぬいぐるみが飛び上がる
放物線を描くように、ぬいぐるみはお姉さんの手元へ収まった
「お疲れメリー、ありがとね」
「もうくたくたなのー」
お姉さんと目が合う
彼女は少年に近寄ってきた
...
643
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:57:12 ID:i6wXlp0c
「きみ、大丈夫だった?」
お姉さんは心配そうな顔でユキオ少年を覗き込む
お姉さんは白の長い手袋をしているのに今更気づいた
「あいつらに何かされなかった? 怪我してない?」
そしておもむろにお姉さんは少年の体をあちこち撫で始めたのだ
手袋越しに撫でられる不思議な感覚が少年を襲う。ゾクゾクするのが止まらない
「大丈夫? どこも怪我してない?」
「あっあっ、はいっ、だっ大丈夫ですっ」
緊張のあまり妙な声色になってしまった
返答を聞いたお姉さんの顔に安堵の表情が広がった
「本当? 良かったぁ」
思わず見惚れてしまう
この瞬間、ユキオ少年は胸の奥と股間の上辺りがきゅうと甘く締め付けられる謎の感覚に囚われた
クラスの片想いの女の子を見つめていてもこんな風になったことは一度も無いのに
そう、ユキオ少年はこの時、思春期の扉を開け放ちその第一歩を踏み出していたのだ
「あ、あの、さっきの変質者の人達は」
「大丈夫、私が全員退治したわ!」
お姉さんはユキオ少年の問いにはっきりと答える
間をおいて「あ」という顔をしたお姉さんは、前屈みになってずいと顔を近づけてきた
「それより、どうしてこんな時間にあんな暗い道を通っていたの?」
「え、あ」
「それも独りで。感心しないわ」
「あの、あっ、ごめんなさい」
お姉さんは怖い顔で問い質してきた
今、僕はお姉さんに叱られてるんだ。ユキオ少年の胸に謎の興奮が生まれる
お姉さんの顔はうっすらと濡れていた
それが汗なのか、だいぶ前に止んだ雨の所為なのかは分からない
お姉さんの羽織りものから覗く体に、少年は視線を奪われる
ぴったりと肌に密着するタイプの生地なのだろうか、スクール水着のようなのを着ている
そして、前屈みになったお姉さんの胸に彼の目は釘付けになってしまった
その膨らみはふっくらと柔らかそうな丸みを帯びていた
グラビアのアイドルのような特別大きな胸というわけではない
でもそれは少年の同級生の女子達が持っていないものだ
心臓の鼓動がどんどん駆け上がっていく
少年は自分の内部で何かが高まっていく錯覚を覚えた
「学校で暗い夜道は通ったらダメって言われなかった? 最近は変質者も増えてるから危ないのよ?」
「ごめんなさい、僕、塾の帰りで、急いで帰ろうと、近道しようとして、それで」
「近道かもしれないけど、あんな人気のない道は何があるか分からないわ」
「あ、はい……」
お姉さんは少年の前に右手を掲げて小指を立てる
もう怖い顔はしていなかった
「お姉さんと約束して? もうあんな暗い道は通らないって。必ず人気のある明るい道から帰るって。約束できる?」
「あ、はい。約束します。危ない所は通りません」
お姉さんはもう一方の手で少年の手を取って、小指と小指を絡めた
指切りげんまんである
「うん! じゃあ、約束ね!」
「はっ、はい」
お姉さんはにっこり笑顔で頭を撫でてきた
この時、少年の心臓は喉から飛び出そうなほどに高鳴った
不意にお姉さんの体が離れる
未だに思考が麻痺しているとはいえ少年は愚かではない。お姉さんとのお別れの時は着実に近づいている
....
644
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:58:17 ID:i6wXlp0c
「あ、あの! お姉さん、あの、あ、名前を、教えてください!」
「え、私?」
少年の突然の質問にやや面食らったようだ。お姉さんは少し困ったようにぬいぐるみの方を見た
先程のぬいぐるみは、いつの間にかだっこちゃんのようにお姉さんの腕にしがみついている
「私は……、ソレイユよ。マジカル☆ソレイユって言うの。それで、ええと、あなたのお名前は?」
「あっ、コバヤシ ユキオです」
「ユキオ君って言うのね」
お姉さんは困った顔のままだ
そしてその表情はどこか硬い
「あの、ユキオ君。お姉さんのことは、誰にも言わないで欲しいの」
「ソレイユちゃんの魔法が他の人にバレたら魔法の国に帰らなくちゃいけない、なの」
お姉さんの言葉にぬいぐるみが付け足してくる
しかし少年はお姉さんの言葉を半分しか聞いていなかった
「僕、絶対に誰にも言いません。約束します!」
「本当? ありがとう!」
誰にも言うもんか、こんなエッチなお姉さんは僕だけの秘密にするんだ
ユキオ少年が胸に秘めた決意は固い、非常に固い
「それで、あの。お姉さん、僕、いつかまた、お姉さんに会えますか?」
「えっ? そ、それは、あの」
少年の質問にお姉さんは先程よりも露骨に困った顔をしていた
狼狽えた様にぬいぐるみの方をチラチラと見ている
「ユキオ君がお姉さんとの約束を守っていたら、いつかまた会える……かもしれないなのー」
「そっ、そうね! ユキオ君が私との約束を守ってくれてたら、また会えるかもしれないわ!」
「分かりました! 約束守ります!」
ユキオ少年の返答はほぼ反射的だった
未だに彼の心臓は謎の興奮で高鳴り続けている
お姉さんは少年の答えに頷くと、数歩後退った
そして片腕を揚げて、頭上で大きく二回円を描いた
突如、熱風が吹き抜けた
お姉さんの体の周囲を幾重にも赤い光の輪が取り巻いている
「ユキオちゃん、ばいばいなのー」
「気をつけて帰るのよ!」
それは、一瞬の出来事だった
目の前の空間が歪むような錯覚と同時にお姉さんは消失した
行ってしまった。残念な気持ちが胸いっぱいに広がり始める
少し前に怖い目に遭ったことなど遥か昔の事件のような気がした
ぼんやりした頭に浮かぶのは、お姉さんの格好と、体、そしてあの優しい笑顔
ユキオ少年は、未だにお腹の下の下辺りに熱が高まっていく不思議な感覚に憑りつかれていた
少年は果たしてあのお姉さんに再会できるのだろうか
実の所、彼の中でお姉さんとの約束はすべて吹き飛んでいた
あの危ない夜道を通り続けていれば、必ずまたあのお姉さんに会える
ユキオ少年はそんな、根拠はないが自信に満ち満ちた絶対の確信を握りしめていたのだ
□□■
645
:
次世代ーズ 05 「ソレイユ、参上!」
◆John//PW6.
:2016/12/02(金) 23:59:55 ID:i6wXlp0c
コバヤシ ユキオ
赤マントに襲われたしょうがくせいのおとこのこ
マジカル☆ソレイユに助けられて何かに目覚めてしまった
赤マント
今回の被害者
複数でコバヤシ少年に襲い掛かったが
マジカル☆ソレイユに捕捉され、滅!された
マジカル☆ソレイユ
赤マントに襲われたコバヤシ少年を助けたお姉さん
コバヤシ少年曰く、「ちょっとエッチな」コスチュームを着ている
彼女は良い子のみんなに夢と希望を与えるマジカル少女などといったメルヘン存在ではない
その正体は言うまでもなく、怪奇不可思議で魑魅魍魎な暗黒存在である“都市伝説”と契約した能力者である
メ…ぬいぐるみ
マジカル☆ソレイユの使い魔的ポジションなマスコット
外見は小さな羊のぬいぐるみだが、人語を話す
もこもこしておりかわいい
使い魔じゃないのー
.
647
:
スペシャルマッチ終了後・治療室
◆nBXmJajMvU
:2016/12/03(土) 23:35:27 ID:TvshVvXY
「いやはや、派手にやったよねぇ、彼も。流石と言うべきか」
等と口にしながら、「先生」はてきぱきと怪我人逹の手当てを終えていた
次いで、行っているのは何やら服の作成
……くしっ、とくしゃみの音が治癒室に響き渡った
ザンとのスペシャルマッチは挑戦者側の勝利となった訳だが、ザンが返した「クイーン・アンズ・リベンジ」の大砲の弾が降り注いだ「良栄丸」と「クイーン・アンズ・リベンジ」は見事に撃沈した
そんな中でも、重傷者が出なかったのは幸いだ
あの場に居た誰頭が、とっさに防御でもしたのかもしれない
一番の重傷者は大砲の弾の直撃を受けたらしいサキュバスだが、契約者ではなく都市伝説(それも、結構な実力者)であるおかげか、意識が飛んだ状態であったものの今はすぷー、と心地よさ気な寝息を立てている
どちらにせよ、船が撃沈した以上、そこに乗っていた者逹は水中に落ちたのだ
スコール+クラーケン召喚の歳に付属するらしい海水に落ちてしまえば、ずぶ濡れにならない方がおかしい
よって、スペシャルマッチ参加者のほとんどがずぶ濡れ状態になり、大きなバスタオルに包まっている状態だ
着替えはあまり、どころかほぼ用意されていなかった為、また「先生」が作っているのである
…………なお、「具体的にきちんとリクエストしておかなければ、どんなデザインの服が出されるかわからない」と言う事実は、灰人が一気に運ばれてきた怪我人の治療に専念した為、伝え忘れたままである
今現在、白衣が作ってる服は思いっきりフリルたっぷりの物なのだが、はたして誰用なのだろうか
もっとも、大半がバスタオルに包まっている中、そうではない状態の者もいる
一人は、ゴルディアン・ノット
その出で立ちのせいもあり、ずぶ濡れ度はかなり高いのだが「大丈夫ダ」の一点張りだ
「先生」は「後でちゃんと診察させてもらうよ」と言っていたのだが、それに関しても「大丈夫」と告げている
大砲の弾を受けこそしたが、ダメージを受けた際の形態が形態だった為か、さほど大きなダメージとならなかったのだ
一応、水分は絞ってきた……つもりであるし、急いで着替える必要もないはず、と当人は判断しているのかもしれない
もう一人、ずぶ濡れの服を脱ごうともせず、バスタオルにも包まっていない人物
それは、スペシャルマッチにてザンに一撃を当てる事に成功した忍び装束の人物だった
目元がかろうじて見えるだけのその忍び衣装は、スコールに晒された為にぐっしょりと濡れている
ゴルディアン・ノット同様、一応絞って水分は落としたようであるが、忍び装束越しでも小柄で細身とわかる体付きの為、心配そうに見ている者もいる(主に、まだ治療室から出ていなかった憐)
「…お前ハ、ソロソロソの装束を脱いデ、着替えた方ガ良いのデハないか?」
ゴルディアン・ノットがそう声をかけたが、その忍びは声を発する事もなく、ふるふる、と首を左右にふるだけだ
ぽた、ぽた、と水滴が床に落ちる
648
:
スペシャルマッチ終了後・治療室
◆nBXmJajMvU
:2016/12/03(土) 23:36:02 ID:TvshVvXY
この忍び、治療室に来てからと言うもの、一言も言葉を発していない
「先生」が治療を行う為に診察しようとした際も、手で軽く制してふるふる、と首を左右にふってみせた
診察なしでの治療は困難……と思われたが、憐が治療室にばらまいてしまった治癒の羽がまだあった為、それで治療sをシたから怪我はもう問題ないだろう
ただ、そのずぶ濡れ状態では風邪を引きかねない
そして、ずっと口を聞く様子がない
声を出せない、と言うよりも、むしろ……
「そういえば、試合中も身振り手振りだけで話していなかったような………声がでない?」
ずぶ濡れの髪をタオルで拭きながら深志が問うたが、ふるふる、とまた首を左右に振ってきた
「喋れない」のではなく「喋らない」。そういうことなのだろう
顔は隠す。体型も、細身とはわかるが忍び装束ゆえ細部はわからない。そして声も出さない、となると
「まぁ、大方「レジスタンス」所属だろ。それなら、正体は隠すわな」
黒髭がそう口にした瞬間
ぴくり、その忍びの身体が小さくはねた
黒髭の言葉に、バスタオルに包まっていた黒が首をかしげる
「どういうことだ?」
「あのな、マスター。「レジスタンス」は元々、少数精鋭でのステルスや潜入捜査が得意なんだよ。「MI6」には流石に負けるが、スパイの数もかなりいる」
「正体がバレたらまずい、と」
なるほど、と真降は納得した様子だ
中には堂々と「レジスタンス」所属である事実を公言している者もいるが(灰人の母親なんかがその例だ)、「レジスタンス」所属の大半は、おのれが「レジスタンス」所属である事を公言することはないという
この忍びも、そうした「レジスタンス」の一員であるならば、正体を晒すような真似はしない、そういう事なのだろう
そうではない、と言う可能性は、この時、治療室に入ってきた男によってあっさりと否定された
「そういう事なんだよ。まだその子は自分の正体バラせるだけの子じゃねーんだわ」
ひょこり、と治療室に顔を覗かせた大柄な男の姿に、「げ」と黒髭が嫌そうな顔をした
オールバックにして逆立てた銀髪にサングラス、ライダースーツという出で立ちの、どうやらヨーロッパ方面出身らしい外見の男だ
「おや、「ライダー」殿。日本に来ていたのか」
「おーぅ。お仕事あるんでねー。さて、「薔薇十字団」の「先生」よ、うちの、回収してっていいな?」
「ライダー」と呼ばれた男は、そう「先生」に告げた
…黒髭が、先程までは「先生」の視線から黒を守るようにしていたのが、「ライダー」相手からも守るような位置へと移動した事に、気づいた者はいただろうか?
to be … ?
649
:
続スペシャルマッチ終了後・治療室
◆nBXmJajMvU
:2016/12/22(木) 00:29:52 ID:4D9eGzIg
すくり、と忍びが立ち上がった
とととっ、と「ライダー」と呼ばれた男性に近づいていき………そっ、とライダーの背後に隠れた
まるで、人見知りの子供のような行動だ
単に、「正体が見抜かれる可能性」を減らそうとしただけなのかもしれないが
(……こりゃ、この中に顔見知り、もしくは、少なくともあの忍者が知ってる奴がいる、って事か)
そのように黒髭は考えた
……そう言えば、自分の契約者の方をなるべく見ないようにしている
(マスターの学校関係者か……もしくは近所に住んでいるか。はたまた契約者の親の会社関連か………どっちにしろ、あまり関わり合いたくはねぇな)
「レジスタンス」にはあまり関わり合いたくない
それが「海賊 黒髭」としての考えである
契約者である黒が関わると言うのならわりと全力で止めるだが、今後どうなる事やら
(「レジスタンス」とは何度かやりあってるし、関わり合いたくねぇ……味方にできりゃ心強いだろうが、あそこは支部っつか、「どこに対するレジスタンス」かによって違うしよ)
ようは、色々と面倒だから嫌だ、と言う理由なのだが
……後で、契約者に、もうちょっときっちり「レジスタンス」について説明しよう
この時、黒髭はそう強く、心に決めた
「一応、服越しとは言え治療はした。ただ、何かあったら、すぐに連絡………こっちに、その子の正体が知られたくなかったら、そちらの治療役に頼んでちゃんと見てもらうように」
「おーぅ。一応、確認はしとくわ。傷残ったら可哀想だし」
手元で何やら作業しながらの「先生」の言葉に、ライダーは軽い調子でそう返した
見た目からシて日本人ではないようなのだが、日本語ペラペラだ。それを言うなら、「先生」も明らかに日本人ではないのだが
「あんたは、スペシャルマッチに参加しなかったのか」
「いやぁ、本国の上司に参加していいかどうか確認したら「僕は面倒かつつまらない仕事中なのに、そんな面白そうな事参加するなんてズルい」って却下された」
栄の言葉に、ライダーは肩をすくめながらそう答えている
どうやら、上司は日本には来ていないらしい
参加したかったんだがなぁ、とライダーは残念そうだ……どこまでが本心かは不明だが
「じゃ、そういう事で。この子の着替えはこっちがなんとかするけど、他のスペシャルマッチ参加者逹は風邪引くなよ」
そう言うと、ライダーはひらひらと手を振りながら、治療室を後にした
忍びはその後をついていき………ぺこり、一礼してから、治療室を出た
不意打ちとはいえ、ザンに一撃を与えたあの忍びは、どこの組織にも所属していなかったのであればスカウトがあちこちからきた可能性があるが、「レジスタンス」にすでに所属していると判明したならば、そういったスカウトも来ないのだろう
ライダーがわざわざ忍びを迎えに来たのは、そう言ったスカウトの類が来ないように、「レジスタンス」所属の者であると知らしめるために来たのかもしれない
「……ある意味、過保護だねぇ」
「?何が??」
ライダー達を見送りながら、ぽつり、「先生」が口にした言葉が耳に入ったのか、ひかりは首を傾げた
「なんでもないよ」と「先生」は笑いながら、作業を続けている
ひかりはもう一度首を傾げて……が、特に気にする事でもないと判断したのか、思考を切り替える
彼女が考えることは、一つ
「せっかく、おっきなエビフライ作ったのになぁ……」
そう、これである
あの巨大なエビ型クラーケンをせっかくエビフライにしたのに、食べることが出来なかった
彼女は、それがとっても残念なのだ
「せめて、ひとくち食べたかったな…」
と、そう口にすると
650
:
続スペシャルマッチ終了後・治療室
◆nBXmJajMvU
:2016/12/22(木) 00:31:10 ID:4D9eGzIg
「ふむ、しかしお嬢さん。あのスコールの中にさらされていたならば、あのエビフライ、水分でぶよぶよになってしまって味が落ちていたのでは?」
……………
「先生」の言葉にっは!?となり、ガビビビビン、とショックを受けるひかり
そう、誠に残念ながら、「先生」の言う通りだろう
かなりの水分に晒されたであろうエビフライは、揚げたてさくさくの美味しい状態ではなかったのだ
美味しく食べる事など、あの試合会場にスコールが降り注いでいた時点で無理だったのだ
ガーンガーンガーン、とショックで固まった後、若干、涙目でぷるぷるしだしたひかり
と、そこに「先生」が救いの手を差し伸べる
「さて、お嬢さん。可愛らしい服がずぶ濡れになってしまっているからね。はい、乾くまでこちらを着ているといいよ」
ひらりっ、と
「先生」が、先程までずっと作っていたそれを広げてみせると、ひかりが「わぁ」と嬉しそうな声を上げた
それは、可愛らしい、黒いゴスロリのワンピースだったのだ
首元のリボンやスカートを見るに少々デザインは古めかしいが、ひかりにぴったりなサイズである
「おじさん、ありがとう!」
「どういたしまして。さて、次作るか」
「だから、せめてリクエスト聞いてから作れ」
っご、と灰人に脳天チョップツッコミをしたが、「先生」はスルーしてさっさと次の服を作り上げている
どうやら、また女性物を作ろうとしているらしい。レディーファーストだとでも言うのだろうか
なんとなく楽しげに、「先生」はその作業を続けていた
(……際立っておかしなところはない、よね?)
「先生」の様子を何気なく伺いながら、三尾は少し不思議に思っていた
この「先生」に関して、実は「組織」で少し、話を聞いたことがあるのだ
三尾が担当する仕事絡みではない為、又聞きだったり噂が大半なのだが、共通している事は一つ
「あの「先生」は厄介だ」と言う事
何故、よりにもよって学校町に来たんだ、と、学校町に来た当初、天地が頭を抱えていた様子も見たことあるような。ここで「先生」を見ているうちに、それを思い出した
……何故、そのような評価なのか?
治療の手伝いをしつつ何気なく観察していると、「海賊 黒髭」は自分と自身の契約者に関しては、「先生」に治療されないように、と言うより、接近すらされないようにしている事に気づいた
契約者の方はともかく、黒髭の方はかなり「先生」を警戒している
その警戒っぷりは、「先生」が学校町に定住し始めた頃の天地にどこか似て見えて
(彼に聞けば、わかるのかな)
と、聞く聞かないはともかくとして、三尾はそう判断したのだった
to be … ?
651
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:16:20 ID:nOZbdaUs
・九話 姉から逃げられない!その一
時計の針が午前五時を示す頃、ボクは着替えと準備を終えていた。
いつもの習慣。日曜日でもそれは変わらない。
「よし!」
着慣れたジャージ、時間を確認するための時計、いざという時のための小銭。ジョギングの支度はばっちりだ。昨夜、【首なしライダー】と戦ったせいで寝不足気味なのを除けば。後で昼寝でもしよう。
朝日が差し込む自室を出て、階段を降りる。すると、玄関に佇んでいる緋色さんが目に入った。
「おはようございます、師匠」
「おはよう、緋色さん」
緋色さんはいつものように、姉ちゃんから貰ったジャージを着ていた。
……うん、似合ってない。大人な彼女には、きっちりとした服装が向いている。ジャージのような活動的な格好はいまいちだ。
「師匠? どうしました」
「ううん、何でもないよ」
思ったことを顔に出さないようにして笑う。
こんな失礼なこと、本人に悟られるわけにはいかない。
「緋色さんは、今日もいつものコースを走るの?」
本心を隠すために話を振ってみる。
「はい、あの辺りは人気が殆どないので。全力で走っても問題がありませんから」
「いいよね、あそこ」
ボクも、能力の訓練で使ったことがある。
人気がないのに不気味な感じはしない不思議な場所だ。むしろ、あそこにいると心が落ち着く。運動をするのには最適な場所かも知れない。
「師匠もいつものコースですか」
「うん」
ボクが走るのは、契約者となる前と同じく河川敷。ランナーには人気のある道で、毎朝多くの人がジョギングをしている。ウォーキングや犬の散歩をする人も多い。
もちろん、今も能力を使わずに走っている。
「わかりました。指導はいつも通り夜に?」
「うん」
ボクは生意気にも、緋色さんに走りの指導なんかをしている。
といっても、親から教えてもらったコツや経験からの知識を教えているだけなんだけれど。緋色さんは、タメになると言ってくれている。
「わかりました。では、『訓練』の方も」
「いつも通り、ジョギングが終わったらで」
靴を履きながら、約束を交わす。
「今日こそは頑張るよ」
決意表明をしながら、玄関のドアを開けた。
652
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:21:04 ID:nOZbdaUs
【注射男】の件に片がついた翌日から、緋色さんは我が家で暮らすようになった。……もちろん、ボクから言い出したわけじゃない。今でも、あんなに綺麗な女の人と同居するのには抵抗がある。
ことの発端は、【注射男】を退治した翌日。彼女を自宅に招いたことにある。
「本当にいいんですか?」
「もちろん」
学校からの帰り道、ボクは合流した緋色さんを自宅まで案内した。
「これからは、今まで以上に深い付き合いになるだろうしね」
緋色さんは、契約都市伝説でもないのに一緒に戦ってくれると言ってくれた。いわば、仲間だ。
自宅に招いて、親交を深めるくらい当然だろう。
「ふ、深いお付き合いですか……」
「うん。あ、緋色さん」
「? なんですか」
首をかしげる彼女に、大事なことを質問した。
「緋色さんってマスク外せる?」
「ええ、外せますよ。それが何か?」
「いや、どうせなら一緒に夕食でもどうかなと思ってさ」
都市伝説は情報生命体だ、殆どの個体は食事を摂る必要ない。けれど、生物の形をしていれば食べることはできる。実際、トバさんはボクや姉ちゃんと一緒に食卓を囲む。
「はい、もちろん。……いえ、でも」
顔を曇らせたので、慌ててフォローする。
「ああ、口のことなら気にしなくていいよ。姉ちゃんも気にしないし」
姉ちゃんと口にすると、緋色さんは敏感に反応した。
「お姉様がいるなら、ますます」
「あーうん。大丈夫、姉ちゃんは誰よりも大丈夫」
実際は大丈夫どころではなかった。
姉ちゃんは緋色さんを気に入り、家にいる間ずっとべったり。緋色さんは、困惑しながらも嬉しそうにしていた。
その内、姉ちゃんは彼女から帰る家がないことを聞き出した。……念の為に言っておくと、これはおかしなことじゃない。都市伝説は情報生命体。人間と違い休息を取る必要がない。 住処を作る習性のある都市伝説でもない限り、家がなくても平気だ。
ただし、姉ちゃんは都市伝説のことを知らない。だから、
「なら、うちに住めばいい」
と言い出した。
緋色さんは大いに慌てた。真面目がゆえに、本当の事を言ってしまったことを後悔しながら。
迫る姉ちゃん、困り果てる緋色さん。
「おい、どうすんだよ」
トバさんは、ボクに決断を求めてきた。
「どうするも何も決まってるよ」
「まあ、そうだよな。お前みたいなチキン野郎が認めるわ――」
「空いてる客間を使ってもらうよ」
「おい!?」
押し入れに、来客用の布団があることを思い出した。早速、取りに行こうとすると足に猛烈な痛み。
「ト、トバさん! 痛い! 痛い! いきなり噛み付かないでよ!!」
「うるせえ。どうして、今日に限ってお前が破廉恥なのか説明しろ! いつものお前なら、顔を真っ赤にして逃げてるだろ」
「そ、そりゃ」
決まりきった答えを口にした。
「姉ちゃんの決定には逆らえないし……」
こうして、緋色さんは同居人となった。
653
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:26:43 ID:nOZbdaUs
同居人となった緋色さんは、今まで以上にトレーニングに力を入れるようになった。そればかりか、家のお手伝いもしてくれている。ボクがやらなくてもいいよ、といってもだ。姉ちゃんなんか、頼んでも絶対にやってくれない。自分の洗濯物すら、僕に任せっぱなしだ。
こうして、緋色さんは我が家に馴染んでいった。しかし、彼女にはもう一つ役目がある。
「師匠、もっと前へ」
「う、うん」
それはボクの指導。
「当たることより当てることを考えてください。師匠は、まずそこからです」
「わかってはいるんだけど……」
ナイフ術のコーチだ。
ジョギングから帰ってきたボクらは、いつものようにゴム製のナイフを持って対峙していた。
「緋色さんの剣筋、まったく読めないよ!?」
実力差がありすぎて、まともな勝負になっていけどね!
目、首、心臓。急所を狙って繰り出されるナイフに、ボクは対応できずに後退。壁際へと追い詰められる。
その間に、無防備な腕や足が斬られていく。これが実戦だったら、今ごろ動けなくなっているだろう。
「大丈夫です。その内に慣れます」
「とてもそうは思えないよ!」
緋色さんは【口裂け女】。
人間を圧倒する膂力を持っている。でも、それだけならただの剛剣。いくら、速くてもワンチャンスぐらいはある。実際、目で刃を捉えることはできていた。
ボクが、ここまで手も足も出ないのは緋色さんの技術が高いから。次にどこを刺突してくるか、どんな軌道で来るかがわからないせいだ。これじゃあ、刃を見ることができても意味が
ない。
彼女は、刃物の扱いに関してはプロ中のプロだ。包丁を握らせても天下一品。あっという間に皮を剥き、野菜を切り終える。魚を下ろすのだってちょちょいのちょい。……昔、料理を覚えるまで苦労した身としてはかなり羨ましい。
戦闘では、腕がさらに発揮される。ナイフの距離だと都市伝説を圧倒し、遠距離でも投げナイフで応戦。完璧だ。
そんな彼女を、慣れだけで攻略できるなんて思えない。いくら、ボク用に手を抜いていたとしてもだ。
「あっ」
ついに、壁が背中についた。もう逃げ場所はない。
こうなったら、イチかバチかだ。
膝を曲げ腰を下ろす。同時に、頭上をナイフが通り過ぎた。うん、ラッキー。ナイフがくるかなんて全然わからなかった。
体勢を低くしたまま、瞬時に能力を発動。両足が熱くなり、気持ちも高まる。
「えいっ!」
ナイフを前に構え、緋色さんめがけ突っ込む。ボクに出来る精一杯の奇襲だ。
拙いけれど、能力のおかげで速度だけはある。もしかしたら、当たるかも――
「師匠、バレバレです」
期待はあっさりと崩れ去った。
ナイフは空を切った上、緋色さんによって足払いされた。加速しているボクは、勢いを止められないまま床に飛び込む。
……前にも似たようなことあったね! デジャブを感じながら顔面スライディング。滅茶苦茶痛い。
畳みが、ボクを笑っている気がした。
654
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:30:42 ID:nOZbdaUs
「はあ」
ナイフ訓練後、ボクは体育座りをして落ち込んでいた。
「師匠、元気を出してください」
「ありがとう、緋色さん。でもさ……」
溜息がこぼれた。
「ここまで進歩がないとね」
【注射男】の一件で、ボクは自分の無力さを実感した。だから、戦うための技術を身に付けようと模索を始めた。
まず、最初に試したのが蹴り。
トバさんの能力のおかげで、足が速くなったんだから蹴りも強くなっているんじゃないか。という、単純な発想だ。でも、全くの適当という訳じゃない。
トバさんと緋色さん曰く、能力には系統というものが存在するらしい。主なものは五つ。 強化、放射、操作、変化、創造だ。二人の場合は、主に強化の能力が使える。身体能力が高いのが証拠だ。また、緋色さんのナイフを作る力は創造に分類されるらしい。
系統には契約者との相性がある。
放射系は得意だけど、変化系は苦手。創造系は達人級だけど、それ以外はからっきし。といった感じに。
ボクの場合は、トバさんの能力しか試してないから厳密にどうとは断言できない。けれど、脚力の増大していることから強化が得意なタイプ。いわゆる、強化型じゃないかと診断された。なら、キック力も高いだろうと予想されたので試してみた。
結果、
「……おい、サンドバック全然揺れてねえぞ」
駄目駄目だった。どうやら、強化されているのは脚力ではなく走力だったみたいだ。理屈がよくわからない。
落胆するボク。そこで、緋色さんが話を持ちかけてきた。
「良かったら、私のナイフ術を教えましょうか?」と。
刃物なら、力が弱くとも傷を負わせることができる。それに、師匠の能力とは相性がいいと思いますと勧められた。確かに、コンパクトなナイフと速度に特化したボクの能力はぴったりだ。両方の利点を殺すことなく運用できる。
緋色さんの説明にボクは納得。早速、翌日から教えてもらうことになった。
……結果はこの通りだけど。
「ボク、向いてないのかな」
思わず、出た言葉に緋色さんが反応した。
「そんなことありません! だって、師匠は!」
「? ……師匠は?」
「あ、いいえ。何でもありません」
「そ、そう」
やけに、余所余所しい態度を取られてしまった。せっかく、教えてくれているのに弱気な発言をしたのはまずかったかもしれない。
反省しながら、ある提案をしてみた。
「だからさ、緋色さん」
「……はい」
「夜も練習に付き合ってもらってもいいかな」
「はい、私なんかじゃコーチになりませんよね。別の戦い方を考えましょう」
「……ん?」
「……え?」
見事に食い違った。
「え!? 私、てっきり師匠が止めるのかと」
「いや、止めないよ!? 多分、ナイフがボクの能力に一番合っているし。それに――」
昔は、傷だらけだった手の甲を見つめる。今はもう、絆創膏一つ貼っていない。
「練習するのは慣れているから」
それと、失敗することにも。
「……師匠はすごいですね」
「当たり前だよ、このくらい。じゃないと、何も身に付かないし」
時間と労力。
この二つを割かないと、人は何も得られない。だから、二つとも惜しみなく差し出す。必要な力を手に入れるために。
655
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:33:04 ID:nOZbdaUs
「まっ、それでも身につかねえこともあるけどな」
突然、廊下から声。そこには、見慣れた同居犬がいた。
大型犬らしいがっちりとした体、ふわふわの毛並み、そしてアンバランスな中年男性の顔。
「あ、トバさん」
「おはようございます」
「おう」
ボクの契約都市伝説である【人面犬】、トバさんは悠々とした足取りで部屋に入ってきた。どこか、チンピラっぽい。
「また、今日もボロ負けか」
「うん、見事に」
苦笑で返す。
「いまだに刃筋が読めないし、ナイフも擦りすらしないよ」
「……本当に進歩がねえな」
我ながら、その通りだと思う。
心の底から同意していると、トバさんは緋色さんに視線を向けた。
「まっ、お前が強すぎるってのもあるんだろうが」
「……私がですか」
「ああ」
首をかしげる緋色さん。一方、トバさんは珍しく真剣な表情をしていた。
「自分じゃ自覚がねえかもしれねえが、お前のナイフ術は一級品だ。うますぎる」
「そんなことありませんよ、【口裂け女】ならこのくらいできます」
「いや、それを差し引いてもだ」
「え?」
どういうことだろう。ボクにも、よく分からない。
「確かに、【口裂け女】には刃物に関する話がある。けどな、刃物扱いが上手いっていう話はあんまりねえんだよ」
「あー、そうだね。でも、たまたまじゃない。ほら、同じ都市伝説でも地域によって伝承が違うし」
情報の違いは、都市伝説に影響を与える。
同じ都市伝説でも、地域が違うだけで異なる能力を持ったりするらしい。それを考えると、おかしいことじゃない。彼女を形作る情報の中に、人を解体するとかの噂が混じっているだ
けの話だ。
「特別、気にすることじゃないよ」
ボクとしては、ナイフ術を教えてもらえるので助かっているし。
「……お前、適当だな」
「トバさんが敏感なんだよ」
嘆息したトバさんに言い返す。なんで、そんな細かいことを気にするんだろう?
疑問に思っていると、緋色さんが口を開いた。
「……私にとって、刃物はあくまでトドメを刺すための道具です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「あんなにうまいのに?」
「ええ、一番重要なのは足の速さだと思ってますから」
緋色さんは、速さを求めるためだけにボクに弟子入りしたような人だ。この答えには納得できる。
「もっとも、最近はタイムが伸び悩んでいますけど……」
「あー、うん」
ボクに弟子入りをしてすぐの頃、緋色さんのタイムはぐんぐんと伸びた。
当然だ。今まで、身体能力だけで走っていた彼女に技術を教えたんだから。けれど、一通り教えると伸びは下がってきた。ある程度、実力が上がり低迷期に入ったからだ。ずっと成長できるように、人も都市伝説も出来ていない。
ここは励ました方がいいのかな、脳裏に考えが浮かぶ。でも、その必要はなかった。
「ですが、頑張ってみます。……師匠も精進していますから」
嬉しい一言を付けてくれた。
「うん、ありがとう」
「いえ」
感謝の言葉に、カンさんは微笑みを返してくれた。美麗な顔立ちが更に輝く。なんだか、見ているだけで心が洗われる。
すっかり、浄化されたボクは静かに立ち上がった。
「じゃあ、朝ご飯にしようか。姉ちゃんは、まだ起きてないから三人分だけ――」
「それは違う」
廊下から遮る声。すぐに、その持ち主が足音一つ立てずに姿を表す。
656
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/23(金) 23:35:46 ID:nOZbdaUs
「今起きた」
まず、目に入るのは180cm以上はある長身と栗色のロングヘア。次に、人形のように整った無表情な顔を瞳が映す。肌は適度に焼けていて、体には無駄な肉が一切ない。相変わらず、完璧を体現したような容姿だ。世の男性からしたら憧れ、世の女性からしたら天敵だろう。
そのどちらにも属さないボクは、いつものように挨拶をする。
「おはよう。今日、日曜日なのに早いね」
もちろん、呼び慣れた愛称付きで。
「姉ちゃん」
ボクの問いに、姉ちゃんこと空井燕(うつい つばめ)はお腹に手を当てた。
「お腹減って目が覚めた。ご飯は?」
「うん、これから作るよ。それまで」
後ろを振り返る。
「緋色さん。手伝いはいいから姉ちゃんの相手をしてもらっていい?」
「はい、任せてください」
「姉ちゃんも、いつも通りそれでいいよね?」
返ってきたのは無言の首肯。我慢できないとばかりに右手が差し出される。
「じゃあ、すぐに作るから」
ボクは、姉ちゃんにゴムナイフを手渡した。
657
:
チキン野郎は今日も逃げる
:2016/12/24(土) 09:29:30 ID:hibDrTLs
「では、行きますよ。燕さん」
「いつでもいい」
二人を部屋に残し、ボクとトバさんは廊下に出た。
「……相変わらず、朝から血気満々だな。お前の姉は」
「姉ちゃん、バトルジャンキーだから。それに、相手が緋色さんっていう強者だしね」
苦笑しながら、台所に向かって歩き出す。
「今はマシになったほうだよ。中高生の時は、道場掛け持ったり喧嘩したりと大変だったから」
主に洗濯が。そう付け加えると、トバさんは苦い顔をした。
「普通、気にかけるのはそこじゃねえんだけどな」
「しょうがないよ、姉ちゃんだし」
「そうだな。なんせ」
トバさんは、部屋の方を向いた。
「【口裂け女】と互角に斬り合いをする女だからな」
模擬戦をしていると言うのに、物音は殆どしなかった。たまに聞こえるのは、僅かな足音だけ。
そのくせ、部屋の入口からは静かな殺気が溢れ出ていた。
「達人同士の戦いは、静かなものだっていうがここまでとはな」
「得物が刃物だから特にね。今は、お互い牽制しあっている感じかな」
「……慣れてるな、おい」
「姉ちゃんの弟だからね」
リビングに通じるドアを開ける。
「しっかし、緋色の奴と互角とはな。あいつの剣捌き、【口裂け女】としても異常に高いレベルだぞ」
「姉ちゃん、『システマ』とか『富田流』とかも齧ってるから。それでじゃない? 緋色さんも、全力は出してないみたいだし」
「まあ、それもあるんだろうが。……色々とおかしすぎるだろ、この家」
「うん? 何か言った?」
首を傾げ、トバさんを見つめる。けれど、首を振られた。
「いや、何でもねえよ。それより、早く飯作れ」
「はーい」
何を言おうとしたんだろう? そう疑問に思いつつ、ボクは台所に立った。
――続く――
658
:
治療室 外海とゴルディアン・ノット
◆MERRY/qJUk
:2016/12/27(火) 01:21:00 ID:cC0o4zhc
忍びが「ライダー」と呼ばれた男性と共に退室してから少しして
「……ソロソロ頃合いか」
唐突に乾いたものが擦れるような声でそう呟くと、
ゴルディアン・ノットはゆっくりと外海の方へ近づいた
「外海、帽子を」
「うむ。確かに返したぞ」
外海が差し出した中折れ帽をグローブをはめた手で受け取ると
ゴルディアン・ノットはまだ湿った様子の▼模様が描かれた覆面の上から被った
「シかシ今回ハ試合にこソ勝てたガ、己の未熟サを痛感スル戦いダった」
「確かにそうかもしれないな……」
ゴルディアン・ノットの言葉に悔しそうな表情を見せる外海
それが見えているのかいないのか、彼は言葉を続けた
「俺ガヒーローを名乗レル日はまダ先のようダ
目と手の届く者スラ守レないようデハな……」
「……だがお前は、最後のあの時に」
「結果を伴わない過程に大シた意味ハない
それは過程の無い結果もまた然リ……
二つが揃ってようやく、俺ガ目指ス在リ方となルのダ」
外海の言葉を遮って言い捨てると
ゴルディアン・ノットは背を向けて歩こうとする
659
:
治療室 外海とゴルディアン・ノット
◆MERRY/qJUk
:2016/12/27(火) 01:22:36 ID:cC0o4zhc
「待て」
その背にもう一度、外海が言葉を投げかける
「余計な世話かもしれないが、本当に診察を受けなくていいのか?」
戦場で言葉を交わし共闘した相手に対して
外海は純粋な善意、その体を心配して確認の問いかけをする
「大丈夫ダ」
そして返された言葉に「ああ、やはりそう答えるか」と思って
「ソレにあの男に体を見セルのハ、少々気乗リシない」
「………………うん?」
続いた言葉に違和感を覚えて、声を漏らした頃には
ゴルディアン・ノットは治療室を出て行った後だった
【続】
660
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:02:35 ID:cQ6fb3cU
夏休みも半ばを過ぎたある日のこと
相生家に電話の着信音が鳴り響いた
「――――肝試し?学校で?」
『うん。真理ちゃんも来るよね?』
なぜ行くのが前提なのか。それよりちょっと整理させてほしい
「あのさ、学校って普通夜は施錠されてるでしょ」
『鍵が壊れて施錠できない場所が一階にあるんだよね』
「……監督の先生とか」
『いないよ』
「…………本気なのね?」
『真理ちゃんもしかしてこういうのダメなの?』
「いや、そういうわけじゃないけど」
『うーん、どうしても嫌なら来なくてもいいけど』
「まあできれば、あんまり行きたくないというか……」
『でも篠塚さんは来るって言ってたよ』
「行きます」
『じゃあ夜の11時集合だから』
「時間遅くない?」
『じゃあまたね』
電話が切れた。受話器を置いて、ゆっくりと息を吐く
…………あのバカを問いたださなければ
私は幼馴染を詰問すべく、飲み物を用意して部屋へ向かった
661
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:03:27 ID:cQ6fb3cU
「で、どういうつもり?夜の中学校なんて明らかに危険じゃない」
「んー、それはそうなんだけどねー」
ベッドの上でゴロゴロしていた結が起き上がって座り直す
視線がコップに向かっているが、飲み物の前に回答が欲しい
「登校日があったでしょー?その時に集まって計画しててさー」
「ああ、草むしりの日に……それで?」
「私も最初止めようと思ったんだけどさ、全然聞いてくれないしー」
「普段一人のあんたがいきなり話しかけても、そりゃそうなるでしょ」
「いかんのいー」
頬を膨らませる結だがこれは自業自得だろう
完全な人ではない結は、人と距離をとりたがる傾向がある
人が嫌いだからではない。人ではない自分が人とどう接するべきか
至極真面目に思い悩んだ結果そうなったのである……不器用かっ!
もちろん話しかければ普通に答えるし、当たりが強いわけでもない
ところがここである要素が足を引っ張った。容姿である
結の母親である瑞希さんは十人中九人が美人と答える容姿で
ここに持ち前の明るさが加わり高校生時代男女問わず人気があった
……という風に美弥さんからは聞いている。その結果として
仲良くしていた美弥さんは同級生から睨まれたとか。これはたぶん事実なのだろう
662
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:04:07 ID:cQ6fb3cU
結も母親の容姿の良さをしっかり受け継いでいる
可愛いというより美人という言葉が似合う顔立ち
同年代と比べて細身でスラッとした体型
加えて人に踏み込まず人に踏み込ませずという立ち回り
この結果、私の幼馴染は学校ではまるで『孤高の花』であるかのように
扱われている……というか周囲も接し方に困っているようだ
色々探ろうとしてものらりくらりと誤魔化され
分かることといえば私の幼馴染であり仲が良いということくらいらしく
であれば接触するのは私に任せて遠巻きに眺めるほうが
よほど気が楽なのだろう。いい子なんだけどなぁ、趣味以外
「だからねー、止められないなら一緒に行って万が一に備えようかなって」
「そういうことか……というかそういうのは私にも教えておきなさいよ」
「真理ちゃんまで誘われるとは思ってなかったんだもん」
どうやら気を使ってくれていたらしい
確かに私も好き好んで深夜の学校になんて行きたくはない
が、それはそれとしてみんなの中に結を一人放り込むのも……うん
「とにかく今回は私も参加します」
「うん!みんなと真理ちゃんは私が守るからね!」
「はいはい」
とはいえ本当に何かが起これば私ばかり守るわけにもいかないだろう
私も万が一に備えなければ。結に飲み物を渡しながら、心の中で呟いた
663
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:05:01 ID:cQ6fb3cU
そして肝試し当日、夜の11時
私は電話をかけ誘ってきた友人の両肩を掴み揺さぶっていた
「半数以上!ドタキャンって!おかしいでしょ!!」
「あはは、ごめんごめん!まさかここまで集まりが悪いとはねー」
首とポニーテールと自己主張の激しい胸を揺らしながら彼女が苦笑する
というかブラジャーはちゃんと着用してほしい。後ろの男子絶対困ってるから
当初は私と結を含め、10人で行うはずだった肝試し
蓋を開けてみれば、集まったのは私たちと彼女以外は男子一人だけ
他の6人はといえば、2人は親の目を盗めず外出できないということだが
残り4人はゲームがしたいとかテレビが面白いとかで来ないそうだ
そりゃあ同級生に危ないことはしてほしくないが、これはあんまりだろう
「ま、元々適当に夜の学校見て回って帰るだけなんだしさ。気楽にやろうよ」
「むしろこのまま解散でいいんじゃないかと思うんだけど……」
「えー、せっかく来たんだから真理ちゃんと肝試ししたーい」
「ちょっと結?」
「俺も、来たからにはやりたいって思うんだが……相生さんは嫌なのか?」
「…………あー、もう!分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!」
「そうこなくっちゃね!じゃ、ついてきて。鍵かかってないとこ案内するから」
そう言って彼女が近くの低いフェンスを乗り越えていく
続いて竹刀袋らしきものを背負った男子がフェンスを越えた
最後に大きめの鞄を抱えた結とウエストポーチを確認した私が越える、と
「結」
「うん」
フェンスを越えると空気が明らかに変わったように感じる
結も同じように感じたようで、隣の彼も違和感があるのか眉をひそめていた
もっとも彼女だけは立ち止まった私たちに首をかしげていたが
どうやら予想通り、肝試しは何事もなしとはいかないようだ……
664
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:05:46 ID:cQ6fb3cU
「よし、ちゃんと開いてる……ところでさ」
「なに?」
「せっかく一緒に肝試しやってるんだし、改めて自己紹介でもしない?」
校舎に侵入可能な窓を確認していた彼女がそう言った
といっても、結の方に視線を向けているので、主に結のことが気になるのだろう
「なら私からやるわ。相生真理。結の幼馴染よ」
「えっと、篠塚結。真理ちゃんの幼馴染だよー」
「……真面目にやってよ!」
「だっていまさらでしょ自己紹介なんて」
仮にも同じクラスで数ヶ月一緒だったのだ
懇切丁寧に自己紹介をするほうが変だろう
「あー、じゃあ次は俺が。半田刀也(はんだとうや)だ。怪談とか大好きだ」
「ぐぬぬ……潮谷豊香(しおたにゆたか)!私も怪談好き!」
「あ、私もー」
「私も嫌いじゃないわ」
「この便乗犯!!」
どうしろというのか
「紹介してよ!謎めいた篠塚さんの真実の姿ってやつを!!」
「ないわよそんなもの」
例のヒーローごっこはむしろ仮初の姿なのでウソにはならない
そして結は尻尾が生えたりもするが、紛う事なく人間だ
ならば普段見せている姿もまた真実の姿。つまり話すことはない
665
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:06:26 ID:cQ6fb3cU
「く……ま、まあそれは置いておいて。ここから校舎に入れるわけよ」
「ならさっさと行きましょ。早く帰りたくなってきたし」
「真理ちゃんに同意ー」
「あー……俺も長居はしたくない、かな」
「あんたたち盛り上がり悪くない?!」
いやだって、ねえ?
「とにかく入るわよ!ふっ……ほら、さっさと入って入って!」
「はいはい。よっ、と。ありがと結」
「お安いご用だよー。よいしょ」
「内履き下駄箱に置きっぱなしなんだよな……っと」
「よっし、じゃあ出発!……まずは玄関ね」
「おう、助かる」
豊香が意気揚々と先頭に立ったところで、私と結と彼が窓を振り返る
……校庭に墓石が立ち並び、土の下から青白い手が伸びているのが見える
「"墓地を埋め立てた学校"ってことね」
「やっぱすぐ帰った方がよかったか……?」
「なんとかなるよ。ね、真理ちゃん!」
「いやあんたは大丈夫だろうけど……えーっと、半田君は?」
「一応付いてきてもらってる。ほらアレ」
「どこ?……ああ、"テケテケ"か。戦闘は?」
「俺はともかく彼女はそれなりにできる方、だと思う」
「うーん……じゃあパパッと終わらせたほうがいいわね。一応近くに呼んどいて」
「わかった」
「ちょっとー!?なんでついてこないのよ!!」
「はいはい。今行くから」
「……なあ、潮谷さんさ」
「私と結に聞かれても分からないからね」
雰囲気的に(あと結の嗅覚曰く)彼女も契約者のはずなのに
緊張感がなさすぎではないだろうか。鈍感なのか大物なのか……
なんにせよ、今はこれ以上の厄介事が舞い込まないことを祈るばかりである
666
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:06:58 ID:cQ6fb3cU
ダメでした。何故か開いていた玄関から"ゾンビ"っぽいのがなだれ込んできた
いくらなんでも防犯がザルすぎるでしょ?!
「いやあああああこないでええええええええ!!!?」
「豊香邪魔!ひっつくな!結、頼んだわよ!!」
「ああ、任セロ」
「篠塚さん顔怖っ?!変身系か!!?」
「危ないから刀也さんも下がってください!ここは私が抑えます!」
「でもテケテケ、この数は……!」
「問題ない。俺ダけデ十分ダかラ、テケテケハ反対側の警戒を頼む」
「えっ?!でも刀也さんのご友人を危険に晒すのは」
結を説得しようとしたテケテケの頭上をビュンと影が横切る
結の背中側から黒い鱗に覆われた長い尻尾が伸びて死体の群れに振るわれたのだ
迫ってきた死体の群れが紙屑のように元いた方へ吹き飛ばされていったのを見て
半田君とテケテケは呆然としているようだ。まあ無理もないが……
「ドうシた?一階に留まルのハ不味ソうダ、二階に上ガルゾ」
「いやいやいや!えっ、なに、篠塚さんそんなに強かったのか?!というか声が違う!」
「結は基本週六で都市伝説退治しに行ってるわよ」
「えっ。私と刀也さん週末くらいしかそういうのやってないんですけど……」
「のんきに会話してないで篠塚さんの言う通りに逃げよう?!」
「じゃあ早く立ってよ」
「ごめん真理ちゃん。腰抜けたから担いで」
「無茶言わないでよ。半田君、手伝ってもらっていい?」
「お、おう。で、どうやって運ぶんだ?」
「とりあえず脇に腕を通すように後ろから抱えて。私が足持つから」
「分かった……テケテケは先に階段を登って警戒してくれ」
「分かりました」
半田君が指示を出すとテケテケが階段を駆け上っていった
結の方は……うん、安定して追い払ってる。とはいえ早く上に行こう
667
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:07:28 ID:cQ6fb3cU
「ところで半田君」
「なんだよ」
「たぶん豊香の胸を触ることになると思うけど私が許可する。思いっきりやれ」
「はぁ?!」
「ちょっと真理ちゃん!!?」
「下手に遠慮して力抜いたら落としかねないでしょ。どうせ減るものじゃないし」
「減るよ?!心の中の大切な何かがゴリゴリ削れちゃうよ!!?」
「…………あ、ダメだ。触らないようにすると思ったより力入らねえ」
「でしょう?というわけで豊香。覚悟決めなさい。緊急事態なんだから」
「うー…………や、優しくしてね?」
「いや落とさないようにしっかり持ってね?それじゃそろそろ行くわよ」
「わ、分かった……よっ!」
半田君と二人がかりで発育良好な分、重量のある豊香を抱えて二階に上がる
豊香はその間ずっとこっちを睨んでいた。気持ちは分かるけど必要だったのだ。許せ
さて二階は……ひとまずゾンビに先回りはされていないようだ
「二階に異常なし!」
「分かった、スグ向かう!」
結に声をかけてしばらくは鈍い音が鳴り響いていたが
やがて静かになったかと思うと、顔や喉に黒い鱗を生やした結が上がってきた
「ゾンビは?」
「殴っていたラ消えた。数は多いガ随分と脆いようダ」
「とはいえまた出てきそうよね……どうしたのそわそわして」
「着替えたい」
「……手短にね」
「ああ」
結が鞄を開けていつものトレンチコートと覆面を身に着け始める
こんな時でも格好は気になるのか。と思っていると豊香が話しかけてきた
668
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:08:38 ID:cQ6fb3cU
「みんな……契約者だったのね」
「気づいてなかったの?」
「全然。って、もしかして真理ちゃんは分かってたってこと?」
「結もね。あと半田君もでしょ?」
「まあ、そうだな。流石に何と契約してるのかは分からないけどさ……」
「そんなの私と結だって知らなかったわよ」
「えぇー、なんでみんなそんなに分かるの?」
「雰囲気かな」
「というか豊香が鈍感すぎるんじゃない?」
「そんなバカな」
心なしか肩を落とした様子の豊香だが、すぐ顔を上げて話を続けることにしたようだ
「私の契約都市伝説は"蛤女房"よ。飲むと回復するポーション的なものが作れるわ」
「えっ、尿から?」
「違うわよ!手に湧かせたりもできるの!」
「……も、ってことは尿自体に効果はあるのね」
「の、ノーコメント……」
その反応はもう答えを言ってるようなものだと思う
それにしても回復系は珍しいと聞いた覚えが……となると
「所属は?」
「しょ、所属?」
「あ、俺とテケテケはフリーだから。今のところ困ってないから"組織"のは断った」
「組織のは、っていうと……"首塚"あたりにも接触されてる?」
「前に危ないとこ助けられて名前聞いたくらいだよ。よければ来るか?とは言われたけど」
「助けられたといえばこの前の、かめんらいだー?の方々は何者だったのでしょうか?」
「フリーだったのかもな。ライダーって都市伝説扱いなのかって驚いた……相生さん?」
「……ねえ、そのライダーってショートヘアの女の人か、黒い犬と一緒にいなかった?」
「え?ああ、確かにどっちもいたけど。もしかして知り合いなのか?」
「それ、"怪奇同盟"って集団に所属してる人。というか結のお父さんよ」
「マジかよ……世間は狭いってこういうことなんだな」
「でも怪奇同盟というのは聞いたことがないですね?」
「トップが不在で実質解散状態らしいわよ。良かったら今度会いに行く?」
「本当か!色々話を聞いてみたかったんだよなー!」
「よかったですね刀也さん!」
「ねえ待って。私が置いてけぼりだから!所属ってなに?!組織?首塚?なんのことよ!?」
「潮谷さん……」
「豊香どっちも知らないんだ……」
「その哀れむような感じやめてくれる!?」
669
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:09:11 ID:cQ6fb3cU
いやまあ、実際のところ知らない可能性はあってもおかしくない
契約したとして目立つようなことをしなければ目をつけられることもないはず
半田君は積極的に都市伝説退治をしているようだから接触しやすかったのだ
しかし豊香の都市伝説は戦闘向きではない。表立って動いたことがなかったのだろう
逆に言えば表立って動いていたならば既にどこかに勧誘されていなければおかしい
「そもそも豊香、どうやって契約したのよ」
「昔海水浴に行った時、砂を掘ってたらすごく大きい貝を見つけたの
それを使って遊んで最後に海に投げたんだったかな……で、最近になって
夢の中に女の人が出てきて、実はあの時契約してましたって色々説明された」
「なにそのパターン初めて聞くんだけど……待って、昔っていつ?」
「えーっと5年前かな」
「小2から?よく襲われなかった、って豊香は小学校卒業後にこっち来たんだっけ?」
「そうだけど……襲われるってどういうこと?」
「契約者は都市伝説に襲われやすいって聞いたことない?」
「初耳なんですけど?!」
たぶんその夢の女の人、蛤女房なんだろうけど色々抜けてそうな気がする
あと半田君とテケテケは小6の11月頃に出会ったそうだ。意外と最近だ
そんな話をしていると着替え終わった結、もといゴルディアン・ノットが近づいてきた
「待たセたな。ソレデ、ここかラドうやって脱出すル?」
「一番早いのはあんたに窓から運んでもらうこと。でも気になるのよね、この状況」
「ねえ篠塚さんなんでそんな格好してるの?」
「俺もソレは気になル。ソもソも正面玄関の扉ガ開いていルのハ、おかシいダロう」
「確かに妙だよな。普通は施錠されてるはずだし」
「そのマスク手作りとか?ねえ篠塚さんってば」
「何者かが既に校舎に侵入しているということでしょうか……?」
「可能性はあるわね。ゾンビの出たタイミングからして、私たちとほぼ同時だったのかも」
「半田君とテケテケちゃんは気にならないの?気になるでしょ?」
「そういえばゾンビたちが出始めたの、俺たちが入ってすぐだったよな」
「しかも彼らは普段施錠されている玄関から入ってきた。開いてると知っていたのよ」
「奴ラハ我々デはなく施錠を解いた侵入者を追ってきた。ソう言いたいのか?」
「本当に可能性でしかないけどね。でもこれが事実だとすれば……」
「無視しないでよ!!」
豊香が地団駄を踏んでいるが、大事な話をしているのでそういうのは待ってほしい
670
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:09:41 ID:cQ6fb3cU
「私たちの選べる道は二つ。このまま帰ること。もう一つは調査をしてから帰ること」
「俺とシてハ、真理にハスグにデも帰ってほシいところダガ……」
「あれ、篠塚さん真理ちゃんの呼び方変えた?」
「冗談でしょ。私一人で帰宅するくらいならあんたと一緒にいる方が安全よ」
「確かに篠塚さん強いみたいだからな」
「ゴルディアン・ノット、ダ」
「あー……今はゴルディアン・ノットだから、ってさ」
「どういうこと?」
「ああ、ヒーローネームってことか!分かるよそういうの!」
「まあ長いし適当に省略して呼んであげてくれる?」
「えっと、じゃあ……ゴルディーさん?」
「hmm......ゴーディ、デいい」
「おー!愛称もかっこいい!」
「えー、そう?」
男子と結のセンスについていけないのは喜ぶべきなのだろうか
もっとも、ヒーローネーム自体に首をかしげている豊香より染まっている自覚はあるが
「それより刀也さん、私たちは……」
「おっと、そうだな……といってもここまで来て引き下がるのもかっこわるいだろ」
「そうですよね!それなら私は、全力で刀也さんを助けるだけです!」
「ありがとうテケテケ。頼りにしてるからな」
「お任せ下さい!」
そうこうしているうちに半田君は覚悟を決めたようだ
となるとあとは一人だけだが……
「豊香に選択肢はありません。ついてきなさい」
「ひどくない?!」
「逆に聞くけど一人でどうやって脱出するつもりなのよ」
「…………私も連れて行ってください」
「よろしい」
全員の意思は固まった。なら次にやるべきことは――――
671
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:10:18 ID:cQ6fb3cU
「後ろ三秒後行くわよ!3、2、1、ゼロぉ!!」
後方に放り投げた"小玉鼠"が破裂し爆風と共に血肉を撒き散らす
体勢の崩れた"動く人体模型"をテケテケが体当たりで空中に浮かすと
半田君が鉄パイプをフルスイングして叩き壊す。戦い慣れを感じるいい連携だ
手の中に戻った小玉鼠を今度は何も言わず前方のゾンビの群れへ放り込む
ゴルディアン・ノットも心得たもので布紐でそっと落下位置を調整してくれる
群れの中に小玉鼠が落ちたのを見て即座に爆破。ゾンビがいくつか消えたようだ
「ぎゃー!!肉片飛んできたー!!?」
「安心して。小玉鼠の肉片はしばらくすれば消えるから」
「しばらく私このままなの?!」
「戦ってもないのにごちゃごちゃ言わない!……にしても、多いわね」
言ってるそばから後方にまた新しい人体模型がやってくる
幸い"人骨で作られた骨格標本"も人体模型も同時に1つずつしかいられないようだ
後方にゾンビは回り込んでいないので敵が2体だけなのは助かる
なにせ前方では階段を上がってきたゾンビの群れが渋滞を起こしているのだ
ゴルディアン・ノットも奮闘しているがなかなか数が減ってくれない
二階から上は一通り調べた。もう一階しか手がかりを得られそうな場所は残っていない
それなのにいざ降りようとしたら上に向かって溢れ出してくるゾンビたち
慌てて二階廊下に下がったのが裏目に出た。強引に通るべきだったのだ
「手ガ足リないな」
ガシャリとゴルディアン・ノットの胴体に巻きつく鎖が音を立てる
しかしそれに続く幼馴染の呟きを私は否定する
「進展はしているわ。無理をする必要はないでしょ」
「時間ハ有限ダゾ」
「でも手札を切るには早すぎる」
「……なラ、ペースを上ゲルとシよう」
ゴルディアン・ノットの腕や体に巻きついていた布が、縄が、さらに鎌首をもたげる
それは糸と共に紡がれた女性の負の感情から、蛇の姿に変じた帯の妖怪
拡大解釈により蛇の異名である"朽ち縄"をも操るようになった彼女の契約都市伝説
"機尋"――繊維を束ねて形作られた無数の蛇が、主たる女の心の赴くままに牙を剥く
まあ、所詮は布と縄なので牙はないのだが……数の暴力はそれだけで脅威となりうる
672
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:10:51 ID:cQ6fb3cU
長さすら自在の無数の布と縄がゾンビを締めつけ、時に四肢を千切って捨てる
ゾンビの消えるスピードは早まったがゴルディアン・ノットの動きは鈍ってきた
いくら人外とはいえ無数の蛇を操りながら肉弾戦というのは難しいのだろう
ここが踏ん張りどころだと自分の心を叱咤して小玉鼠をゾンビに放る
できるだけ爆発の威力を上げ、より効果的に倒すため群れの奥へ向かって投げる
正直、投げる腕が辛くなってきたがここで私が休むと他の負担が増えるわけで
結局のところ無心で投げて起爆するしか私にできることはないのであった
だから豊香。投げるのに邪魔だから話しかけたり縋りつくのやめてくれないかな?
「刀也さんあれ!」
「おいおい、マジかよ……」
豊香を軽く蹴っ飛ばして引き離していると後ろで動きがあったようだ
人体模型と骨格標本、その後ろから近づいてきたのは……
「"歩く二宮金次郎像"……しかも石像じゃなくて青銅製か」
「真理ちゃん真理ちゃん!これマズいんじゃないの?!」
お荷物状態の豊香に指摘されるのは癪だが、実際状況は悪い
後ろは半田君とテケテケに私の援護があってなお拮抗していたのだ
ここで敵の増援が現れたということは……このままだと後ろが崩れる
どうする?進むことも引くこともできない。足りないのは、戦力……
「やるしか――――」
「――――お前達、伏セていロ!」
ゴルディアン・ノットの声に思考の海から意識が浮上する
見えたのは前方から後方に伸びる、複数の布と縄……それが向かう先は
673
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:11:54 ID:cQ6fb3cU
「早く伏せる!」
「ふぎゃっ?!」
ハッとして状況を分かっていない豊香の頭を掴み、強制的に伏せさせる
廊下にどこかぶつけたらしく痛そうな音と悲鳴が聞こえた。ごめん
チラッと後ろを見るとテケテケは伏せ、半田君は横に飛び退いていた
そしてその奥、布と縄で縛り上げられた二宮金次郎像が持ち上がり……
ゴウッと音を立てて私たちの頭上を通過する。その先にはゾンビの群れ
まるでボウリングでもしているかのようにゾンビという大量のピンが
二宮金次郎像という大質量のボールに弾かれて光の粒へと変わっていく
「走って!階段まで!!」
叫ぶと同時に豊香の手を引っ張って走り出す
廊下からゾンビが一気に減った今が一階に降りるチャンスだ
まだ残る少数のゾンビを消していくゴルディアン・ノットの横を抜けて
階段で未だにひしめき合っているゾンビ達に小玉鼠を放り投げる
「これで……どうよ!」
着弾と同時に今夜一番の威力で起爆。耳に痛い破裂音と
ビリビリと空気を震わせる爆風が階段に空間をこじ開けた
「よし、ゴーディは先に降りて蹴散らして!後は私がやる」
「心得た」
「半田君は豊香をお願い」
「分かったけど、相生さんは?」
「残りを足止めするわ。早く行って!」
「でも……」
「刀也さん行きますよ!」
全員が横を通り抜けたのを確認して小玉鼠を放り、爆破する
集まりかけていたゾンビと人体模型、骨格標本が
まとめて吹き飛んだのを確認して私もみんなの後を追った
674
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:12:34 ID:cQ6fb3cU
「おい、アレなんだ?!」
半田君の声に一階廊下の奥へと目を凝らす
ひしめくゾンビの向こうに白い巨大な何かが暴れるのが見えた
「あの辺りは……なるほどね。ゴーディ、白いのに向かって!」
「分かった!」
ゾンビを蹴散らすゴルディアン・ノットの背中を追うように
肩で息をする豊香を連れて半田君やテケテケと共に移動する
後ろから追いつこうとするゾンビを小玉鼠を散らしていると
遠目で見えていた白いものの姿がハッキリと見えるようになった
「なにこれ……紙で出来た巨人と、ゾンビが戦ってる?」
「いや頭に角がある。巨人というより鬼じゃないか?」
豊香と半田君が何か言っているが、たぶんコイツは……
「ゴーディ!」
「分かっていル」
ゴルディアン・ノットの腕から布と縄が飛び出し鬼を拘束する
振りほどこうとする鬼を、ゴルディアン・ノットが尾で打ち据えた
そして私は……
675
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:13:17 ID:cQ6fb3cU
「二人とも伏せて!」
「へぐぅ?!」
「潮谷さん?!」
豊香の後頭部を掴んで強引に伏せさせるのと同時に
小玉鼠を鬼とは反対の方向に投げつける。そこには
「紙で出来た鳥?!」
「鼻が……鼻が潰れたぁ……」
「テケテケさんお願い!」
「分かりました!」
突撃するも小玉鼠に撃ち落とされた鳥に
テケテケが組み付き床に叩きつけると、鳥はバラバラの紙片になった
「……こレデドうダ?」
鬼の方を見ると、ゴルディアン・ノットが頭部に掌底を叩き込んだところだった
頭が爆散するように吹き飛び、体も後を追うように紙片へと変わっていく
「よくわかんないけど……終わった、のか?」
「終わってない終わってない!だってほらゾンビが!」
豊香の言う通りゾンビが徐々に包囲を狭めて迫ってくる
だが……
676
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:14:00 ID:cQ6fb3cU
『持ち場に戻れ』
威厳を感じる声がすぐ近くの扉の中から発せられる
同時にゾンビは私たちに興味を失ったように踵を返して歩いて行った
『下校時間は過ぎているぞ。君たちも早く帰りなさい』
「……ど、どういうこと?」
「もう肝試しは終わりってことよ」
混乱している豊香の手を引っ張って玄関の方へ歩いていく
「あれ、校長室だよな?てことはあの声は……」
「"歴代校長の写真が動く"とかそのあたりだと思うわ」
「校長だから学校の都市伝説に命令できる、ということでしょうか?」
「たぶんね。何かしら命令出してるのがいそうだな、とは思ってたから」
半田君とテケテケに受け答えしながら考える
二階での襲撃が執拗だったことから、都市伝説に司令塔……
何かしら命令を出している存在がいる可能性は考えていた
問題は私たち以外のもう一方の侵入者だ
紙で出来た鬼と鳥。あれは恐らく――――
「なぁ真理」
「ん、なに?」
「肝試シハ楽シかったか?」
覆面の下に表情を隠して冗談を言う彼に、私も意味深な笑みで言葉を返す
「ま、あんたがいたから退屈はしなかったかな」
【続……?】
677
:
ゴルディアンの結び目 04:肝試し(裏)
◆MERRY/qJUk
:2016/12/28(水) 00:14:53 ID:cQ6fb3cU
――中学校から少し離れた電柱の上に人影があった
「で、陽動の"式神"は両方とも潰されたと」
『ああ。でもまぁ、問題ねえよ。肝心の仕込みは済んだんだろ?』
「ひっひっひ……当たり前だよぉ。儂にかかればちょちょいのちょいさね」
『相変わらず気味の悪い話し方になってるな……しかし見られちまったか』
「消すかい?」
『消すまでもねえよ。それより次だ』
「そうかい。やれやれ、婆使いが荒いねえ」
『だから俺より年下だろうが……』
その言葉を最後に電柱の上から人影は消える
この街の深い夜闇に紛れて、今日も誰かが策謀を巡らせる――
【続】
678
:
夢幻泡影
:2016/12/29(木) 23:36:14 ID:6X98F7cU
“出会い”とは時に残酷である
「あれ、何か動いた?」
決して交わるはずのなかった一人と一人
「――――何ダ、“アレ”ハ?」
やがて彼等は邂逅し
「ヘビでもいるのかな? 野生のヘビとか興奮だわ。おーい」
「私ハアノヨウナ“異形”ヲ見タ事ガ無イ……一体何ダ!?」
そして
「つってヤマカガシやマムシだったらどうしよ…う?」
「待テ! オ前ガ何者カ……ッ、光ッ――――――」
―――――――開闢の時だ。がっひゃっひゃっひゃ……
679
:
夢幻泡影
:2016/12/29(木) 23:38:25 ID:6X98F7cU
「…何あれ」
黄昏町という町がある
時は2004年8月、熱いナイフのような日差しの中、セミの合奏が響くその黄昏町の山奥
小学校低学年程の少年―――黄昏裂邪は、不思議そうに独り呟いた
それもその筈である
ガサガサと草の中を動くヘビか何かを追いかけていた彼にとって、その光景はあまりにも想定外だった
木に凭れ掛かる人間……の、ような“何か”
黒いローブを身に纏い、顔は窺い知れない
いや、本当に顔はあるのだろうか
覗き込めば忽ち飲み込まれてしまうような、見るからに黒しかないそれは、
まるで闇がローブを纏い形を持っているかのようだった
仮に裂邪が現実を見過ぎ、常識に埋もれた大人だったなら正気を保てなくなるだろう
だが彼は幼かった
ヘビじゃないけど凄い奴見つけた――――そのくらいにしか気に留めていなかった
「ねぇねぇ」
「……子供カ……何ノ用ダ?」
胃を揺さぶるような重い声で、“何か”は答える
よく見れば、肩で息をしているようだった
「えっと…誰? てか、人間?」
「…質問ガ多イナ……マァ、良イダロウ
少年…都市伝説トイウノヲ知ッテイルカ?」
「あ、知ってる知ってる、「口裂け女」とか「トイレの花子さん」とかでしょ?
……え、もしかして都市伝説なの!? うわーナマで初めて見た」
「騒ガシイナ…如何ニモ、我々ハ「シャドーマン」ト呼バレル都市伝説ダ
都市伝説ハ、同種デモ性質ガ異ナル場合ガ多イ…
我々ハ人知レズ影ヲ彷徨イ渡リ歩ク……ソウヤッテ今日マデ過ゴシテキタ」
「今日までって?」
「クフフフフ…我ナガラ馬鹿ナ事ヲシタモノダナ
我々ハ光ニ弱クテナ…少シ外ニ出レバ、コノ様ダ」
「ッ……死んじゃう、のか?」
「人間ニ譬エレバ…ソウナルナ
コノ世カラ我々ハ跡形モ無ク消エル
強イテ言エバ、オ前ノ記憶ノ片隅ニ残ル位ダロウ」
「おい、消えるって…死ぬってそんなことなのかよ
辛いとか悲しいとかないのか!?」
「人間ヤ他ノ生物、或イハ他ノ都市伝説ニハアルダロウ…私ニソンナ便利ナ感情ハ無イ
只、私ハコノ世界ヲ見タカッタ」
「……世界?」
「ドウイウ理由デ、ドウイウ工程デ我々ガコノ世ニ生マレタノカ…
分カリ得ナイガ近付ク事ハ出来ヨウ
コノ世ニ存在スル全テノ生物、事象、光景―――――ソノ全テヲ記憶シタカッタ
最早戯言デシカ、無イガナ……全テガ、遅カッタ」
「遅くないよ。まだ、間に合う」
「……何?」
裂邪は、「シャドーマン」の傍でしゃがみ込むと、
顔をのぞきながら、すっ、と手を差し伸べた
680
:
夢幻泡影
:2016/12/29(木) 23:39:01 ID:6X98F7cU
「…何ノ真似ダ?」
「ボロっちい本に書いてた。都市伝説は、人とケイヤクできる
どうやればいいか分かんないし、どうなるかも分かんない
でも、ケイヤクすればお互いに強くなれるって…そう書いてたと思うんだ」
「正気カ? オ前モ死ヌカモ知レンゾ」
「俺は死なない。俺にも夢があるんだ
お前と…「シャドーマン」と、同じ」
「ッ……」
「俺も生き物が好き。黄昏町の山も川も、いっぱい遊んでいっぱい探した
違う。こんな小さな町で生き物を見たいんじゃない
ライオンやパンダ、ジンベエザメ、ホッキョクグマ、ペンギン
この世界の生き物を、ありのままで見てみたい
頑張って生きてる姿を、そのままで
だから……一緒に行きたいんだ、「シャドーマン」と」
「少年…」
「ねぇ、「シャドーマン」…俺と、契約しない?」
裂邪が言い終えるや否や、「シャドーマン」の身体が、僅かに震え始めた
笑っているのか、それとも泣いているのか
それはもう、誰にもわからない
「…強カナ少年ダナ…良カロウ、気ニ入ッタ
ドノ道消エユクコノ命……オ前ニ預ケヨウ!!」
瞬間
裂邪がふと、己の両掌を広げてみた
熱い
何かが流れ入ってくるような、不思議な感覚
今までに感じたことのない体験が、暗に成功したことを知らせてくれる
都市伝説との、契約を
「こ、これって、成功したのか―――――うおっ、「シャドーマン」?」
気が付けば「シャドーマン」は、すくっと立ち上がっていた
こちらもまた、不思議そうに辺りを見回して
「……何トイウコトダ……奇跡カ?」
「おぉ、元気になったじゃん!
あれ? でも光、苦手じゃ…」
「成程、契約スレバ都市伝説モ力ヲ得ルト聞イタガ…コレ程トハ
少年ヨ、有難ウ。オ前ハ命ノ恩人ダ」
「え、あ、いや、その…ウヒヒヒ、バカ、照れるだろ」
「ダガ…都市伝説ノ契約者トナッタ今、何ガ起コルカ分カラナイ
我々モ尽力スルガ…常ニ死ト隣合ワセダトイウコトヲ忘レルナ」
「大丈夫大丈夫、俺喧嘩強いし
あ、そうだ、「シャドーマン」」
「ム?」
681
:
夢幻泡影
:2016/12/29(木) 23:39:34 ID:6X98F7cU
「折角だから名前決めようぜ?
ほら、「シャドーマン」って長いし」
「名前…我々ニハ無カッタ文化ダガ、良イダロウ」
「よし! じゃあ今日からお前は“ツキカゲ”な!」
「エッ」
「え? ダメ?」
「イヤ、何カコウ……シックリコナイ」
「んーじゃあ……何かない?」
「ソウダナ…“シェイド”、ハ如何ダ?」
「おーカッコいい! んじゃ改めて、俺は黄昏裂邪! よろしくなシェイド!
あともう一つ、“我々”って言ってたけど、シェイドって一人じゃないの?」
「…ホウ、随分面白イ所ニ気ガ付クナ」
「生き物観察大好きだからね」
「先ズ質問ダガ、『カツオノエボシ』ヲ知ッテルカ?」
「電気クラゲって言われる猛毒のクラゲだね
でも本当はクラゲじゃない、それは見た目が似てるだけ
幾つものヒドロ虫っていう小さな生き物が集まって、それぞれの役割を持って1匹の生き物に……
え、ってことはどっかに違う形の「シャドーマン」が幾つもいるってこと?」
「…私モモウ一ツ聞コウ。年齢ハ?」
「ん? 8歳。小学2年生」
「ア、ソウ……ソノ通リダ
移動ヤ捕食、ソレゾレに長ケタ個体ノ“私”ガ影ノ中ニイル
私ハ“脳”―――思考ヤ記憶、ソシテ意思疎通ヲ司ル」
「マジか! すげぇな、じゃあ1回出してみ―――――――――――――、て、」
ふら、と膝をつき、少し呼吸が荒くなる
裂邪は自身に何が起こったのか分からなかったが、それでも気づいた
――――死ぬかと思った、と
「ドウシタ?」
「…なんか、影の中のシェイドを意識したら…」
「ソウ、カ……恐ラク、未ダソノ時デハ無イノダロウ
オ前ガ成長シタ時……ソノ時ハ見ラレルダロウナ」
「うーん、残念だけど、まぁいっか」
「デハ私ハ戻ルトシヨウ
必要トアラバ呼ンデクレレバ良イ
我々ハ、常ニ影ノ中ニイル」
そう言って、すぅっ、とシェイドは裂邪の影の中へと消えていった
「じゃあな」と呟いて、裂邪は笑みを浮かべて山の中を歩き出す
陽は傾き始め、黄昏時を迎えようとしていた
682
:
夢幻泡影
:2016/12/29(木) 23:40:29 ID:6X98F7cU
自宅の押し入れに隠してあった1冊の古い本
父親に強く叱られたが、その内容はしっかりと覚えていた
「ウヒヒヒヒヒ……ヒハハハハハハハハハハ!!
本当に…本ッ当に出来るんだ、世界征服!
これからシェイドと一緒に! 邪魔する奴らをぶっ殺して!!
この綺麗な地球を、俺のものにするんだ!!
ヒハハハハハハ!! ヒィッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
山奥に、少年の高笑いが木霊する
(ウワァ………大丈夫カ、コノ先……)
...to be continued
683
:
足音、足音?
◆nBXmJajMvU
:2016/12/31(土) 00:08:01 ID:pjJTxBTM
治療室を出て少し歩いたところで、ゴルディアン・ノットは冷たい空気を感じた
比喩表現ではなく、本当に空気が冷たい
まるで、真冬の寒空の下を歩いているかのような冷気
完全に乾ききっていない布の表面が、ぱきり、凍ったような
冷気の主はすぐに見つかる
司祭服を着た髪の長い男その男を中心に、辺りに冷気が広がっている
戦技披露海が始まってすぐ、その実力を見せつけていた「教会」所属の男だ
契約者……ではなく、契約者付きの都市伝説。飲まれた存在でもなく、契約者本人は戦技披露会には参加せず、単体で参加したという変わり種だ
男は、何やら思案している様子だった
己が強い冷気を発しているのだという自覚もあまりない様子だ
このように辺りに冷気が漏れているせいか、辺りに他に人影は見えない
別の通路を通るべきか、とゴルディアン・ノットが考えだした、その時
「あーっ!メルセデス司祭様、駄目っすよ。冷気、思いっきりダダ漏れ状態っす!」
後方から、そんな声がした
振り返ると、ぱたぱたと少年が駆け寄ってきていた
ゴルディアン・ノット……にではなく、レイキの発生源たる男、メルセデスにだ
少年の姿は見覚えが合った、と言うよりつい先程までいた治療室で見た顔だ
ぱたぱたと忙しく「先生」の手伝いをしていたうちの一人で、「先生」から「休もう?君がばらまいた羽で十分治療できるから君はもう休もう??」と何度か言われていた……確か、憐とか呼ばれていたか
憐の背後、もう一人同じ年頃の少年が居て、駆け出した憐のあとを追いかけてきている
メルセデスは憐に声をかけられた事に気づいたようで、顔を上げ………冷気が、弱まっていく
「もう。考え事してる時に冷気ダダ漏れになるの悪い癖っすよ」
「別に、このふざけた催し物の参加者ならこの程度平気だろ」
「戦闘向きじゃねー人もいるっすし、冷気が弱点な人もいるだろうから、っめ、っす」
自分より有に頭一つ以上大きい上、正体を隠す必要もないからか悪魔独特の威圧感を放つメルセデス相手に、慣れているのか恐れた様子もなく注意をしている
…もっとも、憐のような少年の注意等、メルセデスは意に介していないようだが
その事実は憐も理解しているようで、むぅー、と少し困ったような顔をしてこう続ける
「……カイザー司祭様も、気をつけるように、って言ってたでしょう」
「っち」
あからさまな舌打ちをして、漏れ出していた冷気が完全に止まった
契約者の名前なのだろうか。流石にそれを出されると従わざるをえないのだろう
メルセデスは、ゴルディアン・ノットや憐の後から駆けてきた少年にも気づいたようで、この場を立ち去ろうとし
「あぁ、そうだ、憐」
「何っす?」
「………「見つけた」からな」
ぴくり、と
一瞬、憐の表情が強張った様子を、ゴルディアン・ノットは確かに見た
メルセデスはそのまま、すたすたとどこかへと立ち去っていってしまう
「憐君、どうしたの?急に走り出して……」
「あ、えーっと。なんでもないっすよ、すずっち。問題は解決したんで」
追いついてきた少年に、へらっ、と笑いながら答える憐
そうして、ゴルディアン・ノットにも視線を向けて
「んっと、メルセデス司祭の冷気の影響、受けてないっす?凍傷とかの問題なさげっす?」
と、心配そうに問いかけてきた
「あぁ。特に問題ハない」
「そっか、ならいいんすけど………じゃ、すずっちー、観客席戻る前に、何か屋台で買っていこう。死人の屋台以外で。死人の屋台以外で」
「大事な事だから2回言ったんだね……って、死人の屋台?」
ぱたぱたと、少年二人は立ち去っていく
憐の方は少しふらついているようにも見えたが、とりあえずは大丈夫なのだろうか
……あのへらりとした笑みに、一瞬強張った瞬間の、感情を一切感じさせない表情の影は、なかった
.
684
:
足音、足音?
◆nBXmJajMvU
:2016/12/31(土) 00:09:27 ID:pjJTxBTM
時刻は、少し遡る
「年頃のレディの身体に何かあっては大変だし、きちんと検査したかったのだが」
仕方ないねぇ、と退室していくゴルディアン・ノットを見送りながら、「先生」はぽつり、そう呟いた
……つぶやきつつ、また服を完成させている
「うむ、こんなところか。フリルをもう少しつけても良かったが、他の者の服も作る必要ある故、これで」
「わぁ、見事にフリルいっぱいのホワイトロリータ」
「白き衣纏いし死神がいても良かろうて」
はい、と「先生」から渡された、フリル多めのホワイトロリータワンピースを受け取る澪
恐ろしいことに、サイズを聞いてもいないのにサイズがぴったりだ
目測で、完全にサイズを把握したというのだろうか
(……「先生」。もちろん、これは本名ではなく通称。所属は「薔薇十字団」。学校町にやってきたのは三年前……)
…そのような「先生」の様子をチラ見しながら、三尾は考える
やはり、きちんと思い出せない
「先生」に関して、特に天地が何か言っていた気がするのだが、三年前と言えば久々にバタバタしていた時期であったし、そもそもYNoはCNoとさほど親しく付き合いがあるわけでもない
元々、他のNoからの情報が不足しているとも言うが
念のため、もうちょっと知っておくべきではないか
そう感じたのは、黒髭が異常なまでに「先生」を警戒しているせいだ
灰人の「先生」に対する扱いのぞんざいさ(一応師弟関係らしいのにいいのだろうか)のせいで、「先生」が危険人物とは思えないのだが、あそこまで露骨に警戒していると流石に気になる
「連絡先の交換?」
「あぁ。このところ、「狐」だの人を襲う赤マントの大量発生だの……それに、誘拐事件が相次いでいるとも聞く。私は組織だった集団とはほぼ縁がなく、都市伝説関連の情報源が乏しくてな……少しは情報がほしい」
なので
黒髭の契約者たる黒が、「首塚」所属である栄と何やら話している間に、三尾はこっそりと黒髭に近づいた
「あの、ちょっといいですか?」
「あ?……「組織」か。何か用か?」
三尾に声をかけられ、黒髭は怪訝そうな表情を浮かべた
少し警戒されている気がしたが、構わず問う
流石に、小声でだが
「「先生」の事、警戒しているようですが。何故です?」
「……お前、「組織」だろ。あの白衣のことわかっているんじゃないのか」
「立場上……と言うか所属Noの性質上、そういった情報が少し入りにくいものでして」
「…マジか」
把握していなかったのか、と言うように黒髭が少し頭を抱えたような
ちらり、と黒髭は「先生」と灰人の様子をうかがってから、三尾に告げる
「あの白衣、元は指名手配犯だぞ」
「え」
「何が原因かまでは知らねぇが、発狂して正気失って、かなり色々やらかした奴だぞ。「組織」「教会」「薔薇十字団」「レジスタンス」、全てを敵に回して戦いきった化物だ」
ちらり、三尾はまた、「先生」を見る
……正気を失っている様子はない
「今は、一応正気に戻ってるらしいぜ。じゃねぇと、指名手配も解除されないし、「薔薇十字団」に所属も出来ねぇだろ」
「でしょうね。天地さんが頭を抱えていたのは、そういう事ですか」
恐らく、だが
「先生」が学校町に来たのは、学校町が様々な意味で特殊な場所だからだ
いくつもの組織の勢力がひしめき合い、しかし全面戦争にはならない場所
…そこに「先生」を置くことによって、かつて指名手配されていた頃に買った恨みで何かしら起きないように、との処置なのだろう
「しかし、今はもう指名手配されていないのであれば、警戒する必要は…」
「ある。正気戻ったつっても、腹の底では何考えてるかわかりゃしねぇ。今、噂の「狐」絡みじゃないだけマシではあるが」
「そこは断言するんですね?」
「……断言してぇんだよ。あれが「狐」の勢力下に入っていたら、シャレにならねぇ」
吐き捨てるように、黒髭は言い切った
「いくら俺だって、「賢者の石」と契約したと言われるような奴とは戦争したくねぇよ」
to be … ?
685
:
や
:2025/01/12(日) 20:57:27 ID:sAaYCGhY
これは入院中に、こんな展開有ったら面白いなーと妄想してたものです。能力が異なる場合があります。
ーーーーーーーーーー
視線の先には、付近一帯を吹き飛ばすための巨大な火の玉がある。
おそらく先ほどから姿を隠していた、ツングースカ大爆発の仕業だろう。
僕たちがここにいる事を相手が認識しているかは知らないが、あれに巻き込まれればひとたまりもない。
どのみち、今から退避するのは、もう無理だろう。
こんな時に仲間と逸れてしまうなんて、本当にツイてない。
右目も能力の使いすぎで、白目と黒目が反転した悪魔模様になっていて、さっきから破壊衝動を囁いている。
「ああもう! リボルバーもマスケットも壊れてる! 全部材料にするか……」
それても、少しでも可能性を広げるために、何もしない訳にはいかない。
黒服Yは自分のバッグをひっくり返して、使える物をかき集めいた。
持っいた護符の類は全て、黒服Oに押し付けてある。
彼女はいま怪我て走れる状態ではないが、治癒の護符や結界の札もあるから、多少はマシになるはずた。
「今創りたせ、あれに対抗出来る魔弾を……!」
「ねぇY! 待ってよ! ねえってば!」
魔弾の自由度はかなり高い。
『弾』のみならず、頑張れは撃ち出すための『銃』も生成出来る。
あとは想像力と材料と気力次第だ。
ガラクタもスクラップも使える物は集めた、やる気も沸騰するぐらい滾ってる、あとは組み立てるだけだ。
「魔弾・生成……」
目を閉じる。
ーーーーーー
▶一人で作る
「力を貸せよ悪魔。今から最高のおもちゃを作るんだ」
開いた目は左右とも悪魔模様に染まっている。
「モデルは戦艦の主砲だ、敵を打つ砕け! カスタム・サイズオフ・ラストショット・アンカーで固形!」
「ちょっと聞いてるの! Y!!」
「ロマンを詰め込めっ! しっかり護れよ、古の戦艦!」
材料は形を崩し、混ざり合い、望み通りに形を成していく。
ロマンを詰め込んだ、唯一無二の最高のおもちゃ。
黒服Yは少しだけ後ろをすり替えって。
「大丈夫だから、そこに居てよ、O」
轟音と赤い閃光か視界を埋めつくし、何も見えなくなってゆく。
「……ゲホッゲホッ……くっ」
黒服Oが目を覚ました時、周りは瓦礫の山になっていた。
「足は…まだ動く、両手も力は入る。……どうなったのよ、Y……」
ふらつきながら、辺りを探していく。
そして、それを見つけて、その場に座り込んでしまった。
「だから待ってって……言ったじゃない……」
エンド1
686
:
や
:2025/01/12(日) 20:59:21 ID:sAaYCGhY
ーーーーーー
▶二人で作る
目を閉じたまま、長く息を吐いて。
「O! Oも手伝ってよ」
「……えぇ。……えぇ! 当たり前じゃない!」
黒服Yの目は普通の色に戻っていた。
…………
「できたわ! 名付けて、堕ちた陰陽師・一縷の光と叛逆の矢よ!」
「うわぁ……今冬公開とか言いだしそう名前……」
出来上がったのは弓矢だった、正確に言えばバリスタと鏑矢だ。
渡した護符や、黒服Oの手持ちの布を全て使って、雅な雰囲気が出でいる。
顔を見れば、やり切った満足感が窺える。
完成した魔弾について、説明したくないけど説明しよう。
まず鏑矢、これは破魔矢と同じで悪い物を退けるこうがあり、音をよく鳴らすために何故か高速で回転して飛ぶ。
バリスタは、普通の弓だと威力や反動を支えきれないため、固定式の射出装置になった。
そして魔弾は魔属性、悪属性があるため、そのままだと聖属性、善属性の物は扱えない。
そこを『堕ちた陰陽師』と名付て作成する事で、悪属性を持たせて制限ん回避。
名付の後半部分は、強大な敵に抗う1本の矢という現在な状況を示し、状況を限定することで威力の底上げをしている。
黒服Yは、もしかしたら黒服Oの方が自分よりも魔弾の性質に詳しいんじゃないかと不安に感じた。
「よし。征け!
放たれた鏑矢は、甲高い音を響かせる飛んでいく。
その音は護られている安心感があり、黒服Yはこれなら王蟲もすぐに鎮まりそうだと変な事を考えていた。
発射後のバリスタを壁になるように起こし、2人でそこに隠れた。
黒服Yは黒服Oを守るように胸に抱く、衝撃に備えた。
「きっと、大丈夫だよ」
轟音と赤い閃光か視界を埋めつくし、何も見えなくなってゆく。
「……痛って……どうなった……?」
黒服Yは気を失っている黒服Oをバリスタにもたれかけると周囲を見回した。
自分達を中心にして、ほぼ円形の範囲でほとんど被害が出ていないようだった。
どうやら鏑矢の音その物に護りの力があり、周囲のみを守ったようだ。
「ははっ、すごいな、Oは。まだ矢の原型が残ってる」
黒服Yのみで魔弾を設計すれば、こんな強力な魔弾は作れなかっただろう。
矢を引き抜た黒服Yは、黒服Oを起こすため戻っていった。
エンド2
687
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:29:28 ID:5Br.uEN2
「六本足のコカトリス?」
「そうっす。先輩、知らないんすか?」
深夜、人々が眠りにつく頃。
郊外の廃工場に彼らはいた。
共にフードを被った二人は、物陰に身を隠し『獲物』が来るのを待っていた。
「結構有名なフリーの多重契約者っすよ。あちこちで派手に仕事しているとか」
「生憎、聞いたことねえな。よくわからんが【コカトリス】と契約しているのか?」
「いや、それが違うんすよ」
どこか得意げに『後輩』は人差し指を振った。
「契約しているのは【六本足の鶏】と【姦姦蛇螺】っす。で、鶏と蛇繋がりでコカトリスって呼ばれてるんすよ」
「ああ、それで『六本足のコカトリス』か。で、噂になるってことは強いのか?」
「そりゃもう、一時期は『組織』と敵対していた時期もあるみたいっすから。でも」
「でも?」
先輩と呼ばれた男は、話に耳を傾けながら外に目を向けた。
雲一つない空には、煌々と輝く満月が浮かんでいる。
獲物はまだ来ない。
「強いのはあくまで【姦姦蛇螺】本体らしいっすね。何でも特殊個体で大蛇と巫女が分離しているとか」
「へえ、特殊個体か。そりゃ珍しい」
「ええ。大蛇の方は怪獣並のサイズで暴れたら手が付けられなくて、巫女も巫女で即死クラスの弾幕を連発してくるとか」
「……ヤバいな。で、契約者本人と【六本足の鶏】はどうなんだ?」
「ああ、そっちはあんまり大したことないらしいですよ」
へらへらと後輩は笑った。
「【六本足の鶏】は鉄火場に姿を現さないし、契約者本人は体術が少し使える程度とか。主力はあくまで【姦姦蛇螺】っすね」
「契約者本人を叩けば何とかなるタイプか。分断するか奇襲すればどうにでもなりそうだな」
「そっすね。……元ボスを殺した契約者とは真逆っすね。あいつは白兵戦の鬼でしたから」
「ああ、俺達は運良く生き残れたけどな。……おい、来たぞ」
外から聞こえた足音で二人は意識を切り替えた。
物陰に身を隠しながら、そっと入り口の方を窺う。
そこから現れた契約者を襲うのが今夜の『彼ら』の任務だった。
「……確か『雇用主』が偽の依頼で呼び出したんですよね」
「ああ、だから相手は交渉のつもりでこの場に来る。その隙を利用して仕留める」
能力を使う暇も与えずに、屋内へ足を踏み入れた瞬間に襲う。
それが事前に決めた作戦だった。
単純極まりない内容だが、彼らには性に合うやり方だった。
「手筈通り、最初に仕掛けるのは『犬達』だ。それで仕留められたら万々歳。例え失敗しても」
「俺達が仕留めればいいっすよね」
鋭い『牙』を覗かせ、後輩は舌なめずりをした。
同じく身を潜めている仲間達や『犬』を確認するように工場内を見回す。
「外にも犬を潜ませているから逃げられる心配もない。ここにノコノコ来た時点で向こうの詰みだ」
「袋の鼠ってやつっすか。ところで先輩、相手の能力はわかってるんすか?」
「都市伝説名まではわからないが炎を操る力を持っている。使わせるつもりはないが最悪」
「犬達を盾にすればいい、ですよね?」
後輩の言葉に男が頷く。
「減ってもまだ増やせばいい。昔のように派手には動けないが欠員を補充する分には問題ない」
「そっすね。ああ、早く昔みたいに派手に暴れたいっすね」
「今は我慢の時だ。仕事をこなして後ろ盾を得るまでな。……と始まるぞ」
廃工場の入り口前に獲物である契約者は姿を現した。
ラフな格好をした三十代くらいと思われる男だ。
彼は警戒した様子もなく、廃工場へと足を踏み入れた。
その瞬間
「一方的な狩りがな」
物陰から飛び出した複数の【人面犬】が彼に襲いかかった。
688
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:38:40 ID:5Br.uEN2
この時点で勝敗は決した筈だった。
後は【人面犬】によって肉塊となった獲物を処分か、弱ったところを嬲るだけ。
いつもの簡単な任務だと男達は思っていた。
しかし現実は違った。
「せっ、先輩。あれは一体」
思わず言葉が漏れた後輩の口を男はふさいだ。
自分も息を潜め、冷や汗を掻きながら入り口の方を見る。
そこには未だ健在の契約者と横たわる人面犬達の姿があった。
男は自分の見たものが信じられなかった。
【人面犬】が獲物である契約者に襲った時、彼は特にこれといったことをしなかった。
それにも関わらず、人面犬達は突如動きを止めると仰向けになり服従の姿勢を取った。
自分達が把握していない能力を敵は持っているのか?
焦りを押さえながら、男は思考を巡らせた。
次にどう動くか頭を働かせようとしたが
「っ! あのバカ!!」
それより先に仲間が行動に出てしまった。
入り口の近くに潜んでいた一人が、隠れるのをやめ契約者に飛びかかる。
勇ましい咆哮を上げ、刃物より鋭利な『爪』を突き出しながら。
だがその一撃が届くことはなかった。
「がはっ!?」
襲いかかった同志は逆に吹き飛ばされた。
契約者の放った強烈な横蹴りによって。
返り討ちにあった同志は、受け身も取れず床を転がり蹲(うずくま)る。
一方、契約者は気にした様子も見せずに男達の潜む方へと歩いてくる。
すると、他の隠れていた同志達も物陰から姿を現し襲いかかった。
正体不明の敵に対する恐怖心を隠せないまま、叫びを上げて。
彼らは皆、フードを脱ぎ頭部を剥き出しにしていた。
人間とは程遠い、犬にしか見えない顔を。
【犬面人】。
【人面犬】とセットで語られる狼男もどきの都市伝説が彼らの正体だった。
ただ、男と後輩の二人だけは依然姿を隠していた。
689
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:39:38 ID:5Br.uEN2
「せっ、先輩! あいつ一体何なんすか!? 事前の情報と全然違うじゃないですか! 先輩!!」
「黙れ! それより早くずらかるぞ。これ以上、ここにいたら不味い」
「ずらかるって。他の連中は」
「見捨てるしかねえ。わかんねえのか、俺達は」
二人が言い争う間にも、犬面人達は打ち倒されていった。
ある者は上段廻し蹴りを食らい、ある者は膝を踏み砕かれ、ある者は腕を取られ頭から床へと叩きつけられた。
攻撃を食らった者は立ち上がることなく倒れるしかない。
どこまでも一方的な蹂躙だった。
「嵌められたんだよ!!」
説得する暇も惜しいとばかりに、男は後輩を促し一刻も早く逃げだそうとする。
このわずかの間に彼はわかってしまった。
自分達が『雇用主』に嵌められ、逆に狩られる側になったことを。
「で、でも待って下さい! あいつさえ倒せばまだ」
「駄目だ。どうせ別働隊もいる。外の犬共も今頃やられているかもしれない。それに」
契約者の男の背後から二人の【犬面人】が攻撃を仕掛ける。
彼が正面の同志へ対処している隙を狙って。
「あの契約者は普通じゃない」
攻撃が届くよりも先に、二人の【犬面人】は事切れた。
契約者の背中から、服を突き破って生えた二本の腕に首を折られて。
そのまま雑に投げ捨てられる。
「……あ、あんなのって」
「わかっただろ。早く逃げるぞ。このままじゃ俺達も――」
男の言葉はそこで止まった。
契約者の視線が自分達に向けられている事に気づいたために。
「ひっ」
人間味を感じない、ガラス玉のような目に後輩が悲鳴を上げた。
崩れ落ち、身動きを取れずにいる。
先程の人面犬達と同じように。
怯えた様子こそ見せないが男も同様だった。
彼は目の前の契約者に、恐怖心を植え付けられたことを自覚せずにいられなかった。
本能が目の前の化物に逆らうことを拒絶していた。
「……蛇に睨まれた蛙、か」
これから自分達に待つ末路よりも、目の前の契約者の方が男は怖かった。
690
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:42:22 ID:5Br.uEN2
「仕事が済んだから朝までには帰る。飯も用意しといてくれ」
「わかりました。契約者さんに伝えておきます。でも無理はしないでくださいね?」
「大丈夫だ。特に怪我もしていない。それに」
「それに?」
「カンさん達の顔が早く見たい」
「だから、そういうのは私ではなく彼女に言ってあげてください。……私へは時々だけでいいですから」
「わかった、毎日言う」
「だーかーらー!」
その後も些細な事を喋り通話を終えた。
携帯をポケットにしまい、先程出てきたばかりの廃工場を見上げる。
「相変わらず仲がいいですね」
投げかけられた言葉に振り返ると、案の定【首切れ馬】の黒服がいた。
「家族ですから。それより後処理の方はもういいんですか?」
「ええ、後は捕らえた【人面犬】と【犬面人】を護送するだけなので」
彼女の視線の先を見ると、他の黒服によって拘束され連れて行かれる犬面人達の姿があった。
【人面犬】はケージのような物に入れられ運ばれている。
「あなたのお陰で、こちらへの被害を出さずに制圧出来ました。ありがとうございます」
「いえ、仕事をこなしただけです。外に潜んでいた【人面犬】の対処はそちらに任せましたし」
「このくらいしないと、こちらの面子にも関わります」
「そうですか」
「そうです」
会話をしている間にも、ケージが到着したトラックの荷台に積み込まれていく。
犬面人も同様だ。
拘束されたまま乱暴に床に放り出されている。
あのトラックも何かしらの都市伝説なのかもしれない。
「今回の件で『山犬』の残党である彼らも再起不可能でしょう。生け捕りにした者から詳細な情報を聞き出せる筈です」
「山犬、ですか」
「ええ、それが彼らの集団の名前。いえ、だったと言うべきでしょうか」
彼らの首魁はとっくに倒されていますから、【首切れ馬】の黒服は呟いた。
「人面犬に噛まれた人間は人面犬になってしまう、という話はご存じですか?」
「人面犬の有名なエピソードの一つですね」
「ええ、その特性を利用して人々を人面犬に変えて勢力を拡大した集団が彼ら『山犬』です」
「つまり今日襲ってきた人面犬は」
「お察しの通り、元々は何の罪も無い一般人です」
哀れみを含んだ目を彼女はトラックに向けた。
「『山犬』の構成員である【犬面人】は忠誠の証としてあの姿になりますが【人面犬】については完全な被害者です」
「元の姿に戻すことは」
「出来ません。洗脳を解いて意識を取り戻すことは出来ますが本人達からすれば」
「地獄でしかないかもしれない」
「……はい。ですから彼らについての扱いは組織でも別れています」
そのために保護をするつもりなのだろう。
彼女が仕事前に「人面犬は出来れば無傷で捕らえて欲しい」と言った理由がわかった。
691
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:43:47 ID:5Br.uEN2
「けど、そんな派手に活動していれば組織にすぐ潰されそうですが」
「……組織の中に彼らと通じている一派がいたんです。おかげで実態が明らかになるまで時間がかかりました」
「隠蔽していたってことですか」
「ええ。事態が表沙汰になったのは、洗脳を自力で解き『山犬』から脱走した一人の【人面犬】の存在があったからです」
【首切れ馬】の黒服は語った。
その後、人面犬が学校町へと辿り着き一人の少年と契約したことを。
彼らは幾つもの都市伝説と戦った末に、【人面犬】の古巣である『山犬』と決着をつけることになった。
「組織が事態を完全に把握した頃には、『山犬』の首魁は少年達によって倒されていました。脱走者である人面犬の犠牲と引き換えに」
「今日の連中は、その時にうまく逃げおおせた面々ですか」
「はい。当然、組織が征伐に乗り出しましたが緊急だったので漏れがありました。……通じていた黒服の方はすぐに『処理』されましたが」
ため息を一つ、彼女はした。
「ちなみにその後、少年はどうなったんですか」
「……それが現在消息不明だそうです」
「消息不明?」
「私にも詳しいことはわかりませんが、事件が解決してすぐに学校町から姿を消したようです」
【首切れ馬】の黒服によると、少年は自分の意思で失踪したらしい。
何でも同居していた家族に書き置きを残していたようだ。
「事件を通して何か思うところがあったのかもしれません。元々、優しい少年だったようなので」
「そうですか」
契約した都市伝説を失ったことは俺にもある。
だからといって、気持ちがわかるかと言えば答えは否。
人は人、自分は自分だ。
「ちなみに彼の名前は?」
「珍しいですね。あなたが他人に興味を持つなんて」
「もしかしたら出会うことがあるかもしれないので」
「……その時は一報をお願いします。彼と知己の者が今も捜しているらしいので」
少し待って下さいと言うと、彼女はポケットから手帳を取り出しめくった。
「ああ、思い出しました。中々、珍しい名字と名前です」
「珍しい名前ですか」
「ええ、彼の名前は」
一拍置き、【首切れ馬】の黒服は読み上げた。
「空井雀。空に井戸の井と書いて空井、雀はそのまま漢字です」
知り合いと同じ名字を持つ少年の名を。
692
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:46:01 ID:5Br.uEN2
最後のトラックが廃工場の敷地内を出て行く。
飛脚が描かれた車体は、すぐに遠ざかり闇の中へと消えていった。
俺はそれを、【首切れ馬】の黒服と共に門前から眺めていた。
「……これで依頼は完了です。お疲れ様でした」
「はい。こちらこそ、お疲れ様でした」
「報酬はいつも通り口座に」
「ありがたく」
区切りを付ける挨拶を交わす。
長い付き合いなのもあり、わずかに彼女の気が緩むのを感じる。
「……しかし、今でも不思議に思います」
すると、彼女はそんなことを呟いた。
「何がですか?」
「あなたと今もこうして、共に仕事をしていることがですよ」
【狂骨】に憑依された私が目を覚ました時には、取り返しの付かない事態になっていましたから。
悔いを隠さず【首切れ馬】の黒服は言った。
「暴走した今の奥方『達』を止めた上で組織と敵対。彼女らを連れて逃走した、とは。最初は信じられませんでした」
「やりたいことをやっただけです。それに助けもあったので」
空井の助けもあって森に辿り着いた俺は、【姦姦蛇螺】として暴走した二人を異常を使い正気に戻した。
そのまま契約を交わしたものの、犠牲が出ている以上組織が黙っているはずもない。
ゆえに、包囲網を無理矢理こじ開けて脱出。何人かの協力もあって、予定通り駆け落ちした。
空井やそのパートナー、葛藤しながらも手を貸したヒーロー、黙っていられなかった師匠。
そして
「……【獣の数字】の契約者が生きていた上で、あなたの逃走に協力したと聞いた時は本当に耳を疑いましたよ」
「協力というか好きなように引っ掻き回しただけですけどね」
そもそも恋人が呑まれ、カンさん共々正気を失って暴走したのも奴の仕業だった。
でなければ、あんな特異な変化を遂げるわけがない。
あの場で手を出したのは、このまま黒服の手によって俺が倒されるのが自分の望んだ結末ではなかったから。
ただそれだけだ。
「逃亡生活中も何かと絡んできましたから。『決着』はつけましたけど」
追手の黒服達も、しょっちゅう襲ってきたので中々大変だった。
特に【忍法】の黒服とは何度もぶつかった。
「……逃亡中に今の体に変えたんですよね?」
「ええ、必要だったので」
俺の体を眺める彼女に頷く。
「【六本足の鶏】の特徴である遺伝子操作。それを応用して、自分の肉体を戦闘向けに弄りました」
地力を上げる必要性は、【スレンダーマン】や【忍法】の黒服との戦闘を通じて痛感していた。
逃亡生活を続けるなら強化は必須。
躊躇う理由は無かった。
「師匠には後で怒られましたけど。手っ取り早く、身体能力を上げるのにはこれしかなかったので」
「相応のリスクもあったはずですが」
「成功したので問題なしです」
「……そうですか」
もちろん、それだけで戦い抜けるほど甘くもなかったので一から技も磨き直した。
【姦姦蛇螺】と契約したことで得た能力と異常、全てを含めてスタイルも再構成。
幸いというか不幸にも、新しいやり方を試す機会は幾らでもあった。
追手の黒服、【獣の数字】の契約者が寄越した刺客、現地の都市伝説や集団。
今まで以上に実戦を重ねた時期だった。
そんな日々が終わったのは、【首切れ馬】の黒服のおかげだ。
693
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:47:56 ID:5Br.uEN2
「目を覚ましたあなたが、こちらと組織の間に立って仲介をしてくれなかったら死んでいたかもしれません」
「私は私の仕事をしただけです。【姦姦蛇螺】の暴走が【獣の数字】の契約者による仕業な以上、あなた達と敵対する必要もありませんから」
彼女はそう話すが、事態はそう簡単ではなかったはずだ。
暴走により、黒服だけでなく一般人にも犠牲者は出ていた。
いくら正気に戻ったとはいえ、【姦姦蛇螺】を討伐対象から外す理由に本来はならない。
【首切れ馬】の黒服の尽力があったのは容易に想像できた。
「……それに元はといえば、私の失態のせいです」
けれど、彼女はあくまで自分に非があると思っていた。
「私が【狂骨】に憑依され、あなたを撃ったりしなければあんな事態にはならなかった。あなたや、あなたの大切な人達が窮地に陥ることもなかった」
「前にも言いましたけど不可抗力ですよ。あれはどうしようもなかった」
実際、【獣の数字】の契約者が刺客として差し向けた【狂骨】は強大な力を持っていた。
あれに抗うのは、カンさんのように浄化の能力でも持っていないと不可能だった。
「そもそも【獣の数字】の契約者に狙われていたのは俺です。あなたは巻き込まれただけだ」
「ですが」
「それに」
彼女の言葉を遮るように言う。
「今もこうして、定期的に依頼を寄越してくれている。感謝はしても恨む筋はありません」
「……監視の意図もあることはわかっていますよね?」
「同時に敵意がないことを証明する手段でもある」
俺の返答に彼女は小さく笑った。
「こういうことには頭が回りますよね、あなたは」
「出なければとっくに屍になっていたので」
「ええ、では」
初めて会った時からは想像のつかない、柔らかい表情がそこにはあった。
「これからも末永く、お付き合いが続くことを祈ります」
694
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:49:35 ID:5Br.uEN2
【首切れ馬】の黒服と別れた俺は、工場を出て最寄りの駅へと向かい歩いていた。
「本当に送っていかなくていいですか?」と彼女は言ったが俺は丁重に断った。
歩きたい気分なんです、という言葉に向こうは少し首を傾げていたが。
丑三つ時を過ぎた暗い田舎道を通り過ぎていく。
車通りはなく、僅かな電灯だけが辺りを照らしている。虫と梟の鳴き声だけが耳に響く。
しばらく歩いた後、開けた野原を見つけた俺は足を止めた。
この辺でいいだろ。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
呟きに返答はない。
ただ、反応はあった。
「ほう」
今まで闇しかなかった空間に、突如霧が出始めた。
それも血を思わせる緋色の霧が。
瞬時に辺りを包み込んだそれは、こちらの視界を奪った。
「毒ではないか」
肉体は特に問題ない。
しかし、俺の異常である【野生】は「ここは危険だ」と訴えていた。
それを事実だと示したのは、後ろ斜め前から飛んできた数本のナイフだった。
「やるな」
躱しながら敵がいると思われる方向に突っ込む。
気配を感じた場所に前蹴りを叩き込むが感触はない。
同時に空中から殺気を感じた。
「なるほど、そういう能力か」
「っ!?」
背中から腕を生やし、敵の足を掴み地面に叩きつける。
「変則的な結界か。霧によって空間を支配して瞬間移動等を可能にする」
ダメージを与えたはずの相手は既に、俺の手から逃れていた。
代わりに、今度は四方八方から狂気を含んだ殺意を感じる。
まるで複数人の殺人鬼に囲まれているようだ。
どうやら敵は、霧が出てきた時点で予測した都市伝説そのものらしい。
だが。
「何か混じっているな」
俺に向かって、それらは襲いかかってきた。
正体は大小様々なナイフ。まるで悪霊に取り憑かれたかのように俺を殺そうと飛んで来る。
先程の投げナイフと違い、縦横無尽に悪意を持って刺突と斬撃を繰り返してくる。
手っ取り早く息の根を止めようと首を狙ったかと思えば、機動力を奪おうと足に襲いかかってくる。
お次は心臓、脇の下、顔面と中々の節操無しだ。それらを躱し、捌き、砕いていると痺れを切らしたのか大きな気配が迫ってきた。
おそらく先程の本体だ。かなりの俊敏さで距離を詰めたそいつは、白いマスクを着け赤いコートを身に纏っていた。
それで答え合わせは済んだ。なるほど、【口裂け女】が混ざっていたか。
こちらの内心とは関係なく、敵は二振りのナイフを手に突貫してきた。それだけで手慣れなことはわかった。
先程の瞬間移動や他のナイフによる攻撃、それらを複合させるとかなり厄介だろう。だから俺は
「やれ、真紅」
熱き烈風で全てを吹き飛ばすことにした。
695
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 22:54:26 ID:5Br.uEN2
血の霧が晴れた野原に、光り輝く翼を持つ六本足のガルダは舞い降りた。
「やれやれ、主様や。手札を出来るだけ切りたくなかったのはわかるが」
そう苦言を呈しながら、いつもの姿へと変化していく。
褐色の肌、銀色に輝く髪、そして真紅の瞳を持つ少女へと。
「さすがにギリギリすぎじゃろ。あんまり悠長なのは問題じゃぞ。昔と比べればマシじゃが」
「ああ、悪い。観察に回りすぎた」
【六本足の鶏】、俺の契約都市伝説である真紅に謝る。
彼女には仕事の際、姿を隠して貰いながら状況によって支援するよう頼んでいた。
伏兵として重要な働きをする場面もあるので、安易に頼らないようにしているが今回はさすがに判断が遅いと思ったのだろう。
「少し気になる相手だった」
「ふむ。まあ確かに」
二人、襲ってきた敵に視線を向ける。
強烈な熱風に霧ごと吹き飛ばされた【■■■■■■■■】と【口裂け女】の混じりは、膝をつきながらもこちらを睨んでいた。
手には変わらずナイフ。体は傷ついても、闘争心は衰えていないようだ。
「異なる都市伝説が混じっているタイプは稀に見るが、ここまで強力なのは中々いないのじゃ」
「そうだな。それに、もう一人がどう仕掛けてくるか気になった」
「もう一人? ……ああ、契約者がいたのか。じゃが、それらしい人影は上からは見えなかった――」
赤い閃光が真紅の首元を襲ったのはその直後だった。
「なっ!?」
咄嗟に真紅を蹴り飛ばし、契約者の顔面目がけ突きを放つ。
完璧なタイミングの一撃。昔と違い、拳打の技も身につけた今なら確実に仕留められるはずだった。
しかし。
「主様っ!?」
突きを放った左腕は、肘から下を切り落とされた。
神速の斬術。そうとしか形容できない、相手のナイフによる一撃によって。
すれ違いざまの神業だった。更に相手は、手を緩める事無くこちらへ再び襲いかかる。
圧倒的な俊敏性、それに接近戦に特化した歩法が厄介だ。
今もそれで拳打を躱され腕を斬られた。この距離での戦いなら、あの【忍法】の黒服をも上回るかもしれない。
目に捕らえきれない程のスピードを前に俺は
「……はっ?」
切り飛ばされた左腕を右手で掴み、相手に向かい横薙ぎに思いっきり振った。
溢れ出す血液諸共に。
目潰しを兼ねた殴打に対して、【口裂け女】と同じく赤いコートを着た契約者の反応は悪くなかった。
飛び散る血液を意に介さず、左腕を骨ごと切り払い、俺の首を狙ってきた。
迷いのない行動だ。実力も申し分ない。だが
「甘いな」
「っ!」
これが囮だということには気づかなかった。
左腕による攻撃に注意を引きつけ、契約者の右足の甲を踏みつける。
確かに骨を砕いた感触がした。だが、相手はこちらが追撃を仕掛ける前に飛び退いた。
やはり判断が早い。苦痛を顔に出さないのも見事だ。
「主様、また滅茶苦茶な戦法を」
「あの場面だとこれがベストだった」
「だとしても絵面がヤバすぎるじゃろ!」
呆れ顔の真紅と軽口を交わしながら左腕を生やす。
左腕のストックはあと二本。両腕合わせれば五本。
どうせ時間が経てば回復するので出し惜しみする必要もない。
【姦姦蛇螺】と契約して得た能力で重宝していた。
カンさんは「どうしてそう毎回、後ろ斜め上なんですか」と頭を抱えていたが。
696
:
コカトリスVS
:2025/06/28(土) 23:00:58 ID:5Br.uEN2
「しかし主様。あの相手は一体」
真紅が【口裂け女】と契約者に視線を向ける。
向こうも距離を保ちながら、こちらを観察していた。
【口裂け女】の方は、ある程度ダメージが回復したのか立ち上がり戦闘体勢を取っている。
契約者の方も同様。マスクを着けていない以外は、【口裂け女】と変わらない服装と髪型をしているので姉妹のように見えた。
「かなりの手慣れじゃが何者じゃ。襲われる心辺りは……山ほどあるな、うん」
「ああ」
ただ、契約者の顔には見覚えがあった。
真紅は気づいてないようだが。
「なんじゃ。心辺りでもあるのか?」
「まあな。今はそれよりも」
真紅を後ろに下がらせ前に出る。
向こうも同じ、契約者が歩き出す。
「決着を着けるのが先だ」
野原の真ん中で相対する。
こうして見ると、やはり契約者の顔は知人二人と似ていた。
幼さを残しながら整った顔立ち。強い意志を感じる大きな瞳。
それぞれの特徴を兼ね備えている。
「六本足の契約者。あなたを『世界の敵』として斬る」
口火を切ったのは向こうだった。
「世界の敵、か」
昔、二人がそう呼ばれたことを思い出す。
目の前の契約者の顔。【首切れ馬】の黒服が話していた内容。それらが結びついていく。
真相はわからないが、俺の知らないところで何かの思惑が働いているのはわかった。
「かつて、あなたの契約都市伝説である【姦姦蛇螺】が引き起こした惨劇は決して許されるものではない」
「それは【獣の数字】の契約者のせいで――」
「だとしてもです。罪は裁かれねばならない」
真紅の反論に、契約者はきっぱりと言い切る。
『彼』は長い黒髪を揺らすと、今度は俺に矛先を向けた。
「そして、何よりあなた自身だ。六本足の契約者。あなたの存在はそれだけで世界を乱す」
「ああ、そうかもしれないな」
覚えないがない。とは言えるわけがなかった。
否定できない程度には、様々な相手と戦い事件に関わってきた。
少なくとも、俺がいなければ【獣の数字】の契約者が暗躍することはなかっただろう。
二人が【姦姦蛇螺】に呑まれ暴走することもなかった。
正体がわかった今ならそう断言できる。
だが
「だからといって大人しく斬られるつもりはない」
かつて貫くと決めたエゴを捨てる理由にはならない。
「俺は最期の瞬間まで家族と生きていく」
「……ならば」
契約者の雰囲気が変わった、人から都市伝説へ近いものへと。
昔、聞いたことがある。都市伝説に呑まれるギリギリの境界線に立つ事で力を発揮する体質があると。
目の前の相手がそうかもしれなかった。
「『ボク』はその覚悟ごとあなたを切り捨てる」
「やってみろ」
月の下、本当の戦いが始まった。
「おわり」
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