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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】

1 ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:53:25 ID:6AP6NM8.
やるしかねえ……

2 ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:54:10 ID:6AP6NM8.
これより投下させていただきます。

<注意事項>

・他のSSに比べ、台詞が少なめです。(特に1話)
 そのため少し読みにくいかもしれません……
・今書いているところまですぐに追いつかないよう、チマッチマ投下になる可能性がございます。
 ご了承下さい。

3第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:56:10 ID:6AP6NM8.
スタスタスタスタスタ・・・
(もう四時半かよ・・・あぁ、どうしよう・・・)

俺は今、ネアポリスの街の裏路地を走り回っている。
ついさっきまで、俺はある友人と街で遊んでいた。

彼は喧嘩っ早い・・・というか、何かにつけて自分を強く見せようと、よく他人に喧嘩を売る人だった。
彼が俺とつるんでいるのも、ある種自分を強く見せるためなんじゃあないかと、俺は薄々感じている。
というのも、俺は結構気が弱いタイプで、不良との喧嘩なんてまっぴら御免な性格なのだ。

そして今俺は、はぐれてしまった友人を捜すため、裏路地を走っている。


確か・・・

俺が友人から目をそらしている間、彼の「待てやゴラァ!」という声を聞いた。
そして俺が振り向いた時は、既に彼は裏路地の中へと走っていったのだ。
それ以来、彼の姿が見当たらない。

恐らく、友人はひったくりにでも合ったのだろう。
強気な彼のことだから、相手がどんな奴であろうと追いかけてブチのめそうとするに違いない。

たとえ相手が・・・
ギャングであろうとも・・・


「あッ! ・・・!!」

数分が経ち、俺が友人の姿を見つけたとき、思わず叫び声をあげそうになった。

4第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:57:05 ID:6AP6NM8.
そこには友人が、一人のチンピラ風の男と対峙していたのだが・・・
友人はチンピラと喧嘩を“しているようには見えなかった”。

というのも、その時俺の目には、「見えてはいけないような何か」が、チンピラの側に存在しているように見えたのだ。

その存在は、「人のようであって、明らかに人ではなかった」・・・

全身は白く輝き、隆々とした体つきは、さながら守護神のような雰囲気が漂っている。
そして、その存在には下半身が無かった。
上半身のみの存在が、二つの奇妙な機械と共に浮遊していた。

「何なんだ・・・」

俺はそう呟くしかなかった。

友人は満身創痍であった。
息が荒く、口から血が垂れている。

「ロッソ・・・こっちに来ちゃあ駄目だ・・・すぐに逃げろ・・・ッ!」

友人は俺に気付くとそう宣告した。
だが俺は動けなかった。チンピラに取り憑いているあの存在が・・・あまりにも強大に見えた。

「友達か? いい所に来たじゃあねぇか。
 おめぇにとってのいいATMだと思うぜ、フフフッ!」

チンピラは友人にそう言った。
いつもだったら友人が激昂するような言葉だったが、今の友人にはもうそんな余裕は無い。

「逃げろロッソォ!」

友人にそう怒鳴られても、俺の足は一歩も動かなかった。

5第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:58:08 ID:6AP6NM8.
俺・・・「ロッソ・アマランティーノ」は、ここネアポリスで生まれ育った。

昔から引っ込み思案な子だったが、まあ友達がいないわけでもなく、平穏無事な生活を送ってきた。

ただ、俺は何故か霊感がかなりあるらしく、今まで何度も幽霊を見たことがあったし、会話してしまったこともある。

そういえば、俺の父さんも幽霊が見えるとか言ってたっけ。
霊感とは遺伝するものなのか・・・

ひいお爺ちゃんの霊、病院で死んだ人の霊、野良猫の霊、投身自殺した人の霊・・・
どれも見たときは驚いたが、恐怖はあまり感じなかった。

だが、今目の前に存在する「あれ」は明らかに違う。
幽霊のようでもあるが、その姿はあまりにも奇怪すぎる。
なんといっても、あの存在は纏っている「オーラ」が違った。
何もかもを寄せ付けない、圧倒的なオーラ・・・とてもこの世のものとは思えない存在であった。

6第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 10:59:06 ID:6AP6NM8.
「ヌオオオオオオォォォォ!!」

不意に友人がチンピラに飛びかかる。しかし「あの存在」が、チンピラへの攻撃を許さなかった。

「ぐぁッ!」

謎の存在は友人の首をつかんで持ち上げる。
友人はジタバタするが、謎の存在は杯を高く掲げるが如く、微動だにしなかった。

友人には、あの存在が見えないだろうか?

「おいおい、まだやる気かァ? そろそろ観念したらどうだ?
 いきなり財布を盗っちまったのは、そりゃあ謝るよ。だがよォ、年上への礼儀ってモンがあるんじゃあねぇのか?」

チンピラが友人に言った。

「お前にゃあ“これ”が見えねえだろ? 突然殴られたり、こうやって首根っこ掴まれて空中に浮いたりして、訳わかんねぇよなァ?
 こいつぁ『スタンド』っつーらしいぜェ。まぁ古い言い方をすりゃあ『超能力』ってとこかぁ」

(スタンド・・・?)

ドドドドドドドドドドドドドドド・・・

一方友人は、もはやチンピラの言葉を聴くこともできない状態だった。
謎の存在によって少しずつ首が絞められ、顔面は青くなり、白目をむき始めたのだ。

7第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 11:00:09 ID:6AP6NM8.
そしてついに、友人の腕がダラリと垂れ、動かなくなった。

「ケッ」
ドサッ

謎の存在が、完全に気を失った友人を地面に投げ捨てると、チンピラは俺に向かって言った。

「おめぇの友達はよォ、ちと生意気が過ぎると思うぜェ。今度からキチンと注意しといてくれよな」

「ぁ・・・ぁ・・・」

チンピラが近づいてくる。
俺は恐怖していた。
チンピラが近づいてきたからではない。「あの存在」・・・スタンドが近づいてきたからであった。

「俺は『ビアンコ』ってんだ。とりあえず、出来の悪い友達に変わって、俺に金払ってくんねぇか?」

「・・・・・・・・」

「どうした? もしかして、おめぇにも“これ”が見えんのか?
 ほぅ、だったら凄いことだぜ、どうだ? 俺のスタンドは? 『エイフェックス・ツイン』って名付けたんだぜ」

人のようであって、明らかに人ではないその存在・・・
「スタンド」と呼ばれるそれが、今まさに俺の目の前まで迫ってきている。
俺は恐怖と絶望に襲われていた。

「あんまりビビらなくても大丈夫だぜェ。今あるだけの金を素直に払ってくれれば、なんにもしねぇからよ」

俺は震えながら、尻のポケットにある財布に手を伸ばした。

8第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 11:00:54 ID:6AP6NM8.
「そうそう、その素直さが大事なんだぜ。『礼儀』っつーのはそういうもんだ。
 ほら、また丁度いい所に友達2号が来たみたいだぜ」

(友達・・・2号・・・?)

俺の後ろから近づいてきたのは、見た目は俺と同い年くらいの少年であった。

「あいつもおめぇの友達だろ? あいつにも先の友人の責任とって貰うからな!」

全く見覚えのない少年であった。綺麗な金色の髪を前で3つにカールさせ、後ろでは長く伸ばして編んでいる。

(こっちに来ちゃ駄目だッ!)

そう叫びたかったが、目の前に迫る圧倒的な存在(スタンド)に恐怖していた俺は、声を出すことすらできなかった。
だが、後に俺は別の理由で声を失うことになる。

金髪の少年は、俺達の近くまで来ると、ビアンコにこう言い放った。

「立ち去れ、今すぐにッ!」

「・・・んだと?」

「立ち去れと言っているんだ。
 こんな子を襲って金を巻き上げるなんて、恥ずかしくないのか?」

「なんだてめぇ・・・随分とヒーロー気取りだな。さっきのガキより生意気だぜ」

ビアンコの言葉には殺意が篭もっていた。
しかし、俺の目の前にいる金髪の少年の目には、殺意を遙かに凌ぐ「意志」があるように見えた。

9 ◆LglPwiPLEw:2009/10/31(土) 11:02:25 ID:6AP6NM8.
はい、今日はここまでです。続きは明日の予定。
いつも大体こんな調子の投下になると思います……

10名無しのスタンド使い:2009/10/31(土) 11:12:50 ID:65UMngqI
乙!!
これは面白そうだなwwww
期待してます!

11名無しのスタンド使い:2009/10/31(土) 12:40:32 ID:???
乙!

12 ◆WQ57cCksF6:2009/10/31(土) 13:00:21 ID:???
乙!ロッソとジョルノに期待ッ!!!

13名無しのスタンド使い:2009/10/31(土) 15:35:00 ID:p1RfFDlk
やっぱチンピラだなw


14第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:48:06 ID:6AP6NM8.
「ざけんじゃねぇぞ!!!」

ビアンコは急に大声を出し、傍らのスタンドを少年に差し向ける。

「『エイフェックス・ツイン』!!」

(駄目だ、終わったッ!)

スタンドの拳が少年に迫り、俺は思わず目をそらした。
だが・・・

「『ゴールド・エクスペリエンス』!!」

少年がそう叫んだのを聞き、俺はすぐに少年を見た。
この時、俺は再度驚愕し、声を失った。

もう一つの「スタンド」だ・・・!
もう一つ、黄金色に輝く守護神が、ビアンコのスタンドの拳を受け止めていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

「何だと!? 『スタンド』! てめぇも『スタンド使い』なのかッ!?」

驚いたのは、俺だけではなかったようだ。

「てめぇ、こいつのダチ公じゃねぇな! ナニモンだよおい!」

「これ以上やるとお前が血を流すことになる・・・今すぐ引け」

「答えろってんだよォォォ〜〜〜〜!!!
 ヌアアアアァァァァ!!!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

パニックに陥ったようにも見えるビアンコが、少年に向かって嵐のような連打を浴びせる。
しかし、少年の黄金色のスタンドは、その凄まじい拳の一つ一つを難なく受け止めていた。

15第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:49:03 ID:6AP6NM8.
「無駄・・・無駄なんだ・・・何をやっても・・・」

怒りとも恐怖とも取れる、鬼のような形相で少年に襲いかかるビアンコとは対照的に、
少年は驚くほどの冷静さを保ちながら「スタンド」を操っている。



あぁ・・・何なんだ・・・俺は夢でも見ているのか・・・?
数十分前までは、ごく普通の少年としてこの街に居たはずいたのに・・・

友人がこの路地裏に駆け込んでから、運命の歯車が狂いだしたのだ。
いや、「狂いだした」というのは間違いかもしれない。
もしも運命の歯車が正常に動作していて、俺が今ここにいるのも“正しい運命”なのだとしたら・・・?

今目の前で繰り広げられている、常識を超越した戦いを、素直に受け入れるしかないのだろうか・・・?



少年は一歩後ろに退き、ビアンコとの間合いを取った。
ビアンコは汗を噴きだし、息を荒げている。

「はぁ、はぁ・・・ざけんなよ・・・『スタンド使い』だと?」

「無駄だ・・・これ以上無駄な体力を使わせないでくれ・・・」

「生意気すぎて反吐が出るぜ・・・俺は年上に対して礼儀のねぇ奴が一番嫌いなんだよ!!」

「まだやる気か? ならば暫く眠ってもらうぞ」

16第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:49:47 ID:6AP6NM8.
「フ・・・フフッ、あぁ、打ってこいよ・・・ほら来いや」

それまでのパニック状態が嘘のように、ビアンコは急に冷静さを取り戻した。

(・・・何故だ?)

少年はスタンドを出したまま、ビアンコをじっと睨んでいた。
そしていきなり前に踏み込んだかと思うと・・・

ドガァッ!

「ぐふッ!」

ダメージを受け、後ろに吹き飛んだのは・・・
少年の方であった。

ドシャアァァッ

(!? 一体何故だ? 先に踏み込んだのは少年の方なのに!)

「ッハハハハ! ざまあねぇな!」

ビアンコは高笑いしている。
ダメージを受けた少年が地面に倒れたまま言った。

「“壁”・・・見えない壁があった。それがお前の能力か」

「ほー、随分勘が鋭いな。そうだ、これが俺の『エイフェックス・ツイン』の能力だ。
 ほら、左右をよく見ろよ」



いつの間にか、俺の後ろの方に、あのビアンコのスタンドと一緒に浮いていた機械のようなものがあった。
少年から見ればビアンコとの間に左右二つ、離れて浮いている。

「『衛星』だ。この二つの『衛星』は透明な『壁』を発生させて攻撃を跳ね返すッ!
 てめぇはこのカウンターをモロに受けたんだぜ!」

17第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:50:50 ID:6AP6NM8.
「そしてッ!」

ビアンコが倒れている少年にズンズンと歩み寄る。

「ここでてめぇの敗北は決定した! クソ生意気なガキめ、頭をぶっ潰してやるぜ!」

駄目だ、今度こそ少年は・・・!!

「ヌアアァァァァァァァァ!!」

その時、俺にはビアンコの雄叫びに混じって、少年の声が聞こえたような気がした。

「カウンター? それならば・・・
 この『ゴールド・エクスペリエンス』にも優秀なカウンターが存在する・・・」

ドガドガドガドガドガドガドガドガ
ズガァーーーン!!!

凄まじい轟音と共に、地面が粉砕される。


少年は・・・死んだ・・・のか?


辺りは静寂に包まれた。
思えば、俺はここに来たときから一歩も動いていない。

砂埃がおさまると、そこにいたのは・・・

全身に打撃を受け、大の字になって倒れるビアンコと、無傷の少年の姿があった。

(・・・!? 一体何が?)

地面が瓦礫と化している中で、少年はゆっくり立ち上がって言った。

「『ゴールド・エクスペリエンス』によって地面を何匹かの虫に変えていた。
 攻撃の反射効果を持つその虫を、お前は無茶苦茶に叩いたのだ。
 あとの攻撃は防ぐことなどたやすい」

18第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:51:39 ID:6AP6NM8.
虫? 反射効果?
何が何なのか分からないでいる俺に向かって、少年は服の埃を払いながら話しかけてきた。

「今すぐここから逃げた方がいい。
 あそこで倒れている子を病院に連れていってくれ。ここから近いはずだ」

「ぁ・・・」

何を喋ったら良いのか分からなかった。

その時、向こう側から一人の男が駆けてきた。

「あぁ居た居た、捜したっスよォ〜。急にいなくなって・・・」

「いやぁ、すみません」

男は少年を捜していたらしい。
少年はうやうやしく返事をしている。
男は俺達が居た場所の有様を見て言った。

「・・・また・・・“一暴れ”したんスか・・・?」

「はい・・・そうです」

「お人好しなのはいいんスけどねぇ〜、
 あんまり堅気を巻き込むのはマズいと思いますよォ〜」

「そうですよね・・・すみません」

間延びした喋り方の男と、金髪の謎の少年・・・
一体何者なんだ?

どちらも敬語で話しているが、どっちが上司なのだろうか?

「車の方は用意してありますから、すぐに出発できますんで」

「ありがとう、このまま行くことにしますよ。
 その前に、あの子に言っておきたいことが・・・ッ!!」

「何ッ!」

19第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:52:22 ID:6AP6NM8.
「はぁ・・・はぁ・・・ざけんなよ・・・」

本当に一瞬の出来事だった。

倒れていたはずのビアンコが、急に俺を後ろから押さえつけ、動けなくしたのだ。
勿論スタンドも出している。

「てめぇら動くな!! 動いたらコイツの頭をカチ割るッ!!
 どっちかが銀行にでも行って、今すぐ100万ユーロ持ってこいや!!」

全身をボコボコにされ、顔も醜く変形したビアンコは、もはや理性を失っていた。

「・・・ま〜た、面倒くさい奴が居るもんスねぇ・・・」

男がリボルバー式の拳銃を取り出す。
少年もスタンドを出していた。

「動くなっつってんだろがァーーーッ!!」

ビアンコのスタンドの拳が、俺の頭に押しつけられる。
その時の俺は恐怖を通り越して頭が真っ白であったが、少年と男の行動だけは、何故かはっきりと記憶に残った。

「奴は見えない壁を作っています。そこを攻撃しないように」

「はい、了解っス」

ドォーーーン!!

男は天に向かってリボルバーを発砲した。

「威嚇のつもりかァ!! ざけんじゃねぇよ!! もうコイツを・・・」

ビアンコのこの言葉を聞いたときから、俺は頭を割られる覚悟をしていた。

20第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:53:08 ID:6AP6NM8.
だがいつまで経っても、スタンドの拳は飛んでこなかった。
そのかわりに飛んできたのは・・・

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ビアンコの断末魔の如き悲鳴だった。

ビアンコはよろめき、俺から手を離した。
それと同時にスタンドも消え、俺は恐怖から解放されたのだった。

「よっしゃあ! ナイスだぜ『ピストルズ』!」

俺はビアンコから離れながら、男がピストルズと呼んだ方向を振り向いた。

「オレノオカゲダナ! カクドガバッチシダッタゼ!」

「チゲーダロ! オレガミギニチョウセツシタカラダ!」

ミニサイズの小人のようなものが、空中でなにやら言い争いをしている・・・
あれも「スタンド」の一種なのか!?

「『壁』なんてモンは越えりゃいいだけの話だ。
 10メートル位まで上がりゃ、壁を越えて弾丸が飛んでくぜ」

もしかして・・・
あの小人のようなスタンドが、弾丸の動きを操作したのか?

そんなことを思っていると、少年が足を撃たれて苦しむビアンコの所へ歩み寄っていった。

「グフゥ・・・あぁ、もう何もしませんッ!! 本当に反省してますッ!
 頼むから命だけはァーーー!!」

ビアンコは急に泣いて命乞いを始めた。
・・・正気に戻ったのだろうか?

21第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:54:21 ID:6AP6NM8.
「おいおい、ざけんじゃねぇぞォ〜。
 てめぇみたいに急に謝る奴が一番怪しいんだ」

男はあくまでもビアンコを疑っている。

「うぅッ、俺は・・・『スタンド』が使えるようになったばっかりに・・・
 こんな下らない事ばかりするようになった・・・」

「! 急に、スタンドが使えるようになったのか?」

少年が何かに気付いたようにビアンコに尋ねた。

「あぁそうだよ・・・ある時街の人混みの中で、突然脇腹を服ごと切られてな・・・
 その時からハッキリと、このスタンドが使えることに気付いたんだ」

「・・・やはり・・・これも“教団”の仕業ですかね・・・ミスタ」

「・・・かもしれないスね」

ミスタと呼ばれたリボルバーの男、そして少年は何やら深刻そうな表情である。
あの二人にどんな事情があるのか分からないが、俺には関係ないことだ。

ただ一つ言えることは、俺と友人はあの二人に命を救われたのだということ。
せめてお礼だけは言っておこうと、俺は少年に近づいた。

「あの・・・助けて頂いて・・・」

「いや、お礼はいらないよ。ほら、あの子も目を覚ましたみたいだ。
 路地裏は危険だから、これからは無闇に入らないように」

22第1話 黄金の邂逅  ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:55:34 ID:6AP6NM8.
少年が言ったとおり、倒れていた友人は意識を取り戻したようだ。

だが、このまま何も言わずにいる訳にはいかなかった。

「せめて・・・お名前だけでも・・・
 あっ、俺はロッソっていいます」

「名前? 僕は・・・『ジョルノ・ジョバァーナ』・・・」

ジョルノ・ジョバァーナ・・・

少年がそう名乗ったとき、俺は少年が持っていた偉大なる「意志」を感じた気がしたのだ。

ビアンコを睨んだときのあの目も然り・・・
このジョルノという少年は、俺と同じくらいの年齢でありながら「背負っているもの」の重さが違う。
カリスマ性とでも言えようか。


一体彼は・・・


「僕達はもう行かなくちゃあならない。
 最近イタリアの街はますます荒れてきているから、くれぐれも気をつけてね」

「・・・はい」

辺りはすっかり暗くなり、街灯が頼りなさげに灯っている。

「それでは、アッディーオ(さようなら)・・・」

ジョルノは、俺に向かって別れの挨拶をすると、この場を立ち去ろうとした。
だが彼はすぐに立ち止まり、俺に振り返るとこう言った。

「いや・・・アリーヴェデルチ(また会いましょう)かな・・・」



第1話 完

23 ◆LglPwiPLEw:2009/11/01(日) 09:56:29 ID:6AP6NM8.
第1話終了です。

コロネはおろか、ワキガまでもが活躍してしまいましたが、
2話以降はきちんと主人公達が戦いますのでご安心を……


第1話で使用させていただいたスタンド

No.215 「エイフェックス・ツイン」
考案者:ID:Licx5cnkO
絵:ID:iWCqjA8h0
絵:ID:836DgT2dO

(原作より)
「ゴールド・エクスペリエンス」
「セックス・ピストルズ」


呼んでくれた方グラッツェ!
そして荒木先生すみませんでした……

24名無しのスタンド使い:2009/11/01(日) 11:14:59 ID:65UMngqI
乙ッ!!
第2話からロッソのスタンドが出るのかな
楽しみだwwww

25名無しのスタンド使い:2009/11/01(日) 13:27:12 ID:???
乙!!

26第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:12:14 ID:6AP6NM8.
イタリア某所


ホールはほぼ満員だった。
聴衆は「彼」の演説が始まるのが待ちきれない様子である。

一枚のパンフレットに書かれた演題は「神の満足なさる世界とは」。

ブザーが鳴り、ホールの照明が落ちる。

一分ほど経った時、ステージが照らされ、「彼」が姿を現した。
万雷の拍手が巻き起こる。

「彼」はステージの上手から中央の演台に向かって、ゆっくりと歩いていく。
やがてマイクの前にたどり着くと、聴衆に向かって一礼し、挨拶をした。

そして「彼」は、実に紳士的な、人を惹きつける口調で、こう話し始めた。

「皆さんは、『善人』と『偽善者』の違いは、何だと思いますか?」

27第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:13:00 ID:6AP6NM8.
学校にて  PM 3:30頃


あれ以来、俺はなかなか眠れなかった。

「スタンド」という、科学では到底説明できそうにない存在のことだ。

何故俺には見えて、友人には見えなかったんだ?
ちなみにその友人はあの体験でノイローゼになり、ずっと学校に来ていないのだが・・・

調べても調べても、一向に情報は得られない。

正直、もうそんなことなど忘れて、勉強に集中したかった。
だが“あんなもの”を見てしまっては、忘れることなど不可能だった。

授業がすべて終わり、俺は学校を後にする。

いつものように、俺は少し斜め下を向いた状態で歩きながら校門を出た。

・・・人影に気付く。
俺はゆっくりとその方向を見た。

「・・・!! うわっ!」

俺は思わず叫んでしまった。
無理もないと思う。なぜならそこにいたのは・・・

「よっ、元気か?」

あのビアンコだったからだ。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・

あれだけ重傷だったはずなのに、すっかり回復してしまっている。
俺は早足でその場を去ろうとした。

「いや、ビビらなくていいんだ、もう金を取ったりはしねぇ!
 そんな下らないことはもうしないって決めたんだ!」

28第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:13:39 ID:6AP6NM8.
ビアンコの言葉は嘘には聞こえなかった。
だがつい数日前、俺を人質に取ろうとした男と、そう易々と会話していいものなのだろうか・・・

「おめぇ・・・ロッソ、だっけか? どうしてもおめぇと友達に謝っておきたかったんだ。
 学校は調べたんだがよ、住所までは分からねえから、友達んとこに案内してくれねぇか?」

「え?・・・あぁ、はい」

俺はなんとなく、返事をしてしまった。




ネアポリス市街  PM 4:00頃

友人の家までは遠い。
俺は寮住まいなので家に帰る心配はしなくていいのだが・・・

「この男」とずっと歩き続けるのは、かなり神経にこたえた。

「俺もよォ〜、一介のギター弾きとして、また一から始めようと思ってんのよ」

「そうですか・・・」

しなくてもいい心配であるのは分かっている。
ビアンコはすっかり改心した様子だ。

だが俺は、彼のことをどうしても受け付けることが出来なかった。
恐怖ではなく、何か別の理由があるのだろうか・・・

・・・そういえば・・・

俺が気になって仕方がなかったこと、スタンドについて、彼はどれだけ知っているのだろう。
俺にとって(距離的な意味で)一番身近な「スタンド使い」である。

29第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:14:05 ID:6AP6NM8.
俺は勇気を出して彼に問いかけてみた。

「ビアンコさん・・・」

「ん?」

「急な質問ですけど、『スタンド』って、一体何なんですか?」

ビアンコは数秒黙っていたが、その後の返事は・・・

「さぁ〜な、さっぱり分からん」

「・・・・・・」

「なんだ、気になってたのか?」

「はい」

「俺もよォ〜、急に使えるようになったもんだから、どんなのかって言われても分かんねえんだよ。
 『スタンド』って名前と、一人一能力を持つってことは・・・俺のダチから聞いてたんだ」

「えっ、友人さんも『スタンド使い』なんですか?」

「あぁ、まぁそうだ・・・」

ビアンコが少し物憂げな表情になったが、気にしたら負けだと思い、俺は言及しなかった。
しかしその後すぐ、ビアンコの方から話があがった。

「そうだ、スタンドが見えるんならよ、おめぇもスタンドが使えるってことだぜ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ、スタンドっつうのはスタンド使いにしか見えない。
 つまりおめぇがスタンドを使えないはずがねえんだよ!」

「・・・・・・」

俺がスタンド使い?
俺の場合、てっきり霊感が強いからスタンドが見えるのかと思っていたが・・・

スタンドの謎は、ますます深くなるばかりだった。

30第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:14:31 ID:6AP6NM8.
ネアポリスの街はずれ PM 4:20



俺たちはネアポリスの市街を抜け、人通りの少ない道を歩いている。
友人の家まではもう少し先だ。

「不思議なんだよなぁ〜。あの時おめぇを掴んだ瞬間から、急に戦う気が失せたんだよ。
 でも俺その時ヤケクソだったからよ、身代金なんか請求しちまったけどさ」

「へぇ〜・・・」

俺は聴いているのかいないのか分からない返事をする。

「もしかしたら、それがおめぇのスタンド能力かもしれねえぜ」

「えっ、何がですか?」

「・・・もういいわ!」

ビアンコとはもうだいぶ打ち解けてきた。
・・・のはいいが、彼は喋りっぱなしでうるさい人間であることが判明した。

いちいち聞くのが面倒臭いため、こうやって聞き流してしまうことが多くなってきた。
俺が聞き上手でないだけなのだろうか・・・

今日初めて彼と会った時の、あの拒絶感の原因は、もしかしたらビアンコのこの性格にあったのかもしれない・・・

「いや、すみませんでした」

「ったくよォ、年上の話はキチンと聴かなきゃ駄目だろうが!
 礼儀がなってないぜ!」

31第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:14:52 ID:6AP6NM8.
ビアンコがそう言った時だった。

俺たちがいる10m程先の路地裏から、一人の男が飛び出してきた。
彼は・・・血にまみれていた。

「うっ!」

俺は思わず目を背けた。

「おい、なんだありゃあ!」

ビアンコも驚いている様子だ。

「ギャングの抗争か何かでしょう、知らないふりして行きましょうよ!」

「いや違う、よく見ろ!」

正面に目を向けた。もう男はいない。

「今の奴・・・“『スタンド』を出していた”・・・
 反対側の路地裏に逃げた。追うぞロッソ!」

「え、えぇぇぇぇ〜〜〜っ!?」

ビアンコは男が逃げた路地裏に全力疾走した。

俺は迷った。ビアンコに付いていくか、踵を返して逃げるか・・・

頭の中は800%後者を選んでいた。

だが・・・

ビアンコに付いた紐に引っ張られるように、俺の足は路地裏の方向に走っていってしまった。

俺は、弱気な自分を責めた。

32第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:15:18 ID:6AP6NM8.
郊外の路地裏といっても、狭くて汚い感じはない。
むしろ一つの小道のように、実に歩きやすい場所であった。

だが今は、そんなことは言えない状況である。

ビアンコは、路地裏に入って5m程の所で停止した。
俺もその手前で止まり、ビアンコの先にあるものを恐る恐る見た。

さっきの男がいる・・・
全身が血にまみれ、歩くのもやっとの状態にすら見える。
ビアンコの言っていたとおり、彼はスタンドを出していた。
見た目はまるで陸軍兵士のような、ほっそりとしたスタンドだった。

そしてその男の、さらに先には・・・
男と女が、ペアのように並んで立っていた。
その男もスタンドを出している。女の方はスタンドを出していないようだ。

「逃げたって無駄よ。
 あなたの首をどっちの手柄にするか決めるまで、おとなしく待ってなさい」

ペアの片方の女が言った。
やはり男は、この男女に襲われていたようだ。

「『ロベルト・ヴェルデ』・・・助っ人でも呼んだか」

もう片方の男が、ビアンコと俺の存在に気付いてしまった。

「! お前達、ここは危険だ! 今すぐ逃げろッ!」

ロベルト・ヴェルデと呼ばれた血だらけの男は、振り返ると俺たちに忠告した。

33第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:15:38 ID:6AP6NM8.
だがビアンコは、俺の一番言って欲しくなかった台詞を言ってしまった。

「い〜やっ、逃げるわけにはいかねえ。
 同じ『スタンド使い』同士の喧嘩、見過ごすわけにはいかねえッ!
 『エイフェックス・ツイン』ッ!!」

ビアンコが自らのスタンドを解き放つ。

「何ッ! スタンド使いなのかッ!?」

ヴェルデは驚いている。

「2対2よ・・・不本意だけど、これでフェアな戦いになったんじゃない? アランチョ」

「『敵』に味方するものは全て殺れとの命令だ・・・
 誰であろうと全力で潰すんだぞ、チレストロ」

「了解」

(え? え? なんか俺たちが勝手に敵にされちゃってる?
 何これ!? どういうこと!?)

どうしようもなく混乱していた俺の頭は、突然の轟音によって正気に戻った。

ズゴオォォォォォォン!!

轟音と共に地面が瓦礫と化し、砂埃が舞い上がる。

何が起こったのか分からない俺は、元の広い道路へ闇雲に逃れた。

「ロッソ、逃げんな!」

後ろでビアンコの声がしたが、気にしたら負けだ。


あぁ、あのジョルノという少年に注意されたばかりなのに・・・
無闇に路地裏には入るなと・・・
路地裏は、本当に危険がいっぱいだ。

34第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:23:46 ID:6AP6NM8.
俺は広い道路から、砂埃が出ている路地裏の方を見た。

・・・周りに人はいない。
どんな人でもいいから泣いて助けを乞いたかったが、それができない・・・

ドシャアァッ!

その時、突然何かが路地裏から吹っ飛んできた。
・・・ビアンコだった。

「だっ、大丈夫ですか!?」

俺は彼の元に駆け寄る。
かなり強い打撃を食らったらしく、口から血を流している。

「何なんだあの女ッ・・・!
 スタンドでもねえのに、とんでもねえ速さだ・・・
 『壁』を作る前に蹴りを食らっちまった!」

ビアンコはゆっくりと起きあがった。

スタンドでもないのに、とんでもない速さ?
一体どういう事だ?

「そうだ、あの人、『ヴェルデ』さんはどうなんですか?」

「知らねえよ・・・やばい、“来る”ッ!!」

「ハッ!」

シュバッ!!

俺とビアンコは、間一髪の所で飛んで『それ』をかわした。

(今のはッ!?)

謎の物体が飛んでいった方向を見る。何もない。

「ロッソ! 後ろだ!」

「!」

俺は後ろを振り向いた。
道路の向こう側から迫ってきたのは・・・

「うわぁッ!」

再び俺は横に飛んで逃れる。ビアンコもギリギリでかわした。

35第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:24:18 ID:6AP6NM8.
ズシュウッ!!

謎の物体が、特急列車のようなスピードで走り抜けていった。

「あれは何なんですか!」

俺は焦りながらビアンコに尋ねる。

「あの『女』だよ! よく見ろ!」

「えっ!?」

道路の向こうで急激なUターンをし、再びこちらに向かおうとしている物体。
よく見るとそれは人間であり、その顔は紛れもなく、先程見たチレストロという女性であることが分かった。

「また来るぞ!」

ビアンコが注意を促す。
しかし・・・

ズガアァァァァッ!!

チレストロは地面から凄まじい火花をあげてブレーキをかけ、俺たちの近くに停止した。

「ごめんね坊や。私の狙いはその男なのよ」

「一体どういう事だ? そのアホみてえなスピードの正体は?」

ビアンコがチレストロに問いかけた。

「ウフフッ、あなたスタンドの事、あんまり知らないのね。
 答えはこの『服』にあるのよ」

「!?」

俺とビアンコは驚愕した。
彼女が着ている、ダイビングスーツのようなピッチリとした服・・・
これに一体何の秘密があるのだろうか?

「これが私のスタンド、『アーケイディア』なのよ」

「何だって!?」

俺は思わず声を上げてしまった。

36第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:24:45 ID:6AP6NM8.
「『服のスタンド』だとぉ〜っ? んなバカなッ!」

「そういう訳じゃあないの。
 『アーケイディア』は“装着型”。言わば『着るスタンド』。その能力は・・・」

チレストロは一歩足を踏み出したかと思うと・・・

ズドン!!

「ぐふッ!」

一瞬だった。
チレストロは猛スピードで前に滑るように動き、数メートル離れていたはずのビアンコを蹴り飛ばしたのだ。

「ビアンコさん!」

ドゴオォ!!

ビアンコは低く飛んでいき、壁に激突して張り付いた。

「能力は“摩擦”を操ること!
 私は足の裏の摩擦をゼロにして、猛スピードで滑ってたのよ」

「・・・!」

なんて恐ろしいスタンドなんだ・・・
スピードだけでなく、パワーも間違いなく桁外れに向上している。
あのスタンドを装着しただけでッ!

ビアンコは地面に倒れた。
俺が近寄ると、既に頭からも血を出し、起きあがることも出来ない状態だった。
確実に骨も何本か折れている。

「坊や、この男の弟か誰かかしら?
 ごめんね。邪魔する人は全員殺すことが掟なのよ。私たちに喧嘩を売っちゃった以上、もうやられるしかないの。
 諦めて逃げてくれない?」

チレストロは冷酷な言葉を投げかけた。

37第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:25:15 ID:6AP6NM8.
「ロッソ・・・」

不意に、ビアンコが俺に話しかけてきた。

「俺があんなバカな真似をしちまったせいでこんな事になった・・・
 俺が悪いに決まってる・・・おめぇは逃げてくれ・・・」

「そんな・・・」

俺は逃げられなかった。

頭の中は逃げたい気持ちでいっぱいだった。しかし身体が、この場から離れることを拒んでいた。

俺は、弱気な自分を責めた。


その時、路地裏の中から人影が現れた。
あのヴェルデという男であった。

「ハァ、ハァ、お前達大丈夫か?」

息は切らしているものの、見た状態ほど苦しそうにしているわけではなかった。

「あなたこそ、大丈夫ですか?」

俺はとりあえず質問してみる。

「俺は大丈夫だ。“この血は俺の血じゃあない”。
 ちと厄介だがな」

「えっ?」

聞き返す暇もなく、新たな人影が現れる。
もう一人の刺客、アランチョという男だった。

「しぶとい奴だ・・・おとなしく斬られろ」

そう言われたヴェルデは、アランチョとチレストロの方を向いていった。

「この二人は関係のない人間だ、手を出すのはやめろ!」

38第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:25:51 ID:6AP6NM8.
アランチョは答えた。

「少年は殺さない。だが、その男は我々に宣戦布告した。
 お前の味方であることは明白なのだ」

「そうはさせないッ!」

ヴェルデが力強く反論する。

チレストロが小さな声でアランチョに言った。

「それで・・・私とあなた、どっちが殺るの?」

「死にそうなのが一匹と、大したことのないのが一匹・・・
 俺一人で十分だ」

「分かった、じゃ私は見てるわね」

アランチョがヴェルデにゆっくりと歩み寄る。

「お前の貧弱なスタンドで、先に攻撃することを許すよ」

アランチョが挑発した。

「それはどうも、俺のスタンドには“奥義”があるんだ」

「何?」

「いくぜ・・・『ウェポンズ・ベッド』!!」

ヴェルデが、あの兵士のようなスタンドを解き放った。

「そして“こいつ”をスタンドに持たせるッ!」

ヴェルデが上着の中に手を入れる。
そして背中の方から取り出したのは・・・

シャキン!

「に・・・日本刀だと!?」

「いくぜェ! テヤァッ!」

「ぬっ!」

ガキンッ!!

ヴェルデが取り出してスタンドに持たせた日本刀と、アランチョのスタンドの刃がぶつかりあった。

39第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:26:20 ID:6AP6NM8.
「フッ、“奥義”と聞いて何かと思えば、ただの日本刀か・・・
 刀剣としての出来はいいかもしれんが、その使い手の実力は・・・
 俺の『キラー・スマイル』の敵ではないッ!」

ガガガガガガガガガガガガッ!!

二つのスタンドが持つ刃が高速に交差しあう。

「果たして・・・それはどうかな・・・アランチョさん」

ヴェルデが何やら余裕のある台詞を吐いた。

ガガガガガガガガガズビッ!

「ぐッ!」

ヴェルデのスタンドが持つ日本刀が、一瞬アランチョの右肩をかすめた。

アランチョはヴェルデとの距離をとる。

「あなどっていたな・・・これだけのスピードが出せるとは」

「この日本刀は、現代の剣豪と言われた日本人が使っていた奴なんだぜ。
 そんじょそこらの剣とは訳が違うんだ」

「・・・『持った武器が記憶する、最も優れた使い手の動きを体現するスタンド』か・・・
 なめやがって・・・」

ブシュッ!

アランチョのスタンドは、本体の傷口に向かって血煙のようなものを吹き出した。

「だが、俺の『キラー・スマイル』の血によってお前のスタンドの動きが止まれば、
 その場で俺の勝ちが決定するぜ・・・」

40第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:26:52 ID:6AP6NM8.
そうか・・・
アランチョのスタンド能力は、あの血のような体液で「固める」能力・・・

今傷口に血を吹きかけたのも傷口を「固める」ため・・・

そしてヴェルデが全身につけた血も、このスタンドの血だということが分かる。
足の先までは付いていないため、まだ歩くことはできるが、上半身の自由は奪われているだろう。
スタンドの方は大丈夫そうだが。

「お前の足に何度も血をぶっかけて動きを封じようとしたが・・・
 お前のその身軽さだけは評価するよ」

「初めて見たときから、その“血”は直感的にヤバそうだったからな」

「ハッ・・・だが今度は・・・
 そうはいかないぜ! 『キラー・スマイル』ッ!」

「うぉっ!」

ガギン!

不気味な笑い顔をたたえたアランチョのスタンドが、突然斬りかかった。

ギリギリ・・・

「こうやって剣圧をかける体勢になれば・・・
 苦労せずお前のスタンドに“血”を浴びせられるッ!」

ブシュゥ!

「! しまったッ!」

まずい!
ヴェルデのスタンドが血を浴びてしまった。

『ウェポンズ・ベッド』は、敵の刃を受け止めた状態のまま動かなくなっている。

41第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:27:20 ID:6AP6NM8.
「ハハハッ! いくら最強の日本刀があろうと! 動きが封じられれば全て無力!
 さぁ、“裁きの時”だ、死ね! ヴェルデ!」

終わったッ!

『キラー・スマイル』の刃が横一文字に振られる。
俺は目を閉じた。


ガキィブジャッ!!


「グワァァァァァァァァァァァァ!!!」

突如アランチョの悲鳴が響きわたった。

何が起きたんだ!?
俺がそう思った時、自分のすぐ近くでわずかに動く存在に気が付いた。

「『エイフェックス・・・ツイン・・・』」

「ビ・・・ビアンコさん!」

重傷で気を失いかけていたビアンコがスタンドを出していた。
「衛星」が音もなくヴェルデの両脇に接近して、いつの間にか壁を張っていたのだ。

「ぐ・・・グフゥ・・・」

攻撃を跳ね返され、腹を深く切ったアランチョは、その場に膝をついた。

「お前の・・・存在を・・・すっかり忘れていたよ。
 『攻撃を跳ね返す』能力なのか・・・クソ・・・」

「アランチョ、大丈夫!?」

チレストロが声をかける。

「あぁ大丈夫だ。これで・・・いい」

ブシュウゥゥッ!!

『キラー・スマイル』が再び血を吹き、アランチョの傷を固めた。

42第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:27:41 ID:6AP6NM8.
「先に狙うべきは・・・お前だった」

アランチョは立ち上がり、倒れているビアンコの所へゆっくりと歩き出す。

「や・・・やめろォォォォォッ!!」

ヴェルデが叫んだ。
だがアランチョは歩みを止めない。

あっと言う間にビアンコの目の前にたどり着く。
そこは俺の目の前でもある。

『エイフェックス・ツイン』は、既に消えていた。

「お前にも・・・“裁きの時”が来た・・・死ね」

『キラー・スマイル』は、今度は刃を縦にして、ビアンコに突き刺そうとした。

俺はそれを・・・近くで見届けるしかなかった・・・

ザクッ

「あ゛ぐ・・・」

刺されたのは・・・
ヴェルデだった。

「何ィ!?」

スタンドの動きが封じられているヴェルデは、ビアンコを救うため、自ら刃に飛び込んだのだ。

「・・・この野郎・・・
 まぁいいだろう、どちらが先でも」

『キラー・スマイル』はヴェルデから刃を引き抜いた。
ヴェルデは、もう動かない。

「こ・・・こんなこと・・・」

俺は信じられなかった。
今、目の前で起こっている光景が。

ヴェルデがやられた。
残るは、もはや虫の息のビアンコだけ。
他にいる人間は・・・俺だけだ。

43第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:28:10 ID:6AP6NM8.
逃げたかった。

しかし、俺は逃げられなかった。

俺は、とことん弱気な自分を責めた。


何故だろう?
一人で逃げるのが孤独に感じるからだろうか?

いや、そうではない。

きっと、「運命」に逆らうのが嫌だからなのだ。

俺が今ここにいるのは、それは実に奇妙ではあるが、紛れもない正しい「運命」。
逃げることは、それに反する行為なのだ。

ならば、俺はこれからどうしたらいい?
何をすればいいんだ?


自問自答した答えがまだ出ないうちに、アランチョはスタンドの刃をビアンコに向ける。

「想像以上に苦労してしまったが・・・
 これで終わりだ!」

ビュン!


やるんだ。
俺がやるしかないんだ。


そう思ったとき、自然に俺は腕を伸ばしていた。
“その腕は、俺の腕ではなかった”。

ガシッ!

その腕は、刃がビアンコに当たるギリギリの所で、刃の背の部分を正確に掴んでいた。

「な・・・何ィ〜〜〜ッ!?
 お前・・・お前もスタンド使いだったのかッ!?」

アランチョが驚愕した。

俺の肩のあたりから、深紅の腕が伸びていたのだ。

「スタンド・・・お、俺の・・・?」

44第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:28:38 ID:6AP6NM8.
「へっ・・・ロッソ・・・
 俺の言った通りじゃねえか・・・」

ビアンコが微笑んだ。

「ウラァーーーッ!!」

バキン!

深紅の腕は勢いよく刃をへし折った。

「・・・新たなスタンド・・・だと?
 一人殺ったと思ったらまた一人・・・なめるなよ・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

アランチョは凄まじい剣幕で俺に迫る。

今の俺の心には、逃げたいなどという迷いの心は消えていた。
『今ある運命を受け入れる』。それほど心強いことが、他に存在する訳がない。
こんなに弱気な俺でも、運命は俺を見捨てないのだ・・・


俺は、スタンドの全てを解き放つ。

ズオォッ!

そこに、俺の“守護神”が現れた。

全身は赤と深紅で構成され、激しさと温もりが共存しているかのようだ。
そして胸には、宝石のように輝く心臓がむき出している。

アランチョの『キラー・スマイル』は、自らの血を固めて、新たな刃を作り出していた。

「関係の無い人間だと思っていたが、スタンドを出し、敵を助けたのならば話は違う・・・
 ここで死んで貰うぞ」

「来るなら来い・・・」

俺は、ごく自然にそんな言葉を口に出していた。

45第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:29:08 ID:6AP6NM8.
「『キラー・スマイル』ッ!」

「ウラァーーーーーーッ!!」

ガスッバゴォ!!

「グバッ!」

俺が認識できるかできないかの一瞬だった。

俺のスタンドは振り下ろされた敵の刃を拳で弾き返し、さらに顔へ一撃を与えたのだ。

「バカなッ・・・! こいつ・・・速いッ!!」

アランチョは顔を血だらけにして驚愕している。

「アランチョ! 私も手伝うわ!」

チレストロがそう言った。
だが・・・

「“いや、いいッ! お前は見ていろッ!”」

アランチョの返事は、チレストロにとってあまりに意外なものだった。

「・・・え? 何言ってるのアランチョ!?」

「俺はこいつと・・・“今はタイマンでケリをつけたいんだ”ッ!」

「そんな・・・明らかに力の差が見えてるわッ! 無茶しないでッ!」

「クアァァァァァァ!!」

チレストロの言葉を無視し、アランチョは俺に突っ込んでくる。

「ウラァーーーーーーーッ!!」

ドゴォ!

「グゥッ・・・」

俺は敵の刃を冷静にかわし、ボディにストレートを叩き込んだ。

アランチョはよろけるが、まだ立っていられるようだ。

「アランチョ! あなたどうしちゃったの?」

チレストロが尋ねた。

46第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:29:41 ID:6AP6NM8.
だが、アランチョはその質問をはねのける。

「うるさい! 俺は必ずこのガキをしとめるッ! この刃で!」

『キラー・スマイル』が再び刃を構えた。

次だ・・・次で終わらせよう・・・
俺はそう考えていた。

「このガキの首は・・・俺のモンだあぁぁぁッ!!」

再びアランチョが突っ込んできた。

今だ。
今こそ放とう。嵐のような連打(ラッシュ)を・・・!


「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラガーーーーーーーーーーーノ(暴風雨)!!!!」

ズドォーーーーーーーン!!

アランチョとそのスタンドは、道路の反対側に一直線に飛んでいき、建物の壁に穴を開けた。



「・・・・・・」



静寂が辺りを支配した。

「信じられない・・・」

その静寂を破ったのは、チレストロであった。

「アランチョがやられるなんて・・・
 何故? 何故彼はあんなことを言ったの?」

「『独占心』を強めたんですよ」

「・・・え?」

チレストロに聞かれた訳ではないが、全ての理由を知っている俺が説明をした。

47第2話 深紅の目覚め  ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:30:17 ID:6AP6NM8.
「最初に殴った時に『独占心』を強くしたため、彼は標的である俺を意地でも一人で倒そうとしたんです。
 そのおかげで、俺は安全に戦えた」

「一体・・・どういうことなの・・・?」

俺はチレストロのその問いにも答えた。

「スタンドが現れたときから、その能力がハッキリと自覚できたんです・・・
 俺のスタンド能力は、『人間の全ての感情を操ること』だということに」

「・・・!」

ドォーーーーン

「なんて・・・なんて厄介な能力・・・
 坊や、あなたは私たちの敵と認められたわ。
 “いつ、やられるか分からない”わよ・・・覚悟してなさい」

ズシュッ! バッ! バッ!

チレストロは、目にも止まらぬ速さでその場から消えてしまった。


「ロッソ・・・」

「ビアンコさん・・・」

「おめぇのスタンド・・・随分格好いいじゃあねえか・・・ヘヘッ」

「ヴェルデさんは・・・」

「大丈夫だ。こいつはまだ生きてる」

「えっ、本当ですか!」

「あぁ、早く救急車を呼ぶんだな・・・多分サツも一緒に来るけどよ」

辺りは夕闇に包まれていた。



ロッソ・アマランティーノ → スタンドを習得。名は『ガーネット・クロウ』

ビアンコ/スタンド名『エイフェックス・ツイン』
ロベルト・ヴェルデ/スタンド名『ウェポンズ・ベッド』 → ともに重傷、入院。

アランチョ/スタンド名『キラー・スマイル』 → 再起不能。
チレストロ/スタンド名『アーケイディア』 → 逃走。



第2話 完

48 ◆LglPwiPLEw:2009/11/03(火) 18:31:15 ID:6AP6NM8.
第2話終了です。
スタンドがうまく使えるようになりたいなぁ……
というか設定無視な部分もちらほら……申し訳ない……

使用したスタンド

No.721『ガーネット・クロウ』
考案者:ID:8rEguwGhO (俺)
絵:ID:Y0ksuGPEO
絵:ID:Qt/9IV4aO

No.215『エイフェックス・ツイン』
考案者:ID:Licx5cnkO
絵:ID:iWCqjA8h0
絵:ID:836DgT2dO

No.285『ウェポンズ・ベッド』
考案者:ID:Wm62Va4F0
絵:ID:tX7yh2aBO

No.556『キラー・スマイル』
考案者:ID:fb1/r6580
絵:ID:ePphLEuTO

No.599『アーケイディア』
考案者:ID:3fHZczYAO
絵:ID:lAd32x7V0

ありがとうございました。
次回はおにゃのこが登場予定。

49名無しのスタンド使い:2009/11/03(火) 18:37:07 ID:65UMngqI
なにこれおもしろい
ガーネットクロウの使い方がうめぇwwww
次も期待してる!
乙!

50名無しのスタンド使い:2009/11/03(火) 19:13:55 ID:???
乙!

51名無しのスタンド使い:2009/11/03(火) 20:16:43 ID:c/Bjdoos
乙!
    |┃三     , -.―――--.、
    |┃三    ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
    |┃    .i;}'       "ミ;;;;:}
    |┃    |} ,,..、_、  , _,,,..、  |;;;:|
    |┃ ≡  |} ,_tュ,〈  ヒ''tュ_  i;;;;|
    |┃    |  ー' | ` -     ト'{
    |┃   .「|   イ_i _ >、     }〉}     _________
    |┃三  `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-'   /
    |┃     |    ='"     |    <   君いい掛け声をしているね
    |┃      i゙ 、_  ゙,,,  ,, ' {     \  赤軍に入らないか?
    |┃    丿\  ̄ ̄  _,,-"ヽ     \
    |┃ ≡'"~ヽ  \、_;;,..-" _ ,i`ー-     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |┃     ヽ、oヽ/ \  /o/  |

52名無しのスタンド使い:2009/11/04(水) 01:13:31 ID:jMQZRSYg
乙!

53第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:25:31 ID:6AP6NM8.
突然だが、実は俺はかなりの甘党だ。

ケーキなら同じ種類でも三個は余裕。
いや、調子が良ければホールケーキ一個まるごと食べられる自信がある。

そんな俺が最近特にハマっているのは・・・
ネアポリス市街にある菓子店「セータ」のティラミスである。

この店、何でも南イタリア最高と呼ばれるパティシエが店長らしく、
その名声はヨーロッパ全土に広まりつつあるというから驚きだ。

そこまで有名な店ならば、当然その人気は絶大である。
店は毎日客でごった返しているし、人気の品物はあっと言う間に品切れになる。
それは俺が愛するティラミスも例外ではない。

ティラミスが手に入らなかったために、俺は何度枕を涙で濡らしたことか・・・


そういうわけで、俺は今その店に来ているのだ。
狙いはもちろん、ティラミスである。

嗚呼、あのカスタードとマスカルポーネチーズのハーモニー!
そして底に眠る生地とエスプレッソの苦みとの調和ッ!
世の中にこれほど素晴らしい組み合わせがあっただろうかッ!

残り二つ!
買ったッ! 第三話完!

・・・ではなく、物語はここから始まる・・・

54第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:25:57 ID:6AP6NM8.
「イザベラ・・・」

「・・・はい」

「これ、お前のだな?」

「・・・そうです・・・」

店長は、私が作ったケーキを手で掴み、口に運んだ。
私にとって、その時間は異様に長く感じられる。

だが、実際は冷酷な程に一瞬の時間であった。
店長は、私のケーキをそのままゴミ袋に放り投げたのだ。

ブン! ガサッ!

「全然、駄目。成長の色なし・・・

 やる気あんのか!!」

バン!!

店長は突然厨房の台を叩く。
私は縮こまっているしかなかった。

「俺は忙しいんだ。お前の面倒ばかり見ているわけにはいかないんだ。
 ・・・フゥー・・・今日はいい、もう帰れ」

店長からの冷たい一言。
私には痛い程辛い言葉だった。


私はイザベラ・ジャッロ。パティシエの見習いとして、この菓子店で修行している。

はじめ、この店で修行することが決まった時、私は有頂天であった。
何しろ南イタリア最高と言われるパティシエに弟子入りするのだから。

だが、現実はあまりにも厳しかった。

ここに来てから、店長は私の成長を認めてくれない。
きっと今までの彼の弟子達は、こんな程度の実力ではなかったのだろう。

55第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:26:18 ID:6AP6NM8.
でも・・・やっぱり辛い。

努力はしているつもりなのに・・・


私は服を着替え、店の裏の道路に出た。
いつも人通りがない道だ。

私はただゆっくりと歩いた。
どこに行くわけでもなかった。端から見ればただウロウロしているだけである。

だが今の私には“それしかできなかった”。

歩くのをやめて、私は壁に手をついた。

涙が頬を垂れる。

どうすればいいんだ・・・

これ以上の努力は無駄なのか?
才能が努力に圧倒的に勝る場合だってある。
菓子作りという道がこれに当てはまるのならば、今までの私は間違っていたと言って良いだろう。

どうすれば・・・

私は一人で悩んでいた。

・・・ここは誰も通らない道路。
もうしばらくここでこうしているつもりだった。


だが・・・

突然、誰かが私の肩に触れた。

普通ならば、驚いて振り向く所である。
しかし、私は振り向けなかった。
“突然肩を触られるよりも驚くべき事が、私の身に起きたからだ”。


“悲しみが消えた”。

嫌な事を忘れたというわけではない。
それまでの悲しみが、突然他愛もない事のように思えてきたのだ。


“何者かが肩に触れた瞬間から・・・”

56第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:26:44 ID:6AP6NM8.
私はゆっくりと振り向いた。

そこには・・・

一人の少年と、“彼の守護神のような存在”が立っていた。

私の肩に触れたのは、守護神のような存在の方。
赤を基調とした身体と、胸に付いた心臓のような宝石が特徴的であった。

私はそれを見ても恐怖することはなかった。
なぜならば、“私にも同じような守護神を持っているから”・・・


「あ、いや、急にごめん・・・」

少年はそう言った。

私は思ったことを口にした。

「あ・・・あなたも・・・“使えるんだ”・・・」

「・・・え?」

少年は驚いている様子である。

「もしかして、君もスタンドが使えるの?」

「そうよ、『スタンド』って名前なのね。初めて知った」

「へぇ〜・・・
 いや、本当に急にごめん、買い物の帰りに、君がここで泣いてたからさ・・・」

「いや、気にしないで。・・・あっ、その袋、私のお店のだ」

「え! 君、ここの店で働いてるの?」

「働いてるっていうか、弟子入りしてるのよ。大変だけどね」

「そうなんだ。いや〜、ここのお店にはいっつもお世話になってるよ。
 今日は自分で食べるやつと、あとお見舞い用にどうでもいいのを・・・」

57第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:27:07 ID:6AP6NM8.
「クスッ、お見舞いに行くのに、どうでもいいような物でいいの?」

「あぁ大丈夫、大して仲のいい知り合いでもないから」

「ウフフフッ!」

私は彼の言葉に笑った。
つい数分前の私だったら、絶対に笑うことなど出来なかったのに。

「私はイザベラ・ジャッロっていうの。あなたは?」

「俺? 俺はロッソ。ロッソ・アマランティーノだよ」

「ふ〜ん。ねえ、あなたの能力・・・スタンド・・・だっけ?
 いつから使えるようになったの?」

私はロッソにこんな質問をした。

「あぁ、これはね、ごく最近なんだよ。
 スタンド使いを見たのもつい最近で、いつの間にか俺も使えるようになってたんだ」

「そうなの? 私は生まれつき・・・
 ちょっと気味が悪くて、あんまり使わないんだけどね」

「そうなんだ。俺なんかあんまり便利なもんで、手足としてこき使ってるよ」

「それじゃあ可哀想じゃない!」

私とロッソは笑った。
不思議だ・・・さっきまであんなに辛い気持ちだったのに、彼に出会った瞬間からそれが吹き飛んだ。

まるで、それが彼の“能力”であるかのように・・・


だが・・・私達の笑い声は、次の瞬間にかき消された。

58第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:27:40 ID:6AP6NM8.
バァーーーーーーーン!!
バァーーーーーーーン!!

二発の銃声である。


すぐ近くだった。


「・・・え?」


私は信じられなかった。


目の前で笑っているロッソの顔がひきつった。
そしてそのまま・・・

「う・・・ぐ・・・」

彼は、その場に倒れた。


ドサッ


「キャアァーーーーーーーーーーーッ!!」

私は思わず悲鳴を上げた。
何が起きたのか分からない。

私はすぐにしゃがみ込んでロッソの容態を見る。

まだ息をしていた。
腹の部分を横から二発、貫かれたらしい。


一体誰が・・・


「奇遇ね、ロッソ君って言ったかな?
 こんなところで私と出会えるなんてね」

銃声がした方角に、一人の女性が佇んでいた。
・・・片手にピストルを持っている。

「あなたは・・・チレストロ・・・」

ロッソが苦しみながら言った。

「名前覚えててくれてありがと。でもね、もうひとつ覚えてて欲しかったことがあった・・・
 “いつやられるか分からない”って・・・言ったでしょ・・・覚えてない・・・?」

私は恐怖した。
あのチレストロという女性から伝わってくる、並々ならぬ殺気に。

59第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:28:13 ID:6AP6NM8.
彼女の目は、明らかに普通の女性の目ではなかった。
今まで沢山の人間を殺してきた人の目だ・・・

私がこれまでにそんな目を見たことがあった訳ではないが、
彼女からは直感的に“それ”が伝わってくる。


しかし、私はここで何もしないわけにはいかなかった。

“治さなければ”・・・

“私の力で”、今ここに倒れているロッソを救わなければ・・・

そのときの私は、何らかの責任感のようなものでいっぱいだった。


私は何も考えず、ロッソを抱きかかえた。
必死だったからか、不思議と重さは感じなかった。

「・・・あら? 何処行くの?」

背後からのチレストロの声に再び私の背筋は凍ったが、私は夢中で走り出していた。

道を曲がって、目に付いた廃屋に飛び込んだ。

建物の奥へ奥へと進む。
悪魔のようなあの女性に見つからないように・・・

「イザベラ・・・」

ロッソが苦しそうな声で話しかけてきた。

「俺のことはいいんだ・・・俺は一人で戦える・・・
 君は逃げてくれ・・・」

「いや、あなたをここで見過ごしてはおけないの。
 あなたは私を元気付けてくれたんですもの・・・あなたを“治す”義務があるッ!」

60第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:28:43 ID:6AP6NM8.
「治す・・・だって・・・?」

私は部屋の隅にロッソを寝かせる。
・・・そしてすぐに私の「スタンド」を呼び出した。

「『シルキー・スムース』!」

ズオォォ!


“それ”は一見、巨大な蛾のようにも見える。
私がさっき「気味が悪い」と言った理由はそれだ。

だが、その能力はあまりにも「優しい」ものである。
こんな私には似つかわしくない程に・・・


シュルルルルルルル・・・

「・・・こっ、これは・・・?」

「この子の作る『繭』の中にしばらく居れば、怪我が回復するのよ」

「でも・・・チレストロが来る・・・危険だ!」

「大丈夫、私が何とかするわ」

「そんな・・・うわっ!」

『シルキー・スムース』の吐いた糸はあっという間にロッソを包み込み、「繭」を作り上げた。

怪我が完全に回復するまで、内側から繭を破壊することはできない。

それまでは・・・

「あなたも・・・スタンド使いだったのね。驚いちゃったわ。
 その白いのの中にロッソ君がいるのね・・・」

それまではこの人から逃げきらなければならない・・・!

私は繭を抱え、すぐに走り出した。

61第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:29:13 ID:6AP6NM8.
「逃げても・・・無駄なのよ・・・?」

チレストロの声がする。
私は建物の二階へ逃げた。

正直私は、これから先どうすれば良いか全く考えていない。
だが、とにかく今の私はこの「繭」を守る気持ちでいっぱいだった。


二階に到着する。
そこには・・・

「あんまり抵抗しちゃ駄目よ、ガールフレンドさん」

「嘘・・・」

チレストロがいた・・・

「何で・・・? 私の方が早かったのに・・・
 階段は他には無かったのに!」

「ウフフ・・・何ででしょうね・・・」

チレストロが不気味に微笑む。
また、背筋が凍った。

こんなことが出来るなんて、彼女は間違いなくスタンド使いだ。

「私はね・・・飛び道具で人を殺したくないの。
 殺る時は必ずスタンドを使いたい・・・そう思ってるの。でもね・・・」

チレストロがゆっくりと迫ってくる。
私は「繭」を抱えたまま後ずさりした。

「ロッソ君の場合は、ちょっと厄介でね・・・触れられただけで私はもう戦えなくなる恐れがあるのよ。
 だからまずは撃って動きを止めてから・・・っていうことにしたの」

後ろに壁が迫る。
こうなったら・・・

「『シルキー・スムース』ッ!」

シュルルルルルルルルルッ!

「!」

62第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:29:50 ID:6AP6NM8.
『シルキー・スムース』の吐く繭糸を、チレストロに巻き付けたのだ。

「これは・・・!」

ダッ!

私はすぐに走り出した。
さらに上の階へ・・・

「くっ!」

バチン!!

後ろでチレストロが糸を引きちぎる音がした。

単に糸を巻き付けるだけでは、全く無駄であることは分かっていた。
しかし今の私の使命は、とにかく「逃げる」こと。
「繭」の中のロッソが回復するまで、チレストロの攻撃を防がなければならない。


三階に着いた。
だが・・・

「何で・・・」

やはり、チレストロがいる。

「あなたからその『繭』を奪うのは簡単なのよ。
 でもね、あなたからそれを渡してもらわないと・・・
 あなたは私達の“敵”と認められてしまう・・・それはどういうことか分かる?」

私は『シルキー・スムース』を出したまま、ただチレストロを睨んでいた。

「“私は、あなたを殺さなければならないの”・・・
 そこにいるロッソ君と同じようにね・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

彼女の言葉を信用するならば・・・
ロッソはかつてチレストロの属する組織に反抗し、それ以来彼女たちに狙われていたということか・・・

63第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:30:32 ID:6AP6NM8.
つまり、チレストロにこれ以上抵抗すれば、私もずっと命の危険にさらされ続けるということ・・・
それどころか、今日ここで彼女に殺されるかもしれないのだ。

「そんなの嫌よね。だったら、私にロッソ君をよこしなさい」


でもロッソは・・・
私の苦しみを、まるごと取り除いてくれた。

そんな彼を見放すわけにはいかないのだ。

私は逃げきってみせる!
ロッソと共にッ!


ダッ!

私は再び駆けだした。
だが・・・

「・・・交渉成立・・・ね」

シュバッ! バシッ!

「あぁッ!」

チレストロは猛スピードで滑るように私に近づき、ローキックを食らわせたのだ。
足に凄まじい衝撃が走り、私はよろけた。

「この際、力づくでロッソ君を頂くわ。
 ・・・彼を始末したら、あなたも死んでもらうけどね」

「そうは・・・そうはさせないわッ!
 『シルキー・スムース』ッ!」

「それはもう効かないの・・・なッ!?」

シュルルルルルルルル・・・

『シルキー・スムース』の糸を再びチレストロに巻き付けた。
しかし先程とは違って、まずは目を狙って怯ませる。
続いて腕、足を拘束して動きを奪い・・・
さらに糸を巻き続け、「繭」を完成させた。

64第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:31:34 ID:6AP6NM8.
「繭」の中にいる者は、治癒が完了するまで絶対に出られない。
これを利用して、チレストロを繭の中に閉じこめたのだ。

無論、彼女はどこも怪我をしていないので、閉じこめられる時間はごく僅かだ。
だが今の私にとっては、ほんの一瞬でも時間を稼ぎたかった。

しかし、人一人分の重さがある繭を抱えて何度も階段を登っていた私には、体力の限界が近づいていた。

「ハァ・・・ハァ・・・」

さらに、今しがたチレストロの蹴りを受けた足がズキズキと痛む。
骨にヒビが入ったかもしれない。

疲労と痛みに耐えつつ、私はさらに上の階に向かった。


・・・なぜ私は上に登っているのだろう・・・?

そのまま下の階に逃げれば良いものを、上に逃げてしまえばいつか逃げ道が無くなってしまう。


後になってから考えた結果なのだが、これはもしかしたら私の「深層心理」が呼び起こした行動なのかもしれない。
つまり、この時の私はただひたすら「上」を目指していたということ。

何の根拠もない話だが、私にとっては何故か納得のいく理由だった。

65第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:32:08 ID:6AP6NM8.
今の私は、叱られただけで落ち込むようなさっきまでの私とは違う。

例えるなら、私は今「羽化」しているのだ。

私は繭玉のように閉じこもっていた心を打ち破り、羽を広げようとしている最中なのである。

あの場所でロッソという少年に出会わなかったら・・・
そして彼がチレストロという女性に撃たれなかったら・・・
私の心がかくも成長することはなかった。

人の出会いは運命で決まる。
私は今、この言葉を強く信じていた。


悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ようやく上の階に到着する。

そこは屋上だった。

「・・・もう逃がさないわ。覚悟しなさい・・・」

真後ろで、チレストロの声がした。

追いつめられた・・・


いや、違うッ!

「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」

私は全力で走り出した。
そしてそのまま・・・

「・・・! と・・・飛び降りる気!?」

私は・・・

バッ!

屋上から飛び降りた。

「『シルキー・スムース』!」

飛ぶ直前にスタンドの糸を柵に巻き付けて・・・

ガシッ!

私はその糸を掴み、降りようとする。

・・・しかし・・・

私の体力は、既に限界であった。

「きゃあぁッ!」

ドシャアァッ!

66第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:33:07 ID:6AP6NM8.
自分と繭の重さを支えられるだけの腕力は、もう残っていなかった。
私は二階あたりの高さから落下したのだ。

「うっ・・・く・・・」

自分の身体を受け止めた腕に激痛が走る。
頭から落ちなかったのが不幸中の幸いだったが。

とはいえ、地面に叩きつけられた私の身体は、もはや動かすことができない状態である。

「に・・・逃げないと・・・」

一緒に落ちた繭を探すため、私は仰向けになる。

その時・・・

「そんな・・・」

私は、あのチレストロの能力の正体を見たのだ。


・・・チレストロは、壁を歩いていた。

「そこまでしてロッソ君守ろうとする意志・・・流石だわ。
 ガールフレンドはそうでなくちゃあね」

一体何なの・・・「壁を歩く」・・・?
そして私を攻撃したときの、あの滑るような動き・・・

そうか・・・

彼女の能力は「摩擦」を操る能力なんだ・・・
足の裏の「摩擦」を極端に弱めたり強めたりできるおかげで、あんな動きが可能になるというわけだ・・・

上の階へ一瞬で移動したのも、窓の外からああやって上がっていたからだろう。

67第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:33:34 ID:6AP6NM8.
しかし、敵の能力が分かったからといって私の勝ちではない。

「ごめんね・・・これは“掟”なの。
 二人で仲良く逝って頂戴ね・・・」

ズシュッ!

チレストロは、私から少し離れた所に転がっていた繭に向かって突進した。

「やめて・・・」


あぁ!
ロッソが殺されてしまうッ・・・!


ドゴォ!

「ぐふぅッ!」

だが、凄い勢いで飛ばされたのは・・・
チレストロの方であった。

「!」

私は動かない身体を無理矢理起こして、「繭」のある場所を見る。

そこには・・・
ロッソの「守護神」が、堂々とその姿を現していた。

「完了・・・したんだ・・・
 『繭』による回復が完了したッ!」

繭には一文字に裂け目が走っており、スタンドに続き、ロッソがそこから姿を現した。

「チレストロ・・・あなたはもう俺達を襲うことはできない。
 俺達に対する『敵意』を取り除きましたからね」

「ハァ・・・ハァ・・・」

ボディーに一撃を食らったチレストロは、口から血を流しながらも立ち上がる。


そして突然・・・

「殺してッ!!」


不意にチレストロが叫んだ。

「私を殺しなさいッ! どうせ私はいつか消されるんだから!」

68第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:34:01 ID:6AP6NM8.
「・・・・・・」

ロッソは黙っていた。

「早く・・・殺しなさいよ・・・
 こうなったら私から・・・」

チレストロは、手刀を自らの首の後ろに回した。

自殺する気だ!

「待って・・・!」

私が声をかけようとしたとき、チレストロの動きが止まった。

「“死ねない”わ・・・死ぬ気になれない・・・
 こんなこと・・・」

「自殺もできませんよ。
 あなたに“自愛”の心も埋め込んでおきましたから」


「!」


チレストロは驚愕した。
そしてその場にゆっくりとへたり込んだ。


「ロッソ君・・・あなた、女性に優しいのね・・・
 イタリア男児の鏡だわ・・・ウフフ」

チレストロは力なく笑う。
その表情は、今にも泣きそうな赤ちゃんのそれにも似ていた。

「あなたの優しさを受け入れるわ。
 私は『教団』から追われる身になるけど、頑張って生き延びてみせる・・・
 あなた達も無事でいてね・・・」

彼女は空を見上げた。
そして・・・

バッ! バッ!

立ち上がる隙も見せずに、どこかへ去ってしまった・・・


空は、透き通った水色をしていた。


チレストロ/スタンド名『アーケイディア』 → 逃走・・・行方不明。

69第3話 繭玉の心  ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:34:48 ID:6AP6NM8.
しばらく経ってから、ロッソが私に駆け寄ってきた。

タッタッタッ・・・

「イザベラ、大丈夫か!」

「うん、大丈夫よ、気にしないで!」

私はゆっくり起き上がる。

「ひどい怪我だぞ・・・」

「大丈夫、私のスタンドですぐに治せるから!」

「そうなんだ・・・便利なもんだな・・・
 あっ・・・あと、一言言っておきたいんだけど・・・」

「ん? 何?」

「助けてくれて、本当に有り難う。
 正直言って、撃たれた状態で戦うのは無理だった。
 君が命がけで守ってくれたおかげなんだ」

「・・・・・・」

私は何も言えなかったが、内心とても嬉しかった。


私の心は今、晴れて「羽化」できたのだ・・・
もう、今までの繭玉のように籠もりがちだった性格の私ではない。

こんなに私が成長できたのは、ロッソのおかげなのだ。
私も彼に感謝したい・・・


だが、私は何故か何も言うことができなかった。

ロッソもしばらく黙っていた。

そして急に・・・

「あっそうだ、『繭』の中に忘れ物が・・・」

ロッソは繭の所まで走っていく。
そして中から取り出したのは・・・

「いや〜、無事でよかった、“ティラミス”」

最初に出会ったときから大事に持っていた、私の店の袋だった。

「ティラミス・・・?」

私は呟く。

「俺大好きなんだよね〜、ここのティラミス。
 何個食べても飽きないッ!」

「なんだか・・・」

「ん? 何?」

「なんだかティラミスなんて、私とあなたにピッタリなお菓子かもね!」

「ピッタリ? どういうこと?」

「フフッ、知らないの?
 だって『ティラミス』って・・・

 『私を元気付けて』って意味なのよ!」



第3話 完

70 ◆LglPwiPLEw:2009/11/09(月) 18:35:25 ID:6AP6NM8.
第3話終了です。

ロッソのキャラが分かんねえ……一応ジョルノみたいな敬語キャラのつもりなんだけど……

ていうかおい! シルキースムースの設定を勝手に付け足すな!
これは由々しき問題ですよね……ホントすみません……


使用したスタンド

No.721 「ガーネット・クロウ」
考案者:ID:8rEguwGhO
絵:ID:Y0ksuGPEO
絵:ID:Qt/9IV4aO
絵:ID:jn.D2.SO

No.366 「シルキー・スムース」
考案者:ID:7DJZ5hm40
絵:ID:lT+Ux0GN0

No.599 「アーケイディア」
考案者:ID:3fHZczYAO
絵:ID:lAd32x7V0


ありがとうございました。

71名無しのスタンド使い:2009/11/09(月) 18:43:26 ID:65UMngqI
乙!
仲間はイザベラとビアンコとヴェルデの三人かな?
次も期待してる

72名無しのスタンド使い:2009/11/09(月) 20:40:32 ID:ATodJSp6
うおおおおッ!俺もイザベルたんを元気付けてやりたいッ!

73名無しのスタンド使い:2009/11/09(月) 21:09:18 ID:???
乙!

>買ったッ! 第三話完!
でフイタwww

74名無しのスタンド使い:2009/11/09(月) 22:22:00 ID:Svv9j.oo
乙!面白かったw
アーケイディアって便利な能力だな〜
ビアンコの扱いがちょっと酷くて可哀想ですw

75 ◆LglPwiPLEw:2009/11/17(火) 11:25:03 ID:???
まずい…
俺は今週の忙しさよりもSSが書き終わらない事を気にするタイプ!

第四話はもう少し先になります……ごめんなさい

76第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:52:42 ID:6AP6NM8.
ネアポリス市街 PM 12:30頃


「だからよォ〜、『ヴェネツィアに死す』って呼び方のが絶対正しいと思うんだ。
 だろ? おかしいよな?」

「そうそう、なんで英語で『ベニス』って呼ぶのがメジャーなのか分からん」

さっきから意味のない話題で盛り上がっているのは・・・
退院し、すっかり元気になったビアンコとヴェルデである。


俺達は今、市街にあるレストランに集まっている。
何やらヴェルデから話があるらしい。
今は三人で、残りの一人であるイザベラを待っている。


それにしても・・・うるさい。

ただでさえ日曜の昼時で沢山の客がいるのに、俺達が座っている席は外のテラスだ。
通行人までもが、この二人の男の下らない会話を聞かされている。

二人は共に入院しているうちに仲良くなったらしいが・・・

医者が驚愕するほどの早さで怪我が回復したという二人・・・
なるほどな・・・と思う。


「おいロッソ、おめえも思うよな」

ビアンコが突然話を振ってくる。

「はい? 何が?」

俺はこう返す他に無かった。

「だぁ〜〜ッ!! また上の空かよ!!
 年上の話はちゃんと聞けって言っただろうが!」

ビアンコはついに地団駄まで踏み出した。

77第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:53:13 ID:6AP6NM8.
「そういえばさ、ローマは違うんじゃあねえか?
 英語の発音は『ローム』らしいぜ」

ビアンコとウェルデの話はまだ続く。

「何ィ〜ッ!? 馬鹿げてるぜ!
 何でヴェネツィアだけ仲間外れなんだ!」

「フィレンツェとかトリノもそうだぞ!
 英語の発音は『フローレンス』と『トゥーリン』だからな!」

「基準が分かんねェ〜!!」

・・・周りの目線が痛い・・・
俺はそろそろ、我慢できなくなってきた。

「『ガーネット・クロウ』・・・」

俺はスタンドを解き放つ。

ズオォォ!

ドス!    ドス!
「ウッ!」 「ウッ!」

「ちょっと黙っててもらえませんか・・・?
 今あなた方を『鬱』にしておきましたんで・・・」

「はい・・・」

「すみませんでした・・・」

ようやく大人しくなった・・・
俺は呆れと安堵、両方の意味の溜め息をつく。


「・・・おいヴェルデ・・・」

ビアンコがか細い声で話し始めた。

「・・・何だよ」

「『ネアポリス』って、確かラテン語だよな・・・
 イタリア語の『ナポリ』とどう違うわけ・・・?」

「!?」

俺は驚愕した。
まだその話題を続けるのか!?

「・・・知るかよ」

ヴェルデにはもう答える気力が無いらしい。

78第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:53:34 ID:6AP6NM8.
「・・・なんだよそれ・・・意地悪」

ビアンコにはまだ会話する余裕があるというのだろうか?
俺は確かに『ガーネット・クロウ』の能力で、話す気力も無くす程の「鬱」にしたはずなのに・・・

なんだか疲れてきた・・・


その時・・・

「あっ、どうもこんにちは・・・」

イザベラがやってきた。
その瞬間、ビアンコの目が見開かれる。

「うおォ〜ッ!! 来たぜロッソの彼女!
 ほらヴェルデ、俺達で噂してた女の子だぞ!」

「・・・・・・」

ヴェルデは返事をしない。

「え!? ちょ・・・」

イザベラは顔を赤くする。
俺はその場で身を縮めるしかなかった。

おかしい・・・確かに「鬱」にしたはずなのに・・・



同所 数分後


「さて、それじゃあ簡単な自己紹介から・・・」

ビアンコが改まった様子で取り仕切っている。

二人の「鬱」は既に解除している。

「え〜、まず、俺はビアンコ。今はバイトしながらギターをやってる。
 スタンドは『エイフェックス・ツイン』、好きなアーティストはアークティック・モンキーズだ。よろしくっと」

ビアンコは手短に自己紹介を済ませた。

イザベラは、先程ビアンコにあんなことを叫ばれてから苦笑いしかしていない。
内心では相当彼のことを憎んでいるだろう。
俺も同じだ。あんな勘違いをされていれば・・・

79第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:54:09 ID:6AP6NM8.
「え〜っと、じゃあ次はイザベラちゃんだな、よろしく頼むぜ」

「あ、はい・・・」


そんな調子で自己紹介が進んだ。

イザベラと、その次の俺が終わった。

「ほら、最後はヴェルデだぜ」

ヴェルデはビアンコにそう言われると、一息ついてから話し始めた。
何やら落ち着かない様子だ・・・

「あ〜、じゃあ・・・この際俺の自己紹介を“正直に”やらせてもらうぞ・・・
 ビアンコには黙ってて悪かったと思ってるんだが・・・

 “俺はギャングだ”。下っ端の構成員だがよ」


「えっ!?」

「ギャ・・・ギャング?」

俺とイザベラは思わず言葉を漏らした。

ガラッ!

ビアンコは突然立ち上がる。

「これまでのあなたに対する数々の御無礼をお許しくだsぐふッ!」

俺はスタンドでビアンコを突いた。

「人の話を最後まで聴いて下さい、ビアンコさん」

「はい・・・」

ビアンコは静かに席に着く。

「今回みんなを集めたのは、“あいつら”について話しておきたかったんだ」

ヴェルデは至極真面目な口調で語った。

「あいつらって・・・」

俺がヴェルデに尋ねる。

「あぁ、あの『アランチョ』と『チレストロ』。二人が属する組織のことだよ」

80第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:54:36 ID:6AP6NM8.
「!」

空気が一気に張りつめた。

「チレストロ・・・」

イザベラが呟いた。
彼女がチレストロから受けた恐怖は相当なものだろう。

俺はもう一度尋ねた。

「一体何なんですか? 奴らが属する組織って・・・」

「・・・『教団』だよ」

ヴェルデはそう答えた。

「教団?」

俺達は一斉に同じ言葉を口にする。

教団・・・
あのジョルノという少年が言っていた・・・

「それって具体的には・・・」

イザベラが尋ねた。

「『スペランツァ・ディ・イッディーオ(神の望み)』という名だ。
 表向きにはプロテスタント系の新興宗教なんだが、裏の目的は・・・」

「・・・・・・」

俺達はヴェルデの言葉にじっと耳を傾けている。


「『ギャングの残滅』を掲げている・・・」

「!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


ビアンコが口を開いた。

「アホにも程があるだろ!
 ギャングなんてイタリアには有り余る程組織されてるぜ!
 一体何のために・・・」

「ビアンコ、静かに頼む。今は人が多いからな・・・」

ヴェルデは真剣な面持ちで話を続けた。

「今はこれ以上のことは分かっていない。
 だが、これまでに俺達の仲間が何十人も殺されている・・・
 “しかも、そのほとんどがスタンド使いなんだ”」

81第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:54:58 ID:6AP6NM8.
「そ、それって・・・」

俺は反射的に口を挟んだ。
できるだけ声を小さくして・・・

「スタンド使いを優先して殺しているということですか・・・?」

「そういうことだ。スタンド使いは厄介な存在だろうからな。
 しかも、『スタンドはスタンドでしか倒せない』という規則がある。
 『教団』はスタンド使いを殺すために、『応報部隊』というものを組んでいるらしい」

「『応報部隊』・・・なんだよそれ・・・」

流石のビアンコも声を小さくしている。

「教団の中で結成された、スタンド使いの集まりだよ。チレストロやアランチョもそこに属していたんだろう。
 奴らは特殊な『矢』を使ってスタンド能力を引き出され、後で教団に引っ張られて来た奴らなんだ・・・」

「特殊な『矢』・・・?」

俺達には分からないことが多すぎて、少し混乱していた。
一人を除いて・・・

「『矢』・・・だと・・・」

ビアンコである。
冷や汗を流し、さっきまでの剽軽な態度が嘘のようだ。

「ビアンコ、何か心当たりがあるのか?」

ヴェルデが尋ねる。

「俺も『矢』みてえな物で傷つけられた・・・
 そのときからスタンドが使えるようになったんだ・・・
 それに・・・」

82第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:55:29 ID:6AP6NM8.
「それに?」

ヴェルデは問い詰める。

「いや、何でもねえや・・・
 とにかく、俺は『矢』にスタンド能力を引き出されている。間違いねえ」

「うん、恐らくそれも教団の人間だ。
 その後お前を教団に引きずり込む予定だったかもしれない」

「あぁ来たさ、変な奴らが俺を拉致しようとな。
 俺はスタンドを使って色々やりたかったから、ブッ飛ばして逃げてたけどな」


色々というのは・・・
俺がやられそうになった時のような悪行のことだろうか。

だとしたら、余りにもセコいような気がするのだが・・・


「そいつは危険だぜ・・・
 教団はギャングに味方する奴や、反抗するような奴も容赦なく殺すからな。
 俺が今日謝りたかったのは、お前達をこの戦いに巻き込んじまったことなんだ・・・」

「いや、ヴェルデさんのせいではありませんよ・・・」

俺はヴェルデの言うことを否定した。

ビアンコのせいですよ・・・

「スマン、だが今、お前達は本当に危険な状態にある。
 特にロッソ、お前は強力なスタンドを持っていることを既に知られている。
 この前のように、いつやられるか分からないんだ」

83第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:55:57 ID:6AP6NM8.
「分かってますよ。
 チレストロだって、またいつ俺を叩きに来るか分かりませんし。
 用心はするつもりです」

俺はあくまでも冷静に答える。
だが心の中では・・・正直、恐怖していた。


俺を狙って来る刺客がいる・・・?
悪夢でも見ているのだろうか・・・?


「だが、相手はどんなスタンドを使ってくるか分からない。
 俺から言えるのは、外には一人で出歩くなということだけだ。
 俺が責任を持って同行するから、何か用があるときは連絡してくれ」

「はい・・・」

「分かりました・・・」

俺とイザベラは静かに頷いた。

「用事はそれだけか?」

不意にビアンコが喋りだした。

「え? ・・・あぁ、まぁそうだが」

ヴェルデは戸惑いながらも返事をする。

「そんなら俺はお先に失礼するぜ。用事があるからよォ。
 メシ代は置いとくから払っといてくれ」

「別に構わないが・・・一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ。人通りの多い場所だし。
 それに、俺のスタンドは無敵だぜ、ヘヘッ」

ビアンコの表情は、いつもと変わらない陽気なものだった。

「フフッ、分かった、じゃあな」

「さようなら」

ヴェルデとイザベラは挨拶をする。

84第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:56:27 ID:6AP6NM8.
俺はビアンコの姿を何となく見ていた。


表情こそ陽気だが、何だかさっきまでのビアンコと印象が違うように見える。
そう、それはどこか寂しげな・・・


「おいロッソ! 俺への挨拶は無しかよ!」

突然ビアンコに注意され、俺は我に返った。

「あっ、はい、さようなら・・・」

「まったく、挨拶もできねえのかよ! 挨拶は礼儀の基本だぜ!
 そんじゃあな!」

・・・いつものビアンコだ。
良かった。

俺は人混みの中へ消えていくビアンコを、見えなくなるまで眺めていた・・・



ネアポリス郊外 PM 13:10


俺は・・・
みんなに悪いことをしたと思っている。

「嘘」を付いてしまったことだ。

「人通りの多い場所」なんていう、実にちっぽけな嘘。
些細なことに感じるかもしれないが、俺にとっては大きな過ちだった。

人を騙すなんて・・・
「礼儀」に反する、最低の行為じゃあないか・・・


俺は今、“人通りが多くない”どころか、全く人気のない場所へと向かっている。
ネアポリス郊外、海に面した所にある、小さな工場跡だ。

そこでは“奴”が待っている・・・


昨日、俺は“奴”に突然呼び出されたのだ。
明日の昼過ぎ、ここの工場跡に来いと・・・

85第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:57:24 ID:6AP6NM8.
その電話を受けた時、俺は驚きで目を見開き、声を失った。

“奴”とは一年近く連絡を取っていなかった。
それが突如、向こうの方から電話をかけてきたのだ。

“奴”が一体何の理由で俺を呼びだしたのか・・・
俺には大体の予想がついている。


やがて工場跡にある、デカい倉庫の前に辿り着いた。

「フゥ〜・・・」

俺は溜め息と深呼吸を同時にして、大きく一歩を踏み出した。

バン!

「意外と遅かったなァ〜、ビアンコ」

“奴”がいた・・・
だだっ広い倉庫の中で佇んでいる。
双眼鏡みてーなイカレた眼鏡をかけたアイツが。

「『礼儀』を重んじるお前のことだから、必要以上に早くから待っているのかと思ったが」

「ハッ・・・余計なお世話だぜ、グリージョ」

グリージョ。
それが“奴”の名前だ。

「ビアンコ、俺がやりたいことは何だか分かるよなァ〜?」

「おめぇの考えてることは嫌でも分かるよ。昔っからな・・・」

こいつは・・・
俺の“元”親友だ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

俺達はしばらく睨み合っていたが、やがて俺がその沈黙を断ち切る。

「おめぇがスタンド使いになってから、もう一年ってとこか?」

86第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:57:58 ID:6AP6NM8.
「・・・・・・」

グリージョは黙ったままだ。

「スタンド・・・こんなに便利な物って他に無いよなァ。なんたって超能力だからな。
 俺だって最初の頃は、くだらねえ事にスタンドを使ってたよ。
 だがなァ〜・・・」

俺はグリージョを睨んだまま、ゆっくりと息を吸ってから言った。

「スタンドを身につけたからって、大切なダチを見捨てていくのはどうかと思うぜェ!」

「・・・・・・」

グリージョは微動だにしない。
その表情は、旧友である俺を遥か下に見下ろすような、余裕の表情であった。

俺はさらに話を続ける。

「さっき聞いたんだぜ。おめぇが入ってった訳の分かんねえ宗教のこと・・・
 ギャングの残滅だと? 寝言は寝て言えってんだ」

俺がそう言うと、グリージョの表情が変わった。
怒っているか、歯を剥き出しにしていた。

「寝言だと? それはこっちの台詞だぜビアンコ・・・
 『教祖様』は俺に心の平安を与えてくれる・・・彼こそ真の善人、新たな救い主だ。
 俺は彼の目指す世界を作るために、お前を殺すッ!」

グリージョの顔に青筋が立つ。
目の部分はよく分からないが、鬼のような形相をしているに違いない。

87第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:58:23 ID:6AP6NM8.
「あ〜あ、やだやだ。これだからカルト教団っつうのは。
 こういう手の施しようのない狂信者を生むんだよなァ〜」

俺はわざと挑発的な言葉を吐いてやった。

ピキッ!

「死ねビアンコ!!」

ズアァァ!
ズドオォォォーーーン!!

「おっと!」

プッツンしたグリージョはスタンドを発現させ、腕を俺に降り下ろす。
俺はそれをヒラリとかわした。

グリージョのスタンドは・・・
一言で言えば、「デカい」。

普通の人間型スタンドなら、身長は人間と同じくらいのはずだ。
だがグリージョのスタンドは、2m近くある巨大なものだった。

(だが身体がデカいということは、それだけ的もデカいということ!)

「いくぜ! 『エイフェックス・ツイン』!」

ズオォォッ!

俺はスタンドを解き放ち、奴のスタンドに突進する。
そして渾身の一撃を・・・

「ヌアァァァァァァァッ!!」

「させるかッ!」

ズアッ!

「何ッ!?」

俺のスタンドが拳を突き出す寸前・・・

“グリージョの姿が見えなくなった”。

姿が消えたのではない。
目の前に「壁」が現れたのである。

バゴオォォォォォォ!!

俺のスタンドはそれを思いっきり殴ることとなった。

88第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:58:49 ID:6AP6NM8.
殴った衝撃が拳に響く。

ガラガラ・・・

グリージョの前に現れた壁が崩れていった。

「これがおめぇの能力かよ・・・」

「フン・・・その通りだ・・・
 名は『ワンダーウォール』。
 触れた所に『壁』を作ることができるッ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


「どうせよォ・・・」

また睨み合いが続くかに見えたが、俺はすぐに口を開いた。

「他にもおめぇの仲間が来てんだろ? ここに。
 隙をついて二人がかりで殺るつもりなんだろ? え?」

俺はグリージョを疑っていた。
生真面目に一対一の戦いを望む奴などそうそういない。

「断言しよう・・・“それはねぇ”。
 俺はお前と、正々堂々と決着をつけてぇんだ」

「ほ〜・・・」

意外な返事だった。
昔からの付き合いだ。奴の嘘など簡単に見通せる。
だがグリージョの口調は嘘ではなかった。

「それなら心置きなくおめぇをボコれるぜ・・・
 『エイフェックス・ツイン』ッ!」

俺は再びグリージョに突進した。

「『ワンダーウォール』ッ!」

ドゴォ!!

『ワンダーウォール』が地面を殴った。
すると・・・

ズアッ!

奴の目の前にまた『壁』が現れた。

89第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:59:17 ID:6AP6NM8.
(やっぱりな・・・だが構わん!)

俺は怯まず、壁に向かって突っ走る。

「ヌアアァァッ!!」

ドドドドドドドドガァ!!

そして一気に壁を破壊した。
だが・・・

「何ッ!」

破壊した壁の先にあったのは・・・


もう一枚の“壁”!

グリージョは、そのさらに奥にいるのか?

いや違うッ!
奴は・・・


「“上”かッ!」

「ハアァッ!」

俺の上空、すぐ目の前にグリージョとスタンドの姿があった。

「死ねえェェェェ!」

ゴォォォ
バイン!

「ぐッ!」

グリージョは、俺に接触する寸前の所で後方に飛んでいった。
『エイフェックス・ツイン』が作り出す“壁”で奴を跳ね返すことに成功したのだ。

ドシャァァァン!

「・・・フゥ〜、ギリギリだったぜ。
 おめぇ、“壁”がせり上がるのを利用して、乗ってジャンプしやがったか。
 俺が壁を壊してる隙に・・・」

俺は手で冷や汗を拭う。

「ビアンコ・・・それがお前の能力か・・・」

グリージョはゆっくり立ち上がる。
あまりダメージはなかったようだ。

「あぁそうだぜ。おめぇと似たような能力で何か嫌だけどよ。
 これが俺の作り出す“壁”だ・・・」

90第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 19:59:46 ID:6AP6NM8.
「なるほど・・・面白れェ・・・
 だがお前の“壁”など・・・
 この『ワンダーウォール』の敵ではないッ!」

ブオォォン!
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!

「! 何だッ!?」

グリージョは突然、自分の周りの床を殴り始めた。
そして大量の“壁”が出現し、奴の姿は見えなくなっていく。


・・・・・・


いつの間にか音が止んだ・・・
やがて・・・

ガラガラガラガラガラガラガラ!
ズガガガガガガガガガガガガガ!

グリージョのスタンドが作った大量の壁が崩壊を始めた。

そしてそこは、あっという間に瓦礫の山となってしまった・・・

「・・・おいおい、何が起こったんだ?
 本気で気が狂ったのか? グリージョよォ」

俺は瓦礫の山に近づいた。
その時・・・

ドバァーン!

「!」

突然瓦礫の中からグリージョが飛び出してきたのだ!
俺に向かって、真っ直ぐに・・・

ドゴン!

「ぐうッ!」

俺は奴のスタンドの体当たりを食らい、大きく吹っ飛んだ。

ドシャアァッ!

「く・・・そ・・・ッ!」

(やばい、追い打ちが来るかッ!)

俺はすぐさま体勢を立て直す。
しかし・・・

グリージョは、その場から動こうとはしていなかった。

91第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:00:15 ID:6AP6NM8.
グリージョは気味の悪い笑顔を浮かべながら言った。

「ここは広いからなァ、瓦礫の中に隠れて奇襲をするしかないんだ。
 瓦礫の中でさらに“壁”を作って、反動で吹っ飛んだんだぜ。
 だが、こうも簡単に成功するとはなァ」

俺は立ち上がりながら言った。

「おめぇなあ・・・そんな体当たり一発で俺が死ぬわけねえだろ?
 どうせならもっと打ち込んで来いってんだ」

だが、グリージョはさらに不気味な笑顔で答えた。

「その必要はねぇ・・・
 “やるべきことは完了したんだ”・・・」

「何だと?」

俺はグリージョの方へ歩いて行こうとした。

だが・・・

「・・・何・・・?」

身体が動かない・・・

いや、それは違う。身体は確実に動かせる。

“俺の心が、身体を動かそうとしない”のだ・・・

グリージョに近づいてボコボコにしてやる気持ちが起きない。
それどころか、ここから一歩も動く気にもなれない。
ましてやスタンドなど出すことも出来なくなっている。

(これは一体・・・)

グリージョが俺の心を見透かすように言った。

「動く気になれないのだろう? ビアンコ。
 これが俺の『ワンダーウォール』のもう一つの能力・・・」

92第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:00:41 ID:6AP6NM8.
(てめぇ、何しやがったッ!)

俺は心の中でそう思ったが、声に出すことが出来ない。

「『ワンダーウォール』が、お前の『心』に“壁”を作ったのだッ!」

(何ィ!?)


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・

「それはどういう意味か分かるか? ビアンコ。
 お前の心は今、シャッターが閉まったように閉鎖している!
 何をしようにも“その気になれない”のだッ!」

心に“壁”を作った?
意味がサッパリ分からない。

だが、俺は身体を“動かしたくない”。
身体が命令しても、心が動かないという、普通とは逆の事態が起きている。
これは事実であった。

グリージョは俺にゆっくりと近づきながら言った。

「今のお前は俺に“やられるしかない”のだ・・・
 逃げる気すら起きないからなァ・・・」

(ぐっ・・・)

動けない。
動かなければならない。でも俺は“動きたくない”。

(バカな・・・ッ!)

グリージョが目の前に迫る。

「これで終わりだ! ビアンコ!」

(やばいッ!)

「テヤアァァァァァ!!」

ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ!!

「ぐばァッ!」

『ワンダーウォール』の激しいラッシュを食らい、俺は後ろに吹っ飛んだ。

93第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:01:09 ID:6AP6NM8.
バガアァァァァァン!!

俺は倉庫の壁に激突した。
もはや痛みすら感じさせないほどの衝撃が全身を襲う。

「ぐッ・・・」

かろうじて俺の意識は残っていた。
だが身体はボロボロで、まだ心の“壁”も取れていない。

「なんだ、まだ生きてるのか?
 ならば次はお前の頭を潰すッ! これなら死ねるだろビアンコ、あ?」

(・・・畜生・・・)

グリージョがこちらに歩いてくる。

クソッ! こんな時・・・
こんな時にロッソがいればッ!
俺の心の“壁”なんざ、一瞬で取り除いてくれるのに・・・ッ!

(グリージョ・・・)

朦朧とする意識の中で、俺は奴のことを思う。


あいつとは・・・

学生の頃からずっと一緒に馬鹿やってた。

他の不良グループと大喧嘩して、二人して入院した時もあった。

俺が「ギターやる」なんて言い出した時も、あいつは真面目ににギターを買う金を貸してくれた・・・
そういえば、あの金はまだ返してなかったな・・・

そんな俺達の縁がブッツリと切れたのは、あいつがスタンドを身につけてからだ・・・

『俺は“矢”によって神の導きを受けた!
 教祖様と共に、俺は神の世界を目指すッ!』

なんて言い残して・・・

94第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:01:42 ID:6AP6NM8.
俺はその時グリージョが何を言っているのか分からなかったが・・・
その後完全な音信不通になってから、俺はあいつの言葉の意味を理解した。

あいつは『教団』に身を捧げてしまったんだ・・・

俺はグリージョが許せなかった。
長く付き合っていたダチを見捨てておいて、何の感情も持たないのか。

しかし、今思えば、俺は間違っていた。

本当に憎むべきは『教団』の方なのだ。

『教団』は、言うならば俺とグリージョの間に“壁”を作りやがった。
壊すことは不可能に近い、残酷な友情の“壁”を。

だから俺は『教団』を潰す。
必ず、この“壁”を作ってくれた恨みを晴らしてやる。

そしてグリージョ・・・おめぇは・・・
悪くねぇ!


「神の世界は近づいたッ! “裁きの時”だ!
 アッディーオ! ビアンコ!」

ブオォンッ!

『ワンダーウォール』の腕が、俺の頭の上から振り下ろされた。


ドギャアァァン!


「グワアァァァァッ!!」

倉庫に“グリージョの”悲鳴が響く。

「腕が・・・腕がアァァ!!」

グリージョの腕はあらぬ方向に曲がり、血だらけになっていた。

「うるせぇぞ、グリージョ!」

「!?」

95第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:02:10 ID:6AP6NM8.
俺はグリージョに向かって怒鳴る。

「俺の“壁”を思いっきりブッ叩いたんだから、そうなるのは当然だぜ!」

「何ッ!?」

グリージョは左右を見た。
そこには壁を作り出す“衛星”が浮かんでいた。

「馬鹿なッ! スタンドだと!?
 お前はスタンドを使うことなど出来ないはずなのにッ!
 ま・・・まさか・・・」

俺はゆっくりと立ち上がる。
酷い痛みだが、そんなものは気にならない。

「お・・・お前ッ!
 『壁を乗り越えた』のかッ!? 心に作った“壁”をッ!」

「あぁ・・・よく分かんねえが、多分そうなんじゃあねぇか?」

「う・・・嘘だッ! お前ごときが“壁”を乗り越えられるはずが・・・」

「んなことはどうでもいいッ!!」

「!」

俺は今一度グリージョを睨みつけ、大声で言った。

「まったくよォ、つまんねー宗教の勧誘に引っかかりやがって!
 おめぇにはガッカリしたよ!」

俺は一歩一歩グリージョに迫っていく。
グリージョは息を荒げたまま動かない。

「俺からお仕置きさせてもらうぜ・・・!
 『エイフェックス・ツイン』!」

バァーン!

「ハァ・・・ハァ・・・
 う・・・ウワアァァァァッ!!」

96第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:02:50 ID:6AP6NM8.
グリージョは混乱しながらも、スタンドで抵抗しようとする。


・・・一瞬だけ、俺は躊躇した。

コイツをボコボコにしてしまって本当にいいのだろうか?
悪いのは教団ではなかったのか?

だが俺はすぐにその思いを振り切った。

(おめぇは・・・しばらく病院で反省してもらうぜ・・・)


「一つだけ言っとくぜグリージョ・・・
 俺はおめぇをもう憎んじゃあいねぇ。
 おめぇは・・・“悪くねえ”」

「うぐッ・・・アアァァァッ!
 『ワンダーウォ・・・」

「ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドル
 ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドル
 ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドル
 ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドル

 ドルミーーーーラ(寝てろ)!!!」

「ぶぎャァッ!!」

ズガアァーーン!!

『エイフェックス・ツイン』の砲弾のようなラッシュを浴びたグリージョは、反対側の壁へ一直線に飛んでいった。


・・・・・・

「・・・フゥ〜」

俺は溜め息をつく。

「まったく・・・世話が焼ける奴だぜ・・・」


グリージョ・・・・

お前との間を隔てていた“壁”は、俺が打ち砕いた。

だが・・・

壁の向こうに、“もうおめぇはいなかった”。


応報部隊)グリージョ/スタンド名『ワンダーウォール』 → 再起不能。



第4話 完

97第4話 友情と壁  ◆LglPwiPLEw:2009/11/20(金) 20:03:48 ID:6AP6NM8.
第4話終了です。

更新遅くなってすみません……もっと一気に書けるようになりたいなぁ……
あと次回からは台詞メインにします。その方がやりやすそうだし……


<使用したスタンド>

No.215 『エイフェックス・ツイン』
考案者:ID:Licx5cnkO
絵:ID:iWCqjA8h0
絵:ID:836DgT2dO

No.215 『ワンダーウォール』
考案者:ID:x3szZUu10
絵:ID:lANXWxehO

No.721 『ガーネット・クロウ』
考案者:ID:8rEguwGhO
絵:ID:Y0ksuGPEO
絵:ID:Qt/9IV4aO
絵:ID:jn.D2.SO


ありがとうございました。

98名無しのスタンド使い:2009/11/20(金) 20:21:58 ID:???
乙!

今更ながら色つながりだってことに気付いたぜ

99名無しのスタンド使い:2009/11/20(金) 20:46:17 ID:???
同じタイプの能力同士っていうのがまた新鮮だった!
ビアンコかっけえwwwwww乙!!

100名無しのスタンド使い:2009/11/20(金) 22:29:49 ID:ATodJSp6
乙!
壁を乗り越える…熱かったぜ

101名無しのスタンド使い:2009/11/21(土) 04:49:46 ID:???
乙!

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺はやっとガーネット・クロウのSSに追いついたと思ったら
 再起不能状態の敵キャラが2人中2人とも俺の出した案だった』
な…何を言っているのかわからねーと思うが、
俺も何がおこったのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…出してくれてありがとうございますだとか両方噛ませでちょっと涙目だとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしい『引力』というヤツの片鱗を味わったぜ…

102名無しのスタンド使い:2009/11/21(土) 09:05:48 ID:nqBWGKZE
かっけぇwww
宗教と言うことはパイルダーオンな髪型の人がでるのか…?

103名無しのスタンド使い:2009/11/21(土) 14:34:03 ID:cR4tZ0RU
ビアンコかっこいいよ!乙!

104第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:04:29 ID:6AP6NM8.
ネアポリス市街 AM 11:40


ネアポリス中心部は、いつも人混みに溢れている。

ストリートミュージシャン、アジア系の観光客、たむろする不良、
昼間から酔っぱらっている男、大声で笑う女性達・・・

世界には、本当に様々な人間がいる・・・
そんな当たり前のことを、ここではハッキリと自覚できた。

そしてその中に、俺達はいた。


ヴェルデ「いや〜悪いなロッソ。助かるよ」

ロッソ「・・・・・・」

俺は疲れていた。

決してヴェルデと一緒にいるのが嫌だった訳ではない。
何軒もの店を歩き回り、足が棒になったからだ。


今日、俺は買い物をしなくてはならなかったため、ヴェルデに言われたように、彼に同行を頼んだのだ。

だが、どうやらヴェルデも買い物の予定だったらしく、
むしろ俺が彼の買い物に“付き合わされる”形になってしまった。


それにしても・・・

ヴェルデは本当にギャングなのだろうか?

彼の言動を取っても何一つ怪しい所はないし、
今日買っていた物も、料理の具材や日用品など一般人と何ら変わりのないものだった。

105第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:05:00 ID:6AP6NM8.
しかし、彼には一つだけ“疑うべき所”がある。


それは俺が初めてヴェルデと遭遇したとき・・・
彼は“取り出した日本刀”を自分のスタンドに持たせていた。

あんな長い物をどうやって収納しているのかは知らないが・・・
普通の男性は日本刀を携帯してなどいないだろう。

もしかしたら、彼はもっと多くの武器を隠し持っているのかもしれない・・・

「武器を用いて戦う」彼のスタンドといい、実に怪しい。


ヴェルデのおかしい所はそこだ。

もっとも、彼は俺達の仲間(?)であるから、警戒する必要は皆無であるが。



その時、ある看板が俺の目に留まった。
その瞬間から、俺の欲望がどんどん沸き上がってきた。

ロッソ「・・・少し、休みたいですね」

ヴェルデ「ん? 疲れたか? 俺はまだ全然大丈夫だが。
    なんだったら、お前一人で何か飲んできてもいいぜ」

来た。
この言葉を待っていた。

ロッソ「いいんですか?」

ヴェルデ「あぁ、店ん中は混んでるだろうし、俺は店の前で待ってるからよ。
    別にそんなに長くはならねぇだろ?」

ロッソ「はい、大丈夫です。
   じゃあちょっと失礼します・・・」

ヴェルデ「どこ行くんだ?」

106第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:05:24 ID:6AP6NM8.
ロッソ「アイスですよアイス。俺の甘いもの分が不足してたんです」

ヴェルデ「アイス〜? こんな時期に?」

ロッソ「構いません。俺はコーンの上にバニラ、チョコ、キャラメルの三段が定番なんです。
   あ、ナッツもいいかも」

ヴェルデ「オェッ・・・甘すぎだろ・・・」

ロッソ「じゃあ行ってきます!」

俺は近くにあったアイスクリーム屋へ猛然と駆け出した。

甘味こそ俺の救世主だッ!!

ヴェルデ「・・・フッ・・・やれやれ」




ロッソ・アマランティーノ・・・

スタンドは触れた人間の感情を操る『ガーネット・クロウ』。


俺は色々なスタンド使いに会ってきたが、こんな謎めいた能力は初めてだった。


戦いに巻き込んでしまった俺がこんな事を思うのも無責任だが、彼は非常に頼りになる仲間だ。

一時的とはいえ、人間を一瞬で心変わりさせてしまうほどの力・・・

彼のスタンドをもってすれば、『教団』を潰すことも困難ではなくなるかもしれない。

我らが“ボス”と並ぶ力で・・・



ヴェルデ「ん?」

俺はふと誰かの声に気付いた。

何やら二人で言い争いをしているようであった。

107第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:05:49 ID:6AP6NM8.
二人の声の主は、道路の反対側の歩道にいた。

一人は若い男、そしてもう一人はまだ幼さの残る少年である。


男「あのなァ〜、物事には原因と結果があるんだぞ?
  タイムマシンっつ〜のは、その根本原理を破壊しちまうんだ!」

少年「全然分かってないなー。タイムマシンは『過去』に“戻る”んじゃあないんだよ!
   時間っていうのは直線的なものじゃあなくて、円を描くように循環するんだ。
   タイムマシンはずっと未来に行って、一巡した後の『過去』に行くんだ。
   この理論なら因果律の問題は解決するんだよ!」


少年は目を輝かせてタイムマシンについて語っている。

・・・随分と難しい話題だな・・・

俺は何となく彼らの論争に耳を傾ける。


男「だがよォ〜、科学者のホーキングはこう言ってんだぜ。
  『タイムマシンが未来にあるのなら、未来人達が大勢現代に観光に来ているはずだ』ってよォ。
  お前はそんな奴見たことね〜だろ? どう説明すんだ?」

少年「だからそれは・・・その人達は別の世界から来てるんだから・・・
   いやそれだと理由にならないな・・・正体を隠してるとか・・・ええと・・・」

108第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:06:15 ID:6AP6NM8.
男「ほら説明できないだろ? だから未来にタイムマシンはね〜んだ!
  分かったか! 行くぞ!」


この二人、一体どういう関係なんだろう?

見たところ親子でもないし、兄弟でもなさそうだ。
先生と生徒か? それとも・・・


少年「ちょっと待って!
   多分こうだ。“前までの世界”ではタイムマシンができる前に人間が絶滅しちゃったんだよ!
   でも大丈夫、“この世界”で無事にタイムマシンができる可能性は十分あるんだ!
   そうすれば“次の世界”以降もタイムマシンが作り続けられる・・・」

男「あ゛ァ〜〜ッ! もうその話はいいっつ〜の! 頭が痛くなんだよッ!
  これ以上そんな下らねぇ妄想話してる暇はね〜んだ!」


少年「お前・・・今なんつった?」

男「あ?」


何だッ!?

少年の態度が豹変した・・・
俺の目は少年に釘付けになる。

喋り方も表情も、今までとは別人のようだ。


少年「なんつったって言ってんだよ!」

男「おいおい、こんな時にキレんじゃあね〜よ。
  一緒に仕事しなきゃなんね〜のに・・・」

109第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:06:46 ID:6AP6NM8.
少年「下らない妄想話だと? ・・・お前は馬鹿にしている!
   巡る輪廻の中で人間が見つけるべき“宇宙の真理”をッ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


男「ちょ・・・何言ってんだよ? 落ち着けって・・・」

少年「『スターフライヤーーーー!!
    59(チンクヮンタ・ノーヴェ)』!!」

ズアァァッ!


ヴェルデ「なッ・・・!」

スタンドだ!
少年はスタンドを出したのだ!


男「ゲェッ!」

少年「コノオォォォーーーーーーーー!!」

メギャン!

男「ぶぎゃあッ!」

少年の人間型スタンドに殴られた男は、5mほど後ろに吹っ飛ばされた。


少年「許さないッ! お前に思い知らせてやる!
   “宇宙”をッ!」

ゴオォォ!

少年は男に更なる攻撃を仕掛けようとする。
・・・が。


バァーーーーーン!!

少年「!」


少年は、突然鳴り響いた銃声に怯んだ。

俺のスタンド『ウェポンズ・ベッド』が撃ったものである。

弾は少年の目の前をスレスレを通って、そのまま建物の壁に穴を開けた。

少年は動きを止めた。

110第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:07:11 ID:6AP6NM8.
男は慌てて立ち上がる。

男「てめェ〜ッ! コイツは反逆と見なされたぞ!
  もうクビだぜ! 後で誰かが消しに来るから待ってるんだなァ!」

ダッ!

男は顔面を血だらけにして、そのまま逃げていってしまった。


反逆・・・? 消しに来る・・・?

まさか・・・そんな馬鹿な・・・


ヴェルデ「おい君ッ!」

俺は道路を渡り、少年の元へ駆けつける。
スタンドを出して、できるだけ警戒しながら・・・


少年「ハァ・・・ハァ・・・」

少年は息を荒げている。

ヴェルデ「君は・・・」

俺はゆっくりと少年に近づいていく。

少年「・・・・・・・・・・・・

   ・・・ハッ! またやっちゃった!
   しかも仲間に向かって・・・」

少年は正気を取り戻したようである。

やがて少年は俺に目を向けた。


まさか彼は・・・「教団」の人間なのか?

信じたくないが、あの男の言ったことは紛れもなく教団に関係する台詞だ。


少年「あなたが・・・銃を撃ったの・・・?」

ヴェルデ「・・・そうだが・・・」

俺は全身に力を入れた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

111第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:07:36 ID:6AP6NM8.
少年「・・・どうもありがとう!
   僕ってすぐ怒りで我を忘れちゃって・・・」

ヴェルデ「・・・え?」

あの時の殺気が嘘のように、少年は疑いのない目で俺を見ている。
ギャングである俺にとっては、怖いくらいに純粋な目だった。

少年「僕って『宇宙』が大好きでさ、宇宙を馬鹿にされるとキレちゃうんだよね」

少年は笑顔でそう言った。

だがそんなことよりも、俺には聞きたいことがある。

ヴェルデ「・・・さっきの男は・・・」

少年「あぁ〜、気にしなくていいよ。僕は“仕事”なんてしたくなかったし。
   やっぱり自由に暮らすのが一番かなぁ〜って」

ヴェルデ「仕事・・・?」

少年「うん、よく分からないんだけど、『ギャング狩り』っていう仕事だって」

ヴェルデ「!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


なんということだ・・・

教団は、こんな小さな子供にまで殺しをさせているというのか?


ロッソ「ヴェルデさーーーん!」

ロッソが店から現れた。
そして俺達の元へ駆け寄ってくる。

ロッソ「何が起こったんですか!
   もしかして教d・・・」

ヴェルデ「待て! 今その事は言わないでくれ!」

112第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:08:05 ID:6AP6NM8.
ロッソ「・・・?」

ロッソは怪訝な表情をする。

ヴェルデ「・・・ところで君、名前は?」

俺は少年にもう一度尋ねた。

少年「僕? 僕は・・・

   『ポルポラ・アラゴスタ』。12歳、将来の夢は宇宙飛行士だよ!」

ロッソ「???」



ネアポリス市内某所 PM 13:00


その後、俺とロッソ、そしてアラゴスタという少年の三人は、俺のアジトに来ていた。

街のど真ん中で発砲して騒ぎが起こらないはずもなく、人々はパニックに陥った。
そんな中で、俺達が警察から逃れるために一番安全な場所は、やはりここしかなかったのだ。

アジトの中には、今は俺達しかいない。

ヴェルデ「じゃあ、君は生まれつきスタンドが使えたってことかい?」

アラゴスタ「うん、昔からだよ。
    いつも近くにいて、何だろうって思ってたんだけど」

ヴェルデ「教団に入ったのはいつ頃?」

アラゴスタ「ついこの間だよ。一週間くらい前かな。
    変な人達から誘いがあって、宇宙について色々教えてあげるって言われたんだ。
    それで、面白そうだから付いていっちゃって・・・」

ヴェルデ「それで今日、初めての『仕事』を任されたという訳か・・・」

113第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:08:30 ID:6AP6NM8.
始め、俺はこのアラゴスタという少年を疑っていた。

これは教団の仕組んだ罠で、彼は俺達を騙し討ちにしようとしているのではないか、と。

しかし、アラゴスタの夢に満ち満ちた目を見る度、
そんな疑いをかける俺の方が罪な人間に思えてきたのだ。

この目は「真実」なんだ・・・


アラゴスタからは、教団に関する情報を沢山入手することができた。

そして、彼自身についても。

話によると、彼は幼いときに両親を亡くし、今は孤児院に入っているらしい。

詳しいことは本人もよく分からないと言っているが、なんだか複雑な事情が絡んでいそうな気がする。

あくまで俺の勘だが。


ヴェルデ「なるほど、よく分かった、ありがとう。
    それで、君はこれからどうするんだい? 施設に戻るの?」

俺はアラゴスタに尋ねた。

アラゴスタ「えぇ〜っ、それはイヤだな。
    あそこには僕と話の合う人がいないし、つまんないよ」

アラゴスタの言葉は単なるわがままには聞こえなかった。
きっと孤児院暮らしというものは、想像を絶するほど寂しくて辛いのだろう・・・

しかもよくよく考えてみれば、彼は俺たちと同じく教団から命を狙われているのだ。
無防備にしておく訳にはいかない。

114第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:08:57 ID:6AP6NM8.
ヴェルデ「う〜ん、だが、ここに住まわす訳にもいかないしな・・・」

ロッソ「俺の所でよければ」

ヴェルデ「え?」

ロッソ「俺の学生寮になら住まわせてあげられますよ。
   名簿を確認する人なんかほとんどいませんし、気付かれませんよ」

ヴェルデ「おいおい、そんなんで大丈夫かよ?」

ロッソ「学生のフリをしていれば絶対に大丈夫です。
   アラゴスタ、それでいいでしょ?」

アラゴスタ「うん! ありがとう!!」

ヴェルデ「他にはどこも無いしな・・・
    ・・・まぁいいか・・・気をつけろよな!」


俺は内心、大いに安堵していた。

ロッソとなら仲良くやっていけるだろう。
理由は無いが、そう確信できる。


この少年が、その壮大な夢に向かって進む希望があるならば・・・
どんな手段であろうと、その道を確保してやらなければならない。

俺は結婚など夢に見たこともなかったが、
この時、俺は息子を見守る父親の気持ちが理解できた気がした。


それよりも・・・
憎むべきは、かの「教団」である。

スタンドが使えるという理由だけで、こんな純粋な子供に殺しを命令するとは・・・
こんなこと、宗教団体以前に、人間の行う所業だろうか?

115第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:09:27 ID:6AP6NM8.
世間から忌み嫌われるギャングの俺でも、吐き気のする「悪」は分かる。

許してはならない・・・絶対に・・・

俺は沸々と沸き上がる教団への怒りを、一人で堪えていた。


ロッソ「じゃあ行こうか。ここに長居はできないし・・・」

ロッソは荷物を持って席を立つ。

やはりこんな所は居心地が悪かったか。


ヴェルデ「そうだな。そろそろ帰った方がいい。
    警察には気をつけろよ」

ロッソ「そんな心配、必要なのはヴェルデさんだけですよ!」

ヴェルデ「ハハハッ! そうかもな!
    アラゴスタ、いい子にしてろよ!」

ロッソ「ヴェルデさん、父親みたいなこと言わないでください・・・」

アラゴスタ「大丈夫だよ! 僕はいっつもいい子だから!
    ところでさぁ、ねぇ、名前なんだっけ?」

ロッソ「俺? 俺はロッソ。呼び捨てでいいよ呼び捨てで」

アラゴスタ「じゃあロッソ、君の部屋にさ、宇宙関係の本ってある?」

ロッソ「宇宙? 何で?」


俺は微笑んだ。

夢を見る子供は、何故ここまで勇気を与えてくれるのだろう。

俺は二人の会話を後ろに聞きながら、先に玄関へと向かった。

116第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:09:53 ID:6AP6NM8.
しかし・・・

俺はこの後、深く後悔することになる。
俺には二つ、“やり残していたこと”があったのを・・・


アラゴスタ「だって僕さ、宇宙が凄い好きなんだもん。
    色々な本を読みたいんだ」

ロッソ「う〜ん、学校で使う地学の教科書ならあるけど・・・君にはちょっと難しいと思うよ」

アラゴスタ「それでもいいからさ〜!」

ロッソ「いや、難しいって。惑星運動の法則とか、理解するだけでも大変なんだから。
   俺も君みたいな純粋に宇宙を愛せた頃に戻りたいよ・・・
   天文学者とかがさ、まともに宇宙を解明しようとか、どうにも理解できない」


アラゴスタは返事をしなかった。

俺は歩みを止める。

そして次の瞬間、俺は一つ目の“やり残したこと”に気付き、全身に衝撃が走った。

俺はすぐに振り返る。

ヴェルデ「・・・!! おい!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

アラゴスタ「お前・・・今なんつった・・・?」

プ ッ ツ ー ン


ロッソ「!?」

遅かった・・・

俺が“やり残したこと”・・・
その一つは、アラゴスタは宇宙に関してけなされるとキレる・・・

このことをロッソに伝えておくことだった・・・

117第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:10:16 ID:6AP6NM8.
そしてもう一つは・・・


アラゴスタ「お前・・・天文学をバカにしたな・・・宇宙をけなしたな・・・
    ロッソ! 今からお前に教えてやるッ!
    人間には宇宙の真理を理解する義務があることを!
    『スターフライヤー』ーーーッ!!」

ズオアァァ!

ロッソ「え? な・・・何が起こったんだ!?」

ヴェルデ「ロッソ! 危なァーいッ!」

ロッソ「うわっ!」

ドバアアァァァ!!

ロッソはアラゴスタのスタンドの拳をギリギリでかわした。
拳は壁に叩きつけられ、壁を破壊する。


もう一つの“やり残したこと”とは・・・
アラゴスタのスタンドについて、その正体を尋ねておくことだった。


ヴェルデ「アラゴスタは宇宙をナメられるとキレるんだ!」

ロッソ「えぇ〜ッ! 何ですかそれ!?」

アラゴスタ「コノォーーーッ!!」

ロッソ「うっ!」

ドガアァン!!
ガシャアァン!!

スタンドはロッソに向かって拳を振り回す。
拳は滅茶苦茶な場所に当たり、破壊した。

ロッソ「くっ、仕方ない!
   『ガーネット・クロウ』! アラゴスタの“怒り”を鎮めるッ!」

ズアァァッ!

ロッソがスタンドを解き放つ。

するとアラゴスタのスタンドは一旦暴走を止めた。

118第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:10:51 ID:6AP6NM8.
アラゴスタ「・・・それが君の『スタンド』・・・
    まだよく分からないけど・・・他人のスタンドを見るのは初めてだよ」


アラゴスタは獣のように凶暴だった。

何としてでも、ロッソに鉄拳制裁を下したいという意志に満ちているようであった。


ロッソ「『ガーネット・クロウ』は人間の感情を操作できるんだ。
   君が本気ならば、俺はこの能力で君を鎮めるしかない」

アラゴスタ「そうさせる訳にはいかない・・・君は“宇宙”を侮辱した・・・
    この罪は何よりも重いんだ・・・
    ・・・赦しては・・・ならないんだよォーーーーー!!
    『スターフライヤー』ーーーッ!!」

ロッソ「! 『ガーネット・クロウ』ーーッ!!」

アラゴスタ「コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ!!」

ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
  ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ!!」

119第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:11:33 ID:6AP6NM8.
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


俺の目の前で、二人のスタンドが凄まじいラッシュの応酬を繰り広げる。

拳の風圧で、部屋の中は強風が吹き荒れた。

圧倒された俺は、その戦いを傍らで見ていることしかできなかった。


バチン!

どちらかのスタンドが、相手の拳を弾いた音が響いた。
それと同時に、二人はラッシュを止める。

ヴェルデ「ロッソ、どうだ!」

ロッソ「・・・駄目です! スタンドの拳が衝突した程度では“感情”を変えられない!
   直接本体に触れなければ・・・!」

ヴェルデ「そうか・・・
    おいアラゴスタ! ロッソは悪気があって言ったわけじゃあないんだ!
    そう深く考えるな!」

俺はアラゴスタに忠告した。

すると、アラゴスタがこちらを振り向いた。
・・・信じられないほど猟奇的な目だった。

あの目は、ギャングが大事にしていた部下や仲間を殺されて、復讐に燃えている時の目と同じだ・・・

アラゴスタ「あなたにはもう邪魔させない・・・
    これ以上邪魔するなら・・・あなたも半殺しにしかねないよ・・・」

ヴェルデ「・・・ッ!」

120第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:11:57 ID:6AP6NM8.
恐ろしい・・・

ギャングともあろうものが、子供の気迫に圧倒されるとは。
俺が弱虫だという訳ではない。彼の気迫が桁違いなのだ。

一体、彼は何故そこまで“宇宙”を愛せるのだろう・・・


その時だった。
ロッソのスタンドは一瞬の隙をついて、アラゴスタに触れようと手を伸ばしたのだ!

ヴェルデ「!」

アラゴスタ「!」


ブシャッ!

ロッソ「うわあああああああぁぁぁぁッ!」

ヴェルデ「何だッ!?」

アラゴスタ「・・・・・・」


そこに至るまで、ほんの一瞬だった。

ロッソの叫び声が響いた時、彼の手は内側から破裂したように損傷していた。

不思議なことに血は出ていない。

ロッソ「バカな・・・手が・・・“手が破裂して凍った”ッ!」

ヴェルデ「なんだって・・・」

一体何が起こったのか・・・
それを知っていたのは、先程とは打って変わって氷のように冷たい態度をとっている、アラゴスタだけであった。

アラゴスタ「残念だけど、君は僕に触れることはできないよ・・・
    僕の能力が発動しているからね」

ヴェルデ「どういうことだ・・・一体どんな能力なんだ、君のスタンドはッ!」

アラゴスタ「“宇宙”だよ」

ロッソ「!?」

ヴェルデ「なんだって?」

121第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:12:25 ID:6AP6NM8.
アラゴスタ「『スターフライヤー59(チンクヮンタ・ノーヴェ)』・・・
    コイツの拳の軌道は、全て“宇宙”に変わるんだ」

ロッソ「な・・・」

ヴェルデ「何・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


俺はよく目を凝らして空間を見た。

すると、アラゴスタがラッシュを放った部分が、僅かに薄暗くなっているのが分かった。

しかも、その薄暗い空間の中には、点々と光が見える。
まさか、あれは星だとでもいうのか?


アラゴスタ「“宇宙”・・・それは生物にとって脅威の存在だ・・・
    真空、超低温、宇宙放射線・・・生物が入り込める余地なんて一つもない。
    一切の生物を拒絶する、深遠で偉大な領域なんだ。
    だからこそ・・・僕は宇宙を信じる。そして何としてでも、その真理を確かめたいんだッ!」

ヴェルデ「・・・!」


何なんだ、この「凄み」は・・・

未だかつて俺が体験したことのない程の気迫が、アラゴスタからほとばしっている。


何と表現しようか・・・

もはや彼は、“宇宙”そのものになりきっているとしか思えない。

122第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:13:31 ID:6AP6NM8.
普段はこの上なく純粋でありながら、時に激しく、時に冷酷な性格に豹変する彼の姿は“宇宙”そのものであった。

彼に生まれつきこのようなスタンドが身に付いたのも、もはや必然としか言いようがない。


ヴェルデ(末恐ろしいぞ、こいつは・・・)

アラゴスタ「僕がこの“宇宙”に守られている限り、君は僕に触れない!
    そしてッ!」

ビュン!
ドゴォ!!

ロッソ「ぐあぁッ!」

ヴェルデ「!」

ロッソはアラゴスタの突然の攻撃を防ぎきれず、彼のスタンドのパンチをもろに食らった。

隙をつくはずが、逆に隙をつかれてしまったのだ。

アラゴスタ「この“宇宙”の中を自由に動き回れるのは、僕の『スターフライヤー』だけだ!」

ロッソ「が・・・がふっ・・・」

パンチの衝撃で後方に飛んだロッソは、倒れた状態で苦しんでいる。

これはまずい・・・!

ヴェルデ「『ウェポンズ・ベッド』!」

アラゴスタ「!」

『ウェポンズ・ベッド』が最も得意とする日本刀で、アラゴスタに峰打ちを仕掛けようとした。

しかし・・・

ガキン!

ヴェルデ「なっ・・・!」

刀は『スターフライヤー』の素早い拳に弾かれ、何回転もしながら飛んでいき、壁に突き刺さった。

123第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:13:59 ID:6AP6NM8.
アラゴスタ「邪魔しないでって言ったよね・・・
    あなたもやられたいの・・・?」

ヴェルデ「・・・!」


やばい・・・

アラゴスタのスタンドは、想像以上に強すぎる。
俺の『ウェポンズ・ベッド』では、文字通り太刀打ちできない!

『スターフライヤー』は、既に目の前に迫っていた。


アラゴスタ「誰であろうと、宇宙を冒涜する者は赦さない・・・
    そいつに味方する者も同罪だ・・・
    ヴェルデさん、あなたもだッ!」

ヴェルデ「!」

アラゴスタ「コノォーーーーーッ!!」


俺は思わず目を閉じた。

そして鉄球のような拳を食らい、吹っ飛ぶ・・・

ことはなかった。


ヴェルデ「・・・?」

俺は目を開ける。
そこにはアラゴスタと、彼のスタンドの姿がある。

だが、そのスタンドが俺に向かって攻撃する気配はなかった。

それどころか・・・


ヴェルデ「アラゴスタ・・・?」

彼の表情は、先程までの鬼気迫る怒りのものではない。
それは、かつての純粋そのものである子供の表情であった。

一体何が起こったのか?


ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・君の負けだよ・・・アラゴスタ」

ヴェルデ「ロッソ!」

124第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:14:26 ID:6AP6NM8.
ロッソが、アラゴスタの足下にいたのだ。

『ガーネット・クロウ』は怪我をしていない方の手で、しっかりと彼の足を掴んでいた。


ロッソ「“宇宙”の盾・・・恐ろしい存在だけど、地面に倒れたら大したものでもないことに気付いたよ。
   パンチは高いところで放つから、“宇宙”ができるのは空中だけだ。
   這いずって下から行けば、君に近づくのは容易だった・・・足下がお留守ってやつさ」

アラゴスタはスタンドを引っ込める。それと同時に、“宇宙”空間も消え去った。

ロッソ「そして今、『ガーネット・クロウ』が君の“怒り”を取り去った。
   赦す気に・・・なっただろ?」

ロッソはゆっくりと立ち上がる。
口からは血を流し、“宇宙”に突っ込んだ手は裂傷だらけだった。

アラゴスタ「・・・またやってしまった・・・しかも人に怪我までさせて・・・
    ロッソ、本当にごめん!」

アラゴスタは必死になって謝る。その目は僅かに涙ぐんでいた。

ロッソ「大丈夫・・・元はといえば俺のせいだから・・・ごめんね、アラゴスタ。
   ・・・お〜痛て・・・イザベラに頼んで治してもらわないと・・・」

ロッソは荷物を取って玄関へと歩きだした。

ヴェルデ「ロッソ・・・大丈夫か?」

ロッソ「平気ですよこれくらい。さぁアラゴスタ、行こう」

アラゴスタ「・・・うん!」


アラゴスタはロッソの後を追う。

彼の顔には、希望に満ちた、あの純粋な笑顔が戻っている。

その目は、晴れた夜空の星のように輝いていた。



ポルポラ・アラゴスタ/スタンド名『スターフライヤー59』 → ロッソの寮に住むことに。
ロッソ → アラゴスタと住むことになってから、彼の機嫌を気にする日々。
      「やっぱりやめておけばよかった」と後悔した。


第五話 完

125第5話 宇宙の真理  ◆LglPwiPLEw:2009/12/17(木) 19:14:57 ID:6AP6NM8.
第5話終了。

一ヶ月も待たせてこのクオリティの低さ? てめぇ頭脳がマヌケか?
完結を目指してなんとか努力しますのでお許しを……

それと、単発SSでロッソとガーネットクロウを使って頂いた方、本当に感謝しています!
興奮して、下品なんですが勃起しちゃいました!


初登場のスタンド

No.431 「スターフライヤー59」
考案者:ID:1+rLsBJL0
絵:ID:kYSfgElW0


皆さんグラッツェ!!

126名無しのスタンド使い:2009/12/17(木) 21:02:19 ID:fLRp6tng


すげぇ奴が仲間に入ったなwww

127名無しのスタンド使い:2009/12/17(木) 22:27:51 ID:???
乙ゥ!なんというプッツンww
アラゴスタの今後の行動を想像して早くもニヤニヤが止まりませんわw

128 ◆WQ57cCksF6:2009/12/17(木) 23:16:18 ID:???
乙!スターフライヤー59のかっこよさやばい!

129来てね♪:2009/12/18(金) 13:53:03 ID:nxnjboHs
とってもおもしろいブログだよ♪

たまに更新もしてるから見に来てください☆ミ
ちょっとエッチなプライベートブログです(*^^*)

ttp://stay23meet.web.fc2.com/has/

130 ◆9X/4VfPGr6:2009/12/18(金) 18:24:35 ID:QkDuay86
圧倒的乙ッ!

131名無しのスタンド使い:2009/12/18(金) 19:53:41 ID:???
スターフライヤー59好きだったから登場してうれしいな

132 ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:07:12 ID:1ow28RvQ
一つだけ言っておく
「終わったと思うなよ・・・」

今から投下します

133第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:08:01 ID:1ow28RvQ
イタリア某所 


薄暗い部屋の中に、男が座っている。

どこかの会社の社長室か、学校の校長室のような静かな小部屋。
男は革製の椅子に座りながら、黙々と書類を書いていた。


不意に、ドアがノックされる音が静寂を断ち切る。

男が返事をすると、眼鏡をかけたインテリ風の男が部屋に入ってきた。

「失礼します。本日の報告をしに参りました」

「・・・・・・」

男は何も言わない。

「ローマ12人、ネアポリス5人、トリノ9人、ミラノ7人、
 ヴェネツィア7人、ジェノヴァ10人、合計50人・・・
 うち4人が“スタンド使い”です」

「・・・・・・」

「着実に『計画』は進んでおります。
 全て我々にお任せください」

「・・・ご苦労」

男は一言だけ呟いた。

眼鏡の男はうやうやしく礼をすると、すぐに部屋を出ていった。


しばらくすると、男は机の隅に飾られた写真を眺めた。
そこには、満面の笑みでカメラに写る、美しい女性がいた。

「・・・ローザ・・・」

男は写真に語りかける。

「今日も“ギャングが死んだぞ”・・・50人だ・・・」

134第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:08:29 ID:1ow28RvQ
男の口調は、まるで老人が昔話を語るように、人を惹きつけるオーラを纏っている。

だがその台詞は、とても昔話と並べてよい物ではなかった。

「あいつらは人類の敵だ・・・
 昆虫の糞にも及ばないゲス共は、この世から一刻も早く消えるべきなんだ。
 裏で手を結ぶ警察や、必要悪などとほざく政治家共も同罪だ。
 ・・・『神の満足なさる世界』にゴミは要らない・・・そう思うだろ?」

男はそう言った後、さながら赤子の様子を見守るような優しい表情で、しばらく写真を眺め続けた。

まるで、写真の中の女性からの返事を聴いているかのように。



ネアポリス市街 PM 13:20


トントン


誰かが俺の肩を叩いた。

嫌な予感がする。

ロッソ「ビアンコさん・・・ですよね?」

ビアンコ「ゲッ! おめぇ、スタンドの他にエスパーでも身に付けやがったかッ!」

俺が振り返ると、そこには派手な服を着たビアンコの姿があった。


説明しよう。
俺は今、イザベラと買い物の待ち合わせをしていた。

勘違いの無いように言っておくと、俺達はヴェルデの警告に乗っ取って、集団行動をしようとしていただけである。

“決 し て”男女のプライベート的なものではない。

135第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:08:51 ID:1ow28RvQ
イザベラの方から誘ってきたとか、数日前から約束していたとか、そういう過程があったとしてもだ。

とにかく、俺達は身の安全のために、集団行動を取ろうとしていた。


だが、そんな俺達を見て勘違いする人が少なからずいるはずだ。

そういう理由で、俺は知人に遭遇しないことを願っていたのだが・・・


・・・よりによって・・・

一番・・・

会いたくなかった人にイイイイィィィィ───!!


ビアンコ「なぁ、これから何するつもりだったんだ?」

ロッソ「え・・・えっとですね・・・その・・・」

俺は返事に困った。
もうすぐイザベラが来る。何とかしてこの場をしのがなければ・・・

ビアンコ「ここで会ったのも何かの縁だろうしよォ、俺と一緒に買いモンでもしね〜か?」

ロッソ「え・・・」

まずい・・・このままでは・・・

ロッソ「俺はこれからちょっと・・・別の予定があtt・・・」


イザベラ「あっ、どうもこんにちは」

ロッソ「!」

ビアンコ「!!」


き・・・
来てしまった・・・


ビアンコ「よぉイザベラちゃん! なんだ、ロッソと待ち合わせしてたのか?」

イザベラ「? はい、そうですけど?」

136第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:09:19 ID:1ow28RvQ
ビアンコの表情が変わっていく。
俺が最も恐れていた表情に。

ニヤリッ

ビアンコ「いや、なんでもねえや。そんじゃあ俺はこのへんで・・・」

ロッソ「いや、ちょっと待ってくださいッ!」

ビアンコ「・・・なんだよロッソ」

ビアンコはイヤな笑顔のままだ。

ロッソ「これは、しゅ・・・『集団行動』なんです。一人で買い物するのは危険ということで・・・
   だから、せっかくですから・・・ビアンコさんも一緒にどうですか・・・?」


え・・・

俺は今・・・“なんて言ったんだ”?

なんだか凄くマズいことを言ったような気がする。


ビアンコ「ほ〜、そうか。そんならOKだぜ。
    おいイザベラちゃん、それでいいのか?」

イザベラ「・・・・・・」

俺は・・・
イザベラを・・・“怒らせてしまった”のか・・・?

俺が・・・
俺が悪いのかッ?


イザベラ「いえ、ぜんぜん構いませんよ!」

ニコリ


ロッソ(ええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ッ!?)

何なんだあの笑顔は!

あれは心の底で、俺に憎しみを抱いていることを暗示させる笑顔なのか?

いや落ち着け、これは「集団行動」だ。
人数が多いほど良いに決まってる。

イザベラは怒ってなんかいないないッ! 決して!

・・・そう信じたい・・・

137第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:09:53 ID:1ow28RvQ



二人きりの買い物でなくとも、私は十分嬉しかった。

ロッソと会える・・・

それだけで私は幸せ。


彼と初めて出会ったあの日は、忘れることなどできるはずがない。

あの日、彼のスタンドによって“元気づけて”もらった私は、あっという間に大きく成長した。

彼と会えたからこそ、今の私がいる。

そのためだろうか、私は彼の近くにいるだけで、とても幸せな気持ちになれるのだ。


なんだか不思議だ・・・

あの後も、私は幾度となく店長や先輩に怒られたのに・・・
ロッソのことを思うだけで、不思議と元気を取り戻すことができたのだ。

まるで、『ガーネット・クロウ』がいつも側にいてくれたかのように。

彼を思うだけで元気が出るのだから、会えた時はもっと嬉しい。

だから私は今日の約束を何よりも心待ちにしていた。



買い物の間、ロッソはよく喋るビアンコの相手をするのに必死で、私と話す余裕はとても無さそうだった。

時々ビアンコが私に話題を振ってきたりしたけど、突然すぎて私は返答できなかった。

それでも、私は買い物を大いに楽しむことができた。
・・・なぜならば、ロッソとは「言葉」ではなく「心」で理解できるものがあったから。

138第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:10:24 ID:1ow28RvQ
どういうことかと言われれば、上手く説明できない。

ただ、ロッソが少なくとも買い物を楽しんでいたのは確かで、私の心はそれと同調するように弾んでいた。

それは言わば、私とロッソが何かの見えない「糸」で繋がっているかのように。



ネアポリス市街 PM 16:30


買い物はあっという間に終わってしまった。
雲の間からは、夕日に染まった綺麗な空が見える。

私達三人は人気のない裏通りを歩いていた。

裏通りは危険だと再三言われてきたが、三人集まって行動しているなら大丈夫だろう。
・・・というビアンコの提案である。

彼の言い分は間違っていないと思う。
ここを通った方が近道だし、むしろ近いだけ安全かもしれない。


ビアンコ「ロッソはよォ、あの女に撃たれた時にイザベラちゃんと出会ったんだろ?」

ロッソ「はぁ・・・だいたいそうですが・・・」

ビアンコ「それでイザベラちゃんが助けてくれたんだよな?」

ロッソ「・・・はい」

ビアンコ「お礼はしたのか?」

ロッソ「・・・え?」

ビアンコ「え? じゃねぇよ。命の恩人なんだろ?
    何かお礼くらいしたんだろうな?」

ロッソ「いや・・・その・・・」

139第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:11:14 ID:1ow28RvQ
ビアンコ「オイオイ、まだとか言うなよ? 恩を返さないっつうのは最大の無礼だぜ!
    ・・・まったく呆れるぜ、大丈夫かよ・・・」

ビアンコはブツブツ文句を言っている。

なんというか・・・彼の気持ちはありがたいのだが・・・
真横に私がいるときに話すことだろうか・・・?

大きな買い物袋を手に提げたロッソは、何を言ったらいいか分からないのか、苦い笑顔のまま黙っている。

ビアンコ「じゃあ約束しろよ。今度イザベラちゃんに何かお礼を買ってやれ!」

ロッソ「・・・はい」

ビアンコ「ったくよォ〜、いつまで経っても成長できねぇなぁ〜このヘタレ・・・」


ピタリ


ビアンコが不意に足を止めた。

ロッソ「・・・どうしたんですか?」

ビアンコ「・・・何だと・・・」

ロッソ「え?」

ビアンコ「バカな・・・そんなはずはねぇんだ・・・」

ビアンコは真っ直ぐ正面を向いたまま、まるでこの世の終わりを聞かされたかのような、驚愕の表情をしている。

イザベラ「何があったんですか?」

いきなりの出来事に、私も不安を覚えながらビアンコに尋ねた。

ビアンコ「なんでテメェがいるんだよ、オイ!!」

ビアンコは急に大股で歩き始める。
その先には、何の人影もない。

140第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:12:19 ID:1ow28RvQ
イザベラ「えっ!? ど、どうしたんですか!」

ロッソ「待ってください!」

ロッソがビアンコを追いかけようとする。
しかし・・・


ビアンコ「おめぇらは来んじゃねぇッ!!」

ドンッ!

ロッソ・イザベラ「!」

ビアンコの凄まじい剣幕に、私達は思わず立ちすくんだ。

彼は、まるで人格がひっくり返ったように態度が変わっている。
一体何が・・・

ビアンコは誰もいない空間に向かって、吐き捨てるように言った。

ビアンコ「テメェ・・・もう観念したんじゃあなかったのかッ!
    またノコノコ俺の前に現れやがってよォ・・・“グリージョ”!」

ロッソ「グリージョ・・・?」

ロッソも私も聞いたことのない名前が飛び出した。

その誰もいない空間に、グリージョという人間がいるのだろうか?

ビアンコ「これ以上ナメた真似したら、本気でブッ殺すぞ!!
    ・・・なんだやる気か? やってやるぜ・・・『エイフェックス・ツイ・・・」


バンッ!!


ビアンコ「うっ・・・」

ロッソ・イザベラ「!!!」


一瞬、本当に一瞬だった。

カメラのフラッシュのような光と、堅い椅子が倒れたような音に、辺りの空気が張り詰めた。


かと思うと・・・

ビアンコがそのままの姿勢で、ゆっくりと前に倒れたのだった・・・

141第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:13:02 ID:1ow28RvQ
ドサッ


ロッソ「ビアンコさん!」

イザベラ「きゃああぁぁッ!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


私は頭の中がゴチャゴチャになったが、その後すぐ、反射的にビアンコに駆け寄ろうとした。

ロッソ「イザベラ! 動いちゃあ駄目だッ!」


ロッソに呼び止められ、私はハッと我に返る。

ロッソ「“スタンド攻撃”だ! 『応報部隊』が近くにいるッ!」

ロッソはスタンドを出し、辺りを素早く見回す。

私も周囲を見回した。
だがそこには、黄昏時の路地裏があるだけだった。

ロッソ「これは一体・・・」

イザベラ「・・・・・・(ゴクリ)」






ロッソとイザベラに危機が迫っている頃、そのすぐ近くの建物の屋上に、二人の男が佇んでいた。

男A「よしッ、一人しとめたぜ。ビアンコって奴だ」

男B「確実にやったんだろうねぇ、パルド」

男A「あぁ大丈夫だぜオークラ。心臓は確実に止めた。
   あと数分もすりゃあお陀仏だ」

パルド、オークラと呼び合った二人の男。
彼らこそが、ビアンコを襲った謎のスタンドの本体である。


彼らは元々、あるギャングの暗殺部隊に所属する殺し屋だった。

しかし、上層部からの暗殺部隊に対する扱いの酷さに耐えかね、二人は遂にギャングを脱退したのだ。

その後、彼らはギャングの駆逐を掲げる「教団」に呼び止められ、組織の「応報部隊」としての活動を始めたのである。

142第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:13:34 ID:1ow28RvQ
オークラ「それにしても・・・いつ見ても“醜い”ねぇ〜、君のスタンド・・・」

オークラの挑発するような台詞に、パルドはカチンとくる。

パルド「あぁ? なんだと?」

オークラ「怒った顔を私に見せないでくれよパルド。
   だって本当のことじゃあないか」

パルド「ふざけんじゃねぇぞ? 誰のおかげで殺しができると思ってんだ?」

オークラ「だから怒らないでくれって。
   君の『ケミカル・ブラザーズ』をそこまで貶してるわけじゃあないんだよ」

パルド「じゃあ何が言いてぇんだ?」

オークラ「それに引き替え、私の『フリーク・アウト』は何と美しいスタンドなんだろう、って・・・」

パルド「チッ! ブッ殺すぞ!」

遂にキレたパルドがオークラに掴みかかる。
だがオークラはあくまで冷静に、今の状況を説明した。

オークラ「落ち着きなパルド。まだ仕事は終わってないんだよ」

パルド「・・・・・・」

しかめっ面のまま、パルドは元の場所に戻った。

下を覗くと、そこにはスタンドを出して警戒する少年と少女の姿がある。

パルド「・・・ターゲットは二人だよな?」

オークラ「あぁそうだよ。ビアンコとロッソ、男と少年の二人さ」

143第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:14:04 ID:1ow28RvQ
パルド「だが、もう一人の小娘もスタンドを出してるぜ。どうすんだ?」

オークラ「おかしいなぁ、チレストロが持ってきた情報は二人だけのはずだけど」

パルド「チレストロはもう逃げただろうが。あんな奴の言うことが信じられるか?」

オークラ「フン、まぁそうだね。
   ついでだから殺しちゃえば?」

パルド「わかった。まずはロッソからだ」

オークラ「焦らなくてもいいよパルド。あいつらはもう私のスタンドの領域の中にいる。
   美しくも恐ろしい『フリーク・アウト』の呪縛からは、誰も逃れられないんだ・・・」






緊張が辺りを支配した。

私とロッソは周りを注意深く見回しているが、スタンドらしき物は何も見えない。

心臓が高鳴る。

ビアンコの謎の挙動、そして彼を失神させたあの光・・・
一体どんなスタンドが、私達を攻撃してきているのだろうか?

一刻も早くビアンコを回復させてやりたいが、ロッソの言う通り、今動くと何が来るか分からない。

ロッソ「イザベラ・・・」

ロッソが口を開いた。

ロッソ「このまま動かないのも危険だ。
   俺がゆっくりとビアンコに近づく・・・何かあったらすぐ知らせてくれ」

イザベラ「! そんな・・・」

144第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:14:36 ID:1ow28RvQ
ロッソ「大丈夫、俺が必ずなんとかする・・・」

イザベラ「ロッソ・・・」


私はロッソの顔を見つめた。


彼の顔には“決意”の色があった。
困難へと立ち向かう、力強い決意が。

ロッソは一歩一歩、ビアンコに近づいた。


すると何歩歩いた時か、ロッソは急に足を止める。

ロッソ「・・・ハッ!」

彼の顔に驚愕の表情が現れる。

・・・ビアンコの時と同じだ。

イザベラ「ロッソ!」

ロッソ「動かないでッ!
   ・・・くっ、これは・・・」

ロッソの顔は苦しむような表情に変わり、目を固く閉ざした。

ロッソ「“この光景は”・・・まずい!」

ロッソは目を薄く開けて行く先を見ている。

イザベラ「な・・・何が見えるの!?」

ロッソ「“あの時のビアンコがいる”・・・
   “スタンドが・・・近づいてくる”!」

イザベラ「えっ・・・!」

私はロッソが何を言っているのか分からなかった。
ビアンコは数メートル先で倒れたままである。

ロッソ「イザベラ、分かった・・・これは恐らく『幻覚』・・・
   敵のスタンドは・・・“相手の記憶から幻覚を作り出す能力”なんだ・・・!」

イザベラ「幻覚・・・」

145第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:15:26 ID:1ow28RvQ
ロッソ「うわっ!」

その時、急にロッソが後ろへ倒れるように跳んだ。

ロッソ「攻撃してくる・・・幻覚が!」

ロッソは敵の攻撃を避けるように動き回る。

ロッソ「幻覚と言えど、これは危ない・・・!
   イザベラ! 絶対に動かないでくれ! このスタンドは俺が・・・」

ロッソがそう言いかけた瞬間だった。


バンッ!

ロッソ「あ゛・・・」


閃光と破裂音。

ビアンコを気絶させたそれが、今度はロッソを襲ったのだ。


ロッソが私の方に横跳びした瞬間だった。
そのため、彼は私の足下に転がり込むように倒れてきた。


ドサリッ


イザベラ「ロッソ───────ッ!!」

私は叫んだ。
次の瞬間に、私の脳内に嫌な思い出がフラッシュバックする。

チレストロの銃弾を受けて、ゆっくりと倒れたロッソ。
あの苦しみの表情。思い出すのも辛い。

今、それと同じような状況になっている。


私は・・・
私はどうすれば・・・

あの時は無我夢中で行動していて、何を考えていたか覚えていない。


“今、私が出来ることは”ッ・・・!


また次の瞬間に、思い出した情景がもう一つあった。
ついさっきの、ロッソの“決意”の表情である。

146第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:16:07 ID:1ow28RvQ
未来は何が起こるか分からない。
だが何が起ころうとも、それを受け入れ、自分のものとする覚悟と決意。

それが何よりも大切なこと・・・

ロッソの表情は、そう言いたげであった。


“今、私に出来ることは”!


イザベラ「『シルキー・スムース』!!」

シュルシュルシュルシュル!

スタンドの繭糸をロッソに吐きつける。


私は一つの決意を固めた。

私はみんなを守る。
それだけが進むべき道、あるべき未来だ!


白い糸でロッソがだんだんと隠れていき、あっという間に「繭」は完成した。

次はビアンコ・・・

動くのは危険だと言われたが、私は構わずビアンコに駆け寄ろうとした。


だがその時・・・


ピタッ

私の額に、何かが当たった。

横に張った紐のような感触で、異様に生温かい。

しかしその場所をよく見ても、紐のような物は何も見えなかった。

今のは・・・


イザベラ「!! きゃあぁぁッ!!」

本当にいきなりだった。
真横から猛スピードで攻撃を仕掛けてきたのは・・・

イザベラ(チ・・・“チレストロ”!?)

紛れもなく、あのチレストロだった。

間一髪で私はかわすも、彼女の攻撃は次々に飛んでくる。

イザベラ(ど・・・どういうこと!?)

147第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:16:48 ID:1ow28RvQ
無言で襲ってくるチレストロの攻撃をかわしながら、すぐに私はその正体を悟った。

これがロッソの言っていた「幻覚」だ!

たぶん、私が触れた「紐のようなもの」が、幻覚を発生させるスイッチだったのだろう。


とは言っても・・・

彼女の放つパンチやキックの風圧が嫌にリアルだ。
幻覚とはこういうものなのだろうか?


とにかく“怖い”。

迫り来る殺気、威圧感。どれもあの時の記憶のままだった。

脚に一撃を食らった時の、あの激痛が思い出される。

万が一これが幻覚ではなく、実体のあるスタンド攻撃だったら・・・?


駄目だ、落ち着かないと。
体が勝手に逃げようとしている。

このままでは私も・・・
あの“閃光”の攻撃を受けてしまう!


その時、視界にチラリとだけ、ロッソの入った“繭”が見えた。

イザベラ(ロッソ・・・『勇気』を頂戴!)

私は心の中で強く念じた。

私とロッソは繋がっている・・・
ロッソの意志は、必ず私にも伝わってくる!


私は攻撃をかわすのをやめた。

ブゥン!

凄まじい風とともに、チレストロの蹴りが私の体の中を通過した。

やっぱり、これは幻覚で間違いないのだ。

148第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:17:24 ID:1ow28RvQ
イザベラ(絶対にみんなを守ってみせるッ!)

幻覚を振り切り、ビアンコに駆け寄る。

外傷が少ない分、“繭”による回復はすぐに終わるはずだ。
ロッソが繭から出てきたら、ビアンコの繭と共に一刻も早くここから逃げよう。

『シルキー・スムース』が繭糸を吐こうとした。

だがその時・・・


“ブ〜〜〜〜ン”

イザベラ「!?」

私の近くで、何かが飛んでいるのに気付いた。
あれは・・・

イザベラ「『蠅』・・・?」


いや、ただの蠅ではない。

普通の蠅より一回り大きいし、奇妙な色と模様をしている。

イザベラ「・・・まさか!」

ある予感が私の脳裏をよぎった。


ビアンコとロッソを襲ったあの“閃光”・・・
私はそれが“電気”ではないかと考えていた。

となると、『幻覚のスタンド』の他に『電気のスタンド』も存在することになる。
すなわち敵は二人いるということだ。

そして、さっきの“見えない紐”が『幻覚のスタンド』だとすると、もう片方は・・・


イザベラ(きっとあれが『電気のスタンド』なんだ!)

そう考えているうちに、蠅はどんどん私に迫ってくる。

イザベラ(ど・・・どうする?)

149第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:18:13 ID:1ow28RvQ
『シルキー・スムース』は、攻撃には全く向かないスタンドだ。

だからあのスタンドを叩き落としたり、撃ち落としたりすることは出来ない。

イザベラ(電気を・・・防ぐには・・・!)

「蠅」はもう目の前に迫っている。

イザベラ「シ・・・『シルキー・スムース』!!」

シュルルルルルルルルル!!

勢いよく吐き出された繭糸が、蠅に向かって飛んでいく。

しかし蠅はそれを嘲笑うかのように、縦横無尽な飛行でそれをかわしてしまう。

イザベラ「まずい・・・!」

蠅が来る・・・
私まで電気の餌食になってしまっては・・・!


蠅は私の周りを回るように飛んだ。

ブ〜〜〜〜〜ン

イザベラ「! これは!」


・・・“糸”!

いつの間にか、私の首に極細の糸が巻き付いていた。
あの蠅は、この糸を付けて飛んでいたのだ。

イザベラ(きっとこれに電流を流すんだ・・・電線みたいに!)

私は糸を引きちぎろうとしたが、どんなに引っ張っても切れない。

電気が・・・電気が来る!

イザベラ「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!」

恐怖に襲われた私は、『シルキー・スムース』に滅茶苦茶に糸を吐かせた。

150第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:18:50 ID:1ow28RvQ
数分前


パルド「何だあのスタンドは・・・『蛾』か?」

オークラ「モチーフはきっと『カイコガ』だろうねぇ。繭から絹を作るやつだ」

パルド「おい見ろ。あのスタンド、“糸”を吐いてロッソを包んでるぞ。なにやってるんだ?」

オークラ「さぁ〜。けど何だか君のスタンドと似てて面白いね・・・プッ!」

パルド「黙れッ! これ以上俺のスタンドを語んじゃねぇ!」

オークラ「まぁまぁ、でもどうせあの娘もいつか“幻覚”にやられる。
   そしたらいつものように君の『ケミカル・ブラザーズ』が“電撃”を食らわせればいいさ。
   忘れたかいパルド? 私達がやると誓った“復讐”を!」

パルド「忘れるわけねぇだろオークラ。“俺達はぜってーにギャングを潰す”。
    散々こき使われた恨みを晴らしてやんぜ!」

オークラ「それなら安心だ。
   私達のスタンドのコンビネーションは無敵。逃れることはできないッ!」


パルド「・・・ちょっと待て・・・あの小娘、ビアンコに近づいてるぞ」

オークラ「何ッ!? バカな、幻覚は発動しているはずなのに!」

パルド「幻覚だって気付かれたんじゃあねぇか? このまま逃げられるかもしれねぇぜ!」

オークラ「いや、逃がすわけにはいかないッ! スタンド使いである以上逃がすわけには!
   パルド! 早く『ケミカル・ブラザーズ』をッ!」

パルド「うるせぇッ! 言われなくてもやるぜ!」


パルドはゴム製の手袋をはめている。
その上にいるのは・・・一匹の蜘蛛。

この蜘蛛と、イザベラに向かって飛んできた蠅、
これこそが、パルドのスタンド『ケミカル・ブラザーズ』である。

蠅が付けていた“糸”はこの蜘蛛が吐き出しており、この糸に二匹が作り出す高圧電流を流すのだ。


オークラ「あの娘・・・蠅に気付いたみたいだ。滅茶苦茶に糸を吐かせているよ!」

パルド「ハッ! 何だか知らねぇが、そんなので俺のスタンドが倒せるわけねぇだろ!」

オークラ「攻撃はできないスタンドのようだ・・・これは勝てるぞ!」

パルド「こっちの“糸”は巻き付けた!
    よし、いけぇ! 『ケミカル・ブラザーズ』!! 10万ボルトだあぁぁぁぁッ!!!」



・・・・・・



オークラ「ど・・・どうしたんだい!? 早く電撃を食らわせたまえよ!」

パルド「バカな・・・何だと・・・?
    “流れねぇ”・・・電気が流れていかねぇッ!!」

オークラ「何故だッ!? 一体どうして・・・」

151第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:19:41 ID:1ow28RvQ
パルド「ハッ・・・あれは・・・
    見ろ! あいつの足下を!」

オークラ「!?」


イザベラの足下には、いつの間にか“白い何か”が敷かれてあった。


オークラ「パルド、あれは何なんだい!?」

パルド「まさか・・・嘘だろ・・・あいつ、スタンドの“繭糸”を使って・・・

    “き・・・『絹』を作りやがったッ”!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


オークラ「『絹』だと!? どういうことだい!?」

パルド「織った『絹』を足下に敷いて、電気が地面に流れるのを防いだんだッ!
    『絹』は絶縁体だからよォ〜! だから電気が流れねぇんだッ!!」

オークラ「そんな! どうにかしろ! パルド!」


ブチッ!

パルド「だああぁぁぁぁうっせぇ───ッ!!
    テメェが調子こいた台詞ばっか吐いてっからこうなんだぜ!」

ついにパルドはオークラを押し倒して殴り始めた。

オークラ「ちょ、ま・・・ガフッ・・・私のせいじゃな・・・ブッ」

パルド「さっきは俺も便乗しちまったけどよォ〜! 本当は初めっからお前となんか組みたくなかったんだ!!
    テメェのせいでいつも調子狂わされて・・・ド畜生がァ────!!」

152第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:20:29 ID:1ow28RvQ
バコッ! ドカッ!

パルドはこれまでの鬱憤を晴らすかのように、オークラを容赦なく殴り続ける。

オークラ「待て・・・落ち着け・・・

   ・・・!! ヒィヤアァァァァァ!! パルド、後ろ後ろォ────ッ!」

パルド「・・・! 何ィッ!?」


パルドとオークラは驚愕した。

屋上には彼らしかいないはずだった。
だがそこにいたのは・・・

パルド「ロ・・・ロッソ!」

オークラ「何故ッ! 何故ここにィィィ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

ロッソ「“繭”による回復が早く済んだのが幸いだった・・・
   幻覚など、『ガーネット・クロウ』で“迷い”を消せばなんてことはない」

パルド「回復!? 迷い!?」

オークラ「こっ、ここここここいつ何を言ってるんだァァァァ!?」

ロッソ「『シルキー・スムース』の射程距離も伸びたようでね。ここまでその糸を登ってきたんだ」

パルド「なん・・・だと・・・」

オークラ「何故ッ、何故ェェェ!
   何故私達の場所が分かったァァァァ!?」


ロッソ「えっ・・・そりゃあ普通に・・・

   “あなた達の声がデカいから”・・・」



パルド・オークラ「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ─────!?」

153第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:21:03 ID:1ow28RvQ
ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラガ────────────ノ!!!」


ドゴォォォォォォォン!!


パルドとオークラは、いずこへともなく飛んでいった。


応報部隊)パルド /スタンド名『ケミカル・ブラザーズ』
     オークラ /スタンド名『フリーク・アウト』   → 再起不能。




戦いを終えたロッソが糸を降りてくる。

その間、私はビアンコを“繭”で包みこんでいた。

幸い、彼はまだ生きている。
数分もすればすっかり回復するだろう。


イザベラ「ロッソ! 大丈夫だった?」

ロッソ「あぁ、敵は遠隔操作型だからね。接近戦なら楽勝だよ」


私はロッソの顔をじっと見つめていた。

彼が勇気を与えてくれなかったら、私は死んでいたかもしれない。
『絹』を作って電気を防ぐという機転なんて、私一人では考えつかなかっただろうから。
私の側にいつも彼がいてくれたお陰なのだ。


ロッソ「あ〜っと、今のうちにこれを・・・」

ガサガサ

イザベラ「?」

154第6話 紅い糸  ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:21:54 ID:1ow28RvQ
ロッソは、大きな買い物袋から何かを取り出した。

ロッソ「さっきビアンコさんに言われたこと・・・
   君への“お礼”だよ。こっそり買ってたんだ」

イザベラ「えっ・・・」


ロッソが取り出したもの。
それは花束だった。

赤と黄色が鮮やかなフリージア。
花言葉は───純潔。


ロッソ「君の好みに合うかどうか分からないけど・・・
   この前の時も、そして今も、君のお陰で俺は救われたんだ。

   本当に・・・ありがとう・・・」


私は花束を受け取った。
突然のことで返事は出来なかったけど、その時の私の表情が代わりに答えてくれたと思う。


ロッソ「じゃあさ・・・一緒に帰ろうか・・・」

イザベラ「・・・うん!」


私はこの時、ロッソと見えない“糸”で繋がっていることを実感した。

そしてそれは、いつの間にか紅く染まっているような気がしたのだ。




数分後


ビアンコ「うっ・・・クッソ、何が起こったんだ・・・

    あれ? あの二人どこ行きやがった?」


第6話 完

155 ◆LglPwiPLEw:2010/01/23(土) 19:22:28 ID:1ow28RvQ
第6話終了です。

更新遅くて本当にすみません。

そして内容もまた酷い。
一人称と三人称が混じって読みにくいし。
ぶっちゃけロッソのヘタレとビアンコのウザキャラとイザベラのデレデレが書ければあとはどうでも良かった。後悔は(ry


使用したスタンド

No.174 「ケミカル・ブラザーズ」
考案者:ID:Za7clFOXO
絵:ID:IrCNkYIy0

No.1066 「フリーク・アウト」
考案者:ID:24q0nl46O
絵:ID:d58WMgnCO
絵:ID:K90wDHzSO


ありがとうございました。

156名無しのスタンド使い:2010/01/23(土) 19:25:28 ID:ATodJSp6
更新再開乙!
まったく見せ付けてくれるぜイチャイチャしやがってよォーッ!

157名無しのスタンド使い:2010/01/23(土) 20:10:30 ID:65UMngqI
乙!
ビアンコかわいそうwwww
ラブラブだなロッソとイザベラwww

158 ◆WQ57cCksF6:2010/01/23(土) 22:11:56 ID:otTKCdeQ
甘酸っぱいな〜。俺もこういうの書きてえ!
久々の更新乙です!

159 ◆9X/4VfPGr6:2010/01/23(土) 22:47:35 ID:QkDuay86
乙ッ!
ビアンコさんカワイソス

160名無しのスタンド使い:2010/01/23(土) 23:45:48 ID:LDVyYyOU
なんというかわいそうなビアンコ……不覚にもロッソに殺意が沸いてしまった……

161 ◆R0wKkjl1to:2010/01/26(火) 14:39:13 ID:BrbcXdPY
ビアンコさん・・・不憫や。

乙ですッ!

162 ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:04:39 ID:FUyxyncI0
やぁ、毎度みんなが忘れたころに更新されるガネクロだよ。
今から投下するよ。

163第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:05:21 ID:FUyxyncI0
ネアポリス中・高等学校学生寮 AM 8:00


ロッソ「じゃあね、行ってくるよアラゴスタ」

アラゴスタ「いってらっしゃ〜い!」


僕はいつものようにロッソを見送った。

バタンとドアが閉じられると、後は部屋には僕しかいなくなる。



僕がロッソの学生寮に居候を始めて、早二週間。
ロッソがいない間どうやって暇を潰すかは、ほとんど習慣づいた。

外をブラブラするわけにもいかないし、この部屋には玩具もゲームもない。
そんな中で僕が一番楽しめるもの、それは「読書」である。



僕は何よりも「宇宙」が好きだ。


どこかの大きな展望台が撮影した星の世界。
それを眺めているうちに、まるで自分が宇宙の中にいるような気分になる。
僕にとって、これほど幸せな気分になれる時間は他にない。

一度本を開けば、何時間もの時間が一瞬で過ぎていくのだ。


学校の図書館からロッソに借りてきてもらった本を広げ、僕はいつものように宇宙の世界へ飛び込んでいく。

164第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:05:51 ID:FUyxyncI0
本の中には、大人でも理解し難いような仕組みで起きる現象も説明されている。

もちろん僕がそれらを理解できるはずもない。
だが、それでも僕は何度も本を読み直して、それを理解しようとしている。

なぜだろう・・・

分からないのが悔しいからとか、そういう理由からだろうか。

そうじゃない。僕は宇宙について、少しでも多くのことを知りたいのだ。
ただ、それだけのことだ。

宇宙飛行士になりたいという僕の夢も、そういう意味では単なる通過点に過ぎない。

壮大な“宇宙の真理”を知るための・・・





アラゴスタ「うわっ、もうこんな時間だ」

あっという間に時間が過ぎ、もうお昼近くになっている。

窓から差し込む日の量が増えて、部屋の中は明るい。

買い置きしていたパンを食べるために、僕は戸棚へ向かう。
パンを2〜3個取り出して、今まで座っていた椅子に戻ろうとした。


その時・・・


アラゴスタ「・・・ん?」

ほんの一瞬、窓の外に何かの影が見えた気がした。

何か小さな物が、確かに窓のすぐ外にいたのだ。

アラゴスタ「燕・・・かな?」

大して気にすることでもないのだろうが、やはり正体は知っておきたい。

165第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:06:24 ID:FUyxyncI0
僕は窓を開けて顔を出し、上下左右を見回した。

何も見当たらない・・・

燕の巣も無いし、他に鳥や動物もいなかった。

アラゴスタ「何だったんだろ?」

僕は体勢を戻し、窓を閉めかけた。


グサッ

アラゴスタ「────!!! うわぁぁぁぁぁっ!」


余りに突然のことで、僕は一瞬パニックになった。


ふくらはぎに、“何かが刺さったのだ”。

僕は激痛よりも、むしろいきなりの出来事ににただ驚き、悲鳴をあげていた。

すぐに足下を見る。


アラゴスタ「な、何いィィィィ!?」


訳が分からなかった。

「黒く半透明で、クワガタの角のようなもの」が地面から生え、僕の足を抉っていたのだ。



アラゴスタ「うわっ、なっ、な、何だこれぇッ!?
    『スターフライヤー』アァァァ!!」


バシィッ!


僕は混乱したまま、『スターフライヤー59』に「謎の物体」を殴らせる。

スタンドから伝わる感覚では、それはかなり固いものであることが分かった。


殴られた「謎の物体」は、グニャグニャとくねりながら床に引っ込んだ。

アラゴスタ「うぐぅっ・・・」

「謎の物体」が消えると同時に、今までパニックだった僕に足の痛覚が訴えかけてくる。

166第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:06:53 ID:FUyxyncI0
ひどい激痛に、僕はしゃがみ込んだ。

足からドクドクと流れる血が、少しずつ床に広がっていく。


痛みに耐えながら、僕は冷静になって考えた。

アラゴスタ(スタンドだ・・・今のは・・・)

僕を攻撃してくるスタンド使い・・・当然“あの人達”しかいない。
僕が仕事をする前に抜け出した、あの陰気な集団・・・

アラゴスタ「教団の『応報部隊』だ・・・」


この前ヴェルデさんから聞いたんだ。
あの集団がどんなに危ない奴らなのかを・・・

心臓の鼓動が速まる。
これ以上血が流れて欲しくないのに。


それにしても、今の攻撃は一体何だったんだ・・・?
何かが床から生えてきたように見えたが、あれは何だ?

本体は・・・どこだ?



・・・ズオァァァ!!!


アラゴスタ「うわあぁぁっ!!」

またしてもいきなりだった。

さっきの「謎の物体」が、僕の背丈以上のサイズになって、
しかも何本も現れて僕を取り囲んだのだ。


アラゴスタ「コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ!!」

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


『スターフライヤー59』の全方位ラッシュで黒い刃の猛攻をを弾いていく。

だがいくら僕のスタンドでも、防御には限界があった。

167第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:07:19 ID:FUyxyncI0
ビィッ!

アラゴスタ「うぐッ!」

背中を浅く切りつけられた。


アラゴスタ(駄目だ、これ以上は・・・限界だ!)

360度を囲まれていた僕は、意を決して逃れようと試みた。

スタンドで黒い「物体」と「物体」の間をこじ開けて・・・
その隙間を転がり込むように突き抜けるッ!


バッ!

アラゴスタ(・・・!!)


一瞬状況が分からなくなったが、どうやら成功した様子だ。

アラゴスタ「ハァ・・・ハァ・・・」

僕は「謎の物体」の集団と距離を取り、すぐに体勢を立て直す。



その時、僕は部屋の中にいる「もう一つの存在」に気がついた。

アラゴスタ「・・・?」

??「イヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒッ!!」


そいつは、天井に逆さまになって張り付いていた・・・

見た目は、昔読んだ絵本で見たような小人そのものであった。
手のひらに乗れるくらいの大きさ、歯をむき出した不気味な笑顔、手に持ったカンテラ・・・

アラゴスタ(あれが敵スタンドの正体!?)


僕が色々考えていると、天井の小人は突然、僕に向かって話し始めた。

??「イヒヒッ! ミットモネーナァ!
  アンナ偉ソウニ生意気ナ口ヲ聞イテタ餓鬼ガ、イイ気味ダゼ!」

168第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:07:47 ID:FUyxyncI0
“あんなに偉そうに”・・・?


自分の記憶を探ってみようとしたが、直接聞いた方が早そうだった。

アラゴスタ「あなた・・・誰なの?」

??「イヒヒッ、覚エテネェノカ、アラゴスタヨォ?
  ツイコノ前、俺ニブチ切レシタバッカリジャアネェカ!」

アラゴスタ「・・・もしかして・・・」



嫌な予感がする。
僕にとって、非常に憎らしい存在のような気がするのだ・・・

??「分カルカ? テメェニ殴ラレテ、鼻ヲヘシ折ラレタ男ダヨ!」

アラゴスタ「あんた・・・まさか、“僕のパートナーだった”・・・」


間違いない。
ヴェルデさん達と初めて出会ったとき、僕が殴り倒した“アイツ”だ・・・

??「思イ出シタカ? テメェニ“裁キ”ヲ下シニ来テヤッタゼ・・・」


あの時「宇宙」を侮辱して、僕をキレさせた・・・

そう分かると同時に、一気に怒りが沸き上がってきて、僕は既に自我の制御が出来なくなっていた。


アラゴスタ「許さない・・・お前が宇宙を侮辱した罪・・・
    まだ晴れていないぞ! 『インダコ』オォ───!!」

ブゥンッ!

??「オット!」

天井の小人に向かって、『スターフライヤー』の拳が振り払われる。
しかし小人は身軽な動きでそれをかわし、向こうの机の上に着地した。

169第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:08:19 ID:FUyxyncI0
??「名前モ思イ出シテクレタカ、ソイツハオ利口サンダナ。
  ソレト、今話シテイルノガ俺ノスタンド、『アクセル・ルディ・ペル』ダ。覚エトケ」

あの男・・・インダコのスタンドは、憤る僕を挑発するかのように喋っている。

アラゴスタ「許さないぞ・・・絶対に・・・」

A・R・P「オオー怖ェ怖ェ。可愛イ顔ガ台無シジャアネェカ。
     モットモ、俺ニトッテハドッチモムカツク顔ダケドナ、イヒヒッ!」

アラゴスタ「コォォノォォォ────!!」

ドギャアァン!!

A・R・P「ヨット!」


僕はただ、目の前のスタンドを叩き潰したい衝動だけで動いていた。
しかし『アクセル・ルディ・ペル』は、そんな僕を嘲笑うかのように攻撃をかわしていく。

空振りを繰り返す内に家具をいくつか破壊していたが、そんなことは気にも留めなかった。


A・R・P「イーッヒッヒ! 落チ着ケッツーノ! 他人ノ住処ブッ壊シテンゾ!」

アラゴスタ「お前を・・・倒すまで・・・殴るのをやめないッ!」


ガシャアァァ──ン!


A・R・P「仕方ネェナァ・・・ナラバ俺ガ黙ラシテヤンゼ!」


ニュッ!

アラゴスタ「ハッ!」

僕の足下に、突如あの黒い「物体」が再び現れた。
だがそれはトゲトゲした角ではなく、今度は軟らかい触手のようなものが何本も床から生えている。

170第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:08:47 ID:FUyxyncI0
アラゴスタ「コノ・・・!」

すぐにそれを殴ろうとしたが遅かった。
触手は強い力で足に絡みつき、僕を引き倒したのだ。

バタン!

アラゴスタ「うっ!」

仰向けに倒れた僕の足を、触手はなおも締め付けて離さない。
傷口から血を絞り出されているかのようだ。


A・R・P「ヤットオトナシクナッタナ・・・」

アラゴスタ「クソッ! 離せェッ!」

A・R・P「残念ダガ、コノママ生カシトクワケニハイカネェ。
     俺ハ相手ガ子供ダロウガ容赦シナイ男ダカラヨォ・・・」


アラゴスタ「!」

また別の「物体」が床から生えてきた。
今度は、巨大な斧のような形をしている。

A・R・P「一発デ叩ッ斬ッテヤッカラヨォ・・・ジットシテルンダゼ・・・」

アラゴスタ「クソッ・・・!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


何とかしてこの束縛から逃れなければ・・・

アラゴスタ(この物体の・・・正体は・・・!)

僕は足に絡みつく触手を凝視した。

床から生えているこの「物体」・・・
何かがおかしい!

アラゴスタ(窓からの光が当たっている部分からは生えていないぞ・・・)

これは、もしかして・・・


アラゴスタ「『スターフライヤー』ーーッ!!」

A・R・P「スタンドデ防イデモ無駄無駄ァ!
     サァ死ネ、アラゴスタァ!」

171第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:09:18 ID:FUyxyncI0
カチッ


A・R・P「何ッ!?」


今まさに僕の首を斬ろうとしていた斧が、シュルシュルと床に戻っていく。
斧だけではない。僕の足に巻き付いていた触手もだ。


僕はスタンドに、“部屋の電気のスイッチを押させた”のである。

A・R・P「アラゴスタ・・・マサカテメェ、俺ノ能力ニ気付イタノカッ!」

アラゴスタ「よかった・・・やっぱり予想通りだったみたいだね・・・
    インダコ、お前の能力は“影”・・・影を操る能力なんだ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


A・R・P「・・・マァ、バレタモンハ仕方ネェナ・・・正解ダ。
     手ニ持ッタ『ランタン』ノ光デ“影”ヲ溶カシテ操ル! ソレガ俺ノ『アクセル・ルディ・ペル』ノ能力ダ」

アラゴスタ「電気の光で部屋全体が明るくなれば、影はほとんど無くなる。
    これでお前の攻撃手段は無くなったぞッ!」

A・R・P「イヒッ・・・イヒヒヒヒ! 余裕コイテンジャネェヨ! ホレ!」


ギュン!

アラゴスタ「・・・!? な・・・!」


ドグシャアァッ!

アラゴスタ「ぐぁ・・・」


突然どこからか飛んできた丸い“影”の塊が、僕を直撃した。

アラゴスタ(そんな馬鹿な・・・)

A・R・P「イーッヒッヒッヒッ!! マッタク、馬鹿ニモ程ガアルゼ!」


この“影”、どこから飛んできたんだ・・・?

172第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:09:46 ID:FUyxyncI0
胸の部分に打撃を受け、息がまともに出来なくなっていたが、僕は今一度冷静に考えた。

・・・結論はすぐに出た。


アラゴスタ「『スターフライヤー』の・・・“宇宙”か・・・」

部屋の中には、『スターフライヤー59』が殴った軌道にそって“宇宙”が発生していたのだ。

“宇宙”ができた部分は、周りの光に関係なく薄暗い闇になっている。

A・R・P「イヒヒヒヒヒ! ソノ通リダ!
     テメェノ能力ハアラカジメ調ベテオイタンダ、今ソイツヲ利用サセテモラッタゼ!」


頭がグラグラしている中、僕は立ち上がった。

早くコイツを・・・倒さないと・・・

アラゴスタ「クッ・・・コノオォォ────!!」


ズガアァァン!

ヒョイッ

A・R・P「オイオイ、無理スルンジャアネェヨ!
     テメェガ殴ル度ニ“影”ガ増エテクンダゼ!」

アラゴスタ「・・・!」

グサッ


アラゴスタ「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」


『スターフライヤー59』が殴った側から、その“宇宙”は“影の凶器”となって突き刺さった。

なんとか引き抜いたが、肩に穴が開いたのが分かった。

アラゴスタ「コ・・・ノ・・・」

A・R・P「ダカラオトナシクシトケッテ言ッテンダロウガ・・・」

僕は再び殴りかかろうとしたが、もう足に力が入らなくなっていた。

173第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:10:19 ID:FUyxyncI0
アラゴスタ「ハァ・・ハァ・・・・」

A・R・P「テメェモ馬鹿ナ人間ダナァ。今時宇宙ガドーノコーノナンテヨ・・・」

アラゴスタ「・・・・・・」

A・R・P「ソンナ金バッカリカカル仕事ヨリ、合理的デ儲カル仕事ノ方ガイイジャアネェカ・・・
     暗殺部隊トカナ! イヒヒヒッ!」

アラゴスタ「宇宙を・・・悪く言うな・・・」

A・R・P「オイオイモシカシテ、キレテンノカ? ウザイナラ殴ッテミナ。ダガソノ分、俺ノ武器ハ増エルンダゼ。
     所詮宇宙ナンテ、星ガ有ル以外ハ只ノ闇ナンダカラヨ!」

アラゴスタ「悪く言うな・・・これ以上・・・」

A・R・P「心配シナクテイイゼ。モウスグテメェヲ、オ星様ニシテヤルカラナ! イヒヒヒヒ!」



普段の僕なら正気を失うほどキレてもいい頃だった。

だがこの時の僕は、いつになく気持ちが落ち着いていたのだ。



『アクセル・ルディ・ペル』は“宇宙”の闇を使って、先が刃になった触手を沢山作り出していた。

A・R・P「サァーテ、ソロソロ死ンデモラウカナ。覚悟シナ、アラゴスタ・・・」


アラゴスタ「・・・今、お前は・・・」

A・R・P「・・・ア?」

アラゴスタ「お前は今、“所詮宇宙は只の闇”だって言ったな・・・?」

A・R・P「ア〜ソウダゼ。何カ言イ残シタイ事デモアルノカ?
     ソレトモ、マタ俺トアノツマンネェ宇宙トークデモシタイノカ?」

174第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:10:55 ID:FUyxyncI0
アラゴスタ「宇宙は“闇”じゃあない。“光”だ。
    宇宙の始まりは光だったんだ」

A・R・P「・・・デ?」

アラゴスタ「それは今も同じ・・・宇宙は時々、まばゆい“光”と化すんだ。
    何のことか・・・分かるよね・・・?」


ポウッ

A・R・P「! ・・・何ダッ!?」


インダコが驚いたのも無理はない。

突如、“宇宙”空間の中に赤い火の玉が現れたのだ。

これは、僕も予想できなかったこと。
「宇宙は闇ではない」ということを信じていたら、前触れもなく現れた。


A・R・P「アラゴスタ、コイツハ何ナンダヨッ!?
     マサカ・・・『スターフライヤー』ノ秘メラレタ能力・・・!」


アラゴスタ「分かるでしょ・・・それは・・・

    『超新星爆発(スペルノーヴァ)』だよ・・・」



カッ!!

ズオオオォォォオアアァァァァァァァァァ!!



A・R・P「ウギャアァァァッ!」

とてつもない光だ。

太陽30個分くらいの光を直視させられたような強烈な光が、部屋中隅々を貫いた。

僕もさすがに目を開けていられなかったが、『スターフライヤー』の視覚を通して部屋を見ることが出来た。

175第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:11:24 ID:FUyxyncI0
A・R・P「何ガ・・・何ガ起コッテルンダァ!」

アラゴスタ「言ったでしょ・・・超新星爆発だ。
    ここは“宇宙”の外だから、爆発の衝撃は関係ない。平気なんだ。
    だけどこの『光』は・・・本物だよ!」

A・R・P「クッ・・・コイツハマズイ! ココハ一旦ドロンサセテ頂クゼ・・・」


『アクセル・ルディ・ペル』は窓の外に飛び出して逃げようとしたが・・・


ジュッ

A・R・P「ウ、ウゲエェェェェェェッ!! 手ガアァァァァッ!」

アラゴスタ「気をつけてよ。“宇宙”空間はまだ存在するんだから。しかも大爆発中だ。

    それ以前に・・・お前は逃がさないよ」

ガシッ!

A・R・P「ゲッ!」


“宇宙”空間の中を進める『スターフライヤー59』が、ついに敵を捕らえた。


丁度その時、“宇宙”空間が時間を過ぎて消滅し、超新星爆発の光も消え去った。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


A・R・P「ハッ・・・ハハッ・・・イヤイヤアラゴスタ、サッキハスマンカッタナ・・・
     俺達ノ所ニ戻ッテ来ナイ? 嫌?
     ジ・・・ジャアサ、1/100スケールノ宇宙船ノ模型ヲ買ッテヤルヨ! ドォダ?」


アラゴスタ「永遠に分からないんだ・・・宇宙を馬鹿にする奴に・・・
    “宇宙の真理”は・・・ね」


A・R・P「ハハ・・・ソ、ソウデスカ・・・ハハハ・・・」

176第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:15:23 ID:FUyxyncI0
アラゴスタ「コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ

    コノオォォ━━━━━━━━━━━━ッ!!」


ドッギャアァァァン!!

177第7話 真理そして影  ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:15:52 ID:FUyxyncI0
A・R・P「グワボッ」


『アクセル・ルディ・ペル』が、窓の外へ一直線に飛んでいく。

それと同時に・・・


インダコ「ヤッダーバァァァァ!!」

本体のインダコが、寮の上から突き落とされたように飛んでいった。


アラゴスタ「屋上にいたのか・・・どうやって入ったのか知らないけど、あの人らしいよ」

僕は足を引きずりながら窓へと歩いていく。

アラゴスタ「最近ちょっと運動不足だったから、いい運動になったかな〜」



僕は丁度、今の空のような、実に晴れ晴れとした気分だった。

万有引力を発見したときのニュートンや、相対性理論を発見したときのアインシュタインもこんな気分だったのかな、と思った。




応報部隊)インダコ/スタンド名『アクセル・ルディ・ペル』→ 再起不能。


アラゴスタ/スタンド名『スターフライヤー59』→ スタンドが成長し、「宇宙で発生する事象を宇宙空間内で再現させる」ことが出来るようになる。
                        負傷したがイザベラのスタンドによって回復。

ロッソ → 帰ってきたら部屋はメチャメチャだしアラゴスタは大怪我してるしで唖然。



第7話 完

178 ◆LglPwiPLEw:2010/02/13(土) 19:16:41 ID:FUyxyncI0
第7話終了です。

この連載速度、どうにかしたいなぁ……
皆さん早すぎでしょう、赤川次郎かおめぇらはよォ〜〜

……なんていうのは冗談で、冨樫スピードでもチマチマ書いていくので、これからもよろしくお願いします。


使用させていただいたスタンド

No.346 『アクセル・ルディ・ペル』
考案者:ID:vQWBGrv5O
絵:ID:ZWemcSJ8O

ありがとうございました。
次回はバトルないかもです……

179 ◆U4eKfayJzA:2010/02/13(土) 19:18:39 ID:3owudF1Q0
1/100スケールノ宇宙船ノ模型で許してもらおうという小者ッぷりwww
乙です!

180名無しのスタンド使い:2010/02/13(土) 19:37:45 ID:lfdrORyIO
コノコノラッシュで吹いたwwww
乙!

181名無しのスタンド使い:2010/02/13(土) 23:09:31 ID:qXFp/sjg0
乙!ロッソ可哀想だなww

182名無しのスタンド使い:2010/02/13(土) 23:26:40 ID:???0
久々の更新乙!
宇宙の現象まで起こせるように成るとはすごいスケールだ!

183 ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:41:13 ID:DBgaiZAk0
投下させて頂きますよ

184第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:42:09 ID:DBgaiZAk0
ネアポリス市内 某所



部屋の前方に座るボスとその側近に礼をし、俺は室内に入った。


・・・室内は張りつめた雰囲気だ。

まぁ当然といえば当然だろう。
これから俺達がする会議の内容からすれば・・・



全員が席に着き、部屋には鍵がかけられた。
極秘会議、内容は一切外に漏れてはならない。


「これより極秘のミーティングを始める・・・」

ボスが立ち上がり、話し始めた。



我らがボスはまだ若い。
それどころか、この組織の中において最年少クラスの人間である。

だが彼には、甦った名君のようなカリスマ性と、100年生きてきた長老のような貫禄が、既に備わっているのだ。


恐るべきことに、彼はこの組織に入団してから僅か一ヶ月でボスになったらしい。

信じられない話だが、紛れもない事実だ。

詳しい経緯は知らないが、彼が所属するグループが先代のボスを倒したという。
そのグループの幹部は闘いの中で死んだため、彼の遺志を継いだ今のボス───ジョルノ・ジョバァーナがその座に着いたという訳だ。



・・・無駄話はこのくらいにしておこう。


これから始まる会議は一種の作戦会議だ。
俺達は近い日に、ある集団と戦わなければならない。

185第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:42:33 ID:DBgaiZAk0
「スペランツァ・ディ・イッディーオ」───


「神の望み」という意味の名を持つこの教団は、表向きには世界平和を願う、どこにでもある宗教団体だ。

しかし、裏で掲げる奴らの真の目的・・・
それは『ギャングの惨滅』なのである。


理由はまだ分からない。
恐らく、教祖が何らかの理由でギャングを恨んでいるのだろうが、それにしてもネジの飛んだ考えである。


教団は殺しを行うために、スタンド使いの集団「応報部隊」を結成し、イタリア中のギャングを手当たり次第に殺している。

次々に構成員を殺されては中小ギャングはひとたまりもなく、中には既に壊滅させられたものもあるらしい。

イタリア全土にシマを置く俺達のファミリー「パッショーネ」ですら、かなりの人数が殺害され痛手を負っている。

そこでついに、俺達「パッショーネ」が奴らの本部を襲撃して、壊滅させようという考えに至った訳だ。




ジョルノ「教団のについての情報は、ヴェルデが多くの信頼できるものを集めてきてくれた。
    応報部隊にいた少年を一人保護したそうだ」



周りの奴が俺を見て、小さく拍手を贈った。

嬉しくはない。
俺はアラゴスタと出会った。それだけのことだ。

186第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:42:57 ID:DBgaiZAk0
ジョルノ「その情報を元に、諜報員達が調べを進めた。
    そしてこの度、教団の本部がある場所が判明したので伝えておく・・・」



室内の空気が一段と張りつめる。
こういう時に討ち入ってくる奴がいないだろうかと、要らぬ心配をしてしまった。



ジョルノ「・・・場所はミラノ。教団、応報部隊共に本部がそこに置かれている」


ボスがそう言っても、こわばった空気がほぐれることはなかった。


ミラノか・・・遠いな。

俺は窓の外を見ようとしたが、そこはブラインドで固く閉ざされていた。



それから数時間、俺達は襲撃のための綿密な計画を練っていた。

基本は少数精鋭。スタンド使いなどの戦力のある人間のみで赴く。
移動中はまとめて返り討ちに逢わないよう、数人ずつがバラバラのルートでミラノへ向かうということになった。




やがて会議が終わり、解散となった。

俺は部屋を後にしようとしたが、その時やり残していたことを一つ思い出した。

ボスに話があったのだ。


ヴェルデ(しかしなぁ・・・)

俺はボスにそのことを話すのを躊躇していた。

それは拒否されて当たり前の要求なのだ。
どうせ返事は「NO」に決まっている。

187第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:43:18 ID:DBgaiZAk0
だが俺には、どうしてもボスの意見を聞かなければならない理由があった。


ヴェルデ(仕方ないか・・・)

俺はボスの所へ足を進める。
ボスは側近の男、グイード・ミスタと共に部屋から出ようとしていた所であった。


ヴェルデ「ボス・・・」

ジョルノ「あぁヴェルデ、何かありますか?」

ヴェルデ「実は、今回の襲撃に・・・“同行させたい輩”が居りまして・・・」

ミスタ「同行? おいおい、どういうことだよ?」

ミスタが少しきつい語調で言ってきた。
俺はあくまで冷静に、事情を説明し始める。

ヴェルデ「というのも・・・」


―――――――――――――


それは二日前のことだった───

俺はロッソから、一本の連絡を受けた。


ロッソ「アラゴスタの居場所が、奴らに知られていました!
   既に応報部隊の刺客が襲って来たそうです・・・」

ヴェルデ「何ッ・・・!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


俺は驚愕した。

馬鹿な・・・こんなに早く場所を特定されたなんて・・・

しかもアラゴスタの居場所がバレたということは、ロッソが同居していることも知られているはず。
このままいけば、イザベラやビアンコの居場所も特定されて・・・


まずい。
みんなが殺されてしまうのは時間の問題だ。


ヴェルデ(これは・・・俺の責任なんだ・・・)

188第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:43:39 ID:DBgaiZAk0
俺は激しく後悔していた。

何の罪もない人間を、こんな血生臭い戦いに巻き込んでしまうなんて・・・
もはや、俺が自害したとしても責任が取れるものではない・・・


ロッソ「ヴェルデさん・・・?」

ヴェルデ「・・・! いや、すまん・・・」


ロッソと電話をしていたのを忘れていた。

ロッソ「とにかく、このままでは危険だと思うんです。
   それでヴェルデさん・・・いきなりですが、“こちらから奴らを潰しに行く”ということは、不可能ですか・・・?」


ヴェルデ「な、何だって!?・・・」

ロッソの言葉に、俺は驚いた。

そんな大胆不敵な・・・


ロッソ「いや、無理なのは分かっています。ですが、みんながそう言ってるんです。
   ビアンコさんも、イザベラもアラゴスタも・・・『このまま逃げてばかりじゃ駄目だ。自分達から攻めないと』って・・・」

ヴェルデ「そんな・・・イザベラやアラゴスタまで言っていたのか?
    いくら何でも、あいつらに殺し合いをさせるなんて・・・」

ロッソ「無理ならそれでいいんです。
   ・・・ただ、あの二人も、“自分達が巻き込まれた運命”を悟っているような気がするんです・・・」

ヴェルデ「・・・それは、どういうことだ・・・?」

189第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:44:06 ID:DBgaiZAk0
ロッソ「こうやって命の危険に瀕しているのは、不幸とか災難とかじゃなくて、ただ一つのあるべき『運命』なんだって。
   『運命』ならば、それには絶対に立ち向かわなければならない。逃げたら駄目だし、そもそも逃げ場なんて無いってことです。
   イザベラもアラゴスタも、そういう考えを持ってるってことが言動から分かりました。彼らには戦う『意志』があります」


ヴェルデ「・・・・・・」


ロッソの言葉に、俺は黙ってしまった。


こんなに説得力のある台詞は聞いたことがない。

いや、ある。俺の「ボス」だ・・・
俺達のボス、ジョルノ・ジョバァーナはよくこういうことを言っている。
哲学的で端から聞くと難しそうだが、何故かとてつもない説得力が感じられ、毎回聞き入ってしまう。


あれにそっくりなんだ・・・


ロッソ「それでヴェルデさん、俺達が出来ること、何か無いんですか・・・?」


ヴェルデ「・・・・・・」


俺は悩んだが、ついにロッソに対してこう返事をした。

ヴェルデ「これは絶対秘密なんだが、今度俺達の組織で奴らの本部に襲撃を行う予定なんだ・・・
    それにお前等を同行させてもらえるかどうか・・・」

190第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:44:31 ID:DBgaiZAk0
ロッソ「ほ・・・本当ですか!」

ヴェルデ「いや、ボスに直接聞いてみなければ分からない・・・
    しかし、これは社会の『裏』での戦いなんだ。一般人が入ってはならない世界だ。
    ほぼ100%無理だと思え・・・」

ロッソ「分かりました・・・」


ヴェルデ「あと、最後に一つ聞いておこう・・・
    “お前は、この戦いを望むか”・・・?」

ロッソ「はい、俺はこの戦いが正しい未来を授けてくれると信じています」


ヴェルデ「よし、分かった・・・」


俺はそう言うと、受話器を置いた。


その後、俺は頭を掻きむしり、激しい後悔と自己嫌悪に泣きわめいた。



―――――――――――――――



ミスタ「おい、何てことしてくれんだよ・・・
  堅気を争いに巻き込むなって常日頃言ってんだろうが!! あぁ?」

グイード・ミスタが俺の襟刳りを掴んで捲くし立てた。
これくらいは、覚悟していたことだ。


ヴェルデ「本当に申し訳ない・・・」

ロッソ達の名前までは告げていないが、その必要は後にももう無いだろう。


すまない、みんな・・・


ジョルノ「ミスタ、離してやりなさい・・・」

グイード・ミスタは荒々しく俺の襟から手を解いた。

191第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:45:00 ID:DBgaiZAk0
ミスタ「チッ・・・完全に余計なお世話だぜ!
   いくらスタンド使いだろうが、一般人を殺し合いに参加させていいはずがねぇ!
   しかも襲撃のことを話してやがる・・・その端から敵に情報がバレたらどうすんだ!」

ジョルノ「ミスタ、そのくらいにしましょう・・・
    ヴェルデ、その少年達は、間違いなく戦う意志があるのですね?」

ヴェルデ「はい、アイツの言葉が正しければ・・・」


俺は力無く答える。
今の俺に、ギャングとしての威厳は皆無に近かった。


ジョルノ「ならば、一度彼らに会わせてくれませんか?」


ヴェルデ「えっ・・・?」


あまりに意外すぎる返事に、俺は目を見開いた。
そしてボスの瞳を、じっと見続けた。

ミスタ「な・・・ちょっとボス! いくら何でも・・・」

ジョルノ「会ってみなければ分からない。彼らがこの戦いに出られるかどうか、僕が決めます」

ヴェルデ「ボス・・・!」


駄目だと思っていたのに・・・俺達の願いを受け入れてくれた・・・

ボスの瞳の中には、確かな「意志」の灯火が輝いているように見えた。



ミスタ「まったく・・・ボスはそういう突拍子も無い判断が得意なんだから・・・
   分かった、じゃあ今度そいつらを呼べ。例の場所にな」

ヴェルデ「か・・・かたじけない・・・」


俺は今にも泣きそうだった。

理由はよく分からなかったが、いずれにせよ、今の俺は情けなかった。

192第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:45:27 ID:DBgaiZAk0
後日 ナポリ大聖堂にて



ナポリ大聖堂───


シチリア王シャルルⅠ世の命によって建てられたこの教会は、ネアポリスにおける最大の観光名所である。


───と言っても俺達は、決してここに観光をしに来たのではない。


ここには、ヴェルデが所属するギャング組織の「ボス」が待ち受けているのだ・・・



あの後・・・俺はヴェルデからの連絡を受けた。

“お前達は、俺達のボスと面会することになった”と・・・

ヴェルデの話では、どうやらボスは俺達のことが気になるらしく、実際に会ってみてから同行が可能か決めることにするらしい。



それは、俺達にとって朗報であった。
だが、それと同時に厳しい「運命」に立ち向かうためのスタートラインでもある・・・

俺達は今、そのラインから走り出すか、走らずに終わるかの二分された運命に直面しているのだ。



待ち合わせ場所である入り口の所で、俺達四人はヴェルデの迎えを待っていた。

ビアンコ「・・・ギャ、ギャングのヘッドなんて、どんな奴なんだろうな?
    グラサンかけたオッサンか? それとも態度のデカいジジイかな?」

ロッソ「さっぱり・・・見当がつきませんね・・・」

193第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:45:52 ID:DBgaiZAk0
イザベラ「怖い人なんでしょうね・・・」

アラゴスタ「ヴェルデさんの知り合いなんだよね・・・大丈夫だと思うけど」



俺達はかなりの不安を抱いていた。

イタリア最大級の勢力を持つというファミリー「パッショーネ」のボスとは、一体いかなる人物なのだろうか?
そして彼は、俺達をどうやって試そうとしているのだろうか?

面会だけするのか?
何て話せばいいんだ?
いや、それよりも誰が代表して話すんだ?

考えるほどに不安がつのっていた。



ロッソ(いや、でも・・・)


その時俺は何となく、大切なことを思い出した気がした。
そしてそれを、少し小さな声で話した。


ロッソ「みんな、不安なのはよく分かる・・・
   でも、これはまだ始まりにすぎない。もし合格したら、俺達は戦争に行かなくちゃあならないんだ。
   俺達が選んだ道だからさ、何ていうか、もっと勇気を持たないと駄目なんじゃあないかな・・・」


一瞬の沈黙があった。

その後、ビアンコが呟いた。


ビアンコ「・・・そうだったな・・・ この程度でビクビクするなんて情けねぇ。
   ここは一つ、ガツンと挑まなくちゃあな!」

イザベラ「そう・・・ですね」

アラゴスタ「だよね。何とかなるでしょ!」

194第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:46:20 ID:DBgaiZAk0
ロッソ「何とかなるじゃあなくて、アラゴスタも何とかして欲しいんだけど!」

ビアンコ「いやロッソ、おめぇよりアラゴスタの方が融通が利きそうだぞ!」

ロッソ「な・・・何故!?」

イザベラ「フフフッ!」


いつの間にか緊張がほぐれ、普段の雰囲気に戻っていた。


アラゴスタ「あ、ヴェルデさん来たよ!」

アラゴスタの言う通り、どこからともなくヴェルデが歩いてきた。
近くに来るまで全く気付かれなかったのは、ギャングとしてのステータス故か、それとも存在感が薄いからか・・・


ヴェルデ「お前等、みんな揃ってるか?
    これからボスの所へ案内する。用意はいいな・・・?」

ビアンコ「用意っつったって、持ってく物とかねぇだろ?」

ヴェルデ「あぁ、必要ない。
    ただ一つ・・・何かしらの“覚悟”だけしていてくれればそれでいい・・・」

ビアンコ「“覚悟”? な〜に、そんなもんハナから持ち合わせてるに決まってるぜ!
    だよなおめぇら?」

イザベラ「はい、大丈夫です」

アラゴスタ「な〜んにも心配ないよ!」

ロッソ「大丈夫です。俺達の選んだ道ですから」


ヴェルデ「みんな余裕があるな・・・いいだろう、じゃあ行くぞ」

195第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:46:52 ID:DBgaiZAk0
俺達はヴェルデに連れられ、教会の地下へと向かっていた。


一般人は立ち入り禁止の場所を奥へ奥へと進むと、いよいよ社会の「裏」へと近づいているような雰囲気になる。



この先に「パッショーネ」の首領たる人物がいる・・・

不安は既に消えていたが、それでも一種のプレッシャーのような気迫が、俺達を押し潰そうとしていた。


ヴェルデ「ボスが誰かに面会する時は、必ずここに招待している。本部のある場所がバレないようにな。
    あぁ、前にロッソとアラゴスタを連れてった所とは違うぞ」

ロッソ「ここで一体何をするんですか・・・?」

ヴェルデ「分からない。だがボスは穏健な方だから、少なくともスタンドの力比べなどはしないだろうな」

ビアンコ「あぁ〜よかった。
    『俺様を倒してみせよッ!』みたいな感じで襲ってきたらどうしようかと思ってたぜ」

イザベラ「その方もスタンド使いなんですか?」

ヴェルデ「勿論だ。・・・大変に意志の強い、聡明な方だよ・・・」

ロッソ「・・・・・・」


俺はヴェルデがそこまで敬意を示すとは思わなかった。

ますます、そのボスという人物が興味深くなってくる。

ロッソ(ギャングって凄いな・・・)

196第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:47:13 ID:DBgaiZAk0
しばらく進むと、ヴェルデが扉の前で立ち止まった。


ヴェルデ「・・・ここだ。この部屋の中にボスがいる・・・
    俺が手助けすることは出来ない。お前達だけでやってくれ・・・」


その部屋は、とてもギャングのボスが居るとは思えない、みすぼらしい通路の隅にあった。


いよいよか・・・


再び不安が押し寄せて来たが、俺はすぐにそれを押さえ込んだ。
この程度で『ガーネット・クロウ』を使うのは余りにも女々しい。


ビアンコ「挨拶は、きちんとしろよ? 礼儀だからな」

アラゴスタ「わかってるよ。ビアンコさんも挨拶忘れないでよ?」

ビアンコ「俺の心配しなくてもいいっつーの!」


ヴェルデ「じゃあ、いいな? ・・・入るぜ」

ビアンコとアラゴスタは途端にかしこまった。


コンコン ガチャリ


ヴェルデ「ボス、連れて参りました。こいつらです」

ヴェルデがドアを開け、先に入っていく。
部屋の中は古い蛍光灯の光で少し暗かった。


俺は一歩、部屋の中に入る。
入って右側に、革椅子が並べてあった。
そこに座っているのは・・・


その瞬間、俺の中に戦慄が走った。


ロッソ「!!!」

ジョルノ「やっぱり・・・君でしたか・・・」



“何故、この少年がいるんだ”!?


今までの感覚が全て吹き飛び、俺の頭は真っ白になっていた。

197第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:47:44 ID:DBgaiZAk0
ビアンコ「うッ!!!」


イザベラ「は・・・初めまして」

アラゴスタ「初めましてッ! ・・・ほら、ビアンコさんも挨拶してよ・・・」


ロッソ「あ・・・あなたは・・・!」



ジョルノ・ジョバァーナ・・・

俺を救ってくれたあの少年が、何故ここに?
彼の傍らには、あのミスタという男の姿もある。


ジョルノ「久しぶりですね。ロッソと言いましたよね? そしてビアンコ・・・」

ヴェルデ「ボス・・・ロッソとビアンコをご存じなのですか!?」

ミスタ「お前は話す必要ねーぜヴェルデ。
   ビアンコ、おめぇはちゃーんと足洗ったようだな。偉い偉い。
   そんでロッソ、おめぇはよォ、あの時から随分と成長してんじゃあねぇか?」


いきなりそんなことを言われても、全く状況が飲み込めない。
他のみんなも同じだろう。


ジョルノ「申し遅れました。僕がパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナです。
    こちらは部下のグイード・ミスタ。どうぞよろしくお願いしますね」

イザベラ「よ・・・よろしくお願いします!」

アラゴスタ「どうぞよろしく! ・・・ちょっと、ビアンコさんどうしちゃったの・・・挨拶は?」

198第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:48:12 ID:DBgaiZAk0


俺が状況を理解するのに、30分近くかかった。

全員が椅子に座り、出されたお茶を飲み(菓子まで出た。甘かった)、少年の話を聴いているうちに、
彼がパッショーネのボスであったことは、疑いようのない事実であることが判明したのだ。


あの後、俺達は各自簡単な自己紹介をして、ジョルノの話を聴いた。

ジョルノは襲撃の詳しい内容の他に、例の教団が行ってきた悪行を語った。
それを聴いていると、部下が次々に殺されていくボスの怒りと嘆きが、ひしひしと伝わってくる。


そして時間が経つにつれ、俺は彼に対して「驚愕」よりも「尊敬」の感情を抱くようになったのだ。

この若さでイタリア屈指のギャングのボスになるなんて、明らかに只者ではない。
それでいて、部下のことを想い、まとめあげているなんて・・・

才能などという言葉では片づけられない「何か」が彼にはきっとある。
俺はそう悟った。




ジョルノ「・・・それで皆さん、今回我々と一緒に襲撃に参加したい、ということですが、本当ですか?」


ついに来た。
質問をして俺達を試そうとしているんだ。

ロッソ「はい、そうです」

ビアンコ「あぁ、俺達のスタンドでブッ潰してやらねぇとな」

イザベラ「逃げてばかりではいけないと思って」

アラゴスタ「あいつら僕を騙したんだよ。絶対許せないよ」


ジョルノ「襲撃には殺人も付き物となりますが、それでも厭いませんか?」

ロッソ「構いません。仕方のないことですから」

ビアンコ「向こうから殺しにかかってくるんだから、正当防衛だと思ってる」

イザベラ「私のスタンドは攻撃には向いていませんが・・・みんなを守るためなら、その時は私もサポートします」

アラゴスタ「悪い奴らだもん。やられそうなら・・・やるしかないよ」

199第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:48:37 ID:DBgaiZAk0
ジョルノ「分かりました・・・皆さん本心からそう思っているようですね。
    では僕から、最後にもう一つだけ質問をしましょう・・・」


えっ、“最後にもう一つだけ”?
たったそれだけでいいのか?

てっきり、面接試験の如く質問責めにしてくるのかと思っていたが・・・



ジョルノ「どんな小さな集団でも、何かしらの“リーダー”は必要です。
    統率する人間がいないと、前に進むのがとても難しくなるからです。
    そこでお聞きしますが、“あなた方のリーダーは誰でしょう?”“そしてその人を信頼できますか”?」


ビアンコ「リーダー・・・だと?」

俺には質問の意味がよく分からなかった。
リーダーなんて、始めから決まっているものだと思っていたからだ。


ロッソ「ヴェルデさんだと思います・・・
   俺達を案内してくれる人ですし・・・」

ジョルノ「確かに、ヴェルデは我々の組織の人間で、何でも知っているでしょう。
    ですが、仮に“彼がやられたらどうしますか”?
    応報部隊にまず最初に狙われるのは、船頭役である彼だからです・・・」

ロッソ「えっ・・・!」

イザベラ「そんな・・・」


ヴェルデ「・・・・・・」

200第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:49:16 ID:DBgaiZAk0
ヴェルデは無表情で黙っていた。


俺達にとって、ジョルノの言葉は大きなショックであった。

俺達が付いていくことによって、ヴェルデにそんな危険が伴うなんて・・・
彼は何も言わないが、きっと大きな不安と責任を抱えているに違いない。


ジョルノ「だから、ヴェルデはあくまで案内役です。
    いざという時、正しい判断が出来る人間が別に必要なのです」

ロッソ「・・・・・・」


俺はリーダーが云々よりも、ヴェルデに謝りたい気持ちでいっぱいだった。
今からでも・・・引き下がろうか・・・



イザベラ「私はロッソだと思います」

ロッソ「・・・!」

イザベラ「さっき私達がここに来るまで、ずっと不安だったんです。
    でもロッソが一言、正しいことを言ってくれたお陰で、私達は勇気づけられたんです。
    だから、私は彼を信頼できます。彼に付いていこうと思います」

ビアンコ「イザベラちゃんの言う通りだ。
    俺じゃあ力不足だしよ、ロッソならきっとやってくれるぜ」

アラゴスタ「ロッソは凄いんだよ! とっても優しいし、スタンドも強いんだ!」


ロッソ(みんな・・・)

始めはその場凌ぎための嘘をついているのかと思ったが、次第に俺はみんなを疑うことが出来なくなった。

201第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:49:46 ID:DBgaiZAk0
ジョルノ「そうですか・・・分かりました。
    ではロッソ、あなたはどうですか? 責任を果たす自信はありますか?」

ロッソ「・・・・・・」



俺は数秒間考えた後、思ったことを口にした。

ロッソ「俺は“未来”は“運命”を受け入れた先にあると思っています。
   みんながこうして信頼を示してくれたのも一つの運命。俺はそれを拒否しません。
   リーダーとして、やるだけのことをやる“覚悟”はあります」

ジョルノ「!」 ミスタ「!」


一瞬の沈黙があった。

そしてジョルノは満足したような表情で話した。

ジョルノ「・・・皆さんのお気持ち、しっかりと伝わりました。
    襲撃に参加することを許可しましょう」


アラゴスタ「やったッ・・・!」

思わず叫ぼうとしたアラゴスタが、すぐに口を塞いだ。

ロッソ「ありがとうございます・・・」


ついに、彼に認められた・・・

俺はジョルノに対する感謝と同時に、敵に立ち向かう勇気が一気に湧いてきた気がした。


ミスタ「襲撃は二日後だ。お前等はヴェルデの運転する車でミラノまで行ってもらう。
   長旅になるから、ちゃんと準備しとけよ」

ビアンコ「よっしゃ、俄然やる気が湧いてきたぜ!
    アラゴスタ、覚悟は出来てんだろうな」

202第8話 黄金の再会  ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:50:34 ID:DBgaiZAk0
アラゴスタ「当たり前だよ! 絶対負けないんだからね!」

ヴェルデ「おいお前等、スポーツの大会に行くわけじゃあないんだぞ・・・」

ジョルノ「心配する必要はありませんよヴェルデ。彼らには“覚悟”が出来ていますから。間違いなくね・・・」


俺はこの時のジョルノの微笑みを忘れない。



かくして、俺達は「教団」を倒すため、ミラノへと赴くことになった。

もう逃げることは出来ない・・・
だが、俺はもう恐れない。


その後、俺達はジョルノに別れを告げ、部屋を出た。
地下から地上に戻ると、そこは別世界のような明るさと賑やかさに満ちていた。





ミスタ「ボス・・・襲撃したいと言った奴が、何であのロッソだって分かってたんスか?」

ジョルノ「僕にも分かりません・・・ただ、初めて彼と会った時、またいつか会うことになるような気がしていました。
    ところでミスタ、あなたはあのロッソという少年をどう思いますか?」

ミスタ「あの時と見違えるくらい成長してたッスね・・・
   単にスタンドが発現したからって理由じゃあない。他と違う何かがきっとある。
   そんであの言葉・・・なんつうか、ブチャラティを思い出しましたよ・・・」


ジョルノ「ミスタもですか・・・僕も思いました」


しばらく沈黙が続いた。
部屋の時計の音が、やたら大きく聞こえる。


ミスタ「・・・あいつらの心配は、もうする必要はないッスよね。
   さて、早いとこ、俺達の準備を終わらせねぇと・・・」

ジョルノ「・・・そうだミスタ、敵地へ向かうのに、“あれ”を持っていくのを忘れないように・・・」

ミスタ「あぁ“あれ”ッスね。了解しました。
   ・・・え〜っと、どこにしまってたっけ・・・」

ジョルノ「・・・・・・」


ジョルノは、ロッソ達のことを思い出していた。

そしてただ一つ、想い続けた。
「健闘を祈る」と。




第8話 完

203 ◆LglPwiPLEw:2010/02/26(金) 18:52:31 ID:DBgaiZAk0
第8話終了です。

ようやく物語が進んできたのが実感できる……
次回からはいよいよ後半戦、敵の本部に乗り込んでいきます。もちろんバトルもしますよ。

というか、ジョルノとミスタがキャラ崩壊してないか心配だ……
違和感アリアリだったら本当にごめんなさい。


ありがとうございました。

204名無しのスタンド使い:2010/02/26(金) 20:24:49 ID:Jts5zm6MO
乙!
いよいよ後半戦か…
ワクワクしてきたぜwww

205名無しのスタンド使い:2010/02/26(金) 20:54:44 ID:LktspHLU0
乙!
ほんとwktkな展開だ……次回も楽しみにしてる!

206 ◆U4eKfayJzA:2010/02/26(金) 22:41:32 ID:.aQTNuVE0
おお! この作品もとうとうボス戦へと突き進むことへとなるのか……
期待してます、乙です!

207名無しのスタンド使い:2010/02/26(金) 23:46:50 ID:.ie1tbgkO
乙ッ!
物語が加速を始めたかッ!

208 ◆LglPwiPLEw:2010/02/27(土) 07:22:07 ID:???O
皆さんいつも感想ありがとうございます

>>206
やっと“折り返し”だから、ボス戦なんて何時になるか分かんねぇぜ!

>>207
加速……? 何のこと?
更新ペースはこの先もgdgdの模様ですよ……


……いや、バカなことをほざいてすみません。
これからもよろしくです。

209第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:16:53 ID:uuQuZ9j20
話の前に、ここでは一行の案内役、ロベルト・ヴェルデの生い立ちについて説明しよう────



ロベルト・ヴェルデは三人兄弟の末っ子として誕生した。
そのためか幼い時から引っ込み思案で、人と話すのが苦手だった。


学校では友達ができず、教師からも無い物扱い。
いじめを受けた時期もあった。

一方家庭では、成績優秀な長男やサッカーの才能に恵まれた次男の影に隠れ、両親の期待など微塵も受けることもなく育った。



───だから彼は孤独だった。

彼は、自分が孤独な理由はすべて「自分のせい」だと思い込み、自分を呪い続けたのだった。



そんな時、彼はあるものと出会う。

それはたまたま見ていたテレビドラマの中で、刑事が格好よくブッ放していた「銃」であった。


彼は憧れた。
刑事ではなく「銃」に。


たちまち欲しくなって、ある時ついに実弾と実銃をどこからか盗んだ。

・・・その時の彼はとてつもない満足感を味わっていた。

それは「いつでも人を殺せる」という虚栄心からか。
それとも「いつでも死ねる」という安心感からか・・・


それは分からないが、それ以来彼はその「銃」を唯一の心の拠り所としていたのだった。

210第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:17:49 ID:uuQuZ9j20
時が経つにつれ、ヴェルデは一丁の銃だけでは満足出来なくなっていた。

彼は無我夢中で、数多くの銃を買い集めた。

銃だけではない。「武器」なら何でもよいと、ナイフや刀剣、さらには骨董品の槍や大砲まで、ありとあらゆる武器を収集した。


しかし、そんな彼を家族達が快く思うはずもない。
筋金入りの武器コレクターになった三男を不気味がり、ますます忌避するようになった。



そしてある日のことだった。
ついに父親が痺れを切らし、ヴェルデのコレクションの一部を粗大ゴミに出そうとしたのだ。

その様子を見たヴェルデは理性を失った。


(俺の武器を・・・

 俺の“仲間達”をッ!)


そう思ったヴェルデはもう何も考えず、父親の背後から引き金を一発引いた。

・・・ヴェルデが初めて“武器を使った”瞬間であった。



血を吹き出し、無言で倒れた父を見て、彼は青ざめた。

そして、大量のコレクションを持てる限り持って、家を飛び出していった。



・・・そこから先は、彼の記憶にはほとんど残っていない。

取り返しのつかないことをしてしまったのを自覚した彼は、もはや廃人同様であった。

誰にも見つからないような廃墟を、ただただ一人で歩き回っていた。

211第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:18:18 ID:uuQuZ9j20
その場に巣食うゴロツキ達ですら、大量の武器を抱えて彷徨う彼を不気味がって、近づくことも出来なかった。

・・・誰も彼に救いの手を差し伸べる者などいなかったのだ。



しかしある日のこと。
ヴェルデが21歳の誕生日を迎えた翌日のことだった。

ヴェルデは突然、何者かに話しかけられた。

“我々の所に来ないか?”と。


その人物は、他ならぬギャングの人間であった。

声をかけた理由は、彼に対する憐れみからだろうか。
単にヴェルデのことを気に入っただけかもしれない。

だがその男が少なくとも、ヴェルデを救おうとしたことは間違いない。


一方ヴェルデの方は、男を疑っていた。
もはや自分が持っている「武器」以外、何も信じられなくなっていたのだ。


すると、急に男は怒鳴った。


“人様を傷つける道具だけが武器じゃあねぇッ!
 他人を信じる心も、生きていく上での大切な『武器』なんだよッ!!”


その言葉を聞いて、ヴェルデは我に返った。


俺は間違っていたんだ・・・
目に見えるものだけが武器だと思っていたが違った。

自分の心の内にある「武器」の存在を、すっかり忘れていたんだ・・・

212第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:18:41 ID:uuQuZ9j20
ヴェルデは迷わず男に付いていった。
そして彼の元に宿を借り、食べさせてもらった。


その後、ヴェルデは男への恩を返すため、ギャングに入団することを決意する。

男は、彼の決断に対して何も言わなかった。
自分の歩く道は自分で決めるべきだと思っていたからであろう。



こうしてヴェルデは入団試験に“合格”し、「パッショーネ」に入団したのである。

仲間内からは「ギャングでも指折りの武器マニア」として有名になり、人間不信も克服出来た。


彼が「矢」の選別を受け『ウェポンズ・ベッド』を習得するのは、もう少し後のことになる・・・



* *



ネアポリス某所 PM 7:30


みんなをこんな時間に集めたのは当然理由がある。

敵地ミラノには早朝に集合することになっているのだ。

ミラノへは車で少なくとも八時間はかかる。
一晩中車を飛ばしていけば、丁度早朝にミラノに到着出来るという寸法だ。



ビアンコ「おいヴェルデ、車の点検はしたか?
    敵のスタンドが取り付いてっかもしれねぇからよ」

ヴェルデ「言われなくとも。バッチリ異常なしだぜ」

ロッソ「まずは、ミラノに無事に到着できるかどうかですからね・・・」

213第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:19:18 ID:uuQuZ9j20
アラゴスタ「ヴェルデさん、居眠り運転なんてしないでよ!」

ヴェルデ「おいおい、そんな心配かよ!」

ロッソ「こいつ小学生だから寝るのが早いんですよ。うちの寮でも九時には寝てましたし」

イザベラ「やっぱり規則正しいのね、ポルポラ君の生活って」

アラゴスタ「そ〜お?」


ヴェルデ「さぁさぁ、無駄な話は必要ないぞ。
    忘れ物無いな? じゃあ車に乗れ」



本当に不思議なくらい、みんな余裕だな・・・
これから一種の戦争に行くというのに・・・


アラゴスタ「僕助手席がいい〜〜!」

ビアンコ「ゲッ、取られた!」

ロッソ「別にどこだっていいでしょう、席くらい・・・」

ビアンコ「だって後ろ三人だぜェ〜、キツキツじゃねぇか、俺寝れねぇよォ〜・・・
    あ、でもイザベラちゃんの隣だったらいいかもな・・・フヒヒッ!」

ロッソ「ちょっと・・・何考えてんすかビアンコさん! その笑い方・・・」

イザベラ「フフフッ! ロッソとビアンコさんって、凄く面白いコンビですよね!」

ビアンコ「だってよ! どうするよロッソ!」

ロッソ「どうするって・・・
   どうしましょうね・・・」



こいつらに関しては、そう深く考える必要はないのか・・・


“彼らには『覚悟』が出来ていますから・・・間違いなくね”

ボスが言っていた言葉を頭の中で反復しつつ、俺は車を発進させた。

214第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:20:01 ID:uuQuZ9j20
その後、俺が運転する車は高速道路を走っていた。



「太陽道路(アウトストラーダ・デル・ソーレ)」と呼ばれる、イタリア最長の国道。
ネアポリスからミラノまでを結ぶ、全長約750kmの道だ。


といっても、今は夜。
太陽道路なんて呼び名に合わない、暗闇とライトの光だけが支配する道になっている。

だがそんな雰囲気も、こっちには関係ないがな・・・



ビアンコ「『ワープ』ってあるだろ? 宇宙戦艦ヤマトとかがやってたやつ。
    あれって本当の所出来んのか?」

アラゴスタ「あのね、凄いミクロの世界には“ワームホール”っていう穴があるらしいんだ。
    それをくぐれば、一瞬でどんな所にもいけるらしいよ。
    勿論今の技術では無理だけどね」

ビアンコ「穴? 何の穴だよ」

アラゴスタ「空間の」

ビアンコ「そんなの見たことある奴いんのか?」

アラゴスタ「いや、これは数学的な可能性の一つに過ぎないんだよ。
    計算していったら、有るかもしれないってことが分かったの」

ビアンコ「何それ、どんな計算だよ? 足し算や引き算でそんなの分かんの?」


ヴェルデ「・・・・・・」


・・・うるさい。
どういう訳か、みんなやけにテンションが高い。

・・・いつものことか。

215第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:20:38 ID:uuQuZ9j20
イザベラ「ねぇロッソ、私が作ったシフォンケーキ持ってきたんだけど、食べる?」

ロッソ「ほんと!? どうもありがとう!」


ビアンコ「んん? おいお〜い、なんだか暑くねェ〜かァ?」

イザベラ「あ・・・」

ロッソ「やめて下さいよ。ビアンコさんも食べたいんですか?」

ビアンコ「いや、俺は別に欲しくはね〜し。
    イザベラちゃんもロッソの“ためだけに”作ってきたっぽいしな!」

イザベラ「フフ・・・」(苦笑い)

ビアンコ「あ〜あ、全く幸せモンだよなァ〜ロッソは。
    初めはからかってやろうと思ったが、段々露骨にラブラブになってきちまってよォ〜」


ロッソ「イザベラ・・・気にしなくていいから」

イザベラ「うん、分かってる・・・」



ヴェルデ「・・・・・・」



ビアンコ「アラゴスタ、おめぇは好きな娘とかいるか?」

アラゴスタ「いな〜い」

ビアンコ「そうかァ〜まだいねぇか・・・
    けどまぁ、その内おめぇも好きな女の子をオカズにして抜・・・」


ドギャアァァァァァン!!



ロッソ「!」 アラゴスタ「!」


イザベラ「ポルポラ君に変なこと教えるのはやめて下さいね、ビアンコさん」 ニコッ

ビアンコ「ぐ・・・ふ・・・」

216第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:21:01 ID:uuQuZ9j20
ロッソ「な、殴った・・・『シルキー・スムース』が・・・!」

アラゴスタ「攻撃に向かないスタンド・・・じゃあなかったっけ・・・?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


イザベラ「ハッ! ・・・ごめんなさいビアンコさん!
    すぐに怪我を治しますね!」

ビアンコ「いや・・・大丈夫だ。すまん、悪かった・・・」



ヴェルデ「・・・・・・」



アラゴスタ「ねぇ! 今攻撃したよね、『シルキー・スムース』が!」

ロッソ「ついに成長したか・・・破壊力が」

ビアンコ「なかなか・・・ヘビーなやつ貰ったぜ・・・」

イザベラ「ちっ違うの違うの! この子ったら私の意志と関係なしに動いたのよ!」

ロッソ「スタンドが意志に関係なく動くって有り得ないから!
   自動操縦型じゃあないんだし!」

アラゴスタ「絶対嘘! あの笑顔の殺気が凄かったって!」

イザベラ「本当よ〜信じてよ〜!」

ビアンコ「今まで俺、マジでイザベラちゃんのこと甘く見・・・」



ヴェルデ「うるせぇッ!!!!」

バ ン ッ


ロッソ「!」
ビアンコ「!」
アラゴスタ「!」
イザベラ「!」


ヴェルデ「テメェらこれからどこに行くか分かってんのか!!
    殺し合いなんだぞ! テメェら死にてぇのかッ!」

217第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:21:45 ID:uuQuZ9j20
シーン・・・


思わず出てしまった。俺の一喝。

途端に車内が静まり返り、タイヤがアスファルトの上を滑る音とエンジン音だけが響いた。


ヴェルデ「・・・明日は早ぇんだよ・・・早く寝ろ」

俺は高ぶった気持ちを落ち着かせるつもりで言ったが、かえってキツい感じになってしまった。



ビアンコ(やっぱ怖えぇぇッ、さすがギャングは違うぜ・・・
    おいロッソ、『ガーネット・クロウ』で何とかしろ!)

ロッソ(無理ですよ、こんな状況で・・・)


スタンドで会話したって無駄だ。丸聞こえだぞ。
まぁそれくらいは少なからず気付いているだろうが。


しかし・・・冗談抜きに不安だ。


こんな奴らで本当に大丈夫だったんだろうか?

敵は本気なんだぞ?

本当に“覚悟”なんてあんのかよ?

誰の責任だと思ってやがる?



心のモヤモヤが晴れない。
ならばいっそのことロッソに不安を消し去って貰いたかったが、そんなことを頼める立場じゃあない。



俺の心に・・・「太陽」は戻ってくるのか・・・


そのうちに、俺は過去を回想していた。


幼いときはずっと独りぼっちだった。

勢いで親父を撃ち殺して、正気を失った俺は彷徨い歩いた。

毎日どうやって食い繋いでいたのか覚えていない。
今思えば、あの状況でよく数年も生きられたものだ。

218第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:22:20 ID:uuQuZ9j20
そんな俺の心を生まれて初めて「太陽」が照らしたのは、あの男に出会った時だった。


あの男の一喝を受け、俺は変わったんだ・・・
今でもあの衝撃は忘れられない。

そして俺はギャングの世界に入った。
だからあの時の俺にとって、あの男こそが「太陽」だったんだ。


・・・いつからだろう? 俺の心から「太陽」がいなくなったのは・・・



俺は憂鬱な気分でハンドルを握り直した。

いつの間にか、みんな眠りについている。
まだ目を瞑っているだけかもしれないが。


さっきまで騒がしかったのが急に静かになり、何だか寂しくなった。

・・・寝ろと言ったのは俺の方なのに。
まったく情けない。



俺がギャングになったのは、果たして正解だっのか? と今更ながら思う。

進むべき道は他にもあったはずだ。
もっと良い人生を送れる道もあったのでは?


もしあの男に出会えなかったら、俺はどうなっていたんだろう?
一生あのままだったんだろうか?


俺はそんなことを思い巡らせたが、すぐに考えるのをやめた。


仕方ないことなんだ・・・

この道を選んだのは俺の責任。
どうなったとしても、それは俺が悪かっただけだ。

219第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:23:18 ID:uuQuZ9j20
それに、人の運命は出会いで決まるものだ。

ギャングにならなかったら、俺はこいつらとは出会えなかっただろう。
俺はこいつらと居るのが楽しいんだ。


こいつらは・・・




!!!




ヴェルデ「何ィッ!?」

余りに突然のことに、俺は大声を出した。


隣の助手席にいたアラゴスタが・・・


ヴェルデ「い・・・“いない”ッ!!」



どういうことだ!?


全身から汗が噴き出す。

まさかと思い、俺は恐る恐る後ろを見た。


ヴェルデ「・・・バカなッ!!」


そこには・・・
他の三人の姿も無かったのだ・・・


ヴェルデ「どういうことだッ!? さっきまで確かにいたのに!」


俺はすぐに車を止めようとしたが、思い留まった。

ヴェルデ「まさか・・・スタンド・・・?
    “敵のスタンド”が近くにいるッ!?」


一体どうすれば・・・
どうすればいいんだッ!


鼓動がはち切れんばかりに脈打つ中、俺はなんとか車を運転していた。


ヴェルデ(どこにいる・・・)


俺が必死に車内をキョロキョロしていると、不意に車のライトが目に飛び込んできた。

それはバックミラーに反射した、後続の車のものだった。
一台の小洒落たフェラーリである。

220第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:23:58 ID:uuQuZ9j20
ヴェルデ「いつの間に・・・!」


車は隣の車線に移り、スピードを上げる。
そして、俺の車の横に並ぶ形になった。


ヴェルデ「・・・!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・



??「“ロベルト・ヴェルデ”と言ったな・・・?」

向こうの車の助手席に乗った眼鏡の男が、窓越しに話しかけてきた。


ヴェルデ「・・・お前は・・・ッ!」


??「私の名は“チャーノ”・・・応報部隊の一員だ」


やはり、こいつの仕業か・・・!


ヴェルデ「テメェ、車内にいた奴らをどこにやったんだッ!」

チャーノ「フッ・・・そう焦るなよ。
   せっかくこれから“面白い死に方”が出来るんだぜ・・・」

ヴェルデ「なんだと・・・」


言い返そうとしたが、その時俺はあることに気付き、言葉を失った。


ヴェルデ(向こうの運転席に・・・“誰も座っていない”・・・!?)

間違いない。
男の肩越しに見える運転席は空だった。


チャーノ「フフフ・・・驚いたか?」

ヴェルデ「何なんだ! テメェのスタンドはッ!
    みんなに何をしたんだッ!」


俺は声を荒げる。

一方チャーノという男は、こちらをナメきったように澄まし顔をしていた。

221第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:24:36 ID:uuQuZ9j20
チャーノ「教えてやろう・・・
   簡単に言えば、お前の仲間達は“この世界から一時的に消えている”。
   何故ならば今この場所は、私とお前『二人』だけの世界だからだ・・・」

ヴェルデ「何故・・・どういうことだ・・・」


訳が分からん・・・

奴の説明を聞きたい所だが、今はハイウェイを走行している真っ最中でもある。
運転にも気が抜けない。



チャーノ「単純な答えだ・・・“それが私のスタンド能力だからだよ”!」

ズオォォッ!


ヴェルデ「!」


チャーノがスタンドビジョンを解き放った。


・・・今までに見たことがない、奇妙な姿だ。

頭部が巨大な球状の人間型。
その姿は近未来的なロボットにも見える。
そして頭部の球の部分には、何やら難解な数式がいくつも浮かんでいる。


チャーノ「こいつは範囲内のあらゆる“数”の概念を操作できる・・・
   名付けて『ストレングス・イン・ナンバーズ』・・・!」


“数”が何だって?

こいつは何だか厄介だ。
早くケリをつけなければ・・・



ヴェルデ「早い話が・・・お前を倒せばみんなは戻って来るんだな!
    『ウェポンズ・ベッド』ォ!」


ズオォォッ!

俺も負けじとスタンドを解き放った。

222第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:25:03 ID:uuQuZ9j20
そしてすぐさま拳銃を持たせ、チャーノに向かって発砲する。


ダァ───ン!!


・・・・・・



チャーノ「フゥ〜・・・どうやら、ギャングというド低脳な生き物に私の偉大な能力は理解できないらしい・・・」

ヴェルデ「・・・何だと・・・!?」


俺はまたもや驚愕させられた。

銃弾が“当たらない”!?
『ウェポンズ・ベッド』が車の速度を確実に計算した上で放った弾丸なのに!


チャーノ「分からないか・・・? 『ストレングス・イン・ナンバーズ』の射程内においては、すべての行動が“数値化”されている。
   今お前の撃った弾丸は私の『計算』によって、軌道をずらされたのだ!」

ヴェルデ「・・・!」


クソ・・・何が何だか・・・

ヴェルデ「ふざけるなよ・・・テメェ!」


ダァ────ン!!
ダァ────ン!!



俺は半ばヤケになり、弾を二発発射する。

チャーノ「ハハハハハ! 馬鹿は死なきゃ治らないとは本当だな!」

ヴェルデ「どういうことだ・・・ッ!」


今度は・・・弾が“止まった”!

俺の車と向こうの車の丁度中間あたりで弾が固定され、車と同じ速度で動いている。


チャーノ「この世界は私の『計算』によって成り立っている!
   “武器”による攻撃など・・・無駄無駄無駄ァッ!」

223第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:25:36 ID:uuQuZ9j20
クルッ


ヴェルデ「・・・ハッ!」

俺の撃った銃弾が突然、180度向きを変えた。

ヴェルデ(まさか・・・!)


ズギュン! ドシュッ!


ヴェルデ「ぐあぁぁぁぁッ!!」

予想通り・・・
回転した銃弾は空中で発射され、俺の肩を襲ったのだ。


チャーノ「ハハハハハッ! どうだ、自分の弾に撃たれる気分はッ!」


どうすればいいんだ・・・
俺は片手でハンドルを握りながら必死に考えた。


チャーノ「だがなァ、私としてはお前に簡単に死んで欲しくはない・・・
   やろうと思えば・・・私は“何だって”出来るんだ・・・」

ヴェルデ「くっ・・・」


チャーノ「別にこんなことをしなくとも、遠くでお前の車の動きを狂わせて、クラッシュさせることだって出来るんだ。
   だがそれでは“味気ない”のだよ。お前の仲間達が機転を利かせて、脱出する可能性だってある。
   そこでまず、運転手のお前一人から殺ることにした! お前が死んで車が潰れたら能力を解除!
   これでお前の仲間達も“死ぬこと”になるッ!」


ヴェルデ「・・・」

こいつの冗長な説明を聞いていると、頭が痛くなってくる(今はそれより肩が痛いが)。


俺はひたすら、奴の弱点を探すのに頭を使った。

224第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:26:23 ID:uuQuZ9j20
チャーノ「私にとって“面白い死に方”をして欲しいのだよヴェルデ。
   それでだ。私は今さっき、素晴らしい死に方を一つ思いついたんだ。
   ・・・お前は“重力加速度”を知っているか?」

ヴェルデ「・・・・・・」


チャーノ「あぁすまない。人として出来損ないのギャングなどが、そんな言葉を知るはずがなかったな!」


さっきから腹の立つ奴だ。徹底的にギャングを見下している。


チャーノ「では結論から言おう。これからお前にかかる“重力の加速度”を上昇させる!
   するとどうなるか? 簡単に言えばお前は“潰されて死ぬ”。自らの重さでなァッ!」


ヴェルデ「何・・・ッ!?」

チャーノ「どうだ、面白いだろう?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


なんてことを考えるんだこいつは・・・
イカれてるぜ・・・


ヴェルデ「させるかッ!」


ギュイン!

俺は急にハンドルを切り、チャーノの車に横からぶつかっていった。


チャーノ「おやおや・・・怖じ気付いたのかい?」


グググ・・・

ヴェルデ「くぅ・・・」


ハンドルが回らない。奴に阻止されてしまったんだ。

やはり、奴には何をやっても駄目なのか・・・

倒す方法は・・・


チャーノ「ジタバタするなよヴェルデ。さぁ、“裁き”の時間だ・・・
   『ストレングス・イン・ナンバーズ』!」

225第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:26:50 ID:uuQuZ9j20
ピピピピ・・・


チャーノのスタンドの頭部に、数式がネオンのように浮かんで光った。

すると・・・


グン!

ヴェルデ「・・・!」
ヴェルデ(か・・・体が!)


俺の体が、急に重くなっていくのが分かった。
全身がシートに押しつけられる。


チャーノ「どうだヴェルデ。今は“2G”だぜ。
   まぁ詳しいことは、天国でアラゴスタとかいう少年に聞くんだな」

ヴェルデ(こいつ・・・マジでやばい!)


本当に潰される・・・?

俺の心臓がますます高鳴った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


チャーノ「少しづつ数値を上げていくぞ・・・その方が面白いからな。
   次は宇宙船の打ち上げ時の衝撃を越える・・・二倍の“4G”だッ!」

グン!

ヴェルデ「ぐぅッ!」


一気に体が圧迫され、呼吸が苦しくなってくる。

俺はそれでも、何とかハンドルを握り続けている。
否、“握らされている”のだ。
奴の前では、車を止めるどころか減速させることすら出来ない。


チャーノ「ハハハハハ! いいぞヴェルデ、もっと苦しんでくれたまえ!」

ヴェルデ「ハァ・・・ハァ・・・」


意識が朦朧とし、まともに考えることも出来なくなってきた。

226第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:27:14 ID:uuQuZ9j20
チャーノ「『ストレングス・イン・ナンバーズ』・・・次は“6G”だ」


グン!

ヴェルデ「ぐあぁぁ・・・」


ミシ・・・ミシ・・・


容赦ない攻撃がさらに続く。
もう限界が近い・・・


チャーノ「いい表情だ・・・
   出来の悪い人間が苦しむのを見るのは何と気持ちのいいことか!
   どんどんいかせてもらうぜ・・・次は“8G”!」


グン!

メギッ! グギャ!

ヴェルデ「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」


ついに体が耐えきれなくなり、崩壊が始まった。
肋骨が折れ、内蔵が破裂し、俺は吐血した。


チャーノ「フハハハハ! いいぞいいぞ! 次で最期かな?」


一人興奮するチャーノを尻目に、俺は諦めずに考え続けていた。


こいつは・・・
自分で計算を行うことで、数値に変化をもたらしている。

“自分で計算”・・・


ヴェルデ(試してみる価値はある・・・)


チャーノ「さぁて、いよいよ“裁き”の時か。短い間だったが、楽しかったぞ。
   『ストレングス・イン・ナンバーズ』! “10G”だぁ──ッ!」


ヴェルデ「うおぉぉ! 『ウェポンズ・ベッド』ォ───!!」


カチャッ

もう一度『ウェポンズ・ベッド』に銃を持たせ、チャーノに向けた。

227第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:27:59 ID:uuQuZ9j20
チャーノ「どうした・・・今になって命が惜しくなったのかね?
   何をしても無駄だと言っただろうがァ──ッ!」

ヴェルデ「ならば・・・これならどうする?」


ギュン!

チャーノ「ぬッ!?」


俺がとった行動・・・
それはチャーノに銃口を向けながら、車を横滑りさせたのだ。


チャーノ「お前ッ・・・!」


予想通り、奴は焦っている。


人間である以上、一度に二つの計算をすることは出来ない。
それならば、“一度に二つの攻撃を仕掛ければいいんだ”。

銃に気を取られていると車が迫ってくる。
逆に車を止めようとすれば撃たれてしまうのだ。


ヴェルデ「さぁ、どうする・・・?」

チャーノ「この野郎ォォ────!!」

奴は車を止めない。
当然だろう。直接撃たれるよりはマシだからな。


ドギャン!

俺の車が、奴の車に勢いよく激突した。


ズガガガガガガガガガガ!

反対側のガードレールに奴の車が押し付けられ、火花が立つ。

チャーノ「ふざけた真似をッ! 『ストレングス・イン・ナンバーズ』! 車を押し返せェ───!」


グイッ

なんだ・・・文字通りの力押しか?

だが奴のスタンドはなかなかのパワーを持っており、俺の車を押し返した。

228第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:28:50 ID:uuQuZ9j20
チャーノ「この私をバカにしやがってェ!
   もう許さん! 一気に“20G”の重力加速度をぶちこんで、貴様をミンチにしてくれるわ!」

ヴェルデ「やれやれ・・・相当キレてんな。周りはよく見なきゃダメだぜ」

チャーノ「どういう意味だッ!」


ヴェルデ「“俺が車をぶつけたのは、テメェの車を落とすためじゃあないってことさ”」

チャーノ「何・・・」


ヴェルデ「テメェが焦ってたお陰もあって、“バレずに投げ入れることが出来た”・・・」

チャーノ「・・・! まさかッ!」


チャーノの顔がこわばり、急に足元を捜し始めた。

今更遅いぜ・・・


ヴェルデ「『手榴弾(グレネード)』だ・・・あばよ」


チャーノ「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ズドオォォォォォォォォォォン!!



轟音と共に、奴の車は大きく吹き飛ばされた。

それと同時に、チャーノの返り血(というか肉片)が窓から飛び込んできたような気がしたが、俺は構わずにアクセルを強く踏んだ。


ドギャン! ガッシャアァァァン!!


チャーノの車はそのままガードレールを突き抜け、道路の下へと落ちていった。



ヴェルデ「ハァ・・・ハァ・・・」


終わった・・・
面倒くせぇ敵だったぜ・・・

229第9話 太陽なき道  ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:29:28 ID:uuQuZ9j20


アラゴスタ「・・・あれ? 何が起こったんだ?」

ロッソ「何だか時間が飛んだような・・・」

ビアンコ「・・・おいヴェルデ! どうしたんだその怪我はッ!」

アラゴスタ「うわッ! 何? どうしたの!?」

イザベラ「大丈夫ですか!? 早く治療しないと!」

ロッソ「スタンド・・・敵のスタンドが襲ってきたんですね、ヴェルデさん!」


ヴェルデ「あぁそうだ・・・俺が撃退したがな・・・」


イザベラ「いつの間に・・・?」

ビアンコ「何だか知らねぇがヤベェぜ!
    敵に居場所が知られてるってことだ!」

ロッソ「みんな、今はヴェルデさんの回復が先だ。一旦近くのパーキングエリアに止まろう」



みんな真剣な目をしている。

なんだ、俺が心配する必要なんて、初めから無かったんだ。



・・・その時、俺はあの男に言われたことをはっきり思い出した。


“他人を信じる心も、生きていく上での大切な武器なんだよッ!!”


そうか、俺はみんなを疑っていたんだ。

長年の間、俺は自分の中の“武器”の存在をすっかり忘れていたんだ。


そう思うと、俺の心が少しだけ晴れたような気がした。


この道路は暗闇だが・・・
俺の“太陽”はもう戻ってきたんだ。




応報部隊)チャーノ /スタンド名『ストレングス・イン・ナンバーズ』 → 死亡。



第9話 完

230 ◆LglPwiPLEw:2010/03/12(金) 20:30:24 ID:uuQuZ9j20
第9話終了っす。

今回はワームホールとか重力加速度とか、色んなエセ科学が飛び交っておりますがどうかご容赦ください。

もっと魅せるバトルを書けるようになりてえ……
ストレングス・イン・ナンバーズだってもっと面白い活躍の仕方があっただろうに……なんだあれ……
考案者の方本当にごめんなさい。


使用させていただいたスタンド

No.966 『ストレングス・イン・ナンバーズ』
考案者:ID:fpz3L5+m0
絵:ID:MssudVmiO
絵:ID:04pbrWEb0
絵:ID:xdT1EKiDO
絵:ID:/JMe8C/p0


ありがとうございました。

231名無しのスタンド使い:2010/03/12(金) 21:21:30 ID:???O
乙!1000スタのSS登場率は異常

232名無しのスタンド使い:2010/03/12(金) 22:10:27 ID:ZaT2Erp2O
乙!
ヴェルデ強いなwwwwww

233名無しのスタンド使い:2010/03/13(土) 03:53:49 ID:seYf1fZMO
乙!
ヴェルデにそんな過去があったとは…

234名無しのスタンド使い:2010/03/17(水) 18:56:10 ID:???0
乙!
何気に初の死人ですね

235名無しのスタンド使い:2010/03/25(木) 17:01:02 ID:y.FdaMgI0
てか、なにこのエロいツイッター
ttp://twurl.cc/2c5p

236第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:41:51 ID:9/3WFooc0
ミラノ某所



薄暗い部屋の中で、二人の男がチェスに興じている。

一人は外見的に若く、少年と青年の中間といった感じだ。
そしてもう一人は、何を思っているのか、常にニヤリと笑った口元から白い歯が覗いている金髪の青年である。


二人は長い時間、ただ黙々と駒を進めていたが、ある時急に金髪の青年が口を開いた。


「なぁ〜、ギャングの奴らが殴り込みに来るかもしれねぇって、知ってたか?」

「・・・知ってる」


少年のように若い男はボソッと答えた。
すると金髪の男はニヤリと笑う口角をますます上げ、話を続けた。

「それでよ、面白いのはそこからなんだ。
 そいつらを返り討ちにするために、部隊から何人かが向かってるらしいんだ。
 その中によォ〜、ククッ! 『カルニチーノ』と『マジェンタ』もいるらしいぜェ!」

男はそう言うと、手を叩いて笑い始めた。

「・・・カルニチーノとマジェンタが?」

それまでずっと下を向いていた若い男が、興味深そうに顔を上げた。

「そうだぜ! “あの二人”に仕事させるだなんて、ジジイも相当テンパってんだなァ!」

「・・・・・・」


若い男は何かを考えるように、しばらく空中を見つめていた。

237第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:42:13 ID:9/3WFooc0
「ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


突然、それまで物静かに見えた若い青年が、狂ったように笑い始めた。


「“あの二人”が!? ヤバくねwwwまともに仕事出来んの?www
 相手が気の毒すぎるwwwwwwハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


青年は一人大笑いしながら、機関銃のように言葉を発した。
その様子を、金髪の男は少しの間黙って見ていた。


しばらくすると・・・


「・・・・・・」


若い青年はピタリと笑いを止めた。
今までの騒がしさがまるで嘘のように。


「・・・それで、そいつらは今どこにいるの?」

嵐が過ぎたようにおとなしくなった青年の質問に、金髪の男は相変わらずの笑顔で答えた。

「あァ〜、たぶん奴等は“太陽道路”に向かってるんじゃあねぇかな〜。
 待ち伏せして殺すつもりだって噂だぜ・・・クククッ!
 あ、ほれチェックメ〜イト!」

「・・・・・・」


思いもよらないタイミングでチェスに負けた青年は、呆然と盤面を見下ろしていた。

そして機嫌が悪くなったのか、彼はその後しばらくは何も話さなかった。

238第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:42:37 ID:9/3WFooc0
* *


太陽道路 PM 11:30


完全な不意打ちだった。

移動経路を含め、敵は討ち入りのことを何も知らないだろう、と鷹をくくっていたのが間違いだった。


ヴェルデが負傷した・・・

いつ攻撃されたのかまったく分からなかったが、応報部隊の人間が襲ってきたのだ。

ヴェルデの話では、“俺達が突然消され、車に乗った男が攻撃してきた”らしい。


予想だにしなかった緊急事態に、俺達は不安と緊張に襲われていた。


ビアンコ「こんな所まで追手が来るだなんて! とんでもねぇ奴等だぜ!」

アラゴスタ「ヴェルデさん、大丈夫なの?」

ヴェルデ「・・・あぁ、心配はいらねぇよ」

ロッソ「しかし回復は必要だ。もうすぐパーキングエリアだから、そこに車を停めて治療しましょう」


俺達の車は小さなパーキングエリアに停まった。
ここでイザベラの『シルキー・スムース』を使い、ヴェルデを回復させる。

真夜中のハイウェイ、走行している車はほとんどおらず、この駐車場にも車は他に二台しかいなかった。


シュルシュルシュルシュル・・・


『シルキー・スムース』の繭糸がヴェルデの全身を覆っていく。

イザベラ「ひどい怪我・・・回復には時間がかかりそうだわ」

239第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:43:02 ID:9/3WFooc0
ビアンコ「仕方ねぇこった。待つしかねぇぜ」

ロッソ「またいつ敵が来るか分からない・・・周りをよく警戒しないと」


俺達は車から降り、夜の空気を吸っていた。

駐車場の周りは雑木林に囲まれ、今にも切れそうなライトの光が辺りを照らしている。

生暖かな風が顔に弱く吹き付け、俺達の不安を煽っていた。


そんな時・・・


アラゴスタ「ねぇ・・・あれって何かな・・・?」

ロッソ「ん?」


アラゴスタが指差したのは、向こうに停まっていた一台の車。

俺は一瞬、何がおかしいのか分からなかったが、直後にその“異変”に気付き、息を飲んだ。


ロッソ「あれは・・・ッ!」

イザベラ「・・・どうしたのロッソ?」

ロッソ「あそこを見て・・・」

俺が見たものは、その車から点々と続く“それ”であった。


イザベラ「・・・えっ!?」

ビアンコ「おい、何だありゃあ・・・
    モロに“血痕”って奴じゃねぇか・・・!」


アスファルトに垂れた血の跡が、向こうのトイレなどがある建物まで延々と続いていたのだ。


アラゴスタ「僕・・・ちょっと見てくる!」

ロッソ「待ってッ! あれに近づいちゃあ駄目だ!
   敵の罠かもしれない!」

240第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:43:24 ID:9/3WFooc0
俺は咄嗟にアラゴスタを止めたが、アラゴスタは落ち着かない様子で言った。


アラゴスタ「でもあのまま知らんぷりして行くの!? 何か別の事件かもしれないよ!」

イザベラ「確かにそうだけど・・・余りにも危険だわ!」

イザベラの言う通り、あれに関わるのは危険過ぎる。
そうは言っても、アラゴスタの意見も無視は出来なかった。


ビアンコ「・・・おい、どうするよリーダー?」

ビアンコに一言そう言われ、俺は僅かな時間考えた。

結論が出るまで、五秒とかからなかった。


ロッソ「・・・俺とビアンコさんとで、向こうの様子を見にいきましょう。
   イザベラとアラゴスタは、ここで待ってて」



* *



ビアンコ「・・・車ン中には誰もいねぇ。争った跡もないぜ」


俺とビアンコは例の車に近付き、中を覗いてみた。

車は空っぽで、運転席を一歩出た所から血痕の道が始まっていた。


ロッソ「血を辿って・・・向こうに行ってみましょう」

俺は血の道の先にある建物を見た。

古ぼけたコンクリートの小さな建物。あるのはトイレと自販機ぐらいだが、周りの闇に溶けて一際薄暗く見えた。


俺達二人は慎重に血痕を辿って歩いていく。

241第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:43:49 ID:9/3WFooc0
やがて建物の傍まで来ると、俺は息を殺しゆっくりと中を覗いた。


・・・何の気配も無い。

ロッソ(誰もいないのか・・・? おかしいな・・・)


俺は不審に思った。


最近になって、俺は周囲の「感情」を察知出来るようになってきている。
今誰がどんな感情を抱えているのか、その姿が見えなくともレーダーのようにハッキリと感じ取れるのだ。

恐らくは『ガーネット・クロウ』の能力の影響によるものだと思う。


しかし現在、周囲に存在する感情はただ一つ。
俺とビアンコの「緊張」のみだ。

血痕は建物の中まで続いている。
となるとここまで血を垂らしてきた人物が、この中に居るはずなのに・・・


ロッソ(もう死んでいるのか・・・?)

俺は音を立てないよう、一歩一歩慎重に建物内入っていく。

その後を、ビアンコが同じく慎重に足を踏み入れていった。




??「こんな夜中だから、誰もいねぇと思ってたんだがよォ〜」


「!」


俺達がその声を聞いたのは、あれから数十秒後のことだった。

地面に垂れた血液が、ある所で途絶えたのに気付いた瞬間である。

俺達の頭上、壁が凹んで人が入れるほどの隙間に“彼”は居た。

242第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:44:12 ID:9/3WFooc0
ビアンコ「誰だテメェッ!」

真っ先に声を上げたのはビアンコであった。


そこに居たのは一人の男。
ビアンコと同い年くらいの青年だ。
手には血の付いたナイフが握られている。


青年は至極マイペースな口調で話を続けた。

??「“見られたらいけねぇ仕事”だからよォ、誰もいないで欲しいなァ〜って思ってたんだ・・・
  でもこういう時に限って・・・“一人だけ”いるんだよなアァァ〜〜!! ほれ!」

ドシャン!


ロッソ「・・・うわあぁぁぁぁッ!!」


俺は突然目の前に投げられた物を見て肝を潰した。

ビアンコ「こいつはッ・・・!」

ロッソ「死体・・・!!」


見知らぬ中年男性の死体。
全身を切り裂かれ、恐怖と苦しみに歪んだ表情をしていた。


??「外にもう一台車があっただろ? それに乗ってたんだよ。
  車ン中で一人で寝ててさ。まぁ仕方ねぇことなんだぜ」

ロッソ「・・・!」


この男は・・・
何の躊躇もなく、人を殺している。

今まで出会ったどの人物よりも、いや、比べる価値も無いほど危険過ぎる。


ビアンコ「さっきから誰だって聞いてんだよ! 答えろッ!! 教団の人間かッ!」

ビアンコは声を更に大きくして怒鳴った。

243第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:44:34 ID:9/3WFooc0
男は数回瞬きをしてから言った。

??「ビアンコと・・・え〜っとロッソだっけ? 遅くまでご苦労さん。
  俺の名前は『カルニチーノ』。応報部隊に所属してる。ハタチ独身。趣味は献血だ。よろしくゥ〜」

シュタン!


カルニチーノと名乗った男が、壁の窪みから飛び降りて着地した。
それと同時に、俺とビアンコは一歩下がって彼との間をとる。


ビアンコ「やっぱ敵か・・・次から次へとしつけぇぜ。
    俺達がボコボコにしてやらぁ!」

ロッソ「・・・・・・」


ズォン!

ビアンコと俺はスタンドを出し、カルニチーノと睨み合った。


・・・さっき俺はこの男を「比べる価値も無いほど危険」と表現した。

それは易々と人を殺せる精神によるものであるのは言うまでもないが、彼にはもう一つ、“他と違う”部分が存在する。

ここに来た時、“彼の感情を何一つ感じなかった”ことだ。

一体なぜ・・・?


ロッソ(まさかとは思うが・・・)

俺はある一つの“恐れ”を抱いていた。
常識では通用しない、彼への“恐れ”を・・・


カルニチーノ「一対二かァ〜。まぁ面白そうだし、別にいいか。
    そっちからどうぞ、カモォ〜ン」

244第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:44:59 ID:9/3WFooc0
カルニチーノは恐ろしく余裕な態度で俺達を挑発する。
その余裕に何か底知れないものを感じた俺は、思わずゾッとした。


ビアンコ「チッ・・・ナメてんじゃねぇぞコラァ!」

挑発に耐えかねたビアンコがカルニチーノに歩み寄っていく。

ロッソ「ビアンコさん、気をつけて下さい! 奴のスタンドの正体を見極めなければ!」


俺はビアンコに忠告した。

カルニチーノがスタンド使いであることは確かだ。
しかし奴はナイフを持っているのを除けば、まだ俺達にスタンドらしきものを見せていない。


ビアンコ「心配ねぇぜロッソ。俺は何も考えずに突っ込むような男じゃねぇよ」

ビアンコは俺に向かってそう答えると、更に一歩一歩カルニチーノに近付いていった。
そしてナイフの間合いまであと一歩の所までくると立ち止まり、言った。

ビアンコ「出しな・・・テメェのスタンドを」


カルニチーノはピクリとも動かず、微笑を浮かべながら答えた。

カルニチーノ「そっちからどうぞ、って言っただろ? お好きにど〜ぞ」

それから一秒と経たなかった。


ドスンッ!


瞬間、『エイフェックス・ツイン』の白い拳が、カルニチーノの腹を捉えていたのだ。

245第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:45:20 ID:9/3WFooc0
ロッソ「!」


ドガッ! バタリ

カルニチーノ「う゛ッ! ・・・ガホッ・・・」

カルニチーノは後ろの壁に衝突し、弱々しく地面に崩れ落ちた。


ビアンコ「“一発”先に入れてやったぜ。さぁ早くスタンドを出しな」

ビアンコは仁王立ちのままカルニチーノを睨む。


カルニチーノ「ハァ・・・ハァ・・・」

カルニチーノはフラフラしながらも立ち上がる。
その顔は、未だにうっすらと笑みを浮かべていた。

カルニチーノ「いいパンチだ・・・ほら、もっと来いよ」

ビアンコ「何ィ!?」


予想外の返事に、ビアンコは顔をしかめた。

ビアンコ「どういうつもりだッ! テメェドMか?」

カルニチーノ「ヘヘヘ・・・」


おかしい・・・
なぜ奴はスタンドを出そうとしないんだ?

その不敵な笑いも相まって、彼に対する不安が一層強くなる。


ビアンコ「ったくよォ〜、一方的にボコるのは礼儀に反するから嫌なんだけどよ・・・
    おちょくられてんじゃあ仕方ねぇぜ!」


バッ!

ビアンコはカルニチーノに向かって走り出す。

ロッソ「待っ・・・!」

咄嗟にビアンコを止めようとしたが無駄だった。

カルニチーノ「ウッシャアァァァ!!」

カルニチーノは持っていたナイフを突き出した。

246第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:45:42 ID:9/3WFooc0
ガキィン!


『エイフェックス・ツイン』はすかさずその刃を弾き・・・


ビアンコ「ドルミーラ!!」

ズドンッ!!


カルニチーノのボディに、再びその拳を叩き込んだ。


カルニチーノ「ガボォッ! ・・・オェッ・・・」

ガシッ

カルニチーノが苦痛の表情でその場に倒れようとするのを、ビアンコは掴み起こした。


ビアンコ「どうだこの野郎。次で最後だぜ・・・」

カルニチーノ「ウッ・・・ガフッ・・・」

ロッソ「・・・!」

その時だった・・・
俺がカルニチーノの様子に、確かな“異変”を感じたのは。


ロッソ「ビアンコさん! まずい、離れてッ!!」

ビアンコ「!?」

カルニチーノ「ウゲッ・・・
    グゥエヴォォォォォ─────!!」

バシュン!


ビアンコ「!」
ロッソ「!!」


俺がもっと早く“異変”に気付いていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


ビアンコ「な・・・に・・・」


カルニチーノの口から、何か“赤いもの”が吐き出された。

そして、それはビアンコの胸を刺し貫いていたのだ。


ビアンコ「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ロッソ「ビアンコさん!!」

247第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:46:07 ID:9/3WFooc0
キュン!

カルニチーノが吐き出した“赤いもの”が、目にも止まらぬ速さで口の中に戻っていく。

ビアンコ「がはっ・・・!」

それと同時に、ビアンコがガクリと崩れ落ち、仰向けに倒れた。

ロッソ「・・・!」

カルニチーノ「危ねぇ危ねぇ。あやうく最後の一撃を食らう所だったぜ。
    どれどれ、心臓らへんにジャストミートしたかなァ〜〜?」

ビアンコ「う・・・が・・・」


ビアンコは白目をむき、声にならない声をあげて苦しんでいる。

ロッソ(・・・大変だ・・・!)

カルニチーノ「スタンドも出せるか出せないかってとこだし、大丈夫だな! ほっとけば死ぬだろう。
    さァ〜て次は・・・ロッソ、お前だぜ」

カルニチーノは俺に流し目を送ると、ゆっくりと近付いてきた。

ビアンコ「ぐっ・・・待・・・て・・・」

ビアンコがカルニチーノを呼び止めるが、奴は全く聞き入れていない。


一歩ずつ迫り来る“狂気”に、俺は完全に威圧されていた。

口から出てきたあの“赤いもの”・・・
あれが奴のスタンドなのだろうか?

ビアンコは一瞬で串刺しにされた。
そして次は俺・・・

途端に恐怖が込み上げてくる。

248第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:46:32 ID:9/3WFooc0
全身がジワリと熱くなり、服に汗が染み込んでいく。

カルニチーノ「うぐっ・・・ゴボッ・・・」

カルニチーノが歩きながら、今にも嘔吐しそうな仕草をする。
体の中から、あの赤いスタンドを出す前兆だ。


ロッソ(恐れるな・・・何のために此処に来たんだ・・・)


俺は自らに問いかけた。

すべては「運命」に従うため。
定められた「運命」はやり遂げなければならない。
こんな所でやられる訳にはいかないんだ。


カルニチーノ「あァ〜〜ん」

カルニチーノが大きく口を開けた。

ロッソ(来るッ!!)

俺は反射的に体勢を低くした。

クイッ

カルニチーノはそれを予測していたように、俺の方向に顔を向ける。

ロッソ「!」

バシュン!

口の中から彼の赤いスタンドが飛び出した。


カルニチーノ「ンがっ」

・・・間一髪、『ガーネット・クロウ』は赤いトゲを横に払いのけていた。

ロッソ「ウラァッ!!」

ドゴォ!

有無を言わさず、カルニチーノの腹にパンチを叩き込む。

カルニチーノ「うげぇッ!!」

殴られた勢いで、カルニチーノは後ろに倒され、地面を転がった。


ロッソ「『敵対心』を取り除きましたよ。これでもう危害は加えられ・・・」

249第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:46:57 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「んばァ」

ロッソ「!?」

バシュン!


ロッソ(何ッ・・・!)


カルニチーノは起き上がりざま、再び俺に“赤いトゲ”を放ってきた。

予想外・・・
と言うより、それは“恐れていた”出来事だった。

幸いトゲの直撃は免れたが、トゲは左の二の腕をかすめ、浅く抉った。


“敵対心を取り除いたはずなのに”・・・

普段ならば疑問に感じることだったが、この時の俺は一つの「確信」を得ていた。


“奴には、初めから敵対心など無かったのだ”と・・・


感情というものは「理性」が前提となって存在する。
人間は「理性」によって成っているのだから当然だ。

しかしこの男の場合、「理性」なんてものが備わっていない。
よって感情も無いし、俺達への敵対心も勿論無い。

ただ、機械のように動いている。“殺すために”。


カルニチーノ「やってくれるじゃあねぇかよォ〜〜。気に入ったぜェ」

起き上がったカルニチーノが、またも近付いてくる。


『ガーネット・クロウ』の能力が効かない以上は・・・

ロッソ(此処で殺すしかない・・・!)

俺は即座に身構えた。

カルニチーノ「あ〜〜ん」

カルニチーノが口を開ける。

250第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:47:22 ID:9/3WFooc0
ダッ!

俺はカルニチーノに向かって突っ込んだ。

ズキュン!

飛び出してくる赤いトゲを払いのける。
そしてその手で手刀をつくり・・・

ロッソ「ウラァ─────ッ!!」

ズバァッ!!

カルニチーノの身体を一直線に切り裂いた。


カルニチーノ「があぁぁぁ───ッ!!」

カルニチーノは断末魔を上げ・・・


ニヤリと笑った。

ロッソ「!?」


ブシャアァァァァァッ!!

凄まじい勢いで液体が吹き出す音がする。
今切り裂いた、カルニチーノの胴体からだった。


ロッソ「う・・・」


一瞬、その状況を把握することが出来なかったが・・・

しばらく経って初めて、“俺の身体が切り裂かれている”ことに気が付いた。


ロッソ「な・・・に・・・」


熱い。
焼けつくような痛みが身体に走っている。

体が動かず、俺はいつの間にか天井と向き合っていた。

ビアンコ「ロッソォォォ────!!」


気を失った訳でもなかったが、俺はしばらく時間がスローモーションのように感じられた。


カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!! ビックリしただろ?」

カルニチーノは平然と俺を見下ろしていた。

ロッソ(馬鹿な・・・)

何が・・・
何が起こったんだ?

251第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:47:42 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「そろそろ俺のスタンド能力の種明かしといくかァ。
    いいかロッソ、オメェは今、俺の“血”に切られたんだぜ」

ビアンコ「何ィ・・・?」

ロッソ「“血”・・・だと・・・?」

カルニチーノ「そ。俺のスタンドは俺の“血”の中に無数に存在する。
    そいつらのお陰で、俺は自分の“血”を自由に操ることが出来るんだぜ!
    名前は『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』! かっけぇだろ?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


自分の“血”を操る能力・・・
そういえば、彼の傷口からは血が一滴も流れていない。


ロッソ(あの“赤いもの”は血だったのか・・・)

理解したところで、俺達二人は重傷を負っている。
奴にとどめを刺されるのは時間の問題だ。


ビアンコ「ざけんなよ・・・チクショォォ────!!」

ドガァァァァァン!!


ビアンコは地面を叩いてコンクリートを砕いた。

カルニチーノ「おいおい、ヤケになんなって。後ですぐ楽にしてやるよ。
    とどめを刺すのは・・・ロッソからだぜ」


カルニチーノはもう一度俺を見下ろした。
その目は嬉々としていて、さながら新品の玩具を見る子供のようだった。

252第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:48:08 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「なぁロッソ、俺はよォ〜『静かなる殺人鬼』ってあだ名が欲しいんだ」

カルニチーノは急に俺に向かって話し始めた。

カルニチーノ「何でかって〜とよ、ほら最初に『献血が趣味』って言っただろ? だから俺、周りからは良い奴だと思われてる。
    でもよく考えてみろよ。俺の血ン中にはスタンドが入ってんだぜ? そいつを輸血なんかしたら、どうなると思う?」

ロッソ「・・・!」

カルニチーノ「患者死ぬに決まってんだろ! ヒャハハハハッ!!
    善良な人間が提供してくれたはずの血液が、まさか患者を殺す毒だったなんて、傑作だよなァ!!
    そうやって死んでった奴等のことを考えると・・・マジでワクワクすんぜ! フヒャハハハハハ!!」


この男は・・・
“この世に居てはならない存在だ”。

犯罪者とか殺人鬼とか、そういう言葉で表せるものではない。

混じりけの無い、「完全な悪」。
どんな闇よりも暗い、最悪の存在だ。


奴に対する“恐れ”の心が消え、代わりに尋常ではない“怒り”が込み上げる。


その時、カルニチーノは近くに落ちていた自分のナイフを拾った。

カルニチーノ「俺って痛いのは好きだけどよ、“人の痛みを想像する”ってのがもっと好きなんだよなァァァ!!
    フヒャハハハハハハハ!!」

253第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:48:39 ID:9/3WFooc0
ザクッ! ザクッ!


ロッソ「!」

俺は目を見張った。

カルニチーノは持っていたナイフで、自分の身体を滅茶苦茶に切り刻み始めたのだ。

当然そこからは、おびただしい血が流れてくるはず・・・
だが奴の場合は違った。


ブシャン! ブシャン! ブシャン!

彼の身体から勢いよく吹き出した血はそのまま空中にとどまり、細長い蛇のような形を作り出した。


カルニチーノ「俺の『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はよォ〜、俺が血を流せば流すほど勢いが増すッ!
    折角の機会だ、全力パワーで葬らせてもらうぜ、ロッソ君よォォ!」

全身から触手のように生やした“血”をくねらせながら、カルニチーノが迫る。

あれほどの“血”に一斉に攻撃されては、流石の『ガーネット・クロウ』でも防ぎきれないだろう。


ロッソ(こ・・・ここまでか・・・)

敵のおぞましい姿を目の当たりにした俺は、もはや「死」の予感を感じることしか出来なくなっていた。


カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!!」

カルニチーノの高笑いが脳内に響き、そして・・・


カルニチーノ「!!」

バシィィッ!


突然、カルニチーノは顔色を変え、飛んできた“何か”を弾き飛ばした。

254第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:49:07 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「ビアンコォォ・・・どうしてテメェは大人しく出来ねぇんだよォ〜〜・・・」

ビアンコ「くっ・・・」


飛んできた“何か”は、ビアンコが放った物だった。
さっき砕いたコンクリートの破片を、スタンドの指で弾いたのだ。


カルニチーノ「そんな鼻糞飛ばすような真似して、俺を倒せるとでも思ったのか?」

ビアンコ「ハァ・・・ハァ・・・
    おめぇみてーなイカれた野郎は・・・飛び道具で脳天撃ち抜くしかねぇんだよ!」

カルニチーノ「ほぉ〜、だったらやってみせろ鼻糞野郎がァッ!!」

ビアンコ「ヌアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


バババババババババババ!!


ビアンコがスタンドを用いて、無数の瓦礫をカルニチーノに飛ばす。

一方カルニチーノは、身体から出た“血”すべてが腕となり、瓦礫をすべて弾き飛ばした。


カルニチーノ「ヌルイ! 弾幕がヌルイんだよォ!
    マジメにブッ殺してぇ時はなァ〜・・・こうするんだよ!」

ビアンコ「何ィッ!!」

ロッソ「・・・!」


カルニチーノは、瓦礫を“弾き飛ばしている”のではなかった。
すべて“掴んでいた”のだ。

そしてその瓦礫は、いつの間にか色が赤くなり、形も変わっていた。

255第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:49:30 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「テメェの弾に俺の“血”をコーティングした・・・速く飛ぶ、殺傷力の強い形になるようになァ!!」

ビアンコ「・・・くそッ!」

ロッソ「ビアンコさん・・・!」

俺は立ち上がろうとしたが、体に全く力が入らない。
この絶望的な状況を、ただ見ることしか出来なかった。


カルニチーノ「これが“裁き”だ・・・くたばれビアンコ!!」

バババババババババババ!!

ビアンコ「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


無数の赤い弾丸がビアンコを襲う。
ビアンコはスタンドで防御を試みるが、弾丸は情け容赦なく彼の身体を突き破っていく。


ロッソ「あ・・・」


あっという間に、すべての弾がカルニチーノのスタンドから消えた。


ロッソ「・・・そんな・・・」

「蜂の巣」という言い方は、今の彼のためにあるようなものだった。
ビアンコは頭部への直撃こそ避けられたものの、全身をくまなく撃ち抜かれ、動かない。

カルニチーノ「フヒャハハハハハハハハハハ!! 痛快愉快な最期だったなァビアンコ!!」


ロッソ「嘘だ・・・」

そんなはずはない。
あのビアンコがこんな所で死ぬはずがない。

ロッソ「ビアンコさん・・・」

256第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:50:00 ID:9/3WFooc0
カルニチーノは振り返り、絶望する俺を見下ろした。

カルニチーノ「俺が教祖に認められて以来、初めてのミッションクリアだぜェ!
    最後にテメェの息の根を止めればなァ〜〜〜!! ヤッフ〜ウ!!」


カルニチーノが俺に“血”の触手を振りかざす。

ロッソ(・・・!)

“死”を目の前にした俺はもう、何も考えられなくなっていた。

“その声”を聞くまでは。


ビアンコ「まだだ・・・」


カルニチーノ「・・・あぁ?」

ロッソ「ビ・・・ビアンコさん!」


ビアンコは、まだ生きていたのだ。


カルニチーノ「テメェ、まだ生きてんのかよ? 馬鹿じゃねーの?」

ビアンコ「まだ・・・“一発分”残ってんだ・・・弾がな。
    そいつでテメェを仕留めてやる・・・!」

大量の血を失いながらも、ビアンコはなんとか上半身を持ち上げ、スタンドに瓦礫を握らせた。


カルニチーノ「フヒャハハハハハハハッ!! 可哀想な奴だぜ! 今更悪足掻きかよ!」

ビアンコ「いくぜ・・・『エイフェックス・ツイン』・・・」


シュバッ!


ビアンコが放った、最後の一発は・・・

ロッソ「な・・・」

・・・カルニチーノから大きく外れた所へ飛んでいった。


カルニチーノ「可哀想ォォォ〜〜〜ッ!! これじゃあ生きてた意味ねぇじゃ・・・」

257第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:50:34 ID:9/3WFooc0
ズガン!!


カルニチーノ「・・・!!」
ロッソ「・・・!」


意外。
外れたはずの瓦礫がカルニチーノの頭に命中し、打ち砕いていたのだ。

カルニチーノ「ぶぎゃあああああああああ!!」

ビアンコ「油断したな・・・糞野郎」

ビアンコは僅かながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』の“衛星”をテメェの死角に配置して壁を張った。
    その壁に弾を当てて、ピンボールみてーに跳ね返らせたんだぜ。
    壁に当たったエネルギーが反射するから、弾の速度も落ちねぇ。
    ・・・どうだ、痛ぇか?」

カルニチーノ「あああああああああああああああテメェええええええええええええええ!!」

頭部を損傷し、“血”で塞ごうとも塞ぎきれない怪我を負ったカルニチーノは、かなりのパニックに陥っていた。


俺はその様子を見ると、全身の力を込めて立ち上がった。


ロッソ「あなたは・・・これ以上この世に居てはならない。真の“裁き”を受けるべきは・・・あなたなんだ」

カルニチーノ「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお死ねええええええええええええええ!!」

シュバババババババババババ!!

258第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:50:54 ID:9/3WFooc0
ヤケになったカルニチーノは、全身の“血”によるラッシュを放ってきた。

しかし、精神を乱した状態のスタンド攻撃など、普段の足下にも及ばないものだった。


ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ

   ウラガ─────────ノ!!」


ズガアアアァァァァァァァァァァァン!!




・・・・・・



ビアンコ「ロッソ・・・やったのか?」

ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」

俺はビアンコに返事をすることなく膝をつく。

ビアンコ「おい・・・まさか・・・」


ガラガラガラ・・・

瓦礫の山が崩れて現れたのは、もはや原形を留めていないほどの怪我を負いながら、なおも生きているカルニチーノだった。

ビアンコ「何ィィ─────ッ!!」

カルニチーノ「う・・・あ・・・」

カルニチーノはゾンビのような足取りで、ゆっくりと俺達に近付いてくる。

259第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:51:50 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

ブシャアァァァァァッ!!


カルニチーノは、全身“血”の塊とも言うべき姿となっていた。

ビアンコ「嘘だろ・・・こんなのに・・・勝てねぇよ・・・!」

ビアンコは悲痛な声をあげ、今にも泣きそうだった。

ロッソ「心配要りませんよビアンコさん・・・俺の『攻撃』は、まだ続いていますから・・・」

ビアンコ「何だと・・・?」


俺はこの時、既に勝利の確信を得ていた。
だが、“それ”は決して後味の良いものではなかった。


カルニチーノ「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ズバッ! ズバッ!

ビアンコ「!」


カルニチーノは、スタンドで“自らの身体を切り落とし始めたのだ”。

ビアンコ「何が・・・起こってやがる?」


ロッソ「やれやれ・・・あなたは最期まで最悪な人間だった・・・カルニチーノ」


俺はカルニチーノに語りかけた。

ロッソ「あなたにとって初めての体験だったんでしょう。あなたが頭を砕かれた時、追い詰められたと感じたあなたに『理性』が戻ったのが分かりました。
   『自分はまだ死にたくない、死ぬのが怖い』っていう感情ゆえにね。だから俺は、あなたの感情を操作出来たんだ。
   あなたには、“最悪の死に方”で死んでもらう。『自分がこの世に受けた生を自ら断つ』という、最悪の死に方。
   そうせずにはいられない感情にさせてもらいましたよ・・・」

260第10話 二つの狂気 前編  ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:52:23 ID:9/3WFooc0
カルニチーノ「が・・・うがァ・・・」


自らの身体を切り尽くしたカルニチーノは、もう死を待つのみの状態となった。

ロッソ「そうやって死ぬことだけが、あなたに命を侮辱された人達への償いだ。
   俺に出来ることはここまでです・・・あとは地獄の神に裁いてもらってください」

カルニチーノ「・・・・・・」


しばらくして、カルニチーノが事切れたのを確認すると、俺はビアンコに歩み寄った。


ロッソ「ビアンコさん・・・歩けますか?」

ビアンコ「いや、一人じゃちょっとな・・・スタンドに担いでもらうか。ちっと情けねぇけどな」

ロッソ「・・・・・・」


俺は自分達二人が生き延びたことに対する安心と、これから先に待ち受ける新たな不安を感じていた。

・・・だがそれよりも、俺はもっと強い感情を抱いていた。

それは、初めて人を殺してしまったという「嘆き」。
なぜか分からないが、ただ悲しい。

殺しても何も悪くないような人間だったのに。理由が分からない。


そうやって悲しむ自分を、俺は心の中で、ただ一言で奮い立たせた。

ロッソ(恐れるな・・・)



応報部隊)カルニチーノ/スタンド名『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』 → 死亡。



第10話 完

261 ◆LglPwiPLEw:2010/03/31(水) 22:53:03 ID:9/3WFooc0
第10話終了。ご無沙汰しててすみません。

血を操る能力ってなんかいいよね、うん、いい。
それだけ。


使用させていただいたスタンド

No.564 『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』
考案者:ID:CjAbZtaQ0
絵:ID:Jt+Ch7js0

ありがとうございました!

262名無しのスタンド使い:2010/03/31(水) 23:11:55 ID:Xge.1iVcO
乙!
ロッソはん……

263名無しのスタンド使い:2010/03/31(水) 23:30:20 ID:YASVgxkw0
カルニチーノ「そんな鼻糞飛ばすような真似して、俺を倒せるとでも思ったのか?」

カルニチーノ「ほぉ〜、だったらやってみせろ鼻糞野郎がァッ!!」

名台詞ktkr!

264 ◆U4eKfayJzA:2010/03/31(水) 23:34:44 ID:eT8AHxg60
この殺し方は……! 最初の殺人の割に、ものすごくえげつねぇぜロッソ!
乙でした!

265 ◆WQ57cCksF6:2010/03/31(水) 23:56:01 ID:???0
かるにちーのさん死に方エグイw

266 ◆R0wKkjl1to:2010/04/01(木) 19:07:50 ID:fgTf9QcAO
無理矢理自分で死なせるなんて・・・
む、無惨。
ゴージャス・アイリンを思い出しました!あちらは催眠術ですがw

乙でした!!

267名無しのスタンド使い:2010/04/01(木) 19:50:56 ID:???0
ビアンコさんかっこいい!

268名無しのスタンド使い:2010/06/06(日) 19:13:08 ID:???0
びあんこび
あんこびあ
んこびあん
こびあんこ

269名無しのスタンド使い:2010/07/01(木) 00:46:19 ID:???0
更新再開楽しみにしてますお

270 ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:08:24 ID:X1i3QIbE0
JOJO・・・・・・地獄から舞い戻ったぜ

更新、再開します

271第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:09:38 ID:X1i3QIbE0
ポルポラ・アラゴスタの父親は、息子が生まれる直前に逝去している。
死因は不明。


父親がどんな職業に就いていたのか、どんな人物だったのかなど、息子のポルポラは知る由もない。
父親は生前の写真を一枚も残しておらず、母親ですら彼の出生についてはよく知らなかった。


その母親も、ポルポラが一歳の誕生日を迎える頃、若くして病死してしまう。

よってアラゴスタ少年は、孤児院に引き取られることとなった。


だが、充分な親の愛を受けることが出来なかった彼の“心の闇”は深いものであった。

身心共に他の子供より薄弱で、二歳になってもまともに歩けず、母親を求めて泣いていない時間のほうが短かった。

そんな彼に職員達も手を焼き、時として虐待に近い指導を加えたこともある。
他の子供達もアラゴスタに嫌悪感を抱き、近付こうとする者さえいなかった。

こうしたことから、アラゴスタが閉鎖的で孤独な人間になるという未来は誰の目にも見えていた。


・・・しかし周囲のその予想に反して、彼は思いもよらない“変化”を遂げていく。



ある時、職員がアラゴスタの様子を見に行くと、彼は一冊の“本”を熱心に読んでいた。


どうやら子供向けの「宇宙図鑑」のようだ。

272第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:10:31 ID:X1i3QIbE0
それは孤児院にあった本であったが、職員はその時、明らかな違和感を覚えていた。

今まで何に対しても興味を示さなかったアラゴスタが、なぜ熱心に本など読んでいるのだろう?

職員が近付こうとしても、彼は一心不乱に本を読み続けていた。


「ポルポラ君、ご飯だよ?」

職員は一言話しかけた。

アラゴスタはこちらを一瞥することも、返事をすることもなく本を凝視している。
彼は字を読んでいるのではなく、絵だけを眺めているらしい。

参ったな・・・と職員は思った。
いつもとは違う意味で言うことを聞かないアラゴスタに、困惑していたのである。


その時・・・急にアラゴスタが口を開き、職員に向かって話しかけた。

「ねぇ・・・“宇宙”って、どんなところ?」

「えっ・・・?」

いきなりの質問に職員は戸惑った。
何を尋ねてくるかと思えば・・・

「え〜っと、“宇宙”はね・・・お空よりももっと高い所にあって、とっても広いんだよ」

「僕も行ける?」

「う〜ん、今はまだ行けないけれど・・・ポルポラ君が大きくなったら行けるかもね」

「行けるの? ほんとに!」

アラゴスタはその時、初めてこちらを向いた。

273第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:11:39 ID:X1i3QIbE0
「・・・!」


職員が見たものは、宝石のように純粋なアラゴスタの瞳。
あまりにも綺麗だった。

未だかつて、アラゴスタがこんな表情をするのを見たことがなかった。
それどころか、これまで面倒を見てきたどの子供よりも、美しい目をしていた。


きっと彼は、ただ単に“宇宙”に興味があるんじゃあない。
“心の底から憧れているんだ”。

職員はアラゴスタに恐怖すら覚えた。
それは、彼の計り知れない感情と好奇心の爆発に対するものであろう。


この時、アラゴスタ七歳。



* *



ロッソとビアンコの姿が、完全に見えなくなった。

僕とイザベラは、二人が帰ってくるまでここで待たなければならない。

イザベラ「大丈夫かしら・・・」

イザベラが小さな声で呟いた。

アラゴスタ「あの二人なら平気だよ。心配要らないって」

僕はポジティブな返答をしたが、心の中には僅かな曇りがあった。


・・・“敵”は本気で僕達を殺しに来ている。
ヴェルデは一人でその危機を乗り越えたみたいだが、ギャングの彼ならともかく、僕達にそんなことが出来るんだろうか?

かつて僕を騙して、殺しをさせようとした組織。
考えると腹が立った。

やろうと思えば僕だって・・・

274第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:12:35 ID:X1i3QIbE0
僕はそこまで考えて、何だか自分が猟奇的になっているのに気付いた。
いや、「士気付いている」と言うのが正しいんだろうか。

どちらにせよ、僕はここ最近で性格が攻撃的になっている。


とは言っても正直な所、僕はそんなことを全く気にしていなかった。
それよりも今は、次々に迫る敵を撃退することに集中しなければならない。


時間的にはそろそろ日付が変わる頃だ。
いつもならば僕はすっかり夢の中にいる時間帯だが、今日は違う。

周りの状況も、僕自身も。


今の僕たちに出来ることは、ロッソとビアンコが無事に帰ってくることを願うのみだ。


僕は大きく深呼吸をした。

湿った夜の大気が、僕の体内に取り込まれていく。
決して美味しい空気とは言えない。

これが僕を動かす動力源になるのかと思うと、空気というものが些か頼りなさげに感じてしまう。
「空気」は地球が生命に与えた最大の恩恵なのに・・・なんだか複雑だ。


「・・・・・・」


ところで・・・

深呼吸したとき、僕の感覚は“あるもの”を感じ取っていた。

それは“匂い”だ。

“甘い匂い”・・・
夜の大気に、お菓子のような甘い匂いが微かに混じっていたのだ。

275第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:14:02 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ(何の匂いだろ?)


そういえば、さっきイザベラがシフォンケーキを持ってきていた。
きっとそれの匂いなんだろう。と僕は一人で納得した。

しかしその直後に、また疑問が浮かんできた。

何で今更になって匂ってくるんだろう?
それに、この匂いはシフォンケーキとはちょっと違う気がする。

“もっと甘いクリームのような”・・・


アラゴスタ「ねぇイザベラ、この匂いってイザベラが持ってきたケーキのやつ?」

僕は空中を指差してイザベラに質問した。

イザベラ「えっ? 匂いって何?」

アラゴスタ「さっきから感じない? お菓子みたいな匂いがするよ?」

イザベラ「そうなの? 全然感じないわ」

イザベラは鼻から息を吸って、周りの空気の香りを確かめている。

アラゴスタ「えぇ〜変だなぁ〜?」

僕は不思議に思い、イザベラの近くまで歩いていこうとした。




ボチャンッ


アラゴスタ(な・・・!!)

突然のことに心臓が止まるかと思った。


“地面が無くなった”・・・?

いや、違う。
僕が踏んだアスファルトが何故かドロドロの液状になっており、底無し沼のようなものを形成していたのだ。


ゴボゴボゴボ・・・

アラゴスタ「ムゴゴゴッ!!」

276第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:14:47 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ(息が・・・ッ!)

僕はパニックに陥り、暗闇の中でもがくことしか出来なかった。

アラゴスタ(『スターフライヤー』!)

スタンドを出してひたすら周囲を探らせるも、掴めるものは何もない。
まるで氷の張った湖のようだ。

もう息が持たない。


アラゴスタ(死ぬ・・・ッ!)


その時だった。

スタンドの指先に何かが触れた。

アラゴスタ(! これは・・・!)

迷うことなく、僕は“それ”をガッシリと掴んだ。

助かった、と思うと同時に、気分が楽になった。

僕が掴んだ“それ”は僕を引っ張り上げ・・・
僕を地上へと連れ戻したのだった。


アラゴスタ「ハァ・・・ハァ・・・ありがとうイザベラ・・・」

僕は全身にベットリと付いた泥のような物を拭いながら言った。
僕を“繭糸”で助け出してくれたイザベラは、焦った様子で尋ねてきた。

イザベラ「ポルポラ君! な・・・何が起こったの!?」

アラゴスタ「僕も分からないよ・・・ただ・・・」

僕は息を整えた後、体に付いていた泥をじっと眺めた。

それは泥と言うには水気がなく、アスファルトと同じ鼠色をしていた。

277第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:15:25 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「ただ一つ言えることは・・・」

イザベラ「な・・・何・・・?」

アラゴスタ「これ・・・“クリームだ”・・・」


イザベラ「・・・え・・・?」

アラゴスタ「地面が・・・“地面がクリームになってる”ッ!」

イザベラ「!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


信じられないことだが・・・

僕の体に付いているのは、紛れもなく鼠色の“クリーム”。
僕は“クリーム”の沼で溺れそうになったんだ。

アラゴスタ「溺れかけてたときに、これが口の中に入って・・・その時気付いたんだ。
    ほら、味を見てよ!」

僕は手のひらのクリームを差し出した。
イザベラはそれを指先ですくい、恐る恐る口に入れた。

イザベラ「ほんとだ、甘い・・・クリームだわ」

アラゴスタ「“アスファルトがクリームに”・・・こんなことが出来るのって・・・」



??「『スタンド使いしかいない』・・・でしょう?」

イザベラ「!」 アラゴスタ「!」


どこからともなく女性の声が響き、僕達は戦慄した。

??「あのまま死んじゃうのかと思ってたけど、二人とも見事なチームワークだわ。感心しちゃった」

イザベラ「て、敵・・・!?」

アラゴスタ「どこにいるんだァ─ッ!!」

278第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:16:14 ID:X1i3QIbE0
僕は思いっきり叫んだ。

駐車場の周りを囲む松林が、僕の叫び声に僅かなエコーをかけた。


??「私は・・・ここよ!」


ゴパァッ!

イザベラ「!」 アラゴスタ「!」

突然、近くの地面が盛り上がり、液体のように弾けて崩れた。

その中から現れたのは・・・

??「ブオナセーラ(こんばんは)お二人さん! 夜遅くまでご苦労様ね」

スーツ姿の若い女性であった。
一見すると、争いごとなどまるで関係ない、とても優しそうな女性だ。


だが、彼女の目から伝わってくる“凄み”は、今まで僕が体験したことのない程のものだった。

イザベラ「だ・・・誰なの!」

??「ウフフ・・・他人に名前を聞くときは、もっと丁寧に話しましょうね。
  私は『マジェンタ』。少し前まで小学校の先生をやってたわ。よろしくね!」

マジェンタと名乗った女性はニッコリと微笑んだ。

アラゴスタ「それで・・・僕達に何の用?」

僕はマジェンタを睨みながら言った。

マジェンタ「あなた達はね・・・とても悪いことをしているの。どういうことか分かる?
    “悪い人達の味方をしちゃった”・・・これは許せないことだわ。
    だから私は、あなた達にお仕置きをしに来たのよ!」

279第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:16:49 ID:X1i3QIbE0
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


アラゴスタ「それはつまり・・・“裁き”を下しに来たってことだよね?」

マジェンタ「フフフフフッ! よく知ってるわね!」

マジェンタはますます表情を明るくする。
彼女の底抜けに明るく高い声が、逆に僕達の恐怖を煽った。

マジェンタ「“裁き”は絶対に正しいって、偉い人が言ってたのよ。
    ・・・だからあなた達は、ここで私から“裁き”を受けてもらうわ・・・」

キィッ

突然、マジェンタの笑みが不敵なものに変わる。

・・・そこからほとばしる殺気は尋常ではなかった。


アラゴスタ「うっ・・・」

“この人は本当にヤバい”・・・

彼女は「部隊」の一員だ。
過去に何人もの人間を殺しているだろう。

だが彼女の場合、きっと殺しを“楽しんで”いるに違いない。
他人の死が、そのまま自分の快楽になっている。

僕は正直、彼女から逃げたかった。


イザベラ「私達は・・・」

イザベラが不意に口を開いた。

イザベラ「私達は“やらなければならない”って決めたの。
    ヴェルデさんたちは悪い人じゃあない。私達はそう信じてここまで来たのよ。
    だから私は引き下がらない。“決して逃げたりしないわ”ッ!」

アラゴスタ「・・・・・・」

280第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:17:48 ID:X1i3QIbE0
イザベラの目つきは鋭かった。


アラゴスタ(・・・・・・)

そうだ、僕達は何のためにここまで来たというんだ。

これは僕達が決めた運命。
自分が信じた道で迷うことがあってはならないのだ。


僕は戦わなければならない。

僕は恐怖心を押し殺し、迷う心を落ち着けた。


マジェンタ「ウフフフフフッ! 素晴らしいじゃない、自分の信念を貫く人ッ!
    いいわ、私がお灸を据えてあげる・・・その考えを“殺してでも”変えてあげるわ!」


ズズズズ・・・

マジェンタの殺気がオーラのように揺らめき、やがて人型のスタンドを形成していく。


イザベラ「・・・!」
アラゴスタ「それが、あなたのスタンド・・・」

・・・まったくもって奇妙な姿だった。

「ヘンゼルとグレーテル」には、お菓子でできた家が出てくる。
単純に言えば、マジェンタのスタンドはそれに近い、「お菓子でできた人間」であった。

背中から生えたパイプからは、チョコと思われる液体が止めどなく溢れている。
渦巻き模様の飴のような目、ワッフルのような格子模様など、体の隅々まで「お菓子」だらけだった。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


マジェンタ「素敵なスタンドでしょう?」

アラゴスタ「く・・・ッ!!」


ダッ!

未だ迸る彼女の殺気に一瞬怯みつつも、僕は思いっきり足を踏み出した。

281第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:18:37 ID:X1i3QIbE0
ドボッ!


アラゴスタ「!」

まただ。
僕の足が再び“クリーム”の沼に吸い込まれた。


マジェンタ「行動する前に、周りによく気を配りなさい・・・貴方達の周囲の地面は既に“クリーム”と化しているのよッ!」

マジェンタはまた不敵な笑みを浮かべながら言った。

しかし、二度も溺れかけるような僕ではない。


アラゴスタ「『スターフライヤー』────ッ!」

グン!

『スターフライヤー59』は僕の体を持ち上げ、躊躇なくマジェンタの所へとブン投げた。

マジェンタ「あら・・・」

アラゴスタ「コノォォォォォォ───────ッ!!」


ブン!
バキィッ!

勢いよくマジェンタに放った拳は、あと少しの所で彼女のスタンドに弾き返されてしまった。


グオォン!

アラゴスタ「うわッ!」

僕は反動で大きく後ろに吹っ飛ばされ、元居た場所の近くに落下した。


ドサッ

イザベラ「ポルポラ君!」

282第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:19:13 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「うっ・・・大丈夫・・・」

僕はすぐに立ち上がった。

しかし、イザベラは相変わらず怯えたような表情で叫んだ。

イザベラ「大丈夫じゃないわ! ポルポラ君、その“腕”ッ!」

アラゴスタ「えっ・・・
    〜〜〜〜〜〜!?」


イザベラが指差した僕の右腕は、“明らかに僕の腕ではなくなっていた”・・・

形はギザギザした柱のように変形しており、その表面は木の幹のようにゴツゴツし、砂糖のような透明の粉にビッシリと覆われている。
少なくとも人間の肉体とは思えなかった。

腕は普段と同じように動かすことができたが、感覚はなくなっていた。


アラゴスタ「な・・・何だこれェッ!?」

僕が思わず声を上げたとき・・・


マジェンタ「『チュロス』よ!」

アラゴスタ・イザベラ「!?」

マジェンタの突然の一言に、僕達は息を飲んだ。


マジェンタ「二人とも知ってるわよね。スペインのお菓子よ」


アラゴスタ「!???」
イザベラ「ど・・・ど・・・」

僕達は、マジェンタの言っていることが全く理解できていなかった。

イザベラ「どういう・・・こと・・・?」

イザベラは蚊の鳴くような声で、ようやく質問を口にした。

283第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:19:52 ID:X1i3QIbE0
マジェンタ「これが私のスタンド能力なの。
    “触れたものをお菓子に変える”能力・・・素敵でしょ?」


イザベラ「・・・お・・・」

アラゴスタ「お菓子・・・?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


彼女に説明された後も、僕は状況が飲み込めないでいた。

“触れたものをお菓子に変える”?
いくらスタンドとはいえ、そんな夢か童話のようなことができるのだろうか?


でも、アスファルトの地面が確かに“クリーム”になっていたこと・・・
そして僕の腕に今起こっている異常を考えると、それは本当であるとしか言えないのだろう。


どちらにせよ・・・

マジェンタが極めて危険なスタンド使いであることは間違いない。
そして僕(とスターフライヤー)の片腕がこんな風になってしまった以上、僕らは極めて不利な立場に立たされてしまっている。

つまり、今の僕達は「かなりまずい状況にある」・・・


アラゴスタ「・・・・・・」

恐怖が再び押し寄せてきた。

マジェンタを見つめる僕の視線が、少しだけ揺らいだ。


マジェンタ「まぁ、すぐには信じられないわよねぇ・・・自分の体がお菓子になるなんて。
    当然だけど、普通に食べられるのよ。どう? 自分で味わってみたら?」

284第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:20:29 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「イザベラ・・・」

イザベラ「へっ!?」

アラゴスタ「“足場”・・・作れるよね? 糸で」

イザベラ「わ・・・分かったわッ!」


シュルルルルルルルル・・・

イザベラは『シルキー・スムース』を発現させると、地面に向かって勢いよく繭糸を吐かせた。
糸の先端は生き物のような凄い速さでくねりながら、沼の上に網のような足場を作り出していく。

マジェンタ「へぇ、そんなことも出来るのねぇ・・・」

アラゴスタ「いくぞッ!」

僕は作られた網の上を駆け抜け、一気にマジェンタに近づいた。

アラゴスタ「腕が駄目でも・・・“脚がある”ッ!!」

バッ!


『スターフライヤー59』が強烈な廻し蹴りを放った。

マジェンタ「『フリーキー・スタイリー』!!」


ズドン!

マジェンタのスタンドはすかさず脚でキックを防ぐ。


ビシッ!

マジェンタ「ぐ・・・」

さすがのスタンドでもキックの衝撃を防ぎきることはできず、マジェンタは苦痛の表情を表した。

しかし・・・


マジェンタ「フフ・・・フ」


ドボッ

アラゴスタ「!」

マジェンタはキックを受けてよろめいた体勢のまま、自らクリームの沼へ落ちていった。

アラゴスタ「やっぱり・・・沼の中を自由に移動できるのかッ!」

285第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:21:30 ID:X1i3QIbE0
僕は周囲を見回した。
だが辺りは静寂しており、地面の中を人間が移動している様子は感じられなかった。

アラゴスタ「・・・まずい・・・!」

このままでは、いつマジェンタの奇襲を食らってもおかしくない。
さらにはイザベラの身も危険だ。

僕はすぐに足場の上を走って、イザベラの所に戻ろうとした・・・


ドバァ!!

アラゴスタ「・・・!」

マジェンタ「ウシャアァァァァァァッ!!」


イザベラ「ポルポラ君ッ!」


突然、マジェンタは僕のすぐ横から飛び出してきた。

ドボォン!

それは一瞬のことで、こちらから攻撃する暇など無いに等しかった。

アラゴスタ「・・・うっ」

気付くのが遅かった。
シャチのように沼から飛び出し、戻っていったマジェンタがくわえていった物は・・・

お菓子になった“僕の右手だった”。


アラゴスタ「・・・う」

一瞬、僕は小刻みに震えた。

お菓子になった手には既に感覚がなく、腕を食いちぎられる痛みは感じなかった。
しかし、僕がそれ以上に恐れを抱いたのは、“水面から飛び出すマジェンタそのもの”。
動物のようなその動作といい、あまりにも人間離れしていた。


イザベラ「早く戻ってきてェッ!!」

アラゴスタ「・・・ハッ!」

286第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:22:07 ID:X1i3QIbE0
イザベラの一言で我に返った僕は、真っ直ぐイザベラに駆け寄った。


イザベラ「すぐ腕に“繭”を作ってあげるわ!」

アラゴスタ「ハァ・・・ハァ・・・」

僕は呼吸が荒くなっており、イザベラの傍に寄らずにはいられなかった。

イザベラ「ポルポラ君・・・大丈夫?」

アラゴスタ「あ、あの人・・・本当にヤバイよ! 今まで出会ったことがないッ!
    何もかも桁外れだッ!」

イザベラ「ポルポラ君、落ち着いて! きっと彼女に勝つ方法はあるわ!」

アラゴスタ「ダメだよ・・・ロッソもビアンコも戻ってこない・・・きっと向こうでも何かあったんだッ!
    二人が殺られちゃってたら・・・僕達も終わりだよ!!」


僕はどうしようもなく混乱していた。
自分がベソをかいているのも分からないほどに・・・


イザベラ「ポルポラ君ッ!!!!」


アラゴスタ「っ・・・!」

イザベラがこんな大声を出したのは初めてだった。
イザベラ自身も滅多に怒鳴ったことがないのか、声は極端に裏返っていた。


イザベラ「弱気になっちゃ駄目じゃない!! 私達はミラノまで行って、無事に帰らなくちゃあならないのよ!!
    “私達は死んじゃいけないの”ッ!!」

287第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:22:34 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「うっ・・・う・・・」


僕は困惑していた。

イザベラに対して申し訳ないと思う気持ちもあった。
でもその一方で、僕は“さっきと違う形で勇気づけられていた”のだ。

アラゴスタ「ごめん・・・イザベラ・・・」

僕は涙をボロボロ流していた。
それは「弱気な」涙ではなかった。


ズブッ・・・

イザベラ「あっ・・・!」

急に足元がグラついたかと思うと、直後に足は地面に飲み込まれていた。


ズズズズズ・・・

マジェンタ「イザベラさん、本当に素晴らしい精神の持ち主ね。
    とっても良い子・・・“食べちゃいたいくらいに”・・・」

マジェンタは沼の中から姿を現すと、口の周りをペロリと嘗めた。

アラゴスタ「まずい・・・飲み込まれるッ!」

地面が完全な“クリームの沼”となり、もうどこにも足場は存在しない。


しかし、イザベラは冷静に僕へ語りかけた。

イザベラ「諦めちゃ駄目・・・必ず“道”はあるわ!」

シュルン! シュルルルルルル!

『シルキー・スムース』が吐いた糸は僕達二人に巻き付くと、近くの松の木まで一直線に伸びていく。
やがてグン! と引っ張られる感覚と共に、僕達はその松へと移動していった。

288第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:23:23 ID:X1i3QIbE0
マジェンタ「無駄よ・・・何をしても、私からは逃げられないわ・・・」


ドプンッ

マジェンタがまた沼へと潜った。

アラゴスタ「イザベラ! 来るよッ! 次は直接襲ってくるッ!」

イザベラ「大丈夫よポルポラ君・・・彼女が真っ直ぐここまで来るのなら・・・確実に・・・」


ドバァッ!

マジェンタ「な・・・なにいィィィィ〜〜〜〜〜〜!?」

イザベラ「“捕れる”ッ!!」

アラゴスタ「!」

沼から姿を現したマジェンタは・・・
“網によって捕らえられていた”のだ。


イザベラ「さっき足場を作ったとき、沼の中に一緒に作ってたのよ。いつか掛かってくれることを願って・・・
    ちょうど漁師が使う『定置網』みたいにね」

マジェンタ「ふざくェやがってェェェェ〜〜〜!!」

スタンドの手足までガッチリと拘束されたマジェンタは、網を「お菓子」に変えることもできず、必死にもがいていた。


マジェンタ「テメェらただじゃおかねェェ〜〜〜〜〜〜!! 『あいつら』みてぇに全身『お菓子』にして食ってやるゥ〜〜〜!!」


アラゴスタ「・・・『あいつら』?」

マジェンタ「私の『教え子』達だよォォォ〜〜〜! 大好きな子供達を『お菓子』にして食ってやったんだ! 一人も残さずなァァァ!!
    だから私は教師を辞めて“部隊”に入ったんだ! ギャハハハハハハハハハハハハ!!」

289第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:24:00 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「ひ・・・ひどい・・・」


僕の予感は的中した。
いや、彼女は僕の予想を遥かに超えた極悪人と言っていい。

彼女は自分の“嗜好”のために、何の罪もなかったであろう子供達を殺した・・・
人間のすることじゃない。


イザベラ「マジェンタさん・・・」

正気を喪失しているマジェンタに対し、イザベラは異様に落ち着いた様子で語りかけた。


イザベラ「私はお菓子を作る立場の人間だから分かるの・・・
    お菓子はみんなの幸せのためにあるのよ。そのために不幸になる人がいてはいけないの。
    だから私はあなたが許せないわ。裁かれるのは・・・あなたの方よ!」

マジェンタ「ッハハハハハハハ!! 本当にあなたはいい子! あなたはいい子よオォォ〜〜〜!!
    だから私が食うッ! 苦しませずに食い殺してやるウゥゥゥ〜〜〜!!」


イザベラ「『シルキー・スムース』!」

イザベラの掛け声と共に沼の上に現れたのは、マジェンタまで真っ直ぐ伸びる網の“道”であった。
恐らく、彼女を捕らえた網とセットで作っていたのだろう。

イザベラ「ポルポラ君、今よッ!」

僕に結ばれていた糸がほどける。

アラゴスタ「・・・うん!」

僕はさっきと同じように、マジェンタに突進した。

290第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:24:30 ID:X1i3QIbE0
そしてそのまま、『スターフライヤー59』の“宇宙”を込めた、とどめのストレートを・・・

アラゴスタ「コノ・・・!」

マジェンタ「WWWRYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


ズドンッ!


アラゴスタ「えっ・・・?」


・・・気付いたときには、なぜか僕は“空中に放り出されていた”。


アラゴスタ(なんで・・・)

“やられた”・・・?
馬鹿な。確かにマジェンタは手足を締められて動けなかったはずなのに・・・


マジェンタ「アハハハハハハハ!! 残念だったねェェ〜〜〜!
    私の身体をグニャグニャの“グミ”に変えて、既に抜け出してたのよォォォ〜〜〜!!」


アラゴスタ(そんな・・・)

イザベラ「ポルポラく─────ん!!!!」


ビシ・・・ビシ・・・

胸の辺りを殴られ、上半身が悉く“お菓子”に変わっていく。

アラゴスタ(僕はこのまま・・・食べられて・・・)


死ぬ?


冗談じゃない。それじゃあさっきイザベラの喝が、全くの無駄になるじゃないか。


アラゴスタ(“道”は・・・必ず・・・)


ドボォーーーン!


僕はそのまま、沼の中に沈んでいった。


イザベラ「ポルポラ・・・君・・・」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・

291第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:25:14 ID:X1i3QIbE0
マジェンタ「ハハハハ! ゥアハハハハハッ!!
    貴方達の頑張りは認めるわ! でも、それは初めから“無駄なこと”ッ!
    みんな私からの『裁き』を受ける運命にあるのよォォ〜〜〜〜〜〜!!」

イザベラ「う・・・うそ・・・」

マジェンタ「さ〜〜〜てと・・・あの子を頂きにいこうかしら!
    それとも、溺れ死ぬのを待って、その間に貴女もお菓子に・・・」


イザベラ「・・・あれ?」

マジェンタ「!? これはッ!」


ズズズズズズ・・・


イザベラ「沼の水位が・・・下がっていく・・・!」


マジェンタ「何よこれはァァァ〜〜〜ッ!!」

イザベラ「ポルポラ君・・・“生きてるのね”!」

マジェンタ「・・・んだとォォォォォ〜〜〜!?」


ズズズズズズ・・・
ズゴォォォォォォォォォ!!


轟音をたてながら、みるみるうちにクリームがなくなっていく。

やがて駐車場には、まるで隕石が落ちたような巨大な穴がポッカリと空いた。


アラゴスタ「・・・ぶっ! ハァ・・・ハァ・・・」

何とか沼から脱出した僕は、体のクリームを振り落として立ち上がった。
胴が「お菓子化」して柔らかくなっていたが、体の器官に異常はないようだ。


マジェンタ「テメェ、何しやがったァァ〜〜〜!!」

292第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:26:26 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「ほとんど駄目元だったよ・・・『ブラックホール』でクリームを吸い出したんだ」


イザベラ「ブ・・・」

マジェンタ「『ブラックホール』だとォォォ〜〜〜!?」

僕の側には、漆黒の“宇宙”空間が広がっていた。
その中には、宇宙の漆黒よりさらに黒い、不可視の『穴』が存在しているのだ。


マジェンタ「ナメた真似しやがっ・・・ヌウッ!?」

ブシッ!

不意の異常にマジェンタが驚く。
マジェンタの右手は裂傷ができ、その形が歪んでいた。


アラゴスタ「“宇宙”空間に手を入れたなッ!」

マジェンタ「・・・!」

僕がさっき殴られたとき、放ちかけのパンチの軌道に沿ってできた“宇宙”だった。

思わぬ幸運だ。


アラゴスタ「これでお互い腕一本・・・『スターフライヤー』なら勝てるぞッ!」


マジェンタ「・・・ハ・・・アハハ・・・
    アハハハハハハハッ! アハハハハハ八八八八ノヽノヽノヽ!!
    AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

突然、マジェンタは狂った笑い声をあげた。


イザベラ・アラゴスタ「!?」

マジェンタ「私を追い詰めた気でいるようだが違うなァァァ〜〜〜!
    二人とも、一つ“忘れ物”があることに気がつかないかしらァァァ〜〜〜? “これよ”!」


アラゴスタ「あっ!」

イザベラ「ヴェルデさんッ!!」

293第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:27:16 ID:X1i3QIbE0
まだクリームの残る沼の底からマジェンタが取り出したものは・・・

包んでいた“繭”をひん剥かれ、全身を砂糖菓子にされたヴェルデだったのだ。


マジェンタ「貴方達の目を盗んで失敬してたの・・・
    “最後の楽しみ”にしてたんだけど・・・この際だから今頂いちゃうわァ〜〜〜〜〜!!」


イザベラ「ま・・・待ってェッ!!」

マジェンタ「うっせえ今更口出しすんじゃねぇ糞餓鬼ィィ!! 私が食うと言ったら食うんだァァァ〜〜〜〜〜!!」

彼女はそのまま大きく口を開け、ヴェルデの頭に・・・



ドグシャアァァァ!!



アラゴスタ「・・・・・・」

マジェンタ「か・・・」


マジェンタの顔は、車に轢かれたケーキのように潰されていた。

イザベラ「!?」


アラゴスタ「わかった・・・スタンド能力は『できて当たり前』って思うことが大切なんだ」


紛れもなく、マジェンタは『スターフライヤー59』の拳に殴られていたのだ。
僕とは20m近く距離が離れているにも関わらず、である。

『スターフライヤー』の腕は、マジェンタの近くにある“宇宙”から、突拍子もなく伸びていた。


イザベラ「ポルポラ君・・・これは一体・・・?」

アラゴスタ「『ワームホール』だよ」

イザベラ「・・・?」

294第11話 二つの狂気 後編  ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:27:55 ID:X1i3QIbE0
アラゴスタ「“宇宙”の中で『ワームホール』を押し広げて、スタンドの腕をくぐらせたんだ。
    『ワームホール』はあの“宇宙”と繋がってるから、腕はそこから飛び出してくる・・・
    つまりは腕を『ワープ』させたんだよ」

イザベラ「・・・すごい・・・」


マジェンタ「・・・あ゛・・・」

マジェンタはまだ生きているようだが、ピクリとも動かなかった。

アラゴスタ「マジェンタ・・・悪いけどあなたは生かしておけない・・・
    あなたの言ったことが本当なら・・・殺された子達のためにも、“裁き”を受けるべきなんだッ!」


ガシッ

『スターフライヤー』の腕がマジェンタを鷲掴みにする。
そのまま腕は、彼女を“宇宙”に引き込んだ。


ズゥッ!!

マジェンタ「あ゛ぁ゛!! ・・・・・・・」




マジェンタの断末魔は一瞬だった。

アラゴスタ「“裁き”を行うのは僕じゃあない・・・“宇宙”だ・・・」


そう言ったとき、僕は既に意識を失いかけていて、後のことは全く記憶していない。





僕が目覚めたのは、それから20分くらい後だった。
腕はすっかり治っていたし、ロッソもビアンコも生きていた。


もちろん、夜はまだ明けていなかった。




応報部隊)マジェンタ/スタンド名『フリーキー・スタイリー』 → 死亡。


第11話 完

295 ◆LglPwiPLEw:2010/07/14(水) 21:28:40 ID:X1i3QIbE0
第11話終了でし。

長い間お待たせして本当にすみませんでした。
いろいろ忙しくてさっぱり執筆が進みませんでした。 お許しください。

こんな私ですがこれからもポツポツ書いていきますのでどうかよろしくお願いします。


使用スタンド

No.1685 『フリーキー・スタイリー』
考案者:ID:Hc6sUsDO
絵:ID:2/dlvIAO


ありがとうございました!



・・・どうでもいいけど、イザベラだけがアラゴスタを名前で呼ぶのはやっぱおかしいよなー・・・

296 ◆U4eKfayJzA:2010/07/14(水) 22:18:48 ID:???0
うおおっ! こっちも再開しとる!
アラゴスタが、思ってた以上にチートだ……。何気に、柘榴石チームって相当凶悪な面々だよね。
乙でした!

297名無しのスタンド使い:2010/07/15(木) 01:33:59 ID:jDQH8E520
久々の更新乙!
アラゴスタの成長っぷりすげぇwww
次はチェスの男たちが登場するのかな

298見て^^:2010/07/15(木) 19:56:29 ID:9exKUIyQ0
一見、普通の女の子の日記ですが、
ある事をした後に更新しています。
かなり中毒性が高いので注意が必要かもしれないです。

ttp://stay23meet.web.fc2.com/has/

299 ◆R0wKkjl1to:2010/07/17(土) 01:36:01 ID:IwSrWuf2O
乙ですッ!!
アラゴスタ強い・・・
彼ならカーズ様にも勝てる・・!!

300 ◆LglPwiPLEw:2010/10/11(月) 17:57:22 ID:???O
あと半月で一周年……
これも一重に皆様の応援と、俺の怠け具合のお陰です

ちゃんと12話は書いてます。近日中に完成させますのでどうかご勘弁を……

301第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:00:26 ID:???0
青年が再び口を開いたのは、それから30分ほど経過した頃だった。


「・・・なんか聴きたい」

「ん? あぁ〜、わかった」

金髪(ブロンド)の男はおもむろに立ち上がると、壁際にあるオーディオラックに歩み寄った。

そこには、長く使い込まれていながら、未だ新品のような真新しさを保ったレコードプレイヤーが鎮座している。

彼らはアナログ音源の柔らかい音を気に入っていた。
それは“こだわり”というより、あくまでも“好み”の問題であるといえた。


「何聴く?」

「なんでもいい」

「あいよ」


金髪の男はライブラリから一枚のレコードを選んだ。
紙製のパッケージからビニールに包まれたDISCを取り出し、さらに丁寧にそれをプレイヤーにセットした。

電源を入れ、皿を回し、針を落とす。



・・・聞こえてきたのは、深淵の谷底に響くような、重々しい弦楽器のアンサンブルだった。


「・・・チャイコフスキーの『悲愴』・・・
 演奏は・・・ん〜〜ぁ〜〜・・・ムラヴィンスキーとレニングラードフィル?」

「あったり〜。おまえ浪漫派すきだったっけ?」


男は椅子に戻り、もう一度深く腰掛けた。

一方で青年は、無我の境地に居るかのように空間を眺めながら、じっと曲に聞き入っていた。

302第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:01:40 ID:???0
チャイコフスキー作曲、交響曲第六番『悲愴』・・・

なんともミステリアスな曲だ。


交響曲には一種の形式があって、4つの楽章のうち、最後はアップテンポなのが普通である。
つまり、最後は快活・盛大に、大団円的クライマックスを迎えるわけだ。


ところがこの曲は、そのクライマックスが3楽章目に出てきてしまう。

そして最終楽章はといえば・・・
その表題が示す通り、あまりにも救われない、陰鬱極まりない最後で締めくくられるのだ。

その響きは悲劇の終幕を飾るかのようであり、運命への諦めを誇示しているともいわれる。


このように謎めいた作品であるが、チャイコフスキーはこれを「最高傑作」と自負していたそうだ。

しかし、彼はこの曲を初演した9日後、“謎の急死”を遂げたのである・・・




「・・・ねぇブルーノ」

青年が唐突に男に話しかけた。

「ん?」

「チャイコフスキーってさ、ロリコンだったんだよね」

「そりゃあブルックナーだろ」

「そうだっけ・・・ そうだっけー・・・」


青年はそう言うと、また電池が切れたように動かなくなった。

ブルーノと呼ばれた男は指先のささくれを剥きながら、漆黒のシンフォニーに耳を傾けていた。

303第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:02:27 ID:???0
* *


俺達を乗せた車は、再び太陽道路を走行していた。


色んなことが起こった・・・

あまりに急激すぎて、“色んな”という表現で纏めることしかできない。

まず、ヴェルデが襲われた。
その治療のために停まった駐車場には、既に敵が待ち伏せていて・・・

そいつは思い出したくもないゲス野郎だった。


奴に辛勝した俺とビアンコが車に戻ると、そこは駐車場の原型を留めていなかった。
イザベラとアラゴスタも、敵の攻撃を受けていたらしい。

俺達は、敵の罠にまんまとはめられたというわけだ。

今は怪我も完治し、車は“何事も無かったように”ミラノへ向かっている。



車内は静かだった。

寝ている者は誰一人としていない。
みんな、黙っていた。

疲れているとか、先程の戦いがトラウマになったとかいった理由ではきっとない。
「次の戦い」に備えるためだ。

俺達は敵の攻撃を掻い潜っていくうちに、少しづつ士気が高められている。
「経験値を得た」とでも言おうか・・・


何としてでも、俺達は生きてネアポリスに帰らなければならない。
そういった信念が、暗黙のうちにみんなを包みこんでいたのだ。

304第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:03:29 ID:???0
ミラノまで、あとどのくらいだろうか。
このままずっと永遠に走り続けなければならないような気がする。

まるで弱音を吐いているようだが、決してそうではない。
具体的にどういうことだと聞かれれば、俺には答えられない。

ただ一つ言えるのは、「結果」への道程が果てしなく長く感じられるということだけだ。


ビアンコ「なぁヴェルデ・・・あとどれくらいでミラノに着くんだ?」

ビアンコも同じことを考えていたのだろうか、彼らしくない重い口調で、ヴェルデに質問した。
尋ねられたヴェルデは2〜3秒の間を挟んで、ビアンコよりは僅かに軽く聞こえる口調で返答した。

ヴェルデ「“順調だ”。予定通り、4時ころには到着するだろう」


“順調”とは、俺達の運命に対する皮肉だろうか。既に三人の刺客に襲われ、予定は大きく狂っているはずなのに。

だが現在地から推測すると、確かに予定時刻に到着できなくもない時間である。

というのも、今この車は法定速度を3倍ほどオーバーして走行しているのだ。
もしこの車に飛行機の翼があったら、余裕で離陸できそうなほどのスピードで疾走していた。

正直な話、俺は初めこのスピードにビビっていたが、時間が経つとすっかり慣れてしまった。
これが本当の「慣性」・・・などというつまらない洒落はやめておこう。

いずれにせよ、ヴェルデの運転は信用できる。


俺は運転席の後ろで、火の球のように流れていく外灯の光を眺めていた。

ジョルノ・ジョバァーナは今、何をしているのだろう。
どんなルートでミラノへ向かっているのかなど、俺には知る由もない。

もしかしたら彼も、敵の奇襲を受けているのでは?

しかし俺は、彼を心配してはいない。
“心配する必要がないからだ”。

あの人なら大丈夫だろう・・・
そんな安心感が俺にはあった。


『僕のことを案ずるのはもはや愚行であり、無駄な心労に他ならない。
 それよりも、まずは自分達のことを優先すべきだ』

・・・俺はジョルノにそう言われているような気がした。


それから何分経っただろうか、無意識のうちに瞼が下がりかけていた俺は、“何か”を感じてふと我に返った。

この車の横、俺の目の前を、“何か”が通り過ぎた気がしたのだ。


ロッソ「・・・!! ヴェルデさん・・・」

ヴェルデ「なんだ?」

305第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:04:26 ID:???0
ロッソ「速度を落としたほうが賢明かと・・・
   “何か”が・・・いや、『スタンド』が・・・!」


グオオォォォォォォォォォォォォォォ!!
ギギイイイイィィィィィ!!

「!!!!」


何一つ思考する余裕はなかった。
突如として車がスピンし、俺達は凄まじい重力加速度に押さえつけられた。

アラゴスタ「うわあぁぁぁぁぁぁッ!!」


ロッソ「『ガーネット・クロウ』───ッ!!」

ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』ッ!!」

ギガアァァァァァァァ!!

ガッッッッッックン!!


・・・止まった。

俺とビアンコのスタンドで、回転する車の前と後ろを押さえたのだ。
どうやら、ガードレールに激突する寸前だったようだ。


ビアンコ「何事だよオイ!」

ロッソ「間違いない、敵のスタンドが近くにいるッ!
   今、道路をこの車と並走していたのが見えたんです!」

ビアンコ「どこだよ・・・」

ビアンコはドアを開けようとした。


イザベラ「ま、待って!」

アラゴスタ「無闇に出たら危ないよ! 敵が待ち構えているかも!」


二人はそう説得したが、俺はその意見に同意できなかった。

306第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:05:08 ID:???0
ロッソ「いや、“この場所は危険だ”・・・」

アラゴスタ「えっ・・・?」

ロッソ「『殺気』が迫ってくるッ・・・! しかも、かなりのスピードで!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ビアンコ「どういうことだ・・・?」

イザベラ「・・・!」

ロッソ「まずい! ここはまずいッ!!」

ヴェルデ「お前らッ! 外へ逃げろォォ!!」


バン!

ヴェルデの一声に押され、俺達は一斉に外へ飛び出した。

ロッソ「イザベラッ!!」

真ん中に座っていたイザベラは、必然的に逃げ遅れる形になる。
俺はスタンドでイザベラの体を掴み、車外に引っ張り出した。



DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!



どこからともなくエンジン音が迫る。
その姿は見えない。
だが、“それ”は既に目前にあった。


バグアァァッシャアアァァァァ!!

「!!」


突然、俺達が乗っていた車が独りでに吹き飛んだ。
いや、恐らく“吹き飛ばされた”。

車は強風の日の紙切れのように飛んでいき、ガードレールの外に落下した。



DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・



ヴェルデ「助かった・・・のか?」

アラゴスタ「少なくとも“今は”ね・・・」

ビアンコ「おい! 何だったんだよ今のは!」

307第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:06:16 ID:???0
ロッソ「とにかく、一ヶ所に固まらない方がいいッ! また来る可能性が高い!」

イザベラは少し腰が抜けてしまったようで、俺の肩を借りてやっと立ち上がれる状態だった。


ビアンコ「これからどうしろってんだよ!」

ロッソ「今は敵の正体を探ることしかできません・・・でもきっと反撃のチャンスがあるッ!」

真夜中とはいえ、高速道路の上に立っているだけでも自殺行為なのに、敵からの攻撃まで受けている。
はっきり言って、いま俺達はかなり危機的な状況だ。


ロッソ「俺が見た限りでは、最初なにか“小さなもの”が車の横を通り過ぎた・・・それから、車がスピンしたんだ」

アラゴスタ「じゃあ、後から車が吹き飛んだのは?」

ロッソ「考えられるのは・・・」

イザベラ「“敵は二人”・・・」


そう。
今までの『応報部隊』の人間たちのように、今度の敵もペアを組んで襲ってきている可能性が高い。


ヴェルデ「車が来るぞッ!」

ロッソ「・・・!」

俺達が来た方角から、ヘッドライトの明かりが見える。
一般の車だ。

ロッソ「イザベラ、行こう!」

イザベラ「うん!」

轢かれないよう、俺達は路肩へと走り出した。


ズルッ!


ロッソ「!」 イザベラ「!!」

308第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:08:14 ID:???0
俺達二人は、いきなり地面に足を取られた。

凍ったアスファルト・・・いや、その上にさらにオイルをぶち撒けたような滑りようだった。


ロッソ「なにィィッ!?」

ドシャッ!

バランスを崩し、俺達は転倒してしまった。


ビアンコ「おいッ!!」

アラゴスタ「危ないッ!!」

車が迫ってくる。
夜闇のせいで、ドライバーは俺達に気付いていないみたいだ。


イザベラ「キャアァァァァァァァッ!!」

ロッソ「イザベラッ! “繭糸”を出してッ!!」

イザベラ「!」

『シルキー・スムース』が糸を一本吐く。
俺はそれを手に取ると・・・

ロッソ「アラゴスタァッ!!」

ドバアァ!

安全な場所にいるアラゴスタに向かい、『ガーネット・クロウ』でイザベラを放り投げた。

ロッソ「“糸”を巻き取れェッ!!」

シュルルルルル!

“糸”に引っ張られて、俺の身体が宙を舞った。


アラゴスタ「うぉッと!」

ガシッ

『スターフライヤー59』がイザベラを受け止めてくれた。
それに続いて、俺もアラゴスタの近くに着地した。

ロッソ「よかった、助かっ・・・」


ギイィィィィィィィ━━━━━━!!

耳をつん裂くブレーキ音が背後で炸裂する。
俺は後ろを振り向いた。


「何ィッ!?」

俺達全員、呆然とした。

やってきた自動車は独楽のように回転し、路上を暴れ回っている。
そして中央分離帯に乗り上げ・・・


グオォォオッ!

自動車はひらりと宙を舞った。

そしてそのまま、


グウゥゥゥ・・・
ドガッシャアァァァァ!!


道路の外に落ちていった。

309 ◆LglPwiPLEw:2010/12/09(木) 21:13:26 ID:???0
中途半端ですが、今日はここまでです・・・
早いうちに全て完成させるよう努めます。

ちなみにブルーノという名前は、某風紀委員長とは一切関係ありません。
イタリア語でブラウン(茶色)の意味。彼は割と重要なポジションです。

310名無しのスタンド使い:2010/12/10(金) 23:56:03 ID:???0
更新乙でした
それにしても敵スタンドが謎すぎる・・・

311第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:50:31 ID:R2ZsZnJM0
「・・・!」

全員が唖然とする。


───俺達と同じだ。
俺達の車と同じようにスピンした。

しかし、あの車には止められるものがなかった。
だから・・・落ちた。


ゾッとした。
敵の正体がまったく分からない。

『二人いる』とは言ったが、それはあくまでも「仮定」であり、「確定」ではない。
もしかしたら三人かもしれないし、あるいは一人かもしれない。


あの姿なきエンジン音・・・
俺達の車を一瞬でスクラップにした。

奇怪だ。
あんなのに激突されたら・・・


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・!

「!」


ロッソ「きたッ!」

ヴェルデ「お前ら散らばれェッ!」


ヴェルデが叫んだ。

しかしビアンコは一人動かず、音がやって来る方向を見据えながら言った。

ビアンコ「待て・・・俺が止める。『エイフェックス・ツイン』の壁でブッ潰すッ!」

ギュイン!

『エイフェックス・ツイン』の二つの衛星が、車道と垂直に、互いに離れて浮かんだ。

ビアンコ「来やがれクソ野郎ッ!」


ビアンコの“壁”なら・・・
これは・・・いけるか!

俺達はその様子を緊張しながら見守った。



ドギャァッ!

ビアンコ「ヌオォォォォ━━━━ッ!!」


「!?」

312第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:50:54 ID:R2ZsZnJM0
突然ビアンコが大声をあげた。
───苦しんでいる。

イザベラ「ビアンコさん!」

アラゴスタ「え・・・“衛星”が・・・ッ!」


見ると、片方の衛星がバラバラになっていた。
無惨にも部品が飛び散ったまま、空中に浮かび漂っていたのだ。


アラゴスタ「まずいッ! “衛星”が壊れたら壁が張れなくなるッ!」

ロッソ「ビアンコさあぁぁぁぁん!!」

ビアンコは脚をやられていた。
『エイフェックス・ツイン』には下半身が無い代わり、二つの衛星が両足にあたる部分になっているからだ。


そして・・・迫り来る“殺気”は、間違いなくビアンコに向かってきていた。


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!


ヴェルデ「『ウェポンズ・ベッド』! 」

ズウゥゥッ!

ヴェルデがスタンドを解き放つ。

ヴェルデ「『伝説のカウボーイ、マウンテン・ティムの投げ縄』ッ!」

『ウェポンズ・ベッド』は大きく振りかぶり、ビアンコに向かって縄を投げた。


ヒュルルルルルルルル
ガシッ!

縄は正確にビアンコを捕らえ、目にも留まらぬ速さでヴェルデの所へ引き込んだ。

ギュウゥゥ─ン!



DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・


轟音が通りすぎていく。

ロッソ「よ・・・よかった」

313第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:51:21 ID:R2ZsZnJM0
ビアンコ「よかったじゃあねぇッ! 近くに“もう一匹”いるッ!」

ヴェルデ「なにッ!?」

ロッソ・アラゴスタ・イザベラ「 ! ? 」


シュシュシュシュシュシュシュ
グオォォ!

ドガアァ!!


アラゴスタ「ぐあぁぁぁぁ━━━ッ!!」

!!


迂闊だった。
“ビアンコの衛星を破壊した存在”が近くにいるということに、今の今まで気付かなかった。

背後から音がしたかと思うと、アラゴスタが背中から攻撃を受けて大きく吹き飛ばされていた。

ヴェルデ「アラゴスタッ!」


ギュルルルルル!

ロッソ「・・・コイツがッ!」

───その見た目は自動車の「タイヤ」のようなスタンドだった。
「タイヤ」は独りでに高速回転し、悠々と道路上を走行していた。

グルルルッ!!


イザベラ「・・・こっちに向かって・・・!」

ロッソ「危ないッ!」


バッ!

反射的に俺はイザベラに突進する。

ギュンッ!


スタンドは俺の背中を掠めて飛んでいった。


ドン

タイヤのようなスタンドは着地と同時に、バッと広がるように形状を変えた。
その姿は、巨大な団子虫のようだった。

??「シブテェ野郎ドモダナァ〜ッ、チョコチョコ逃ゲヤガッテヨ〜!」

314第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:52:15 ID:R2ZsZnJM0
スタンドが喋りだした。
男でも女でもないような声だった。


ロッソ「お前はッ・・・!」

??「ココハヤッパ・・・“同時ニ”イクノガ手堅イ方法カナァ!
  ホラ、イクゼブラザー!」


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・

ヴェルデ「来るぞッ!」


「! !」


ロッソ(くそッ・・・いつまでも逃げているわけには・・・!)

本体は・・・
本体はどこにいるんだ・・・!

ロッソ「イザベラ、放れろォッ!」

イザベラ「でもッ・・・」

ロッソ「いいから早くッ!!」


??「シャアァァァァァッ!」ドン!

敵スタンドは再びタイヤのような形状に戻り、その場で高速回転を始めた。

ギュラギュラギュラギュラギュラ!!


RRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!

アラゴスタ「ロッソ! 危ないッ!」


タイヤのようなスタンドが突っ込んでくると同時に、姿なき敵も迫ってくる。
両方のスタンドが発する“殺意”は、全て俺に注がれていた。

ロッソ「!」


俺はその場から、一歩も動かなかった。

ドガァ!!

ギュルルルルルルル!

ロッソ「グアアァッ!」


「! ?」


『ガーネット・クロウ』は、先に向かってきたタイヤのようなスタンドを受け止めた。
凄まじい衝撃と、受け止めてなおも回転し続ける敵に全身がはじけるかと思った。


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!

??「ナンダトッ!?」

見えないスタンドが、すぐ目の前まで迫っている。

315第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:52:50 ID:R2ZsZnJM0
??「ヤベエッ!!」

身の危険を感じた“タイヤ”は、急いで俺の所から離れて逃げ去った。


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!

ヴェルデ「ロッソォォォ━━━━━!!」

ヴェルデが絶叫する。

ロッソ(問題ありませんよ、ヴェルデさん・・・
   “見えた”・・・予想通りだったッ!)


バァッ!

怪我などモノともせず、俺はその場で大きく跳び上がった。
そして、轟音をあげる姿なき敵に向かって、スタンドの拳を真っ直ぐに突き出した。


ロッソ「そこだアアアァッ!!」


ガッシャアアアアァァァン!!


ガラスが勢いよく割れる音が響き渡る。
そして『ガーネット・クロウ』の拳は、そのガラスの奥にいた人間の顔にクリーンヒットした。

??「ベギャアァァァァァァッ!」


ドゴッ!

ロッソ「うッ・・・!」


その人間がいた場所は、“トラックの助手席”。
そう、見えない敵スタンドの正体は、「見えないトラック」だったのだ。

??「アァ〜〜〜ッ! オルトレマーレェェェェ!!」

運転席の男が慟哭している。


───さっき、俺はわざとスタンドを受け止めることで、本体を“動揺”させた。
その“動揺”の発生源を感じとり、ピンポイントで本体の位置を把握したのだ。

316第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:53:14 ID:R2ZsZnJM0
もっとも、本体がいるのがこの中でなかったら・・・
俺は・・・虚しく宙を舞っていただろう・・・

ロッソ「ぐあ・・・」

俺は今、運転席に上半身だけ突っ込んだ状態だ。
割れたフロントガラスが、俺の腹に刺さっていた。
それほど深く突き刺さっていたわけではないが、先ほどのダメージと相まって動くことができない状態だった。


運転手「このヤロオォォォッ! 車から離れやがれェェェッ!!」

DRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!


運転手の男は車体を左右に振って、俺を振り落とそうとする。
しかし、刺さったフロントガラスのせいで、俺が落とされることはなかった。


運転手「クソォォォ〜〜〜ッ・・・おい、オルトレマーレ、しっかりしろ!」

運転手は半泣きの状態で、オルトレマーレというらしい助手席のパートナーに声をかける。
しかし、オルトレマーレはぐったりとして返事をしない。


運転手「テメェらまとめて轢き潰してやるぅぅぅッ!!」

ギュイィ!

俺のことを諦めた運転手は、トラックを急旋回させてイザベラたちに方向を向けた。

ビアンコやアラゴスタが負傷している中、このトラックを止められるスタンドはもう無い。


ロッソ(くっ・・・どうするか・・・)

317第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:53:35 ID:R2ZsZnJM0
ロッソ「・・・・・・」

オルトレマーレ「・・・が」

ロッソ「・・・!」

オルトレマーレが、まだ少し意識を残していた。


ロッソ(こいつのタイヤのようなスタンド・・・能力は「転がる」だけではない・・・)


そういえば、道路の上で転倒したとき、“あるもの”が足元にあった───

ロッソ(この容態ならば・・・できるかもしれない・・・!)


DRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!

運転手「ウォォォォォォ死ねェェェェ━━━━━ッ!!」



ガクン


運転手「ハッ!」

ギュルルイィィィィィィィィィィ━━━━━!!

運転手「ヌオワアァァァァ━━━!?」


地球最後の日の如き震動とともに、トラックがスピンを始めた。

ロッソ(成功だ・・・)


間違いない。
オルトレマーレのスタンドの本当の能力、それは転がった後の地面を「極端に滑りやすくする」こと。

転倒したとき、俺の足元にあったものは「タイヤの痕」だった。
この「痕」を車が踏めば、アイスバーンよりも滑らかな地面にスリップ、スピンしてしまう。

オルトレマーレは、恐らくこの車内から“この車が通らない位置”に痕を残していたのだろう。

318第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:53:56 ID:R2ZsZnJM0
それはともかく───
なぜ、このトラックがスピンを始めたのか。

俺は『ガーネット・クロウ』でオルトレマーレに触れ続けていた。
オルトレマーレは意識が朦朧としていたが故に、「感情」とその他の「理性」の区別が曖昧な状態に陥っていた。
その結果、俺はオルトレマーレの意識をすべて掌握することに成功し、スタンドを動かすことができたのだ。



運転手「ああああああああああ━━━━━!!」

ドギャン!!

ロッソ「ッ!」


スピンが止まった。
ガードレールにぶつかって。


その衝撃で、俺はフロントガラスからやっと解放された。
しかし、その先にあるのは────谷。


ロッソ「・・・!」

運転手「・・・へっ、ヘヘッ、ざまあぁぁみろォ! “裁き”は下ったのだァァァッ!!」

ロッソ「いや・・・まだ“裁き”は下っていない・・・俺は、ここで死ぬ運命ではない!」


グイッ!

運転手「!?」

俺が落下するのと同時に、オルトレマーレ及び運転手が谷へと引っ張られた。

運転手「ぬおッ!」

ガシッ!

運転手は驚きながらも、反射的にハンドルを掴んで抵抗した。

運転手「な・・・なんだこの“糸”はッ!?」

319第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:54:29 ID:R2ZsZnJM0
ロッソ「さすがはイザベラ・・・といった所かな」


俺の身体には、長〜く伸びた太い“繭糸”が巻き付いていた。
俺がトラックに飛びかかる直前、彼女は俺の命綱として出してくれていたのだ。

そして糸の先にはまだ「余裕」があった。
俺はそれをこっそりと、オルトレマーレと運転手の足に結びつけておいたのだ。


ロッソ「俺と、あなたのパートナー・・・二人ぶんの体重を支えるのはつらいでしょう・・・
   諦めたらどうですか?」

運転手「やめろォォォ! 一度でいいから教祖サマに・・・“スカルラット大司教”からお褒めの言葉を頂戴したいのにィィィッ!!」


『スカルラット大司教』・・・
奴らのボスはそんな名前なのか・・・


ロッソ「大丈夫です・・・あなたが名誉の死を遂げれば、彼から拝んでもらえますよ・・・」

グイッ

運転手「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ついに運転手が手を離した。
俺はすかさず糸の先を切り離し・・・


ロッソ「おっと忘れていた、落ちていく前に・・・これが本当の“落とし前”ってやつです。受け取ってください・・・」

オルトレマーレ「くぅ・・・」

運転手「ああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

320第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:54:54 ID:R2ZsZnJM0
ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラガ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ノ!!」


ドッギャアァァァァァァ!!


ラッシュを食らった二人は、深淵の谷底へと消えていった。


ロッソ「・・・・・・」


俺は何も考えられず、ただ垂れた糸に揺られていた。

さすがにダメージがでかい。特に“タイヤ”スタンドの激突がキツかった・・・


ロッソ「・・・・・・」ガクッ

身体は落下しなかったものの、俺の意識は真っ暗な谷底へ───



* *



BRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・


───車のエンジン音が聞こえる。

目に入ってくるのは、流れては消えていく橙色の電灯。

そして・・・強い風。


ロッソ「・・・・・・」

アラゴスタ「あ、起きた!」

イザベラ「・・・ロッソ」


どうやら、俺達はトラックの荷台に乗っているようだった。

ロッソ「・・・この車は・・・」

アラゴスタ「あの“トラック”だよ。スタンドが解除されて・・・元の姿に戻ったんだよ」

321第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:57:58 ID:R2ZsZnJM0
運転席にはヴェルデ、助手席にはビアンコの姿が見える。

あの「見えないトラック」の正体は、ボロボロの古ぼけた軽トラックであった。
それにヴェルデの荒い運転が加わって、ミラノまで持つのだろうかと心配になるほど車は揺れていた。



ロッソ「スカルラット・・・」

アラゴスタ「ん?」

ロッソ「このトラックを運転していた男が言った名前・・・『教団』のトップの名前だよ・・・
   俺達が目指す人間が、ついに分かった・・・!」

イザベラ・アラゴスタ「・・・!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・




太陽道路は、未だ長く続いている。
しかし、もうじき辿り着くべき場所に俺達は到着するだろう。

そこには・・・俺達の運命を決定づける、大きな存在が待っている。


決着のときは近い。

そして決着の場所・ミラノはもうすぐだ。




応報部隊)オルトレマーレ/スタンド名『グラン・トゥーリスモ』 →死亡。
     アボーリオ(運転手)/スタンド名『デトロイト・ロック・シティ』 →死亡。


to be continued...

322第12話 悲愴 ◆LglPwiPLEw:2011/02/07(月) 19:58:41 ID:R2ZsZnJM0
12話終了。

こんな停滞SSを応援してくださる皆様に感謝しております。
ガネクロは終わっていません。(厚かましくも)これからもよろしくお願いします。


使用スタンド

No.1901 『グラン・トゥーリスモ』
考案者:ID:VG0EpEDO
絵:ID:IfACeMAO

No.2929 『デトロイト・ロック・シティ』
考案者:ID:n2nC6YAO
絵:ID:/Aa1eQDO

ありがとうございましたッ!

323名無しのスタンド使い:2011/02/07(月) 20:09:12 ID:bX9LWMbY0
なにこのエロいtwitter
ttp://erotweet.main.jp

324名無しのスタンド使い:2011/02/07(月) 21:07:32 ID:NX0egOcs0
乙どす
あのロリk……いやカウボーイの名前が少しだけ出てきてて噴いたww
そして物語の確信へ…

325名無しのスタンド使い:2011/02/07(月) 22:30:09 ID:???0
おかえりなさいいいいいいいいいいいい
待ってたよ待ってたよおおおおおお

326名無しのスタンド使い:2011/02/08(火) 01:44:24 ID:6aY30HWc0
ガネクロにもトラックが登場したと聞いてry

ラスボスの名前も明らかになって、最終戦も近いんでしょうか
乙でした

327 ◆LglPwiPLEw:2011/02/08(火) 10:05:46 ID:???O
皆様コメントありがとうございます

これから本作は(ようやく)クライマックスとなってまいります
それに伴い、本作を一気に書き終えたい都合上、ジャジャジュジュの更新は一旦停止いたします。

誠に勝手ではございますがご理解の程よろしくお願いします。

328 ◆R0wKkjl1to:2011/02/14(月) 09:26:09 ID:UCyZH.EUO
遅くなりましたが乙ですッ!

やっぱりロッソは男前だなぁ。落下前のラッシュに痺れました。


それにしてもトラックの人気にS・H・I・T www

329 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:54:38 ID:lVntqAA.0
え〜、まず、WQ大先生に心よりの祝福を申し上げます
お二人の末永いお幸せをお祈りいたします


こんな時節に不恰好では御座いますが、ガネクロ13話を途中まで投下させていただきます

330第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:55:32 ID:lVntqAA.0
ブルーノ「なぁアッズーロ」

「ん?」


あれからしばらく経って、ブルーノが青年に話しかけた。
ずっと音楽の世界に浸っていた青年───アッズーロは、唐突に話しかけられて素早く瞬きをした。

かかっていたBGMは、既にチャイコフスキーからボブ・ディランに変わっていた。


ブルーノ「お前に一つ問題を出そう」

アッズーロ「・・・いいよ」


本当は年が近いのに、二人の関係はまるで年の離れた兄弟のようだ。
無論、二人は“その方がかえって良い”と思っているに違いない。


ブルーノ「イタリアはなんで死刑を廃止したかわかるか?」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロは黙りこんだ。

ブルーノがまた意地悪な問題を出してきた。
どうせどんな解答をしても当たりっこないんだよな、と思っていた。


ブルーノ「簡単たぜ。誰でも答えられる超シンプルな答えだ」

アッズーロ「わからないよ、僕には。答えは?」

ブルーノ「“人を殺すとバチが当たるから”だよ」


アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「みんな難しく考えすぎなんだよなァ。人権云々でもないし、廃止しないとEUに加盟できないからでもない。
    マジで簡単な理由だよ・・・」

331第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:55:56 ID:lVntqAA.0
アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「そう、“バチが当たる”のが怖いんだ、イタリアは。例え相手が罪人だろうが、一人だろうが千人だろうがな」

アッズーロ「・・・・・・」ゴモゴモ


アッズーロが何かを呟き始めた。
そして今度はゆっくりと、右手でオーディオラックを指差し始めた。


ブルーノ「・・・わ〜ったよ、怒らせてゴメンな。いや、オレは真面目に・・・」


アッズーロ「僕を馬鹿にするなァァ━━━━━━━━━━ッ!!」


ブイン!

アッズーロが手を動かすと、ラックからレコードが一枚、ブルーノに向かって凄まじいスピードで放出された。


ブルーノ「・・・」

ギュウゥゥン!



・・・・・・



ブルーノは何事もなかったかのように、テーブルの冷めた紅茶を飲み干していた。


───そのレコードは、空中にてゆっくりと回転しながら漂っていた。


ブルーノ「いや、オレが言いたかったのはよ、お前に“その気”があるかって質問だったんだよ」

アッズーロ「・・・その気?」

ブルーノ「そうだ。これから『闘い』が始まる・・・そいつは避けられねえ。
    そこでだ、お前は“人を殺してバチが当たる”覚悟があるか? ってことを聞きたかったんだよ」

アッズーロ「バチ・・・」

332第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:56:31 ID:lVntqAA.0
アッズーロは上を向いて考えた。

ブルーノ「人を殺した“バチ”は一生つきまとう・・・オレは死後の世界を信じちゃあいないが、下手したら天国や地獄にもついてくるかもな。
    アッズーロ、お前ならどうだ? “覚悟”はあるか?」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロは視線を元に戻す。
澄んだ蒼い瞳を、真っ直ぐブルーノに向けた。


アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「・・・・・・」


アッズーロ「ない」

ブルーノ「よし」



それだけのやりとりを済ますと、ブルーノはソファーから立ち上がり大きく背伸びをした。

ブルーノ「う〜〜〜ん、もうすぐ夜が明けるなァ。アッズーロ、酒でも買いに行こうぜ。
    また朝からジジイの説教を聴かされる・・・いや、今日は無ぇかな」


ブルーノがコートを羽織ると、アッズーロも何も言わずにコートを着はじめた。

ブルーノはレコードプレイヤーを止めて、さっさと部屋を出ていった。
アッズーロも彼の後にピッタリとくっついていった。


その瞬間───


スコオオオ━━━━ン!!


空中に漂っていたレコードが急に動き出し、反対側の壁に突き刺さった。
・・・途中にあった観葉植物を、真っ二つに切り裂きながら。

333第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:56:51 ID:lVntqAA.0
* *


ようやっと、太陽道路を降りることができた。

まったく・・・長ぇ道のりだったぜ。


俺はボロい軽トラの助手席で、来たる最後の決戦に向けて神経を研ぎ澄ませていた。

とは言っても、ヴェルデと何も喋らねぇのはなんだか気まずいから、こっちから話題を振ってやった。


ビアンコ「ギャングだったらさぁ・・・もしかして実銃使ってリアルサバゲーとかするの?」

ヴェルデ「ハハハ・・・まさか、そんなことはしないよ」

ビアンコ「でもさ、武器で遊んだりはするだろ? ロシアンルーレットみたいな」

ヴェルデ「そんな映画みたいなことをする奴らはいないよ・・・俺達は武器には敬意を持っている」

ビアンコ「なるほど・・・じゃあ抗争のとき以外は倉庫の中か」

ヴェルデ「・・・そういうことかな」


ビアンコ「でもさ、まぁ人を撃つのはともかくとして、銃を扱うのってコーフンしないか?」

ヴェルデ「あぁ・・・あとで武器の魅力はいくらでも語ってやる。ただ、一つ言っておきたい。

    ・・・今はこれから『闘い』のときだ。緊張をほぐそうとしているのは分かるが、そういう話はやめてくれないか?
    戦争の楽しみを語ることができるのは、平和の中でだけなんだよ」

334第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:57:08 ID:lVntqAA.0
ビアンコ「・・・・・・」


ヴェルデの言葉に、俺は黙ってしまった。

こいつの言うことは、怖いくらいの凄みを帯びている。
常に『闘い』と『死』とに接している身であるだけに・・・

俺はそれから、じっと空を眺めていた。


空は紫色を帯びていた。

夜が明けたんだ。



* *



ミラノ AM 4:30


まだ誰も歩く者がいない通りを、アッズーロとブルーノが歩行していた。

二人はお揃いの黒いコートを着ている。
夜は明けていたが、風は冷たかった。


アッズーロは全身をブルーノに密着させて歩いていた。
コートに顔をうずめ、ほとんど身体を彼に預けているようだった。

寒いからか、それとも他の理由があるからかは分からない。


「・・・」


外に出てから、二人は何一つ会話を交わさない。

ただ“いま、ここにいること”だけに満足しているかのように、一歩一歩あゆみを進めるのみであった。




「・・・フフッ・・・ククク」


しばらくして、三人の若い男とすれ違った。
男たちはアッズーロの様子を見て、振り返って笑いだした。


「おいおい。朝っぱらからヤなもん見ちまったよ」

「昨晩はお楽しみだったんかなぁ?」

「やめてくれよ! 気持ちわりィ」

335第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:57:32 ID:lVntqAA.0
アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロが立ち止まった。
ブルーノもそれに一歩遅れて立ち止まる。


アッズーロ「・・・・・・」

アッズーロは首をゆっくりと捻って振り返った。
彼の瞼はいわゆる「ジト目」だった。しかし、その中の瞳はサファイアのように澄んだ蒼色をしていた。


「うわっ、なんか睨んできた」

「俺達の中に『好み』がいるのかも・・・」

「キモッ! 勘弁してくれよォ〜!」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロはじっと男たちを見つめている。
対してブルーノは、ただ相棒が再び歩き出すのを待っているかのように、行く手の道だけを見ていた。


「フフフッ! 行こうぜ、気持ち悪い」

「まじイヤだわ〜」


男たちが向き直して歩き出した
そのとき・・・


アッズーロ「誰が言った? 気持ち悪いって」

「!?」

男たちは肝を潰した。
いつの間にか、アッズーロは男たちの真後ろにくっつくように存在していたのだ。


「ひえっ!?」

「ど、どどどうしてッ!? 5mくらい離れてたよなァ!?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



アッズーロ「気持ち悪いって言ったの・・・たぶん、おまえ・・・」


「に、逃げろッ!」

恐怖を感じた男たちは、一目散に駆けていく・・・

336第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:57:54 ID:lVntqAA.0
「おぉ〜い待ってくれェ〜ッ・・・置いていかないでくれェェェッ!!」

「!?」


“駆け出すことができたのは、二人だけだった”。
残る一人の男は、その場から一歩も動くことができずにいたのだ。


アッズーロ「おまえ、そうおまえだ。気持ち悪いって言ったのは」

その男はアッズーロに指を差されていた。
男は恐怖と驚愕に歪んだ表情をしながら、身を震わせている。

「たっっっ助けてくれェェ〜、動けねぇんだよォ俺ェ・・・!」


「・・・!」

残った二人の男たちも、アッズーロの並々ならぬオーラにたじろぎ、ピクリとも動けなかった。


アッズーロ「僕を馬鹿にするやつは許さない・・・ブルーノを馬鹿にするやつも許さない。
    気持ち悪いだと? 言ってくれるじゃあないか。なぐりころしてやるよぼくのスタンドでッ!!」

「イイイイイヤアアアァァ!!」

「うわあああああああああああッ!!」

「!!」


ズギュゥゥ――ン!!



・・・・・・




ブルーノ「まぁ、許してやれって」

アッズーロ「・・・」


一瞬にして、アッズーロはブルーノの隣に戻されていた。


動きを止められた男は失禁して倒れていたが、身体に外傷はないようだ。


ブルーノ「早く行こうぜ。ギャングどもが来るぞ」

アッズーロ「・・・・・・」

アッズーロとブルーノは、そのまま去っていた。



・・・・・・

ヒュゥゥゥ
ドシャッ!


この世のものとは思えぬ事象を目の当たりにした男たち。
一人は仰向けに卒倒し、一人は泣きながら普段信じもしない神に祈っていた。

337第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:58:26 ID:lVntqAA.0
* *

ミラノ AM 4:30


ヴェルデ「降りるぞ。静かにな」

人通りの無い裏道に車を停めて、ヴェルデは車から降りるように言った。


───ついに到着、か。
俺は静かにドアを開け、ミラノの地面を踏みしめた。


荷台にいる三人に無言で合図をして、奴らを降ろす。


・・・コイツらは本当によくできた奴らだ。
俺がコイツらぐらいの時、何ができる人間だっただろうか。

ロッソやイザベラの頃には、大人に対して無意味に突っ張って、「不作為」を貫いていた。
アラゴスタの頃なんか記憶にもない。たぶん自分で何をしているかも分からない、動物みたいな子供だったのだろう。


今の俺は・・・どうだ?


あの時から、変わっているんだろうか?
人間として、何も成長せずに生きてきたなんてこと・・・ないだろうか?


ビアンコ「・・・・・・」

ヴェルデ「こっちだ」

ヴェルデの一言で、俺は思考の苦しみから解放された。


だいぶ明るさを増してきた空の下、俺達は息をひそめて路地を歩いた。

俺達が一歩を進める度に、決戦の場所も近づいてくる・・・


ここまで来たんだ。ケジメはつけてやるぜ・・・

338第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:59:12 ID:lVntqAA.0
歩き出してから間もなく、見覚えのある人影が前方に立っていた。

───ギャングの親玉、ジョルノ・ジョバァーナだ。
他にも、ソイツの側近、グイード・ミスタや子分たちの姿も見える。


ヴェルデ「おはようございます」


こんな時でも挨拶する必要があるとは、ギャングの世界はケッタイなもんだ。
いや・・・挨拶くらいは当たり前か、礼儀だもんな。


ジョルノ「おはようございます、みなさん。“無事に辿り着けた”ようですね」

ロッソ「やはり・・・そちらも“敵”の襲撃を・・・?」

ミスタ「あぁ、まぁな。ま、百戦錬磨のオレたちにとっちゃ他愛もねぇことだったぜ」


ヴェルデ以外が一般ピープルの俺らにすら何人も襲ってきたっつーのに・・・
大将首のある向こうのチームには、一体どんな野郎どもが襲来したんだろうか?


ヴェルデ「・・・夜行列車で来るはずのチームはまだ来ていないようですね」

ミスタ「・・・・・・」


ジョルノ「彼らとは、連絡が取れません。・・・ないことを願いますが、全滅した可能性はあります」


「・・・!!」


アラゴスタ「・・・」

イザベラ「・・・・・・」


クソッ・・・
俺たちから望んで来たのだからフォローはできねぇが・・・

コイツらにとっては、ちと刺激が強すぎるぜ・・・

339第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 22:59:43 ID:lVntqAA.0
ヴェルデ「そうですか・・・」

ヴェルデはほんの少し瞼を伏せたが、すぐにそれを開き直し、言葉を続けた。

ヴェルデ「では、一応これで全員揃ったことになりますね。
    参りましょうボス。のんびりしてはいられない」

ジョルノ「そうですね」

ビアンコ「・・・・・・」


わかるぜヴェルデ、おめぇがツラいのはよくわかる。
しかし大丈夫なのか? このまま突き進んじまって・・・予定ってモンがあったんじゃあねぇのか?

俺は少し心配になった。
だがボスが同意しているならそれでいいだろう、と自分を諭してやった。



ビアンコ「・・・ん?」

向こうの道路に、チラッと人影が見えた。


男が二人。
同じ黒いコートを着て、お互いベッタリとくっついて歩いている。


ビアンコ(おえっ・・・)

こんな時に限って・・・調子が狂っちまうぜ。

他の奴らは気づいてないみたいだ。
いつもなら笑いのネタにするところだったが、今はもう冗談は通じなくなっている頃合いだ。

だから俺は何も言わなかった。




全員で少し歩いた先には、赤レンガで造られた古い建物がそびえていた。

イザベラ「『サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会』・・・」

340第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 23:00:21 ID:lVntqAA.0
ジョルノ「その通り。かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』がある建物です。
    情報によれば、敵のアジトはこの付近にある・・・みなさんにはここから、二手に分かれて“配備”についてもらいます」

ロッソ「ここで・・・二手に、ですか?」

ロッソが物憂げに喋りだした。

ジョルノ「何か問題がありますか?」

ロッソ「その“アジト”の中に、一体どれほど敵が居るか不安で・・・戦力を分散させていいんでしょうか?」

ジョルノ「それは我々にも分からない。しかし表と裏の出入口から『挟み撃ち』にするのは、一般的な戦法といえます」

ロッソ「・・・・・・」


??「分け方はどうするんですかい? 既にこっちの駒は減らされているが」

ガタイのいい子分の一人がボスに尋ねた。

ジョルノ「そうですね・・・正面から攻めこむのは、僕とお前たち二人・・・『ビオンド』と『リモーネ』、
    それとロッソとビアンコ。この五人が担当しましょう。
    ミスタとヴェルデ、それにイザベラとアラゴスタは、裏口で待機し、敵の逃げ道を塞いでください」

ヴェルデ「了解しました」

ロッソ「・・・・・・」


もうロッソは喋らなくなっていた。

・・・どうした、今更になってビビり始めたのか?

大丈夫だ。俺もだからよ。


ジョルノ「では、参りましょう。お互いトランシーバーで連絡をとって・・・合図と同時に突入です。
    そして教祖と、部隊の人間たちの寝首を掻きます。
    間違いなく、向こうは何らかの対策をとっている・・・くれぐれも気をつけてください」

アラゴスタ「・・・」

イザベラ「・・・」

ロッソ「・・・!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


ヴェルデ「お前たち・・・幸運を祈る」

そして、俺達はその場で分かれたのであった。

341第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 23:01:22 ID:lVntqAA.0
俺達のグループは、表から乗り込んでブッ叩くほうの役割だ。
それだけ重大な任務を任されたら、嫌でも全員の表情は堅くなる。

周りに注意しながら、俺達は素早くアジトの正面へと向かう。


グリージョとの間に“壁”を創りやがったその責任・・・
今こそ取ってもらうぜ・・・


ジョルノ「ここです・・・」

アジトとやらは、庭と門のあるデカイ一軒家のような外観だった。

ビオンド「フゥン、俺が想像してた『秘密基地』みたいなのたぁ違かったか」

子分の一人が言った。
俺も同じ意見だった。

リモーネ「黙ってろビオンド。ここからは戦争なんだ」

もう片方の子分が凄みを効かせて言った。
・・・うっかり賛成を口に出さないでよかったぜ。


ジョルノ「向こうの準備が完了したら連絡が来ます。そのあと・・・突撃です。
    あと、ロッソとビアンコ・・・」

ロッソ「はい・・・」

ジョルノ「あなた方はまずは、我々の後についてきてください。建物の構造は把握していますから」

ロッソ「・・・・・・」


ビビるんじゃあねぇよ・・・俺たちの意思でここまで来たんだろう?
迷うことはねぇ・・・

俺たちは・・・


キイィィィィィ〜〜〜〜


クソッ、耳鳴りがしやがるぜ・・・
鼻血とかしゃっくりと同じでタイミングが悪いんだよ、まったく・・・

342第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 23:02:01 ID:lVntqAA.0
「準備OKだ。そっちはどうだ?」

トランシーバーから声が聞こえた。
ボスの側近・ミスタの声だ。

ジョルノ「問題ありません。では10秒のカウントの後に突入します。10・・・」


おいおい、もう突入かよ!
やべぇな・・・心の準備ができてねぇぞ・・・


キイィィィィィ〜〜〜

ジョルノ「8・・・7・・・」

イィィィィィ〜〜〜


チッ! うっせぇなァ耳鳴り! 早く治まりやがれ!

後ろから聞こえる(ように感じる)耳鳴りに煩わしさを覚え、俺は軽く振り返った。

誰もいない。
はいはい、後方異状ナシだ。とっととカタをつけてやるぜ・・・

そう思い、視線を戻した俺は、全身をいっぺんに殴られたような衝撃を受けた。


ビアンコ「な・・・なにィィィッ!!?」


前方に、“誰もいない”・・・

ボスも、ロッソも、子分たちも、誰もいねぇッ!


ビアンコ「う・・・嘘だッ! まだカウントはゼロになってねぇはずだッ! “ほんの少し振り向いただけなのに”ッ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


心臓が激しく脈動した。
冷や汗がダクダク流れた。

ビアンコ「何よりもよォ〜・・・“門がまだ開いてねぇ”ッ! 鍵すらかかったままだッ!
    つまり、まだ“突撃してねぇ”! その前に『消された』んだッ!」

もしかして、今の耳鳴りは・・・

ビアンコ「敵の“スタンド攻撃”がもう始まっている、だとォ〜〜〜ッ!?」

343 ◆LglPwiPLEw:2011/02/15(火) 23:09:11 ID:lVntqAA.0
ここで一旦お開きです
・・・っていうかSSの中に忌み言葉が・・・なんか申し訳ない

P.S.
グーグルアースでミラノを見てみましたが、やっぱり都会だよなぁ・・・
朝の四時半には結構人がいそうだよなぁ・・・
ていうか季節が冬なのに四時半で空が明るいのはおかしいかなぁ・・・

とか、見直すたびにボロが出てきて、こんなの投下していいのか不安になります
でも、最終的には「まぁいいか」で片付けちゃう、というわけです

344名無しのスタンド使い:2011/02/16(水) 14:46:24 ID:???0
乙!

345名無しのスタンド使い:2011/02/16(水) 14:53:43 ID:???0
途中で送信してしまったorz
ビアンコさんを襲った敵の能力は一体…!?
それと1年ぶりに登場したコロネさんの超チートスタンドさんの出番はあるのか気になりますね

346 ◆U4eKfayJzA:2011/02/16(水) 23:22:39 ID:???0
あー……、そーいやこっちにもグリージョって名前の奴いましたっけねー。
……すっかり忘れてた。ヤバい、名前かぶってら。

最終決戦が近づいた感じですが、ビアンコさんは助かるのか……。乙でした!

347 ◆R0wKkjl1to:2011/02/17(木) 13:55:36 ID:mo3AFeHAO
遅くなりましたが更新乙ですッ!
敵キャラからジョジョッぽさが滲み出てるZEEEEE!!

チート番長コロネも登場したしいよいよって感じですね(^O^)
早く続きが読みたいです(>_<)

348第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:04:37 ID:/hyeYoUY0
考えるより先に、身体が動いていた。

ダッ!


ビアンコ「冗談じゃあねぇぞ・・・ッ!」

どこかに本体がいるに違いねぇ・・・今すぐに見つけ出して叩き潰してやらねぇと・・・

ビアンコ(全滅しちまう・・・!)

ここまで来たっつーのに、それだけはご免だぜ!


『エイフェックス・ツイン』を出して警戒しつつ、徹底的に周囲を捜し回った。

しかし、街の中には俺のほかに人影一つ存在しない。
嫌になるほど静かなミラノの空気が、俺の不安を煽った。


ビアンコ「どこだァ━━━━ッ! 出てきやがれェェェ━━━━━ッ!!」

声の限りに叫んでやったが、冬の冷たい風に吸収されるように消えただけだった。


ビアンコ「チクショオオオ━━━━ッ!!」


───そのときだった。俺の視界に、ようやく人の姿が映し出されたのは。

ビアンコ「!」


そこにはチンピラくさい男たちが三人いた。

そのうち二人は地面に大の字にブッ倒れていて、残る一人はうずくまって震えていた。
・・・明らかに正常じゃあねぇ。


ビアンコ「おいてめぇ・・・」

うずくまっている男に、俺は話しかけた。


「・・・んあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ッ!!」

ビアンコ「!!」

いきなり、男は俺に向かって走ってきた。


バイン!

「ひでぶッ!」


俺が展開した『壁』にブチ当たり、男は苦しみ悶えた。

ビアンコ「動くんじゃあねぇ! 何があったのか答えろッ!」

「ぐふ・・・た、助けてくれェ〜、死ぬほど怖ぇよォ〜!」

ビアンコ「?」


この男、何かに“怯えて”やがる・・・

「なんか・・・なんか二人組のゲイみてぇな男が、いきなり瞬間移動して・・・そこの奴が動けなくなって・・・ああああッ!」


二人組・・・?

まさか・・・あの時に見た・・・!


ビアンコ「!」ダッ

「待って! 置いてかないでくれェェェェ〜ッ!」


恐らく“あの”二人組・・・
今の言われ方だと、きっとスタンド使いだ。
ひょっとしたら“あいつらが”・・・


俺があの二人組を見つけた場所まで、全速力で駆け出した。

349第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:05:22 ID:/hyeYoUY0
* *


ジョルノ「駄目だッ! まだ討ち入るなッ! “一旦中止だ”ッ!」


リモーネ「馬鹿な・・・ッ!」

ビオンド「こいつァやべぇな・・・」

ロッソ「・・・!」


信じられない・・・
“ビアンコが消えた”。

誰も消えた瞬間を見ていない。
カウントダウンの最中、“ほんの一瞬の間に”いなくなっていた。



あ・・・頭がクラクラする。

“絶望”。

俺の心の中は、その感情だけでいっぱいだった。


縁起でもない。
こんなこと思っちゃ駄目だ。


ロッソ「『ガーネット・クロウ』・・・!」ズギュウゥ!

無理矢理自分の感情を矯正して、乱れる呼吸を整えた。
だがこの効果も、いつまで持つだろうか・・・


ビオンド「クソッ・・・! 俺達の戦力をちょっとずつ削っていくつもりかッ!」

リモーネ「いや、まだだッ! アイツはまだ生きている可能性もあるッ!」

ロッソ「・・・・・・」

そう信じたい・・・
いや、そう信じている・・・ッ!


ジョルノ「このままでは自分たちも危険だ・・・早く行動をとらなくては・・・」

ロッソ「あの・・・!」

俺は思い切ってジョルノに話しかけた。


ジョルノ「なんですか?」

ロッソ「俺、ビアンコさんを捜しに行きます! 俺の『ガーネット・クロウ』なら、“感情”を頼りに捜し出せるッ!」

ビオンド「なんだってェ!?」

部下のビオンドが大きな声を出した。

ビオンド「なに言ってやがんだ! ミイラ取りがミイラになるぞッ!
    俺たちにゃあ“予定”ってもんがあったんだッ! これ以上“予定”をブッ壊したら全員お陀仏だッ!!」

ジョルノ「いや、ビオンド・・・我々には初めから“予定”なんてものは無かった・・・」

ビオンド「な!?」


ジョルノの言葉に、全員が唖然とした。

350第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:06:26 ID:/hyeYoUY0
ジョルノ「確かに『予定』を立てることは大切だ。そうしなければ“道筋”は見えないから。
    しかし、人間の作る“道筋”など脆弱なものだ。現在のように、他人の邪魔が入れば一瞬で崩壊する。
    ・・・本当に信じるべきなのは神が創る“道筋”――――『運命』だ。『運命』は誰にも見えない、しかし“不変”だ。
    だから・・・『運命』を信じて、『いま、ここで出来ること』をやりましょう」


ビオンド「ボス・・・」

ジョルノ「ロッソに行かせましょう・・・ビオンド、リモーネ、このまま“三人”で突撃します。」

ビオンド「ま、マジですか!?」

リモーネ「構わない。参りましょうボス!」

ロッソ「・・・!」


ジョルノ・ジョバーナは・・・
輝いていた。初めて会ったあの日と同じように。


ジョルノ「ロッソ、これを持っていって・・・」

ジョルノは俺に、大きめのブローチを手渡した。
彼がいつも胸につけている、てんとう虫のブローチだった。

生きているかのように、わずかに動いている。

ジョルノ「身に危険が迫ったときは、これを放して僕を呼んでください。
    さぁ早く行って。時間がありません!」

ロッソ「・・・わかりました!」


俺は全力で駆け出した。

ビアンコはまだ死んでいない。
いつも近くで感じていた彼の感情が、どこかにまだ残っていたからだ。


* *


ビアンコ「ハァ、ハァ・・・」

どのくらい走っただろうか。
ミラノの街は今日が初めてだが、まるで故郷ネアポリスの箱庭のように、走って走って走り回った。

ビアンコ「このあたりに来てるはずだ・・・」

立ち止まって360度を見回した。
こんな都会に人っ子ひとりいねぇとは・・・ツイてねぇ。


俺が再び走りだそうとしたときだった。

351第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:07:13 ID:/hyeYoUY0
ビアンコ「・・・!」

いた。

あの二人だ。


金髪のほうが酒屋の袋を手に下げていること以外、まったく変わらない体勢で歩いていた。

『教団』の奴らだろうか?
いや、そうでなかったとしても、アイツらは何らかの“鍵”を握ってやがる・・・
俺の“直感”はそう告げていた。

ビアンコ(いまの俺に出来ることはこれだけなんだ・・・)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


俺は息をひそめて奴らの行方を見続けた。


二人は路地裏に入っていく。
俺も少し遅れて、路地裏の手前まで移動した。

周囲に気を配りながら、路地の中を覗きこんだ。


ソ〜ッ

路地の奥には、教会風の建造物が狭っ苦しそうに建っていた。

ビアンコ(家じゃあねぇな・・・仕事場か?)


男たちは玄関のドアを開けっ放しにしたまま、その中にヅカヅカと入っていった。

ビアンコ「・・・」

俺は迷わず玄関に向かう。

扉の上を見ると、そこには『Speranza d'Iddio』の文字があった。


ビアンコ(やっぱ『教団』だったんじゃねぇか・・・!
    ・・・だったら、俺たちが押し入ろうとした建物は一体・・・?)

ふとした疑問に不安を抱きつつ、建物へ潜入しようとした・・・
だが入る直前に、俺は驚いて足を止めてしまった。

352第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:08:11 ID:/hyeYoUY0
??「なぁ〜んだお前かよ。こっちとしては『ジョルノ・ジョバァーナ』に来て欲しかったのに・・・」

ビアンコ「な・・・ッ!」


さっきココに入っていった、金髪の男だった。

待ち伏せしてやがるとは・・・気づかれてたのか・・・

??「アイツのスタンドは不安定だからよォ〜、誰に当たるか分かんねぇんだよなァ〜・・・
  でも、ま、別にいいか。そうだろ? 『教祖』サンよ」



ビアンコ「・・・え?」


ドギャンッ!

ビアンコ「・・・・・・」

「あぁ、構わぬ。“この際誰が来ても結果は同じだ”・・・」

ビアンコ「・・・がはっ」


いつの間にか・・・後ろに人が・・・


『教祖サン』だと?
なぜだ? “なぜここにいるんだ”・・・?


そんなことを深く考える余裕は無かった。
後ろに立つ「教祖」のスタンドの手刀が、俺の腹に槍のように刺さっていたからだ。


教祖「ビアンコといったかな? ともあれ、ようこそ我らが『教団本部』へ・・・」

ビアンコ「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


* *


ミスタ「何が起こったっつーんだよ! まったく!」

イザベラ「・・・」

アラゴスタ「・・・」


ここにいる全員が焦燥していた。

ボスから突然の「中止」命令・・・
本当に何が起こったんだ?

353第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:09:14 ID:/hyeYoUY0
イザベラ「もしかして・・・既に『敵』の攻撃を・・・!」


アラゴスタ「ゼェ・・・ゼェ・・・」

アラゴスタの息が荒くなっていた。
絶対的な「恐怖」からだろうか。

・・・お前らしくないぞ。お前は「宇宙」を目指すんだろう?
こんな程度で脅えてどうする・・・?
・・・まぁ、12歳の子供に言っていられるような場合ではないが。


ミスタ「大丈夫だ、 俺たちが守ってやる! ・・・だがそのかわりに手伝えよ」

イザベラ「そんなことじゃあない・・・ロッソと・・・ビアンコさんが、心配で・・・」

ミスタ「・・・・・・」

ミスタも黙ってしまった。
俺もずっと黙っていた。


俺たちはこれから先、どうなるんだ?

万一、この作戦が失敗してしまったら?


アラゴスタ「ぜんめ・・・つ・・・」

ミスタ「おい小僧ッ!」

ミスタがすぐにアラゴスタの言葉を遮った。

ミスタ「そんな言葉は使う必要がねぇんだ!
   俺たちギャングの世界じゃあな、そんなことを思った時点で既に“負けている”んだぜ!
   だから常に勝つことだけを考えろ!」

アラゴスタ「・・・」


そのときだった。

『ご心配かけました。“大丈夫”です。今から突撃します』

「!」


トランシーバーから声が聞こえた。

ジョルノ・ジョバァーナの声。
俺たちにとっては神の福音とも呼べる希望の声だった。

アラゴスタは幾分落ち着いたのか、表情が少し穏やかになっていた。
イザベラも、俺が想像もしたことがないほどの凛々しい目だった。


『問答無用。このまま一気に突入します。準備はいいですか?』

ミスタ「おうっ」

ミスタは一言だけで応える。


『それでは・・・5、4、3、2、1、GO!』

急なカウントだったが、全員が乱れることなく駆け出していた。

ダッ!


バァ━━━━ン!!






・・・・・・

354第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:10:25 ID:/hyeYoUY0


ミスタ「おい・・・コイツは“どういうことだ”・・・?」

───建物の中は、明らかに“様子がおかしかった”。


アラゴスタ「なんで・・・」

ジョルノ『なぜだッ!? なぜ“誰もいない”んだッ!』

そう、教団の本部であるはずのこの建物は、「無人」だったのだ。
どの場所も、どの部屋も。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ミスタ「アイツら仲良く旅行にでも出かけてんのか!? そんな訳ないだろ?」

イザベラ「私たちを警戒して、本拠地を移されたのでは!?」

ヴェルデ「いや、それはない・・・情報では、奴らの本部はここ以外にありえないんだ・・・!
    緯度・経度の関係から神聖な位置にあるらしい・・・」


そのとき、俺はなんとなく“分かりかけてきた”。


ヴェルデ(ちょっと待て・・・まさか“アイツ”・・・!)


ミスタ「! クッ、チクショォォォォォ━━━━━━ッ!!」ガンッ!

ミスタが突然、壁を殴った。

ヴェルデ「ッ! どうしたんですか!?」

ミスタ「今、時計を見たら・・・
   4時44分だったぜ・・・」


* *



ズボッ

ビアンコ「ごわあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・ッ!」


スタンドの腕を引き抜かれ、俺はガクリと地面に崩れ落ちた。

嘘だろ・・・
どうして・・・「教祖」が・・・


教祖「君が死ぬ前に教えてあげたいことがある。冥土の土産に、と言ってはなんだがね」

355第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:11:18 ID:/hyeYoUY0
ビアンコ「・・・!」

立ち上がろうとしたが、既に手足に力が入らなくなっていた。


教祖「君の仲間たちが今いる所の近くに・・・教会があるだろう?
   凄く有名な教会だ。何せレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が壁画にあるんだからね。
   それで、その『最後の晩餐』なんだが・・・まぁわかると思うがイエス・キリストと12人の使徒が描かれているわけだ。
   その12人の中に“裏切り者”がいる・・・そうキリストが語ったシーンを描いているのが『最後の晩餐』だ、わかるね?」


ビアンコ「う・・・ぐ」

何を言ってやがるんだ・・・このクソ野郎・・・


教祖「それで、だ。君たちが信頼しきっていたパッショーネの中にも“裏切り者”がいた・・・と言ったら信じるかい?」

ビアンコ「な・・・に・・・!」


俺は目を見開いた。

そんな馬鹿な・・・偉そうな口でハッタリをかますのはやめろ・・・!


教祖「信じられないような顔だね。だが“真実”なんだ。パッショーネの諜報員に一人・・・ね。
   今日も来ているよ。“一緒に来るはずだった仲間たちを皆殺しにして”ね・・・」

ビアンコ「・・・!!」


不意に、今日ボスらと落ち合ったときの会話が思い出された。

“列車で来るはずのチームが・・・
 全滅した可能性が・・・”


教祖「君の仲間たちに“嘘の情報を前もって伝えた”のも彼だ。諜報員の言うことだからねぇ〜、信じるわけだよ。しかしねぇ〜・・・フフフッ」

ビアンコ「ふざ・・・けてん・・・じゃあ・・・ねぇぞテメェ━━━━ッ!!」


全力を込め、『エイフェックス・ツイン』のストレートを教祖に叩き込んだ。


ブゥン!

拳は勢いよく風を切る。

ビアンコ(は・・・速ぇ!)

356第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:12:30 ID:/hyeYoUY0
瞬きよりも短い時間で、教祖は俺の後ろに回りこみやがった。
一体どんな能力なんだ・・・?


教祖「あまり動かないほうがいいぞビアンコ。暴れると内蔵が飛び出すからな・・・」

ビアンコ「うるせぇ・・・この際内蔵なんかどうでもいいんだッ!」

なんとしてでも俺は・・・アイツらに会って・・・
このことを伝えてやらねぇとッ!


教祖「おや、逃げるつもりか? もう遅いぞ、君の仲間たちはとっくに突入しているだろうからな。
   あの建物は我々の所有物だが誰も使っていない・・・空き家だ。そこに奴らを閉じ込め、我らが応報部隊と武装した兵士が『挟み撃ち』にする・・・これが我々の作戦だったんだ」

ビアンコ「ッ・・・!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


なんつーこった・・・

俺たちが『挟み撃ち』にするはずだったのに・・・
逆に・・・俺たちが・・・


ビアンコ「ウォォォォォォォォォ!!」

俺がここで雄叫びをあげても、
アイツらには・・・届かない。


教祖「分かってくれたのなら、そろそろ死んでもらおう」

ビアンコ「させ・・・るか・・・よ」


俺は教祖を睨みつけた。

今まで誰にも向けたことがない、
いや、俺が「いま、ここで初めて」向けた、“殺意ある目”だった。

357第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:14:01 ID:/hyeYoUY0
* *


キイィィィィィ〜〜〜

ロッソ「うっ・・・」

耳鳴りがひどい。
さっきも感じたが、今はさらにひどくなっている。


ビアンコはまだ見つからない。
彼の「感情」の存在は確認できるのに・・・

ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」


息が荒いのは走ったせいか、それとも憂いの感情からか。


耳鳴りがするのは疲れからか、それとも・・・それとも、不幸の・・・


??「よかった。どうなるかと思ったけど、ほとんど『予定通り』に進んだわ」

ロッソ「!?」


女性の声が聞こえた。
俺は素早く見回したが、辺りには誰もいない。

ロッソ「誰だッ!」

??「いや〜ねぇ、“私”よ私。ずーっと貴方のことを見てたでしょうが」

ロッソ「・・・?」

“ずっと見ていた”?
まさか、付けられていたのか?

ロッソ(そんなはずは・・・)


フッ

ロッソ「!」

後方に気配を感じて、俺は振り返る。

ロッソ「・・・なぁッ!?」

あまりの驚きに、喉が痛くなるほどの大声をあげてしまった。
そこにいたのは、確かに「ずっと俺のことを見ていた」であろう存在だった・・・


ロッソ「『ガーネット・クロウ』・・・?」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

358 ◆LglPwiPLEw:2011/02/21(月) 20:16:20 ID:/hyeYoUY0
今日はここまでです
次回で13話が終了します


ミスタは兄貴に撃たれた時の台詞を覚えていたんでしょうね・・・
見事にパクッちゃってます

359名無しのスタンド使い:2011/02/23(水) 00:36:19 ID:???0
びあんこさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああん
おちゃらけキャラは生き残ると信じたいが…

360 ◆R0wKkjl1to:2011/02/23(水) 09:04:42 ID:qSBsWIdwO
ビアンコさん死亡フラグが・・・
なんて事だぁ〜ッ!!


そして、まさか・・・まさかとは思いますが、ボススタンドの被ゴホンゴホンッ!


や、冗談です。想像なので多分違うと思いますwww

更新乙でしたッ!(^O^)

361第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:26:36 ID:3jzmhhTk0
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


何がどうしたんだ?

俺のスタンド『ガーネット・クロウ』が・・・
俺に“話しかけた”・・・?

妙な女性の声で・・・


それに、なぜあんなに“遠く”にいるんだ?
俺のスタンドはあそこまで遠くに行けないはずなのに・・・


ロッソ「も・・・戻ってこいッ!」

G・C『・・・・・・』

俺が念じても、一切の返答が無かった。


??「ウフフフフフ・・・何言ってんのよ? 気づかないの?」

ロッソ「!」

また“声”が聞こえた。


・・・これは『ガーネット・クロウ』が喋っているんじゃあない。
“その後ろに、誰かがいたんだ”。


スゥーッ

『ガーネット・クロウ』が横に移動すると、一人の女性が姿を現した。

??「ロッソ・アマランティーノ・・・貴方のスタンドは“私が頂いた”わ」

ロッソ「・・・なんだって?」


意味が理解できなくて、思わず声をあげた。


??『Bee〜〜〜〜〜ッ! 考ェリャ分カルコトダロ〜〜〜、ガッ!』

ロッソ「!?」

今度は、どこからともなく一体の小型スタンドが現れた。
頭に葉っぱが付いた、昆虫のような小人だった。


??「貴方、『シスター・レイ』にそんなこと言われたらオシマイよ。コイツも物分かりが悪いんだから」

S・R『ウッセェ〜〜〜〜ッ! 余計ナコト言ウナ、ウンコビッチ、ガッ! BBBBBee〜〜〜〜〜〜〜ッ!』

362第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:27:35 ID:3jzmhhTk0
ロッソ「・・・」

??「あ、申し遅れたわね。私は『ティーグレ』って呼ばれてるわ」


ティーグレ・・・という女性は、『ガーネット・クロウ』を引き連れたままこちらに歩いてきた。


ロッソ(『ガーネット・クロウ』が・・・奪われた?)

どういうことだ?
そんな攻撃を受けた記憶がないぞ・・・

ティーグレ「“耳鳴り”みたいな音がしたでしょう? それがこの『シスター・レイ』の能力・・・」

ロッソ「・・・!」


ティーグレ「『スタンド音波』を流して、人間の精神を操作できる・・・幻覚を見せたり、こんな風にスタンドを乗っとることもできるのよ。
     まぁ正確には、スタンドを『一人歩き』させてから、音波で命令するんだけどね」


ロッソ(おいおい・・・)

彼女の言っていることが事実なら・・・

冗談じゃあないぞ・・・
スタンドが無けりゃ、なんの攻撃手段も無いじゃないか・・・!

この状況、“かなりヤバい”のでは?


ロッソ「・・・!」ダッ


てんとう虫の「ブローチ」が入った内ポケットに手を伸ばしながら、俺は“戦略的撤退”を図ろうとした。
が・・・

バゴォ!!

ロッソ「ッ!」


その瞬間、頭部に凄まじい衝撃が加わる。
そのまま俺は地面に倒れこんだ。

ティーグレ「これでよし・・・と」

ティーグレは俺の上に浮かぶ『ガーネット・クロウ』の傍に立ち、俺を見下ろした。


ロッソ「・・・!」

S・R『BBBBBBee〜〜〜ッ! ヤッパ“ガーネット・クロウ”ハ強力ダァ〜〜〜〜、ゼッ!』




ロッソ「う・・・」

ティーグレ「ちなみに言っとくとね、貴方の仲間を引き離したのも私のスタンドよ。
     一人からは全員を認識できなくさせて、全員からは一人を認識できなくさせた・・・狙い通りのターゲットには当たらなかったんだけどね」

このスタンドが・・・ビアンコを隠した張本人か・・・


と、“いつもの俺なら”思うところだった。
しかし今の俺は、猛烈な『絶望感』に苦しめられていた。

363第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:28:28 ID:3jzmhhTk0
ロッソ(嘘だ・・・もう、だめだ・・・!)


逃げたくても“逃げられない”。
助けを呼びたくても“呼ぶ気にもならない”。


S・R『BBBee〜〜〜ッ! 今ノ一発デ“感情”ヲ操作シテヤッタ〜〜〜〜〜、ゾッ!』


ティーグレは地面に伏して震える俺を見下ろしながら言った。

ティーグレ「私はね・・・兄をギャングに殺されたの・・・もともとギャングだったんだけど、“上の命令”で消されたのよ。
    だから私は・・・

    ギャングが死ぬほど憎いんだァァァァァ━━━━━!!
    全員四肢をもいで内蔵引っ張り出してやりてぇんだァァァ━━━━━━━!!」


ドウッ! ドウッ!


ロッソ「が・・・がう・・・ッ!」


『ガーネット・クロウ』が容赦なく俺の身体を殴りつける。

そのたびに“感情”が書き換えられ、ありとあらゆる『負の感情』が俺の精神を打ちのめした。


憎悪、悲嘆、嫌悪、嫉妬、憤慨、恐怖、恥辱、寂寥、遺恨、憂鬱、苦悶、後悔、困惑、欲情、
無念、疑心、劣等感、敗北感、虚無感、倦怠感、閉塞感、罪悪感、不快感、孤独感、


何もかもが俺の心の中になだれ込んでくる。


ティーグレ「私はアンタのスタンドが欲しかったのよ! 『感情を操る』なんて素敵な能力じゃない!
    コレを使って全員をなぶり殺してやるわッ! こうやってあらゆる『ネガティブな感情』を流し込んで、地獄の苦しみを味わせてからねェェェ━━━━ッ!!」


キイィィィィィ〜〜〜!!


ロッソ「ぐあぁぁぁッ!」


『ガーネット・クロウ』の攻撃に加え、精神に影響を与える『スタンド音波』が俺の脳内に鳴り響いた。

二つのスタンドのダブル攻撃・・・ってわけか・・・

364第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:29:09 ID:3jzmhhTk0
ダメだ・・・もう耐えられない。


①このまま精神的なショックで死ぬのが先か、
②ティーグレにトドメを刺されるのが先か、
③苦痛のあまり俺が舌を噛み切るのが先か、

いずれにせよ俺はお仕舞いだ。
こんな場所に無惨な形で死ぬ。


どうしてこうも俺の人生は狂ったんだ。

あの時はぐれた友人のせいか、
いややっぱりビアンコのせいか、
違う───俺のせいに決まっている。

こんな死に方をするなら生まれてこなければよかったんだ。
大して世の中に貢献したわけでもない。


あぁもういいや。
ジョルノも死ぬ。イザベラも死ぬ。みんな死ぬ。すべては「無」に帰すんだ。


死ぬのは怖いが、もうどうにでもなれ。



S・R『BBBBBBee〜〜〜〜〜〜ッ! ドウダ今ノ気分ハ〜〜〜〜〜〜、ヨッ!!』

ティーグレ「このまま楽にはさせないわッ! 苦しんでからくたばってもらうッ!!」


ティーグレは懐からピストルを取り出した。
なんだ、選択肢は②か。

後はすべてティーグレに任せるように、俺は仰向けになった。


ティーグレ「イヤッハアアア━━━━━!!」

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ

全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する
全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する
全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する
全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する全滅する


S・R『オッケエェェェェ〜〜〜、イッ!!』


カチッ

ダ ン ! !





・・・・・・・





ロッソ「・・・?」


弾丸が来ない・・・?
俺はゆっくりと体を起こそうとした。

365第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:29:35 ID:3jzmhhTk0
ティーグレ「ゴベエェェ・・・」ボトボトボト


ロッソ「・・・うッ!」

それを見た途端、俺は思わず目を背けた。

ティーグレは頭部を破壊されていたのだ。
彼女の赤黒い血液と脳漿とが、俺の上に滴り落ちていた。


S・R『ナンダ・・・ト』
ピシ・・・ピシ


ドサッ
バリーン!


ティーグレが倒れると同時に、『シスター・レイ』は粉々に砕け散ってしまった。


・・・・・・


ロッソ「何が・・・起こったんだ?」


まるで“ティーグレ自身が、頭に弾を食らった”ようだった・・・


ロッソ(・・・“反射”・・・)

“攻撃の反射”? どこかで聞いたような・・・


ロッソ「・・・! まさかッ!」

ハッと気づいた俺は、内ポケットの中の『てんとう虫』を取り出した。

ロッソ「・・・!」


やっぱり。

ぺしゃんこに潰れた鉛の弾が、『てんとう虫』に引っ付いていたのだ。


確か・・・『ゴールド・エクスペリエンス』で創られた生命は“攻撃をそのまま返す”という特性を持っているのだ。
ティーグレの撃った弾は、偶然にもコレに当たったのだろう。


ロッソ「・・・“偶然”」


“偶然”、だったんだろうか? これは・・・


もし・・・

俺が既に『てんとう虫』を“放してしまっていたら”?
諦めて“仰向けになっていなかったら”?
ティーグレが、(苦しめるために)頭部ではなく心臓を“狙っていなかったら”?


ロッソ「・・・・・・」

偶然・・・
そんなものよりももっと大きな、それこそ神懸り的な力が、俺には感じられた。

366第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:30:18 ID:3jzmhhTk0
ロッソ「ジョルノさん・・・」

俺は『てんとう虫』を握りしめて言った。

ロッソ「今ようやくわかりました・・・これが『運命』なんですね・・・!」


単なる“偶然”ではない。
これこそが有るべき『いま』なのだ。

神は俺を生かしてくれた。
だから・・・この先どうなるかわからないが、諦めずに精一杯闘おう。
そして願わくば、ネアポリスに喜びに満ちて帰りたい。


そう思いつつ、俺は立ち上がった。
『ガーネット・クロウ』は俺の傍で、静かに次の命令を待っていた。



応報部隊)ティーグレ/スタンド名『シスター・レイ』 →死亡。


* *


ヴェルデ『ボス! これは“罠”の可能性が高いッ! 今すぐここから出ましょうッ!』

リモーネ「なんだと・・・?」


ド ヒ ュ ン !!

ビオンド「のあッ!!」


ジョルノ「!」 リモーネ「!」

トランシーバーからヴェルデの声が響いた途端、突然の銃声がビオンドを襲っていた。


??「気付くのおっせー、こんなバカ共と“一緒に仕事してた”なんて・・・」


ジョルノ「・・・!」

リモーネ「て・・・テメェは・・・ッ!」


背後に数人の武装した男たちを従え、一人の青年がジョルノとリモーネの前に現れた。

??「FPSじゃよー『バックキル』っつってなァー、敵の背後から隙を見て撃つのが定石・・・ってかァー!」

367第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:31:02 ID:3jzmhhTk0
ジョルノ「ス・・・『スカッコ』!」


───彼は“元”パッショーネの諜報員。
ジョルノたちを裏切り、『教団』に寝返った張本人である。


リモーネ「おのれ・・・裏切りやがったな!」

リモーネは歯を剥き出してスカッコを睨んだ。

スカッコ「だってさァーこっちの方が金いっぱい貰えるんだもん。も〜一生遊んで暮らせる金が入ってくるんだよ!
    ことわざっぽく言うなら・・・『真面目なギャングより不真面目な宗教集団』ってかァー!」


リモーネ「ふざけんなよボケナスがァァァッ!!」ズオォォォッ!

激昂したリモーネがスタンドを解き放つ。
もう少しで、命を捨ててスカッコへ突進してしまいそうな勢いだ。


スカッコ「まぁまぁー、あんまりピリピリすると身体に悪いよー。つってもその前に撃っちゃうけどね、ソイツみたいに・・・って、あれ?」

ビオンド「ヘタクソ、ちゃんと脳ミソの真ん中狙え」


ビオンドは何事もなかったかのようにその場に立っていた。
彼は穴の空いた五本指の『グローブ』を手に持っている。


ビオンド「『タイプ:ワイルド』・・・触れたトコロの“状態”だけを『グローブ』にして引っ張りだせる能力だよ!」

そう言いながら、ビオンドは『グローブ』を手にはめ、近くの壁を殴った。


ガ ン ッ !


すると『グローブ』は消えてなくなり、壁にはポッカリと綺麗な穴が開いた。


スカッコ「うわっ、めんどくせー能力だなー。ボス以外は楽勝だと思ってたのに・・・」

スカッコはだるそうに頭を掻いた。


リモーネ「ボス・・・コイツらを滅する許可を乞う!」

リモーネは怒りの形相を崩さずに言った。

ジョルノ「そうですね・・・許可したいところですが、今は分が悪い。
    その前に、『ジョースター家伝統』の手段を使わせて頂きましょう」

スカッコ「?」


ジョルノ「“一時撤退”」パチン


ブウウウウウウウウウウウウウウウ〜〜〜〜〜〜〜!!

男ども「ぬおぉぉぉぉ━━━━━ッ!?」


突然、壁という壁がアブの群れに変わり、男たちは慌てふためいた。

スカッコ「おおおおお!! 待て待て焦んな!」


バシッ 「うぎゃあァァァ━━━!!」

うっかりアブを叩いたら最後、跳ね返った攻撃に身を晒すことになる。


スカッコ「・・・チッ!」

スカッコが気づいたときには、既にジョルノらの姿は無くなっていた。

スカッコ「くっそおおおお油断した、ぜっっってーに逃がさねぇ!!」

368第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:31:31 ID:3jzmhhTk0
* *


ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』ッ!!」 ズアァァァ!

ブ ン !


教祖「うむ・・・いつまで悪あがきを続ける気かね? いい加減苦しかろう」

教祖は、また俺の背後まで高速移動しながら言った。


完全にナメやがって・・・!

鈍感な俺にだってわかるぜ・・・
テメェが“苦しめるためにワザと弄んでる”ってことぐらいよォ!


ぜってーに・・・
ぜってーにコイツの能力を解き明かしてやる・・・ッ!

アイツらが裏切りを知ったならば、いつかこっちにやって来るはずだ。
それまでに・・・


教祖「哀れな男だ・・・そんなにも生き延びたいのか?」

ビアンコ「あぁ・・・生きてりゃ楽しいこと・・・いっぱいあるからよ・・・」


足下には無数の砂利がある。
コイツをカルニチーノのときみたいに“壁”に反射させて死角からぶつければ、デカいダメージを与えられるかもしれねぇ。


その前に、試しておきたいことがあった。
「奴の能力を解き明かすために」・・・


ビアンコ「俺はまだまだ若ぇしよォ・・・もっと人生楽しみてぇんだ。だから・・・ぜってーに生きてネアポリスに帰るッ!」

ポイッ

俺は砂利の一つを適当な所へ放り投げた。
そしてすかさず、『エイフェックス・ツイン』を教祖に仕向ける!

グオォォォ!
シュンッ!


またまた、教祖は俺の背後へ回りこんだ。

教祖「無駄だ。どんなことをしても君は助からない。
   過去に君がギャングの味方をした時点で、君の人生は狂った。ここで没する運命となってしまったのだよ!」

369第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:32:21 ID:3jzmhhTk0
ビアンコ「あァ〜、だったらその狂った人生、今『元通りになった』かもな」

教祖「なに?」


俺は背後に回った教祖に振り返りながら言った。

ビアンコ「テメェよォ、なんでさっきからこっちに攻撃してこない? 俺の周りをグルグルグルグル・・・苦しめるにしたって、完全に動けないくらいにボコってもいいだろ?
    それともなんだ・・・“俺の近くに、何かあんのか”?」

教祖「・・・・・・」


ビアンコ「なんか理由がありそうだよな・・・例えば、“俺の近くに寄ると、その高速移動ができねぇ”とか・・・」

教祖「・・・ほう」

教祖はまったく顔色を変えずに声を漏らした。


ビアンコ「ほうった石の動きで分かったぜ・・・おめぇが移動したとき、“石も一緒に加速した”。
    つまりよ〜、おめぇが速いんじゃあなくて、“俺が遅くなってる”ってオチじゃね? 俺の周りの“空間ごと”なァ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


教祖「・・・ふ、フフフッ。なかなか鋭いじゃあないか・・・
   意外だったよ。闇雲に襲ってきているだけだと思っていたが・・・」

教祖は目を閉じてうなずいた。


ビアンコ「だったらこっちにも勝機がある・・・おめぇ、これしきの程度で俺が動けないとでも思ったか?」

ダン!

教祖「!」

370第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:33:15 ID:3jzmhhTk0
教祖の意表を突き、一気に奴に接近する。

その際、俺は自分の真後ろに“壁”を張っておき、それを蹴るようにしてダッシュしていた。
───要するに、陸上で使う「スターティングブロック」の代わりにしたのだ。
エネルギーが跳ね返るおかげで、加速力も倍増だぜ・・・


ビアンコ「俺の方から接近すりゃあ、能力の意味はねぇよなぁ!
    俺のスタンドとテメェのスタンド、どっちが速ぇかガチンコだッ!」

ゴオォォォォ!


教祖「・・・そうか、本当にお互いのスタンドで勝負して良いのだな?」

教祖が意味深なことを言ったが、俺は気にも留めずに攻め込んだ。

ビアンコ「ドルミ━━━━━━ラ!!」

ブオォォォン!!



・・・・・・



ビアンコ「!?」



攻撃が・・・
“届かなかった”・・・?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



バカな、確実に奴に命中する間合いだったのに・・・!


教祖「ドルミーラ(寝ていろ)か・・・
   笑止。それは私のセリフだァッ!!」

ズガアアァ━━━ン!!



ビアンコ「・・・・・・」



ドサッ・・・


頭をやられた。
砕かれた・・・いや、吹っ飛ばされたか?



ビアンコ「・・・!」


・・・なぁ〜んだ、“そういうことか”。
分かっちまったよ・・・くだらねぇ・・・


この教祖とやら、もしかしたら「大したことない奴」かもしんねぇぞ・・・
まぁ、今さら気づいても意味ねぇけどな。

いやぁ、負けた負けた。

371第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:34:04 ID:3jzmhhTk0
教祖「フフフハハハハハハ! 始めからかくも殺されていれば・・・ぬッ!? ぐあああああッ!!」


教祖の悲鳴が聞こえた。


すげぇや・・・まさか成功するとはな・・・

走り出すとき、砂利の一つを後ろ向きに投げてやったんだ。
“壁”に反射して、あわよくば教祖に当たればな〜・・・なんて思ってたんだが・・・


教祖「く・・・フフッ・・・最後の最期まで・・・抜け目のない男だったな、ビアンコ・・・
   我が敵として尊敬に値する。私の左目の『聖痕』に石を撃ちこむとは・・・」

そりゃどーも。
俺も最後におめぇに誉められるとは思ってなかったよ。


教祖「私としてはねぇ、君の“壁”の存在をずっと警戒していたのだが・・・君が一枚上手だったようだ。
   ・・・だが残念ながら、『運命』には逆らえなかったようだがね・・・」

いやいや、結果的におめぇに一発ケガさせられて、俺は満足だぜ。

まぁ、あとはロッソたちに任せるとするさ。




ところでよ・・・

・・・やっぱ“神サマ”って、いるのかもしれねぇな。


色んな人間に、色んな人生を与えてくれる。
生まれてから死ぬまで幸福の絶頂な奴もいれば、ただツラいだけの一生を送る奴もいる。

でも、“それでいいんだよ”。

最終的には、「生きた」ってことには変わりねぇんだからよ。



俺の場合・・・なんだか楽しいのかダルいのかよく分からん人生だったが・・・

ただ一つ言えることは・・・







「幸せだったよ」。

372第13話 最後の晩餐 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:35:06 ID:3jzmhhTk0
* *


ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」


嘘だろ・・・
勘弁してくれ・・・


さっきまでハッキリ感じられたビアンコの感情が・・・
いきなり、“途絶えた”・・・!


それはナシでしょう、ビアンコさん・・・
失神とかでもしててくださいよ・・・


俺はビアンコの感情を察知した方向へ、全速で走り続けた。

『ガーネット・クロウ』に殴りつけられた身体には無惨な痣が無数に残っていたが、心臓を撃ち抜かれて失血するより遥かにマシだった。



────────



ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」


ビアンコに再会するまで、それからさほど時間はかからなかった。


ロッソ「・・・ビアンコさん!!」


路地裏の奥────

俺が彼に初めて出会った場所と似ていた。


教会風の建物。
その眼前にしては些か不釣り合いで・・・物騒な、血溜まりの中に・・・


俺は走って彼に近づく。


ロッソ「・・・ビアンコさん?」


・・・間違いなかった。



俺は、気持ちが整理できないまま、ずっとしばらく彼を見続けていた。


そして、乱れた息が整ってきたころ・・・

心の中に大きな穴が開いたのを自覚し、ひっそりと呟いた。


ロッソ「ビアンコさん・・・」







ビアンコ/スタンド名『エイフェックス・ツイン』   →  死亡。




to be continued...

373 ◆LglPwiPLEw:2011/02/26(土) 22:36:36 ID:3jzmhhTk0
13話終了。


初めて・・・味方をやっちまったァ〜〜〜♪
でも想像してたよりなんてことはないな

頑張ったビアンコさんに敬礼ッ!


使用したスタンド

No.2845
【スタンド名】シスター・レイ
考案者:ID:nZ.6w6DO
絵:ID:/Tw/RQI0(大量投下様)


No.3505
【スタンド名】タイプ:ワイルド
考案者:ID:L98zvuCv0
絵:ID:DUz177wA0

安価キャラは次回大活躍? の予定です。
リモーネさんのスタンドについても乞うご期待

374名無しのスタンド使い:2011/02/26(土) 22:54:03 ID:???0
びっビアンコさーーーーん!

地味にジョルノが伝家の宝刀を使っててにやりとした

375名無しのスタンド使い:2011/02/26(土) 23:37:27 ID:???0
おちゃらけキャラは死なない…私にもry

それにしてもビアンコさんの最期の描写がカッコ良すぎる…っ!

376 ◆R0wKkjl1to:2011/02/28(月) 08:54:15 ID:XH406GUEO
ビアンコさん・・・格好良すぎるよアンタ・・・

更新乙でしたッ!

ボスのスタンド違いましたwww

377第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:00:03 ID:f74Fwbc20
ドサッ


俺はその場に、無心でへたり込んだ。

ロッソ「・・・・・・」


眼前にあるのは、ビアンコの亡骸。

紛れもない事実だ。


「嘘だ」とか、「冗談だろ」とかいった真実を認めたくない気持ちはない。

彼の死に対して、嘆きとか、悔しさといった感情も湧かなかった。


あるのは、ただ「無」のみ。


「無」が「ある」というのも奇妙な表現だが・・・

ビアンコという存在がこの世から消滅したことで、俺の感情はただの空虚なスペースとなってしまった。



〜〜〜〜〜〜・・・


懐から、『てんとう虫』が自力で這い上がってきた。
そして俺の肩まで登ると、音も無く飛び立っていった。


これからジョルノのところへ戻るのだろうか。


ロッソ「・・・・・・」

『てんとう虫』が遥か上空に飛び去って見えなくなるまで、俺は意味もなくそれを見守った。



空はますます明るさを増している。


薄紫色の空、白い雲、銀色の月。

それらはまるで写真のように天上に張り付いている。
しかしそれらは、距離は遠けれど確実に“そこに存在していた”。


俺は無我の境地のなかで、それからに対する憧れを無意識に感じていた。

「こんなときに、俺は何を・・・」などと理性が働くこともなく、
感覚と、感情と、理性と、悟性と、知性とが完全に切り離された状態のなかで・・・

ただ意味もなく、空を仰いでいた。

378第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:00:38 ID:f74Fwbc20





“それ”が聞こえなかったら、俺は永久的にそのままだっただろう。

真正面にある教会風の建物から、ピアノの音色が流れてきた。


♪♪♪♪〜


ロッソ「・・・!」

普段ピアノ曲をよく聴いているからか、その澄んだ音色にいち早く反応した。


朝の静寂を崩さない、繊細な表現。

その響きはビアンコの魂を浄化してくれているようでもあったし・・・
何より、「俺を呼んでいるかのようであった」。


当の曲目が、俺が何百回と繰り返し聴くほど好きだった、ドビュッシーの『ベルガマスク組曲』だったのだから尚更だ。


自然と俺は立ち上がった。

そして、おぼつかない足取りで建物へ向かっていった。




玄関に入ると、ピアノの音は上から聞こえてくる。


木でできた階段を登り、廊下を歩くと、ピアノのある部屋の前にすぐ辿り着いた。


ドアノブに手をかけて回そうとしたとき、一瞬だけ自分の理性が自我に訴えかけた。

“これは敵の罠なのでは?
ビアンコを殺した犯人が、俺を誘っているのでは・・・?”


だが・・・俺は“我慢”ができなかった。
この美しい音色を、壁一枚隔てることなく「生」の響きで聴きたい・・・!

その欲求に、打ち勝つことは不可能だった。

379第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:01:14 ID:f74Fwbc20
ガチャリ

バアァ


ドアを開放すると、部屋の中で渦巻いていた響きの奔流が、一気に俺に降りかかってきた。


───カーペットが敷かれ、品のいい調度品が点在する小さな部屋に、木製の茶色いアップライトピアノが一台。

その前に座って演奏していたのは、日の光のように明るい金髪に黒いジャケットの青年だった。


ロッソ「・・・・・」


それから俺は身動き一つ出来なかった。

曲がピアニッシモの部分では息すら止めざるをえなかった。


歌劇のアリアのようなドラマチックさを持つ第一楽章「前奏曲」は、ほとんど終盤からの観賞であった。

第一楽章が終わっても、演奏者の男は部屋の侵入者を気にも留めず、すぐに続きを弾く準備をした。



シンプルかつ情熱的なメロディが焔のように絡まり合う第二楽章「メヌエット」。

俺の感情は「無」のままにして、曲に合わせて律動しているのが感じられた。



そして説明不要、これ以上ない静かな美しさを湛えた傑作、第三楽章「月の光」。

もし俺がここで一歩でも動いたら・・・
この「月の光」は、壁に叩きつけられたグラスのように砕けてしまうことだろう。


───息を呑む美しさとは、まさにこのことだった。

「有」と「無」のあいだを彷徨うような、至上の繊細さ。
それを、彼の十本の指が奏でる。


この男はプロか、アマチュアか?

というより、人間にすら思えなかった。
『ベルガマスク組曲』を弾ききるために生まれてきた存在・・・
なんて言ってはオーバーすぎるか。

380第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:01:54 ID:f74Fwbc20
組曲の最後を締めくくるのは、第四楽章「パスピエ」。
「月の光」のメロディがリズミカルな舞曲となって再現される。


・・・あぁ、もう終わりなのか。

もっと聴きたい。彼のピアノを。


それからほとんど経たないうちに、名も知らぬ青年の『ベルガマスク組曲』は完結してしまった。

俺はその後一時間くらいは余韻に浸っていたかったが、終わってすぐに青年が話を始めたので、それはできなかった。



??「ドビュッシーってよォ・・・」

ロッソ「・・・」


青年は椅子から立ち上がり、楽譜を持って俺に近づいてきた。


??「曲はいいんだ、曲は。弾いててスゲー楽しい。

  ・・・けどよ〜、コイツって楽譜の指示をフランス語で書くんだよなァ〜〜〜! それが納得いかねェッ!
  フツーはイタリア語だろ! アンダンテとかアレグロとかよォ。いちいち翻訳すんのが面倒くせぇんだよ! まったくムカつくぜェ〜〜〜ッ!」

青年は楽譜を指で差して叩きながら言った。


ロッソ「・・・」


??「お前。クラシックは好きか?」


青年が質問してきたので、俺は絞り出すようにして声を出した。

ロッソ「・・・広く浅く・・・ピアノは特に好きです」


??「おぉ〜〜〜ッ! じゃあ馬が合いそうだな! オレもさ、特に時代には固執しねぇんだわ。
  グレゴリオ聖歌からガーシュインまで、も〜何でも来いだぜ」

ロッソ「・・・」


彼は・・・
彼は誰なのだろう?

敵か味方か。
いや、そんな区別は今やもう無意味にさえ思えた。

なぜなら彼の放つ“力”のようなものに同調し・・・
俺は、無性に「安らげた」からであった。


??「あ、名前言うの忘れてたな。
  オレは『ブルーノ』ってんだ。よろしくな!」

381第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:02:16 ID:f74Fwbc20
* *


バァ━━ン!!

ドォン!!
ドォン!!


ミスタ「チッ!」

ヴェルデ「アラゴスタ! イザベラを護ってくれッ!」

アラゴスタ「オッケー!」


厄介なことになった・・・

今の俺たちは、武装した男どもからひたすら逃げることを余儀なくされている。


『罠』だ・・・

初めから俺たちをここに閉じ込めるつもりだったんだ!

クソッ! なぜ・・・
なぜもっと早く気づかなかったんだ! こんなチープな罠に・・・!


俺が、気づかなかったせいで・・・
こんな・・・こんなことに・・・


ミスタ「『ピストルズ』ッ! “脱出口”はねぇか!」

S・P『ダメダッ! コノ建物ノ周リ、全部ガアイツラニ囲マレテイルッ!』

ミスタ「クソ・・・殺るか殺られるか・・・だな」


ミスタはリボルバーの弾丸をリロードすると、俺たちに向かって言った。

ミスタ「おめぇら、これから先は本気のぶつかり合いだ。ぜってーにヘコタレるんじゃあねーぞ!」


アラゴスタ「・・・わかった!」

イザベラ「大丈夫です!」


“吹っ切れた”んだろうか、二人は。この状況で意気込めるなんて・・・

いや違う。二人は初めから「覚悟」ができていた。このモチベーションを維持してきたんだ。


一番ビビっているのは・・・
なんだ、“俺じゃあないか”・・・

382第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:02:41 ID:f74Fwbc20
バシャアァァァァ!!


「!!」


突然、大量の水をぶちまけたような音が近くで聞こえた。

アラゴスタ「・・・あッ!」

ミスタ「テメェッ、どっから・・・!」


音がした方を見ると、そこにはヤケにカジュアルな出で立ちの、ポニーテールの男が立っている。


??「・・・・・・」

ズルズルズルズルズル


彼が通ってきた“壁の穴”は、次第に謎の液体がそれを塞いでいき、やがて完全な壁に戻った。


ミスタ「コノヤロ! 撃つぞ!」

??「・・・・・・」


男は何も言わずにこちらに近づいてくる。

ド ン!!
ガァン!

ド ン!!
ガァン!


ヴェルデ「・・・!?」

ミスタの放った弾丸は、男の前に現れた巨大な“板”のようなスタンドによって防がれてしまった。


ミスタ「やっぱな・・・スタンド使いのお出ましか」

??「ハイハイハイハイハイハイ、あんたらがギャング御一行ね。チャチャッと済ませよーか・・・」

男は軽い口調で言葉を発した。


ヴェルデ「ナメるなよ。4対1で勝てる自信あんのか?」

??「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、俺の役割は“誘導する”だけだし・・・勘違いしないで」

ギュイン!


「!」

“板”のようなスタンドが、今度は男の足下に現れた。

383第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:03:32 ID:f74Fwbc20
??「『サーフズ・アップ』・・・」

ヴェルデ「・・・この・・・!」

危険を感じ、俺は咄嗟に小銃を構えた。


ザバアァァァァ!!

ミスタ「ぬおッ!?」

イザベラ「キャアッ!」


“一手”遅し・・・
突如目の前に現れた「波しぶき」に、俺たちは怯むしかなかった。


ドバアァァァン!!

アラゴスタ「うああぁぁぁぁぁぁ!!」

全員が一瞬で“波”に呑み込まれ、上下左右が認知できない状況に陥った。


ヴェルデ(まずい・・・)


“誘導する”だと? どこに?

まさか・・・敵群のド真ん中・・・?



??「ハイハイハイハイハイハイ、とーちゃーく」


“波”が急激に落ち着いた。

ズズズズズズズ・・・

濡れた身体も服も、水が引くとともに乾いていく。


流された先に辿り着いたのは・・・

“中庭”だった。


ただ緑の芝生だけが広がった、嫌に殺風景な中庭。
周囲は建物の柱に囲まれていた。


ビオンド「ヴェルデ! ミスタ!」

「!」


ビオンドだ。
リモーネやボスの姿もあった。

ヴェルデ「どうしてここに!?」

ビオンド「知らねぇ・・・屋敷から出ようとしたら急に“床が水流になった”んだ。
    そんでトイレのウンコみてぇに流された先がココさ」

384第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:04:29 ID:f74Fwbc20
アラゴスタ「・・・ロッソとビアンコは?」

リモーネ「・・・・・・」


アラゴスタの質問に、苦い顔をするリモーネ。

ヴェルデ「さっきの時間に・・・何があったんだ?」

俺がさらに質問を加えた。

突入する直前・・・
唐突な“中止命令”。ボスの取り乱した声。


まさかあの時、ロッソとビアンコに何か・・・

ジョルノ「・・・」

イザベラ「・・・・・・」


スカッコ「おおおーーっ! ヴェルデにミスタ、超久しぶりィ!」


剽軽な男の声が、緊張を打ち破った。
“俺がよく知っている男”だった。

ミスタ「な・・・!」

ヴェルデ「テメェ・・・! やっぱり・・・」


パッショーネの諜報員・スカッコだ。


ミスタ「俺たちのスパイじゃあねーか!」

リモーネ「どうやら俺たちは、奴にしてやられたようです・・・アイツは嘘の情報を俺たちに伝えたんだッ!」


ミスタ「・・・ッ! クソがッ!」

ミスタはリボルバーをスカッコに向けた。

ヴェルデ「! お待ちくださ・・・」

ドォン!!


俺の制止は間に合わず、ミスタはリボルバーを発砲した。


ミスタ「・・・ぬッ!?」

スカッコ「♪〜」

弾丸が撃ち込まれたにも関わらず、スカッコは平気な顔をしている。

385第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:04:56 ID:f74Fwbc20
ヴェルデ「今すぐ銃をしまってくださいッ!」

すぐに忠告するも、ミスタは銃を構えたまま固まっていた。

ミスタ「・・・! なんだコイツは・・・“引っ張られる”ッ!」


グググ・・・

ガシッ!

咄嗟に俺はミスタの銃を掴み、助太刀を試みる。

しかし・・・相手の予想以上のパワーに、呆気なく力負けしてしまった。


パッ

ガシン!

スカッコ「リボルバー、一丁ゲットォ!」


ミスタ「なんだアイツはッ!? 銃を引き寄せやがったッ! 『磁石』の能力なのか?」

ヴェルデ「いや違う・・・奴のスタンドは・・・!」


スカッコ「フヒヒヒヒヒ!」 ズズズズズズ・・・




スカッコは胴体にリボルバーをくっつけると・・・それが次第に身体に「めり込んで」いった。


アラゴスタ「じゅ、銃を身体に・・・“取り込んでる”!?」

ヴェルデ「アイツのスタンドは“武器を吸収して強くなる”・・・
    かつて俺はアイツに武器を持っていかれて、手がつけられなくなったことがあるんだ・・・」

スカッコ「ヒヒヒヒヒヒッ! 覚えててくれたかヴェルデ! 俺の『ネイキッド・アームズ』をよォ!」


スカッコの傍には、すらりとした体格のスタンドが姿を現していた。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

386第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:05:30 ID:f74Fwbc20
リモーネ「なんだと・・・それではヴェルデの能力が“使用できない”ではないか!」

ヴェルデ「・・・・・・」

俺は歯を食いしばった。


その通りだ・・・

しかし、ここまで来て・・・なぜ、“俺が足手まといに”ッ!
こんな・・・こんな理不尽なことが・・・


??「ほらほらほらほらほらほらスカッコ・・・自慢話はやめて、チャチャッと終わらせようぜ」

俺たちを誘導してきた男が、スカッコに寄って話しかけた。


スカッコ「おぅゼブラート。早起き苦手なのによくやったな!」

ゼブラート「この後また寝るわ・・・夕方ごろまで」


アラゴスタ「ちょっと待ってッ! こっちは7人もいるんだよ! どうやって勝とうと・・・」

アラゴスタが声を張ったが、スカッコはすぐに笑い声を上げた。

スカッコ「フヒャハハハハハ!! 小学生はやっぱ能天気ですねー!」


ビオンド「アラゴスタ・・・その通りだ、油断するなよ。
    映画とかじゃあこういう時・・・周りに狙撃隊みてぇなのが・・・グル〜ッと囲むんだよなァ〜」

アラゴスタ「・・・!」


ビオンドの言った通り、屋根の上には、銃を持った男たちが大勢立っていたのだ。

スカッコ「ここでみんな死ねば、ぜーんぶ俺たちの手柄・・・報酬がっぽりゲットだぜ! ってかァー!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ト ゙ド ド ド ド ド ド ド ド

リモーネ「チッ!」

387第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:06:00 ID:f74Fwbc20
全員が愕然とするなか、ボスだけが平素な口調で言った。

ジョルノ「さて、どうしましょうか・・・とりあえず、中庭の外、柱の陰に隠れたほうがいい」

イザベラ「・・・」


ビオンド「よっしゃ! いこうぜ!」

リモーネ「お互いのスタンドで身を守るんだッ!」


「!!」

バッ!

全員がテレパシーでも送りあったかのように、ほとんど同時に動き出していた。


スカッコ「撃てェッ!!」


ドバババババババババババババババァ!!


動き出した途端、雨霰のように降り注ぐ鉛弾。


俺に降りかかる弾は、ミスタの『セックス・ピストルズ』がチームプレイで打ち返した。

アラゴスタの『スターフライヤー59』は、“宇宙”の中の「ブラックホール」に弾丸を吸い込ませ、イザベラを守った。

ビオンドとリモーネは心配無用。各々のスタンドが安々と防いでいた。


あれっ、ボスはどこに・・・


アラゴスタ「イザベラッ! 先に柱に隠れてて!」

イザベラ「分かったわ!」


ボスは・・・“中庭のど真ん中”にいた。
そして仁王立ちのまま、男たちを見上げている。


スカッコ「おいどうしたテメーら! ボスを撃てよ!」

「いや、“撃ってるんッス”! でも・・・なんか・・・なんかヘンなことにッ!」

スカッコ「・・・なにー?」


ジョルノ「・・・・・・」

388第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:06:48 ID:f74Fwbc20
男たちが怯えている・・・
何が起こったんだ・・・?


ミスタ「おいヴェルデ、しっかり見とけよ。滅多にお目にかかれねぇ・・・
   アレが、俺らがボスの『本気モード』だ!」


ジョルノ「・・・・・・」ズオォォォ

ヴェルデ「!」


あのスタンドは・・・
ボスの『ゴールド・エクスペリエンス』ではないぞ・・・

全てのものを見透かすかのような、鋭い眼光。
世界中を照らす力すら感じられるオーラ。

ミスタ「やっぱ“矢”の力はゼツダイだぜェ〜ッ!」


ゼブラート「おいおいおいおいおいおい・・・ヤバいんじゃあねーの?」

スカッコ「なるほど、あれが・・・」


ジョルノ「『ゴールド・エクスペリエンス』・・・『レクイエム』ッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
  

ヴェルデ「・・・!」

ミスタ「・・・」

リモーネ「・・・」

ビオンド「・・・」

アラゴスタ「・・・!」


バシュッ

イザベラ「・・・あ゛っ」


  ! ?


嫌な音がした方向を見て、俺たちは驚愕した。

どこから現れたのか・・・“柱”から、鉄槍が一直線に伸びていた。


ヴェルデ「イ・・・」


ドシュン! ドシュン!


イザベラ「!」

さらにもう二本・・・
唯一、“柱”に隠れていたイザベラの首元と左胸を、的確に貫いていた。


イザベラ「・・・・・・」

ジョルノ「・・・!」

アラゴスタ「イザベラあああああアアアアアァァァァ!!」

389 ◆LglPwiPLEw:2011/03/06(日) 23:07:46 ID:f74Fwbc20
今日はここまでです

SSアワード・・・面白そうですね。色々と楽しみです。
みなさん是非投票を! ・・・いや、ガネクロにとは言いませんが。


<初登場スタンド>

No.2951
【スタンド名】 サーフズ・アップ
考案者:ID:AjxOnrQo
絵:ID:wMNzNoDO (マック様)

No.887
【スタンド名】ネイキッド・アームズ
考案者:ID:8/+90UC8O
絵:ID:YTR3k8v5O (HWとかの絵師様)

390名無しのスタンド使い:2011/03/07(月) 19:03:19 ID:???0
更新乙!
そりゃGER無双なんて簡単にはさせてくれないですよねー

391名無しのスタンド使い:2011/03/08(火) 01:15:09 ID:Y5SsL6w60
乙様でした!

>雨霰のように降り注ぐ鉛弾
を大方弾くスタンド使い達マジパネェ。
原作でもだけどスタンド使いってチートだわ。

392 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:02:18 ID:???O
>>391
クレイジー・Dもバッドカンパニーの弾丸を全部弾いてましたからね…
コイツらならそれくらい出来そうかと思って書きました

少しですが更新します

393第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:05:10 ID:???O
イザベラ「あ゛・・・あ・・・」


悲惨だった。
声にならない叫びをあげ、涙を流すイザベラ・・・

アラゴスタ「うああぁぁぁぁぁぁ━━━━!!」

イザベラの代わりとも言わんばかりに絶叫しながら、アラゴスタは駆け出した。

リモーネ「待てッ!」


ジャギン!

アラゴスタ「ッ!!」

また“柱”から・・・
今度は無数の「剣」が発生し、アラゴスタに襲いかかった。

アラゴスタ「コノォッ!」

ガン!
ガン!


紙一重のところで、アラゴスタは剣を防いだ。


ミスタ「なんだよあの“柱”はァ!」

ビオンド「まさか・・・“まだスタンド使いがいる”ってのか!」


スカッコ「ヒヒヒ・・・RPGじゃあよー、敵が複数出てきた場合は“弱い回復役から倒す”のが定石・・・ってかァー!」

??「スカッコ、調子に乗らないで。こんなの相手の戦力を削いだことにならないわ」
「!」


女の声だ。
その声は、イザベラの近くの“柱”の陰に潜んでいた。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

ゼブラート「パンテーラの言う通りだし・・・あぁ眠ぃ」

ゼブラートはまったく他人事のように欠伸をしている。

394第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:07:16 ID:???O
すると柱の陰から、眼鏡の女が姿を現した。

パンテーラ「呑気にしてらんないわよ・・・『センテンスト』ッ!」


ガ キ ン !

ミスタ「危ねぇッ!」

ヴェルデ「!」


ガ キ ン !


俺の近くの“柱”から、イバラのような有刺鉄線が大量に伸びてきた。
鉄線は俺の背後を掠め、隣の“柱”に突っ込んでいった。

ガガガガガガガガガ!


「・・・!」


気づいたときには、周囲の“柱”の間に、無数の有刺鉄線が張り巡らされていた。

ビオンド「逃げ場を・・・塞がれた・・・」


アラゴスタ「イザベラァァァ━━━━━ッ!!」


“柱の外”にいるイザベラは、依然串刺しにされたままだ。

アラゴスタ「イザベラを殺すなァ━━━━!!」

パンテーラ「あぁ、ガキはうるさい・・・早く殺っちゃって」

スカッコ「おぅッ!
   おい野郎ども、ブッ放せ!“ボス以外”になァ!」


ゼブラート「ちょ・・・スカッコ、見ろよ!」

スカッコ「んぬッ!?」

スカッコは上を見上げて驚愕した。
続けて俺たちも、その「異常」な光景に息を飲んだ。


屋根の上にいた男どもが、満身創痍でブッ倒れている。
一人残らず、ボコボコにシメられていた。

パンテーラ「い・・・いつの間にッ!」

スカッコ「誰がやったッ!」

395第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:08:48 ID:???O
ジョルノ「・・・」ニヤリ

不敵に微笑むボス。

ジョルノ「ようやく来てくれましたね・・・我々の“もう一人の味方”が!」


リモーネ「“味方”!?」

ミスタ「・・・ヘッ、おっせぇよ」


ギュン!


ヴェルデ「んッ!?」

すぐ近くを、音も無く大きな物体が通り過ぎた。
余りに速すぎて、風が遅れて吹いてきていた。

その物体は柱を伝って屋根を登り、あっという間に屋敷の外に消えていってしまった。


ビオンド「なんだ今のはッ!?」


ヴェルデ(あれは・・・まさか・・・)


アラゴスタ「あれ・・・イザベラが・・・」

パンテーラ「・・・なんですって!?」

イザベラが“刺されていた”場所に、全員の目が釘付けになる。


───イザベラは、柱から発生したトゲから外され、“消えていた”のだ。

それだけではない。有刺鉄線でできた囲いの一部が大きく歪み、人が入られる大きさの穴が空いていた。


パンテーラ「そんな・・・いつの間にッ!?」

スカッコ「ふざけんなよ・・・“味方”だと・・・?
   今のヤツだ、追っかけろ! ゼブラート!!」

ゼブラート「ハイハイハイハイハイハイ・・・言われなくとも・・・」


ギュイン!
ズザザザザザザ・・・

396第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:11:17 ID:???O
板・・・もといサーフボードのようなスタンドに乗り、ゼブラートが出撃する。
通った地面や壁が液状化して波打ち、自由自在な移動を可能にさせていた。


リモーネ「“味方”とはなんですか!? 何も聞いていませんッ!」

リモーネが倒錯したようにボスに聞き寄った。


ミスタ「ヴェルデ・・・おめぇなら知ってるだろ?」

ミスタが俺に質問してくる。

ヴェルデ「本当ですか・・・? “アイツ”が?」

ミスタ「そうだぜ・・・こんな派手な登場の演出はいらねぇと思うがな!」

ニヤリとした笑みを浮かべながらミスタが言った。


パンテーラ「間違いないわよ・・・あの動き・・・“チレストロ”だわッ! 応報部隊にいた!」


ジョルノ「そう・・・あなたがた“教団”のほうにも居たってことさ・・・
    イスカリオテのユダのような『裏切り者』がね!」


パンテーラ「くっ!」

ビオンド「・・・」

リモーネ「・・・」

アラゴスタ「・・・!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


スカッコ「ひっ、ヒヒヒヒヒヒヒ・・・こいつぁ面白ぇわ! 俺と同じ“裏切り者”がこっちにもいたとはッ!
   もうぶちギレたッ! これで心置きなく殺し合いができるぜッ!!」

ジャギッ!

397第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:15:59 ID:???O
スカッコは自分の人差し指を俺に向けた。
奴の指先は、ミスタから奪った「リボルバー」の形に変形していた。


スカッコ「ボスさんよォ! その無敵のスタンドで自分は守れても、役に立たねぇ部下を守れるかァ!」

ジョルノ「まずいッ!」

ミスタ「ヴェルデッ!」


ヴェルデ「ッ!」


俺は思わず目を塞ぎ、腕で頭を隠した。


ド ォ ン ! !


・・・・・・

ブジュッ! ブジュッ!


スカッコ「ぐ・・・なんだと?」

俺が目を開けると・・・
スカッコの指先がグシャグシャに潰され、血が吹き出ているのが見えた。

リモーネ「ボス! あれはッ!」

ジョルノ「・・・!」


俺とスカッコの間を、大きな虫が飛び回っている。

ジョルノ「“てんとう虫”だ・・・ロッソが放したんだ!」


ミスタ「なに、ロッソ? あいつ別の場所にいるのか?」

ビオンド「ボス・・・先に行ってください。こんなヤツら、俺たちだけで充分だ!」

詳しい経緯は知らないが・・・
どうやらロッソとビアンコは、別の場所で戦っているみたいだ。


ジョルノ「そうしましょう・・・後は任せました!」 ゴウッ!

まばゆいオーラを発しながら、『ゴールド・E・レクイエム』が姿を見せる。


グゴゴゴゴゴゴゴ・・・

すると、地面から大木が沸き上がるように生えてきた。
大木はボスを乗せてさらに伸びていき、あっという間に屋根の高さに到達する。

そしてボスは屋根へと跳び移り、屋敷の外へ駆けていった。

398第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:19:21 ID:???O
スカッコ「こん畜生・・・! 逃がしたくねぇが、“逃がすしかねぇな”・・・」

ビオンド「ヘッ! さっきまでの余裕が丸崩れだなぁ、裏切り者のスカッコさんよ!
    俺たちを皆殺しにできたなら追っかけてもいいだろうよ!」


リモーネ「・・・」 アラゴスタ「・・・」 ミスタ「・・・」 ヴェルデ「・・・!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

バ ン


*   *


ビュウ━━━━━!


朝日が照らすミラノの街を、ひとつの影が音もなく高速移動していた。

道路から建物の外壁へ、外壁から道路へ。
文字通りの縦横無尽。風のように疾走している。


イザベラ「!」


イザベラが気づいたときは、強風が自らの毛髪をかき乱していた。
それよりも彼女を驚愕させたのは、自分を抱えて疾走している“女性”の存在であった。


イザベラ「あ・・・あなた・・・!」

チレストロ「挨拶は抜きよ。貴女達がまだネアポリスにいたとき・・・ギャングのボスと一緒に闘う約束をしてたの」


チレストロは状況などものともしないような表情で話した。

チレストロ「貴女のお腹のケガも治してあるわ。『生命』が入った小物をいくつか渡されてたからね」

イザベラ「・・・!」


確かに、腹部に開いていた穴はすっかり塞がれていた。
・・・痛みはまだ激しかったが。

399第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:20:55 ID:???O
チレストロはフッと後ろを振り向くと、僅かに苦い顔を見せた。


チレストロ「追ってきたわ・・・ゼブラートって男よ」

イザベラ「に・・・逃げるんですか? どこへ?」

チレストロ「とんでもない。厄介な男は懲らしめるまでよ。その後で、貴女を安全な場所に置いておくわ」

イザベラ「そんな・・・私を抱えたまま闘うんですかッ?」


するとチレストロは、イザベラに微笑を向けて言った。

チレストロ「なんてことはないわよ。貴女が痩せてるおかげ」




ザバアァァァァ!


───異様すぎる光景だ。

ミラノの街の中を、スピードスケートのように猛スピードで滑る女。
それを追いかけるのは、大波を立たせながら市街地でサーフィンをする男だ。

互いの速度は、ゆうに100km/hを越えているだろう。


ゼブラート「やれやれやれやれやれやれ・・・もっと早く終わると思ったのに・・・面倒くせぇ」

アスファルトの波に乗りながら、ゼブラートは独りで呟いていた。

ゼブラート「『アーケイディア』・・・“摩擦力を操作できる”とか言ってたな・・・」

ズザァ━━━━!!

ゼブラートは方向転換すると、 建物の壁を一気に登り始めた。

400 ◆LglPwiPLEw:2011/04/11(月) 20:32:25 ID:pR9xrV6.O
うむ…携帯からの更新はやりづらい
できないよりはマシですけどね



初登場スタンド

No.649 【スタンド名】センテンスト
考案者:ID:2el2af7dO
絵:ID:LFVDdZwjO(顔も持参)


最近のSS板が寂しいよォ〜、みんな頑張ってけろ〜!

401名無しのスタンド使い:2011/04/11(月) 23:16:35 ID:4t3rIYqo0
更新おつ!
チレストロ、いつか再登場するだろうと思ってたけどここでくるとは…

それにしても
>チレストロ「なんてことはないわよ。貴女が痩せてるおかげ」
このセリフ、かっこよすぎますわww

402名無しのスタンド使い:2011/04/12(火) 21:57:06 ID:mjChdSycO
チレストロがかっけえwww
クールな表情でイザベラ抱き抱えてる姿が容易に想像できるwww
乙でした!

403名無しのスタンド使い:2011/04/13(水) 19:27:32 ID:0Q593c62O
更新乙ですッ!

チレストロが誰だか忘れちゃってて読み返しちゃいましたwww
格好いいぃ〜〜ッ!!

404 ◆LglPwiPLEw:2011/04/13(水) 23:34:41 ID:???O
わかりづらい☆今までのあらすじ(各話ごとに)


1.ロッソ、ビアンコに絡まれる。コロネ、ビアンコをシメる。

2.ロッソとビアンコが仲良くなる。ヴェルデ登場。『ガーネット・クロウ』で敵を初撃退。

3.ロッソ、ティラミスを買う。敵のチレストロに撃たれるがイザベラに救われる。チレストロ、改心して逃走。

4.ヴェルデから敵は『教団』だと聴かされる。ビアンコ、昔の親友とケンカ。ビアンコの勝ち。

5.ロッソ&ヴェルデ、アラゴスタに会う。アラゴスタ、一時プッツン。

6.ロッソとイザベラがイチャイチャする。

7.アラゴスタまたプッツン。敵を撃退。

8.コロネ、敵アジトに乗り込もうと決意。面接の結果、ロッソらも付いていくことに。

9.車に乗ってさあ戦場へ。ヴェルデ、運転しながら敵撃破。

10.PAで戦闘。ロッソ&ビアンコ、いかれた敵撃破。

11.同じ頃、イザベラ&アラゴスタがいかれた敵撃破。

12.敵アジトにて怪しい男たち・ブルーノとアッー!ズーロが会話。そのころロッソはトラックに乗った敵二人を撃破。

405 ◆LglPwiPLEw:2011/04/13(水) 23:37:56 ID:???O
13.ロッソ一行、戦場ミラノに到着。コロネ、ワキガらと合流。二手に分かれてアジトを囲む。
  そんな時にビアンコが敵の術中に。ロッソ捜しに行く。慌ててアジトに突入してみたら罠でした。
  ビアンコ、ホモだち二人を追って真のアジトへ到着。教祖にフルボッコにされ、目にケガを負わせるも敢えなく死亡。
  ロッソ、途中で敵を一人なんとか撃退。ビアンコを見つけたが時すでに遅し。

14.絶望するロッソをピアノの演奏で惹きつけたのはホモだちの片割れ・ブルーノ。ロッソのケツが危ない!
  そのころニセのアジトではコロネたちが戦闘。敵スタンド使いはチャラい裏切り者、サーファー、メガネ女の三人。
  コロネたち、サーファーにひと纏めにされて追い詰められる。コロネが例のチートを解放するも、イザベラがメガネ女に串刺しに。
  その時、イザベラを救ったのは、3話あたりに出てきたチレストロだった! ←今ここ



WQ先生をならって一時間くらいで作った。反省はしていない。

406名無しのスタンド使い:2011/04/14(木) 01:38:57 ID:???0
サニレさんの描いた集合絵が現実となったな…
というかそっちに合わせたのかな

407第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:33:54 ID:HhFLQcLgO



チレストロ「消えたわね・・・どこに行ったのかしら・・・」

チレストロは減速しながら、素早く周囲の状況を伺った。
少し進んだところで、完全に停止する。


───鳥の鳴く音すら聞こえない。


イザベラ「死角から襲うつもりかも・・・」

チレストロ「そうね、でも私の死角に入ろうなんて・・・100年早いわ!」

ブオォン!

ドバァァ!! ガキンッ!


ゼブラート「チッ!」

“地面の下”からの奇襲を、チレストロは廻し蹴りであっさりと防御した。
ボードを蹴られて、あらぬ方向を向いた刃が空を斬った。


ゼブラート「なんで分かったんだよこのアマ!」

チレストロ「理由なんて無いわ。勘よ、勘」

チレストロはそう言うと、真後ろに滑ってゼブラートとの距離を置いた。


チレストロ「ちょっと揺さぶるけど、ごめんね」

イザベラにそう話しかけた後、再びチレストロは超スピードで滑走を始めた。


ツゥ━━━━━━━━ッ!!


今度はゼブラートの周囲を旋回するように移動している。

そして渦巻きを描くように、ゼブラートとの距離を次第に詰めていった。

408第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:34:50 ID:HhFLQcLgO
チレストロ「どの方角から来るか、これなら奴には読めない。“撹乱できるわ”!」

ゼブラートはその場に突っ立ったまま、首だけを動かしてキョロキョロしていた。

チレストロはただ回るだけではなく、逆回転、方向転換を織り交ぜながらゼブラートを翻弄する。


やがて彼女の「勘」が、この時というタイミングを感受した瞬間───

チレストロ「ぃやァッ!」

ゼブラートとの間合いを一気に詰めた。


ブオォン!!

チレストロ「!!」


ほんの一瞬、世界中の時が止まったようだった。

ゼブラートにハイキックを食らわせようとする体勢で、チレストロは止まっていた。

チレストロ「・・・チッ!」

チレストロの目の前には、ゼブラートの“ボード”がその刃を光らせていた。
そのまま蹴っていたら、彼女の足だけが宙を舞っていただろう。

ゼブラート「ほい」 ビュン!

チレストロ「くっ!」

間髪入れずに迫るゼブラートの一閃を、チレストロは反射的に背中で受け止めた。


ザン!

イザベラ「チレストロさんッ!」


ゼブラート「!」

チレストロ「・・・大丈夫よ・・・背中の『摩擦力』を最大にした。
    刃物すら通らないほど強い摩擦力にね・・・」

409第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:35:59 ID:HhFLQcLgO
バッ!


チレストロは身を翻して、ゼブラートとの距離を取る。

「摩擦」で防いだとはいえ、ダメージを100%抑えたわけではない。
チレストロの背中からは、血がゆっくりと滴り落ちていた。

チレストロ「やるじゃない・・・さしずめ地面を液体化して、伝わった“波紋”で私の動きを読んでた・・・ってわけね」


ゼブラート「そ。っつうか、アンタは別にどうでもいいんだよね。俺としては、その抱っこされてる娘を殺せばいいし・・・」

チレストロ「殺し屋としてそれは悔しいわね・・・私のほうが貴方達にとって脅威のはずなのに・・・」

ゼブラート「うんうんうんうんうんうん、確かにそうなんだけどさ・・・
     俺的にはアンタみたいなオバサンより、なるったけ若いほうが・・・好みだからさ!!」

ギュン!!

チレストロ「!」 ビュン!!


“ボード”に乗って急襲するゼブラートをチレストロは素早くかわす。

・・・否、“ゼブラートに向かって動いた”。
チレストロの蹴りと、ゼブラートのボードがすれ違いざまに重なった。


チレストロ「・・・」

ゼブラート「・・・」


ブシャン! ブシャン!


ゼブラート「うげっ・・・」

チレストロ「・・・」

二人の身体から、遅れて鮮血が噴き出た。

410第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:36:50 ID:HhFLQcLgO
ゼブラート「くそ・・・なんつーキックだ! 腰の肉をえぐりやがった・・・」

チレストロ「最大の『摩擦力』は半端じゃあないわよ。全身にトゲが生えてるも同然。
    貴方の顔の皮をひっぺがすのだって簡単だわ」

イザベラ「・・・!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


シュン!

ザバァァン!


チレストロが滑り出し、ゼブラートが波に乗る。
二人はまたもや追跡し合う状態になった。


ゼブラート「もう手加減しねぇぞ! 二人とも内臓えぐり出してやっからな!」

ゼブラートの形相は、先ほどとは明らかに異なる激昂に満ちたものになっていた。

チレストロ「現したわね・・・殺人鬼ゼブラートとしての本性を!」


お互いのスピードはますます速くなっている。

そう思ったとき、チレストロは急に建物を垂直に登り始めた。

ゼブラート「ヘッ! 自分らの死に場所をここに決定したかッ!」

イザベラ「ここは・・・」


無数の尖塔と、聖人の像。
眼下には広大な広場がある。

昼になれば、ここは観光客でごった返すのであろう。

チレストロが登っているのは、ミラノ大聖堂・ドゥオーモである。

411第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:37:38 ID:HhFLQcLgO
シュン! シュン!


針山のような聖堂の屋根の間を、チレストロは忍者のようにくぐり抜けていく。

ゼブラート「そうやって俺の目をはぐらかそうっての?
     無駄だねぇ〜! 俺の周りのモンはみんな液体化しちまうんだぜ!」

ゼブラートの周囲の屋根は液体化して尖塔が消え、見晴らしが良くなっていた。


ゼブラート「アンタの動きはワンパターンなんだよ!」

チレストロの動きを見切ったゼブラートが、彼女のすぐそばまで迫る。

ザバアァァ!


チレストロ「!」

ゼブラート「死ねェェェ!!」


ガクン

ゼブラート「ぬッ!?」

ゼブラートの足首が、突然何かに引っ張られた。

バランスを崩し、ゼブラートはボードにうつ伏せになる。


イザベラ「『シルキー・スムース』!」

すかさずイザベラのスタンドが“糸”を出し、ゼブラートをボードに巻きつけた。


ゼブラート「なんだとォォッ!?」

ゴオォォォ!!

そのまま彼は、聖堂の屋根から広場へと落下していった。


ガァン!
ガラガラガラ・・・


ゼブラート「くっ・・・いつの間に・・・“足に糸を”・・・」

スタンドにグルグル巻きのまま、ゼブラートは呟いた。

412第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:39:17 ID:HhFLQcLgO
チレストロ「私が聖堂に登った理由はこれよ。わざと読まれやすい動きをしたのも」

チレストロがイザベラを抱えながら壁を降りてくる。


ゼブラート「屋根の間に“糸”を張り巡らせてたのか・・・俺を誘い込みながら」


屋根は液体化してしまうが、“糸”はイザベラに繋がっているので残る。
それがゼブラートの足元に落ち、少しずつ絡んでいったのだ。


チレストロ「もう歩けるわよね?」

イザベラ「はい・・・」

イザベラがチレストロを離れ、広場に立つ。
まだ足がおぼつかない様子だった。

チレストロ「私が奴にとどめを刺すわ。貴女は危ないから離れてて」

イザベラ「わかりました・・・」


ゼブラート「・・・ヘヘ・・・
     お前らさ、海に行ったことってある?」

チレストロ・イザベラ「?」

ゼブラート「多分ねぇよなァ〜、お前らがナンパした女の子だったら連れて行きたかったなぁ・・・水着姿見たかったなぁ・・・」


チレストロ「貴方、何が言いたいの? 頭イカレちゃった?」

ゼブラート「だってさァ〜、アンタら波乗りのこと、何も分かってねぇんだもん・・・
     “腹ばいでもサーフィンはできるっつーの”!!」

ドバァ!!


チレストロ・イザベラ「!」

413第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:40:37 ID:HhFLQcLgO
奇襲攻撃だ。

ゼブラートはボードに巻きつけられた状態のまま、イザベラに突進した。

ライフル弾のように錐揉みを回転しながら。
凄いスピードだった。


チレストロ「!」 ドン!

咄嗟の判断でチレストロができたのは、自らを犠牲にしてイザベラを突き飛ばすことだけだった。


ゾバッ!


チレストロ「あ゛ぁッ!」

肉がえぐれる音と、チレストロの悲鳴が一瞬だけ響く。


ザバァン!

その後は、ゼブラートが“着水”する音が鳴り響いた。


イザベラ「いやああああああぁぁ!!」

イザベラは、倒れ込んだ場所で叫び声をあげていた。


ゼブラート(Bene! 見事に引っかかったぜ!
     しかも今の手応え的には“かなり深く斬れた”! 次で確実に殺れるッ!)

勝利を確信したゼブラートがボードをUターンさせたとき・・・


ゼブラート「なに!?」

イザベラの近くにいるはずの“チレストロがいない”。

ゼブラート「どういうこった? どこに・・・」


ガシッ


ゼブラート「!?」

“ボードの下から現れた手”が、ボードの縁を掴んだ。


ザバアァァ!

ゼブラート「なぁッ!?」


現れたのは、血にまみれてもなお冷徹な眼光を失わないチレストロだった。

414第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:41:43 ID:HhFLQcLgO
チレストロ「テヤァァァァァァァァァ!!」

ズガアァァァン!

ゼブラート「ぐまッ!」


強烈なかかと落としが、ゼブラートの頭部に炸裂した。


ゼブラート(ボ・・・“ボードの裏に・・・貼りついてやがった”・・・とは・・・) ガクッ


応報部隊)ゼブラート/スタンド名『サーフズ・アップ』 →再起不能。



チレストロ「・・・」 クラッ

イザベラ「チレストロさん!」

イザベラが足を引きずりながら近づいた。

イザベラ「今すぐ“繭”を・・・」


チレストロ「待ってッ!」


イザベラ「!」 ビクッ

チレストロの剣幕に、イザベラは思わず立ち止まった。

───彼女は、イザベラが見たことのないほど真剣な表情をしていた。
まるで自分より強大な敵に、決死の覚悟で立ち向かうときのような・・・


??「・・・チレストロ」

不意に男の声がチレストロの名を呼んだ。
彼はイザベラから見てチレストロの奥に、いつの間にか存在していたのだ。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


チレストロはゆっくりと男のほうを向いた。
さながら恐怖を隠しているかのような苦笑いに、その顔をひきつらせながら。

415第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:42:06 ID:HhFLQcLgO
??「・・・チレストロ」

その男は再びチレストロの名を言った。


チレストロ「あら、久しぶりね・・・今日は連れと一緒じゃあないの?」

??「君が“裏切った”って・・・教祖もブルーノも知ってるよ。
  僕も知ってるよ。だからちょっと会いにきたの」

男がチレストロを指差しながら言った。
見た目こそ青年だが、その口調はまだあどけない少年そのものだった。


チレストロ「イザベラ・・・今すぐ逃げて・・・
    この男は“ヤバい”・・・!」

イザベラ「・・・!」


チレストロ「ハァ-・・・ハァ-・・・」

チレストロの呼吸が、明らかに早くなっているのが分かった。

怪我のせいだろうか・・・


チレストロ「まさか貴方が来るとはね・・・そんなに皆に恨まれてたってことかしら・・・ねぇ、“アッズーロ”!」

アッズーロ「・・・・・・」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・

416 ◆LglPwiPLEw:2011/05/09(月) 21:47:33 ID:HhFLQcLgO
けふは此処まで。

次こそリモーネさん(←誰?)のスタンド出るよ!
アイディアが湧かなくてつらいけど!

417 ◆R0wKkjl1to:2011/05/09(月) 22:37:21 ID:3aN3xm2EO
いやあぁあああああああ〜!
格好いいチレストロにも死亡フラグがぁああぁ〜ッ!!
圧倒的不利ッ!2対1ッ!!

どうなってしまうのでしょう・・・?早く・・・続き・・・を・・・!

更新乙ですッ!

418名無しのスタンド使い:2011/05/10(火) 12:59:21 ID:E3pIdiJc0
乙!
ゼブラートさんの「ぐまっ!」になぜか笑ってしまったww

419 ◆LglPwiPLEw:2011/05/23(月) 19:44:24 ID:0gU.UBHcO
ジョジョリオンの震災ネタについて、各所で少々物議を醸している様子ですが、
被災した私から言わせてもらうと(本当に個人の意見ですが)実はちょっと“安心した”感じがしました。

というのも、フィクションとはいえ同郷の人物が被災したという設定のおかげで「あぁ、こいつらもアレを経験して今があるんだなぁ」という親近感みたいなのが湧いたのです。
また、このような作品に震災が登場したことで、これが震災の「永遠の記念」になり、後世に伝えられる手段になると思いました。

私の場合、親しい人を亡くすようなことがなかったのでこういう感情にとどまっているのでしょうが、
間違いなく荒木先生は何らかのメッセージを込めて(伏線かもしれないし)描いているのでしょうから、頭から糾弾する必要はないと思います。

長文失礼しました。返事はいりません、ただの独り言のチラ裏です。

ガネクロ執筆に戻りま〜す 誰か面白いバトル書く秘訣教えて

420名無しのスタンド使い:2011/05/23(月) 21:38:01 ID:lwNYxf.QO
ガネクロさんは、「友情と壁」とか「真理そして影」とか「繭玉の心」とか登場キャラが精神的に成長する話が凄い面白いから
リモーネさんの過去を掘り下げて精神的に成長する話を作るといいよ!

421第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:54:16 ID:UZ.1SgakO
*  *


その青年───ブルーノは、信じられないほど俺と趣味が一致した。
クラシック音楽のこと、映画のこと、サッカーのことなど・・・

俺たちはソファーに座って向かい合いながら、ありとあらゆることについて会話をしていた。


彼は時々、俺に対して質問もしてきた。


ブルーノ「白い絵の具と黒い絵の具をよォ、同じ量だけ混ぜたら“何色”になると思う?」

それらは一見、かなり奇妙な質問だった。


ロッソ「灰色・・・ですか?」

俺がそう答えると、ブルーノは「だろうな」という感じに目を瞑って言った。

ブルーノ「違うんだなァ〜〜、答えは『白と黒を混ぜた色』だ。
    っつーのはさ、元から『灰色』だったやつと、混ざって初めて『灰色』になったやつじゃあ違うんだよ。
    まぁ、そんなこと誰も気にしねぇけどな」


特に意味のない回答。

しかし、俺の心にはその問答が印象に残った。


時には話がループすることもあった。

二回目に音楽の話をしたとき、彼は昔ピアニストを目指していたことがあると分かった。


ブルーノ「オレにはさ〜、夢があるんだ」

ロッソ「なんですか? それは」

422第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:55:46 ID:UZ.1SgakO
ブルーノ「オレの『相棒』によ、ヴァイオリンが弾ける奴がいるんだ。
    そいつにガルネリウスのヴァイオリンを買ってやりてぇ」


ロッソ「・・・」

窓の外を見るブルーノの瞳はまっすぐだった。


ガルネリウス───通称ガルネリは、ヴァイオリン三大銘器の中でも特に入手が困難と言われている代物だ(もちろん他の二つも超がつくほど高価だが)。

それほどブルーノは、その『相棒』に絶大な信頼を寄せているのだろう。


ブルーノ「そいつのヴァイオリンと一緒によ、ベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』を演奏すんのが夢なんだ」

ロッソ「叶うと・・・いいですね」

俺もブルーノと同じように、窓の外を見た。
そこにはコンクリートの壁があるだけだった。
朝の日差しが、そのコンクリートを上から金色に染めていた。


ブルーノ「レオナルド・ダ・ヴィンチっているだろ?」

ブルーノがまた新たな話を始めた。

ブルーノ「アイツがガキの頃にさ、絵の師匠がいたんだ。ヴェロッキオって奴なんだけどさ。
    そいつ、自分よりレオナルドの絵が上手いからって、それ以来絵ェ描かなくなったんだってよ。知ってた?」


聞いたことがあるような無いような話だったが、俺は首を横に振った。

423第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:56:39 ID:UZ.1SgakO
ブルーノ「オレはさァ〜〜、そのヴェロッキオって奴、画家失格だと思うんだよね。
    絵なんて描き手の個性でナンボじゃねぇか。“上手い下手”の概念なんて無ぇ。プロなら自分の信念貫けっつ〜の」

ロッソ「・・・」

わざわざ同意の返事をするまでもないと思った。


───その時、扉の外で物音がした。
それに続いて、男の声が廊下から聞こえた。

??「ブルーノ、準備はできているのか?」


するとブルーノは幻滅したような表情をして、溜め息をついた。

ブルーノ「うっせージジイ! 一人でやれ!!」

ブルーノは廊下の人物に向かって大声を上げる。

??「何を言っている。今更になって逃げるつもりか」

ガチャ


廊下の人物がドアノブを動かした。

ブルーノ「ちょ・・・開けんなクソ野郎がッ!」

ブルーノが慌てて立ち上がる。


ズオォォォア!!


ロッソ「!」

その瞬間、俺は見た。
ブルーノの体から離れて現れた、「人の形をした異形の存在」を。


ロッソ(『スタンド』・・・!)


ツカツカツカ
バ ン !

ブルーノは扉まで“歩いて”近づき、ドアを閉めて押さえつけた。
今のように“歩いて”近づいたら、ドアは完全に開かれるはずのタイミングだった。

424第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:57:26 ID:UZ.1SgakO
??「・・・なぜ入らせない?」

廊下の人物が凄みを効かせてブルーノに尋ねた。


ブルーノ「オレは一人でやれって言ってんのォ〜! オレらはテメェの道具じゃねぇんだよ!」

??「どういうつもりだ・・・それほどまでにアッズーロとの時間が大事かッ!!」


俺は頭が真っ白になっていた。

ブルーノの『スタンド』を見た途端、急に“夢”から“現実”へと引き戻されたようだった。

敵の罠、恐怖、破壊音、ビアンコの死体・・・


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


??「『ジョルノ・ジョバァーナ』が来るまであと僅かなんだッ! なんとしても・・・奴だけは倒さなければならないッ!」


ミシ・・・ ミシ・・・

ブルーノ「あ・・・ヤベ・・・」


ブルーノが押さえているドアが、きしんだような音をたてる。
それと同時に、ドアの形がどんどん歪んでいくのがハッキリと見えた。


メギッ・・・ メシャメシャメシャ!
バギャアァッ!!


枠から押し出されたように、ドアが完全に破壊された。


??「ブルーノ・・・」

そこに現れたのは、神父のようにおごそかな格好をした、背の低い壮年の男だった。

425第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:58:12 ID:UZ.1SgakO
ブルーノ「テメェなぁ・・・」


ブルーノは、男から俺を隠すような位置に立ちはだかった。

ブルーノ「お偉いさんだからって調子乗ってんじゃあねぇぞ? 大して偉くもないくせによォ!」


??「・・・」

ブルーノ「・・・・・・」


ガンッ!

突如、自動車が家屋にぶつかったような衝撃音が響いた。

俺の位置からはよく見えないが、恐らく二人とも『スタンド』を出して打ち合ったのだろう。


ロッソ「ハァ-・・・ハァ-・・・!」

俺は正気ではいられなかった。
二人の発する“殺気”も尋常ではなかった。


俺はようやく知ったのだ。
ここが、真の「教団本部」だということを・・・

そうでなかったら、ここの前でビアンコが死んでいるはずがない。

今まで、ブルーノのお陰で夢見心地だった俺は・・・
現実に“引き戻された”というより、“突き落とされた”ような感覚だった・・・


ロッソ(逃げなければ・・・!)

そう理性が告げたが、身体が動かない。
俺はソファーに腰掛けたまま、石にされたように硬直していた。


ブルーノ「・・・ヘヘッ、今の一発、どっちが先にいったんかなァ!」

??「ここまで来て、お前を殺さねばならぬのか・・・ブルーノ」

426第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 22:59:05 ID:UZ.1SgakO
その後、二人は30秒ほど睨み合った。


やがてブルーノは肩を落とし、腕を組みながら言った。

ブルーノ「・・・わ〜ったよ。まぁいいや、ジジイのやることにもう少しだけ手伝いしてやっから・・・」


ブルーノは俺に振り返って言った。

ブルーノ「・・・オレはもう行くわ。じゃあな、楽しかったよ」


そう言い残して、早足で部屋を出ていってしまった。


??「・・・」

ロッソ「・・・」


必然的に、俺と男が残された。
男は、驚いたような顔で俺を見ていた。


??「アッズーロ・・・“ではなかったのか”・・・お前は・・・」


何も説明されなくても、俺にはおおよそ予測ができた。

この男が、何百人ものギャングを殺した「教団」の教祖、『スカルラット大司教』だ。


*  *


ビュン!

ヴェルデ「くっ!」

背後の“柱”から、鞭とも剣ともとれない物体が攻撃してきた。

俺は前転してそれをかわすが、それはなおも刀身を伸ばして攻撃を続けてくる。

グオォォ!

ヴェルデ「!」


バチン!

リモーネ「大丈夫かヴェルデ!」

ヴェルデ「リモーネ!」


間一髪のところで、リモーネのスタンドが“柱”の物体を断ち切ってくれた。

427第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:00:13 ID:UZ.1SgakO
俺たちは今、応報部隊の(恐らく)最後となる敵二人と戦っている。

その片割れは───「裏切り者」だ。


「裏切り者」スカッコは中庭の真ん中に突っ立ったままで動かない。
まるで俺たちの様子を窺うことを楽しんでいるかのようだ。

もう一人の敵(パンテーラという女)は、中庭をぐるりと囲む“柱”の外に立っている。
どうやら奴のスタンドは「柱を操る能力」らしく、“柱”を自在に変形させて外側から俺たちを襲っていた。


逃げ場の無い俺たちは、例えるなら中庭という“リング”の中でスカッコと戦わされている状況だった。


とはいえ、こちらは五人ものスタンド使いが揃っている。そうそう負けはしない。

・・・そうタカをくくっていたのは、俺の悪い癖だと後に知ることになるとは・・・


ビオンド「『タイプ:ワイルド』ォ!!」

スカッコ「・・・」ニヤリ

ガキン!


『タイプ:ワイルド』のストレートを、スカッコの『ネイキッド・アームズ』があっさりと受け止める。


ビオンド「ソイヤソイヤソイヤソイヤソイヤ━━━━!!」

ズガガガガガガガガガガ!!


間髪入れずに、ビオンドはラッシュで攻勢をかけた。


スカッコ「・・・フヒヒヒヒ!」

428第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:02:49 ID:UZ.1SgakO
ラッシュを受け止めながら、スカッコは不気味な笑い声をあげた。


ミスタ「ビオンド! 危ねぇッ!」

ミスタが急に声を張った。

ビオンド「・・・!」


スカッコ「ぐあ」カパッ

! !


スカッコが口を開けると・・・
そこからは、ピストルの銃口が顔を出していたのだ。


ビオンド「げッ!」

ド ン ! !


ビオンドが身を引くより先に、ピストルの音と閃光が発生していた。

リモーネ「ビオンドォォ━━━━━ッ!!」


ビオンド「ッッッてぇェ━━━!! このクソが!!」

ビオンドは無事だ。

スカッコが口から放った弾丸は、スタンドのパンチに当たって奇跡的に軌道をずらされ、ビオンドのこめかみを掠めたようだ。


スカッコ「カッカッカ!」

ビオンド「テメェ・・・取り込んだ武器に身体を変化させられんのかッ!」

リモーネ「迂闊に近づくこともできないとは・・・」


アラゴスタ「コノォォ━━━━━━!!」

バシ バシィ!!


アラゴスタの『スターフライヤー59』が“柱”の攻撃を防いでいる。
防ぎつつ、次第にパンテーラの所まで接近していった。

“柱”に近づくほどに、お互いの攻撃は勢いを増していく。
それはもはや、俺にはほとんど視認できないほどのスピードになっていた。

429第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:04:12 ID:UZ.1SgakO
アラゴスタ「コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ!!」

パンテーラ「・・・」


あと一歩で、パンテーラの隠れている柱を破壊できるという場所まできた・・・

アラゴスタ「コノコノコノコノ・・・うわッ!」

ドバァッ!

いきなりアラゴスタは、“何者か”によって真後ろへ弾き飛ばされた。

「!」

パンテーラ「・・・フン」


ペロ・・・ ペロォ・・・

“柱”から上半身だけ、長い舌を伸ばしたパンテーラのスタンドが発現していた。


アラゴスタ「つ・・・」

パンテーラ「ガキが・・・とっとと私の前から消えろッ!」

シュシュシュシュシュ!!


“柱”から大量に伸びた武器たちが、一斉にアラゴスタを狙った。

ヴェルデ「アラゴスタッ!!」

アラゴスタ「大丈夫・・・“あそこまで『宇宙空間』ができたからいいんだ”・・・『ワームホール』!!」

SF59『!』 ブォォン!


『スターフライヤー』がその場でパンチを繰り出すと・・・

バガアァァァァァ!!

パンテーラ「!」


轟音を立てて、先ほど破壊できなかった柱が崩れていった。
よく見ると、『スターフライヤー』の“腕だけ”が柱近くの“宇宙”から突き出していた。

430第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:05:43 ID:UZ.1SgakO
アラゴスタを襲う武器も、柱とともにボロボロに粉砕されていた。


パンテーラ「・・・!」ワナ ワナ

スカッコ「へぇ〜、やるじゃんこの子供」

パンテーラ「・・・このチビ猿がァァァッ!」

怒りの形相を湛えたパンテーラが、別の柱の影へ走った。

ミスタ「よくやったぜ! 鉄壁の“柱”に穴を開けただけでも随分ちげーッ!」


パンテーラ「何やってるんだスカッコ━━━ッ!! 早く殺れ━━━━ッ!!」

スカッコ「あーあー、せっかくのおカオが台無しじゃん。後からシワが増えっぞ。
   ・・・どれ、じゃあそろそろ本気だすかァ!」 バッ!


ジャキ-ン!

「!?」


スカッコが服を脱ぐと、彼の身体から大量の銃身が四方八方に現れた。

スカッコ「とっくの昔に取り込んでたんだよ、たくさんの武器をなァァァ!!」

リモーネ「まずいッ! ガードしろ!」


ズバババババババババババ!!

アラゴスタ「うわぁぁッ!」


朝の空気をぶち壊す爆音とともに、無数の鉛弾が中庭じゅうに撒き散らされた。

俺はもう何も考えられなくなっていた。
攻撃を防ぐ手立てがない、“足手まとい”の俺は、もうここで死ぬんだ・・・


しかし不思議なことに、俺の体に弾丸が当たらなかった。

431第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:07:25 ID:UZ.1SgakO
リモーネ「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

ヴェルデ「・・・!」


リモーネが、雄叫びを上げながら俺を弾丸から守っていた。
自分の防御を薄くしてまで・・・

ヴェルデ「やめろリモーネ! これではいずれお前に当たるぞ!」

リモーネ「ダメだ! お前がいなければ・・・」

シュルン!

ヴェルデ「!」


今度は後方から、“柱”から武器や触手が伸びてきた。
それらが俺たちの身体に強く絡みつく。

パンテーラ「『センテンスト』ォォ! 全員バラバラに引き裂けェェェ!!」


ビュン!

リモーネ「くぅッ!」

スカッコの弾が一発、リモーネの身体を通っていった。


ヴェルデ「リモーネェ!!」

ダン! ダン!

とっさに拳銃を取り出して“柱”を撃ったが、相手には全く効いていない。
それどころか、出した拳銃がスカッコに引きつけられてしまった。

ヴェルデ「・・・くそッ!!」


シュルッ!

その時、“柱”から伸びた触手が痙攣したように動いた。

パンテーラ「ひっぎゃあぁぁぁ!!」

そしてパンテーラの悲鳴。


スカッコ「おい、どうした?」

スカッコが掃射を中断した。
彼の周りには、無数の薬莢が転がっていた。

パンテーラ「首・・・首を撃たれたァァァッ!!」


ミスタ「・・・テメェが撃ったんだぜ、スカッコ! 」

スカッコ「え?」

432第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:09:44 ID:UZ.1SgakO
S・P『イェーイ!』


ミスタのスタンド『セックス・ピストルズ』が三体、小躍りしながら喜んでいた。

ミスタ「“鉄壁に穴が開いただけで随分ちげー”って言っただろ?
   テメェの弾、俺が使わせてもらったぜ。アラゴスタがブッ壊してくれた柱から防御網を抜けてなァ!」

パンテーラ「ハァー・・・ハァー・・・ド畜生がァァァ!!」

スカッコ「あーらら」


リモーネ「ハァー ハァー」

ヴェルデ「大丈夫かリモーネ!」

リモーネ「大丈夫だ・・・なんとか“数秒以内”に収まった・・・」

リモーネの身体にあったはずの銃創がすっかり消えていた。

リモーネ「俺のスタンド・・・『ザ・ウェイオブ・フィスト』は、殴った場所の状態を“数秒”戻せるんだ。
   具体的に何秒くらいまでOKなのかは、俺でも分からんがな・・・」

ヴェルデ「・・・」


スカッコ「ったく、しぶとすぎだぜアンタら! 大人しく蜂の巣になってほしーんですけど!」

ビオンド「・・・ヘッ、テメェには分かんねーと思うがな、ギャングってのはこうじゃなきゃならんのよ。
    内臓とび出ようが、片足吹っ飛ぼうが、命尽きるまで闘うのがギャングなんだよ!」


スカッコ「ふーん・・・じゃあその通りになるまでやってみろ!」

ズババババババババパバババ!!

433第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:11:11 ID:UZ.1SgakO
スカッコが再び乱射を始めた。


S・P『ワーッ! ミンナ守レーッ!』

ミスタ「・・・ッくそ! 弾切れってモンがねーのか!」

ビオンド「早くしねぇと・・・俺たちがやられるッ!」


ヴェルデ「・・・」

カチン


アラゴスタ「誰か・・・アイツを止めて・・・」

ブシュン!

アラゴスタ「うわぁッ!」

アラゴスタの肩を銃弾が掠めた。


スカッコ「フヒヒヒヒ! 全員肉の塊になるまで撃ちまくってやらぁ!」

パンテーラ「ちょっとスカッコ! 私がどうなってもいいのかッ!」

スカッコ「うるせー、どうせお前なんか初めから仲間じゃあねーんだ・・・ん?」

コロ・・・コロ・・・


スカッコの足元に、小さな金属の塊が転がってきた。

スカッコ「・・・これってまさか・・・」


ヴェルデ「“武器を吸収”するんだったら・・・その“爆発”まで吸収できるかな?
    ピンを抜いてから爆発までのタイミングなら、俺は心得てるぜ」

そう、それは俺が投げた「手榴弾」だ。
吸収される寸前で爆発するように、間隔を開けて投げた。


ダアァァ━━━━━ン!!

轟音と白煙。
それと同時に、戦場のようだった機銃の音が無くなった。


ヴェルデ「・・・」

リモーネ「・・・チッ!」

434第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:13:55 ID:UZ.1SgakO
スカッコ「・・・ヒヒヒヒヒヒ!」


・・・効いていない。
爆発の衝撃をモロに受けているはずが、奴は全くの無傷だった。

スカッコ「残念だったなァァァ! 『ネイキッド・アームズ』は武器の攻撃だったら何でも吸収できるッ!
   手榴弾の爆発でもオッケーなのよ!」

ミスタ「・・・」

ビオンド「つ・・・強ぇ」

アラゴスタ「ハアー ハアー・・・」


よく見ると、既にみんな負傷していた。
ミスタもビオンドもリモーネも・・・
弾が直撃していなくても、所々を掠っていったようだった。

・・・無傷なのは、俺一人だ。

なんでだ。
真っ先に死ぬのは、俺じゃあないのか?

なんで俺だけがピンピンしているんだ?


ミスタ「! “柱”から来るぞォッ!」

シュルン! シュルルルル!

スカッコ「俺からもいくぞォッ! ってかァ━━━━ッ!!」

ズババババババババババババ!!


リモーネ「『ザ・ウェイオブ・フィスト』!」

ビオンド「『タイプ:ワイルド』!」

アラゴスタ「コノ━━━━ッ!!」


各々のスタンドが、全霊をかけて拳を打ちこんでいる。
ミスタの『セックス・ピストルズ』でさえ、銃弾を打ち返して攻撃を防いでいるのだ。

俺は・・・なぜこんなに無力なんだ?

なぜリモーネは・・・みんなは、こんな俺を守ってくれるんだ?


俺が「生きる意味」は・・・

435第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:15:02 ID:UZ.1SgakO
トサッ


その時、リモーネのポケットから何かが落下した。

リモーネ「ヴェルデ! それを拾ってくれ! そいつはビオンドが作った『破壊のグローブ』だッ!」


ビオンドの能力───『タイプ:ワイルド』は、物体の「状態」を「グローブ」にして取り出すことができる。
そのグローブで殴れば、「状態」を別の物体に発生させることができるのだ。

ただ、そのグローブは“スタンドに着けることはできない”という短所がある。
ビオンドは恐らく、この「最終兵器」ともいえるグローブを、体術に長けるリモーネに託していたのだろう。


ヴェルデ「・・・」

リモーネ「ヴェルデ! 早く!」


俺はグローブを拾った。
そして少しだけそれを眺めると、自分の手にそれを装着した。


リモーネ「ヴェルデ・・・何をしている・・・! ・・・ヴェ、ヴェルデェェェ!!」



スカッコ「あぁー快感ッ! 男どもが使ってた銃も取り込んで、完全に俺は無敵だぜェー!!
   ほぉーらお前ら、ラッシュのペースが落ちてきてるぞ! そろそろ犠牲者がでるかなぁー?」

その時スカッコは、二本の刀が飛んでくるのを見た。

片方は長くて美しい日本刀、もう片方は血の付いた短刀だった。

436第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:16:37 ID:UZ.1SgakO
スカッコ「ん、なんだありゃ?」

二本とも、スカッコには見覚えのない武器だった。


スカッコ(あいつはヴェルデのもんか? こりゃラッキー! 『剣』が手に入りゃ、近距離でも無敵になれるぜ・・・)

次の瞬間、スカッコはその刀の「異常」に気づいたのだった。

スカッコ(なんだあれ・・・日本刀のツカに、“なんか付いてやがる”・・・)



ヴェルデ「ハアー・・・ ハアー・・・」

リモーネ「ヴェルデ━━━━ッ!!」

リモーネがこんなに驚いているのだから・・・スカッコは“もっと驚くに違いない”。

当然だろうな。だってあの刀にゃ───
『切り落とした俺の手が握られたままなんだから』。



ピタ ピタッ
ドバァァァ!


スカッコ「ぬぉあぁぁぁぁ━━━━!?」

スカッコの身体が「破壊」され、鮮血が飛び散った。


パンテーラ「スカッコ!?」

スカッコ「刀に“手”がついてやがった! グローブみてーなモンを着けた・・・ぎゃあぁぁぁ━━━━━!!」


ヴェルデ「武器を“引き寄せる”能力がかえって命取りだったようだな。まぁ、ビオンドがいなければ手段は無かったが・・・」
ビオンド「・・・!」


短刀で切り落とした俺の手は、既にリモーネのスタンドで元通りになっていた。

437第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:17:55 ID:UZ.1SgakO
ミスタ「ヴェルデ・・・大した根性だぜテメェーッ!」

ヴェルデ「・・・フッ」

上司から誉められるのは久しぶりだった。


スカッコ「・・・がっ」

スカッコはもう虫の息だ。
あと数分もせずに事切れるだろう。


アラゴスタ「これで残るは・・・」

ビオンド「メガネ女・・・テメェだけだぜ」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


パンテーラ「・・・・・・
    絶対に・・・『教祖様』の所には行かせないッ!!」

シュビビビ!!


大量の触手が周囲の“柱”から発生し、俺たちに襲いかかった。

ミスタ「ヴェルデ、リボルバーはあるか?」

ヴェルデ「はい!」

俺はリボルバーを取り出し、ミスタに投げて渡した。

ミスタ「スカッコが死んだからには、思う存分『武器』が使えるってもんだぜ!」

ダン! ダン!

S・P『イィィ━━━ッハァ━━━!』


ヴェルデ「『ウェポンズ・ベッド』!!」

バラララララララ!


ミスタの言った通り、俺も存分にマシンガンを撃ちまくった。


パンテーラ「絶対にィィィ! 絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に
    絶対に行かせないィィィ━━━━ッ!!」

438第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:19:24 ID:UZ.1SgakO
屋敷の中庭に、スタンドの拳と、触手と、銃弾がいくつも交錯した。

しかしその中で、俺たちは確実にパンテーラを追い込んでいた。


パンテーラ「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


触手は撃ち落とされ、柱には穴が開き、スタンドも傷ついていく。

パンテーラ「畜生めがあァァァ━━━!!」


ところが、ここで俺はふと“ある違和感”を感じた。

ヴェルデ「・・・?」

ヴェルデ(弾が真っ直ぐ飛んでいかないぞ・・・)


ミスタ「ハッ! ヴェルデ!!」

バンッ!!


ヴェルデ「・・・・・・」


背後から銃声が聞こえた・・・
その時には、俺は地面に倒れ伏していた。


スカッコ「まだ俺はァァァ━━━、死んじゃあいねぇぜェェェ━━━ッ!!」


ビオンド「ヴェルデェェ━━━━!!」

アラゴスタ「ヴェルデさあああん!!」


俺はスカッコに、背後から後頭部を撃たれていたのだ。

ヴェルデ「・・・」


スカッコ・・・まだ生きていたとは・・・
弾が微妙に奴に引きつけられたから、真っ直ぐ飛ばなかったのか・・・


ヤバい。既に目の前は真っ白だ。
今からリモーネやビオンドがスタンドを使っても、もう手遅れかもしれない。

439第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:20:40 ID:UZ.1SgakO
しかし・・・“こんな最期も悪くない”。
一介のギャングとして、盛大に大暴れしてから死ねるんだから。

スカッコを殺しきれなかったのが心残りだが、あとはみんなが収めてくれるだろう。




───『ロベルト! こんな物騒なもんはとっとと捨てちまえ!』

『・・・うん、わかった』

───“武器”を捨てるのはつらいが・・・

『なぁヴェルデ〜、サバゲーしようぜ〜』

『おぅ!』

───俺には“友”ができた。

『うわっ、くそ! やられた!』

『あたりめーだ! よそ見してただろ!』

『はははははは!』


───こんな人生もアリだった。
   それに、親殺しの罪を背負うこともなかったんだ。

───う〜ん、そうするとこっちのほうが良かったかもしれない。
   でもどうだろう、ギャングの道も悪くはなかった。
   そう考えると、「人生の選択肢」ってもんは意外と重要な意味を成さないものだなぁ。


『おいヴェルデ』

───お前は・・・ビアンコ・・・
   そうか、“お前も”なんだな。

『まぁな・・・しかし俺だってよォ、最後まで粘ったんだぜ。教祖の目をぶっ潰してやったりな』

───なるほど、お互いよくやったな。

440第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:22:21 ID:UZ.1SgakO
『なぁヴェルデ、一緒に飲みに行かねーか? お前からいろいろ話を聞きてぇんだ』

───“話”?

『約束しただろ? 戦いが終わったら“武器についていくらでも語ってやる”って』

───あぁ、確かに言ったな、トラックの中でな。

『いや〜俺はあれが楽しみでさァ〜! ずっと帰りたかったんだよ!』


ビアンコは喜んでいた。

───わかった、そこまで期待してたなら語ってやる、何十時間でもな!

『ひょ〜! 来ると思ったぜ! じゃあ今から・・・』


カッ!


ドオォォォォォォォォ!!



ヴェルデ「!」



凄まじい光と爆音が、俺の意識を掻き乱した。




ヴェルデ「・・・」


ドシャッ ドシャッ

地面に何かが落ちる音。


アラゴスタ「『スターフライヤー』・・・“宇宙”の中を『星間物質』で満たした!」

アラゴスタの声だ。


アラゴスタ「『星間物質』の主な構成要素は“水素”! 詳しい説明は省くけど、“水素”が空気と混じって火がついたらどうなるか・・・分かるよね?」


目が光に慣れてきたとき・・・
今しがた近くに落ちた物が見えた。


ヴェルデ「・・・!」

・・・それは、スカッコの鼻から上だけの頭と右腕であった。

441第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:24:54 ID:UZ.1SgakO
ビオンド「撃つときの発火を利用したか・・・さすがのスカッコもアレにはひとたまりもないわな」

ビオンドが近くにいる。


俺は“柱”のほうを向いた。
そこでは、頭に小さな穴を開けたパンテーラが目を開いたまま死んでいた。


リモーネ「ヴェルデ! 気がついたか!」

ビオンド「おぉ、おぉッ!」

ミスタ「ヴェルデ!」

アラゴスタ「ヴェルデさん!」


みんな嬉しそうな顔をしている。

───“生きていた”のか・・・俺は・・・


ビオンド「おめーの怪我を『グローブ』にして取り出しても起きなかったからよォ〜、ダメかと思ったぜェェ!」

アラゴスタ「よかった・・・うぅ、大丈夫だよ、倒したよ・・・二人とも」

アラゴスタは涙ぐんでさえいた。


だが、俺は素直に喜べなかった。

ヴェルデ「・・・」


ミスタ「もーし、ボスどうっすか? こっちは片付きました。多少ケガしたが死人はナシっす」

ミスタが無線でボスに連絡した。

だが、返ってきたボスの返事は・・・


ジョルノ『なんということだ・・・たった今発見した・・・“遺体”を・・・“ビアンコの・・・亡骸を”!』


 ! ! 


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



ヴェルデ「・・・ビアンコ」

442第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:26:35 ID:UZ.1SgakO
思い返した。
夢の中での、ビアンコとのやりとりを。

───ビアンコ、すまんな。
   “あの話”は、もう少し待っていてくれ。



リモーネ「やはり、あの後・・・」

ビオンド「・・・くッ!」


アラゴスタ「うそ・・そんな・・・」

アラゴスタはショックのあまりか、涙も出さずに立ち尽くしていた。


ミスタ「おいお前ら! 忘れたとは言わせねぇぜ。『死して屍拾う者なし』、これがギャングの常識だ」

そうだ、今は仲間の死を悼む余裕はない・・・

ミスタ「・・・俺にもよ、過去に死んでいった仲間は何人もいる。
   そのたびに・・・何度その“屍を拾ってやりたい”と思ったことか・・・」

ヴェルデ「ミスタ・・・さん」


ミスタの表情は、被り物に隠れて見えなかった。


アラゴスタ「う・・・うっ、ううぅぅ・・・」

とうとう、アラゴスタは大粒の涙を流しだした。

そうだ、お前は泣いてもいい。
なぜならまだ12歳なのだから。


俺は立ち上がり、アラゴスタに歩み寄った。

アラゴスタ「うわあぁぁああぁ!!」

彼は大声で泣きながら、俺にしがみついた。



アラゴスタが泣き止んだ後、俺たちは直ちにボスの元へ向かった。

443 ◆LglPwiPLEw:2011/06/01(水) 23:27:21 ID:UZ.1SgakO
今日はここまで。
しかし14話長すぎる…ヤバい、前後編に分ければよかった……
まぁWikiに載せるときに編集し直せば(ry


初登場スタンド

No.3250 【スタンド名】ザ・ウェイオブ・フィスト
考案者:ID:XUxTY8o0
絵:ID:Fj9S9.DO(マックさん)
あんまり活躍させられなくてスマン。ラスボス戦でも使うから安心して


次回はアッズーロvsチレストロなんじゃ

444名無しのスタンド使い:2011/06/01(水) 23:31:46 ID:Dp2Ar2n60
うおおおお乙ー!
やばいもうなにがヤバイって鳥肌やばい展開やばい熱くてヤバイ
続きが気になるうううう!

445 ◆U4eKfayJzA:2011/06/01(水) 23:42:50 ID:pzvVsIss0
ヴェルデか漢だ……。回復役がいないとできないやり口ですな。
そしてアラゴスタには酷な話だわ、仲間の死と自身の殺人は、12歳にはキツいだろうな……。
乙でした!

446 ◆R0wKkjl1to:2011/06/01(水) 23:45:03 ID:lBWPwLokO
更新乙ですッ!

戦いは熱いし、ヴェルデさん死ななくて良かった!!良かった・・・けど
ビアンコさんが目の前から急にヴェルデさんが消えてしまって(゚Д゚ )… ってなってるのを想像してしまった

447名無しのスタンド使い:2011/06/03(金) 13:13:06 ID:eD8e2DKA0
ヴェルデさんの人間性好きだなー
いろんな人の活躍も見られたし楽しかった!
次回も気になるゥゥ

448 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:29:57 ID:p1cYdNM2O
【おさらい】

Q1.ロッソたちは今なにしてるの?
A.新興宗教の本部にカチ込みだよ! ギャングを皆殺しにしようとしてるヤバい宗教だよ!


Q2.誰が今どこにいるの?
A.ロッソ →本部の部屋の中。教祖とバッタリ遭遇中。
 ビアンコ →死んだ。
 ジョルノ →ロッソの所へ向かってる。まもなく到着?
 ミスタ、ヴェルデ、アラゴスタ、リモーネ、ビオンド →ジョルノの所へ向かってる。
 イザベラ、チレストロ →大聖堂前の広場。アッー!ズーロと遭遇中。 ←いまここ


Q3.作者は今までなにしてたの?
A.PCしたりとか音楽聴いてばっかりいた。


それではスタートッ!

449 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:31:26 ID:p1cYdNM2O
*  *


チレストロ「ハァー、ハァー・・・」

アッズーロ「・・・」

コツン コツン


一歩一歩、アッズーロはチレストロに接近していった。

イザベラ「・・・!」


イザベラはどうすることもできない。

深く切り裂かれたチレストロの身体を今すぐ治療したかったが、彼女からは「来るな」と忠告されてしまった。


アッズーロ「・・・」

ユラァ・・・


アッズーロの周囲に陽炎のようなオーラが立ち上り、次第にそれが一カ所に固まっていく。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


アッズーロ「チレストロ・・・しんでもらうよ」

アッズーロが右手の指をチレストロに向けた・・・


シュン!

アッズーロ「!」

それよりも速く、チレストロは地を滑ってアッズーロの横に移動した。


チレストロ「テヤアァァァァァァァッ!!」

まばたきよりも速く、チレストロはパンチを繰り出した。



アッズーロ「・・・」

チレストロ「・・・く」

・・・チレストロは、アッズーロまであと数センチの距離で拳を止めていた。
いや、“止められていた”。


グオォォォ!
バキイィィィッ!


チレストロ「があぁぁッ!」

イザベラ「チレストロさんッ!」

450 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:31:55 ID:p1cYdNM2O
アッズーロのスタンドのパンチが、彼女の顔を正面から捉えた。


ドサン!

チレストロ「ぐ・・・かぁッ!」


余りのむごさに、イザベラは顔を下に向けた。

イザベラ「うっ・・・」


コツン コツン

アッズーロが再びチレストロへ近づいていく。

アッズーロ「君が死ぬまで、続けてあげるから」


イザベラ「もうやめてェェェ━━━ッ!!」

シュルシュルシュルシュル!

アッズーロ「?」


『シルキー・スムース』の“糸”がアッズーロに向かって飛んでいった。


アッズーロ「・・・」

アッズーロは飛んでくる糸の先端を指差すと、その指をまったく別の方向へ向けた。

“カキン”


イザベラ「・・・!」

すると、糸はまるで明後日の方向に、“アッズーロの指した方角に”軌道を変えて飛んでいってしまった。



チレストロ「イザベラ・・・早く逃げるのよ・・・
    この男の能力は『あらゆるモノの方向を指で操作する』こと!
    コイツに指でさされたら・・・逃げることはできないッ!
    名前は・・・『エクスターミネーター』・・・」


アッズーロ「・・・」

右腕に皇帝の冠のような装飾をもったアッズーロのスタンドが、彼の傍に佇んでいた。

451第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:32:59 ID:p1cYdNM2O
チレストロ「早く・・・逃げて・・・」

イザベラ「・・・!」


チレストロ「逃げろッ!!」

イザベラ「・・・」


ダッ

チレストロに怒鳴られ、とうとうイザベラは走り出してしまった。



チレストロ「ハァー・・・ ハァー・・・アッズーロ・・・」

チレストロが震える足で立ち上がった。

チレストロ「アンタの・・・アンタの“右腕”さえ封じれば・・・スタンドは、完全に無力・・・」


アッズーロ「・・・」

チレストロ「・・・」

シュバッ!


またもや、アッズーロの指より速くチレストロが動いた。


チレストロ「右腕は・・・“ぶった斬る”ッ!!」

チレストロが手刀を構え、アッズーロに向けて振り下ろした。

ビュン!

チレストロ「!」


“外した”。
いや、アッズーロがその場から消えていたのだ。


チレストロ「ハッ!」

次の瞬間、まったく見当違いの方向からアッズーロが攻撃してきた。

アッズーロ「・・・」グオォォ!

ツルン

アッズーロ「?」


チレストロ「ハァー・・・ハァー・・・」

チレストロは身体の摩擦力を「最小」にして、攻撃を“滑らせる”ことに成功した。


チレストロ「その動き・・・アンタのスタンド能力のおかげなのかしら・・・?」

452第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:33:56 ID:p1cYdNM2O
アッズーロ「・・・わかんない。僕はただ“地面”を動かしてるだけ」


その言葉から、チレストロは彼の能力を解明した。

チレストロ「なるほど・・・“地面”を起点にしてベクトルを操作すれば、『自分を移動させることができる』のね・・・それも凄いスピードで」


しかし、謎が解けたところで「対策」をしなければ意味はない。


『エクスターミネーター』の弱点を突く方法はただ一つ───「右腕を封じること」。
ただのそれだけだ。

ところが、そのための「手段」が見つからない。
アッズーロが『アーケイディア』の滑走よりも速く動けると判明した現在において、どうやって彼の腕を封じられよう。


チレストロ(でも大丈夫・・・コイツはスタンドは強くても、闘いの作法はよく知らない。
    動きで翻弄すれば、きっと勝ち目はあるわ・・・)


バッ!


みたびチレストロが動く。

彼女はとにかく、アッズーロの死角を取ることを心掛けた。


奴の指でさされたら最期───

チレストロ(今度こそ・・・)

一気に───


カチッ

チレストロ「!」


動けない。

ブオォォ!

チレストロ「あぅッ!」


チレストロの身体が流れるように動かされ、アッズーロの目の前に移動した。

453第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:35:05 ID:p1cYdNM2O
チレストロ(間に合わなかった・・・!)


アッズーロ「・・・」

チレストロ「・・・!」

ガシッ!

チレストロ「ぐあッ!」


身体を固定した状態で、『エクスターミネーター』の手がチレストロの首を鷲掴みにした。

アッズーロ「もういいよね? さよならする準備・・・できたよね?」

ギイィィィ!

チレストロ「ぐあァァァッ!」


『エクスターミネーター』は首を引きちぎらんばかりのパワーで彼女を絞めあげた。



チレストロ(終わった・・・)


死ぬのは怖くない。

殺し屋たるもの、何時でも自分が殺られるという覚悟はできていて当たり前だからだ。


しかし───この「哀愁」は何だ?

相手を殺せなかった悔しさなのか?
私はこの程度で未練を抱えるほどの人間だったのか?

いや違う。この「哀愁」はもっと“大きなもの”だ。


彼女がそう思ったとき、頭の中に一人の人物が浮かんできた。


チレストロ(ロッソ・・・)


そうだ、アイツだ。

彼のスタンドに殴られたとき、自分を大切にする「自愛」の感情を植えつけられたのだ。


つまり、いま感じているこの「哀愁」は・・・
自分の人生の終わりを受け入れられない「惜別」の感情なのか・・・

454第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:35:46 ID:p1cYdNM2O
チレストロ(フ・・・余計なことをしてくれたものね・・・)


「自愛」の感情がなければ、思い切って楽に死ねたのに・・・

本当にあの子は・・・“優しすぎる”・・・



シュルシュルシュル!

チレストロ「ハッ!」

アッズーロ「・・・」

突如、白く太い“糸”がアッズーロの身体に巻きついた。


イザベラ「・・・!」

物陰に隠れていたイザベラが、少し遠くから“糸”を放っていたのだ。


ツルッ!

アッズーロ「・・・あ」

アッズーロが力を緩めた隙をついて、チレストロは「摩擦」を小さくして拘束から逃れた。


アッズーロ「・・・」

ブチン!


アッズーロはけだるそうにイザベラのほうを向き、手刀で“糸”を断ち切った。


イザベラ「・・・」

チレストロ「・・・ハァー・・・ハァー、
    どうして・・・どうして逃げないのよ・・・貴女のためを思って言ったのに・・・どうしてッ!」


イザベラ「うるさいッ!!」


チレストロ「・・・!」

予想外のイザベラの怒声に、チレストロは思わず怯んだ。


イザベラ「だったら、“どうしてあなたは逃げないんですか”ッ!
    逃げられるのに、どうして“諦めるんですか”ッ!」

チレストロ「・・・」

455第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:36:42 ID:p1cYdNM2O
チレストロは何も言えなかった。


イザベラ「わかってますよ・・・“死にたくない”んでしょう? その人に“敵うはずない”んでしょう?
    だったら潔く逃げましょうよ・・・無理して闘うほうが、よっぽどカッコ悪いですッ!」


チレストロ「・・・・・・ぐ」


なんとかしてイザベラに反論したかった。

彼女の言い分を受け入れるなんて、殺し屋としての面子に関わる愚行だ。


しかし・・・反論の言葉が思い浮かばなかった。
色々な意味で、チレストロは泣きたくなった。


アッズーロ「おはなしはそれで終わり?」

目の前の悪魔が、小さな声で言った。


チレストロ「・・・えぇ、おしまいよ・・・貴方も、私もね!」 グン!


一度アッズーロとの距離をとり、別の方向へ滑り出した。


アッズーロ「はあぁ〜〜〜、何回やればいいんだろう・・・」

チレストロを目で追う気力もないアッズーロは、懲りずに突っ込んでくる気配を指でさした。


チレストロ「“かかったわね”」

アッズーロ「?」


アッズーロは気づいた。
自分が指したものが、“チレストロではなかった”ことに。


チレストロ「変な男は、“同じ変な男を指さして笑ってるのが似合うわ”」

456第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:37:34 ID:p1cYdNM2O
“ゼブラート”。

アッズーロは、近くで伸びたままだった“応報部隊のゼブラート”を指さしていた。

出しっぱなしだったサーフボード型のスタンドがチレストロに動かされ、アッズーロに突進してきたのだ。


そして───チレストロは別の方角からアッズーロを襲うッ!


アッズーロ「・・・!」

チレストロ「遅いッ!」


彼の指が動くよりも速く、チレストロは低く跳び上がり・・・



チレストロ「イヤアァァァァァ━━━━━━ッ!!」

ドガアァァァ!!


アッズーロに全霊の跳び蹴りを食らわせた。


アッズーロ「ぶが!」

ドシャアァッ!


アッズーロはとてつもない勢いで吹き飛ばされ、遥か遠くで倒れた。



チレストロ「ハァー、ハァー・・・
    所詮は薬漬けで知恵をなくした男よ・・・ちょろいわね、フフッ」

グラァ

ドサン!


ゆっくりと、チレストロは地面に倒れた。


イザベラ「チレストロさん・・・!」


イザベラが全力で駆け寄る。
彼女は既に多くの涙を流していた。

意識の有無を確かめることもせず、『シルキー・スムース』の糸でチレストロの全身を包み込んだ。


イザベラ「ごめん・・・なさい・・・私・・・酷いこと・・・言っちゃって・・・」

457第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:38:10 ID:p1cYdNM2O
泣きながら、彼女は純白の繭を強く抱きしめた。


イザベラ「チレストロさんには信念があるのに・・・それを踏みにじるようなこと・・・
    グズッ、本当に・・・」


アッズーロ「“ごめんなさい”?」

イザベラ「・・・!!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



悪魔はまだ寝ていなかった。

彼はイザベラの真後ろに、いつの間にやら高速移動していた。


イザベラ「あなた・・・まだ・・・!」


ギュウゥン!!

イザベラ「ひゃあぁッ!!」


“指”でさされたイザベラは、打ち上げ花火よりも速く上空へ持ち上げられた。

そして30mくらいの場所で、空中に縛りつけられるように静止した。


アッズーロ「きみたちさァ〜、僕のこと馬鹿にしてるよねぇ・・・」

アッズーロは口から血を流しながらも、獣のような眼光でイザベラを見ていた。


アッズーロ「ブルーノにはきみたちを好きにしていいって言われた・・・だからぐちゃぐちゃにしてブッ殺すんだ・・・」


イザベラ「・・・そうですか。私も、死ぬ覚悟はできてます。ここに来るときからずっと・・・
    でも、“今は死ぬべき時じゃあないんです”」

458第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:38:55 ID:p1cYdNM2O
ズルルルルルル!

アッズーロ「!?」


イザベラの言葉とともに、アッズーロの周囲から大量の“糸”が一斉に集まってきた。


イザベラ「万が一のために張っておいたんです・・・『シルキー・スムース』の繭糸の、『半径20mの結界』を・・・
    あなたを中心にして、いつでも動きを止められるように・・・」


アッズーロ「・・・!」 サッ

アッズーロはイザベラをさしていた指を離し、四方八方から迫る糸を止めようとした。


イザベラ「無駄ですよ・・・“全方位から向かってくる糸が、あなたの指で動かせるはずがありません”。逃げようとしてもダメです」

落下しながら、イザベラは語りかけているのか独り言なのかわからない口調で言った。


そして───

イザベラ「『シルキー・スムース』!」

シュビビビビビビ!
ボフッ


猛スピードで自分の身体に“糸”を巻きつけ、それをクッション代わりにして着地した。



アッズーロ「う・・・うっ」

イザベラが見ると、アッズーロは“糸”に雁字搦めにされて倒れていた。
右手も胴体に密着しており、もはや彼の能力で逃げ出すことはできない状態だった。

彼は目を見開き、口喧嘩に負けた子供のように泣いていた。

459第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:39:31 ID:p1cYdNM2O
アッズーロ「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! こんのクソがァァァァァァァ!!」

イザベラ「・・・」


広場全体を震わせるような絶叫をあげながら、アッズーロが泣きわめく。
イザベラはそれを見て、少し気の毒な気持ちになった。


彼がどんな人間かは知らないが・・・

きっと、長くつらい思いをしてきた人に違いない。


イザベラは暴れまわる彼にそっと近づいた。

いつ襲いかかってくるかわからない恐怖も少しあったが、それでも彼女は前に進んだ。


アッズーロ「・・・!!」

イザベラ「・・・」


急に暴れるのをやめたアッズーロが、驚いたような目でイザベラを見つめた。


泣きわめいた後で目は赤くなっていたが、その瞳は美しく澄んでいた。
まるで少年のような瞳で、アラゴスタを彷彿とさせた。


イザベラ「あの・・・」

アッズーロ「・・・きっ・・・来てくれたんだ」


イザベラ「・・・え?」


アッズーロ「あ・・・ふは・・・はっははははははは!

    アハハハハハハハハハハ! イヒャアハッハハハハハ! ぶひゃあぁはっおけかくきかはははははははぃッフォ━━━━━━━━━!!

    Va' mio Dioォォォォォ(僕の神様)!!」

460第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:40:06 ID:p1cYdNM2O
イザベラ「・・・!」


凄まじい恐怖がイザベラを襲った。

今まで赤子のように泣いていた男が、今度は笑っている。


イザベラはその場に固まってしまった。


アッズーロ「───ォォォォォォォォォォッホッホ━━━ゥ!!
    ティ・アモ・“ブルーノ”ォォォォォ!!」



イザベラ「・・・え」


背後に気配を感じて、イザベラは振り返った。


イザベラ「・・・な・・・」


後ろを見て、彼女は初めて気づいた。
アッズーロは“後ろにいる人物を見て騒いでいたことに”。


───イザベラの背後には、見覚えのない金髪の青年がいた。


彼は仮面を被ったスマートな出で立ちの『スタンド』を出し・・・



チレストロの入っている“繭”を、その腕をもって貫いていた。



イザベラ「・・・い」



“繭”からは紅い鮮血が溢れ、純白の繭をじっとりと染めていた。


ブルーノ「フン・・・」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ




イザベラ「いやああああああああああああああああああ!!」

461 ◆LglPwiPLEw:2011/07/25(月) 22:48:30 ID:p1cYdNM2O
ここまでです

ジョジョリオン読んでたらジャジャジュジュの続きを書きたくて仕方がないッ!
でもこれを終わらせるまでは書かないと約束したのでやりませんが

いつ頃終わるか……さぁな、俺にもようわからん。


新登場スタンド

No.2087
【スタンド名】エクスターミネーター
考案者:ID:yeOf+8H70
絵:ID:tdNA28nR0


ありがとうございました!

462名無しのスタンド使い:2011/07/26(火) 03:57:32 ID:cyyx/6I20
更新乙です!
再登場した時からそんな気はしたけど、チレストロ……

463名無しのスタンド使い:2011/07/30(土) 19:10:43 ID:t4GlccvUO
乙です!
チレストロの最期は何か複雑な心境で読んでました…。
次回も楽しみにしてます!

464名無しのスタンド使い:2011/07/30(土) 20:14:23 ID:1IAJsuKc0
ああ最近チレストロ描いただけあって愛着が・・・
チレストロォォォォォォ
イザベラも絶体絶命じゃないかああ

465 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:37:57 ID:MBEhUBmk0
おまたせしております。

ほんの僅かですが更新します。

466第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:39:12 ID:MBEhUBmk0
*   *


スカルラット「なるほどー、では君はスタンドを最近になって出せるようになったのだね?」

ロッソ「・・・はい」


夜が明ける。

それなのに、外は妙に静かだった。

ネアポリスなら、市場の人たちが朝早くからせわしく働いているのに・・・
ミラノの朝は、いつもこんなものなのだろうか?



それよりも───

俺は目の前の存在に、まったく気が抜けなかった。


「スカルラット大司教」。

多くのギャングを影で殺し、壊滅させてきた、吐き気をもよおすほど邪悪な宗教団体の教祖だ。


そんな彼と、俺は“教団本部の中で出会ってしまった”。
俺はもはや袋の鼠も同然、いつ殺されてもおかしくない状況だった。


いざとなれば、『ガーネット・クロウ』で殴りかかることもできようが・・・

彼は間違いなく「スタンド使い」。
しかも、同じスタンド使いのブルーノを手下にしているほどだ。


まず、俺には勝てる自信がなかった。



それなのに・・・


それなのに、だ。

なぜ、“教祖(コイツ)は俺に気さくに話しかけているんだ”?


俺を油断させて、隙をみて殺すつもりなのか?

467第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:40:17 ID:MBEhUBmk0
彼は、俺がジョルノたちの味方であることを知っているはずである。


だとしたら・・・
“俺はどうしたらいいんだ”?


───いや、大丈夫だ。

ジョルノのてんとう虫は既に放してある。
じきにジョルノが俺のもとに来てくれる“はずだ”。

そうすれば、こんなちっぽけな年寄りの教祖なんかあっさりと倒してくれる“はずだ”・・・



俺はひたすら、心の中で祈っていた。



スカルラット「そうだな・・・君に聞いておきたいことがある」

教祖は片目に眼帯をしていた。
つい最近怪我をしたような様子だが、今の俺にはそんなこと関係ない。

教祖が何やら質問を持ちだしてきたからだ。


ロッソ「・・・・・・なんでしょう」


スカルラット「君は、『善』と『偽善』の違いは、なんだと思うかね?」

ロッソ「・・・・・・」


俺は一旦、祈ることをやめた。


『善』と『偽善』・・・

前に考えたことがある。
そのときに、一応の答えは出ていた。


俺はなけなしの勇気をもって、教祖の質問に答えた。

ロッソ「自らの気持ちから行うのが『善』。他人との関係から行うのが『偽善』じゃあないですか?
   『偽善』だって悪くないとは思いますけどね・・・」


教祖は腕組みをし、目をつむって沈黙した。


スカルラット「う〜ん・・・」

教祖は、実に紳士的な唸り方をした。

そのあとで、俺に向かって言った。

468第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:40:53 ID:MBEhUBmk0
スカルラット「間違いではない。それも立派な価値観だ。だが、私の考えを聞いてみてくれないか?

    私の考えは凄くシンプルだ。真の『善』とは『行動すること』なのだよ」


ロッソ「・・・・・・『行動』」


スカルラット「わかるかい? 口先やうわべだけで終わらせるんじゃあなくて、きちんと『行動』で示すこと、これが『善』なのだ。
    よくいるだろう? 言うことは一丁前だが、自分じゃあちっとも動かないヤツ。ああいうのを『偽善』というんだ。
    そして『悪』とは、なんの興味も関心も抱かない人間のことなのだ。どうだい?」


ロッソ「・・・・・・」


スカルラット「どんなことでもいい。味方を裏切ってもいい。私のように反社会的な行為でもいい。
    なんでも『実行』に移す。それは『正義』でなくても『善』なんだ」


ロッソ「・・・でも・・・・・・
   でも、すべての人間たちがみな自分の思う通りに動いたら、世の中が滅茶苦茶になりますよ」


スカルラット「確かにそうだ。私の理論の通りに人々が行動したら、世界は争いで溢れるだろう。

    しかし、“その混沌の時代を乗り越えた先に”・・・真の人間の理想郷ができていると私は信じている。
    そこは、神が満足なさる『楽園』なんだ。

    私たちは未来の子孫たちのために、常に『行動』していなければならないのだよ」

469第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:41:50 ID:MBEhUBmk0
ロッソ「・・・・・・」


彼は一体・・・
“いい人”なのか? “悪い人”なのか?


混乱してきた。


教祖の言い分も、なんだか簡にして要を得ている気がする。

だが、それでも人を殺していいものか・・・


スカルラット「言っておきたいのは、それだけだよ。
    君とはもう会うことはないだろう・・・帰りなさい」

ロッソ「・・・え?」


俺は思わず声をあげた。


スカルラット「君がジョルノ・ジョバァーナと手を結んだことは見逃してあげよう。君には帰る場所・・・ネアポリスがある。
    これから先、世の中がおかしなことになっても、自分の信じた道を歩みなさい」

ロッソ「・・・・・・」


教祖は窓際に立ち、ゆっくりと角度を変えるオレンジ色の朝日を眺めていた。


教祖が俺を見逃してくれた理由は、皆目見当がつかない。

本当に逃してくれるのであれば、俺は自由の身だ。
もう刺客に怯えることなく、日常を過ごすことができる。

たぶん、イザベラやアラゴスタも(生きていれば)免罪となるのだろう。


しかし・・・

今の俺の感情は違った。



“自分の信じた道を歩め”?

───わかりました。あなたが言うのならそうしましょう。



俺は足音をたてずに、静かに前へ歩いた。

彼の元へは、僅か3歩でたどり着いた。


そして『ガーネット・クロウ』を出現させ・・・

“一気に”!!


ビュン!!


ロッソ「!?」



教祖の頭を破壊しようとした『ガーネット・クロウ』のパンチが・・・外れた?


馬鹿な、教祖は1cmも動いていないのに・・・
まるで、“相手までの距離が足りなかったように”攻撃をスカされた・・・!

470第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:42:32 ID:MBEhUBmk0
スカルラット「・・・・・・」

ロッソ「・・・!」


教祖は俺のほうを振り向いた。

俺はすぐさま教祖との距離を取る。


スカルラット「やはり・・・君はそうするか・・・」

教祖の表情は、何かの宗教画のような寂しげなものだった。


ロッソ「あ・・・あなたのやっていることは間違いだ。自分の正義のために人を殺していいはずがない!
   ・・・あなたは報いを受けなければならないんだッ!」


目の前の老人から来るプレッシャーに、次第に俺の中へ“恐怖”が舞い戻ってくる。


スカルラット「・・・フフ、フフフ・・・そうか・・・ならば仕方がないな。
    私の“善”をもって・・・君を葬ろう!」


バシュウッ!


ロッソ「!」

強いオーラの発生と共に、教祖がスタンドを解き放った。


スカルラット「私の『聖痕(スティグマータ)』の恐怖をじっくり味わいなさい・・・」


ロッソ「・・・」

金と黒のカラーリングの、シンプルな人型スタンド。
ソイツは、言葉にも表せないほど恐ろしい能力を秘めているということが一目で分かった。


ロッソ「ハァー・・・ハァー・・・」

ドクッ  ドクッ

心臓の鼓動が、急激に早くなってきた。



スカルラット「・・・“来たようだね”。ようやく」

ロッソ「・・・?」


ジョルノ「ロッソ!」


ロッソ「ハッ!」



ついに、来た。

部屋の入り口に立つジョルノ・ジョバァーナの姿は、外で煌めいている朝日よりも輝いて見えた。


ロッソ「ジョルノさん!」


スカルラット「とうとう来たか・・・」

471第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:43:11 ID:MBEhUBmk0
俺は思わず、ジョルノの元へ駆け寄った。
やはり俺は、誰かがいなければ何もできない人間だ・・・


ジョルノ「怪我はないか?」

ロッソ「大丈夫です!」

ジョルノ「ならばいい・・・“ついに、この時が来た”・・・」


ジョルノは教祖を睨んだ。
対する教祖は、真顔とも澄まし顔ともつかない表情で俺たちを見ていた。


スカルラット「ロッソ君・・・キミはできれば“生かしておきたかった”。私の記憶が、キミをそうさせるのを望んでいたんだ」

ロッソ「?」


“記憶”?
意味がわからない・・・

俺は過去にこの男に会っていたとでもいうのだろうか?
そんなはずはない。


スカルラット「だが、この期に及んでそんなことはできなくなった。ジョルノ・ジョバァーナ共々、死んでもらう」


ジョルノ「お前がギャングを殺してきた理由は何だ? 復讐なのか?」


スカルラット「目的は2つある・・・ひとつは、私の内縁の妻だったローザを殺したギャングどもを残滅させるため・・・
    そしてもうひとつは───ジョルノ・ジョバァーナ、“お前をおびき寄せるためだ”」


ジョルノ「なにッ!?」

ロッソ「!?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


予想を超えた教祖の発言に、俺たちの身体は一瞬だけ硬直した。

472第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:43:52 ID:MBEhUBmk0
スカルラット「私がスタンドを身につけたとき・・・それは妻が殺された瞬間だった。
    その時、スタンドが私に囁いた。『我ニ“矢”ヲ授ケヨ』と」


ロッソ「・・・“矢”?」

ジョルノ「・・・・・・」


スカルラット「後になって私は悟った。
    この人智を超える存在が示した“矢”とやらを見つければ、この腐敗した世界を変えられるのではないか、と!」


ジョルノ「・・・それで、教団を作り出して探し回らせた、ということか」

ロッソ「・・・??」


“矢”とは何だ?
一体なんの話なんだ?


スカルラット「さぁジョルノ・ジョバァーナ、私に“矢”を渡すのだ・・・」


ズオォォォ・・・
ド ゥ ッ!


ロッソ「うっ・・・!」

教祖のスタンドが強烈なオーラを発した。
まるで、「恐怖」が空気を波のように伝わって俺の身体を突き抜けたようだ。



ジョルノ「そんなことは不可能だ・・・この『レクイエム』の力がある限り・・・お前は勝てない!」


ブシュウ!
ビリ・・・

ロッソ「!」

今度はすぐ隣から、電気のような波紋が襲ってきた。


ロッソ「・・・!」


その波紋の主は・・・

黄金に輝く身体。
彫刻のような肉体。
大きく見開いた目。

まるで現代美術のように、激しい『意志』を感じさせるスタンドが立っていた。

473第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:44:22 ID:MBEhUBmk0
スカルラット「それが・・・噂に聞く『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』か・・・」


教祖の顔が、少し引きつったように見えた。


ジョルノ「私に対する攻撃の意志は、この『レクイエム』によって“ゼロ”に戻る。
    お前に勝ち目はない。“終わりのない終わり”を味わいたくなければ、今すぐ降参しろ」

スカルラット「・・・フ、フフ」


教祖が苦しい笑いを漏らした。

俺には、教祖の様子が急に弱腰になったように見えた。

いや、それとも・・・
“何かを躊躇しているのか”・・・?


コッ コッ コッ


ジョルノが絨毯の張られた床を一歩ずつ歩き始めた。


スカルラット「フフフ・・・まったくギャングとはつくづく愚かなものよ・・・この『スティグマータ』の恐怖を味わいたいとは・・・」

ジョルノ「まだ間に合う。スタンドをしまえ」


スカルラット「やかましいッ! とっとと“矢”を取り出して渡すんだゴミクズがァ!!」


教祖がいきなり声を張り上げた。
その表情は、怒りよりも「焦り」が滲み出ているようだった。


ジョルノ「数百人もの同業者の仇・・・ここで討つことになるか・・・」


スカルラット「おいブルーノ!! おらんか、ブルーノォォ!!」

教祖が屋敷内のどこかに向かって叫ぶ。


・・・・・・


ブルーノからの返事は返ってこなかった。

474第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:45:09 ID:MBEhUBmk0
ジョルノ「無駄なんだ、何もかも・・・
    無駄・・・無駄・・・無駄ァァァァ━━━━━!!」


ジョルノのスタンドが、教祖の頭に必殺の一撃を叩き込む!



・・・・・・



ジョルノ「・・・なに・・・!」


ロッソ「!」


攻撃が“外れた”?

俺がやったときと同じだ・・・!



スカルラット「本当に・・・“これ”をやるのは気が狂いそうになるよ・・・嫌な思い出を掘り起こしてしまうからね・・・
    しかし・・・私が君たちに勝つには、“これ”を使うしか方法がないんだ・・・」

教祖が頭に手をあて、少しだけ虚ろな目で言った・・・


ロッソ「!?」


その時、俺はヤバいことに気付いてしまった・・・


“俺とジョルノの距離が、どんどん遠くなっていく”!?


それだけではない。

“この部屋そのものが、どんどん広く、大きくなっていく”ように感じていた。

ズゥゥゥオォォ!!


スカルラット「私がブルーノを呼んだのは彼に助けてもらうためではない・・・“彼が近くにいないのを確かめるためだ”・・・
    あやつまで犠牲になるのは困るからね・・・」


それはまるで、俺たちのいる“空間自体”がどんどん拡大していくような・・・


教祖までもが、段々と大きくなっていく。

空間の巨大化についていけないのは、俺とジョルノだけだ。


スカルラット「ようこそ、我が『聖痕(スティグマータ)』の世界へ・・・」


ジョルノ「・・・これは!」

ロッソ「俺たち・・・」


“小さくなっていく”ッ!!


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

475 ◆LglPwiPLEw:2011/08/29(月) 18:50:24 ID:MBEhUBmk0
ここまでです

スティグマータは超解釈に超解釈を施した全く別の能力になっているので期待しないでください。
案師の方には本当に申し訳なく思います。あらかじめここでお詫びしておきます。


使用した(する)スタンド

No.440 【スタンド名】スティグマータ
考案者:ID:9P6vDHaYO
絵:ID:FCDdPIs50

476名無しのスタンド使い:2011/08/29(月) 19:58:12 ID:OYX2PlDk0
更新乙です!
14話タイトルってボスのスタンド名まんまだったのか……気づかなかった
これから語られていくのでしょうがボスの過去も気になりますね!

477名無しのスタンド使い:2011/08/29(月) 20:15:37 ID:E5HPvVSY0
乙です!
ついに教祖のスタンドが来たか
ロッソとジョルノが負ける筈がない。なのにこの不安な気持ちは何なんだ…

次も更新楽しみにしてます!!

478 ◆U4eKfayJzA:2011/09/10(土) 22:27:41 ID:a9FmAlDE0
スティグマータがどういう風に超解釈されたのか……。
ジョルノとロッソがいてなお激闘になりそうでわくわくする。乙です!

479 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:50:02 ID:LFRNuDEc0
ガネクロ、はっじまっるよ〜!

前回のあらすじ:ロッソとジョルノが縮みはじめた。

480第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:50:38 ID:LFRNuDEc0
ジョルノ「・・・ッ! これはッ!」


間違いない。

俺たちの身体は、どんどん“縮んでいっている”。

本棚も、ソファーも、ピアノも。
俺たちの周りの調度品が、もれなく巨大化していくのだ。


ロッソ「・・・!」 ダッ


何も考えず、ジョルノのところへ走った。


俺は、心底恐怖していた。

何が起こっているんだ!?
これが教祖の能力なのか?

このまま小さくなっていったら、俺はどうなるんだ?


ダメだ、俺は独りではとことんネガティブになる。

頼れる人物がそばにいないと何もできない。



ロッソ「・・・!!」


しかし───


どんなに走っても、ジョルノのもとへ“たどり着けなかった”。

俺たちが小さくなるスピードのほうが、走る速さに勝っているのだ。



スカルラット「恐らく君たちは・・・今、自分が“小さくなっている”と感じているだろう?」

巨大化する教祖が、俺たちを見下ろしながら言った。


スカルラット「それは間違いなんだ・・・答えは逆。“こちらが巨大化しているのだ”」


ジョルノ「・・・なんだって?」



ロッソ「ハァー ハァー・・・」

俺の中の“恐怖”までもが止まることなく膨張していく。

481第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:51:21 ID:LFRNuDEc0
スカルラット「『スティグマータ』の能力は、相手が触れている物を巨大化させること・・・
    君たちは生きている。それゆえ『世界』に触れているのだ」


ジョルノ「・・・それは、つまり・・・!」


スカルラット「『世界』中のあらゆるものが、“巨大化”しているのだよ。君たちを除いてね。
    もっとも、そのことを知っているのは、この部屋にいる私たちだけだがね・・・」


ジョルノ「・・・」 ロッソ「・・・!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



そんな・・・
そんな馬鹿なことがあってたまるか・・・!


この『世界』すべてを巨大化?

ありえない。スケールがでかすぎる。

だいたい、そんなことをしたら物理法則が乱れるじゃあないか・・・


だが・・・

俺たちがこの場で遭遇している事象からして、そう考えるしかないのか?


だったら・・・

ロッソ「俺たちはどうなるんだァァッ!」



スカルラット「君たちはこの世界から見て、相対的に縮んでいく。無限にね。
    そして・・・君たちはやがて、量子の世界に消えてゆくのだ」


ロッソ「・・・ハァー・・・ハァー!」


嘘だ・・・
俺たちはこの世界から、“逃げられない”のか?

482第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:51:55 ID:LFRNuDEc0
消滅するのか? 俺たちは。

ダニやノミより小さくなって・・・
分子や原子と同じサイズになって・・・


ここで・・・終わるのか?



スカルラット「ジョルノ・・・早く“矢”を出すのだ。消えてなくならないうちにな」


ジョルノ「なるほど・・・我々が自然消滅するまで待つということか・・・『レクイエム』は直接攻撃しか“ゼロ”にできない。
    しかし・・・これまでの闘いを制してきた我々を舐めては困るな」



BZZZZZZZZZZZZZ・・・


スカルラット「む?」


今や虫のような大きさになった俺の上空を、何かが音を立てて飛んでいた。


ジョルノ「ここに来る前に、生物を一匹だけ造りだしておいたのだ」


ブオォォォォォ!・・・


ロッソ「!」


飛んでいた“何か”は、強い風を起こしながら俺の近くに着陸した。

それは───蜂だった。



ジョルノ「ロッソ! それに乗れ! 『ガーネット・クロウ』ならばそいつを操れる!
    そして教祖の“感情”を操作するんだッ!」


ロッソ「・・・なッ」


耳を疑った。


“俺がやるのか?”

ジョルノならば、なんでもやってくれるんじゃあ・・・なかったのか?

483第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:52:36 ID:LFRNuDEc0
ジョルノ「『ゴールド・エクスペリエンス』で造る生物も小さくなっている! 今や僕の力ではどうすることもできない!
    あとは“君に任せる”ッ! 教祖に・・・『ガーネット・クロウ』で触れるだけでいいんだ!」


ロッソ「・・・!」

俺は、今まで味わったことがないほどのプレッシャーを受けていた。
動揺しすぎて卒倒しそうだった。


そうこうしている間にも、『世界』はどんどん大きくなっていく。


ジョルノ「早く! 時間がないッ!!」

ロッソ「!」


ジョルノが叫ぶと、俺は背中を押されたように走り出した。

蜂の背にまたがったとき、俺は精神の中に異質な物が入りこんでくるような感覚を味わった。


ロッソ「・・・! いくぞッ・・・『ガーネット・クロウ』!」

心の整理もつかないまま、とにかく俺は蜂に対して命令する。


ブオォォォォォ!!


羽音を轟かせ、一匹の蜂が飛び立った。



スカルラット「無駄な足掻きだ・・・」


指一本でも奴に触れて、感情を操るだけ・・・それなのに・・・

スカルラット「・・・」

ブォォン!

ロッソ「くッ!」


教祖のスタンドが、ネズミ一匹の力も持っていない俺に対して拳を振るってきた。

爆風のようなパンチの風圧に耐え、俺は必死に蜂を操る。


スカルラット「ロッソ、怖いのか? 恐れることはない。君は死んだら必ずや楽園に行けるぞ」

教祖はまるで子供を慰めるように言った。


ロッソ「違うッ! 俺は死ぬのが怖いんじゃあない!
   俺は・・・・・・俺は・・・!」

ジョルノ「・・・・・・」


そこから言葉が出なかった。


俺は、なぜ“こんな所でこんなことをしているのか”。
なぜ“教祖の野望を阻止しようとしているのか”。


明確な答えが、浮かんでこなかったのだ。


スカルラット「落ち着くのだ。もう一度言うぞ、恐れることはない。このまま消滅すれば、苦しまずにあの世へ行けるんだ」

ロッソ「・・・!」


違う。
間違っている。

恐怖はもういいんだ。俺は吹っ切れたんだ。

しかし、“安心できない”。
安心して、教祖に立ち向かうことができないのだ。

484第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:53:07 ID:LFRNuDEc0
それは、俺に「信念」がないからなのか。
確固たる「信念」がないから、俺はこの期に及んで迷っているのか。


───たぶん、そうだろう。


俺は昔から優柔不断だった。

「決定」してしまうのがなんだかとても怖くて、いつもギリギリまで迷っていた。
進路も、人間関係も、店で買うCDすらも。

そのツケが、今ここで回ってきているんだ。



スカルラット「・・・ふん」

ズババババババババ!!

ロッソ「うぅッ!」


教祖のスタンドが、無慈悲なほどのラッシュを浴びせてくる。

それは俺を攻撃するためではなく、俺を風で振り落とすか、恐怖を煽るためにやっているみたいだ。


もう時間がない。

・・・ダメだ、もう無理だ。
俺はこれ以上、教祖に近づけない。


ごめん・・・イザベラ、アラゴスタ、ヴェルデ、それにビアンコ。

そして───ジョルノ・ジョバァーナ・・・。



スカルラット「いい加減にするんだぞジョルノ・ジョバァーナ、“矢”を取り出せッ!!」

ラッシュしながら、教祖が激しくジョルノに言いかかる。


ジョルノ「・・・まだ気づかないのか・・・スカルラット」

スカルラット「・・・何にだッ!?」


ジョルノ「私は・・・“矢”など持っていない」

スカルラット「な・・・!」


ロッソ「!?」

485第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:53:54 ID:LFRNuDEc0
ジョルノの言葉に、俺も教祖も驚かされた。


スカルラット「・・・ならばどこにあるッ! 早く言え!! 言わなければ貴様の仲間を全員なぶり殺しにして・・・」


ジョルノ「やれやれ・・・教祖ともあろう者がこれほど鈍感だとはな・・・
    “さっきから目の前にあるじゃあないか”」


ロッソ「・・・?」

俺にはジョルノの言っている意味が分からなかった。


スカルラット「馬鹿な・・・まさか・・・」

教祖はラッシュをやめ、俺と蜂を見つめていた。


ジョルノ「ずっと見えているだろう? お前が撃ち落そうとしている“それ”を・・・」


ロッソ「!!」


俺は、教祖に遅れてようやく“答え”に気がついた。


ジョルノ「ロッソが乗っているその“蜂”・・・私が矢の“柄”の部分に生命を与えて造ったものだ。
    そしてそいつの“針”の部分が・・・他でもない、お前が求めていた“鏃(やじり)”だ」


スカルラット「ぬ・・・ッ!」

ロッソ「・・・」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



俺が乗っているのが、特別な力を持っている“矢”だと・・・



ジョルノ「“矢”は人間を選ぶ・・・そして“矢”の化身である蜂はロッソに従っている。どういうことか分かるかな?」

486第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:54:35 ID:LFRNuDEc0
スカルラット「・・・!」


ジョルノ「“矢”はロッソのほうに味方してるってことさ。お前になかなか近づこうとしないからな」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


スカルラット「・・・こ・・・こんなことが・・・!」


教祖の顔は、もはや初対面のときとは別物になっていた。

青筋が浮き出、顔の皺が何倍にも増え、汗が滝のように流れていた。
しかし、その目はどこか寂しげに見えた。


スカルラット「あるわけがないんだアアァァァァ━━━━━━!!
    クワアァァァァアアァァァァ!!」

教祖のスタンドが全霊を懸けたパンチを打ち込んできた。
今度は、間違いなく俺を叩き潰そうとしていた。


だが───



シュン


スカルラット「ァア・・・ッ!?」


教祖は俺を“見失い”、動揺した様子を見せる。

ロッソ「・・・」 ブゥ〜


スカルラット「! そこかァ━━━ッ!!」

ロッソ「・・・」 ブン!


教祖の攻撃と同時に、俺は蜂を“ある位置”まで飛ばす。すると・・・


スカルラット「! なにィッ! “なぜ消えた”ッ!?」


教祖の視界から、俺が“不意に消える”。

そして教祖が見失っている間に、俺は教祖へ真っ直ぐ飛んでいった。


あと僅かな距離だ。

大丈夫。“勝つ術はあった”。
たった今、俺はそれを見つけた。

487第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:55:17 ID:LFRNuDEc0
ジョルノ「・・・なるほど・・・」


スカルラット「ハァー、ハァー、どういうことだ! 私に触れるんじゃあないッ!
    “蜂”だけをよこせェッ!」


混乱した教祖は、ところ構わず無茶苦茶にラッシュを繰り出す。

しかし、その拳が俺に触れることはなかった。




───『盲点』。

俺が狙ったのは教祖のそれだ。


人間の網膜には、脳へ繋がる視神経の束が密集する部分がある。
その部分は光を感じとることができず、そこに映ったものは見えない。

普段の人間は、両目でものを見ることで、それぞれの盲点を補完しあうのだが・・・

理由は分からないが、彼は“右目に眼帯をしていた”。
つまり、彼の視界には盲点という「死角」が存在していたのだ。

もし彼が今、眼帯をしていなかったら・・・

俺が攻撃する方法はなかったと思う。



スカルラット「・・・ッ! ジョルノ・ジョバァーナアアアアァァ!! こうなったら貴様を踏み潰してくれるゥゥゥ!!」

教祖が魔王のような形相で、もはやアリよりも小さなジョルノに迫った。


ジョルノ「・・・」


スカルラット「WRRRRRAAAAAAAAAAAA━━━━━━!!」





・・・・・・





ロッソ「“勝った”。触れましたよ」


スカルラット「・・・」


教祖の顔から、まるで風船の空気が抜けたように表情が消えた。

488第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:55:48 ID:LFRNuDEc0
ロッソ「『ガーネット・クロウ』。あなたの『志気』を限界まで低くした。
   あなたはもう何もやる気が起きません」


スカルラット「・・・」 ガクン

ズヒュ!

ロッソ「!」 ジョルノ「!」


教祖が膝をつくと同時に、「世界」のサイズが元通りになった。



スカルラット「・・・なぜ」


顔面蒼白の教祖が、すきま風のような微かな声で呟いた。


スカルラット「“矢”は私を選んでくれないのだ・・・『スティグマータ』が“矢”を欲しているのではなかったのか・・・?」


BZZZZZZZZZZZZZ・・・


教祖を嘲笑うように、“矢”を持った蜂は部屋の中を飛び回っていた。


ジョルノ「理由は私にも分からない。“矢”とスタンドの関係にはまだ謎が多いからな」

ジョルノは今までと全く変わらない姿勢で教祖を見下ろしている。


ロッソ「・・・“矢”というものが何なのか俺は知りませんが・・・
   少なくともあなたが所有すべきものではないと思いますよ・・・教祖さん」


スカルラット「・・・っく・・・何を偉そうに・・・」


教祖の声は震えていた。
怒りを抑えているようでもあったし、泣いているようでもあった。


スカルラット「こんなことのために・・・私は今まで何をしてきた・・・?
    イカレた信者どもを集めて、殺しをさせて・・・」

489第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:56:24 ID:LFRNuDEc0
ジョルノ「・・・・・・」

ロッソ「・・・・・・」



しばらく静寂があった。

蜂は、部屋のカーテンにとまったまま動かなかった。



スカルラット「・・・さぁ、殺すがいい」

教祖が静かに言った。


スカルラット「もはや私の希望は尽きた・・・地獄で永遠の後悔をすることになろう」


ロッソ「・・・諦めきれませんか?」

俺が一言、教祖に尋ねた。


スカルラット「・・・当たり前だ。私には犯してきた罪が多すぎる・・・
    そして、罪を重ねてまで行動してきた結果がこの有り様・・・死んでも悔やみきれぬよ・・・」


教祖のその言葉を聞くと、俺は窓辺の蜂を見た。

それに気づいたように、蜂はこちらに螺旋を描きながら飛んで近づいてくる。



ロッソ「それでしたら・・・」


BZZZZZZZZZZZZZ・・・


スカルラット「・・・?」



ジョルノ「・・・ロッソ・・・何を考えている?」


ロッソ「この人は、何も知らない多くの人を利用して、多くの人を殺した・・・確かにそれは許されないことです。
   でも教祖さんは“真実”を求めて行動しました。自らの信念をもって・・・
   そういう意味で、俺は教祖さんを尊敬しています」

俺は教祖を見ながらそう言った。

490第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:57:17 ID:LFRNuDEc0
ジョルノ「・・・忠告しておくが、“君が考えていること”はやめておくべきだと僕は思う」

ロッソ「・・・」


ジョルノ「本当に“何が起こるか分からない”んだ。手のつけられない事態に陥る可能性もある・・・」


ロッソ「・・・本当に些細な理由なんです。あなたには受け入れられないかもしれない・・・」

ジョルノ「?」


ロッソ「なぜあなたが来るまで、俺が無傷だったか分かりますか?
   ・・・教祖さんは初め、俺を見逃してくれたんですよ」


スカルラット「・・・・・・」


ジョルノ「・・・どういうことだ?」

ロッソ「理由は俺にも分かりません。しかし、彼の心の中には“何か”がある。黒い悪の意志ではない“何か”が・・・
   俺は、その『可能性』を信じたいんです」


スカルラット「ロッソ・・・何を言っているのか分からないのだが・・・何をする気だ?」

教祖が訝しげに俺を見る。


ロッソ「“試してみましょう”。あなたの望んだことを」



ブスッ


スカルラット「!!」



蜂の尻から出た“針”が、教祖の首に突き刺さった。


ジョルノ「・・・」


スカルラット「ぬおおおおおおおおおお!!」

即座に教祖は絶叫し、のた打ちまわった。


屠られゆく哀れな鶏のように、床の上を転がる。

491第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:57:57 ID:LFRNuDEc0
スカルラット「あぎゃあああァァァァァ!!」


グオォォォォ!

苦しむ教祖の身体から、『スティグマータ』が姿を現した。


ジョルノ「・・・気をつけろ!」


スカルラット「おおおおおああああああああ!!」

ビシ ビシ


ジョルノ「・・・!」

ロッソ「これは・・・!」


『スティグマータ』の首筋から、放射状にヒビが広がっていく。

まるで雛が生まれてきそうな卵のように・・・


ジョルノ「『レクイエム化』だと・・・!? コイツは“矢”に認められていないのではないのか・・・?」



スカルラット「ご・・・ぐ、ぐ・・・ウゲッ!」

教祖はいきなり、血とともに何か“丸いもの”を吐き出した。

ボドッ


ロッソ「!」


それは、紅く染まった目玉だった。

瞳の部分は、人為的に作られたような傷がつけられていて、それが十字架の形を成していた。


『ワタシノ・・・“役目”ハ・・・』

突然、女性の声が聞こえた。
───教祖の『スティグマータ』の声だった。


スカルラット「がはッ・・・!!」


教祖が驚いたようにスタンドを見上げる。

彼の眼帯からは、どくどくと血が溢れていた。
まさか・・・今吐き出した“目”は・・・


『コレデ“終了”・・・コレデ救ワレル・・・』

スカルラット「ロ・・・」

492第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:58:42 ID:LFRNuDEc0
教祖は片目から涙を流している。
今までの苦しみようが嘘のようだ。

その表情は喜びに満ちていて、世界のすべてを肯定したかのようだった。


スカルラット「ローザ・・・ッ!」


パラ  パラ

卵の殻が内側から割られるように、『スティグマータ』の外部が次第に崩れていく。

それと同時に、『スティグマータ』は床に落ちた教祖の目を拾い上げた。


『コノ“聖痕”モ・・・今ヲモッテ役目ヲ終エタ・・・アトハ私トトモニ・・・』



ジョルノ「これは・・・」


崩れゆく『スティグマータ』の内部は、空洞だった。


ジョルノ「レクイエム・・・“ではない”・・・単純にスタンドが崩壊しているんだ!」


『・・・私トトモニ塵ニナルダケ・・・コレハ“運命”。コレガ“結果”・・・』


俺はこのスタンドの言葉が何を意味しているのか分からなかった。
たぶんジョルノも理解できていないだろう。


『サア行キマショウ、スカルラッティ。アナタガ求メタ“神ニ満タサレタ世界”ヘ・・・』


スカルラット「おぉ・・・おおぉぉぉぉ〜〜〜・・・」


教祖は赤子のように泣きじゃくっていた。

そして『スティグマータ』は、教祖の眼帯をゆっくりと外す。
その片目は、光をも吸い込みそうな空洞になっていた。

493第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 22:59:16 ID:LFRNuDEc0
そして・・・


ギュルギュルギュルギュルギュル!


ジョルノ・ロッソ「!」


『スティグマータ』はその空洞の中に、吸い込まれるように入っていく。


スカルラット「ぐぶぅ!」


その瞬間、教祖の身体が風船のように一気に膨らんだ。

そして間髪入れず・・・


ドバアァァァン!!

教祖は爆弾のように炸裂し、粉々になった。



ロッソ「・・・!」




シュウゥゥ・・・




───いつの間にか、朝の静寂が戻っていた。


塵一つ残さず、教祖は爆散した。



ロッソ「・・・」 ジョルノ「・・・」


俺もジョルノも、お互い放心状態に近かった。




先に喋ったのはジョルノだった。


ジョルノ「・・・ロッソ、君に謝っておきたいことがある」

ロッソ「・・・?」


ジョルノ「僕はさっき“やめたほうがいい”と言った・・・教祖に“矢”を刺すのは・・・
    しかしどうやら・・・“君の選択は正解だったようだ”。僕は無駄なことを言ってしまったようだ・・・すまない」


ロッソ「・・・」


急に謝られても、俺はどうしたらいいか分からなかった。


ジョルノ「教祖は“救われた”んだ。それだけは確実に言える。
    もし君が“矢”を刺さなかったら・・・僕が教祖を・・・“永遠に殺し続けなければならなかった”・・・」


ロッソ「・・・・・・」


俺は、激しい闘いの余韻が抜けないまま言葉を紡いだ。

ロッソ「これで“終わった”んですね・・・」


ジョルノ「・・・いや」


ロッソ「?」


俺はジョルノを見た。
どういうわけか、彼は不安げな顔をしている。

494第14話 緋色の聖痕 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 23:00:02 ID:LFRNuDEc0
ロッソ「どうかしましたか・・・?」


ジョルノ「ロッソ・・・“蜂”がどこに行ったか分かるか・・・?」

ロッソ「!」


そういえば。

さっきまで部屋の中を縦横無尽に飛んでいた蜂が、いなくなっている。

俺やジョルノの命令の届かない範囲に行ってしまったのだ。


ロッソ「今すぐ探しに行かないと・・・!」

ジョルノ「もちろん。しかし・・・」


ジョルノの表情は堅かった。
今まで見たことがないほどにだ。

その表情につられて、俺の不安がまた増大していく。


ジョルノ「『ゴールド・エクスペリエンス』で作られた生物は、所持者のところへ戻るはずなんだ。
    それなのに、蜂は僕たちのところに帰ってこない・・・これは・・・」

ロッソ「・・・・・・!」


ジョルノ「“矢”が、新たな所持者となりうる者を見つけた可能性が高い・・・ッ!」

ロッソ「!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



ダッ!

俺たちは、すぐさま建物の外へ走りだした。




教祖・スカルラット/スタンド名『スティグマータ』 → “矢”のパワーを受けたスタンドによって消滅。

to be continued...

495 ◆LglPwiPLEw:2011/10/18(火) 23:01:22 ID:LFRNuDEc0
長かった14話、ついに終了です。
次の15話が最終回になります。

今回登場した「盲点」について知りたい方は↓のリンクに行ってみるといいと思います。
ttp://labaq.com/archives/51014471.html

教祖については、なんだかうやむやな感じで死なせてしまいましたが、番外編を書く機会があればそちらで彼の過去について述べたいと思っています。


そしてですね・・・すでに嫌な予感がしている人も多いと思いますが、ガーネット・クロウ、進化いたします。
このことは連載初頭くらいから考えてました。決して切羽詰まった状況になったのではありません。

次スレが立ちましたら、このスレに投下しようと思います。その際は転載をお願いします。


というわけで・・・お待たせして大変申し訳ありませんでした。
次回も細切れの投下になると思いますが・・・気長にお待ちください。

496名無しのスタンド使い:2011/10/18(火) 23:04:00 ID:PgDU4NcY0
(教祖に)勝った!グラナート・クオーレか・・・んじゃないッ!?まだ続くのか!しかし完結も近いようだなッ!
そしてやはり来るのかスタンド進化・・・!wktk,wktkァ!

497 ◆79EFR1u8EY:2011/10/18(火) 23:22:52 ID:H1H2YuDY0
教祖を倒してもまだ終わらない・・・・・・
蜂が向かうのは・・・・・・


wktkがとまらにゃーい!

498名無しのスタンド使い:2011/10/18(火) 23:30:29 ID:DCHqDsz2O
更新乙でし!
ビアンコさん最期の抵抗がこれの伏線だったとは……

とうとう来てしまった最終回、どうなるのか楽しみにしてますっ!

499 ◆LglPwiPLEw:2011/10/21(金) 23:34:25 ID:3NUAWKrs0
お疲れ様です。新スレがきたので成長案を投下します

【スタンド名】ガーネット・クロウズ・ノクターン(紅い烏の夜想曲)
【本体】ボスになったジョルノに命を救われた少年。
【タイプ】??
【特徴】『ガーネット・クロウ』の特徴だった宝石の心臓がなくなり、大きな穴になっている。
    顔は頭から垂れ下がった布で隠され、全体的に東洋チックな雰囲気。
【能力】??


破壊力-なし スピード-なし   射程距離-なし
持続力-なし 精密動作性-なし 成長性-なし



あと10日で二周年か・・・

500名無しのスタンド使い:2011/10/25(火) 15:31:53 ID:4Z59vMiAO
ガネクロ進化きたあああ
能力が楽しみすぐる

次回最終回!期待してます!

501 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:11:11 ID:qHHmGwAA0
ちょこっと更新しちゃおうかな〜

502第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:12:12 ID:qHHmGwAA0
───アッズーロは、ローマ市内の裕福な家庭に生まれた。


その家は音楽一家で、彼は幼いときから様々な音楽教育を受けていた。

どんな楽器であろうと技術を吸収してしまう彼を、人々は『天才』と呼んだ。


とりわけ、彼が得意としていたのはヴァイオリンである。


その実力は、あらゆる大会で一等をかっさらい、メディアから取材を受けるほどだった。

こういった境遇に対し、彼は心から幸せだと自覚し、日々を送っていた。


自分自身が今“幸せ”だと実感できること。
人間にとって、これ以上の幸福があるだろうか。



アッズーロが音楽高校に入った後も、その名声で大いに優待された。


“楽器と一体化している”
“手慣らしにパガニーニの『カプリッチョ』など余裕”
“師範が逆にレッスンされている”

などという噂も立てられた。


その上、彼は人懐っこく、誰からも愛される性格であった。

しかも、音楽以外についても博学で、特に物理学は大学卒業レベルと同等。
ルックスもイケメンだ。


当然のように、異性からはモテた。
女性の扱いが苦手だったので、積極的な交際には至らなかったが。



これだけでも分かる通り、彼の人生は、間違いなく成功一直線だった。

誰もが羨むほどの、最高の人生を歩む予定だった。



ところが────

503第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:12:53 ID:qHHmGwAA0
ここで一つ、例え話をしよう。


ヴァイオリンの弦というものは、ある時、何の前触れもなしに“バチン!”と千切れることがある。
これは本当にいつ起きるか分からない現象であり、本番中に突然という可能性も十分にあるのだ。

このことは、どんなヴァイオリンの達人であろうと予測ができないらしい。



そして、アッズーロの身に起こった“不幸”は・・・まさしく、このヴァイオリンの弦のような、突然の出来事だった。



ある日、アッズーロが下校しようとしていると、友人が何人か彼のもとにやってきた。

友人たちは、彼をバスケに誘った。
アッズーロは快く誘いに乗り、彼らについていった。


───このとき、アッズーロの“弦”は音をたてて千切れたのだ。


一同は、普段学生たちがバスケをしている路地裏に来た。


・・・そこは想像を絶する“無法地帯”と化していた。

まず、男がひとり白目をむいて倒れていた。
でたらめな操り人形のように地面で蠢く女がいた。
奇声をあげながら壁に頭を叩きつける男がいた。


全員が一目で理解した。

こいつらは“薬中”だ。


普段の路地裏はいつの間にか、ドラッグによって人格を破壊されたゴロツキたちの集会場と化していたのだ。

504第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:13:44 ID:qHHmGwAA0
『・・・ハッ!』

戦慄を覚えた仲間たちは、アッズーロが気付かないうちに逃げてしまっていた。


『ちょ・・・!』

アッズーロは焦りながらも、迷わず逃げようとした。

だが・・・


ガシッ

『!』

何かに背中を掴まれ、逃げることができなかった。


「誰かと思ったらアッズーロじゃねぇかよォォ〜〜〜。なァ、お前も一緒にやろうぜェ〜〜〜」

『ッ!!』


振り返って、アッズーロは驚愕した。

アッズーロを掴んだ者の正体は、“彼の一番の親友”だったのだ。


(馬鹿な! お前がなんでここにッ!)


ほんの2日間、会っていなかっただけなのに・・・
親友は、まるで何年も薬をやっているかのようにトリップしていた。

目の焦点は完全にズレており、口からは涎が流れている。
その手には、小さく細い注射器が握られていた。


『い・・・嫌だ・・・』

「そんなこと言わずによォォ〜〜〜、マジで気持ちいいからさァ〜〜〜」

『うわああああぁぁぁっ!!』


親友だったものに力任せに引っ張られ、アッズーロは思わず悲鳴をあげた。

他の薬中たちも、何も言わずにアッズーロを押さえつけた。


「へへっ、く、クケキェキェキェ!」 トントン

505第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:15:55 ID:qHHmGwAA0
液体に満たされた注射器を指で叩き、かつての親友は不気味に笑った。


腕を捲られる。



『やめろオオオオォォ━━━━━!!!』




───その日以来、アッズーロの人生は変わってしまった。

“終わってしまった”と言っても、言い過ぎではないかもしれない。



先に述べておくと、この事件は友人たちが仕組んだ罠であった。

彼らは、あまりに良く出来すぎているアッズーロを普段から妬んでいたのだ。


そして、アッズーロに最も親しい友に薬を手渡して・・・



彼らはアッズーロを一人残して去った後、すぐに警察へ通報した。


・・・大騒動にならないはずがなかった。

天才と称された優等生の、まさかまさかの愚行・失態。

学校の信用は地に堕ち、莫大な借金を抱え、2年後には経営者が変わった。
家庭では、アッズーロの父親の会社が倒産し、母親と祖父が鬱病になり、叔母は自殺した。
すでに契約していた大手レコード会社の株は大暴落し、音楽業界の経済状態はしばらく不安定になった。


そんなことがあっても、アッズーロは一切気にならなかった。

“薬”があったからだ。


美しい色彩の幻覚と、激しすぎる高揚感以外に、彼は何も欲することはなくなった。


彼が拘置所に入れられている間も、彼が頼めばなぜか、まるで喫茶店で水を注文するように薬が出てきた。


一体どういうことか。

この謎の背後には、当時すでに恐るべき勢力に成長していた“ある集団”の影があった・・・



??「あの男に目をつけたのはなぜですか? ボス」

??「“矢”を持っているポルポが“何か強い力”を感じたらしい・・・それはヴァイオリンの才能を持つ少年が発している力だと・・・
  もしかすれば、強力な『スタンド』にまつわる力を秘めているのかもしれないんだ。
  だから今のうちに、こちら側につけておこうと思ってな・・・あのガキどもに薬を持たせたのは正解だった」


??「しかし・・・まだ彼が何者かも分からないのにいいんですか? “うちの薬”でジャンキーにしてまで・・・」

??「・・・今の我々には“絶対的な力”がまだない。どんなに金をつぎ込もうとも得られない“力”が・・・
  それを得られる可能性が1%でもあるならば、彼が犠牲になっても致し方ない」


??「・・・・・・」

??「安心しろドッピオ。“絶対的な力”と言えど、オレたちに勝るには至らない。
  いずれ、この『キング・クリムゾン』の力が・・・すべてを完璧な方向へ導くだろう・・・!」

506第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:16:53 ID:qHHmGwAA0
*   *


アッズーロ「クク・・・クフッ・・・」


彼はまだ笑っていた。

絶対の信頼を寄せるブルーノが来てくれて、笑いが止まらなかった。


イザベラ「・・・!」 ガク

イザベラは、あたかも魂を奪われたような表情で崩れ落ちる。


“敵がもう一人”・・・

しかも、そいつは頼りになるはずだったチレストロを真っ先に始末した。


当たり前といえば当たり前だ。
彼女は裏切り者だったのだから。


だが・・・
こんな突然の別れ、イザベラには受け入れられなかった。


そして何よりも・・・

自分の命も、もはやここまでという状況なのだ。

絶望しないほうがおかしい。



ブルーノ「お前の仲間のさァー、ロッソってヤツと話してたんだよ、さっきまで」

金髪の男は、自分の行いをまるで気にしていない様子で話し始めた。


ブルーノ「いいヤツだな、アイツ。オレと趣味が一致してるし。
    久しぶりにざっくばらんに話できたよ」

アッズーロ「ブルーノ〜僕はァ〜〜〜?」


背後の悪魔が、自分を忘れてほしくないというような言い方で言った。


ブルーノ「あぁあぁ、“お前以外の人間で”って意味だよ。お前とはいっつも心開いて話してるだろ?」

507第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:17:32 ID:qHHmGwAA0
歩き出したブルーノはイザベラの横を通り過ぎ、アッズーロに近寄った。

アッズーロは糸に縛られたまま、まるで乳児のようにはしゃいでいた。


スパッ

ブルーノ「ほらよ」


ブルーノのスタンドが、『シルキー・スムース』の糸をあっさりと切り落とした。


アッズーロ「ブルーノ!」

すかさずアッズーロはブルーノに飛びついた。

ブルーノはそれを拒むことなく、片腕を彼の肩に回した。


ブルーノ「まったくよォー、チレストロみてーなヤツ一人に苦戦すんじゃねーよ!」

アッズーロ「仕方ないよ、あいつのせいなんだよ! あいつの“糸”が邪魔するんだ!」


イザベラ「・・・」


アッズーロ「あーなんだかムカついてきた。とっとと消していい?」

ブルーノ「落ち着けって。まだ“目標”は達成してないんだぜ?」


───逃げられなかった。

いや、“逃げても無駄だ”ということしか彼女の頭にはなかった。


アッズーロ「いや、ほんとに嫌いだよ。僕のこと馬鹿にしてるよ、こいつ」

バキィッ!



その一発で、イザベラの意識は吹っ飛んだ。




*   *


アラゴスタは、遠くで上げられたイザベラの悲鳴を聞き逃さなかった。

アラゴスタ「!」

508第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:18:03 ID:qHHmGwAA0
ビオンド「どうした?」


アラゴスタ「イザベラ・・・」

ミスタ「なに?」


アラゴスタ「聞こえた・・・イザベラの声だ!」

リモーネ「空耳じゃあ・・・ないのか?」

アラゴスタ「そんなわけない・・・今ハッキリ聞こえたよ、悲鳴が!」


  ・・・!!


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



ヴェルデ「・・・くっ」


全員の不安が増幅する。

チレストロに一応助けられたとはいえ、イザベラは完全に逃げ切れたわけではない。
場合によっては、彼女もビアンコのように・・・


ミスタ「・・・よし、いくぞお前ら! おい小僧、どっから聞こえた?」

ヴェルデ「ミスタさん・・・」


ヴェルデにとって、僅かばかりの葛藤だった。

部下として指示通りにボスのほうへ向かうか、仲間としてイザベラのほうへ行くか・・・
後者を採るなら、今ここで上司に反論しなければならない。


しかし、そんな葛藤はほんの一瞬で無意味なものになった。


リモーネ「ハッ! ・・・あれは!」

リモーネが、遠くから走ってくる人影を2つ確認した。


ビオンド「ボス!」

アラゴスタ「ロッソ!」


ヴェルデ「・・・!」


リモーネ「ご無事でしたか!」

509第15話 夜想曲 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:18:54 ID:qHHmGwAA0
ジョルノ「大丈夫だ・・・」

ミスタ「結局・・・どうだったんスか?」


ロッソ「・・・」

ジョルノ「教祖は、消滅した。“矢”の力を無理に取り込んだせいか・・・
    しかし、まだ闘いは終わっていない・・・“矢”が新しい所有者を見つけたようだ・・・」


リモーネ「しょ・・・」

ミスタ「所有者!?」


アラゴスタ「ど・・・どういうこと?」

アラゴスタには、ジョルノとロッソの表情を見ただけで事の深刻さを予感できた。


ジョルノ「スタンドに新しい力を与える“矢”。それを蜂に変えたら、向こうの方角へ飛んでいったんだ。
    詳しくは知りえないが、何か恐るべき事態になりそうなんだ・・・」


ビオンド「なんだよそれ・・・」

アラゴスタ「あっちって・・・イザベラの悲鳴が聞こえたほうだ!」


ロッソ「なにッ・・・! イザベラが!?」

ロッソの顔が、ますます強い不安感に塗り替えられた。


ジョルノ「時間がない・・・行くぞ!」

ミスタ「了解!」


考えるまでもなく、彼らの足は動いた。


向かう方向はミラノ・ドゥオーモ広場。


各々がそれぞれの“運命”に決着をつける場所である。

510 ◆LglPwiPLEw:2011/11/14(月) 23:21:41 ID:qHHmGwAA0
ここまでです。

最終話は回想っていうか過去の話がメインになりそう……
ラストバトルは結構あっさり決着するかもしれない。

511名無しのスタンド使い:2011/11/15(火) 12:16:42 ID:UQ58pE7k0
おっつううう
もう終わってしまうのか……
早く読みたい気持ちと終わってほしくない気持ちが葛藤中や!!

512名無しのスタンド使い:2011/11/15(火) 13:11:16 ID:9MMDrOt60
更新乙です!
まさかの下駄が衝撃的だった進化案の登場がたのしみでならないでし

513名無しのスタンド使い:2012/10/26(金) 09:27:44 ID:9qiKcsM60
ツヅキマダー?

514 ◆LglPwiPLEw:2013/01/19(土) 22:05:40 ID:rIf31Id.0
ロッソ「マダー? とか書かれてますけど、どうするんですか、もう1年以上放置されてますよ」

ビアンコ「仕方ねぇだろ。◆Lglの奴、試験やら何やらで忙しいんだからよ」

ロッソ「それにしては、休日にはバカみたいに昼寝したり、PCでつまんなそうにネットサーフィンしたり、時々思い出したように夜ノ杜書き足したりしてますよ」

ビアンコ「ま、そういう奴ってこった。将来後悔するタイプだな、俺みたいに」


・・・見てろよ、絶対に完結させてやる・・・
とりあえず近日夜ノ杜の続きを上げます。その後はガネクロを書く・・・

515 ◆LglPwiPLEw:2018/01/21(日) 01:26:28 ID:sC5JSMoI0
ちゅみみーん

516 ◆LglPwiPLEw:2018/10/20(土) 02:55:55 ID:pr5g0lKo0
ネタバレ:アラゴスタは死ぬ

517名無しのスタンド使い:2019/11/29(金) 01:32:26 ID:PF0dxULc0
もう10年経つのか
初めて主人公チームに自分の案使われたSSだったから完結して欲しかったなあ……

518 ◆LglPwiPLEw:2020/12/14(月) 00:44:01 ID:V.3SSof.0
今になって読むと、ヴェルデさんが自分の現状に重なってキツい
続き、ちょっと書いてみようかな〜と思ってます

519 ◆LglPwiPLEw:2020/12/14(月) 21:09:38 ID:V.3SSof.0
これまでのあらすじ


ネアポリスの高校生・ロッソはひょんなことからギャング組織の大ボス・ジョルノと出会う。

ジョルノ達は、ギャングの殲滅を目論むカルト教団を潰すための計画を立てているところだった。
しかし、スタンドに目覚めたロッソ達が教団の団員と接触したことから、ロッソや彼の仲間たちにまで命の危険が及んでしまう。

ジョルノはいち早く問題を解決するため、ロッソ達と共に教団の本部があるミラノへと向かった。

だがミラノでは既に敵が罠を仕掛けており、仲間の1人・ビアンコが教祖の手にかかるなどの悲劇もあったが、ついにロッソとジョルノは教祖と対峙。激戦のさなか、教祖は真の目的であった「スタンドの矢」を体に取り込んでしまうが、矢に選ばれることはなく、この世から消滅した。

これで戦いが終わったかに見えたが、「ゴールド・エクスペリエンス」によって蜂へと姿を変えた「矢」は、ジョルノとは違う全く別の“新しい所有者”の下へと飛んでいった。
その先にいるのは……

520 ◆LglPwiPLEw:2020/12/14(月) 21:16:41 ID:V.3SSof.0
*   *


   ドサァッ

イザベラ「・・・」


イザベラは、何の抵抗もできないままアッズーロにやられた。

一瞬のうちに打ち込まれた当身。
逃げる暇も、逃げようとする意思も封じこめるように。

アッズーロ「・・・ふん!」


アッズーロは倒れたイザベラを指差し、一気に上空に持ち上げる。

そして、すでに意識のない彼女を無慈悲に地面に叩きつけた。


   ドゴ!


アッズーロ「この! ゴミが! 馬鹿にしやがって! 消えろ! この! クソ!タワケ!
    死ね!バカ!アホ!チンドン屋!デベソ!
    オラ!オラ!オラ!オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


   ドシャ! ドシャ! ドシャ! ドシャ! ドシャ! ドシャ!


何度も何度も、イザベラを地面に叩きつけた。


ブルーノ「おいそこまでだ。やめろアッズーロ」


ブルーノがふざける子供に言い聞かせるように言った。


アッズーロ「しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね!」

アッズーロはもはや聞く耳を持っていない。
イザベラが叩きつけられた地面に、血溜まりが広がっていく。

ブルーノは溜め息をついた。
自分の言うことすら聞かないなんて珍しいな・・・とブルーノは思った。
それだけアッズーロは、この娘に負けたことが悔しいのだろう。


ブルーノ「仕方ねぇか・・・気の毒な娘さんだぜ───」



   グイィィィン!


アッズーロ「あうぅ!」


ブルーノ「?」

アッズーロが急に異様な声をあげた。

見ると、なぜかアッズーロ自身が空中に浮かび上がっている。
イザベラとかいう娘は、地面に血を広げながら横たわっていた。


ブルーノ「どーした? 急に空中散歩か?」

アッズーロ「ちがう!僕の目の前をちっちゃい “何かが通りすぎた”! そしたら僕が持ち上がって・・・うわッ!」


そのままアッズーロは自由落下した。
地面に激突する寸前のところで、アッズーロの『エクスターミネーター』は地面を指差し、本体の体を空中に固定させた。
まるで、指一本で体を支えているようだ。


ブルーノ「・・・」


アッズーロ「なんだったんだろう、ブルーノ?」

ブルーノ「おい・・・お前が“通りすぎた”ってのは・・・“アイツ”か?」


ブルーノは真剣な目で空中をみつめていた。

アッズーロ「え? あー、そうそう、たぶん“あれ”」



───それは一匹の蜂であった。

鮮やかな縞模様が朝日に照らされ、ちっぽけな昆虫とは思えないほどに輝いていた。


ブルーノ「おい、アッズーロ・・・ついに来たぜ・・・!
    オレたちが求めてた“希望”だ・・・!」

ニイィィィッ


ブルーノは、これ以上ないほどに口角を上げて微笑んだ。



アラゴスタ「イザベラァ!!」


通りに子供の叫び声が響いた。

そこには、今にも泣きそうな少年を含めた、7人の男が立っていた。


ブルーノ「・・・」

アッズーロ「あ、あの人たち知ってる」


ロッソ「ブルーノ・・・さん」

521 ◆LglPwiPLEw:2020/12/14(月) 21:21:30 ID:V.3SSof.0
その中の一人、ロッソという少年が口を開いた。
ブルーノからすれば、良く見知った人物だった。

ロッソ「あなたは・・・一体・・・」


ブルーノ「よぉロッソ! 無事だったのか! あのクソジジイをブッ殺してくれたんだな!」

ブルーノがあくまで軽く、ロッソに話しかけた。


リモーネ「貴様ら・・・教祖の部下か?」


リモーネが質問すると、ブルーノはロッソに向けた笑顔を消して答えた。


ブルーノ「・・・部下ァ? ハッ、あんなジジイの部下なんて死んでもゴメンだぜ」

ロッソ達は誰一人、2人に近づいていない。
否、近づけない。

彼らからは、未だかつてない異常な雰囲気が感じられた。


近づくと危険だ・・・
だが、倒れているイザベラも救出しなければならない。


ブルーノ「おめーらギャングだか何だかは知らねぇがよ。オレは“アレ”さえ手に入れればいいんだ・・・あのジジイの近くにいたのも、そのためだぜ」

ブルーノは朝日の中を勢い良く飛び回る蜂を見た。


ジョルノ「なぜ“矢”を知っている?どうするつもりだ? スタンド使いの仲間が欲しいのか?」

今度はジョルノが質問する。


ブルーノ「・・・そんなんじゃねぇ。オレの友達はアッズーロだけだ。オレはアッズーロとの約束を果たすために矢を手にいれる・・・」

アッズーロ「・・・」


アッズーロは興味津々の子供のような様子でロッソ達を眺めていた。
一歩間違えれば、アラゴスタのように純粋な瞳のようだった。


ブルーノ「なんもやましいことは考えちゃあいねーよ。本当に、ごく私的な欲求を満たすためだぜ。
    ・・・いいか? オレが欲しいのは“レクイエム”の神秘だ・・・」


ついにブルーノの口から飛び出した『レクイエム』という単語に、一同に緊張が走った。

強大過ぎる力ゆえに、未だかつてジョルノ以外に制御できた者はいないという『鎮魂歌(レクイエム)』・・・

教祖ですら、その力を受け容れられずに死んだ。

それをこの男が使いこなせるとは思えないが・・・
万が一、彼が『レクイエム』を手に入れたら・・・碌な事態にはならないだろう。


ジョルノ「お前は何も分かっていない・・・“レクイエム”が世界にどんな影響を及ぼすのかを!」

ブルーノ「“魂の支配”だろ?」

ジョルノ「!」


正解をあっさりと返され、ジョルノは動揺を隠しきれなかった。

ブルーノ「知らないとでも思ったか? オレは『レクイエム』について、ジジイと一緒に調べまくったんだ。
    そして分かったんだ・・・“魂を支配する”力ならば、コイツを正気に戻すことができるってな・・・!」


ビオンド「正気に戻す・・・だと・・・?」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


ブルーノ「オレとアッズーロの約束なんだ・・・
    コイツはクスリのせいで理性のない人間になった。ヴァイオリンの天才だったが、そんな知能ももう無くなっちまった。
    だが、『レクイエム』のパワーがあれば、コイツを正気に戻せるかもしれねぇんだ。一緒にソナタを弾ける時が・・・来るかもしれねぇんだよォ!」


   バッ!


    「 ! ! 」


ブルーノが動いた。

522 ◆LglPwiPLEw:2020/12/14(月) 21:45:50 ID:V.3SSof.0
ブルーノ「オッシャアァ!」


ブルーノのスタンドが蜂に迫る。

ミスタ「止めろ!奴をッ!」

張り詰めた空気が爆発したように、全員が攻撃態勢をとる。
リモーネとアラゴスタが、同時にスタンドを出してブルーノに迫った。

   ドシャ! ドシャッ!


リモーネ「うごッ!」 アラゴスタ「うあっ!」

その瞬間、二人は後方へ弾き飛ばされた。


アッズーロ「・・・『エクスターミネーター』」

アッズーロがスタンドを出し、相手を指さしていた。
凄まじい反応速度だ。

ビオンド「あいつのスタンド、指で遠くの物を弾き飛ばしちまうのか・・・!」


ブルーノ「よくやったぜアッズーロ!」

ブルーノは、空を飛び回る蜂のすぐ真下に来ていた。


ブルーノ「取れるぜッ!」


   ズキュゥゥン!!


ブルーノ「!!」


今まさにブルーノが蜂を手中に収めようとした時、彼の左手に穴が開いた。

ミスタ「『セックス・ピストルズ』・・・甘いぜ、7対2だぞ!」


間一髪でブルーノの手を逃れた蜂は、ブルーノを嘲笑うようにジョルノの元へ飛んでいく。

・・・かと思えば、今度はロッソの方向へ飛んでいき、その後またブルーノの方へ引き返す。

優柔不断といえる飛び方をしていた。


ジョルノ「・・・お前は何も分かっていない。『レクイエム』の真の目的を!
    “前奏曲のその先”を知らない!」

ブルーノ「あのなぁ・・・何も分かってないのはテメェらの方だぜ・・・オレとアッズーロの絆は、親と子以上だ・・・!」

ドクドクと血の流れる手を押さえながら、ブルーノがジョルノを睨みつける。


ジョルノ「間もなく『ゴールド・エクスペリエンス』の能力が切れる。そしたら蜂は元の“矢”に戻るだろう。
    その前にまずはお前達を再起不能にし、相応の場所に収容させる必要がある」


ブルーノ「うるせぇッ! オレはぜってーに塀の中にゃあ入らねぇからな! アッズーロと離れるなんて死んでも拒否する!
   おいアッズーロ! “例のヤツ”いくぞ! さっさとコイツらを片付けてやる!」

アッズーロ「・・・」ニヤリ


ブルーノの言葉に、アッズーロは不気味な微笑みで返した。


ジョルノ「ミスタ、ヴェルデ、攻撃はあなた達に任せます」


ミスタ「了解!」

ヴェルデ「はい!」


銃を持つミスタとヴェルデが速攻をかける気だ。

ミスタ「後ろの男の“指”にはくれぐれも気をつけろよ!」

ヴェルデ「Si(はい)! 行くぞ『ウェポンズ・ベッド』!」


2人が躊躇なく引き金を引くまで、1秒とかからなかった。

   ドォン! ドォン!


・・・・・・


アッズーロ「・・・ンフフ」


撃鉄がおりても、アッズーロとブルーノに何一つ変化はなかった。

静かな街の中に、銃声の残響が長く残った。


ヴェルデ「・・・馬鹿な・・・
    奴の右手・・・“見えなかったぞ”・・・」

ミスタ「・・・・・・」


リモーネ「二人とも・・・どうしたんです?」


    ドサッ


一言も発しないままミスタはその場に倒れ、ヴェルデはうずくまった。


      !   ?

523 ◆LglPwiPLEw:2020/12/19(土) 11:21:44 ID:ghkVtYlI0
ロッソ達は突然の現象に硬直した。


“やられた”!?

ロッソは動悸を必死に抑えながら、ミスタとヴェルデを交互に見た。

ミスタは頭から流血しており、ヴェルデは胸に銃弾を撃ち込まれたようだった。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


アラゴスタ「これは・・・!」

リモーネ「撃たれているッ! 奴のスタンドか・・・!」

ビオンド「いつの間に攻撃しやがったッ!」


ブルーノ「へへへへ・・・」
アッズーロ「・・・」

ブルーノが乾いた笑い声を発する。
アッズーロは無表情のまま、じっとこちらを見つめていた。

ブルーノ「人数が多いから勝てるとでも思ったか? 7対2だから? 甘いぜ! オレ達は無敵のコンビだ! このスタンドの組み合わせは・・・ぜってーに破れないッ!」

  ズオォォ!!

ブルーノが人型スタンドの全身を解き放った。

身体は黒く、全身には幻想的な白い模様が浮かび上がっている。
顔は真っ白なマスクで覆われているが、その眼光は眼の前の全ての生物を殺生することも厭わないほど凶暴だった。


ジョルノは久しぶりに、背骨が震えるような悪寒を感じた。
ロッソは全身から血の気が引くような恐怖を感じていた。
アラゴスタは下唇を噛む歯がわずかに震えていた。
ビオンドは皇帝が目の前にいるようなプレッシャーに、脚がすくみそうになっていた。
リモーネは必死に相手の能力を考えたが、頭が回らなくなりかけていた。

5人とも、これまで多くのスタンド使いを見てきた。
ジョルノとロッソに至っては、先ほどまで超常的な能力を持つ教祖と戦っていた。
しかし、ブルーノのスタンドが放つ「禍々しさ」は、それらも霞むような“漆黒の意思”を持っていた。


ジョルノ「みんな、僕はイザベラとミスタとヴェルデを治療する。その間に“蜂”を捕まえてくれ」

ジョルノの声は冷静だった。

ビオンド「時間が無ぇぞ……蜂から“矢”に戻ったら、アイツの『指』で一瞬で手元に移動させられちまう!」


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