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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

1名無しさん:2024/09/15(日) 12:46:35 ID:/Z9m.dHw0
─────学校をズル休みした日の朝食は、別世界の味がした。
アーサー・C・クラーク(幼年期の終わり)


※当ロワは『読んで楽しむ型のロワ』です!!テンプレ改善につき立て直しました。

※このロワは非リレーなのをいいことにやりたい放題メッチャクチャ自由に書きます。そのため、粗へのご指摘・突っ込みは重要なご意見として歓迎します。アンチコメントも大歓迎!!! (…ライン越えしない限り)要望スレへの報告はしないので遠慮なくでお書きください!!
※勿論感想も大歓迎です!!要望があれば挿絵も描くので、描いてほしい回があったら気兼ねなくお願いします!

[@wiki]
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/85.html

[参加者名簿]
6/6【ヒナまつり】
 〇ヒナ/〇新田義史/〇三嶋瞳/〇アンズ/〇新庄マミ/〇殺人ニワトリ

6/6【私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
 〇小宮山琴美/〇根元陽菜/〇田村ゆり/〇吉田茉咲/〇うっちー/〇美馬サチ

5/5【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
 〇四宮かぐや/〇白銀御行/〇藤原千花/〇早坂愛/〇伊井野ミコ

5/5【中間管理録トネガワ】
 〇利根川幸雄/〇兵藤和尊/〇黒崎義裕/〇佐衛門三郎二朗/〇堂下浩次

3/4【古見さんは、コミュ症です。】
 〇古見硝子/●只野仁人/〇長名なじみ/〇山井恋

4/4【だがしかし】
 〇枝垂ほたる/〇遠藤サヤ/〇尾張ハジメ/〇鹿田ヨウ

4/4【ダンジョン飯】
 〇ライオス・トーデン/〇マルシル・ドナトー/〇チルチャック・ティムズ/〇センシ

4/4【HI SCORE GIRL】
 〇矢口ハルオ/〇大野晶/〇日高小春/〇ガイル

4/4【干物妹!うまるちゃん】
 〇うまるちゃん/〇土間タイヘイ/〇海老名菜々/〇本場切絵

3/4【ミスミソウ】
 〇野咲春花/〇相場晄/●小黒妙子/〇池川努

3/3【悪魔のメムメムちゃん】
 〇メムメム/〇小日向ひょう太/〇オルル・ルーヴィンス

3/3【空が灰色だから】
 〇璃瑚奈/〇来生/〇佐野

2/3【闇金ウシジマくん】
 ●丑嶋馨/〇肉蝮/〇鰐戸三蔵
以下省略
htps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/11.html

67/70

[元ネタ『ステマ棚』]
…ステマ棚とは。
2015年頃、『なんでも実況J』の漫画スレで貼られるようになった棚。
なんjで話題になった(ステマされた)漫画ばかりをコレクターした棚になっている。
平成最末期になり更新が途絶えたため、今見れば絶妙に古くエモい漫画ばかりとなっており、そのことが当ロワタイトルの『平成漫画』の由来となっている。
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/1/97/sutema1.png
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/1/98/sutema2.png

企画を始めるにあたって実際に6万かけて全冊読んでみたが、…まぁ、『ヒナまつり』と『目玉焼き』は特に掘り出し物であった。
とどのつまり、参戦作全てが「○○(タイトル) なんj」でググれば把握できるので、比較的入門は楽なロワだと思います!!

684『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:57 ID:cFeuEibI0
「────アンタらクソッカス水如きの命握ってんのが誰なのか──。よ〜く肝に銘じて、約束守ってね♪ それじゃ、よろしくー!!」


 ……

 シュ────ッ……



「………ったく。…レイミーブルーなぜ追い詰めるの〜〜♪」



山井が喋り終えた後『水の塊』はズタボロの階段奥へと高速移動。
その姿が完全に視界から消えた折、上階の工事音のような喧しさはより一層激しい物と化す。

ガガガガガ─────ッ
 バキバキバキ、ガガガ────ッ
  ガシャン────ッ

全ては、主人に尽くす為。
山井の心とろける歌声に、雨もまた答える──。



「あなたの幻〜〜ふんふん〜♪…………あーもう歌詞分かんないからいいやっ!」




────────【言うまでも無く、ホテルをここまで斬撃し尽くしたのは『雨《ウンディーネ》』。ならびに『山井恋』による犯行である】────。





 山井の小さな肩へ、ポツポツと零れ落ちる『ウンディーネの一部』。

彼女にチャプチャプ…と靴で踏み躙られても一切の文句を言わない水たまり──即ち、『ウンディーネの一部』。

鼓膜が痺れるほどの暴音に紛れて、耳を澄ませば感じ取れる男女複数の悲鳴。上階の犠牲者達。
そんな血生臭い叫び声など端からノイズジャック済みなのか、山井はゆったりとペットボトル水を口に含む。──『伊賀の天然水』。


 夏の暑さにやられた喉を潤した彼女はほっと一息。
束の間のみ和んだ後、鋭い菜箸の先をツンツン触ると、やがてさぞ面倒臭そうに立ち上がった。
右手にはやたら鋭利な金属の箸、左手にはやや黄色味がかったビニール傘を持ちつつ、山井はエレベーターへ歩を進める。
──この土砂降り下にて、仮にぐしょ濡れの誰か参加者に出会した際。──彼女は躊躇なく右手の物を、『さし出す』事だろう。


「さーて、アイツら喋んないから当てにならないし。私も探しますか〜、クソカスわんちゃんを!! あはっ☆」


 野原ひろし等がこのホテルに逃げ込み──現在二十分経過。
魔人デデル一行がまた同様に、ホテルに吸い込まれ──ウンディーネが追い回して以降、十五分経過。
二組それぞれの逃亡者を東●ホテルに追い込んだ張本人・山井は、満を持してとホテル内の探索を開始する。


「ふんふふふ〜〜〜ん♡」


攻撃担当は山井のポケモン──ウンディーネである以上、主人がわざわざ戦場に立つ意義など全くとて不要なのだが。
それでも彼女はホテル内に立ち寄る理由があった。
例え、怒り狂ったひろしや魔人が襲い掛かろうとも、
そして行く末。自分の身に危険が生じようとも、山井は立ち寄らなければならない。
『捜さなければいけない』という、固い決意があった。


「ふんふふふ〜〜〜ん…──」


その、山井恋が求める相手というのが、先程ウンディーネに「“この三つだけは攻撃すんな”」と釘を差した対象の一人。



「──早く会いたいよ、…古見さん…………」


────古見硝子。
──自分と家族全員の命よりも大切な、彼女であった────。

685『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:24 ID:cFeuEibI0
「…あはは。…複雑な気持ち……かな……。──」



────…という訳ではなく。





「──あのクソ犬が神聖な古見様を舐め回すとかめちゃくちゃ勘弁。で〜も〜……それでいて、舐められて思わず感じちゃう古見さんの光悦顔も見てみたい……って気持ちもあって………。──」

「──もどかしいな…、この気持ち……。貴方のこと、ほんとにほんとに…舐めたいのは……私なのに……ね…」


 山井が探す対象は、野原ひろし等の飼い犬。
自分の股ぐらに顔をうずめてきた──クソ犬(正式名称:マロ)である。
誰彼構わず、若い女子を見かければ躊躇なく飛び付いてくるマロだ。
一生舐めても溶け消えないような宝石であるあの子────古見さん探しには、バカ犬がうってつけであろうと。
山井がホテルに入った目的は、その考えから来るものであった。
──無論、探知犬が古見さんを見つけた暁には、ご褒美の殺処分が待っている。


「…もしかしたら、この中にいるのかな………古見さん──」


「──はぁ〜……」


 恋ひしがれる山井の指先は疲れを見せていたのか、微弱の震えが続く。
無理もない。
早坂と別れて以降、何百通にも渡る古見さん宛のラインを送り続け──現状既読すらも付いていないのだから、疲労は確かにあった。
そんなか弱い人差し指を、力を込めて押すはエレベーターのボタン。


「私も今日はそっと……♪ …雨…………っ♪」


下降マークが白く光る。

山井はエレベーターの迎えを、そして古見さんの姿を(──それとクソ犬を)、胸一杯に待ち続けた。





ただ、待てども待てども。
やって来るのは求めていない物ばかり。
人生とは難しい物で、自分の思い通りに事が進む人間なんか才能がある極一部のみである。



心の中しっとり雨の山井に訪れる者。
──それは、



「生憎だがエレベーターは今故障中だ。…くたびれるものだな、この何階建てにもなるホテルを階段で上がるとは…」

「え──…、」



 バンッッ─────────ッッ



「──ぎゃッ──」


──エレベーター扉に顔面を打ち付けられたことによる、額の鈍い痛みと。
──目元から弾ける白い星。
──涙粒と共に爆ぜる、おでこからの流血。

686『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:37 ID:cFeuEibI0
「いっぎゃぁああぁぁああァアアアアアア──────────ッッ!!!!!──…、」

「──ンッ、ぐえッ!!!」



「ただ、ポジティブに考えればだな。映画のディパーテッドではないが、エレベーターは乗った際、開きざまに即銃撃を食らうというケースも考えられる。…マスターに倣い、ポジティブ思考をしてみたが、そう考えるとコイツが故障中な事もまた利だろう」


「ぇ……い…ががッ…………。…は、…はぁ………ッ……!?」


──額から溢れる血でポツポツとペインティングされる、白い手袋。
──いや、白いという割にはあまりにも透明過ぎる。
──山井の首を持ち上げ、宙吊りにする、その半透明な右手と。


「……とはいってもエレベーターを壊したのは貴様。…というよりウンディーネ共なのだがな。最後に一つ、チャンスをくれてやる」

「…が…ぁッ…………………。な、なん…………で…………」

「『何で』とは。私は確かに言ったはずだが。後でお礼を支払うとな。まぁ良い小娘」


──ダメージジーンズか、とツッコみたくなるぐらいボロボロのジャケットと。

──冷たく氷切った目。


──そして、顔面前に突き出される、指パッチンの左手。




「………な、…ぁ…………んでッ………………………」



──────“何故、生きているのか………………?”

青筋がぶち破れたかのような痛みで、瞼の痙攣が止まらない。
息がとにかくできない。
いくら白いグローブ越しの手を引っ掻こうとも、びくともしない。

2cm程の額の裂傷に悶える山井へ、待ってましたとばかりに現れたその男。


「──二択だ、選べ。このエレベーターに[故障中]という張り紙を書きたいか、それとも『書けなくなりたい』か。お前にチャンスをやろう──」


「────魔界流の出血大サービスだ──────。」




『魔人』。
デデルは、まだ生きていた────。




「…ず…………随分と、また……………透明にッ…………なった…じゃん……………ッ」

「そうだな。『限りなく透明に近いブルー』…という小説があるが。貴様の顔も随分青くなってきたぞ?──」


 ポタ、ポタ…


「──…いや赤か」

687『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:52 ID:cFeuEibI0
「…………死………ねよッ……!! …つ…か、敬語……使え……っ……………て…………」

「敬語を求めるならいくらでもしてやる。ただ、魔人に対価を求めるなら願い主もまたそれなりの対価を差し出す物だがな。いいか?──」



「──今すぐウンディーネ全ての稼働を停止しろ。貴様へのチャンスはこれのみだ。…どうだ、引き受けるか?」


「…グ…ウッ…………………………!!!」



 上階のウンディーネの暴れっぷりたるや、それは耳障りな程騒がしかった為、デデルの顔は極至近距離。──山井の視界には、魔人の顔のみが映っていた。

何もかも、わけが分からなかった。

いや、冷静に考えれば、何故自分がこのような事態に陥ってるかは理解できそうものではあるが。
矢継ぎ早に次ぐ矢継ぎ早の急展開という事。
額の激痛を凌駕する絞苦と。そして、ダメージで麻痺しかける頭痛脳。
これらが要因で山井は全く理解が追い付けずにいた。

ウンディーネに追うよう命じて長時間経った筈──。
それだというのに、一体どうやって──。
何故、無傷で──。
この透明な化物は生存に事を終えているのか────?


ウンディーネの片割れを呼ぼうにも、首がしまって大声が出せる現状ではない。
援護には来てくれない。
何の役にも立たないポツポツ雨のみが、山井を湿らせていく中、切羽の詰まった彼女はもはや思考を放棄。
デデルが与えた『チャンス』に、山井は、


「…おいどうした小娘。YESかNO。貴様が選択を──…、」

「ィイイッ………!!!」


 ザシュッ─────
辛うじて手放さなかった菜箸を奴に突き刺す。
そんなアンサーで返したのだが、




結果は焼け石。




 ────ガキンッ




「………………は………………………?」




「やれやれ…。コレは『バリアー』だ。ユニークだろう? 私とて、お荷物二人を抱えるとなったらコイツを使う他あるまいものだった。しかしこれでまた無駄に使ってしまったな……魔力を…。これでは後先が思いやられる………。──」

「──しかし、小娘。貴様も負けじとユニーク…面白い奴だな。やはり人間の悪足掻とやらは実に興味深い…………」


「は…………? ッ、は…………………? ち…ょっと………待っ、て…。は………?──…、」



「貴様のユニークさは今後の参考にさせてもらう。さらばだ、小娘────」


「いや…、テメッ──…、」




ただ、焼け石に水とは言っても、雨が降っていた為もう十分だったのだが。

688『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:05 ID:cFeuEibI0
 パチンッ────



親指と中指を組み合わせて、パチンと響く小刻みの良い音。
そいつが鼓膜を振動した瞬間、山井の姿は蒸発したかのように消え失せた。
綺麗サッパリと、この場から。






「さて、…もう出てきても良いですよ。──マスター」



………
……



 ザザッ…

  ザザッ──……

689『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:18 ID:cFeuEibI0
『──臨時ニュースをお伝えします。──』


『──先ほど、アメリカ・マディソン郡にて、日本の民間航空機が墜落したとの情報が入りました。墜落現場は観光名所としても知られるマディソン郡の橋付近で、多数の死者が出ている模様です。──』

『──現地メディアによりますと、機体は突如現れた後、墜落。そして激しく炎上。周辺一帯には現在も救助隊が多数出動し、懸命の救出活動が続けられています』



「と、突如現れた……ねぇ…‥」

「…ま、…まま、魔人さん、もしかしてこの飛行機って………。さっきの……」


「……さっき、とは?──…、」

………
……


地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、
デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。


 パッ


「「あっ!!??──」」


「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!!」

「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!!」


……
………


「…あぁ、あれですか。…普段こそは任意の場所の設定もできるのですがね。……如何せん、今日は何だか調子が悪いようです。…私が不甲斐ないばかりに…申し訳ない」

「も、もも、申し訳ないじゃないでしょ魔人〜〜っ??!! あ、あぁ〜〜!!! ほら死者推定五千だって!!! 五千だよっ〜!???」

「……喧しいな。土間、喉の渇きはどうだ? 貴様の好きなコーラならまだあるが」

「飲んでる場合かぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「ど、どどどどうしよう〜〜〜〜〜〜もう〜〜〜〜〜〜!!!! う、うぅ…うへっええぇ〜〜〜〜ん!!!!!」



 ガガガガ──ッ……

  ガガガガ──ッ…………



「…だから喧しいと言っているだろう…………っ」



 フィルムを剥がしたアクリルフィギュアのような、もはやギリギリその体を維持してる程の、透明魔人・デデル。
貴重な魔力を消費してでも鳴らした、指パッチン一発でどれだけの人間が『透明化』した事だろうか。
紳士的態度とはいえ、所詮は【魔界】の住民。悪魔と同たぐいである彼。
故に、壊れかけのテレビから流れる臨時ニュースには、つまらない授業を受けるかの如し退屈な目で眺めていた。

本当に、彼からしたら自分と関係のない人間如きの死滅など、全くの眼中外だったのだ。
それ故、喧しく騒ぎ立てる二人の女子。──自分の、一応の仲間に向かって、彼はドライに話し出す。


 ピッ──


「あっ!!」 「(テレビを)消した!!?」

690『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:33 ID:cFeuEibI0
「…さて、くだらない事は後回しです。早く事を収めようではないですか、マスター」

「く、くだらなくなんかないでしょっ??!! 人が死んでるんだよ〜〜っ??!! 魔人のせいで〜!!!」

「…そうだな土間の小娘。願うとあらば、後でこやつらの慰霊の森でも作るとしよう。これで一応の解決にはなる」

「なるかっ!!! 何その自殺した子の墓に苛めっ子達がお線香供える〜的な舐めた発想は??!!」

「フッ。的を得たツッコミだな。流石は火星人だ」

「それでおだてたつもりかっ??!!! こんなので──…、」



「そんな貴様と、マスターにまた手伝って貰おうと思うのだが」



「え゙っ?!」 「え?!!」



「虫取りといこうか、夏らしくな。…宜しいですね? マスター。『ウンディーヌ』というムシケラを………っ」




「………う、うん……………」

「…はぁ〜あ…………」



アメリカ政府が、日本へ報復措置を取るのは実に数時間後。
そしてまた、薄れゆく魔人のタイムリミットも、──蝉の寿命程のか細さ。
──いや、蝉よりももう後が無い。炎天下に置かれたアイスキャンデー程度といったところであろう。


階段をせっせと登っていく中、デデルに背負われている身のうまるはユラユラと。


「…………ぼくなつでカブトムシコンプリートしたから…それで代用できないもの…かなぁ…………。はぁ…………」



随分と大長編になるかもしれない『うまるの夏休み』──。
そんな悪い予感でもう溶け出したい気分だった。

691『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:47 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/1F/階段/AM.04:36】
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失、魔力消耗(残り8%)、半透明化(95%)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕→対象:新庄マミ】
1:ウンディーネで魔力を補給。
2:マスター(マミ)に従う。
3:土間の小娘(うまる)には協力してもらう。
4:小娘(山井)に敵対。

【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】焦燥
【装備】ランプ@メムメムちゃん
【道具】UFOの破片
【思考】基本:【静観】
1:ウンディーネを捕まえてデデルさんを助ける!!
2:この水の塊をランプに入れたら魔力が回復するんだって!
3:それにしても『指パッチン』…恐ろしい………。
4:みんなしてわたしの扱い酷過ぎない?!

【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】焦燥
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】ジャンプラやら雑誌色々、ポテイトチップスとコーラ
【思考】基本:【静観】
1:死にたくないからデデルを助ける。
2:どうやって助けるって? なんかウンディーネ?っていう攻撃性ヤバいやつを捕まえなきゃならないんだよ〜。
3:あ〜〜しんどいよぉ…。死にたくないよぉおお〜〜〜。

692『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:00 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/3F/廊下/AM.04:50】
【飯沼@めしぬま。】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:7階にいるマルシルさんを助ける。
2:ひろしさんと共にこの窮地から脱出する。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:海老名ちゃん、飯沼くんを守る。
2:マルシルさん?を助けてホテルから脱出。
3:ウンディーネに恐怖心。
4:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん、ひろしさんと共にホテルから脱出。
2:ウンディーネが怖い…。
3:新田さん、あの女の子(山井)を危険人物と認識。


【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.04:37】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:えっ、何この子……!?(山井に対して)
2:え〜っ何このコ〜〜♡(マロに対して)
3:飯沼、まだかな………。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:はっ、はっ、はっ、はっ…

【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:目の前の変な金髪女を殺害。
3:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
4:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
5:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
6:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

693『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:11 ID:cFeuEibI0
※支給品説明…『マロ(クン●ーヌ)@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
→佐野の支給品。(現所有者マルシル)
 大型犬。女性を見かけると股座に顔を突っ込む。

※支給品説明…『ウンディーネ@ダンジョン飯』
→只野人仁の支給品。(現所有者山井)
 湿地帯に生息する魔物。
 厳密には精霊(の集合体)。
 圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで攻撃する。
 現在、16体に分裂。ホテル2F〜6Fにかけて、『山井恋』・『マロ』・『古見硝子』以外の参加者を無差別に攻撃中。

694 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:18 ID:cFeuEibI0
参加者二巡目、完・了!

投下終了します。
引き続き、『支給品:『アシストフィギュア』について』をお送りします。

695『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:51 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[肉蝮]]、[[兵藤和尊]]

696『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:02 ID:cFeuEibI0
【特殊支給品紹介】
────『アシストフィギュア』


格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するアイテムを模した品。

電気ポット程の大きさを誇るフィギュアで、楕円状のカプセルケースに内蔵されている。
“共闘してほしい”──という強い意志と共にこのフィギュアを天高く掲げると、カプセルが砕け『実体化』。
頼もしい味方が召喚され、損得も信頼も関係なく、戦闘に協力してくれるという、そういった代物だ。

アシストフィギュアの中身は実にランダム。
主催者曰く、『誰が出てくるかはお楽しみに』とのこと。
参加者達の知人から無作為に選んだ人物《のクローン》が登場する為、フィギュアファイターがとんでもない化物や格闘家だったり、はたまた全くの無役な一般人等が出てくる可能性があったりと。
召喚が吉と出るか凶となるかは運次第。

フィギュアファイターは前述の通り、基本召喚者に忠実な働きぶりをするよう作られている。
ただ、一定時間を過ぎるか、または致命傷を負った場合、光と共に跡形もなく消えていくという特徴もある。
──一定時間とは基本約一分程であるのだが、これまた主催者曰く『例外もある』とのことだ。



身体的能力、ハンデ等全く考慮されず、適当に選ばれた一部の参加者に支給されし──このアシストフィギュア。
今後、各々の戦闘活動に於いて、フィギュアファイターの力が、ただの焼け石に水となるか。
それとも渋谷全体を大きく流し倒す大洪水となるか。

いわゆる『サブ参加者』達の行動に目が離せない現状である。



 ここで、アシストフィギュアの使用例について、場面転換することとしよう。

 バトル・ロワイヤル下にて観測上、初めてその使用が確認されたのはゲーム開始から三時間が経過した折。
──時刻04:12:23秒の事。
──場所は渋谷東●ホテルの十階、廊下にて。


支給者No.06『丑嶋馨』の所持していたアシストフィギュアがその芽を開花させた────。

697『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:16 ID:cFeuEibI0



「あぁ〜〜んっ!! イカせちゃうのはァ〜〜〜〜♪──」

「──馬並みの俺ェエ〜〜ッ!!! …ぎゃはははははははッ!!!──」



「──んじゃ達者でなァアアアッ!! オ●ニー尿道プレイ大好きなウシジマァアアアアアアアアア!!!!!!!」



 時刻はAM.03:56:19秒。
 真っ暗な町工場にて、ボッ──と小さな明るさが灯った。焼却炉からヘソのゴマを燃やしたかのような悪臭が漂う。


まさしく【血と金と暴力に飢えた外道】【座右の銘は強盗、殺人、SEX!!】との凶人・肉蝮は、手際よく『ブロック肉達』を焼却炉へ投げ込んでいく。
肉蝮の片手に握られるは、所々刃毀れが見られるドス黒い鉈。
鉈に血染み塗りたくったそのブロック肉は、これまでの人生を酷く冒涜するかのように、黙々と燃え滾っていた。


──ブロック肉はかつて、肉蝮にとって大切な『遊び道具』の一種であった。
──ただどんなオモチャでも思い入れが無い限り、いつかは壊れるか、飽きられ廃棄される運命。
──例にも漏れず、この『オモチャ』もわんぱく心旺盛な肉蝮は“もう使い飽きたから”という思いで。丁寧に解体された上で廃棄処分されていった。


大人になっても童心は忘れぬ、肉蝮は悪臭と共に燃え上がる火を見てこう呟く。


「……くっさ!!!──」

「──…人がせっかく子供ン頃のキャンプファイヤー思い出して浸ってた…つーのに。水差してんじゃねェぞテメェ?!! 普段何食ったらここまで臭くなンだよ?!──」

「──永沢君を見習えよなァッ?! アイツなんか家燃やされても香ばしいオニオンの匂いしかしねーつうンだからッ!!! おい!!──」


「──プッ!!! ぎゃはははははハハハハハハハはははははははハハハッ!!!! 我ながら傑作!! あーはっはっハッハッハッハッハッはははは!!!!!!!!!」



轟々と嫌な煙が昇る中。
静寂な工場にて、イカれ狂った馬鹿笑いが響き渡っていった。
純粋な少年のような目で、そのメラメラとした炎を眺める悪魔──肉蝮。
壊れてしまった肉オモチャを前にして、態度では歓喜を表す肉蝮もどこか寂し気な様子が伺えたのだが、──心配はない。

主催者がかなりの期待を込めて参加させた彼には、まだまだこれからも、沢山の『オモチャ候補』が待っている。
ゲーム強制終了までのリミットはまだ四十時間近く残す今、肉蝮が退屈する事など随分と先の話になる訳で。
今はまだ会わずとも、彼を楽しませる仲間達は十分に存在するのだ。


それに、肉オモチャが燃え切ろうとも、彼のディバッグには文字通りの玩具が一つある。



「……………つーかよォ………──」




「──トネガワの野郎、スマブラが好きなんか…………?」



最後のブロック肉を投げ捨てると同時に、肉蝮は『アシストフィギュア』を持ち上げ一言。
丑嶋から奪った支給品を眺めながら、その使用用途に「?」で一杯の肉蝮であった。

698『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:46 ID:cFeuEibI0



 AM.04:11:14。

 下劣な思考回路の肉蝮の事である。
恐らく、“ヤるといえばホテル”との考えで、彼は近くにあった東●ホテルへと足を踏み入れた。
一階から七階まで、解体中かのようにズタズタとされた内部の惨状には、彼も気になった様子だが特に深堀りはせず。
女の居そうな空間を求めて、彼は現在十階廊下を練り歩く。


「あの人の〜パパになるために〜〜♪ ふんふふふんふ〜〜ん♪ ホテルに来たの〜〜♪──」




「────………あァ?」



ただ、いくら独自の嗅覚を駆使しようとも、そう都合良く被害者女性が現れることなく。
ふと立ち止まった肉蝮が睨む先────、そこにはヨロヨロと老人が一人彷徨っていた。


「…………ジジイ…かぁ〜………。つまんねェー……」


 白髪頭に髭を蓄え、こちらに気付いてるのか否か、クキキキ…と一人で笑うその老人。
気品高い身なりはそこそこの銭を期待《強盗殺人》出来そうではあったが、一方で杖を付きながらも蹌踉めく足取りは、如何にも柔弱そうであった。
コツ、コツ、コツ、コツ………。
映画のシャイニングまんま生き写しかの如し静かで綺麗な廊下にて、杖を付く音のみが鳴る。


「うーーん。…じゃ、とりまコイツでいっか!!」


肉蝮は老人を見てそう呟いた。

彼は別に老人へ特別興味が湧いた訳でもない。
ハッキリとした殺意も無ければ、本当に素通りしてもいい存在であった。

──ならば、どうでもいい奴にはどうでもいい物をぶつけろ────と。

デイバッグからアシストフィギュアを取り出し、取説通り高々と掲げて見せる。


圧倒的戦闘力があり、殺害経験も豊富に持つ肉蝮にとって、全くの不要であるアシストフィギュア。
本来なら武器も握れぬ弱者救済の為の支給品である故、肉蝮には持っていても仕方ない物と言えよう。
彼もその事には重々理解をしていた為、このどうでもいい場面でアシストフィギュアの無駄遣いを結構。

実験感覚──
────というより、アリに妙な薬品をかけて楽しむ感覚で。


「出てこいッ!! ゴラァアッ!!!!!」


肉蝮は、フィギュアファイターNo.03を呼び起こした──。





 ポンッ─────



「よっ! …全く仕方ねェなァ。旦那と俺はボンナカ《友人》みてェなモンだしよ」



「………あァ?!!」



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
→二代目猪背組理事長の極道。
 やや肥満体で顔に二箇所の刀傷が特徴的。

699『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:00 ID:cFeuEibI0
「あいつ撃てばいンだろ? ったく…こんなチンケな仕事させやがって。…もうこれっきりだからなァ??」

「ンだァ…?! テ、テメェ……マジで出てきやがったし……! どうなってンだこりゃッ?!!」


 肉蝮が目を丸くしたのも無理はない。
冗談半分で何となく出してみたら、本当にゲーム《スマブラ》通りに。
カプセルから巨漢の男が出現したのだから、これが夢なのか現実なのか判断に苦しむ程だった。

そんな主人を尻目に、熊倉は懐へゴソゴソと手を突っ込む。
フィギュアファイターは事前に己の『使命』を組み込まれたクローン達。
故に、「何故自分がここにいるのか」だとか「状況を整理したい」だなんて思考を働かせることは一切なく。


「とりあえずこれが終わったらさ、お礼としてよォ……、」

「は? は? はァ??」



「──新米700kg買ってくンない? 出所は言えねェーけど物は確かだ」




眼の前の老人へ向けて、銃口が正確に構えられた。




 パンッ────

  パンッ──、パンッ──、パンッ────

 パンッ────




「ぁあ?!!」



 リボルバーに込められた五発全てが、一直線に飛んでゆく。
扱い難い回転式銃とはいえ、狙撃者・熊倉は何十年も裏社会を牛耳ってきた熟練者。
老人の顔面を破壊すべく、正確なポイントで弾丸は走り抜ける。
老人と熊倉の距離は5メートルほど離れている。故に、弾丸の着弾時間は0.016秒ほど。
──無論、ほぼ奇襲で放たれた銃撃を、死期が近い老体が避けようものなどできる筈がなく。


彼の命は、虫のごとく簡単に散っていった。





ちなみに、フィギュアファイター『熊倉義道』の稼働時間は設定上、三分三十秒きっかり。
その間は、召喚者の命令がない限りはこの場に存在し続ける事となっている。
戦意静まり返り、僅かばかりだが戦場跡と化したこの廊下には、



──────断末魔をあげる暇もなく、ズタズタに消えゆく『熊倉』と、

────そして、気が付いた時には全身に妙な違和感が発した肉蝮と、



──肉蝮の後ろを、何食わぬ顔でヨロヨロ過ぎ去る老人の姿。

700『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:12 ID:cFeuEibI0
「ぁあッ?!!──…、」




肉蝮が振り返ろうとしたその瞬間、彼の全身に『杖による殴打』の痛みが走り切った。




 ──バシィイイッ

  ──バシィッ、バシィッ、バキバキバキバキッ、バンッッ──



「──ぎぃッ?!! ぎゃぁぁああぁぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」




 腹部、四股、頭部。
何箇所にも渡って響く痛みに、肉蝮とて転がり回ざるを得ない。
痛みに悶える最中、ふと患部を確認すれば、下腿前面の脛骨──弁慶の泣き所は青く腫れ上がり、頭からは軽い傷が生じていた。


“分かんねェ…ッ”

“意味分かんねェし……ッ”


“何が一体起きたんだッ………?!”


地面に投げ捨てられた水生昆虫のようにジタバタ暴れ狂う肉蝮には、この現状が到底解せなかった。



コツ、コツ、コツ………。


またもや杖の音のみが小さく響く中、半狂乱の身とはいえ、肉蝮も唯一分かっていたことがある。
恐らく、──理解も常識も超えている事だが、恐らく。


「…最初から……生まれた時から王だったら、どれほど良かったものか……………っ」

「…ぁああ……ッ?!!」


「初めて銃を握った時……ワシはまだ十五の若造じゃった。血肉貪り、貶め合い、そして米兵を絶命に至らせる…………あの頃は殺し合いの大戦下………………っ。…まだ若かりし……兵士だった頃のワシは、実に醜く…愚かじゃった」

「ジ、ジジィ……ィ………ッ!! がぁあッ……。テ、テメェ…………」


「……まぁその『体験』のおかげで、こうして貴様を返り討ちにできたのじゃがなっ…………? …衰えたものだとばかり思っておったが、案外身体はまだ覚えているものだわい」

「……テメェ……い、一体……………」



「──…………あの幾千の、戦いの記憶がっ……!! カカカ!」




「…………『何をしやがった』…ッ?! …テメェッ……………」

701『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:31 ID:cFeuEibI0
──刹那ほどの猶予もない弾丸の雨を全てはたき落とし、
──目にも止まらぬ圧倒的スピードで、熊倉を再起不能に倒して、
──肉蝮を全身何発も叩き殴った。

────これら全てを杖一本で。しかも0.016秒以下で。



──恐らく老人は熟してみせたのだろうと。────



“こいつは一体、何者なんだ…………ッ?!”



全身の悲鳴が癒えるのを待つ中、肉蝮はもう思考崩壊寸前で唾液を漏らし続ける。




《老兵は死なず》
────制裁の乱れ打ち【武士道】。


「ききき……。負ける訳にはいかん……いかんわけなのだっ…王は………………っ!!」





エレベーターに乗り込む老人──兵藤和尊会長。
彼の手にもまた、未開封の『アシストフィギュア』が息を潜めていた。



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 消滅】

702『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:44 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/10F/AM.04:15】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】アシストフィギュア、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】全身打撲
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:不可解の集合体である現状《殺し合い下》に頭が悩む。
2:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
3:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。

703 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:25 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
ラスト、『焔のはにかみや』で締めます。

704『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:47 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[池川努]]、[[野咲春花]]

705『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:04 ID:cFeuEibI0
 やあ。
僕の名前は池川努。中学三年生さ。
運動不足気味で最近やや肥えてきたところがコンプレックスなんだけども、まぁその内危機感湧いて肉体改造にガチるだろう。その内。
とにかく、痩せればそこそこに顔が整っている少年。それが今宵の語り手、僕──池川努だ。
とりあえずよろしくね。

 さて、早速だけど一つ君達に訊きたいことがあるかな。
…なに。
簡単な質問だよ。身構える必要なんかない。
二択だからね。
こちらも選択次第で態度や考え方を変えるとか、そういうつもりはないからさ。
悩むことなく、本当に直感で答えてもらいたいね。
ゲームで名前決める時「ああああ」にするくらいの適当感覚で望むといいよ。ふふふ…。

では、行くよ。



QUESTION.
──『正義』の反対とは、ずばり何か?


→1:『悪』
 2:『正義』

706『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:31 ID:cFeuEibI0
 …………答えを導き出せたかな?
正直、君らがどちらの選択肢を選んだかは僕にとってどうでもいい。
…というか、そもそも質問じゃなかったね。
これ、問題だから。明確な答えがハッキリと用意されている問いかけだからさ。ははは、ゴメンよ。

 ズバリ、『正義』の反対は、二番。
────『また別の正義』であるわけだ。
これはつまり…見方を変える、ってことなのかな。
ニュースや世間一般、そして我々が思考停止で『悪』と決めつけている存在も、違う視点から捉えれば『正義』。正しく義にかなった存在となるわけなのさ。

例えば、昨今。
三年に一回のペースで、どこぞの無職が子供を無差別殺傷する事件が報じられるけども、アレも正義。
殺されたガキ共の中にはさ、普段同級生を散々に虐めてる『死んで当然の存在』がいたかもしれない。
いや、虐げられる対象が何も人間だけとは限らないよ。
クソガキは無邪気だからね。日頃、なんの意味もなく虫や小動物を踏み潰す奴が、被害者の中にいてもおかしくなかっただろうさ。
つまり、その虫共、虐げられる者達からしたら、無敵の人はまさしく『英雄』なのだ。

また、例えるなら、…これはかなり昔話になる。
第二次世界大戦で日本に、広島と…あとどっかにヤバいミサイルが落とされた事件は有名だろう?
教科書では、最大の虐殺行為だなんて恨めしく綴られている出来事だけども、アレもまた『正義』だ。
…これは何もアメリカ人からしたら正義の行動とかって言うつもりはないよ。
僕ら日本人の視点に立ったとしても、ミサイル投下は正義の行いといえるんだ。
あの……──…あ、思い出した。原爆投下だ。
原爆で焼き殺された人々の数は(授業ボイコット勢の僕は)詳しく知らないけども、何万人も死んだ中には、心から死を希望した者もいるはずなんだ。
上司に叱られるなり、家庭で嫌なことがあったりしてね。
「あぁ…死にたい…」「死にたい死にたい死にたい…」「楽にならないかな。今すぐ…」とかさ。
そういう苦しみつつも死ぬことさえままならない、彼等死亡志願者にとっては、原爆投下はまさしく青天の霹靂。
あの灼熱の光は、彼らを結果的に救えたのだから、まさしく『正義』と言えるよね。

……さて、長々とお話をした終えたところで、「結局お前は何を言いたいんだ」ってことになるんだけども。
それはだね。
まーズバリ、一言で言うと、………。

……とりあえず後回しで。
いや悪いね、なんか急に喋る気分じゃなくなったんだ。
後々、必ず…必ず話を戻すから「気まぐれな奴だなあ」と呆れるぐらいでご容赦してくれ。


 じゃ、本題に移るよ。

何となくで立ち寄ったモ●バーガー店、ガラス寄りのテーブル席にて。
今後に備え、タンパク質《てりやきバーガー》をモリモリ摂取する僕と、包み紙に一切手を付けず、今はまだ夢の中の彼女。
ぱっちり二重に柔らかそうな頬、そして長い髪が香る彼女の名は──野咲閣下。
…しみったれて退屈な田舎村に現れた、あまりにも可愛すぎる存在さ。

背もたれを寄り掛かる閣下は、実に苦しそうな様子で目を覚まし、


「……んんっ…………、ん…………………」


「…お。…お目覚めのようだね」

「………………ん…………えっ? ──」



「────……ッッ!!!!」


──彼女と目が合った刹那、僕の眉間ギッリギリにナイフが突き出される。
…正直自分の反射神経の良さに驚きを隠せなかったよ。我ながらね。
本当に気が付いたら刃先が目の前にいて、気が付いたら包丁握る彼女の手首を掴んでいたのだからさ。

それにしても美しい花にはトゲだか毒だかがあるらしく。…小柄な見た目とは裏腹に、閣下の凄まじいものだったね。
真宮君や久我のようなバカ共なら、この一瞬で簡単に命を絶たれていただろう、あんまりすぎる力だったよ。

ただ、僕は彼等愚かな者共とは違う。
刃先が命欲しさに震える『スリル』という喜びを感じながら、僕は閣下にこう申したのさ。
穏やかで、冷静な口調を意識しつつね…。(あと冷や汗をたらしつつもね…)


「…の、野咲くん。まぁ理由が理由だからね。僕に強烈な殺意が向くのも仕方ない。君を責めるつもりは全くないよ。…ふ、ふふ」

「………ッッ」

「…ただ、信じられないだろうし信じる気もないだろうけど聞いてくれ」

「……………うッ、くッ…………」



「……本当にごめん。申し訳ないよ」

707『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:44 ID:cFeuEibI0
「………………ッ、え………?」

「……謝って済まないくらいの事をしたのは分かっているさ。…それでも僕の真意を、心からの反省を聞いてくれ。……本当にごめん、悪かった」

「…………………えっ」

「……それとさ。…これまた信じられないだろうし信じる気も以下略だろうけども………。聞いてくれないかな。──」



「──僕は………君を守りたいっ…!!! 野咲くんを優勝させたいんだ………!」


「………………………………え」




「…だからさ、何となく僕を信じて、一旦話そうじゃないかな?」



「………………」



 …一週間くらい前かな。
仲間内のノリでね、僕は閣下の御自宅と、御家族を焼き殺しちゃったという過ちを犯したんだ。
アツイアツイ〜と、鬼のような目をしてのたうち回る御両親に、真っ暗な周囲を轟々と照らす大火災。…何も無いクソ田舎最大のビッグイベントだったよ。本当にあれは。

最初こそはラインを超えてしまったゾクゾク感と、なんにも悪びれてない自分に酔いしれててウキウキだった僕だけども、……後悔したよ。
野咲閣下に殺されて地獄に落ちて、経血臭い泥沼に漂いながら、僕は山程自戒させられたんだ。
…自分が嫌で嫌で仕方なくなりそうだった。
…野咲閣下の御殿に、主犯格みんなで線香とお参りをしたい気持ちだった。
どんまいだよね、野咲閣下は…。


だからね。
諸君らも、そして閣下も信じられないだろうし、…現にナイフ握る手の力は全く緩まなかったんだけども。

──野咲閣下に詫びたい────。

──そして今度こそは閣下をお守りしたい────。

僕の発言は、嘘偽りない、『正義の心』だったんだよ。


黒く淀んだ閣下の目をガッチリ合わせて、僕はニヤリと笑ったんだ。



「…だからさ、降ろさないかい? …ナイフ。なぁ頼むよ…。ふふふ………」


……とね。







「………なんで」



「…なんだい?」




「………なんで…………生き返ってるの……………………っ?」


「……え?!」




…あー、
そうかそうか。

まず話はそっからだよねー………。

708『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:56 ID:cFeuEibI0




……
………

「………………祥ちゃんのこと、…しようとしてたんでしょ…………………」

「え? 何がだい?」

「………………その………、………えっちな…こと………」

「…………え」



──“出てこいよ野咲ィ!!! 池川なんかテメェの妹犯そうとしてたんだぞ!!! ハーハハハ!!!!”



「ッ!????! ち、ちち違う!! あれは〜…誤解さっ!! 僕は決してやましい事はしてないよ!!? 信じてくれ、野咲くん〜!!!!」


「……………信じられない…。………信じられるわけないよ…。──」

「──何も…かもッ………」


「…こ、困ったなぁ……」


…僕が閣下の妹をヤろうとしたか否かは、君らの想像にお任せするよ。
本当に真宮のクズといったら……もう!!
…ふっふふふ………!


 あれから十数分。
刃先がギラギラと光を反射する中、未だ僕らは一進一退の攻防《会話》を続けていた。
…まぁ攻防といっても男女間の力の格差があるからね。
僕の太い腕と対峙して、閣下のナイフを握る力は徐々に弱まってきた様子。
比較的僕は優位な状況とはいえ、それでもナイフは怖いからさ。彼女の手をテーブル上に抑えつつ、僕は会話を試みてる現状だ。
見境なく襲い掛かる野生動物同然だった閣下もね、色々疲れてたんだろうな。…今は、少し諦めた様子で、話す気になってくれているよ。

閣下の肌白くて綺麗な手を撫でるように抑えて、僕は彼女の目を見る。
……やはり君の美しさは毒だよ。…猛毒クラスさ。
ははは……。


「…………………何が君を守る…なの。…何が優勝させる……なの。………信じられるわけないでしょ…………今更」

「…え? まだ言うかいそれ……」

「………本当は今だって、私の事殺そうとか思ってるくせに………………。…何が……、…何が目的なの………」

「そ、そんなぁ!! 目的も何も、本当に君のことを守りたいんだよ僕はぁ!! 生まれ変わったのさ、本当だよぉお──…、」


「…信じられないッ!!!」



「………えぇ〜…」



「…もう離してぇえッ!!!!! 触らないでよォッ!!!!! 池川君ッッ!!!!!! もう嫌ぁ…ぁあ、……ッ!!!!」


「………うわ!! う、う〜〜ん………」

709『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:07 ID:cFeuEibI0
 触らないでとか言われちゃったよ…。いやぁゲンナリだね。
あっ、でも僕のことを『君』付けで呼んだのはかなり心が踊るかも。…ふふふ、プラマイ0だねっ…!

髪を乱してジタバタ暴れる野咲閣下……。彼女の姿は実に痛ましく、……その態度は忌々しささえ感じたよ。
……やましい気持ちなんかない。僕は純粋に彼女を守りたいし、一緒に行動したい。…それだというのにだ……。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい、って本当のことなんだね。
…本当に困ったよ。
彼女の心をガッチリ掴むようなイケメンワードを絞り出さないと…って、僕は頭を必死で絞り出したね。

あぁ困った。…実に悩ましい………。


「………うーーん…………。…野咲くん、考えてくれないか?」

「…な、何がッ……!! 何がなのッッ!!!! ぁぁぁあああああああああ…………!!!!」


…ごめん、ちょっとタイム。
なーんで女の子っていつもいつも皆無駄にヒステリー起こすのかなあ………。
喧しくて話にならないよ………。……正直、かなりしんどいね、もう。

…まぁそこをグッと堪えるのが男の役目なのだろうけどさー。


「君はさっき、『本当は私のこと殺そうとしてる』と言ったけども……。なら、何故君は今生きているんだい?」

「…………………どういう事…ッ」

「何せ、さっきまで君は寝てる…というか気絶したわけじゃないか。意識のない、隙だらけの姿だよ──」


…そして好きだらけのその姿……。あぁ、野咲閣下、君は美しい………。


「──…君に何があったのかは聞くつもりはないけど、君を殺す機会ならいくらでもあったわけさ。僕はね?」

「………………ッ」

「それだというのに君は眠りから無事覚め、こうして生きているわけだ。…しかも、ボロボロの君を発見し、ここまで運んだのは紛れもなく僕! いや〜〜疲れたもんだよ、あれは〜」

「……なに、なんなの………………っ」

「…そこまでして、今現在君に殺されかかっているこの僕さ──」

「──これは野咲くんへの殺意がない、立派な証明になると思わないかい?」


「…………………だから、…何なの……って聞いてるでしょ……」

「『何なの』とは?」


 野咲閣下はそう言って、カフェラテから伸びるストローに口吻する。言わずもがな、気絶中の彼女用に僕が頼んだドリンクだ。
あぁ、望むものならそのストローになりたい気分だよ僕は………。
清涼な唾液で舐め回される彼が羨ましい…。
思えば野咲閣下、あれだけ声を荒げたというの唾が下品に飛んでくることなど無いのだから驚きだ。
そういう細かい所も自然に謹んでいるから、僕は彼女に惚れたのだろうね………。
…そう思う一方で、閣下の唾を浴びたかったという欲望も僕にはあるがね。…ふっふふふふふ……。

ま、それはともかくとして、彼女がカフェラテを飲んだというこの行為。
これは即ち、僕にとっては大チャンスとも言えるんじゃないのかな?
どれだけ喉が乾いてたのかは知らないけども、この緊迫下で野咲閣下は飲み物を飲むという『余裕』を見せたのだから。

つまりは、安堵というかね。
僅かばかりとはいえ彼女は僕に気を許しつつはあるのさ。
さぁこの優位になりつつある展開、どう出るかは僕次第だ!!

710『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:19 ID:cFeuEibI0
「……本当にもうッ……………。訳が分からない…………。何なの、何がしたいの池川君はッ……………………」

「…くっ。た、頼むよ! 僕を信じてくれって野咲くん!! 君を守りたい、その一心なんだ!!! どうしてそんなに意固地なんだい!!!」


…いや、『どうしてそんなに意固地なんだい』って。
セルフツッコミするようだけど、まぁそりゃ僕のこと信じられないよなぁ………。


「…も、もう………分かったから……………」

「えっ?!」


…と言ってる間に、ついに閣下から承諾のお言葉が。
え、何で?! 何故、急に僕のキモチを分かってくれたんだ?!!
何がキッカケかは知らないけども……、僕はこの時はち切れそうなくらい絶頂の思いで──…、


「もう分かったから…手を離してッ!!!! 近寄らないで!! 嫌だから…もう嫌なんだからぁ………ッ!!!! もういなくなってぉおおおおお……!!!!」

「……………………えぇ…」


…いや、まぁ………分かってたけどね。
僕も分かってたよ、こんな反応することくらいさ…………。
…にしても、どんなイジメを受けてもションボリするだけだった閣下がここまで取り乱すとは…、ちょっと意外。
…というかギャップ萌えかなー。


「の、野咲く──…、」

「もうやめてぇええええええええッ!!! 嫌、嫌々嫌…嫌ッ!!!!!! 話しかけないでよッ!!! お願いだからぁああああああッ!!!!」

「…………………」

「ぁぁあああああああああああああああ!!!!! あああああああああぁぁぁ…ぁぁぁ………」

「………そ、その……」


「ぁぁぁ………。…………ぁ、あ………。……っ、……うっ………………ぅっ……………」

「…………」



「……もう分かったから…………。うっ………、私に…関わらないでよ…ぉ………………………」

「………………。…………」


 …唐突に怒り狂ったかと思えば、今度はシンミリ涙を流す閣下。…そのお姿…。
彼女の瞳からこぼれ落ちる結晶は、凛と咲いた花の朝露の如し、清純さだったよ…。
回想すること一ヶ月くらい前。いけ好かない相場君のやつが、野咲閣下を『ミスミソウのようだ』…だなんて呟いていたことを思い出す。
その声に、何となく気になって調べたところ、……もうね、もうね。ふざけるな!!、ってね。
あんな交通事故跡の電柱に手向けられてるような花、…陳腐なミスミソウ如きと彼女を一緒にするなっ!!! って、僕は思ったよ。
僕ならさ、薔薇とか、世界一価値が高い花に彼女を例えるのに、本当にアイツは何も分かってないよね……。
…相場、だからお前友達いないんだよ。ってもはや呆れる次第だったよ。

……………まぁともかく、その美しい薔薇は半狂乱かつ、涙ながら懇願するほどに、
────僕の事を拒絶していた様だった。

…無理もないね。
なにせ、彼女の眼の前にいるのは、自分を散々虐めた上に、家族を焼き殺した張本人なのだから。
見た目が生理的に嫌だから、とかそういう理由で僕を拒絶してるわけでは決してッ…!!! 決してッ、ないんだろうけども、…主義主張関係なく僕を嫌うのも仕方なかった。


……つまりは僕が何を言おうとも、もう無駄なわけなんだね、これが…。

711『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:34 ID:cFeuEibI0
「…ごめんよ、野咲くん」

「っ、ぅう…………。……謝らなくても、いいから………………。…もう、構わないで………………」


「…………」


気が付けば、彼女の手はもうナイフを握る力もなく弱々しい。
弱々しいといえば抵抗の時、閣下の手は微弱ながら震えていたけども、あれは純粋な恐怖の表れだったんだろね。

僕にとっての野咲春花くんはもはや天の上の存在。閣下だ。
「眼の前から消えて」との、閣下の命令があらば、従うのは下僕の使命。
それが例え不服な指示だとしても、どんなに屈辱的で…殺したいくらいの怒りを覚えたとしても……僕は従わなきゃいけない。
なぜなら、僕はどうしようもないくらいに…野咲閣下を愛してしまったからさ……。


「……………ごめんね、……野咲くん」


「……………………………っ、ぅっ………、ぅぅ…」



 彼女のスベスベした右手を離し、それと同時に僕はこの場から身も離れていく…………。
心の痛みを堪えつつも、僕が向かう先は出口付近。
ゆっくりと重い足取りで、僕は指先をまっすぐ伸ばしていった。






 ピッ

 ──『モ●バーガー 単品 330円』



「………………えっ?」


「……ふふふ! 見て驚くなよ、野咲くん!!──」

「──不思議なもんだよね。…券売機でボタンを押したら三十秒後…………こうだ!!」



 ポンッ!!


「わ!!」


野咲閣下のただでさえ大きい瞳が、さらに丸く開かれる。
…ふふふふ。無理もないね。
なんの前触れもなくテーブル上にて、自分の眼の前にポンッと!! 温かいハンバーガーが現れ出したのだからさ。



 ふふふ。
ふっふふふふふ…!!
君達、僕がこんな簡単に諦めるような男だと思ったかい?
悪いが、僕は自他共に認めるネッチネチな粘着質でね……。

野咲閣下に拒絶された位で泣く泣く後を去るようじゃ、あの時真宮君とともに野咲討伐計画は立てていないってのさ!!
ふふふふふ…。


「ほら、面白いだろう? それよりもお腹空いてないかい? よかったら遠慮なく食べていいんだよ! 僕の奢りさ」

「…え、え…………?」

「トマト入ってて、トローリとしたチーズにミートソースが合うこと!! モ●バーガーだよ。僕ら田舎者からしたら馴染みのない店だけどね。ふふ……」

「…………なに、これ…?」

712『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:47 ID:cFeuEibI0
 僕が今取ってる行動は、ズバリ作戦変更だね。
どれだけ閣下への熱い想いを伝えようとも、振り向きさえしてくれない今。
ならばならばと話題そらしで、違う所から話して、距離感を徐々に縮めていこうという寸法さ。

なんだか知らないけどボタン押しただけで料理が出現する魔法みたいな世界《殺し合い下》…。
さっきからずっと俯き加減だった閣下も、これには流石に興味津々といったご様子で…。
さしずめこの魔法は、僕と閣下を辛うじてでも繋げさせれた潤滑油的な物といえるかな。
…いや、潤滑油というよりも…………、はは。ロマンス的なことを言うようで悪いけどさ。

『キューピッド』って感じかな。この魔法は───。


「…隠さなくてもいいさ。お腹、空いたんだろ?」

「………」

「…あ、心配はいらないよ。毒なんか無いから」

「…え?」


呆気にとられる閣下の元へ、僕は店員に負けないくらいのスマイルで近寄ると、
パクリッ……モグモグ。


「…うん美味い! ご飯三杯待ったナシの旨さだよ、なーんちゃって。はははは〜」


「……………………」


出来立てのハンバーガーを豪快に一口。食べた断面を彼女へ向けて差し渡した。

人は食べなきゃ生きていけない。
食べずにあるのは死が待つのみ。
ふと空耳か否か、彼女のお腹からグゥ〜…とお手本のような虫の音が聞こえた気がしたよ。
…ふふふ、可愛い奴め。野咲閣下は。


僕は閣下の下僕さ。
忠実すぎるくらいの良くできた僕従。
彼女の幸せこそが一番の生きがい、そんな存在だ。

閣下に少しでも笑顔を取り戻すことができたら………ってね。

僕は彼女が心を開くその時まで、寄り添うつもりなのさ。
そう、いつまでも…………。



「………う、うん。……じゃあ、買ってくるから……」

「…ぇ゙?!」


 ピッ

 ──『モ●チーズ 単品 350円』


「…三十秒くらいで……来るんだよね…………………?」

「え、あ、ああ!! ハンバーガーの自販機みたいだよね〜! ふふふ〜……」



……おいおい野咲閣下。
さすがに僕の食べかけは口にしたくないかい…………。

713『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:03 ID:cFeuEibI0




 食べ方が美しい女性、というのもいる。
給食時間。僕の周りのクラスメイトなんか、飯を食べてる最中だというのに、ギャハギャハ笑いながら口を開いて、咀嚼物が丸見えだというのだから品がないことこの上ない。

ただ、その点野咲閣下は違ったのさ。
食べるという行為をまるで恥じらうかのように、慎みを以って食す。
横髪をかき上げ、ハムスターかリスのようにハンバーガーを頬張っては、清く正しく一回一回咀嚼し、飲み込む。
僕が話しかけた際には、必ず飲み込んでから声を発する。
たまにトマトソースが口元に付着したら、こっそりと指で拭い、そのタレを一舐めしたりさ。
最後はカフェラテでハンバーガーを胃へ流し込むという完成形だ。

彼女の食事風景は芸術的価値さえあった。
そして、この珍奇な料理提供、空腹の満たしこそ、僕と彼女を繋ぐ架け橋でもあったのさ。
──…もっとも、僕自身が健気に笑顔と愛想を振りまいた面もあるんだけどね。

ただ、ここで一つ。しょうもない事だけども疑問が湧く訳なんだ。


「………ご馳走様でした」

「…しかもしっかり『ご馳走さま』まで言う礼儀の良さ…。やはり閣下は美だよ、美の骨頂だ……」

「…え、…何………?」

「あ、ごめんごめん!!! 独り言だから触れなくてもいいよ、野咲くん」


Question.
『このハンバーガーの『調理工程』は一体どうなっているのか』────ってね。


 結果には必ず過程、料理には必ず調理工程がつくものさ。
ボタンを押したらポーンと何処からか出てくる、このモスバーガーであるものの、僕が気になった点は『ラグ』。
ハンバーガーが出てくるまでの『三十秒』という謎のラグが、妙に引っ掛かって仕方ない訳なんだ。
…もしかしたら、そのラグは調理時間。つまり、バックヤードには調理人がいるのではないのか……? ってさ。


「………ハンバーガーありがとう。………じゃあ私、もう行くから……」

「…え?! いやちょっと待ってくれよ野咲くん!!!」

「………………ごめん。………私、時間がもう──…、」

「そ、それは分かってるさ!! ただ君はまだ食後間もない! 焦らずともまだまだ時間はあると思うけどね……?!」

「………何? ……………私、池川君とは…もう──…、」


「気にならないかい? 君も、…バックヤードではどうなってるのかをさ…」

「………え?」



 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピ……

 ──『モ●バーガー 単品x10 3300円』



「……えっ?!」

「見てみようじゃないか…! 未知なる世界を!!」



だから、僕はボタンを連打した。

…僕の見立て通り、さっきまでは気付かなかったけども、奥のバックヤードからはジュゥ…と調理開始の音が聞こえ出す。

……調理工程の真実なんて、ぶっちゃけどうでも良いんだけどね。
本当にクソほど興味なんかなかったよ。
ただ、未だ警戒心が解けてないとはいえ、ハンバーガーの魔法のお陰で、閣下とは距離感を縮められつつある。
閣下はこの不思議な現象に興味をいだいているのさ。

ならば、この機会を逃してたまるかってね。

714『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:25 ID:cFeuEibI0
「さぁ行くよ! 野咲くん」

「え、ちょっと……。…あっ!!」


彼女の手を引っ張って、僕は銀色のドア《バックヤード先》へ走っていったよ。





 タ、タ、タ、タ、────バタン。



「…はぅあ!!!?」


 世にも不思議なモスバーガーの秘密。
企業秘密とも言えるその裏側の世界を目にした時、僕はもう目眩がしそうだったね。


「……────あっ」

「な、なんだ…これは………?!」


無人の調理台。無気配の冷蔵庫。そして無傷、欠陥一つない真っ平らの鉄板。
人知れずして加熱し続けるその鉄板上に、突如として、またしても『無』から生のパティが続々出現《浮宙》していく。
そいつらは注文通り十枚、宙に並んだ瞬間、パーン…と鉄板へ落ちていき……。
アッツアツの鉄板で、肉汁滴らせながらソイツらは焼けていった。
…その傍らでは、まな板上にてまたしても無からバンズやトマトが生成され、肉が焼けるのを今か今かとウキウキで待っていたんだ。

不意に、風に飛ばされたかのようにパタパタパタパタパターンっ、とひっくり返るパティ達。
よく見れば焼き加減も均一で正確だ。

無人調理の究極系が、そこにはあったんだよ………。


「いやなんか気持ち悪…!! な、何だこれは……。一体どうなってるんだ、これは………」


…『魔法のような』とは言ったけど、これもう完全に魔法そのものだったね。
じゃないと、何の気配もなくして黙々とスライスされていくトマトの説明がつかなかったよ。
あまりの光景に、マジマジと鉄板の近くまで覗き込んでもそのタネや仕掛けが見当たらない。
僕に許された行動は、鉄板の熱気に怯んで顔を戻すくらいさ。…本当にわけがわからなかったよ……。

…まぁ別にこれとて、大層な興味や好奇心が抱かれたというわけでもないけどね。
この謎解明については、どっかのバカな名探偵気取りにお任せするよ。

ただ、僕自身は一切興味を惹かれなかったにしろ、閣下はまた別。
年頃の女の子らしく、気になることには何でも首を突っ込んじゃうであろう野咲閣下さ。
彼女に合わせ、好奇心あるフリをしながら、僕は彼女の方へと顔を向けた。


 ジュウゥゥゥゥゥ……


「…す、すごいね。……これは一体何が起こってるんだ……──」

「──ねえ、野咲くん!!」





 ジュウゥゥゥゥゥ…………

  バチバチバチ……





「……野咲くん………………?」

715『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:40 ID:cFeuEibI0
 ……しかしどういったわけか、野咲閣下からの反応は無かった。
本当に無だよ。無。この目を疑う光景を前にして、彼女の返答は沈黙すらもない、完全なる無の表情だった。
…僕もねぇ、虚を突かれたって感じかなあ。
予想打にしなかったね。彼女のリアクションの皆無っぷりはね…。
あまりに無っぷりが酷かったから、思わず僕はそっと声をかけたよ。


「の、野咲くん……。どうしたんだい? …もっと驚かなくちゃ──…、」

「…………………ゃ、……ゃっ…………………」

「へ?」



「…………ちゃん………っ……、っ、と……さ…………。おかぁ…さ……………。ゃ、…………………」


「ふへ??」



 バチバチバチ……

  バチバチバチ……


 ジュウゥゥゥゥゥ…………
  

わけのわからない調理工程を前にして、閣下がボソボソ呟くのは聞き取れない言葉ばかり。
…これは、驚きのあまり声を失ったってことなのかな……? ってね。
僕は超さり気なく、彼女の小さな肩へポンと手を置いたよ。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………





────今思えば、これが命取りだった。

────僕は、物凄く回りくどい『自殺』を、無意識のうちにしてたんだな、って。後悔したな。




「ひっ…!! 嫌ぁああああぁぁああああああぁぁああああぁあああああぁぁぁああああッッ!!!!!!!!!!!」



「え?!」




 彼女が。野咲春花閣下が無表情だった理由。
いいや、無の顔つきなんかじゃない。
彼女は怖かった。トラウマを思い出して心がミキシングされていたんだ。

──肉が焼ける、『火』を見て。


 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「離してぇええええッ!!! やめてえええええええええええ!!!!!!!!! お母さぁあああああんッ!!! お父さあああああああああああああああああッ!!!!! 祥ちゃ、祥ちゃぁああああああああぁぁぁぁああああんッ!!!!!!!」


「え? え?! の、野咲くん!!? どうしたんだ、いきなり大声──…、」

「あぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあああああああああああああああッ!!!!!!!!!」



 そして野咲閣下は、思い出した事だろう。
家族をジュージューにバーベキューされたあの日の事を。
あの時のキツイ肉の臭いも、何もかもすべてを。

──燃やした張本人達の卑しい笑顔も。



 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「…嫌だ、もう嫌だ嫌だ嫌ぁああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!! いやぁあああああああああああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!!」

「ののの、野咲くん?! と、とりあえず深呼吸だ!! しんこ──…、」

「────ィッッッ!!!!!!!」




──そして、僕のことも。

716『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:53 ID:cFeuEibI0
僕がスケベ心で肩に手をおいた時。
彼女は狂乱した心の中で、こう思ったんじゃないのか。




“コイツ ハ、”



“私ヲ、”



“焼キ殺ソウト シテイル”




“マタ。今度コソ”





 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………



…弁明させてくれ。
僕は本当に彼女を殺すつもりなんかない。
尊敬していた。リスペクトさ。
閣下の為なら、ボロ雑巾の様に戦い抜いて、最後には涙ながらのキスをされる…とか、そういう妄想を抱くくらいに愛してたんだ。
これは本当さ。

本当に彼女を守りたかったんだ。…今度こそは。



──だが、そんな熱い想いなんてオロナイン程の役にも立たないくらい、彼女の心は火傷まみれで。

──僕なら彼女を救えるという考え自体が見当違いすぎて。


──というか、彼女の人生を舐めすぎていたんだ。



────僕は。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ


「やめて…」



 ジュウゥウウウウウ…………………ッ


「え、安心してくれ!! ここには誰も……──…、」




 バチバチバチバチバチバッッッ──





  ──パンッ




「もうやめてェェぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ」



 ザシュッ────

717『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:06 ID:cFeuEibI0
憎悪と狂乱に満ちた表情を浮かべ、閣下は持っていたストローを突き出す。
予想外の行動に、…僕は為すすべがなかった。


「ぎぃいっっ?!!?」


…喉が焼けるようだったよ。熱くて溜まらない……。
喉を抑えた時、ストロー口から面白いくらいに血が脈々と流れていって、……起動を塞ぐ異物感と激しい痛みで、目が大きくかっぴらいた。


「ぎっ…がががぎゃがぁ……あああぁぁぁ……ッ、かががぁかぁ…あいぁぁ……ッ!!!!!!!」


あの時の僕はパニックだった。
細々ながら喉の肉を突き破り、どんどん下へ吸い取られていく血のジュースには、もうどうすればいいのかな、って。
とりあえず出血を抑えるために、ストローの先を自分の口に入れようって、折り曲げようとしたその時。


「がががっ…ぎゃがぁああ…──…、」


「あぁぁぁああアアァァァアアアアアァァァァァアあぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああアアアアアああああッッ!!!!!!!!!」


「ぎびっ?!!!」



僕の頭は鷲掴まれ、
熱々の鉄板へと無理矢理に押し付けられた。


[焼き加減の目安:ウシ 三十秒。ブタ 五十秒]──と書かれた、台のメモが妙に印象的だったよ────。




ジュウゥウウウッッッッッッッッッ────────


「ぃぃぃっ?!!! ぎぃぃぃい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙ややぁあああああああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙アアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああああああッッ!!!!!!!」



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙────────────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 …人間って燃やすと、こんなに臭かったなぁ…って思ったな。
顔面一杯に、あっという間に爛れて、赤黒い肉が脂を撒き散らしながら焼けていく。
目玉は鉄板に張り付いて、唇は溶け消え、歯が灼熱の犠牲と化す。
顔中何もかもが熱くて激痛で、耳からは湯気が出た気がした。
呼吸ももはやままならない。一度吸ったら、流れ込む熱気で気道内すべてがズタズタだ。
脳が激しく暴れ揺れる感覚は、…当たり前だけどこれが初めてだった。


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────


「ぎびぃいいぃぃいううういいいいいいいいいいいいいのざぎぐぎゃばぁああああああ!!!!!!!!!」

「ぃッ……!!!」


あまりの醜臭からか、閣下は一度僕の頭を持ち上げた。
ギトギトな僕の髪を無理矢理引っ張って、彼女は歯軋りを鳴らす。

718『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:25 ID:cFeuEibI0
この瞬間は比較的安らぎだった。
片目は炭化し、もう一方の片目は餅のようにびよーんと鉄板から伸びる。
力いっぱい引き上げてもなお、鉄板から伸びる赤い顔面肉はチーズを彷彿とさせられた。

筋肉剥き出しで、グッチャグチャになった僕の顔面。
束の間だが、鉄板から離れられたこの瞬間はクーラーで冷え切ったかのような心地よさがあったよ。何故だかね。


まぁ、あくまで『束の間』なんだけども。


「ひゃ、ひゃ…ぁ………ぁ……。ひゃ、びゅ………ば…………」

「嫌ぁあああッッッ!!!!!」


 ドスッ

ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



「ぎんぎぎぎぎぎぎぎぎぎんぎんぎんぎゃあァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


再び顔面を押し付けられ、僕はもう叫んだ。
声が掠れるのも気にせずして、誰か参加者に見つかるのも危惧せずして、甲子園のサイレンの如く雄叫びをあげた。
叫ばずにはいられなかったんだ。

手足を虫のようにジタバタさせ、必死で藻掻こうとも、全く動かない頭。
もう死んでもいい、と観念していたのに中々絶えない意識に、灼熱の地獄。
飛び散る汚い油と、膿が腐ったかのような臭い。

──そして、殺意。


「ぁ゙あ゛あ゛あ゛あ゛…!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!!!」


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



 ふと、何かに引火したのか。
僕の叫びがボルテージを迎えた折に、


ボンッ────、と。


激しい光と共に鉄板は照らされ、そして大爆発していった。
爆風のまま、吹き飛ぶ閣下の姿。
──もちろん、僕は即死だ。
モス●ーガー店はアクション映画のような大炎上に包まれ、建物の何もかもを四方八方に吹き飛ばしていく。




正義の反対は、また『別の正義』。
アメリカ兵に原爆を落とされたとき、自殺志願者はさぞ大喜びだったたろうね。

時刻は四時。辺りがようやく青みがかってきた頃合い。

渋谷通りにて、僕は爆弾娘に火を付けた。




 ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────





【池川努@ミスミソウ 死亡確認】
【残り64人】

719『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:36 ID:cFeuEibI0





 え、なに?
『死んでんじゃんお前』、ってかい…?
あぁその通り。
僕はこれにてオサラバ、地獄に逆戻りさ。死にましたがなにか?

ただ、池川死すとも閣下は死せず。
あれだけの大爆発を直に食らっても、野咲春花。彼女は物凄い奇跡的に無傷で済んでいたのさ。


「……うっ…………………うぅ……──」


「──…祥ちゃ………………。うっ……」


…驚きだよねえ。
あ、無傷は言い過ぎかな。
さすがに若干、火傷はしてるけど、なんかところどころ焼けた衣服から見える素肌が……、不謹慎だけどもエロチックに見えたね。
特にニースやスカート破けた太もものとことか。ふふふ………。



「…もう、嫌………。ぁ嫌………ぁ……………はぁ、はぁ…………………」





 爆発の影響で周囲は停電の真っ暗。
明かり一つない、暗い夜道を彼女はヨロヨロ歩いていく。
次なる獲物を探して、ってね。



僕の話はこれにておしまい。
僕の跡を引き継いで『野咲春花物語』に乞うご期待だ。


…ふぅ。
それにしても、…ほんと無駄遣いだったね。生き返り。
蜘蛛の糸を掴んで生き返ったは早々、間抜けな死に方でおじゃんだなんて。血の池地獄の橘らにどやされること間違いないよ、こりゃ……。
まぁ、月のお小遣いを一週間で使い切っちゃう僕らしいっちゃ僕らしいけどさ。

とほほだ、…僕は…。




【1日目/H2/ファイヤー通り/AM.04:18】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】全身痣、火傷(軽)、精神衰弱(中)
【装備】刃物
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:もう何もかも嫌…。
2:皆殺し…。
3:優勝して家族を生き返らせるッ………。
4:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
5:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。

※H2ファイヤー通り一帯は停電しました。

720『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:54 ID:cFeuEibI0
………
……


────ばんっ!!


 バサッ…




──え? い、池川くん…、カラスが撃ち落とされたけど…何したの……?!

────あ。…ふふふ!! 大丈夫大丈夫、死んでないから! ほら見なよ。

──…え?


 カァ、カァ


────カラスってのは賢いからさ、バーンと指で撃つジェスチャーすれば倒れたフリをしてくれるんだよ。

────なんにもないこの田舎で編み出した、僕なりの娯楽さ。野咲くん。

──なんだ…。良かった……。


────…ふふふ。

──…? どうしたの?

────…いや。親御さん、まだ迎えに来ないみたいだね。お互い。

──あ、うん。…遅いなぁ、お父さん。

────この豪雪の中、ママの遅さには正直イライラする気持ちはあるけども……。…それでも、僕は遅れてくれて良かったなと思う面もあるよ。

──…え? どういうこと?



────君と、二人きりで放課後残れてるんだからさ。誰もいない教室で。

──…ははは〜。池川くんなにそれー…。

────あっ!! ごめんごめん。今ので僕をヤバい奴だと思ったなら撤回してくれないか?! …別に他意はないんだ、他意は!!

──分かってるよー。気にしないでって。


──…私も、この引っ越し先でさ。良い友達ができて、嬉しいから。

────え? …はは、僕のことかい?

──うん。



 ブォォオオオ………キキッ



────あ、ママだ。

──……良かったね。じゃ、またね!

────…。



────…いや、もう少しそばにいてもいい…かな。

──え? でも……。

────大丈夫。ちょっとだけさ。




────ほんとに、あと少しだけ………………。



……
………




……。
つまらない過去を思い出しちゃったね。

…ふふふ。

721 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:14 ID:cFeuEibI0
えー今日で総139レスですか…。
はい、普通にやべぇです。申し訳ありません。

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。『悪魔のいけにえ』が一切文章思いつかなかったため、そのスランプ期間他の話4話分手を付けました。
②本来ならティッシュンを賭けてメムメムが兵藤とティッシュくじをするっていう伏線モリモリの話にする予定でしたが挫折しました。
③んまぁともかく、以上を持ちまして、参加者第二巡達成ですね。くぅつか。
④第三巡は以下の通り。題するなら『在庫処分祭り』です。比較的結構死にます。

01「颯爽と走るトネガワ君」…利根川、三嶋、ヒナ、ネモ、センシ、なじみ、日高、ミコ、カモ、三蔵、相場
02「我が友よ冒険者よ/愛のむきだし」…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂、うっちー
03「Plan -【A】」…白銀、島田、遠藤、左衛門
04「毎日命がけ──。私の王子様──。」…飯沼、マルシル、ひろし、海老名、マロ、山井
05「いいの、いいの」…うまる、マミ、デデル
06「大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ」…コースケ、マルタ、大野
07「咲けよ、二郎」…小宮山、田宮丸、クロエ
08「人畜無骸」…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
09「男の闘い」…西片、ガイル、サチ、ヨウ
10「人生ゲーム」…高木さん、ひょう太、メムメム、肉蝮
11「らぁめん再遊記 第三話〜生きるということ〜」…アンズ、佐野、芹沢達也


⑤さてさて、クソどうでもいいですが(どうでもよくないか)、最近文章力が枯渇してきました。
⑥というのも、どうあがいても文章が半端なく長くなってしまうのです。↑で言うなら、『わが友よ冒険者よ』と『人生ゲーム』は一ミリも短く要約できる気がしません。
⑦まぁ〜…ね、まぁ私自身もどうにか短くするよう頑張ってはみるのでね。しばらくの間、ジャンクフードドカ食いする感覚で読んで頂ければ幸いです。申し訳ございません。
⑧では、死ななかったらまた来週お会いしましょう。

722 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:29 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①『支援絵集』のページを開設しました。
②タイトル通りエロ絵ばっかです。エロで読み手を釣ります。
③とはいってもwikiBANが怖ぇんで、あくまでコロコロコミックレベルのエロ。ほんっとにビミョーなエロですが。
④エロ関係なく、個人的に書きたくなった絵も保管しております。どうか見てやってください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/159.html

723『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:23 ID:rmwPsVaY0
[登場人物]  [[コースケ]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]

---------------

724『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:59 ID:rmwPsVaY0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■                         ■
■第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』■
■                         ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


………
……


「おっ」


 懸垂を終えての帰り道、オレはふとオシャレな車が目に入った。


「……………」


 白くて四角いフォルム。屋根の上には赤いライトのよーなものが乗っている。
妙にケーキっぽい色合いと、玩具めいた造形。おしゃれで軽薄なモノには、たいていどこか毒がある。
だが、そーゆーものに限って、オレは何故だが惹かれてしまうのだ。


 きょろ、きょろ…

「………」


見渡すかぎり、通りには誰の姿もいない。
渋谷とは名ばかりの、ただの静けさのカタマリ──そんな朝だった。
しんとしたその中で、車だけがぽつんと、まるで拾われるのを待つ子犬のように佇んでいたのである。
オレは再度首を左右にめぐらせ、人の気配を探したが──やはり、誰もいなかった。


 がちゃっ

「……」


オレはゆっくりと車へ近づき、そっとドアに手をかけた。
鍵は、すでに挿さっている。これはもう「乗ってくれ」と言っているものだろう。


 ばたんっ


「…はぁ〜〜〜」


 座席に腰を下ろすと、クッションは硬くもなく柔らかくもなく、ちょうど良い。
灰皿も汚れていないし、メーターの並びも美しかった。
見慣れない記号と針が儀式の祭壇のように整然と並び、まるでスティーヴンソンの筆先で描かれた幻想機関のよーだった。
ハンドルは意外なほど手に馴染み、まるで昔からここに座っていたかのよーな錯覚さえあった。


 がちっ

  ぶぶぶぶ……


 キーをひねる。
車体が震え音が低く唸る。その瞬間、街が少しだけ動いたよーに見えたのは気のせいだったのだろうか。

 なにかを借りて、知らぬ世界を走る。どこへ行くあてもないが、それがいい。
貧乏人にとって「所有」とは縁遠い概念だ。
だからこそ、こうして「他人のもの」に触れることは、一つのぜいたくなのである。
かの正岡子規は『病牀六尺』の中で、狭き畳の上に宇宙を見たというが、
ならばオレもまた、このハンドルの中に、ちいさな銀河を見よーではないか。
びみょーなスリルを感じつつ、オレは下駄履きの足でアクセルペダルを踏み込んだ。

725『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:18 ID:rmwPsVaY0
「よし、行くか」




 ぶろろろろ…

「……」


 渋谷の街をオレは走る。
正確には、オレの意志で動くよーになったこの白い車が、眠りこけた街の中を静かに滑っていた。
信号が何やらチカチカしていたが、特に気に留める必要はないだろう。
交通法には生憎疎いオレであるが、世の中『気にしたら負け』という事柄もあるのだ。


 ぶろろろろ………

 「速いなぁ」


 …速いと言ってみたものだが、スピードは出していない。いや出せなかった。
なにしろこの車の操作はまだ未知の祭事であり、アクセルの踏み具合ひとつにも慎重を要する。
ただ、この前へと進む感覚はたしかにオレを別の世界に運んでいた気がした。


「……………面白いなぁ!」


流れる景色が非常に美しい。
コンビニの看板は、まだ光だけを放って誰のためとも知れぬ営業を続けている。
時折、路肩に並ぶ自転車が、オレの通過に合わせて小さく揺れる。その様子は、まるで「よぉ」と声をかけてくる旧友のよーにも感じた。
横断歩道のゼブラ柄も、誰にも踏まれずに整然とそこにあり、それを見たとき、オレはふと、アフリカのサバンナを駆けるライオンの姿が思い浮かんだ。
誰に咎められることもなく、ただひたすらに風を切って走る──オレはいま、まさに自由を堪能しているのだ。

風景は灰色と白と、ほんのり色づく朝焼けで彩られていて、それがまるで、時代をすべて洗い流した後の世界のよーにも見える。

いったいこの車がどこへ向かっているのか、オレにも正直よくわからない。
だが、目に映るものすべてが清々しく、また少しだけ物悲しく、そして懐かしかった。
その風情を前にしたら、道先を気にすることなどきっと野暮に等しい物だ。
それに、ここは大東京であり、同時に誰の大東京でもない。
ならばオレはこの広大な一人舞台を、風のごとく走りきるまでだ。


 ぶろろろろ………

 「……」



「……。──」


なんとなくハンドルを切ってみると、車体が大きく右へ曲がる。


「──おっ」


 その角を抜けた先に、ちいさな牛丼屋がぽつんと佇んでいた。
「吉」の字が、白い照明にぼんやり浮かび、店内からは蛍光灯の光と、温かい湯気が漏れる。そんな牛丼屋だった。

…ごくりっ。
──もはや、生唾の時点で旨い。

裸の大将といえばオニギリとゆーように、牛丼が何よりも好物なオレである。
一杯三百五十円で腹いっぱい満たせるソイツは、ビンボー人であるオレには少々手の届かない存在なのだが、
それでも食欲には勝てずついつい店に寄ってしまうここ最近だ。

アツアツの牛肉に、じゅわっ…と湯気を発するご飯…。
最初は出されたままの味を堪能し、クライマックスに差し掛かった時には生卵をかけガツガツ飲み込む……。
数十秒後の未来にて、牛丼をハフハフ頬張っている自分を想像すると、もう運転なんて集中できそうにもない。

726『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:33 ID:rmwPsVaY0
「…………」


この松屋という牛丼店はまさしく『虚』。
道なりで走った先に現れた、牛丼という運命に、オレは虚を突かれた思いだった──。



 ────ガシャアアアアンッッ


「………………あ、」



…どうやら突いたのは虚だけではないようだ。
ついた、といっても一応店内には着けたものだが。

──ブレーキペダルを踏み忘れたオレは、あろうことか牛丼屋に車を突っ込んでしまった。


「………参ったな…」



 ガラスが砕け、アルミの扉がひしゃげる音。
朝焼けの中に軽く煙が舞う。
ハンドルにしがみついたまま、オレはこのとき状況を呑み込めずにいた。
やってしまった、という感覚は薄い。あまりにも現実味のない光景だったからだ。

しばらく経って、額に冷たい汗が浮かび、指先がじんと痺れてきた──つまりはようやく頭が現実を直視してきたという、そのとき。
視界の端に、誰かの影が映った。


「あっ」


 ──コツ、コツ、コツ


「………………………………」


足音。
ゆっくりと、それでいて迷いのない歩み。
ふり向いた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。

紫のワンピース。膝下までの黒いタイツ。恐らく客の一人だろう。
一見にしてお嬢様とゆー印象を抱く、少女が、無表情のまま歩いてきた。
ただ、無表情といってもその無表情の奥には、熱を孕んだ怒気のよーなものがある。
……オレは運転席で居心地の悪さを感じながら、このメチャクチャになった店内風景をどう考えたらいいのか自問し──…、


「………………………………ッ!!」


 ブゥンッ──────

  バンッ──────



 ………やれやれ、困った困った。
そのお嬢様娘に矢継ぎばや殴り飛ばされ、オレは一瞬にして意識は闇の中。


──虚を突かれ、車を突っ込み、最後は小突かれるという。今日は随分と疲れる一日となりそーだ。




「え?! お、大野ちゃんっ!!!」



………
……


727『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:51 ID:rmwPsVaY0




🍴第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』




 エルサ・ベスコフの絵本に、『もりのこびとたち』という作品があります。
森に暮らすこびと一家が、自然の中で季節をめぐりながら、静かにたのし〜く暮らす──といったお話です。
“冬は白く、春はやわらかく、夏はきらめいて、秋は少しさみしくて──。”
私はその一文が好きで、この絵本を何度も読み直しているのですが、その度に思うこです。
世界は、ほんの少しの優しさと、静けさで回っているのだと……──ってね☆

……だから。
…だからですよっ…!!

なんの前触れもなく目の前の男性に昇龍拳をふるった…………──、

──そんな大野ちゃんに………、


「Carambaっ!!(コラッ!!) なんて酷いことをしてるの大野ちゃん!!! ちょっとそこ座って!!!」

「………………………………!?」


………私は到底黙っていられることができなかったのです……っ!!!


「私だって本当は怒りたくなんかないよ?! でも…………これはもうあんまりだよ…。…どうして……どうして大野ちゃんはすぐ暴力に走るのさ!! 酷すぎるよっ!!!」

「!??? ………………………………〜〜!!」

「えっ、“だって襲撃者だし…”って?……そんなの理由になりませんっ! というかどう見ても事故でしょ!! 事故!!!」

「………………………………っ!!!」

「“今殺し合い中ですが…”って!? …………いい? 大野ちゃん。もうやってしまった事に関しては私も責めるつもりはないよ。でもっ!! 言い訳をして自分を正当化することは感化できないからねっ!!!!」

「………………………………〜っ!?!?」

「うーん、もう言い訳禁止!! お天道様は見てますから!!! ほんの少しでいいから、自分がやったことの重さを考えてね!!! いい?」


「………………………………〜」



 ……まったくもう!!

………いや、ちょっと待て〜?
大野ちゃんも大野ちゃんですが、私も私で少し怒りすぎました…かね?
……うーん。自分のイライラっぷらに少し反省が必要かもしれません………。トホホ…。


「……あ、大野ちゃん…。あんまり落ち込まなくても…いいですからね?? …私も少し怒り過ぎましたから〜……」

「………………………………(………」


……この時の大野ちゃんの顔は、なんとも言えない複雑そうな面持ちでした……。
これは…私と大野ちゃん。二人揃って心のモヤモヤを共有してる〜…って、そんな感じなのでしょうね……。

…はい………。
私もイライラしていたと言いますか……、ちょっと事情があって、今、心の天気は晴れ模様じゃなかったんですよ〜〜……。
というのもついさっきの事です…。
その時私たちは、『野咲閣下(?)ちゃん』という女の子を保護して、三人一緒に歩いていました。
……あ、歩いてはいませんね、野咲ちゃんは。…気絶した野咲ちゃんを背負って私達は歩を進めていた感じになります。
…どうやらその野咲ちゃん。彼女の口から事情は聞けてないので憶測ですが、【襲撃者】にならざるを得ないバックボーンがあったようで、私たちが彼女に出会ったのもそれが『理由』でした。
──あー、あと野咲ちゃんが気絶しているのも大野ちゃんによる力が理由となっています…。

恐らく大野ちゃんと同い年くらいで、襲撃者とはいえまだまだ子どもな野咲ちゃん……。
幼いながら殺人者の道を選んだ彼女を、どうにか諭さなくちゃならない……。絶対見捨てちゃだめだ……って、私は思いましてね。
大野ちゃんからは反対の声が激しかったものの、私はその時野咲ちゃんを背負い続けていたのですが……。


ボウガンを構える小太りの少年に、あろうことか彼女を掻っ攫われてしまい……………。


………野咲ちゃんへの心配と、武器に臆した自分の情けなさ、そして…、


 ぐぅ〜〜…

「……あ、そういえば牛丼まだ食べてなかったですね〜……。大野ちゃん、腹の虫が失礼失礼〜〜…」



……空腹で。

728『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:09 ID:rmwPsVaY0
私はもやもやに包まれながら、吉野屋に馳せ参じた現在に至ります。


「はぁ〜〜〜……」


野咲ちゃん、…大丈夫かな………。
あの少年、ちゃんと野咲ちゃんの面倒を見てくれているのかな…。ヘンなコトはしてない…よね………?
そして、何より私自身も、…大野ちゃんとどう接するのが正解なのかな………。

……分かりやすくほっぺを膨らます大野ちゃんを横に、私は自問自答の波に飲み込まれ続けていました…。



と、そのときです。


「……ん?」

「……………………………!!」


何かが視界の端でゴソッと動いた気がしたのです。
…え? なんだろう〜〜…?? って、私はちらっとをカウンター席を見ました。
店内には私と大野ちゃん、そして気絶中のうっかり事故さんの三人しか現状いない筈。
車が突っ込んで以降、人の気配はなかったので、「なんだろ…??」と疑問符で一杯だったのですが………、

視界に入る彼を認識した途端、ありゃビックリ!!


 がつがつ……

「…………」


大野ちゃんに殴られてグッタリだった筈の男の人が…いつのまにやら。
なんと、何事もなかったかのように牛丼を食べていたのです…!!!


「……………………………!」

「ええっ!? 食べてる!!? だ、大丈夫なんですか?!!」


「あ、ども(がつがつ…」


 もう、ビックリおったまげですよ!!!
アンパンのように腫れ上がった頬は、彼からしたら蚊に刺された程度なのでしょうか…?!
彼はお椀の中の肉だけをつまんで、瓶ビールと一緒に流し込んでいたのです……。


「ちょ、ちょっと…!! …“ども”じゃなくて〜…。だ、大丈夫なんですか?!」

「…………」


男の人はなぜだが返事をしませんでした…。
ただ静かに、驚くほど丁寧な手つきで牛丼の肉だけをつまみ、ビールで流し込む……。
まるで料亭の板前が季節の八寸を扱うように、肉一切れ一切れを慎重に選び、慎重に噛んでいたのです…。

…私は大野ちゃんをチラリと見ました。
とりあえず、大野ちゃんパンチが彼にとって大したダメージじゃなく(…ようには見えませんがともかく…)、そこは安堵すべきなのでしょうが〜…。

彼女も心做しかやや引いた様子で、男の人の動きを見つめていました…。


「………………………………っ」

「………うん、ウマいなぁ(じゃっじゃっ、がつがつ…」


…えーと。
と、とにかくこの人、いったい何者なのでしょう……。
…彼の予想外すぎる行動に私も大野ちゃんも立ち尽くすしか選択肢が選べません……。
あ。…とりあえず大野ちゃんの非礼を謝るのが先なのでしょうが、…彼の予想外なマイペースに飲まれて動きを封じられた私たちでした……。

…だけど、うーん、なんなんでしょうか………。この気持ち……。
彼の「はふはふ」と心の底から美味しく食べてる様子を見た時、だんだんとなんだか不思議なもので〜…、
あたたかい気持ちというか、癒されるに似た思いで満たされてきたんです…!
ハハハ〜、ヘンなこと言ってますよね〜〜…。私〜…。

えーと、これはつまりですね〜〜…。


「大野ちゃん!」

「………………………………?」

729『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:24 ID:rmwPsVaY0
「私、この人と、仲良くなれる気がします!」



「…えっ!?………………………………」

「あ、大野ちゃんが喋った!!」

「………………………………」


そう!!
根拠はありませんが、なんだかこの人とものすごく波長が合うような…。
初対面の人にこんなこと言うのもおかしいですけど、彼の人柄が好きになったのです☆ 私!

というわけで、お食事中失礼〜…ではありますが、早速私は彼に話しかけてみることにしました!


「えっと……その、はじめましてっ!」

「もぐもぐ…。どもす」


「私はマルタといいます!マルタ・コルネイロ!ポルトガル出身で、料理と散歩と読書が好きですっ!」


男の人は、じっと私を見ていました。
その目はすこし眠そうで、でもどこかまっすぐな印象でした。
あ、ちょっと目をそらした! 人見知りなのかな…?


「それで……お名前は……?」

「……コースケす。ども」

「おお〜!! コースケさん! prazer em conhecê-lo!!(よろしくお願いしますっ!)」


私はさっそく手を差し出しました。
コースケさんはそれを見つめただけで、握ってくれませんでしたケドもね………。
……まあ、いいです!! そういう人もいますっ☆


「………………………………」


一方で、大野ちゃんといえば腕をだら〜んとさせたまま、じーっと私たちを見ていました。
彼女は何か言いたげな様子でしたが……なんだかイヤな予感がするので触れるのはやめておきます…かね……。
はい、大野ちゃんもまたこういう子です!! 以上☆



「そうだ。車あるよ」

「えっ?」


と、その時その時〜。
コースケさんは、ふと煙が轟々と登る先を指差しました。
ガラスが割れて、煙がうっすら立ちこめたその向こうに――さっき突っ込んできた車がそこにあり〜…。
…良い言い方をすれば、静かに駐車されていました。


「……あれ、コースケさんの……車?」

「いや借りたんだよ」

「誰から…?!」

「………。ボクの車ではないけど、オシャレだよ」

「え、いや………。そもそもアレ救急車ですけど……っ?!」


…お恥ずかしながら、今突っ込んできたのが救急車だということに気づいた次第です〜。


「………」


コースケさんは私の質問に何も答えません。
口にせずとも、その目は「何か問題が?」とでも言いたげでした。
ふと見ると、大野ちゃんもまた、口は開かずとも……。目だけを細めて、「は?」という顔をしています。

…よくよく考えれば色々ツッコミどころ満載な発言をするコースケさんでしたが…、


「ま、いっか!!」

「………………………………!?」

「行くよ!! 大野ちゃん!! …あとでコースケさんに謝るんだよ? いいね!」

「………………………………!?!???」

730『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:37 ID:rmwPsVaY0
……ウフフ☆
この二人の表情が、沈黙のにらめっこみたいで少し面白かったり………と私は思いましたネ。

私は足をパタパタ鳴らしながら、大野ちゃんを引っ張って、救急車のほうへ走り出しました〜☆

731『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:54 ID:rmwPsVaY0




 救急車のドアは、思ったよりも軽く開きました。
内部には、消毒液とゴム手袋の匂いがほのかに残っていて〜〜…。
でも、それすらも「ちょっとレアな車内芳香剤♪」みたいに思えてしまいます☆


「わ〜っ、すごい!本物の救急車に乗るのって、初めてです!しかもこうして走れるなんて……なんだか特別感ありますネ!」

「………」


コースケさんは何も言わずに運転席に座り、淡々とハンドルを握りました。
エンジンがゴウン……と低く唸るような音を立てて始動します。
車内のライトがぼんやりと灯り、私の顔を下から照らしました。


「これってちょっと映画みたいだなあま! 異国で出会った三人が、誰も知らない朝の渋谷を走り抜ける〜〜…だな〜んて!──」

「──ね!! 大野ちゃん!!」



 しーん…



「…お、大野ちゃんスルーはいけませんよ〜…?!」

「………………………………」



「ウフフ……☆ でも一緒に来てくれるんですね、大野ちゃん♪ そんなブスーっとした顔してても、ちゃんと来てくれるところが優しいですヨ!」

「………………………………(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠」


ふふっ♡
態度では表さずとも、彼女もまたコースケさんになにか魅力を感じた者の一人なのでしょう☆


 ぶろろろろ……


 朝焼け前の渋谷。
誰もいない街を、救急車という名の異端な船で駆け抜けます。
わたしたちはまるで、季節の切れ目を旅する“もりのこびとたち”──そのものでした。
このままページをめくるたびに、少しずつ物語が色づいていくワクワク感。
コースケさん、そして私たちも、きっとその途中にいるのでしょう……。

ネっ✩
大野ちゃん♡




「………………………………」


………
……


732『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:22:19 ID:rmwPsVaY0






“鮮血の結末──【Bad End】は、ここから始まった。”









【1日目/H1/渋谷区内・某牛丼チェーン店前→救急車移動中/AM.05:17】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:コースケと大野ちゃんと行動!!
2:この旅がいい思い出になりますように!
3:ちょっと変だけどコースケさん、好きかも?✩
4:野咲ちゃんが心配…。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、やや不満顔
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタ“だけ”を守りたい。
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。

【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(中)、軽い眠気、酒気あり
【装備】なし
【道具】割り箸、牛丼弁当並盛持ち帰り
【思考】基本:【静観】
1:救急車を借りて移動を開始。
2:ぐーたらマイペースに過ごす。
※チェンソーメイド(早坂)への警戒は継続中。

733『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:26:41 ID:rmwPsVaY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①この回は、『大東京ビンボー生活マニュアル』と『くーねるまるた』を学習させたChatGPTに書かせたものです。
②いやーAIってすごいですねぇ。僕の文章の癖もちゃんと再現してくれるのですから。
③というわけで、以降全ての回はチャッピー(chatGPT)による執筆となります。
④これを読んで頂けた皆様、書き手の皆様も、ぜひ3000円課金してチャッピーに書かせてみてはいかがでしょうか。おすすめです。


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