したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争- Part3

1 ◆aptFsfXzZw:2019/07/19(金) 21:58:05 ID:b.9jg0Zo0
【企画概要】

当企画はTYPE-MOON原作の『Fate』シリーズの設定をモチーフとした、様々な版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開、異種作品のクロスオーバーが含まれています。閲覧の際には充分にご注意ください。



【参戦主従】(マスター&契約サーヴァント)

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!&『第一階位(カテゴリーエース)』アーチャー:アルケイデス@Fate/strange Fake

マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト@ミスマルカ興国物語&『第二階位(カテゴリーツー)』アサシン:千手扉間@NARUTO

ズェピア・エルトナム・オベローン@Fate/strange Fake&『第三階位(カテゴリースリー)』ライダー:口裂け女(オロチ)@地獄先生ぬ〜べ〜

巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ&『第四階位(カテゴリーフォー)』 アーチャー:ケイローン@Fate/Apocrypha

空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン&『第五階位(カテゴリーファイブ)』キャスター:笛木奏@仮面ライダーウィザード

レメディウス・レヴィ・ラズエル@されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons&『第六階位(カテゴリーシックス)』バーサーカー:火野映司@仮面ライダーオーズ

トワイス・H・ピースマンFate/EXTRA&『第七階位(カテゴリーセブン)』ガンナー:マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ@レイセン

サンドマン(音を奏でる者)@Steel Ball Run&『第八階位(カテゴリーエイト)』 キャスター:ジェロニモ(欠伸をする者)@Fate/Grand Order

天樹錬@ウィザーズ・ブレイン&『第九階位(カテゴリーナイン)』アサシン:アンク@仮面ライダーオーズ

コレット・ブルーネル&テイルズオブシンフォニア『第十階位(カテゴリーテン)』ライダー:門矢士@仮面ライダーディケイド

御坂美琴@とある科学の超電磁砲&『第十一階位(カテゴリージャック)』バーサーカー:フランケンシュタイン@Fate/Apocrypha

ティーネ・チェルク@Fate/strange Fake&『第十二階位(カテゴリークイーン)』セイバー:アルテラ@Fate/Grand Order

夏目実加@仮面ライダークウガ『第十三階位(カテゴリーキング)』ランサー:&ロムルス@Fate/Grand Order

ありす@Fate/EXTRA&『番外位(ジョーカー)』バーサーカー:ジョーカーアンデッド@仮面ライダー剣

レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's&『番外位(エキストラ・ジョーカー)』セイバー:剣崎一真@仮面ライダー剣





まとめwiki:ttp://www65.atwiki.jp/ffwm

前スレ:ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1482410383/

41異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:56:42 ID:LX7W3jaY0

 期待通りというべきか、アサシンは口裂け女の討伐に成功したらしい。
 それはつまり、サーヴァントを撃破した際に手に入る聖杯符の獲得を意味する。
 問題は山積みで特に学内のマスター二人をどうするかということに悩まされるが、ひとまずは一歩前進と言うべきだろう。

 一歩ずつ着実に、堅実に行こう。そう考えた錬であったが。

『…………ねえぞ』
『え?』

 続くアサシンの言葉で思わず呆けた声を出してしまう。
 一瞬で冷える頭。次いで浮かび上がる思考と仮説。

 偽物であるのか、ムーンセルの認識さえ誤魔化す術を持っているのか、サーヴァント級の捨て駒を扱えるのか。
 あるいは単純に、殺されても生きているのか。
 
 そこまでを考えた錬の脳裏に、ふとネットとゴシップ記事の記憶が蘇る。

(口裂け女は三人姉妹……まさか、ね)

 都市伝説は人の噂、つまりは不特定多数の人間によって尾ひれがついたものであり、内容は荒唐無稽な代物だ。
 けど、だからと言ってそれが妄言であると切り捨てるわけにもいかない。
 なにせ、人の信仰と認識がカタチを為すのは、サーヴァントとて同じなのだから。

『仕方ない。アサシン、まだしばらくそのあたりで警戒を。授業が済んだら……合流して改めて調べものかな。今度は口裂け女と、念のため聖杯符についてもかな』

 あるいは、御坂美琴と巴マミに接触するのも手か。
 潜伏と接触、双方のメリットを天秤にかけつつ、錬は終了を告げる講義に教材を片づける手を動かすのだった。

42異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:57:43 ID:LX7W3jaY0

【D-5 中学校/1日目 午前】

【天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態]I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.マスターの少女(御坂美琴)を利用して他の陣営を引きずり出す。
3.口裂け女を倒しても聖杯符が手に入らなかったことに戸惑い。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。
※御坂美琴、巴マミをマスターだと認識しました。
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。
※学内の人間の個人情報を粗方把握しています。
※御坂美琴のサーヴァントがバーサーカー、巴マミのサーヴァントがアサシンかアーチャーであると推測しています。
※バーサーカー(フランケンシュタイン)とアーチャー(ケイローン)の近接ステータスを粗方把握しました。
※現在中学校の校舎全域をゴースト化しています。


【アサシン(アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態]ダメージ(セル一枚分、極微小)
[装備]なし
[道具]欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。今後も場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]
※口裂け女の問いに薄汚い虫けらと答えました。恨まれています。

43名無しさん:2020/07/12(日) 19:58:03 ID:LX7W3jaY0
投下を終了します

44 ◆aptFsfXzZw:2020/07/12(日) 22:48:37 ID:i8gujU2.0
スレを見て驚き、一日の間に投下が2作品も!
◆yy7mpGr1KA氏、◆GO82qGZUNE氏、どうもありがとうございます! 企画主冥利に尽きます。

> 悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界

 オーズ風タイトルで竜と鬼と彼らが守りたい宝とするもの。鬼ヶ島LANDイベを思い出しますが、内容にもそれは反映されていたり。
 日本とアメリカにおける、現代都市伝説のスーパースターというべき口裂け女VS殺人ピエロのクロスオーバーバトルにも見える緒戦が既に面白い。アムプーラは都市伝説キャラではありませんが、神出鬼没で不死身という殺人ピエロそのものと言えるようなキャラクターですし、アニメで付いた重厚な声(意味深)の印象もあって口裂け女との殺し殺されが大変見応えがありますね(ぶっちゃけアムプーラは都合の良い不死身でいつ死んでもおかしくないので、先が読めない面白さも結構あったりします)

 サーヴァントでもマスターでもない使い魔とはいえ、それなりに強キャラでもあるアムプーラが最初こそ口裂け女を圧倒しつつ、徐々に戦場から蚊帳の外へと追いやられていくのは参戦主従というメインを持ち上げる名脇役の仕事だったと思うのですが、しかしズェピアの評価はハム未満と手厳しい。禍つ式の規則から逸脱できない性質が天才だったズェピアにとっては忌むべき予測可能な未来にも通じるので、嫌うのも当然なのかもしれませんが。
 一方、そんな規則正しく、善が善として報われる世界を求めた天才が彼の主のレメディウス。同じく世界の救済を願いながら、規律のない地獄を憎悪する竜と、自由のない未来に絶望する鬼は相打つしかない。見事な対比です。独裁者は人の生き血を飲んで生きる人食いの怪物として糾弾された原作の文脈も拾ったナイスな決裂描写ですね。

 そのされ竜世界で人間の限界を極めた勇者でもまず太刀打ちできないアムプーラさえ、「俺は人間をやめたぞー! ジョジョ―!!」と鎧袖一触とする圧倒的な強さのズェピアですが、レメディウスが従える邪竜モドキことプトティラコンボには流石に分が悪い。それでも口裂け女のトリッキーな特性を活かし、一矢報いるのみならずやりたい放題して帰って行くのは流石の一言。ガラへの言及も、型月世界でも上位の錬金術師がラインの黄金の如きオーメダルに触れるのはワクワクしますね。
 でも、一番フリーダムさに笑ってしまったのはやはり最後の盗んだスマホで「もしもしポリスメン?」しちゃうところ。こんなの反則です!

 真面目な話としてはレメディウス組の受けた影響。曙光の鉄槌ほぼ壊滅してそうな口裂け女の被害者数。口を裂かれて呪われた生存者の扱いも気になりますが、通報もされてしまった以上、大量破壊兵器抱えて早速穴蔵から出ざるを得なさそうで、さらに展開が加速しそうです。
 そしてアンクの像を壊すことになった映司。正気を失っている状態ですが、完全に何もかも判別できないわけでもないはず。
 元より怪物退治の都市伝説とも言うべき仮面ライダーの端くれであり、そしてレメディウスと同じく『些末な駒』のことまで強欲に拘った彼は狂化などなくともズェピアらと対立し、先達として何か言葉を授けてくれたのかもしれませんが、その機会を自ら封じてしまったレメディウスに対してどう接して行けるのか。何もできないのか。そして自分にとってのアンクの真似事をしてみようとしたら失敗したところにアンクを思い出させられてどうなるのか。非常に先が気になります。

45 ◆aptFsfXzZw:2020/07/12(日) 22:49:04 ID:i8gujU2.0

>異文化コミュニケーション

 そのアンク組が口裂け女を一体倒した頃の様子が描かれるこちらのSS。原作でのプトティラとアンクの戦力差はそうないはずなので、サーヴァント化によるクラス補正と、マスターの魔力量による出力差が口裂け女一騎を相手に一撃を受けてしまうアンクと、二匹が奇襲してきたくらいならもう冷気出しているだけで触れるでもなく瞬間粉砕できちゃうプトティラとの差になって居るのでしょうね。

 では魔力のない錬は外れマスターなのかというと、いやいやそんなわけないでしょと即否定せえざるを得なくなる今作の所業。学内共有ネットを活かして校舎丸ごとゴーストハック……って怪物じみた情報収集能力を披露。それだけが強みじゃないのだから末恐ろしい万能性。
 既にアンクとの模擬戦でサーヴァントのスペックを実測しているという前振りを活かすかのような、ステータスを目視できない状況でも付随する物理現象の情報を解析することで近接ステータス程度なら把握できてしまう驚異的な解析能力。NARUTOで言うところの物理感知で、情報収集能力の高さが見えます。彼らにとって貴重な魔力資源となるセルメダルもどこに行ったかを見失うことはまずなさそうで一安心。

 しかしそんな錬でも警戒するしかないケイローン先生は流石。威圧を受けていても近接ステはオールB以上なのでアンクを凌駕する高水準という測定も正しく、解析の精度も凄いですが、なにせケイローン先生も高ランク千里眼持ちですし……加えて神授の智慧による万能性は錬を凌駕するかもしれません。直接戦闘力では企画内だけでも先生を凌駕するステータスのサーヴァントもままいますが、最優のサーヴァント候補としてはやはり堅いか。
 そんなケイローン先生に対し、蒼銀のフラグメンツ原作でアーラシュの矢を無効化したブリュンヒルデよろしく、彼女と同ランクの魔力放出(炎)を持つアンクは本来なら有利に立ち回れたのかもしれませんが、最初に述べたようなマスターの魔力量の差が有利不利を変えてしまった面はありそうです。とはいえ、逆に錬の魔力量が充分あれば中学校は一方的な彼らの狩場になっていたかもしれないということなので、よくバランスが取れていると見るべきかも。

 そんな慎重な錬からも大したことないと判断されてしまうフランちゃん(私の中のイメージでも企画内描写でも比較すると単純体術はアムプーラにも劣ってしまうっ)とそのマスターの美琴っちゃんの明日はどっちだ!?


 以上、改めて、お二方とも素敵な作品のご投下ありがとうございました!

46 ◆yy7mpGr1KA:2021/05/31(月) 20:02:09 ID:Ge1yTQGk0
レクス・ゴドウィン&剣崎一真、夏目実加&ロムルス、ズェピア&口裂け女予約します

47 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/04(金) 14:56:53 ID:NY2hbav60
すいません、ありす&ジョーカーアンデッドを追加で予約します

48 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/07(月) 09:12:12 ID:xw6A54ss0
延長お願いします

49 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:40:28 ID:u8pAsDrg0
投下します

50BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:42:32 ID:u8pAsDrg0
*

――――――戦士の話をしよう。

目覚めた時、戦士は神に愛されていた。

*

愛の証は、その身に走る黒い紋様。
刻んだ印は鎖の如く、戦士のさだめを縛り付ける。

自由がない。戦士は己と世界を隔てる壁へと挑んだ。

自由などない。壁を越えた戦士は神の意志に裁かれた。

神の定めた運命を、いかにして変えるのか?
――――――戦士は人の身にして神へと至った。


*

51BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:44:48 ID:u8pAsDrg0

広い部屋、警察署の署長室で大いなる戦士二人が向かい合っている。
只人ならば持て余してしまうスペースだが、かつて神へと至った男二人はそれを埋め尽くしてしまうかというほどの存在感を放って言葉を交わしていた。

「改めて、願ってもない申し出に感謝いたします。第十三階位(カテゴリーキング)のランサー」
「よい。民を守るのは皇帝(マグヌス)の務め。マスターに従うのはサーヴァントの務め。お前たちと肩を並べるのも私(ローマ)の本懐である」

夏目実加とランサーによる盟の申し出をゴドウィンとセイバーは快く承諾した。
軽いフットワークで動き回れる立場の実加が協力者として魅力的だったのもあるし、何より戦いを通じて二人の在り方が自分たち同様に罪なき人々のを助けるものだと共感できたからだ。
そうして協力関係となれば話は早い。
与えられたロールとしてテロリズム対策課での仕事がある実加だが、署長であるゴドウィンからの呼び出しとあればそちらを優先しても表だって文句を言えるものはいない。
聖杯戦争関連と思わしき情報、例えば口裂け女に関連するものなどを部下を通じてゴドウィンが把握できたとして、それを外部の協力者に流すのはご法度だが、担当部署が異なるとはいえ同じ警察官である実加に共有するのは大きな問題ではない。
世界を超えた法の守護者たちの同盟はここに成った。

「それで、私(ローマ)と二人で話したいこととは何か」
「…セイバーは承知しているので同席しても構わなかったのですが。彼女に聞かせるには少々酷かと思いまして」

この場にいない実加とセイバーの二人は署内のトレーニングルームで向き合っている。
表向きには口裂け女事件の捜査資料を共有するために待たせている時間の有効活用ということで。
ランサーもクウガがブレイドに仮面ライダーとしての戦い方を学ぶのは必要なことであるとして二人を送り出し、ゴドウィンとの対談に応じた。

「彼女もあなたもお察しのように、セイバーには自分でも制御できない殺戮機構が秘められています。そして、私もまた近似するものを内に有しているのです」

ゴドウィンが語ったのはダークシグナーという己の中の罪と悪について。
師と兄から受け継いだもの。赤き竜と冥界の神の戦い。その中で己の為してきたこと。

「多くの人を殺めました。多くの罪を犯しました。地縛神による影響があったとはいえ、それは私の為した悪であります」

悔いるでもなく誇るでもなく、淡々とゴドウィンは己の所業と宿痾を語る。
ランサーは我が子を見守る父のような穏やかな表情でその告解に耳を傾けていた。

「そして今もなお、その悪の残り火は私の中でくすぶっている。ささやかな私の抵抗と、赤き竜の助けがなければ今一度この身を乗っ取り、そしてさらなる悪を為すでしょう。願望機、聖杯すらも利用して」

月に闇が満ちるとき、魔の囁きが聞こえ出す。死へと誘え。
自らのしもべの口上がまるで予言であったかのようで、背筋に冷たいものを覚えたものだ。
だからこそだろう、今ゴドウィンの目の前にいる英雄の姿は太陽のように暖かく感じられた。

「あなたは私たちを認めてくださいました。それは我々にとって大きな救いとなった。それでも、私たちはこの戦いに勝ち残ってはいけない存在なのです」

今はまだ為すべきことがあるから、生きねばならない。
それでも、それを為すことができたなら。あるいは内なる悪に屈してしまったなら。

「ですのでランサー。来るべき時、あなたには私とセイバーの介錯をお願いしたいのです」

ゴドウィンもセイバーも自害することはできない。故に、誰かに命を断ってもらわなければならない。
加えて言うと万に一つ殺戮機構として二人が動き出してしまった場合、その戦闘能力はマスターとしてもサーヴァントとしても間違いなく超級のものとなり、止められるものは限られるだろう。
信頼できる強者がパートナーとしていること。異なる歴史のゴドウィンにあって、今のゴドウィンに欠けているものを知らず知らず彼は求めていた。

「………………いいだろう」
「感謝いたします、王よ」

深い沈黙の果てにランサーはその望みを叶えると応えた。
穏やかだったランサーの瞳に優しさの色が増し、同時に哀しみの色も混じる。

52BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:45:25 ID:u8pAsDrg0

「レクスよ」
「…はい」

そしてゴドウィンの告解に赦し(サクラメント)を与えるように言葉を紡いだ。

「我が子カエサルの元へと奉じられた宝玉。その力、宝玉神なるものが外なる宇宙の正しき闇の力と結びつき、お前の世界の根源より生じた悪性と対峙した。ローマの息吹はお前の世界にも満ちている」

ランサーの眼が千里の彼方を見渡すようにゴドウィンをじっと見る。
その裡の輝きと、そしてゴドウィンの世界と自らの因果を見出すように。

「お前の為した罪悪を否定することはできない。それでもお前の裡に、より良い世界のために兄と共に運命と戦う決意があったこともまた否定できない。
 後の世のために、後の者ために何かを遺し、繋いでいく……人の歩み、それこそがローマである」

樹木が最期に種を残し、新たな命を芽吹かせるように。あるいは流れる大河がどこまでも続いていくように。
ランサーの生きた時代からゴドウィンの生きた世界にまで受け継がれてきた、そしてこれからも受け継がれていくものがあるのだとランサーの眼には映る。
そして、できるならばあとに残したくはないものもあるということを。

「私(ローマ)にのみ話をしたのは我がマスター、実加を気遣ってのことか。ああ……轡を並べた者の命を奪う重荷は、あの小さな体には過ぎたものであろう」

敵に対して矛を向けるのはまだしも、盟を結んだものと相争い、命を奪うのに辛苦を感じぬものなどいない。
特に実加が憧れた戦士(クウガ)は怪物に対して拳を振るうことも忌避し、拳を振るうなんてことをするのは自分一人で十分だと笑顔の仮面で周囲を誤魔化し続けた男だという。
そんな英雄の後継である実加の肩に同胞殺しの重荷を背負わせたくはない。
……自分たちとは違う。それはすでに汚れた先達である自分が背負うべきものだ、と。
同胞を手にかけるという所業にかつての己を思い返し、ランサーの瞳の哀しみの色が濃くなる。

「私(ローマ)もお前の気持ちは痛いほどに分かる。誤った神託に踊らされた兄弟を殺める業の痛みはこの胸を苛んでやまない……弟レムスのことは、今なお悔やみきれぬ」

哀しみを纏ったランサーの視線がゴドウィンを誰かと重ねるように変質する。
ゴドウィンもまた、同じような目をランサーに返した。

「悔やみはするが、それでも私(ローマ)はローマを成したのだ。否定はできん。そしてお前も一つの時代を救った戦士だ。それをお前の兄が誇りに思うことはあれ咎めることはあるまい。
 お前に自らを捧げる覚悟があるように、お前の兄もそんな偉大な戦士であったろうと私(ローマ)は確信している」

今レクス・ゴドウィンが命を懸けて人々を救おうとしているように、ルドガー・ゴドウィンもまた世界のために命を散らすに否は無かろうとランサーは語り掛ける。

「……ええ。それはもちろん」
「うむ。私(ローマ)よりもお前の方がそれは分かっているだろう。ならばこそ、悔やむことはあれ自らを濫りに犠牲にするような軽挙はするなと釘を刺しておこう」

哀しみを宿した瞳に再び慈愛の色を満たし、ランサーは祈るように言葉を紡いだ。

「マルスよ。至高の戦士を守り給え」

ランサーの言祝ぎに応じてゴドウィンの内に眠る赤き竜の鼓動が僅かながら強まる。
そしてそれに反比例してダークシグナーとしての衝動が抑えられていくのもゴドウィンは感じた。

「これは、一体?ランサー?」
「赤き竜。それは我らがローマとも深い関わりを持つ獣の名だ。私(ローマ)がマルスに代わり七つの丘の加護を授け、お前の願いを支えよう」

もちろんゴドウィンに力を貸す赤き竜と、ローマの皇帝や七つの丘を指すと謳われる赤き竜は本質的には大いに異なる。
だが魔術的に真名の一致というのは極めて重要なもの。
今も己を苛む邪神に抗うゴドウィンにはそれで充分大きな助けとなる。
七つの丘と皇帝特権によるスキル付与、『軍神の加護』や『軍神の寵愛』の獲得か『軍神咆哮』や『クィリヌスの玉座』による強化の複合といったところか。
……自分たちと同じ志の同盟者を得たからといって、安心して死ねるようになったからといって簡単に諦めるようなことはするなとランサーは鼓舞したのだ。
そして同時に

「改めて言葉にしよう、レクス。我が愛し子よ。お前とセイバーが望みを叶えたならば。あるいは望まぬ悪に堕ちんとしたならば。私(ローマ)の槍でもってその命脈を断とう」

サムズダウン。
冷徹に、しかし暖かな裁定を皇帝は約束した。

53BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:46:19 ID:u8pAsDrg0

*

――――――戦士の話をしよう。

着替えた時から、戦士は闘うことを決めていた。

*

虫も殺せない善性で、それでも人を守ると誓う。

身を守る兜。それは涙を隠す仮面。
身を守る鎧。それは傷を隠す拘束衣。

誰も傷つかない世界なんて綺麗事かもしれない。
戦わなければ生き残れないなら、戦わないものは屍人になるしかない。

――――――それでも、まだ。

*

54BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:48:12 ID:u8pAsDrg0

前線で働く警察官には優れた逮捕術、ひいては格闘技能が求められる。
日本では多くの警察官が剣道や柔道を身に着け、例えば夏目実加の尊敬する先輩である一条薫は剣道の有段者である。
文化のサラダボウルとでもいうべきスノーフィールドでは空手にコマンドサンボ、シラットにムエタイなど様々な格闘技を身に着けた警察官がおり、彼ら彼女らの訓練のための設備も署内には設けられていた。
早い時間帯での利用者は少なく、現在は男と女が一人ずつだけ。

「フッ!ハッ!夏目さん、どうして変身しない!?」
「いえ、そんな軽々にできるものではなくてですね……!」

セイバーのサーヴァント剣崎一真と夏目実加。二人はどちらも変身せず、人の姿のままに組み手のような拳舞を交わす。
二人とも人の姿のままとはいえ、かたやサーヴァント、それも人ならざるアンデッドとなった存在だ。
アマダムと融合し代謝が上昇しているとはいえそれでも人の域を出ない実加では剣崎に勝るのは難しい。

「訓練方法を変えるかい?ピッチングマシンでもあればギャレンの基礎訓練の一つはできるけど。いや、ブレイドとギャレンじゃ適性が違う……クウガはどんな戦い方をするんだ?」
「はじめから聞いてほしかったです……」
「いや、ゴメン。俺たちは先輩から誰から現場主義というかぶっつけが多くて」

自身も先輩である橘朔也も突貫で仮面ライダーとなった剣崎と、根が学者肌である実加とではそんなすれ違いも生じたが、剣崎が話を聞く姿勢となることで相互理解が進んでいくことになる。
幼いころからリントの碑文研究に関わった実加の説明はその道の学者顔負けで、剣崎の的確な質問もあってスムーズに解説を終える。
アークルの特性。リントの伝承。未確認生命体ことグロンギとの戦い。白、赤、青、緑、紫のクウガ。碑文にはなかった金の力。そして最も注意すべき黒の力についても。

「戦うための生物兵器……凄まじき戦士、か……」

アークルを多用することのリスク。グロンギとの近似性。
それらに思うところがあるのだろう、内に緑色の血液の流れる手のひらを剣崎はじっと見つめる。

「仮面ライダー……確かに俺たちは、かなり近しい存在だ。
 ブレイバックルも、感情の昂り…憎しみには限らないが、それによってよりアンデッドの力を引き出せるようになり、アンデッドに近づいていき、そして……アンデッドになる」

剣崎の身に起きた事象は、アンデッドとの高い融合係数という才能が起こした悲劇のような奇跡であるということは理解している。
だがそれは高い融合係数を持つ者が彼のように13体のアンデッドと融合するキングフォームを多用すれば同じような結末に至るということだ。
アークルの特性、実加の才能がいかなものか測る術がない以上杞憂でしかないのかもしれないが、誰かが目の前でそうなりかねないとなれば見逃すことはできない。

(けれど、やめろと言ってやめられる状況じゃなし。どの口で、ってなるしなあ)

棄権できるものならしてほしいところだが、それができない状況だから巻き込まれた人を助けるために手を取り合うことを決めたのだ。
だというのに戦うなと言い出しては道理が通らないし、あまりにも失礼だろう。

「真紅と黄金に染まれ、とランサーは言っていたな。彼の言うように、赤と金の力を目指し、そこでとどめておくのがいい気がする」
「はい。五代さんは黒の力をコントロールしたらしいですけど、簡単なことじゃないでしょうし。そもそも私は金どころか赤のクウガにもなれてませんし……」

そう言いながら実加は裡のアマダムのあたりに手を当て無力感に唇を一文字にする。
戦闘、殺戮を熟知したある意味格上であるグロンギ相手に、フォームを使い分けることで勝利を重ね、ついには究極の闇すら克服した五代との差異が彼女を苛んでいた。
五代雄介本人や一条薫ならば、それが買いかぶりだと指摘できただろう。神ならざる剣崎一真には知り得ないことだ。
だが肉体を完全に操作するのも、感情を完全に制御するのも、容易なことではないことならば剣崎とてよく知っている。

「ルーティーンだ」

だからこそ、彼は一つのシンプルなアドバイスを送る。
知ってか知らずか、仮面ライダーという英雄の象徴ともいえる所作の存在を。

「スイッチング・ウィンバックと言い換えてもいい。構えで身体のスイッチを、掛け声で精神のスイッチを、誤作動しないよう同時にスイッチを押すんだ」

クウガにあって、グロンギにない。ブレイドにあって、アンデッドにない。根源を同じくする怪物と英雄の間の一つの線引きといえるかもしれない。
ブレイバックルを起動し、高らかに変身と雄叫びをあげ、オリハルコンエレメンタルを潜り抜けることで、『剣崎一真』は『仮面ライダーブレイド』となる。
日常から非日常へとスイッチを切り替える瞬間だ。
まずそこに力があることを認識し、そしてその力を解き放つ合図を己の中で定める。

55BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:49:44 ID:u8pAsDrg0

「それが俺の知る仮面ライダーへの第一歩といえる。常在戦場とは言うが、平時と戦時を行き来するのも大切だ」
「仮面ライダーへの、第一歩……」

知ってか知らずか、五代もまたそうだった。
2000の技の一つである拳闘をベースに構えをとり、大きく声を上げてクウガへと転じる。
幼い実加の前でも披露した戦士の姿だ。
それが実加の原風景の一つと言っても過言ではないのだが

(そもそも仮面ライダーって……なに?)

抱く迷いに続けて振って湧いた疑問が実加の足に絡みつき、その足を止めそうになるが

「仮面ライダーとは、例えるならばローマの皇帝(マグヌス)である」

真紅の王がその道行を晴らさんと現れた。

「ランサー。マスターとの話は済んだのか」
「うむ。セイバーよ、レクスとの対話は終えた。あの者もまた良きローマである」

満足した様子で深く頷きながら、今度はお前の番だとゆっくり実加へと向かう。

「レクスは誰かを迎えに行くと言っていた。すぐに合流するだろう。今はお前だ、実加よ。知は力なり。認識し、理解することが戦う術となろう」

そう言いながらランサーは自らの丹田―――資格者であればブレイバックルやアークルを装着するであろう箇所だ―――に手を当て、呼吸を整えながら呟く。

「皇帝特権により『神性』を主張する」

その言葉と共にランサーの肉体に神性を取り戻した証……神代の魔術回路である神代回帰の紋様が浮かび上がる。

「『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』

続けて宝具の真名を唱えるとともに己の手の中に宝具である巨槍を召喚し、構えてみせる。

「魔術師は魔術回路を励起することで力を行使する。また、お前の国の侍という者たちは刀を抜くことで戦士となるのだろう?
 鬨の声と所作によって、心と体を戦へと切り替える。まさしく戦士の嗜みであろう。仮面ライダー、善きかな」

例えるならこれがランサーにとっての『変身』であると示したのだ。
それはつまり、誰にでも『変身』はできるのだということを。

「ローマの初代皇帝の名は知っているか?」
「アウグストゥス帝ですよね?それは、もちろん」
「うむ。ならば皇帝、カイザーの語源となった男、アウグストゥス以前に帝国の基礎を築いた偉大なるローマがいたことも知っていよう」
「ガイウス・ユリウス・カエサル執政官ですね」
「然り。ローマ皇帝即位以前、初代より前にして、そして私(ローマ)より後の皇帝といえよう。
 そして、ローマという王国(くに)亡き後もその名と在り方を継いだ皇帝たちがいた。ロムルス・アウグストゥスという我が子もいた。他にもコンスタンティヌス、テオドシウス。
 そして……シャルルマーニュ。ハートのキングを司る、神聖ローマ帝国の初代皇帝。あの者もまたローマである」

懐かしむような眼で、慈しむような眼で、彼方を見ているようで、しかし確かに実加を見据えて神祖はそう口にした。

「仮面ライダーも同じだ。初めて仮面ライダーと呼ばれた一人の男がいた。それより以前、それより以後に男の在り方を、承知の上でか知らず知らずにか体現した戦士たちのことを人々は仮面ライダーと呼ぶのだ。
 時代や場所によって鬼、魔法使いなど呼ばれ方が違う者もいるが、それもまた総じて仮面ライダーだ。私(ローマ)やシャルルマーニュが皇帝(マグヌス)であろうように、な。
 お前も、仮面ライダーとなる資格はあるのだ、実加よ。お前も含め、あらゆるものがローマであり、仮面ライダーとなる可能性を秘めているのだ」

最後の言葉は、しっかりと実加だけを見て。
実加の中にある、浪漫(ローマ)と戦士(クウガ)を見出して。
それに応えるように実加は熱いものを躰の裡に覚えた。

「ローマで……仮面ライダー……!」

実加の中からそれを引き出す。
五代雄介がかつてしていたような、腰に手を当てる構え。それに応じるようにアークルが腰に現出した。
腰に構えた剣を抜き放ち構えるように腕を振るう。一条薫が魅せる居合抜きの如く。
そして

56BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:50:32 ID:u8pAsDrg0

「変身!」

雄叫びのように声を上げると、応じるように実加の体が『赤く』変じていく。

「おお!」
「うむ。よいローマだ」

二人のサーヴァントから感嘆の声が上がり、ランサーはさらに称賛するようにサムズアップを実加へと向けた。
それが誇らしくて、実加もまたサムズアップを返そうとするが……

「ぅっ……!」

未だに制御しきれないのか、アークルが旧式のものだからか。
霊石が明滅し、『赤』から『白』のクウガへ、さらには人の姿にまで戻ってしまう。

「む……!いや、無理もない。俺もアンデッドの力を使うたびにかなり消耗する。ましてや直接体を変身させるのが負担にならない訳がない」
「……ふむ。仮面ライダーの先達がそういうならば、そうなのであろう。魔術回路の励起にも相応の負荷はある。少しづつ馴染ませていけ。今は……」

二人の労いを受け、それでも不満げな実加を制するようにランサーが実加の肩に手を置く。そのまま視線を部屋の入口に向けると、神代回帰と宝具を解き、ゆっくりと霊体化していく。

「今はレクスと、もう一人の話を聞くとしよう」

その言葉とともにランサーは完全に霊体化し、続けてセイバーも姿を消す。
それに少し遅れてゴドウィンと、彼に連れられた長身の男が現れた。

「あれ?アバッキオさんじゃないですか」
「……ナツメ。相変わらず無駄に元気そうでなにより」

ゴドウィンに連れられて現れた刑事はレオーネ・アバッキオという男だ。
実加と同じく国外からの研修組で、彼はイタリアからこのスノーフィールドへと派遣されてきた。

「で、その、署長。彼女にも口裂け女についての捜査情報を共有しろと」
「はい。口裂け女というのは彼女の出身である日本に由来するものだそうですから。模倣犯や愉快犯の類をどこまで迫れるかは分かりませんが、それでも彼女の意見は参考になるでしょう」

朗々と答えるゴドウィンだが、アバッキオはどうにもうんざりした顔をする。
アジア人の女と仕事をするのがイヤなのか、そこまではいかなくとも縄張り意識から部外者である実加を入れたくないのか……

「って、アバッキオさんのいるトコってマフィアとかカモッラとかそっち系じゃありませんでした?この間もスクラディオ・ファミリーがパッショーネと何か取引しようとしてるとか雑斧会が蒼海幣の流れ者と合流しようとしてるとかで網を打つって言ってませんでした?口裂け女って地域の殺しじゃなくてそっちの管轄なんですか?」

自分やゴドウィンが警察組織に属しているように、犯罪組織に属する聖杯戦争の関係者もいるのか。
実加の脳裏にそんな考えがよぎり、冷たい汗が背中を濡らす。
一度溜息をついたアバッキオの発した言葉はそれを否定も肯定もしないものだった。

「さあな。潜り込んでたネズミが一人口を裂かれた。バレたのか、抗争に巻き込まれたのか、無差別の偶然か。分かんねえから俺も首を突っ込ませてもらうんだよ。つまり、だ」

アバッキオがポケットからUSBメモリを取り出し、実加へと差し出す。

「おれやお前みたいなよそ者には、伝説の白バイ乗り(ホイーラー)の口利きこみでも渡せるのはこんなもんだとよ」
「アバッキオさん…!ありがとうございます!」

USBを受け取り敬礼を返す実加に、アバッキオはおざなりに手を振って応じる。

「イッツマイプレジャー。なんか分かったらこっちにも共有しろよ……では、署長。失礼します。ご足労いただきありがとうございました」

今度は実加にしたものと違いちゃんとした敬礼をゴドウィンに送り、アバッキオは自身のデスクへと戻っていった。
それを見送り終えて、再度実加がゴドウィンに感謝を述べる。

「ゴドウィン署長、改めまして協力―――」
「いえ。このくらいは同盟関係として当然のことですし、必要なことです。口裂け女については一旦纏めて私に報告するように指示は出して来ましたので、今日中には最新の情報を共有できるでしょう。
 ……では、一度別れて現状の走査と行きましょう。さすがに私のデスクであなたが捜査情報を確認するのも、その逆も不自然ですから。何かあれば端末に連絡を」

では、と署長室に戻るゴドウィンを見送って実加もまた、国際テロリズム対策課の自分のデスクへ戻る。
同僚に軽く挨拶をしながらノートパソコンを立ち上げてUSBを挿して中を読み込む。

57BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:51:47 ID:u8pAsDrg0

(えーと……ガイシャの情報に、現場の場所、発生時刻。ついさっき送られてきた口裂け女のホームページのリンク。え、通報の音声記録と、ヤマ張ってる被疑者の前科まであるのは意外)

アバッキオの素振りからあまり中身は期待できないかと思っていたが、さらっと確認するにはだいぶヘビーな質で量だった。

『期待されているということだろう』

突如響いたランサーからの念話に実加の背がビクン!と伸びる。

『私(ローマ)はあまねくローマを知るが、口裂け女なる者について詳しいとは言えぬ。
 ゆえ、同郷であるお前やセイバーの知見に頼りたいと思っている。この地の警察(ウィギレス)も恐らくは同じく。それでどうだ、実加』

その実加の反応をランサーも、ついでに周囲の同僚も気に留めなかったので実加も軽く咳払いして資料を見つつランサーに答えた。

『うーん……私が小さいころにちょっと流行ったというか話題になった…フォークロアというかアーバンレジェンドというか。好意的に解釈しても英霊ではないですね。
 分類するなら一応、反英雄になるんでしょうか……せいぜいが妖怪とか怪物、くらい。それにしたってメドゥーサとかセイレーンだとか、日本でいう九尾の狐とかにはとてもじゃないけど及ばないでしょうし』
『サーヴァントとなるには器量が足りぬ、か?』
『そこまではなんとも。ただ、まあ……』

実加の脳裏に、先刻セイバーとランサーの繰り広げた超常の決闘がよぎる。
続けて記憶にある、眉唾物ながらいくつかの口裂け女の逸話をそれらと比べてみる。

『コレがいたとして。弱い、ですね。お二人の足元にも及ばない。殆ど資料で見たきりですけど、せいぜいが低級の未確認レベルじゃないかと』

実加が見届けた、緑のクウガに一矢で撃ち抜かれたあのレベルがせいぜい。
それがなぜこんな目立つような、敵を作り引き寄せるような真似をしているのか、どうにも解せない。

『しかしそれでも無辜の民には十分な脅威となる。それはお前が最もよく知っていよう』
『ええ、それはもちろんです。サーヴァントであるなら攻撃する手段も限られてきますし、巻き込まれたマスターだって危ない』

そう、無視できる些事ではない。
しかし無為に名を上げ、例えばこのランサー相手に聖杯をかけて戦いを挑むのはあまりにも無謀としか思えない。

『武人であれば名乗ることもあろうが……』
『もしくは自己顕示欲の強い劇場型の犯罪者とかですかね』

未確認にもやたらとおしゃべりなカメレオン型がいたという。
口裂け女に武人の誇りだのがある訳なし、そうした顕示欲があるのだろうか。

(私、綺麗?と問うて回り、答えたものを殺す。つまり綺麗ではない、と自覚しながらもそれをはっきり告げられれば怒るし、見え見えのお世辞にも同じくらい怒る。殺意を覚えるレベルで。
 プロファイリング未満の雑な感想ですけどめちゃくちゃに面倒な気質の女なんですよね。自己顕示欲半端じゃなさそうだなあ。
 ……もしかしてそういうところ、未確認のゲゲルと似てる!?)

ふとした閃きをきっかけに実加の資料を走る目が加速する。
事件の場所、時刻、被害者の性別や名前に何らかの法則はないか。
次を予測はできないか。

(もしかしてそうやっておびき寄せるのが狙いで?)

実際には口裂け女などという生易しいものではない強力なサーヴァントが待ち伏せている?

(そもそもなんで口裂け女なんて言い出されたの?誰がそう呼び始めた?
 被害者の口が裂けてるから?犯人が女だなんて分からないのに?犯人の口が裂けてるなんて情報はないのに?普通なら切り裂きジャックならぬ口裂き男なんて言われるほうが自然)

そうした思考をメモやブレインストーミングのように画面上にタイプして表示させる。
短い思考ならともかく、それ以外で念話はまだ実加には慣れない行為だ。
ランサーは霊体化しながらも表示されたそれを読み、実加と共に資料を追う。

…………少しすると煮詰まったのか、いくつかある通報の音声記録を再生し始める。

58BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:52:27 ID:u8pAsDrg0

―――ああそうだ。そこに人が口を裂かれて倒れているぞ! 犯人は口裂け女だ!―――

一方的に捲し立ててすぐに切れたそれは、現場近く、発生してすぐ、通報者は不明とどうにも怪しい匂いがする。
その通報のあった事件の資料を表示し、音声を止めたところでちょっとコーヒーでも淹れようかと実加が席を立つ。
すると


―――Prrrrrrrrrrr, Prrrrrrrrrr―――



立ち上がった実加のすぐ横でコール音が響き、反射的に通話端末を取る。

「はい、こちら―――」







「国際テロリズム対策課というのはこちらでいいのかな?曙光の鉄槌なるテロ組織をご存知かね?」

蛇の這いよるような、音がした気がした。

59BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:53:36 ID:u8pAsDrg0
*

――――――戦士の話をしよう。

愛の果てを知った時、戦士は怪物に変性する。

*

愛しみなくして戦士は語れぬもの。
憎しみなくして怪物は語れぬもの。
愛しみと憎しみは本来別々のもの。
それらが一つのものとして語られるとき、これらを繋げる感情が不可欠になる。
―――狂気だ。

狂おしいほど愛している。狂おしいほど憎んでいる。
想いがこの域にまで達した時、愛憎(かいぶつ)は現れる。

別々とは言うが……愛しさ余って憎さ百倍とも、よく言うもの。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗き返すのを忘れるなかれ。

*

60BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:55:00 ID:u8pAsDrg0

「国際テロリズム対策課というのはこちらでいいのかな?曙光の鉄槌なるテロ組織をご存知かね?」

警察組織への連絡手段というのは当然一般に開放されているもので、通報や情報提供の電話というのは珍しいものではない。
当然情報は玉石混交、むしろ石の方が多いのだが間口が広くなければ玉が流れ込むこともないのでそこは承知のリスクだ。
とはいえ実加の所属するのは国際テロリズム対策課、そうそう一般からの通報などあるものではない。
極まれに手配書で見た顔がいた、という電話があって、その大半が瓜二つの(そうですらないことも少なくない)他人に迷惑をかける程度だ。

しかし今回の通報は毛色がまるで違う。
曙光の鉄槌というテロ組織を名指ししている。そのアジトの場所と、中で大規模な騒ぎ、おそらくは刃傷沙汰が発生していたと具体性と事件性に富んだものだ。
もし仮に一から十まで出鱈目だったとしても調べるざるを得ないし、通報者からの聴取もしたいところだ。

「一つ確認したいことがあるのですが」
「なにかな?」

だが実加はこの電話の声に対して、全く別の思考を巡らせていた。

「昨晩、学園前通りの公衆電話から口裂け女のことを通報したのはあなたではありませんか?」

通報の内容とは別件の、通報者そのものに対する疑いのようなもの。確信二割、カマかけ八割といったところか。
二晩続けて何らかの事件に関わっているのではないか。むしろ、当事者なのではないか。
通常の業務であればこんなことまずやらないだろう。
だが今は平時ではなく有事のさなか。転び公妨や別件逮捕など好みではないが、全く行使しないほど実加とて純朴ではない。

「今回の通報と合わせて、お話をさせていただきたいのですが」
「ほう。警察機構について詳しくはないが、国際テロリズム対策課が巷で噂の口裂け女について詳しいとは」
「どちらも我々警察の仕事ですので。それで?お迎えに上がりましょうか?それともそちらから署までいらしていただけますか?」

幼児に言い聞かせるようにゆっくりと、実加の口から言葉が紡がれる。
電話の向こうからは数瞬の沈黙が流れたと思えば、息の吹き出す音が響いて

「キヒッ……ハ。ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

高らかな笑い声が電話越しに響いた。
不気味なほど甲高い、人間味のない声というより音とか鳴き声に近しい響きが実加の耳を揺らす。
それが数秒続いたあと、今度ははっきりとした調子で知性を感じる声が継いだ。

「『誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない』。作劇における伏線の手法だ。これでも脚本家の端くれでね。
 聖杯戦争の舞台にテロリストと、テロリズム対策課が配置されている。そのうちの片方にマスターが属していたとなればもう片方にもいて然るべきだ……君か?」
「質問しているのはこちらですが」

冷たく返す実加に対して、電話の声もまた斬って捨てるように言葉を返した。

「これはしたり、失礼した。私と話がしたいと。答えはノーだ、お嬢さん。そしてこちらの質問への答えも不要だ。百聞は一見に如かずというからね」

バキリ、と金属が砕けるような音が響き、通話は途絶える。
そこからほんの数秒の間も実加は耳を澄ましていたが、完全に通話が終わったことを確かめると端末を置き、周囲に声を飛ばした。

「逆探知と位置情報お願いします!あと音声記録も!署長に言って、私が出ます!」
「あ、おい!」

制止する同僚の声を無視してバタバタと装備の点検を進める実加。
その肩にポン、と重量感のある手が置かれた。

「落ち着いてください、夏目刑事」
「しょ、署長!?」

突如現れたレクス・ゴドウィンの姿に実加含めた課内全体に緊張した空気が流れる。

『私(ローマ)が呼んだ』

肩に置かれた暖かい手と、脳裏に流れる温かい言葉が実加に落ち着きを取り戻させる。
対照的に未だ緊張に包まれる課内だが、それを良しとも悪しともせずゴドウィンは淡々と指示を飛ばした。

「先ほどの通報を再生してください。それから夏目刑事。そちらのヘッドホンから昨晩の口裂け女事件の通報音声を再生できますか?……ではそれを私に」

二人の部下に命じて音声を再生させ、右耳で口裂け女のそれを、空いた左耳で曙光の鉄槌についての通報を捉えて聞き比べる。

「通報は固定電話から?それとも…ああスマホですか。では位置情報は?東部湖沼地帯?移動は?追えない?ふむ、壊したか、スナック菓子の袋にでも詰めたか……」

思考に没頭して始めたゴドウィンだが、それも僅かの間ですぐに再度指示を飛ばす。

61BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:56:11 ID:u8pAsDrg0

「通報者は重要参考人として聴取したい。夏目刑事を向かわせます」
「単独でですか!?」
「…そうですね。そちらは単独で。それよりも曙光の鉄槌に重点を。まずは通報内容が事実かどうか確認。裏が取れれば大取物になるでしょう。それ以外に裂く人員が惜しい。
 そちらの配置はあなたたちの方が専門ですから、私から口を出すことはありません。他部署との折衝が必要ならば、可能な限りの協力はします」

それでは、と実加と共に退出しようとするゴドウィンだったが、すぐに署員から声がかかる。

「署長、それにナツメさん、ここから湖沼地帯に向かう道沿いで問題が発生しています。乗用車の逆走、信号機そのほか設備の破損などがあり、交通課が対応していますがパトカーで向かうのは時間がかかりすぎるかと」

ゴドウィンたちは知らないことだが、それは第八階位と第十二階位のサーヴァントの激突の余波によるものだった。
ジェロニモによる魔術で事態の割に騒ぎは小さいが、車の逆走は路上や車上のカメラで記録に残るし、信号機の破壊など無視するにはあまりにも大事だ。
少なからず日常へと聖杯戦争の余波は広まっている。

「…わかりました。ご心配なく、こちらで足は確保します。夏目刑事、こちらへ」

忠告を受けてゴドウィンの足の行く先が変わり、実加もそれに続く。
何やらあまり人の気配がない一画に向かう向かっているようだ。

「署長、曙光の鉄槌の方にも人を派遣するんですか?通報者の言葉が事実で、サーヴァントがいたら彼らでは対処しきれません」

それを幸いと聖杯戦争の話題を実加は始める。
ゴドウィンも少しだけ周囲を確認してそれに答えた。

「承知の上です。調査には危険を伴う……ですが、最低限の人員のみを動かすよう命じなければいきなり突入準備を始める可能性もあった。
 加えて、聖杯戦争のためにあなたが動くには単独の方が都合がいい。ついてくいくな、全く動くな、と命じても人は止まりません。後詰めとして控えろ、とでも言わなければね。そして後詰めである以上先見隊は必要です」

あなた以外にもね、とゴドウィンがしめる。
そしてそれでも不安を隠せない実加にセイバーが声をかけた。

「仮初とはいえ、ここにいるのはみんな警察官、君の仲間だろう?ならもう少し信じて、頼ってもいいんじゃないか?」

役割(ロール)に如何様な規則があるのかは分からないが、実加もゴドウィンも治安を守る職で、だからこそ警察署に配置されたとするならば、ここにいる人も恐らくはそうなのだろう。
実加にとって庇護対象ではあるが、同時に自分たちと同じ正義の人でもあるはずだ。
そう思うと下がっていろというのも何だか無礼な気がしてくる。
ならば共に戦うもよしかと実加の視線がゴドウィンの向かう先へと向けられる。

「ところでマスター。こっちにあるのって、たしかこの間署長室で確かめた…」
「はい。徒歩で向かうにはスノーフィールドは広すぎる。白バイ隊のものを無断で貸与するわけにもいかない……そこで現在誰にも支給されていないマシンを一時貸与することにしたいのですが……」

迷うような口調とは裏腹にゴドウィンの足はまっすぐ進む。
それに付き従う実加は見覚えのない場所にいささか困惑する。見たところは車庫のようで、見るからに頑健そうなバイクが一台鎮座していた。
それを示して、どことなく楽し気にゴドウィンは解説を始めた。

「ビートチェイサー3000。あなたの故郷での技術をベースに開発された、悪路走破と耐久に優れた一機です。
 私もバイクにはうるさい自覚はありますし、それなりのものを見てきた乗ってきたと自負していますが……」

ジャック・アトラスのホイール・オブ・フォーチュンや、不動遊星の遊星号、チャリオット・パイルを纏ったボマーのそれや、かつてダイダロスブリッジに挑んだゴドウィンの愛機……それらのモンスターマシンに負けず劣らずの風格と、何より気難しさがビートチェイサー3000にはあった。

「ビート…チェイサー……これを、私に」

その名を実加は知っている。
憧れの英雄が駆った乗機の名だ。何の因果か、この月でそれが再現されている。
戦士たちがひっそりと手を差し伸べてくれたようで、サムズアップする彼らを幻視したかと思った。
しかし、これを実加が使いこなせるかは別問題だ。
世界中を身一つで旅してまわった2000の技を持つ男や、未確認生命体に攻撃されてもちょっと休めば立ち上がるタフガイなどと比べて、実加は体躯も力も大きく及ばない。
不安げにハンドルに手を伸ばすと

62BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:57:02 ID:u8pAsDrg0

「私(ローマ)が手綱を握ろう」

さえぎるように、かばうように、力強く、ハンドルを握る手が伸びた。

「神の血を引く狼の背にまたがった。数多の羊を追い立て、まとめ上げた。騎兵を率い、砦を落とした。騎乗スキルも当然我が技法の一つである。竜の類でもなくば、私(ローマ)ならば乗りこなしてみせようぞ」

馬のたてがみを撫でるようにランサーの手が滑り、嘶きのようにエンジン音が響く。
巨大なビートチェイサーの機体も、ランサーの巨躯が跨ると相応のものに映る。
あつらえたかの如く。あるいは絵画や彫刻の如く、そうあるのが自然なようなランサーの姿がそこにあった。

「はは、これはよい。卓越した技術(スキル)は魔術(スペル)と区別がつかぬというが然り。神代の天馬や神狼もかくや。これならば大地(ローマ)の果てまでも駆けられようぞ」

らしくなくはしゃいだ様子のランサーだが、バイク乗りとして気持ちがわかるのかゴドウィンもセイバーも特に気にした様子もなく見送る準備に入っている。

「では先ほど通報した何者かについて探っていただきたい。潮時と判断したら曙光の鉄槌の方へ。
 それと、無線が搭載されています。本部の周波数と、私からのものがこちらです。連携は密に」

続けてゴドウィンはエンジンキーを引き抜くと警棒になるなど他の機能も説明しようとした。しかし騎乗スキルの一環かランサーはマシンの機能をすぐに把握したようで、あとはもう実加を乗せて駆けだすだけという状態になる。
ヘルメットを渡して乗るのを待つが

「ランサー。確認させてください」

迷ったように、実加はそれを制止する。

「何か」
「皇帝特権による騎乗スキルの獲得中は気配遮断は機能しません、よね?」
「うむ。いかに私(ローマ)といえど限界はある」

嵐の航海者や主神の神核など複合効果を持つスキルを取得もできるが、複数のスキルを同時に身に着けることはできない。
気配を隠しながらバイクを駆るのは残念ながら今のランサーにはできない。

「つまり通報者と曙光の鉄槌にサーヴァントがいた場合、こちらの接近を隠すことはできない」
「確かに私(ローマ)の王気(ローマ)はスキル失くして隠せるものではない。むろん私(ローマ)とて愚鈍ではなく、一方的に気付かれるだけではないと断言はするが」
「……先攻をとれるアドバンテージをみすみす捨てるのは決闘者、いえ戦士ならば誰もが惜しむ」

今にも駆け出しそうだったランサーが両足を地に着け、視線が上方を向く。
ゴドウィンも唇に手を当てて沈考を始める。

「それに皮鎧の大柄な男性が警察車両を扱うというのは、その、悪目立ちするんじゃないかと」
「それは……言われてみると」

ゴドウィンの過ごしたネオ童実野シティでは奇怪な風体の男女がD-ホイールに乗っているのは日常茶飯事だったが、確かにスノーフィールドではまずいかもしれない。
ノーヘルなのもいただけない。
サーヴァントであるランサーが対向車や道路と衝突したところでダメージにはならないし、ましてや彼の天性の肉体以上に頑健なヘルメットなどそう用意できるものではないが、見た目の問題というのは重要だ。
SNSの発展した総監視社会では僅かの賜暇も避けるべきだろう。

「私に騎乗を、ランサーに気配遮断を取得していくのではいけませんか?」
「技術的には可能だ。しかし今のお前には私(ローマ)が魔力回復のスキルを付与している。白のクウガになってしまった以上、それは必要な処置であろう」

返された言葉に実加は言葉を失い唇を噛む。
ランサーの圧倒的な強さを発揮するのに実加の魔力は不可欠で、必要なこととはいえそれを消耗してしまっている。少しでも回復したいところだ。

「なら、俺ならどうだ」

従者に徹していたセイバーだったが、ここにきてハンドルに手を伸ばす。
実加の消耗に責任があるのは自分もだと、仮面ライダーとして堂々と。

「セイバーのクラススキルも騎乗だし、こうしたバイクの扱いは俺も経験がある。俺に気配遮断を付与することはできないか?」

ライダークラスの召喚ではないためブルースぺイダーを持ち込むことはできなかったが、それを扱った技能は健在だ。
そしてランサーと違い現代の人間であるセイバーがバイクを運転するのはさほど目立ちはしない。
そこにランサーの力が加われば鬼に金棒だと視線と問いを投げた。

「私(ローマ)は七つの丘の御名において、同胞(ローマ)と認めたものに加護を与える」

真っすぐと見据えるセイバーを、ランサーもじっと見つめ返す。
……そしてふ、と笑みを浮かべて

63BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:57:56 ID:u8pAsDrg0

「お前も、ローマだ」

セイバーの肩に洗礼かダブのようにランサーの手が触れると、力を得てセイバーの気配が消える。
これで敵に先んじれられることはないだろう。

「だがこれは別の難題が生じる。単独行動を持たないサーヴァントがマスターと距離を離してはパスが弱まり、魔力供給が途切れかねん。それは我らサーヴァントにとって大きな問題だ」

そう簡単にはいかないと、今度はランサーが問題を口にする。
ただのサーヴァントならまだいい、セイバーはマスターとの繋がり、ひいては魔力を失えば本人も望まぬ暴走に繋がりかねない問題がある。
対策なしの別行動はさせられない。

「私が魔力のパスを強化できればいいのですね?」

あてはあります、とゴドウィンは自らのマヤ文明デッキを取り出す。

「古来よりデュエルモンスターは優れた魔術儀式の形式でありました。エジプトのファラオも、欧州のヴァンパイアもそれを使いこなしたと。
 ランサー、あなたの加護を受けたことで今の私は以前よりも格段に安定している。カードを用いた魔術を使ってもダークシグナーに吞まれることはないでしょう」

選択したカードは赤蟻アスカトルと太陽竜インティ、スーパイと月影竜クイラのチューナーモンスターと竜で対となる組み合わせ。
マスターにチューナーを、サーヴァントに竜を渡すと、相互の魔力パスがカードを通じて強まるのが全員に理解できた。

「シグナ―の痣には『救世竜』という、力を共有し一所に集う性質があります。私のシグナ―としての竜と、そのしもべとの繋がりを通じて魔力の経路とする。これならば問題は解決するはずです」

もう一つ、ひっそりと応用している技術がある。
地縛神の有する、遠方の地からの魂喰いの能力だ。ジャック・アトラスが地縛神である紅蓮の悪魔を従えシグナ―の力としたように、今のゴドウィンも地縛神の力を自らの魔術に意図せず応用するシグナ―としての高みに辿り着いていたのだ。
それに一人気付いているのか、ランサーはゴドウィンに慈愛の目を向けていた。

「……セイバーが行くならば私(ローマ)は残らねばなるまい」

思い返すのは通話の向こうで紡がれた言葉。

―――こちらの質問への答えも不要だ。百聞は一見に如かずというからね―――

「奴はこちらが警察署(ここ)にいることを知っている。本当に見に来るつもりだというなら…サーヴァントによる襲撃を警戒する必要があるだろう」
「となるとチームを分断することになりますか。さて、どう動くのが最善か……」

ランサーが駆るならば先制の機会は失われる可能性があるが、どちらのチームも万全の戦闘を行えるだろう。
実加が運転するなら敵に気付かれる危険は少なく、ゴドウィンたちはベストの布陣だが、ランサーへの魔力供給が滞る危険がある。
セイバーの操縦で向かうならば本来の主従を分かつことになり、魔力のパスや意思疎通を契約外のものに依存することになる。
ゴドウィンは曲がりなりにも署内のトップで下手に動くことはできない。

誰が、どうやって向かうのが最善か。
湖沼地帯にいるであろう何者かを睨むようにしながら実加たちは思考を巡らせる。

64BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:58:39 ID:u8pAsDrg0
*

――――――では、戦士の話をしよう。

戦士の物語を彩るに欠かせぬ、美(おぞま)しい怪物(ヒロイン)の話を。


*

65BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:59:09 ID:u8pAsDrg0

バキリ。
先ほどまで警察と繋がっていたスマートフォンを粉々に握りつぶし、車窓から放り捨てる。
この程度の端末、そこらからいくらでも奪えるし、アトラスの錬金術師の頭脳の方が比べ物にならない演算機能をしている。

「さて、匂いは落とせた。追うならばこちらではなく、第六階位の方に向かってくれるといいのだが」

とは言うもののそう都合よくはいってくれないだろうとも分かっている。
投げた石がマスターに当たったのは想定外だが、もとより舞台上に役者を呼び込む算段ではあった。
オファーをしたのが思ったより大物だっただけのこと。脚本は変わらない。

「引き絞った弓は放たれぬわけにはいかぬ。幕が下りるまで、退場するまで演者は舞台で踊らなければ……だが脚本、演出、助演の兼ね役は忙しくてかなわん」

そう言ってズェピアは気怠そうに首を回し、道が混み始めているのを見てさらに表情に倦怠感を増す。
信号の破壊と乗用車の逆走、ここにも第八階位の影響が届いていた。

「徒歩の方がマシだなこれでは」

アトラシアの演算は速い。
渋滞を予想するアプリなどなくとも、人の流れ物の動きを捉え、予測し、未来を描く。
丁度マンホールを視界に捉えたのを幸いとズェピアの手からエーテライトが二本飛んだ。
一つはマンホールへ伸びて下水への入り口を開く。
もう一つは運転席のライダーの頭部へ繋がり、ズェピアに思考・感覚をリンクさせる。

「…おや、これは面白いことになっている。いばら姫の棘に刺され、アリスは夢の世界に堕ちていたか。ドレスアップは済んだというわけだ」

くく、と笑いを漏らして開いた地下への入り口を見やる。
ライダー、サーヴァントと知覚をリンクしたことでズェピアはその先にいるモノに気付いた。
サーヴァントはサーヴァントの気配を知覚する。そしてマスターはサーヴァントを認識することでそのカテゴリーを知る。
予期せぬ再会に、ズェピアとライダーは踊るように地下への穴に飛び込み

「また会えてうれしいね、番外位(カテゴリー・ジョーカー)。そして麗しのナーサリーライム」
「■■■■……!!」

少女(ありす)と野獣(ジョーカーアンデッド)の姿がそこにあった。
存在を薄れさせつつあるありすを守るように腕に抱き、威嚇するような声をバーサーカーは上げるが、ズェピアはまるで意に介さない。

「『地上の衣』か?私も悪性情報は扱うが……それすら子供のおもちゃに見えてしまう。ライダーの中身よりも非道いかもしれんな。
 くくっ。まったくいい衣装、いい趣味をしている。皮肉ではなく心底そう思うよ」

存在感を失くしつつあるありすの姿と、それに纏わりつく悪性情報(アンリ・マユ)もアトラシアの知性で見切り、それすらも舞台の小道具大道具に取り込もうとズェピアは胸中で算盤を弾く。

「斯様な奈落の底は君たちのような名優にはふさわしくない。約束通り大舞台のチケットを渡そうじゃないか」

大鎌まで取り出したバーサーカーをよそに、ズェピアの独り舞台は続く。

「君たちに我々の代役を頼みたい」

その言葉と共にズェピアはエーテライトをその手に握り、傍に控えるライダーに視線をやる。
そして爪と共にゆっくりと

「一時退場だ、我がヒロイン」

彼女の頭部へと突き立てた。
頭蓋を砕き、脳を抉り、その奥の奥の霊核へ。

「噂をすれば影、という。風聞に乗るライダーよ、君を通じて私が世界に語り掛けよう」

エーテライトを通じて、悪性情報が口裂け女を変質させる。魂の改竄とかつて月で呼ばれた行為に近しいそれ。
さらにはムーンセルにより呼ばれた端末(サーヴァント)を通じることでSE.RA.PHそのものにも干渉し。
ウワサが世界に浸透していく………………

66BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:59:52 ID:u8pAsDrg0

*


アラもう聞いた?誰から聞いた?
赤いコートの殺人鬼と、青い血の死神と、白いドレスの少女のウワサ
――――――口裂け女の三姉妹のそのウワサ

3のつく時に3のつく場所で、3人のうち誰かが待ってる
赤が好きなら赤いメイクを、青が好きなら青いメイクを、白が好きなら白いメイクを施してくれるってスノーフィールドの人の間ではもっpppppp




『え?この三人は赤の他人だろう、と?』

『―――カット』

『カットカットカットカットカットカットカットカットカット、ッカカ、かかか関係ない関係ないそんなのまったく関係ない!何であろうときっかり貴方の注文通り!』

『しかしヒロインの意をまるで汲まぬほど堅物でもない。では少々改題してお届けしようか』




アラもう聞いた?誰から聞いた?
てけてけのその噂

亡くした半身を求めてさまよう、可哀そうで可愛そうな女の子。

私の■■■はどこにあるの?
ねえ、あなたのそれは私のじゃない?

腕を捥いで、足を千切って、口を裂いて!残った半身と比べているけど違うみたい

そもそもあなたの探す半身ってなあに?
上半身?下半身?右半身?左半身?



ううん、どれも違うわ。私の亡くした半身は『もう一人の私』よ。
変身するわ、変身するの。私は貴方、貴方は私。
変身するぞ、変身したぞ。俺はお前で、お前は俺だ。

変身するわ、変身するの……アリスはありす。
変身するぞ、変身したぞ……無貌の切り札。

ああ、このままでは。
『狂える茶会でアリスは目覚めない』



*

67BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:00:51 ID:u8pAsDrg0

眠るありすの姿が、バーサーカーの腕の中で突如存在感を取り戻し始めた。
薄れていた霊体は霊子に満ち、白いドレスは赤黒いドレスへと色を変えて、まさに『色直し』といったところ。

「口裂け女は三人姉妹。どんなときも三位一体は保たれねばならない。次の口裂け女(ヒロイン)は……君だ、アリス」

ズェピアに霊核を抉られた口裂け女が消えていくのに比例してありすの姿も変わっていく。
そして

「■■■ッ!!!!」

バーサーカーも己の変質に苦悶の声を漏らす。
意匠は変わらない。衣装は変わらない。
それでもその本質が冒されつつある。

ある神話の、獣の一節だ。
宇宙を焼くシヴァの炎で焼かれたカーマは、宇宙に等しい存在になった。
口裂け女が口を裂いた者は口裂け女になる。ならば、口裂け女の口を裂いた者は口裂け女であるはずだ。
そんな必要条件と十分条件を軽視した戯言も、空想と信仰の元には事実となる。

スキル:無貌の切り札が内包する変化スキルは使用できないが、機能しない訳ではない。
魔の悪いことにもう一人のジョーカー、キングフォームの戦闘が同じ空間内で発生しておりジョーカーアンデッドの霊基が不安定であった。

スキル:都市伝説により口裂け女に関するウワサはすべて真実に成り得る。
宝具『転身鬼女蛇王三昧〜狂える茶会でアリスは目覚めない〜(ORoTi)』は現在ウワサに上る最強の妖怪に姿を転じるものとなっている。
そしてありすたちにとって不幸なことに『悪の究極妖怪(オロチ)』と『この世全ての悪(アンリ・マユ)』双方の近似性がウワサの進行を速めた。

複数の要素が絡み合ったことで二代目火影とアカシャの蛇の情報措置は間に合わず、ウワサは拡散し、ここに像を結びつつある。

「上々。幕間の物語だが、脚本の出来は、うん」

第六階位。番外位。まだ見ぬ未知のサーヴァント。

「悪く無い出来……と思いたい。あとは演者に期待しよう」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

去ろうとするズェピアの背にバーサーカーの鎌が迫る。
『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』は生命の系統樹から外れたズェピアに対して特別な効果を持たないが、それでもサーヴァントの振るう宝具である。
まともに食らえば無事ではすむまいが、アトラシアが追撃を予期しないはずもない。
エーテライトを飛ばし、肉の盾を用意していた。

「オッオッ、オレッちのコッコッ こおとを!盗ろ〜ッてかーッ!!」

始めからクスリでトんでいたのか、一帯に満ちる狂気と悪性情報に正気を失ったのか。
汚いコートを身に着けた浮浪者は血反吐と奇声をまき散らしながら、あわれバーサーカーの毒牙にかかり、その命を全うした。
不幸中の幸い……というものでもないが、無駄死にではなく。彼の肉と脂と骨と、何よりズェピアの膂力によって鎌は逸らされ、寸刻みになったのは彼一人だけだった。
だが一撃で終わるはずもない。
バーサーカーが再び鎌を振るうと

「『信ずる者は巣食われる〜口の裂けた赤ずきんの老婆は狼〜(マッド・トリニテ)』。すでに彼の口をライダーに裂かせておいた」

分割思考の向こう側で、彼方を駆けるライダーが急ハンドルを切り、事故を起こして昇天する。口裂け女がまた一人退場したことで、新たな口裂け女が舞台に上がる。
寸刻みにされた肉片が悍ましい変質を遂げた。
汚らしいコートは鮮烈なまでに赤いコートに変わり、肉片は集まり、醜男のそれでなく恐ろしい女のかんばせに。

68BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:01:46 ID:u8pAsDrg0

「……私、綺麗?」

その手に『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』を模した鎌を握り、それでバーサーカーの一撃を受け止める形で口裂け女が姿を現した。

「ほう」

一時とは言え拮抗するのは予想できなかったか、ズェピアも目を丸くする。

「なるほど、君もかライダー。一つのウワサになりつつある……概念までは模倣できずとも強度だけなら宝具にも届くとは」

その鍔迫り合いで生じた時を活かし、ズェピアの腕から切り札が跳ぶ。
エーテライトが一筋と、下水にあったネズミの亡骸だ。

ウワサ化が進行しているのもあったのだろう。ズェピアからバーサーカーへ、エーテライトを通じての思考通話は成功し、死徒の囁きが死神を揺らした。

『狂化していようともサーヴァントなら分かるだろう?魂喰いによる衰弱死だ、このネズミは。我々の手によるものではない。この先には進まないことを勧めるよ。アリスが大切ならね』

バーサーカーの鎌が止まる。
ズェピアと口裂け女は反転して下水の闇の奥へと駆ける。
バーサーカーはそれを追わない、追えない。

守護の誓約、たった一つ残った英雄の矜持がありすを危機にさらすことを拒む。
彼女を一人にはできない。
かといって存在が不安定な彼女を連れて追えば、今投げ渡されたネズミのように魔力を奪われ命と尊厳をさらに危険にさらすだろう。
理性はなくともサーヴァントとして、アンデッドとしてそれを理解してしまった故に、足を止めるざるを得ない。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

狂気と憤怒の雄叫びを上げる。
彼らがいるのはもう、いずこかでもどこかでもない。
タタリが脚本を描いた舞台の上だ。少女と野獣は望まぬ悲劇に引きずり出され、その悲鳴が開幕ベルのように響いた。

その悲鳴を背中越しに聞きながらズェピアはさらに闇を進む。

(狂気に堕ちてなお知的。本来が理性を持たぬ獣か……あるいはただの現象に近しいか。やはり真祖の類縁かな)

追ってきたならばそれはそれでやりようはあったが、足を止めてくれたならそれでよし。
しばらく進んだところでライダーと並んで足を止める。
これ以上進むのは些かまずい。

(実験用でなくともマウスを殺さないようにするのは難しいからな。分かるよ、まだ見ぬメイガス)

死を運ぶもの、命を奪うものである死徒であるゆえ生命の気配には敏感だ。
それでもちっぽけなネズミの死に気付けたのは錬金術師の優れた観察力と幸運もあってだろう。

(一定範囲の生命体から魔力を徴収していた。人間や犬猫くらいなら多少の疲労ですむものの、ネズミ相手には誤ったか、はたまた想定外か。
 いずれにせよ、この『水』の流れの先に工房があるな。水の魔術特性は吸収。魂喰いとの相性はいい)

彼方に新たな敵を見出し、その果てを睨む。

(工房とするなら水の流れを留める必要がある。このあたりの施設だと…ダム。浄水槽。あるいは……)

距離をとることを念頭に入れて、敵に当たりをつける。

(水族館、などが候補か。私もしばし舞台裏で励むとしよう)

外套からセルメダルを取り出し、大鎌を携えるようになったライダーと並列してじっと見る。
こけおどしとはいえ宝具の模倣まで会得するなど、ライダーは大きく変質しつつある。
それは自己改造、堕天の魔、変転の魔、そんなスキルによるものに近しい。
ではここに英霊複合体や幻霊装着のような技術による変革をもたらせれば、さらなる進化が望めるだろう。
駆ける足を止めたのと対称的に、ズェピアは分割思考を高速で走らせ始めた。

69BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:02:39 ID:u8pAsDrg0

【D-5 警察署/一日目 午後】

【レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's】
[状態]健康、魔力消費(小)、ロムルスによる加護
[令呪]残り三画
[装備]スーパイのカード含むデュエルモンスターズカード(マヤ文明デッキ)
[道具]なし
[所持金]やや裕福
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての贖罪として、罪なき人々を悲劇の運命から救う
1.通報者と曙光の鉄槌の調査に実加を派遣する。
2.通報者による襲撃を警戒。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は警察署の署長です。
※スノーフィールドには市民の危機感を抑える魔術式が施されているのではと推測しています。
※ロムルスが七つの丘により加護を与えています。それによりダークシグナー化の兆候が薄れています。

【セイバー(剣崎一真)@仮面ライダー剣】
[状態]ダメージ(小)
[装備]ブレイバックル、月影竜クイラのカード
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦えない全ての人の代わりに、運命と戦う。
1.実加と共に調査に向かうか、署に残るか。
[備考]
※第十三階位(カテゴリーキング)のランサーの真名を知りました。




【夏目実加@仮面ライダークウガ(小説)】
[状態]健康、魔力消費(中)、クウガに約二時間変身不可、七つの丘による魔力回復スキル獲得中
[令呪]残り三画
[装備]プロトアークル、赤蟻アスカトルのカード
[道具]ビートチェイサー3000
[所持金]一般社会人並
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての英雄たちのように、人々の笑顔を守りたい。
1.湖沼地帯に向かい通報者と曙光の鉄槌を調査する。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は国際テロリズム対策課所属の刑事です。





【ランサー(ロムルス)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[装備]『すべては我が槍に通ずる』、太陽竜インティのカード
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:人々の中に受け継がれる光(ローマ)を見守り、力を貸す。
1.実加と共に調査に向かうか、署に残るか。
2.真紅と黄金こそローマの華である。
[備考]
※レクス・ゴドウィンの中にローマを認めました。
※番外位(エキストラ・ジョーカー)のセイバーの真名を知りました。その在り方をローマと認めています。





※誰が調査に向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

70BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:03:02 ID:u8pAsDrg0
【E-6 下水道/一日目 午後】



【ありす@Fate/EXTRA】
[状態]魔力消費(大)、戦争への恐怖、口裂け女のウワサ化進行
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:遊ぶ
1.お昼寝中
2.タタリのおじさんの劇で、みんなと遊べるといいな
3.コレットおねぇちゃんたちと、次に会ったら……
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。
※偽悪スキルによる影響で、門矢士に対してあまり良い印象を抱けていません。
※『聖杯の泥』に汚染されたアーチャーと遭遇しました。その影響を受け、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』と『悪の究極妖怪(オロチ)』の近似性によりウワサとの同一化が加速しています。
※魔力消費により、霊体の保っていた外観が薄れ始めています。ウワサと『聖杯の泥』によりそれを補い、赤黒いドレス(アリス@Fate/EXTRAやマキリの聖杯を想起させる)の姿に外観が変化しています。

【バーサーカー(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣】
[状態]狂化、口裂け女のウワサ化進行
[装備]『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ありすの守護
1.――――――
2.―――■■
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。ただし自発的な行動はその限りではありません。
※ありすの消耗を抑えるため、彼女の機嫌次第では霊体化することもあるようです。
※ありすとのパス、口裂け女の宝具、自身の変化スキルを通じてウワサとの同一化が進行しています。



【ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD(漫画)】
[状態] 魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 日除けの礼装(赤現礼装風の外套)
[道具] セルメダル数枚
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を以て再び第■法に挑まん
1. 『口裂け女』の噂を広め、改め、ライダーの力を増す。ひとまずありすは組み込めつつある。
2.悪性情報の活用に大いに期待。
3.水の流れの先にある工房とは距離をとりつつ、ライダーの改造にいそしむ。
[備考]
※『死神を連れた白い少女の噂』を発信しました。『口裂け女の三姉妹』に形を変えて広まることでありす、ジョーカーアンデッド、口裂け女が互いに影響しあっています。
※『第四階位』、『第六階位』、『第九階位』、『第十一階位』、『番外位』のステータス及び姿を確認しました。
※ムーンセルにアクセスし悪性情報、ムーンキャンサーによる熾天の玉座アクセス未遂のことを知りました。今のところペナルティなどはないようです。

【ライダー(口裂け女)@地獄先生ぬ〜ベ〜】
[状態]ありす、ジョーカーと同一のウワサ化進行
[装備]
[道具]大鎌
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:殺戮
1. 私、綺麗?
2. これでも?
[備考]
※口裂け女の運転する三台の赤いスポーツカーが曙光の鉄槌のアジトからバラバラに逃げだしました。残りは一台です。
※噂の拡散による影響で『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』の見た目と強度を模した鎌を生みだせるようになりました。

71名無しさん:2021/06/09(水) 13:03:55 ID:u8pAsDrg0
投下終了です

72 ◆aptFsfXzZw:2021/06/11(金) 00:09:08 ID:WuGuo2HQ0
◆yy7mpGr1KA氏、投下お疲れ様です! いつもありがとうございます……!

> BB Channel 1st/BLADE BRAVE

月でお馴染み『BB Channel』開幕はかつて、片割れである兄弟と死別しながら神へと至ることになった二人の男、その対話。この二人が同じ企画で居る以上は絶対こういう話は必要ですよね、と私も思っていたのですが、私が漠然と考えていたよりさらに素晴らしい内容です……! まずは宝玉神とローマの話を上手く結びつけるのは流石のお手前。
展開として、ゴドウィン兄弟を一つの時代を救った戦士と認めるロムルス、圧倒的なカリスマ。ゴドウィンが参戦した後の時間軸で、神の軍勢と戦うという名前の一致に相応しい運命を辿る赤き竜の力を増幅させるのも文脈的にも、ロムルスの規格外ぶりを再度示すのにも適した見事な運びです。こんなに優しいサムズダウンは初めて見た……!

場面変わって剣崎さん、遙か先の後輩の持ちネタを不意打ちするのはやめてください噴いてしまいます。現場主義なのは事実だけど、あの頼れる先輩も本来は研究者なんだよなぁ……! なんだこの違いは。
一方で剣崎の知る、ロムルスと実加にも潜む狂戦士としての爆弾要素。そもそもそうさせないという話ですが、もしも彼女たちが暴走した時は、逆にゴドウィンと剣崎が止めるのはきっと言葉のいらない約束。

>根源を同じくする怪物と英雄の間の一つの線引き

これも凄くグッときます。ルーティーン、スイッチング・ウィンバックとして、仮面ライダー同士で継承される戦うための第一歩。
明確な意志を持って力を振るうための合図にして決意、『変身』というキーワード。そこにサーヴァントの真名解放、魔術回路の励起、らっきょでお馴染み抜刀による肉体の戦士化をなぞらえ、若きマスターを導くロムルス再びの貫禄。ローマで仮面ライダーというフレーズで現行作を思わせながらの小説の一歩先へ進んだ『赤』への変身は、完全習得ではないとしても滾るものがありますね。

続けて現れたNPCも思わぬ人物。彼が仕事で追いかけている相手も大層なドリームチームですがそこは一端置いといて、後の、NPCに配置された人々もまた人々を守ろうとする『仲間』という展開を見るとここでの登場にも胸が熱くなりますね。伝説のDホイーラーに敬意を払っているのもなんだか似合うアバッキオさんです。この世界では生き残って欲しいですが、彼の繋いだ情報が不穏な糸と接続してしまう……

(感想後編へ続く)

73 ◆aptFsfXzZw:2021/06/11(金) 00:10:17 ID:WuGuo2HQ0
> BB Channel 2nd/Beauty and the Beast

ということで、「もしもしポリスメン?」で接続してきたズェピアへ、警察署に聖杯戦争関係者が居ることがバレてしまったこの展開。現場主義の署長が頼もしいですが、テロリストの集団だけも大変なのにそこには本当にサーヴァントも居るし、禍つ式も一般人からすればそれこそ未確認生命体のような絶望的な脅威。しかもウキウキドライブアルテラさんの起こした騒ぎのせいで警察の対応力は早くも飽和の危機かもしれませんが、聖杯戦争の参加者はあんまり自重してくれなさそうですね……助けて監督役。

とはいえ、まだ敵がどれほどか見えない内から竦むわけにもいかない警察署組は移動の準備。数字が一気に大きくなった新型ビートチェイサーにはしゃぐロムルス、そんなところでアルテラさんと似たところを見せずとも……w
小柄とはいえ、クウガ化で身体能力が強化されているだろう実加をして及ばぬタフガイ扱いの一条さん、まぁ過大評価じゃなさそうだな……となるのもなかなかですが、文字通りアンデッド化した剣崎なら同等以上にバイクを操れるのは当然。しかし、さらっと(いや剣崎をロムルスが改めて認める大事なシーンですが)付与された気配遮断は彼が持つのはチートでは!? 感。デュエルモンスターズカードを魔術に活かすというお馴染みの展開を、しかしfate世界に合わせて説得力を出すパスの強化は再び見事なお手前。
どうしても穴はできてしまうでしょうが、それでもセイバーもランサーも企画内最強クラスのサーヴァント。彼らがどういう組み合わせで向かっても、レメディウスやズェピアにとっては厳しい戦いになりそうです……が、ここからがズェピアの劇場だった。

再会した童話と怪談。前話で浴びせられたこの世全ての悪の再現という、とびきりの悪性情報。白状するとラスアンでの怪物化の布石ぐらいに思っていたんですが、「黒桜に寄せるとアリスにお色直しできませんか?」というのは素直に敗北です。この方が自然できれいで、恐ろしい展開。
そんなありすと一緒に繋げられてしまったことで、スキルの存在もあり影響を受けるジョーカーアンデッド。その力を掠め取る口裂け女。いよいよ口裂け女だけでなく、てけてけという他の都市伝説も取り込み再現し始めて、本性である究極妖怪も顔を見せ始めそうです。
強引に同一視され、在り方を徐々に歪まされてしまいそうなムッコロさん。果たして彼が再会するのは永別し続けねばならない友か、それともありすと穏やかに過ごせた唯一の存在である天使を連れた悪魔なのか。その時、無貌の切札は何に変わっているのか。最早『変身』のかけ声を紡げないかつて仮面ライダーであった守護者にして怪物の行く末も気になります。最初から詰んでいると言われる二人は果たして、時を越え愛される物語になり得るのか――?
そうして序盤から休まず大立ち回りを続け、舞台を盛り上げながら、笛木という企画内最上位キャスター相手にも先手を許さず、その存在を利用する隙のなさを引き続き見せるズェピア。文字通り鬼才の仕掛けた舞台がどう動いて行くのか。
そして、彼以外に舞台を動かす者は現れるのか――?

改めて◆yy7mpGr1KA氏、力作のご投下、お疲れ様です。本当にありがとうございました! 今作を励みに私も頑張りたいと思います。

74 ◆aptFsfXzZw:2021/06/25(金) 18:47:08 ID:Q2LYKakk0
巴マミ&アーチャー(ケイローン)、御坂美琴&バーサーカー(フランケンシュタイン)を予約します。

75 ◆aptFsfXzZw:2021/06/30(水) 23:02:14 ID:yx5G7/xs0
延長します。

76 ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:29:14 ID:yxZPsspE0
投下します。

77sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:31:41 ID:yxZPsspE0



「……プレイヤーだったのね、あなた」

 正午前。人払いの結界が展開されたスノーフィールド市立中学校の、三号舎食堂。
 各々のサーヴァントを従えた少女二人が、互いの真意を見極めようと睨み合っていた。

「巴マミさん、だったわよね」

 話し合いが提案されてから、先に口を開いたのは御坂美琴だ。
 だが、場の主導権を握っているのは、先んじてこちらの素性を把握していただろう提案者の方――『第四階位(カテゴリーフォー)』陣営の側だとは、彼女も既に理解していた。
 故に、まずは相手の求めに応じる姿勢を見せた。

「話って何かしら」

 こちらの索敵能力を一方的に掻い潜って来た、眼前のサーヴァント。心中穏やかでは居られぬ存在を威嚇する従者(バーサーカー)を足運びだけで抑え、極力相手を刺激しないようにしながら、美琴は問う。

 ――戦意を収めるよう、このサーヴァントは宣った。

 元より、交渉の通じる相手を望んでいたのは美琴自身だ。
 十五組、総勢三十名での生存戦争。ただでさえ消耗戦となるバトルロワイアルにおいて、全ての敵を主従二人だけで討ち取ろうと考えるのは余程の事情がない限り思慮足らずの愚者か、酔狂な自信家に限られよう。
 序盤は如何にして手を取り合える同盟先を見つけ、最終盤までの消耗を避けられるかが肝要となる。
 まして……認めたくはないが、現在弱小であろう自陣営ならばなおのこと、だ。

 ただ一点――――己にある、余程の事情に差し障らない限りは。

「――私たち、手を取り合えないかしら、と思ったの」

 優雅に振る舞っていた少女は、らしくなく少しだけ緊張した声音で、美琴の予想通りの内容を口にした。

「少なくとも、今の私たちには共通の脅威がいるでしょう?」
「……まぁ、ね」

 数分にも満たぬ前、殺意を剥き出しに襲いかかってきた口裂け女(カテゴリースリー)の姿を脳裏に浮かべ、美琴は苦々しい物を感じる。
 記憶に焼き付いたその悪意の凄まじさと、あの程度の脅威に『第四階位』の助けがなければ早々に脱落していた自身の不甲斐なさに。

「私たち同士で争っても、あの怪物を有利にするだけ。それよりも狙われた者同士、ここは手を組んで対抗する方がメリットがあると思うわ」
「そうね。全くもってその通りだと思うわ」

 相槌を打ちながら、美琴はこめかみの辺りを掻く。

78sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:33:20 ID:yxZPsspE0

「それに……今更説明する必要もないでしょうけど、私には電脳上の情報戦ではかなりのアドバンテージがあるし。逆にそっちのサーヴァントは、弓を使うんだからアーチャーでしょ?」

 少しだけ、美琴の言葉に理解が追いつかないという様子を見せていたマミは、こちらの入れた探りに一拍遅れてから反応した。
 その反応を美琴が訝しむ間に、マミとその背に控えた長身のサーヴァントは目線を交わす。従者の頷きを受けた後、主たる少女が答えた。

「ええ。彼のクラスは、ご明察の通りよ」
「アーチャーはクラスとして索敵に優れた傾向がある、っていう前提はマスターの知識としてあなたにもインプットされてると思うけど。私の見た限りその例外ってわけではなさそうだから、組めば両面で敵の動向を把握し易くはなるわよね。それこそさっきの口裂け女に限らず」

 お互いの組む利点を並べる美琴に、先行きの良さを感じたのだろう。並べられたメリットでこちらの従者(バーサーカー)の警戒が徐々に解かれるのに合わせて、仄かにマミの表情が緩んだのを、美琴は見逃さなかった。

「じゃあ……!」
「とりあえず、停戦協定ぐらいは結びましょうか。秘匿の関係上、真っ昼間の校舎で戦争するわけにもいかないし」

 そして、これ以上期待させ過ぎてしまう前に、美琴はマミの言葉を遮った。

「けど――手を組むってことを決めるには、もう少し確認しておきたいことがあるわ」

 ここまでのやり取りで、少なくとも巴マミのしたい話が、優位を活かした一方的な押しつけではなく、正しく対話の余地があるものということは伺えた。
 ならばこのように主張しても、即座に攻撃される事態までには及ばないだろうと見込んで、美琴は切り込み始める。

「え、ええ……何かしら、御坂さん?」
「例えば、その同盟はいつまで組むつもりで居れば良いのかしら。さっきの『第三階位(カテゴリースリー)』を倒すまで? それとも私たちが最後の二組になるまでかしら」
「……っ、いいえ」

 学園都市第三位から見ても聡明な印象の巴マミが、その問いかけを予想していなかったわけではないだろう。
 しかし、何か琴線に触れることがあったかのように、彼女は微かにその喉を震わせ、返答を一度途切れさせた。

「私は……聖杯戦争を最後まで続けるつもりは、ないわ」

 とはいえ、それも一瞬。数瞬の後に、誰に言われるでもなく、マミはその声に芯を取り戻していた。

「むしろその逆。できるだけ早く、解決したいと思っている。この理不尽な犠牲を強いる出来事を」
「……そう」

 ――解決、と来たか。

 繰り出された単語から、巴マミのスタンスを推し量った御坂美琴は……今朝、彼女がこちらを何と称したかを思い返しながら、次に舌に載せる言葉を慎重に選び取った。

79sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:34:23 ID:yxZPsspE0

「一応尋ねると、それは誰かの指示?」
「違うわ。たくさんの人を不幸にするような、理不尽が許せない性分なだけ」

 探りを入れて返ってきたのは、真っ直ぐな言葉だった。

 ……ああ、きっと。ほんの少し前の自分なら、似たような主張を、何の気後れもなく吐けただろうに。
 目当ての言葉を引き出したというのに、微かな逡巡を過ぎらせた美琴は、その感傷を唾と共に飲み込んだ。

 まだ取り繕える。試しただけで、その本心を聞きたかっただけだと言えば、誤魔化しの余地はある。

「なら、組めないわね」

 だが結局。欺くための言葉は、美琴の口からは出て来なかった。

「私たちは優勝するつもりよ。どんな願いでも叶う権利……それを我慢できるほど恵まれてはいないもの」

 告げた瞬間。マミの背後に控えるアーチャーの纏う静謐に、冷厳な気配が一塗り足された。

「けれど、助けて貰った恩もあるし。さっき言ったみたいに、今ここで事を荒げるつもりはないわ」

 幾星霜を過ごした巨木が、音もなく傾き、影を落としてきたような圧迫感。
 その襲来を予想していた美琴は、辛うじて完全な平静を保ったまま、淀みない牽制の言葉を継ぐことができていた。

「――負けそうになったら、私だって被害を出さないことを第一に考えられるとは、限らないもの」

 それが、実際には意味を為せない抵抗だとしても。
 狂戦士の陣営は爆弾である、という精一杯の虚勢を張りながら。同時にそれ以上は相手を刺激しない細心の注意を払いつつ、美琴は改めて己の主張を口にする。

「目指す場所が違う相手と組む気はない。けれどこの場で戦うつもりもない。そういうわけだから、もう失礼するわね」
「お待ちを、御坂美琴殿」

 そうして言いたいことを伝え終えると、まるで目を背けるように踵を返した美琴を呼び止めたのは、拒絶を伝えられた少女の声ではなかった。
 声の主だけを視界に収めるように振り返った美琴に対し。先程の肌を刺すような圧力を消した、温和そのものの表情で、アーチャーは小さく一礼する。

「失礼。あなたが聖杯戦争で真っ当に優勝するつもりだとしても――先程あなた自身が認めたように、我がマスターと同盟を結ぶメリットはあるはずです。少なくとも我らの当面の敵である、『第三階位』の脅威が健在である間は」

 その脅威から美琴の命、延いては『第十一階位(カテゴリージャック)』陣営そのものを脱落の危機から救った張本人は、それを恩に着せる様子もなく言う。

「何も仮初の役割に倣い、仲睦まじくある必要はありません。しかし口裂け女のみならず、他の勢力もより与し易い相手から狙いを定めることは必至でしょう。それを避けるため、私たちとあなた方は互いを利用し合うことができます」

 利用という言葉を、いっそ堂々と口にするアーチャーには、一種の清々しさすらあった。

「単独のサーヴァントより複数のサーヴァントの方が、敵襲という選択肢自体への抑止力は増大します。無論先刻のような例外もありますが、それでも対応力が向上することは紛れもない事実。そうして当面の消耗を抑えるための、短期的な共闘も検討には値しませんか?」

 美琴が先程思考したとおりの理屈を、まるで生徒が予習していることを理解して説明する慧眼な教師のようにして、アーチャーは提案して来る。
 だが、逆を言えばそれは既に、予習を終えた課題でしかなく。

80sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:35:01 ID:yxZPsspE0

「ええ。利用し合おうにも、そもそものスタンスが真逆だと、結局足を引っ張り合うことになりかねない」

 故にアーチャーの提言も、検討の余地はない、とばかりに美琴は切り捨てた。

「……あなたたちだって、信頼できない相手に背中を預けるなんてできないでしょ」

 続けてそんな言葉を漏らしたのは、特に意図してのものではなかったが。

「待って」

 その呟きが契機であったかのように、再びマミが声をかけてきた。

「……御坂さん。私、どうしても貴方が悪い人だと思えないの」

 やがて吐き出されたマミの告白に、彼女を振り返らずにいたままの美琴は、意識して苦笑いした。

「広報に踊らされすぎよ。自販機に蹴り入れて無料でジュース持って行ってるようなのが本当の私よ? 夢を見させて悪かったけどね」
「……ごめんなさい、広報のことは知らないわ。自販機を蹴るのも止した方が良い気がする」

 どう反応すべきか困惑した様子のまま、マミは生真面目に謝罪した後、素行不良を咎めてきた。

「でも、今朝の御坂さんを見ていたから、そう思う」

 それから仕切り直すようにして、マミは言う。
 戸惑いに揺れていた背後からの声は、徐々に芯を通わせていた。

「そんなあなたが、頑として譲れない理由――私に教えては、貰えないかしら。
 もし……私に何かできることがあるのなら、協力を惜しむつもりはないから」

 強い意志で、そんなお人好しな申し出を、マミは繰り出してきた。

 美琴がどれほど――己の罪を知られたくないのか、知りもしないで。

「……お生憎、そんなにお喋りが好きなわけじゃないの。命のやり取りをする相手と談笑する趣味もないから、もう行かせて貰うわね」

 精一杯、平坦な調子で会話を打ち切って、美琴はマミの前から去ろうとした。

「なら――」

 しかし、先程一度は沈黙した彼女は、今度はまだ、対話を繋げることを諦めてはいなかった。

「なら、口裂け女を倒したら。その時に、私たちと戦いましょう」

 そんな彼女が繰り出した次なる提案は、一瞬、美琴の足を止めるには、充分な威力を持っていた。

「停戦協定は結んでくれるんでしょう? 期限は『第三階位』陣営の脱落まで。それでどうかしら?」
「……そうね。その申し込み、受けておくわ」

 優勝すると決めている。
 そのために戦う必要がある以上、だらだらと停戦期間を引き伸ばす意味はない。
 だから美琴は、躊躇いは最小限に、マミの提案を承諾し――そして今度こそ、その場を後にした。

 だが、結局。
 一度目を背けてからというもの。御坂美琴は、互いの姿が見えなくなるまで、巴マミの顔を直視することができなかった。

81sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:35:34 ID:yxZPsspE0







 御坂美琴の背中が、扉の向こうに消えるその瞬間まで、巴マミは彼女の姿から目を逸らさなかった。
 ただ警戒のためではなく、譲れない理由を持って戦いに臨もうとする相手に、己の心が負けないようにするために。

「行ってしまわれましたね」

 平坦な声で、アーチャーは淡々と事実を述べた。

「ええ。でも、きっと大丈夫。やっぱり御坂さんは、悪い人じゃないってわかったんですもの」

 対してマミは、ともすれば呑気が過ぎるかもしれない答えを返した。

「すぐに協力できないのは残念だけれど。関係ない被害を出したくないって言ってくれたわ」
「そうですね。ええ、彼女は正直すぎるほどに正直だ」

 そんなマミの言葉に、アーチャーは穏やかに同調してくれた。

「おそらくはまだ、己の願いのために他者を殺めるということを、完全には覚悟できていないのでしょう。だから納得して最後の一線を越えるために、彼女自身が卑怯と思えるような真似はしたくない……そのような段階であるならば、まだ。マスターの言葉(祈り)は届きます。きっと」
「ありがとう、アーチャー。その期待に応えられるよう、頑張るわ」
「ええ。その心意気がある限り大丈夫でしょう。あなたが過去の積み重ねを適切に活かし、前に進める強さを持ち合わせた人であることは、この目で確かめさせて頂きましたから」

 信頼できない相手に背中を預けられないだろう――そう言い残して、自分の前から去っていった少女のことを、マミは今も忘れられずに居たから。
 その苦い記憶が、逆にマミへ芯を通させることになったのが、寸前の美琴とのやり取りだった。

 そんな情動の背景まで見通したような大賢者の激励は、しかし不快感を覚える類のものではなく。自然と身の引き締まるような、力を貰えるものだった。
 マミの気持ちが前向きになったこともまた見透かしたように、アーチャーは続ける。

「では、我がマスター。我々が次に取るべき方針については、既にお決めでしょうか?」
「ええ、アーチャー。これまで以上の優先度で、口裂け女――『第三階位』のサーヴァントを討伐すること。そのために行動します」

 既に全てを承知しているだろう大賢者が、敢えてマスターたる少女に尋ねるのは。その答えの筋道を言葉にさせることで、より明確なビジョンを持って問題解決に向かわせようとしてのことだと、マミは既に理解していた。

「ただ、消滅を免れていただけじゃない。昨夜は確実に届いたあなたの矢が折られてしまったのを見ると、条件は不明だけれど、力を増す能力を持った敵であると想定できるわ」
「同意見です。戦力的な観点からも、まさに叩けるうちに叩いた方が良い、短期決戦の望ましい相手と見受けられます」
「――それに、現状最も見境のない被害を齎しているあのサーヴァントを止めることは、聖杯戦争による被害を抑えるという目的からも避けては通れない」
「ええ。野放しにし続ければ、他の陣営に対してもブレーキを緩めさせてしまう悪影響が及びかねません。いずれ教会が討伐令を出すとしても、余計な二次被害を招く前に、目立つ者は討たれるという当然の原則を知らしめておくべきでしょう」

 理由を述べていくマミの解答を補足する形で、アーチャーが同意を示す。

82sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:36:48 ID:yxZPsspE0

「そして――御坂さんが、あなたの言う一線を越えてしまう前に、彼女に私たちと向き合って貰う場を整えるためにも。もう、先延ばしにはできないわ」
「……そうですね。それが、彼女たちを口裂け女から守る一番の手段にもなるでしょう」

 譲れぬ想いを抱えた美琴への侮辱になるような気がして、直接は口に出すことも憚られたようなマミの考えを、アーチャーは代わりに口にした。
 ――それが、決して間違いではないと背を押すように。
 
「……とはいえ。急がば回れ、ということも、あるのやもしれませんが」

 充分にマスターの考えを肯定した上で、今度は水を差すような現状分析を、アーチャーが述べ始めた。

「口裂け女はまさに神出鬼没の怪物。無闇に事件を追いかけたところで、これまでのようなイタチごっことなる可能性が高いでしょう」
「……かと言って、私たちを狙ってくるところを待つ、なんて罠に簡単に乗ってくれるとも限らないし……」

 アーチャーの示した課題に、マミは嘆息した。

「それでは、マスター。少し発想を変えましょう」

 それから暫しの間を置いて、アーチャーは柔らかに微笑んだ。

「敵に未知の要素が多いことはわかりました。それを解き明かそうとしても容易ではない、ということも。ですが、既知の要素を数えることは、そう労力を要さないのではないでしょうか?」
「既知の要素……?」
「あの怪物も、『階位(カテゴリー)』を与えられたこの聖杯戦争の正規のサーヴァントである、ということですよ。我がマスター」

 的確なヒントに、マミは彼が何を言わんとしているのかに思い至った。

「そっか、口裂け女のマスターを追えば……!」
「はい。無論、あの怪物の対となるとムーンセルに判断されたマスターです。一筋縄とは行かないかもしれませんが――それでもサーヴァントより、実体のない概念に成り果てているということも、まずないでしょう」

 サーヴァントという霊体の、現世における要石足らねばならない仕様上。マスターというものは本来、サーヴァントよりはまだ、物理的な実体を有しているはずだ。
 ならば、口裂け女に比べれば、その痕跡には掴みどころが残されているはずだ。

「それこそ現時点では、口裂け女以上に情報が足りないこともまた事実。しかしマスターという生命線を捉えられれば、あの怪物も今度は逃げてばかりとは行かないでしょう。そこで決着をつけます」

 聖杯戦争における索敵の基本。そこに立ち返るというアーチャーの示した解法に感心し、己の思考の筋道に取り込みながら、マミはしかしまだ、答えを述べきれていなかった。

「……でも、どうやって追えば?」
「先程、マスターと御坂美琴殿が目撃した……ホームページ、と言いましたか。電脳上に築かれた、サーヴァントを文字通り運用するための魔術式。あれを仕掛けたのは十中八九、敵マスターの仕業と考えられるでしょう。そこから何らかの形で追うことができるかもしれません」

 あるいは、とアーチャーは言葉を継ぐ。

83sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:38:04 ID:yxZPsspE0

「既に被害に遭ってしまった者を調べる、という手法も正道でしょう。あの怪物の様子を見る限り――また、口裂け女の噂を顧みるに、被害者は口を裂かれているはずです。しばらくは証言などできないはずのその被害が、何故、口裂け女の仕業だと知られたのか。そのような噂を流した者が居ると考えれば、その正体は先のホームページを作った者と同じだと、そう思えませんか?」

 誰より口裂け女のことを知り、都市伝説という信仰(乗り物)を育てることで利を得る者。
 神秘は秘匿されねばならない――その前提を一旦無視できてしまえば、その条件に該当する者は、マミが考え得る限りただ一人。

「マッチポンプ、という線は確かに濃そうね」
「はい。その線が合っていれば、そこには辿るべき物証がある、と私は推測致しますが……」

 事件と関連した噂を流した者がいるのなら、その聞き手が。
 そのやり取りが発生した日時と場所を埋めていけば、発信者の追跡も不可能ではない。
 直接相手が関与した現物であろう口裂け女のホームページなど、なおのことだ。

「……ただ、ごめんなさい。私にはホームページから作成者を追いかける、というのは難しいわね」
「ふむ。お時間を頂ければ、私も今から学習してみようとは思いますが……まずは、犠牲者を当たるという方向から参りましょうか」

 紀元前の神霊の影法師に過ぎないアーチャーもまた、ホームページ作成者を割り出すという技術など、少なくとも今の時点で通じているはずもなかった。
 それでも今から――大賢者たる彼であれば、事実早々に習熟してのけても不思議ではないが、一から学んで試してみせようという姿勢に感服しながらも。

 どうしても。電脳上での情報戦には覚えがあるという、先程立ち去った少女の背中を思い出し。

「……やっぱり、協力して貰えれば良かったんだけれど」

 惜しむ理由が増えたマミは思わず、そう零していた。







「(……ゥゥ)」

 脳裏に響くのは、心なしか恨めしげな唸り声だった。

「……さっきの話が不満だった?」
「(……ゥ)」

 移動中の美琴の問いかけに返って来た声は、不機嫌さが鳴りを潜めていた。恐らくは、肯定を意味しているのだろう。

「……わかってるわよ。まずはどことでも良いから同盟を結んで、戦力の増強を図るべきだったってことぐらい」

 仮にも狂戦士の導き出した論理の帰結である、という意外性を除けば。先程の交渉でも話題に挙がったように、それは誰もが思いつく至極真っ当な戦略であった。
 己の契約した英霊は、狂化してなお、そのようなまともな思考能力を保ったままである。その事実を静かに、そして確かに再認識しながら、美琴は言葉を続けた。

「相手が優勝を狙っていないとわかったのなら、なおのこと。元から願いを叶えられるのは一組だけなんだから、どんなスタンスなのかなんて二の次でいい。むしろ温いことを言っているのなら蹴落とし易いぐらい」

 己がマスターの述べる論理に、こくこくとバーサーカーが頷く。狂気ではなく、理解故に。

「だけど、それじゃいざという時、覚悟が鈍ってしまうかもしれない」

 だから、美琴が続けた次の言葉に、バーサーカーは頷かなかった。

「(ウゥ……!)」
「……わかってるわよ。そんなことを言う資格がないことぐらい」

 バーサーカーの怒りが籠もった抗議の唸りを、美琴は正面から受け止めた。

84sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:39:37 ID:yxZPsspE0

「勝つためなら何でもするべき。手段を選んでいる場合じゃない。
 けど、だからこそ。今の私にとっては、巴マミの手を取らないことの方が、最後に勝つことに繋がっているのよ」

 それだけは単なる気持ちの整理の問題であり、理屈の上では何もメリットになり得ない。
 しかし、無理に感情を押し殺すというリソースの消耗を抑えられること。それ自体が熾烈な競争において重要な意味を持つことを、美琴は十年余りの人生経験で、確かに理解していた。

「(ウゥ……? ゥ……!)」

 そうして吐かれた決意を、しかしバーサーカーは理解不能と言った様子で、まだ苛立ちを見せていた。
 狂気に蝕まれ、なお論理思考を可能とする。しかし、それでも確かに気を狂わされた彼女には、美琴の心境を理解することは困難を極めるのだろう。
 だが――理解して貰えなくとも、譲歩して貰えるだけの納得を得られれば良い。否、得なければならない。
 美琴はそう考えた。

「一応、気持ちの問題だけじゃないわよ。仮にあの二人と組んだとしたら、前衛を担当するのは弓兵(アーチャー)じゃなくて、狂戦士(あんた)になるでしょ?」

 それから後付の、しかしある面では正しいだろう分析を、美琴は口にし始める。

「あの二人と組んでも、多分『第三階位』以外の陣営をこちらから襲うなんて真似を許してはくれないわ。事実上、あのアーチャーの監視下に置かれて出し抜くチャンスを奪われたまま、『第三階位』の相手に専念することになる。そこで勝てたとして、次は戦利品の奪い合いになる時――相対的には、前衛として敵とぶつかる私たちの方が消耗しているはず。連戦になるその場で抵抗しなければ取り上げられて終わりでしょうし、かと言ってこのままじゃ、その時に勝つのは厳しいわ」

 並べられた美琴の予測に対し、バーサーカーは一定の理解を示しながら、なおも不服な様子であった。
 それも仕方ないことは、美琴も理解している。必ずしもアーチャーよりバーサーカーが消耗するとは限らないし、口裂け女を追う間に他の陣営と想定外の接触をしないとも限らない。つまりは後ろ向きな予想で守りに入っているわけだが、このままではジリ貧なのだから、賭けに出るべきだったのではないかとは美琴も思う。

 それでも、今はまだ、あんな相手を欺き、利用する方が――今の自分には向いていないと、そう思いたいのが、美琴の本音であった。
 己の不甲斐なさは、承知の上で。力押しで他者の願いを手折る道を、既に選んでいることも理解の上で。
 それでも美琴の選択は、他者の善意を欺き、奪うよりも――――

「バーサーカー。同盟の代わりになる策があるわ」

 人目を避け、体育館の用具室に場を移した後、実体化させたバーサーカー相手に美琴はその考えを口にした。

「あんたと私で、電気を繋げて欲しいの」
「…………ゥァアッ!?」

 対してバーサーカーは、凄まじく動揺したような声を上げた。

「えっ、ちょっと……私、変なこと言った?」
「ゥァアゥゥ、ァァー!!」

 あまりの様子に思わず美琴が尋ねると、バーサーカーはひとしきり身悶えして喚き散らし、気のせいか美琴から若干距離を取るような真似をして……それから、唸り声と共に小さく首を傾げた。

「どうしてそんなことを言うのか、理由を聞きたい、ってこと?」
「……ゥゥ」

 どこか警戒した様子を解かないままのバーサーカーに対し、訝しむ気持ちを抑えきれないままながらも、美琴は述懐する。

85sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:40:34 ID:yxZPsspE0

「さっき、あの口裂け女が襲ってきた時……あいつの刃物に、私の能力が通じなかった」

 脳裏に蘇る脅威。
 確かに人間離れした怪物であり、またその凶相に、らしくもなく竦んでしまっていた事実こそあれど――あの程度の脅威を前に自衛ができず九死に一生を得たという、苦い経験を。
 同時に、その中で目撃した光明を。

「それは、サーヴァントにはサーヴァントでなければ抗し得ないから……だけど。その後、アーチャーが叩きつけた時、衝突で『床が口裂け女を傷つけた』」

 それこそはこのゲームの基本原則、そこに生じた攻略の穴だと、美琴は睨む。

「あの食堂がサーヴァントなわけじゃない。だけどサーヴァントが干渉したから、サーヴァントを傷つける条件を満たした、ってことだと思う」

 あの食堂自体には、情報端末を介すことで、既に美琴の能力で干渉できることを確認済だ。
 その食堂が、美琴では干渉できなかった口裂け女を傷つけることができたというのであれば――それ以外の理由は、考えられないだろう。

「だから、私の電撃はそのままじゃサーヴァントに通じなくても。一度、あんたに『変電』して貰えれば、私の能力もサーヴァントに通用するはずよ」

 ガルバニズムのスキルを持つバーサーカーには、放電のみならず、電撃の無力化及び吸収の機能がある。
 そして、生体電流と魔力の自由な変換も。
 ならば一度、美琴の放つ電気をバーサーカーに託し、その分を『フランケンシュタインの雷』に変化させた後、マスターとしてこの身に宿す魔力という形で再充電すれば、即ちこの身に帯びるのはサーヴァントの生体電流だ。
 ……そのように、互いの電気(チカラ)を循環させるためのネットワークの形に、美琴は心当たりがあった。

「あんたの宝具である雷には、あんたの意志が介在するんだし……もちろん限定解放でも、そこに令呪で補助すれば、できないほどの難題じゃないはず」

 おそらくは他の如何なるマスターでもできない、美琴とバーサーカーだからこその戦力増強の秘策だ。

「…………ゥゥゥ」

 しかし……その真意を聞かされたバーサーカーは、またも不機嫌な様子を見せていた。
 それは不満と警戒――ただし、いずれも寸前に顕にしたものとは、別の由来から生じた感情だった。

「落ち着いて。あんたを犠牲にするつもりでも、信頼していないわけでもないわ」

 バーサーカーの宝具使用には、担い手の死というこの上ないデメリットが存在しているが。先にも述べた通り、あくまで限定解放でしか用いるつもりはない。
 ――仮初の電脳体、模造された再現体に過ぎないのだとしても。美琴の中に、バーサーカー(フランケンシュタインの怪物)という造られた命を見捨てるという選択肢など、あるはずがない。

 仮令その命が、争いの中で消費される前提で再現されたモノだとしても――――いいや、だからこそ。
 それを許さないためにこそ、美琴は戦うと決めたのだから。

「ただ、次からは私も一緒に戦う。あんたの側で、一緒に命を懸けて、そして願いを叶える」

86sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:41:39 ID:yxZPsspE0

 そう――『彼女たち』ばかりに戦わせるなんて真似、もうできない。

 先の戦いを見た限り、三者の中で最も有力であったのがあのアーチャーであることは間違いないが、同時、サーヴァントのステータス差とは必ずしも絶対ではないということも直に目にすることができた。
 ……少なくとも、『超電磁砲(レールガン)』と『一方通行(アクセラレータ)』の差ほどには。
 バーサーカーの不利は否めないだろうが、やり方次第で覆せないほどのものでもない。

 そして、単純な反応や攻撃の速度、破壊力で見積もる分には――耐久性こそ、大きくかけ離れているのかもしれないが……アーチャーと『超電磁砲』の間に、隔絶した開きはない。
 つまり、能力さえ通じるようになれば。参戦権を得られれば、御坂美琴は、ステータスアベレージがB以上の強力なサーヴァントとも、戦闘を成立させられるはずだ。
 それこそ前衛に、耐久に優れたバーサーカーが居てくれれば。

 能力さえ通じれば、歯痒い思いをする必要はない。『一方通行』、そしてあの少年の右手と違って、サーヴァントの神秘という守りを突破できる鍵は、既に存在するのだから。

「そのために、あんたのチカラを私に貸して」

 決意とともに、美琴はバーサーカーに願いを告げた。







 ――主である少女には、こう言ったものの。

 数多の生徒を導いてきた大賢者ケイローンたるアーチャーの眼は、寸前まで対峙していた少女の状態に潜む懸念事項を、当然の如く見抜いていた。

 御坂美琴は、非常に危うい状態にある。先程のやり取りからマミが見取った通り、正義感が強く、情にも篤いのが本当の彼女だろう。
 だが、彼女の人格を支える柱のことごとくが取り払われ、あるいは今にも崩れそうになっていることもまた、アーチャーには読み取れていたのだ。
 原因の一つは年頃の少女らしい、自然で微笑ましく、故に彼女にはどうしようもない理不尽によるもの。この聖杯戦争の舞台に隔離されてしまったことによる、友人たちや憧れの人という支えとの断絶だ。

 そのために、余計に不安定になってしまった彼女の根幹もまた、既に酷く傷ついていた。
 立ち振舞いを見れば、アーチャーにはわかる。御坂美琴は努力に裏打ちされた自信こそが、その人格の背骨になっているということが。
 だが……その努力の結果が、誤ったものであったと思い込んでしまえば、どうなるか?
 森羅万象には多様な側面があることが常だが、若い少年少女がそのことを実感として嚥下するのは難しい。

 積み重ねてきた努力の結晶たる力が及ばず、その道中に思わぬ悪影響を残してしまったと知れば。自らを全否定する道に陥ってしまうのも、あの年頃では無理からぬ話だ。
 もしも、ただの一教師の身で出会ったのなら。いっそ綺麗にその自信を折ってから丁寧に治療しても良かったのだが、今は主に仕えるサーヴァントの身。口裂け女という喫緊の脅威が街を脅かす中、御坂美琴の再生だけに没頭するわけにもいかない以上、半端な真似は控えるしかなかった。
 故に――彼女が立ち直ろうとするその時、思わぬ方向に転んでしまわないという保証は、実はアーチャーの中には存在していなかった。

(……頼みましたよ、バーサーカー)

 だからアーチャーは、御坂美琴のサーヴァントに、密かな祈りを抱いていた。
 ――彼女の方は、アーチャーのことを覚えていない様子だったが。本来は神霊であったアーチャーは、遠い並行世界において、同じ色を掲げた陣営のサーヴァントとして、あの狂戦士と共に戦った際の記憶を持ち合わせていた。
 ……忘れるはずはない。我が子にも等しい弟子が、見事己を越えたあの戦いを。
 何より過去を風化させないことは、その蓄積を後進に伝える教師にとって、必須というべき資質であったから。

 聖杯大戦で共に戦った彼女と、今度は最初から敵同士で巡り合うこととなったものの。
 また、信じられるマスターと出会えたらしい彼女なら。あの時のように。歴史を積み重ねた先である今を生きる人間へ、肩を貸すという英霊の本分を果たしてくれるだろうと信じて。ケイローンは巴マミのサーヴァントとして、御坂美琴のサーヴァントに、願いを託していた。

87sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:42:43 ID:yxZPsspE0

「……それでは、参りましょうか」

 ちょうど、時刻が正午を回った頃。マミの下した方針に従い、用の済んだ食堂を後にするため。立つ鳥跡を濁さず、とアーチャーは人払いの術式を解除した。
 ――その瞬間、術式が綻ぶ際の手応えでようやく。あまりにも馴染みがなかったために気づけていなかったその干渉を、大賢者は知覚した。







「……よろしく頼むわね、バーサーカー」

 がちゃり、という重い金属の音を鳴らしながら。マスターである御坂美琴が握るのはバーサーカーの構える戦槌(メイス)の先端――フランケンシュタインの心臓でもある、球体部分だ。

 美琴が言うには、狙うはマスターとサーヴァントの契約によるネットワークを活用した、能力の共有。彼女が先日目撃した多才能力(マルチスキル)という現象を、擬似的に再現するためのものだという。
 ただし、美琴の目にしたそれと異なり、バーサーカーは学園都市なる施設で開発された超能力者ではない故に、本来は互換性など存在し得ない。マスターもサーヴァントも同系統の電撃使いであるという一点に賭けた、相互の繋がりの作成だ。
 それが発生し得る余地のあることを、美琴はバーサーカーを召喚した時、その多才能力と繋がった際と同様の現象――バーサーカーの記憶を垣間見るという経験をしたことで、認識していたのだ。
 ……そのような思考に至ったことを、彼女と同時に、同様の体験をしたバーサーカーも、理解できていた。

 突然、電気を――ガルバニズムに基づき造られたバーサーカーにとっては、自らの血液に等しいその生命の流れに――混ぜて欲しい、などと言われた際には、己のマスターは高度な変態なのかと狼狽したものの。そもそもそういった魔術的な教養に乏しい美琴にそんな意図が生じるはずもないとわかり、覚悟とともにその戦術的価値を示されれば、バーサーカーも拒否することではない。
 拒否することではない、が――少しだけ、気にかかることも存在していた。

「令呪を使って命じるわ――あなたの意志たるその雷と、この私を繋げなさい、バーサーカー」

 バーサーカーの心臓部を、自らの胸に押し付けた美琴が宣言すると同時、その奥の鼓動が伝わるように。聖杯より彼女に仮託されていた膨大な魔力の結晶たる令呪が、目的を持った力の流れとしてバーサーカーに作用する。

 それは、御坂美琴の願いとバーサーカー、フランケンシュタインの怪物が秘める意志に働きかけ、一つの奇跡を起こそうとする。



 ――汝の欲する所を為せ。そう、囁きかけてくる。



 バーサーカーの能力が学園都市由来ではないことは把握しているため、敢えて詳細は指定しないという美琴の事前説明に則ったその影響は、実際の理屈を問わず結果を出力させるという令呪の効能により、一種の魔術を発動させようとしていた。

88sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:43:48 ID:yxZPsspE0

 ……御坂美琴が知る通り。英霊の座に刻まれたフランケンシュタインの怪物がサーヴァントとして保持する『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』による電撃は、ただの雷ではなく、フランケンシュタインの意志が介在するチカラだ。
 自然の命ではなく、魔術による被造物だとしても。この世に生を享けた以上、断絶される個ではなく、寄り添う伴侶を、己が一欠片を受け継いでくれる誰かを求める、怪物の切なる願いを産んだ意志の力。それは時に、自身が落雷によって命を得た逸話を再現させるかの如く、他者を第二のフランケンシュタインに変貌させてしまおうとするほどの――



 ――魔術(Magick)とは、〈意志〉に応じて変化を引き起こす〈科学〉にして〈業〉である。



 とある高名な魔術師は、そのように自らの魔術を謳ったという。

 ……果たして、不完全な解放とはいえ。令呪の助けが加わり、その不足を補ってしまったとして。

 まず、美琴の目論見――電撃使いの超能力者が操る電気に、バーサーカーの生体電流が共有され、サーヴァントにも通じ得る神秘を纏うということが、無事に叶うのか。
 そして、仮に成功したとして。仮定を飛ばして結果を産み出した奇跡の後に取り繕われる理屈は、果たして本当に、マスターである美琴の思い描いた通りなのだろうか。

 それとも……一緒に命を懸けると言ってくれた、この甘ちゃんなマスターを。
 同情や憐憫のような、どこか傲りの滲んだ形であっても。バーサーカーと同じような、造られた生命のために手を伸ばそうとした眼前の少女を、憎からず思い始めた己の、浅ましい意志によるものなのだろうか。

 その答えを未だ、知らないまま。心臓を重ねた電撃姫と狂気の怪物の間に存在する神秘の多寡を、まるで電位差のように埋めるための放電現象のようにして。
 かつて、新たな生命の創造という、極上の神秘を実現した『かみなり』が、第十一階位のマスターとサーヴァントの間に結ばれたのだった。





【D-5 中学校/1日目 午後】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(微小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:魔法少女として誰かを守れるように在りたい。
1.口裂け女を討伐する。そのためにマスターを追う。
2.休戦協定は結べたけど、御坂さんが気がかり。
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。
※『第十一階位』のステータス及び姿を確認しました。また、『第三階位』を倒すまでの休戦協定及び、撃破後の対決を約束しました。

89sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:44:26 ID:yxZPsspE0

【アーチャー(ケイローン)@Fate/Apocrypha】
[状態]健康
[装備]弓矢
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの力となる。
0.監視者への対処をマスターに進言する。
1.マスターの意思を尊重し、それが損なわれないよう全霊を尽くす。
2.口裂け女への警戒。知名度の上昇、あるいは多くの耐性を獲得する前に仕留めたほうがよい。
[備考]
※御坂美琴とそのサーヴァントの気配を感知しました。
※口裂け女について一定の情報を得ています。
※『Fate/Apocrypha』での聖杯大戦の記憶を持ち合わせています。どの程度詳細を覚えているのかは後続の書き手さんの判断にお任せします。
※人払いの結界を解除した際の手応えで、錬のゴーストハックによる監視に気がついたようです。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]若干の精神不安定(やや回復)、感電中
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:最後まで生き残り帰還する。聖杯により妹たちを救う?
0.私は本当に人を殺せる……?
1.サーヴァントに干渉できる能力を得る。
2.『第三階位』を倒した後、『第四階位』のサーヴァントを倒す。それまでは巴マミとは休戦する。
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。またホームページ上で彼女を綺麗だと回答させられました。
※『第四階位』のステータス及び姿を確認しました。また、『第三階位』を倒すまでの休戦協定及び、撃破後の対決を約束しました。
※「バーサーカーの生体電流と、『電撃使い』を繋げる」という令呪の補助の元、限定解放ながら『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』の雷を心臓に浴びています。無事なのか、目論見通りにサーヴァントに通じる神秘を能力に取り込めるのか、知らぬ間にフランケンシュタイン化するのかは、それぞれ後続の書き手さんにお任せします。



【バーサーカー(フランケンシュタイン)@Fate/Apocrypha】
[状態]魔力消費(中:宝具解放に伴う瞬間的なもので、すぐに回復します)
[装備]乙女の貞節(ブライダルチェスト)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:……
1.マスターに従う
[備考]
※『雷電姫&欠陥電気(レディオノイズ)』にて美琴と繋がった際、バーサーカーも彼女の記憶を見ていました。具体的な把握範囲は不明ですが、『妹達』を救うために活動していることは認識しているようです。

90 ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:47:40 ID:yxZPsspE0
以上で投下完了です。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板