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Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争- Part3

1 ◆aptFsfXzZw:2019/07/19(金) 21:58:05 ID:b.9jg0Zo0
【企画概要】

当企画はTYPE-MOON原作の『Fate』シリーズの設定をモチーフとした、様々な版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開、異種作品のクロスオーバーが含まれています。閲覧の際には充分にご注意ください。



【参戦主従】(マスター&契約サーヴァント)

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!&『第一階位(カテゴリーエース)』アーチャー:アルケイデス@Fate/strange Fake

マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト@ミスマルカ興国物語&『第二階位(カテゴリーツー)』アサシン:千手扉間@NARUTO

ズェピア・エルトナム・オベローン@Fate/strange Fake&『第三階位(カテゴリースリー)』ライダー:口裂け女(オロチ)@地獄先生ぬ〜べ〜

巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ&『第四階位(カテゴリーフォー)』 アーチャー:ケイローン@Fate/Apocrypha

空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン&『第五階位(カテゴリーファイブ)』キャスター:笛木奏@仮面ライダーウィザード

レメディウス・レヴィ・ラズエル@されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons&『第六階位(カテゴリーシックス)』バーサーカー:火野映司@仮面ライダーオーズ

トワイス・H・ピースマンFate/EXTRA&『第七階位(カテゴリーセブン)』ガンナー:マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ@レイセン

サンドマン(音を奏でる者)@Steel Ball Run&『第八階位(カテゴリーエイト)』 キャスター:ジェロニモ(欠伸をする者)@Fate/Grand Order

天樹錬@ウィザーズ・ブレイン&『第九階位(カテゴリーナイン)』アサシン:アンク@仮面ライダーオーズ

コレット・ブルーネル&テイルズオブシンフォニア『第十階位(カテゴリーテン)』ライダー:門矢士@仮面ライダーディケイド

御坂美琴@とある科学の超電磁砲&『第十一階位(カテゴリージャック)』バーサーカー:フランケンシュタイン@Fate/Apocrypha

ティーネ・チェルク@Fate/strange Fake&『第十二階位(カテゴリークイーン)』セイバー:アルテラ@Fate/Grand Order

夏目実加@仮面ライダークウガ『第十三階位(カテゴリーキング)』ランサー:&ロムルス@Fate/Grand Order

ありす@Fate/EXTRA&『番外位(ジョーカー)』バーサーカー:ジョーカーアンデッド@仮面ライダー剣

レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's&『番外位(エキストラ・ジョーカー)』セイバー:剣崎一真@仮面ライダー剣





まとめwiki:ttp://www65.atwiki.jp/ffwm

前スレ:ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1482410383/

2 ◆aptFsfXzZw:2019/07/19(金) 21:58:46 ID:b.9jg0Zo0

【基本ルール】

※形式:15組のマスターとサーヴァントによる、スノーフィールドで再現された聖杯戦争
※勝利条件:※13種類の『聖杯符(カリスカード)』を集め、ムーンセルの中枢『熾天の檻』へのアクセス権、つまりは聖杯の使用権を獲得するサーヴァントとそのマスターの主従になること

下記以外の詳細は、上記まとめwikiのルール欄にてご確認ください。

【書き手ルールについて】




《予約について》
・予約開始は2017/2/11(土)00:00 となります。
・予約期間は7日間、申請があれば3日まで延長可とします。


《マップについて》

 1マスの大きさは約5km×約5kmです。
 拙いですが、こちらで用意した地図をwikiに収録してあります。


《時刻刻みについて》
・以下の通り四時間制を採用します。

 未明(0〜4)
 早朝(4〜8)
 午前(8〜12)
 午後(12〜16)
 夕方(16〜20)
 夜間(20〜24)

・なお、当企画では脱落者の通告等の定時放送は行われない予定です。ご了承ください。


《状態表テンプレートについて》
・基本的には他の聖杯系企画と同様のものになります。[所持カード]の欄に現在保有している『聖杯符』のカテゴリーを記入してください。


【地区名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]






前スレの残りが心許なくなってまいりましたので、新スレを立てさせて頂きました。前スレの残りは予約や感想等に利用できれば、と考えております。
今後とも当企画をどうぞよろしくお願い致します。

3 ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:21:46 ID:Ka1dV9b20
遅くなって申し訳ありません。
投下します

4ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:22:45 ID:Ka1dV9b20

エンジン音を鳴らして車が走る。
ティーネ・チェルクとそのサーヴァント、アルテラを乗せた車は湖沼地帯を抜けて町のはずれを北上していた。
予期せぬマスターとの邂逅があり、わずかながら矛を交え、何の因果か盟も結んだ。
しかしそれが大きく身の振り方を変える事態はもたらすことはなく。
お互いこれまで通りに役割をこなし続けるということで、ティーネもひとまず宛がわれた仮初の邸宅へと帰る道中だ。

表向きにはこれといった問題もなく交渉を成功させたということで、心なしか運転中の世話役は上機嫌のようだ。
そして隣のアルテラもまた、傍らにカエルの人形を置いて少しばかり浮ついている感じがする。霊体ではあるが。

(私だけが、まだ……)

引き摺っている。先刻のそれを失態として。
何も知らない運転手に殊勝な態度を期待するのは間違いだ。
そしてアルテラはというと、気にしていないわけではなかろうが割り切っているのだろう。
反省はするべきだが、いつまでも一つの失敗にこだわるよりも次の機会に万全を尽くすべきだと。
アルテラはどこまでも前を向いている。きっとそれは生前からだ。
馬の視界は後方に及ぶほど広いが、その足は前進してこそ真価を発揮する。
アッティラ・ザ・フン、歴史上もっとも広範な大地を駆けた戦闘王は馬上の戦いに秀でたという。
彼女が馬を駆ける姿はさぞや強く、速く、恐ろしく、何より美しく、どこまでも前へ前へ進んでいったのだろう。
ただ内よりの衝動に後押しされていただけと本人は言うかもしれない。それがたまたまいい方向に噛み合っただけだと。
それでも彼女は王なのだ。その機能と強さを頼みにされていただけかもしれないが、慕う民や仲間がいなかったはずがない。

私はどうだろう。ティーネの心を悩みが満たす。
戦闘王を後押しした衝動にかわって、彼女の手綱を握れるのか。戦闘王のように、一族を纏める強き領主でいられるのか。
――――――なさねばならないのだ。

分かり切った答えを出すのにかかった時間は僅か、しかしそれが彼女の中で意味を持つのに要した時間は比べ物にならず。
一流の魔術師ならばスイッチを切り替えるように悩みを断てる。
だがティーネの技術と才能は一流であれ、年若い彼女は未だ発展途上にある。魔眼殺しの着脱で人格まで切り替えるような超一流には及ばない。
そのために思考の海に埋没したのは油断などというものでは決してなかった。
しかし、確かな隙ではあった。

『車を止めろマスター!』

アルテラの声が脳裏に響いた。
だがティーネには、それに即座に対して即座に的確な行動をとることはできなかった。
もし彼女がハンドルを握ることができていたなら反射的にブレーキを踏んでいたかもしれないが、それはかなわないifの話だ。
念話を送ってからアルテラも失態だったと気づいたのだろう。
なにせ幼いころから馬を友にしたフン族の王だ。他人の駆る乗機に相乗りした経験が少なすぎる。
次の瞬間にはアルテラが実体化して運転席に乗り込む姿がティーネの視界に入った。
そして運転手が何か疑問に覚える暇すらなくアルテラの拳が腹部に叩き込まれ、その席をアルテラが乗っ取った。
即座に急ブレーキ。
後続車の迷惑など知ったことかと道のど真ん中で車を止める。

「なにが……?」
「わからない。私の紋章がこの先に進むなと告げた」

動揺するティーネにアルテラは淡々と告げる。
続けて、殴って気絶させた運転手の様子も軽く確認して、勘だが大丈夫だろうとこれまた淡々と告げる。
並行して周囲に警戒を巡らせていたが

「……遅かったか」

敵の気配はまだ感じない。
だがアルテラの体を流れる魔力……正確には彼女に供給されるティーネの魔力に僅かながら変化が感じられた。

「こんな、ことが……」

土地守の一族であるティーネは、自らのマナのみならず大地のオドまでも取り込み供給することを可能としている。
血と命の繋がった故郷の力を借りることで強大な魔術師として力を発揮するのだ。
そのための土地とティーネとの繋がりが一切感じられない。
今の彼女は多少の魔術回路は有するが、それを活用する術を持たない弱きものに成り下がってしまった。

5ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:23:55 ID:Ka1dV9b20

「ここを離れるぞ、マスター」

アイデンティティーの喪失に平静を保てないマスターに対して、サーヴァントは冷徹と言えるほど冷静に進言した。

「結界か、世界の書き換えか。ともかく星の紋章がここに近づくなと告げたのだからここから離れれば力は戻るはずだ」

アルテラの脳裏に一つの景色が刹那、浮かんで消えた。
真紅の薔薇と輝く黄金に彩られた美しい闘技場……それが何だかは思い出せなかったが、力を奪う結界というものになんとなく覚えがある気がしたのだ。
脱出できれば効力は発揮しないはず。そうと決まればアルテラの行動は早かった。

「深く腰掛けろ。それと、あれだ。えーと、シートベルトはそのまましておけ。急いで脱出するときは私が何とかする」

え、とティーネが声を出すよりも。
アルテラがハンドルを握り、アクセルを踏んで、車が走り出す方が早かった。
ちなみに気絶させられ、運転席からどけられた召使は当然だがシートベルトを締めなおすことなどできていなかった。

「王よ!」
「ん。いい判断だ。念話も魔術だからな。消耗は少ない方がいい。それでなんだ?舌は噛むなよ」
「車よりも王が私を抱えた方が速く小回りも効くのでは!?」
「こちらの方が魔力を使わない。お前が力を取り戻すまではこの方がいいだろう」
「で、では何処に向かっているのです!?拠点への道程と異なりますが!」
「脱出するのだから反転するのは当然だろう。そして敵が手を出してきたならレメディウスとかいうやつのところまで引き寄せられればちょうどいい」

言葉をかわしながらも車は猛スピードで街を駆け抜けている。
それもかなり問題のある走法で。
車の免許など持つ年ごろではないティーネはいわゆる道路交通法に詳しくなく、標識の類もよく分からない。
だが今の速度は制限を守っているようには思えず、車線も信号も無視して何台も追い抜いて走るのは恐らく問題だろう。というか普通は対向車を避ける必要は生じない。
聖杯から現代で生活するに不足ない程度の知識は与えられるそうだが、そうした決まりは適用外なのか……知っていたとしても非常時である今は無視するのが正しいのだろうが。
とはいえ聖杯戦争ではなく交通事故で命を落とすのはいくら何でもごめんこうむりたい。
そんな沈痛な有り様のティーネとは裏腹に、アルテラは楽しそうにこう言う。

「空が見えないのは残念だが、うん。車はいい文明だ」

敵の影響下で緊張状態なのは確か。
しかしそれはそれと今を楽しめるのも英雄の秘訣なのだろうか。
それともこれも彼女に芽生えつつある心の発露なのか。
景色を置き去りに、時折響くクラクションも後ろに引き離して。
たしかに仕事はしているのだからそのくらいの楽しみは咎めるべきではない、のかもしれない。
だがティーネの焦燥は募るばかり。
かなりの速さでそれなりの時間を走ったが、未だに力は戻らず。
この状態で会敵すれば、アルテラが十全の力を発揮することはできず苦戦を強いられる危険がある。
ならば同盟者を体よく利用して未知の敵を押しつけてしまおう、というのがアルテラの軍略なのかもしれないが……自らの不利を晒すほどレメディウスを信用してよいものか。
そんな心配は不要だとアルテラの直感は車を走らせているのだとは思いたいが、やはり気が進まないというのがティーネの偽らざる気持ちだった。

幸か不幸か、その願いは叶ってしまう。
突如アルテラがハンドルを切り、車の速度を殺した。
次の瞬間にはすぐ目の前でトラックが荷崩れを起こしながら倒れ、道を塞ぐ。
ならばと即座に逆行し、道を変えての逃走を続けようとする。
だが今度は彼方で突如マンホールの蓋が大きく飛び上がった。
それだけならばたいした脅威にはならないのだが、飛んだマンホールが信号機に触れたとたんになぜかザクザクと切り刻むような音がして信号機が倒れ、また道を塞いだ。
そうして前後の進路を阻まれた次の瞬間に、何かが飛来する音がヒュンと短く鳴った。
彼方から矢が放たれた音、しかし狙いはアルテラたちとはまるで見当違いの場所のためそちらにはあまり意識を裂かない。
矢が散乱したトラックの荷物の一つに突き立つと、矢羽根部分で大きな白い布が目立ってはためいているのが確認できた。

6ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:24:34 ID:Ka1dV9b20

「……来るか」

サーヴァントの気配を感知し、アルテラは左手でハンドルを握りながらも右手に軍神の剣を顕現させた。
車は無事では済まないだろうが、最悪このまま騎馬戦も辞さない構えだ。
そこへ二つの影が矢に続いて現れた。
建物の谷間をカモシカかクーガーのように走り抜け、車の前に立ちはだかる黒く壮健な二人の男。
一人は大きなコヨーテにまたがり、黒い肌に赤と褐色の外套を纏って理知的な雰囲気をしている。ティーネの目を通して彼が第八階位のサーヴァントだということが見えた。
ということはもう一人の男がマスターなのだろう。サーヴァント同様の黒い肌と頑健な肉体をそこらで揃いそうなチープな衣服で覆っている。腰から下げたナイフに魔力は感じるものの、それだけならば強い脅威には思えない。
だがこのマスターはサーヴァントのコヨーテに同乗せず、自らの足でサーヴァントに従い建物の谷間を駆け抜ける動きをしているようにティーネには見えた。
強化魔術を使った気配はない、素の身体能力があまりに衝撃的で多少の武器など些事にしか見えない。音に聞く教会の代行者に匹敵するのではなかろうか。
第八階位のステータスは先の第六階位やセイバーと比べて脅威とは思えないが、それでも緊張した空気があたりを包む。

「戦闘の意思はない。ひとまず、話を聞いてもらえないだろうか」

そんな空気の中で最初に口を開いたのは第八階位のサーヴァント、ジェロニモだった。
彼が放ったのであろう矢を引き抜き、ことさらそれを左右に振って白旗としてアピールする。

「君の魔術を封じたこと、道を邪魔したことは謝罪しよう。だがそうでもしなければ話は聞いてもらえないと思ってね。どうか許してほしい」

ティーネに降りかかった災難の原因は自分だ、と告白しながら男はゆっくりと距離を詰めてきた。マスターのサンドマンもそれに続く。
歩きながらジェロニモはサンドマンに白旗を渡し、自分は煙草をくゆらせ始めた。

「騒ぎを大きくするつもりはない。暗示の方は私で引き受けるし、いくつか情報の手土産もあるんだ」

煙草の煙を媒介にする魔術はあらゆる文化にあるものだ。
視覚や嗅覚、あるいは味覚にうったえるのはもちろんのこと、薬物による効果としても普遍的な魔術の一つと言っていい。
しかしティーネには第八階位の煙が何となく懐かしいもののように思えて―――
突然の剣戟音がその思考を裂いた。

「これは、ご挨拶だな……!」

その正体はジェロニモが握る二本のナイフに叩きつけられたアルテラの軍神の剣だった。

「―――その文明を破壊する」

アルテラは機械のような冷たい声を響かせて剣を振るう。その表情も同じく冷淡だ。
ただひたすらに、何かに駆られるように……その剣をサンドマンへ向けて振るい、それを必死にジェロニモがいなす。
トップランクのセイバーであるアルテラ相手に、防戦とはいえキャスターのジェロニモが勝負になっているだけでも奇跡的だ。ジェロニモがキャスターとしては近接戦に優れた方とはいえ、それでも容易くは埋められない差が二人にはある。
精霊に語り掛け、遭遇する場所を予見して即席の陣地を作成することでティーネへの供給を封じており、それによりアルテラが全力を発揮できていないこと。
同時にその力を転じてサンドマンとジェロニモを精霊の加護スキルの影響下に近しいバフ状態にしていたこと。
何よりこれがアルテラ自身が心底望んだ戦いではないことなど、様々な要素が重なってのかろうじての拮抗だった。

アルテラは目の前のジェロニモのことは空気のように扱い、ただサンドマンだけを見据えて剣を降り続ける。
赤い薙ぎ、青い払い、碧い突き。続々と繰り出される軍神の剣の攻勢にジェロニモがかろうじて食らいつく。
事実としてアルテラにとってジェロニモの守りは空気抵抗よりましといったレベルだ。
膂力が違う。速さが違う。技巧が違う。そして何より武装の質がまるで違う。
熊の解体を容易く行う大型ナイフに精霊が祝福を施したとて、神の権能が形を持った軍神の剣と比してはなまくらという評価すら過ぎたものだ。
数合結べば砕け散る。
それはジェロニモにも分かっている。
初撃以外は薙ぐにしろ突くにしろ、剣の切っ先に僅かにナイフを触れさせて流すように徹底している。
まともに受ければ武器ごと両断、武器が折れずとも力比べでは及ぶべくもない。

7ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:25:07 ID:Ka1dV9b20

当然そんな真っ向勝負を続けるジェロニモではない。
刺突を払い、わずかに隙ができたところでジェロニモが距離をとる。
同時に彼に憑いた精霊ガンダンサーが横転したトラックのミラーを動かして陽光でアルテラの視界をくらます。
ちっぽけな悪戯じみた攻撃だが、妨害としては十分だ。
五感の一つを封じた隙をついて、守護の獣コヨーテとジェロニモが左右から同時に踊りかかる。
鋭い牙と刃を突き立て、取り押さえようと声もなくそして加減もなく。
だがそれすらもアルテラは蹴散らしてみせた。
一時くらんだ視界くらいは星の紋章が補ってくれる。
アルテラに襲いくる刃には剣を合わせていなし、迫りくる獣は蹴足の一つで追い払った。
そして続けざまに一歩踏み込む。視線の先にはサンドマンの姿が。
破壊すべき文明を見定め、とどめを刺そうとアルテラが動く。
軍神の剣を輝かせ振り上げる。

精霊の加護(イタズラ)が文字通りその足元をすくった。
ガンダンサーは大地の精霊、開き切ってなかった視界の外からアルテラの足元を崩す。
その一瞬の停滞でサンドマンは動いた。

「サイレント・ウェイ!」

スタンドでもってジェロニモに与えられたナイフを抜き放ち、投擲する。
軌道は真っすぐ、アルテラの喉元へ。
精霊に祝福されたナイフでならば致命の一撃を与えられるだろう。
だからこそアルテラはその一閃を見逃さない。
乱れた姿勢で躱すのは間に合わないが、剣でもって弾くのは容易い。
アルテラの右手に握られた軍神の剣が音もなくナイフを迎撃し、彼方へと弾き飛ばす。

「だろうな。お前ならそれくらいできるだろう」

それも予期していた、とサンドマンが漏らす。
その声よりも速くアルテラの右腕に衝撃が奔った。

ナイフには『音』が籠められていた。
トラックが横転した音……数百キロを超える重量の物体が高速で叩きつけられる衝撃音が。
スタンド『イン・ア・サイレント・ウェイ』の能力により発生した音は文字情報となり、そしてその情報に触れたものは音の元となった事象を再現することになる。
そして情報は音の性質を保ち触れたものを伝わっていくのだ。
ナイフに籠められた音が軍神の剣を伝わり、アルテラの腕に至り、そして衝撃となって炸裂したのだ。

星の外、白き巨人や遠き神々に近しい属性に由来するスタンドはサーヴァントにも通じる神秘を持つ。
常人ならば腕が砕け折れるどころかちぎれ飛んでもおかしくないダメージをそれにより叩き込んだ。
だがそれすらもアルテラは捻じ伏せる。
最高ランクの筋力をもつトップサーヴァントならば重戦車であろうと振り回す巨人の馬力に並び立つもの。起源をたどれば巨人に繋がる彼女ならなおいわんや。
かすかに表情を歪めながらも剣を握りなおして改めて攻撃態勢に入るが

弓が放たれ、矢の翔ける音が鳴った。
ジェロニモの手から放たれた援護だ。
その矢はアルテラの弾いたナイフへまっすぐ向かっている.

「すさまじいな、第十二階位(カテゴリー・クイーン)。あの重量の衝突も片腕でいなすか」

継ぎ矢という技法がある。
的に中った矢の背に続く矢が刺さることだ。
矢を再利用できなくなるため射手にはあまり好まれないのだが、成功すれば優れた技巧の証明ではある。

「トラックがぶつかる程度じゃ足りないというのなら」

ジェロニモの矢が高い音を立ててナイフを弾き、正確に再度アルテラに向かわせた。

「そいつを弾き飛ばすほどの膂力の薙ぎ払いなら効くんじゃないか」

軍神の剣は『音もなく』ナイフを弾いた……その音はどこへ?
サイレント・ウェイがナイフに込めたのだ。

アルテラの発した音がナイフに込められ、再びアルテラに襲い掛かった。
軍神の剣を通じてまたも右腕に飛来した衝撃は、今度はアルテラから剣を取り落とさせるには至った。

8ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:25:53 ID:Ka1dV9b20

一時、戦場が止まる。
それでもアルテラが腕を振るわせながらすぐに剣を拾おうと―――

「お待ちを、王よ!」

車から出たティーネの声がそれを止めた。
響いたマスターの進言にアルテラもはっと正気を取り戻したように目に光が戻る。

「彼らは話を求めています。一時剣をお収めください」
「そう言ってもらえると私としても助かるよ」

そう言ってジェロニモも息をつく。
陣地を整え、武装も道すがら用意し、精霊の力もマスターの力も総動員して短時間渡り合うのが精いっぱい。
ジェロニモたちは知らないが、神の鞭という二つ名を体現するかのような軍神の剣の伸縮も雷や氷の行使もなくてこの状態だ。
さすがは最優のクラス、とジェロニモは休息も兼ねて再度煙草を咥えはじめた。

「……」

その煙草の匂いがティーネに気付きを与えたきっかけだった。
一族の老人たちの吸うものと極めて似ている。
加えて言うなら肌の色、体に描いた紋様。
それだけならばまだしも、こちらの魔術を完全に封じるほどに理解している使い手で、従えているのはコヨーテ。
携えた羽飾りはワシのもの……一族においては権威と公正を象徴し、優れた戦士の功績に応じてその数を増すもの。
マスターが従えたもう一つの使い魔のような人型も、戦帽子に多くの羽を掲げていた。
ここまで要素が揃えば、分からない筈もない。

「第八階位(カテゴリーエイト)、あなたはまさか……」

なんと呼んだものだろうか悩むティーネ。サーヴァントとはいえ故人のその名を口にしていいとも思えず、二つ名で本人を呼ぶのも憚られて言葉が淀む。
その様子を察してサーヴァントの方が言葉を繋いだ。

「恐らくは察しの通りだ。君には隠す意味もなかろう。サーヴァント、キャスター。ジェロニモだ」
「! やはり!ではそちらの方も……?」

マスターの方も出で立ちや服飾の一部に一族のものが散見する。
期待半分疑い半分のティーネの視線にマスターも答えた。

「私の名は■■■」

発せられた音はこの地でマジョリティーとなった英語ではない。
懐かしい響きの故郷の言葉にティーネの頬が高揚に染まった。

「我らが部族の言葉で音を奏でる者と呼ばれている。だがここではサンドマンで通っているから、そう呼んでもらえると助かる」
「彼も私の……いや、私たちの同胞だよ。ティーネ・チェルク」

君たちのことは知っている、とジェロニモは口の端に乗せた。

「名がわかれば話は早いだろう。私は必要ならば敵に降ることを厭わなかった男だ。こうして白旗を掲げても不思議はあるまい?同胞よ。
 こちらから求めるのは君たちとの協力関係。見返りはまず君に魔術を返すこと。そしてこの戦場の仕掛けの一つ、敵一騎の真名、別の敵一騎の所在を情報として提供する。どうかね?」

要求としては先のレメディウスと近似するものだ。
違いと言えば第六階位と違って実力が拮抗していないことと、魔術を人質に取られていること。
それを踏まえてだろう。
アルテラの破壊衝動はマスターの声でひとまず収まったようだが、いつでも理性的に戦える態勢を崩していない。
命令があれば、目の前のサーヴァントを殺してでも力を取り戻すと。

「断っておくと、私を倒したとして君に力が戻るかは私にも分からない。精霊の価値観は我々とは異なるからね。
 シャーマンである私を殺めてはへそを曲げるかもしれないし、あるいは気にせず私との対話が終わったと君との契約を再開するかもしれない。一つの賭けだね。とはいえ、だ」

ジェロニモが正直なところを述べる。
誠実さこそが一族の誇りであり、その正直な言葉が彼を演説家としても高名にしたのだろう。

「私たちが同盟者として不安、というのはまあ君のサーヴァントにあしらわれてしまったからな。分からなくもない。それでも全くの無能ではないとは示せたと思う」

今もくゆらせた煙草の煙が人払いとなり、一帯の事故が聖杯戦争と結ぶつくのを妨げている。
それだけでない。
アルテラに通じる武装や精霊との対話など、術者としてはティーネより明らかに上回るのがはっきりと分かる。
それでも―――

「あなたたちの聖杯に託す願いをお聞かせ願いたい」

ティーネの問いを聞いて二人は少し顔を見合わせた。
そして左手でサンドマンを制するようにしてから、まずジェロニモが答えた。

9ブラックパンサーズ ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 01:28:07 ID:Ka1dV9b20

【D-6 車道、車内/一日目 午後】

【音を奏でる者@Steel Ball Run 】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]ナイフ(精霊による祝福済)
[道具]安物の服、特注の靴
[所持金]サンドマン主観で数カ月一人暮らしには困らない程度
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯により知識と富を獲得して土地を取り戻す。
1.マックルイェーガーか、水族館か。あるいは別の敵か。
2.ジェロニモと同じタイプの魔術師に興味。まさか同族の幼い少女とは……
3.最後には倒すべき敵だが、マックルイェーガーには一つ借りができた
[備考]
※スノーフィールドでのロールはオールアップ済みのB級映画スタントマンです。
※第七階位の真名、ステータス及び姿を確認しました。
※第十二階位のステータス及び姿を確認しました。また彼女らと同盟を結びました。



【キャスター(欠伸をする者)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[装備]ナイフ×2、弓
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:サンドマンのために聖杯をとる
1.マックルイェーガーか、水族館か。あるいは別の敵か。
2.マックルイェーガーを警戒する
[備考]
※精霊を通じて水族館に魔術師が陣取っていること、自分以外にも土地の力を借りている魔術師がいること、土地自体に魔術的に手が加えられていることを把握しています。
他にも何か聞いているかもしれません。
※第七階位(カテゴリーセブン)のサーヴァントがマックルイェーガーであることを知りました。
※マックルが水族館からの追手を脱落させるかは強く疑問視しています。


【ティーネ・チェルク@Fate/strange Fake】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]不明
[所持金]やや裕福
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:セイバーの力を利用して、聖杯を獲る。
1.セイバーを信頼しても良いのかもしれない。
2.サンドマンのような一族がいるのは知らなかった……
2.レメディウスとの同盟をこの先どうするか……
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は原住民「土地守の一族」の族長です。
※第六階位(カテゴリーシックス)のバーサーカーが宝具を使用するところを目撃しましたが、真名は把握していません。また彼らと同盟を結びました。
※第八階位(カテゴリーエイト)の真名、ステータス及び姿を確認しました。また彼らと同盟を結びました。
※第七階位(カテゴリーセブン)のサーヴァントがマックルイェーガーであることを知りました。


【セイバー(アルテラ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[装備]『軍神の剣』
[道具]ゲコ太人形
[所持金]なし
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、戦闘行為を代行する。
1.マスターに従い、戦闘行為を代行する。
2.ゲコ太は良い文明。車もいい文明。
3.サンドマンの力(スタンド)は悪い文明。でも今は破壊しない

[備考]

10名無しさん:2019/07/22(月) 01:28:58 ID:Ka1dV9b20
投下終了です。指摘等あればお願いします

11 ◆yy7mpGr1KA:2019/07/22(月) 13:15:17 ID:Ka1dV9b20
すいません、投下に抜けがありました
状態表の前に以下が入ります


「私は先祖伝来の土地がこれ以上奪われないように、と願うつもりだったがね。サンドマンの願いを聞いて彼の助けになることにした」

ジェロニモの言葉を受けて、サンドマンがそれに続いた。

「カネがいる。代々受け継いだ土地全てを買い占める莫大なカネが。
 それと知識だ。白人どもと法と経済で争っても土地を守り切るための、時代に適応する最新の知識もおれは望む」

それはサンドマンの生きた時代の同胞には思いつかなかった発想で、ティーネにもまた及ばなかった考えだった。
力で奪われたものを力で奪い返す……そのためにティーネはかつては最強の英雄ギルガメッシュを求め、今はアルテラと契約を結んでいるのだ。
正直なところ敵の流儀に乗っ取り、というのは業腹だ。すぐに受け入れようとは思えない。
だがそんな柔軟な思考を持つ者が一族にいたのだ、というのは一つの灯火に思えた。
だから

「第十二階位(カテゴリー・クイーン)のマスター、ティーネ・チェルク。一族を代表してジェロニモ、サンドマン、あなたがたへの協力を約束しましょう」

かつてジェロニモと轡を並べた戦士と同じように、彼らを友と呼ぼうと思った。
その返答にジェロニモは満面の笑みを浮かべ、右手の指をパチンと鳴らす。

「それでは君の魔術をお返ししよう。そしてお教えしよう、我らの知る限りの敵の全てを」

その言葉と共にティーネと土地の繋がりが戻り、再び潤沢な魔力がアルテラに注がれていく。
歩み寄り手のひらを見せて挨拶をしようとするジェロニモとサンドマンだがその進路にアルテラが立ち塞がった。

「お前は、なんだ?」

サンドマンを睨んで問う。
戦闘中と違って理性的だが、それでも衝動を抑えているようだ。

「お前に宿る力に似たものを私は知っている……気がする。滅ぼしたもの。滅んだもの。外なるもの(フォーリナー)」

それは破壊衝動だけではない。
湧き上がるのは前世の記憶のような、因縁のような不快感。
一言で言い表すなら

「悪い文明だ」

それはサンドマンのスタンド、『イン・ア・サイレント・ウェイ』と向き合っての感想。
流星が砂漠へ落ちたことで生まれた土地、『悪魔の手のひら』で目覚めた能力……立ち向かうもの、スタンド。
彼方よりの来訪者、その残影であるチカラの在り方はアルテラの起源である白い巨人に近しく。
また白い巨人が戦ったとある異邦の神々とも近しい。
つまりはアルテラにとってとびっきりの悪い文明だ。
彼女の秘めた破壊衝動は弱まったとはいえ、消えたわけではない。
それゆえに彼女は剣をとったのだ。
マスターに使われるものであるうちは、再び剣をとることはないだろうが……

アルテラはそれだけの言葉を残して沈黙する。
これ以上は私の関わる領分ではないと。

「ふむ、それでは約束の情報を伝えよう」

はじめに土地に仕込まれた認識疎外の術式もろもろのこと。
次に水族館に座す魔術師のこと。
そして

「第七階位(カテゴリー・セブン)。真名はマックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ」

ティーネは知らない名前で反応できないが、逆に沈黙を保っていたアルテラがわずかに反応を見せた。
そして意外にもマスターに向けて簡潔に説明まで始める。

「マックルイェーガーは軍神だ。最も新しい、『銃と戦争の神』。精霊として誕生し、神核を得て神霊へと至るものの、後に信仰を失い堕ちた神だ。
 他者に神性を譲渡した逸話もある。だからこそ英霊として召喚もできたのだろう」
「…………詳しいね、セイバー。同郷だったりするのか?」

ジェロニモは最初は肌の色や紋様、自分たちという前例から第十二階位(カテゴリー・クイーン)もてっきり自分たちに近しい土地の出かと思っていた。
しかし桁外れの出力に加え、出展の異なる神気まで感じる。それこそマックルイェーガーに近しいと言われればそれでもおかしくはないような。

「いいや。この私とは枝が違う。だがもしかしたら向こうはそうでもないのかもしれないな」

だが意味深にその推察を否定しながらアルテラは胸に手を当てる。
サンドマンに対する破壊衝動を抑えられた理由……それはマスターの言葉だけではなかった。
アルテラに自覚はないが、より破壊すべき対象を彼方に感じていたのだ。
軍神(マルス)の神気を宿すものは、戦いの神だからかその気配に互いに敏感だ。

「マスター。南の方にいるぞ。恐らくは軍神が」

その気配の正体はマックルイェーガーではなく、アルケイデスの軍神(マルス)の帯。
起源を同じくするがゆえにその気配を軍神の剣越しに感じていたのだ。

敵の居所、戦場の候補は上がった。
その道行きをもう一人の同盟者にはどう告げるのか。
あるいは、信用ならぬ同盟者とはすなわち敵に過ぎないか。
黒豹はいかにして牙をむく……?

12名無しさん:2019/07/22(月) 13:16:31 ID:Ka1dV9b20
改めて投下終了になります

13 ◆aptFsfXzZw:2019/07/31(水) 23:14:00 ID:qXazsT1g0
遅くなってしまってすいません。
◆yy7mpGr1KA氏、連続のご投下ありがとうございます!

まずはアルテラさんとティーネの主従からスタート。アルテラさんの王としての在り方を想うティーネ。
既に人生を駆け抜けた大人である英霊と自身を比べて、未熟であるのは当然ながら、そうと割り切ることはできない幼い肩に載る重圧は如何程か。
そんなマスターの葛藤を知ってか知らずか、地味に命に関わるアイデンティティーの喪失にまで苦しむティーネに対して、緊急事態に荒っぽく運転を交代したアルテラさん。騎馬民族の習性か、OPの頃は「昔は壊したがったろうになー」とか物騒なこと言っていたのにウキウキドライブ、速攻で車は良い文明認定。「は? 可愛いかよ」とオタク的キレ芸みたいな反応を禁じ得ない圧倒的可愛さ。可愛い。

ほのぼのしていたら、そんな場合じゃないだろうと渋めのマッチョメンがエントリー。かと思えば即白旗なジェロニモさんの判断力が光る。
そして衝動に突き動かされたアルテラさん相手に切り結ぶジェロニモさんマジSUGEEEEEEEE!! もちろんまともに敵うはずがないのに、ティーネからの魔力供給封じを始めとした無数の絡め手でトップサーヴァントのアルテラさんを相手に白兵戦ができるのはマジで凄い。
代行者並の身体操作&フィジカルを見せるサンドマンとの連携も凄い。イン・ア・サイレントウェイ、やはり応用力と初見殺し性能が高すぎる。プトティラが禍つ式の軍団と共に挑んでも弾けなかったアルテラさんの軍神の剣を一時的にでも手放させるのは、彼ら二人の基礎戦力を踏まえると大金星と言って差し支えありません。アルテラさんも因縁ある「フォーリナー」と呼び、悪い文明認定せざるを得ない存在感。

思わぬところが不穏な要素を残しながら、同郷三人の同窓会みたいになった交渉は無事に黒豹同盟締結。標的は別のスタンド使い(フォーリナー)か、新たな文明の戦神か、はたまた因縁深き軍神か。それとも、信頼できない同盟者か……? 最後のが一番崩しやすくも感じる魔境、果たしてティーネらはどれを選ぶのか。この先が非常に気になります。

実を言うと私もこのパートについて考えていたのですが、アルテラさんの可愛さやジェロニモさん&サンドマンの連携の巧みさ等、とても自分では出せなかっただろう魅力を魅せられては筆の遅さも悪くはなかったのかもしれないと考えてしまいます。いや私の筆が遅くて良い訳はありませんが、とにかく氏にこのパートを描いて頂けて良かったです。
改めて、ご投下ありがとうございました。

では私も、巴マミ&アーチャー(ケイローン)、御坂美琴&バーサーカー(フランケンシュタイン)を予約します。

14 ◆aptFsfXzZw:2019/08/10(土) 16:36:48 ID:k6hHIrsI0
申し訳ありません、>>13の予約について、キャラクター設定に関する勘違いがあり、修正が間に合わないため、予約分を一旦破棄します。
大変失礼いたしました。

15 ◆yy7mpGr1KA:2020/06/30(火) 00:56:47 ID:56VaSPt.0
ズェピア・エルトナム・オベローン&口裂け女、レメディウス・レヴィ・ラズエル&火野映司予約します

16 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/05(日) 21:01:54 ID:MF8UQoek0
延長お願いします

17 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:03:27 ID:eZvTf9Qg0
遅くなって申し訳ありません、投下します

18悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:04:43 ID:eZvTf9Qg0

んぐっ、んぐっ、んぐっ…
ぷはっ。

「お、いいねえ。次は何飲む?キープしてたボトル開けるか?」

ああ、いや今日はもういい。
明日の会談、俺も警備の端っこだが関わるんだ。
万が一にも響いたら困る。

「ああ、そうだったか。ここらのインディアン上がりとの。じゃあボトルは明日の祝杯にまわすか」

おお、それはいい。
うん、そうだな、それで頼む。
じゃあまた。

「おう。俺はもう少しやってくわ」

……ふう。
外は思ったより冷えるな。
さて。ズオ・ルー師と土地守の一族との会談、うまくいくといいんだが。
我々に不足している地の利を同士が補ってくれれば―――

「ねえ」

ん?

「私、綺麗?」

……あー、悪いけど今日はオンナ抱いてる余裕はないんだ。
明日大事な仕事があってね。

「私、綺麗?」

よそに行ってくれ。
買いたがる奴ならそこのバーからいくらでも出てくるだろうさ。

「私、綺麗?」

…おいおい、英語が不自由なのか?
アジアン?英語が拙いなら日本人か?俺が何言ってるか分かってる?

「私、綺麗?」

聞いてねえのか。
ああ、ああ。文句なく美人だよ。
だから俺なんかにこだわらなくても客ならいくらでも取れるだろ。
頼むから別のやつを捕まえて―――

「これでも?」

なんだ英語通じてんのか。
大丈夫大丈夫、マスクがあろうがなかろうが美人は…

ッ!!!???

な、お前、まさか、口裂け――――
やめ、助、痛ッ!!
あ、あ、あ、あ、いやだ
殺さないで

助け

痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛


……

……

……

「おいなんだドタバタ喧嘩か…って、おい!アトワお前、大丈夫…ひっ、く、口が裂かれて……
 病院、はダメだ。『曙光の鉄槌』の構成員が入院なんてバレたら警察も面倒だし、会談前に土地守どもに舐められる。
 こいつの代わりは…俺がやるしかねえか。くそ、医務連中に連絡して…酒飲んじまったから運転手も……
 ビッチ!口裂け女め!よくも俺の仲間を!」

……

……

……

……

……

……

19悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:05:39 ID:eZvTf9Qg0

◇ ◇ ◇


……

……

……

「ん?おい、起きて大丈夫なのか!?」

……

「部屋の明かりもつけねえで……ああ、会談なら上手くいったから安心しろよ。
 無事に協力関係を結べたみたいだ。ざすが我らのズオ・ルー師だ」

……

「昨日から寝たきりでもう昼近いが、さすがにそれを咎める奴はいねえよ。一晩で済んでむしろよかった」

……

「その口じゃあ祝杯は厳しいだろうが……向こうで会ったDr.ダテに頼れればなぁ。うちの藪どもじゃあ今は痛むかもしれんが、綺麗に治るとよ。
 飯は厳しいだろうから、しばらく点滴だろうが……熱とかないか?痛み止め切れてないか?そうだ、紙とペン持ってくるか?」

……

「とりあえず起きたって報告ついでに書くもん持ってくるわ。あ、スマホとかのがいいか?」

…………私、綺麗?

「おい、無理に喋んな!傷開くぞバカ。何か持ってくるから待ってろって」

私、綺麗?

「大丈夫だよ!綺麗に治るって言ってた!お前のハンサムは損なわれねえよ!だから黙って安静にしてろ」

はん……さむ……

これでも?

「おいガーゼ取るなよお前……おま、え?誰だ?なんでアトワのベッドに…待ッ!!」

これでも?

これでも?

これでも?

これでも?

……

……

……

◇ ◇ ◇

夜、『曙光の鉄槌』に悲報が届けられた。
構成員の一人が通り魔、あるいは無差別連続殺人犯『口裂け女』の被害にあったという。
明確な悪意ある攻撃なのか。偶然巻き込まれただけなのか。『口裂け女』とは何者で、何が目的なのか。
不安と苛立ちが組織内に蔓延するも、頭目であるズオ・ルーはこれを諫め、ただ予定を滞りなく進行した。
部下たちとは異なる疑念を内に秘めながらもそれを露わにすることはなく。

朝、『曙光の鉄槌』に朗報が広がった。
故国を飛び出し、新大陸にまで流れ着いた武力組織は力はあれども足場がない。
息をひそめる穴倉。肉を漁る狩場。眼を光らせる権力の狗の目の届かない瞬間・空間。
流れ者の竜にはそれらが必要だ。
ホワイトカラーよりも古くからこの地に暮らす『土地守の一族』に爪と牙を貸す代わりに教えを請う。共通の敵を共に狩り、無用な食い合いは避ける。
無事に盟約が結ばれたことで組織の空気は明るいものに転じていた。
その裏でズオ・ルーがいかなる戦いを行っているかは知らず。

昼、『曙光の鉄槌』に凶報が訪れていた。
通り魔に襲われた仲間という形でひっそりと。
ズオ・ルーも、口裂け女も、だれも意図せぬ形で……口の端に乗る風聞のように。
口を裂かれた男アトワがサーヴァント口裂け女の一騎が消失したことに伴い口裂け女へと変貌し、凶器を振るい始めたのだ。

20悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:07:01 ID:eZvTf9Qg0

◇ ◇ ◇

「これでも?」

ざくっ。
右手にメス、左手に肉切り包丁を握って振り回し、目に付く人間に次々と襲い掛かる。

「これでも?」

ざくっ。
命を奪うことにはこだわらない。
一撃入れて、動けなくなった者の口を裂く。

「これでも?」

ざくっ。
稚拙な技術のせいで刃には脂がこびりつき、切れ味は落ちているのだが口裂け女は素手でも口を耳まで裂く怪力だ。
メスを突き立てて無理矢理に頬を裂く。
肉切り包丁で上顎ごと抉り飛ばす。

「これでも?」

ざくっ。
赤いコートが返り血で赤黒く染まり、怪物の狂気を彩っていく。

曙光の鉄槌の面々にとって不幸なのは、彼らが非合法の組織であるゆえに警察をはじめとした公共機関に助けを求める選択肢が存在しなかったこと。近隣に注意喚起や避難などしようとしなかったこと。
怪物は言葉を解してはならない。怪物は不死身でなければ意味がない。そして怪物は正体不明でなくてはならない……そんな演出を口裂け女のマスターを意識してか、未だに口裂け女は警察や電波に一度も囚われてはいない。
クローズドサークルならば怪物のホームグラウンドと言わんばかりに口裂け女は暴れ続ける。

ズオ・ルーことレメディウスとて敵襲に無警戒であったはずがない。
狂化しているとはいえサーヴァントならばサーヴァントの接近には気付く。空間転移ほどの術式で侵入するにしても何らかの前兆がある。
それらをすりぬけるであろう、アサシンクラスが主な警戒対象であった。
事実として一国を統べた忍びの長や、人間社会に潜んだ強欲なる狩人ならば忍び込み、レメディウスに対して何らかのコンタクトを図ることもできるであろう。
しかし、部下の一人が突如サーヴァントに変質し、目と鼻の先にマスターがいるにも関わらず聖杯戦争に無関係なNPCに凶行を働くというのはレメディウスならば絶対に取らない選択……警戒に値しない下策のはずであったのだ。
しかしそれが現実となっている以上手をこまねいているレメディウスではない。

「麗しいお嬢さん、少々おいたが過ぎるんじゃあありませんかね?」

口を裂かれた被害者を追いかけ、口裂け女が階段を下りた先に突如立ち塞がるように一つの声が響く。
重厚な声の主の名はアムプーラという。
道化のような所作と服装をした、レメディウスの喚んだ怪物のひとつ。
虚数空間を渡り歩く生きた魔術式、真性悪魔に等しき化生が迷い出るように口裂け女の前に躍り出た。

「き…れ……これでもォぉォぉォぉォ!!!」

『承認欲求〜白雪姫の母は鏡に問う〜(ワタシキレイ?)』と問うまでもなく。
返り血にまみれ、脂に汚れ、口の裂けた怪物を麗しいというならば。
お前も真っ赤なドレスとメイクで着飾るがいい。
口裂け女の顔が醜く歪み、てらてらと不気味に光るメスと包丁がアムプーラに繰り出される。

「おお、怖い怖い。宴のさなかというのに、癇癪をおこしたレディに刺されてお終いなど……そんなマヌケは晒せんよ!」

二振りの刃をアムプーラはひらりと躱し、カウンター気味に口裂け女の顔へと左手を伸ばす。
そして彼女の裂けた口の端を掴み、交錯の勢いそのままに地面へと叩きつけた。
裂けた口を嘲笑うかのような一撃に、口裂け女の顔に怒りが浮かぶ。
怒りのままに反撃を試みようとするが……そこで口裂け女の動きが文字通り硬くなる。

アムプーラの左手足には〈石骸触腫掌(サルマク)〉という咒式が恒常的に発動している。
触れたものの全身を珪酸質に置換していく石化咒式だ。
人体と組成の異なる大多数のサーヴァント、ましてや対魔力を有するクラスならば本来ならば効くはずもない魔術だが、口裂け女は呪いによって口が裂けたという逸話を持つ固体もあるゆえに魔術への耐性は極めて低い。
加えてNPCから宝具によって作成された口裂け女は通常のサーヴァントよりも人間に近いといえる。
それゆえの、脆さ。

アムプーラに掴まれた口元から口裂け女がどんどん石化していく。
本来の効果に比べれば進行は遅いが、それでも霊核に近い頭部から石化が浸食するのはいかにサーヴァントであっても致命的だ。
反射的なものだろう。石化の起こりとなった箇所に口裂け女は手を触れるが、そんなことで石化を遅らせることができるわけもなく。
むしろ触れた手にも石化現象が起こり、事態は悪化の一途をたどる。
……そして数瞬の後に。
怒りを顔に浮かべ、口が耳まで裂けた女の恐ろしい石像が完成した。

21悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:08:53 ID:eZvTf9Qg0

「なんとまあ。サーヴァントともあろうものが、私などに打ち倒されるとは。これで夜会の参加者が務まるのかね?」

軽蔑の色を隠そうともしない声を漏らし、そのままに口の裂かれた被害者の隣に倒れた石像を踏み砕く。
何か細工でもあるかと警戒したが、復活も反撃も何もなく、口裂け女の石像はエーテルへと還った。
アムプーラの口からまた呆れ混じりの吐息が漏れる。
第六階位(カテゴリーシックス)、第十二階位(カテゴリークイーン)、いずれもアムプーラが触れることすら難しい強者だ。
仮に触れたところで鎧や魔力放出、対魔力などによってアムプーラの咒式など弾いてしまうだろう。
それと比して何たる弱小か。

(雑兵ばかり襲っていたのは何のこともない。サーヴァント戦には堪えられんというだけのことか)

やれやれと首を振り帰還しようとすると、ガーガーとノイズ交じりの電子音声がアムプーラの耳に届いた。
口裂け女に襲われた被害者の持っていた無線に通信が入っていたのだ。
突如襲撃にあった『曙光の鉄槌』の面々は半ばパニック気味に敵影を探し、通信を飛ばし合っていた。
恐らくレメディウスもこれを傍受しているだろう、と思い至ったアムプーラはちょっとした気まぐれで無線に手を伸ばした。

「あっあー、ゴホン。こちら地下三階の駐車場前にて襲撃者を討伐。事態は収束し―――」

そこまで口にしてふとアムプーラは気が付いた。
口裂け女が消失したというのに、聖杯符が見当たらないことに。
続けてアムプーラはすぐそばで倒れている口を裂かれた被害者以外にもう一人、誰かがこちらを見ているのにも気が付いた。
アムプーラの視線がそちらを向く。

死神のごとく巨大な鎌を大上段に振り上げた口裂け女が、怒りを浮かべて立っていた。

「これェェェェェェでェェェェェェもォォォォォォォォ!!!!」

ギロチンの刃の如く鎌が振り下ろされ、アムプーラの頭蓋に突き刺さった。
本来のアムプーラならば容易に回避できたのだが、口裂け女の宝具によってその顔を見たものには威圧のバッドステータスが降りかかる。
悍ましい怪物の顔に怒りを浮かべて襲い掛かる、ましてやそれがつい先ほど自身の手で殺したはずのものとあってはさしものアムプーラ子爵も動揺しよう。

「これで……綺麗」

鎌は見事に脳天から喉元までを貫き、大量の血と脳漿らしきものがアムプーラの顔と鎌を汚していく。
成し遂げた。
大鎌が頭部を抉る致命傷を与えたことで、口裂け女の顔が憤怒ではなく喜悦に歪む。
最後に血脂に塗れたアムプーラにもう一化粧―――そのただでさえ裂けた口をさらに引き裂く―――を施そうと鎌を放して口元に手を伸ばすが。
まばたきのうちにアムプーラの亡骸が消える。
そして口裂け女の背後から墓土の匂いを纏った息の音が。

「いやいやいやいやいや、驚いた。君はたしかに先ほど死んだはずだが?一体どうやったのだ?冥土の土産に教えてはくれまいか?」

どの口で、というような言葉を吐きながら、背後から今度は右手で口裂け女の心臓を貫く。
手応えあり。幻などではない。手の中で命が零れ落ちていくのを感じる。数秒後には間違いなく死んでいるはずだ。
……だがそれはあと数秒は生きているということで。

「こっ、ゴ、っれ■■■■!!!」

流れた血が肺か気管に及び溺れているのか、泡立つような声にならない声を響かせて口裂け女が振り向く。
振り向きざまに手の内に生み出した包丁をアムプーラに突き立て、それを最期の一撃として絶命した。
だが口裂け女がその命と引き換えに放った一撃もアムプーラには何のこともなく。
数秒後には口裂け女は消失し、無傷のアムプーラだけが残っていた。

(ふうむ。私と同じようなことをしている……わけではない、な?)

口裂け女の攻撃がアムプーラに効いていなかった、というわけではない。
アムプーラは自らの行使する咒式〈軀位相換転送移(ゴア―プ)〉によって、瞬間移動と瞬間復元を起こす。
そのため口裂け女に鎌で貫かれようと包丁で抉られようとその程度なんのこともない。
咒式を発動して移動すれば刺さった刃からは抜け出せるし、損傷も癒える。
第十二階位(カテゴリークイーン)とそのマスターとの戦いにおいてもこれを行使し、奇襲・撤退・回復を繰り返していた。
そんな咒式の使い手であるため、てっきり口裂け女も同じようにして〈石骸触腫掌〉を生き延びたのかと思ったが、口裂け女は転移することなくアムプーラの手に貫かれたまま消滅した。
ならば今度こそ仕留めたのか?と一瞬思うが、やはり聖杯符らしきものは現れない。

22悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:09:20 ID:eZvTf9Qg0

「ということは……」

アムプーラが僅かに体を傾ける。
するとそこへ銀の光が奔った。
どこからともなく現れた口裂け女の振り下ろした日本刀だ。避けてなければ唐竹割りになっていたところ。

(……いや全く私と違うわけではない。どこからだ?確かに彼女は空間を超えて転移してきた!)

先ほどと違い意識していたからだろう。
またアムプーラも口裂け女と同じような空間転移の使い手だからだろう。
口裂け女が飛翔スキルでもって空間を超えて『飛んで』きていることにアムプーラは気が付いた。
時計の長針が半ばを過ぎたこの時間に、地面から三つの階層を重ねたこの空間に、彼女を麗しいと言った者が生きていると知っているから。
さすがにその前提条件までは掴めていないが、口裂け女が飛んでくることをアムプーラは認識した。
それは口裂け女の不死性とは別のものなのだが、自身の不死性と似た特性をもつと判断したならば対応も相応のものとなる。

(心臓を貫いた程度では死なない。石化しても生き延びた……ああ、脳はともかく心臓まで石化はしてなかったと。ならば纏めて!)

口裂け女が拙い剣技を繰り出すのを軽く潜り抜け、両の拳で頭蓋と肋骨を同時にアムプーラが貫く。
脳髄を左手が抉った。心臓を右手が貫いた。たしかに霊核がそこにある。
左手の咒式で石化が起こり、右手の咒式が多量の出血を促す。
脳の石化によって思考を奪い転移も封じて、今度こそ間違いなく……そう思ったのに。

「……やれやれまったく、しつこいお嬢さんだ」

またも現れた口裂け女に、さすがに倦怠感がアムプーラの声に混ざる。
ならば今度はどこから転移してくるのか突き止めるかと目の前の口裂け女から少し意識を外して周囲を探る。
そうして周りに気を配ったからだろう。
口を裂かれ、車に乗り込む直前で倒れていた男が背後で立ち上がろうとしているのにアムプーラは気が付いた。
無線の音で意識が戻ったのか。どうしたものか。まあレメディウスがあとでどうとでもするか。放っておけば逃げ出すだろう。
そんな程度の認識しかアムプーラはしていなかった……ために。

「…………ガ、あぁ?」

突如アムプーラの胸を銀色の刃が貫く。
下手人は、口を裂かれて倒れていた男…………口を裂かれ、その果てに怪物(くちさけおんな)になったもの。
アムプーラの目の前にも口裂け女。アムプーラの背後にも口裂け女。
それも背後にいるのは先ほどまで確かに契約者の配下だったはずで、それも重症のはずだった。
慮外の一撃がアムプーラを貫いた。
とはいえ

「…おおう。モテるというのはいいことばかりでもない。まさか背後から女性に刺されるとは」

脳と咒力さえ残っていればアムプーラは絶命には至らない。
一つ潰されたくらい大した痛手ではないのだ。
しかしさすがに目の前に全く同じ姿、それも口が耳まで裂けた異形の女が二人雁首並べて襲い掛かってくるといいのは気味が悪いなんてものじゃあない。

口裂け女がまた日本刀を振り回してアムプーラに斬りかかる。
稚拙。
かわしてアムプーラが反撃を試みる。
だが二人目の口裂け女がフォローするようにアムプーラを襲う。
ならばと〈軀位相換転送移〉で背後に回り、二人目の心臓を貫かんとする。
一人目の口裂け女と目が合った。
まるで二人目もアムプーラの姿が見えているかのようにアムプーラの腕を躱す。
そこに一人目が日本刀を投げていた。
二人目の体が影になってアムプーラにはギリギリまでそれが見えない。
平時なら容易く躱せただろう。だがアムプーラにかかる威圧のバッドステータス、宝具にまでなったそれが今は二人がかりで浴びせられている。
全く同じカタチの化け物二体に襲われるという恐怖が知らずアムプーラを鈍らせ、本来ならあり得ないダメージを浴びせる。
もちろん日本刀に貫かれるなどアムプーラにはかすり傷だ。
だが恐怖は加速する。
日本刀を捨てた口裂け女が二人して次に生み出した刃物は手甲鉤のようなもの……それを装備し振るう姿は、知るものが見れば真祖の姫君や一部の死徒が自らの爪を武器として戦う姿を想起させる。
ここにきて突如、口裂け女の脅威が大きく増していく。
詰んでいたCPUの性能が向上したかのように高速で爪を振るい、二人の口裂け女が得ている情報をノータイムで共有しているとしか思えない連携をし、威圧を受けて鈍るアムプーラを追い込んでいく。
二人がかりであるがゆえに心臓と脳の二ヶ所に同時に刃が掠めることもある。
その中でアムプーラがチャンスをものにし、〈石骸触腫掌〉を一撃浴びせることに成功した、と思いきや。
『末妹不成功譚〜この灰かぶりは小鳥に出会わない〜(ポマード、ポマード、ポマード)』。
口裂け女に二度同じ手は通用するが三度は通じない。
捨て身であるはずのカウンターをノーリスクで成した口裂け女二人の爪がアムプーラの全身を切り裂く。
その刹那。

23悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:10:03 ID:eZvTf9Qg0

「■■■!!!」

二人の口裂け女も、アムプーラも。
諸共に狂戦士の斧が吹き飛ばした。

現れたのはレメディウスの従えるバーサーカーのサーヴァント、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボだ。
サーヴァントの戦闘に巻き込むまいと構成員の退避をレメディウスが優先したため出遅れはしたが、怪物退治となれば仮面ライダーのお家芸といえる。
抜き放った『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』で一瞬にして口裂け女とアムプーラを真っ二つにする。

「諸共とは、またしても容赦のない」

第十二階位(カテゴリークイーン)との闘いでも散々に禍つ式を巻き込んでいたのだから今さらといえばそうだが。
腰から下を斬りおとされたアムプーラが、次の瞬間には当然なんということもなくバーサーカーの隣でどことなく苦い笑みを浮かべている。
対して口裂け女の方は打ち上げられた魚のようにピクピクと痙攣し、すぐに動かなくなり光の粒子になって消えた。
『凍てつく古の暴君(プトティラコンボ)』と『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』には欲望を否定し、生物ならざる怪物を無へと帰した逸話からくる加護の無力化能力があるのを、アムプーラもレメディウス越しにぼんやりとだが把握している。
もしやそれが機能し今度こそ口裂け女も最期かと期待半分飽き半分といったところで場を離れようとするが

「■■■……」

直接武装を振るったからか。歴戦の仮面ライダーの経験か。動物的な直感か。
バーサーカーは斧を握る力を緩めはしない。
そこへ

「私」
   「綺麗?」

口裂け女が二人、サイズだけなら『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』に張り合う大斧を手に襲い掛かった。
一人は能力により空間を飛んで、一人は上階から霊体化して、真っすぐにバーサーカーへ。

「■■■!!」

鎧袖一触、という言葉さえも口裂け女にはふさわしくない。
それほどの差だった。
鎧に届いたところで武装としての神秘も矮小、対人魔技に至る剣術もなく『凍てつく古の暴君(プトティラコンボ)』の鎧に傷などつけられるはずもないが。
バーサーカーが翼を振るい凍気と烈風を放っただけで、二人の口裂け女は氷像となって砕けて消えた。
あとには彼女たちが握っていた斧が二つ残るだけ……やはり聖杯符は現れない。

得たものはないが、何度口裂け女が現れようとこの決着はそうは変わらない。
戦力の逐次投入はほぼ無意味。スノーフィールドの民全てを口裂け女にして絶えず襲い掛かれば話は別だが、敵はバーサーカー一人ではない。
故に、王将は動いた。

駐車場に大きなエンジン音を鳴らして真っ赤なスポーツカーが駆けこんできた。
レメディウスはその車を知らない。
部外者が容易く入れるはずのない場所に知らないものが現れたとあればそれは当然

「私の騎兵が君の歩兵をとった」

助手席に座っていた男がゆっくりと車を降りた。

「君の歩兵は私の騎兵になった」

続けて運転手が姿を見せる。当然のように真っ赤なコートと大きなマスクを身に着けた女……バーサーカーを通じた視界でレメディウスはそれも口裂け女と認識した。

「私の騎兵が君の歩兵を数多奪い、君はそれに道化をぶつけた」

一人だけではない。
さらにもう一人の口裂け女が上階からバーサーカーらを挟み撃つように姿を見せる。

「私に騎兵は君の道化に単騎では及ばず、騎兵を二機、それも私の直属で迎え撃たねばならなかった」

消失した口裂け女の遺した大斧を拾い、乱入者たちは構えをとった。

「そこに君が最強の駒を出してきたとあってはこちらも相応の駒を出さねばなるまい。さあ、命に保険はかけたかね?」

そして戦端が開かれ、怪物たちの刃が振るわれる。

24悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:11:53 ID:eZvTf9Qg0

「パートナーのリードは大切だが、護衛の任を疎かにさせてはいないかね?」

大禍つ式アムプーラが先手を取って動いた。
〈軀位相換転送移〉を行使して男の背後に回り、即座に両の手足に込めた咒式でもってその首を狙う。
サーヴァント口裂け女を殺しきれないならば、とマスターを仕留めにかかるその判断は正しい。
並のサーヴァントとマスターを相手にするなら、という冠はつくが。
残念だが彼が狙ったマスターはズェピア・エルトナム・オベローン―――魔術三大機関の一つアトラス院のかつての長が、死徒二十七祖第十三位という最高峰の吸血鬼へと転じた、並々ならぬ怪物である。

「忠言には感謝しよう、生ける魔術式の御仁。されど心配はご無用、一度舞台に上がったならば最期まで己の役を全うするとも」

攻撃したはずのアムプーラの動きが蜘蛛の巣に囚われたように縫い留められ、ズェピアに伸ばした腕が空しく伸びた。
彼を縛り上げたのはアトラスの錬金術師が好んで用いるエーテライトという極細のモノフィラメントで、最上位の吸血鬼でもちぎれない強度を誇る。
アムプーラの膂力では破壊できず、そして対人に特化した彼の咒式は通じない。

「この私を虫のように縛るか?ヤナン・ガラン男爵なら何と言うか―――」

即座に〈軀位相換転送移〉による脱出を試み、再度ズェピアを強襲しようとするアムプーラだが、転移を終えたその瞬間にズェピアの爪が先んじて彼を引き裂いた。
再び転移と回復を行い継戦を試みるも、移動したその先で今度は口裂け女の刃が振るわれ頭蓋を砕く。
幾度繰り替えしても刃が、爪が、糸が、アムプーラを削り続ける。咒式でのカウンター狙いも、指先にプラズマを宿して糸の破壊を狙っても全てがいなされる。

アトラスの錬金術師の最大の強みは、世界を七度滅ぼすとまでいわれる武装ではなく統計と計算による未来予測にある。
ズェピアは口裂け女を通じてアムプーラの戦闘の観測をすでに終えていた。
膨大な咒力を秘めるアムプーラだが結局のところ彼は禍つ式という情報体にすぎず、規則に反する行動をとることができないため、ズェピアから見れば手の内の読みやすいカモでしかない。
光の速さで飛ぼうが翔けようが―――ニ騎の口裂け女とプトティラコンボの宝具で大きく速度を落としてはなおのこと―――釈迦の掌の孫悟空のごとくズェピアが先んじて打った手で撃墜される。
バーサーカー相手の片手間で、だ。

「■■■!!!」

アムプーラを気遣って、または協力してなど狂戦士が行うはずもなく、バーサーカーは我が道をひた走る。
初見の敵と背後の口裂け女を牽制するように尾と武装を振るい、アムプーラに続き追撃するようにズェピアへと襲い掛かっていた。
これをズェピアは口裂け女の援護混じりとはいえ、純粋な肉体のスペックのみで抑え込む。
いや、口裂け女の戦闘をズェピアが直接操作しているため、実質はズェピアの技能と力でバーサーカーと渡り合っているといえよう。

『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』による重圧が一帯に振りまかれる。
ズェピアの分割思考のうち五つが鈍らせられるが、狂気により汚染された精神が残りの思考を健全に保った。
口裂け女はすでに消滅した二体に続いて重圧を受けるのは三度目のため、宝具によって無効化する。
バーサーカーもまた口裂け女の威圧を受けるが、グリードという在り方と狂化という望まぬ恩恵が彼を守る。
三者三様に敵の初撃を無力化し、結果としてアムプーラだけが重圧・威圧によるバッドステータスを一身に浴び、蚊帳の外でズェピアの未来予測に縛られることになる。

「カット!端役どころか黒子にもなれないハム未満に出番はない!劇の何たるかを学んで出直したまえ道化紛い!」

アムプーラの不死身以外の強みをほぼ封じ、もはや舞台装置以下の背景レベルにしかズェピアは扱わない。
口裂け女の存在意義も、この場ではズェピアの操り人形程度のもの。
人類史を肯定する英霊にして欲望を否定するモノと、人類史を汚染する死徒が殺し合う。

25悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:12:36 ID:eZvTf9Qg0

重圧をレジストしようと『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』が一級の武装であることには変わらず、バーサーカーの振り下ろした戦斧が口裂け女の生み出した斧を砕き格の違いを見せつけた。
武器を失った口裂け女の腕を飛ばし、そのままズェピアへと刃が向く。
だがズェピアはそれを片手で掴み受け止める。
斧刃が僅かに掌を裂くも、死徒の再生能力が傷を塞ぎそのまま戦況の天秤はどちらにも傾かない。

「ハ、ハハハハハハ!!そうか、面白いな第六階位(カテゴリーシックス)!英霊の身でありながら我ら死徒と同質の否定の力を身に宿すとは!!
 反英雄ではないようだが、深淵を覗き込み深淵に飲まれたな!毒を制するために自ら毒に身を染めるとは何たる喜劇か!
 しかし見事、その覚悟は祖たるこの身に刃を届かせた!凡百の英雄ではこうはいくまい。君の英雄譚に敬意を表そう!」

人類史を汚染する死徒に対して、人類史を肯定する英霊が振るう宝具は相性が悪い。
宝具の持つ加護そのものを否定し、もしも担い手が本来と異なったり贋作であったりすれば完全に無力化されてしまうほどだ。
死徒の中でも最上位の二十七祖の一角であるならばサーヴァントの振るう宝具すら受け止めると、ズェピアは自負していた。
だが仮面ライダーオーズという英霊の強度もさることながら、欲望を否定するその特性は死徒に近しい。
そのため宝具の加護を完全には無効化できず、刃はズェピアを僅かながら傷つけた。
死徒の再生能力によってそのダメージが癒えると、そこからは純粋な力比べとなる。

「真祖の姫君にも劣らぬ剛力。また見事……!よい演者(タタリ)になれるだろうな君も」

かつてタタリにより顕現した魔王アルクェイド並の力がタタリならざるズェピアに迫る。
狂化と宝具によって獲得した最上級のステータスで押すバーサーカーだが、ズェピアはかろうじてこれを抑えた。
一瞬の拮抗だが、それすらも気に食わないと言わんばかりにバーサーカーは唸りをあげ畳みかける。
プテラの顎に魔力が集まり、唸りが咆哮に変わるとともに衝撃波を放ったのだ。

「失礼するよ」

クリーチャー・チャンネル(エス)、短距離ながらも空間転移をズェピアは発動しそれを回避する。
魔力の収束を起こりと予見したアトラシアの未来予測による産物だ。
情報と霊子によって形成された電子の海でなら最上級の魔術師(ウィザード)であるズェピアならば魔法に近しい空間転移すらも可能とする。
地上では霊子化して世界を渡るタタリの影響が色濃い中でなければ難しかったが、ムーンセルでアトラシアは水を得た魚の如くより優れた性能を発揮できるのだ。
そうして標的を外れた衝撃波が一帯を呑み込み、アムプーラも口裂け女も吹き飛ばされて戦線から引きはがされる。

「ブレイク!」

回避した先からズェピアが爪を振るい、どす黒い斬撃をバーサーカーに向けて放つ。
攻撃後の隙をつかれバーサーカーは回避行動には移れないが、翼から魔力を冷気として放ち迎え撃った。
だがそれはすでに一度ズェピアの見た技であり、つまりはアトラシアの予見の範疇である。

吹き飛ばされた口裂け女の一人が勢いそのままに乗ってきた赤いスポーツカーを掴む。
自身の数倍のサイズを武器とする狂気の光景だが、今さらそれに驚く者もなく。
アムプーラが特に感嘆もなく腕を振るい、その一撃に介入した。
躱せない……いや、躱さない。
背後から〈石骸触腫掌〉に心臓を抉られながらも意に介さず車を投擲し、口裂け女は嘲笑うようにして振り向く。
そしてなんと自らを貫く腕をさらに深く突き立てて口裂け女は突如自害した。
この奇行にはアムプーラも目を疑う。

投げられた車が投石のような勢いでバーサーカーに向かうが、当然それだけならバーサーカーには取るに足らない。魔力放出によりあえなく撃墜されるだろう。
それはズェピアにも当然の認識であり、もちろん次の矢が飛んでいる。
アムプーラを捉えるべく張り巡らされていたエーテライトの一つが口裂け女の手で車内に伸ばされており、それはズェピアの手元に繋がっていた。
ズェピアがエーテライトを繰ると、車内にあったものが引かれて飛び出しバーサーカーに叩きつけられる……口の裂かれた男の死体が!
バーサーカーは何のことかと魔力放出を続けてそれも砕こうとするが、死体が突如形を変える。そう、口裂け女に変じたのだ。
そして魔力放出(氷)によって二体の口裂け女がすでに砕かれており、『末妹不成功譚〜この灰かぶりは小鳥に出会わない〜(ポマード、ポマード、ポマード)』の発動条件は満たされている。
冷気の中を、それこそ涼しい顔で口裂け女は飛びかかり、飛行スキルの速度にズェピアの膂力も載せたあらん限りの怪力で拳をバーサーカーに叩き込む。
グリード化が進行した肉体からいくつものセルメダルが散らばるほどのダメージがバーサーカーに刻まれた。

26悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:13:02 ID:eZvTf9Qg0

「ひとまず成功、か」

口裂け女に変貌する前の死体を利用して奇襲をしかける。
うまくいけばよし、程度の実験感覚だったが思った以上の功がなったと転がるメダルをいくつか手にズェピアは思う。

口裂け女は三人までしか増えない。
では四人目の口を裂いたらどうなるのか。
口裂け女の三姉妹に欠けができた瞬間に補填され、四人目の被害者は口裂け女になる。
では五人目、六人目と口を裂いたならどちらが優先的に口裂け女になるのか。
早く口を裂いた者が優先して口裂け女にはなりやすいらしい。しかし時折、遅くに裂いた者が先に口裂け女になることもあったためズェピアはそこに法則性を見出そうとある種の実験を重ねていたのだ。
その答えはサーヴァントとマスターのパスの強度にあるらしい。
サーヴァントとマスターの距離が離れるほどに魔力パスの繋がりは弱まる。そのためあまりに離れすぎているとパスが弱くて口裂け女に変じることができないのだ。
つまり、①早く口を裂いた者ほど口裂け女になりやすい ②ズェピアと強くパスを結べる(距離が近い)ほど口裂け女になりやすい ということだ。
だが近くにいる百番目に口を裂いた者と、遠くにいる十番目に口を裂いた者とどちらが優先されるのかなどはデータが足りない。おまけに死徒の魔力回路とパスの調子は昼夜にも月齢にも影響されるため、正確なデータをとるには少なくとも一カ月が必要となる。
結局いつ誰が口裂け女になるかはなんとなくの予想止まり、エーテライトで直結するくらいに強力なパスを結べばすっ飛ばして口裂け女化させることができるくらいが最終認識になる。
それでもズェピアは口裂け女になるものをコントロールし、宝具もあってバーサーカーへ一矢を報いた。
そしてその肉片(メダル)を手にし、その正体にも肉薄する。

(金属で構成された肉体……いや、悪性情報の結晶かこれは。
 それに竜に近しい古代種、原初の生命の要素を人体に取り込むアプローチは新しい人類であるアトラスのホムンクルスに近しい。
 錬金術と、悪性情報の結晶か。シオンやライダーとは違った意味で、私と同じ存在というわけだ)

分割思考のいくつかを分析に数瞬のあいだ割いていたが、バーサーカーの咆哮を合図に全てが戦闘に戻る。
殴りかかった口裂け女は即座に『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』の錆になり、続けざまにズェピアに刃が向けられる。
迎え撃つズェピアは斬撃を爪より飛ばして牽制し、転移してきたアムプーラも流れ様に切り裂き、大きく飛んで距離をとる。

「さて。幕間の歓談とはいかないかね。観ているだろう?第六階位(カテゴリーシックス)のマスター」

離れたところで残った一人の口裂け女に体を引かせ、空を飛ぶことで互いに手の届かない状態からズェピアは話をしようとする。
だが空中すらも己が戦場と翼を広げてバーサーカーは踊りかかる。
狂える竜に言葉を投げたところで、それだけで止まるものでもない。

「■■■!!!」

襲い掛かるバーサーカーの凶刃に対して、ズェピアは冷静に腕を振るった。
それは楽団を指揮するコンダクターか、あるいは舞台を演出する監督のようで。
その所作に応えるように三つの影が現れ、バーサーカーを迎え撃った。
第四階位(カテゴリーフォー)のアーチャー。第十一階位(カテゴリージャック)のバーサーカー。番外階位(カテゴリージョーカー)のバーサーカー。
ナイト・オン・ザ・ブラッドライアー、シャドウサーヴァントに近しい脅威がバーサーカーを襲う。
大鎌が斧を止め、続けざまにメイスが叩きつけられ、続々と放たれる矢が一帯を戦塵に包む。
……しばらくおいて。
戦塵が晴れるとそこにはバーサーカーただ一騎が残っていた。
サーヴァントとはいえ再現された影に過ぎないため、本物であるバーサーカーには遠く及ばない。
もののついで、程度で口裂け女も一体消失させたがその刃はズェピアには届かず。
そして消えた口裂け女も次々と後継が現れて。

「私」
   「綺麗?」

怪物の舞踏は未だ終わらず。

27悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:13:43 ID:eZvTf9Qg0

◇ ◇ ◇

「奇怪な手を打つ男だ」

チェルス将棋の駒をいくつか手の中で転がしながら、レメディウスは一人そう言葉を漏らす。
なぜ、どうやってサーヴァントを潜り込ませたのかも分からず後手に回ってしまった。奇襲を受け守勢に回されるのはレメディウスには久しい。
少しづつ敵を読み進めているが、それでも見切るには至らない。
駒を潜り込ませたと思えば隠れもせず暴れ出す。陽動かと思えば他に動きもない。捨て駒を放り込んだのかと思えば大将自ら撃って出る。戦場で暴れたと思えば対話を求める。
刹那に生きる狂人か、あるいはこの盤面の先すら俯瞰する智慧者なのか。
起死回生の手を打つべく思考を巡らせるが

「……む?」

戦場に違和感を覚える。
バーサーカーと打ち合う敵の動きが先ほどより悪いような。
まるで指し手が代わった、いや力の入れどころを変えたような。
………………部屋の気温が下がったような。



「ごきげんよう」



レメディウスしかいない筈の部屋だった。
そこにズェピア・エルトナム・オベローンが訪れていた。

目を見開き驚愕するレメディウスの反応を、ズェピアは唇に指を当てて静かにと制する。

「改めて。幕間の歓談に来たよ、第六階位(カテゴリーシックス)のマスター」

口元に笑みまで浮かべてズェピアを前に、首筋に冷たい汗を感じながらゆっくりとレメディウスは状況を探る。
サーヴァントと渡り合う男だ。その気になれば令呪を切るよりも早く、咒式の守りなど打ち破り首をとるだろうとレメディウスは理解していた。
だがいつの間に現れたのか?バーサーカーの前には……まだ第三階位(カテゴリースリー)はもちろんのこと、ズェピアの姿も見える。
部屋の場所も漏れるようなことはないはずで、襲撃も含めて自身に虫でもついているのではとレメディウスは体をゆっくりと確かめようとする。
その疑念を予期していたのだろう、ズェピアが右手を振るいその答えの一部を明かす。

「いかがかな?稚拙な人形遊びと笑うかね?先日見た我が娘のそれに劣らぬ出来栄えと自負しているが」

戦闘中にサーヴァントの再現もしたレプリカント・コンダクターの簡易発動、エーテライトを束ねることでズェピアそっくりのヒトガタが現れる。
こうしている間にバーサーカーと戦いかろうじて生き延びているのもこの偽物というわけだ。
そしてこちらの種明かしはしないが、レメディウスの居場所を探ったのもエーテライトを使った情報の搾取によるもの。
錬金術師の武装でもってズェピアはレメディウスと一対一で向き合うことに成功した。

「実のところ、ここへの襲撃は偶然でね。意図せず起こったインプロビゼーションというわけだが、それでも十全に演じてこそ一流というものだろう?
 例えば、降って湧いた小道具を積極的に取り入れることを私はしていきたいのだよ」

戦闘の中で手にした、バーサーカーの肉体から零れ落ちたセルメダルを弄びながらズェピアが語り掛ける。

28悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:14:53 ID:eZvTf9Qg0

「物欲、支配欲、愛欲、その他あらゆる欲望の結晶。悪性情報をこのような形で物質化させるとは面白いアプローチだ。
 恐らくこれは我らアトラスとは思想を異にする錬金術師の発想だな?私とは……三百年ほど時代背景が異なると見た。創作意欲を刺激してくれる。
 上手くすれば作れるかもしれんのだよ。コレを通行料、私のライダーを通路として聖杯に至る裏道が」

悪性情報の結晶、月の癌による熾天の玉座到達の履歴の痕跡……虚数事象、ケースC.C.Cと呼称されるかつてムーンセルを侵した事件があった。
歴史から抹消されたはずのその事象は魔神ゼパルとビーストⅢ/Rの罪業により観測者を得てしまい、逆説的に存在が確定し、先刻ズェピアにも観測されるに至った。
強大な演算力を持つ能力者が、悪性情報を糧とし、固有結界を用いてムーンセルを侵食した手法が成功に至ったならば、同様の手順を踏めば戦わずして聖杯獲得に至る可能性はある。

「神秘はより強大な神秘によって覆されるもの。
 SE.RA.PHという固有結界を、悪性情報を飲み干したライダーという固有結界(タタリ)ならば貫けるやもしれん。
 いかがかな?私と共に月の聖杯に至る裏口を叩いてはみないか?」

ズェピアが掌の上で音を立てていたセルメダルを握りしめ、芝居がかった動きで真っすぐ拳を突き付ける。
魔術師らしからぬ盟の誘いである。
その問いにレメディウスは即座の答えを返せない。
散々に暴れておいてどの面下げて、というのもあるし、魔術に関しては門外漢であるゆえに聖杯へのアプローチがどの程度信が置けるか分からず判断を悩ませているためだ。

「……おまえと私の二人で聖杯に辿り着くということは、最後に聖杯をかけて二人争うことになるとそう言いたいのか?」

ひとまず問答に応じることで一手応じる。
駒を動かさなければ局面は打開できないのだから。

「いいや、恐らくだがその必要はない。先刻私は番外階位(カテゴリージョーカー)のサーヴァントと遭遇した。
 あの蛇…監督役の言う通りにこの地には一四種類の『聖杯符』が存在しており、かつこの聖杯戦争では―――」
「十三種の『聖杯符』を集めた主従が勝者となるということは、全ての主従が倒れることを前提にしていない。終了時点で二組の主従が生存している可能性があり、聖杯の前に複数のマスターが立つ可能性もあるということは分かっている。そのうえで問うているのだ」

レメディスが鮮明に記憶している開戦の儀を追想し、ズェピアの言葉を遮って結論まで引き継ぐ。
それにズェピアは気を悪くすることもなく、好敵手を得た棋士か、あるいは贔屓の俳優を目にした観客のように笑みを深めて言葉を続ける。

「マスターの脱落を必須としていないこのルールでは、ムーンセルは複数のマスターが生存し熾天の玉座に至ることは想定しているとみて間違いない。
 前例を踏襲しているのか何なのかは知らないが、都市を一つに英霊を多数再現するほどの演算性能を持つ管理の怪物がその程度に思い至らない訳がなかろう。
 ならば我ら二人がムーンセルへのアクセス権を同時に得ることも可能性の一つ。過程は外法だろうが。
 ……それを踏まえたうえで、なお殺し合いたいというなら別段無理に止めるつもりはない」

辿り着き、願いさえ叶うのならば手段は問わない。
それは他の主従の願いを蹴落とすことも厭わないということであり、戦わずとも聖杯を得られるのならばその手段が聖杯戦争における反則であっても構まないということでもある。
そして聖杯戦争のルールの外での人殺しにさほどの忌避感を抱くこともない。
ズェピアもレメディウスもその点では共通の悪性である。
しかし無為に争い、消耗するのを愚かと判断する知性はどちらも有している。
つまりは

「おまえは何を聖杯に願う?」

一線を踏み越えることがなければ戦う必要はないが、殺さねばならない敵であるかは確かめなければならない。
すなわち、レメディウスにとってズェピアは新たなる独裁者(ドーチェッタ)となるか否か。ウルムンの害になるか否か。レメディウスの願いを犯すことがないか。
悪竜の逆鱗に触れるか否かを。
その問いにズェピアは簡潔に答えた。

29悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:15:54 ID:eZvTf9Qg0

「世界を滅びから救うため」

アトラスの錬金術師が抱く悲願を。
そして続けざまにズェピアの口から悲痛な叫びが洪水のように溢れ出る。

「未来を見た。答えを見た。その果ての滅びを知った!枝葉のように剪定されて消えて果てる終末を!
 ゆえに我らはあらゆる方法を、手段を、対抗策を以て滅びの未来を変えんと試みた!
 ……それでも!その果てもまた滅びなのだ!手を尽くせば尽くすほど未来はより酷くグロテスクに悍ましさを増し我々を打ちのめす!
 アトラスの蔵が開けば世界は七度滅ぶという!然り、それが我らの抵抗の証だ!世界を救うために世界を滅ぼす兵器を生み出してしまったのだ……
 アトラスの錬金術師はみな、世界の滅びを観測し、狂ったように救いを求め、そして本当に狂って果てる……
 私もまた狂(さと)ったのだよ。奇跡に縋らなければ世界は救えぬと。それが聖杯だ」

バーサーカーと戦いながらも余裕をなくさなかった男が突如発露した狂気が部屋の中の空気を一層冷たいものへと変質させる。
それにズェピアの口にした願いの内容も加わり、レメディウスからもまた内に秘めた願いがこぼれた。

「世界を、救うだと?それは……私と同じ……ウルムンの…私の故郷も救うことになるのか?」

それはこの聖杯戦争の始まりにおいて、火野映司の前でも垣間見せた幼く無力なレメディウスの姿だった。
憎悪に燃える復讐者の根源にある、何より深い愛のカタチだ。
それと同じものが目の前の男にもあるのかと、淡い期待がズェピアに向けられるが

「分からん」

ズェピアはそれに応えない。

「私にも分からない。計算しきれない未来。無限の可能性に満ちた宇宙。それこそが私の欲してきたものだ。一から十まで脚本家の定めた本など面白くもなんともない、そうだろう?」

悲嘆と狂気に溢れた面貌に再び笑みを浮かべてズェピアは語る。
それこそ夢を語るような朗らかな口ぶりで彼の願いの意味を。
そこにある救世の志は本物なのだろうということはレメディウスにも伝わる。世界を救うという意思はある。あるのだが……同時に無関心で無責任な願いであるということも悟る。
アトラスの錬金術師はより長く生きるためならば生物としての変体・退行をしても構わないという思想である。つまり種が存続するのならば数が減ろうが文明を失おうが気に止めることはない。
それと同じようなものをレメディウスは知っている。
経済的に利を得るためならば、ウルムンにおける独裁者の蛮行を見逃している龍皇国や七都市同盟のそれだ。
この男は、世界が救われるためならばウルムンが滅びても毛ほども気にしないだろう。そして、それが必要ならば自ら滅ぼすこともするだろう。

レメディウスの少年のような相に、竜の鱗のような深い皴が刻まれる。
それが決裂の合図だった。

「ならば我はおまえとは組めん。故国の救済がなされるというならこの命などいかようにもしてくれるが、それを意に介さない偽りの平和など認めるものか」

人喰い竜の貌となってレメディウスは三下り半を突き付ける。
それもまた予測した未来の一つだったのか。
つまらなそうな表情を浮かべて、ズェピアも即座に答えた。

30悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:16:37 ID:eZvTf9Qg0

「カット」

その言葉と同時にズェピアの殺意がレメディウスの肌を刺す。

「カット。カット。カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカット」

血がにじむほどにセルメダルを強く握りしめながら、壊れたレコーダーのように言葉を吐き続ける。
怒り。呆れ。失望。負の念に染まった言葉がまた一段と一帯を重く冷たく染め上げる。

「イエス、アンドがインプロの基本というに。あろうことか後先考えぬブロッキングなど愚かの極み。ふん、ハム未満の道化の主人とあっては是非もない、か。
 実に残念だ。滅びに打ち勝てるならばそれでいい。君と私でならば、成功率は0.3%ほど上昇したというのに」
「無意味な問答だ。我が拒絶した以上、その過程に意味はない」

残念というのも嘘か真か。成功率が0.3%上昇したというのも嘘か真か。
有意義な議論も、幕間の歓談ももはや彼方と二人の間で空気が震える。

「無意味といいうなら貴様の願いこそ。故国の救済?貴様の語る国の滅びなど、世界という盤面からすれば剪定されてしかる末端の枝葉にすぎんというに。その程度、アトラシアならばいくらでも観測してきたし、ワラキアならば一夜で成し遂げるとも。
 君はアレだ、私などものともしない優れた棋士かと思ったが、些末な駒の情勢にこだわり大局での敗北を迎えるタイプだな」
「些末?些末と言うのか?ウルムンの民が踏みつけられ、奪われ、犯されているのを些末と!?貴様らが生きる、それだけで犠牲となる民がいるのを見ぬふりなどさせんぞ!」

一人の天才はあらゆる可能性を計測するゆえにあらゆる過去と現在を知り、対極的に未来に滅びしかないことを知り、狂い果てた。
一人の天才はあらゆる記憶を劣化させず、目の前で克明に再現できるがゆえに過去に囚われ、記憶の業火に焼かれ続ける。
どちらもまた自らの世界が枝葉の如く剪定されるのを防ごうとその手を朱に染め続ける者であり、それゆえの決定的な破局があった。
ズェピアは世界が救われるならばウルムンを滅ぼすことなど厭わない。
そしてレメディウスには世界が救われようともウルムンが滅んでは意味がない。
まさしく見据える盤面が違っている。
竜と鬼は相打つしか道はなかった。

「脚本家、かつ錬金術師。生み出すものである自覚はあるが、しかし情報も血も奪うものになってしまって久しい。お菓子の家を与え、肥やし、奪うことができないならば……今喰われても文句はあるまい?」
「いいや、それは叶わない。貴様は我を喰らえぬほどに力の差があると悟り、こうして向き合うことを選んだろうに」

覚悟の差とは言えなかった。
賢しげに批判をするだけで何もできず、なそうともしない人間であれば恐れるに足らないと一蹴できる。
だが世界を救わんとして狂った吸血鬼(ドラクル)の覚悟は、レメディウスが無視するにはあまりにも大きな障害となる。

「喰らうのはこちらだ。竜の巣穴に潜ることが、虎穴に入るよりも安全だとはよもや思うまいな?」
「戯言は舞台袖で溢したまえ。復讐の念は捨てず、故国の救済をなど聞こえのいい理念を謳い、自らを着飾る。悪竜を騙るには人間的がすぎるぞ君は」

このやり取りで互いの殺意がピークに達したか、次の瞬間にはズェピアの爪がレメディウスの首へと振るわれた。
その一撃が空中で阻まれ、ガラスを砕くような音を立てる。
それでも真っすぐ爪は進み続けるが、進行速度は確実に低下していた。

ズェピアを阻む壁の正体はレメディウスの張る干渉結界だ。
彼の生きる神秘の薄れた世界のものとはいえ、長命竜(アルター)の防御能力と同等のそれは死徒二十七祖のズェピアを以てしても容易く敗れるものではない。
それでもいずれはズェピアの爪はレメディウスを害するに至ったろうが、今この時においてはたどり着くには至らなかった。

31悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:17:28 ID:eZvTf9Qg0

「■■■!!!」

悪竜の咆哮が響き渡り、二人の間にバーサーカーが降り立った。
ズェピアの爪は『凍てつく古の暴君(プトティラコンボ)』の鎧に阻まれ、誰にも傷をつけることなく終わる。

「…まあ彼女たちにしては持ちこたえた方か」

怪物に過ぎない口裂け女は、怪物退治の逸話を持つ大多数の英雄に不利を強いられる。
数分持ちこたえただけで十分な戦果といえよう。
うなりを上げるバーサーカーと睨み合い、角と爪を数合交えると弾けるように距離を置いた。

「なにやら黒の姫君に仕える魔犬を思わせるな君は。同種の獣か?あらゆる意味で私の同門らしい、悪竜(ファブニール)もどきめ」

エーテライトや衝撃波を話ながらもレメディウスに向けて放つが、全てバーサーカーと干渉結界に防がれる。
レメディウスとの位置関係が悪く魔力放出をバーサーカーはみだりに使えないが、攻撃力防御力共に優るバーサーカーが参じた時点でズェピアの不利は否めない。
レメディウスの言う通り、力の差は明白である。

「愚かだな。我が無意味に貴様と問答などする訳があるまい」

バーサーカーが第三階位(カテゴリースリー)を倒して合流すれば情勢は決まる。
ズェピアと一対一でさえなければいいレメディウスなら当然とる選択だった。
だが

「…ふむ。逆に問うが。私は無意味に君と問答をするたちに見えたのかね?」

サーヴァントを従えれば有利に傾くのはズェピアとて同様だ。
時間があるならば、彼とて呼ぶ。

「これでも」
「綺麗?」

二体の口裂け女が空を飛び刃を振るう。
かつて曙光の鉄槌の構成員であったものが、ズェピアの手駒へと転じ、霊体化して壁を越えて真っすぐレメディウスへと。

「■■■!!!」

そしてこれも幾度目の光景か、バーサーカーがそれを容易く屠る。
それだけならば見飽きるほどに起きた戦況、だが

「ワ、タ、シ……」

もう一人の口裂け女が、ズェピアを抱えて飛び去っていく。
ここまで見せていなかった三人目という駒の投入が戦況を動かす。
二人目がいたというならば三人目の存在も予想して然るべきであろうが、サーヴァントを複数召喚し従えるという規格外の所業は目にするまで信じがたいというのもまた道理というもの。
それに動じず反応を見せたのは、すでに理性を喪失したという哀しき強みを持つ故か。
二人を倒し、続けざまに三人目も逃がすまじと戦斧を振るうが

32悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:18:06 ID:eZvTf9Qg0

「キャスト!」

悪性情報を実体化させるアトラシアの秘儀、レプリカント・コーディネーターにより再現したシャドウが再びバーサーカーへと牙をむく。
ズェピアの儚い抵抗、に思われたそれにより再現されたのは、第九階位(カテゴリーナイン)のアサシン……アンクの姿だった。

突然再現された戦友の影に、斧を握る映司の腕の動きが一瞬鈍る。
だが次の瞬間

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!」

一際大きく長い叫びをあげて、『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』を幾度も振るい目前の偽物を粉微塵に砕き散らす。
何度も何度も、徹底的に。
グリードを滅ぼす紫のメダルの本能か。あるいは戦友を騙られたことへの強い怒りか。
その答えは、当人が狂気に染まっている以上誰にも伝わらず、ただ雄叫びを上げる竜の恐ろしい姿がそこにあるだけ。


―――ご満足いただけたかな?―――


どこからともなくズェピアの声が聞こえてくる。
バーサーカーがシャドウを砕いているその間に決定的に距離をとったズェピアは、新たな口裂け女を呼び寄せ、そして散会していた。
曙光の鉄槌のアジトから三台の赤いスポーツカーがエンジン音を立てて走り去っていく。
もちろん、バーサーカーの翼ならば今からでもすぐに追いつける。
だが三台全てを口裂け女が運転しているため、サーヴァントの気配を追った先にズェピアがいるとは限らず、そして口裂け女を一人倒したところで大した痛手にはならないことはすでにレメディウスも理解している。
そも、四人目五人目の口裂け女がいないともレメディウスには断言できず、三台のスポーツカーすらも囮の可能性もある。
またバーサーカー単騎で追わせれば、今度こそ生じた隙を別の口裂け女に突かれかねない。
その可能性は拠点がばれた以上常に付きまとう。
そして何より、どこまで信用できるかは分からないが聖杯戦争に勝ち抜かずとも聖杯を手にする可能性をズェピアは示唆していた。
放っては、おけない。

「……追うしかないな」

それも全力で。
盟を結んだティーネ・チェルクも呼び寄せて、何としても仕留めなければならない。
近くにまだいるであろううちに、急いで―――

「また、刃を交えるのかね?」
「アムプーラ……」
「おっと、そんな咎めるような口ぶりになってくれるな。サーヴァントはともかくマスターの方が怪物染みて…いや文字通りの怪物だったのは君とて気付いているだろう?」

ズェピアの前では猫の手どころか赤子の手のようにひねられていたアムプーラの醜態にはさすがに双方何も感じずにはいられない。
マスターが異常だったのを含めても、だ。

「彼の方が私にはむしろ分かりやすい。人ならざる種が人を食い物にして繁栄しようとしている。弱肉強食のあるべきかたちだ」
「何度でも言う。弱者が喰われるのを否定するのが私だ」
「その不等式が私には理解できない」
「理解などいらぬ。私とて、独裁者の言葉を理解するつもりなどない」



―――君はアレだ、私などものともしない優れた棋士かと思ったが、些末な駒の情勢にこだわり大局での敗北を迎えるタイプだな―――

呪いというほどではないが。
彼の拒絶からくる不理解と敗北の予兆をを、ズェピアと同じく憂いた天才がレメディウスの敵にはいた。

33悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:19:45 ID:eZvTf9Qg0
【E-7 湖沼地帯 『曙光の鉄槌』隠れ家/一日目 午後】



【レメディウス・レヴィ・ラズエル@されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons】
[状態] 健康、魔力消費(小)
[令呪]残り二画
[装備] 魔杖剣「内なるナリシア」
[道具] 超定理系第七階位咒式弾頭〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉×2
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を掴む。そのために手段は選ばない。
1.ズェピアを追い、仕留める。出来ればティーネの協力も得たい
2. 〈六道厄忌魂疫狂宴〉で最も効率的な戦果を得られるよう、準備を進める。
3. そのためにも当面はティーネとの同盟関係を活用する。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は潜伏中の破壊活動組織『曙光の鉄槌』の党首です。砂礫の人食い竜ズオ・ルーの異名を有しています。
※アムプーラ麾下の禍つ式の軍団と咒式による契約関係を有しています。半数近くはセイバー(アルテラ)に倒されましたが、禍つ式の具体的な総数については後続の書き手さんにお任せします。
※第十二階位(カテゴリークイーン)のセイバーの宝具使用を目撃しましたが、まだ真名を把握していません。また彼女たちと同盟を結びました。
※第三階位(カテゴリースリー)のサーヴァントの宝具、ステータスを目撃しました。真名把握まで至ったかは後続の方にお任せします。


【バーサーカー(火野映司)@仮面ライダーオーズ】
[状態] 仮面ライダーオーズ プトティラコンボに変身中(※令呪により常時暴走)、ダメージ(小)、アンクの像を破壊したことによる感情の変化
[装備] 『今は無き欲亡の顎』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:なし(レメディウスに従う)
1.――――
2.■■■■■■■■■■■!!!
[備考]


34悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界 ◆yy7mpGr1KA:2020/07/12(日) 00:20:07 ID:eZvTf9Qg0

「さて。舞台は盛り上がりを見せてきたが。私が上手に退くのを黙って見ているような大人しいタチではないだろうな彼は」

口裂け女の運転する車内で、セルメダルを弄びながらズェピアはごちる。

「殺し合うにいやはないが、今は創作に注力したいところ。となると、私以外の誰かを舞台に上げて彼らの相手を願いたいところ……」

走るズェピアの目に、歩きながらスマートホンを操作する通行人の姿が入る。
即座にエーテライトを飛ばしてそれを奪い、続けざまに電話をかける。
後ろから響いてくる抗議の雑音など無視だ、無視。

「国際テロリズム対策課というのはこちらでいいのかな?曙光の鉄槌なるテロ組織をご存知かね?」


【E-7 湖沼地帯 /一日目 午後】



【ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD(漫画)】
[状態] 魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 日除けの礼装(赤現礼装風の外套)
[道具] セルメダル数枚
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を以て再び第■法に挑まん
0.善意の市民の通報というやつだよ
1. 『口裂け女』の噂を広め、ライダーの力を増す。
2. 次善策にありすを『都市伝説』に組み込む。
3.悪性情報の活用に大いに期待。
[備考]
※『死神を連れた白い少女の噂』を発信しました。ありすや口裂け女への影響はまだ未知数です。
※『第四階位』、『第六階位』、『第九階位』、『第十一階位』のステータス及び姿を確認しました。
※ムーンセルにアクセスし悪性情報、ムーンキャンサーによる熾天の玉座アクセス未遂のことを知りました。今のところペナルティなどはないようです。

【ライダー(口裂け女)@地獄先生ぬ〜ベ〜】
[状態]
[装備] 赤いスポーツカー
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:殺戮
1. 私、綺麗?
2. これでも?
[備考]
※口裂け女の運転する三台の赤いスポーツカーが曙光の鉄槌のアジトからバラバラに逃げています





[全体備考]
※曙光の鉄槌アジトの場所と、中で何らかの騒ぎがあったことがズェピアから警察の国際テロリズム対策課に通報されました

35名無しさん:2020/07/12(日) 00:21:10 ID:eZvTf9Qg0
投下終了です

36 ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:52:09 ID:LX7W3jaY0
天樹錬、アンク予約して投下します

37異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:54:18 ID:LX7W3jaY0


『アサシン、3号館の食堂でサーヴァント。それも三騎』

 雲の切れ間から覗く陽光が暖かみを帯びてくる、午前も終わろうかという頃だった。
 小さな教室に数十人ばかり集められたそこに天樹錬の姿はあった。その視線は板書が連なる黒板ではなく、教室の真横にある窓に向けられている。
 窓の外に見える景色は平穏そのもので、頬杖をついてそれを眺める彼の所作も安穏としたものだったが、脳内で発せられたその声は緊張感を孕んだものだった。

『今朝のガキ……ミサカミコトか。にしても随分と釣れたもんだな』
『だね。そのために泳がせていたとはいえ、期待以上だ。それも好都合なことに"気配遮断"持ちまで特定できた』

 サーヴァントには特有の"気配"というものがある。
 高密度の魔力体であるサーヴァントはどうしても強大な魔力反応が滲み出てしまうものであり、同じサーヴァント同士、あるいは魔力探査の術を持つ魔術師であれば数百m単位での感知が可能となる。
 無論中には例外はあり、その一つがアサシンに代表される一部のサーヴァントが持つ"気配遮断"のスキルなのだが。

『状況を伝えるよ。御坂美琴ともう一人の女子生徒……名前は巴マミ、彼女は"気配遮断"持ちのサーヴァントのマスターになる。その二人が口裂け女のウワサについて話してる時に襲撃があった。口上も一致したよ、恐らくは"口裂け女"の都市伝説に該当するサーヴァントだ』
『マスター同士で早速の接触か。それで現状は?』
『……ごめん、ゴーストの知覚が弾かれてる。多分人払いの魔術か何かだ。詠唱は聞き取れなかったけど、巴マミが魔術師である可能性大。
 とりあえず近づいて、状況が動くのを待ってほしい。頼める?』
『こそこそ隙を伺うのも、待ちの姿勢もいい加減飽き飽きだが……いいだろう、付き合ってやる。
 お前の"策"が功を奏したのも事実だしな』

 高圧的な言葉とは裏腹の、満更でもない声音に錬はひとまずの安堵を覚える。

『気を付けて。気配遮断が働いてるとはいえ、中で戦闘が行われてる可能性が高い。いざとなったら……』
『誰にモノを言っている? まあお前は大船にでも乗った気で待っていろ。首級の一つくらいは手土産にしてやる』

 不遜な含み笑いが聞こえたと思った瞬間、念話を打ち切られて錬の意識が現実に帰還した。
 はぁ、とため息をひとつ。淡々と進む講義の声を聴き流し、ぼんやりと思考する。

38異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:55:02 ID:LX7W3jaY0

(待ちの構えを取ったのが僕の判断だけど……それにしても動くのが早いな)

 聖杯戦争に挑むのは十三の主従。自分と元々把握していた御坂美琴を除けば十一。スノーフィールドの広大さと地盤の確保、それらの観点からもう少し事態の推移は緩やかになると考えていたのだけれど。

(けど好都合と言えば好都合。僕の備えも無駄にはならなかったわけだし)

 安穏と椅子に座り、益体もない思考に没する錬は、しかし同時に膨大な量の情報を現在進行形で処理していた。
 左手に握った情報端末を机に隠し、額の裏の"もう一つの思考主体"の意識を集中させる。
 動き始めた状況に対し、適切な行動を取るために。





   ▼  ▼  ▼





 ゴーストハックという技能がある。
 仮想精神体制御特化型魔法士《人形使い》が使用する情報制御であり、端的に言えば「無生物を生物化させ支配下に置く」という異能である。

 詳しく原理を説明しよう。
 仮想精神体……簡易化された模倣意識を情報の海を通じて対象に送り込み、情報構造体をハックすることで対象を疑似的に生物と定義。情報の側から支配することであらかじめ設定された行動目的に応じて自立行動させるという代物だ。
 大戦においては主に自立兵器群に使用され、一般兵の部隊に多大な戦果を挙げた情報制御だが、いくつか欠点が存在する。
 中でも最たる欠点は、生み出されたゴーストは何もしなければ10秒程度で消滅するということだ。
 仮想的な精神体は極めて寿命が短い。継続的な思考が為されなければ情報の海に存在情報を拡散させ、呆気なく消え去ってしまう。
 大戦では自立兵器を制御するAIそのものを乗っ取ることでこの問題を解消していたが、閑話休題。

 つまるところ何が言いたいかといえば。

39異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:55:35 ID:LX7W3jaY0

「学生用の共有ネット……前時代的だけど便利なことに変わりはないよね」

 手元の情報端末に表示されているアクセス履歴をちらりと見遣り、呟く。
 そう、便利なことに変わりはない。使えるものは全て使う。

 結論だけを言えば───学園内の校舎は、現状その全てが"ゴースト"として錬の支配下に収まっていた。

 形は変わらず、外見上は元より物理的な変化は一切ない。しかしその実、情報的な側面から見れば校舎の変化は如実なものだった。
 あらゆる場所に錬の仮想精神体が入り込み、校舎が受ける物理接触をデータ化して逐一錬のI-ブレインに伝えていた。今や校舎は錬の体内そのものであり、内部で発生する事象は全てが筒抜けとなっているのだ。
 体重移動、大気の震え、質量物体の感知にその他諸々。どこに誰がいるのか、何を話しているのか、その全てが錬にとっては手に取るように理解できた。
 情報構造の維持には共有ネットワークのメインシステムそのものを利用させてもらった。簡易的な思考しかできない、技術的には数百年は以前の民間レベルの物ではあるが、構造体の維持には全く問題ない。
 なにせ物理変化を一切起こさない、戦闘用ですらないゴースト化であるのだから、必要な演算処理は極めて微小なもので事足りる。

(御坂美琴の使役サーヴァントはバーサーカー……だけど、質量移動と運動エネルギーの多寡から言って近接ステータスは大したことない。宝具を加味しなければアサシンで十分に対処できる。問題は巴マミのほうだ)

 情報取得の面から言って圧倒的な優勢にある錬だが、しかしその表情は優れない。油断はできない、できるわけがない。
 聖杯戦争における戦力主体はあくまでサーヴァントにあり、そして巴マミが使役するサーヴァントはあまりにも規格外に過ぎた。
 御坂美琴のバーサーカーと同じくしてその身体能力はおおよその部分を計ることができたが、明らかにアサシンを上回る高水準。更に高速の矢をつがえていた事実からアーチャークラスであることが推察される。
 何より異様なのは、そのスキル。
 襲撃者と戦闘状態に陥ってなおアサシンが感知できなかった域の気配遮断スキル。それは断じてアーチャークラスが持っていい代物ではない。
 考えられる可能性は二つ。神代の大英雄に匹敵するステータスを持つアサシンであるか、他クラスのスキルさえ使用可能な規格外のアーチャーであるか。
 どちらにせよ安易に手を出していい相手ではなく、ならばこそ様子見の姿勢は当然のものと言えた。

40異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:56:18 ID:LX7W3jaY0

(直接目で見なきゃステータスが分からないってのがもどかしいな……せめて視覚共有が使えたら話は別なんだけど)

 基本的な魔術の一つに、使い魔との視覚共有があると聞く。あるいは霊子ハッカーたるウィザードでも同じ術式が使えるらしいが、どちらにせよ錬にとっては専門外だ。
 せめて目覚めたのが本戦開始直前でさえなければ、ウィザードの真似事くらいは習得できたかもしれないが。

『っと、馬鹿が飛び出てきたな。レン、そっちでも確認できたか』
『うん、大丈夫。これ多分口裂け女……襲ってきた側だね。うわ、空まで飛べるんだこいつ……』

 ゴーストハックを通じた錬の知覚は、人間大の質量が中空を翔ける大気振動を感知していた。
 0と1に数値化された知覚領域にぽっかりと空いた穴のように感じられた、人払いの魔術結界。そこから唐突に現れ出でたのは、御坂美琴のバーサーカーとも巴マミのサーヴァントとも違う反応である。
 その速度は大したものではなく、アサシンであるなら容易に追跡が可能だろう。

『アサシン、とりあえず今逃げた奴を追いかけて……』
『言われるまでもねえ。レン、あいつだけは潰すぞ。絶対に逃がさねえ』
『アサシン?』

 ぶつり、とまたしても一方的に切られる念話。アサシンらしくもなく……いや、らしいのだろうか? 静かな怒りに満ちた声音を思い出し、錬は嘆息する。
 手負いかつ格下、更に気配遮断からの不意打ち。万に一つもアサシンが遅れを取る道理はなく、そこに関しては安心していられるのだけど。

(アサシンはああ見えて結構理知的だから、心配はしてないんだけどさ。でも思い込んだら直情一直線だからなぁ……)

 うん、やっぱり心配かもしれない。

 などと考えていれば、数分もせず返事が返ってきた。

『おい錬。片づけたが、セルメダル一つ落としちまった。あとで回収しとけ』
『あーはいはい。一応授業中だから、後でね。そっちこそ聖杯符の回収忘れないでよ?』

41異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:56:42 ID:LX7W3jaY0

 期待通りというべきか、アサシンは口裂け女の討伐に成功したらしい。
 それはつまり、サーヴァントを撃破した際に手に入る聖杯符の獲得を意味する。
 問題は山積みで特に学内のマスター二人をどうするかということに悩まされるが、ひとまずは一歩前進と言うべきだろう。

 一歩ずつ着実に、堅実に行こう。そう考えた錬であったが。

『…………ねえぞ』
『え?』

 続くアサシンの言葉で思わず呆けた声を出してしまう。
 一瞬で冷える頭。次いで浮かび上がる思考と仮説。

 偽物であるのか、ムーンセルの認識さえ誤魔化す術を持っているのか、サーヴァント級の捨て駒を扱えるのか。
 あるいは単純に、殺されても生きているのか。
 
 そこまでを考えた錬の脳裏に、ふとネットとゴシップ記事の記憶が蘇る。

(口裂け女は三人姉妹……まさか、ね)

 都市伝説は人の噂、つまりは不特定多数の人間によって尾ひれがついたものであり、内容は荒唐無稽な代物だ。
 けど、だからと言ってそれが妄言であると切り捨てるわけにもいかない。
 なにせ、人の信仰と認識がカタチを為すのは、サーヴァントとて同じなのだから。

『仕方ない。アサシン、まだしばらくそのあたりで警戒を。授業が済んだら……合流して改めて調べものかな。今度は口裂け女と、念のため聖杯符についてもかな』

 あるいは、御坂美琴と巴マミに接触するのも手か。
 潜伏と接触、双方のメリットを天秤にかけつつ、錬は終了を告げる講義に教材を片づける手を動かすのだった。

42異文化コミュニケーション ◆GO82qGZUNE:2020/07/12(日) 19:57:43 ID:LX7W3jaY0

【D-5 中学校/1日目 午前】

【天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態]I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.マスターの少女(御坂美琴)を利用して他の陣営を引きずり出す。
3.口裂け女を倒しても聖杯符が手に入らなかったことに戸惑い。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。
※御坂美琴、巴マミをマスターだと認識しました。
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。
※学内の人間の個人情報を粗方把握しています。
※御坂美琴のサーヴァントがバーサーカー、巴マミのサーヴァントがアサシンかアーチャーであると推測しています。
※バーサーカー(フランケンシュタイン)とアーチャー(ケイローン)の近接ステータスを粗方把握しました。
※現在中学校の校舎全域をゴースト化しています。


【アサシン(アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態]ダメージ(セル一枚分、極微小)
[装備]なし
[道具]欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。今後も場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]
※口裂け女の問いに薄汚い虫けらと答えました。恨まれています。

43名無しさん:2020/07/12(日) 19:58:03 ID:LX7W3jaY0
投下を終了します

44 ◆aptFsfXzZw:2020/07/12(日) 22:48:37 ID:i8gujU2.0
スレを見て驚き、一日の間に投下が2作品も!
◆yy7mpGr1KA氏、◆GO82qGZUNE氏、どうもありがとうございます! 企画主冥利に尽きます。

> 悪竜(ドラゴン)と吸血鬼(ドラクル)と剪定される世界

 オーズ風タイトルで竜と鬼と彼らが守りたい宝とするもの。鬼ヶ島LANDイベを思い出しますが、内容にもそれは反映されていたり。
 日本とアメリカにおける、現代都市伝説のスーパースターというべき口裂け女VS殺人ピエロのクロスオーバーバトルにも見える緒戦が既に面白い。アムプーラは都市伝説キャラではありませんが、神出鬼没で不死身という殺人ピエロそのものと言えるようなキャラクターですし、アニメで付いた重厚な声(意味深)の印象もあって口裂け女との殺し殺されが大変見応えがありますね(ぶっちゃけアムプーラは都合の良い不死身でいつ死んでもおかしくないので、先が読めない面白さも結構あったりします)

 サーヴァントでもマスターでもない使い魔とはいえ、それなりに強キャラでもあるアムプーラが最初こそ口裂け女を圧倒しつつ、徐々に戦場から蚊帳の外へと追いやられていくのは参戦主従というメインを持ち上げる名脇役の仕事だったと思うのですが、しかしズェピアの評価はハム未満と手厳しい。禍つ式の規則から逸脱できない性質が天才だったズェピアにとっては忌むべき予測可能な未来にも通じるので、嫌うのも当然なのかもしれませんが。
 一方、そんな規則正しく、善が善として報われる世界を求めた天才が彼の主のレメディウス。同じく世界の救済を願いながら、規律のない地獄を憎悪する竜と、自由のない未来に絶望する鬼は相打つしかない。見事な対比です。独裁者は人の生き血を飲んで生きる人食いの怪物として糾弾された原作の文脈も拾ったナイスな決裂描写ですね。

 そのされ竜世界で人間の限界を極めた勇者でもまず太刀打ちできないアムプーラさえ、「俺は人間をやめたぞー! ジョジョ―!!」と鎧袖一触とする圧倒的な強さのズェピアですが、レメディウスが従える邪竜モドキことプトティラコンボには流石に分が悪い。それでも口裂け女のトリッキーな特性を活かし、一矢報いるのみならずやりたい放題して帰って行くのは流石の一言。ガラへの言及も、型月世界でも上位の錬金術師がラインの黄金の如きオーメダルに触れるのはワクワクしますね。
 でも、一番フリーダムさに笑ってしまったのはやはり最後の盗んだスマホで「もしもしポリスメン?」しちゃうところ。こんなの反則です!

 真面目な話としてはレメディウス組の受けた影響。曙光の鉄槌ほぼ壊滅してそうな口裂け女の被害者数。口を裂かれて呪われた生存者の扱いも気になりますが、通報もされてしまった以上、大量破壊兵器抱えて早速穴蔵から出ざるを得なさそうで、さらに展開が加速しそうです。
 そしてアンクの像を壊すことになった映司。正気を失っている状態ですが、完全に何もかも判別できないわけでもないはず。
 元より怪物退治の都市伝説とも言うべき仮面ライダーの端くれであり、そしてレメディウスと同じく『些末な駒』のことまで強欲に拘った彼は狂化などなくともズェピアらと対立し、先達として何か言葉を授けてくれたのかもしれませんが、その機会を自ら封じてしまったレメディウスに対してどう接して行けるのか。何もできないのか。そして自分にとってのアンクの真似事をしてみようとしたら失敗したところにアンクを思い出させられてどうなるのか。非常に先が気になります。

45 ◆aptFsfXzZw:2020/07/12(日) 22:49:04 ID:i8gujU2.0

>異文化コミュニケーション

 そのアンク組が口裂け女を一体倒した頃の様子が描かれるこちらのSS。原作でのプトティラとアンクの戦力差はそうないはずなので、サーヴァント化によるクラス補正と、マスターの魔力量による出力差が口裂け女一騎を相手に一撃を受けてしまうアンクと、二匹が奇襲してきたくらいならもう冷気出しているだけで触れるでもなく瞬間粉砕できちゃうプトティラとの差になって居るのでしょうね。

 では魔力のない錬は外れマスターなのかというと、いやいやそんなわけないでしょと即否定せえざるを得なくなる今作の所業。学内共有ネットを活かして校舎丸ごとゴーストハック……って怪物じみた情報収集能力を披露。それだけが強みじゃないのだから末恐ろしい万能性。
 既にアンクとの模擬戦でサーヴァントのスペックを実測しているという前振りを活かすかのような、ステータスを目視できない状況でも付随する物理現象の情報を解析することで近接ステータス程度なら把握できてしまう驚異的な解析能力。NARUTOで言うところの物理感知で、情報収集能力の高さが見えます。彼らにとって貴重な魔力資源となるセルメダルもどこに行ったかを見失うことはまずなさそうで一安心。

 しかしそんな錬でも警戒するしかないケイローン先生は流石。威圧を受けていても近接ステはオールB以上なのでアンクを凌駕する高水準という測定も正しく、解析の精度も凄いですが、なにせケイローン先生も高ランク千里眼持ちですし……加えて神授の智慧による万能性は錬を凌駕するかもしれません。直接戦闘力では企画内だけでも先生を凌駕するステータスのサーヴァントもままいますが、最優のサーヴァント候補としてはやはり堅いか。
 そんなケイローン先生に対し、蒼銀のフラグメンツ原作でアーラシュの矢を無効化したブリュンヒルデよろしく、彼女と同ランクの魔力放出(炎)を持つアンクは本来なら有利に立ち回れたのかもしれませんが、最初に述べたようなマスターの魔力量の差が有利不利を変えてしまった面はありそうです。とはいえ、逆に錬の魔力量が充分あれば中学校は一方的な彼らの狩場になっていたかもしれないということなので、よくバランスが取れていると見るべきかも。

 そんな慎重な錬からも大したことないと判断されてしまうフランちゃん(私の中のイメージでも企画内描写でも比較すると単純体術はアムプーラにも劣ってしまうっ)とそのマスターの美琴っちゃんの明日はどっちだ!?


 以上、改めて、お二方とも素敵な作品のご投下ありがとうございました!

46 ◆yy7mpGr1KA:2021/05/31(月) 20:02:09 ID:Ge1yTQGk0
レクス・ゴドウィン&剣崎一真、夏目実加&ロムルス、ズェピア&口裂け女予約します

47 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/04(金) 14:56:53 ID:NY2hbav60
すいません、ありす&ジョーカーアンデッドを追加で予約します

48 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/07(月) 09:12:12 ID:xw6A54ss0
延長お願いします

49 ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:40:28 ID:u8pAsDrg0
投下します

50BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:42:32 ID:u8pAsDrg0
*

――――――戦士の話をしよう。

目覚めた時、戦士は神に愛されていた。

*

愛の証は、その身に走る黒い紋様。
刻んだ印は鎖の如く、戦士のさだめを縛り付ける。

自由がない。戦士は己と世界を隔てる壁へと挑んだ。

自由などない。壁を越えた戦士は神の意志に裁かれた。

神の定めた運命を、いかにして変えるのか?
――――――戦士は人の身にして神へと至った。


*

51BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:44:48 ID:u8pAsDrg0

広い部屋、警察署の署長室で大いなる戦士二人が向かい合っている。
只人ならば持て余してしまうスペースだが、かつて神へと至った男二人はそれを埋め尽くしてしまうかというほどの存在感を放って言葉を交わしていた。

「改めて、願ってもない申し出に感謝いたします。第十三階位(カテゴリーキング)のランサー」
「よい。民を守るのは皇帝(マグヌス)の務め。マスターに従うのはサーヴァントの務め。お前たちと肩を並べるのも私(ローマ)の本懐である」

夏目実加とランサーによる盟の申し出をゴドウィンとセイバーは快く承諾した。
軽いフットワークで動き回れる立場の実加が協力者として魅力的だったのもあるし、何より戦いを通じて二人の在り方が自分たち同様に罪なき人々のを助けるものだと共感できたからだ。
そうして協力関係となれば話は早い。
与えられたロールとしてテロリズム対策課での仕事がある実加だが、署長であるゴドウィンからの呼び出しとあればそちらを優先しても表だって文句を言えるものはいない。
聖杯戦争関連と思わしき情報、例えば口裂け女に関連するものなどを部下を通じてゴドウィンが把握できたとして、それを外部の協力者に流すのはご法度だが、担当部署が異なるとはいえ同じ警察官である実加に共有するのは大きな問題ではない。
世界を超えた法の守護者たちの同盟はここに成った。

「それで、私(ローマ)と二人で話したいこととは何か」
「…セイバーは承知しているので同席しても構わなかったのですが。彼女に聞かせるには少々酷かと思いまして」

この場にいない実加とセイバーの二人は署内のトレーニングルームで向き合っている。
表向きには口裂け女事件の捜査資料を共有するために待たせている時間の有効活用ということで。
ランサーもクウガがブレイドに仮面ライダーとしての戦い方を学ぶのは必要なことであるとして二人を送り出し、ゴドウィンとの対談に応じた。

「彼女もあなたもお察しのように、セイバーには自分でも制御できない殺戮機構が秘められています。そして、私もまた近似するものを内に有しているのです」

ゴドウィンが語ったのはダークシグナーという己の中の罪と悪について。
師と兄から受け継いだもの。赤き竜と冥界の神の戦い。その中で己の為してきたこと。

「多くの人を殺めました。多くの罪を犯しました。地縛神による影響があったとはいえ、それは私の為した悪であります」

悔いるでもなく誇るでもなく、淡々とゴドウィンは己の所業と宿痾を語る。
ランサーは我が子を見守る父のような穏やかな表情でその告解に耳を傾けていた。

「そして今もなお、その悪の残り火は私の中でくすぶっている。ささやかな私の抵抗と、赤き竜の助けがなければ今一度この身を乗っ取り、そしてさらなる悪を為すでしょう。願望機、聖杯すらも利用して」

月に闇が満ちるとき、魔の囁きが聞こえ出す。死へと誘え。
自らのしもべの口上がまるで予言であったかのようで、背筋に冷たいものを覚えたものだ。
だからこそだろう、今ゴドウィンの目の前にいる英雄の姿は太陽のように暖かく感じられた。

「あなたは私たちを認めてくださいました。それは我々にとって大きな救いとなった。それでも、私たちはこの戦いに勝ち残ってはいけない存在なのです」

今はまだ為すべきことがあるから、生きねばならない。
それでも、それを為すことができたなら。あるいは内なる悪に屈してしまったなら。

「ですのでランサー。来るべき時、あなたには私とセイバーの介錯をお願いしたいのです」

ゴドウィンもセイバーも自害することはできない。故に、誰かに命を断ってもらわなければならない。
加えて言うと万に一つ殺戮機構として二人が動き出してしまった場合、その戦闘能力はマスターとしてもサーヴァントとしても間違いなく超級のものとなり、止められるものは限られるだろう。
信頼できる強者がパートナーとしていること。異なる歴史のゴドウィンにあって、今のゴドウィンに欠けているものを知らず知らず彼は求めていた。

「………………いいだろう」
「感謝いたします、王よ」

深い沈黙の果てにランサーはその望みを叶えると応えた。
穏やかだったランサーの瞳に優しさの色が増し、同時に哀しみの色も混じる。

52BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:45:25 ID:u8pAsDrg0

「レクスよ」
「…はい」

そしてゴドウィンの告解に赦し(サクラメント)を与えるように言葉を紡いだ。

「我が子カエサルの元へと奉じられた宝玉。その力、宝玉神なるものが外なる宇宙の正しき闇の力と結びつき、お前の世界の根源より生じた悪性と対峙した。ローマの息吹はお前の世界にも満ちている」

ランサーの眼が千里の彼方を見渡すようにゴドウィンをじっと見る。
その裡の輝きと、そしてゴドウィンの世界と自らの因果を見出すように。

「お前の為した罪悪を否定することはできない。それでもお前の裡に、より良い世界のために兄と共に運命と戦う決意があったこともまた否定できない。
 後の世のために、後の者ために何かを遺し、繋いでいく……人の歩み、それこそがローマである」

樹木が最期に種を残し、新たな命を芽吹かせるように。あるいは流れる大河がどこまでも続いていくように。
ランサーの生きた時代からゴドウィンの生きた世界にまで受け継がれてきた、そしてこれからも受け継がれていくものがあるのだとランサーの眼には映る。
そして、できるならばあとに残したくはないものもあるということを。

「私(ローマ)にのみ話をしたのは我がマスター、実加を気遣ってのことか。ああ……轡を並べた者の命を奪う重荷は、あの小さな体には過ぎたものであろう」

敵に対して矛を向けるのはまだしも、盟を結んだものと相争い、命を奪うのに辛苦を感じぬものなどいない。
特に実加が憧れた戦士(クウガ)は怪物に対して拳を振るうことも忌避し、拳を振るうなんてことをするのは自分一人で十分だと笑顔の仮面で周囲を誤魔化し続けた男だという。
そんな英雄の後継である実加の肩に同胞殺しの重荷を背負わせたくはない。
……自分たちとは違う。それはすでに汚れた先達である自分が背負うべきものだ、と。
同胞を手にかけるという所業にかつての己を思い返し、ランサーの瞳の哀しみの色が濃くなる。

「私(ローマ)もお前の気持ちは痛いほどに分かる。誤った神託に踊らされた兄弟を殺める業の痛みはこの胸を苛んでやまない……弟レムスのことは、今なお悔やみきれぬ」

哀しみを纏ったランサーの視線がゴドウィンを誰かと重ねるように変質する。
ゴドウィンもまた、同じような目をランサーに返した。

「悔やみはするが、それでも私(ローマ)はローマを成したのだ。否定はできん。そしてお前も一つの時代を救った戦士だ。それをお前の兄が誇りに思うことはあれ咎めることはあるまい。
 お前に自らを捧げる覚悟があるように、お前の兄もそんな偉大な戦士であったろうと私(ローマ)は確信している」

今レクス・ゴドウィンが命を懸けて人々を救おうとしているように、ルドガー・ゴドウィンもまた世界のために命を散らすに否は無かろうとランサーは語り掛ける。

「……ええ。それはもちろん」
「うむ。私(ローマ)よりもお前の方がそれは分かっているだろう。ならばこそ、悔やむことはあれ自らを濫りに犠牲にするような軽挙はするなと釘を刺しておこう」

哀しみを宿した瞳に再び慈愛の色を満たし、ランサーは祈るように言葉を紡いだ。

「マルスよ。至高の戦士を守り給え」

ランサーの言祝ぎに応じてゴドウィンの内に眠る赤き竜の鼓動が僅かながら強まる。
そしてそれに反比例してダークシグナーとしての衝動が抑えられていくのもゴドウィンは感じた。

「これは、一体?ランサー?」
「赤き竜。それは我らがローマとも深い関わりを持つ獣の名だ。私(ローマ)がマルスに代わり七つの丘の加護を授け、お前の願いを支えよう」

もちろんゴドウィンに力を貸す赤き竜と、ローマの皇帝や七つの丘を指すと謳われる赤き竜は本質的には大いに異なる。
だが魔術的に真名の一致というのは極めて重要なもの。
今も己を苛む邪神に抗うゴドウィンにはそれで充分大きな助けとなる。
七つの丘と皇帝特権によるスキル付与、『軍神の加護』や『軍神の寵愛』の獲得か『軍神咆哮』や『クィリヌスの玉座』による強化の複合といったところか。
……自分たちと同じ志の同盟者を得たからといって、安心して死ねるようになったからといって簡単に諦めるようなことはするなとランサーは鼓舞したのだ。
そして同時に

「改めて言葉にしよう、レクス。我が愛し子よ。お前とセイバーが望みを叶えたならば。あるいは望まぬ悪に堕ちんとしたならば。私(ローマ)の槍でもってその命脈を断とう」

サムズダウン。
冷徹に、しかし暖かな裁定を皇帝は約束した。

53BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:46:19 ID:u8pAsDrg0

*

――――――戦士の話をしよう。

着替えた時から、戦士は闘うことを決めていた。

*

虫も殺せない善性で、それでも人を守ると誓う。

身を守る兜。それは涙を隠す仮面。
身を守る鎧。それは傷を隠す拘束衣。

誰も傷つかない世界なんて綺麗事かもしれない。
戦わなければ生き残れないなら、戦わないものは屍人になるしかない。

――――――それでも、まだ。

*

54BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:48:12 ID:u8pAsDrg0

前線で働く警察官には優れた逮捕術、ひいては格闘技能が求められる。
日本では多くの警察官が剣道や柔道を身に着け、例えば夏目実加の尊敬する先輩である一条薫は剣道の有段者である。
文化のサラダボウルとでもいうべきスノーフィールドでは空手にコマンドサンボ、シラットにムエタイなど様々な格闘技を身に着けた警察官がおり、彼ら彼女らの訓練のための設備も署内には設けられていた。
早い時間帯での利用者は少なく、現在は男と女が一人ずつだけ。

「フッ!ハッ!夏目さん、どうして変身しない!?」
「いえ、そんな軽々にできるものではなくてですね……!」

セイバーのサーヴァント剣崎一真と夏目実加。二人はどちらも変身せず、人の姿のままに組み手のような拳舞を交わす。
二人とも人の姿のままとはいえ、かたやサーヴァント、それも人ならざるアンデッドとなった存在だ。
アマダムと融合し代謝が上昇しているとはいえそれでも人の域を出ない実加では剣崎に勝るのは難しい。

「訓練方法を変えるかい?ピッチングマシンでもあればギャレンの基礎訓練の一つはできるけど。いや、ブレイドとギャレンじゃ適性が違う……クウガはどんな戦い方をするんだ?」
「はじめから聞いてほしかったです……」
「いや、ゴメン。俺たちは先輩から誰から現場主義というかぶっつけが多くて」

自身も先輩である橘朔也も突貫で仮面ライダーとなった剣崎と、根が学者肌である実加とではそんなすれ違いも生じたが、剣崎が話を聞く姿勢となることで相互理解が進んでいくことになる。
幼いころからリントの碑文研究に関わった実加の説明はその道の学者顔負けで、剣崎の的確な質問もあってスムーズに解説を終える。
アークルの特性。リントの伝承。未確認生命体ことグロンギとの戦い。白、赤、青、緑、紫のクウガ。碑文にはなかった金の力。そして最も注意すべき黒の力についても。

「戦うための生物兵器……凄まじき戦士、か……」

アークルを多用することのリスク。グロンギとの近似性。
それらに思うところがあるのだろう、内に緑色の血液の流れる手のひらを剣崎はじっと見つめる。

「仮面ライダー……確かに俺たちは、かなり近しい存在だ。
 ブレイバックルも、感情の昂り…憎しみには限らないが、それによってよりアンデッドの力を引き出せるようになり、アンデッドに近づいていき、そして……アンデッドになる」

剣崎の身に起きた事象は、アンデッドとの高い融合係数という才能が起こした悲劇のような奇跡であるということは理解している。
だがそれは高い融合係数を持つ者が彼のように13体のアンデッドと融合するキングフォームを多用すれば同じような結末に至るということだ。
アークルの特性、実加の才能がいかなものか測る術がない以上杞憂でしかないのかもしれないが、誰かが目の前でそうなりかねないとなれば見逃すことはできない。

(けれど、やめろと言ってやめられる状況じゃなし。どの口で、ってなるしなあ)

棄権できるものならしてほしいところだが、それができない状況だから巻き込まれた人を助けるために手を取り合うことを決めたのだ。
だというのに戦うなと言い出しては道理が通らないし、あまりにも失礼だろう。

「真紅と黄金に染まれ、とランサーは言っていたな。彼の言うように、赤と金の力を目指し、そこでとどめておくのがいい気がする」
「はい。五代さんは黒の力をコントロールしたらしいですけど、簡単なことじゃないでしょうし。そもそも私は金どころか赤のクウガにもなれてませんし……」

そう言いながら実加は裡のアマダムのあたりに手を当て無力感に唇を一文字にする。
戦闘、殺戮を熟知したある意味格上であるグロンギ相手に、フォームを使い分けることで勝利を重ね、ついには究極の闇すら克服した五代との差異が彼女を苛んでいた。
五代雄介本人や一条薫ならば、それが買いかぶりだと指摘できただろう。神ならざる剣崎一真には知り得ないことだ。
だが肉体を完全に操作するのも、感情を完全に制御するのも、容易なことではないことならば剣崎とてよく知っている。

「ルーティーンだ」

だからこそ、彼は一つのシンプルなアドバイスを送る。
知ってか知らずか、仮面ライダーという英雄の象徴ともいえる所作の存在を。

「スイッチング・ウィンバックと言い換えてもいい。構えで身体のスイッチを、掛け声で精神のスイッチを、誤作動しないよう同時にスイッチを押すんだ」

クウガにあって、グロンギにない。ブレイドにあって、アンデッドにない。根源を同じくする怪物と英雄の間の一つの線引きといえるかもしれない。
ブレイバックルを起動し、高らかに変身と雄叫びをあげ、オリハルコンエレメンタルを潜り抜けることで、『剣崎一真』は『仮面ライダーブレイド』となる。
日常から非日常へとスイッチを切り替える瞬間だ。
まずそこに力があることを認識し、そしてその力を解き放つ合図を己の中で定める。

55BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:49:44 ID:u8pAsDrg0

「それが俺の知る仮面ライダーへの第一歩といえる。常在戦場とは言うが、平時と戦時を行き来するのも大切だ」
「仮面ライダーへの、第一歩……」

知ってか知らずか、五代もまたそうだった。
2000の技の一つである拳闘をベースに構えをとり、大きく声を上げてクウガへと転じる。
幼い実加の前でも披露した戦士の姿だ。
それが実加の原風景の一つと言っても過言ではないのだが

(そもそも仮面ライダーって……なに?)

抱く迷いに続けて振って湧いた疑問が実加の足に絡みつき、その足を止めそうになるが

「仮面ライダーとは、例えるならばローマの皇帝(マグヌス)である」

真紅の王がその道行を晴らさんと現れた。

「ランサー。マスターとの話は済んだのか」
「うむ。セイバーよ、レクスとの対話は終えた。あの者もまた良きローマである」

満足した様子で深く頷きながら、今度はお前の番だとゆっくり実加へと向かう。

「レクスは誰かを迎えに行くと言っていた。すぐに合流するだろう。今はお前だ、実加よ。知は力なり。認識し、理解することが戦う術となろう」

そう言いながらランサーは自らの丹田―――資格者であればブレイバックルやアークルを装着するであろう箇所だ―――に手を当て、呼吸を整えながら呟く。

「皇帝特権により『神性』を主張する」

その言葉と共にランサーの肉体に神性を取り戻した証……神代の魔術回路である神代回帰の紋様が浮かび上がる。

「『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』

続けて宝具の真名を唱えるとともに己の手の中に宝具である巨槍を召喚し、構えてみせる。

「魔術師は魔術回路を励起することで力を行使する。また、お前の国の侍という者たちは刀を抜くことで戦士となるのだろう?
 鬨の声と所作によって、心と体を戦へと切り替える。まさしく戦士の嗜みであろう。仮面ライダー、善きかな」

例えるならこれがランサーにとっての『変身』であると示したのだ。
それはつまり、誰にでも『変身』はできるのだということを。

「ローマの初代皇帝の名は知っているか?」
「アウグストゥス帝ですよね?それは、もちろん」
「うむ。ならば皇帝、カイザーの語源となった男、アウグストゥス以前に帝国の基礎を築いた偉大なるローマがいたことも知っていよう」
「ガイウス・ユリウス・カエサル執政官ですね」
「然り。ローマ皇帝即位以前、初代より前にして、そして私(ローマ)より後の皇帝といえよう。
 そして、ローマという王国(くに)亡き後もその名と在り方を継いだ皇帝たちがいた。ロムルス・アウグストゥスという我が子もいた。他にもコンスタンティヌス、テオドシウス。
 そして……シャルルマーニュ。ハートのキングを司る、神聖ローマ帝国の初代皇帝。あの者もまたローマである」

懐かしむような眼で、慈しむような眼で、彼方を見ているようで、しかし確かに実加を見据えて神祖はそう口にした。

「仮面ライダーも同じだ。初めて仮面ライダーと呼ばれた一人の男がいた。それより以前、それより以後に男の在り方を、承知の上でか知らず知らずにか体現した戦士たちのことを人々は仮面ライダーと呼ぶのだ。
 時代や場所によって鬼、魔法使いなど呼ばれ方が違う者もいるが、それもまた総じて仮面ライダーだ。私(ローマ)やシャルルマーニュが皇帝(マグヌス)であろうように、な。
 お前も、仮面ライダーとなる資格はあるのだ、実加よ。お前も含め、あらゆるものがローマであり、仮面ライダーとなる可能性を秘めているのだ」

最後の言葉は、しっかりと実加だけを見て。
実加の中にある、浪漫(ローマ)と戦士(クウガ)を見出して。
それに応えるように実加は熱いものを躰の裡に覚えた。

「ローマで……仮面ライダー……!」

実加の中からそれを引き出す。
五代雄介がかつてしていたような、腰に手を当てる構え。それに応じるようにアークルが腰に現出した。
腰に構えた剣を抜き放ち構えるように腕を振るう。一条薫が魅せる居合抜きの如く。
そして

56BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:50:32 ID:u8pAsDrg0

「変身!」

雄叫びのように声を上げると、応じるように実加の体が『赤く』変じていく。

「おお!」
「うむ。よいローマだ」

二人のサーヴァントから感嘆の声が上がり、ランサーはさらに称賛するようにサムズアップを実加へと向けた。
それが誇らしくて、実加もまたサムズアップを返そうとするが……

「ぅっ……!」

未だに制御しきれないのか、アークルが旧式のものだからか。
霊石が明滅し、『赤』から『白』のクウガへ、さらには人の姿にまで戻ってしまう。

「む……!いや、無理もない。俺もアンデッドの力を使うたびにかなり消耗する。ましてや直接体を変身させるのが負担にならない訳がない」
「……ふむ。仮面ライダーの先達がそういうならば、そうなのであろう。魔術回路の励起にも相応の負荷はある。少しづつ馴染ませていけ。今は……」

二人の労いを受け、それでも不満げな実加を制するようにランサーが実加の肩に手を置く。そのまま視線を部屋の入口に向けると、神代回帰と宝具を解き、ゆっくりと霊体化していく。

「今はレクスと、もう一人の話を聞くとしよう」

その言葉とともにランサーは完全に霊体化し、続けてセイバーも姿を消す。
それに少し遅れてゴドウィンと、彼に連れられた長身の男が現れた。

「あれ?アバッキオさんじゃないですか」
「……ナツメ。相変わらず無駄に元気そうでなにより」

ゴドウィンに連れられて現れた刑事はレオーネ・アバッキオという男だ。
実加と同じく国外からの研修組で、彼はイタリアからこのスノーフィールドへと派遣されてきた。

「で、その、署長。彼女にも口裂け女についての捜査情報を共有しろと」
「はい。口裂け女というのは彼女の出身である日本に由来するものだそうですから。模倣犯や愉快犯の類をどこまで迫れるかは分かりませんが、それでも彼女の意見は参考になるでしょう」

朗々と答えるゴドウィンだが、アバッキオはどうにもうんざりした顔をする。
アジア人の女と仕事をするのがイヤなのか、そこまではいかなくとも縄張り意識から部外者である実加を入れたくないのか……

「って、アバッキオさんのいるトコってマフィアとかカモッラとかそっち系じゃありませんでした?この間もスクラディオ・ファミリーがパッショーネと何か取引しようとしてるとか雑斧会が蒼海幣の流れ者と合流しようとしてるとかで網を打つって言ってませんでした?口裂け女って地域の殺しじゃなくてそっちの管轄なんですか?」

自分やゴドウィンが警察組織に属しているように、犯罪組織に属する聖杯戦争の関係者もいるのか。
実加の脳裏にそんな考えがよぎり、冷たい汗が背中を濡らす。
一度溜息をついたアバッキオの発した言葉はそれを否定も肯定もしないものだった。

「さあな。潜り込んでたネズミが一人口を裂かれた。バレたのか、抗争に巻き込まれたのか、無差別の偶然か。分かんねえから俺も首を突っ込ませてもらうんだよ。つまり、だ」

アバッキオがポケットからUSBメモリを取り出し、実加へと差し出す。

「おれやお前みたいなよそ者には、伝説の白バイ乗り(ホイーラー)の口利きこみでも渡せるのはこんなもんだとよ」
「アバッキオさん…!ありがとうございます!」

USBを受け取り敬礼を返す実加に、アバッキオはおざなりに手を振って応じる。

「イッツマイプレジャー。なんか分かったらこっちにも共有しろよ……では、署長。失礼します。ご足労いただきありがとうございました」

今度は実加にしたものと違いちゃんとした敬礼をゴドウィンに送り、アバッキオは自身のデスクへと戻っていった。
それを見送り終えて、再度実加がゴドウィンに感謝を述べる。

「ゴドウィン署長、改めまして協力―――」
「いえ。このくらいは同盟関係として当然のことですし、必要なことです。口裂け女については一旦纏めて私に報告するように指示は出して来ましたので、今日中には最新の情報を共有できるでしょう。
 ……では、一度別れて現状の走査と行きましょう。さすがに私のデスクであなたが捜査情報を確認するのも、その逆も不自然ですから。何かあれば端末に連絡を」

では、と署長室に戻るゴドウィンを見送って実加もまた、国際テロリズム対策課の自分のデスクへ戻る。
同僚に軽く挨拶をしながらノートパソコンを立ち上げてUSBを挿して中を読み込む。

57BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:51:47 ID:u8pAsDrg0

(えーと……ガイシャの情報に、現場の場所、発生時刻。ついさっき送られてきた口裂け女のホームページのリンク。え、通報の音声記録と、ヤマ張ってる被疑者の前科まであるのは意外)

アバッキオの素振りからあまり中身は期待できないかと思っていたが、さらっと確認するにはだいぶヘビーな質で量だった。

『期待されているということだろう』

突如響いたランサーからの念話に実加の背がビクン!と伸びる。

『私(ローマ)はあまねくローマを知るが、口裂け女なる者について詳しいとは言えぬ。
 ゆえ、同郷であるお前やセイバーの知見に頼りたいと思っている。この地の警察(ウィギレス)も恐らくは同じく。それでどうだ、実加』

その実加の反応をランサーも、ついでに周囲の同僚も気に留めなかったので実加も軽く咳払いして資料を見つつランサーに答えた。

『うーん……私が小さいころにちょっと流行ったというか話題になった…フォークロアというかアーバンレジェンドというか。好意的に解釈しても英霊ではないですね。
 分類するなら一応、反英雄になるんでしょうか……せいぜいが妖怪とか怪物、くらい。それにしたってメドゥーサとかセイレーンだとか、日本でいう九尾の狐とかにはとてもじゃないけど及ばないでしょうし』
『サーヴァントとなるには器量が足りぬ、か?』
『そこまではなんとも。ただ、まあ……』

実加の脳裏に、先刻セイバーとランサーの繰り広げた超常の決闘がよぎる。
続けて記憶にある、眉唾物ながらいくつかの口裂け女の逸話をそれらと比べてみる。

『コレがいたとして。弱い、ですね。お二人の足元にも及ばない。殆ど資料で見たきりですけど、せいぜいが低級の未確認レベルじゃないかと』

実加が見届けた、緑のクウガに一矢で撃ち抜かれたあのレベルがせいぜい。
それがなぜこんな目立つような、敵を作り引き寄せるような真似をしているのか、どうにも解せない。

『しかしそれでも無辜の民には十分な脅威となる。それはお前が最もよく知っていよう』
『ええ、それはもちろんです。サーヴァントであるなら攻撃する手段も限られてきますし、巻き込まれたマスターだって危ない』

そう、無視できる些事ではない。
しかし無為に名を上げ、例えばこのランサー相手に聖杯をかけて戦いを挑むのはあまりにも無謀としか思えない。

『武人であれば名乗ることもあろうが……』
『もしくは自己顕示欲の強い劇場型の犯罪者とかですかね』

未確認にもやたらとおしゃべりなカメレオン型がいたという。
口裂け女に武人の誇りだのがある訳なし、そうした顕示欲があるのだろうか。

(私、綺麗?と問うて回り、答えたものを殺す。つまり綺麗ではない、と自覚しながらもそれをはっきり告げられれば怒るし、見え見えのお世辞にも同じくらい怒る。殺意を覚えるレベルで。
 プロファイリング未満の雑な感想ですけどめちゃくちゃに面倒な気質の女なんですよね。自己顕示欲半端じゃなさそうだなあ。
 ……もしかしてそういうところ、未確認のゲゲルと似てる!?)

ふとした閃きをきっかけに実加の資料を走る目が加速する。
事件の場所、時刻、被害者の性別や名前に何らかの法則はないか。
次を予測はできないか。

(もしかしてそうやっておびき寄せるのが狙いで?)

実際には口裂け女などという生易しいものではない強力なサーヴァントが待ち伏せている?

(そもそもなんで口裂け女なんて言い出されたの?誰がそう呼び始めた?
 被害者の口が裂けてるから?犯人が女だなんて分からないのに?犯人の口が裂けてるなんて情報はないのに?普通なら切り裂きジャックならぬ口裂き男なんて言われるほうが自然)

そうした思考をメモやブレインストーミングのように画面上にタイプして表示させる。
短い思考ならともかく、それ以外で念話はまだ実加には慣れない行為だ。
ランサーは霊体化しながらも表示されたそれを読み、実加と共に資料を追う。

…………少しすると煮詰まったのか、いくつかある通報の音声記録を再生し始める。

58BB Channel 1st/BLADE BRAVE ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:52:27 ID:u8pAsDrg0

―――ああそうだ。そこに人が口を裂かれて倒れているぞ! 犯人は口裂け女だ!―――

一方的に捲し立ててすぐに切れたそれは、現場近く、発生してすぐ、通報者は不明とどうにも怪しい匂いがする。
その通報のあった事件の資料を表示し、音声を止めたところでちょっとコーヒーでも淹れようかと実加が席を立つ。
すると


―――Prrrrrrrrrrr, Prrrrrrrrrr―――



立ち上がった実加のすぐ横でコール音が響き、反射的に通話端末を取る。

「はい、こちら―――」







「国際テロリズム対策課というのはこちらでいいのかな?曙光の鉄槌なるテロ組織をご存知かね?」

蛇の這いよるような、音がした気がした。

59BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:53:36 ID:u8pAsDrg0
*

――――――戦士の話をしよう。

愛の果てを知った時、戦士は怪物に変性する。

*

愛しみなくして戦士は語れぬもの。
憎しみなくして怪物は語れぬもの。
愛しみと憎しみは本来別々のもの。
それらが一つのものとして語られるとき、これらを繋げる感情が不可欠になる。
―――狂気だ。

狂おしいほど愛している。狂おしいほど憎んでいる。
想いがこの域にまで達した時、愛憎(かいぶつ)は現れる。

別々とは言うが……愛しさ余って憎さ百倍とも、よく言うもの。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗き返すのを忘れるなかれ。

*

60BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:55:00 ID:u8pAsDrg0

「国際テロリズム対策課というのはこちらでいいのかな?曙光の鉄槌なるテロ組織をご存知かね?」

警察組織への連絡手段というのは当然一般に開放されているもので、通報や情報提供の電話というのは珍しいものではない。
当然情報は玉石混交、むしろ石の方が多いのだが間口が広くなければ玉が流れ込むこともないのでそこは承知のリスクだ。
とはいえ実加の所属するのは国際テロリズム対策課、そうそう一般からの通報などあるものではない。
極まれに手配書で見た顔がいた、という電話があって、その大半が瓜二つの(そうですらないことも少なくない)他人に迷惑をかける程度だ。

しかし今回の通報は毛色がまるで違う。
曙光の鉄槌というテロ組織を名指ししている。そのアジトの場所と、中で大規模な騒ぎ、おそらくは刃傷沙汰が発生していたと具体性と事件性に富んだものだ。
もし仮に一から十まで出鱈目だったとしても調べるざるを得ないし、通報者からの聴取もしたいところだ。

「一つ確認したいことがあるのですが」
「なにかな?」

だが実加はこの電話の声に対して、全く別の思考を巡らせていた。

「昨晩、学園前通りの公衆電話から口裂け女のことを通報したのはあなたではありませんか?」

通報の内容とは別件の、通報者そのものに対する疑いのようなもの。確信二割、カマかけ八割といったところか。
二晩続けて何らかの事件に関わっているのではないか。むしろ、当事者なのではないか。
通常の業務であればこんなことまずやらないだろう。
だが今は平時ではなく有事のさなか。転び公妨や別件逮捕など好みではないが、全く行使しないほど実加とて純朴ではない。

「今回の通報と合わせて、お話をさせていただきたいのですが」
「ほう。警察機構について詳しくはないが、国際テロリズム対策課が巷で噂の口裂け女について詳しいとは」
「どちらも我々警察の仕事ですので。それで?お迎えに上がりましょうか?それともそちらから署までいらしていただけますか?」

幼児に言い聞かせるようにゆっくりと、実加の口から言葉が紡がれる。
電話の向こうからは数瞬の沈黙が流れたと思えば、息の吹き出す音が響いて

「キヒッ……ハ。ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

高らかな笑い声が電話越しに響いた。
不気味なほど甲高い、人間味のない声というより音とか鳴き声に近しい響きが実加の耳を揺らす。
それが数秒続いたあと、今度ははっきりとした調子で知性を感じる声が継いだ。

「『誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない』。作劇における伏線の手法だ。これでも脚本家の端くれでね。
 聖杯戦争の舞台にテロリストと、テロリズム対策課が配置されている。そのうちの片方にマスターが属していたとなればもう片方にもいて然るべきだ……君か?」
「質問しているのはこちらですが」

冷たく返す実加に対して、電話の声もまた斬って捨てるように言葉を返した。

「これはしたり、失礼した。私と話がしたいと。答えはノーだ、お嬢さん。そしてこちらの質問への答えも不要だ。百聞は一見に如かずというからね」

バキリ、と金属が砕けるような音が響き、通話は途絶える。
そこからほんの数秒の間も実加は耳を澄ましていたが、完全に通話が終わったことを確かめると端末を置き、周囲に声を飛ばした。

「逆探知と位置情報お願いします!あと音声記録も!署長に言って、私が出ます!」
「あ、おい!」

制止する同僚の声を無視してバタバタと装備の点検を進める実加。
その肩にポン、と重量感のある手が置かれた。

「落ち着いてください、夏目刑事」
「しょ、署長!?」

突如現れたレクス・ゴドウィンの姿に実加含めた課内全体に緊張した空気が流れる。

『私(ローマ)が呼んだ』

肩に置かれた暖かい手と、脳裏に流れる温かい言葉が実加に落ち着きを取り戻させる。
対照的に未だ緊張に包まれる課内だが、それを良しとも悪しともせずゴドウィンは淡々と指示を飛ばした。

「先ほどの通報を再生してください。それから夏目刑事。そちらのヘッドホンから昨晩の口裂け女事件の通報音声を再生できますか?……ではそれを私に」

二人の部下に命じて音声を再生させ、右耳で口裂け女のそれを、空いた左耳で曙光の鉄槌についての通報を捉えて聞き比べる。

「通報は固定電話から?それとも…ああスマホですか。では位置情報は?東部湖沼地帯?移動は?追えない?ふむ、壊したか、スナック菓子の袋にでも詰めたか……」

思考に没頭して始めたゴドウィンだが、それも僅かの間ですぐに再度指示を飛ばす。

61BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:56:11 ID:u8pAsDrg0

「通報者は重要参考人として聴取したい。夏目刑事を向かわせます」
「単独でですか!?」
「…そうですね。そちらは単独で。それよりも曙光の鉄槌に重点を。まずは通報内容が事実かどうか確認。裏が取れれば大取物になるでしょう。それ以外に裂く人員が惜しい。
 そちらの配置はあなたたちの方が専門ですから、私から口を出すことはありません。他部署との折衝が必要ならば、可能な限りの協力はします」

それでは、と実加と共に退出しようとするゴドウィンだったが、すぐに署員から声がかかる。

「署長、それにナツメさん、ここから湖沼地帯に向かう道沿いで問題が発生しています。乗用車の逆走、信号機そのほか設備の破損などがあり、交通課が対応していますがパトカーで向かうのは時間がかかりすぎるかと」

ゴドウィンたちは知らないことだが、それは第八階位と第十二階位のサーヴァントの激突の余波によるものだった。
ジェロニモによる魔術で事態の割に騒ぎは小さいが、車の逆走は路上や車上のカメラで記録に残るし、信号機の破壊など無視するにはあまりにも大事だ。
少なからず日常へと聖杯戦争の余波は広まっている。

「…わかりました。ご心配なく、こちらで足は確保します。夏目刑事、こちらへ」

忠告を受けてゴドウィンの足の行く先が変わり、実加もそれに続く。
何やらあまり人の気配がない一画に向かう向かっているようだ。

「署長、曙光の鉄槌の方にも人を派遣するんですか?通報者の言葉が事実で、サーヴァントがいたら彼らでは対処しきれません」

それを幸いと聖杯戦争の話題を実加は始める。
ゴドウィンも少しだけ周囲を確認してそれに答えた。

「承知の上です。調査には危険を伴う……ですが、最低限の人員のみを動かすよう命じなければいきなり突入準備を始める可能性もあった。
 加えて、聖杯戦争のためにあなたが動くには単独の方が都合がいい。ついてくいくな、全く動くな、と命じても人は止まりません。後詰めとして控えろ、とでも言わなければね。そして後詰めである以上先見隊は必要です」

あなた以外にもね、とゴドウィンがしめる。
そしてそれでも不安を隠せない実加にセイバーが声をかけた。

「仮初とはいえ、ここにいるのはみんな警察官、君の仲間だろう?ならもう少し信じて、頼ってもいいんじゃないか?」

役割(ロール)に如何様な規則があるのかは分からないが、実加もゴドウィンも治安を守る職で、だからこそ警察署に配置されたとするならば、ここにいる人も恐らくはそうなのだろう。
実加にとって庇護対象ではあるが、同時に自分たちと同じ正義の人でもあるはずだ。
そう思うと下がっていろというのも何だか無礼な気がしてくる。
ならば共に戦うもよしかと実加の視線がゴドウィンの向かう先へと向けられる。

「ところでマスター。こっちにあるのって、たしかこの間署長室で確かめた…」
「はい。徒歩で向かうにはスノーフィールドは広すぎる。白バイ隊のものを無断で貸与するわけにもいかない……そこで現在誰にも支給されていないマシンを一時貸与することにしたいのですが……」

迷うような口調とは裏腹にゴドウィンの足はまっすぐ進む。
それに付き従う実加は見覚えのない場所にいささか困惑する。見たところは車庫のようで、見るからに頑健そうなバイクが一台鎮座していた。
それを示して、どことなく楽し気にゴドウィンは解説を始めた。

「ビートチェイサー3000。あなたの故郷での技術をベースに開発された、悪路走破と耐久に優れた一機です。
 私もバイクにはうるさい自覚はありますし、それなりのものを見てきた乗ってきたと自負していますが……」

ジャック・アトラスのホイール・オブ・フォーチュンや、不動遊星の遊星号、チャリオット・パイルを纏ったボマーのそれや、かつてダイダロスブリッジに挑んだゴドウィンの愛機……それらのモンスターマシンに負けず劣らずの風格と、何より気難しさがビートチェイサー3000にはあった。

「ビート…チェイサー……これを、私に」

その名を実加は知っている。
憧れの英雄が駆った乗機の名だ。何の因果か、この月でそれが再現されている。
戦士たちがひっそりと手を差し伸べてくれたようで、サムズアップする彼らを幻視したかと思った。
しかし、これを実加が使いこなせるかは別問題だ。
世界中を身一つで旅してまわった2000の技を持つ男や、未確認生命体に攻撃されてもちょっと休めば立ち上がるタフガイなどと比べて、実加は体躯も力も大きく及ばない。
不安げにハンドルに手を伸ばすと

62BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:57:02 ID:u8pAsDrg0

「私(ローマ)が手綱を握ろう」

さえぎるように、かばうように、力強く、ハンドルを握る手が伸びた。

「神の血を引く狼の背にまたがった。数多の羊を追い立て、まとめ上げた。騎兵を率い、砦を落とした。騎乗スキルも当然我が技法の一つである。竜の類でもなくば、私(ローマ)ならば乗りこなしてみせようぞ」

馬のたてがみを撫でるようにランサーの手が滑り、嘶きのようにエンジン音が響く。
巨大なビートチェイサーの機体も、ランサーの巨躯が跨ると相応のものに映る。
あつらえたかの如く。あるいは絵画や彫刻の如く、そうあるのが自然なようなランサーの姿がそこにあった。

「はは、これはよい。卓越した技術(スキル)は魔術(スペル)と区別がつかぬというが然り。神代の天馬や神狼もかくや。これならば大地(ローマ)の果てまでも駆けられようぞ」

らしくなくはしゃいだ様子のランサーだが、バイク乗りとして気持ちがわかるのかゴドウィンもセイバーも特に気にした様子もなく見送る準備に入っている。

「では先ほど通報した何者かについて探っていただきたい。潮時と判断したら曙光の鉄槌の方へ。
 それと、無線が搭載されています。本部の周波数と、私からのものがこちらです。連携は密に」

続けてゴドウィンはエンジンキーを引き抜くと警棒になるなど他の機能も説明しようとした。しかし騎乗スキルの一環かランサーはマシンの機能をすぐに把握したようで、あとはもう実加を乗せて駆けだすだけという状態になる。
ヘルメットを渡して乗るのを待つが

「ランサー。確認させてください」

迷ったように、実加はそれを制止する。

「何か」
「皇帝特権による騎乗スキルの獲得中は気配遮断は機能しません、よね?」
「うむ。いかに私(ローマ)といえど限界はある」

嵐の航海者や主神の神核など複合効果を持つスキルを取得もできるが、複数のスキルを同時に身に着けることはできない。
気配を隠しながらバイクを駆るのは残念ながら今のランサーにはできない。

「つまり通報者と曙光の鉄槌にサーヴァントがいた場合、こちらの接近を隠すことはできない」
「確かに私(ローマ)の王気(ローマ)はスキル失くして隠せるものではない。むろん私(ローマ)とて愚鈍ではなく、一方的に気付かれるだけではないと断言はするが」
「……先攻をとれるアドバンテージをみすみす捨てるのは決闘者、いえ戦士ならば誰もが惜しむ」

今にも駆け出しそうだったランサーが両足を地に着け、視線が上方を向く。
ゴドウィンも唇に手を当てて沈考を始める。

「それに皮鎧の大柄な男性が警察車両を扱うというのは、その、悪目立ちするんじゃないかと」
「それは……言われてみると」

ゴドウィンの過ごしたネオ童実野シティでは奇怪な風体の男女がD-ホイールに乗っているのは日常茶飯事だったが、確かにスノーフィールドではまずいかもしれない。
ノーヘルなのもいただけない。
サーヴァントであるランサーが対向車や道路と衝突したところでダメージにはならないし、ましてや彼の天性の肉体以上に頑健なヘルメットなどそう用意できるものではないが、見た目の問題というのは重要だ。
SNSの発展した総監視社会では僅かの賜暇も避けるべきだろう。

「私に騎乗を、ランサーに気配遮断を取得していくのではいけませんか?」
「技術的には可能だ。しかし今のお前には私(ローマ)が魔力回復のスキルを付与している。白のクウガになってしまった以上、それは必要な処置であろう」

返された言葉に実加は言葉を失い唇を噛む。
ランサーの圧倒的な強さを発揮するのに実加の魔力は不可欠で、必要なこととはいえそれを消耗してしまっている。少しでも回復したいところだ。

「なら、俺ならどうだ」

従者に徹していたセイバーだったが、ここにきてハンドルに手を伸ばす。
実加の消耗に責任があるのは自分もだと、仮面ライダーとして堂々と。

「セイバーのクラススキルも騎乗だし、こうしたバイクの扱いは俺も経験がある。俺に気配遮断を付与することはできないか?」

ライダークラスの召喚ではないためブルースぺイダーを持ち込むことはできなかったが、それを扱った技能は健在だ。
そしてランサーと違い現代の人間であるセイバーがバイクを運転するのはさほど目立ちはしない。
そこにランサーの力が加われば鬼に金棒だと視線と問いを投げた。

「私(ローマ)は七つの丘の御名において、同胞(ローマ)と認めたものに加護を与える」

真っすぐと見据えるセイバーを、ランサーもじっと見つめ返す。
……そしてふ、と笑みを浮かべて

63BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:57:56 ID:u8pAsDrg0

「お前も、ローマだ」

セイバーの肩に洗礼かダブのようにランサーの手が触れると、力を得てセイバーの気配が消える。
これで敵に先んじれられることはないだろう。

「だがこれは別の難題が生じる。単独行動を持たないサーヴァントがマスターと距離を離してはパスが弱まり、魔力供給が途切れかねん。それは我らサーヴァントにとって大きな問題だ」

そう簡単にはいかないと、今度はランサーが問題を口にする。
ただのサーヴァントならまだいい、セイバーはマスターとの繋がり、ひいては魔力を失えば本人も望まぬ暴走に繋がりかねない問題がある。
対策なしの別行動はさせられない。

「私が魔力のパスを強化できればいいのですね?」

あてはあります、とゴドウィンは自らのマヤ文明デッキを取り出す。

「古来よりデュエルモンスターは優れた魔術儀式の形式でありました。エジプトのファラオも、欧州のヴァンパイアもそれを使いこなしたと。
 ランサー、あなたの加護を受けたことで今の私は以前よりも格段に安定している。カードを用いた魔術を使ってもダークシグナーに吞まれることはないでしょう」

選択したカードは赤蟻アスカトルと太陽竜インティ、スーパイと月影竜クイラのチューナーモンスターと竜で対となる組み合わせ。
マスターにチューナーを、サーヴァントに竜を渡すと、相互の魔力パスがカードを通じて強まるのが全員に理解できた。

「シグナ―の痣には『救世竜』という、力を共有し一所に集う性質があります。私のシグナ―としての竜と、そのしもべとの繋がりを通じて魔力の経路とする。これならば問題は解決するはずです」

もう一つ、ひっそりと応用している技術がある。
地縛神の有する、遠方の地からの魂喰いの能力だ。ジャック・アトラスが地縛神である紅蓮の悪魔を従えシグナ―の力としたように、今のゴドウィンも地縛神の力を自らの魔術に意図せず応用するシグナ―としての高みに辿り着いていたのだ。
それに一人気付いているのか、ランサーはゴドウィンに慈愛の目を向けていた。

「……セイバーが行くならば私(ローマ)は残らねばなるまい」

思い返すのは通話の向こうで紡がれた言葉。

―――こちらの質問への答えも不要だ。百聞は一見に如かずというからね―――

「奴はこちらが警察署(ここ)にいることを知っている。本当に見に来るつもりだというなら…サーヴァントによる襲撃を警戒する必要があるだろう」
「となるとチームを分断することになりますか。さて、どう動くのが最善か……」

ランサーが駆るならば先制の機会は失われる可能性があるが、どちらのチームも万全の戦闘を行えるだろう。
実加が運転するなら敵に気付かれる危険は少なく、ゴドウィンたちはベストの布陣だが、ランサーへの魔力供給が滞る危険がある。
セイバーの操縦で向かうならば本来の主従を分かつことになり、魔力のパスや意思疎通を契約外のものに依存することになる。
ゴドウィンは曲がりなりにも署内のトップで下手に動くことはできない。

誰が、どうやって向かうのが最善か。
湖沼地帯にいるであろう何者かを睨むようにしながら実加たちは思考を巡らせる。

64BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:58:39 ID:u8pAsDrg0
*

――――――では、戦士の話をしよう。

戦士の物語を彩るに欠かせぬ、美(おぞま)しい怪物(ヒロイン)の話を。


*

65BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:59:09 ID:u8pAsDrg0

バキリ。
先ほどまで警察と繋がっていたスマートフォンを粉々に握りつぶし、車窓から放り捨てる。
この程度の端末、そこらからいくらでも奪えるし、アトラスの錬金術師の頭脳の方が比べ物にならない演算機能をしている。

「さて、匂いは落とせた。追うならばこちらではなく、第六階位の方に向かってくれるといいのだが」

とは言うもののそう都合よくはいってくれないだろうとも分かっている。
投げた石がマスターに当たったのは想定外だが、もとより舞台上に役者を呼び込む算段ではあった。
オファーをしたのが思ったより大物だっただけのこと。脚本は変わらない。

「引き絞った弓は放たれぬわけにはいかぬ。幕が下りるまで、退場するまで演者は舞台で踊らなければ……だが脚本、演出、助演の兼ね役は忙しくてかなわん」

そう言ってズェピアは気怠そうに首を回し、道が混み始めているのを見てさらに表情に倦怠感を増す。
信号の破壊と乗用車の逆走、ここにも第八階位の影響が届いていた。

「徒歩の方がマシだなこれでは」

アトラシアの演算は速い。
渋滞を予想するアプリなどなくとも、人の流れ物の動きを捉え、予測し、未来を描く。
丁度マンホールを視界に捉えたのを幸いとズェピアの手からエーテライトが二本飛んだ。
一つはマンホールへ伸びて下水への入り口を開く。
もう一つは運転席のライダーの頭部へ繋がり、ズェピアに思考・感覚をリンクさせる。

「…おや、これは面白いことになっている。いばら姫の棘に刺され、アリスは夢の世界に堕ちていたか。ドレスアップは済んだというわけだ」

くく、と笑いを漏らして開いた地下への入り口を見やる。
ライダー、サーヴァントと知覚をリンクしたことでズェピアはその先にいるモノに気付いた。
サーヴァントはサーヴァントの気配を知覚する。そしてマスターはサーヴァントを認識することでそのカテゴリーを知る。
予期せぬ再会に、ズェピアとライダーは踊るように地下への穴に飛び込み

「また会えてうれしいね、番外位(カテゴリー・ジョーカー)。そして麗しのナーサリーライム」
「■■■■……!!」

少女(ありす)と野獣(ジョーカーアンデッド)の姿がそこにあった。
存在を薄れさせつつあるありすを守るように腕に抱き、威嚇するような声をバーサーカーは上げるが、ズェピアはまるで意に介さない。

「『地上の衣』か?私も悪性情報は扱うが……それすら子供のおもちゃに見えてしまう。ライダーの中身よりも非道いかもしれんな。
 くくっ。まったくいい衣装、いい趣味をしている。皮肉ではなく心底そう思うよ」

存在感を失くしつつあるありすの姿と、それに纏わりつく悪性情報(アンリ・マユ)もアトラシアの知性で見切り、それすらも舞台の小道具大道具に取り込もうとズェピアは胸中で算盤を弾く。

「斯様な奈落の底は君たちのような名優にはふさわしくない。約束通り大舞台のチケットを渡そうじゃないか」

大鎌まで取り出したバーサーカーをよそに、ズェピアの独り舞台は続く。

「君たちに我々の代役を頼みたい」

その言葉と共にズェピアはエーテライトをその手に握り、傍に控えるライダーに視線をやる。
そして爪と共にゆっくりと

「一時退場だ、我がヒロイン」

彼女の頭部へと突き立てた。
頭蓋を砕き、脳を抉り、その奥の奥の霊核へ。

「噂をすれば影、という。風聞に乗るライダーよ、君を通じて私が世界に語り掛けよう」

エーテライトを通じて、悪性情報が口裂け女を変質させる。魂の改竄とかつて月で呼ばれた行為に近しいそれ。
さらにはムーンセルにより呼ばれた端末(サーヴァント)を通じることでSE.RA.PHそのものにも干渉し。
ウワサが世界に浸透していく………………

66BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 12:59:52 ID:u8pAsDrg0

*


アラもう聞いた?誰から聞いた?
赤いコートの殺人鬼と、青い血の死神と、白いドレスの少女のウワサ
――――――口裂け女の三姉妹のそのウワサ

3のつく時に3のつく場所で、3人のうち誰かが待ってる
赤が好きなら赤いメイクを、青が好きなら青いメイクを、白が好きなら白いメイクを施してくれるってスノーフィールドの人の間ではもっpppppp




『え?この三人は赤の他人だろう、と?』

『―――カット』

『カットカットカットカットカットカットカットカットカット、ッカカ、かかか関係ない関係ないそんなのまったく関係ない!何であろうときっかり貴方の注文通り!』

『しかしヒロインの意をまるで汲まぬほど堅物でもない。では少々改題してお届けしようか』




アラもう聞いた?誰から聞いた?
てけてけのその噂

亡くした半身を求めてさまよう、可哀そうで可愛そうな女の子。

私の■■■はどこにあるの?
ねえ、あなたのそれは私のじゃない?

腕を捥いで、足を千切って、口を裂いて!残った半身と比べているけど違うみたい

そもそもあなたの探す半身ってなあに?
上半身?下半身?右半身?左半身?



ううん、どれも違うわ。私の亡くした半身は『もう一人の私』よ。
変身するわ、変身するの。私は貴方、貴方は私。
変身するぞ、変身したぞ。俺はお前で、お前は俺だ。

変身するわ、変身するの……アリスはありす。
変身するぞ、変身したぞ……無貌の切り札。

ああ、このままでは。
『狂える茶会でアリスは目覚めない』



*

67BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:00:51 ID:u8pAsDrg0

眠るありすの姿が、バーサーカーの腕の中で突如存在感を取り戻し始めた。
薄れていた霊体は霊子に満ち、白いドレスは赤黒いドレスへと色を変えて、まさに『色直し』といったところ。

「口裂け女は三人姉妹。どんなときも三位一体は保たれねばならない。次の口裂け女(ヒロイン)は……君だ、アリス」

ズェピアに霊核を抉られた口裂け女が消えていくのに比例してありすの姿も変わっていく。
そして

「■■■ッ!!!!」

バーサーカーも己の変質に苦悶の声を漏らす。
意匠は変わらない。衣装は変わらない。
それでもその本質が冒されつつある。

ある神話の、獣の一節だ。
宇宙を焼くシヴァの炎で焼かれたカーマは、宇宙に等しい存在になった。
口裂け女が口を裂いた者は口裂け女になる。ならば、口裂け女の口を裂いた者は口裂け女であるはずだ。
そんな必要条件と十分条件を軽視した戯言も、空想と信仰の元には事実となる。

スキル:無貌の切り札が内包する変化スキルは使用できないが、機能しない訳ではない。
魔の悪いことにもう一人のジョーカー、キングフォームの戦闘が同じ空間内で発生しておりジョーカーアンデッドの霊基が不安定であった。

スキル:都市伝説により口裂け女に関するウワサはすべて真実に成り得る。
宝具『転身鬼女蛇王三昧〜狂える茶会でアリスは目覚めない〜(ORoTi)』は現在ウワサに上る最強の妖怪に姿を転じるものとなっている。
そしてありすたちにとって不幸なことに『悪の究極妖怪(オロチ)』と『この世全ての悪(アンリ・マユ)』双方の近似性がウワサの進行を速めた。

複数の要素が絡み合ったことで二代目火影とアカシャの蛇の情報措置は間に合わず、ウワサは拡散し、ここに像を結びつつある。

「上々。幕間の物語だが、脚本の出来は、うん」

第六階位。番外位。まだ見ぬ未知のサーヴァント。

「悪く無い出来……と思いたい。あとは演者に期待しよう」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

去ろうとするズェピアの背にバーサーカーの鎌が迫る。
『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』は生命の系統樹から外れたズェピアに対して特別な効果を持たないが、それでもサーヴァントの振るう宝具である。
まともに食らえば無事ではすむまいが、アトラシアが追撃を予期しないはずもない。
エーテライトを飛ばし、肉の盾を用意していた。

「オッオッ、オレッちのコッコッ こおとを!盗ろ〜ッてかーッ!!」

始めからクスリでトんでいたのか、一帯に満ちる狂気と悪性情報に正気を失ったのか。
汚いコートを身に着けた浮浪者は血反吐と奇声をまき散らしながら、あわれバーサーカーの毒牙にかかり、その命を全うした。
不幸中の幸い……というものでもないが、無駄死にではなく。彼の肉と脂と骨と、何よりズェピアの膂力によって鎌は逸らされ、寸刻みになったのは彼一人だけだった。
だが一撃で終わるはずもない。
バーサーカーが再び鎌を振るうと

「『信ずる者は巣食われる〜口の裂けた赤ずきんの老婆は狼〜(マッド・トリニテ)』。すでに彼の口をライダーに裂かせておいた」

分割思考の向こう側で、彼方を駆けるライダーが急ハンドルを切り、事故を起こして昇天する。口裂け女がまた一人退場したことで、新たな口裂け女が舞台に上がる。
寸刻みにされた肉片が悍ましい変質を遂げた。
汚らしいコートは鮮烈なまでに赤いコートに変わり、肉片は集まり、醜男のそれでなく恐ろしい女のかんばせに。

68BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:01:46 ID:u8pAsDrg0

「……私、綺麗?」

その手に『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』を模した鎌を握り、それでバーサーカーの一撃を受け止める形で口裂け女が姿を現した。

「ほう」

一時とは言え拮抗するのは予想できなかったか、ズェピアも目を丸くする。

「なるほど、君もかライダー。一つのウワサになりつつある……概念までは模倣できずとも強度だけなら宝具にも届くとは」

その鍔迫り合いで生じた時を活かし、ズェピアの腕から切り札が跳ぶ。
エーテライトが一筋と、下水にあったネズミの亡骸だ。

ウワサ化が進行しているのもあったのだろう。ズェピアからバーサーカーへ、エーテライトを通じての思考通話は成功し、死徒の囁きが死神を揺らした。

『狂化していようともサーヴァントなら分かるだろう?魂喰いによる衰弱死だ、このネズミは。我々の手によるものではない。この先には進まないことを勧めるよ。アリスが大切ならね』

バーサーカーの鎌が止まる。
ズェピアと口裂け女は反転して下水の闇の奥へと駆ける。
バーサーカーはそれを追わない、追えない。

守護の誓約、たった一つ残った英雄の矜持がありすを危機にさらすことを拒む。
彼女を一人にはできない。
かといって存在が不安定な彼女を連れて追えば、今投げ渡されたネズミのように魔力を奪われ命と尊厳をさらに危険にさらすだろう。
理性はなくともサーヴァントとして、アンデッドとしてそれを理解してしまった故に、足を止めるざるを得ない。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

狂気と憤怒の雄叫びを上げる。
彼らがいるのはもう、いずこかでもどこかでもない。
タタリが脚本を描いた舞台の上だ。少女と野獣は望まぬ悲劇に引きずり出され、その悲鳴が開幕ベルのように響いた。

その悲鳴を背中越しに聞きながらズェピアはさらに闇を進む。

(狂気に堕ちてなお知的。本来が理性を持たぬ獣か……あるいはただの現象に近しいか。やはり真祖の類縁かな)

追ってきたならばそれはそれでやりようはあったが、足を止めてくれたならそれでよし。
しばらく進んだところでライダーと並んで足を止める。
これ以上進むのは些かまずい。

(実験用でなくともマウスを殺さないようにするのは難しいからな。分かるよ、まだ見ぬメイガス)

死を運ぶもの、命を奪うものである死徒であるゆえ生命の気配には敏感だ。
それでもちっぽけなネズミの死に気付けたのは錬金術師の優れた観察力と幸運もあってだろう。

(一定範囲の生命体から魔力を徴収していた。人間や犬猫くらいなら多少の疲労ですむものの、ネズミ相手には誤ったか、はたまた想定外か。
 いずれにせよ、この『水』の流れの先に工房があるな。水の魔術特性は吸収。魂喰いとの相性はいい)

彼方に新たな敵を見出し、その果てを睨む。

(工房とするなら水の流れを留める必要がある。このあたりの施設だと…ダム。浄水槽。あるいは……)

距離をとることを念頭に入れて、敵に当たりをつける。

(水族館、などが候補か。私もしばし舞台裏で励むとしよう)

外套からセルメダルを取り出し、大鎌を携えるようになったライダーと並列してじっと見る。
こけおどしとはいえ宝具の模倣まで会得するなど、ライダーは大きく変質しつつある。
それは自己改造、堕天の魔、変転の魔、そんなスキルによるものに近しい。
ではここに英霊複合体や幻霊装着のような技術による変革をもたらせれば、さらなる進化が望めるだろう。
駆ける足を止めたのと対称的に、ズェピアは分割思考を高速で走らせ始めた。

69BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:02:39 ID:u8pAsDrg0

【D-5 警察署/一日目 午後】

【レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's】
[状態]健康、魔力消費(小)、ロムルスによる加護
[令呪]残り三画
[装備]スーパイのカード含むデュエルモンスターズカード(マヤ文明デッキ)
[道具]なし
[所持金]やや裕福
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての贖罪として、罪なき人々を悲劇の運命から救う
1.通報者と曙光の鉄槌の調査に実加を派遣する。
2.通報者による襲撃を警戒。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は警察署の署長です。
※スノーフィールドには市民の危機感を抑える魔術式が施されているのではと推測しています。
※ロムルスが七つの丘により加護を与えています。それによりダークシグナー化の兆候が薄れています。

【セイバー(剣崎一真)@仮面ライダー剣】
[状態]ダメージ(小)
[装備]ブレイバックル、月影竜クイラのカード
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦えない全ての人の代わりに、運命と戦う。
1.実加と共に調査に向かうか、署に残るか。
[備考]
※第十三階位(カテゴリーキング)のランサーの真名を知りました。




【夏目実加@仮面ライダークウガ(小説)】
[状態]健康、魔力消費(中)、クウガに約二時間変身不可、七つの丘による魔力回復スキル獲得中
[令呪]残り三画
[装備]プロトアークル、赤蟻アスカトルのカード
[道具]ビートチェイサー3000
[所持金]一般社会人並
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての英雄たちのように、人々の笑顔を守りたい。
1.湖沼地帯に向かい通報者と曙光の鉄槌を調査する。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は国際テロリズム対策課所属の刑事です。





【ランサー(ロムルス)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[装備]『すべては我が槍に通ずる』、太陽竜インティのカード
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:人々の中に受け継がれる光(ローマ)を見守り、力を貸す。
1.実加と共に調査に向かうか、署に残るか。
2.真紅と黄金こそローマの華である。
[備考]
※レクス・ゴドウィンの中にローマを認めました。
※番外位(エキストラ・ジョーカー)のセイバーの真名を知りました。その在り方をローマと認めています。





※誰が調査に向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

70BB Channel 2nd/Beauty and the Beast ◆yy7mpGr1KA:2021/06/09(水) 13:03:02 ID:u8pAsDrg0
【E-6 下水道/一日目 午後】



【ありす@Fate/EXTRA】
[状態]魔力消費(大)、戦争への恐怖、口裂け女のウワサ化進行
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:遊ぶ
1.お昼寝中
2.タタリのおじさんの劇で、みんなと遊べるといいな
3.コレットおねぇちゃんたちと、次に会ったら……
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。
※偽悪スキルによる影響で、門矢士に対してあまり良い印象を抱けていません。
※『聖杯の泥』に汚染されたアーチャーと遭遇しました。その影響を受け、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』と『悪の究極妖怪(オロチ)』の近似性によりウワサとの同一化が加速しています。
※魔力消費により、霊体の保っていた外観が薄れ始めています。ウワサと『聖杯の泥』によりそれを補い、赤黒いドレス(アリス@Fate/EXTRAやマキリの聖杯を想起させる)の姿に外観が変化しています。

【バーサーカー(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣】
[状態]狂化、口裂け女のウワサ化進行
[装備]『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ありすの守護
1.――――――
2.―――■■
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。ただし自発的な行動はその限りではありません。
※ありすの消耗を抑えるため、彼女の機嫌次第では霊体化することもあるようです。
※ありすとのパス、口裂け女の宝具、自身の変化スキルを通じてウワサとの同一化が進行しています。



【ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD(漫画)】
[状態] 魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 日除けの礼装(赤現礼装風の外套)
[道具] セルメダル数枚
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を以て再び第■法に挑まん
1. 『口裂け女』の噂を広め、改め、ライダーの力を増す。ひとまずありすは組み込めつつある。
2.悪性情報の活用に大いに期待。
3.水の流れの先にある工房とは距離をとりつつ、ライダーの改造にいそしむ。
[備考]
※『死神を連れた白い少女の噂』を発信しました。『口裂け女の三姉妹』に形を変えて広まることでありす、ジョーカーアンデッド、口裂け女が互いに影響しあっています。
※『第四階位』、『第六階位』、『第九階位』、『第十一階位』、『番外位』のステータス及び姿を確認しました。
※ムーンセルにアクセスし悪性情報、ムーンキャンサーによる熾天の玉座アクセス未遂のことを知りました。今のところペナルティなどはないようです。

【ライダー(口裂け女)@地獄先生ぬ〜ベ〜】
[状態]ありす、ジョーカーと同一のウワサ化進行
[装備]
[道具]大鎌
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:殺戮
1. 私、綺麗?
2. これでも?
[備考]
※口裂け女の運転する三台の赤いスポーツカーが曙光の鉄槌のアジトからバラバラに逃げだしました。残りは一台です。
※噂の拡散による影響で『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』の見た目と強度を模した鎌を生みだせるようになりました。

71名無しさん:2021/06/09(水) 13:03:55 ID:u8pAsDrg0
投下終了です

72 ◆aptFsfXzZw:2021/06/11(金) 00:09:08 ID:WuGuo2HQ0
◆yy7mpGr1KA氏、投下お疲れ様です! いつもありがとうございます……!

> BB Channel 1st/BLADE BRAVE

月でお馴染み『BB Channel』開幕はかつて、片割れである兄弟と死別しながら神へと至ることになった二人の男、その対話。この二人が同じ企画で居る以上は絶対こういう話は必要ですよね、と私も思っていたのですが、私が漠然と考えていたよりさらに素晴らしい内容です……! まずは宝玉神とローマの話を上手く結びつけるのは流石のお手前。
展開として、ゴドウィン兄弟を一つの時代を救った戦士と認めるロムルス、圧倒的なカリスマ。ゴドウィンが参戦した後の時間軸で、神の軍勢と戦うという名前の一致に相応しい運命を辿る赤き竜の力を増幅させるのも文脈的にも、ロムルスの規格外ぶりを再度示すのにも適した見事な運びです。こんなに優しいサムズダウンは初めて見た……!

場面変わって剣崎さん、遙か先の後輩の持ちネタを不意打ちするのはやめてください噴いてしまいます。現場主義なのは事実だけど、あの頼れる先輩も本来は研究者なんだよなぁ……! なんだこの違いは。
一方で剣崎の知る、ロムルスと実加にも潜む狂戦士としての爆弾要素。そもそもそうさせないという話ですが、もしも彼女たちが暴走した時は、逆にゴドウィンと剣崎が止めるのはきっと言葉のいらない約束。

>根源を同じくする怪物と英雄の間の一つの線引き

これも凄くグッときます。ルーティーン、スイッチング・ウィンバックとして、仮面ライダー同士で継承される戦うための第一歩。
明確な意志を持って力を振るうための合図にして決意、『変身』というキーワード。そこにサーヴァントの真名解放、魔術回路の励起、らっきょでお馴染み抜刀による肉体の戦士化をなぞらえ、若きマスターを導くロムルス再びの貫禄。ローマで仮面ライダーというフレーズで現行作を思わせながらの小説の一歩先へ進んだ『赤』への変身は、完全習得ではないとしても滾るものがありますね。

続けて現れたNPCも思わぬ人物。彼が仕事で追いかけている相手も大層なドリームチームですがそこは一端置いといて、後の、NPCに配置された人々もまた人々を守ろうとする『仲間』という展開を見るとここでの登場にも胸が熱くなりますね。伝説のDホイーラーに敬意を払っているのもなんだか似合うアバッキオさんです。この世界では生き残って欲しいですが、彼の繋いだ情報が不穏な糸と接続してしまう……

(感想後編へ続く)

73 ◆aptFsfXzZw:2021/06/11(金) 00:10:17 ID:WuGuo2HQ0
> BB Channel 2nd/Beauty and the Beast

ということで、「もしもしポリスメン?」で接続してきたズェピアへ、警察署に聖杯戦争関係者が居ることがバレてしまったこの展開。現場主義の署長が頼もしいですが、テロリストの集団だけも大変なのにそこには本当にサーヴァントも居るし、禍つ式も一般人からすればそれこそ未確認生命体のような絶望的な脅威。しかもウキウキドライブアルテラさんの起こした騒ぎのせいで警察の対応力は早くも飽和の危機かもしれませんが、聖杯戦争の参加者はあんまり自重してくれなさそうですね……助けて監督役。

とはいえ、まだ敵がどれほどか見えない内から竦むわけにもいかない警察署組は移動の準備。数字が一気に大きくなった新型ビートチェイサーにはしゃぐロムルス、そんなところでアルテラさんと似たところを見せずとも……w
小柄とはいえ、クウガ化で身体能力が強化されているだろう実加をして及ばぬタフガイ扱いの一条さん、まぁ過大評価じゃなさそうだな……となるのもなかなかですが、文字通りアンデッド化した剣崎なら同等以上にバイクを操れるのは当然。しかし、さらっと(いや剣崎をロムルスが改めて認める大事なシーンですが)付与された気配遮断は彼が持つのはチートでは!? 感。デュエルモンスターズカードを魔術に活かすというお馴染みの展開を、しかしfate世界に合わせて説得力を出すパスの強化は再び見事なお手前。
どうしても穴はできてしまうでしょうが、それでもセイバーもランサーも企画内最強クラスのサーヴァント。彼らがどういう組み合わせで向かっても、レメディウスやズェピアにとっては厳しい戦いになりそうです……が、ここからがズェピアの劇場だった。

再会した童話と怪談。前話で浴びせられたこの世全ての悪の再現という、とびきりの悪性情報。白状するとラスアンでの怪物化の布石ぐらいに思っていたんですが、「黒桜に寄せるとアリスにお色直しできませんか?」というのは素直に敗北です。この方が自然できれいで、恐ろしい展開。
そんなありすと一緒に繋げられてしまったことで、スキルの存在もあり影響を受けるジョーカーアンデッド。その力を掠め取る口裂け女。いよいよ口裂け女だけでなく、てけてけという他の都市伝説も取り込み再現し始めて、本性である究極妖怪も顔を見せ始めそうです。
強引に同一視され、在り方を徐々に歪まされてしまいそうなムッコロさん。果たして彼が再会するのは永別し続けねばならない友か、それともありすと穏やかに過ごせた唯一の存在である天使を連れた悪魔なのか。その時、無貌の切札は何に変わっているのか。最早『変身』のかけ声を紡げないかつて仮面ライダーであった守護者にして怪物の行く末も気になります。最初から詰んでいると言われる二人は果たして、時を越え愛される物語になり得るのか――?
そうして序盤から休まず大立ち回りを続け、舞台を盛り上げながら、笛木という企画内最上位キャスター相手にも先手を許さず、その存在を利用する隙のなさを引き続き見せるズェピア。文字通り鬼才の仕掛けた舞台がどう動いて行くのか。
そして、彼以外に舞台を動かす者は現れるのか――?

改めて◆yy7mpGr1KA氏、力作のご投下、お疲れ様です。本当にありがとうございました! 今作を励みに私も頑張りたいと思います。

74 ◆aptFsfXzZw:2021/06/25(金) 18:47:08 ID:Q2LYKakk0
巴マミ&アーチャー(ケイローン)、御坂美琴&バーサーカー(フランケンシュタイン)を予約します。

75 ◆aptFsfXzZw:2021/06/30(水) 23:02:14 ID:yx5G7/xs0
延長します。

76 ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:29:14 ID:yxZPsspE0
投下します。

77sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:31:41 ID:yxZPsspE0



「……プレイヤーだったのね、あなた」

 正午前。人払いの結界が展開されたスノーフィールド市立中学校の、三号舎食堂。
 各々のサーヴァントを従えた少女二人が、互いの真意を見極めようと睨み合っていた。

「巴マミさん、だったわよね」

 話し合いが提案されてから、先に口を開いたのは御坂美琴だ。
 だが、場の主導権を握っているのは、先んじてこちらの素性を把握していただろう提案者の方――『第四階位(カテゴリーフォー)』陣営の側だとは、彼女も既に理解していた。
 故に、まずは相手の求めに応じる姿勢を見せた。

「話って何かしら」

 こちらの索敵能力を一方的に掻い潜って来た、眼前のサーヴァント。心中穏やかでは居られぬ存在を威嚇する従者(バーサーカー)を足運びだけで抑え、極力相手を刺激しないようにしながら、美琴は問う。

 ――戦意を収めるよう、このサーヴァントは宣った。

 元より、交渉の通じる相手を望んでいたのは美琴自身だ。
 十五組、総勢三十名での生存戦争。ただでさえ消耗戦となるバトルロワイアルにおいて、全ての敵を主従二人だけで討ち取ろうと考えるのは余程の事情がない限り思慮足らずの愚者か、酔狂な自信家に限られよう。
 序盤は如何にして手を取り合える同盟先を見つけ、最終盤までの消耗を避けられるかが肝要となる。
 まして……認めたくはないが、現在弱小であろう自陣営ならばなおのこと、だ。

 ただ一点――――己にある、余程の事情に差し障らない限りは。

「――私たち、手を取り合えないかしら、と思ったの」

 優雅に振る舞っていた少女は、らしくなく少しだけ緊張した声音で、美琴の予想通りの内容を口にした。

「少なくとも、今の私たちには共通の脅威がいるでしょう?」
「……まぁ、ね」

 数分にも満たぬ前、殺意を剥き出しに襲いかかってきた口裂け女(カテゴリースリー)の姿を脳裏に浮かべ、美琴は苦々しい物を感じる。
 記憶に焼き付いたその悪意の凄まじさと、あの程度の脅威に『第四階位』の助けがなければ早々に脱落していた自身の不甲斐なさに。

「私たち同士で争っても、あの怪物を有利にするだけ。それよりも狙われた者同士、ここは手を組んで対抗する方がメリットがあると思うわ」
「そうね。全くもってその通りだと思うわ」

 相槌を打ちながら、美琴はこめかみの辺りを掻く。

78sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:33:20 ID:yxZPsspE0

「それに……今更説明する必要もないでしょうけど、私には電脳上の情報戦ではかなりのアドバンテージがあるし。逆にそっちのサーヴァントは、弓を使うんだからアーチャーでしょ?」

 少しだけ、美琴の言葉に理解が追いつかないという様子を見せていたマミは、こちらの入れた探りに一拍遅れてから反応した。
 その反応を美琴が訝しむ間に、マミとその背に控えた長身のサーヴァントは目線を交わす。従者の頷きを受けた後、主たる少女が答えた。

「ええ。彼のクラスは、ご明察の通りよ」
「アーチャーはクラスとして索敵に優れた傾向がある、っていう前提はマスターの知識としてあなたにもインプットされてると思うけど。私の見た限りその例外ってわけではなさそうだから、組めば両面で敵の動向を把握し易くはなるわよね。それこそさっきの口裂け女に限らず」

 お互いの組む利点を並べる美琴に、先行きの良さを感じたのだろう。並べられたメリットでこちらの従者(バーサーカー)の警戒が徐々に解かれるのに合わせて、仄かにマミの表情が緩んだのを、美琴は見逃さなかった。

「じゃあ……!」
「とりあえず、停戦協定ぐらいは結びましょうか。秘匿の関係上、真っ昼間の校舎で戦争するわけにもいかないし」

 そして、これ以上期待させ過ぎてしまう前に、美琴はマミの言葉を遮った。

「けど――手を組むってことを決めるには、もう少し確認しておきたいことがあるわ」

 ここまでのやり取りで、少なくとも巴マミのしたい話が、優位を活かした一方的な押しつけではなく、正しく対話の余地があるものということは伺えた。
 ならばこのように主張しても、即座に攻撃される事態までには及ばないだろうと見込んで、美琴は切り込み始める。

「え、ええ……何かしら、御坂さん?」
「例えば、その同盟はいつまで組むつもりで居れば良いのかしら。さっきの『第三階位(カテゴリースリー)』を倒すまで? それとも私たちが最後の二組になるまでかしら」
「……っ、いいえ」

 学園都市第三位から見ても聡明な印象の巴マミが、その問いかけを予想していなかったわけではないだろう。
 しかし、何か琴線に触れることがあったかのように、彼女は微かにその喉を震わせ、返答を一度途切れさせた。

「私は……聖杯戦争を最後まで続けるつもりは、ないわ」

 とはいえ、それも一瞬。数瞬の後に、誰に言われるでもなく、マミはその声に芯を取り戻していた。

「むしろその逆。できるだけ早く、解決したいと思っている。この理不尽な犠牲を強いる出来事を」
「……そう」

 ――解決、と来たか。

 繰り出された単語から、巴マミのスタンスを推し量った御坂美琴は……今朝、彼女がこちらを何と称したかを思い返しながら、次に舌に載せる言葉を慎重に選び取った。

79sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:34:23 ID:yxZPsspE0

「一応尋ねると、それは誰かの指示?」
「違うわ。たくさんの人を不幸にするような、理不尽が許せない性分なだけ」

 探りを入れて返ってきたのは、真っ直ぐな言葉だった。

 ……ああ、きっと。ほんの少し前の自分なら、似たような主張を、何の気後れもなく吐けただろうに。
 目当ての言葉を引き出したというのに、微かな逡巡を過ぎらせた美琴は、その感傷を唾と共に飲み込んだ。

 まだ取り繕える。試しただけで、その本心を聞きたかっただけだと言えば、誤魔化しの余地はある。

「なら、組めないわね」

 だが結局。欺くための言葉は、美琴の口からは出て来なかった。

「私たちは優勝するつもりよ。どんな願いでも叶う権利……それを我慢できるほど恵まれてはいないもの」

 告げた瞬間。マミの背後に控えるアーチャーの纏う静謐に、冷厳な気配が一塗り足された。

「けれど、助けて貰った恩もあるし。さっき言ったみたいに、今ここで事を荒げるつもりはないわ」

 幾星霜を過ごした巨木が、音もなく傾き、影を落としてきたような圧迫感。
 その襲来を予想していた美琴は、辛うじて完全な平静を保ったまま、淀みない牽制の言葉を継ぐことができていた。

「――負けそうになったら、私だって被害を出さないことを第一に考えられるとは、限らないもの」

 それが、実際には意味を為せない抵抗だとしても。
 狂戦士の陣営は爆弾である、という精一杯の虚勢を張りながら。同時にそれ以上は相手を刺激しない細心の注意を払いつつ、美琴は改めて己の主張を口にする。

「目指す場所が違う相手と組む気はない。けれどこの場で戦うつもりもない。そういうわけだから、もう失礼するわね」
「お待ちを、御坂美琴殿」

 そうして言いたいことを伝え終えると、まるで目を背けるように踵を返した美琴を呼び止めたのは、拒絶を伝えられた少女の声ではなかった。
 声の主だけを視界に収めるように振り返った美琴に対し。先程の肌を刺すような圧力を消した、温和そのものの表情で、アーチャーは小さく一礼する。

「失礼。あなたが聖杯戦争で真っ当に優勝するつもりだとしても――先程あなた自身が認めたように、我がマスターと同盟を結ぶメリットはあるはずです。少なくとも我らの当面の敵である、『第三階位』の脅威が健在である間は」

 その脅威から美琴の命、延いては『第十一階位(カテゴリージャック)』陣営そのものを脱落の危機から救った張本人は、それを恩に着せる様子もなく言う。

「何も仮初の役割に倣い、仲睦まじくある必要はありません。しかし口裂け女のみならず、他の勢力もより与し易い相手から狙いを定めることは必至でしょう。それを避けるため、私たちとあなた方は互いを利用し合うことができます」

 利用という言葉を、いっそ堂々と口にするアーチャーには、一種の清々しさすらあった。

「単独のサーヴァントより複数のサーヴァントの方が、敵襲という選択肢自体への抑止力は増大します。無論先刻のような例外もありますが、それでも対応力が向上することは紛れもない事実。そうして当面の消耗を抑えるための、短期的な共闘も検討には値しませんか?」

 美琴が先程思考したとおりの理屈を、まるで生徒が予習していることを理解して説明する慧眼な教師のようにして、アーチャーは提案して来る。
 だが、逆を言えばそれは既に、予習を終えた課題でしかなく。

80sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:35:01 ID:yxZPsspE0

「ええ。利用し合おうにも、そもそものスタンスが真逆だと、結局足を引っ張り合うことになりかねない」

 故にアーチャーの提言も、検討の余地はない、とばかりに美琴は切り捨てた。

「……あなたたちだって、信頼できない相手に背中を預けるなんてできないでしょ」

 続けてそんな言葉を漏らしたのは、特に意図してのものではなかったが。

「待って」

 その呟きが契機であったかのように、再びマミが声をかけてきた。

「……御坂さん。私、どうしても貴方が悪い人だと思えないの」

 やがて吐き出されたマミの告白に、彼女を振り返らずにいたままの美琴は、意識して苦笑いした。

「広報に踊らされすぎよ。自販機に蹴り入れて無料でジュース持って行ってるようなのが本当の私よ? 夢を見させて悪かったけどね」
「……ごめんなさい、広報のことは知らないわ。自販機を蹴るのも止した方が良い気がする」

 どう反応すべきか困惑した様子のまま、マミは生真面目に謝罪した後、素行不良を咎めてきた。

「でも、今朝の御坂さんを見ていたから、そう思う」

 それから仕切り直すようにして、マミは言う。
 戸惑いに揺れていた背後からの声は、徐々に芯を通わせていた。

「そんなあなたが、頑として譲れない理由――私に教えては、貰えないかしら。
 もし……私に何かできることがあるのなら、協力を惜しむつもりはないから」

 強い意志で、そんなお人好しな申し出を、マミは繰り出してきた。

 美琴がどれほど――己の罪を知られたくないのか、知りもしないで。

「……お生憎、そんなにお喋りが好きなわけじゃないの。命のやり取りをする相手と談笑する趣味もないから、もう行かせて貰うわね」

 精一杯、平坦な調子で会話を打ち切って、美琴はマミの前から去ろうとした。

「なら――」

 しかし、先程一度は沈黙した彼女は、今度はまだ、対話を繋げることを諦めてはいなかった。

「なら、口裂け女を倒したら。その時に、私たちと戦いましょう」

 そんな彼女が繰り出した次なる提案は、一瞬、美琴の足を止めるには、充分な威力を持っていた。

「停戦協定は結んでくれるんでしょう? 期限は『第三階位』陣営の脱落まで。それでどうかしら?」
「……そうね。その申し込み、受けておくわ」

 優勝すると決めている。
 そのために戦う必要がある以上、だらだらと停戦期間を引き伸ばす意味はない。
 だから美琴は、躊躇いは最小限に、マミの提案を承諾し――そして今度こそ、その場を後にした。

 だが、結局。
 一度目を背けてからというもの。御坂美琴は、互いの姿が見えなくなるまで、巴マミの顔を直視することができなかった。

81sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:35:34 ID:yxZPsspE0







 御坂美琴の背中が、扉の向こうに消えるその瞬間まで、巴マミは彼女の姿から目を逸らさなかった。
 ただ警戒のためではなく、譲れない理由を持って戦いに臨もうとする相手に、己の心が負けないようにするために。

「行ってしまわれましたね」

 平坦な声で、アーチャーは淡々と事実を述べた。

「ええ。でも、きっと大丈夫。やっぱり御坂さんは、悪い人じゃないってわかったんですもの」

 対してマミは、ともすれば呑気が過ぎるかもしれない答えを返した。

「すぐに協力できないのは残念だけれど。関係ない被害を出したくないって言ってくれたわ」
「そうですね。ええ、彼女は正直すぎるほどに正直だ」

 そんなマミの言葉に、アーチャーは穏やかに同調してくれた。

「おそらくはまだ、己の願いのために他者を殺めるということを、完全には覚悟できていないのでしょう。だから納得して最後の一線を越えるために、彼女自身が卑怯と思えるような真似はしたくない……そのような段階であるならば、まだ。マスターの言葉(祈り)は届きます。きっと」
「ありがとう、アーチャー。その期待に応えられるよう、頑張るわ」
「ええ。その心意気がある限り大丈夫でしょう。あなたが過去の積み重ねを適切に活かし、前に進める強さを持ち合わせた人であることは、この目で確かめさせて頂きましたから」

 信頼できない相手に背中を預けられないだろう――そう言い残して、自分の前から去っていった少女のことを、マミは今も忘れられずに居たから。
 その苦い記憶が、逆にマミへ芯を通させることになったのが、寸前の美琴とのやり取りだった。

 そんな情動の背景まで見通したような大賢者の激励は、しかし不快感を覚える類のものではなく。自然と身の引き締まるような、力を貰えるものだった。
 マミの気持ちが前向きになったこともまた見透かしたように、アーチャーは続ける。

「では、我がマスター。我々が次に取るべき方針については、既にお決めでしょうか?」
「ええ、アーチャー。これまで以上の優先度で、口裂け女――『第三階位』のサーヴァントを討伐すること。そのために行動します」

 既に全てを承知しているだろう大賢者が、敢えてマスターたる少女に尋ねるのは。その答えの筋道を言葉にさせることで、より明確なビジョンを持って問題解決に向かわせようとしてのことだと、マミは既に理解していた。

「ただ、消滅を免れていただけじゃない。昨夜は確実に届いたあなたの矢が折られてしまったのを見ると、条件は不明だけれど、力を増す能力を持った敵であると想定できるわ」
「同意見です。戦力的な観点からも、まさに叩けるうちに叩いた方が良い、短期決戦の望ましい相手と見受けられます」
「――それに、現状最も見境のない被害を齎しているあのサーヴァントを止めることは、聖杯戦争による被害を抑えるという目的からも避けては通れない」
「ええ。野放しにし続ければ、他の陣営に対してもブレーキを緩めさせてしまう悪影響が及びかねません。いずれ教会が討伐令を出すとしても、余計な二次被害を招く前に、目立つ者は討たれるという当然の原則を知らしめておくべきでしょう」

 理由を述べていくマミの解答を補足する形で、アーチャーが同意を示す。

82sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:36:48 ID:yxZPsspE0

「そして――御坂さんが、あなたの言う一線を越えてしまう前に、彼女に私たちと向き合って貰う場を整えるためにも。もう、先延ばしにはできないわ」
「……そうですね。それが、彼女たちを口裂け女から守る一番の手段にもなるでしょう」

 譲れぬ想いを抱えた美琴への侮辱になるような気がして、直接は口に出すことも憚られたようなマミの考えを、アーチャーは代わりに口にした。
 ――それが、決して間違いではないと背を押すように。
 
「……とはいえ。急がば回れ、ということも、あるのやもしれませんが」

 充分にマスターの考えを肯定した上で、今度は水を差すような現状分析を、アーチャーが述べ始めた。

「口裂け女はまさに神出鬼没の怪物。無闇に事件を追いかけたところで、これまでのようなイタチごっことなる可能性が高いでしょう」
「……かと言って、私たちを狙ってくるところを待つ、なんて罠に簡単に乗ってくれるとも限らないし……」

 アーチャーの示した課題に、マミは嘆息した。

「それでは、マスター。少し発想を変えましょう」

 それから暫しの間を置いて、アーチャーは柔らかに微笑んだ。

「敵に未知の要素が多いことはわかりました。それを解き明かそうとしても容易ではない、ということも。ですが、既知の要素を数えることは、そう労力を要さないのではないでしょうか?」
「既知の要素……?」
「あの怪物も、『階位(カテゴリー)』を与えられたこの聖杯戦争の正規のサーヴァントである、ということですよ。我がマスター」

 的確なヒントに、マミは彼が何を言わんとしているのかに思い至った。

「そっか、口裂け女のマスターを追えば……!」
「はい。無論、あの怪物の対となるとムーンセルに判断されたマスターです。一筋縄とは行かないかもしれませんが――それでもサーヴァントより、実体のない概念に成り果てているということも、まずないでしょう」

 サーヴァントという霊体の、現世における要石足らねばならない仕様上。マスターというものは本来、サーヴァントよりはまだ、物理的な実体を有しているはずだ。
 ならば、口裂け女に比べれば、その痕跡には掴みどころが残されているはずだ。

「それこそ現時点では、口裂け女以上に情報が足りないこともまた事実。しかしマスターという生命線を捉えられれば、あの怪物も今度は逃げてばかりとは行かないでしょう。そこで決着をつけます」

 聖杯戦争における索敵の基本。そこに立ち返るというアーチャーの示した解法に感心し、己の思考の筋道に取り込みながら、マミはしかしまだ、答えを述べきれていなかった。

「……でも、どうやって追えば?」
「先程、マスターと御坂美琴殿が目撃した……ホームページ、と言いましたか。電脳上に築かれた、サーヴァントを文字通り運用するための魔術式。あれを仕掛けたのは十中八九、敵マスターの仕業と考えられるでしょう。そこから何らかの形で追うことができるかもしれません」

 あるいは、とアーチャーは言葉を継ぐ。

83sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:38:04 ID:yxZPsspE0

「既に被害に遭ってしまった者を調べる、という手法も正道でしょう。あの怪物の様子を見る限り――また、口裂け女の噂を顧みるに、被害者は口を裂かれているはずです。しばらくは証言などできないはずのその被害が、何故、口裂け女の仕業だと知られたのか。そのような噂を流した者が居ると考えれば、その正体は先のホームページを作った者と同じだと、そう思えませんか?」

 誰より口裂け女のことを知り、都市伝説という信仰(乗り物)を育てることで利を得る者。
 神秘は秘匿されねばならない――その前提を一旦無視できてしまえば、その条件に該当する者は、マミが考え得る限りただ一人。

「マッチポンプ、という線は確かに濃そうね」
「はい。その線が合っていれば、そこには辿るべき物証がある、と私は推測致しますが……」

 事件と関連した噂を流した者がいるのなら、その聞き手が。
 そのやり取りが発生した日時と場所を埋めていけば、発信者の追跡も不可能ではない。
 直接相手が関与した現物であろう口裂け女のホームページなど、なおのことだ。

「……ただ、ごめんなさい。私にはホームページから作成者を追いかける、というのは難しいわね」
「ふむ。お時間を頂ければ、私も今から学習してみようとは思いますが……まずは、犠牲者を当たるという方向から参りましょうか」

 紀元前の神霊の影法師に過ぎないアーチャーもまた、ホームページ作成者を割り出すという技術など、少なくとも今の時点で通じているはずもなかった。
 それでも今から――大賢者たる彼であれば、事実早々に習熟してのけても不思議ではないが、一から学んで試してみせようという姿勢に感服しながらも。

 どうしても。電脳上での情報戦には覚えがあるという、先程立ち去った少女の背中を思い出し。

「……やっぱり、協力して貰えれば良かったんだけれど」

 惜しむ理由が増えたマミは思わず、そう零していた。







「(……ゥゥ)」

 脳裏に響くのは、心なしか恨めしげな唸り声だった。

「……さっきの話が不満だった?」
「(……ゥ)」

 移動中の美琴の問いかけに返って来た声は、不機嫌さが鳴りを潜めていた。恐らくは、肯定を意味しているのだろう。

「……わかってるわよ。まずはどことでも良いから同盟を結んで、戦力の増強を図るべきだったってことぐらい」

 仮にも狂戦士の導き出した論理の帰結である、という意外性を除けば。先程の交渉でも話題に挙がったように、それは誰もが思いつく至極真っ当な戦略であった。
 己の契約した英霊は、狂化してなお、そのようなまともな思考能力を保ったままである。その事実を静かに、そして確かに再認識しながら、美琴は言葉を続けた。

「相手が優勝を狙っていないとわかったのなら、なおのこと。元から願いを叶えられるのは一組だけなんだから、どんなスタンスなのかなんて二の次でいい。むしろ温いことを言っているのなら蹴落とし易いぐらい」

 己がマスターの述べる論理に、こくこくとバーサーカーが頷く。狂気ではなく、理解故に。

「だけど、それじゃいざという時、覚悟が鈍ってしまうかもしれない」

 だから、美琴が続けた次の言葉に、バーサーカーは頷かなかった。

「(ウゥ……!)」
「……わかってるわよ。そんなことを言う資格がないことぐらい」

 バーサーカーの怒りが籠もった抗議の唸りを、美琴は正面から受け止めた。

84sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:39:37 ID:yxZPsspE0

「勝つためなら何でもするべき。手段を選んでいる場合じゃない。
 けど、だからこそ。今の私にとっては、巴マミの手を取らないことの方が、最後に勝つことに繋がっているのよ」

 それだけは単なる気持ちの整理の問題であり、理屈の上では何もメリットになり得ない。
 しかし、無理に感情を押し殺すというリソースの消耗を抑えられること。それ自体が熾烈な競争において重要な意味を持つことを、美琴は十年余りの人生経験で、確かに理解していた。

「(ウゥ……? ゥ……!)」

 そうして吐かれた決意を、しかしバーサーカーは理解不能と言った様子で、まだ苛立ちを見せていた。
 狂気に蝕まれ、なお論理思考を可能とする。しかし、それでも確かに気を狂わされた彼女には、美琴の心境を理解することは困難を極めるのだろう。
 だが――理解して貰えなくとも、譲歩して貰えるだけの納得を得られれば良い。否、得なければならない。
 美琴はそう考えた。

「一応、気持ちの問題だけじゃないわよ。仮にあの二人と組んだとしたら、前衛を担当するのは弓兵(アーチャー)じゃなくて、狂戦士(あんた)になるでしょ?」

 それから後付の、しかしある面では正しいだろう分析を、美琴は口にし始める。

「あの二人と組んでも、多分『第三階位』以外の陣営をこちらから襲うなんて真似を許してはくれないわ。事実上、あのアーチャーの監視下に置かれて出し抜くチャンスを奪われたまま、『第三階位』の相手に専念することになる。そこで勝てたとして、次は戦利品の奪い合いになる時――相対的には、前衛として敵とぶつかる私たちの方が消耗しているはず。連戦になるその場で抵抗しなければ取り上げられて終わりでしょうし、かと言ってこのままじゃ、その時に勝つのは厳しいわ」

 並べられた美琴の予測に対し、バーサーカーは一定の理解を示しながら、なおも不服な様子であった。
 それも仕方ないことは、美琴も理解している。必ずしもアーチャーよりバーサーカーが消耗するとは限らないし、口裂け女を追う間に他の陣営と想定外の接触をしないとも限らない。つまりは後ろ向きな予想で守りに入っているわけだが、このままではジリ貧なのだから、賭けに出るべきだったのではないかとは美琴も思う。

 それでも、今はまだ、あんな相手を欺き、利用する方が――今の自分には向いていないと、そう思いたいのが、美琴の本音であった。
 己の不甲斐なさは、承知の上で。力押しで他者の願いを手折る道を、既に選んでいることも理解の上で。
 それでも美琴の選択は、他者の善意を欺き、奪うよりも――――

「バーサーカー。同盟の代わりになる策があるわ」

 人目を避け、体育館の用具室に場を移した後、実体化させたバーサーカー相手に美琴はその考えを口にした。

「あんたと私で、電気を繋げて欲しいの」
「…………ゥァアッ!?」

 対してバーサーカーは、凄まじく動揺したような声を上げた。

「えっ、ちょっと……私、変なこと言った?」
「ゥァアゥゥ、ァァー!!」

 あまりの様子に思わず美琴が尋ねると、バーサーカーはひとしきり身悶えして喚き散らし、気のせいか美琴から若干距離を取るような真似をして……それから、唸り声と共に小さく首を傾げた。

「どうしてそんなことを言うのか、理由を聞きたい、ってこと?」
「……ゥゥ」

 どこか警戒した様子を解かないままのバーサーカーに対し、訝しむ気持ちを抑えきれないままながらも、美琴は述懐する。

85sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:40:34 ID:yxZPsspE0

「さっき、あの口裂け女が襲ってきた時……あいつの刃物に、私の能力が通じなかった」

 脳裏に蘇る脅威。
 確かに人間離れした怪物であり、またその凶相に、らしくもなく竦んでしまっていた事実こそあれど――あの程度の脅威を前に自衛ができず九死に一生を得たという、苦い経験を。
 同時に、その中で目撃した光明を。

「それは、サーヴァントにはサーヴァントでなければ抗し得ないから……だけど。その後、アーチャーが叩きつけた時、衝突で『床が口裂け女を傷つけた』」

 それこそはこのゲームの基本原則、そこに生じた攻略の穴だと、美琴は睨む。

「あの食堂がサーヴァントなわけじゃない。だけどサーヴァントが干渉したから、サーヴァントを傷つける条件を満たした、ってことだと思う」

 あの食堂自体には、情報端末を介すことで、既に美琴の能力で干渉できることを確認済だ。
 その食堂が、美琴では干渉できなかった口裂け女を傷つけることができたというのであれば――それ以外の理由は、考えられないだろう。

「だから、私の電撃はそのままじゃサーヴァントに通じなくても。一度、あんたに『変電』して貰えれば、私の能力もサーヴァントに通用するはずよ」

 ガルバニズムのスキルを持つバーサーカーには、放電のみならず、電撃の無力化及び吸収の機能がある。
 そして、生体電流と魔力の自由な変換も。
 ならば一度、美琴の放つ電気をバーサーカーに託し、その分を『フランケンシュタインの雷』に変化させた後、マスターとしてこの身に宿す魔力という形で再充電すれば、即ちこの身に帯びるのはサーヴァントの生体電流だ。
 ……そのように、互いの電気(チカラ)を循環させるためのネットワークの形に、美琴は心当たりがあった。

「あんたの宝具である雷には、あんたの意志が介在するんだし……もちろん限定解放でも、そこに令呪で補助すれば、できないほどの難題じゃないはず」

 おそらくは他の如何なるマスターでもできない、美琴とバーサーカーだからこその戦力増強の秘策だ。

「…………ゥゥゥ」

 しかし……その真意を聞かされたバーサーカーは、またも不機嫌な様子を見せていた。
 それは不満と警戒――ただし、いずれも寸前に顕にしたものとは、別の由来から生じた感情だった。

「落ち着いて。あんたを犠牲にするつもりでも、信頼していないわけでもないわ」

 バーサーカーの宝具使用には、担い手の死というこの上ないデメリットが存在しているが。先にも述べた通り、あくまで限定解放でしか用いるつもりはない。
 ――仮初の電脳体、模造された再現体に過ぎないのだとしても。美琴の中に、バーサーカー(フランケンシュタインの怪物)という造られた命を見捨てるという選択肢など、あるはずがない。

 仮令その命が、争いの中で消費される前提で再現されたモノだとしても――――いいや、だからこそ。
 それを許さないためにこそ、美琴は戦うと決めたのだから。

「ただ、次からは私も一緒に戦う。あんたの側で、一緒に命を懸けて、そして願いを叶える」

86sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:41:39 ID:yxZPsspE0

 そう――『彼女たち』ばかりに戦わせるなんて真似、もうできない。

 先の戦いを見た限り、三者の中で最も有力であったのがあのアーチャーであることは間違いないが、同時、サーヴァントのステータス差とは必ずしも絶対ではないということも直に目にすることができた。
 ……少なくとも、『超電磁砲(レールガン)』と『一方通行(アクセラレータ)』の差ほどには。
 バーサーカーの不利は否めないだろうが、やり方次第で覆せないほどのものでもない。

 そして、単純な反応や攻撃の速度、破壊力で見積もる分には――耐久性こそ、大きくかけ離れているのかもしれないが……アーチャーと『超電磁砲』の間に、隔絶した開きはない。
 つまり、能力さえ通じるようになれば。参戦権を得られれば、御坂美琴は、ステータスアベレージがB以上の強力なサーヴァントとも、戦闘を成立させられるはずだ。
 それこそ前衛に、耐久に優れたバーサーカーが居てくれれば。

 能力さえ通じれば、歯痒い思いをする必要はない。『一方通行』、そしてあの少年の右手と違って、サーヴァントの神秘という守りを突破できる鍵は、既に存在するのだから。

「そのために、あんたのチカラを私に貸して」

 決意とともに、美琴はバーサーカーに願いを告げた。







 ――主である少女には、こう言ったものの。

 数多の生徒を導いてきた大賢者ケイローンたるアーチャーの眼は、寸前まで対峙していた少女の状態に潜む懸念事項を、当然の如く見抜いていた。

 御坂美琴は、非常に危うい状態にある。先程のやり取りからマミが見取った通り、正義感が強く、情にも篤いのが本当の彼女だろう。
 だが、彼女の人格を支える柱のことごとくが取り払われ、あるいは今にも崩れそうになっていることもまた、アーチャーには読み取れていたのだ。
 原因の一つは年頃の少女らしい、自然で微笑ましく、故に彼女にはどうしようもない理不尽によるもの。この聖杯戦争の舞台に隔離されてしまったことによる、友人たちや憧れの人という支えとの断絶だ。

 そのために、余計に不安定になってしまった彼女の根幹もまた、既に酷く傷ついていた。
 立ち振舞いを見れば、アーチャーにはわかる。御坂美琴は努力に裏打ちされた自信こそが、その人格の背骨になっているということが。
 だが……その努力の結果が、誤ったものであったと思い込んでしまえば、どうなるか?
 森羅万象には多様な側面があることが常だが、若い少年少女がそのことを実感として嚥下するのは難しい。

 積み重ねてきた努力の結晶たる力が及ばず、その道中に思わぬ悪影響を残してしまったと知れば。自らを全否定する道に陥ってしまうのも、あの年頃では無理からぬ話だ。
 もしも、ただの一教師の身で出会ったのなら。いっそ綺麗にその自信を折ってから丁寧に治療しても良かったのだが、今は主に仕えるサーヴァントの身。口裂け女という喫緊の脅威が街を脅かす中、御坂美琴の再生だけに没頭するわけにもいかない以上、半端な真似は控えるしかなかった。
 故に――彼女が立ち直ろうとするその時、思わぬ方向に転んでしまわないという保証は、実はアーチャーの中には存在していなかった。

(……頼みましたよ、バーサーカー)

 だからアーチャーは、御坂美琴のサーヴァントに、密かな祈りを抱いていた。
 ――彼女の方は、アーチャーのことを覚えていない様子だったが。本来は神霊であったアーチャーは、遠い並行世界において、同じ色を掲げた陣営のサーヴァントとして、あの狂戦士と共に戦った際の記憶を持ち合わせていた。
 ……忘れるはずはない。我が子にも等しい弟子が、見事己を越えたあの戦いを。
 何より過去を風化させないことは、その蓄積を後進に伝える教師にとって、必須というべき資質であったから。

 聖杯大戦で共に戦った彼女と、今度は最初から敵同士で巡り合うこととなったものの。
 また、信じられるマスターと出会えたらしい彼女なら。あの時のように。歴史を積み重ねた先である今を生きる人間へ、肩を貸すという英霊の本分を果たしてくれるだろうと信じて。ケイローンは巴マミのサーヴァントとして、御坂美琴のサーヴァントに、願いを託していた。

87sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:42:43 ID:yxZPsspE0

「……それでは、参りましょうか」

 ちょうど、時刻が正午を回った頃。マミの下した方針に従い、用の済んだ食堂を後にするため。立つ鳥跡を濁さず、とアーチャーは人払いの術式を解除した。
 ――その瞬間、術式が綻ぶ際の手応えでようやく。あまりにも馴染みがなかったために気づけていなかったその干渉を、大賢者は知覚した。







「……よろしく頼むわね、バーサーカー」

 がちゃり、という重い金属の音を鳴らしながら。マスターである御坂美琴が握るのはバーサーカーの構える戦槌(メイス)の先端――フランケンシュタインの心臓でもある、球体部分だ。

 美琴が言うには、狙うはマスターとサーヴァントの契約によるネットワークを活用した、能力の共有。彼女が先日目撃した多才能力(マルチスキル)という現象を、擬似的に再現するためのものだという。
 ただし、美琴の目にしたそれと異なり、バーサーカーは学園都市なる施設で開発された超能力者ではない故に、本来は互換性など存在し得ない。マスターもサーヴァントも同系統の電撃使いであるという一点に賭けた、相互の繋がりの作成だ。
 それが発生し得る余地のあることを、美琴はバーサーカーを召喚した時、その多才能力と繋がった際と同様の現象――バーサーカーの記憶を垣間見るという経験をしたことで、認識していたのだ。
 ……そのような思考に至ったことを、彼女と同時に、同様の体験をしたバーサーカーも、理解できていた。

 突然、電気を――ガルバニズムに基づき造られたバーサーカーにとっては、自らの血液に等しいその生命の流れに――混ぜて欲しい、などと言われた際には、己のマスターは高度な変態なのかと狼狽したものの。そもそもそういった魔術的な教養に乏しい美琴にそんな意図が生じるはずもないとわかり、覚悟とともにその戦術的価値を示されれば、バーサーカーも拒否することではない。
 拒否することではない、が――少しだけ、気にかかることも存在していた。

「令呪を使って命じるわ――あなたの意志たるその雷と、この私を繋げなさい、バーサーカー」

 バーサーカーの心臓部を、自らの胸に押し付けた美琴が宣言すると同時、その奥の鼓動が伝わるように。聖杯より彼女に仮託されていた膨大な魔力の結晶たる令呪が、目的を持った力の流れとしてバーサーカーに作用する。

 それは、御坂美琴の願いとバーサーカー、フランケンシュタインの怪物が秘める意志に働きかけ、一つの奇跡を起こそうとする。



 ――汝の欲する所を為せ。そう、囁きかけてくる。



 バーサーカーの能力が学園都市由来ではないことは把握しているため、敢えて詳細は指定しないという美琴の事前説明に則ったその影響は、実際の理屈を問わず結果を出力させるという令呪の効能により、一種の魔術を発動させようとしていた。

88sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:43:48 ID:yxZPsspE0

 ……御坂美琴が知る通り。英霊の座に刻まれたフランケンシュタインの怪物がサーヴァントとして保持する『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』による電撃は、ただの雷ではなく、フランケンシュタインの意志が介在するチカラだ。
 自然の命ではなく、魔術による被造物だとしても。この世に生を享けた以上、断絶される個ではなく、寄り添う伴侶を、己が一欠片を受け継いでくれる誰かを求める、怪物の切なる願いを産んだ意志の力。それは時に、自身が落雷によって命を得た逸話を再現させるかの如く、他者を第二のフランケンシュタインに変貌させてしまおうとするほどの――



 ――魔術(Magick)とは、〈意志〉に応じて変化を引き起こす〈科学〉にして〈業〉である。



 とある高名な魔術師は、そのように自らの魔術を謳ったという。

 ……果たして、不完全な解放とはいえ。令呪の助けが加わり、その不足を補ってしまったとして。

 まず、美琴の目論見――電撃使いの超能力者が操る電気に、バーサーカーの生体電流が共有され、サーヴァントにも通じ得る神秘を纏うということが、無事に叶うのか。
 そして、仮に成功したとして。仮定を飛ばして結果を産み出した奇跡の後に取り繕われる理屈は、果たして本当に、マスターである美琴の思い描いた通りなのだろうか。

 それとも……一緒に命を懸けると言ってくれた、この甘ちゃんなマスターを。
 同情や憐憫のような、どこか傲りの滲んだ形であっても。バーサーカーと同じような、造られた生命のために手を伸ばそうとした眼前の少女を、憎からず思い始めた己の、浅ましい意志によるものなのだろうか。

 その答えを未だ、知らないまま。心臓を重ねた電撃姫と狂気の怪物の間に存在する神秘の多寡を、まるで電位差のように埋めるための放電現象のようにして。
 かつて、新たな生命の創造という、極上の神秘を実現した『かみなり』が、第十一階位のマスターとサーヴァントの間に結ばれたのだった。





【D-5 中学校/1日目 午後】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(微小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:魔法少女として誰かを守れるように在りたい。
1.口裂け女を討伐する。そのためにマスターを追う。
2.休戦協定は結べたけど、御坂さんが気がかり。
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。
※『第十一階位』のステータス及び姿を確認しました。また、『第三階位』を倒すまでの休戦協定及び、撃破後の対決を約束しました。

89sister's voice ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:44:26 ID:yxZPsspE0

【アーチャー(ケイローン)@Fate/Apocrypha】
[状態]健康
[装備]弓矢
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの力となる。
0.監視者への対処をマスターに進言する。
1.マスターの意思を尊重し、それが損なわれないよう全霊を尽くす。
2.口裂け女への警戒。知名度の上昇、あるいは多くの耐性を獲得する前に仕留めたほうがよい。
[備考]
※御坂美琴とそのサーヴァントの気配を感知しました。
※口裂け女について一定の情報を得ています。
※『Fate/Apocrypha』での聖杯大戦の記憶を持ち合わせています。どの程度詳細を覚えているのかは後続の書き手さんの判断にお任せします。
※人払いの結界を解除した際の手応えで、錬のゴーストハックによる監視に気がついたようです。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]若干の精神不安定(やや回復)、感電中
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:最後まで生き残り帰還する。聖杯により妹たちを救う?
0.私は本当に人を殺せる……?
1.サーヴァントに干渉できる能力を得る。
2.『第三階位』を倒した後、『第四階位』のサーヴァントを倒す。それまでは巴マミとは休戦する。
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。またホームページ上で彼女を綺麗だと回答させられました。
※『第四階位』のステータス及び姿を確認しました。また、『第三階位』を倒すまでの休戦協定及び、撃破後の対決を約束しました。
※「バーサーカーの生体電流と、『電撃使い』を繋げる」という令呪の補助の元、限定解放ながら『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』の雷を心臓に浴びています。無事なのか、目論見通りにサーヴァントに通じる神秘を能力に取り込めるのか、知らぬ間にフランケンシュタイン化するのかは、それぞれ後続の書き手さんにお任せします。



【バーサーカー(フランケンシュタイン)@Fate/Apocrypha】
[状態]魔力消費(中:宝具解放に伴う瞬間的なもので、すぐに回復します)
[装備]乙女の貞節(ブライダルチェスト)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:……
1.マスターに従う
[備考]
※『雷電姫&欠陥電気(レディオノイズ)』にて美琴と繋がった際、バーサーカーも彼女の記憶を見ていました。具体的な把握範囲は不明ですが、『妹達』を救うために活動していることは認識しているようです。

90 ◆aptFsfXzZw:2021/07/04(日) 21:47:40 ID:yxZPsspE0
以上で投下完了です。


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