したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | まとめる | |

ジョジョ×東方ロワイアル 第八部

1 ◆YF//rpC0lk :2017/12/27(水) 20:28:42 ID:gcTLuMsI0
【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお、小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。
また、本企画は荒木飛呂彦先生並びに上海アリス幻楽団様とは一切関係ありません。

過去スレ
第一部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
第二部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1379761536/
第三部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1389592550/
第四部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1399696166/
第五部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1409757339/
第六部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1432988807/
第七部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1472817505/

まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16334/

317 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:54:18 ID:/BP69OTc0

「奴の顔見知りは、オレの顔を見て全員似たような反応をするよ。こちとらいい迷惑なんだがな」
「じゃ、じゃあアンタは奴……いやDIO様の部下かよ。兄弟とかそんなんじゃあなくって?」
「別に部下じゃないがね。オレはオレさ」

 晴れ晴れしく肯首するディエゴを見届けると、ホル・ホースもようやく安堵の息を吐き出した。
 よく見ればDIOよりも、ホル・ホースよりも若い青年だ。あのゲーム好きであるダービーらでさえ、兄弟間でここまでは似てない。
 よりによってDIOと似なくても良いだろうに……と、ホル・ホースは内心で毒づく。こんな圧迫感のある顔面がこの世に二人と居てはたまらない。


「で、だ……ホル・ホース。ジャイロ・ツェペリの奴は元気だったか?」


 ふっ、と話題が変わった。
 今、ディエゴの口から出た名はホル・ホースとて知らない男ではない。
 長年の経験でよく分かる。ディエゴは顔こそ笑ってはいるが、吐かれた言葉の奥に敵意を感じ取った。友達を心配をする声色などではない。
 因縁があんだろーな、と心情を察すると同時。今の台詞には明らかに不自然な内容が混じっていた。

「……アンタ、何故それを?」

 鋭く放ちながらも、ホル・ホースはおよそ確信を得る。
 何らかの理由で、自分の行動・足跡が漏れている。そしてディエゴは敢えてそれをバラすかの様に、自ら伏せカードを明かしてきた。

「いや、元気なら良いんだ。相棒の方が逝っちまったからって、悲しみに暮れてるんじゃないかと心配してたんでね」

 心配のしの字もしてなさそうな上っ面でディエゴはケタケタ笑う。どうやらこちらの質問に答えるつもりはないらしい。

 どことなく気に入らない野郎であった。あの男と出で立ちが似ているからではなく、性格の方がホル・ホースと合わないきらいがある。
 自信家らしい所は結構だが、他人を見下す事が常となっている片鱗が見えた。ホル・ホースとてこれまで数多くの人種と付き合ってきたが、往々にしてこの手の輩は度が過ぎると、仲間ですら踏み台にするのに躊躇しない。
 そしてホル・ホースの性質から言って、こういうタイプとは相性がすこぶる悪い。必要以上に馴れ合わず、適度な距離感でギブアンドテイクの仕事関係を続けてきたホル・ホースは、主に相方の能力を縁下から持ち上げるやり方が主流である。
 いざとなれば互いに切り捨てられる潔さを双方持ち合わせることに異論はまるで無いが、それも裏切り前提の関係が色濃く出れば仕事に支障が生じる。

 ある程度の信頼は必須なのだ。単独だと弱いホル・ホースの短所を補う相方には。

(見捨てられる程度ならともかく、平気なツラでオレを盾にしかねんヤローだぜコイツはよぉ)

 ホル・ホースの観察眼は、ディエゴを相方候補から即座に除外する。長所短所を埋め合う以前に、この男は少々やりづらい。どこかキケンな匂いもする。

「おやおや。嫌われちまったらしい。これから苦難を共にする『仲間』になるかもしれないってのになァ」

 視線から伝わってしまったか。ディエゴもホル・ホースの機微を敏感に察知し、軽薄な態度で軽口を叩いた。
 まあ、これくらいの不遜な口を利く人間は珍しくない。DIOの部下にも腐るほど居たものだし、その度にホル・ホースは事を荒立てることなく適当に相手していた。

318 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:54:42 ID:/BP69OTc0

「あんさんがこのオレとどう付き合っていきたいかは追々として……この女の子は誰だい?」

 従ってホル・ホースは目下の疑問をまず解決する。
 ロクな説明すら無かったのでどう触れていいものか分からなかったが、ひとまずDIOの命令は寝息ひとつ立てないこの少女を保護しろという内容だ。
 見た目人間に見えるが、幻想郷の少女達と交わってからすっかり常識観が壊されている。最早この子が妖怪の類であろうと、もう驚かない。

「ああ、その子。どうやらDIOの『お気に』らしいぜ」

 少女の髪を気障にも手に掬い、サラリと流しながらディエゴが言う。
 思わず鳥肌が立つ。まさか奴の『餌』じゃねーだろうなという勘繰りが頭を過ぎるも、そうであればさっさと食い終わっているだろうという結果に落ち着いた。

「何なんだ、この女は? DIO様の部下か?」
「さあね。オレには何とも。
 だがある程度の見当はつく。恐らく……───!」


 言葉は途中で途切れた。
 ディエゴの瞳が一層鋭く研ぎ澄まされ、室内のある一点を刺すように睨んだのだ。

「? どうしたよ、突然───!?」

 釣られてホル・ホースも、そこを見た。
 部屋の一角。何の変哲もないただの壁。
 正確には空間そのものに。

 音もなく、切れ目が裂かれた。


「───やっと、見付けた」


 密閉でもない部屋の中だというのに。
 まるで鍾乳洞で木霊したかのように、妖しげな声が綺麗に鳴り響いた。

「お出ましだぜ」

 ディエゴの顎が薄ら開き、下卑た笑みが零れる。
 


「私を呼んだのは貴方ね。我が『半身』よ」



 スキマから現れた大妖怪・八雲紫が。
 彼方に夢魅る幸福も、この世のあらゆる不条理も、全てを受け入れんとするが如く。
 両の腕を虚空へ広げながら、現に降り立つ。

 まるで。待ち望んでいたものがようやく訪れたような。
 そんな面持ちで、女はマエリベリーへと───。


            ◆

319 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:55:19 ID:/BP69OTc0


 とある休日の、親友とのショッピング帰り。
 ふと空を見上げると、晴天だというのに珍しい物が見えた。

 逆さ虹。気象学的には環天頂アークって言うのかしら。

「何か良い事の前触れかもしれないわね」

 こういう時、現世の結界は緩みやすくなるものだ。
 明日に予定している活動の前途に胸を踊らせながら、視線を雲の上から下へ戻すと。


 紫の羽を彩る、一羽の蝶々が目の前を横切った。


 反射的にわたしは、人差し指を伸ばしていた。
 絡むように指先へとまる蝶。



「───番の蝶、かしら」



 私の声じゃない。
 背後でそう呟かれた気がして、私は少し驚きながら振り向いた。

「……気のせい、かな」

 人混みはあったが、それらしき人物は居ない。
 ただ、その中に綺麗な金髪の女性の後ろ姿があった様な気がして、わたしはつい目で追ってしまう。
 晴れ間なのに紫色の傘なんかさして、まるであの虹みたいに周囲とは不釣り合い。
 現と幻想。喩えるなら、そんな感じで。


「そういえば……どこかで見たような傘だったな」


 番の蝶(つがいちょう)。
 二つが組み合わさって、初めて一組となるものを『番(つがい)』と呼ぶ事もある。




 いつの間にか、紫の蝶はわたしの指を離れ。
 あの虹の先にフワリと羽ばたいて、見えなくなった。


            ◆

320 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:55:58 ID:/BP69OTc0

『ジョルノ・ジョバァーナ』
【午後 15:31】C-3 紅魔館 地下大図書館


 全ては己の短慮が招いた采配だ。
 齢15の身の丈に合わぬ、数多くの責を背負うジョルノがそれを痛感するには、充分な悲劇であった。

 ジョルノの剣として飛び出した鈴仙は皮肉にも、盾という形で『世界』の拳を直に受け、急所である心臓を傷付けられた。一般的な肉体であれば貫通は免れない程の一撃を何とか押し留めたのは、都時代に鍛錬してきた屈強さ故か。
 それでも致命傷だ。峰打ちにて亀甲すら砕きかねない過剰な破壊力は、あのキング・クリムゾンをも上回るかもしれない。
 ジョルノは彼女の治療を最優先し、なるべく傷に障らぬよう床に寝かすも。

「お前の能力は『治癒』の一種だと聞いている。猶予の一切も与えるつもりは無い」

 『世界』の兇手は、再び息子の生命を摘みに立ちはだかる。

 拳の打ち合いという土俵に登れば、基本的にジョルノはDIOの『世界』には勝てない。スタンドに秘められる生来のポテンシャル差が圧倒的なのだ。
 防御に徹していては、鈴仙の命の灯火などロウソク以下の線香花火のようなもの。燃え尽きるより早く、砂の上へと音も立てず転げ落ちるだろう。

 しかしジョルノが迫り来る災害に防御を展開させる未来は訪れなかった。
 森閑たるべき図書の蔵には似合わない騒音が、音速の拳を乗せながら接近してきたからだ。


「破ァ!!」


 不躾な乱入者はバイクに跨り、DIO目掛けて族の如く突進してきた。この地下図書館へ至るには、蛇の胃の様に曲がりくねった階段を下る必要がある筈だが、そんな悪路など何の問題にもならないと言わん程の猛烈な勢いで、操縦者は闇から姿を現す。
 美しいと表現するのも生温い。光り輝く虹を連想させたグラデーションの髪を流す女性だった。バイクスーツまで着こなした彼女はなんの迷いも無く、今にもジョルノの首を狩らんとするDIOの背中へと、法定速度を完全無視したバイクごと突っ込んできた。

「DIO様ッ!」

 無論、男の忠実なる下僕がそれを安穏と見過ごす愚は起こさない。
 宇佐見蓮子が妖刀を振りかぶり、バイクの突進エネルギーを達人的なタイミングを以て殺した。言うまでもなく、様々な強者達の動きを『覚えた』アヌビス神だからこそ成せた達人技。

 それでも、甘い。
 バイクスーツの女性は、蓮子の想像を彼女の体ごと優に飛び越えた。

「DIO! 『上』だッ!」

 続くはプッチの咆哮。蓮子とプッチの頭上を、洋燈に照らされた影が通過する。
 アヌビス神が遮ったのはバイクのみ。ハンドルを捨て、シートから大きく跳躍した女は自ら砲弾となる事を選び、本命のDIOへと突撃する。唸りを上げる鉄の馬など、囮に過ぎない。

「〜〜〜ッ!」
「遅いッ!」

 予期せぬ闖入者にDIOの防御が遅れる。
 当然の話。DIOには依然『視力』が無い。プッチが抜き取ったDISCを再び持ち主に返す隙など挟みようが無かったのだから。
 結果、視界を封じた劣悪な状態異常のまま、DIOは防御に移行せざるを得なかった。
 故に生じた、コンマの遅延。その遅れは、闖入者の鋭い掌撃を男の脇腹へと通す功績に大きく貢献した。

 メキメキと、木の幹でも折れたような重い音が辺りに轟く。
 慣性力を味方につけたとはいえ、生身の女性が繰り出せるパワーではない。まして相手は吸血鬼の体幹なのだ。

(これは……まるで)

 暗幕の視界という悪条件の中、突如身に襲いかかる弩級の衝動。貫かれたDIOは、存外な破壊力に吹き飛ばされながらも、その思考は寧ろ冴えていた。
 間もなく響き渡る破壊音。蔵書の崩れを防ぐ為、頑強に床へと備え付けられた本棚へとDIOが衝突する音だ。

「DIO様!」

 バイクを弾き飛ばした蓮子が、叫びながら崩れ落ちた瓦礫へと駆け寄る。プッチも動揺の声こそ上げなかったが、蓮子の後に倣った。
 掃除の行き届いていない棚ゆえに、辺りは真っ白な埃が舞い上がり、さながら煙幕のよう。


「───まるで…………近接パワー型スタンド並みの腕力だな」


 その煙幕の中から、男は何事も無かったように姿を現す。
 コキコキと首を左右に傾け、砕けた筈の肋骨をも軽く擦りながら余裕ぶるその仕草は、到底マトモなダメージが入ったようには見えない。


「……少なくともひと月は立ち上がれない程度の手応えはあったのですが……成程。“人間ではない”という話は真だったようです」

 女の方もあれほど無茶な身のこなしを終えたにも関わらず、汗一つかかずにプロスタントマン顔負けの着地を成功させた。
 血を流し倒れる鈴仙と、彼女を治療するジョルノらの盾となるように、目の前の邪悪の化身へと構える。


「貴方が話に聞く……DIO!」
「ほう……誰かと思えば『聖白蓮』だったか。是非、一目拝んでおきたかった女だ」

321 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:56:25 ID:/BP69OTc0

 プッチから渡された視力の円盤を悠然と後頭部に挿し込みながら、白蓮へと対峙するDIO。開示された視覚の情報を脳に取り入れた彼が真っ先に漏らした言葉は、白蓮への興味を示す内容だった。
 予想外の台詞に白蓮はやや目を丸くする。自分がDIOの名前や人物像を知っているのはスピードワゴンの忠告あっての事だが、相手側からも目される理由に見当がつかない。
 更に……。


「───プッチ神父」


 DIOの隣に立つは、白蓮が追跡していたメインターゲット、エンリコ・プッチ。衣まで脱ぎ捨てた甲斐あって、バッチリと捕捉出来た。

「全く……呆れた尼だ。よもや屋内でチンピラの真似事とは。まさか君は普段の寺でもそんな様子なのか?」

 言葉通りにプッチは首を振りながら、とうとうここまで追って来た女性の執念に感服する。トレードマークの僧衣まで失ったとあっては、今の白蓮を見てまさか聖職に従事する人間だとは誰一人、欠片も思わないだろう。

「聖、白蓮……そうです、か。貴方が……」

 窮地を救ったその凛々しい背中を見上げながら、ジョルノはしんみりした声色で呟く。

「先の突撃を見て命蓮寺にあらぬイメージを抱いたのであれば悲しい誤解ですが……貴方も私の事を存じておられるのですか?」
「ええ。……小傘から、少し」

 トーンの落ちた声で告げられたその名は、少し前にも放送で呼ばれた名前だ。
 ほんの一瞬伏せられたジョルノの瞳を見て、彼が小傘に抱く感情は悪いものではないと白蓮も察する。
 同時に、負傷した兎耳の少女──確か永遠亭の薬売りだったか──を治療しているらしき所から、その少年は〝善〟なる側だと判断。

 この時点で白蓮の取るべき行動は、決定された。

「ならば救いましょう。〝禅〟なる心で。
 この様な世紀末の世界でも、神や仏は確かに御座すのだと……貴方達に説いてみせます」

 白蓮の目的はDIOやプッチ打倒でなく、あくまでジョナサンのDISCだが、救いを求めている人間を見捨てる様な真似は到底選べない。
 お人好しが服を着て歩くような彼女が、たとえ服を脱ぎ去ったとしても。
 〝善〟と〝禅〟の本懐に宿る心意気は、〝全〟裸であろうと揺るがない。


「ここはこの聖白蓮にお任せを。三対一……上等です!」


 驕心や猜疑という名の衣も纏わぬ、ひたすらに『信念』を貫き通せる至上の志さえあるのなら。
 露出されたその心には今や、一片たりともの羞恥だって存在しないのだから。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

322 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:56:57 ID:/BP69OTc0
『霍青娥』
【午後 15:33】C-3 紅魔館 地下大図書館


「まさか侵入したジョースターがジョルノ君だったなんてねえ。でも……こんな特大カード、中々お目にはかかれないわね」


 ラッキー♪と、心の底から溢れる喜びを抑えきれない青娥が堪らず口に零す。それ程には、この一大ショーは彼女にとって垂涎モノだ。
 邪仙にはこの戦いに介入するつもりは毛頭ない。腐ってもDIOの従順たる部下を自負しているつもりの彼女だが、それ以上に重要な至福が別にあるからだ。

「DIO様&神父様(蓮子ちゃんもいるけど)VSジョルノ君&聖大僧正サマなんて(あの兎は木偶として)。
 S席確保しといて良かったぁ。これは見ものよねっ」

 白蓮にバイクを貸し与えた損失など、お釣りが来るほど愉快なる見世物小屋。これには旦那を質に入れてまで観戦する価値があろうというもの。
 決して邪魔にならぬよう、また余計な火の粉が飛んで来ぬよう、青娥はしっかりと河童の迷彩スーツを着用して身を隠している。いつぞやと同じく、ジョルノや紅美鈴とウェス・ブルーマリンとの戦いを人知れず傍観していた時の様に。
 その上、席は図書館を一望できる高さを誇る本棚の最上から。ゆえに彼女は呑気にも、支給されたおむすびを口に頬張りながら高みの見物を決め込むつもりであった。

 これが賭け試合ならば、文句無しにDIOチームに財産を投入しても良い……と行きたい所だが、青娥は実際にDIOやプッチの実力をこの目で確かめた訳では無い。
 あの八雲紫を一蹴したDIOの力は間近で目撃してはいたものの、どちらかと言えばあれは紫側に大きな不調というハンデがあったようだ。
 つまり、我が主とその旧友の本気が見られるのは今回が初めてとなる。青娥の鼓動が早まるのも無理からぬこと。

「と言っても……あの住職サマの力だって半端じゃないのよねえ。もぐもぐ」

 逆に聖白蓮の力はよく知っている。あの甘ったるい性格を勘定に入れなければ、青娥の身近な知人の中でも群を抜いた潜在能力だ。
 この試合。レートで言えば案外に五分五分かも……等と客観的に評する青娥。プッチの怪我だってまだ快復してないだろうに、やる気満々の白蓮を相手取るには少々厳しいか?

 しかし……それでこそ、見る価値があるものだ。
 賭けてる物など無い以上、別にどっちが勝とうが負けようが───青娥にとっては大差ない。

 死熱必至の奪り合いに立ち会えた時点で、邪仙の欲が存分に満たされる未来は確定しているのだから。


「ほひはふぉふぁいほ!へふほ〜♪(どちらもファイト!ですよ〜♪)」


 ハムスターの様に頬を膨らませ、口元に米粒をひっ付けながら。青娥は無邪気に、元気よく腕を振った。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

323 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:59:16 ID:/BP69OTc0
『八雲紫』
【午後 15:28】C-3 紅魔館 二階客室


 とかくこの世はそう都合よく進まない。歯車が噛み合わず、軌道に乗せる事すら儘ならない理不尽ばかり。
 「運が悪かった」で片付けられるだろうか。恐らくだが、今回に関してはそうではない。

 またも、一手遅れた。
 八雲紫がこの光景を見てそれを感じ取るのは、早かった。


「……DIOは何処?」


 開口二番に問い質した事柄は、意外にも邪悪の行方。
 己の魂を揺さぶっていた謎の『声』の主が、そこで眠りこけている少女だというのは本能的に理解した。

 同時に、その少女の『中身』が失せている事も。

 一計を案じたのはDIOだろう。やはりあの男は人の動かし方に長けた名将だ。
 少女の奪還はそう容易ではないらしい。彼女の『意思』の在り処はきっと、既にDIOの手元だろう。ここで肉体のみを取り返し館から脱出するのは、紫からすれば釈然としない。

 少女───マエリベリー・ハーンは此処には居ない。
 器に在留する彼女の残滓は、驚くほど静かだ。

「流石に理解が早いな。ここまで散々振り回されて、やっと賢者の本領発揮……ってツラだぜ。意外とスロースターターなのか?」

 紫の質問へ馬鹿正直に返すより、あっけらかんと挑発する事をディエゴは選んだ。先程までとは違って、今この女とマトモにやり合えば恐らく不利は自分の方だと悟りつつ。

「ディエゴ。貴方にも随分な仕打ちを受けてきたけど……今は“見逃してあげる”。
 もう一度訊く……DIOは何処? 三度目は無いわよ」

 女の髪が揺れた。バルコニーより吹く冷たい風が原因ではない。
 今度という今度は八雲紫も本気なのだ。溢れる妖気を抑えきれていない状態が、それを優に語っている。

「とと……そうキレるなよ。第一、オレだって『Dio』なんだぜ。オレじゃあ役不足かい?」

 本気の紫を前にし、敢えてイラつかせる様な態度を続けるディエゴ。恐らく“役不足”も誤用でなく、本来の意味で使っているのだろうと、紫は内心で舌打ちする。
 言うまでもないが、正確にはDIOでなくDIOの近くに置かれているであろう『探し人』が目的だ。件の少女を救うには、必然的にDIOとまみえる可能性が高い。
 そして現在、DIOはジョルノとぶつかっている事が容易に想像できる。というより、そうなるよう紫の方から意図的に誘導した。
 ジョルノは口に出さなかったが、彼がDIOに対し並々ならぬ想いを抱いていたのは何となく感じていたし、再びの邂逅を望んでいた節もあったからだった。
 いわばジョルノを囮として使う策は、所詮ついで。本心では世話を焼いたようなものだ。

 そのお節介が、果たして吉と出るか凶と出るか。
 そこまでは紫にすらどう転ぶか分からない領域。

 だというのに……どうにも転がされている気がしてならない。

(それはDIOに? それとも……運命って奴かしらね)

 クサイ台詞だと自分ながらも思う。しかし、こと『運命』という因果律は紫にとって他人事ではない。

 我が写し鏡だと見紛う程に、そこで眠る少女との出逢いは運命だと言わざるを得ないのだから。

「ディエゴ。アナタはDIOの『天国論』についてどう思っている?」
「なんとも言えんね。ただオレは『見下す』のが好きだ。その天国とやらに登り詰めれば、神サマだろうが何だろうが上から見下ろすのは楽そうだ、とは思ってるぜ」
「……哀しい人間。環境さえ違わなければ、アナタの意志は正しい手段で頂きまで登り詰める素質があった筈なのに」
「……それ、煽ってンのか?」

 飄々と宣っていたディエゴの態度が一変する。先の意趣返しとでも捉えられたのか、触れられたくない箇所に触れられたが故の立腹か。

「アンタの言う『正しさ』とは何だ? まさかお前まで“気高さを忘れるな”などと言わないよな?」
「私には貴方へ対し説教を垂れる資格はないでしょう。幼少期の貴方が、それらを学ぶ環境に居なかった苦境は推測できます。
 ただ……ねじ曲がり、ふんぞり返った貴方の目指す地点に、天国などという理想郷は相応しくない」

 人間には、時たま彼のような人種が産まれてくる。
 世から見捨てられ、故に世を……世界を怨む報復人。
 こういった人間は、得てして危険である。幻想郷であれば即座に弾かれて然るべき、力を求める孤立者だ。


「アナタの言うそれは……ただの『奈落論』。
 這い上がって来たと勘違いしたその場所こそが、真理から孤立した堂々巡りの伽藍堂……地の底よ」

324 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 18:59:51 ID:/BP69OTc0

 男の口元がひび割れた。
 恐竜化による攻撃意思か。はたまた自嘲の嗤いか。
 掛かってくるのならば今度こそ足下は掬われない。

 迎撃の態勢に移さんとした紫へと、裂帛へ誘う爪撃が襲う事は……果たして来なかった。

 ディエゴがその場から動く気配を見せない。
 見ればひび割れたと思った口元も、通常のままの様子であった。
 肩を透かされた形になった紫を軽蔑の眼で見送るディエゴ。彼は意外にも、襲い掛かるどころか踵を返して部屋の出入口へ足を向けた。

「何処へ?」
「アンタが視界に入らない場所さ。これ以上目を合わせてると、どっちかがくたばるだろうからな」

 ディエゴ自身、大きく負傷している現状。それを分かっている彼も、挑発に乗って無謀など起こすべきでないと理解している。
 しかしそれ以上に今のディエゴにとって、ここで八雲紫を叩く事に自己満足以上の意味はない。紫をこの場で始末するにはまだ『機』ではなかった。


「……っと。忘れてたぜ。霍青娥には気を付けといた方がいい」


 ふと、極めてどうでもいい事柄を思い出し、ディエゴは足を止める。
 本当にくだらないのでこのまま立ち去ろうとも考えたが、まあこの程度の心の余裕くらいは保っておきたい。


「青娥に……?」
「オレが『ある事実』を伝えてやったらアイツ、珍しく怒ってたぜ。お前……殺されるかもな」
「はて。有象無象の弱者達から恨みを買う原因に、心当たりならば山ほどありますゆえ。
 ……ご忠告、感謝しますわ」


 そのままディエゴは無音のままに部屋から脱し、紫の前から姿を消した。
 どうにも不気味である。紫は今度こそ彼を抹消する覚悟でこの場に現れたのだが、奴には敵意こそあれ戦意はさほど見えなかった。
 身体のダメージを考慮し撤退、という風にも見えたが、別の意図があるようにも思えた。
 そもそも───

(この子を置いていくとは。“中身”まではどうにも出来まいと、高でも括っているのかしら)

 紫は神妙な面持ちで、椅子に掛けられたメリーを覗く。少女の“意思”は残念ながらここには在らず、だからこそ紫一人がどう足掻こうと『無駄』だと見くびっているのだろうか。

 どうする? ディエゴを追撃するか。
 この場にて交戦すれば、最悪メリーを人質に取られる危険性を考慮し、敢えて今は奴を見逃したが。
 ……却下。時間が足りない。
 目的を見据えろ。今、やるべくは。


「……貴方からお話を聞くことよね。時代錯誤のカウボーイさん?」


 どさくさに紛れて退出しようと、抜き足差し足で移動する前時代的な装いの男を、紫の声が射止めた。
 男──ホル・ホースは大袈裟にハットを跳ねさせ、蛇に睨まれた蛙の様に硬直する。
 紫はこの男に全く見覚えがない。恐竜化させられていた頃の、つまり図らずもDIOの下に付いていた頃にも、男の顔など見たこともなかった。
 つまり彼は新参者。つい最近DIOの一味に参入したばかりである事が予想される。
 ディエゴとの会話中も、彼は如何にも話について行けてない困惑そのものを貼り付けた顔であり続けていた。
 手玉に取るならディエゴでなく、このカウボーイの方がだいぶやりやすいだろう。今の所、敵意も感じない。


「改めて……私の名は八雲紫。死にたくないのならば、少しだけお時間頂けるかしら?」
「……ホル・ホース、だ。全く、DIOのヤローのそっくりさんの次は、カワイコちゃんのそっくりさんかい。まさかオレのそっくりさんは居ねーよな?」
「貴方の名前なんかどうだっていいの。あまり時間も無いし……幾らか質問に答えて貰うわ」


 この日何度目かの大きな大きな溜息が、ホル・ホース口から漏れた。厄日という単語を辞書で引けば、そこにホル・ホースの日常が示された引用で解説されてるのではないか。
 真実、ホル・ホースは何も理解出来てないし、知らない。
 その事実を懸命に説けば、果たしてこの胡散臭い美女は退いてくれるだろうか。

 ……無理だろうな。ホル・ホースは殆ど諦めの念を浮かべながら、己の引きの悪さを悔やんだ。

           ◆

325 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/08/30(木) 19:00:31 ID:/BP69OTc0


          ───
       ─────────
   ─────────────────


 夜の竹林ってこんなに迷うものだったかしら?
 携帯電話も繋がる気配は無いし、GPSも効かないし、
 珍しい天然の筍も手に入ったし、
 今日はこの辺で休もうかな……って今は夢の中だったっけ?
 しょうがないわ、もう少し歩き回ってみようかしら。


 それにしても満天の星空ねえ。
 未開っぷりといい、澄んだ空といい、大昔の日本みたいだなあ。

 タイムスリップしている? ホーキングの時間の矢逆転は本当だった?
 これで妖怪がいなければもっと楽しいんだけどね。


 そうか、もしかしたら、夢の世界とは魂の構成物質の記憶かもしれないわ。
 妖怪は恐怖の記憶の象徴で。



 うーん、新説だわ。
 目が覚めたら蓮子に言おうっと。



 さて、そろそろまた彷徨い始めようかな。




   ─────────────────
       ─────────
          ───


【かつて稗田阿求が発見したメモ】
数百年前の迷の竹林で発見。
意味不明な単語も多く見られ、未だ解読不能。
外の世界の人間が書いた物だと思われるが、
夢の世界とは一体どういう意味だろう。

           ◆

326 ◆qSXL3X4ics :2018/08/30(木) 19:02:08 ID:/BP69OTc0
前編投下終了です。
遅くならない内に次も書き上げる予定です。

327 名無しさん :2018/08/30(木) 23:59:26 ID:IkxW/jJI0
氏のストーリーの魅せ方はやはりというべきかなんというか、上手ですよねェ〜〜ッ
文章の読み易さ・展開の構成どちらも上品に画かれているのに加えて、文中に仕込まれたギャグ成分も綺麗に織り込まれていて読んでて楽しい……楽しくない?

ページをスクロールする手が止まらないとはこの事か〜〜……うーんすき!
これには後編への期待が高まってオラわくわくすっぞ!!

328 名無しさん :2018/09/11(火) 11:15:53 ID:iEQbbFsw0
盛り上がってきました

329 ◆qSXL3X4ics :2018/09/14(金) 20:42:34 ID:lQG/D5qE0
お待たせしました。中編投下します

330 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:44:44 ID:lQG/D5qE0
           ◆


          ───
       ─────────
   ─────────────────


 夜の竹林ってこんなに迷うものだったかしら?
 携帯電話も繋がる気配は無いし、GPSも効かないし、
 珍しい天然の筍も手に入ったし、
 今日はこの辺で休もうかな……って今は夢の中だったっけ?
 しょうがないわ、もう少し歩き回ってみようかしら。


 それにしても満天の星空ねえ。
 未開っぷりといい、澄んだ空といい、大昔の日本みたいだなあ。

 タイムスリップしている? ホーキングの時間の矢逆転は本当だった?
 これで妖怪がいなければもっと楽しいんだけどね。


 そうか、もしかしたら、夢の世界とは魂の構成物質の記憶かもしれないわ。
 妖怪は恐怖の記憶の象徴で。



 うーん、新説だわ。
 目が覚めたら蓮子に言おうっと。



 さて、そろそろまた彷徨い始めようかな。




   ─────────────────
       ─────────
          ───


【かつて稗田阿求が発見したメモ】
数百年前の迷の竹林で発見。
意味不明な単語も多く見られ、未だ解読不能。
外の世界の人間が書いた物だと思われるが、
夢の世界とは一体どういう意味だろう。

           ◆

331 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:46:15 ID:lQG/D5qE0
『聖白蓮』
【午後 15:37】C-3 紅魔館 地下大図書館


「殴られた横っ腹の借りを返す前に、だ。念の為聞いておこうか、聖白蓮」


 先のダメージをものともせずに、DIOが気障ったらしく腕を組む。
 些か掃除の行き届いてない書物の群から立ち上る埃の煙幕は、まるで吸血鬼の胃から吹き出される寒波を想像させるおぞましい寒気。

 少々、難儀な物の怪退治になりそうだ。
 白蓮は予感される大仕事に背筋を強張らせながらも、決して気圧されない。

「何でしょうか?」
「お前は何故、このDIOの前に立つ?
 そこの出来損ないを救いに来たのだと寝言を言うのなら、これは『親子』の問題だ。引っ込んでいてもらおう」

 戦う理由。それは白蓮にとっても、置いてはおけない問題だ。
 万事の発生には、必ず理由がある。
 相応の理由があるのだから異変を起こす者がいるのだし、異変が起こるから巫女は解決に向かう。
 民衆を救い、導く役職に就く尼公の白蓮ですら「力も方便です」と残している。先の宗教戦争において自ら出陣した珍事にだって理由はあるのだ。

 『妖怪退治』と『殺し』は決してイコールでは結ばれない。
 しかし、このゲームにおいてはそのイコールが結ばれ“得る”。得てしまう。
 たとえ目の前の吸血鬼が妖怪の括りに則し、退治なり成仏なりさせてしまえば、現状に限って言えばそれはもう『殺し』の領域となる。
 『殺人』にも理由はある。誰でもいいから殺したかったなどと供述する人非人の戯言ですら、広義で見ればそれは一つの理由だ。

 白蓮がDIOらと戦う理由は明確だ。
 その戦いの過程で彼らの命を奪ってしまう結果が起こり得る事も、予想しなければならない。

 言うならば今の白蓮には、『殺人』を犯す公然の理由がある。本人はそれを許容してはいないが、当て嵌ってしまうのだ。
 無論、僧侶たる彼女が“それ”を犯してしまえば、因果応報により必ず地獄に堕ちる。断じて避けなければならない。

「“因縁生起”……世の中のものは、すべて相互に関係しあって存在している、因縁によって生ずる、という考え方です」
「フン。坊主の説法を頼んだ覚えはない。尤も、その考え自体には同意できるが」
「因縁生起を略し、『縁起』と呼ぶ。“吉凶の前兆”という様に、昨今ではかけ離れた意味で使われるこの言葉は、本来は因と縁が互いに密接に絡み合う意味なのです」

 縁起の考え方は、仏教が持つ根本的な世界観である。
 この因果論は、“様々な条件や原因が無くなれば、結果も自ずから無くなる”、という逆の考え方も出来る。
 DIOがジョルノという親子の『縁』を断ち切ろうとする『理由』には、我が子すらも滅す事によって、ジョースターという『縁起』を完全に消滅させようという魂胆がある。
 仏教の世界でいうところの『縁滅』を狙っているのだ。

「貴方の所業に理由はあるのでしょうが……それはやはり悪行でしかない。
 無論、私がこの場へ赴いたのにも理由はあります」

 テカテカの光沢を反射させながら、白蓮は右腕をDIOに向け、人差し指を立てた。

「ひとつに。そちらの神父様の持つ、ジョナサン・ジョースターから奪った円盤。
 彼を蘇生させるには、その円盤が必要不可欠と判断した故に、ここまで参りました」

 真っ当な理由だ。いわば人助けに類する行動理念であり、白蓮を象徴すると言っても良い行動であった。
 DIOもプッチもそこは容易に予測出来る。そして白蓮の言う通り、ジョナサンのDISCは未だプッチの懐に仕舞われていた。
 この円盤の特徴の一つに、破壊不能レベルの弾性を纏うことが挙げられる。外圧によって壊すことは難しいが故に、たとえ宿敵の命そのものと呼べる円盤でもこうして持ち続ける他ない。ここにヴァニラ・アイスさえ居れば悩むまでもない話であるが。

「御足労悪いが……このDISCだけは渡せないのだ。諦めて寺へ帰るといい。力ずくはあまりオススメしない」
「力ずく、ですか。好きな言葉ではありませんが……嫌いな言葉でもありません」
「……中々面白い尼だ。少し気に入った。……他の理由は?」
「ふたつに。人類の三大禁忌(タブー)というものがあります。内一つが『親殺し』の大罪。
 どのような理由があろうと、己を産み落とした親を殺すなど言語道断。逆もまた然り、です」

 見過ごせない。見過ごせるものか。
 家族の問題、で見過ごしてしまうほど、白蓮の眼は曇ってなどいない。
 親子で殺し合わなければならない程、憎んでいるというのか。
 ならば何故、産んだのだ。
 それを問い質すつもりは無いし、返ってくる答えにはおよそ正常な感情など篭ってないだろう。

332 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:47:14 ID:lQG/D5qE0

 永く、善も悪も見てきたから分かる。
 最期を看取ったスピードワゴンがかつて忠告した言葉が、ここで理解出来た。

 この男DIOは、生粋の邪悪だ。
 絶対に、野放しには出来ない。


「なるほど。正義の真似事のつもりか」
「はい。正義の真似事を、演じさせて頂きます」


 幻想郷のようにはいかない。
 交わし合う言葉も不要。
 躱し合う弾幕も無意味。
 言葉遊びも、弾幕遊びも、全ては児戯だと切り捨てたなら。
 あまりに無情で、あまりに空しいではないか。
 この荒廃した箱庭で正義論など掲げて、私(おまえ)は部下を何人失った? 家族を何人救えた?

 いっそ。何も掲げさえしなければ。
 正義も悪も翳さず、降り掛かる厄災を払うのみに徹すれば。

 少なくとも、寅丸星は死なせずに済んだのではないか。


(…………私とした事が。まだまだ修行が足りませんね。自暴自棄と無念無想を混同するなど)


 聖白蓮は、それを選ばない。
 寅丸星の信じた正義を否定し、捨てる選択は愚の骨頂だ。
 拠り所を放棄し、単孤無頼の奈落に堕ちた人間は、等しく弱い。


「DIO。そしてエンリコ・プッチ。
 邪心に満ち満ちた貴方がた二人は、この聖白蓮が退治させて頂きます」


 掲げるモノを信じるから、人は強くなれるのだ。
 昔日に人間の身を辞めた白蓮の目にも、素晴らしき『人間賛歌』は七色のように美しく映る。
 あとは空に架かったそのアーチを、この自分が辿れるかどうかだ。



「───正義、正義か。……ククク。なるほど、なるほど……!」



 正義を宿す白蓮の、瞳に映った邪悪は嘲る。
 静寂だったさざ波は、間もなく荒波となり、地下中に波乱を招く津波となって鼓膜を打つ。


「ハハ……ッ! ハァーーッハッハッハッハァ!!!」


 閑かなる地の底だからこそ、男の絶笑はより深く引き立った。
 乱反射される嘲笑い。ドス黒い悪の大気で覆い被さる巨大な津波は、そこに居る正義の心を揺さぶった。

「可笑しいですか」

 不快からか。はたまた戦慄の類か。
 白蓮は喉元でひりついていた言葉を吐き、目の前の悪をひと睨みする。

「クックック……! いや、そうではない。
 ただ、あまりにもお前が私の『予想通り』の人物像だったものでな」

 黄金に揺蕩う髪を根元からクシャりと握り締め、腕の震えを強引に塞き止める。男を突如として襲った痛快なる破顔は、そうまでの現象を引き起こすものか。

「プッチ神父から、何か私の良くない風評でも吹聴されたのですか」
「それも間違ってはいないが……私はお前に少し、興味があった。名簿で初めてその名を目にしてからな」

 名簿。そこに連なる聖白蓮の並びが、果たしてこの男へと如何なる興趣を与えたのか。
 依然、白蓮の疑問符は止まない。

「お前からすれば、実にくだらん言い掛かりよ。しかし、こと私にとっては……これが意外と死活問題でね。中々どうして、馬鹿にできんのだ」
「随分と回りくどい御方です。言いたいことがあるのなら、ハッキリと」
「名前だよ。お前の名に、私は…………そう。恥ずかしながら白状しよう。

 ───恐れたのだ。ほんの僅かだが、動揺を覚えてしまった。このDIOが、だ」

 過ぎ去った過去の笑い話を、心の引き出しからそっと取り出すように。
 かの邪悪の化身は俯きがちに首を振り、また笑った。
 自らを〝悪〟と言い切る悪人正機を体現した、この男ほどの者が。
 可愛げすら覗かせるように、それを言うのだ。

333 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:48:53 ID:lQG/D5qE0

「失敬な話ですね。私は魔王か何かですか」
「魔王……なるほど。言い得て妙だ。あながち間違いでもない。
 お前は私にとって、滅ぼすべき『魔王』の様な存在……その可能性もあった」

 心外だ。確かについぞ最近まで、白蓮は魔界に身を置いていた。だがその心まで魔に染まった訳ではない。魔王などと蔑まれる所以などあるか。

「名は体を表す……ということわざがあるように。言葉には時折、不可思議な魔力が籠る。日本ではこれを……え〜〜〜と、」
「言霊でしょうか」
「そう。その言霊というのが実に……ある意味では重要なのだ。
 血脈と共に『ジョジョ』という愛称が代々に渡り継がれるのも、言葉に魔力が宿るからとしか思えん。そういう風習が定まっている訳でもないのにな」

 DIOが流した『ジョジョ』の名に、白蓮は軽く眉をしかめる。
 愛称。ジョジョ。直感的に、それはジョナサン・ジョースターの渾名なのではと予感する。

 背後で鈴仙を治療するジョルノも、『ジョジョ』の名にほんの一瞬ピクリと反応したのには、その場の誰も気付かなかった。

「その言霊と私の名前に如何なる関係が?」
「聖(ひじり)……私はその名に、少しだが縁があってね。
 正確には『聖(ホーリー)』……ホリィ・ジョースターだったかな」

 ホリィ・ジョースター。またしてもジョースター。
 その女性の名前……ルーツの根源を知る者は、ここではDIOとプッチの二名のみ。
 全ての事の発端である女。そう言い換えてもいいのかもしれない。
 かのジョセフ・ジョースターがエジプトのDIOを嗅ぎ付け、仲間を連れて遥々と海を渡って来たのも、元を正せば空条承太郎の母・空条ホリィがDIOの影響を受けて昏睡したからである。
 この点に関してDIOの意図があった訳では無い。ホリィが生来、スタンドの発現に耐えられる精神をしておらず、DIOの復活が血脈を介して彼女に悪影響を及ぼしたからであり、あらぬ必然を引き起こしてしまったに過ぎない。

 DIOは『聖女』が嫌いである。
 少年時代、浅はかな考えでエリナに手を出し、ジョナサンの成長を引き起こす一因を作ってしまった。
 周囲からは『聖子さん』などと呼ばれていたらしいホリィへと、間接的にではあるが危害を加えた為、空条承太郎を敵に回してしまった。
 メリーに関してもそうだ。彼女の瞳はエリナと酷似している。メリーもDIOにとっての『聖女』。だからこそ丸め込み、手篭めにしようと画策している。

 DIO。ディオ・ブランドー。
 彼の持つ女性観の根源には、とうに他界した『母親』が密接に絡んでいる事は、本人も自覚するところである。
 思い返せば……母もまた、ディオにとっては聖女の様な存在だったろう。

 母の愛があったおかげで幼少ディオは、過酷な環境をたった独りでも生き抜いてこれた。
 そして、母の清すぎた聖心のせいでディオは、余計な重苦を背負ってきたと言ってもいい。
 あの女は、人間として眩しいくらいに良く振る舞い、息子に愛を注いできたろう。
 しかしディオの育った環境においては、その愛は必ずしも幸福には結びつかなかった。

 ディオは母親が嫌いであった。
 だからこそ、聖女を憎むのかもしれない。
 聖なる女は、いつだって彼の闇の運命を祓ってきた。


 そして───聖なる女、聖白蓮。


「聖(ひじり)などと、こんな御高尚な名を付けられた程だ。さぞ正義感に満ち溢れ、義に厚い女なのだろうなと……確信すらしていたのだよ。
 くどいが、言葉には本当に魂が宿るものだな。お前もまた、エリナによく似ている。その奇天烈な積極性に目を瞑ればだが、な」
「人様を魔王と呼んだり聖女と呼んだり……しかし、『言葉の魔力』ですか。確かに、古来より名前には不思議な力が籠ると考えられてきました。
 神<DIO>と名付けられた貴方が聖女に恐怖するのも……皮肉な運命めいたモノを感じます」

 本人も言う通り……DIOの言い分は極めて自己中心的で、無関係の白蓮からすれば言い掛かりもいい所だ。
 しかし、彼は恐らくそういった迷信やジンクスを受け入れるタイプだろう。
 実際に白蓮はDIOの前にこうして立ち塞がっている。そして、その彼女を自ら倒すことで、運命を……恐怖を乗り越えようとしている。
 聖白蓮とは、DIOにとって紛うことなき障害なのだ。

 信じ難いほどに、前向きな男だ。
 ベクトルさえ間違わなければ……このゲームを共に打破する、頼れる仲間になれたろうか。

334 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:51:18 ID:lQG/D5qE0


「尤も、私は自身が聖女だなどと自惚れておりません」


 誠に口惜しく、遺憾千万である。


「───魔人経巻」


 詠唱省略。ゼロコンマからの魔法発動を可能とする巻物。
 それが、黒を基調とする彼女のバイクスーツの内から。
 つまりは素肌。白蓮の胸部の狭間から音もなく取り出され。



「『ガルーダの爪』」



 空気が爆発した。


 音すら置き去りにして、白蓮が空想を具現化させたスキルの名は『ガルーダの爪』。
 装った衣装にこれ以上似合う体術もない……とんでもなく強烈なライダーキック。



「『世界』」



 爆発の如き蹴りが停止した。


 半ば不意打ちに近い形で炸裂した白蓮の足技は、男の呟いたザ・ワールドの明滅と共に、止まる。
 時を止めた訳ではない。彼女の目にも止まらぬ速度を、物理的に、単純なスタンドの防御で受け止めたに過ぎない。


「───更にくどいが、名前には魂が宿る。お前達が『スペルカード』の遊戯法により、くだらん弾幕へ名付ける事と同じように」


 世界の腕が、攻撃の硬直で宙に止まったままの白蓮の足首を掴んだ。


「天国へ至るのに必要な『14の言葉』が設定されたように」


 そのまま、世界は受けた蹴りの反動をモノともしない勢いで、掴んだ白蓮を一旦大きく頭上へと振りかぶり。

「……ッ! 御免ッ!」

 その手は食うかと、筋力倍加の魔法を受けた白蓮の凄まじい拳骨が。
 命蓮寺の鐘を毎朝毎晩、素手にて十里先まで打ち鳴らす程の鋼鉄の拳が。
 人体の急所……脳天へと、真上からモロに叩き込まれた。

 常人であれば、即死必至の破壊拳。
 常人であれば。


「我々スタンド使いも、傍に立つヴィジョンに名前を付ける」


 その拳を頭蓋に受けておいて。
 DIOのスタンドはまるで動じない。揺らぎもしない。

 脳が揺れたのは、掴まれた白蓮の方だった。
 一切の躊躇もなく、世界は彼女の身体を床へと思い切り叩き付けた。スタンドの腕が掴んでいた箇所は足首なので、必然的に白蓮は顔面から硬い床へと振り込まれる事となる。

 鈍い音が木霊する。
 幸い、砕けたのは床板のみに留まった。もしも彼女の肉体強化が頭部にまで及ばずにいたら、これで決まっていたろう。
 頭半分めり込ませて地に放り込まれた白蓮を不敵に見下ろしながら、男はスタンドを我が身の傍に立たせる。


「紹介しよう。これが我がスタンド───『世界(ザ・ワールド)』だ」


 筋骨隆々に構築された、黄金の肉体美。
 ザ・ワールドの言霊を冠するスタンドがDIOと並ぶ。
 冷気とも熱気とも見えない蒸気が、彼らの肉体から噴出する。あるいは、スタンドのエネルギッシュなオーラとでも呼ぶべきか。

 DIOと、『世界』。
 最悪の吸血鬼が、最高のスタンドを身に付けてしまったのは、この世の必然か。

335 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:52:59 ID:lQG/D5qE0

「聖さんッ!」

 ジョルノが張り上げる。
 白蓮はスタンドを展開していなかった。つまり、まず確実に非スタンド使いだ。生身の人間があのスタンドに対抗出来るわけが無い。

「……ッ! 加勢します!」

 鈴仙の治療を優先したいが、白蓮一人では荷が重すぎる。
 ゴールド・Eを自身の前に動かし、勢いを付けて立ち上がる。が───


「邪魔はさせない。DIO様のご子息といえど……斬るわよ」


 黒帽子を被った少女──宇佐見蓮子がジョルノの前に立つ。
 年齢はジョルノより少し上くらいだろうか。右手には妖しく光る不気味な刀。

「退いてください。でなければ……女といえど、容赦しない」

 突撃はジョルノの方から。蓮子は動じることなく、刀構えて待ち受けるのみ。
 警告はした。意識の暴走でショック死を迎えようが、躊躇はしない。
 ゴールド・Eが、叫びと共に無数の拳を繰り出す。

「無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 パワーはさほどない。しかしこの場合、薄い痛覚であるからこそ痛みは倍増する。ジョルノのスタンドとは、そういうものなのだ。
 スピードなら充分。世界にも対抗出来る速度のラッシュが、蓮子の体を撃ち抜───

「な……ッ!」

 ───けない。

 蓮子の持つアヌビス神は、ジョルノのラッシュをひとつ残らず刀の峰で弾く芸当を見せ付けた。
 おかしい。ただの少女にしては熟練された剣の腕、だという事を差し引いても、おかしい。
 所詮、刀だ。スタンドであるゴールド・Eの攻撃を防いだ事も、刀を生命化出来なかった事も理屈に合わない。

「いや……その刀、スタンドか」

 刀自体が『スタンド』! 警戒すべきは、あのスタンドに隠された能力。それがある筈だ。


「その『刀』は少々厄介だぞ、我が息子ジョルノ・ジョバァーナ。いくらお前とはいえ、簡単にはいガッ!」

 息子の勇姿を応援する父の姿とは程遠く。
 チラと見た、ジョルノと蓮子の交戦を遠巻きに眺めるDIOの隙だらけな横っ面に、熱と衝撃が撃ち込まれる。


「いガ? ご子息が心配ですか」


 顔面から床に叩き付けられ、昏倒したと思われた白蓮が、ケロリとしながら回し蹴りを決めていた。

「……硬いな、女。イイだろう……やはりお前は、このDIOの栄養となる資格を有していコハッ!」

 脇腹に、大きく腰を落としての正拳突き。
 最初に叩き込んだ脇腹への掌撃と同箇所。今度は、内部に組み立てられた骨をまとめて粉砕する程のパワーを込めた。

「コハ? 随分と余裕ですが、貴方の食事とやらになるつもりは御座いません」

 ギリギリと鳴る白蓮の拳からの、筋肉と骨との摩擦音。
 DIOの巨躯は、今度こそ抗った。先のように空へ吹っ飛ばされる事なく、白蓮の正拳突きに耐えたのだ。

(堅い。そして重い。だが、この女……何よりも───)

 ───疾いッ!

 余裕を見せていたとはいえ、世界が見切れなかった程の轟速が生身の女から繰り出された。
 どれ程の荒修行を耐え忍べば、こんな馬鹿げた肉弾ミサイルを身に付けられるのか。

 これは、想像以上に……

「どうやら貴方は肉食系のようですが……お生憎様。
 私は修行僧……肉などタブーの、菜食主義者(ベジタリアン)です!」

 想像以上に……強いッ!


「DIOッ! ホワイトスネイ───!」


 後方から迫るプッチの救助は、煙のように掻き消された。
 白蓮の『ヴィルパークシャの目』。周囲の状況に目を配らせる暇すら挟まず、ほんの一喝でプッチのフォローをも遮った。
 限界まで強化された彼女の肺から吸い上げられた空気が、声の大砲となり、音響兵器に昇華する。
 物理的な砲撃ならばスタンドでどうともなるが、広範囲の衝撃波ともなれば防御のしようがない。プッチはたまらず吹き飛び、僅かだが強制的に戦線から離脱された。

「私は遊ぶつもりはありません。一瞬でケリを付けます!」

 ケリがDIOの下顎に到来する。むしろ着弾とも称すべき、爆発的なハイキック。
 常人なら脳震盪どころの話ではない。顎が割れ、滝すらも下から上へ割りかねない重さの蹴撃は、間もなくDIOの顔面に地割れを起こした。

336 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:53:40 ID:lQG/D5qE0

(ザ・ワールドの可動が追い付かん……! 攻撃を繰り出すまでの初速から最高速に達するまでの間隔が、疾すぎる! これはまるで……)


 ───まるで、時間が止められたように。


 迫り来る白蓮の百掌が炸裂する刹那。DIOの心の水面は、外面とは裏腹に恐ろしい平衡を保っていた。
 思考を進める暇すら与えてくれない……という意味合いでなく。
 DIOの感じた「時を止められたようだ」という聖の猛攻は、ある意味でも理にかなっている。
 極限まで時が圧縮され、意識のみが白蓮の残像をかろうじて捉えられている。物理的には、DIOの身体は全く追い付かない。


 ───まるで、承太郎の『星の白金』のように。


 承太郎のスタープラチナは時間を止める。そのカラクリは、厳密に言えばDIOの『世界』とは少し理屈が異なる。
 “速すぎる”が故に光速をも置き去りにし、本体視点からは周囲がとてつもなくゆっくりに見えているという現象だ。


 ───まるで、ジョルノの『黄金体験』のように。


 現時点でのDIOには素知らぬ事であるが、ジョルノのゴールド・Eにはある能力がある。
 殴った生物の意識のみを暴走させ、本人から見た周囲全ての光景を限界までスローに感じさせるものだ。
 ジョルノの能力を引用して喩えるのならば、万全の聖白蓮の肉体とは、黄金体験を受けてかつ暴走する意識に身体がしっかりと付いていくような状態だ。

 少なくとも。吸血鬼の能力を手に入れたとはいえ、元々は人間としてのポテンシャルでしかなかったDIOの、修練も工夫もさほど蓄えていない肉体と、女性でありながら幾星霜にも積んできた修行と知識の総決算の末、人間をやめた大魔法使いの聖白蓮では、経験値の差が圧倒的であった。
 歯痒いことであるが、生身同士ではDIOが白蓮を覆せる道理は無い。当然、スタンドを用いての肉弾戦ともなれば別だが、ここに来て承太郎から刻まれた左目のダメージが効いている。
 視野が通常の半分である事の不便とは、想像していた以上に重荷となる。遠近感がぼやけ、立体感も取り難く、動体視力まで低下している。これらの欠落は言うまでもなく、戦闘においては命取りだ。
 主に防御・回避行動において、DIOは素早い敵に遅れを取らざるを得ない。その遅延はほんの僅かな“ゆらぎ”程度でしかなかったが、白蓮ほどの熟練された格闘者相手では致命的な傷となる。

(戦いの流れは……完全にこの女が掌握している)

 これでやれ尼だの、やれベジタリアンだのと自称するのだから恐れ入る。要はこの僧侶、戦い慣れていたのだ。


「明鏡は形を照らす所以。
 故事は今を知る所以───明鏡止水」


 厳かに紡がれた聖女の瞳には、今や一点の曇りも映さず。
 止水の如き静寂にたたえられた水からは、刹那の次に荒波が打ち出される理の矛盾。
 澄み切り落ち着いた心は、両の掌を四十の臂へと錯覚させるに至る真境地。

 聖白蓮の四十本の腕が、無慈悲へと化けた。


「其の疾きこと風の如く。
 徐かなること林の如く。
 侵掠すること火の如く。
 動かざること山の如し───風林火山」


 人の目では止まらぬ数多の腕が、風の如く邪悪を穿つ。
 静と動。逆襲に構え、受け流す型を取り、時には林の如く静寂を保つ。
 苛烈を纏う四十の閃撃は、悪を灼き尽くす火の如く攻め立てる。
 肉体に受けた幾本もの槍など、山の如く受け切りものともせず。

 無慈悲なる四十の腕は、絶えなき猛攻の更なる加速により、二十五の世界が乗算された。
 千の世界が集約し、更に千が掛け合わさり。
 永久の加速により、また更に千。

 その数、〆て十億。俗に三千世界と呼ぶ。
 邪悪の化身が統べる一個の『世界』など、数にもならない。


 ───天符『三千大千世界の主』

337 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:55:31 ID:lQG/D5qE0


「南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無ァ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」


 やがて白蓮の背後からは、後光と共に千手観音が現れ。渾身の連打を無慈悲にもお見舞いする。
 有り得ぬ錯覚を五分の視界で拾いつつも、DIOは防戦一方なりにザ・ワールドの障壁でそれらを防ぐ。

 無限の型から繰り出される掌打のラッシュ。白蓮が涼しい顔で打ち出すそれらの猛攻は、もはやスタープラチナと大差ない……いや、ともすればそれ以上の速度。
 重さでは承太郎に一歩劣るが、彼女のラッシュは拳でなく掌打……つまり破壊でなく脳を揺さぶる目的に比重を置いている。
 この矛の選出が、破壊に耐性のある吸血鬼DIO相手には正解の型でもあった。


 しかし。攻防は数秒ともたない。
 三千の光芒を降り注がせる白蓮の腕の内、たった二つの掌(たなごころ)。その両が、優しく合わさっていた。

 不思議な事に、ラッシュの合間に白蓮は『祈り』を終えていた。
 この攻防の何処にそんな余裕があったのか。全力ラッシュの隙間に、両腕を攻撃ではなく、まして防御でもなく。
 一見無防備とも取れる、祈りの型に差し出す余裕すらあったというのか。


 DIOの反応が、一瞬遅れた。
 時間にして須臾ほどの刹那であった筈というのに、白蓮の動きがひどく緩慢に映り、その上でザ・ワールドですら追い付けない可動速だったのだからおかしな話だ。


 半跏倚坐(はんかふざ)。
 右足を左足のもも上に組んで載せ、座する型を云う。
 加えて両の腕を、母性溢れた胸へ捧げ、祈りに。

 あろう事か彼女は。
 剣戟の最中に攻守を放棄し、瞼すら閉じながら瞑想した。
 世界をも置き去りにしていく、遥か短い一瞬の間際に。


「無数の掌は研ぎ澄まされし刀の一振。
 三千を一にて。一を雷切にて。
 下されし裁きこそ───紫電一閃」
 

 その祈りを、インドラの雷といった。


 屋内に、紫電が産まれる。
 至近で大爆発でも起こったかのような、凄まじい轟音。
 天井から床をくり抜き地下まで貫くほどの落雷が、人為的な祈りによって引き起こされたというのだ。
 火花散る千の攻防は、万の太陽を掻き集めた巨大な光芒が引き裂き、終焉の幕を下ろした。


 DIOが立っていた空間には、代わりに直径五メートル程もある大穴が口開いていた。
 炭化した図書館の床の底からは、黒煙と共に闇が吐き出されている。アレをまともに喰らったのでは、原型が残っているかも怪しい。

「DIO!」
「DIO様!」

 プッチも流石に声を荒らげた。ジョルノと交戦中であった蓮子も、手を止めて叫ぶ。
 一部始終を視界に入れていたジョルノはしかし、いち早く違和感に気付き、彼女の姿を探した。

(聖さん……?)

 居ない。強烈な雷光に数秒、視界が機能不全となっていた為、DIOと白蓮の姿が途絶えたのだ。
 段々と鮮明さを取り戻していく光景には、DIOは勿論ながら、そこに居るべき白蓮の姿までもが無かった。



「───まさか屋内で雷に遭遇するとはな。ただの脳筋女ではないようだ」


 意中の人物ではない声が、これ見よがしに響く。
 三千世界を叩き込まれた筈だ。たかだか一個の『世界』の、たかだか二本の腕などで。
 あれを退けた? 有り得ない。


「……時を、止めたのか」


 ジョルノの確信めいた問い掛けに、DIOは満足気な嘲笑で応える。
 男の眼差しの遥か向こうには、壁に激突したのか、蹲る白蓮の姿があった。DIOは瞬時にしてカウンターを叩き込み、彼女をあの位置にまで吹き飛ばしていたのだ。
 胸を抑え、吐血している。致命傷ではないが、引き摺るダメージだ。

338 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:56:19 ID:lQG/D5qE0

「しかし……なんと強堅な肉体だ。今のは即死させるつもりで打った全力の拳だぞ? 全く以て感服する」

 カツカツと足音を立てながら、DIOが白蓮へと近付いていく。
 皮肉を混ぜながらも、男は今しがた一撃を入れた聖女に対し、内心では畏怖の気持ちを僅かに覚えていた。
 時間停止からの心臓狙い。完璧に決まったかに見えたカウンターは、その実それほど効いてはいない。
 物理的な攻撃を馬鹿正直に続けていては、少々骨が折れる相手だ。あれも肉体強化魔法とやらの恩恵なのだろう。

 突出して厄介なのは、攻撃から攻撃に転じる非現実的な速度。
 それを可能としているのは、幻想郷縁起にも載っていた『魔人経巻』という巻物。理屈は不明だが、巻物を広げるだけで詠唱した事になり、魔法を発動するのに通常必要な『詠唱』という隙を丸ごとカット出来るという。

 あれだ。白蓮の持つ魔人経巻が、奴の繰り出す攻撃の起点となっている。
 スタープラチナ以上の攻速ともなれば、流石に苦戦は免れない。

 だが……それでも。
 聖白蓮は、空条承太郎には遥か及ばない。


「お前がどれだけ疾かろうが、このDIOの『世界』は追い越せん。祈りたければ、死ぬまで祈ってろ」
「……ッ! 魔人、経巻!」


 床へ這いつくばっていただけの白蓮が、たちどころに巻物を広げ上げる。
 ただそれだけの所作で、彼女は次の瞬間……迫り来るザ・ワールドの鼻面に膝蹴りを見舞い終えていた。

「……やはり、電光石火の如き瞬発力」

 到底人の身で辿り着ける境地ではない。決意に至るまでの道順こそ違えど、在りし日のディオと同じに人間をやめた彼女は、その対価に見合った肉体をモノとした。

 ただ一つ。人間をやめたという点で同類であった二人には、大きなベクトルの相違があった。
 『死』を極端に畏れたかつての白蓮は、若返りと不老長寿を手に入れる為に人間をやめた。
 若くして『人間には限界がある』という壁を悟ったディオは、石仮面により人間をやめた。

 善悪という論点を除外するならば、白蓮が『過去』へ後退する点に対し、ディオは『未来』へ前進する為に人間をやめたのだ。
 この差が、この戦いにおいて何を齎すという訳でもない。
 しかし少なくとも、DIOのある意味純粋な執念が形を得、具現した精神性が『ザ・ワールド』である事は間違いない。

 スタンドの有無。こればかりは覆せないハンデであった。

「───惜しむらくは、『波紋』にも『スタンド』にも精通せず、心得が無かったその不運よ」

 疾い。重い。堅い。
 それだけの話だ。白蓮にはDIOと拳交えるだけの、最低限の資格すら有していない。
 彼女に備わる唯一の資格など、DIOの血肉となる食事……それへと変わる下層の末路のみ。

339 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:58:28 ID:lQG/D5qE0


「初めの遣り取りの時にも思ったが……やはりお前は『スタンド』の特性をよく知らないようだ」


 顔面に叩き込まれた強烈な膝蹴りに、一ミリたりともの身悶えすら覗かせず。
 ザ・ワールドは、宙に止まった白蓮の足首を緩やかに握り締めた。

「……ッ!」

 白蓮の視界が180度反転する。捻られた視界を立て直すよりも早く、衝撃が背骨から貫通した。

 今度はザ・ワールドの鋼鉄の膝が、彼女の背にめり込んでいた。

(攻撃が……効いていない!?)

 初撃にあれだけの攻撃を与えておいて、ケロリとしていた時点で気付くべきだった。
 スタンドとスタンド使い。同じ寺の修行僧、雲居一輪と雲山の様な関係だと思っていたが……少し、勝手が違うらしい。


「大原則だ。───スタンドはスタンドでしか攻撃出来ない」


 突き刺さるようなエグい痛みと共に、白蓮の身体は宙へと浮いた。
 振り上げられるスタンドの拳。所謂、瓦割りの型を取ったザ・ワールドが、瓦よろしく彼女の腹部、臍の中心を猛然と殴り付けた。
 くの字となって床へ衝突した白蓮。痛みに喘ぐよりもまず、呼吸困難に陥る。
 朦朧とする白蓮の視界に映るは、スマートながらも隆々と盛り上がった金色の脚。

 マズイ。即座に両腕をクロスさせ、重力を帯びた攻撃に備えるも。


「つまりは、生身では基本的にスタンドへ干渉する事も出来んのだ。お前の攻撃を防ぐことは容易いが、逆はどうかな?」


 かかと落とし。脳天目掛けて振り落とされるそれを、非スタンド使いの白蓮に防御する術はない。
 クロスさせた屈強な盾すらも、DIOのスタンドはすり抜ける。盾の向こうには、白蓮の額が無抵抗に晒されていた。

 鉄塊に鉄塊を撃ち込んだ様な、思わず耳を塞ぎたくなる重苦しい音。
 先の紫電のお返しと言わんばかりに、DIOは極めて無遠慮に、相手の頭蓋へと鋼鉄の雷を落とした。

「が……ッ!」

 細く短い女の叫喚。
 如何な強化された肉体であろうと、人体の弱みへと立て続けだ。彼女の様子ひとつ見ても、鈍いダメージが蓄積されつつある事は明白。
 間髪入れず、ザ・ワールドのつま先が悶える白蓮の背と床の隙間へと入れられた。
 勢いよく真上へ振り上げられる脚と共に、彼女の身体は回転を強要されながら、再び空中へと放り込まれる。最早サッカーボールと変わらない扱いだ。


「せめて『波紋』くらいは身に付けていたならば、良い試合には運べただろうが……お得意の法力ではプロレスごっこが関の山か?」


 舞い上がるグラデーションのロングヘアが、乱雑に掴まれる。宙吊りの形でザ・ワールドに拘束された白蓮の眼前へと、DIOが立ち塞がる。

340 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 20:59:12 ID:lQG/D5qE0


「聖さんッ!」


 ジョルノは救援に向かいたくとも、アヌビス神を構える蓮子の邪魔を突破出来ずにいた。
 信じ難い事だが、ゴールド・Eをフルパワーで稼働させても敵のスピードや技術が遥か上を行っている。
 ジョルノ本体にダメージや疲労はさほど無いが、それは蓮子が時間稼ぎを主にした付かず離れずの立ち回りを展開しているからであり、思う様に攻めさせてくれないのだ。
 その上、白蓮を助ける為にこの場を無思慮に離れ、意識の無い鈴仙が狙われては本末転倒だ。
 更に悪い事に、あの妖刀は段々とパワーやスピードが上昇しているように感じる。
 恐らく戦う相手から学習し、無際限に成長するスタンドなのだろう。その能力を活かす為での時間稼ぎでもあるらしい。

(埒が明かない……こうなったら)

 決心を付けたジョルノが床を破壊し、無から有を生み出そうとする最中にも。


「さて。肉体派坊主の有り難い説法のお返しに、このDIOがわざわざスタンド教室を開いてやった訳だが……。
 そろそろ終わりとしようか。お前以外にもゴミ掃除は残っているのでね」


 長髪を掴まれ、宙吊りの白蓮へとDIOの魔手が襲う。


「……時間を、止められるもの……ならば」


 聖女の血を吸わんとするその指が、まさに喉元へと到達する間際。
 細々と呟く白蓮が、懐に隠し持った独鈷をサーベル状の形態に変貌させ。


「止めて、みなさ───」


 全ての世界が、同時に停止した。



「───ザ・ワールド。時は止まる」



 やはりだ。聖白蓮は、空条承太郎へと遠く及ばない。
 奴が相手であれば、こうまで露骨に接近し、時を止めるなどという単純なやり方は選べなかったろう。
 駆け引きを挟んでいないのだ、白蓮は。
 スタンド戦であれば用いて然るべき、間合いの取り合い。能力の考察。二手三手先を読み合う駒の奪い合い。彼女にはそれらの“探り”が殆どない。
 非スタンド使いというハンデを度外視しても、彼女のスタイルは清々しい程に愚直で、分かり易かった。
 なまじDIO以上の運動能力を持つものだから、かえって攻め手のパターンは絞りやすい。決して単調な技しか持たない訳でもないだろうが。

 所詮、このDIOの敵では無かったということだ。
 DIOにとって聖女とは、触らぬ神であると同時に、取り除かなければならない危険因子という認識でもある。
 厄介ではあったが、少し捻ってペースを乱しさえすれば……御覧の有様。
 時が止まった今、まさに煮るなり焼くなりであるが、この女相手なら少々煮ようが焼こうが、易々とは拳を下げないだろう。


「懐かしいな。百年前もこうして、ジョナサンの奴と拳で遣り合ったものだ」


 遣り合った、とは到底言えない、あまりに一方的な試合だったと記憶している。あの時はグローブを着用していたし、ジャッジも見ていたのだったか。
 だが時の止まった今。なんの気兼ねなく禁じ手を行える。止まっていようがいまいが、もはや関係ないが。

 暑苦しいファイトスタイルで攻める白蓮の脳筋精神に感化されたかは定かでないが、DIOはゆっくりと両腕を前に構え、静止した白蓮の前へと挑発するように差し出した。
 今となっては子供のごっこ遊びのようなもので、思い出すと苦笑すら漏れるが、ロンドンに住んでいた少年時代ではそれなりに嗜み、格好が付いていたように思う。

 昔も今も何も変わらない、ブース・ボクシングの構え。
 勿論、今回“も”対戦相手を再起不能にしてやろうといった、あの頃以上にドス黒い目的の上で。

 瞬きすら許されない白蓮の瞼。
 見る者が眩むほどの美貌の、その上からまず。

「顔面に一撃。そしてこのまま……」

 吸血鬼の底知れぬ怪力が、その面を潰さんとし。
 

「親指を目の中に突っ込んで……殴り、抜けるッ!」


 駄目押しに、もうひと工夫。
 この女はちょっとやそっと殴った程度では、こちらの拳が痛むレベルにタフだ。
 しかしどれだけ肉体を強化しようと、人には鍛えようもない箇所というものが幾つか点在する。


 眼球。


 正義の炎を燃やす彼女の瞳から、それを消し去らんと。
 かつて宿縁の男へと叩き込んでやった時よりも遥か膨らんだ、悪意。
 目頭に突き刺した爪先を、眼孔へ潜り込ませる。
 粘膜を破るぶちゃりとした水っぽい音が響く。
 そのまま突き入れた親指を、テコの要領で外へと掻き出す。
 まるで職人の魅せるたこ焼き作りのように、丸々とした眼球がヅルンと裏返った。
 目と脳を繋ぐケーブルの役目を果たす視神経もぶちぶちと引き千切られ、白蓮の右眼球がDIOの掌に収まった。

341 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:01:02 ID:lQG/D5qE0


「“目をくり抜けば天国へ行ける”……などと世迷言を吐き、気を違えた女が自ら眼球を抉った話があるが……さて。
 空洞となったお前の視界に『天国』は映っているか? 聖白蓮」


 ───そして時は動き出す。


「……っ!? 〜〜〜ぁ、ぐッ!」


 火薬を詰め込まれた爆弾袋が、一斉に花火を上げた。
 顔面に蓄積された痛みの爆発よりも、突如として失われた右半分の視界に、声にもならない絶叫を上げたくなる。

 白蓮は、しかし耐え切った。
 痛覚。五感の喪失。
 それらは修験者が荒行の中で自ら引き寄せる類の、強き戒め。
 本来そうあるべき痛みが、他人によって無秩序に与えられ蹂躙される。
 許される所業ではない。罪も無い、女子供にすら埒外の痛みを強要する〝悪〟は、絶対に放ってはおけない。

 そして、きっと。
 ここから我が意思が歩む道の先には。
 天国や極楽、悟りの境地など……有りはしないのだろう。


「……私、ごときの仏道の先に、『天国』は有り得ない……でしょう。
 貴方がたと共に、『奈落』へと……ハァ、ハァ……堕ちる覚悟は、出来て、おります」


 黒澄んだ血を垂らしながら、右目を失った白蓮の不完全な視界の先に、自らの顔面を抑えて苦悶するDIOが映っている。


 男は傷付いた左目と対を成すように、右目にも亀裂を入れられていた。


「……ッ!! 貴様、ひじり……びゃく、れぇぇん……ッ!」


 今までに見せていた全ての余裕が、男の表情から消し飛んでいた。
 時間が止められる直前、白蓮の握った独鈷がDIOの肉体に届く隙は無かった筈だ。
 時が動き出した直後に斬り付けられた? 有り得ない。
 確かにDIOには気を緩ませる素振りこそあったが、時間停止直後の弛緩など、最も油断すべきでない瞬間だという事は誰より重んじている教訓だ。まして相手はスタープラチナ以上の速度を持っている。


 眼球をひりつかせるこの斬撃は、いつ入れられた?
 DIOが最も注意力散漫となる瞬間は、いつだ?


「───聖、白蓮。キサマ、“まさか”……」


 ───まるで、承太郎の『星の白金』のように。


 それは、始めの白蓮の猛攻を受けたDIOが、彼女の凄まじい速度を身に受けて描いた印象だった。
 あくまで彼女は非スタンド使い。『ザ・ワールド』に直接干渉出来る術はない。

 しかし、限界を超えて到達する『光速』のその先の世界。
 先の、F・Fが入り込んだ十六夜咲夜と交戦した際にも同じ現象が起こった。

 『時の止まった世界』へ足を踏み入れる手段は、どうやら一つではないらしい。
 その上、この白蓮は……あの空条承太郎のスタープラチナと“同じタイプ”。


 同じタイプの……───!


「入門してきたのかァ!! 聖白蓮ッ!!」
「他宗派への入門は言語道断ゆえ、それは誤りです。本来ここは、私の『世界』なのですよ」


 荒修行もここまで来ると人智の及ばない領域だ。
 時間をも置き去りにして可動するスタープラチナと同等の理屈で以て、白蓮の速度はとうとうDIOの世界にすら追い付いた。
 速い。ただそれだけの馬鹿げたエネルギーを限界突破し、静止した時間の中をも跳ね回り、DIOへと返しの刃を突き付けた。

 こうなっては、本格的に彼女を始末せねばならなくなった。誰であろうが、時の世界への入門など許されるべきでない。
 戦い方も慎重スタイルへ変えねばならない。相手が時間の鎖に縛られないともなれば、戦闘に駆け引きを差し込めざるを得なくなる。
 白蓮が静止した時をも動けると分かれば、DIOの取る選択肢は大幅に狭まれるのだ。


 やはり、DIOにとって『聖女』とは禍であった。

342 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:02:50 ID:lQG/D5qE0


「問いを返します。DIO……貴方の閉じられた闇の視界に、『天国』とやらは映ってますか?」


 完全に右眼球を抉り取られた白蓮とは違い、DIOの右目の傷は深くはない。放ってもすぐに治癒が始まるだろう。
 だが一秒が命取りとなる戦闘においては、あまりに長過ぎる暗黒の時間。
 一時的に視覚不全となったDIOの鼓膜に、安らぎへ誘うような温和な声が鳴り響く。

「極楽浄土を目指すには、貴方はあまりに独善で、邪悪すぎる。身の程を知り、悔い改めなさい」
「また説法のつもりか……? 田舎のお香臭い坊主如きが、オレによくぞ垂れたものだ」

 右目が埋まっていた場所を空洞とさせながら、それでも白蓮は堂々と構える。
 傍から見れば、不気味極まる光景だ。
 苦を受け入れんとする格好が、視界を手放したDIOの瞼の裏にも焼き付くようだった。

 男は考える。
 この女は果たして……停止した時の中を『何秒』動けるのか?
 DIOの現在の限界停止時間は『8秒』。つい先程覚醒した奴の潜在速度がそれ以上とは思えないが、確かめねばならない。


「ザ・ワールド! 時よ止まれッ!」

「───スカンダの脚」


 時間停止。それは確実に成功した。
 それでも聖女の脚は止まることなく、DIOの門を蹴破ってきた。
 貫通不可の『世界』を盾にしようが、瞬間移動の如きスピードですり抜けてくる技はまさに疾風迅雷。
 塞がれた視界の中、縦横無尽に動き回る獣を捕らえるのは容易ではない。
 数発の鈍痛が、身体中の神経を一度に駆け回った。白蓮のあまりに疾すぎる乱打が、まるで時間の静止が一気に解放されたかのようにDIOの肉体を襲撃する。

「が……ッ!」

 視覚は無い。だが血の匂いや気配で分かる。
 気付けば、女は背後にまで回っていた。一瞬の間の後、肺の中の空気が暴発し吐き出される。
 刀の達人が対象を斬り付け、数瞬の硬直の後に血が噴出し両断されるという描写をよく見るが、アレと同じだとDIOは感じた。
 痛覚すらもタイムラグに置く打撃。彼女が通り去った空間には真空すら発生し、そのスキマを埋めようと周囲の空気が引き寄せられ、軽い乱気流をも産んだ。

 またも吹き飛ぶ吸血鬼の体。
 もはや単純な接近戦において白蓮の体術は、『世界』を弄べる領域にまで至りかけている!


『いい加減にしろ……暴れ過ぎだ』


 分厚い本棚をまるで障子紙か何かのように破って奥まで吹き飛んだDIOを追撃せんと、力を込める白蓮の背後より不気味な声が響く。

 全身におぞましい文様を貼り付けた、白い人型のスタンド。
 古明地さとりより話には聞いていたが……!

「……プッチ神父!」
「『ホワイトスネイク』!」

 先の果樹園での交戦により、その能力の一端は想像出来る。
 恐らく『遠隔操作』の類だが、肝心のプッチ本体の姿は見えない。あの負傷だ。騒ぎに紛れ身を隠したのだろう。
 即座に五感を研ぎ澄まし、隠れた本体を察知するべきだが、既にスタンドの腕は白蓮の額へと迫っていた。

 反射的に防御し、カウンターを企むが……

「しま……ッ!」

 防御の腕を透過し、ホワイト・スネイクの指が眼前に突っ込んでくる!
 スタンドはスタンドでしか干渉できない。ついぞ先程告げられたルールが急遽脳裏に浮かんだ白蓮は、咄嗟に首を後方へ逸らすも。
 白蛇の指先が白蓮の喉元を通過し、一回り小さいサイズの円盤がそこから生えた。

 白蓮の肉体に半端な物理攻撃など大して通じない事は散々思い知らされた。
 であるならば、プッチの『ホワイト・スネイク』は、ある意味では『ザ・ワールド』よりも上等な攻撃力を持つ。
 頭部のDISCさえ奪えれば、問答無用で相手を無効化出来るのだ。いわば、防御無視の効力を持つプッチならば、白蓮と戦うには『向いている』。


『記憶DISCとまではいかなかったが……奪ってやったぞ』


 一撃狙いのDISC化はギリギリで回避されたが、白蓮の喉を通ったホワイトスネイクは、僅かばかりの功績を挙げた。

「〜〜〜〜っ!? ───っ! ───っ!」

 懸命な様子で、白蓮は何やら喉元を必死に抑える。
 スタンドの指がちょっと掠った程度の接触。その鋼の肉体には全く傷にもならない筈。
 事実、抑えた箇所に異常は見られない。

 そこから失われた小さな円盤の正体は。

343 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:04:21 ID:lQG/D5qE0


(こ、声が……出ない!?)


 『声』を円盤化させ、盗られた。
 彼女は素知らぬ事だが、プッチはついさっきもDIOの『視力』を一時的に抜き取り、鈴仙の攻撃を無効化させるという奇策を披露している。
 右目を潰され、白く透き通るように物柔らかだった声をも失った白蓮は、敵のこの攻撃に潜む意図を察した。


 声が出せないという事は、どういう事か。


 俗に謂われる『スペルカード』という弾幕攻撃。
 幻想郷に住まうあらゆる少女達が好む遊戯に使用される、オリジナル必殺技のようなものだ。
 スペルと名の付くからには、呪文またはそれに類する手段を利用して作り上げる弾幕なのだが。
 少女達は、そのごっこ遊戯の中でこそ如何にもといった技名を宣言……つまりスペカを唱え多種多様な弾幕を描く。
 別名:命名決闘法と定められている以上、スペカの宣言は必要だというルールも確かに存在するが……実の所、弾幕を放つのにその宣言は必ずしも必要とはしない。
 あくまでルールの中での取り決めなのだ。命名決闘法の外であれば、わざわざ宣言するまでもなく不意打ちを狙うのも当然ながら自由なのである。

 要は、多くの少女達は技を放つのに『声』を発する必要が、実は無い。

 が、例外も存在する。
 聖白蓮。彼女を幻想郷の人外その他諸々の種族にカテゴライズするならば───『大魔法使い』だ。霧雨魔理沙やパチュリー・ノーレッジといった魔女系統もこれに相当する。
 呪文やお経を“読み上げる”行為を起点とし、肉体強化魔法並びに全てのスペカを発動させるスタイルだ。


 その彼女の『声』が奪われた。
 それはつまり、肉体強化含む全スペカが封印されたも同義───


「───魔法『魔界蝶の妖香』」


 縮小された視界の中、白蓮は悠然と敵を見つめ……


 ───唱えた。


 声は、まるで響かない。
 誰一人の鼓膜に、掠りともしていない。
 けれども、その唇の動きだけは確かに一つのスペカ宣言を成し終え。
 物陰に隠れながら彼女を窺っていたプッチには、不思議とそう聞こえた。


 プッチの狙いに誤算があるとしたなら。
 白蓮の操る『魔人経巻』……誰が呼び始めたのか、通称エア巻物にびっしり記された呪文には、読経の必要が無いという事だ。
 その特殊な巻物には、広げるだけで“読み上げた”事とする機能が搭載されていた。白蓮の速攻の秘密とは、まさにこれの恩恵に依る所が大きい。

(あの教典……思った以上に厄介だ! それに私の居場所がバレているのか……!?)

 紫色に光る蝶形の弾が所狭しと駆け巡る。その狙いは正確とは言えないが、白蓮がプッチの居場所を凡そ見当付けている事の証明だ。
 法力万全の白蓮の五感は鋭い。プッチにとって不運なのは、その五感の内、視覚と聴覚が半ば塞がれている障害が、却って彼女の感覚をより鋭敏に研ぎ澄ませている事だ。

 白蓮から見て、右前方の本棚の後ろにプッチは身を隠している。
 事実上の即死効果を与える遠隔操作型スタンドを持ちながら、近接超特化型の白蓮の前に本体が身を晒すメリットは皆無。果樹園で交戦した際は作戦上、本体のみで迎え撃っただけだ。
 勢いに乗った白蓮に迂闊に近付く愚など有り得ない。教科書通りにプッチはスタンドのみを対峙させるも、彼女は遠距離攻撃すら充分なカードを揃えているらしい。まこと、大魔法使いの称号は伊達じゃない。

 それでも、スタンドを持たない白蓮から見ればプッチは脅威だ。スタンドを前に立たせるだけで、大概の弾幕の盾となってくれる。
 プッチの隠れる直線軌道上を翔ける蝶弾のみ、ホワイトスネイクが手刀で弾き落とす。こうなってしまっては分が悪いのは白蓮の側であった。

 全方位に広がる蝶の弾幕をものともせず、ホワイトスネイクはあっという間に白蓮の元に辿り着いた。
 彼女のDISCを確実に獲る為、視界の消失している右側から攻める。ザ・ワールドの拳とは違い、ホワイトスネイクの指は受ければ即・戦闘終了となり得る。

(避け切れない……っ!)

 DIOから受けた幾多の攻撃は、彼女の俊敏性を明確に奪う程の鈍痛をその足へ蓄積させていた。

 ホワイトスネイクの攻撃を、完全に回避しきれない。

344 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:05:39 ID:lQG/D5qE0



「ゴールド・エクスペリエンス……床板を『蝶』に変えた」



 突然、頭が割れ砕けそうな激痛がプッチの頭部を襲った。
 それだけではない。自らの額から『DISC』が半分ほど突出している。

「が……っ! こ、この現象は……!?」

 DISCが飛び出ているのだから、これはホワイトスネイクのDISC化能力が何故かプッチ本体へと『返って』きていると考えた方が道理だ。
 注視してみれば、白蓮と……そしてジョルノの周囲にはいつの間にか、紫色の蝶々がひらひらと踊るように舞っていた。
 白蓮の放った蝶形の弾幕『魔界蝶の妖香』と、ジョルノの創った蝶とが、互いに交差しあい、紛れるように飛ばされていたのだ。
 ホワイトスネイクは、その内の一羽を弾幕と見誤って叩き落としてしまった。


 ───ジョルノが産んだ生物には、『攻撃するとダメージがそのまま本体へ返る』という強力な能力が備わっているとも知らずに。


「あの神父は僕が叩きますので、聖さんはDIOをお願いします。あと“これ”……貴方の『目玉』ですので、嵌めといて下さいね」
「……!? ★●■〜〜〜っ!」


 声は全くとして出ていないが、白蓮の驚愕と困惑ぶりはその顔にも存分に表れている。
 なにせ先程DIOに抉り取られたばかりの自分の眼球が、野球ボールか何かのような扱いでジョルノから投げ渡されたというのだから無理もない。
 勿論それはたった今彼が手頃な物で創った目玉なのだが、ジョルノの能力を詳しく知らない白蓮は、そんな物を大した説明なく受け取ってしまった反動で思わず頬が引き攣った。
 そのトンデモ行為に、彼が以前ブチャラティから受けた仕打ちのトラウマが多分に含まれていたかどうかは本人のみが知るところだが。


「神父は……あそこか」


 反射ダメージの効果で、プッチの頭部からはスタンドDISCが半分飛び出ている。それにより、身悶えていたホワイトスネイクの像がノイズに紛れて消失した。
 これ以上ない好機。プッチは今、直ぐ様の反撃が出来ないという、スタンド使いにとって致命的な状態。

 ジョルノが駆ける。狙うは当然プッチ本体!


「させないッ!」


 この場で唯一手の空いた蓮子が、再度してジョルノの前へと飛び出た。
 周囲には夥しい数の蝶。下手に攻撃すれば自らの首を締めかねない事になるのは、今の攻防を見ていれば予想出来る。
 臆することなくジョルノが疾走する。不規則に漂う反射蝶を上手く避けて彼を斬り伏せるという事は、如何な刀の達人であろうと難事である。


「だったら、斬れないように……斬ればいい」


 蓮子が小さく呟くと同時。
 ジョルノの右肘から先が宙を飛び、全ての蝶が散るようにして消えた。


「───ッ!? ぅ、なに……っ!?」
「ジョルノさん!?」


 両眼と、消失したホワイトスネイクが落とした己の『声』を取り戻した白蓮の視界に飛び込んできた最初の光景は。
 鮮やかに振り下ろされた妖刀の輝きと、血飛沫と共に舞う少年の腕。
 蓮子の一振は確実に反射蝶ごとジョルノの右腕を通過した筈が、どういう訳かリフレクターが作用しなかった。

 物体透過能力。
 アヌビス神が持つ、厄介極まるスキルの一つである。
 ジョルノを護るように飛び舞う蝶の数々をすり抜けて無視し、対象のみをブッた斬る。
 こと“斬る”能力に関して、アヌビス神の力は本物である。

「『ガルーダの爪』!」

 重症を負ったジョルノと前衛を交代するように、白蓮は移動と攻撃を併せ持った蹴りを見舞った。DIOにも披露してみせた、爆撃を模した苛烈なるライダーキックである。

 それすらも、刀の峰で止められた。

 速さに掛けては他の追随を許さない白蓮の蹴りを、こんな少女相手に、だ。
 相手が人間の少女だということで、白蓮にも無意識下での躊躇は澱んでいたかもしれない。それにしたって、ザ・ワールドをも翻弄するレベルのスピードは易々と防がれるものではない。
 いや、それよりも……。

(この子……今、明らかに私を見ずして受け止めた!)

 白蓮の瞬速に追い付いたのは、少女の視線より刀が先だった。
 まるで刀そのものに意思があるかの如く、少女の腕をグンと引っ張って白蓮の蹴りを受けさせたように見えたのだ。

345 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:06:14 ID:lQG/D5qE0

(敵本体は『刀』の方……!? だとすれば……)

 刀に意識を奪われている。有り得ないことではない。
 今、こうして接近して分かったが、どうもこの少女……正気を感じない。
 いや、元来持つ正気が、上から悪の気に包み込まれているかのように朧気で薄明な意思だ。

 つまりは……少女に傷を付けず、刀のみを破壊しなければならない芸当が求めら───


「URYYYYィィイイァ!!」


 少女の不遇な環境に、一瞬胸を痛めてしまった事が仇となったか。
 戦場に復帰したDIOが、猛烈なパワーを込めて白蓮の左肩へスタンドの一撃を入れてきた。
 ミシミシと、全身の骨髄を伝播する重い痺れが彼女の動きを鈍くし、次に襲ったザ・ワールドの回し蹴りは、今までで一番に深く白蓮の身体へ食い込んだ。

「あ……!」

 今度こそ受け身すら取れず、白蓮は木の葉のように吹き飛ぶ。

「聖、さん……!」

 重症ながらも、ジョルノが隻腕のスタンドを起動させて白蓮をキャッチ。彼女の強力な近接戦闘術が一瞬でも戦線を離脱されれば、片腕のジョルノにこの猛攻を防ぐ術は無い。

『おのれ……味な真似をしてくれる……!』

 視界には入ってくれないが、プッチ本体が態勢を立て直したのか。
 ホワイトスネイクが側頭部を抑えながらも、再び発現して現れた。
 さっきみたいに反射の罠に二度掛かってくれるようなヘマはしないだろう。

「頑張った方だけど……ここまでよ」

 今しがたジョルノの戦闘力を半分削いだ蓮子が、アヌビス神の切っ先を向けて言った。失った右腕を作る隙など、与えてくれるわけがない。
 決して前線に出ようとはしていない彼女だが、ストレートに強力なのはあの刀だ。白蓮とDIOの戦いにジョルノがまるで介入出来なかった事から、その厄介性は伺い知れた。

「聖……そしてジョルノ。貴様ら二人だけは、絶対にここで摘まなくてはならない」

 DIOが横にスタンドを立たせて睨んだ。
 息こそ荒くなっているが、ダメージはそれほど入っていない。白蓮から断絶された右目も、いつの間にやら殆ど再生しかけている。


 囲まれた。
 二対三という数での不利は元々、白蓮の奮闘が限りなく上手く回ってこそ埋められた穴である。
 長期戦となれば劣勢に陥るのは当然。ましてDIOのみならず、配下の神父と少女の方も想像以上に曲者であるというのだから。

(紫さんは……さっきからまるで動いてないな。彼女の事だ、そうあっさりもやられないだろうが……)

 万事休すの状況に追い込まれ、逆に頭が澄み始めたのか。
 ジョルノの心中には、八雲紫の姿が浮かんだ。
 彼女に預けたブローチの位置は、館の一箇所から全く動かずにいる。
 ターゲットの人物を発見したのであればすぐさま外部に出る筈であるし、見付けられないのならいつまでも不動でいる意味が分からない。

 恐らく、向こうは向こうで何か『予定外』のアクシデントでも起こっているのだろう。

(何を僕は……あの人の救援でも期待しているのか?)

 自分らしくない弱音に、ジョルノはかぶりを振った。
 今までにもこの程度の窮地など、幾度となく経験してきたろう。
 どうもDIOの、“あんな話”を聞かされてから臆病になっている気がして。


 こんな時、ブチャラティならどんな声を掛けてくれるのか。
 ディアボロを倒して新たなボスの座に就き、組織パッショーネを一から洗浄していく過程で、彼の家庭事情をほんの少しだけ調べてみた事がある。
 幼い頃より両親は離婚。父親は麻薬絡みのいざこざにより、死亡。
 調査書によれば、当時まだ子供であったブチャラティはその時、襲撃してきたマフィア二人を殺害している。
 父を守る為に。そして父を奪った麻薬をこの世から消滅させる為に。
 ブチャラティは自ら闇の世界の住人となり、幹部にまで登り詰めた。

 力を持たない子供の彼であったからこそ、『父親』とは唯一の拠り所であり、依存すべき繋がりであったのだ。
 だから彼は、『父親』から憎まれ、手を下されそうになったトリッシュを命懸けで守ると誓った。

 ジョルノは……トリッシュと同じ存在だった。
 『父親』から目の敵とされ、命を狙われるという恐怖は……想像以上に人間を弱くさせる。

 きっとブチャラティならば。
 そんなブチャラティだからこそ、彼はジョルノをも救おうとするだろう。

 あの人はもうこの世にいないが、心の底から尊敬すべき人間であった。
 彼はあの時、ローマでジョルノに全てを託し。
 最期に……きっと、『夢』を叶えて逝ったに違いない。

346 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:06:47 ID:lQG/D5qE0


「僕はまだ───自分の夢を叶えていない」


 運を天に任せた上で全てを諦めては、勝利者にはなれない。
 DIOは想像より遥かに強大で、邪悪だった。
 準備不足は否めない。元より、ここは敵の本拠地だ。
 普段の自分であれば、時期尚早だとしてDIOとの決戦は見送っていたかもしれない。


 八雲紫の『夢』を語る、その純朴な瞳に。
 どこか……惹かれたのだろう。
 理由を訊かれたのなら。それが彼女に手を貸そうとした理由だ。
 そして。父親とケリをつける為に此処へ来た。


 誰しも───夢を語る時の瞳というのは純粋で、

 眩くて、

 清く、

 正しい光を纏うものなのだ。



「このジョルノ・ジョバァーナには……『夢』がある」



 黄金の髪を持った少年が、断固とした眼差しで宣言する。
 片腕となったゴールド・Eを隣へ並ばせ、DIOを睨みつけた。



「ギャングスターに、僕はなります」



 言葉の響きに、揺らぎなど無かった。
 傍で聞き遂げる白蓮にも、少年の持つ根底の強さが見て取れた。
 発された単語の意味は不明だが、少年の宣誓は白蓮にとっても、心地好い余韻を残してくれた。


「───ボーイズビーアンビシャス。……少年よ大志を抱け。外の世界には、こんな言葉があると聞いた事があります」


 少年の語る『夢』は、白蓮にも過日の大志を思い出させてくれた。
 少年でも、少女ですらないけども、自分にも『夢』と呼べる想いが今でもある。
 それを叶え遂げるまで、倒れる訳にはいかないのだ。

「私を使ってください、ジョルノさん。貴方はまず、腕の止血を……」
「易々とは治療させてくれないでしょう。僕の見ていた限りでは、聖さんと相性が悪い相手はあの神父の男です」
「……全員、私が相手取ります。その間に貴方は何とか……」

 白蓮のポテンシャルなら、多数相手でも時間稼ぎは可能かもしれない。
 だが、スタンドを持たない。それだけの事実が、戦況を大きく傾かせる致命的要因となりかねない。


「作戦会議は終わりか? 言っておくが、先程までのように『疾い』だけで翻弄できると思わない事だ」


 クールダウンを経たDIOが自信を顕にする。
 根拠の無いハッタリではない。男の自信は、揺るぎない経験の元に立ち上げられている。
 あらゆる窮地に即座の対策を導き出してこそ、百戦錬磨のスタンド使いたる所以。伊達に世界中のスタンド使い達を見てきたわけではない。
 きっと白蓮のスピードなど、すぐにも順応し対応を立てられる。

 どうすればいい。
 先ずは敵の陣形を崩したい。ホワイトスネイクに攻撃は通じない以上、そこ以外を突くしかない。


 白蓮は腹を決めた。
 魔人経巻を広げ、パラメータを一気に増幅させ。

 ジョルノが失った右腕の治療に取り掛かり。

 ホワイトスネイクが駆け出し。

 蓮子がアヌビス神を振りかぶり。

 DIOが叫び、時間を止める。



 その全てに先んじて、
 此処に立つ誰もが予想すらしなかった、
 弩級のアクシデントが、

 熱風の爆音と共に姿を現した。



 その凶兆の名を、ある者は『サンタナ』と呼称を付けた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

347 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:07:56 ID:lQG/D5qE0
『八雲紫』
【午後 15:36】C-3 紅魔館 二階客室


「聖がこの紅魔館に?」
「来ている筈さ。DIO達もそっちに出っ張らっちまってる」


 幻想郷がアメリカにあれば、この男のような時代遅れな服装をした人間がわんさか表を出歩いているのだろうか。
 取るに足らない事を思考の端に追いやり、八雲紫はホル・ホースから一通りの情報を頂き終えた。
 思い掛けない偶然に、命蓮寺の住職が単身でこの館にまで来ているらしい。無論、客としてでなく鼠として。
 狙いはジョナサン・ジョースターのDISCだという。DISCといえば青娥や鈴仙の手に入れた『スタンドDISC』が例に浮かぶが、それとは別種の物だろうか?
 その旨をホル・ホースへと訊いても、詳細は知らないと首を振った。

(また、ジョースターか。その家系、詳しく調査する必要がありそうね)

 最早ただの一参加者では収まらない『ジョースター姓』の秘密。
 なるべくなら全てのジョースターと接触を図りたい。尤も、ジョニィ・ジョースターは既に故人。彼をよく知る者がまだ生きている筈だ。


「……で、貴方は?」
「え。お、オレ……?」


 今考えても、答えなど分からない。
 それよりかは、今はホル・ホース。この男の見極め及び処遇だ。
 DIOの部下と名乗るわりには、会話や立ち振る舞いに奴への尊敬は感じられない。ディエゴが去った時には、既に『様付け』を早々に放棄している時点で、忠誠心は大してありはしないだろう。

 幾つかの質問(という名の尋問)を交わして理解出来た。
 彼は処世術に長けてはいるが、あくまで保身が最重要。悪い言い方をするならば、フヨフヨ漂う根無し草。だからこそ此処まで生き延び、だからこそ此処から先を見通せない。
 運やマグレで今まで生きてこれた訳では決してないが、このゲームに限って言えば、何か拠り所を掴んでいなければすぐにも野垂れ死ぬだろう。

 その“拠り所”とは、言うまでもない。

「聖白蓮。彼女が本当にこの館に来ているのなら、貴方にとってみれば千載一遇のチャンスでしょう」
「だからそれはさっき話したろう。オレぁ、建前上はDIOの部下やってんのよ。お前さん、オレがあのDIOの目の前で聖の姉ちゃんと話せってのかい?」
「なんならDIOを撃てばいい。射撃の名手なんでしょ?」

 勿論、そんな事でDIOが討てれば苦労はない。しかし問題は、このままだと白蓮の敗色が濃厚だという事だ。
 あの尼の強さは理解している。並大抵の妖怪はおろか、マトモにぶつかれば私ですら少しは手を焼く。
 しかしそれでもDIOには勝てない。実力どうこうでなく、『聖白蓮』ではきっと……『人間の持つ邪悪さ』には勝てない。

 彼女はそういう女だ。
 少なくとも、一人では勝てない。

348 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:08:40 ID:lQG/D5qE0

「下には多分、一緒にジョルノ君が居る。鈴仙も居る。そこに貴方が加われば、DIO相手にだって劣らないんじゃないかしら?」

 口では上手いことを言うものの、紫の見立てではそれでも過不足。ホル・ホースの実力はまだ不明なれど、DIOには届かない。

「なに!? み、味方が居んのかよ! 二人も!?」

 しかし紫の申し訳程度の煽てに、ホル・ホースは案外乗ってきた。
 DIOには勝てない、とは思うものの、戦力に加算があるなら白蓮らの足でまといにはならないだろう。
 紫とて、無駄な犠牲者など出したい訳もない。まして囮役を引き受けたジョルノ達のフォローに入るのなら、願ってもない援軍だ。

「表向きでもDIOの部下なんでしょう? 私が貴方なら、その立場を逆に利用するけどねえ」

 ポン、と背中を後押し。
 さあ人間。貴方の答えは?

「…………〜〜〜く、ゥゥーー……っ!
 だーーもうッ! わーった、わーったよ!
 行きゃイイんだろが行きゃあ!!」

 半ばヤケクソのよう。それでも頷いてくれた。
 及第点だ。これならば、後顧の憂いなく彼に『任せて』やってもいい。
 信用出来るか出来ないかで言えば、この男は信用出来ないに分類される。
 良い人間か悪い人間かで言えば、間違いなく悪い人間だ。

 でも、まあ……他に適役も居ないし? 時間も無いものね。

「つーか! 何でテメーがさっきから上から目線なんだよ!
 お前さんも来いよ! 同郷の奴なんだろ!?」
「あら、私にはキチンとやるべき事がありますのよ。貴方、レディを戦場に送る気?」
「あー? ンだよ、その『やるべき事』っつーのは」

 待ってましたその言葉。
 そう言わんばかりに溌剌とした紫の腕は、天に掲げたその扇子をある一点へと振り下ろし、指し示した。


 マエリベリー・ハーン。
 未だ目覚める気配の無い、白雪姫へと。


「この娘の『意思』の行方をざっと探してみたのだけど、どうやらすぐ近くには居ないみたいなのです」
「意思ィ〜? どうやって追ったんだよ」
「私と波長が似ているから難しい事ではないわ。
 そして……『追跡』するのも、ね」

 紫の指先が、メリーの肩に触れる。
 ツツーと、優しく擦るように指先が滑り、少女の頬が撫でられた。
 眠り終えた幼子を慈しむ母親のように、扇子の奥に隠れた口元がフ……、と緩む。


「これより、この娘が見ている『夢』を追体験……というより直に『侵入』します」

349 黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ── :2018/09/14(金) 21:09:09 ID:lQG/D5qE0

 ひどく大真面目に言い放たれたその言葉に、ホル・ホースの顔は硬直へと囚われた。
 夢の中へ入る。そんなスタンド使いが、DIOの部下に居たとか居ないとか。
 しかし非現実的な話だ。それこそ夢見心地の気分でいるのではないだろうか、この胡散臭い美女は。

「あー……えっと、夢の中に、侵入。それも他人の」
「夢みたいな話でしょう?」
「なるほどね。オレもガキの頃、テメェの望んだ好きな夢を見たくて、色々実験したもんだ」
「あら、意外と可愛らしい幼少時代をお持ちで」
「だろう? まあ、出来るわけもねー。そう、出来るわけもねーんだ」
「出来ます」
「どーやって」
「……私の力、じゃあない。どうやらこれは……この娘の『能力』みたいね」
「……じゃあその娘も、スタンド使いか?」
「少し、静かにしてて」

 問答無用のお達しを受け、ホル・ホースは大いに不満な顔で口を噤んだ。
 外野の視線を難なく受け流し、紫の人差し指がメリーの閉じられた瞼にそっと重なる。



 ……。

 ………………。

 …………………………。



「入れそうね」
「マジか」


 何とも重たい無言の空気を耐え忍んだホル・ホースの耳に飛び込んだ第一声は、ファンタジーの肯定を示唆するような短い内容。

 メリーには、『境目が見える程度の能力』が備わっている。
 かつて結界を通じて衛星トリフネ内部に侵入した際、相棒の蓮子の目に触れる事で、自分の見ているビジョンを相手に『共有』させるという際立った能力を発揮していた。

 『夢』を他人と共有できるチカラ。
 その能力を紫が知っている訳がない。
 けれども、何故か紫の内には希望めいた確信があった。
 何となく……自分の姿にそっくりなこの娘とは、何もかも通じ合える気がする、という奇妙な確信が。


 その確信が、二人の関係を決定的なモノへと繋げてしまうという……ある種の『恐怖』も。


 意を決して紫は振り向き、そこに立つ男へと声を掛ける。

「ホル・ホース。貴方には、少しの間だけここを守っていて欲しいの」

 ギョッとした表情が、男の動揺の全てを物語る。
 予期せぬ要請。唐突すぎる申し出だ。

「ハァ!? なんでオレが!?」
「守って、というのは多少大袈裟ね。私が『向こう』へ行っている間、私本体は完全無防備になると思うの。
 だからその間だけでも、ここで見守っていてくれるだけで構わない。元々、彼女を守れっていうDIOからの命令があったんでしょう?」
「いや……だけどよォ、アンタがついさっき言った事だぞ。“聖白蓮に会いに行け”って……!」

 あれは方便みたいなもので、紫は単にホル・ホースという男の『底』を確認したかっただけだ。
 この場で白蓮に会いに行こうともせず、ひたすら保身にしがみつく軟弱な男であれば、この話を持ち出す気など無かった。
 渋々ながらも彼は、最低限の男気を見せてくれた。ならば少しは紫の期待には添えてくれるだろうと信用し。

「聖なら簡単にやられるようなタマじゃないわ。
 貴方が百人束になって掛かったって、あの尼には敵わない」
「……チッ。ここで見てりゃあ良いんだな?」
「ええ。でも、もしも…………いえ。何でもありません」

 歯切れの悪い言葉を振り払うように、紫はスカートを翻してメリーの隣へ立ち、おもむろにその身体を抱き上げた。
 部屋の奥に備えられたベッドの上へと彼女を横にして、自らも靴を脱ぎ、その隣に横たわる。


「それじゃあ、ちょっと神隠しに遭ってくるわね。
 あ、私が寝てる間にオイタは駄目よ?」
「るせぇ! とっとと行ってきやがれ!」


 茶目を見せながら、紫とメリーは互いに向き合うようにして。
 瞳を閉じ、メリーの閉じられた目へと触れた。


 それを合図に、部屋の中は静寂に包まれた。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

350 ◆qSXL3X4ics :2018/09/14(金) 21:10:17 ID:lQG/D5qE0
中編投下終了です。もう少し続きます。

351 名無しさん :2018/09/15(土) 12:55:16 ID:ZFL3hUoA0


352 名無しさん :2018/09/16(日) 12:48:07 ID:OjWtdSY20
ここでサンタナ参戦か。確変の勢いに乗って押し切れるかな

353 ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 15:48:35 ID:fObrG55w0
投下乙です。
後編を楽しみにしつつ、合間に一作ゲリラ投下をさせていただきます。

354 ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 15:55:33 ID:fObrG55w0
 目覚めてすぐ、ウェスは途方に暮れた。目の前の状況が飲み込めなかった。降り注ぐ雨から身を守ることもなく、濡れ鼠の様相を呈した姫海棠はたてが地に膝をついて泣いている。それはいい。ひとまず上体を起こして、ウェスは身震いした。眠っている間、冷たい雨に打たれ続けたことで、随分と体温が奪われていることも自覚した。それもいい。
 問題は、ウェスのすぐそばに、原型を留めなくなるまで頭部を執拗に破壊された凄惨な遺体が放置されていることだ。割れた頭蓋から滲み出た血と脳漿が溶けてできあがった赤黒い水たまりには、さしものウェスも生理的な嫌悪感を覚えた。

「なんだっていうんだ……いったい」

 あまりに意表を突かれたため、自分がなぜ雨の中野ざらしで寝ていたのか、戦っていたあの女戦士は、ふたりの神々はどうなったのか、そういう疑問を抱くまでに若干の時間がかかってしまった。
 数瞬の間を置いて立ち上がったウェスは、傍らの惨殺死体を見下ろし、その正体があのリサリサであることを悟った。遺体が身に纏う衣服や、ひしゃげた顔面のそばに転がったサングラスの破片に見覚えがある。間違いはないだろう。
 ウェスは項垂れて慟哭するはたての背後へと歩み寄った。

「おい、こいつはお前がやったのか」
「うぇっ……ひっく……うぅ……っ」

 期待した返事はなかった。けれども、ウェスからしてみれば、それは十分に返答足りえるものだった。この中途半端な女に、これ程冷酷で残忍な殺人ができるとは思えない。下手人はほかにいる。だがそうなると、いったいなぜリサリサだけが殺されて、自分が生存しているのかがわからない。

「おいッ、無視してんじゃあねェーぜ」

 紫色のフリルがあしらわれたはたての襟を乱暴に掴みあげる。はたては雨と涙と鼻汁とでぐしゃぐしゃに濡れた顔を、はじめてウェスへと向けた。駄々を捏ねて泣きじゃくる子供のようなその表情は、ウェスを苛立たせるには十分だった。

「チッ……そんなに泣くほどツラいならよォー……オレがここで終わらせてやってもいいんだぜ」

 バチバチ、バチ。大気中の静電気を操って、ウェスの腕から襟、はたての体へと微弱な電流を流し込む。はたての華奢な体が、びくんと跳ねた。

「ッ、嫌……!」

 電気に対する反射行動か、背中に折り畳まれていた羽根が瞬時に盛り上がり展開され、ウェスの腕を振り払った。弾き出されるように飛び出したはたては、そのまま飛行をするでもなく、ろくな受け身も取れずに水たまりに突っ込み、飛沫を上げて転がった。その際、顔面を強打したのだろう、ウッといううめき声が漏れ聞こえた。
 起き上がったはたては、顔を真っ赤にしながらもまなじりを決し、ウェスを睨め付ける。

「う……ぅ……」
「なんだ? その眼は……イッチョマエに文句でもあるってのか? このオレによォオ」
「もう……、もう、もうっ――!」

 堰を切ったように、はたての怒号がしんと静まり返った廃村に響き渡った。

「なんッなのよアンタはさっきからぁああッ! なんだってそんな風に意地悪言うの!? 私が助けなかったら、今頃そこの死体と同じように殺されてた癖にッ……なんで私アンタなんか、……アンタなんか見捨てて逃げればよかった……!」
「……なにを言い出すのかと思えば、随分とくだらねーことを言いやがる」
「なっ……くだらない、ですって!?」

 ウェスは小さく鼻でせせら笑うと、己の手荷物の中からワルサーを取り出した。雨に濡れることも気にせず、空の弾倉に予備の弾丸を装填してゆく。水に濡れた弾丸では命中精度も威力も大きく落ちることは理解しているが、ウェスからすれば関係ない。
 弾丸が装填されたばかりのワルサーの銃口を、ウェスは自分自身のこめかみに押し当てた。瞠目し、なにごとかを叫びかけたはたてよりも早く、ウェスは連続で引鉄を引いた。
 銃声は一発も鳴らなかった。

355 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 15:59:57 ID:fObrG55w0
 
「な……なっ、なにしてんのよアンタはァアアーーーッ!」
「見ての通りだ……オレは自分では死ねない。何度も試したからな……だから、ここで死ぬならそれでもよかった。助けてくれなんて頼んだ覚えはねえ」

 ワルサーに装填されていた弾倉を引き抜いて、中身を検める。雨に濡れたにしては異常な程、弾倉の中身は『濡れすぎて』いた。普通、密閉された金属製の弾丸の中身まで浸水することはあり得ないし、近年の拳銃であれば水中でもそれなりの殺傷力を誇る。この弾丸は、ウェスを狙ったその瞬間に、本来の役目を失ったのだ。
 役に立たなくなった弾倉を捨てて、新品の弾倉に詰め替えるウェスを、はたては凝視した。

「冗談じゃないッ……ふざけたコト言ってんじゃあないわよ、アンタ……死んでもいいですって? いまさらッ……いまさら! ここまで好き勝手やっておいて……そんな勝手なことが許されると思ってんの!?」
「それこそ今更だな……許される必要がどこにある? お前に言われるまでもなく……きっとオレが行くのは『地獄』だろう……『天国』へは行けない。だが……生きているからにはやらなければならないことがある。オレが『地獄』に行くのはすべてが終わってからだ」

 柄にもなく、ウェスはくぐもった声を出した。
 生きている限り、歩みを止めるわけにはいかない。どこまでも冷静に、どこまでも無感情に、ウェスは己の目的の為だけに他者を殺す機械となる。そして、喪ったものを取り戻す。すべてが終わって不条理が取り除かれた世界に『呪われた人間』は必要ないとウェスは思うが、厳密に言えば終わった後のことはどうでもいい。

「家族を殺して……参加者を皆殺しにして、それで自分も『地獄』に堕ちるっていうの、アンタ」
「そうだ。そして生きている限り、オレは前に進み続ける……オレを止められるのは『死』だけだ」
「……っ、狂ってる」
「お前は思っていたよりも『マトモ』だな。向いてないと思うぜ……新聞記者なんてよ」

 またしても、ウェスは笑った。
 あのイカれた記事を書いた人間が持つには、些かちぐはぐした『論理感』がはたての言葉にはある。なによりも、ことあるごとに涙を流すような中途半端さなら、やめてしまった方がいい。
 はたてはさも心外とばかりに立ち上がり、尖った双眸をウェスに向けた。涙はいつの間にか止まっていた。

「そんなこと、アンタに言われる筋合いないわよ。せっかくヤッバいネタを手に入れたっていうのに、このまま腐らせたまるもんか……アレも、コレも、まだまだ配信したい内容が沢山あるのよ。誰よりも早く、独占スクープでみんなの度肝を抜いて、あいつらをぎゃふんと言わせてやるんだ……あんたと同じように、私にだって止まれない理由がある」
「そうかい……だったら勝手にしろ。お前がどうなろうとオレの知ったことじゃあないからな……それで役に立たなくなったとしても『切り捨てる』だけだ」
「……アンタほんっとのひとでなしね。今更もう期待はしてないけど……あーあ、アンタのことなんて助けなければよかった」

 憮然として嘆息するはたてから、物言わぬ遺体となった女戦士へと視線を向ける。

「で、アレは誰がやったんだ」

 問うた瞬間、はたては再び表情を曇らせた。

「トリッシュって子が殺された時、近くで寝てた紫髪の子が……まるで機械みたいに、淡々と気絶した彼女を……言っとくけど、私が飛び出さなかったら、アンタも一緒にやられてたんだからね」
「そいつはどうも。で、お前は恐れをなして泣きじゃくってたってワケか」
「だって、仕方ないじゃない……あんな殺し方、異常よ。怒りも憎しみもなにもなかった。ただ、作業をするみたいに平然と……あんなムゴいことができるなんて」
「殺し合いを助長するような記事を書いているヤツのセリフとは思えねェな」
「別に殺し合いを助長しようなんて、そんなつもりはないわ。私はただ、みんながアッと驚くような記事を書きたいだけ」
「そうか……そいつは立派な心がけだな」

 思うところはあったものの、はたての思考回路の異常さちぐはぐさを一々指摘してやる義理もないので、ウェスはあえてなにも言わなかった。はたてが今のスタンスでいる限り有用であることに違いはないのだから、今はそれでいい。
 ウェスは興味を失ったようにはたてに背を向け、歩き出した。

356 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:04:27 ID:fObrG55w0
 
「――だが、お前のお陰でオレは『復讐の旅』を続けることができる……『地獄』行きのな。お前を『協力者』に選んだのは失敗じゃあなかったらしい」

 それは、多分に『皮肉』の含まれたいびつな感謝だった。
 はたては一瞬遅れて、歩き出したウェスの隣へと駆け寄ってきた。

「ね、ねえ、それ褒めてるつもりなの? ぜんぜん嬉しくないんだけど」

 ちらとはたての顔を見る。嬉しそうだった。まなじりにはウェスを糾弾するような色も見て取れるが、口角が微かに上がっている。
 過ごした時間は少ないが、はたての目的を聞いていると、どうやら人より『承認欲求』が大きいように感じられた。他者に認められ、求められることで、この女は自分自身の必要性を再認識するタイプなのだろう。
 視界の片隅に見える木とはたてを見比べて、吐き捨てるように笑った。

「少なくとも……お前じゃあなかったら、きっとオレは今頃死んでただろうからなァア」
「そう、そうよね……だったらもっと感謝しなさいよね! 私と私の書いた記事に」
「ああ、してるぜ、お前のおかげだ……(お前のおかげでこれからもっと大勢の人間が死ぬという意味だが)」

 はたては安堵したように息をついた。

「で、あのカミサマふたりはどうなったんだ」
「さ、さあ……戦ってたハズなんだけど、決着がついたのかどうかは。少なくとも、もう戦闘は終わってるみたい」
「……そうか」

 肝心なトコロで役に立たないオンナだな、とは思っても口にはしない。どうせ決着がつく前に怖くなって逃げ出したのであろうことは容易に想像がついたので、あえて追求する気にもなれなかった。

「まあ、どっちでもいい。生きていたなら、次会った時に殺せばいい話だからな……どっかでおっ死ぬ分には問題ねェ。そんなことより――」

 ウェスは曇天の空を見上げる。ウェスとはたての周囲だけ、雨は止んでいた。その空を、一匹の小さな影が通り過ぎていった。普通であれば虫が飛んでいる程度にしか思わないのだろうが、この会場においてそれは異常だ。
 なによりも、影の正体が虫でないことをウェスは見抜いていた。
 影は、まるでふたりを監視するように、付近の陋屋の屋根瓦に止まり、羽根をたたんだ。
 直径にして三センチから四センチ程度の、小さな翼竜だった。

「アレはなんだ……お前、知ってるか」
「そういえば、あちこち飛び回っていたみたいね……見たところ、あの『トカゲ男』の能力のようだけど」
「ほう……じゃあ、誰かの能力なんだな? アレは」
「うん。多分『触れたものをトカゲに変える』って能力だと思う。今は無事だけど、あの洩矢諏訪子もアイツにトカゲに変えられてたみたい」
「そうか……だったらよォ、お前、アレを撃ち殺してみろ」
「えっ……いいけど」
「頼むぜ〜」

 ウェスの意図を理解しようとするでもなく、はたては求められるままにカメラ付き携帯のレンズを翼竜へと向けた。翼竜をファインダーに収め、携帯電話のボタンを押し込む。

   遠眼「天狗サイコグラフィ」

 機械的に再現されたカメラの撮影音がカシャ、と鳴った。はたてが撮影したのは、陋屋の中心で羽根を休める翼竜の写真だった。写真に切り取られた四角形の空間を埋め尽くすように、紫色のお札を模した弾幕が大量展開される。
 鮮やかな紫が、淡い輝きを放ちながら翼竜へと殺到した。異変を察知した翼竜はただちに飛び立とうとしたものの、ろくな知性を持たない翼竜に、大量に飛び交うお札団弾すべてを回避するのは不可能だ。
 一発目が翼竜に命中した。弾幕に込められた霊力が弾けて、翼竜が高度を落とす。そこへ、二発目、三発目の弾幕が追撃をかける。雨に打たれながら、翼竜は一匹の昆虫へと姿を変え、地面に落ちていった。
 のんびりとした歩調で『翼竜だったものの死骸』に歩み寄り、指でつまみ上げる。

357 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:11:44 ID:fObrG55w0
 
「ミツバチだ……しかし少し大きいな。オオミツバチか?」
「これがあの『空飛ぶトカゲ』の正体……? ってことは、やっぱり姿に変えられてたんだ」
「ああ、決まりだな……コイツはスタンドで操られていた。せいぜい偵察係ってところだろう……オレがお前に情報収集を任せたようにな」
「ってことは、やっぱりあの『トカゲ男』がやったのかしら」
「誰の能力だったとしても、気に食わねェことだけは確かだぜ……『高みの見物』で情報だけもっていくヤツがいるんだからな」
「アンタがそれ言う?」

 ウェスの背後に、スタンド像が浮かび上がる。雲の集合体、気象の具現『ウェザーリポート』だ。

「ねえ、アンタなにする気なの」
「オイ、お前……『恐竜』がどうして滅びたか、知ってるか」
「えっ」

 はたては問いの意味がわからないといった様子で眉根を寄せるだけだった。

「実際のところ、恐竜が滅んだ理由には諸説あるが……定説として唱えられているのは――」

 話しているうちに、自然界では考えられないほど急激に、通常ではあり得ない速度で気温が低下しはじめた。
 絶えず降り注いでいた雨が、その雨脚を弱めてゆく。空から降る雨が、液体の形状を保てず、その姿を雪の結晶へと変えてゆく。ウェスの上空を中心に、雨が完全なる雪へと姿を変え、その寒波の並は徐々に広がってゆく。
 寒波は瞬く間に廃村全体へと伝播していった。

「――長く続いた冬の『寒さ』に耐えられなかったからだ」

 吐く息が白くなる。人間ですら凍えるほどの寒波を、ウェスが引き起こしているのだ。
 雨に打たれ全身を濡らしていたはたてが、両肘を抱えて震え始めている。ウェザーリポートは、はたてに向かって突進した。実体を持たないその像が、はたての体を突き抜け、そのまま通過してゆく。

「えっ、な、なに!?」
「ウェザーリポート……お前の体に纏わり付いた水分をトばした」

 宣言の通り、ウェザーリポートが齎した熱量は、瞬く間にはたての髪を、衣服を乾燥させていた。瞬間的にかなりの熱がはたてを襲った筈だが、元々の気温の低さと体温低下もあって、はたての体はそれをダメージとは認識しない。ウェスが、そうなるように調節した。
 かたや、ウェスの視界の隅を飛んでいた一匹の翼竜の高度がみるみる下がってゆく。さっき死んだ翼竜とは別の個体だ。そいつはそっと一軒の陋屋の軒先に羽根を下ろすと、体を丸めたままじっと動かなくなった。

358 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:21:54 ID:fObrG55w0
 
「雪の降るような『寒さ』の中では活動を止める……『何者であろうと』な。恐竜だろうと昆虫だろうと、その点は同じだぜ」

 あの翼竜はもう動けない。このままじっとしている限り、寒波に耐えられず徐々に体力を奪われ続け、いずれ支配が解けると昆虫の姿に戻り死に至るだろう。一匹一匹を点で潰してゆくのは骨が折れるが、面で活動を制限するのであれば、さほど集中力は必要ない。
 この殺し合いにおいて、情報は命を左右する要素にも成りうる。どこかでいい気になって楽に情報収集を決め込んでいる参加者がいるならば、ここでその手段は潰しておくべきだ。此方の情報だけが相手側に筒抜けになるという事態を今後防ぐために、ウェスはウェザーリポートを発動したのだ。

「アンタまさか、この会場中にソレをやる気なの」
「どうかな……今のままじゃあ、あまり広範囲に能力を及ぼせないらしい。本来ならこの程度の会場を寒波で覆うのはワケないんだが、くだらねェ制限ってのがかけられちまってるらしいんでな」
「うーん、なるほどねえ……でも確かに、そういう風に監視されたままっていうのは気持ち悪いよね」

 はたては腕を組んで目線を伏せる。暫し黙考したのち、おもむろに携帯電話を取り出した。キーを操作し、着信履歴を表示させる。
 二件、電話番号が表示されていた。新しい履歴の方に見覚えはないが、おそらくはたてが泣いている間に掛かってきたものだろう。今必要なのはその番号ではない。

「ねえ、その制限って……荒木と太田にかけられたやつよね」
「ここへ来てからだからな……そう考えるのは自然だろう」
「それ、解いてあげられるかも」
「なに?」

 はたては、画面に表示された電話番号を選択し、発信ボタンを押した。
 発信音に次いで、呼び出し音が鳴る。はじめて荒木がはたてに電話をかけてきた時に、彼らは非通知設定にする、といったことをしなかった。意図は分からないが、目の前に糸が垂らされているなら、掴んでみるのも悪くはない。
 十コールも鳴らないうちに、電話は繋がった。

『もしもし』
「その声、アンタは太田ね?」
『ンフフ、いかにも。まさか君の方からかけてくるとはねえ……わざわざかけてくるということは、なにか困ったことでもあったのかな』
「まあね……ちょっとお願いがあって。って、アンタたちにお願いするのも癪な話だけど」

 はたては自分の言葉の気軽さに驚いた。太田に対しては、どこか奇妙な懐かしさのようなものを感じる。面識など一度もないはずなのに。

『うーん、普通、こういうゲームの主催者っていうのは参加者個人の願いなんて聞いてあげないものなんだけどねえ』
「そこをなんとか、ねっ? 簡単なお願いだから」

 暫しの沈黙。電話の向こうから伝わる太田の息遣いからみるに、対応を考えている最中のようだった。
 
「これからもステキな記事書くからさ」
『ン〜〜〜……まあ、君には実績があるのも事実だからね。聞くだけ聞いてあげよう。叶えるかどうかは内容次第ということで』
「じゃあ、単刀直入に言うわね。ウェスの制限をちょっぴり解除して欲しいの」
『……は?』

359 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:22:37 ID:fObrG55w0
 
 ある程度は予想通りの反応だった。視線を隣に向ければ、ウェスも柄にもなく瞠目し、はたてを凝視している。気持ちのよい反応だった。今自分は、自分にしかできない仕事をしているという実感があった。

「といっても、自由にどこでにも雷を落としたいとか、殺し合いを有利に進ませたいとか、そういうズルがしたいわけじゃない。ウェスの能力を、この会場全体に行き渡らせるようにしてほしいってだけよ。具体的には、この雨が全部雪になるくらい」
『いやあ、それは十分ズルなんじゃないかな? 二つ返事でいいよと言えるような内容じゃないなあ』

 やはり、予想通りの反応だった。ここからが腕の見せどころだ。
 元より屁理屈を捏ねて記事を書くことを生業としているはたてにとって、理屈を捏ねることはさして難しい問題ではない。

「そうかしら? でもさあ、それってちょっと不公平じゃない」
『寧ろ公平さ。彼はそれだけの能力を持ってるからね。ある程度は制限しなきゃ』
「ふうん、なるほど」

 これでひとつ確定した。
 やつらは、参加者の固有能力に制限をかけられる。やつらの裁量ひとつで、行使できる能力の範囲は操作できる可能性が高い。もうひと押し、攻めてみようと思った。

「じゃあさ、会場中に偵察の……恐竜? を放ってるヤツはいいの? もう一度言うわ……私は別に『誰かを殺したい』とか『殺し合いを有利にしたい』とか、そういうことは考えてないの」
『なるほど……読めたよ、君の魂胆が。つまり、君とウェザーはその恐竜の動きを止めたいってワケだね』
「そういうこと。だって、会場中に偵察係を放って、ひとりだけ会場中の情報を得ているやつがいるのよ。私やウェスの情報も、たぶん握られてる。この殺し合いでそいつだけがみんなの情報を覗き見て立ち回れるなんて、こんなに不公平なことはないわ」

 太田はなにも言わない。構わずはたては続けた。

「そいつの能力に制限をかけろとか、そいつに罰を与えろとか、そういうことも言わないわ。ただ、そいつが能力を使って有利に立ち回ろうとするなら、こっちだって能力を使って対抗したいってだけよ」
『うーむ』

 押せばいける、とはたては思った。

「何度も言うけど、別に直接誰かを殺したいとか、そういうこと言ってんじゃないよ。ただ、ウェスが本来『できること』をほんの一部『できるように』してほしいだけ……そもそも、直接の殺しに発展しない『天候操作』って、そんなにヤバい能力じゃないんじゃない?」
『ふむ……それは確かに一理あるかもね。僕らとしては、会場全域に雷を落とすとか、滅茶苦茶な嵐を起こすとか、そういうことをされちゃ困るから能力に制限をかけたわけだから、雨や雪を降らすくらいなら、まあ』
「じゃあ」

 一拍の沈黙を置いて、太田は笑った。

『ンフフ……仕方ないなあ。主催者に直接コンタクトを取るなんて大胆な行動に出た君に免じて、今回だけは特別に許してあげよう。この電話以降、指向性を持たず、殺傷性も持たない天候操作に限っては、範囲制限を解除するよ。あっ、もちろん吹雪とかもナシだからね』
「わかってるわかってる、そんなズル考えてないってば」
『それと、今回は特例ってことも忘れないように。いつでもこんな風に願いを叶えてあげられるなんて思われちゃ困るからね』
「それもわかってる。余程のことがない限りかけないから」

 きっと彼らは、はたての命の危機とか、そういう状況では助けてはくれない。今回は願い事の内容がルールに触れる箇所で、尚且つ論破できる余地があったから成功しただけだ。次以降はそうそう上手くはいくまい。

『それじゃあ、僕も忙しいから、これで切るよ。第五誌も楽しみにしてるからね……ンフフ』

360 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:27:10 ID:fObrG55w0
 
 受話器からは、ツー、ツー、と切電音が流れていた。
 はたては自信に満ちた表情で、ウェスへと目配せする。受話器から漏れる音で会話の内容を把握していたウェスは、未だ瞠目したままだった。

「おいおい……マジかよ、お前」
「マジも大マジ。ホント、私を『協力者』に選んでよかったわね」

 携帯電話を折りたたんでポケットにしまうと、はたては胸を逸らして破顔した。

「私がいかに役に立つ存在かわかったなら、これからはもっと私を丁重に扱うことね。そして私の記事を楽しみに待つこと」

 無言ではたてを凝視するウェスの視線が心地よかった。ここへ来てはじめて、乱暴者のウェスに対して主導権を握ったような気がした。
 高揚した気分のまま、はたては黒翼を大きく広げた。地を蹴り、翼をはばたかせて、はたては飛んだ。上空から、はたてを見上げるウェスを見下ろす。

「それじゃ、私はもう行くわ。こんなところでいつまでもじっとなんかしてられないもの。アンタも精々頑張ってね」

 小さくなっていくウェスに軽いウィンクを送る。ウェスははじめはたてを見上げていたが、すぐに興味を失ったように歩き出したので、はたてもそれに倣って彼方の空を見上げ、高度を上げた。
 体に纏わりつく雨が止んだことで、幾分飛びやすくなったように感じられる。代わりに冷たい雪が降るようにはなったものの、はたての体にはまだ、ウェザーリポートによって齎された熱が残っている。また体が冷え始める前に、どこか落ち着ける場所で暖を取って、ゆっくりと記事を書こう。
 まずは隠れ里での大乱闘と、二柱の神々の激闘を纏めた第五誌を発刊する必要がある。だが、その前に号外を出すのも悪くはない。

「内容は……号外『怪雨(あやしのあめ)到来!? 会場全域を覆う異常気象にご用心』……ってところかしら」

 雪降りしきる空を滑るように飛びながら、はたてはほくそ笑む。記事にするのは、起こった事実だけだ。ウェス本人を記事に取り上げるつもりはない。
 今日は傘を持って家を出ればいいのか、明日の天気は、今週の雨模様は。いつの時代も、気象に関する情報は誰だって喜ぶものだ。この記事は万人に受け入れられる自信がある。けれども、インパクトには欠けるから、号外だ。それは仕方ない。
 ウェスの能力が会場全域に広がるには、おそらく今しばらく時間がかかる。ならば、すぐに概要を纏めて配信すれば、この天気情報は何処よりも早い最新情報ということになる。
 きっと役に立つはずだ。読者の喜ぶ表情を夢想し、はたては自分でも気付かぬうちにあたたかい気持ちになるのだった。

361 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:27:50 ID:fObrG55w0
 
 
 
【真昼】D-2 猫の隠れ里 付近 上空

【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)
[状態]:霊力消費(中)、人の死を目撃する事への大きな嫌悪
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:怪雨、寒波を纏めた異常気象の最新情報を号外として配信。インパクトには欠けるが、今まで念者の能力上書けなかったタイプの記事なので楽しみ。
2:その後、落ち着ける場所で第五誌として先の乱闘、神々の激突を報道。第二回放送までのリストもチェックし、レイアウトを考える。
3:ウェスvsリサリサ戦も記事としては書きたいが、ウェスとの当初の盟約上、ウェスのことは記事にできない? それとも、この程度なら大丈夫? 悩みどころ。
4:あの電話
4:岸辺露伴のスポイラー(対抗コンテンツ)として勝負し、目にもの見せてやる。
5:『殺人事件』って、想像以上に気分が悪いわね……。
6:ウェスを利用し、事件をどんどん取材する。
7:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※リストには第二回放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
 次回のリスト受信は第三回放送直前です。
 
 
 
【真昼】D-2 猫の隠れ里
 
【ウェス・ブルーマリン@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:体力消費(大)、精神疲労(中)、肋骨・内臓の損傷(中)、左肩に抉れた痕、服に少し切れ込み(腹部)、濡れている
[装備]:ワルサーP38(8/8)@現実
[道具]:タブレットPC@現実、手榴弾×2@現実、不明支給品(ジョジョor東方)、救急箱、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:会場全域に寒波を行き渡らせ、恐竜の活動をすべて停止させる。
2:まだこの付近にあの神々がいるなら探してみるか? それとも徐倫が逃げた方向へ移動するか?
3:はたてを利用し、参加者を狩る。
4:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
5:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
 ただし、指向性を持たず、殺傷性も持たない天候操作に限っては会場全域に効果を及ぼすことが可能となりました。雷や嵐など、それによって負傷する可能性のある事象は変わらず使用不可です。
※主催者のどちらかが『時間を超越するスタンド』を持っている可能性を推測しました。
※人間の里の電子掲示板ではたての新聞記事第四誌までを読みました。
※ディアボロの容姿・スタンド能力の情報を得ました。

362 雨を越えて ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:28:11 ID:fObrG55w0
 
 
【全体備考】
※一日目 真昼――会場全域に寒波到来。程なくして全域で雨は雪へと変わることでしょう。

※ただし、ウェスのいるD-2から離れれば離れるほど寒波の到来には時間がかかります。
 また、エリアが離れるほど能力は大雑把になるため、エリアによって寒波の質や影響には差異が出ます。元となる雨雲にも影響されるため、雪が降らないエリアや、別の形で影響が出るエリアもあるものと思われます。
 逆説的に、ウェスに近付けば近づくほど寒波の影響は強くなるといえます。

※ワルサーの予備弾丸はすべて内部まで浸水し使用できなくなったため、弾倉ごと捨てました。D-2 猫の隠れ里 リサリサの遺体付近に放置されています。

363 ◆753g193UYk :2018/09/17(月) 16:32:04 ID:fObrG55w0
投下終了です。
またしてもルールに触れる箇所があるので、もしマズそうならご意見頂けると助かります。

364 名無しさん :2018/09/18(火) 01:32:07 ID:Lhi613i60
はたて、何だかんだで可愛げはあるからそんな憎めないよね……
ウェスのまさかの恐竜封じに、ディエゴは何らかの対策は講じるんだろうか

365 名無しさん :2018/09/19(水) 08:29:59 ID:P0Q.DKUc0
話変わるがジョジョロワ3rd全然更新されてないけどどうなってんの?

366 名無しさん :2018/09/19(水) 10:01:06 ID:OciN0E3s0
>>365
ここでする話じゃないだろ
出てって、どうぞ


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

■ したらば のおすすめアイテム ■

モンスターハンター:ワールド(発売日以降お届け分) - PS4 - カプコン

一狩りいこうぜ!

この欄のアイテムは掲示板管理メニューから自由に変更可能です。


掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板 powered by Seesaa