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第25回参議院議員選挙(2019年)

1364名無しさん:2019/07/02(火) 10:24:08
「これこそ日本列島改造だ!」
 途方に暮れる遊説班長に向かい、角栄は切り出した。

「立山の下にトンネルがあるはずだ」

 その一言を聞きつけるなり、遊説班の面々は半信半疑のまま、黒電話に齧り付くようにダイヤルを回し続けた。

「ところが、東京の役所に問い合わせても『知らない』と言うのです。諦めかけた頃、『存在する』という情報が入った。ただし、一般車両は入れないと……」(前出の佐野)

 確かに、黒部ダムの建設時に掘られた地下通路が、観光ルートになって3年前に全線開通していた。トロリーバスとケーブルカーとロープウェイを乗り継いで山越えする「立山黒部アルペンルート」である。車移動に固執していた遊説班にとって、角栄の腹案はコロンブスの卵のような発想だった。

 翌日、角栄一行を乗せた車列は長野県側にある地下通路の入り口に着いた。そして、「トロリー専用」のはずのトンネルをそのまま猛スピードで走り抜けた。

「これこそ日本列島改造だ!」

 ロープウェイに乗り換え、ダムを見下ろすと、角栄は得意げに叫んだ。見事、富山の日程をほぼ予定通りにこなしたのだ。

「いざ選挙となれば、敵味方関係なく協力を仰ぐ」
 前の晩、角栄が密かに佐伯宗義という男に電話したのを知る者は少ない。

 佐伯とは北陸の鉄道王として知られ、「アルペンルート」を開発した張本人である。選挙の前年、角栄は官邸で初当選同期の議員でもある彼から開通の報告を受けていた。突然、閃いたのは、それが頭の片隅にあったからだろう。

 佐伯の秘書を務めていた金山秀治(87)に訊ねると2人は派閥も異なり、親しい間柄ではなかったと首をかしげるが、遊説班長だった小安英峯(78)は「それが角栄流だ」と説く。

「いざ選挙となれば、敵味方関係なく協力を仰ぐ。貪欲ですよ。でなきゃ、仲間が死んでしまうわけですから」

 立山越えの翌朝、角栄が滞在する富山市内の旅館に突然、ランニングシャツ姿の佐伯が駆け込んできた。時同じくして、角栄も廊下の向こうから歩いてきた。そして2人は無言で抱き合った。

 この時の心境は、直前に宿の一室でしたためたという書から窺い知れる。

〈天地英雄氣 千秋尚凜然〉

 墨痕鮮やかな揮毫にこめたのは、「雄大な心は永遠無限に変わりなく凜々しく勇ましい」という思いだ。

 それを秘蔵してきた富山県護国神社の栂野守雄(69)によると、朝、角栄は他の色紙を横にやり、神前に納める芳名帳を手に取って筆を走らせたという。

 そう神に念じないと乗り越えられないほどの「山」がもう一つ、目の前に立ちはだかっていたのだ。遊説先の地方紙では、こんな事件を報じていた。

〈企業ぐるみ選挙は遺憾 中央選管委員長が異例の見解/自民・自治省反発、政治問題に〉(信濃毎日 7月3日)

 先述した奇策に、選管は土壇場で異例の警告を発し、全国紙は一斉に批判したのだ。不偏不党であるべき選管の長が実は社会党関係者であるという特殊事情もあったが、閣内からも蔵相の福田が同調した。角栄が「党の顔」となって築き上げた挙党一致体制は崩れ去った。

「オヤジもこれで潮目が変わったという認識をしていました」(前出の朝賀)

最終日、やはりヘリは飛ばなかった
 寺社で演説を行う前はいつも、角栄は不意に拝殿に向かい、手を合わせては警護官を慌てさせていたという。

 その後、随行者が封筒を置いていく。中身は、序盤に訪れた静岡の寺の住職に確かめてみると、3万円。それが終盤の富山では10万円、しかも、角栄が直々に渡していた。

 いよいよ自民党の敗色が鮮明になり、神仏にも縋る思いだった様が見て取れよう。

 最終日、やはりヘリは飛ばなかった。夕方、沼津から1時間遅れで滑り込んだ会場は浅草本願寺。選挙戦、いや総理として最後の街頭演説である。角栄は1万5000人にこうこぼし、諦念をにじませた。

「最後は神様か仏様の前がいいな」

 浅草を地元とする衆院一回生だった深谷隆司(78)は動員をかける中、角栄ブームの終焉を察知したという。

「あの時、1万5000人も入ったかなあ。安定政権に胡坐をかいて強気一点張りの総理の態度を見て、反発を感じている有権者は少なくなかったよ」

 奇想天外のヘリ作戦も敗因のように扱われた。党機関紙でさえ、「お祭り化して、かえってゆるんだ」という党員の発言を堂々と載せたほどだ。

 その3か月後、立花隆の「田中角栄研究」と児玉隆也の「淋しき越山会の女王」という論考が「文藝春秋」に載った。以後、そこに出た暗部と恥部が正史となり、全国遊説の折に150万人に見せた天真爛漫な姿は忘却の彼方に追いやられた。

 さらに2か月後、角栄は退陣。敗軍の将は総力戦を振り返らぬまま、国民の前から政界の奥の院へと姿を消す。


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