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新・大中華世界的話題

1とはずがたり:2015/08/21(金) 09:18:27
前スレ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/study/2246/1117295937/l50

384とはずがたり:2015/10/20(火) 17:24:33
井戸が干上がり、草原は枯れる中国西部。砂漠化とともに失われる価値観
2015年08月21日(金)17時00分
http://www.newsweekjapan.jp/ooba/2015/08/post-2.php

 中国の新鋭リー・ルイジュンの長編第4作『僕たちの家(うち)に帰ろう』では、古代シルクロードの一部として繁栄した中国北西部"河西回廊"を舞台に、少数民族"ユグル族"の幼い兄弟の物語が描かれる。
 
 両親が放牧に適した土地を求め、奥地の草原に移住しているため、兄のバーテルは祖父のもとで暮らし、弟のアディカーは学校の寮に住んでいる。ところが、祖父が亡くなり、夏休みに入っても父親が迎えに来なかったことから、兄弟は両親を探す旅に出る。二人だけでラクダに跨り、干上がってしまった川の跡を道しるべに砂漠を越え、放牧地を目指していく。

 これは、雄大な自然を背景に、兄弟の苦難や成長を描くだけの作品ではない。リー・ルイジュンは、経済発展を遂げた「東部」に対して後進地域とみなされ、また彼の出身地(甘粛省)でもある「西部」の現実を独自の視点で掘り下げている。

 彼の関心は映画の導入部に表れている。兄弟の祖父と父親、井戸掘り職人の会話から、農業用に井戸を掘りすぎて、地下水が涸れはじめていること、町の近くの草原が枯れかけているため、放牧できる場所を見つけるのが難しくなっていることがわかる。そんな会話には、砂漠化の問題が凝縮されている。

 川の上流や中流域で拡大する灌漑農業によって、川からの取水量が増加する。下流に影響が出て、取水が制限されれば、今度は井戸を掘って補う。地下水の水位が下がれば、さらに深い井戸を掘ろうとする。

 また、遊牧民の生活も変化してきている。牧草地を休ませるために、季節によって放牧地を移動するのが伝統的な牧畜だった。しかし、人民公社の時代に定住化が進み、改革開放以後には牧草地使用権が個人に配分される請負制度が導入され、草原が分断される。そして伝統的な牧畜も忘れ去られていく。

 主人公の兄弟は旅のなかでその結果を目撃することになる。川や湖は干上がり、水場だった井戸も涸れている。かつての川の底にはコンクリートで囲われた水路が埋め込まれているが、それは点と点を結ぶだけで、川の役割を果たすわけではない。弟が父親と春に通ったときにはまだ人がいた集落が、無惨な廃墟になっている。

 しかしこの映画は、兄弟の旅を通して砂漠化の現実を映し出すだけではなく、もっと深いメッセージが込められている。見逃せないのは、古代にまで視野を広げ、河西回廊を背景に遊牧民と漢族の世界が巧妙に対置されていることだ。

 この映画の冒頭に浮かび上がる字幕は、「紀元後初頭、チベット系遊牧民族が中央アジアへ進出」という表現から始まり、主人公となるユグル族について説明するだけでなく、河西回廊を様々な遊牧民が往来し、覇権を争ったことを物語る。

385とはずがたり:2015/10/20(火) 17:24:51
>>384-385
遊牧民の世界が農耕民的な価値観に作り変えられたらどうなるか
 一方、旅の途上で、兄のバーテルが何気なく入った石窟で見出すものも非常に興味深い。最初に目にする壁画には、紀元前120年頃に漢の武帝が遊牧民の匈奴を征討した際の出来事が刻み込まれている。さらに彼が別の石窟に入ると、壁や天井が文化大革命と大躍進政策の時代の新聞で埋め尽くされ、「人民公社よ永遠なれ」という標語が踊っている。

 この対置はわかりにくいかもしれないが、『オアシス地域の歴史と環境 黒河が語るヒトと自然の2000年』(中尾正義・編 勉誠出版)が参考になる。

 本書では、映画の舞台と同じ地域を対象として、現代の砂漠化を踏まえたうえで、過去の事例から学ぶために2000年の歴史が振り返られる。その記述によれば、漢が匈奴を駆逐した後の時代、紀元前二世紀から五世紀にかけてこの土地のオアシス群は遊牧地から農耕地へと変えられた。その後も断続的に農地開発が行なわれ、すでに水不足も起こっていた。

 リー・ルイジュンの視点も本書のそれに近い。彼は、砂漠化をこの数十年の現象として描くのではなく、ユグル族を入口として古代から現代へとつづく長い歴史の流れのなかでとらえようとする。河西回廊で遊牧民と農耕民の勢力がぶつかり合っている間は、農地開発が進む時代があっても、伝統的な牧畜も受け継がれる。しかし、中華人民共和国が成立し、遊牧民の世界が農耕民的な発想や価値観で一方的に作り変えられたらどうなるのか。

 そんな危機感は兄弟のドラマにも反映されている。彼らの旅は最初はぎこちなく見える。父親と行動をともにしていた時間が長い弟は、砂漠に慣れている。母親が病弱だったために早くから祖父に預けられていた兄は、自分を要らない子だと信じ、移動する生活にも慣れていない。だから砂漠の旅が苦痛になるが、次第に祖父から授かった知恵を生かし、遊牧民らしくなっていく。

 しかし、そんな兄弟を予想もしない過酷な現実が待ち受けている。この先、伝統的な牧畜の価値が見直されたとしても、それを受け継いでいる遊牧民がいなければ復活させることもできなくなってしまうのだ。

【映画情報】
『僕たちの家(うち)に帰ろう』
公開:8月29日(土) シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
監督・脚本・編集・美術:リー・ルイジュン


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