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欧州情勢・西洋事情

4108チバQ:2022/04/20(水) 19:27:55
「脱悪魔化路線」
 フランスでは、戦後、ドイツとの和解を基軸に欧州統合を進め移民にも寛容な路線が、社会党からドゴール派まで大政党に幅広く支持されてきた。また、ドゴールが主導したレジスタンスがフランス革命の伝統を守るという形の愛国主義に根ざしていたので、伝統尊重派と相性が悪く、共和党は日本で言うような保守派を受け入れない。

 ただ、EU統合は農業や零細企業にとって厳しい。それゆえ極右にジャン・マリー・ルペンというカリスマが出て、10%程度の得票を獲得するようになったのだ。ただ、彼の主張やスタイルはいかにも扇動的で支持拡大に限界があった。

 そこで娘のマリーヌ・ルペンが2011年に党首となって「脱悪魔化路線」で、失言を回避し、EU脱退やユーロ離脱は撤回、人工中絶や同性愛を容認(同性婚反対)、反ユダヤでなく反イスラムと移民排斥へ転向し、反対する父親を除名した。これが功を奏して、得票率の天井を打ち破った。

 この「脱悪魔化」に反対し「日本のような厳しい移民制限を」と訴えるエリック・ゼムールが極右新党を立ち上げ、共和党が女性のヴァレリー・ペクレス(日本語ができる)を立てて、一時は決選投票でマクロンに勝てるという世論調査まで出たが、ゼムールは失言が多く、ペクレスは上流階級的過ぎて庶民を引きつけられずともに失速した。

 フランスは、第1次世界大戦に見られるように、伝統的にロシアとは良い関係である。ルペンやゼムールなど極右がプーチンとの関係が良いのは意外に思えるが、プーチンは「反民族主義」の立場に立つ一方、イスラム過激派やLGBTに毅然とした態度をとり、キリスト教を重視する伝統的欧州の価値観を擁護しているのだから不思議はない。また、ルペンは国内金融機関の一種のボイコットにあって、ロシアの銀行から融資を受けていた。

 しかし、ルペンはウクライナ侵攻にすぐ厳しい批判をしてマイナスにしなかった。一方、エネルギーなど強力な制裁には反対し、戦後にはロシアと欧州の関係を再構築し、中国との戦いに力を集中するのが合理的とまっとうな現実路線を打ち出し、英米やポーランド、バルト三国などの暴走で対露戦に巻き込まれないようNATOの軍事機構からの脱退を主張して支持をむしろ拡げた。

「心は左に、財布は右に」
 とはいえ、マスコミは、反ルペンの「偏向報道」を厭わないし、既存政党のアレルギーは強く、第1回投票で三位となったメランションも、前回決選投票での中立が不評だったので、棄権かマクロンという路線に変更するなど、ルペンがこれ以上、支持率を上昇させる兆しはいまのところない。

 だが、フランスには、「心は左に、財布は右に」というように、世論の風より投票行動は経済重視となることが多く、エネルギー価格上昇はルペンに追い風だ。そこで、マクロンはウクライナからの批判を聞き流し、支援強化を訴えるポーランド極右政権を「反ユダヤ主義者」だと罵るなど英米追従路線から距離をとって逃げ切りを図っている。

 万が一、ルペンが勝っても、現在、下院の議席は2パーセント以下なので、好き勝手はできない。ただ、今回、共和・社会・共産・環境という大政党が、第1回投票で投票率5パーセントを切って何億円もの供託金を没収されるなど弱体化している。

 フランスに限らず極右をいつまでも体制外にできるかといえば、イタリアではすでに政権参加しているし、スペインでもついに地方レベルでの政権参加が実現し、風向きは明らかに変わっているのが懸念されるところだ。

八幡和郎(やわた・かずお)
評論家。1951年滋賀県生まれ。東大法学部卒。通産省に入り、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任。徳島文理大学教授。著書に『365日でわかる世界史』『日本人ための英仏独三国志』『世界史が面白くなる首都誕生の謎』など。

デイリー新潮編集部


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