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国際政治・世界事情
5568
:
チバQ
:2013/01/07(月) 23:26:51
http://mainichi.jp/select/news/20130105ddm007030103000c.html
領土と主権:第1部・独仏和解の現場から/4 実を結ぶ共通歴史教科書
毎日新聞 2013年01月05日 東京朝刊
◇自国の主張、客観視
「教科書のグラフを見てみよう」。ベルリン南部の公立リュッカート・ギムナジウム(日本の中高一貫校に相当)。12年生(17、18歳)の歴史の授業で、独仏共通教科書「歴史−1945年以降の欧州と世界」を開き、フランク・アウグスト教諭(51)がフランス語で質問する。
「戦後、フランスの移民の割合はほぼ一定なのに、ドイツでは60〜70年代に急増している。なぜかな」。「ドイツ(西独)の戦後復興が軌道に乗り、急激に労働力を必要としたのだと思います」などと12人の生徒が次々に答える。
きっかけは03年1月、ベルリンで開かれた独仏友好条約(エリゼ条約)40周年記念行事だった。両国の高校生が共通教科書の発行を提案し、当時のシラク仏大統領、シュレーダー独首相が賛同。06年以降、各3巻の仏・独語版が、約8万部ずつ刊行されている。両国間には1930年代から共通教科書構想があり、第二次大戦後も歴史家や教育者が交流を深めてきた土壌もある。
授業は討論中心で、近年は韓国の記者も「共通教科書を見たい」と取材に来るという。生徒のカタリナさん(17)は「両国政治家の演説が詳しく、互いの視点が分かる」と話す。「共通教科書は効果的」「でも政治家が決断したからできた。やはり最初は政治だ」。生徒同士の議論も白熱する。
教科書は、資料が豊富なフランス流と、議論中心のドイツ流の教育を取り入れる。昨年2月、仏西部ボルドーで開かれた両国の高校のシンポジウムで、仏北部フェデルブ高校のマルタンさん(17)は「これまでの教科書がいかに仏側の視点で書かれていたかわかった」と感想を語った。
共通教科書は、ドイツで語られることの少ないフランスでのユダヤ人迫害の事実や、フランスの教科書では通常触れられていない戦時中のドイツ国内でのナチスへの抵抗運動などにも言及している。戦後を扱う第3巻では、全17章中1章を「戦争の記憶」に充て、両国の戦争責任の受け止め方を証言や資料を基に考えさせる。「敗戦国は勝利を祝う側の式典に参加すべきか」などの設問もある。
課題もある。独仏とも共通教科書は相手国の言葉を使う複数言語学級での使用が大半で、内容理解の前に言葉の壁が立ちふさがる。仏誌「歴史と地理」のユベール・ティゾン編集長(72)は「エリートしか使わないとの指摘や、独仏に重点が置かれ東欧の記述が少ないなどの批判もある」と語る。それでもボルドー教育委員会が11年、共通教科書を使う75校に実施したアンケートでは、7割以上の高校生がドイツの理解に役立ったと回答した。ティゾン編集長は話す。「教科書が誕生したこと自体、両国の対話の成果だ」
◇日中韓応用はハードル高く
独仏共通教科書の日中韓3国への応用の可能性などについて、日本では静岡県立大国際関係学部の剣持久木准教授らのグループが中心になって研究を進めている。
グループの中心メンバーで、仏ボルドーでのシンポジウムに参加した共立女子大国際学部の西山暁義准教授は「領土問題を抱える東アジアと異なり、独仏間では歴史認識が政治問題化することはほとんどない」と環境の違いを指摘し、「日中韓では、現在続く歴史共同研究を歴史教育の分野と連携させることが重要だ」と強調する。
剣持准教授は「独仏共通教科書は、アイデアを出した生徒や現場の教育者らの『下からの意見』と、政治のリーダーシップの両方があって実現した。日本の場合、市民社会の意見を政治にくみ上げる回路が十分でないことと、中国、韓国と政府間で認識の一致点をみつけようとする努力が不足していることが課題だ」と語る。【ベルリン篠田航一、ボルドー(仏西部)宮川裕章】=つづく
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