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労働運動
2411
:
チバQ
:2022/05/26(木) 13:12:20
■「今度ばかりは泣き寝入りしたくない」
ハルキさんのことに話を戻そう。地方都市で働くことに見切りをつけたハルキさんは実家に戻る。そしてようやく見つけたのはマンション管理の仕事だった。
また泣き寝入りするしかないのか──。クビになった日は、どうやって帰宅したかもよく覚えていないほど落ち込んだ。一方で「今度ばかりは泣き寝入りしたくない」という思いも湧いてきたという。
ハルキさんはまず個人加入できる地域ユニオンに相談した。団体交渉を重ねたものの、解雇予告手当などの支払いを求める話し合いは難航。ユニオン側の担当者から「『外注』と言われた経緯がある以上、(業務請負でも)仕方がないのでは」などと弱気なことを言われたため、労働組合を通した話し合いに見切りをつける。
続いて弁護士に相談するとともに、労働基準監督署に申告。会社では上司の指揮命令に従って仕事をし、出退勤時にはタイムカードを打刻するなど「労働者」として働いていたことを示す詳細なメモを作成して提出した。これにより、行政側が「請負業者ではなく、労働者」というハルキさんの主張を全面的に支持してくれたという。
交渉は1年近くかかったものの、最終的には未払い賃金などに相当する約200万円を勝ち取ることができた。ハルキさんが初めて悪質企業に反撃し、一矢報いた瞬間だった。
ハルキさんはずっと「働き続けることができない自分」を後ろめたく思ってきたという。とくに最初に正社員として就職した飲食店を1カ月で辞めたことがコンプレックスだった。「なんで自分はいつもダメなんだろうと思い続けてきました」。
しかし、最近は「悪いのはちゃんとした雇用がないことではないか」と考えるようになった。きっかけは、3年ほど前に政府が就職氷河期世代向けの支援策を本格化させたこと。支援の恩恵を直接受ける機会はなかったが、「自分は就職氷河期世代なんだと知ることで、すいぶん気が楽になりました」とハルキさんは振り返る。
要領のいいほうではないし、人付き合いも不得手だという自覚はある。それでも悪いのは法律を守らない会社のほうではないか。「自己責任ではなかった」と思えたことが、悪質な会社に立ち向かうエネルギーになったという。
■京アニの事件はひとごとではない
ハルキさんは現在、障害者枠で働いている。一度病んでしまったメンタルは簡単には回復しない。月収は約15万円。ただここ1年ほどは障害年金も受給している。実家暮らしでもあり、最近は趣味の1つであるアニメ観賞にお金をかける余裕もあるという。
取材で会った日も、夕方から好きなアニメのイベントに参加すると話していた。「響け! ユーフォニアム」という吹奏楽に打ち込む高校生を描いた作品だという。アニメ制作会社「京都アニメーション」が手がけた代表作の1つである。
私たちの会話は自然と、京都アニメーションのスタジオが放火され、社員36人が亡くなった事件のことに及んだ。殺人罪などで起訴された青葉真司被告はハルキさんとほぼ同世代。裁判はまだ始まっておらず、事件の詳細はわかっていない。ただハルキさんは「大勢の人が亡くなった事件は絶対に許されないことだけど、(犯人のことは)ひとごとじゃない」と考えてしまうことがあるという。
マンション管理会社の社長から罵倒され、明日から来るなと吐き捨てられたあの日。ハルキさんの頭をよぎったのは、発電機用に倉庫に保管されていたガソリンタンクのことだったという。ハルキさんは声を潜めてこう打ち明けた。
「一歩間違えれば……、彼は僕だったかもしれない」
本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 :ジャーナリスト
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